1: 2017/05/08(月) 21:01:42.697 ID:FUaUiqcl0.net
-エンジェル珈琲-
マスター「天真くん、今日はもうあがっていいよ」
ガヴリール「うす。お疲れした」
バタンッ
マスター「ふぅ、今日もあまりお客さんは来なかったねぇ」
ピカッ ゴロゴロゴロッ
マスター「雷ですか、それで外が薄暗かったんですねぇ……」
ザァァァッ
マスター「ああ、雨も降ってきましたね」
マスター「天真くん、もう家に着いていると良いけど」
ワンワンッ
マスター「ん?」
ワンワンワンッ
マスター「……犬の鳴き声?」
2: 2017/05/08(月) 21:04:06.990 ID:FUaUiqcl0.net
-エンジェル珈琲 前-
ザァァァッ
犬「わんわんっ」
マスター「可哀想に、野良犬かねぇ」
マスター「こんなにずぶ濡れになって……中に入るかい?」
犬「ばぅっ、はっはっはっ」ペロペロ
マスター「こらこら、そんなに舐めたらいけないよ」
マスター「さ、中に――」
ピカッ
マスター「え」
ズドンッ
マスター「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
犬「わぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
3: 2017/05/08(月) 21:05:53.184 ID:FUaUiqcl0.net
シュゥゥゥ
マスター「」
犬「」
ムクッ
マスター「……ここは」
マスター「そうか、これが新しい体」
マスター「どうやら、少しおじ様みたいだけど、意外と馴染むね」
犬「そうだね。ボクは、また畜生だけど」
マスター「お前も来ていたのか、ちょうどよかったよ」
マスター「とりあえずは……ここがどこなのか、この体が誰なのか」
マスター「情報収集に努めよう」
犬「わかったよ」
タプリス「はわわわわ……」ガクガクブルブル
7: 2017/05/08(月) 21:07:49.675 ID:FUaUiqcl0.net
タプリス(ど、どういうことでしょう)
タプリス(マスターさんは、確かに雷に打たれたはずですが)
タプリス(あのように立ち上がって、しっかり歩いています……)
タプリス(救急車とか、呼ばなくて大丈夫でしょうか)
タプリス(聞きたくても、なんだか異様な雰囲気で近づけません)
タプリス(それに、もう一人、誰かの声が聞こえる気がします……)
マスター「そこの君!」
タプリス「ひっ!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
マスター「何をそんなに怯えているんだい」
タプリス「えっ、そ、そんなことはありませんよ」
タプリス「それにしても……い、いいお天気ですね!」
犬「いや、土砂降りだけどね」
タプリス「い、いいい、いぬ、いぬっ、犬が……」
犬「どうしたんだい?」
タプリス「喋ったぁぁぁぁっっ!!」
14: 2017/05/08(月) 21:10:20.085 ID:FUaUiqcl0.net
-エンジェル珈琲-
マスター「なるほど、この人は、ここの喫茶店の店主なんだね」
マスター「それにどうやら……この人の珈琲作りの技術は」
マスター「体で覚えているみたいだ。お店を続けていくのに問題はないだろう」
タプリス「……本当に、ただ演技しているだけじゃないんですね?」
マスター「ああ、体を借りてるだけみたいだ。それに嘘なら……」
マスター「犬が喋るはずがないだろう?」
タプリス「そ、そうですね、確かに……」
マスター「ということで君には、僕たちの野望のための力になってもらうよ」
タプリス「な、なんですか、それ! 了承するはずないじゃないですか!」
マスター「おや、いいのかい。僕は、言うなれば、この体を人質にしているんだ」
マスター「僕の指先一つで、この体がどうなるか……わかるかい?」
タプリス「ぐっ……ひ、卑怯です……」
マスター「……なんてね、僕は争いごとが嫌いなんだ」
マスター「正直、僕たちも突然、ここに来てしまって困っていてね」
マスター「戻る方法もわからないし、協力してくれると助かるよ」
タプリス「……わ、わかりました。不本意ですが、あなたに協力しましょう」
マスター「ありがとう」
15: 2017/05/08(月) 21:13:27.879 ID:FUaUiqcl0.net
タプリス「それで、あなたたちの野望というのは、何なんですか?」
マスター「よく聞いてくれたね! 何を隠そう、僕たちは……」
マスター「百合少女が大好きなんだ」
タプリス「は? ゆ、百合、少女……?」
マスター「そう、百合少女」
マスター「百合はいい……僕たちの心を満たしてくれる」
マスター「女の子と女の子が、きゃっきゃうふふする」
マスター「素晴らしいと思わないかい!」
タプリス「えっと……少しいいですか?」
マスター「なんだい、千咲くん」
タプリス「百合って、なんですか? お花のことじゃ、なさそうですけど……」
犬「百合とは、女性の同性愛のこと。また、それを題材とした各種作品」
犬「作品の場合、女性同士の恋愛だけでなく」
犬「恋愛に近い友愛や広く友情を含んだ作品も百合と言うことが多い」
タプリス「そ、そそそそ、それってつまり……その……」カァァ
犬「どうしたんだい、そんなに顔を赤らめて」
犬「もしかして、心当たりでもあるのかい」ニヤッ
16: 2017/05/08(月) 21:16:03.847 ID:FUaUiqcl0.net
タプリス「い、いえ! 決して、そのようなことはっ!」
マスター「なるほど、言葉は知らなかったとしても」
マスター「既に素養がある子と出会えるなんて……僕も嬉しいよ」
マスター「そうだな、君を今日から、僕たちの助手に任命する!」
タプリス「え、えぇ……」
マスター「この世界を百合少女で満たすために、一緒に頑張ろう!」
犬「諦めたほうが良いよ。一度決めたら、絶対に曲げない男さ」
タプリス「はぁ……、とりあえず、具体的に何をするんですか」
マスター「いいね、その食いつきっぷり。理解が早くて助かるよ」
タプリス「もう諦めただけです……」
マスター「具体的には……、くっつきそうで、なかなかくっつかない」
マスター「そんな女の子同士を、そっと、僕たちがひと押しして」
マスター「めでたく結ばせる、というのが僕たちのやり方さ」
マスター「だから君には、その実行係をしてほしいんだ」
タプリス「は、話は大体わかりましたけど」
タプリス「でもそれって、別に、わたしでなくても良いんじゃ……」
マスター「え?」
17: 2017/05/08(月) 21:18:28.420 ID:FUaUiqcl0.net
マスター「千咲くん、一つだけ言っておく」
マスター「僕たちは男だ」
タプリス「ええ、それはわかりますけど」
マスター「百合の世界において、絶対にやってはいけないことがある」
マスター「それは……男が介入することだ」
タプリス「は、はぁ……」
マスター「女の子同士の美しい世界、そこに踏み込む男は……」
マスター「たとえ誰であろうと、絶対に許さない!」
マスター「ということで、この中で唯一」
マスター「そんな世界を通り過ぎても問題ない君に」
マスター「実行係をお願いしたいんだよ」
タプリス「うっ、もう仲間に入れられてる……」
マスター「何、そんな難しいことじゃない」
マスター「僕たちの言うとおりに動いていれば良いだけさ」
マスター「それと、そういう事情だから、僕たちのことは他言無用で頼むよ」
タプリス「はぁ……わかりましたよ、もう……」
18: 2017/05/08(月) 21:21:13.984 ID:FUaUiqcl0.net
マスター「それじゃあ早速、ターゲットの女の子を決めていこうか」
タプリス「……ッ」
マスター「大丈夫、助手の君は基本的に対象外さ」
タプリス「ほっ……」
マスター「てっとり早いのは……このお店は、アルバイトの子とかいないのかい?」
タプリス「えっ、えっと……いたかなー?」
マスター「天真=ガヴリール=ホワイト君」
タプリス「なっ、どうしてそれを!?」
マスター「そんなの書類を見れば、すぐにわかるさ」
マスター「それに、君とも知り合いのようだね」
タプリス「……が、学校の先輩です」
マスター「先輩、ね。この子はフリーかい? 付き合ってる女の子はいるの?」
タプリス「ナチュラルに相手を女の子にするの、やめてください……」
マスター「え? どういうこと?」
タプリス「はぁ、聞いたわたしがバカでした」
タプリス「……そういう人は、いないはず、ですよ」
マスター「なるほどね。じゃあ、この子にしよう」
19: 2017/05/08(月) 21:23:43.170 ID:FUaUiqcl0.net
タプリス「えぇっ、本気ですか?」
マスター「本気も本気、大マジさ。それとも、何か気になることでも?」
タプリス「い、いえ。そういうの興味なさそうな方なので……」
マスター「そうか、じゃあ余計にやりがいがあるな」
マスター「よし、ターゲットは決定」
マスター「それじゃあ、各自情報収集に励むように」
マスター「助手の君にはまた、必要になったら連絡するから」
タプリス「は、はい……わかりました」
マスター「色恋沙汰に疎い女の子を百合色に染め上げる……」
犬「なんだかとてもワクワクしてきたよ」
タプリス「あははは……、はぁ……」
-数日後 エンジェル珈琲-
マスター(ここで数日過ごしてみて……)
マスター(ある程度、天真くんの人となりを理解できた)
マスター(確かに助手の千咲くんの言うとおり、手強い相手のようだが)
マスター(必ず、突破口はある)
マスター(そう、お相手の第一候補である、あの子がもうすぐ……)
20: 2017/05/08(月) 21:25:59.904 ID:FUaUiqcl0.net
からんからん
ヴィーネ「お久しぶりです、マスターさん」
マスター「やあ、いらっしゃい、月乃瀬くん」
ヴィーネ「えっと、いつものコーヒーでお願いします」
マスター「了解したよ」
ヴィーネ「……はぁ」
マスター「お待たせしました、どうぞ」
ヴィーネ「あ、ありがとうございます」
マスター「……月乃瀬くん、何かあったのかい?」
ヴィーネ「えっ……ど、どうしてです?」
マスター「ため息もついて、何やら考え事をしているようだから」
ヴィーネ「あはは、すみません。変なところを見られてしまいましたね」
マスター「そんなことない、人間誰だって、そういうことはあるものさ」
ヴィーネ「そ、そうですかね」
マスター「僕で良かったら、お話聞こうか? 役に立てるかはわからないけど」
ヴィーネ「でも、ご迷惑になりますから」
マスター「そんなことないよ。誰かに話すことで、少しでも気が楽になるかもしれない」
マスター「特に僕のような、第三者にはね」
ヴィーネ「……では、少しだけよろしかったですか?」
マスター「ああ、構わないよ」
21: 2017/05/08(月) 21:28:33.979 ID:FUaUiqcl0.net
マスター「そうか、お友達との関係について、悩んでいると」
ヴィーネ「はい。その子の為にはならないとわかっているんですけど」
ヴィーネ「どうしても気になってしまうといいますか」
ヴィーネ「放っておけないといいますか」
ヴィーネ「余計なお節介ばかり、焼いてしまうんです」
ヴィーネ「やっぱり私が我慢して、きっぱりやめたほうが良いのかなって」
マスター「それはどうだろう」
ヴィーネ「えっ」
マスター「それはつまり、君は自分を押し頃して過ごす、ということになるよね」
ヴィーネ「そ、そうなんでしょうか」
マスター「そうだよ。そんなの、その子のこと以前に……」
マスター「君のためにならない」
ヴィーネ「……ッ」
マスター「ということで逆に、全力でお節介を焼いてみたらどうかな」
ヴィーネ「全力で……ですか?」
マスター「ああ、自分をさらけ出して、我慢せずに、お節介を焼きまくる」
マスター「そうすることで、君の鬱憤が解消されて」
マスター「次第に君自身の行動も落ち着いてくると思うんだ」
ヴィーネ「なるほど……」
22: 2017/05/08(月) 21:30:59.708 ID:FUaUiqcl0.net
ヴィーネ「今日は、私のお話を聞いてくださって、ありがとうございました」
ヴィーネ「なんだかとても、晴れやかな気分です」
ヴィーネ「これからは私のやりたいように、やってみようと思います」
マスター「そうか、少しでも役に立てたならよかったよ」ニコッ
ヴィーネ「はい、それではっ」
からんからん
マスター「ふぅ……こんなものかな」
犬「さすがだねマスター、その話術は未だに衰えていないみたいだ」
マスター「そんなことないよ、僕だって必氏さ」
マスター「あとは……っと」
からんからん
タプリス「あの……来ましたけど」
マスター「ああ、時間ぴったりだね、素晴らしい」
タプリス「そ、それでわたしに、何の用ですか?」
マスター「喜びたまえ。助手の君に、初仕事だ」
23: 2017/05/08(月) 21:33:31.128 ID:FUaUiqcl0.net
タプリス「これを、天真先輩のノートパソコンにですか?」
マスター「ああ、そのUSBメモリの中には、あるプログラムが入ってるんだ」
タプリス「プログラム?」
マスター「そう、月乃瀬くんの顔の画像をだね」
マスター「パソコン上の画面に一瞬だけ表示させるのを、繰り返すプログラムさ」
タプリス「そんなの、すぐに天真先輩にバレるんじゃ……」
マスター「もちろん、人が認識できないくらいの、短時間だけ表示させるんだ」
マスター「そうすることで、見ている人に気づかれることなく」
マスター「その人の潜在意識下に、その画像を植え付けることができる」
犬「サブリミナル効果とも言われているね」
タプリス「ということは、天真先輩は、月乃瀬先輩を……」
マスター「ああ、次第に顔を見ただけで、意識してしまうようになるだろうね」
タプリス「そ、それって、いわゆる洗脳っていうんじゃ……」
マスター「洗脳だなんて人聞きの悪い」
マスター「それに、ある程度の好意をもっていなければ」
マスター「拒否反応を起こすはずだからね。その実験も兼ねて、さ」
マスター「まぁ、とにかく頼むよ。メモリは十秒くらい差し込むだけでいいから」
マスター「彼女がトイレにでも行った時に、ね」
タプリス「わかりました……」
24: 2017/05/08(月) 21:35:59.454 ID:FUaUiqcl0.net
-二週間後 エンジェル珈琲-
マスター「……時は満ちた」
犬「ついに、Xデーがやってきたね」
タプリス「えっ、何のことですか?」
マスター「とある信頼できる情報筋によると、だね」
マスター「今晩、天真くんは月乃瀬くんの家に、お泊り、するらしい」
タプリス「なっ、どこでそんな情報を……」
犬「それは言えないよ」ニヤッ
タプリス「……それで、何をどうするおつもりですか」
マスター「何を言ってるんだ、助手。女の子二人が、お泊りだよ?」
マスター「大人の階段を上らせる、に決まってるじゃないか」
タプリス「なっ、ななななっ!?」カァァ
マスター「この二週間で、天真くんの頭の中は、月乃瀬くんでいっぱいになっているだろう」
マスター「そこに、お節介増し増しの月乃瀬くんを投入し」
マスター「プラスアルファのエッセンスを加えれば……」
マスター「赤子の手をひねるよりも簡単さ」
犬「プラスアルファが不安で仕方ないよ、マスター」
25: 2017/05/08(月) 21:39:11.648 ID:FUaUiqcl0.net
マスター「君たちは先に、現場へ向かってくれ」
タプリス「現場って、どこですか?」
マスター「月乃瀬くんの部屋の、真下の部屋さ」
マスター「どうやらこの男、そのアパートのオーナーみたいでね」
マスター「鍵はなんなく入手できたよ。あと部屋も改造しておいた」
犬「マスターは、どうするんだい?」
マスター「僕はもうひと仕事してから、現場へ向かうよ」
マスター「月乃瀬くんに見つからないように、こっそりと中に入ってね」
犬「わかったよ、マスター」
タプリス「はぁ、本当にいいのかなぁ」
-スーパーマーケット-
ヴィーネ(今晩は、ガヴの好きなハンバーグにしようかしら)
ヴィーネ(ふふっ、とびきりおいしいの作ってあげなきゃ)
店員「ただいまー、ひき肉の大セールを実施中です!」
店員「なんと、お値段通常の半額! 半額でご奉仕中でございまーす!!」
ヴィーネ(す、すごい、半額ですって……!)
店員「そこのお嬢さん、ひき肉、買っていかないかい!」
ヴィーネ「あ、いただきます」
店員「お買上げ、どうもー!」ペコッ
店員「……」ニヤッ
26: 2017/05/08(月) 21:41:07.581 ID:FUaUiqcl0.net
-ヴィーネの家の真下の部屋-
ガチャ
マスター「ふぅ、ひと仕事おわりっと」
犬「お疲れ、マスター」
タプリス「あ、あの……」
マスター「どうしたんだい、助手。そんなに怯えて」
タプリス「この部屋の、この機材、いったい何に使うんですか?」
マスター「ああ、これかい。いろいろさ」
犬「いろいろだね」
ザッ ザザァ
マスター「これでチューニング完了っと」
『ああ、ヴィーネお帰り』
『あんたねぇ、人の部屋でくつろぎすぎでしょ、別にいいけど』
タプリス「なっ!? この声は……」
マスター「ああ、上の部屋の声」
犬「さすが外道だね、マスター」
タプリス「これ盗聴じゃないですか! 犯罪ですよ!」
マスター「助手よ、これは二人の将来のためだ」
マスター「いずれ二人もわかってくる日が来るさ、きっと」
タプリス「いやいやいや……」
27: 2017/05/08(月) 21:44:10.539 ID:FUaUiqcl0.net
ヴィーネ『ほらガヴ、ハンバーグできたわよー』
ガヴリール『ああ、わかったー』
ヴィーネ『いただきます』
ガヴリール『いただきます』
ガヴリール『……あ、うまい』
ヴィーネ『本当? よかったぁ、今日たまたまスーパーで』
ヴィーネ『安くていいお肉が手に入ってね』
ガヴリール『そ、そうなんだ』
ヴィーネ『まだまだおかわりあるから、たくさん食べてね』
ガヴリール『あ、ああ』
――
タプリス「うぅ、罪悪感が……」
マスター「大丈夫、じきに慣れるさ」
犬「それよりマスター。さっきの、ひと仕事って?」
マスター「ああ、実はこの二人が食べてるハンバーグのひき肉に」
マスター「徐々に体が火照ってくる漢方を仕込んだのさ」
タプリス「も、盛ったんですか!?」
犬「わけがわからないよ」
28: 2017/05/08(月) 21:46:12.703 ID:FUaUiqcl0.net
ヴィーネ『ごちそうさまでした』
ガヴリール『ごちそうさん、だけど。なんというか……』
ヴィーネ『どうしたの?』
ガヴリール『今まで食べた中で……、一番うまかった』
ヴィーネ『ほんと? よかったぁ』ニコッ
ガヴリール『……ッ』カァァ
ヴィーネ『ガヴ? どうしたの?』
ガヴリール『い、いや、なんでもない。なんでもないからっ』
ヴィーネ『そう? じゃあ、私、後片付けしちゃうね』
ガヴリール『お、おう』
――
マスター「月乃瀬くんの笑顔に、デレッデレの天真くんきた!」
犬「おかしいなぁ、ボクたち声しか聞こえてないはずだよね」
タプリス「すごい想像力ですね……」
マスター「思っていた以上に、天真くんの中の月乃瀬くん祭りは」
マスター「盛り上がっていたみたいだね」
マスター「というわけで、どんどんいこう、次はこれだ……」
犬「二人を休ませる気がないね、マスター」
29: 2017/05/08(月) 21:48:39.257 ID:FUaUiqcl0.net
ヴィーネ『そうだ、前に録画していた映画があるの』
ヴィーネ『これから一緒に見ない?』
ガヴリール『映画か……』
ヴィーネ『だめ?』
ガヴリール『いや、別にいいぞ……』
ヴィーネ『ふふっ、ありがとうね、ガヴ』
ぎゅぅ
ヴィーネ『うぅぅぅっ……』
ガヴリール『ヴィーネ、ちょ、くっつきすぎっ』カァァ
ヴィーネ『だって……だってぇ……』
ガヴリール『お前が見ようって言ったのに、なんで怖そうな映画選んだんだよ』
ヴィーネ『恋愛映画だと思って録画したのに……』
ガヴリール『間違えすぎだろ……』
――
タプリス「これもあなたの仕業ですか……」
マスター「ああ、ホラーが苦手な月乃瀬くんのために」
マスター「恋愛映画とデータを入れ替えておいた」
犬「鬼畜だね、マスター」
マスター「さて、こんな状況で……これを押すとどうなるか?」
タプリス「それは……なんのボタンなんです?」
マスター「それ、ポチッとな」
30: 2017/05/08(月) 21:50:56.745 ID:FUaUiqcl0.net
パッ
ガヴリール『えっ、停電!?』
ヴィーネ『いやっ、いやぁぁぁぁっ!!』
ぎゅぅぅ
ガヴリール『ちょ、ヴィーネ!? それやばい、やばいからっ!』
ヴィーネ『怖い怖い怖いぃぃぃっ!!』
ぎゅぅぅぅ
ガヴリール『はぁ……はぁっ……』
ヴィーネ『助けて助けて助けてぇっ!!』
ガヴリール『ヴィーネ……ダメだ……ダメだから……』
ヴィーネ『いやぁぁぁぁっ!!』
――
マスター「暗闇は二人の距離を近くする」
犬「さすがだね、マスター」
タプリス「これはでも、やりすぎでは……」
マスター「完全に月乃瀬くんには聞こえていないみたいだけど」
マスター「天真くんはもう、心臓バクバク」
マスター「そろそろ限界かもしれないね……」
犬「大人の階段上っちゃうかい?」
マスター「いや、まだだ。次のフェーズにシフトしよう」
31: 2017/05/08(月) 21:53:06.462 ID:FUaUiqcl0.net
ガヴリール『ほら、ブレーカー見てくるから、離して』
ヴィーネ『……』フルフル
ガヴリール『わかったよ、じゃあ一緒に行こうな?』
ヴィーネ『……』コクッ
ガヴリール『ブレーカーは……あったっと』
ポチッ パッ
ガヴリール『ほら、電気ついたぞ』
ヴィーネ『ご、ごめんね、ガヴ。恥ずかしいところ見せちゃって』
ガヴリール『別にいいよ。気にしてない』
ヴィーネ『あ、ありがとう』
ガヴリール『……でも、ちょっと危なかった』
ヴィーネ『えっ、なにが?』
ガヴリール『い、いや、なんでもない……』
――
マスター「お互いの弱いところを知り合って、それを補い合い、助け合う」
マスター「そして最後には、相互依存になる」
犬「素晴らしい筋書きだね、マスター。作為的だけど」
タプリス「言ってることはまともなんですけどね……」
マスター「そろそろ汗もかいただろうし、あれかな」
犬「次は何を仕込んだんだい」
マスター「それは聞いてみてのお楽しみさ」
34: 2017/05/08(月) 21:57:03.797 ID:FUaUiqcl0.net
ガヴリール『なんか妙に体が熱くて、汗かいたし』
ガヴリール『ヴィーネ、シャワー借りてもいいか?』
ヴィーネ『あ、お風呂は沸かしてるけど……』
ガヴリール『ん、どうした?』
ヴィーネ『ガヴ、これから先に入っちゃうってことよね』
ガヴリール『ああ、そうだけど』
ヴィーネ『ということは、私はその後で入らなきゃいけないってことよね……』
ガヴリール『そうなるな』
ヴィーネ『うぅ……』
ガヴリール『おいおい、まさか……』
ヴィーネ『怖くて、一人で……ぐすっ……入れない』
ガヴリール『子供かっ!』
ヴィーネ『ガヴぅ……、一緒に入りましょう?』
ガヴリール『い、今はだな……その……』
ヴィーネ『ぐすっ……だめ?』
ガヴリール『ああもう! 入ればいいんだろ入れば!!』
――
タプリス「まさかここまで見越して……」
マスター「戦況は常に一手二手、先を見据えるものさ」
犬「軍師だね、マスター」
35: 2017/05/08(月) 22:00:14.525 ID:FUaUiqcl0.net
ちゃぷちゃぷ
ヴィーネ『ふふっ、お礼に体、洗ってあげるわね』
ガヴリール『い、いいよっ! そのくらい自分でやるからっ!』
ヴィーネ『私に、洗えーって言ってたこともあるじゃない』
ヴィーネ『遠慮しなくていいのよ』
ガヴリール『遠慮なんてしてない!』
プシュプシュ
ヴィーネ『あれ、ボディソープ、こんな感触だったかしら』
ヴィーネ『なんだかすごく、ヌルヌルする』
ガヴリール『ん、どうした』
ヴィーネ『ううん、何でもない。きっと気のせいよね』
ヴィーネ『ほら、腕上げて』
ガヴリール『……』スッ
――
タプリス「お風呂場なのに、普通に音声が聞こえるんですが」
マスター「任せて、抜かりはないよ」
犬「防水だね、マスター」
犬「それにしても、ボディソープにも何か仕込んだのかい」
マスター「さすがだね、そこに気づくとは」
タプリス「もう盛ることに、あまり驚かなくなってきました……」
36: 2017/05/08(月) 22:02:37.270 ID:FUaUiqcl0.net
ガヴリール『おい、これなんか……ヌルヌルすぎないか?』
ヴィーネ『やっぱりそう思う? でも、肌に良さそうじゃない』
ガヴリール『そ、そうか? というか、椅子がどんどん滑って……』
ヴィーネ『だ、大丈夫? 少し体を押さえてあげ……って、きゃっ!』
ズルッ
ガヴリール『どうした、ヴィーネって、うわっ!』
ズルッ ドッテーン
ヴィーネ『あいたたたっ』
ガヴリール『ヴィ、ヴィーネ苦しい!』
ヴィーネ『あ、ごめんなさいっ! 今どくから!』
ヌルッ
ヴィーネ『あ、あれ』
スルッ ヌルヌルッ
ヴィーネ『す、滑って動けない……』
ガヴリール『マ、マジかよ……』
――
マスター「月乃瀬くんが上か……上だな」
タプリス「な、何言ってるんですか!? 今お二人とも、裸なんですよ!」
タプリス「裸で抱き合ってるんですよっ! たぶんっ!」
マスター「助手もだいぶ、想像力豊かになってきたな」
犬「不慮の事故だからね、そういう面もあるよ」
タプリス「ああもう……、どうなっても知らないですからねっ」
37: 2017/05/08(月) 22:04:26.352 ID:FUaUiqcl0.net
ガヴリール『はぁ……はぁっ……』
ヴィーネ『ガヴ? 大丈夫? 苦しいの?』
ガヴリール『大丈夫、大丈夫だから』
ヴィーネ『なんとかして動いて、どけないと……』
ガヴリール『や、やめて……』
ヴィーネ『ガ、ガヴ?』
ガヴリール『はぁ……動かないで……動いたら……、もっと……』
ヴィーネ『あっ……』カァァ
ガヴリール『ヴィーネッ』
ヴィーネ『な、なに?』
ガヴリール『……だ、抱き締めて、いい?』
ヴィーネ『な、何言って……』
ガヴリール『ダメかな……ダメだったら……我慢する』
ヴィーネ『ガ、ガヴがしたいのなら……別にいいけど』
ガヴリール『……ありがと』
ぎゅぅ
ヴィーネ『……ッ』
――
タプリス「きゃー! 先輩たちきゃー!!」
バンッ バンッ
マスター「い、痛い! 痛いって助手!」
犬「あれだけ躊躇ってた助手が一番、大興奮だね、マスター」
38: 2017/05/08(月) 22:06:30.360 ID:FUaUiqcl0.net
ちゃぽん
ガヴリール『……』
ヴィーネ『……』
ガヴリール『……さっきは、ごめん』
ヴィーネ『どうして謝るの?』
ガヴリール『だって……いきなり抱きついて、しかも裸で』
ヴィーネ『それを言ったら、私だって映画を見てから』
ヴィーネ『抱きつきっぱなしだったじゃない』
ガヴリール『それとは理由が違うというか……』
ヴィーネ『理由ってどんな?』
ガヴリール『それは……』
ヴィーネ『ねえ、ガヴ教えて? ガヴはどうして……』
ヴィーネ『どうして……私のこと、抱きしめようと思ったの?』
ガヴリール『……いやらしいと思うかもしれないけど』
ガヴリール『お前の素肌の熱を感じて、気持ちが溢れてとまらなかったというか』
ガヴリール『もっと触れ合いたい、熱を感じたいって……そう、思ってしまった』
ヴィーネ『そ、そう……なんだ』
ガヴリール『……軽蔑したか』
ヴィーネ『ううん、そんなことない。むしろ……なんだろう、この気持ち』
ヴィーネ『私……嬉しかった、のかもしれない』
ガヴリール『えっ?』
39: 2017/05/08(月) 22:09:02.410 ID:FUaUiqcl0.net
ヴィーネ『なんて、ね。さ、そろそろ上がりましょうか』
ヴィーネ『これ以上は、のぼせちゃうから』
ガヴリール『ヴィーネ……ま、待って。い、今のって……』
ヴィーネ『ガヴ……のぼせ、ちゃうから……ね?』
ガヴリール『……あ、ああ、わかった』
――
タプリス「あぁ、きゅんきゅん! きゅんきゅんしますぅ!!」
ダンッ ダンッ ダンッ
マスター「ようやく助手も、百合少女の良さがわかってきたようだね」
犬「二人の仲も、あと一息だしね」
タプリス「それで、マスター! 次の一手は何ですか!?」
マスター「ああ、次かい? もうないよ」
タプリス「えっ、そ、そんな……」
マスター「ここまで高まりあった二人に、余計な小細工なんて、もう不要さ」
マスター「あとは流れるままに、自然に、行く末を見守ろうじゃないか」
犬「この緩急が、百合を育むために必要なんだよね」
タプリス「べ、勉強になります……」
40: 2017/05/08(月) 22:11:50.453 ID:FUaUiqcl0.net
ヴィーネ『ガヴ、どうする? 少し早いけど……もう寝ちゃう?』
ガヴリール『そ、そうだな。そうするか』
ヴィーネ『ちょっと待っててね、準備するから』
ガヴリール『お、おう』
ガヴリール『あれ、ヴィーネ。いつもの来客用の布団は?』
ヴィーネ『えっと……』カァァ
ガヴリール『ま、まさか……』
ヴィーネ『だめ、かな?』
ガヴリール『そ、そんなの今まで一度もなかっただろ』
ヴィーネ『まだその……こ、怖くて……』
ガヴリール『そ、そうか。それなら……仕方ないか』
ヴィーネ『ご、ごめんね』
ガヴリール『い、いや、謝ることなんてない。へーき』
ヴィーネ『じゃあ、電気消すね?』
ガヴリール『お、おう』
――
マスター「大人の階段のーぼるー♪」
犬「君はまだー♪」
タプリス「シ、シンデレラさー」
41: 2017/05/08(月) 22:13:41.537 ID:FUaUiqcl0.net
ぎゅぅ
ヴィーネ『……』
ガヴリール『まだ、怖いか?』
ヴィーネ『……う、うん』
ガヴリール『そうか、わかった』
ヴィーネ『でも……私のこと気遣って、このまま夜が明けてしまう方が』
ヴィーネ『もっと怖いから』
ガヴリール『ヴィーネ?』
ヴィーネ『ガヴは私に、もっと触れたいって言ってくれたよね』
ガヴリール『あ、ああ』
ヴィーネ『私……ガヴになら……ガヴにだったら』
ヴィーネ『触れて、欲しいから』
ガヴリール『それは、その……そう思っていいんだな?』
ヴィーネ『うん……ガヴも、だよね?』
ガヴリール『そうだな、そうだと思う……いや、そうだ』
ガヴリール『私は……私はヴィーネのことが――』
ぎゅぅぅ
ヴィーネ『……えへへ、私も』
ガヴリール『ヴィーネ……』
ヴィーネ『ガヴ……』
42: 2017/05/08(月) 22:15:18.179 ID:FUaUiqcl0.net
ポチッ ブツンッ
マスター「あぁっ、な、何するんだ、助手! これからが、いいところなのに!」
タプリス「もう、これで大成功で良いじゃないですか」
タプリス「これ以上は……野暮ってものですよ」
タプリス「あとはお二人の、お二人だけの世界にお任せしましょう」
マスター「……そうか、まぁ、そうだな……、一理ある」
マスター「あとは各々で、妄想をふくらませる訓練だ」ポロポロ
犬「泣くほど悔しかったんだね、マスター」
-ヴィーネの家 前-
マスター「ふっ、また新たな百合カップルを成立させてしまった」
犬「今回は楽勝だったね、マスター」
マスター「ああ、バレることがなかったからね」
タプリス「あなたたち……こんなことずっと続けているんですね」
マスター「もちろん。百合少女あるところに、我あり」
マスター「決して表舞台に立つことはないけどね」
犬「やってることは、ド最低だけど格好良いよ、マスター」
44: 2017/05/08(月) 22:17:29.509 ID:FUaUiqcl0.net
ゴロゴロゴロッ
マスター「ん? 雲行きが……」
ピカッ ズドンッ
犬「きゅぷぷぷぷぷぷぷっ!!」
マスター「きゅ、じゃなかった、犬ーーーーー!!!」
犬「」
タプリス「犬さん! 犬さん! しっかりしてください!」
ムクッ
犬「……わん、わんわんっ」
タプリス「よ、よかったぁ、無事だったんですね」
タプリス「でも、急にどうしたんですか、犬さん。犬の真似なんかして……」
マスター「いや、助手。これは……」
タプリス「えっ」
マスター「あいつはもう……消えて、しまったんだ」
45: 2017/05/08(月) 22:19:56.927 ID:FUaUiqcl0.net
タプリス「そ、そんな……」
マスター「そうか、ようやくわかった。僕たちがここに来た理由」
マスター「それは……この子たちを結ばせるためだったんだ」
ゴロゴロゴロッ
タプリス「じゃあ……マ、マスターさんも?」
マスター「ああ、そういうことだろう」
タプリス「嫌です! わたし……まだまだ、あなたから教わりたいことが山ほど!」
マスター「いや、助手に教えられることは、もう何もない」
マスター「既に君は、僕と同じ……百合少女を愛する人間だ!」
タプリス「そんな、師匠! いかないで!」
マスター「ははっ、そうやって呼ばれるのは本当に久しぶりだ」
マスター「よく聞くんだ!」
マスター「この世界にも、悩める百合少女が、たくさんいる!」
マスター「だから君が、そんな子たちの導き手となってくれ!!」
マスター「頼んだぞ、我が助手よ!!」
ピカッ ズドンッ
マスター「あばばばばばばばばっ!!」
タプリス「ししょぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
46: 2017/05/08(月) 22:22:04.161 ID:FUaUiqcl0.net
-数日後 エンジェル珈琲-
タプリス(こうして一連の騒動は……)
タプリス(あの二人……いえ、一人と一匹が)
タプリス(再び雷に打たれるという奇跡によって、幕を下ろしました)
マスター「て、天真くん」
マスター「お客さんとあまりそういうことするのは……」
タプリス(マスターさんも、すっかり元通りとなり)
タプリス(天真先輩に、頭が上がらない日々が続いています)
タプリス(そして、この二人は……)
ヴィーネ「はい、ガヴ。あーん」
ガヴリール「あーむ。うん、うまいな!」
ヴィーネ「そう? よかったぁ」
ガヴリール「きっと、ヴィーネが食べさせてくれたからだな」
ヴィーネ「えへへ、ガヴったら。私にも食べさせて?」
タプリス(すっかり、バカップルが板についてしまいました)
47: 2017/05/08(月) 22:24:38.171 ID:FUaUiqcl0.net
タプリス(あの正体不明の一人と一匹が残した功績は……)
タプリス(あまりにも大きいものだったのです)
からんからん
サターニャ「遊びに来たわよー、ってあんたたち……」
ラフィエル「あらあら、相変わらず仲がよろしいみたいで」
タプリス(師匠だったら……)
タプリス(今来た、このお二人を見て、なんと言うんですかね)
『目の前に女の子が二人いれば、それはもう、百合なのさ!』
タプリス「ふふっ」
タプリス(なんですかそれ……)
タプリス(でも、そうですね、わたし一人でも……)
タプリス(やってみましょうか!)
タプリス「わたしの戦いは、まだ始まったばかりなんですからっ!」
おしまい
48: 2017/05/08(月) 22:25:54.217 ID:qtLTnwmA0.net
おつおつ
ヴィーネとガヴちゃん可愛いよ
ヴィーネとガヴちゃん可愛いよ
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