1: ◆BAS9sRqc3g 2015/03/09(月) 20:29:37.61 ID:gtkH3phJo
前回はコチラ
前スレ
【艦これ】提督「今日も平和だ」
【艦これ】提督「今日も平和だ」☆提督と加賀☆
【艦これ】提督「今日も平和だ」☆加賀とラーメン☆
【艦これ】提督「今日も平和だ」☆風よりも早く☆
【艦これ】提督「今日も平和だ」☆人斬りの涙☆
【艦これ】提督「今日も平和だ」☆サバイバルアイランド☆
【艦これ】提督「今日も平和だ」☆Stage Zero☆
【艦これ】提督「今日も平和だ」☆復讐者☆
【艦これ】提督「今日も平和だ」☆風の吹く先へ☆
【艦これ】提督「今日も平和だ」☆能力値☆
【艦これ】提督「今日も平和だ」☆夜明け☆
【艦これ】提督「今日も平和だ」☆幸せを求めて☆
注意事項
・艦これ4コマ漫画風SS
・キャラ崩壊
・オリジナルキャラ有り
7: 2015/03/09(月) 22:21:39.89 ID:gtkH3phJo
番外編
☆赤鬼が生きた道☆
「今日からよろしくお願いします」
集められた部屋の前で挨拶をし、丁寧に頭を下げる女の子。
綺麗な黒髪は肩まで伸びていてよく手入れされている。
結局私はこの初めて見た時から劣等感を感じていたのかもしれない。
8: 2015/03/09(月) 22:22:25.88 ID:gtkH3phJo
彼女が施設に来たのは6歳になる頃だった。
私は記憶が無い頃から施設にいたから何も分からないけれど、
それでもこの施設に来る子供達はみんな最初は暗い。
孤児院。
身内の不幸で残された身寄りのない子供達が預けられる施設。
国営の立派な施設だったが、
あまり表立って宣伝するようなものでもなかったために
子供達の人数はさほど多いものではなかった。
多くの子供達は小さいながらにも親が氏んだという事実を理解していて
それに悲しみ殻に閉じこもるのだ。
殻をこじ開けようとする施設の大人達を拒むように殻は形成されている。
9: 2015/03/09(月) 22:22:53.01 ID:gtkH3phJo
私は施設の中では長いし、しっかりしていると自信を持って言える方だったので
いつもこういう子供達に話しかけて殻を開けさせるのだった。
ポイントは私達外側の人間が開けようとしないこと。
あくまで自ら開けるように誘導すること。
だが――。
この赤城と名乗る少女は、最初から殻など纏っていない風で
笑顔も爽やかで施設に入れられるということに何も不安を感じていなかように見えた。
その不思議な魅力に吸い寄せられるように
私の周りにいた人達は彼女の紹介が終わると一斉に駆け寄った。
10: 2015/03/09(月) 22:23:22.28 ID:gtkH3phJo
出遅れた私は彼女を取り囲む皆の後ろで必氏に赤城さんを覗くのだった。
少し照れて恥ずかしそうにしていたのを見て
「みんな落ち着いて、質問は1人1人順番に」
と皆の中を割って入っていった。
「私は加賀。よろしくね、赤城さん」
「え、ええ、よろしくお願いします」
偉そうに皆の間を割って来たのにびっくりしたのか少し戸惑っていたが
すぐに笑顔を見せてくれた。
近くで見て分かったが同じくらいの年齢。
綺麗で大きな瞳。吸い寄せられる。不思議な魅力。
11: 2015/03/09(月) 22:24:16.33 ID:gtkH3phJo
「えっと、それじゃあ質問のある人」
そこからはようやく私のペースで場を仕切ることが出来るようになった。
……と思いきや
「じゃああなたから」
と指名したのは赤城さんだった。
私はそれに対して驚きはしたけれど、別に嫌な感情は湧かなかった。
何故か、とても自然だった。
赤城さんは誰の質問でも快く答えてくれた。
笑う時は隣にいる私に笑いかける。
なんというか、今まで私がこの施設にいてずっと築き上げてきた城の色を
一瞬で変えられてしまったかのようだった。
12: 2015/03/09(月) 22:25:04.39 ID:gtkH3phJo
それからみんなは赤城さんと過ごしていくうちに
施設が別物に思えるくらいあっという間に彼女の色に染まっていった。
灰色でその灰色の中に広がっていた私の色など
あっという間に消し去って虹の色をかけてくれた。
歳が同じだったこともあり私と赤城さんは段々一緒にいる時間が増えていき
気がつけばいつも隣にいる人になっていた。
何をするにも一緒で。
笑う時も泣く時も怒る時も一緒だった。
でも……喧嘩もたくさんした。
13: 2015/03/09(月) 22:25:31.55 ID:gtkH3phJo
赤城さんは意外と食い意地のはる娘で自分のお昼ご飯を早々に食べ終えてから
人が食べている所を物欲しげにじーっと見てくるのだった。
耐え切れずに「食べる……?」と聞くと満面の笑みで答えてくれた。
笑ってくれるのがみんな嬉しくて誰も嫌がらなかった。
その中でも唯一私だけは嫌がっていたが。
「加賀さんって意外と食いしん坊ですよね」
という呆れ果てる言葉に激昂して喧嘩したこともあった。
人に言えた口か。
14: 2015/03/09(月) 22:26:13.25 ID:gtkH3phJo
でも喧嘩しても次の食事の時間に美味しいご飯を食べれば
すぐに笑顔で「美味しいね」と話しかけてきた。
自分達がさっきまで喧嘩していたことなんて忘れたかのように。
そんなある日、また施設に新しい子が来た。
名前は長門と言った。
その子は自分の名前を自分で名乗ろうともしない程無口な少女だった。
赤城さんは自分がされたように長門の所に行き話しかけた。
全部無視されて半べそかきながら帰ってきた赤城さんに
今はそっとしておくように言った。
しかし赤城さんは私の提案をすぐに却下した。
「私がここに来た時にみんなが暖かい言葉で迎えてくれたでしょ。
同じように迎え入れてあげた方がいいよ」
15: 2015/03/09(月) 22:26:54.76 ID:gtkH3phJo
赤城さん以前に入ってきた子はそれなりに心を開くのに時間がかかった。
今は子供の無邪気さを取り戻したかのように元気に走り回っているけれど、
その昔のことを話すと赤城さんは驚いていた。
「あの子が……? 今は全然そんな風に見えないですけど……」
みんなそんなものだ。
だからこの長門という子も今はそっとしておくべき。
だというのに……気がつけば赤城さんはその子の所に言って話しかけていた。
「今いくつ? 何歳?」
「……」
16: 2015/03/09(月) 22:27:47.97 ID:gtkH3phJo
「北海道って行ったことある? 蟹が美味しいんだって。私も行ったことないけど」
「……」
「あ、じゃあ沖縄は?」
「……」
「野球ってしたことある?」
「……」
「食べ物だと何が好き? 果物は?」
「……」
「えっと、……今日いい天気だね」
「……」
「今日あとでみんなで外で遊ばない?」
「……」
17: 2015/03/09(月) 22:28:34.87 ID:gtkH3phJo
話しかける度に申し訳なさそうに目線を下に向ける長門。
私は赤城さんの肩にぽんと手をおいて首を横に振った。
「加賀さんまで喋らなくなってしまいました……」
と大げさにしょぼくれてみせたが、それも無視。
勿論これは赤城さんなりにボケたつもり。
私は別にこの長門の無口が映った訳ではないです。
それから事あるごとに赤城さんは長門に話しかけました。
それはもう鬱陶しいくらいに。
朝起きたら、朝ご飯の時も、外へ遊びに行く前も、それから帰ってきてからも、
トイレに行くときも、お昼ご飯の時も、夜ご飯の時も、寝る前も。
「うぅ……さすがに心が折れそうです」
「あの子、悲しみに他の感情が押しつぶされているのでは」
「……なるほど! 分かりました!」
18: 2015/03/09(月) 22:29:46.93 ID:gtkH3phJo
ああ、今思えばこういう時のこの反応はたいてい失敗する時のフラグだった。
赤城さんが考えついた作戦は失った感情を取り戻すためにわざと怒らせるようなことを
やってみようという計画だった。
私は赤城さんの計画に半ば強制的に参加させられることに。
まあこういう強引な所も昔から変わっていないのだな、と今思う。
手始めに赤城さんはどこから持ってきたのか訳の分からない縁の大きいサングラスを
持ってきて装着して。そのままいつも長門が座っている勉強机の所に行った。
「へいへい、姉ちゃん姉ちゃん」
どう見ても赤城さんの方が年上ではあるし、
長門の方が年下で姉ちゃんと呼ばれるような雰囲気はどこにも感じられなかった。
19: 2015/03/09(月) 22:30:25.02 ID:gtkH3phJo
机の上に手を置いて寄りかかるが、かなり強く机を叩くように手をおいたせいか
大きな音が出てしまい赤城さんは自分でそれにびっくりしながらも
適当に繕った軟派な口調で話を続けた。
この時、長門は「うわあ、面倒くさいのに絡まれてしまった。どうしよう……」
といった困った風な顔を……していなかった。
そこにあるのは無だった。
むしろ、「この人の要件はなんだろう」と黙って聞き入れようとするかのように
じっと見つめ返すのだった。
ただ、それすらも無いのかもしれないけれど。
彼女がかつて施設に来た時にあっという間に
この薄暗い施設に明るみを入れてくれたように
長門は全てを黒く染め上げてしまうのだった。
綺麗な虹の色ですらも飲み込んでしまう闇の黒色に。
20: 2015/03/09(月) 22:31:57.19 ID:gtkH3phJo
しばらくして赤城さんが困ったのか
「まあまあ姉ちゃん、ここで俺っちのダチを紹介すんぜ。カモン!」
とか言いながら手招きするので仕方ないので私も参加するのだが。
なんて冷たい目をしているのだろう。
見ているとこっちまで嫌などんよりとした空気に包まれてしまいそう。
「よー、ダチが世話になってるみたいじゃん」
「そうなんだよ、こいつ俺っちを無視キングするんだよ」
半分泣きそうな赤城さんだった。
あれだけやって全て無視なのが辛いのか。
仕方なく今回は撤退することに。
困る、という感情は無いみたいだった。
21: 2015/03/09(月) 22:32:57.54 ID:gtkH3phJo
赤城さんは次に長門の手を取って冒険に出掛けようとした。
彼女の言う冒険とは施設を出て外の街に行くことだった。
普段買い物に行く時など引率で施設の大人達が付いて回るし、
行く時には事情を話して許可を取らなければいけなかった。
欲しい物足りない物があればそれを買うために外に行きたいと言う。
大抵の物であれば揃っているし外に行くことなんて無いから
「じゃあ外に買いに行かなければならない」
という条件が出た瞬間に
私も外に行きたいから連れて行ってくれと自分で言って……
ようやく出してくれる。
これが全てのやり方ではないけれど、
私はこのやり方で何度か外に出ている。
22: 2015/03/09(月) 22:33:29.06 ID:gtkH3phJo
でも赤城さんはもう5回は外の街に連れて行って買い物をしてきている。
謂わば私達、施設の人間に取って彼女は”外出の達人”だったのだ。
早速長門を連れ出してやりたいので、
彼女に何か足りないものはないかと聞くが無視。
「必要な物はない?」
「……」
「欲しい物は?」
「……」
「ボロボロになった物とかは?」
「……」
23: 2015/03/09(月) 22:34:19.17 ID:gtkH3phJo
本来一番出られる可能性があった欲しい物の要求は
彼女の協力無しではそもそも達成出来ないのだった。
私達は頭を抱えた。
長門が何も教えてくれない以上、私達にどうすることも出来なかった。
かろうじて施設の人の前に連れて行くことは可能だった。
だから私達は彼女を無理矢理にでも引っ張って
欲しい物があるから連れて行って欲しい、とお願いした所。
長門の顔を見るなりに「彼女はまだ早い」と言われた。
確かにこの状況で外の世界に再び触れるのは危険なのかもしれない。
どうしたらいいものか。
24: 2015/03/09(月) 22:34:55.92 ID:gtkH3phJo
「そうだ。別にあの娘がメインじゃなくてもいいのよ」
「……? どういうこと?」
「つまり加賀さんがお買い物に連れて行ってもらえばいいのよ」
「私は別に今欲しい物はないわ」
「でもでも、もし例えばお買い物に連れて行ってもらうとして、
加賀さんはどこから出るの?」
「正門ですが……」
25: 2015/03/09(月) 22:35:49.08 ID:gtkH3phJo
「その正門はいつもは閉まっているけどその時は開くでしょ?」
「まさか、脱走でもするつもりなの?」
「だって戻ってくれば脱走にはならないでしょ?」
「なります」
「ならないもん」
「絶対になります。駄目です。怒られても知らないですよ」
「大丈夫だもん」
「だいたい外に出て、どうするんですか?」
「綺麗な景色を見せてあげたいの。夕日のすっごく綺麗な港に連れて行くの」
26: 2015/03/09(月) 22:36:58.51 ID:gtkH3phJo
赤城さんは既にこの瞬間には私が協力してくれることを前提で話しを進めていた。
その輝く瞳に私は今更「嫌です」とは言えなくなってしまっていた。
結果から言うと作戦は失敗した。
施設を出るタイミングで監視カメラに映ったのか捕まったのだった。
赤城さんはこっぴどく怒られたのか私が楽しい買い物から帰ってきた時には
目を真っ赤にしてまだ泣いていた。
怒られた赤城さんは買い物袋を下げて帰ってきた私に対して
ひどく八つ当たりした。自業自得です、と言ったらまた強く当たってきた。
私の姿を見て欲しい物が思い浮かんだのか施設の人に頼んでも
赤城さんには二度と許可は降りなかった。
27: 2015/03/09(月) 22:37:54.04 ID:gtkH3phJo
まあそんな赤城さんでも次の日の朝には笑顔で朝食を食べていた。
赤城さんに怒られた時のことを聞くと
長門は隣にいたようだったが、その時ですら彼女は無表情で
微動だにしなかったという。
そんな私達はもう半ば諦めた状態で……
それでも適当に長門にちょっかいを出すのだった。
彼女は動かない。表情1つ変えずにいる。
その回数は段々と増えていき、善意から生まれた疑いのない行動が
回数をこなすごとに麻痺していき、
それはいつしか己を蝕む毒となっていった。
28: 2015/03/09(月) 22:39:38.93 ID:gtkH3phJo
エスカレートしたちょっかいは誰にも止めることなんて出来なかった。
その様は見るに値せず、語るに値せず。
私達は自分達のエゴで始めた目標にいつまで経っても到達できないという
苛々に押し負けてしまい、当初の目標を忘れてしまっていた。
私達の素行、品性は地に落ちていった。
誰も止めなかった。
もしそれを止めれば今度あの標的になるのは自分なんじゃないだろうか。
誰もが段々と私達を恐れるようになっていった。
29: 2015/03/09(月) 22:40:57.75 ID:gtkH3phJo
気がつけば私達が彩った施設は私と赤城さんの色しか残らなかった。
色んな子がいて、色んな色があったはずなのに。
いや、人のせいにするのはよくないが、
あの娘の闇の黒色が伝染ったのかもしれない。
勿論私達にはその自覚が無かった。
いつの間に、こんな風になったんだろう、と我に返ることもなかった。
ただただ目の前の感情を引き出すことの出来ない人形のような奴に
当たり散らす日々が続いたのだった。
情けない。二度と語りたくない過ちの日々。
30: 2015/03/09(月) 22:43:04.14 ID:gtkH3phJo
唯一、直接的に危害を加えたとある事件がきっかけでこの事態は大きく変化する。
それは食い意地の張った彼女が巻き起こした事件。
お昼ご飯の時間に出たおかずをいつものようにみんなから譲り受ける赤城さん。
その中でも気に入ったのかミートボールをまだ物欲しそうに見る。
目の前には無表情で食べ物を口に運ぶ動作をする長門。
食器の中には苦くて味のしないような野菜とミートボールだった。
食べるのも遅かった彼女はみんなが食べ終わる頃にはまだ食べていた。
赤城さんはそれを根こそぎ奪って食べたのだった。
彼女曰く「もう食べないのかと思った」だそうだ。
31: 2015/03/09(月) 22:43:55.25 ID:gtkH3phJo
もう何となく分かるとは思うが、実はそんなことなかったのだ。
長門はよくある好きな物は最後に取っておくタイプの子だった。
実際野菜の方は残していたみたいだった。
この変の区別がつかなかった。
彼女はいつもの無表情から一変し、机をひっくり返し赤城さんに飛びかかった。
そのまんま倒れこんだ赤城さんの上にのしかかり硬く握った拳で
赤城さんの顔面を殴りつけた。
赤城さんは笑っていた。
二発目の拳を手で受け止めた赤城さんはずるずると上に跨る長門から
這いずるように出て長門を抱きしめた。
32: 2015/03/09(月) 22:44:47.49 ID:gtkH3phJo
殴られたことで自分達の呪縛から解放されたかのようだった。
「ごめんね、やっと……やっと……怒ってくれたんだね」
「ごめんね……ごめんね」
長門は驚いていた。
その表情を見るのも私達は初めてだった。
私も赤城さんに続いて謝り続けた。
施設にいた他の子供達にも謝った。
必氏に謝った。
33: 2015/03/09(月) 22:46:39.15 ID:gtkH3phJo
みんな前の私達を知っていたからこそちゃんと許してくれたけれど。
何となく溝が出来てしまった感じは否めなかった。
仕方ないよ。これからまた埋めていけばいいよ。と赤城さんは言う。
それから長門は少しずつだけど、喋るようになった。
短い単語を使い、とぎれとぎれで……。
この頃の暴走した私達は本当にみんなから恐れられていたらしく、
あの忌々しい呼び名がついたのはこの時期だったとか。
あれは私にとっては忘れてはならない罪だが、
他のみんなには早く忘れて欲しいものだった。
34: 2015/03/09(月) 22:47:32.57 ID:gtkH3phJo
施設に入って……私と赤城さんが10歳になる頃。
施設の大人達に呼び出された。
そこで持たされたのは弓と矢だった。
施設の一番偉い人とは何だかこの時久しぶりに話しをしたけれど、
この人はこんな雰囲気の人だったっけ……。
私達は施設で遊ぶ時間をあっという間に奪われ、
全ての時間を修行のような鍛錬の時間に費やした。
弓道から始まり、柔道、剣道、合気道、空手、茶道、華道。精神鍛錬。
色んなことを叩きこまれた。
35: 2015/03/09(月) 22:49:48.85 ID:gtkH3phJo
最初は優しく色んなことを身につけた方がいいと言いくるめられて始めたのだった。
それこそ最初のうちは純粋に次々と新しいことが出来るようになっていく
その喜びに浸っていたがレベルが上がる。
今の自分の身体能力ではとても繰り出せるような技ではないようなものまで教わった。
段々と日が経つに連れてどの稽古も厳しく……
超一流と呼ばれるくらいには厳しくなっていった。
私は中でも弓道と柔道、華道が得意だった。
苦手なのは茶道で……
師範が激昂して湯のみで私の頭を殴りつける程怒られることがよくあった。
36: 2015/03/09(月) 22:50:16.84 ID:gtkH3phJo
自信満々で作った名付けて”千本桜”。
茶柱を千本入れてみた圧巻の作品。
……師範は見た瞬間に私の顔面にそれをぶっかけてきたけど。
いい出来栄えだったんですけどね。偉い人には分からないんですよ。
ちなみ殴られそうになる度に私は他に習っている武術で
対抗するので何度か返り討ちにして病院送りにしている。
まあ結局その度に施設の人には怒られるのだけど。
37: 2015/03/09(月) 22:54:45.38 ID:gtkH3phJo
一方赤城さんは私と同じく弓道を得意として
私が得意とするもの意外では赤城さんの方が全て上手だった。
そんな武術にまみれた生活を10歳から6年以上続けたある日、
今度は唐突に軍事施設に異動することになったことを伝えられる。
この当たりから私達は薄々ではあるが勘付いていた。
あの私達のいた孤児院とは孤児を最強の兵士に育て上げるための施設だった、と。
思えば10歳以上になった子はすぐに見かけなくなったし、
何かおかしいとは思っていたが……。
38: 2015/03/09(月) 22:55:19.95 ID:gtkH3phJo
そこで私達は軍に入るための基礎知識だったりこれまでの戦争の経緯を座学で教わり、
その他にも一般的な訓練を受けさせられた。
私達はそこで圧倒的に優秀だった。
他から来た連中と話しをしたことがあったが、
どこも生半可な教えを受けていなかったみたいだった。
というか殆どが素人同然だった。
私達は強かった。
軍の中で訳の分からない小さな砲台と呼ばれる艤装を実装され持たされて
テスト訓練を何度も繰り返したが、
私と赤城さんは二人共、弓タイプの艤装を選択した。
39: 2015/03/09(月) 22:56:26.42 ID:gtkH3phJo
「やっぱりあの教えはこの時のためだったのかしら」
「……そうね。でも結局それが活かせるのであれば、
私達が選ぶべきはこの弓でしょう」
初めて海を滑走した。
陸で止まりながら放つ矢の感覚は波に揺られながら放つ矢の感覚とは全く違い
慣れるまでに日夜訓練に没頭した。
それでも他の連中は未だに艤装の展開の練習や
陸で止まっての発泡訓練なんかをしていた。
私と赤城さんはお互いに教え合い切磋琢磨し、どんどん成長していった。
他との差が開いていく。
40: 2015/03/09(月) 22:57:38.23 ID:gtkH3phJo
施設にいて、武術訓練を受けるようになって
施設の子供達と遊ぶこともなくなった私達は
段々と皆との距離が離れていくように感じていった。
子供達は段々と私達を普通に敬うようになり、
中々会えない貴重な存在のように久しぶりに会えばみんな大袈裟に喜んでくれた。
そんな広がった溝をひしひしと感じていたが、
この軍は違う。
最初から私達2人は2人きりで凄い人達という扱いを受けていて
皆から距離があった……。
訓練をしている姿が見られれば皆足を止めてそこを見学するのだった。
当然のようにやってのけるように見えているのかもしれないけれど、
実際私達だって油断すれば海上の滑走中にすっ転ぶこともある。
この扱いは中々居心地のいいものではなかった。
私達2人は孤立していく。
41: 2015/03/09(月) 22:59:37.57 ID:gtkH3phJo
ある日、集められた部屋でようやく将校から話を聞く聞かされる機会ができた。
前に出てきたのは
……私達よりも年下なんじゃないかと思うくらい小さな女の子だった。
ざわつく部屋の中で彼女はそれを無視して始めた。
「えー、君らがここ数年訳の分からない訓練を受けさせられて来たと思うけれど
今後の深海棲艦との戦争において勝利の鍵となるのは君達である」
私達が施設に居る頃から深海棲艦という存在は何となく知っていたし、
それと戦争をしているのはずっと知っていた。
だからこそ施設からの外出は危険とされていて中々出来たものじゃなかったんだが。
42: 2015/03/09(月) 23:00:44.87 ID:gtkH3phJo
「君らが手に入れた装備、艤装はかの深海棲艦に対抗出来る最後の兵器である」
「君ら自身が兵器となり、あの化物どもを駆逐するんだ」
「その先駆けとして……赤城、加賀両名を使用する」
「しかし君らの扱いは実に厄介である。君ら自身は気がついているかもしれないが、
その艤装は深海棲艦に対して強力な力を発揮するために作られている」
「ぶっちゃけると、我々に牙をむけば……我々も対処できない」
「そのために君らには司令官と組んでもらう」
43: 2015/03/09(月) 23:02:04.15 ID:gtkH3phJo
「今後、実装されるべく体制は司令官1人に対して6人の艦娘」
「このチームによる大規模な作戦で深海棲艦を妥当するが、
艦娘も艦娘達専用の司令官もまだ実戦投与された経験がない」
「そこで、艦娘の中でも特に優秀な成績を誇る赤城と加賀、この2人に」
「司令官コースの中でも最も優秀とされている私イチオシの司令官をつける」
「今回はこの2人だが、この先他の連中も実戦投与されることを覚悟しておけ。
両名はこの後、残るように。以上、解散!」
44: 2015/03/09(月) 23:03:04.45 ID:gtkH3phJo
「加賀さん、私達戦争に出るんですって……」
「……そのようですね」
「赤城、それに加賀。戦争に出るのは不安?」
「……いえ、そんなことは」
小さな将校が話しかけてくる。
この人、よく見れば胸についている星の数が……
この数はどう考えても上層部のめちゃくちゃ偉い人間……。
45: 2015/03/09(月) 23:04:17.80 ID:gtkH3phJo
「大丈夫大丈夫。君等につく司令官は適当で最悪の奴かもしれないけれど、
ちょっと短気な暴力っ娘よりはまだ良い方だと思うし」
「えっと……」
「ああ、まあ暴力っ娘の方が優秀なんだけどさー、
その子結構危ない思考で軍に来てて多分実戦投与して最前に送り込んだら
君ら巻き込んででも、氏ぬ覚悟で突っ込みまくると思うし」
ヘラヘラと聞いてもいない話しを始めるその小さな将校に
赤城さんは食いつくように話しをする。
46: 2015/03/09(月) 23:04:47.37 ID:gtkH3phJo
「私達って最前なんですか!?」
「そうだよ? 大丈夫、君ら艤装持ってるし大抵のことじゃ氏なないから」
「そういう問題ではありません。全くの素人に最前を任せるのですか……?」
「まあそうも言ってられない戦況なんだよね……日本は。
それに、君らの活躍次第で艦娘の実戦投与時期が大幅に変わるからさ。
上の人間としては……君達2人には超期待しているよ、赤鬼と青鬼さん」
「……?なんですかそれ」
「およよ、知らないの? 君ら訓練中鬼の形相で訓練してるって噂だよ?
私生活でも全くの油断も隙もなく近寄りがたいって……」
「嘘……っ」
赤城さんはショックで顔を手で覆う。
47: 2015/03/09(月) 23:06:00.76 ID:gtkH3phJo
「え?君らそう呼ばれてるの知らなかったの……?施設の人から聞いたんだけど」
「そんな時期から呼ばれてたんですか!?」
思わず私も取り乱すのだった。
ああ、なんてこと……。きっと色んなことが原因になっている……。
「ま、とにかく君らには期待しているからさ!一緒に頑張ろう。
この世界の平和を取り戻すんだ」
「「は、……はい」」
この日、2人でこれまでの人生の反省会を夜通し行いました。
それから何日かが過ぎ、戦争が激化していく中で
ついに私達、艦娘の実戦投与を踏まえた試験運用が開始されるのだった。
48: 2015/03/09(月) 23:06:56.56 ID:gtkH3phJo
何だか訳の分からない間に艦娘として育てられていて……。
遊びのような感覚で覚えていったことの応用で優秀と言われて期待されて。
何となく目標なんて持ってなかったけれど、
赤城さんという親友がいて……この人の隣にいて、
それだけでただ毎日が楽しかった。
私にはこの戦争の意味は始めのうちこそ良く分かっていなかった。
教えられて何故戦争が起きてしまったのかとか教わっても
……結局の所よく分からないままだった。
でも戦争自体は終わらせないと生き残れないということだけは分かる。
最前線に繰り出され、勝利の鍵となる私達艦娘。
危険であることは間違いなく少し怖いと感じることもある。
だからこそ私が赤城さんを守らなくちゃいけない。
頑張らなくちゃいけない。
そのために……この扉一枚先にいる司令官とちゃんと協力しないといけない。
49: 2015/03/09(月) 23:07:53.06 ID:gtkH3phJo
「いよいよ対面ですけど、少し緊張していますか?」
「そういう赤城さんは……全然してませんね」
「ふふ、少し楽しみです」
「そう……。きっとこの中にいる人と共に
……戦争が終わるまで生き抜きましょう」
「ええ、そうね。約束ですよ?」
「はい」
赤城さんと指切りをする。
「失礼します。初めまして。航空母艦、赤城です」
「同じく。航空母艦、加賀。どうぞよろしくお願い致します」
50: 2015/03/09(月) 23:13:52.96 ID:gtkH3phJo
今回の後日談。
あの無口だった長門は私達が軍に行くのに施設を出て行くことになった日に。
赤城さんは長門に
「ごめんね。あなたには強くなって欲しかったから。
みんなをお願いね。あなたが今度は護ってあげて」
そう言い残した。長門は表情を1つ変えずに、小さく頷いたのだった。
たぶんではあるが、この瞬間今まで施設であったことは長門は許したんじゃないかと……。
ただ、決してそこに甘えることなく私達は自分達への戒めとして忘れることはないだろうけど。
その長門が……現在どうしてああなったのかは全くの謎。
53: 2015/03/09(月) 23:27:15.11 ID:gtkH3phJo
お疲れ様です。
予想外に早く次スレに行けたのは本望です。
大淀さん、本当に見にくいし私がたぶんいつか間違えると思うので、申し訳ない。
書いてみてやっと気がついたんだ。それまで結構ノリ気だったのだけど。
大淀「てめえみてーなションベン臭いガキは黙っとけ。殺されてーのかよ」
大湊「えっ、今なんて」
大淀「いえ、何も?どうかされましたか?」
大湊「い、いや気のせいならいいのだが」
大淀「あ、大湊(クソメガネ)さん、喫煙所ってどこですか?」
たぶん着任したらこういう会話になると思うけど……すごく見づらいし分かりづらい。
しかも、こういうキャラにしようとしていたが、こんな大淀さん私、知らない。
新しく加わった川内ともども、
今後もお付き合いいただける方はよろしくお願い致します。
55: 2015/03/09(月) 23:43:07.83 ID:8EXKYdDxo
むしろこのキャラ知ってる!ってなるのは誰だ?
初雪?
初雪?
56: 2015/03/09(月) 23:47:58.53 ID:bmEAZgWxo
そらもう艦隊のアイドルよ
57: 2015/03/09(月) 23:55:32.78 ID:vB0fuVbvO
響と電は割りと
2: 2015/03/09(月) 20:36:34.01 ID:gtkH3phJo
【登場人物と大雑把な年表】
××23年9月 深海棲艦の宣戦布告により深海大戦勃発
30年8月 広島強襲
42年4月 鈴谷、熊野軍属
45年7月 隼鷹路頭に迷う
45年8月 沖ノ島奪還作戦失敗
提督行方不明に。佐世保重症。
赤城殉氏
45年9月 深海棲艦と和平を締結、終戦
45年10月 提督、加賀 横須賀鎮守府着任
呉、金剛、扶桑、山城 呉鎮守府着任
北上大井、退役
46年5月 島風脱走、舞鶴左遷
46年7月 龍田逮捕、天龍が横須賀鎮守府加入
46年8月 愛宕が横須賀鎮守府加入
46年9月 鈴谷、摩耶が横須賀鎮守府加入
熊野が佐世保鎮守府着任
46年11月 電が横須賀鎮守府着任
46年12月 佐世保が佐世保鎮守府着任
47年1月 佐世保、前任者を追い出し司令官就任
雷が佐世保鎮守府へ加入
――――――――――――――――――――――――――
47年12月 龍驤、那珂が呉鎮守府へ加入
48年1月 初雪、隼鷹が舞鶴鎮守府へ加入
48年3月 響が舞鶴鎮守府へ加入
48年5月 天龍が佐世保鎮守府へ異動
卯月が横須賀鎮守府加入
48年12月 大湊、長門、暁 大湊警備府着任
49年3月 川内が大湊警備府へ加入
64: 2015/03/10(火) 10:31:53.68 ID:diTTVRZTo
おつおつ
65: 2015/03/10(火) 12:24:02.29 ID:sEUQ0xnSO
>>自信満々で作った名付けて”千本桜”。
>>茶柱を千本入れてみた圧巻の作品。
これ飲むときに茶柱が絶対に邪魔になるよね
>>茶柱を千本入れてみた圧巻の作品。
これ飲むときに茶柱が絶対に邪魔になるよね
66: 2015/03/10(火) 21:41:04.42 ID:Pjn4HxAb0
>>65
絶対痛い
しかもあの加賀さんが淹れたお茶なんだぜ?
絶対痛い
しかもあの加賀さんが淹れたお茶なんだぜ?
次回へ続く
引用元: 【艦これ】提督「今日も平和だ」その13
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