681:  ◆tFAXy4FpvI 2013/02/25(月) 13:05:02.51 ID:tTizihOfo



前回はこちら



 ~~菊地真Side~~



こんにちは。おはようございます。それともこんばんは?
菊地真です。


ボク達の旅が終わってからもう2年が経ちました。
そんなボクの今の生活は……



「いらっしゃいませー! はい! 牛丼ですね!」

「うんうん、菊地真さんは今日も元気だなぁ」

 

牛丼屋でアルバイトをしています。






「……はっ!?」

「……夢か」



千早「キサラギクエスト」シリーズ



682: 2013/02/25(月) 13:05:45.91 ID:tTizihOfo
なんだろう、今の夢。何か乗っかってはいけない波に乗っかろうとしていた気がする。
寝ぼけ眼をこする。


朝日も登らない、まだ暗い。もう一度眠ろう。
枕に顔を埋める。


暗闇に意識を葬り去る。
それにしてもさっきの夢はなんだろう……。
牛丼? 美味しそうだったな。いいや、考えない考えない。



ボクの冒険は終わったんだ。
楽しかった、でも危険がたくさんあった冒険はもう終わった。
そう。



もう終わったんだよ。

683: 2013/02/25(月) 13:07:41.30 ID:tTizihOfo
ナムコ王国の前王である高木順二朗が氏亡した事件が起きたあの日、
ボクはその事件場所にいたが、突然現れた天ヶ瀬冬馬というクロイ帝国の幹部により、
一瞬にして気絶されられてしまった。


不甲斐ない。あんなに鍛えていたのに。
やっぱりボクは女の子。男の人には勝てないのかなぁ……。


いいや、弱気になんかなっちゃいけない。
ボクは立派な勇者の一人なんだから。
いけないなぁ、ここの所どうも弱気になってしまう。


ナムコ王国の王が氏亡して、その後は大臣であったはずの律子に王位が移った。
元王の直々の指名だそうで誰もこれには逆らえなかった。

684: 2013/02/25(月) 13:09:36.20 ID:tTizihOfo
しかし、この急氏とも言える国の事情を戦争まっただ中の敵国、
クロイ帝国が見逃す訳がなかった。
そんなことボクが敵でも見逃す訳がない。当たり前だ。


これはボクが気絶したあとの話ではあるが、
王は千早を庇って天ヶ瀬冬馬に斬られ氏亡。
その時に雪歩は天ヶ瀬冬馬により、
痺れ薬が塗られたナイフで攻撃され身動きが取れなかった。


千早は足を斬られ重症。急いでいたために手持ちは剣しかなく回復薬もなし。
律子は響の召喚獣であるハム蔵に捕まり、こちらも身動きが取れない。


そして王は氏んだ。


千早もその後、まもなくいぬ美の攻撃をモロに喰らい……目を覚まさなくなった。

685: 2013/02/25(月) 13:10:54.36 ID:tTizihOfo
深い眠りにつき、昏睡状態でいる。
寝たきりになってしまった。
普通の医者だけでなく、魔術系の医師が診断した所、
起きようという意志がないと言われている。



その千早の体はバンナム城の秘密の隔離部屋に入れられていて、
まだクロイ帝国の者にも見つかってはいない。



見つかってはいない。
なぜ、このバンナム城にクロイ帝国の者がいるのか?
それは簡単なこと。


この戦火、敵国を潰すならば絶好のチャンス。
クロイ帝国は全総力をフルに引き出し襲来。



ナムコ王国は戦争に敗北したのだ。

686: 2013/02/25(月) 13:13:14.38 ID:tTizihOfo
クロイ帝国に対し、白旗を掲げた。



ナムコ王国が敗北した今のナムコ王国の現状は、
残された地域はナムコ王国の首都であるバンナムが一番端となってしまった。


元々クロイ帝国とナムコ王国は隣接し、
それぞれの首都からちょうど均等の位置辺りに国境線がある。



だけど、今は首都バンナムの町が国境線付近となっている。
これを聞けばどれだけ攻めこまれた、占領されたのかがなんとなくわかると思う。

687: 2013/02/25(月) 13:14:31.12 ID:tTizihOfo
かつてボク達が旅をした数々の地域。



ボクと千早が出会った森も、

ボクと美希が最初に出会った財布をスられた森も

響と出会ったあの草原も

雪歩と出会ったアズミンという町も

長介と出会って、やよいの住んでいる町ニゴも


全部クロイ帝国の領地になってしまった。

688: 2013/02/25(月) 13:17:30.47 ID:tTizihOfo
ナムコ王国はクロイ帝国の監視の下で日夜生活する羽目になってしまった。


この戦争に負けたのは律子が原因ではない。
ボクは毎日欠かさず律子には手紙を出している。


それは励ましの手紙である。
彼女の生活もまたクロイに監視されているものになっている。




その敗北から2年が経過していた。



ボクはクロイ帝国の中では重度の指名手配らしく今でもナムコ王国の中でも
クロイ帝国の中でもボクを探してうろうろしている連中がいる。

689: 2013/02/25(月) 13:19:12.64 ID:tTizihOfo
そんなボクの隣で寝ているのは……


「……まきょ?」

「ごめん、起こしちゃったね……」


そっとまこちーの頭を撫でる。
眠そうにして目をこすっているが、すぐにまた寝てしまった。

690: 2013/02/25(月) 13:21:31.42 ID:tTizihOfo
この一ヶ月毎日毎日、夢に見る。
こうやって布団で寝ていても夜空を眺めながら焚き火を囲んで4人で寝たことを。


誰彼構わず自分の夢を語り、雪歩はそれを興味津々で聞いて、
千早もそれを楽しそうに聞きながらも


「明日も早いんだからそのくらいにしないさい」


といって笑っていた。



ボクは今、あの小さな民族達が住む隠れ村に匿ってもらっている。
クロイの連中はボクがまだナムコ王国に潜んでいると思い込んでいる。
だからこそ、本来クロイ帝国のはずなのに、激しい雪山、豪雪地帯のせいで、
未開拓となっている地域に潜んでいるのだ。


それだけでなくいざとなった時に何度もお世話になったみうらさんに
瞬間移動で助けてもらうためということもある。

691: 2013/02/25(月) 13:29:27.70 ID:tTizihOfo
雪歩は……戦争により自分の出身地であるアズミンがピンチだと聞いて、
事件が起きたあの日から目が覚めると一人でアズミンに帰ってしまった。


ボクの生まれ故郷はクロイ帝国側から見ればバンナムよりも奥にある場所だから
まだ攻めこまれてはないし、それなりに安全である。


そして、ボク達が関わった町の一つでもあるクギューウの町にいた水瀬伊織。
彼女が持つ有志の軍はこの2年でさらに膨大に膨れ上がり、
水面下ではあるが活動が続いているらしい。


何でも、衰退したナムコ王国はもちろん、クロイ帝国にも引けを取らないとか。
その中でも優秀な破壊王とされてる年端も
いかない若い豪傑がいるとかで話題になっているらしい。



ねえ、千早、ボクはどうしたらいいんだ。

692: 2013/02/25(月) 13:38:42.84 ID:tTizihOfo
隣で眠るまこちーを撫でる。
すやすやと安らかに眠るその姿は本当に愛くるしいものがある。


あの時、ボクがもっと強かったら天ヶ瀬冬馬に勝てたのだろうか。
今もコツコツと修行を重ねているけれど、
ボクはそれで強くなれたのだろうか。




パサ……とテントの入り口が開く音と共に豪雪地帯特有の寒さが雪崩れ込んでくる。


「うぅ……寒っ、誰?」


首だけ起こして入り口の方を見るとそれはたかにゃだった。
何やら紙を持っている様子ではあるが、たかにゃが珍しく息を切らしていたのに驚いた。

693: 2013/02/25(月) 13:39:19.11 ID:tTizihOfo
「ど、どうしたの?」

「し、しじょっ」


といつものように筆談用の紙をあげる。


そこには「朗報」と書かれていた。


「朗報?」


そして、再び、テントが開いた。
寒さに驚いたまこちーが飛び起きる。


そこには真っ白いコートを着たボクのかつての相棒の一人である
萩原雪歩がそこにいた。


「やっと見つけたよ、真ちゃん」


「ゆ……きほ?」

694: 2013/02/25(月) 13:41:20.25 ID:tTizihOfo
雪歩は有無を言わさずにテントの中に入り込んできてボクを引っ張りだそうとした。


「時間がないの。今すぐみうらさんを呼んで。お城に戻るよ」

「……まさか」

「うん……。二人でお寝坊さんを起こしに行かなくちゃ」



何がショックだったのか。
初めて会った時、彼女は人の心を持っていないのかと思うくらい、
残忍で冷徹で、冷静な人だと思っていた。


だけどそれは間違っていた。彼女はその優しい心を押し頃していたんだ。
きっと何か人の氏とかには人一倍に敏感なんだよ。


ずっと旅していたんだ。仲間だから。
ボクが助けなくちゃいけなかったんだ。

695: 2013/02/25(月) 13:42:37.50 ID:tTizihOfo
ボク自信は何もできないかもしれないけれど、
それでもただただずっとこの村で隠れて潜んでいたわけじゃない。
千早は旅を続ける中でずっとずっと成長をしている。
ボクなんか足元にも及ばないくらいになっていた。


追いつかなくちゃいけない。千早の相棒として。
ボクが隣に立つためにはボクがもっと強くならなくちゃいけない。


「……ごめん。雪歩。待っていたよ」

「頼んでいた魔法は開発できたみたいだね」

「うん、お待たせ真ちゃん」


ボクは立ち上がりすぐに着替えを始める。
雪歩はその間ずっとこちらを見ていたけれど、
誰かが来てボクを襲わないか見張っていてくれてるのだろう。
少し息が荒いのはここまで走ってきたからなんだよね。

696: 2013/02/25(月) 13:43:17.92 ID:tTizihOfo
着替え終わり外に出て、みうらさんの元に行く。
それからボクと雪歩はたかにゃや村のみんなに挨拶をする。


「みんな、ありがとうね。こんな危険なことに付き合ってくれて」

「ボクみたいなのがいれば村は危険になるのに」


ちひゃーは元気よくボクの懐に飛び込んできてペシペシと胸を叩きながら励ましてくれた。


「くっくっくっ」

「しじょっ」


たかにゃは紙に書いた「仲間」の文字を見せてくれた。
心強い言葉。ありがとう。

697: 2013/02/25(月) 13:43:46.53 ID:tTizihOfo
「まきょ」


「うん、ごめんね。また一緒に修行付き合ってね」


まこちーの頭を優しく撫でる。



「急ごう真ちゃん」

「うん、それじゃあ。みんなまた会おう!」


みうらさんを頭の上に乗せて、目指さすはバンナム城の内部にある
千早を匿っている秘密の部屋。


両手を勢いよく叩き、そして瞬間移動する。

698: 2013/02/25(月) 13:44:17.00 ID:tTizihOfo
一瞬のうちに雪景色の中にある村からレンガの中の冷たい部屋に飛んできた。
目の前にはひとつのベッド。


「ありがとう。もう戻ってもいいよ」


「あら~」


と手を振ってからシュンッと消えていった。
移動の時は彼女達に助けてもらってばかりで申し訳ない。
だけど、仕方ない。急ぎなんだ。


ベッドにゆっくり近づいていく。


「千早。お待たせ」

「さあ起きなくちゃだよ」


答えてくれる訳もない。

699: 2013/02/25(月) 13:45:09.95 ID:tTizihOfo
「真ちゃん。千早ちゃんはきっと今も夢の中を彷徨っていると思うの」

「だから、千早ちゃんが目覚めないって聞いた時に私と真ちゃんで
 なんとか起こす方法を考えようってなったよね」

「それがやっと開発できたよ。この新しい魔法”DREAM”で」



雪歩はクロイ帝国が攻めこんできて
アズミンの町が危ないから支援しに帰らなくちゃいけない、
という時にボクが無理矢理宿題を出したんだった。


ボクと雪歩は1日や2日で目が覚めたが、千早はそうはいかなかった。
この眼の前でぐっすり眠っている、眠りこけてる眠り姫は。


ベッドでただ眠る千早も見る。
戦わずして、剣を持たずしてただ寝ているだけの千早は美しかった。

700: 2013/02/25(月) 13:45:43.35 ID:tTizihOfo

「さっそくやろう。だけど……どういう魔法なの?」

「これは私達の意識が千早ちゃんの意識の中に潜り込むっていう魔法なの」

「要するに千早の夢の中に入り込むって魔法ってことか……。よーし」

「じゃあ早速行くよ……タイムリミットは10分だからね」


10分間の間に千早を起こさないといけない。


ベッドの両脇に二人が立って千早の手を握る。温かい。まだ温もりがある。
雪歩がそっと目を閉じたのを真似して目をとじる。


「準備はいい?」

「うん。いつでもオッケー。その魔法をかけて」


呪文が聞こえる。





「”DREAM”……」

701: 2013/02/25(月) 13:46:44.38 ID:tTizihOfo
意識が飛んでいく。
徐々にふわふわした気持ちになる。眠っているのかなぁ?
違う。なんだろう。
これは。


浮いてる感じ。ぷかぷか浮いてる感じ。


「え?」


風を感じる。さっきまでここは無風地帯の城の中だったのに。
窓や明かりも何もなかったのに。


目を開けるとそこは見たこともない草原だった。
広く美しい。
雲ひとつ無い青空。


たくさんの花がある。

702: 2013/02/25(月) 13:47:37.42 ID:tTizihOfo
「綺麗……」

「真ちゃん……」


気がつくと隣には雪歩がいた。


「雪歩……ここって」

「たぶん、千早ちゃんの夢のなかだと思う……」

「ボク、千早のことだから夢のなかでも戦ってたりするのかと思ったよ」

「あ、あはは……」


雪歩もそんなものだと思っていたっぽい。
二人で草原を歩く。広い草原を。

703: 2013/02/25(月) 13:48:38.59 ID:tTizihOfo
しばらく歩くとそこには花がたくさん咲いている場所にでた。
今度はさっきよりも一段と綺麗だった。


「見て、雪歩!」

「うん、すごいね!」


二人して童心に帰ったような声を出して走りだす。
花畑が近づいてくるとさっきまではいなかったような気がするのに
いつの間にか真ん中に小さな女の子がいた。


「春は花をいっぱい咲かせよう~夏は光いっぱい……」


楽しそうに歌を歌いながらこの一面の花を摘んでいた女の子は
こちらに気がついて歌をやめてしまった。
少し邪魔してしまったかなぁ、という気分になる。


でも、今の歌……どこかで聞いたことが……。この感じ。

704: 2013/02/25(月) 13:49:18.68 ID:tTizihOfo
「ねえ雪歩、今のってもしかして」

「わ、私も同じ事考えってる……」

「こんにちは。君、もしかして……千早?」

「うん! こんにちは! お姉ちゃん達誰?」


きょとんとした表情をする小さな女の子、もとい千早。


「どうしてこんな所にいるの? ここは私の秘密の場所だよ?」

「えっと……それは……」

「でもいいよ! はい、これあげる!」


回答に困っていると摘んでいた花を一つもらった。綺麗な花だった。
千早の容姿はざっと5歳とかそこら辺なんだろう……。
たぶん。

705: 2013/02/25(月) 13:50:02.17 ID:tTizihOfo
「ねえ千早ちゃん。このお花どうするの?」

「これはねえ、お母さんと優にあげるんだ」

「優?」

「うん! 優!」


誰だろう……でもきっと家族……。お父さんの名前なわけがないし。
確か千早にはもう一人家族が。


「真ちゃん、もしかして千早ちゃんの弟さんなんじゃ……」

「それだ! ねえ、もしかしてそれって千早の弟のこと?」

「そうだよ! いつも歌を歌ってあげてるの」

「……どうする雪歩?」

「どうするって言われても……この子に言ってもわからないんじゃ」

「うーん……試してみるか」


ボクは千早と同じ目線になるために屈みこむ。

706: 2013/02/25(月) 13:50:31.10 ID:tTizihOfo
「ねえ千早。よく聞いて欲しいんだ。ここは夢なんだよ」

「……夢?」

「そう、夢なんだ」

「なんで?」

「本当の千早はもう起きなくちゃいけないんだ」

「どうして?」

「うーん……」


言葉に詰まってしまった。なんて説明したらいいんだろう。
というかなんだろうこの純粋な眼差し……。
心が痛いよ。

707: 2013/02/25(月) 13:51:07.59 ID:tTizihOfo
というか、本当に同じ人物なのか?


「千早ちゃんはね、本当はここにいちゃいけないんだ」

「弟さんはどこにいるの?」


雪歩が自然とバトンタッチしてくれる。


「優はお家に……」

「いないよ」

「もういないんだよ」

「うそ……」


小さな千早は持っていた花を地面に落とす。
雪歩はそれでも真剣な眼差しで。

708: 2013/02/25(月) 13:52:38.51 ID:tTizihOfo
ダッ。
小さな千早は雪歩の横をすり抜けて走って逃げ出した。
ボク達は小さな千早を追うために後ろを振り返ったが、そこはもう町になっていた。


さっきまで花一面だったのに。青空の下にいたのに。
夢だから場面の変化も突然起きるのかな?


「千早!?」

「千早ちゃん!?」


千早もいなくなったし……どうしよう。
とにかく探さなくちゃ。

709: 2013/02/25(月) 13:53:20.67 ID:tTizihOfo
「雪歩、魔法でなんとか探せないかなぁ」

「ごめん、それは厳しいかも。ただでさえ、発動中の術式を操るのに精一杯で」

「そこに索敵の高度な魔法を織り交ぜるなんてのは……できないよ」

「下手したらこの”DREAM”も溶けちゃうかもしれないし」


そっか……。じゃあ今度はボクが頑張らないといけない番だ!


全力で町のなかを走りまわる。
夕方の設定なのかやけに町が暗い。


頑張らないと、言うけれど、どうしたらいいんだ。

710: 2013/02/25(月) 13:54:24.01 ID:tTizihOfo
がむしゃらに走り回って見たこともない町の中を探しまわる。
時間がないってのに!


町の終わりまで行くと今度は千早は少し成長してそこにいた。
少し背が大きくなってるから7歳くらいなのかなぁ。


ある家の前にいた。
町はずれの家に一人でいた。


「千早……探したよ」

「お姉ちゃん……誰?」

「真だよ。菊地真。あっちのは萩原雪歩」


遅れて雪歩が走ってくる。

711: 2013/02/25(月) 13:54:51.10 ID:tTizihOfo
「千早。ここは夢なんだよ」

「だから、もう起きよう。起きる時間なんだよ」

「王様は氏んだよ。でもそれは受け入れなくちゃいけないんだ」

「ボク達が国のために頑張らないといけないんだ!」

「千早……わかるよね」

「真ちゃん……ハァ、ハァ、もうあと残り時間がもう……」


もう時間が……!

712: 2013/02/25(月) 13:55:44.68 ID:tTizihOfo
「千早、君はこんな所でとどまってはいけないんだ!」

「頼む、ボクに力を貸してくれよ!」



小さな千早は戸惑うばかりで声も出ていなかった。


「響もいなくなっちゃったし、王様は氏んだ」

「負けたんだ。王国は……」

「頼むよ……」



どこかからいつの間にか涙が溢れる。
なんだろう。なんでだろうなぁ。
こんな所で何やってるんだよ千早。


悔しかった。ボクの相棒とも言える人がこんな所でこんな風になっているのが。

713: 2013/02/25(月) 13:57:13.55 ID:tTizihOfo
「千早……ボク達がやらないで誰がやるんだい」

「もうわかってるよね。気づいてるよね?」

「いつまでもそんな所にいちゃだめだ」

「確かにあの事件は悲劇かもしれない……。
 だけど、そこから逃げちゃいけないんだ」


ボクはいつの間にか目の前にいる小さな千早になんて話してはいなかった。
空に向かって空間に向かって、この夢の中で逃げ続けている千早に向かって、
声を張り上げて叫んでいた。


「過去を断ち切って……! 千早! 前に進むんだ!」

「諦めたらだめだ! 逃げていたらだめだ!」


タイムリミット。ボクの体と雪歩の体は光の粒となって足元から消えていく。

714: 2013/02/25(月) 13:59:32.18 ID:tTizihOfo
千早ばかりが苦しい思いをしているわけじゃないんだ。
雪歩だって自分の故郷が危ない目にあっている。


だけど、ボク達は今、千早が必要なんだ。
千早がいたから歩き出せる。こんな所で負けてばかりいられない。



「千早ならできる!」

「大丈夫だよ。傷ついたって。苦しくたって、ボクもいる。雪歩もいる」

「千早は一人じゃないんだ」



首の辺りまで消えて視界が奪われると思った瞬間に、
目の前にいたはずの小さな千早はボク達の知っている成長した千早だった。
口元は笑っている。優しく微笑んでいるのに涙を流していた。

715: 2013/02/25(月) 14:02:35.00 ID:tTizihOfo
目を開けるとボクと雪歩はまたベッドの両脇に立っていた。
ボクは涙を流していた。おかしいな。
何を言ったんだっけ? 思い出せないや。


最後は笑っていた気がする。
よく見えなかったけれど。



寝たきりの千早の手をボクはまだ握っていた。


意識が帰ってきた雪歩と目と目が逢う。


「やっぱり……思い出せないね」


やっぱり……? 夢のなかで何があったのか思い出せないことが?
最初からそれがわかっていたのかな?



716: 2013/02/25(月) 14:05:38.87 ID:tTizihOfo
「ごめんね、真ちゃん。説明不足だったよね」

「この魔法は千早ちゃんの見ている夢、つまりは千早ちゃんの脳が見ている夢に
 私達が潜り込む形になっているから、あまり私達の記憶には残らないようになってるの」

「そうだったのか」

「でも……」


雪歩は千早の方を見る。
もしかして、千早の記憶には残るかもしれない?


「でも、夢だから起きても千早ちゃんは覚えてないかもしれないけど」


と少し寂しそうに笑う。
ボクはその雪歩の顔が見れなくてつい目をそらして眠る千早を見た。

717: 2013/02/25(月) 14:12:23.54 ID:tTizihOfo
ボクは雪歩に「でも、どうやら失敗したみたいだね」と言おうとした。


その時、かすかに握っていた手にピクンと力が入った。


「い、今!」

「うん! 今!」


ボクと雪歩はいつの間にか手を繋いでいた。
3人で輪になるように。


だけど、すぐにボクの握っていた手は離されて、
眠っていた目をこすり、体をゆっくりと起こした。


「おはよう、千早ちゃん。待ってたよ」

「……ったく、遅いぞ千早。おはよう」



ボクと雪歩は優しく千早を抱きしめた。



キサラギクエスト  EPⅦ   眠り姫編   END

718: 2013/02/25(月) 14:16:20.05 ID:tTizihOfo
サブタイトルが思いつかなかった訳じゃないんです。
千早のお誕生日だから更新したんだけど、たまたま千早が全く活躍しない回になってしまった。
申し訳ない。
千早お誕生日おめでとう!

719: 2013/02/25(月) 16:30:28.82 ID:wuqPkXsn0
乙!
やっぱ面白いわこれ
そして千早誕生日おめでとう!



続きます




引用元: 千早「キサラギクエスト」