67: ◆tFAXy4FpvI 2012/11/29(木) 09:34:00.62 ID:LnDVmjR4o



前回はこちら



 「はぁはぁ、やっと森を抜けたわ……」

「ああ、大丈夫?おばあさん!?」

「あ、あぁ……なんとか無事さね」

私の名前は 如月千早。
クロイ帝国に拐われた姫を救出するために雇われた勇者です。
一つ目の森で菊地真と出会い、喧嘩をしながらも仲間になることができた2人は、(私は一人でも構わないのだけど)
旅を初めて3日目。
一つ目の森を難なく制覇し、2つ目の森へ。

その中でおばあさんと出会うのであった。



千早「キサラギクエスト」シリーズ



68: 2012/11/29(木) 09:37:06.95 ID:LnDVmjR4o
――森。


「おや、あんた達、こんな所で奇遇だね……」

「ど、どうしたんですかおばあさん!こんな森で!  危ないですよ!?」


森の中で偶然鉢合わせしたおばあさんに真が真っ先に駆け寄る。


確かにこの森は多少強い魔物が多くいるし、まだこの場所は地図から言っても 結構深い場所にある。

69: 2012/11/29(木) 09:39:29.57 ID:LnDVmjR4o
「すまんのう。この森にある山菜や薬草を取りに来ていた所、  いつの間にか随分と奥まで来てしまったようなのじゃ」

「そうなんですか……おばあさんの住んでいた街は?」

私がそう尋ねると、

「えっと、この森を抜けて、あちらの方角にある  アズミンという静かな街じゃ」

と答える。

「アズミンって言ったら僕達も向かっている所ですよ」

真のいう通りで、私たちはとりあえずこの森を抜けたらアズミンで休憩をしようとしていた。

70: 2012/11/29(木) 10:50:08.16 ID:LnDVmjR4o
「そうね、そこまで一緒に行きましょう?」

「おや、ありがたいありがたい。森を抜けた所で平気じゃから
 そこまでお願いしようかのう」

「ええ、もちろん。私は如月千早と言います」

「僕は菊地真」

「黄石三穂という者じゃ、よろしくな」

――。

71: 2012/11/29(木) 10:57:12.16 ID:LnDVmjR4o
それから私たちは魔物からおばあさんを守りながら戦うのであった。
おばあさんは以外と勇気があり、私達が攻撃を受けると

「こら、若い女の子をいじめるでねぇ!」

と自前の杖を振り回した。

しかし、その度に攻撃を喰らい少ない体力のために
すぐに回復薬を目一杯使わないと氏にかけてしまう。

回復薬は尽きてしまった。
安いものじゃないんですが……。
足手まと、いえ、やめましょう。
考えないようにしよう。ただ守ることに専念しよう。

一度一緒に行こうと言ったからには仕方ない。

回復薬……はぁ、街で補給しないと。
まぁ、街はこの森から歩けばそう遠くはないし、平気か。

72: 2012/11/29(木) 11:02:16.48 ID:LnDVmjR4o
「おお、森を出たか。ワシはここで大丈夫じゃ、ありがとう」

そう言いながら真におぶさっていたおばあさんは降り町のある方向とは逆を向いた。

「え? でも町はあっちですよ?」

「ええんじゃよ。ワシは町外れに住んでいる変人ばあさんで通ってるからな」

確かにこんなモンスターばかり出る森にわかって入るのは……。

「ふぇっふぇっふぇ、街で聞いてみなさい。町外れにいる変人のばあさんのことについて」

「そうですか。では私達も急ぎますので。ここでお別れしましょう」

「え? 千早!? せめて送らなくていいの!?」

「ここならもう街に近いし、モンスターも出ないわよ」

何より足枷が外れると思うとすぐに別れたかった。
申し訳ないことだけれど、ね。

73: 2012/11/29(木) 11:06:46.22 ID:LnDVmjR4o
「ならいいけど、おばあさん、良かったらこのホイッスルを使って?
 結構遠くまで響くものだから、魔物に襲われたらこれを吹いて?」

そんなもの持ってたのね。というかいつの間に? 元々持っていたもの?

「そしたら僕達が助けに行くから」

「おお、ありがたいありがたい。」


そして、ホイッスルを受け取ると真とハグをして 私とは握手をして歩いて行ってしまった。


「なんだか面白いおばあさんだったね」

「そう……ね。回復薬がもったいなかったけれど」

「そういうこと言うなよ!
 また買えばいいじゃないか!」

74: 2012/11/29(木) 11:13:13.70 ID:LnDVmjR4o
「じゃああなたの分はこれから2分の1にするわよ?」

「それは僕が氏んじゃいそうになったらどうするつもりなんだよ!」

「千早って……そんなケチだったっけ?」

ジト目で見てくる真。

「べつにケチじゃないわよ」

森を抜け2人で見晴らしのいい草原進む。
少し歩くと街にまで続いてる獣道の脇に山のように大きな荷台が積んである貨車があった。
まるで本当に1つの山みたいになっている。
荷物は見事なバランスで積まれていて乱暴に間の荷物を引っ張れば崩れてしまいそうなものだった。
なんだろうか。

旅芸人の人? 貨車の先には首輪のついたゴーレムがいた。
たぶんこいつが押して移動してるんだろう。

75: 2012/11/29(木) 11:17:49.72 ID:LnDVmjR4o
「おやおや~。森から出てきたお客さんかな!?」

大きな荷物の上からひょっこり顔を出したのは小さな女の子だった。
向かって左側にちょこんと小さく髪を結んでいた。

「んっふっふ~。こんにちは。お姉ちゃん達。森はどうった?
 私は亜美って言うんだけど何かお困りじゃないかな? いいものあるよ~?」

「そうね、すごく疲れたわ。いろいろと」

「いろいろとって……それはおばあさんのことか!?」

76: 2012/11/29(木) 11:21:50.80 ID:LnDVmjR4o
「んっふっふ~。じゃあ回復薬がいるんじゃない?」

ぴょんっと荷物の上から私達の前に降りてくる。
くねくねしながら上目遣いをし

「じゃあじゃあ売ってあげるよ?特別に?」

「いくらで?」

「ふふん、そうだね。あの街で売っているものよりも  半額でどうよ?」

そう言いながらもうすぐそこに見えているアズミンの町を指差しながら言った。
次の町で買おうと思っていたからちょうどいいわ。

「そう、なら買うわ。5つほどもらうわ」

「まいどありー! ちょっと待っててね~!」

77: 2012/11/29(木) 11:29:12.90 ID:LnDVmjR4o
ゴソゴソもぞもぞと、大量に積まれた荷物の山の中に潜り込んでいった。
頭から潜り込んでいったために短いスカートからパンツが丸見えだった。

そして、ぽんっと、頭、と胴体だけを荷物の中からひょっこり出して

「はい、回復薬!」

と渡してきた。受け取ってお金を渡す。
それからそのまま真を見る。
まるで胴から先が荷物から生えてるみたいになっていて軽くホラーだった。

「そっちのお兄ちゃんは何にするの?」

「僕は菊地真。れっきとした女の子だ!」

真は私とのやり取りですっかり慣れたようでさらっとツッコミを入れる。

「ありゃま! それは失敬。んじゃまこちん。何か買う?」

78: 2012/11/29(木) 11:53:34.30 ID:LnDVmjR4o
「そうだね、えっと、僕今いくら持ってたっけ……」

「新しい、防具が欲しいんだけど……」

ゴソゴソと腰に装備してあるポーチを漁る真。

「えっとね。……ん?」

「あれ?……あれ?おかしいなぁ……」

「どうしたの?」

「ないんだよ、何にもないんだよ!!」

ポーチをひっくり返す。
だが、なんにも落ちてこない。

覗くとポーチの中身は空っぽだった。

79: 2012/11/29(木) 14:32:57.31 ID:K9kPglqQo
「森に落としてきたんじゃ……」

「いや、だって森にいた時は普通に道具はあったし使ったよ?」

「きっと口を閉め忘れて落としたのよ」

「えぇそんなぁ……! おかしいなぁ」

腑に落ちない様子でガックリする真をよそに亜美と名乗るその少女は

「なんだよ、まこちん一文無しかよー……。
そんなお金持ってない子はあたしゃ用はないんだよ! しっしっ!」

真はそんなことを言われながらも未だに納得いかないで空になったポーチを何度も見ていた。

「あ、お姉ちゃんの方はいつでも頼ってねぇ→」

「旅の商人、亜美ちゃんはいつだってあなたの心に現れるんだからっ☆」

キラッとウインクをし目から星を飛ばしてくる亜美。
可愛い。

80: 2012/11/29(木) 14:37:16.19 ID:K9kPglqQo
「おっしゃー! んじゃ次の街まで安全航路をとって出発だよゴーレムちん!」

ゴーレムと、えいえいおー! をしてから荷物を山のように詰んだ貨車はゆっくりと動き出し行ってしまった。
せっかくの安い買い物のチャンスの前にがっくりと項垂れる真。

「ま、まぁ、きっと次はチャンスがあるわよ……でも私、少し気になることがあるのよ」

「……気になること?」

「盗まれたんじゃないかしら? それ」

「誰に……。今の商人に?」

「違うわよ……あのおばあさんに」

「また千早はそうやって!」


キッ、と睨みつけるが、真自身もあのおばあさんを庇える自身がなかったのか、 そのあと何も言えなくなる。

81: 2012/11/29(木) 14:39:07.49 ID:K9kPglqQo
「だ、だけど……そんなの……わかんないよ。あのおばあさんは確かに
 おばあさんだし、すごく良い人だったじゃないか……」

「そういう人に限って、っていうのはよくある話じゃない」

「だけど……結構、歳もいっていたし、そんな体力……」

「そうなのよ……そこなのよねぇ……」

それだけはどうもわからなかった。

82: 2012/11/29(木) 14:50:46.20 ID:K9kPglqQo
――――森、出口。



「ほう……あの、青い子の方が鋭いようだねぇ……」

よぼよぼの体に杖をつきながら森から離れていく。

「って、もうこんな喋り方はしなくてもいいの」


ベリベリベリ……。


顔から変装用の特殊マスクを剥がす。
それから魔法で骨格を変えていたのをもとに戻す。
魔法で加えているから絶対にばれない。
あっという間に金髪美少女に元通り。

「ぷっ、あの人達とっても面白かったの……」

「黄石美歩だって……ぷぷっ、きいしみほ……
 本当の名前は星井美希だってのに……可愛いんだから二人共!」

83: 2012/11/29(木) 14:56:37.85 ID:K9kPglqQo
――――森、出口。


「ほう……あの、青い子の方が鋭いようだねぇ……」

よぼよぼの体に杖をつきながら森から離れていく。

「って、もうこんな喋り方はしなくてもいいの」

ベリベリベリ……。

顔から変装用の特殊マスクを剥がす。

それから魔法で骨格を変えていたのをもとに戻す。
魔法で加えているから絶対にばれない。
あっという間に金髪美少女に元通り。

「ぷっ、あの人達とっても面白かったの……」

「黄石三穂だって……ぷぷっ、きいしみほ……
 本当の名前は星井美希だってのに……可愛いんだから二人共!」

84: 2012/11/29(木) 14:59:48.02 ID:K9kPglqQo
「まぁ、ミキからしたら本当にチョロいカモだったなあーって」

「真くん、結構お金持ちだったし、ミキちょっと好きなの」

「でももう全部もらっちゃったし、用なしかなぁー」

「そういえば二人共アズミンに入るんだった……。じゃあ少しあの街に保険をかけておく必要があるの」


――――。

85: 2012/11/29(木) 15:04:03.37 ID:K9kPglqQo
「でも、取られちゃったものはしょうがないか。武器さえあれば戦えるんだし……」

「あなたの回復薬はないから私はあげないわよ?」

「なんでだよ! 少しくらいもらってもいいだろう!?」

「よくないわよ。あれはさっき私が上手な買い物をしたのよ?
 見たでしょ?」

「うぅ……あっ!そうだ!!」

「何よ……半分ことかもお断りよ?」

「違うよ! 回復薬がなくても回復できる方法があるだろう!?
 魔法使いだよ! ヒーラーを探そうよ!一緒に度をしてくれる人!」

86: 2012/11/29(木) 16:31:55.13 ID:K9kPglqQo
「……なるほど。それはいい案とは言えるわね……
 あまり足手まといが増えるのは気がすすまないけれど」

「誰が足手まといだよ!」

「真よ」

「違うね! 僕はそんなんじゃないね!」

こうして、次の街で魔法学校なりなんなりを探そうと決めたのであったが……。



ズバァァアンッ!!


森の木々が倒される音が聞こえた。
さほど遠くまで行ってない森。
まだまだ見る距離にある森。

だが、振り返るとそこには見たことのあるモンスターがいた。

87: 2012/11/29(木) 16:35:24.23 ID:K9kPglqQo
馬のような体が帯電して白く光っている。
頭には大きな角がある。

「ゆ、ユニコーン!?」

真が大きく後退りする。
少しトラウマになっているみたい。
馬みたいなモンスターだけに、ぷっ。
あ、いえ、今のは忘れてください。

「だ、だってあの時倒したのが、恨みで追ってきたのかもしれない……!!」

「そ、そんな……バカな……森を一つ挟んでもなお追いかけてきたの!?」

しかし、私達の動揺も関係なく頭を振って足を踏み鳴らしている。
突進の合図。

88: 2012/11/29(木) 16:38:21.44 ID:K9kPglqQo
幸い森を抜け草原地帯にいる今、
広く短絡的な突進攻撃は避けることは容易いが、
実に回復薬が5つと少なさでは危険である。

「ま、待って真。あのユニコーン……角がある……確かに斬ったはずよ」

「そんな一週間や二週間で生え変わるわけない……」

「あれは……私達が倒したユニコーンの恋人……これはたぶん、オスのユニコーンよ……」

だとしたら非常にまずい……。
恋人の、それもユニコーンのシンボルでもある角を切り落として
背骨とかバキバキにして来たのを帰ってきたオスが見つけたのだろう。

89: 2012/11/29(木) 16:40:47.71 ID:K9kPglqQo
きっと怒り心頭で追いかけ続けたに違いない。
幸いなのはあの足手まとい、ぶっちぎりNo.1のおばあさんと別れたこと。

おばあさんはもう近くにはいないだろうし、そっちに行く心配はないにしても
こちらの命が心配である。

ドドッドドッ!

大きく地面を揺らしながら突進してくる。

なんとか横に飛び、避けるがすぐにユニコーンも振り向き二回目の突進を決めてくる。
剣を抜き刀身でガードをする。
しかし圧倒的な力で角が目の前まできてどんどん押されていく。

90: 2012/11/29(木) 16:44:56.54 ID:K9kPglqQo
「千早ぁぁ!!」


ドンッ、と大きな音を立てながらユニコーンの胴体を殴りつける真。
ユニコーンは大きく飛び退き、体勢を建てなおす。

それから 、真に向けて今度は走りだす。

「こんな所でやられるわけには……! 僕の必殺技を見ろ!」

そう言うと突如、真の拳には炎が宿り出す。

「行くぞ! ファルコンパーーーンチ!!」


何かしら。わからないけれど色々アウトな必殺技が炸裂する。(したと思う)

残念ながらファルコンの幻影はでないが ユニコーンの顔面にヒットする。

殴られた衝撃で突進の起動がずれて真には当たらなかったが、
非常に怒っているのが目に見えてわかる。

91: 2012/11/29(木) 16:47:07.73 ID:K9kPglqQo
角に電撃を集めだすユニコーンに対し、あの時みたいに上手くいくのだろうか。
おそらく攻略法的には同じなのだろうけれど、このユニコーンのが相当厄介だろうと、感じる。

角から電撃が走り、剣の刀身で受け、電撃を受け流し弾く。

その隙に真が走っていくが、後ろ足の蹴りをモロに喰らう。

「ぐあぁぁっ!」


ズザァァアッ!


草原をダイナミックに滑り、転げる真。
そして……立ち上がらない。

92: 2012/11/29(木) 16:51:58.01 ID:K9kPglqQo
だから足手まといなのよ、とも思いつつ。

(何をしているの真、早く回復を……)

(しまった……持ってないのか……!!)

(分け与えておくべきだった……)


再び来る電撃を剣で弾く、とすでにユニコーンは体を真の方に向けている。
真が危ない!

しかし、ここからユニコーンを追いかけるには人間の脚力では不可能。ましてや追い越して真を助けるなんてもっと無理。 追いつけない。



「真ぉーーーーっ!!」

93: 2012/11/29(木) 16:58:32.99 ID:K9kPglqQo
ドッドドドド!!


ズドォォオオンッ!!

その瞬間、横から何か大きな物がすごいスピードでユニコーンにぶつかった。
怪獣大決戦でも見てるかのような迫力だった。

そこにはユニコーンに横から体当たりするベヒーモスがいた。

ユニコーンが軽く吹っ飛び、草原に倒れる、そこを追い打ちをかけるかのように 顔面を殴りつけまくるベヒーモス。

ベヒーモス大暴れ。


「いいぞー! いぬ美ー! やっつけろー!」

94: 2012/11/29(木) 17:01:16.90 ID:K9kPglqQo
私の目の前には大きなポニーテールをした女の子が立っていた。
踊り子なんではないかと思うくらいの大胆な服。
私もあんな格好できたら……いや、しないけれど!

その少女は振り返るとニカッと笑い


「もう大丈夫だぞ! でも、君たちすごいね!
 あのユニコーン相手に生身で戦うなんて」

「は、はぁ……」

あなただって戦っているのでは……?
あのベヒーモスはどうみてもあなたのでしょう?

96: 2012/11/29(木) 21:57:52.37 ID:/2jkOV7So
「いいぞー! いぬ美! 噛み付き攻撃だ!」

いぬ美、もといベヒーモスはそれでもユニコーンを殴り続ける。
どうやら言うことを聞いていないらしい。

いぬ、というのは昔、本当に小さな頃、絵本で異世界のことを書いたもので見たことがある。
首輪でつながれて人なんかよりもずっと小さい動物。

その動物に人々は癒しを求めて飼うのだけど。
このベヒーモスはどうみても癒しを求めて、というよりかは完全に戦力だけど……。

「うぎゃー! 違うぞ! 殴る、じゃないぞ!?」

いぬ美、大暴れ。
ユニコーンはすでに意識がない様子。

97: 2012/11/29(木) 22:01:21.23 ID:/2jkOV7So
「こらー! 言うことを聞いてよー!」

その場で地団駄を踏むその少女はあきれ果ててとうとう

「もう、言うこと聞かないから戻すからな!」

と言い、小さく呪文を唱えてる。

ベヒーモスを囲うほどの大きな魔法陣が足元に現れる。
そしてその中に吸い込まれるように消えていった。

一方、ユニコーンは全くと言っていいほど動かなかった。

撲殺。

恐るべし、ベヒーモスの本気。

98: 2012/11/29(木) 22:07:14.56 ID:/2jkOV7So
ユニコーンの角を回収してからついでに真も回収。
真には無理矢理に回復薬を飲ませとりあえずは回復させる。

真自身は怪我は回復したが気絶してるままだったのでとりあえず背負って、町へ向けて歩き出す。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」

目の前の道を通せんぼする先ほどの少女。
悲しそうな目眼差しを向けられた。

「うっ、そ、その、さっきはありがとう。助かったわ」

「でしょ!? でしょ!?」

うざい。そんな風にキラキラした目を向けないで。

99: 2012/11/29(木) 22:09:51.94 ID:/2jkOV7So
「自分、我那覇響って言うんだ! 今は訳あって旅をしてるんだぞ!」

「そう、我那覇さん。……それじゃあ」

「ちょっと! ねえ! 待ってってば!」

「何?」

少し冷たく言い過ぎたかしら?
今にも泣きそうになっているのだけど。

「ねえねえ、君たち二人共、本当にすごいね!
 かっこよかったよ! 2人だけで挑んでさ!」

「……結局、ユニコーンを倒したのはあなたよ? 我那覇さん」

100: 2012/11/29(木) 22:17:28.86 ID:/2jkOV7So
「そうだけどさ、でも自分自身で戦うなんて怖くてできないぞ……。
 2人みたいに強く、自分もなりたいんだ!」

キラキラと目を輝かせながらグイグイとこっちに……うぅ、顔が近い。

「だからさ、自分も少しだけお供させて欲しいんだ! ね?いいでしょう?」

「イヤよ、ただでさえお荷物があるのにこれ異常増やすのはごめんよ」

背負う真をチラッと見る。

「そんなこと言わずにさー! ねえねえー! 名前くらい教えてよ」

袖をくいくい引っ張って上目遣いをしてくる我那覇さん。
あの……人一人背負ってるんですけど。

「はぁ……如月千早。こっちのは菊地真よ」

101: 2012/11/29(木) 22:22:39.86 ID:/2jkOV7So
「ねえ千早? いいでしょ?」

上目遣い……この上目遣いはズルい。

「あのベヒーモスがいればあなたは別にいいんじゃないかしら?」

「ベヒーモス? あぁ、いぬ美のこと?」

「実はいぬ美はそんなに言うことを聞いてくれないんだよ……」

「うーん、やっぱり召喚の時の魔法陣が間違ってるのかなぁ?」

とブツブツと腕組ながらひとりごとを言い出した。

「他にはバハムートのハム蔵とかいるんだけど……」

「うぅ、いいわよ、別に今呼ばなくても……あなたは、一体?」

102: 2012/11/29(木) 22:27:54.71 ID:/2jkOV7So
「自分? 自分は召喚士なんだ!
 いろんな動物がいるんだけど、みんなと戦うのが一番好きなんだ!」

私にはとても真似できない眩しい笑顔をこちらに向ける。
なんだか、実はとてもすごい人が勝手についてくることになったのかもしれないわ。
ポテンシャルの高さ。

そうこう話ながら、いつの間にか町の入り口まで来ていた。

町は静かで綺麗な町だった。
まずは宿を探して、このデカイ荷物を置きたい。

「ねえ、千早! この街では何をするの?」

宿を迅速に見つけ、すぐに手配を済まし部屋へ。
部屋につくなり、真をベッドに放り投げる。

103: 2012/11/29(木) 22:33:35.55 ID:/2jkOV7So
「はぁ……もうダメ。さすがに疲れたわ」

「うぎゃー! 可哀想だろ! もう!」

と言いながら真をちゃんとベッドに寝かす。

その横でテーブルにつき、一息つく。

「そうね、このままだと消費するだけの回復薬。
 これだけでお金が底をつきそうだわ。
 だからこの町でヒールの魔法を使える人を探そうと思っているのよ」

「へぇ~、魔法使いか。じゃあここの教会に行ってみたらどう?」

「協会?」

104: 2012/11/29(木) 22:39:51.50 ID:/2jkOV7So
「うん。自分、千早たちと会うまではこの町に元々滞在してたし、
 結構この町には詳しいんだぞ?」

それは願ってもない情報だわ。

「そこに魔法を使える人はいるの?」

「えっと、魔法ではすごく有名な、えーっと、何とか組って組合なんだけど」

「組合? 協会なのに」

そこはかとなく、地雷臭がするのだけど。

「そう、まぁ、でもとにかく行ってみましょうか」

「今から? あ、じゃあ自分も一緒にいくね!」

「わかったわ。じゃあ真には書き置きでもしておこうかしら」

105: 2012/11/29(木) 22:45:20.68 ID:/2jkOV7So
真のためにこれから我那覇さんと2人で協会に行く事を書き置きして
宿をあとにすることにした。

宿を出ると我那覇さんは

「ほら、この町のどこからでも見れるあの丘の上にある建物がそうなんだ」

指をさす方角には丘の上にそびえる大きな教会があった。
どうやらこの町はあの教会を中心に成り立っている町らしい。

すると、

「おや? 旅の人かい? 協会に行くのかい?」

「そしたら是非、私の名前を使ってくれ」

「いや、私のを頼むよ」

「いや、私のを」

今の少しの会話を聞いたのか、町を歩いていたそこら中の人が
寄ってきて、同じようなことを口々に言い出した。

106: 2012/11/29(木) 22:46:57.27 ID:/2jkOV7So
何? なんなのこれは。どういうこと?

「ごめんな、みんな。ありがたいけど自分が一番のりさー」

そう我那覇さんが近づいてくる人達に言うと

「そうか、なんだ」

「先客がいたのか……そりゃ残念だ」

と諦めて離れていった。

「あの、一体これはどういうことなの?」

107: 2012/11/29(木) 22:53:16.38 ID:/2jkOV7So
「この教会の持つ宗教の勧誘をすると協会では願いが叶う道に
 近づく、とされていて、たくさんの人をみんなが勧誘したがるのさ。
 だけど、この町自体があの教会のものでほとんどの人が加入済みなんだ」

「だからああやって他所から来た客なんかにはみんで寄ってたかるってわけね」

なるほど。なんだかいよいよ怪しくなってきたわね。

「少し変わった町なんだよ。ちょっとおかしいんだ」

「そのことにも気づいてないんだ。だからやっぱりおかしいんだよ」

そう私と同じような感想を言う我那覇さん。
丘の上の協会を目指して歩き出す。


108: 2012/11/29(木) 23:00:42.84 ID:/2jkOV7So
しばらく急な上り坂を登り、大きな教会の門についた。
洋風なその造りの門とは裏腹に野太い字で大きく
『萩原組』と書かれていたのを私は見逃さなかった。

協会には何も問題なく入れ、誰にも止められることもなく進む。
そこで一人のシスターに、萩原組の責任者に会いたい、とお願いすることに。

「お2人共、教義に興味がおありで?」

「自分、別にここの宗教は興味なムガムガッ」

「ええ、だから、その合わせて欲しいのだけど……だめかしら?」

折角のチャンスを水の泡にする所だった。
確かに興味が無いけれど、そうでも言わないと奥には通してもらえそうにはなかったので
ここは仕方ない。

109: 2012/11/29(木) 23:08:12.81 ID:/2jkOV7So
シスターの一人に案内され礼拝堂のさらに奥に通される。
こうも簡単に通されていいものだろうか。

廊下には歴代の組長の名前と写真がでている。

そして、12代で最新なのか、そこで終わっていた。

「なんだか不気味な場所だぞ……」

我那覇さんはすっかり私の後ろに隠れている。

そして通された場所は大きく、そこはさっきとは別の礼拝堂のような広い場所だった。
奥からスーツの男が一人、とずいぶんと老けたおじいさんがでてきた。

「あなたが、萩原さんですか?」

一緒にでてきた付き人のような黒いスーツの男が椅子をサッと出し
そこには萩原さんは座る。

110: 2012/11/29(木) 23:13:15.67 ID:/2jkOV7So
「ふん、お前たちは……信者になりつもりはないようだな」

ギクッ。

「見ればわかる。目の色が違う。魂の救済を神に求めた者とは違う。
 2人共まだまだ自分の力を信じているし、それを諦めようとしていない」

「そんなものに宗教は必要はない」

そう、萩原さんは言う。老いてなお鋭い眼光で私達を睨みつける。

「そう……ですか」

「ふん、だが、ここまで来てるのには何か用があるのだろう……。
 要件はなんじゃ」

ゆっくりとした口調で言う。

111: 2012/11/29(木) 23:17:29.77 ID:/2jkOV7So
「私はバンナムから旅をしてきた勇者の一人です。
 応急の姫の事件はすでに聞いているとは思います」

「あぁ、もちろん知っている」

「そこでその救出に向かっている勇者の一人が私なんです」

「えぇ!? そ、そうなの……!?」

隣で我那覇さんが驚いていた。
確かに言ってなかったから仕方ないか……。

「なるほど……その勇者が何の用なんじゃ」

そわそわと落ち着かない様子で私と萩原さんの交互を見る我那覇さん。
何がそんなに気になるのだろうか。
とにかくみっともないから落ち着きなさい。

112: 2012/11/29(木) 23:21:39.08 ID:/2jkOV7So
「はい、そこで私達と共に来てくださる僧侶、魔術に嗜みのある方を
 探しているのですが……どなたかよい人材はいないのでしょうか?」

ピクッ。
と萩原さんの眉が少し動いた。
これは何かある……。

断られる前に。

「もしかして、何か心当たr」

「あ、あのぉ!」

バンッ! と勢い良く開いたのは背後にあるドアだった。

うわぁ、とびっくりして声が漏れている我那覇さんを尻目に
振り返ると、他のシスター達とは違う格好をした、女の子がいた。

113: 2012/11/29(木) 23:32:29.13 ID:/2jkOV7So
肌も白く、いかにもこのスーツを来ている付き人とは正反対のようなか弱い子だった。


ガタンッと座っていた萩原さんは立ち上がり、その子に向かって言った。

「雪歩、何故出てきた! 今はお客さんがいるのだぞ」

「ごめんなさい、お祖父様。だ、だけど、私、外の世界にどうしても行きたくて……」

「ならん!」

「ひぅ……」

大きな声にビクついたその雪歩と呼ばれる少女はそのまま黙ってしまった。
耐えられなかったのか我那覇さんが付き人の黒いスーツの男に聞いた。

「ねえ、あの子は?」

「申し訳ございません。お答えできません」

と流されていたけど。

114: 2012/11/29(木) 23:47:36.81 ID:/2jkOV7So
組合。表の門にあった『萩原組』の看板。
この奥の場所の方がシスターよりも黒い服のスーツの男がたくさんいる。

……。何か嫌な予感がしてきた。

「だけど、私はいつまでもここには……」

「ならんと言ったらならん。外の世界はあまりにも危険すぎる」


「すみません、萩原さん。その子は?」

「おお、すまん。……恥ずかしい所を見せてしまったな。
 私の孫なのだ。名を雪歩という」

「よ、よろしくお願いしますぅ」

深々とお辞儀をされる。
釣られてこちらもお辞儀をかえす。

115: 2012/11/29(木) 23:53:50.63 ID:/2jkOV7So
「こ、こちらこそ。私はバンナムから来た勇者の如月千早です」

「ば、バンナムって……あの首都の!?」

目を丸くして驚いたあと、尊敬の眼差しを向けてきた。

「あ、あの、バンナムってどういう町なんですか?」

グイグイとこちらに食いついてくる少女。
しかし、それを止める萩原さん。

「雪歩、部屋に戻りなさい」

「えっ!? で、でも……私もお話聞きたいんですぅ」

萩原(祖父)さんは萩原(孫)さんに諭すように言うが、この娘。
なかなか頑固な正確である。
だけど、それの血の元であるこのおじいさんも頑固でした。

「部屋に戻りなさい、雪歩」

「……はい」

116: 2012/11/30(金) 00:06:08.53 ID:YGi4iFNSo
とぼとぼと扉の向こうに消えていく、少女。
最後は結局、萩原(祖父)さんの方が勝ってしまったが。

それから、萩原(祖父)さんはこちらに戻ってきて、

「すまないね。お見苦しい所を……」

と先まで座っていた自分の席に戻りながら言う。

「いえ、大変かわいらしいお嬢さんでしたよ」

お世辞はあまり上手く言えないけれど、白くて綺麗だったのは本当。

「まさか……あの子が外の町に興味を持つようになるとは」

はぁ、と溜息をつく。
しかし、そこに畳み掛けるのは、鋭く、そして羨ましいぐらいに空気を読まない発言だった。

「なんで連れていっちゃいけないんだ? 自分、連れて行くなら雪歩がいいぞ」

117: 2012/11/30(金) 00:16:03.67 ID:YGi4iFNSo
隣でビクビクしなくちゃいけない私の気持ちにもなってほしいのだけど。

「そうかい……。ありがとう。だけど、雪歩はだめだ。あの子だけはだめなんだ」

「雪歩はまだ弱い。彼女自身は何もできない子供のままなんだよ。
 だからこの町からはまだ出すことができない。それに」

それに? まだ理由が?

「雪歩にはこの教会を継いでもらいたいんだ」

「雪歩の面倒はわしが小さい頃からずっと見ている」

「わしらは雪歩を必要とし、雪歩もまたわしらが必要なんじゃよ」


118: 2012/11/30(金) 00:27:21.20 ID:YGi4iFNSo
親の気持ち……というものなのかしら?

私にはもうわからないものだけど。いえ、知ろうとは思わない。
普通は親はこう思うのかしら?

「でも自分が今見た感じだと、それはじいちゃんだけがそう思ってるんだと思うぞ?」

ギクッ。
そろそろ猿轡でもして黙らせたいのだけど。

「だって、雪歩にそんなこと聞いたのか?」

「ほう。だが、それくらいは雪歩に聞かずともわかるもんじゃよ」

「ふーん、でもそんな風にしばりつけたら雪歩だって可哀想だぞ?」

ピクピクと萩原さんの眉が動くのがわかる。やめて、これ以上は。
生きて帰れなくなる。
本当に勘弁してください。こんな子、置いてくるべきだった。
いえ、連れてくるべきではなかった。慣れ合うべきではなかったのかもしれない。

119: 2012/11/30(金) 00:50:38.17 ID:YGi4iFNSo
「すまないな、帰ってくれないか……」

やっぱり。

すごく怖い顔をしている。
手で顔を覆っているけれどわかる。あれは間違いなく怒っている。

その後、私は我那覇さんを引き連れて協会をあとに。
が、正面の門を目の前にした所、門の隅の草むらから声が。

「あ、あの……!」

見ると、そこには先程の少女、萩原雪歩が。

「おお、雪歩! 一緒に来るか?」

素晴らしいくらいの笑顔を草むらにいる女の子に向けるけれど、だめ。
今ここでこの娘を連れていけば、私達は地の果てまでも追われかねない。

この町、そのものを敵にまわすようなもの。
ここは穏便にすませたいところ。

120: 2012/11/30(金) 00:54:18.68 ID:YGi4iFNSo
本当のことを言うと、私はもう彼女ではなく別の町で探すのがいいんじゃないかと思っていた。

「あ、あの……私、町に興味があって、それでつい」

「どうしたんだ?」

彼女の顔を覗きこむ我那覇さん。

「あの、今晩は宿を変えるか、今すぐ町を出ていったほうがいいです」

突拍子もないことに、驚いたけれど、随分と嫌われたものね。
説明不足で何がどうなるというのかさっぱりわからない。

「えっと……どういうことかしら?」

「さっきのこと……お祖父様はすごく怒っていました……」

121: 2012/11/30(金) 01:00:26.75 ID:YGi4iFNSo
「げっ!? そうなのか……じゃあ謝りに行かなくぅげぇ!?」

振り返り歩き出そうとする我那覇さんの首根っこを掴み、無理矢理止める。
首がしまったのか手の甲をパンパンと叩くがとりあえず話を進めなくては。

「それで、もしかしたら、いえ、もしかしなくてもお祖父様の部下の方々が
 お二人の宿泊している場所に今すぐにでも襲撃する可能性があるんです」

「いつもそうやって、お祖父様は自分を怒らせた相手を葬ってきましたから」


はぁ……。
どうしてこんなことに。元凶の方をチラッと見てもケロッとしていて何の罪も感じていない様子。

「すみませんでした。ご迷惑をおかけして」

ペコリと深々と頭を下げる。
しかし、もうどうにもならないことではあるし。

122: 2012/11/30(金) 01:08:10.19 ID:YGi4iFNSo
「いえ、それならば……今日中にこの町を出ればいいことですので」

とそう言い、私は我那覇さんを引きずったまま出ようとした。
すると、ガバッと抱きついてきた萩原さんは

「あ、あの……どうか、その時に私も一緒に連れて行ってください」

「え、えっと……」

言葉に困る。だから私達はあなたを今、連れていけば、狙われてしまう。
涙目ですがる、萩原さんにどうしても断ることができなくなってくる。
これ以上見ていると……。

気絶寸前の我那覇さんのことをすっかり忘れていて、手を放す。

「も、もちろんさ! 一緒に行こうよ!」

123: 2012/11/30(金) 01:14:09.31 ID:YGi4iFNSo
「ほ、本当ですか!? じゃ、じゃあ、今夜、月のでることには
 協会を抜けだして南の町の出口で落ちあいましょう!」

そう言うと嬉しそうにタタッと行ってしまった。

もちろん私は迎えに行くつもりはないし、次の目的地は西の方角。
町の出口は西の入り口を使うことにしてるし。

「これでまた仲間が増えるな!」

嬉しそうに話す我那覇さん。どう、説明したものか。

「そ、そうね……」

ごめんなさい我那覇さん。どうにもあの子を連れ出して仲間にする、
というのは少々危険なが気がするのよ。
だとしても、あれは彼女自身の問題だし、彼女が解決しなくてはいけないことだと思うし。

124: 2012/11/30(金) 01:19:00.44 ID:YGi4iFNSo
それから私と我那覇さんは2人共何も喋らずに宿まで戻った。
ただしく言えば、会話があまり続かなかった、と言うべきかしら?

我那覇さんも今は何も話す気分でないという私の思いに
ようやく気がついたのか、黙っていてくれた。

足早になる。
心のなかには協会からの襲撃が。
ただそれだけが気がかりだった。


そして、宿に戻ると、そこには宿は形をなしていなかった。

いえ、燃え盛る火の中で崩れていく宿がそこには確かにあった。

確かに、ここにあった。



128: 2012/12/02(日) 15:20:19.29 ID:2V2Cojk0o
「真は!?」

しまった。荷物が……。 私の旅の道具が!
隣で今、我那覇さんが誰かの名前を叫んだ気がするが、今はそれどころじゃ――

「ねえ、今ひょっとして中々酷いこと考えてなかったか?」

ジト目を向ける我那覇さんを無視して、宿に近づく。
危ない、だの危険だの、と私を止める町の人たちを無視する。

「真ーーーっ!」

「おーい! 真ー!」

燃え盛る宿の前では、宿屋の主が泣き崩れていた。
が、すぐにこちらに気が付き

「なんてことしてくれたんだ! 俺の、俺の宿が! お前たちのせいで!」

肩を捕まれ大きく揺すられる。痛い。
涙を流す宿主のおじさんを払いのけ、辺りを見渡す。

まだこのあたりにいるはず。

129: 2012/12/02(日) 15:23:02.19 ID:2V2Cojk0o
犯人は明白。
恐らくこの辺りに黒い服を着た人間がいるはず……まだそう遠くへは。


……いた!

今、あの角をサッと曲がっていったのを見つけた。

「あっ! どこ行くんだよ千早!」

我那覇さんの声が聞こえるが、関係ない。
今はとにかく犯人を捕まえないと。

正直な所、あの程度の火事で多少真が火傷の被害を受けても
氏んでしまうなんてことはありえない。
そういう図太さも持っているし、絶対にそんな情けない体力なわけがない。

背中から剣を抜く。

130: 2012/12/02(日) 15:26:27.49 ID:2V2Cojk0o
黒い服の男は顔が見えなかったが、すぐに追っていることに気が付き、走りだした。
こちらも追跡のスピードをあげる。

が、速い。何て速さなの。
身体強化系の魔法を使っている。

これでは追いつくどころか、見失わないのが精一杯。

町中を走り抜ける黒い服の男。
咄嗟に屋根の上に飛び移りだした。そしてそのまま屋根の向こうへと消えてしまった。

もう無理だ。追い切れない。ここから屋根の向こうの道へ行くには遠回りになる。
そんなことしている時間はないし、それにあの身体強化系の魔法がかかった状態の人を追うなんて。

それこそ人ではない。
通常の人間の私では無理だ。
いくら私が……。

131: 2012/12/02(日) 15:29:49.44 ID:2V2Cojk0o
ここは一旦、荷物が心配だk、いえ、真が心配だから宿に戻らなくては。

……。

……。


まずい。知らない町を駆けまわりすぎたかもしれない。……ここは、一体。
町のどの辺りに位置する場所なの。

「罠……」

次から次へと現れる黒い服の男。
なるほど。誘い込まれたわけ……。

剣を構える。

「すまないが命令なんだ」

誰かが喋った。同じような格好をしている人間達、今のを誰が発言したのかもわからない。
まずい……。この人数はさすがに一人では。

真も心配だし。どこにいると言うの。真……!

132: 2012/12/02(日) 16:59:30.05 ID:2V2Cojk0o
~~真side~~



「う、うーん。こ、ここは……?」

ベッドから起き上がる。
辺りを見渡す。
どこかの家? いや、たぶんここは宿。

千早は? どこへ?
あの時確か……。

ユニコーンに襲われて、気絶したのか。
千早があのユニコーンにただでやられる訳はないだろうし。
きっと今は別のとこにいるのかもしれない。

部屋にある机に一枚の紙が。書き置き?

『協会に行ってきます   千早』


133: 2012/12/02(日) 17:03:24.33 ID:2V2Cojk0o
協会? 窓から景色を見る。見慣れない町。ここが目指していたアズミンだろう。

しかし、協会に何の用事があるのだろうか。
すごく宗教とかそういうのは好きそうじゃないのに。

一先ず下に降りて誰かに話を聞こう。
宿の人でいいか。

「あの、教会というのはどこにあるんですか?」

「ん? あぁ、起きたのかい? 倒れた人を運び込んできた時には驚いたが、
 君も随分とタフなんだね」

「ええ、まぁ。鍛えてますから」

ほめられてしまった。いや、そこで喜んでる場合じゃないって!

134: 2012/12/02(日) 17:06:46.79 ID:2V2Cojk0o
「協会ならこの町の一番高い丘にある建物がそうだよ。
 外に出て見ればすぐにわかるさ」

「へえ」

言われてすぐに外に飛び出してみる。本当だ。あれが……協会。
あんな所に一体何の用事が?

「すごいだろう? あれはこの町の自慢なんだよ」

中から宿主が話しかけてくる。
ボクもすぐに中に戻る。

「確かにすごいですね。あんなに大きなものを建てるのは
 相当な権力がないとだめなんだろうなぁ」

「あぁ、もちろんさ。あそこの人はすごい。とにかくすごい。
 なんて言っても世界有数の魔術一族だからね」

へえ。魔術一族か。なるほどね。
魔法使いでも探しに行った、って所なのかなぁ?

135: 2012/12/02(日) 17:09:54.18 ID:2V2Cojk0o
今から行っても知らない町でスレ違いになったり迷子になるのは危険だし、
ゆっくりここで千早の帰りを待っている方がいいかもしれないな。

「はあ、なんだかすごい時間寝てた気がするからお腹すいちゃったよ。
 ねえ、晩御飯とかってこの宿は用意してくれるの?」

「……?」

店主は怪訝そうな顔をした。
まるで何を言っちゃってるんだこいつ、とでも言いたげな。
そういう晩御飯付き、なんてサービスのいい宿に泊まった訳ではなどうやらなさそうだなぁ。

でもこの匂い……。

「晩御飯は付いてないのか。残念だな。でも一体、何をさっきから焼いてるんですか?」

少し焦げ臭いような……。

136: 2012/12/02(日) 17:13:27.97 ID:2V2Cojk0o
「……! なんの匂いだこれは!?」

店主が慌てて奥の部屋に入る。
扉を開けた瞬間に黒い煙が飛び出した。

出火場所は宿の奥の部屋。
その部屋はすでに火の海になっていた。

まずい……この宿の材質じゃ、この火力は持たない……。

火の元の対策なんてのは魔法しかないし。
ボクは魔法を使えない。

「すぐに逃げないと。おじさん! この宿にいるのは何人ですか!?」

「運良く君が一人だ……」

137: 2012/12/02(日) 17:18:43.46 ID:2V2Cojk0o
店主はその場にへたり込んでしまった。
長年続けていた宿の業務が一瞬にして、そしてこの火によって崩される。

「おじさん、早く逃げて!」

ボクはまずは二階にあがり、自分の部屋に入った。
自分の荷物と千早の荷物、それからもう一人の荷物がある。
一体誰の? まぁ、いい。
わからない。でもとりあえず荷物は確保しないと!

3人分のに持つを窓から放り投げる。
その後も他の部屋をまわり同じように荷物だけは救出してあげた。


可哀想じゃないか。宿に泊まって帰って来たら宿が燃えていて一文無しになった、なんてことがあったら。

頭の中で千早がボクのこの行為を無駄だと笑っている姿が見える。
いいさ、きっとこうやって頑張った方があとが気持ちいいからね。

138: 2012/12/02(日) 23:45:43.92 ID:4Br8jaqeo
それから1階に降りて店主のものと思われるものはあらかた外に放り投げ助けることに成功した。


「ま、まずい……もう火が……!!」

火が周り、柱が崩れてくる。
その中で一人の人影を見た。あれは店主でも居残っていた宿泊客でもない。
じゃあ誰……。


「おい、待て!!」

黒いローブを来て、頭もフードをかぶってよく見えない。
その男はすぐに火の奥に消えてしまった。

139: 2012/12/02(日) 23:46:34.29 ID:4Br8jaqeo
逃がすわけにはいかない!!

お前が犯人なんだろう……!!

「はぁぁぁぁぁッッッ!!」

全身に力を入れる。拳を握りしめ、声を全力で出す。
アドレナリンを出す。

自らの意志で……。


「おらぁぁっ!!」

気合で燃え盛り、僕の行く手に立ちはだかる柱をぶっ飛ばす。
そして、窓に体ごとつっこんで外に飛び出した。

パリィィンッ!

140: 2012/12/02(日) 23:47:49.25 ID:4Br8jaqeo
外にいた野次馬たちからどよめきとも歓声とも言える声がザワザワと耳に届いた。
あいつは……。いた!

よし、あそこだな。

黒いローブの男は踵をかえし走りだした。
建物の中だったからこそ全力のスピードは出せなかったものの、
ここはもう違う……!

そのスピードは遅い……!!
脳内でリミッターを解除したボクの速さには到底敵うまい。


正面にあっという間に回りこむ。

141: 2012/12/02(日) 23:49:52.69 ID:4Br8jaqeo
「……っ!!」

「遅いよ……。あんたが犯人だね」

「……まに……」

「……?」

ぼそっと何かを言った気がしたが、一体何を……?

「神の御心のままに!!」

狂ったように目を赤く充血させたその男は何かの棒を持って襲いかかってきた。

「ま、魔法使い……!」

あの棒はただの木の棒なんかじゃない。
魔法の杖だ。

ギクリとする。戦闘状況において、明らかに遠距離戦を普通とする魔法使いと近距離戦の
専門であるボクではこの状況はヤバい。

142: 2012/12/02(日) 23:51:46.94 ID:4Br8jaqeo
小さなその杖の先端から炎が噴射される。
瞬時にその杖を判断できたから、後ろに大きく飛び退いたボクは、
すぐに、蹴りの爆風で炎をかき消した。

当然のようにやってみせたけど、実はかなり労力を使う。
スタミナを一気にかき消すほどの蹴り。

「しまった……」

炎で姿が見えなくなった瞬間を見計らって、その男は消えてしまった。
だが、すぐに街の別の方向でおおきな音がした。


ズドォォンッ!


この音は……千早の剣の音じゃないだろうか?
まずい……! もしかしたら……。


143: 2012/12/02(日) 23:53:02.18 ID:4Br8jaqeo
…………
……



「はぁ……はぁ……」

これは……不味い。いろいろヤバいけれど……。


「”凍てつけ”……!」

一人の男が杖から光の線を出してくる。
これに当たると、不味い。
咄嗟に飛び退けるが、その先にも

「”止まれ”!!」

光の線が。咄嗟に上着を脱ぎ、上着だけを止まらせた。
上着は時間を止められたかのようにカチカチに動かなくなった。

144: 2012/12/02(日) 23:54:11.39 ID:4Br8jaqeo
「……くっ」

対人だからこそ、下手に斬りつけることはできない……。
なんとかこの場を切り抜ける方法は。
囲まれている。

そうか……。


「やぁぁぁ!」


ズドォォンッ!


地面を大きく切りつけて大量の砂埃を立てる。
これで目眩ましにして、まずは体勢を建てなおさない……と。

145: 2012/12/02(日) 23:56:11.69 ID:4Br8jaqeo
「”風よ”!」

一人の男が発動した魔法により、
砂埃はあっという間になくなってしまった。

まずい。どうする?
どうすればこの場を切り抜けられる?

一人ずつ倒す? 無理よ、この人数を相手にするのは。
くっ……。


男達がじりじりと迫ってくる。……やられる!


「はぁぁっぁぁっっ!!」


ズンッ!

と音とともに私の横には一人の好青年が。
本当は少女なのだけど。

146: 2012/12/02(日) 23:58:51.14 ID:4Br8jaqeo
「ごめんね、千早。お待たせ!」

「……ずっと待っていたわ!」

本当に、待ちくたびれて思わず氏にそうだったのよ。
今だけは真の到着に感謝しないといけないわね。

「さぁ、お前たち……覚悟しろよ……!」

男たちは全員魔法使い。となるとやはり、狙ってきてるのは
あの教会の人間たち。

頭の中を簡単に整理する。
起きてしまったことは仕方ない。別に今更我那覇さんを責める気にはならない。
生きて帰れればそれでいいくらいよ。

「”雷槌よ”」

杖から放たれる閃光を二人で飛び退ける。
私は左へ、真は右へ。

そして、私はすぐ近くにいた黒い男にみねうちをいれる。
男は建物に吹っ飛び、起き上がらなかった。

147: 2012/12/03(月) 00:00:28.05 ID:kAzcuROYo
すぐに別の男に向かう。

まずは足払い。
振りかぶったソードは脛に直撃する。

フルスイング。

「~~ッッ!!」


声にならない悲鳴をあげた男は倒れ悶絶する。
すぐ隣にいた男が杖を向け、

「”炎よ”!」

と叫び杖先から炎を射出するが、
私はそれを倒れ悶絶する男を引き起こし、
そいつに浴びせた。

「あぁぁぁあああっ!!」

148: 2012/12/03(月) 00:02:28.40 ID:kAzcuROYo
燃える男を蹴り押して炎を出してきた男にくれてやる。
よろめいた燃える男と一緒に倒れこむ。

すぐに後ろに助太刀にきた3人目の男は容赦なく振り返り際に手首に峰打ちを入れる。
切りつけるまではないが、骨は逝ったかもしれない。

杖さえ持てなくなればそれでいい。
手首を抑えるように喚く男の顎を再び峰打ちで切り上げ、気絶させる。

真の方も随分と大暴れしているみたいだった。

と、そこに。本日の元凶にして遅れた到着。

「やっと見つけたぞ! 自分も加勢するからな!」

スタッ。

と建物をつたってきたのか、屋根の上から飛び降りて登場した我那覇さん。

149: 2012/12/03(月) 00:03:37.56 ID:kAzcuROYo
ニヒヒ、と笑いながら楽しそうにこっちを見る。
こっちは割りと真剣な命の取引をしているというのに、こいつは。


我那覇さんは両手をパンっ、と合わせると地面に両手の手のひらをペタリとつけた。
その瞬間我那覇さんの足元には大きな魔術式の魔法陣が……。

「来いっ! いぬ美ーーーー!!」

我那覇さんはあっという間に私の目線を通り越し、遥か上にいってしまった。
いぬ美、というのはベヒーモスに乗った我那覇さんは、自慢気に腕組をしていた。

「ゴー! いぬ美!」

150: 2012/12/03(月) 00:05:14.77 ID:kAzcuROYo
「グモォォォォ……」

唸るいぬ美が次々に黒い服を来た男達をなぎ倒していく。
前足で振り払うかのように吹き飛ばしていく。
その強さは圧倒的だった。

目の前にある埃を払うかのようにいとも簡単に人を吹き飛ばしていく。


「”炎よ”!!」


一人の男が出した炎がいぬ美の顔面に直撃する。


しかし、いぬ美は頭を振ってその炎をかき消す。
全く効いていない。

レベルが違いすぎる……。


「えへへ~、いぬ美、すごいぞー!」

151: 2012/12/03(月) 00:06:53.61 ID:kAzcuROYo
我那覇さんは馬乗りになっていたところを
全身をべったりといぬ美に抱きつくようにして頬ずりをしていた。

なんて怪物の上にいながら楽しそうなの……。


「な、なんだあいつは……!!」

男達は動揺が隠せないでいる。
それもそうね、あんなデカイ怪物出されたら。

だけど、私達にとってはこれはチャンスでもある。

「真!」

「あぁ!」

152: 2012/12/03(月) 00:08:07.06 ID:kAzcuROYo
二人でここはいっきに畳み掛ける!
まずは一人。杖を持っている手を剣の側面で叩き杖を落とす。
怯んだ隙に、鳩尾を蹴り上げる。


真も同じようにまずは杖を叩き落とし、
それからジャーマンスープレックスを男にかけていた。

とても女の子がするような技ではないのだが……。
しかし、とても似合う。
言ったらきっと怒られるのだろうから黙っておくけれど。



いぬ美に乗った我那覇さんはボンボン人を跳ね除ける。
おかげでこちらにも飛んでくるのを避けるのも大変である。

153: 2012/12/03(月) 00:09:52.72 ID:kAzcuROYo
「ぐあっ!」

たまたま飛んできたのを避けたら正面にいた男に直撃して一緒に吹っ飛んでいった。
助かったけれど、なんだか安心できない。


「危ないじゃない!」

「ご、ごめんごめん!」

黒い服を着た男もあと3人。


「くっ、撤退だ……!」

「逃がすもんか!」


逃げようとする男たちを追おうとする真。
だけど、それはきっと無意味。
今はやめておいた方がいい。

154: 2012/12/03(月) 00:11:41.99 ID:kAzcuROYo
「待って真! まだいいわ」

「なんでだよ千早! まだって……どういうこと?」

「いえ、彼らはきっと教会の連中よ」

「そ、そうなのか!?」


いぬ美を再び魔法陣の中に封印しながら我那覇さんは驚いていた。
どうして一緒にいったあなたが気がついていないのよ。
それにあなた黒い服の人に話しけけてたじゃないの。


「そっかぁ……。あそこの人なのか。でもなんで?」

「そんなの答えは簡単よ。あそこの娘、萩原雪歩が連れて行かれると思ったのでしょう」

「確かにあの爺ちゃん、すごい大切そうにしてたもんな」

「……?」


真はよくわかっていなさそうな顔をしていたので、最初から説明することにした。

155: 2012/12/03(月) 00:13:24.29 ID:kAzcuROYo
――説明中――

「なるほどね。それで教会に行ったけど断れれて尚且つ怒らせて
 帰ってきて狙われてるのか」


宿へ帰りながら全て説明した。
我那覇さんも自分が悪いことをしたとようやく
気がついたようで、面目なさそうにしていた。


「自分、そんな風に怒らせてたなんて全然気が付かなかったぞ。ごめん」

「別にいいわ。もう起こってしまったことだし、とにかく宿の人には謝りましょう」


それから宿の人にはすごく謝った。
経緯を説明し、自分達がどういう状況にあるのかを説明し、
犯人は誰なのか、ということを説明する。

156: 2012/12/03(月) 00:14:33.03 ID:kAzcuROYo
すると、驚いたことに、


「そうか……教会の方達の裁きだったのか。ならば仕方ない」


と受け入れだしたのであった。

それにはさすがの3人も驚いた。
というよりも不気味だった。
あの教会がこの街では絶対であるかのように。
いや、実際にそうなのだろう。


教会に行く前にも、教会に行くのかい、なんて聞かれてすごく人が集まってきていた。
絶対の信仰。恐るべき信者達。


それらを生み出したあの教会の真相は……?

157: 2012/12/03(月) 00:17:03.68 ID:kAzcuROYo
魔法使いの名門がいるとは言われていたけど、恐らくあの教会。
本体は魔法使いの集団であろう。教会で見た人間たち全員が懐に杖を
忍び込ませていたに違いない。


幸いあそこで喧嘩にならなかっただけまだマシと行ったところだろう。
じゃああの雪歩は……?


名門中の名門。あのトップの孫娘。相当な使い手に違いない。
もしかしたら……気が弱いだけで戦ったら本当は強いのかもしれない。


「ねぇ、二人共」

「なんだ?」

「どうしたの?」

「あの教会に殴りこみに行くわよ」

「「えぇ!?」」

158: 2012/12/03(月) 00:20:22.09 ID:kAzcuROYo
生きて帰れる保証はない。
だけど、この街はどっかおかしい。それらを直すためでもある。
私は国を代表する勇者の一人。真もそうだけど。


だったら、そういう活動だってしてもおかしくはないはず。
まだここはナムコ王国の街の一つ。


私の師匠もきっとそうするはず。
かつて私に剣のなんたるかを教えたあの人は。


少し前ならこんなこと、思い出しもしなかったのに。
きっと色んな人と関わりだしたせいかしら?




『困ってる人がいるなら、私は助けちゃうな』

『どうして? 私達にとってなんの利益もないことなのに?』

『利益? あるよ。困ってる人を助けて、ありがとうって
 言われたらそれはきっと、すっごく私達も嬉しいこと。
 その言葉が貰えたら、お釣りが来るようなものだよ』

159: 2012/12/03(月) 00:21:04.04 ID:kAzcuROYo
「ち、千早、賞賛はあるの……!?」

「ええ、あるわ」

大丈夫。いけるはず。大した作戦ではないけれど。

「目には目を、よ!」

…………。

160: 2012/12/03(月) 00:23:06.00 ID:kAzcuROYo
――教会、正門前。


パンッ。
我那覇さんは両手を叩き、いぬ美を召喚する。


「グルルル……」


唸るいぬ美に華麗に上り、跨る。
そして、背中をポンポンと叩きながら


「よし、暴れよっか、いぬ美」


「グォォォオオオッッ!!」


ガシャンッッ!


大きな音を立てて門を破壊する。

161: 2012/12/03(月) 00:25:52.55 ID:kAzcuROYo
警戒は厳重なはず。
魔術結界や、術式のトラップもいくつかある。
私なら、あの木陰に一つは仕掛ける。

剣を構える。感情を無にする。
何も考えない。気持ちを全て剣に集中する。

イメージする。私の振る剣がその全てを斬りつけるイメージを。


「はぁぁぁ!」

ソードを一直線に振り、斬撃を飛ばす。


バキィッ。


何かが怖る音がすると共に目の前にあっただろう結界が消えていくのがわかる。
止まってる暇はない。

162: 2012/12/03(月) 00:28:22.05 ID:kAzcuROYo
「我那覇さん、行って!!」

「任せるさーっ!」

ドドッドドッ。

といぬ美を警戒に走らせ、協会の正面玄関。
魔術結界の術式を一つ破壊することにより、結界の障壁を消した。
そのことによりようやく協会内部に侵入することができるようになった。

そして、大きな入口にいぬ美がタックルする形で突っ込んだ。
協会側からしたらとても恐ろしい光景だろう。

夜、いきなり巨大な怪物が玄関を破壊して侵入してくるのだから。


私は別の方向から侵入することに。
真もまた別の方向に。

163: 2012/12/03(月) 00:30:18.17 ID:kAzcuROYo
さて、まずは私から。
裏口とは言わないまでもまずは二階の方の窓を破壊。
屋根に飛んで捕まり、なんとか登る。


そして、窓から侵入することに。連れて行かれた、
あのお爺さんと話をしたあの最深部……?
あそこにきっとあのお爺さんはいるはず。


この部屋は、誰かの一室だろうか。
ガチャと扉が開いた。
咄嗟の判断ではあったが首のあたりに一撃をかます。
もちろんソードの側面を使い打撃にはしているが、相当な威力であっただろう。
相手は気絶していた。


協会の中にいる人達は今頃、我那覇さんの方に集まっているはず。

164: 2012/12/03(月) 00:33:37.61 ID:kAzcuROYo
ドアを蹴破るって部屋を出る。
廊下を走り、そして前にお爺さんと話した大きな礼拝堂へたどり着く。


突如、雷槌が迫る。

今のは避けるが正しかっただろう。
ユニコーンの電撃は剣で受けたことがあるが、さすがに今のは規模が違いすぎる。
今の一瞬であれだけの規模の雷槌を放てるのはやはり、
魔術一族トップクラスの萩原組。


「何やら騒がしいと思ったが、お前さんか」


大きな杖をついて歩いているお爺さんは昼間の萩原さんその人だった。

165: 2012/12/03(月) 00:35:21.64 ID:kAzcuROYo
「あなた達は間違っているわ」

「おうおう、出会い頭に否定されるとは思わなかったわい」

杖を向けた瞬間に突風が。
思わず吹き飛ばされそうになる。

剣を地面に突き刺し、なんとか持ちこたえるが、
次の瞬間には電撃がこちらに向かっていた。


剣を引き抜き、近くの長椅子の影に隠れる。


「はぁぁぁっっ!」


何度も出せる技ではないのだけど。
長椅子から飛び出し、萩原さんに向けて斬撃を飛ばす。

166: 2012/12/03(月) 00:38:58.37 ID:kAzcuROYo
「ふんっ」

サッと横に飛び退き、すぐに杖をこちらに向けてくる。
老いてなおその身体能力!

敬意を払うわ。

ドゴォンッ!

萩原さんが振った杖から光が私に向けて一直線に飛んでくる。
間一髪で避けると、
私の避けた先にあった協会の長椅子が粉々に吹っ飛ぶ。

吹っ飛んだ? いえ、消し飛んだ?
まるで異空間に飲まれたかのように消えた。

今のを食らっていたと考えると……。


あの杖さえ折れば! 間合いが取りづらい。
魔法使いとの戦闘はこれだから嫌いなのよ。


次の大魔法を避けた隙に!
決める……!

167: 2012/12/03(月) 00:41:19.14 ID:kAzcuROYo
~~真Side~~

はぁっ……はぁっ……。
くそ、一体どこに……!!

次々に部屋のドアを開けて探す。
角から出てきた男には一発腹に、二発目は顎に。三発目は横っ面に。
拳をそれぞれ打ち込んでいけば倒せる。一人一人とちゃんと戦えば楽勝だ。


間合いの取り合いはボクの方がスピード上だし、簡単に詰められる。
距離を詰めればこちらのものだ。


角を曲がる。
その一番奥には厳重に警戒されているだろう、
鎖が何重にもかけられた扉があった。


「これか……!」


~~~~

168: 2012/12/03(月) 00:44:27.02 ID:kAzcuROYo
~~雪歩Side~~


あぁ、どうしよう……。
まさか、こっそり家を出ていくつもりがお祖父様にバレるなんて。
はぁ……。

きっと今頃、あの人達は待ってるかもしれない。
でも、外側から鎖をかける音がしたし。
もう部屋からはでれないだろうなぁ。



……ゴゴォォンッ。


え?

何? 今の音?

169: 2012/12/03(月) 00:47:09.05 ID:kAzcuROYo
今の音は……建物が壊れる音。うちが壊されてる?
襲撃?

あぁ……やっぱり私がだめだめでこんな風に勝手に家を出ようとしたから
天罰が下ったんだろうなぁ。

ごめんなさいお祖父様。私がこんなにもダメな子だから。


ドゴォォォン……。


音が近づいてる。
協会の人たちの叫び声が聞こえる。
きっと私を頃しにきたんだ。

はぁ……萩原雪歩はもうここで人生の幕を閉じます。
今までありがとうございました。

170: 2012/12/03(月) 00:49:28.90 ID:kAzcuROYo
協会の人たちの叫び声が近くなってくる。
この部屋の近くでも戦闘が行われてる……。


怖い。氏にたくない……。まだ私……生きてたくさんのことをしたいのに。
外に出て、いろんな町を見て歩いて。

いろんな人の役に立ちたいのに。


ガチャッ。ガチャ! ガチャガチャンガチャ!


「ひぃッ!」

ついにこの部屋まで来てしまった。私を頃しに。
どうか楽に氏なせてください。

171: 2012/12/03(月) 00:52:45.98 ID:kAzcuROYo
ガンッ! ガァンッ!

鎖のかかったドアを何度も何度も叩く音。叩くという生易しい音じゃないけれど。

ドアを破ろうとする音はどんどん大きくなる。


「ひぃぃぃ……!」

体の震えが止まらない。差し迫る氏がこんなにも怖いだなんて。

そして……ついに


ドガァァァンッ!


私の命を守っていた最後の壁は無情に壊され、
廊下の明かりでどんな人が来たのかも見れなかった。
眩しくて目を細める。

172: 2012/12/03(月) 00:55:54.40 ID:kAzcuROYo
一歩。

部屋に入ってくる。

「こ、来ないでくださいぃぃぃ! お、お願いです。こ、殺さないでくださいぃ~」

見苦しいにも程がある。
私は私のせいで殺されるのに。こんなふうにお願いしても。


その人は部屋に入ってきて、ようやく顔が見えた。
キリッとした顔立ちで、そして私に手をゆっくり伸ばしてきた。


「さあ、一緒に行こう。雪歩」

その人の優しい微笑みに、私の震えは止まっていた。

173: 2012/12/03(月) 00:59:13.82 ID:kAzcuROYo
目が合う。
ドキドキする。さっきまでずっと殺されると思ってたその人がこんなにも
暖かくて優しい笑顔を向けたから?


この人は……もしかして、私を助けに来てくれたの?

不思議と手が伸びていた。


「……王子様?」

何を口走ってるんだろう私。恥ずかしい。
幸い聞こえてなかったみたいで本当に良かった。
でも、でも!

今、この人は、世界でたった一人、私を救ってくれる人。


「あ、あの、私を連れて行ってください……」

174: 2012/12/03(月) 01:03:11.19 ID:kAzcuROYo
顔が真っ赤になるのが自分でもわかる。
暖かい、細くて、綺麗な手。

でも、それでも私には心強かった。


「任せて! ボクについてきて! 君にやって欲しいことがあるんだ!」

「は、はい!」

私にやって欲しいこと? なんだろう。

「あ、待ってください。私の杖……」

危ない危ない。このまま家を出るなら杖も持っていかなくちゃ……。
私専用の、世界に一本だけの杖。私の背丈の半分もある大きな杖。

「すごい杖だね! さぁ、急いで!」

私は突然現れた王子様に、今夜どこかへ連れて行かれることになる。


~~~~

175: 2012/12/03(月) 01:06:01.15 ID:kAzcuROYo
我那覇さんは上手く行ってるでしょうか……。

私はあまりあの娘のことはなかなか信用できないけれど、
それでも、きっとうまくやってくれると願いたいものね。


「ほう、何か考える余裕があるようじゃな」

「えぇ、まだあなたを黙らせるには時間がかかるみたいね、悪徳宗教さん」

「ふん、貴様が黙らんかい」


一瞬の隙により魔法により、体が浮かされる。
くっ、しまった。

176: 2012/12/03(月) 01:35:36.52 ID:kAzcuROYo
そのまま吹き飛ばされる。
長椅子を何個も破壊しながら飛ぶ。
激痛。何本か骨が逝ってるかもしれない。


なんとか体を起こす。
目の前には電撃が。
体全身を使って飛び退ける。


もうこれが限界。


さっきまで倒れこんでいた所は吹き飛び、真っ黒焦げになる。
さすがに大教主。魔法の詠唱速度もほとんどない。

177: 2012/12/03(月) 01:36:39.03 ID:kAzcuROYo

「ふん、呆気なかったのう。口だけの者よ。これで終いじゃ……!」

杖先には大きな火の塊が。
この大魔法をよければ! 間合いが詰められるはず。

だめ、もう無理。動けない。
だけど、私ひとりがこんな所で終わるわけには……。


終わるわけにはいかない!!


師匠。力を貸してください。


「うあああああああ!!」

178: 2012/12/03(月) 01:42:37.70 ID:kAzcuROYo
聞こえる。師匠が元気をくれる声が。
私の心の支えの一つ。


『大丈夫。千早ちゃんならできるよ』


飛んでくる大きな火の塊を大根切りでぶった切る。
振り下ろされた剣を萩原さんが持っていた杖めがけて切り上げる。

「なっ!!」


よし、杖さえなくなれば!!


「ふん、杖さえなくなれば、魔法が使えないとでも思ったのか?
 愚かしい……! 魔術名門、萩原一族を舐めるな!」

手の平から直接電撃を出す。もう避けられない。


「う、ぁぁああああああッ!!」

床に何度も打ち付けられながら転がる。
何かにぶつかり、やっと止まることができた。

179: 2012/12/03(月) 01:46:02.93 ID:kAzcuROYo
「バカめ、杖がなくなることは多少の詠唱速度や威力は落ちるとしても
 魔法が使えなくなるということにはならんわい」


不覚。


「その愚かさを嘆きながらあの世で詫びるがいい。
 臆することはない。ここは腐っても協会。天への導きは怠らん」


指先に閃光を溜めながら歩みよる。もうダメ。

薄れゆく意識の中で、頭には走馬灯のように
忘れかけた笑顔が。



『お姉ちゃん、歌って! 歌ってよお姉ちゃん!』



あの歌は……なんて歌だったかしら。
始まりは、歌の始まりはどんなだったかしら。

180: 2012/12/03(月) 01:48:51.97 ID:kAzcuROYo
「鳴くこと、なら……容易いけれど……」


不思議に頭では歌詞なんて思い出せてない。
だけど、口からは歌がこぼれ落ちるようにでていた。

私は気がつけば、剣を握り、萩原さんを目の前にしていた。
口は動く。自制が効かない。

でも、なんだろう。

嫌じゃない。
こんな時に、私、ばかみたい。

頭を強く打ったのかしら?


歌を。
唄っているのよ。

181: 2012/12/03(月) 01:55:02.48 ID:kAzcuROYo
「貴様……あれだけの魔法をくらっておきながら動けるとは!
 それに、それになんだその光は……!」


何かを叫んでいるのかしら? 聞こえないわ。
私の口からは歌が。

まるで壊れたオーディオ機器のように歌を奏でる。


歌を唄っているのはわかる。
でも、やめようとも思わない。
むしろ清々しい気持ちで唄っている。


「貴様……、まさか……待て。聞いたことがあるぞ。
 あぁ、そうか、そういうことか! 貴様、アルカディアの人間か!」

182: 2012/12/03(月) 01:57:29.92 ID:kAzcuROYo
バンッ。

「やめてください!!」

「”癒し”を!」


意識が鮮明になる。
急に、動けるようになる。


今、一体私は何を!?


目の前の萩原さんの手を蹴り上げる。


「ぐぁっ!」


指から放たれた魔法は天井にあたり、爆破する。
一体どんな魔法を一個人に使おうとしていたの……!


扉の向こうには萩原さん(孫)と真が。

183: 2012/12/03(月) 01:58:27.77 ID:kAzcuROYo
「お祖父様、やめてください。もうこれ以上は」

「雪歩、何故お前が……」

起き上がり、十分な間合いを取る。
体力は大丈夫。体も最初にここに来たときよりもいい。

「ごめん、またせたね、千早」

「本当。遅かったじゃない」


今日は真に待たされてばかりだわ……。
あとで何か奢ってもらおうかしら。

184: 2012/12/03(月) 02:00:18.15 ID:kAzcuROYo
「おのれ、これから雪歩がこの教会のシンボルとなり、さらなる
 繁栄を目指そうというのに……! なぜ邪魔をするか!」

「決まっているわ。それが悪だからよ」

「そうです。これ以上、街の人を魔法で騙すのはやめてください!」

「何を言う、私は騙してなんかいない。奴らは望んでワシを求めてきたのだ!」


やはりこの町はおかしかった。
何がどうして、こうなったのか……私にはわからないけれど。
でも、いつか見た部屋の歴代の写真を見る限り。
きっとこの人も生まれた時からこうなのかもしれない。

185: 2012/12/03(月) 02:01:42.25 ID:kAzcuROYo
「あなたがそこまでする訳は一体……?」

「決まっている。富と名声、地位。全てを手に入れるためだ!
 まだ満足がいかん! もっとワシを認めるのだ!」

「例え、騙しても……」

「そうだ! 例え騙しても、この大魔法を解く呪文、”ユリシー”を
 みなの前で言わない限り、奴らは永遠とこの教会の虜なのだ!」

「はぁ……。本当に脳のない、お気楽宗教だったのですね。
 形ばかりで騙してきて。必ず衰退する時期は来るのに……」

「な、なんだと貴様……国の勇者ごときが!」

「萩原さん」

「はい、お祖父様。今のお言葉。全て町中に流させてもらいました」

「直接脳内に流し込みましたので、信教徒の信仰はもうほとんどありません」

「なあぁぁぁあ!! な、なんてことを!!」

186: 2012/12/03(月) 02:03:23.34 ID:kAzcuROYo
「き、きさまぁ! それでも我が孫娘かぁぁ!」


手から炎を生成する。
しかし、それを孫である萩原さんは杖を軽く揺すっただけで消してしまった。


「孫娘にあなたは敵意を向けるのですね。私は破門されます!」

「今からは私は好きなように生き、好きなように自分の人生を歩みます!」


そう強く言い切った。


「ま、待ってくれ、雪歩……」


絶望に打ち砕かれた萩原さんは膝から崩れ落ちた。

187: 2012/12/03(月) 02:08:23.51 ID:kAzcuROYo
この後、黒い服の男達が、(彼らもまた騙されていた)捕まえに来て、
街中の人たちが夜中だというのに教会に集まってきてしまい。
大騒動になった。


暴動とまでは行かなかったものの。
かなりの騒ぎになったために、国が動き出すかもしれない、
ということで私達はさっさとこの街から出ることにした。


終わってみれば呆気なかったのかもしれないけれど、
あの時、私は萩原さんを前に何故あんな無意識の状態を保っていたのか。
それだけが気がかりだった。


誰にも見つからないようにこそこそと協会を抜け、
魔法が解けたことにより自分達が操られていたことがわかった協会の男たちは
あっという間に萩原さんを捕まえた。

その様子をそっと見守る孫娘は小さな声で

「ごめんなさい。行ってきます」

とつぶやき、その言霊を光に乗せもみくちゃにされてる萩原さんの所へ飛ばしていた。

188: 2012/12/03(月) 02:11:08.59 ID:kAzcuROYo
見送りもない、誰も知らないような出口まで私達は来た。

「雪歩、あんなお別れで良かったの?」

悲しそうな顔をしてる萩原さんに真が話しかける。

「う、うん……平気。ありがとう」

出口の所には我那覇さんが立っていた。
そういえば協会に置いてきた、と思っていたけど、どうしてここに?


「おーい! 遅いぞー!」

あはは、と笑いながら大きく手を振っていた。

189: 2012/12/03(月) 02:14:08.39 ID:kAzcuROYo
「みんな酷いぞ! 少しは自分の所にも助けに来て欲しかったんだからね!」

「あ、あはは……ご、ごめんごめん」

「そうね、ごめんなさい。私達も私達で手一杯だったのよ」

「えっと……響ちゃん、だっけ?」

萩原さんが我那覇さんに近づく。

「うん、そうだよ! どうかしたのか?」

「ううん、ほっぺの所、怪我してる……今治すね。”癒し”を」

指を一振りする。
あっという間に傷は消えていった。
これくらいの傷ならば杖を振るまでもなく指で十分なのかしら?

またしてもとんでもない人がついてくることになった気がするけれど。

190: 2012/12/03(月) 02:17:14.10 ID:kAzcuROYo
私は今回のことは結局良かったと思っていた。
私のことを助けてくれた人を結果的に救うということになった。

住んでいた町は混乱に陥れてしまったけれど。
これでアズミンがいい方向に向かっていけばそれでいい。
少し世直しをしたことで気分がいいのか、舞い上がってるのかもしれないわ。


必要な戦力よね、この回復能力というのは。
彼女の大きな才能。

首都のバンナムよりは全然小さな町だけれど、
町全体の人の脳に声を届かせる魔法。

すごいなんてものじゃないわ。

191: 2012/12/03(月) 02:20:20.44 ID:kAzcuROYo
「おお、すごいぞ! ありがとう雪歩!」

「本当に雪歩の魔法はすごいね!」

「と、とんでもないよぉ……。えっと、そういえば名前まだ聞いてなかった……」

「ボクは菊地真。真でいいよ!」

「は、はい!」


なんて会話をしながら居座れなくなった町を出る。
月夜の明かりに照らされながら広い草原を歩いている。


私達は2人からいつの間にか3人に、そして4人に増えていた。

192: 2012/12/03(月) 02:28:42.38 ID:kAzcuROYo
次に向かう町はもう国境付近。
そして、荒れ狂う紛争地帯。ニゴ。


隣国にして敵国、クロイ帝国へ渡る手段をここで考え無くてはならない。
そして、ニゴの町を国境を挟んであるクギューウの町。

恐らくこの2つの町に何らかの移動手段が残されてるはず。
例え敵国といえども、紛争地帯といえども、
町同士の貿易なんかは行われていてもいいはず。

そこに上手く潜り込めれば……あるいは。


新たに増えた、我那覇さんの召喚士としての召喚獣の高い戦闘能力。
そして萩原さんの異常な魔法スキル。
4人に増えた私達には向かう所、敵はなし。
……で、ありたい。



キサラギクエスト  EPⅡ  教会の魔術一族編  END


193: 2012/12/03(月) 02:33:42.87 ID:kAzcuROYo
途中誤字脱字が多くて本当にすみません。
今回はここまでにします。

駄文にお付き合いくださって本当にありがとうございます。

194: 2012/12/03(月) 12:08:27.73 ID:20gjV9uso
おつー



続きます




引用元: 千早「キサラギクエスト」