307: ◆.ISTbLb.gQ 2014/08/21(木) 02:39:11.51 ID:mu7BXSWzO

神峰翔太が幻想入り【前編】

にとりの依頼から一週間程経った。
この一週間は村人達から依頼された仕事に忙殺されたおかげで、資金も無駄遣いする事なく順調に貯まってきている。

神峰「なんか、人里に来てからあっという間に一週間経ったな……」

一週間してようやく依頼を消化しきって一段落ついた現在、神峰は久しぶりに得た自由を堪能するように、外へと足を運んでいた。

神峰「なんつーか……怯えずに街を歩くなんて久しぶりだな……地底だって馴れたのは最後の一週間くらいだったしな」

そうつぶやきながらも、足は自然と掲示板へと向かう。依頼が来ていないかの確認をするためだ。
人里の地理の無い神峰は、どこで仕事をするのか口で言われてても分からないため、にとりの模倣と掲示板の確認も兼ねて、掲示板の前にて待ち合わせをする事にしていた。
東方Project二次創作シリーズ 早苗さんは家出中! (電撃コミックスEX)
308: 2014/08/21(木) 02:39:49.99 ID:mu7BXSWzO
神峰(昨日までスゲェ忙しかったけど、ようやく落ち着いたな。まさか朝昼晩に分けて依頼されるなんて考慮してねェよ……)

神峰「さすがに一日何もしねェのはアレだから……何か依頼請けとくか。つってもチラシ増えてねェけど……」

神峰「すぐに終わりそうな献血でもやるか……? でも明らかに食用なんだよな……」

慧音「神峰! いい所に! 今、空いてるか?」

掲示板を確認していると慧音から声がかかる。どうやら神峰を探していたらしい。

神峰「ええ、今日は特に予定はねェスけど……、なんスか?」

慧音「おお! それは好都合だ! 」

慧音「お前、先週かなり目立っただろ? 突然現れた外来人が、たった一日で里の皆の心を掴んだというのが話題になっていてな……」

慧音「阿求にお前を知り合いだと話したら、是非一度会ってみたいと頼まれてしまって……頼まれててくれるか?」

どうやら騒ぎの本人と知り合いだという事で好奇心が煽られたらしく、慧音は会わせて欲しいと頼まれたようだ。

309: 2014/08/21(木) 02:40:55.36 ID:mu7BXSWzO
神峰「阿求? どっかで聞いた事あるような……? 会うのは別に構わないスよ? 今からスか?」

慧音「すまないな、助かるよ。じゃあついて来てくれ」

いきなりすまない、と言いながら、二人は掲示板を後にして稗田邸へと移動を始めた。



神峰「お? なんだアレ?」

稗田邸へと移動している最中、神峰は小さな人集りを見つけて興味を持つと、それに気付いた慧音が口を開く。

慧音「アリスが人形劇をしているな。定期的に人里に来て人形劇を見せてくれるんだよ」

神峰「へぇー……」

確か人形を使う魔法使いだったよなと、頭の中のアリスの知識を検索しながら神峰は、どんな人なのかとアリスの顔に目を遣る。

神峰「───!」

慧音「どうかしたか?」

アリスを見たあとの神峰の様子を怪訝に思い、慧音が訊ねる。

神峰「……いえ……なんて言ったらいいか分かんねェスけど……。あの人を見たら───」

言い様のない宿命のようなモノを感じた───、そう言葉にしようとした所で、慧音が何か勘違いした様子でニヤニヤと笑った。

慧音「そうかそうか! アリスが気になるのか! まあアリスは可愛いからな! 」

神峰「えっ? あの──」

慧音「そうだ! せっかくだから人形劇を見て行こうか! こちらが一方的にお前を誘ってしまったからな、劇が終わったらアリスに紹介してやろう!」

神峰「スゲェ勘違いされてる気がするんスけど!!」

にやけながら慧音は話を進め、神峰の言うことは聞こえていないようだ。
結局慧音に押されるまま、二人で人形劇を鑑賞した。

310: 2014/08/21(木) 02:41:51.46 ID:mu7BXSWzO
………




神峰(フツーにスゴかった……。人形ってあんな動き出来たんだな……)

さすが魔法使いというべきか、操り人形のような劇を想像していた神峰は目から鱗が落ちた気分だった。
何と言うか……スタイリッシュというか、ヌルヌル動くのだ、人形が。その滑らかな動きに見惚れて、気付けば劇が終了していた。

慧音「どうだった? アリスの劇は」

神峰「スゲェ良かったス!! あんな動きが出来る人形なんてあるんスね! しかも一度に複数も動かせるなんて!」

慧音「アリスは七色の人形遣いと言われるほどの術者だからな、器用さも幻想郷随一だ」

はしゃぐ神峰を微笑ましく見ながらアリスの事を教えた後、慧音は目が合ったアリスに声をかけた。

311: 2014/08/21(木) 02:42:39.80 ID:mu7BXSWzO
慧音「おーい! アリス!」

アリス「あら、貴女が私の劇を見てくれるなんて珍しいわね」

慧音に呼ばれてこちらへ向かいながらアリスは会話をする。

慧音「道中にお前が劇をしていたから寄り道だよ。神峰にお前を紹介してやろうと思ってな」

アリス「神峰……? ああ、例の外来人ね。……というか彼に私を? 逆でしょう? 私に彼を紹介するんじゃないの?」

アリスの疑問に、慧音はニヤニヤしながら間違っていないと答える。

慧音「いや、何も違わないさ。ほら神峰、名前くらいは覚えてもらっておけ」ニヤニヤ

神峰「……神峰翔太ッス。なんか慧音先生が誤解してるみたいなんスけど……」

アリス「誤解? よく分からないけど、よろしくね。私はアリス・マーガトロイドよ」

慧音にニヤニヤと見守られながら自己紹介を済ます二人には、慧音の意図がよく分からなかった。

慧音「うん、二人とも仲良くするんだぞ?」

312: 2014/08/21(木) 02:44:06.03 ID:mu7BXSWzO
満足気に頷く慧音の表情には、良い事をすると気持ちが良いと書かれていた。

アリス「……もういいかしら? 劇も終わったし帰りたいんだけど」

神峰(あ、この人俺と似たカンジがする)

慧音「ああ。わざわざ付き合ってくれてありがとう」

いそいそと帰り支度をするアリスに親近感を覚える神峰と、どこか達成感を感じさせる顔をした慧音は、アリスと別れて稗田邸へと向かった。

313: 2014/08/21(木) 02:45:08.32 ID:mu7BXSWzO
【稗田邸】

稗田家に着くと、慧音は阿求に会いに来たと使用人に伝え、阿求の下まで案内してもらった。

阿求「ようこそいらっしゃいませ。貴方が神峰翔太さんですね」

襖を開けて慧音と共に入ってきた神峰の姿を確認した阿求は、笑顔を作って神峰に挨拶した。

阿求「初めまして。私は稗田阿求と申します。本日は私の我儘をきいて頂いてありがとうございます」

神峰「いえ! こちらこそこんな大きな屋敷に呼んでもらって……! 」

阿求の畏まった態度に釣られて神峰も思わず畏まり、慧音と一緒に阿求の対面に座る。
その様子をクスクスと笑いながらも阿求は続ける。

阿求「私は普段は妖怪に関する書を纏めているので、人間を相手に取材をするという事は少ないのですが、一日で里の皆さんの心を掴んだ貴方に興味が湧きまして……」

神峰「はあ……」

阿求「何でも、心を掴む程度の能力をお持ちだと聞きました」

314: 2014/08/21(木) 02:46:16.63 ID:mu7BXSWzO
阿求の口ぶりから察するに、慧音が話したのだろう。

阿求「その能力で、初対面の慧音さんの心をガッチリ掴んだとか!」

慧音「!?」

悪戯っぽく笑いながら話す阿求の言葉に、黙って二人のやり取りを見ていた慧音が反応する。

慧音「おい! 話に尾ひれが付いてるぞ!」

神峰「慧音先生の心は掴んでねェスよ? 心を掴まれたのは包丁を買ってくれたお客さんくらいスから」

顔を赤くして阿求に詰め寄る慧音の隣で、そのままの意味で受け取った神峰がさらりと訂正すると、それを聞いた阿求が不思議そうに訊ねる。

慧音「……」

阿求「心を掴まれた? 自分の意思で心を掴めるような能力ではないのですか? まるで結果的に掴まれるような物言いですね」

慧音「能力は自己申告だから、そういう能力としておきたい事情でもあるんだろう」

阿求「しかし折角来て頂いたのですから、どういう能力なのか詳しく聞かせて頂きたいですね。そもそも心を掴む、というのも漠然としていて実体が見えませんし」

315: 2014/08/21(木) 02:47:04.39 ID:mu7BXSWzO
神峰「……正直、この目の事はあんまり話したくねェスけど……」

阿求「心を掴むのに、目……?」

神峰の言葉を耳聡く拾って反応する阿求に割り込んで、慧音がフォローを入れる。

慧音「言いたくないなら無理に言う必要は無いぞ? 幻想郷の妖怪達だって自分の能力を全て明かしていないヤツもいる。さっきも言ったが、能力は自己申告性だからな」

それを聞いた神峰もハッと何か思い出したように……



神峰「そういえば、幻想郷縁起にもそういう事書いてあったっけ」



その呟きで、一瞬の沈黙が生まれる。

慧音「神峰……お前、幻想郷縁起、持ってたのか?」

意外そうな顔をして慧音が訊いてくる。

慧音「いつ買ったんだ? すぐに忙しくなっていた気がするが……とても読む時間なんて無かっただろう?」

神峰「ああ、オレが手に入れたのは正月だったんで。それから人里に来た初日までに読みました」

慧音「なるほど、予め知識を付けてから人里に来たんだな」

316: 2014/08/21(木) 02:47:48.54 ID:mu7BXSWzO
予習をして行動するとは感心だ、と納得する慧音だが、その正面にいる阿求は顔を伏せて体を震わせていた。

神峰「あの……どうしたんスか……?」

阿求の心がチリチリと音を立てるのを聞いて、ただならぬ気配を感じ取った神峰が、ビクつきながら訊ねる。

阿求「ふふふふふ……、そうですか……。盗っ人は貴方でしたか……」

神峰「盗っ人!? ───あ! 掲示板のチラシ! 阿求さんって幻想郷縁起の著者だったんスね!」

神峰の中でバラバラだったピースが物凄い速さで組み立てられてゆく。

阿求「なるほど……本来存在し得ない時間に盗みを働いて、時間が経った後に現れて里の者の心を掴んでアリバイを作り、潔白を証明する……」

阿求「見事な手口です」

神峰「え? えっ?」

パチパチと拍手を鳴らす阿求。しかし次の瞬間、鋭い眼光で神峰を捉える。

阿求「しかし残念でしたね……飛んで火に入る夏の虫と言いましょうか、棚からぼた餅でしょうか?」

慧音「お、おい……阿求……?」

阿求「こんな所でボロを出すとは、貴方も間が悪いですね! さあ、神妙にお縄につきなさい!」

立ち上がってビシッと神峰を指差して、行儀悪く片足を机に乗せて言い放つ阿求に呆気に取られる二人。

317: 2014/08/21(木) 02:48:28.80 ID:mu7BXSWzO
慧音「お……おい、どうしたんだ?」

阿求「私の家から書が一冊盗まれたのが正月です。慧音さんもご存知ですね?」

慧音「ああ……」

阿求「そして神峰さんが書を手に入れたのも正月。……偶然だと思いますか?」

ここで濡れ衣を着せられそうになっている神峰が必氏に弁明を試みる。

神峰「誤解ス! オレは五日まで地底に居たから、人里で物を盗むのは不可能なんだよ!」

阿求「おや、それを証明出来る方はいるのでしょうか?」

神峰「お燐かこいしが地上に来てたら───」



───さっき地上で貰って来たの。はい、あげる!───



言いかけて、フラッシュバックするこいしの言葉。

318: 2014/08/21(木) 02:49:54.14 ID:mu7BXSWzO

神峰「こいしィーーーーー!!!!!」

謎は全て解けた。

慧音阿求「「!?」」ビクッ

突然大声を上げた神峰にビクリと体が跳ねる二人。

神峰「……阿求さん……スミマセン……。オレじゃねェスけどオレも同罪でした……」

阿求「え? ……ああ、ハイ」

元気良く声を上げたと思えば、今度は力無く喋る神峰に困惑する阿求。

神峰「オレが持ってるのは正月に、地上に行く餞別でこいしって妖怪に貰った物なんスけど、まさか盗んできた物だったなんて知らなくて……」

神峰「代金払ったら許してくれるスか……?」

涙目で訴える神峰に、阿求はふむ、と考える。

阿求「こいしさん……古明地こいしさん? 確か無意識を操る妖怪でしたね。なるほど……無意識ならば仕方ありませんね」

神峰「じゃあ───!」

無意識なら仕方がないとはどういう理屈なのかよく解らないが、許して貰えそうな雰囲気に神峰の表情が晴れる……が、




阿求「 な ん て 言 う と で も 思 い ま し た か ? 」



神峰「ゴメンなさい!!」

319: 2014/08/21(木) 02:51:05.45 ID:mu7BXSWzO
ニッコリ笑って凄まれた。
そんな阿求に気圧されて再度頭を下げる神峰。

阿求「素直に謝ったのはよろしいですが、盗まれたのは事実です。貼り紙まで出してしまいましたから、何のお咎めも無しという訳にはいきません」

慧音「ほどほどにしてやってくれないか……? 神峰も今まで地底に居て大変だったんだよ」

阿求「そのつもりよ。神峰さんを呼んだのは単なる興味本位ですので……私の好奇心を満たして下さい。それで許しましょう。あ、代金は払って下さいね?」

神峰「それで許してもらえるなら……」

神峰が阿求の提案を飲むと、阿求はありがとうございますと言って質問する。

阿求「とりあえず神峰さんから聞きたい事は二つ、神峰さんの能力と、地底での生活です。能力については言いたがっていないようでしたから他言はしませんので、安心して下さい」

しばらく口を閉ざして汗を浮かべる神峰。
今度は正真正銘、人間を相手に自分の目について話すのだ。その緊張は命蓮寺で喋った時の比ではない。というか、命蓮寺て話した時はどこか浮ついていた。とにかく前へ前へと生き急ぐあまり、他者と関わる事に積極的になり過ぎていたのだろう。
そして意を決したようにゆっくりと口が開いた。

320: 2014/08/21(木) 02:51:59.42 ID:mu7BXSWzO

神峰「……オレの本当の能力は……"心を見る"能力です」

阿求慧音「?」

阿求「心を見る? 悟り妖怪と同じ能力ですか」

神峰「いや、さとりの"読む"能力の方がオレの"見る"能力よりも正確に心を知る事が出来るって言ってました」

慧音「つまり劣化悟り能力か」

慧音がそう要約したが、神峰は首を振る。

神峰「いえ、そういうワケでもないみたいス。さとりじゃ読めない心を、オレの目なら視る事が出来ましたから」

ふむふむと筆を走らせる阿求。筆が止まると再び質問をする。

阿求「そもそも心を読むのと視る事の違いはなんですか?」

神峰「うーん……さとりにはその違いは聞かなかったけど、多分考えてる事が分かるのが読む能力で、心模様を視る事が出来るのが視る能力なんじゃねェかな……?」

神峰「ほら、心が疲れるとか心が踊るとか心が潰れるとかさ」

321: 2014/08/21(木) 02:53:14.47 ID:mu7BXSWzO
阿求「なるほど。では神峰さんには心がどういう風に視えてるのでしょうか? 私の心はどう視えてます?」

神峰「基本的にはハートに顔が付いてて、その表情から心模様が分かるカンジッスね。たまに個性的な心もありますけど」

神峰「……阿求さんの心は……本みてェな心だ。まるで自分の一生を本にしてるみてェに、今も文字が追加されてる……。にも関わらず、オレの話は別のメモを持って記録してる……」

神峰「……でも何でだ? 人生を記録してる割にはまだ9枚くらいしかページが進んでねェ……? 今のページも膨大な量の文字が書いてあるのに半分も使ってねェし……」

阿求慧音「!!!」

神峰が阿求の心を説明すると、二人が目を見開いて驚く。

阿求「まさかそこまで見抜けるなんて……心を視る能力、侮れませんね……。その能力で心を掴まれた人を見分けていたという事ですか」

神峰「え? あの……?」

阿求「人生を記録している、9頁目……恐らく一代に一枚なのでしょう。その通りです」

慧音「そんな事まで分かるのか……視るだけで」

322: 2014/08/21(木) 02:54:33.28 ID:mu7BXSWzO
神峰「……」

二人とも冷や汗を垂らして開いた口が塞がらない。
その二人の様子を見て、過去の出来事が想起され神峰の表情が暗くなる。
幻想郷だから信じてもらえる土壌があったが、それでも心を視る能力というのは───

阿求「そんな顔をしないで下さい、少々驚いただけですよ」

神峰「え……?」

阿求「私の一度見た物を忘れない程度の能力と、転生の事を当てられたものですから」

阿求「まさか心を視るだけで解ってしまうなんて思いもしませんでした。しかし転生すると前世の記憶も大半を忘れてしまうのに、前の頁はどうなっているのでしょうね?」

まるでうっかりドジっちゃった☆というような表情で話す阿求。それに次いで慧音も口を開く。

323: 2014/08/21(木) 02:55:04.60 ID:mu7BXSWzO
慧音「お前が能力を言いたがらない理由が、お前の様子を見ていて分かったよ……。悟り妖怪が地底に居る理由……お前も辛い思いをしたのだろうな」

神峰「ええ……さとりに人と向き合える強さは貰ったけど、やっぱりこの目の事を人間に対しておおっぴらに言うのは……」

阿求「それでは約束通りこの件は他言無用という事で、慧音先生もよろしいですね?」

慧音「ああ、もとよりそのつもりだよ」

阿求「では次の質問に答えてくれますか? 地底から来たそうですが、その経緯と一緒に、どのような生活をしていたのか教えて下さい」

ピシャリと話を打ち切って次の話題に移行する阿求に、神峰は気を遣わせてしまったと思いながらも、気味悪がられたりしていなかった事に安心した。
これで二人に避けられていたら本当に出家していたかもしれない。
この日、阿求から解放されたのは夕方だった。
どうやったら人間が地底で暮らせるのかが余程知りたかったのだろう。質問攻めにされて最終的には不可能という結論が出たが。それだけでは申し訳なかったので、神峰の働いた居酒屋を紹介しておいた。

324: 2014/08/21(木) 02:56:20.10 ID:mu7BXSWzO



【命蓮寺】

命蓮寺に帰り着くと、一輪と鉢合わせた。

一輪「あら、おかえりなさい。遅かったわね」

神峰「阿求さんの所に居たら予想以上に時間食っちまって……」

一輪「稗田? 取材でもされてたの? 妖怪にしかしないと思ってたわ」

神峰「好奇心で色々聞かれました」

ぬえ「ま、どんな理由だろうとあまり遅くならない方がいいよ? これからは私達の時間だからね」

神峰「ハーーホゥ!?」ビクーーーッ

神峰の頭上真上から話しかけられて、奇声をあげて身体が跳ねる。
頭上を仰ぐと、宙に浮いたぬえが後頭部に手を回してケラケラ笑っていた。

325: 2014/08/21(木) 02:57:18.20 ID:mu7BXSWzO
ぬえ「神峰ってビクビクしてるから驚かせ甲斐があるよね! この程度で驚いてくれるんだから、こっちは楽な商売だ」

神峰「やめてもらえねェスか……」

ぬえ「そんなの出来るワケ無いでしょ。とちとら人間を驚かすのが仕事なんだから。神峰なら小傘だって驚かせるよ!」

一輪「あんまり悪戯して姐さんを困らせないでよ? ……でも確かに、あの子でも神峰さんなら驚かせそうね……」

ぬえと一輪の会話に聞き慣れない名前が出てくる。
そういえば小傘という名前の付喪神が命蓮寺に居ると幻想郷縁起で読んだが、この一週間で一度も会った事が無い。挨拶をしようと探した事もあったが、結局見つけられなかった。

326: 2014/08/21(木) 02:57:54.15 ID:mu7BXSWzO
神峰「あの、その小傘さんってヒト、何処に居るんスか? 知り合いてェんスけど」

一輪「小傘は人里をうろついてる事の方が多いから……というか命蓮寺の一員に数えられて不満そうだったし、正確にはウチの一員じゃないのかも……」

ぬえ「墓地に居る事が多いから仕方ないじゃん。もしかしたら今も墓地に居るかもね? どうする? ちょっと早いけど、肝試しがてら墓地まで行ったら小傘に会えるかもよ?」

時間は夕暮れ、黄昏時である。幻想郷的には逢魔が時と言った方が相応しいだろう。
夕飯の時間まで後一時間程あるから、墓地に行って小傘を探してみるのも良いかもしれない。なるほど、この時間に墓地へ行くなら肝試しと言えなくもない。

神峰「うーん……ちょっと怖ェけど、時間はあるし行ってみるか……」





それを聞いたぬえが、神峰の背後でニヤっと笑った───

327: 2014/08/21(木) 02:58:34.68 ID:mu7BXSWzO
【墓地】

墓地は命蓮寺の敷地内にあり、きちんと管理が行き届いているためホラー映画のような不気味さはほとんど無い。
とはいえ、この時間の墓場というのは怖く感じてしまうものだ。

神峰「妖怪に囲まれてるとはいえ、この雰囲気はちょっと怖い………ん?」

墓地に入りしばらく歩くと、墓石の裏から何かが飛び出しているのを発見する。
卒塔婆ではない。紫色だ。

神峰(何だアレ? 忘れ物か?)

不思議に思って近寄っていく途中、紫色の物体を辿って視線を下げる事で、墓石の裏に居た何者かと目が合った。どうやら通路を見張っていたらしい。

神峰「ひっ……!」ビクッ

神峰(誰だ……? 不審者か……? それとも妖怪……? あのヒトが小傘か……?)

相手が何者なのかを確認するために、意を決して墓の前まで近付く事にする。

328: 2014/08/21(木) 02:59:19.42 ID:mu7BXSWzO
神峰「……」

??「……」

神峰「……」

??「……」

目が合ってからお互いどちらも目を離せない。神峰が立ち止まってからは、しばらく睨めっこ状態が続いた。
しかし目が合ったままでの沈黙に、何もせずに耐えられるほど神峰の心は強くない。汗を浮かべながら、話しかけようと決意した。

神峰「あ、あのさ……そんな所で何してんだ……? お墓で遊ぶのは良くねェと思うんだ。ほら、罰が当たるかも知れねェし……!」アセアセ

愛想笑いになりながらコミュニケーションを試みると、相手も口を開けて何かを発音した。

329: 2014/08/21(木) 03:00:17.24 ID:mu7BXSWzO
??「……ぉ、」

神峰「ん? なんだって───?」







??「驚けーーーーーっ!!!」

神峰「うおお!!?」ビクーーーッ



聞き取れなかったので聞き返そうとした直後、少女が墓石の裏から飛び出て手に持っていた傘を開いて大声をあげた。
それに驚いた神峰は飛び上がりながら後退り尻餅をついた。

神峰「なに何!? 何が起こったの!?」

小傘「ふふん! 見つかった時はどうしようかと思ったけど、わちきやれば出来るじゃない!」

満足気な表情で自画自賛する少女を見て、彼女が小傘だと確信する。紫色の唐傘を持つ者なんて居ないためすぐに分かった。

330: 2014/08/21(木) 03:01:24.56 ID:mu7BXSWzO
神峰「びびった……あんたが小傘だろ? やっと会えた……」

小傘「私の名前知ってんの? 何か用?」

神峰「オレ、神峰翔太っていうんだ。先週から命蓮寺で世話になってるから挨拶しとこうと思って……よろしくな」

小傘「……私、ここにはよく来るけど寺の僧じゃないんだけど……」

神峰「アレ? そうなのか?」

小傘「僧じゃないってば!」

神峰「ダジャレじゃねェよ!?」

和やかなムードになったところで一息つくと、日も沈んで暗くなった空を見て、神峰は用も済ませたしと帰る事にする。

神峰「命蓮寺に居るって、命蓮寺に出没するって意味だったのかよ……。やる事やったし、もう帰るよ」

331: 2014/08/21(木) 03:02:30.04 ID:mu7BXSWzO
小傘「お兄さん驚いてくれて良い人だから、また来てね!」

神峰「オレを驚かすのやめてくれねェか!? ぬえにもやられて困ってんだ!」

マミゾウ「ワシを忘れて貰っちゃ困るぞ?」どんどろどろどろ

神峰小傘「」

マミゾウの声がした方向を向くと、そこにはおどろおどろしい化け物がいた。無論、マミゾウが化けているのだ。




神峰小傘「ぎゃああああああああ!!!?」




それを見た神峰と小傘は悲鳴をあげて逃走する。
妖怪である小傘まで逃げ出すとはどういう事なのか。






マミゾウ「……なんじゃ、二人とも逃げおって。確かに化かし甲斐はあるがの」

ぬえ「小傘まで逃げ出すなんて傑作! 本当に妖怪なの!? 私がやればよかったわ!」

二人が去った跡にはマミゾウが残り、夕飯の支度が出来上がるまでぬえと談笑していた。

339: 2014/08/30(土) 15:37:32.49 ID:KFuLQ41JO




さとり「お待たせしました……五年かかってしまいましたが……、ようやくこいしの心を開いて、再会しに来ました!」

神峰「さとり!!」

さとり「貴方はどうですか? やるか、やらないか……いつも言って聞かせたはずですよ」

さとり「要は……限界見えた時でも───」

神峰「"俺がやる"って決められるか決められないかだ……!」

神峰(そうだ……そうだよ……!!俺がやるんだ!! 俺が……証明するんだ!!)

アリス「神峰……翔太……、何よ……それ……」

ドドドドドドドド

アリス「何なの! それは!!!」



ドドドドドドドド ※多分虹的な何か


神峰「立てアリス……演奏始まったばっかりだろ」

アリス「神峰……あなたまさか、世界最強になる気……!?」

神峰「先の話をする気はねェ」

"ハートキャッチャー"神峰 翔太

神峰「今! ここで! 俺たちは幻想郷一になる……」

神峰「アンタを倒して最強を証明する!! それだけだ!!!」



"ソウルキャッチャー"神峰 翔太



~~~~~

~~

340: 2014/08/30(土) 15:38:30.37 ID:KFuLQ41JO




神峰「!?」ガバァッ

神峰(……? …………あ、夢か……)

変な夢を見て布団から勢い良く上体を起こす。
寝ぼけ顔でぼんやりと周りを見渡して、神峰が借してもらっている部屋に居る事に気付く。地霊殿では洋室だったが、命蓮寺では和室だ。

神峰(アリスって昨日会ったヒトだよな……、まさか夢に出て来るなんて)

神峰「つーか何だよさっきの夢……。演奏で最強ってどういう事だよ……」

神峰「そういえば紫さんが楽団作ってんだっけ? ……まさかさとりが五年後に会いに来たり……いや、正夢になるなんて事はねェよな……?」

先程見た夢についてブツブツとツッコミをいれながら、布団から出て半纏を羽織る。
そしてすぐに布団を畳んで押入れへと仕舞った。

神峰「さ、寒ィー……っ! 一月でこの寒さかよ……来月はどんだけ寒ィんだ……?」



寒さに震えながら着替えを完了させると、部屋から出て挨拶へ向かう。
寺の朝は早い。


……………

……

341: 2014/08/30(土) 15:39:18.94 ID:KFuLQ41JO

神峰「昨日は勢いでサインしちまったけど、救命用じゃなくて食用として血を採られるんだよな……なんか変な気分だ……」

神峰「つーかここって輸血するくらいの医学あんのか? 一番腕が良いのが薬師なら、外科手術は発達してねェかも」

掲示板の前で依頼主を待つ神峰。昨日慧音に呼ばれたために、急いで献血の依頼にサインをして(しまって)いたのだ。

咲夜「お待たせさせてしまったかしら?」

しばらく待つと神峰の前に、和装がメインの人里では見慣れない、メイド服を着た女性が現れた。浮きそうな格好をしているというのに、彼女の立ち居振る舞いを見ていると、その格好をしていて当然だと思えてしまう。

神峰「いや、そんなに待ってねェスけど……」

神峰(スゲェ……メイドって浮きそうな格好しててもピシッと振る舞えるのか。全然周りを気にしてねェ、完全にニュートラルな心だ)

咲夜「あの、何か?」

ジッと見つめる神峰を嗜めるように咲夜が言うと、神峰はあたふたと咄嗟に取り繕う。

神峰「いや! メイドなんて初めて見たから珍しくて……! 周りを気にする素振りもなかったからスゲェなって思って」

342: 2014/08/30(土) 15:40:06.53 ID:KFuLQ41JO
咲夜「……お嬢様のメイドとして当然の振る舞いですわ。それでは本日はよろしくお願いします、神峰さん」

神峰「はい……」

神峰(スゲェ……何て言うんだろ……なんかスゲェ瀟酒だ!)

咲夜の後ろに着いて行きながら、一流の所作に感動を覚える。
歩き方からしてそこらの人とは違うのだ。気品が漂ってくる。



清潔感のある適当な場所へ案内されると、咲夜は早速準備にとりかかった。神峰も見覚えのあるゴム管や注射器をカバンから取り出している。

咲夜「そういえば、先程メイドを見るのは初めてと仰ってましたけど、私、人里にはよく来るのでもう皆様には知られていると思っていましたわ」

神峰「ここの人達はどうか知らねェけど、俺は最近人里で暮らすようになった外来人スから」

神峰に針を刺しながら愛想良く話しかける咲夜に、ヘラヘラと神峰も軽く返す。

343: 2014/08/30(土) 15:40:43.79 ID:KFuLQ41JO
咲夜「あら、そうだったのね。食べてもいい人間だったなら、血液だけじゃなくて身体も丸ごと持って帰れば良かったかしら?」

神峰「怖ェこと言わないで下さいよ!?」ビクッ

外来人と聞いて、咲夜が変わらぬ調子でさらりと言うと、座っている神峰が驚いて飛び上がる。が、針の刺さっている右腕を咲夜に肩から抑えられて未遂となる。

咲夜「驚かせてしまってごめんなさい。でも危ないから、終わるまではじっとしていて下さいませ」

神峰「だったら物騒な事言わないでくれますか!?」

咲夜「半分は冗談ですわ」

神峰「半分は本気なんスね!?」

咲夜「初めて会うのが人里の中で良かったですね」

クスクスと笑いながら受け答えする咲夜に、鼓動が速まるのが分かる。呼吸も荒くなっているし冷や汗も出る。吊り橋効果でも勘違いしないシチュエーションだ。

344: 2014/08/30(土) 15:41:21.69 ID:KFuLQ41JO
神峰(地上も十分危険じゃねェか……。というか冷静に考えたら……)

神峰「なあ……アンタ、人……頃してんのか……?」

おずおずと発せられた神峰の質問に、咲夜は顔も心もポカンとした表情になる。

咲夜「そんな人間らしい質問をされるのも久しぶりだわ。私と付き合いのある人間は価値観が偏ってて、人間性を疑う人が多いもの」

咲夜「そうね、そう思って頂いて構いませんわ」

顔色一つ変えずに、心に変化を見せずに、あっさりと言い放った。
地底では妖怪だらけだったため、摂理ならば仕方ないと割り切って妖怪達と付き合っていたが、人間が、となると話が変わってくる。

神峰「なんで……そんな当然の事みたいに言いきれるんスか……?」

咲夜「だって私は悪魔のメイドですもの。主の望みを叶えるのが使用人の務めよ」

神峰「そんな……」

咲夜「貴方は、自分が立っている土台が何で出来ているかを考えた事はあるかしら? 妖怪にとって人間は餌も同然。私達だって他の生き物を頃してその上に生きているわ。ヒエラルキーが違うだけでやってる事は同じなのよ?」

345: 2014/08/30(土) 15:42:01.98 ID:KFuLQ41JO
神峰(……咲夜さんの言ってる事は分かる……。だけど……)

神峰「だけどアンタは人間だろ……? そんなんで割り切れんのか……?」

主のために同族を頃す事に抵抗は無いのか、そう訊ねても咲夜はいつもの調子で答える。

咲夜「神峰さんは誰かのために何かを決意した事はあるかしら? その事でプラスとマイナスの二つの結果に板挟みにされた事は?」

思い浮かぶのは、地底での出来事、さとりの事。
さとりのためになるならば、苦手な事にもぶつかって行こうと決意した。

咲夜「私も最初は抵抗はあったわ。だけど私はお嬢様に忠誠を誓ったの。だからお嬢様の望みを叶えるというプラスの結果を得るためには、人を頃すというマイナスの結果を飲み込まなければいけない」

咲夜「そこにはお嬢様のためにという想い以外の他意は無いの。根底にあるのは同じ"誰かのために"という気持ちだけよ」

神峰「他人のために、自分にかかるデメリットを受け入れる……か。確かに同じ事なのかもしれねェけど……」

咲夜「当然、受け入れられないでしょうね。住む世界が違いますもの。貴方はそのままでいて下さい、ただの人間がそれを理解すると、愛が歪んでしまいますわ」

346: 2014/08/30(土) 15:43:13.74 ID:KFuLQ41JO

冗談っぽくおどける咲夜。
こんな話を顔色一つ変えずに出来る時点で、本当に住む世界が違うのだろう。

神峰「……今はもう、何とも思わないんスか……?」

咲夜「もう慣れてしまったわね。それに毎日という訳ではないし、人里の人間を妖怪は襲ってはいけないから、偶然幻想入りした人間にしか手を出したらいけないもの」

その言い分には、さすがに顔見知りを手に掛ける事には抵抗があるように窺える。

咲夜「私の事をどう思ってくれても構わないわ。悪魔の犬なんて呼ばれる事もあったし、吸血鬼に遣えてる以上、後ろ指を刺されるのも裏切り者扱いも覚悟の上よ」

何時の間にか針が抜かれており、咲夜は片付けをしながら神峰に言う。

347: 2014/08/30(土) 15:44:11.80 ID:KFuLQ41JO
神峰(あんな背徳的な話をしておいて、それでもスゲェ堂々とした心……俺とは大違いだ……。この人の心、忠誠心の塊みてェだ)

神峰「咲夜さんの言う通り……俺はあんたを理解できねェ……、けど、理解出来ねェからってあんたを避けてたんじゃ、俺のやって来た事を無駄にしちまう」

神峰「だから理解出来なくても、俺はあんたと向き合っていかなきゃいけねェ気がするんだ……!」

咲夜「あら、これからも血を提供して下さるのかしら?」

神峰の言葉を聞いて、片付けが終了した咲夜は少し嬉しそうにクスクスと笑いながら冗談で返すと、神峰はギョッとして

神峰「いや! 今回の依頼はちょっとドタバタしててサインしちまったから……!」

咲夜「ふふっ、冗談よ。それでは、本日はありがとうございました。また出会った時はよろしくお願いしますね。……ありがとう」

にこやかに別れの挨拶をする咲夜。よろしくというのは献血ではなくて、これからの付き合いの事だ。

348: 2014/08/30(土) 15:44:59.94 ID:KFuLQ41JO
しかし咲夜は挨拶を済ませたのになかなか帰ろうとしない。しばらく迷った表情を作り、ようやく口を開いた。

咲夜「あの……他人と向き合っていくという心掛けは素晴らしいと思うのですが……、その……、初対面の女性の胸をジロジロ見るのは失礼だと思いますよ?」



・ ・ ・

神峰「?」

点が三つ打たれるくらいの間を置いて、神峰がキョトンと首を傾げた。

神峰「胸? 胸なんて───」

咲夜「 私 の 胸 は 小 さ い と 仰 り た い の で す か ? 」

神峰「言ってません……」

咲夜「胸が小さすぎてどこにあるのか分からないと言いましたか!?」

神峰「言ってねェス! 言ってねェス!」

胸なんて見てねェスよ? と言いかけて咲夜のインターセプトが入ると、一気に咲夜の怒りの炎が燃え上がった。何故こんなに理不尽な怒りを向けられているのだろうか。

咲夜「こほん……! とにかく、このようにトラブルの原因になってしまいますので、女性の胸元はあまり見てはいけませんよ?」

神峰「はい……」

しゅんと項垂れる神峰。
咲夜が怒ったお陰で、自分が心を見ている目線が胸元へ行っている事に気付き、これからは気をつけねばならないと思うのであった。


───


349: 2014/08/30(土) 15:45:44.47 ID:KFuLQ41JO
その後は販売の依頼をこなして帰路に着く。

神峰「はぁ……スゲェ世界を見た気分だ……。でも、凹んでちゃいけねェよな! ここでは何があるかわかんねェんだ。幻想郷では常識に囚われてちゃいけねェ……!」

「ややっ!? もしかしてあなたが噂の外来人さんですね!?」

神峰の独り言に反応して、緑髪の巫女装束を着た少女が駆け寄ってきた。
突然声をかけられて神峰の身体がビクリと震える。

神峰「えっ?」

早苗「あ、初めまして。私は東風谷早苗と申します! 神峰翔太さんですよね? 人里ではすっかり名前が広まってますよ」

神峰「は、はひ……。私が神峰ですが……」

神峰(アレ……? なんだ? この声、どこかで聴いた事があるような……、多分、幻想郷に来てからだ)

350: 2014/08/30(土) 15:46:20.96 ID:KFuLQ41JO
早苗「なんだか私と同じ事言ってるのを聞いて、シンパシー感じちゃいまして!」

神峰「はあ、同じ事、スか」

早苗「そうです。この幻想郷では、常識に囚われてはいけないのですね、って」

神峰「───!」

瞬間、神峰に電流が走る。
思い出した。同じセリフが同じ声で頭の中で響いた事があった。それも地底に居た頃に。

早苗「実は私たちも外から幻想郷に来たんですよ。それから幻想郷の事を学んだ時に言った言葉でして……。あ、ちなみに今は妖怪の山にある守矢神社に住んでいます。機会があれば参拝して行って下さいね」

神峰(ズイズイ来るな……俺が今までに対応した事の無いタイプだ……)

楽しそうに話す早苗を前に、押し負け気味になる神峰。
そもそも早苗のような人懐こい人間以前に、まともに他人と関われた事の方が少ないので仕方がない。

早苗「そうだ! 売り子さんやってるんですよね? 心を掴むのが得意だと聞きましたので、良かったら守矢神社の信者の募集に協力してくれませんか?」

351: 2014/08/30(土) 15:46:56.57 ID:KFuLQ41JO
神峰「宗教の勧誘スか……? それはやった事ねェしな……出来そうだけど……」

一輪「その必要は無いわ」

神峰早苗「「!!」」

一輪「神峰さんは居候とはいえ、命蓮寺の一員よ。寺から出るまでは命蓮寺以外の宗教の勧誘は遠慮してくれないかしら?」

突然二人の会話に割り込んで来た一輪は、身内が他の宗教の勧誘をしてると不和の原因になりかねないしね、と付け加えて早苗の提案を却下した。

神峰「一輪さん!? いつの間に!?」

一輪「偶然通りかかったら話が聞こえちゃってね」

早苗「そうなんですか? では神峰さんが守矢神社に住めば問題無いですね! 神峰さんは住居が決まって、私たちは信者集めが捗ってWinWinです!」

神峰「そんな拾った仔犬を引き取るようなノリで……」

352: 2014/08/30(土) 15:47:54.35 ID:KFuLQ41JO
一輪「何を言ってるのかしら? 神峰さんの身柄はこちらにあるのよ? 大人しくこちらの言う事を聞いて引き下がりなさい」

早苗「くっ! なんと卑怯な! 何が望みなんですか!?」

神峰「なんか始まった! 茶番スか!?」

一輪「いや、だから神峰さんが住居を手に入れるまでは勧誘の依頼はしないでねって」

早苗「……ノリが悪いですねー。もっと悪役みたいな事を言ってくれたら、神峰さんを助けた時にウチの評判も上がるのに……」

一輪「……何の話をしてるの? っていうか助けるってなによ? 神峰さんはウチを頼って来たから命蓮寺にいるの。全てこちらの善意よ」

幻想郷にはテレビが無いため、一輪は早苗の言っている事がよく分っていない。
一方神峰は、早苗の現代っ子のようなノリに親近感を感じていた。

神峰(アレ……そういや、最近宗教戦争が起こったって言ってなかったっけ……? もしかして依頼を受けて信者を増やすと、他の組織からも依頼されて信者の……っていうか俺の取り合いになって、また戦争が起こるんじゃ……)

353: 2014/08/30(土) 15:48:30.48 ID:KFuLQ41JO
早苗「仕方ありませんね……。それでは神峰さん、あなたの住居が決まりましたら、その時に依頼させて頂きますね!」

神峰がその事に考えが至った直後、早苗が笑顔で言った言葉は、まるで笑顔で核弾頭の発射スイッチを押そうとしてるように感じられた。

神峰「わーーーー!? ちょっとタンマ!!」

神峰と別れて帰ろうとする早苗を慌てて引き留める。

早苗「どうしました?」

神峰「あの……、スゲェ……申し訳ねェスけど……、宗教の勧誘はお断りさせてもらいます……!」

早苗「神峰さん!? 何を……!?」

神峰「無差別に依頼を受けてるから、思想に関わる依頼に協力するのは良くねェと思うんス……。つーか、そんな事したらまた戦争が起きそうっていうか……」

一輪早苗「「ああ~……」」

神峰が申し訳なさそうにモジモジと理由を語ると、聞いていた一輪と早苗は大いに納得した。

早苗「あれはあれでお祭り騒ぎで楽しかったですが、神峰さんが遠慮したいというなら……」

一輪「どうせ戦争になっても博麗の巫女が鎮圧するでしょうけど……でもそうなったら、元凶になった神峰さんも退治されかねないわね」

早苗「ああ、その可能性がありましたね」

神峰「オレも!? ヤダよ絶対やらねェ!! 今度から宗教勧誘お断りって書いて依頼出すわ!!」

ここに、新たな方針が決定された。
もしかしたら、もっと考えて依頼を受けないと大変なトラブルを引き起こすかもしれないと思い、慎重に依頼を選ぶようになった。

362: 2014/09/08(月) 23:41:59.19 ID:ozaQIlVXO



寺の朝は早い。


村紗「おはようございます」

神峰「おざす」

村紗「いつも手伝ってもらって、ありがとうございます」

神峰「いえ、ここを出た時に備えての修行も兼ねてるんで、気にしないで下さい!」

村紗「花嫁修行でもしてるの?」

命蓮寺での神峰の生活は、起床し、本堂へ向かい挨拶を済ませると、炊事の手伝いや、掃除洗濯や薪割り等の雑務をこなしてから人里へ繰り出すという流れとなっている。
地霊殿での生活の名残りか、少しでも手伝える事は自ら進んで行うようになっていた。もちろん、一人暮らしの時に困らないための修行という打算もあるが。

363: 2014/09/08(月) 23:42:40.68 ID:ozaQIlVXO



神峰「それじゃあ、響子の所に行って来ます」

村紗「神峰が手伝ってくれる分、仕事が片付くのが早くて助かります。ありがとうございました」


……………

……

響子「おはよーございまーす!」

神峰「っ……、おざす!」

門へ近づく神峰を見るや、元気良く挨拶をする響子に、神峰は耳の奥に痛みを感じつつも挨拶を返して掃き掃除を始めた。

神峰「なぁ、普通のボリュームでも話せるならもう少し声小さくしてくれねェ? 近くで聞くと耳が痛くなるんだよ……」

響子「挨拶は心のオアシス! 命蓮寺の戒律にもあるじゃない。それに山彦としては大声を出さないと!」

神峰「それが妖怪としての在り方なら仕方ねェってヤツだな……分かったよ」

響子「神峰はテンション低いからうるさく聞こえるのよ。大声きな声で挨拶すれば気にならなくなるよ!」

神峰「そういうレベルの音量じゃねェと思うんだけど!?」

364: 2014/09/08(月) 23:43:26.19 ID:ozaQIlVXO
まだ薄暗い冬の早朝から二人がコントを繰り広げていると、突如、突風が吹いて集めていたゴミが飛ばされる。

響子「あー! せっかく集めたのにー!」

神峰「寒っ! 日も昇ってねェのにカンベンしてくれよ」

「おや、それは失礼しました。しかし高速で動いているので、風が起こるのは仕方のない事ですよ?」

風に吹かれて身体を縮こませる神峰に声がかかる。不思議に思い視線を上げると、少女が黒い羽を羽ばたかせて宙に浮いていた。

神峰「おく──誰だアンタ!?」

射命丸「おはようございます! 私は清く正しい射命丸です! 初めまして神峰翔太さん!」

その真っ黒な羽を目にして、一瞬空と間違えそうになるが、よく見ると全く違う人物がそこにいた。似ているのは羽だけだった。

神峰(この人、妙に自己紹介言い慣れてるな……きっと何回も言ってきたんだ。あの心……よく会社員がやる、取り繕った仮面の心だし)

神峰「射命丸……? 天狗の記者スね」

365: 2014/09/08(月) 23:44:14.07 ID:ozaQIlVXO
射命丸「私の事をご存知で?」

神峰「幻想郷縁起で読んだんで」

射命丸「おお、それなら話は早いです! 今人里で話題の外来人さん、あなたの事を取材させて頂きますよ?」

神峰「また取材スか……」

神峰が射命丸へ返事をする前に、寺へ訪れた者が二人の話に割って入り二人に注意を呼びかけた。

ナズーリン「取材するのは構わないけど、やるなら寺の外でやってくれないかい? 寺の中でそんな事をやられると、信者が不快に思うかも知れないからね」

響子「おはよーございます!」

射命丸「あやっ!?」

寺に来たナズーリンにいち早く挨拶をする響子の大声に、射命丸の身体がビクリと跳ねる。
遅れて神峰もナズーリンへ挨拶をする。

神峰「おはようございます」

ナズーリン「二人ともおはよう。いつも手伝ってくれて悪いね、神峰」

神峰「自分のためでもあるんで!」

ナズーリン「そうかい? じゃあ私は御主人の所へ行くよ。また後で」

366: 2014/09/08(月) 23:44:54.19 ID:ozaQIlVXO

三人でナズーリンを見送ると、再び射命丸の口が開かれる。

射命丸「……では、許可は取れたという事で、早速自己紹介でもしてもらいましょう!」

神峰「オレはオッケー出してねェスよね!?」

射命丸「そう言えば先ほど、また取材と仰ってましたよね!? という事は稗田阿求さんの所へ行ったという事ですよね!? 先を越されてしまいましたか! では私は貴方の心を掴むという仕事ぶりを密着取材させて頂こうかしら───!」

射命丸が神峰の言う事を無視して捲し立てていると、いきなり何かに気付いたように目を見開き口を止める。
直後、射命丸が来た時よりも強い風が吹いて三人を襲った。

響子「きゃーーー!? せっかくまた集めたのにーーー!?」

神峰「うおお!? 寒ィ!!!」

射命丸「あやややや!?」

三者三様の反応を見せる。響子は吹き飛ばされたゴミを追いかけて行き、神峰は先程と同じように身体を抱きかかえ、射命丸は……

……強風に煽られて飛ばされてしまった。

367: 2014/09/08(月) 23:45:34.34 ID:ozaQIlVXO
神峰「何だったんだ……? って、誰もいねェし……」

「射命丸のヤツ、逃げたね? まぁいいさ、あたしが用があるのはアンタだけだし」

神峰「!?」

強風が去った後に取り残されて一人になったハズの神峰に、何者かの声が聞こえた。
驚いて振り返るとそこには……、鬼がいた。

萃香「神峰といったね? 神社に来た時から見てたよ。地底から這い上がって来るとは大したヤツじゃないか」

神峰「お……鬼……?」

萃香「幻想郷縁起を読んだのなら私の事は知ってるだろ?」

神峰「伊吹萃香……さん。地上にいる鬼……確か、勇儀さんの言ってたヒトか……」

萃香「お? 勇儀と知り合いかい? 古明地んトコでさとりに護られていただけかと思いきや、なかなか活動的じゃないか! 大した度胸だよ!」

神峰「ところで、オレにどんな用でしょうか……?」

勇儀と知り合いと聞いて少し機嫌が良くなった萃香に、神峰は本題を聞き出そうと質問した。

368: 2014/09/08(月) 23:46:03.19 ID:ozaQIlVXO
萃香「うん? ああ、あんたが人里で生活して10日経つだろ? だからそろそろ私に挨拶に来てもいいんじゃないかと思ってたんだけど……」

萃香「ずっと霧になってあんたを見てた事を思い出してね、だからこうしてあんたのトコまで来て(萃まって)やったのさ!」

酔っ払っているせいだろうか、自分のボケに自分で笑いながら萃香は神峰に説明した。

神峰(この流れ知ってる……次はもうねェってヤツだ。勇儀さんが来た時に経験してるからな。ここで返事を間違えたら多分アウトだ……!)

神峰「あの、わざわざ来てもらって……スゲェすみません。これからどうかよろしくお願いします」

ペコリと頭を下げる神峰を、萃香は瓢箪に口をつけながら舐めるように見てから口角を吊り上げた。

369: 2014/09/08(月) 23:46:44.43 ID:ozaQIlVXO
萃香「よろしくってのは、私が暇な時に相手をしてくれるって事で良いんだよね?」

神峰「え!?」

萃香「心配しなくても昔みたいに横暴な事はしないよ。ただ、宴会をしたい時にはあんたも参加して、あとは私の気まぐれの遊び相手になってくれればね」

神峰「その遊び相手ってのが怖ェんスけど!」

萃香「別に遊び相手があんたしかいないって訳じゃないから、そんなに身構えなくてもいいよ。人間が相手だとやれる事も限られるしね」

神峰「何やらせる気スか!?」

萃香「そいつは私の気分次第だね、楽しみにしてなよ? じゃ、またね!」

言うだけ言って帰って行く後ろ姿を見て勇儀を想起する神峰は、鬼というのはこのようなジャイアニズムを持つ種族なのかと諦観する。

370: 2014/09/08(月) 23:47:21.13 ID:ozaQIlVXO
そこへ、タイミングを見計らったかのように射命丸が戻って来た。

射命丸「おやおや、鬼の遊び相手になるなんて、変わった人間もいたものですね」

神峰「……同意した覚えはねェス。あんたの取材にも」

射命丸「そんな固い事言わずに! ちょーっとあなたの事を教えてもらって、写真を一枚撮らせて頂ければ結構ですから! ねっ!? ちょっとだけ! ちょっとだけ!」

神峰(絶対ェ嘘だ……このヒトの心……一つでも許すと、要求をエスカレートさせて骨までしゃぶる気満々だ……!)

神峰(でも、引き下がる気なんて見えねェし……仕方ねェ……)

神峰「……じゃあ、周りの人に迷惑かけねェなら……」

射命丸「そうですか! 引き受けて下さいますか! ありがとうございます! では早速お仕事の確認に行きましょう! 今日はどのような依頼が来ているでしょうかね!?」

渋々承諾する神峰に射命丸はパッと顔を明るくして、まだ薄暗い人里へと神峰の手を引いて歩き出した。

371: 2014/09/08(月) 23:47:52.02 ID:ozaQIlVXO
……………

……


30分後、命蓮寺へと戻って来る二人組がいた。
一人は肩を落とし、一人はホッとした顔をしている。

神峰「今日は何も依頼されてなかったスね」

射命丸「何故ですか!? あなた人気の売り子じゃなかったの!?」

神峰「繁忙期は一昨日終わったんで、今は安定期に入ってるんスよ」

射命丸「くっ……もっと早くにあなたに気付いていれば……!」

響子「おかえりなさーい! 朝食の用意が終わってるよ!」

神峰「ああ! 今行くよ!」

射命丸「とりあえず取材許可は頂いたので、神峰さんが仕事をしてるのを見つけたら取材をするという形でよろしいですか? もしくは私の新聞を皆さんに売って頂けたら───」

神峰「前者でお願いします」

射命丸「ありがとうございます! それでは後日!」

372: 2014/09/08(月) 23:48:25.56 ID:ozaQIlVXO
好奇心の強い射命丸相手にうっかりボロを出して、自分の目の事を知られるのはマズイと思い取材を遠慮していたが、ここまでこぎ着けられるとは思ってもいなかった。
ゴシップ記事が多いと聞く射命丸の新聞も、変な物は売りつけないという理由で当然売らないので、言質を取られてこの二択を出されると前者を選ばざるを得ない。
射命丸はそんな事を知る由も無く、本人にしてみればまさに渡りに船といった感じで、内心では自分の交渉術も捨てたモノではないと褒め称え、そしてちょろいものだとほくそ笑むのであった。

神峰(『見え』てんだけどな……)


────

──

373: 2014/09/08(月) 23:49:05.29 ID:ozaQIlVXO

【命蓮寺】

響子と共に食卓へ向かうと、既に全員揃っており、その中に見慣れぬ人物が混じっていた。
あまりに自然に馴染んでいたために見逃しそうになる。

神峰「あれ……? この人誰だ?」

こころ「キミこそだぁれ?」

目が合って同じ質問をする二人。片や戸惑いが混じり、片や無表情に問う。
その二人の様子を見て、星がフォローに入った。

星「こころさん、こちらは先週から命蓮寺に居候する事になった神峰翔太さんですよ」

星「そして神峰さん、こちらは外部から命蓮寺に来て修行をしている秦こころさんです。お二人とも仲良くして下さいね?」

374: 2014/09/08(月) 23:49:47.09 ID:ozaQIlVXO
神峰「はあ……どうも」

こころ「よろしくね」

星に紹介されてとりあえず握手をする二人。
こころはどうやら神峰に好意的なようだが、無表情のために何か違和感を覚える。

神峰(なんだろう、このヒト……。これに似た違和感は前にも感じた事ねェか?)

神峰(このヒトの心か? ……今まで心に仮面を着けて接する人は沢山見て来た……。でもこんなのは初めて見る……!)

神峰(心そのものが仮面だ! 被ってる心がねェって事は仮面そのものが心って事だよな……?)

こころ「……」

こころ「いやん」

神峰「!?」

一同「「「!?」」」

375: 2014/09/08(月) 23:50:24.99 ID:ozaQIlVXO
こころは握手をした後に黙ってしまった神峰をじっと見て、神峰の視線を辿ると、サッと胸元を手で隠した。
その仕草を見て訳が分からない命蓮寺の面々と、やってしまったと思う神峰。先日咲夜に注意されたばかりではないか。

神峰(やっちまった! 咲夜さんに注意されたばかりだってのに……ん? 心の形が変わってって……、あ、頭の面も心と同じ面に変わってる……)

こころ「初対面のコの胸を見るなんて、キミも男の子なんだね」

神峰「ちょ!? 誤解ス!!!」

ぬえ「あー、確かに神峰ってそういうトコあるよね」

マミゾウ「妖怪とはいえ、女所帯におれば仕方なかろうて」

神峰「あんた達知ってるスよね!? 変な誤解を生まないで!!!」

一輪「ゴメンね、フォロー出来ないや」

こころ「これが初対面でセクハラされた時の表情ー」

神峰「やめてくれ!」

376: 2014/09/08(月) 23:50:53.96 ID:ozaQIlVXO
聖「心が見えるので仕方ないとはいえ、確かにいきなり女人の胸元を見るのは不躾ですね。神峰さん、後で一緒に修行をしましょう」

神峰「ひぃ!?」

神峰(つーか、無表情は変わらねェのに心の形はころころ変わってんだな……。変な言い方だけど、スゲェ表情豊か!)

神峰「あ、分かった! こいしと逆なんだ!」

こころ「むっ?」

神峰の違和感の正体が分かってつい口に出すと、それを聞いたこころが反応し、意味が分からなかった村紗も神峰に訪ねる。

村紗「こいしと逆とはどういう意味です?」

神峰「こころさんを見て、同じようなものを見た気がする既視感というか、違和感があったんスよ」

神峰「それが、表情と心のギャップなんス。こいしは心が全く動かねェけど表情はころころ変わって、こころさんはずっと無表情だけど心はスゲェ変化してるんス!」

377: 2014/09/08(月) 23:51:26.69 ID:ozaQIlVXO
こころ「そうか、キミは私を見る事が出来る上に我がライバルと知り合いなのね?」

神峰「紛らわしいな!? あんたの事じゃなくて心の事……面倒くせェ!」

神峰「いや、それよりも! こいしの事知ってんのか!?」

聖「こいしさんも命蓮寺の仲間なんですよ」

神峰「マジで!?」

こころ「何を隠そう、私と我が宿敵は拳で語り合った仲なんだ」

神峰「マジで!?」

星「また近い内に、再びこいしさんも命蓮寺に来るでしょう」

神峰「全然知らなかった……」

聖「あと、ペットの猫さんに会った時は、墓を荒らすのは辞めてもらえるように言ってくれないでしょうか?」

神峰「何やってんだお燐……」

多忙な一週間を過ごしたせいか、人里に来てたった十日だというのに、地底の知り合いの話を聞けて懐かしさが込み上げて来た。
さとりは何をしているだろうか、お空とはまた会えるのだろうか、そういえば勇儀さんの知り合いの萃香という鬼にも出会ったな。など、まだ朝だというのに沢山の感想が出てくる。






ちなみにこのあと、神峰が一日フリーだと知った聖とエクストリームな修行をした。

389: 2014/10/06(月) 23:50:22.60 ID:dzgNf49SO


───さとりへ

あれから一ヶ月経って、冬の寒さも厳しくなって来た。

人里で別れた後、奇跡的に二日で里の人達に受け入れられて、何とか仕事をこなしながら今まで生活出来ている。これは初対面のオレを助けてくれた命蓮寺の皆のおかげだと思う。

お燐やこいしから聞いてるかも知れねェけど、オレ、人里では売り子やってんだ。地底で身に付けた事の延長だ。こうやって上手くやって行けてるのはさとりのおかげだ。

そんな順調な一ヶ月間だったんだけどな、実はオレは今───


~~~~~

~~

390: 2014/10/06(月) 23:50:55.55 ID:dzgNf49SO
神峰「……」

縁側に腰掛けて、陽気を浴びながらボーッと空を見上げる神峰。その隣には、神峰と同じように日向ぼっこをする二本の尾を持つ黒猫が居る。

神峰「どうすりゃいいんだ……」

こいし「もっと喜ぼうよ! 夢のマイホームよ!」

神峰「オレの今の稼ぎじゃ生活費がギリギリ赤字なんだよ!! 返済のおかげで!」

現実逃避のようにさとりへの手紙を空想する神峰の後ろから、こたつに入ったこいしに声をかけられ、今ではすっかり慣れたツッコミ(悲痛な叫び)を返す。



神峰は現在、

家を購入し、

借金を背負っていた。



391: 2014/10/06(月) 23:51:37.69 ID:dzgNf49SO

~昨日~

【命蓮寺】

神峰「お世話になりました」


神峰が聖達と向かい合い、頭を下げる。その隣には慧音が付き添いで立っている。

一月が終わろうというタイミングで、人里に受け入れられた神峰を見て、慧音が保証人になる件の返事をしに命蓮寺を訪れた。
それから二月に入って、一月分の稼ぎを貯めた神峰が慧音を訪ね、長屋の下見に行き、めぼしい物件を見繕って来たのである。

そしてこの日、本契約を結んで引っ越すために命蓮寺の皆に挨拶をしているのだ。


聖「我々も、人間である神峰さんが来た事が良い刺激になりました。特にぬえなんかは、あなたが来たおかげで私達と馴染めたように思います」

ぬえ「別に浮いてなんてなかったし! いつも通りだし!」

星「約ひと月ですが、神峰さんの助けになれたでしょうか? また何かあった時はいらしてください」

神峰「皆さんオレの事を受け入れてくれて……本当に助かったッス! おかげで人里にも馴染めました。オレの方こそ、今度何かお礼しに来ます!」

慧音「神峰、そろそろ行こうか」

神峰「はい!」

一輪「大きな荷物を運びたい時は手伝うわよ? ウチは力持ちが多いから」

神峰「あざす! その時は頼みます!」

神峰達は挨拶を済ませて命蓮寺を後にし、大家の下へ向かった。

392: 2014/10/06(月) 23:52:17.24 ID:dzgNf49SO
……………

……


大家「ホントに良いの、先生? 何も外来人の面倒まで見る必要は無いと思うんだけどねェ」

慧音「神峰は信用出来るヤツだって何度も言っているだろう? ……それに、こいつの事情を知ってしまうとな……」

大家「同情しちゃったワケだ。まぁ、この一月で神峰がどんな人間かは大体分かったけどさ」

色んな意味で最終確認をする二人(と神峰)
大家(というより命蓮寺の者と阿求と慧音以外)は神峰の事情を知らないが、本人が納得して行動しているのならば何を言っても結果は変わらないだろうと思い、契約書を取りに席を立った。

神峰「いよいよ幻想郷で自立して生きて行くんだな……借家だけど」

慧音「お前の稼ぎに合わせた物件から選んだんだ。家事の経験もあるようだし心配する事は無いだろう。困った時は人を頼れば助けてくれるさ」

神峰「里の規模から考えると、選べるくらい借家があるのが驚きなんスけど……」

慧音「まぁ、神峰みたいに稀に外来人が人里に永住するケースがあるからな。大体は住み込みで働く事になるが、自立したがる連中もいるんだよ。妖怪に襲われて空き家になる場合もあるしな……」

神峰「……」

393: 2014/10/06(月) 23:53:00.34 ID:dzgNf49SO
二人の会話が途切れたところで、大家が契約書を持って戻って来て机の上に並べた。

大家「お待たせ。んじゃ、これをよく読んでからサインしておくれ。あと押印もね」

神峰「分かりました」

言ってから契約書を読む神峰。念のため慧音も内容を読んだ後に問題が無い事を確認してサインを書き、印鑑を持っていないため指紋印を押した。
その直後、神峰はふと顔を上げて周りを見渡した。

神峰「……?」

大家「どうかした?」

神峰「いえ……誰か居たような……」

慧音「ここには私達以外は誰もいないが……? 勘違いじゃないか?」

神峰「うーん……この違和感はどっかで感じた事がある気がするんスけど……」

書類にサインを終えた後に感じる違和感に胸騒ぎを覚える神峰だが、しかし気にしないようにして大家から地図と鍵を受け取って新居へと移動を始めた。

……………

……

394: 2014/10/06(月) 23:54:04.92 ID:dzgNf49SO

「あれ? 二人で何してんの? そういや今日は休みにしてたよね。デート?」

慧音「断じて違う!! 」

地図を見ながら新居へ向かっていると、通りかかりに甘味処の中から声をかけられた。ニヤケ顔で訊いてくる相手に慧音が即座に否定する。

神峰「オレが家を借りたんで、その保証人になってもらったんスよ。これから新居に行くんス」

「ヘェ、ついに家を! 神峰もそこまで稼いでたんだね。 そうだ、お祝いしてあげるよ! お古だけど家財道具あげようか?」

神峰「イイんスか!? 助かります!」

ちなみに、今話している相手はこの甘味処の店主で、神峰のお得意様である。

神峰がこの店で仕事をしていると、お菓子を賄ってくれるのだ。神峰が甘党なのも手伝って、ここの依頼を受ける頻度は高く、また、神峰が甘党だと知ってからはよく新商品を作って神峰に依頼するようになっているという事情がある。

「いいよいいよ! こりゃ皆で祝わないとね! 」

神峰「あざす!」

慧音「立ち話もこの辺で、そろそろ行こう」

「またよろしくね!」


395: 2014/10/06(月) 23:54:51.65 ID:dzgNf49SO



甘味処の店主と別れ、目的地へ急ぐ。
しばらく歩いた所で、二人の表情が難しいものへと変化し、お互い示し合わせたように目を合わせた。

神峰「……先生」

慧音「……ああ」

神峰「こんな道通りませんでしたよね……?」

慧音「……少なくとも下見に来た時はこの道は通ってないな」

神峰「……とりあえず、地図に従って最後まで行ってみましょう」

慧音(どうなっているんだ……? 地図が間違っているのか、私達が間違えたのか……間違えるほど複雑な道のりではなかったハズだが……)


……………

……

396: 2014/10/06(月) 23:55:37.48 ID:dzgNf49SO


不安を抱きながらも辿り着いた先は、神峰が決めた長屋よりは立派な、小さな一軒家だった。
おそらく住む者が居なくなった空き家だろうその家は、人の気配を感じられないが、きちんと手入れがされている事が分かる小綺麗さがあった。

慧音「どうやら地図が間違っていたみたいだな」

神峰「引き返した方が良かったスね」

一輪「いたいた! おーい!」

頷いて引き返そうとした二人の頭上から一輪の声がかかる。見上げると、雲山に乗った一輪とマミゾウがこちらへ向かっていた。

神峰「三人(?)ともどうしたんスか? 何か用がありました?」

一輪「マミゾウが、神峰さんが一人暮らしするからって気を効かせてね」

マミゾウ「儂からのぷれぜんとというヤツじゃ。よう考えればお主は風呂敷一つで幻想郷に来とったからな、ちょっと奮発してやったぞい」

397: 2014/10/06(月) 23:56:20.89 ID:dzgNf49SO
神峰「?」

一輪「雲山!」

一輪が名前を呼ぶと、雲山が箪笥を持った手を伸ばしてきた。

神峰「こんなの貰っていいんスか!? 嬉しいスけどスゲェ申し訳ねェ!」

マミゾウ「カッカッカ。気にせず貰っておけ」

マミゾウ「それにしてもなかなか良い家じゃな。一人暮らしには十分すぎる大きさじゃし。鍵はそれか? 失礼するぞ」

慧音「あっ! 待ってくれ! その鍵じゃ多分──」

マミゾウが神峰の手から鍵を取って戸を開けようとすると、慌てて慧音が止めようとする……が、慧音の予想に反して鍵はカチャっと気持ちの良い音を立てて解かれた。

慧音神峰「「!?」」

マミゾウ「よし、じゃあ運び込もう。神峰、どこに置きたいか教えてくれんか?」

一輪「雲山、よろしく」

神峰「あの! この家、実はオレが契約───」

398: 2014/10/06(月) 23:57:19.20 ID:dzgNf49SO
萃香「一軒家かぁ。いいね、これアンタが買ったのかい? それとも借りたの?」

神峰「萃香さん!? いつの間に居たんスか!?」

萃香「ここの鍵が開いた時だよ」

萃香が疑問に答えた直後、外からワイワイと賑やかな声が近づいて来た。

「ここが神峰の家かァ!? ついに独立とはめでてェな!!」

「いろいろ持ってきてやったぞ! 役立ててくれよ!」

こいし「ねー翔太ー? 私ペット飼っていいー?」

慧音「次々来るぞ!? どうなっているんだ!?」

萃香「引っ越し祝いに宴会しようと思ったから、萃めちゃった」

399: 2014/10/06(月) 23:57:56.18 ID:dzgNf49SO
神峰「集めたって───!」

マミゾウ「おーい神峰ー! どこに置くんじゃー?」

神峰「ちょっと待ってください!」

ぞろぞろと人が集まり対応に追われる神峰。このままでは収集がつかなくなると思った所に、申し訳なさそうに大家が現れた。

大家「うわぁ……こんなに集まっちゃって……」

神峰「大家さん!」

慧音「どういう事ですか!? 地図が違う上に、鍵まで開いてしまいましたよ!?」

大家「いやぁ、ちゃんと確認したし、完全にあの家の地図と鍵のつもりで渡したんだよ。だけどあんた達が出て行った後に契約書を確認したらさ、全く違う書類でやんの!」

大家「もちろんあたしも確認して渡したし、あんた達二人も確認してサインしたはずなのにさ」

400: 2014/10/06(月) 23:58:33.28 ID:dzgNf49SO
説明しながら頭を捻って唸る大家の話を聞いて、急いで契約書を再確認する神峰と慧音。
そこには今居る一軒家の買い取りについての項目が書かれていた。

慧音「何……!?」

大家「本当に申し訳ない! 今度こそ確認して契約書を持って来たからさ、それは破棄して書き直しちゃおう」

こいし「えー!? せっかく私が選んであげたのにー!」

神峰「こいし!? お前の仕業か!」

こいし「いい家でしょう? 翔太の収入でも返済出来そうな額をお姉ちゃんに計算して貰ってから選んだの!」

もちろん何の計算かはさとりは知らないのだが(しかも生活費を考慮されていない)

慧音「どうする神峰……? このまま人が増えたら収集が……」

神峰「う……」

大家「さっさと正直に事情を話して解散した方が良いねこれは」

それが最善だろうと判断する二人に、しかし神峰は予想外の返答をする。

401: 2014/10/06(月) 23:59:14.62 ID:dzgNf49SO
神峰「……ぐ……、いや……いいス……! この家を……買います……!」

慧音大家「「!?」」

こいし「やったー!」

苦虫を噛み潰した表情で神峰の口から出て来た言葉に二人は驚愕し、さらに慧音は神峰に詰め寄った。

慧音「ちょっと来い! どうしたんだ神峰!? 明らかに表情と行動が一致してないぞ……!?」

神峰「オレも不本意なんスけど……、集まってくれた人達の、あの祝福してくれてる心を見ると……言うに言い出せねェス……」

慧音「そういう事だったら、何なら私が能力を使ってもいいが……」

神峰「ありがたいスけど、一人で出来る所までやってみようと思います……ここまで来て助けられるのもスゲェ申し訳ねェんで……」

二人の話が落ち着いた気配を察して、大家が二人に話しかける。

大家「話は終わったかい? ホントにいいの? まだ間に合うけど」

神峰「イイんです……」

慧音(泣いてる……)

大家「泣いてるよ?」

シクシクと涙を流しながら返事をした神峰は、その後宴会の喧騒に飲み込まれていった。

402: 2014/10/07(火) 00:00:01.50 ID:tOw4wc80O
~~~~~

~~


現実逃避から帰って来てこたつに入り、机の上に計算が書かれた紙を広げてうんうんと唸る。

神峰「契約で有り金全部払っちまったから、賄いが出る仕事で食いつなげねェと……何か良い依頼出てねェかな?」

こいし「えー? 私のごはんはー?」

神峰「お前は地霊殿に帰れるだろ!」

お燐「逆に考えるんだよ、お兄さん。自分がさとり様の下へ帰れば良いんだって!」

神峰「約束した手前、そう簡単に会いに行けねェよ……」

神峰「っていうか何で二人とも居るんだ!? お燐は昨日居なかったし!」

403: 2014/10/07(火) 00:00:43.42 ID:tOw4wc80O
こいし「泊まりました」

お燐「遊びに来たよ」

神峰「……ああ、そう?」

神峰はガクリと肩を落として力無く返事を返すと、おもむろに立ち上がって外出の準備を始めた。

神峰「二人とも来てくれたのに相手出来なくて悪ィけど、オレちょっと仕事探してくる!」

お燐「行ってらっしゃーい。留守番は任せな!」

見送る燐の声を背に、神峰は町へ繰り出して行く。
神峰を見送った燐は、再び猫に化けてこたつで丸くなった。

……………

……

404: 2014/10/07(火) 00:01:28.23 ID:tOw4wc80O

【人里】

神峰「一ヶ月の収入を維持しつつ、さらに生活費を上乗せした稼ぎが必要なのか……キツ過ぎる……」

そんなに稼げる自信が無いため、先の事に不安を抱きつつチラシを眺めると、ある依頼が目にとまった。

神峰「治験か……初めて来た時にもあったな。いざという時はこれにしようとか考えてたっけ……」

神峰「───って、一週間でオレの一月分以上もらえるのかよ!? そんなに治験って高かったのか!?」

神峰の目にもう迷いは無かった。
というより、もう選んでいる場合ではなかった。反射的とも言っていいスピードでサインして、自分の仕事は一週間の休業の知らせを貼り出した。

神峰「もうこれしかねェ! 今月さえ乗り切れば軌道に乗れるハズだ……!」

428: 2014/11/09(日) 12:28:07.32 ID:FZ8cPZZqO

~翌日~


神峰「迷いの竹林か……。妖怪が出る上に、その名の通り確実に迷うなんてファンタジーの中だけだと思ってたな。あ、でも富士の樹海も迷いの森なんだっけ?」

「そう。そしてあんたがこれから向かう先は、その竹林の中にある。つまり、どんな薬を投与されそうになっても逃げる事は不可能ってワケ。まあ、それは依頼を請けた時点で同意したとみなされるから心配はしてないけれど」

まあ師匠から逃げるなんて無理でしょうけど、とウサギの耳を生やしたブレザーの少女、鈴仙・優曇華院・イナバが確認するように補足して頷く。

二人は現在、迷いの竹林の入り口を目の前に立っている。

神峰「そんなマッドサイエンティストみたいな人なんスか……? 幻想郷縁起には良心的って……」

鈴仙「あんな主観だらけの情報を信じるのね……。そうね、あんたらは私達が永遠亭で何やってるのか知らないものね……。ま、被験者になれば師匠がどんな人か分かるわ。さ、行きましょ?」

神峰(……え? もしかしてオレ、ヤバい薬の実験台にされるのか!?)

虚空を見つめて話す鈴仙を見て早速不安が募る神峰。しかしもう後には引けない。
一方の鈴仙は、竹林の中へ先導するように歩き出しており、神峰もはぐれないように気を付けて後に続いた。

429: 2014/11/09(日) 12:29:13.07 ID:FZ8cPZZqO
……………

……


竹林を移動している間、神峰は前を歩く鈴仙を見つめていた。

神峰(オレの高校もブレザーだったな。……なんか、懐かしい)

神峰(幻想郷に来て、また制服を見る事になるなんて思わなかった……耳のせいでコスプレっぽく見えるけど)

神峰(……そういやオレの制服全然着てねェ。売っちまおうか?)

鈴仙「……なに見てんの……?」

制服を見て若干感傷に浸っていると、先ほどから背後から神峰の視線を感じていた鈴仙が振り返った。

神峰「あ。いや、あんたの格好見てると懐かしくなって……」

鈴仙「この服が? あんたもしかして月から……?」

神峰「!?」

430: 2014/11/09(日) 12:30:00.29 ID:FZ8cPZZqO
神峰の言葉に反応して一気に警戒心を強め、剣呑な雰囲気になる鈴仙。その心を見た神峰は訳も分からず、あたふたと弁明を試みる。

神峰「いえ! オレはただの外来人ス! 学校でブレザー着てたから懐かしくなっただけで……っていうか月からって何スか!?」

鈴仙「……そう、嘘ではなさそうね。だけどあんまりジロジロ見られるのも良い気分はしないから、並んで歩きましょ?」

神峰「あ、ああ……」

神峰(びびった……なんかやらかしたかと思った……。確かこのヒト達って月から来たんだよな? 何かあったのか……?)

神峰(つーか会った時からそうだけど、このヒトの心……周りの人達を見下してる……ちょっと会話し辛ェ)

一先ず鈴仙の心から疑念が消えたのを見てホッとする。しかし心が見えるため、何故か見下されている事が分かって妙に会話をしにくい雰囲気になっていた。

431: 2014/11/09(日) 12:31:03.07 ID:FZ8cPZZqO



鈴仙「そうだ」

神峰「はいっ!?」

しばらく無言で歩き神峰が居心地悪そうにしていると、鈴仙の方から神峰へ顔を向けて話しかけてきた。

鈴仙「……なに驚いてるのよ……。まあいいわ。もうすぐ永遠亭に着くんだけどね、悪戯好きな兎のせいでここから先は罠が増えるから、気を付けて」

鈴仙「気をつけると言っても、私の通った所を通ればいいんだけどね」

神峰「罠があるのかよ……マジでダンジョンみてェ……。そういや迷いの竹林なのに全然迷わずに来れたスね。やっぱ地理があれば大丈夫なモンなんスか?」

鈴仙「そうね、永遠亭から人里までのルートなら頭にあるから真っ直ぐ行けるわ。仮に迷っても、私の能力をもってすれば何の問題も無いわ」

神峰(おお、何か自慢気だ……)

エヘンと胸を張り、鈴仙は心なしか上機嫌となる。
その後の道中では少しずつ会話が増えていき、外の世界と月の科学を比較しては鼻を高くする姿が多々見受けられた。


─────

──

432: 2014/11/09(日) 12:32:01.30 ID:FZ8cPZZqO


【永遠亭】

鈴仙「ただいま戻りました───」

永遠亭に着くと、鈴仙は神峰を診療室へ案内し、診療室に居た人物へと帰って来た事を知らせる。すると鈴仙に声をかけられた人物は書類から顔を上げてこちらを振り向いた。

永琳「お帰りなさい。ちゃんと被験者を連れて来てくれたわね」

神峰「!」

神峰(この人……の、心──)

永琳「あら? 汗をかいてるわね。疲れたかしら? 少し休みましょうか。そんなに手間がかかる依頼でもないし、ゆっくり──」

永琳と対面して汗を滲ませる神峰。そんな神峰を気遣う永琳だが、永琳の話は彼女の心に圧倒された神峰には届いていなかった。

神峰(スゲェ……地球の生物の進化の歴史をいっぺんに見せられてるみてェだ……! どんな生き方しからこんな心になるんだ? 医者ってだけじゃこうはならねェ……)

433: 2014/11/09(日) 12:32:43.46 ID:FZ8cPZZqO
永琳「──聞いてるかしら? やっぱり疲れてるみたいね。少し休んでから詳しい話をしましょうか」

神峰「あっ、すみません! 大丈夫! です!」

永琳「……そう? じゃあお茶でも飲んで休憩したら健康診断を始めましょうか。その椅子に座って待っててちょうだい。ウドンゲ、悪いけどお茶を用意してくれるかしら?」

鈴仙「はい」

返事をして部屋を出て行く鈴仙を見送ってから神峰は椅子に着く。その顔には少しの緊張と怯えが見えた。

永琳「どうしたの? 緊張してる?」

神峰「あの……もしかしてオレ、ヤバい薬の実験台にされるんでしょうか……?」

産まれたての仔鹿のようにカタカタと震えながら、恐る恐る訊ねられた神峰の質問を受けた永琳は、一瞬キョトンとした後クスクスと笑う。

永琳「ウドンゲに何か聞いたのかしら? 大丈夫よ。今回の薬はちゃんと動物(ウドンゲ)実験をクリアしての人体実験だから」

永琳「それに、もしあなたに何かが起こってもこちらで対処出来る準備もしてあるし」

神峰「あんまり不安を煽るようなコト言わねェでくれます!?」

永琳「あなたが訊いてきたんじゃない……」


この後すぐに鈴仙がお茶を持って戻って来ると、永琳が神峰に問診をしてから健康診断が始まった。


……………

……

439: 2014/12/02(火) 23:22:27.79 ID:10t1r3GRO



永琳「外来人と言ってたけど、環境の変化に体調を崩すような事も無く健康ね」

健康診断の結果を見ながら、永琳は診断結果を神峰にも伝える。

永琳「でもせっかく健康な所悪いのだけど、薬のデータを取るためには臨床の実験が必要……。つまりあなたには病気になって貰わないといけないのよねぇ……」

神峰「医者の言うセリフじゃないスよそれ!?」

永琳「医者じゃなくて薬師よ?」

神峰「医療関係者!」

神峰のツッコミを受けつつ、永琳は机の上に置いてあるフラスコと、二本の小瓶を手元に寄せて神峰へと見せる。

永琳「冗談はさておき、ここに土蜘蛛から貰って私が培養したとある病原菌と、その治療薬、そして今回の試薬があります」

永琳「あなたはこの菌に感染して、発症した時から私の試薬を飲んで下さい。この治療薬は試薬が効かなかった時の保険ね」

440: 2014/12/02(火) 23:23:47.57 ID:10t1r3GRO
神峰「……? もう治療薬があるのに新しい薬を作るんスか?」

永琳「今回の実験は病気の治療よりも、薬の有効範囲を拡げるためのものなの。人間の薬は妖怪にとっては毒になり、妖怪の薬は人間にとって毒となる」

永琳「それを覆すための、簡単に言えば毒を薬にする実験ね」

神峰「え……それ大丈夫なんスか……? オレ、その薬で氏ぬなんて事になりませんよね……?」

永琳「……。それを確かめるための実験よ。大丈夫、動物実験では問題出なかったし自分でも試したから」

神峰「最初の間はなんスか!? 」

441: 2014/12/02(火) 23:24:36.44 ID:10t1r3GRO
永琳の心を見ても、神峰では解釈が出来ないために余計に不安が募る。
そんな冷や汗をかく神峰の肩に、ポン、と手が置かれた。
肩に置かれた手を辿って見上げると、鈴仙が憐れみの目で神峰を見ている。

神峰「鈴仙さん……?」

神峰(スゲェ同情されてる……! 同情するならせめてこの人を止めて欲しいんだけど……)

そんな神峰の心の声が届いたのか、

鈴仙は目を閉じ、

首を横に振り、

「諦めろ」

というジェスチャーをした。
心が見えるせいで十二分に理解した。

神峰「……」

永琳「ちなみにウドンゲは無事完治したわ」

442: 2014/12/02(火) 23:25:06.96 ID:10t1r3GRO
神峰鈴仙「「!?」」

その言葉で二人は永琳へと顔を向けた。

鈴仙「あの時のアレ、師匠が盛ったんですか!? 妙に優しく看病したかと思ったら!!」

神峰「それオレの成功率メチャクチャ下がりませんか!? アンタよく無事だったスね!?」

永琳「まあ、私はちょっと他の人間とは違うから、データの信頼性が低いのよ」

神峰「人と違う……?」

永琳「知ってるでしょうけど、私達は月から来たの。私は地上の人間ではなく月人というわけ。……少し、体の造りが違うのよ」

永琳は自分が蓬莱の薬を飲んだ蓬莱人である、という事を伏せて神峰に説明を続ける。

443: 2014/12/02(火) 23:25:55.99 ID:10t1r3GRO
永琳「もう一度言っておくけど、動物での実験がクリア出来たからウドンゲにも服用したのよ。段階的には人間に使ってもいいと思ったから被験者を募集したの」

永琳「ハイリスクなのは解っている故のハイリターン、期間も短く設けているわ。こちらも細心の注意を払って準備してるわ」

永琳「やってくれるわよね?」

少なくとも選択の余地をくれるらしい。竹林で鈴仙に言われた事に怯えつつ、覚悟も出来ないまま実験台にするようなマッドサイエンティストはいなかったようだ。
身内に密かに病気を盛って実験台にしたのは十分マッドだが。

しかし神峰にも生活がかかっている。家の負債を払うと決め、やれるところまでやってみようと決意したのだ。

444: 2014/12/02(火) 23:26:32.93 ID:10t1r3GRO
神峰(どうする……? 治療薬があるから少なくとも病気は治る。でも実験に失敗したらあの薬が毒としてオレを蝕むのか)

神峰(さすがに即氏はしねェだろう……。動物実験では大丈夫だったって事は人間にも毒にはならねェかも知れねェ……。それなら引き受けるのもいいかも……つーか最初から引き受ける覚悟を決めて来たんだっけ)

新たに提示されたデメリットにその覚悟も揺らいでいるのだが、しばらく黙って考えていた神峰は心を決めた。

神峰「……わかりました……」

神峰「やらせて、いただきます!」

その返事を聞いて、鈴仙は目を見開いて驚き、永琳は柔らかく笑った。

450: 2014/12/25(木) 00:38:35.56 ID:SuSPk+ccO



パルスィ「本編の途中ですが、水橋パルスィがお送りします」





パルスィ「メリークリスマス! 世の浮かれたカップル達が妬ましい、独り身達の嫉妬が心地良い」

パルスィ「今日が何の日か知ってる? ジャンプNEXTの発売2日前よ。それ以外の行事なんて無いわ」

アリス「貴女何言ってんの……? 本編って何? ジャンプって何よ?」

パルスィ「何って、このカンペに言えって書いてあるから……」

ぬえ「そもそも『くりすます』って何さ? というかこの面子が何なワケ? なにそのトンガリ帽子?」

パルスィ「質問が多いわよ。クリスマスがどういう日かは追い追い分かるわ。この面子は何かしら悪意を感じなくもないわね。……帽子は貴女達も被りなさい」

アリスぬえ「……」カポッ

パルスィ「……似合ってるのが妬ましいわ……」

アリス「どうすればいいのよ……」

パルスィ「さっさと進めるわ。ぬえ、手元のカンペを読んで頂戴」

ぬえ「この紙? ……えー、こんばんは。一度の更新に一月近く待たせてしまって申し訳ない? ただでさえ遅いのにクリスマスネタ? を、やる事を許して下さい? ちょっとした息抜きのつもりだから? ほんのちょっとだけだけど付き合って下さい? ……なにこれ?」

パルスィ「この日のこの時間にここにいるという時点でお察しの寂しい人間の手紙ね」

ぬえ「まだあった。 ……追伸、ソウルキャッチャーズ? と東方? の両方を知ってる人なんて殆どいないと思うけど、東方を知ってる人ならこの面子の理由もお察し出来ると思う。キャラdisのつもりはねェス」

アリス「あっ……私達がここに居るのってそういう括りって事? ……ちょっと心当たりはあるけど、心外だわ」

ぬえ「???」

パルスィ「今回やるのはクリスマスネタと没にした小ネタよ。早速いきましょう」ピッ

ぬえ「何この箱? あっ、神峰じゃん。この箱の中に神峰が入ってn(ry」




想起「独りぼっちのクリスマス」

451: 2014/12/25(木) 01:05:54.34 ID:SuSPk+ccO
~神峰がクリスマスを嫌いだとしたら~



2013年 12月24日 地霊殿


さとり「あの……クリスマスとは何ですか?」

神峰「へ?」

さとり「先ほどから明日はクリスマスか、と考えていらしたので気になって。……すみませんね、クリスマスを知らなくて」

神峰「あ、いや、さとりならもう知ってると思ってさ……」

さとり「ふむ……聖人の誕生を祝う日ですか。成る程、そのように家族で祝うモノなんですね。え? 子どもはプレゼントを貰えるんですか? サンタという方はその聖人とどういう関係があるのでしょうか?……不思議なお祭りですね……」

さとり「……え? サンタの正体は……親なの!?」ガーン

さとり「……あ」

神峰「……」

さとり「あの……仕方ないと思いますよ……? そういう『目』を持って生まれた以上、心が未熟な内は、物事を見た通りに口に出してしまうものですから」

神峰「親父達からすればスゲェ可愛くねェ子どもだったと思うんだ……分からないフリも出来ねェ、夢も見てねェのかって」

神峰「毎年クリスマスになると、両親をあの困った顔にさせるんだ……」

神峰「碌な親孝行も出来ずに今まで来ちまった……。せめて友達くらい、家に呼んで紹介したかったな……」

神峰「だからオレさ、クリスマス、苦手なんだ……」

神峰「あ、困らせて悪ィ」

さとり(家族が絡む不幸ネタは重い……)

454: 2014/12/25(木) 01:23:28.31 ID:SuSPk+ccO






アリス「なんで初っ端からこんな空気にならなきゃいけないのよ……? しかも大して知らない人だし……」ゲンナリ

ぬえ「おい、誰だよあいつ」

パルスィ「チッ、クリスマスなんだからもっとイチャイチャしなさいよね、妬ましいわね……」

ぬえ「誰だよアレ!?」

パルスィ「誰がよ? うるさいわね……」

ぬえ「あいつ本当にさとり!? あんな優しいヤツじゃないでしょ!?」

ぬえ「むしろトラウマ見つけたらグリグリ抉り出して来るのが地底に居る覚妖怪じゃん! 励ます姿なんて初めて見た!」

パルスィ「この頃にはさとりは翔太に心を掴まれてるから、大分柔らかくなってるわ。その上最近では旧都にも繰り出すようになってるから、皆迷惑しているわ」

ぬえ「え? 神峰とさとりってやっぱそういう関係なの?<●><●>」ニヤニヤ

パルスィ「そういう関係だったらとっても妬ましいのに、本人達は否定したわ……妬ましい事にね……」

アリス「どちらにしろ妬ましいのね……」

パルスィ「次行くわよ、次」

455: 2014/12/25(木) 01:51:48.01 ID:SuSPk+ccO
~神峰がクリスマスを好きだとしたら~


2013,12/24 地霊殿

神峰「明日はクリスマスかー……」

さとり「嬉しそうですね。好きなんですか、そのクリスマスというお祭り?」

空「クリスマスってなに? どういうお祭りなの!?」

神峰「今の日本じゃ宗教的な意味合いはねェけど、キリストって人の誕生を祝う日だ」

空「お誕生会ね!」

神峰「そんなモンだな! その日はみんなウキウキしてるから、外を歩いててもそれほど嫌な心も見えねェし、街も綺麗に飾り付けられるんだよ。……たまにパルスィみてェな心があってビビるけどな……」

さとり(なんでそんな心が『見』えるのか、分かってます?)

燐「へぇー、それでそれで?」




神峰「それでな、その日はケーキが食えるんだよ!!!」グッ




燐「……ケー、キ……?」

神峰「西洋のお菓子だ。しかも1ホール買って来てくれるんだ!」

神峰「さらに夜になると、寝てる内に枕元にプレゼントがもらえるんだよ」

空「すごい! よくわかんないけど私も食べたい!」

神峰「じゃあ地霊殿でもクリスマスパーティやるか!」

さとり「あの……物凄く申し訳ないのですが……幻想郷でそんなに沢山の砂糖を使った料理は……というか設備的にそのケーキを作るのは無理なのでは……? お砂糖も高価ですし……」

神峰空「……え?」シュン...

さとり「……すみません」シュン...

燐「さとり様は何も悪くありませんよ」

456: 2014/12/25(木) 02:00:31.03 ID:SuSPk+ccO
~オマケ・バレないサンタクロース~


神峰「……zzZ」

コソ……

神峰「……zzZ」

───メリークリスマス、翔太。

神峰「……ふあ?」パチ

こいし「あ、起きちゃった」

表象『枕元にご先祖様総立ち』バァーン

神峰「うえええああああおおおおお!!?」

457: 2014/12/25(木) 02:27:47.68 ID:SuSPk+ccO



アリス「そのスペル、枕元しか合ってないじゃない……時期もお盆だし」クスクス

ぬえ「え? 何? 同じ日付なのに内容が正反対なの? どういうこと?」

パルスィ「もしものお話しというモノよ。というか、もしかしてアイツ鈍感だったの? クリスマスが好きでもイチャイチャしないじゃない、燃料が足りないわよ」

ぬえ「それは神峰だけの責任じゃないでしょ。それよりも私はさとりの変わりようが気になって仕方ない。違和感がヤバイ」

アリス「隣で嫉妬されるとか迷惑なんだけど……。彼が鈍感で良かったわ」

パルスィ「翔太が鈍感でも誰かがやきもきしてれば妬ましいのに……あいつの鈍感さが妬ましいわ……」

アリス「その下り、毎回入れるつもり?」

ぬえ「こいつと会話すると毎回入るよ」

458: 2014/12/25(木) 02:44:57.03 ID:SuSPk+ccO
~没ネタ①~

ぬえ「おい、神峰!」

神峰「なんスか?」

ぬえ「ふふん、どうよ?」

神峰(え……? 心にモザイクがかかってる!?)

神峰「どうなってんスかそれ!?」

ぬえ「お前がさとりの真似事やって、見透かされるのがちょっと悔しいから正体不明にしてやった!」

ぬえ「心なんて意味分からん物にやるのは骨が折れたけどね、このぬえ様にかかればこんなモンよ!」

神峰「スゲェ!? どうやって心に能力がかかったって分かったんスか?」

ぬえ「自分の気持ちの正体がなんだか分からなくなったから、試しにお前に会いに来たのよ」

一輪「恋か」

ぬえ「違うわァ!!」

459: 2014/12/25(木) 02:58:44.36 ID:SuSPk+ccO





ぬえ「没ネタもなにも、実際に命蓮寺でやったやり取りじゃん。……ん?」

カンペ[流れに組み込めないシーンだったので本編では省いた]

ぬえ「意味分からん!」

パルスィ「そう……、それが……恋 か 」

アリス「心に術をね……興味深いわ。詳しく教えてくれないかしら?」

ぬえ「二人とも違う意味で面倒くさいし……」

パルスィ「甘酸っぱくてとっても妬ましいわよ」ニッ

ぬえ「黙れ!」イラッ

パルスィ「次のネタは本編にも影響しない本当の没ネタですって」

460: 2014/12/25(木) 03:39:54.15 ID:/+gDlk10O
~没ネタ②~


【紅魔館】

レミリア「吸血鬼が血を集めるのだから、みんな怖がると思ったけど……依頼も出してみるものね」クイッ

咲夜「氏なない程度に血を抜くだけで報酬を貰えて、尚且つ短時間で済みますからね。少人数ですが、期待以上の人数かと」

レミリア「ふーん……ん?」コクッ

咲夜「どうかされましたか、お嬢様?」

レミリア「随分と面白い人間の血を貰って来たじゃない、咲夜」

咲夜「はぁ……? どのような人間ですか? 特に変わった方はいなかったと思いますが……」

レミリア「外見だけじゃ分からないわ。そいつはあんたの胸を見ていたんじゃない、その奥……心を見ていたのよ」

咲夜「ッ!?」カァーーッ

レミリア「咲夜にも可愛い所があったのね。あんなにムキになって」クスクス

咲夜「あの……どうしてその事をご存知で……?」

レミリア「この血を飲んで少しだけその時の光景が見えた、それだけよ」

レミリア「それにしても面白い人間が居たものね。私の心はどう見えるのか、興味深いわ」

レミリア「咲夜、そいつを連れて来て。紅魔館へ招待してあげましょう」

咲夜「は、はぁ……かしこまりました」

461: 2014/12/25(木) 04:04:13.45 ID:/+gDlk10O




パルスィ「運命を操る程度の能力って何よ意味わかんないわよどう解釈すれば良いのよ上の展開は都合良すぎでしょう」ブツブツブツブツ

アリス「その他、もしも紅魔館に行ってフランに出くわしたら、神峰が本当に閻魔の所に行って白玉楼に行って終了になりかねないので没になりました、ですって」カサッ

ぬえ「何の話してんの?」

アリス「没ネタの話ですって」

パルスィ「解釈次第で能力の範囲が変わるなんて妬ましいわ……むしろ恨めしい……」

アリス「解釈の自由度が高いからって、自分の都合の良いようにしか見ないのはダメよねぇ……」

ぬえ「あの吸血鬼って血を飲むだけでそいつの運命も分かるの?」

パルスィ「だからそれが分からないから没なのよ。フフフ、ざまぁ無いわね」


467: 2014/12/25(木) 14:08:57.48 ID:ysYx8958O
~小ネタ(ラスト)・もしも神峰が八雲紫の楽団に入ったら~


藍「お前が入団希望者だな?」

神峰「えっ……!? あ、そうです!」ギョッ

神峰(スゲェ尻尾! 何つー存在感!)

藍「歓迎しよう。ついて来い、これからお前を楽団のメンバーに会わせるわ」

神峰「……分かりました」


……………

……


神峰「てっきり紫さんが来ると思ってたんスけど……」

藍「紫様は現在冬眠なさっておられるからな。その間は暫定的に私が代理を務める事になった」

藍「私も紫様が冬眠に入られる時期は仕事が増えるから、早く楽団を纏められる人材を見つけなければいけないのだけど……と、言ってる間に見えて来たな、あそこで皆練習している」

神峰「随分雰囲気のある館スね……」

藍「持ち主はとうの昔に氏んでいて、今は騒霊が住んでいるだけだからな」ギィィーー

藍「新しい団員を連れて来たわよ」

メルラン「おおっ! ついに念願の新人が! これでプリズムリバーオーケストラにまた一歩近付いたわ!!」

リリカ「ってのも馬鹿に出来ないわね。このままチラシ貼ってたら集まるんじゃない?」

ルナサ「何年待つつもりなの……? こっちからも勧誘しないと……。最近紅魔館に断られたばかりじゃない」

妖夢「霊夢にも断られましたしね……」

468: 2014/12/25(木) 14:42:30.14 ID:70camB/gO
神峰(この人達が団員か……良かった、歓迎してくれてるみてェだ。……それにしても……)

神峰「他の団員は何処に居るんスか? 各自で練習?」

神峰以外「「「…………」」」シン...

神峰「えっ? どうしたんスか……?」

藍「そうだ、メンバーを紹介しよう。まずはこちらに居ないが指揮者の八雲紫様。そして私はトロンボーン担当の八雲藍」

妖夢「えっと、バスクラリネット担当の魂魄妖夢です。ただいま練習中です!」

神峰「よろしくお願いします」

メルラン「次女、メルラン・プリズムリバー! 担当は管楽器全部よ!!」

神峰「はっ!?」

リリカ「三女、リリカ・プリズムリバー! メインはピアノ! サブはパーカッション! その他諸々!」

神峰「え!?」

ルナサ「長女、ルナサ・プリズムリバー。担当は弦楽器全般。よろしくね」

神峰「あの……」

藍「そしてこの人間が新人の神峰翔太だ。……以上がプリズムリバー楽団(仮)員だ」

神峰「えええええ!? オレ入れて六人スか!? 後半の紹介もツッコミ所多過ぎる!!」

妖夢「済みません……ついこの間結成したばかりでして……。結成というか決起というか……、とにかく今は人数集めの段階なんです」

メルラン「手を使わずに演奏出来ると多くの楽器が演奏出来て便利よね~」

ルナサ「まさに私達三姉妹でプリズムリバーオーケストラね」

リリカ「私はやる事が多過ぎるから早く担当を割り振って欲しいんだけど」

ルナサ「だったら団員集めに努力しなさい」

藍「では早速、神峰の担当楽器を決めよう」

リリカ「金管と木管はもう一人づついるから、パーカッションが良いと思うなー!」

メルラン「高音は私がやるから低音とかやって欲しいわ! チューバとかどう?」

ルナサ「低音やらせるならコンバスでもいいんじゃない?」


わいのわいの


神峰(オレの意見が全く聞かれねェ……素人だしわかんねェからいいけど)


────

──


~春~

紫「神峰翔太さんには指揮者をやって音を導いてもらいますわ」

一同「ええええええ!? あんだけ揉めたのに!?」


終わり

469: 2014/12/25(木) 15:17:33.02 ID:2e3MoimeO



アリス「楽団の募集なんてしてたのね。掲示板なんて見ないから分からなかったわ」

パルスィ「勧誘されなかった事実に目を向けるべきじゃないかしら? 各いう私にもそんなお誘い来てないわ……そもそもあいつら地底に来てないけど」パルパル

アリス「なんですって……?」

ぬえ「あ……もしかしてこの面子って……独りぼっちって事!? ふざけんじゃないわよ!!」

パルスィ「今頃気付いたのね。私は別に独りじゃないし、独りでも嫉妬が出来るから構わないけど」

ぬえ「私だって命蓮寺に住んでらァ! 独りじゃないわよ!」

パルスィ「正確にはこういう社会不適合者の集まりでしょうね」サラサラ

アリス→他者と積極的に関わらない
ぬえ→所属集団に馴染めない
私→言わずもがな

ぬえ「んなっ……!?」

パルスィ「そもそも妖怪なんて社会不適合が姿を持ってるようなものなんだから、その個性を爆発させて周りから怖れられてナンボでしょうに」

ぬえ「……あ、それもそうか」

パルスィ「あ、でも魔法使いはどうなのかしらね? 」

アリス「わ、私だって魔法使いのコミュニケーションくらいあるから……魔理沙とかパチュリーとか……白蓮とだって……」

ぬえ「その三人ってそれぞれ別の集団にも所属してぬぇ?」

アリス「ゔ……」

パルスィ「今の貴女の心、とっても心地良いわ」ククク

アリス「……もう帰る!」ガタッ

ぬえ「あらら、行っちゃった」

パルスィ「嫉妬を煽るのが私の個性だから、止められないのよ」

ぬえ「もうお開きかな?」

パルスィ「そうね、一人抜けてキリも良いし、いつまでやるのか分からなかったしね。私達ももう帰りましょ」

パルスィ「お疲れ様」

ぬえ「じゃあね」


<ビャクレェェェン! マカイニツレテッテヨォ‼


ぬえパルスィ「……」

487: 2015/01/02(金) 02:23:22.56 ID:HI+9AwWRO
~翌朝~

神峰「……う……、気持ち悪ィ……」

永琳「あら、目が醒めたのね。おはよう。体調は悪いみたいね」

神峰が目を醒まし体調が崩れている事を自覚した直後、神峰の隣から声をかけられる。見上げればマスクと手袋を装備した永琳が、正座をして神峰を見下ろしていた。

昨日依頼を受けた後、早速病原菌に感染したのだから体調が悪いのは当然とは言え、体調は悪いと断言する挨拶はなかなか斬新である。

神峰「あ……おはようございます」

永琳の姿を確認した神峰は、挨拶をするとモソモソと力無く起き上がろうとするが、それを永琳が制する。

永琳「もう少し寝てて良いわ。そろそろ朝食を持って来るから、その後に薬を飲んで頂戴」

神峰「あ……はい。……ところで、いつからそこに居たんスか……?」

488: 2015/01/02(金) 02:23:59.36 ID:HI+9AwWRO
尤もな疑問である。何せ目が覚めたら既に感染予防をした永琳が控えていたのだから。

永琳「あなたが発症する頃合いにかしら。もしも病状が深刻だった場合に、すぐに対処出来るようにね」

神峰「なんか……わざわざすみません」

永琳「試薬が効いて、尚且つ状態が安定していると判断出来るまでは、私とウドンゲでしっかり看病させてもらうわね」

神峰「よろしくお願いします……」

首を振り、気にしなくて良い、という仕草をしながら話しを続ける永琳に、神峰は弱々しく返事をする。

489: 2015/01/02(金) 02:24:44.30 ID:HI+9AwWRO
その後しばらくすると、部屋の外から足音が近付いてきて神峰達の部屋の前で止まり、襖が開かれた。

鈴仙「入りますよー? 起きてますか?」

神峰「おざす……」

鈴仙「案の定元気無いわね。これ食べれる? 一人で体起こせる?」

部屋へと入って来たのは鈴仙だった。永琳と同じようにマスクと手袋をして、膝まであった長い髪も纏めた格好で、両手で持ったお盆にお粥を乗せている。
そして永琳から聞いていたからか、自身の体験からか、神峰の側に寄って腰を下ろし、お粥を隣に置きながら神峰の身を案じた。

言われた神峰はようやく気怠い体を起こそうと試みるが、なかなか体に力が入らない。

神峰「あー……申し訳ねェスけど……支えてもらっていいスか……?」

永琳「……じゃあウドンゲ、彼の食事を手伝ってあげて。私は薬の用意をして来るから」

鈴仙「分かりました師匠」

神峰(いよいよ実験が始まるのか……)


……………

……

490: 2015/01/02(金) 02:25:32.58 ID:HI+9AwWRO
食器がぶつかるカチンという音と、お粥を冷ますための息を吹く音が鳴るゆっくりとした食事の時間も、やがて器の底に弱々しく当たるレンゲの音を最後に終わりを迎えた。

神峰「……ご馳走様です……」

鈴仙「少なめに作ったけど余っちゃったか……」

神峰「あんまり食欲が無くて……すみません」

鈴仙「気にしないでいいわよ。食欲が無くなる事は体験済みだから……」

申し訳なさそうにする神峰に、自分の体験を思い出して苦笑しながらフォローを入れる鈴仙。

神峰「……」

鈴仙「!?」

そしてしばらくして神峰へと視線を戻した鈴仙は、はにかみながらも目が潤んでいる神峰の顔を見てギョッとする。

491: 2015/01/02(金) 02:27:46.99 ID:HI+9AwWRO
鈴仙「ど……どうしたの……?」

神峰「なんか……あったかくて……」

鈴仙「は?」

神峰「病気のせいで気が弱ってるせいかも知れねェけど……こんな風に誰かに優しくして貰ったのが、なんか……スゲェ、嬉しくて……」

鈴仙「そ……そうなんだ……?」

永琳(彼、一体どんな環境で育ったの? 初対面での緊張も凄かったし、なんか人に慣れてない印象を受けるのよねぇ……? ちょっとウドンゲと似てるわね)

朝食が終わったので、直ぐに永琳の持って来た薬を飲み、実験が始まった。
幸いな事にその日は異常が観られず、薬も効いた様で、神峰がなんとか立てるようになったのは三日後であった。

496: 2015/01/15(木) 23:12:26.58 ID:J5D+EIMaO
────

──


「ただいまー」

 夜も深い永遠亭に、何者かの帰宅を知らせる声が響いた。

「永琳ー? イナバー? 着替えの用意をして頂戴ー?」

 その声の主は虚空にそう呼びかけながら、パタパタと屋敷の奥へと続く廊下を歩いて行く。


……………

……

497: 2015/01/15(木) 23:13:43.72 ID:J5D+EIMaO

 永琳による治験の実験も四日目、正確にはもう五日目へと突入した深夜。
 ようやく立ち上がり歩けるまでに回復して、永琳達の看病も1時間に一度の回診で大丈夫だろうと判断された神峰に、新たな出会いが訪れる……

神峰「寒っ! 縁側寒っ! 竹林の中に建ってるから尚更寒ィ……!」

 自立歩行が可能となった神峰は現在、厠で用を足して自室(病室?)へと戻っている最中である。
(ちなみに実験初日からマスクの着用を義務付けられている)

 竹林の中に在り、日光も良く入らないために昼間も薄暗い永遠亭は、和風の屋敷の中庭を有する造りと相待って部屋を出ると寒く、神峰は震えながら身を縮こまらせてその廊下を歩いていた。

神峰「……ん?」

 そんな神峰の耳に自分のものではない足音が届き、何事かと足音の聞こえる方へ顔を上げると、夜遅い時間だというのに見慣れない少女がこちらへ歩いて来ていた。

498: 2015/01/15(木) 23:14:22.03 ID:J5D+EIMaO

神峰「……!? ちっ……!?」

 少女は既に神峰に気付いていたらしく、興味深そうにまじまじと神峰を見ながら尚も近付き、神峰もはっきりと少女の全貌を確認出来る距離まで来ると目を見開いてギョッとその場に硬直した。

「血? ああ、そうだわ。着替えなきゃいけな───」

神峰(血まみれ!? この人───!)

神峰「大丈夫スか!? 八意先生を呼んだ方が……!」

 少女のひとり言に被せるように永琳を呼ぼうと慌てる神峰。何故なら、目の前に居る少女は全身血まみれで、服や顔をベットリと赤く染めており、その服装もボロボロだったからだ。

499: 2015/01/15(木) 23:15:13.22 ID:J5D+EIMaO
「ふふふ、そんなに慌てなくても大丈夫よ。永琳は呼んであるし、怪我ももう無いから」

神峰「怪我ももう無いって、明らかにそんなレベルの出血じゃなくないスか!?」

神峰「……『もう無い』?」

 慌てる神峰だが、目の前の少女の余裕を持った態度を見て落ち着きを取り戻し、完了系で話された言葉に疑問を抱く。

「あ、いっけない。汚れを落として着替えようとしてたんだったわ」

「こんな格好でごめんなさいね? また会いましょう」

 一瞬「しまった」という表情をして、自分の放った言葉に言及されそうな気配を感じた少女は直ぐに誤魔化し、そのボロボロな袖で口元を隠してそそくさとその場を去って行った。

神峰「なんだったんだろう、あの人……。なんかマズイ事を隠してるみてェだったけど……いや、明らかにヤバい格好だけど……」

 もちろんそのような誤魔化しも、神峰の『目』の前では通用しないのだが。

500: 2015/01/15(木) 23:15:47.41 ID:J5D+EIMaO

────

──

「おはよう♪」

永琳「……」

 翌朝、即ち五日目の朝は慌しかった。何故なら、朝食を持って来た永琳に続き、昨夜の少女もやって来たからだ。もちろん最低限の感染対策はしている。
 少女の前にいる永琳はげんなりした様子で、どうやら永琳の反対を押し切って着いて来た事が伺える。

神峰「お……おはようございます」

 神峰はまさかこんなに直ぐに再会する事になるとは思わず、ポカンと呆気に取られながら挨拶をした。

「昨夜はあんな格好で自己紹介も出来ずにごめんなさい。改めて初めまして、私はこの永遠亭の主、蓬莱山輝夜。よろしくね?」

神峰「初めまして……。オレは神峰翔太っていいます。ここには治験の被験者としてお世話になってます……」

501: 2015/01/15(木) 23:16:16.15 ID:J5D+EIMaO

神峰(昨日は月明かりしかなかったし血まみれだったからよく分からなかったけど……スゲェ綺麗な人だな)

永琳「いきなりごめんなさい。姫様がどうしても来るって聞かなくて……」

輝夜「永琳ったら酷いのよ? 病気が感染るからってこの部屋には入るなって言うの! お客人に挨拶もしちゃいけないんですって」

永琳「病人や怪我人は私の管轄なので姫様の客人ではありません」

輝夜「ね? ヒドイと思わない? こんな竹林の中に来る人なんて永琳を頼って来る人ばかりで、私に用のある人なんて実質居ないのよ? むしろ私が出向く事になるのよ? 私お姫様なのによ?」

神峰「えっ? いや……あの……」

 溜息混じりの永琳に輝夜と名乗った少女が突っかかる。神峰(客人)の前でやる辺り、永琳と神峰の両方を困らせたいように感じられる。

502: 2015/01/15(木) 23:17:03.58 ID:J5D+EIMaO

輝夜「それはさておき、貴方、変わった髪型してるのね。外の世界ではそんなのが流行っているのかしら?」

神峰「っ! オレも気にしてるんであんまり触れねェでくれます!? 体質なんで!」

 言葉の端でチクチクと永琳に口撃する事に満足した輝夜は、興味(矛先)を神峰へ向けた。

輝夜「あらそうなの? ふぅん……髪の手入れが大変そうね」

神峰「もう諦めました……」

 項垂れて精神的疲労を感じた所で、自分が輝夜のペースに振り回されている事に気が付く。
 神峰は気を落ち着かせると、今一番気になっている事を輝夜に尋ねた。

神峰「あの……昨日の格好の理由とか……、訊いちゃダメ……スかね?」

503: 2015/01/15(木) 23:17:44.46 ID:J5D+EIMaO

輝夜永琳「「……」」

輝夜「うーん……どうしようかしらねえ~?」

神峰(アレ……? 意外と触れて欲しくない話題じゃないっぽい……?)

 迷う素振りをしながらも心を閉ざす様子の無い輝夜と、話すかどうかを輝夜に任せている永琳の心を見て、拍子抜けする神峰。
 あんな格好で夜中に帰って来たのだから、まず秘密にしたいだろう思っていたために困惑する。

神峰(それほど知られたくない事ってワケじゃないのか? 分からねェ)

輝夜「うん、やっぱ言~わない♪ 心配するほど危険な事はやってないから、気にしないで頂戴」

神峰「いや、血まみれになってるのに危険じゃねェってのは……」

輝夜「……それもそうね、あまり説得力が無かったわね。しょうがない、教えてあげるわ」

504: 2015/01/15(木) 23:18:21.05 ID:J5D+EIMaO

 神峰の言葉に納得してポンと手を叩くと、輝夜はあっさりと前言を撤回する。

輝夜「ケンカしてたのよ、ケンカ。ね? 大した事無いでしょ? さて、貴方の心配も無くなった事だし、そろそろお暇するわ」

輝夜「ご飯のお邪魔をしちゃったわね。またお話ししましょう? 楽しかったわ」

 言うだけ言ってパタパタと部屋を出て行く輝夜を見送って、置いてけぼりを食らった神峰も我に帰る。

神峰「ケンカでああなるのってメチャクチャ危ねェんじゃねェか……?」

神峰(嘘を言ってる心じゃねェとは思う……けど、まだ何か隠してる?)

神峰(はぐらかしたと思ったらあっさりバラしたり、バラしたと思ったらまだ何かあるような態度……。掴みどころがねェな……)

505: 2015/01/15(木) 23:18:54.59 ID:J5D+EIMaO

永琳「姫様に付き合わせてしまってごめんなさい。ケンカとは言っても、見た目以上に酷くはないから心配しないでね?」

永琳「──というより、療養中のあなたにはあまり心労をかけたくないのよね……。だから、神峰さんは気にする事柄じゃないってことを理解してくれないかしら?」

神峰「八意先生は……アンタの姫様が怪我をするような事をしてて、心配じゃねェんスか……?」

永琳「もちろん心配ではあるし、姫様に怪我をするような事はして欲しくないんだけどね……」



永琳「……仕方のない事なのよ」

 神峰の問いに、永琳は苦笑しながら答えた。

516: 2015/01/31(土) 23:11:28.52 ID:KxD/0jrDO
神峰「八意先生も輝夜さんもわからねェ……。隠し事をしてるみてェだけど、オレに教えようともしてる気もする。いや、知られても構わないって思ってんのか?」

神峰「八意先生は輝夜さんが教えるなら止める気はねェみたいだけど、きっと自発的には何も話してくれねェよな」

神峰(近付いては離れて……、なんだか蝶々を捕まえてるみてェだな)

神峰「言われた通り、気にしねェ方がいいのか……?」

 今朝の事を思い返して、モヤモヤとした気分でその日を過ごす神峰。
 ここ永遠亭の主が血まみれになるような喧嘩をしているというのに、薬師(医者)である永琳が輝夜を諌めない事がどうしても気になるのだ。

 その上、神峰に対して輝夜と同様に気にするなと言ってきた。これは身内の問題なのであなたが関わる必要は無い、と受け取る事が出来るのだが、そういうニュアンスで言われたのではない気がするのでさらに神峰を悩ませる。

517: 2015/01/31(土) 23:11:59.00 ID:KxD/0jrDO

「姫様の事が気になるかい?」

 そうして悩んでいると、聞き慣れぬ声が神峰にかけられた。

神峰「え? ……えっと、誰スか?」

 声のした方を見やると、衛生帽子にマスク、手袋を着け白い割烹着を着て、おまけにゴーグルまでした完全装備の小さな女の子(?)がいた。怪しさ全開である。

「あたしはここの住人さ。名前は因幡てゐ。あんたの事は知ってるよ、神峰翔太。人里に居たのをよく見かけたからね」

神峰「あの、初めまして……」

神峰「もしかして輝夜さんの事、教えてくれるんスか……?」

 少女の奇妙な格好に戸惑いながら、先ほど聞いた言葉の意味を訊ねる。

518: 2015/01/31(土) 23:12:48.83 ID:KxD/0jrDO

てゐ「誰にも言わないなら教えてあげてもいいよ。──というか、あんたには別に教えても良いって姫様に言われてるんだけどね」

神峰「!」

神峰「……じゃあ、お願いします……!」

 離れたと思ったら急に近づいてきた。
 まるで自分が輝夜の掌の上で遊ばれているような気になるが、折角のアプローチを逃す手はない。少しでも何かを得ようと、神峰はてゐを促した。

てゐ「あいよ。……さて、あんたは今朝、姫様と会っただろう? どうだい、美しかっただろ?」

神峰「……? まあ、キレーな人だと思いましたけど……」

てゐ「そうだろう、そうだろう。ウチの姫様は昔ね、そりゃあ何人もの男に求婚される程だったんだ。まるでお伽話みたいでしょ?」

神峰「確かにお伽話みたいスけど、一体それにどんな関係があるんスか?」

519: 2015/01/31(土) 23:13:21.63 ID:KxD/0jrDO

てゐ「だったら、"かぐや"という名前の登場人物が出て来るお伽話は知ってる?」

神峰「!!!」

 てゐの話にイマイチ関連性を見出せなかった神峰だが、てゐのこの一言で一気に核心へと近付いた。
 永琳やてゐ、恐らく鈴仙からも姫と呼ばれる永遠亭の主、輝夜。即ちかぐや姫と言えば、外の世界では国語の教科書にも載っている物語──

神峰「竹取物語……! じゃあ、まさか……輝夜さんは……」

てゐ「そう。ウチの姫様は、竹取物語の輝夜姫、その人だよ」

 拍子抜けするくらい唐突に明かされる輝夜の秘密。輝夜と出会ってからまだ半日も経っていないというのに、かなり深い所まで踏み込んでしまった事に不安を覚えるが、それでも神峰は疑問を抑えられなかった。

520: 2015/01/31(土) 23:14:20.91 ID:KxD/0jrDO

神峰「あの……、一コ、いいスか?」

てゐ「なんだい?」

神峰「竹取物語って確か平安時代の話っスよね……? 鳴くよウグイス平安京だから……千二百年前!?」

てゐ「物語中の時代は奈良時代らしいから、もうちょっとだけ古いね。ま、そういう風に女性の年齢を逆算するのは感心しないけど」

 てゐのゴーグル越しのジト目が神峰に刺さるが、神峰は別の事で頭が一杯で気付かない。

神峰「輝夜さんって人間じゃねェのか……!? 妖怪じゃねェのに千二百年も生きてるなんて……!」

てゐ「確かに人間じゃないよ。姫様は月人……いや、正確には蓬莱人か」

神峰「蓬莱人?」

521: 2015/01/31(土) 23:15:02.43 ID:KxD/0jrDO

てゐ「竹取物語と言えば、その最後にもう一つ、重要なモノが出て来るでしょ?」

 さて、何かあっただろうかと、自分の覚えている竹取物語を思い出すために、しばらく考え込む神峰。

神峰「……。えっと、すみません……。最後はかぐや姫が月に帰ったくらいしか覚えてねェス……」

てゐ「ありゃ? そこまでは伝わってないのかな? 千年前だから全文は残ってないのかもね」

てゐ「蓬莱人ってのは、不氏の薬を飲んで不老不氏になった人間の事だよ。竹取物語では、姫様は去り際に、世話になったお爺さんに不氏の薬を遺したって話があるんだ」

てゐ「だからあんたは何も心配する必要は無いのさ。いくら喧嘩しようが、どんな怪我をして帰って来ようが、なんたって姫様は氏なないんだからね!」

 きっと輝夜は、この事を神峰に伝えるためにてゐを寄越したのだろうと神峰は思った。どうやらてゐも、心を見る限り嘘は言っていない。

522: 2015/01/31(土) 23:16:11.57 ID:KxD/0jrDO

神峰「不老不氏……って事は、妹紅さんと同じか……」

てゐ「! ……へぇ──」

 納得しながらぼそりと呟かれた神峰の言葉を聴き、マスクで隠されたてゐの表情が僅かに笑いに歪んだその時、襖が開かれて鈴仙が表れた。

鈴仙「神峰さーん、お昼持って来ましたよ──って、なんでてゐがここに居るのよ? もし神峰さんに悪戯したら、師匠が黙ってないわよ?」

てゐ「おお怖い怖い。ただお客さんとお話しをしてただけの善良なウサギさんを悪者扱いするなんて。お客さんも言っておくれよ、私達はただ会話してただけだよねぇ?」

鈴仙「どの口が善良とか言ってんのよ……」

 てゐのわざとらしい演技に苛立ちつつも、鈴仙は呆れた様に溜息と共に吐き捨てる。

神峰「あの、本当にこのヒトと話してただけっスよ?」

てゐ「それみたことか! いくら私でもお師匠様の実験台にはちょっかい出さないって! あんたも早とちりだねェ~?」

 神峰がてゐに同意した事で、てゐは水を得た魚の様に鈴仙を煽る。

523: 2015/01/31(土) 23:16:50.92 ID:KxD/0jrDO

鈴仙「んなっ……!? 元はと言えば、あんたの日頃の行いが悪いから疑われるんでしょうが!」

てゐ「狼少年になった覚えはないねぇ! あたしは幸福を呼ぶ可愛いウサギだよー?」

 などと言って、笑いながら部屋を飛び出して行ったてゐ。しかも去り際に割烹着やマスクや帽子などの装備を脱ぎ捨てて鈴仙の顔にぶつけて行くというオマケ付きである。

鈴仙「……」

神峰(怒ってる……)

 その鈴仙はというと、体をワナワナと震わせながら神峰の昼食を床に置いて、頭に引っ掛かったてゐの装備品を剥がした。
 装備の下から表れた顔は真っ赤であったが、神峰の存在を思い出すと、「はっ」と間の抜けた声を出してみるみるその赤を羞恥のものへと変化させていく。

鈴仙「ゴホン! ……えーと、本当にてゐに何もされなかった? もし何かされたら遠慮無く言って良いから!」

神峰「……あ、ハイ」

 照れ隠しに咳払いをして取り繕う鈴仙に、神峰も上手くフォローする事が出来ずに気まずい雰囲気の中、昼食を摂った。

524: 2015/01/31(土) 23:17:42.14 ID:KxD/0jrDO
……………

……


てゐ「教えちゃって本当に良かったの? 姫様」

輝夜「私の素性よりも先にあの姿を見られちゃ仕方が無いわ。変に気にされて私の事を調べられてもイヤだし、それなら敢えて教えちゃう方が良いでしょう?」

輝夜「……それに、これだけ教えておけば、それ以上深くは探って来ないでしょうし。彼、誰にも言わないと思う?」

てゐ「私が観察して来た限りじゃあ、約束は守る人間だと思うよ。外来人にしては珍しいというか、外来人だからこそというか……」

てゐ「でも……」

輝夜「どうしたの?」

 輝夜が神峰に不老不氏を教えた理由は、まず自分の周りを嗅ぎ回って欲しくなかった事が一つ。これは単に自分の周りをうろちょろされて行動を制限されたくなかったからだ。
 そのため、てゐから聞いた神峰の外来人という境遇を利用して、お伽話に絡めて説明する事で注意を逸らしたのだ。

 では何から注意を逸らしたのか、それが二つ目、「血まみれになる程の喧嘩」である。
 これも輝夜としては知られても構わないのだが、ようやく永琳も小言を言わなくなって来た所なので、また誰かにとやかく言われるのは御免被りたいのだ。

525: 2015/01/31(土) 23:18:19.59 ID:KxD/0jrDO
……………

……


 果たして輝夜の狙いは──


神峰「でも……不老不氏だからって、どうしてあんな事やってんだ……?」


 上手くはいかなかった。
 お姫様であるため謀は苦手なのだ。

……………

……



てゐ「あいつ、妹紅の事を知ってるみたいですよ?」

輝夜「……ふぅん。──ま、人里で暮らしていれば会う事もあるでしょう。それよりもあいつ(妹紅)、知り合いが出来る程の社交力があったのね」

輝夜「──ふふ。それなら別に、『喧嘩』の真実がバレても面白くなりそうよね?」

てゐ「じゃあ、それも教えちゃうの?」

輝夜「そうね。今度、永琳にバレないように彼を連れ出すのも面白いかもしれないわね」

 あっちへ行ったりこっちへ行ったり、まるで蝶々の様にヒラヒラと、輝夜の目的は変わる。

532: 2015/02/11(水) 23:52:42.14 ID:ObEfeeLwO
~~~~~

~~

 神峰翔太と藤原妹紅の出会いは、上白沢慧音を介する事によって実現した。
 もしも彼女が居なかったら、神峰と妹紅はお互いに村人AとBという程度の認識しかなかったのかも知れない。
 里の中で見かけはするが、関わる事は殆ど無い。そうなるくらい、お互い初対面に対して積極的になれない性格だった。



慧音「お? 妹紅じゃないか」

神峰「確かあの白髪の人っスよね?」

 慧音の呟きに、神峰は慧音の目線を追って辿り着いた人物を視界に捉え、自分の知識から妹紅という人物の情報を引っ張り出して慧音に確認をする。

慧音「人里で白い長髪は私か妹紅くらいだから、里に来るとやはり目立つな。妹紅はブラウスと赤いモンペの組み合わせだからとても分かり易い」

533: 2015/02/11(水) 23:53:33.80 ID:ObEfeeLwO

 慧音は神峰の確認に頷いて肯定し、さらに妹紅の外見の特徴を説明する。
 妹紅も神峰達の話が聴こえたのか、こちらに気付き、近寄って慧音に軽口を吐く。

妹紅「慧音のそのヘンテコな帽子も、目立って分かり易いでしょ。っていうか前から思ってたけど、それ帽子なの?」

妹紅「──あ~……っと、そちらさんは確か、話題の外来人だったかしら? 私の事は知ってるみたいね」

 妹紅は神峰へと視線を向けて苦笑しながら、神峰と同様に自分の認識が間違っていないか確認する。

慧音「変とは何だ、どう見ても帽子だろう。こいつは神峰翔太という。あなたの言った通り、現在里で一番目立つ外来人だよ」

534: 2015/02/11(水) 23:54:06.55 ID:ObEfeeLwO

神峰「えっと、藤原さん……初めまして」

妹紅「妹紅でいいわ。よろしくね」

神峰(この人の心……傷だらけだ……。しかもオレや、慧音先生に対してまで線引きして距離を取ってる)

神峰(あんなに傷だらけになってんだ、それだけ慎重にもなるよな……)

 神峰の見た妹紅の心は傷だらけで、その手に持つ棒で神峰に向かって互いを隔てるように足元に線を描いていた。

神峰(多分、あのラインまでがオレの踏み込める限界だ……! それ以上近付くと心を閉ざされるかもしれねェ)

535: 2015/02/11(水) 23:55:02.39 ID:ObEfeeLwO
慧音「それとな、妹紅。神峰は幻想郷縁起を読んでるから……あなたが不老不氏という事も……知ってる」

神峰「!」

 慧音が言った事を聞いた途端、妹紅の心に描かれた線は掻き消され、その心は必氏に線の修正を行う。

妹紅「……へぇ、幻想郷縁起? そんなのがあるんだ? ……うん、知ってるなら別に構わないけど、あんまり言いふらさないでね?」

 妹紅はそのまま「じゃあね」と言って歩き出して二人を通り過ぎ、慧音はその背中を苦笑しながら見送っていた。

慧音「ちょっと無愛想と思うかも知れないけど、以外と内気な人なんだよ。里に出てくるようになってからは里の人達と交流しようと努力しているんだ──って、神峰なら見れば分かるか」

536: 2015/02/11(水) 23:55:32.23 ID:ObEfeeLwO

神峰(あの人、オレが不老不氏を知ってるって言われた途端、怯えながら越えられた線の修正をしてた……)

神峰(きっとその事で何かトラウマがあるんだ……、あんなに傷だらけになるほどの……。オレにもよく分かる。他人と逸脱してるって事がどれ程辛ェのか……)

慧音「どうしたんだ神峰? 何か妹紅に『見』えたのか?」

神峰「あの、慧音先生……、もしかしてだけど……妹紅さんと話す時……、距離……感じてねェスか……?」

慧音「……まあ、な……。だけど彼女の境遇を考えると、そう簡単に心は開けないだろう……」

神峰「……」


~~

~~~~~

548: 2015/03/09(月) 00:08:48.97 ID:PAYJw+4iO
~実験6日目~


永琳「概ね治りましたね」

 本日の定期回診にて、神峰が完治したと永琳は判断した。それを聞いた神峰は、初日の不安もあってかホッと胸を撫で下ろす。

神峰「って事は実験は成功って事スか?」

永琳「そう判断するにはまだ事例が少な過ぎるわね。本来ならもっと人を集めてからいっぺんに診るつもりだったんだけれど、今回は神峰さんしか来てくれなかったし」

永琳「これからも被験者を募って観察していくしかないわね。……そうそう、一日余ったけど、この実験は薬の効果を観る実験だから明日まで観察させてもらうわよ?」

神峰「ええ、構わないスよ」

永琳「あと、治療の予後を診たいから、ひと月はウドンゲをあなたの家に向かわせる事になるわ。明日帰る時にウドンゲに場所を教えておいてくれないかしら?」

神峰「分かりました。つーかそんなにしてもらって……イイんスか?」

永琳「むしろ薬を服用した後に、何時何が起こるかはしっかり確認しないと。本当なら一ヶ月は観察したいのよねえ」

神峰「さすがにそんなに時間は割けねェス……」

永琳「そうよねえ……。だからアフターケアという形で、ウドンゲに観察を頼む事にしたの」

神峰「なるほど……」


……………

……

549: 2015/03/09(月) 00:09:47.64 ID:PAYJw+4iO

 病気が治った事で一日フリーとなった神峰は、少しの制限はあるものの、自由に動ける許可を永琳から貰った。
 制限とは言っても、輝夜や永琳の部屋及び、神峰が初日に通された診療室に近付いてはいけないといった事であるため、ほぼ自由に永遠亭内を移動出来る。が──



神峰「スゲェ暇だ」



 竹林に囲まれた永遠亭には大した娯楽が無い。そもそも住人も輝夜に永琳に兎達と少なく、そのくせ屋敷は異様に広いのだ。
 長い廊下や、襖で仕切られた多くの部屋。初めはその広さに好奇心を刺激されたが、屋敷を一周すると、満足したのか飽きたのか、自分には特にやる事が無い事を思い出して途方に暮れるのであった。

神峰「これじゃどうやって一日潰せばイイのか分かんねェな……。ここの人達はどうやって過ごしてんだ?」

神峰「八意先生は薬師だから言わずもがな……、鈴仙さんはその助手だし、てゐはほぼ竹林で活動……、ん? 輝夜さんは何やってんだ……?」

550: 2015/03/09(月) 00:10:39.52 ID:PAYJw+4iO

 一人一人、自分の指を折りながら各人の生活を確認するが、輝夜だけは何をしているのかわからず、自分の持つ情報から意味不明な予想をする。

神峰「もしかしてやる事ねェから夜な夜な喧嘩しに出掛けてんじゃ……って、そんなヤンキー漫画みてェな展開あるわけねェか」

てゐ「アンタ、ウチの姫様の事何だと思ってんの?」

神峰「ヒッ!!?」

 ビクッと飛び上がり振り返ると、てゐが溜息混じりに呆れた顔をしていた。
 そんなてゐを前にして、神峰は慌てて弁解を試みる。

神峰「本気でそう思ってるワケじゃねェスよ!? ただ……輝夜さんはどんな生活してんのかなーって思って……! それと、何でお姫様なのに喧嘩なんてしてんのか理由考えてたらそうなっただけっつーか……!」

てゐ「うん、まぁ、本気じゃないってのは分かってるけどさ? それでもやんごとなき理由があるかもしれないのに、その答えはおかしくない? やっぱりアンタ、姫様の事、何だと思ってんの?」

神峰「すみませんでした!!」

551: 2015/03/09(月) 00:11:21.24 ID:PAYJw+4iO

 てゐに「それはないわ」とばっさり切て頭を下げる神峰。
 謝罪をした後に、何故てゐが自分の前に現れたのか、ふと気になって本人に訊いてみた。

神峰「……ところで、こんな所でどうしたんスか?」

てゐ「アンタが暇そうにしてるのを見かけたからね、暇つぶしにちょっとイイモノでも見せてあげようかなと思ってね。……興味があるなら案内したげるよ?」

神峰「……?」


……………

………

552: 2015/03/09(月) 00:12:52.39 ID:PAYJw+4iO

神峰「おおお!? スゲェ! 外の世界じゃ、こんなの絶対見れねェ! これ、オレなんかに見せても大丈夫なんスか!?」

 少し怪しいと思ったものの、てゐに神峰を騙す気が無いことと、何より暇であったため、誘われるままに着いて来たそこは、物置のような部屋だった。
 てゐはさらにその部屋の一角に神峰を案内すると、そこにある資料や物品を自由に見ても良いと言ったのだった。

てゐ「あー、大丈夫大丈夫。それ、ウチが毎年やってる月都万象展の展示品だから。見せるだけなら何も問題無いでしょ」

 月都万象展とは、永遠亭で開かれた、月の都に関する物品や資料を展示したイベントである(東方求聞史紀、幻想郷縁起より抜粋)
 要するに月の都博覧会である。

神峰「なんか先取りしてるみたいでちょっと申し訳ねェけど、でもこんな資料を見れるなんて役得な気分……」

神峰「残念なのは、この言葉が何て書いてあるのか読めねェ事か。小鈴ちゃんなら読めるかもしれねェけど」

てゐ「それは昔の月の言葉らしいからねぇ。お師匠様なら読めるだろうけど」

553: 2015/03/09(月) 00:13:34.11 ID:PAYJw+4iO
神峰「それにしても……外の世界じゃ、ようやく有人ロケットを月に打ち上げたってのに、その遥か昔に月ではこんなに文明が発展してたなんて、スゲェ……」

鈴仙「──どう!? すごいでしょ!?」

神峰「!?」

 興味津々に資料を見ていた神峰の呟きに合わせて、突如部屋の襖をバンッと勢い良く開いて現れた、誇らしげに胸を張った鈴仙の大声に、神峰は思わず飛び上がった。

神峰「鈴仙さん!?」

鈴仙「やっと月の凄さが解ったようね。最初の時は生返事が多かったけど、資料のおかげで月がどれ程進んでいるのかイメージ出来るようになったかしら?」

神峰(もしかして……なんかスイッチ入ったっぽい……?)

554: 2015/03/09(月) 00:14:10.63 ID:PAYJw+4iO

 神峰達の方へとドヤ顔で歩み寄りながら言葉を続ける鈴仙。
 神峰がはしゃいでいたのは月の文明もあるが、何よりも外の世界では一生知る事の出来なかったであろう情報を見せて貰えた事が大きい。つまりロマンである。
 そんな事を知る由も無い鈴仙は、神峰の見ていた資料を手に取ると、多少の補足をしながら説明を始めている。

てゐ(まあ……博覧会の時はあんなに出しゃばれないしね)

 二人の心のすれ違いによる温度差を理解したてゐには、意気揚々と説明している鈴仙はさぞ滑稽に見えただろう。

 神峰にとっても、いきなり鈴仙が自慢するように説明を始めた事には戸惑いを覚えたが、神峰が読めなかった資料について鈴仙の知る範囲ではあるが教えてもらえ、夜までの良い暇つぶしとなった──

555: 2015/03/09(月) 00:14:46.57 ID:PAYJw+4iO

~その夜~


永琳「それじゃあ、明日は昼の検査が終わったら人里まで送りますね」

神峰「はい。分かりました」

永琳「では私はこれで。おやすみなさい」

神峰「お休みス」

 夜の検査が終わり、襖がパタンと閉じられて永琳が退室したのを見送った神峰は、すぐに明かりを消して布団の中へ入った。
 前述した通り、神峰の把握している限り、永遠亭には娯楽が少ない。そのため、夜になると寝る事以外に特にやる事が無いのだ。

神峰「ふー……明日で最後か……。最初はどんなヤバい実験をやらされるんだろって不安になったけど、全然そんな事なかったな」

 瞳を閉じて、この一週間を振り返りながら眠りに落ちていく。

 そして完全に意識を手放し、日付けが変わったところで、不意に部屋の前を通る足音が聴こえて来た事で目を覚ました。

556: 2015/03/09(月) 00:15:27.37 ID:PAYJw+4iO

「姫様、今夜もお出かけ? こんなに短い期間に、また竹林に出るなんて珍しいね」

「そういう日もあるわ。……それに、あいつにちょっかいを出すのが私の仕事みたいなものでしょう?」

「いや、同意を求められても、私ゃ姫様の心中なんてお察し出来ませんけど……」

「そういう訳だから、行ってくるわ」

「行ってらっしゃーい」

 トントンと、再び足音が鳴り遠ざかる。
 声と会話から察するに、輝夜とてゐだろう。

557: 2015/03/09(月) 00:16:12.73 ID:PAYJw+4iO

神峰(もしかして……またケンカに行くのか?)

 両者のやり取りを聴いてそう判断すると、次に、どうしてお姫様がこんな夜遅くにケンカをしているのか、という疑問がどうしても気になってくる。

「さて、と……」

 そこへ、輝夜を見送って、先ほどから神峰の部屋の前を動かなかったてゐが動きをみせた。

「起きているんでしょ? 神峰翔太」

神峰「!?」

 突然の思いがけない呼びかけに、神峰はビクリと心臓が跳ね、そしておずおずと襖を開く。

神峰「分かってたんスか……?」

てゐ「兎の聴力を舐めちゃいけないよ? というか、あんたに気付かせるために、わざわざ姫様をこの部屋の前で捕まえたんだ」

神峰「なんでそんな事を……したんスか?」

558: 2015/03/09(月) 00:17:07.54 ID:PAYJw+4iO

てゐ「先日、姫様が面白くなりそうだと言ってたからね、本当にそうしてやろうかなって。ま、これから先は物見遊山なんて半端な気持ちでは見せられないし、赤の他人のあんたが軽々しく首を突っ込める事ではないんだけどね」

てゐ「それでも姫様の事を知りたいなら、連れてってあげるよ? 覚悟できる?」

神峰「……どうしてそんなに、オレを関わらせたいんスか?」

 不自然なてゐの誘いに、その心を見て自分を関わらせたいと読み取った神峰は、その真意を問う。

てゐ「幸福を呼ぶ兎の妖怪の本分を、そろそろ全うしたいから……と言っても、姫様は別に不幸ではないし、あんたの病気も無事に治った。本当は心を掴むあんたの力を、真近で見てみたいんだよ。その相手に姫様達はうってつけなのさ」

神峰「そ、それだけの理由で?」

559: 2015/03/09(月) 00:18:03.20 ID:PAYJw+4iO

てゐ「それだけじゃないだろう? でなきゃあの覚に取り行って、地底から這い上がるなんて不可能でしょ。いやぁ、地獄烏に背負われて、覚と一緒に人里に降りて来た時は度肝を抜かれたよ!」

てゐ「だから、姫様の秘密とあんたの真髄の物々交換をしようかなって」

神峰「それあんた、何も支払う物無いスよね!?」

 つい先ほど良い話っぽく語っていたのに、続く言葉で色々と台無しになった事で、神峰は緊張が緩んで声が大きくなった。

てゐ「ちょっと、声、もっと抑えて」

神峰「す、すみません……」

てゐ「それで、来てくれるかな?」

 まるで悪巧みをするような、ニヤリとした笑顔で訊ねるてゐに対し、少し考えてから神峰は答えを出す。

560: 2015/03/09(月) 00:19:00.54 ID:PAYJw+4iO

神峰(理由はともかく、てゐはさっき、オレの真髄を見るために姫様達がうってつけって言ってたな……。つまり、輝夜さんか、そのケンカ相手のどちらか、もしくは両方の心に関わる必要があるって事……だよな?)

神峰(だとしたら、オレが関わる事で、それを改善出来るって事か? つまり、やっぱり輝夜さんのケンカは、何か問題が起きてるから引き起こされている……? 仲裁でもすりゃイイのか?)

神峰(──いや、オレが関わってなんとか出来るなら……! オレのトラウマを克服するためにも……!)

 神峰は幻想郷に来てから、自分の目(能力)と向き合い、他者の心と向き合う術を手に入れた。
 しかし未だに、他者の問題と直面したのはさとりの心以外には無い。人の心を良い方へ変える事が最終目標の神峰には、てゐの誘いを断るという選択肢は無かった。

神峰「オレを……連れてってください!」

てゐ「グット! あんたのお手並み拝見と行こうか」

572: 2015/03/31(火) 02:58:53.38 ID:V/ZK7el2O
……………

……


てゐ「そんなに警戒しなくとも、私から離れずに着いて来れば、襲われる心配は無いよ」

 神峰とてゐは、夜の竹林を進んでいた。
 昼間でさえ、どこを見渡しても同じような景色で方向感覚を奪う竹林が、夜になると、まるで獲物を竹林の奥へ、闇の中へと誘う様な不気味さに表情を変えている。
 笹のざわめきすら、昼間とは違い、人の心に不穏な陰を落とすため、神峰は緊張した面持ちで辺りを見回してした。

てゐ「長生きしてるとはいえ、私も弱い妖怪だからね。こんな夜中でも、他の妖怪と遭遇しないように道を選んで歩いているから安心して良いよ」

神峰「そう言われても、メチャクチャ出そうなんだけど……」

てゐ「そりゃあ出るよ。幻想郷だもの。いつぞやは半生半氏も出たからね」

神峰「それってもしかしてゾンビッスか!?」

573: 2015/03/31(火) 02:59:27.60 ID:V/ZK7el2O

 半生半氏という言葉に、神峰は腐りかけの身体を持つゾンビを連想して顔を青くする。こんな雰囲気のある場所で、そんないかにもな話を聞いたため、その状況が鮮明に想像出来てしまったのだ。

てゐ「いや、半人半霊だったかな? ゾンビの方は寺の墓地にでも行けば会えるんじゃない? まあ、どっちも変わらないね」

神峰「ソレ同じなのか……?」

 両者の名誉のために説明すると、状態としては似ているが、見比べると似ても似つかない。
 とりあえず神峰の警戒を解した事で、二人はさくさく目的地へ進んで行った。


……………

……

574: 2015/03/31(火) 03:00:17.45 ID:V/ZK7el2O

てゐ「そろそろだよ」

神峰「!」

 目的地へ近付いた事を告げられ、神峰の身体は来る時とは違った緊張で強張る。

神峰(これからケンカの仲裁か……。どういう事情があるのか分からねェから、どう切り込めば良いのかさっぱりだ……)

神峰(さとりなら、すぐに事情を理解して収められるんだろうけど……ってのは無い物ねだりか。──声が聴こえる! いよいよか!)

 おおよそ女同士が喧嘩する時のようなものではない怒声が神峰達に届く。
 血塗れになる程だと知っていたため、キャットファイトとかいうレベルでは収まらないと予想していた神峰だが、足を進めて目に入って来たその光景は、その予想を遥かに超えていた。
 そして、輝夜の喧嘩相手にも驚かされる事になる。

575: 2015/03/31(火) 03:01:03.22 ID:V/ZK7el2O

神峰(な!? あの人確か……妹紅さん!?)

 神峰が捉えた人物は、その長い白髪をたなびかせ、輝夜に向けて爆炎を放っていた。その光景はもはや喧嘩というよりも──

てゐ「おーい、こっちこっち!」

 神峰が釘付けになっていたところに、てゐが小声で草陰へと手招きする。
 気付いた神峰も慌てて身を潜め、再び目の前の喧嘩を見ながら小声でてゐに話を訊く。

神峰「なあ、アレってもうケンカとかそういうのじゃなくて……頃し合い……じゃねェ……か?」

576: 2015/03/31(火) 03:01:38.26 ID:V/ZK7el2O

てゐ「そうだね。私達の次元から見たら全員がそう思うだろうね。だけど、二人にとってはソレさえもケンカの内らしい。なんせ氏なないからね」

神峰「は!? 不氏身だからってケンカであそこまでやるか普通!?」

てゐ「あの二人の間にはいろいろあったみたいだからね。ま、その辺はアンタのチカラに期待するよ」

 輝夜も妹紅も、すでにボロボロだ。服も肌も、破れ、血に塗れ、煤けている。
 しかしその傷はすぐに再生して、不毛とも言える闘いは続く。

577: 2015/03/31(火) 03:02:33.94 ID:V/ZK7el2O

妹紅「らあああああああああ!!」

 妹紅が輝夜に組み付き、その手から火を放つ。おまけにヘッドバットをかまして、仰け反った輝夜の顔面を、火を纏ったままの右手で殴りつけた。

輝夜「っ痛~~~……。熱んだから……離れなさいよ!」

妹紅「ゴフッ!?」

 鼻血をボタボタと流して文句を言いながら、未だ自分を掴む妹紅の左手首を掴み、握り潰してから引っ張り、カウンター気味に妹紅の胸部正中を拳で撃ち抜いた。
 輝夜の攻撃で折れた肋骨が内臓に刺さり、妹紅は血を吐きながら前のめりに倒れる。
 輝夜も握り潰した妹紅の手を離し、服に引火した火を消すために地面を転がる。

妹紅「はぁ……はぁ……、苦しいんだから……肺を潰すとか……止めてくれない……?」

輝夜「あんたこそ……肌を焼くなんてやらしい攻撃、いいかげんにしてよね?」

578: 2015/03/31(火) 03:03:12.92 ID:V/ZK7el2O

 両者とも回復しながら起き上がり、再び対峙して臨戦体制に入る。

神峰「……こんなの意味が無ェ……。早く止めさせた方が良い……」

てゐ「おっと、まさか割って入ってケンカを止める気? 今行っても……確かに二人とも止まるだろうね、今回だけは。でも、あれに巻き込まれたらアンタ、ほぼ確実に氏ぬと思うよ?」

てゐ「まさかこの場を収めるためだけに氏ぬ気かい?」

 どんなに傷を負っても再生し、一向に決着しない争いに耐えかねた神峰が、今にも身を乗り出しそうに身体に力を入れた。
 しかしてゐはそんな神峰を諌める。

579: 2015/03/31(火) 03:03:59.82 ID:V/ZK7el2O

神峰「だってそのためにオレを連れて来たんだろ!?」

てゐ「勘違いしてもらっちゃ困るんだよね。二人の喧嘩を止めるってのは、あくまで手段だ。私の目的はあんたの真髄だ。考え無しに出て行かれて、氏なれたら困るんだよ」

てゐ「ウチの依頼中に氏なれるのも、永遠亭の評判を落とす事になるしね」

神峰「~~っ!」

てゐ「どうせ何百年もやってるケンカだ。収まるのを待ってから出て行けばいい。それまで頭を冷やしながら見てなって」

 てゐの言う事にも一理ある。それに、あまり無謀な事をして永遠亭へ迷惑をかける訳にもいかないと思った神峰は、渋々言う事に従い二人の様子を窺った。

580: 2015/03/31(火) 03:04:39.07 ID:V/ZK7el2O

神峰(そういえば……あんなに他人との関わりに線引きしてた妹紅さんの心……、自分が描いてきた線を踏み越えてまで、輝夜さんに詰め寄ってる)

神峰(傷だらけのはずなのに、傷つかないために取った距離なんじゃねェのか……? そこまで輝夜さんの事が嫌いなのか……?)

神峰(対する輝夜さんの心は──少し楽しそう……か? その反面、妹紅さんを哀れんでる気がする。妹紅さんに対して、笑顔と哀れみの表情が向けられてるな)

神峰(この二人、一体何があって今の関係なんだ……?)

 神峰が二人の関係に頭を悩ませていると、いよいよ終わりの瞬間が訪れる──

581: 2015/03/31(火) 03:05:21.83 ID:V/ZK7el2O
妹紅「はっ!」

 妹紅が輝夜を焼き殺さんと目の前に炎を広げる。

輝夜「くっ!」

妹紅「ゥガッ!?」

 しかし輝夜はお構い無しに炎の中を突き進み、炎から抜け出した腕が、妹紅の首を掴んで一気に力を加える。
 妹紅も苦悶の表情を浮かべて抵抗しようとするが──

妹紅「ッあ──」

神峰「うっ……!」

 そのまま、先ほどの左手と同じように妹紅の首を握り潰した。
 ボギッと嫌な音が聴こえて、支えとなる骨が折れた事で、妹紅の首が有り得ない方向へ垂れ下がるのを見た神峰は、顔を真っ青にしながら小さく呻き、目を逸らすように俯いた。

582: 2015/03/31(火) 03:06:02.64 ID:V/ZK7el2O

 その直後、妹紅の身体が爆発し、その爆炎が人型を型取りながら集まっていく。
 余った炎はまるで火の鳥のように人型の背後へ纏わり、その人型を宙へ浮かべる。

輝夜「今回は私の勝ちで良いかしら?」

 妹紅の爆発によって吹き飛び、仰向けに倒れたまま、肘から先が無い自身の右腕を再生させながら、輝夜は人型へ向かって言葉を放つ。
 輝夜から言葉をかけられた人型は、直ぐに傷一つ無い妹紅の姿となる。その表情は不機嫌そうである。

妹紅「……チッ、今日はもう帰るわ」

 そう言って妹紅が輝夜に背を向けた瞬間、てゐの耳が一瞬ピクリと反応して、即座に行動を起こす。

てゐ「ここだ! 行け!」

神峰「え?」

583: 2015/03/31(火) 03:06:39.07 ID:V/ZK7el2O
 てゐに背中をドンと突き飛ばされた神峰は前方へとバランスを崩して、草陰から抜けた後もバタバタと数歩、止まらずに前進して両者の前へ表れた。

神峰「あ」

輝夜「あら、見てたの?」

妹紅「……は……?」

 乱入に気が付いた妹紅も、振り返り、神峰を視界に捉えると、呆けて目の前の事態の理解に努める。
 そして表情に浮かぶ、動揺と不安。

妹紅「あ……あんた……、み、見たの!?」

神峰(!?)

 神峰の『目』にはさらに、身体を震わせてうずくまり、妹紅に付いていた傷が開き、血が流れ出す光景が『見え』た。

584: 2015/03/31(火) 03:07:16.53 ID:V/ZK7el2O
神峰「ぐあっ……! あんなの……『見』られねェよ……!」

 今にも張り裂けそうな妹紅の辛そうな心を見て、汗を滝の様に流しながら両手で目を覆う神峰。苦しむ妹紅の心を『見』たというのもあるが、自分が彼女のトラウマを刺激したという事がショックであった。
 妹紅は酷く動揺し、その間に逃げる様に飛び去って行った。

輝夜「大丈夫?」

 妹紅が去った後、未だ仰向けのままの輝夜が神峰に声をかける。
 輝夜が口を開いた事で、呆然としていたてゐも我に帰る。

神峰「ええ……はい」

神峰「……あの、輝夜さんと妹紅さんの間には……何があったんスか……? 教えてもらう事って、出来ない……スよね?」

輝夜「……」

 息を乱しながらも落ち着いた神峰は、教えてもらう事は出来ないだろうと思いながらも事情を訊ねる。
 訊ねられた輝夜はというと、目の前の笹の拓けた部分から見える星空を見つめ、やがて口を開いた。

輝夜「疲れたから、おんぶして」

585: 2015/03/31(火) 03:07:59.88 ID:V/ZK7el2O
……………

……


輝夜「私達の事を知りたいなら、それなりの覚悟を持ちなさい」

神峰「!」

輝夜「少なくとも、あいつに心を許される程度にはなって貰わないと困るわ。……そして中途半端に関わって逃げる事は許さないわ」

 輝夜を背負って帰路についていると、おもむろに輝夜が切り出した。

輝夜「……あれを見られた以上、もう逃がさないけどね?」

神峰「お願いします……!」

輝夜「……他言無用よ。妹紅はね、竹取物語の登場人物でいう、車持の皇子の娘なの」

 言いながら、輝夜は左腕の袖から「蓬莱の玉の枝」を取り出した。

586: 2015/03/31(火) 03:08:40.12 ID:V/ZK7el2O
輝夜「私が彼の求婚の際に出した難題が、蓬莱の玉の枝。あの人はそれを、偽物を用意する事で果たそうとしたわ。結局、鍛冶屋に取り立てられる事でバレたけどね」

神峰「もしかして……それがその時持って来た……?」

輝夜「え? 違うわよ? これは本物。当時、私が唯一持っていた宝物ね。あの時は鍛冶屋が来てくれなかったら、何で本物を持っているのか言い訳をしなくちゃいけなかっただろうから助かったわ~」

神峰「……そうスか」

輝夜「ま、今も昔も、本当に持っているのはこの枝だけなんだけど」

 それから輝夜は、車持の皇子が落ち目になった事、翁に渡した不氏の薬が妹紅に盗まれた事、幻想郷で妹紅と出会った事を話した。

輝夜「──要するに、私はあいつの復讐に付き合ってあげてるの。と言っても、やられっぱなしじゃ癪だから、私の方から刺客を送ったり頃しに行ったりしてるのだけど」

神峰(自由過ぎだろ……)

587: 2015/03/31(火) 03:09:47.48 ID:V/ZK7el2O
輝夜「でもね、ふと思ったのよ……。氏なないという性質上、きっとあいつはとり残されて、ずっと独りなんだろうって。私の側には永琳が居たし、あいつの事なんて全然気にしてなかったんだけど……、氏なないってどうしても暇でね」

輝夜「妹紅は地上人から蓬莱人になってるから、不老不氏を"氏ねない"と捉えていると思うわ。この辺は月人との違いよね。……妹紅は多分、氏ねない事の逆恨みを私にぶつける事で孤独を紛らわせているんじゃないかしら?」

輝夜「だから私はね、そんな生き方をして、心は地上人のままの妹紅を、損な生き方をしてるあいつを、蓬莱人(わたし)にしてあげたいって思ってるの」

輝夜「そうすれば、きっと良い遊び相手になってくれるわ。あいつも孤独感から開放される。……手伝ってくれるかしら?」

神峰「……」

 輝夜の話を聞いて、神峰は小さな違和感を覚える。輝夜の推測と、自分が『見』たモノに食い違いを感じたからだ。

神峰(そうなのか……? 確かに、他人と距離を取ってるし、輝夜さんに対しては、線引きを無視して詰め寄る程の何かを心の中に持ってるけど……、あの心を見ると、とても恨みをぶつけているようには思えねェ……)

神峰(むしろ、わざと因縁をつけて嫌われに行ってるような……って、どう違うんだ? )

588: 2015/03/31(火) 03:11:00.60 ID:V/ZK7el2O
神峰(……ああ、そうか。恨みが解消されてる様子が無ェからか)

神峰「……オレも、妹紅さんの事はどうにかしてやりてェって思ってるんスけど……輝夜さんの手伝いをするかは、もう少し待ってもらえないスか?」

輝夜「……どうしてかしら?」

神峰「妹紅さんは、あんたに恨みをぶつけてるって……そんなに思えませんでした。それがどうしてかは分からねェスけど……、でも、きっと妹紅さんにも何か目的があるんじゃねェかって思うんです」

神峰「その鍵になるのは、多分輝夜さんだ。妹紅さんのために、むしろオレに協力してはくれないスか……?」

輝夜「……妹紅に逃げられたあなたに出来るのかしら? あいつの生きて来た千年、きっと重いわよ?」

輝夜「それでも、やるの?」

神峰「はい……!」

 神峰の返事を聞いて、輝夜はふうと息を吐いた。そして一層力を抜いて、神峰にもたれかかって体重をかける。

輝夜「そういうの、嫌いじゃないわ。良いわよ、あなたを試してあげるわ。……あなたが失敗しても、私には沢山時間があるしね」

神峰「ありがとうございます!」

 輝夜の協力を取り付け、三人は永遠亭へと戻った。
 戻って永琳と鉢合わせた神峰とてゐは、その後永琳から厳重注意を受けた。

589: 2015/03/31(火) 03:11:52.94 ID:V/ZK7el2O
─────

──

【最終日】

永琳「これで最後ね。帰る準備が出来たらウドンゲに声をかけて下さい」

 昼食後の診断が終わり、実験の暫定的な終了が告げられる。後は神峰の準備が終わり次第、帰るのみだ。

神峰「あの……」

永琳「何ですか?」

神峰「オレ達みたいな人間と蓬莱人って、どう違うんスか……? 妹紅さんの蘇り方を見てたんスけど、明らかに人とは違うっつーか……」

 神峰の脳裏に、炎の中から蘇る妹紅が浮かぶ。

永琳「……私の知る範囲で教えますが、人間はその存在を、自らの肉体に重きを置いて存在しているの。だから致命傷を負うと生命を脅かされます」

 永琳の話を聞きながら、神峰は頷いて先を促す。

590: 2015/03/31(火) 03:12:41.58 ID:V/ZK7el2O
永琳「因みに、妖怪は精神に存在を依存しています。基本的に自分の在り方さえハッキリしていれば、その姿も性別も自由らしいわ。致命的な外傷を負っても、心が無事なら生き延びる事が出来るみたい。精神に攻撃出来るサトリ妖怪が恐れられるのは、その辺も関わっているみたいね」

神峰「!」

 最後の言葉を、意味深な眼差しと共に神峰に向ける。

神峰「知ってたんスか……?」

永琳「外の情報はイナバを頼っていますから。……それで、命を肉体に依存するのが人間で、精神に依存するのが妖怪なら、蓬莱人は一体何に依存してるんでしょうね?」

神峰「へっ?」

 突然の永琳の質問に、素っ頓狂な声を出す神峰を見て、永琳は微笑んでから話を続ける。

591: 2015/03/31(火) 03:13:32.66 ID:V/ZK7el2O
永琳「どんな傷を負っても、身体が欠損しても再生し、でも妖怪ではない。蓬莱人という存在は、自分の魂が無事なら、その身を焼かれても、どんなに身体を失っても、心を壊されても生き返る事が出来る、魂に依存した存在なの」

永琳「あなたは彼女の心を開いて、千年を飛び越えて、その魂を掴む事が出来ますか? 心を掴む、神峰翔太さん?」

 神峰は永琳の口から出て来た言葉に驚き、目を見開いた。

神峰「そこまで知ってるんスね……」

永琳「耳だけは良いですから。外来人は注目されるものですよ。とても興味深い能力だわ」

永琳「……それで、簡単に説明したけど、満足出来ました?」

神峰「はい。ありがとうございました」


……………

……

592: 2015/03/31(火) 03:14:13.02 ID:V/ZK7el2O
鈴仙「へぇー、立派な家に住んでるのね。一人暮らし?」

神峰「ちょっとした手違いで……」

 人里に帰り着き、自宅へ案内して鈴仙から零れた感想に、神峰は引きつった顔で返す。

「あーーー! お兄さんが女の子連れ帰ってる!」

神峰鈴仙「「はぁ!?」」

 そこへ、玄関が開かれ、神峰を確認した燐の大声が響き、神峰と鈴仙がハモった。

鈴仙「っていうかアンタ、神社の飼い猫じゃない!」

神峰「なんでウチに居んの!?」

燐「いや、留守番任されたし」

神峰「そこまで頼んでねェよ!?」

燐「お兄さんのペットとして、しっかり留守は守ったからね!」

神峰「飼った覚えもねェし!」

鈴仙「あのぅ……用も済んだし、もう帰っていい?」

 神峰と燐がコントを繰り広げている所に、おずおずと鈴仙が割り込む。

神峰「あっ、スミマセン……。あざした!」

 手を振ってから踵を返し、通路を歩いて行く鈴仙の姿はやがて見えなくなった。

593: 2015/03/31(火) 03:14:50.51 ID:V/ZK7el2O
……………

……


 燐も地底へ帰ったところで、神峰は久しぶりに町へと繰り出した。買い出しが主な目的であるが、妹紅の事ばかり考えていたので、その気分転換も兼ねている。
 しかし神峰の頭は妹紅の事ばかり浮かんでしまい、近くのベンチと思しき椅子に腰掛ける。
 そのため、昼間だというのに、異常に人通りが少ないという違和感に気がつけなかった。

神峰「はぁ……」

神峰(あんな心を見ちまったら、メチャクチャ妹紅さんに会い辛ェ……。またトラウマに触れて傷付けるのか? そもそも何があの人の傷を開いたんだ……? 頃し合いを見られたからか──?)

 神峰が首を垂れて考え事をしていると、その視界に何者かの足か入り込んで来た。
 その足は、神峰に向かい合うように位置し、更に神峰の頭上から少女の声がかけられた。

「ずいぶんと難しい顔をしていますね、神峰翔太さん?」

594: 2015/03/31(火) 03:15:29.25 ID:V/ZK7el2O
神峰「え……?」

 顔を上げると、そこには見知らぬ少女が立っていた。
 妙にゴツイ帽子を被り、緑の頭髪、前髪は片方だけ長く、殆ど記憶に無いが、こんな髪型の人が、通っていた高校に居たかもしれないと思った。
 更に視線を下げて行くと、その胸元には鏡が。

神峰(……鏡?)

 鏡の中の自分のと目が合った瞬間、鏡に映る景色が変化して、神峰に、自身の今まで歩んで来た人生を突き付けた。

神峰「ぐあああ!? や、止めてくれ……!」

 その殆どがトラウマと言える神峰の人生を再生されて、汗と涙を流して両目を覆い、止めてくれと懇願する。
 これが、閻魔の持つ浄玻璃の鏡の力である。

595: 2015/03/31(火) 03:16:15.79 ID:V/ZK7el2O

「そう簡単に、閻魔たる私の心を見ようなどと思わない事ね」

 目の前の少女が、胸元に鏡を掲げたまま言葉を発する。

神峰「……え、閻魔……?」

映姫「初めまして、神峰翔太。私がこの幻想郷の閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥと申します。……貴方には言いたい事が山ほどあるわ」

 神峰が再び映姫に顔を合わせると、映姫はキリッと顔を強張らせて神峰を指差す。

神峰「な、何を……」

596: 2015/03/31(火) 03:17:05.89 ID:V/ZK7el2O
映姫「貴方はその能力で人の心を良くしたいと思っているみたいだけど、その殆どが空回っているみたいね。そもそも、貴方は人の心との関わり方が下手過ぎます。何の背景も説明も無く、ぽっと出の貴方が見たままを伝えたところで、誰が話を信じるというの? ──そう、貴方は人の心に対して鈍感すぎる。心が見えるせいで、目に見える事ばかりに意識を取られ、見えない所を慮る事が出来ていない。貴方はもっと、心に対して思慮深くならなければならない。でなければ、いつまでも人の心をいたずらに掻き回してしまうわ。小さな親切、大きなお世話です! 本当に何とかしたいのならば、貴方の行いに最後まで責任を持ちなさい! それが、貴方が出来る善行よ。……今の貴方は、地獄行きが確定しています。少しでも減刑したいのならば、これからの人生、善行にその命を賭しなさい」

 浄玻璃の鏡でショックを受けてシュンとした神峰は、突如始まった説教を、ただ聞き入れるのみだった。
 映姫の言う事は正しく、神峰はどんどん小さくなっていく。そんな神峰の姿を、建物や物陰に隠れた人々は、遠目から見守る事しか出来なかった。

……………

……

597: 2015/03/31(火) 03:17:54.28 ID:V/ZK7el2O

神峰「えらい目に遭った……」

 説教から開放されてすっかり気が沈んだ神峰は、家に帰ると座布団の上に倒れ込んだ。
 そのまま眠って明日を迎えようかと思ったが、真冬にそれはさすがに病気になるだろうと思って身を起こす。そもそも、まだ日も高いのだ。

 起き上がって荷物を整理していた神峰のもとへ、ノックの音が届く。正直誰かと会う気になれなかった神峰だが、そんな気持ちを押し込んで玄関へと向かった。

神峰「はーい、誰スか?」

てゐ「やっ。災難だったね」

神峰「てゐ? なんでここに?」

 どうやら映姫に捕まって説教されていたのを見ていたらしく、苦笑しながら話すてゐ。

てゐ「姫様からの伝言役を仰せつかったからね」

神峰「!」

てゐ「次の頃し合いにあんたを呼ぶから、それまでに策を練るなり準備しとけってさ」

神峰「……分かった」

 伝言を聞いた神峰は、決意を込めて返事をした。

609: 2015/05/06(水) 16:28:20.60 ID:qeJeI7MvO
神峰(御器谷先輩……もうすぐ永遠亭編、終わりますよ……?)

神峰(最後はテンション高く、行きましょう!)

映姫「誰が御器谷忍ですか!」カッ

神峰「スミマセッ……!!」


なんとかGW中に出来上がりました

610: 2015/05/06(水) 16:29:16.78 ID:qeJeI7MvO
 てゐに連れられて再び夜中の竹林を進み、永遠亭を目指す神峰。
 辿り着くと、既に輝夜と永琳が外に出て待ち構えていた。

輝夜「───来たわね。あいつを何とかする策は、用意出来たかしら?」

神峰「……オレの一方的な意見で悪ィスけど、今夜の勝負……スペルカードルールでやってくれませんか?」

 神峰の返事を聞いた輝夜は、頭上にハテナを浮かべて聞き返す。

輝夜「別にいいけど……どうして?」

神峰「この前の勝負を見て……傷が治るのに、蘇るのに頃し合いをしてるのが……不毛に思えて……」

 不毛という言葉に怒りを抱かれないかと危惧して、神峰は冷や汗を流しながら、チラリと輝夜の心を窺うが、平然と話を聞いている様子に安堵して話を続ける。

611: 2015/05/06(水) 16:29:55.21 ID:qeJeI7MvO
神峰「氏んで生き返って、どちらかが諦めるまで続く勝負よりも、ハッキリ勝ち負けの出る勝負の方がイイんじゃねェかって……思いまして」

神峰「それに……あんたも、妹紅さんにも、自分の命を軽く見て欲しくねェんス」

 神峰が理由を話すと、輝夜よりも先に、輝夜の後ろに控えていた永琳が口を開いた。

永琳「同感です」

輝夜「えっ?」

永琳「彼女に刺客を送るだけならまだしも、姫自身が彼女と対峙する事には、やはり私は賛成出来ません」

永琳「姫が彼女の事を考えての行動だったので渋々納得していましたが、御自身を危険に曝す様な真似はやはり控えて頂かないと……。という訳だから神峰さん、藤原妹紅の事、期待してますよ?」

神峰「……はい!」

612: 2015/05/06(水) 16:30:35.54 ID:qeJeI7MvO

 微笑んで神峰に今夜の勝負を託す永琳。噂通りに神峰が心を掴む事が出来るというのならばと、神峰に対して協力的な姿勢を示す。

 そんな二人を永琳に小言を言われた事でジトリと見る輝夜が、拗ねたように口を開いた。

輝夜「まあ……、今回は貴方に協力している立場だから、貴方がどういうつもりかは知らないけど言う通りにしてあげるわよ」

神峰「よろしくお願いします」

 ペコっと頭を下げる神峰を他所に、輝夜は持っていた瓢箪をてゐに預けて竹林に向かって歩き出した。
 神峰とてゐも輝夜に続いて歩き出す。

神峰「……その瓢箪は何スか?」

輝夜「うふふ。ナイショ♪」

613: 2015/05/06(水) 16:31:05.69 ID:qeJeI7MvO
─────

──


妹紅「……一体、どういうつもりかしら? 神峰……、輝夜ァ!!」

神峰「……妹紅さん……」

 竹林の何処か。示し合わせた訳ではないが、自然と二人が出会い、戦うその場所で、神峰を視界に入れた妹紅はビクリと体を強張らせた後、輝夜を睨み付けた。

輝夜「どうもこうも、見ての通り見物客が居る訳だから、今夜は弾幕ごっこしましょう? 五本勝負でね」

妹紅「ハッ! 弾幕ごっこをしたいがためだけにそいつを連れて来たっての? どんな理屈よ!?」

輝夜「だって、一般人に頃し合いを見せるのって刺激が強いじゃない」

妹紅「……っ!」

 輝夜に言われて言葉が詰まった妹紅は、気まずそうに神峰に視線を向けた。

614: 2015/05/06(水) 16:31:52.16 ID:qeJeI7MvO
妹紅「……神峰、この前の……見てたんでしょ……? どうしてまた来たのよ……?」

神峰(妹紅さんの心……あんなに遠くに見える……。さっきまで輝夜さんに食いついていたのに……。それが今のオレと妹紅さんの距離ってワケか?)

神峰(だとしたら何かおかしい。憎んでる相手との距離が誰よりも近ェのは何でだ? いや、むしろ妹紅さんの方から近づいて行ってさえいる)

神峰「妹紅さんに……これ以上、頃し合いをして欲しくないから……です」

妹紅「止めに来たっていうの? あんたには関係無いじゃない……。どうせ私は氏なないんだし、何やってもいいでしょ……」

 自嘲気味に言って神峰から目を逸らしながらも、妹紅の心はチリチリと燻っていた。
 その二人のやりとりに輝夜が割って入ってくる。

輝夜「そういう事だから、今夜は弾幕ごっこをやるわよ。……それに、あんたと頃し合うのも飽きてきたし」

615: 2015/05/06(水) 16:32:38.82 ID:qeJeI7MvO



 ドシュッ。



神峰(!?)

 何かが突き刺さる音を聴いた神峰は、目の前で起こった事に驚いた。

神峰(傷付いた!? まさか……輝夜さんの言葉が妹紅さんの心を抉ったのか!?)

 それは、輝夜の言葉によって傷付き、妹紅の心が痛みにうずくまる光景だった。

妹紅「飽きた、ですって……? あんたが勝手な事言ってんじゃないわよ……。そうやって何時でも誰もが、お前のワガママを聞いてくれると思うなッ!!」

 激昂した妹紅は飛びかかり、輝夜に向かって手を伸ばす。
 しかしその手は輝夜に届く事はなく、妹紅は突然目の前に現れた光の玉により吹き飛ばされて遠くへ倒れる。

616: 2015/05/06(水) 16:33:12.00 ID:qeJeI7MvO
輝夜「勝手な事とは言ってくれるじゃない、妹紅。だったらあんたの復讐心は、なんだっていうのかしら? あ、それと一回被弾ね」

妹紅「煩い!! お前は復讐されて当然の事をして来たじゃない!! これはその制裁だ!」

輝夜「……随分とまあ、逆恨みされたものね。私はただ相手の要求を断っただけで、何もしてないのに。というかどうしたの? ここ百年くらいはそんな事は言わなかったじゃないの」

 輝夜が妹紅の態度に怪訝にしていると、神峰がゆらりと前に出て、妹紅を指差して口を開いた。

神峰「……あの、妹紅さん。本当に今も、輝夜さんの事……恨んでるんスか……?」

妹紅「───!?」

輝夜「……どういうこと?」

 明らかに動揺した妹紅を見て神峰は続ける。

617: 2015/05/06(水) 16:33:43.64 ID:qeJeI7MvO
神峰「この前の戦いを見て思ったんスけど……妹紅さん、あんたからは輝夜さんに恨みをぶつけたいだとか、恨みを晴らしたいって気持ちを感じられませんでした……」

妹紅(な……!? なんであんたがそんな事……)

神峰「むしろ……わざと輝夜さんに嫌われるように突っかかってるように見えました……今みたいに」

妹紅(やめてよ……!)

 妹紅の心に火が着き始めるが、その事が想像の裏付けとなり、神峰は口を止めない。

神峰「あんた、わざと輝夜さんに嫌われてまで、何が望みなんスか?」

妹紅「言うなッ!!! 煩い!!! その口を閉じろォ!!!」

 妹紅は叫ぶと同時に燃え上がり、炎の羽を背負って上空へ飛んだ。そして何時の間にやら一枚の札を掲げている。
 妹紅が飛び上がると、輝夜も追いかける様に飛んで妹紅と対峙する。

618: 2015/05/06(水) 16:34:23.41 ID:qeJeI7MvO
妹紅「あんた達のお望み通り、弾幕ごっこしてあげるからもう何も言わないでよ、神峰!」

輝夜「千年も生きた貴女が、たった十数年生きただけの人間にそこまで動揺させられるなんてね。そんなに人間離れした姿を見られた事がショックだった?」

神峰(違う! 確かにその事での動揺もあったけど、最も妹紅さんの心を揺さぶったのは輝夜さんの言葉だ……! やっぱり、妹紅さんは輝夜さんに何かを求めているのか? ……なら───)

神峰「悪ィスけど……、閻魔様に、お節介焼くなら中途半端に関わるなって言われてるんで、あんたの心を助けるまでずっと喋り続けますよ……!」

妹紅「~~ッ!! 意味わかんない! だったら、この勝負で私が勝ったらもう私に構わないで!!!」

 ゴゥッと燃え上がった妹紅の心の炎は、多くの線が刻まれた地面を焼いて拡がり、寺の僧が修行で歩く様な燃え盛る大地を作り出した。

神峰(ぐあっちィ……! ……そんなに関わって欲しくねェなら、心を閉ざせばイイのに……、妹紅さんは近付かせないようにしただけ……?)

619: 2015/05/06(水) 16:34:59.45 ID:qeJeI7MvO
輝夜「随分と入れ込まれたものね。何があいつをそこまで執心させるのかしら? ……それはそれとして、楽しい楽しい弾幕ごっこを始めましょうか、もこたァァン」

 輝夜に聞き慣れないあだ名で呼ばれた事でイラっと来た妹紅。
 そのあだ名が引き金となったかのように、妹紅がスペルカードを宣言する。

妹紅「蓬莱『凱風快晴 ーフジヤマヴォルケイノー』!」

 宣言した妹紅は、輝夜に向かってバスケットボール大の弾幕を放った。
 輝夜はそれを躱し、大きく距離を取ると、先程放たれた弾が途中で停止し、破裂して赤い弾幕を拡散させた。
 同様の弾幕を輝夜に向かって放つ妹紅はさらに、小さな弾の連なった三条の弾幕を、輝夜を狙って放出する。

輝夜「いきなりそれ? 本気で負かしに来てるってわけね……。でもまあ、種が割れてればこれくらい……っ!」

 徐々に激しくなる妹紅の弾幕を、言葉を切って躱し続ける輝夜。
 この勝負が、神峰にとって初めて見るスペルカードルールとなった。

620: 2015/05/06(水) 16:35:27.16 ID:qeJeI7MvO
神峰(辺り一面鮮やかな赤に染まって……スゲェ、マジで花火みたいだ……って、見惚れてる場合じゃねェ! 妹紅さんの心に近付かねェと!)

神峰「も───」

てゐ「あっぶなーーーい!」

神峰「痛ーーー!?」

 気を取り直して声を出そうとしたが、てゐの体当たりをくらって地面を転がる神峰。さらにてゐに引き摺られ、弾幕の薄くなる場所まで避難させられた。

てゐ「あんたさ、流れ弾には気をつけなよ? 弾幕ごっこやってる所には近付くなって覚も言ってたでしょ!」

神峰「あ、ああ……サンキュ……」

てゐ「───さあ、あんたの能力を見せておくれよ?」

神峰「ああ!」

 てゐにバシッと背中を叩かれて改めて気を取り直した神峰は、上空を見上げて妹紅を見据えた。

621: 2015/05/06(水) 16:36:09.14 ID:qeJeI7MvO
神峰「妹紅さん! あんた本当は寂しいんじゃねェのか!?」

妹紅「んなっ───!?」

輝夜「あらぁ~?」

 地上から投げかけられた言葉に、妹紅は顔を紅潮させ、輝夜は意地悪くニタリと笑った。

神峰「だからあんたは、傷だらけなのに心を閉ざさずに! 関係に線引きしてまで人と関わってんだろ!?」

神峰(慧音先生が言ってたな……妹紅さんは───)


~~~~~

~~


慧音「妹紅の過去は、およそ300年区切りで変遷している」

慧音「蓬莱の薬を飲んで最初の300年は人間に嫌われて、身を隠さないと周りに迷惑をかけるという哀しい日々だったそうだ」

神峰「……」

 治験から帰って来てから神峰は、慧音に頼み込んで妹紅について教えてもらった。
 その内容は、他人事とは思えずに初っ端から神峰に重く伸し掛かった。

622: 2015/05/06(水) 16:36:44.30 ID:qeJeI7MvO
慧音「その表情を見るに……お前も似たような体験をしていそうだな」

慧音「まあ、不老不氏というのは全人類の憧れのようなものだし、妹紅に対する嫉妬や、異物を見るような嫌悪も相当なモノだったのだろう……」

神峰「うっ……!」

神峰(想像しちまった……! 妹紅さんはそんなのから、ずっと逃げ続けなきゃいけなかったのか!)

慧音「大丈夫か、神峰? 汗びっしょりだぞ?」

神峰「大丈夫です……。それより、続きをお願いします……!」

慧音「……次の300年、この世の恨みを晴らすように妖怪退治に明け暮れたらしい。八つ当たりで自己を保たなければ、きっと潰れてしまったんだろう……」

慧音「そしてその次の300年、無差別に妖怪退治する事に物足りなさを感じて、無気力に生きていたそうだ」

623: 2015/05/06(水) 16:37:14.92 ID:qeJeI7MvO
神峰「……オレと、同じじゃねェか……」

 傷付いて、やさぐれて、諦めて。
 妹紅も自分と同じ道を辿っていた事に、神峰の口から小さく声が漏れた。
 慧音はその呟きを聞こえなかったフリをして、僅かに悔しそうな顔をして話を続ける。

慧音「そして幻想郷に辿り着き、今に至る。……これが、私が知る妹紅の歴史だ」

神峰「ありがとうございます……」

慧音「神峰……、妹紅をどうにかするつもりなら、私からもどうか頼む……。恥ずかしながら、私には出来なかったんだ……」

神峰「……何言ってんスか……。幻想郷に来てからの妹紅さんを守って来たのは、あんたじゃないスか」

慧音「!」

神峰「オレも、慧音先生にはスゲェ助けられました。……先生はもっと堂々としてた方が、らしいと思いますよ!」

慧音「はは……、そうか。───だったら、妹紅の事、任せるぞ!」

~~

~~~~~

624: 2015/05/06(水) 16:37:46.22 ID:qeJeI7MvO

神峰(妹紅さんの傷は、疎外感と孤独感だ……! 最初の300年間で心に根付いたその恐怖が、ずっと他人から距離を取らせていたんだ!)

神峰(だからこの前の頃し合いで、オレに生き返る所を見られた時に、当時の怖れが押し寄せた……)

輝夜「あらあら? まさか独りぼっちが寂しいから、私に構って欲しくてちょっかいかけてたの? 以外と可愛いトコあるじゃない、もこたァァァァン!」

妹紅「う、うるさいっ! 適当な事言わないでよ神峰! あと、変な呼び方するな輝夜!!」

 顔を真っ赤にした妹紅は、眼前で煽る輝夜に向けて弾幕を放つ。
 輝夜はそれを上手に躱すが、その流れ弾が神峰へ向けて飛来する。

輝夜「あ」

神峰「へ?」

てゐ「馬鹿! 逃げるか伏せるかしろ!」

625: 2015/05/06(水) 16:38:32.77 ID:qeJeI7MvO
 てゐの叫びでようやく体を動かし始めた神峰だが、流れ弾は破裂し、広範囲に弾幕をばら撒いた。

輝夜「くっ! 神宝『ブリリアントドラゴンバレッタ』!」

 輝夜は慌ててスペルカードを宣言すると、五色の弾幕と全方位に飛んで行く光の槍が、妹紅の紅い弾幕をかき消す。

神峰「……!? た、助かった……?」

輝夜「ふー……危ない危ない。ちょっと妹紅、一般人を巻き込んでどういうつもりよ?」

妹紅「……これからはそいつを守って戦いなさい。出来なければ今すぐ撃墜されて……、もう私に関わるな! 神峰!!」

神峰「!」

輝夜「あんた……そこまで……。──ふん、やってやるわよ!」

神峰(オレの行く手を阻む拒絶の炎……! だけど引き下がれねェよ……! 慧音先生から任されたんだ……! 閻魔様から命賭けろって言われてんだよ!!)

 上空では再び弾幕が張られ、神峰の『目』の前には燃え広がる大地。神峰は妹紅の心に近付くために、拳を握り締め、焼け焦げる事もお構いなしに一歩を踏み出した。

626: 2015/05/06(水) 16:39:07.42 ID:qeJeI7MvO
神峰「なんであんたは……!」

神峰「そんなに拒絶されるのが怖ェんスか!? だったら何で距離を取ってまで人と関わる!?」

神峰「それが寂しさだろ!? 自分でも分かってんだろ!? その心に沢山刻まれてるじゃねェか! だったら手を伸ばせよ!! あんたを心配してる人達に!」

妹紅「うるさい……! 私の心(なか)に入って来ないでよ……っ! 何も分からないクセに、私の心に踏み込むな!」

神峰「分かります!」

妹紅「はぁ!?」

神峰「幻想郷の住人は、以外とオレや妹紅さんみたいな人……多いんスよ? 辛い現実に苦しんで、全て諦めて、逃げ出した人達が」

神峰「でもあんたは! そこからまた誰かと繋がりを求めて、自力で歩き出したじゃねェか! スゲェよ尊敬するよ……。オレはさとりに助けられなきゃ無理だった……」

妹紅「普通の人間が、老いる事も氏ぬ事も出来ない私と同レベルだとでも思ってんの……? 私の苦しみを理解出来ると思ってんの!?」

輝夜「このっ……!」

 明らかに神峰を狙った弾幕を、輝夜は庇いきれずに被弾する。

627: 2015/05/06(水) 16:39:43.71 ID:qeJeI7MvO
神峰「……分かりますよ。普通の人間じゃねェし、……この目のせいで、人の苦しみは誰よりも分かります」

神峰「あんたの心がそんなに痛々しいから、ほっとけねェんだ!」

妹紅「まさか……、さっきから意味の分からない事言ってると思ったけど……心が、見えているの……!?」

 そのタイミングで一枚目のスペルカードの時間が切れて、辺りの弾幕が消滅する。
 妹紅の口から出た言葉に半信半疑だった輝夜とてゐが神峰に目を向けると、神峰は黙って頷いた。

輝夜「!!」

てゐ「!?」

妹紅「……そう、嫌われ妖怪と同じ能力なら、さぞ嫌われたんでしょうね。───『パゼストバイフェニックス』」

 神峰に妹紅の苦しみが分かるのと同じように、妹紅もその体験から、神峰がどれほど拒絶されたのかを想像して、怒りが消沈しながらも二枚目のスペルカードを宣言した。
 すると妹紅の身体が焼失して、纏っていた火の鳥が輝夜に取り憑いた。
 神峰は突然消えた妹紅を探すために辺りをキョロキョロと見渡す。

628: 2015/05/06(水) 16:40:16.10 ID:qeJeI7MvO
神峰(妹紅さんは!? 地面の炎が消えた途端に見えなくなった!?)

輝夜「このスペルは魂の状態でも移動出来るという蓬莱人の特性を利用した、嫌らしいスペルよ。こちらの攻撃が効かないから、ひたすら避け続けるしかないわ」

 輝夜の説明が終わると同時に、取り憑いた両翼から光の玉が設置される。
 輝夜は神峰に弾幕が届かないように移動しながら、光の玉が破裂して出てくる弾幕を避け始める。

神峰(あれ程オレに向いていた炎が鎮火した……? オレが踏み込んだこの領域は……きっと妹紅さんの無気力と遣る瀬無さだ)

 重苦しく薄暗い風景と、鎮火した跡から立ち昇る煙。そんな殺風景な場所から、妹紅の心の中心を目指して神峰はさらに歩を進める。

神峰(恐らく、オレの能力を聞いてから思い出しちまったんだ……。人に疎まれて生きる意味を見失った時の気持ちを……)

神峰「オレにも分かりますよ……。周りに怖がられたり気持ち悪く思われて孤立する気持ちが……。どうしてオレだけこんな目にって思いましたよ……。あんたもそうでしょ?」

629: 2015/05/06(水) 16:40:52.39 ID:qeJeI7MvO
妹紅(……そうよ。どれだけ妖怪に当たり散らしても、気を紛らわせても、その思いが消える事は無かったわ───)

神峰「───でも、一人じゃなかったろ」

妹紅(……?)

神峰「"自分だけ"じゃ、なかったでしょ?」

妹紅(!!!)

神峰(自分だけじゃないんだ。オレは幻想郷に来て、似た能力を持つさとりと会えたから、立ち直る事が出来た。苦しみを共感出来る相手が居たから頑張れた。妹紅さんが心から近寄る事が出来るのは……輝夜さんも不老不氏だったからだろ……?)

神峰「オレは幻想郷に来てさとりと会えたから、今ここに立ってんだ。耐えられなくて自分から潰しちまったヤツもいるけど……あんたにはそれさえ出来ない……」

神峰「だけど自分と同じ人……目の前に居るじゃねェスか……!」

神峰「だからあんたは輝夜さんと頃し合いをしてまで、輝夜さんに"何か"を求めてたんだろ……?」

妹紅(その通りよ……。でも仕方ないじゃない……あんたはああ言ったけど、輝夜に対する憎しみは、まだ消えてない)

630: 2015/05/06(水) 16:41:33.39 ID:qeJeI7MvO
神峰「オレも、慧音先生も、あんたの事を心配してるんだ……。それでも手を取れねェなら、輝夜さんに手を伸ばせよ! 自分を理解出来る人が復讐の相手で葛藤してる事なんてお見通しなんだよ!」

神峰「それでも独りが嫌なら、勇気を出せよ! 確固たる意志を持てよ!」

神峰(妹紅さんには輝夜さんが必要だから、輝夜さんが協力してくれている今この時になんとかしなくちゃいけない。輝夜さんが気まぐれで中途半端に関わっている間に、───徹底的に関わって貰います!!)

神峰「───輝夜さん!」

 現在の輝夜の状況は、連射される鱗の様な弾幕に狙われながらも、神峰のもとへ流れ弾が飛ばない様にコントロールしながら躱している所だった。

輝夜(人一人庇いながら戦うだけでこんなに難易度が跳ね上がるのね……。なんか呼ばれた気がしたけど、よく分からないからボム撃っとこ)

輝夜「神宝『ブディストダイアモンド』!」

 輝夜の前方180°に光の玉が展開され、そこから何条ものレーザーが乱射される。さらに星型の弾幕が降り注ぎ、妹紅の弾幕を薙ぎ払う。

631: 2015/05/06(水) 16:42:10.43 ID:qeJeI7MvO
妹紅(神峰も輝夜もなんなのよ……! そんな意志が持てたなら、こんなに苦労しないわよ! 不老不氏になった1300年間で、とっくに削れてしまったわ……)

神峰「輝夜さんだって、あんたの事心配してんだよ!」

妹紅(なん───!?)

輝夜「ちょっとちょっと! 何言ってくれてるの!?」

神峰「言ってたじゃねェスか、損な生き方をしてる妹紅さんをどうにかしたいって」

輝夜「確かに言ったけど、それは蓬莱人としての生き方云々の意味───!」

 慌てふためき取り繕う輝夜は、その言葉を最後まで発する事が出来ずに、妹紅の弾幕に被弾した。
 その直後、スペルカードが時間切れとなりリザレクションして妹紅が姿を現す。

妹紅「輝夜……本当なの……?」

輝夜「けほっ……! ……あー、はいはい! 心配してあげてるわよ! これで満足!? 神峰! というか貴方どっちの味方なのよ!?」

 信じられないモノを見るような妹紅に対して、神峰の協力者として、その通りだとヤケクソ気味に答える輝夜は、神峰に訴えるような目を向ける。

632: 2015/05/06(水) 16:42:49.44 ID:qeJeI7MvO
神峰「決まってるじゃないスか……。オレは輝夜さんと敵対した覚えはねェし、ずっと妹紅さんの味方スよ!」

妹紅「え───?」

神峰「輝夜さんもオレに協力してくれてるなら、妹紅さんの味方って事でイイんスよね?」

輝夜「あ、あんた……呆れて物も言えないわ……」

 ニカっと笑いながら出てきた予想だにしない神峰の返答に、二人は愕然とした。

神峰「ほら、輝夜さんからも手は差し出されてるんスよ? 後はあんたの勇気次第です。理解者としてその手を取るのか、復讐の相手として弾くのか……」





神峰「もし、ここで復讐を選ぶなら……この勝負に勝って全て清算して、その手を取りましょうよ」





 俯いて神峰の話を聞いていた妹紅は、ギリッと歯軋りして三枚目を宣言する。

633: 2015/05/06(水) 16:43:24.72 ID:qeJeI7MvO
妹紅「……っ! 『蓬莱人形』!」

 妹紅と輝夜を囲うように走る赤と青の弾幕が、その軌跡に弾を残しながら輝夜の方へ、内側へと折れ曲がっていく。
 その囲いはだんだんと狭まりながら、壁の様に残った弾が、輝夜の行動範囲を狭めていく。

神峰(鎮火した地面からまた炎が!! 火の鳥になって行く!? 妹紅さんの葛藤と困惑、やり場の無かった恨みが全部、輝夜さんへと向かってんのか!?)

 煙を上げる地面から再び火が燃え上がったかと思えば、その火は集まり、火の鳥を象って輝夜へと飛んで行く光景を『見』た。
 ふと気付くと、神峰に今まで飛んで来ていた流れ弾が無くなり、妹紅が輝夜にだけ狙いを定めた事を理解する。

妹紅「なんで今さら……そんな希望をチラつかせるのよ!?」

神峰「今さらじゃねェでしょ? 慧音先生から教えて貰いました。あんたの人生、300年毎に変化してんだって」

神峰「幻想郷に来てからとっくに300年経ちましたよね……? だったらいい加減、次の300年を始めませんか……?」

634: 2015/05/06(水) 16:44:04.84 ID:qeJeI7MvO
妹紅「そう簡単に変わる訳ないでしょ……。無責任な事を言わないで……!」

輝夜「あら、1300歳超えのお婆さんのクセに、いつまで子供みたいな駄々捏ねてるのよ? 歳をとっても心は若いままとでも言いたいの?」

妹紅「おば……!? あんたも人の事言えないでしょ! いい歳していつまでお姫様なワケ!?」

輝夜「わ、私は穢れを知らぬ月の民だったから、元から老いる事は無いもの!」

輝夜(というか地上に堕とされた時点で、千年とか誤差みたいなものだったし……)

神峰(なんか普通に喧嘩してる……)

 ぎゃあぎゃあと喧嘩しながら弾幕ごっこをする二人に呆気に取られる神峰。
 妹紅の目にはもう殆ど輝夜しか見えておらず、輝夜を撃墜するべく全力を注いでいるようだった。

 そしていよいよ輝夜の行動範囲が小さくなって妹紅のスペルカードの残り時間が少なくなって来た時、輝夜もスペルカードを宣言した。

635: 2015/05/06(水) 16:44:42.30 ID:qeJeI7MvO
輝夜「まったく、少しは落ち着いて熱を冷ましなさいよ! 神宝『サラマンダーシールド』!」

 輝夜を中心に、一つの軌道を鏡映しに廻る二つの赤い弾幕が防壁となって、妹紅の弾幕を阻む。
 そのままタイムオーバーとなって何度目かの静寂が訪れる。

神峰(やっと……辿り着きましたよ、妹紅さん。あんたの傷だらけの心に……)

輝夜「冷静になって考えてみなさい、妹紅。こんなに周到に用意された転機、この期を逃すと二度と訪れないわよ? あんたの事だからこれまでの人生、流れに身を任せて生きて来たのでしょう?」

輝夜「ここは乗っておいた方が得だと思うのだけど?」

妹紅「そんなの分かってる……! だけど怖いんだから仕方ないじゃない!!」

636: 2015/05/06(水) 16:45:17.72 ID:qeJeI7MvO
妹紅「私を理解してくれた慧音と氏に別れるのが怖い! 助けてくれる神峰と氏に別れるのが辛い! 仲良くなれた人達と氏に別れるのが嫌! また誰かに裏切られたくない! もう嫌われたくない! 誰の記憶からも忘れられたくない! 人と仲良くなってあんな思いをするくらいなら、今のままの方がずっといい!!!」

 妹紅の心に辿り着いた途端に溢れる大量の涙と本音。
 『見』えている哀しみの洪水に呑まれて沈み、神峰の息が詰まる。

神峰(これが……! 嫌われて拒まれ続けた妹紅さん300年もの間溜め込んだ、人と関わる事への恐怖と孤独の哀しみ!! オレが感じていたモノの比じゃねェ……!)

妹紅「『インペリシャブルシューティング』!」

 四枚目を宣言した直後、楕円の粒で作られた輪状の弾幕が妹紅と輝夜の間の距離まで広がり一旦停止すると、まるで花が開くようにギザギザに広がる。
 広がりきった弾幕の隙間から輝夜は輪の中へ入ると、再び弾幕が収縮して輪の形に戻り拡散する。
 続けて第二波、三波と、輪の数を増やしていく弾幕を同様のやり方で躱していく輝夜。

637: 2015/05/06(水) 16:45:59.49 ID:qeJeI7MvO
神峰「……やっと、掴みましたよ……妹紅さん、あんたが輝夜さんに何を求めていたのか……」

妹紅「っ!」

 第五波辺りで、輝夜は難しい顔をしながらスペルカードを宣言した。

輝夜「相変わらず……面倒な弾幕ね! 神宝『ライフスプリングインフィニティ』!」

 輝夜の目の前に放たれたのは、真っ直ぐなレーザーがそれぞれ角度を変えて幾重にも重なり作られた輪。
 そのレーザーによって妹紅の弾幕を消し、一先ず窮地を脱する。

神峰「あんたが本音を叫んでくれたおかげで分かった……。あんたは裏切られたくない、忘れられたくないから……、輝夜さんに自分の事を覚えていて欲しくて、裏切られても傷が少なくなるように、わざと嫌われるような態度をとってたんですよね……!?」

神峰「同じ不老不氏である輝夜さんに、最初から裏切られないためにも、嫌われる事でその記憶に残ろうとしたんでしょう!? 輝夜さんに忘れられたら、本当に独りになっちまうから!!」

638: 2015/05/06(水) 16:46:41.33 ID:qeJeI7MvO
妹紅「……そうよ。仕方ないじゃない!? 輝夜の事なんて大嫌いで! だけど輝夜しか本当に理解出来る人が居なくて! 輝夜の側には永琳が居て! いつこいつの気まぐれで私への興味が失せてしまうのか怖くて……!」

妹紅「頃し合いに飽きたって言われた時は本当に辛かった……」

 涙を流しながら叫び、神峰に当てられた胸中を吐露する妹紅。
 憶えていてくれたらいいという儚い願いを叶えるために、嫌われ続けるという茨の道を選んだいびつな心理。千年に渡る歳月が、妹紅からそれ以上を望む心を削いだのだった。

輝夜「ぐっ……! だから、さっきから言ってるじゃない! あんたが手を伸ばせば、望みに手が届くの!」

 着実に難易度の上がる弾幕に被弾しながら、妹紅の叫びを聞いた輝夜が口を出す。

輝夜「あんたの事くらい憶えていてあげるから! ここまでしてあげてるんだから、さっさと掴み取りなさい! 焦れったいわね!!」

妹紅「───!」

 最高潮に難易度の高まった弾幕を目の前にして、力の限り大声を出したせいで目を力一杯閉じた輝夜は、呆気なく被弾する。

639: 2015/05/06(水) 16:47:20.25 ID:qeJeI7MvO
妹紅「輝夜……神峰……。うぅ……うぇっ、ありがとう……っ!」

 ようやく伸ばされた手を掴んだ妹紅は、涙で震える声で感謝を口にした。

神峰(良かった……哀しみが引いて行く……。あれだけ引かれていた線も、全部波にさらわれてまっさらになっちまった……)

 妹紅の心からも、哀しみの波が引いて、地面に描かれた線までさらわれていく光景を『目』にした。
 ───と、そのタイミングでスペルカードの効果が切れ、輝夜は泣き晴らす妹紅の目の前に立つ。

妹紅「輝夜……」

輝夜「───さあ、あんたのスペルカードはあと一枚、私の残機もこれでラスト。最後の勝負、私とあんたで……思いっきり喧嘩するわよ」

妹紅「!」

輝夜「あんたが過去の清算を出来るように、その元凶で相手してあげるわ……! ここできっちりケジメをつけなさい」

 挑発するように笑いながら、輝夜は蓬莱の玉の枝を取り出した。
 それを見た妹紅も、涙を拭って心を燃え上がらせる。

640: 2015/05/06(水) 16:47:58.48 ID:qeJeI7MvO
妹紅「望むところよ! 『フェニックス再誕』!」

 拡散する弾幕と、纏っている火の鳥よりも小さな、火の鳥を模した弾幕が乱射される。
 輝夜はそれを掻い潜り、妹紅の攻撃に小休止ができたタイミングでスペルカードを宣言する。



輝夜「神宝『蓬莱の玉の枝ー夢色の郷ー』」



 輝夜の前方に、蓬莱の玉の枝から出て来た七つの光の玉が現れ、それぞれ赤橙黄緑青藍紫の七色の弾幕が放たれた。
 輝夜自身も七色の弾幕を全方位に飛ばし、妹紅の弾幕とぶつかって相頃する。

神峰(スゲェ……まるで火の鳥が虹の中を飛んでるみてェだ……! )

 目の前で煌びやかな光景が繰り広げられている中で神峰はもう一つの光景を『目』撃した。

神峰(妹紅さんの炎が傷だらけの心を包んでいく……!)

 それは神峰の経験で言うなら、怒りや闘志といった状態に該当するが、妹紅の心は直ぐに炎を散らし……
 ───傷一つ無い、真っ黒な髪の妹紅が現れた。

641: 2015/05/06(水) 16:48:36.99 ID:qeJeI7MvO
神峰(あれは……昔の妹紅さん!? まさか不氏鳥のように、炎の中から蘇った……?)

 神峰が目を見張ると、意識が引っ張られる感覚に襲われる。
 気がつくと、桜の散る知らぬ土地に立っていて、目の前に楽器を吹く妹紅の姿を捉えた。

神峰(!?)

 そこで現実に引き戻され、妹紅の弾幕が輝夜に直撃する場面が視界に入った。

神峰(何だ今の!? 幻覚か……?)

輝夜「あーあ、負けちゃったわね……。あんたが神峰を狙うなんて卑怯な事しなきゃ、勝てたのに」

妹紅「う、うるさいわね……! っていうか、最後のアレ、あんたワザと当たってなかった?」

輝夜「はぁ? 気のせいでしょ」

 勝負が終わり、口論しながら二人が神峰に近付くと、神峰に言葉をかける。

妹紅「はぁー……明日から人付き合いが変化すると思うとなんか恥ずかしいんだけど……どうしよう……?」

神峰「何か新しい事を始めてみる……とかどうスかね……? 楽器……とか」

妹紅「はあ? 何で楽器?」

神峰「いえ、人里にそういうチラシが貼ってあったんで……」

 先ほどの幻覚からアドバイスをしたとは言えず、逃げるように輝夜へ視線を逸らした。

642: 2015/05/06(水) 16:49:13.93 ID:qeJeI7MvO
輝夜「───終わったわよ。って、どうかした?」

神峰「い、いえ! 何でも無いス! ……輝夜さん、オレに協力してくれてありがとうございました!」

輝夜「あら、お礼なんていいのよ? 私も貴方を、試すつもりだったから」

神峰「え?」

妹紅「は?」

 輝夜の言葉に異様な雰囲気を感じ取った二人は、突然の事に呆けた声が出る。

輝夜「ねぇ神峰? 貴方言ったわよね、ずっと妹紅の味方だって。それっていつまで? 貴方が氏ぬまで?」

輝夜「貴方が氏んだら妹紅の味方はどうなるのかしらね? 私は妹紅の事を憶えておくけど、ずっと味方でいる保証は無いわよ?」

妹紅「な……何を言ってるの、輝夜……?」

輝夜「随分と大層な事を言ってたけど、それって果たして本気なのかしらねぇ? ……私に貴方のその覚悟を見せて頂戴」

神峰妹紅「!?」

 冷たく言い放つ輝夜の側にてゐが寄り、預かっていた瓢箪を手渡した。

643: 2015/05/06(水) 16:50:04.86 ID:qeJeI7MvO
てゐ「悪いね、神峰。これは最初から決まってたんだよ」

妹紅「輝夜! その中身は……何なの!?」

 輝夜は盃に瓢箪の中身を注ぎながら、妹紅の質問に答えた。




輝夜「───蓬莱の薬よ。本気でずっと妹紅の味方でいる覚悟があるなら、飲めるでしょ?」




 それは、誰もが予想だにしない答えだった。



妹紅「なっ……あんた冗談はよしなさい! それはその程度の覚悟で飲んで良いモノじゃない!! いや、ヒトが飲むべきモノじゃない!!」

妹紅「神峰! 絶対に飲んじゃ駄目よ!!!」

644: 2015/05/06(水) 16:50:45.45 ID:qeJeI7MvO
神峰「……!」

神峰(輝夜さんの心……オレを真っ直ぐ見据えて……本気でオレを試している……!)

 妹紅が必氏に神峰に呼びかける中、輝夜が飲まざるを得ない状況を作るべく動いた。

輝夜「貴方がこれを飲まなければ、私は貴方が氏んだ後に必ず妹紅を裏切るでしょう。……でも、貴方がこれを飲めば、ずっと妹紅の味方でいるわ。三人で永遠に楽しく生きましょう?」

妹紅「やめろ!! 神峰は心が見えるのよ!? 私が感じてきたものを、よりハッキリと見てしまう! そんな苦しみを永遠と与える気───!?」

 妹紅が輝夜を説得するのを制して、神峰は輝夜の持つ盃に手を伸ばした。

神峰「妹紅さん……オレの事、マジで心配してくれてありがとうございます。スゲェ嬉しいス! ……でも、オレ覚悟出来てるんで。覚悟って、何があっても気持ちが揺らがないためにするモンだと思ってます……」

神峰「オレ、何があっても妹紅さんの味方だって決めましたから───」

妹紅「うそ……」

645: 2015/05/06(水) 16:51:19.94 ID:qeJeI7MvO
 妹紅が止める間もなく、神峰は盃の中身をグイッと飲み干した。
 それを見て呆然としていた妹紅の内側へ、フツフツと怒りと自責がこみ上げて、爆発した。

妹紅「輝夜ァァァアアア!!! あんたはまた! 人の人生を弄んで……! 一体何が楽しいの!?」

輝夜「神峰翔太。貴方の覚悟、しかと見届けたわ」

 一気に飲み干した直後に、青い顔で意識を手放した神峰を慌てて受け止めながらそう呟いて、妹紅へ向き直る輝夜。

輝夜「安心なさい。蓬莱の薬じゃないから」

妹紅「───は?」

 輝夜に掴みかかる妹紅の目の前に瓢箪を掲げてそう言うと、激情に飲まれていた妹紅は、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。

輝夜「ただのお酒よ。鬼と弾幕勝負して貰ったの」

妹紅「───あ?」

 妹紅の脳が輝夜の言っている事を徐々に処理していく。
 そしてついに理解出来たところで、妹紅のこめかみに青筋が浮かび、体を震わせ始める。
 そして神峰を担いで帰路に着く輝夜の背後から神峰を奪い、

妹紅「輝夜ァ……一回頃す!!!」

646: 2015/05/06(水) 16:51:57.00 ID:qeJeI7MvO
……………

……


永琳「急性アルコール中毒です。処置は出来たけど、もう少し早く運んで来て欲しかったわ」

 永遠亭に戻り、神峰を永琳に預けて待っていた妹紅のもとに、処置を終えた永琳が出て来る。
 早く来て欲しかった、と言われた妹紅はギクリと反応して目を逸らした。

永琳「酒盛りでもしてたのかしら? 随分仲良くなったみたいね。……それで、姫は?」

妹紅「さ、さあ? 酔っ払ってそこらで寝てるんじゃないかしら……?」

 目を泳がせながら答える妹紅に、永琳はため息を吐いて苦笑するのだった。
 本当は酒盛りなんてしていないし、輝夜は竹林で伸びたまま放置して来たし、輝夜と争ったせいで神峰を運ぶのが遅れたのだが……

永琳「まぁいいわ。朝には目覚めるでしょうから、貴女もここに泊まって、神峰さんを里まで送ってあげなさい」

妹紅「ええ、分かったわ」

647: 2015/05/06(水) 16:52:33.13 ID:qeJeI7MvO
……………

……


 朝になり神峰が目を覚ますと、そのままアフターケアの問診を永琳が行った。
 その時に神峰は自分の目の事と、幻覚を見た事を永琳に話す。

神峰「八意先生……、オレの目……ちょっと特殊っつーか……普通の人には見えないモノが見えるっつーか……」

永琳「幽霊でも見えるのかしら? 幻想郷では当たり前の様に存在しているけど……」

永琳(まぁ、能力から考えて、人の心というのが妥当な線かしら? いつか協力して貰いたいわね)

神峰「いえ、そうじゃなくて……。昨晩、そのオレが普段『見』えてるもの以外のものが……幻覚が、見えたんです」

永琳「幻覚?」

 幻覚、という言葉にピクリと反応した永琳が、詳しく話すようにと視線で神峰を促す。

神峰「妹紅さんが、桜が散る場所で楽器を吹いていました」

永琳「……そう。実はウドンゲも、試薬を服用した時に同じように幻覚を見たって言っていたのよね……。幻覚作用でもあるのかしら? そんな調合をした憶えはないのですけど……」

永琳「とにかく、これから身体に変わった事があったら、何でも言って下さい。特に神峰さんは強いお酒を飲んだから、身体が子供になったり大人になったりするかもしれないし」

神峰「そんな高校生探偵じゃねェんスから……」

648: 2015/05/06(水) 16:53:37.27 ID:qeJeI7MvO




 こうして、藤原妹紅と蓬莱山輝夜に纏わる争いの幕は降りた。
 問診を終えた神峰は、妹紅と共に人里へと帰って行く。

神峰(妹紅さんの心は、どんなに傷付いても、いつか必ず勇気の炎を燃え上がらせて、不氏鳥のように蘇る再起の心だ。真っ白に燃え尽きる事なく、永遠を生きる覚悟を宿した───)

妹紅「神峰」

妹紅「なんか、ありがとね」

 頬をかきながら照れ臭そうにはにかむ妹紅。お礼を言われた神峰も嬉しそうな顔をする。
 人里へ戻った神峰は、無事元の生活へと戻───




バサッ。





神峰妹紅「?」

 二人の背後で物が落ちる音がした。

649: 2015/05/06(水) 16:54:03.75 ID:qeJeI7MvO
慧音「二人で朝帰りとはどういうことだ神峰……? まさか妹紅と……?」


 ───れるのだろうか?

 振り返ると、そこには頑固親子の心をした慧音の姿が。

神峰「ひっ……!」

妹紅「違っ! 面倒くさいわね慧音!」

 二人は朝から必氏に慧音を説得して、事なきを得るのだった。

670: 2015/06/14(日) 03:19:14.06 ID:fpKdUtHcO
 四月某日。神峰が幻想郷に来て、もうすぐ半年経とうとしている。
 外を歩けば何処からともなく菜の花の匂いが香って来て、季節はもうすっかり春だ。

神峰「春……だな……」

 どこかアンニュイな表情で春が来た事を実感する神峰は、しかしその思考を紛らわせるように、無理矢理別の事に切り替える。

神峰「そうだ! 夏物買わねェとな! あったかくなって来たし、それまでは制服のワイシャツ着とくか」

萃香「誰に喋ってんだい?」

神峰「ま!!!」

 気持ちを切り返していた所に突如背後から声をかけられ、神峰はびっくりして飛び上がった。

671: 2015/06/14(日) 03:19:43.22 ID:fpKdUtHcO
神峰「す、萃香さん!? 何か御用でしょうか!?」

萃香「何慌ててんの? ま、いいや」

萃香「迎えに来たんだ、行くよ」

神峰「?」

 どこへ? そう問おうとしたが、それは萃香の姿が薄く透けていき、霧散した事で叶うことはなかった。



 そしてその直後、神峰は空を飛んだ───



……………

……

672: 2015/06/14(日) 03:20:28.68 ID:fpKdUtHcO



神峰「し……氏ぬかと思ったーーーーー!!!!」

 物凄いスピードで全身で風を感じながら、霧散した萃香に運ばれた神峰は、着地した先で毎度の如く汗と涙を流しながら、四つん這いで──腰が抜けたため──地面を踏み締めている。

萃香「ほら、さっさと立ちなよ。今日は花見で酒が呑めるぞ~!」

神峰「あんたは年中飲んでますよね!?」

萃香「細かい事は気にすんなよ。こういう行事で飲む酒ってのはさ、また違う味がするモンなのさ」

神峰「そういうモンなんスか……?」

 神峰は自身の飲酒歴を振り返るも、記憶にあるのは雰囲気に流されたり、勇儀に無理矢理飲まされたり、勇儀と飲み比べしたり、一気飲みさせられたりと、まともに味わって飲んだ記憶が全く無かった。
 しかも目の前に鬼である伊吹萃香が居る辺り、今回も酒を味わいながら飲む事は出来ないかもしれない、と神峰は思う。

 飲酒する事が前提で考えが進むところに、神峰も相当幻想郷に染まっていることが伺える。

673: 2015/06/14(日) 03:21:12.22 ID:fpKdUtHcO

 気を取り直して立ち上がり、萃香と一緒に目の前の階段──運ばれている最中に進む方角と、実際に目的地を見たのでここが博麗神社であることは知っている──を上がると、


 そこは人外魔境と化していた。



神峰「神社なのに妖怪だらけだァァァア!!?」



萃香「あ? よく見なよ。霊夢が居るじゃん。魔理沙も居るし、緑の方の巫女にメイドだって居るじゃないか」

神峰「たったの四人……。顔見知りなだけマシか……」

萃香「知り合いならいいじゃん。ほら、さっさと行こう。ゴゥゴーウ」

 萃香に腕を引かれて騒ぎの中へ溶けていく。
 桜も散り始める時期なだけあって、何処を見渡しても桜の花弁が視界に入り、そんな景色が神峰の顔に微妙な表情を作らせるのだった。

674: 2015/06/14(日) 03:21:59.29 ID:fpKdUtHcO
萃香「さあて、まずは酒だ酒! あとメシ!」

霊夢「あら、神峰さんも来……攫われたのね。久しぶり」

神峰「あ、久しぶりです……」

 まっすぐ霊夢のもとへ向かう萃香と、それに続く神峰。二人の接近に気付いた霊夢は、神峰の表情を見てから言いかけた言葉を言い直した。

霊夢「どうしたの、そんなに浮かない顔して? ここにいるヤツらなら、私の目の前で襲いかかるような馬鹿な真似はしないでしょうから安心して良いわよ」

神峰「いや、なんつーか……オレが参加しても良かったのかって思って……女のヒトばっかだし」

神峰(正直、居心地悪ィ……)

霊夢「そんな事なら気にしてないわ。ここの連中勝手に増えるし、わざわざ一人一人相手してられないし。だから神峰さんも、私に迷惑かけない程度に楽しんでいってね」

675: 2015/06/14(日) 03:22:39.78 ID:fpKdUtHcO
萃香「そうだよ! わたしが呼んだんだから、文句言うヤツなんている訳がない!」

霊夢「あんたはヒトが集まればそれで良いんでしょーが」

 霊夢に同調した萃香は、霊夢のツッコミを聞き流しながら弁当の蓋を開けると、その目に飛び込んで来た光景に大声を上げる。

萃香「誰だコラァアアアア!?」

霊夢「うっさいわね」

神峰「どうしたんスか!?」

萃香「目玉焼きにケチャップがかかってる!!!」

神峰(幻想郷にケチャップあったんだ……)

咲夜「あら、スクランブルエッグにもオムレツにもケチャップをかけるじゃない? 一体何がおかしいのでしょうか?」

神峰「確かに!」

咲夜「こんにちは、神峰さん。その節はどうもありがとうございました」

神峰「あ……いえいえそんな……」

676: 2015/06/14(日) 03:23:16.43 ID:fpKdUtHcO
 萃香の怒声に応じるかのように、ケチャップをかけた犯人(?)と思しき咲夜が姿を表して反論する。
 その直後に神峰に振り向いて挨拶をするものだから、神峰も恐縮して咲夜にペコペコと頭を下げる。

萃香「馬鹿ヤロー! 目玉焼きにはな、めんつゆって決まってんだよ!!」

神峰「どっちもマイナーだァァァ!!!」

萃香「ああ!? じゃあアンタらは何かけるのさ!?」

 神峰のツッコミによって矛先が自分達へと向いて、萃香の迫力に気圧される。それだけに留まらず、目玉焼きにかける物議論はあちこちへと伝播して行くのだった。

霊夢「塩でしょ」

神峰「ソ、ソースです……」

677: 2015/06/14(日) 03:23:49.51 ID:fpKdUtHcO
萃香「霊夢の塩は分かるけど、ソースって何さ?」

神峰「それは知らないんスね……」

萃香「んなモン幻想郷にあるワケないでしょ」

神峰「無いんスか!?」

 ソースが幻想郷に無い事に少なくないショックを隠せない神峰。しかしそんな神峰に救いの手が差し出される。

咲夜「ありますが」

神峰「え!?」

咲夜「ソースなら御座います。ソースだけでなく、マスタードもバジルもマヨネーズもバルサミコ酢も、紅魔館では揃えております」

神峰「品揃え良過ぎません!?」

咲夜「ちなみにお嬢様はバルサミコ酢派ですわ」

神峰「吸血鬼なのにそういうのも食べるんスね……」

霊夢「そりゃ普通の食事もするでしょ。バルサ巫女酢ってのはわからないけど」

678: 2015/06/14(日) 03:24:22.73 ID:fpKdUtHcO



 神峰もようやく場に慣れて来た頃、そんな神峰達の議論を離れた位置で伺っている者がいた。

妹紅「神峰……そーす? をかけるんだ……。そーすって何だろ? 今度慧音に教えてもらお」

 ぼーっと神峰を見つめながら、そんな独り言をこぼす妹紅。
 ちなみに妹紅は何もかけない。食事に生を見出せなかった彼女にとって、食べ物の味付けは意味が無い物だったからだ。
 付け加えると、生まれが貴族であったために、料理も作れない。

「おーい妹紅、準備してよー」

妹紅「あ、ああ!」

 そんな惚ける妹紅を呼ぶ声にハッと我に帰ると、側に置いてあった荷物を担いで、呼ばれた声の方向へ歩き出すのであった。

……………

……

679: 2015/06/14(日) 03:24:51.22 ID:fpKdUtHcO
♪天空の花の都
http://youtu.be/Qa6l1oOgfsc



 弁当も食べ終わった頃、境内に琴の音が鳴り響いた。その演奏はすぐにもう一つの演奏(琵琶)と合わさり、二重奏となる。

神峰「ん? 音楽が聞こえる……?」

霊夢「こんな宴会場で楽器を鳴らす奴といったら騒霊達……と言いたい所だけど、今回は付喪神の方みたいね」

「あら? あの子達、消えなかったのね。小槌に魔力を回収されたと思うんだけど……」

神峰「え?」

 周りの喧騒や演奏のせいか小さくてよく聞こえなかったが、聞き慣れない声が神峰の耳に届いた。
 近くに居るのは霊夢、萃香、咲夜だが、その三人の誰のものでもない声色だったために神峰はキョロキョロと周囲を見渡してみる。が、そんな人物は声の届きそうな距離には居なかった。

680: 2015/06/14(日) 03:25:27.02 ID:fpKdUtHcO
「くっ……! バカにして! そんなに私を居ない者として扱いたいワケ!?」

神峰「え? えっ? ドコだ?」

霊夢「ここよ、ここ」

 何処を見渡してもそれらしき人物は発見出来ず、すわ透明人間か! と勘ぐり始めた頃、霊夢がチョンチョンと下を指差して苦笑しながら助け船を出してくれた。
 差された指の先を辿ると、お椀を被った着物の小女……もとい、少女が腹を立ててこちらを睨んでいた。

神峰「こ……小人?」

「いかにも! 私こそが一寸法師の末裔、小人族の少名針妙丸よ!」

 胸を張って自己紹介をして見せる針妙丸。しかし小さな身体から出るその声は聞き取り辛く、喧騒に妨害されて、うまく神峰に届かずに誤解を生んだ。

681: 2015/06/14(日) 03:26:07.12 ID:fpKdUtHcO
神峰「え……? 昼夜逆転丸……? 実在してたのか!?」

針妙丸「す・く・な! 針・妙・丸!! 誰よその巫山戯た名前!? 正邪!?」

 神峰の聞き間違いに針妙丸は地団駄を踏み、そのやり取りを聞いていた霊夢と咲夜はクスクスと笑った。

霊夢「いいんじゃない? 逆転丸。天邪鬼と組んでたあんたにはピッタリの名前じゃない」

咲夜「逆転丸さん。その後、幻想郷の転覆などは考えておられないのでしょうか?」

針妙丸「もう浸透してるし!? って言うか私は唆されただけで、そんな考え、もう無いんだけど!」

咲夜「ほんのお戯れに御座いますわ、逆転丸様」

針妙丸「その口調ムカつく!」

682: 2015/06/14(日) 03:26:36.73 ID:fpKdUtHcO
 二人に食いつく針妙丸を咲夜が仕事モードで瀟洒に躱していると、やがて琴と琵琶の二重奏も終わり、しばらく間があった後に何処からともなくピアノの音色が鳴り始めた。


♪春の湊に
http://youtu.be/EWadsL-fT28



神峰「!!!」

霊夢「どうかしたの?」

 その音を聴いた途端、神峰は自分の心に直接音が響いたような感覚に襲われる。
 そのメロディは、ピアノとは違う方向から聞こえて来る演奏と合流して、次々と音楽を完成させて行く。

683: 2015/06/14(日) 03:27:03.69 ID:fpKdUtHcO
神峰(何だ……この感じ? 音が直接心に入って来たような……? つーかこの演出……)

神峰「フラッシュモブ!」

萃香「何それ?」

神峰「こんな感じに雑踏に紛れた大勢の仕掛け人が、突然何か同じ事を始めるっていうドッキリの事ス。音楽を演奏したりダンスを踊ったり、ミュージカルや劇を始めたり、一斉に動きを止めたり」

萃香「へぇ~、そりゃ面白そうだね。……でも私の見た感じ、楽器が一人で勝手に鳴ってるように見えるんだけど?」

神峰「え?」

 萃香に言われて音が鳴る方へ目を向けると、確かに楽器が浮き上がって誰にも演奏される事無く音を奏でていた。

684: 2015/06/14(日) 03:27:32.94 ID:fpKdUtHcO
神峰「何コレ!? 超能力スか!?」

咲夜「恐らくポルターガイストかと思いますけど?」

神峰「ポルターガイスト!? 怖っ!」

咲夜「そこでピアノを弾いているのと、向こうでトランペットを吹いているのと、あっちでヴァイオリンを弾いている三体の騒霊の仕業ね」

 咲夜がそれぞれ件の騒霊の居場所を指差すと、確かにそこには楽器を演奏している者がいた。
 幻想郷縁起の知識から、ヴァイオリンを弾いているのがルナサ、トランペットを吹いているのがメルラン、キーボードを弾いているのがリリカだろうと当たりをつける。
 それ以外にも演奏者がちらほら見えるが、神峰の『目』は騒霊達に釘付けとなった。

685: 2015/06/14(日) 03:28:16.85 ID:fpKdUtHcO
神峰(ウソだろ……? 信じられねェ……。ヴァイオリンを弾いてるヒトの周りは、音に抑え付けられるみてェに心が沈んでる……!)

神峰(ラッパを吹いてるヒトの周りでは対照的にテンションが上がってる! 生演奏だからか……? あり得ねェだろ……音楽でヒトの心を変えちまうなんて!)

神峰(極めつけは……あのキーボードのヒト。二人の音をうまくバランスを取るように調和させて……オーロラみてェな幻想的な音を創ってる!)

神峰(オレがずっと出来ねェと思ってた事を、あんなにあっさりやっちまうなんて……)

 神峰が心が変わる光景を目にしたのは、妹紅と輝夜の問題に関わった時が初めてだ。輝夜の協力を得たとは言え、自分の力を尽くして妹紅の心を良い方へと変化させる事が出来た時の感動は今も忘れない。

 しかし目の前では、音楽によって多くの者の心へ影響を与えるという、神峰にとって信じ難い光景が広がっているのだ。
 神峰がリリカの奏でる幻想の音から目を離せないでいると、神峰の近くにある桜の木の下から楽器が鳴って、ハッと意識が現実に戻って来る。

686: 2015/06/14(日) 03:28:46.65 ID:fpKdUtHcO
神峰(まだ仕掛け人……出揃ってなかったのか───?)

 ポルターガイストかも知れないが、近くで楽器が鳴ったので反射的にそこへ視線を向けると、

神峰「妹紅さん!?」

妹紅「……!」

神峰(あれ……? なんかこれ、デジャヴじゃねェか……?)

 神峰と目が合うと、顔を赤らめてふいっと目を逸らして演奏を続ける妹紅。
 時期が四月であるため桜の花弁は散り始め、桜舞う中で演奏をする妹紅の姿に、神峰は既視感を覚える。
 そんな神峰の背後から、二つの足音が近付いて来た。

687: 2015/06/14(日) 03:29:33.84 ID:fpKdUtHcO
永琳「神峰さんが見た幻覚というのは、もしかしてこの光景じゃないかしら?」

神峰「あ、それだ! ……って、八意先生と輝夜さん?」

輝夜「見て見て永琳。あの妹紅が必氏になって楽器を演奏してるわよ」

永琳「姫、笑ってはいけませんよ。……こんにちは。どうやら神峰さんにも、ウドンゲと同じ効果が出たと見て間違い無いみたいね」

 袖で口元を隠して、ぷっと吹き出しながら妹紅を嘲笑する輝夜を、苦笑しながら諌める永琳。
 そんな輝夜を睨みつける妹紅(演奏中のため手出しが出来ない)

 余談だが、実際に、妹紅は楽器を始めて二ヶ月しか経っておらず、本来なら合奏に混ざれるレベルには達してない。
 しかし彼女は、不老不氏の性質による裏技、即ち飲まず食わず眠らずに指導を受ける事で、実力の底上げを行なったのだ。
 その成果あって、妹紅は三姉妹達の演奏に───輝夜の言った通り───必氏にやればついて行く事を可能にしたのだ。

688: 2015/06/14(日) 03:30:05.20 ID:fpKdUtHcO
神峰「え……? 何の話スか……? 何かしたんスか!? 何か怖ェんスけど!?」

永琳「ふふっ、心配しないで。あの時の治験の話よ。あなたとウドンゲが見た幻覚が、未来の出来事だったって事」

神峰「未来視……? もうなんでもアリっスね……」

「いいや、いくら幻想の力があるとはいえ、まだまだ出来ない事は多いわ。……核融合には成功したけどね」

 またも声をかけられる。
 人外の知り合いは少ない筈だと思いながらも振り向くと、注連縄を背負う女性が。

689: 2015/06/14(日) 03:30:34.43 ID:fpKdUtHcO
神峰(○レンチクルーラー……?)

 その注連縄の存在感と迫力に度肝を抜かれ、出てきた感想がこれである。

「今、凄く失礼な事考えてないかい? その顔はアレね。早苗が『神奈子様の注連縄ってドーナツみたいですよね』って言った時と似た表情だ」

 ずばりその通りでギクッと表情が引き攣る神峰。後ろでクスクス笑う咲夜と霊夢。

神峰「す、すみません……」

「まあいい。どうも現代人……いや、外来人はこの注連縄を見てドーナツを連想するらしいからね。守矢の祭神だからあまり人前には出ないのだけど……」

神峰「神様……?」

神奈子「如何にも。我こそが守矢神社の祭神、山の神。八坂神奈子である」

神峰「!」

690: 2015/06/14(日) 03:31:02.07 ID:fpKdUtHcO
 先ほどとは打って変わって威厳たっぷりに名乗る神奈子の迫力に、神峰は気圧されて一歩後ずさる。

神峰(ぐっ……、これが神様! なんつー存在感! そしてあれが……、多くの人の心を土台にして、支えられて……その上に立つアレが、神様の心か!)

神奈子「そんなに緊張しなくとも良い。私はそこにいる博麗の巫女の顔を見に来ただけだからね」

神奈子「貴方も知り合いに挨拶くらいしに行くといい。早苗から少し聞いているよ、命蓮寺で世話になっていたのでしょう?」

 神峰に向けて言った神奈子のその言葉は、しかし別方向から届いた言葉によって返事を返された。

白蓮「その必要は御座いません。私の方から来ちゃいましたので」

神峰「聖さん!」

691: 2015/06/14(日) 03:31:33.70 ID:fpKdUtHcO
 また人が集まる。そこで飲んだくれている萃香の仕業だろうか? それとも神奈子のように、霊夢に会うためなのだろうか? 聖のように神峰に挨拶をするためというのは少ないはずだ。

聖「その後、どうですか? 神峰さんの活躍は時々耳にしてるので、それ程心配はしていませんが……」

神峰「はい。ちょっといろいろあって家を買ってしまったんで、借金返しながら頑張ってます……」

聖「それならマミゾウに聞きましたよ。借家に住むと言って出て行ったのに一軒家を買ったと聞いてビックリしたわ!」

神峰「それは……妖怪のせいス……」

692: 2015/06/14(日) 03:32:17.57 ID:fpKdUtHcO
輝夜「……随分フットワークもノリも軽いのね。さすがは噂の"ガンガン行く僧侶"ね」

 そんな聖に好奇の視線を向ける輝夜。

聖「お花見だからちょっとはしゃいじゃって。お祭りになると楽しくなるでしょ?」

輝夜「え? ……ええ、そうね。そう言えば、貴女は宗教戦争の時もはしゃいでいたわね」

聖「あら、見てたの? これはお恥ずかしい所を見られてしまいましたね……」

 聞き流されると思っていたら、言葉のキャッチボールが成立してしまい戸惑いがちに会話を続ける輝夜に、聖は照れながら答えた。

 それから雑談に発展し、曲も終わったところで、妹紅は楽器から口を離してふぅと一息吐いて、目の前の集団にジト目で文句をつける。

693: 2015/06/14(日) 03:32:59.72 ID:fpKdUtHcO
妹紅「あのさ、人が演奏してる前で井戸端会議を始めな「みなさーん! 先ほど演奏させてもらった私達、プリズムリバー楽団はぁ、現在団員を募集してまーす!」

妹紅「……メルラ~ン……」

 しかし妹紅に被せるように聞こえて来た声によってその訴えは掻き消され、妹紅は恨めしそうにその声の主の名を呟く。

神峰「あ、妹紅さん。演奏上手かったス! 二ヶ月しか経ってねェのにあんなに上手くなれるんスね!」

妹紅「そっ、そう!? ちょっと頑張ったからね! っていうか神峰も来てたのね! ビックリしたわ!」

神峰「見慣れないスけど、それ何て楽器なんスか?」

妹紅「ユーフォニウムって名前。今まで人と距離取って来たから、もっと側に寄れるようなのがいいって言ったらこれを勧められて……」

 神峰に褒められて顔を紅潮させ、慌てるように語気が強くなる妹紅。
 そんな妹紅にニヤニヤ笑いながら近付いてくる影が二つ。

694: 2015/06/14(日) 03:33:35.98 ID:fpKdUtHcO
紫「初舞台、初披露、どうだったかしら? 最善を尽くせた? 彼の前では、失敗は見せられないものねぇ?」

妹紅「ゆ、紫!? 何を言ってるのかしら!?」

神峰「紫さん! お久しぶりです。えと、そちらは……」

 紫の言葉に、さらに顔を赤くさせてすっとぼける妹紅を気にする事なく、紫の隣に居る者について尋ねる神峰。神峰の知識が正しければ、彼女は確か───

紫「折角だから紹介しますわ。あ、紹介と言っても貴方と幽々子をくっ付ける意味では無いから注意してね?」

神峰「何の話スか!?」

紫「この子は私の親友の西行寺幽々子。冥界の管理人だから、神峰さんも氏んだらお世話になると思うわ」

695: 2015/06/14(日) 03:34:14.52 ID:fpKdUtHcO
幽々子「初めまして。あなたが紫の今の観察対象(オモチャ)ね? 」

神峰(オモチャ……)

神峰「あ、初めまして……神峰翔太です。……なんか氏んだ後の予定が固まって行って怖ェんスけど……」

幽々子「そんな事はしてないわよ? 氏んで私の所に来る頃には記憶なんて亡くなってる筈だし、白玉楼は閻魔様の所までの中継点みたいなものだし」

神峰「今の時点で、オレの氏体はこいしに持って行かれて、魂は幽々子さんの所を経由して、閻魔様に地獄行きって言われました……」

紫「あらあら、閻魔様に遭ったのね。ご愁傷様。でもあの方が現世で説教をする時は、多少の誇張が入るので確定してるとは言えませんわよ?」

 ずーんと沈んで行く神峰とは対照的に、紫はクスクスと笑う。
 周りで聞いていた者達は同情的な眼差しを神峰に向けている。

輝夜「大丈夫? 蓬莱の薬飲む?」

神峰「胃薬渡すみたいなノリでそんな薬勧めないでください!!」

妹紅「飲ませるワケないでしょ!?」

696: 2015/06/14(日) 03:34:57.27 ID:fpKdUtHcO

 輝夜のフォロー(?)の甲斐あって元気を取り戻した神峰は気を取り直して紫と向き合う。

神峰「あの、紫さん! さっきの演奏してた楽団って紫さんがやってるんスよね!?」

紫「ええ、そうよ。今回はメンバーを募集するためにああいうパフォーマンスをしたけど、いつかちゃんと演奏したいですわね」

幽々子「早めにお願いね~」

神峰「あの、演奏してた騒霊の三姉妹……紹介してくれませんか!? 知り合いたいス! 」

紫「あら?」

妹紅「え……?」

 神峰の突然の申し出に、紫は面白そうに妹紅へ視線をずらし、妹紅はバキッと殴られたような痛みを心に感じた。
 だがその直後、神峰が申し出の理由を話し始める。

697: 2015/06/14(日) 03:35:29.90 ID:fpKdUtHcO
神峰「ずっと出来ねェと思ってた心を変えるって事を、あの三人は簡単にやってのけました……。それに、周りの演奏を纏めるリリカさんの演奏……スゲェ幻想的で……感動したんス!」

神峰「だから、何か少しでも得る物があればと思って……!」

紫「ふぅん……。だったら、神峰さんも楽団に入ってくらたら良いのではないかしら?」

神峰「え?」

 チラリと妹紅に目配せする紫。それに気付いた妹紅も紫に同調して神峰に詰め寄った。

妹紅「そうよ! 神峰も入ったら? 私もまだ初心者だけど、いろいろ教えられると思うし……!」

 そんな妹紅の様子をニヤニヤと破顔して見守る一同と、全く気付かない神峰。
 そんな中、先程の演奏に便乗するように、ゲリラ的に次のライブが始まる───

698: 2015/06/14(日) 03:37:00.96 ID:fpKdUtHcO
ここまで。
いろいろとさくら祭りのパクリ回。
正直、逆転丸の下りが出来たから満足している

708: 2015/07/06(月) 23:59:12.69 ID:ICXIxYlYO
響子「Yahooooo!! みんなー! 盛り上がってるかーーー!? 前の二組が場を温めてくれたけど、トリを持ってくのは私達、鳥獣伎楽だーーー!!」

 外の世界でお馴染みの───神峰の好きなジャンルである───バンドサウンドが始まると同時に、聞き覚えのある声でMCが始まる。

神峰「幻想郷にもバンドがあんの!? って言うか響子!?」

 見てみると、鳥の妖怪であろう翼の生えた少女と共に、ステージ衣装の黒い服を着てサングラスをかけた幽谷響子がステージに立っていた。

聖「全く……あの子ったら。まあ、今は宴会だから良しとしましょう」

 それを見た聖が呆れた顔をして一人ゴチているが内心はあまり穏やかではなく、ライブが終わった後詰問して、返答によっては直ちに一発しばく気満々である。
 そんな聖の心を見て、神峰は聖から一歩距離を取るのであった。

709: 2015/07/06(月) 23:59:42.18 ID:ICXIxYlYO
永琳「神峰さん達、外の世界ではこんな音楽が主流なの……? 正直、叫んでるだけに聞こえるのだけど……。時代って変わるものねえ……」

神峰「いや、流石に音程に合った歌の方がメジャーっスけど───」

鈴仙「きゃーーーーー!!!」

永琳「……」

 永琳も鳥獣伎楽に対して呆れ気味にコメントをしている最中、神峰には聞き覚えのある、永琳にとっては聞き慣れた声の声援が聞こえて永琳の顔が引き攣った。

輝夜「……イナバね。こんなシャウトを好むなんて……、ストレスでも溜まっているんじゃないかしら?」

永琳「あの子……何時の間にこんな音楽にハマったのよ……」

710: 2015/07/07(火) 00:00:09.96 ID:CeKYWcSAO
妹紅(ホント、時代って変わったわよね。私の産まれた時代では、最初に演った付喪神の姉妹みたいな音楽が主流だったのに……)

妹紅(今じゃこんなになってる。私達が演奏した音楽だってそう。異国の楽器で音を合わせて……スゴく派手になってる)

 妹紅は手に持つユーフォニウムを見つめて時代の流れを改めて確認する。最初に楽団に入った時は、金管楽器の見た目の派手さだけでも大いに驚き、そして演奏を聴いてさらに驚いたものだ。
 妹紅は楽団に入って、カルチャーギャップとジェネレーションギャップを同時に経験したのである。

妹紅(でも、何事にも限度ってのはあるわ。これから先の時代で、さらに派手さを追求するのなら、正直、私は付いて行けな───)

神峰「鈴仙さん、バンドが好きなんスね! オレも好きなんで、響子達の演奏も割と気に入ってたり……」

妹紅「わ、私もちょっとイイかなーって思うわ!」

 照れながら言う神峰に、つい先ほどの考えを刹那で放棄する妹紅。恋の力とは人の好みさえ一瞬で変えてしまうものなのか。
 そんな妹紅の表情の変化を、輝夜達は白い目で見ているのだった。

711: 2015/07/07(火) 00:01:19.76 ID:CeKYWcSAO




「全く、五月蝿くてかなわんな。アレは貴女達の寺の者だろう?」

 鳥獣伎楽の演奏とシャウトが響く中、聖の心へさらに一石を投じる人物が神峰達のもとへと現れた。
 その人物の特徴を挙げるならば、耳。……動物の耳の様な髪型に、ヘッドホン(耳当て)だろう。
 耳に被さるヘッドホンの上から手で覆い、騒音に耐える様にしてこちらに歩いて来る。

聖「あら、わざわざそんな悪態をつくためにこちらへ足を運んだのかしら?」

神峰「……!」

 和やかに対応する聖だが、二人からただならぬムードが漂っている事を察して、神峰はドキドキしながら事の成り行きを見守る。

712: 2015/07/07(火) 00:02:00.78 ID:CeKYWcSAO

「まさか。私がこんな騒音の中、わざわざ貴女に会いに来るワケが無いでしょう」

聖「それでは、一体どの様な用件で私の前に現れたのかしら?」

「自惚れるなよ坊主。私が用があるのは貴女ではなく───」

 スッと聖から視線をずらして、近くに居た神峰を見据える。

神峰「……え? オレ?」

「そう。君だ」

神峰「あの……、一体どのようなご用でしょうか……?」

永琳(相変わらず初対面時の緊張はすごいわね)

「怖がらなくていいわよ。ちょっと噂に聞いていたからね、人の心を掴む……人心掌握の能力を持つ外来人が人里に現れた、と」

 聖に対する態度とは打って変わって、角が取れた口調で話し始めた。

713: 2015/07/07(火) 00:02:27.90 ID:CeKYWcSAO
神峰「話に尾ひれ付いてません!?」

「確かに少し誇張したけど、君なら出来る。なぜなら君の本当の能力は……心の状態を把握するもの、でしょう?」

神峰「!?」

 突然核心を突かれた事に驚きを隠せない神峰。慌てて周囲を見渡すが、紫、霊夢、聖、輝夜、妹紅(あとは恐らく永琳と幽々子も聞いているだろうと予想)と、神峰の『目』の事を知っている者が殆どだったので一先ず安堵する。

「ついさっき、まるで私の耳のような能力だと知ってね、興味が湧いたの」

神峰「あんたの耳……!? それより、どうやってオレの目の事を……!?」

「ああ、そう言えば申し遅れたわね。私は豊聡耳神子。十の欲を聞きその者の本質を捉え、過去から未来まで推し測る事が出来る。君に分かりやすく言うなら、かの聖徳王とは私の事よ」

714: 2015/07/07(火) 00:02:57.06 ID:CeKYWcSAO
神峰「聖徳王……? って何スか? 聖徳太子?」

神子「その通り」

神峰「マジで!? 女の人だったんスか!?」

神子「その辺は説明が面倒だから省くけど……そういう訳で、君の欲の声を聞いて、君の持つ望みと君の能力が分かったの」

神子「"この『目』を使って、人の心を良い方へと変えたい"なんて聞こえたから、直ぐに判ったわ」

神峰(この人……、この感じ、さとりと話してる時と似たカンジがする……! ただ、さとりと違うのは……、さとりの場合は見通されてるって感じだったけど、この人の場合、見透かされてるような───)

神峰(あの人のアンテナみてェな心が、受け取った情報を分析して、こっちは全て見透かされたように感じるんだ……! 本当にスゲェのは、耳の能力じゃなくて……分析力!!)

715: 2015/07/07(火) 00:03:24.25 ID:CeKYWcSAO
神子「───だから君を勧誘しに来ました」

神峰「……勧誘?」

 神峰にとっては望む所ではない宗教家からの勧誘に、少しばかり身構える神峰などお構い無しに話を続ける神子。

神子「君はこの人里に住んで、里の代表者が誰か疑問に思った事はないですか? 」

神峰「え? 慧音先生……とか、阿求さんのトコじゃないんスか……?」

神子「上白沢女史は守護者ではあるが、この里の政には直接関わってはいない。稗田家はそもそも、幻想郷縁起を作るための家系だ。……この幻想郷には、人間の為政者が存在してないのよ」

神峰「そうなんスか……?」

 どのような勧誘かと思ったが、神子が話す事に疑問を感じながらも相槌を打つ。

神子「ええ。だから君、私の弟子になって政治を勉強して、為政者にならない?」

神峰「!?」

716: 2015/07/07(火) 00:03:59.07 ID:CeKYWcSAO

 神子の突然の提案。政治家になるなど考えもしていなかった神峰にはまさに青天の霹靂である。
 そんな神峰が落ち着く暇も無く、神子は続ける。

神子「君の、心を良い方へと変えたいという欲は、まさに民衆を導くのに適した願いだ。きっとその『目』が、君の政治の役に立ち、君の今までの行いが求心力となる」

神子「そして……君は望まないだろうが、その欲がいずれ、君を聖人足らしめるでしょう」

神子「どう? 君の培って来た経験を活かし君の願いを叶えるのなら、私の弟子になる事が一番の近道だと思うのですが?」

神峰「あの、その……。いきなりそんな事言われても、すぐには決められないっつーか……」

紫「───ねえ。ちょっと良いかしら?」

 神子が神峰の返事を求めた所で、先ほどまで二人のやり取りを静かに見守っていた紫が口を挟んだ。

717: 2015/07/07(火) 00:04:27.23 ID:CeKYWcSAO
神子「なんでしょうか? まさか里の人々を統率する真似はするなと?」

紫「そうではなくて。神峰さんにはこちらの勧誘の返事を、まだ頂いてないので先に答えてもらおうかと」

神子「音楽なんて勉強の片手間にでも出来るでしょうに。……まあ、そこまで言うなら、どうぞ」

神峰「へ?」

 返事を、と神峰を促す神子。

紫「片手間でやってもらっては面白くな……いえ、困るのよねぇ? 幽々子との約束もあるし」

 妹紅をチラリと見ながら言いかけた言葉を訂正して、再び神峰へ顔を向けて無言でにっこりと返事を待つ紫。
 逃げるように周りに目を泳がせると妹紅に期待の心を向けられており、神峰は突然迫られた決断にあたふたしながら言葉を発しようとする───

神峰「あの、ちょっ───」

718: 2015/07/07(火) 00:05:02.01 ID:CeKYWcSAO

「御機嫌よう。幻想郷の有力者達が揃いも揃って、これは一体何の集まりなのかしら?」

 が、もはや何度目かも分からない来訪者によって遮られた。
 何時の間にか居なくなっていた咲夜に日傘を持たせ、優雅に歩いて来る少女(少女というには些か幼く見えるが)の姿に、神峰は内心助かったと密かに胸を撫で下ろす。

神峰(あ、この人知ってる。レミリア・スカーレット……吸血鬼の!)

 幻想郷縁起に載っていたし実際に彼女へ血液の提供(食用)もしたので、これが初対面にも関わらず、神峰はレミリアの事を知っている。

レミリア「ん? 人間……? あなた達がそこに居る霊夢ではなく、この人間の周りに集まるなんて、本当に何なの?」

719: 2015/07/07(火) 00:05:28.74 ID:CeKYWcSAO
神奈子「私はただ博麗の巫女の顔を見に来ただけだよ。そしたらその子がここに居た。それだけよ」

聖「私は神峰さんが見えたから挨拶にと」

永琳「私も、神峰さんにちょっと確認したい事があっただけね」

輝夜「永琳の付き添い。あと妹紅をからかうため」

幽々子「同じく紫の付き添いね」

紫「同じくからかうためね。誰を……とは言いませんが」

神子「私は彼を弟子にしたくてね」

霊夢「萃香が連れてきた」

レミリア「……ふむ」

 各々の主張を聞くに、偶然ここに居ただけのようだと結論付けるレミリア。
 しかし弟子にしたいという言い分に、レミリアは少なからず興味を抱き、観察するように神峰を見つめる。

720: 2015/07/07(火) 00:05:56.68 ID:CeKYWcSAO
神峰「あの……?」

レミリア「……なるほど。お前はそこの賢者に、運命を狂わされた人間というワケね」

神峰「え!?」

紫「あら」

レミリア「だってそうでしょう? 忘れ去られたワケでもないのにこの幻想郷に居るって事は、スキマ妖怪の力で外の世界との繋がりを断ち切られたも同然じゃない」

レミリア「つまりお前は、本来外の世界で辿る筈だった運命から脱線したのよ。そこの賢者サマの目に留まったせいでね」

紫「……」

 レミリアはそう言って紫へ視線を向けるが、言われた本人は扇子を広げて口元を隠してどこ吹く風といった体だ。

 神峰の「目」でも何を考えているのか分からない。
 何時ぞ見たスキマ空間のようにギョロギョロとした目が付いたハートなのか、ハート型に空いたスキマ空間へ繋がる穴なのか、図と地の区別がつかず、遠くを見ているのか近くを見ているのか、遠近感さえ狂いそうな心をしているのである。

 ───しかし紫が何を考えていようと、神峰は気にしていなかった。

721: 2015/07/07(火) 00:06:31.76 ID:NxPH6SDoO
神峰「例え紫さんにどんな思惑があろうと、オレは出来る限りココで生きて行くつもりです……!」

神峰「幻想郷は……ここのヒト達には、世の中には絶望ばかりじゃねェって、希望もあるんだって教えて貰いました」

神峰「オレはそんな幻想郷(世界)を、もっと見ていきたいス……!」

神峰「だから紫さん! オレで良ければ、あんたの楽団に……入れてはくれませんか?」

紫「……ええ。歓迎するわ。きっと皆も喜ぶわ」

妹紅「こっち見んなよ!」

 この時神峰は頭を下げていたので見えていなかったのだが、神峰の話を聞いて扇子の下で綻んでいた紫の笑顔が、神峰の返事を聞いた途端にパカンと効果音が出そうな笑顔となり、扇子では隠しきれなくなっていた。無論、その視線は妹紅へと向いている。
 そんな神峰を見て、レミリアは興が殺がれたといった態度でこぼす。

722: 2015/07/07(火) 00:07:06.10 ID:NxPH6SDoO
レミリア「……そう。ならもういいわ。どうせ元の世界に戻っても、元の生活に戻れる事はないしね。私はレミリア・スカーレットよ。血液の提供、また頼むわ、神峰翔太」

神峰「あ、はい……よろしくお願いします……って!? 元の生活に戻れないって何スか!? つか、また献血するんスか!?」

レミリア「いきなり大声を出さないで頂戴。私の運命を操る程度の能力は、人間が私と出会った時点で効果があるの」

レミリア「私と出会った者は数奇な運命を辿る。そういう能力、そういうルール……。だから安心して外の世界の未練を捨てるといいわ」

神峰「もう十分数奇な運命なんスけど……」

レミリア「良かったじゃない。きっと貴方の人生、波乱万丈よ。退屈しないわ」

神峰「嬉しくねェ!!」

紫「彼女の言う事も間違いでは無いかもね」

紫「今、この場に、幻想郷の各勢力の有力者達が揃い貴方の事を知ったわ。それまで見向きもしなかった連中が貴方に注目するかも知れない……」

紫「神峰翔太さん。幻想郷が、貴方に気付いたわよ」

レミリア「……幻想郷に来なくても、貴方の運命は激変してたみたいだけどね……今や何もかも手遅れか」

神峰「え?」

723: 2015/07/07(火) 00:07:42.69 ID:NxPH6SDoO
 神峰とのやり取りの最後にポツリと呟かれたレミリアの言葉は、鳥獣伎楽のフィナーレを飾る音に掻き消されてしまう。

 鈴仙など一部のファンを除き、過剰なパフォーマンスをされた観衆はシンと静まり、あまりウケが良くなかった事を理解した響子とミスティアは静かに口を開く。

響子「ど……どうやら時代を先取りしすぎたみたいね……」

ミスティア「ま、まぁ……今はただの騒音に聞こえるかも知れないけど……、あんた達のひ孫にはウケる」

 そしてそんな捨て台詞を吐いてその場を去るのだった。



神子「……それで、私への返事は如何に?」

 ライブも一段落ついて宴もたけなわとなる。
 神峰の周りに集まった人妖達は未だ解散する気配を見せず、神子とのやり取りを見て、むしろ神峰に対して興味を抱き始めていた。

神峰「あの……それにつきましては考える時間を頂きたく……」

神峰(なんでこの人達の視線がオレに集まるんだよ……。スゲェ居辛ェ……。逃げたい……早く解放してくれ……)

神子「ふむ……。確かに急かし過ぎたかな? それでは返事は今度聞くとしましょう」

724: 2015/07/07(火) 00:08:43.19 ID:NxPH6SDoO

 自身に向けられる好奇心や視線を受け、生まれたての仔鹿のようにカタカタと震える神峰は、なんとか声を振り絞り、内心では天に祈る気持ちで神子に対応する。

 果たしてその祈りが通じたのか、神子は一先ず引き下がる様子を見せる。

「吸血鬼、亡霊の令嬢、月の民、鬼、山の神、封印された魔法使い、聖徳王、小人族の姫君、オマケに妖怪の賢者まで……異変の首謀者達が勢揃いで一人の人間に詰め寄る事態、見過ごす訳にはいきませんね」

レミリア「あ、それ私がもう言ったわ」

 ───しかし天まで届いた祈りは、オマケ(余計なモノ)まで連れて来たようだ。

 レミリアのツッコミは聞かなかった事にして、何故かドヤ顔で続ける。

「さあ、この場は私が引き受けてあげるから、少年は私に感謝しながら避難していなさい」

紫「ついさっき収まった話を混ぜっ返すなんて……。そしてまるで私達が悪人のような言い草ね。……博麗大結果の崩壊を引き起こそうとした不良天人さん?」

「あら、謝ったのだから許してくれたのではなかったのですか? 貴女の方こそ過去の話を掘り返してるじゃないの」

紫「……人間の前で格好つけているのか知らないけど……敬語、崩れてるわよ?」

「……いくら地上の人間の前とはいえ、貴女に敬語を使うのは癪だったんだもの」

725: 2015/07/07(火) 00:09:13.47 ID:NxPH6SDoO
 天人の少女と紫の間の空気にピシッと亀裂が入った───気がした。
 先ほどドヤ顔で任せろと言っておきながら、むしろ事態は悪化しているように思われ、神峰は笑顔で睨み合う二人を交互に見てオロオロハラハラする。
 こういう時こそ巫女の出番ではないかと思いながら霊夢を振り返るが、本人は萃香に絡まれながらボケッと桜を眺めて酒を口にしている。

神峰(あわわわわ……! どうしたらイイんだこの空気……!?)

 天に祈っても助けはいなかった。

 ───が、別の場所にはいたようだ。





「まったく……貴女達は何をやっているんですか……。というか翔太さん、貴方は一体どうしたらそんな人脈を築けるんですか?」





神峰「……え?」

726: 2015/07/07(火) 00:09:54.78 ID:NxPH6SDoO
神峰「なんで……あんたがここにいるんだ……?」

 とても聞き覚えのある懐かしい声。その声に馴染みのある呼ばれ方をされて思わず反応する神峰。

さとり「それはこっちのセリフでもありますけど……とりあえず、お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」

神峰「さとり!!!」

妹紅「さとり!? こいつが!?」

 神峰の声に反応して妹紅もガバッと振り返る。その目には僅かな戦慄があった。

さとり「……私は伊吹萃香さんに招かれたので今しがた参加したのですが、翔太さんは?」

妹紅(『翔太』さん!?)

神峰「オレは萃香さんに連れて来られて……」

さとり「……ああ、分かりました。災難でしたね」

 神峰が思い浮かべた拉致現場を読み取り、同情気味に返すさとりは、近くで動揺する妹紅の様子と心を読んで、頭痛がするかのように頭を抱えこんだ。

727: 2015/07/07(火) 00:10:31.95 ID:NxPH6SDoO
さとり(ああ……なんということ……。まさか危惧していた事がこんなに早く訪れるなんて……。どうしてそんなタイミングで翔太さんの前に出て来ちゃったのよ私……!)

 そんなさとりの心を「見」て少し心配そうに声をかける神峰。

神峰「何を悩んでんだ……?」

さとり(私を悩ませているのは貴方でしょう……!)

神峰「ひっ……!? なんかスマン……」

妹紅(なにこれ……。まるで通じ合ってるみたいじゃない……)

 その神峰の態度にムッと来て内心で睨み付けるさとり。
 心が見えるために睨み付けられたことが分かり、謝る神峰。
 そして、そんな二人の会話が少ないのに分かり合っているような独特のコミュニケーション───心を読む能力と心を見る能力のため、こういう事はままある───を目の当たりにしてショックを受ける妹紅。

 三者三様のリアクションを見せる中、さとりが申し訳なさそうに口を開いた───妹紅に対して。

さとり「えと……貴女は……モコウさん。そう、妹紅さんというのね」

妹紅「わ、私!?」

728: 2015/07/07(火) 00:11:05.62 ID:NxPH6SDoO
さとり「貴女には謝っておかなければいけない事があります」

神峰「え?」

妹紅(な、なに!? もしかして神峰はさとりの恋人だから私の気持ちは報われないとか……!? そう言えばさとりと会った神峰の顔、スゴく嬉しそうだったし───)

さとり「いえ、そういうのではなくてですね……。私が責任を感じて一方的に謝るだけなので貴女は戸惑うだけかも知れませんが……」

「私と翔太さんは将来を誓い合った仲なの。申し訳無いけど彼の事は諦めて下さい」

神峰「!?」

妹紅「」

 聞いた瞬間、妹紅の頭に石どころか金閣寺の一枚天井が落ちてきたようなショックが襲った。
 それを聞き付けた有力者達も、すわ三角関係か! とニヤニヤしながら三人の様子を窺う。

さとり「お燐……貴女、面倒な事をしてくれたわね……」

神峰「またお燐の声真似かよ!? 今のはマジでビビったぞ!?」

燐「お兄さんに着く悪い虫はちゃんと払っておかないとダメだと思いまして……」

729: 2015/07/07(火) 00:11:42.93 ID:NxPH6SDoO
さとり「……そう。愉快犯というワケね。まだまだ躾が足りなかったみたいね」

燐「さとり様の幸せのためなら甘んじて受けます!」

さとり「貴女、逞しくなったわね……。では皆さん、この子でご自由に遊んで構いませんので」

「あら、本当に良いの?」

燐「あっ、待って下さい。それは本当に洒落になりませんからごめんなさい許して───」

 揺るぎの無い燐に呆れながら、幻想郷の有力者達に燐を引き渡すさとり。
 燐を受け取ったのは先ほどまで紫と睨み合っていた天人で、さとりが最も燐で遊んでくれそうだと判断した人物であった。───今更ながら、名を比那名居天子という───

さとり「安心なさい、お燐。今日ここで作られるトラウマは、今後も貴女の役に立ててあげるから」

 燐の悲鳴を背中で受け止めながら、さとりは再び妹紅に向き直る。

さとり「話が逸れてしまいましたね。翔太さんは自己評価の低さから自身に向けられる好意に疎いため、これから苦労すると思います。申し訳ありません。私が彼を地上へ上げる前になんとかするのを忘れていたせいで……」

730: 2015/07/07(火) 00:12:11.40 ID:NxPH6SDoO
さとり「……って、あら?」

妹紅「」

 野次馬達の心に埋れていたので気にしてなかったのだが、妹紅の心を読めていない事に気付いたさとりは、彼女をしげしげと見つめ……

さとり「……立ったまま気絶してる……」

 輝夜の吹き出す声が聞こえた。

さとり「……やはり、心に関わっても碌な事になりませんね」

神峰「以前のオレみたいな事言ってるぞ!?」

 ため息を吐きながらしれっと神峰の努力を否定するようなセリフをこぼす。

紫「まあまあ、二人共久しぶりに会って積もる話でもあるんじゃないかしら? 彼女達(妹紅と燐)は私達に任せて、折角だしお祭りを回ってきたらどう?」

さとり「今の状況を楽しんでる貴女に言う通りにするのは癪ですが、いい加減鬱陶しいのでそうさせてもらいます。では」

神峰「えっ? あっ、えっと……妹紅さんの事、よろしくお願いします!」

 言うや否や踵を返してずんずんと歩いて行くさとりを慌てて追う神峰。
 紫達は、後ろで待たせていた空と合流して姿が見えなくなるまで神峰達を見送った。



紫「───もちろん、監視させてもらうのだけどね<●><●>」



……………

……

731: 2015/07/07(火) 00:12:49.94 ID:NxPH6SDoO



さとり「まさか翔太さんまでここに来てるなんて思いませんでしたよ」

神峰「オレだってまさかこんなに早くさとりと会うなんて思わんかった」

さとり「あんな約束をした手前、正直に言うとちょっと気まずいんですが……」

神峰「同じく……」

 お互いに格好悪さと恥ずかしさで顔を赤くさせていると、横から空が明るくストレートな意見を言うのであった。

空「えー? 私は久しぶりに翔太に会えて嬉しいですよ? さとり様も喜びましょうよー!」

さとり「あのね、お空。私だって嬉しいのは嬉しいのよ? だけどあんな別れ方をしておいて、こんなにあっさり会ってしまうと気恥ずかしさが……」

空「約束なんてしてましたっけ? あれ? そういえばどうして翔太は地霊殿から出て行ったんだっけ?」

さとり「この……鳥頭……」

神峰(オレの事は忘れてねェみてェで良かった……)

732: 2015/07/07(火) 00:13:23.25 ID:NxPH6SDoO

 空のペースで会話をしていると要らぬ傷まで負ってしまいそうだったので、神峰は気恥ずかしさを紛らわせようと、話題の変更を試みる。

神峰「そ、そういえば! こいしはどうなってんだ? こっちでもたまに会うけど、何か掴めてるか?」

さとり「こいしですか……。しばらく地霊殿には帰って来てませんね。たまに帰って来たと思ったら訳の分からない計算をさせられたり、あの子の行動は掴みどころも一貫性もありませんから」

さとり「───って、あの計算のせいで翔太さん困窮してるんですか!? あああ、すみませんすみません! 今度何かお詫びを……!」

神峰「まさかのやぶ蛇かよ!!!」

空「ねーねー、さとり様、翔太! これ何ー!?」

神峰「自由か!」

 何時の間にやら空が神峰達を手招きしているそこは、金魚掬いの出店のようで、ご丁寧に暖簾に「金魚すくい」と書いてあった。

にとり「お? やってくかい、盟友?」

神峰「金魚掬いかァ……どうする?」

733: 2015/07/07(火) 00:13:49.45 ID:NxPH6SDoO
さとり「金魚掬い……。確かこいしが十年くらい前に持って来た金魚がまだ健在なんですよね、ウチ」

神峰「あの金魚デケェと思ったらそんなに生きてんの!? っていうかそんなに生きるの!?」

さとり「まあ、何も不正がなければやっても良いでしょう。不正が無ければ……ね」

にとり「うげ……! さとりがなんで……?」

さとり「お祭りですからね。……どうやらこれには細工は無いみたいですね。いいでしょう、一回お願いします」

にとり「……毎度あり」

空「さとり様ガンバレー!」

 ちょこんと水槽の前に座り、泳ぐ金魚をジッと見つめるさとり。その様子に緊張感は無く、まるで子供が無邪気に金魚を眺めているようだった。

 しかしその様子を見て侮ってはいけない。何故なら相手はあのさとりなのだ。そう言いたげに、にとりの顔に緊張が走り、冷や汗まで流している。

 そして、にとりから流れた汗が地面に落ちると同時に、さとりが動いた。

734: 2015/07/07(火) 00:14:48.52 ID:NxPH6SDoO
さとり「えい」

空「おお!?」

 すいっと、水の抵抗を受ける事無く、無駄に水に濡らす事無く、お手本の様に一匹の金魚を掬い上げて空が歓声をもらす。

さとり「このように、この紙を破らないように金魚を掬い上げるのが金魚掬いというゲームよ。お空もやってみる?」

空「いいんですか!? 面白そう!」

さとり「それではにとりさん、もう一人追加で」

にとり「ぐ……毎度あり……」



 ───それからは凄まじかった───



 

735: 2015/07/07(火) 00:15:19.73 ID:NxPH6SDoO


神峰「上手っ! さとり金魚掬い上手っ!!」

さとり「そう、もっと浮かんで。ジッとしてて……。良い子ね」

空「さとり様みたいに出来ないんですけど~……もう一回!」

にとり「もういい加減にしてくれ! 商売上がったりだ!」

 泣きそうな顔で懇願するにとり。
 素早く掬おうとして水の抵抗を受け、すぐに紙を破る空。
 そして、金魚と会話しながら次々と器へ掬っていくさとり。

 金 魚 と 会 話 し な が ら 。

 そう、金魚の心を読んでこのゲームに挑んでいるのだ(そもそもオンオフの切り替えが出来る能力ではないが)
 イカサマ? バレなきゃイカサマではありません。私は直ぐに分かりますけど。とはさとり談である。

736: 2015/07/07(火) 00:15:59.35 ID:NxPH6SDoO
 やがて、にとりにとって悪夢のような時間も終わりを迎えた。

さとり「あら、破れちゃったわね。……まあ、お空が失敗した分の元は取れているでしょう」

さとり「私一人だったら大損失なんですからそんなに落ち込まないで下さいよ。まるで私が悪者みたいじゃないですか」

にとり「十分悪いだろ!? 能力なんて使って非道過ぎる!!」

さとり「相手が私でなければ、イカサマしてボロ儲けしようと考えていた貴女に言われたくありませんね」

にとり「ぎくっ……」

さとり「まあ、金魚はまだ残っているので……もう一回───」

 その言葉を聞いて、にとりの顔がサーっと蒼くなる。

さとり「───なんて、嘘ですよ。頑張って黒字を出して下さいね。さ、行きましょう」

にとり「うう……あんまりだァ……」

 大漁に獲れた金魚を何とか手に持ちその場を離れようとするさとり達だが、あまりにもにとりが可哀想に感じた神峰が助け舟を出そうとする。

737: 2015/07/07(火) 00:16:50.00 ID:NxPH6SDoO
神峰「なあ、本当にこんなに沢山飼うのか? こんなに獲ったら持って帰るのも大変だし、少しくらい返してやってもイイんじゃねェか?」

にとり「盟友……っ!」

 その提案に、にとりも項垂れていた顔を上げて瞳に希望を宿す……が───

さとり「返すわけ、ないでしょう」

にとり「……え?」

神峰(あれ!?)

さとり「この子達は地霊殿で世話をしますよ。そういう話も通ってますし……」

 手に提げている金魚を目の高さまで持ち上げて微笑み、続ける。

さとり「それに、偶然とはいえ久しぶりに翔太さんと会えて、しかもお祭りも回れた思い出になりますからね」

神峰「う……」

 そういう言い方をされると、にとりには申し訳ないが神峰も引き下がらざるおえず、渋々了解するのであった。

さとり「……ん?」

さとり(アレ……、今のセリフ……聞く人によっては凄く誤解を招きそうな……。そう、特に妹紅さんとか、紫さん達に聞かれたら非常に面倒な事になりそうな……)

神峰「どうかしたか?」

さとり「い、いえ……。それより、翔太さんは何かやりたい事はないのですか?」

神峰「オレ? そうだな……」

 言ってから気付く。紫がどこかで盗み見ている可能性も考慮していたはずなのに、自分の迂闊さを悔やむさとり。
 問題はあの連中の何人が見ているか、だ。
 燐は兎も角、妹紅にはまだ気絶していてもらわなくては困る。

 さとりは一人、密かに祈る気持ちでその場を後にした───。

738: 2015/07/07(火) 00:17:21.76 ID:NxPH6SDoO
……………

……



さとり「翔太さんって射的が得意なんですね」

神峰「ああ。前まではオレの唯一の取り柄ってカンジだったな」

空「じゃあじゃあ、射的が得意ならアレやってみようよ!」

神峰「アレ……?」

 祭りの出店で何が上手いかという話で神峰が答えていると、空が爛々と目を輝かせてとあるコーナーを指差した。
 そこへ目を向けると、"弾幕ごっこ 10人抜きで豪華景品"と書かれた看板があった。

神峰「イヤイヤイヤイヤ!! オレ飛べないから! 弾幕撃てないから!」

空「じゃあ私が飛ぶし弾幕撃つから、背中に乗って指示出してよ!」

さとり「翔太さん蒸発しないかしら?」

神峰「怖ッ!! っていうか動く的と動かない的じゃ全然違ェからな!?」

739: 2015/07/07(火) 00:17:54.70 ID:NxPH6SDoO
さとり「何も一発の弾をピンポイントで当てる訳ではありませんよ? 過去に間近で見てるなら知っていますよね?」

神峰「まあ……そりゃ……」

さとり「要はやり方次第です。弾幕をばら撒いて動きを制限し、追い詰める。どうです? 貴方なら今戦っている彼女達に、どうやって弾幕を当てますか?」

神峰「……」

 さとりに誘導されるように弾幕勝負に釘付けとなり押し黙る神峰。

 結局、決着するまで観続ける事となった。

チルノ「くっそ~~~……!」

射命丸「強ーーーーーい!! 9人抜き!! 弾幕ごっこで彼女に勝てる者はいるのでしょうか!? いや、いない!!」

740: 2015/07/07(火) 00:18:49.52 ID:NxPH6SDoO
さとり「では、行きましょうか」

神峰「は?」

さとり「私が翔太さんの心を読んで動きます。貴方のイメージする軌道、弾幕で。どの道、この子達を持つのに二人も抜けたら持ちきれませんからね」

 手に提げていた金魚達を神峰と空に預けながら、やる気十分なさとり。

神峰「マジでやるの!?」

さとり「ただのお祭りですから、記念にやるのも良いでしょう? 気軽にやればいいんですよ」

 神峰が決めあぐねていると、その様子が目に入った勝者の方から声をかけて来た。

魔理沙「なんだ、お前が地上にいるなんて珍しいな。次の相手はさとりか? 次で10人目なんだから呆気なく終わられたら困るぜ?」

さとり「ご心配無く。既に対策は立てておりますので」

魔理沙「引きこもってるヤツが、大した自信じゃないか」

さとり「戦いが苦手なのは変わりませんが、今回はとっておきですからね」

魔理沙「そいつは楽しみだ」

神峰(メチャクチャハードル上がってんだけど……)

射命丸「おおーーーっと!? どうやら10人目の挑戦者が現れたようです! 相手はなんと覚!! 痛くもない腹を探られるので私は苦手です! 」

射命丸「それでは、始め!」

 戦いが始まると同時に仕掛けたのは、さとりだった。

さとり「それではいきますよ……」





複写『神峰翔太の弾幕』




 

741: 2015/07/07(火) 00:19:21.77 ID:NxPH6SDoO
─────

──

射命丸「勝ったァーーー!? 新チャンピオンの誕生です!! 一体誰の弾幕だったのでしょうか!? 見た事がありません! オリジナルのスペルですか!?」

 さとりの勝利に一番困惑しているのは神峰である。まさか勝てるとは思わず、茫然とし、隣では空がはしゃいでいる。

魔理沙「まさか全て初見のスペルで来るとはな……参った参った!」

さとり「今日限りのとっておきでしたからね。それでは」

魔理沙「おいおい待てよ。どこ行くんだ?」

さとり「どこって……人を待たせていますから……」

魔理沙「何言ってんだ、新チャンピオン。どっか行くなら次の挑戦者に負けるか、あと9人倒して行けよ」

さとり「……え?」


……………

……

742: 2015/07/07(火) 00:20:03.27 ID:NxPH6SDoO
さとり「えらい目に遭いました……まさか勝つとは……」

神峰「オレも勝てるとは思わんかった……」

空「すごかったよ翔太! 私楽しかった!」

神峰「お空の弾幕はスケールデカ過ぎてビビった……」

さとり「あれは初見だと面食らいますからね。まず反応が遅れて硬直します」

神峰「でも、楽しかった。満喫した!」

 どこかスッキリした笑顔で二カッと笑った。
 そしてまた、桜舞う中で口を開く。

神峰「あのさ、俺……桜、嫌いだったんだ」

さとり「……」

 もちろんそれは、さとりもこの日神峰に会った時に分かっていた事で、これから言おうとしている事も分かるのだが、さとりはそれでも神峰の次の言葉を黙って待つ。


743: 2015/07/07(火) 00:21:02.36 ID:NxPH6SDoO

神峰「桜が咲く春は新しい出発、新しい出会いの季節だろ? オレはそれを無理強いされてるとしか思えなかった」

神峰「オレにとって新しい出会いなんて、見たくもねェ嫌なモンが増えるだけだったからな」

神峰「幻想郷での新しい出会いも不安だらけだけど……、今はさとりのおかげで道も見えて来たし、オレの事をよくしてくれる人達も出来た」







神峰「今年の桜は……」



神峰「スゲェいい」





fin.

744: 2015/07/07(火) 00:23:25.50 ID:NxPH6SDoO
これにて本編は終了ッス
でもオマケがあるからもう少しだけ続くんじゃ

>>700
予想はよそう……(震え声)

745: 2015/07/07(火) 00:31:51.33 ID:Y9rJVqwto
乙ッス
もこたんもさとりもかわいい

746: 2015/07/07(火) 01:02:12.12 ID:8NosWQIQ0
乙乙

短編でもいいから続いてほしいって思うほど楽しめたッス

754: 2015/07/12(日) 23:34:40.27 ID:6ntvrRBCO
神峰「オレ……桜、嫌いだったんだ」

幽香「あら? 聞き捨てならない事が聞こえたわね……? 桜が嫌いとかどうとか……」

幽香「貴方それ、真摯に言っているのよねぇ……?」


本来はこうして御器谷先輩を嗾ける奏馬先輩の如く弾幕ごっこの流れに行く予定だったけど、綺麗に締められないのでカット。

ではオマケをどうぞ

755: 2015/07/12(日) 23:35:14.78 ID:6ntvrRBCO
萃香「おーい、さとりィ~!」

神峰「お?」

さとり「え?」

空「う?」

萃香「勇儀の言った通りだ! 本当に来たんだね」

勇儀「私が嘘を吐くワケないだろ? 」

萃香「そりゃ分かってるけど、さとりが地霊殿から出たなんて話は疑っちまうよ、普通」

神峰「勇儀さんも来てたんスか!」

勇儀「久しぶりだね、翔太」

勇儀「むしろさとりにまで誘いが来るって事は、地底の連中の殆どに声がかかってる事が多いね」

さとり「その誘いすら、以前までは全く来てませんでしたけどね」

萃香「そんな事はどうでも良いよ。とにかく今はアンタと酒が呑める! それだけで十分だ!」

756: 2015/07/12(日) 23:36:00.27 ID:6ntvrRBCO
さとり「あ……その、人も多いですし、お酒は遠慮しておきたいのですけど……」タジ...

萃香「酒癖が悪い事は勇儀から聞いた! だがそれも見てみたい!」

神峰(オレもちょっと見てみてェ)

さとり「翔太さんまで何を言うんですか!?」ジロッ

神峰「言ってねェけど!?」

勇儀「非力なお前さんが萃香に抵抗するだけ無駄だよ。諦めて醜態晒してきな」

さとり「止めるという選択は無いんですか……? こんな大勢の前で酔っ払ったら私、また引き篭もりますよ!?」

勇儀「なんで酔う前から面倒くさい事言ってんだよ。萃香が飲みたいって言ってんだから、止めるのは野暮ってモンだろ? よっこらせ」

757: 2015/07/12(日) 23:36:45.72 ID:6ntvrRBCO
さとり「待って下さい。何処に行くつもりですか? いえ、みなまで言う必要はありません。面倒事を萃香さんと翔太さんに全て押し付ける気ですね!?」ビシッ

勇儀「チッ、本当に厄介な能力だよ。……たまには翔太みたいに、自分だけの力で乗り切ってみたらどうだい?」

勇儀「翔太は初めて私とサシで飲んだ時、そんなにゴネなかったしすぐに心を決めたよ?」

さとり「そ、それは知っていますが……」

さとり(勇儀さんの言う事も一理ある……。地底では私の醜態もすぐに拡まって、お酒の席では面倒だからと、皆さん私に飲酒を控えさせてましたし……)

さとり(何より、私だけ一方的に知られるというのが、他者との溝を大きくしているのかも……。そう考えると、私の醜態を見せてようやくイーブン……?)

神峰(これはもしかして駄目な方に考えてんじゃねェか……?)

さとり(黙ってて下さい)

さとり「いいでしょう……」

萃香「おっ!」

さとり「そんなに言うのなら、飲んであげましょう……。ただし、後悔しても知りませんよ?」

萃香「良くぞ言った! 本当に別人の様に変わったね! これも勇儀の言った通りだ!」

勇儀「だから嘘は吐かないって。私は懐かしいヤツらの所に行くから、後の事(面倒事)はよろしく」

萃香「おう、行ってら~」

さとり(勇儀さんが居なくなると途端に不安になるんですけど……)

神峰「大丈夫だよな……これ?」


─────

──

758: 2015/07/12(日) 23:38:06.80 ID:6ntvrRBCO


パルスィ「皆さんお久しぶり。翔太が鬼達と呑んでいる間は、私達の出番よ」

ぬえ「また集まったよこの面子……。というかアンタもよく来たね、前回あんな事になったのに」

アリス「……べ、別にいいでしょ? 人が多過ぎるから落ち着きたかっただけだし……」

パルスィ「早速ぼっち力全開かしら? それはそうと今回は、前回裏方だった念写協力の姫海棠はたてさんが出て来てくれたわよ」パチパチ

はたて「え? なんで私ここに座ってんの? 裏方でいいんじゃなかったの!? ヤメテよこいつらと同類みたいじゃない!」

アリス「まごうことなき引き篭もりが何言ってるの?」

ぬえ「アンタレベルの同類なんてさとりくらいしかいないって」

パルスィ「歓迎されてるみたいで何よりね。それじゃ早速、私が個人的に気になっている小ネタ、藤原妹紅の変化を見てみましょう」

はたて「どう見ても歓迎されてる様には見えないわよね? もうヤダ……お家帰りたい」


~~~~~

~~

759: 2015/07/12(日) 23:39:04.44 ID:6ntvrRBCO
慧音「───なんだ、そうだったのか……。こちらの早とちりで、す……すまなかったな」

神峰「いえ、誤解が解けたみてェで良かったス。それじゃ、失礼します!」

慧音「気を付けて帰れよ!」

妹紅「……慧音ってば妄想逞し過ぎじゃない? ちょっとビックリしたわ……」

慧音「う……すまん……忘れてくれ……」カァァ

妹紅(それにしても、思い返してみれば、神峰……ずっと味方でいてくれるって約束してくれたのよね……)

妹紅(その上、偽物だったけど蓬莱の薬も迷う事なく飲んで……。アレ? これって私の為に永遠に生きても良いって事……!?)ハッ

慧音「?」

妹紅(いやいやいや! その解釈はおかしいわよね!? だったら自分の目に苦しんできたのに、不老不氏になっても良いってどういう事!? え!? そういう事!?)カアァ

慧音「おい、妹紅……?」

妹紅(ヤバい、なんか顔が熱くなってきた! 落ち着くのよ私! そう、神峰には覚が居るじゃない! 覚のおかげで頑張れたって言ってたし、きっと特別な感情だって持ってるはず……!)

760: 2015/07/12(日) 23:39:57.09 ID:6ntvrRBCO
妹紅(あ、思い出したらちょっと凹んで来た……。───って何で!? 何で私が凹むの!? もしかして私が神峰の事好きなの!? わかんない! これは慧音に聞こう!)チラッ

慧音「どうした……?」

妹紅「ねえ慧音……。神峰だってずっと若い人の方が嬉しいわよね!!?」

慧音「本当にどうした!!?」

妹紅(あああああああ違う違う!! そういう事を訊きたいんじゃなくて!!)

妹紅「ゴメンゴメン……ちょっと混乱してたみたい。訊きたいのはそういう事じゃなかったわ」

慧音「そ……そうだよな? なんだ、驚かさないでくれ───」ホッ

妹紅「私って神峰の事好きなのかな!?」

慧音「」ビシッ

慧音「妹紅……私が変な勘違いをしてしまったのは謝る……。だから、混乱してるのなら早く目を覚ましてくれ」

妹紅「あ? ……そ、そうね。ごめん。慧音が分かる事じゃなかったわね」

妹紅「ふぅ~~……、うん、落ち着いた」

慧音「ホッ」

妹紅「私、神峰の事を好きになったみたい」

慧音「神峰ェェエエエエエエエ!!!」ドドドドドド

妹紅「何処行くの!? 待ってよ慧音!!」

761: 2015/07/12(日) 23:40:40.06 ID:6ntvrRBCO
……………

……

【妹紅の家】

慧音「まさか妹紅が神峰を……」

妹紅「やっぱり1300歳も歳上だとキツいと思う?」

慧音「改めて聞くと凄い年の差だな……」

慧音「しかしそれ以前に、神峰には気になる相手(アリス)がいるから厳しいんじゃないだろうか?」

妹紅「う……それ(さとりの事)は覚悟の上よ……!」

慧音「妹紅には申し訳ないんだが、実は良かれと思って彼女(アリス)を紹介したんだ……」

妹紅「え!? じゃあ慧音が神峰を地底に送ったの!? 正気の沙汰じゃないわよ!?」

慧音「んん……? 私がそんな事するはず無いだろ? というか神峰と会ったのはあいつが地底から出てきた時だし」

妹紅「は? じゃあその後に(さとりを)紹介したの……? 慧音ってもしかして鈍感なの?」

762: 2015/07/12(日) 23:41:16.00 ID:6ntvrRBCO
慧音「心外だな。これでも私が初対面の二人を引き合わせてやったんだぞ? ……って今になっては妹紅の首を締めているんだが……」

妹紅「え!? あの二人って地底に居た時に知り合ったんじゃないの!? 神峰は知ってる風だったわよ!? あいつ(さとり)のおかげで立ち直れたとか言ってたわよ!?」

慧音「それは初耳だ。……まあ、慣れない人里で独り身だったし、彼女(アリス)が仕事をするのに必要な癒しになったのかもな」

妹紅「いや、仕事の癒しとかじゃなくて、もっと自分の生き方に関わるレベルで支えになってると思うんだけど!?」

慧音「そんなにか!? お前そんな強敵に勝てるのか!?」

妹紅「う……何か自信無くなってきた……」

妹紅「そうよね……。神峰が私にしてくれた事を、相手(さとり)は神峰にしてるのよね……」

妹紅「いやいや! でもこれからは私にチャンスがある! 相手(さとり)は神峰の前にはしばらく出てこないっぽいし!」

慧音「そうか? (アリスは)割と頻繁に人里に来てるぞ?」

妹紅「ええええ!?」


……………

……

763: 2015/07/12(日) 23:42:06.89 ID:6ntvrRBCO

【人里】


妹紅「良く考えたら、一番の問題は神峰が心を見る事が出来る事じゃない……」

妹紅「どう見えてるか知らないけど、隠しても意味が無いなら、ストレートに行くしか───」

神峰「あ、妹紅さん! こんにちはス!」

妹紅(出たァァァアアア!?)

神峰「ヒッ!? なんスか!? オレ何かしちゃいましたか!?」ビクッ

妹紅(あああああダメだダメだ!早く落ち着け! 隠しても意味が無いんだ! 真っ直ぐ伝えるのよ!)

妹紅「あ、あのね神峰……!」

神峰「だ、大丈夫スか……? なんかスゲェ慌ててるみてェスけど、 急ぎの用事でもありましたか?」

神峰「あ……だったらオレに構ってる暇なんて無ェスよね!? すみません!」

妹紅「……え?」

妹紅(ナニコレ……? なんか、そう、私のやる気が空回ってるような手応え……)

妹紅(もしかして神峰って……、鈍感……!?)


おわり

764: 2015/07/12(日) 23:42:54.95 ID:6ntvrRBCO
~~~~~

~~

パルスィ「そうそう、これよ! こういう妬ましくて幸せそうなのを見たかったのよ!」ギリギリ

はたて「全く待ち望んでいたように見えないわよ?」

アリス「あー……あの時の慧音ってそういう事企んでいたのね……」

ぬえ「で? あんた自身は神峰の事、どう思ってんの?」

アリス「どうって……初めて会った時以来全く会ってないし、その他大勢の村人と同じよ?」

パルスィ「何でメインヒロインのさとりとの絡みがある地底編でラブコメ展開が無くてこんな終盤であるのかしら? おかしいんじゃないの?」

はたて「それについては補足が来てるわね」カチカチ

はたて「何々? 地底編では神峰とラブコメるのは邑楽先輩のみという、謎の原理主義が発動して誰とも恋愛させる気が無かった……ですって。邑楽先輩って誰!?」

ぬえ「あっち側の人かー……」

パルスィ「次行きましょう、次」

769: 2015/07/13(月) 22:46:46.33 ID:co7sH70HO
神峰「阿求さんて歳上だったんスか!?」←'97年生まれ

阿求「知りませんでしたっけ?」←'94年生まれ

神峰「見えねェ!」



最終回に入れようとしたけどカットしたネタからいきやす
リアルタイムで書いてくので遅筆

770: 2015/07/13(月) 23:04:03.93 ID:co7sH70HO
~演奏が終わって・鳥獣伎楽~


聖「捕まえたわよ、響子」

響子「うう……」

ミスティア「どうして私まで……」

聖「別に今回の事で何かを咎めるつもりは無いわ。ただ、以前注意して以来、人の迷惑になる場所、時間にライブはやっていないか確認したくて」

響子「そ、そんなのもちろん……!」

神峰(あ、心が目ェ逸らした……)

聖「本当に?」

響子「もも……もちろん……」

聖「神峰さん?」

神峰「ハイィ!?」ドッキーーー!!

聖「響子は本当の事を言ってるのかしら?」

響子「神峰……!!」

神峰(オレが正直にノーって答えたら響子はどうなるんだ……? でも聖さん相手だと嘘なんて吐けねェよ……)

神峰「……いえ、本当の事じゃ……ねェ、みたいス……」

響子「うわあああ!!」

聖「……そう。あれだけ注意したのに、守れなかったのね」

聖「南無三!!」

    /l 「  ̄ |    /l   「 | ‐l
  /l l  | |  |_,   | | / | | | | |  |ヽ
 / | | |  |  レ |  | | |  | レ  V  | \
 |  | | |/|  l/  | |  |  |      \ \
 |  レ| |  |/    | /   |  |       \ \
  |  | //     レ    |/         \ | /ヽ
  |  /レ                        ヾ/ /
  | |          _, ,_              / /
  | |       ( ‘д‘)           〈 /
   | |        ⊂彡☆))Д´)         V
   | |
   | /
   レ



神峰ミスティア「「響子ーーー!?」」

771: 2015/07/13(月) 23:20:52.40 ID:co7sH70HO
~~~~~

~~



早苗「わぁ……かわいそう……」

ぬえ「聖って基本的にこんな感じだよね。身内には割と厳しい」

パルスィ「ガンガン行く僧侶は伊達ではなかったというワケね……」

ぬえ「居候だった神峰にもヤバい修行をつけさせた事あるから、こんなの序の口だよ」

はたて「いや、まずはそこの巫女にツッコミなさいよ!?」ビシッ

アリス「何でここにいるの!?」

早苗「何でって……、本編最終回の始めで存在を仄めかされたのに、全く出番が無かったからですよ!!」

早苗「霊夢さんや魔翌理沙さんは兎も角、自機が決定した声の出演の鈴仙さん、あまつさえ神奈子様まで出たのに!!!」

はたて「あなたの出番は文に取られたのよ……。『実況なら早苗より射命丸だろう』って事で」

早苗「わああああああああん!!」

パルスィ「今、凄く心地よい空気が流れているわ」

アリス「あんただけよ……」

772: 2015/07/13(月) 23:51:00.13 ID:GaB61/bmO
~演奏が終わって・プリズムリバーズ~


紫「初めて人前で演ったにしては、上手くいったんじゃないかしら?」

藍「ありがとうございます」

妖夢「とは言っても、殆ど騒霊三姉妹の力ですけどね……」

メルラン「そう簡単には追い付かれてあげないわよ~?」

ルナサ「貴女達にはまだまだ教える事が沢山あるわ。……というか、メンバーが足りなさ過ぎて教えるに教えられないけど」

リリカ「ヘルプありがとう! 凄く助かった! ねぇ、ウチの楽団には入ってくれないの? 入ってくれた方が私としては担当が分担出来て楽になるんだけど」

雷鼓「悪いけど、次のコ達の演奏にも助っ人として出るからね」

雷鼓「それに……一つのバンドに留まるより多くのバンドを渡る方が、演奏の機会が増えるから、私(楽器)としては嬉しいね」

リリカ「えー……残念」

リリー「さっきの演奏はあなた達?」

藍「リリーホワイト! こんな時期に見るとは珍しい!」

リリー「さっきの演奏、凄く良かった! 春の匂いがした!」

メルラン「……は?」

ルナサ「音が匂うワケ無いでしょ……」

妖夢「いやいや! きっと褒めてくれてるんですよ! 良かったって言ってたし!」

リリー「もっと春の曲を聴かせてよ!」


こうして、春になると楽団にリリーホワイトの姿が度々見受けられるようになる。


~~~~~

~~

773: 2015/07/14(火) 00:02:51.42 ID:uk1ADnZxO
パルスィ「そして事故ってもう居なくなるんですね。分かるわよ」

はたて「それ以上はいけない」

アリス「春の始まりに春告精を見つけると吉兆が訪れるって言うけど、この場合どうなるのかしら?」

ぬえ「まだそこらに居るなら、捕まえて確かめてみる?」

早苗「それでもう居なくなったらあなたのせいですよ!?」

はたて「もう居なくなったとか言うな! そのネタはいろいろ危ない気がするから!」

パルスィ「散々本家ネタ使ってるし、どころか前作のネタも使ってるんだから大丈夫よ」

アリス「いや、居なくなったは際どくない……? 『もう居ない』なら使っても大丈夫でしょうけど」

ぬえ「お前ら何の話をしてんの?」

774: 2015/07/14(火) 00:09:01.84 ID:uk1ADnZxO
~超短編・雷鼓さん~


・プリズムリバー演奏時

雷鼓「さあ、外の世界の使役者(ドラマー)よ! 幻想郷に虹のビートを響かせよ!」



・鳥獣伎楽演奏時

雷鼓「ウシャアアアアアアアアア!! メロディ着いて来いコラァアアア!!!」

775: 2015/07/14(火) 00:20:42.69 ID:9fQ0plYwO
~~~~~

~~

早苗「これはひどい……ドラマーズハイとでも言いましょうか……?」

アリス「すごい豹変するのね」

パルスィ「誰の魔翌力の影響を受けたのか、モロバレね」

ぬえ「え? ずっと地底に居たのに外の世界の人間に心当たりあんの?」

パルスィ「いえ、こっちの話よ」

はたて「そういうメタなネタ、控えなさいよ……」

パルスィ「だって、仕方ないじゃない……?」

はたて「何がよ!?」

早苗「さあ、次々いきましょう!」

781: 2015/07/30(木) 00:43:35.11 ID:jLWcNG5mO
影狼「私達弱小妖怪は、助け合わなきゃダメだと思うの!」グッ

影狼「他人の強さを僻む前に、力を合わせよう!」

わかさぎ姫「そうだ!」

影狼「草の根妖怪ネットワークのメンバーを増やそう!」

わかさぎ姫「増えろ!」

赤蛮奇「……」


一周年する前に終わらせようとしたのに……
本編は終わってるからいいか

782: 2015/07/30(木) 00:44:24.17 ID:jLWcNG5mO
~二月某日~

神峰「……っ!」ガタガタ

慧音「どうした神峰? 嫌な心でも『見」えたのか?」

神峰「イヤ、今日寒くねェスか!?」

慧音「なんだ……そんな事か」

慧音「幻想郷では今日みたいな大寒波が来る日は、雪女が関わっている事が多い。確か……レティと言ったかな?」

神峰「そのヒト知ってるス! 幻想郷縁起に乗ってた!」

慧音「冬の風物詩……というには些か迷惑な妖怪だ。まあ、寒いからと言って何でも彼女のせいにしないようにな。あと、間違っても冬にレティに近づくなよ?」

神峰「一人で人里を出る勇気なんてねェス……」


783: 2015/07/30(木) 00:44:58.01 ID:jLWcNG5mO
~三月三日~

神峰「アレは何をやってんスか? 灯籠流し?」

慧音「雛流しだな。流し雛とも言う。桃の節句に、穢れや厄を祓う意味を込めて、ああやって流し雛を流すんだ」

神峰「幻想郷ってそんな習わしがあるんスね」

慧音「何を言っているんだ? 幻想郷にある風習なんて、元は外の世界の風習だぞ? きっと結界の外でも流し雛をやってる地域がある筈だ」

慧音「……まあ、幻想郷の流し雛は、外とは違って本当に厄神に流した厄が届くんだけどな」

神峰「厄神……? そういえば幻想郷縁起に載ってたような……」

慧音「異変の関係者や、博麗の巫女や魔理沙が出会った妖怪なら殆ど載っているからな。阿求の仕事は優秀だ」

慧音「そして厄神の事だが、会った事のある者の話では、気さくで話しやすく、友好的な神様らしい。……ただ、溜め込んだ厄が彼女の周りに漂っているため、十中八九不幸に見舞われる事になるだろう」

慧音「だから、厄神に会う事は避けるようにな」

神様「そもそも一人で人里を出る勇気がねェス……」

784: 2015/07/30(木) 00:45:43.23 ID:jLWcNG5mO
~~~~~

~~

パルスィ「こんな感じで、翔太に単独で会わせられないキャラって以外と居るのよね」

はたて「その最たる例がメディスン・メランコリーと吸血鬼の妹、フランドール・スカーレットね。門番の安心感とは裏腹に、紅魔館に入っての危機感がハンパじゃなくて紅魔館編を断念したくらいだしね」

早苗「そのくせ風見幽香さんには人里で会わせようとかいう考えが
───、いえ、基本的に妖怪に会おうというのがそもそもおかしいんですけどね」

ぬえ「お前ら何の話してんの?」

アリス「いつもの事でしょ? もう慣れたわ」

パルスィ「いい加減この流れも飽食気味ねぇ」

アリス「いや、あんたの嫉妬ネタに比べれば……」

パルスィ「ネタでやってんじゃないわよ!」

785: 2015/07/30(木) 00:47:13.70 ID:jLWcNG5mO
・鈴仙の愚痴


鈴仙「聞いて下さいよ! 神峰さん!」

神峰「ひっ!?」ビクッ

神峰(やっぱりきた! ウチに来てから問診の間、ずっとイライラしてたみてェだし、爆発するんじゃねェかとは思ってたけど……)

神峰「えっと……何スか……?」

鈴仙「最近、てゐの手口が巧妙になったというか、真に迫るっていうか……」

鈴仙「騙しをする時に暑苦しいっていうか……、こっちを真っ直ぐ見据えて熱弁するのよ! 私の心に直接響かせるみたいに!」

鈴仙「今までは言葉巧みに誘導してただけなのに、何処かで新たな手口を身に付けたみたいで……!」ワナワナ

鈴仙「何であんな言葉信じちゃったの!? 私のバカっ!! 悔しィ~~~ッ!!!」

神峰「そんな事をオレに言われても……」

鈴仙「他に言える人が居ないんだもん! 師匠や姫様になんて言えないし!」

786: 2015/07/30(木) 00:48:04.17 ID:jLWcNG5mO
鈴仙「っていうか師匠も師匠で、今回の治験で新たな仮説を立てたみたいで、私その実験台にされてるのよ!? おかげで何度デジャヴを視た事か……」

鈴仙「ね、ねえ……私、ここに居るわよね……? 今見て話してる私は実は未来の私で、本当の私は実験室で虚空を見つめているなんて事無いわよね……? 私は現実……? それとも空想なの……?」カタカタ

神峰「こっ、怖ッ……!? 落ち着いて下さい!! 現実なんで!! 居ます! ここに居ますから!!」

鈴仙「そうね……あんたにとっては現実だったわね……。でも、私にとってはまた経験するかも知れない出来事かもしれない……。もしも私が過去から来たって言ったら……笑う?」ヒシッ

神峰(駄目だ、混乱してる上に疑心暗鬼になってる! 誰か助けを呼ばねェと……オレ一人じゃどうにも出来ねェ! でも肩を掴まれて身動きがとれねェし……なら!)

神峰「だ、誰か!!! 助けてはくれませんか!!?」

妹紅「ど、どうしたの神峰!? 何があった!?」バンッ

神峰「妹紅さん! 良いところに! 鈴仙さんが混乱してるみてェで……!」

787: 2015/07/30(木) 00:48:52.38 ID:jLWcNG5mO
妹紅「良くわからないけど、引き剥がせばいいのね!?」ダッ

妹紅「この……っ、うらやま──じゃなくて、離れろ……っ! 神峰が困ってるでしょ!」グイィィッ

鈴仙「そうよ……これは幻なんだわ……。目が覚めると私は布団の中で、見慣れた天井を見てこう言うんだわ……『またか……』って──」ブツブツ

神峰妹紅「「怖い!!!」」

妹紅「こうなったら手荒な方法でいくしかないわね……」

神峰「あの、お手柔らかに……」

妹紅「当て身」ドス

鈴仙「ぐッ」

神峰(スゲェ綺麗に決まった……。あんなの漫画の中だけじゃねェんだな)

妹紅「それじゃ、こいつは永遠亭に運んでおくから」

神峰「あ、ありがとうございます」

妹紅「礼なんていいわよ。じゃあね」

妹紅(は……初めて神峰の家に入っちゃった……!)ドキドキ



神峰「はー……、オレ一人だったら手こずってただろうから、偶然とはいえ、妹紅さんが近くにいて助かったな」

神峰「……鈴仙さん、大変なんだな」

788: 2015/07/30(木) 00:49:33.75 ID:jLWcNG5mO
~~~~~

~~


早苗「自機化の裏でそんな苦労があったかと思うと……」

ぬえ「そりゃあライブでハジけたくもなるってモンよね」

パルスィ「私としては彼女が翔太の家の近くにいた事が本当に偶然なのか気になる所だけど。きっとストーカーみたいに張っていたに違いないわ」

はたて「文の話では、人里のとある地区を悶々としながらうろつく不審者がいるって聞いたけど……」

パルスィ「それよ!」

早苗「きゃーっ! 青春ですね!」

アリス「この食いつきの良さ……巫女は兎も角、流石は記者と嫉妬妖怪って所かしら」

ぬえ「私としては片方の事を知らないから、神峰とさとりの間でアレコレあった方が面白いんだけど」

パルスィ「むしろ三角関係になって修羅場ってくれたら百点満点ね」

はたて「記者的にもその方がおいしいわ」

早苗「素直に応援する気は無いんですか!?」

アリス(あんまり興味無い……)

789: 2015/07/30(木) 00:50:53.05 ID:jLWcNG5mO
はたて「さて、もう全部終わったみたいね。それじゃ、解散解散。あんた達も宴会に混ざってきたら? 私はもう家に帰るわ、バイバイ」

アリス「筋金入りの引き篭もり体質なのね……」

はたて「いや、だって鬼がいるし……」

ぬえ「上下関係なんてしがらみがあると大変だねェ。もっと自由に生きなきゃ!」

パルスィ「それを寺暮らしの貴女が言うの?」

ぬえ「それは成り行きとか、聖に恩があるからだ」

パルスィ「そう。つまり貴女は寺で暮らしてるけど、戒律も守らずに自由に生きてるワケ?」

ぬえ「聖の顔を立てるために人間は襲ってないけど、全部は守らないわよ」

パルスィ「成る程ね、分かったわ」ニコッ

ぬえ「?」

アリス(あ、これは解散直後に白蓮に捕まる流れだわ)

パルスィ「なら、いい加減お開きムードみたいだし、解散ね。適当に嫉妬を肴にお酒でも飲もうかしら?」

はたて「お先!」バサッ

早苗「私も諏訪子様の所へ戻りますね」

アリス「そんなに仲良く無いけど知らない仲でもないから……頑張ってね」ポン

ぬえ「え? どういう意味?」

アリス「すぐに解るわ。さようなら」

ぬえ「???」



???「……」テー→テー↑テー↓

790: 2015/07/30(木) 00:54:24.96 ID:jLWcNG5mO
これにて小ネタも終了ス

途中で気付いてずっと訂正するの忘れてたけど、>>372の渡りに船の使い方は正しくねェス

791: 2015/07/30(木) 01:03:19.44 ID:jLWcNG5mO
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以上、宣伝でした

795: 2015/07/31(金) 01:37:18.33 ID:qYTmsqIhO
依頼出してくる

さとりと妹紅の修羅場は、酔っ払ったさとりが妹紅を煽るシチュ(祭りをやってるこのタイミング)でしか実現しないだろうけど、各自妄想に任せるとしよう。
誰かの妄想によっては200レスはイケるハズ。俺には無理

797: 2015/08/01(土) 11:36:52.10 ID:RkninfYL0
終わっちまうのか・・・
楽しかったッス。乙

引用元: 神峰翔太が幻想入り