721:  ◆tFAXy4FpvI2013/02/28(木) 17:58:22.40 ID:5yEdmQOgo



前回はこちら



 私は……目が覚めると見知らぬ部屋にいた。
目の前には真と萩原さんがいた。


「おはよう、千早ちゃん。待ってたよ」

「……ったく、遅いぞ。おはよう千早」


「……おはよう」


何か二人に感謝しないといけない気がするのだけど、記憶がない。
それからというものの私は真と雪歩に介抱されながらも徐々に思い出していく。


私は一体何をしていたのか……。
あの時、何があったのか。





千早「キサラギクエスト」シリーズ



722: 2013/02/28(木) 17:59:14.98 ID:5yEdmQOgo
「律子は?」

「律子ももう目覚めてるよ。彼女は城の病室にいるよ」

「だって、彼女はもう女王だからね」


それも……そうか。
その後私はあのあとどうなったのかを一部始終聞かされた。
クロイ帝国に敗北したこと。いろんな地域を失っているということ。



それらの話をちょうど聞き終わる頃。
女王であるはずの律子がこの部屋に入ってきた。


一体どこが入り口なのかわからないくらいいつの間にか入ってきていた。
あとで聞いた所、入り口は城の中のどこにでもあって、
どこからでも繋がるようになっているとか。


魔法での秘密の扉になっていて、今の律子は城の中を見回っている
クロイ帝国の兵隊から逃れるために女子用トイレの便器から来たそうだ。


一体……なんて所に扉を作ってるのよ。

723: 2013/02/28(木) 17:59:49.42 ID:5yEdmQOgo
律子と目が合う。
眼鏡の下、頬のあたりに傷があった。
火傷痕が少し残っている。


「遅かったわね。待ちくたびれたわ」

「律子……。体はもういいの?」


私の質問は少し頓珍漢な気がした。
寝起きだし仕方ないのかもしれない。



「あなたに言われたくはないわよ。2年もあれば全部治るわ」


2年、律子は簡単にいうけれど、私がずっと迷っていた期間。
実際には眠ることしかしていなかった私だったけれど、
それでもこのことの重大さは私でもわかっているつもり。

724: 2013/02/28(木) 18:00:42.58 ID:5yEdmQOgo
「えぇ、えっと、雪歩? だったわよね? その子のおかげよ」

「ありがとう」

「それから二人共もありがとう」


律子は二度私達に深く頭を下げた。
その言葉と行動は私の脳内に深く刻まれていた。
私をこの土地へ導いた人が、私のことをこんな風に感謝している。


愉悦とはかけ離れた、だけど、私はこの律子の姿を見て、
何故か安心してしまっていた。
自分の居場所に似たようなものを見つけていたから。



725: 2013/02/28(木) 18:01:19.61 ID:5yEdmQOgo
「や、やだなぁ……律子。
 律子はもう女王なんだからそんな風に簡単に頭なんて下げたらだめだよ」

「それに……ボク達は結局クロイ帝国には勝てなかったんだから」


真が驚いて動揺しながらも律子に言う。
力は随分と弱くなってしまったけれど、
一国のトップがこんな風に簡単に頭を下げていてはいけないんじゃないかと。


「いいのよ。残された人達の命を救ってもらったんだからこれくらい」

「私一つの頭でいいならいくらでも下げるわ」


それからサッと顔を上げると


「それじゃあさっそく本題に入るわよ」

726: 2013/02/28(木) 18:02:14.74 ID:5yEdmQOgo

「えぇ……急にどうしたの?」

「千早には起きて早々で申し訳ないんだけど。
 見て欲しいものがあるのだけど……。これよ」


と王の机に置いたものは一通の手紙のようなものだった。


「これは……?」

「いい? これは王が残した最後の文章よ」

「千早。王が何を言い残そうとしたかは覚えてるわね?」

「えぇ、王位は律子に譲ると。そして姫の方は必ず救出するということ」

「そう。書いてあるのはその姫のことよ」


727: 2013/02/28(木) 18:02:42.21 ID:5yEdmQOgo
真が頭を抱えながら必氏に思い出している。


「姫? 貴音……だったっけ?」

「そうね。彼女はこの文章から察するに王の本当の娘ではない可能性があるの」


「 !? 」

「そ、それはどういうことなの?」


本当の娘ではない?
何を言っているの?
確かに、性が違うけれど、そんなもの養子になればいくらでも説明がつく。


まさか養子だったとか言わないでしょうね。

728: 2013/02/28(木) 18:03:24.85 ID:5yEdmQOgo
「わからないわ。私だって今まで知らなかったのだから
 それに、正確には娘でもないのよ」


真は何が違うのかわからない様子だったけれど、
これには私も同意。この言葉の何が違うのか、どこが違うのか。
言い方を変えただけではないのだろうか。


「そして、この手紙にはもう一つ重要なものが書かれているわ」

「それは……」

「賢者の石の在り処よ」



賢者の石……。いつか聞いたことがある。
王を助ける時に美希と天ヶ瀬冬馬が戦っている時に美希が口にした言葉。

729: 2013/02/28(木) 18:03:56.69 ID:5yEdmQOgo
「その石の効力とは……?」


「伝説の魔法を使うことができるのよ。その内容すらも謎なのだけど」

「所詮は伝説……というわけね」


さすがの律子も魔導書がすべて読める訳ではなく、
魔法についてはあまり詳しくない様子だった。
だけど、魔法ならば……。


「萩原さんは何か知っているかしら?」

「えっと、魔法は基本的に何でもできるんだけど、やってはいけない禁じ手があるの」

730: 2013/02/28(木) 18:04:28.61 ID:5yEdmQOgo
萩原さんは淡々と続ける。


「それをすると魔女裁判っていうのにかけられて、最悪氏刑になることもあるんだけど」

「でも、多分それを合法化してやってのける代物なのかもしれない……」

「それからその禁じ手の魔法ってのは
 もう発動した時点でペナルティがあるって噂だから……」

「結局の所、誰も試そうなんてしないの」


そのペナルティ付きの魔法を何も問題なく使えるというのがこの賢者の石?

731: 2013/02/28(木) 18:05:11.19 ID:5yEdmQOgo
「それは……どういう魔法なの?」

「えっと、例えば人を生き返らせたり、世界の時間を止めたり、
 だいたい時に関係することだったと思う」

「時間……」


人を生き返らせるということはつまりは、
氏んでしまって止まってしまった人の時間を再び動かすということらしい。



「でも、時を止めると言っても一時的な人を封じるって意味の止めるって訳じゃないからね」

「なるほど。それで律子……賢者の石はどこに?」

「詳しいことは書いてないの。言い方が悪かったかもしれないわね」

「この手紙に書いてあるのは……賢者の石の在り処を示した本があるのよ」

「それはこの城なの……」

「城に本が?」

732: 2013/02/28(木) 18:07:12.13 ID:5yEdmQOgo
「城の大図書館があるわ」

「そこに行って調べてきて欲しいの」


律子はそう言うと一応のためか


「あ、嫌とは言わせないわよ? あなたを匿うのも一苦労だったんだからね?」

「それにこの手紙の保管も大変だったんだから……」


と言った。もちろんそんなことは言わないわ。



「うん、ありがとう。わかったわ。行ってみる……」


私が素直にお礼を言ったのを真は少し驚いた様子だった。
失礼ね。


「城の中には帝国軍がうじゃうじゃいると思うから十分に注意して」

「ええ、ありがとう」

733: 2013/02/28(木) 18:07:41.68 ID:5yEdmQOgo
たぶん私と萩原さんがいればそういう調べ物関係はなんとかなりそうね。
あ、あと真も微力ながらも戦力にはなってくれるはず。


という訳で。
(私はよろよろしているが)私達は城の図書館に来た。
幸いにも誰にも見つかることもなく来ることができた。
本来ならば城の人間ですらあまり入ることのできない大図書館なのだけど、
律子からもらった直筆のサインを館長に見せた所すんなりと入ることができた。


それから館長にも手伝ってもらうことにしたかったが、
館長に聞いてもその館長自信もあまり知らなかった。


という訳で自ら探すしかないのか……。
まぁ、最初からそのつもりではいたし。

734: 2013/02/28(木) 18:08:08.18 ID:5yEdmQOgo
本の棚を隅から隅までまずはタイトルで探してみる。
しかし、こうも簡単に『賢者の石の作り方』、なんてお料理本のような本は出て来なかった。


という訳で次に国の歴史から知っていくことにした。




ナムコ王国が出来たのが約50年前。


クロイ帝国との分裂時に誕生。


もともとはひとつの国だった。

735: 2013/02/28(木) 18:08:47.36 ID:5yEdmQOgo
それから先の大戦が約20年前に起きる。
どの歴史の本にも一人の女性の書いた同人誌により戦意が失われたなど書いていなかった。


そして、現在の戦争が起きたのが、3年前。
今もなお続くこの戦争。



ざっと見てしまえば大した歴史のない国である。
もっと外国に行けば長い歴史を誇る国だってあるだろうに。


きっと今は大戦期なのかもしれない。
だからこそ、まだ我慢して戦い続けなければいけない。

736: 2013/02/28(木) 18:09:49.43 ID:5yEdmQOgo
一時休息。



「だめね……賢者の石の在り処を示した本なんてどこにもないわ」

「それどころか賢者の石に触れている本がないじゃないか」

「……うん。何か賢者の石の特性が知れたらいいんだけど……」



萩原さんは魔法系の本から探してくれたみたいだったけれど、手応えはなし。
同じく真も手応えはなし。何やら真は体力まかせに片っ端から探したみたいだったけれど。


「どうする? このまま見つからなかったら……」

「でもきっとこの国にも何か役にたつのよ」

「危険な石なんでしょ? 役に立つかなんてそんなのどうかわからないよ?」


と真は本棚によっかかりながら喋る。

737: 2013/02/28(木) 18:10:37.15 ID:5yEdmQOgo
「賢者の石ね……」


ひょっとすると何かの暗号になっていたり?
まさかね。


「ひょっとすると……何かの暗号になってたり……しないわね。ごめんなさい」

「千早……。確かにボクもそれは考えたけれど、いくらなんでもそれはないよ」

「私の魔法でも調べてみますね」


と萩原さんが珍しく魔法文字を書きだした。


「それは?」


と真がわかりもしないのに覗きこむ。
もちろん私もわかりっこないのだけど。

738: 2013/02/28(木) 18:11:13.24 ID:5yEdmQOgo
「これは今、暗号解読の魔法を走らせてるの。
 一応この図書館の本のデータはさっき探してる間にずっと収集はかけておいたし」

「へぇ~」

「うーん、でもないみたい……」


あっという間に終わったのか、そうがっくりと言う萩原さん。
本当によくやってくれるわ。この娘。


手に持っていた歴史の本を真に渡す。
真はタイトルの背表紙だけを見ると少し苦そうな顔をして、
よっかかったまま手元の棚の空きの部分に本を戻す。


ガコンッ。


「?」

739: 2013/02/28(木) 18:12:37.44 ID:5yEdmQOgo
何かにちょうどよくフィットしたかのように音がなると
そのまま真の後ろの棚が一回転して真は奥の部屋に消えていった。


「う、うわぁぁぁあ!」

「真!?」

「真ちゃん! 大丈夫!?」


棚の奥の方で真のうめき声が聞こえる。
頭でもぶつけたのかしら。だとしたらぶつかった床とか壁の方が心配ね。


「う、うん……なんだろうこの部屋……」

740: 2013/02/28(木) 18:13:17.31 ID:5yEdmQOgo
真が棚を回転させて中に入れるようにしてくれたのでとりあえず私達も入ることにする。
中から回す分には簡単に回るけれど外側からだとびくともしなかった。
部屋は先程の図書館とは大違いの空間。


隠し扉とは……まぁありがちと言えばありがち。


暗い石畳の部屋だった。
真っ暗で何も見えないが松明の明かりを灯す所はあったために、
すぐに萩原さんが炎の魔法で火をつけて明かりをつける。

741: 2013/02/28(木) 18:15:32.11 ID:5yEdmQOgo
部屋の奥にはゴミのように乱雑に積まれた大量の本があった。
まさか……この中に? 嘘でしょ?


「この中に……あるの?」

「この本のデータを今回収するね」


と再び自分の手前に魔法文字を書き出す萩原さん。
真は本の山に飛び込んで探しだした。私もこの量は手探りするしかないみたい。
何より本当に乱雑に積み上げられていて、背表紙だけを確認しようにも
いちいち拾わないとそれができないようになっている。


「やってみないと分からないけれど……あったらいいわね」


そう言って私は一冊一冊拾い上げては背表紙のタイトルを見て、
見ては投げ捨て見ては投げ捨てを繰り返した。
その作業にすぐに真も加わる。

742: 2013/02/28(木) 18:16:23.42 ID:5yEdmQOgo
「……違う。……これも、違う。真、そっちはどう?」


いつの間にか半分ずつに区分していて真の方を振り返ると
真はひとつの本を楽しそうに見ていた。


「何してるの……?」

「えっ? あぁ、なんかこの本、ゲームの攻略本みたいなんだよ」

「……ちゃんと探してる?」

「もちろん」

「これ、クロイとナムコの大戦の歴史をゲームの攻略本風に書いてあって
 ボクにでも簡単に読めるんだよ」

743: 2013/02/28(木) 18:16:58.56 ID:5yEdmQOgo
「へぇ……」

「ほら」


と本を投げてきたのを受け取る。
ゲームの攻略本なんて見たこともないのだけど……。


さっきと同じ。だけどもう少し詳しく書いてある。
しかも写真付きで……。


これはナムコとクロイの分裂する前の国の写真ね。


私達の全く知らない王の写真がある。
ペラペラとページをめくる。


「ん?」

744: 2013/02/28(木) 18:17:36.22 ID:5yEdmQOgo
何か違和感を感じる……。
なんで?


いや、でも……確か年端もいかない子だって聞いたけれど。
え?


私と同じくらいの年齢だったんじゃ……?


なんで?

なんで……姫が写真にいるの?



「ふ、二人共……! これを見て……」

「これは……」

「…………誰?」

「……真。あなたねぇ」

745: 2013/02/28(木) 18:18:10.88 ID:5yEdmQOgo
「……真。あなたねぇ」

「ご、ごめん……」

「これは今の姫よ。私と真はこの姫を救うために旅にでたんじゃない!」

「そっか……でもなんでこんな古い写真に?」


本のページをパラパラとめくる。
そっくりさん? いや、いくらなんでも代わり映えがしなさすぎる……。


時代が新しくなるごとに写真はハッキリしたものにはなってきているが、
その集合写真のようなものには必ず写っていた。


しかし、高木順二郎、元国王の先代の王になるあたりから全く写らなくなった。


萩原さんも魔法文字を書く速度を全く緩めないまま本を見ていた。

746: 2013/02/28(木) 18:19:40.51 ID:5yEdmQOgo
「真ちゃん、千早ちゃん……その本の山から床を出してみて?」

「え? なんで?」


とりあえず言われるがままに二人で本の山を掘り崩す。
しかし、どこまで行っても床にはたどり着かなかった。


掘り進むごとに、萩原さんの目線よりもどんどん下に。


本のタイトルも確認せずに掘り進む。


すると一つ下の階にでた。
というよりかはこの図書館の秘密の部屋からさらにその地下に行くことができた。

747: 2013/02/28(木) 18:20:20.74 ID:5yEdmQOgo
「雪歩、明かりを」

「うん、”炎”」


下の部屋にも明かりができる。


その部屋の壁には人、一人つないでおくのに十分な手錠、足かせがあった。


まるで誰かを閉じ込めておくために。


「この部屋で……姫を?」

「な、なんでそうなるのさ千早!」


真が動揺しながら言う。
でも、一番に思い浮かんだのはそういう情景だった。

748: 2013/02/28(木) 18:21:08.55 ID:5yEdmQOgo
この部屋で姫をここに閉じ込めておいた。
高木順二郎元国王の先代がここに閉じ込めておいた。


「そういえば高木順二郎元国王には娘がいるとは聞いてはいたけれど
 全く表出ている所は見たことがなかったわね」

「言われて見ればそうだよね……でもさっき律子が娘じゃないって」

「ええ、それも気になるわ。表には出せない理由があったということ?」



手錠、手枷足枷の横には綺麗に平積みされてる本があった。
地下室を埋めていたゴミの山のような本ではなく。



本を手に取る。

749: 2013/02/28(木) 18:23:33.98 ID:5yEdmQOgo
何……この本は……。
一体どういうことなの?


さっきまで探していたような本達が急に姿を表したのだった。


「『人体実験』……。『賢者の石』……。こっちの本は『人造人間』……」

「ち、千早……。この本」


真も同じように平積みされた本の中から一冊を取り、それを私に見せてきた。
その真の手は震えていた。



「し、『四条貴音 制作日誌』……? 何……これ」






750: 2013/02/28(木) 18:24:39.42 ID:5yEdmQOgo
日誌の内容はこうであった。



ナムコとクロイが分裂する以前の国のとある王が、
氏んでしまわない女性を作りたいと懇願した。
若くて、つやのある絶世の美女をと。


確かに姫はその通りではある。


しかし、研究に研究が積み重なれられるが成功はしなかった。



次の代の王の時代にもまだ研究開発のチームは引き継がれ残っていた。
最早その頃にはなんのために動いていたのかわからなくなっているほどに混沌としてきた。

751: 2013/02/28(木) 18:26:00.21 ID:5yEdmQOgo
製作に必要不可欠なものが賢者の石だと発覚するのが最初の王の孫。つまり3代目。


賢者の石を使用した人造人間の製作には2度失敗している。
国の氏刑囚を使って、賢者の石の材料にしていた。


成功した日のページは破り捨てられてあった。
この近辺は読むことができない。



犠牲者の……肉体を重ねあわせ、調合したものは生きて、氏ぬことはない人間。


四条貴音。

752: 2013/02/28(木) 18:27:26.92 ID:5yEdmQOgo
彼女は氏ぬことはない。
何があっても。


つまり……彼女自信が賢者の石だった。


「彼女自信が……賢者の石……」

「お姫様が……」

「……」


というかそれを奪われたの? この国は?
全然だめじゃない……と責めたかったが、私にはあまり言えることではなかった。


四条貴音がクロイ帝国に奪われたことがほぼきっかけとなって
戦争が始まったようなものだった。


上の図書館にあるような歴史の本は全部嘘っぱち。

753: 2013/02/28(木) 18:29:16.12 ID:5yEdmQOgo
この国は大変なものを奪われてしまっている。
すぐに律子に報告しないといけないわね。


「真、萩原さん。すぐにこのことを報告にいきましょう」

「今、この国はとても危険な状態にあるわ」

「うん。早く報告に行こう」


という訳で崩した本の山をなんとか3人力を合わせ登り切ることに成功した私達。
すぐに律子の待っている王の間へと急いだ。


クロイ帝国の見回りに何度か見つかりそうになりながらも
今ここで交戦することは非常に避けたい。

754: 2013/02/28(木) 18:32:04.43 ID:5yEdmQOgo
そして色んな道を回り道したりしながらも
ようやく王の間に到着する。


王の間の扉には『着替え中』の立て札があったが、
私達はどちらにしろ女同士なので関係なく入ることにした。


律子は着替えてなどいなく、王座でのんびりコーヒーを飲んでいた。
私達が必氏に探している間に何をしているのかしら。


律子は私の眠っていた部屋に来る時など、大抵はあの立て札を扉の前に下げて
兵士達が勝手に入ってこないようにしていたらしい。


それから私達は調べてわかったことを報告する。

755: 2013/02/28(木) 18:32:49.68 ID:5yEdmQOgo
「なるほど……そういうことだったのね」

「……知っていたの?」

「いえ、何も知らないわ。でも薄々感づいてはいたのよ。
 あの子、なんか人と違う……って」

「たぶんあなた達が見た手錠なんかは貴音を捉えていたものよ」

「その頃、貴音は知識というものがほぼゼロに等しいものだったのよ」

「私が社長に雇われる様になった頃にはちゃんとしていた……とはとても言えなかったわ」

「彼女はちゃんと言葉は喋れていたのだけど、赤ちゃんが成長するかのように」


「? つまり、言葉は上手くなかったってこと?」

756: 2013/02/28(木) 18:36:46.73 ID:5yEdmQOgo
律子が王の机の上をぼんやりと見つめながら思い出すように話はじめる。


「私が来て間もなくはね。恐らく社長の先代の人たちは貴音を外に出すことを恐れたのよ」

「知識を持って襲ってきたら勝てないからね」

「だから、閉じ込めていたのでしょうね。何も知識がわからない少女をずっとあそこに」

「何枚かの写真はたぶんその日だけ外に出されたのね」

「知識がない、というか感情すらもなかったんだと思うわ」


律子はため息を大きくついた。



「私は貴音を怖いとか楽しいとかの感情を表すのが最初は苦手な子だと思ったいてのよ。
 だって、あの子がそんな人じゃないなんて思いもしなかったからね」

「それで、ずっと閉じ込めるのはかわいそうだと主張した社長が解放して、
 しつけをしっかりとして育てればいい子に育つから、と」


757: 2013/02/28(木) 18:38:00.01 ID:5yEdmQOgo
「そして、貴音はさらわれたのよ。千早はわかるわよね?」

「ええ、あの日ね」


ここまでは恐らく律子の聞いた話や自分でみた感じなどで話しているのだろうけれど
どれも真実味があった。


国が独自に研究したものを根こそぎ奪い取ったのね。
クロイ帝国は。
どこまで汚い奴ら。


「先の大戦については知らない?」

「それから私達が2年前までしていた戦争のこと」


と私達に問いかけたが生憎それは何故なのかは知らなかったがもう予想はついている。
お互いが憎いからとかそういう理由ではない。


土地の奪い合いなんかでもない。

758: 2013/02/28(木) 18:39:50.69 ID:5yEdmQOgo
だけど私は一応牽制して


「詳しくはわからないわ。先の大戦が終戦した理由は知っているけれど」

「え? ど、どんな感じ?」


律子が聞き返してきたことに対して驚いてしまったが、
私は言葉を選びながら答える。


「そ、それは……確か、お互いの戦力や戦意が薄れてしまったって聞いたけれど」


言えない。同人誌読んでそれに夢中になってしまった人たちが続出したからなんて。
でも、それも律子は知っているのかしら?


知らなくても知っていてもそんなことを知っているか、なんてとても聞けたものじゃないわ。

759: 2013/02/28(木) 18:40:16.35 ID:5yEdmQOgo
「そうね、原因不明の病気のようなものに襲われて兵士達の戦意が薄れたの」


良かった。どうやら特別に知ってるわけではなさそうね。


「これから話すのは、戦争が起きた原因よ」

「まぁ、もう察しがいい子は気がついてるのかもしれないけれど」


そう律子は萩原さんの方を見ていた。


「はい……。本当は土地や財産が目当てだとかじゃなくて
 賢者の石、つまり四条さんの奪いあいですね」

「その通りよ」

760: 2013/02/28(木) 18:41:07.48 ID:5yEdmQOgo
あれほどの伝説級の代物を奪い合うことに意味があった。
確かにあれを手に入れればどんな魔法も使用できるわけだし。
あれさえ手に入れば簡単に相手国を滅ぼすことができるわけね。


「だけど、それならどうしてナムコ王国は最初の戦争の時に賢者の石を使って、
 クロイ帝国を滅ぼそうとはしなかったのかしら?」

「それができていれば……ね」


できない。賢者の石は並大抵の魔法使いでは使用ができないということ?


「これは社長が亡くなる少し前に聞かされた話なのだけど」

761: 2013/02/28(木) 18:41:53.03 ID:5yEdmQOgo
「賢者の石を使うにはある血が必要なのよ。血によって産まれ、
 そして血によって全てを終わらせることができるのが賢者の石」

「石の力を使うには……ある血が必要なのよ」

「でももう今はない。私達には……ない。
 クロイ帝国の側は持っている……らしいのよ。その血を」

「不確かな情報ばかりで申し訳ないわ」


律子はそうさらっと謝る。
血が必要? 発動条件に血が必要。一体どんな特別な血なの。

762: 2013/02/28(木) 18:45:31.31 ID:5yEdmQOgo

「それは……どういう血なの? まさか永遠の命を持った吸血鬼の血とかそういうこと?
 それとも特殊なモンスターの体液とかってこと?」

「そうじゃないわ。人間の血肉を持って作り上げた石なのよ?
 もちろん人間の血よ」


真の質問にも冷静に答える律子。
そして、重く閉ざされた口から聞いた衝撃の一言に私達は3人とも目をあわせるのだった。


「クロイ帝国は賢者の石を使ってくるものだと身構えて戦争に挑んでいたの」

「だけど、発動条件を詳しく知らなかったナムコ王国は賢者の石の力を発動できずに終戦を迎えた」

「その直後にその血液を持った人達は滅ぼされたのよ……」

「その血の供給源を断つことはクロイ帝国の好機に繋がるからね」

763: 2013/02/28(木) 18:53:08.72 ID:5yEdmQOgo
「数十年前、クロイ帝国によって滅ぼされた……」

「彼らの一族は土地と同じ名前なのだけどね……そう」


3人は律子をじっと見つめる。
今日は私は寝起きだと言うのにも関わらず、次々と予想のできないことが起きている。
そんな中でもう驚くことなんてないだろうと高をくくっていた。


しかし、それもまた虚しく崩れ去り、私達は衝撃の事実を知ることになる。



「その土地の名前は……アルカディア」



私が長い眠りから目覚めたこの日、
私達はもうあとには退けない重大な秘密を知ってしまった。



キサラギクエスト  EPⅧ  秘密の血の真相編    END

764: 2013/02/28(木) 19:01:06.20 ID:5yEdmQOgo
真相というか色々暴き過ぎた気もします。
グリマススタートの記念ということで更新してみました。
読んでくださっている方はありがとうございます。

765: 2013/02/28(木) 19:27:52.51 ID:thrTHByV0
乙でした
いろいろ明らかになってきたね、面白い。

766: 2013/02/28(木) 22:51:23.86 ID:p/4X5aono
響か美希辺りが生贄にされそう…



続きます




引用元: 千早「キサラギクエスト」