1: 2017/06/24(土) 05:10:10.91 ID:swbJQlDI.net
私はカナン
この領域の見張りみたいな門番みたいな…何ていうかそういう類の存在

でもある世界でいう、神様みたいなものではないし、かといって精霊みたいなものでもない。表し方がなかなか難しいね

2: 2017/06/24(土) 05:12:56.91 ID:swbJQlDI.net
まぁなんとなく特別な存在だって思っておいてよ。…て、私誰に話しかけてるんだろ

ま、いっか。さっき私はここの見張りみたいな門番みたいなって言ったけど…この領域には私以外に誰もいない。人も動物もそれ以外も。言うなら花とか植物が存在してるくらい

3: 2017/06/24(土) 05:15:55.53 ID:swbJQlDI.net
だから私は毎日その花達とお話ししたりするんだ。まぁ私が一方的に話しかけてるだけでもちろん向こうからの返答はないんだけどね

というか正直私自身ここがどういう場所なのか分かってない

4: 2017/06/24(土) 05:18:29.36 ID:swbJQlDI.net
ただ私はここで生まれてここで暮らしてるってだけ。だからずっとひとりぼっち

でも寂しいとかはないんだ。まぁずっとひとりだったわけだから寂しいも寂しくないもないわけ

今日も今日とて私以外に誰もいないこの領域を見張って回る

5: 2017/06/24(土) 05:20:37.17 ID:swbJQlDI.net
お、シラユリ。今日も可愛いね、元気?

あ、ツツジ。少し大きくなった?頼もしいね

今度はスミレ。こんにちは、相変わらずいい香りだね

6: 2017/06/24(土) 05:23:34.96 ID:swbJQlDI.net
うんうん異常なし。今日も平和だね。さて、昼寝でもしようかな、といっても私には寝る必要もないんだけどね。どこか心地の良さそうなところはないかな…

そうだ、スズランのところに行こうかな。あそこ気持ちいいし、添い寝させてもらおっと

7: 2017/06/24(土) 05:26:28.57 ID:swbJQlDI.net
さてさてスズランは…向こうだったかな

……ん?

あれは…え?誰かいる?この領域に?…まさかぁ

8: 2017/06/24(土) 05:31:14.80 ID:swbJQlDI.net
……ちょっと近づいてみようかな…。まぁものは試しだよね

……綺麗な栗色の髪の毛に、守ってあげたくなるようなか弱い垂れ目…それでいてどこかとても意志の強そうな…正真正銘の美少女…

9: 2017/06/24(土) 05:35:50.38 ID:swbJQlDI.net
「あの…初めまして?」

そう声をかけると彼女はこちらに気が付き少し驚く素振りをとった

「あっ…!あの、初めまして…。ここは…どこ?貴方はどなた?」

10: 2017/06/24(土) 05:39:30.64 ID:swbJQlDI.net
そっか、この子ここは初めてなんだ。…まぁ私以外の人はそういうことになるよね

「えーと…まず私はカナン。この領域の主みたいなものかな。そしてここは…うーん何て言ったらわかりやすいかな、まぁとりあえず現世?ていうものでもなければあの世でもない…ちょっと変わった世界かな。とっても狭いけどね」

11: 2017/06/24(土) 05:45:38.89 ID:swbJQlDI.net
「そっかぁ…。ちょっとびっくりしたけど、じゃあまだまるは氏んじゃったりしたわけではないってことですね」

「うん、そういうこと。どういうきっかけで貴方がここに来たのかはわからないけどね。」

「それは…まるにもわからないんです」

12: 2017/06/24(土) 05:48:26.47 ID:swbJQlDI.net
この子…自分のことを『まる』っていうのかな?なんだか可愛いね

「まぁそうだよね…。でも怪しいところではないから、多分。…それで、貴方のお名前は?」

「あぁ、そうだった。遅くなってごめんなさい、まるの名前は花丸」

13: 2017/06/24(土) 05:54:15.19 ID:swbJQlDI.net
「ハナ…マル…。うふふ、何だか変わった名前だね。でもそれでいて素敵な名前」

「そうかなぁ…?それだったらかなんさんっていうお名前もあんまり聞いたことないけど素敵ですね」

「そ、そう?あはは、何だか照れるな…」

この子いい子だ

14: 2017/06/24(土) 05:56:53.52 ID:swbJQlDI.net
「ハナマルって呼んでもいいかな?」

「あ、は、はい!まるは全然大丈夫です!」

「そんなに固くならないでよ。敬語も使わなくていいしね」

15: 2017/06/24(土) 05:57:48.08 ID:swbJQlDI.net
「でも…何だか貴方の方が年上のような気もするし…」

「カナンでいいよ。そう?ハナマルはいくつ?」

「あ、ありがとうございますかなん、さん…。まるは今15歳です」

16: 2017/06/24(土) 05:58:58.20 ID:swbJQlDI.net
「15!若いねぇ」

「えっと…かなん、さんは…?」

「私?そうだなぁ…気が付いたらここにいて…もうかれこれあれから170年くらい経ってるのかな」

17: 2017/06/24(土) 06:00:10.97 ID:swbJQlDI.net
「ひゃ、170…!?ていうことは、かなんさんは170歳…?」

「うーんハナマル達と同じ言い方をしたらそうなるのかも」

「す、すごく先輩だった…!です…」

18: 2017/06/24(土) 06:02:19.80 ID:swbJQlDI.net
「もう、だから全然そんなんじゃないってば。精神的にはそんなに歳食ってる感じ自分でしないしね。だからタメ口使ってよ。その方が私も嬉しいな」

「…わ、わかった…。よろしくね?かなんさん」

「うん、よろしくハナマル」

19: 2017/06/24(土) 06:03:52.48 ID:swbJQlDI.net
久しぶりに…というかもうここまでくると初めてに近いかな?それくらいぶりに人と話せた私はとてもホクホクだった

「えっと…ハナマルはどうしてここに来たかわからないんだよね?」

「はい…あ、じゃなくて、うん…」

20: 2017/06/24(土) 06:05:11.64 ID:swbJQlDI.net
「元々ここの人…じゃないよね?」

「多分…。見覚えのないところだから…」

「だよねぇ。私もこの領域で人を見たのはハナマルが初めてだしなぁ」

21: 2017/06/24(土) 06:06:32.61 ID:swbJQlDI.net
「あ、でも…。同じようなところを何だか…どこか何かで見たことがあるような…」

「どういうことだろ?ハナマルも私と同じようなタイプなのかな」

「同じタイプ…?…ふわぁぁ~…」

22: 2017/06/24(土) 06:08:17.50 ID:swbJQlDI.net
「あはは、欠伸なんて久しぶりに見たよ。眠い?」

「うん、何だか急に…」

「じゃあ寝ちゃえ。不慣れなところで不安かもしれないけどここには私しかいないし。それにここ結構心地いいんだよ寝てて」

23: 2017/06/24(土) 06:10:11.56 ID:swbJQlDI.net
「えぇ、でも…」

「なんか異変を感じたら私が起こしてあげるからさ」

「…それなら、いい、かな…?」

24: 2017/06/24(土) 06:11:00.71 ID:swbJQlDI.net
初対面の私をこんなにすぐ信じちゃうなんて。とってもいい子、ていうのもあるんだろうけどそれ以上に不安なんだろうな。こんな私に縋るくらい

「それに…なんだか本当に眠たくて、もう……」

「…ハナマル?」

25: 2017/06/24(土) 06:11:48.18 ID:swbJQlDI.net
「…すぅ…すぅ…」

「ほ、ほんとにもう寝ちゃった」

「んん…すぅ…」

……ほんとに綺麗な…可愛い顔してるな…

26: 2017/06/24(土) 06:13:33.31 ID:swbJQlDI.net
「…っ、じゃなくて!!……約束したし、私はハナマルのこと見守ろうかな」

「…むにゃ、すぅ…」

…それにしても、確かに。眠くなって寝るってことは私とは違う世界の人間みたい。私は寝ることはあっても眠くはならないからね

27: 2017/06/24(土) 06:15:17.07 ID:swbJQlDI.net
「んん…美味しいなぁ…」

「うふふ、寝言かな?なんだか平和だなぁ。私も寝転がっちゃおうかな。」ゴロンッ

「…ハナマルちゃんと起きるのかな?」

28: 2017/06/24(土) 06:18:10.97 ID:swbJQlDI.net
_____

「…ふわっ…!あ、あれ…?」ガバッ…

「……ここは…?」

「すぅー…すぅー…」

29: 2017/06/24(土) 06:19:24.05 ID:swbJQlDI.net
「あっ…、かなんさん…。そっか、ここはかなんさんの世界…。ん?いや、領域…?」

「んんー…」

「…えへへ、かなんさんも寝てる。寝顔も素敵ずら」

30: 2017/06/24(土) 06:20:30.40 ID:swbJQlDI.net
「んん…?」

「ってあわわ、おら何言ってるずら…!」

「んっ…。んあ…!あ、あれ?私…」

31: 2017/06/24(土) 06:21:20.20 ID:swbJQlDI.net
「お、おはよう、かなんさん」

「うわ!私寝ちゃってた!?」

「うん、お…まるも今さっき起きたんだけどね」

うわ~!やっちゃったよ私!

32: 2017/06/24(土) 06:22:24.67 ID:swbJQlDI.net
「そんなはずじゃなかったのにな~。大丈夫だった?変な夢見たとかない?」

「うーん…何だか、夢の中のまるは本を読んでた気がするな。ぼんやりとしか覚えてないけど」

「本、か。ハナマルはそういうの好きなの?」

「うんっ。本は何でも教えてくれるから。外をあんまり見たことがないまるは本で色々知るんだ」

33: 2017/06/24(土) 06:23:35.77 ID:swbJQlDI.net
「外を見たことない…?」

「あれ…?どうしてまる、こんなこと言うんだろ?何だか自然に口から…」

「…うーん、だけどハナマルの正体を知る何らかの手掛かりになるかもしれないね。今のところ私は全くだけど…」

「まるもすっかり…」

34: 2017/06/24(土) 06:25:13.09 ID:swbJQlDI.net
「……まぁ考えてばっかりもあれだからさ!散歩でもしない?ハナマルこの領域のことまだ全然知らないでしょ?」

「…う、うん!じゃあ、お願いしようかな」

「よし!じゃあ早速出発しようか!」

36: 2017/06/24(土) 15:00:37.65 ID:y/27F3TU.net
……

「…それにしても、この領域…?ってすごいたくさんお花が生えてるね」

「すごいよね。私ですら未だに全部の花の名前把握出来てないもん」

「そうなの?」

37: 2017/06/24(土) 15:02:08.46 ID:y/27F3TU.net
「うん、お恥ずかしながら。あはは」

「でも、これだけ種類があったら仕方ないよ」

「そうかな?優しいね、ハナマル」

38: 2017/06/24(土) 15:43:27.48 ID:Big0lp8X.net
「えへへ、そんなことないよ。あ、アネモネだ。初めて実物見たけど、やっぱり綺麗だなぁ…」

「へーこれはアネモネっていうんだ」

「あれ、知らなかったの…?」

「あ、うん…。基本ポピュラーなものしか知らなくて」

39: 2017/06/24(土) 15:46:58.88 ID:Big0lp8X.net
「そうなんだね。何だかかなんさんらしいかも」

「そう?」

「あ、ごめんなさい…!出会ってそんなに経ってないのにこんなこと…」

「え、なんで?いいじゃん、私は嬉しいよ。ハナマルなりに私のイメージを持ってくれてるんだなって」

41: 2017/06/24(土) 21:58:05.30 ID:PP9u8cpd.net
「ほ、ほんと?…ならよかった…」

「うん。ほんとに私のことは親しい仲だと思って接してよ」

「し、親しい仲?」

「うん。全然遠慮しないでさ」

42: 2017/06/24(土) 22:00:23.04 ID:PP9u8cpd.net
「…お友達みたいだね。えへへ」

「そうだよ、ていうか私達もう友達でしょ?」

「え…?」

「あ、あれ、違った?私じゃダメ…?」

43: 2017/06/24(土) 22:02:32.59 ID:PP9u8cpd.net
「う、ううん!!そんなことない!まるもかなんさんともっと仲良くなりたいよ!」

「ふぅ~よかったぁ。ハナマル無理してるんじゃないかと思ったよ」

「全然そんなことないよ…。初めてのところだけどかなんさんと一緒だと安心するから」

「お、言ってくれるね~。じゃあさ、もっと教えてよ花のこととか!」

44: 2017/06/24(土) 22:05:08.70 ID:PP9u8cpd.net
「うんっ。えっと例えばこのアネモネは花びらの色がとっても綺麗でね、花言葉も『儚い恋』で素敵なお花なんだ」

「ほぇ~。花言葉なんかまで知ってるんだ。それも本で見たの?」

「そう、なのかな…。うーん何だかわからないけど知ってるんだ」

「すごいね、コンピュータみたいだ」

45: 2017/06/24(土) 22:09:39.13 ID:PP9u8cpd.net
「からかわないでよ~」

「あはは、ごめん。あ、この花は?見かけたことはあるけど名前分からないんだよね」

「うーんとね、これはセンテッドゼラニウムかな?」

「うわ、すごい名前。シンプルな外見とは裏腹だね」

46: 2017/06/24(土) 22:13:27.35 ID:PP9u8cpd.net
「でも綺麗なお花だよね。花言葉は確か…『思いがけない出会い』…だったかな?」

「あはは、それってまさに私達みたいだね」

「うふふ、そうだね。まるでまる達の出会いを待ってくれてたみたい」

「いいこと言うね。私達は出会うべくして出会ったんだよ」

47: 2017/06/24(土) 22:17:24.40 ID:PP9u8cpd.net
「そうだったらいいなぁ。…あ、かなんさんに似合いそうなお花が…」

「ん、どれ?」

ハナマルがしゃがみこんで顔だけ私の方に向けながら指したのは紫色の綺麗な花だった。こんな花この領域にあったっけ?

「これは、紫苑っていうお花だね」

49: 2017/06/25(日) 04:36:23.01 ID:s7erU6zn.net
「へぇ~…。綺麗だね、この子にも花言葉あるの?」

「勿論、このお花の花言葉は『遠くにいる人を思う』とか『貴女を忘れない』だよ」

「すごいなぁ。ほんとに色々知ってるんだね」

50: 2017/06/25(日) 04:41:21.12 ID:s7erU6zn.net
「知識があるだけなんだけどね」

「いやいや充分すごいよ」

「えへへ…この紫苑の色合い、かなんさんの瞳の色にそっくりだな」

「ん~?言われてみれば確かに…。ちょっと親近感湧いちゃうな」

51: 2017/06/25(日) 04:46:00.39 ID:s7erU6zn.net
「覚えてあげてね、紫苑」

「うん、よろしくね紫苑」

「あはは」

「何だろうねこの会話」

52: 2017/06/25(日) 06:30:55.69 ID:s7erU6zn.net
……

その後もハナマルに花の名前とか教えてもらったり私のあってないような身の上話を聞いてもらったりしながら、私達は散歩を続けた。
いくら狭い領域とはいえそんな短時間で全て周り切れるほどヤワなところじゃない。全部満遍なく領域を見ようしたら数日はちゃんとかかる。
だから私達はゆっくりゆっくり歩いた。何より私としてはハナマルとの親睦を深めることを1番考えてたから

53: 2017/06/25(日) 06:34:53.30 ID:s7erU6zn.net
「それでさ、その時天高くから声が聞こえてさ!」

「ほんと?」

「ほんとに!この領域私しかいないはずなのにおかしいな~って、思わず耳ふさいじゃったよ」

「うふふ、ちゃんと耳傾ければよかったのに」

54: 2017/06/25(日) 06:37:57.93 ID:s7erU6zn.net
「だって怖いよ。誰もいないのに急に声とかかけられたら」

「確かに。でもそれかなんさんの思い過ごしだったりして?」

「そんなこと…!ある、かもしれない」

「あははっ、かなんさん面白い人だね」

55: 2017/06/25(日) 06:43:11.76 ID:s7erU6zn.net
「それ褒めてる?」

「まるは褒めてるつもりだよ」

「うふふ、それならよかった」

「えへへ…ふわぁ~…まる、何だかまた眠くなってきて…」

56: 2017/06/25(日) 06:47:56.02 ID:s7erU6zn.net
「あ、そうだよね。何だかんだ結構な時間経ったしね。ハナマルといるとあっという間だよ」

「それはまるも同じ気持ちだよ」

「嬉しいな。」

「うん…。かなんさん、またまるが起きたらいっぱいお話ししてくれる…?」

57: 2017/06/25(日) 06:51:32.96 ID:s7erU6zn.net
「もちろんだよ。私でよければね」

「よかった…。まる、もう…」

「もう?」

「眠たくて…おやすみ…なさい…」

58: 2017/06/25(日) 06:56:57.21 ID:s7erU6zn.net
「あはは、おやすみ」

「……すぅ…すぅ…」

「ほんとに眠りに就くの早いな。普通の人はこういうものなのかな?」

…私、ハナマルの傍を拠点にしよう。多分その都度場所変わるけど、元々決まった住処みたいなところないしね

62: 2017/06/26(月) 00:05:50.35 ID:q3uFLrj3.net
_____

それからも私達は同じ領域で同じ時を過ごした。前までひとりぼっちで暇になったらうたた寝とかしてた私だったけど、ハナマルがここに来てからはあまり寝ようとか退屈だとかは考えなくなった。
ハナマルが眠ってる間もその寝顔を眺めたり、彼女に教わった知識を持って花を見て回ったり…この領域での全てが一変したような感覚だった

63: 2017/06/26(月) 00:22:54.32 ID:q3uFLrj3.net
そしてそんな日々がしばらく続いたある日

「うふふ、じゃあねシザンサス…だったっけ?だよね?うん、ばいばい」

ハナマルが寝てるから私はまた花達に話しかけに行ってた。まだ全部の名前は覚えられてないけどね

「…さて、そろそろハナマル起きたりしないかな」

64: 2017/06/26(月) 00:27:49.88 ID:q3uFLrj3.net
私はハナマルの眠ってる方向へ歩き出した。ここからはそう遠い場所じゃない

…お、思ってたより近いところだったね。ハナマルだ

……ん?ハナマルはまだ寝てる、けど…何か持ってる…?

65: 2017/06/26(月) 00:31:12.93 ID:q3uFLrj3.net
「……何持ってるんだろこれ?」

「んぅ…むにゃ…ふわぁぁ…」

「あ、起きた?」

「んー…あ、おはようかなんさん」

66: 2017/06/26(月) 00:35:41.84 ID:q3uFLrj3.net
「うん、おはよう。丁度私も戻ってきたところ」

「そうなんだ、おかえりなさい」

「あはは、ただいま」

「…あれ?まる何か持ってる…」

67: 2017/06/26(月) 00:55:14.56 ID:q3uFLrj3.net
「うん、それ何?」

「紙と…鉛筆…」

「あぁ、現世のものだね。確か紙に鉛筆で字を書いたり絵を描いたりっていう。……て、あれ…?」

「どうしてまるは急にこれを…?」

68: 2017/06/26(月) 01:00:24.52 ID:q3uFLrj3.net
現世のもの…?この領域にないものをハナマルは持ってる…

「うーん…何だか何か思い出せそうな…いや、駄目だぁ」

「…ハナマル、それずっと持ってたの?」

「う、うぅん!そうだったら多分もっと早く気が付いてるし…。今起きたら何故か…」

69: 2017/06/26(月) 01:07:18.07 ID:q3uFLrj3.net
「うーん…どういうことなんだろう」

「うーん…とりあえず何か書いてみようかな」

「…そうだね、どう書くのか見せてよ」

「どう書くかっていっても普通だよ?鉛筆の先にある芯を紙に押し付けて線を付けるようになぞれば…」

70: 2017/06/26(月) 01:36:54.44 ID:q3uFLrj3.net
「おぉ…?」

「ほらっ」

「おー!すごいね!どれどれ…、か、な、ん、さ、ん…?」

「うん、かなんさんのお名前どういう漢字で書くのかわからないからひらがなで書いちゃった」

71: 2017/06/26(月) 01:40:52.80 ID:q3uFLrj3.net
「あれ?名前って普通漢字で書くの?私ずっと自分の名前カタカナ表記してたよ…」

「あれ、そうなの?」

「うん。じゃあ例えばさ、ハナマルも漢字で書くの?」

「そうだよ。まるの名前はこうやって…書くんだ」

[花丸]

72: 2017/06/26(月) 01:45:25.07 ID:q3uFLrj3.net
「へぇ~!初めて知ったよ!花って字使うんだね。だから花のことも詳しかったりして」

「えへへ、もしかしたらそうかもね」

「いいなーいい名前なだけじゃなくていい字じゃん。私も漢字の名前欲しいよ」

「かなんさんほんとにお名前カタカナで書くの?」

73: 2017/06/26(月) 01:51:08.50 ID:q3uFLrj3.net
「うーん書くっていうか…何か勝手にそうやって頭の中で変換してたよ」

「じゃあ…まるがかなんさんのお名前に漢字付けてもいい?」

「えっ!そんなこと出来るの!?」

「ただの当て字になっちゃうと思うけど…かなんさんがそれでもいいなら」

75: 2017/06/26(月) 05:27:18.57 ID:q3uFLrj3.net
「いいよ!むしろ付けて欲しいな」

「わ、わかった…!がんばって考えてみるね」

76: 2017/06/26(月) 05:30:27.12 ID:q3uFLrj3.net
そう言うとハナマル…じゃなかった、花丸は紙に鉛筆で色々と書き始めた。多分カナンの字で当てはまる漢字の候補を考えてくれてるんだと思う。
花丸は色々知ってるから、私の知らない漢字とかも出てきそうで面白そうやら怖いやらな気持ちだな。
花丸は時々私の顔や体をじっと見つめたかと思うとまたすぐに紙面に目線を戻す作業をしばらく続けてた。
何だか今は話しかけられる状況じゃなさそうだ…

77: 2017/06/26(月) 05:35:37.82 ID:q3uFLrj3.net
「…で、出来た…!こういう漢字はどうかな…?」

[果南さん]

「わぁ…!」

78: 2017/06/26(月) 05:38:59.79 ID:q3uFLrj3.net
素直に、心の底から素敵な字面だと思った。花丸がどういう心境で、意味合いでこの字を付けてくれたのかはわからなかったけど、それでも私は一目見ただけでその名前を気に入ってしまった

79: 2017/06/26(月) 05:42:08.51 ID:q3uFLrj3.net
「…っていってもどういう意味でこの漢字を付けたのか伝えないと何とも言えないよね」

「どういう意味なの?」

80: 2017/06/26(月) 05:44:47.71 ID:q3uFLrj3.net
「えーとね…まず[果]っていう字には果たすとか勇ましいっていう意味があってね。初対面のまるにも進んで話しかけてきてくれたり優しく接してくれるから…。
でもかなんさんはそれだけじゃなくて女の子らしい可愛さもあるってまるは思うんだ。可愛いっていうか綺麗、なのかな…。
だからその女性らしさの中にある勇ましさとか優しさから[果]っていう字は取ったんだ」

「すごい…そんなに色々とちゃんと考えてくれてるんだ…。な、何だか照れるよあはは…」

81: 2017/06/26(月) 05:47:35.56 ID:q3uFLrj3.net
「それでね?[南]っていう字はかなんさんの暖かさからとったんだ。南っていう字は南国とか南風とかどこか暖かく感じられる言葉に使われるでしょ?
そんなどこか太陽を思わせる南の字をかなんさんの優しさ、暖かさと照らし合わせて付けてみたの。」

「…果南…」

82: 2017/06/26(月) 05:50:12.06 ID:q3uFLrj3.net
「あ…お気に召さなかった、かな…?」

「…ううん…すごく、いい…!私すごく気に入ったよこの名前!!ありがとう花丸!!」

「ほ、ほんと…?」

「うん!私は今日から果南だよ!」

83: 2017/06/26(月) 05:51:34.94 ID:q3uFLrj3.net
「…えへへ、嬉しい。おら、頑張ってよかったずら!」

「ん?おら…?ずら…?」

「あぁ…!!いや、あの、これはぁ…!」

「なんだっけそれ?訛りってやつ?」

84: 2017/06/26(月) 05:53:04.28 ID:q3uFLrj3.net
「それは…」

「花丸、訛りがあるの?」

「……」

「あれ…?聞いちゃいけないことだったかな」

85: 2017/06/26(月) 05:55:41.68 ID:q3uFLrj3.net
「…訛ってるって田舎の子だよね」

「んーそうかも」

「やっぱり…そうだよね…」

「でもよくない?それも個性だし、何よりさっきの花丸可愛かったよ?」

86: 2017/06/26(月) 05:58:29.54 ID:q3uFLrj3.net
「え…?そ、そんなはずないよ…っ」

「ほんとだよ!そっか、今までちょっと花丸が無理してるように感じたのは訛りを隠してたからかな?」

「そ、それは…!」

「…やっぱり私の前じゃ、まだほんとの花丸は見せてくれないかな…?」

88: 2017/06/26(月) 15:43:04.26 ID:q3uFLrj3.net
「…それは…」

「私はちゃんと花丸と向き合いたいよ。何より花丸に無理させたくない」

「果南さん…」

「でも無理やりにとは言わないよ。それこそ花丸が可哀想だしね」

89: 2017/06/26(月) 15:49:29.53 ID:q3uFLrj3.net
「…ううん。あのね、果南さん。おら、とっても田舎の子なんだ。それは住んでるところも田舎なんだけど…でも同じところに住んでる人達に比べても語尾にずらとか付いちゃうくらいにもっと田舎なんだ」

「住んでるところ…何か思い出したの?」

90: 2017/06/26(月) 19:53:41.71 ID:fJVWhKnT.net
「うん…。全部思い出せたわけじゃないけど…。でも、おらこんなに訛ってるから住んでるところでも馬鹿にされてきて…だから出来るだけ隠すようにしたの。
他の人達と同じように話そうって」

「…うん」

「何だかそれだけ今パッと思い出して…。ごめんね?急にこんなこと話して…」

91: 2017/06/26(月) 19:57:41.51 ID:fJVWhKnT.net
「…ううん、こっちこそごめん。つらかったよね」

「ううん…!嬉しかった。おらは住んでるところでは馬鹿にされてたけど、果南さんはそんなことなかった。それどころか受け入れてくれた。
えへへ…感謝ずらっ」

「当たり前だよ。花丸は友達、私はどんなことだって受け入れられるよ」

92: 2017/06/26(月) 20:03:25.15 ID:fJVWhKnT.net
「…う、れ、しい…。」

「花丸…?」

「うぅ…、あれ、おかしいな?おら、どうして泣いて…?」

「…つらかったよね。ずっと隠したりして…無理してたよね」

93: 2017/06/26(月) 20:07:30.29 ID:fJVWhKnT.net
「うぅ…、ひぐっ…」

「おいで」

「うわぁぁぁ…!」

「よしよし…今は泣いてていいんだよ」

97: 2017/06/27(火) 20:35:50.01 ID:y+AVn/Le.net
……

花丸は私の胸に顔を埋めて涙を零しながら肩を震わせていた。芯の強い花丸がこんなにか弱い部分を見せたのは初めてだった。だからそれを、攫う人もいないのに守ろうと、花丸の心ごと抱きしめようと、私は彼女を受け止め続けた。
…そしてしばらくしてひとしきり泣き切ると、花丸は顔をゆっくりと上げた

98: 2017/06/27(火) 20:43:13.89 ID:y+AVn/Le.net
「…ごめんなさい。お見苦しいところをお見せしたずら…」

「ううん、気にしないで。私が受け止めるって言ったんだから」

「…本当に果南さんは優しいね。ずっとそんな調子だと、おら勘違いしちゃうよ?」

「え、何を?」

99: 2017/06/27(火) 20:50:15.37 ID:y+AVn/Le.net
「…うふふ、なんでもないずら」

「えーなに気になるよー」

「えへへ…。ふわぁ…あぁ、また眠気が…」

「泣き疲れちゃったのかな」

100: 2017/06/27(火) 20:55:28.50 ID:y+AVn/Le.net
「もうっ、おらは赤ん坊じゃないよ!」

「あはは、じょーだん」

「…うふっ…、おやすみ、果南さん…」

「はいはい、おやすみ」

101: 2017/06/27(火) 21:04:32.71 ID:y+AVn/Le.net
「すぅー…」

「…あ…私の胸でうずくまったまま寝ちゃったよ花丸…」

「んぅ…」

「困ったな…動けないや…」

102: 2017/06/27(火) 21:09:49.78 ID:y+AVn/Le.net
「すぅ…すぅ…」

「…ふふっ、まいっか」

今この瞬間、花丸の温もりを感じられるのは私だけだしね

103: 2017/06/27(火) 21:14:06.67 ID:y+AVn/Le.net
花丸は私が暖かい人だって言ってくれたけど、それを言ったら花丸だってよっぽど暖かい子だと思う。一緒にいて嫌味なんか全くなくてとても優しい気持ちになる。
花丸は私を優しい人だね、なんて言ってくれるけどそれはきっと花丸が傍にいてくれるからなんだと思う

108: 2017/06/28(水) 17:18:15.69 ID:8BZD8Mun.net
「なんか花丸の体温で私まで心地よくなってきちゃった。私も少し寝ちゃおうかな」

私もおやすみ、花丸

109: 2017/06/28(水) 17:27:06.16 ID:8BZD8Mun.net
……

「んん…んっ…、ふわぁ~…」

「すぅー…すぴー」

「…んふふ、おはよう花丸。私の方が先に起きちゃった」

110: 2017/06/28(水) 17:30:54.04 ID:8BZD8Mun.net
…思えば久しぶりに寝た気がするな、私。体勢が体勢で動けないっていうのもあるけど…たまにはこういうのもいいな

「ん、あれ…?」

私の隣に紫苑…。ここにいたっけ?

111: 2017/06/28(水) 17:35:41.25 ID:8BZD8Mun.net
「どうしたの紫苑?貴方も寂しくなっちゃった?」

何気なくそう聞くと、紫苑は風に揺られたかのように2,3度頷いたように見えた

「ふふ、そっかぁ。でも大丈夫だよ、花丸と私がいるからね」

紫苑…。花言葉は確か、『遠くにいる人を思う』、『貴女を忘れない』…ふふ、よし覚えた

112: 2017/06/28(水) 17:41:02.79 ID:8BZD8Mun.net
「花丸が紫苑と私は似てるって言ってくれたもんね?それは嬉しくなっちゃうよねー紫苑」

「……」

「……」

私は気が付かなかった。花丸が目を覚ましてることに

113: 2017/06/28(水) 17:45:47.51 ID:8BZD8Mun.net
「あのね花丸、これは…」

「…お花に話しかけてる果南さん、可愛いね」

「…からかわないで」

114: 2017/06/28(水) 17:50:19.29 ID:8BZD8Mun.net
「うふふ、これは貴重な果南さんずら」

「もうー」

花丸さえいれば私はこんなに心から笑って楽でいられるんだよ

115: 2017/06/28(水) 17:55:12.02 ID:8BZD8Mun.net
それからも私達は変わらずに2人だけの空間で2人だけの時間を過ごした。
それは間違いなく私がここに生まれてから170年の中で、最も濃密な一時だった。
出会った当初は戸惑ってて素を見せてはくれなかった花丸も今では私の前でこんなに笑ってくれる。無防備を見せてくれる。それが私にはたまらなく嬉しかった

116: 2017/06/28(水) 18:00:22.22 ID:8BZD8Mun.net
_____

今日も花丸は寝ていた

「ほんとに見てて飽きないなぁ、花丸の寝顔」

花丸と初めて出会った頃からどれくらい経ったんだろう。恐らくとてつもない年月が流れたってほどではないと思う。でもそれなりの月日を過ごした実感はある。確証もある。それは花丸と私との絆の道程でもある

117: 2017/06/28(水) 18:05:30.57 ID:8BZD8Mun.net
「ん…?あれ…花丸何か持ってる…」

それは久しぶりに見た光景だった。前に寝てる花丸が紙と鉛筆をいつの間にか抱えてた時以来の

「これは…また鉛筆と、紙…?にしては前に見たものとはまた違うような…」

118: 2017/06/28(水) 18:15:45.31 ID:+uwRm5WW.net
「んん…っ」

「あ」

「んにゃ…」

「おはよう花丸」

119: 2017/06/28(水) 18:20:34.95 ID:+uwRm5WW.net
「ん、おはよう果南さん」

「おはよう花丸、略しておはなまるってね」

「ふふ、何それ」

「言ってみたくなっただけー」

120: 2017/06/28(水) 18:25:18.64 ID:+uwRm5WW.net
「じゃあ使っちゃおうかな、おはなまる…て、あれ…?」

「…気が付いた?」

「うん…これは、おらの色鉛筆とお絵描きノート…。あ…!!」

「どうしたの!大丈夫…?」

121: 2017/06/28(水) 18:30:22.94 ID:+uwRm5WW.net
「……」

「花丸…?」

「…おらは…外に出られないからお部屋で…この色鉛筆とノートで絵を描いていつも過ごしてる…」

「…!!何か…思い出したの?」

122: 2017/06/28(水) 18:34:47.38 ID:+uwRm5WW.net
「…おらはベッドで寝てて…目を覚ましても外に出られなくて…本を読んだり絵を描いたりしてて…。…駄目だぁ、これ以上は思い出せないずら…」

「…やっぱり私バカだから分からないなぁ…。元の世界の花丸はどういう状況なんだろ?」

「うーん…おらも何か思い出せそうなんだけど…今は出てきそうにないずらぁ…」

「こっちの領域にいる時の花丸は幸せそうなのに…何か大変だね」

123: 2017/06/28(水) 18:37:42.65 ID:+uwRm5WW.net
「そう、なのかな…」

「私もいまいち無責任なことは言えないからごめんなんだけどさ…」

「ううん、いいんだよ。おらも果南さんにこうやってお話聞いてもらうだけで安心するし」

「花丸の役に立ててるならよかったよ」

124: 2017/06/28(水) 18:40:21.51 ID:+uwRm5WW.net
「うん、ありがとう。」

「ううん」

「…じゃあ折角色鉛筆とお絵描きノートがあるんだから、絵でも描こうかな」

「お、いいね見せて見せて」

128: 2017/06/29(木) 05:58:38.60 ID:ZBNzgg5w.net
「果南さんも一緒に描こうよ」

「え、いいの?それに私絵なんて描いたことないし…」

「いいのいいの、何事も経験ずら!」

「…ふふ、じゃあ描いてみようかな」

129: 2017/06/29(木) 06:00:18.01 ID:ZBNzgg5w.net
「やったね!果南さんは何描く?」

「うーんどうしようかな…。あ、紫苑描こうかな」

「覚えてくれたんだね、紫苑」

「まぁね。花丸の一言で何だか気になって仕方ない花になったよ」

130: 2017/06/29(木) 06:02:49.68 ID:ZBNzgg5w.net
「えへへ、よかったずら」

「花丸は何を描くの?」

「同じ紫苑…ていうのは芸がないから、おらはアネモネを描こうかな」

「お、いいね、綺麗な花だもんね。花丸の描く絵楽しみだな」

「あんまり期待はしないで欲しいずら…」

131: 2017/06/29(木) 06:06:00.85 ID:ZBNzgg5w.net
そして私達は2人して寝そべりながら、それぞれのモデルを時折談笑を織り交ぜながら、キャンバスに写していった。
絵を描いたことがないどころか筆すらまともに握ったことがない私だったけど、夢中になって描いた。自分の思った通りに線が通り、色付いていくことが楽しかった
花丸は私に色々な発見をもたらしてくれる。紫苑のことをこんなにじっくり眺めるのも、意外と初めてだった。私なりにちゃんと描こうと紫苑の全てを舐めるように観察して写実した

132: 2017/06/29(木) 06:10:05.95 ID:ZBNzgg5w.net
……

「ふぅ…何とか描き終わりそうずら」

「えぇっ、早いね。やっぱり経験の差だなぁ」

「そんなことないよ。おらサラサラと薄く描く人だから」

133: 2017/06/29(木) 06:13:48.89 ID:ZBNzgg5w.net
「なるほど、深いんだね」

「まぁ単純に楽しく描ければいいんだよ」

「さすが、言うことの重みが違うね」

「だからそんなことないずらぁ…」

134: 2017/06/29(木) 06:15:30.03 ID:ZBNzgg5w.net
「…よし、私もなんとなく描き終わるかな」

「ほんと?見てもいい?」

「いいけど…下手だからね?」

「関係ないよ。どれどれ…」

135: 2017/06/29(木) 06:17:20.60 ID:ZBNzgg5w.net
「…どう?」

「上手ずら…!全然初めてとは思えないよ!」

「ほ、ほんと?」

「うん!それにおら、果南さんみたいに力強く絵が描ける人憧れるんだ」

136: 2017/06/29(木) 06:19:27.90 ID:ZBNzgg5w.net
「そ、そんなに言われると照れるんだけど…」

「才能を見たずら。色使いもダイナミックで…おらには描けないものだね」

「ちょ、ちょっと…!もう私の絵はいいから!花丸のも見せてよ」

「うん、いいよ。はい、どうぞ」

137: 2017/06/29(木) 06:22:25.24 ID:ZBNzgg5w.net
「…綺麗」

「ほんと?」

「何これ…すごいね。繊細で淡くて…どこか懐かしい美しさ」

「そ、そんなに?」

138: 2017/06/29(木) 06:24:32.22 ID:ZBNzgg5w.net
「うん、私花丸の絵柄好きだ」

「えへへ…今までたくさん描いてきた甲斐があったな」

「確かに、花丸は普段から絵を描いたりするって言ってたね」

「うん」

139: 2017/06/29(木) 06:26:00.47 ID:ZBNzgg5w.net
「そこから何か思い出せたりするのかなぁ」

「思い出せそうなんだけどなぁ」

「これまでの花丸の話をまとめてみよっか」

「そうだね」

140: 2017/06/29(木) 06:27:50.40 ID:ZBNzgg5w.net
「えーと…花丸自身どこからここに来たのかはわからない。でも元の世界では訛ってることを色々言われたり、あとは外には出られなくて部屋の中で本を読んだり絵を描いたり文章を書いたりして過ごしてるんだよね?」

「うん。大体そんな感じだと思うな、夢の中で見たものは」

141: 2017/06/29(木) 06:29:15.13 ID:ZBNzgg5w.net
「夢の中、か…」

「あ、あと夢の中の景色は何だか白いんだ。お部屋とかベッドとか机みたいなものとか…」

「白、かぁ。何を表してるんだろう」

「おらもこれ以上は何が何だか…」

142: 2017/06/29(木) 06:31:57.13 ID:ZBNzgg5w.net
「やっぱり考えすぎてもよくないね」

「そうだねぇ」

「…よし、私もっとがんばって色々絵描こ」

「お、いいね。おらも負けないよ?」

143: 2017/06/29(木) 06:33:04.55 ID:ZBNzgg5w.net
そうして私達は再び思い思いに何度も何通りも絵を描いた。
今まで何度も目にしてきた花達もキャンバス越しに覗くと、未知の姿が色々見えてきた。新鮮な思いだった。友達の見知らぬ一面を見ているようだった。

144: 2017/06/29(木) 06:35:18.24 ID:ZBNzgg5w.net
…それにしても…花丸の元の世界のことは考えてあげたかった。もちろんそれが花丸の為になるとは思った。
でもその一方でそれを突き詰めていくと花丸と私の仲を裂くような事態に発展するじゃないかという考えがどうしても私の脳裏を過ぎってしまった。嫌だった、彼女と離れることだけが今の私にとっては。
花丸のことじゃなくて自分自身のことを1番に顧みるなんて…最低だ私

151: 2017/06/30(金) 05:00:18.89 ID:Y1QsT221.net
……

「…うふふ、久しぶりにこんなに没頭して絵描いたかもしれないずら」

「私は初めてだよ…こんなに1つのことにここまで入れ込んだの」

「嬉しいな、果南さんがおらと同じように絵を描くことの楽しさに気付いてくれて」

152: 2017/06/30(金) 05:04:41.09 ID:Y1QsT221.net
「花丸には色々と教えてもらってばっかりだね」

「そんなことないよ」

「…ごめんね?私は花丸の何の役にも立ててないや」

「それは違うずら!」

153: 2017/06/30(金) 05:07:49.36 ID:Y1QsT221.net
「え…?」

「果南さんとおらは役に立つとか立たないとか…そういう関係で成り立ってないずら!同じ空間に、傍にいてくれるだけで安心する、ほんとの自分でいられる。
おらは果南さんとの2人だけでしか紡げない特別な関係を築けてるし、これからも築いていきたいと思ってるよ」

154: 2017/06/30(金) 05:10:07.57 ID:Y1QsT221.net
「花丸…」

「…でも…果南さんは、違うのかな…」

「…っ!そんなことない!私も花丸とは…花丸との間だけでしか繋げない関係を持ってる!そして…それはこれからもだよ…!」

155: 2017/06/30(金) 05:12:30.96 ID:Y1QsT221.net
「…よかった」

「ごめんね、頼りなくて…。でも、私が花丸を思うこの気持ちだけは…ちゃんと芯の通った本物だから」

「うん、ちゃんと伝わってるよ。ありがとう、果南さん」

156: 2017/06/30(金) 05:14:28.92 ID:Y1QsT221.net
「…ううん、こっちこそありがとうだよ」

「えへへ…」

「…ふふっ」

「……」

157: 2017/06/30(金) 05:16:38.27 ID:Y1QsT221.net
「…ってあれ?花丸…?」

「すぅ…すぅ…」

「寝てるし」

「んぅ…ありが…と…」

158: 2017/06/30(金) 05:18:29.88 ID:Y1QsT221.net
「花丸…」

「すぅ…」

「…ふふっ…。あ、そうだ」

私は花丸の色鉛筆とお絵描きノートを拝借した

159: 2017/06/30(金) 05:20:45.09 ID:Y1QsT221.net
「今のうちに花丸の寝顔描いちゃおうかな…いいよね?描くよ? 花丸」

「んん…むにゃ」

「よし、本人の許可も得たところで描こうかな。この時の為にがんばって色々描いて練習したといっても過言ではないね」

160: 2017/06/30(金) 05:23:02.84 ID:Y1QsT221.net
私は花丸の寝顔をキャンバスに描き出した。今、この瞬間の彼女の寝顔を私は独り占めしてる。それを絵という形で残そうと思った。
まぁ単純に花丸を描きたかったっていうのも当然あるけど。
でも初めてでどういう風に絵を描くのか右も左も分からない状態で彼女の表情を描くのは本望じゃないし、花丸にも失礼だしね。
そして…何より私は花丸の寝顔が好きだ。無防備に私にさらけ出してくれるその表情が、安心を預けてくれるその心情が、私までも安心させてくれる

161: 2017/06/30(金) 05:25:32.56 ID:Y1QsT221.net
……

「…ふふ、なんとか描き切った…。やっぱり花丸って絵になるな。私の画力じゃ魅力拾いきれてないかもしれないけど…」

私なりに花丸の寝顔をキャンバスいっぱいに描き切った。
ろくに許可も得ずに、またいつ起きるかも分からない背徳感。それを越えてまで描きたいと感じる、この綺麗な顔、表情。
私は四六時中、花丸に魅了されている

162: 2017/06/30(金) 05:27:21.48 ID:Y1QsT221.net
「これはバレないようにしないと…、初めて花丸に隠し事が出来たかも。これはこれで…いいね」

私は花丸の寝顔が描かれたノートの1枚を大事に懐にしまいこんだ

166: 2017/06/30(金) 18:10:44.61 ID:rfOIZYoZ.net
_____

「ん、んん…。はっ…」

「すぅ…はぁ…」

「おら、いつの間にか寝てたんだ…。いや、いつの間にか起きてた…?何というか、段々近付いてきてる…気が…」

「んん…すぅ…」

167: 2017/06/30(金) 18:11:26.38 ID:rfOIZYoZ.net
「…あれ?おら何を言ってるんだろ…。この領域とおらの住んでる世界が、近付いてるってこと…?」

「すはぁ…すぅ…」

「…果南さん、おら何かわかってきたかもしれない」

「んぅ…んん…」

168: 2017/06/30(金) 18:12:04.82 ID:rfOIZYoZ.net
「…うふふ、果南さん可愛い。というか久しぶりに果南さんの寝顔見ちゃった気がするずら」

「すぅー…んー…」

「…そうだ、こんな時こそ絵を描こう。今は、大事に出来るこの時間を精一杯過ごさなきゃっ」

「すぅ…ぴぃ…」

169: 2017/06/30(金) 18:12:42.86 ID:rfOIZYoZ.net
「えへへー果南さんの寝顔。考えてみればこんなに貴重なモデルもないずら。」

「んんー…」

「お顔お邪魔します、果南さん」

170: 2017/06/30(金) 18:13:20.69 ID:rfOIZYoZ.net
……

「んぇ…!」

「あ、起きたかな?」

「うわわ、私寝てた?」

171: 2017/06/30(金) 18:14:10.10 ID:rfOIZYoZ.net
「それはもうぐっすりとずら」

「久しぶりにやっちゃったよ…」

「うふふ、たまにはいいんじゃないかな?」

「そうかなぁ」

172: 2017/06/30(金) 18:14:50.55 ID:rfOIZYoZ.net
「そうずらよ」

「…何か機嫌よくない?花丸」

「そんなことなーいよー」

173: 2017/06/30(金) 18:15:39.87 ID:rfOIZYoZ.net
「えー絶対いいよ」

「ふふーん」

「んー?」

174: 2017/06/30(金) 18:16:18.35 ID:rfOIZYoZ.net
_____

それからも変わらず花丸と私の日常は流れていった。
…いや、ちょっと変わったところがあるとしたら花丸が急に眠り始めたり、かと思えば気が付いたら起きてたり…睡眠の緩急が付いたことかな
こっちの領域に慣れてきたってことなのかな?

それでも私達の日常が流れていくことに変わりはなかった

178: 2017/07/01(土) 05:09:05.46 ID:QOQI9PLi.net
「『紫苑』っていう漢字難しいね…。なかなかちゃんと書けるようにならないや」

「ゆっくりでいいんだよ。果南さん、字はとっても丁寧で力強いから」

こんな風に花丸に教えてもらいながら文字を書くことを覚えたりした

179: 2017/07/01(土) 05:12:26.73 ID:QOQI9PLi.net
「果南さん、2人で同じもの描いて見比べっこしようよ」

「お、いいね。紫苑を描かせたら私は負けないよ?」

2人して飽きずにたくさん絵を描いたり、それを見せあったりした

180: 2017/07/01(土) 05:14:52.76 ID:QOQI9PLi.net
花丸に本のことについて聞かせてもらったりした。私も色々知りたいことがあったし、花丸の頭の中を覗いてるようで花丸の話はとても興味深く聞けた。
この領域のような場所について書かれた本を読んだこともあるらしい。ほんとに花丸は物知りだ

181: 2017/07/01(土) 05:17:36.59 ID:QOQI9PLi.net
私は知り得る限りのこの領域での綺麗な景色や、心地いい場所、穴場のスポットとかに花丸を連れて歩いたりした。
花丸は興味津々に私の横に付いてきてくれた。
同じ感動を、静寂を、緊張を分かち合ってくれた

182: 2017/07/01(土) 05:19:18.84 ID:QOQI9PLi.net
「果南さん…おら、ここに来られて本当に良かった」

「私も、出会えて良かったよ花丸」

183: 2017/07/01(土) 05:22:10.37 ID:QOQI9PLi.net
花丸はほんとに楽しそうに私といる時間を過ごしてくれた。実際心の底から気持ちを寄せてくれてたと思う。ずっと孤独だった私にはどう考えても出来すぎた相人だった

184: 2017/07/01(土) 05:25:19.54 ID:QOQI9PLi.net
…でも、そんな花丸の様子がここ最近違うような気がした。
あんまり笑う姿を見なくなった。笑ってたとしてもどこか無理してるような様子だった。私に何かを勘付かせまいとしようとしてくれてるのかな。
それともそれ自体私の勘違いなのかな。
…むしろそうであって欲しかった。ずっと一緒にいる花丸の異変に気が付かないはずはないけど、それでも…ちょっとした気まぐれであって欲しかった

185: 2017/07/01(土) 05:27:46.51 ID:QOQI9PLi.net
そしてある時

「…あのさ、花丸…。」

「ん?どうしたの?果南さん」

「その…何か、あった?」

「…!…え?」

186: 2017/07/01(土) 05:31:45.35 ID:QOQI9PLi.net
「最近前みたいな元気がないような気がしてさ」

「そ、それは…」

「…あはは、私の思い過ごしだったらそれでいいんだけどさ」

というか思い過ごしであって欲しかった。
ここで流れを断ち切って、また花丸と他愛のないことで笑い合いたかった

187: 2017/07/01(土) 05:34:11.73 ID:QOQI9PLi.net
…でも

188: 2017/07/01(土) 05:36:55.19 ID:QOQI9PLi.net
「…あのね、果南さん…」

「花丸…?」

「あのね…」

「…うん」

189: 2017/07/01(土) 05:39:19.33 ID:QOQI9PLi.net
「…おら、わかってきちゃったんだ」

「…それって…」

「おらが元々住んでる世界のこと」

「そ、そう、なんだ…」

190: 2017/07/01(土) 05:42:50.28 ID:QOQI9PLi.net
「…あのね、おらがこの領域で眠ってる時に見てる夢っていうのは…」

「……」

「やっぱり元の住んでる世界でのおらの姿だったんだ」

「…うん」

191: 2017/07/01(土) 05:45:32.22 ID:QOQI9PLi.net
「それでね…夢の中でおらは…」

「……」

「…おら、は…」

「……」

「…病室に…いるんだ…」

195: 2017/07/01(土) 17:29:55.22 ID:QOQI9PLi.net
花丸の話し方、トーンで覚悟はしてたつもりだったけど…やっぱり頭は真っ白になった。

「…病室…。病院ってこと?」

「…うん。おらは病気を持ってて、お医者さんにかかってるんだ。そして今は入院してるずら」

196: 2017/07/01(土) 17:31:29.22 ID:QOQI9PLi.net
「そうなんだ…」

「それも生まれつき持ってる大病だから、やっぱり治る見込みはなくて。それどころか悪くなってる一方みたい」

「そん、な…」

花丸の言葉を飲み込むばかりで、こっちからかける言葉なんか全然見つからなかった

197: 2017/07/01(土) 17:33:02.62 ID:QOQI9PLi.net
「…これまでこの領域で寝てる間に見てきた夢で、色々わかったんだ。」

「…例えば?」

「おらは馬鹿にされるくらい訛りが強いこととか、病弱であんまり学校に通えないことで元の世界ではお友達が出来なかったこと。」

198: 2017/07/01(土) 17:34:58.19 ID:QOQI9PLi.net
「……」

「だから、病室の真っ白な空間で本を読んだり絵とか文章をかいて1人で過ごしてたこと。
…お父さんもお母さんもお寺の行事とか維持で忙しくて、あんまり病院には顔を出せなくて。」

「…花、丸…」

200: 2017/07/01(土) 17:37:04.20 ID:QOQI9PLi.net
「あとね?最近おら、急に眠り始めたりしてたでしょ?あれはね、ここの領域と元の住んでる世界のおらがだんだん近付いてることを表してたんだ」

「どういう…こと…?」

「何度もここと元の世界を行き来してるうちに、何というか…本能的、みたいに察せたことがあってね」

201: 2017/07/01(土) 17:39:14.19 ID:QOQI9PLi.net
「…うん」

「初めてここに来た時…果南さんはここの領域はおらの住んでるような元の世界でも、天国とか地獄みたいなあの世でもないって言ってたでしょ?」

「言ったよ」

202: 2017/07/01(土) 17:40:19.97 ID:QOQI9PLi.net
「その通りなんだ。ここはね現世でもあの世でもなくて…でも、その2つを結ぶ為の領域なんだ」

「え…?」

「つまり…あの世に向かうまでの準備をする為の場所…」

203: 2017/07/01(土) 17:41:45.92 ID:QOQI9PLi.net
「ま、待ってよ…!?私には、何が何だか…!」

「そしてね…そのことを理解した今、もうおらには…」

「は、花丸…?」

205: 2017/07/01(土) 17:42:53.82 ID:QOQI9PLi.net
「…ごめんね果南さん。もうおらには…あんまり時間が残されてないみたい」

「…!ちょ…ちょっと…なんで…?どうして…!?全然意味がわからないよ…!」

206: 2017/07/01(土) 17:44:03.36 ID:QOQI9PLi.net
「ごめんね…?おらももう少しだけ早くこの事は言えるはずだったんだけど…言えなかった。ううん、言いたくなかった…!
だって…だってそうでしょ?こんなこと言ったら…果南さんとおらの…全てが崩れていっちゃうよ…!!」

「…っ!!」

207: 2017/07/01(土) 17:45:10.89 ID:QOQI9PLi.net
…私、ほんとにバカだ。この状況で1番怖いのは…1番不安なのは花丸に決まってる。そんな彼女を…不安をこれ以上煽ってどうするの。今彼女を受け止めなくてどうするの、果南

208: 2017/07/01(土) 17:47:29.07 ID:QOQI9PLi.net
「…花丸…行こう」

「え…?どこに…」

「いいから!今行かなきゃいけないの!」

私は半ば無理やりに、また少し乱暴に花丸の腕を掴んで引っ張った

212: 2017/07/02(日) 05:32:27.58 ID:+obYuReI.net
……

私が花丸を連れてきたのは、一見変哲もない何でもないところだった。私と花丸以外にとっては

「ここって…」

「うん、私と花丸が初めて会ったところ」

214: 2017/07/02(日) 05:36:20.62 ID:+obYuReI.net
「…懐かしいね。思えばあれ以来ここには来てなかったずら」

「あんまり花の咲いてるところでもないし盲点だったね。…でも、私と花丸にとってはここはとっても大事なところ。私達の原点」

「えへへ、そうだね。あの頃のおらはまだ猫かぶってたずら」

「あはは、自分のことまるって言ってたりね」

215: 2017/07/02(日) 05:40:50.98 ID:+obYuReI.net
「初対面だったから許してね」

「うん、あの頃の花丸はあの頃で可愛らしかったけどね」

「またそんなこという…」

「ふふっ、ごめん」

216: 2017/07/02(日) 05:44:59.72 ID:+obYuReI.net
「……」

「……」

「…また出会ったあの頃に戻れたらいいのに」

「……」

217: 2017/07/02(日) 05:47:56.80 ID:+obYuReI.net
「…そうすればいつまでも果南さんと一緒にいられるのに」

「…いつまでも花丸に文字の書き方を教えてもらえるのにね」

「うん、いつまでも果南さんと絵の見せ合いっこ出来るのに」

218: 2017/07/02(日) 05:51:08.46 ID:+obYuReI.net
「……」

「…どうして」

「花丸…」

「どうしておらは氏んじゃうんだろう」

219: 2017/07/02(日) 05:53:49.02 ID:+obYuReI.net
「……」

「正直怖いよ。病気がどんどん悪くなってるっていうのはわかってたけど、でも…やっぱり氏を目の前にしても実感が湧かないずら」

「……っ」

もどかしい。悔しい。許せない。こんなにも無力な私を。こんなにも残酷な運命を。言葉にすら出せない

220: 2017/07/02(日) 05:55:27.70 ID:+obYuReI.net
「でもね?もう1つだけ、やっとわかったことがあるんだ」

「…え?」

「こう言ったらあれだけど…。おらはこの運命を辿ってきたから、果南さんに出会えた。おらの人生で、唯一何もかも受け入れてくれる存在に気が付けた。
それはやっぱり氏ぬのは怖いけど…。でもおら、自分の人生に後悔はないずら!」

「花、丸…」

221: 2017/07/02(日) 05:57:20.53 ID:+obYuReI.net
「…おらの人生を明るくしてくれてありがとう。おらに生き甲斐をくれてありがとう。おらの瞳に色を教えてくれてありがとう。
…おらの全てを受け入れてくれて、ありがとう!」

「…っ、こちらこそだよ!こちらこそ…ありがとうに決まってるよ…!」

「えへへ…おらね、果南さんのこと好きだよ」

「そ、そんなの…私だって好きだよ?」

222: 2017/07/02(日) 05:59:08.48 ID:+obYuReI.net
「ううん、違うの。おらね、友達もいなかったから恋愛っていうのもしたことがなかったんだ。
だから、恋に落ちるとか愛し合うとかの感覚がわからなかったんだけど…恋ってすごいね。
直感でわかったよ。おら、果南さんに恋してるんだって」

「…えぇ…っ!?」

223: 2017/07/02(日) 06:01:00.46 ID:+obYuReI.net
「あはは、ごめんね。困るよね、急にこんなこと言われても。だからこそなかなか言い出せなかったずら。
でも…最後の最後に言いたかったんだ。
今の告白がおらの…最後の最後のわがまま」

「……」

224: 2017/07/02(日) 06:02:17.22 ID:+obYuReI.net
そこで初めて気が付いた。

胸に手を当てる。

翔けるように激しく、鼓動が止まらない。

…私も、花丸に恋してる。

これが…恋

225: 2017/07/02(日) 06:04:55.55 ID:+obYuReI.net
「花丸」

私は、つい花丸を抱きしめた

「か、果南さん…?」

226: 2017/07/02(日) 06:07:19.03 ID:+obYuReI.net
「…私も花丸が好き。たまらなく好きだよ。だから…今の告白も私の最後のわがまま」

「…果南、さん…。う、うぅ…ぅぁぁ…!」

「ごめんね、花丸…。何もしてあげられなくて。ずっと傍にいてあげられなくて」

227: 2017/07/02(日) 06:09:36.81 ID:+obYuReI.net
「う…っ、そんなこと、ない…!ひぐっ…!果南さんは…ずっと…おらの心の拠り所だった…!ぐすっ…」

「ありがとう、花丸…。そんな優しい貴女だから私は…惹かれたんだよ」

「うぅ…!おら、も…いつでもこんな自分を受け止めてくれる貴女だから、ひっく…っ、惚れちゃったんだよ…!」

「…花丸」

228: 2017/07/02(日) 06:11:16.65 ID:+obYuReI.net
「くすん…。…果南さん…」

「……」

「ん…」

229: 2017/07/02(日) 06:12:54.90 ID:+obYuReI.net
瞳を閉じて、柔らかく唇を重ね合わせた。
この瞬間を、最期の時を、お互いの脳裏に焼き付けるかのように。
今までの全てが嘘じゃないことを見せ付けるかのように。
こんなに直接、お互いを感じ合ったのは初めてだった。

最初で最後の、秘め事…

230: 2017/07/02(日) 06:14:39.08 ID:+obYuReI.net
「……」

「…ぷは…」

「うふふ…そんなに激しくしてないでしょ?」

「うん…やっぱり果南さんは優しいずら。でも、果南さんの全てを受け取りたくて…つい息を止めちゃった」

231: 2017/07/02(日) 06:16:44.27 ID:+obYuReI.net
「もう…反則だよ、花丸」

「え…?どういうこと?」

「可愛いってこと」

目尻に僅かに残った花丸の涙を私の指で拭う

232: 2017/07/02(日) 06:19:04.86 ID:+obYuReI.net
「んーそういうことを平気で言っちゃう果南さんこそ反則だと思うずら…」

「何のことかなー」

「うふふ、時々素直じゃない果南さんもおらは好きずら…」

「私だって…時々頑固になる花丸も好きだよ」

233: 2017/07/02(日) 06:21:56.96 ID:+obYuReI.net
「えへへ…」

「…ふふっ」

「…おら旅立っても…ずっと、遠くにいる果南さんを思ってるから」

「私も…絶対に、花丸を忘れない」

234: 2017/07/02(日) 06:23:51.37 ID:+obYuReI.net
誓いの言葉だった。2人の約束
真に信頼し合った絶頂の瞬間


間もなく花丸の身体が煌びやかに光り輝き始めた

235: 2017/07/02(日) 06:27:24.99 ID:+obYuReI.net
「あ…っ」

「ん…本当に…とうとう来ちゃったみたい…。体が…どんどん軽くなっていく…」

「は、な、まる…」

足元からサラサラと、花丸は光へと帰していく

236: 2017/07/02(日) 06:29:11.64 ID:+obYuReI.net
「…お別れだね、果南さん…」

「…うん…そうだね」

「最後は…笑ってさよならずらっ」

「うん…う、ん…っ」

237: 2017/07/02(日) 06:31:52.94 ID:+obYuReI.net
「か、果南さん…。泣いちゃ、駄目、ずら…。おら、最後は果南さんの笑顔が見たいよ…?」

「うん…!わかってる…わかってる、けど…!う…っ」

「…果南さん…」

238: 2017/07/02(日) 06:33:08.58 ID:+obYuReI.net
「やっぱり…ぐすっ…やっぱり嫌だよ…!!花丸とずっと一緒にいたいよ…!花丸ともっと話してたいよ…!うっ…ぐぅ…っ、花丸の寝顔だって…もっと、見てたいよ…!
花丸と二度と会えなくなるなんて…うぅ…ぅぅぅ…いやだ、よぉ…!!うぁぁ…!!」

239: 2017/07/02(日) 06:33:51.39 ID:+obYuReI.net
「…っ!!
ねぇ、果南さん…これ、見て?」

…そう言うと、花丸は懐から何かを取り出した…

240: 2017/07/02(日) 06:35:54.92 ID:+obYuReI.net
「ぐす…、うぇっ…?」

「実はね…前に果南さんがぐっすり眠ってる間にこっそり…寝顔の絵描いちゃったずら…」

「…っ!!ぁぁ…!」

それは…あまりにも美麗で繊細な、それでも確かに芯の通った線、色使いで描かれた私の寝顔だった。モデルが私だなんて信じられないくらいに、輝きを放った絵…

241: 2017/07/02(日) 06:37:58.37 ID:+obYuReI.net
「これ…最後に果南さんにあげるずら…!果南さんの寝顔を描けるのは…おらだけだよ?この絵はね…おらがこの領域…果南さんにお世話になりましたっていう証…。
果南さんはね…ひとりぼっちじゃないんだよ…?」

花丸はまた目尻に涙を溜めて、それでも微笑みながらその絵を私にしっかりと手渡してくれた。…どこまでも強い子なんだ

242: 2017/07/02(日) 06:39:45.77 ID:+obYuReI.net
「……すんっ…あのね、花丸…。実は、私も…!」

花丸として実体が残ってるのは、もうへそから上だけだった。
急いで私も懐から花丸の寝顔を描いた絵を取り出した。描いた当時は花丸には内緒だなんて思ってたけど、そんなこと言ってられる状況じゃない。今ここで出さなきゃ絶対に後悔する

243: 2017/07/02(日) 06:42:13.17 ID:+obYuReI.net
「果南、さん…。これ…!!」

「私もね…描いてたんだ、花丸の寝顔…。だって…あまりにも綺麗で可愛らしくて…残さなきゃもったいないって…。
でも…私もこれ、花丸にあげる…!だから、花丸もひとりぼっちじゃないから…。いつでも…いつまでも、私がついてるから!!」

244: 2017/07/02(日) 06:44:07.21 ID:+obYuReI.net
「…っ!!…うん…うん…っ。ありがとう、果南さん…!」

「ううん…。私こそありがとうだよ…!」

「えへへ…、考えてることは一緒だったんだね…」

「寝顔を絵に描くことがかぶるなんてね…多分、私達どこまでも相性がいいんだよ…」

245: 2017/07/02(日) 06:45:20.73 ID:+obYuReI.net
「うふ…嬉しい」

「私も…。花丸、ありがとう…。私に、1人じゃないってことを教えてくれて…。私に…本当の名前をくれて…」

「…今更水臭いずら。もうおら達そんなこと言い合う関係じゃないよ?」

「…ふふっ…それもそうだね」

…いよいよ、光は花丸の顔へと差し掛かっていた

246: 2017/07/02(日) 06:46:08.70 ID:+obYuReI.net
「うん…っ。…それじゃあ…」

「…うん」

247: 2017/07/02(日) 06:47:28.52 ID:+obYuReI.net
「……愛してるよ、果南…!!」


「…私も、愛してるよ…!花丸…!!」

248: 2017/07/02(日) 06:48:18.77 ID:+obYuReI.net
「「さようなら…!!」」

249: 2017/07/02(日) 06:49:26.41 ID:+obYuReI.net
…そう言うと花丸は涙を溜め微笑んだままサラサラと、彼女の全てが光になった

250: 2017/07/02(日) 06:50:10.25 ID:+obYuReI.net
私も…ちゃんと笑えてた、かな…
花丸の言ってた、最後は笑顔でさよなら…
最後くらい、彼女の支えとなれてたかな…

251: 2017/07/02(日) 06:51:22.53 ID:+obYuReI.net
でも、ふと次の瞬間にはもう心のわだかまりはなかった。
それはきっと、向こうも同じ。
お互いに別れと向き合って、お互いに納得してお別れした。
それが最後の笑顔に繋がったんだ。

花丸の笑顔を引き出せるのは私だけ、私も笑えてたんだね

252: 2017/07/02(日) 06:52:43.93 ID:+obYuReI.net
ありがとう、花丸。そして…さようなら。

最初で最後の、最愛の人

253: 2017/07/02(日) 06:54:20.73 ID:+obYuReI.net
_____



私は果南
この領域の見張りみたいな門番みたいな…何ていうかそういう類の存在

そして…この領域は、俗に現世と呼ばれる世界とあの世とを繋ぐ為の場所

つまり、この領域に足を踏み入れた人間はそうと立たないうちに亡くなってしまうということ

254: 2017/07/02(日) 06:55:25.21 ID:+obYuReI.net
私はその見届けをしなくちゃいけないみたい。
…ていうことは見届け人、なのかな?

まぁなんとなく特別な存在だって思っておいてよ。…て、また私誰に話しかけてるんだろ

255: 2017/07/02(日) 06:56:36.07 ID:+obYuReI.net
よ。…て、また私誰に話しかけてるんだろ

ま、いっか。何にしても私はそういう人達のお見送りをちゃんとしなくちゃいけないんだ

…花丸の時みたいに取り乱したらだめ

最後はお互い笑顔で…むしろ、向こうは泣いちゃってるけどこっちは笑顔で、くらいの気概で行かないと。…いや、それはそれでひどいかな?

256: 2017/07/02(日) 06:57:58.07 ID:+obYuReI.net
…とりあえず今日も今日とて私以外に誰もいなくなったこの領域を見張って回る

257: 2017/07/02(日) 06:58:33.17 ID:+obYuReI.net
…またここに来ちゃった
彼女と…花丸と初めて出会った場所。相変わらず暖かい気持ちになれる場所。相変わらずあんまり目立たない場所。

でも、変わったところと言えば。

前は花も草もなくて殺風景だったけど…

258: 2017/07/02(日) 07:00:14.02 ID:+obYuReI.net
今はいつの間にか紫苑が一輪、咲いてるっていうところかな




『遠くにいる人を思う…貴女を忘れない』…

259: 2017/07/02(日) 07:01:46.46 ID:+obYuReI.net
以上でおしまいです

支援、保守、その他レス下さった方々
最後までお付き合い頂いた方々
ありがとうございました

261: 2017/07/02(日) 08:28:18.86 ID:zEGre2Nu.net
おつおつ

262: 2017/07/02(日) 09:51:07.76 ID:n6cBSUrQ.net
かなまる珍しかったけど雰囲気とかすごく良かった

引用元: カナンと花丸