411:  ◆tFAXy4FpvI 2013/01/03(木) 17:42:09.83 ID:4CBqi39Io



前回はこちら



 私、如月千早の旅はもう半年以上経ち、
随分とこの4人で歩きまわるのに慣れてきた。


私達はつい最近、クギューウの街を抜け、森を暫く歩いていた。


「うぅ~、お腹すいたぞー」


お腹を鳴らす我那覇さんが最後尾でうるさい。


「響、そんなこと言ってもまだたったの4時間……
 も歩いたのかぁ……はぁ」


時計を見てため息をつく真。さすがに疲れが見えているようだった。
疲れ、と言えば魔法で回復できるはずなのだが
今度はそれだと萩原さんが疲れて何もできなくなってしまう。



千早「キサラギクエスト」シリーズ



412: 2013/01/03(木) 17:43:38.17 ID:4CBqi39Io
あまり魔法を便りにすることもできない。


「じゃあ次にモンスターに出会って勝ったら
 休憩にしましょう」

「おー」

「おー」

「お~」


疲れきった掛け声が後ろから聞こえる。
大丈夫かしら……。


「うぅー、なかなか出てこないぞ」

「たぶんすぐに出てくるよ」


ガサガサガサッ!

413: 2013/01/03(木) 17:49:54.81 ID:4CBqi39Io
モンスター! 狼のような形状をしたモンスターは私達にはお尻を向け
そして、無視してどこに走り去っていった。


「あぁ! 待て! 昼飯!!」


真が追いかけていった。そのあとに続き我那覇さんも。


「あ、真、ずるいぞ! 自分も!」


萩原さんと目を合わせ、結局追いかけることになった。
森を走り、草木をかき分け、少し開けた所に出た。

414: 2013/01/03(木) 17:51:08.34 ID:4CBqi39Io
するとそこはまるで何か隕石が落ちてきたかのような何もなくなった土地で
よく見ると真と我那覇さんは何かを守っているように見えた。


その中心には女の人が眠っていた。
ショートの髪にアホ毛が一本。
スタイル抜群のナイスバディに嫉妬で狂いそう。


「真! 我那覇さん!」

「危なかったよ……こいつら……この人を食べようとしていたんだ!」


そう言いながら一匹一匹を確実に仕留めて言ってる真。
我那覇さんも負けずとダガーで応戦している。

415: 2013/01/03(木) 17:53:04.51 ID:4CBqi39Io
私もさっそく剣を抜いて、狼達に斬りかかる。

数分もしないうちに狼の群れは全部やっつけ。周りには誰もいなくなっていた。



「それにしても綺麗な人だなぁ……でもなんでこんな森の奥で寝てるんだろう……」

「ひょっとして迷子かもしれないぞ」

「そんな……。我那覇さんじゃないんだから」

「なんだそれ! ひどいぞ!」



そう言い合ってるうちに女の人は目を覚ました。


「うぅ~ん……あ、あら? ここはどこかしら?」

416: 2013/01/03(木) 17:55:57.36 ID:4CBqi39Io
「もしかして……また迷子かしら? あら、こんにちは」


ようやくこちらに気がついたのか挨拶を呑気にかわしてきた。


「こんにちは。ねえ、お姉さん何してるの?」


我那覇さんが近づいて手を差し伸べ起き上がる。


「えっと……何をしていたんだっけ?」

「記憶がないみたい……困ったわ」


うふふ、と笑っている女の人。
笑ってる場合ではないと思うんですが。

417: 2013/01/03(木) 17:57:47.24 ID:4CBqi39Io
「お名前は覚えていますか?」

「名前……えっと……あずさです」

「あずささん……」

「あ、そうだ! 思い出した!」


さっそく何か思い出した!?


「私、空を走っていたのよ」

「……はい?」

「だから……空を走っていたの。何かに追われていたわ」

「そ、空……?」


4人が顔を見合わす。
一体……どういうこと……?

418: 2013/01/03(木) 18:00:14.44 ID:4CBqi39Io
森の中で偶然助けた女性、三浦あずさは記憶喪失でそれに加え
空からやってきたというので私達は混乱状態に。
ここは敵地のどまんなかであるが故に迂闊な行動は避けたいが、
それでも放っておくわけにはいかない。


本人に聞いても何も思い出しそうにないのでとりあえずは次の街に行って
何か聞いてみることにした。


「へぇ~、雪歩ちゃんはそれで魔法使いをやっているのね」

「そうなんですぅ」

「自分だって召喚士だけど一応魔法使いの部類ということでいいんだぞ!」

「あらあら、私、魔法の力ってすごく苦手なのよね……」

419: 2013/01/03(木) 18:01:29.69 ID:4CBqi39Io
なんて適当な雑談を交えながらも歩く。モンスターが出る度に
あずささんは小さな悲鳴をあげるがすぐに私達が片付けてしまうので
なんら問題はない。

そして……。


「やっと森を抜けたぞー!」


森の出口を見つけ、走りだす我那覇さん。
すると森の出口には見たことのある大きな山のような荷物の貨車が。


「おやおや~? やっほー、また会ったねぇ」


旅商人の亜美だった。
亜美に聞いてみるのもいいかもしれない。

420: 2013/01/03(木) 18:05:00.00 ID:4CBqi39Io
「ええ、この前はありがとう。おかげですごく助かったわ」

「なんのお礼はいらないよ。ご注文を一つでもしてアタシにご飯をくださいなっと」


そんなわざとらしく軽い調子で亜美は話した。
とりあえず、あずささんにはこれからたぶん暫くは一緒にいるだろうから、
守るためにも自分達の分と、あずささん本人の分の装備を購入した。


いつものようにパンツ丸出しで荷物の中に潜り込んでいき、
今頃はあの広い空間の中を走り回っているに違いない。
それからしばらくすると買った商品と自分の上半身だけを荷物の
中から出して、手渡してきた。


「毎度あり~! いつもご贔屓にありがとうねんっ」

421: 2013/01/03(木) 18:11:48.40 ID:4CBqi39Io
「そう、亜美、この人なんだけど……」


とあずささんを紹介する。


「あずさ、っていう人なんだけどどうやら記憶がなくって」

「空から来たっていうことだけはわかってるのよね」

「何か知っている情報はない?」


亜美は渋そうな顔をした。


「うーん、情報かぁ……」

「うーん……お得意さんだしなぁ」

「情報は安くないんだよ……」

「あの……私の情報なんで私が買いますよ」

422: 2013/01/03(木) 18:15:49.83 ID:4CBqi39Io
とあずささんは一歩前へ出て自分の服の中に手を入れ、財布を探し始める。
が、すぐには見つからずにあちこち探していた。
しかし、あずささんは会った時には手ぶらでいたし、何もお金は持っていないんじゃいか。


「あずささん、荷物は持っていませんでしたよね?」

「えぇ、荷物は持っていないのだけど、確かにお金くらいは持っているのよ。
 あっ……そういえば……」


と大きな胸の谷間からお札を出した。


……。


大きな胸の谷間からお札を出した。

大きな胸のた

「千早? どうしたんだ?」

「にまからお金を……へっ!? あぁ、いえ、なんでもないの!」


我那覇さんに話しかけられなんとかこちらの世界に戻ってこれた。
いけないわ。精神を見だしていたわ。
危ない危ない。

423: 2013/01/03(木) 18:19:23.34 ID:4CBqi39Io
亜美はあずささんからお札を受け取ると手際よくペラペラと
お札を数え始めた。


「うん、こんだけあれば、それ相応の情報は渡せるかなって」

「あのね……空から来たっていうのはね……」


ごくり……。
沈黙とともに一同が固唾を呑む。


「もしかしたら本当にこのあずさお姉ちゃんは空から降ってきたのかもしれないんだ」

「……というのも、ある種伝説とも言える空中王国が存在するんだよ」

424: 2013/01/03(木) 18:22:34.25 ID:4CBqi39Io
……。
……。
……。


「亜美、お金を返しなさい」

「うあうあ~! 本当だって! お金もらって嘘ついたりしないよ!」

「お空に国があるっていうの?」


真は首をかしげる。萩原さんも


「私は小さな頃に絵本でそんなお話を読んだことがあります……」

「確か背中に翼の生えた鳥人族が住んでるとか」

「自分は鳥人族は嘘だって聞いたことあるぞ!?」


と口々に話をはじめる。困った。あてにならない情報を買ってしまった。

425: 2013/01/03(木) 18:28:37.77 ID:4CBqi39Io
「それでね、その王国への行き方なんだけど。
 ある人がすごく詳しく知ってるんだって。
 でも、その人は魔女でババアでおっさんくさくて……」

「だけど、先の大戦を一度休戦にまで持ち込んだことのある実力者でもあるんだ。
 もっぱら引退してしまったみたいなのだけど」


魔女でババアでおっさん臭い? でも大戦を休戦にまで持ち込んだ実力者?
一体……どういうことなの?


「まぁでもこれは噂、にすぎない情報なんだけどね……ごめんね」

「いえ、でもそれだけでも手に入ったのなら十分かもしれないわ。
 私達は結局何も知らなかったのだから」


「だからその人を聞いてみるといいよ!」


と随分といろいろと説明してくれた。


「それじゃ亜美はこれでもう行くねー!」

426: 2013/01/03(木) 18:30:50.15 ID:4CBqi39Io
そして使い魔であろうゴーレムは再び亜美を乗せて動き出す。
私達も次の町へ向かうことにする。
森を抜けた私達の目の前には街が広がっていた。


「情報集めなんてしたことないですけど、どうやってすればいいんですか?」


萩原さんはもうすでに緊張している様子で少し固くなっていた。


「大丈夫だよ雪歩。まずは酒場へ行こう! 情報集めは酒場って相場が決まってるからね」

「どこの相場よ」


なんてツッコミをいれながらも街へ入る。
一応の目的地ではあったタキタウン。
街はそれなりに賑やかで人々は笑い、そして楽しそうにいた。

427: 2013/01/03(木) 18:32:09.85 ID:4CBqi39Io
「じゃあまずはあのお店に入ってみましょう」


と指をさした店は人の多い酒場だった。
入り口は開放的になっていて、人々が自由に出入りする。
外の入り口付近にまで席が広がっていてそこでも人々は騒がしく飲んでいた。


狭い道の通路を入り、カウンターの奥にいる店員の所までやっとの思いでたどり着く。


「あの~、ビール一つ」


とあずささんが急に頼み出す。

428: 2013/01/03(木) 18:37:09.24 ID:4CBqi39Io
「あ、あずささん!まだ目的が果たされてないですから」

「いけない……そうだったわ。私のためにみんなこうしてくれているのに」

「ははは、お嬢ちゃん達、随分可愛いねえ。一体何かあったのかい?」


酒場の店主は気前よく聞いてきた。


「えぇ、実は……」

「おうおうなんだお姉ちゃんたち!」


急に一人の見知らぬ男が肩に手を回してきた。
酒臭い……! 

429: 2013/01/03(木) 18:38:57.71 ID:4CBqi39Io
パシッ、と軽く手を払いのけてもとに店主のほうに


「あの、私達聞きたい情報があって」

「情報が必要なら俺が教えてやるよ」


絡んできた酒臭い男はそう答える。
この人には聞いていないのだけど……。
面倒だなぁ。


「私達、空からきたという人を返してあげたいのですが……」

430: 2013/01/03(木) 18:39:50.40 ID:4CBqi39Io
店主はその言葉を聞くと急に怪訝な顔をし、露骨に嫌そうにした。
バァン! と大きな音をたてて私のすぐ横のカウンターを叩いているのは
酒臭いその男。


「出ていきな。空のものはこの街にはいらねえ!!」

「お前らがいたら空から何が降ってくるからたまったもんじゃねえからな!」

「空の者だと……?」


と一人の男が騒ぎ出すと次々とこちらに目線が寄ってくる。

431: 2013/01/03(木) 18:41:13.37 ID:4CBqi39Io
「あ、あの……これは……」


店主に目を向けるが黙っているが、やがて小さく


「すまん、今日は引き取ってくれ」


あの店主は人がいいのだろうか、あまり気が強く言えない人なのか、
申し訳なさそうにそういった。
私達は仕方なくその酒場はあとにすることにした。


「なんだよ、真のせいで変な気分になったじゃないか」

「変な気分ってなんだよ……あのお店が体外なだけなんだろう!?」

432: 2013/01/03(木) 18:45:58.23 ID:4CBqi39Io
「それはわからないけど、でもあのお店の人からだとあまりいい印象はないかもですぅ」


と萩原さんは言う。


「そうね。どうしましょう……」


あずささんはすっかり飲み干している空のジョッキを片手にいた。
これからどうするか迷っていると
一人のおじさんが店から出てきたこちらに駆け寄ってきた。


「あぁ、良かった君等。無事かい? 君たち、空のことに聞きたいんだろう!?」

「え?」

433: 2013/01/03(木) 18:56:23.42 ID:4CBqi39Io
誰かしら。人のよさそうなおじさん。太った体に急いででてきのか
膝に手をついて息を切らしていた。


「空の者について知りたいならば、リトルバードに行くといい」

「リトルバード?」


真と我那覇さんが同時に首をかしげる。
確かに何のこと? 行くといいってことは……どこかそういう場所があるのかしら?

それが空と何が関係あるの……?

434: 2013/01/03(木) 18:57:14.40 ID:4CBqi39Io
「リトルバードはアトリエだ。この街のはずれにある
 そこに行って空のことを聞けばわかるはずだ」

「俺は、教えてやれるのはこれくらいなんだ」


なんてったって俺自身がこれしか知らないからな。
と付け加えた。


「それだけ知れば十分よ。ありがとう」

「いや、いいのさ」


そう言うとおじさんはその辺の段差に座り込んだ。
そして、空を見上げた。

435: 2013/01/03(木) 18:59:52.29 ID:4CBqi39Io
「私もね……空の者だったのさ」

とそう私達の背中を見向きもせず聞こえるか聞こえないかの大きさの声で呟いた。
私は特に聞こえないフリをして、その場をあとにした。


私達は街のはずれへと向かった。


「本当に空に街なんて存在するの?」

「でも、自分、そんな話お伽話でしか聞いたこと無いぞ」

「ええ、私それも覚えてないものだから……わからないわ」

「あっちの方角です」


と萩原さんはすでに探査系の魔法を
発動していたみたいで(いつの間に)私達を先導しはじめた。

436: 2013/01/03(木) 19:01:28.77 ID:4CBqi39Io
街から大分外れた場所に来た私達は周りを見ると小さな遺跡のような場所になっていた。
木やつるが遺跡にこびりついて石版に何が書いてあるのかもわからなかった。


萩原さんは先導をしながらもところどころにいる虫にはビクつきながらも、それでも歩いた。そして私達は黙ってそれに続いていた。

そして。


「この家がそうなの? 急にメルヘンな家が現れたわね」

「可愛い~~!」


真が目を輝かせていた。確かに可愛らしものではある。
だけど、どうしてこんな街の外れに作る必要があったのだろう。
まるでお菓子か何かでできているんじゃないかと思うその家の扉から
ゾンビが現れた。

437: 2013/01/03(木) 19:03:17.95 ID:4CBqi39Io
ゆらゆらとこちらに向かうゾンビに対し、私は無言で剣を抜き、斬りつけた。
悲鳴も出ない恐怖とはこのことね。
まさかゾンビ屋敷だからこんな街のはずれにあるのかと。


でもそんな風には見えないくらいメルヘンチックな家……。


「ぎゃーーーーーーー!!」


ゾンビは地面に倒れながらもじたばたと苦しんでいた。

438: 2013/01/03(木) 19:07:01.54 ID:4CBqi39Io
「ひぃっ! 悪霊め!」

「や、やっちゃえ千早ー!」

「いいぞ、千早ー!」


振り返ると我那覇さんと真はいつの間にか森の木の後ろに隠れていた。


そして、再び剣を構えるが、とっさに萩原さんが割って入る。


「ま、待って千早ちゃん! この人、身なりはこんなだけど人だよ!」

「へ?」


「い、いだいっぃぃいいいい!! ぎゃぁぁぁあああ!」

「あ、あの、今治しますから! ”癒しを”!」


萩原さんは倒れもがき苦しむゾンビ(?)の横に膝をつき、傷口に向かって両手をかざした。
両手から出る閃光により、傷口がみるみるうちに癒えていくのがわかる。

439: 2013/01/03(木) 19:10:45.15 ID:4CBqi39Io
「も、もうだめじゃないか、千早。いきなり人を斬りつけたら」


遠くの木の幹に隠れながら言う真。
その後ろに我那覇さんが小動物のように覚えて震えていた。


「ふ、ふぅ~、生き返る~」


と溜息混じりにゾンビが起き上がる。まるでおっさんのように。


「あ、どうもいらっしゃい。こんなに可愛い方達が来てくれるなんて
 本当にいつぶりかしら……。
 あ、いけない。申し遅れました。
 私、このアトリエ・リトルバードのオーナーの音無小鳥です」

440: 2013/01/03(木) 20:26:39.58 ID:4CBqi39Io
このおっとりした口調は……女性?
なんだかこの世界には女性しかいないんじゃないかと思うほどの女性との深い関わりっぷりね。
だけど、一体なんでこんなゾンビみたいになるほど汚らしい格好をしているのかしら。


「あ、あの……すみませんでした」


とりあえずいきなり斬りかかってしまったことを謝罪しないと。


「えっ? あぁ、もう大丈夫ですよ。すっごく痛かったけれど今はもう何ともないですから」

「あぁ、ごめんなさい。これはそのアトリエというものだから巨大な同人ゴホン、
 アートを書こうと思って、それにはやはりカラーじゃないとだめでしょう?」


と丁寧に説明を始めてくれた。途中何かを隠そうとしたのは今は放っておこう。
触れない方が私達のためにもなるでしょうし。

441: 2013/01/03(木) 20:32:56.21 ID:4CBqi39Io
「でも、私、そそっかしいところもあるからペンキ頭からかぶったり
 いろいろしてるうちにこうなっちゃったのよ……うぅ~」


はやくお風呂入りたい……と愚痴をこぼしていた。
入ればいいのに、と思ったけどまた真にいろいろ言われそうだから黙っておこう。


それから私達はアトリエの中に入れてもらい、お茶を用意してもらった。
私達がお茶を飲んでゆっくりしている間に音無さんはお風呂に入ってその汚れを落としているみたい。


「へぇ~、なんだかすっごい可愛い所だよね!」


我那覇さんは椅子に座りながらも両足をパタパタとさせて子供みたいに興奮していた。
一方萩原さんは入れてもらったお茶の味を確かめるように湯のみを睨みつけていた。

442: 2013/01/03(木) 20:33:31.92 ID:4CBqi39Io
真とあずささんは立ってそこら中にある作りかけの彫刻や、絵画、を見て回っていた。
とても真に芸術的な感性があるとは思えないのだけど。


「……今なにか失礼なこと思わなかった?」

「いえ、何も」


こちらを振り向く真。聞こえてるのかしら?


しばらくするとすっかり綺麗になった音無さんがでてきた。
普通にしているとこんなに綺麗な人なのに……どうしてああなってしまったのかしら。


「ごめんなさい。遅くなっちゃって。それで、えーっと、密売の方々でしたっけ?」


密売?

443: 2013/01/03(木) 22:06:45.02 ID:4CBqi39Io
「いえ、私たちは……」

「あぁ! え? 違うの!? ご、ごめんなさい……」

「てっきり私の同人を密輸して高く売ろうとしている人たちなのかもしれないなんて言えない
 、絶対に言えない……」


とボソボソと何かつぶやいていたが、わからなかった。


「自分達はこのあずささんを元の場所に返してあげたくてここに来たんだぞ」

「響、それじゃあ大事な所を端折りすぎてわかんないじゃないか」


と我那覇さんに対する真。

444: 2013/01/03(木) 22:13:47.85 ID:4CBqi39Io
「えっと、要するに、あずささんが急にぱっと現れたもんだから僕達の力でどうにか
 お空に返してあげたいって話なんだよ」


問題外でした。


「あの、あずささんは元々天空街の人間なんです。それがなんの因果かわからないけれど、
 地上に降りていて、それで私達が帰れる方法を探そうってことになって。
 街の酒場で聞いたらこのアトリエに来てみろって言うんで来たんです」

「なるほどね。天空街のことかしら……」


どうやら察してくれたみたいでうんうん、と頷く音無さん。


「えぇぇぇぇ!? て、天空街いいいい!?」


と一人で驚き椅子から転げ落ちる音無さん。
何を一人コントをしているのだろうか。

445: 2013/01/03(木) 22:14:38.14 ID:4CBqi39Io
「え?」

「ちょっ、えぇぇぇ!? ま、ままま、まさか本当に存在するだなんて……」


慌てふためく音無さんに一同、はてなマークが頭の上にでている。
どういうこと?
天空街? それは空にある国のことかしら?


町の酒場で聞いた、忌み嫌われていた空の者と何か関係があるの?

446: 2013/01/03(木) 22:15:25.80 ID:4CBqi39Io

「あ、あの本当に存在するだなんて……とは?」

「だ、だって天空街ってのは私の書いたBL同人誌『天空街』の架空設定だったのに……」


「えぇぇぇぇえええ!?」


BL……? 同人誌? 聞きなれない言葉が飛び交うのだけど、
他のみんなもよくわからない、といった感じだった。

447: 2013/01/03(木) 22:16:20.29 ID:4CBqi39Io
「ほ、ほら、これよ……」


ガタッっと慌ただしく席を立つと机の引き出しの中から原本らしき紙の束を持ってきた。


そしてそのまま私達の机の上に広げる。
その内容は見ても分かる通り、若き男性が
男性同士のくんずほぐれつの様子を描いたものだった。


「なっ、なあぁぁああ!!
 こ、こういうのは……そ、その……なんというかエOチだぞ!」


耳まで真っ赤にしながら大きな声を出し、立ち上がる我那覇さん。

448: 2013/01/03(木) 22:17:24.82 ID:4CBqi39Io
「でも、これが私の中で最も売れた作品なのよ……。『天空街』……」

「う、うわぁ……すごいね、これ」

「まぁ……私の住んでた所ってこういう所なのかしら……」


真にあずささんは興味津々な、ようでもないが食い入るように見ている。


私も一応、この本の中に何かヒントが隠されていないか、
暴き出さないといけないので一応全てのページに目を通す。


「ち、千早……よくそんなの平気で見れるね……」


真がドン引きしていた。

449: 2013/01/03(木) 22:18:50.87 ID:4CBqi39Io
「ち、違うわよ!! この中にだって何かヒントがあるかもしれないでしょう!?」

「そ、それはそうかもしれないけれど、こんな所にあるヒントなんて嫌だよボク」

「い、嫌!?」


一人ショックを受けているのを他所に、
萩原さんがさっきから静かにしていると思ったら、完全にフリーズしていた。


「萩原さん!?」

「お、男の人……」


目を回していた。青ざめながらふにゃふにゃと椅子に座りこむ萩原さん。
なかなか刺激が強かったようだ。

450: 2013/01/03(木) 22:21:01.41 ID:4CBqi39Io
確かにこれは原本らしいので男性器の部分には
何も修正らしきものはされていなかった。


こういうのって普通少しくらいモザイクなりなんなりがあるんじゃ……?


私は弟がいたから別に驚くことはないけれど、
こ、こんな風になるのね……。


って別に興味はないのよ!?


「でも、どうしてこの本が空へ戻れるヒントになるとあの酒場の人は思ったのかしら?」


「うん、確かにそれに空の者がどうとかってことも言ってたし」

451: 2013/01/03(木) 22:22:01.00 ID:4CBqi39Io
真の言葉にすぐに反応した音無さんが


「空の者!? だ、誰が!?」

「で、ですから、このあずささんがそうなんですって」

「ほ、本当ですか!?」


ぱしっ、とあずささんの両手を取る小鳥さん。
小鳥さんの勢いにあっけにとられるあずささん。


「いつもご愛読ありがとうございます」

「あらあら、こちらこそ? って、何のことなのかしら?」

452: 2013/01/03(木) 22:24:26.52 ID:4CBqi39Io
小鳥さんの反応も意味がイマイチわからないけれど、
それに対応してしまうあずささんの天然っぷりは……本当に謎。


「ご愛読って、あずささん『天空街』をいつも読んでるの?」


と我那覇さんがあずささんに質問する。
私もそうなのかと思ったらさっきのあずささんの何もわかっていないような反応は
どうやらそうではないみたいだった。


「いいえ。読んだことも聞いたこともないわ」

「えぇ!? そ、そうなんですか!? ガーン」


と一人で効果音までつけてショックを受けている音無さん。

453: 2013/01/03(木) 22:27:45.26 ID:4CBqi39Io
「それで……音無さん。空の者というのは一体何者なんですか?」

「ただのファンよ」

「へっ?」


私の質問にさらっと答える音無さん。
しかし、その答えも突拍子もないもので私は変なところから声が出てしまった。


「空の者っていうのはね。私の書いた同人誌『天空街』を
 こよなく愛する信者さんたちのことを言うの。そういう愛称みたいなものなの」

「じゃあ、あずささんはその空の者じゃないみたいね」

「そうね、私の作品を知らないみたいだしね」


と、自分の作品が世に出てそれほど有名ではない、ということを悟ったのか、
少し照れくさそうにしていた。

454: 2013/01/03(木) 22:31:12.44 ID:4CBqi39Io
「で、本当に空にある国については何も知らないんですか?」


と念を推すように質問する。


「うーん、確か……。何か思い出しそうな気もするんだけど……」


と頭をコツコツと叩きながら思い出している。


どうやら話を聞いた限りだとこの町の人たち、いえ、
あの酒場にいた人たちもそうね。


その人達は単純に音無さんの書いた『天空街』というBL同人誌が
嫌いなだけで、それでアトリエ自体もこんな森に入るまでの町外れにあるということね。

455: 2013/01/03(木) 22:35:16.54 ID:4CBqi39Io
それからこれは私の予測だし、見逃していただけかもしれないのだけど。
町には本屋というものは一つもなかった。


何故、ないのか。
この町があの有名な(自称ではあるが)BL同人誌『天空街』の生まれた場所。
さらにその聖地であるこの場所で購入したいというコアなファンも出てくるのでは?


また普通にファンだから町に来た。
という人も出てきているのだろう。


だからこそ、ファンである空の者も
空にある国がテーマになっている『天空街』も
この町の住人から嫌われている。


何よりもそれを求めて集まってくる客で
この町自体の生計が成り立っているのが気に食わないのだろう。

456: 2013/01/03(木) 22:38:26.63 ID:4CBqi39Io
「酔っぱらいの言うことなんて当てにするんじゃなかったぞ」


机にうなだれる我那覇さん。
確かにあんな酒場にいる酔っぱらいの言うことを、
すべて鵜呑みにして信じてしまったのは失敗だったかもしれないわ。


確かにこんなドギツいBL同人誌の内容が頭に浮かんでしまえば
折角の美味しいお酒も不味くなりかねない訳なのだし。


……と、なると。全く本物の空への手がかりはなさそうね。


「はぁ……。だめね。他を当たりましょう」


がたん、と立ち上がる。

457: 2013/01/03(木) 22:44:36.51 ID:4CBqi39Io
が、それを袖を掴んで離さない音無さん。


「あ、あの……私達もう行かないと」


「待って、思い出したわ。この『天空街』何も全て私の妄想だけで構成された代物じゃないのよ。
 これは、ある日突然舞い降りた、イケメンに目を取られているとその人が言ったの。
 空の街を陥落させるってのも……大した仕事だぜ、ってね」


「それってどういうこと?」

「私はその言葉を聞いて思ったの。あ、それいただき! ってね」

「それピヨコがネタを思いついた時の話だろ……」


ジト目で音無さんを見る我那覇さん。

458: 2013/01/03(木) 22:45:57.80 ID:4CBqi39Io
どうやらそのようね。本当にここには要はもうないみたい。


「あぁ! でもその時に、私、勇気を出して話しかけちゃったのよ」

「あ、あの、天空街へ行くにはどうしたらいいんですか! って」

「そしたら」


ガシャーンッ!!

音無さんの言葉を遮るようにアトリエの窓が割れる。


「何っ!?」


窓の近くには拳程度の大きさの石が投げ込まれていた。

459: 2013/01/03(木) 22:47:00.09 ID:4CBqi39Io
咄嗟にみんなで外に出る。


「誰!」


表に出ると、そこには一人の老婆がいた。


「黄石さん……?」


この人は会ったことのある、確か黄石三穂という老婆。
アズミンの街へ
行く前に私と真で森から助けて上げた人。


「おお、今大きな音がして驚いたのだが、どこの音じゃ?」

460: 2013/01/03(木) 22:47:34.42 ID:4CBqi39Io
とよぼよぼと杖をつきながらこちらに歩み寄る。
それを真は駆け寄って支えるようにしてあげる。


「大丈夫ですか!? アズミンから引っ越したんですか?」

「おお、あんたは、確か命の恩人、真くんじゃないか。
 また、結構稼いでるようじゃね? あはっ」

「へ? どうしたのおばあさん」


とても老婆とは思えないスピードで腰の当たりからダガーを取り出した。

461: 2013/01/03(木) 22:48:02.00 ID:4CBqi39Io
「真っ! 危ない!」

言うが遅く、おばあさんは柄で真の鳩尾に深く一撃食らわす。


「ぐっ、うぅ、何を!?」


膝をつく真。
その真の顔面に大きく蹴りを食らわす老婆。


462: 2013/01/03(木) 22:49:40.71 ID:4CBqi39Io
「真ちゃんっ!」


吹き飛んだ真はアトリエに突っ込み壁を貫通する。
そこに駆け寄る雪歩。


「あはっ、どうやらまだミキがおばあさんだとか信じているんだね」

「あなたは一体……!」


ベリベリ……。
顔の皮を剥がすように変装を解いていく、骨格まで変化する高等な変化の術。
そして、あっという間に若くて綺麗な女性に早変わりした。

463: 2013/01/04(金) 00:47:26.27 ID:LSkM9KM3o
「えぇぇえ!? なにそれ! それ、いただき!」


表にでてきた音無さんが急に懐からメモとペンを取り出し何か書きだした。


「へ、変装により、彼は彼女を騙していただなんて……うふふ、ふひっ」


とブツブツ何か言っているがこの際全く気にはならなかった。


「また真くんからお小遣いもらっちゃったの!」


真のお財布を手の中で転がすようにする彼女……。

464: 2013/01/04(金) 00:47:59.71 ID:LSkM9KM3o
「まさかアズミンであなたと別れた時、財布を盗んだのもあなただったのね!」

「あはっ、ようやく気づいたの? 遅すぎてもうミキ眠くなってきちゃったよぉ、あふぅ」

「真へ何の恨みがあるのか知らないけれど、そのお金は返してもらうわ!」

「じ、自分だって戦うぞ! 来い、いぬ美ーっ!」


両手を合わせ、地面に手を付けるが全く反応しない。


「あ、あれ!? い、いぬ美!? おーい!」


パンパンパン!
何度やっても反応しないいぬ美。

465: 2013/01/04(金) 00:49:11.66 ID:LSkM9KM3o
「今日は調子が悪いのかなぁ? そ、それともまだあのこと怒ってるのかなぁ……」


とブツブツと呟いている。
こんな時にあの大きなモンスターがでてくれば朝飯前なのに。
この女の子からにじみ出るオーラは……異常。


「我那覇さん、とりあえずアトリエの奥の方にあずささんと音無さんの避難を!」

「わかった! 行こう、ピヨコ! ってうぎゃー!何書いてるんだよ!
 あ、あずささん、そっちじゃないってばー!」


私の背後でてんやわんやしている。

466: 2013/01/04(金) 00:49:57.35 ID:LSkM9KM3o
「あなたの名前は……!」

「ミキ? 美希の名前は黄石三穂、なんかじゃなくって星井美希なの」

「あぁ~、なるほど」


後ろのほうで呑気に真を看病しながら納得してる萩原さんの声。


「そう、まぁなんでもいいですけれどね!」


ダッ。


「わ、私も加勢するよ千早ちゃん! 身体強化の魔法! えーいっ!」

「へへーん、いっただきなのー!」


その俊足で私にかかるはずの光を自ら浴びに行って身体強化をした。

467: 2013/01/04(金) 00:51:04.87 ID:LSkM9KM3o
「おお、雪歩も結構な魔法使いさんなの! ありがとう、あはっ」

「くっ」

「ご、ごめんなさい~~! 私、ドン臭いから……」


杖を持ちながら縮こまる萩原さん。
そんなこと言ってないでいいから早くこっちも身体強化して欲しいんですけど!


「それっ! いっくよー!」

468: 2013/01/04(金) 00:51:39.72 ID:LSkM9KM3o
元からあのスピードだった美希の俊足はさらに早くなっている、
まともにこの剣じゃ全て抑えきれるかどうかも怪しい……!


美希の俊足、そして猛攻に防御する一方。


剣と美希のダガーが交わる度に何か妙な違和感を感じる。
どこか……似ている。



「ほらほら、千早さん、遅いよ~?」


一瞬のうちに背後に回られる。
まるで瞬間移動でもしてるかのように。
剣の鞘で攻撃をガードする。

469: 2013/01/04(金) 00:52:09.42 ID:LSkM9KM3o
防御もままならなくなってきてる。


美希の攻撃を剣で受けた瞬間に顎を蹴り上げられる。
激痛と共に目がチカチカする。


その怯みに対し、美希が回し蹴りを炸裂させて、
私も真と同じように吹き飛ぶ。


……が、なんとか踏みとどまる!
美希の方を見るとあくびをしていた。

470: 2013/01/04(金) 00:52:39.17 ID:LSkM9KM3o
「あふぅ、なんだか千早さん、弱いよねぇ……」

「ミキ、ちょっと以外かなって。千早さんはセンスあると思うけれど
 きっと剣を教わる先生を間違えちゃったんだね。ドンマイ」

「先生はセンスなかった感じかな?」


先生……。師匠。
私に剣を教えた師匠。

471: 2013/01/04(金) 00:53:25.02 ID:LSkM9KM3o
あの日、途方もなくなった私を救いの手で拾い、
生きるすべである剣を教えた師匠。


忘れもしない大事な日々。



私の前で……よくも。

「……まえで……」

「? 今何か言った?」

「私の前で……! 春香を悪く言うことは絶対に許さない!」


らしくもなく頭に血がのぼる。
目の前に美希しか映らない。

472: 2013/01/04(金) 00:54:01.76 ID:LSkM9KM3o
許さない。許さない。許さない。
私の大事な春香に。私の大好きな春香に。


よくも。センスがない? あの人は天才。
私の親友でもあり、親のような存在でもあり、
恋人のような存在でもあり、そして、剣を教えた師匠。


「あはっ、そうこなくっちゃ!」


激情に任せ剣を振るう。
遠くの方で真が回復したのが感じられる。

473: 2013/01/04(金) 00:54:47.92 ID:LSkM9KM3o
「こんな単純な攻撃じゃ、ミキは倒せないよ」


ギィン……ッ! ギィンッ!


激しくぶつかり合う私の剣と美希のダガー。
嫌な違和感を感じる。これは何?


なんで師匠のことが頭にチラチラとでてくるの?


よくその短いダガーで私の剣を防御できていられるわね。

474: 2013/01/04(金) 00:55:25.78 ID:LSkM9KM3o

だけど、それも今のうち。
今に見てなさい。その首をはねてやるわ。


しかし、美希とぶつかり合う次の瞬間に私は後ろに服を思いっきり引っ張られ倒れる。
私を後ろに引っ張り下げたのは意外にも萩原さんで、
萩原さんはそのままの勢いで突進してくる美希に目一杯の炎を浴びせた。


「”炎”よ!」


ゴオオオオッ!


杖から出る灼熱の炎は美希を静止させるのには容易いものだった。
突進してくる美希は恐らく炎を前に回避して、
体勢を立て直している頃合い。

475: 2013/01/04(金) 00:55:53.99 ID:LSkM9KM3o
「千早ちゃん、少し落ち着いた? 
 何があったのかとかは私、よくわからないけれど、
 でも、今は少し落ち着こう?」


「ええ、大丈夫よ、ありがとう。助かったわ」


本当はまだ少し頭に血が登っている。
だけど、今はそれくらいでちょうどいいのかもしれない。



炎が壁になって未だに美希は姿を現さない。


「今のうちに、傷を癒しとくね。”癒し”を」


萩原さんの杖から光が出て、私を包む。
みるみるうちに回復し怪我も何事もなかったのかようになる。


これで反撃開始よ。

476: 2013/01/04(金) 00:56:23.11 ID:LSkM9KM3o
「ふーん、回復の魔法ってそうやるんだ~」


ふいに炎のなかから声が聞こえる。


ザッ……。


嘘でしょう!? この炎の中を!?
歩いて普通にでてきた?


だって、体は燃えているのに。
熱くないわけがない。痛くないわけがない。

477: 2013/01/04(金) 00:56:54.45 ID:LSkM9KM3o
なのになんで?


燃え盛る炎の壁をいとも簡単に突き破ってきた。
ただしくは何もないかのように普通に歩いて通った美希。


だけど、美希の体は確実に燃えている。
火が移っている。


そして、美希は衝撃の行動を取る。


指を動かしている。
あの動きは確か……魔法!?
魔法が使えるの?

478: 2013/01/04(金) 00:57:47.25 ID:LSkM9KM3o
文字が美希の目の前の空中に浮かび上がる。


「う、うそ……」


萩原さんが驚愕していた。
震え、怯えていた。


「だ、だって、回復系の魔法はすごく難しくて私でも幼少の頃から
 学び始めてちゃんとできるようになったのは14歳の時なのに……」


「え? 何がどうしたっていうの?」


萩原さんのそれも異常な気がするのだけど。
要するに美希も回復の魔法を使えたというわけね。

479: 2013/01/04(金) 00:58:16.97 ID:LSkM9KM3o
「美希ちゃんは……完全に魔法の素人だよ、千早ちゃん」

「だって、あの文字列は、私が頭に描くものと同じ……
 普通の魔法とは別の。私の魔法文字列なの!」


つまり、この場では萩原さんしか使えるはずがない魔法を使っているということ?


そして


「”癒し”を!」



美希が己の体を光で包み、炎で傷ついた体を癒していた。

480: 2013/01/04(金) 00:59:04.25 ID:LSkM9KM3o
「おお~、なかなか悪くないって感じなの」


「そ、その魔法は……私の、私だけが持っている特殊な魔法文字列ですぅ!
 い、一体どこで教わったんですか!?」


珍しく萩原さんが叫ぶ。
萩原さんだけが持っている特殊な魔法文字列というのも気になるのだけど。


「え? そんなの今、雪歩が教えてくれたんじゃん?」

「え?」

「え?」


教えた!? どういうこと?
何を言っているの?

481: 2013/01/04(金) 01:07:50.98 ID:LSkM9KM3o
「わ、私は教えてなんかいません……!」

「確かにそうだね。ミキが勝手に覚えたって感じかな?」

「覚えた!?」

「じゃあ、特別に教えてあげるの。ミキの生まれ切っての能力」

「生まれた時から見て真似するのが得意だったの。
 そうやって盗むことで生活してたからね」

「人の特徴を盗むの。言い方をよくすると覚えるの。
 見て、聞いて、感じて、触れて、覚える。
 そして、会得する。自分のものにする」


「異常なくらい習得する。人智を超えた習得速度。
 全てのものを見ただけでマスターするミキの生まれ持っての特別な力。
 ”オーバーマスター”で、今の雪歩回復の魔法も覚えたの」


オーバーマスター!?
じゃあ私の剣の捌きも覚えて……?
通りでやりづらいわけね。

482: 2013/01/04(金) 01:08:28.22 ID:LSkM9KM3o
「だからさっきのだってできるよ? えーっと、こうかな?」


再び自分の目の前に魔法文字をつらつらと書きだす美希。
そしてそれを一瞬で解読し、私ごとタックルで緊急回避した萩原さん。


「”炎”よ!」


私と萩原さんの真上を業火が過ぎる。熱いっ!


炎が過ぎ去った隙を狙い、側面に回りこみ、剣を振るう。
しかし、またしてもダガーで防がれる。

483: 2013/01/04(金) 01:08:59.26 ID:LSkM9KM3o
「だめだめ! そんなんじゃ!」


再び美希の猛攻を受ける。
受けきれずに腕や足を次々に軽く切り裂かれる。


「”雷槌”よ!」


電撃を美希に向かって走らせるが、それも大きくジャンプして避けられてしまった。
そのまま美希は近くの木に飛び移り、


「”雷槌”なの!」


と電撃を返してきた。

484: 2013/01/04(金) 01:09:50.88 ID:LSkM9KM3o
いとも簡単に自分が出した魔法が相手に読み取られてしまったのが、
相当ショックだったらしく萩原さんの足は動かなかった。


「萩原さん!」


走っても間に合わない!
しかし、私よりも先に萩原さんに突っ込む一つの黒い影。


雷槌が萩原さんのいた所に落ちて、大きな音をたてる。
土煙をなくなるとそこには萩原さんの代わりに真が黒焦げになっていた。


「……っ」


ドサッ。

485: 2013/01/04(金) 01:11:44.72 ID:LSkM9KM3o
崩れ落ちる真に近くで倒れ込んでいた萩原さんが、這うようにして寄る。


「真ちゃん!? だ、大丈夫!? ど、どうして私なんか」


しかし、それにも真は返事もせずにただ寝たきりだった。
萩原さんの目には涙が浮かぶ。


私はそれを背後にし、美希に突っ込む。
美希も私に応戦する。
しかし、歯がたたない。


強い……。

486: 2013/01/04(金) 01:12:35.65 ID:LSkM9KM3o
「千早ちゃん……もういいよ。退いて」


殺気。恐ろしいほどの殺気を感じる。
振り返ると杖を持った萩原さんが。


萩原さん?
本当に?


この娘が?


白い服を着ているのにもかかわらずにじみ出る黒いオーラ。


「だ、だけど! あなたと美希じゃ愛称が悪すぎる!」

487: 2013/01/04(金) 01:14:19.86 ID:LSkM9KM3o
そんな私の静止もお構いなく目の前を通り過ぎる。
目には涙が。足は震え。
手は固く握られていた。


「あはっ、真くんってばやられていても結構さまになるんだね」


美希に向かって萩原さんが杖を振った。

美希は余裕ぶっていたが、その瞬間だけ大きく右に飛び退けた。


「い、今のは!?」


美希はその魔法だけは何かが違うと察したのか焦っていた。
そして、美希が避けたために、美希の後ろにあった木は幹を大きく抉られた。

488: 2013/01/04(金) 01:14:48.24 ID:LSkM9KM3o
抉られた、というよりも亡くなった、消滅した。
消え去った。食いちぎられたかのように。

ばっくりと、飲み込まれた。
あれは……確か、おじいさんも使っていた技だった気が……。


「覚えちゃうって言ってるのに、いいの?
 その技、美希も使えるようになっちゃうからね?」


美希は杖を持っていないためにいちいち自分の目の前に魔法文字を書かないといけない。
誰しも魔法の素人の時代はそうしているそうだ。

489: 2013/01/04(金) 01:15:46.36 ID:LSkM9KM3o
萩原さんはノーモーションで魔法が発動できるのは、
本来書かないといけない魔法文字を脳内で直接書き込んで、
思い浮かべているから、そう見えるそう。


実際には脳内でちゃんと書いているらしい。


美希が文字を自分の目の前に書き始めた。
しかし、先程から手が動かない……。


「無駄だよ。そんな魔法じゃ私と魔法での勝負をしようなんて100年早いよ」


あとで聞いた所、何をしているのかと言えばこの時、萩原さんは
美希の書いていた魔法文字をジャックして全てかき消していたとのこと。


ぐちゃぐちゃに。そして発動すらさせない。

490: 2013/01/04(金) 01:16:15.02 ID:LSkM9KM3o
だが、時期に


「まぁ、いいの……美希だってやり方さえわかれば……!」


「”雷槌”なの!」


ノーモーションで雷槌を発射する美希。
やはりこれもマスターできるというのね。


しかし、萩原さんは杖を上に振る。
その瞬間、萩原さんの目の前の土が盛大に盛り上がり、萩原さんの盾となった。


491: 2013/01/04(金) 01:18:33.61 ID:LSkM9KM3o
電撃の攻撃がやんだ瞬間に目の前の土壁を杖の一振りで破壊していた。
しかし、速度の面では相変わらず美希の方が格段に上だった。
そのために反撃もままならず美希の攻撃がくる。


「”炎”なの!」


ゴオオオオッ!


業火が迫るが萩原さんは、再び杖を振り、呪文を唱える。
その呪文は聞こえるか聞こえないかの大きさで唱えられた。


「……ダ……ィ……!!」


その瞬間、萩原さんに迫り来る炎は一瞬にして消し飛んだ。
まるで無効化になったみたいに。

492: 2013/01/04(金) 01:21:57.67 ID:LSkM9KM3o
「あ、あれ!? くっ、もう一回なの! ”炎”なの!」


再び、炎が迫り来るがもう一度同じ呪文を唱える萩原さん。
そして、それに対抗して再び美希も同じように炎を繰り出す。


しかし、それもかき消される。今度は雷槌を出す。
だが、これも消される。


萩原さんも魔法を消すごとに自分自身もヒートアップして行き
最終的には呪文を大声で叫び散らしていた。


「”雷槌”なのーーっ!」

「イクシアダーツサムロディーアー!!」


雷槌は呪文を唱えられた瞬間に何もなかったかのように消し飛んだ。

493: 2013/01/04(金) 01:22:28.74 ID:LSkM9KM3o
「な、なんで……!?」

「魔法の仕組みも理解できていない人に、
 私の魔法は壊せない……!」


「今のだってミキは簡単に覚えられるんだからね!」

「……真ちゃんに謝って」


大きく掲げた杖の先には太陽のような灼熱の炎の固まりが。



「さっきの魔法、きっと魔法を打ち消す魔法なんでしょう!?
 それくらいミキだってわかっちゃうの!」

494: 2013/01/04(金) 01:23:14.49 ID:LSkM9KM3o
「イクシアダーツサムロディーアー! なのー!」


美希は指を振るうが、萩原さんの杖の先の炎は消えない。
それどころか大きさをどんどんと増していく。


「あ、あれ? イクシアダ……あ、あれ!? なんで!?」


今度はちゃんと文字列を書こうとしているが、文字が書けていなかった。
だが、それはまた乗っ取りをしているわけではなかった。


「な、なんで!?」

495: 2013/01/04(金) 01:24:41.60 ID:LSkM9KM3o
「無駄だよ。その呪文は普通の魔法のスペルを書く、
 魔法文字ではないものを使ってます。さっきの私の文字列と言ったけど、
 あれは私の一族の文字列を改変したもの」

「結果的には悪く、改変ししまったけれど」


「私の一族が開発した文字は絶対に解読できないです。
 だから……素人の美希ちゃんには全く書けないとおもいます」


ニコッと笑う萩原さんの目は杖先の炎と同じように燃えていた。


「くっ……! ほ、”炎”なの!」


炎で対抗する美希。だが、灼熱の業火の塊には何も効いてなかった。

496: 2013/01/04(金) 01:28:13.41 ID:LSkM9KM3o
「ひっ……!」


咄嗟にこの実力差を知ったのか踵を返して走りだす美希。
森へ入ろうとする、その敗走の姿はみっともなかった。


「もう……真ちゃんに謝っても許さないんだから……!」

「い、いやっぁぁぁあ! ご、ごめんなさいなのーーー!」

「はぁぁぁ……!」

「”インフェルノ”ォォーーッッ!」

「い、いやなのぉぉぉおおおおお!!」


太陽のような業火の、灼熱の、塊は、逃げる美希を
森ごと焼き払い、消し去った。

497: 2013/01/04(金) 01:29:55.67 ID:LSkM9KM3o
元々このアトリエ・リトルバードの近くは町の外れで
森に囲まれたような所だった。
萩原さんの発動した、”インフェルノ”は、
(幸いタキタウンの方角とは真逆の方向に走った)
森を焼きつくし、えぐるかのように、まるで巨大な何かが通ったかのようにあとを残していった。


インフェルノの通ったあとの森は焼きつくされ、跡形も無く燃え尽きていた。



「す、すごい……」


思わずそんな言葉が漏れてしまった。
美希の逃げ足ならば逃げられるのかもしれないと、思ったけれど。
たぶんこの有り様では無理だろう。
逃げたとしても相当な重症になったと思う。

498: 2013/01/04(金) 01:30:22.14 ID:LSkM9KM3o
萩原さんはすぐに振り返り、真のもとに走り、魔法をかけた。
たぶん結構本気だしてかけてる回復の魔法で、真はすぐに目を覚ました。


「あ、あれ? ボク……」

「真ちゃぁぁあん」


ガバッ、と真に抱きつく萩原さん。


「ありがとう、雪歩。助かったよ」


真の胸でわんわん泣く萩原さんの頭を優しく撫でる真。

499: 2013/01/04(金) 01:31:13.13 ID:LSkM9KM3o
「すごかったぞ、雪歩ー!」


萩原さんの後ろから飛びつくように抱きつく我那覇さん。


「ねえ雪歩。思ったんだけど、送り届ける魔法みたいなのってない?
 そうしたらあずささんを送り届けられるじゃん?」


と、珍しくもっともな発言をする我那覇さん。
確かにそうね。


「む、無理だよぉ……。確かにそういうのはあるけれど、
 それって結局、響ちゃんの出した召喚獣をしまう、ってのと同じ原理だし」


「人間でやったら失敗した時……悲惨なことになるかもしれないし」



そう否定する萩原さん。じゃあどうしたら……。

500: 2013/01/04(金) 01:32:08.31 ID:LSkM9KM3o
パチパチパチ……。
乾いた単独の拍手がアトリエの前にいる私達の耳に届く。


真がアトリエの屋上、屋根の上を見て


「見てみんな……誰かいるよ」


という。
見ると屋根の上には金髪の……美希とは全くの別人。
そもそも男性だった。
金髪のその男性は屋根の上に座って足を組みながらこちらを見下ろしていた。


「チャオ☆ エンジェルちゃん達」

501: 2013/01/04(金) 01:33:18.33 ID:LSkM9KM3o
ウインクしながらキザな挨拶をかますその男。
今、何かすごくイラッとする星が見えた気がするけれど。


「あぁぁぁあ! あ、あの時のイケメン……!!」


むふーっ、と鼻息を荒くする音無さん。


「あ、あの人よ! 天空街がどうこう言ってたのって!」

「へぇ。そっか。参ったなぁ。話を聞かれていたのか……」


その瞬間、ただならぬ殺気を感じ、またこの人も相当な手練だということを悟る。
咄嗟に構えてしまう。

502: 2013/01/04(金) 01:33:51.45 ID:LSkM9KM3o
だが、


「やだなぁ。別にやりあうつもりはないよ。子猫ちゃんたち」


と笑ってみせる。


「その子、空の者なんでしょう?
 この町じゃ無理だよ。この町はそこのお姉さんのせいで
『天空街』といういかがわしい本で有名になった町だ」

「だからこそ、この町の人達はそれを嫌い、
 また本を求めてくる人達を空の者として忌み嫌う」

「だけど、実は天空街というのはお話の中だけの空想世界じゃなかったんだ」


空想世界じゃなかった……。やはり本当に空に町は実在する。

503: 2013/01/04(金) 01:37:50.59 ID:LSkM9KM3o
「それから。もう少しヒントを与えると。そこのポニーテールのエンジェルちゃんの
 推測は正しい。確かに転送魔法で送り届ければいいということ」


何やら勝手に語り出したのだけど。
しかし、ヒントをくれるというので一応聞くことにするが、
私は決して信用するつもりにはならない。


「ここはクロイ帝国の領地。タキタウンの町外れのアトリエ。
 この町から北の方角。クロイ帝国の最北地にある特殊な種族の村があるんだ」

「そこには転送の魔法を最も得意とする者がいてね。その子に頼むが一番いいと思うよ」

「な、何故そんなことを私達に……?」

504: 2013/01/04(金) 01:38:31.58 ID:LSkM9KM3o

疑問。今あった謎の人物にそんなことを教えられる……。
一体どういうことなの?


「やだなぁ。ただの親切心さ」


肩をすくめるその男の人は私を困ったように見る。
だけど……まだ信用はできない。このただならぬ熟練された戦士のオーラ。
油断はできない。


「じゃあそこの村へ行けばいいのね!」

505: 2013/01/04(金) 01:39:31.33 ID:LSkM9KM3o
楽観的なあずささんが楽しそうに言う。
でもあなた迷子になるくらいの方向音痴なんじゃ……。
言い出すやいなや、南の方角に歩き出すあずささんを止める真と我那覇さん。


「そっちは南だぞー! 逆だってばー!」

「あなたは……一体」

「通りすがりの人さ。名前は伊集院北斗。
 それと……大事なニュースがある。
 君たちはナムコ王国の人達でしょう?
 君等の首都は今、一番危険だよ。
 反乱が起きている」


「なっ……!?」

506: 2013/01/04(金) 01:40:57.49 ID:LSkM9KM3o
思わず動揺してしまった。
会ったこともない人の話を聞いて。鵜呑みにしてしまって。


「どうするかは君等次第さ」

「なんでそんなことを知っているの……!?」

「風の便りってやつさ」


相変わらずキザに返すのがイライラする。
そして、まだ何か語り出した。

507: 2013/01/04(金) 01:42:24.27 ID:LSkM9KM3o
「なんて言いつつ、君に一つ忠告してあげよう」

「ん? 予言、とも言ってもいいかな?」

「まぁ、占い? 良かったわね、千早ちゃん」


と隣であずささんは楽しそうにしていた。
それどころじゃないのだけど。


「結構よ」


キッパリと断る。あずささんは残念そうにしていた。

508: 2013/01/04(金) 01:44:32.24 ID:LSkM9KM3o
「ふっ。釣れないねぇ。
 こんなに親切に情報を与えといてなんだけども
 あまり人を信用しない方がいいよ?」


「信用は裏切りを呼ぶ。そしたら傷ついちゃうじゃないか。
 傷ついたエンジェルちゃんは僕は見たくないからね」


そう言うこの男の目は私なんかを全く見ていなかった。
どこを……見ているの?

誰を見て言ってるの?


「それじゃあね、エンジェルちゃんたち」


と屋根の奥の、向こう側へと消えていった。

509: 2013/01/04(金) 01:45:13.52 ID:LSkM9KM3o
「ちょっと、今のどういうこと!?」

「ふ、ふぅ……一体なんだったんですか?」


すっかり私の後ろに隠れていた萩原さんが顔を出す。
私にもわからないわよ。そんなの。


「千早、今の話……」

「わからないわ。本当なのかも……どうなのかも」


私にはわからない。だけど、本当だとしたら。
助けに行かないと。

510: 2013/01/04(金) 01:46:59.48 ID:LSkM9KM3o
「どう行ったら早い……!?」

「水瀬さんに頼んで国境を渡るというのは……!?」

「千早ちゃん、それじゃあ国境を超えたあともまだ長いよ」


そうね。問題は国境を再び超えること……。


「じゃあ一緒にその村まで行って、首都のバンナムに転送されればいいんじゃないか?」

「それだ!」

「ええ、そうしましょう!」


我那覇さん。あなたは冴えてるわね、本当に。
今日は最高に使えなかったのに。


我那覇さんの提案に賛同する真と私。

511: 2013/01/04(金) 01:47:26.05 ID:LSkM9KM3o
「じゃあ急いで向かいましょう!」


萩原さんも杖をギュッと握り締める。


「よかったわ。これで一緒にいけば道に迷うこともなさそうだし」


安心するあずささん。
地図で軽く確認するとまっすぐ首都バンナムに戻るよりはこちらのほうが早い。


「あ、あの~、私もその村に連れて行ってもらえませんか?」


そろ~っと手を挙げる音無さん。
あまりお荷物は増やしたくないのだけれど。

512: 2013/01/04(金) 01:48:38.43 ID:LSkM9KM3o
「えっと……私、この町を追われてて、こんな所にアトリエがあるんですよ」

「私も何か旅にでれば新しいネタが手に入るかもしれないし!」


と楽しそうに言う音無さん。
また守る人が増えた。
これだけの人数で移動するのは正直大変なのだけど……。
まぁでもすぐに村までつけばいいことよ。


真と地図を出して確認する。
しかし、地図上にクロイ帝国の最北地の当たりには村なんて見当たらなかった。


騙された!?

513: 2013/01/04(金) 01:58:48.72 ID:LSkM9KM3o
「騙されたのかしら?」

「わからない。でもとにかく行ってみないと……!」

「えぇ、もし嘘だったらとっちめてやればいいわ」


山奥にある村までモンスターにはどれくらいの頻度で会うかはわからないけれど。
それでも真も我那覇さんも萩原さんもいるし、なんとかなるはず……。


しばらく音無さんの準備を待ち、そして一行は旅に出発した。


あとあとになって確認すると亜美からもらった情報はあながち間違いではなかった。
空中の王国は私達は訪れないにしても存在はしていた。


またそれの詳しいもの、(この場合は同人誌の方だったけど)
それは音無さんが知っていた。


不思議だったのが大戦を一度休戦にまで持ち込んだことのある実力者。
というものだったが、音無さんに問いただした所。


「あれは私の発売した同人誌があまりの人気っぷりで大反響を呼んで
 敵も味方も私の同人誌で戦いがそっちのけにもなってしまったの」

「もちろんこれは歴史では語られることはない真実だけどね」


と言っていた。なんとも馬鹿みたいで嘘みたいな話である。

514: 2013/01/04(金) 02:00:06.62 ID:LSkM9KM3o

私、如月千早と真、萩原さん、我那覇さん、あずささん、そして音無さん。
いつの間にか大所帯になった一行は転送魔法を得意とする者の待つ村へ。


クロイ帝国の北の山は極寒なことで有名。
そんな地に行く私たちを待ち受ける特殊な種族とは……一体?




キサラギクエスト EPⅣ  天空の迷い子編  END

515: 2013/01/04(金) 02:02:55.40 ID:LSkM9KM3o
あずさ編のつもりだったのに戦闘では千早も活躍しないし、
ボリュームもダウンした感じが否めません。精進しています。

今回はここまでにします。
誤字脱字乱文、設定の矛盾等、大変申し訳ございませんでした。
お付き合いくださってありがとうございます

516: 2013/01/04(金) 09:46:46.31 ID:BvsH730Ro



続きます




引用元: 千早「キサラギクエスト」