1: 2017/04/23(日) 17:40:00.14 ID:QsleizPQ0

2: 2017/04/23(日) 17:40:23.20 ID:QsleizPQ0
「また、いっしょにあそぼうね」
夕日を背景に、朱に染まる野原で
彼女は、そういいました。

その日は、いつもと同じ一日を過ごすはずでした。
静かに教室で息をひそめ、
存在を隠し、ただ荒波に飲まれないようやり過ごす日々。

周囲では、活発なクラスメイトが、
テレビや、ラジオや、アイドルや、雑誌や、漫画の話をしています。
しかし、僕には、
テレビや、ラジオや、アイドルや、雑誌や、漫画の話についていけないのです。

3: 2017/04/23(日) 17:41:04.35 ID:QsleizPQ0
クラスメイトとの交流を、
あまり持たなかった私は、
さぞや悪い意味で浮いた存在だったことでしょう。

そんな私とそれ以外の溝を、
彼女は、飛び越え、
壁を破壊し、こう言いました。
「いっしょにあそぼう」
良く通り、発音の良い声がクラスに響きます。

恥ずかしいことですが、
最初、私は、自分に向けられた言葉とは
気が付きませんでした。
仕方がないのです、だって、
クラスで私に声をかける人間など、
いままでいなかったのですから。

4: 2017/04/23(日) 17:42:20.80 ID:QsleizPQ0
「ねぇ、いっしょにあそぼうよ」
彼女は、再度そう言いました。
さすがの私でも、2回目には、
自分に向けられたことに気が付きました。

しかし、普段されないクラスメイトの対応に、
驚きと動揺が隠せず、
ただ、頷くことしかできませんでした。
きっと、その時の私は、壊れたくるみ割り人形か、
出来の悪い香具師の猿のようだったでしょう。

「じゃあ、今日の放課後、学校の校庭で」
そう彼女は、日時を告げると、
私の前から消えました。

それから、放課後までの記憶がありません。
次の日、だれにも怒られなかったので、
おそらく、おおきな失敗はしていなかったのでしょう。

5: 2017/04/23(日) 17:43:04.72 ID:QsleizPQ0
私は、放課後、家に荷物を置くと、
母に「いってきます」とだけ告げ、
彼女の言った「学校の校庭」に早足で向かいました。

校庭に到着すると、
彼女以外に見知った顔が何人もいます。
複数の人物に声をかけていたようです。
それから、
おにごっこをし、かくれんぼをしました。

遊びが一段落すると、誰かが言いました。
「丘へ行ってみよう」
少なくとも彼女ではありません。
なぜなら、私はその時、
息を切らし、肩で息をし、
地面に落ちていく自分の汗を眺めていたので、
発言者の顔を見る余裕などなかったのです。

6: 2017/04/23(日) 17:43:42.80 ID:QsleizPQ0
ぞろぞろと、幾人の子供たちが、
町はずれの丘を目指します。
その丘は、学校の遠足でも、
利用されるハイキングコースがある、
ちいさな山ですが、クラスメイト達の間では、
丘と呼ばれているようでした。

皆で、ゆったりと、
舗装された山道を登っていきます。
体力のない私は、
集団のいちばん後ろをついていきました。
おにごっこなどで消耗をしていた
私は、集団から遅れること数分、
やっとの思いで、登り切ろうかという時、
彼女が、私を待っているのが見えました。

7: 2017/04/23(日) 17:44:15.86 ID:QsleizPQ0
彼女は、私に右手を差出し、
私の細い腕を引きながら言いました。
「また、いっしょにあそぼうね」
夕日を背景に、朱に染まる野原で
彼女は、そういいました。

その後、門限の為、
皆、丘を取って返し、帰路につきました。

彼女と遊んだことで、
私の生活に大きな変化がありました。
私が、彼女を目の端で追うようになったこと。
いつ彼女に話かけられても良いように、
テレビや、ラジオや、アイドルや、雑誌や、漫画の話ができるようになったこと。

8: 2017/04/23(日) 17:44:47.61 ID:QsleizPQ0
しかし、その後、
私は、彼女と遊ぶことは
二度とありませんでした。

それから数か月後、
彼女は、家の事情で、
引っ越しをすることになったからです。

彼女は、その後、引っ越し先で、
スカウトされアイドルになりました。

私は、テレビの前で、
テレビの中の彼女を見つめています。

彼女の、
あの言葉を信じて。


9: 2017/04/23(日) 17:45:29.32 ID:QsleizPQ0
とりあえず、全文投下。
html依頼だしてきます。

引用元: 【デレマス?】「ねぇ、いっしょにあそぼうよ」