1: 2010/09/25(土) 22:23:49.17 ID:SoO.RSw0

57: 2010/09/28(火) 23:08:05.78 ID:AjlV9yo0
美琴「……………………」スゥー…





美琴「どーーーーーーん!!!!!!」





上条「ぶふぉっ!!!!!!」


ガバッ!!


上条「な、何だあ!!?? ってまたお前か御坂!!!!」

大声と共に布団の中から顔を出す上条。見ると、布団の上に腰掛けるようにして………

美琴「遅い。もう朝の9時前なんですけど?」



……美琴が乗っていた。




58: 2010/09/28(火) 23:10:10.99 ID:AjlV9yo0
上条「だからって2日連続で飛び乗ってきて起こしてんじゃねーよ!」

美琴「何言ってるの? 約束したじゃない。今日は一緒に朝ご飯食べながら『ゲコ太 MAX』見るって」

上条「………何で高校生にもなってんなもん見ないと……」

美琴「あっれ~? じゃあ2日前の深夜にこっそり私の目を盗んで『ドキッ☆お姉さんたちの眠れぬ夜』を見てたことを、あのインデックスって子に言っちゃっていいのかな~~?」ニヤニヤ

上条「ち、違う!! あ、あれはたまたまテレビを点けたら映ってただけで……っ!」

美琴「さーてインデックスちゃんに電話しよーっと」

上条「はいごめんなさい正直に言うと見てましたですからインデックスさんだけには言わないで下さい」

美琴「分かればいいの。ほら、早く起きて起きて!」

と言いつつ、美琴はベッドに腰掛けたまま上条に顔を近付ける。

上条「うっ……」オドオド

美琴「?」

上条「あ、あのさ……」

美琴「何よ?」

上条「顔、近いから………////」

美琴「!!!!!!」
美琴「な、何発情してんのあんた!!??//// バ、バカじゃないの!!??//////」

慌てふためきながら、急いでベッドから飛び上がった美琴はキッチンへ向かっていく。

上条「……おめぇが顔近づけてきたんだろ……」ボソッ

そんな美琴の背中を見て視線を逸らしながら恥ずかしそうに呟く上条だった。

60: 2010/09/28(火) 23:13:28.00 ID:AjlV9yo0
テレビ『くらえゲコ太マックスフルショット!!!』ズゴーン!!

上条「………………」

美琴「……」ワクワクドキドキ

テレビ『ま、まさか君が悪の帝王スネークキングだったなんて』ドドーン!!

上条「………………」

美琴「……」ワクワクドキドキ

箸を止め、食い入るようにテレビを視聴する美琴。

上条「(……そんな面白いのかこれ?)」

テレビ『ゲコ太の運命はどうなってしまうのか!? 次回へ続く!!』

美琴「あーもう。何でこんな良いところで切るのよ! ゲコ太のことが気になるじゃない!」

上条「(お前は子供か)」

美琴「常盤台の寮じゃテレビなくて見れなかったから、せっかくこっちで見ようと思ったのにーーー!!! テレビ局のアホ!!」

上条「アニメなんてこんなもんだよ。子供向け番組はまだマシだけど、原作つきの少年向けアニメなんて毎週引き伸ばしがすごいぞ」ムシャモグムシャモグ

美琴「でも! ようやく念願の『ゲコ太 MAX』を見れたのよ!? 理不尽にも程があるじゃない!」

上条「………いや、それは俺に言われたって……ん?」

美琴「え? な、何よ!?」

上条「んーーーーーー?」ジーッ

美琴「ちょ、ちょっといきなり何見つめてきてるの!?////」

上条「んーーーーーーーーーー?」ジーッ

美琴「/////////////」アタフタ

62: 2010/09/28(火) 23:17:36.55 ID:AjlV9yo0
上条「ご飯粒」ヒョイ

美琴「え?」

上条「ついてた」パクッ

美琴「……………!!!!//////」カーッ

上条「お嬢さまなんだから食事ぐらい優雅に食えよ」

美琴「………………//////」プンスカー

上条「それともお前はたった1週間ほどお嬢さま生活から離れただけで作法も忘れちまうのかよ?」ムシャモグ

美琴「………!」

上条「……って何だよ?」

美琴「ご飯粒」ジッ

上条「え? どこ?」

美琴「ままま待って! い、いいいい今わ、私が取って(そして食べて)あげるから!!////」

上条「あ、ホントだ」ヒョイパクッ

美琴「………!!!」ガーン

上条「はは、俺も人のこと言えねーな……と、どうした?」

美琴「………っ」ブルブルブル

上条「おい御坂ー?」

美琴「知らないアホ!! ボケ!! 間抜け!!」プイ

上条「え? えーーーー!!??」

美琴の理不尽な罵りを理解出来ない鈍感な上条であった。

65: 2010/09/28(火) 23:20:31.60 ID:AjlV9yo0
上条「つーわけで何故か食後に御坂とゲームをすることになったのですが……何故格闘ゲーム!!??」

美琴「ふん。何だっていいでしょ。ストレス解消するには」

上条「お、お前まだ怒ってる? 俺何かしたっけ?」

美琴「さ、始めるわよ。私このキャラ取ったー」

上条「って無視かよ! そして俺の持ちキャラが取られた!!」

美琴「早くキャラ選びなさいよ」

上条「……チッ…なら少し頼りないがこいつで……」

テレビ『レディ……GO!!』

美琴「氏ね氏ね氏ねーーーー!!!!」ピコピコピコ

上条「うわちょっやめれーーーー」ピコピコピコ


数分後――。


美琴「…………」グスッ

上条「はははははざまぁみろ!!! 弱小キャラでも裏技駆使すれば勝てるんだよ!!」

美琴「………もう1回」ボソッ

上条「ああ? 勝負は着いたろ」

美琴「もう1回!!」

上条「はいはい。でも何度やっても結果は同じだけどなぁ?」ニヤンニヤン

テレビ『レディ……GO!!』

上条「オラ! 目潰し攻撃に金的攻撃そして敗れたフリを見せて隙を見せた敵に奇襲加える攻撃じゃー!! てやっ! ふん!」ピコピコ

美琴「………………」ピコピコ

上条「ふふん。おいどうした御坂さっきの威勢は? このままじゃ負けちまうぞー」ピコピコ

美琴「…………」スッ…ピトッ

上条「!!!!!!」ピコピコ

67: 2010/09/28(火) 23:24:24.66 ID:AjlV9yo0
上条「(ちょ、ちょっと待て!!?? 何でこいつ俺に接近してきんの!!??)」ピコ…ピコ…

美琴「…………」ピコピコ

上条「あ、あのー御坂さん……? ちょっと離れていただけないでせうか……」ピコ………ピコ……

美琴「…………」ピコピコ

上条「正直これはやり辛いと言うか……////」ピコ……ピコ………

美琴「………」ムシ

上条「おーい(し、仕方ない。このままでは何だか色々とヤバイ気がするので肘でちょっとつついて……)」ツンツン




美琴「ひ…ゃぁん////」




上条「!!!!!!!!」ピコピーーーーー

テレビ『ゲームセッ!』カンカンカン

上条「あーーーーーーーー!!!!!!」

美琴「やった私の勝ちいいいいいい!!!!!!」

上条「て……てめぇずるいぞ!!」

美琴「ん? 何のことかしら?」ケロッ

上条「お…お前、わ、わざと俺にくっついてきて……へ、変な声出して俺の手元を狂わせた……ろ?////」

美琴「さて、これでゲームは終わり、っと」

上条「無視すんなーーーーーーーー!!!」

ゲームでも女子中学生に主導権を握られる上条であった。

68: 2010/09/28(火) 23:27:27.75 ID:AjlV9yo0
昼――。

上条「何と言うか……お前と暮らすとこうもお前のペースに引き摺られるとは思ってなかったわ」ハァー

美琴「ふふ。私を甘く見た罰ね」ドヤ

上条「で、用意は出来たのか?」

美琴「ええ、OKよ」

上条「ったく、ただ外出するだけじゃねぇか」

美琴「久しぶりに外出るんだから身嗜みぐらいはちゃんとしないと」

上条「ふーん……お前も何だかんだ言って女の子なんだな」ガチャッ

美琴「はぁ? 何それ? あんたっていつも一言多いわよね?」

上条「いや、その別に悪気があったわけじゃ……」

美琴「なーにブツブツ言ってんの?」

と言ってワンピース姿の美琴が上条の顔を覗き込む。

上条「(うっ……)」ドキッ

美琴「ほら、いこ!」ギュッ

上条「お、おい……」

困惑する上条のことなど知ったことではないように、美琴は彼の手を取り走り出す。

上条「(やれやれ、でもまあ……『外』に出てから初めての外出なんだ。今日は付き合ってやるか)」

腕を引かれながら、上条は笑みを零した。

69: 2010/09/28(火) 23:31:17.77 ID:AjlV9yo0
映画館・劇場――。

ザワザワザワ

美琴「何見たい?」

上条「…………」キョロキョロ

美琴「ちょっと聞いてるの?」

上条「え? ああ……」

美琴「で、何見る?」

上条「うーんじゃあ……この『機動兵器ガンタム000』を……」

美琴「もちろん『ゲコ太の冒険』に決まってるわよね?」ニコッ

上条「お前…俺に選択権は無しかよ」

美琴「『ゲコ太の冒険』は、あの『わんわんにゃんにゃん物語』を監督した人の作品なのよ? 見ない訳にはいかないでしょう?」

上条「いや、ちょっと見てみろよ。『ゲコ太の冒険』のシアター2の前で待ってる客、ほとんど親子連れだぞ。お前も中学生なんだからちょっとは大人っぽいの見ろよ」

美琴「『ガンタム』だって子供向けじゃない」ムスッ

上条「はぁ!? 『ガンタム』は子供向けじゃねぇよ! 大人も見れる崇高な作品だ! お前は知らないだろうけどな『ガンタム』は裏の世界観が壮大ですごいんだよ! しかも、アニメとは思えないほど戦闘シーンは迫力があるんだ!! それに一見ただのアニメに見えても実は戦争と言う重いテーマを扱ってんだよ! 特に原作者の御大はな、このシリーズを開拓したクリエイターとしてアニメ業界でも重ち」

美琴「『ゲコ太の冒険』高校生と中学生1枚ずつお願いしまーす」 

上条「」

美琴「どうしたの?」キョトン

上条「お前なー……もう」

美琴「だって訳の分からないこと語り始めるんだもん。それにロボットとか何が面白いのかよく分からないし」

上条「ロボットじゃねぇよ! 機動兵器だ! 『ガンタム』だ!! 男のロマンだ!!」

美琴「だからそれが分からないの!」

上条「だからって『ゲコ太』はねぇだろ」

美琴「じゃあ『マンダム』見ろっての?」

上条「『マンダム』じゃねぇよ『ガンタム』! あーもうこれじゃあ埒があかねぇ! 何ならこれ見ようぜこれ!」

美琴「………え? ……こ、これって……////」カァァァ

70: 2010/09/28(火) 23:35:10.34 ID:AjlV9yo0
映画『……私、貴方のことが好きだったの』

映画『僕もだよ。愛してる』

上条「………………」

美琴「………………」

映画『や……もっと……優しくして……レロレロ』

映画『ふふふ、僕を本気にさせたこと後悔させてあげるよ……ムチュプチュ』

上条「……………………」

美琴「……………………」

『いや……ああん……愛してる愛してる!!!」

『僕もだ!! あああああ!!! 愛してるよ!!!』



上条美琴「「(気まずい………)」」



上条「(やべー適当に選んだらエOチな映画だったし……)」

美琴「(ちょっ……何よこれ。お、男の人と女の人があんな……//// な、何でこの馬鹿はこの映画をチョイスしたのよ!!////)」

上条「(うお、すっげ……)」ムフー

美琴「(ひゃー見てられなーい//// こいつ、私にこんなの見せて何か変なことでも考えてんの!?//////)」

上条「(やはりこういうのは大画面で見るのが1番……ジュース飲もうっと)」スッ

美琴「(もう嫌。ジュース飲んで気を紛らわそう…ってジュース左と右どっち置いたっけ?)」スッ



ピトッ



上条「え?」

美琴「へ?」

74: 2010/09/28(火) 23:39:31.16 ID:AjlV9yo0
上条「(この小さい手は御坂……だよな?)」

美琴「(ちょっ…な、何なの? こんな暗い中で人の手握ってきて……////)」

上条「あ、あの……」ヒソヒソ

美琴「ちょ、ちょっと! 何のつもり!? きゅ、きゅきゅ急にひ、ひひひ人の手に、にににに握ってきて////」ヒソヒソ

上条「べ、別に握ってねーよ! ジュース取ろうとしたらたまたまお前の手があっただけで……」ヒソヒソ

美琴「え? あ、そ、そうなんだ……ふ、ふーん……」

上条「って何だよ急に黙って」

美琴「(な、何だ……べ、別に握りたいから握ってきたわけじゃないんだ。バッカみたい私1人舞い上がって……)」ショボン

上条「悪い。じゃ手離すぞ」

美琴「あ、ま、待って……っ!」

上条「………え?」

美琴「その………」

上条「どうした?」




美琴「手……離さないで………」




上条「!」

77: 2010/09/28(火) 23:42:56.17 ID:AjlV9yo0
美琴「この間みたいに……怖い人たちに追っかけられたり襲われるの……嫌だし……」ボソボソ

上条「………………」

美琴「…………、」

上条「…………」スッ

美琴「あ……(離しちゃった……。……やっぱり無理だよね、わがままばっかり言ってるから……)」

上条「…………」



ギュッ



美琴「!!!!!!」

上条「どうした? 怖いんだろ? それとも俺に握られるのは嫌だったか?」

美琴「あ……う……その……」

上条「ん?」

美琴「嫌……じゃない……////」カーッ

上条「そうか」ニッ

美琴「手……」

上条「え?」

美琴「ちゃんと、握っててよ………//////」

上条「…………おう」

映画が終わるまで、互いの手を強く握り締める2人だった。

79: 2010/09/28(火) 23:47:31.68 ID:AjlV9yo0


ザワザワ


美琴「………終わった(結局手のことが気になって映画に集中出来なかった……。いや、逆にあんな映画集中しなくて良かったけど……)」

上条「………」キョロキョロ

美琴「? どうしたの?」

上条「え? あ、いや……」

美琴「変なの」

上条「(……姿は見えないけど、あいつらのことだから上手く隠れて護衛してくれてんだろ。なら、安心だな)」

美琴「ねぇ!」

上条「ん? 何だ?」

美琴「この後ショッピング付き合ってくれるんでしょ?」

上条「ああ、そうだな」

美琴「久しぶりの買い物なのよねー。可愛い服買いたいからちゃんと選んでよね?」

上条「分かってる分かってる」

美琴「じゃ……」ガシッ

上条「お」

歳相応の嬉しそうな笑顔を浮かべ、美琴は上条の腕を組む。

美琴「行こ!」

上条「わっ……待て待て」

そんな彼女に引かれて走る上条の顔も満更そうではなかった。

107: 2010/09/30(木) 00:22:26.88 ID:gUGqB1I0
デパート――。

上条「まだかー?」

美琴「わっ! ちょっと! 開けたりしないでよ!!」

上条「バカか。痴漢じゃないから開けるわけないだろ」

カジュアルショップの試着室の前に、腕組をして立つ上条の姿があった。もちろん側の試着室に入っているのは美琴で………


シャッ!


上条「お?」

カーテンが開き、最新の冬モデルらしき可愛らしい服とスカートを着た美琴が姿を現した。

美琴「ど……どうかな?////」

上条「………!」

美琴「変……じゃないよね?」オドオド

上条「いや、変と言うか……(………可愛い)」

美琴「な、何よ?」

上条「んーっと……その……何て言うのかな……」

美琴「もう! はっきり言ってよ! こっちだって恥ずかしいんだから!////」



上条「あー……可愛い……かな?////」



顔を背け頭をポリポリ掻きながら上条は呟く。

美琴「!!!!!!!!」ボンッ

109: 2010/09/30(木) 00:25:36.74 ID:gUGqB1I0
美琴「か……かわ……う……あ……//////」

上条「に、似合ってるよ……//////」

美琴「そ、そんなこと……分かってるわよ//////」

顔を真っ赤にさせつつ美琴も顔を背ける。

上条「………………」

美琴「………………」

上条美琴「「………………」」

上条美琴「「それで!」」

上条美琴「「………………」」

上条美琴「「この服だけどさ!」」

上条美琴「「………………」

上条美琴「「買おうか!?」」

上条美琴「「(……何故シンクロする!!??)」

上条美琴「「………………」

上条「……あ、あー分かった。その服気に入ったんだろ?」

美琴「え? 気に入ったって言うか、あんたが『可愛い』って褒めてくれたかr……って何言わすのよあんたは!!////」

上条「買ってやるよ」

美琴「え?」

上条「俺が買ってやる」

美琴「ほ、ホント!!??」パァァ

上条「ああ」

美琴「でもお金とか……」

上条「バカ。中学生が金のこと心配してんじゃねぇ。俺がお前のその服『可愛い』って言ったんだ。お前が欲しがってるのに『可愛い』って言ったその張本人が買ってやらないのはかっこがつかないだろ?」

美琴「……………うん//////」

110: 2010/09/30(木) 00:28:22.40 ID:gUGqB1I0
店員「お買いあげありがとうございます。もし良ければ当店のポイントカードをお作りになられますか?」

美琴「あ、はーい。お願いしまーす」

上条「………」キョロキョロ

店員「当店では現在、開店10周年を記念して様々なサービスを行っております。こちらのクジをお引きなり、当たりが出れば半年間、当店の商品を2割引で購入出来るクーポン券をご利用出来るようになります」

美琴「え? それ本当ですか?」

上条「………」キョロキョロ

客1「お、この上着いけてね?」

上条「!」

客2「えーダサくなーい?」

上条「…………」

客1「安いし。これにしようぜ」

客2「じゃあ、あたしのも買ってよー」

上条「…………」ホッ

美琴「ねぇ」グイグイ

上条「え!? わっ! 何!?」

美琴「聞いてるの?」

上条「は!? な、何が!?」

112: 2010/09/30(木) 00:30:28.03 ID:gUGqB1I0
美琴「もう。このクジ引いて当たりが出ると半年間このお店の商品が2割引になるんだって」

上条「へー……それは良い特典だな」

美琴「そ! だから引いてみてよ!」

上条「え!? 俺が!?」

美琴「あんたが私の服買ってくれたんだからさ、当然じゃない」

上条「つっても俺は右手のせいでこんなの当たった試し1度もねぇぞ?」

美琴「いいからいいから! ダメで元々なんだから」

上条「……分かったよ。やればいいんだろ」

言って上条は、店員が差し出してきたボックスの中に右手を入れる。

上条「(適当にどれでもいいや)」

美琴「…………」ワクワクドキドキ

後ろでは美琴が上条の服を掴みながら目を輝かせてその様子を見守っている。

上条「じゃあこれ」

店員「かしこまりましたー。今確認しますねー」

上条「………………」

美琴「………」ワクワクドキドキ

113: 2010/09/30(木) 00:33:00.22 ID:gUGqB1I0
店員「おめでとうございます!! 当たりが出ました!!」

美琴「やったーーー!!!」

上条「えーーー」

店員「それではお客様には半年間いつでも当店の商品を2割引でご購入できるクーポン券を差し上げますね」

美琴「やれば出来るじゃないの!」

上条「今更当たりが出たって納得出来ねー」

美琴「あはは。幸運の女神美琴ちゃんがついてたお陰ねー」バシッバシッ

上条「いって! ……お前なあ……」

美琴「さあ、今日は映画も見たし服も買ってもらったし」

上条「帰るのか?」

美琴「はあ!? これだからデリカシーのない男ってのは……」ハァ

上条「な、何だよ!?」

美琴「スイーツ食べに行こう、ぐらい言えないの?」

上条「ああ、はいはいそういうことね。んじゃあ美琴さま、スイーツ食べに行きませんか?」

美琴「よろしい。ふふふ」

上条「(ま、今日は甘えさせてやってもいいかな)」

美琴「早く行こうよー」

美琴の嬉しそうな笑顔を見ながら、上条は胸中に呟く。

上条「(しばらく御坂とは会えなくなるんだし……)」

114: 2010/09/30(木) 00:35:51.35 ID:gUGqB1I0
店を出、待ちに出る2人。

美琴「あ、ほら! 横断歩道の向こうよ! あのお店今流行りのパフェが置いてある喫茶なの!」

上条「はぁ…」

美琴「と、待って」キョロキョロ

上条「え?」

美琴「あそこに公園あるからちょっとトイレ行ってくるね」

上条「え!? おい!」

美琴「先にお店行ってて!!」ダッ

それだけ残し去っていく美琴。

上条「ちょっと待………!!!」

ササッ……!

上条「(人が動く気配……。……あいつらか)」
上条「(……なら大丈夫か……)」

♪ピッポピッポピッポピッポ♪

上条「(あ、青になったな)」

信号を確認し、上条は横断歩道を渡り始める。

上条「(にしても、御坂とは明日を最後にしばらくのお別れか。……まあしょうがないと言えばしょうがないけど)」

足元を見ながら上条は歩く。

上条「(別に一生会えないってわけじゃないけど……遠いからな。滅多に会うことも出来なくなるだろうな……)」

上条の脳裏に美琴の笑顔が蘇る。

上条「(……俺はこのままでいいんだろうか……。あいつと別れてしまって……)」

僅かに上条の表情に陰りが灯る。

上条「(まあ、あいつの幸せのためだ。仕方ない……)」

と、その時だった。

115: 2010/09/30(木) 00:39:07.65 ID:gUGqB1I0



ブウウウウウウウウウウウウウン!!!!!!



上条「!!!!!!!!」


「どけどけーーーーーー!!!!」


咄嗟に顔を上げる上条。見ると、猛スピードを上げて走るバイクがすぐ側まで迫っていた。

上条「(轢かれる……!?)」

即座に避けようとする上条だったが、間に合いそうになかった。

上条「(氏ぬのか……俺は……!?)」



グイッ!!



上条「え?」

116: 2010/09/30(木) 00:41:35.80 ID:gUGqB1I0



ドサッ!!



突如、後ろに引っ張られる感覚を覚え、そのまま腰をつく上条。


ブオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!


「ひゃっはー!!!」

直後、上条が今まで立っていた場所をバイクが通過していった。

「止まりなさい!! そこのバイク止まりなさい!!」

次いで、サイレンを鳴らしながらパトカーが目の前を通り過ぎていく。

上条「………………」ボーッ

九氏に一生を得た上条は、ゆっくりと後ろを振り返った。




美琴「あんた何やってんの!!?? 今氏ぬところだったのよ!!!」




上条「御坂……」

117: 2010/09/30(木) 00:42:54.67 ID:gUGqB1I0
そこに、仁王立ちする美琴の姿があった。

上条「お前が……助けてくれたのか?」

美琴「そうよ!! 公園のトイレが混んでたし、どうせ喫茶店にトイレがあるからと思って急いで戻ってみたら、あんた歩道の真ん中でバイクに轢かれそうになってて……冷や汗かいたわよ!!」

上条「ご、ごめん……」

美琴「はぁ……。……ったく……もういいから。あんたの命知らずな行動には慣れてるし。ほら、信号が変わりそうだから渡っちゃいましょ」

上条「お、おお」

差し出された美琴の手を掴み、上条は立ち上がる。

上条「………………」

美琴「さ、心配かけてくれたお礼に奢ってもらうからね」

上条「ま、マジかよ!?」

美琴「とーぜん」

再びいつもの調子に戻った2人は歩道を渡り終え、喫茶店に入っていった。

118: 2010/09/30(木) 00:47:40.22 ID:gUGqB1I0
喫茶店――。

美琴「ん~~~美味しい!」

幸せそうな笑顔を浮かべ、美琴は注文したパフェを食べる。

上条「そんなに美味しいのかよ」

美琴「流行ってるんだから当然じゃない。で、何であんたは紅茶一杯なわけ?」

上条「熱膨張って知ってっか?」

美琴「はぁ?」

上条「いや何でもありません今のは忘れて下さい」

美琴「にしても本当甘くて美味しいわね」パクモグ

上条「学園都市で食べたのとどっちが美味い?」ズズ…

美琴「甲乙つけがたいわね。でも向こうにいた頃はみんなと一緒に食べてたからそもそも比較は出来ないかも」

上条「みんな、って?」

美琴「そりゃもちろん黒子とか佐天さんとか初春さん……とか…………」

上条「……? どうした?」

急に美琴の声が小さくなった。

美琴「………………」

上条「御坂?」

見ると彼女は表情を暗くして半ば俯いていた。

上条「!」

上条は理解する。何故彼女が急に押し黙ってしまったのかを。

上条「あ……あ、ああああのさ御坂!」

美琴「………?」

上条「そ、その……それ美味いんだろ? だ、だったら俺にも食わせてくれよ!」

美琴「……え?」

落ち込んだ彼女を元気付けるため上条が咄嗟に思いついたのはこれだった。

119: 2010/09/30(木) 00:50:44.91 ID:gUGqB1I0
上条「お、俺も1度そのパフェがどんな味か知りたくてさ!」

美琴「………別にいいけど、スプーンは?」

上条「え?」

美琴「だって、スプーンは私の分しかないけど?」

上条「あ………」

美琴「………………」

上条「………………」
上条「(やべー……話題変えるために言ったつもりだったけど、これは盲点だったぜ。……しかし、今更引くわけにはいかない…っ!)」

美琴「どうするの?」

上条「食べさせてくれ!」

美琴「は?」

上条「だからそのスプーンで俺に食べさせてくれ!」

美琴「え?」

自然と、右手で握っていたスプーンに視線を向ける美琴。

美琴「え!? え!? ええええええええええっ!!??//////」

上条「お願いだ!!(もうどうにでもなーれ)」

美琴「へぅっ…////」

上条「俺も食ってみたいんだ」

美琴「な……う……(でもそれって間接キスってことじゃあ……)//////」

上条「ダメなのか?」ジッ

美琴「え……あ……ダメじゃ……ないれす……////」カ~ッ

120: 2010/09/30(木) 00:53:24.75 ID:gUGqB1I0
上条「た、頼む」

美琴「こ、後悔しないでよ?////」

上条「お、おう……(何で俺が後悔するんだ?)」

美琴「じゃあ……あ~ん」

上条「!!!」

美琴「ど、どうしたの? は、恥ずかしいんだから早くしなさいよ////」

上条「(ちょっと待て何がどうなってこんな展開になったよく落ち着いて考えてみろ確か俺は御坂を慰めるために俺もパフェを食いたいとか訳の分からないことを言ってしかし気付いたら御坂が上目遣いでスプーンを差し出してきて『あーん』ってまるでギャルゲ展開みたいになって)」

美琴「ほら。あ、あ~~ん////」

上条「……っ ……あ、あ~~ん(何かデジャヴュだけど)////」

パクッ

美琴「ど、どう?////」

上条「う、美味いな……」

美琴「そ、そう………」

上条「おう。も、もういいや……」

美琴「次あんた!」

上条「へ?」

美琴「次、あんたの番……//////」

顔を背けながら、スプーンの持ち手を差し出してくる美琴。当然彼女が何をしてほしいのかは上条にも分かった。

上条「えっ!? ちょっ……そ、それは……」

美琴「あ、ああああんただけずるいのよ!!////」

上条「ず、ずるいって……」

美琴「私だけ恥ずかしい思いさせて、あんたは何もしないなんてずるいでしょ!!//////」

121: 2010/09/30(木) 00:56:36.28 ID:gUGqB1I0
上条「い、いやだけど……そ、それは……」

美琴「お願い。あ~~んして////」ジッ

上条「………!!」

美琴「………ダメ?」ジッ

上条「OK」

自分の中で何かの勝負に負けた上条は潔くスプーンを受け取る。

上条「ほ、ほら……あ…あ~~ん(何言ってんだ俺は)」

美琴「う………////」キョロキョロ

上条「な、何だよ早くしろよ……//」

美琴「スプーン遠い……」ボソッ

上条「ええい、これだからお嬢さまは……っ! ……ほら、あ~~ん////」

美琴「あ、あ~~ん////」

パクッ

上条「……ど、どうだお味のほどは?」


美琴「美味しい……////」ニコッ


上条「………っ」ドキッ

美琴「じゃ、今度は私の番ね」

上条「ええっ!? もう1回!!??」

美琴「う、うっさいわよ! わ、私の機嫌が直るまで何回でもやってもらうからね!////」

上条「マジっすかーーー!!!」

美琴「だからほら、あ~~ん////」

上条「もうこうなったら自棄だあ~~ん」

どっからどう見てもバカップルな2人だった。

122: 2010/09/30(木) 00:59:22.52 ID:gUGqB1I0
帰り道――。

夕日が染まる街を、上条と美琴は2人して歩く。

美琴「今日は楽しかったよ。ありがとう!」

上条「いや、礼を言いたいのはこっちだよ」

美琴「そう?」

上条「ああ。もう明日にはお前と別れちゃうけどさ、最後に楽しい思い出作れてよかったよ……ってまあ別に今生の別れじゃないんだから少し大袈裟かな?」

美琴「………………」

上条「………御坂?」

俯き、無言で歩く美琴。

上条「……あ、その……ごめん。俺もなるべくお前と一緒にいてやりたいんだけどさ……」

美琴「………………」

上条「でもお前なら……どこ行ってもすぐに友達出来るだろうし……ってフォローになってねぇなこれじゃあ」

美琴「気にしてないよ」

上条「え?」

美琴「あんたの言う通り、イギリス行ってもたくさん友達作ってみせるからさ!」

上条「だけど……」

美琴「大丈夫! 私も中学生で子供じゃないんだから!」
美琴「それとも当麻くんは保護者の私がいないと寂しいのかなー?」ニヤニヤ

上条「なっ!? お、お前が俺の保護者かよ! 普通逆だろ!」

美琴「ふふふ、冗談冗談~」

言って両手を広げクルリと一回りしながら、美琴は小走りに先を行く。

123: 2010/09/30(木) 01:01:24.44 ID:gUGqB1I0
上条「………………」

美琴「だけどね」ピタ

上条「?」

と、そこで背中を向けながら立ち止まる美琴。

美琴「あんたがいなくて寂しいのはホントだよ?」

彼女は静かにそう呟いた。

美琴「………………」

上条「………………」

美琴「だからさ!」

その声と共に振り返ると、美琴は背中で両手を組んで、腰を折るようにこっちを見てきた。彼女の華奢な身体を、オレンジ色に輝く夕日が後ろから照らす。

美琴「たまには会いに来てね」

上条「………………」

美琴「……」ニコッ

彼女の顔が、夕日の光によって美しく映える。

美琴「………返事は?」

上条「………………」

美琴「………………」

上条「…………ああ」

僅かに寂しげな表情を見せながら、上条は静かに答えた。

153: 2010/10/01(金) 01:45:25.90 ID:kllhxF60
その頃・学園都市では。

黄泉川「何だって?」

トレーラー型の装甲車の内部に設けられた司令部。そこで電話を受けた黄泉川は開口一番そう呟いていた。

黄泉川「それは……ご冗談ですよね?」

信じられない、と言うように黄泉川はその顔に驚愕の表情を浮かべる。

黄泉川「いや、しかし……!」

警備員「………………」

明らかに尋常ではない様子に、後ろにいた警備員たちが無言になって彼女の姿を見つめる。

黄泉川「………っ 承知……しました……」

ガチャン!

その言葉を最後に、黄泉川は手を震わせながら電話を切った。

黄泉川「………………」

警備員「隊長?」

受話器を置いたまま微動だにしない黄泉川を、心配した1人の警備員が背後から声を掛ける。

警備員「何かあったのですか?」

黄泉川「…………じゃん」

警備員「は?」

と、何事かボソッと呟く黄泉川。



黄泉川「御坂美琴の捜査は打ち切りになったじゃん!!!!」



振り返り、黄泉川は部下の警備員たちにそう叫んでいた。

警備員「!!!!!!」

ドヨドヨと警備員たちの間にざわめきが起こる。

155: 2010/10/01(金) 01:48:53.46 ID:kllhxF60
黄泉川「…………っ」

黄泉川は、悔しそうな表情を浮かべる。そこで1人の警備員が訳が分からないと言いたげに訊ねてきた。

警備員「どういうことですか!? 何で捜査打ち切りに!?」

黄泉川「どうやら学園都市上層部がそう判断を下したらしいじゃん。これ以上の捜査は不必要、とな」

警備員「そ、それじゃあ御坂美琴や上条当麻、そして2人を連れて逃げ去った男については……」

黄泉川「だから全部終わり。上層部が口出ししてきた以上、我々に動く術はない」

警備員「…………!」

愕然となる警備員たち。

黄泉川「因みにあの“アンチスキル最強の男”と称された武藤は数ヶ月間の停職処分、これからしばらくは本職の教師一本でやっていくそうじゃん」

警備員「では……っ!」

黄泉川「ああ、その通り。私も2ヶ月間、アンチスキルの停職処分を受けた。まあ、覚悟は出来てたがな」

警備員「そんな……」

黄泉川「………ふん」

顔を俯かせ悔しそうに拳を握らせる部下の警備員を見、黄泉川は立ち上がる。

黄泉川「とにかくはここで捜査は終わりじゃん。一先ず撤退準備を始めるぞ」

警備員「はい!!」

その言葉を合図に、警備員たちが忙しく動き始めた。どことなく悲壮感が漂ってはいたが。



「黄泉川先生!」



と、その時だった。

黄泉川「ん?」

後部扉が開いたかと思うと、1人の学生が駆け込んできた。アンチスキルの捜査本部に自由に入って来れる身分の学生と言えば、思いつくのは数えるほどもいなかった。

黄泉川「ああ、お前か」

156: 2010/10/01(金) 01:52:01.51 ID:kllhxF60



瞬間氷結「白井さんを見ませんでしたか!?」



そう叫んで黄泉川に近付いてきたのは、ジャッジメント本部長の瞬間氷結だった。

黄泉川「さあ、知らんな」

瞬間氷結「さっきまですぐそこに僕と一緒にいたのに急にいなくなったんです!」

黄泉川「そうか」

必氏の形相の瞬間氷結とは裏腹に、黄泉川はもはや気力も無くしているのかそっけない顔で身の回りの片付けをしている。

瞬間氷結「彼女、ここ数日間精神状態が不安定で今日もずっとボーッとしていたんです。だからとても心配で……」

黄泉川「そんなこと言われても困る。私はアンチスキルじゃん。ジャッジメントの問題は本部長のお前の管轄だろ」

瞬間氷結「………………」

黄泉川「ま、奴は1番御坂美琴と因縁深い人間だったからな。逮捕も失敗して捜査も打ち切りになったとしたら、自暴自棄になってもおかしくないだろうな……」

瞬間氷結「自暴自棄って……」

黄泉川「あいつなら責任を執るとか言ってそれぐらいのことしかねないじゃん。特に、今回のようなケースではな……」

瞬間氷結「!!!!!!」

その言葉を聞いた途端、瞬間氷結は慌てたように装甲車を出て行った。

黄泉川「……………ふん」

手を休め、黄泉川は顔を上げる。

黄泉川「ま、私もこの数日間走りっぱなしだったからな。たまには、本職の方で一息入れるとするじゃん」

退屈そうにそれだけ呟くと、黄泉川は片付けの作業を再開した。

159: 2010/10/01(金) 01:56:35.66 ID:kllhxF60
黄泉川の部隊が展開する、とある大きな公園。その運動場の端に停車していた1台の装甲車の側で、2人の警備員が無駄話に花を咲かせていた。

警備員A「でさー……その生徒がな、胸が大きいから目のやりどころに困るんだよ」

警備員B「あー分かる。このご時世、セクハラなんてしたらすぐに捕まるからなー」

警備員A「………お?」クルッ

不意に、警備員Aが不思議そうな顔をし、後ろを振り返った。

警備員B「何だよ?」

警備員A「いや、今俺の後ろに誰かいなかった?」

警備員B「はぁ? そんなの知らねーよ」

警備員A「まさか……幽霊?」

警備員B「この学園都市で何言ってんだよ」

警備員A「あ、あれ!?」

とそこで頓狂な声を上げ、自分の足を見る警備員A。

警備員B「今度は何だよ?」

警備員A「お、俺の拳銃がない!」

警備員B「はぁ?」

警備員A「ほら!」

言って自分の右太ももを見せる警備員A。確かに、そこに巻かれていたレッグホルスターには、普段は収納されているはずの拳銃がなかった。

警備員A「ど、どっかに置いてきたのかな?」

警備員B「なら何でレッグホルスターのマジックテープが閉まってんだよ。どっかに置き忘れたままならマジックテープは開いてるだろ」

警備員A「あ、あれ? じゃあ何で?」

警備員B「大方お前が拳銃入れるの忘れてレッグホルスターだけ装着して来たんだろ?」

警備員A「そ、そっか。きっとそうだよな。俺間抜けだし」

警備員B「ああ、お前間抜けだもん。絶対そうだ」

警備員AB「「あはははははははははは」」

呑気な彼らは気付いていなかったが、別に警備員Aは拳銃を最初から持ってきていなかったのでもなく、どこかに置き忘れていたわけでもなかった。ただ、真相は1人の少女だけが知っていた。

162: 2010/10/01(金) 02:01:31.42 ID:kllhxF60
最終下校時刻も近付き、アンチスキルの部隊以外は人気が無くなった公園。そこにある薄汚いトイレの裏に彼女――白井黒子はいた。

黒子「………………」

右手に拳銃を持って。

黒子「これで……お終いにしますの……」

談笑していた警備員から、瞬間移動で密かに奪ってきた拳銃を見つめる黒子。

黒子「私は……もう……生きていく資格が無いですの……」

ボソボソと彼女は生気の無くした目で1人呟く。

黒子「あの御坂美琴に1番近くにいた身であるにも関わらず、彼奴を取り逃がし、2度も相見えたと言うのに仕留めることはおろか捕縛することも出来ず、あまつさえ情けを受けてしまった……」

呟きながら黒子は自分の右足に視線を向ける。そこには、病院で治療を受けた際に巻いてもらった包帯が見えた。

黒子「……以前は御坂美琴という私にとって絶対的な存在が側にいましたが、それも過去の話。佐天さんも初春もきっと捜査に失敗した私に失望するでしょう。ならば……もう私に失うものはありません………」

言って黒子は顔を上げる。春には桜を咲かせるだろう大きな木が1本、正面に見えた。

黒子「遺書は私の部屋の机の引き出しに入っていますわ……」

カチャッ!

黒子「さようなら、みなさん……。そして、学園都市………」

黒子は目を閉じ、右手で持った拳銃の銃口を自分の胸元に添える。




ドォン!!!!




そして1発の銃声が轟いた――。

164: 2010/10/01(金) 02:05:13.36 ID:kllhxF60
黒子「………っ!!??」



トサッ……



と言う音と共に黒子の胸を弾丸で貫いたはずの拳銃は地面に落ちた。だがしかし、彼女の胸に穴は開いていなかった。

黒子「…………っ」

信じられない、と言うように黒子は目を大きくし、突如その場に現れた男を見る。

黒子「ど、どうして……」




瞬間氷結「何をしてるんだ君は!!」




黒子の自決を阻止した人物。それは、瞬間氷結だった。

黒子「ほ、本部長……何故ここに!?」

瞬間氷結「そんなことより! 君は今何をしようとしていた!?」

黒子の顔を見据え、瞬間氷結は怒鳴り声を上げる。

165: 2010/10/01(金) 02:07:00.55 ID:kllhxF60
黒子「………」チラッ

瞬間氷結「…………急に消えたと思ったら……」

言って瞬間氷結は地面に落ちた拳銃を拾う。

瞬間氷結「自殺でも考えていたのか?」

黒子「………」ギンッ

黒子の目が密かに鋭くなる。

瞬間氷結「やめておけ」

黒子「あ!」

が、彼女の思考を見抜いていたのか、瞬間氷結は右手に握っていた拳銃を一瞬で氷漬けになってしまった。

黒子「う……何故……邪魔をなさるのですか?」

黒子の目に涙が浮かぶ。

瞬間氷結「やはり氏のうとしていたんだな? 何でこんなことを……」

黒子「決まってるではありませんか……。私は……御坂美琴を取り逃がし、あまつさえ情けを受けてしまった……。生きている資格はありません……」

俯き、小さな声で黒子は言葉を紡ぐ。

瞬間氷結「それで君が氏ななきゃならないなら、ジャッジメントの長である僕は一体どうすればいいんだ。氏ぬよりも酷い目に遭わなきゃならないじゃないか」

黒子「………………」

瞬間氷結「氏んだって何の得にもならないよ。生きてればまた、やるべきことも見つかる」

黒子「そんなの……」

瞬間氷結「それに君の友達だって悲しむ。君は氏ぬことで責任を果たせると思ってるんだろうけど、余計な悲しみをこの世に生み出すだけだよ」

静かに、瞬間氷結は黒子の顔を見つめながら語る。

黒子「佐天さんも初春も失望してるに決まってます……」

瞬間氷結「そうかな? さっき僕のところに初春さんから電話が掛かってきたよ。『白井さんは無事ですか?』って。彼女も、佐天さんって子も相当白井さんのことを心配しているようだよ」

黒子「………っ」

166: 2010/10/01(金) 02:09:47.05 ID:kllhxF60
瞬間氷結「だから自殺なんて下らないことはやめるんだ。君が1番しなければならないことは、生きて再びジャッジメントとして信念を貫いていくことだよ」

黒子「ですが!」

瞬間氷結「?」

と、そこで黒子は耐え兼ねたようにその辛そうな顔を瞬間氷結に向けてきた。

黒子「私はもう、ジャッジメントとしては役立たずです。あの御坂美琴を取り逃がしてしまったんですから……」

瞬間氷結「…………」

黒子「本部長だってそうでしょう!? もう私をお払い箱だって思っているのでしょう!? ならさっさと解雇して下さいまし!!」

瞬間氷結「そんな訳ないだろ」

黒子「…………え?」

即座に瞬間氷結は否定していた。

瞬間氷結「そんな訳ない」

キリッと真剣な表情を浮かべ、瞬間氷結は黒子を見る。

黒子「なっ……」

瞬間氷結「君はいずれ近い将来、ジャッジメントを背負う人物だ。そんな君を、僕が解雇するわけがないだろ?」

黒子「本部長……」

瞬間氷結「寧ろもし叶うのならば、初春さんと共に本部の幹部要員に欲しいと思ってるところだよ。そんな君を僕が手放すわけがないだろう?」

黒子「あ……う……」

目を丸くし、黒子は瞬間氷結を見つめる。

168: 2010/10/01(金) 02:11:45.40 ID:kllhxF60
瞬間氷結「だからさ」ポン

黒子「あ……」

優しく、黒子の頭に手を乗せる瞬間氷結。

瞬間氷結「僕(ジャッジメント)には君が必要なんだ。だから、これからも僕と一緒に学園都市の平和を守っていこう」

言って瞬間氷結は笑みを浮かべる。



黒子「……………はい//////」ポッ



瞬間氷結「よし。良い部下……いや、良い後輩を持てて僕は幸せだよ……」

その言葉を最後に、瞬間氷結は踵を返す。

瞬間氷結「さ、黄泉川先生の所へ戻ろう」

黒子「………………」

瞬間氷結「拳銃を盗ってしまったことは素直に謝ろう。多分2人してこっぴどく怒られるだろうけどね、ははは」

黒子「あ……あの……本部長……」

瞬間氷結「ん?」

と、そこで背後から黒子が呟く声がし、瞬間氷結は振り返った。同時、顔を上げる黒子。

黒子「いえ……“お兄様”!//////」

瞬間氷結「……は? お兄様?」

黒子「そ……その……私……実はお願いがありますの……」

モジモジと恥ずかしそうに言う黒子。何故か彼女の顔は赤い。

170: 2010/10/01(金) 02:13:33.54 ID:kllhxF60
瞬間氷結「お願い? 何だい? 言ってごらんよ」

黒子「こ……今度……黒子と……2人で……お茶でも……ご一緒……しません?//////」

瞬間氷結「……お茶? まあそうだな……うん。僕は忙しい日が多いけど、今度の非番の日なら大丈夫かな?」

黒子「ほ、本当ですの!?」

パァァと黒子の顔が明るくなる。

瞬間氷結「ああ、もちろん」

黒子「ありがとうございますの!」

瞬間氷結「じゃ、そろそろ戻ろう。黄泉川先生も心配してるだろうからね」

黒子「はい!!」

かつて美琴と一緒にいた時のような元気を取り戻す黒子。

瞬間氷結「急に元気になったね………」

黒子「お兄様のお陰ですのよ………」

瞬間氷結「はは…どういう意味だいそりゃ………」

先を歩く瞬間氷結の後を、黒子が子供のようにはしゃぎながらチョコチョコとついていく。
こうして、御坂美琴を追う彼らの長い日々はようやく終わりを迎えた――。

172: 2010/10/01(金) 02:17:06.96 ID:kllhxF60
上条「はぁ~~……」

1人、賃貸マンションの一室で深い溜息を吐く上条。

『ふんふんふ~ん♪』

部屋の奥に設置されたバスルームからは、同居中の女の子――美琴の愉快な鼻声が聞こえてくる。

上条「楽しそうだよなぁ。人の気も知らないで……」

机の前に座り、テレビを見ながら上条は呟く。

上条「にしてもまさかあいつと二人暮しするなんて思ってもみなかった……」

4日前、上条と美琴は無事学園都市からの脱出に成功した。そしてその際に、2人は土御門たちが予め用意していたこの賃貸マンションにほんの少しの間だが住むことになったのだ。もちろん、もしもの時を考慮してマンションの周りには絶えず護衛の魔術師たちが張り付いている。

『ふんふんふ~ん♪』

普通なら、年頃の女の子と同棲するのは羨ましがられるものだが、上条にとっては慣れていたのか、そこまで深く気にするようなことではなかった。

上条「………………」

もしくは、今現在上条がとある悩みに悩まされていたため、だからかもしれない。

上条「御坂は明日でイギリスに行っちまう……」

そう呟く上条。
実は翌日、美琴はイギリスへ行くことになっていた。それもただの旅行ではない。定住のためである。これは『弧絶術式』を受けた美琴を、学園都市の近くに置いておくのは危険と判断したインデックスや土御門、『必要悪の教会(ネセサリウス)』による配慮のもので、既に美琴の両親の承諾も得、荷物の用意も出来ていた。

上条「俺も1度実家へ帰ることになる……」

しかし上条の方は実家へ1度帰る予定はあったものの、美琴についていくことは出来なかった。もちろんそれは上条自身が『弧絶術式』を直接受けた被害者ではなかったためでもあったが、土御門の話によると上条の知らない所で密かに行われた取引の内容のせいでもあるらしかった。

上条「…………はぁ~」

よって、上条と美琴は翌日を境に、滅多なことでは頻繁に会えなくなる。

上条「……………………」

無言になった上条の脳裏に、ある美琴の言葉が蘇る。



   ――「私は……当麻のことが好きだよ………」――



上条「…………っ」

173: 2010/10/01(金) 02:21:14.24 ID:kllhxF60
思わず目を伏せる上条。

上条「(御坂……お前は……。そして俺は……)」

深刻な表情を浮かべ、上条は胸中に呟く。




美琴「なーに暗い顔してんの!?」




上条「!!!!!!」

突如背後から聞こえた声に驚き、振り返る上条。

美琴「ビックリした?」

見ると、バスタオル1枚の姿のまま、美琴がすぐ後ろに立っていた。

上条「お、お前……っ!!////」

美琴「何よー?」

あっけらかんと返す美琴。

174: 2010/10/01(金) 02:24:06.22 ID:kllhxF60
上条「昨日に続いて今日までも……! ちょっとは恥じらいぐらい見せろよ!!////」

片手で顔を覆いながら、上条は慌てふためく。

美琴「バカバカしい。学園都市で逃げてる最中、何度あんたにギリギリのところで素肌見せたと思ってんのよ」

上条「いや、でも! 俺はこれでも年頃の青少年だぞ! 高校生だぞ! ちょっとは警戒ぐらいしろよ!!」

美琴「………?」

眉をひそめる美琴。僅かに上条の声に苛立ちが混ざっていた。

美琴「大丈夫よ」

上条「ええっ?」

美琴「だって、あんたならそんなことしないって信じてるもん」

上条「………っ!」

言いながら美琴は再びバスルームに戻っていき扉を閉めた。

上条「(……こっちの気も知らないで……っ!)」

普通の高校生なら喜ぶところだったが、深い悩みを抱えている今の上条にとっては重大な問題だった。だが、美琴の学園都市からの脱出に成功させてくれた上条への気の許しようはこれだけでは済まなかった。そしてそれがまた上条を苦しめていた。

175: 2010/10/01(金) 02:27:54.69 ID:kllhxF60
美琴「………ねぇ」

上条「…………っ」

就寝前。上条の服を後ろから引っ張るパジャマ姿の美琴。

上条「ダメだ」

美琴「……お願い……」

上条「ダメなものはダメだ」

美琴「……どうして?」

何かを必氏に頼む美琴とそれを拒否する上条。

上条「昨日も言ったはずだ。俺とお前は家族でも兄妹でもないんだ。なのに……そんなこと、常識的に考えて……」



美琴「……お願い当麻……。一緒に寝てよ……」



上条「………っ」

上条にとってもう1つの重大な問題。それはこのことだった。

上条「いい加減にしろ。お前、1度常識で考えてみろ。俺は男でお前は女だぞ! しかも2人とも思春期の真っ只中だ。それなのに一緒に寝るだと? ……インデックスと同棲中だって1度もそんなことはなかったぞ」

美琴「だって……仕方ないじゃない……怖いんだもん……」

上条「……もう中学生だろ」

このアパートに来てから1日目の夜だった。就寝時、どちらがベッドを使うかという問題が起こった。上条は慣れてるからと言って自分はバスタブで寝ることを提案、その時は美琴も承諾しそれで済んだのだが、数時間後、彼女はあろうことか上条に一緒に寝てほしいと頼んできたのだ。

美琴「………また…見るんだもん……夢を……」

理由は悪夢を見るから、と言うものである。しかも、学園都市で逃げてる夢でいつも上条と美琴が2人して追っ手に殺される内容らしかった。

177: 2010/10/01(金) 02:30:23.64 ID:kllhxF60
美琴「当麻と寝ると……怖い夢……見ないし……」

上条「勘弁してくれよ。普通は頼まないぞそんなこと」

当然、最初は断った上条だったが、余りに美琴がぐずるのでその日から毎晩ずっと一緒に眠っているのだった。

美琴「大丈夫だよ……。当麻は、私に変なこととかしないもん……」

上条「………………」

学園都市で逃げてる頃から、美琴に幼児退行の兆候があったとは言え、さすがの上条も女子中学生と同じベッドで寝るには抵抗があった。しかも、深い悩み事を抱えている今なら尚更のことである。

美琴「お願い………」

上条「………………」

要は、それほど美琴が上条のことを信用していることの証左だったが……複雑な感情が頭の中で巡り巡ってる今の上条にとっては氏活問題と言っても過言ではなかった。
しかし………



上条「…………分かったよ」



美琴「ありがとう!!」

美琴の必氏の願いを断ることも、今の上条には出来なかった。

178: 2010/10/01(金) 02:33:26.09 ID:kllhxF60
美琴「………zzzzz」

上条「(結局こうなるのか……)」

部屋の灯りも消えたアパートの一室。ベッドの上で美琴は安心しきったように寝息を立てながら、上条にしがみついて眠っていた。

上条「………………」

上条は美琴の顔を見る。彼女は本当に幸せそうだった。

上条「(どうせ今日で終わりなんだ。俺も寝よう……)」

そう胸中に呟き、上条は目を閉じる。

上条「………………」

美琴「う……ん……」

上条「………………」

美琴「とう……ま……」

上条「………っ」

上条の服をガシッと掴みながら、美琴が寝言を呟く。

上条「(……無視だ無視)」

美琴「………とうま……」

美琴の体が上条の身体に接近する。

上条「(クソッ! 頼むから勘弁してくれ……っ!)」

美琴「………好き……だよ……」

上条「!!!!!!」

思わず目を開け、美琴の方を見る上条。

美琴「…………zzzz」

どうやら寝言のようだった。

上条「………………」

上条はそんな至近距離にある美琴の顔を見つめる。

上条「……………………」

美琴「…………zzzzz」

180: 2010/10/01(金) 02:36:58.87 ID:kllhxF60
改めて見ると整った輪郭を保っており、同年代の女の子の中でも実に可愛い顔立ちをしている。

上条「………………」

美琴「zzzzzz」

規則的に寝息が零れるその小さな口は、柔らかそうな感触をしており、窓の外から差し込む光を綺麗に反射している。

上条「……………」

美琴「zzzzzz」

そしてその肌は白く、瑞々しさを保っていた。その上、風呂上りであるためか、彼女の髪や身体からは甘い香りが漂ってくる。

上条「………」チラッ

パジャマの襟元からは僅かにその奥が垣間見え、上条の思考を停止させる。

美琴「zzzzzz」

少しでも触れると壊れてしまいそうな彼女の華奢な身体。

上条「………………」

刹那、上条の頭に良からぬ考えが過ぎった。
だが………

上条「(何を考えているんだ俺は……。バカめ……っ!)」

頭を軽く振ると、彼は再び枕に頭を預け目を閉じた。

上条「………………」

しかし、上条の苦労を知ってか知らずか、美琴は眠っているにも関わらずまた上条を刺激してきた。

181: 2010/10/01(金) 02:39:54.48 ID:kllhxF60
美琴「とう……ま……」

美琴の腕が上条の腕に絡みつく。

上条「!!!!!!」

美琴「………ん」ギュッ

耳元で囁かれる甘い寝息と接近する彼女の身体。

上条「(やめろ……)」

美琴「………とうま……」

漂ってくる甘い匂い。

上条「(やめろっ!)」

美琴「………う……ん」

背中に感じるその柔らかい感触。

上条「(やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!)」

美琴「好き……だよ……」

上条「(俺はっ! 俺はっ!! ……チクショウ!!)」

美琴「ん……とうま……」

上条「(チクショオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!)」



ガバッ!!!!




186: 2010/10/01(金) 02:44:20.80 ID:kllhxF60
上条は思いっきり布団をめくり起き上がる。

上条「ハア……ハア……」

そのまま彼は美琴と対面する形で彼女に覆い被さる。まだ、両腕をベッドに突き立てているため互いの顔と身体はまだ距離が大分あったが。

上条「ハァ……ハァ……ハァ……」

美琴「………zzzzzz」

荒い息を立てる上条とは逆に、美琴は相変わらず幸せそうな笑顔を浮かべて眠っている。

上条「………………」

触れようと思えば、すぐに触れられる距離。そこに、美琴の身体はある。やろうと思えば、自分の全ての衝動を今すぐにでも彼女にぶつけることが出来る。だが………



  ――「大丈夫だよ……。当麻は、私に変なこととかしないもん……」――



上条「………っ」

脳裏を掠めた彼女の言葉がそれを直前で諌めた。

上条「クッ……チクショウ……っ」

美琴の寝顔を正面に、上条は苦しそうに表情を歪める。

上条「……………クソッ………」

嘆くように吐き、ベッドから降りる上条。そして彼はそのまま足音を僅かに響かせて、トイレに向かっていった。

しばらくして――。

ガチャッ

という音と共に洗面所の扉が開き上条が出てきた。彼は洗面所の灯りを消すとベッドの所まで戻り美琴を見た。

美琴「………zzzzz」

上条「俺は……何てことを……」

悲しみと後悔が混じった言葉を吐き、上条は左手で自分の頭を抱える。

上条「ごめん……御坂……っ!」

自分の悩みにいつまでも決着を着けられない無力感、それが原因で衝動的に彼女を傷つけてしまっていたかもしれないと言う後悔の気持ち。それが一気に上条を襲った。

267: 2010/10/05(火) 22:29:27.69 ID:XXoVVtI0
朝――。

上条「もし困ったことがあったらインデックスや神裂に相談するんだ。いいな?」

美琴「うん」

玄関で靴を履きながら、上条は後ろに立つ美琴に言う。

上条「俺も日本にいるから。何かあったらすぐに電話してこい」

美琴「分かってる。子供じゃないんだから大丈夫だよ」

上条「そうか」

スクッと立ち、笑顔で振り返る上条。

上条「………ごめんな。先に俺が出ることになっちまって」

美琴「いいのいいの。実家のお父さんやお母さんたちに宜しくね」

上条「ああ。……じゃあ、これでお前ともしばらくのお別れだ。次はいつ会えるか分からねぇ」

美琴「うん……」

上条美琴「「……………………」」

2人は互いの顔を見つめながら、無言になる。

上条「……それじゃあ、またな」

美琴「うん。元気でね………」

僅かに寂しげな表情を見せ合いながら、2人は言葉を交わした。

バタン!

そしてドアが閉められた。

美琴「………………」

途端、静寂に包まれる室内。

美琴「……………グスッ……フグッ…」

直後、溜まっていたものが溢れ出すかのように、美琴は床に膝をつき嗚咽を漏らし始めた。

268: 2010/10/05(火) 22:34:51.79 ID:XXoVVtI0
駅――。

上条「……………………」

多くの人たちが行き交うホーム。その端の方、先頭車両の乗車位置に近い場所に上条はいた。

上条「(結局……何も言えずに御坂と別れてきちまった……)」

大きなショルダーバッグを抱え電車を待つ上条。彼はこの後、とある人物と会う約束をしており、その足で実家に帰る予定だった。そんな彼は今、暗い顔をしてホームから線路を眺めていた。

上条「(……これで良かったのかな……)」

上条が元気が無かったのは美琴と別れてきたからでもあったが、実はそれだけではなかった。

上条「(……いや、いいんだ……。御坂はこれからイギリスで暮らすことになる。俺が変なことを言って渡英前に困惑させても迷惑なだけだろうし。……それに俺自身……この気持ちが何なのかよく分かっていない………)」

『間も無く電車が参ります。間も無く電車が参ります』

ホームにアナウンスが流れ始める。

上条「(……だから、これが1番なんだ。あいつはこれからイギリスで幸せに暮らす。中途半端な気持ちのまま、俺が変なことを言ってあいつを引き止めても何の得もない……)」

ゴオオオオ、と音を立てながら電車がホームに入ってくる。

上条「(……このままでいい。このまま何もせず別れた方が後腐れない……このまま………)」



   ――「私は……当麻のことが好きだよ………」――



上条「(……このまま……)」

『ドアが開きます。ご注意下さい』

プシュウウ……

上条の目の前に位置した扉が左右に開く。

上条「(このままでいいのか?)」

考え事に集中しながら、上条は電車に乗ろうとする。と、その時だった。



Prrrrrrrr.....



上条「ん? 電話? ……誰だろ?」

269: 2010/10/05(火) 22:39:24.80 ID:XXoVVtI0
ポケットから携帯電話を出しディスプレイを見る上条。そこには『御坂』と表示されていた。

上条「御坂!!??」

発信者は美琴だった。上条は慌てて電話に出る。

上条「ど、どうしたんだ!?」

美琴『あ、ごめんね急に電話しちゃって』

いつもと変わらない美琴の声が受話器の向こうから聞こえてきた。

上条「い、いやそれは構わないけど……何かあったのか?」

美琴『えーっと……机の上に学園都市で着てた時の服忘れたままになってるんだけど……』

上条「え? あ、いや、それ持ってかないって言ったじゃないか」

美琴「あ、そう言えばそんなこと言ってたっけ……」

美琴はしまった、というような口ぶりで言う。ただ、彼女の声はどこか演技掛かっているように上条には聞こえたが。

上条「……………ああ、そうだよ。ちゃんと、聞いとかないと……」

美琴「……………そうよね、ごめん……」

どこかぎこちない感じで2人は会話する。そもそも、こんなことでわざわざ美琴は上条に電話を掛ける必要は無かったはずである。当然彼ら自身もその不自然さに気付いてはいた。……だが、気付いてはいてもそこから先に進めることは出来なかった。

上条「………じゃあ、もう切るからまたな……」

美琴「………うん………バイバイ」

同時に電話を切る2人。

上条美琴「「……………………」」

すぐ近くに互いの姿がなくても、彼らは今、同じことを胸中に思っていた。

上条「……だけど……仕方ねーよ……」

閉じた携帯電話を見ながら上条はボソッと呟く。

上条「……さて、電車に乗り損ねちまったな」

名残惜しそうな顔をしたまま頭を上げると、上条は時刻表を見つめた。

上条「今行ったのは14時10分発のだから、次来るのは20分か」

それだけ確認すると、上条はゆっくりと椅子に腰掛けた。

270: 2010/10/05(火) 22:42:36.74 ID:XXoVVtI0
その頃。

美琴「……………………」

アパートの一室。誰もいなくなった部屋の中、美琴はベッドの上にうつ伏せ状態で横たわりながらボーッとしていた。

美琴「……荷物点検しなきゃ……」

これから彼女は、いずれやって来る『必要悪の教会(ネセサリウス』の魔術師と共に空港に向かう予定だった。そのために最後の荷物の点検をしておかなければならなかったのだが、ただ怠けているだけなのか、やる気が起こらなかったのか、彼女はベッドの上から動く様子はなかった。

美琴「……当麻、そろそろ約束してた人と会ってる頃かな?」

ブツブツと呟きながら、美琴は部屋の中を見つめている。

美琴「………………」

と、机の上の携帯電話が目に映った。必要悪の教会から提供された、メールと電話以外ほとんど機能のついていないものだったが、今の彼女には、唯一遠くにいる人間とコミュニケーションが取れる道具だった。

美琴「………メール……したら怒られるかな?」

机の上の携帯電話を手に取り、画面を見つめる美琴。何回かボタンを操作すると『上条』という名前がアドレスブックの欄に表示された。

美琴「……でも、最後に1回だけ……なら当麻も返信してくれるよね……」

そう自分で納得すると、美琴はメールを打ち始めた。

271: 2010/10/05(火) 22:47:42.25 ID:XXoVVtI0
上条「ハァ……ついてねーや」

愚痴を吐き、上条は1人街角を歩く。

上条「たった1本電車乗り損ねるだけで歩く羽目になるとは……」

美琴との電話を終え、つい先程までホームで電車を待っていた上条。だが、突然運行停止のアナウンスが流れ不幸にも彼は電車に乗れなくなってしまった。

上条「まあたった3駅だからいっか」

仕方なく運賃だけ返してもらい駅から出た上条は、1度タクシーを探してみようとしたものの、たった3駅分の距離で高い金を浪費するのもどうかと思い、歩くことにしたのだった。

上条「それに待ち合わせの時間まではまだあるしな。焦る必要はねぇだろ」

道路を行き交う車を横目で眺めながら、上条は歩道を歩く。そんな彼の頭にふと美琴の笑顔が浮かんだ。

上条「………………」

気にしないようにしていても、さっきから何度も彼女の顔がチラつくのだった。

上条「(ハァ……俺も未練がましいな……。今からあいつの所に戻ったって一体何がどうなるってんだ……)」

目線を下げ、足元を見ながら上条は考え事にふける。

上条「(どっかのお偉いさん同士の取引で俺は日本に残らなきゃならなくなったんだ。あいつと一緒にイギリスへ行けるわけがない……)」

通り過ぎる人々が訝しげな目で上条を見つめる。本人は気付いていなかったが、いつの間にか彼は心の中で考えていたはずのことを口に出してブツブツと呟いていたのだ。

上条「別にあいつが幸せになれるんならそれでいいじゃねーか……」ブツブツ

唐突に強い風が吹き、上条の髪を大きく揺らす。

上条「もう俺とあいつは滅多に会えなくなるんだし。今更何をどうしたって意味ねーよ」ブツブツ

独り言を呟いているうちにつれ、徐々に上条の顔が暗くなっていった。

上条「……でも、本当にそれでいいのか俺……?」

そう言った瞬間だった。

ブブブブブブブブブ……

上条「あん?」

ポケットにしまっていた携帯電話が振動した。

上条「メールか? 誰からだろ?」

272: 2010/10/05(火) 22:52:25.98 ID:XXoVVtI0
携帯電話を開き、送信者を確認すると上条は反射的に立ち止まってしまった。

上条「御坂!!??」

送信者は美琴だった。文面には『さっきは突然電話してごめんm(_ _;)m もうこれで本当にあんたにしばらく会えなくなっちゃうけど、たまには連絡寄越しなさいよ! あと次会うときまでに「不幸だ不幸だ」言う癖直しときなさいよ 代わりに美琴センセーが特別にあんたの幸せ願っておいてあげるからさー(=`ー´)ノ』と書かれてあった。

上条「あいつ……」

思わず口元がほころぶ上条。彼はすぐに返信を打とうとした。




ヒュッ…… ドシャアアアッ!!!!!!




上条「!!!!!!」

その刹那だった。
上条の目の前を大きな影のようなものが上から下に落下してきたかと思うと、1秒後周囲に轟音を響かせて何かが地面に衝突した。

上条「な、何だ!!??」

大声を上げつつ、上条は何が起こったのか把握しようとする。見ると、ほんの数m先。そこにひしゃげた大きなネオン看板が1つあった。

上条「か、看板がどうして……? ………!!」

はっとして上条は顔を上げる。その視線の先、すぐ側に建っていたパチンコ屋の屋上のフェンスに設置されたネオン看板『パチンコ』の『コ』の部分が欠けているのが見えた。

上条「…………っ」

顔を戻す上条。地面の上でひしゃげていたネオン看板の文字を確かめると『コ』の字型をしていた。

上条「……落ちてきたのか……」

上条の顔が蒼白く染まっていく。

上条「メールをくれた御坂に感謝しないと……。……そのまま歩いてたら直撃してるところだった……」

大量の冷や汗が彼の背中を滝のように流れていった。

274: 2010/10/05(火) 22:56:22.77 ID:XXoVVtI0
とあるオープンカフェ。そこに1人の女性がいた。

上条「あ、いたいた」

彼女を見つけ、上条は手を振りながら近付いていく。

上条「悪い。遅くなったか?」




神裂「いえ。私も今来たところなので……」




イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師にして聖人の神裂火織だった。上条が実家に向かう前に会う約束をしていたのは彼女だったのだ。

上条「今回は色々と世話になったな」

感謝を述べつつ、上条は神裂の向かいの席に座る。

神裂「何かあったのですか?」

上条「え?」

と、神裂が目を鋭くして訊ねてきた。

神裂「そんな感じがするのですが……」

上条「?」

神裂「ここに来るまでの道中、厄介事に巻き込まれでもしたのですか?」

何かを察したのか神裂は心配そうな表情を浮かべる。

上条「ん? ああ、何か電車が突然運行停止になっちゃってさ。それで仕方なく歩きで来たんだけど、その途中にさ、老朽化した看板が落ちてきて後少しで直撃するところだったんだよ」

神裂「そ、それは本当ですか!!??」

思わず、と言ったように神裂が大声を上げる。

上条「まあ直前に御坂からメールが来てそっちに気を取られたから助かったんだけど……相変わらず俺も不幸だな、あはははは」

神裂「笑い事ではありませんよ!!」

上条「え?」

神裂「もしそれが敵による工作だったらどうするのですか!!?? 狙われたのかもしれませんよ!!!!」

275: 2010/10/05(火) 23:00:18.73 ID:XXoVVtI0
怒鳴る神裂。確かに学園都市から逃げてからまだ1週間も経ってない。看板の落下が上条を殺そうと敵が仕掛けた可能性も無きにしも非ずだった。

上条「いや、あれはただ看板が老朽化して落ちてきただけだって」

神裂「何故そう言い切れるのですか!!??」

上条「今までの経験からな。殺気らしきものも感じなかったし、あれは人為的な臭いもしなかった。多分普通に風に煽られて落ちてきたんだと思う」

神裂「しかし……っ!」

上条「それに敵が俺を殺そうと思ったら、ここに来るまでに何度もチャンスはあったからな」

神裂「………………」

押し黙る神裂。どっち道今こんな所でそんな心配をしても意味は無かった。

神裂「まあ、一応はそういうことにしておきます」

上条「大丈夫なのに……」

神裂「ならいいのですが……」

上条「ハァ……。それで……とにかく学園都市から脱出した時は世話になったな」

いつまでも言い合っていても進まないと思ったのか、上条は話題を変えてみた。

上条「改めて礼を言われてもらうよ。ありがとう」

神裂「いえ。私たちは当然のことをしたまでですから」

あくまで神裂は謙虚に応対する。

上条「だけど、あんな派手に動いて良かったのか? 下手したらまた魔術側と学園都市の争いに発展してたかもしれないのに……」

神裂「確かに、初めは私たちも『弧絶術式を受けた少女を助けたい』と何度も上に懇願してその度に断られていました」

上条「うん……」

神裂「ただ土御門が『このままでは少女と共に逃げてる少年の命も危ない』と貴方の存在を仄めかすと、その態度も急変しました。『必要悪の教会』としても貴方には今まで何度も力を借りているので、組織のメンツの為にも蔑ろに出来なかったでしょう。もしくは、まだ貴方の右手に利用価値があると判断しそれをここで失うわけにはいかないと思ったからか……」

上条「………………」

神裂は説明を続ける。

神裂「ただ、れっきとした組織に所属してる魔術師が正面から学園都市とぶつかると面倒なことになります。それを避けるため、上は敢えて1度私たちを解雇しました」

上条「………解雇?」

277: 2010/10/05(火) 23:04:19.78 ID:XXoVVtI0
神裂「要はどの魔術組織や魔術結社にも属していない、フリーの魔術師扱いにしたのです。あくまで一時的ですが」

上条「な、なるほど……」

神裂「そうすれば例え我々が学園都市で捕まるような事態になっても『必要悪の教会』は無関係を貫き通すことが出来ます」

淡々と、分かりやすく何があったのか述べる神裂。

上条「でもそれって逆に……」

神裂「ええ。もし我々が学園都市側に捕まった場合、無関係と主張している以上『必要悪の教会』は何も出来ません。つまり我々は見捨てられることになります」

上条「そ、そんなことしてまでお前たちは俺たちを……」

神裂「ええ。上がこの方法を提案してきた時、ステイルは『馬鹿馬鹿しい』と言って乗り気ではありませんでした。しかしそれでも、インデックスは何の迷いもなく真っ先にこの提案を受け入れたのです。1番戦闘力が低く、下手をすれば1番捕まる可能性が高かったかもしれなかったのに」

上条「インデックス………」

上条は口中にその名を呟き少女の顔を思い浮かべる。

神裂「最初はインデックスを学園都市に連れてくるつもりはなかったのですが、彼女がどうしても聞かなくて。仕方なくステイルか土御門の側にずっといること、という条件で連れてきました」

上条「あいつ、そこまでして……」

神裂「イギリスで終始『少女が弧絶術式を受けたのは自分のせいだ』のようなことを言っていたので、恐らくこれが彼女なりの責任の執り方だったんでしょう……」

上条「バカヤロウ……! そんな訳ないのに、無茶しやがって……っ!」

神裂「………………」

思わず上条は拳を握り、この場にはいない彼女を叱咤する。

神裂「まあステイルや土御門はともかく、本当に上がインデックスや聖人である私を見捨てたかどうかは分かりませんが……」

上条「………………」

神裂「……どちらにせよ、インデックスも、そして私もステイルも土御門も、そこまでして貴方がたを助けたかったのです。それだけは、胸に留めておいて下さい」

上条「ああ……とても感謝してもし尽くせねぇよ……ありがとう」

本当に心の底から感謝するように上条は礼を述べる。

神裂「因みに、貴方がたを直接学園都市から逃がしたアックアについてですが……」

上条「そ、そうだ! アックアだ!! あいつにも感謝の言葉を述べたい!! 今どこにいるんだ!?」

『アックア』という言葉を耳にし、上条が強く反応する。

280: 2010/10/05(火) 23:09:23.88 ID:XXoVVtI0
神裂「それが、貴方がたの身を我々に引渡してすぐ日本を離れていったので、今はどこにいるのか分からないのです」

上条「……そ、そうなのか。でも、あいつがいなければ俺たちは氏んでいた……」

神裂「彼に助けを頼んだのも万が一のための保険策としてです。王室のヴィリアン王女のツテを使って彼を探し出し、協力を頼みに行ったのですが、初めはまさか本当に彼から了承の返事を貰えるとは思いませんでした。ただ、彼は私の話を聞くと一言『絶対に助けられる保障は無いのである』と告げ何だかんだ言って助けてもらうことになったのです」

上条「……あいつ……何が『保証が無い』だよ。ちゃんとヒーローみたくギリギリで俺と御坂を助けてくれたじゃねぇか……」

僅かに口元を緩める上条。その表情にはただの感謝だけでは終わらないものが込められていた。

神裂「土御門も言ってましたよ。『あの男、正義のヒーローみたいだ』と」

上条「………そうか」フッ
上条「あ」

と、そこで上条は何かを思い出したようだった。

神裂「どうかしましたか?」

上条「土御門……あいつはどうするんだ? 俺たちの脱出に力を貸してくれたけど、あいつも一応は学園都市の住人だぞ。アンチスキルの前で顔見せてたら色々まずいんじゃないか?」

神裂「ああ、土御門のことですね。これは『必要悪の教会』と学園都市の上層部同士で密かに行われた取引内容にも関わってくることなのですが……」

上条「えっ!?」

上条は僅かに身を乗り出した。と言うのも、ここが1番重要で知りたかったことだからだ。

神裂「既に聞いていると思いますが、貴方がたが学園都市から逃げた後、取引が行われました。そこで決められた内容が、まず『御坂美琴は「必要悪の教会」の自由にしてもらってもいいが、上条当麻については日本…それもなるべく学園都市の近くに住まわせること』」

上条「………………」

神裂「そしてもう1つが貴方がたはまだ聞いていなかったでしょうが『土御門元春の件については不問とするが、代わりに今回の騒動で生じた被害の賠償金を支払うこと』です」

上条「……じゃあ、土御門は……」

上条は続きを促すように神裂の顔を見つめる。

神裂「ええ。彼は今後も学園都市で変わらぬ生活を続けていくことが出来ます。一応これに関しては『必要悪の教会』が賠償金を支払ったことで解決していますが、ただ彼自身の待遇については知らない所で変化があるのではないか、と土御門が言ってました」

上条「………え?」

神裂「つまり、もし学園都市内で何らかのトラブルに巻き込まれても学園都市からの保護や援助を優先的に受けられなくなるのではないか、とのことです」

上条「そんなっ!!」

神裂の説明を聞いた上条が驚きの声を上げる。

神裂「ただ、彼自身学園都市のトップと顔見知りのようですし、裏の世界にも精通しているらしいですから本人は『何も心配ないにゃー』と言って飄々とした顔をしていましたが」

281: 2010/10/05(火) 23:13:18.53 ID:XXoVVtI0
上条「だ、だけど……」

神裂「まあ、それほど彼にとっても貴方は大切な友人だったのでしょう。彼の思い、無駄にしないことですね」

上条「土御門……」

上条は胸中に思う。自分はこれほど多くの人に大切に思われていたのだ、多くの人に愛されていたんだ、と。それを人生の中で今ほど実感したことはなかった。
だからこそ……

上条「(御坂………)」

……だからこそ、全ての友人を無くした美琴のことが気掛かりだった。

上条「なあ神裂……」

神裂「はい?」

上条「御坂は……御坂はやっぱりイギリスに行ったほうがいいんだよな?」

神裂「………………」

堪らず、上条は訊ねていた。

神裂「………学園都市から逃れられたので一応は安心ですが、万が一ということもありますからね。遥か遠いイギリスの我々の本拠地の下で暮らしたほうが良いのではないでしょうか。……まあ、あくまで客観的な意見ですが」

上条「………………」

無言になり何か考え込むような表情を作る上条。

神裂「……全てを無くした彼女が再び前のような元気を取り戻すには、同じような年代の子供たちと一緒に暮らす生活のほうが何かと合理的です。イギリス清教にはインデックスやアニェーゼ、アンジェレネなど彼女と歳の近いシスターも多いですし、同じ日本人なら我々『天草式』の五和もいますから友人を作る環境としては申し分ないかと……」

上条「……………だよな……」

神裂「………………」

反応の薄い上条。そんな彼を見て神裂は、また別のしかし今回の騒動の根幹に関わる話題を口にしてきた。





神裂「彼女が何故『弧絶術式』に掛かったのか、知りたいですか?」





上条「!!!!!!」

284: 2010/10/05(火) 23:18:05.27 ID:XXoVVtI0
上条「………し、知ってるのか?」

神裂「ええ」

上条の問いに神裂は目を鋭くさせ答える。

上条「き、聞かせてくれ!!」

神裂「………構いませんが1つ約束をして下さい」

上条「約束?」

神裂「ええ。絶対に御坂美琴……彼女には口外しないことを」

上条「???」

神裂の言葉に上条は眉をひそめる。何か引っ掛かるものがあったからだ。逆に神裂は彼の顔を見て何も問題もないと判断したのか、その真相を話し始めた。

神裂「こちらに来る直前まで、私たちは『弧絶術式』を発動させ息絶えた魔術師のアパートを調べていました。何か、彼女を助ける手掛かりはないものか、と」

上条「あ、ああ……」

神裂「その途中、インデックスがとある日誌を見つけたのです」

上条「日誌……?」

神裂「ええ。別に魔術についての研究資料でも何でもない。ただの、魔術師のプライベートを綴った日記……」

上条「………………」

呆然と、上条は神裂の話を聞き続ける。

神裂「そこに、魔術師が彼女を狙った理由が書かれていました」

上条「!!!!!!」
上条「ほ、本当か!!??」

神裂「はい」

上条「な、何て書いてあったんだ!!??」

今にも立ち上がりそうな勢いで上条は質す。それほど知りたかったのだ。どんな深い理由があって件の魔術師が美琴を『弧絶術式』に掛けたのかを。例え、もう彼女が元の生活に戻る術がなくても。

神裂「……………………」

上条「神裂?」

まるで、何かを躊躇うかのように神裂は顔を背け黙っている。

285: 2010/10/05(火) 23:22:57.22 ID:XXoVVtI0
上条「き、聞かせて……くれよ」

神裂「……分かりました」

上条の頼みを無視出来なかったのか、神裂は1度ゆっくりと目を伏せると続きを話し始めた。

神裂「魔術師の日記には彼女を『弧絶術式』に掛けるまでの経緯が記されていました」

上条「………」ゴクリ

神裂「どうやら、術式発動の2週間ほど前に学園都市を訪れていたようです」

上条「そ、そうなのか?」

神裂「ええ。どうもその魔術師は以前から科学一辺倒の学園都市を毛嫌いしていたようで……先の大戦を切っ掛けにこのまま学園都市を野放しにしておくわけにはいかないと思ったそうです」

上条「………………」

神裂「その思いは使命感と言っても過言では無いほどで、密かに彼は学園都市のトップ……つまりは統括理事長ですか。その人物の暗殺を図ったそうです。『弧絶術式』によって」

上条「!!!!!!」

神裂は、上条の反応を気にすることなく淡々と、日誌に綴られていた事実を述べていく。

神裂「しかし『弧絶術式』を発動するには、その対象の人物の本名および顔を知っていなければ不可能です。だから魔術師はその足で学園都市に出向いたのですが……不幸にも統括理事長の顔を知ることはおろかその本名でさえ知ることが叶わなかったのです」

上条「………………」

神裂「その最中でした。魔術師は藁にもすがる思いで、街中にいた1人の少女に統括理事長のことについて訊ねました」

上条「ま、まさか……」

上条の顔が徐々に変化していく。

神裂「ええ、それが、彼女……御坂美琴だったというわけです」

上条「………っ」

神裂「魔術師は彼女に訊ねました。『統括理事長の本名と顔を知っていないか? どこかで彼についての詳細資料を手に入れることは出来ないか』と。しかし、彼女は魔術師を怪しい人物だと思ったのか、それとも誰かを探していて急いでいたのか『知らないわよそんなの。悪いけど他当たってくれる?』と返したそうです」

286: 2010/10/05(火) 23:26:26.52 ID:XXoVVtI0
上条「………………」

口を開け、目を丸くしながら上条はただ、神裂の言葉を耳に入れている。

神裂「その時です。ぞんざいな態度を取られた魔術師は思いました。『何故ここまで必氏にしてる自分がこんな目に遭わないといけないのか』と。………だから彼は決心しました」

上条「………………」



神裂「統括理事長を狙うことが出来ないのなら、この少女を代わりに標的にしてやろう、と」



上条「!!!!!!」

神裂「彼女を標的に選んだ理由? そんな大したものありませんよ。ただ、強いてあげるなら『ムカついた』……だからだそうです」

静かに、神裂はそう告げた。

上条「………………」

絶望の表情が上条の顔に広がっていく。まるで体から全ての力が抜けていくような感覚を、彼は覚えた。

神裂「もしかしたら当初の目的を達成出来ないため自棄になってしまったのかもしれませんが、日誌にはそんなことは書いていませんでしたし。……とにかく、魔術師は少女の情報を集めた後帰国しました。そして予め半分まで仕上がっていた術式の準備を全て終えると、例の魔術『弧絶術式』を発動したのです」

上条「……………………」

神裂「……………………」

上条「……………………」

神裂「……………………」

静寂が、2人の間に流れた。

上条「…………そんなの」

神裂「?」

先に口を開いたのは上条だった。ただ、その目はいつもの彼のものとは思えないほど生気が抜けていたが。

288: 2010/10/05(火) 23:30:26.68 ID:XXoVVtI0
上条「………そんなの……」

神裂「…………」

上条「ただの……八つ当たりじゃねぇか………」

今にも氏にそうなほど、元気の無い声で上条は呟く。例え術式を受けた本人でなくても、それほど彼にとっては衝撃的な事実だったのだ。

上条「………何か……御坂が……もっと……酷いことしたのかと……思ってた………」

神裂「…………」

神裂はゆっくりと目を伏せる。まるでその言葉を聞き続けるのが耐えられないと言うように。

上条「……そんな……下らない理由で……何で……御坂が……あんな……目に………」

上条は恨むように言葉を紡ぐ。まるで美琴の思いを代弁するように。

上条「こんなのってねぇよ!!!!」

ドンッ!!!

神裂「!!!!!!」

上条が大声を上げてテーブルを叩いた。コップからコーヒーが零れ、周りのテーブルに座っていた人たちが一斉に目を向けてきた。

上条「そんなの……あるかよ………」

神裂「…………っ」

上条「そんなの………」

ただただ、上条は無念の叫びを口にするが、今更はどうすることも出来なかった。そしてその無力感が全身を覆っていき、やがて彼は両手で頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

上条「そんなの………」

神裂「………………」

それを、悲しそうな目で見つめる神裂。

上条「……………………」

突っ伏したまま何も喋らず微動だにもしない。そんな無反応な上条の様子が更に哀しみを誘った。

309: 2010/10/06(水) 21:54:12.37 ID:fecRJhw0
美琴が何故『弧絶術式』の餌食にされなければならなかったのか。その衝撃的な真実を神裂から聞き、絶望に暮れた上条は頭を抱えてテーブルに突っ伏していた。

上条「……………………」

神裂「……………………」

5分ほど、上条は動かないままだった。

上条「……………………」

神裂「……………………」

神裂も敢えて声を掛けようとしなかった。
が、やがて………

上条「………悪かった」

ボソリ、と呟くとようやく上条がゆっくりと頭を上げてきた。

神裂「……気は済みましたか?」

上条「いや……。だが、いつまでもこんなことしてても今更どうしようもねぇ」

神裂「………そうですね」

2人は己の無力さを悔やむように言う。

上条「………俺としては御坂の側にずっといてやりたいってのが本音だ……。だけど、嫌な思い出がある学園都市の近くで俺と2人で暮らすよりかは、イギリスに行って同年代の女の子たちといる方がよっぽどマシだろう……」

神裂「………………」

上条「そのイギリスの生活をやめてまで、俺と一緒に日本に残ることを選ぶほど、あいつにとって俺がそこまで重要な存在とも……思え……ねぇし……」

顔を背けて言った上条のその言葉は、まるで自信の無いものだった。

上条「はは、何言ってんだよな俺……。これじゃあ俺があいつと一緒にいたいみたいじゃねぇか」

神裂「………………」

上条「でも、あいつといると不幸なことも起きないしさ。いや、ただ一緒にいるのが楽しくて、例えそんなことがあっても気にしなくなっただけなのかもしれねぇけど……。とにかく、学園都市では1度も感じたことのない幸せな気分になるんだ。まるで心がスッキリするような……パズルの最後の1ピースを嵌めた時のような……そんな感じがさ………」

今の上条にとって美琴がどんな存在なのか、どんな影響を受けているのか、彼はどことなく嬉しそうに語る。

311: 2010/10/06(水) 21:58:25.18 ID:fecRJhw0
神裂「………………」

上条「実際、俺あいつとじゃなけりゃ学園都市から逃げ切れなかった気がするよ。何度も危ない目に遭ったけど、その都度奇跡的に助かったし……」

神裂「………」ピク

上条「ぶっちゃけ相手が御坂以外の奴だったら上手く逃げ切れてたかどうか………」

神裂「………そうなのですか?」

瞬間、神裂の表情が僅かに変わった。

上条「え?」

神裂「彼女と逃亡している間、何度も危機一髪のところで奇跡的に助かったことがあったのですか?」

上条「そうだよ。自分でもよく学園都市から逃げ切れたと思うよ」

神裂「では、最近不幸なことを感じなくなったと言うのも本当ですか?」

上条「ああ……まあ思い返してみれば。以前は溝に嵌ったり財布落としたり携帯電話壊したりしてたけど、最近はそんなのねーな。寧ろラッキーなことが多いと言うか……。って何でそんなこと聞くの?」

訝しげな表情で上条は神裂を見返す。

神裂「…………っ」

上条「神裂?」

何か、大変なことに気付いてしまった。そんな表情を浮かべて固まる神裂。

上条「おい、どうした?」

神裂「はっ! い、いえ……すみません」

だが上条に声を掛けられると、すぐに彼女は我に返った。

上条「で、何であんなこと聞いたんだ?」

神裂「……………………」

上条に問われ一瞬黙った神裂だったが、しばらく経つと彼女は口を開いた。

神裂「………貴方は“雨女”を知っていますか?」

上条「は? 雨女?」

突拍子もないことを聞かれ、上条は間抜けな声を出す。

312: 2010/10/06(水) 22:02:41.32 ID:fecRJhw0
神裂「はい」

上条「そりゃあ……。ほら、あれだろ? 外出時や重要なイベントがある時に何故かいつも雨になっちまう、っていう女の人のこと」

神裂「そうです。その“雨女”です」

上条「だけどそれが何か?」

神裂「“雨女”は元々日本の俗信ですが、世界中にも似たような例がいくつもあります。例えば晴れ男・晴れ女もそうですし、別に天候にこだわらなければ、1年中何度も事故に遭う人、意図していないのに予知夢を見てしまう人、動物や子供に好かれやすい人、幽霊といった人外のものが見えてしまう人……後はやたら運の無い人とか」

上条「!」

突然、それまでとは関係の無さそうな話を始めた神裂に疑問を感じていた上条だったが、『運の無い人』という言葉を聞いた途端、強く反応を示した。

上条「やたら運の無い人って……」

神裂「ええ。貴方のような人のことですね」

上条「………」

何の意図があって神裂が今更そんなことを指摘したのかは分からなかったが、とりあえず上条は最後まで話を聞くことにした。

神裂「これらの人は生まれつきそういった体質をしており、基本的には一生変わることがありません」

上条「………………」

神裂「中にはその体質を引き起こす原因を、目に見える形で身体のどこかに備えている人もいます。そう、例えばあらゆる幸運を打ち消してしまう貴方の右手とか……」

上条「俺の右手……」

即座に上条は自分の右手を見る。

神裂「ですが……中には貴方とは対極の体質を持つ人間も存在します」

上条「俺とは対極?」

神裂「ええ……」

そこで1つ間を置き、神裂は答えた。

神裂「………あらゆる幸運を自他ともに招いてしまう人間とか」

上条「…………ふーん」

神裂「…………貴方の身近で誰か思い当たる人はいませんか?」

上条の素っ気無い反応が予想外だったのか、神裂は質問を出してみた。

上条「ああ、聖人のお前とか?」

314: 2010/10/06(水) 22:06:51.57 ID:fecRJhw0
神裂「……聖人はあくまで神の子のような加護を受けた人間のことです。私が今例に出したのは全て、そういった宗教的な影響とは全く関係の無い、ただの体質の話です」

上条「?」

上条には神裂が何を言いたいのか、自分にどんな答えを求めているのかサッパリ分からなかった。

神裂「いえ…確かに、これは体質の話であって『聖人』のように実際にそういった人間がいる、と明確に判明しているわけではありません。実際は世界中のあらゆる宗教で昔から密かに注目されてもいましたが、それでも、どちらかと言うと、ただの迷信や俗信、もしくは仮定の話の範疇であることは確かです」

上条「えーっと……」

神裂「なので私が言いたいことは全て仮定を前提としています。ですが、そういった体質の人が実在しているのもまた事実。それを踏まえてもう1度聞きます。貴方の身近で誰か思い当たる人はいませんか?」

上条「……い、いや一体俺には何がなんだか……」

魔術などの専門的な話ではない、ただの迷信や俗信・仮定の話と言われても、最先端の科学の街・学園都市で育った上条には疎い分野だった。

神裂「貴方、先程仰ったでしょう? 『最近不幸なことがなくなった』と。『寧ろラッキーなことが増えた』と」

上条「お、おう」

神裂「そしてその前に、こう言いましたよね? 『自分はあいつとでなければ学園都市から逃げ切れなかった気がする』と。『何度も危ない目に遭ったけどその都度奇跡的に助かった』と」

上条「…………そ、そうだけど……」

神裂「これでもまだ分かりませんか? 私が言った『貴方の身近に存在するあらゆる幸運を自他ともに招いてしまう人間』が誰なのか」

上条「……………………」

――思考停止。そして、頭の中に蘇った人物の顔が、神裂が言及した特徴の人間と一致する。

上条「………まさか……」





上条「………御坂……」





神裂「……………………」

唖然としたような表情で、上条はその名を呟いた。

316: 2010/10/06(水) 22:10:58.33 ID:fecRJhw0
上条「……じゃ、じゃあ……あいつは……その……『あらゆる幸運を自他ともに招く体質の人間』だとでも言うのか?」

恐る恐る上条は訊ねる。

神裂「思い返して下さい。学園都市で彼女と一緒に逃亡していた時のことを。何度も奇跡的に助かったのでしょう?」

上条「そんな……」

上条の脳裏に、学園都市で美琴と逃げていた時の記憶が1つ1つ鮮明に蘇っていく。

上条「嘘だろ……」

例えば、美琴の元に駆けつけた次の日、公園のベンチで座っていた時に隣の席に佐天と初春がやってきたが、その時一歩でも間違えれば彼女たちに正体を気付かれる可能性もあったはずだ。だが、上条と美琴は即座に芝居を打つことでその危機を回避した。

上条「バカな……」

例えば、モーテルに入った時、受付の主人に怪しまれたが、その時もし美琴に宿泊客名簿へのサインや身分証提示を求められていたら、主人に正体を気付かれる可能性もあったはずだ。だが、主人が求めたのは上条のサインと身分証だけだったので上条と美琴はその危機を回避した。

上条「まさか……」

例えば、モーテルを出て市道213号線を歩いていた時、偶然にもオートバイを見つけていなければ、その直後にやって来たアンチスキルの車両に見つかっていた可能性もあったはずだ。だが、上条と美琴は幸いにもキーがついたそのバイクに乗って一足速く市道を去りその危機を回避した。

上条「じゃあ……全部……」

サービスエリアで駐車していたオートバイがアンチスキルに見つかった時は、ギリギリその事態に気付き逃げることが出来た。黄泉川や黒子が同乗していた列車から逃げ出せたのも、タイミング良く現れた鉄橋から川に飛び込んだからだ。

上条「全部……」

山中で崖から落ちそうになった美琴を寸前で助けられたのは、寸前でアンチスキルの捜索ヘリに見つからなかったのは、凍え氏ぬ直前暗闇の中に山小屋の灯りを発見出来たのは、敵陣の真っ只中『デーモンズ・ネスト』から無事逃げ出せたのは………。

上条「あいつが……」

地下鉄で浮浪者が美琴を襲った時もそうだった。あの時激昂した上条は、逃げる浮浪者の背中に向かって拳銃を発砲した。だが、美琴が飛び掛ってきたことで弾丸は幸いにも浮浪者から外れた。その後、上条は残っていた浮浪者を射頃しようとしたが、その時は弾切れしたことで叶わなかった。つまり上条は結果的に美琴のお陰で殺人者にならなくて済んだのである。

上条「御坂が……」

そして、学園都市からの脱出時。後方のアックアがタイミング良く現れていなければ、上条と美琴は麦野が放った無反動砲の餌食になっていたはずである。

上条「いたから……」

神裂「……………………」

上条は呆然と、虚空を見つめる。

317: 2010/10/06(水) 22:15:07.77 ID:fecRJhw0
神裂「………まあ、全て仮定を元にした話ですが」

上条「じゃあ昨日、普段なら絶対に当たることがない服屋のくじ引きで当たったのもあいつのお陰だって言うのか!?」

神裂「そのクジはどちらの手で引かれたのですか?」

上条「右手だよ右手!! この幸運を何でも打ち消してしまう右手だよ!!」

言って上条は右手を神裂の前に突き出す。

神裂「ではその時、彼女……御坂美琴はどこで何をしていましたか?」

上条「どこで何をって……」

上条は昨日、カジュアルショップでクジを引いた時のことを思い出す。

上条「あいつは……俺のそばで……」

神裂「………………」

上条「俺の服を掴んでて……」

記憶を辿るにつれ、上条の声が徐々に小さくなっていく。

神裂「恐らく、彼女が貴方と接触していたことで右手が引き起こす不幸な体質を一時的に完全に消していたのでしょう」

上条「………………」

素の表情で神裂は推測を口にする。
しかし………

上条「有り得ない」

神裂「え?」

上条「そんなのこじつけだ!!」

我に返った上条は神裂を見据えそう叫んでいた。

上条「第一、御坂が『弧絶術式』に掛かる前から俺と御坂は知り合いだった。ならその時から俺の不幸は無くなってないとおかしいじゃねぇか! それに、昨日も今日も、バイクに轢かれそうになったり、落ちてきた看板の直撃を食らいそうになったりと氏ぬ思いを2度もしてるんだぞ!! そんな状況で御坂の幸運だと!? 荒唐無稽もいいとこじゃねぇか!!」

上条は何故か必氏に否定しようとする。しかし、神裂はそんな彼の言動に躊躇することなく更に深く話し込んで行く。

神裂「………これは憶測ですが……学園都市で彼女と一緒に逃げてる時、変なことを口に出して言いませんでしたか?」

上条「ああ?」

318: 2010/10/06(水) 22:19:25.27 ID:fecRJhw0
神裂「………例えば、日本の神道では『言霊』という概念が重視されています。実際に言葉に出して言ったことが力を持つという考え方ですね」

上条「……それが何だってんだ?」

眉を顰め、僅かに言葉に苛立ちを表しながら上条は訊ねる。

神裂「………いえ、よくあるのですよ。嫌いな人に向かって陰から『あいつ病気になったりしないかな』と言うと実際その人が体調を崩したり、他にも病院で入院している患者が、お見舞いに来た人間から『すぐ良くなるよ』と言われ症状が軽くなったりと。言葉とは稀に絶大なエネルギーを発揮します。実際、その『言霊』を用いる神道系の魔術師も日本には存在していますし」

上条「………………」

神裂「それが『神様』や『仏様』という、人間の信仰対象である高貴な存在に向けて発せられたものならば特に」

上条「…………だからそれが何なんだよ?」

神裂「ですから、貴方、学園都市で彼女と逃げてる時にひょんなことから口に出して言いませんでしたか? 『神様、助けて下さい』や『神様仏様お願いします』など。それも具体的に」

上条「はぁ? そんなこと覚えてるわけ………」

神裂「…………」

と、そこで上条の言葉が途切れた。

上条「いや待て………確か、山中で御坂が崖から落ちそうになって………」



   ――「……お願いだ神様……こいつを……御坂を……氏なせないでくれ……っ! ……頼むから……御坂を無事……学園都市から逃がすまでは……一緒に……いさせてくれっ……!」――



上条「それであいつの手を掴んでる時に………」



   ――「その代わり……ぐおっ……その代わり……」――



上条「必氏に何かを叫んだ記憶が………」



   ――「その後は……俺の一生分の幸せ全部くれてやる!!!!!! 一生分の不幸を与えてくれてもいいから……っ!!!!!! 御坂を……氏なせないでくれえええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」――



上条「!!!!!!!!」

神裂「………あるのですね」

319: 2010/10/06(水) 22:23:37.01 ID:fecRJhw0
瞬間、表情を固めた上条を見て、神裂は静かにそう言った。

上条「……確かに御坂を掴んでる時『俺の一生分の幸せを全部くれてやる』って言ったけど……」

神裂「それでそう叫んだ直後、彼女を無事助けられたということですね」

上条「…………、」

何かを考え込むように上条は黙り込む。だがすぐ彼は顔を挙げ疑問の声を上げていた。

上条「で、でも! それなら逆におかしいじゃねぇか!」

神裂「何がですか?」

上条「もし本当にその言葉通り、学園都市の外に逃げ出してから俺の身に一生分の不幸が一気に起こってるって言うんなら、何で俺は昨日バイクに轢かれずに、今日も看板に直撃しなかったんだ?」

神裂「………まあ普通なら氏んでいるでしょうね」

平然と答える神裂。

上条「そ、そうだろ!」

神裂「ですが貴方の側には、幸運を招く人物がいるはずですよ」

上条「!!!!!!」

神裂「そのバイクに轢かれそうになった時のこと、そして看板に直撃しそうになった時のこと、その前後をよく思い出して下さい」

上条「………………」

神裂「大方ネガティブなことでも考えていたのではないでしょうか。『彼女とはもう会えない』、『どうせ会っても意味はない』など」

上条「…………っ」

上条の記憶を遡るように神裂はゆっくりと言葉を紡いでいく。

320: 2010/10/06(水) 22:27:26.34 ID:fecRJhw0
神裂「しかし寸前、恐らく貴方はその考えを撤回した。……それで、どうなりましたか?」

上条「それで………」

上条の脳裏にその時のシーンが蘇る。



   ――「あんた何やってんの!!?? 今氏ぬところだったのよ!!!」――



バイクに轢かれそうになった時、誰が上条の背中を引っ張ったのか。

上条「………………」



   ――『さっきは突然電話してごめんm(_ _;)m もうこれで本当にあんたにしばらく会えなくなっちゃうけど、たまには連絡寄越しなさいよ! あと次会うときまでに「不幸だ不幸だ」言う癖直しときなさいよ 代わりに美琴センセーが特別にあんたの幸せ願っておいてあげるからさー(=`ー´)ノ』――



何故上条は落下してきた看板に直撃する寸前、立ち止まったのか。

上条「……『代わりに美琴センセーが特別にあんたの幸せ願っておいてあげるから』……」ボソボソ

神裂「………………」

上条「そんな……それじゃあ……それじゃあ……全部……全部あいつが!!??」

上条は信じられない、と言うように神裂の顔を見る。無理も無い。こんな非科学的で根拠も無いことを信じるほうが難しかった。

神裂「………………」

上条「違う! こんなの……こんなの偶然だ……っ!! ただの……偶然なんだっ!!」

神裂「……………………」

Prrrrrrrrrrrr....

と、その時だった。上条の携帯電話が鳴った。

上条「………………」

Prrrrrrrrrrrr....

神裂「………………」

しかし、上条は出ようとしない。

321: 2010/10/06(水) 22:30:26.43 ID:fecRJhw0
Prrrrrrrrrrrrr....

神裂「鳴ってますよ」

上条「………っ」

言われ、上条はしぶしぶ携帯電話の通話ボタンを押した。

上条「はいもしも……」

土御門『カミやん、無事か!?』

上条「つ、土御門!?」

電話の相手は土御門だった。しかも何やら慌てた様子だった。

上条「一体どうし……」

土御門『今どこで何してる!?』

開口一番、土御門はそう訊ねてきた。

上条「ど、どこって予定通り神裂とオープンカフェいるけど」

土御門『本当か!? よく無事だったな!』

上条「え? どういう意味だよ?」

土御門の尋常ではない様子に上条は怪訝な顔になる。

322: 2010/10/06(水) 22:32:27.98 ID:fecRJhw0
土御門『待ち合わせ時刻から逆算すると、カミやんはアパートの近くの駅から14時台の電車に乗ったと思ったんだが……』

上条「あ、いや違うんだよ。確かに1度は電車に乗ろうとしたんだけど、急に運行停止になって歩いて行くことにしたんだ」

土御門『そ、そうなのか!? それは……幸運だったな』

上条「へ?」

土御門『……? カミやん、お前知らないのか?』

妙に真剣な土御門の口調に上条は違和感を覚える。何か緊急事態が起こったような、そんな感じが彼の言葉から伝わってきた。

上条「な、何がだよ?」

上条の問いに、土御門は一言答えた。





土御門『14時10分発の電車、脱線事故に遭ったんだよ』





上条「……………は?」

323: 2010/10/06(水) 22:35:26.71 ID:fecRJhw0
一瞬、上条はその言葉の意味を理解出来なかった。

土御門『何でも2駅目を出発してしばらく経った時かな? 置石でもあったのか脱線しちまってな。かなり速いスピードで走ってたからからすごい勢いで横転して……。氏者も結構出たって話だ。特に先頭車両が酷いらしい……」

上条「………………なっ……なっ……」

声にもならない声を出し、上条は口をパクパクと動かす。無理も無い。14時10分発と言えば、1度上条が乗ろうとした電車だったのだから。しかも彼は先頭車両に乗ろうとしていたのだ。

上条「………そ、そんな……」

もしあの時、14時10分発の電車に、しかも先頭車両に乗っていれば上条は今頃………。

土御門『にしても、何で14時10分発の電車に乗らなかった? 乗っていれば大変だったぞ』

土御門がそう質問するのも当然だった。1つ間違えれば氏んでいたかもしれないのだ。脱線事故を起こした電車に直前に乗車するのを止めたなど、奇跡もいいところだった。

上条「……何で、って言われても確かあの時は………」



   ――「ん? 電話? ……誰だろ?」――



上条「急に電話が……」



   ――「御坂!!?? ど、どうしたんだ!?」――



上条「御坂から……」



   ――『あ、ごめんね急に電話しちゃって』――



上条「掛かって………きて………」

ゆっくりと、耳から受話器を離しながら、上条は恐る恐る神裂に顔を戻した。

神裂「……………………」

上条「……バカな………」

愕然としたような表情で上条は神裂を見据える。

324: 2010/10/06(水) 22:39:37.28 ID:fecRJhw0
神裂「………何故、学園都市にいた頃、彼女と知り合っていたにも関わらず貴方の不幸が消えなかったのか」

上条「!」

上条の戸惑いに応えるように、神裂は再び静かに話し始めた。

神裂「それは恐らく貴方と彼女の関係にまだ距離があったからでしょう」

上条「………………」

神裂「ですが、それでも彼女は自身も気付かぬうちに貴方を助けていたはずです。でなければ、不幸な体質の貴方が今まで数々の強敵相手に生き延びることは出来なかったでしょう」

上条「!!!」

神裂「貴方がロシアに訪れた時も彼女も同様にロシアに来ていたはず」

上条「…………っ」

神裂「そんな貴方と彼女は、今回共に学園都市から逃げることで互いの距離がかなり近くなったはずです。ですから隠されていた彼女の幸運を招く体質がそれを機に一気に顕現化し、その影響で貴方たちは無事学園都市から脱出することが出来た。私はそう考えます」

驚愕の表情を見せながら黙って話を聞く上条に、神裂は分かりやすくゆっくりと推論を述べる。

神裂「要するに彼女の幸運を招く体質は、貴方の不幸の体質を掻き消し、プラマイゼロにすることが出来るのです。恐らく彼女のその体質は、今回のことがなければ本格的に現れることもなかったのでしょう」

上条「………………」

神裂「即ち、彼女の幸運の体質と貴方の不幸の体質はペアみたいなものです。先程例に挙げた『雨女』も『晴れ男』と一緒になることでその体質を打ち消すことが出来ます。1年中事故に遭う人も、全く事故に遭ったことがない人と一緒になることでその体質を打ち消すことが出来る……」

上条「……………………」

神裂「こういう+と-のような、あるいは凸と凹のような関係の男女が互いにとってどのような存在なのか、そしてその相手をどのように呼ぶのかご存知ですか?」

上条「…………?」






神裂「“運命の人”ですよ」






上条「…………運命の……人………?」

325: 2010/10/06(水) 22:43:40.49 ID:fecRJhw0
無意識に、上条はその言葉を口中に反芻した。

神裂「ええ。かなり使い古された言葉ですし、聞いたことがあるでしょう? 赤い糸と糸で結ばれた、生まれる前から一緒になることが決まっていた男女のこと。あるいは最近流行りのスピリチュアルでは『ソウルメイト』などとも呼ばれているようですが……」

上条「……じゃ……じゃあ……御坂が……俺の………」

神裂「ええ、きっと」ニコッ

言って、神裂は久しぶりに笑顔を見せた。

神裂「そして、その運命の赤い糸で結ばれた者同士から生まれる子供は、将来世界にとって役に立つ発明をしたり歴史に名を残す偉人になったりすることが多いのです」

上条「………待ってくれ」

と、上条はストップを掛けるように話を遮ってきた。

神裂「?」

上条「そんなことはどうでもいい。……それよりも……おかしいじゃないか。御坂が俺の運命の相手だって? なら!!」

神裂「!」

そこで上条は右手を神裂の顔の前で開いて見せた。

上条「ならこの右手はどう説明するんだよ!? この右手はなぁ、運命の赤い糸さえ打ち消してしまってんだ!! なのに、運命の相手の御坂と既に知り合っていたなんておかしいじゃねぇか!!」

神裂「だから言ったでしょう? 彼女の幸運の体質は貴方のその右手が引き起こす不幸の体質その物も打ち消すと」

上条「!!!!」

神裂「つまり、彼女の前では貴方の右手が引き起こす不幸なんて何の意味も無いのですよ。……だから、彼女との運命の赤い糸は健在ですよ」

上条「……………そ、そんな……」

神裂「まだ信じられませんか?」

上条「………………」

神裂「逆に言うと、貴方と一緒になれる女性は彼女……御坂美琴以外、いないのですよ……」

326: 2010/10/06(水) 22:47:27.94 ID:fecRJhw0
そう言った神裂の顔は僅かに上条から背けられていた。まるで何かの感情を押し頃すように。だからこそ彼女は上条に理解してほしかった。美琴が上条にとってどんな存在であるかを。

上条「……………………」

うなだれ、何も喋らない上条。

神裂「……………………」

上条「………………なあ」

神裂「?」

と、そこで上条は俯いたまま神裂に問い掛けてきた。

上条「………もし……このまま俺と……御坂が……別れたら……それぞれ……どうなる?」

神裂「………そうですね。別に運命の人と結ばれなくても幸せになることは出来るので、彼女はこれからイギリスで新しい人生を送り、貴方の代わりに夫となる人を見つけてそれなりに満足のいく人生を送れるのではないでしょうか」

上条「………………」

神裂「貴方の場合は、彼女と別れた途端、またすぐに不幸体質が戻るでしょう。当然運命の赤い糸も打ち消されるので一生結婚も出来ません。それ以前に貴方は、学園都市で彼女が危険な目に遭った時『彼女を助ける代わりに学園都市から脱出した後は一生分の不幸を受けてもいい』などと宣言してしまってます。実際そのせいか否か分かりませんが、昨日と今日で3度も氏にそうな目に遭っています」

上条「……………………」

神裂「このままだと貴方は後1年無事に生きれるかどうか……いえ、生きれたとしても五体満足で過ごせるかどうか……分からないところですね」

神裂は、淡々と思いつく限りの予想を口にした。

神裂「ですが1番大事なのは、貴方自身、そして彼女自身の気持ちです。私は、それを確かめるだけでも意義はあるとは思いますよ? それにもう1度断っておきますが、今のは全て仮定の上での話ですからね」

上条「……………………」

神裂「でも、個人的な見解を述べさせてもらうと、恐らく彼女……御坂美琴以上に貴方にとって相応しい女性は今後1度たりとも現れないと思いますよ?」

上条「……………………」

神裂「……………………」

沈黙が流れ、周囲のテーブルでザワザワと会話する客たちの声が耳に入ってくる。

327: 2010/10/06(水) 22:51:47.38 ID:fecRJhw0
上条「………俺は……」

そんな中、上条はふと口を開いた。

上条「俺はどうしたらいい?」

神裂「………………」

そう小さな声で訊ねる上条。神裂は彼の顔を見ながら答える。

神裂「それは私が決めることではありません。貴方が自分自身で決めることです」

上条「…………そうか」

神裂「ただ、イギリス行きの飛行機の搭乗をキャンセルすることぐらいは出来ます」

上条「……………ありがとう神裂」

久しぶりに顔を上げ、上条は覇気のある声で言っていた。

上条「俺………」

神裂「…………」





上条「俺、決めたよ」





神裂「ええ」ニコッ

神裂は笑顔で答えた。

328: 2010/10/06(水) 22:54:33.50 ID:fecRJhw0
それから数分後。

神裂「………………」

飲みかけのコーヒーカップだけを残し無人となった空席を向かいに、神裂は静かに紅茶を嗜んでいた。
と、その時である。




「いやぁ、カミやんも罪な男だぜい」




正面の席に突然、金髪にサングラスの男が腰掛けてきた。

神裂「土御門……何しにここへ?」

ジ口リ、と神裂は片目でその人物を窺う。

土御門「つれないにゃー、ねーちんは全く」

上条の友人でもあり、『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師でもある土御門だった。

神裂「とぼけないで下さい。しばらく前から密かにいたのは分かっていましたよ」

土御門「ありゃりゃ、バレてたか。いやあ本当に脱線事故に巻き込まれてなかったのか、カミやんが心配になってにゃー。急いで来てみたんだぜい」

神裂「なら顔ぐらい出せばよいものを……」

飄々とした土御門に神裂はあくまで冷静に答える。

329: 2010/10/06(水) 22:58:24.57 ID:fecRJhw0
土御門「そういう雰囲気じゃなかったからにゃー。ねーちんも相当の覚悟を持ってカミやんを送ったはずだし」

神裂「何のことだかサッパリ分かりませんね」

土御門「密かに惚れてる男を平然とした表情で別の女に譲るなんて真似、普通は出来ないもんだぜい」

神裂「………貴方が何を言いたいのかは理解し兼ねますが、この件に関してはあのインデックスが……」


     
   ――インデックス『短髪と一緒になれてとうまが幸せなら私も幸せなんだよ』――



神裂「……と潔く身を引いた以上、私もそれに倣わなければ大人気ないでしょう」

これといった感情も見せず神裂は淡々と述べる。

土御門「……ふん、禁書目録もねーちんも偉いにゃー。……にしてもあの2人、なかなか今後が楽しみなコンビぜよ。特に超電磁砲がカミやんにどんな影響を与えていくのか、がな」

神裂「そうですね。“不幸を招く魑魅魍魎に逆らう巫女”……いえ“女神”でしょうか」

そこで神裂はカップから口を離し、口元を緩めて遠くを見据えた。

神裂「“魅逆命”と“神浄討魔”。実に興味深い2人です」

330: 2010/10/06(水) 23:01:27.25 ID:fecRJhw0
上条「ハァ……ゼェ……ハァ……」

その頃、上条は走っていた。全速力で。人ごみを掻き分けて。

上条「(今すぐお前に会いたい御坂……!)」



   ――「私は……当麻のことが好きだよ………」――



上条「(待っててくれ……御坂……っ!)」


ただ、美琴の元を目指して――。

362: 2010/10/08(金) 23:15:45.62 ID:vsxs7120
上条「ハァ……ハァ……」

息を切らし、上条は昼、美琴と別れを告げたはずのアパートの扉の前に立っていた。

上条「ハァ……ゼェ……ゴクッ」

息を呑み、恐る恐る手を伸ばし、上条はドアノブを掴む。


ガチャッ……


と言う小気味良い音と共に、重い扉はゆっくりと開かれていった。

上条「ハァ……ハァ……」

そしてそこに待っていたのは………



美琴「………あら? お帰りー」



上条「ハァ……ゼェ……」

いつもと変わらない、歳相応の笑顔を浮かべた美琴が中から現れた。

上条「ゼェ……ハァ……」

エプロンを着ているのは少し早い夕食の用意をしているからだろうか。実際、室内からも美味しそうな匂いが漂ってきた。

美琴「何か急に魔術師の人が尋ねてきてさ。今日のイギリス行きの飛行機はキャンセルされたって。しかもあんたも直に戻ってくるって言うじゃない。だからちょっと早いけど、やることなかったから夕ご飯の用意することにしたの」

おたまを肩に担ぐように美琴は言う。

美琴「………で、いつまでそこに突っ立ってんの? 中に入りなさいよ」

上条「……あ? ああ」

バタン……

指摘され我に返った上条は後ろ手に扉を閉める。

美琴「変なの」

それだけ残すと、美琴はキッチンへ戻っていき、再び料理を作り始めた。

363: 2010/10/08(金) 23:18:21.20 ID:vsxs7120
トントントン、とキッチンの方から規則的な音が響く。

美琴「ふんふんふ~ん♪」

美琴が鼻歌を口ずさみながら包丁を使って野菜を切っているのだ。

上条「………………」

そんな美琴の後ろ姿を、リビングでテレビの前に座っていた上条は横目で窺う。

美琴「ふふふん♪ ふふふん♪ ふんふんふーん♪」

上条「(………もし、俺とあいつが一緒になったら……将来、こういう風景を毎日見れるようになるのかな……)」

ボーッとしながら、上条は頭の中にそのイメージを思い描く。

美琴「ん? 何?」

と、そこで振り返った美琴と目が合った。

上条「え? あ、いや、別に……」

気まずくなり上条は咄嗟に視線を逸らす。

美琴「今日は肉じゃがよー。わざわざあんたの好物作ってあげたんだから感謝してよね」

おたまを肩の上でトントンと叩きながら美琴は半ばふざけた感じで言う。

364: 2010/10/08(金) 23:20:16.47 ID:vsxs7120
上条「………そうだな……」

上条は顔を背け、僅かに俯きながら口元に笑みを浮かべた。

美琴「………やっぱり今日のあんた変。張り合いないわね」

上条「………はは、そうか」

美琴「?」

今の美琴からしてみると、やはり上条の様子はおかしかった。そもそも急に渡英の予定が中止になったのも気になったし、実家に帰ったはずの上条が戻ってきたのも不自然だった。

美琴「………何か言いたいことあるの?」

上条「は!? いや、別に!!??」

美琴「………?」

明らかに上条の反応はおかしい。

美琴「ま、いいけど」

上条「………………」

だが、いつものことだと思ったのか美琴はそれ以上追求してこなかった。

365: 2010/10/08(金) 23:23:42.37 ID:vsxs7120
夕食時。2人は小さなテーブルを囲んでご飯を食べていた。

上条「………………」

深く何かを考え込むように上条はひたすら無言で箸を動かす。

美琴「それは有り得ないでしょうー」

テレビ『……でもさ、こう考えると結構素敵やん?』

美琴はさっきからテレビに夢中になっている。お嬢さまな生活をしていた彼女にしてみれば随分と庶民的な姿だった。だいぶ『外』の生活にも慣れてきたのかもしれない。

上条「……………………」

対して上条は、相変わらず無表情で黙々とご飯を口にしている。

上条「(……まだだ。今は食事中……。まだ今日は時間がたっぷりある……。だけど……)」チラッ

箸でおかずを掴む傍ら、美琴を一瞥する上条。

上条「(……今日を逃したら……恐らくこのまま……何も言えずにズルズルと伸ばしちまう……)」

箸を握る手に力が篭る。

上条「(……それじゃあダメなんだ……っ! ……勝負は、今日しかないっ…!)」ググッ

1人、上条は並べられた食器を眺めながら自分の世界に入る。

上条「………………」

美琴「あ、可愛い~」

上条「!」

ふと上条は顔を上げる。見ると、美琴が表情を緩めながらテレビを見つめていた。自然と上条の視線もテレビに向けられた。

上条「………………」

テレビ『こちらの新婚さんのお家では、生後3ヶ月の赤ちゃんがスクスクと成長中。とても好奇心が強くイタズラ好きな男の子です』

テレビの中では声に特徴があるナレーションをバックに、幸せそうな若い夫婦とまだ生まれて間もない赤ちゃんが映っていた。

美琴「……赤ちゃん可愛いなー。旦那さんと奥さんもすごい幸せそう』

どうやら美琴はテレビに映っている一家を見て羨ましがっているようだった。そういうところに憧れるのはやっぱり女の子といったところか。

上条「……………………」

上条はテレビを見つめながら黙り込む。すると何故か、そこに映った若い夫婦が自分と美琴の姿に見え、まるで自分たちの子供を仲良くあやしているような風景が思い浮かんできた。

366: 2010/10/08(金) 23:27:17.93 ID:vsxs7120
美琴「ねぇ」

上条「………………」ボーッ

美琴「ねぇってば」

上条「……………………」ボーッ

美琴「ちょっと聞いてるの?」

上条「へ? え? あ、何?」

我に返ると、美琴が不思議そうな顔でこちらを見ていた。

美琴「何ボーッとしてるの?」

上条「い、いや別に……」

内心慌てながら、上条は何事もなかったように振る舞い夕飯の続きを食べ始める。

美琴「私もう食べちゃったから先にお皿洗っとくね?」

上条「お、おう……」

美琴「?」

どこか様子がおかしい上条に首を傾げながらも、美琴は食器を持って流しに向かっていった。

上条「(ったく、何やってんだよ俺……)」

ご飯を口に含みながら、上条は胸中に考える。

上条「(……あいつとの赤ちゃんだなんて、何て妄想してんだ。………でも……)」チラッ

流し台の前に立つ美琴の背中を窺う上条。

上条「(……もしも………もしも……あいつとそんな家庭を築けるのなら………)」

脳裏に浮かぶ若い父親と母親。彼らに抱かれる小さな子供。その未来予想図は、今の彼にとってあまりにも幸せそうで、あまりにも楽しそうで、そして光り輝いていた。

367: 2010/10/08(金) 23:30:17.49 ID:vsxs7120
美琴「じゃあこのお皿、持っていくわね」

上条「………………」

美琴「………?」

空になった食器を手に取る美琴。そんな彼女を、上条は無意識に見つめてしまう。

上条「(御坂……)」ジッ

美琴「………さっきからどうしたの?」ニコッ

それを柔らかい笑みで返す美琴。そんな彼女の笑顔は、上条の胸を切なくなるほど締め付けあげた。

上条「(…………俺は)」

美琴「何かやっぱり変よあんた~」

クスクスと笑いながら美琴は流し台へ戻っていく。

上条「(………変でも構わない。……だけど、お前のその眩し過ぎる笑顔……。そして天真爛漫でお転婆な性格……」)

美琴「ふんふんふーん♪」

上条「(……以前は何も感じなかったけど……今は、お前の全てが……お前という存在が……決して離したくないほど愛しいんだ……!)」

上条は美琴を見つめ心の中、密かに決心する。




上条「(御坂……俺の想い、お前に伝えるよ……)」





368: 2010/10/08(金) 23:33:31.53 ID:vsxs7120
そして、運命の時がやってくる――。

美琴「はーサッパリした♪」

夜も11時過ぎ。風呂から上がった美琴は既にパジャマ姿となり、ドライヤーで髪を乾かしているところだった。

上条「………………」

そんな美琴を横目に、上条は口を閉ざしたまま机の前に座っていた。

美琴「ドライヤー終了っと」

髪を乾かし終え、ドライヤーを置いた美琴は水道水をコップに注ぎ一気に飲み干すと、上条のところまで近付いてきた。

美琴「次、あんた入りなさいよ」

言って美琴は上条の背中とベッドの狭い隙間を通り、そのまま上条の横に腰を降ろす。

上条「………………」

美琴「さてと、何か面白い番組でもやってるかな~?」

就寝前に少しだけテレビを見ようと美琴がリモコンに手を伸ばした瞬間だった。



スッ… 



ピトッ……



美琴「……………え?」

その瞬間、美琴の動きを止めるように、上条の手が彼女の手に優しく重ねられた。

美琴「……えっ、ちょっ、あ、な、わっ……」

突然の上条の行動に驚いた美琴はうろたえるばかりで、まともな反応も出来ず視線を四方にキョロキョロと向けている。

美琴「……あ、あ、あの……な、何のつもりなの?//////」

上条「……………………」

顔を真っ赤にさせつつ美琴は訊ねる。対して、上条は目を瞑ったまま何も喋らなかった。

369: 2010/10/08(金) 23:37:08.56 ID:vsxs7120
美琴「?」

一瞬、訝しげな顔を見せる美琴。

上条「………………」

美琴「………………」

しかし、上条のその尋常ではない雰囲気を察知すると彼女は悟った。

美琴「………あんた……」

これから何か、とてつもないことがこの場に起こる。とてつもない言葉が彼の口から飛び出そうとしている。その準備のために彼は今、これほどまでに深く黙り込んでいるのだ、と。

美琴「………………」

空気を読み、美琴も上条に倣って黙り込む。

美琴「(温かい……)」

重ねられた手から、上条の温もりが伝わってきた。

上条「……………………」

美琴「……………………」

何秒経ったのか、それとも何分経ったのか。随分と長く、上条は黙ったままだった。もしかしたらそれほど彼は今から勇気が必要なことをしようとしているのかもしれない。

美琴「……………//////」モジモジ

耐えられなくなった美琴が視線を泳がせ始めた。
と、その時だった。




上条「………“美琴”………」





370: 2010/10/08(金) 23:40:11.93 ID:vsxs7120
美琴「ひゃい!!!!」

大きく肩を跳ね、間抜けな声で返事してしまう美琴。
そこで彼女は気付く。

美琴「……って、あれ? 今美琴って……」

上条「………………」

顔を僅かにこちらに向け、美琴を横目で見つめる上条。

美琴「………………」

その顔を見て美琴は改めて悟った。本当に上条は、とても大事な、それも人生に大きく関わるようなことを言おうとしているのだ、と。
これまでにも下の名前で何度か呼ばれることはあったが、今のは明らかにいつもとは違うニュアンスだった。まるで、とても大切な人に対して掛けるような、そんな感じが………。

美琴「…………」ゴクリ

上条「………美琴」

もう1度、確かめるように上条は呟く。

美琴「…………何?」

それを受けるように美琴も静かに訊ね返した。

上条「………1つ、聞かせてほしい」

美琴「…………うん」

美琴を正面に捉え、真っ直ぐに彼女に視線を据える上条。

上条「学園都市で逃げてた時……地下鉄を歩いたろ?」

美琴「…………うん」

上条「…………あの時、お前、俺にこう言ったの覚えてるか?」

美琴「…………何?」



   ――「私は……当麻のことが好きだよ………」――



美琴「…………!!!!」

上条「……………………」

371: 2010/10/08(金) 23:43:23.69 ID:vsxs7120
美琴は驚いたような顔を見せる。本人でさえ忘れかけていたことを突然、まさかその台詞を向けて言った相手の口から出てくるとは思っていなかったからだ。

上条「…………俺に、言ったよな?」

美琴「………あ……あう……そ、それは……//////」

上条「………………」

その真意を問うように、ジッと上条は美琴を見つめる。

美琴「…………そ…その……//////」

上条「はぐらかさないでくれ。俺の進退に関わることなんだ」

美琴「!」

真剣な顔をして、真剣な口調で、上条は言った。まるで、かつて学園都市で彼が美琴の前に現れ『御坂妹を助ける』と宣言した時のように。

美琴「………………」

それだけで美琴は理解した。彼は今それほど重要な質問をしているのだ、と。ならば自然、美琴も真摯な対応をしなければならない。

美琴「………そうよ」

上条「………………」

落ち着いた口調で美琴は答えた。

372: 2010/10/08(金) 23:46:48.81 ID:vsxs7120
美琴「…………最初は……あんたに出会った頃は……私の電撃も効かない……ただのムカつく奴だって思ってた……」

そのまま美琴は続きを話し始める。

上条「………………」

美琴「何度勝負しても負けちゃうし、どうしてレベル5の超能力者の私があんたに勝てないんだ、っていつも納得出来ずにいた……」

上条「………………」

美琴「………だけど、気付いたの……。あんたは……周りみたいに無意味に『学園都市第3位』だ『最高の電撃使い(エレクトロマスター)』だって私を持てはやさない………私を『レベル5の超能力者』じゃない1人の『御坂美琴』って見てくれる唯一の人間なんだって……」

上条「………………」

静かに見守るように、上条は彼女の話を聞き続ける。

美琴「………挙句にはあんたは……『妹達』の件で自分の命を犠牲にしてでも実験を止めようとしていた私の前に………颯爽と……正義のヒーローみたいに現れて………」

上条「………………」

美琴「………私がどうしても勝てなかった……あの『一方通行(アクセラレータ)』に………宣言した通り勝ってみせた………」

上条「………………」

美琴「………信じれなかった。私と妹達を助けるためだけに……何の見返りもないはずなのに………あんたは……私の電撃を何度受けても立ち上がって……。……一方通行の猛攻に対しても、何度氏にそうになっても……立ち向かっていって………」

上条「………………」

美琴「………気付いたら私………いつの間にか……あんたのこと……好きになっちゃってた………」

上条「………………」

僅かに俯きながら美琴は呟く。そんな彼女を上条は優しい目で見つめている。

美琴「………何度も……アプローチしたんだよ? ……例えば……一緒に携帯のペア契約に誘ったり……とか」

上条「………………」

美琴「………でも何故かあんたの周りにはいつも……女の子ばかりいて……内心嫉妬してた……。それで、あんたの前じゃ素直になれない自分に………『どうして私は他の女の子みたいに素直に可愛くなれないの』……っていっつもイライラしてた……」

自嘲するように美琴は口元に小さな笑みを作る。

美琴「………でも……それでも嬉しかった……あんたの顔を見るだけで……あんたと話せるだけで……。恋人の振りをした時も……大覇星祭で一緒にフォークダンス踊った時も……携帯のペア契約した時も……本当に嬉しかった………」

上条「……………………」

美琴「……そしていつも……あんたの側にいる時……思ってた……。……『この人と一緒になりたい』……『もしこの人と一緒になれたら幸せだろうな』……って………」

373: 2010/10/08(金) 23:50:22.86 ID:vsxs7120
上条「!!!」

と、そこで上条は目を丸くした。

美琴「………でも……あんたは……グスッ……鈍感で……グスン……いつも……ヒグッ……私に……そっけない……グズッ……態度をとって……グスッ」

上条「……………っ」

美琴「……グスッ……私の気持ちに……グスン……微塵も……気付いてくれなくて……」

泣いていた。美琴が、両目に溢れた涙を必氏に拭いながら、泣いていた。

上条「…………御坂」

美琴「……グスッ……ヒグッ……」

それほど、彼女にとって切実なことだったのだ。自分を対等に見てくれる、自分と妹達の命を救ってくれた、その顔を見るだけで癒された、そんな存在であった上条に対し、密かにずっと心の中に抱き続けた淡く、純粋で、ひたむきな、彼女の恋心。

美琴「……クスン……グスン……」

その想いが今、ようやく機を得たことで一気に溢れ出したのか、いくつもの涙の雫となって彼女の双眸から零れ落ちていった。

美琴「………グスッ……ヒグッ………」

上条「………………」

美琴「!」



そっ……



と、唐突に、まるでその悲しみを分かち合うように上条は彼女の小さな身体を優しく抱き締めてあげた。

上条「…………御坂……」

美琴「………グスッ……ヒグッ……」

その温もりを受け入れるように、美琴もまた、自然と上条の大きな身体を抱き締め返した。

374: 2010/10/08(金) 23:54:22.91 ID:vsxs7120
上条「……ごめんな……御坂………俺……鈍感で……」

美琴「…………グスッ……」

上条「こんな近くに……こんな可愛くて……俺のこと……一途に想ってくれる……女の子がいたのに……その気持ちに気付いてやれなくて……」

美琴を落ち着かせるように、彼女が今まで味わってきたあらゆる切なさを、悲痛を、辛さを全て掻き消していくように上条は彼女の耳元で優しく呟く。

美琴「…………グスッ」

美琴の柔らかなシャンパンゴールドの髪が上条の頬に触れ、彼女の甘い香りが鼻腔をくすぐる。

上条「でも……俺も……ようやく分かったんだ……今回……一緒に……お前と学園都市から逃げたことで……」

上条の美琴を抱き締める力が強くなり、それに答えるようにまた美琴の上条を抱き締め返す力も強くなった。

上条「……俺の中で……お前と言う存在が……いつの間にか……大きくなってた……」

美琴「…………うん…グスッ」

上条「……初めは……ただの……俺にからんでくる……生意気で……子供みたいな……1人のお転婆な……女子中学生でしかなかったのに……」

美琴「…………うん…クスン」

上条「……だけど今じゃ違う……。もう……俺にとってお前は……一生離したくないほどの……1人の大切な……女性なんだ………」

美琴「………………うん……グスッ…ヒグッ」

上条「……………御坂」
上条「…………いや」

と、そこで上条は1度美琴から身体を離し、彼女の顔をすぐ正面に捉えられる距離で視線を据えた。




上条「………………“美琴”」


美琴「………………なぁに、“当麻”?」




涙でクシャクシャになった顔を何とか落ち着かせ、美琴も上条を見つめ返す。

375: 2010/10/08(金) 23:58:11.87 ID:vsxs7120
上条「……………好きだ」

美琴「………………うん」

上条「お前のことが………世界中の誰よりも……」

美琴「……………うん! グスッ……」

元気な声で、嬉しさが混ざった声で返事をする美琴。

上条「………………」

美琴「…………私も……当麻のことが……大好き……」

上条「……………………」

美琴「……………………」

2人は、最愛の人の顔を愛しそうに深く、深く見つめ合う。

上条「………美琴………」

美琴「………当麻………」

やがて2人はゆっくりと目を閉じ、互いの顔を近付け………







上条美琴「「――――――――――――」」







………永遠の誓いをその唇に深く刻み込んだ。

繋がれた手、繋がれた唇、繋がれた心。
長く辛かった恋が今、成就を迎えたことを実感した少女の瞳からは、愛しくも切ない大量の涙が零れ落ちていた――。

505: 2010/10/20(水) 23:46:15.65 ID:aJseORU0
それから10ヵ月後――。




「…………あ、美味しそうだな」




東京某所。商店街の一角を歩く1人の少年の姿があった。

八百屋「よう兄ちゃん! 今日もお買い得だよ! 買っていきなよ!」

上条「マジっすか!?」

かつて学園都市で暮らしていた無能力者の少年、上条当麻だった。

八百屋「おう、マジも大マジよ!!」

上条「う……でも……」

八百屋「どうよ?」

上条「こういう時につい、我が家の家計と相談してしまうのは、学園都市にいた頃の癖なのだろうか」

財布の中身を確かめながら、消極的な口調で上条は独りごちる。

八百屋「なーにブツブツ言ってんだ? 兄ちゃんと一緒に住んでる嬢ちゃん、今大変なんだろ?」

上条「大変……と言われればそうなのかもしれないっすけど……」

八百屋「じゃあ特別だ。このりんごとバナナ…あと桃もつけて2割引きだ」

上条「マジっすか! なら頂きます!!」

八百屋の誠意に感激するように上条は目を輝かせる。

八百屋「おう。その代わり、嬢ちゃんを労わってやれよ?」

上条「はい!!!」

元気に返事をし、果物を受け取ると上条はその場を後にした。

506: 2010/10/20(水) 23:50:14.33 ID:aJseORU0
美琴「ふふふん♪ ふふふん♪ ふんふんふーん♪」

都内にある賃貸マンション。その一室から、1人の少女――御坂美琴の楽しそうな鼻歌が聞こえてきた。

美琴「さーてと。当麻もそろそろ帰ってくる頃ね」

キッチンで手馴れた手つきで料理を作りながら、彼女は同棲している上条の帰りを待つ。

美琴「夕飯も早く作り終えちゃわないと」

そう言う美琴はとても幸せそうだった。
学園都市から逃げ伸びてからまだ1年足らず。辛いことも苦しいことも絶えなかったが、美琴と上条はそれでも互いに協力して、共に数々の苦難を乗り越えてきたのであった。そして今、彼らは1つの幸せを手に入れていた。

ガチャッ!

上条「美琴! ただいま!」

美琴「あ、お帰り~」

と、そこへ帰宅した上条が現れた。

美琴「どう? 大変だった?」

上条「まあ大変っちゃ大変だけど、金は稼がないといけないからな。それに、大変と言っても魔術師や超能力者と戦うよりかは随分マシだし」

美琴「うー……何だかごめんね。当麻にだけ苦労させちゃって」

上条「バーカ。お前は今安静にしてなきゃダメだろうが。だからほら、これ」

申し訳なさそうな反応をした美琴に、上条は手に持っていた袋を渡す。

美琴「わぁ、果物だ。こんなにいっぱいどうしたの?」

上条「八百屋の親父が特別にくれたんだ。夕食後に食おうぜ」

美琴「そうなんだ。じゃあ、夕飯もうちょっとで出来るから待ってて」

上条「了解~」

返事をし、上条はリビングに向かうと床に腰掛けストーブの前で暖まり始めた。

509: 2010/10/20(水) 23:54:47.49 ID:aJseORU0
上条「ふー…温まるぜ……」チラッ

美琴「ふふふん♪ ふふふん♪ ふんふんふーん♪」

横目で美琴を窺う上条。今も彼女はこちらに背を向け上機嫌に料理を作っている。

上条「……」ニヤリ

美琴「ふんふんふ……きゃっ!!」

突如、肩を震わせ小さな悲鳴を上げる美琴。

上条「美琴~~」

美琴「と、当麻!」

上条「やっぱりこうして抱いてみると美琴がどれほど可愛いかがよく分かるなー」

美琴「////////////」

上条が料理中の美琴を後ろから抱き締めたのだ。

美琴「ね、ねぇ……今ご飯作ってるんだから……そ、そういうことされちゃうと困るんだけど?////」

上条「美琴の髪はいつも良い匂いがするなー」

美琴「も、もう//////」

当然、上条と美琴は未成年のため結婚はしていない。しかし、今の2人は誰が見ても新婚夫婦そのものだった。それほどこの1年で彼らの愛はより深まっていたのである。

上条「おまけにスタイルも良いし」ナデナデ

美琴「ひゃっ!//// ど、どこ触ってるの!?//////」

恋人がいない人間にしてみればハンカチを噛みたくなるほど甘い雰囲気を醸しながら、その後も上条は美琴を抱き締めつつちょっかいをかけていた。

510: 2010/10/20(水) 23:59:15.24 ID:aJseORU0
美琴「と、当麻ぁ……」

が、さすがにいつまでもそうしている訳にもいかないと思ったのか、耐えかねた美琴が後ろを振り向いた。

上条「…………」

美琴「あ! ……んっ」

と、上条は間髪入れず彼女の唇を塞ぐ。

美琴「………当麻ぁ……ん」

上条「美琴………」

桃色の空気が2人の間に流れ出す。

美琴「ん………」

やがて離される2人の唇。美琴はトロンとした目で上条を見上げた。

美琴「強引……」ムスッ

上条「やっぱり可愛い。なぁ……久しぶりにしようぜ?」

美琴「だぁめ」

上条「チェー。付き合い始めた当初は毎日のようにしてたのに」

美琴「ダメよ。今は出来ない。それは当麻も分かってるでしょ?」

子供のように拗ねる上条を、美琴は諌める。

上条「分かってる。冗談だよ。何たって今は……」

中腰になり、上条は美琴のお腹を軽く撫でる。





美琴「妊娠10ヶ月目だからね//////」





恥ずかしそうに、美琴は自分のお腹を押さえながら言った。

513: 2010/10/21(木) 00:04:54.34 ID:ywUEe0Y0
夕食後。机を囲み一時の休息をとる上条と美琴の2人。

上条「はー食った食った。美琴の飯はいつ食っても美味いからなぁ」

美琴「もう、お世辞ばかり言って//// 恥ずかしいよ//////」

彼らが暮らすこの部屋は、学園都市から脱出した際に一時的に身を寄せていたマンションとは異なり、更に学園都市から離れていた所にあった。
本当は、2人とも実家に帰るか、もっと遠い場所に住みたかったのだが、そうすると学園都市との取引の関係上、色々と不都合があると『必要悪の教会(ネセサリウス)』から暗に言われたので、妥協として今の場所に落ち着いたのである。

美琴「あ、また蹴ったみたい」

上条「本当かよ? 最初は早産も予想されたんだけど……随分と元気でワンパクな赤ちゃんだ」

美琴「誰かさんに似たのかもねー」

しかし、彼らの心配も取り越し苦労に終わったのか、この1年、上条が魔術の事件で呼び出されることは多々あっても、学園都市に関する事件は一切起こらなかった。故に上条と美琴も今の生活には満更でもなく、寧ろ幸せに過ごしていたと言っていい。

上条「でも妊娠が発覚した時はマジでビックリしたぜ」

美琴「ふふ…そう?」

上条「ああ、だってさ………」



   ――美琴『生理が来ないんだけど……』――


   ――上条『………………………え?』――



上条「あんな風に、暗い表情で突然言われたから一瞬、頭の中真っ白になっちまったよ」

美琴「でも後悔してないくせに」

上条「まあな。だけど、美琴のお父さんに会いにいった時は思いっきり殴られたっけな」

美琴「ああ、あれね」

上条「だって3度目でようやく俺とまともに話してくれるようになったんだぜ」

美琴「もうー父さんったらいつも私のことになると冗談が通じなくなるんだから」

上条「でもまぁ、14歳で妊娠したら怒るのも当然か……」

516: 2010/10/21(木) 00:09:47.41 ID:ywUEe0Y0
9ヶ月前――。

突如、妊娠が発覚した美琴はそれを報告すべく、そして久しぶりの帰郷のため、上条と共に実家を訪れたのだった。ある程度、美琴が置かれた事情は両親も承知していたのだが、彼女の父親は妊娠報告を聞くやいなや上条を殴り飛ばした。

旅掛「妊娠……?」

美鈴「…………っ」

御坂家にて。
正面に座る美琴と上条の顔を見、美琴の両親である旅掛と美鈴は魂を抜かれたように呆然とした表情を見せた。

上条「………………」

美鈴「ほ、本当なの美琴ちゃん?」

美琴「う……うん。もう1ヶ月で」

旅掛「………」ユラリ

ゆっくりと、そして拳を握りながら立ち上がる旅掛。

美琴「……父さん?」




ドゴォォォッ!!!!!!




上条「ぶべぁっ!!!!????」




ガシャーーーーン!!!!!!

旅掛に殴られた上条が椅子から転げ落ち、盛大に後ろにぶっ倒れる。

517: 2010/10/21(木) 00:12:26.21 ID:ywUEe0Y0
美琴「きゃああああああ!!!! 当麻ああああ!!!!!!」

美鈴「ちょっ、ちょっと!? あなた何やってるの!!??」



旅掛「帰れ!!!!」



上条「!?」

激昂し、怒りに満ち満ちた顔を見せる旅掛。


旅掛「二度とうちの娘に近付くんじゃない!!!」


そんな旅掛を、頬を押さえつつ唖然と見上げる上条。

美琴「ま、待って!!! こ、この人は……当麻は!!!」

上条の側につき、必氏に説得を試みようとする美琴。

旅掛「帰れ!!!!」

美鈴「あなた!」

上条「………………」

美琴「父さん……」

だが、それも徒労に終わり、結局、上条と美琴は旅掛にまともに話を聞いてもらえるまでこの後2回も家に足を運ぶのだった。

519: 2010/10/21(木) 00:15:36.46 ID:ywUEe0Y0
虚空を見つめながら、上条は苦笑いを浮かべてその時の光景を思い出す。

上条「まあいきなり殴られたのはビビったな。恐ろしいオーラを放つあの時のお義父さんの前じゃ、そこらの魔術師や能力者も目じゃなかったよ」

美琴「私も父さんがあんなに怒ったところ初めて見たから驚いたわ」

上条「そりゃ親としては大切な娘がまだ10代で妊娠するのはショックだろうからな。無理もないだろうな」

美琴「そうね。当麻が私を学園都市で助けてくれた、って必氏に説明したらようやく分かってくれたけど」

2人は、1つずつこれまでの軌跡を辿りながら会話に花を咲かせる。

美琴「でも、今考えると良かったんじゃない?」

上条「ああ、そうだな。だってお前とこうやって一緒にいることが出来るんだから」

美琴「あ……む………ん」

美琴の身体を引き寄せ、上条はその唇に自らの唇を触れ合わせる。

上条「美琴……」

美琴「当麻……」

互いをひたすら求めるように、何度も繰り返し相手の唇を味わう2人。やがて1分ほど経ち、上条は美琴から顔を離した。

上条「今日の美琴はイチゴ味かな? ちょっと甘い」

美琴「バカ……//// 当麻だってレモン味のくせに//////」

至近距離で彼らは甘い言葉を囁き合う。

上条「そうやって照れるところがまた美琴は可愛いんだよなぁ」ナデナデ

美琴「も、もう//////」

上条「あれー? 美琴ちゃんは何膨れちゃってるのかなー? それじゃあまるで茹蛸みたいだぞ?」ニヤニヤ

美琴「むー! 当麻ってばいつもそうやって私をからかうんだから……」

上条「だって反応が面白いんだから仕方ないじゃん?」

美琴「当麻の意地悪」ムスッ

521: 2010/10/21(木) 00:19:46.02 ID:ywUEe0Y0
上条「あちゃー意地悪って言われちまったよ」

美琴「当麻なんて嫌い」プイッ

上条「わっどうしよう美琴に嫌われちゃった頼む機嫌直してよー」ニヤニヤ

美琴「知らない」

上条「俺のこと嫌い?」

美琴「嫌い」プイッ

上条「嘘つけ」グイッ

美琴「あ………ん」

上条美琴「「――――――――」」

美琴「ん…………」

上条「……これでも嫌い?」

美琴「…………あ……う……」キョロキョロアタフタ

上条「嫌い?」

美琴「うー………」

上条「んー?」

美琴「好き//////」

上条「俺も美琴のこと好き」

美琴「えへへ//////」

上条美琴「「――――――――」」

美琴「ん………」

上条「今度はキャビア味」

美琴「ウソ。食べたことないくせに」クスッ

上条「それほど美琴の唇は極上って意味だよ」

美琴「もう、バカ//////」

523: 2010/10/21(木) 00:23:26.99 ID:ywUEe0Y0
そこらのバカップルでさえ敵わないほどのキスを終え、落ち着くと美琴は表情を緩ませて言う。

美琴「………でも、今になっても思うわ。こうやって当麻と一緒になれて良かったって」

上条「ん? ああ、そうだな」

上条は彼女の言葉に同意する。

美琴「ええ」

上条「何せ、美琴との愛の結晶がもうすぐ生まれるんだからな」

言って上条は美琴のお腹に耳を近付ける。

上条「おーい、早く生まれてこーい。父さんも母さんもお前の顔を見るのを楽しみにしてるんだからさー」

美琴「………フフ」

赤ん坊に話しかけるように、上条は声を掛ける。
と、そんな彼の声に応えるように美琴のお腹の中から返事があった。

上条「あ!」

美琴「あ!」

上条「今蹴ったな」

美琴「蹴ったわね」

嬉しそうに、笑みを浮かべ合う2人。

上条「元気な赤ちゃんだ」

美琴「そうね」

上条「どんな子なのかな?」

美琴「どんな子かしらね」

上条「今から楽しみだ」

美琴「ええ」

彼らは今、幸せの最中にあった。

525: 2010/10/21(木) 00:27:24.43 ID:ywUEe0Y0
そして3日後の夜――。

美琴「うっ……ううっ……」

上条「…………zzzzzz」

2人が眠りについていた時だった。

美琴「うーん……」

上条「………ん?」

それは唐突に訪れた。

上条「…………美琴?」

美琴「うう……ん。痛い……痛いよ」

目を覚まし、隣に寝ていた美琴を訝しげな表情で見る上条。

上条「お、おいどうした!?」

美琴「うう……ん……」

美琴を揺らす上条。
一応、左半身を下にして横向きに寝ており体勢には問題はなかったが、彼女の顔からは大量の汗が流れていた。

上条「まさか……」





美琴「う……産まれる……」





上条「!!!!!!!!!!」

527: 2010/10/21(木) 00:30:20.59 ID:ywUEe0Y0
病院――。

閉められる分娩室の扉。部屋の奥に消えていく美琴の姿。

上条「美琴……」

ついにこの時が訪れたのだ。出産の時が。

上条「………………」

今、上条に出来るのはただ待つことのみ。

上条「……………………」スッ…

彼はすぐ側にあったソファに腰掛けた。

528: 2010/10/21(木) 00:33:01.11 ID:ywUEe0Y0
それからどれほどの時間が経ったのか。

上条「…………無事に産まれてくれ」

上条は両手の上に顎を乗せ、物思いに耽っていた。
何しろ人生初めての、子供が生まれるのだ。しかも彼は10代で父親になるのである。不安になるのも無理はなかった。

上条「………にしても父親か」
上条「………俺は、父さんと遊んだ記憶はほぼ失くしちゃってるけど……子供にしてみれば父親ってのはとても大切な存在なんだろうなあ……」

上条は頭の中に、子供と遊ぶ自分の姿を思い描いてみる。

上条「………なーんて、気が早すぎるかな。……いや、でもいずれはそうなるんだし。どんな子に成長するんだろ……」

自然と、笑みが零れ落ちた。

上条「とにかく今は、美琴と赤ん坊の無事を祈るだけだ」

言って上条は分娩室の扉を見つめた。
そして、1時間ほど後………。





「おぎゃああああああああああああああ」





上条「!!!!!!!!」

扉の向こうから、1つの幼く、そして元気な声が聞こえてきた。

上条「あ、あの泣き声は……」

その泣き声を耳にし、上条は一瞬その場に立ち尽くした。

上条「美琴!!!!」

だが、逸る心を抑えられず、彼は駆け出していた。

529: 2010/10/21(木) 00:37:01.76 ID:ywUEe0Y0
上条「美琴…………」

「おぎゃああ! おぎゃあああああ!!!」

美琴「当麻…………」ニコッ

そこには、疲労しきった顔を見せながらも、笑みを浮かべる美琴が、そしてその胸に白い布で抱かれた赤ん坊が1人いて……

上条「う……産まれたのか………」

ボソッと、一瞬、頭に浮かんだ唯一の言葉を、上条は呟いた。
そんな彼に担当医が声を掛ける。

医師「10代での妊娠は、未熟児が生まれることも多いのですが……それも杞憂に終わったようです。とても元気なお子様ですよ」

上条「………………」

ヨロヨロと、肩の力が抜けたようにして、上条はベッドの上の美琴に近付いていった。

上条「美琴………」

美琴「当麻……ほら、私たちの……赤ちゃんだよ」グスッ

そう言って赤ん坊を見せる美琴の目尻には僅かに涙が溜まっていた。

上条「良かった……本当に……良かった……」

美琴「ほら、お父さん。抱いてあげなさいよ……」

上条「お、おう……」

美琴から上条に預けられる赤ん坊。

上条「(重い………)」

胸に生まれたばかりの赤ん坊を抱き、上条はその重さを全身で感じた。

530: 2010/10/21(木) 00:41:36.21 ID:ywUEe0Y0
美琴「どう? 元気な子でしょ?」

上条「ああ、全くだ」

上条と美琴は幸せそうに語る。

美琴「名前は……どうするの?」

上条「ん? ああ、それならもう決めてあるけど……どうかな?」

2人がひとしきり天使のような赤ん坊の笑顔を堪能すると、やがて自然と名前の話題に移った。

美琴「当麻が決めたのなら……何も不服はないわ。それで……何て名前なの?」

上条「おお、聞き逃すなよ。この幸運な上条さん二世の名前は……」

美琴「うん」

上条は胸に抱いた赤ん坊を見、笑みを見せる。





上条「上条麻琴だ」





その名前を喜ぶように、赤ん坊が笑った――。

531: 2010/10/21(木) 00:42:46.57 ID:ywUEe0Y0
>>1です。今日は以上です。
当然ながら自分は出産経験がないので妊娠や
出産についての描写がおかしかったり拙いのはご勘弁を。
次回は最後の重要人物が登場する……かも?
ということで次は近いうちに。
ではまた。

593: 2010/10/25(月) 02:24:37.25 ID:A3znaqo0
3ヵ月後――。

都内のマンションにて。

「ふふふん♪ ふふふん♪ ふんふんふーん♪」

昼時、買い物から帰宅する1人の若い……もとい若すぎる母と………

「あぁい! あぁ! だぁ!!」

「はいはい、もうお家に着きますからねー」

………1人の赤ん坊の姿があった。

管理人「おう、美琴ちゃん。今お帰りかい?」

「あ、ただいまです。いつもお世話になってます」ペコリ

「だぁー! だぁ!!」

管理人「おおう、相変わらず元気なお子さんだ。ワシの孫を思い出すわい」

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいです」

「たぁー! あぁい!!」

管理人「まだお前さんら若いんだ。困ったことがあったらワシでも家内でもいいから言いなさい。すぐに飛んでいくから」





美琴「ありがとうございます!!!」





麻琴「だぁーーーーーー!!!!!!」





笑顔で、その若い母――美琴とその子供――麻琴は答えた。

595: 2010/10/25(月) 02:28:54.37 ID:A3znaqo0
階段を登る美琴。抱っこ紐で胸に赤ん坊を抱く彼女の姿は、その若さのためかあまりにも不釣り合いだ。

美琴「今日はパパも早く帰ってくるらしいから、ご飯早く作っておこうねー」

麻琴「ああい!!」

一見すると、中学生ぐらいの少女が生まれたばかりの兄弟の世話をしているようにも見える。
15歳と言う若さで出産したため、それも当然だったが美琴自身は後悔はしていなかった。

麻琴「ああー! だぁ! たぁぁ!」

何しろ、当の子供が父親と母親の長所を上手い具合で引き継いだのか、元気そのものと言っても良い程であったし、それに、周囲の人々も彼女たちに優しくしてくれるからだった。よって今の環境には、不安要素もなく、寧ろ美琴にとっては安心出来る状況だった。

女の子「あー! 美琴姉ちゃんだー!!」

母親「こら、階段で走るのはやめなさい」

美琴「こんにちは」

母親「ええ、こんにちは」

挨拶をする美琴と近所の母親。

女の子「赤ちゃん可愛いなー」プニプニ

麻琴「あぁい!」ニコニコ

母親と一緒にいた女の子は麻琴と遊んでいる。

母親「どう、美琴ちゃん? 何か、困ったことはない?」

美琴「大丈夫そうです。麻琴も私たちが思ってたよりとても元気みたいで」

母親「フフ、そうみたいね」

母親は、優しく微笑む。

女の子「笑ってるー!」プニプニ

麻琴「…クスクスクス」

596: 2010/10/25(月) 02:31:16.11 ID:A3znaqo0
女の子「ねー、また今度遊びに行っていい? この子と遊びたいー!」

無邪気な顔で、女の子は美琴に頼み込む。

美琴「ええ、いいわよ。いつでもいらっしゃい」

女の子「やったー!」

母親「もうこの子ったら。ホント、ごめんなさいね。いつも家の子が世話になって」

美琴「いえいえ、私も妹みたいな感じで楽しいから大丈夫ですよ」

女の子「そうだよママー!」

母親「分かったわ。それじゃ美琴ちゃん、何か困ったことがあったら言うのよ?」

美琴「はい。お心遣いありがとうございます」

母親「私はこれでも2回の出産を経験してるからね。いつでも気軽に相談してくれていいからね?」ニコッ

美琴「ありがとうございます!」

母親の言葉を聞き、美琴は元気良く返事をした。

母親「それじゃ、またね」

女の子「バイバーイ」

美琴「バイバーイ」

麻琴「あいぁーい!」

597: 2010/10/25(月) 02:34:30.29 ID:A3znaqo0
上条家――。

美琴「ふー、今日はいっぱい買っちゃった」

麻琴「あぁい!」

美琴「ふふ、麻琴も夕飯が楽しみ? でも普通のご飯を食べるにはまだちょっと早いかな?」

麻琴「ブー」ムスッ

美琴「もう、麻琴は本当食いしん坊さんね。ほら、今はちょっと休んでなさい」

言って美琴は麻琴を優しくベビーベッドの上に寝かす。

ピンポーン!

と、その時だった。呼び鈴が鳴った。

美琴「ん? 誰かしら? あの子はまだのはずだけど……」

ガチャッ!

美琴「はーい、どなた?」

呼び鈴に応じ、ドアを開ける美琴。

主婦「美琴ちゃん、こんにちは」

美琴「あ、山田さん、こんにちは。どうしたんですか?」

主婦「ええ、ちょっと差し入れをね」

隣に住む主婦だった。

美琴「わぁ、ありがとうございます。これ果物ですよね?」

主婦「息子が送ってきたのよ。ちょっと主人と2人だけじゃ食べきれないから、と思って。どうかしら?」

美琴「ありがとうございます。頂きます」

喜ぶように、美琴は主婦から果物が詰まったバスケットを受け取る。

主婦「若いし、色々と辛いことも多いと思うけど、頑張ってね。隣になったのも何かの縁だし、いつでも頼ってちょうだい」

美琴「はい、いつも頼りにしてます!」

主婦「ふふ。じゃ、またね。当麻くんに宜しく」

美琴「はい、果物ありがとうございました!」

598: 2010/10/25(月) 02:39:09.23 ID:A3znaqo0
バタン!

ドアを閉め、美琴は鼻歌を口ずさみながら部屋に戻る。

美琴「差し入れ貰っちゃった♪」

バスケットを机の上に置くと、彼女はすぐにベビーベッドを覗き込んだ。

美琴「麻琴~! 聞いて聞いて。隣の山田さんが果物くれたんだよー! それもとびっきり美味しそうなの!」

麻琴「………………」

美琴「……私さ、本当はあなたを産んだ時、不安も一杯あったんだ。これからちゃんとやっていけるのか、母親としてあなたを大事に育てていけるのか、って」

神妙な顔になり、落ち着いた感じで美琴は麻琴に話しかける。

美琴「………でも、当麻は頼りになるし、父さんと母さんも何だかんだいって援助してくれるし、このマンションの人たちもみんな優しいし……。本当、今ではとても幸せなの」

麻琴「………………」

美琴「……まだあなたが産まれてから2ヶ月しか経ってないし、これからもっと大変になっていくと思うけど、私、あなたを産んでとても良かったと思う」

スッ…

と美琴は、僅かに毛が生えてきたばかりの麻琴の頭に優しく触れる。

美琴「生まれてきてくれてありがとうね、麻琴」ニコッ

599: 2010/10/25(月) 02:42:41.96 ID:A3znaqo0
麻琴「……………………」

美琴「ん? えっ?」

と、美琴は驚いたように麻琴の顔を見る。

美琴「え? 寝てる?」

麻琴「……………zzzzzz」

麻琴は眠っていた。

美琴「半目だし……」

麻琴「……………zzzzzz」

しかも半目で。

美琴「な、何この子? 半目で眠ってるし」

麻琴「…………zzzzzz……」ニヤニヤ

美琴「しかも笑ってるし!」

麻琴「…………zzzzzz……」ニヤニヤ

美琴「我が子ながら、変な癖持ってるわね……」

母親にそう言われているのも露知らず、麻琴は幸せそうに寝息を立てていた。

601: 2010/10/25(月) 02:46:32.45 ID:A3znaqo0
昼食後――。

麻琴「ああい!!」

美琴「うん、良い子良い子」ガラガラ

昼寝から目覚めた麻琴を、ガラガラであやす美琴。彼女はとても愛しそうに娘を見つめていた。



ピンポーン!



とその時である。突如、呼び鈴の音が鳴った。

美琴「あ、来たわね!」トタタタ

急ぎ、美琴は玄関まで駆けていく。


ガチャッ!


美琴「はーい!」





インデックス「久しぶりなんよ、みこと!」





美琴「いらっしゃい!」

扉を開けると、そこにはイギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』のシスター、インデックスが笑顔で立っていた。

602: 2010/10/25(月) 02:51:46.78 ID:A3znaqo0
美琴「でも、本当、学園都市からの脱出の時には助けてもらったわね。インデックスには感謝してもし尽くせないわ」

胸に麻琴を抱きながら、美琴は向かいに座ったインデックスに語りかける。

インデックス「あれぐらいどうってことないんだよ。それに私はみこともとうまも氏なせたくなかったし……あーん!」

机の上に置かれた果物をムシャムシャと食べつつインデックスは答える。

美琴「………でも、ごめんね?」

インデックス「ムシャムシャ……ん? 何が?」

美琴「だって……貴女だって、当麻のことが好きだったんでしょ?」

インデックス「…………みこと」

俯き、申し訳無さそうに小さな声で訊ねる美琴。そんな彼女を見たインデックスの手が、果物を掴む直前で止まる。

美琴「………何だか、私が当麻を奪っちゃったみたいで………」

インデックス「何言ってるのかな?」

美琴「え?」

インデックス「私は別に不満もないし、みことが謝る必要も無いんだよ。そもそもとうまは私の所有物じゃないんだし。寧ろ、とうまが選んだ女の子なんだから、それを応援してあげるのが、とうまの為にも、そしてみことのためだとも思うんだけど、違うかな?」

美琴「インデックス……」

美琴の予想とは裏腹に、インデックスは明るい感じで言う。が、だからこそ美琴は彼女に対しての申し訳ない気持ちが湧き上がるのだった。

美琴「でも、貴女だって当麻のこと好きだったんでしょ?」

インデックス「確かに、好きじゃなかった、って言ったら嘘になるのかな?」

美琴「…………、」

インデックス「でも、私はやっぱりみことが1番とうまに似合ってると思うよ?」

美琴「………ほ、本当に?」オソルオソル

インデックス「もっちろん! だってみことはこの世で唯一、とうまの不幸を掻き消すことが出来て、尚且つ“運命の女の子”なんだもん。それにとうまもみことといると幸せそうだからね!」

603: 2010/10/25(月) 02:56:14.28 ID:A3znaqo0
美琴「………だけど当麻、今もよく『不幸だ不幸だ』って言ってるよ?……」

それを聞き、インデックスはこれまでとは打って変わって、真面目な表情を浮かべた。

インデックス「それは前も言ったと思うけど、とうまは1度、学園都市でみことと逃げてる時に『脱出後は一生分の不幸を与えてもらっていい』って口に出して宣言しちゃってるからね。本来ならみことの体質でとうまの不幸もほぼ全て打ち消せるはずなんだけど、そうならないのはその宣言の名残りだね。つまりはみことの体質でも打ち消せないほど莫大な不幸が今この時もとうまに襲い掛かってるってわけなんだよ」

美琴「………………」

インデックス「みことは、自他共に幸運を招く体質だけど、それも今は全てとうまの莫大な不幸を掻き消すために割かれてるんじゃないかな?」

美琴「うー……そう言われても実感が無いし、よく分からないわ」

インデックスの説明に、困ったように頭を抱える美琴。

インデックス「まあ仮定を元にした話だしね。……とにかく、本当ならとうまは既に氏んでいてもおかしくないんだけど、いまだそうならずに日常レベルの不幸で済んでるのはみことのお陰ってわけ。要するにみことがいなきゃとうまは今頃氏んでるか、良くても五体不満足になってるんだよ」

美琴「………私のお陰……」

インデックス「うん。これは相当の奇跡なんだよ。だからみことも誇っていいんだよ?」

美琴「………そっか」

僅かに、美琴の顔に笑みが刻まれた。その事実を心から喜ぶように。

インデックス「でもね。とうまをみことに託す上で1つだけ約束してほしいことがあるの」

突如、インデックスは真剣な面持ちで美琴に視線を据え言った。

美琴「え?」

一瞬、彼女を見て美琴はうろたえた。と言うのも、インデックスは今、普段の彼女とは想像がつかないほど、凛とした空気を纏っていたからだ。それは、今まで美琴が、極少数だが目にしてきた魔術師たちと同じものだった。

604: 2010/10/25(月) 03:00:51.34 ID:A3znaqo0
美琴「な、何……?」オドオド

インデックス「うん、お願いだからとうまを悲しませないでね」

美琴「へ?」

その言葉に、いささか美琴は拍子抜けを食らった。いや、彼女にしてみれば当然の願いなのだろうが。

インデックス「さっきも言ったように、とうまはみことがいないとすぐに氏んじゃう身。だからとうまと喧嘩して別れて離れ離れになっちゃうとか、お願いだからそんなことだけはやめて」

一生のお願いをするように、インデックスは美琴に頼み込む。それほど彼女は心配だったのだろう。

美琴「え? あ、うん……もちろんだけど……」

断る理由もどこにもないので美琴は即答した。

インデックス「そう。なら良かった」ニコッ

美琴「!」

再び、歳相応の空気を放ち、口元を緩めるインデックス。

インデックス「私もみことなら安心してとうまを任せられるんだよ」

それほど彼女は美琴のことを信頼しているのだろう。その心中に触れ、彼女の本音を知った美琴は今度は力強い声で答えていた。

美琴「うん、任せて!」

インデックス「フフフ」ニコッ

美琴「ふふ」ニコッ

笑みを浮かべ合う2人。
今、彼女たちの間には、ただの『友情』では片付けられない絆が生まれていた。

605: 2010/10/25(月) 03:04:28.91 ID:A3znaqo0
美琴「で、インデックスの方は今、好きな人はいないの?」

インデックス「へ? いるわけないじゃんそんなの」

と、ここで彼女たちの会話はガールズトークへと移行していく。

インデックス「あ、でも……」

美琴「いるんだ?」

インデックス「そういうわけでもないんだけど、最近よくコンビを組む魔術師がいてね……」

美琴「何? 仲良いの?」

インデックス「どうだろ? 何かつちみかどは『口リコン』とか言ってたけど」

美琴「え? 口リコン?」

少し引いたような反応を見せる美琴。

インデックス「まあ確かに、初めは私もそこまで深く付き合おうと思ってたわけじゃないんだけど、何かその人、何年も前から私のために色々と努力したりしてくれてたみたいで。……それを聞いて私もその人のことを無視出来なくなっちゃったんだよ」

つまらなさそうに語るインデックス。しかし彼女は、別段、その人物を嫌がってるわけでもなさそうだった。寧ろ、雰囲気から察するに、ある程度好意を持っているようにも見える。

美琴「じゃあ、ゆくゆくはその人と?」

インデックス「さあ? そんなの知らないんだよ。だけど、よく考えたらその人もとうま並に私のために頑張ってくれてたみたいだし、見直したってのは本当」

美琴「ふーん……」

インデックス「そんなことより!」

と、この話はここまで、と言いたげに話題を切り替えるインデックス。

美琴「え? な、何?」

インデックス「あのさみこと!」

目をキラキラと輝かせて美琴に迫るインデックス。

美琴「は、はい? どうしたのいきなり?」

インデックス「その子、抱かせて!」

美琴「えっ?」

麻琴「だぁあ!」

インデックスの視線の先には、美琴の胸で抱かれた麻琴の姿があった。

608: 2010/10/25(月) 03:08:30.47 ID:A3znaqo0
静かな部屋の中、インデックスは美琴から譲り受けた麻琴を自分の胸に抱く。

インデックス「うわぁ、可愛いんだよ」

美琴「ふふ、でしょ?」

インデックス「まさかみことととうまがその歳で子供つくるとは思わなかったんだよ」

美琴「ははは、よく言われるわ」

インデックス「でも本当、天使みたいで可愛いんだよ。ほら、今も笑ってるんだよ」

柔らかい表情で、麻琴を見つめるインデックス。

麻琴「………」クスクス

麻琴も満更ではないようだった。

インデックス「♪~~~~」

美琴「!」

と、そこでインデックスが何かの歌を歌い始めた。

麻琴「……」クスクス

インデックス「~~~~♪」

美琴「………」

インデックス「♪~~~~♪~~~」

歌詞を聞くに、外国語らしい。もしかしたらイギリスの子守唄でも歌ってるのかもしれない。

609: 2010/10/25(月) 03:11:24.96 ID:A3znaqo0
美琴「(麻琴があんなに安心しきった顔を……)」

麻琴「……」クスクス

インデックス「♪~~~」

何らかの魔術的要素でも含んでいるのか、その歌声は美琴にとってもとても心地良く気分が落ち着いてくるものだった。

美琴「(良い歌ね……)」

麻琴「……」ニコニコ

インデックス「~~~~♪」

胸の中に麻琴を抱き、優しく子守唄を唄うインデックスのその姿は、まさにシスターそのもの、あるいは聖母のようだった。

美琴「……………………」

目を閉じ、歌声に聞き入る美琴。

麻琴「……」ニコニコ

インデックス「♪~~♪~~~」

しばらくの間、インデックスの優しい子守唄が、静かに流れ続けていた。

610: 2010/10/25(月) 03:15:51.30 ID:A3znaqo0
夕方――。

美琴「そろそろ当麻も帰ってくる頃かな?」

時計を見、呟く美琴。インデックスは既に帰った後だった。

美琴「………今日はインデックスに会えてよかったわね」



1時間ほど前――。

インデックス「じゃ、私はこれで帰るんだよ」

靴を履き、インデックスは玄関前で美琴にそう告げる。

美琴「一人で帰るの?」

インデックス「ううん。すぐ近くまで護衛の魔術師が迎えに来てくれてるから」

美琴「……ああ、例のインデックスにご執心の彼ね」

麻琴「………」スースー

ニヤニヤと面白がるように言う美琴。彼女の胸には、インデックスの子守唄が心地良かったのか、グッスリと眠っている麻琴が抱かれている。

インデックス「だから、別にそんなんじゃないってばー」

美琴「ふふふ、冗談冗談」

インデックス「みこともあまり人をからかえる立場じゃないと思うけど?」

美琴「あら、どういう意味かしら?」

インデックス「とうまと人前でイチャついたり、他人に思わず惚気話してそうな感じだけど?」

今度は仕返しと言わんばかりにインデックスがニヤつく。

611: 2010/10/25(月) 03:18:29.56 ID:A3znaqo0
美琴「な、ななななななな!!?? そ、そそそそそんなわけないでしょ!!//////」

インデックス「冗談冗談!」

美琴「ぐぅ~……やられたわ」

インデックス「フフッ、まあ、とにかく」

美琴「?」

インデックス「まことのこと大切にしてあげてね」

言ってインデックスは麻琴に目を向ける。

麻琴「……」スースー

インデックス「さっき、この子に唄ってあげたのは、赤ちゃんがスクスクと元気に成長するのを願った、一種のまじないみたいな子守唄なんだよ」

美琴「え?」

インデックス「私が自ら歌ってあげたから、かなり効果はあると思うんだよ」

美琴「………インデックス」

美琴は、僅かながら感動を覚える。そこまでしてでも、インデックスは麻琴の幸せを願ってくれているのだ。

インデックス「だから……この子と………」

麻琴の頭を優しく撫でるインデックス。次いで彼女はそのまま上を向き、美琴に視線を据えた。

インデックス「とうまをお願い」ニコッ

美琴「………………」

インデックス「………………」

しばしの間、呆然とインデックスの顔を見返す美琴。

美琴「クスッ……」

インデックス「?」

美琴「もっちろん!!」

インデックス「任せたんだよ!!」

元気良く、美琴は宣言をする。
これ以上の心配は無用と思ったのか、インデックスは『また遊びに来るんだよ』と言葉を残すとやがて帰っていった。

615: 2010/10/25(月) 03:22:26.95 ID:A3znaqo0
美琴「………………」

そんなことがあったのがつい1時間前だったか。その時のことを思い出し、美琴は笑みを零す。

美琴「ありがとねインデックス……」

ボソッと、今は遠くにいるインデックスに感謝の言葉を呟く美琴。

美琴「よーし、これからも頑張るぞおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

そう叫びながら、美琴は天井に届くように、思いっきり右腕を振り上げた。




上条「何を頑張るんだ?」ガチャッ




美琴「えっ」

上条「えっ」

美琴「………………」

上条「………………」

この家の主人にして、麻琴の父親でもある上条のご帰宅だった。
思わず美琴は、直前の姿勢のまま、固まってしまった。

616: 2010/10/25(月) 03:25:57.48 ID:A3znaqo0
上条と美琴が住むマンションからしばし歩いた場所にあるデパート。
今、上条一家はそこに来ていた。

美琴「今日はインデックスが遊びに来てくれたのよ」

上条「ああ、そういやそんなこと言ってたな」

麻琴を乗せたベビーカーを押す美琴と、その隣を歩く上条。

上条「どうだったあいつ? 元気してたか?」

美琴「ええ。麻琴をあやしてもらったりと色々と世話になったわ」

上条「そうかぁ、あいつらしいな」

至って普通の会話をしている彼らだったが、通路を歩くと、かなりの頻度で周囲の客からチラ見されることが多かった。が、それも当然の反応で、上条と美琴ほど若い男女が赤ん坊を連れていたら無理も無かった。

美琴「あ、このオムツ安くなってるわよ。買っておきましょう」

上条「………………」

ベビー用品が売っているエリアで、オムツを手に取る美琴。

美琴「ん? いや、待って……こっちのセットの方がお得かも」

上条「………………」

一児の母親らしくオムツを選ぶ美琴。そんな彼女とは対称に、上条は先程から別のフロアらしき場所をボーッと眺めている。

美琴「ねぇ麻琴、どっちがいい?」

麻琴「あぁー!」

美琴「そうね、安いほうがいいわよね」

上条「……………………」

美琴「……? 何当麻さっきから? ボーッとしちゃって」

と、上条の様子に気付いた美琴が訝しげな顔で訊ねた。

617: 2010/10/25(月) 03:28:41.94 ID:A3znaqo0
上条「え? あ? は? な、何!?」

我に返ったのか、あたふたしながら反応する上条。

美琴「いや、それはこっちが聞きたいんだけど……何ボーッとしてんのよさっきから?」

上条「そ、そう? そんなに俺ボーッとしてた?」

美琴「してたけど……あっちのフロアに何かあるの?」チラッ

上条「い、いや? 何でもねぇよ!! うん、何でもない!!」

美琴「………………」

明らかに上条の様子はおかしかったが、いつものことだろうと思い美琴は気にしないことにした。

美琴「ま、いいわ。それよりあんたも父親なら父親らしくちゃんと選んでよね?」

上条「え? あ、ああ……もちろんだ」

美琴「じゃあ、次の所行こっか」

麻琴「だぁー!」

上から覗き込むようにして、ベビーカーの中の麻琴に語りかける美琴。

上条「……………………」

そんな彼女の姿を、上条は何かを深く考え込むように後ろからジーッと見ていた。

618: 2010/10/25(月) 03:31:30.44 ID:A3znaqo0
夜・上条宅――。

テレビ『こちらのカップルは和風結婚を選んだようで……』

上条「………………」ボーッ

美琴「明日は週末だから、母さんが来るわね」

麻琴「あぁー!」

夕食後、上条たちは机の前に座って一家の団欒タイムを過ごしていた。

美琴「麻琴も楽しみでしょ? お祖母ちゃんに会うの」

麻琴「あぁー! だぁ!」

美琴「………にしても、うちの母さんがお祖母ちゃんとかやっぱり違和感ありまくりよね……。ただでさえ私の姉に間違われることがあるってのに……」

上条「………………」ボーッ

美琴「以前も『私この歳でお祖母ちゃんって呼ばれるとは思わなかったわヨヨヨでも麻琴ちゃんが可愛いから許しちゃう♪』とか何とか訳分からんこと言ってたような……」

麻琴「むうー」

美琴「!」

上条「………………」ボーッ

美琴「当麻?」

ふと、美琴は隣で口を開けてテレビを見つめている上条に気付いた。

上条「………………」

美琴「当麻」

上条「……………………」

美琴「当麻!!」

上条「え? あ? はい、何でしょうか美琴さん!!!」

美琴の声にようやく気付いたのか、上条は肩を大きくビクつかせると驚いたような顔を美琴に見せてきた。

美琴「何でしょうか、じゃないわよ。最近あんたやけにボーッとしてない?」

麻琴「オーッ」

上条「そ、そうか? き、気のせいじゃないか?」

619: 2010/10/25(月) 03:35:45.84 ID:A3znaqo0
美琴「…………何かやけに怪しいのよね。ここ1ヶ月、仕事に行く時間も増えてる気がするし。……まさかあんた………」

目を細め、問い詰めるように上条に接近する美琴。

美琴「浮気してないでしょうね?」

上条「は、はあ!? 浮気!? 何でそうなるんだよ!?」

美琴「だってあんた、学園都市にいた頃からよく色んな女の子と仲良くしてたじゃない。十分すぎる理由があんのよ」

若干、ムスッとしつつ美琴は愚痴るように言う。

上条「んな訳ねーだろ。俺にはお前も、そしてこいつもいるってのに」

麻琴「あぁー」

美琴の胸から麻琴を抱き上げる上条。

上条「そんな恋人も娘も不幸にするようなこと、上条さんはしませんのことよ?」

上条は、麻琴の両脇を手で持ち、頭上に掲げる。

上条「自分の分身とも言える大事な子供を泣かすようなことはしないって。………な?」

ニコッと上条は麻琴に向けて笑みを見せる。

麻琴「だぁー!」

それに答えるように麻琴も笑った。

美琴「……本当? 信じていいの?」

上条「当たり前だろ? それに仮に俺が浮気なんかしてたら、俺は今頃氏んでるよ。お前は常に俺に降りかかってる莫大な不幸を打ち消してるんだからさ。そんな真似してたら俺は今ここでお前と話してなんかいられないよ」

美琴「た、確かに……」

上条「お前が俺にとって、この世で1番大事な女性であることには変わらない。これは嘘偽りじゃなくて真実だ。それにさ……」グイッ

美琴「あ……」

美琴の肩を引き寄せる上条。

美琴「ん………」

そのまま上条は美琴にキスをした。

上条美琴「「――――――――」」

数秒の沈黙の後、2人は唇を離す。

620: 2010/10/25(月) 03:39:17.22 ID:A3znaqo0
美琴「バカ……//////」

上条「こんな可愛い美琴ちゃんを、俺が自ら手放すわけないだろ?」

至近距離で見つめつつ、2人は甘い言葉を囁き合う。

上条「そろそろ2人目でも作っておくか?」

美琴「………それは……まだ早いよ……」

上条「冗談だよ。今の俺にはお前と麻琴さえいれば十分……」

美琴「私も……」

言って、再び唇を近付ける2人。
と、その時だった。

美琴「……ん? ちょっと待って」

上条「! 何だ?」

直前で顔を止める美琴。

美琴「……何か臭わない?」

上条「え? ウソ? マジで? 俺歯磨きしたばっかなのに!?」

思わず上条は美琴から顔を離す。

美琴「いや、そうじゃなくて……」

上条「ま、まさか………」

2人はそのまま、麻琴に視線を向ける。

麻琴「ああぁー!!」ニコニコ

ババッと、急ぎ抱いていた麻琴を床に寝かせてオムツを外す上条。

上条美琴「!!!!????」

美琴「こ、これはっ……!」

上条「レベル5の『超脱糞砲(シットガン)』だったか………」

麻琴「………」ケラケラケラ

あまりの臭いに顔をしかめる2人。そんな両親の様子がおかしいのか、麻琴は愉快に微笑む。
思わずこれには、上条と美琴も苦笑いを浮かべ合うしかなかった。

622: 2010/10/25(月) 03:43:26.71 ID:A3znaqo0
上条「にしてもこの子の不意打ちのウンチにはいまだ慣れないな」

美琴「臭いも強烈だしね」クスッ

麻琴のオムツを代え終え、一息つく上条と美琴。

麻琴「………」ンゴキュンゴキュ

今、麻琴は美琴から授乳を受けている最中だった。

上条「この野郎、俺たちの苦労も知らずに美琴のおっOい飲みやがって。俺だってしばらく飲んでないのに」

美琴「当麻。子供の前で何言ってるの?」

上条「おっと、冗談だって」

美琴「ったく……」

上条「にしてもこの子もワンパクでやんちゃだな」

必氏になって美琴の胸にすがりつく麻琴を、どこか満更でもないように見つめながら上条は呟く。

美琴「まったく、誰に似たのやら?」

上条「お前だろ」

美琴「あんたでしょ?」

恐らくは2人の性格の強い部分を受け継いだと思われる。本人もそれを知ってか知らずか、まだ0歳だと言うのに日頃から元気いっぱいな行動が目立った。

上条「将来、どんな子になるんだろうな」

美琴「きっと、あんたに似ておせっかいで無茶で話を聞かないようになるんじゃない?」

上条「いやいや、どちらかと言うとお前みたいになりふり構わず他の子に勝負仕掛けるようになるんじゃねぇか?」

美琴「もう、何よそれ」

当人の意思など無関係に、上条と美琴は麻琴の将来を予想し合って親馬鹿ぶりを発揮する。

上条「どちらにしろ、将来が楽しみだ」

美琴「そうね。ビッグになるのは間違いないかもね」

麻琴「………」ンゴキュンゴキュ

上条「麻琴、お前は生まれるべくして俺たちの間に生まれてきたんだからな」

美琴に寄り添い、麻琴を覗き込む上条。美琴も同様に顔を下に向け麻琴を見つめた。

623: 2010/10/25(月) 03:47:19.99 ID:A3znaqo0
上条「俺が……美琴も、麻琴も守ってやるから、安心しろ」

美琴「元気に育ってね。それが、私たちの1番の願いよ」

麻琴「………」ンギョキュンゴキュ

2人の言葉が嬉しかったのか、それともただ母乳が美味しかったのか。どちらかは分からなかったが、麻琴はとても幸せそうにしていた。が、事実、この2人の子供として生まれてきた麻琴は、とても恵まれていたのかもしれない。

上条「あ……」

美琴「ん?」

と、そこで何かを思い出したのか顔を上げる上条。

上条「そういや明日、お義母さん来るんだよな?」

美琴「そうだけど?」

上条「お菓子用意してるか? 確か切らしてたろ」

美琴「あ、それなら今日隣の山田さんがくれた果物が………って、あれは全部インデックスが食べちゃったんだっけ。2日分はあったはずなのに……」

上条「ったく、あいつらしいな。じゃ、ちょっとコンビニでも行って買ってくるよ」

そう言って上条は立ち上がり、財布の中身を確認する。

美琴「今から? 別にそこまで気を回す必要無いわよ?」

上条「いやなに念のためだよ」

美琴「そう。なら分かったわ」

上条「じゃ、ちょっくら行ってくるわ。すぐ戻ってくるから」

玄関のドアを開けながら、上条は振り向きざまに、美琴にそう告げる。

美琴「了解~」

バタン!

美琴が返事をすると、上条は出て行った。

624: 2010/10/25(月) 03:51:24.19 ID:A3znaqo0
それからしばらくして。
授乳も終わり美琴は麻琴を胸の中で抱き直していた。

美琴「あんたもよく飲むわね。こっちはただでさえ小さい胸に悩んでるってのに……」

麻琴「……」ケラケラ

美琴「こやつ、もしやわざとか? 私が胸の大きさで悩んでるのを知っててわざとやってるのか?」

麻琴「……」クスクス

美琴「はぁ……あんたらしいわね」
美琴「…………でも………」

口元に笑みを刻み、美琴は麻琴の柔らかい頬をプニッと押す。

美琴「私の胸の大小なんて、あんたの天使みたいな笑顔の前じゃどうってことないわね」

麻琴「……」クスクス

美琴「一丁前に笑っちゃって。だけど……今からでも思うわ。私、本当にあんたのママになれて良かったって……」

麻琴「……」クスクス

美琴「当麻は優しいし、あんたは可愛いし……もう、これ以上の文句は無いって言えるほど最高よ?」

麻琴「あぁー!」

美琴「これからも宜しくね、麻琴」

母親らしい笑顔で、美琴は麻琴を強く抱き締める。
数々の苦労を経験し、これまでに多くのものを失った美琴だったが、今、彼女は間違いなく幸せの絶頂にあった――。

626: 2010/10/25(月) 03:55:37.33 ID:A3znaqo0






ドオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!






突如鳴り響く轟音。




ガシャァァァァァァァン!!!!!!




そして室内に飛散する硝子の破片。



コオオオオオ………



外から流れ込んだ寒風が、温もりに満ち溢れていた部屋を一気に冷やし尽くす。
硝子の破片でも当たったのか、電球は切れ、辺りは唐突に暗闇と化した。
そんな中………

627: 2010/10/25(月) 04:00:15.68 ID:A3znaqo0


美琴「…………くっ」


美琴は生きていた。胸の中に、麻琴を守るように抱いて。

美琴「………麻琴、大丈夫!?」

麻琴「うああああああああああああん!!!!!!」

怪我は無さそうだったが、麻琴は突然の事態に怯え、泣き叫んでいた。

美琴「良かった……」

2人が助かったのは、咄嗟に身の危険を察知した美琴が机を楯にして床に伏せていたからだった。
かつて学園都市でレベル5の第3位として君臨していた時に培った直感が、彼女に素早く行動を起こさせ、結果母子の身は守られることになったのだ。

美琴「誰!!!???」

暗闇の中、美琴は風が流れ込んでくる方向に威嚇の視線を向ける。

美琴「そこにいるのは分かってるわよ!!」

彼女は気付いていたのだ。これが、何者かによる奇襲だということが。



ザッ!



と言う音を立て、何者かが部屋に侵入する音が響く。


パキッ…


次いで、硝子の破片を踏みしめる音。確実に侵入者は、美琴たちの元に近付きつつあった。

美琴「………姿を、現しなさい!!!!」

吼える美琴。

麻琴「あああああああああああああ!!!!!!!!」

泣きじゃくる麻琴。

629: 2010/10/25(月) 04:04:13.36 ID:A3znaqo0
その状況を目の前にし、歩みを止めた侵入者は口元を不気味に歪めながら一言発した。






「久しぶりじゃねェか、『超電磁砲(レールガン)』?」






美琴「!!!!!!!!!!」

ゾワッ、と美琴の全身に鳥肌が立った。

美琴「(こ、この声は………)」

麻琴「あああああああああああ!!!!!!」

ただならぬ殺気に勘付いたのか、麻琴の泣き声がより一層大きくなった。

美琴「………っ」

間違いない。今の声。この殺気。
美琴は知っていた。覚えていた。その強大までに恐ろしすぎる怪物の存在を。その余りにも無慈悲な力を。







一方通行「よォ……オマエの全てを破壊しにきたぜ」







暗闇からその姿を現し、ニヤリと歪んだ笑みを見せる白い悪魔。

美琴「………アクセラ………レータ……っ!」

その幸せを破壊し尽くすべく現れた最強の敵。その空気に呑まれるように、天国は一転、地獄と化す。
美琴は、母親として我が子の命を守り切れるのか。が、一方通行を前に、その可能性はほぼ皆無と言ってもおかしくはなかった――。

674: 2010/10/30(土) 00:40:58.41 ID:iUjoHhs0
>>1です。こんばんは。遅くなりました。
早速今日の分投下していきます。

676: 2010/10/30(土) 00:45:20.38 ID:iUjoHhs0
美琴「『一方通行(アクセラレータ)』……っ!」




一方通行「おォ、久しぶりじゃねェか『超電磁砲(レールガン)』?」




美琴の幸せを破壊し尽くすべく突如現れた、学園都市最強の超能力者(レベル5)・『一方通行(アクセラレータ)』――。
久しぶりに見る強大な敵を前に、美琴は驚きにも、絶望にも似た声を上げる。

美琴「どうして、ここへっ!?」

そう、それが問題だった。何故今更、美琴の元へ学園都市の刺客が送り込まれるのか、と。

一方通行「あァ? 決まってンだろ? オマエの全てを破壊するためにだ」

美琴「!!!」

ニヤァと悪魔のような微笑を浮かべつつ一方通行は言う。

美琴「………学園都市の命令なの?」

一方通行「それ以外の理由で俺が動くとでも思ってンのか? お気楽なこった」

美琴「……………っ」

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる美琴。
もう、全ては終わったと思っていた。1年以上何の音沙汰もなかった学園都市。だから学園都市も美琴の存在を諦めたと思っていた。が、しかし、彼女の期待を裏切るようにそれは訪れた。最悪の形となって。

美琴「(……ようやく………ようやく……幸せになれたと……思ってたのにっ……!)」ギリィ

麻琴「うあああああああああああああん!!!!」

美琴「!」

と、美琴の心中に呼応するかのように麻琴が再び泣き始めた。

一方通行「あンれェ?」

美琴「!!!」

一方通行「なァンだ、そりゃァ……」

麻琴「ああああああああああああああん!!!!!!」

その存在に気付いた一方通行が興味深そうに腰を折り、麻琴を注視する。

677: 2010/10/30(土) 00:49:29.08 ID:iUjoHhs0
美琴「…………っ」

咄嗟に美琴は守るようにして麻琴を強く抱き締めた。

一方通行「なァるほど……上が言ってた『面白い副産物』ってのはこれのことかよ!」

美琴「………………」

一方通行「ひゃはっ! こいつァマジで面白ェ! まさか1年少し見ない間にあの三下野郎と子供をこさえてたなンてなァ!! 今じゃ立派な一児の母親ってかァ!? リアル14歳の母かよ!! あぎゃはっ!」

麻琴「ああああああああああああああん!!!」

一方通行「だからこそ潰し甲斐があるってもンだ」ギロッ

美琴「!!!!!!」

麻琴「…………っ」

一方通行が睨んだ途端、麻琴は息をするのも恐ろしいと言うようにピタッと泣き止んだ。

美琴「………………」

間違いない。一方通行は美琴だけでなく、麻琴までも狙っている。まだ、産まれて間もない麻琴をだ。

一方通行「ならママさンよォ、そンなに自分の子供が大事なら守ってみせろ!!!」

ゴアッ、と一方通行の手が美琴に伸ばされる。

美琴「(まずいっ!!)」

体勢を捻り、間一髪、一方通行の手から逃れる美琴。一方通行の腕が虚空を切る。

美琴「くっ……!」

ダッ!

ガチャッ!

その隙をつき、美琴は急いで立ち上がると玄関のドアを勢い良く開けそのまま外に出て行った。

一方通行「あらら……」

残された一方通行は、ユラユラと動くドアを見、首に巻かれたチョーカーのスイッチを押しながらボソッと呟く。

一方通行「まァ、鬼ごっこもいいかもしれねェなァ」ニヤァ…

678: 2010/10/30(土) 00:53:14.45 ID:iUjoHhs0
美琴「ハァッ……! ハァッ!! ハァッ!!」

脇目も降らず、マンションの階段を駆け下りる美琴。

美琴「……何でっ……何であいつがっ……! こんな所にっ……!!」

ぶつけ所のない怒りが腹の底から湧き上がる。だがしかし、どちらかと言うと今は、怒りよりも不安の方が大きかった。

美琴「(……ただの非能力者ならなんとかなったかもしれない……っ! でも……あいつはそんな生易しい存在じゃないっ……!)」

そう、今美琴たちを殺そうとしているのは、学園都市230万の頂点に立つ最強の超能力者・一方通行だ。かつて美琴が電撃能力を有していた時でさえ全く歯が立たなかったと言うのに、能力を行使する力も失いただの女の子に成り果てた今の彼女に、一方通行に勝つ可能性などほとんどなかった。

美琴「(……何でよりによってあいつがっ……!)」

麻琴「うぅ~………」

美琴「!」チラッ

ふと、胸の中の麻琴を見る美琴。今はもう泣き叫んでいなかったが、目尻には涙を溜め不安だらけの表情を浮かべている。親子なので、もしかしたら一方通行に対する本能的な恐怖も引き継いでいるのかもしれない。

美琴「この子は……この子だけは守りきらないと……っ!」ギュッ

麻琴「あぁぅ……」

自然と、麻琴を抱く美琴の腕の力が強くなる。そんな状況下、1人の少年の顔を頭に思い浮かべ彼女は叫んだ。

美琴「……当麻っ! 今どこにいるのっ……!? 早く来て……っ!!」

679: 2010/10/30(土) 00:56:19.88 ID:iUjoHhs0
美琴「ハァ……ハァ……」

息を切らしながらも、ようやく地上階まで降りてきた美琴。

美琴「ハァ……ハァ………」チラッ

後ろを振り返っても一方通行の姿はない。

美琴「………諦めた……か……」
美琴「……ハァ~……」

そう結論付け、美琴は大きく息を吐いた。




一方通行「いや? ここにいるけど?」




美琴「!!!!!!!!!!」

背後、それも耳に息が吹きかかるぐらいの距離から発せられた悪魔の囁き声。それを聞き、美琴は反射的に振り返った。

一方通行「諦めたとでも思ったか?」

邪悪な顔を浮かべた一方通行がそこに立っていた。

美琴「…………っ」

美琴がその姿を視認し、咄嗟に逃げようとした時だった。


ドッ!!!


と一方通行が足元のアスファルトを大きく踏みしめた。


ゴガッ!!!!


という音と共に地面から放たれるアスファルトの破片の雨。

美琴「あああああっ!!!!!!」

その直撃を食らった美琴は弧を描くように後ろに吹き飛ばされた。

681: 2010/10/30(土) 01:00:13.74 ID:iUjoHhs0

ズザザザザザーーー!!!

背中が地面を擦る音が響き、数秒後、彼女の身体は止まった。

美琴「う……うう……」

麻琴「あああああああああああああん!!!!!!!!」

再び泣き始める麻琴。

一方通行「へェ……さすがは母親。何だかンだ言って子供は必氏に守るのな」

美琴「くっ……」

麻琴「あああああああああああ!!!!!!」

この状況下でも、麻琴に怪我は1つもなかった。

一方通行「やろうと思えば直撃も避けられたろうに……。それほど愛娘が大事か。かーっ、母親の鏡だねェ……」

美琴「うくっ……」

身体を震わせながら、美琴は四つん這いの格好になると、重い足を地面につけ立ち上がろうとする。

一方通行「ったく、こっちはこっちで忙しいってンのに。なンでこンなガキどもに構わなきゃいけねェンだ」

美琴「………………」

一方通行「なァ、超電磁砲よォ……俺はこンな退屈でつまンねェことさっさと終わらせて学園都市に帰りたいンだわ」

一方通行の声を背後に、美琴は生傷だらけになった身体を無理にでも動かして、より遠くに逃げようと試みる。が、その動きは芋虫にさえ追い抜かれそうなほどノロノロとしていた。

一方通行「協力、してくれるよなァ!!!???」

美琴「!!!!!!」

ガシャッ!

すぐ側の駐輪場に停めてあった1台の自転車に手を伸ばす一方通行。

一方通行「さっさと降参しやがれェ!!!!!!」

彼は、自転車の後輪を掴むと、そのまま横に並べてあった2台の自転車を巻き込むようにして腕を思いっきり振るった。

682: 2010/10/30(土) 01:04:20.77 ID:iUjoHhs0

ドッ!!!!

美琴「ぐふっ!!!!」


ガシャーッ!! ガシャーン!!!


立ち上がろうとしていた美琴の背中に、一方通行によって投げられた自転車が直撃し、その重みによって彼女は地面に倒れ伏せた。更に、1秒の間も開けず、同じく空中に放り投げられた残り2台の自転車が僅かなタイムラグの後、1台目に重なるように順にのしかかっていった。

美琴「が……はっ……」

3台分の衝撃を背中で受け、美琴はまともに息をすることすら叶わなかった。

一方通行「コイツ………」

だが、それでも美琴は守っていた。

麻琴「ああああああああああん!!!!!!」

我が子を。愛娘を。自らの身を危険に晒してでも。

一方通行「………どンだけ自分のガキが大切なンだよ」

美琴「………っ」ギン!!


ダッ!!!


と、一方通行がほんの少し隙を見せた瞬間、美琴は地面を蹴り、走り出していた。

一方通行「!」

背中に乗っかかっていた3台の自転車を振りほどき、マンションのエリア外に向けて逃げる美琴。

一方通行「この俺から逃げられるとでも思ってンのか?」チラッ

振り返り、一方通行は1台の車に目をつける。車体の後部にスペアタイヤを装着した最新式の自動車だった。

美琴「ハァ……ハァ……っ!」

対し、美琴はより遠く、より早く一方通行の魔の手から逃れるため全力疾走する。
前方に見える、大きく開かれたマンションの出入り口。そこを抜けて曲がれば、1度、一方通行の視界から逃れることが出来るはずだった。

美琴「(そこを曲がれば……っ!)」

が、しかし………

683: 2010/10/30(土) 01:08:12.17 ID:iUjoHhs0



ドゴォッ!!!!



美琴「か………はっ………!」

大きく目を見開き、弓がしなるように身体を曲げる美琴。

一方通行「俺から逃げれる場所なンてどこにもねェっつーの」

美琴「……………っ」

僅かに後ろを振り向くと、背中に自動車のタイヤらしきものが当たっているのが見えた。恐らくは、一方通行が投げてきたのだろう。道路もないのに空中で回転するタイヤは美琴の背中に容赦なく直撃していた。

美琴「………くっ……」

この間、2秒――。だが、美琴はそこで歩みを止めることなく走り続ける。そして彼女はマンションの出入り口を外に出、右に曲がると、一方通行の視界から消え失せていった。

一方通行「ふン………たりィなァ……」

至極、面倒臭そうに呟く一方通行。タイヤが地面をバウンドする音だけが静かにこだました。

684: 2010/10/30(土) 01:12:08.54 ID:iUjoHhs0
美琴「ここまで……ハァ……来れば……っ……ゼェ……」

人気の無い小さな道を走る美琴。

美琴「……ひとまずは……っ」

やがて彼女は、ゆっくりと走る速度を落としていき、道の端で止まった。

麻琴「うぁぅ………」

胸の中で涙でクシャクシャになった顔をした麻琴が弱々しい声を上げる。

美琴「……怪我はない?」

麻琴「うぅ……」

元気の無い麻琴だったが、傷などは見受けられなかった。一方通行の奇襲を受け、何度も猛攻を加えられながらも、赤子の彼女がいまだ無事だったのは、全て母親である美琴のお陰と言っても過言でもなかった。

美琴「良かった……」ギュッ

自らの身を挺し、身体中に傷をつけボロボロになりながらも、ひたすら我が子を守る彼女の姿は、まさに真の母親そのものだった。
だがしかし、それで一方通行の攻撃が止んだと思うのはいささか甘い判断だった。



ヒュウウゥゥ………



ズズウウウウウウン!!!!!!!!



美琴「!!!!!!!!」

突如、空から何かの物体が飛来した。
その物体――もとい、人の形をしたそれは煙が巻き上がる中、ゆっくりと前に逸らしていた上体を起こしていった。




一方通行「言わなかったっけ? この俺から逃げれる場所なンてねェ、って」




美琴「一方通行……っ!」

685: 2010/10/30(土) 01:16:12.92 ID:iUjoHhs0
三度、一方通行は美琴の前に現れた。

一方通行「いい加減、諦めてくれないかねェ……」

1歩、前に進む一方通行。

美琴「ふ、ふざけたことを言わないでっ!」

1歩、後ろに下がる美琴。

一方通行「こっちだってオマエらに長時間付き合ってやるほど暇じゃねェンだよ」

また1歩、前に進む一方通行。

美琴「なら……今すぐ帰りなさいよ!!」

また1歩、後ろに下がる美琴。

一方通行「そういう訳にもいかねェンだわ。上がうるせェし」

更に1歩、前に進む一方通行。

美琴「あんたは上が『やれ』って言われたら素直に何でもするわけ?」

更に1歩、後ろに下がる美琴。

一方通行「今回は色々と深い訳があるンだわ。でもまァ……」

美琴「!」

と、一方通行は不意にピタッと歩みを止める。

一方通行「オマエには関係ないだろ。だからとっとと………」

美琴「(来るっ!)」

両手を大きく広げる一方通行。攻撃の予兆を感じ取り、急いで踵を返す美琴。

一方通行「降参しやがれェ!!!!!!」

ドッ!!!!!!

と一方通行が地面を大きく殴りつけた。
直後、そこを起点とし、大地を割くように発生した亀裂が逃げる美琴の背中を追っていった。

美琴「くっ!!」

地面が盛り上がったと同時、美琴は飛び上がる。上手く亀裂の影響を免れた地面の一部分に着地すると、彼女は後ろを振り返ることなく再び走り始めた。

686: 2010/10/30(土) 01:20:12.62 ID:iUjoHhs0
一方通行「だからァ、無駄だって言ってンだろうがァ!!!!!!」

ドンッ!!

と一方通行はすぐ側にあった家屋のブロック塀に左手で触れた。

ドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!

何らかのベクトルを操られたのか、向こう十数mまで連なって伸びるブロック塀の壁は、一方通行が手で触れた部分からゆっくりと、お辞儀をするように地面に向かって傾いていった。

美琴「……………っ!」

道に沿うようにして、ブロック塀の崩壊がスムーズに進んでいく。

一方通行「ほらほら、追い着かれちまうぞ!!!」

美琴「……ハァ……ゼェッ……!」

まるで波のうねりが如く背後から迫るブロック塀の崩壊。巻き込まれれば、美琴も麻琴もただでは済まなかった。

ガッ!! ドッッ!!! ドシャッ!!!

背中越しに、倒れたブロック塀が地面に衝突する音が連続する。そしてその音が徐々に近付いて来るのが分かる。自然、美琴の足が速くなる。

ドドッ!!! ドドドドドドドドドドッ!!!!!!

美琴「くっ……!!」

一方通行「まだまだァ!!!!」

ブンッ!!!

足元に落ちていた1つのブロックを思いっきり投げる一方通行

ガンッ!!!

目にも止まらぬ速さで横一直線に飛んでいったそれは、走る美琴の数m先に立っていた電灯のポールをほぼど真ん中の位置でぶち抜いた。

バキッ!!! バキバキバキッ!!!!!!

折れたポールが美琴に向かって倒れてくる。

美琴「…………っ」

背後からは迫り来るブロック塀の倒壊。前方からは、刀で斬りかかるように倒れてくる電灯のポール。普通なら無事では済まなかった。
……が、

一方通行「!!!」

美琴はその小さな身体を一気に沈めると、まるで野球選手のように倒れてくるポールと地面の間をスライディングで通り抜けていった。

687: 2010/10/30(土) 01:24:12.76 ID:iUjoHhs0


ズズゥゥン!!!!!!


重い音を響かせ、ポールが道を斜めに横断するように倒れ込む。ブロック塀の倒壊はその影響を受けてようやく止まった。

美琴「ハァ……ハァ……うっ!」

が、無茶な行動が仇となったのか、美琴の逃走はそこで終わりを迎えることになった。

美琴「あ、足が……」

スライディングをしたため、地面との摩擦で足に酷い擦り傷が出来ていたのだ。

美琴「でも、こんなの……大したこと……ないっ」

ズキズキと痛む足に顔をしかめながらも、美琴は何とか立ち上がろうとする。
しかし………




一方通行「はいそこまでェ」




美琴「!!!!!!」

ドゴッ!!!!

美琴「グフッ!!!」

頭上に、悪魔のような嘲笑を含んだ声が聞こえたかと思うと、直後、美琴は腹に鋭い衝撃を感じていた。

美琴「げほっ!! がはっ!!!!」

一方通行がその爪先で美琴の腹を蹴り飛ばしたのだ。
うつ伏せ状態となり苦しそうに顔を歪めながら唾を吐く美琴。

688: 2010/10/30(土) 01:27:16.62 ID:iUjoHhs0
麻琴「ああぅ………」

美琴「!」

顔の前で両手で抱えていた麻琴がまるで心配するような声を上げた。

麻琴「ああ……うう……」

美琴「麻琴………」

麻琴「うう……」

口からよだれを垂らし、涙に揺れる視界の中、美琴は麻琴の顔を正面に捉える。

美琴「(……この子だけは………この子だけは………守ら………ないと)」

そう胸中に呟く美琴。だがしかし、そんな彼女の思いなど知ったことではないように、白い悪魔は拷問を再開する。

一方通行「さァて、まずはこのガキからだな」

美琴「!!!!!!!!!!」

麻琴「うあああああああああああああああ!!!!!!!!」

一方通行が無理矢理、美琴から麻琴を取り上げたのだ。

美琴「や、やめてぇっ!!! お願いそれだけはやめて!!!!」

一方通行「………………」

必氏に叫ぶ美琴。無理も無い。一方通行はほんの少し手で触れただけで人間の血液を逆流させることも可能なのだ。

麻琴「あああああああああああん!!!!!!」

一方通行に抱えられた、抵抗すら出来ない赤ん坊が、1秒経ってもいまだ生きているのが信じられないほどだった。

一方通行「………うっせェガキだな……。さっさとやっちまうかァ」

美琴「やめて!!!! 本当にやめて!!!! その子は……っ!! 私の大事な子供なの!!!! 私にとって掛け替えのない娘なの!!!!! お願いだから!!!! やめて……っ!!!!」

地面に這いつくばったまま、美琴は涙を流し一方通行に懇願する。

689: 2010/10/30(土) 01:31:13.44 ID:iUjoHhs0
一方通行「…………だからどうした? 必氏過ぎだろオマエ……」

美琴「私は……っ!!! 私だけはどうなってもいいからっ!!!! その子の代わりに私は頃してくれていいから……っ!!! その子だけは……麻琴だけは見逃してっ!!!! お願い……っ!!!」

一方通行「オマエが悪いンだろ。身から出た錆だ。学園都市から逃げれただけでも奇跡ってもンだ」

美琴「お願いよぉ! ……やめてぇ……」

一方通行「………だが奇跡なンて抽象的なもンはそう何度も起こらねェ。要するに今回が潮時だったってわけだ。それとも今から学園都市に戻って1人1人の前で土下座でもしていくかァ? ぎゃはっ! まァ、アイツらが許してくれるとも思えねェけどなァ……」

美琴「そんなの……私は知らない!! 私は被害者よ!!!」

一方通行「この期に及んで自分に罪は無いってかァ……往生際が悪ィなァ……。……だがオマエは史上最悪の人間だ。それだけで存在が罪なンだよ。そンなオマエを前に全員豹変しちまうのも無理はねェ……だから………」

左手で麻琴を抱え直し、右手を構える一方通行。

美琴「ウソ……やめてっ……本気なの……? いや……やめて……!!」

一方通行「オマエの遺伝子を持ったこのガキも氏刑決定だァ!!!!!!」

麻琴「あああああああああああああああああああん!!!!!!」

美琴「やめてえええええええええええええええええええ!!!!!!!!」






「させるかあああああああああああああ!!!!!!!!!!」






美琴「!!!!!!!!!!」

一方通行「!!!!!!!!!!」

692: 2010/10/30(土) 01:36:19.44 ID:iUjoHhs0
突如、その場に響いた第三者の声。



ズッ………



と、振り向いた一方通行の左頬が唐突に歪む。

一方通行「!!!!????」




ドゴオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!




何者かによって殴られる一方通行。
彼の左頬に突き刺さった拳は勢いを衰えることなく、寧ろ速度を増し………




ズゴオオオッ!!!!!!




そのまま一方通行の右顔面をブロック塀の壁に叩きつけた。

693: 2010/10/30(土) 01:40:12.48 ID:iUjoHhs0
一方通行「どぶぉっ!!!!????」

と、同じくして一方通行の手からすっぽ抜けるように離れる麻琴。

美琴「麻琴!!!!」

痛む傷も無視し、美琴は飛び上がると、なるべく衝撃を与えないよう優しく麻琴の身体をキャッチした。

一方通行「……………っ」

信じられない、と言うような表情を浮かべた一方通行の顔は壁に沿ってズルズルと下がっていった。

美琴「来て………くれたのね………」

目尻に涙を浮かべ、その場に現れた人物を見つめる美琴。





上条「自分の娘が危ない目に遭ってるってのに、駆けつけない父親はいないだろ?」





そう、笑顔で上条当麻は答えた。

720: 2010/10/30(土) 22:15:34.00 ID:EDO2BJc0




上条「助けに来たぜ、美琴、麻琴……」




恋人と娘のピンチに颯爽と現れた上条当麻。

美琴「もう……バカ」

そんな彼の顔を見、美琴は安心しきったように呟いた。

麻琴「あぁーう!!」

麻琴も、父親である上条が現れて喜んでいるようだった。

上条「さぁ、美琴、麻琴。今すぐここから逃げるんだ。いずれ学園都市の追っ手がまた来るかもしれない」

そう言って上条が美琴に近付こうとした時だった。

美琴「!!!!!!!」
美琴「危ない!!!!」

上条「!!!!????」

ガッ! と襟首が引っ張られたと思った瞬間、上条は後ろに飛ばされていた。

ドウッ!!!!

背中から壁に衝突する上条。重い衝撃が全身を駆け巡る。

上条「ぐっ……」

美琴「当麻!!!!!!」

ユラリと、上条の眼前に立つ1つの白い影。




一方通行「ご無沙汰だなァ、三下ァ!!!!」




口元から血の筋を垂らし、不適に笑う一方通行の姿がそこにあった。

721: 2010/10/30(土) 22:19:31.65 ID:EDO2BJc0
上条「一方通行……お前っ!」

ヨロヨロと、後ろの壁を支えに立ち上がる上条。

一方通行「娘のピンチにヒーローの如く現れる父親か……カッコいいじゃねェの!!!!」

ドゴォッ!!!!

上条「ぶおっ!!??」

上条の腹に一方通行のローキックが決まる。その衝撃で、上条の背後にあった壁に蜘蛛の巣状にヒビが入った。

美琴「当麻!!!!」

麻琴「あぁー!!」

心配し叫ぶ美琴。麻琴も自分の父親である上条の危機を何となく察しているのか、不安そうな声を上げた。

一方通行「……」チラッ

美琴「!」ビクッ

一瞬、美琴と麻琴に向けられる一方通行の視線。

一方通行「オマエはいつもそうだよなァ三下ァ……どンな訳の分からない状況に陥っても揺らぐことなく自分の信念を貫き………誰でもかれでも守ってみせる。俺とは大違いだ。だが………」

顔を戻し、彼は怒りを爆発させるように叫ぶ。

一方通行「それがイラつくンだよ!!!!!!」

ドゴオォッ!!!!!!

上条「ぐ……はっ!!!!」

一方通行の拳が上条の腹に深く突き刺さった。

一方通行「どォした三下ァ? 本気でやってたら今頃オマエの身体は破裂してるぞ」

上条「……っ……くっ……」

一方通行「このまま一家ともども俺に虐殺されるかァ!!!???」

ズガッ!!!!

今度は右脇腹に決まる一方通行の蹴り。数m吹き飛んだ上条は盛大に地面に倒れ込んだ。

一方通行「………さァて、そろそろトドメといくか……」

ザッ、と一方通行は仰向けに倒れていた上条に近付く。

722: 2010/10/30(土) 22:23:25.72 ID:EDO2BJc0
美琴「一方通行!!! もうやめて!!!!」

上条「う……あっ…」

美琴「一方通行!!! お願いだからもうその人に手を出さないで!!!」

一方通行「………………」ググッ

美琴の必氏の叫びも空しく、一方通行は上条の右手を強く踏み込む。

一方通行「俺がオマエに引導を渡してやるよ……クカカッ! オマエも本望だろォ?」

悪魔のように邪悪な笑みを作る一方通行。

美琴「やめてっ!!!! お願い!!!!」

上条「…………しろ」

一方通行「あン?」

と、そこで何事かボソッと上条が呟く。

上条「約束しろ……」

痛む右手に顔をしかめながらも、彼は言葉を紡ぐ。



上条「美琴と麻琴には絶対に手を出さないと……」



一方通行「…………!!」

そう、上条は真っ直ぐな瞳で一方通行を見据えながら言った。

美琴「当麻!!!! ……お願い一方通行、もうやめてっ!!!」

723: 2010/10/30(土) 22:26:28.39 ID:EDO2BJc0
一方通行「………ふン」

上条「………………」

一方通行「残念だがその要望には答えられねェなァ……こちらも命令受けてる身なンでよ……。だが安心しろ三下……」

美琴「いや……やめて……」

目を見開き、一方通行は右手を構えて声高々に叫ぶ。

一方通行「あの世で3人仲良く暮らせるよう、後でオマエの恋人も娘も頃してやるからよォ!!!!!!!!」

ゴアッ!!!!!!

振り下ろされる一方通行の右手。

美琴「やめてえええええええええええ!!!!!!!!」

上条「……………っ」

一方通行「………」ニヤァ






バチバチバチバチバチバチッ!!!!!!!!!!






一方通行「!!!!!?????」

上条「!!!!!?????」

突如、何かが炸裂する音が鳴り響いた。

724: 2010/10/30(土) 22:30:26.19 ID:EDO2BJc0
それに呼応するかのように、暗闇に包まれていた周囲が昼間のように明るくなった。





ズッ…オオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!





そして、1つの青白い光が天に昇る龍のように上空に向けて解き放たれた。

一方通行「…………っ」

刹那、自分の右手に違和感を覚える一方通行。

一方通行「(チョーカーに……異変がっ……!? 強い電磁波反応……っ!?)」

それは、全身から力が抜けていくような感覚だった。
振り返る一方通行。考えられる原因は1つだけ。

上条「美琴………っ」

上条もまた、目を大きく見開き光の発生源を驚愕の表情で凝視した。





美琴「当麻に………手を………出すなっ!!!!」バチバチッ!!





纏っていた。美琴が纏っていた。全身に。青白い紫電を。バチバチと、火花を飛ばすように。

725: 2010/10/30(土) 22:35:44.01 ID:EDO2BJc0



美琴「手を……出すなっ……っ!!!」



上条「……………!」

一方通行「……………!」

呆然と美琴を見つめる上条と一方通行。が、どちらかと言うと見つめると言うよりかは言葉を失くしたようだった。
何故なら、そこに立っていたのは、かつて学園都市で『超電磁砲(レールガン)』と言う異名で恐れ、慕われていた、レベル5の超能力者・御坂美琴だったのだから。

上条「美琴………」

美琴「ハァ……ゼェ……」バチッ…!!

それの意味する所は、美琴の超能力者としての復活。1年以上前、学園都市で上条と逃亡していた時に『不安定な自分だけの現実(アンステイブル・パーソナル・リアリティ)』の発症によって失われていたはずの電撃能力が彼女の元に舞い戻ったのだ。

上条「能力が……戻ったのか!?」

一方通行「(三下のピンチを前にして、俺への怒りが……いや、三下への思いが能力を取り戻させたのか…っ!)」

が、しかし。1つだけ不可解な点があった。

麻琴「うああぅうーーーー!!!!!!」

一方通行「(何故……娘まで………)」

上条「(何で……麻琴まで………)」

上条一方通行「「(無事なんだ!!??)」」

全身から電気を発する美琴。彼女に抱きかかえられている麻琴は、いたって涼しい顔をしている。能力の影響を直に受けているにもかかわらず、だ。

麻琴「うぉぉー!!!」

寧ろ、美琴の電撃を見て喜んでいるようにも見えた。

一方通行「(何故娘は超電磁砲の電撃による干渉を受けない!!?? 本人が能力開発した訳じゃないンだぞ!!!! ……それとも、電撃使いである超電磁砲から生まれたあの娘は、唯一超電磁砲の行使する電撃に耐性があるとでも言うのか!!??)」

と、一方通行がもてるだけの頭脳で頭をフル回転させている時だった。

726: 2010/10/30(土) 22:39:21.33 ID:EDO2BJc0
美琴「当麻!!!!!!」バチバチッ!!

上条「!!!!!!」




美琴「今よ」




麻琴「ああぅー!!!!」

一言、叫ぶ美琴。だが、それだけで十分だった。

一方通行「(まずいっ!!)」

我に返り、再び右手を構える一方通行。だが………

一方通行「(クソッ……!! 能力が上手く……)」

美琴の電撃による干渉をチョーカーが受けたためか、能力が上手く発動しなかった。
と、そんな隙を見せた一方通行の頬に………

上条「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」



ズッ……



一方通行「!!!!!!!!!!」




ドゴオオオオォッ!!!!!!!!!!




上条の渾身の右ストレートが突き刺さった。

728: 2010/10/30(土) 22:42:32.24 ID:EDO2BJc0
一方通行「ぐぶっ!!??」

ドッ!!!!

吹き飛ばされた一方通行は背中から壁に衝突すると、やがてズルズルと崩れていった。

一方通行「…………がっ……」

上条「ハァ……ゼェ……ハァ……」

動かなくなった一方通行を、息を切らし、警戒しながら見つめる上条。

美琴「当麻!!!!!!」

上条「美琴!」

と、そこへ麻琴を抱えた美琴が駆け寄ってきた。

上条「大丈夫か!? 怪我はなかったか!?」

美琴「うん……私は大丈夫」

上条「麻琴は!?」

美琴「無事よ、ほら……」

麻琴「ああぅー!!」

久しぶりに上条を間近で見て安心したのか、麻琴に笑顔が戻った。

上条「良かった……。本当に良かった……」

美琴「でも……まさか一方通行が来るとは思ってなかったわ。もう、学園都市も私のこと諦めたと思ってたのに……」

上条「うん……」

と、その時である。




一方通行「だァれが諦めた、って……?」




上条美琴「!!!!!!!!」

咄嗟に、声がした方を振り返る上条と美琴。

729: 2010/10/30(土) 22:46:25.74 ID:EDO2BJc0
一方通行「クソが………やってくれたなァ……」

一方通行はまだ、意識を保っていた。そればりか、ここで終わったわけではない、と言いたげにフラつく身体を無理にでも立ち上がらせようとしている。

美琴「こいつ……まだっ……!」バチッ!!

それを見た美琴が再び紫電を纏う。

上条「……………………」

一方通行「ここらで終わる俺じゃねェンだよ……ゼッ……ハッ……」

威勢はいいが、明らかに一方通行の身体は大ダメージを受けているように見える。

美琴「あんたの弱点は心得ているわ。私が能力を最大限に行使すれば、そのチョーカーもたたじゃすまないわよ?」

一方通行「けっ……まさかこんなところで超電磁砲の能力が復活するとは思わなかったぜ。だがなァ……俺の力がそれだけだとでも思ってンのか……?」

美琴「え?」

言葉に含みを持たせ、一方通行が完全に立ち上がろうとする。
が、しかし………

上条「もうやめろ一方通行」

一方通行「!!!???」

美琴「!!!」

一方通行のこれ以上の行動を止めるように、上条が言った。

一方通行「何が『もうやめろ』だ三下ァ……。オマエにそんな権限があるとでも?」





上条「お前、『弧絶術式』に掛かってないだろ」





美琴「………………え?」

730: 2010/10/30(土) 22:50:45.96 ID:EDO2BJc0
初め、美琴は上条のその言葉が理解出来なかった。

一方通行「ハァ? なンだよそりゃァ……一体何の話を……」

2人の反応を気にせず、上条は続ける。

上条「学園都市の住人は全員美琴のことを憎み、殺意を抱いている。だが、お前はそいつらと違って美琴には殺意も敵意も抱いていない。寧ろ、美琴や麻琴を頃すことに抵抗すらあるんじゃないのか?」

一方通行「!!!!!!!!」

上条「………違うか?」

一方通行「………………」

上条に訊ねられ、僅かに顔を俯け黙り込む一方通行。

美琴「な、何言ってるの当麻? こいつはさっきまで私と麻琴を殺そうとしてたのよ? なのに『弧絶術式』に掛かってないですって? そ、そんなことあるわけが………」チラッ

一方通行「………………」

当然の疑問を上条にぶつける美琴。
だが、一方通行は何故か否定をしようとしない。

一方通行「……………………」

美琴「…………まさか、本当なの?」

恐る恐る、美琴は一方通行に訊ねた。

上条「考えてもみろ。俺がここに辿り着くまで、ある程度の時間、美琴たちは一方通行に追いかけられていたはずだぞ。殺せる機会なんて何度もあったはず」

美琴「…………で、でも……」

が、確かに思い返してみれば、一方通行にはいくらでも美琴と麻琴を瞬殺出来るチャンスがあったはずだ。なのに彼は、美琴の体力を奪ったり、逃げ道を塞いだりと、どちらかと言えばちまちました攻撃を繰り返すだけだった。

上条「最盛期の力を失っているとはいえ、こいつの能力はいまだ絶大。対して美琴はついさっきまで能力を全く使えず、赤ん坊の麻琴も連れていたんだ。本気を出せば腹を空かせたライオンが弱ったシマウマの子供を仕留めるぐらい簡単に殺せたと言うのに……いまだ美琴と麻琴が無事なのは色々と不自然すぎる」

一方通行「……………………」

上条「今まで美琴を見て本性を露にした奴らは即座に、ただ美琴を頃すためだけに全力を尽くしてきた。そう考えると、こいつの行動には疑問点がいくつか浮かんでくるんだよ」

美琴「…………そんな……」

上条「ロシアでは新しい力も手に入れたと聞いてるしな。美琴の電撃で一時的に能力行使に不具合が出たとは言え、その新しい力を発揮しないのもおかしい」

美琴「………そう言えば、一方通行は学園都市で私を追いかけてきた連中とは何か雰囲気が違ったわ。やけに『降参しろ』って何度も言ってたのも違和感があったし……」

美琴は一方通行を窺いつつ、これまでの推移を振り返る。

732: 2010/10/30(土) 22:54:42.50 ID:EDO2BJc0
上条「それに、こいつは拳銃の扱いに長けているらしいけど、その拳銃を一丁すら持っている気配がない。拳銃を使えば、チョーカーの貴重なバッテリーを消費する必要も無いのに……」

一方通行「………………」

上条「極めつけはさっき。俺がここに来た頃……麻琴を殺そうとしていた一方通行が言った『そンなオマエを前に全員豹変しちまうのも無理はねェ』っていう台詞……」

美琴「!」

上条「こんな言葉、『弧絶術式』の影響を受け美琴を殺そうとした連中を客観的に見てなきゃ出てこない台詞だ。まるで自分は他の奴らとは違う、って言ってるようなもんじゃないか」

美琴「じゃ、じゃあ……」

大きく頷き、上条は一方通行を見据えながら断言した。

上条「一方通行は『弧絶術式』に掛かっていない。寧ろ、学園都市の住人たちが美琴に殺意や敵意を抱いていることに疑問を感じているはずなんだ」

美琴「………っ」

上条「今、この瞬間もな………」

一方通行「………………」

そう締めくくる上条。彼の言葉が一方通行に降りかかる。

一方通行「……………………」

上条「……………………」

美琴「……………………」

訪れる沈黙。しばしの間、その場は静寂に包まれた。

一方通行「……………」ボソッ

上条美琴「「!」」

が、やがて………





一方通行「………やっぱり……俺じゃなくて……周りがおかしかったのか………」





一言、一方通行はゆっくりと呟いた。

734: 2010/10/30(土) 23:00:03.32 ID:EDO2BJc0
上条「………………」

美琴「………やっぱりってどういうことなの? ……まさか本当にあんた『弧絶術式』に掛かってなかったの!?」

一方通行の言葉を聞くやいなや、質問をぶつける美琴。それに答えるように、一方通行は語り始めた。

一方通行「………俺は……『弧絶術式』が何なのかは知らねェ……。……だが、三下の言った通り、超電磁砲に殺意を抱いてなければ、本当を言うとオマエら一家を皆頃しにするつもりがなかったのも事実だ………」

上条美琴「「………………」」

上条と美琴は無言で顔を見合わせる。

上条「………何があったんだ?」

一方通行「………1年ぐらい前か……打ち止めや学園都市にいた妹達の超電磁砲に対する態度がガラリと変わりやがった」

美琴「………………」

ボソボソと、これまで誰にも喋らず、ずっと心の中に閉まっていたであろう記憶を打ち明ける一方通行。

一方通行「………その昨日だったか……打ち止めと10032号が超電磁砲と出かけてたらしくてなァ。だからちょっと聞いてみたンだよ。『超電磁砲は相変わらず元気にしてたか?』ってな……。したら、打ち止め、何て答えたと思う?」

美琴「……………?」

一方通行「『あんな最悪な女のことは口にしないで。思い出すだけでも嫌になる』って言いやがったンだよ」

美琴「……………、」

一方通行「最初は少し早い反抗期なのかと思った。だが、その後、長々と超電磁砲に対する汚ねェ愚痴を零し続けるから叱ってやったンだよ。……が、今思えば、それが全ての始まりだったな……」

上条「………………」

一方通行「何故か打ち止めを叱った俺が黄泉川や芳川に怒られるわ、学園都市にいた妹達に叱責されるわで、最初は訳が分からなかった。それどころか、ドイツもコイツもまるで超電磁砲に恨みがあるかのように陰口を叩きやがる……」

順に、自分の身に何があったのか語る一方通行。

一方通行「超電磁砲に好意を寄せていたはずの海原も『何故僕はあんな最低な女を好きだったのか、人生の汚点です』なンて言いやがるし……」

美琴「………………」

一方通行「街で出会った超電磁砲の後輩のジャッジメントのガキも……ひたすら超電磁砲の悪口を叩いていやがった……」

上条「……………それで?」

続きを促す上条。誰かに聞いてほしかったのか、一方通行は拒否することも話を止めることもしない。

一方通行「何度も周りに訊ねたよ。『どうしてそこまで超電磁砲を悪く言うのか』、『超電磁砲が何か悪いことをしでかしたのか』ってな……。だが、そう訊ねる度に全員決まって『理由は無い。あの女が最低なのが悪い』とかメチャクチャなことほざきやがる……。あまつさえ、超電磁砲に殺意がない俺が白い目で見られるようになっちまってた………」

737: 2010/10/30(土) 23:06:22.77 ID:EDO2BJc0
淡々と一方通行は話しているが、彼も彼で辛い目に遭っていたのは上条と美琴にも何となく理解出来た。

一方通行「おまけに超電磁砲は指名手配されるわ、ニュースで三下と超電磁砲がアンチスキルに追跡されてるって報道されるわ……訳が分からなかった……。まるで、自分の周りの世界が変わったように思えてなァ……」

美琴「………一方通行……」

ある意味、一方通行もこの1年間、美琴と似たような孤独感を学園都市で味わっていたのかもしれない。美琴は彼の話に深く聞き入る。

一方通行「………だから、俺も周囲に迎合するよう決めたンだ……。このことは胸に閉まっておこう、ってな。……ぶっちゃけ気味が悪かったが……」

美琴「そんなことが……あったのね……」

一方通行「ああ。だがつい一昨日のことだったか。学園都市の上層部から命令が直々に下ってなァ……『御坂美琴および上条当麻、加え1名を抹殺せよ』ってなァ………」

美琴「………………」

一方通行「その時だ。オマエらの存在を思い出したのは」

上条「………それで、命令を受けたんだな?」

確認するように上条は訊ねる。

一方通行「当然初めは拒否したがな。何しろオマエらを頃す理由がどこにもねェ……。それに今更、ヤツらの命令を聞くなんざまっぴらごめんだった……。だが、アイツら、打ち止めの名前を出して暗に俺を脅してきやがった……」

美琴「………そんなことが」

一方通行「俺はオマエらを頃したくない。だが、命令を受けなければ打ち止めに危険が迫る可能性がある。そして当の打ち止めは、お姉さま(オリジナル)であるオマエに殺意を抱いてる。こンなふざけた状況で、俺が拒否出来ると思うかァ? 結局おかしいのは俺だけなンだよ。だから………」

上条「俺たちを頃しにここまで来たんだな?」

一方通行の代わりに、上条はその先を口にした。

一方通行「………そういうこった」

肯定するように、一方通行は小さく頷いた。

美琴「結局、学園都市は私の存在を諦めてなかった、ってことね」

上条「やはり、か。こいつは身のフリを考え直さないといけないかもな」

美琴「でも、何で一方通行は『弧絶術式』に掛からなかったんだろう?」

上条「……さあな。たまたま『弧絶術式』が発動した時に、能力を使ってたのか、もしくは『外』にいたのか……」

一方通行「すまねェ……」

美琴「え?」

と、上条と美琴が推測していると、不意に一方通行が呟いた。

739: 2010/10/30(土) 23:11:07.68 ID:EDO2BJc0
一方通行「俺は……もう……無実の人間を殺めないって決めたのに……!」

上条「!!」

と、急に彼は上条の胸倉を掴むように叫んでいた。

一方通行「……三下ァ! 俺を殴れ!! 気が済むまで俺を殴れっ……!! 打ち止めも、妹達も、説得出来ず……周りに流されて……挙句には学園都市のゲスどもの命令に従って……オマエら一家を皆頃しようとした俺を殴れ……っ! 何されたって構わねェ!!!」

上条「………………」

そう、必氏に訴える一方通行。本来の彼とは考えられないほど取り乱していることを鑑みると、それほど自責の念に囚われていたのかもしれない。

一方通行「どうしたよ三下ァ!! 何故殴らねェ!!?? 俺はオマエらの幸せを踏み潰そうとしただけでなく、生まれたばかりの赤子を殺そうとしたンだぞ!!!! 何されたって文句は言えねェはずだ!! だから殴れよ!!!!」

上条「………………」

一方通行「簡単だろ!! オマエの右手で俺の頬をどつくだけじゃねェか!!!!」

美琴「………………」

上条「………………」

が、上条は右手を握るどころか身体を動かそうともしない。全ての事情を知った以上、彼にとって一方通行は既に敵ではなくなっていたのだ。

一方通行「なぐ………れ……よ」

やがて一方通行は、顔を深く俯かせ、上条の胸倉を掴んだままゆっくりとその身体を地面に沈めていった。

一方通行「…………時々、オマエが羨ましく映るンだよ………その完璧なまでにヒーローのように振る舞える……オマエがなァ……」

上条「……………………」

白く染まった頭だけを見せ、顔を下に向けたままボソボソと言葉を紡ぐ一方通行。そんな彼の肩に、上条は優しく手を置いた。

上条「一方通行」ポンッ

一方通行「!」

突然の行動に、一方通行は顔を上げる。

741: 2010/10/30(土) 23:15:21.94 ID:EDO2BJc0
上条「もう、誰もお前のことを怒っちゃいないよ」

一方通行「………………」

美琴「ええ。事情があったんなら仕方がないわ。それに、一方通行もずっと学園都市で私みたいな孤独に苛まれてたみたいだしね……。もう、責める理由がないわ」

上条が、次いで美琴が一方通行に慰めの言葉を掛ける。

一方通行「オマエら………」

美琴「それにほら、麻琴ももう気にしてないって」

麻琴「あぁー!」

美琴の胸に抱えられていた麻琴が笑顔で叫んだ。

一方通行「……………っ!」

その笑顔は、一方通行にとって衝撃的すぎるほど明るく、光り輝いていた。

上条「一方通行、もう俺たちのことは心配しなくていい。また追っ手がやって来たところで何とか上手くするさ」

一方通行「三下……」

美琴「ええ。だから貴方は今すぐ学園都市に帰って打ち止めを守ってちょうだい。それが、あの子の姉としての貴方への一番の願いよ」

一方通行「だが……打ち止めは……オマエのことをボロクソに言ったンだぞ?」

美琴「関係ないわよ。元々そうなったのは『弧絶術式』っていう魔術のせいだし………」

一方通行「『魔術』……」

確かめるように、一方通行はその言葉を口中で反芻した。

743: 2010/10/30(土) 23:19:36.94 ID:EDO2BJc0
上条「まあその魔術も俺の右手ではもうどうでにもならねぇんだけどな……。だから俺たちは二度と学園都市に帰れない。……こっちの世界で3人で暮らしていくしかないんだよ」

一方通行「…………、」

上条「だけど、もし困ったことがあったらすぐ俺に頼ってくれ。土御門に頼めば俺とのパイプ役になってくれるだろうし。そう、だから………」

美琴「打ち止めと妹達のことを守ってあげてね」

上条「学園都市は、お前に頼んだぜ」

麻琴「だぁー!」

一方通行「……………!」

3人揃って微笑みながら、上条たちはそう言った。まるで、自分たちが学園都市でやりたかったことを一方通行に託すように。そしてそれは、一方通行という人間を、存在を、心から信じていなければ出来ないことだった。

上条「な!」

一方通行「………まねェ……」

後悔するように顔をクシャクシャと歪めながら、ゆっくりと地面に崩れていく一方通行。

一方通行「………すまねェ………」

そんな彼の背中に、同じように腰を沈めて両側から優しく手を置く上条と美琴。

上条「気にすんな。お前も、俺たちと同じ『弧絶術式』の被害者なんだ……」

美琴「ええ。これからも辛いと思うけど、私のことはもういいから。貴方は打ち止めたちを守ってちょうだい」

一方通行「………すまねェ………!」

ひたすら、謝罪の言葉だけを紡ぐ一方通行。
その後もしばらく、彼が顔を上げることはなかった。

745: 2010/10/30(土) 23:24:25.41 ID:EDO2BJc0
それからしばらくの後。
上条一家はマンションへの帰路に着いていた。

美琴「一方通行、これから大変でしょうね……」

上条「ああ、でもあいつならやってくれるさ」

2人は一方通行のことを思い浮かべる。

美琴「……そうね」

結局、一方通行は学園都市に帰っていった。



   ―― 一方通行「学園都市のことは俺に任せろ。オマエたちは何があってもその子供を守りきれ』――



と言う言葉を1つだけ残して。

美琴「……また、追っ手が来るのかな?」

上条「かもしれないな……」

隣に並び歩きながら、上条と美琴はこれからのことを考える。

美琴「今までみたいに、やっていけるかな……」

不安そうに呟く美琴。

上条「……………………」

そんな彼女を横目で見た上条は、ゆっくりと口を開いた。

上条「美琴……お前に受け取ってほしいものがあるんだ」

美琴「え?」

思わず顔を向ける美琴。見ると、上条が道の真ん中で立ち止まってポケットの中をゴソゴソと漁っていた。

746: 2010/10/30(土) 23:28:32.89 ID:EDO2BJc0
美琴「何? どうしたの?」

自然と、美琴も立ち止まった。

上条「お前に渡したいものがある」

美琴「私に……?」

不思議そうな表情を浮かべる美琴。
一体何だろう、と彼女が首を傾げていると、上条はポケットから1つの小さな箱を取り出した。

美琴「?」

上条「これだよ……」

待ちきれず、と言ったように上条は箱を開ける。

美琴「え……これって……」

その中身を見た瞬間、美琴は衝撃を受けたように目を大きく見開いた。

上条「ああ……」

彼女が驚くほどの箱の中身。それは………





上条「結婚指輪だ」





美琴「……………!!」

そこに収められていたのは、銀の輪っかの形をした1つのエンゲージリングだった。

747: 2010/10/30(土) 23:33:53.88 ID:EDO2BJc0
美琴「え……ちょっ……あ……ま、待って……ええっ!?」

どう反応していいのか分からないのか、美琴はしどろもどろしてしまう。

上条「ここ最近、仕事の時間を増やしてたのもこれを買うためだったんだ……。時折ボーッとしてたのもお前との将来のことや、指輪をどこで買うかとか、どんなのがいいか、とか考えてたからでな……」

美琴「えっ!? あ……その……へ、へぇ!」

落ち着いた上条とは対称に、美琴は突然の事態にうろたえているようだった。

上条「………今日も、デパート行った時、宝石店があるフロアをボーッと眺めててさ……お前に怒られたっけ、はは」

美琴「そ、そうだったんだ……! ふ、ふーん!!」

上条「美琴」

美琴「ひゃ、ひゃい!!!」

上条に名前を呼ばれ、頓狂な声を出してしまう美琴。

上条「聞いてくれ……」

美琴「……………う、うん」ドキドキ

上条の雰囲気に呑まれたのか、ようやく美琴も落ち着いたようだった。

上条「俺、上条当麻は御坂美琴のことが好きだ……」

美琴「………………うん//////」ドキドキ

上条「一生をかけてでも、美琴もそして麻琴も守り抜きたいと思ってる……」

美琴「………………うん//////」ドキドキ

麻琴「おぉー!」

上条「だから………」





上条「俺と結婚してくれ」






752: 2010/10/30(土) 23:37:48.77 ID:EDO2BJc0
美琴「……………………」

美琴の顔を見据え、上条は静かにその言葉を発した。

美琴「……………………」

上条「……………………」

美琴「//////////////」ボンッ

と、数秒の時差があり、美琴の顔が成熟したりんごのように真っ赤になった。

上条「………どうかな?」

美琴「……………せて」

上条「ん?」

ボソッと、何事か呟く美琴。

美琴「………指輪、嵌めて?//////」

照れくさく顔を俯かせ、視線を逸らしながら美琴はお願いする。

上条「じゃあ!」

美琴「……………うん」





美琴「こちらこそ……宜しくお願いします////////」





本当に、心から嬉しそうな表情で美琴は答えていた。

754: 2010/10/30(土) 23:41:30.45 ID:EDO2BJc0
上条「良かった……」ホッ

美琴「……………////////」

上条「それじゃ、左手出してくれるか?」

美琴「…………………うん//////」

麻琴「うゆ?」

麻琴を抱え直し、美琴はゆっくりと左手を上条に差し出す。

美琴「……………//////」ドキドキドキ

上条「……………………」スッ…

それに応えるように、上条は美琴の左手の薬指にゆっくりと指輪を嵌めてあげた。白く、細い美琴の薬指に、銀色に光り輝くリングが映える。

美琴「……………綺麗……」

うっとりとしながら、自分の左手に嵌められた指輪を見て呟く美琴。

上条「今はまだ、俺もお前も結婚出来る歳じゃないけど……1年後か2年後……2人が18歳と16歳になった時には……」

美琴「…………うん、分かってる。それぐらいはちゃんと待てるから……」

上条「………美琴、これから先、爺さんになるまで頼むな」

美琴「………当麻も……私がお婆さんになるまで宜しくね」

笑みを浮かべ合う2人。

上条「………………」スッ

美琴「………………」スッ

やがて彼らは互いの唇を近付け………



上条美琴「「――――――――――」」



永遠の約束を誓い合うように、キスを交わした。

756: 2010/10/30(土) 23:45:30.92 ID:EDO2BJc0
上条「………………」フッ

美琴「…………えへへ//////」

顔を離し、照れくさそうにする上条と美琴。
と、そんな時である。

麻琴「ブゥーーーーーー!!!」

上条美琴「「!」」

自分を仲間外れにして、イチャついている父親と母親が気に入らなかったのか、美琴の胸に抱かれていた麻琴が抗議の声を上げた。

美琴「あはは、ごめん麻琴」

麻琴「むぅー!!」

美琴「あらら、ふくれちゃってるわこの子」

フグのように頬を膨らませる麻琴。

美琴「でも、心配しないでいいのよ? 何たって………」

上条「ああ、麻琴も俺たちの家族だからな!」

麻琴「あぁーーーい!!!」

その言葉を理解したのかどうかは分からなかったが、麻琴は嬉しそうに笑った。

上条「辛いこともあるだろうけど、これからは………」

グイッ!

と上条は美琴の肩を引き寄せる。

上条「親子3人、3人4脚で頑張っていこう!」

美琴「うん!」

麻琴「だぁーーーーーー!!!」

互いの身を寄せ合い、家路に着く上条と美琴と麻琴。その光景はどこから見ても実際の家族そのものだった。
今、上条一家は厳しくも、幸せな道程を歩き始める――。

761: 2010/10/30(土) 23:51:34.57 ID:EDO2BJc0
翌日・学園都市――。

窓の無いビルにて。
ここ、学園都市の全てを司る統括理事長の本丸に訪れた1人の男がいた。




土御門「幻想頃しと超電磁砲、そしてその子供の抹殺命令を取り消したようだな?」




金髪にアロハシャツ、顔にサングラスを掛けたその男の名は、土御門元春だった。

土御門「何故抹殺命令を取り消した?」

彼の問いに対し、巨大なビーカーのような生命維持漕に逆さまに浮かんでいた人物がゆっくりと、口を開いた。





「そもそも抹殺命令を下したのは統括理事会の連中だ。私の意ではない」





男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える『人間』――アレイスター・クロウリーは至極退屈そうに答えた。

土御門「このままだと幻想頃しが手元から離れることになるぞ。お前にとっては不都合なんじゃないのか?」

アレイスター「プランなど幾らでも変更が聞く。幻想頃しが氏なない限り、問題はない」

土御門「超電磁砲の抹殺命令を取り消したのはその為か? 彼女がいなければ幻想頃しは生きていけないからな」

アレイスター「………………」

土御門の質問に、アレイスターは肯定も否定もしない。

土御門「ふん。まあ貴様の考えてることなどどうでもいい。だが1つだけ覚えておけ」

アレイスター「何だ?」

土御門「あの3人に少しでも手を出してみろ。俺がすぐさま貴様の寝首を掻き切ってやる」

ギ口リ、と土御門は殺気を孕んだ目をアレイスターに向けた。

763: 2010/10/30(土) 23:57:16.26 ID:EDO2BJc0
アレイスター「……なるほど、覚えておこう」

土御門「………ペテン師が」

言って土御門は踵を返す。これ以上ここにいても意味はないと思ったからだ。

土御門「………………」ピタッ

が、2、3歩ほど歩いた後、彼はふと立ち止まった。

アレイスター「まだ何かあるのか?」

その問いに応じるように土御門は顔だけ後ろに振り向かせ、1つ訊ねた。





土御門「アレイスター……お前、本当は『弧絶術式』に掛かってないんじゃないのか?」





アレイスター「………………」

土御門「………………」

永遠にも思えるような沈黙が続く。
やがてアレイスターは静かに、飄々とした感じで、表情を変えることもせず答えていた。

アレイスター「はて……『弧絶術式』……何のことだかサッパリ分からんな……」

土御門「……………………」

アレイスター「……………………」

土御門「………まあ、今更お前のことなどうでもいい」

それだけ吐き捨て、今度こそその場を離れていく土御門。

アレイスター「…………………………」

が、この時土御門は知る由もなかった。一瞬、アレイスターの口元が僅かに歪んだことを――。

764: 2010/10/31(日) 00:01:57.55 ID:9rRfRCk0
東京。
賃貸マンションの一室。そこに、一方通行の襲撃によって荒れた部屋を片付ける上条一家の姿があった。

上条「これはこっちに移動して、と………」

麻琴「あああああああん!!!!!!」

美琴「はいはい、どうしたのかなー? んん? おっOい? ……ってこれはっ!」

上条「お、おい何か臭うぞ! まさか!」

美琴「せいか~い。レベル5の『超脱糞砲(シットガン)』でしたー」

上条「ああ、もうただでさえ片付かないと言うのにおまけに悪臭まで……不幸だ」

美琴「ふふ、でも満更でもないくせにー」

上条「それはお前だって同じだろ?」

美琴「えへへ、もちろん!」

上条「っておい、麻琴のやつ、おしっこも漏らしてるぞ!」

美琴「ええっ!? あら、本当だわ!」

上条「勘弁してくれよ~」

美琴「あはは、さすが私の子。やるわね」

麻琴「あぁ~うぅー!!」

上条「笑い事じゃないだろ」

美琴「ごめん! でもおかしくて………ふふふ」

楽しげに会話する親子3人。
これから彼らにどんなことが訪れるのか。それはまだ分からない。が、それでも美琴は、その日常を楽しむように、幸せそうに笑みを浮かべていた。左手の薬指に、銀色に輝くリングをつけながら――。

822: 2010/11/10(水) 00:34:46.31 ID:TswECXk0
それから7年の月日が過ぎて――。



某県某市の閑静な街の公園。そこで………



「いいぜ……」



1人の泣き叫ぶ小さな男の子を傍らに、



「これ以上、この子をいじめようってんなら……」



3人の憎たらしそうな顔をした少年たちに、啖呵を切る1人の女の子が………





「まずはそのふざけた幻想をぶち頃す!!!」





………いた。





麻琴「弱いものいじめすんなああああああああ!!!!!!!!」





上条麻琴・7歳。近所でも有名な正義感溢れるお転婆な女の子だった――。

823: 2010/11/10(水) 00:38:25.04 ID:TswECXk0
ガチャッ!

麻琴「ただいまー」

夕方。自宅に帰ってきた麻琴は玄関のドアを開けると元気良く叫んでいた。

「……ううっ……グスン……クスン」

その背中には、先程、公園で彼女の傍らで泣いていた男の子がおぶられている。

麻琴「ほら泣かないの。男の子でしょ?」

「ううっ……だってぇ……」

麻琴「……はぁ…何であんたはそんな弱虫なの?」

と、肩越しに男の子に話しかける麻琴の耳に、1人の若い女性の声が聞こえてきた。



「お帰りー」



麻琴「!」

「って、ちょっとどうしたのその傷!?」

麻琴「えへへ、またやっちゃった!」

「………はぁ」

呆れたように溜息を吐く若い女性。

「ほら、上がりなさい」

彼女こそ麻琴の母親にして、かつて学園都市で第3位のレベル5として君臨していた超能力者・御坂美琴だった。





美琴「手当て、してあげるわ」





麻琴「はーい!」

824: 2010/11/10(水) 00:41:18.71 ID:TswECXk0
麻琴「いてて……」

美琴「ほら、じっとしてなさい」

綺麗でサッパリとした普通の家にあるようなリビング。壁には『パパ』、『ママ』と題された、明らかに子供が描いたと思われる絵が2枚ずつ、計4枚飾られている。
そのリビングで麻琴の顔に出来た傷を手当てする美琴。

麻琴「染みるー」

美琴「あんたまた、男の子と喧嘩なんかして。お転婆にもほどがあるんじゃない?」

麻琴「ママに言われたくないもん」

美琴「う、うるさいわね。昔の話よ昔!」チラッ

そう言いつつ、美琴は部屋の隅に設置された棚を見る。そこには、彼女の幼い頃の姿が写された写真が何枚か、写真立てに収められて並べられていた。

美琴「(昔、か……。懐かしいわね)」

写真の中の美琴はどれも可愛らしく、最近写されたものであればあるほど、その分彼女の美貌が増しているのがよく分かった。
が、中でも目を引いたのは、タキシードと純白のウェディングドレスを着込んだ幸せそうな若い男女が教会の前で寄り添って映っている1枚の写真だった。

美琴「………………」フッ

麻琴「…………何ニヤニヤしてんのママ?」

小悪魔のような顔で美琴を覗き込む麻琴。

美琴「えっ!? はっ!? えええっ!!??」アタフタ

麻琴「いきなり笑い出すなんて……何かおかしいことでもあったの?」

美琴「べ、別に!? な、何でもないわよ!?」

お転婆な子供に少々手を焼くことがある美琴だったが、今の生活は満更でもなかった。寧ろ、これ以上の贅沢があるのか、と思えるほど彼女は日々に充実感を覚えていた。

麻琴「どうせパパと知り合った時のこととか思い出してるんでしょ?」ニヤニヤ

美琴「ななななななわけないでしょ!//////」

麻琴「ママ顔真っ赤ー! あはははは」

美琴「も、もう! この子ったら!//////」

826: 2010/11/10(水) 00:45:27.95 ID:TswECXk0
学園都市最後の刺客―― 一方通行による奇襲から7年。辛いことも嬉しいことも色々あったが、美琴は今、幸福に満ちた家庭を築いていた。
念願の愛する人と結婚し、2人の子供にも恵まれた彼女は現在、凛々しくも、どこか幼い時の面影を僅かに残しながらも、1人の美しい大人の女性へと成長していたのだった。

麻琴「パパとママってホント、いつも仲良しだよね? 妬けちゃうなー」ニヤニヤ

美琴「ど、どこが仲良くしてるって言うのよ! あ、あんなのあのバカがいつもくっついてくるから仕方なく相手してやってるだけで……」ブツブツブツ

麻琴「ママ面白ーい!」

美琴「…………っ//////」

失ったものは多かったが、手に入れたものはどれも、美琴にとっては値をつけられないほど価値のあるものだった。
夫、娘、息子、イギリスにいる友人たち、この地で知り合った人々、苦労して手に入れたこの家、そして多くの思い出。それら全てが彼女の過去の苦い経験を浄化し、代わりに安らぎと幸せを与えてくれるのだった。

美琴「………………」

だからこそ彼女は思う。もし………



美琴「(もし……学園都市であいつと出会ってなかったら、私は今頃どうなっていたんだろう……)」



麻琴「ママ」

美琴「………………」ボーッ

麻琴「ママ!」

美琴「……………………」ボーッ

麻琴「ママ!!」

美琴「えっ!? あっ!? な、何っ!!??」

827: 2010/11/10(水) 00:48:32.93 ID:TswECXk0
麻琴「次、この子の手当てお願い」

美琴「あ、ごめん!」

美琴が我に返ると、麻琴が1人の男の子を目の前にズイッと差し出してきた。



「ママ……」



美琴「じゃ、ちょっと痛いけど我慢してね? 男の子だから大丈夫よね?」

顔にいくつか傷を作っている麻琴とは対称的に、足に出来た小さなかすり傷1つだけで目尻に涙を溜めているこの男の子。彼こそが、美琴のもう1人の子供、上条琴麻だった。まだ、5歳である。





琴麻「………うん」グスッ






828: 2010/11/10(水) 00:51:24.58 ID:TswECXk0
美琴「はい、これで終わり」

手当てを終え、美琴はポンポンと琴麻の頭を叩く。

琴麻「うう……グスッ…」

落ち着いていた琴麻の顔が僅かに歪む。

美琴「だから泣かないの。男の子でしょ? じゃ、ママは夕飯の続き作るからね」

琴麻「ううう………」ダキッ

『男の子』という単語に自分の中の感情を不器用にも抑える琴麻。これで終われば男として問題はなかったが、彼もまだ5歳。甘えたい盛りの琴麻は美琴に抱きついていた。

美琴「もう……パパに見られたら笑われるわよ?」

琴麻「ううう……」

美琴「よしよし」ナデナデ

麻琴「我が弟ながら情けないわね。パパとは大違い」

テーブルに着き、宿題をしていた麻琴が溜息混じりに愚痴を吐く。そんな彼女に美琴は、琴麻を抱き締め慰めつつ訊ねた。

美琴「そう言えばまだ聞いてなかったけど、何があったの? また喧嘩?」

麻琴「………うん。公園にいた男の子たちに絡まれて……」

1秒ほど間があったが、麻琴は話し始めた。

美琴「あらまた? そういうところはパパに似てるのね」

麻琴「で、そこで逃げればいいのにその子、挑発しちゃうんだもん」

美琴「挑発?」

眉をひそめる美琴。と言うのも、いつもはいじめられて逃げ帰る琴麻では珍しい対応だったからだ。

麻琴「そ。『僕のママは昔学園都市で第3位の超能力者だったから怖くない』って」

美琴「!」

麻琴「でも、『嘘だ』って言われて殴られて。しかもそこで逃げればいいのにムキになって我慢しようとするから……」

呆れたように麻琴は言う。

829: 2010/11/10(水) 00:55:25.56 ID:TswECXk0
美琴「そうなんだ。でもママのこと自慢したって意味ないでしょ? そういう時は逃げないと」

麻琴「……………………」

琴麻「ううう………」

麻琴「きっと……」

美琴「え?」

と、そこで麻琴が僅かに俯きながら呟いた。

麻琴「きっと、琴麻はママのことが……“ほこり”だったんだと思う」

美琴「……ほこり?」

麻琴「だから…『嘘だ』って言われたのが我慢出来なくて……逃げなかったんだと思う」

美琴「へー……」

感心したような声を上げ、美琴は抱いている琴麻を横目で見る。

麻琴「へぇじゃないよ、ママ」

美琴「ん?」

麻琴「あたしもずっと不思議に思ってたけど、どうしてママはレベル5で第3位の超能力者だったのに、学園都市をやめてきたの?」

美琴「!」

子供らしい、純粋な目で麻琴は美琴に訊ねてきた。対して、美琴はすぐには何も答えない。

美琴「……………………」

麻琴「今だってたまに能力使うのに」

美琴「……たまに、ね。さすがに学園都市の『外』と『中』じゃ事情が違うからそんな頻繁には使えない……って言うか使う必要は無いのかな?」

麻琴「………あたしも……」

美琴「?」

麻琴「あたしもクラスの友達によく言われるの。『本当に麻琴ちゃんのお母さんって学園都市の超能力者だったの?』って」

美琴「…………ふむ」

いつも学校のことは帰宅してすぐ報告する麻琴だったが、それは初耳だった。

830: 2010/11/10(水) 00:59:21.48 ID:TswECXk0
麻琴「ママとパパは学園都市で知り合ったんでしょ?」

美琴「……そうだけど?」

麻琴「なら、わざわざ学園都市から出てくる必要なかったんじゃないの?」

美琴「どういう意味?」

麻琴「だって……だって! 学園都市にいたら、ママはレベル5の超能力者のままだったんだよ? パパとだって学園都市にいた頃に知り合ってたなら、そのままそこで暮らせば良かったのに……」

何かを訴えるように麻琴は考えを口にする。ずっと心の中で秘めていただろうことを。

美琴「もしかして貴女も学園都市に住みたかったの?」

麻琴「!」
麻琴「……そんなんじゃなくて!」

美琴「そんなんじゃなくて?」

麻琴「ただ……ちょっと聞いてみただけ………」

気まずそうに、麻琴は顔を逸らした。

麻琴「ごめんなさい」

美琴「………………」

美琴は麻琴を見つめ何かを考え込む。ややあって、彼女は口を開いた。

美琴「聞きたい? ママが学園都市を離れた理由」

麻琴「え!?」

笑顔で、美琴は麻琴に質していた。

美琴「本当は、麻琴がもうちょっと大きくなった時に話そうかな、って思ってたんだけど……そんなに今聞きたいなら、教えてあげよっか」

832: 2010/11/10(水) 01:03:59.03 ID:TswECXk0
麻琴「ええっ!? あ、う……で、でも!」

美琴「ん?」

麻琴「あ、その……えっと……」

美琴「どうしたの?」

麻琴「………やっぱり、いいや」

それまでの態度とは対称に、麻琴は何故か美琴の申し出を拒否していた。もしかしたら、本当の理由を聞くのが怖いのかもしれない。

美琴「あら? 聞きたかったんじゃないの?」

麻琴「い、いいの! やっぱりいい! ごめんママ! あたし宿題の続きするから!」

身体の前で手を振り、必氏に断る麻琴。

美琴「そう、なら、ママは夕飯の続き作るわね?」

麻琴「う、うん!」

返事をしつつ、既に麻琴は学校から貰った宿題のプリントに目を通していた。
と、その時である。

美琴「あら?」

麻琴「え?」

美琴「この子、寝ちゃってるわ」

クスッ、と小さく笑った美琴は、抱えていた琴麻を麻琴に見えるように後ろを向いた。

琴麻「スー……スー……」

眠っていた。琴麻が、美琴の胸の中で。気持ち良さそうに。

833: 2010/11/10(水) 01:06:24.05 ID:TswECXk0
麻琴「はぁー…もう、甘えん坊なんだから」

美琴「クスッ……貴女だって、たまにはママに甘えてもいいのよ?」

言って、美琴は琴麻をソファの上に寝かし、箪笥から取り出したシーツを被せてやる。

美琴「でも麻琴はお姉ちゃんだもんね。さすがに失礼かな?」

琴麻の寝顔を確認し、キッチンに戻ろうとする美琴。



ガシッ!



美琴「!」

と、そんな彼女のエプロンの紐を後ろから掴む感覚があった。

美琴「………どうしたの?」

振り返り、微笑みつつ美琴は訊ねる。




麻琴「……………抱っこ」




恥ずかしそうに顔を俯けながら、麻琴が呟いた。

834: 2010/11/10(水) 01:09:28.10 ID:TswECXk0
それから小1時間ほど後。

美琴「ふふふん♪ ふんふん♪ ふんふーん♪」

麻琴「えっと……10と20がこうだから……」

琴麻「………zzzzz」

美琴がキッチンで夕飯を作り、リビングで麻琴が宿題をし、琴麻がソファで寝ている時だった。




「ただいまー!」




この家の主人の帰宅を知らせる声が玄関から響き渡った。

麻琴「あ!」

琴麻「!」パチッ

美琴「帰ってきたわね」

宿題を放り出し駆けていく麻琴。いつもの癖なのか、ドアが開く音で起きた琴麻もその後に続く。

835: 2010/11/10(水) 01:11:27.33 ID:TswECXk0
琴麻「パパー!」

麻琴「パパ、お帰りー!」





上条「おーう、麻琴に琴麻! ただいまー!」





嬉しそうに飛び掛ってきた2人の子供を抱き締める彼こそ、美琴の妻にして麻琴と琴麻の父親、上条当麻だった。

上条「今日も良い子にしてたかー?」

美琴「………………」

そんな子供たちの後ろからゆっくりと笑顔で近付く美琴。

上条「!」

彼女を見て、上条が笑みを浮かべる。




美琴「お帰り、当麻」ニコッ

上条「ただいま、美琴」ニコッ





836: 2010/11/10(水) 01:14:28.34 ID:TswECXk0
上条と美琴の部屋にて。

上条「ふぅー……今日の夕飯は何だろうな」


コンコン!


美琴「当麻ー入っていーい?」

上条が着替えていると、ノックの音と共に部屋の外から美琴の声が聞こえてきた。

上条「おうどうした」

美琴「……お疲れ様。もうすぐ夕飯出来るからね」ガチャッ

上条「いつもありがとな、美琴」

美琴「ううん。それより、ちょっと子供たちのことで話があるんだけど……」

上条「話? 何かあったのか?」

少し真剣な顔をした美琴に、上条は眉をひそめた。

美琴「うん。何かあの子たち、公園で近所の子供たちと喧嘩したみたいで……」

上条「え? ……あ、そう言えばあいつら、顔に絆創膏貼ってあったな……。でも、麻琴が理由無しに他の子と喧嘩はしないだろうし、琴麻もそんな性格じゃないだろ」

美琴「それが……ね……」

上条「ん?」

意味深に苦笑いを浮かべつつ、美琴は事の顛末を語り始めた。

837: 2010/11/10(水) 01:17:25.67 ID:TswECXk0
上条「なるほどなぁ……そんなことが」

美琴から話を聞き終え、上条は腕組みをして呟く。

美琴「どうしよう?」

上条「何がだ?」

美琴「あの子に打ち明けるのはもっと大きくなってからの方が良いと思ってたけど……今、話してあげるべきかな?」

上条「………………」

表情からは窺えなかったが、美琴は真剣に悩んでいるようだった。
しばらく考え込んでいた上条だったが、美琴が何らかの答えを求めてきている以上、いつまでも黙ってるわけにはいかなかった。

上条「まあ、俺も……」

美琴「?」

上条「俺も、ずっと隠し通すわけにもいかないと思う」

美琴「そっか……」

上条の意見に、美琴はそれだけ口にする。

上条「ただ、麻琴もまだ子供だ。学園都市で自分の母親がどんな目に遭ったのか。それら全てを聞いてまともな反応でいられるほど、あの子もそこまで精神が成長しきってるとも思えない」

美琴「うん……」

上条「逆に心に深いトラウマを植えつけちまう場合もある」

美琴「………………」

上条「だから、今は時期早尚かもなぁ……」

と、1拍置いて上条は腕組を解き、美琴に顔を戻した。

上条「ただ、似たようなことはまた起こるだろう。その時に、今回みたいに麻琴がお前の過去に疑問を持つようなら………」

美琴「……なら?」

上条「………話したほうがいいかもな」

美琴「……でも、あの子はまだ7歳だよ?」

困惑したような表情を浮かべ美琴は上条に訊ねる。

839: 2010/11/10(水) 01:21:32.61 ID:TswECXk0
上条「分かってる。だけど、いつまでも黙っていられるようなことでもないだろう」

美琴「…………むー…」

上条「ま、とにかく今は様子を見守ろうぜ。な?」

と言って、上条はなるべく美琴に元気を出すように笑顔を見せてみた。

美琴「…………分かったわ。私も、覚悟決めとく」

頷きつつ、美琴はそう答えた。

上条「よし、じゃあ決まりだ」

美琴「………………」

頷き返し、部屋から出ると、上条は振り向きざまに美琴に声を掛けた。

上条「どうしたんだ? 夕飯の時間なんだろ? “ママ”?」

美琴「………うん」

『ママ』と呼ばれ、元気のなかった顔をしていた美琴は、僅かに口元を綻ばせた。

上条「おーい麻琴ー! 琴麻ー!」

麻琴「パパー! 宿題見てー!」

上条「おう、いいぞいいぞ!」

美琴「………………」

台所から聞こえてくる夫と娘の会話を、美琴は耳を澄まして聞き入れる。

上条「そうだ、今度の祝日みんなで遊園地行こうかー」

麻琴「やったー!」

琴麻「わーい!」

美琴「………………」クスッ

小さく笑い、美琴も部屋を出ると台所に向かって歩きながら叫んでいた。

美琴「ほら、夕飯の時間よー!」

840: 2010/11/10(水) 01:25:21.56 ID:TswECXk0
夜。上条と美琴の寝室。

上条「結局子供たち、お前のこと追及してこなかったじゃん」

Tシャツ姿になった上条が、部屋の電気を消しながら言う。

美琴「そうね」

ベッドの上で、下半身だけ布団をかけたパジャマ姿の美琴が同意の声を上げる。

上条「やっぱり、心配する必要はなかったな」

美琴「ならいいけど……」

上条「にしても麻琴はホントお転婆だな。誰に似たんだか」

美琴「あんたでしょ?」

上条「お前だろ」

互いにクスリと微笑み合いながら上条と美琴は2人だけの時間を楽しむ。

上条「琴麻はもうちょっと男っぽくなってくれないもんかな」

美琴「5歳ならあんなもんでしょ。きっと10年後には昔のあんたみたいに手をつけられないようになってるわよ」

上条「おいおいまさか『不幸だー』が口癖になってないだろうな」

美琴「ちょっと、それは洒落にならないでしょ」

上条「うーむ」

腕組をし、2人は悩むように唸る。親としては切実な問題だった。特に、頻繁に不幸な目に遭う上条の血を引いているのならば。
が、今はその話もそこまで重要でもないのか、美琴は話題を切り替えてきた。

美琴「…って、あ! そう言えば思い出したけど、今日イギリスのインデックスから電話があったわよ?」

上条「本当か?」

美琴「うん」

上条「また魔術師が暴れてるとか?」

訊ねながら、上条はベッドに乗る。ちなみにこの夫婦、いつもダブルベッドで一緒に寝ていた。

美琴「あ、そうじゃなくて久しぶりにみんなに会いたいってさ」

上条「そっかー。1年ぐらいあいつらと会ってないもんなー」

842: 2010/11/10(水) 01:29:48.54 ID:TswECXk0
美琴「それに『イギリス清教』には毎月援助金も貰ってるもんね。お礼言わなくちゃ」

上条「たまに助っ人として呼ばれるからな」

実は、上条家は毎月、『必要悪の教会(ネセサリウス)』から援助金を貰っていた。これまで様々な魔術事件を解決してきたことに対するお礼である。
また現在は、昔のような凶悪な魔術師の暗躍は減っていたものの、時折上条がイギリスに呼ばれることがあった。その時も、上条は援助金とは別に協力費を貰っていたのである。

上条「この間は学園都市の一方通行から手紙来たっけなあ」

美琴「そうね。相変わらず素直じゃなかったけど」

上条「でもあいつのお陰で学園都市も大分平和になったようだしな」

美琴「打ち止めも元気そうで何よりだしね」

枕の上で組んだ腕に頭を乗せ、上条は隣に座る美琴と共に、今は遥か遠くにある学園都市に思いを馳せる。

美琴「さすがに黒子が結婚したってのは驚いたけど……」

上条「ああ、あれか。最初は何の冗談かと思ったけどな」

美琴「……………………」

上条「?」

と、急に黙り込んだ美琴を不審に思い、上条は彼女の顔を見上げてみた。

美琴「……………………」

上条「…………また、戻りたくなったのか?」

美琴「………ううん、ちょっと昔を思い出してただけ。大丈夫」

上条「………美琴」

起き上がり、上条は美琴の顔をジッと見る。
もしかしたら彼女は楽しかった学生時代のことを考えているのかもしれない。辛い経験があった場所とは言え、やはり彼女の心のどこかには、今となっては戻れない昔に戻りたい気持ちがあるのだろう。

上条「美琴」

美琴「!」

ヒシッ、と上条は美琴を抱き締める。

上条「………………」

美琴「………………」

やがて彼は身体を離すと、美琴の肩に両手を置き、彼女の顔を見つめた。

843: 2010/11/10(水) 01:33:56.61 ID:TswECXk0
上条「いつも言ってるけど……寂しくなったらいつでも俺に言うんだぞ? 俺が、その寂しさを補えるぐらい、お前を幸せにしてやるからな!」

美琴「………………」

上条「美琴?」

美琴「……………………」

キョトンと聞いていた美琴だったが、やがてその顔に笑みを作った。

美琴「ふふ……やっぱり当麻は頼りになるね……」

上条「当たり前だ! 何たって、俺は美琴の夫だからな!」

美琴「…………私、改めて思うけど、当麻と結婚出来てよかった……」

上条「………それは、俺もだ」

上条美琴「「――――――――」」

顔を近付け、2人は口付けを交わす。

美琴「…………ん」

目をトロンとさせた美琴を見、上条は至近距離で呟く。

上条「…………3人目、そろそろ作っておくか?」

美琴「………………バカ//////」

再び、2人は互いの唇を近付ける。




麻琴「3人目って何?」




上条美琴「「!!!!!!!!」」ビクゥッ!!!

と、その時である。出し抜けに第三者の声が聞こえた。

844: 2010/11/10(水) 01:37:31.89 ID:TswECXk0
上条「ま、ま、ま、麻琴!!!???」

見ると、ベッドの先に麻琴が寝ぼけ眼の琴麻の手を引いて立っていた。

上条「こ、琴麻まで!!??」

美琴「あ、あんたたち寝たんじゃなかったの!!??」

麻琴「うーんと……琴麻が怖い夢見ちゃったみたいで」

何故か慌てふためく両親の様子に首を傾げながらも、麻琴は何故ここに来たのかを説明した。

美琴「そ、そうだったんだ」

琴麻「ママー!」

美琴と目が合うなり、琴麻が泣きべそをかきながらも美琴に抱きついてきた。

美琴「もう……男の子でしょ」

琴麻「今日はママと寝るー!」

美琴「あらら……」

上条「(息子よ……父親と母親のイヤーンタイム直前に突入してくるとは成長したもんだ)」ホロッ

グイグイ

上条「ん?」

と、シャツの袖が引っ張られた感覚を覚え、上条は振り向いた。

麻琴「あたしも、今日はパパとママと一緒に寝たい……えへへ」

麻琴が、恥ずかしそうにそう言っていた。

上条「………………」

美琴「………………」

互いの顔を見合う上条と美琴。

上条「………………」フッ

美琴「………………」クスッ

2人はやれやれ、と言うように苦笑いを浮かべた。

845: 2010/11/10(水) 01:41:24.74 ID:TswECXk0
上条「よーし、じゃあ今日は家族揃って寝るとすっかー!」

美琴「ほら、2人とも、真ん中に来なさい」

琴麻「わーい!」

麻琴「わーい!」ドスッ

上条「ぐふっ!」

嬉しそうに麻琴と琴麻がベッドの中に潜り込んできた。

麻琴「ほっかほかー」

琴麻「ほっかほかー」

上条と美琴に挟まれて横たわった麻琴と琴麻が、キャッキャッとはしゃぐ。

上条「こらー、一緒に寝てもいいけど早く寝なきゃ駄目だぞー」

麻琴「はーい!」

琴麻「はーい!」

美琴「ほら、ちゃんと布団被って」

上条「じゃ、誰が一番早く寝れるか競争なー」

麻琴琴麻「「おー!!」」

美琴「もう、貴方たちってば……」

一家揃って仲良く1つのベッドで眠る上条たち。彼らを見て呆れたように呟く美琴だったが、その顔は満更そうでもなかった。

846: 2010/11/10(水) 01:44:37.82 ID:TswECXk0
次の日。

美琴「じゃ、これお財布だから。落とさないように気を付けてね」

琴麻「うん!」

上条「頑張って来いよー」

この日は日曜日と言うこともあり、上条も朝から家にいた。

美琴「知らない人に声掛けられてもついていっちゃ駄目よ?」

琴麻「うん!」

玄関で、元気良く返事をする琴麻。実は彼は今から始めてのおつかいに出かけるところだったのだ。

琴麻「じゃ、行ってきます!」

上条「行ってらっしゃい」

美琴「行ってらっしゃい……」

バタン!

笑顔で見送る上条とは対称に、美琴はどこか不安げだった。

美琴「…………あの子、大丈夫かしら?」

思わず美琴は心の中で考えていたことを口にする。

上条「なーに、すぐそこだ。大丈夫さ。それに男なら小さいうちからこういうことも経験してなきゃ」

麻琴「そうだよママ。あたしも心配だけど、あの子はあたしの弟だもん。ちゃんと買い物して帰ってくるよ」

美琴「うん……」

上条「さ、麻琴。ゲームの続きでもすっか」

麻琴「おー! 今度こそ負けないからねー!」

上条「何だとこのー」

手を繋ぎ、リビングに戻っていく上条と麻琴。

美琴「……………………」

美琴はしばらくの間、麻琴が出て行った玄関のドアを心配そうに見つめていた。

847: 2010/11/10(水) 01:48:07.86 ID:TswECXk0
それから30分後のことである。

上条「あー負けたっ! 強くなったなぁ」

麻琴「えっへへー! パパ、パターン化し過ぎ! 本当に昔は魔術師や超能力者たちとガチでバトってたの?」

上条「ほ、本当だよ! 何だよその疑いの目は!?」

麻琴「だってー」クスクスクス

美琴「………………」

上条と麻琴がテレビゲームに興じ、その側で美琴が洗濯物を畳んでいる時のことだった。麻琴が不意に言った。

麻琴「ねえ、そう言えば琴麻、ちょっと遅くない?」

上条「え?」

訊ねられ、壁に掛けられた時計を見る上条。

上条「確かに……ちょっとそこまで買い物に行くにしては時間が掛かってるな」

美琴「!」

美琴の手が止まり、一気に顔が蒼くなった。

美琴「ま、まさかあの子に何かあったんじゃ……」

麻琴「えええっ!?」

上条「……い、いや待てよ。初めてのおつかいなんだ。少し時間かかってんだよきっと」

美琴「でも!」

麻琴「…………、」

今すぐにでも立ち上がり、外に出て行きそうな勢いの美琴。横では麻琴が上条と美琴の会話を交互に聞き入っている。

上条「とにかく落ち着け。俺がちょっとすぐそこまで見てくるからさ」

美琴「なら私が行くわ!」

麻琴「あ、あたしも!」

上条「あーもう、じゃあ全員で行くぞ!」

頭を軽くクシャっとかき、上条は2人にそう告げる。頷き、美琴と麻琴が立ち上がった。

848: 2010/11/10(水) 01:52:35.22 ID:TswECXk0
その時だった。


ガチャッ!


玄関からドアが開く音が聞こえた。次いで、

琴麻「ママー!」

と言う叫び声と共に、琴麻が走りながらリビングに入ってきた。

上条「琴麻!」

美琴「ど、どうしたの?」

ガシッ、と琴麻は立っていた美琴に抱きつく。

琴麻「ううう……」

どうやら泣いているようである。

美琴「何かあったの? 泣いてちゃ分からないわよ?」

麻琴「あんた、買い物はどうしたの? 袋も何も持ってないけど」

琴麻「うう……グスッ」

母と姉に訊ねられ、琴麻は1度目を拭うとボソボソと話し始めた。

琴麻「公園で……グスン」

美琴「公園で?」

琴麻「昨日のいじめっ子に会って……」

麻琴「!!!!」

躊躇いつつも喋った琴麻の言葉に、上条と美琴は顔を見合わせる。

美琴「そう……じゃあまだ買い物は済んでないのね?」

琴麻「…………」コクッ

上条「まさか財布を取られたりしてないだろうな?」

琴麻「…………」

ゴソゴソとポケットを探る琴麻。彼が取り出したのは、デフォルメされたキャラクターが刺繍された子供用の財布だった。

850: 2010/11/10(水) 01:56:05.09 ID:TswECXk0
美琴の手作りの財布だった。よっぽど大事な物だったのか、琴麻はそれだけは守り通したようである。

美琴「そう……良かった。……じゃあ、今日は残念だけど、お買い物は次の機会にしよっか」

琴麻「…………うん」

慰めるように美琴は琴麻の頭を撫でる。

上条「ジュースでも飲むか?」

琴麻「………うん」

上条と美琴は優しい口調で琴麻に話しかける。が、しかし、この状況に納得出来ない者が1人いた。



麻琴「待ってよ」



上条美琴「「え?」」

ボソッ、と麻琴が呟いた。

麻琴「琴麻、あんたまた殴られたんでしょ? 隠してもあんたの顔見てれば分かるわよ?」

琴麻「!」

上条美琴「「ええっ!?」」

思わず、上条と美琴は琴麻の顔を見る。

美琴「そうなの琴麻?」

琴麻「う………」

上条「琴麻?」

美琴に抱きつきながら、琴麻は涙を浮かべた顔で麻琴を見返す。彼は、麻琴の問いに肯定も否定もしない。
だが、

麻琴「やっぱり……」

麻琴は見破っていた。

麻琴「琴麻、あんた何か言われたんでしょ? それでそこで逃げればいいのに、また意地張って我慢し続けたんでしょ?」

ズイッと麻琴が琴麻に近付く。

851: 2010/11/10(水) 01:59:48.05 ID:TswECXk0
麻琴「どうなの?」

琴麻「…………あぅ……」

上条「………………」

美琴「………………」

上条と美琴が2人の様子を見守る。やがて琴麻は、嗚咽を漏らし、喉をヒクヒクさせながら答えた。

琴麻「………ママのこと……ヒグッ」

美琴「?」

琴麻「……ママが……学園都市の……グスッ……第3位だったってこと……嘘だって言われたから………」

美琴「!!!」

琴麻「ああああああああああああああん!!!!!!」

それだけ言い終えると、琴麻はまた美琴に抱きつき泣き始めた。

上条「そっか。そんなことがあったんだな……」

美琴「………でも、大丈夫よ? ママはそんなこと気にしてないから。だからほら、泣き止んで……」

琴麻「ううっ……グスン」

落ち着かせるように、美琴は琴麻の頭を撫でる。


麻琴「………せない」


上条美琴「「えっ?」」




麻琴「許せない!」




麻琴がそう叫んだ瞬間だった。彼女は踵を返し、リビングから出て行こうとしていた。

上条「ちょっと待て! どこへ行く気だ!?」

が、その前に何かを察したのか、上条が彼女の腕を掴んでいた。

852: 2010/11/10(水) 02:05:55.20 ID:TswECXk0
麻琴「放してよパパ!!」

上条「何するつもりだ!?」

麻琴「決まってるでしょ!! いじめっ子たちに謝ってもらうのよ!! 琴麻を殴ったことを、ママをバカにしたことを!!」

美琴「!!」

顔だけ後ろに振り向かせつつ、麻琴は叫ぶ。上条が腕を掴んでいなければ今にも暴走しそうな勢いだった。

上条「………やめるんだ! そんなこと、ママは望んじゃいない!!」

美琴「………………」

麻琴「どうして!?」

上条「!」

上条の腕を振り払い、麻琴は美琴に向き直る。

麻琴「だって本当なんでしょ!? ママが学園都市で第3位の超能力者だったって!」

美琴「………………」

麻琴「なら何で言い返さないの!? おかしいよ!!」

上条「麻琴」

麻琴「それとも嘘なの!? ママが超能力者だったのは!?」

美琴「……………………」

麻琴「違うでしょ!? ママがあたしに嘘つかないって知ってるもん!!」

上条「麻琴!」

麻琴「だったら、何で言い返しちゃいけないの!? ……そもそもママもおかしいよ!!」

美琴「!」

麻琴「嘘じゃないなら、どうして周りの人に超能力者だったことを隠そうとするの!? どうして学園都市を辞めてきた理由について何も話してくれないの!!??」

上条「麻琴、いい加減にするんだ!」

麻琴「あたしはママがバカにされてるのを、黙って見過ごすことなんて出来ないの!!!!」

ダッ!

上条「あっ!」

853: 2010/11/10(水) 02:09:20.64 ID:TswECXk0
文字通り、あっという間に、麻琴は走り出していた。

上条「麻琴!!」

上条が追いかけようとした時には、既に玄関のドアは閉まった後だった。

上条「……あいつ……」

溜息を吐く上条。

上条「………やれやれ……昔のお前にそっくりだな」

美琴「………ごめんなさい」

上条「何でお前が謝るんだ?」

美琴「だって………」

上条「………………」

俯き、黙り込む美琴。

上条「とにかく、俺はあいつを追いかけるから、お前はここで琴麻と一緒にいろ。いいな?」

美琴「……………うん」

上条「じゃ、すぐ戻るから」

小さく頷いた美琴を見、上条はリビングを出て行った。

ガチャッ…バタン!

玄関のドアが閉まる音が後に続く。

美琴「……………………」

琴麻「ママ………」

急に口を閉じた美琴を、心配するように琴麻が見上げてきた。

美琴「………大丈夫よ。ママは……」

琴麻「………………」

笑顔を見せる美琴。だが、その笑顔にはどこか辛い表情が混じっていた。

854: 2010/11/10(水) 02:13:27.51 ID:TswECXk0
上条「ハァ……ゼェ!」

一方上条は、家を飛び出した麻琴を見つけるため、近所を走り回っていた。

上条「どこだ……どこにいる麻琴……?」



   ――「嘘じゃないなら、どうして周りの人に超能力者だったことを隠そうとするの!? どうして学園都市を辞めてきた理由について何も話してくれないの!!??」――



上条「(違うんだ麻琴! お前のママは……美琴は昔……っ!)」

と、その瞬間である。



キィ



上条「!」

僅かに、甲高い音が聞こえた。咄嗟に上条がその音がした方を見る。

上条「公園……」

近所でも大き目の公園が目の前に広がっていた。

上条「(そういや琴麻が公園でいじめっ子に会ったって言ってたっけ)」

キィ……

上条「………………」ザッ

ゆっくりと、公園に入っていく上条。すると……

キィーコ…

麻琴「………………」

と、音を鳴らせながら、ブランコに座る麻琴の姿があった。

855: 2010/11/10(水) 02:16:21.28 ID:TswECXk0
麻琴「………………」

上条「麻琴!」

麻琴「!」

不意に聞こえた上条の声に、麻琴が顔を上げる。

上条「………駄目じゃないか、勝手に家を出て行ったら」

麻琴「パパ……」

上条が近付いてきても麻琴は逃げようとしない。心なしか、彼女はどこか落ち込んでいるように見えた。

上条「………いじめっ子たちは?」

腰を降ろし、上条は麻琴と同じ目線になってなるべく優しく話しかける。

麻琴「………逃げられちゃった……」

上条「………そっか」

麻琴「ごめんパパ……。あいつらに謝れって言っても何も聞いてくれなかった……。それどころか、地面に倒されてそのままどこかに行っちゃって……」

上条「………………」

ギュッ、と麻琴のブランコのチェーンを握る力が強まる。

麻琴「あたし……! あたしはただ……ママが……! ママがバカにされたことが……許せなかったの!!」

上条「……………………」

麻琴「ママがあたしに嘘をつくはずないから……。だから、ママが昔、学園都市第3位の超能力者だったってことも……信じてる!!」

上条「うん………」

麻琴「なのに!」

上条「!」

と、そこで俯いていた麻琴が上条に視線を据えて叫んでいた。

麻琴「なのにどうして!? どうしてママはそのことになるといつも口を閉ざしちゃうの!? どうしてもっと自分が超能力者だったってこと自慢しないの!!??」

子供らしい純粋な疑問がつまった『どうして』。彼女は目にうっすらと涙を溜めながら、上条に問い詰めていた。

856: 2010/11/10(水) 02:19:46.82 ID:TswECXk0
上条「……………………」

麻琴「………………グスッ」

しばしの沈黙の後、上条は口を開いた。



上条「分かった」



麻琴「えっ?」

上条「本当は……もっとお前が大きくなった時に話そうとしてたんだが……これ以上、お前に隠しておくのも限界だな」

麻琴「……………?」

上条の言葉に、麻琴が首を傾げる。

上条「話してやるよ……。ママに……美琴に昔、何が起こったのか………」

麻琴「!!」

言って上条は麻琴の横のブランコに腰を降ろす。

上条「今思うと、あれが無かったら俺も美琴と一緒になれず、お前たちもこの世に生まれてなかったのかもしれない」

麻琴「…………」ゴクリ

遂に父親の口から語られる母親の真実。麻琴は、事の顛末を話し始めた上条の言葉に、深く耳を傾けた。

858: 2010/11/10(水) 02:22:38.23 ID:TswECXk0
その頃、美琴は………

美琴「(あの2人、確かこの付近にいるはずだけど……)」

琴麻「………………」

家を飛び出した上条と麻琴が気がかりだったのか、琴麻を連れて家を出てきていた。

美琴「………………」



   ――「嘘じゃないなら、どうして周りの人に超能力者だったことを隠そうとするの!? どうして学園都市を辞めてきた理由について何も話してくれないの!!??」――



美琴「………っ」

ズキッ、と胸に痛みを感じる美琴。

美琴「(……ごめんね、麻琴……私、怖かったのよ……本当のことを打ち明けたら、貴女にも嫌われるんじゃないかって………)」

目を閉じ、胸に腕を添え、美琴は胸中に思う。

琴麻「…………」グイグイ

美琴「ん?」

ふと、手を繋いでいた琴麻が腕を引っ張ってきた。

美琴「どうしたの?」

琴麻「………あれ」

前方を指差す琴麻。

美琴「あ……」

数m先の公園。その奥に設置されたブランコに、上条と麻琴が横に並んで座っているのが見えた。

859: 2010/11/10(水) 02:26:39.93 ID:TswECXk0
上条「以上が、美琴……ママに起こったことの全てだ」

麻琴「そ……そんな……ママに……そんなことが……」

目を丸くし、上条の顔を驚いたように見る麻琴。

上条「………全て、事実だ」

何故、学園都市第3位の超能力者だった美琴が上条と共に学園都市を去ったのか。上条は、自分が美琴と共に見た全てを、経験した全てを、余すことなく麻琴に語った。

麻琴「………じゃ、じゃあ……学園都市に住む人全員が……ママを……殺そうとしたの?」

上条「……そうだ」

手を震わせながら訊ねる麻琴に、上条は嘘偽りなくはっきりと答える。

上条「だからもう、ママは二度と学園都市には戻れないんだよ……」

麻琴「……そんなっ……」

上条「学園都市でできた後輩も、友達も、知人も……そして思い出も、今のママには取り戻したくても絶対に取り戻すことが出来ないんだ……」

麻琴「………ママが………」

上条「ママが普段からあまり能力を使わないのも、その嫌な過去を思い出しちゃうからなんだよ………」

麻琴「ママ………」

ショックを受けたように、麻琴は顔を俯かせる。
その時である。




美琴「当麻……? 麻琴……?」




上条麻琴「「!」」

声がした方に顔を向ける上条と麻琴。

美琴「ここにいたのね……」

そこには、琴麻の手を引いた美琴が心配そうな表情を浮かべて立っていた。

860: 2010/11/10(水) 02:30:26.70 ID:TswECXk0
上条「美琴……」

麻琴「ママ………」

現れた母親の姿を見、麻琴がボソッと呟く。

美琴「…………」チラッ

上条「…………」チラッ

美琴は上条と視線を交わす。それだけで彼女は理解した。

美琴「(全部……話したのね)」

上条「(ああ……)」コクッ

麻琴「ママ……!」

美琴「麻琴……」

麻琴「ママ! ママ! ママっ!!」

麻琴の目尻に涙が溜まっていき、彼女の口がへの字に結ばれる。
そして………

麻琴「ママああああああああああっ!!!!!!!!!!」

限界だった。

麻琴「ママぁっ!!!」

美琴「!」

気付くと、麻琴はブランコから降り、思いっきり美琴に抱きついていた。

麻琴「ママああああああっ!!!! ごめんなさい!!! ううっ……あんな酷いこと言っちゃって!!!」

美琴「麻琴……」

涙で顔をクシャクシャにしながら、麻琴は美琴にしがみつき、謝罪の言葉を搾り出す。

麻琴「あたし! あたしっ!! ママのこと『おかしい』とか言っちゃった!! ママにきつく当たっちゃった!! ママは……ママはただ……酷い目に遭って……昔のことを思い出したくなかっただけなのにっ……!! うわああああああん!!!!」

美琴「………………」

琴麻「…………?」

自分の腰に手を回しひたすら泣き叫ぶ麻琴をジッと見つめる美琴。側では美琴の手を握っている琴麻がその様子をキョトンと眺めている。

861: 2010/11/10(水) 02:33:25.11 ID:TswECXk0
麻琴「ごめん……なさいっ……グスッ」

上条「………………」

麻琴「ううっ……グスッ……ヒグッ……」

美琴「いいのよ、麻琴」

麻琴「!」

ポンと、麻琴の頭に美琴の優しくて柔らかい手が置かれた。

麻琴「………えっ?」

顔を上げる麻琴。

美琴「………ママは……そんなことは気にしてないから……」

麻琴「でもっ……!」

琴麻「?」

美琴「………………」フルフル

と、そこで美琴は首を横に振り、静かに琴麻の手を離すと、麻琴と目線が合うように腰を降ろした。

美琴「それに、ママは今が幸せだからいいの……」

麻琴「今が……幸せ?」

美琴「うん。……パパがいて、琴麻がいて、そして麻琴がいて、3人一緒で仲良く暮らしてる……。これだけでもう、ママは幸せなの」

麻琴「……………、」

美琴「麻琴や琴麻がこれからどんな風に成長していくのかも、とても楽しみ……」

琴麻を、次いで美琴を順に見てニコッと微笑む美琴。

美琴「だから……貴女たちに泣かれるのが一番、辛いのよ」

麻琴「!」

言いつつ、美琴は麻琴の髪をかき分けるように優しく撫でた。

862: 2010/11/10(水) 02:36:26.09 ID:TswECXk0
美琴「寧ろ今まで、ママの昔のこと、隠しててごめんね」

麻琴「ママ……」

美琴「ほら、泣いてちゃ駄目でしょ? いつもみたいに、可愛い笑顔を見せてちょうだい」

麻琴「ママああああああああああ!!!!!!」

ガバッと麻琴が美琴に抱きついた。

美琴「あらあら……お姉ちゃんでしょ? 琴麻が見てるわよ?」

琴麻「…………」ポケー

麻琴「ママああああああああ!!!! うわああああああん!!!!」

美琴「よしよし……」

優しく、自分に抱きつく麻琴の背中を撫でてやる美琴。

麻琴「ううっ……グスッ……」

美琴「………………」

やがて麻琴は1分もしない内に泣き止んだ。

美琴「落ち着いた?」

麻琴「………グスッ…うん……」

美琴「そう……じゃあ笑顔は?」

麻琴「…………グスッ……」ニコッ

涙を拭い、満面とは言えないものの、麻琴はその小さな顔に笑みを浮かべた。

美琴「おりこうさん」

優しく、細い、柔らかい手で麻琴の頭を撫で、美琴も笑みで返した。

ポンッ!

麻琴「!」

と、今度は麻琴の頭を、優しく、大きい、力強い手で叩く感触があった。振り返る麻琴。

上条「………………」

小さく頷き、美琴と同じく笑顔を見せる上条の姿があった。

864: 2010/11/10(水) 02:41:21.42 ID:TswECXk0
麻琴「パパ……」

上条「………………」

美琴「………………」

目が合う上条と美琴。2人は無言で見つめ合う。もう、これ以上の心配はいらない、と言うように。

美琴「さて………」

立ち上がる美琴。

美琴「麻琴」

麻琴「はーい」

美琴「琴麻」

琴麻「なぁにママ?」

自分の家族の顔を順に見、美琴は彼らの名前を呼ぶ。

美琴「当麻」

上条「何だ、美琴?」

美琴「帰ろっか!」





上条麻琴琴麻「「「うん!!!」」」





美琴の言葉に、3人は同時に答えていた。

866: 2010/11/10(水) 02:44:42.01 ID:TswECXk0
上条、琴麻、麻琴、美琴と仲良く手を繋ぎ家路に着く親子4人。

麻琴「今日の晩御飯なにー?」

美琴「何がいい?」

麻琴「あたしシチュー!」

琴麻「僕カレー!」

上条「俺肉じゃがー!」

美琴「もう、みんなバラバラじゃないの」

麻琴「じゃあママは何がいいの?」

美琴「うーんと……お肉とか?」

麻琴「それじゃ、全部混ぜちゃおうよー!」

琴麻「まぜまぜー!」

上条「お、それは名案だな! 面白そうだし!」

美琴「ええー!? ……まあ、工夫してみるけど」

上条麻琴琴麻「「「やったー!!!」」」

夕日に照らされた彼らの姿が、1つに連結した長い影を道路に作り出す。

867: 2010/11/10(水) 02:49:31.64 ID:TswECXk0
麻琴「あ、そうだ! パパ! ママ! あの話聞かせてよ!」

上条「あの話?」

麻琴「パパとママの“なれそめ”話ー」

上条「ブッ! またそれかよ!」

美琴「もう、ホントそういう話が好きねー」

   



   ――これで、私の話は取り敢えずここでおしまい――





麻琴「聞かせてー!」

琴麻「聞かせてー!」

上条「ハァ……どうしますか美琴さん?」

美琴「ま、拒否する理由もないでしょ」





   ――『弧絶術式』を掛けられたことが結果的に良かったのか悪かったのか、それは分からない――






868: 2010/11/10(水) 02:53:20.79 ID:TswECXk0
麻琴「やったー!」

琴麻「やったー!」

美琴「えっと……あれはね……私が14歳の頃…学園都市の常盤台中学にいた時のことね」

麻琴琴麻「「おー!!」」





   ――麻琴に真実を全て話した夜、当麻は私に言った…『弧絶術式を発動した魔術師は、こうなることを予測して魔術を発動したのかな』って――





美琴「ある日、不良に絡まれてた時に、そこのバカが無謀にも割り込んできて……」

上条「ちょっ! バ、バカってなんすかバカって! 





   ――私は『まさか、そんなわけないでしょ』って笑って返したけど、当麻はどこか有り得ないとは言い切れないって顔をしてた――





上条「あー上条さんの黒歴史が暴かれていくー!」

美琴「何が黒歴史よバカ」

上条「冗談ですって! 黒歴史っつーか俺と美琴のラブラブストーリーだもんな?」

美琴「なななななななな//////」

麻琴琴麻「「………………」」ニヤニヤ

美琴「ちょっ、ちょっとあんたたち! 何ニヤついてるの!?//////」

869: 2010/11/10(水) 02:56:36.96 ID:TswECXk0





   ――今となっては真相は分からない。だけど、これだけは断言出来る。私は……当麻、麻琴、琴麻の3人と共にこれからも未来に向かってずっと一緒に暮らしていくことが。そして………――





上条「………………」ニヤニヤ

美琴「あんたも何笑ってんのよ!!//////」

麻琴「それでそれで?」

琴麻「それでそれで?」

上条「それでそれで?」

美琴「ハァ……ったく…まあ、それでね……」







   ――今の私は、間違いなく幸せだってことが―――







美琴「それが、私と当麻の初めての出会いだったのよ……」







                                    ~終わり~

870: 2010/11/10(水) 02:57:10.75 ID:TswECXk0
>>1です。
以上で 上条「二人で一緒に逃げよう」 美琴「………うん」 は終わりとなります。
王道上琴、究極の上琴を目指したつもりですが、如何だったでしょうか。
最後まで書き溜めしてなかったことを理由にするつもりはありませんが、
多くの矛盾点やご都合主義については申し訳ありませんでした。すいません。
今日はもう寝ますが、明日残ってたらまた来るかもしれません。
それじゃみなさん、今までありがとうございました!お疲れ様ですm(_ _)m

871: 2010/11/10(水) 02:57:12.37 ID:HrXiJ8Mo
乙!

872: 2010/11/10(水) 02:57:49.23 ID:WnqOZUco
読了!

引用元: 上条「二人で一緒に逃げよう」 美琴「………うん」【3】