1: 2016/06/30(木) 17:47:00.891 ID:XSLIlMxC0.net
本田「もういっそプロデューサーと駆け落ちしちゃおっかな……」
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(9) (電撃コミックスEX)

9: 2016/06/30(木) 18:04:20.367 ID:XSLIlMxC0.net
2ちゃんねるを眺めながら

本田「なんでこんなことになっちゃったんだろう……。やっぱりアニメが……」

本田「ううん、そんなの関係ない。私がだめだめだからこうなっちゃったんだよね……」

コンコン

本田「!」

10: 2016/06/30(木) 18:11:21.022 ID:XSLIlMxC0.net
武内P「本田さん?」

本田「ぷ、プロデューサー?! どうしたのいきなり!」

武内P「いえ、本田さんがライブの資料を探したいと言っていたのでデスクを貸したはいいのですが、そろそろ大丈夫ですか?
目的のものは見つかりましたか」

本田「あ、ああ……」

本田(そうだった……忘れてた……)

本田「うん、もう大丈夫だよ」

武内P「……?」

14: 2016/06/30(木) 18:15:00.665 ID:XSLIlMxC0.net
本田「ねえ、プロデューサー……」

武内P「はい?」

本田「アイドルって、好きになってくれるひともいれば、嫌いになるひともいるもんだよね……」

武内P「それは。。。。」

本田「みんなに好きになってもらおうなんて、ダメだよね、欲張りだよね……」

武内P「本田さん。。。。」

16: 2016/06/30(木) 18:18:16.188 ID:XSLIlMxC0.net
本田「……」

武内P「あの、私は」

本田「なんでもない!ごめんね、急に!私、レッスン行ってくる!」タッタッタッ

武内(……)

武内(ん? デスクトップに資料は置いておいたはず。なぜネットの履歴が残って……)

武内「…………」

武内「これは。。。。」

20: 2016/06/30(木) 18:22:41.248 ID:XSLIlMxC0.net
-- レッスン室 --

「「お疲れ様でしたー!!」」

本田「うーん、疲れたぁ!帰りにコンビニで甘いもの買って帰ろうかなー!」

島村「未央ちゃん、甘いもの大好きですよね」

渋谷「いつも買ってるもんね」

本田「そ、そうかな? ほら、でもご褒美って大事じゃん! みんなも頑張ったんだし、一緒に買って帰ろうよ!」

21: 2016/06/30(木) 18:24:44.156 ID:XSLIlMxC0.net
渋谷「そんなに甘いものばっかり食べてたら太るよ」

本田「!」

島村「ですよね。アイドルなんだし、ちょっと節制も必要かもですねー」

本田(………)

本田(本田……デブ……検索……)ササササッ

23: 2016/06/30(木) 18:27:01.764 ID:XSLIlMxC0.net
本田「!!!!」

本田(本田は体だけ……)

本田(よく見りゃデブ……)

本田(中の人も……叩かれてる……)

島村「どうしたんですか? 急に携帯出して……顔真っ青ですよ?」

渋谷「体調悪いの?」

本田「う、ううん! なんでもない! て、てゆーか私もう帰るね! お疲れ!」

24: 2016/06/30(木) 18:29:22.563 ID:XSLIlMxC0.net
-- 帰り道 --

本田(なにこれ……アンチスレッド?)

本田(本田はアイドルの自覚がないクズ)

本田(本田はでしゃばってうるさい)

本田(あいつが出るとイラつく)

本田「…………」

本田「うっ……うっ……」

本田(何やってるんだろう私。。。。)

27: 2016/06/30(木) 18:32:34.560 ID:XSLIlMxC0.net
武内「本田さん!」

本田「ふぁ?!」

武内「はぁ、はぁ……。ようやく追いつけました」

本田「プロデューサー?! 今度はどうしたの?!」

本田(ってゆーかここまで走ってきたの? スーツで?)

武内「その、こういうことはデリケートな話題なのであまり大きな声では言えないのですが……」

本田「え?」

武内「とりあえず喫茶店に入りましょう。いくつかお話があります」

本田「う、うん………」

31: 2016/06/30(木) 18:41:02.368 ID:XSLIlMxC0.net
-- 喫茶店 --

武内「アイスコーヒーでよろしいですか」

本田「うん……」

武内「アイスコーヒーを二つ、お願いします」

本田「……」

武内「……」

本田&武内「「あの」」

本田「あっ……」

武内「どうしました? お先にどうぞ」

本田「うん……あのねプロデューサー」

33: 2016/06/30(木) 18:44:30.903 ID:XSLIlMxC0.net
本田「最近、私エゴサしちゃう癖がついてて」

武内「はい」

本田「お、怒らないの?」

武内「まあ、よくあることですから。それで?」

本田「私が思ってる以上に、私みんなに嫌われてるんだなあって、わかっちゃったんだ」

武内「……」

本田「もちろん、全員が全員じゃないことはわかってるよ。でもね、やっぱり悪口っていうか、悪評ばっかり気になっちゃって……」

本田「レッスンしてたり、みんなといるときは平気なんだけど、一人になると頭がぐるぐるしちゃうの」

本田「だから何だって話だし、どうしようもないんだけど……なんか……もやもやしちゃって……」

34: 2016/06/30(木) 18:47:53.403 ID:XSLIlMxC0.net
本田「もうアイドルやめるなんて言わないよ。だけど、こういうのって慣れてなくて」

武内「はい。私も本田さんはそういう方ではないと思っています」

本田「そういう方?」

武内「もちろん一度は誰でもアイドルという職業から逃げ出したくなることはあると想います。
   本田さんもそうでしたね。でも今の本田さんはあのころとは違います。だからこそ悩まれてるのだと」

本田「うん……」

武内「とりあえずエゴサはやめてください。もっとも……」

本田「え?」

武内「いえ……」

武内(やめろと言ってやめられるくらいならやめてるはずですが……)

35: 2016/06/30(木) 18:51:49.410 ID:XSLIlMxC0.net
武内「それと、これはまた別件ですが」

本田「うん?」

武内「ソロデビューを後押しするお話が出ています。追加シングルの発売です」

本田「ああ、うん……」

武内(やはり前向きに活動できていませんね……)

武内「それで、プロモーションビデオの撮影の話があがってるのですが」

武内「今回は野外での撮影を考えています。本来であればスタッフをまとめてロケハンするのですが」

武内「私と二人でロケハンしましょう」

本田「ふぇ!?!?」

37: 2016/06/30(木) 18:54:36.041 ID:XSLIlMxC0.net
本田圭佑「ふぇ!?!?!?」

40: 2016/06/30(木) 18:58:25.233 ID:XSLIlMxC0.net
本田「プ、プロデューサーと二人で?! な、なんで??」

武内「純粋に予算があまり出ていないのです。残念ですが、本田さんはソロデビューしてからまだ日が浅いですから。
   私はもともと制作進行あがりですので、
   基本的におさえなくてはいけないところは抑えられます。
   本田さんに同行してもらうのはあくまでロケーションと合うかどうかを確認するためです。
   いやですか?」

本田「い、いやじゃないよ。でも……」

本田(それって……)

本田(プロデューサーと二人で1日デートするってこと???)

本田(た、確かに冗談でライブ終わったらデートしようとか言ったかもだけど……)

本田(こんな精神状態で二人っきりになったら、どうなっちゃうかわかんないよ!)

42: 2016/06/30(木) 19:06:25.977 ID:XSLIlMxC0.net
武内「企画は恋愛モノのストーリーテイストということで決まっています。
   こちらがPVの企画書です」

本田(恋人と一人称視点でデートするドキュメンタリー風PV……)

本田(彼氏の視点をユーザーに与えて共感を呼ぶストーリーモノ……)


武内「場所もだいたいの検討はつけてあります。
   それで、非常にタイトなスケジュールで申し訳ないのですが、明後日1日を抑えられますか?」

本田「う、うん……」

武内(本来ならばこういったケアはマネージャーの仕事ですが……)

武内(今回の件はあとをひきそうですからね……)

武内「では、そういうことで。音源も明後日には渡せると想います」

本田「……」

武内「本田さん?」

本田「は、はい!」

武内「らしくないですね。こういう企画は得意だと思っていましたが」

本田「も、もちろんだよ! うん、やるよ! 頑張るね!」

武内(……)

44: 2016/06/30(木) 19:10:55.013 ID:XSLIlMxC0.net
-- 本田家 自室 --

本田(はぁ〜……)

本田(なんだろ、普段ならああいうお話きたらテンションマックスになるのに)

本田(全然テンションあがらないや)

本田(………………………)

本田(本田……歌唱力……検索……)カチカチカチ

本田「運営のゴリ推し……」

本田「本田がアイドルをやりたいのはただチヤホヤされたいだけ……」

本田「…………………ぐす」

本田「もう寝よう………」

45: 2016/06/30(木) 19:16:54.138 ID:XSLIlMxC0.net
-- ロケハン当日 --

本田(駅で待ち合わせって言ってたけど……)

本田(てゆーか、エゴサはじめてからサングラスと帽子がないと外に出られなくなっちゃった……)

本田(結局昨日もおとといもエゴサばっかりしてたし……)

武内「本田さん!」キキーッ

本田「あ」

武内「すいません。ちょっと道が混んでいまして。乗ってください。すぐに向かいましょう」

本田「こ、これ、この車……」

武内「どうかしましたか?」

本田(どうみてもBMWだよね……プロデューサーってこういう趣味だったっけ……)

武内「ああ……」

武内「シンデレラプロジェクトの成功で、まあちょっと小銭をいただきまして。
   使い道もないので買ってみたんです。ちょっと身の丈にあってませんでしたかね」

本田「そ、そんなことないけど、私乗ったことない……」

武内「ただの車ですよ。さあ、どうぞ」

47: 2016/06/30(木) 19:21:54.139 ID:XSLIlMxC0.net
武内「まずは日が出ているうちに公園に向かいましょう。PVでは冒頭にあたるシーンです」

本田「う、うん……」

本田(……なんでだろ)

本田(いつものプロデューサーなのに、運転してるとこちょおかっこいい……)

本田(って! 何考えてるんだ私! お仕事お仕事!)

武内「その帽子とサングラス」

本田「え?」

武内「余計に目立ちますよ。せいぜいマスクくらいにしておいたほうがいいのでは」

本田「え? あ、い、いや、これは別に、人目を気にしてるとかそういうわけじゃなくて……」

武内「もっとも、アイドルとしては正解ですが」

本田「……」

本田「アイドルって、そういうとこちょっと面倒だよね……」

武内「職業税ですね」

48: 2016/06/30(木) 19:28:48.817 ID:XSLIlMxC0.net
武内「本田さんは、事務所から独立しようとか考えたことはなかったんですか」

本田「えぇ!? なんで?!」

武内「よくある話です。売れてくると、親御さんだったり周りから情報が入って、
   悪い知恵を与えられたりするんですよ。我々の商売は信頼で成り立っています。
   悪い言い方をすればコネですが。私がいうのも変ですが、本田さんの実力なら独立してもやっていけるのではと」

本田「それって、私に独立を勧めてる?」

武内「まさか。そんなことされたら私の首は飛んでしまいますよ。
   今やみんなが知る人気アイドルですからね。今日だっていろいろと大変なんですよ、記者を巻くの。
   単純に、あなたにはそれくらいの実力と人気があるってことを言いたいだけです」

本田「……ぅん……」

武内「不服ですか?」

本田「……わかんない、ってのが本音かな……。ツイッターやらないのも、
   ファン一人一人が私にとっては大切なのに、人気を数字で見ちゃうのが嫌で……。
   それこそ私、単純にチヤホヤされたいだけなのかなって思うときもあるよ……」

武内「言葉はときとして凶器になりますからね。本田さんは感受性が強いだけに、仕方がないことです」

51: 2016/06/30(木) 19:39:12.116 ID:XSLIlMxC0.net
本田「プ、プロデューサーだって、その……すごい売れっ子じゃん」

武内「私ですか? いえいえ、まだまだ……」

本田「そんなことないよ! シンデレラプロジェクトが潰されそうになったときだって、
   矢面にたって戦ってくれてたし、それに仕事すごいできるし、
   みんなプロデューサーのことすっごい信頼してるし……。
   私だって……」

武内「!! 本田さん、つかまってください!!」

本田「え?」

キキーーーーッ

本田「キャッ1」

武内「どこかの週刊誌の記者ですね。つけられてたみたいです。
   PVが完成すれば二束三文のネタですが、面倒なので巻きます。
   飛ばしますよ」

本田「は、はい!」

本田(なんかプロデューサー、今日はやっぱりかっこいいな……)

52: 2016/06/30(木) 19:44:15.759 ID:XSLIlMxC0.net
-- 某場所、公園 --

本田「わあ!」

本田「すっごい! PVに出てきそう!」

武内「もちろん、PVを撮るための場所ですからね」

本田「あはは、そりゃそっか。で? どう? 私との相性は」

武内「そうですね……」

武内(日光と本田さんはやはりよく似合いますね。ここならいい画が撮れそうです。
   問題は……)

武内「監督とスタッフ次第で問題なさそうです」

本田「そっかあ! えっと、ここではどういうシーン撮るんだっけ」

武内「恋人つなぎをして二人で歩くシーンですね」

本田「ふーん。あれ? でも彼氏役はいないんでしょ?」

武内「カメラが彼氏の視点ってことになってます。そうですね、ちょっと練習してみますか?」

本田「……え?」

武内「私と手をつないで歩いてくれますか」

本田「え………」

55: 2016/06/30(木) 19:51:18.563 ID:XSLIlMxC0.net
武内「いやですか?」

本田「そ、そういうんじゃなくて……」

武内「ああ、周りの目なら気にしなくても大丈夫です。記者のアタリをつけて裏で話を通しましたから、
   撮られる心配もないですよ」

本田「そおじゃなくってえ!」

本田(今日に限ってなんなの! ど、ドキドキしちゃうよ!)

本田「こ、恋人つなぎはちょっと……恥ずかしいっていうか……」

武内「そうですか。確かに、今やってしまうとPVをとったときの新鮮みがなくなってしまうかもしれませんね」

本田(ちっがーーーう!)

本田(もお、プロデューサーだからドキドキするんだよお! 気づけばか!)

武内「じゃあ、普通のつなぎ方で歩きましょう」

手を出す武内

本田「こ、小指つかんでいい?」

武内「……いいですよ。まあ、私相手ですから」

本田(いろいろ勘違いしてるーーーーーー!)

57: 2016/06/30(木) 19:56:42.600 ID:XSLIlMxC0.net
公園を歩き出す二人

本田(やばい……)

本田(これって本当にデートじゃん!)

本田(し、しかもプロデューサーかっこいいし、こ、小指つかんでるだけなのに手汗とまんないし……!!!)

武内「桜はもう散ってしまいましたね」

本田「はぅあ!?」

武内「どうしました?」

本田「え!? あ、いや、そ、そうだね! 桜……あ、そういえば音源って、もしかして車の中でかかってたやつ?」

武内「ああ、そうでした。すっかり言い忘れていましたね。デモ音源があれです。春の歌ですよ
   どうでした?」

本田「うん、すごくよかった。もう歌えるくらい覚えちゃったよ」

武内(………)

武内(エゴサの件は今は離れているみたいですね。しかし私がずっと一緒にいるわけにもいかない)

武内(何かいい解決策があればいいんですが)

58: 2016/06/30(木) 20:02:30.578 ID:XSLIlMxC0.net
武内「あ、ここですね」

本田「え?」

武内「コンテでは、ここのベンチで座るシーンがあがってきています」

本田「は、はぁ……」

武内「座ってみてください。ちょっと画ヅラを確認したいので」

本田「……ふふっ、なんだかプロデューサーが監督みたい」

武内「写真を撮って監督に送らなくてはいけませんから」

本田「よい、しょっと」

武内「手は太ももの上で重ねてください」

本田「こう?」

武内「はい。いいですね。視線はカメラではなくて遠くに。はい。それでお願いします」

カシャ

本田「どう? いい感じ?」

武内「うーん……」

武内(ちょっと小慣れている感じが出てしまっている……)

武内「私が隣に座ります」

本田「え?」

武内「横から撮りますね」

本田「う、うん……」

60: 2016/06/30(木) 20:12:09.402 ID:XSLIlMxC0.net
武内、ベンチに座る

本田(ち、近い……!!!)

武内「多分これくらいの距離感で撮る感じですかね。本田さん、私を見つめてください」

本田「み、見つめ……」

武内「ああ、そのちょっと恥ずかしそうな感じ、いいですね。
   今度は直視してみてください」

本田(で、できないよ!!!! 近いんだもん!!)

武内「? どうしました?」

本田「こ、こう?」

武内「えっと、目がキョロキョロしちゃってますね。もうちょっとじっと見つめる感じでお願いできますか」

本田「じっと見つめる……」

武内「これは動画でそのまま監督に送らなくてはいけないので。お願いします」

本田(うう……)

本田(こんなのプロデューサーじゃなかったら絶対平気なのに〜〜)

本田(がんばれ私!)

本田「こ、こう、かな……」

武内「ううん……」

武内(本田さんの元気さは出ていない……が、これはこれで新しい感じかもしれません。
   新規のファンは得られるかも)

武内「はい、OKです」

本田(こ、これがずっと続くの?! 耐えられないよ〜〜!!!)

61: 2016/06/30(木) 20:18:36.991 ID:XSLIlMxC0.net
-- 武内Pの車内 --

武内「本田さん、大丈夫ですか?」

本田「だ、だいじょぶ」

本田(……じゃないよ!! なんなんだよお、なんでこんなドキドキするんだよお!)

本田(今までプロデューサーのことそんな目で見たことなかったのに!)

武内「疲れましたか? どこかで休む時間はありますが」

本田「あと何箇所回るの?」

武内「ロケ場所候補は10箇所あります」

本田「10!? む、むりむりむり!! 氏んじゃうよ!」

武内「わかっています。あくまで候補です。確認しなくてはならないのはあとニカ所ですよ」

本田「うん……、それなら平気……」

本田(さっきの公園……)カチカチカチ

本田(あ……やっぱり私のこと見てた人がいる……)

本田(……………)

本田(思ったより可愛くない………)

本田(………………)

武内「本田さん!」

本田「は、はいぃ!」

武内「私はあくまでプロデューサーです。知らないふりはできても見過ごすことはできません。
   今はお仕事に集中してもらえますか」

本田「ご、ごめんなさぃ……」

本田(……)

本田(……思ったより可愛くない、か……)

65: 2016/06/30(木) 20:22:10.607 ID:XSLIlMxC0.net
本田圭佑(……思ったより可愛くない、か……)

68: 2016/06/30(木) 20:27:05.793 ID:XSLIlMxC0.net
-- 夕暮れの丘 --

武内「いい感じにマジックアワーに合わせられましたね」

本田「マジックアワー?」

武内「業界用語です。空の色彩が最も美しく発色する夕方と朝方の時間を指します。
   監督がどうしてもこのロケーションの画が欲しいといっていたので」

本田(確かに、ロマンチックっていうか、センチメンタルな雰囲気……)

本田「ここはどんなシーンを撮るの?」

武内「まだ監督が悩んでいるみたいです。ですので、数枚、本田さんとこの丘と空を背景にした写真を送ろうかと思っています」

本田「ふーん」

本田(……PVか)

本田(なんか当たり前にやってるけど、デビューする前はこんなことお仕事にするなんて思ってなかったな……)

本田(それから、小さいところで三人でデビューして……)

本田(ダダこねて、プロデューサーやみんなに迷惑かけて……)

本田「あれ?」

武内「! 本田さん、どうしました?」

本田「あはは、わかんない。なんか泣けてきちゃった」

武内(……)

武内「人は環境によって涙腺が刺激されるっていう話があります」

武内「思い出したくないことを思い出させてしまいましたか?」

本田「ううん、そんなことないよ。全部……全部私だから……」

武内(……)

72: 2016/06/30(木) 20:31:42.720 ID:XSLIlMxC0.net
武内「理屈でわかっていても、心では理解できないことは、あると思います」

本田「え?」

武内「アイドルになりたいっていう方はたくさんいますが、
   売れていく人に共通する部分があります。なんだと思いますか?」

本田「えっと……」

本田(なんだろう)

本田「謙虚、なこと?」

武内「もちろんそれも正解です。
   ですが、私はこう思っています。それは頭より心が賢い方です」

本田「頭より、心が賢い……」

武内「行動するとき、考えるとき、何かをやりたいと思うとき、
   頭で考えてしまう人はこの業界には向いていません。
   本当のアイドルは、心で動く人です。だからこそ、人の心を動かせるんです。
   だからこそ、傷つきやすい。そんな矛盾した存在が、アイドルなんです。
   本田さんは、きっと心がとても賢い方だと私は思っていますよ」

本田「プロデューサー……」

73: 2016/06/30(木) 20:37:30.219 ID:XSLIlMxC0.net
武内「だから」

本田「!」

武内、本田の手を握る

武内「あんまり自分をいじめてあげないでください。
   そうでなくたって世間は悪意にあふれています。心が賢い人はそういった悪意にも敏感になってしまいますから。
   それから、元気なキャラクターだからって四六時中ずっと笑ってなくてもいいんですよ。
   ときには寂しがりやさんになってもいいんです。
   本田さんは少し抱えすぎですね」

本田「…………」

本田「泣いても、いいのかな」

武内「はい」

本田(……………)

本田「………泣かない!」

武内「え」

本田「あはは! ひっかかった? ほら、PVっていうくらいだから演技力は必要だよね!
   敵をだますにはまず味方からっていうし! っていうかプロデューサー、雰囲気のまれすぎ!
   まるで告白シーンみたいだったよ!」

武内「……申し訳ない」

本田「ふふ」

武内(本田さん……)

武内(アイドルは、大変な仕事です。少しでも気分が優れたらいいですね)

92: 2016/06/30(木) 22:05:56.737 ID:XSLIlMxC0.net
-- 武内P車内 --

本田「う〜ん!」

伸びをする本田

武内「ここに来るときとは全然表情が違いますね」

本田「うん! ロケハンって楽しいね〜! いつも本番しか行かないのがもったいないよ」

武内「何せ本田さんはスケジュールが多忙ですから。本来ならロケハンから同行するパターンもありますが」

本田「えへへ」

本田(そうだよね)

本田(何でこんな当たり前のことに木付かなかったんだろう)

本田(にんじんが好きな人もいれば嫌いな人もいる……だけど)

本田(にんじんを知らない人はそうそういない……か)

93: 2016/06/30(木) 22:08:08.750 ID:XSLIlMxC0.net
本田「もうすっかり夜だね〜」

武内「はい。次が最後のロケ地になります」

本田「さっきからずっとトンネルの中走ってるみたいだけど?」

武内「東京湾の真ん中に向かっています。あそこは夜景スポットとしても有名ですが、
   よく撮影に使われるんですよ」

本田「私行ったことないや」

武内「素敵なところですよ」

96: 2016/06/30(木) 22:11:42.776 ID:XSLIlMxC0.net
-- 東京湾海ほたる --

本田「わーー!!! すっごい!!!!」

夜景を前に走り出す本田

本田「綺麗……あっちが千葉? こっちが東京?」

武内「逆ですね」

本田「なーんだ、えへへ」

本田(てゆーか)

本田(めっちゃカップル多いなここ……)

本田(プロデューサー、全然そういうの気にならないのかな……なんかそれはそれでショック……って!!)

本田(だめだ私!! お仕事だってば!!!)

本田「ね、ねえプロデューサー。ここはどういうシーンを撮るの?」

武内「デートコースの最後ですね。ここでキスシーンを撮ります」

本田「へー、なるほどね。………って」

本田「え?」

武内「キスシーンです」

97: 2016/06/30(木) 22:16:31.642 ID:XSLIlMxC0.net
本田「き、きす!? 私が!? 誰と!?」

武内「カメラ目線の一人称ストーリーなので、見てくださるユーザーさんとですね」

本田「ど、どういうこと……?」

武内「ええと、確かカット割りの資料が……」ガサゴソ

武内「ありました」

武内「日中のシーンの延長線上で、彼氏とやってきた海ほたる。
   本田さんと彼氏は夜景を前にしてキスをする。ラストカットは……これは内トラ(エキストラのこと)だと思いますが、
   夜景をバックにキスをするところで終わることになっています」

本田「な、なんでそんな大事なこと先に言わないの!?」

武内「すいません。本田さんは舞台の経験もあるので慣れているかと」

本田「舞台っていったって私が出るのはサスペンスだよ!!! 恋愛モノなんてやったことないし!! それに……!!」

本田(キスシタコトナイシ!)

武内「安心してください。あてるフリだけです。さすがに本田さんの年齢では本当のキスは写せません」

本田「そ、そうなの……?」

本田(で、でも恥ずかしいことに変わりはないじゃん!)

98: 2016/06/30(木) 22:21:04.246 ID:XSLIlMxC0.net
本田「え、エキストラの人が誰になるかって……」

武内「まだそこまでは決まっていないようです。何せ監督がインスピレーション先行型の方なので、
   今回のロケハンを元にキャスティングするかと」

本田「………」

武内「だいたいシーンは思い描けましたか? 時間も遅いですし、そろそろ帰」

本田「練習」

武内「え?」

本田「れ、練習、したい」

99: 2016/06/30(木) 22:24:10.703 ID:XSLIlMxC0.net
武内「練習……ですか」

本田「……うん」

武内「整理しますが、エキストラはまだ決まっていないので、リハーサル含め後日の撮影のときにでもできるかと思うのですが」

本田「そ、それはそうだけど!」

武内「あ」

本田「え!?」

武内「もしかして」

本田「!!」

本田(ヤバ、ばれた? 何が?)

武内「本田さん、私をからかっているんですか?」

本田「…………」

100: 2016/06/30(木) 22:27:32.602 ID:XSLIlMxC0.net
武内「私はあくまでプロデューサーです。本田さんたちアイドルをみなさまにお届けするのが仕事です。
   本田さんのためになるのであれば練習相手になりますが、そうでないのであれば……」

本田「い、いいから!!」

本田、武内Pの手を引いて抱きつく

武内「!」

本田「カ、カット割りは? どうなってるの?」

武内「す、すいません。この体勢だと……その……資料が……」

本田「もう! プロデューサーはプロデューサーでしょ! 頭にそういうのは入ってなきゃダメなの!
   ほら、抱き寄せるとかそういう感じでしょ!」

武内「ち、違ったような……」

本田「うるさいなあ! ばか! いいからぎゅってして!」

武内「は、はい……」

102: 2016/06/30(木) 22:31:59.242 ID:XSLIlMxC0.net
本田「……………………」

武内「……………………」

本田「プロデューサーは、さ」

武内「はい」

本田「アイドルみんなを、平等にプロデュースするのがお仕事、だよね」

武内「もちろんそうです。私はいつも全力で仕事をするようにしています」

本田「…………」

本田(私、ダメなこと考えてる……)

本田「あったかい……」

武内「……ほ、本田さん」

本田「……………」

武内「私は………」

本田「………くすっ」

武内「?」

本田「またひっかかったー!!!」

武内「…………」

本田「けっこードキドキしたでしょ。これで舞台でも恋愛モノできるかな?」

武内「……はい。間違いなく、名女優ですよ」

本田「えへへ」

104: 2016/06/30(木) 22:39:29.430 ID:XSLIlMxC0.net
-- 本田家近くの駅 --

武内「本日は、お疲れ様でした」

本田「うん!」

武内「その顔だと、もう大丈夫そうですね」

本田「え?」

武内「実は今回のロケハン、私の方から上に言って特別に提案させてもらったんです。
   本来ならスタッフを呼べる予算はあったんですよ。
   ですが、おととい本田さんが私のPCで見ていたものを偶然私も見てしまって、
   これはカウンセリングが必要だなと思ったんです」

本田「そ、そうだったんだ」

本田(………)

武内「私も楽しい1日でした。悩みも取れたと思いますし、明日からまた元気いっぱいの本田さんを見せてください」

本田「うん……」

武内「それでは。おやすみなさい」

本田「おやすみなさい」

ブロロロ………

本田(…………)

本田(プロデューサー……)

本田(確かに、最初の悩みはなくなったよ……)

本田(でも)

本田(もう一個、悩みが増えちゃったよ、ばか)

105: 2016/06/30(木) 22:42:36.066 ID:XSLIlMxC0.net
本田圭佑(私、ダメなこと考えてる……)

107: 2016/06/30(木) 22:45:22.344 ID:XSLIlMxC0.net
-- 某日、PV撮影本番 公園 --

ディレクター(以下D)「あー、いいね未央ちゃん。もっと力抜いてもいいよ」

本田「はい!」

制作「いやぁ〜武内さん、やっぱり未央ちゃんには公園の日光が似合いますね〜」

武内「はい。最高のロケーションに最高のキャスティングだと思います」

制作「この前のロケハンの資料もよかったみたいですよ。監督が、一気にやる気になっちゃって」

武内「恐縮です」

111: 2016/06/30(木) 22:58:11.523 ID:XSLIlMxC0.net
D「んーもうちょっと恋人っぽくできねーかな。おいAD!」

アシスタントディレクター(以下AD)「はい!」

D「なんかお前のつなぎ方がいやらしいんだよな。未央ちゃんが引いちゃってるよ。もうちょっと純愛な感じがいいんだよ」

AD「はい!すいません!」

本田「あの、私なら全然大丈夫ですから……」

D「あー、未央ちゃんは今のままで全然いいから! おい次のシーンいくぞ!」

AD「あはは……」

本田(……)

本田(この人がエキストラ)

本田(キスシーンもこの人とやるんだ……)

112: 2016/06/30(木) 23:01:56.734 ID:XSLIlMxC0.net
AD「いやぁー、自分この業界入って本田さんと共演できるなんて、夢にも思わなかったっす!」

本田「ええー、そんな私、たいした人間じゃないですよ!」

AD「いやいや! だってニュージェネの本田未央っすよ!? こんなの友達に言ったら刺されちゃうかも……」

本田「あはは……」

本田(あれ?)

本田(プロデューサー……どこいったんだろ)

AD「……で、その友達ってのが渋谷さんのファンで、すげーうざくて。いや、渋谷さんは渋谷さんでいいんすけど。
  俺的には本田さんがやっぱ一番っていうか」

本田(現場で意識したことなかったけど、いつもプロデューサーは遠くからだもんね……。
   なんか、近いようで遠いんだなあ……)

本田(もし、プロデューサーもこのまま昇格して、私も売れたら)

本田(あのときみたいにデート、できなくなるのかな)

本田(なんか……ヤだな……)

113: 2016/06/30(木) 23:07:41.574 ID:XSLIlMxC0.net
制作「あちゃー、やっぱちゃんとした役者さん呼べばよかったかな」

武内「そうですか。予算の分け方に不備がありましたかね」

制作「いやいや! そういうわけじゃないんですけどね。画に直接出ないとはいえさすがにド素人のADくんじゃキツかったかなー。
   監督キレちゃってますよ、あれ」

武内「本田さんはどうですか。調子、出ていますか」

制作「未央ちゃんはバッチリですよ! でもあれですね。ちょっと印象変わりましたよね」

武内「そうですか?」

制作「なんていうか……、前は元気いっぱいの一点張りキャラクターだったんですが、
   舞台やってるか何かわからないんですが、芝居に幅が出てきましたよね。あと表情とか」

武内「なるほど」

制作「それもこの前のロケハンの資料みててみんなでディスカッションしてたんですよ。武内さん、どんな魔法使ったんだろうなって」

武内「私は何もしていませんよ」

制作「またまたー。敏腕Pは違うなー!」

武内(本田さん……)

武内(いい方向に出ればいいのですが……)

118: 2016/06/30(木) 23:13:56.398 ID:XSLIlMxC0.net
-- マジックアワーの丘 --

D「そうそう、そこは未央ちゃん寄りかかって! カメラ! ADの肩はギリギリで映せよ!
 はい本番いこうーーー」

本田「……」

本田(男の人の体っていうのは、同じ)

本田(でも……違う……)

D「未央ちゃん? おーい未央ちゃん!」

本田「は、はいぃ!」

D「どーしたのー? 歌詞! これミュージックビデオだからね! ここは口パクでアテてくれないと!」

本田「あ……」

D「疲れちゃった? 休憩入れる?」

本田「だ、大丈夫です! ごめんなさい!」

本田(もーダメダメ!)

本田(プロデューサーがいないと不安になるし)

本田(プロデューサーが近いとドキドキするよう!)

D「はいじゃあもっかいいくよー! 3! 2! 1!」

119: 2016/06/30(木) 23:17:40.036 ID:XSLIlMxC0.net
武内(………)

制作「どうしました? 難しい顔して」

武内「いえ……」

武内(本田さんは本番に強いタイプのはず……)

武内(しかしここまでNGを出した例はみたことがない)

武内(まだ、例の件で悩んでいるんだろうか。私は、何かを見過ごしているのか?)

制作「あちゃー、またNG出しちゃいましたね」

武内「申し訳ありません」

制作「んー、結構ケツカッチンですね。マジックアワーっていうよりもう夕闇ですし」

制作「武内さんから一言いってもらえませんかね?」

武内「私が、ですか?」

制作「ええ。ちょっとさすがに監督も頭抱えてるみたいなんで」

武内「…………」

120: 2016/06/30(木) 23:21:54.335 ID:XSLIlMxC0.net
武内「監督」

D「あー武内さん! どうかしましたか」

武内「ちょっと休憩を入れてもらえますか」

D「あー……でも撮れてもあとワンテイクですかね。休憩入れちゃうと」

武内「かまいません。その場合はこのシーンはNGテイクでつなげますか?」

D「なんとかならないこともないですが……全体的に浮いちゃいますね」

武内「本田と話をさせてもらえますか」

D「……わかりました。おい! とりあえず10分休憩! あと一応照明の準備しといて!」

武内「……」

武内「本田さん」

本田「え、あ、プロデューサー!? ってあれ? 休憩?」

武内「私がとらせました」

本田「わ、私なら全然大丈夫だよ? 確かにちょっとNGは多いかもしれないけど、
   ほ、ほら、恋愛モノって慣れてないし」

武内「……」

武内「本田さん、正直に答えてください」

本田「な、なに?」

武内「まだ、あのことを気にしているのですか?」

121: 2016/06/30(木) 23:25:35.359 ID:XSLIlMxC0.net
本田「……え」

武内「私の接し方が間違っていたなら謝ります。しかし前にも言いましたが、ここはあくまで仕事の現場です。
   もやもやしているなら、原因を取り除かないといい仕事はできません」

本田「…………」

武内「スタッフさんも、声には出しませんが違和感を感じているようです。
   いい方向に作用していたところもあるようですが、今の状態だと現場が回りません」

本田「………気づいてくれないじゃん」

武内「はい?」

本田「な、なんでもない! ……ごめん、プロデューサー。集中、するね。本当にもう大丈夫だから」

武内「……」

D「武内さん、どうですか」

武内「ええ……続けてください」

D「よーしラストテイク! いくぞ! よーい!」

122: 2016/06/30(木) 23:30:46.045 ID:XSLIlMxC0.net
-- 海ほたる --

D「おーい時間ねえぞー! てっぺんまでには絶対終わらせろよ!」

制作「まあ、仕方ないですよ」

武内「……」

制作「結構よくあることですし。前なんか、泣きシーンが本当にとれなくて、監督が泣かせて回したことあったくらいですから」

武内「本当に、申し訳ございません」

制作「いやいやうちらはいいんですよ。武内さんのところの演者さんですし。それより、未成年で大丈夫ですか、この時間帯」

武内「正直NGですが、親御さんからはOKをもらっています。バレたら面倒なことになりますが」

制作「……でも、不思議だなあ」

武内「はい?」

制作「本田さんって、本番強いの有名じゃないですか。どうしてここまでミスっちゃうんですかねえ」

武内「それがわかれば私も動きようがあるんですが……」

制作「前半は、こう、ぎくしゃくした感じがいい具合に映像にマッチしててよかったんですけどねえ。
   後半にいくにつれてどうも、表情が浮かなくなっていっちゃうみたいで」

武内「……」

123: 2016/06/30(木) 23:35:15.672 ID:XSLIlMxC0.net
本田「……」

本田(ダメ……頭の中がプロデューサーのことでいっぱい……)

本田(どうしてこんなときに限って思い出しちゃうの)

本田(もぉやだ……)

D「んー……」

D「わかった」

AD「はい?」

D「身長差だ、違和感があったのは」

本田「え?」

D「ここのシーンは身長差がピッタリきてねーと映えないんだな。
  おいAD、お前内トラクビな」

AD「ええ〜〜!?」

D「つっても代わりか………」

D「あ」

武内「?」

D「武内さん……ちょっとそこ立ってくれます?」

126: 2016/06/30(木) 23:37:25.479 ID:XSLIlMxC0.net
武内「私……ですか?」

D「いや、ちょっとシルエットがね……ああそうそう! うん、やっぱりピッタリだ!
  武内さん、このシーンやってもらえますか」

本田「!」

武内「で、ですが私は……」

D「大丈夫ですよ、顔は映らないし体型のシルエットだけです。未央ちゃん、大丈夫?」

本田「は、はい……」

武内「………」

127: 2016/06/30(木) 23:41:03.644 ID:XSLIlMxC0.net
D「よーしとりあえずリハ! まず未央ちゃんを武内さんが抱き寄せる!」

本田(あ、あの練習、本当にそういう感じだったんだ……)

武内「わ、私が、ですか」

D「いいからいいから! こう! ぐっと男らしく!」

本田「わっ」

武内「……」

D「そうそう! その胸のあたりに顔を埋める感じ! いいよぉーこれでいこう」

D「そこからキスシーン! ここね、2パターン考えてるから。
  後ろからバックライトあてて影だけでキスを移すのと、未央ちゃんが背伸びしてる足元を映すパターンね。
  まあ芝居は一緒だから。ちょっとやってみてくれる?」

本田「……………………」

武内「……………………」

129: 2016/06/30(木) 23:42:32.638 ID:XSLIlMxC0.net
本田(プロデューサーの心臓の音……)

本田(私にドキドキ、してくれてる?)

本田(……)

本田、武内Pに目を閉じて唇を近づける

D「はあああああああああああいオッケー!!!! これでいこう!」

130: 2016/06/30(木) 23:44:46.570 ID:XSLIlMxC0.net
D「じゃあ本番いくぞー、いいか、一発で決めるからな!」

武内(暗に本田さんにプレッシャーを与えてるみたいだな……)

武内「本田さん」

本田「は、はいぃぃ!」

武内「私に任せてください。肩の力を抜いて、私に体を預けてください」

本田「は…………はぃ……………」

131: 2016/06/30(木) 23:48:02.471 ID:XSLIlMxC0.net
D「3! 2! 1!」

音楽が流れる

D「はいそこで体よせる!」

本田「あっ………」

武内「………」

本田「………」

本田(プロデューサーの胸のなか……)

本田(すごく……安心する……)

武内(本田さん、あなたは、もしかして……)

武内(私は……)

D「はいそっからー!!! GO!!!!」

132: 2016/06/30(木) 23:49:12.283 ID:XSLIlMxC0.net
武内「目を閉じてください」

本田「えっ……でも」

武内「いいから」

本田「う、うん……」

 
 
 
 
 
 
 
本田「!!!!!!!!!!!!!!」









D「はい!!!!!!!!!!!!! オッケー!!!!!!!!!!!!!!」

135: 2016/06/30(木) 23:53:39.135 ID:XSLIlMxC0.net
-- 後日、オフライン編集室 --

D「いやー、なんだかんだあったけどあがってよかったですねえー」

武内「お手数おかけしました」

D「いやいや、武内さんも最後のシーン、急な要望に応えてくださってありがとうございました。
  ……しかし最後の最後のアドリブ、あれ即興ですか?」

武内「ああ、いや、あれは……」

D「足元狙ってなくてよかったですよー。あそこはやっぱ男からいかないとダメですよねー。
  しかし武内さん、役者の道もあるんじゃないですか? あれはぐっときますねー。女の子にもリーチできるかも」

武内「………」

ピピピピ………

武内「ああ、すいません、ちょっと電話を」

D「ああ、どうぞどうぞ!」

136: 2016/06/30(木) 23:56:12.011 ID:XSLIlMxC0.net
-- 本田家近くの駅 --

本田「おーい! おっそいよプロデューサー!」

武内「すいません、ちょっと編集に立ち会ってまして」

本田「あ、そうだったの? なら私も行けばよかったな」

武内「完成を楽しみにしていてください」

本田「えへへ。そーする。……で? 今日はどこにロケハンにいくの?」

武内「どこでもお好きなところへ」

本田「……うーん、そうだなあ」

本田「とりあえず車、乗っていい?」

武内「はい、どうぞ」

137: 2016/06/30(木) 23:57:34.605 ID:XSLIlMxC0.net
本田「いい天気だねー!」

武内「オープンカーの方がよかったですか?」

本田「えっ!? プロデューサー、そんな車も持ってるの!?」

武内「まさか。レンタカーですよ」

本田「なーんだ」

武内「………」

139: 2016/07/01(金) 00:03:55.992 ID:xeJUJ84y0.net
本田「ねえ、プロデューサー」

武内「はい?」

本田「プロデューサーは、みんなのプロデューサーなんだよね?」

武内「………」

本田「ね?」

武内「……はい」

本田「じゃあー、なんであのときー」

武内「本田さん」

本田「ん?」

武内「それ以上は、仕事に差し支えます」

本田「えへへ」

本田、武内の腕に抱きつく

武内「ほ、本田さん」

本田「みんなの、プロデューサー、ね」

武内「…………ずるいですよ」

本田「なにいってんのー、未成年に手出したくせに!」

武内「そ、それは……」

本田「わかってるよ。お芝居、だよね?」

武内「………」

本田「でも」

140: 2016/07/01(金) 00:05:23.227 ID:xeJUJ84y0.net
本田「あのときのことだけは、私だけのものだよ♪」

武内「………」

本田「♪」

142: 2016/07/01(金) 00:06:02.012 ID:xeJUJ84y0.net
おしまい。
読んでくださった方ありがとです。
ちゃんみおかわいい。武内Pすき。

143: 2016/07/01(金) 00:07:24.089 ID:e7wezFWS0.net

144: 2016/07/01(金) 00:07:49.790 ID:pQNOmGmv0.net
おつい

引用元: 本田未央「はぁ……私人気ないんだなぁ……」