1: 2015/07/27(月) 15:32:11.61 ID:NYc+OQMZ0
提督「ssの前書きである」

※注意※

ss初投稿です。なので、見苦しい文章になりますが、どうぞお願いします。

内容は以前に投稿したもののアレンジになります。

キャラ崩壊注意。特に提督、夕立、時雨のキャラ崩壊がひどいです。

それゆえ、「こんなの僕の知っている夕立じゃない」と呟くことになるのはなんとなく分かりきったことだった。

「ほら、いつまでも顔を枕にうずめてないで、御飯を食べにいこうよ」

艦隊これくしょん ‐艦これ‐ 艦娘型録 参 (カドカワデジタルコミックス)

2: 2015/07/27(月) 15:32:32.10 ID:NYc+OQMZ0
「ぽい~………」

夕立らしからぬ元気のない「ぽい」。夏の暑さで体力的にまいっているわけではない。熱中症でも風邪でもない。この夕立は熱は熱でも精神的熱、すなわち恋煩いというものにまいっていたのだ。

「いつまでいじけていてもどうにもならないでしょ? 特に過ぎ去ったことは」

夕立を枕からどうにか引っペがそうと試みたが無駄だった。枕を掴んで引っ張ってもズルズルと夕立の上体はついてくる。

じゃあと、夕立の両足首を持ち上げてみる。体の角度としては逆さまに近くなるので、黒い制服のスカートの裾が徐々にめくれていき、引き締まった白い太ももがあらわになる。

はたしてスカートがその先にある白い布地をも隠しきることができなくなりそうなその瞬間、夕立は跳ね上がった。時雨が固定する両足首を支点とし、体全体をしならせて打ち上げられた魚のように弧を描く軌道で、直立姿勢の夕立は時雨の側へ背中から倒れ込もうとしたのだ。

3: 2015/07/27(月) 15:33:04.45 ID:NYc+OQMZ0
すごい運動能力だと感心はするが勘弁して欲しいのは時雨であって、夕立の勢いをそのまま受けて二人仲良く転倒するのは避けたいと思った。そもそも仲良く倒れるといっても、この場合夕立は時雨を下敷きにするのだから、背を痛めるのが時雨だけなのは確かであった。

その被害の不平等性にいち早く気付いた時雨は、自分でも驚く程なめらか自然的に衝撃準備のために腰を低くしていることに気付いた。不公平といった悪に立ち向かうときの人間は普段以上の実力を発揮するものだ。特にその不公平の被害者が自分の場合には。

自分の身を考えるなら、両足をすぐ手放して、夕立だけその勢いで吹っ飛ぶようにすればいい。時雨自身の被害は最小限になるのだが、それは可哀想だと思い直し、改めて両足を掴む握力を強めた。

うず高く積み上がった皿を手間どりながら運ぶ新米給仕の如くよたよたふらふらといくらかしたあと、バランスが取れた状態まで何とか至らしめた。夕立の足裏は時雨の膝の上、時雨の手のひらは夕立の膝の上。時雨は後方に重心を置き、夕立は前方に重心を置く、その重心の足し引きの末にゼロにまで戻ってきたという姿勢は、運動会の最終プログラム組体操でよく見る「サボテン」の形であった。

学校で学ぶことは将来何の役にも立たないとはよく聞くけれど、「サボテン」を学んでいなかったら、今時点で夕立か時雨のどちらかが痛い思いをしていただろう。サボテン万歳。サボテンが役立つならば、他のもっと実用性の高そうな学問もいつか役立つのかもしれないと希望がもてて、過去のあの退屈な授業にも今更ながらに満足感を覚えるのであった。

4: 2015/07/27(月) 15:33:39.50 ID:NYc+OQMZ0
「わあ、すごいっぽい! すごいっぽい!」

夕立が両腕を水平に伸ばしバタバタさせてはしゃぐ。突然視点が高くなったことに興奮を隠せないといった様子だ。時雨は父親が幼子を両脇から持ち上げて「高い高い」とあやすさま空目してしまい苦笑いした。

「さあ、夕立おりてくれる? 御飯を食べに行こう」

「えー。もう少しこのままがいいっぽい!」

「夕立」

時雨が語気を強めると、夕立はしぶしぶ気まずそうに両足をどかし床に立った。時雨に向き直った夕立は気まずそうに伏し目がちに時雨を覗き見て目が合うと知ると舌をチラリと出して笑ってみせた。

5: 2015/07/27(月) 15:34:15.34 ID:NYc+OQMZ0
「さあ、行こうか」

「ぽい」

今度ばかりは夕立も悪いと思ったのか素直に時雨に従った。まるで子供だなと時雨は前を「ごっはんー♪ ごっはんー♪」と鼻歌交じりにスキップしていく夕立を見て思った。

そして、そんな夕立が恋に悩んでいることに思い当たり、夕立には悪いと思いつつその異質っぷりに何故か笑いたい気持ちになるのだった。いや、これは嘲笑ではなく、愛らしさからくる単純な微笑ましさだと申し開きをして、どうせ夕立には見えないだろうと密かに口角を上げた。

「時雨も何だか楽しそうっぽい!」

夕立は振り返りもせず声なき笑いにいともたやすく気づいた。後ろに目があるんじゃないだろうか。すぐにこの仮説を否定する。もし後ろに目があったのならば、教室での筆記試験の際に後ろの席の答案を覗くというカンニングが出来たであろう。時雨は赤点補習の宿題で泣きついてきた夕立を思い出した。

6: 2015/07/27(月) 15:35:00.71 ID:NYc+OQMZ0
それゆえ夕立の後ろに目はない。いやでも、夕立は妙に生真面目なところがあるから、「そんなズルは出来ないっぽい」とその手段を拒絶したのかもしれない。しかし、後ろ目のカンニングというのはバレる恐れのないノーリスクの行為だ。罰の心配をせず嫌な補習を回避できるという誘惑に打ち勝つほど夕立は倫理的な性格であるのだろうか。

「時雨? どうしたの?」

いつの間にか時雨の前に夕立がいて、下から時雨の気難しそうな顔を覗き込んでいた。

「いいや、なんでもないよ」

要は野性の問題なのだ。燕や山羊が嵐の兆候にいち早く気づくように、夕立も人の感情の波を敏感に察知することができるのだろう。後ろに目があるとかじゃない、ただ何となく気づくのだ。恐らく夕立自身は気づいていることに気づきさえしていないのかもしれないが。

夕立は少し間を置くとニッと尖った犬歯を見せた。

7: 2015/07/27(月) 15:35:48.96 ID:NYc+OQMZ0
「あはは! 時雨ってば感情がプラナリアみたいにコロコロと変わって可愛いっぽい!」

余り夕立らしくない、というか誰らしくもない言い回しに時雨はたじろいだ。でも、まったく馴染みがないわけでもないその表現の理由を探るとある恋愛小説に行き着いた。

そうだ。夕立は恋に目覚めてから盛んにラブロマンスというものに興味を示すようになって、面白いと思ったものを共感して欲しいためか、同室の時雨にも半ば無理やり熱心に勧めてきたのだ。

その中に「私たちはプラナリアの赤い糸で結ばれているの」とヒロインが独白するものがあった。時雨はその話の内容を覚えていないが、唐突のプラナリアは記憶していた。切っても切っても再生する虫の登場は恋愛小説としてどうなのかよくわからなかった。

それをもじったのが今の夕立の発言というわけなのだと理解をしたが、原文より更に意味が分からない。夕立自身も今ひとつよくわかってないに違いない。

初めて恋というものを知った乙女は取り敢えず「前例としての教科書」に従ってみる。デートのやり方といった外面だけでなく、恋愛においては感情の機微さえ真似しようとする。そうすることで整理をつけ、この状況における自分の感情は正しいのだと安心を得ようというわけだ。

8: 2015/07/27(月) 15:36:43.28 ID:NYc+OQMZ0
夕立も一般乙女の例に漏れず恋愛小説の作法に則ってみたのだ。そしてそれがたまたま「プラナリア」だったというだけだ。時雨は夕立を見た。満足そうな顔。何の問題も感じていないらしい。恋は盲目。

「プラナリアって感情があるのかい?」

「知らないっぽい!」

これが答えだった。何かよくわからないものに違和感を持たないまま夕立は全てに納得したかのようだった。変に知識をつけて分からないものをわからなくするよりも、まだ分からないものをわかっていて、おどおど慎重になりすぎるぐらいの時の方が時雨には良いように思えた。

だからと言って、そのことで夕立にとやかく言うつもりは時雨にはなかった。おかしいと言うとその理由を説明しなければならなくなる。愛とはなんぞやかんぞやだからうんぬんで間違っている。時雨にはできそうもない面倒な芸当だった。

こういう時は適当に話を合わせて、そこから徐々に話題を理解できそうなものに逸らしていくのが時雨の常だった。考える必要のない楽な道である。鎮守府の優等生時雨も怠惰に生きるのが好きだった。

9: 2015/07/27(月) 15:37:32.57 ID:NYc+OQMZ0
「プラナリアって二つに切断すると一匹が二匹になるような奴だけど、もし感情があるならば、一方がもう一方を好きになることはあるのかな?」

「あるかもしれないけど、恋愛感情ではないっぽい。だって、その二匹は双子みたいな感じに互いを思うと思うっぽい」

「双子だと恋愛感情をもってはいけないってこと?」

「当たり前っぽい。家族なんだから、家族愛になるっぽい」

「家族愛と恋愛って両立できないものなのかな。夫婦は恋愛の末に家族になるけれど、それ以降夫婦に恋愛はありえないって奇妙なことじゃないか」

「それは違うっぽい家族というのは血の繋がりのことっぽい」

10: 2015/07/27(月) 15:38:22.26 ID:NYc+OQMZ0
「じゃあ血の繋がりのない夫婦は家族になれないじゃないか」

「それは子供を介して間接的に血の繋がりを持つっぽい。子供がいて初めて家族になるっぽい」

「養子はどうなるの?」

「気合でどうにかするっぽい」

「気合って。生物学的で客観的な判定から急に精神論的で恣意的な判断になったね」

「そもそも恋愛か友愛か家族愛かなんて適当に決めているっぽい」

11: 2015/07/27(月) 15:39:23.26 ID:NYc+OQMZ0
結局そこに行き着くのだった。どこぞの書物では感情に関する判断、趣味判断は客観性を要請する主観的判断と定義づけられているが、わかったようでわからないものだ。共感を求める個人的判断というのは一種の奇跡ではないのかと思う。

これこれを好ましいと思う。個人的判断だ。他者がそれを否定しても問題はない。他者がそれに賛同するのはある種の偶然であろう。その偶然を要請しなければならない個人的判断とは厄介。もちろんそれは相手を無理強いに頷かせる傲慢さとは別物だから、残された道は他者と一致する判断センスを身につけるということになるだろう。

でも、どこかおかしく感じる。正解のある個人的判断というのは既に個人的判断ではなく、数学と同様客観的判断になっているように思うからだ。

愛に関してはみんな「適当」に理解できる。だから、それは恋愛じゃないうんぬんと楽しく嘴を容れることができ、場合によっては相手を説得さえ出来たりする。助言が可能ということは何か正しい像を共有しているということだ。

母親が子供に「好き嫌いはダメよ」とは助言をするが、それは栄養バランスの良い像を持っているからであって、例えば「ピーマンを美味しく感じるようになりなさい」なんて助言は全く不可能であろう。

では、愛は一体。その感情をまさしく愛と判断しうる根拠はどこから得てきたのだろうか。小説など外部媒体で愛の感情を判断してみて、それを個人的な判断として還元する。愛というのはぐるぐると主観と客観の間で回り続けているものだと時雨はフォークでパスタを巻き取りながらふと思った。

12: 2015/07/27(月) 15:40:02.43 ID:NYc+OQMZ0
「ねえ、夕立。プラナリアのことだけど」

「え? プラナリア? ………ああ、あれね」

ついさっきの話題なのに、もう夕立の中では完全に過去のものとなっているらしく、反対に食事中にプラナリアの話なんてと若干非難の視線も時雨に向けた。時雨としてもまあ確かにそうだなと反省したが、口にしてしまった以上引き返すなんてこともしない。

「プラナリアってね、頭を切断されても脳ごと再生するんだけど、その時に切断前の記憶を引き継ぐって話があるんだ」

「ふーん」

「そうなると切断された二匹って記憶も同じだから双子より更に同一個体に近づくんだ。異なるのは空間的位置だけ。夕立、僕が思うに真実の愛っていうのはそんな二匹の間で生じるんじゃないかってことさ」

13: 2015/07/27(月) 15:40:39.93 ID:NYc+OQMZ0
「どういうことっぽい?」

「愛というのは相互作用の産物だからね。こちらが愛ゆえの行為をしても相手がその同じ価値観を持たなかったら愛なんて成立しないでしょ? だったら、同一の価値観を持っている二匹のプラナリアこそが一番完全に愛を伝達できるじゃないか。まあ、彼らが愛し合うかどうかはわからないけどね」

「でも、ドッペルゲンガーみたいな相手との恋愛なんてすぐに飽きそうっぽい」

「そうかな。ウマが合うんだったら仲良くできそうだけど」

「その関係だと抵抗がなさすぎると思うっぽい。宙をくるくるして身軽な関係だけど、それだから強い衝動も生じないっぽい」

「ロミオとジュリエットの話かい?」

14: 2015/07/27(月) 15:41:15.68 ID:NYc+OQMZ0
「あの話はまだ弱い抵抗っぽい。家の問題が障害となっていただけで、二人は愛を確かめ合えていたのだから」

「へえ。じゃあ、もっと強い抵抗があるってことか」

「互いに嫌いあっているのがもっとも愛の障害っぽい」

「そりゃそうさ。愛の関係とは真逆なんだから」

「だから、愛は互いが嫌い合う関係でもっとも熱く燃えるっぽい」

「いくらなんでも、それはないさ。障害が困難であればあるほど良いというものじゃないだろ? そもそもそこに燃える愛なんてどこにもないじゃないか」

15: 2015/07/27(月) 15:42:14.43 ID:NYc+OQMZ0
「燃えるような愛がそもそもないことこそ愛にとってもっとも障害になるっぽい。だから、一番燃え上がるっぽい」

「僕にはまったく想像できないよ。そういう場合はそもそも初めの歩み寄りさえないからね。障害を乗り越えようとするから愛も持続するのはわかるけど、嫌いあっているんだから、その障害を乗り越えようと思うことさえないだろうね」

「小説では嫌い合う関係からいいところを見つけて好きになっていく過程が多いけど、この場合は嫌いあっている時点で愛し合っていけないといけないっぽい」

「僕は少し悲観的な考えが浮かんだよ。二匹のプラナリアは完全な愛の形を実現できるけど燃え上がることはなくすぐに消えてしまうようなもので、夕立の言うもっとも強烈に愛が動機づけられる理想状態は互いが嫌いあって全ての価値観があわない、つまり愛の形を共有できないことだ。この二つを合わせたものが理想の愛なのだろうけど、完全同一の対象に対する完全な理解と無理解を持つことはできない。少なくとも人間にとっては。だったら、人間には理想の愛状態ということはありえなさそうだ」

「でも、それでいいっぽい。乗り越えられる障害と曖昧な共感しかなくて不完全でいつか終わりがくる愛だからこそっぽい」

「じゃあ、夕立もその不完全な愛に惑わされているということになるね」

16: 2015/07/27(月) 15:42:55.96 ID:NYc+OQMZ0
一般論から急に矛先が自分個人に向いたことに夕立は微妙な表情を見せた。日常的なバカ話というのは、自分には無関係だと思えるからこそ、突拍子もなく一般を馬鹿にしたり笑ったりで楽しめるものだ。自分をその一般の中に参入させて話しているわけでない。もし自分に関わりのあることだと注意しながら話すのならば、もっと慎重になったであろう。

野となれ山となれと適当に口走った命題を自分に適用されることに些か不満げな顔を夕立は隠そうともしなかった。でも、もしかしたらデザートのアイスクリームで頭痛をおこしその痛みで厳しい表情を見せているだけかもしれないとも時雨は思った。

時雨には時折夕立が何を考えているのか判断しかねることがあった。そもそも何も夕立は考えていないのではないかと考えることもある。そう思うと次には妙に気を利かしたこともするしで、よくわからない。

犬。そう犬と一緒にいるみたいな。時雨が夕立を犬と称することで何かの蔑視を含むことはなく、その意図はただ同じ艦娘なのに異種と話している気持ちになることを示そうとしている。人懐っこくて素直なのだけれど、しばしば冷たい態度を見せる。しかも夕立自身は意識せずにごく自然な振る舞いの中でそれを見せる。時雨がそれで気分を害することはなかったが、自分とは異なる法則の下で生きているかのように思える「自由」な振る舞いは注意をひいた。

だから、夕立が恋に悩んで四苦八苦している様子は時雨にとって夕立も同じ艦娘なんだなと改めて認識させてくれるものだった。とうぜん時雨はそれ以前から夕立を同じ艦娘だと思ってきたし、戦友として扱ってきた。でも、その再認識で時雨自身が気づいてなかった夕立との距離を同時に知ることができた。

だから、時雨は夕立の恋を応援したいと思った。「だから」というのもおかしな話で友人の恋愛を応援するのは理由などなくてもいいはずだったが、時雨はそれでも何か理由をたてて密かに応援した。もしかしたら時雨も提督のことを好ましく思っているのでそういった不要ともいえる手順を踏んで初めて良き友人として応援できるようになったという経緯があったりしたのかもしれない。

17: 2015/07/27(月) 15:43:44.57 ID:NYc+OQMZ0
「夕立、人間間の恋愛における障害が乗り越えられると言うならば、前に挑戦してみた手作り料理にもう一度チャレンジしてみたらどう?」

「え、料理?」

夕立のスプーンがとまった。手作り料理で連想されることを思い出しているのだ。そして、嫌そうな顔をした。以前に失敗したことがあるのだ。

夕立の想い人である提督は余り女性の扱いに慣れておらず気遣いもできる方ではなかったが、それでも女の子の手作り料理ということで「おいしいよ」とフォローしてくれたけど、そういう雰囲気に抜群の感度を持っている夕立には意味のないことだった。僕だったらお世辞とわかっていても誤魔化されてあげることもできただろうと時雨は思い、余りに鋭い感覚は時にはマイナスにもなるのだと知った。

普段の夕立ならば失敗から奮起して努力するところなのだが、夕立はその一度の失敗で心を折ってしまった。過剰に失敗を恐れるようになったのだ。別に提督に食べさせるんじゃなくて裏で練習して、完成したものをまたご馳走してあげればいいと時雨が言っても、首を横に振るばかりであった。

なるほど恋愛というのは相手のことを美化もしくは神格化までしてしまう傾向があり、それに伴って当人の自尊心は低下する。特に相手から拒絶されたりなんかしたら、一瞬で自信を喪失する。しかも、夕立は過敏とも言えるほどそういった感情の機微を現実として感じるのに長けている。つまり、夕立は恋愛においてとても繊細だったのだ。

18: 2015/07/27(月) 15:44:25.69 ID:NYc+OQMZ0
時雨は夕立と長い付き合いだが、夕立のことを「繊細」と形容する日がくるとは夢にも思わなかった。この繊細さは危ういものだ。

時雨はよもや夕立が引きこもるなんて夢にも思わなかった。夢にも思わなすぎだが、そもそも夕立が一人の男性を思い浮かべて上の空に体をくねらせる事自体を時雨は夢にも思わなかったのだから、一連のことを夢にも思わないのは当然のことだった。

夕立は料理で失敗したからってだけで引きこもろうとしたわけではない。夕立は出撃でも大破を繰り返したのだ。その原因は提督との甘い恋愛の空想にふけっていたからであって、夕立はそれをやめなければならないと知りつつもついぞそれを止めることが出来なかった。

夕立の身を案じた提督が夕立を艦隊から離すのにそう時間はいらなかった。出撃や遠征で艦娘たちが出払った静かな鎮守府の一室でボーっとすることが増えた。何をするでもなかった。ただ提督を空想すること以外は。でも、それと同時に艦隊から外されたことが夕立の頭によぎるのだった。

夕立は駆逐艦の中では異例の戦果を上げ続けて、提督によく褒められもした。夕立は戦闘に自負心を持っていた。しかし、いまや補欠要因。夕立の中で絶対的ともいえる大きな自信が喪失した瞬間であった。

提督との甘い空想にふけりたいという衝動が一方にあり、もう一方にはそこから思い起こされるのは夕立自身の惨めさであり、それを避けたいと強く思う気持ちだった。

19: 2015/07/27(月) 15:45:01.19 ID:NYc+OQMZ0
提督との甘い空想は夕立の無能さをただちに夕立自身に思わしめ、提督とそういう恋愛関係にはなれないのだと、その資格はないのだと夕立に突きつけてきた。淡い純真な期待こそがその期待を裏切る結果となる。

夕立の気持ちはその場で空転しどこにも行くことができなくなっていた。それを繰り返しているうちに、夕立は無気力さを身につけた。どうにもならないならば、どうにかしようと思わないことだと。

時雨や他の仲間と話す時の夕立は時雨からしてみても普段通りだった。その普段と変わらないピ工口のように明るい笑みの裏側でどのような侵食が行われているかは気づきようもなかった。

夕立自身がその感傷を必ずや隠し通そうとしたためである。夕立にとって見れば「悲しい」と愁嘆場を演じて仲間の助けを得ようとするのは、どうしても安っぽく嘘っぽい気がして、慟哭することはしたくなかった。

夕立は矜持も恋も全てを失った気でいた。そんな夕立にとって何か確固としたものを欲するのは当然であって、それが喪失の悲しみであっても、これだけは確実に自分のものとしていたい独占したいということだったのだ。

一般に不幸の傷口を負ったならば、他人に見せびらかしたり、それが下品だというならば、そこはかとなく不幸を被ったことを匂わしたりするものだ。だから、それを夕立のような動機のもと完全に隠蔽されたりしたら、その傷口に気づくのは困難である。

20: 2015/07/27(月) 15:45:54.72 ID:NYc+OQMZ0
親友である時雨がどうもおかしいと夕立の異変に気付いたのは、提督の誕生パーティーに夕立が行かないと言ったときのことであった。瞳を輝かせて提督に何をプレゼントするかを悩み込み、飾り付けやケーキの準備、会場の確保に席の配置に思いめぐらすはずであるという時雨の予想は外れた。

時雨は急いで聞き直したが答えは変わらない。そこでようやく何かあることを悟った時雨は辛抱強く夕立の口を割ろうとした。その時期には幾らか夕立の独占欲もおさまっており聞き出すことができた。

時雨は夕立をこのままにしていてはいけないと思い。ほとんど命令じみて出席の約束を取り付けた。しかし、それは時雨の短慮であった。夕立は部屋に一日中引きこもるという生活を続けていたのだ。その当時の時雨は度重なる長期遠征のために夕立の生活状況を把握していなかったが故の短慮。

そんな夕立が他の艦娘たちで賑わうパーティーに参加するというのは、非常に肩身の狭い思いをする羽目になるということであった。自分は一日中上の空に過ごしてきたのに、任務をこなしてきた艦娘と肩を並べて提督を祝うことができるのだろうか。しかも、夕立は「不相応」にも提督のことを好いており、あわよくば恋人にという願いも持っているのだ!

時雨は夕立が全く笑っておらずかえって泣きそうな事態にあることに気づき、慌てて夕立を連れて部屋に戻った。時雨が考えていた以上に夕立は深刻な状況にあるのだと知った。

時雨はそんな夕立に無理をさせてしまったと責任を感じたので、提案をしてみた。今度提督に手料理を振舞ってみないかと。小さくてもいい何かに貢献したという事実が夕立には必要だと考えたからだ。

21: 2015/07/27(月) 15:46:38.93 ID:NYc+OQMZ0
しかし、ここでも時雨はまたポカをやらかした。夕立も時雨自身も料理に詳しくなく、どういう手順で作るべきかのノウハウを全く知らなかったのだ。その場合間宮など料理に詳しい人の助力を仰ぐのが定石だが、二人共料理なんてレシピ通りに作れば何とでもなると楽観的に考えていたのだ。

その時の厨房の様子といったら大騒ぎ。二人しかいないのに、どうしてここまで上から下まで騒ぎ立てられるのか。胡椒や小麦粉が宙を舞い、それを吸って咳ごんでくしゃみをし、人参のヘタを切って捨てるつもりがいつの間にか本体の方を捨てたりしていて、無理に鍋を引き出そうとして、棚から鍋の雪崩を起こし、一つ拾って、火にかけるのは良いが、レシピの順番通りに食材が準備されていないので、焼けば結果的に一緒だろうということで、手についたものから鍋に放り込む始末。

出来たものの味見は勿論した。日頃から「どうして比叡さんは味見をしてカレーを出さないのだろうか」と疑問に思って生きてきた教訓が生きたのだ。味はとても美味しかった。

そんなめちゃくちゃな手順でまさかと思うが、タネを明かせば簡単だ。夕立と時雨はたかがカレー一品作るのに朝から晩までかけており、その間は騒ぎのせいで何も口にしていなかったのだ。そして、また自分たちがこんなに苦労して作ったものなんだと過剰に愛着を持っていた。要は愛情と空腹こそが料理の最高の調味料というわけであったのだ。

最高の調味料を存分にかけてそのカレーを味わえた夕立と時雨はいいにしても、困ったのはそれを自信満々に差し出された提督の方だった。スプーンですくってみる。口に運ぶ。食べられない味じゃない。そう食べられない味じゃないのだ。でも、美味しくもなかった。ひと皿は食べられるだろうけど、おかわりはぜひ遠慮したい味。甘く評価しても普通よりまずいぐらい。微妙。だけど、せっかく艦娘が自分のために作ってくれたものだと、「おいしい」と言って完食した。

夕立、執務室から走って出て行く。時雨、慌てて追いかける。提督、困惑した後に皿を洗うため席を立つ。夕立、布団に潜り込み泣く。時雨、慰める、そして次はクリスマスにマフラーでも編もうと提案する。提督、通りがかりに偶然それを聞く。

22: 2015/07/27(月) 15:47:43.47 ID:NYc+OQMZ0
季節は秋。クリスマスまで猶予はある。編み物は大変かもしれないが、少し不格好でも許してくれるだろうと時雨は考えた。時雨は今回の失敗を生かし、今度は他のみんなにも手伝ってもらおうと考えた。

やり方がわからなくて行き詰まった時は間宮や鳳翔、金剛といったそういうのに詳しそうな艦娘のもとを訪れた。金剛に関して言えば、編み物に詳しそうというより、「今年のクリスマスはこちらがこうした手作りマフラーをプレゼントするつもりだ。同じもの作らないでね」と牽制の意図が大きかった。

不器用ながらも夕立がマフラーを着々と編み続けていた時、ある話を耳にすることになる。提督がマフラーを身につけてきたということだった。それそのものは特に気にすることのない話だ。提督だって寒くなればマフラーをまくさと。

しかし、どうも事情を聞くと夕立と時雨には無視できないことのように思えた。提督はそのマフラーをどういうわけか大切にしていて、特別の思い入れを見せているという話だった。ある艦娘がその理由について聞いても笑うだけで答えないと言う。

だから、あれは殉職した戦友の形見なんじゃないかとまことしやかに噂されているということだった。その情報は夕立を意気沮喪させるには十分だった。そんなすごいマフラーが提督の首周りの座を占めているのならば、私が作ったこんな不格好なものの入る余地なんてないじゃない。作業効率は格段に落ちた。

実のところ、そのマフラーは何でもなかった。ただ提督は夕立がマフラーを作るという話を聞いて、他の艦娘とプレゼントを被らせないために思わせぶりなマフラーを巻いただけなのだ。それを見せればその艦娘がわざわざマフラーをプレゼントすることもないだろうと考えたのだ。だから、夕立や時雨の前ではそのマフラーを外していたのだが、残念ながら提督は女子の情報コミュニティの影響力を甘く見すぎていたのだった。

23: 2015/07/27(月) 15:48:32.73 ID:NYc+OQMZ0
結果としてマフラーはクリスマスまでに間に合わなかった。やる気を失った夕立が得意でもないことを投げ出さず熱心に遂行するというのはどだい難しいことであった。提督はマフラーを貰えなくてしょんぼり、夕立もプレゼントできなくてしょんぼり、時雨もまたもやの失敗にしょんぼり。三者三様のしょんぼりしたクリスマスであった。

時雨は何か夕立は呪われているんじゃないかと思った。どう考えてもそこまで高い障害でもないのに、どういうわけか躓く。改善点は分かりきっているのだから、呪いなんて大げさかもしれないが、そんな雰囲気が二人の間で共通理解として成立してきているような気がしたのだ。

「だから、今度はしっかりと何回も練習してから、提督にご馳走するんだ」

「でも、それでも、また提督さんの口に合わなかったら………」

「大丈夫さ。提督は間宮さんのカレーが大好きだからね。間宮さんに協力してもらおう」

「でも、それだと間宮さんのおかげになるっぽい」

24: 2015/07/27(月) 15:49:04.14 ID:NYc+OQMZ0
「そうだね。広義に言えば。でもね、間宮さんには初めのうち手順を教えてもらって、どうにか僕たちだけでも作れるようになるまで練習するんだ。間宮さんという教官がいるんだから、前みたいに滅多なことにはならないさ」

「でも、私たちだけでおいしいカレーを作れるようになるかな」

「なるさ。あと、思い違いをしているようだから言っておくけど、今度の本番は夕立一人で作るんだ」

「ええ!? そんなの無理っぽい!」

「料理というのは慣れだよ、夕立。いつものポジティブさで頑張ろうよ。さあ、さあ」

「………ぽい~」

25: 2015/07/27(月) 15:50:08.67 ID:NYc+OQMZ0
間宮は夕立たちの申し出を快く引き受けてくれた。逆にむしろぜひ教えさせてちょうだいと返された。夕立と時雨は厨房騒ぎの前科もちなので、そういう少し意地悪な調子の冗談にも沈黙を余儀なくされた。

厨房に入る前に軽い身体検査が行われた。探知機を用いて何か危ないものを持ち込もうとしていないか調べているらしかった。どうやら厨房で自爆テロでも起こすのではないかと疑われているらしいぞと、時雨は夕立とともに笑いあった。間宮も笑った。緊張をほぐさせる冗談だったのだ。

手を洗うことから包丁の持ち方といった基本的なことから、レシピには書いていないところの作業の仕方を丁寧すぎるぐらいに教えてもらった。間宮の手伝いがあると驚くほどスムーズにことが運んだ。夕立と時雨は自分たちの料理スキルが突然開花したのではないかと錯覚してしまうほどだった。そこで間宮が抜けるとまた途端にぎこちない連携の応酬となり、間宮に泣きつくのだった。

間宮に手伝ってもらったとは言うべきではなく、夕立と時雨が手伝ったのだと言うべきではないかという最初に完成したカレーの味は美味しかった。空腹でもなく、愛情もないのに美味しかった。それを素直に間宮に伝えると愛情はあるでしょ? ねえ? と圧力をかけてきたので、夕立と時雨は「間宮さんの愛情カレーおいしいです」と素直に言い直した。白露型はきっと素直さが売りなのだ。

料理というのは砲撃訓練なんかとは違いその日のうちに何回も繰り返すことができない類のものであった。今日はこれでおしまいという間宮さんに夕立は不満そうな表情を見せたが、気にもかけられず放り出された。

昼間の厨房手伝いなどで経験を積むなどやり方はいくらでもありそうなものだったが、間宮はその提案をやんわり断った。つまり、そういうことなのだった。

26: 2015/07/27(月) 15:50:56.72 ID:NYc+OQMZ0
間宮との料理演習は長いこと続いた。こう聞くとすごい修練に励んだようにも聞こえるが、実際には一日でそんなに時間をとっていないので、長い期間に渡る料理実習というのは些か欺瞞的な響きを持つ。

それでも、事実長い期間間宮から料理のノウハウを色々と教わった。教官に間宮を選択したことを後悔したこともある。普段は優しい婦人なのだが、一度料理のこととなると鬼も逃げ出す厳しさだった。

料理の上達を目論むにはその道のプロである間宮から学ぶのが良いと思ったが、プロは素人にも妥協を許さず、ものになるように技術を叩き込もうとした。中には目下の目的には明らかに必要のない技術もあった。これだと金剛あたりのアマチュア気質に頼めば良かったと思うこともあった。

でもまあ腕は確かだった。腕前のない夕立も時雨も何が確かなのかはよくわからないけど、腕は確かだと思った。料理の腕も教える腕も確かだった。右腕左腕を合わせると少なくとも間宮は四本の腕を持っているぐらいに確かな腕前であった。熟練するとその分野のための腕が生えてくるのかもしれない。時雨はそのうち間宮は千手観音にでもなるんじゃないかと思い、祀られる間宮を想像して吹き出した。そして、案の定に怒られた。

そんなこんなで想像を絶する厳しい修行に夕立と時雨は明け暮れた。想像を絶するぐらいというのだから、もはや料理の修行もしていなかったのかもしれない。宇宙外生物が地上に降り立ち密かに侵攻しているところ偶然目撃した僕たちは宇宙船に囚われた。このままでは全人類が危ない。その時丁度牢獄の抜け道を見つけた僕ら一行。宇宙船をジャックして世界に危険を知らせようとする。しかし、世界は異形の宇宙船から発せられる僕らの信号はダミーだと判断して攻撃してくるんだ。しかし、その攻撃には恐るべき事実が秘められていた! さあさあ人類の命運と僕らの命運はいかに!

うん。大体こんな感じだったかも知れないと時雨は納得している。要はどんな教育がなされたのか記憶が曖昧だということだった。どうして料理に関してあんな不器用だった夕立と時雨が流れるようにカレーを作れるようになったのかは永遠の謎か奇跡かそれとも宇宙人に拐われたかとしか思えない現実であった。

27: 2015/07/27(月) 15:51:55.94 ID:NYc+OQMZ0
「どうだい、夕立。作業は良好かい?」

「ぽい!」

厨房に入って声を掛けると、元気のよい「ぽい」が聞こえてきた。夕立とはずっとにいたけど、何だか久しぶりにその口癖を聞いたような気持ちになった。

きっととても良いものが出来上がる。そんな確信を時雨は持っていた。それは提督を仰天させることになるだろう。提督が椅子から転げ落ちるさまを想像して愉快な気持ちになった。

これはすごく小さな些細な日常の出来事かもしれないけど、夕立にとっては非常に大事な小さな一歩なのだ。それは成功に終わるだろう。小さな成功。しかし、全ての事態が好転しだす無限の可能性を秘めた成功である。

執務室に一足先に向かっていよう。きっと提督は待たされて退屈して長々と前書きが長くなってすみません。

ちなみに安価はありません。ご安心を。

では本編を投下していきます。

28: 2015/07/27(月) 15:53:02.73 ID:NYc+OQMZ0
提督「いや、だから世界に不要なものだろ? そんなのssの前書きだろ」

時雨「適当なことを言ってるね。確かに待たせているのは夕立も悪いとは思っているよ。それで暇を持て余した提督がパソコンを開いてどこぞの投稿サイトを見ていても僕は何も責める気はないさ。でも、質問には真面目に答えるべきだと思うよ」

提督「そもそもどうして時雨がそんなことを聞くのかがわからない。一番大事なものとかならまだしも一番いらないものって、お前そんなの世の中には溢れているじゃないか」

時雨「じゃあ、一番大事なものってなんだい?」

提督「………」

時雨「こう聞くと話が勝手に哲学的になってしまうらしい。僕は君とバカ話がしたいんだ。だったら、哲学的問の反対のことを聞けばバカ話らしくなるんじゃないかって僕は思うわけさ」

29: 2015/07/27(月) 15:54:06.60 ID:NYc+OQMZ0
提督「急にやってきたかと思えばわけのわからんことを。でも、お前は俺の「前書き」という答えに対して不平を言ったよな? 真面目に答えろって、だったらこれこそ一番いらないものの類になるんじゃないか」

時雨「それもそうだね。じゃあ、どうして前書きを不要だと思うかにしよう」

提督「そりゃあ、予防線をはるのって何だか見苦しくて、しかも内容がないことは明らかだ。誰も読まないだろうよ。そして誰も読まない文章に存在価値なんてないと思うがね」

時雨「でも、中にはその前書きを読む人もいるんじゃないかな?」

提督「そりゃあ物好きってやつさ。大体は前書きってだけで読まないよ。特に何十行もある前書きなんてな。そんな所を努力するぐらいなら、本編を努力しろよって思うのが常識的だろ?」

時雨「ふうん。提督にとっては前書きなんてあってないようなものなんだね」

30: 2015/07/27(月) 15:54:46.60 ID:NYc+OQMZ0
提督「ああ。全く見えないね、前書きってやつは」

ノック音。

夕立「提督さん、入れてっぽい~!」ガチャガチャ

提督「昼食を用意してくれるとは聞いたが、鍋ごと持ってくるなんて聞いてないぞ! ええっと、ええと、鍋敷きは、よし、ここに置いてくれ」

夕立「ふう、重たかったっぽい。提督さん、少し待っててね。今からお皿に盛り付けてって………あーっ! お皿とスプーンを忘れたっぽい! ちょっと取ってくるね!」バタバタ

提督「夕立はいつも騒々しいな。もう少し落ち着きというものをもてないのか」

31: 2015/07/27(月) 15:55:39.53 ID:NYc+OQMZ0
時雨「じゃあ、僕はそろそろ行くよ」

提督「お前もお前で一体何をしにきたんだよ」

時雨「君に会いに来ただけじゃダメなのかい?」

提督「ダメではないが、意味が分からない」

時雨「僕はマメな性格なんだよ。前書きも読むしあとがきも読む。そんなタイプの艦娘なのさ。提督にはそういう楽しみはわかってもらえないかもしれないけど」

提督「………お前も一緒にどうだ。夕立がせっかくカレーを作ったんだ。食べていってもいいだろう」

32: 2015/07/27(月) 15:56:18.30 ID:NYc+OQMZ0
時雨「それでも良かったんだけど、やめておくよ。大丈夫。心配しなくともあの鍋一杯は簡単に食べられるほど美味しいカレーだよ」

ガチャ

夕立「あれ? 時雨食べていかないの?」

時雨「うん。やめておくよ。ここ数週間はカレーづくしだったから、流石に胃もたれしてきているんだ」

夕立「そう。残念っぽい」

時雨「大丈夫。夕立は頑張った。あとはもう突っ走るだけだよ」

33: 2015/07/27(月) 15:57:05.47 ID:NYc+OQMZ0
提督「また大きい皿を持ってきたな。夕立」

夕立「提督さんにはたくさん食べて欲しいっぽい! はい。どうぞ!」

提督「どれどれ。ぱくっ」

夕立「………」ソワソワ

提督「………おいしい。いや、本当に冗談抜きで本当に美味しい! なんだこれ! 今までで一番好きなカレーかもしれない! パクパク」

夕立「えへへ。提督さんに褒められちゃった。もっと褒めて褒めてー!」

提督「ああ! 偉いぞ夕立! あと、おかわりくれ」

夕立「喜んでっぽい!」


おわり

引用元: 提督「この世界にいらないもの?」