1: 2011/09/23(金) 18:50:10.11 ID:8FCiWYYw0
――2013 9/17 15:43――

~秋葉原のとあるカフェ~

紅莉栖「おまたせ。岡部はアイスコーヒーでよかったわね?」

岡部「……」

紅莉栖「それにしても、久しぶりの秋葉原もだいぶ変わったわね。ラジ館が新しくなっちゃたのはびっくりしたわ」

岡部「……」

紅莉栖「ねえ。私たちってさ、その…そろそろ付き合い始めて長いじゃない?」カミノケ サワル

岡部「……」

紅莉栖「お、岡部も来年で卒業だし、私も研究が一段落ついてね、それで、その…」カミノケ イジイジ

岡部「……」

紅莉栖「ま、ママも岡部のことは気に入ってるし、論文の特許で当分ならお金の心配もなくって…。
    いや、何考えてんのよ、私! まだ早すぎ――え、ええと、私が言いたいのは…」カミノケ クルクル

岡部「…紅莉栖」

紅莉栖「だから、私としてはそろそろ…え? 何?」



岡部「別れないか?」
STEINS GATE 牧瀬紅莉栖 運命探知の魔眼[リーディング シュタイナー] 1/7スケール プラスチック製 塗装済み完成品フィギュア

6: 2011/09/23(金) 18:53:00.41 ID:8FCiWYYw0
ガチャン

紅莉栖「―ッ――ッッ」

岡部「……」

紅莉栖「は、ははは…驚いたわ。ちゅ、厨二病以外でも、冗談は言えるんだ。
    で、でも、流石に、今の、は、笑えない、わよ」フルフル

岡部「…俺は本気だ」

紅莉栖「…うそ。冗談、でしょ?」

岡部「冗談でこんなこと…言えるわけないだろ」

紅莉栖「……」

紅莉栖「~~~ッ」

ガタッ

10: 2011/09/23(金) 18:56:09.29 ID:8FCiWYYw0
紅莉栖「ふ、ふざけないで! 何よそれ!!
    わけを説明しなさいよ! 証明よ! 証明を要求するわ!」

岡部「…したところで、無駄だ」

紅莉栖「そんな答えで私が納得すると思ってんの!? 答えなさいよ!」

岡部「……」

紅莉栖「…ねぇ、もしかして私が研究にかまけて、滅多に会えないことを怒ってるの? そんなの、双方の合意の上だったじゃない!」

岡部「……」

紅莉栖「知らないうちに傷つけたなら謝る。何かの事情で困ってるなら、全面的に援助する」

岡部「……」

紅莉栖「ねぇ、お願いだから理由ぐらい聞かせて。お願いだから…」

岡部「……」

紅莉栖「ッッ」

バァン! ガチャガチャ

紅莉栖「黙ってんじゃないわよ! 岡部倫太郎!!」

13: 2011/09/23(金) 18:59:19.80 ID:8FCiWYYw0
ザワザワ
ナーニ アレー シュラバダシュラバ キャー イヤダワー

岡部「……」

紅莉栖「…ねぇ。他に、好きな人でもできたの? まゆり?」

岡部「ッ…」

岡部「…そんなわけ、ないだろう…」

紅莉栖「…良かった。やっと口を開いたわね。このままだんまりだと、どうしようかと思った…」

紅莉栖「思いつめての決断のようだから、深くは聞かないわ。でも、せめて私が納得する理由を聞かせてくれないかしら」

紅莉栖「場合によってはすごく悲しいけど…。岡部の気持ちも、無視するわけにはいかないから…」

岡部「…こういうのは理論じゃない。感情の問題なんだ…」

紅莉栖「はっ、何それ。説明できないからって感情論? あんた、どこまでふざけ――」

岡部「もう、無理なんだよ…」

紅莉栖「え……?」

14: 2011/09/23(金) 19:03:50.06 ID:8FCiWYYw0
岡部「お前とは、もういられないんだよ…」

紅莉栖「…理由になってないわよ。ちゃんと説明――」

岡部「もう、どうしようもないんだよ!」

紅莉栖「ッ……」

岡部「そ、そうだ。お、お前に飽きたんだよ。…ダ、だから、これでお終いなン、だ」

紅莉栖「何よ、それ…」

岡部「と、とにかくそういう訳、だから、俺に、もう二度と連絡するな。…もう、会うことも、ないだろうが、な…」ガタッ

紅莉栖「ま、待ってよ! 話はまだ終わってないわよ!」

岡部「か、会計はここに置いておくから…じゃあな」タッタッタ…

紅莉栖「あっ……」

16: 2011/09/23(金) 19:07:10.48 ID:8FCiWYYw0
紅莉栖「待ってよ…待っててば…。行かないでよ…何なのよ、何なのよ、これ…」

紅莉栖「私が悪かったなら謝るから…全部、直すから…」

紅莉栖「ねぇ、岡部…こっちを向いてよぉ…うぅ……」

紅莉栖「いやだぁ…うぐ……こんなの、いやだよぉ……」

紅莉栖「どうして、なの…? ぐずっ…何とか、言いなさいよぉ…」

紅莉栖「世界で、一番好きだって…ひっぐ…言ったのに…。絶対に…うぅ…お前を、守るって、言ってくれたのに…」

紅莉栖「あれも、全部嘘だったの…? ぐす…ひどいよぉ、岡部ぇ…」

紅莉栖「ずっとすきだったのに…すきだっていってくれて…えっぐ…うれしかったのに…」

紅莉栖「うぁぁ…ひどいよ…こんなの、あんまりだよぉ…」

紅莉栖「おかべ……えぐ、おかべぇ……」

20: 2011/09/23(金) 19:10:49.88 ID:8FCiWYYw0
――三日後――

~未来ガジェット研究所~

岡部「……」

カンカンカンカン
ドンドンドン!

オカリーン! イルンデショー!?
マ、マユシ オチツイテ…
ココヲ アケテヨー!

岡部「……」

ドンドンドンドン

オカリーン! キイテルノー!?
チョ アンマシ サワグト ブラウンシガ…
ダルクンハ ダマッテテ!
…サーセン

岡部「……」

23: 2011/09/23(金) 19:14:30.47 ID:8FCiWYYw0
―――――――――――――――――――――――――

まゆり「だめだぁ…ねぇ、ダルくん。合鍵あった?」

ダル「うーん…。今日もないお。やっぱオカリン、いないんじゃないかなぁ?」

まゆり「いるもん! オカリンはここにいるよ!」

ダル「いや、だって電気のメーターも回ってないし…。もうとっくに合鍵持って、どっか行ったんじゃね?」

まゆり「………」ピッピッピッ

prrrr…

―――――――――――――――――――――――――

ヴーヴーヴー

岡部「!」

ピッ

―――――――――――――――――――――――――

まゆり「やっぱり居た。オカリーン! いい加減にしないと、まゆしぃ怒るよー!」

ダル「オカリンェ…」

26: 2011/09/23(金) 19:17:42.61 ID:8FCiWYYw0
まゆり「…ねぇオカリン。大学にも実家にも帰らないで、どうしたの?」



まゆり「おばさんたち、心配してたよ? まゆしぃに話せないことなの? ねぇ、オカリン」



まゆり「…クリスちゃんのこと?」

ッ…!

まゆり「本当はクリスちゃんも大変だからしたくないけど…どうしても開けてくれないなら、クリスちゃん呼ぶよ?」

ダル「ちょ、まゆ氏…それはあまりに…」

まゆり「だって、オカリンひどいよ! 理由も言わずにクリスちゃんに酷いこと言って!
    それでこんなことして、逃げてるなんて、オカリンかっこ悪すぎだよ!」

28: 2011/09/23(金) 19:21:18.81 ID:8FCiWYYw0
まゆり「ねぇオカリン…。お願いだから、クリスちゃんと仲直りしてよ…。
    あんなボロボロなクリスちゃんはもう、まゆしぃは見たくないのです」

まゆり「辛いことかもしれないけど、やっぱり会って話すべきだと思うよ? だから――」

キィ…

二人「「あ…」」

岡部「…入れ」

ダル「お、オカリン…ちょっと痩せ…いや、やつれたんじゃね?」

岡部「…食欲が湧かなくてな」

ダル「そ、そっか…。大学はどうするん?」

岡部「いい。必要単位は、もう全て終了したからな」

ダル「いや、だからってゼミ抜けてちゃマズイっしょ。まぁ教授には適当にフォロー入れたけど…」

岡部「あぁ、そういえばそんなのもあったな…。すまない」

30: 2011/09/23(金) 19:25:45.70 ID:8FCiWYYw0
まゆり「…ねぇオカリン。本当にどうしたの?」

岡部「…別に何でもない」

まゆり「嘘。今のオカリン、すごくひどい顔をしてるもん。クリスちゃんもだけど、それ以上に今のオカリン、ボロボロだよ?」

ダル「ど、どうして急にボクたちを入れてくれる気になったん?」

岡部「別に…。人を呼ばれるのが面倒だっただけだ」

まゆり「ねぇ、どうして話せないの? まゆしぃが重荷だから? もう、『人質』じゃないから?」

岡部「…ッ。そんなわけなかろう。ただ、お前たちには関係ないからだ」

まゆり「そんな悲しいこと、言わないで!」

32: 2011/09/23(金) 19:31:00.53 ID:8FCiWYYw0
ダル「ま、まゆ氏…」

まゆり「あのね…まゆしぃは、オカリンとクリスちゃんが恋人になったとき、とっても嬉しかったんだよ?」

まゆり「とってもお似合いだと思ったの。…変な感じだけど、きっとオカリンとクリスちゃんは、出会う前からずっと好き同士だったんじゃないか、
    って思って…何だか二人とも幸せそうで、見ていて安心するの」

まゆり「なのに、こんなのって…見ていてすごく悲しいのです…」

岡部「……」

まゆり「知ってる? 最近クリスちゃん、毎日私に電話をかけるの。オカリンを困らせたようなことをしたのか、心当たりはないかって」

まゆり「オカリンのこととか、オカリンとどうやったら仲直りできるか、ずっと聞いてくるんだよ?」

まゆり「それでね…最後のほうは、泣いてるんだよ?」

岡部「ッ…」

36: 2011/09/23(金) 19:38:41.72 ID:8FCiWYYw0
まゆり「オカリン。本当に、クリスちゃんのこと、嫌いになっちゃったの?」

まゆり「本当にそうなら、ちゃんと話してあげてよ。もう、これ以上クリスちゃんを困らせないであげて」

まゆり「オカリンがクリスちゃんのこと、嫌いになっちゃったら、まゆしぃは凄く悲しいけど…」

岡部「そんなわけないだろ!!」

まゆり「……」

岡部「俺が本心から紅莉栖と別れたい、紅莉栖のことが嫌いになったと、本気で思っているのか!?」

岡部「俺がどれだけ悩んだと思ってる? あいつの気持ちを踏みにじる俺に、どれだけ苦しんだと思ってる!?」

岡部「俺は、牧瀬紅莉栖のことを愛してる。世界中の、誰よりもだ!」

まゆり「……」

岡部「だがもう…どうすることも、出来ないんだ…」

38: 2011/09/23(金) 19:43:26.79 ID:8FCiWYYw0
ダル「オカリン…」

まゆり「…どういう、こと?」

岡部「…すまない。言うことは出来ない。お前たちにも関わることだからな。だから金輪際、お前たちも俺にはもう会うな」

まゆり「そんな、勝手なこと!」

岡部「…とにかくこのままでは、紅莉栖を必ず不幸にしてしまう。俺が傍にいると、必ずあいつを苦しめてしまうんだ」

まゆり「まゆしぃはよく分からないけど…クリスちゃんのためを、思ってのことなの?」

岡部「ああ。将来、俺は必ずクリスを傷つける。どうあっても、だ」

岡部「もちろん対策は考えた。あらゆる手段を考慮した。しかしおそらく、どう足掻いても無理なんだ…」

岡部「…だから、将来彼女を傷つけるくらいなら、今のうちに別れた方があいつのためなんだ」

まゆり「…そんなの…間違ってるよ」

39: 2011/09/23(金) 19:47:24.18 ID:8FCiWYYw0
岡部「とにかく、そういうわけだ。分かったなら帰ってくれ」

まゆり「オカリン!」

ダル「ちょ…ここで焦らすとかマジ生頃しっしょ」

岡部「いいから俺の言うとおりにしてくれ。でないと、俺はしばらく戻らないからそのつもりでいろ」

岡部「わかっていると思うが、このことは紅莉栖には――」








ドサッ

紅莉栖「―――」

43: 2011/09/23(金) 19:50:50.21 ID:8FCiWYYw0
岡部「な…」

まゆり「え…」

ダル「ちょ、牧瀬氏…?」

紅莉栖「……」

岡部「く、紅莉栖…お前、何故ここに…」

紅莉栖「……」ツカツカ

グイッ

紅莉栖「…岡部」グッ

岡部「な…」

紅莉栖「歯ァ、食いしばりなさい!!」

岡部「へ?」

ドゴォ

岡部「かはっ!?」ドサァ

まゆり「クリス、ちゃん…?」

ダル「グーでいったぁぁ!?」

48: 2011/09/23(金) 19:55:21.78 ID:8FCiWYYw0
岡部「く、紅莉栖…いきなり何を――ゲフッ!?」ドスン

紅莉栖「……」

岡部「お、おい紅莉栖…。お前、俺の上に乗って、一体――」

ポタ…ポタ…

まゆり「あ…」

ダル「お…」

岡部「え…」

紅莉栖「…よがっだ」ポロポロ

57: 2011/09/23(金) 19:59:25.32 ID:8FCiWYYw0
紅莉栖「わだじ…おがべに、きらわれて…ずてられたんじゃないがっで…ひっぐ…」

紅莉栖「ごのまま、わがれだらどうしよう、って…えぐ…そうおもうと、わけがわからなくで…」

紅莉栖「むねがぐるしぐて…はりざけそうで…うぅ…しんじゃうかとおもった…」

紅莉栖「でも…そうじゃ、ないんだね? おがべは、わだしをきらってるわけじゃ、ないんだよね?」

岡部「……」ピチャ ピチャ

紅莉栖「うっぐ…よがっだ…ほんどうに、よがったぁ…」

紅莉栖「おかべにぎらわれたら、わたし…わだじぃ…うぅ」



ダル「久しぶりの牧瀬氏のデレ度が天元突破な件」

まゆり「アツアツだね~」

61: 2011/09/23(金) 20:03:31.62 ID:8FCiWYYw0
岡部「…すまない」

紅莉栖「ッ!」ズッ ゴシゴシ

紅莉栖「謝ってすむ問題か! このバカ!」

紅莉栖「何であんなことしたの! 答えなさい!
    答えなかったら、あんたの脳に電極と電球をぶっ刺して、クリスマスツリーにしてやる!」

岡部「なっ…!? こ、これはお前のためにしたことで――」

紅莉栖「そんなこと、理由になるか! この3日間、私がどれだけ苦しんできたと思ってるのよ!」

紅莉栖「もう、頭の中がぐちゃぐちゃで、どうにもならなくて、私…」

紅莉栖「本当に…どれだけ、辛かったか…」ポロポロ

岡部「…すまない」




ダル「すごく…蚊帳の外です」

まゆり「ヒューヒューだね~」

63: 2011/09/23(金) 20:07:08.99 ID:8FCiWYYw0
岡部「…本当にすまないと思ってる。だから、泣くのはやめてくれないか」

紅莉栖「な、泣いてなんかいないわよ、ばかぁ…」ゴシゴシ

紅莉栖「と、とにかく! 私は、岡部が話してくれるって言うまで、絶対にここを動かないからね」

岡部「し、しかし…」

紅莉栖「『しかし』も『でも』もない。反論も転化もすべて却下よ。もし逃げたら一生、あんたを許さない」

岡部「……」

紅莉栖「お願い岡部。私、あんたが苦しんでいるなら、貴方を助けたい」

紅莉栖「どんな馬鹿げたことでも構わない。岡部を絶対に助けるから」

紅莉栖「だから岡部もお願い。私を、信じて」

65: 2011/09/23(金) 20:11:28.97 ID:8FCiWYYw0
岡部「…後悔、するぞ」

紅莉栖「いい。あんたと一緒にいられないこと以上の後悔なんてないから」

岡部「もう後戻り、できないんだぞ?」

紅莉栖「しつこい。後戻り? 論外よ。私の前には、あんたさえいればいいの」

岡部「紅莉栖…」




ダル「まゆ氏、壁殴り代行呼んでいい? トッピングはシェルブリットで」

まゆり「ダルくん、そろそろ空気読もうか~」
―――――――――――――――――――
――――――――
――――


紅莉栖「岡部が、消える!?」

68: 2011/09/23(金) 20:15:52.92 ID:8FCiWYYw0
岡部「…正確には、この世界線上の俺がな」

まゆり「はぅ~…何だか話が難しすぎて、まゆしぃにはちんぷんかんぷんだよぉ~」

ダル「いや、思わず聞き入ってしまったけど、厨二ってレベルじゃねーぞ…。茄子きのこや琉騎士70だって裸足で逃げ出すレベル」

岡部「だが、事実だ。確かにいきなり信じてくれというには、あまりにも突拍子もないことだがな…」

紅莉栖「え、えっと…ちょっと整理させて。つまり、岡部は前の世界線、だっけ? そこで、Dメール? とタイムリープを繰り返して…
     今の世界線…うーんと、シュタインズ・ゲートに到達したって事なのよね?」

岡部「あぁ。俺はまゆりと紅莉栖を救うために、様々な世界線を漂流した。そしてたどり着いたのが、このシュタインズ・ゲートだ」

ダル「いや、シュタインズ・ゲートって…それってオカリンが日頃から使ってる厨二設定じゃん」

岡部「仕方ないだろう。命名したのは俺なんだから」

70: 2011/09/23(金) 20:19:15.91 ID:8FCiWYYw0
岡部「…問題は、紅莉栖を助けるために助言をくれた、2025年の俺。β世界線で紅莉栖を助けられなかった俺だ」

岡部「俺がシュタインズ・ゲートに到達できたのは、俺の持つ能力、リーディング・シュタイナー(以下R・S)によるものだ」

紅莉栖「またその単語が出てきた…ええと、確か世界線を移動しても、前の世界線の記憶を保持できる力、だっけ?」

岡部「そうだ。それにより世界線変動を常に観測することを可能にし、あらゆる過去改変を経てここにたどり着いた」


岡部「…ここで重要なのは、R・Sを持っているのはこの『俺』だけじゃない。2025年の俺も例外なく持っているはずだ」

岡部「未来の俺は過去にDメールを送り、俺を使って世界線を移動させた。つまり、意図的に自分から過去改変を加えたことになる」

岡部「意図的に世界線を移動させたということは、必然的に未来の俺にもR・Sが発動する」

岡部「それは、今の『俺』の人格が、β世界線上の未来の『俺』に書き換えられてしまうことを意味する」



岡部「つまり2025年の8月21日…。俺は消える」

72: 2011/09/23(金) 20:24:51.85 ID:8FCiWYYw0
3人「……」

岡部「皮肉なものだな…。一度は助けられた相手を、今度は恐れることになるとは…」

まゆり「ねぇ…まゆしぃはまだよく分かってないけど、つまり、今のオカリンがいなくなっちゃうってこと?」

まゆり「だから、クリスちゃんに別れよう、なんて言ったの?」

岡部「…あぁ。いくら紅莉栖と思い出を重ねたところで、10数年後には全てが消えてしまう。それを知れば、紅莉栖は悲しむと思ってな」

岡部「いや。本当は、俺自身が怖かったのかもしれないな。紅莉栖をこのまま愛し続けても、いつかは消えてしまうことに絶望して…」

岡部「だったらいっそのこと、今のうちに関係を解消して、その後は知人のいないどこかに行って、一人で暮らそうと思ったんだ」

紅莉栖「無茶しやがって…バカ」

岡部「一度はこの能力を使って世界を、紅莉栖とまゆりを救ったが…」

岡部「今では、まるで呪いのようだ。俺はどこまでも、世界線の呪縛から解き放たれない気さえする」

紅莉栖「はぁ…そんな弱気になってどうするのよ」

75: 2011/09/23(金) 20:28:24.15 ID:8FCiWYYw0
紅莉栖「まぁ、確かにあんたの話は妄想の度を越してるわ。ゲームか小説にすれば、10万本くらいは売れるんじゃない?」

紅莉栖「…でも、私が言ったことは変わらないわ。何であれ、岡部が困っているならそれを見過ごすようなことはしたくない」

紅莉栖「何があっても、岡部を信じる。だから岡部も、もっと私を頼っていいのよ?」

岡部「……」

紅莉栖「私は、岡部を助けたい。岡部の力になりたいの」

岡部「!!」


――私は、あなたを助けたい。岡部の力になりたいの


紅莉栖「あれ…? 何かいまの台詞、前にも一度、どこかで言ったような…」

岡部「ふっ…はははは」

紅莉栖「わ、笑ってんじゃないわよ! そりゃ、ちょっと恥ずかしい台詞だったかもしれないけど…でも、助けたいってのは本当だからね!」

岡部「あぁ、分かってる…。分かってるさ」

77: 2011/09/23(金) 20:32:59.11 ID:8FCiWYYw0
岡部(そうだ、俺は何をしていたんだ…)

岡部(俺が世界線の袋小路に追い詰められたとき、助けてくれたのは紅莉栖だったじゃないか)

岡部(いつも俺を励まして、協力してくれたのは、紅莉栖だったじゃないか)

岡部(一人で悩むなんて、どうかしてたな…。俺には、いつだって頼れる人がいたというのに)

岡部「分かった。クリスティーナ。頼みがある」

岡部「協力して欲しい。俺を、助けてくれ」

紅莉栖「ティーナを付けるな…って、このやり取りも懐かしいわね」

紅莉栖「無論よ。私だって、岡部を失いたくないもの」

まゆり「いつものオカリンに戻ったね~! まゆしぃは、ほっとしたのです!」

ダル「やれやれ…結局は元鞘かお。ま、このスーパーハッカーの手腕が必要なときは、いつでも連絡してくれたまへ」

岡部(そうだ、何を恐れることがある…。俺には紅莉栖が、ラボメンの仲間がいるじゃないか)

岡部(運命も、世界線も、そんなことはどうでもいい。俺は、必ず生き残ってみせる!)

80: 2011/09/23(金) 20:36:26.73 ID:8FCiWYYw0
こうして俺と紅莉栖の、運命への抗いが始まった。

大学を卒業後、すぐさま俺は紅莉栖とともに渡米することにした。アメリカの最新鋭の機器で、俺のR・Sを調べることにしたのだ。

両親の反対を押し切り、ラボメンの皆に見送られ、俺たちはアメリカへと発った。

――2014 6/11――

渡米した俺と紅莉栖は、まず共同のラボを確保した。

といっても、借家を1つ間借りし、そこを俺たちの住居兼ラボにしただけなのだが。

同棲といっても過言ではないが、残念ながらそんな恋人じみた真似をする暇はないだろう。

アメリカの暮らしは非常に大変だった。俺は英語はまったく話せないし、日本とあまりにも勝手が違いすぎた。

だが、人間その気になればどんな環境にも適応するものだ。

2年も過ごしているうちに日常会話ほどなら英語も話せるようになり、行き付けの店も出来たほどだった。

アメリカの生活に順応しつつ、俺は知っている限りの全てのタイムマシン理論を紅莉栖に打ち明けた。

84: 2011/09/23(金) 20:41:08.30 ID:8FCiWYYw0
――2018 9/19――

俺と紅莉栖はタイムマシン理論をあらかた議論し終え、結論を纏めるとすぐに俺のR・Sの研究に取り掛かった。

最新鋭のETスキャン、MRI装置、脳波測定機、その他の機器や設備を用いて、俺の脳は徹底的に研究された。

投薬や磁気刺激、他の被験者との比較など、研究の方法は多岐にわたるもので、研究は実に半年にも渡った。

…だが、残念ながらR・Sを完全に解明することはできなかった。

唯一分かったことは、俺の脳は常人よりも僅かながら肥大していること。

それと、おそらく俺のR・Sは脳による作用によるもの。この2点だけだった。

紅莉栖は諦めずに調査を進めたが、数年経ってもはっきりとした答えを探せずにいた。

…無理もない。R・Sは実際に起こるまで観測できない。だから現時点では仮説以上の確定的な答えが出せないのだ。

やむを得ずR・Sの研究は中断し、その後は代わりに対応策を考案することにした。


※MRI装置…磁気共鳴画像法を用いた装置。脳内の血流をモニターに映し、視覚的に捉えることの出来る。

87: 2011/09/23(金) 20:45:53.82 ID:8FCiWYYw0

――2025 3/7――

ついにこの日、タイムリープマシンが完成した。

ダルの協力を得て、紅莉栖と俺でようやく作り上げたのだ。しかも今回のは、2人まで同時にタイムリープが可能だ。

…ただ、制作期間がギリギリになってしまったのには理由がある。

タイムリープマシンに必要なLHCは、SERNのデータベースにハッキングして使用する予定だった。

だがSERNはタイムマシン開発が頓挫してしまい、それを機に組織は解散してしまっていたのだ。

施設や研究所もすべて凍結、廃棄してしまった。

有線も全て廃棄してしまったらしく、流石の天才ハカーのダルもネットワークのない場所にハッキングをすることは不可能だった。

そのため、秘密裏で電線と有線を直接、廃棄されたLHCに引き、再利用することにした。かなり慎重にやっていたため、6年の年月を費やした。

また、試作段階ということもあり、紅莉栖は1度にタイムリープできる期間は5年まで、という制限を設けた。…それでも充分すごいが。

…できればこれは使いたくないが、保険は多いほうがいい。


そして、ついに運命の日がやってきた――

90: 2011/09/23(金) 20:51:00.68 ID:8FCiWYYw0
――2025 8/21 10:57――

岡部「…これがコールドスリープマシーンか。まさか本当に借りてくるとは…」

紅莉栖「研究者のコネっていうのは意外と強いものなのよ? 特に私は――って、自慢に入っても仕方ないわね」

紅莉栖「原理としては、0.02秒以内という驚異的な速さで、瞬間的に全細胞を凍結させる。
    これにより、細胞の壊氏がまったくない完全な状態での冷凍保存が可能よ」

紅莉栖「解凍する際には、電気マッサージとホルモン剤等を駆使して、慎重に行う仕組みになってる。勿論、精巧な温度調節機能の下でね」

紅莉栖「R・Sが脳による働きによるものなら、脳を神経細胞ごと凍らせて機能を停止させてしまえば、発動しなくなるはず」

紅莉栖「こんなとこかしらね。理論的にはこれでうまくいくはずよ」

岡部「ふむ…。しかし、まんまSF漫画の世界だな…。少し緊張する」

紅莉栖「安心して。コールドスリープマシーンはもう実用段階だし、それに過去5年事故を起こしてないメーカーから厳密に選んだわ。
    万に一つも誤作動はないわよ」

岡部「分かった。そこまで言うのなら、大丈夫だな」

紅莉栖「えぇ。じゃあ、始めるわよ」ピッ

プシュー…

92: 2011/09/23(金) 20:55:56.07 ID:8FCiWYYw0
岡部(ハッチが閉められると、まるで繭の中にいるみたいだな…)

岡部(急に冷えてきたな。徐々に温度を下げていって、昏睡したと同時に凍結することで、ショック氏を避けるのか)

岡部(う…やばい、そろそろ眠気が…)
―――――――――――――――――――
――――――――
――――
紅莉栖(岡部の言っていた時間まで、あと5秒…)

紅莉栖(4…3…2…1…)

紅莉栖(………)

紅莉栖(今のところ、際立った変化はなし。当然だけど、脳波、血圧、体温、その他の生命信号も完全に停止してる)

紅莉栖(だけど、念のためもう一晩様子を見たほうがいいわね…)
―――――――――――――――――――
――――――――
――――

紅莉栖(…全身の完全凍結から30時間…そろそろかしら)ピッ

紅莉栖(………)

紅莉栖(バイタルサイン、プラス。血圧、脈拍、ともに正常値)

紅莉栖(これで、あとは脳波がさえ戻ってくれば…)

…ピッ

95: 2011/09/23(金) 20:59:11.66 ID:8FCiWYYw0
紅莉栖(きた!)

紅莉栖(脳波の乱れはない。以前見せてもらったときと同じ値ね)

紅莉栖(とにかく、凍結と解凍は成功したわ。あとは…)

??「ん…」

紅莉栖(覚醒した! ハッチを開けなきゃ!)

紅莉栖(お願い…戻ってきて、岡部!)ピッ

プシュー…

??「ん…?」

紅莉栖「お、岡部…? 大丈夫?」

紅莉栖「ねぇ岡部。 私が、わかる?」

??「…ん…あ」



「くり、す…紅莉栖なのか!?」

紅莉栖「ッ――」

97: 2011/09/23(金) 21:03:44.18 ID:8FCiWYYw0
β岡部「あぁ、良かった…どうやら、『こっち』の俺は、成功したみたいだな…」

紅莉栖「……」

β岡部「シュタインズ・ゲートに到達できたのか。でも紅莉栖…お前が生きていてくれて、良かった…」

紅莉栖「……」

β岡部「な、なぁ紅莉栖。すまないが、起こしてくれないか? どうも、さっきから体が言うことを聞かないんだ」

紅莉栖「…ええ、待っててね、岡部」ピッ

β岡部「え…? お、おい…紅莉栖?」プシューッ…

紅莉栖(ごめん、岡部…失敗しちゃった)

β岡部「お、おい紅莉栖! ここを開けてくれ!」

紅莉栖(でも、待っててね…絶対に、助けるから!)カチャカチャ

紅莉栖(行き先は、3年前にセット…)カチッ

バチバチ…

紅莉栖(お願い…! 跳んでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!)

99: 2011/09/23(金) 21:07:36.77 ID:8FCiWYYw0
――2025 8/22 17:17――
      ↓
――2022 8/22 12:17――
(紅莉栖:タイムリープ1回目)

紅莉栖「! うぅ…」ズキズキ

岡部「お、おい紅莉栖。どうかしたのか? 顔色が良くないぞ」

紅莉栖(成功した? 良かった…。それにしても、あまりいい感覚じゃないわね。岡部は何度もこんなことをしていたのか…)

紅莉栖「岡部…。岡部、なの?」

岡部「な、何を言ってるんだお前は――」

岡部「…まさか、タイムリープしてきたのか?」

紅莉栖「…えぇ」

岡部「そうか…。ということは、失敗したのか」

紅莉栖「えぇ。でも大丈夫よ。まだ対応策は考えているわ。心配しないで」

紅莉栖(そうよ。たかだか一回失敗しただけじゃない。岡部が消える未来なんて、絶対認めないんだから)

紅莉栖(待っててね、岡部…。私が、必ず助けてみせる)

107: 2011/09/23(金) 21:12:02.17 ID:8FCiWYYw0
それから紅莉栖は、タイムリープを用いていくつもの対応策を試した。

…結論から言おう。すべて失敗した。

R・Sの有効範囲外があるのかもしれないと、俺をシャトルに乗せて大気圏外に飛ばしてみたこともあった。

R・Sを誘導できるかもしれないと、最新のロボティクス工学を用いて人工知能を製作し、俺の脳とリンクさせてみた。

R・Sが発動する瞬間に、電気ショックで一時的に俺を仮氏状態にさせてみた。

あらゆる電波や放射線等を遮断するシェルターに、俺を匿ってみたこともあった。

…だが、いくら様々な手段を用いても、まるで運命に嘲笑われているかのように『俺』が消えていった。

俺がまゆりを救うためにしてきた苦悩や失敗を、今度は紅莉栖が味わう羽目になるとはなんと言う皮肉だろう。

紅莉栖は幾度も、『俺』の消失を観測するたびにタイムリープを繰り返した…。

110: 2011/09/23(金) 21:16:53.88 ID:8FCiWYYw0
――2022 8/21 17:39――
(紅莉栖:タイムリープ5回目)

紅莉栖「……」

岡部「そうか、失敗か…。しかも5回もだと…。くそッ…どうすればいいんだ…」

紅莉栖「……」

岡部「やはり、R・Sを徹底的に追究するしかないのか?
   だが、あらゆる手は尽くした…。今更、有効なデータがとれるとは到底…」ブツブツ

紅莉栖「…ねぇ岡部。提案があるんだけど」

岡部「ん? なんだ紅莉栖。俺に出来ることがあれば、何でも言ってくれ」

紅莉栖「その…」




紅莉栖「少し、休まない?」

113: 2011/09/23(金) 21:21:02.30 ID:8FCiWYYw0
岡部「休む?」

紅莉栖「ほら。私たちって、あの日からずっと研究に没頭してきたじゃない。でも、ちょっと根詰めすぎたのかもしれないでしょ?」

紅莉栖「たまにはリラックスして、落ち着くべきだと思うの」

紅莉栖「気持ちの整理が付けば、思いがけない解にたどり着くかもしれないし」

紅莉栖「…駄目、かしら…?」

岡部「…ふむ」

岡部(そういえば学生時代は離れ離れで、卒業後はずっとR・Sの研究か…確かに、恋人らしいことはあまりしてこなかったな…)

岡部(思えば、そのせいで紅莉栖に無理をさせてしまっていたのかもな…。すまない、紅莉栖)

岡部「そうだな。たまにはゆっくりと羽を伸ばすのも大事だ」

岡部「しばらく研究は中止だ。今度のタイムリープは俺も一緒に行こう。お前が落ち着くまで、待ってやるさ」

紅莉栖「…うん。ありがと、岡部…」
―――――――――――――――――――
――――――――
――――

116: 2011/09/23(金) 21:25:16.37 ID:8FCiWYYw0
紅莉栖「凄い…これがナイアガラの滝ね」

岡部「あぁ…実際見てみると、すごい迫力だな」

紅莉栖「あ! 岡部あそこ見て! 虹よ、虹!」

岡部「お、おい…あんまり身を乗り出すと――」

紅莉栖「きゃっ! 水がかかっちゃった…」

岡部「あっはは。子供みたいだぞ、紅莉栖」

紅莉栖「な、何よ! いいじゃない、せっかくの旅行なんだから!」
―――――――――――――――――――
――――――――
――――
紅莉栖「ねぇねぇ岡部! 私、次はあれに乗りたい!」

岡部「う…また絶叫系か」

紅莉栖「何よ、文句あるの! 今日は一日付き合ってもらう約束なんだから!」

岡部「やれやれ…あまり行ったことないからって遊園地であまりはしゃぐなよ、紅莉栖…」

紅莉栖「ほら! 早く行きましょ!」
―――――――――――――――――――
――――――――
――――

118: 2011/09/23(金) 21:29:27.55 ID:8FCiWYYw0
司会「今年度のノーベル物理学賞受賞者は…岡部夫妻です! おめでとうございます!」

ワーパチパチ

岡部「やったな、紅莉栖!」

紅莉栖「えぇ! やっぱり私たちの理論は間違ってなかった!」

司会「おめでとうございます。この気持ちを、誰に伝えたいですか?」

紅莉栖「今まで支えてくれた友人たちへ、敬愛する父へ、そして、私の最愛の夫に感謝を伝えたいです!」

岡部「皆さん…本当に、ありがとうございます!」
―――――――――――――――――――
――――――――
――――
岡部「すまない紅莉栖! 遅れた!」

紅莉栖「しーっ! 大きな声出さないで! 今やっと寝たんだから!」

岡部「そ、そうか…。すまん」

娘「すぅー…すぅー…」

125: 2011/09/23(金) 21:33:13.76 ID:8FCiWYYw0
岡部「体は大丈夫か、紅莉栖?」

紅莉栖「えぇ、心配ないわ。母子ともに健康よ」

岡部「良かった…痛かっただろ?」

紅莉栖「当たり前でしょ。でも、本当に愛しいわね。これが母の痛みか…悪くないかも」

岡部「おい、見てみろ。この子、目元が紅莉栖そっくりだ。将来は美人さんになるぞ」

紅莉栖「ふふっ。でも、髪はあなたそっくりよ。大きくなったら、ちょっと手を焼きそうだわ」

岡部「ははっ、確かにな」

紅莉栖「ねぇ、岡部…」

岡部「ん?」



紅莉栖「私いま、最高に幸せよ…」

127: 2011/09/23(金) 21:37:10.38 ID:8FCiWYYw0
俺と紅莉栖は、タイムリープマシンを使って様々なことをした。

映画館、遊園地、水族館、おおよそ恋人が行きそうなところはすべて行った。

2人で世界一周旅行に行った世界線もあった。

久しぶりにラボメンで集まり、日本で8人揃って楽しく過ごした世界線もあった。

俺と紅莉栖が共同で論文を発表し、それが受賞された世界線もあった。

紅莉栖と結婚し、子供を授かった世界線もあった。

繰り返される時間の輪の中で、俺たちは今までの時間を取り戻すかのように愛し合った。

何度も時を遡り、その度にずっと一緒に過ごしてきた。

そう、何度も――

何度も、何度も……。
―――――――――――――――――――
――――――――
――――

133: 2011/09/23(金) 21:41:21.37 ID:8FCiWYYw0
――2025 8/21 11:32――
(紅莉栖:タイムリープ12回目)
(岡部:タイムリープ7回目)

~自宅兼共同ラボ~

紅莉栖「は~…月面旅行、楽しかったわね、岡部!」ドサッ

岡部「……」

紅莉栖「もう私、ずっと興奮しっぱなしだったわ! 相対性理論を肌で感じた、っていうのかしら…とにかく、凄かった!」

岡部「……」

紅莉栖「でも、いくら宇宙渡航の技術が進んだからといって、やっぱり高かったわね。ギリギリまで貯金しておいて良かったわ」

岡部「……」

紅莉栖「さて…名残惜しいけど、あまり時間がないわね。岡部、急いでタイムリープの準備を――」

岡部「…紅莉栖」



岡部「もう、止めにしないか?」

139: 2011/09/23(金) 21:44:31.70 ID:8FCiWYYw0
紅莉栖「ッ―――」

岡部「…お前のやっていることは、ただの現実逃避だ。そんなこと何の解決にもならないことくらい、分かっていないとは言わせないぞ」

紅莉栖「…このままで、いいじゃない」

岡部「何を言ってるんだ!? 永遠と同じ時間をループしているんだぞ!? それがどういうことか、分かってるのか!?」

紅莉栖「それでいいじゃない! この時間帯では、私も岡部も老いることもなく、皆だって無事なのよ!? 何が不満なのよ!」

岡部「お前だって気づいてるはずだ! 肉体は歳をとらなくても、脳はそうはいかない。このままいけば俺より早く、お前の精神が崩壊してしまう!」

紅莉栖「構わない!」

岡部「なっ…」

紅莉栖「このまま岡部を失うくらいなら! 私はこの永遠の時間の中を生き続ける! そこで氏――」


パァン!


紅莉栖「……ッ」ヒリヒリ

岡部「はぁ…はぁ…」

143: 2011/09/23(金) 21:48:25.11 ID:8FCiWYYw0
紅莉栖「何で、よ…」

岡部「……」

紅莉栖「岡部は、私を助けるためにここまで来たんでしょ…? 私がいるの、嫌なの…?」

岡部「そんなことはない。お前は俺の一番大切な人だ。これまでもそうだったし、これからだって一生そうだ」

紅莉栖「なら何でよ! 私が生きていれば、それでいいじゃない! 私だけが、岡部の傍に居ればいいじゃない!」

岡部「…紅莉栖」

岡部「ある世界線で俺とお前が授かり、そして置いていった子供のことを覚えているか?」

紅莉栖「ッ…」

149: 2011/09/23(金) 21:52:03.43 ID:8FCiWYYw0
岡部「…俺に似てやんちゃだったが、同時にお前に似て利発的な子だった。…本当にいい子だったな。
    将来がとても楽しみで仕方なかった。お前だってそうだっただろう?」

岡部「それなのに…あの子の未来を俺たちは勝手な都合で、潰してしまったんだぞ?」

紅莉栖「……」

岡部「あの子だけじゃない。まゆりも、ダルも、ラボメンの皆も、この世界の全ての人たちが、終わらないループに囚われてるんだ」

岡部「そんな世界が、幸せなはずないだろ…」

岡部「俺は、皆と一緒の未来に進みたい。その世界で、俺の一番傍に、お前が居る」

岡部「そんな未来じゃなきゃ、駄目なんだよ、紅莉栖」

紅莉栖「…じゃあ、どうしろって言うのよ」

紅莉栖「いくつも手は尽くしたし、試せるだけは試した。でも無駄だったじゃない」

紅莉栖「希望を言うのは勝手だけど、実現させるならそれに見合う根拠が居るのよ」

紅莉栖「何も分からない、変わらないこの状況で、今以上に何が出来るって言うのよ…」

152: 2011/09/23(金) 21:56:34.72 ID:8FCiWYYw0
岡部「…なぁ紅莉栖。1つ、考えたんだが」

岡部「R・Sは、俺の脳から起因するものなんだよな?」

岡部「ならいっそのこと…外科手術で俺の脳の一部を破壊してしまえば――」

紅莉栖「!! 駄目よ! そんなの絶対に駄目!」

岡部「も、もちろん障害が残らない程度に傷つけるだけだ! 今の技術なら、そう難しくはないだろう!?」

紅莉栖「分かってない! 岡部は何も分かってない!」

紅莉栖「岡部のR・Sは、不確定要素が多すぎるの! それが脳の活動にどんな影響を与えているかも、定かじゃない!」

紅莉栖「機能が停止してしまった場合、最悪岡部が氏んじゃう可能性もあるのよ!?」

岡部「しかし…こうなってしまえば、一か八かでも可能性にかけるしか…」

紅莉栖「イヤ! 一か八かで岡部が氏ぬ可能性があることをするなんて、そんなの絶対にイヤ!」

紅莉栖「岡部お願い…これ以上、私の前から消えないで…」

155: 2011/09/23(金) 22:00:15.23 ID:8FCiWYYw0
岡部「なら、いったいどうすれば…」

岡部「…とにかく、もう一度だけ戻ろう。そして、そこで――」


ドクン…


岡部「ぐ…あぁ…」

紅莉栖「え…そんな、嘘…」

岡部「ぐぅぅ…あ、頭が…」

紅莉栖「待って岡部! お願い、消えないで!」

岡部「う…あああああああああああああああああああああ!!」

紅莉栖「岡部! 岡部ぇ! いやああああああああああああああああああああ!!」

163: 2011/09/23(金) 22:03:12.50 ID:8FCiWYYw0
β岡部「う…こ、ここは…?」

紅莉栖「あ……あぁ…」

β岡部「くり、す…紅莉栖なのか!?」

紅莉栖「……」

β岡部「あぁ、良かった…どうやら『こっち』の俺は、成功したみたいだな…」

紅莉栖「……」

β岡部「シュタインズ・ゲートに到達できたのか。でも紅莉栖…お前が生きていてくれて、良かった…」

紅莉栖「……」

β岡部「…ど、どうした紅莉栖? どこか、具合でも悪いのか?」

紅莉栖「……でよ」

β岡部「え…」

166: 2011/09/23(金) 22:08:01.15 ID:8FCiWYYw0
紅莉栖「何でよ。何でアンタが。何で岡部じゃなくて、アンタが出てくるのよ…」

β岡部「く、紅莉栖?」

紅莉栖「うるさい! その名前で呼ぶな! アンタなんか岡部じゃない!」グッ

β岡部「うッ…」ドサッ

紅莉栖「アンタさえ…アンタさえ出てこなければ!」

紅莉栖「アンタが私の何を知ってるの!? 初めての私の誕生日にくれたものは? 子供の名前は? 何も知らない癖に!」

紅莉栖「好きな人が出来たのに…助けてもらって、また会えて…運命の人だって、思えたのに…」

紅莉栖「なのに、その人と過ごせる時間が、たかだか10数年だけだなんて…こんなの、あんまりよ…」

β岡部「……」

紅莉栖「返して! 私の岡部を! 私の、最愛の人を返してよ!」

紅莉栖「返してぇ……えっぐ…返せぇ……」ポロポロ

β岡部「……」
―――――――――――――――――――
――――――――
――――

176: 2011/09/23(金) 22:11:37.92 ID:8FCiWYYw0
――1時間後――

β岡部「…落ち着いたか?」

紅莉栖「…えぇ。取り乱して悪かったわ」

β岡部「そうか…。くり――お前にも、悪いことをしたな」

紅莉栖「紅莉栖でいいわよ。私も岡部って呼ぶから。…悪かったわ。ごめん」

β岡部「…すまない。俺の恐れていたことが、やはり起きてしまったんだな」

β岡部「ずっと分かってた筈だったんだ。世界線移動後の、R・Sの弊害というものに。なのに、こんなことになってしまって本当にすまない」

β岡部「…呪われてる、か。案外この世界線の俺も、的を射た事を言うな…」

紅莉栖「…ねぇ岡部」



紅莉栖「…助けて」

179: 2011/09/23(金) 22:15:15.04 ID:8FCiWYYw0
β岡部「……」

紅莉栖「散々酷いことを言ったのに、虫がいいのはわかってる。でも、どうしようもないのよ」

紅莉栖「何を試しても、無駄だった…。どんなに理論を重ねても、結局は収束するようにR・Sは発生してしまう…」

紅莉栖「何度も『岡部』が消えていくところを見て…逃げても逃げても、結局は駄目で…」

紅莉栖「私には、もう出来ることはなくて…何も考えられないの」

紅莉栖「『岡部』が消えちゃうたびに、胸がつぶれそうになって…それを思い出すたびに…」

紅莉栖「おかしくなりそうなの…」

β岡部「……」

182: 2011/09/23(金) 22:19:26.83 ID:8FCiWYYw0
紅莉栖「…やっぱり、酷いこと言ってるね、私。結局、あなたが邪魔だって言ってるようなもんじゃない」

紅莉栖「ごめん、忘れて。私は戻る。また一から考え直すわ」

β岡部「紅莉栖。タイムリープしようとしているな?」

紅莉栖「…当然じゃない。他に何しろって言うの?」

β岡部「これを俺が言うのは奇妙なことだが…タイムリープをすることは、『逃げ』だぞ」

紅莉栖「放っておいてよ。これは、私たちの問題なんだから」

β岡部「待ってくれ紅莉栖。話を聞いてくれ」



β岡部「俺はお前を、お前たちを助けられる」



紅莉栖「…え?」

β岡部「俺は、そのためにここに来た」

191: 2011/09/23(金) 22:23:05.03 ID:8FCiWYYw0
紅莉栖「どういう、こと?」

β岡部「もし、俺がβ世界線からDメールを送り、そしてシュタインズ・ゲートに移った場合を想定したんだ」

β岡部「やはりこうなってしまったが、だがこれはあくまで想定の範囲内のできごとだ」

β岡部「そんなことに対策を打ち出さない、俺だと思うか?」

紅莉栖「……」

β岡部「シュタインズ・ゲートに到達するのはこの『俺』ではなく、命がけでお前を救った『俺』であるべきだ」

β岡部「だから、こっちの『俺』を救う方法も、ちゃんとある」

紅莉栖「岡部…あなた、一体…?」

β岡部「安心してくれ、紅莉栖」





β岡部「俺は、この世界線の『俺』を消さない」

195: 2011/09/23(金) 22:26:19.91 ID:8FCiWYYw0
いったん休憩。飲み物やら何やらが切れたんで買ってきます。今は全体の3/2ぐらい。

あと、こっから先は超>>1個人的な原作の解釈を踏まえています。(具体的に、R・Sの正体とか)
場合によっては世界観がかなり壊される場合もあります。
あと、やはりナンチャッテ科学です。突っ込みどころ満載です…。

それでもよければ、もう少しお付き合いください

217: 2011/09/23(金) 22:42:07.22 ID:8FCiWYYw0
――2025 8/22 11:14――
β岡部のリーディング・シュタイナーが発動してから翌日

~共同ラボ~

紅莉栖「足りなかった部品、買ってきたわ」ドサッ

β岡部「あぁ。そこに置いといてくれ」カチャカチャ

紅莉栖「……」

β岡部「しかし、流石はこの時代にこのラボだな。必要な部品や設備はほとんど揃っている。これなら、2,3日中には完成しそうだ」

紅莉栖「…ねぇ、岡部」

β岡部「なんだ、紅莉栖」

紅莉栖「…本当に、出来るの?」

β岡部「ああ、大丈夫だ。理論上は、何の問題もない」

紅莉栖「…私は今まで、積み上げた理論の上での行動をしてきたわけだが?」

β岡部「ああ、そうか…すまない。では、それを説明するにはいくつか確認することがある」

223: 2011/09/23(金) 22:45:43.62 ID:8FCiWYYw0
β岡部「俺のR・Sについては、どこまで知っている?」

紅莉栖「どこまで、ってほどでもないわよ。ただ、岡部の脳は常人よりも肥大していることと、R・Sは脳に関する能力ってところだけ」

β岡部「なんだ。もうほとんど、分かりかけているではないか」

紅莉栖「分かっていたら、こんな苦労なんかしないわよ! 私たちが、一体今まで…どれだけ…」

β岡部「…すまない」

紅莉栖「…ごめん。ここで口論しててもしょうがないわね。
    ねぇ岡部。教えて。あなたのR・Sは、一体何なのか」

β岡部「…さっきも言ったが、お前たちは真相にほぼ近づいている。ただ、1つ見方が足りないだけだ」

紅莉栖「…? 言っている意味がよく分からないわ」

β岡部「それを今から説明する」

231: 2011/09/23(金) 22:48:43.87 ID:8FCiWYYw0
β岡部「紅莉栖。脳の記憶分野――特に、記憶の蓄積と忘却については、何を知っている?」

紅莉栖「…脳科学専攻を馬鹿にしてるの?」

紅莉栖「人間が情報を記憶するには、3つの行程が必要よ。まず、情報の取得による『記銘』、それの『保持』、そしてそれを思い出す『想起』」

紅莉栖「記憶の形式には、基本的に3つの段階がある。『ワーキングメモリ』『短期記憶』そして『長期記憶』」

紅莉栖「『ワーキングメモリ』は、ごく短時間の間に働く記憶のことよ。口頭で電話番号を教えてもらったときなどに働くものね。
    時間系列で言えば一番新しい情報なわけだから、詳しい内容まで覚えているけど、大抵はすぐに忘れてしまう」

紅莉栖「この記憶を少し固定化させたが『短期記憶』。買い物のリストや、電話番号を繰り返し頭の中で唱えようとするのが、
    大体これね。少しの間は覚えているけど、用を果たさなくなったときはやはり忘れてしまうわね」

紅莉栖「そしてそれらを物理的、心理的な要因から、海馬が記憶をさらに固定化させるために情報を再組織化させようとする。
    こうして出来るのが、『長期記憶』。こうすることで、記憶をいつでも意識的に想起させることが可能になる」

紅莉栖「また、記憶の処理方法は大別すると――」

β岡部「いや、もう充分だ。流石だな…」

紅莉栖「何よ、自分から振っておいて…」

234: 2011/09/23(金) 22:53:05.60 ID:8FCiWYYw0
紅莉栖「…まぁいいわ。次は忘却についてね」

紅莉栖「結論から言うと、脳が記憶を完全に忘却することはあり得ない。事故で脳に損傷でも負わない限りは」

紅莉栖「脳は、記憶というオブジェクトを無限に収容できる箪笥みたいなものよ。忘れているように思えても、
     記憶はちゃんと保存されてる。まぁ、長期的になるほど、記憶は曖昧になっていくけどね」

紅莉栖「そうした記憶は、ふとしたきっかけで突然思い出されることが多い。これは、数々の症例も報告されているわ」

紅莉栖「こうした、いわゆる眠っている状態の記憶を呼び起こすのは、『再生』や『再構成』などと呼ばれているわね」

紅莉栖「既視感やデジャヴといったものがあるけど、それは単に小説やテレビなどで先天的に情報を得たものから、
     あたかも自分が実際に体験したことと錯覚してしまうことから起こる、と一般的に言われている」

β岡部「その通りだ。流石は専門だな」

紅莉栖「これくらいは常識の範疇よ。で、何が言いたいの?」

β岡部「ここからの話は、俺の仮説を交えることになるが…」

241: 2011/09/23(金) 22:57:27.51 ID:8FCiWYYw0
β岡部「人は今もこうしている間にも、見聞きしたことを記憶し、蓄積している生き物だ」

紅莉栖「すべて、というわけではないわ。岡部だって知ってるでしょ? 脳の記憶はすべてをデータ化しても3,24TBくらいにしかならないのよ」

β岡部「容量の話ではない。過程の話だ」

紅莉栖「…まぁ、確かにワーキングメモリに関して言えば、そう言っていいのかもしれないけど…」

β岡部「すごいと思わないか? コンピュータがどんなに高性能でも、人の脳に及ばないのはそうした処理能力の差があるからだ」

β岡部「断続的に五感で感じた情報すべてを、一瞬とはいえ有象無象の区別なく、吸収してしまう。
     今こうして話している、この刹那の間ですら、だ」

β岡部「それだけの膨大な情報量が、こんなコンパクトな頭の中に圧縮されているんだ」

β岡部「これって、何かに似ていると思わないか?」

紅莉栖「……」




紅莉栖「…まさか、ブラックホール?」

247: 2011/09/23(金) 23:00:52.29 ID:8FCiWYYw0
β岡部「そうだ。自分の周りの情報を、手当たりしだい吸収してしまう脳の特性は、ブラックホールと似ていると考えられないか?」

紅莉栖「記憶の保存過程がブラックホールと同じだなんて、確かに興味深い仮説ね。でも、それが一体何と関係が――」

紅莉栖「――!!??」

β岡部「…気づいたようだな。相変わらず、お前は勘が鋭い」

紅莉栖「え…嘘…そんなわけ…あるわけ、ない…」

β岡部「確かに、これは仮説だ。証明のしようもない、馬鹿げた妄想かもしれない」

紅莉栖「そ、そうよ…だって、それが本当だったら、ファンタジーやメルヘンってレベルじゃないわ。誇大妄想もいいとこよ」

β岡部「だが、事実としか思えない。そうすれば、すべての現象に納得がいくんだ」

紅莉栖「…! そ、そんなの! ただの仮説よ! 理論にすらなってない、机上の空論よ!」

β岡部「そうだ、『仮説』だ。だが、『結果』だけは残ってる。足りないのは、『証明』だけだ」

253: 2011/09/23(金) 23:04:06.19 ID:8FCiWYYw0
β岡部「人の記憶の保存過程、言ってしまえば脳が、ブラックホールと同じ構造を持っていると仮定する」

β岡部「当然、人によって脳の神経細胞やニューロンの構造が違う。人によって、千差万別だ」

β岡部「だがもしその中に、脳の構造が、カー・ブラックホールと同じ構造を持っている者がいたとしたら?」

紅莉栖「岡部…」

β岡部「もし、俺の脳が。カー・ブラックホールとリング特異点に、非常に近い構造を持っているとしたら?」

紅莉栖「岡部…あなたは…あなたの、脳は―――」

β岡部「そうだ、紅莉栖」













β岡部「俺の脳は、擬似的なタイムマシンなんだよ」

267: 2011/09/23(金) 23:08:05.41 ID:8FCiWYYw0
紅莉栖「ッ……ッ…!!」

β岡部「…信じられない、と言いたげな表情だな」

紅莉栖「し、信じられるわけないでしょ! こんなトンデモ空想科学なんて!」

β岡部「すまない。こればかりは証明のしようがないんだ。現代の脳科学でも解明することは無理だろう」

β岡部「だが、やはりそうとしか思えないんだ。今にして思えば、鈴羽と一緒にタイムマシンに乗ったとき、
    程度の差はあれどR・Sと同じ感覚がした。つまりは、そういうことなのだろう」

紅莉栖「……百歩、いや一万歩譲って、脳がブラックホールと同じ特性を持っていたとする。
    でも、それだけだとタイムマシンなんてできっこない! あんたが一番分かっているじゃない!」

β岡部「座標軸の指定とリフター、か?」

紅莉栖「そ、そうよ。別の世界線で、岡部がその問題に非常に苦労したって聞いたわ」

β岡部「それについても、説明はできる。…ただ、やはり仮説になってしまうがな」

279: 2011/09/23(金) 23:12:25.98 ID:8FCiWYYw0
β岡部「俺の記憶が、俺の脳の中のリング特異点を通過するとき。俺の脳が、その記憶を受信するとは限らない。そうだな?」

紅莉栖「そ、そうよ。座標軸の指定を完璧に行わなければ、完璧なタイムマシンとはいえないわ」

β岡部「座標軸の指定は、する必要はない。自分の脳が記憶の情報を発信した場合、おそらく同時に受信も行っているからだ」

紅莉栖「そんなことが…」

β岡部「別に不思議ではないぞ? ケータイのGPS機能を想像すると分かりやすい。
    あれは自分の位置を衛星に発信し、そして自分の位置情報を自分自身で受信するからな」

β岡部「そして、座標軸がずれることはありあえない。何故なら、自分の脳で発信した情報は、自分の脳でしか受信されないからだ」

β岡部「現に、お前やフェイリス、ルカ子がR・Sを発動したとき、
   『自分に関する記憶』しか受け継がれなかったのが証拠だ。フェイリスに至っては、俺が知りえないDメールの文章を思い出したからな」

紅莉栖「…それも仮説なのよね?」

β岡部「仮説だ」

紅莉栖「…いいわ、続けて」

286: 2011/09/23(金) 23:16:01.93 ID:8FCiWYYw0
β岡部「リフターについてはもっと簡単だ。神経細胞の活動原理など、お前にとっては常識だろう?」

紅莉栖「…確かにニューロンは活動電位と静止電位から起こる、微弱な電位によって細胞に情報を伝達するわ。でも、だからこそあり得ない」

紅莉栖「ニューロン単体に流れる電流は、多くとも90mV。脳中の電力を1日かけて集めたって、20Wにもならない」

紅莉栖「タイムトラベル実験にはブラックホールに電荷を加えて、カー・ブラックホールとリング特異点を生成する必要があるけど、
     これだけの電力でそんな芸当が出来るはずがない」

β岡部「R・Sは、時間遡行をするわけじゃない。あくまで、ある『現在』から別の『現在』に移るだけだ」

β岡部「ここでは世界線の移動は、一種のタイムトラベルだと思ってくれ。おそらく『現在』を移動するだけなら、
    そこまで過度なエネルギーは必要としないんだろう。当然だ。時間の流れ自体はまったく変わらないのだからな」

β岡部「だから微弱な電力でも、それを行うには充分なリング特異点が形成されるんだ。
     言ってしまえば俺の脳の構造は、酷似しているがカー・ブラックホールのまがい物のようなものだ」

295: 2011/09/23(金) 23:20:57.90 ID:8FCiWYYw0
紅莉栖「待って。一つ矛盾があるわ。世界線が移動したときに、岡部の記憶が受け継がれるのがリング特異点による
    タイムトラベル(に似たもの)によるものだとしたら、他の人はどうなるの?」

紅莉栖「完全なカー・ブラックホール構造を持たないなら、記憶は特異点を通過するときに押しつぶされて、メチャクチャになるはずよ。
    すると世界線の移動後は、岡部以外の人はただの廃人にでもなってないと、おかしいじゃない?」

β岡部「あぁ、そうなってるだろうな」

紅莉栖「!?」

β岡部「でも、だからこそなんだ。前の世界線の記憶は、お前の言う通りフラクタル構造を起こしている。
    だからほとんどの人間は記憶を破壊され、前の世界線の記憶を保持できないんだ」

紅莉栖「あ…」

β岡部「そして世界線移動後は、その前の体験や記憶から、脳が再構成される。お前の言っていた『再生』というやつか?」

β岡部「俺の脳が再構成を起こさないのは、擬似的なタイムトラベルによって完全な状態で記憶を保持してるからだ。
    それなら、再構成する意味などないからな」

紅莉栖「……」

298: 2011/09/23(金) 23:24:29.22 ID:8FCiWYYw0
β岡部「これが、R・Sの正体だ」

紅莉栖「……」

β岡部「これで、納得してもらったか?」

紅莉栖「…納得できるわけないでしょ。こんな穴ボコだらけで仮説ばっかの理論なんて」

β岡部「そうか…」

紅莉栖「でも…」

紅莉栖「それでも、信じるわ。それくらいのことは出来る」

β岡部「…そうでなくては困るな。何故なら、これは俺が前の世界線で人体実験までしてたどり着いた、結論なのだから」

紅莉栖「!? 人体、実験…?」

304: 2011/09/23(金) 23:27:24.85 ID:8FCiWYYw0
β岡部「前の世界線では、日本では第三次世界大戦の真っ最中で、治安は最悪だったからな。多少の無茶は、イヤでもしたさ」

β岡部「人体実験だけじゃない。タイムマシンを開発するために、国際機密機構にハッキングしたり、強盗まがいのこともした。
    研究のために人だって頃したし、武装テロだって起こしたこともあった」

β岡部「おおよその悪事は、すべてやった。お前を救うためだったら、何だって出来た」

紅莉栖「……」

β岡部「…すまない。悪事の理由をお前にするのは間違っているな。俺は、唾棄されるべき人間だ」

β岡部「正直言って、こうしてお前と話す資格さえない人間だと、はっきり自覚している」

β岡部「だからお前は俺を嫌ってくれて一向に構わない。それが、普通の反応だからな」

紅莉栖「……」

ギュッ

309: 2011/09/23(金) 23:30:14.92 ID:8FCiWYYw0
β岡部「ッッ!?」

紅莉栖「こ、こっち向かないでよ、バカ」

β岡部「う、浮気になるんじゃないのか?」

紅莉栖「バカね。どっちも岡部じゃない。…まぁ、あんたがこれ以上何かしようとしたら、電極ぶっ刺すけどね」

β岡部「ははは。そういうものか」

紅莉栖「…嫌いになれるわけ、ないじゃない」

β岡部「え…?」

紅莉栖「貴方のしてきたことは、おおよそ人道に反するものだけど…でも、私を助けるためにしてきたことでしょ?」

紅莉栖「そんな理由で辛い目にあってきた人のこと、嫌いになれるわけないじゃない…」

β岡部「ッ……ッッ」


ツーッ…

315: 2011/09/23(金) 23:33:17.37 ID:8FCiWYYw0
紅莉栖「ちょ、岡部!? 泣いてるの!?」

β岡部「あ、あぁ…すまんな」

紅莉栖「そ、そんな泣くことないじゃない! 別に貴方のこと嫌ってるわけないじゃ、ないのよ?」

β岡部「違う…。違うんだ、紅莉栖…」

紅莉栖「え…?」

――紅莉栖の体温が、背中越しに伝わってくる

――ああ…一体何年ぶりだろう

――紅莉栖の感触が

――紅莉栖の匂いが

――紅莉栖の温もりが、ここにちゃんとある

――あぁ…

――牧瀬紅莉栖は、ここにいる





――生きている

319: 2011/09/23(金) 23:37:36.45 ID:8FCiWYYw0

――2日後――

β岡部「よし、完成だ」カタカタ ターン

紅莉栖「これは以前、聞かせてもらったことある…。確か、ダイバージェンス・メーター?」

β岡部「少し違うな。これは、タイムリープマシンで使ったヘッドギアが付いているだろ?
    こいつは俺が開発した、新たな未来ガジェット。ダイバーメンス・ジャンパーだ」

β岡部「このニキシー管に表示されたメーターに数字を打ち込み、作動させると…俺の意識をその数値に合わせた世界線に飛ばすことの出来る装置だ」

紅莉栖「! それって…」

β岡部「大丈夫だ。Dメールと違い、過去改変を行うわけではない。この世界線は変動することはないだろう。あくまで俺の意識だけを他に点在する、別の世界線に移動するだけだ」

紅莉栖「…他に点在する、世界線?」

β岡部「ああ、そうだ。パラレル・ワールドと言えばいいか? この装置で――」


紅莉栖「嘘、でしょ?」


β岡部「……」

328: 2011/09/23(金) 23:41:25.22 ID:8FCiWYYw0
紅莉栖「岡部から聞いたわ。あったかもしれない可能性は可能性世界線として存在してるけど、世界は常に1つだって」

紅莉栖「あなたの言ってるパラレル・ワールドは、存在しない。これは、別の世界線の岡部が発見したことだから、間違いないって」

紅莉栖「ありもしない世界線に、意識を飛ばしてしまったらあなたは――」

β岡部「消えてしまう、だろうな」

紅莉栖「ッ…!」

β岡部「でもな紅莉栖。俺は、ただ消える気はない」

紅莉栖「え…?」

β岡部「覚えていないか? 別の世界線で、お前が俺に話してくれたことだ」

338: 2011/09/23(金) 23:46:15.27 ID:8FCiWYYw0
β岡部「俺がこのまま別の世界線に意識を飛ばそうとしたとき、俺自身の存在は消えてしまうかもしれない。
    でも、本当は無数の世界線というものがあって、俺はそこで生き続けるのかもしれない」

β岡部「ひょっとしたらまったく新しい世界線、シュタインズ・ゲートとも違う、世界線にいけるのかもしれない」

β岡部「どうなってしまうかは知りようもないが、もし消えてしまったとしても、お前は俺を覚えていてくれるだろ?」

紅莉栖「……」

β岡部「無数の世界線上に俺がいて、その意思が繋がって、今の俺があるとしたら…それはとても、素敵なことだと思う」

β岡部「紅莉栖を助けたいという意思が、伝えたい気持ちが集まって、そして今のお前と俺がいる。それは、とても素晴らしいことじゃないか?」

β岡部「だからお願いだから…そんな悲しい顔を見せないでくれ」

紅莉栖「……」

β岡部「それにな、紅莉栖。俺は、お前を助けられなかった。その事実を、なかったことにしてはいけない」

β岡部「最初に言ったが、この世界線にいるべきは、この『俺』じゃない。
    お前を幸せに出来る『俺』は、この世界線の元々の『俺』だけだ」

紅莉栖「……」

345: 2011/09/23(金) 23:49:38.27 ID:8FCiWYYw0
岡部「そうだ。出立の前に渡すものがある。これを受け取ってくれ」サッ

紅莉栖「これは…BB弾みたいに見えるけど…錠剤?」

β岡部「ああ。この時代でも遺伝子工学が進んでいたのは幸いだった。国際医療機関のデータベースにハッキングし、
    PDDSを基に開発した代物だ。名前は、そうだな…アンチR・S薬とでも言うところか」

β岡部「こいつの中には数百のナノマシンが搭載されている、服用すればナノマシンが脳内に到達し…脳の一部を破壊する」

紅莉栖「!! それって…」

β岡部「心配するな。破壊といっても、神経細胞を微小に変形させたり、酵素の働きを一時的に促進させたり抑制するだけだ。
    間違っても障害や病気にはならないから安心しろ。もう実験は済ませてある」

β岡部「…もっとも、被験者は俺だけだが」

※PDDS…ピンポイント・ドラッグ・デリバリー・システムの略称。バイオナノを駆使した医療技術の一つ。
       ナノサイズの分子機械を体内に注入することで、超局所的に患部を治療することが出来る。
       現代ではまだ確立されてない技術。

356: 2011/09/23(金) 23:53:19.67 ID:8FCiWYYw0
紅莉栖「え? どういうこと?」

β岡部「俺はこの事態を想定して、前の世界線であらかじめこの薬を服用した…。だが、やはり半分は失敗したようだ」

紅莉栖「半分?」

β岡部「R・Sはその性質上、2つの特性を持っている。『発信』と『受信』だ」

β岡部「『発信』は、俺の記憶を飛ばす能力のことだ。主にDメールなどによる過去改変がスイッチとなって発動する。
    『受信』は、移動後の世界線上の俺が、『発信』された俺の記憶を受ける能力のことだ。
     このとき、もとあった記憶は上書きされてしまうがな」

β岡部「どうも、この『発信』を司る部分は脳の前頭葉に集中しているらしくてな。こればかりは手の付けようがなかった」

β岡部「だが、『受信』の特性自体は問題なく破壊されるはずだ。これを投与すれば、カー・ブラックホールの構造を壊すことが出来る。
    つまり、この世界線の俺にはR・Sが発動することは、今後一切ないだろう」


β岡部「金輪際、Dメールやタイムトラベルを起こさない限り、岡部倫太郎はただの一般人に戻ることができる」


※前頭葉…脳全体をオーケストラに喩えると、指揮者の役割を果たしている部位。
        ここに障害が残ると頭がマジやばい。

364: 2011/09/23(金) 23:57:28.31 ID:8FCiWYYw0
β岡部「…以上だ。俺は、もう行く」スチャ

紅莉栖「ねぇ、岡部。本当にこれしか手段はないの?」

β岡部「……」

紅莉栖「あなたは今まで頑張ってきたのに、全部無駄になっちゃうかもしれないんだよ?」

紅莉栖「こんな結末…悲しすぎるよ」

β岡部「言ったろ。俺は、元の世界線に戻るべきなんだ。たとえ、もう残っていなくともな」

β岡部「恐怖がないといえば嘘になるが…でもそれ以上に、満足感がある。後悔が微塵もないんだ」

紅莉栖「…え?」

371: 2011/09/24(土) 00:01:23.46 ID:wNGBaL6Q0
β岡部「俺が14年の歳月を経て研究したものは、すべて紅莉栖を助けるためのものだった。そのために、出来ることは全てやってきた」

β岡部「その結果として、紅莉栖は生きて、ここにいてくれてる。俺のしたことは、無駄じゃなかったんだ」

β岡部「紅莉栖が、生きていてくれてる。これ以上に喜ばしいことなど、あるわけがない」

β岡部「だから本当に、もういいんだ。俺はもう、充分に救われたから…」

紅莉栖「岡部……」


紅莉栖「私、あなたのこと忘れない。私と岡部を助けるために、頑張ってくれたあなたのことは…」

紅莉栖「絶対に…忘れない」

紅莉栖「…ありがとう」

β岡部「…その言葉が聞きたかった」





β岡部「幸せになれよ、紅莉栖」



カチッ

379: 2011/09/24(土) 00:03:59.12 ID:wNGBaL6Q0
ダイバーメンス・ジャンパーのスイッチを押した。放電現象が始まる。

部屋全体がまばゆい光に包まれ、その途端に世界が歪みだした。

俺を中心に、すべてのものが歪んでいく。まるで俺だけを残して、世界の輪郭が溶けてしまうように。

消える前に、最愛の人をもう一度見た。


その人は、大粒の涙をポロポロと流しながら、俺を見送ってくれていた。

――そんな顔をしないでくれ

あの時の俺と、同じ気持ちでいてくれるのだろうか。

ありがとう、こんな俺のために泣いてくれて。


――ただいま、愛しい人

――さようなら、愛しい人

――そしてありがとう、愛しい人

385: 2011/09/24(土) 00:05:09.72 ID:wNGBaL6Q0







――     生きていてくれて、ありがとう       ――










――      世界が消えても、愛している        ――






397: 2011/09/24(土) 00:08:57.97 ID:wNGBaL6Q0
??「う、うぅ…」

紅莉栖「あ……」

??「うっ…こ、ここは?」

紅莉栖「あ……あぁ…」

??「紅莉栖、か…? どうしたんだ? 俺は確か、あの時――」

紅莉栖「岡部…? 岡部、なの?」

??「な、何を言ってるんだお前は…」

紅莉栖「ねぇ、答えてくれる? 私と初めて過ごした誕生日のとき、買ってくれたものは?」

??「そ、そんなもの…」




岡部「マイフォーク、だろ…。どうしたんだ、いきなり」

紅莉栖「あぁ…良かった! 岡部ぇ!」ガバッ

404: 2011/09/24(土) 00:11:57.40 ID:wNGBaL6Q0
岡部「ななな!? ど、どうした紅莉栖!? って、お前…泣いてるのか?」

紅莉栖「岡部…ごめん…私、あなたを信じていなかった…」ポロポロ

岡部「え…?」

紅莉栖「私の大好きな岡部も、ずっと頑張ってくれた岡部も、どっちも岡部なのに…私、信じてあげられなかった…」

紅莉栖「私を助けるためだけに、ずっと支えてくれたのに、頑張ってくれたのに…」

紅莉栖「ごめんなさい…ごめんね、岡部ぇ…ひっぐ」

岡部「くり、す…」

ギュッ…

岡部「…大丈夫だ」

紅莉栖「うぁぁぁぁぁ…おかべ……おかべぇ……」

岡部「もう、いいんだ…」


岡部「もう、終わったんだ…」

416: 2011/09/24(土) 00:15:47.55 ID:wNGBaL6Q0
その後、俺は紅莉栖から事のあらましを聞いた。

別の世界線の俺がしてくれたこと、残してくれた薬のこと。

そしてその『俺』が、俺たちのために消えてしまったこと…。

薬を渡されたとき一瞬だけ躊躇したが、すぐさま『俺』の意思を継ぎ、飲みこんだ。

薬は飲んですぐ異物感を感じる程度で、問題なく俺の体内に溶けていった。

その後は紅莉栖の進言もあり、念のためもう一度精密検査を受けることになった。

相変わらずの大掛かりな機器には慣れなかったが、俺の脳に異常は何処にも現れなかった。

1ヶ月の検査が終了し、タイムマシン関係の論文や装置は跡形もなく処分された。







こうして俺、岡部倫太郎は――何の能力も持たない、ただの人間になった。

422: 2011/09/24(土) 00:18:39.27 ID:wNGBaL6Q0
~とある屋上~


紅莉栖に了承を貰い、一人にさせてもらった。

空を仰ぐと、俺の複雑な心境とは裏腹に雲ひとつもないほどの蒼さが広がっている。


俺は、どうしてこの場所に立っているのだろう?

鈴羽との思い出を捨て、フェイリスを傷つけ、ルカ子の想いを裏切り、

最愛の人を二度も頃し、そして今度は俺自身をも頃した。

なのに俺は、生きている。それは本当に、世界が望んだ選択だったからだろうか?


そうとは思いたくなかった。

ここに立っているのは俺自身であり、俺自身の選択した答えであるはずだ。

だから、俺はこれまでのことに、けじめをつけなかればならない。

そんな気がしたのだ。


スッ…

岡部「…俺だ」

427: 2011/09/24(土) 00:22:51.86 ID:wNGBaL6Q0
俺は久しぶりに――本当に久しぶりに、電源の入ってない携帯電話を耳に押し当てた。


岡部「…すべての戦いは、終結した…。長かったが、ようやく…俺たちは、勝ったんだ」

岡部「…思えば、お前にはいつも助けられた気がするな。まゆりを救うと決めたあの日から、
いつだってお前は俺を助けてくれた」

岡部「お前がいなかったら、この戦いに勝利はもたらされなかっただろう…。心より、感謝する」


自然と、手に汗が染みる。声も震えているのが、よくわかる。

それでも、俺は構わず続けた。

                  オペレーション・ユグドラシル
岡部「…これより、最終無期限作戦”世界樹の選択”作戦を開始する」

岡部「作戦内容は、ただ1つ…。牧瀬紅莉栖と共に生き、彼女を幸せにすること」

岡部「なお、この作戦は俺が単独で行うものとする。助けは無用だ」

岡部「そして俺はこの作戦の遂行を開始すると同時に…お前たちの組織を、抜ける」

436: 2011/09/24(土) 00:25:58.02 ID:wNGBaL6Q0
岡部「お前のことは…決して忘れない…」

岡部「誰よりも俺の傍で支え続け、そして、導いてくれたお前のことは…」

岡部「絶対に……忘れない…!」


自然と、涙が溢れてきた。

嗚咽をかみ殺そうとして、歯の音がカチカチと響いた。

それでも、俺は続けなければならない。


岡部「この俺は…あらゆる陰謀にも困難にも屈せず…この世界にたどり着けたのだ…。お前の望んだ、世界だ…」

岡部「これまでの戦いで、俺を支えてくれた全ての仲間たちに、感謝を…!」

岡部「世界は…再構成、された!」

岡部「すべては…」


          シュタインズゲート
岡部「すべては、運命石の扉の選択である!」

443: 2011/09/24(土) 00:28:13.32 ID:wNGBaL6Q0
岡部「エル…プサイッ……コン、グルゥ…!!」


カチッ…


涙で濡れた顔と携帯電話を、乱暴に白衣でぬぐい、俺はもう一度空を仰いだ。

相変わらずの霹靂――でも、その先を見通すことは出来ない。

あの日の『俺』は、本当に消えてしまったのだろうか。

でももしかしたら本当に、彼の世界線に戻ることが出来たのかもしれない。

氏ぬ間際に、ダルや鈴羽に紅莉栖が生きていたことを楽しそうに話す俺の姿を想像した。

そう、願わずにいられなかった。だって――


リーディング・シュタイナーが誰にでも備わってるなら――






きっと、シュタインズ・ゲートも、誰もが持っているのだから。

                                 ~完~

444: 2011/09/24(土) 00:28:30.99 ID:Lt5XBXwN0
爽やかな気分になった

464: 2011/09/24(土) 00:31:14.35 ID:wNGBaL6Q0
お疲れ様でした。なんか色々と置いていってしまって申し訳ない…。ここまで読んでくれて本当にありがとう。

題材が題材名だけに、疑問とか突っ込みどころが色々あると思う。
答えられる範囲なら、レス番が残る限り答えようと思うけど、何かある?

475: 2011/09/24(土) 00:33:36.78 ID:wNGBaL6Q0
皆本当にありがとな…凄く嬉しいよ。

>>468
あえて書かなかったし、俺も考えてません。
その後どうなったか、各自妄想するほうが楽しいと思いまして。

481: 2011/09/24(土) 00:35:43.20 ID:wNGBaL6Q0
>>473
違う原作派ってのは小説のことかな?
一応本編、アニメ後の話ということになってる

>>474
ごめん…何言ってるかよくわからない…。

>>476
基本的になんでもいけるが、好みとしては年下を

492: 2011/09/24(土) 00:40:11.44 ID:wNGBaL6Q0
>>485
わけがわからないよ

>>486
R・Sは能動的に発動するのではなく、世界線変動しに自動的に発動する、という解釈。
だから、世界線が移動すれば勝手に発動し、脳内にリング特異点を持ってる岡部は記憶を完全に保持できるって感じ。

499: 2011/09/24(土) 00:43:09.35 ID:wNGBaL6Q0
>>488
どっちが好きかってことなら、どっちも好きだよ。BD-BOXマジで欲しいお…。

>>491
助手を使ったのは両方かな。俺は熱心なオカクリスチャンだぜwwwwwww

>>493
前にカラオケに行く奴と、4℃が主役な奴を書いた。
どっちも200いかなかったから、ここまで支援されたのはびっくり

504: 2011/09/24(土) 00:46:19.74 ID:wNGBaL6Q0
>>497
Dムービーは岡部の氏後か氏の前かに撮ったものか、結局わかってないよね。
でも、その前に『テレビを見ろ』ってDメールが届いていたとき、日付は2025年の8/21だったから、このSSではその時間を主軸として展開している。

>>498
いちおう幸せに暮らしている、ということくらいしか考えてない…。
ただ、本編で口リ鈴羽との絡みを考えていたけど、脱線しそうだったからカットした。

512: 2011/09/24(土) 00:48:38.49 ID:wNGBaL6Q0
>>503
ちがうよwwwwwでもそれ、好きだよwwwww

>>505
本当にありがとう。涙ででてきそうだ…。
シュタゲSSはこれで完全燃焼したっぽいから、これ以上じっくり考えたものは投下しないと思うけど…。

519: 2011/09/24(土) 00:52:38.09 ID:wNGBaL6Q0
>>508
ほい。
http://invariant0.blog130.fc2.com/blog-entry-1753.html

>>509
どっちも好き。沖田のほうはやや厨二くさいが。

>>511
いや、ごめん…俺はだーりんもリベリオンも未読なんだよ…。両親の描写も満足に書けないのに、娘を出したってしょうがない気がしたんだ…。
本当にすまん…。

>>513
関連書は4,5冊程度かな。レポート纏める要領で、要点だけかいつまんでるだけだから、このSSの理論は本当に穴が多いのだよ…。

521: 2011/09/24(土) 00:55:45.54 ID:wNGBaL6Q0
>>516
>>520
ぜひ頑張って欲しい。他人様のSSはいつも楽しみだ。

>>518
他のバイト戦士族の皆様にご期待ください。
鈴羽で書くの、けっこう苦手なんだ…。


531: 2011/09/24(土) 01:02:30.31 ID:wNGBaL6Q0
一応参考文献とか書いたほうがいいのかしら。

『脳のなかの幽霊』 V.Sラマチャンドランサンドラ
『脳内現象 ~私はいかに創られるか~』 茂木健一郎
『ナノテクノロジー入門』 川谷知二

あとは忘れた。少なwwwwwwwww


>>525
それはどうなんだろう…興味はあるけど、多分因果律とかの関係でR・Sは発動してしまうと思われ。
未来にいっても、時間差でR・Sは発生してしまうと俺は思ってる。

>>526
ありがとう。次はISのSS書きたいな。ちょっと忙しくて投下はかなり先になるけど。

535: 2011/09/24(土) 01:07:08.84 ID:wNGBaL6Q0
あ、あとこれ忘れた。これはかなり参考にした。

『新・脳の探検 下』 フロイド・F・ブルーム


質問はここまでかな? 改めまして、皆ここまで読んでくれてありがとう!
俺も楽しかったよ!!

引用元: 岡部「俺は呪われているのかもしれない…」