371:  ◆tFAXy4FpvI 2013/04/18(木) 17:00:35.45 ID:+Qo3lcGpo



前回はこちら




~~我那覇響Side~~




「ハァ……ハァッ! 貴音、こっち!」

「はいっ。ところで、大丈夫でしょうか?」

「ハァ、え? 何が?」

「かなり疲れているように思えますが」

「あ、当たり前だろ! ずっと走ってるんだから」



千早「キサラギクエスト」シリーズ



372: 2013/04/18(木) 17:01:17.06 ID:+Qo3lcGpo

「わたくしもずっと走っています」

「うぎゃー! 貴音は賢者の石だから体力に底がないんだろう!?」

「ええ、その通りです」

「もう! 早く、こっち!」



はいさい、自分、我那覇響。
今は訳あって追われている身なんだ。

373: 2013/04/18(木) 17:05:39.37 ID:+Qo3lcGpo

え? なんでかって?
そんなの決まってるよ。
だって、せっかく帝国がナムコ王国の重要な人質として奪ってきた
お姫様である四条貴音を自分は逃がしてるんだから。


だけど、自分はこれが間違っているなんて思ってない。
むしろ間違っているのは帝国の方なんだ。


あんなおぞましい実験する意味がない。
しちゃいけないんだ。だめなんだよ、そんなことしたら。

374: 2013/04/18(木) 17:06:08.15 ID:+Qo3lcGpo

「はぁ……、はぁ……、行ったかな?」

「いえ、分かりません。わたくしが行って確かめてきましょう」


そう言って貴音は颯爽と立ち上がるが、すぐ引き止める。


「だ、だめだってば! 見つかったらどうするんだよ!」

「ふふっ、わたくしがそのようなヘマを踏む訳が」



「いたぞーーーっっ!」



「なんとっ!」

「ほら、だから言ったじゃん!」

375: 2013/04/18(木) 17:07:01.85 ID:+Qo3lcGpo

貴音の手をとってまた走りだす。
こんなののためになんでこんなに自分、必氏になってるんだろう。
でもしょうがない。


後ろめたい気持ちはたくさんあるけれど。
だけど、今は何も考えないで、とにかくこの子を逃がすことだけを優先させよう。


海岸沿いの林の中を走り抜ける。
もうすぐで島へいける船が出ている港に着く。
そこまで行って島に入ることができたら
故郷の知り合い達がきっと助けてくれるはず。

376: 2013/04/18(木) 17:07:41.39 ID:+Qo3lcGpo

木の影に隠れながら、船を見つけることができた。
良かった。
こんなに色んな騒ぎが起きている中でも
船の便は出てるぞ。


「貴音、あの船に乗り込むからね」

「はい、承知しました」


貴音の手を引きながら船に乗り込む。
幸い国中に自分が指名手配になっていなかったからなのか、
なんとか誰にも見つかることはなく騒ぎが起きることもなく乗り込むことができた。
そしたら今度は船の中でも安全に過ごせる場所を探さないと。

377: 2013/04/18(木) 17:08:41.21 ID:+Qo3lcGpo

船の底のほうに荷物起きみたいな部屋があるはず。
きっとそこなら島に着くまで誰も見張りなんかは来ないだろうし。


自分と貴音はこそこそと乗客に紛れながら、
船の中を進み、船底を目指す。


船のデッキに乗り込んだ自分と貴音はまずは船の中に入るために入口を探す。
すでに船は出発していて、かなり沖まで出てきている。
早く中に入らないといけないのに、こんな所で道に迷うなんて……!
入り組んでて訳がわからないぞ。

378: 2013/04/18(木) 17:09:23.21 ID:+Qo3lcGpo

「お客さん」

「ひっ!?」

「す、すみません。どうされました? 何かお探しですか?」


な、なんだ……。船の人か。
びっくりしたぞ。もう、脅かさないでよね。

379: 2013/04/18(木) 17:10:27.93 ID:+Qo3lcGpo

「えっと、船の中に入りたいんだけど」

「そうですか。ではこちらへどうぞ」


ほっ、と一安心して乗員に着いて行くことになった。
しかし、その乗員は自分の肩に手をかけるといっきに船の外まで放り出した。


「うぎゃー! な、何するんだよ!!」


ドボン、と大きな音を建てて海に落とされる。
慌てて水面に顔を出して、見上げるとさっきの乗員は笑っていた。

380: 2013/04/18(木) 17:11:31.26 ID:+Qo3lcGpo

「あはっ、やーっぱりここに来たの。さすがミキって感じかな」

「響っっ!」


貴音が船から身を乗り出して叫ぶ。
乗員は静かに顔を剥がすと中からは美希が現れた。
その顔は戦いの中で雪歩がつけた火傷痕が痛々しく残っている。


「貴音はもらっていくの。残念だったね、響」

「美希……ッ!」


そんな、こんなに早く追いつかれるなんて!
島はもうすぐなのに!

381: 2013/04/18(木) 17:12:11.22 ID:+Qo3lcGpo

不味い、自分が召喚獣を出す時には地面が必要。
両の手のひらを地面にペタリとつけることで自分の手のひらに刻まれている
魔法陣をそのまま使うことで召喚の魔法を発動するのに。


今、こんな風に海の真ん中でプカプカ浮いてたら手のひらをつくにしても
こんな水の上じゃダメなのに……。



「これは反乱と受け取っておくけど、まぁ、美希的にはどうでもいいって感じ?」

「だから、響はそのまま海にプカプカ浮いたままお魚さん達の餌にでもなればいいの」

382: 2013/04/18(木) 17:15:16.07 ID:+Qo3lcGpo

「まぁ、ちょーっと手応えがなかったけれど、今まで楽しかったよ」

「最後にミキから浮き輪代わりにちょっとした木片でもあげちゃうの」

「あはっ、ミキってば優しいと思わない?」


美希は一人でにペラペラと喋って自分を船の上から見下ろすと
一つの少し大きな木片を投げてきた。
よくわからないけれどよく浮く素材だったので助かったかもしれない。


383: 2013/04/18(木) 17:15:45.22 ID:+Qo3lcGpo

「響、今助けに」

「おっと、そうはさせないの!」


海に飛び込もうとする貴音を押さえつける美希。


「本当に、美希は優しいぞ」

「来い、ワニ子……ッッ!」


美希が投げてきた木片に両の手の平をつける。
なんとかこれで……出てくるはず。


お願い。助けて。

384: 2013/04/18(木) 17:16:42.73 ID:+Qo3lcGpo

木片を中心に巨大な魔法陣が展開する。
やった! 成功!


「こ、これは……ドラゴン……!?」

「ふっふっふ、美希。覚悟してよね」


「なーんて、焦ると思った? 響は何もわかってないよねぇ……」


美希が余裕そうに笑う。
自分のドラゴンは自分の召喚獣のなかでは一番大きいし
この船の2倍はある大きさなのに。

385: 2013/04/18(木) 17:17:15.78 ID:+Qo3lcGpo

水辺でないと召喚できないのが弱点の一つではあるけれど。


「そこでどうして、いつもの二匹を出さなかったのかなぁ」

「えっ?」

「出てきて、ベヒーモス、バハムート」


美希が両の手の平を床につけると美希と貴音の両脇に
いぬ美とハム蔵が出てくる。
二匹ともその大きさに船が少し傾く。

386: 2013/04/18(木) 17:19:01.60 ID:+Qo3lcGpo

しかもその姿はすでに鎖でぐるぐる巻にされていて身動きがとれない様子だった。
ただでさえ千早との戦いの傷が全く癒えてないのに!


ま、まさか……。


「さあ、どうぞ? 攻撃してもいいんだよ?」

「き、汚いぞッッ! 自分の家族を人質にするなんて!」

「そう? ミキからしたら普通のことなんだけど」


許さない……。でも、攻撃できない。
これ以上家族を失う訳には……。
ワニ子もそうだけど、あの二匹はにぃにが大事にしていた二匹。

387: 2013/04/18(木) 17:19:41.28 ID:+Qo3lcGpo

でも、貴音は渡しちゃいけない! 
いぬ美たちには攻撃できない。


どうしたら……!


「何? 攻撃してこないの? あふぅ、退屈だからミキから行くの!」


美希が船を飛び出し、ワニ子に正面から突っ込んでくる。
このままじゃワニ子がやられちゃう!
何か指示をちゃんと出さなきゃ……。
千早と戦った時の二の舞になっちゃう!


「や、やめて……美希っ!」



………………
…………
……

388: 2013/04/18(木) 17:21:39.04 ID:+Qo3lcGpo




~~如月千早Side~~



私達の旅は始まってもう3年と三ヶ月以上が経過している。
水瀬さんの軍(高槻さん)がピンチだということを
亜美と真美から聞きつけた私達は
その水瀬さん(高槻さん)が恐らく滞在しているだろうとされるヌーの島を目指していた。


私はその使命、いえ天命を受けて、
彼女が危険な目にあっていないかを確かめに行く途中である。

389: 2013/04/18(木) 17:22:08.37 ID:+Qo3lcGpo

その中で私達は亜美真美からもらったよくわからない変装グッズに身を包んでいた。
真はスーツにサングラスをかけていて、
いつか訪れたどこかのヤクザ教会の連中のような格好になっていた。
そして、そのヤクザ教会出身の萩原さんは
白い修道服を着ていて頭にはフードを深く被っていた。


白い修道服は本来ならばいつも着ていなきゃいけないものらしい。
彼女の出身のヤクザ協会にもそんな掟があったらしいけれど、
萩原さん自体は恥ずかしいから着たくなかったと言っていた。


それでも律儀に一応持ち歩いていたのは萩原さんらしい。

390: 2013/04/18(木) 17:22:44.40 ID:+Qo3lcGpo

私は真にタオルを一枚渡されただけだった。
最初は頭に巻いてとあるカレーで有名な国のような感じにした所、
真に速攻で取られてしまい、


「何してるんだよ。これじゃあこんな風に取られた時にすぐバレちゃうだろ?」

「胸につめr」

「なんで私はそれだけなのかしら」


真の顔面を正面から掴みこめかみにガッツリと私の指が食い込む。


「痛い痛い痛い! じょ、冗談だってば」



という訳で私はなぜか水瀬さんの家にいたような給仕の格好をさせられた。

391: 2013/04/18(木) 17:23:10.74 ID:+Qo3lcGpo
何年も前に春香に着せられたことがあったのを覚えていた私は
渡されて渋々ながらも卒なく着てみせたのを萩原さんは驚いていた。


確かに普通はこんなの着方なんてわからないのだろうけれど、
私はこの服が農奴時代を終えて久しぶりに着た服だったからよく覚えているだけよ。


しかし、私に関しては服装までは変えられても
武装まで変えることはさすがにできないので、
剣を引っさげた戦うメイドさんになってしまった。


どう見ても怪しい。
いつか亜美真美にあったらとっちめてやらないと。

392: 2013/04/18(木) 17:23:39.09 ID:+Qo3lcGpo

「真ちゃんもカッコよくて素敵だけど、ち、千早ちゃんもとっても可愛い……!!」


萩原さんは魔法で念写して紙に印刷して大事そうに懐にしまった。
私は慣れない短いスカートに苦戦しながらも船に乗り込むことに。
スースーして落ち着かない。


「なんだか船が何者かに襲われる事件がさっきあったばかりみたいなんだ」

「それで、急に警備が激しくなってるんだ」

393: 2013/04/18(木) 17:24:04.81 ID:+Qo3lcGpo

「よし、行くわよ。敵に何か聞かれても平常心よ」

「それは千早ちゃんが一番心配だよ……」


私達は3人一列に並んで船へと乗り込む。
船に乗る直前で帝国軍と思われる人物が
乗客をジロジロと見てチェックをしていた。


徐々に順番が近づきに連れ、ばれないだろうかドキドキしてくる。


最初に真が質問される。

394: 2013/04/18(木) 17:24:30.82 ID:+Qo3lcGpo

「何の用件で島へ行く?」

「観光だ、文句あんのか? ああん?」


真はサングラスの隙間から睨みつけていた。
それは逆効果というかやりすぎなんじゃ……。


しかし、それにビビったのか、あっさり通行許可が降りる。
続いて白い修道服でフードを頭に深々と被った萩原さん。

395: 2013/04/18(木) 17:25:02.00 ID:+Qo3lcGpo

「む、顔をよく見せろ」

「あ、……えっと……え、えへへ」

「おうふ、と、通っていいよ。気をつけてね」


何やら萩原さんの笑顔にやられたらしく
顔を真っ赤にして目をそらしそのまま萩原さんを通してしまった。
なるほど。可愛い女の子に弱いわけね。

396: 2013/04/18(木) 17:25:30.49 ID:+Qo3lcGpo
「なんだ、貴様、その格好は」


おかしい。修道服は突っ込まれずに私のメイド服は突っ込まれるのはおかしい。


「さ、先ほど通った萩、えっと……」

「は? なんだって?」


しまった。名前を言ってバレてしまうところだった。
遠くの方で萩原さんと真が口をパクパクさせてアドバイスをくれている。


なんですって? ご主人様? なるほど。
ここは一度低姿勢な態度を見せることで敵対する意志がないことを見せないといけない。

397: 2013/04/18(木) 17:25:58.29 ID:+Qo3lcGpo

「ご主人様、ここを通してください……にゃん?」


………………くっ。


「は? お前馬鹿じゃねえの?」


こ、こいつ……斬りたい。
一世一代の私の恥を。羞恥覚悟でやった私を。


「ご、ごめんなさい。この子、新人のうちのメイドで」


と咄嗟に真が出てくる。

398: 2013/04/18(木) 17:26:24.57 ID:+Qo3lcGpo

「こ、コラー、ダメじゃないかー。す、すいませんね。あ、あはは」

「ほら、千早、ご主人様が迎えに来てやったぞ~?」

「えっ、ちょっと」

「何してるの合わせてよ」

「あ、ありがとうございます~! ……くっ」



とわざとらしい三文芝居をする真に引っ張られながら
私はなんとか船に乗り込むことに成功した。
乗ったばかりなのだけど恥ずかしさのあまり今すぐ海に飛び込みたい。

399: 2013/04/18(木) 17:26:52.15 ID:+Qo3lcGpo

私達は船に乗れたのは亜美と真美から乗船券を購入していたからである。
この時にこれも買わせるの、だのなんだのって
真が亜美真美ともめていたけれど、いくら町を救ったからと言って
さすがにそんな恩着せがましい真似はできないと萩原さんと止めに入った。


私は部屋に入ることもなくただただ恥を忘れるべく
地平線の彼方を見つめていた。メイド服で。


「はぁ……」


400: 2013/04/18(木) 17:27:44.62 ID:+Qo3lcGpo

あの時の私は初めて乗る船に少し興奮していたのかもしれない。
らしからぬ真似をして大きく後悔している。


「なんであんなことしたんだろう」


ドン、と誰がふらふらと歩いてきてこちらにぶつかった。


「うい~~。ご、ごめんなさい~~」

「あ、すみません。こちらこそ。大丈夫ですか?」


401: 2013/04/18(木) 17:28:14.22 ID:+Qo3lcGpo

ふらふらとした足取りで片手には空のワイングラス。
もう片方の手には空のワインボトルを持った女の人だった。


その人は、いつか少しの間だけ一緒に旅をしたことのある、
アトリエ・リトルバードのオーナーである音無小鳥だった。


「お、音無さん!? 何してるんですか? こんなところで」

「お~? お? おや? あぁ! 千早ちゃんじゃない!」

「久しぶり~~」


急に肩を組んできた音無さんは陽気に笑う。
お酒臭い……。

402: 2013/04/18(木) 17:28:50.90 ID:+Qo3lcGpo

「あ、あのここで何をしてるんですか?」

「ふぇ~? 私も印税でガッポガポだからね!
 ちょっと旅に出ようと思ってさ~」


フラフラの音無さんを音無さんの部屋まで運ぼうと肩を貸す。


しかし、よくもまぁ、その印税で
新しいアトリエを建てようとは思わなかったのだろうか。


いえ、人のお金の使い方や価値なんて人それぞれなのよ。
あまり口出しはできないわ。

403: 2013/04/18(木) 17:29:24.83 ID:+Qo3lcGpo




「ん?」


酒臭い音無さんに耐えられず
顔を背けた時に目に入った海に人が浮いていた。
人一人が抱えて至られるような木片になんとか捕まっているが気を失っている。


しかし、その姿は見たことのある姿だった。


かつて、1年近くを一緒に旅してきたかつての仲間の姿だった。

404: 2013/04/18(木) 17:29:50.79 ID:+Qo3lcGpo


「我那覇さんっ!?」


私は音無さんを放り出してすぐに真と萩原さんを呼びに行く。
我那覇さんは何とか木片にしがみついてはいたけど
気絶して海を流されている。


「あぁ、置いて行かないで~~」


と走って去っていく私に何か泣きそうな声で言っていた人がいたけれど
今はそれどころじゃない。

405: 2013/04/18(木) 17:30:27.83 ID:+Qo3lcGpo

いくら同じ航路を使っているとしても、
その近くを私達の船が通ったのは運が良すぎると言ってもいいくらい。


「大変! ふたりとも! こっちに来て」


自分達の客室から二人を呼んでくる。
二人は目を合わせると私の焦りに何か察したのかすぐに着いて来てくれた。
さっきまでいた場所に戻るとやはりそこには海に浮いている我那覇さんがいた。

406: 2013/04/18(木) 17:30:59.89 ID:+Qo3lcGpo

「響!?」

「響ちゃん!?」

「どうやらボロボロみたいなの……」

「何なに? なんだってのよ~~」

「って小鳥さん!?」

「……うぅ、お酒臭い……」

「一先ずこの小鳥さんは置いておいて。ど、どうする……?」


真が私の目を見てくるが、私の答えはもう決まっていた。

407: 2013/04/18(木) 17:31:26.17 ID:+Qo3lcGpo

「真はロープを持ってきて!」


ざぶんと私は海に飛び込んだ。
なんとか我那覇さんの元に寄ると萩原さんに合図を送る。


すぐに真がロープを持ってきてこちらに投げてくる。


私は我那覇さんに肩を貸してロープに捕まる。
背中におぶってから船をロープで登り切る。

408: 2013/04/18(木) 17:32:01.84 ID:+Qo3lcGpo

「はぁ……、な、なんとか助けたわ」

「まだだよ千早」


真は私達を助けたロープで我那覇さんを縛り上げた。
そのまま彼女が気がつくまで部屋に吊るすことにした。


吊るすことにしたというのは召喚獣を出されては困るということで
床にギリギリ足が届く状態で吊るしたため
さほど辛い吊るし方にはなっていないはず。

409: 2013/04/18(木) 17:32:39.21 ID:+Qo3lcGpo

音無さんはなんとか彼女の部屋を聞いてそこへ閉じ込めた。
何故あんなになるまで酔っ払っていたのかは特に聞かなかった。
別に酔っ払いと話すのが面倒だったってことじゃないわよ。


我那覇さんの身体は傷だらけでかなり衰弱していた。
おまけに海面にずっといたために身体も冷えきっている。
いくら南の方角の島だからといっても体温を奪われてしまっては敵わない。


それでも助けたのは何かの同情とかではなくって、
帝国の有益な情報を得るために。


でも、本当は。

410: 2013/04/18(木) 17:33:35.03 ID:+Qo3lcGpo

「う、……ん、た、貴音……」

「はっ!? ち、千早……な、なんで」



ようやく気がついたみたいで私達を見るなりに顔つきが一気に変わる。
それが私は少し切なくて悲しくもあった。

411: 2013/04/18(木) 17:34:04.80 ID:+Qo3lcGpo

「えっと、響ちゃん……そんな顔しないで」


萩原さんも同じように思ったのか少しビクつきながらも我那覇さんを促す。


「それで、敵対している君たちにこんな風に縛られてどう友好的に話すっていうの?」


確かにそうなんだけど、
暴れられては敵わない。

412: 2013/04/18(木) 17:34:35.59 ID:+Qo3lcGpo

「それはあなたが召喚できないようにするためよ」

「ところで我那覇さん……」

「何だよ」

「助けてあげたのにお礼も言えないのかしら?」

「ぐっ、……うぅ、ありがとう」


俯いて、それでも聞こえるようにハッキリとそう言った我那覇さんだった。
私はそれだけ聞くと我那覇さんを吊るしていたロープを斬る。

413: 2013/04/18(木) 17:35:01.83 ID:+Qo3lcGpo

真はそれに驚いて少し構えていたけれど、
我那覇さんは私の意図を組んだように
暴れようとはしなかった。


「卑怯だぞ、千早……」

「あの時、姿を現さずして戦った我那覇さんに言われたくないわ」


あの時、元国王を殺害した時、
最後まで私達の邪魔をした我那覇さんのいぬ美。
その時、どこかから私達を見物して、指示を出していた。

414: 2013/04/18(木) 17:35:29.88 ID:+Qo3lcGpo

私は海で濡れた我那覇さんにタオルを渡してあげた。
我那覇さんはタオルを受け取るとしばらく黙りこんで
何かを考えている様子だった。
重い空気が流れる。


こんな風に近くで声を聞くということが久しぶりだったのが
本当は嬉しいはずなのに、どうしても私達の立場上、
仲良くすることなんてできなかった。



415: 2013/04/18(木) 17:36:02.70 ID:+Qo3lcGpo

我那覇さんは重い空気にどこか気まずそうに落ち着かない様子だった。
しかし、何か気がかりがあるようでやっと口を開いた。



「千早。こんなこと頼めた義理じゃないんだけど……」

「た、貴音を助けて欲しいんだ」


我那覇さんは私達に向けて頭を下げた。
床に頭をべったりつけて、私達に跪いていた。
突然の我那覇さんの行動に戸惑いつつも最後まで話を聞くことにした。


416: 2013/04/18(木) 17:36:35.20 ID:+Qo3lcGpo

「四条さんが賢者の石だってこと?」

「うん。だけど、それだけじゃないんだ……」

「帝国がやろうとしていることは絶対に阻止しなくちゃいけない」

「それって……昔聞いたことのある妖精計画のこと?」

「な、なんでそのことを……」

「このことはまだ詳しい話はできないんだ……」


私が妖精計画のことを知っているのに驚いていた我那覇さん。
だけど、私達の目的はどうやら同じになったみたい。

417: 2013/04/18(木) 17:37:36.73 ID:+Qo3lcGpo

「自分、貴音が賢者の石って知ってから
 それを何かに利用されるんじゃないかって思ってたんだけど」

「その詳細をとうとう知っちゃったんだ」

「だから城から連れ出してきたんだ」

「それに帝国のやり方にはもううんざり来てたんだ……」

「自分のにぃにも多分殺されちゃってるし……まだ詳しいことはわからないけれど」

「それで、この船が向かっているヌーの島に行ったら
 自分の生まれ故郷だからしばらくそこで隠れようと思って」

「だけど、見つかっちゃって……島には美希が」

418: 2013/04/18(木) 17:38:04.15 ID:+Qo3lcGpo

「美希が……!?」



最強にして最悪の盗賊、
オーバーマスターという人智を超えた習得速度の能力を生まれついて持っている。
かつての戦いにおいて萩原さんが重症を負わせた相手。


そのことで顔に傷がついて私達のことをかなり恨んでいる様子だったから
接触すること自体が刺激を与えることにもなるし避けたかったのだけど。


だからと言って今から船を飛び降りて
陸地に戻るわけにもいかない。

419: 2013/04/18(木) 17:38:31.71 ID:+Qo3lcGpo

何より私達には目的がある。
あの島へ行く。


「私達はあの島にいるはずの水瀬さんの軍隊を探しに行くの」

「伊織の?」

「ええ、彼女達は恐らくあの島に潜伏しているはずなのよ」

「そのついでと言ってもいいかもしれないわね。
 四条さんを取り返して、水瀬さん達の安否も確認して、
 そしたら私たちの城へ戻ってハッピーエンドってところね」


本当にそれが上手く行けばいいのだけど。
だけど、やるしかない。

420: 2013/04/18(木) 17:39:10.07 ID:+Qo3lcGpo

「だから、私は……もう一度あなたと共に行くことにするわ」

「私にも協力して」

「うん。自分、もう帝国の人間でもなくなっちゃったし」

「一時的にでもいいから手を組みましょう」

「そうだね、うん、ありがとう」


私と我那覇さんはこうして固く握手をして
また、共に旅をすることになったのだった。



421: 2013/04/18(木) 17:39:41.75 ID:+Qo3lcGpo

真と萩原さんは私と我那覇さんのやり取りを後ろで見守っていてくれた。
彼女達にも辛い思いをさせてしまった我那覇さんとの以前のいざこざも、
これを気に少しずつわだかまりが解けていけばいいと私は思っていた。



私と真と我那覇さんと萩原さん。
またこのメンバーで一緒にいることができるなんて思わなかった。


我那覇さんは後ろめたさもあってまだ少しぎこちないけれど、
それでもなんとか打ち解けようと必氏にしていた。

422: 2013/04/18(木) 17:40:08.09 ID:+Qo3lcGpo


「それにしても……千早……」

「え?」

「なんで、そんな格好してるんだ?」

「こ、これは……その……一応変装で」

「千早も案外可愛いくなるもんなんだな……」


ふんふん、と感心している我那覇さんに対して萩原さんも同じように頷いていた。

423: 2013/04/18(木) 17:40:34.38 ID:+Qo3lcGpo

「ボク達も一応帝国内じゃお尋ね者だからね」

「そっか……。そのうちに自分も仲間入りになるんだろうなぁ」


と感慨深く言う我那覇さん。
結構複雑な心境らしい。



私達はそんな話をしているうちに半日くらいかけて
島へと到着したのだった。

424: 2013/04/18(木) 17:41:21.17 ID:+Qo3lcGpo

島へ向かう船の便は毎日何本も出ていて、
美希が乗って行ったのが私達のちょうど一本前の便。


私達はその便と3時間程度の差で島へ到着した。
まずは私達は一応変装中の身であるのでこそこそと
それでいてなるべく目立たないように船を降りた。


船を降りる際に船乗り場で
酔っ払いすぎて粗相をしでかしてる音無さんを見かけたが、
彼女は彼女なりの人生をエンジョイしているので放って置くことにした。

425: 2013/04/18(木) 17:41:54.04 ID:+Qo3lcGpo

その後、まだ港に停泊している一本前の便。
美希が乗ってこの島へ入った便がまだ停泊しているので向かった。
そこで美希の手がかりがあるかもしれないと思っていた。


しかし、船の人達に話を聞いても金髪で顔に火傷痕のある女の人と
それと一緒にいた銀髪の女の子なんてのは誰一人見てはいなかった。


当然といえば当然のことで盗賊の性分の美希からしたら
足跡を残さないように移動することなんてのはお手の物なんだろうと。

426: 2013/04/18(木) 17:43:32.04 ID:+Qo3lcGpo

それから私達はもう一つ予想していた、
帰りの船の便が出ている船乗り場まで向かった。


美希がこの島には全く滞在しないでとんぼ返りで島を出たのであれば
こっちの島から出る船に乗る可能性が高い。


だからそこを使ってないかの聞き込みを私と我那覇さんでして、
港での見張りを真と萩原さんの別行動に出た。


しかし、結果は依然として変わらなかった。
成果なし。

427: 2013/04/18(木) 17:44:04.02 ID:+Qo3lcGpo


4人は再び夕方になって港近くの適当な店に入って夕飯を食べていた。


「結局成果はなかったわね」

「もしかしたらもう島を出たのかもしれないね」


と萩原さんは自前の魔法で出したお茶を飲みながら言う。

428: 2013/04/18(木) 17:44:40.50 ID:+Qo3lcGpo

「それは多分ないと思うぞ。この島から出入りできる船の便は
 一日に何本もあるけれど、自分達が島を出る時専用に使う港に到着した時に
 停泊していた船が今日の便の最後だったんだ」

「あれに乗っていなければ今夜はこの島にいることになるぞ」


我那覇さんはよくわからない炒めしを食べながら言う。
私と真はそれぞれ買ってきたものを食べていた。

429: 2013/04/18(木) 17:45:34.65 ID:+Qo3lcGpo

「でも、島は結構広いよ」

「そうね、どこを探せばいいかわからないわ」

「そうだよね、リゾート地だから宿泊施設もたくさんあるみたいだし」

「それよりも私達も泊まる場所を探さないといけないわ」

「あ、それなら自分の家が……あ、えっと……」


我那覇さんはこの2年の間のことが何もなかったかのように、
またあの日々が昨日のことに戻ったかのように話をしたが、
自分の置かれている状況にハッとしてすぐに声は聞き取れないほど小さくなった。

430: 2013/04/18(木) 17:46:02.51 ID:+Qo3lcGpo

小さくなった声はすでに手遅れとも言っていいくらいで
私達3人はすぐに


「我那覇さんの家があるならそこに泊めてもらえたりしないかしら」


などと口々に頼んだ。
我那覇さんは嬉し涙なのだろうけれど、涙目にもなりながら大きく頷いてくれた。

431: 2013/04/18(木) 17:47:38.50 ID:+Qo3lcGpo

適当に入った港付近の店も、出る頃にはすでに夜で辺りは真っ暗になっていた。


しかし、依然として気になるのは
何故、我那覇さんはあのように執拗までに賢者の石である
四条さんにこだわって捜索をしているのだろうか。


一体あなたは何を知ってしまったの?
聞いても答えてくれない所が余計に気になってしまう。

432: 2013/04/18(木) 17:49:48.66 ID:+Qo3lcGpo

我那覇さんの家は広く客間でみんなして寝ることにした。
自分の部屋があるはずなのにどうしてこっちで一緒に寝るのだろうとも思ったけれど、
それを口にだすのはあまりにも意地が悪いと思ったのでやめた。


「ねえ、我那覇さん……どうしてそこまで四条さんに拘るのかしら」

「……千早。教えてあげたいんだ。
 でも、きっと千早のことだから首を突っ込んでくるでしょ」


まるで私がお節介のように言うけれど、
私はそんなに酷いかしら。


「だから言えない。……言えないよ」

433: 2013/04/18(木) 17:50:19.83 ID:+Qo3lcGpo

「あんなに酷いことしてさ。
自分、もう千早達とはもう一生
 こうやって寝ることなんてないんだろうなってずっと後悔してたんだぞ」

「2年前に一緒に旅をして、
 そりゃあ任務だから足手まといになるような真似は
 たくさんしてきたつもりだよ」

「でも、楽しかったんだ」

「本当に楽しかった」

434: 2013/04/18(木) 17:51:07.65 ID:+Qo3lcGpo

「あんな風に笑って、罵り合って、切磋琢磨して一緒に成長していくのが……楽しかった」

「ずっと後悔してた。あの時、自分は一歩前に踏み出して、
 勇気を出して、千早の味方ができていたらって」

「もういいわ。我那覇さん。もう……わかったから。寝ましょう」


私は耐えられなくて止めた。
それは怒りからくるものもあった。
だけど、それはもう起きたこと。今更責めてもどうしようもないこと。
私は我那覇さんを許そうとしている自分が怖かった。

435: 2013/04/18(木) 17:56:52.86 ID:+Qo3lcGpo

彼女の加担した事件は事実であり、歴史にも刻まれることとなるだろう。
実際に彼女自身が王を頃したわけではないけれど、事実ではある。


我那覇さんは泣いていた。
声を必氏に押し頃して泣いていた。


私達とこうやって一緒にいられることを許されたことが
彼女にとって何よりも嬉しいことだったのでしょう。
例え、その罪を許されなくても。

436: 2013/04/18(木) 17:57:21.19 ID:+Qo3lcGpo

だけど、だからこそ、
泣いていた我那覇さんのその震える声を聞くのに耐えなかった。
私も。


私も同じようにずっと後悔していたから。
王を救えなかったこと。
騙されたショックに耐え切れず、
どこかで我那覇さんをずっと恨んでいること。


私は隣で眠る我那覇さんの布団の中に手を伸ばす。
そっと手を握ると震える我那覇さんの肩はそっと安らかに、
だんだんと静かになって眠りについていった。

437: 2013/04/18(木) 17:58:58.42 ID:+Qo3lcGpo


「千早は本当に……優しいよね」


真がぼそっと言う。
その言葉は何故か私の胸にチクリと刺さった。
真は許してはいないのかしら。
でもきっと真も同じように思っているはず。




この夜、私達と我那覇さんはこうして長い年月を超えて
やっとお互いの手を取ることを始めたのだった。


438: 2013/04/18(木) 17:59:44.88 ID:+Qo3lcGpo


翌朝。
起きると我那覇さんと萩原さんが朝食を作っていた。
簡単なものではあったがとても上手にできていて美味しかった。


それから私達は当初の目的である、
水瀬さんの軍も探すことを探索の目的に追加した。
私と萩原さん、真と我那覇さんで探索を始めることにした。



今日の天気は昨日よりも最悪だった。
雷が落ちてきそうなくらい分厚い雲が島を覆っていた。
気分が晴れないままに私達は出ることにした。

439: 2013/04/18(木) 18:00:17.64 ID:+Qo3lcGpo

私と萩原さんはまずは港へ行き、
朝一の便を出る方も入ってくる方も両方とも調べた。


しかし、成果はいずれもなかった。
それと同時に港付近に軍隊が出入りできるような
搬入口が無いかも捜索したが、いずれもなかった。

440: 2013/04/18(木) 18:00:49.19 ID:+Qo3lcGpo

真と我那覇さんは島の中でも一番高いビルの周辺を調べていた。
我那覇さんの知り合いを訪ねたりしていたらしい。
しかし何も見つからず結局中心街に
移動して探索していたらしいがいずれも手がかりはなかった。


「だめね、そろそろお昼時になるし、一旦中心街に戻りましょう」

「うん、そこで一回合流すればいいよね」

441: 2013/04/18(木) 18:01:48.41 ID:+Qo3lcGpo

朝一から動き回っていてお昼ごはんも食べたい時間帯になってきていた。
私達は中心街へ歩いて行った。


中心街へ近づくとメインストリートに出た。
中心へと続く道の脇には様々なお店が並んでいた。


その中でも一際目立った行列ができていた。
これは……何の列かしら。


「何かしら?」

「なんだろう……」

442: 2013/04/18(木) 18:02:23.22 ID:+Qo3lcGpo

列の先を目で辿ってみるとそこは一つの飲食店のようなものだった。
そこにそんなに美味しいものがあるとは思えないのだけど。


入り口には少し小汚い垂れ幕のようなものが下がっていて、
人が一人出る度にまた一人入っていく。


中は入場制限でもかかっているかのように、
人が入れる人数が決まっているのだろうか。


443: 2013/04/18(木) 18:03:04.55 ID:+Qo3lcGpo

店の看板にはでかでかと見たことのない角張った文字で
「拉麺」と書いてあった。
どこかの地方の言葉かしら。


しかし、店からただよう匂いはどこか誘われるような
より一層お腹が空いてしまうかのようなそんな香りだった。


「うぅ……もう苦しいの。どうしてそんなに食べられるの。
 っていうかあの店昨日も行ったじゃん……」

「ふふ、美味しいものは何度食べても飽きないものです」

444: 2013/04/18(木) 18:03:31.25 ID:+Qo3lcGpo

「あぁ、実に美味でした。洗練されたスープ。
 歯ごたえのある麺という食材。面妖なぐるぐるの食べ物」

「わたくし、あのような食べ物は初めて食べました。実に美味しかったです」



店内からとある二人組が出てきた。
それこそが私達の求めていた探し人、四条貴音と星井美希の姿だった。


私は咄嗟に萩原さんをひっぱって物陰に隠れた。

445: 2013/04/18(木) 18:03:57.41 ID:+Qo3lcGpo

「ど、どうしたの?」

「しっ! あそこにいるの、美希よ!」

「えっ!?」


萩原さんもそおっと物陰から除くようにしてみる。
その美希の姿を確認すると私にアイコンタクトを送ってきた。

446: 2013/04/18(木) 18:04:31.98 ID:+Qo3lcGpo

私達はその物陰からこっそりと監視することにした。
合流地点もこの付近に設定してあるから
下手をすれば真達が美希と四条さんに接触してしまう可能性を考えると
今、飛び出して不意をついて倒してしまった方が得策だと。


だけど、あの美希がそんな上手く行くわけがない。


「美希。この島にはいつまでいるのでしょうか?」

「わたくしは響のことが心配ですし、
 もちろんご飯を食べさせて頂けるのは嬉しいのですが」

「えー? まだ言ってるの?
 貴音は気にしすぎだって思うな」

447: 2013/04/18(木) 18:05:13.32 ID:+Qo3lcGpo

「たぶん、響はあれぐらいじゃ氏なないし、
 きっとすぐに向かってくると思うな」


その通り、ものすごく傷を追っていたけれど、
あれも萩原さんが魔法で回復させてしまったし、
今はとても元気に過ごしているわ。


「あ、それと、いつまでいるのかってのだけど、
 迎えが大量にこの島に来ることになってるからゆっくり待ってれば大丈夫なの」

「この島は貴音を匿うことを受け入れた極悪非道な島だから
 帝国軍がこの島を丸ごと消し飛ばすことにしたの」



448: 2013/04/18(木) 18:06:05.05 ID:+Qo3lcGpo

消し飛ばす!?
なんてことを……。
匿うと言っても我那覇さんが勝手に四条さんをこっちに連れ込んだだけなのに。


「きっとこの島の人達は知らなかったって言うと思うし、
 今でも貴音がこの島にいる事自体どんな風に罪があるのかなんてわからない」

「だけど、貴音……。これだけは知らなかったじゃ、済まされないの」


449: 2013/04/18(木) 18:07:01.05 ID:+Qo3lcGpo

美希の威圧のかかった言葉に四条さんは黙ってしまった。
確かにあの四条さんはどこか雰囲気が変。


私はこの時初めて賢者の石、四条貴音を見たのだけれど、
変わった人、だと思えばそう思えるし、
どこか人と変わっていると思えばそうも思えてくる。


「それじゃ、さっそく避難警報を出しに島の管理部に直接行くの」

「さすがに帝国軍が国民を無差別に頃しちゃうと不味いからね。
 島の人達には逃げてもらわないといけないの」

「はい」

450: 2013/04/18(木) 18:07:43.83 ID:+Qo3lcGpo

そう言って美希は貴音を連れて歩き出した。
恐らくはこの島全体を管理している役所に向かっていると思われる。


「どうしよう千早ちゃん」

「大丈夫、私があとを追うわ」


「 萩原さんはここで真達と合流して
それから一緒に来てくれれば大丈夫だから」

「たぶん、今美希が話していた役所に行く道くらいなら我那覇さんも知ってると思うから」

「わかった。気をつけてね」

「ええ、任せて」

451: 2013/04/18(木) 18:08:37.68 ID:+Qo3lcGpo

そうして、私は美希と四条さんの後ろを見つからないように着いて行くことにした。


気取られないようにするのは以外と大変で、
時々美希は振り返ったり、路地に曲がってすぐに出てきたりと
尾行を懸念して、色々と行動を取っていたが、
私もなんとか気づかれないようにしていた。



どちらにしろ私達と美希がこの島で戦えば
大規模な戦いになることは間違いない。


だから島民や遊びに着ている客を逃がすための
放送をしてくれるのならばありがたいことではあった。

452: 2013/04/18(木) 18:09:24.97 ID:+Qo3lcGpo

美希が島の中心よりも少し外れた所にある役所の建物の中に入っていく。
窓の多い建物だったから中の景色は隣の建物からでも見えてしまう。
という訳で私は隣の建物の屋上に登った。


そこから観察しているが、何を話しているかはわからなかった。
しかし、美希が余裕を持った手振りで役所の偉そうな太ったおじさんを脅していた。
いつも持っているダガーを首に突きつけて。


たぶんあの太ったおじさんが一番えらい人なのかもしれない。

453: 2013/04/18(木) 18:10:42.26 ID:+Qo3lcGpo

四条さんはそれを後ろから黙って見ているだけだった。
彼女はそれでいいのかしら。いえ、彼女は多分わかっていないだけなのかもしれない。


自分がこういう時どうすればいいのか、
何が正しいのかすら分からないのかもしれない。


しばらくすると美希はその役所のお偉いさんの部屋から移動して
別の奥の部屋へ行ってしまった。
しまった。ここからじゃ奥の部屋の様子は見えない。

454: 2013/04/18(木) 18:11:22.14 ID:+Qo3lcGpo

だけど、どんな部屋に行ったのかはすぐに分かった。


『ピンポンパンポーン。こんにちはー。クロイ帝国、帝国軍からのお知らせなの』


美希の調子のいい声が島全体に広がるほどの大音量で響きはじめた。
こ、これは……!?


455: 2013/04/18(木) 18:11:53.49 ID:+Qo3lcGpo

『島のみんなや遊びに来ているみんなにはとっても残念なお知らせなんだけど、
 この島は大変重大な罪を犯してしまいました』

『その罪はとある帝国軍を裏切った召喚士、我那覇響ちゃんのせいなの』

『響はこの島出身の女の子なんだけど、島に戻ってくる時にとっても、
 とーーってもいけない物を持ち込んでしまいました』


美希の淡々と物語を朗読するかのような島全体に届く放送が流れる。
なんて酷いことを言い始めるの……。
突然の放送に島中のあちこちでどよめきが聞こえる。

456: 2013/04/18(木) 18:13:20.84 ID:+Qo3lcGpo

『だからその代償として帝国は最大の軍備を持って、この島をなくしちゃうことにしたの』

『もう、帝国の巨大な艦隊はこっちにも向かってるし
 今日の夕方、日が沈む頃には軍の介入が始まると思うの』

『さあ、みんな? 島から出る船は今日はあと3本だけ、急がないと乗り遅れちゃうのー!』

『あれあれ? みんな急がなくていいの? あ、もしかしてもしかしてイタズラだとか思ってる?』

『じゃあ、その見せしめに今から島のシンボルでもある、一番大きな建物を壊しまーす!』


美希のその言葉と共に街中はざわめきだす。


457: 2013/04/18(木) 18:18:57.10 ID:+Qo3lcGpo

島の大きな建物!?
まさか、あの島の中央のほうにあるあのホテルのことを。
なんて勘ぐる暇もなく、一番目立つくらいに高いホテルは
真ん中の辺りから爆発した。


その瞬間に島民の動揺は悲鳴に変わって大騒ぎになり、
人々は一斉に港へ向けて走りだしていた。


私の登っている屋上から海の彼方の水平線ギリギリに
大量の戦艦が見える。


本当に帝国軍の艦隊が迫っている……!
この島がなくなるのもなんとか阻止しないといけない。

458: 2013/04/18(木) 18:19:32.95 ID:+Qo3lcGpo

このままだと我那覇さんが。
島全体から裏切り者扱いをされるだろう我那覇さんを思った時に
私は胸が苦しくなった。


なんとか彼女を救ってあげないといけない。
我那覇さんの言っていた危険なことが起きるとかってのは
もしかしてこのことを言っていたの?


逃げ惑う島民達の流れをただただ建物の屋上から眺めることしかできない私達。


「我那覇さん……」


後ろには我那覇さんがいた。どうしてこっちに。

459: 2013/04/18(木) 18:20:06.36 ID:+Qo3lcGpo

「真が千早を迎えに行けって。
 真達は港に向かってパニックを少しでも和らげに行ったよ」


優先するべきはまずはこの指揮官であるはずの美希を討つこと。


「わかってる。騒ぎの元凶である美希をまずやっつけなくちゃいけないことくらい」

「だけど、生まれた島が今、なくなろうとしてるのに……
 島の誰も、誰一人として救えないなんて、自分……嫌だ!」

460: 2013/04/18(木) 18:22:01.91 ID:+Qo3lcGpo

「お願い……千早! 助けて!」


私は我那覇さんの目に涙を見た。
彼女は何もかもを背負いすぎている……。
私がなんとかしないと。


「もちろんよ」

「急いで、島の人達を誘導しなくちゃ! 美希にバレたって仕方がないわ」

「その時は……一緒に戦いましょう!」

461: 2013/04/18(木) 18:23:28.35 ID:+Qo3lcGpo

我那覇さんは大きく頷いてそれから私達は
人の流れにそって同じように走り、港へ向かった。
港は予想通り、人で溢れかえっていてとても誰もが順番なんて守る気なんておきなかった。


押し合いへし合い我先に安全だとする場所へ向かう船へ乗り込む。


着いた時には真と萩原さんはすでに船へ乗る人達への整理を手伝っていた。
船の乗員は非常に助かっている様子で私と我那覇さんも同じくそこに参加した。

462: 2013/04/18(木) 18:24:27.46 ID:+Qo3lcGpo

整理をしてもしてもリゾート地へのバカンスに来ている金持ちたちは
我先にと金を握らせてきて船に颯爽と乗り込もうとする。
それをいちいち断っていては時間の無駄。


だけど、みんな助かりたいのは同じ。
そんな人達を放ってなんておけない。


さすがにイライラして剣に手をかけそうになることもしばしばあるが、
なんとか一つ目の船を無事に入れることができて出港する。

463: 2013/04/18(木) 18:25:04.35 ID:+Qo3lcGpo

「そこをどけ!」

「はやく船に乗せろ!」

「待ってください! お、押さないで!」

「危ないから押さないでくださいーー!」

「み、みんな落ち着いてくださいぃ!」

「ふざけんな! 落ち着いていられるか!」



残された島の人達は不安と焦りで船の管理をしている人達や
私達に向けて盛大な罵声を浴びせてくる。
これが思いつく限りの最善の策なのだから仕方がない。

464: 2013/04/18(木) 18:26:47.26 ID:+Qo3lcGpo

それとも私達4人であの戦艦達を相手に戦う?
無理……。命がいくつあっても足りない。



次の船はすでに乗客を乗せる準備を初めていて
私達も早く乗せてあげたい気持ちで一杯。



でも、この港にいる人数……。
どう見積もってもあと2つの船じゃとても乗り切らない!


しかし、私達にはそんなことも考える暇もなかった。
ついに来てしまった。


彼女が。

465: 2013/04/18(木) 18:27:25.05 ID:+Qo3lcGpo


「ねえねえ、どうしていてほしくない時に千早さん達はいるのかなぁ?」



最悪の状況に、最悪の宿敵。
美希は毛が逆立つほどの殺気を纏いながら私達の前に現れる。
その後ろには四条さんもいる。



「貴音!」

「……」


我那覇さんの必氏の呼びかけに、四条さんはピクリともしなかった。

466: 2013/04/18(木) 18:29:06.85 ID:+Qo3lcGpo

船に乗れない島民達は誰もが美希を一目見てヤバいと感じたのでしょう。
すぐにどよめき、そのどす黒いオーラには飲まれそうになっている。
巻き込むわけにはいくまいと私は美希の目の前へ踊りでる。


「あなたの計画もここでお終いよ」

「そうはさせないの」

「実はあんな放送をしたけれど、
 あの放送をした時にはもうとっくに帝国軍は攻撃準備は万端なの」

「なんですって!?」

「千早! 2つ目の船に乗れるようになったよ!」

467: 2013/04/18(木) 18:30:30.85 ID:+Qo3lcGpo

真が大きな声で叫ぶ。
港にいた人々はその声を聞く前にはすでに船に乗り込み始めていて
再び港は大混乱になっていた。
しかし、それと同時に珍しく萩原さんの大きな声が響く。


「千早ちゃん、あれは魔術艦隊だよ!
 あの距離からでも大規模な火球が撃てる!」


萩原さんは水平線の彼方を指差している。
その方向にはまだ小さいが何十隻なんて数えることのできないほどの
大艦隊がこちらに向かってきている。



「まさか……」

「あはっ、その通り。ゲームセットなの」

468: 2013/04/18(木) 18:31:11.56 ID:+Qo3lcGpo

美希はポケットの中から杖を一本取り出した。
あの城での戦闘以来、魔法を使うものとして杖を持つようになったのかもしれない。


杖から空に向かって光の玉を発射した。


「信号弾……!?」

「まずはもっともーっと、
 みんなの悲鳴を聞くために一発脅しを入れておくことにするの」

469: 2013/04/18(木) 18:33:53.79 ID:+Qo3lcGpo

遠くの方に見える魔術艦隊は大規模な火球をこちらに放ってきた。
美希の光の玉が飛んでいった方向に。
火球は島には届かなかったが、島の目の前の海に着弾し
大きな爆発と共に大量の水しぶきをあげた。


それに恐れをなした島民達がいる港はまたしてもパニックに陥った。


「うわっ! お、押さないで!」

「は、走らないでくださいぃ!」


真や萩原さん、我那覇さんの静止も声も、
目の前の攻撃を前にして誰も聞かなくなってしまった。

470: 2013/04/18(木) 18:35:38.14 ID:+Qo3lcGpo

美希は再び杖を空に向ける。
恐らくはあれが信号弾の代わりになっていてそれを目掛けて
あの艦隊は撃ちこんできている。


そうはさせるものですか!


「真、3つ目の船も早く準備なんていらないわ!
 島民達を乗せて出港して!」

471: 2013/04/18(木) 18:36:04.24 ID:+Qo3lcGpo

「わかった! でも千早は!」

「私は大丈夫。美希を止めないと!」

「あはっ、言ってくれるの。 
 千早さんに遅れを取るほどミキは弱くないよ」


そんなことわかってるわよ。
だから焦っているんじゃない。

472: 2013/04/18(木) 18:39:35.60 ID:+Qo3lcGpo

「千早! 自分も戦うぞ……!
 今度こそ、負けてなんかいられない」

「美希を倒して、帝国も潰して、自分は……にいにを救うんだ」

「にいに……?」

「響はそのことまだ信じてたの?」

「え?」

473: 2013/04/18(木) 18:40:14.83 ID:+Qo3lcGpo

「あれは社長の嘘に決まってるの」

「……え」

「響のお兄さんがまだ生きてる訳ないじゃん」

「とっくの昔に黒井社長に殺されてるの」

「嘘……」

「嘘じゃないよ」

「じゃあ……なんで」

「利用できるから」

「我那覇さん! 耳を貸してはだめ」

474: 2013/04/18(木) 18:40:44.22 ID:+Qo3lcGpo

我那覇さんの肩を掴んだ時にはもう時すでに遅く、
目はどこかうつろになっていた。
不味い……。


「お兄ちゃんは響のために自分の両手を斬り落として
 その手のひらにある魔法陣を響に継承したの」

「それは社長的にはすっごく厄介だったんだって」

「継承の仕方も聞かないまま怒った社長は頃しちゃったの」

「失敗したって後悔したらしいけど、すぐにその腹いせに
 幼い響を利用してやろうと企んだんだってさ」

475: 2013/04/18(木) 18:42:01.18 ID:+Qo3lcGpo

「響は社長からなんて聞いていたの?」

「じ、自分は……闇の力で……封印されて……助けるためには
 自分のこの力が必要だからって……」


我那覇さんはそう呟いた。


「じゃ、じゃあ、自分はなんのために……帝国に」

「あはっ、傑作なの」


私は美希がそれを言い終わる前に斬りかかっていた。
美希は高く後ろに飛び跳ねてそれを避ける。
後ろに飛び退けながらも美希は私に向かってナイフを何本か投げる。


私はそれを剣で叩き落とす。

476: 2013/04/18(木) 18:42:59.96 ID:+Qo3lcGpo

「”炎”なの!」


美希は着地と同時に萩原さんから奪ったであろう火力の炎を
杖から噴射する。


私は我那覇さんに飛びつき、なんとか一緒に避けることができた。


「しっかりして! あれも嘘かもしれないじゃない!」

「だ、だけど、じ、自分……」

477: 2013/04/18(木) 18:43:33.51 ID:+Qo3lcGpo

「響っ!」


ショックを隠しきれずに動揺しまくる我那覇さんを
見るのがとうとう耐えられなくなってこちらに走ってくる一人の影、
それは誰でもなく私が探しだして旅を始めた最大の目的。


そして、現時点で、最も注意を払わなくちゃいけない絶対の代物。
賢者の石、四条貴音が我那覇さん目掛けて駆け寄ってきた。


「た、貴音……」


四条さんの声を聞いてハッと我に帰るが我那覇さんだったが、


「貴音、来ちゃだめだーー!」


すぐにそう叫んだ。

478: 2013/04/18(木) 18:45:49.54 ID:+Qo3lcGpo


瞬間、四条さんの上半身は粉々に吹き飛ばされた。
美希の魔法によって。
あの魔法はアトリエ・リトルバードで萩原さんが見せた魔法……!?


だから正確に言えば吹き飛ばされたというよりも
どこかに消し飛ばされた、呑み込まれた。



残された下半身は膝から崩れ落ち倒れる。


「くっ……」



我那覇さんは見ることもままならない悲惨な状況に顔を背けるが
すぐに再生を始める四条さんの上半身はみるみるうちに元に戻る。
戻ったのはいいが、気絶した様子で起き上がる気配もなかった。

479: 2013/04/18(木) 18:46:52.44 ID:+Qo3lcGpo

なんとかして運んでもらわないと。
だけど、美希からは目が離すことができない。
そんなことをした瞬間に今度は私も同じ目にあう。



「貴音もだめだよ……。こっちに来ちゃいけないってミキも注意したよね?」

「なんて酷いことを」

「酷い? 千早さん何言ってるの?」

「これ、氏なないんだよ?」


まるで悪びれる素振りも見せずに美希は淡々と言いながら、
もう一度四条さんを魔法で消し飛ばしてみせた。

480: 2013/04/18(木) 18:48:32.34 ID:+Qo3lcGpo

「やめてよぉ!」


我那覇さんは叫ぶ。
気絶しながら再生を続ける四条さんを運んでもらおうと、
私は真の方をちらっと見るがまだまだ全員を乗せるには時間がかかりそう。
しかし、2つ目の船はなんとか無事に乗り終わり、船が動き出す。

481: 2013/04/18(木) 18:49:22.03 ID:+Qo3lcGpo


魔術艦隊もすぐそこまで迫ってきていた。
今にも雨が降り出しそうな分厚い雲は人々の不安を刈りたて
3つ目の船も次々に人が乗り込んでいくがどう足掻いても
港にいる島民が全員乗れる量じゃない。


そしてついに艦隊は島への攻撃を開始する。
次々と大規模な火球が飛んできたり、雷が降ってきたり。
突如として建物が凍結したり、と魔法が全て飛んでくるのだった。

482: 2013/04/18(木) 18:50:21.53 ID:+Qo3lcGpo
それを見た人々もまた狂ったように叫び声を上げて船へと走る。
2つ目の船はその攻撃を掻い潜るようにして進む。
しかし、そこに目をつけた美希は私達に嫌味のように攻撃を始める。


「船底に穴でもあけてあげるの。”雷槌”なの!」


「しまった……!」


美希の杖から電撃が出港する船へ向けて走る。
雷の速度でなんて走れる訳もない私はただ事の成り行きを見つめてしまった。


電撃は船に当たる直前ではじけ飛んだのだった。

483: 2013/04/18(木) 18:51:54.55 ID:+Qo3lcGpo


「なっ……! 誰なの!」




『全艦、下降開始! 目標はあの魔術艦隊よ! 撃てぇーーー!』




魔法により拡声された号令に合わせて分厚い雲の中から
宙に浮く船達が次々と現れ、魔術艦隊に向けて砲撃を開始する。


船の前に立ちはだかるのは私と同じように
剣を持った一人の少年だった。


見たことのない少年。
身長は私と同じくらい。


でも頬の絆創膏は見覚えが……。
まさか。

484: 2013/04/18(木) 18:53:36.57 ID:+Qo3lcGpo


「長介……」

「久しぶり! 借りは返しに来たぞ!」


しかし、長介……成長しすぎじゃないかしら……。
というかこの状況はどういうことなの!?


どうして空から船が!?
なんで雲からあんなにもたくさんの船が出てきてるの!?


空を見上げる。
その船の一つから距離が遠くてよく見えなかったけれど
あのおでこの光は間違いなく水瀬さんの姿があった。

485: 2013/04/18(木) 18:54:15.66 ID:+Qo3lcGpo

『あんたの貸しを私も返しに来たってわけよ!』


魔法で拡声された声で言われる。
水瀬さんは腕組しながら恥ずかしそうにそっぽを向いている。
その横には、私の愛しのツインテールの高槻さんが大きく手を降っていた。


『千早さーん! 頑張ってくださーい!』

「任せて!」

「あんた相変わらずなんだな……」


高槻さんの声に即答する私を見て
いきなり長介がジト目を向けてくるが今はどうでもいい。

486: 2013/04/18(木) 18:54:43.94 ID:+Qo3lcGpo

「で、どうすりゃいいの?」

「美希を倒すわよ」


私はこの時、とても嬉しかった。
いつも一人で戦っている訳じゃないけれど、
同じ剣を使うものと共闘するのなんて、それこそ春香以来だった。


「我那覇さん、あなたは四条さんをお願い!」


振り向きもせずに我那覇さんに言う。
我那覇さんは倒れて気絶した四条さんの元にいた。
しかし、その瞬間、我那覇さんは何者かによって吹き飛ばされた。

487: 2013/04/18(木) 18:55:53.72 ID:+Qo3lcGpo

「ぐ、うぎゃあああ……ッッ!」

「……まったく、みんな世話が焼けるんだから」


頭には2つの赤いリボン。


春香……っ!
なぜここに!

488: 2013/04/18(木) 18:56:40.13 ID:+Qo3lcGpo

「最強の力を手に入れた私には……もう誰も敵わないからね」

「見て。あの魔術艦隊を」

「島にあれだけ近づけば、
 力を得た私なら瞬時に移動ができるんだよ」

「や、やめ……、貴音を返して!」

「貴音さんは元々帝国の物。返してもらうはこっちの台詞だよ」


春香は四条さんを担ぎ上げる。
そして、自分の目の前に真っ黒のゲートを作り出す。

489: 2013/04/18(木) 18:57:16.41 ID:+Qo3lcGpo

「ま、待ちなさい……!」

「余所見とかあり得ないの!」

「くっ、邪魔をしないで美希!」


春香の元へと走るがすぐに美希が目の前に回りこむ。
折角、賢者の石を取り返せるチャンスだったのに!


「ま、待てぇ!」


我那覇さんがさっきの一撃でボロボロになりながらも
春香の足にしがみつく。
しかし、それを虫けら同然のようなものを見る目で見下し、一蹴する。

490: 2013/04/18(木) 18:58:09.82 ID:+Qo3lcGpo

「姉ちゃん、早くあいつの所に! この金髪は俺に任せて!」



長介がそう叫び、美希と激しい攻防を繰り広げる。
私はそれに甘える形ですぐに春香の方に走りだす。



「何この子……、ミキの魔法を弾くなんて生意気なの」

「これは双子の姉ちゃんから買い取った対魔術用の剣だ」

「そんなものすぐにへし折ってくれるの!」


美希はダガー片手に突っ込んでくる。
長介も同じように立ち向かう。

491: 2013/04/18(木) 18:59:02.14 ID:+Qo3lcGpo

一進一退の攻防を繰り広げる私達の後ろでは
1隻の空飛ぶ船が舞い降りてきて、3つ目の船にも乗れなくて
あぶれてしまった人達を拾っていた。


真と萩原さんはそっちの整備をしてくれていた。


よかった。これで島民はなんとか無事ね。
それにしても空から出てきた艦隊は一体どういう指揮のもとでこうなったのかしら……。


闇のゲートに足を踏み入れようとする春香に向かって
私は全力で剣を投げつける。
しかし、それも間に合わず春香は四条さんを抱えたまま
闇に消えていき、私の投げた剣は虚しく音を立てて地に落ちる。

くっ、間に合わなかった……!


「……貴音ぇ」

492: 2013/04/18(木) 19:00:10.91 ID:+Qo3lcGpo





「”雷槌”なの!」

「おらっ!」


美希の出す魔法もあっという間に弾いて無効化してしまう。
そして、剣の捌きは私よりは劣るが十分にやっていける力量になっていた。
まだ危なっかしい所は多々あるが。
これは一重に新堂さんの賜物なのかしら。


私は四条さんを奪われたことの悔しさよりも気持ちを切り替えて
すぐに剣を拾い、美希の元へ向かう。

493: 2013/04/18(木) 19:00:51.79 ID:+Qo3lcGpo

「雑魚が二人いるだけなのに、結構厄介なの」


美希が息を切らしはじめてきたが、
同じように私達も息が切れかけている。


「”炎”なの!」


片手で魔法を出して私を牽制しつつ、
長介との斬り合いをする美希。

494: 2013/04/18(木) 19:01:20.13 ID:+Qo3lcGpo

ダガーと通常の大きさの剣の威力では
剣の方がスピードは劣るがパワーは増す。


だけど、長介は美希のダガーのスピードを物ともしない速度で剣を振る。


「おらっ!」


長介の蹴りが美希の顎を捉え、
美希は宙に少し浮いたあと地面にダウンする。

495: 2013/04/18(木) 19:01:54.60 ID:+Qo3lcGpo

こんな美希の姿は私も見たことはない。


「あんたのダガーの速度も早いが、爺さんの二刀流の捌きと
 比べちまったら悪いが劣っているよ」


美希はゆらりと立ち上がり、
目に見えるように身体強化の魔法を自分にかける。


同時期に3つ目の船も乗り終わり出港をはじめ、
それでもあぶれた人達を乗せた空飛ぶ船もまた空を飛び始めた。


これで島に残るのは私と真、萩原さん、我那覇さん、それから駆けつけた長介。
そして、美希のみになった。

496: 2013/04/18(木) 19:02:46.69 ID:+Qo3lcGpo

島への攻撃は未だに止むことはなく、
でも帝国の艦隊は空から現れた船達の攻撃も受け、それも攻撃しかえしている。


「何なの。本っ当にムカつくの」

「終わりだ、美希!」

「私の魔法、返してもらうから」


真と萩原さんも駆けつける。

497: 2013/04/18(木) 19:03:12.33 ID:+Qo3lcGpo

「我那覇さん、今は美希を倒すのが先よ!」

「……。わかってる。千早……みんな、一緒に戦って!」

「ええ、任せて」

「行くよ、響!」

「響ちゃんに”癒し”を」


萩原さんの魔法が我那覇さんをいっきに回復させる。

498: 2013/04/18(木) 19:03:41.90 ID:+Qo3lcGpo

「部分召喚。いぬ美!」


我那覇さんの腕は変化してそれはどこかで見たことのある腕に変わった。


「響、それは……」

「いぬ美は今は怪我で動けないし、
 そのあとにもっと美希に痛めつけられてる……」

「だから腕だけ出すのも時間が限られてるから
 ちょっといぬ美には無理させちゃうけれど、それでも自分は戦う!」

499: 2013/04/18(木) 19:04:20.11 ID:+Qo3lcGpo

「戦っても勝てる相手じゃないと思うけどね」


そう言いながら美希は5人に突っ込んでくる。
5対1だというのにも関わらず一切の引けも取らずに。


私と長介は美希を斬ろうと剣を振るが、一本のダガーで次々と捌いていく。
その隙を真が後ろから蹴り飛ばそうとするが、それもかわす。


美希はその隙に真は空中で3回ほど蹴りを入れて吹き飛ばす。
吹き飛んだ先の我那覇さんに直撃する。


この間、私と長介の連続の剣撃は一切やめていなかった。

500: 2013/04/18(木) 19:04:47.34 ID:+Qo3lcGpo

「”凍れ”!」


という萩原さんの呪文にも美希は震え上がる程の速度で反応し、
長介の剣を今まで弾いてその場を凌いでいたが、
ダガーで受け止めて、腕を掴み自分の目の前に引っ張って持ってくる。


そして、いとも簡単に萩原さんの魔法を長介にかけたのだった。
長介は脚を膝の辺りまで一瞬にして氷漬けにされてしまう。


「あはっ、お間抜けさんっ」

501: 2013/04/18(木) 19:05:30.78 ID:+Qo3lcGpo

その長介をほっぽり出して私と対峙する美希。
美希の激しい攻撃が続く中で
腕をいぬ美の腕にした我那覇さんが突っ込んでくる。


「今度はあなたが盾になる番よ」


私は美希のダガーの一撃の隙を完全に見切って羽交い絞めにする。
そして、我那覇さんの腕になったいぬ美の鋭い爪が美希を捉える。

502: 2013/04/18(木) 19:06:14.12 ID:+Qo3lcGpo

「痛っったぁぁぁ゙ーーーッ!?」

「”炎”なの゙ォォーー!」


羽交い絞めにされた状態で美希はこれまで杖やダガーの先端から
噴射していた炎を口から放射した。
もちろん爪での攻撃をしていた我那覇さんは目の前でその炎を喰らう。


「”水”よ!」


萩原さんは我那覇さんの燃える身体に一瞬で大量の水をかけて沈下させる。
その一方で私はすぐに美希の肘を脇腹に喰らい激痛で離れると肘には小さな仕込みナイフが。


盗賊の性分、こうやって捕まることも前提で
そんな所に仕込みナイフを用意しているのかもしれない。

503: 2013/04/18(木) 19:06:40.93 ID:+Qo3lcGpo

「その魔法、鬱陶しいったらないの!」


美希は萩原さんに向かって走る。
その速度は人体ではとてもじゃないけれど有り得ないものだった。


「雪歩っ!」


真の叫びも虚しく、萩原さんは美希の三段蹴りを見事に喰らい
地面を滑るように転がっていく。


その萩原さんにさらに追い打ちをかけに動き出す美希に
ギリギリで私は間に入り込む。

504: 2013/04/18(木) 19:08:00.98 ID:+Qo3lcGpo

「邪魔なの……」

「させないわ」


萩原さんは全身に傷をおって血が滴る腕を抑えながらも起き上がる。


「……ち、千早ちゃん!」


私は美希との鍔迫り合いから離脱する。
それは萩原さんの声を聞いて
未だに反撃の手をやめようとしない彼女の意志を感じたから。

505: 2013/04/18(木) 19:08:30.49 ID:+Qo3lcGpo

私が美希の目の前から飛んで避けた瞬間に
萩原さんの杖からは美希に向けて業火が放射される。


「”インフェルノ”ッ!!」

「その技はもう効かないの……」



萩原さんの放つ業火は美希の目の前に行くとすぐに消えてしまっていた。
なぜ美希にまで届かないの!?


萩原さんはそれがどういうことなのかすぐに理解して
炎を引っ込めてはすぐに距離を取る。

506: 2013/04/18(木) 19:09:52.11 ID:+Qo3lcGpo

「今のは……」

「ハァ、魔法を分解されてたの……」

「今、美希ちゃんは私の”インフェルノ”を目の前で分解していた」

「私の魔法の形式を全て理解した上でバラバラに……」



どうやら彼女達が使う魔法は色々な呪文が組み合わさって出来上がる構造になっているが
その一つ一つの繋ぎ目を壊すようにしていたとか。
そして、それができるのはその魔法を熟練しているものだけが
上手く解いてなかったことにできる。


その技は魔法の構造をよく理解した上で習得している美希ならではの反撃方法だった。

507: 2013/04/18(木) 19:11:19.64 ID:+Qo3lcGpo

「雪歩にもおんなじことができるのかな?」

「”インフェルノ”なの!」


美希のダガーの先端から萩原さんの業火と同じ火力の炎が噴き出す。


「姉ちゃんっ!」


脚にできた氷をやっとの思いで剣で砕いてから、
対魔術用の剣を装備している長介が飛んで入ってくる。
しかし、そこは萩原一族の魔法だった。


魔術用の剣であっても
その巨大な業火のもとで意味はなさず長介は身体ごと炎に飲み込まれる。

508: 2013/04/18(木) 19:11:45.94 ID:+Qo3lcGpo

「”水”よ!」


消火が間に合わない!


「長介、早く離れて!」


すぐに長介は自分の対魔術用に作られた剣すらも覆い尽くす炎に
耐えられなかったのか海に飛び込んで身体に引火した炎を消した。

509: 2013/04/18(木) 19:12:12.42 ID:+Qo3lcGpo

その間に真と我那覇さんが美希に怒涛のラッシュ攻撃をしかけるが
美希はするすると避けて交わしては反撃を入れる。
ふたりとも吹き飛ばされては立ち上がり、
何度も何度も美希に突っ込んでいく。


なんとかして美希を倒さないと……!
どうしたら……。


考えてる暇もなく私は美希に突っ込んでいく。

510: 2013/04/18(木) 19:12:39.92 ID:+Qo3lcGpo

「5人がかりでも一緒だったのに3人だと尚更弱っちいの!」


我那覇さんの爪での攻撃を交わしそのいぬ美の腕を掴み
私の目の前に持ってきて盾にする。
無論振りかぶっていた剣は止まる。


「くっ」

「えいなの!」


我那覇さんを私に突き飛ばした美希は
後ろからの真の蹴りもあっさりと交わしてその脚を捕まえる。

511: 2013/04/18(木) 19:13:05.68 ID:+Qo3lcGpo

真はバランスを何とか片足だけで保つ。
そこに美希は嫌らしい表情を見せながらダガーを太ももに突き刺した。


「あぁァ゙ぁああーーーーッ!」

「……くそっ、おらぁ!」


真はバランスを取っていた脚で飛んでその足で美希の側頭部に蹴りをお見舞いするが
それも虚しくダガーの刃でガードされ脛を斬りつけられる。


「うぅ゙……ッ!」


「真ちゃん!」

512: 2013/04/18(木) 19:13:33.57 ID:+Qo3lcGpo

萩原さんが何か魔法を唱えようと杖を構えた時にはもう美希は
真を目の前に持ってきて盾にしていた。


「雪歩! ボクに構わずやって!」

「ーーッ!」


萩原さんはすぐに杖を降ろしてしまう。
美希はすぐに真を萩原さんの方に大きく投げ飛ばす。


真と萩原さんは激しく衝突してそのまま海に叩き落される。

513: 2013/04/18(木) 19:14:10.90 ID:+Qo3lcGpo

我那覇さんが投げた隙を見てすぐに美希に突っ込むが
それも虚しく真から盗んだであろう体術を駆使し、
空中に浮いている間に10発以上の蹴りを連続で喰らいまたしても海に落とされる。




「さあ、残ったのは千早さんだけなの」

「……くっ」


黙って剣を構える。
集中して。まだ……私は戦える。

514: 2013/04/18(木) 19:15:15.21 ID:+Qo3lcGpo

美希は再び目に見える形で身体強化の魔法を使っていた。



美希の激しい攻撃が私に襲いかかる。
萩原さんの身体強化は馬鹿にできないけれど、
私だって自前の歌でいくらでも強化できる。


いつか真と話したことがある。
真はみんなで自分の夢を語り合う時なんかは
嬉しそうに必ずこの話をする。

515: 2013/04/18(木) 19:15:56.55 ID:+Qo3lcGpo



――東の極東の島国があるんだけどね。


――そこでは勇者のことを”アイドル”って言うんだよ。



真はいつか勇者の中の勇者である、誰もが認める”アイドルマスター”になると。
そんな話を思い出していた。



美希の攻撃を捌きながらも私は大きく息を吸う。


「基本的には一本気だけど
 時と場合で移り気なの」

516: 2013/04/18(木) 19:17:11.60 ID:+Qo3lcGpo

何度も繰り出される高速の剣撃に私は瞬時に対応する。
押し返す。ここから反撃。


「なっ、話には聞いていたけど、これがアルカディアの力なの!?」


美希の顔はその火傷痕を見せながら、大きく歪む。


「だけど、そんなもの、ミキの”オーバーマスター”には勝てないの」


剣の太刀筋が変わる。

517: 2013/04/18(木) 19:20:14.39 ID:+Qo3lcGpo
この攻撃の方法は……美希自身のもの、私のもの、春香のもの、
さらに今奪ったばかりの長介のものを組み合わせ合成した剣撃。


「そんな柔軟適応力
 うまく生かして綱渡り」


だけど、組み合わせがバラバラで、隙だらけになっている。
お互いのいいとこ取りをしすぎたせいでバランスが大きく崩れている。
剣捌きにいい所もあればもちろん悪い部分もある。


その穴を埋めるためのいい部分もある。
だけど、美希のそれは全部いい部分だけを引き出して使っているから
グチャグチャになって逆に劣化している状態になっている。

518: 2013/04/18(木) 19:20:43.37 ID:+Qo3lcGpo

本来ならば美希の能力である”オーバーマスター”は
習得した上でさらに強化されたものを発揮することでその本領が見えるもの。
しかし、今回のに限っては大きな隙をまた広めているだけにすぎない。


「好きな人にはニコニコして
 そうでない人もそれなりに
 外面だけは内弁慶 世渡りだけは上手」


「あの爺さんから聞いていたし、歌を聞くのは初めてじゃないけど……
 やっぱりすげえ……」


海からみんなに肩を貸しながら上がってくる
長介の声を後ろに聞きながらも私は唄うことをやめない。

519: 2013/04/18(木) 19:21:15.70 ID:+Qo3lcGpo

「生意気なの生意気なの生意気なの!」

「一番強いのはミキじゃないと気が済まない!」

「だからミキは人間をも超越するあの計画に協力することにしているのに!」

「どうして千早さんはそこで邪魔をするの!」



美希のダガーの先端から炎が放射される。
ついに萩原さんから習得している炎の魔法も
萩原さんでも難しい詠唱なしでの発動に成功する。


私もいくら唄っているからと言ってこれをまともに喰らうのは
ダメージが半端ではないので、飛んで避ける。

520: 2013/04/18(木) 19:21:41.28 ID:+Qo3lcGpo

「ぐぁぁぁあああっ!?」


しかし、私が回避行動を取る瞬間に
美希はすでに標準を私ではなく長介に向けていた。


「甘いの! いつも自分一人で戦ってきているから忘れちゃったの!?」


長介は敢え無く燃える身体を消すために再び海に飛び込むことになる。
それにしても彼はよくやったわ。
たった2年でよくあれだけ成長したものね。
だけど、今は長介の心配をしている暇なんてない。


521: 2013/04/18(木) 19:22:32.64 ID:+Qo3lcGpo

「まだまだ!」


再び炎を出してくるのを走りながら避ける。
炎は私を追いかける。


「器量と才能だけで軽く
 こなせる仕事じゃないの だから」


炎の隙間を縫うように走り抜け、美希のダガーを持つ右手を斬りつける。
魔法が上手く成功したからって、いつまでもそれに頼りすぎよ。


何度も何度もその攻撃が通じると思ったら大間違いよ。
それはさっきあなた自信が証明していたはずなのに。

522: 2013/04/18(木) 19:23:10.79 ID:+Qo3lcGpo

「痛っったぁぁぁあーーーッッ!?」


大きく後ろに飛び退けて距離を取る美希は
手を抑えながら鋭く私を睨みつける。


しかし、あっという間に回復の魔法をかけて回復していく。
やはり最初の戦いで萩原さんの魔法を何個か覚えられてるのは厄介。


美希はすぐに身体強化の魔法をかけ直して走ってくる。
私も同じように突っ込んでいく。

523: 2013/04/18(木) 19:24:59.35 ID:+Qo3lcGpo

「人に見えない努力なんて白鳥並以上」


「努力なんて……必要ないの! 
 ミキはこの才能だけでも十分に生きていける!!」


それがあなたの敗因となるとも知らずに。
いつまでも他人の力に頼るがいいわ。


524: 2013/04/18(木) 19:26:38.07 ID:+Qo3lcGpo

「きっと私が一番! でもあなたもソコソコかも
 そりゃ私と比べるから ちょっと分悪いのよ」


私の剣と美希のダガーは何度も何度も音をたてて交わり合う。
さすがの私も唄ってるけれど身体能力を上げた状態の美希のスピードに
だんだんとついていけなくなってあちこちを斬りつけられる。


だけど、剣が交わるそのたびに
美希の顔色はどんどん悪くなり、怒りに歪む一方。


「な、なんなの! この力……! 奪えないなんて!」

「ハァ、ぜ、絶対奪って見せるの……!」


いくらあなたの”オーバーマスター”がすごいとは言え
これは血族の技。
あなたには習得できるはずがない。

525: 2013/04/18(木) 19:27:43.95 ID:+Qo3lcGpo

「だってスタートラインが
 遥か遠くにあって」


美希の怒りに任せた渾身の一撃を怯まずにギリギリの所で回避する。
隙だらけになった美希の右腕を私は斬り落とした。


しかし、美希はもう怯むことも痛みに叫ぶこともせずに
大量の血しぶきが出る右腕を私の顔に目掛けて振り、
血で目眩ましをしてきた。

526: 2013/04/18(木) 19:28:12.37 ID:+Qo3lcGpo

だけど、私は美希の飛ばした血が口に入ろうが目に入って
前が見えなくなっても唄うことだけはやめなかった。


「そう簡単には抜けない 
 ある意味出来レースなの」


「なんで……なんで止めないのォ!」


美希は視力の低下した私の顎を蹴り上げ、
よろけた所にすかさずダガーを構えて突っ込んでくる。

527: 2013/04/18(木) 19:29:34.62 ID:+Qo3lcGpo

美希のダガーは私の出した腕に突き刺さる。
最後の最後で少しだけ見えた美希の動きに咄嗟に反射して腕が出てしまった。
だけど、結果としてこれは見えなくなった相手を捉えることができる好機となった。



「八百長ではなく正々堂々……もちろん」


ダガーは私の腕に深く突き刺さったために美希は身動きが一瞬取れなくなった。
その瞬間を逃しはしなかった私の剣は美希の胸の辺りを大きく貫く。



「ミ、ミキが? ……嘘……なの。げほっ、おェ゙ッ」


528: 2013/04/18(木) 19:30:06.95 ID:+Qo3lcGpo

肺を貫通しているために美希が大量に血を吐き出す。
私の手にも脚にも顔にも血はかかる。


「ミキが、ま、……けた……」

「ハァ、ハァ。あなたの……負けよ」


私は一気に美希から剣を引き抜く。
刺さった部分からは滝のように血が流れ、
美希は私の腕に突き刺したダガーからも手を離して
その場に崩れ落ちる。


529: 2013/04/18(木) 19:30:55.40 ID:+Qo3lcGpo

「千早! 急いで! あの船団からの攻撃がやまない!」



同じように倒れこんで腕に突き刺さったダガーを
どうにか引きぬいた私にずぶ濡れの真が足を引きずりながら叫ぶ。
たぶんもうこの島は保たない。


「ハァ……真。い、今行くわ」


剣を地面に突き刺して杖の代わりして歩き始める。

530: 2013/04/18(木) 19:31:25.51 ID:+Qo3lcGpo

「ハァ、何してるの我那覇さん、早く……」


私が振り向くと我那覇さんは四条さんが再び奪われたことには
もうくよくよして落ち込んだりはしてはいなかった。



だけど、我那覇さんはジッと倒れ込んだ美希を見つめている。


「美希……」



小さくそう呟いた我那覇さんはこの時一体何を考えていたのか、
私はもうそれを一生知ることはなかった。



531: 2013/04/18(木) 19:31:51.80 ID:+Qo3lcGpo


「ハァ、ハァ。で、でも真、船も何もないのに……どうするつもりだったの!?」

「え? それは千早が何か考えてるんじゃ」

「え? 真ちゃん、何かあるんじゃ……」

「え、ぼ、ボクもてっきり1つは残してくれてるのかと……」


海から上がった長介は魔術式の連絡回線で水瀬さんの所へ連絡を
急いで取り始めるが


「だめだ、攻撃が激しすぎてこっちには降りてこれない!」

532: 2013/04/18(木) 19:32:17.87 ID:+Qo3lcGpo

「じゃあどうするんだよ!」

「みんな、自分に任せて……! お願い、ハム蔵!!」


地面にペタリと手をつける我那覇さん。
巨大な魔法陣が即座に現れ、中からハム蔵こと、バハムートが現れる。
ハム蔵は傷だらけだった。


ハム蔵は私のことを覚えているのか分からないけれど
ジッとこちらを睨みつけている。

533: 2013/04/18(木) 19:32:53.76 ID:+Qo3lcGpo

「お願いハム蔵……。みんなを連れて行ってあげて!」

「ハム蔵は人を乗せて飛ぶのを嫌うんじゃ……」

「大丈夫。ハム蔵、これが最後のお願いだから」


ハム蔵は我那覇さんの意図を理解したのか
私達に鋭い視線を向けて乗れるようにしゃがむ。


私と真、萩原さん、それから長介はバハムートの背中に飛び乗る。
どうやらこれで空を飛ぶ船の元へと飛んでいくというわけね。

534: 2013/04/18(木) 19:33:25.21 ID:+Qo3lcGpo


「我那覇さん、あなたも早く!」


私は手を伸ばす。



「えへへ、さすがに重量オーバーだぞ」



「何を言って……」

「ハム蔵、頼んだぞ」


ハム蔵の首にしてあった金の紋章の入った首輪がはじけ飛んだ。
それがどういう意味か私はわかっていた。
我那覇さんはハム蔵との契約を解除していたのだった。

535: 2013/04/18(木) 19:34:09.23 ID:+Qo3lcGpo


ハム蔵が飛び立とうとした瞬間、
我那覇さんはゆっくり美希の元へと歩き出す。



美希の元へ。


立ち上がる美希の元へ。


美希の傷は塞がりつつあった。
どれだけ強力な治癒魔法をかければあの傷が治っていくというの……!



身の毛がよだつ程の殺気を纏う美希に
我那覇さんは振り返りもせずに歩く。

536: 2013/04/18(木) 19:34:48.66 ID:+Qo3lcGpo



直感的に感じていた。
いけない。我那覇さんは……。



「千早。みんな。……ありがとう」



バハムートは翼を大きく動かし空へ舞い上がる。




537: 2013/04/18(木) 20:01:26.60 ID:+Qo3lcGpo

私は飛び降りようとしたが、真に押さえつけられる。



「だめ、我那覇さん!」

「千早! だめだ!」

「放して真! 我那覇さんは! 我那覇さんは……っ」

「分かってる! 分かってるよ!」



真はその綺麗な瞳から大粒の涙をボロボロとこぼしている
その姿を見て私はハッとした。


538: 2013/04/18(木) 20:02:13.26 ID:+Qo3lcGpo

空を舞うバハムートの背の上で、
燃え盛る島の港で激突する二人を見る。


やがてそれは小さくなり、
火の影となって見えなくなった。



どうして……そんな無茶な真似を。
我那覇さん。あなたという人は……なんで。


誰よりも先に真は声を出して涙を流した。
萩原さんは静かに唇を血がでるほど噛み締め声を頃していた。


剣を握る手は力が入りすぎて剣が折れるくらいだった。
私は……涙が出るのを止めることができなかった。

539: 2013/04/18(木) 20:02:46.28 ID:+Qo3lcGpo

島を一つ焼きつくす事件は後に帝国内での
反乱分子を産む大きな要因となった。
そして、歴史にまた名を刻まれる事件となった。



バハムートの背の上で最愛の友の犠牲を嘆く私達のことなど
何も知らないかのように太陽は輝く。

540: 2013/04/18(木) 20:03:19.98 ID:+Qo3lcGpo


私達は空に舞う船へと連れて行ってもらい、
甲板に降ろしてもらった。
その後、バハムートはすぐにどこかへと飛んでいった。


自由に空を飛ぶその姿は雄々しく、陽の光を浴びて美しかった。


私達が船の甲板に降り立ったのを見て中から出てきたのは
高槻さん、水瀬さん、そしてあずささんがだった。



「あ、あずささん……?」

「久しぶり千早ちゃん」

541: 2013/04/18(木) 20:03:59.88 ID:+Qo3lcGpo

「ど、どういうこと? なんであずささんがここに?」


目を真っ赤にした真は思わぬ人物の登場に大きく動揺していた。


「話すと長くなりそうだから、今はみんなの休息が先よ」


そう言って私達は船の中へと運ばれた。


こうして私達を乗せた空飛ぶ船は
何日かかけて移動を繰り返していた。





………………
…………
……

542: 2013/04/18(木) 20:04:38.63 ID:+Qo3lcGpo

何日かが過ぎて。
私達を乗せた空を飛ぶ艦隊はとある見知らぬ港へと停泊していた。
島で救助した人達はその前に港から出た3隻と同じ港まで送ってあげたらしい。



私は甲板に出てその空を飛んでいた大船団をぼーっと眺めていた。


あの時、島に襲撃にきた艦隊と同じくらいの数がある。

543: 2013/04/18(木) 20:05:38.67 ID:+Qo3lcGpo

炎の中、美希に向かう我那覇さんの後ろ姿が忘れられない。
あのあと、あの島はまるごと燃えて、島には何も残らなくなったとか。
あるのは廃墟ばかりになってしまった。


生存者の確認はされていない。



――ありがとう。



折角、やっと友達になれたと思ったのに。
彼女の罪は許されるものではない。


だけど、私は……。
ため息が出る。やるせない思いが胸を締め付ける。

544: 2013/04/18(木) 20:06:21.03 ID:+Qo3lcGpo
後ろの方にある扉が開いて船の中からは萩原さんが出てきた。



「千早ちゃん? ここにいたんだ」

「萩原さん……」

「うん、あずささんが呼んでるよ」


そう言われて私は萩原さんと共に船の中へと戻った。
船の中のとある船室に集まったのは
私、萩原さん、真、水瀬さん、高槻さん、長介、新堂さん、
そしてあずささんだった。

545: 2013/04/18(木) 20:06:49.92 ID:+Qo3lcGpo

「そうね、まずは何から話しましょうか」

「ちょっと、あずさ……大丈夫なの?」

「ええ、任せて」


あずささんはゆっくりと話を始める。


「実は私、2年前に千早ちゃん達に助けてもらったでしょう?」

「ええ」

546: 2013/04/18(木) 20:07:20.09 ID:+Qo3lcGpo

「天空街へ帰るあの瞬間、本当は全部思い出してたの」

「記憶を?」

「ええ、そうよ。思い出したのは直前なんだけどね。私は天界の大天使をしているって」

「え?」



だ、大天使……?





547: 2013/04/18(木) 20:08:54.63 ID:+Qo3lcGpo

「私があの森にいたのは天界を追放されたからなのよ」


「元々、クロイ帝国が私達神々をも超越した力を
 持とうとしていることを危惧した私達は
 なんとかしてそれを阻止したいと思っていたの」


「だけど、天界の神々のルールとして、人間界に直接の裁きを与えてはならない、
 というちょっと厄介なルールがあって」

「それを破ってまでも神々の地位を保守したい過激派に対して
 私は立ち向かっていたの」

548: 2013/04/18(木) 20:10:01.42 ID:+Qo3lcGpo
「それで疎ましく思われて天界から追放されて人間界に堕ちた所を救われたの」

「危うく人類は天界に住む神々と全面戦争をするところだったのよ」


なんてこと……。
私達は、あんな適当なお使い感覚で
とんでもない人を助けていたということになるわ。



「そこで天界に戻った私は、私を追いやった人達を
 今度は逆に追い詰めることに成功して、それで私の意見が通るようになったの」


「私は直接は手を出さないけれど、手を貸す、というやり方をすることにしたわ」

549: 2013/04/18(木) 20:10:27.32 ID:+Qo3lcGpo

あまり変わらないような気がするのだけど、
でも確かに直接は手を下している訳ではないからいいのかもしれない。
あずささんがそこまで話すと今度は水瀬さんが話を始めた。



「そこでどこにも属さない多大な力を持った私の軍隊に目をつけたって訳」

「私もあずさの経緯を知った時は本当に驚いたわ」

「まさかあんたと繋がっているなんて思いもしなかったもの」

550: 2013/04/18(木) 20:11:00.64 ID:+Qo3lcGpo

「私とのやり取りがあったのはナムコ王国が戦争に負けてすぐのことだったわ」

「だから私達の軍隊はあずさが用意したこの空飛ぶ船で
 文字通り雲隠れすることにしたの」

「少しずつ少しずつ争いの起きている地域を納めて仲間を集めながらね」


私はやっと話が見えてきた。
私達の旅は決して無駄なものではなかった。

551: 2013/04/18(木) 20:11:53.53 ID:+Qo3lcGpo

「あ、あの……神をも超越っていうのはどういうことなんですか?」


萩原さんが恐る恐る手を上げてあずささんに質問する。
あずささんは私達に教えてくれたのだった、あの計画のことを。



「私達は基本的に神の存在であるから
 地上のことはたいていのことはお見通しなの」

「もちろん普段は干渉なんかしないのだけど……」

552: 2013/04/18(木) 20:15:07.56 ID:+Qo3lcGpo

「彼らのやろうとしていることはさっきも言ったように
 私達にとっても色々と厄介なのよ」





「帝国の計画していた妖精計画-プロジェクト・フェアリー-とは
 賢者の石を使用して人類、全てを妖精に進化することを意味しているわ」



「妖精とは無限大に魔法を使え、時を超えることも
 人を生き返らせることも、何もかもが可能な存在」

「私達神々ももちろん魔法を使うこともできるのだけど、
 その魔法のルールは人間とほとんど一緒。魔力の強さが違うくらいなの」

「そして、妖精は氏ぬことは決してないとされているわ」

553: 2013/04/18(木) 20:15:34.92 ID:+Qo3lcGpo

「……そんな計画……なんのために」

「帝国の繁栄を常に自分のものにしたいのよ」

「賢者の石を使うには賢者の石という概念そのものを創りだした
 戦術舞踊民族アルカディア達の血が必要なの」

「あなたが小さい頃に村が襲われたのはそういう理由があったから」

「千早ちゃん、もしくはあなたの弟の如月優くんを追ってきたの」


次々と私のことを喋っていくあずささんに、
私は驚いている暇もなくまたしても情報が流れてくる。

554: 2013/04/18(木) 20:16:10.49 ID:+Qo3lcGpo

真も萩原さんも真剣に聞いている。
長介や新堂さんや他のみんなはもうすでに知っている風だった。



「あなたが記憶もない頃にミンゴスという町に移り住んだのは
 前に住んでいた村が帝国軍に滅ぼされたからよ」

「あなたが生まれた時に住んでいた町、
 いえ、その土地こそが正真正銘のアルカディアそのものだったの」

「……っ」

555: 2013/04/18(木) 20:16:42.48 ID:+Qo3lcGpo

「千早ちゃんのお父さんやアルカディアの男の人達は最後まで戦い続け
 そして、みんな散っていったわ」

「だけど、千早ちゃんのお父さんは最後にあなたのお母さんをアルカディアから
 逃がすことに成功したの」

「だからあなたのお母さんはミンゴスへと逃げて匿われた」

「そしてあなたはもう知っているはず」

「お母さんがどういう気持ちであなたを助けたことか」

「……はい」

556: 2013/04/18(木) 20:17:09.03 ID:+Qo3lcGpo

だけど、逃げた先ですぐに軍の追手が来た。
私と優がいつかの高台の上で見つけたあの軍隊。
母を埋めたあの場所で。


帝国のおぞましい計画が明らかになった今、
その猶予はなかった。


水瀬さんが少し落ち着かなさそうに
同じ場所を行ったり来たりしながら話を継ぐ。

557: 2013/04/18(木) 20:18:30.61 ID:+Qo3lcGpo

「帝国が所持する如月優、つまりあんたの弟の血を使って
 もう少しで発動するところだったのよ」

「そこを響が間一髪で城から賢者の石を連れて逃げ出したの」


「帝国は人類全てを進化さえる先駆けとして
 軍隊そのものを妖精に進化させて、
 神々をも滅ぼして全世界を乗っ取るつもりだったみたいよ」

558: 2013/04/18(木) 20:19:28.49 ID:+Qo3lcGpo

「まるで占領したナムコ王国なんて興味が無かったって訳。そのもっと先を見ていたのよ」

「そうして全ての支配を終えたあと帝国は人類を全て妖精へと進化させるつもりらしいわ」

「……で、なんだけど。
 先日のヌーの島での戦いで帝国軍にもかなりのダメージがあったと見えるわ」

「手薄になった帝都を守るためにも本体はそっちに行っているはずよ」

「だからこそ、数少ないけれど、王国軍が今こそ立ち上がり、
 帝都へと進軍を開始した頃合いだわ」

559: 2013/04/18(木) 20:19:58.76 ID:+Qo3lcGpo

「あんたの目的だった弟なら……保証はないけど、たぶん帝都の城にいるわ」

「ええ、分かってる」


優は生きているかもしれない。
そのことを考える度にあいつの顔が頭にでてくる。
天ヶ瀬冬馬。


彼は一体何者なの?
アルカディアの生き残り?
でもお母さんは生きているのはもう私と優だけだと言っていた。


じゃあ本当に……あの男が。
その真相を確かめるためにも私は行かなくちゃいけない。

560: 2013/04/18(木) 20:20:38.65 ID:+Qo3lcGpo
そして、帝都の城へ行ったら春香も確実にいる。
もう避けては通れない……。
彼女と剣を交える覚悟を決めないといけない。


あの幸せだった日々を、私の大切な思い出を、
自らの手で引き裂かなかればいけない。



「で、あんたはこれからどうしたいの?」


と突然私に振られてびっくりしていると


「何驚いてるのよ。あんたが決めなさい」

561: 2013/04/18(木) 20:21:07.06 ID:+Qo3lcGpo

「な、なんで私が……」

「馬鹿ねぇ、当たり前じゃない! あんたの元に集まった軍なのよ?」

「この船だってあんたに恩義があるあずさが用意したもの」

「私だって、あんたに諭されてから気が変わったのよ。そこんところは感謝してるのよ……」

「伊織ちゃん……素直になりなよ」

「う、うるさいわね!」


途中からゴニョゴニョと顔を真っ赤にしながら話す水瀬さんに対していう高槻さん。

562: 2013/04/18(木) 20:21:38.69 ID:+Qo3lcGpo

「それに……私の軍が保持する武器。
 どこから仕入れてるのかちゃんと分かってるんでしょうね?」


確か……私達はそのために水瀬さんの所へ来た。
いえ、水瀬さんの情報をくれたのは。
だから私達は水瀬さんの元へ来た。


「亜美と真美……」

「はい、正解。あいつらも懲りずに商人やってるらしいからね」


そう……あれからまだあまり経っていないけれど、
元気でやっているのならばそれに越したことはないわ。

563: 2013/04/18(木) 20:22:26.17 ID:+Qo3lcGpo
「まぁ、どうするの、なんて聞いたけれど、
 選択肢はひとつしかないのよ」


そうね、このまま待っていても
帝国の支配が始まってしまうだけ。


「分かったわ……。行きましょう」


助けに行かなくちゃ。優を。
そして、世界を。


私はもう迷いはない。一人じゃない。
きっと我那覇さんだって私を見てくれているはず。
あなたの犠牲は無駄にはしない。


564: 2013/04/18(木) 20:23:10.21 ID:+Qo3lcGpo

覚悟を決めた私に、水瀬さん、新堂さん、あずささん、
高槻さん、長介、そして萩原さんと真はその視線を私に向ける。



「そう。なら、さっさと指示を出しなさいよ」

「如月、貴様の断ち切った迷い……そして、成長を見せてみよ」

「千早ちゃん、答えはきっと全て繋がっているわ」

「千早さん、私、何もできないかもですけど、すっごい応援してますからね!」

「ま、姉ちゃんには俺も着いてる楽勝だろ、さっさと倒しちまおうぜ」

「千早ちゃん、私も一緒だからね」

「行こう、千早。全部終わらせるんだ」



――千早。自分もついてるからな。



そう、聞こえる。私には聞こえる。もう一人の仲間の声が。

565: 2013/04/18(木) 20:24:53.29 ID:+Qo3lcGpo


もう私は一人じゃない。
この手で全てを終わらせるために。



「みんな、ありがとう」


「行きましょう。
 全軍、これより、ナムコ王国の本軍と合流しつつ、
 クロイ帝国の帝都へ進軍を開始するわ!」




私達の長い旅と戦いはついに最終局面を迎える。





キサラギクエスト  EPⅩⅢ  島唄編    END


566: 2013/04/18(木) 20:34:09.45 ID:+Qo3lcGpo
お疲れ様です。

小鳥さんはうまい具合に真っ先に逃げてます。
ひどい目にあってるかもしれませんが美希と響は大好きです。


感想や指摘など
読んでくださった方はありがとうございます。

567: 2013/04/18(木) 20:37:13.23 ID:6pt37iHPo

いよいよ終わりか

568: 2013/04/18(木) 20:40:18.45 ID:z8I4iu5k0
響いいいいいいいい
いよいよクライマックスやなあ
乙でした

569: 2013/04/18(木) 21:42:37.52 ID:ZDda0kVAO
乙です
ついにクライマックスですよ!クライマックス!!



続きます




引用元: 千早「キサラギクエストⅡ」