◇――――◇


数日後


鞠莉「ふっ……」キュパッキュュッ

千歌(フォア側に曲がってくる逆横回転系っ――YGサーブっ……)


ポ-ン

千歌「あれ、下回転じゃないの……」


鞠莉「残念、横上よ」


千歌「んん……鞠莉ちゃんのサーブ全然わかんないよ」

ダイヤ「鞠莉さんは中ぺンで手首の可動範囲が大きくもてて、強烈な回転を出せますからね」

ダイヤ「さっきのサーブも、逆モーションサーブと言われる難易度の高いもの」


ダイヤ「今の千歌さんに足りないのは、台上技術だと思いますの。台上技術に関しては、鞠莉さんのタッチは非常に参考になると思いますわ」

千歌「なんでストップとかあんなに止まるの?」


鞠莉「ストップはツッツキを短くしたような、相手に攻撃させないための技。だから長くなったらおしまい」

鞠莉「ちゃんとあがりぎわを捉えてあげることが重要よ、台上は本人のレベルがそのまま出るから、台上技術が出来ないと勝ち上がることは出来ないわ」


鞠莉「まあ私はサーブと台上以外がダメだから、そんなに強くなれないんだけどね♡」

265: 2017/06/24(土) 02:17:39.19 ID:94qnMEwd.net
千歌「というか、鞠莉ちゃんてなんで卓球出来るの?」

鞠莉「私色んなスポーツできるのよ? テニスとかバドミントンとかも! その中の一つで、まあ果南が楽しそうにしてたから、私も集中的にやってたことがあるの」


千歌「ほえー……みんな凄いなあちょっとやっただけで」

千歌「というかさ、曜ちゃん凄くない?」


曜「っしゃぁ!!!」

善子「あーもう!!」


鞠莉「最近は善子ちゃんから一セット取ることも増えてきたわね」

ダイヤ「わたくしからみても、あの成長速度は異常ですわね」

果南「ねー、ほんとだよ」

千歌「果南ちゃん」


果南「昔っからそうなんだよね、ちょっと教えて……見ただけで出来るようになるんだよ。たまったもんじゃないよね、今の曜の超前陣速攻型も、この前見てた鹿角理亞のものだよ、おそらくね」


果南「……多分、本気で卓球してたら……今の日本のランキングも、脅かしてたかも、ね?」

266: 2017/06/24(土) 02:19:20.00 ID:94qnMEwd.net
果南「天才だねー、天才」

千歌「天才……」


千歌「すごいな……やっぱ、曜ちゃんは……」

鞠莉「ちかっち……?」

千歌「ううん、なんでも」

果南「千歌も、自分のペースでがんばろ。付き合うからさ」

千歌「うんっ!」

果南「今なんの練習?」

鞠莉「台上処理よ」

果南「あー」

果南「ちょっと千歌苦手だよねー」

千歌「そうなんだよね……」

果南「強引に打てば?」


ダイヤ「果南さんじゃないんですのよ」

果南「あはは……」


ダイヤ「じゃあ千歌さん、サーブ練習から、ツッツキストップフリック……この辺りを今日は見ていきましょう」


千歌「はーいっ!」

267: 2017/06/24(土) 02:19:49.97 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

大会前日


千歌「ふぅ……明日かあ」

曜「いよいよだね」

梨子「ふたりとも、がんばってね! わたし応援してるからっ」

曜「うんっ、ありがとう!」

千歌「今から緊張してきたぁ……」

曜「はやいって」

千歌「でもー!」

曜「大丈夫……練習してきたことを出すの、それだけ!」

千歌「うん……っ」

268: 2017/06/24(土) 02:21:01.34 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

大会当日


果南「え、うそっ!!」

ダイヤ「果南さん?」

果南「あ、あの、おじいが倒れたって」

千歌「え」

果南「ごめん……わたしっ」

ダイヤ「……行ってあげて」

果南「ごめんなさいっ……大会……せっかくエントリーしたのに、みんなの力になれるかもしれなかったのに」

千歌「そんなこと気にしないでっ! それよりおじいさんとのことが大切だよ……果南ちゃんの分まで……私達勝ってみせるからっ!!」


鞠莉「ええ、その通りよ」

果南「ごめん……っ、あのそこの荷物取って」


――――


千歌「果南ちゃんは残念だったけど、私たちのやることは変わらないよ! 絶対勝とう!」

曜「うんっ」

善子「ええっ!」

曜「なんかさ、やっぱり普通の大会とは違うね」

269: 2017/06/24(土) 02:22:22.34 ID:94qnMEwd.net
ルビィ「そうだね……大体みんな可愛いし……それに、衣装も」

千歌「うぅ、千歌達ちょっとだけワッペンとか付けただけだよお……」

ダイヤ「なるほど、スクールアイドルのスポーツの祭典だけあって……衣装も改造して良いということなのですね」

曜「時間なかったしね……」


梨子「写真撮っておこ、3人の」

千歌「うんっ!」

梨子「ちーず」

梨子「はい、おっけー。3人とも、がんばってね」


花丸「一回戦がそろそろ始まるって」

善子「私はシードだから、審判よね?」


ダイヤ「そうですわね、曜さんと千歌さん準備はよろしくて?」


千歌「タオル忘れた!」


ダイヤ「もう……」

270: 2017/06/24(土) 02:25:06.82 ID:94qnMEwd.net
――――


ダイヤ「お疲れ様です、いい内容でしたわね」

鞠莉「うん、ばっちりね」

千歌「えへへ、このまま勝ちたい!」

千歌「あと何回勝てばいいの?」

ダイヤ「あと二回勝てば……」

千歌「ひゃー……でも、あと二回、か」

ダイヤ「全国に行っても試合数はそこまで変わらないはずですわ、なのでここで慣れておくのがいいわね」

千歌「よしっ、次も勝つぞ……」

千歌「善子ちゃんは?」

鞠莉「聞かなくてもわかるでしょ?」

千歌「わ、あれ?」

花丸「圧倒的ずら……善子ちゃんの名前知ってる人とか居て。いきなり優勝候補だって、他校の人が話してるの聞こえたよ」

千歌「まあ、そりゃそうだよねえ……知らない人にとっては完全にダークホース。かっこいいかも……」

ダイヤ「そろそろ千歌さんは呼ばれると思うから、準備して」

271: 2017/06/24(土) 02:27:02.41 ID:94qnMEwd.net
千歌「インターバル短くなってきたなぁ……」

ダイヤ「トーナメントとはそういうものよ」


鞠莉「ねえダイヤ、レベル高くなってない?」

ダイヤ「ええ……想像してたようなお遊戯卓球では、まるでありませんわね」

ダイヤ「県大会より少し下がるくらいで」

鞠莉「全く……想像違いもいいところよ、地方大会の映像とかなかなかないからねえ、推測するしかなかったんだけど」

ダイヤ「想定よりは上のレベルですわね」

梨子「あの、そんなにレベル高いんですか?」


ダイヤ「……こんなことを言いたくはありませんが、千歌さんは競技卓球ではおそらく県大会レベル。地方大会まで進む力はないでしょう」


梨子「それって」

ダイヤ「今日は似たような規模の卓球……千歌さんを信じるしかありません」


千歌「あのねあのね、ドライブがぱーんって! かっこよくない!?」


曜「すごいっ!」



梨子「……がんばって」

272: 2017/06/24(土) 02:28:24.83 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇


「7-11」

千歌「くっ……」


梨子「あぁ……」

「9-11」

曜「……かー……」


ダイヤ「――残念、でしたわね」


鞠莉「ちかっちは4回戦負け、曜は5回戦負け……曜はあと一個勝てば全国だったのに……惜しい」


梨子「ふたりとも……」


ルビィ「……あとは善子ちゃんだけ」


鞠莉「よっちゃんは平気だろうけれど、精一杯応援しましょう」


花丸「うん」

善子「優勝するから、安心して」

花丸「頼もしいずら……」


ダイヤ「負けたら審判をしなくてはいけないので……あそこで振り返る時間もあるでしょう」

千歌「……」ウルッ…


梨子(そっか、すぐに側にいって、声かけてあげることもできないんだ……コートに入ったら、一人……孤独な戦い、なんだ)


 
梨子「千歌ちゃーん!! お疲れ様ー!!」

273: 2017/06/24(土) 02:30:00.07 ID:94qnMEwd.net
千歌「……梨子ちゃん」

千歌「……」ウルッ…

梨子「………」ズキッ

梨子「曜ちゃんも、お疲れ様っ!!」


曜「……」

梨子「あれ?」

梨子(なんか、すごい顔……そっか、曜ちゃん試合になるとすごく集中して別人みたいになるし……今もまだ、そのモードなのかな。なに、考えてるんだろう……)


曜(負けた、負けた……負けた負けた負けたっ!!!)


曜(勝たなきゃ、いけなかった、のに!!)

善子「……」

274: 2017/06/24(土) 02:30:43.70 ID:94qnMEwd.net
ダイヤ「善子さん、そろそろ……」

善子「ええ……」

善子「じゃあ行ってくるわ、準決勝以降は団体戦みたいにして、あなたたちが下まで応援に来てくれるんでしょ?」

ダイヤ「ええ」


鞠莉「卓球台を二台まで片付けて、体育館の中心で試合するのよー?」

梨子「こ、この卓球台片付けるの!?」


鞠莉「ええ、勝てば勝つたび観客の視線を否応なく浴びるの。今はかなり分散してるけれどね。それが卓球の大会よ、上になれば大観衆の中の試合を余儀なくされる」

 

鞠莉「ま、とりあえず楽しみにしましょ♡善子ちゃんが私たちをそのすぐそばまで連れて行ってくれるみたいだから♡」

275: 2017/06/24(土) 02:31:38.14 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

梨子「お疲れ様……」

千歌「うん……」

千歌「ぁぁ……はは」

ダイヤ「……」

千歌「だめだった……ごめん」

ダイヤ「いえ……精一杯やりきったのなら、それで……」

ルビィ「あ、曜ちゃんも……」

曜「かー……ほんとに、ごめん」

千歌「お疲れ様……」

曜「千歌ちゃんも」

千歌「……えへへ、だめだったね」

曜「うん……」

千歌「でも曜ちゃんは私より一個多く勝ってるし、凄いよ!」

曜「上までいかなかったら、同じだよ……」

千歌「……そっか、確かに」

276: 2017/06/24(土) 02:34:23.57 ID:94qnMEwd.net
千歌「よし、辛気臭い顔しててもしょうがないし……善子ちゃんのこと応援しよ!!」

曜「うんっ」

千歌「あれ、善子ちゃんは?」


善子「――もう終わったって」


曜「え」

善子「次準決勝でしょ?」

ダイヤ「ええ、お疲れ様でした!」

ルビィ「すごいよ善子ちゃん!」


千歌「てことは善子ちゃん……全国に!」

曜「やったね!!!」

鞠莉「ここに来ても一方的……ナイスゲームね」

花丸「段々善子ちゃんのこと、周りが注目し始めてるずら……」


ザワザワ…


千歌「……」

梨子「あ、卓球台が片付けられてく」

鞠莉「試合まで十五分も無いと思うわ、今は休んで」

善子「ええ」

千歌(クールでかっこいいなぁ……)


善子「ふぅ……」


曜(集中してるね、善子ちゃん……)


ダイヤ「次の選手はデータがありましたわ、この前の大会で準優勝だった……今回の優勝候補筆頭です」

善子「じゃあその人倒せば優勝?」


ダイヤ「かなり近くなります、わね」


善子「わかったわ」

277: 2017/06/24(土) 02:36:49.82 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇


善子「しゃあ!!!」

 

 善子ちゃんの放つ一球一球に、会場が震えた。

善子「ふふっ」

 私達Aqoursが応援しているフェンスを挟んで、堕天使が人を弄ぶようにして、コートを支配している。

 フットワークは軽い、ドライブのタッチもほとんど乱れない。 相手のドライブ攻撃も、ふわりと包み込んでオープンコートへと叩き込む。その背には、善子ちゃんの言う漆黒の翼が見えるようだった。

 ――その翼で高く、高く、飛んでいる。

 常人では、いつまで経っても届かない空の向こうまで。

 


 準決勝にて、今回の大会での優勝候補をいとも簡単に破って見せた善子ちゃんは、迎えた決勝戦も……何も変わらなかった。

 優勝候補を破ったダークホースとして、会場を味方につけ、舞い踊る。会場が善子ちゃんの球の行方を見守っている。

 そこには紛れもなく……人を魅了し、私が……なりたかった、憧れていた世界の人がいた。


 善子ちゃんは、ここにいる誰よりも輝いている。やがて、浮き上がった球を、フォアハンドで強打。一瞬の静寂の後、両の手を大きく天へと突き上げ……呼応するように、会場にいる人々も立ち上がっては、賛辞の拍手を送っていた。

 

曜「よしっ!!」

278: 2017/06/24(土) 02:38:17.79 ID:94qnMEwd.net
 そばにいた曜ちゃんが、鞠莉ちゃんが、そしてみんなが、この会場の主役になった善子ちゃんに駆け寄っていく。

 私もたまらず善子ちゃんに駆け寄る。


千歌「やったね! 善子ちゃん!!」

善子「うんっ!!」


 何かをやりきった笑顔。

 私が欲しくて欲しくて……でも今まで手に入らなかったもの。

 そう、それを手にした人はこんなにも、美しく輝く。私はその輝きに心からの祝福を送ると同時に……自分の不甲斐なさに、心底、呆れてしまった。


ダイヤ「ほら善子さん、優勝インタビューがありますから」

善子「へ?」


ダイヤ「へ? じゃありません、このスポーツ大会は優勝や準優勝の人にはインタビュータイムが与えられて、Aqoursのことを宣伝する大大チャンスなんですわよ!?」


善子「な、なんにも考えてない!! ど、どうしよ。こ、こんな大勢の前でなんて……」


鞠莉「大丈夫よ、今思ってること言えばいいだけ」

279: 2017/06/24(土) 02:40:45.99 ID:94qnMEwd.net
善子「今思ってること……」

千歌「そうだよ! 善子ちゃんは主役なんだから、気楽にね?」

善子「え、ええ……」

 一台になった卓球台が片付けられ、足早にフェンスの撤去が行われている。

 予想以上の参加者数に、時間が押してしまっているらしかった。私たちは体育館に整列するために、その場で待機することになった。善子ちゃんだけは大会の運営の人に連れて行かれて、色々な準備をするらしかった。

 私が負けたあと、ダイヤさんに言われたこと。


「今回はレベルが高かった」


 それを聞いた瞬間、ああ、またかって。思った。また私はそれを理由に、慰められるんだって。

 でも私は誓ったんだ、みんなに、梨子ちゃんに。そういうの、関係ないって。

 フェンスの撤去が終わると、表彰にうつっていった。

 偉い人が話をして、準優勝の人が善子ちゃんや運営に対する賛辞を送って拍手が巻き起こり、続けて善子ちゃんの番だった。


 準優勝の人からマイクを受け取る前からガチガチに緊張してしまっている様子で、津島善子さんと名前を呼ばれた返事も変な風に裏返ってしまったのか、少しだけ笑いが巻き起こる。


 でも善子ちゃんは可愛いから、観客の人たちの可愛いっていう声が、そこかしこから聞こえていた。

280: 2017/06/24(土) 02:43:44.98 ID:94qnMEwd.net
善子「ほ、ほほほ本日は……ありがとうございました!!」

善子「えと、津島ヨハ……善子です」

千歌「くす……」

梨子「ヨハネじゃないんだ」

千歌「ね」

善子「あの……まずは、対戦してくださった人たちに感謝します……ありがとうございました。この大会を開催してくれた皆さんにも、ほんとにありがとうございました」

善子「そして……応援してくださった観客のみなさん、ほんとにありがとうございました!!」

パチパチパチッッ

 善子ちゃんを拍手が包み込む。少しだけ照れながら笑う善子ちゃんに、善子ー!! と野太い声が聞こえた気がした。うん……ファン増えたね。


善子「あ、まだ結構時間あるんですか? えとじゃあ……なに話そう、かな」

善子「…………。実は私、ずっと競技の卓球本気で、してて……でも挫折して」


善子「……何をしたいかわからなかったけど、またこうして卓球が出来てるのは、あの、そこに座ってる仲間達のおかげなんです!」


善子「ほんとに、Aqoursの人達はみんな真剣で……私も、その……がんばろうって思えるんです」


千歌「……」

281: 2017/06/24(土) 02:46:08.81 ID:94qnMEwd.net
 、

282: 2017/06/24(土) 02:46:34.19 ID:94qnMEwd.net
善子「こ、これからもAqoursはたくさんスクールアイドル活動をしていきます! 良かったら、ちぇ、チェックしてくれると、嬉しいです!」


善子「全国でも、静岡県の代表として頑張ります! ほ、ほんとにありがとうございました!!!」

「善子ー!!!!!!!」


善子「ヨハ……っ。ぅ」


「善子ー!!!!」


善子「……」フルフルッッ

千歌「くすっ」



 最高に、輝いてるなあ。

 
◇――――◇


ダイヤ「本番は東京で……ラブライブの正式発表が行われる、次の日です」

善子「ごく……」

ダイヤ「本当に今日はお疲れ様でした、果南さんもきっと喜んでいますわ」

善子「ほんとに緊張したー……インタビューよかったかな」

千歌「ばっちりだったよ! 善子ー! って声、最終的には結構な人が叫んでたよね」

曜「わかる、ファン増えてたよね」

善子「り、リトルデーモンが増えるのはいいことね!」


ルビィ「バス来たよ!」

曜「おっけ!」

善子「あ、あの、千歌さん」

千歌「ん?」

 

善子「ありがと、ね……私、あなたに誘われて、よかった……」

283: 2017/06/24(土) 02:49:11.87 ID:94qnMEwd.net
千歌「……」

千歌「うんっ、こっちこそ……善子ちゃんと一緒にやれて、嬉しいよ」

千歌「ありがとね、私に、見たことない景色を見せてくれて」

善子「これからも、ま、任せなさいっ!」

千歌「ふふっ」

善子「……ふふ」


千歌(今度は、私も……)

284: 2017/06/24(土) 02:50:20.52 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

バスの中


曜「はー……」

善子「どしたの?」

曜「悔しい」

善子「……いいことね」


曜「――勝たなきゃいけなかったんだけどな」


善子「どうして?」

曜「うーん、えっと……なんて言っていいかわからないけど」

曜「勝ちたかった」

善子「相手はどんな人?」

曜「前衛のブロックマン」

善子「押しきれなかった?」

曜「うん……イライラしちゃって、ミスばっかり。だめだな、ほんとに」

曜「練習、これからも付き合ってよ」

善子「ローテーションでしょ」

曜「練習時間外も」

善子「なるほどね」

曜「強くなりたい」


 
善子「あなたなら――そう思えばなれるわよ」

 


曜「……そうかな」

善子「ええ」

285: 2017/06/24(土) 02:53:51.78 ID:94qnMEwd.net
善子「多分……あなたが本格的に練習はじめたら、私、負けると思う。わかんないけどね」

曜「な、なに言ってるの! 勝てるわけ……」

善子「……嘘だってば」

曜「で、ですよね」

善子「でもあなたのこと、羨ましいって思う人、たくさんいると思うわ、あなた――才能あるもの」


善子「"そう思っても"、なれない人の方が多いんだから」

曜「……っ」


曜「あはは……」

曜(才能か……)

千歌「あ、ふたりともおはよー!」

善子「おはよ」


千歌「昨日はお疲れ様! すごかったね!」ギュッ


善子「ち、ちょっと」


曜「……」

286: 2017/06/24(土) 02:57:41.36 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

夏休み 合宿

千歌「あはは、ごめんね夏休み初日から海の家での手伝いなんて」

梨子「ううん、平気だよ」

梨子「みんなといると、楽しいから。夏休み、きっと練習ばかりだろうけど……それでも充実するだろうなって」

千歌「えへへ……そうだよね!」

梨子「でも……ほんと、千歌ちゃんにはなんでもバレちゃうね」

千歌「……」

梨子「安心して。ラブライブには出るから」

千歌「え」

梨子「みんながくれた居場所、千歌ちゃんがくれた居場所……今はね、ピアノよりそっちの方が大切なんだって」

千歌「梨子ちゃん……」

梨子「だから、早く歌詞ください」

千歌「えーー!!」


 


曜「……」

曜「そんなことが……」

曜「なんで、ふたりだけで、決めちゃうのかな……なんで、なんで」

曜「少しくらい、私にも、相談、してくれたって」


曜「っ……」

287: 2017/06/24(土) 02:59:23.33 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇


カコンカコンッ

曜「……」

 

梨子「ほんとに卓球なんかして、大丈夫?」

千歌「大丈夫大丈夫」

千歌「ラリー、続くようになったね」

梨子「千歌ちゃんのおかげだよ」

千歌「ううん、やらなくてもいいことなのに……やってくれた、梨子ちゃんのおかげ」

千歌「ほんとに、ありがとね……私すっごく嬉しいんだ」

梨子「うん……」

千歌「みんなとこうして一緒にやれて、さ。私、全然強くないのに」

梨子「千歌ちゃん……」

千歌「……言い出しっぺが、大会、勝てなくて……頼って、ばかりで……」

千歌「ほんと、ほんとにありがと……ぐす」


曜(千歌ちゃん、泣いて……)


曜(私の前で、泣いたことなんて、ほとんどなかった、のに……)


曜(梨子ちゃんの前では……)ギリリ…

288: 2017/06/24(土) 03:01:44.52 ID:94qnMEwd.net
梨子「ううん、気にしないでいいの……辛くなったら言っていいんだよ?」

千歌「ごめん、ごめんね……私、なにやっても中途半端で、周りに凄い人、いて」


千歌「――曜ちゃんとか、なにやっても、私より出来るしっ……すごくてかっこよくて。でも、なんかさ」


曜「っ……」

曜(ぁぁ……)


千歌「――それが、ちょっとだけど、辛くて……」


曜(やっぱり、そう、なんだね……)

曜(わたしじゃ、だめ、なんだ……)

梨子「うん……」ナデナデ


千歌「この前の大会も、善子ちゃんすごくて輝いてて……私も、あんな風になり、たくて……」

梨子「うん……」

千歌「でも、でも……わたし、がんばるから……梨子ちゃん、これからも一緒にいてくれる……?」


梨子「当たり前だよ……千歌ちゃんが頑張ってるの、私、知ってるもん……これからも、近くで見ていたいから」


千歌「梨子ちゃん……うぅ……」


千歌「ごめん、こんな話して……あのね、今日起こしたのはね……ピアノのこと、なんだ」

289: 2017/06/24(土) 03:05:36.37 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

 

梨子「――大好きだよ」


 太平洋に、陽光が降り注ぎ初めている。ゆらゆらと波打つ水面。ふっと髪の毛を持ち上げる潮風に乗って……梨子ちゃんの声が聞こえてきた。


 続けて千歌ちゃんが小さく啜り泣く声が、さざなみの間に響く。


 梨子ちゃんは、千歌ちゃんを抱きしめたまま、離さない。お互いの心のうちを存分にひけらかして、私が本来見ていないであろうところで、心の結びつきを強固なものにしていた。


 それは、今回だけだったんだろうか?


 私が知らない間に、仲の良いお隣さんとしてたくさん話をして、ずっと一緒にいたはずの私なんかよりも、今の千歌ちゃんのことを知っている。千歌ちゃんの心が悲鳴をあげているのを、受け止めてあげるのは、私ではないようだった。私は千歌ちゃんの悲鳴に気がつけなかった。

 でも、それも納得だ。


 だって、千歌ちゃんは……私と一緒じゃ、嫌なんだから。


 ずっと一緒になにかやりたくて、でも何かやりだすと千歌ちゃんは辞めちゃって……裁縫もそうだった、水泳もそうだった、サッカーだってそうだった、他のこともそうだったかもしれない。

290: 2017/06/24(土) 03:08:16.16 ID:94qnMEwd.net
 確かに私は、先に取り組んでいた千歌ちゃんより、上手くなることが多かった。ううん、ほとんどが、そうだった。


 その度千歌ちゃんは、嫌な気持ちになっていたんだなって、思い知らされた。そりゃ、そんな心の内を、本人に言えるはずがない。


 スクールアイドルだって、私から入りたいって言ったんだし……誘われて、ないんだし。


 私なんか、いなくたって……ううん、いない方がよかったの、かな。


曜「ぅ……うっ……」

 ずっと、一番仲が良いって、思ってた。

 ずっと、続くんだろうなって、思ってた。

 でも、そんなこと、なかったんだね。

 私が一方的に、思ってた、だけだったんだね。

 ごめんね千歌ちゃん……私なんかが、一緒に、やっちゃって。

 隣で歩けることは、無いのかもしれないね。


 だから、卓球で私に負けた時も、あんな悲しそうな顔をしてたんだね。ああ、またかって、思ったのかな。またこの人はって。


曜「だめだな……わたしって」


 だったら"こんなの"ない方が良かった、持ってない方が、良かった。


 水平線の向こうから出てき始めた太陽に、背を向ける。

 未だに千歌ちゃんの啜り泣く声は聞こえていた。そう、私には、聞いてはならないことだったんだ。私なんかが聞いたって、千歌ちゃんに――なにもしてあげられない。


 そうして、背に朝の光の温もりを感じながら、私は寝床へと歩みを進めた。登り始めた陽とは裏腹に、私の中の何かが、沈んでいくのが、分かった。

292: 2017/06/24(土) 03:11:41.79 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

七月後半


鞠莉「この前から思ってたんだけどね」

果南「うん」

鞠莉「曜の様子がおかしい気がするの」

果南「……だよね」

鞠莉「なんかね、ちかっちと最近全然話してないと思わない?」

鞠莉「今回のダンスも、梨子の代わりをしてるけど……合わないみたいだし」

果南「でもさっきは合ってたよ」

鞠莉「あれ、梨子の間合いをマネしたんでしょ曜が。あの子すごいからそういうことも出来るのね」

鞠莉「でも曜と千歌のダンスなのに……梨子のマネをするっていうのも……なんかね」

鞠莉「それまでも、何回かおかしいなって思ったことはあったのよ。でもね、合宿の時くらいからかな……明確に、隔たりというか曜が壁を作った気がして」

果南「……」

果南「曜は多分、何か思ってるんだと思う」

鞠莉「あの子、溜め込むタイプ?」

果南「そうかも……」

鞠莉「じゃあ……マリーが、人肌ぬいじゃおうかしら」

果南「なにするの?」

鞠莉「多分曜は嫉妬してるんだと思うわ! ちかっちが梨子に、取られたって」

果南「そんな」


鞠莉「明確に意識してなくても、きっと似たようなことを思ってるはず。予選に向けて、ちょっとこの辺りも消化しておかないと」


鞠莉「果南は千歌に話して見てくれる? 上手い感じに……曜とちかっちが一度本気で話し合えるように」

鞠莉(最初から翼を持っている者と、持って無い者……。それでも分かり合えるって、私は)

293: 2017/06/24(土) 03:12:40.10 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

曜の家


曜「私なんかより、梨子ちゃんの方が……」

梨子『……そんなことないよ?』

曜「そんなことあるんだよ!!」

梨子『……っ』

曜「ごめん、わたし……ほんとに……」

梨子『ううん……ねえ、今度さ、二人で合って話さない?』

曜「え……」

梨子『お願い、だめかな』

曜(なん、で)

曜「わかっ、た」

梨子『うん、じゃあおやすみ。またね』


曜「おやすみ……」

ブツッ

曜「一体、どういうことなのさ……。鞠莉ちゃんは千歌ちゃんと話せっていうし」

曜「嫉妬、か。そうだね……私、嫉妬してるんだね、梨子ちゃんに」

曜「はは……情けなすぎる、よ」

曜「なんて、話せばいい、のさ……」

千歌「よーちゃーんっ!!!」

曜「ん……え?」

千歌「曜ちゃん!!」

曜「な、なにしに来たの!?」

千歌「話があって、来ましたー!!」

曜「は、話!?」

千歌「うん!」

曜(自転車で……あの距離を!?)


ダッッ

294: 2017/06/24(土) 03:13:54.44 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

千歌『曜ちゃんが?』

果南『うん……色々ね悩んでるみたい』

千歌『……』

果南『千歌はどう思うの? 曜が自分を押し頃して、梨子のマネをして大会に挑む、そんなの嫌でしょ?』

果南『卓球だってそう、千歌は曜に精一杯やってほしい、違う?』

千歌『違くない……』

果南『千歌がさ、急に梨子ちゃんとか仲良くなって、不安だったんだと思う』

千歌『……』

果南『曜のこと、どう思ってる? 悪口でもいいよ』

千歌『わ、悪口なんてないよ!! で、でも……なんか、私にもっと、相談とか……してほしいなって』


果南『?』


千歌『ほら、曜ちゃんなんでも出来るしすごいでしょ? だからね……おっきなこととかは、なんにも千歌に相談とかしてくれなくて』


果南『……』


千歌『きっと、辛いこととかも一人で解決しちゃうのかなって。それか、私じゃ、聞いてあげられない、のかなって』

295: 2017/06/24(土) 03:14:46.08 ID:94qnMEwd.net
千歌『ちょっと、寂しい、なって』

果南(なるほどね……さっき、曜から話を聞いた鞠莉が言ってたことと、おんなじなわけ……)

千歌『ほんと、ヒーローみたいで、さ……。みんなのヒーロー、千歌だけのために、なんてワガママだし。だから私も曜ちゃんに悩みとかあんまり、相談できなくて』

果南『……みんなのヒーロー、か』


千歌『うん……』


千歌『だからって、わけじゃないんだけどね……私は一番、大切なんだよ、曜ちゃんのこと』


千歌『なんにも言わなくても助けてくれるし、頼りになるし……ずーっと、助けられてきた』


千歌『だからね、悪口なんか、ないもん』


果南『ヒーローっていうけど、曜も同い年の女子高生……。もし、今千歌が思ってること、そのまんまに思ってたら、どうかな?』

296: 2017/06/24(土) 03:15:23.11 ID:94qnMEwd.net
千歌『?』

果南『千歌が曜に話さないから、曜も千歌に……本当に弱いところ、見せてくれないんじゃない?』

千歌『っ……!!』


千歌(そう、なのかな。確かに、私は最初梨子ちゃんに二度と合わないって思ったから、自分のこと話しやすくて……)

果南『長く積もった関係は素敵だけど、新しい風が吹かなくなっちゃっうことが多いよね。そして――大切なものが、見えなくなる』


果南『灯台下暮らし、近づけば近づくほど、わからなくなる』

千歌『……』


果南『一回、話し合ってみるのがいいと思うな』


千歌『灯台、下暮らし……』

297: 2017/06/24(土) 03:18:09.27 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

曜の部屋

曜「果南ちゃんが、そんなこと」

千歌「うん……」

千歌「あ、この写真、運動会の時だ。凄かったよね、曜ちゃんは一位で」

千歌「ほんとに、すごい」

曜「……」

千歌「……聞かせて、欲しいな。どう思ってるのか」

千歌「ごめん、私から話した方がいいよね!」

千歌「まずね、曜ちゃんは梨子ちゃんのステップのマネをするのやめよ?」

曜「でも」

千歌「ふたりで、また作ろう? 私と曜ちゃんの、二人のダンスを」

曜「私とじゃ……嫌でしょ?」

千歌「え……」

曜「私ね、聞いちゃった、んだよ。合宿の日、梨子ちゃんと卓球台のところで話し合ってること」

298: 2017/06/24(土) 03:20:02.39 ID:94qnMEwd.net
千歌「!!」

曜「私さ……確かに、なにかやればやるたび……上手くなるの、早かったかもしれない……そうだよね、こんな人……近くで一緒にやられたく、ない、よね……」

千歌「聞いてたんだ……でも、違うよ、」

曜「何が違うの!? 私、千歌ちゃんと、本気で何かやってみたかった、スクールアイドル初めて、卓球も一緒に始めて……でも、なんでか、近づいた気がしなくてっ」

曜「私が卓球で勝っちゃうから……? 千歌ちゃんのことなんにも考えずに、強くなろうとしたから!?」

曜「千歌ちゃんは、梨子ちゃんとどんどん仲良くなって……どんどん千歌ちゃんが離れて行く気がして、それが、なんか、ちょっと、悲しくて……ぐす……」


千歌「曜、ちゃん……」


千歌(私の前で、泣く、なんて……)

 

曜「強くなろうと、したのもっ――私は千歌ちゃんと、隣で歩きたくて」

 


曜「だからわたし、がんばって……。でも、それが嫌だったん、だもんね……私、全然、千歌ちゃんのことわかってなかった、ね。ただの、独りよがり、だったね」


千歌「違うっ、違うよ!!」ギュッ

300: 2017/06/24(土) 03:22:14.22 ID:94qnMEwd.net
曜「……」

千歌「わたし、曜ちゃんがスクールアイドルやるって言ってくれて、本当に嬉しかったんだよ!? やる必要のない卓球までやってくれて、わたし、本当に本当に嬉しかった! 曜ちゃんと一緒に、こんなに色んなことできるんだって」

千歌「だから私のことなんて気にしなくていいんだよ……? 話してくれてありがとう……」

千歌「曜ちゃんが本気でやってくれてるの見て、嬉しかった。それと一緒に悔しかったのもほんと。なんでわたしはこんなに出来ないのかなって。でもね……今回は絶対やめない。絶対やり抜いてみせる」

千歌「悔しくないのって、曜ちゃんの励ましの言葉だったのってこと……ちゃんと、伝わってる」

千歌「ごめんね曜ちゃん……もっと早く、話すべきだった、よね」

千歌「今でも曜ちゃんは、世界で一番……大切な友達だよ。こんなこと、言うの……恥ずかしい、けどね」エヘヘ…

曜「千歌、ちゃん……わた、しもっ……」

千歌「話してくれてありがとう……曜ちゃんがこんな風に話してくれた、本当に嬉しい」

千歌「今までね、曜ちゃんは本当に強くてすごい人なんだろうなって思ってた……でも、違ったんだね。私とおんなじで、色んなことに悩んでるんだって……それに気がつけてなかった」

千歌「ずーっと一緒にいたのに、無意識のうちに、お互いをさらけ出すの、避けちゃってた」

301: 2017/06/24(土) 03:23:07.28 ID:94qnMEwd.net
千歌「でもね、今は違うよ。こーやって曜ちゃんのこと、もっと知れた。私のこと、知ってもらえた……本当に、幸せだなって。曜ちゃんが居てくれて、よかったなって」

曜「うぅ……ひっぐ」


千歌「もー、泣かないでよ……私まで、泣いちゃう、じゃん……ひっぐ」

曜「ぐす……ごめん」

千歌「じゃあね、改めて……」

 

千歌「これからも――私と一緒に、走ってくれますか? 頼りないけど、精一杯、がんばるから」

 

曜「うんっ……うんっ」

千歌「えへへ……」

千歌「お泊まりしてっていいよね?」

曜「うん……」

曜「なんか、久しぶりだね……こうするの」


千歌「そうだよねえ……」


曜「これからも、こんな風に出来るといいな」

302: 2017/06/24(土) 03:23:42.53 ID:94qnMEwd.net
千歌「私もそう思ってるよ」

千歌「ずーっと、ね?」

曜「千歌ちゃん……」


ギュッ…


千歌「もー、熱いよ」

曜「ぐす……いいでしょ」

千歌「また泣いてる」

曜「仕方ないじゃん」

千歌「どーして?」

曜「言わない」

千歌「だーめ」

曜「千歌ちゃんが優しいからだよ……」


千歌「曜ちゃんの方が優しいよ、誰よりも、人のこと考えてくれてる……自分のことは二の次だもん」


千歌「ほんとに、ありがとう」

曜「……こちらこそっ」

303: 2017/06/24(土) 03:24:31.35 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

梨子の家


曜「……美味しい」

曜「すごいね」

梨子「ううん、曜ちゃんの方が……料理上手だよ」

曜「私のはなんか……男っぽいし」

曜「こんなオシャレに作れないよ!」

梨子「お父さんに教えて貰ったの?」

曜「そうなんだ、パパ、結構料理好きでさ」


梨子「そうなんだ……大変だね、船長さんて。なかなか帰ってこないんでしょ?」


曜「あはは……そうなんだよねえ、まあ慣れてるからさ」


梨子「……」

304: 2017/06/24(土) 03:25:34.66 ID:94qnMEwd.net
梨子「ほんとに、ごめんね……」

曜「え……」

梨子「お父さんと一緒に居たいよね、でも……私のせいで、ダンスの穴埋めで練習時間、増えて……」

曜「そ、そんなこと」

梨子「曜ちゃん……凄いよ。色々、頑張りすぎだよ」

曜「……」

梨子「だから、だよね? 私も含め、みんな……曜ちゃんに頼っちゃってた、ね」


梨子「――この前の電話のこと、なんだけど……」


曜「っ……」

梨子「曜ちゃんは、私のこと――嫌い、かな」

曜「え……」

梨子「言い辛い、よね。ごめん」

曜「なんでいきなりそんな、こと……」


梨子「だって……私、曜ちゃんと千歌ちゃんの間に、割り込むようにして、入っていっちゃったのかなって……。ずっと一緒にいた二人の中に、何も考えずに、余所者が」

曜「っ……」


梨子「千歌ちゃんには沢山誘われたから大丈夫かなって思ってるけど、曜ちゃんはさ……その、流れで一緒に居たって、いうか」

305: 2017/06/24(土) 03:27:40.14 ID:94qnMEwd.net
梨子「だから……どう、思われてるのかなって……不安で」

曜「……正直に、言っていい?」

梨子「……」コク…

曜「なんで梨子ちゃんなんだろーなーって考えてた。私が知らないうちにどんどん二人は仲良くなって、私が知らないことも、どんどん梨子ちゃんに話して……どうして、私には話してくれないんだろうって」

曜「――私の方が、千歌ちゃんのこと知ってるのにって……思ってた」

梨子「っ」

曜「でも多分……全然知らなかった。この前ふたりで話してさ……知ってると思ってただけだった。梨子ちゃんの方が、きっと深いところを知ってる。私は浅いところをずっと、彷徨ってたんだなって。昔の憶測だけ。いつだって人は、成長してるのにさ」


曜「話しやすかったん、だろうね。梨子ちゃんの方が。私さ……なにかやろう! って取り組むと、なんでかわかんないけど、そこそこ、できちゃって……そんな人が近くにいると嫌なんだろうなって、思ってて」

曜「確かにそんな人に相談なんてしたくないって気持ちも、わかる。そう思ってたんだけど……色々話し合って、私が悪かったんだなって」


曜「だから、梨子ちゃんが悪いとかじゃ、ないの……千歌ちゃんが今、やりたいことをやれてるのは……梨子ちゃんのおかげ……本当に、感謝してるんだよ」

306: 2017/06/24(土) 03:28:40.94 ID:94qnMEwd.net
梨子「そっか……」

梨子「千歌ちゃんね、いつも話してたよ」

梨子「曜ちゃんは凄い人だって。なんでも出来ていつも助けてくれて、今でも助けて貰いっぱなしなのに……これ以上迷惑かけられないって」


梨子「――私のヒーローなんだって、教えてくれた」


曜「っ……」

梨子「私はふたりが羨ましかった……。私はそんなに親しい人もいなかったから」

梨子「千歌ちゃんから聞かされてた通り、曜ちゃんは凄い人なんだなって……ずっと思ってた」

ギュッ…

曜「……っ」


梨子「ごめんね……負担、かけてたね。色々悩むことも、あるよね」


梨子「だからね、これからは私にも話して欲しいな……全部一人でやる必要、ないんだから……ね?」

曜「っ……」

曜「ごめん、なさい……」


 
梨子「ううん……私こそ、ごめんね? また一緒に、がんばろう?」


曜「うんっ……うん」

307: 2017/06/24(土) 03:30:28.60 ID:94qnMEwd.net
 、

309: 2017/06/24(土) 03:30:55.96 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

曜「ふぅん……ピアノってそうやるんだ……」

曜「音が出なくても練習になるんだ?」

梨子「そうだね、スポーツの素振りみたいなもの、だよ」

曜「へえ!」

曜「コンクール、頑張ってね?」

梨子「うんっ」

曜「ちょっと私もピアノ触ってみたいんだけど……いい?」

梨子「うん」

曜「隣座って! ちょっと教えてよ」

梨子「教えるって言っても……」


曜「あ、私ね……Aqoursの曲、ワンフレーズくらいなら弾けるかも」

梨子「?」


曜「梨子ちゃんが音楽室で弾いてるとこ見てて……ちょっとだけ!」


梨子「え……」


~~♪

310: 2017/06/24(土) 03:32:17.20 ID:94qnMEwd.net
曜「結構いい感じじゃない? 音が出てたら、だけど!」

梨子「すごい……」

梨子(ほとんど出来てる……)

曜「にしし」


梨子(ほんとに、ヒーローだね……)


梨子(でも、実はとっても繊細……みんなのこと、考えて、自分のことは後回しにしすぎちゃうんだね。だから自分の中に溜め込んじゃう……それに気がつけて、良かったな)

曜「?」


梨子「ううん、なんでもない」

曜「そっか……。ぅうん、眠くなってきちゃったなー」

梨子「明日も練習だし、早く寝ようか」

曜「そうだね、一緒よベッドでいい?」

梨子「な、なんか恥ずかしいよ……」

曜「いいでしょ、ね?」

梨子「うぅ……わかった」

曜「えへへ、やった!」


曜「じゃあお先に失礼しますっ」

梨子「私も……」モゾモゾ

梨子「や、やっぱり恥ずかしい……」

曜「なんでー? 梨子ちゃんの髪きれー……」


曜「私もこんな風にストレートが良かったな」


曜「あ、いい匂い……」


梨子「わざとやってる!?」///

曜「なにが?」

梨子「もう……」

曜「新鮮だねえ、なんか」

311: 2017/06/24(土) 03:33:12.52 ID:94qnMEwd.net
梨子「そうだね……」

曜「ふぁ……ん。ねむ……」

梨子「なんか赤ちゃんみたい」

曜「なにそれ!」

梨子「眠いのに全く抵抗しない感じが」

曜「抵抗しようかな……」

梨子「やめておこ」

曜「ん……そうする」

曜「おやすみ……」

梨子「うん……」

ピピピッ


曜「?」

梨子「千歌ちゃんからだ……窓開けてって」

梨子「どうしたんだろ……」
 


千歌「あ、梨子ちゃん――な、なんで曜ちゃんいるの!?」


曜「えへへ」

千歌「ち、千歌に内緒でお泊まり!? ずるいずるい!!」

312: 2017/06/24(土) 03:34:35.92 ID:94qnMEwd.net
曜「内緒にしておくつもりはなかったんだけど……ね?」


梨子「ね?」

千歌「むむむむ……っ」


梨子「で、どうしたの?」


千歌「ううん……ほら、夏休み始まって……予備予選のために、大事な時期でしょ? だからちょっと話したいなって」

千歌「私たちはµ’sみたいに学校を救うことは出来ない、だってもう廃校、しちゃうしね」


曜「……そうだね」

 

千歌「でもさ……やっぱり、悲しいよね。それって。だから……私たちがここで生きてたんだって、浦の星で精一杯、輝いた人たちがいたんだって……知ってほしい」


 

梨子「うん……」


千歌「だから、がんばろーね。絶対、この一年で……精一杯、やってみせよ。今の私たちはゼロだけど、きっと……1に、してみせよ……っ」

曜「うんっ!!」

梨子「っ!?」

 

千歌「?」


曜「お、お久しぶりです!!」

313: 2017/06/24(土) 03:35:59.15 ID:94qnMEwd.net
千歌「あ、お母さん!?」

千歌ママ「曜ちゃん、久しぶり。相変わらず可愛いね」

曜「ほ、ほんとですか?」///

千歌ママ「うんっ。あなたが梨子ちゃん? 美人だねぇ……」

梨子「そ、そそそそそんなことないです、ほんとっ!」/////ブンブンッ


千歌ママ「可愛い」クスクス

千歌ママ「いつも娘がお世話になってます」

梨子「いえ……」

千歌「もー、なんで戻ってきたの!?」

千歌ママ「んー、なんかスクールアイドルっての始めたって志満達が言ってて……」

千歌「また余計なこと……」


 

千歌ママ「それに……千歌――また卓球してるんだって?」


 
千歌「っ……うん」

梨子「?」

千歌ママ「どうなりたいの?」

千歌ママ「スクールアイドルのスポーツ大会で優勝したいって、聞いたけど」

千歌「そう、だよ」


千歌ママ「……レベルが上がってるって聞いた。優勝するなら、少なくとも競技の地方大会を勝ち上がる力がないと無理とも、聞いた」

314: 2017/06/24(土) 03:37:10.05 ID:94qnMEwd.net
千歌「っ」


千歌ママ「つまり。志満や美渡は軽くいなせるくらいにならないとってこと……今度は、やめない?」


千歌「や、やめないっ!!」

千歌「絶対、絶対!!」

千歌ママ「……わかった」


千歌「それより――コーチ業はいいの!?」



千歌ママ「ん、選手がさ、故障しちゃって。ついててもいいんだけど、リハビリが長引きそうだから、お休みもらっちゃった」


千歌「えっ」

梨子「コーチ?」


曜「千歌ちゃんのお母さん、昔卓球選手でさ、今もコーチ業してるんだよ」

梨子「えっ、卓球選手……」

千歌ママ「今はこんなだけど……一応ね」

曜「一応ってレベルじゃないから……検索してみなよ……」

梨子「ん、名前は……はい。えっ……」

 


 

梨子「ぜ、全日本女子シングルス、ゆ、優勝……しかも、二回……え、うそでしょ!?」

315: 2017/06/24(土) 03:39:55.95 ID:94qnMEwd.net
千歌ママ「あはは……よく言われる……」

梨子(卓球一家……っ)


千歌「ねえお母さん……今、暇なんでしょ?」

千歌ママ「一応ここの手伝いするつもりだけど」

千歌「でも、さ……時間あるよね」

千歌ママ「なにがいいたいの?」


千歌「――わ、私達のコーチ……してくださいっ!」

曜「……!」


千歌「お願いっ! わたし、強くなりたいの、昔みたいにすぐやめたりしないからっ!」


千歌ママ「なるほどねえ……」


千歌ママ「――言っておくけど、氏ぬほど厳しいよ」

千歌ママ「あなたがスクールアイドルの方の練習と絶対両立してみせるっていうの、誓える?」


千歌ママ「ううん、あなただけじゃない……グループなんでしょ? グループのみんなにも、ちゃんと、話して。氏ぬほどキツイって、みんなで納得したなら……また私に話して」


千歌「……っ、そ、したらコーチしてくれる!?」


千歌ママ「考えておくね」スタスタ…


千歌「……どう、かな。二人とも」


曜「千歌ちゃんがやりたいなら……私は、ついてくよ。元全日本選手の、本業コーチの人が見てくれるなんて……これ以上ない、でしょ」

317: 2017/06/24(土) 03:41:26.00 ID:94qnMEwd.net
曜「隣で走るって、決めたから!!」


千歌「曜ちゃん……」ウル…


梨子「わ、わたしも……初心者だけど、団体戦、出るんだもん。上手く、ならなきゃ!!」

梨子「体力ないけど……耐えてみせる」


千歌「ふたりとも……ごめんね、千歌のワガママ、に」

梨子「だから、違うでしょ? 千歌ちゃんのためじゃないって」

千歌「うんっ……うん」

千歌「ねえ、千歌も梨子ちゃんち行っていい?」

梨子「うん」

千歌「三人でベッドで眠れる?」

曜「な、なんとかなる?」

梨子「が、がんばろ……」


千歌「よーし、待っててね!」


千歌ママ「……」

318: 2017/06/24(土) 03:43:20.27 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

千歌ママ「まあ、千歌に競技の県大会勝ち上がる力はないしね」

美渡「うーん、次の大会は冬でしょ、それまで少なくとも東海大会レベルまで、そこまで持っていけるかな」

志満「そうねえ……」


千歌ママ「もしコーチするってなったら、あなた達も付き合ってよ」

美渡「えぇ……」

千歌ママ「まあ学校が夜も使えればだけどね」

千歌ママ「可愛い妹のために人肌脱ごうって気概はないの?」

美渡「でもさぁ……」


志満「大丈夫だよ、美渡ちゃん、最近彼氏にフラれて暇だから」


千歌ママ「あーあ、もう結婚無理だね」

美渡「な、なに言ってくれてんの!! うぅ……」


千歌ママ「そういうこともあるよ、元気だして」


美渡「はぁぁ……」

319: 2017/06/24(土) 03:47:16.69 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇


曜「ダイヤさん興奮してたね」クスッ…

千歌「ダイヤさん気づいてると思ってたんだけどなあ、私のお母さんのこと」

千歌「果南ちゃんが言ってるとばかり」

梨子「良かったね……みんな、賛成してくれて」

千歌「うん……」

曜「遊んでる暇、全然ないだろうね」

千歌「うん……でも」

曜「楽しそう、そう思ってる」

千歌「うんっ!」


千歌「はーっ!!」


千歌「夏だね」


 

千歌「――夏が来る」

329: 2017/06/24(土) 15:19:43.27 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

体育館


千歌ママ「こんばんは、千歌の母です」

ダイヤ「ほ、本物ですわ……あの」


千歌ママ「私のこと、知ってくれてるんだ、嬉しい」

ダイヤ「うぅ……」

千歌ママ「早速だけどとっても厳しいよ、覚悟してください」

ルビィ「ごく……」


千歌ママ「ああ、あなたのことは知ってるよ津島善子ちゃん」

善子「え」


千歌ママ「千歌と同じクラブで、静岡県の世代有望株だったんだもの、当然よ」


善子「あ、ありがとうございます」

330: 2017/06/24(土) 15:21:21.36 ID:94qnMEwd.net
千歌ママ「果南ちゃんも」

果南「あはは……」


千歌ママ「みんなのことを見るのは当たり前だけど……とりあえず善子ちゃんが全国大会、近いんだよね。集中的に善子ちゃんを見ようと思ってる」


善子「ごくっ……」


千歌ママ「まあ、後はこっちの千歌の姉達も付き合ってくれるって言ったから……」

美渡「よろしく」


志満「よろしくね」


千歌「なんでお姉ちゃん達まで……」


善子「卓球できるの?」

千歌ママ「善子ちゃんには勝てないかもだけど、ふたりとも東海大会には毎回出てたし、志満は全国にも出てる。見てあげることは問題ないはずだよ」

ダイヤ「す、すごい……」


ダイヤ「千歌さんの家は卓球一家だったんですね……」

331: 2017/06/24(土) 15:22:41.59 ID:94qnMEwd.net
千歌「あはは……ドロップアウトしたの、私だけなんだよね……」


千歌ママ「じゃあみんなの戦型とかプレーを見たいから、いつもみたいに練習、してみて?」


千歌ママ「あ、の体育館は何時まで使えるの?」


鞠莉「うーん、21時くらいまでなら。最悪もっと大丈夫です」

善子「で、でもバスが」


千歌ママ「私たちが車で送ってあげる、練習時間、伸びるけど……平気?」

善子「そ、そのつもりです」


千歌「よし、じゃあはじめよう!!」

332: 2017/06/24(土) 15:24:47.86 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇


志満「へえ、ダイヤちゃんはカットマンなんだ」

ダイヤ「は、はい!」

志満「私もなの、なんか嬉しい」

ダイヤ「そ、そうなんですねか

志満「これは教え甲斐がありそうね……♡」

ダイヤ「///」

 

美渡「金髪のあなた……中ペンなのね」


鞠莉「はい♡お姉さんも?」

美渡「一応ね」


美渡(てか……スクールアイドルやってるくらいだから少しくらいはって思ったけど、実際見るとみんなめちゃくちゃ可愛い……もちろん千歌以外ね)

美渡(なにこの金髪の子……胸おっき……練習着歪んでるし)


美渡「……身長もそこそこあって手足も長そうなのに、でも下がらないんだ、勿体ないね」

鞠莉「下がるの苦手で……」


美渡「前陣の台上処理は文句ないみたいだけど……上へ進むとそれだけじゃどうしても押し込まれるから……」


美渡「まあ私もそうだったから、似てるね」


鞠莉「おお」

333: 2017/06/24(土) 15:26:19.87 ID:94qnMEwd.net
千歌ママ「花丸ちゃんは粒高……ルビィちゃんはアンチラバーの異質かぁ、なんでもいるねこのグループは……」

花丸「あはは……」


千歌ママ「私一応異質も教えられるから……安心してね」

ルビィ「は、はいっ!」

千歌ママ「そうねえ……次は……」


千歌ママ「――曜ちゃんか」

曜「……」カコンカコン


千歌ママ「……天はいくつまで一人に、与えるんだろうね」


千歌ママ「梨子ちゃんは素人か………あのがちがちのフォアはなんとかしないとだろうけど」


千歌ママ「あ、みんな聞いて」


千歌「?」


千歌ママ「一通りみんなのプレースタイルとか、どんな感じなのか見させて貰いましたもちろん詳細なところはまだわからないけど」

千歌ママ「とりあえずみんなに言えることは、足が全然動いてないってこと」


千歌ママ「だからね、いや、だからってわけじゃないんだけど……あなた達にこれから約一ヶ月でいいから、実施してもらいたいことがあります」


ダイヤ「……」

334: 2017/06/24(土) 15:27:22.52 ID:94qnMEwd.net
千歌ママ「――練習の八割はフォアハンドオンリーでやるの、バックハンドはバックハンドで時間作るから、それ以外はバック禁止!」


鞠莉「バック禁止……」

千歌ママ「本来ならこれは一年計画。強豪校なんかでよくやられてるんだけれど、入ってきた新入生にまずフォアハンドを半年間メインにさせて、とにかく足を動かす癖をつけなきゃいけない。その土台があるうえでの、バックハンドを振れる両ハンド卓球が成り立つの」


千歌ママ「追いつけないから、足が動かないからバックを使うんじゃない、その場面場面で最適な手段がバックハンドっていうだけ。相手から時間を奪う方法がバックハンドってだけ。オールフォアで振れる力がありながらバックも振るそれが現代卓球の雄、両ハンドドライブ型」


千歌ママ「ドライブ型だけじゃない。あらゆる戦型で足を動かして最適な位置に身体を動かすのがなによりも大切なこと」


千歌ママ「あなた達には短期間だけれど、かなり意識的に足を動かしてもらって、夏休み中に、今より何段階も上の基礎を作り上げる。そこから各々のプレースタイルに合わせて練習をしていきます」

335: 2017/06/24(土) 15:29:14.28 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

善子「はぁっ、はぁっ」

千歌ママ「だめ、もっと擦って。球の勢いに負けてスポンジに食い込んで棒球になってる! ぶっ叩かれるよそれじゃ!」

善子「くっ……」


善子(現役なんてとっくに引退してるはずなのに……なんて重い球……押される)


千歌ママ「今のあなたのボールタッチのまま挑むとするなら、貧弱な食い込ませるドライブよりとにかく擦って回転で勝負したほうがいいよ」


千歌ママ「鹿角聖良ちゃんは、強いからね」


善子「鹿角聖良のこと、知って、るんですか」


千歌ママ「うん、何回か会ったこともある。なんたって文句なしの世代最高プレーヤーだもの」

善子「……」


千歌ママ「全国までのこの期間じゃあなたの擦りあげるだけのボールタッチはそう簡単には変わらない。回転をかける才能はほんとにすごいけど、それだけじゃ勝てないってこともよくわかってるでしょ?」


善子「……」コクッ


千歌ママ「だからね今は長所を伸ばすしかない、でもその長所はほんとに凄いから自信持って」

善子「はい……」

 


美渡「ほら動け千歌!!」


千歌「は、はひ……」ヨロヨロ…

336: 2017/06/24(土) 15:30:52.68 ID:94qnMEwd.net
曜「はぁ、はぁ……」

曜(さっきからずっと多球練習だ……休む間もなく、きっつ……)

曜(スクールアイドルの練習も今までより俄然きつくなってるのに……これは氏ぬぞ……大丈夫かな)

果南「さすがに、きつい、ね……これ」

美渡「お、果南ちゃん流石。まだまだ余裕そうだね♡」

果南「ぅ……」

美渡「さあいくよ、じゃあ次は私のフォア側にずっとドライブで」



志満「うーん、そうねえ」

志満「こっちは異質の子が多いし……」

志満「でもフットワークは重要よ♡」

志満「花丸ちゃんやルビィちゃんのブロック主体もちゃんと打球点に身体を動かさなくちゃだし、ダイヤちゃんはカットマンだけれど……」

ダイヤ「……?」

志満「――後陣でも全部フォアで取るように頑張ってね♡」

ダイヤ「こ、後陣でも?」

志満「ええ。ダイヤちゃん、バックは粒高でしょ」

ダイヤ「はい」

志満「バックはフォアに比べて振り切れないから、カットマンは飛ばない粒高を貼る人が多いの。そっちの方が相手の攻撃の衝撃を吸収して守りやすいからね」


志満「でも、最初はとにかく振り切れるフォアで取るように意識して。バックも勿論重要だけど、カットといえば下回転だから、ね?」


ダイヤ「は、はいっ!」

337: 2017/06/24(土) 15:31:48.76 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇


車の中

千歌ママ「どうだった? 続けられそう?」

善子「氏にそうです」

千歌ママ「まあまあ、善子ちゃんのこと一番厳しく見てるしね」

曜「一対一だもんねー」

千歌ママ「それにしても曜ちゃん、ほんとに強くなったね」

曜「そ、そうですか?」

千歌ママ「うん、絶対全国まで行かせてあげる」

曜「あ、ありがとうございます!」

千歌ママ「ここだよね?」

曜「はいっ! また明日!」

善子「千歌、大丈夫?」

千歌「大丈夫……」

千歌ママ「自分がしたいって言ったんだもの、平気だよね」

千歌「う、うん!」


善子「あ、ここです」

千歌ママ「ねえ善子ちゃん」

善子「?」


千歌ママ「本当にこのまま、練習続けたい?」

338: 2017/06/24(土) 15:32:25.56 ID:94qnMEwd.net
善子「え」

千歌ママ「……やりたいか聞いてるの」

善子「えっと……強くなれるなら」

千歌ママ「そう、わかった。お疲れ様ー」

善子「……」ペコリ…

千歌「ばいばい!」

千歌ママ「また明日ね」

善子「はい!」


千歌「はあ……」

千歌ママ「どう、耐えられそう」

千歌「うん……」

千歌「ねえ、はっきり言って欲しいんだけど……」

千歌ママ「うん?」


千歌「――やっぱり、千歌って才能ない?」

千歌ママ「……」


千歌ママ「――そうね……至って普通だね」

千歌「っ……だ、よね」


千歌ママ「これだけは言えるけど……曜ちゃんは天才だよ、あの子、小さな頃から本気でやってたら今の卓球界は変わってたかもしれない」


千歌「あはは……すご」

339: 2017/06/24(土) 15:34:55.56 ID:94qnMEwd.net
 、

340: 2017/06/24(土) 15:35:27.62 ID:94qnMEwd.net
千歌ママ「だからね、曜ちゃんを見て自分と比較するのはやめなさい」


千歌ママ「才能がなくたって強くなった人を私は何人も見てきた。全国に行ってる人はもちろん、美渡や志満だって才能は全然ない」


千歌ママ「でも、東海大会で上位になれるまでになった」


千歌ママ「卓球はさ、すっごく残酷なスポーツなの、よく知ってるでしょ?」

千歌「……」

千歌ママ「小さい頃からやっていないと強くなれない、才能がないと強くなれない、努力しないと、強くなれない」

千歌ママ「三つが必要って言われてる、この三つの掛け算って言われてる」


千歌ママ「才能っていう部分がほんとに、とってもおっきいスポーツだっていうのは否定しない。でも、それを覆す人がいるってことも事実」


千歌ママ「そういう人はね、とにかく努力したんだよ」


千歌ママ「才能なんて、ギャンブルだから。最初から開いてるかもしれないし、後から開くかもしれない。みんな花開くのを願って……人生かけるの。賭けなんだよ、才能なんて」


千歌ママ「それに勝つ人は……少ないけど。破れた人は違う競技なら花開いてたかもしれないし、運が無かったと、思うしかない」


千歌ママ「人生賭けて求める人ががそれを持ってることなんて、本当に稀だしね。でも、それだけじゃ納得できない人の方が多い」


千歌ママ「――嫌でしょ。持って生まれたものだけで、全部決まるなんて」

341: 2017/06/24(土) 15:36:07.22 ID:94qnMEwd.net
千歌「……」


千歌ママ「残酷だね、本当に」

千歌「……」

千歌ママ「……自分の実力がまざまざとスコアに出て、突きつけられる。でもさ、それって自分の実力がわかる機会が与えられてるだけ」


千歌ママ「今までみたいに腐る? 腐らずに頑張るなら……支えてあげる」

千歌「やる……絶対やる」

千歌ママ「なら平気、お母さんを信じなさい」

千歌「強く、なれるかな」

千歌ママ「大丈夫、あなたが強くなりたいって思い続けるなら……絶対なれる。あなたは小さい頃からやってたってのは、満たしてるんだから」

千歌「うん……うん……ぐす……」


千歌ママ「……」

342: 2017/06/24(土) 15:37:21.16 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

大会前 夏休み終盤


千歌「はぁ、氏にそ……」

千歌「毎日全身筋肉痛だ……」

千歌「善子ちゃん、大丈夫かな……」


千歌「そういえば、聖良さんて……どうなったのかな」カタカタ…

千歌「……あ、やっぱり、予選突破してる、んだ。スクールアイドルの方も、北海道トップ……」

千歌「……せっかく、連絡先持ってるんだし」

千歌「……えいっ」


プルルルルルッッ


聖良『はい、鹿角です』

千歌「あ、もしもしっ、鹿角聖良さんですか? えっと、Aqoursの高海千歌です」


聖良『あぁ、高海さん。まさか連絡が来るだなんて』


千歌「あはは、ですよね……」


千歌「あ……あの、卓球もスクールアイドルも……突破、おめでとうございます」

聖良『ああ、ありがとうございます。でも、あなた方の方が再生数は多かった……素晴らしいパフォーマンスでした』


千歌「い、いえ」


千歌「でも、卓球は、負けちゃって」


聖良『……津島さんが突破、したんですよね』


千歌「はい、だから応援には行くんですけど……」

343: 2017/06/24(土) 15:37:58.60 ID:94qnMEwd.net
千歌「……聖良さんは、どうしてスクールアイドルをやってるんですか?」

聖良『……』

聖良『面白いことを聞きますね』


千歌「あはは……すみません」

聖良『そうですね……あの、良かったら大会の前日、会って話しませんか?』

千歌「え?」


聖良『大会の前日に、ラブライブ決勝トーナメントの詳細が秋葉原にて発表されます』


千歌「わかりました!」

千歌「私たちも前日入りしようと思ってたんで……」

聖良『ふふ、良かった。では、神田明神で、いかがですか?』

千歌「はい!」

344: 2017/06/24(土) 15:39:36.41 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

UTX


聖良「まさか、こんなに早く津島さんと対戦することになるとは思いませんでした」

善子「……私も」

聖良「三回戦、楽しみです」

善子「……」

聖良「高海さん、あなたは私達にどうしてスクールアイドルをするのか、と聞きましたね」

千歌「はい……ずっと気になっていたんです。競技の卓球を、そこまで極めていながら、どうして……」

聖良「……そうですね」

聖良「あなた達は、勝利した人が見せる笑顔を……よく見たことがありますか?」

千歌「……」

聖良「私は中学生の後半からしばらく怪我をしていて、満足に練習も出来ませんでした。人生をかけて取り組んできたものが、急に奪われたようにも、感じました」

聖良「そんな時に出会ったのが、ここUTXのスクールアイドル、アライズでした」

聖良「彼女達は強かった、その輝きは……暗く沈みこんでいた私を照らしてくれました」

聖良「とっても、綺麗でした……見ているだけで希望が湧いてくるような」

聖良「次の日には……友達を誘っていました。結果として今は、妹とすることになりましたが」


聖良「これが、理由です」


千歌「そっ、か……アライズ……」

345: 2017/06/24(土) 15:40:36.61 ID:94qnMEwd.net
聖良「あなた達は?」

千歌「私達は……」


理亞「そろそろラブライブが発表される時間なんだけど」

聖良「あ、ほんとだ」

聖良「すみません、その話はまた後日……」

千歌「あ、はい」

聖良「みなさんも、良かったら見に行きませんか!」


◇――――◇

ホテル


千歌「寝ないの?」

善子「ん、もう寝る」

千歌「そっか」

善子「……ラブライブも、始まるのね」

千歌「うん……でも、善子ちゃんは目の前のことに集中して?」

善子「ええ」


善子「ねえ……こんなこと、言いたくないけど」

千歌「うん?」


善子「――負けたら、ごめん」


千歌「……」

千歌「気にしなくていいんだよ? 善子ちゃんは精一杯やってくれればいいの」


千歌「だってもう、私達じゃ来れなかった場所に連れてきて貰ったんだもん」

善子「うん……」


千歌「もう寝よ? 明日、何回も試合しなきゃなんだから」


善子「ええ……」

346: 2017/06/24(土) 15:41:35.53 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

ラブライブ、スポーツ大会、卓球会場


千歌「ふぁぁ……おっきい会場……」

梨子「すごい……」

善子「そんなに驚かなくても……」

ルビィ「こんな会場で試合するんだ……」

花丸「うぅ、緊張してきたずらぁ……」

果南「確かにこっちまで……」

善子「も、もうそんなこと言わないでよ」

曜「そうだよ、私達がこんなだったら善子ちゃんが緊張しちゃう」


千歌「あ、聖良さん達も練習してる」


善子「じゃあ……私もそろそろ練習行ってくる」

347: 2017/06/24(土) 15:42:50.25 ID:94qnMEwd.net
 、

348: 2017/06/24(土) 15:45:35.20 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

ダイヤ「お疲れ様でした」

善子「ええ……はーっ」

千歌「二回戦突破おめでとー!」

ルビィ「すごいよ!」

果南「十分通用してるね」


千歌ママ「――お疲れ様ー善子ちゃん」


善子「あ……」

千歌「お母さんやっと来たの」

千歌ママ「ごめんねー遅くなって、でも二回戦は見れたから」

善子「ど、どうでしたか?」

千歌ママ「うん、その調子だねー」

善子「……はい」

 

聖良「――こんにちは、高海さんお久しぶりです」


千歌ママ「あ、こんにちは聖良ちゃん、久しぶりだね」


千歌(ほんとに知り合いなんだあ……)

鞠莉「知り合い?」


聖良「ええ、何度か指導を受けたことも」


鞠莉「へえ………」

349: 2017/06/24(土) 15:46:10.74 ID:94qnMEwd.net
聖良「私も、まさかあなたの母親だなんて思いませんでした。初対面の時からもしかして、とは思っていたけれど」

千歌「あはは……」


千歌ママ「"調子"はどう?」


聖良「……心配ありませんよ」

千歌ママ「そう、よかった」

聖良「では津島さん、よろしくお願いしますね」


善子「う、うん……」


聖良「では」

善子「はぁ……」

ルビィ「大丈夫?」


鞠莉「ナーバスはダメよ」


善子「わかってる……せっかくここまで来たんだから」


善子(私は、ヨハネ……ヨハネよ)


千歌「そうだよ! 頑張ってね!」


ダイヤ「善子さん、そろそろ……」

350: 2017/06/24(土) 15:47:45.01 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇


善子(考えろ……考えろ……どこに打てば……なにを打てば……)

聖良「……」


聖良(もっと、踊りましょう?)


 自分とそう体格の変わらない相手だと言うのに、言いようのないプレッシャーに包み込まれている。観客だとか場の空気とか、そういうのじゃない。ただ、純粋に、鹿角聖良の存在感。


 サーブは一撃目から台上ドライブやチキータで、素直にレシーブなんかしてくれない。少しでも押された瞬間怒涛の攻めでポイントを失う。まるで踊るようなフットワーク。


 かといって、こっちが攻めたところで……ブロックや引き合いを丁寧に繋げて……甘くなったところを持っていかれる。

 私が一番得意なはずの、回転も……強いインパクトで上書きされてぶち抜かれる。

 ついついループドライブで攻めてしまうけれど……それをことごとく、破られている。

 どうして、なんで?


 調子はいいはず、回転だって……今までにないくらいかかっているはず、それなのに、どうして……。


 得意な形がまるで決まらず、どうしていいかわからなくなってくる。そう、同じだ――昔と、同じ。


 なんとなくわかっていた、この鹿角聖良って人は相手の一番得意な球を打たせているんだ。あからまさじゃなくて、こっちがさも攻めているかのように錯覚する絶妙な長さコースに出して、それを正面から――叩き潰す。

351: 2017/06/24(土) 15:50:32.26 ID:94qnMEwd.net
 なんとなくわかっていた、この鹿角聖良って人は相手の一番得意な球を打たせているんだ。あからまさじゃなくて、こっちがさも攻めているかのように錯覚する絶妙な長さコースに出して、それを正面から――叩き潰す。

 それを続けられた相手は、次第にメンタル面から崩れて……なすすべなく地に伏する。


 それが彼女の卓球だった。


 観客の声が、どこか遠くに聞こえた。

 中学生のあの日、私は私じゃなくなった。全てが否定されたような気がして、こんな私は私じゃないと。

 翼を、求めた。
 


 二セットを既にとられ、しかもマッチポイントを握られてしまっている。跡がないのはわかっている、わかっているからこそ……大胆に攻めていかなければ勝ち目などあるはずがない。
 

 息が浅い、サーブの球を持つ手が震える……。


 翼が欲しい。


 どこまででも飛んでいけるような翼が。


 私はヨハネ。堕天使、ヨハネ。


 この、翼で。

352: 2017/06/24(土) 15:53:00.75 ID:94qnMEwd.net
善子「ふっ……」

 鹿角聖良は私と同じく左利き、結局大きく曲がりながら沈む下横回転で相手が強打できないようにするしかない。コースを限りなく間違えなければ、チキータやフリックなんかも流石に振ってこない。

 どうでる……。

善子「!!」


 無理やりチキータ!


善子(くっ……下回転が甘かった……)


 ぐにゃりとバナナみたいに曲がる軌道で、私のバックハンド側に切れ込んでくる。バックハンドで振っていたら、またすぐに主導権が握られてしまう。


 もつれそうになる足を動かして、態勢を少し崩しながらも、強烈な横回転にラバーに引き攣れが起こるのを感じながらも、フォアで振り切った。

聖良「っ……」


 ループとは弾道の変わる少し早い球、私の普通のドライブは回転が自慢だから少し勢いがあってもループ同様ぐっと手元で沈み込む。


 想定通り、攻撃に備えて下がっていた鹿角聖良。しかしバックに打ち込んだ球は沈み込むことで、打球点を少しだけずらして、鹿角聖良に擦り上げるだけの球を打たせることに成功した。

353: 2017/06/24(土) 15:54:15.56 ID:94qnMEwd.net
 それでも一瞬の隙。食い込ませて勢いのある球が来なかっただけいいけれど、この擦り上げるループ気味のバックドライブでも十分な脅威。

 油断して打ち込んだら、途端にオーバーミスが起こってしまう。今回も、フォアハンド側にコントロールされたその打球は、サイドスピンが緩くかかっていて、台にバウンドしたら、外へ逃げていく球になっていた。


 私が回り込んでドライブをして、その返球としてはこの上ないコース。


 遠い、横を向きながら……地面を蹴りつける。


 飛べ、飛べ!!!


 私はヨハネ。


 堕天使、ヨハネ。


 空を飛べるはず。


 ――だって、私は、私は。


善子(相手は下がってる……このままスマッシュで押せば……押し切れるっ)


 ポイントでは、追いつくには遠い。それでも私は――。


善子「っふぅ!!」パコンッッッ!!!!


 飛びつきながら打ったミート系のボール、鹿角聖良がいる反対側、フォアサイドのギリギリのところに着弾して伸びていく。


善子(よし、一点……)
 

354: 2017/06/24(土) 15:55:55.82 ID:94qnMEwd.net
 そう思った時、サイドテールが、揺れた。

 さっきの私と同様に、飛びつきながらフォアで打球した鹿角聖良。中陣での広大な守備範囲、打ち合いが本来のスタイルの鹿角聖良を……侮っていた。

 でも大丈夫、完全に態勢は崩れてる……今度こそっ。


善子「!!」


グニョンッッ…ギュルルルッッ


善子「なっ……」


 その打球は――右真横に跳ね上がった。


 反応した瞬間には、私のラケットの捉えることのできる範囲をするりと逃げるように、台のサイドから飛び出していった。


聖良「ふぅ……」

 

善子(――シュート、ドライブ……っ)

 

聖良「――ありがとうございました」

善子「ありがとう、ございました」


 3-0。


 望んでいたリベンジ戦は、またしても私の惨敗に終わった。


 私は空を、飛べない。

355: 2017/06/24(土) 15:58:19.32 ID:94qnMEwd.net
 、

356: 2017/06/24(土) 15:58:34.32 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇


千歌「最後のあれ……」


ダイヤ「あれはシュートドライブですわね……あんな体勢から撃ち抜くとは……」

梨子「?」

ダイヤ「鹿角聖良の代名詞の一つです。普通のドライブならば真っ直ぐか少し相手のフォアハンド側に逃げていく軌道になります」


ダイヤ「ただ、シュートドライブはその逆で利き腕が同じ同士で受けた場合、バックハンド側に逃げる軌道になります」


果南「……普通はなかなか打たないんだよ。球の内側を擦るから安定感は全然ないしかなり不自然なフォームになる」

果南「バックハンドに来た球を回り込んで打つならまだわかるけど、フォアに飛び込んで打つなんてね……わけわからない」


ダイヤ「全日本やジュニア大会の際は多様していたようなので、今回もそうかと思ったのですが……一球だけ、でしたね」


鞠莉「つまりどういうこと?」


鞠莉「……ああ、なるほど」

357: 2017/06/24(土) 15:59:33.54 ID:94qnMEwd.net
梨子「――ほ、本気じゃないって……こと?」


千歌ママ「ご名答よ梨子ちゃん」


梨子「あ、そうなんですか……あれで、まだ……」


千歌ママ「鹿角聖良ちゃん……絶対的な武器は常人とはかけ離れた曲がりと勢いを高次元で両立している前中陣からのシュートドライブとカーブドライブ」


千歌ママ「この二つは回転を増やそうとすると、どうしても球速が落ちるんだけど……」


千歌ママ「あの子関節とかがぐにゃぐにゃでね、肘なんかすごいのよ。だから私達から不自然な体勢に見えても力がちゃんと伝わる。まあ……だけど多用したせいで肘の怪我があってね……」


果南「……だからあんまり使わないんですね」


千歌ママ「そ、怪我明けってのもあるし。まあその二つのドライブを使わなくても勿論強いんだけど」


千歌「……」

千歌ママ「ちゃんと見た?」

千歌「見た……」


千歌ママ「自分の最大の武器が封印されても関係ない、そういう基礎が向こうにはある。小さい頃から全て卓球に捧げて来た結果があれ」


千歌ママ「その努力に立ち向かおうっていうの……それをもう一度考えてみて」


千歌「……うん」

358: 2017/06/24(土) 16:00:32.15 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

善子「っ……あのっ」

聖良「?」

善子「……」

善子「――なんであなたは、そんなに強いの」

聖良「どうしたんですか、いきなり」

聖良「……でも、そうですね」


聖良「――練習しましたから。それだけです」


善子「……っ」

聖良「他になにか、あるとでも?」

善子「い、いや」

善子「……」

 

聖良「――才能、とでも。言って欲しかったですか?」


 
善子「っっ」

359: 2017/06/24(土) 16:01:25.50 ID:94qnMEwd.net
聖良「生憎ながら、あなたはそれを――持ってると思いますよ。私の目からみたら」

善子「……」

聖良「全部をかけてみてようやく見えてくるものが才能だと、思っています」

聖良「あなたは一時期全てを賭けた経験があるから、それが顔を出している」

聖良「……あなたももう一度全て、かけてみたら、どうですか」

善子「っ」

聖良「……」


聖良「――氏んでしまうくらい欲しくて欲しくて何を賭けてでも欲しくて、今も血を吐くような思いの人が世の中にはいるでしょう」

 
聖良「それを持ち合わせているあなたが、どれだけ、幸せか」


聖良「どれだけ手を伸ばそうと空を飛ぼうとしようと、届かない人に、失礼ですから」


善子「わたしはっ……」

 

聖良「――また会いましょう」スタスタ

360: 2017/06/24(土) 16:03:38.82 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

体育館 ロビー


千歌「はぁ……」


千歌「努力か……そりゃそうだよね……」

千歌「今千歌達がやってるようなことを……十年以上も……やってきたんだもんね……」


理亞「……」ズズズ…


千歌「ん……理亞ちゃん?」

理亞「……年下だからっていきなりちゃん付け?」


千歌「ご、ごめんなさい」

千歌「メロンミルク……美味しいの?」


理亞「……別に」ズズズ…


千歌「そ、そっか……」


千歌(うぅ、お姉さんと違って愛想悪いなぁ……)


理亞「――津島善子さん、負けたみたいね」

361: 2017/06/24(土) 16:04:39.35 ID:94qnMEwd.net
千歌「うん……」

理亞「まあ……だと思ったけど」

千歌「……。強いねあなたのお姉さん」

理亞「そうね」

理亞「ずっとずっと馬鹿みたいに卓球、してたからね」

千歌「そうなんだ……」

理亞「あなた冬も大会に出るの?」

千歌「うん、冬こそ絶対――」

理亞「やめたほうが、いいと思う」

千歌「え……」

理亞「あなた達にはスクールアイドルの才能は無くはない、でも卓球の才能は多分、ない」

理亞「……姉様に勝とうとしたって、無駄だと思う。時間の無駄」

千歌「そ、そんな!!」

千歌「……ひどい」

理亞「……」

理亞「私だってあなたのことを思って言ってるの。じゃあ考えて見てよ、あなた達のエースの津島善子さんはどうだった? きっと地元じゃ天才扱いのはずよ」


理亞「でも、それがどう? 本物の才能とぶつかったら、何も出来ない」

362: 2017/06/24(土) 16:05:54.29 ID:94qnMEwd.net
千歌「……」


理亞「津島善子さん、才能はかなりある方だと思う。あなたは、その人がどうやっても勝てない相手に勝とうとしてる……無駄な時間を過ごそうとしてる」


千歌「無駄なんかじゃない!」

理亞「……」

千歌「無駄なんかじゃ、ないもん……」


理亞「――才能が全てよ、それ以外なんて、ないんだから」

千歌「……」


理亞「才能もなくて氏ぬほど努力して努力して努力して努力してっ……それでも中途半端だなんて――泣きたくなるでしょ? 泣いたって、どうにもならないのよ? そこにあるのは、才能が無いって、現実だけ。簡単ね」


千歌「そんなこと」


理亞「……」

 
 

理亞「誰しもが空に羽ばたけるだなんて思わないことね。一生――地を這い蹲る蛇だっている」

364: 2017/06/24(土) 16:09:54.74 ID:94qnMEwd.net
千歌「なんでそんな言い方っ――」


理亞「だから、スポーツは成り立つ」

千歌「っっ」


理亞「空にいる存在は見やすいから、目立っているだけ。その実、下に目を向けたら、おびただしい数の蛇が見えただなんて、ありがちな話ね」


千歌「……」



理亞「それなら――最初からしないほうがマシ」


千歌「そ、そんな言い方っ!!!」


理亞「とにかく……姉様に勝つのは私、誰にも邪魔させないんだから」


千歌「え……」


スタスタ…


千歌「どういう……」

365: 2017/06/24(土) 16:12:08.27 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇


聖良「高海さん」


千歌ママ「ん、聖良ちゃん」

千歌ママ「準決勝進出おめでとー」

聖良「ありがとうございます」

千歌ママ「決勝は姉妹対決かな」


聖良「そうなるように頑張るつもりです」


聖良「あなたに聞きたいことがあります。あなたの昔の映像を見ていて、感じたんです」


千歌ママ「今より若かったでしょー」


聖良「ええ、当時最年少優勝でしたからね」


聖良「どうしてあれだけのものを持ちながら第一線から退いたのですか」


千歌ママ「んー……」


千歌ママ「苦しくなっちゃったから、それだけだよ」

366: 2017/06/24(土) 16:13:03.94 ID:94qnMEwd.net
聖良「……?」

聖良「苦しくなった、それだけですか」

千歌ママ「そ」

聖良「……それが本心なら、酷いですね」

千歌ママ「そんなこと言わないでよ」


聖良「あなたの卓球は、色んなものを背負っていたはずです。あのままいけば国だって背負ったでしょう。あなた一人の問題じゃなかったはず、それなのにっ!!」


千歌ママ「……」


千歌ママ「聖良ちゃんは、とっても優しい子だね」

聖良「……」


千歌ママ「私には無理だったの。あなたは優しいから、そうはならないで欲しいな」


千歌ママ「でも……そういう強さだって、ある」


千歌ママ「変わらず応援してるからね、頑張って」

367: 2017/06/24(土) 16:16:23.88 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

ダイヤ「思い残したことはありませんか?」

千歌「欲を言えば準決勝以降も見たかった……」

千歌「準決勝以降は次の日なんて……すごいなぁ」

果南「ネットでは配信するみたいだし、それで見てるしかないね」

鞠莉「散々見てたでしょ、鹿角聖良ちゃんのこと」

千歌「まあね……でも、やっぱり決勝とかは全然違うし……それに、姉妹対決になりそうだし」

千歌「まあでも見てるだけじゃどうにもならないし……」

千歌「練習しなきゃ!!」

千歌「……練習したのがさ、無駄じゃないんだって……証明したい」

果南「……よかった」

千歌「?」

果南「強い人達をたくさん見て、やる気失わなくて」

千歌「あはは……多分ちょっと前までならそうだったかも……」


千歌「でも、そうも言ってられないし」

千歌「善子ちゃんが連れてきてくれたけど、今度は自分の力で来れるようにしたいな」

果南「そっか」

善子「……ごめんなさい、ほんと」

果南「謝らない謝らない」

曜「そうだよ、この大会でも十分通用するってことがわかったわけだし!」

善子「……そ、そうよね」

ダイヤ「では、胸を張って帰りましょう」

368: 2017/06/24(土) 16:17:20.09 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

後日


果南「3-1やっぱり、お姉さんの勝ちかー」

鞠莉「そうねえ……いいところまで行ったかなと思ったけど」

鞠莉「姉妹対決ってどんな感じなのかしらね?」

果南「うーん……どんな感じ?」

千歌「え、うーん……負けたくない!」

果南「そりゃそうか……どう?」

ルビィ「お、お姉ちゃんに勝てるわけ……」

ダイヤ「そんなことを言ってるから上手くならないのですわ」

ルビィ「ぅ……」

果南「まあでもそう思う人がいるのもほんとだよね」

花丸「理亞ちゃんは?」


千歌「試合中……すごい顔してるもん……こんな鬼気迫った感じで……試合するかな、普通」


鞠莉「真剣な時の曜みたい!」

曜「え、わたしこんな怖い顔?」


鞠莉「似たようなものよ♡」

ダイヤ「まあ集中すると致し方ありませんが……パフォーマンスとしては確かに」


千歌(理亞ちゃん、ほんとに真剣なんだ……当たり前だけど、一体どういう……)

369: 2017/06/24(土) 16:18:08.47 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇


千歌ママ「わかったでしょ? 今の回転だけじゃ勝てないってことが」

善子「……」コクッ

千歌ママ「でもあなたの武器は回転、それを変える必要はない」

善子「……」

千歌ママ「あなたのラバーは粘着ラバー。粘着ラバーっていうのはあなたも知る通り、回転に特化したラバーね」

千歌ママ「粘着ラバーは粘着ラバーにしか出せない独特な変化がある、日本では主流とは言えないから格上の選手に対抗するにはベストな選択ともいえる」

千歌ママ「はっきり言うと――あなたは粘着ラバーの性能を全然引き出せてない」

善子「え……」

千歌ママ「だから、それを引き出せるなら……あなたはまだまだ伸びることが出来る」


千歌ママ「粘着ラバーは他のラバーと違って不規則な変化になりやすい。それを利用すれば、相手は試合終盤でもあなたの回転を読むことは限りなく難しくなる。トップスピンの回転力は今と変わらなくても、決定力は今の何倍にも膨れ上がる」


善子「……」

千歌ママ「どう? ちょっと楽しみにならない? 一泡吹かせる可能性がもっと増えるかもしれない」


善子「……勝てますか、私」

370: 2017/06/24(土) 16:18:47.97 ID:94qnMEwd.net
善子「あの人、本気じゃなかった。昔はシュートドライブもカーブドライブも結構使ってきた。魔法みたいだって、思った。でも今回は一球だけ……私が弱くなって、相手が強くなった」


千歌ママ「でも、今大会で使ったのは――その一本だけ」

善子「え……」


千歌ママ「あなたは今大会中唯一鹿角聖良に本気を出させたってことだよ」

善子「……」ゴクッ…


千歌ママ「みんなも、粘着ラバーは使いこなされるとほんとに厄介だからちゃんと善子ちゃんで対策してね、まあなかなかいないけどね、特に女の子だと」

千歌ママ「――それに、多分冬は聖良ちゃんに対して、みんなチャンスはある」


善子「?」



千歌ママ「じゃあ今日からみんなのこと本格的に見ていくから、よろしくね」

372: 2017/06/24(土) 16:21:21.78 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇

バス


善子「……ねえ」

曜「ん?」

善子「そのゲーム面白いの」

曜「うーん、微妙かな」ポチポチ…

善子「ふぅん」

善子「……」

善子「ねえ」

曜「うん?」

善子「才能ってなんだと思う」

曜「……どうしたのいきなり。哲学?」

善子「違うわよ」

曜「才能ねえ……」


曜「少なくとも私は――そんなの無ければいいのにって、思うけど」

373: 2017/06/24(土) 16:22:08.55 ID:94qnMEwd.net
善子「何言ってるの?」

曜「みんな平等の才能なら、人は頑張った分だけ成長できるでしょ」

曜「こんなスポーツがしたいなって思っても運動神経無いしなとか、そんな理由で躊躇するの嫌でしょ。それに、何か成し遂げた人は――必ずすごい努力をしたんだなって、有無を言わずに、みんなが納得する。仮にそれで私が損するとしても、そっちの方がいいよ」


善子「……」


善子「あなたが言うと、嫌味臭いわ」


曜「ひど……」


曜「でも、多分そうなんだろうね」


曜「だから人前じゃ言わないし、才能あるやつだから言えるんだなんて、言われそうだし」

曜「私、才能無いと思うけど」


善子「……堂々巡りになるからやめて」


曜「じゃあ質問、なんでこんなこと聞いたの」

善子「別に」


曜「聖良さんに負けたから」

曜「違う?」


善子「……」

374: 2017/06/24(土) 16:23:11.98 ID:94qnMEwd.net
◇――――◇


曜「そんなこと言われたんだ」


善子「……才能無いって言われた方がよっぽど楽だったわよ」


曜「逃げるなってことだね、才能に」

善子「は……」


曜「やっぱり私は才能なんて嫌いだよ」


曜「同じなだけ努力して差がつくなんておかしいし、それ以上努力してる人がちょっとやっただけの人に負けるなんて、もっとおかしい」

 

善子「でも、だから面白いんでしょ」

 

曜「……だからさ。悲しいよ、色々さ」

375: 2017/06/24(土) 16:24:08.11 ID:94qnMEwd.net
また夜。

386: 2017/06/25(日) 01:22:35.29 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇


千歌「はぁっ……はぁっ……」

千歌ママ「まだまだ」

千歌「ん、ぐ……」

千歌ママ「……ここであなたのビジョンを話しておく」

千歌ママ「そうね……梨子ちゃんみたいな、練習の時でも球がばらけるひとはいい練習相手になるの」

千歌「?」

千歌ママ「ばらける球を全部おんなじところに返すことだけ考えて。回転もコースもバラバラだろうから、容易なことじゃない。ちゃんと足を動かして」

千歌ママ「千歌には果南ちゃんみたいなぶち抜く力も曜ちゃんみたいな反射神経も善子ちゃんみたいな回転力もない」

千歌「ぅ……」

千歌ママ「それらを求めてもいい。でもあなたは球の回転を操ること、微妙な変化とコースの変化……それで揺さぶるようなプレースタイルになって欲しいの」

千歌ママ「結局球の威力をあげるのは、コントロールだから、それさえ強くなれば、打つ球全てが必殺の一撃になり得る。一球たりともおんなじような球を出さないように」

千歌「か、仮にそれが出来るようになって……勝てる確率は、どれくらい、だと思う?」

千歌ママ「そうね……」

千歌ママ「――限りなくゼロね」


千歌「……っ」

千歌ママ「相手は人生を卓球に捧げてきた人、その努力を短期間で越えようなんて傲慢もいいところだけど……私はゼロではないって信じてる」

千歌「ゼロじゃ、ない……」

千歌「それなら、やるよ……少しでも可能性があるなら!!!」

千歌ママ「よし、よく言ったね」

387: 2017/06/25(日) 01:23:24.98 ID:nZBBiPFZ.net
>>368

最初の果南のセリフの3-1のところ、4-1の間違いです。

388: 2017/06/25(日) 01:24:10.36 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇


千歌「あ、もしもし!!」

聖良『高海さんですか、こんばんは』

千歌「こ、こんばんは! あの、優勝おめでとうございます!」

千歌「現地では見れなかったんですけど、ネットで見てました!」

聖良『それは……ありがとうございます』

千歌「ほんとに……あの、すごかったです」

聖良『いえそんなこと。次はラブライブの決勝トーナメントですね、お互い良い成績になれるよう、頑張りましょうね』

千歌「は、はいっ!」


千歌「あの……信じられないという思うし、バカみたいって思うと思うんですけど……冬の大会は絶対! 私も全国に行きますから!!!」

聖良『……』

聖良『真っ直ぐすぎる言葉は、嫌いじゃありません』

聖良『……わかりました』

聖良『その言葉、ちゃんと覚えておきます』

千歌「うん……」

千歌「じゃあ、また……」

聖良『ええ、また』

プツッ

千歌「はー……」

千歌「やらなきゃなぁ……」

千歌「いよっし! 寝る前にサーブ練習しよ!!」

389: 2017/06/25(日) 01:24:56.16 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

美渡「はぁ……まだやってんの?」

千歌「ん……いいでしょ別に」

美渡「まあいいけどさ」

美渡「あんた、ほんとに勝てると思ってるの?」

美渡「あんたが勝とうとしてる人の……映像見たけどさ」

千歌「思ってるよ、思ってなきゃこんなことやってない」

千歌「そりゃ……確率で考えたらかなり低いだろうけどさ……」

千歌「静岡大会でね……善子ちゃんが優勝したんだ」

千歌「すごかった、強いのは勿論だけどさ……あんなに人を惹きつける笑顔になるんだって。あれはね……何か成し遂げた時じゃないと、ああはならない」

千歌「キラキラしてて……すごいなって……」

美渡「……あんたもそれが欲しいってわけ」

千歌「うん……そうすれば、誰かが、私たちのこと、覚えててくれるかなって」

美渡「ふぅん……」

千歌「だからやめない! 私だって、やってみせる!」

美渡「……サーブ出しなよ、受けてあげる」


千歌「……うんっ」

 

志満「……うんうん」

390: 2017/06/25(日) 01:26:09.24 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

冬 ランキング戦


ダイヤ「では……個人戦に出場するのは、善子さん曜さん果南さん、千歌さんです」

ダイヤ「団体戦はシングルス1は鞠莉さん、シングルス2はルビィ、ダブルスはわたくしと鞠莉さん、シングルス4は花丸さん、シングルス5は梨子さん」

ダイヤ「基本的にはこのオーダーでいきますわ」

ダイヤ「本番まであと二週間……心を引き締めて参りましょう」


◇――――◇


千歌「ふぅ……良かった」

果南「個人戦に出れて?」

千歌「うん、聖良さん達に宣言しちゃってたし」

果南「そっかそっか」

果南「面目保てたね」

千歌「ほんとね」

千歌「でもさあ……思うんだ」

果南「?」

千歌「千歌達すっごい練習してきたでしょ? 毎日毎日夜遅くまで……」

千歌「他の高校に練習試合に行ったりしたよね、でもさ……」


千歌「――千歌、本当に強くなってるのかなあって……」


果南「……なるほどね」

千歌「だって結局果南ちゃん善子ちゃん曜ちゃんには勝ててないし、これで本当に大丈夫なのかなって……怖くなるんだ」

391: 2017/06/25(日) 01:28:52.05 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

冬 ランキング戦


ダイヤ「では……個人戦に出場するのは、善子さん曜さん果南さん、千歌さんです」

ダイヤ「団体戦はシングルス1は鞠莉さん、シングルス2はわたくし、ダブルスはわたくしとルビィ、シングルス4は花丸さん、シングルス5は梨子さん」

ダイヤ「基本的にはこのオーダーでいきますわ」

ダイヤ「本番まであと二週間……心を引き締めて参りましょう」


◇――――◇


千歌「ふぅ……良かった」

果南「個人戦に出れて?」

千歌「うん、聖良さん達に宣言しちゃってたし」

果南「そっかそっか」

果南「面目保てたね」

千歌「ほんとね」

千歌「でもさあ……思うんだ」

果南「?」

千歌「千歌達すっごい練習してきたでしょ? 毎日毎日夜遅くまで……」

千歌「他の高校に練習試合に行ったりしたよね、でもさ……」


千歌「――千歌、本当に強くなってるのかなあって……」


果南「……なるほどね」

千歌「だって結局果南ちゃん善子ちゃん曜ちゃんには勝ててないし、これで本当に大丈夫なのかなって……怖くなるんだ」

392: 2017/06/25(日) 01:29:36.04 ID:nZBBiPFZ.net
果南「……」

千歌「鹿角理亞ちゃんに、前言われたの」


千歌「――才能ない人がやっても無駄だって」


千歌「でもだからって……何もしないなんて悲しいじゃん……」

千歌「鹿角聖良さんを見て昔好きだった卓球を再開して、努力して……この時間は無駄じゃなかったんだってこと……証明したい。証明したいからこそ……負けたら、どうしようって……」

千歌「だって、今回は最後なんだもん……新入生は入ってこないし……これが、私が想い描く理想を実現できる、最後のチャンスなの」


千歌「九人みんなで、叶えたいの」


果南「……大丈夫、千歌は強くなってる。千歌だけじゃない、みんな強くなってる」

果南「だから自分を信じて、練習してきたことを信じて……なんでも出来るくらい思った方がいいかもよ」

千歌「……」

果南「卓球はメンタルが重要だからね……。そうだ、美渡姉さん達と本気で試合したことはあるの?」

千歌「……しばらくは、ないかも」


果南「前までは全然勝ててなかったんだよね、ならこれを機会に自分の実力をはかるいいチャンス、なんじゃない?」


千歌「そっか、お姉ちゃん達に勝てたら……」

果南「無駄じゃなかったって、言える」

千歌「よし、やるよ!!」

393: 2017/06/25(日) 01:30:16.44 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

体育館


千歌「はっ……はっ、勝った……」


志満「……強くなったね、千歌ちゃん」

美渡「いっちょまえになっちゃってさ」

ダイヤ(全盛期から落ちるとはとはいえ……東海地方二位の志満さんのカットに正面から打ち勝った……)

果南「わかったでしょ、千歌」

千歌「うん……」

千歌ママ「何回も吐いてた甲斐があったってものだね」

千歌ママ「今日の練習はここまで。軽くゲーム形式でやっただけだけど……明日はついに予選の日だよ、よく眠ってね」

千歌ママ「多分私がコーチとしてみんなのことを見られるのはこの大会が終わるまで。最初はどうしようかと思ったけれど……ほとんどオーバーワークに近い練習に、みんな、本当によく耐えて、頑張ってくれたね」

果南「あの、本当にありがとうございました!!」


ダイヤ「志満さん達も、お仕事があるのに、毎日毎日……本当に、本当に感謝しています」


志満「あなた達を見ていると、なんだか昔に戻ったみたいに思えて、楽しかったわ。青春を取り戻したみたいな、そんな感覚ね」


美渡「せっかくここまでしてあげたんだから、感謝してるってことは……結果で見せてよね、あんた達」


鞠莉「おっけー!!」


千歌ママ「あなた達を信じてるから……思いっきり、楽しんで、勝って、この学校のことを思い知らせてやりなさい!」


「――はい!!!」

394: 2017/06/25(日) 01:30:57.60 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

スクールアイドルスポーツ大会。静岡県卓球予選会場――団体戦――。



ダイヤ「本日は団体戦ですわ!!」

ダイヤ「つまり、わたくしと、鞠莉さん、ルビィ、花丸さん、梨子さんの五人です」

ルビィ「ぅゆ……」

ダイヤ「わたくしたち浦の星の戦力は全て個人戦に集中しているのは事実」

ダイヤ「しかしだからといって! 負けて良いことなどあるはずがありませんわ!」

ダイヤ「今日勝って、全国へ行きます! 絶対に!!」

鞠莉「おー!!!」

梨子「うぅ……」ドキドキ…

千歌「大丈夫! みんななら絶対やれるよ!!! 一番の応援するから!!」

曜「そうだよ、自信持って」

善子「……リリー、もう緊張してるの?」

梨子「ぅ」

善子「あなたも」

ルビィ「ぅゆ……」

善子「あなたは……平気そうね」


花丸「?」モグモグ


花丸「このバナナ高いやつずら。栄養もきっと高いよ」

善子「そ、そう」

善子(ずぶとい……)

ダイヤ「高校ごとに練習台が割り当てられていますわ、練習にいきましょう」

396: 2017/06/25(日) 01:33:13.57 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇


一回戦


シングルス1 小原鞠莉

シングルス2 黒澤ダイヤ

試合開始

鞠莉「じゃあ、やっちゃいますかー」


ダイヤ「ふぅ……」

鞠莉「私が勝つ前に負けたら許さないよ?」

ダイヤ「こっちのセリフです」


梨子「シングルス1と2は同時に開始……ここ二つとれば一気に……」

梨子「がんばって……ふたりとも」


千歌「――がんばれー!!!」

ダイヤ「よく響く声、ですわね」


千歌ママ「鞠莉ちゃんの相手は問題ないと思うけれどダイヤちゃんの相手は前回大会、個人戦ベスト8……私たちが勝つには、シングルスを二つ取るのが最低条件ともいえる……」

梨子「だ、大丈夫かな……」


ダイヤ「ふぅ……」

ダイヤ(落ち着くのですわ……いくら相手が前回の成績が良いとはいえ……わたくしだってたくさんの練習を積んできた……)


ダイヤ(相手が個人戦に出場しなかったのはおそらく……勝ち上がる力がないと、自分を知ったから。だから、仲間とともに闘う団体戦を選んだ……そんなところ、でしょうか。あくまで推察でしかありませんが)


鞠莉「いえーすっ!!」

397: 2017/06/25(日) 01:34:06.38 ID:nZBBiPFZ.net
ダイヤ(さっそく鞠莉さんはサーブで二本先制……流石ですわね)

ダイヤ(わたくしはサーブに関しては不器用……とにかく相手に緩く打たせてカットに繋いで、様子見するようなバックサーブで……)

キュパツッッ

キュインツッッ

ダイヤ(ループドライブっ……カットマンに対しては時間も作れて次への攻撃チャンスを作り出すことが出来る有効打。どうしても浮いたカットに、なりやすい)

ダイヤ(でもっ)

バツンッッッ…スゥゥ-

千歌ママ「……」

パァァンッッ!!!!


千歌「わ、相手が打ち上げた……ホームラン」

梨子「ナイスボール!!」

梨子「今の……すべるみたいな軌道で……ナックルカット、ですか?」

千歌ママ「うん。バック面を粒高ラバーに張り替えたから、擦る量をおんなじフォームで減らせば不規則な変化をしながら無回転で相手に飛んでいく。制御は難しいけれど……一発目からナックルカットだなんて、いい根性してるよ」

千歌ママ「あれだけ打ち上げたんだから……次はいよいよ本領発揮」

バツンッッッ…ストンッ

「くっ……」

曜「ナイスカットー!!!」

曜「今のはブチ切れの下回転カット……ダイヤさんの一番得意なやつ!!」

果南「フォームが変わらないから十分引きつけて軌道で判断するしかない……ほんと、防御に関してはやっかいすぎだね」

果南「これは……大丈夫だね」

398: 2017/06/25(日) 01:34:49.14 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

(なんだ、なん、なのこの子っ……)

(浦の星なんて、廃校するっていう極小の高校のはずっ!!)

(その中でも去年優勝した津島善子さん以外そこまで警戒する選手はいなかったはずっ!!)

(団体戦なら、勝てると思った! それだけの力は、あるはずなのに、それなのにっ!!)

(何度も何度も、おんなじように、返してきてっ!!)パコンッ!!!!


(次は下回転っ!? ナックル!? コースは? 速さは!?)

ダイヤ「ふっ」バツンッッ


(まだ終われないっ、みんなの為にも、私の為にも!!)

シュルルルルッ


(下回て――)

スルルッ…

「え」ブンッッ


(――サイドスピン……カット)

399: 2017/06/25(日) 01:35:30.20 ID:nZBBiPFZ.net
千歌「やったー!!!」

(こんなの、隠してたんだ……)

ダイヤ「ありがとうございました」

「ありがとうございました……」

「あの」

ダイヤ「?」

「いえ……」

(才能……? いえ、一体、なんなんだろう)

鞠莉「お疲れダイヤ、遅いよ」

ダイヤ「仕方ないでしょう。あなたと違ってサーブで点は取れません」

400: 2017/06/25(日) 01:38:48.18 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

ダイヤ「ナイスゲームでしたわよ、ルビィ」

ルビィ「う、うん!」

千歌「さいっこうだったよみんな!!!」

果南「シングルス1、2ダブルス勝って、ストレート……立ち上がりとしては間違いなく最高だね」

善子「花丸とリリーも、いつ出番が来るかわからないんだから、ちゃんと、覚悟してね」

梨子「う、うん」

花丸「もぐもぐ」

善子「たべるな!」

千歌ママ「ストレートで勝っちゃった場合……シングルス3と4の出番がなくなっちゃう……。だからこのまま勝ち進んだ場合梨子ちゃん達にプレッシャーがかかっちゃう」

千歌ママ「理想を言うならば……全国進出出来る準決勝までは、ストレートで勝つのが絶対条件て言ってもいい」

果南「そこまで言ったなら、最悪わざと負けてでも梨子ちゃんに大会経験を積ませないと……全国を見据えたら、ね」

梨子「ご、く……」


千歌「そんな! 優勝が全てだよ!!」


千歌ママ「わかってる。初心者の梨子ちゃんには酷だけど……そんな状況でも勝ってもらうのが一番だね」


梨子「……」

千歌ママ「あとごめん、一つ言うことが出来たの」

ダイヤ「?」

千歌ママ「準決勝へ進出するためには、この高校を倒さなくちゃならない」

鞠莉「……何かすごいの?」

千歌ママ「……さっき試合してるところ見たんだけど」

千歌ママ「前回大会、善子ちゃんと決勝で戦った子、加えてベスト4に残った子……つまり全国大会に進出したその二人が、個人戦には出場せず、団体戦に出てきてる

401: 2017/06/25(日) 01:40:08.65 ID:nZBBiPFZ.net
梨子「……え」


ダイヤ「そ、そんな!」


鞠莉「その二人以外は大したことないってことでしょ? でも、そのふたりだけで勝ちを狙いにくるってことですよね?」


千歌ママ「ええ、おそらくシングルス12、ダブルス……この三つをその二人で固めて……そこで決めようとしてくるはずだよ」


果南「てことは……全国区の選手をどこか一つ破らないと……負ける」


千歌ママ「この二人は全国でもいいところまで行ってる、競技卓球の方でも、一人は東海大会にまで出てるしね」


千歌「……」


鞠莉「ノープロブレムよ!! ……勝つからさ」

ダイヤ「鞠莉さん……」


ダイヤ「そうですわね、全国区の選手をわたくし達がストレートで下せば……。張り合いがあるというものです」

402: 2017/06/25(日) 01:41:18.19 ID:nZBBiPFZ.net
鞠莉「言うね」

ダイヤ「誰かさんに似たのかしら」


千歌ママ「そのどこか一つを下せば……あとはそこまで強い選手はいない。花丸ちゃんと梨子ちゃんがシングルスで勝つチャンスは十分ある」


千歌ママ「――出番がくるって、覚悟しておいて」

梨子「ご、く……」

梨子(わたしが、こんな大勢の中で……?)


善子「……というか、さっきから思ってるんだけど団体戦と個人戦は一緒に出れないじゃない? それなのに個人戦の有望株が団体戦に流れてるってことは」


千歌「千歌達が……勝ちあがれるチャンスが増えてる!?」

ダイヤ「なるほど……」


果南「まあ、明日のことは明日考えるしかないよ。今はダイヤ達の応援に集中」


千歌「うんっ!!」

善子「さ、二回戦が始まるみたいよ」

403: 2017/06/25(日) 01:42:42.08 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇


鞠莉「んー……燃えてきた」

ダイヤ「試合に勝てば……全国に」

鞠莉「恐らく私たちのうちどっちかが負けちゃったら……」

ダイヤ「……」

ダイヤ「相手は二人だけ、どっちかでも取れれば……なんとかなるはずですわ。梨子さんだって花丸さんだって、練習してきたんですから」


鞠莉「そうね……信じなくちゃいけないわよね」


ダイヤ「いつもと同じように、とりあえず二つ、とりましょう」


鞠莉「もちろん」


鞠莉「んっと……じゃ、行きましょ」

404: 2017/06/25(日) 01:43:33.38 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

鞠莉「ふぅ……」コツコツコツ…

梨子(うぅ、審判の私も緊張してきた…………頑張って鞠莉さん)

鞠莉(さあてどうしようかしら……置きにいくのもいいけど、でも……)スッ…

鞠莉(やっぱり攻めなきゃよね♡)キュッパッッ

コツッギュイッッ

梨子(YGサーブ……普通のサーブとは逆の振りで擦るから……利き手の反対方向に曲がって……利き腕が同じならフォアハンド側に鋭く曲がるサーブ)

梨子(鞠莉さんの、横から見ててもなんの回転か全然わからない……1球目だし、横下、かな?)

ポ-ンッッ

鞠莉「イエス!!」

梨子(横上、か……今の軌道、下回転ぽかったけど……)

鞠莉(ナイスサーブ……じゃ……次は横を減らして、もっと上を強くして……)キュパツッッ

「っ!」ポ-ンッッ

「くっ……」

鞠莉「ナイスサーブ♡」

千歌「ナイスサーブだー!!」

曜「いい感じ!」


果南「私たちは毎回鞠莉と練習してるから大分サーブにも慣れたけど……初見であれは取れないと思うなあ……」

405: 2017/06/25(日) 01:44:37.97 ID:nZBBiPFZ.net
善子「今の全然勢いなかったけど上?」

果南「あのぶっ飛び方はそうでしょ」

曜「上回転てばれないように勢いを変えてばれにくいようにしてるんだね。これなら回転量を強めなくても相手は下回転のレシーブしようとするから……」

千歌ママ「ほんと鞠莉ちゃんて、いいサーブだすよねえ……」

千歌ママ「YGサーブはもともとかなり難易度の高いサーブだからマスターすれば強烈だけど……鞠莉ちゃんの場合、インパクトの瞬間がほとんど見えないフォームだからインパクト後の微妙なラケットの動きを見るしかない……」

千歌ママ「サーブはフォーム×回転×軌道×高さ×コースの掛け算だけど……あんな完成度の高いサーブ打つ高校生、なかなかいないよ。サーブに関しては教えることなかったもん。サーブだけならインターハイでても、そのまま使える」


善子「相手の人、本格的なドライブ系だけど……」

鞠莉「しゃっ!!」

梨子(6-1……完全に鞠莉さんペース……)


梨子(相手の人、さっきの試合だとガンガン攻める本格的な感じだったのに……今はドライブを試みたのも一回だけ……)


梨子(すごい台上技術……相手にほとんど攻めさせてない)


鞠莉(打ち合いになったら多分負ける……だったら打ち合いは捨てて……前でブロックで振り回す……そもそも打たせなければいい話)

406: 2017/06/25(日) 01:46:20.01 ID:nZBBiPFZ.net
鞠莉(運がいいわね、相手は台上苦手みたいだし……)

善子「相手より攻める時間を作れれば、負けない。あの人の場合基本的に前陣の台上技術自体が攻めになるわけだけど……相手は台上が苦手みたいね」

善子「台上処理は他の技術に比べて自分のレベルがそのまま出るけど……あそこまで台上に特化するっていうのも、珍しいと思うけど」

千歌ママ「時間なかったからね、あの台上に大きな攻撃がつけば最高なんだけど」

鞠莉「っ……」フワン


 

千歌「――ハイトスサーブっ……!!」
 




千歌(高い……球を投げあげて、落下のエネルギーを利用した必殺サーブっ……!)


キュパッッギュルルルルルルッッッ


鞠莉「いえすっ♡♡」

果南「完璧……」

善子「あとは、中盤以降、サーブを取られだしてからね。そうなるとマリーは急に崩れるから」

善子「自信のあるサーブを取られるっていう不安がメンタルに影響するんでしょうけど」


善子「問題は……」

408: 2017/06/25(日) 01:49:32.23 ID:nZBBiPFZ.net
ルビィ「お、おねえちゃ……」

ダイヤ「くっ……」

ダイヤ(4-11……)


ダイヤ(表ソフト……一番当たりたくなかった相手ですわ……。普段はセオリー通りバック表なのに……カット戦型の私相手だからか、少し浮いた返球をすると反転してフォア表で強打してくる……)


ダイヤ(しかも相手の表ソフトはスピード特化や球が揺れるようなナックルが出るというものより、回転もかけやすいタイプの回転系表ソフトラバー……)


ダイヤ(カットにサイドスピンを加えると、打点はずらせても下回転が弱くなるから、表ソフトでも容易に持ち上げられてしまう)


ダイヤ(このままじゃまずい……)


善子「相性最悪みたいね」


千歌ママ「表ソフトうちにいないからなあ……」


果南「軽く浮いた球に対してドライブじゃなくてスマッシュ系で攻撃してくるタイプ……」


果南「守ってるだけじゃ勝てそうもないけど……かといってダイヤ、攻めは……」

千歌「うぅ……がんばってー!!!」

ダイヤ(鞠莉さんはもう2セット取ってる……全国区の相手に)


ダイヤ(わたくしだって……)

ルビィ「お、おねえちゃ……」

ダイヤ「……大丈夫、勝ってみせます……」


ダイヤ「ふーっ……」

鞠莉「……」チラッ…

鞠莉(ダイヤ……)

ダイヤ「……」

410: 2017/06/25(日) 01:52:22.57 ID:nZBBiPFZ.net
ダイヤ(スマッシュを打たせたらだめ、そのためには強い下回転、オーソドックスなカットを繰り返す必要がある)

ダイヤ(でもそれだけじゃ……っ)ガツンッ

フワンッ…

ダイヤ(今度は裏ソフトで、ループドライブっ……)ガツンッッ

パコンッッ!!!!!

ダイヤ「くっ……」

ダイヤ(裏ソフトの回転重視の遅い球のあとに表ソフトに反転してスマッシュ……こんなことまで)


善子「相手……カット打ち得意ね?」

果南「得意そうだね……」

千歌「なんかダイヤさんさっきに比べてかなりネットミス増えてる……どうして?」

果南「多分裏ソフトで攻撃の起点を作るためのループドライブあるでしょ? あれの回転量を調節してるんだよ」

善子「弱い回転のループ系の遅い球だと球が回転によって自然に上に持ち上がらなくて、ネットミスしやすいのよ」

善子「油断したら強い回転で浮き上がるしね」

千歌ママ「千歌のメイン戦術でしょ……」


千歌「……あ、あはは」

千歌ママ「……私は好きだよ、ああいうダイヤちゃんみたいな古風な守備型カットマン戦型」

千歌ママ「カットマンは攻めも取り入れる攻守型と完全守備型に分けられるけど、昔は完全守備型が主流だった。道具の進化に伴って男子では消え、女子でもほとんどいなくなっていった」

千歌ママ「やがて男子で攻守型のスターがオリンピックで銀メダルをとったのが決め手になって……教える方も完全守備型を進めることはなくなった」

411: 2017/06/25(日) 01:53:40.62 ID:nZBBiPFZ.net
千歌ママ「私はカットマンをうまく教えられないっていうのもあるけど……ダイヤちゃんの性格を無視してでも、攻守型で教えるべきだったのかも、しれない」


千歌ママ「そう考えると……申し訳なくなる」

善子「……」

0-3

黒澤ダイヤ敗北

3-0
小原鞠莉勝利

果南「なんとか逃げ切ったね、鞠莉……」

善子「あの人、サーブ取られだすと急に崩れ始めるから……よかったわね」


ダイヤ「申し訳ありません……」

鞠莉「お疲れ様」

鞠莉「次のダブルス、がんばって!」

ダイヤ「……」

善子「ダブルスは厳しいわね……一人は東海大会、もう一人も県れへ」

曜「鞠莉ちゃんの相手は台上から解放されればガンガンドライブ振ってくるだろうし、ダイヤさんの相手はカットを無力化できる……」

千歌「そ、そんなこと言わないでよ!! な、なんとか、なるもん……」

果南「応援しよう」


曜「えっと次はダイヤさんとルビィちゃんのダブルスと、花丸ちゃんのシングルス4の同時進行……」


善子「ずらまるが勝てばリリーに繋げる!」


善子「がんばるのよー!!!」


花丸「っ」コクコクッッ…

412: 2017/06/25(日) 01:55:15.31 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇


梨子「……」ドキドキッッッ…

ダイヤ「梨子さん……あなたに回すことに、なってしまって」

梨子「い、いえ」

梨子「花丸ちゃんが繋いでくれたんです……わ、わたしがそれを無駄にするわけには」

鞠莉「気負いすぎたらだめよ、大丈夫……あなただって練習してきたんだから」

梨子「は、はひっ……」

鞠莉「さいっこうの舞台なんだから、楽しんできて!」

梨子(追い込まれてるだけだよぉ……うぅ、ううん、これもいいプレッシャーになるって信じて……)トコトコ…

鞠莉「そ、そっちは相手のコートよー!」

梨子「!!」

梨子「ごめんなさいごめんなさいっ!!」////

梨子「はぁぁ……」

梨子(よし、試合前の練習……相手のひと可愛い……強そう……)

梨子(勝てるのかなあ……ううん、勝たなきゃ……)


カツンカツン


梨子(よしラリーは出来てる……出来なきゃだめなんだけど……)

梨子(これに勝てば……)

413: 2017/06/25(日) 01:56:23.12 ID:nZBBiPFZ.net
梨子(ラバーは……えっとこれは確か……クセのないオーソドックスなテンションラバー、両面とも。ラケットは……よっちゃんのと一緒。てことは球離れは早め……棒球が出てくるかも)

梨子(ダイヤさんが言ってた! 道具見るところから試合は始まってるって!)

梨子「よろしくお願いします。よろしくお願いします」

梨子「ふう……」

梨子(サーブ、どうしよ……私は他の人みたいに色んなサーブは出せないし……)


梨子(下回転、上回転、ナックル……あとあんまりかからない長い横回転くらい……)


梨子(ううん、シンプルに考えるなきゃだめ! 一発目、リスクを下げてバック側中距離の下回転で)キュパッストンッ


千歌「あちゃー、いきなりサーブミス」

梨子「ぅ……」

梨子(な、ななににやってるの私っ!)ガチガチッ

梨子(落ち着いて落ち着いて)グルグル…


キュパッッ


梨子(入った!)


 相手のバックサイド、台から少し出るくらいの長さで出したサーブ。これは相手の出方を見るためのもので、実力が高い人ならば台から出た瞬間撃ち抜いてくる。それはAqoursの中でよくやられてるからわかっていること。

415: 2017/06/25(日) 01:57:28.04 ID:nZBBiPFZ.net
 でも対外試合とかをすると意外と打ってくる人って少なくて、ツッツキで繋いでくる人の方が多い。台から出るボールを思いっきりドライブしてこないならまだこっちにもチャンスがあるってこと!

梨子(よしっ)

 相手は私の望んだ通り、打ってくる気配を見せず、ふんわりと浮き上がった絶好球がバックハンド側に着弾する。

 千歌ちゃんのお母さんが口酸っぱい程に言っていたことがある。

 ダイヤさんやルビィちゃん花丸ちゃんみたいな守備型の戦型の人に主に言っていたことなんだけれど――チャンスボールだけは確実に決めること。

 何度も何度も、私も言われた。


 ふんわりと浮き上がった球を思いっきり叩くことが出来るだけで相手はとりあえず返すという方法が封じられる。相手はリスクを上げてレシーブをしなくてはならなくなる。

 反対に絶好球を決めきれないことが何回かあるだけで、とりあえず返しておくという戦法が使えるから、相手の選択肢が広がってしまう。選択肢の増加は心の余裕を生み出して冷静にプレーに集中出来て、勝ちに繋がっていく。


 今回の絶好級は私の得意なバックハンド! 絶対、決める!!


梨子「っふ!!」

梨子「ぁ……」


 オーバーミス……うぅ、なんで。


千歌「ぁあ……もったいない……」

416: 2017/06/25(日) 01:58:20.94 ID:nZBBiPFZ.net
 力入ってたかな……、ああって声が観客席から聞こえる……。

 私の試合、見られてる……?


 Aqoursは前回のラブライブで決勝トーナメントに出場してるから……注目が集まってる、のかな……。

 ということはここで勝てばまた注目される……責任重大……。

梨子「……」ガチゴチ…


千歌ママ「まずいなあこれ……」


果南「なんで梨子ちゃんあんなにミスしてるの? 相手のレベルは正直全然高くないはずなのに……梨子ちゃんでも十分勝機はあるはず……」

曜「……この空気感かな」


千歌「だいぶ上まで来たから試合してるところが少ないんだね、だからこの体育館にいる色んな人が梨子ちゃんの試合見てる」


曜「ああ、取られちゃった……」

梨子「はぁっ……はあ……」

 
 5-11……なんで、なんで。


 多分相手の実力はそこまで高くない、私でも十分やれるくらいの相手だと思うのに……。

 千歌ちゃんが言ってたみたいに、実力が離れすぎると強さを認識出来ないとか、そういうこと? いや、そういうことじゃないはず……。

ダイヤ「落ち着いて、梨子さん」

梨子「……っ」

ダイヤ「今のあなたは極端に冷静さを欠いていますわ」

梨子「え、あ……」

鞠莉「大丈夫、緊張しちゃうなら今がどういう場面なのか考えなくてもいいから。自分がどういうプレーをしたいのか、それだけ考えて次のセット、やってみて」


梨子「……は、い」

417: 2017/06/25(日) 01:59:19.99 ID:nZBBiPFZ.net
ルビィ「だ、大丈夫勝てるよ!」

ダイヤ「さ、行ってらっしゃい」


 ダイヤさんと鞠莉さんが技術的なアドバイスをくれなかったってことは……今の私の技術だけで十分勝算があるってこと、だよね?

 反対にアドバイスされたのは、今まで受けたことがあんまりないメンタル面のこと……。

 どうしよう、てことは私はこの会場の空気に呑まれそうになってるってこと?

「0-3」

 だめだ……。全然打てない、相手はどっちかと言うと守備的な選手。ツッツキで繋いでくるミス待ち卓球だけれど、そのツッツキもAqoursのみんなに比べたら全然精度は高くないし……それなのに。

 身体が重い……。

 足が動かない。

 どんなプレーが、したいか……?

 わかんない……でも勝ちたい……勝ちたい。

「3-9」


 スコアは酷い……正直もうこのセットは無理。だったら……自分がしたいこと、練習でしてきたことだけやってみよう……。


 今日の状況とかを考えて柔軟に対応するなんて私には出来ない。今日の私はバックもそうだけど、フォアのミスが酷すぎる。


 相手もそれをわかってるからフォアにツッツキを集めてくる。それを全然決めきれてないから沼にはまったみたいにもがいてる。


 入らないくらいだったら、得意なバックを振った方がまだ精神的にも余裕が持てるはず……。


梨子(私はフォアはからっきしだけどバックは何回も褒められた……だったらそれをやりきったほうがいい!!)

418: 2017/06/25(日) 02:00:01.95 ID:nZBBiPFZ.net
 ――私のフォア前に短めのサーブ! 軌道は下回転、回転はそんなに強くない。だったらここは……ツッツキで繋がないで……。

梨子「っ!!」ギュインッッッ!!!!

 フォア前に来た場所、そこに身体の正面を持っていく。球の左横を、思いっきりバックハンドで弾き擦る!

 鞠莉さんから教えて貰ったチキータ!

 バナナのような軌道で上手く横回転が乗ったボールは相手のミドルを抉りながら、そのままエースになる。

梨子「よしっ!!」

 思わず胸の前で拳を握り締める。腹の奥底から歓喜の声が溢れる。たった一点。

 初めて納得出来る攻めが出来た。

 それでもこの一点の積み重ね、だから。


千歌「ナイスボール!!」

千歌「今のチキータよかった!!」

善子「リリーの場合、もう全部バックで行った方がいいかも……」

「4-9」

梨子「ふー……」

 相手のサーブを上手く2球目攻撃出来た。次も相手のサーブ、次は一体……。


 ――速い上回転!


梨子「くっ」ポ-ン

「4-10」


 下回転系の意識が強すぎたかな……。今のは反省……。

梨子(私のサーブ……帰ってきた球は全部バックで打つ……フォアでも動いてバックで打つ……)

419: 2017/06/25(日) 02:01:05.03 ID:nZBBiPFZ.net
 少しでもバック側に来やすいように、横回転のサーブでっ!

キュパッッ

カツンッ

梨子「ぅっ」

 フォア側に帰ってきた! やっぱり私の貧弱な横回転じゃコースを限定させるまでは出来ない……っ。

ググッ


千歌「お……」

 追いつけるっ、フォアのところでも、バックで!!!

ギュインッッッッシュルルルルルルルルッッッ

梨子「くっ……」

「4-11」

鞠莉(すごい回転……)


千歌「うーん……むむむ」

果南「最後の方は悪くなかったと思うけど……」

千歌ママ「うう、アドバイスに行きたい……」

千歌ママ「最後の方は多分全部バックで取ろうとしてた……その意識で次も行けば……取れると思う」

 

曜「――オールバックハンド……」

 

千歌ママ「梨子ちゃんの場合フォアとバックで習熟度にかなり違いがあるから……」

千歌ママ「でもバックって便利だからさフォア前でもチキータとかを使えばバックで拾える。でも追いつけなくちゃ意味ない、そのためにフットーワークばっっかりしたんだから……」


千歌ママ「今の時代、ある程度のレベルにいかない限り、オールフォアよりもオールバックの方がやりやすいし、よっぽど勝ちやすいはず」

420: 2017/06/25(日) 02:04:09.46 ID:nZBBiPFZ.net
 、

421: 2017/06/25(日) 02:05:21.36 ID:nZBBiPFZ.net
千歌「がんばって……っっ」


鞠莉「梨子、意識は悪くないわ。その調子でバックで思いっきり振った方がいい」

梨子「はい……」

鞠莉「フォア前をチキータで攻めるなら、相手のクロス狙ってね。そっちの方が距離があるから安定する。高さを少しだしても横回転の影響で沈み込んでくれるから」

梨子「うん……」

鞠莉「攻めたい時は弾道低めを意識してそのままバックにストレート、オーバーしやすくなるから気をつけて」

鞠莉「肘をちゃんとあげて、手首をちゃんと返してあげて」

鞠莉「大丈夫、あなたはバックハンドなら相手よりかなり上手いから!」

梨子「……」コク…


梨子「ふー……」トコトコ

梨子(サーブ……下手に横回転なんか出さない方がいいかな。下とナックルだけでいい)

梨子(元々打ってくる相手じゃないけど、確実にツッツかせるためにも)キュパッッ

カツンッ

梨子(よしツッツキ……っ!)ギュイン

梨子「よしっ!!」

千歌「ナイスボール!!!」

果南「いいバックドライブだったね、ノータッチ」


梨子(感触はいい感じ……よし)

 続けて私のサーブ、同じコース同じ回転で出してみる。相手は思った通り、ミドル側にツッツキ。

 このコースなら……っ。


ギュッパコンツッッ


梨子「っ!!!」グッッ

422: 2017/06/25(日) 02:06:21.94 ID:nZBBiPFZ.net
 

ダイヤ「――逆チキータ……!」

 

花丸「連続ノータッチ!!」

ダイヤ(チキータとは逆の回転をかけて相手のフォアゾーンに切れていく、ドライブともチキータとも違う高等技術……近年卓球界に導入されましたが、トッププロでも未だ使用者は少ない)


鞠莉「あんまり完成はしてなかったみたいだけど……よく決めたわね」


鞠莉「いい感じね……ミドル側なら逆チキータでも普通のチキータでも攻められる、バック側に来たら台上でもロングでもバックドライブを振りにいける」


ダイヤ「ええ……戦型も相手は守備型なので自分から攻めていける。このまま押し切れればいいのですが……」

423: 2017/06/25(日) 02:07:54.96 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

千歌「やったー!!」ピョンピョン

善子「下に落ちるってば」

千歌「二セット目取った!! あと1セット!! いけるよ!!」

曜「うんっ!!!」


梨子「ふー……はー」

ダイヤ「大丈夫? 疲れてない?」

梨子「あんまり……」

鞠莉「この調子よ。次のセットはフォアに振られることがもっと多くなると思うから、気をつけて」


ワ-ワ-

ルビィ「うゅ……すごい歓声……」

鞠莉(やっぱり注目されてるわね)

鞠莉(かなりいい感じだから……最後まで……っ)

梨子「なんか、すっごく調子が良くなってきて……バックで打てば全部入る気がして」

ダイヤ「いい状態ですわね……さ、練習の成果を見せてあげて!」

梨子「はいっ!!」

梨子「ふー……」スタスタ…

千歌「梨子ちゃんがんばれー!!! いけるぞー!!!」ピョンピョンッ

梨子(下に落ちちゃうってば)クス

梨子(いける……このままいけば勝てるっ……)

424: 2017/06/25(日) 02:08:48.18 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

梨子「はぁ……はぁ」

梨子(6-4……私のサーブ……)


梨子(勝てる……勝てる)

梨子(勝つんだ……勝たなきゃ……)

ワ-ワ-!!!!

梨子(みんなに見られてる。ここで勝つんだ)

梨子(みんなで全国行くんだから!!)キュパッッ

 セオリー通り、一番浅いところの下回転。
 これならストップするかツッツキだけ、でも相手にそこまでのストップ技術はない。

梨子(フォア側っ……)

梨子(チキータ!)ギュワンツツッ

梨子「!?」

 甘かったっ。

 バック側に決めに行ったチキータに上手く当てられ、バック側にブロックされたボールが着弾する。


梨子(おい、つけ!!)キュパッ


 フォアサイドから地面を蹴る、フットワーク。短い期間だったけれど、散々やってきたんだ。
 追いつく、追いついた!

 もう一回、撃ち抜くっ!!


梨子「ふっっ!!」ギユインッッツ

梨子「なっ」


梨子(読まれ……)


6-5


千歌「ああ……追いついたのに」

425: 2017/06/25(日) 02:09:46.25 ID:nZBBiPFZ.net
善子「フォア前に落ちた球をチキータで打ったけどがら空きのバックに返球されて、なんとか追いついてバックドライブ打つけどがら空きのフォアにブロックされる……」

善子「なかなか辛いわね」

千歌「ああっ、同点……だよお」

善子「……」

果南「私は日ペンだからオールフォアが基本だけど……がら空きのとこに打たれるのって割り切れる部分もあるけど、こういうギリギリの時は……堪えるよ」

曜「梨子ちゃんもうフォアで打つ気ないもんね……ミドルに来た速めの球にバックが変なふうに出ちゃってる」

善子「バックハンド偏重型にありがちね、気がついたらバックが出ちゃってフォアが出ないっていうのは」

千歌「でも、でも……それでここまで来たんだから!! 信じるしかないの!!」

善子「ええ……」


梨子「はぁ……はぁ」

6-9

 勝たなきゃ……。

 勝たなきゃ……。

 私が勝たなくちゃいけないのに……。


千歌ママ「技術云々てより……やっぱりメンタルかな……」


千歌ママ「いくら技術を鍛えてもメンタルは初心者とほとんど変わらないから」


ワ-ワ-!!!!


果南「……この状況は酷だね」

426: 2017/06/25(日) 02:13:41.90 ID:nZBBiPFZ.net
善子「っ……リリー!! まだ終わってないわよ!! しゃきっとしなさいよ!!!」


梨子(よっちゃん……)

 6-10。

 相手のマッチポイント。もう、何連続でポイントを取られたかも、わからない。

 足が重い。

 なんでか息も浅い。そんなに疲れてるんけじゃないのに。入ってた攻撃も入る気がしない……でも、私は、まだ――。


◇――――◇

梨子「ぅ……う、ぅ……」

梨子「ぅ……ぅ……ごめんなさい……ごめんなさい……っ」

梨子「はっ……はっ……わ、私の、せいで……! 私のせいでっ!! みんなが、っ……ぅ、ごめんなさいっ!!!」

千歌「梨子ちゃんのせいじゃないよ……ね、大丈夫だから」ポンポン

梨子「はっ……はっはっ」


果南「――梨子ちゃん落ち着いて、大丈夫だから、ね?」

果南「過呼吸になっちゃうから。深呼吸……深呼吸して……」

梨子「!!」コクコク…

梨子「はー……はー……」

梨子「……ぅう」

ダイヤ「梨子さんのせいじゃありませんわ」


ダイヤ「私たちは団体戦で負けたの。私達全員の力が足りなかっただけ」

ダイヤ「気に病まないで」

427: 2017/06/25(日) 02:15:46.76 ID:nZBBiPFZ.net
梨子「ぐす……ごめん、わたし……負けたくせに、こんな、泣いて……迷惑かけて」

千歌「いいじゃん、本当に悔しいから泣くんでしょ。そんなふうに思えるのって、すっごく大切だと思うんだ」

鞠莉「そうよ梨子、今回は力が及ばなかったとしても……ここまで来れたこと、誇りに思いましょう?」

梨子「……う、ん」

曜「善子ちゃんだって負けると泣くんだから、梨子ちゃんも――」

善子「わ、私は関係ないでしょ!!」

ルビィ「ふふふっ」

梨子「……みんな、ありがとね」

梨子「私、楽しかったよ。こんなふうにみんなと闘えた気がして」

梨子「次は千歌ちゃん達の応援、精一杯すはから……一緒にがんばろうね」

千歌「うんっ!!」


千歌ママ「……」

千歌ママ「ミーティングをしますー」

千歌「はーい」


千歌ママ「――まず初めにダイヤちゃん鞠莉ちゃんルビィちゃん花丸ちゃん梨子ちゃん、本当にお疲れ様」


千歌ママ「結果としてはここで団体戦は終わりになっちゃうけど……どうだった? 見ている私からしたら、すっごく楽しかった」


千歌ママ「本当に短い期間で、碌に大会も出れずにぶっつけ本番状態。そんな中で、みんなは本当にがんばってくれた。ありがとう」

梨子「……」

430: 2017/06/25(日) 02:19:20.61 ID:nZBBiPFZ.net
千歌ママ「今日試合に出た人達が今後卓球をやるかはわからないけど、それでも……いい思い出には、なったんじゃないかな」

ダイヤ「ええ……」

鞠莉「リベンジしないの?」

ダイヤ「それはまた……別の時に話しましょう」

鞠莉「そっかあ……」

果南「ていうか卒業じゃん」

鞠莉「あ」


千歌ママ「あはは、文字通り……このメンバーでやれるのは最後だったわけ。卓球ってスポーツは……水平な板の上にビー玉を置いて、それを転がし合うゲーム。簡単に相手の方に流れは行くし、逆もまた然り」

千歌ママ「厳しいことだけれど、それが面白いの。今回は悔しい結果として見に染みたかもしれないけど……どうなってたかなんてギリギリまでわからなかった」

千歌ママ「梨子ちゃん、技術的には勝ってた。間違いない。自信をもって!」

梨子「……ありがとうございます」

千歌ママ「初心者のあなたが本当によくここまでがんばってくれた、千歌のワガママに付き合ってくれた……」

千歌「わ、ワガママじゃないもん!」

果南「最初は完全にワガママだったって」

千歌「そんなことないー!」

千歌ママ「もちろんみんなを勝たせてあげららなかったのは、私の指導方法が間違ってたってこともある。勝たせるって言ったのに、本当にごめんなさい」

千歌ママ「明日は個人戦、あなた達にとっては本命なはずだね。今日悔しい思いをした分も全部、千歌達に晴らしてもらうことにしよっ」

432: 2017/06/25(日) 02:20:32.47 ID:nZBBiPFZ.net
千歌「丸投げー……」

梨子「ふふ……でも、明日は本気で応援するね」

鞠莉「ええ、メガホンでも持っていくから」

ダイヤ「それだけはやめて」

善子「――勝つから、絶対」

梨子「……うん」

ルビィ「かっこいい……」

善子「な、なによ……当然だから」

千歌「ディフェンディングチャンピオンだもんねー? 千歌だって負けない! 絶対絶対絶対っ、勝つ!!!」

千歌ママ「うん、これでミーティングは終わり。今日の試合はもう見なくていいから、帰ってゆっくり休んでね」


◇――――◇


梨子の家


梨子「……」ムク…

梨子「……変な時間に起きちゃった。というか、いつ寝ちゃったんだろう」

梨子「……」

梨子「はぁ……」


 気怠さが全身を包んでいる。帰ってきてすぐに寝てしまったことで、変な時間に起きたし、リズムも狂った。


 明日は私が試合するわけじゃないのが、救いだった。

梨子「……」トコトコ…

433: 2017/06/25(日) 02:23:00.72 ID:nZBBiPFZ.net
 カーテンの隙間から差し込む月明かりに導かれるようにして、ベランダの方へ。
 カーテンを開け、冬の気温で凍えるような冷たさになっている鍵を開けた。

 ふっ、と。

 窓を開けたら瞬間に肌を刺すような冷気に、思わず声が漏れる。ベランダに出ると、穏やかな風が吹いていた。暴れる髪の毛を抑えながら、千歌ちゃんがいることもある窓を見つめた。

 なんだか、こうやって眺めていると落ち着くんだ。あるのは、ただの家の窓だけれど、私にはそれがただの窓ではないから。

 文字通り、運命が変わった。

 ここのベランダで、あの日、あの時、手を繋いだ日……私はまるで命を与えられたみたいだった。全力を注いでいたピアノを諦めようとして、世界全てにモヤがかかって見えていた私の視界を、晴らしてくれたのは間違いなく千歌ちゃんだった。

 太陽みたいな人だって、思った。

 ありきたりかも、しれないけれど。思ってしまったものは、仕方がない。

 その結果として……やったこともないようなことばかりしてきて……まさか昨日みたいに大会に出ることになるだなんて。

 夏休みなんか毎日毎日氏にそうになりながら練習して、全身筋肉痛で、お母さんに氏にそうな顔してるって本気で心配されてたこともあったっけ。

 私の中で一区切りついた今だからこそ、振り返れる。寒さにも慣れてきて、少しだけ心地良い。

 ベランダによりかかって、手にした携帯電話を起動させると。

434: 2017/06/25(日) 02:25:36.41 ID:nZBBiPFZ.net
梨子「……!」


 メール通知で、いっぱいになっていた。

 Aqoursのグループでの会話は、明日もがんばろうってことで、終わったはずだ。でも、みんなから……メッセージが、届いていた。
 
 私へ向けて。


ダイヤ:今日は本当にお疲れ様でした。初めての大会、どうてしたか? きっと、色々思うことはあったと思います。でも、それも全て、あなたが経験したかけがえのないことです。初心者でありながら厳しい練習についてきたあなたに敬意を。
私はあなたと一緒に戦えてよかった。明日は私たちにとっても、勝負所です。千歌さん達と共に、戦いましょう。おやすみなさい。


果南:今日はお疲れ様ー。応援席でずっと見てたけど、凄かったね。私感動したよ。周りの人達もそうだったんじゃないかな。梨子ちゃんがあんなに頑張ってくれたんだから……私も明日、頑張るから。応援、よろしくね。みんなで全国行こうね

鞠莉:梨子、ナイスファイトだったわよ! あなたがどれだけ苦労してたか、どれだけみんなについて行こうと頑張ってたか……多少かもしれないけれど見ていたつもり。あなたに私が教える機会は多かったから分かるけど、ここまでやってくれるとは思わなかった。
ごめんね、嫌味じゃないの。本当に凄いって思ってる。あんな頑張り見せられたから、後ろで泣きそうになってたのよ? ていうのは冗談。……あなたが居てくれて、よかった。good night梨子、また明日。

435: 2017/06/25(日) 02:27:07.26 ID:nZBBiPFZ.net
花丸:試合お疲れさまでした! 梨子ちゃん、途中から本当に強くなって……勝ちたいって気持ち、伝わってきたよ。一緒に団体を組んで、いっぱい練習したね。
私たちは私たちなりに、あの結果が答えだったと思う。結果は悔しいけれど、でも、本当に楽しかったよ、私は。梨子ちゃんはどうだったかな? 今度聞かせてね。また明日!

善子:お疲れ、リリー。えっとなんていうか……リリーは本当に頑張ってたわ。誰が見ても、そう思うわよ。結果はああだったけど、でも、あなたが頑張ったことは変わらないでしょ。
勝ちたいって本気で思うこと、大切なんだから。そう思えるくらい真剣だったこと……かっこいいと思うし。だから明日は、応援お願い。私、あなたのためにも、絶対また優勝するから。見ててよね……おやすみ。

曜:不在通知

曜:ごめん!メールじゃ長くなるかなって思って今日のことで色々話したかったんだけど……明日に備えて寝るね!とりあえずお疲れ様。本当に、凄かったよ!おやすみー!

 画面をフリックする手が、震えた。ポタポタと、画面に涙が零れおちる。

 みんな、みんなの気持ちが、嬉しかった。と、同時に辛くもあった。

436: 2017/06/25(日) 02:30:25.94 ID:nZBBiPFZ.net
 暖かすぎて、勝てなかったことに対して、みんなは優しすぎる。これがみんななのだと言ってしまえばそれまでだけど、私は、一人じゃなかったんだね。あの場でも、みんながみんな……私と一緒に戦ってくれてた。

梨子「ぅ……」

 肩が震えているのは寒さのせいではない。むしろ込み上げてくる感情に、身体は火照りに火照っている。

 今日は泣きすぎた。会場で過呼吸寸前まで泣き腫らして、今だって、馬鹿みたいに身体を震わせている。ああ……でも、悪くない気分。これがやりきったあとにだけ、流せる涙なのかも、しれない。

 私は、幸せなんだと思う。


 ――携帯電話から視線をあげると、向かいのベランダから千歌ちゃんが顔を出していた。


梨子「へ」

千歌「だ、大丈夫?」

梨子「え、あ、これは!!」

梨子「ぅ……」

梨子「その、みんなからメッセージ貰って……読んでたらつい」

千歌「そっか……」

千歌「ち、千歌だって! メールしようときたんだけど、なんか、詰まっちゃって……」

梨子「そういえば来てない……」

千歌「ねえ、こっちに来てよ」

梨子「え?」

千歌「一緒に寝よ! で、ちょっと話そ!」

437: 2017/06/25(日) 02:31:42.27 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

千歌「ほらほらいつもみたいにベッドにどーぞ!」

梨子「あした大会なのに……」

梨子「失礼します」モゾモゾ

千歌「消灯ー!」

梨子「……眠れなかったの?」

モゾモゾ

千歌「ん……ちょっと考えてただけだよ。明日はどうしよっかなって」

千歌「これが眠れないってことなら、そう、なのかな」

千歌「一回負けただけで、だめなんだもん……。私は全国に行って、聖良ちゃんを倒すって決めたんだから」

梨子「……」

千歌「今日、凄かったね、えへへ……感動したよ?」

梨子「そんな……」

梨子「結局、負けちゃったし」

千歌「でも凄かった!! 梨子ちゃんの今までの頑張りが、伝わった」

千歌「千歌のワガママに付き合ってくれて、ありがとう。梨子ちゃんが居てくれたから、私はこうやって……みんなで楽しくやれてるんだよ」

千歌「えへへ……」

梨子「ワガママなんかじゃないって、言ったでしょ? ……やってきて良かったって、本気で思ってる」

梨子「ありがとう千歌ちゃん……本当にありがとう」

千歌「うん……っ」

梨子「でも、やっぱりさ」

千歌「うん……」


梨子「――勝ちたかった、なあ……」

438: 2017/06/25(日) 02:35:20.79 ID:nZBBiPFZ.net
 、

439: 2017/06/25(日) 02:35:52.39 ID:nZBBiPFZ.net
梨子「ぐす……みんなでもっと、上まで行きたかった、勝ちたかった!!」

千歌「うん……」ギュッ…ナデナデ

千歌「梨子ちゃん達の分まで、絶対勝つから……。わたし、明日は氏ぬ気でがんばる」

梨子「うんっ……」

千歌「あんなに必氏でやってるところ見せられたらさ……私も頑張らなきゃって」

千歌「だから……がんばろうね、一緒に!」

梨子「うん……っ」

梨子「――はい、十分経ちましたよ?」

千歌「へ」

梨子「眠ろ?」

千歌「んぅ、もうちょっと話そうよお……」

梨子「だめ、明日は大事な日なんだから、ね?」ナデナデ

千歌「わかった……」ギュッ…

千歌「こうするとあったかいから、このまま寝る」

梨子「仕方ないなあ……」

千歌「起こしてね、起こしてくれないと起きないから」

梨子「はいはい」ナデナデ


梨子「おやすみ」

440: 2017/06/25(日) 02:37:27.83 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

個人戦会場

千歌ママ「いよいよ今日がやってきたわけだけど……個人戦組、準備はオッケー?」

千歌「オッケー!!」

曜「うんっ」

千歌ママ「うまくすればAqoursだけでベスト4占めることも出来るドローだから、そう出来るように」

善子「いいわねそれ」

善子「準決勝で……曜、決勝で果南さんか千歌さんか……」

曜「今日は勝つよー!」

善子「望むところよ!」

千歌「ベスト4までいけばいいんだ……そしたら果南ちゃんと……」

果南「負けないからね?」

千歌「私だって!」

善子「私はシードだから、審判行ってくるわ」

善子「みんな、一回戦から躓くなんてやめてよね!!」

千歌「当たり前だよ!」

千歌「よしっ、行こう!!!」

441: 2017/06/25(日) 02:39:32.21 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

梨子「千歌ちゃんナイスボール!!!!」

梨子「勝った勝った!!」

ダイヤ「4回戦……角シードも破って、余裕でしたわね……角シード相手にこれなので、次の試合はもっと楽なはずですわ」

鞠莉「果南も角シード余裕撃破、これは……あるんじゃないの?」

ルビィ「すごい、みんな」ウキウキ…

花丸「5回戦勝てば、ベスト4……」

ダイヤ「わたくしまでドキドキしてきました……もうっ」

鞠莉「くすっ」


◇――――◇

千歌(あれ)


 見える。

 相手の球遅い。動きも遅い。止まって見える。

 簡単に打てる、追いつける。

 ドライブされてもカウンターで撃ち抜ける。

 前はこんなんじゃなかった、ギリギリで打ち合って、なんとか勝ってた。4回戦で負けて、今回は簡単にその目標を突破出来て。

 5回戦、ベスト4、つまり全国へ行くための戦いだ。なんだかそれも、順調すぎるほど順調だ。

442: 2017/06/25(日) 02:40:14.05 ID:nZBBiPFZ.net
 サーブ、ドライブ、台上、ブロック。冷静に考えても……負けてるところは、一つもない。

 私は強くなった。確かにそう、実感出来る!!

 少し前、果南ちゃんと曜ちゃんはベスト4をかけ試合をしていた。応援席で見ていたけれど、二人とも圧勝。善子ちゃんはすでにベスト4が確定していて、ついにAqoursが三人全国への切符を手に入れていることになる。

 残るは私だけ。

 プレッシャーもあった。

 でも、心地良いプレッシャーだった。みんなに負けたくない、私だって、違う世界にいる人達に食らいついていくんだから!!

 ドライブを振り抜く、相手のいないコースがよく見えた。まるで時間が止まったみたいに、相手はその場から動かず私の球筋を見ていた。

千歌「しゃっ!!!」

 手を高くあげる。

 みんなの歓声が聞こえた。


 この日。静岡県からの全国への切符は、Aqoursが独占することになった。

443: 2017/06/25(日) 02:41:31.36 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

千歌「やったー!!!!」

曜「やったねっ、やったねっ千歌ちゃんっ!!」

千歌「うんっ、うんっ!!!」ピョンピョンッッ

梨子「おめでとう……っ」

千歌「ありがとう……わたし、わたし……」

善子「あなたは強いんもの、当然よ。おめでとう」

千歌「あ、ありがと……」

鞠莉「まさかほんとーにAqoursだけで独占できるなんて……」

鞠莉「ちょっと白けちゃったかしら?」

果南「あはは……競技卓球でもあるよね、強豪校が強くて上にあがると部内戦みたいになること」

千歌ママ「みんな、ひとまずおめでとう。これで次に繋がったね」

千歌ママ「あとはここ、誰が優勝するかだけど……」

ダイヤ「部内戦で勝つのとプレッシャーたまらけの公式戦で勝つのはわけが違います、ここで勝った人が、Aqoursで一番強いと言ってもいいでしょう」

千歌「ごく……」

曜「一番強い……」


ダイヤ「がんばってください、みんな」

果南「よろしく、千歌」

千歌「う、うん」

善子「…………」

曜(うわ敵意丸出し……うぅ、そうだよね)


曜(勝てるようにがんばろう……善子ちゃんが本気で敵意を向けるくらい私は強くなれたってことなんだから……)

444: 2017/06/25(日) 02:42:52.96 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

会場前


千歌「んー……おわったあ!!」

花丸「決勝戦、凄かったね」


果南「だめだめ……善子ちゃんやっぱり強いよ」

善子「疲れた……」


ダイヤ「優勝インタビューも、前より良かったわよ。ディフェンド、おめでとう」


善子「ありがと」

善子「り、リリー有言実行よ!!」

梨子「うん、かっこよかったよ」


善子「ふふん!」


千歌「よし、今日は帰ろう! また今度、打ち上げしよーね!」

鞠莉「盛大にね!!」


千歌「ばいばいっ!!」

445: 2017/06/25(日) 02:44:26.60 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

車の中

千歌ママ「やっぱりメンタルの差だったかな……」

志満「一番競ったのは曜ちゃんと善子ちゃんの準決勝だったね」

千歌「凄かったんでしょ? 私は果南ちゃんに普通に負けたからあれだけど……」

梨子「凄かったよ、本当に……善子ちゃんも曜ちゃんも……貫くみたいな眼光で」

千歌ママ「今回は善子ちゃんが勝ったけど、やっぱり大舞台慣れしてるからだね」

志満「曜ちゃん……今回かなり良い経験になったんじゃないかな」

千歌ママ「次はどっちが勝つと思う?」

志満「……多分、曜ちゃんかなって」

梨子「そんなに、なんですか?」

志満「序盤2ゲーム先行したのは善子ちゃんで、このまま行くかなって思ったところに……曜ちゃんの雰囲気が一気に変わったから……」

志満「そこから結局フルセットになって善子ちゃんは逃げ切ったけど……多分もう少し早く曜ちゃんがあの状態になってたら」


千歌「ごく……」


千歌ママ「……やっぱり天才だよ、あの子」

千歌ママ「今回また進化したとしたら、全国……凄いことになるかもね」

梨子「……」

千歌ママ「はいどーぞ梨子ちゃん」

梨子「ありがとうございました!」

千歌「じゃあね!」

梨子「うんっ、ゆっくり休んでね」バタン

447: 2017/06/25(日) 02:46:19.96 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

美渡「果南ちゃんに負けたんだって?」

千歌「なんでそこだけ言うのっ! ベスト4だよベスト4!!」

美渡「あーはいはい」

美渡「ま……がんばったじゃん」

千歌「……」

美渡「今度なんか買ってきてあげるよ」

千歌「ほんと! 服!」

美渡「安めの食べ物に決まってるでしょうが」

千歌「ケチだなー」

美渡「黙れ」

志満「でも、本当に頑張ってたよ。よかったね勝てて」

千歌「うん……!」

千歌ママ「全国大会までは約1ヶ月あるから……そこでみっちりやるんだよ。私はもう仕事、戻らないとだけど」

千歌ママ「美渡と志満、引き続きお願いね」

志満「わかった」



千歌「よしっ、ごちそうさま!」タッタッタッ


美渡「あの子がねえ」

志満「ね」

美渡「まあ……いいけどさ」

志満「見に来れば良かったのに」

美渡「仕事だってば」

志満「全国は?」

美渡「土日でしょ? 土曜仕事だしなあ」


美渡「……有給、とるよ」


志満「ふふっ、それがいいね」

448: 2017/06/25(日) 02:47:54.28 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

プルルルルルルッッッ…


千歌「ごく……」

聖良『もしもし』

千歌「あ、あのっ聖良さん!」

聖良『――全国大会出場、おめでとうございます』

千歌「へ、知ってるんですか」

聖良『ええ、SNSで調べたら出てきたので』

千歌「な、なんだあ」

聖良「有言実行、ですね」

千歌「うん……」

聖良『Aqoursの皆さんで全国を独占したとか……少し話題になってるわ』

千歌「あはは……それはちょっと……」

聖良『何より……あの時の宣言をちゃんと形として実現したことを、尊敬する』

千歌「あ、ありがとう」


聖良『東京で会いましょう、そして対戦出来るのを楽しみにしてる』

千歌「うんっ!』

聖良『おやすみなさい』

プツッッ

千歌「あ……聖良さんに、北海道大会優勝おめでとうって言うの、忘れてた……」

千歌「ま、まあいっか……」


千歌「でも……ついにここまで来た。あの日無理だって言われてたこと、成し遂げた……ここからは、また……」

449: 2017/06/25(日) 02:48:54.82 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

曜「おっはよー善子ちゃん!」

善子「ん……おはよ」

曜「いやー昨日は凄かったねー」

善子「私としてはなんか……」

曜「ん? 優勝したのになにかあるの?」

善子「いや……あなた、本当強いなって」

善子「……認めたくないけど」

曜「へ//」

曜「いやでも普通に善子ちゃんに負けたし」

善子「――対戦した私が一番分かるわよ」

曜「……?」

善子「ま……もし全国でも当たるなんてことになったら、よろしくって感じね」

曜「次は負けない!」

善子「私だってただでやられる気はないってば」

善子「でも……あなた、分かってるの?」

曜「?」

 

善子「――千歌さんとも当たる可能性があるわけだけど」

 

曜「……!!」

善子「なんか……一時期そんな感じのことで揉めてなかった?」

曜「あはは……確かにそんなことあったかも」

曜「でも、大丈夫だよ。相手が誰だって」

曜「……大丈夫」

善子「……それならいいんだけど」

450: 2017/06/25(日) 02:50:09.32 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

二週間後


善子「ちょっとずら丸、なんであなたが前で見てるのよっ、見せて見せて」

善子「んん?」

ダイヤ「A~Dブロックに分かれたトーナメント戦、です」

ダイヤ「大会は二日に別れて行われ、一日目はブロック代表者決め。二日目は各ブロックを勝ち上がった四人の選手が準決勝から決勝戦として、行われるようです」

ダイヤ「合計で8回勝てば優勝ですわ」

千歌「は、8回も勝たなくちゃいけないの……ひやー……」

善子「私は? 私はどこにいるの?」

曜「善子ちゃんは……あ、ここ。Bブロックの、中シードだよ」

善子「え、シード?」

鞠莉「実績残してたからね」

善子「そっか……」

ダイヤ「果南さんはAブロック、ですわね」

果南「ん、待って……Aブロックって」


ダイヤ「――鹿角聖良さんが、第一シードとして組み込まれています」


果南「うわ、運悪いね」

451: 2017/06/25(日) 02:50:56.36 ID:nZBBiPFZ.net
花丸「果南さんがAブロックを勝つには、聖良さんを倒さなくちゃいけない、ってことだよね……」

果南「ま……どうせいつかは闘うんだしさ、仕方ない仕方ない」

ダイヤ「曜さんは……Dブロック、ですね。ここにも……」

曜「――鹿角理亞ちゃん……か」

ダイヤ「ええ」

曜「かー……まあ、やるしかないよね……理亞ちゃんなら散々映像見てるからまだマシかも」


千歌「ねえ千歌は千歌は?」


ルビィ「あ、ここ、Cブロックにいるよ」


千歌「なるほど……」


ダイヤ「千歌さんはパッとみた感じでは、なかなか良いドローを引けたのでは?」


千歌「ほんとー? ラッキ!」

452: 2017/06/25(日) 02:51:57.75 ID:nZBBiPFZ.net
果南「私がAブロック、善子ちゃんがBブロック、千歌がCブロック、曜がDブロック……」

鞠莉「同士討ちは一日目は無し」

梨子「すごい、いい感じにバラけたね」

ダイヤ「二日目の準決勝はA×Bブロックの勝者、C×Dブロックの勝者なので、仮に全員勝ち上がれたならば、果南さん×善子さん。曜さん×千歌さん。になりますわね」

 


曜(――勝ち上がれたら、千歌ちゃんと、か)

 


鞠莉「全国でもAqoursで占めちゃったらどうなるのかしら」クス…

千歌「そしたらすーごいっ話題になるかも!」

千歌「えへへ……なんか楽しみになってきた」

千歌「よし、練習しよ!」


ダイヤ「後でみなさんが当たりそうな有力選手を調べておきますわ」


千歌「うんっ、お願いっ!!」

465: 2017/06/25(日) 12:19:25.98 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

全国大会、初日


千歌「ついに!! この日が来たー!!」

千歌「6時の電車に乗って……はるばる東京まで……!!」

善子「あ、あんまり騒がないでよっ」

千歌「でもでもっ、今回は私もこの体育館で出来るんだよ!」

千歌「見てるだけじゃなくて!!」

梨子「うん……そうだね」

聖良「――お久しぶりです、Aqoursのみなさん」

千歌「え、あ……聖良さん!」

聖良「久しぶり」


聖良「今回はAqoursの皆さんは四人も出場されるそうで……」

善子「おかげさまでね」

聖良「お互い頑張りましょう、皆さんと対戦出来るのを楽しみにしています」

理亞「姉さん、早く入ろ」

聖良「そうね、ではお先に」


スタスタ

善子「なによスカしちゃって」

曜「まあまあ」

千歌「私たちも入ろ!」

スタスタ

千歌「うわーやっぱりロビーもおっきいなあ」

千歌「みんな可愛い……」

千歌「お化粧大丈夫かなあ……」

果南「大丈夫大丈夫可愛いよ」

千歌「そ、そう?」

花丸「もう練習してる人もいるみたい……行った方がいいかも」

千歌「そうだね! よし、練習行こ!」

466: 2017/06/25(日) 12:20:09.79 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

千歌「開会式長くなかった?」


ダイヤ「当たり前ですわ! これから歴史を続けて行こうとする大会なんです、さくっと終わってしまったら今後に対する――」


千歌「あー、わ、わかりましたぁ!」

曜「みんなレベル高かったなあ……」

果南「そうだね……でも私たちだって負けてなかったはず」

千歌「うんっ……」

善子「そろそろ一回戦が始まるわね」

千歌「よし、みんな集合ー」


千歌「今日まで私たちは本当に頑張って来たと思う! 辛いこともたくさんあったけど、楽しかったからここまで来れたよね!」


千歌「だから今日は、みんなに知って貰おう!! 私たちAqoursがしてきたことを!」


千歌「明日もまたこうやって、円陣が組めるように!」

467: 2017/06/25(日) 12:22:03.50 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

鞠莉「ナイスボールちかっちー!!」

善子「最高ね! 楽勝じゃない!」

ダイヤ「ええ、全国大会一回戦……初戦なので厳しいものになるかと思っていましたが……見事ですわ」


花丸「果南ちゃんも絶好調! みんなみんな一回戦突破ずら!」

ルビィ「すごいすごい!」

鞠莉「曜の試合見てなかったけど、フルセットまで行ったの? 大丈夫?」

曜「うーん、あははそうなんだよね。なんか、よくわかんないけど」

曜「でも段々調子出てきたから平気だよ!」


梨子「みんな……凄いね!」


美渡「ねえねえ、千歌は!?」


梨子「え、美渡さん……志満さんも来てくれたんですね」


志満「うん」

鞠莉「ちかっちはストレート勝ちです♡」

美渡「うそ……ほんとだ」

志満「まずは第一関門突破……うんうん」

志満「お母さんも少し遅れて来るけど、その間には負けなそうでよかった」

468: 2017/06/25(日) 12:23:05.57 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

曜「しゃあ!!!」

曜「ありがとうございました!!」

聖良「……」

聖良「……あの人は確か、Aqoursにいた、渡辺曜さん、だったかな」

聖良「高飛び込みだか水泳だったかで凄い成績を残してるとか……」

聖良「……ふぅん」

聖良「――天は二物を与えないだなんて、誰が言ったのか」

理亞「……姉様誰を見てたの?」

聖良「渡辺曜さんよ」

理亞「なんであんな人?」

聖良「強いなって、思って」

理亞「はあ? あんな人が? Aqoursでも一番じゃないんでしょ、だったら津島善子でも見てた方がいいわ」

聖良「とにかく次の試合は見ておいた方がいいかもしれない」

理亞「……まあ、姉様がそう言うなら。分かった」

理亞「でも、津島善子……かなり強くなってると思う」


聖良「本当に? 勝ち上がると思ってまだ見てないんだけど」


理亞「今試合やってるから見に行こ」グイッ

469: 2017/06/25(日) 12:23:48.44 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

千歌「えへへ……勝っちゃった……三回戦まで!!」

千歌「凄くない!? 千歌、全国でも闘えてる!」

ダイヤ「ええ、素晴らしいですわ」

ダイヤ「ここまで四人とも、素晴らしい試合を見せてくれています、ただ、次の4回戦からは」

鞠莉「――シード選手と、よ」

鞠莉「4、5、6回戦はほとんどがシード選手……簡単に言えばボスラッシュね!」

千歌「ボスラッシュ……」クス


ダイヤ「ただ、千歌さんの場合はシード選手が負けているので……どうなるかはわかりません、良い方向に進んでくれるといいのですが」


千歌「楽な相手だと良いんだけど……」


善子「曜と果南さんはどこ言ったの?」


花丸「なんかロビーの方に行ったよ?」

千歌「?」


千歌「私の4回戦遅れてるんだよね? ちょっと見てくるー!」

470: 2017/06/25(日) 12:25:19.87 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

曜「ふぅ……」

果南「ん、曜……平気?」

曜「え?」

果南「凄い顔、してたよ」

曜「あはは……気にしないで」

果南「ごめん、邪魔しちゃったね……」


果南(曜は集中力高める時、人を頃すみたいな目しながらぼーっとしてるからなあ……)


果南(まあ、それが出てるってことはいい傾向なんだろうけど)

曜「いやあ……理亞ちゃんとだからさ、頑張らなきゃって」

曜「果南ちゃんも聖良さんとなんだから……多少は緊張しない?」

果南「うーん、まあ楽しみの方が大きいかな。そんな強い人とやれるんだから」

果南「緊張してるの?」

曜「ううん、全然……すっごくいい感じ、いいプレッシャーって言うのかな」

曜「わたしも、楽しみ」


果南「そっか」


聖良「――あ……こんにちは」


曜「聖良さん、理亞ちゃんも」


理亞(こいつもいきなりちゃん付け……どいつもこいつも)イラ

471: 2017/06/25(日) 12:26:00.38 ID:nZBBiPFZ.net
聖良「次の試合、よろしくお願いします。松浦さんとですよね」

果南「ええ、よろしくね」

聖良「よろしく」

曜「理亞ちゃんも、よろしくね」

理亞「……」


曜「私ね、すっごく理亞ちゃんのプレーが好きで、参考にさせて貰ったの! だから、楽しみ!」

理亞「そ……負けないから」

曜「私も!」

聖良「……」


千歌「あ、曜ちゃん達こんなところにいた! あり? 聖良さん達も」

聖良「たまたまです。次、対戦するということなので」

聖良「理亞と渡辺さんが先に試合をするようなので……私も楽しみ」


聖良「では私たちはこれで、お互い、いい試合にしましょうね」


理亞「……」スタスタ

曜「ふぅぅ……」


曜「よしっ!! 行こう! 絶対勝つぞ!!」

473: 2017/06/25(日) 12:31:12.72 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

曜(理亞ちゃんと練習してる、本当に試合するんだ……勝つ、勝つんだ)カコンカコン

理亞「ラストで」

曜「うん」

曜「ふぅぅ……」

曜(ラケット交換……)

曜(情報と変わりなし……前人向けのラバーとラケット、スピード重視のハイテンション表ソフトラバー……表ソフトの経験は千歌ちゃんのママに仮想敵として対策しただけだけど……)

曜(前評判通り、多分問題ない)

理亞(――はあ? なに、このラケットとラバーの組み合わせ)

理亞(馬鹿みたいにぶっとぶラケットに、馬鹿みたいにぶっとぶ超スピード重視のラバー……ぶっとび同士を掛け合わせるなんて、この人、頭おかしいんじゃないの?)

理亞(こんなの……普通扱えるわけない……。いくらここまで来たからって)


理亞(舐めてるのかしら……とりあえず暴発のミス狙いね)


渡辺 曜

ラケット   ガレイディアT5000
フォアラバー ブライスハイスピード(特厚)
バックラバー ブライスハイスピード(特厚)

VS

鹿角 理亞

ラケット   ヒノカーボンパワー
フォアラバー テナジー25(厚)
バックラバー フレアストーム2(特厚)

474: 2017/06/25(日) 12:33:16.29 ID:nZBBiPFZ.net
千歌「はぁぁ、緊張するよぉ」

果南「わかる……」

鞠莉「もうこっちが緊張しちゃだめでしょ!」

梨子「善子ちゃんの試合はどうなってるかな、見えない……」

鞠莉「押してるみたいよ、善子ちゃんはシードだから順当にいけば大丈夫なはずだけど」

鞠莉「あっちはダイヤとマルちゃんとルビィちゃんに任せて……応援しましょ」

梨子「うん……」

千歌(聖良さんも少し離れて応援してる……まあ当然か……)


千歌「曜ちゃんがんばれー!!」


曜(……まずは)カコンカコンッッ

理亞「!!」


理亞(いきなりロングサーブ、それも小細工もへったくりもない! 舐め、ないで!!!)カコンツッ!!

曜(ライジングのスピードドライブ!! ――知って、る!!!)バコンッッ!!!


理亞「なっ……」


1-0

曜「よしっ」

475: 2017/06/25(日) 12:34:33.13 ID:nZBBiPFZ.net
理亞(……ライジングで叩いたのに、ライジングで叩き返してくるなんて)

理亞(……むかつく)


千歌「曜ちゃんナイスボール!」

鞠莉「ナイスライジング返球ね……」

果南「うん……早すぎ」

梨子「ライジングって……」

果南「梨子ちゃんはほとんど練習してないからあんまりわからないかもしれないけど、球がバウンドしてすぐに打つ技術だよ」

果南「普通に打つタイミングよりも早く打球すると、相手の回転の変化を受けにくいし……なにより相手の時間を極端に奪える」

梨子「球の上り側……確かに曜ちゃんと打つととにかくペースが早くなって、すぐついていけなくなってたけど……それが――ライジング打法」

鞠莉「そう……曜はこれまでそのライジングに拘ってずっとやってきた」

鞠莉「ライジング打法は反射神経と繊細なタッチがとても重要で、常時打ち続けるだなんてほぼ不可能だけど」

 

鞠莉「曜はその才能が――神掛かっていた」

 

鞠莉「その才能は、きっと」

鞠莉「……」

476: 2017/06/25(日) 12:35:52.59 ID:nZBBiPFZ.net
鞠莉「そして相手の理亞ちゃんも、ライジング使いの前陣速攻型」

鞠莉「フルセットになったとしても、試合は早く早く終わるわよ」


鞠莉「前陣速攻vs前陣速攻はね」


理亞(こい、つっ!!)パコンッパコンッッ

ギュッ

曜「ふっぅ」スパ-ンッッ

理亞「くっ……」

理亞(速い……球も、動きも……なんなんだ)

理亞(私がラリーで負けてる……? そんなわけ……)


曜(相手のライジングショットは確かに速いけど……なんとかなる……ラリーでなんとかなるなら……勝てる!!)

曜(もっと速く、もっと強く、もっともっと!!)


カコンカコンッギュッインッギキュパッッ


理亞(お、押され……)

スパ-ンッッ!!!!


理亞「な……くっ」


11-6


曜「よしっ!!」

理亞「もうっっ!!」


千歌「1セット取ったあ!!!」


千歌「あの理亞ちゃんから! 全日本ベスト32から!!」


果南「すごい……完全にラリーで打ち勝った……」

477: 2017/06/25(日) 12:37:02.92 ID:nZBBiPFZ.net
鞠莉「相手はほとんど考える時間が無かったみたいね……なんとかしようとしてるうちに」

梨子「すごい……」

聖良「……」スタスタ

千歌(聖良さん、どこ行くんだろう……?)


理亞(落ち着け私……さっきのセットは最悪だった。サーブもレシーブも全部長いのを打たれて、ラリー戦にしようとしてる)

理亞(前陣でのラリーで負けてる……そんな、わけ。前陣速攻っていうのはミスがつきもので、どれだけミスよりウィナーを増やせるかの勝負)

理亞(ずっと厳しいコース、しかもライジングで打ち続けるなんて出来るわけない……出来てたまるか。冷静になって、タイミングをずらすのが良いわね)

理亞(2セット目)


理亞(ほとんど見れなかった、台上はどう、かしら!!)キュパッ

曜(フォア前下回転! 回転は強烈、打つのは無理)ツッツキ

曜(理亞ちゃんのフォア前にツッツキをすれば……)


理亞(甘いっ!!)フリックッッガツンッ!!!!


曜(それも知ってる!)パチコ-ンツッ!!!!

478: 2017/06/25(日) 12:38:08.25 ID:nZBBiPFZ.net
理亞「くっ……」

理亞(うそ……)

曜「しゃっ!!」

果南「台上でミート気味にはたきつける打法の、理亞ちゃんのフリック。かなり攻撃力があって成功したら一気に優位になるレシーブだけど」

鞠莉「あんな風にライジングでぶっ叩くなんて、ね……」

果南「曜は言ってたんだよね。あんな風なフリック打ちたいって、きっとあの超高速フリックは理亞ちゃんの生命線のはず」

果南「それを延々とビデオで見てた。フォア前に少し甘いのを出したらクロスにフリックっていう定石があるのを、分かってたんだと思う」

千歌「すごい、曜ちゃん……」


曜(理亞ちゃんの生フリック、ほんとに速いな……今のはギリギリだった……)

曜(でもコースが分かってたからついていけた……問題はコースが分かってない時)キュパッッ

曜(バックの短いところ、表ソフトなら台上ドライブもチキータもほとんど出来ないはず――)


理亞「っ!!!」スパ-ンッッ!!!

曜「なっ……」

1-1


曜(ライジングのタイミングで、バック側、表ソフトの超超高速フリック……速い)


曜(裏ソフトのフォアより、圧倒的に速い……)

479: 2017/06/25(日) 12:39:52.32 ID:nZBBiPFZ.net
理亞(舐めんなってこと……もう怒った、ぶっ潰す)

理亞(全速で……)スッッ

曜(!!)


曜(バック! ミドルっ、速い……さっきより、全然!)カコンッカコンッッ

曜「くっ……」


1-2


千歌「早すぎ、だよ……なにあれ」


果南「本領発揮って感じかな……ちょっと速すぎる」


鞠莉「球離れが早くでさらに回転の影響も受けにくい表ソフトを貼ってるバック側でのラリーが主戦力、みたいね」

480: 2017/06/25(日) 12:40:48.71 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

理亞「しゃあ!!!」

6-11

曜「……ふう、だめか」

曜(速い、とにかく速いけど……)


曜(なんか――見えてきたかも)


曜(次はいけそう……)

曜(なんだろう……私、理亞ちゃんとまともにやりあえてる……嬉しいな)

曜(理亞ちゃんも答えてくれてる。理亞ちゃんのラリーのスピードはおそらくもうほとんど最速に近いはず)

曜(私もそれに喰らい付かなきゃ……次のセットは――最初から全開だ)

曜(――ん……善子ちゃんが勝った、みたい? なんか喜んでる)

曜(さすが善子ちゃん……私も、いっちょやりますか!!)スッ…

理亞「……」

曜「……」ギロッ…


理亞(雰囲気が変わった……なに、この人……本気って、わけ? いかんせんアイドルがする顔じゃないけど……まあいいわ)


理亞(卓球歴が浅いとか実績がないとか思ってたけど……どうでもいい。最速で、打ち勝つだけ)


理亞(決勝で、姉様を倒すのは――私なんだから!!!)

481: 2017/06/25(日) 12:42:13.86 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

曜「よしっ!!!」


 相手が、握りこぶしを突き上げ手を吠える。それに呼応するようにして、会場が沸き立つ。

 どういうこと。

 どうして私は今、こんなにも、劣勢なの?

理亞(2セット取られて……6-9で負けてる)


 嘘、だ。

 私はこんなところで、負けられない。

 それなのに、なんなんだこの人は!

 ラリーが速い、どれだけ早く打ってもタイミングをずらそうとしても……前で前で打ち込んでくる。深いところに送った球は普通ドライブで薄く擦るように返球するくらいしか出来ないのに。

 この人はライジングよりもさらに前……馬鹿みたいにシビアなタイミングでぶっ叩いてくる。

 なんて反射神経。どこへ打っても、反応して飛びついてくる。

 それを、何本も何本も。

 あのぶっ飛び道具をまともに扱って、私は少し下げられて結局ラリーで打ち負ける。

 それにこいつ――私のラケット面なんてほとんど見てないっ。来た球だけを見てる。


 そんなので、正確な回転が、分かるわけっ!!! わかられて、たまるかっ……。

482: 2017/06/25(日) 12:43:38.60 ID:nZBBiPFZ.net
曜「っ」ジッ…スパンッッ


 なんで、こんなに。

 まるで――自分と打っているみたいだった。最高に良い時の自分と。サーブもフットワークも台上も……私のいいところをとって、さらにプラスした、みたいな。不自然な感覚。


 相手の打った球が、ラケットより向こうへすり抜けていく。

 試合終了のコールがされる。会場は、馬鹿みたいに沸いていた。

 ああ……負けた。

 少しの間、理解出来なかった事実だったけれど……相手側の応援の声が聞こえて、そのあと、嬉しそうな相手と握手をする。

 途端に、現実が襲ってきた。


 ――才能、か。

 

 押し潰さんとばかりに大きくなったそれは……私の眼前を、埋め尽くしていた。

483: 2017/06/25(日) 12:44:56.36 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇


千歌ママ「模倣がオリジナルを超える、か」

千歌ママ「ありえるような話だけど」


千歌ママ「残酷、だね」


千歌ママ「曜ちゃんは氏ぬほどあの子を見てたから勝てた」


千歌ママ「千歌や果南ちゃん、善子ちゃんでも負けてたかもしれない」

千歌ママ「理亞ちゃんは、努力の極み、それでも……才能の壁は」

484: 2017/06/25(日) 12:45:37.73 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

千歌「すごい、すごいすごい!!!」

千歌「理亞ちゃんに勝っちゃったよ、おめでとう!!!」

善子「まさか本当に勝つなんて……」

曜「いやー、私もこんなにって思ったんだけど! なんか出来がすっごく良くて!」

曜「相手の動きも映像で散々見てたから、次何をしてくるかなんとなく分かって……」


千歌ママ(ほんと、恐ろしい子ね……遅れて来てみたらかなり優位だったんだもの)


曜「あ、千歌ちゃんのお母さん!」

千歌ママ「こんにちはー、おめでとう」

曜「ありがとうございます! 映像たくさん用意してくれたおかげです!」

果南「見ただけでなんとかなるような相手じゃないと思うけどなあ……すごいよ本当に」

千歌「大金星!! みんな曜ちゃんのこと話してるよ!!」

曜「えへへ……良かったあ」//


千歌(そういえば聖良さん……どこ行ったんだろう)


曜(理亞ちゃん……最後……なんか、大丈夫だったかな……様子変だったけど)

485: 2017/06/25(日) 12:46:41.75 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

ロビー

聖良「……」モグモグ…

千歌「……ん?」

千歌(いや……え?)

千歌(な、なに食べてるの? いやいや嘘だよね)

千歌(――お寿司……?)

聖良「……?」

千歌「こ、こんにちは……」

聖良「ん……理亞が、負けたようですね」

千歌「あ、はい……」

聖良「渡辺曜さん……素晴らしいですね」

千歌「あの、どうして途中でいなくなったんですか? 戻ってきて、なかったよね?」

聖良「ああ……見てたんだ」

聖良「そうですね……なんて言えばいいのか」


聖良「――理亞は……努力していましたよ。私なんかより、きっとどこの誰よりも。理亞を一言で表すならば……努力の粋」


 

聖良「届くはずのない空へと手を伸ばし続けている――蛇です」

486: 2017/06/25(日) 12:48:07.15 ID:nZBBiPFZ.net
千歌「……」

聖良「そうですね。簡単に言うなら……あれ以上見ていたく、無かった……それだけです」

千歌「え……」


聖良「――妹がやられるって分かってて……。いえ、だったら妹の頑張りを最後まで見ていなければいけないんですけど」


千歌(わかっ、てた?)

聖良「……でも」ウツムキ

 

 
聖良「――理性だけでどうにもならないことも、あるじゃないですか。目を背けたくなることだって、あっても……いいじゃないですか」ギリリ…

 
 

千歌「っっ」

聖良「……私は理亞が必氏に頑張って来ていたのを私は知っています。私が一番近くで見ていましたから」


聖良「悲しいですね。"それ"を持っているだけで、人は人を無容赦に傷つける。持たざる者にとって一番――残酷ですよ」


千歌(曜ちゃん……)


聖良「……では、これから試合なので。松浦さんですよね、私も理亞の分まで、頑張ります」

487: 2017/06/25(日) 12:50:42.14 ID:nZBBiPFZ.net
千歌「あ、そっか果南ちゃんの!」

千歌「あ、ちょっと待って!」

聖良「?」

千歌「あのー……どうしてお寿司を……」

聖良「ああ……栄養補給になかなかいいんですよ」

千歌「そ、そうなの?」

聖良「本当は加熱したりした方がいいんだけど」

聖良「……まあ単純にモチベーションの一種というか、好きだからなんです」

千歌「ほえー……リッチ」

千歌(だからクーラーボックス持ってるの……?)

聖良「ふふ、安物ですよ」


聖良「ただ……やっぱり東京のものはあまり美味しくない、かな」


千歌「流石北海道……」

聖良「よかったら来てくださいね」


聖良「よし……行ってきます」

千歌「うんっ」


千歌(果南ちゃん……がんばって……!)

488: 2017/06/25(日) 12:51:23.13 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

曜「……」キョロキョロ

コソコソ


「あれ、渡辺曜だよ」

「前回準優勝の……ほら、鹿角の片割れをやったっていう」

「えー、鹿角の妹もかなり強いはずじゃ」

「強いも強い、全日本でも結構な成績残してる化け物だよ」


曜(なんかさっきから見られてる気が……うぅ、お化粧崩れてないかな……)


曜(理亞ちゃんは……)キョロキョロ…

曜「あ……」


理亞「……」ズズズ


曜(メロンミルク……)


理亞「……? なに」

曜「あ、いや……えっと」


曜「なんか、変な感じだったから大丈夫かなって! 余計なお世話かもしれないけど……」

489: 2017/06/25(日) 12:52:35.28 ID:nZBBiPFZ.net
曜(勝った人が敗者に向ける言葉は……全部ナイフみたいになるって……今までの経験で、わかってるはずなのに)

曜(睨まれて拒絶されて、才能があっていいねなんて、言葉をぶつけられて。そんなこと――今までの経験でわかってるのに)

理亞「そうね、余計なお世話」

曜「ぅ……」

理亞「……」

理亞「座れば」

曜「え、大丈夫?」

理亞「うん」ズズズ…

理亞「……」

曜「……」

理亞「あなた、強いのね」

曜「え……あ、いやたまたまだよ……。たまたま理亞ちゃんのプレーがいいなって思って、いろんな映像見てただけで」


理亞「そう思う機会なんてあった?」

曜「ほら、夏辺りに卓球場で善子ちゃんとやってたでしょ? あれを見て」


理亞「……なるほど。映像見て練習してたらあんな風になったと」

理亞「それだけで……」ボソ…


理亞「……最高に気持ち悪かった、私がしたいプレーをそのままやり返されてる気がして」

490: 2017/06/25(日) 12:53:53.31 ID:nZBBiPFZ.net
曜「あはは……」

理亞「私に勝ったんだから……少なくとも決勝まで行って……姉さんに勝ってよね」

曜「聖良さんの応援しないの?」


理亞「する、けど……姉さんには負けて欲しいから」

曜「負けて欲しい?」


理亞「本当なら私が姉さんに勝つのが一番良かったんだけど……それも出来ないから」


曜「どういう、こと」

理亞「……」


曜「聞いちゃ、まずかったかな」


理亞「それで気合い入るなら、話す」

492: 2017/06/25(日) 12:56:13.84 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

果南「くっ……」

果南「はぁぁ……」


4-11

果南「たく……ほんと、強すぎだって」

聖良「……」

果南「まさかここまでなんてね、どうしようかな」


千歌「うぅ、強いな聖良さん……」

鞠莉「果南もフォア同士のラリーなら負けてないと思うんだけど……どうしても、バックが」

ダイヤ「果南さんがバック苦手というよりも……最早日ペンの弱点を突いてきているとしか」

千歌「がんばれ、がんばれっ……果南ちゃん」


聖良(松浦果南さん……日本式ペンのレンジ関係ないオールラウンドドライブ型。そのドライブの回転とスピードの威力は私よりも上かもしれない)

聖良(ただまあ、それが正確なところに入るかと言われたらそうではないし打ち合いになったらバックバンド側に振ればやっぱり対応が遅れている)

聖良(ラリー中のバックハンドの切り返しにはやはり弱点が残っている)

聖良(格下相手ならばオールフォアでのドライブで決してしまうでしょうけど、私はそうは行きませんよ)

493: 2017/06/25(日) 12:57:14.71 ID:nZBBiPFZ.net
聖良(バックに深いツッツキ……っ、これで松浦さんは)

果南「ふっっ!!!」


スッッギュイッンッッ!!!!

聖良(! バック側も回り込んで逆クロスに必殺のスピードドライブを仕掛けてくる!!)

聖良(でもっ)ブンッスパンッッ

果南「くっっ」

果南(このカウンタードライブはオープンコートに打たれたらまず取れない……まずいなあ)

聖良(そのドライブを打っているんじゃなくて、打たせている間、私は負けません)

果南「はぁ……ほんと、やっかいだな」

果南(サーブも、全然わかんないしな……次はなんだろ)

果南(鞠莉が出すYGサーブ! 回転の精度は似たようなもの、だけど)


キュパッッポ-ンッッ

0-6


果南「ふぅ……」


果南(フェイントの精度が桁違いだ……しかも左利きのYGはほとんど受けたことないしなあ……)

494: 2017/06/25(日) 12:58:43.10 ID:nZBBiPFZ.net
鞠莉「んん……」

千歌ママ「……」

千歌「強い……」

千歌(夏前に私と打った時はどれだけ手加減を)

善子「……」

千歌「果南ちゃんまだまだいけるからガンバッテー!!!!」

2-11

果南「ふぅ……」

聖良(今の所は問題なし)


聖良(長い手足を生かしたレンジ関係ない超強力な日ペン特有のフォアドライブ、攻撃に繋げるための積極的な台上プレー)


聖良(バックハンドの強烈なプッシュ攻撃に、繋ぎのブロックと……バッグも鍛えては来ている)

聖良(なにより、広大な範囲を動き回る……縦横無尽で強靭なフットワーク)


聖良(一つ一つは素晴らしい……でも)


聖良(――一つの技術が一つで終わっている)


聖良(卓球は一つの技術で勝てるスポーツじゃない、技術と技術の親和性がなによりも大切なこと。松浦さんは、どこかそれを見失っている、のかもしれませんね)

聖良(私には関係ないけど。このまま、倒すだけ)

495: 2017/06/25(日) 13:00:16.62 ID:nZBBiPFZ.net
果南(全然だめだ……強すぎ)

果南(バックが悪いのかな……)

果南(いやでも……打ち合いになっても負けてる気が)

果南(それもこれもバックへの返球がチラついてるせいでもっとバックに安定感を)

果南(あ、いや違うな……そもそも、もっと満足な体制で打てるように時間を作って)モヤモヤ


鞠莉「んもう!」


鞠莉「――果南!!! なにごちゃごちゃ考えてるのよ!! やりたいようにやればいいでしょ!!」

鞠莉「私たちはこれで最後なんだから!! 悔いなんて残さないで!!」


ダイヤ「ち、ちょっと鞠莉さん……アドバイス扱いになってしまいます」


鞠莉「あ、ごめん……」

ダイヤ「でも……その通りです」

ダイヤ「果南さんはごちゃごちゃ考えるタイプではない、だったらもう、感覚のままやってしまう方がらしいプレーに繋がるかもしれない」

千歌ママ(前に比べて確かにバック系技術はかなり上手くなったけど……時々こういう風に詰まっちゃうことがあったしね)

496: 2017/06/25(日) 13:01:07.17 ID:nZBBiPFZ.net
果南「そっかあ……」

果南「そうだよね」

果南「何の為にここまで来たんだ」ペシペシ

果南(一度は諦めたことだけど、みんなのおかげで……私は今ここに立ってる)

果南(こんな、こんな何も出来ないまま終わるわけにはいかない)

果南(最後だもん……全力で行こう)

果南「ふぅ……」

聖良「……」

聖良(折れない、か)


果南(鹿角聖良さん、あなたはとっても強いけど……でも、夢、見させて貰うよ)

果南(みんなとずっと、語り合ってきた夢をさ!)キュパッッ

聖良(ナック……いや、上回転っ)ギュインッッ

果南(いいね、打ち合おうよ。負けない、から!!!)ギュインッッ!!!

聖良(はやっ……)ギュインッッ


ギュインッギュインッッッ!!!!!


千歌「すごい……」

鞠莉「バックに振られても……上手く繋ぐし……」

鞠莉「なにより、打ち合いでも全然、負けてない……」

498: 2017/06/25(日) 13:03:19.22 ID:nZBBiPFZ.net
ダイヤ「いや、むしろ……」

果南「っ……」ググッッバコンッッ!!!!!!

聖良「くっ」ポ-ンッッ…


果南「しゃっ!!!」

聖良「くっ……」

聖良(スポンジに極めて厚くあてることで、ループドライブのような回転量とスピードドライブような速度を極めて高い次元で両立している――パワードライブ)

聖良(今までは当てればなんとかなったけど、あてるだけじゃラケットが弾き飛ばされるような感覚)

聖良「ふぅ……」

聖良(急に技術全体が、繋がった……)

聖良(弱点のバックハンドの繋ぎも、荒々しいけど思いっきり攻められるボールじゃない)

聖良(なにより、フォアが……っ)ギュインッツ

果南(バックサイドが弱点だからって、さ)

聖良(フォアに振った後の、バックへのドライブよ……そこから、追いつける、わけ……)

シュッッ……

499: 2017/06/25(日) 13:04:33.52 ID:nZBBiPFZ.net
果南「ふっ!!!」バコ-ンッッ!!!!

聖良「なっ……」

聖良(あの体制から回り込んで逆クロスに、スピードドライブ……)

 

果南「――ま、結局私にはこれしかないからさ」


 


ワ-ッッ!!!!!!!

11-7


聖良(全く反応出来なかった……つくづく、面白い人達です。Aqoursのみなさん)


鞠莉「やったー!!!!」

鞠莉「完全にノータッチ! 打ち勝った!!」

千歌「果南ちゃんの決め技!!!」

千歌「……すごい、すごいよ果南ちゃん」


梨子「ひょっとして、ひょっとするんじゃ」

善子「……」


果南「ふー……いける、このまま頭の中空っぽにして……」

500: 2017/06/25(日) 13:06:18.72 ID:nZBBiPFZ.net
果南「相手のサーブはわからないけど、なんとかコートに入れて、あとはドライブで打ち合うだけ」


果南(打ちにくいボールばかりだけど、なんとかしてみせる……)


鞠莉「果南……がんばって……」


聖良(いいでしょう、付き合いますよ。ドライブの"打ち合い"……私も、大好きですから)

果南(さあ何がくるかな)


聖良(――ただ)キュパッッ


果南(ここに来てロングサーブ!! 貰ったっ!!)バコ-ンッッ!!

聖良「!!」スッ…


果南(!? ――なんだ、あの……フォーム)


善子「来た……」


千歌ママ「!!」


聖良「――ふっぅ!!!!」ギュワンッッッゥ!!!!!.

501: 2017/06/25(日) 13:08:00.66 ID:nZBBiPFZ.net
果南「!?」

果南(ドライブ、これは……)

ギュルルルルッッポ-ンッッ

果南(真横に、跳ねた……!?)スカッ…

果南(あの軌道で真横に跳ねるなんて……)

果南(そっか、これが噂の)

果南「ごく……」

果南(ちょっと……想像以上すぎる、かな)ダラリ…

 

聖良(――打ち"合い"になるかは、わかりませんけどね)
 


善子「シュートドライブ……」


聖良(沢山動いて動いて……最高の踊りにしましょう?)フフ…

502: 2017/06/25(日) 13:10:22.15 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇


理亞「姉様は天才」

理亞「誰が見てもわかると思うけど」

曜「うん……」

理亞「理想的なフォームに繊細なボールタッチ、力強さと荒々しさの中に繊細さが絶妙なレベルで絡み合ってる」


理亞「……小さな頃からそうだった。私は姉様が凄かったから、つられて卓球を始めた」

理亞「姉様は日に日に、どんどん強くなったけれど、私はそうじゃなかった。単なる一般人、初めた時期が早いってだけ」

理亞「嫉妬とかは、しなかった。姉様が凄いのは、私の中じゃ当たり前だったしね」

理亞「でも、練習した。姉様よりも誰よりも。才能なんかで決まるだなんて……嫌だったから、私に才能がないだなんて言ってきた大人達を見返したかったから」


理亞「姉様と比べて才能がないのは、認めるけど」


曜「……」

503: 2017/06/25(日) 13:11:33.74 ID:nZBBiPFZ.net
理亞「……私も段々強くなった。練習が身を結んだんだって、思った。北海道じゃ無敵の鹿角姉妹だなんて言われて、次第に全国に出ても言われるようになっていった。まあ、結局姉様には勝てなかったけど」

曜「どうして、そんなに勝ちたかったの……お姉さんはやっぱり、特別?」

理亞「姉様に勝つって決めたのは最近なの。姉さんは、負けなくちゃいけなかったから」

曜「?」

理亞「姉様は怪我、してるの……」

曜「それって、肘……?」


理亞「……知ってるのね、利き腕の、左肘よ。姉様が姉さんたる所以のショットを打つために小さい頃から酷使してきたから。あれだけはどう見ても不自然なフォームだしね」


理亞「怪我をしたのは中学三年生の最後の時、そのせいで高校一年間をほとんど棒に振った」


理亞「……でも、まだ治ってないの」


曜「……」

504: 2017/06/25(日) 13:13:43.33 ID:nZBBiPFZ.net
理亞「姉様は天才で、それでも勝ててしまうから……完全治癒していないのに、卓球を再開したからよ。どうしてかわからない、やめたほうがいいって再三言ってるのに、ぶり返しては治療しを繰り返してる」

理亞「普通のプレーならきっと問題ない、でもシュートドライブだったりチキータだったり肘を酷使する技術を使うと……いつぶり返しだっておかしくない」

曜「……だから、聖良さんを倒す、の」

理亞「一度も負けなかった私に負けたら、少しは自分の状況がわかると思って。私の言葉に――耳を傾けてくれるって、思って」



 

理亞「地に這いつくばってたら――空に声は届かないの」

 

 

理亞「……」


理亞「姉様はこんなところで人生を台無しにしていい人じゃないの! 私は、私は……姉様のために、姉様に勝たなくちゃいけなかったの!!!」

曜「……っ」


理亞「――でも、あんたに負けた」

506: 2017/06/25(日) 13:16:20.40 ID:nZBBiPFZ.net
理亞「どうして……わたしは、誰よりも練習したはずなのに。どうして映像だけ見て私をコピーした人に、ちょっと本気でやっただけの人に負ける、どうして、どうしてどうしてっっ!!!」

曜「っ……」

理亞「っ……」フルフル…


理亞「――どうしてあんたなんだ!!」


理亞「なんで、そんなに馬鹿げたモノを……対して欲しくもないあんたが持ってるんだ!!! 私はずっとずっと!! ……なんでそんな才能を持ってて……なんで、なんで!!!」ウル……


理亞「――なんで私は……っ」


理亞「馬鹿、みたいじゃないか……っ」フルフル…

曜「理亞ちゃん……」

曜(私は……)

理亞「あんた……水泳とか、高飛びとかも凄いんでしょ……なんで、なんでそんなに……色んなものを持って、奪う、んだ」

理亞「ぅ……ぅ」グス…

曜(うば、う……)

曜「っ……」


曜(……才能、か)

507: 2017/06/25(日) 13:18:36.78 ID:nZBBiPFZ.net
理亞「……ごめん。みっともなさすぎた」

曜「ううん……」

曜「理亞ちゃんは、凄いと思うよ」

曜「胸張って努力したっていえること、それだけ一つのことに打ち込めたこと……必氏になれたこと……すごいことだよ」

理亞「は……」

理亞「結局負けたら、意味ないって」

曜「その気持ちもわかるけど、でも……きっとそれだけじゃないって思う」

理亞「なにそれ……」

曜「多分……きっと理亞ちゃんだって、感じてたこと、あると思うから、言わない」

理亞「わけわかんない……」

曜「そっか……。ともかく、さ。勝つよ聖良さんに。私が勝つ」

曜「聖良さんにだって、勝ってみせる」


理亞「……無理、とは言わないわ。もう」


理亞「あなたがそう言ってくれるなら、私も少しは救われる。姉様は肘を怪我してるから……痛みが出てきたらチャンスくらいなら、あると思う」

508: 2017/06/25(日) 13:19:17.24 ID:nZBBiPFZ.net
理亞「もしずっと万全なら、誰も勝てるわけない」

曜「……うん」

曜「理亞ちゃんのプレーを間近で見ることが出来たから私は今ここにいるの! だから、本当に感謝してるよ」

曜「後は理亞ちゃんの分まで……私もがんばる!」

理亞「ええ……」

理亞「……」

理亞「……姉さんと松浦って人の試合、もうとっくの前に始まってるけどいいの」

曜「へ……あ、やばいっ!!!」

理亞「早く行って、ちょっと一人にさせてよ」

曜「……うん」

曜「じゃあ、また!」タッタッタッ

理亞「……はぁ」

理亞「みっともないにも、ほどがある」

理亞「才能がないだなんて……そんな誰でもわかるような、簡単なことで、当たって……」

理亞「でもなんだか……いい気分」

理亞「あの人に負けたのだけが……幸せなことかも」

理亞「ぅ………うぅ……」

510: 2017/06/25(日) 13:20:38.65 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

曜「ハッ……ハッ……どうなってる!?」

千歌「あ、曜ちゃんどこ行ってたのさ!!!」

曜「ごめん!」

曜「っ……!!」

5-11


曜「セット数は……1-3……」

曜「そっ、か……終わっちゃった、か」


果南「ありがとうございました」ギュ

聖良「ありがとうございました」

果南「強いね、やっぱり」

聖良「いえ、そんなこと」

果南「楽しかったよ」

聖良「私もです」

聖良「あなた達の努力が、伝わってきたみたいでした」

果南「あはは……そう思ってくれたなら嬉しいけど」

聖良「松浦さんは三年生でしたよね」

果南「うん」


ペコリ


聖良「お疲れ様でした。今後の人生であなたが卓球に携わるかはわかりませんが……私としては、辞めないで趣味としてでも続けて欲しいと思います」

511: 2017/06/25(日) 13:21:42.89 ID:nZBBiPFZ.net
果南「あ、頭下げないでよ」

聖良「すみません、あなたの最後の相手を勤めさせて頂いたので……。今日はありがとうございました」スタスタ…


果南「もう……卑怯なことするよね全く」ウル…

果南「強さに人格まで備わってるとか……隙なしにも程があるって」

果南「あー、負けちゃったなあ……」クル…


千歌「果南ちゃんお疲れ様ー!!!」

鞠莉「かっこよかったわよー!!」

ダイヤ「ナイスプレーでしたわ!!」


ワ-ワ-!!


果南(会場が……こんなに)


果南「はは、まだ4回戦だってば。ただ一般の選手が、第一シード選手に負けただけでしょ」


果南「全く……大袈裟……なん、だから」ウル……ギリリ…


果南(本当……幸せ者だ)

512: 2017/06/25(日) 13:22:37.03 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇


善子「おめでと」

曜「ん」

善子「果南さんが負けたからあんまりはしゃげないけど」

曜「あはは……」

善子「私たちだっていつ負けてもおかしくない」

善子「あなたはそれを跳ね飛ばしたけど」

曜「運が良かったね」

善子「運なんかじゃないでしょ」

曜「そうかな」

善子「ええ」

善子「今後何回やったって結果は同じ」

曜「……」

善子「あれがあの人の限界」

善子「そしてあなたはまだ」

曜「……だから、私はそんなんじゃないって」

513: 2017/06/25(日) 13:23:48.70 ID:nZBBiPFZ.net
善子「そう……」

曜「さっき理亞ちゃんと話してきた」

善子「え?」

善子「最低ね」

曜「やっぱりそう思う?」

善子「当たり前」

曜「でも良かったよ。私は色んな人の想いを砕いて、ここにいる。色んなものを奪ってここにいる。それが改めて認識出来た」

曜「わかってたけどね。高飛びでもそうだし」

善子「……」


曜「――だから勝つよ」


曜「私が砕いた想いは、そうすることでしか、報われないでしょ。飛べない人の分まで、飛べる人が精一杯高く飛ぶんだ」


 

曜「――それがスポーツだから」


  


善子「ええ……その通りね」

514: 2017/06/25(日) 13:25:50.62 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

千歌「ふー……っ」


 ついに6回戦。


 シードを破ってきたという4回戦の相手は、ほとんど苦労することなく勝利していた。同様に5回戦、1セットは落としたけれど、冷静にプレーしたら勝利はついてきていた。

 確信を、持った。

 私は通用している。十分すぎるほどに。

千歌(ここを勝てば、一日目は終わり……っ)
 
 6回戦も、佳境に差し掛かっている。

 フルセットで迎えた10-6。

 相手はダイヤさんの守備力に、より攻撃的なプレーを加えたようなスタイルだった。

 ここに来てカットマンか……と戦型がガラリと変わることに少し沈んだけれど……思い返して見れば、散々ダイヤさんや志満姉と打ってきたんだ。カットだって苦手じゃない。


 チャンスボールをあげたら撃ち抜かれることも多かったから、フルセットまでもつれちゃったけど。現在の状況はかなり良い。

517: 2017/06/25(日) 13:27:33.38 ID:nZBBiPFZ.net
千歌(ラスト……!!!)

 バック前に、短いナックルサーブを出す。

 相手はバック面に貼った粒高でそれを短く処理。強く打てない、手首のスナップを効かせてシートだけで持ち上げる。

 きゅぅっと、ラバーに吸い付いて回転がかかる前に前へ運び出す。

 弧線を描ききらない深く入るドライブを、相手はバック面でカット。

 粒高のカット……私はさっきのドライブであんまり回転は掛けていない。

 粒高ラバーはカットマンと言えども裏ソフトみたいに自分から強烈な回転をかけるのは難しい。

 そう、だから私は深くゆっくりなボールを運び込むようにして送ったんだ。

 それを粒高面でカットさせて、返ってくるのは――。

千歌(回転の弱いチャンスボール!!!!)
 

 ラケットに伝わる衝撃。かこーんっっ、と心地よい音が響いた。

 
 

 それが二日目への船出合図だった。

519: 2017/06/25(日) 13:34:35.21 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

ホテル


千歌「んー……!」ノビ-


千歌「千歌もこっちで寝ようかなあ」

曜「部屋取ったの勿体無くない?」

千歌「でも一人は寂しいって」

曜「確かに」


千歌「じゃんけんで負けたから文句言えないけどさあ」

千歌「それにしても1人は寂しいー!」バタバタ

曜「変わろうか……?」

千歌「んーん、いい」

千歌「1人部屋だと色々考えられるから」

曜「……」

曜「明日だね」

千歌「うん……」

千歌「まさかなあ……よりによって曜ちゃんと試合しなくちゃいけないだなんて。」


曜「だね」


千歌「同じ大会に出てれば仕方ないけどさ……なんか、凄いよね」

曜「うん……凄い」

曜「……勝つよ」

千歌「私だって……負けない」

千歌「楽しみ」

520: 2017/06/25(日) 13:36:09.98 ID:nZBBiPFZ.net
曜「私も」ニシシ…

曜「……私さ、果南ちゃんが試合してる時ね……理亞ちゃんと話してたんだ」

千歌「理亞ちゃんと……?」

曜「うん」


◇――――◇


千歌「そんなことが……」


曜「うん……」

曜「だから……私は負けられないよ」

曜「今話したのは、もし私が千歌ちゃんに負けちゃったら……理亞ちゃんの分まで頑張って欲しいから」

千歌(才能……)

 

理亞『――一生地に這いつくばるへビだっている』

 

千歌「理亞ちゃん……」


千歌「そっか、だから聖良さんは」


千歌(……みんな、みんな何かを抱えて)


千歌「……さいっこうの試合にしよ!」


千歌「見てる人たちが、何かを感じて貰えるような!」

曜「もちろん!」

521: 2017/06/25(日) 13:37:08.55 ID:nZBBiPFZ.net
千歌「よーし……部屋に戻ろうかな!」


シャアアアアアア…

千歌「……ねえねえ、梨子ちゃんシャワー浴びてるでしょ?」

曜「うん」

千歌「ちょっと……覗いてみよ」

曜「え……」

曜「賛成」

千歌「流石」

ソ-…

梨子「ふー……」


梨子「――え、な、なんでふたりとも!?」バサッ


千歌「にしし」

梨子「んもうっ!! 馬鹿!!」バタンッ

曜「あはははっっ」

千歌「よーし怒られるの怖いから戻ろーっ」

千歌「あとはよろしくねっ」

曜「え、あ……」


梨子「曜ちゃんあとで説明してよね!!」

曜「なるほどぉ……」シュン…


千歌「きししっ」

522: 2017/06/25(日) 13:39:05.62 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

果南「……」

鞠莉「寝た?」

果南「寝てないよ」

鞠莉「疲れたかなあって」

果南「まあ多少疲れたくらいだって」

鞠莉「そっかそっか」

鞠莉「……ね、ダイヤのこと呼んで来ていい?」

果南「え、いいけど……なんで」

◇――――◇


ダイヤ「果南さんの聖良さんとの経験は、みんなにも役に立つと思います」

ダイヤ「知識として入れておいた方がいいのは間違いありませんから」

ダイヤ「あとは、三人を信じましょう」

果南「うん……」

果南「いやあほんと……終わっちゃったね」

524: 2017/06/25(日) 13:42:19.02 ID:nZBBiPFZ.net
鞠莉「……でも、楽しかったでしょ」

果南「うん……最後はあの人に負けたのは、よかった」

果南「でもやっぱりさ……悔しかった……」ウル…

果南「ああ……ごめん、私ったら」

鞠莉「うん……そう思えるのはすっごく、貴重なこと……果南が本気でやってきた証拠」

鞠莉「静岡の県大会の決勝で負けた時どうだった? 私と顧問の先生1人だけ応援してて、相手はたくさんの部員の応援に押されてた」

ダイヤ「……」

鞠莉「負けた時、果南は泣かなかった。悔しそうでもなかった。やっと解放されたみたいな……」

果南「ぅ……」

鞠莉「でも今回は違った……ね」ギュッ

果南「ぅ……うぅ……」

ダイヤ「お疲れ様……果南さん」ギュッ

ダイヤ「その涙が、あなたの証明よ」

525: 2017/06/25(日) 13:44:36.18 ID:nZBBiPFZ.net
果南「鞠莉達が、みんなが、あんな風に私のこと……救ってくれた、から」

鞠莉「――だって私はあなたのストーカー、なんでもお見通しなのよ」

果南「もう……迷惑だなあ……はは」

鞠莉「知ってる。でもこれが私の幸せだから」

果南「//」

ダイヤ「……明日は精一杯、応援しましょう。みんなで笑えるように」

果南「うん」

ダイヤ「では、部屋に戻ります」

果南「おやすみ」

ダイヤ「おやすみなさい」バタン


果南「私も……ちょっと歩いてくるね」

鞠莉「おっけー、ベッド暖かくしてるね♡」

果南「ベッド二つあるんだから意味ないでしょ」

鞠莉「明日は応援だけなんだから、一緒のベッドに決まってるでしょ♡」

果南「あーはいはい」

526: 2017/06/25(日) 13:46:38.75 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

バタンッ


千歌「これで明日の試合は有利になること間違いなしなのだーっ」ニシシ

スタスタ


果南「――ん、千歌」


千歌「あ、どうしたの?」

果南「いや、ちょっと外出てて」

千歌「?」


千歌(目……赤い)

千歌「……大丈夫?」


果南「あ、ああこれ……」


果南「……ちょっとさ。なんていうか……三年生で話してたんだけど」

千歌「……」


果南「なーんか、辛気臭くなっちゃったっていうかさ」

527: 2017/06/25(日) 13:47:14.31 ID:nZBBiPFZ.net
果南「……まあ、最後だからだけど、ありがとね。千歌が私にまた……夢を見れる場所をくれたから」


千歌「そんな……」


果南「声かけてくれて……嬉しかったよ」

千歌「うん……」

千歌「あの、果南ちゃん……!」


千歌「お疲れ様!!」


千歌「果南ちゃんがね、居てくれたから私達はまとまったんだと思うし……果南ちゃんのプレーかっこいいなって思って……あんな風になりたいとか、モチベーションも上がったし」


千歌「だから、果南ちゃんが頑張ってくれた分まで……ここまで負けちゃったみんなの分まで、わたし、頑張るからっ!!」


千歌「だから……」

ギュッ

528: 2017/06/25(日) 13:47:49.75 ID:nZBBiPFZ.net
果南「……」ウル…

果南「もう、成長しちゃってさ」ワシャワシャ

千歌「当たり前だよ……」

果南「応援してるから……全力で戦って来なよ。絶対……悔いだけは残らないように」

果南「千歌が言う輝きっていうのを、私たちに見せて」

千歌「うんっ……」

果南「よしっ、早めに寝るんだよ。1人部屋寂しいならこっちくる?」

千歌「ううん、へーきだよ。成長したもん!」

果南「ふふ、そうだったね」


果南「じゃあ、おやすみ。また明日」


千歌「おやすみっ」

529: 2017/06/25(日) 13:49:11.33 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

善子「あーもう赤ちゃんじゃないんだから私は……もうダイヤさんてば、ほんと過保護ね……」

善子「飲み物くらい開けられるってば」

善子「怪我するといけないからって……プルトップくらいで手なんか切らないわよ」

善子「あんなお姉さんと一緒にいるのは中々大変そうね……」

善子「まあそれだけ期待されてるってことかしら」


スタスタ

善子「ふぁ……水買って寝ましょ」

ピタッ

善子「……え」

聖良「……え」

善子「か、鹿角聖良!」

聖良「津島さん」

聖良「ここのホテルだったんですね、他の皆さんも?」

善子「そ、そうですよ一応」

530: 2017/06/25(日) 13:50:03.74 ID:nZBBiPFZ.net
聖良「なるほど、偶然が重なりますね」

聖良「あなたと私が明日、準決勝で試合出来るのも……偶然だと思いますか?」

善子「……」

聖良「そんなに警戒しないでください」

聖良「全部あなたが努力してきたから、必然です」

聖良「だから私は楽しみですよ」

善子「そ、そんな余裕なんて見せられないくらい……圧勝してみせる」

善子「会場の空気とか関係ないから」


 

聖良「余裕そうに見えましたか? ――そうでもないんですけど……」

 
 

善子「……」チャリンチャリン…ガタンッ


善子「とにかく、あなたがすっごく強いから私だって頑張ったし……明日、見せつけます、から」

532: 2017/06/25(日) 13:52:24.96 ID:nZBBiPFZ.net
聖良「ええ……」

善子「……じゃ」スタスタ

善子(うぅ、なんで鹿角聖良がいるのよぉ。運が悪いというかなんというか)

善子(でも……私はあの人を倒すためにやってきた……今度こそ、リベンジだ……)

善子(早く寝よ……)


聖良「ふぅ……」


聖良(気合い……入れないとね)スタ

ドシンッ

聖良「きゃ……す、すみませ――」

千歌「あ……え!?」


聖良「あはは……」

533: 2017/06/25(日) 13:54:02.63 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

梨子「渡辺さん。どうして覗こうとしたんですか」

曜「単なる出来心で!」

曜「ほら! 梨子ちゃん着替えの時も時々恥ずかしそうにしてるし……ほら、あ! なんか新しい下着着てるなーって時とか! 今回は赤かあ、なんて……」

梨子「いちいち言わなくていいから//」


曜「だからお風呂覗いたらどんな反応かな! って、ほら! 至極当然というか!!」


梨子「おかしいから……」


曜「なんで隠すの? ほんとスタイルいいのに」

梨子「も、もう……この話はやめる///」


曜「えー?」ニヤニヤ


曜(ふふ、恥ずかしがり屋の梨子ちゃんじゃ渡辺さんには敵わないのだー)


梨子「そろそろ寝よ、時間もいい感じだし……疲れたでしょ?」

534: 2017/06/25(日) 13:55:04.57 ID:nZBBiPFZ.net
曜「あー……疲れたけどなんか、興奮してた方が多いから」

梨子「興奮……」

曜「試合中はさ、考えるってより感覚でぱーんって感じだから結構興奮してるんだよね」

梨子「へえ……」

梨子「あの試合前とか試合中……人を頃しそうな目してる時も?」


曜「ひ、人を頃しそうって……」


梨子「あれ、相手を睨んでるんじゃないよね……?」

曜「ち、違うよ! 集中すると……」

曜「よく大丈夫? って聞かれる……」


梨子「そういう顔してるもん……」


梨子「明日――千歌ちゃんと、だね」

曜「うん」


曜「なんていうか、神様はいるんだなって……」

535: 2017/06/25(日) 13:56:12.37 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇

ホテル 千歌の部屋


千歌「いやー偶然偶然!」

聖良「さっき津島さんにも会ったの」

千歌「そうなんだ、まさか同じだなんてねー」


聖良「私が津島さんに勝つと仮定して、あなたが言ったことの有言実行まで……あと一勝ですね」

千歌「うん……」

聖良「想像を超える努力だったはずです」

聖良「あなたや他の方の成長速度は普通じゃない。驚異的です」

聖良「あなたに聞きたいの。何が……そこまであなたを動かすんですか?」


聖良「――どうして……スクールアイドルを、卓球をしているんですか」


千歌「……」

千歌「どうして、か。どうしてかな」

536: 2017/06/25(日) 13:57:57.54 ID:nZBBiPFZ.net
千歌「負けて悔しかったから。勝つと楽しいから……これもすっごく重要なんだってことに、気がつきました」

千歌「でも結局は、みんなで何か一つになって……夢中になれたから、ここまで来れたんだと思う。一言で言ったら、楽しいからやってるって言うのかな。あ、でもこれ、楽しいって言うのかな、わかんないけど」


千歌「楽しいにも種類があって……何も考えずにただ遊び同然の楽しいと……心地良いプレッシャーの中で必氏に必氏に目標に向かってがんばる楽しさ……私は二つ目に支えられてここにいるんだと思う」


聖良「……なるほど」


千歌「必氏になってる姿って、かっこいいから! とってもかっこよくて綺麗で……人が頑張ってるところって、素敵だなって、思うんです」

537: 2017/06/25(日) 13:59:23.60 ID:nZBBiPFZ.net
千歌「私は……とっても恵まれてるんだなって。色んなことに、感謝してるの」

千歌「前に聖良さん、言ってたよね。勝利を手にした人が見せる笑顔が最高なんだって。私もそう思うけど……私はね、必氏になって何かをしてきた人が見せる笑顔が最高なんだって思うの。勝ち負けは決まっちゃうけど……そこに差はないって思ってる」

聖良「……勝ちは目的では、ないと」

千歌「そこまでは言わないし、言えないよ」

千歌「勝つことが重要だってのも、わかる」


千歌「私はみんなに見せたいの、私達はこんなに頑張ってきたんだよって。私達が、浦の星女学院の生徒が、ここで精一杯輝いているんだってこと!」

538: 2017/06/25(日) 14:00:37.68 ID:nZBBiPFZ.net
千歌「きっとそうやって見せた笑顔は……誰かに伝わってくれると思うし。浦の星女学院のこと……どこかで覚えていてくれるかもしれないから!」

聖良「廃校、してしまうんですよね」

千歌「うん」

聖良「悲しくはないの?」

千歌「まあ、悲しいかも。でも、おっきなところで決まったことを私たちがなんとか出来るわけじゃないし」

千歌「だから……私たちなりの、理由かな。みんなに、浦の星女学院のこと……知ってもらいたくて」


聖良「いい目的ですね……尊敬します」


千歌「えへへ、でも実を言うと……自信が欲しいだけなんだ。だから……自分勝手だよ?」


聖良「自分のため、と?」

千歌「それも、おっきいよ」

聖良(自分のため……)

539: 2017/06/25(日) 14:01:30.39 ID:nZBBiPFZ.net
聖良(負けられないのは、同じね)


千歌「――聖良さんは? 聖良さんは……どうして卓球をしているの?」


聖良「え?」

千歌「スクールアイドルを始めた理由はアライズの影響で、楽しいし、アライズみたいに勝つためでしょ? ……卓球はなんのためにしているの?」

千歌「小さい頃から勝ててれば続けるのが普通なのかな?」

聖良「そう……ですね。ええと」


聖良「――みんなのため、かな」


千歌「?」

聖良「ああ、みんなっていうのは……私を支えてくれたり期待をしてくれている人のためで」

千歌「へえ……すごい!」

千歌「ねえねえ……もっと話聞いてもいい?」

聖良「え、わ、私の?」


千歌「うんっ!!」

540: 2017/06/25(日) 14:03:48.87 ID:nZBBiPFZ.net
 、

541: 2017/06/25(日) 14:04:04.58 ID:nZBBiPFZ.net
◇――――◇


千歌「……あー、なんか色々聞けて楽しかった」

千歌「みんな色々なもの、抱えながらコートに立つんだなって」

聖良「私の話なんか、面白かった?」

千歌「当たり前だよ!」

聖良「そっか……」

千歌「ええと、大声では言えないけど……もし、もし私が聖良ちゃんと対戦することになったら……その時はよろしく!」

聖良「うん」

聖良「ではまた明日。流石にそろそろ眠らないと」

千歌「あ、そうだったね」

千歌「ごめんね付き合わせて!」

聖良「ううん、いい刺激になった」

聖良「おやすみなさい」ペコリ

556: 2017/06/26(月) 02:47:11.71 ID:QDhp+UwH.net
あの。

このスレの容量が少なくなってきているみたいで>>537くらいで一レスに込められる文字数限界に達しているみたいです。みるみる減少しているので、このままではとてもではありませんがアレなので、次のスレに移転します。


前例があるかはわかりませんが、どうかご了承を。


今は無理なので、朝に次スレ建てて、続きを投下しようと考えています。

【ラブライブ】千歌「――私と卓球、しませんか!?」【後編】

引用元: 千歌「――私と卓球、しませんか!?」