1: 2015/09/24(木) 17:20:59.702 ID:mcs5jj7O0.net

2: 2015/09/24(木) 17:21:51.449 ID:mcs5jj7O0.net
『魔力剣』

読んで字の如く魔力のこもった剣。
残撃による魔法攻撃が可能となるがその機能や性能は、ピンからキリまで幅がある。
値段はバカ高く、量産型の一番安物の部類に入るような品でも、通常の剣の数倍以上は優にする。
まして『伝説の~』などと呼ばれるような、現在の技術では製造不可能な高性能の剣ならば、その価格は天井知らず。
…正当な評価をしてもらえれば、だが。

魔道士「どうせなら、神話に出てくる様な伝説の剣が良いよねー。ほら目標はデッカく持たなきゃ」

武闘家「そだね。そだね。伝説の剣なんて、浪漫があって、良いじゃんか」

さっきから、口々に言いたい放題、無茶言ってる、旅の連れ二人。
見目麗しい両手の花、なのだが…この花達は棘もあれば毒もある。

冒険者「軽く言うが、滅多にお目にかかれないから、伝説って言うんだぞ?」

冒険者「その辺の武器屋で、適当なの買ってさ。それで、良いんじゃ無い?」

魔道士「よ・く・な・い」

武闘家「まあまあ、こないだのはそれで大破しちゃったんだし、ちゃんと良いの持った方が良いって」

こないだ……武闘家の故郷でちょっと色々あって、俺の持ってた『はがねのつるぎ』は使い物にならなくなった。
それで、とりあえず俺の新しい剣を手に入れる為……と言う名目でのんびり旅をしている。

武闘家「安物買いの銭失い。って言うじゃろ?」

魔道士「冒険者は、もっと剣を大事に考えた方が良いと思うなー」
はたらく魔王さま!(22) はたらく魔王さま! (電撃コミックス)
3: 2015/09/24(木) 17:22:19.190 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「たまに呪文唱えさせたら、大暴走させたりするんだから」

グッ。痛いトコを突かれた俺は何も言い返せなかった。

冒険者「分かったよ。けど、今時、どこそこのダンジョンに伝説の剣が眠ってる……なんて話は、まず無いし…」

冒険者「それなりの剣を手に入れようと思ったら、好事家なり貴族なりのコレクションを譲って貰うのが、一番、現実的かな」

魔道士「コレクションって、そんな簡単に手放したりするもんなの?」

冒険者「さぁな。どっちにしろ、そんなモン譲って貰うには、ちょっと手持ちが心元無いし……」

魔道士「じゃあ、まずは都市に出て、購入資金でも調達しようか?」

短期間で割りの良い仕事となると、それに比例して危険度も上がる。が……まあ、このメンバーなら心配無かろう。

武闘家「ん~?お仕事?ヤルヤル。何人ヤれば良いんだい?」

と、いつもの様に無邪気な笑顔で武闘家は言う。こうして見ると本当に年相応の女の子にしか見えないな。
以前の黒装束は、かえって目立つから…と、今は俺たちと同じ旅人の格好をしている。だが、その正体は…

暗殺業。武闘家はこれまでどんな人生を歩んで来たのか……
それは普通とは程遠く、幸せとは縁遠い、そんな人生だったのだろう。
ただ、残念な事に、そんな彼女を本当の意味で幸せにするのは、俺の役割では無いんだろうな。
幸せは、自分だけの力で掴み取るモノだと信じている。自分の幸福に他人の出る幕はないと、本気で信じている。
まだ、短い付き合いだが、俺は彼女の人生観を、そう分析していた。

魔道士「んーとね、まあ武闘家ちゃんの気持ちは分かるけど、そっち系のお仕事はNGなの」

4: 2015/09/24(木) 17:22:40.863 ID:mcs5jj7O0.net
冒険者「まあ、確かに稼ぎは良いんだけどな。悪名は旅の邪魔になる」

この世界で快適な旅がしたいなら、
つまり、世界の60%を占める広大なエリアを網羅する、衣住食に関わる様々な施設を利用したいなら…
旅人は、自ずと『冒険者ギルド』のお世話になっている。
要するに、お尋ね者にでもなった日には、何処行っても、食えず飲めず寝れずの世間の爪弾きにされてしまう。
賞金首を狩り続けていたら、知らぬ間に自分が賞金首になっていた。
そんな笑い話があるが、俺逹にとっては全然笑えない。

武闘家「ふ~ん。何とも世知らがい世の中だねぇ。でも、じゃあ、ど~するのさ?」

武闘家「ピコ~ン。分かった。畑仕事だ?」

冒険者「また、凄いトコに飛んだな。極端過ぎるだろ」

魔道士「ウフフフフ。見せてあげるよ、武闘家ちゃんに」

魔道士「あたしと冒険者とが、これまでに築いてきた…圧倒的な社会的信用というモノをッ!!」

5: 2015/09/24(木) 17:23:13.536 ID:mcs5jj7O0.net
『冒険者ギルド』
管轄する地域に住む人間達の出したモンスターの狩猟依頼やそこでしか取れない素材の収集依頼などを受理し、それらをその仕事を希望する冒険者達に斡旋する事を主な業務としている。

仲介人「おや久しぶりじゃないか。元気にしていたかい?」

久々に、ギルドに戻った俺たちを、いつもの通り赤いコートを纏った、高齢の女性が迎えてくれた。
彼女は『仲介人』仕事内容はいわゆる『ギルドガールズ』と同じだが、担当する依頼上、一般のギルド職員とは全く異なる職務のようだ。

魔道士「お久しぶり、おばさま。最近は良い調子だよー」

冒険者「お久しぶりです。俺は、まぁ、いつも通りですよ」

仲介人「おや?見ない子が、居るね?」

武闘家「私は武闘家と言います。魔道士ちゃんの親友にして冒険者の……

冒険者「仲間です」

ジトー

キッパリと言い切った俺に、ねっとりとした、恨みがましい視線をくれる武闘家。魔道士の真似か何か?

武闘家「冒険者君は保守的だ」

冒険者「俺はいつでも保守派の男だ」

仲介人「武闘家ちゃん…と言うのかい……そうかい、そうかい。お嬢ちゃん、あたしに顔を良く見せてごらん?」

スゥーと眼を細め、仲介人は武闘家の綺麗な瞳を覗き込んだ。

7: 2015/09/24(木) 17:24:12.799 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家「うひぃ~」

まるで、蛇に睨まれた蛙の様に、立ち竦む武闘家。まあ、気持ちは分かる。

仲介人「成る程ねぇ、そう言われれば、『あやつ』と同じ目をしているねぇ。まだ、善良な存在だったあの頃のあやつと」

武闘家「あやつ?誰の事…ですか?」

仲介人「あのクソジジイだよ。あやつは今何処で何をしてるんだい?」

武闘家「もしかして、師父の事ですか?師父なら、もう……」

仲介人「そうかい、そうかい。悪かったね。つまらない事を聞いてしまって」

仲介人「しかし、あたしより先に逝くなんて……あやつも人の子だったんだねぇ」

武闘家「師父とは…お知り合いだったんですか?」

仲介人「旧知の仲さ。もっとも、あたしとあやつの仲が良かったか、と問われれば……」

仲介人「残念ながら、それは非常に険悪であったと、答えなきゃならないよ。最後に会ったのは、もう何十年も前さ」

武闘家「そう…ですか」

仲介人「そんな事より。お嬢ちゃんは、あんな風になっちゃあいけないよ。」

仲介人「己の信念は真っ直ぐに通しな。信念に男も女も無いからね」

9: 2015/09/24(木) 17:24:35.119 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家「……。はいッ!!ありがとうございます」

魔道士「……あのー。そろそろ、本題に入りたいんですけどぉーまぁーだ時間かかりそうですかねぇ?」

今迄、完璧に蚊帳の外だった魔道士はちょっとむくれていた。
子供じゃないんだから、ちょっと袖にされた位で拗ねるなよ…

10: 2015/09/24(木) 17:26:58.567 ID:mcs5jj7O0.net
仲介人「おお、すまなかったね。魔道士ちゃん、それで、どんな仕事がお望みだい?」

ギルドからの密令を受け取り、極秘かつ高難易度の依頼や指令を、信頼できる冒険者に直接伝えるための仲介人。

彼女が紹介する『裏仕事』の主な内容は悪質な冒険者、密猟常習犯や殺人を犯した者の捜索・抹消。

たまに、未確認生物の調査やら、緊急を要する大型モンスターの討伐依頼。王族貴族連中の道楽などなど。

そう。先程、武闘家に偉そうな事を言った割に、思い切り裏稼業である。

が、同じ暗殺でも無許可と、ギルドのお墨付きを頂くのとでは、天と地ほどの違いがある。

魔道士「んー。とりあえず、手っ取り早くてお金になる仕事が良いなー」

仲介人「おや?珍しいね。いつもは報酬なんてまるで気にしないのに」




元々、魔道士が『楽しい旅の思い出』の一環として、ほぼ趣味で始めた事だしな。

故に、引き受けるか否かの物差しは、魔道士基準で面白そうかどうか。

そうやって、二人で利益度外視の誰も引き受けない様な、クソ面倒臭い仕事ばかりを受けていたら、あれよあれよと、社会的信用が上がってしまった。

本来、仲介人の依頼は、俺たちの様な新参冒険者が受けて良いモノでは無いらしい。

11: 2015/09/24(木) 17:28:22.705 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「うん、実はさ、冒険者のやつがね……」

と、止せば良いのに、魔道士は事の顛末を一から十まで説明した。

島を半壊させた件は、良くて厳罰。悪くすれば極刑だと言うのに。

仲介人「そうかい。最後の方の話は聞かなかった事にしておくよ。あそこはギルド加盟国では無いし、何よりジジイの自業自得だろう」

仲介人「けど、次から気を付けるんだよ?アンタ達の事は気に入ってるんだ。そんなアンタ達をどうにかする指令なんて、受けたくも無いからね」


冒険者「……面目ありません」


仲介人「そうだ。魔道士ちゃんがしっかり見てておあげ。冒険者は周りを見てない、危なっかしい所があるからね」


魔道士「はーい。あたしは、ずっとずっと、そのつもりだよ」


……元はと言えば、お前が口を滑らせた所為だろうに。何か、釈然としないな。


仲介人「さて、そう言う事情なら、実入りの良さそうな仕事は幾つかあるよ」

魔道士「じゃあ、それ全部引き受ける」

仲介人「大丈夫かい?どれも一筋縄では行かない仕事ばかりだよ」

12: 2015/09/24(木) 17:31:05.552 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「任せておいて。だって、あたしは魔道士だよ?」

仲介人「そうだったね。それにアンタら二人に、武闘家ちゃんも加わるって言うなら、余計な心配はするもんじゃないね」

仲介人「わかったよ。なら、アンタらが仕事をこなしてくれている間に、剣を譲ってくれそうな人物を探しておいてあげるよ」

仲介人「金が有ったって、剣を譲ってくれる人が居ないんじゃあ、しょうが無いだろう?」

冒険者「ありがとうございます。いつも助かります」

仲介人「なに、礼には及ばないよ。ところで、アンタ」

仲介人の瞳孔が、スゥっと蛇の様に細くなる。

仲介人「魔道士ちゃんと武闘家ちゃんと、どっちが本命なんだい?」

冒険者「………。ノーコメントです」

仲介人「フォフォフォ。そうかい。そうかい。ちゃんと責任持って、大事にしておあげよ」

冒険者「だから、ノーコメントだと、答えたでしょうに」

仲介人「若いのぅ。これしきのことで照れるでないよ」

仲介人「久々に、楽しい話を聞かせてくれたお礼をあげようかね」

13: 2015/09/24(木) 17:31:20.700 ID:mcs5jj7O0.net
仲介人「奥の保管庫に、幾つか武器があったと思うから、何か一つ持ってお行き、まあ間に合わせ位にはなるだろう」

冒険者「…ありがとうこざいます」

仲介人「なになに、良いって事だよ。丸腰で送り出す訳にも行かないしね」

冒険者「はい。では遠慮なく、何か頂いて行きます」

仲介人「ああ、気を付けて行っておいで。貴殿らの無事と成功を祈っておるよ」

14: 2015/09/24(木) 17:32:40.196 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家「な~んか、すっげぇ威圧感あるね、ソレ」

魔道士「だよねー。なーんか落ち着かない雰囲気だよね、ソレ」

ヤメロ。人を指差すでない。

二人が指差す先は、俺の腰に下げられた得物。鞘に収まったコレは、見た目に何の変哲も無いタダノ小剣なのだが……
刀身は普通の剣の半分位、黒塗りの刃、材質は不明、刀匠も不明、何もかも正体不明。多分、すごく呪われてる。

冒険者「仕方ないだろ?これでも、一番マシそうだったんだよ。他のはもっと酷かったぞ」

ギルドの保管庫に安置されていた、武具の数々は、どれもこれも余す事無く呪われていた。
手に入れたは良いが、使い道にも処分にも困り果てて放ったらかしになっていたのだろう。
まあ、タダで貰ったモノなので、文句は言わないが……

冒険者「槍とか斧とか鎌とか色々あったけど…謎の髑髏が付いてたり、山羊の頭蓋が付いてたり、デロデロしてたり…凄いラインナップだったぞ」

仲介人は俺の『体質』を知っている訳だし、嫌がらせでは無いだろう。多少の厄介払いは兼ねているかも知れないが、人の親切心は信じたい。

魔道士「まあ、冒険者は呪われないんだし、別に良いか」

冒険者「んー。それは、ちと語弊があるな。俺はこれ以上、呪われる余地が無い。ってだけだし」

俺は、これまでの人生において、色々な呪いを、種類豊富に、盛り沢山に受けて来た。
お陰で、他人より攻撃呪文は効きやすいし、治癒呪文は効きにくいし、有用な補助呪文は一部を除いて効果無いし、その他の攻撃で受けるダメージも増し増しの素敵体質。
その副産物として、これ以上呪いを受け付けないと言うオマケも付いた。
呪いに容量制限があるのかどうかは知らないが、呪いの種類や強弱問わず、問答無用で無効化してしまうらしい。

15: 2015/09/24(木) 17:33:11.012 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「前に、あたしが掛けた呪いも効かなかったもんね。アレは悔しかったなぁ」

冒険者「アレ結局なんだったの?」

魔道士「んー?簡単に言うと、肉体と精神を分離させる禁呪法かな」

魔道士「肉体はその場で石像に、分離させた精神は異世界に吹っ飛ばして、基本的に二度と元には戻らない系だよ」

武闘家「魔道士ちゃん…ひっでぇ~よ、それは」

禁呪法。あまりに非道で外道な呪術の為、魔法を扱う業界では禁じ手。
使うと業界の皆様から仲間外れにされる…らしい。
が、魔道士は遠慮なくバンバン使っている。
魔道士曰く、『あたしの魔法は独学だし、誰かに教える気も、教わる気も無いから良いんだもーん』との事。

魔道士「まあ、過ぎた事はさておき、そろそろ出発しよっか」

16: 2015/09/24(木) 17:33:48.671 ID:mcs5jj7O0.net
それから半月程、俺たち三人はあちこち飛び回り、色々狩った。

密林近くの村に突如、飛来し破壊の限りを尽くした黒き怪鳥。
砂漠を渡るキャラバン隊を、発覚しているだけで7つは壊滅させた巨大蟹。
雪山の奥地に潜む百数匹の大猿の群、その主たる白き老猿。
火山に住む生物を絶滅寸前まで喰らい尽くした最凶の捕食者、貪食の恐王。
湿地帯の洞窟に根城を構え、野盗の一団と化した先輩方、ギルドを追われた無法者どもの成れの果て。

仲介人から受注した依頼は全部で5つ。内、対大型モンスター系が4つ、対人系が1つ。
面倒な対人系は後に回して、先にモンスターの方から片付けよう、と言う事で、今日の今日まで大型モンスターの討伐に励んでいた。

武闘家「ぬわああああん疲れたもおおおおん。もうすっげぇキツかったゾ」

魔道士「お疲れ様。でも、武闘家ちゃん大活躍だったじゃない」

武闘家「フッフッフッ。魔道士ちゃんのおかげさ。思い切り動いても、全然痛まなかったよ~」

確かに、傷が完治した武闘家の体捌きは以前とは見違えた。本人が言っていたように、コクやらキレやら復活したのだろう。
そして、俺はそんな武闘家の背後に立つのは危険だと学んだ。
頃し屋特有の『俺の背後に立つな』とかでは無くて…

武闘家は、自身に向けられた攻撃をギリギリまで引き付けて、紙一重で躱す癖がある。
その高度な技術とか、卓越した反射神経とかは大いに結構なのだが、背後に居る身としては超怖い。
ほとんど、流れ弾みたいに飛んで来る火球とか高水圧ブレスとか雪玉とかに、やたらめったら被弾した。

17: 2015/09/24(木) 17:34:13.815 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「あたしも、もっと良いとこ見せたかったなー」

武闘家「いや~魔道士ちゃんが居なかったら『蟹』は無理だったぜ。」

武闘家「めっちゃ硬かったし、経絡とかあるのかないのか全然分からなかったし、斬っても殴っても砕いても、反応薄いから面白く無かったぜよ」

魔道士「んーそうだね。あーいう甲殻種はね、ちゃっちゃと焼いちゃうのが、一番手っ取り早いんだよー」

そんな感じで万事、魔道士と武闘家がちゃっちゃと片付けてくれたお陰で、俺はする事が何も無かった。
強いて言うなら、回復薬をタプタプになるまでガブ飲みしてた位で、他には何も。
普段なら大変ありがたいのだが、今回は新しい剣の斬れ味とか色々、試して見たかったのに……
特に、蟹は惜しかったなぁ。魔道士に焼かれる前に、さっさと斬ってしまえば良かった。

魔道士「それじゃ、この後は宿でご飯食べて、ちょっと早いけど解散にしよっか」

魔道士「皆、疲れてると思うし、今日はゆっくり休んで、また明日、最後のお仕事終わらしちゃいましょ」

冒険者「おう、そうだな」

武闘家「私もそれで構わんよ~」

18: 2015/09/24(木) 17:34:53.996 ID:mcs5jj7O0.net
食後。ちょっと横になりたい気持ちを我慢して、俺は机に向かって書類を作成していた。

『狩猟報告書』

読んで字の通り。モンスターを狩って任務完了とはならない。
ぶっちゃけ、かなり面倒臭いがギルドに属している以上、仕方が無いのだ。

魔道士「お疲れ様ー。いっつも、ありがとね」

冒険者「いやいや、そんな大した事でもねーよ」

冒険者「それに、今回あんまり役に立って無いしな、俺。だから、せめて、これ位は」

魔道士「もー。そんな事気にしなくて良いのにさー。あたし達の仲じゃん」

冒険者「そうだなーありが…

ん?ちょっと待って!何でコイツが部屋に居るんだ?……鍵は掛けた筈だが…

背後を振り返れば、魔道士がベッドにちょこんと腰掛け、その長い脚をパタパタさせていた。

しかも、しかも、しかも、湯上りなのか、その長い髪をアップに纏めている。
ウッ……。中々の破壊力じゃないか。ふぅ…やるな、魔道士。

魔道士「おーす。……ん、なに?あたしに見惚れてんの?」

魔道士「えぇーヤダー困るなーンフフフ」

冒険者「……何で居るの?」

19: 2015/09/24(木) 17:35:21.938 ID:mcs5jj7O0.net
三人で旅をする様になってからは、それぞれ別の部屋をわざわざ取っていると言うのに。
俺はどちらでも良かったが、魔道士が『何か恥ずい』とか言って……

魔道士「ひっどぉーい。何でそんな事言うかな」

冒険者「いや、『解錠』の音も無かったし、どうやって部屋に入ったのかな?と、思って」

魔道士「ふっふーん。『空間移動』は、アナタの専売特許じゃ無いんだよー」

冒険者「あれ?お前、そんなの使えたっけ?」

魔道士「新しく覚えたんだよ。まあ、中々の難易度だったけど。あれだけ何回も目の前で実演されたら、自然に習得するもんでしょ」

冒険者「いや、普通は見ただけで習得しないでしょ。んな非常識な事が出来るのはお前位なもんだ」

魔道士「当然でしょ。だって、あたしはー

冒険者「世界一の大魔道士だもん。か?」

魔道士「んもぅ。人の決め台詞取らないでくれるかなー」

冒険者「まあ、それはさておき。何でベッドに陣取ってんの?」

魔道士「ここは『お前の場所』だ。しかし、今は『私の場所』だ。奪い返せば良い……出来るものなら」

冒険者「おお。中々、雰囲気出てるじゃないか。中ボスっぽいぞ」

20: 2015/09/24(木) 17:35:44.803 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「それ、褒めてんの?」

冒険者「勿論だ」

魔道士「…。まあ、良いや。それよりさ、今夜は一緒に寝ようよ」

冒険者「それは、構わないが。ちと待ってくれるか?まだ少し時間がかかる」

魔道士「ん…いーよ」

冒険者「悪いな」

そう言って、俺は再び、筆と羊皮紙を手に取り、魔道士に背を向けた。

22: 2015/09/24(木) 17:36:23.592 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「ちょっと、お話ししてもいい?」

冒険者「ああ、良いよ」

魔道士「あのさ、武闘家ちゃんとの三人旅はどう?楽しい?」

冒険者「ああ、俺はな。お前はどうなんだ?」

魔道士「あたしは……正直に言うとね、最初はイヤだったんだ。ずっとアナタと二人旅が良かった」

冒険者「そっか」

魔道士「けど、最近は……武闘家ちゃんとも仲良くなれて…嬉しいんだ」

冒険者「そっか」

魔道士「あたし、友達なんか居なかったし…武闘家ちゃんが、本当はどう思ってるかは分からないけど…」

魔道士「それでも、今の旅は楽しいんだ」

冒険者「武闘家は、最初からお前を親友だと言っていたよ」

冒険者「それと、お前が楽しいのなら、俺も嬉しい」

魔道士「……。でもね、ひとつ不安があるんだ」

冒険者「ん?」

魔道士「アナタを武闘家ちゃんに取られるんじゃないかって……それが不安で」

23: 2015/09/24(木) 17:37:05.088 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「ほら、武闘家ちゃんは可愛いし…素直で明るい、良い子じゃない」

冒険者「……。ならダメだな」

冒険者「お前は知ってると思うが、俺は美人の癖に、捻くれ者で性悪でちょっとアホなトコがある…」

冒険者「結局は、そんな奴が好きだからな」

魔道士「それって……」

冒険者「あと、武闘家は素直で明るい良い子…だけじゃないぞ。まあ、これもお前は知ってると思うが」

魔道士「ちょっと!!余計、不安になるじゃん」

魔道士「………。ん、でもね、アナタがちゃんとあたしも愛してくれるなら、あたしの事を捨てたりしないなら」

魔道士「だったら、あたしとアナタと武闘家ちゃんの三人になっても……良いかなって」

冒険者「それは、また意味深な発言だな」

魔道士「武闘家ちゃんも、きっとアナタを……」

冒険者「んーそれは、どうかな?確かに、大事な『仲間』だが」

冒険者「アイツは何と言うか、孤高と言うのか…人間、氏ぬ時は己ひとり、って感じじゃないか?」

魔道士「ん…じゃあ、あたしは?」

冒険者「お前は、俺と一緒に氏ね。俺が氏ね時は、地獄の道連れにしてやる」

24: 2015/09/24(木) 17:37:26.336 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「何よそれ、プロポーズのつもり?」

冒険者「ああ、そうだ」

魔道士「……。もうちょっとロマンティックな感じに言えないもん?」

冒険者「はは、悪い悪い」

冒険者「さてお待たせしましたね。報告書は書き終えたから。もう寝るか?」

魔道士「…うん。ありがと」

25: 2015/09/24(木) 17:38:01.037 ID:mcs5jj7O0.net
翌朝。朝食の為に食堂へと降りた俺達。武闘家は先に席へ着いていた。

冒険者「おはよう」

魔道士「おはよー」

武闘家「お~は~。お二人さん」

武闘家「並んで降りて来るとは…これもう隠す気ねぇな?」

魔道士「へ?」

武闘家「いやいや、こっちの話。さぁさ、お二人とも朝飯はやく食っちゃいなYO」

武闘家「モーニングセットCが中々のボリュームだったぜ~」

魔道士「あたし、お魚が良いなぁ」

武闘家「魚肉なら、ドコサヘキサエンたっぷりのBセットだね」

武闘家「ちなみに、Aは軽食&コーヒー、Cは王道を征く…ガッツリお肉系だよん」

結局、俺がAセット。魔道士がBセットを注文し、他愛の無い雑談など交えて朝食を終えた。

魔道士「ふぅ、中々、美味しかったな」

魔道士「んじゃ、あたしはちょっと身支度してくる」

武闘家「ほ~い、行っといれ~」

26: 2015/09/24(木) 17:38:48.101 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「ちょ、武闘家ちゃん……。ま、良いや。それじゃねー」

武闘家のセクハラに赤面しつつ、魔道士は去って行った。
そして、武闘家は下卑た感じにニヤニヤしながらこちらを向いた。

武闘家「イヒヒヒヒ。昨晩はお楽しみでしたね」

武闘家のセクハラはまだ、もう少し続くようだ。

武闘家「魔道士ちゃんて、声大きいんだね~」

冒険者「さてね」

おや?魔道士は無駄に凝った『防音処置』をしている筈だし、万が一にも、外部に声が漏れる事は無い筈だが…

武闘家「なんてね、ウソウソ」

嘘かよ…

武闘家「逆に、気味が悪いくらい、何も音がしなかったのさ。二人の気配は有るのに、物音ひとつ…」

武闘家「これって、軽くホラーじゃろ?」

って、一緒の部屋に居た事はバレてるのね……

冒険者「……。前に武闘家と話をしただろ?魔道士が起きてる時に、ちゃんと言葉に出して、ってやつ」

冒険者「昨晩、ちゃんと伝えたよ」

27: 2015/09/24(木) 17:39:10.362 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家「そか。喜んでた?」

冒険者「多分…な」

武闘家「よかたい。よかたい。私も魔道士ちゃんの事は、応援してるんだ、親友として、ね」

武闘家「でも、上手くいったなら、良かったよ。本当に」

冒険者「ありがとうよ」

武闘家「あ、そうだ。私、冒険者君に言っておく事があるんだ」

武闘家「私は、そんな言う程ソリストじゃないかんね。まあ、前はそんな感じもあったけど…」

武闘家「拳の道を極めたかったし、弟にも誰にも負けたく無かったし、その他の事は、なんにも考えて無かった」

武闘家「でもね、私の人生は、『ある事』がきっかけで大きく変化したんだよ。……だから、私の氏に様についても、検討してみてくれ給え」

冒険者「そうか…」

武闘家「そうだよ。そんじゃ、私も身支度があるんで、また後でな~アデュ~」

そう言って、武闘家は飄々と席を立った。

28: 2015/09/24(木) 17:39:44.457 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家「で、何かグッドな作戦とかあったりするのかい?」

魔道士「んー?作戦?」

身支度を済ませて戻ってきた二人は、また雑談に興じていた。
まあ、出発時間までは少しあるし、別に良いかな。

武闘家「そ~だよ。作戦。今日のお仕事は野盗の掃討じゃろ?お二人の時はどんなやり方してたのさ?」

魔道士「んーっとね、『マジック&ジェノサイド作戦』か『カーペットボミング作戦』かな?」

そんな作戦あったかな?初耳なんだが……。が、内容は何となく察しが付く。

武闘家「なになに?スゲェ~格好良さげじゃん。どんな作戦?」

魔道士「説明しよう。『マジック&ジェノサイド作戦』とは、野盗どものアジトごと、あたしの『極大消滅呪文』で文字通りこの世から消し飛ばしてしまう恐ろしい作戦なのだ」

武闘家「おぉ、ジェノサ~イド。んじゃ『カーペットボミング作戦』は?」

魔道士「説明しよう。『カーペットボミング作戦』とは、野盗どものアジト一帯を、広範囲に、無差別に、あたしの『全魔法力』を叩き込む恐ろしい作戦なのだ」

武闘家「おぉ。って一緒じゃんかソレ」

魔道士「一緒じゃないよ。使う呪文が違うし、あたしの指の角度とかも全然違うから、全く別の作戦だよ」

武闘家「なるほど。つまり、私の島の時は冒険者君版の『マジック&ジェノサイド作戦』だったんだね」

冒険者「違う。アレは不慮の事故だ。そんな作戦は無い」

武闘家「うん、知ってた。だって、そんな雑な作戦実行しても、報酬とか貰えそうに無いし」

29: 2015/09/24(木) 17:40:20.331 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「テヘ。バレたか」

と、舌を出す魔道士。ちょっと可愛い。
が、今までの発言はちっとも可愛いくないな。悪魔かコイツ。

冒険者「モンスター討伐と違って、この手の依頼はどう転んでも面倒臭いぞ」

冒険者「何せ、アジトを構える程度には入り組んだ洞窟内で、あちこちに散らばる野盗を一人一人、丁寧に処理しなきゃならない」

冒険者「まあ、ぶっちゃけ真っ当な仕事で食えなくなって野盗に落ちぶれる程度だし、実力の方はそう大したモンでも無いけどな」

冒険者「それこそ、小型のモンスターとかと、大して変わらん」

強いて言うなら、人間相手に躊躇わない精神が必要だが、まあそれは今更言わなくても良いか。

冒険者「モンスターと違って知能はあるから、気の利いたトラップとかが、あったりはするかな」

魔道士「それより、何より。洞窟内だと派手な呪文が使えないのが、辛いんだよね」

魔道士「洞窟崩して、生き埋めになるのは流石にヤだし」

魔道士「かなーり加減して、方向性とか威力とか考えて地味ィーな呪文しか使えないから困る」

武闘家「私はそもそも呪文使えないから困らない」

冒険者「俺は『初級呪文』だけ使えれば、後は剣で何とかなるから困らない」

魔道士「うぅ…皆があたしをイジメる……」

冒険者「お前もさ、『全身の血を凍らせて息の根を止める呪文』とか『幻覚で精神を破壊し尽くす呪文』とか、色々あるじゃん」

30: 2015/09/24(木) 17:40:57.226 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「えぇー。あるけど地味じゃん。『即氏呪文』は、成功率低めだし、『混乱呪文』は、幻覚のバリエーション考えるのが、めんどい」

冒険者「ああ、そう。もし俺がそんな便利な呪文使えたら、全部それでいくけど」

魔道士「やっぱさ、火柱、業火、爆炎が魔術の華じゃん?」

武闘家「ヒィ~。やっぱ、派手好きなんスねぇ~」

武闘家「魔道士ちゃんの呪文の好みってさ、何だか伝記とかに出てくる魔王っぽいよね」

冒険者「わかる。俺も、最初闘った時は魔王かと思ったよ。てか、実際伝記の魔王なんかより、ずっとヤバかったよ」

武闘家「その、冒険者君と魔道士ちゃんの馴れ初めってどんな感じだったの?」

武闘家「今まで聞いてる話と、今のお二人の関係に凄いギャップが…」

冒険者「ん~。そうだな。一言で言えば『不老不氏を目論む砂漠の国の王女様。その狂気の野望に巻き込まれた冒険者』って話になるな」

冒険者「その後、色々あってこうなった」

魔道士「ちょっとぉーー!!大体、合ってるけど、もう少しロマンティックな感じもあったでしょ?」

冒険者「まあ、そうだな。でも、長くなるからその話はまた今度な」

魔道士「もう…」

武闘家「いやいやいや、気になるじゃんか。めっちゃ聞きたいよ、その話」

31: 2015/09/24(木) 17:41:23.838 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家「え、魔道士ちゃんてお姫様だったの?比喩とかじゃなくて?ガチで?」

魔道士「うん、まぁ。元だけどね。今は昔……みたいな?」

冒険者「残念だな。もう、時間が無い。そろそろ出発しないと」

武闘家「今度絶対に話して貰うよ。絶対だかんね」

冒険者「はいはい。分かったから」

そうして、何やらウダウダ言ってる武闘家を連れて、俺たちは宿を発った。

32: 2015/09/24(木) 17:41:56.532 ID:mcs5jj7O0.net
-湿地帯の洞窟付近-

双眼鏡に映る景色は、特に特徴の無い至って普通そうな洞窟。その前に三人の男が、暇そうに立っている。

見張りかなんかだろう。集中力など散漫も良いところで、見張りと言うより案山子だが、まあ野盗の見張りなんてそんなモンか。

冒険者「ギルドの事前調査では、野盗団は総勢70人程らしい。まあ、全員がアジトに揃ってるって事も無いだろうけど」

一応、突入前の最後の打ち合わせって事で、俺たちは洞窟の対面の木陰に身を潜めていた。

魔道士「ふーん。楽勝じゃん?」

武闘家「う~ん。見た感じ、あんまり盛り上がりとか無さそうだね~」

冒険者「そうだな。そこで、俺から提案がある。一人あたり何人処理出来るか、勝負しようぜ」

魔道士「へ?あたしは別に良いけど…珍しいね、そんな事言うの」

冒険者「負けた二人は勝った一人の言う事を何でもひとつ聞かなければならない。ってルールで良いか?」

武闘家「ん?今何でもするって言ったよね?」

冒険者「ああ、俺が負ければな」

武闘家「よーし!乗った!!」

魔道士「え?ちょっと、ちょっと。何ソレ?あたしに何させるつもり?この変態め」

33: 2015/09/24(木) 17:42:25.140 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「冒険者の事だから、ここでは言えない様な、屈辱的でかなりマニアックな事を……例えば、おしりに……ムリムリ、産めな-

冒険者「はい、ストップ。それ以上いけない」

冒険者「お前の中の俺は、どう言う性癖になってるんだよ?そんな事お前にはしません」

武闘家「うぇ…って事は私にか!?こ、壊れるゥ~オ、オトコになっちゃう……」

冒険者「ならねーよ。何なの?お前ら精神状態おかしいよ…てか、真面目に話聞けよ」

武闘家「たはは。わりぃわりぃ。悪ノリしちゃったぜ。お兄さん許してお兄さん許して」

冒険者「……。とりあえず、君たちに変な下心は持ってませんので悪しからず」

冒険者「勝った場合に何して貰うかはまだ決めてませんが『健全』なお願いを約束致しますので安心しろ」

武闘家「ふ~ん。けど、私が勝った場合、冒険者君に『不健全』なお願いをするのはアリなんだよね?」

冒険者「…ああ、俺が負ければな」

武闘家「んじゃ、私は異議なし」

魔道士「あたしは、冒険者が、どうしてもって言うなら……どんなお願いでも応えてあげる」

ダメだこりゃ。もう勝手に話を進めてしまおう、そうしよう。

34: 2015/09/24(木) 17:42:45.639 ID:mcs5jj7O0.net
冒険者「はい。んじゃ決定。それじゃ、開幕の合図代わりに、あの見張り三人は俺が処理して来ます」

冒険者「あ、処理数にはカウントしないので」

乱れに乱れた話を強引に纏め、俺は剣を抜いて、洞窟の入り口へと歩を進めた。
抜き身の剣を片手に、正面から堂々と。いつかの様に姿を消して忍んだりもせず。

『宣戦布告』である。

35: 2015/09/24(木) 17:43:24.797 ID:mcs5jj7O0.net
黒服の見張り「あそこ」

青服の見張り「なんだよあれ?」

黒服の見張り「おいちょっとあれどうする?」

青服の見張り「おいやっちまおうぜお前!」

赤服の見張り「やっちまうか?」

黒服の見張り「やっちまいますか」

青服の見張り「やっちゃいましょうよ!」

自分で言うのも何だが、俺にしては珍しく殺気をアピールしながらアジト向かってゆっくりと進んだ。
見張り連中も流石に気付いた様だが、何か変なノリでアジト内に知らせるでも無く、警戒している様子も無い。

黒服の見張り「その為の右手?」

青服の見張り「おーマジで」

黒服の見張り「あとその為の拳?」

青服の見張り「拳?やる為にあるでしょ」

黒服の見張り「金、暴力、!金、暴力、って感じで…」

そうして、さしたる妨害も無く。アジトの入り口前まで、着いてしまった。
あーあ、ここで何人か中の仲間を呼んでくれれば楽だったのに……

36: 2015/09/24(木) 17:43:47.434 ID:mcs5jj7O0.net
黒服の見張り「おい何やってんだおい~」

赤服の見張り「兄ちゃんよ~」

まあ、仕方ないか。予定通り、ここで見張りを処理して、後はチマチマやって行くか。

シュン

そうして、俺は構えた剣を三度振った。

『秘剣・五月雨斬り』

気の毒な事に、見張り三名の首はその胴との別れを告げた。

冒険者「……。ふぅ、こんなモンかな?」

ギルドから頂いた新しい剣は、中々に軽く、斬れ味鋭い業物の様だ。
まあ、呪い云々はさておき、悪くない感じだ。

冒険者「おーい。もう出てきて良いぞー」

パチパチパチ

武闘家「いやいやぁ~見事な剣捌きですなぁ~惚れ惚れしますゾ」

何も無い筈の場所から、音と声だけが聞こえる。
見張り連中を油断させる為に、魔道士と武闘家だけ『透化呪文』で姿を消して貰っていたのだ。
先程まで、俺が慣れない殺気を振りまいて居たのも、この二人の気配をカモフラージュするつもりだった。
まあ、そんな小細工は必要ないくらい見張りがアレだったが……

37: 2015/09/24(木) 17:44:22.368 ID:mcs5jj7O0.net
冒険者「いやいや、単に見張りが油断し過ぎだっただけで、そんな大したモンじゃないよ」

魔道士「いやいや、恰好つけてるけど、その技もパクリじゃん。前に見た事あるし。ほら、あのナントカって自称勇者のおじさん」

冒険者「はいはい。魔道士はちゃっちゃと『透化呪文』解いてね。ここからが本番なんだから」

魔道士「へいへい。分かりましたよーっと」

スゥー

姿を現した二人は予想通りにニコニコ笑顔と仏頂面である。

魔道士「で、どうだったの?」

冒険者「ん?どう、とは?」

魔道士「剣の斬れ味。ソレを確かめたかったんでしょ?」

冒険者「……。何だバレてたのか。流石。斬れ味は…中々良い感じだな」

魔道士「そりゃバレるでしょ。急に賭けとか言って、珍しくやる気満々に飛び出して行けば、何かあるなと思うでしょ」

魔道士「どうせアレでしょ?普通に突入したら、あたしが大雑把に呪文ぶっ放して終わりになるかも……とか何とか考えて…」

魔道士「だったら処理数で勝負って事にすれば生氏の確認が出来ない様な雑なやり方しなくなるから、ゆっくり新しい剣の斬れ味を試せる…」

魔道士「そんなトコでしょ?どーせ」

冒険者「ははは。そうだよ、その通り。そこまでバレバレだと何か恥ずかしいな」

38: 2015/09/24(木) 17:44:52.516 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「だーから、あたし達に恰好付けてどーすんのよ。最初から素直にそう言えば良いのに」

武闘家「ふ~ん。私は冒険者君の意図に気付けなかったなぁ。何だかショックだぜ」

魔道士「……。で、言ってた賭けはどーすんの?やるの?」

冒険者「勿論。面倒な仕事を楽しくやりたいってのは本心だからな。自分で言ったからには本気でやる」

魔道士「あ、そう。なら、あたしもそのつもりでやろーかな」

シュン

『あたしが勝ったら、すっごいお願いしてあげるから、期待しててね』

声だけ残して、魔道士の姿は虚空へと消えた。また『空間移動』を使ったんだろうけど、声だけ残すのはどうやるんだ?
やっぱりと言うか、何と言うか、見様見真似で習得した割に俺より使いこなしてるのが、ちょっと悔しい。

武闘家「うぇ~~?魔道士ちゃんもその術使えんの!?君たちズルくね?」

まるで鳥竜種の様に口先を尖らせて拗ねる武闘家。…最近の武闘家は魔道士の悪影響を受け過ぎだと思う。

冒険者「大丈夫。俺は使わないから。だから一緒に行くぞ」

武闘家「ホント?途中で私だけ置いて、シュビってしない?」

冒険者「しないから。魔道士と違って俺は洞窟の中で『空間移動』する勇気は無いよ」

武闘家「そ~なの?」

39: 2015/09/24(木) 17:45:12.406 ID:mcs5jj7O0.net
冒険者「ああ。目に見える範囲ならともかく、変な場所に出て『石の中にいる』とかになったら困り果てるからな」

武闘家「ふ~ん。そう言うモン…なのか?じゃあ、魔道士ちゃんヤバくない?大丈夫かな?」

冒険者「まあ、アイツもバカじゃないし大丈夫だろ、多分」

冒険者「それより、そろそろ行かないと。もうだいぶ魔道士に遅れを取ってるぞ」

武闘家「だね。冒険者君とも競争だしね~ダッシュ!ダッシュ!」

って速っ!!洞窟へと駆け出した武闘家の姿はすぐに見えなくなった。
いや、お前の超スピードのがよっぽどズルくね?
言いようも無い不条理を感じながら、俺は武闘家の背中を追った。

42: 2015/09/24(木) 17:45:41.731 ID:mcs5jj7O0.net
千切れたロープに散乱した鉄のヤジリ。破壊されたトラバサミに半分見えてる落とし穴。
魔道士か武闘家かは分からないが、先に通路の罠を潰してくれてるのだろう。
残骸から推測するに、仕掛けられていた罠はそう大したレベルでは無さそうだ。
それこそ、市販の『トラップツール』から創意工夫もなく適当に設置した感バリバリのやっつけ仕事。
見張りのレベルと言い、罠のレベルと言い、かなりお粗末な感じだが、はてさて……

武闘家「ヒィヤッハ~!!道を開けろォ~」

入り口から通路を抜けた先は、かなり開けたフロアになっており、野盗十数人を相手に武闘家が暴れ回っていた。
と、言う事は魔道士はこのフロアはスルーして先に進んだのか…

これはマズイ。このフロアの皆さんも武闘家が全員ヤっちゃいそうだし、のんびりしてたら負けるなコレは。

野盗その1「ヒィ~あれだけ居た仲間が……」

野盗その2「ひ、人の皮を被った悪魔めッ」

武闘家「悪魔?カーカカカ。そうよ。私は冷血、冷酷、冷徹が信条の魔界のエリートなのだ~~」

武闘家「吹けよ、無情の野分の風よ~~」

武闘家「地獄巡りNo.5。竜巻地獄ゥ~~」

ビュゴォォ!!

武闘家がその両腕を広げ大きく振り抜くと、竜巻が発生し野盗たちに襲い掛かる。

野盗その1「ウギャア~~~」

43: 2015/09/24(木) 17:46:24.984 ID:mcs5jj7O0.net
おお、コレは凄い。
武闘家の巻き起こした竜巻は上位の神官達が『祈り』によって発現させる『聖風』と比べても遜色のない威力。

野盗その2「アワワ……」

ザンッ

あまりにも隙だらけだったので、野盗その2君を後ろから斬りつけてみた。
まあ、俺がヤらなくても数秒後には竜巻で細切れにされてたろうし、氏因なんて誤差だよ誤差。

武闘家「カーカカカ。冒険者君、ナイスタイミングだ。残りの連中は、『地獄のコンビネーション』で仕留めるぞ」

冒険者「え?何ソレ?」

武闘家「んも~ノリが悪いなぁ。『地獄のコンビネーション』は、私がいつか冒険者君と出来れば良いなと、日々考えていたタッグ技だよ」

冒険者「分かるか!!そんなモン」

武闘家「ちなみにPART・Ⅳまであるヨン」

……。魔道士で慣れていたつもりだったが、武闘家のワガママぶりも結構ぶっ飛んでるな…
魔道士とは、またベクトルの違う困ったちゃんだと、今再認識させて貰った。

冒険者「で俺は何をすれば良い?」

武闘家「おぉ、話が分かるじゃないか相棒。冒険者君は『火炎呪文』使えるよね?」

冒険者「まあ、一応」

44: 2015/09/24(木) 17:47:00.990 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家「んじゃ、今から私が真ん中に突っ込むから、合図したら私目掛けて呪文を撃ってくれい」

冒険者「大丈夫なのか?ソレ」

武闘家「ヘ~キ、へ~キ。そ~ゆ~技だから、遠慮無くブチ込んでくれ給えヨ」

野盗その3「おい、何かヤバイ雰囲気だぞ…」

野盗その4「今のうちに逃げるか?」

武闘家「今更、遅いッ」

シュバッ

ほとんど、瞬間移動みたいな速さで武闘家は敵陣のど真ん中へ駆け、その場で大きく跳び上がり、器用にも天井に逆さまに立った。

武闘家「冒険者君、今だッ」

何する気か知らないけど、火傷とかするなよ?

冒険者『火炎呪文』

ゴォオ

俺が打ち出した火炎球は、武闘家の腕に絡め取られ、炎の勢いを増し、そのまま何かの姿に形を変えた。

武闘家『炎情烈風拳-火龍-」

45: 2015/09/24(木) 17:47:40.160 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家が生み出した、九つの首を持つソレはまるで生き物の様に、意思を持っているかの様に動き、残る野盗達全員を断末魔すら残させずに喰らい尽くした。

武闘家「フッ。我が身に触れる者は怒りの炎に包まれる」

スタッ

天井から見事な宙返りで着地する武闘家。見ていて惚れ惚れする様な身のこなしだが……

冒険者「えーと、武闘家サン?何、今の?呪文か何か?」

武闘家が今、放って見せた技は魔道士の『火炎呪文』にもヒケを取らない威力と精度だった。
確か、武闘家は呪文は使えないと言っていた筈だが…

武闘家「フッフッフッ。見直したかね?じゃあ種明かしといこう」

武闘家は懐から小瓶を取り出し、差し出して来た。

武闘家「タネも仕掛けもあるんだよ。コレな~んだ?」

冒険者「コレは……『燃燐』?」

武闘家「ピンポンピンポン大正解。ほら、前に手から炎を出す大道芸的な技があるって言ったの覚えてる?」

武闘家「アレの応用ってヤツだよ。今回は、冒険者君に種火を貰えてイイのが撃てたぜ」

いや、大道芸って……恐ろしい殺人技だったぞ……
まあ武闘家の生い立ちを考えればこのレベルで大道芸なのかも知れないが……

46: 2015/09/24(木) 17:47:52.029 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家「フッフッフッ。ちょっとした魔道士ちゃん気分だわい」

武闘家「つ~訳だから、今の得点は半分コね。さぁ、ココは片付いたし魔道士ちゃん、追っ掛けよ~ぜ~」

冒険者「ああ、そうだな」

47: 2015/09/24(木) 17:48:24.656 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家「う~。バカに冷えるね。『氷の洞窟』とかって名前だっけ?ココ」

冒険者「いや、そんな情報は聞いてないな」

洞窟の奥へと進んだ俺たちを待っていたのは、一面氷漬けの『凍土』の様なフロアだった。

冒険者「まあ、魔道士の仕業だろう。多分」

その辺りに氷漬けの肉片が四散している。哀れな野盗たちは、魔道士の『氷結呪文』で氷像に変えられた挙句、粉々に打ち砕かれたのだろう。

冒険者「大方、単体処理が面倒になってフロア丸ごと氷結させた、とかそんなんだろ」

武闘家「ふぇ~すっげぇなぁ~。私は『不思議なダンジョン』か何かかと思ったぜ」

冒険者「まったく。一人にすると、いっつもやりたい放題するからな…アイツは。危ないヤツだよホント」

武闘家「……。あ、そうだ。ところで、冒険者君はあの呪文使えないかな?」

武闘家「ほら、魔道士ちゃんが雪山と火山で掛けてくれたやつ」

冒険者「ん?もしかして『防御光幕呪文』の事かな?」

武闘家「そそ。何かピカ~っとしてポワ~ってするやつ」

『防御光幕呪文』

大気中の光の微粒子を結晶させて、強固な光のバリアを展開する呪文である。
専ら、高熱やら冷気などから身を守る為に用いられ、どの程度軽減出来るかは術者の力量に依るらしい。
ちなみに、魔道士が使用する場合、炎や氷ばかりかそれらの呪文全般にまで有効で、しかも許容範囲内であれば完全にシャットアウトしてしまう。

48: 2015/09/24(木) 17:48:47.715 ID:mcs5jj7O0.net
冒険者「あいにく、俺は修得してないな」

武闘家「っくしゅ。そか、それは残念」

う~ん。慣れの問題かどうかは知らないが、武闘家はかなり堪えてる様で、僅かにその身を震わせている。

武闘家「しゃ~ね。体力使うからあんまやりたく無いけど、身体の内側から色々燃焼させる秘孔を…」

冒険者「あ、ちょい待ち」

自身の両内腿を指圧しようとする武闘家を制し、俺は『秘密の道具袋』からアイテムを取り出した。

冒険者『旅人の外套~』

武闘家「ん?マント?何か薄い感じだけど、結構助かるかも」

冒険者「武闘家クン、この外套は一見普通の薄っぺらいボロマントだけど-

武闘家「何か良い生地使ってて、めちゃ暖かいんだね!?」

冒険者「コラコラ。最後まで説明させなさいよ。まあ、概ねその通りだけど」

正確には、生地そのものでは無く、裏地に耐熱、耐水、耐寒のルーンを大変有難い糸で刺繍を施している…らしい。
が、その大変有難い刺繍も俺の『体質』とは、相性が良くなかったらしく、こうして今までお蔵入りになっていたのである。
武闘家の言う様な生地の素材自体に耐寒性能がある。とかなら、また違ったんだろうけど。

冒険者「これあげるから。無駄に体力使う事もないだろ」

49: 2015/09/24(木) 17:50:12.849 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家「わ~い。けど、貰って良いの?冒険者君は寒くない?」

冒険者「良いよ。……俺はあんまり寒くないから」

武闘家「あんがと~。フフッ、どう?似合うかね?」

クルックルッと、武闘家は妙にキレのあるターンを披露する。

冒険者「ああ、似合ってる…んじゃないか?」

武闘家「あっかたいねぇ。この、暖かさと優しさで、冒険者君は魔道士ちゃんを誑かして、手篭めにしちまったんだね」

冒険者「…コラ。人聞きの悪い事を言うんじゃありません」

武闘家「ヘヘ。否定は、しないんだね。」

武闘家「んじゃ~頑張って奥に進もうか。姫がお待ちでいらっしゃるよ」

冒険者「そうだな」

50: 2015/09/24(木) 17:51:07.101 ID:mcs5jj7O0.net
そこから先は氷漬けになってはいなかった。
と、言うよりも、何もなかった。亡骸はもとより、生き残りの気配すらも。
全部、魔道士が塵も残さずに片付けてしまったのかも知れないが、その魔道士の姿も見えない。

はて?どうしたもんか

武闘家「入り口にあった罠とかも、何もないね~。何も無さ過ぎてちょっと不気味」

冒険者「まあ、罠はなぁ。この辺が生活スペースなんだったら、無いだろ。普通は罠だらけの場所で生活しないし」

冒険者「けど、ちょっと静か過ぎる様な気はするな。ギルドの事前調査通りなら、まだ生き残りは居る筈だが…」

訝しながらも、さらに奥へ進んだ突き当たり-

武闘家「お、な~んか怪しげなモノ発見伝。何かな?コレ」

武闘家が指差すモノは、淡く翠に輝く六芒星型の魔法陣。

冒険者「んーこの陣形はアレだな。どっかに空間転移するヤツかな」

冒険者「触れたら、対になってる魔法陣のトコまで強制的に飛ばされる系」

こんなの設置するには、それなりに費用とか技術とかが掛かる筈だが…
入り口の程度の低いトラップとのギャップが凄い。ハッキリ言えばかなり不気味である。

武闘家「やっぱ罠かね?」

冒険者「まあ、罠でしょ。問題は、着く先が敵さんの本丸に続くのか、タダの行き止まりなのか」

51: 2015/09/24(木) 17:51:55.907 ID:mcs5jj7O0.net
冒険者「前者なら罠でも何でも、進むしかないな」

武闘家「それに、魔道士ちゃんが先に進んでるかも…だしね。辺りに魔道士ちゃんの気配はないし」

武闘家「もしかしたら、魔道士ちゃんが罠に掛かって、私達の助けを待ってるかも……」

冒険者「いや、それは無いな」

武闘家「なんでさ?」

冒険者「野盗如きに、魔道士が追い詰められるなら苦労は無いよ」

冒険者「この洞窟の奥深くに、前時代の『地獄の帝王』が眠ってる…とか言う展開でもない限り、魔道士がピンチになる事は無い。決して、無い」

武闘家「いやいや、ちっとは心配してあげなよ。嫁でしょ?」

冒険者「だから、まだ夫婦じゃないってば。形式上は」

武闘家「あそ。まあこんなトコでキミをからかってても仕方ないし、どうする?進む?」

冒険者「十中八九、転移先に何か仕掛けられてるか、不意打ちがあるぞ?」

冒険者「待ち伏せするには絶好のチャンスだからな、俺ならそうする。誰だってそうする。良いのか?」

武闘家「見損なうなって。私だって、対人のプロ…だったんだぜ?矢でも鉄筒でも火炎放射器でも持ってこいやァ」

武闘家「と、言いたいトコだけど、さ。飛んだ先で何かあったら冒険者君の術で、もっかい飛べば良いじゃん?」

52: 2015/09/24(木) 17:52:24.623 ID:mcs5jj7O0.net
冒険者「……。んーまぁ、そうね。最悪、それで何とかするか」

冒険者「なら、仕方がない。ちょっとこっちに寄ってくれ」

武闘家「ん?」

武闘家の肩に手を置き、その身体をグッと抱き寄せた。

武闘家「ファ!?なになに!?なんばしよっと?」

冒険者「……」

武闘家「ダメダメ、ダメだってこんな場所で、そんな…私にも心の準備ってモノが…それに、キミには魔道士ちゃんが……」

冒険者「コラ、変な勘違いしない。『空間移動』を二人でやるなら、身体に触れてないとキツイの」

武闘家「……うぇ~ホントゥ~にぃ?」

冒険者「本当だってば。大雑把に移動するならまだしも、狙った位置に的確に移動するなら、あらかじめマーキングしておいた場所にか、触れてるモノしか無理なの」

武闘家「ふ~ん。にしてもさ、手を繋ぐとか、腕組むとかあるじゃん?この体勢は……」

今の体勢は、武闘家が言う様な変なモノではないと思うが…
端からみれば、俺が武闘家にスリーパーホールドを掛けてる様に見える、と思う。

冒険者「それやると、武闘家の片腕まで塞がるだろ?」

冒険者「俺の片手が塞がるのは、この際仕方ないとして、武闘家の両腕は空けておいた方が良い。それこそ、何があるか分からないんだし」

53: 2015/09/24(木) 17:52:41.927 ID:mcs5jj7O0.net
こういう場合、普段キャラ作ってる感の強い武闘家がたまに見せる素の反応にちょっとドキっとするとか…
武闘家の髪の匂いとか、肩を寄せた時に感じた意外な柔らかさと軽さとか、そういう事は言わない方が良いんだろうな。

冒険者「あとはまぁ『地獄のコンビネーション』とやらも、この体勢からなら繰り出しやすいだろ?」

武闘家「仕方ないなぁ~そこまで言うなら抱かれてあげるか」

武闘家「あ、そうそう。次なるコンビネーションだけど、冒険者君は雷の呪文を唱えておくれ」

冒険者「ん?『極大電離呪文』か?」

武闘家「ノンノン。あんなの使われたら私まで黒焦げになっちまうよ~。出力はなるべく落としておくれ」

冒険者「承知した」

武闘家「あんがと。リクエスト聞いてくれて」

冒険者「準備が出来たなら行くぞ?良いか?」

武闘家「おおともさ」

シュン

怪しげな魔法陣に触れると、やはり何処かに転移された。

54: 2015/09/24(木) 17:53:18.983 ID:mcs5jj7O0.net
『蜂の巣にしてあげなさい』

野盗その36「汚物は消毒だ~!!」
野盗その37「ヒヒ罠に掛かりやがってバカヤロウが~~~~~」

やっぱ待ち伏せされてたか。飛ばされた先では野盗たちが火矢を構えていた。

シュン

野盗その38「なっ!?消えたッ?」

移動した先は天井。先ほど、武闘家がそうした様に二人で天井に逆立ち状態で着地した。
なるほど、相手の頭上から一方的に攻撃できる良い位置である。流石は元プロ、人間の氏角と言うモノを心得ている。

冒険者「やるぞ、武闘家」

冒険者『電撃呪文』

バリバリバリ

掌から迸る一条の稲妻が、地上の野盗たち6名様に襲いかかる…筈であった。

武闘家「とうッ」

武闘家は天井を蹴り、そのままの勢いで雷の中へ飛び込んだ。

マジか……言われた通りに出力弱めに撃ったから氏にはしないと思うけと……
悪くすれば、身体の機能に障害が残るぞ

武闘家「うひぃ~。思ってたよりビリビリするぜ~」

55: 2015/09/24(木) 17:53:40.334 ID:mcs5jj7O0.net
またまた身軽に着地した武闘家はバチバチして、蒼白く光輝いていた。髪なんかもトゲトゲに逆立てて何だか強そう。

武闘家「名付けて『超帯電モード』だぜ」

アレか…『電撃呪文』のエネルギーを取り込んで肉体を活性化させてるのか。
確かにそんな事をやるモンスターなら見た事あるが…人の身で出来る事なのか?
モンスターと違って帯電質の体毛とか、帯電に耐える内臓器官とか、通電に適した超ミネラル体液とか、何も無いのに…
今更だが、武闘家も結構人間辞めてるな。

野盗その39「あんなもんコケ脅しだァ~構わずやっちまえ」

哀れな野盗たちは逃げれば良いものを…命知らずにも武闘家目掛けて矢を放った

ジュ

武闘家「カーカカカ。愚か者め。矢など避けるまでも無いわ」

まあ、あんだけ帯電してるんだから火矢なんか身体に当たる前に燃え尽きるわな…

野盗その40「ヒィイ…こいつはとんでもねぇバケモンだぁ~」

武闘家「逃げても良いよ」

武闘家「すぐに、捕らえて頃すけどね」

スッ、と武闘家は両腕突き出し構えを取った。

武闘家「ロックオ~ン。大技いくよ~避けなきゃ氏ぬぜェ~」

56: 2015/09/24(木) 17:54:02.097 ID:mcs5jj7O0.net
野盗その41「お、お助けを…」

武闘家『雷脚斬風拳-麒麟-』

キィイイイン

空気を強引に引き裂く程の猛烈な稲妻が神獣の姿を模して、野盗たちに襲いかかる。金属音の様な甲高い音がちょっと耳に痛い。

野盗たち『ホ…ホ…ホワァ~~』

仲良く体内を焦がされた野盗たちは白目を剥いて幸せそうに絶命した。
何だあの気持ち悪い恍惚の表情は…そんな気持ちの良い技なのか?快感を伴なう有情の技なのか?ちょっと興味が出てきた。

武闘家「せめて痛みを知らず安らかに氏ぬが良い」

今の技は蓄積した電力を全て放出するのだろう、武闘家は普段の姿に戻っている。

武闘家「命は投げ捨てるものでは無い。ソコの人も、そ~思わない?」

武闘家が振り向いた先には二人の女性の姿があった。

57: 2015/09/24(木) 17:54:37.736 ID:mcs5jj7O0.net
一人はかなり線の細い、しなやかな身体を持つ女性。見た目に分かる身軽そうな軽装。
見るからに-パワーは無いのでスピードに命賭けてます-って感じのスタイル。
黒く艶のある長髪を持つ結構な美人である。最初、野盗に号令出してたのはコイツだろう。

頭目「アナタとは、はじめまして…かしらね?私は『頭目』よ。見ての通り、このアジトの主。野盗たちのボスとも言うわね」

そして、もう一人の女性は肉付きの良い恵まれたプロポーション。特に、その胸は豊満である。ちょっと垂れ気味なのは大目に見るとして、こちらも中々に可愛いらしい貌をしている。
が、その身体に衣類は身に付けておらず全裸で四つん這い。その首に繋がれた首輪を頭目に引かれている。

頭目「そして、この子は私が飼ってる『ペット』。数いるペットの中でもお気に入りの可愛い子よ」

ペットと称された子は、口からダラしなく涎を垂らし、目の焦点もあっていない。虚ろな瞳で彼方を見ていた。
ふーん。中々に良い趣味をお持ちではないか。3日位なら変わって欲しいものだ。

武闘家「ずいぶん、酷い事してんだね。外道には、それなりの相応しい氏に方を用意してあるかんね」

頭目「外道?私の大切な部下たちを虐頃したアナタにそんな事を言う資格があるのかしら?」

頭目「私は部下たちが攫って来た街の娘なんかに、気持ち良くなるお薬で普通じゃ味わえない様な快感を提供してあげてるだけよ」

頭目「その中でも気に入った子は、人買いに売ったりせずに、こうして手元に置いて愛でてあげてるのよ?ね、優しいお姉さんでしょう?」

武闘家「ざけんなッ」

頭目「あら、熱くなっちゃって。可愛い子ね。決めたわ、アナタも薬漬けにしてペットとして飼ってあげ-

頭目「ッ!?」

ザンッ ブンッ

58: 2015/09/24(木) 17:55:31.225 ID:mcs5jj7O0.net
冒険者『秘剣・はやぶさ斬り』

真下に振り下ろした剣が二度空を斬る。
あらら、恰好つけて不意打ちしたのに、あっさり避けられちまったよ。

冒険者「何だ、中々上手く躱すじゃないか」

頭目「ずっと天井に張り付いてる気なのかと思ってたわ、アナタにもやる気ってモノがあったのね、知らなかったわ」

冒険者「いやなに、ずっと逆さで見上げてるのも中々しんどくてね。あとは、アンタが大人しく氏んでくれれば、面倒が無くて助かるんだが」

頭目「それはこちらも同じよ、冒険者。アナタと魔道士が大人しく氏んでくれれば面倒が無くて助かるわ」

冒険者「ん?名乗った覚えは無いが…何処かでお会いしていたかな?どちら様?」

頭目「そう…アナタ達はやっぱり私達なんて気にもして無かった…って訳ね」

冒険者「申し訳無いが、心当たりがまるで無いな」

頭目「このアジトのメンバーは私を含め…皆、アナタと魔道士に浅からぬ恨みを持つ人間なのよ」

冒険者「ほう、そうなのか。知らなかった。是非、教えてくれ。一体、何の恨みかな?」

頭目「アナタ、ギルドからは私達の事を、何て聞いているのよ?」

冒険者「元ギルドに属していた人間達が落ちぶれて野盗と化した、と報告を受けてるな」

冒険者「正直、そんな程度で何故『ブラックリスト』に載ってるんだと、疑問だったが…」

冒険者「いくらショボイ野盗の一団でも…そんな事やってりゃ、首の値は上がるわな」

59: 2015/09/24(木) 17:56:27.473 ID:mcs5jj7O0.net
首輪を引く頭目が、派手に避けたもんだから首が締まったのだろう、ペット娘は息苦しそうに咽せていた。

頭目「フフフ。そういう計画だったのよ。わざわざ、ギルドに目を付けられる様な真似をしたのは…」

頭目「全て、アナタ達をこのアジトへ誘き寄せる為にやっていた事。まあ、多少は私の趣味だけど……」

頭目「アジトそのものが、罠とも知らずにノコノコ来てくれたわね」

チャキ

短刀を抜き、構える頭目。

まあ、悪くは無い感じだが…剣士としては一流未満な正直、微妙な構え。

冒険者「コラコラ、話の途中でしょうが。何で恨まれてるのか、まだ聞いて無いぞ」

頭目「そうね。知らぬまま…って言うのも、お互いスッキリしないし。良いわ。教えてあげるわ」

頭目「要は、私達が『失業』したのはアナタと魔道士、二人の責任なのよ」

冒険者「ん?何で?」

頭目「分からないの?アナタ達がギルドの仕事を独占して、全部二人だけで処理してしまったから……」

頭目「私達に仕事が回って来なくなって…結果、何十人も路頭に迷う事になったのよ。この恨みは…

60: 2015/09/24(木) 17:57:00.744 ID:mcs5jj7O0.net
武道家『し ょ う も ね ぇ ー』

武道家『どれだけ大層な動機かと思えば…単なる逆恨みじゃない。己の無能さを棚に上げて、なーに寝言、言ってんだか』

武道家『あーあ、つまらない。あたしの貴重な時間を返してよ。償え。アンタの人生、残り全てで』

どこかで聞いたような口調と声色で武道家が毒を吐く。

武道家「なんてな。この場に居ない魔道士ちゃんの代わりに、リアクション取っといてやったぜ」

武道家は眉間に深いシワを刻み、その性格のキツさを余すことなく表現した冷たい目で、頭目を見下していた。

おお、表情まで模写するとは…

中々、クオリティの高いモノマネである。

頭目「下がってなさいな。アナタは部外者の外野でしょう?コレは私達と冒険者の問題なのよ」

武道家「いやいや、そ~いう訳にもいかんでしょ?私達は仲間だかんね」

武道家「それより、私は大事な部下達の仇じゃなかったのかな?薄情なモンだね」

頭目「氏ぬわよ?アナタ」

武道家「私より自分の心配した方が良いんじゃないかねこっちは2人掛かりだぜ?」

武道家「まさか卑怯とは言うまいね?」

構えは取らずに自然体で笑っている武道家だが、その姿には隙がない。
立ち振る舞いひとつで頭目と武道家の実力差と言うものが、大体分かったが、はてさて。

61: 2015/09/24(木) 17:57:45.975 ID:mcs5jj7O0.net
頭目「そっちがその気なら、私にも考えがあるわよ?来なさい」

ジャララ

ペット「ゥァ……」

頭目はペットの首輪を強引に引き寄せ、その喉元に短刀を突きつけた。
既に正気を失っているらしきペットは、特に抵抗らしい抵抗もせず呆然としている。

ぶるんと揺れる大きな胸とか、顔に似合わず意外に濃い陰毛とか、そんな事言ってる場合じゃないなこりゃ。
まあ薬のせいなんだろうが、こんな状況でもその内腿を濡らしていた。

頭目「二人とも、動けばこの子の命は無いわ」

武道家「うん?人質……?可愛いペットとか言って無かった?いくら何でも薄情過ぎるでしょうよ」

頭目「フフッ。まさか卑怯とは言うまいね」

武道家「もしかして、あの子って冒険者君か魔道士ちゃんの知り合いか何か?」

冒険者「いいや、縁も所縁も無い。真っ赤な他人さんだ」

武道家「じゃあ(人質の価値が)ないじゃん」

頭目「そうよ。アナタの行動ひとつで、アナタと何も関係の無い『その辺の誰か』が氏ぬのよ」

ああ、そーいう系ね。人質って言うより、単なる嫌がらせだな。
まあ、正直言って良い気はしないが、だからと言って……

頭目「この子だけじゃないわ。私に何かあれば、別の場所に居る部下たちが、他に飼ってる子達を皆頃しにするわ

62: 2015/09/24(木) 17:58:09.056 ID:mcs5jj7O0.net
武道家「……もう、何だかヤケクソって感じだね」

冒険者「で、人質は良いとして。その後はどうするつもりなんだ?」

それだけだと、本当に単なる嫌がらせ止まりである。俺たちに復讐するつもりなら、もう少しまともな罠とか用意しておけば良かったのに…
まあ、もしかしたらまだ本命の凄い罠とか有るかも知れないし、一応聞いておこう。

頭目「そうね、まずアナタが持っているその剣を寄越しなさい」

頭目「その剣でなら、アナタを殺せるんじゃないかしら?良く斬れそうな得物だもの」

ふーん。そう言えばそんな御伽話があったな。不氏身の剣士を殺せる武器が剣士自身が持つ剣だった、とか何とか。

頭目「アナタは自分の剣を刺されて氏ぬのよ。化物には、似合いの末路ね」

あいにく、俺は不氏身でも何でも無いのだが…
しかし…こいつは、中々好都合である。

冒険者「………」

頭目「さあ、どうするの!?」

これまでの戦闘でこの剣の斬れ味は中々の業物である事は判明しているが、掛けられた呪いの効果はまだ判明していない。
どんな呪いかは解らないが、握った感触からすると、それなりにヤバそうな雰囲気がある。

冒険者「くっ……仕方がない。やはり見ず知らずの人間に迷惑は掛けられない」

その呪いの効果を、目の前のヒステリー起こしてる優しいお姉さんが、身を以て検証してくれると言っている。

63: 2015/09/24(木) 17:58:38.833 ID:mcs5jj7O0.net
冒険者「その代わりに約束しろ。俺が大人しく剣を渡せば、その子を解放すると」

64: 2015/09/24(木) 17:58:57.098 ID:mcs5jj7O0.net
武道家「ちょっと!?冒険者君ッ」

僥倖。何と言う僥倖。

頭目「ええ、考えてあげるわ」

冒険者「仕方ないよ武道家。他人の命には変えられない」

チン

俺は剣を鞘に収め、頭目の足元へ転がした。

頭目「そうそう。そうやって素直に言う事を聞くなら…」

頭目は地に着いた剣に手を伸ばし…

頭目「私だって鬼じゃあ無いわ」

手にした剣を鞘から抜いた。

頭目「楽に頃してあげる。その首を綺麗に斬り飛ばしてねッ」

さあ、どうなる?どうなる?ワクワクは尽きないが…ダメだ。まだ笑うな

頭目「アナタの首は血抜きして、腐らない様に処理して、生前より美しい姿で一生、手元に-

頭目「!?」

そして、世にも恐ろしい変身が始まった。

65: 2015/09/24(木) 17:59:30.629 ID:mcs5jj7O0.net
頭目「グゥ……アァァゥ…イタイ…頭ガ割れる……」

左手で額を抑え、苦しみ悶える頭目。

頭目「イタイイタイイタイイタイ」

右手は血が滲む程の力を込めて、俺の剣を握り締めている。

頭目「ア…ガグ……グゥオォオ…」

悲鳴はもはや人の声とはかけ離れ……

ズズズズズズ

左手で抑えている額が徐々に隆起し…

頭目「グギャオァアアッ~~!!」

ズリュゥ

隆起した頭蓋が、肉も皮膚も突き破り、真っ赤な角と化した。
そして、その艶やかな黒髪は全て抜け落ち……

頭目「ギヒィィ………グギギ……」

もはや、人とは呼べぬ異形へと、その姿を変えてゆく。

成る程、そーいうパターンの奴か。多分、最初の頭痛は精神汚染か何かされたんだろうな~
その段階で自由の効かない右手を切り落とすなりすれば、まだ助かったかも知れないが…もう手遅れだな。お気の毒に。

66: 2015/09/24(木) 18:00:29.615 ID:mcs5jj7O0.net
頭目「ギャグギィ……ゴロジテ…ボゥ……ゴロジテ……」

身体の肉が溶け落ちて、その肉塊から蛇の様な気色の悪い生き物が産まれる。
そうして産まれた肉蛇は、身体のまだ溶けていない部分に喰らい付き、肉を食い破りながら元の肉体と融合していく。
そして、また別の場所が溶け落ちて肉蛇が産まれ、喰われて融合する。凌遅刑かな?
かな~り凄惨な光景であるが、助ける義理も余地も無いので、せめて最期まで見届けてやるか。

頭目「…………」

遂に意識を失くしたらしく、後は順調に無慈悲な肉体リフォームが施されていく。

冒険者「成る程。ハゲる呪いか。恐ろしい」

武道家「ちょ…何なの?なにこれ?どうなってんの?」

冒険者「ん~。いやぁ、せっかくだから、剣に掛けられてる呪いの検証でもしようかと思ってさ」

冒険者「持ち主の精神を乗っ取る系妖刀とか魔剣とか、結構メジャーだけど、ここまで悪趣味なのも珍しいよな~」

冒険者「あ、武道家は絶対に俺の剣に触れたらダメだぞ~。いや、それにしても酷い呪力だわ」

武道家「ヒドイのは冒険者君の方でしょ。一瞬でも感じた、君の良心への感動を返して欲しいよ」

武道家「そりゃ私もさ、あいつは楽には氏なせないつもりだったけど…限度があるでしょ」

冒険者『けっ。良心?なぁにそれ?気持ち悪ーい。あたしは、そーいう甘っちょろい偽善って奴が大嫌いなんだよねぇ』

67: 2015/09/24(木) 18:00:46.131 ID:mcs5jj7O0.net
武道家「……。似てねぇ~。てか魔道士ちゃんも、そこまでは言わないっしょ」

冒険者「ああ、そう?結構、特徴捉えたつもりだったのにな。まあ、俺も呪いの効果までは知らなかった訳だし、不可抗力って事にしておいてくれ」

冒険者「それにしても…そうか、魔道士の奴も丸くなったもんだな。俺としてはあいつのドス黒い本性も-

武道家「はいはい、惚気禁止ね。んで、アレどうすんの?そろそろ工事完了するよ?」

冒険者「ん?ああ、アレね」

もはや人であった原型を残さず、頭目はモンスターの中でもかなりグロい系グループに属しそうな異形と化していた。
産まれたばかりの怪物が欲するモノと言えば…大体、相場は決まっている。

血と肉。

頭目は手近に転がっている肉へと、その異様に肥大化した右手を伸ばした。

68: 2015/09/24(木) 18:01:16.593 ID:mcs5jj7O0.net
冒険者『追放移動呪文』

シュン

対象を、次元の彼方に吹っ飛ばす呪文。着地する先は基本的に指定出来ず、どんな酷い場所に飛ばされるか解らない恐怖の魔術である。
が、俺がいつも愛用している秘薬と併用すれば、転送先を指定する事は可能。

今回、ペットと呼ばれた女の子は、俺があらかじめマーキングをしておいたギルドの小屋へと転送された。
後はギルドの『治療師』が何とかしてくれるだろう。心身共に後遺症とか何やらで辛い人生になるとは思うが……
もう既に氏ぬより辛い目に逢ってるんだし、2度目の人生だと割り切って『どんな時でもポジティブハート』に生きて欲しいものだ。

ドズンッ……

頭目「ヴゥ?」

捕食の対象を失った右腕は、そのまま地面に大穴を開けた。
頭目の異様に肥大化した右腕。その手先に指は無く、赤黒い血管が脈打つ肉の塊に鋭利な鉤爪の様なモノが3本、大小共にデタラメな方向に伸びている。

頭目「ヴゥア」

獲物を横取りされたと思ったのか、単に次の血肉に目星を付けたのか、頭目はその首を270度ほど回転させ、こちらを振り向いた。

うーん。見れば見る程、酷い造形である。その全身は青白い肌に、血管の様な赤い線が走っている。
体長は元の3倍程に横幅は元の10倍以上に膨れ上がり、その頭部に髪は無く赤黒い捻れた角が2本額から後ろへ伸びている。
アンバランスで破壊的な造りの両腕上半身に比べて貧相な短い両脚、あと特徴的なのは、左の脇腹の肉が裂けて体内の臓器が見える。
肉の裂け目には大小歪な牙の様なモノが生えており、そこだけ見れば魔獣の顎の様に見えなくもない。
その下の口からはダラダラと涎を垂らしており、 腹減ってる感を全面にアピールしていた。
やっぱ、身体は正直なんスねぇ~

69: 2015/09/24(木) 18:01:43.571 ID:mcs5jj7O0.net
冒険者「さて、んじゃやっちゃいますか」

武道家「だよね~こんなの放ったらかしにするのも何だし、土に還しますか」

シュン

冒険者「よっと。コレで良しと。やっぱ素手だとキツそうだしな」

頭目の足元に転がっていた剣を再び手元へ引き寄せた。
これも『空間移動』の応用である。マーキングしている物体の場所へ自分の身体を転送する以外に、その物体を自分の場所へ引き寄せて転送する事も可能なのだ。
まあ、距離とか質量とかの制限は当然あるが、中々に便利な技術だと思っている。

武道家「えぇ~その剣まだ使う気なの?」

冒険者「良いじゃないか。俺が持っても、何も無いしな」

手元に戻した妖剣は、人間一人をあんな姿に変えながらその呪力は全く衰えていない感じである。
あわよくば、頭目が呪いを全部引き受けてくれて、剣の呪いを綺麗さっぱり抜いてくれるかも…と期待していたのだが。
そう、甘くは無いしらしい。どんだけ業の深い剣なのだろう?

武道家「とぅりゃッ」

その場で跳躍した武道家は空中で身を翻し、左脚で空を斬った。
生み出された一条の真空刃が頭目を襲う。

バシュ!!

直撃した真空の刃は首元から右脇腹にかけその肉を大きく切り裂いた。

頭目「グブブブ……」

70: 2015/09/24(木) 18:02:01.927 ID:mcs5jj7O0.net
普通なら割と致命傷な感じの傷だと思うが、頭目は特に苦痛に感じている様子もない。

ジュルジュルジュル

腹周りの肉が、怪しく蠢き傷口を塞ぐ。武道家の付けた大きな傷痕は瞬く間に擦り傷程度まで再生してしまった。

武道家「ゲェ~~。効いて無い上にキモイよアレ」

冒険者『回復呪文』

頭目「??」

俺の唱えた呪文の効果により、擦り傷程度の傷痕が完全に綺麗さっぱり消えた。

冒険者「……。あ、そう。そうなるのね」

武道家「ちょっと!?何やってんのさ」

冒険者「いやね、あんな感じの怪物って『回復呪文』で逆にダメージ受けたりするじゃん?」

武道家「……私はそ~いうのあんまり知らないけど、結果は?イケそうな感じなの?」

冒険者「……。大失敗。普通に回復してるな。今のところは」

武道家「なら、真面目に闘おっか」

冒険者「…はい」

71: 2015/09/24(木) 18:02:23.551 ID:mcs5jj7O0.net
クッソ。見た感じイケると思ったのに…おのれ……。
俺に魔道士並みの魔力があれば、『過剰回復呪文』を唱える事が出来れば、ヤツの超再生体質なんか関係なく問答無用で肉体崩壊に持っていけるのに…
あんな超回復系モンスターを真面目に討伐するとかかなり面倒臭いぞ。
かと言って…弱点っぽい部位も、無い。まあどっかには核となる部位があって良い筈なのだが…
普通に体内奥深くとかだと、結局面倒に変わりは無い。

冒険者「けど、具体的にどうするつもりなんだ?普通に攻めたって中々氏なないぞ、あの様子じゃ」

武道家「ん~。けど冒険者君の呪文で回復したなら、生きてはいるんでしょ?アレ」

冒険者「あぁ、そうだな」

アンデッドなら回復しない訳だし、あんな見た目でも一応は生き物らしい。

武道家「ならここは、王道の首狙いかな?『首が千切れて生きていられる生物はいない』私は、良くそう教わったね」

冒険者「首ねぇ…斬れるか?アレ」

頭目の首は、もはや肥り過ぎて肩からいきなり頭が生えてる感じなんだが…そして超太い。樹齢何万年の大木みたいになってるんだが…

武道家「おやおや、キミともあろう者がずいぶん弱気じゃないか。キミと私が力を合わせて、成し遂げられない事なんて…」

武道家「あんまり無いぜよ」

冒険者「フフ。何だソレ?まぁ良いか。他に良い案も無いしな。ソレで行くか」

武道家「おうともよ」

72: 2015/09/24(木) 18:03:11.335 ID:mcs5jj7O0.net
頭目の攻撃手段は肉弾攻撃しか無いらしく、その凶悪な右腕を叩きつけるか薙ぎはらう位しかして来ない。
よって、その攻撃範囲は腕のリーチまで。動きも巨体ゆえに鈍重で、何より闘い方に知性が感じられない。

武道家「フンッ セイッ ソゥッ ウォリャ~~」

冒険者『火炎呪文』

冒険者『秘剣・真空斬り』

よって、頭目の射程外からの攻撃ならばこちらは一方的に嬲れる。

……のだが、

ジュクジュクジュル

喉元に刻み付けた無数の傷痕は、全て瞬く間に再生されてしまっている

武道家「こりゃいくらやってもキリ無いぜぇ。多少、危険でも懐に潜り込むしかなくない?」

まあ、俺の剣も武闘家の拳も近距離で放った方が、威力は出るが……
呪文なら距離はあまり関係ないが、呪文で倒しきるには俺だけだと、やや火力が足りない。
あんまり派手な呪文を使うと洞窟が崩れて生き埋めになる。
こう良い感じの威力の呪文って習得してないんだよなぁ……
ああ、こんな時は魔道士が居てくれれば一発でカタが付くのに……

冒険者「分かった。近距離で仕留めるのは俺がヤる。武闘家はサポート宜しく」

武闘家「うぇ~?何でさ。私のが接近戦は得意だと思うよ?そりゃ、冒険者君の剣技も凄いけどさ」

冒険者「素手でアイツの身体に触れるのはイカンでしょ。ほら、アレ見てみ?」

73: 2015/09/24(木) 18:03:48.307 ID:mcs5jj7O0.net
俺たちが切り飛ばした肉の破片やら血やら体液やらが地面に落ち、そこは異臭を放ちグツグツと泡立っていた。含まれる酸の成分が強過ぎるのだろう。

冒険者「たまには格好良く決めて、イイトコ見せないとな、俺も」

武闘家「……分かったよ。で、私は何すれば良い?」

冒険者「ありがとうよ。じゃあ、武闘家はかまいたちを脚に当てて動きを止めてくれ。そこを一撃で仕留めてやる」

武闘家「あいよ。んじゃ、いっくよ~」

武闘家『烈脚空舞』

よっしゃ、今だ!!

シュン

頭目「グロロロ~~」

俺は、武闘家の技で脚を斬られ体制を崩した頭目の頭上へと飛んだ。

冒険者『秘剣・大魔人斬り』

瞬間移動斬り。結構反則臭い技だが
威力は、まさに必殺。体制を崩している頭目に避ける術も迎撃する暇も与えない。

74: 2015/09/24(木) 18:04:05.763 ID:mcs5jj7O0.net
頭目「グロギャアァア~~!!」

俺の一撃は見事、頭目の巨体を縦に引き裂いた。

やったぜ。

ズゥン…ズシィン……

二つに断ち割った肉体が崩れ落ち、そのまま動かなくなる。
さて、ここで油断して一転攻勢は嫌だし、灰になるまで『火炎呪文』で燃やし尽くすか。

カァアアア

俺が呪文を唱えようと掌をかざした次の瞬間…

ドォオオオオン

二つに裂かれた肉体が真っ赤に怒張し、大爆発を引き起こした。まさかの自爆である。

75: 2015/09/24(木) 18:04:35.458 ID:mcs5jj7O0.net
冒険者「グゥ……」

武闘家「だ、大丈夫かい?」

至近距離で自爆に巻き込まれた俺はその爆風をモロに受け、捨てられたボロ雑巾の様に地に伏せている。
何とか顔を上げたところで、こちらへ駆けて来てくれた武闘家は心配そうに俺の身体を抱き起こした。
一般的には膝枕とか呼ばれる体勢である。

あぁ~^武闘家の太腿の感触が気持ちええんじゃ~~^

冒険者「…心配ない。とっさに逃げるのが遅れて酷い目にあった」

武闘家「いや…心配ないって……あちこちボロボロだよ?」

冒険者「氏ななきゃ安い。まあ、格好付け損ねたのは残念だが」

武闘家「いんや、格好良かったぜ?名誉の負傷ってやつじゃん」

『ホントウニ。カッコウヨカッタワヨ。ワタシガニンゲンナラ惚レタカモシレナイワ』

頭目が自爆した場所。舞い上がる土煙りから、ゆらりとソレは現れた。

『ゴキゲンヨウ。ニンゲンショクン。ワガ肉体ノ再構築ハ完全ニ果サレタワ』

武闘家「なっ!?頭目……アンタまだ生きてッ!?」

76: 2015/09/24(木) 18:04:53.769 ID:mcs5jj7O0.net
光堕天使「コトナル世界デ光堕天使(アンホーリー)トヨバレルモノ」

光堕天使「モウ頭目デハナイワ。ソノ血ト肉ト魂ヲザイリョウニウマレタ、全クベツノ存在」

光堕天使「アナタタチガ殻ヲヤブッテクレタオカゲデ、コウシテ出テコレタワ。アリガトウ」

光堕天使と名乗る女性は、聞いても無いのに勝手に自己紹介を始めた。
成る程、さっきまで闘っていたモンスターはコイツの卵みたいなモノだった訳ね。
頭目の血と肉と魂とやらをグチャグチャにかき混ぜて、新しい生命体へと転生させる為の器、ってトコか。
こりゃまた、とんでも無いことになった。あ~あ、この洞窟には軽い気持ちで来ただけだと言うのに。

本人が言う様に、以前の頭目とは異なる存在だと言うのは納得出来る。
先程のモンスターに比べれば、まだ頭目の面影が無くも無いが、雰囲気と言うか、佇まいと言うか、ある種の威圧感が人間のソレでは無い。
無論、モンスターでも無い。浄、不浄は別として、コイツは信仰の対象と言うか、既存の生物の概念には、当て嵌まらない。そんな印象を受ける。

頭目をベースにより精錬された美しさ…と言うか造り物の様な美貌。
両の瞳は紅い鉱石の様な輝きを持ち瞳孔は黒く縦に割れていた。
長い黒髪は長い銀髪へと生え変わり後ろへ流れる髪の先は捻れ、硬質な角になっている。
その身体はサイズこそ元に戻っているが、美しいと言うよりは神々しいと言った感じで女神像の様な抜群のプロポーション。
そして、一番の特徴は四本ある腕。普通に肩から生える二本の腕は普通の色白い、人間女性の細腕だが…
脇から生える二本の腕は、真っ黒に透き通る硬質な腕。見た感じ、ツルツルに磨き上げた黒曜石の様な物質に見える。
ちなみに例によって衣類は身に付けて居ない。全裸である。が、全くいやらしさを感じない。
淫靡と言うよりは芸術品のソレである。

武闘家「冒険者君…ちっと、待っててクレヨン」

ザッ

武闘家は俺に小声で耳打ちをし、光堕天使と相対した。

77: 2015/09/24(木) 18:05:20.867 ID:mcs5jj7O0.net
光堕天使「アラ?ナニカワタシニゴヨウ?」

武闘家「先手必勝!!」

ビュワッ

武闘家「フライングレッグラリアート」

蹴りの風圧でかまいたちを生む、その黄金の左脚を直接、首元へ叩き込む大技。
普通の人間ならそっ首飛ばされるところだが…

ゴギィィ

鈍い嫌な音が洞窟内に響いた

武闘家「グク……硬ってぇ~~」

先程の音は、光堕天使の首の骨が折れた音……だったら良かったのだが

光堕天使「ナニノツモリカシラ?イマナニヲシタノ?アナタ」

光堕天使は全くダメージを受けた様子も無くピンピンしている。技を仕掛けた武闘家の脚の骨が逆に折れた…までは無いにしても、ヒビ位は入ったかもな…後で治してやるか。

武闘家「硬すぎでしょ。私も一撃必殺のつもりでやったのに、ちょっとショックだぜ」

光堕天使「アナタタチガタタカッテイタ頭目ハモウイナイワ。ナノニナゼタタカウノ?」

光堕天使「ワタシニハアナタタチヲアイテニスルキハナイノニ」

武闘家「るせぇ。んなもん知るもんか。次はぜってぇ仕留める」

78: 2015/09/24(木) 18:05:57.599 ID:mcs5jj7O0.net
ハァ、武闘家があんなやる気満々なんじゃ仕方ない。
それにこんなの放置して、以後どんな災禍があるか知れたもんじゃないしな。

冒険者「申し訳無いが、俺たちはアンタを見逃す気はない。産まれたばかりで恐縮だが、あるべき場所へ還れ」

光堕天使「ソウ。ソレナラ、カカル火ノ粉ハ払ワナケレバナラナイ」

光堕天使「アナタタチガドレホド矮小ナ存在デモ、加減ハ難シイワヨ?ソレデモ良イナラ-

武闘家「舐めんじゃねぇ~~!!」

猛る武闘家は全身から赤い蒸気など噴出しつつ…再度、必殺の蹴りを繰り出した。

光堕天使「アラ。イヤダワ。今度ノハ当タルト痛ソウ」

ガシッ

光堕天使は左側の二本腕で武闘家の右脚を受け止め、そのまま腕を絡めて武闘家を持ち上げている。
あの細腕二本の何処にあんな力が…身軽とは言え人間一人を難なく支える膂力がある様にはとても見えないが……

光堕天使「フウ。コワイコワイ。アナタノソノ赤イ姿…トテモ綺麗ヨ」

武闘家「今だッ!!冒険者君、このまま叩き斬れッ」

武闘家を持ち上げる光堕天使の左側脇腹は隙だらけ。武闘家が作ったこの隙を逃す手は無い。

ブンッ

79: 2015/09/24(木) 18:06:33.959 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家「アグ…」

冒険者「グヘッ…」

……。一瞬、何をされたか解らなかった。
視界が暗転し気を持ち直すのに数秒を要した。

武闘家「イタタタ……」

冒険者「グゥゥ……」

意識外から強い衝撃を受け吹っ飛ばされた。が、それは決して氏角から放たれた訳では無かったらしい。
光堕天使は俺の目の前で堂々と、武闘家の身体を武器として殴りつけたのだ。
あまりの速度に俺が反応出来なかっただけの話。

武闘家「ちょっと、君はどさくさに紛れてどこ触ってんのさ」

冒険者「……悪いな。痺れて感触がいまいち解らん」

武闘家「あそ。なら良いよ。大丈夫かい?下敷きにしちゃって、スマンね」

正直、結構効いた。先程のダメージの回復もロクに出来ていない状態でこの一撃は中々キツイ。
戦闘不能では無いが、このままだとヤバイな。何とかしないと、いずれやられる。

冒険者「お前こそ…大丈夫か?エライ速度で振り回されたが…」

冒険者「あと、その赤いオーラなんなの?……こう、密着状態だと……熱いんだが」

武闘家「君がクッションになってくれたお陰で助かったよ。……あんまり強く抱くもんだから、ちっとドキッとしたぜ」

80: 2015/09/24(木) 18:07:03.309 ID:mcs5jj7O0.net
……覚えがない。無意識でやったんだろうな、多分。

武闘家「あぁ、それとコレは私の奥の手だよ。一言で言えば『体に反動
が来ますが飛躍的にパワーアップする術』だよ」

武闘家「明日は筋肉痛確定だ。けど使わなきゃ、さっきのでお陀仏だったかもね」

冒険者「……何か、敵も『拘束具を外し』そうな術だな、ソレ」

武闘家「まぁね、バトルの基本はターン制だよね、やっぱ」

武闘家「て、訳だ。次はこっちの反撃ターンだよ。準備は良いかい?」

…そうしたいのは山々だが、身体がまだ思う様に動かない。

光堕天使「アラ、順番ナンカアッタノ?知ラナカッタワ」

ウッ……アレはマズイ。大変マズイ。

光堕天使「アナタタチノ順番ヌカシテ次ノ手ヲ準備シチャッタワ。ウマク避ケテ頂戴ネ」

光堕天使はその四本の腕にそれぞれ『火炎』『 閃熱 』『氷結 』『真空』のエネルギーを纏っていた。

光堕天使「ジャナイト氏ヌワヨ」

やられるのはいずれ、では無くなった。アレを何とかしなければ、文字通り、この世から消されてしまう。
が、今の俺にそんな余力は無い。呪文を唱えようにも痛みで集中出来ない。
……クソ、何とか武闘家だけでも……

武闘家「冒険者君、移動術で君だけでも逃げろ。私は自力で何とかするからッ」

81: 2015/09/24(木) 18:07:40.216 ID:mcs5jj7O0.net
冒険者「ムリ言うな。今の状態じゃ逃げれないし、逃げる気もない」

冒険者「あの魔術は、俺が何とかするから、お前は俺を信じてお祈りでもしとけ」

冒険者「……絶対に後ろを見るな。前だけ見とけ」

こうなったら仕方がない。武闘家を何処かに転移させるしかない。それすら、上手く出来るかは解らないがやるしかない。

武闘家「嘘つき。キミを失う位なら、私は……私は…」

冒険者「黙って言う事を聞け……確かに、避けれはしないが…防御に集中すれば、耐えれる……かも知れない。流石に無傷とはいかないが、氏なない……と、思う。多分」

武闘家「そんなんで納得出来る訳ッ

シュン

武闘家を俺の後方へと『強制転移』させた。何とか術は発動した様だ。痛みに耐えて良く頑張った。感動した。と、自分を褒めたい。

冒険者「さぁて、んな魔術…避けるまでもない。さっさと撃って来な」

ここで、俺が受け切れなきゃ武闘家に当たる。それだと、わざわざ背後に逃がした意味が無くなる。ここが踏ん張りどころである。

光堕天使「ナラバ望ミドオリニ」

4つのエネルギーが重なりスパークする事で生まれた光の矢が、俺たちに向けて放たれた

82: 2015/09/24(木) 18:08:01.928 ID:mcs5jj7O0.net
『極大消滅呪文』

バシュウウゥ

絶対絶命の瞬間。不意に右からやって来た、光の矢を打ち消す光の矢が全てを消し去った。

83: 2015/09/24(木) 18:08:33.791 ID:mcs5jj7O0.net
『魔道士推参』

格好つけてポーズなどキメながらソイツは虚空より姿を現した。

魔道士「なーんてな。お待たせッ」

遅いわ、来るのが。今回は、マジでダメかと思ったわ。

光堕天使「…ナニモノダ?」

魔道士「あたしの旦那と親友に、よくも…欠片も残さず、完璧に滅ぼしてやる」

アレはだいぶキレてるな……
勝手に人を旦那呼ばわりしてくれてるウチの邪神様が、カンカンでいらっしゃるよ。

光堕天使「ニンゲン?アナタ」

魔道士「失礼な事を言うね。あたしはれっきとした人間だよ。アンタと違って」

魔道士「化物は化物らしく、人間様に滅ぼされろ。あたしが直々に引導をくれてやるから感謝しな」

光堕天使「…マダ滅ブ訳ニハイカナイ」

武闘家「ちょい待ち。魔道士ちゃんは冒険者君の回復をしてあげてよ」

武闘家がいつの間にか、魔道士の側へ移動していた。
あの赤オーラも健在である。『空間移動』も形無しの速さだな、アレ。

魔道士「へ?そんなのコイツを滅ぼしてから、ゆっくりやれば…」

84: 2015/09/24(木) 18:08:54.711 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家「お願いだよ。すぐに治癒してあげて。その時間は私が稼ぐからさ。命に代えても」

魔道士「いや、アイツの体質だと全快するの時間掛かるよ?」

武闘家「大丈夫。今の私が氏ぬ気で時間稼ぎすれば数分は稼げる。それで氏ぬ様なら私はそこまで」

武闘家「足を引っ張ったままじゃ、もうキミらの親友じゃ居られないんだよ。」

魔道士「……分かった。冒険者の治療は任せておいて」

武闘家「ありがとう」

武闘家「つ〜訳で、まだ私が相手だッ」

そこから、武闘家の猛攻が始まった

貫手 蹴足 足刀 バックステップ 回し蹴り アッパー フック ストレート スピンキック 掌底 肘打ち 膝蹴り 飛び蹴り 正拳

武術の基本技を流れる様に連続で繰り出す。
最初の方はまだ視認出来ていたが、徐々に加速し、もはや今の武闘家は影さえ追いつかない程の超スピードとなっている。

ガンッ ガギィ ズバッ ドシャ ゴスッ

光堕天使「ウ…ハグゥ…ガ…」

武闘家が残す赤い残光が光堕天使を襲う。今の武闘家の攻撃は四本の腕でも捌ききれないらしい。
加えて、一撃一撃の破壊力も、今までに放ったどの技よりも強力なのだろう。
結果、武闘家はたった一人であの化物を圧倒していた。

85: 2015/09/24(木) 18:09:35.274 ID:mcs5jj7O0.net
冒険者「スゲェな…アレ」

魔道士「無駄なおしゃべりしない。アナタは、黙って回復されときなさい」

魔道士は、俺の身体を支え『回復魔法』を唱えている。
その掌から放たれる柔らかな光のお陰で、全身の痛みが徐々に引いて行くのが解る。

冒険者「お前は喋りながらでも呪文を唱えられるんだから、関係ないだろ?」

魔道士「………。」

すっごく不機嫌らしい。

ドガァ

光堕天使「……」

渾身のハイキックを頭部に被弾させグラつく光堕天使。

武闘家「もう一発ッ」

再び逆側のハイキックを狙うが光堕天使は、四本の腕で頭部をガードする。

ピタッ

ハイキックの体勢のまま武闘家は一瞬、動きを止める。

86: 2015/09/24(木) 18:10:09.644 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家「四本腕のガードは確かに鉄壁に見える」

ガキィ

武闘家は、ハイキックのセットアップをといて下段の黒い腕を閂に決めた。

武闘家「しかし、必ず遅れる腕がある!」

武闘家「大木腕固めーーっ!!」

ボキィ

何と……関節を逆方向に締め上げ、黒腕を力任せに強引に、捻り切った。

光堕天使「ワタシノ腕ガ…イカナル武具ニモ勝ル筈ノ…ワタシノ腕ガ」

自身の千切れた腕を凝視し、茫然自失とする光堕天使。その一瞬の隙を武闘家は逃さなかった。

ガゴォン

武闘家は手にした黒腕を思い切りスイングし、光堕天使の右頰に打ち付けた。
自身の腕に裏拳を入れられる格好になった光堕天使はその衝撃で吹っ飛び、盛大に砂煙を舞い上がる。

武闘家「ゼェ……ヒュ〜……へへやられた屈辱は必ず返すのが……私の流儀だ」

魔道士「そろそろ…マズイね」

冒険者「何が?」

魔道士「見て解らないの?ちゃんと目を開けて武闘家ちゃんの事、見てる?」

87: 2015/09/24(木) 18:10:38.124 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家の拳と足は、赤く染まっていた。返り血などでは無い。武闘家自身の血である。
繰り出す技の破壊力と速度に肉体が耐えられないのだ……

冒険者「見りゃ解るよ……」

先程、武闘家は『身体に反動が来るが飛躍的にパワーアップする術』と言っていた。
なら、ソレを遥かに上回る今の状態は、文字通り生命を削って無理矢理身体を動かしているのだろう。

魔道士「……解ってないよ、アナタは。今、武闘家ちゃんがどんな気持ちで闘ってるか」

魔道士「違う。本当は解ってる…だけど、気付かないフリをしてるだけでしょ?」

冒険者「何の事だ?」

魔道士「あたしを理由にして逃げるなッ!!臆病者。卑怯者。ちゃんと向き合えッ、男でしょ?」

冒険者「……。全快させなくて良いから…あと少しで動ける。そしたら武闘家を回収して退避しろ」

魔道士「はぁ?」

冒険者「武闘家が今、何の為に闘ってるのかなんて知った事じゃない。武闘家の気持ちなんぞ、さっぱり解らん」

冒険者「だいたい、一方的で押し付けがましいんだよ。アイツが今、独りで闘ってるのは……つまり、そういう事だ」

冒険者「俺は、相手の為に、余計な重荷を背負う関係なんて望んじゃいない。お互い対等な関係が望みだ」

魔道士「…よく言うよ。アナタだって武闘家ちゃんに対して、どこか遠慮気味だったじゃん」

冒険者「うるさい。俺はもう遠慮しねぇ。やりたい様にやる。誰にも文句は言わせない」

88: 2015/09/24(木) 18:11:11.602 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「うわ、図星突かれて開き直りやがったよ」

冒険者「なんとでも言え」

魔道士「へいへい。分かりましたよー。どんなヘタレでも、横暴でも、エゴイストでも、優柔不断でも、女誑しでも、浮気者でも、あたしはアナタを愛してるから安心しな」

魔道士「んで、『あの術』使うつもりなの?」

冒険者「さすが。察しが良いな」

魔道士「んじゃ、はいコレ。要るでしょ?拾っといてあげたよ」

冒険者「ありがとよ。知ってると思うが、術を発動させた後は制御するのに精一杯だ」

冒険者「そっちに気は回せないからな。上手く逃げてくれよ?」

魔道士「はいはい。巻き込まれたらマジ笑えないし、とっとと逃げますよーっと」

シュン

魔道士が姿を消した。俺には見えないが、武闘家のトコへ飛んだのだろう。

俺は術の発動の為にまず、目を閉じた

『神滅斬』

構えた剣に輪郭の無い揺蕩う闇を集め、凝縮し、刃の形に圧し留める。
たった、それだけで全ての魔力と生命を剣に吸われる。この状態で素振りでもした日にはものの5分程で力尽きる事、請け合いである。

90: 2015/09/24(木) 18:11:51.609 ID:mcs5jj7O0.net
さて、後はこのまま光堕天使にぶち当てるだけだ。俺はゆっくりと目を開き、光堕天使を見据える。

目と目が合った。

光堕天使は、武闘家も魔道士も見て居なかった。俺と闇を、その紅い瞳で注視している様である。
己を滅ぼし得る存在だと、認識を改めたのだろう。その表情には先程までの見下した様な余裕は無かった。

光堕天使『神魔融合呪文-黒呪破・光縛輪-』

残る三本の腕から発光する白の奔流が帯となり、光堕天使の身体を包みこんだ。
何だか凄そうな防御呪文っぽいが、そんな事は問題じゃない、俺が生み出した虚無の刃は全てを叩き斬る。

問題があるとすれば…制御に失敗した場合……
多分、この術の制御に失敗すれば、冗談抜きで世界を無に還す事になると、思う。

だが、そんな事もどうでも良い。

俺は、俺の愛する魔道士と俺を愛する武闘家が居れば、それで良い。二人が居れば他は要らない。

虚無の刃は、手応えも感触も音も無く

……ウ…

斬られたモノを無に還す。

…………

91: 2015/09/24(木) 18:12:03.192 ID:mcs5jj7O0.net
その後、どうなったかは解らない。

光堕天使を裂いた後、俺は意識を失った。
どうやら、思っていたより消耗が激しかった様である。

93: 2015/09/24(木) 18:12:35.156 ID:mcs5jj7O0.net
気が付いた時にはベッドの上に横たわっていた。

冒険者「ウッ……」

武闘家「オッス、お疲れ。一人で起き上がれそうかい?」

冒険者「あぁ…多少、眼と頭が痛いが……何とか」

ここは……見覚えがある。ギルドの治療部屋だな。
魔道士が運んでくれたのだろう。武闘家はボロボロだったしな。
でなければ、隣のベッドで寝てる筈も無い。

武闘家「よっと…イチチチ……」

やや、苦しそうに寝返りをうち、こちらに顔を向けた。
身体のあちこちに包帯を巻き、俺よりはるかに重症っぽいが…

冒険者「お前こそ、大丈夫なのか?」

武闘家「ん~?傷自体は、ぜ~んぜん大丈夫だよ。また、魔道士ちゃんが綺麗に治してくれたぜ」

武闘家「だけど、術の反動だけは、魔道士ちゃんの呪文でもなんともしようが無いのさ。筋肉痛って、言うなれば『成長』だかんね」

冒険者「ああ、そう。後遺症とか…大丈夫か?だいぶ、身体に負担掛けてたみたいだけど」

武闘家「多分、大丈夫かな?今回は発動時間も短めだったしね。2~3日は動けないけど、ちゃんと休めば」

冒険者「なら良かった。身体はもっと大事にしろよ?一つしか無いんだから。お前は無茶し過ぎだ」

94: 2015/09/24(木) 18:13:08.108 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「ナハハ。魔道士ちゃんにもおんなじ事言われたよ~この似た者夫婦め」

冒険者「『もう勘弁してよねー怪我なら何とでもなるけど、氏なれちゃったらあたしの呪文でも取り返しが付かないんだから』ってか?」

武闘家「やっぱ、モノマネは下手だねキミは」

武闘家『武闘家ちゃんが氏んでも肉体を再生してから、武闘家ちゃんの魂を冥界とかから引っ張ってくるからねー。生贄は100人位居れば余裕だから安心だよー』

武闘家「が、正解だよ。私が氏んでも氏なさないってさ。こんな脅迫されたら、もうおいそれとは氏ねないよね~」

と、武闘家は嬉しそうに語る。

冒険者「フフ…ハハハハハ。そうかそうか、魔道士のヤツそんな事を」

武闘家「いきなり大声出してどうしたのさ?私のモノマネ芸、そんなツボった?」

冒険者「今、分かったよ武闘家。お前、俺と似てるんだ」

武闘家「へ?何の話?」

冒険者「俺も、魔道士に同じ事を言われたよ。アイツからは、そう見えるんだな…」

冒険者「なあ、武闘家。俺の愛人になれ」

武闘家「良いぜ」

冒険者「ん?いやいや、そこは二つ返事で了承すんなよッ。もっと深堀りして。ホラホラホラホラ」

武闘家「んだよ~魔道士ちゃんが嫁なんだから私は愛人だろ?合ってるじゃんか。それ以上、他に何があるのさ?」

95: 2015/09/24(木) 18:13:28.542 ID:mcs5jj7O0.net
冒険者「いや、そうだけど…俺はもっとお前に伝えたい事あるし、お前も俺に聞きたい事とかねぇの?」

武闘家「……なら、何で私を恋人にしてくれる気になったの?正直、魔道士ちゃん以外は考えてない感じだったじゃん」

冒険者「そうそう、そう言う話をしようと思ってたんだよ」

冒険者「お前の言う通り、俺は魔道士以外はどうなっても良いと思ってた。アイツが幸せならそれで全て良い」

冒険者「魔道士を愛して愛して、愛し抜く。その他のモノは、その愛を貫く為の道具だ。それは、仲間の命や自分自身だって例外じゃ無い」

武闘家「ひでぇ……めちゃ歪んでますやん」

冒険者「の、筈だった。だけど、あの時……絶対絶命の場面で、俺が守りたかったのは武闘家だった」

冒険者「俺が居なくなれば、魔道士は哀しむに決まってるのに……例え『親友』が居ても、また独りになるかも知れないのに……」

冒険者「それでも、俺は…お前を見捨てる事なんて出来なかった。それが理由だ」

冒険者「まぁ、結局はその魔道士に救われたんだけどな……」

冒険者「だから、もう自分の命を粗末に考えるな。大体、お前は足なんか引っ張って無かったよ」

冒険者「お前が氏んだら、この地上を消滅させて、冥界との境界線を曖昧にしてやるから、そのつもりで」

武闘家「ククク……アハハハハ。なるほど確かに似た者同士、こりゃビックリだ」

武闘家「ねぇ、聞いてくれるかい?私の話を」

96: 2015/09/24(木) 18:14:06.074 ID:mcs5jj7O0.net
冒険者「勿論」

武闘家「私にとってキミは…白馬の王子様だったんだよ。私の檻を壊して自由を与えてくれた人」

武闘家「だけどね、私はお姫様なんてガラじゃ無いし、もうお姫様居たし、ど~すっかな~私もな~。って感じでモヤモヤしてたんだ」

武闘家「って、トコまではキミにも魔道士ちゃんにもお見通しだったと思うんだけど…実はそうじゃなくってさ」

冒険者「え?違うの?」

武闘家「うん。違う。私自身、良く解らないんだよね。あと、なんか癪だった」

冒険者「癪?」

武闘家「確かに、冒険者君は命の恩人だ。けどね、魔道士ちゃんだって同じだよね?二人で一緒に助けてくれたんだから」

武闘家「私にとって、キミと魔道士ちゃんの違いなんて、性別しか無かった。同じ条件なのに、好きになったのは、男のキミだってのが癪でさ」

武闘家「キミから魔道士ちゃんを奪い取り、禁断の愛を育む選択肢だってある筈なのに……」

冒険者「いや、その選択肢は少数派だろ……常識的に考えて」

武闘家「私はさ、小さな頃から自分の身体が…女の身体が嫌だった。膨らんだ胸は重いし、筋肉は付き辛いし、男の身体で生まれたかった」

武闘家「それで、結局は男の人を好きになる自分を認めたく無かった。それに、恋愛の経験なんかある訳無いでしょ?だから、この気持ちが恋なのかどうかも解らなかった」

武闘家「だから、君らと一緒に旅をして本当に自分の気持ちが解ったなら、その時こそキミに告白をしようと思った。そんな、甘っちょろい事を考えて居たんだね」

武闘家「けど、あの時…キミが氏んじゃうかも知れないって状況で…でも私には、どうする事も出来ないって場面で……」

97: 2015/09/24(木) 18:14:38.752 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家「後悔した。下らない意地張って無いでさっさとキミに想いを告げておけば良かった。このままキミを失う位ならいっそ……とか思ったんだね、あの時は」

武闘家「で、魔道士ちゃんに助けて貰って二人とも命拾いしたは良いけど…キミはボロボロだし、このまま魔道士ちゃんに敵を倒して貰ってそれで終わりで良いのか?って」

武闘家「良く無いよね。なら私が自分の力で闘って、あの敵を倒せたなら、その時は……」

武闘家「この気持ちが愛じゃ無いなら何が愛か解らない程…って言う気だったんだな」

冒険者「……お前、それで氏んだらどうする気だったんだ?」

冒険者「確かに、あの時のお前は強かったよ。けど、相手が悪過ぎだった。あのまま闘ってたら確実に氏んでたぞ」

武闘家「そうなったら、そうなったで、魔道士ちゃんと回復したキミの二人ならどうにでもなったでしょ」

冒険者「お前はどうなるんだよ?」

武闘家「拳法家はさ…愛の為なら氏んでも良いんだ。私の事は気にすんな……って、それで怒ってたんだろ?魔道士ちゃんから聞いた」

武闘家「だからね、もしまたあんな事があったらキミが助けてくれ給えよ。私もキミも、二人ともが助かる方法を考える。そうじゃなきゃ……先に氏んでやる」

武闘家「私の恋人なんだ。その位は軽くやって貰わないとね」

面倒な奴。多分、プライドの高さならお互い負けない。魔道士も入れたら三人か……でも、俺たち三人ならきっと…

冒険者「……フフ、そうだな。お前の言う通りだ。すまなかった。約束するよ」

武闘家「…恋人…なんだ…よね?」

冒険者「ん?」

98: 2015/09/24(木) 18:14:55.413 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家「私と…キミが…」

冒険者「あぁ、そうだな」

武闘家「うわぁアァァァ~~~~恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしいYO~」

武闘家「冷静になったら急に恥ずかしくなって来た。アァァ、ダメだ。キミの顔が眩し過ぎて直視出来ない」

武闘家「愛のレーザービームだよコレぇ。こんなんじゃ、キミと恋人らしい事なんかした日には失明しちゃうよ~~」

冒険者「……。いや、今のお前の発言が既にかなり恥ずかしいから気にするなよ」

武闘家「ダメダメッ。今日はもう無理無理!!私もう寝るからッ。そんじゃッ。また明日ね」

ガバッ

武闘家は毛布を頭まで被り、背を向けてしまった。
ふぅ、なんとも武闘家らしいリアクションだが…まあ良いや。

冒険者「分かったよ。それじゃ、また明日な。起こしに来てやるから」

武闘家「……。待ってるよ。おやすみ」

冒険者「ああ、おやすみ」

そうして、俺は武闘家を残して部屋を出た。

99: 2015/09/24(木) 18:15:25.667 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「よっ」

部屋の外で魔道士が待っていた。
壁に背を預け、腕を組み、アンニュイな表情で立っている。

魔道士「中々、良い感じの雰囲気だったね」

冒険者「ああ、良い感じの雰囲気だったぞ」

魔道士「けっ。ちょっとは、隠そうとは思わないのかな?この浮気者めー」

口の端を片方だけ吊り上げ、綺麗な三日月を作りながら魔道士は言う。

冒険者「セリフと表情が合ってないぞ。嬉しそうにしやがって」

魔道士「フフ、まぁね。で、どこまでいったの?キスとか…した?」

冒険者「いいや。お互いに超消耗してたからな。恋人らしい事は、しばらくお預けだ」

魔道士「ふーん。あっそ。なら、あたしと……する?」

冒険者「だから、俺も疲れてるんだってば」

魔道士「フン。そんな事言うんだ?いいもん、いいもん」

冒険者「…。拗ねるなよ。今は、コレで勘弁してくれ」

俺は、魔道士の背に手を回し、その身体を優しく抱き締めた。

100: 2015/09/24(木) 18:15:52.461 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「…ん」

シュン

そして、そのまま空間を割り宙へと脱出た。場所は建物の屋上。辺りは陽が落ちすっかり暗くなっていた。

冒険者「今は、お前と話がしたい。二人きりで」

魔道士の身体から手を離し、その深海の様な瞳を真っ直ぐに覗きこむ。

魔道士「…50点」

冒険者「うん?」

魔道士「ダメ出しポイントが3つ」

冒険者「なんだよ?」

魔道士「その1。こーいう時はお姫様抱っこで運びなさい。肩に手を置くだけとかは論外として、普通に抱き寄せるだけなのもダメ」

魔道士「その2。夜空を見ながら二人きりで…ってシチュエーションはまぁ良いとして……曇ってんじゃんッ星座見えないじゃんッダメダメじゃんッ」

魔道士「その3。それが出来ないのなら、今ここでキスをして」

いやいや…曇ってるのは俺のせいじゃなくね?
『天候呪文』使えってか?雷雲とかなら操作出来ない事も無いけど、晴らすのはやった事ないぞ?
それか、宇宙に向かって、何か適当な大技撃つか?要は雲を全部消し飛ばせば良いんだろ?
それとも『流星轟落呪文』かな?ロマンティックな演出をすれば良いのかな?

あーもう面倒臭い。

101: 2015/09/24(木) 18:16:34.750 ID:mcs5jj7O0.net
俺は手取り早く、その3を選んだ。

………………

冒険者「で、聞きたい事があるんだが、良いかな?」

唇を重ねた後は、二人で腰を下ろしてお互いに身体を預け合っていた。

魔道士「なぁに?」

冒険者「あの後って、結局どうなったの?」

魔道士「ん~?」

冒険者「いや、さっき武闘家に聞けば良かったんだけど…そんな空気じゃなかったからさ。やっぱ、気になるし」

魔道士「そうだねー。……って、おい。今はあたしと良い雰囲気作ってたじゃん?甘いムードだったじゃん?ちょっとはあたしにも気を使ってよッ!!」

冒険者「ハハハ、悪い悪い。けど、今更お前に気なんか使っても……」

冒険者「いや……もう、そういうのは良くないな」

冒険者「魔道士。俺はお前を愛している。心から、愛してる」

魔道士「ふぇ!?いきなり、何よ」

冒険者「お前は、俺が素っ気ない態度を取るのに、何かややこしい理由があると邪推している様だが…」

冒険者「別にそんなモノは無い。単に、気恥ずかしかっただけだ」

102: 2015/09/24(木) 18:17:03.803 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「えぇ~~何それ~」

冒険者「俺は、お前が思ってるよりも、はるかにお前の事が好きだし、お前が居なきゃ生きていけないし、だいぶお前に依存していると思う」

冒険者「そんな事、いちいち言わなくても解るだろ?とか、思ってたけど、もう言う。だってお前解ってないし」

冒険者「何よりお前が好きなんだ。前に何か言われた様な気がするけどさ…怖いんだよ。お前に愛想尽かされて捨てられたらどうしよう?とかお前に飽きられたりしたら…嫌われたら?逃げられたら?とか…」

冒険者「俺はお前を失うのが何より怖い」

冒険者「武闘家への愛とか…そんなものは別の話だ。優劣も上下も関係無い。お前は永遠に俺の嫁だ。覚悟すると良い。例え、生まれ変わっても俺からは逃げられない」

魔道士「……とっくに知ってるよ、そんな事は……だけど、そうして口に出して言って貰うのは格別だ」

魔道士「女の子はね、デザートが必要なの。とびきり甘いデザートが」

魔道士「素っ気ないのは、アナタの性分なんだから、別にソレで良いんだよ。たまーに甘いデザート出してくれたら…それで良いよ」

冒険者「あぁ」

魔道士「そしたら、ずっと側に居てあげる。この身体とこの魂で」

魔道士「だからね…もう少し、このままで居させて。それで、少ししたら何か食べに行こう?お腹空いた。一緒にご飯食べながら、気になる事は全部教えてあげるよ」

俺は、肩の辺りにある魔道士の頭に手を置いて…そのまま優しく引き寄せた。

103: 2015/09/24(木) 18:17:30.105 ID:mcs5jj7O0.net
-後日-

仲介人「御苦労だったね。たった3人で、あの高難度依頼を全て片付けてしまうとは…流石じゃの」

数日間の休養を経て、傷も癒えた俺たちは仲介人の元へ依頼完了の報告へ来ていた。

冒険者「そうでも無いですよ。今回は大変でした。特に、最後の野盗討伐なんかは」

冷静に考えてみれば、なんて事のない依頼を俺の興味本位で超ヤバイ依頼に変えてしまっただけなのだが…それでも、一応聞いてみた。

冒険者「この前に頂いた剣ですが…コレどういう代物なんですかね?」

仲介人「んん?その剣は確か、魂砕きの剣…の贋作だったかね」

『魂砕きの剣』

斬りつけた対象の精神のみを斬り裂く伝説の魔剣。肉体は一切傷付けずに精神を破壊する為、実在するなら世の暗殺稼業が捗る事だろう。

冒険者「そうなんですか?この剣で斬られた奴は普通に血を流してましたよ?と言うか、むしろ普通の剣より斬れ味鋭めでしたが」

仲介人「贋作だからね。その剣が破壊するのは柄を握った人間の精神なんだよ。アンタの様な例外はともかく、常人が持てば廃人確定じゃの」

仲介人「まあ、そんなだから失敗作のおマヌケアイテムとして、倉庫に安置されてたんだろうね」

冒険者「だ、そうだぞ?お前あの時、普通に柄握って無かったか?」

俺が剣をどっかに落とした時に、普通に手渡しされた様な……
まあ、あの時は『あの術』の媒体になってくれたから、かなり助かったが。

104: 2015/09/24(木) 18:17:49.169 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士『そんなヤワな剣ではこの魂に傷一つ付ける事は出来ぬわ!!』

冒険者「なんなの?君たちの間では流行ってるの?モノマネが友情の証だとでも言いたいの?バカなの?」

俺と違って、互いに結構似ているのが一層腹立たしい。

武闘家「へぇ~ならあの野盗の頭目が、すっげぇ化物にメガ進化しちゃったのは…何でなんだろうね?」

武闘家「私は、てっきりそういう呪いかとばかり」

あ、コラ。余計な事を言うでない。

仲介人「ほぅ。興味深い話だね。ちょっと詳しく聞かせておくれ」

眼をスゥっと細める仲介人。

あーあ、やっぱり食い付いたよ。面倒くさいな~もう。

冒険者「握った者の精神を破壊するって話は本当でしたよ。試しに野盗の頭目に握らせてみたんですが…」

冒険者「確かに酷い精神汚染を浴びていた様でした…だけど、問題はその後。頭目の肉体は異形のモンスターへ変異しました」

仲介人「ほぉ、モンスターにかい?それは、どんな?」

冒険者「見た事の無い種でした。あえて言うなら、書物で見た『古代アンデッド』の特徴に幾つか共通点がありましたね」

武闘家「……。」

105: 2015/09/24(木) 18:18:12.273 ID:mcs5jj7O0.net
勿論、光堕天使の事は言わないでおく。とりあえず、脅威は去ったのだしイタズラに不安を煽る事はしなくて良いだろう。

武闘家「そそ、ゾンビみたいな奴だったよね。冒険者君が、ちゃんと仕留めたから、多分大丈夫です」

仲介人「そうかい。けど、その剣にそんな効力は無い筈だし……」

仲介人「原因がハッキリしないのは困りモノだね。よし、この件は機密扱いで『調査隊』に報告しておくから、他言無用で頼むよ」

冒険者「はい。解りました。宜しくお願いします」

仲介人「報告は以上で完了だね?なら報酬の受け渡しをするかの」

そう言って、仲介人はパンパンに膨らんだ皮袋を魔道士に手渡した。

魔道士「わーい。ありがとう、おばさま」

仲介人「合計で、金貨500枚程はあるからね。これなら、そこそこ良いモノが買えるんじゃないかい?」

大体、50,000G位か。伝説の……とかは無論、無理だが上級レベルの剣でもモノによっては何とか…
まあ、それも売ってくれる人が居て成り立つ話なので、しばらくは競売所のカタログでも物色するかな。

仲介人「で、肝心の剣を売ってくれそうな人物なんだけど」

仲介人「金銭で譲ってくれそうな人は見つからなかったよ」

まあ、そりゃ仲介人の人脈を以ってしても、そう簡単には見つからないよな。

106: 2015/09/24(木) 18:18:31.616 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「金銭では?なーんか気になる言い回しだなぁー」

仲介人「お、鋭いね。流石は魔道士ちゃんだ」

魔道士「金銭以外の条件なら、譲っても良いって話?」

仲介人「その通りだよ。向こうからギルドに依頼があってね。報酬が家宝の剣って訳さ」

冒険者「ふーん。随分、都合の良いタイミングですね、俺たちにとっては。依頼主はどこのどなたです?」

仲介人「本来なら依頼を受ける者にしか、依頼主の身元は明かさないんだけどねぇ…けどまあ、アンタらなら良いだろ」

仲介人「領主様だよ。ここから東の商業なんかで賑わってる街あたり一帯を治めていらっしゃる」

領主様直々の依頼ねぇ……あんまり良い予感はしないな。

武闘家「依頼の内容とかは受けるまで秘密…ですよね?やっぱり」

仲介人「だね」

魔道士「んじゃー受けるよ。その依頼」

仲介人「ギルドとしては、ありがたいが…良いのかい?いつも即決してくれてるけど」

冒険者「魔道士がそう決めたなら、俺に異論は無いですよ」

武闘家「私も(異論は)ないです」

107: 2015/09/24(木) 18:18:51.473 ID:mcs5jj7O0.net
仲介人「そうかい。なら依頼内容を話そう。まあ、アンタらなら大概の厄介事は自力で何とかするだろう」

仲介人「依頼内容は、平たく言えば近辺警護だね。『盗賊』の名は知ってるかい?」

魔道士「知ってる」

冒険者「まあ、一応」

武闘家「アイドンノウ」

魔道士「王都周辺を荒らし回ってるコソ泥、だよね?確か」

冒険者「あれ?義賊じゃなかったっけ?不当に貧しい弱き民の味方、的な話をどこかで聞いたような気がする」

魔道士「そうなの?けど、どっちにしても一緒じゃん?捕まれば打ち首でしょ?」

冒険者「まあ、そうだな」

仲介人「コレコレ、あたしの話を聞きなさいよ。で、その件のコソ泥が王都から少し距離のある商業街の領主へ予告状を出したそうじゃ」

武闘家「予告状…随分と律儀と言うか、古風だね~」

仲介人「まあ、奴は毎回盗みの前に必ず予告状を出しとるしの。何のメリットがあるのかは解らんが」

武闘家「ん~、その予告状って手元にあったりします?」

仲介人「原本は無いが…写しで良ければあるよ」

武闘家「ちょっと、見せていただいてもよかですか?」

108: 2015/09/24(木) 18:19:13.542 ID:mcs5jj7O0.net
仲介人「ええと、あったあった。これじゃな」

武闘家は仲介人から受け取った羊皮紙を目を凝らして眺めている。
元々、丸い大きな瞳をさらに丸くして…その様子は結構、可愛らしい。

武闘家「コレ書いた人は、16歳か17歳の男性。身長は173㎝くらい、体型は標準よりやや引き締まった感じかな?後、右利きだね」

仲介人「ほぅ……何故そう思う?」

武闘家「私は、筆跡から何とな~く書いた人の情報と言うか…特徴みたいなモノが解るんです」

武闘家「家業の関係で習得した、まあ武術とは関係無い技なんですけどね~」

魔道士「武闘家ちゃんスゴーイ。けど模写したモノなら、それは書き写しした人の情報なんじゃ…」

仲介人「模写については、人の手ではやっとらん。鏡を用いた術で行っておる」

魔道士「なーんだ。なら、その情報は本当に盗賊捕縛の手掛かりになるかもねー。スゴイスゴイ」

仲介人「あたしは別に捕縛の依頼とは言っとらんよ」

魔道士「え?違うの?あたしはてっきり、世の中を嘗めてるコソ泥を捕まえて、ありとあらゆる恐怖と絶望を噛み締めて貰えって密命だとばかり」

仲介人「捕縛では無く、警護だよ。狙われとるモノを盗賊から守ってくれ、と聞いておる」

魔道士「狙われてるモノってなんなの?」

仲介人「それは、現地で直接説明されるそうじゃ。家宝の女神像とか何とか言っておったと思うが」

109: 2015/09/24(木) 18:19:31.898 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「ふーん。専守防衛って苦手なんだけどなぁー」

冒険者「それはそうと、報酬が魔力剣と言う事は、依頼を成功させれば無償で戴けるんですかね?売ってくれるとかでは無くて」

仲介人「そうじゃの」

冒険者「なら、稼いだ意味あんまり無かったですね」

仲介人「まあ、その金は有意義に使えば良いだろう。例えば、今回頑張ってくれた娘達に指輪の一つでも贈ってやるとか」

……。指輪ねぇ。指輪…うーん、指輪か…

仲介人「アンタの給料3ヶ月分をニ人にだから、そこそこ値は張るじゃろう」

ああ、やっぱりそう言う意味のヤツか。って何で、二人分必要になった事バレてんの!?

仲介人「まあ、その辺はアンタらで良く話し合って決めな。では、次回も貴殿らの無事と成功を祈っておるよ」

110: 2015/09/24(木) 18:19:59.862 ID:mcs5jj7O0.net
そうして、俺たちはそのままギルドが用意してくれた馬車に乗って『東の街』へと向かっている。

馬車での移動は楽ではあるが、割と暇で談笑位しかする事がない。

武闘家「でさ、あの賭けって結局どうなったの?最後、あんな事になって有耶無耶になってたけど」

魔道士「ああ、アレかー。あたしは多分、最下位だよ。別行動中は色々あって、お掃除あんまりやって無いんだよねー実は」

ああ、そう言えば魔道士が合流するまでの間、何してたのか聞くの忘れてたな。
まあ、それは今度また聞くとして。

冒険者「なら、武闘家の勝ちだな。俺より処理数多かったし」

魔道士「そうなんだー。あー残念だなぁ、すっごく素敵な命令を考えておいたのになぁ」

武闘家「あの~参考までに…魔道士ちゃんはどんな事考えてたの?」

魔道士「3P」

武闘家「うぇ!?」

魔道士「もー武闘家ちゃんたらカマトトぶっちゃってさぁー。あたしと武闘家ちゃんと冒険者と三人で一夜を共に過ごすんだよ」

武闘家は耳まで真っ赤である。

武闘家「ま、まさか…私と魔道士ちゃんのドッキングなんて…物理的に可能なのか…そんな事が……!!」

台詞はいつもの調子だが、いつになく乙女な反応を見せる武闘家。

111: 2015/09/24(木) 18:20:18.750 ID:mcs5jj7O0.net
魔道士「あれ?武闘家ちゃんて、もっと何て言うか…サバサバした感じじゃ無かったっけ?」

魔道士「もしかして、まだ冒険者とヤって無いの?」

武闘家「……うん」

魔道士「キスは?」

武闘家「…まだ」

魔道士「はぁ?ちょっとぉぉぉーーどう言う事なの?冒険者、アナタ達マジで言ってる訳?今まで何してたの?」

冒険者「何って…別に普通だけど何か問題でも?」

魔道士「あるわぁーーい。問題だらけじゃい。あたしもちょっとは遠慮して、ここ数日はアナタと寝て無いんだから、その間にヤる事ヤるでしょ普通」
武闘家「うぅ……」

冒険者「武闘家は清純派なんだよ。お前と違って」

魔道士「いやいや、ちょっと前まではあたしにセクハラしたりしてたじゃん!?あの頃の武闘家ちゃんは、何処に行っちゃったの?」

武闘家「いや、だってさ…」

魔道士「言い訳無用。『不健全』なお願いするって言ってたよね?さあ今こそ、武闘家ちゃんの欲望を白日の元に曝け出してごらん?あたしも冒険者もソレを受け止めてあげるから」

魔道士「あと、あたしも『清純派』だから。この長い人生で、実際に身体を許したのはアナタだけだから。勘違いしない様に」

武闘家「勘弁してよ~私だって実際自分がいざ恋に落ちたら、こんなだって知らなかったんだよ~二人きりの時なんて目が合うだけで恥ずかしいんだよ~許してヒヤシンス~」

113: 2015/09/24(木) 18:20:47.022 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家「あ、そうだ。最後のボスは冒険者君がトドメ刺したじゃん?アレは得点10ポイント分はあったでしょ。優勝は冒険者君って事で一つ」

魔道士「この女誑しは、最後の大事な瞬間に気を抜いて討ち漏らしたからNG」

あーあ、言っちゃったよコイツ。言っても心配かけるだけだから黙っておいたのに。

武闘家「そうなの?最後、真っ二つに斬り裂いてたじゃん?」

魔道士「光堕天使は完全に滅びきる前に、影を囮にして逃げてたよ。トカゲの尻尾切りみたいにね」

武闘家「え~じゃあ、今もどっかでピンピンしてるって事?それはマズイんじゃ……」

武闘家「あ、だから冒険者君、仲介人さんに報告する時に、この事を伏せたんだね?」

魔道士「いや、ピンピンはしてないんじゃないかな?武闘家ちゃんが与えたダメージも相当だったし、冒険者の『あの術』で受けたダメージはちょっとやそっとじゃ治らない」

魔道士「かなり力を削ぎはしたけど滅ぼしてはいないから、いずれまた時を置けば復活するかもねー」

まあ、復活したら復活したで、その時にまた考えれば良い。あんなの人間の力でどうこう出来る訳も無い。
今の段階でギルドに報告したところで、何がどうなるでも無い。最悪、虚偽申告を疑われる可能性もあるし良い事なんて何も無い。

冒険者「まあ、そう言う事だからアレはノーカンだ。じゃあ、優勝様のお願いをどうぞ」

武闘家「うぇ……じゃ、じゃあ次、一緒に寝る時は、私に…目隠し付けて……その…シてくれる?」

魔道士「目隠しプレイ…そう言うのも有りか」

武闘家「うぅ…だって目隠しでもしないと…そ~いう時にどんな顔したら良いか分からないんだよぅ」

114: 2015/09/24(木) 18:21:12.330 ID:mcs5jj7O0.net
武闘家「痛いのは慣れっこだけど、やっぱり初めては優しくシてね?出来れば灯も消して……やっぱり恥ずかしいし…」

武闘家「あと、魔道士ちゃんには悪いけど、初めてはやっぱり二人きりで……魔道士ちゃんとのドッキングも…興味はある」

武闘家「あるんだけど…それはもっと私が経験積んでから、お願いしたいっていうか…いずれは、そ~いうのも楽しみたいけど、まだ心の準備が……」

魔道士「ヘイヘイ。わかりましたよ~
っと」

冒険者「俺も承知した。と、言った方が良いのか?別に、急いだり焦ったりする必要は無いんだぞ?俺はお前を傷付ける様な事はしたくない」

武闘家「違うんだよ…私も女だからさ、そう言う興味はやっぱりあるんだ。キミと一つになりたい。合体、正体不明のショウタイムしてみたいんだよ」

武闘家「でも、やっぱり恥ずかしいから、キミの方から私の全てを奪って欲しいんだ」

冒険者「なら、承知した。今夜は覚悟しておけ」

魔道士「あぁーあっついなァー熱い熱い。じゃあ、明日の朝は完走した感想聞かせてねー」

武闘家「ちょ……もう何なんだよ~キミらだって散々、人前でイチャついてたじゃんか~お二人だってアツアツじゃんか~おあいこだろ~?」

魔道士「フフフフフ。武闘家ちゃん、かーわいいんだからー」

揶揄う魔道士に恥じらう武闘家。ついこの間までは、逆だった気がするが、これは良い変化なのだろうか?

見ていて楽しい。俺はこの光景を守る為なら……例えもう一度、神の眷属に喧嘩を売る事になろうとも、少しも躊躇いは無い。

俺を愛する魔道士と俺の愛する武闘家が、ずっと一緒に居てくれれば、二人が居れば他にはもう、何も要らない。

115: 2015/09/24(木) 18:21:42.558 ID:mcs5jj7O0.net
おしまい。

117: 2015/09/24(木) 18:27:12.933 ID:CriekUOi0.net
読みにくい

引用元: 冒険者「俺の周りにはクズと役立たずしか居ない」2