40: 2012/07/17(火) 00:51:58.76 ID:G3gZAlF5o



前話はこちら



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

伊織(少し前から…)

ゴゴゴゴゴゴ

伊織(事務所の雰囲気がおかしい…)

バァーン

水瀬伊織 15歳
アイドル

やよい「伊織ちゃん、おはよう!」サッ!

伊織「ええ、おはようやよい」

亜美「いおりーん、りっちゃんが氏にそうな顔してるよー」トテトテ

伊織「経営に事務職にプロデュースに…疲れてるのよ。放っときなさい」

伊織(みんなの様子はいつもと変わらない…)

伊織(ただ、事務所に漂っている『空気』が違うような…そんな漠然とした感覚)

伊織(だけど確実に、『何か』が違っている…)

伊織(社長が氏んだから? それもあるけど、それだけじゃあないと私は思う…)




※このSSは「THE IDOLM@STER」のキャラクターの名前と「ジョジョの奇妙な冒険」の設定を使った何かです。過度な期待はしないでください。


春香「弓と矢」シリーズ


41: 2012/07/17(火) 00:58:38.36 ID:G3gZAlF5o
伊織(社長が亡くなって一ヶ月が経った)

伊織(適任が他にいないから、今はプロデューサーが後任として経営を行ってる。経営の勉強をしている律子はそのサポート、小鳥は…うん)

伊織(最初は引き継ぎやら何やらで冗談抜きで氏ぬほど忙しかったみたいだけど、今は少し落ち着いてきている)

伊織(しかし、プロデューサーが経営をすることになり、今までよりもプロデュースの方に手を回せないにも関わらず…私達アイドルは以前よりもむしろ仕事が増えてきていた)

伊織(そうなるとやっぱり765プロは人手不足で、もう少し人員を…出来ればちゃんとした経営者を代わりの社長として雇いたいと言っていたけど、なかなか見つからないみたい)

42: 2012/07/17(火) 01:04:02.95 ID:G3gZAlF5o
伊織(私の所属する『竜宮小町』とか、千早や美希あたりは元々人気はあったから仕事量はあまり増えたわけじゃあないけど…)

伊織(春香、雪歩、やよい、真、真美、響、貴音…今まで芽が出ていなかったアイドルが、今やみんなが雑誌に載るのも珍しくないほどに力を伸ばしてきた)

伊織(その躍進っぷりたるや、プロデューサーが『俺必要ないのかなぁ』と泣き言を言い出すほどだ)

伊織(その中でも…)

春香「それじゃ、行ってきます!」

真美「うげっ、はるるんまた仕事!?」

雪歩「最近凄いね…春香ちゃん」

伊織(春香…)

43: 2012/07/17(火) 01:11:27.98 ID:G3gZAlF5o
伊織(春香はこの一ヶ月でアイドルとしてどんどん上へと上り詰め、ついには私達『竜宮小町』や千早・美希を抜き去り、紛れもない765プロのエースとなった)

伊織(その人気たるや、この一週間でテレビで春香の姿を見ない日はなかったくらいだし…)

伊織(来月にはなんと司会として新番組を担当することが決まっているほどだ)

伊織(最近の芸能界は移り変わりが激しいし、活動期間を見ればありえないことではないけれど…)

伊織(まぁ、同じ事務所の仲間として喜ぶべき…なのかしら…)

伊織(でも、なぜか…負け惜しみじゃあなくて…春香の成長について、私は『悔しい』とか…『絶対に負けない』とか…)

伊織(不思議と、そういう気持ちは、なかった)

44: 2012/07/17(火) 01:18:54.73 ID:G3gZAlF5o
………

伊織「………」

クル…

キョロキョロ

伊織(夜になったわ。もう『竜宮小町』の仕事を終え…)

伊織(メンバーの『亜美』と『あずさ』とは、さっき外で別れた)

伊織(『律子』は社長室に閉じこもっているけど、帰ってきた時、事務所には鍵がかかっていた)

伊織(小鳥も臨時のマネージャーとして出向いているんでしょう。つまり、いまここにいるのは『私一人』…)

伊織「気になるのは…」

伊織「社長の氏因となったあの『弓と矢』…」

伊織「さっき、律子のところに相談に行くフリをして社長室を確認したけど、やっぱり『なかった』…」

伊織「どこに行ったのかしら、あれ」

45: 2012/07/17(火) 01:22:58.50 ID:G3gZAlF5o
伊織(なんとなくだけど、あの『矢』…)

伊織(最近の事務所の異様な雰囲気と、何か関係がある気がしてならない。そんな気がするわ…)

伊織「早いとこ探し出して…」

ガタン!

伊織「!」

タッ! タッ! タッ!

伊織(ああ、もう…誰よ! 『今から帰ってきます』と言わんばかりに階段鳴らして!)

伊織(今から探そうと思ってたって言うのに…!)

ガチャリッ

春香「ただいまー!」

・ ・ ・

伊織(春香…)

46: 2012/07/17(火) 01:30:36.51 ID:G3gZAlF5o
春香「あれ? 伊織ー、ただいまー」

伊織「おかえりっ!」

春香「な、なんで怒ってるの…?」

伊織「うるっさいわね! 怒ってないわよ!」

春香「あ、あはは…」

春香「伊織一人?」

伊織「そっちに律子がいるわ。他はみんな帰ったんじゃない」

春香「そっか…」

春香「あーっ、つっかれたー!」ポスッ

伊織(ソファに座った…『探索』はもう諦めるしかないのかしら…)

47: 2012/07/17(火) 01:32:20.51 ID:G3gZAlF5o
春香「あー…あついー…伊織、何か飲み物取ってくれない…?」

伊織「この伊織ちゃんを使おうだなんていい度胸ね。自分で取りなさいよ」

春香「だって、本当に疲れてるんだもん…」ゴロゴロ

伊織(今、ここにいるのは私と春香だけか…)

伊織「はぁ…何飲むわけ?」

春香「なんでもいいよー」

伊織「そういうのが一番困るのよ」

春香「んー…じゃ、コーラで」

伊織「コーラぁ?」

春香「あ、やっぱやめ。スプライトにする。透明だから」

伊織「はぁ? しかしあんた、炭酸好きね…」

春香「好きって言うか、すっきりしたい気分なんだよね、今。とにかく炭酸お願い」

伊織「はいはい」

48: 2012/07/17(火) 01:35:05.50 ID:G3gZAlF5o
春香「ところで…ねぇ伊織、この後、何かあるの?」

伊織「え? いえ、もう仕事は全部終わったわ」

春香「じゃあさ…」

ドドド

春香「なんでまだ、事務所にいるのかな…一人で…」

ドドドドドド

伊織「……」

ドドドドドドド

伊織「何か…」

伊織「問題でも、あるわけ…? なんとなくよ…」

春香「それもそっか…私もそういう気分の時、あるし…」

伊織「なんなのよ、もう…」

49: 2012/07/17(火) 01:36:30.07 ID:G3gZAlF5o
伊織「………」ス…

伊織「…そう言えば、春香」

春香「何?」

伊織「あんた、あの…」

ガッ

伊織「…?」

キラリ

伊織(あれ…冷蔵庫の隙間に…なにか…)

ゴゴゴ

伊織(これは…)

ゴゴゴゴゴゴ

伊織(『矢』…)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

50: 2012/07/17(火) 01:37:05.78 ID:G3gZAlF5o
伊織(間違いない、社長を頃したあの『矢』だ…)

伊織(どうして、こんなところに…)

グラ…

伊織「え?」

サクリ…

伊織「は…」

伊織「な…何ですってェーッ!?」

伊織(私の指に! 吸い寄せられるように…!!)

ビュクッ

ブシュゥゥーッ

伊織「きゃああああっ!!」

春香「『矢』が反応した…やっぱり伊織も『ある』みたいだね…」

56: 2012/07/18(水) 23:13:54.93 ID:rLhXeIYHo
ドドドドド

伊織「あっ、あっ…!」ドクドクドク

ドドドドド

伊織(社長を頃した『矢』が! 私の指に…!!)

伊織「し、『氏ぬ』…!!」

春香「氏なない氏なない。大丈夫だって」

パチパチ

伊織「!?」クル

パチパチパチ

春香「おめでとう。伊織も選ばれたんだよ、『弓と矢』に」

春香「でも…ま、当然と言えば当然か…言われてみれば確かに『ある』方だからね、伊織は」

春香「うん、当然。当たり前のこと」

伊織「は…春香…?」

57: 2012/07/18(水) 23:16:40.61 ID:rLhXeIYHo
伊織「この『矢』…社長を頃したあの『矢』よね…」

春香「うん」

伊織「あんたが仕掛けたの!? こうやって、冷蔵庫を開けようとすると刺さるように…」

伊織「この人頃しッ!!」

春香「大丈夫だよ」

春香「その『矢』、才能のない人には反応しないから」

伊織「は…?」

春香「社長は本当に偶然触っちゃったみたいだけど」

伊織(何を言ってるの、こいつは…?)

春香「伊織は才能あるから、刺さっても大丈夫。むしろ、だから矢が引き寄せられて刺さったんだよ」

伊織(会話が全然噛み合わない…!)

春香「伊織は選ばれたの。よかったね、伊織!」ニコ…

伊織「…っ」ゾワッ

伊織「あ、あんた…そんな気持ち悪い笑顔浮かべるヤツだったのね…」

春香「へ? そんな顔してた?」

58: 2012/07/18(水) 23:19:24.95 ID:rLhXeIYHo
伊織「第一、氏なないって…この出血見なさいよ! 信じられるわけ…」

春香「出血? 何言ってるの?」

伊織「はっ!」

ピタ…

伊織(傷が…傷跡すら、残ってない…)

春香「まぁ、私の時もそうだったから。とりあえず、氏ぬことは絶対にないから安心していいよ」

伊織「は、はぁ…」

春香「さて…これで伊織も『スタンド使い』になったわけだけど」

伊織「………」

伊織「え、何? スタンド…?」

59: 2012/07/18(水) 23:20:25.52 ID:rLhXeIYHo
春香「まぁ…念のため確かめておこっか…」ズ…

ゴゴゴ

春香「伊織…」

ゴゴゴゴゴ

春香「『これ』が、見える…?」

伊織「なに…それ…」

春香「うん、ちゃんと見えてるね。よしよし」

伊織「その春香の後ろにいるのは…」

春香「これが『スタンド』。精神力のエネルギー」

春香「そして、私の才能」

伊織「『スタンド』…才能ですって…?」

60: 2012/07/18(水) 23:22:31.63 ID:rLhXeIYHo
春香「『弓と矢』に貫かれた人は、この『スタンド』能力に目覚めるんだよ」

春香「人によって、スタンドのそれぞれ姿かたちは違ってくる…」

春香「私としては、見せてくれると…嬉しいんだけどなぁ、伊織のスタンドも」

伊織「わ、私のスタンド!?」

伊織「見せろとか言われても…出せないわよ、そんなもの!」

春香「出せるよ。私の『アイ・ウォント』が『見える』ってことは、もう間違いなく『スタンド使いになった』ってことだから」

伊織「そんなの知らないわ! あんたさっきから…」

春香「!」

春香「なんだ…やっぱり出せるんじゃあない…」

伊織「意味のわからないこと…」

春香「それが伊織のスタンドかぁ」

伊織「ばっかり…」チラ…

モクモクモク

伊織「…!?」

ドドドド

春香「『煙』のスタンド…かぁ…なんか『意外』というか」

伊織「きゃあああああああああああああ」

ドドドドドド

61: 2012/07/18(水) 23:24:14.90 ID:rLhXeIYHo
伊織「な、何よこれっ!(私の体から煙が出ているッ)」

春香「それが伊織の『スタンド』だよ」

春香「あ、ちょっと動かしてみてくれない!?」

伊織「う、動かす…?」

伊織(動かすったって…どうやって…?)

春香「それを出したみたいに、『自分の手足』を動かすようにやればいいんだよ」

伊織「そ、そんなこと言われても…自分の意志で出したわけじゃあないわよ…」

春香「へ? そうなの?」

春香「まぁ、『スタンド使い』として目覚めたばっかりだし、仕方ないのかなぁ」

伊織「………」

62: 2012/07/18(水) 23:25:18.30 ID:rLhXeIYHo
伊織「って言うか…」

春香「?」

伊織「春香、あんたの目的は何?」

春香「目的?」

伊織「この…『スタンド』だっけ? 人をこんなもの出せるようにして何がしたいわけ…?」

伊織「こんな『煙』が出るようになったら、人前に出られないし商売上がったりなんだけど」

春香「自分で制御すれば大丈夫。すぐ慣れるよ。それに、スタンドはスタンド使いにしか見えないから」

伊織「…スタンド使いってのは、あんたや…認めたくないけど、私のようにその『スタンド』ってのが出せる人のことよね」

伊織「だから、さっき確認するようにあんたの『スタンド』を見せてきたのね?」

春香「そうそう。さっすが伊織!」

春香「そして、目的だっけ? 色々あるんだけどまずは…うん!」

63: 2012/07/18(水) 23:26:49.79 ID:rLhXeIYHo
春香「伊織はアイドルをやる上で大切なことってなんだと思う?」

伊織「…は? なにそれ。あんたの言う『目的』と何か関係あるわけ?」

春香「うん。結構大事なこと」

伊織「…アイドルに大切なことって、そりゃ…色々あるんじゃないの? 才能とか、テクニックとか…」

春香「うん、そうだね。それも大事。伊織らしい答えだね」

春香「でもさ…私は『自信』。自信を持つことが一番大切なことだと思う」

伊織「自信?」

春香「『歌には自信がある』とかそんなんじゃあない…どんなことがあっても揺らぐことのない、『絶対の自信』」

春香「以前の私は、この『自信』がなかった。『アイドルになりたい』『皆の前で歌いたい』とかそういう気持ちがあっても、『本当になれるのか?』『私の歌は通用するのか?』…不安で仕方がなかった」

伊織「………」

伊織(春香も色々抱えてたのね…何も考えてないと思ってたけど)

64: 2012/07/18(水) 23:28:19.72 ID:rLhXeIYHo
春香「でも、余計な心配だったんだね…私には、ちゃんと才能があった!」

伊織「『才能』… ……」

伊織「あんたさっきから、その言葉よく使うわね」

春香「だって、こんな素晴らしい力が、私達には使えるんだよ? そうでなければ社長みたいに氏ぬ…私達は選ばれたの!」

春香「これが才能でなくて、何だって言うの?」

伊織「………」

春香「スタンドは才能。『アイドルとしての才能』が明確に目に見えれば、それは『絶対の自信』に繋がる」

伊織「だから…私をスタンド使いにしたの…? その『絶対の自信』とやらを持たせるために」

春香「うん! だって私達みんな、仲間だもんね!」

65: 2012/07/18(水) 23:29:44.94 ID:rLhXeIYHo
伊織「なるほどね…でも、それであんたが自信を持つのは勝手だけど…」

伊織「生憎、伊織ちゃんはこんな『スタンド』なんかに縋らなくたって、『自信』くらい持ってるのよ」

伊織「だから…」

春香「『嘘』」

伊織「…っ!」

春香「今は成功してるからいい。だけど、いつ『勢いが止まるか』? いずれ『誰かに追い抜かれやしないか』? いつもビクビクしている」

伊織「あんた…」

春香「図星かなぁ…その反応…」

春香「気にしなくていいよ、誰だってそうだから。私だって、伊織だけがそうだと思って言ったわけじゃあない」

春香「それに、伊織にも紛れもなく才能がある。もうそんな心配しなくていいんだよ」

66: 2012/07/18(水) 23:31:24.22 ID:rLhXeIYHo
伊織「『スタンドがあるということは、アイドルとしての才能があるということ』…つまり、あんたはそう言いたいわけ?」

春香「そう。何かおかしかった?」

伊織「…そもそも」

伊織「数学者としての才能と野球選手としての才能が関係がないように、アイドルとしての才能はその『スタンド』ってやつの才能は関係ないでしょ」

春香「関係あるよ~」

伊織「ないわよッ!! さっきから意味不明なことばっか、変な能力に目覚めて頭がおかしくなったんじゃあないの、あんた!?」

春香「………」ジ…

伊織「!」ビクゥ

春香「えー…?」グリッ

伊織「……」ゾワワッ

伊織(こ………)

伊織(『怖い』…)

伊織(なんて冷たい目で人を見るの、こいつ…)

67: 2012/07/18(水) 23:33:40.65 ID:rLhXeIYHo
春香「フゥゥ~…」

伊織「!」ビクッ

春香「なんでわかってくれないのかなぁ~っ…」

伊織「わ…わかりたくもないわよ」ジリ…

春香「だって、これさえあれば何でもできるんだよ?」

春香「例えば…」

ドォ

伊織「!」バッ

ガチャ…

伊織(春香の『スタンド』が…)

伊織(冷蔵庫を開けて、飲み物を…?)

春香「ほら、こんな風に離れたものを取りにいくのなんて簡単だし」ス…

春香「壁も抜けられる。冷蔵庫と壁の隙間に矢を仕掛けたのもこれだし」パシッ

伊織「そ、そう…」

春香「それに…」プシュ

春香「嫌な相手を事故に見せかけて頃すことだって…できる」グビッ

伊織「なっ…!」ゾクッ

68: 2012/07/18(水) 23:35:41.10 ID:rLhXeIYHo
春香「ま…もちろん、そんなことはやらないけど」プハァ

春香「『できる』っていうのが大事なの」

春香「どんな嫌なことがあっても…『絶対の自信』…『絶対の精神的優位』…それがあれば、何も気にならない。どんなことにだって耐えられる」

伊織「人頃しさえ『できる』能力ですって…」

伊織「そんな危険なものを増やしてるの、あんたは!? 戻しなさい!!」

春香「戻せないよ」

春香「一度スタンド使いになったら…『戻す』スタンドでもなければ、戻すことはできないんじゃないかな」

伊織「なんですって…!」

69: 2012/07/18(水) 23:37:01.27 ID:rLhXeIYHo
春香「もう、伊織は深刻に考えすぎだよ」

伊織「あんたが軽く考えすぎなのよ!」

春香「伊織は誰かを殺そうだなんて、考えたりしないでしょ?」

伊織「…は?」

春香「え…もしかして、伊織…」

伊織「い、いえ…そうだけど…」

春香「だ、だよね~! よかったよかった」

春香「さっきは、頃すだとか変なこと言っちゃったけど…」

春香「『スタンド』はハサミとか包丁と同じなんだよ」

春香「危険だけど、使いこなせば便利なんだから」

伊織「あんたにとって…これって、そういう認識なのね…」

春香「あはは…例え、変だったかな?」

伊織(な、なんだ…いつもの春香じゃない…)

伊織(あの冷たい視線は…少し、気になるけど)

70: 2012/07/18(水) 23:39:20.30 ID:rLhXeIYHo
伊織「はぁ…わかったわよ」

春香「!」

伊織「『スタンド』のことよく知らないのに、騒ぎすぎたわ」

伊織「もしも『殺人鬼』とかが持ったら大変だけど、普通の人なら何の問題もない。そういうもんなのね」

春香「わかってくれたんだ、伊織!」

伊織(最初は得体が知れなくて不気味だったけど…持ってるだけなら、別に問題はなさそう)

伊織(むしろ、春香がさっきやったみたいに、遠くのものを取りに行ったりできるなら便利かもしれないわ)

伊織「ただあんた、何の説明もせず『矢』を仕掛けんのやめなさいよ? 心臓止まるかと思ったわ」

春香「えへへ…」

伊織「笑ってんじゃあないわよ。本ッ当に、やめなさいよ…」

春香「ご、ごめんごめん…」

伊織(春香はおかしいけど、別に『悪意』を持ってやってるわけじゃあないみたいだし…)

伊織(不意打ちみたいなことをやられなければ、これ以上『スタンド使い』とやらが増えることもないでしょ)

伊織(説明された上で受け入れるんなら自己責任。伊織ちゃんの知ったことじゃあないわ)

71: 2012/07/18(水) 23:40:17.22 ID:rLhXeIYHo
春香「でもさ…」

伊織「ん?」

春香「他に何人か、伊織に話したことと同じことを言ったんだけど…」

伊織(………)

伊織(は?)

伊織(この話をしたのは、私一人じゃあない…?)

伊織(いえ、この『矢』が事務所に来てからもう一ヶ月も経ってる…むしろそっちの方が自然…)

春香「『この矢を壊せ』だなんて言い出してきた子がいたの。しかも、2人も!」

伊織「…そう」

伊織(当然よね。なんだかんだで危険なものには変わりないもの)

春香「確かに、この矢のせいで社長は氏んじゃった…けど…!」ギュゥゥゥ

伊織(「けどって何よ! 私も同じ意見、そんなもんすぐに壊しなさい!」)

伊織(正直そう言いたいわ。でも春香のことは… ………)

伊織(あまり、刺激しない方がいい気がする…)

72: 2012/07/18(水) 23:45:49.48 ID:rLhXeIYHo
伊織「まぁ、私は氏んではいないわけだし…」

伊織「この『スタンド』も…よくわからないけど、あんたの話によると悪いものではないみたいね」

春香「そうだよね!」パァッ

伊織(この嬉しそうな顔…)

春香「それなのに、壊そうだなんて言ってくるんだよ…ひどいよね?」

伊織「はいはい、そうね」

春香「伊織がわかってくれてよかったー」

伊織(『スタンド使い』になったから。それで意識が変わって、春香達は急成長したのね)

伊織(となると、事務所の空気が変わったのも同じ理由ね。ここ数日の違和感はそれが原因かしら)

伊織(はっきり言って『矢』とか『スタンド』が不気味なことには変わりないけど…)

伊織(春香はそれを使って誰かを『殺そう』だとか、そんなことは考えてはいない。なら危険はないわ)

伊織(『矢』を壊そうと言っている2人のことは気になるけど…伊織ちゃんには関係ないことだし)

伊織(…長引くようならその時は考えなきゃいけないかもしれないけど…)

73: 2012/07/18(水) 23:50:02.19 ID:rLhXeIYHo
伊織「ところで春香、そろそろ帰らない? もう遅いわ」

春香「あ! ちょっと待って伊織!」

伊織「何よ。まだ何かあるの?」

春香「さっき言った『2人』なんだけど」

ドドド

伊織「………」

伊織(空気が変わった…)

春香「なんか、2人ともすっごく強い『スタンド』持ってて…私の『アイ・ウォント』でも結構手こずりそうなんだよね…」

伊織「………」

ドドドドド

春香「だから、協力してほしいんだ! 伊織みたいに、この『矢』のこと、ちゃんとわかってもらうために!」

伊織「…その、『スタンド』でわからせるってこと?」

春香「できるだけ、そういうことはしたくないつもりだけど…」

春香「でも、あっちも『矢』を壊すためにスタンドを使ってくるから」

伊織「ふーん…」

春香「それで、伊織は手伝ってくれるよね?」

伊織「それは嫌。一人でやってちょうだい」

春香「…え」

伊織「話はいい? もう帰るわよ」

74: 2012/07/18(水) 23:52:56.28 ID:rLhXeIYHo
春香「…手伝ってくれないの?」

伊織「ええ」

伊織(どっちかと言えば私もその2人と同意見だし)

伊織「あんたがそれを大事なものだと思ってるんなら、別に折ることはないと思うけど」スタ

春香「仲間なのに?」

伊織「『アイドル』としては同じ事務所の仲間だと思ってるけどね」

伊織「どうしても、って言うならそいつらと話し合いくらいしてあげるけど、『スタンド』を使えっていうならお断りよ」スタスタ

春香「ふーん…」

伊織「だいたい、複数人で…」

春香「じゃあ、伊織は敵だ」

・ ・ ・ ・ ・

伊織「………」ピタ

伊織「は…」クル

75: 2012/07/18(水) 23:53:26.30 ID:rLhXeIYHo
ゴゴゴゴゴ

春香「『アイ・ウォント』」

ゴゴゴゴゴ

伊織「ちょっ…」

春香「ねぇ、伊織…」

伊織「……」タラ…

伊織(矢を壊す…)

伊織(その理由がわかった。やっぱり春香はおかしい…!)

伊織(『危険はない』…今はまだそうかもしれない。でも、こいつに矢を持たせ、野放しにしていたらいずれ大変なことになる…!)

春香「早めに考え直してくれると…」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

伊織(『スタンド』…殺人さえできる『能力』! それを向けてきている…私に!)

春香「ありがたいんだけどなぁ」

伊織(春香の目は本気だ…マジにやる気なの!?)

88: 2012/07/25(水) 23:11:04.62 ID:W403hyNyo
ドドドドドドド

伊織「ほ…」

伊織「本気なの…?」

伊織「頼みを断ったくらいで『敵』だなんて…おかしいわよ、あんた」

春香「むしろ、なんで断るかなぁ…仲間なら、仲間である私の手伝いくらいしてくれていいよね?」

春香「嫌ってことは、つまり私とは仲間になるつもりがないってこと…でしょう?」

伊織「それは…」

春香「伊織、正直に話してくれていいよ。何かあったら今のうちに聞いておこうかなって」

春香「どうせ、最終的に考えを改めてもらうことになるから」

伊織「なにそれ。脅しのつもり…?」

春香「別にそういうつもりはないんだけど」

89: 2012/07/25(水) 23:12:58.65 ID:W403hyNyo
伊織「私をどうする気…?」

春香「どうもしないよ。私だって仲間相手に手荒な真似はしたくないし」

伊織「仲間相手に、ね…」

春香「そう。伊織が仲間になってくれるなら、だね」

伊織「嫌って…言ってんでしょ」

春香「ふーん…まぁ、そう簡単に考え直してはくれないよね伊織は…」

春香「じゃあ、いいよ。その気になるまで追いつめるだけだから」

伊織「人を『スタンド使い』にしておいて、協力しなければ消す…」

伊織「随分勝手な言い草ね…」

伊織「嫌なら、最初から『矢』なんて使わなければいいのに」

春香「ええ? だって…私達がみんな持ってるのに、伊織が一人だけ『スタンド』を持ってない…なんて『不公平』だよね?」

伊織「は…」

春香「ちゃんと事務所のみんなで共有しなきゃ」

伊織(こいつ…『善意』だ…)

伊織(善意でこんな得体の知れないものを使って、『スタンド使い』を増やしている…)

伊織(『スタンド』はこいつの中では『ステキなもの』でしかなく、相手を『スタンド使い』にすることを、自宅で作ってきたクッキーをみんなに振る舞うようのような感覚で考えている…!)

90: 2012/07/25(水) 23:15:11.86 ID:W403hyNyo
春香「まぁ、だからスタンドは関係ない」

春香「だけど、伊織が私に協力しないというなら、それはもう『仲間』じゃあない…『敵』でしょう?」

伊織「…それで…敵ならどうするってのよ?」

伊織「私を頃すの…?」

春香「うーん…とりあえず、二つ約束するね」

伊織「?」

春香「まず一つ、伊織を頃したりは絶対にしない」

春香「だから安心していいよ。伊織の言う通り、一応アイドルとしては今まで通り仲間だしね」

伊織「………」

春香「それともう一つ、伊織の気が変わって『仲間』になるっていうならすぐにでも攻撃をやめる」

春香「だけど、それ以外のことと…もしも伊織が『仲間になる』といいつつ裏切るようなことがあれば…」

伊織「しないわよ、そんなこと…」

春香「今言ったことは、何も保証できないかなぁ」

ドドドドドド

91: 2012/07/25(水) 23:20:12.87 ID:W403hyNyo
伊織(…給湯室の冷蔵庫の前…)

伊織(壁と仕切りに囲まれ、出られる通路は一カ所)

伊織(とりあえず…考える時間が欲しいわ)

伊織「殺さないと言ったけど…」

春香「うん」

伊織「それって、『頃すより酷い目に遭ってもらう』とか…そういう意味かしら…?」

伊織(その通路は春香に塞がれている)

伊織(出口はすぐそこにあるのに…)

春香「さぁ…どうだろうね」

春香「私もスタンドを完璧に使いこなせるわけじゃないから、手加減とかはあんまりできないし」

伊織(! 『スタンド』…)

伊織(そうよ、スタンドなら私にも使えるはず…だったら、これでどうにか…!)

モクモク…

伊織(ああ、もうっ! やっぱり煙が出てくるだけじゃない! これでどうしろって言うのよ!)

春香「伊織、そろそろいい?」

伊織「!」

春香「考えたところでどうにかできるとは思わないけど…伊織に思惑通り長引かせるのも…ね」

伊織「…!!」

92: 2012/07/25(水) 23:27:43.15 ID:W403hyNyo
春香「『アイ・ウォ…」

伊織「ちっ…」スッ

ドシュゥゥ

春香「んっ!?」シュッ!

バキャッ!!

春香「何か投げてきたようだけど…」

春香「全然意味ないよ~。これくらいのものを叩き落とすなんて簡単なことなんだから」

伊織「あんたが今叩き落としたそれ…よく見なさいよ」

春香「え?」

春香「コーラの…缶?」ギギギ…

伊織「炭酸でも喰らってなさい!」

ブシュゥゥゥ!!

春香「きゃっ!」バシャァァァ

伊織(今よ!)ダッ!!

93: 2012/07/25(水) 23:30:36.00 ID:W403hyNyo
伊織(この給湯室は仕切りに囲まれ、出口も春香に塞がれている…でも!)グググ…グイッ

ガシャァァァン

春香「え、何?」ゴシゴシ

伊織(この仕切りを倒せば、関係ない! 事務所の入り口はすぐそこにあるわ!)バッ

春香「うぇ、服がベトベトだぁ…」

伊織(今の春香とはまともに話し合える気がしないわ、相手にしない方がいい)ガチャ

伊織「………え?」

ドドドド

伊織(扉の外は…)

ドドドドドド

伊織(また、『事務所の中』…!?)

伊織(何かがおかしい、『奇妙』…!)

94: 2012/07/25(水) 23:37:54.78 ID:W403hyNyo
春香「伊織ぃ~っ」

伊織「!!」ビクゥ!

春香「まさか伊織があんなことしてくるとは思わなかったけど…」

春香「逃がさないよ?」ガシッ

伊織「ひっ…」

ズリズリズリズリ

伊織「きゃあああああああああああ」

伊織(春香の『スタンド』に引っ張られる…ッ!!)

ポイ!

伊織「きゃっ!」ドサ!

伊織「く…」

伊織(事務所のソファ…出口が遠のいてしまった)

95: 2012/07/25(水) 23:43:47.99 ID:W403hyNyo
春香「はぁ…ビチャビチャだよ、もう…」

伊織「そ、そんなことより春香…」

春香「ん?」

伊織「さっきのは何…?」

春香「さっきのって?」

伊織「私が事務所を出ようとしたら、また事務所が…」

春香「ああ…」

春香「それって、こういうこと…?」グニャァーッ

伊織「!?」

デロデロデロデロ

伊織「な、何よこれッ!!」

ドロドロ

伊織(天井は溶け…足場は真っ暗…事務所の壁には目が…)

春香「これが…」ズル…

ゴロン

伊織「ひっ!?」

伊織「あ、あんた…頭が…」

春香「これが私の『アイ・ウォント』の能力」ギョロ

伊織「能力…?」

春香「うん、スタンドにはそれぞれ特別な力があるの。ただ動いたり飲み物を取ったりするだけが能じゃあない」ゴロゴロ

伊織(で、でも…まさか、首が取れるのが能力とか…そんなわけないわよねぇ~っ…?)

96: 2012/07/25(水) 23:50:40.00 ID:W403hyNyo
伊織「あ、あんたの能力…」

伊織「『幻覚』を見せる能力ね!? こんな悪夢のような光景が、現実のはずが…」

ピタ…

春香「まぁ、確かに…」ヒョイ

春香「今、伊織が見ているのは幻覚。だけど、『アイ・ウォント』はそれだけじゃあない」トス

伊織「それだけじゃないって…」

春香「スタンドは精神力のエネルギー」

ス…

伊織(景色が戻った…)

春香「だから、卑怯な手を使ったり…自分の手中を隠すような人のスタンドは『弱い』」

春香「『公正さ』は力。フェアであること、それはすなわち自分の手を明かしても負けるはずがないと確信できる心」

伊織「一体何の話…?」

97: 2012/07/25(水) 23:54:29.32 ID:W403hyNyo
春香「だから、言うね」

春香「私のスタンド『アイ・ウォント』の能力は『五感支配』」

ドドドドド

伊織「は…」

ドドドドドドド

伊織「五感支配…ですって…?」

春香「そう、『支配』。『剥奪』じゃあない…まぁ、やろうと思えばそれもできるけど」

春香「『視覚』、『聴覚』、『嗅覚』、『味覚』、そして『触覚』」

春香「ゲームのコントローラで画面の中のキャラクターを動かすように…私は人の五感を自由に操ることができる」

ドドドドドドドド

伊織「…………」

98: 2012/07/25(水) 23:57:24.81 ID:W403hyNyo
伊織「じゃあ、今のは…」

春香「伊織の『視覚』を奪って見えないものを映したの。実際は今見てる通り、いつも通りの事務所」

伊織「さっきの出口も…」

春香「伊織の目には事務所の中に見えたけど、廊下と階段があっただろうね」

伊織(…っ! なんてこと、あのまま外に出てれば…)

春香「構わず外に出てたら逃げられた…そう思ってる?」

伊織「!」

春香「違うんだなぁ。伊織があそこで足を止めたのは、伊織の意志でしょ?」

伊織「あんたの能力がわからず躊躇しただけで…」

春香「そうだね。でも、あの時点ではそんなこと知りようがなかった」

春香「いや、知ってても伊織の目からは事務所の中にしか見えない。階段を踏み外すかもしれない。踏み出す勇気はある?」

伊織「それは…」

99: 2012/07/25(水) 23:59:18.00 ID:W403hyNyo
春香「人はよく『運が悪かった』とか『あそこでああしてればよかった』とか言って後悔するけど…」

春香「物事は全て必然なんだよ。偶然だと思ったことも、自分の意志で決めたと思っていることもすべてなるべくしてなっている」

伊織「物事の結果はすべて決まってる…だから逆らっても無駄だって…そう言いたいわけ?」

春香「違うよ伊織、私が言ってるのはそういうことじゃあない」

春香「例えば、オーディションでランクが上のアイドルと対決することってあるよね?」

伊織「な、なによいきなり…」

春香「そういう時、私は気合いを入れて臨み…レッスンで身につけたことを生かし…そして、勝つ」

春香「周りは番狂わせとか何とか言うけど…私はそうは思わない。だって努力してるんだもん。オーディションの時点でどっちが上だなんて、誰もわからない」

春香「そして、私の方が上だったから…あるいは、審査員の贔屓もあるかもしれない…でも、勝利したのならそれは偶然ではなく必然…でしょう?」

伊織「………」

春香「大事なのは成功を必然に変えようとする『意志』なんだよ、伊織」

伊織「…なんとなく、わかったわ…」

100: 2012/07/26(木) 00:00:45.12 ID:9LfXAmuJo
伊織「どの道…あの時点では私は逃げることなんて出来なかった」

伊織「だけど、これからはわからない。だから、私は自分にとってよい方向に行けるようにするべきだって、そういうこと…?」

春香「イエス!」

春香「…と言いたいところだけど、少し違うかな」

春香「伊織がどれだけ抵抗しようが、どれだけ逃げようとしようが」

春香「最終的に私の『アイ・ウォント』に屈することになる。これも…」

春香「必然だよ、伊織」

伊織(得意気にペラペラ喋ってるけど…)

伊織(無防備極まりないわ、自分のスタンドにそれだけの自信を持っていると言うことなんでしょうけど)

伊織(自信は慢心…だったら、春香の弱点はきっとそこにある…これも『必然』よッ!)

伊織(だけど、こっちはスタンドすらまともに操れない…どうする…?)

105: 2012/08/01(水) 22:55:05.25 ID:DMCBxaDzo
ドドドドドドド

伊織(春香は『油断』している…)

伊織(なら、倒せないにしても…出し抜いて逃げることはできるはず…)

春香「伊織が何考えてるかわかるよ」

伊織「!」

春香「私から逃げようと考えてるでしょう?」

春香「無理、無駄無駄。私の『アイ・ウォント』からは逃れられない」

伊織「…せいぜい調子に乗ってなさい」

春香「ねぇ、伊織。スタンドは才能だって私言ったよね?」

春香「こんな素晴らしい才能を手にしてしまったら、調子になんて乗らずにいられないよ」

伊織「私にはそんなにいいものとは思えないけど」

春香「伊織も、そのうちわかるよ」

伊織「わかりたくも…ないわ」

106: 2012/08/01(水) 23:02:37.33 ID:DMCBxaDzo
春香「さてと」

伊織「…!」

春香「いつまでもお喋りしてても時間の無駄だよね。無駄」ザッ

伊織(来る…!! ソファから逃れなくては…)

春香「ヴァイッ!!」ブオン!

伊織「うおおっ!?」ゴロン

春香「んっ」ドムッ!

伊織(ちょっとは速いけど…避けられないものでもない…)

伊織(それに、ソファを見るにパワーも大したことはないわ…)

伊織(な、なんだ…スタンドってもっとヤバいと思ってたけど、どうしようもないようなもんじゃあないのね…)ドッドッドッドッ

伊織「あ…あんたどこに目ついてるのよ、全然見当外れのところを殴ってるわ!」

春香「違うよ…これで、スイッチは入った。伊織の『聴覚』は私の『アイ・ウォント』が出した音を捉えた」

伊織「え…?」

春香「今の風を切る音…あるいは、ソファを叩く音…聞いたよね? それがスイッチ」ボソッ

伊織「ひっ!?」ゾワッ

伊織(後ろから…! 耳元で話しかけられるこの不快感ッ…!)チラ

春香「後ろ見ても誰もいないよー?」

伊織「あ、ああ…」

伊織(春香は目の前にいるのに…声が変な方向から…)

107: 2012/08/01(水) 23:13:27.76 ID:DMCBxaDzo
春香「伊織って毎日美味しいもの食べてるんだよねー、いいなぁ」
春香「ねぇねぇ、先週のライブどうだった? どうだった? どうだった?」
春香「あははははははははは」

伊織(いや…それだけじゃあない、あちこちから春香の声が聞こえる…ッ!)

伊織「あああああ…っ!!」バッ

春香「耳を塞いでも無駄だよ、『聴覚』に直接訴えかけてるんだよ?」
春香「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」
春香「ねーねースタンドまだ?」
春香「はぁ…疲れてるプロデューサーさんの肩揉んであげたい」

伊織(これが…『聴覚支配』…春香の『スタンド』の能力…!)

春香「ね…これだけでいいんだよ。私の『アイ・ウォント』を『五感』に知覚させる…」

春香「臭いを嗅がせれば『嗅覚』、肌に触れれば『触覚』、さらに舌に触れれば『味覚』も、私の想い通りになる」

春香「本当はさっき冷蔵庫を開ける『音』を聞かせた時点で『聴覚』は奪ってはいたんだけど…こうした方がわかりやすいでしょう?」

伊織(知覚した瞬間…ですって!?)

伊織(つまり…『視覚』は春香のスタンドを見た時点で既に奪われているということ…!)

伊織(視覚や聴覚から得られる情報量は多い…そして、その二つを優先的に奪われる…ということ…!!)

108: 2012/08/01(水) 23:21:03.18 ID:DMCBxaDzo
伊織「春香、この声を止めなさい…!!」

春香「えー」

伊織「止めろって言ってんのよッ!!」

春香「やだよー。伊織が降参して謝るならすぐにでも止めてあげるけど」

ゴチャゴチャペチャクチャクチャクチャ

伊織「ああああっ…!!」

伊織(気が変になる…!)

春香「ほらほら、降参しなよ? 脳が破裂するよ?」

伊織「あんたが止める気ないって言うなら…」ガシッ

春香「あ…傘。誰かが置き忘れたのかな?」

伊織「その元凶を止める…!!」グオォ

春香「『アイ・ウォント』を狙う気…?」

ブオン!!

スゥ…

・ ・ ・

伊織「あ…」

伊織「当たらないッ!! どうして!?」ブンッ!!

春香「スタンドはスタンドでしか倒せない」

春香「スタンドからものに触ることはできるけど、その逆はできない。無駄だよ」

春香「もちろん、伊織もスタンドを使えば『アイ・ウォント』には触れるけど…」

伊織「ぐ…」

春香「できたらもうやってるよね?」

109: 2012/08/01(水) 23:27:10.49 ID:DMCBxaDzo
伊織「だったら、操ってるあんたを…」

春香「え?」

伊織「…叩く!」ブンッ!!

春香「わっ!?」バッ

伊織「はぁ、はぁ…」

春香「や…やめなよ伊織、そんなの人に振り回しちゃ危ないよ」

伊織「うるさいっ!!」ブンッ

バキッ!!

伊織「!!」

春香「………」フラ…

バタン!

伊織「あ…」

ドクドクドク…

伊織「ひっ…!」

伊織(な、なんで避けないのよ…!?)

110: 2012/08/01(水) 23:33:45.81 ID:DMCBxaDzo
伊織「ああ…春香…!」

春香「あーあ、伊織がそういうことするなんてねぇ」

伊織「!?」バッ

春香「うわ、モニターが完全に割れちゃってる…みんながっかりするだろうなぁ」

伊織(テレビが壊れている…私が殴ったのはこれか…)

伊織「い、今の…『視覚操作』ね…」

春香「そうだよ。一度奪った感覚は『射程距離』の外に出るまではいつでも支配できる」

伊織(射程距離…? 能力には範囲がある…?)

伊織(それより、いつ切り替わったの…? 全然気づかなかった…)

春香「でも、本当に私に当たってたら、今伊織が見たようになってたんだよ? 結構本気で殴ってたよね」

春香「ひどいなぁ、伊織」

伊織「う…」

111: 2012/08/01(水) 23:38:22.10 ID:DMCBxaDzo
伊織「………」

ドサ

春香「あ、捨てちゃうんだ? 持っててもよかったのに」

伊織(スタンドだとか…頃すだとか…)

伊織(何が現実で何が幻覚なのかもわからなくなる…このままだと春香にじわじわと心を壊されていくわ、きっと)

伊織(そうなったら、自分でさえどういう行動に出てしまうかわからない…)

伊織(だけど、『アイ・ウォント』…わかったこともある)

伊織「春香…いつの間に『視覚操作』に切り替えたのかは知らないけど、『聴覚操作』は消えていたわ」

伊織「あんたが操れる『感覚』は、一度につき『ひとつ』までのようね」

春香「うん、そうだよ」

伊織「く…」

伊織(こいつ、少しも動揺しないわ…慢心が過ぎる)

伊織(能力の制限がバレることなんて、蚊に刺されるほども気にしていない…)

112: 2012/08/01(水) 23:39:55.31 ID:DMCBxaDzo
伊織(でも、一度につき『ひとつ』…『ひとつ』の感覚しか操られないのなら…)

伊織「………」ピタ…

春香「あれ? どうしたの伊織。降参?」

伊織「別に…あんたは直接手を出してこないみたいだし、下手に動かない方がいいと思っただけよ」

伊織「私から動かなければ、『視覚操作』はあまり意味をなさないわ。変な幻惑見せられたところでどうってことないし」

春香「へぇ、じゃあ…」

ゴチャゴチャワサワサガーンゴーン

伊織「!」

伊織(来た…『聴覚操作』!)ダッ

春香「あ」

ペラペラカサカサペラペラ

伊織(くうっ…うるさい!! だけど、我慢しなきゃ…)

伊織(『視覚操作』されていては正しい出口もわからないけど…『聴覚操作』されているならそういう心配はない!)

伊織(逃げないと…とにかく、春香から遠くへ…!!)

113: 2012/08/01(水) 23:42:56.41 ID:DMCBxaDzo
………

伊織(音が消え…『視覚操作』!?)

伊織「あうっ!?」ドンガラガッシャーン

伊織(つまずいた…何よ、こんな時に…!!)

春香「大丈夫伊織? 手貸そうか?」

伊織「わ…私に近づくなッ」ダッ

伊織「きゃっ!?」ドンガラガッシャーン

伊織(ま、また…? こんな何もないところで…)

春香「ひどい転びっぷりだねぇ」

伊織「あんたに言われたく…」グイ…

伊織「ひゃっ!!」ドンガラガッシャーン

伊織(立てない…! 何度やっても転んでしまう!)

114: 2012/08/01(水) 23:45:22.57 ID:DMCBxaDzo
春香「『触覚操作』」ザッ

伊織「…!!」ビクッ

伊織(追い…つかれた…)

春香「熱いものに触れれば手を引っ込めるように…人間には経験や本能による反射行動が身体に刻み込まれている」

伊織(逃げなきゃ…春香から逃げなきゃ…)スクッ

春香「踏み出した瞬間、グイッ! と足を引っ張るような感触があれば…」

伊織「うっ!?」ガクッ

春香「体性反射により足の筋肉は硬直して…」

伊織「きゃあああっ!!」ドンガラガッシャーン

春香「何もなくても、バランスを崩して、転ぶ」

115: 2012/08/01(水) 23:49:22.89 ID:DMCBxaDzo
伊織「あ…あんたのせいなの…? あんたの『アイ・ウォント』がやってるの…?」

春香「痛覚とか熱を感じる神経は厳密には『触覚』とは違うから、私の『アイ・ウォント』じゃあ支配できないんだよね」

伊織「そんなことを聞いてるわけじゃ…」グッ

伊織「あ…れ…」ガクガク

春香「そして、行動によって生まれる『痛み』は体に刻み込まれ…」

春香「『立とうとすれば転ぶ』、それを学習した肉体はやがて立つこと自体を拒否し始める」

伊織「そんな…こと…」

伊織「う…」ブルブル

春香「もう、伊織は立てない」ザ…

伊織「あ…」

伊織「あああああああああっ!!」ガバッ

春香「そこに跪いて」

伊織「あぐっ…!」ドサァ

116: 2012/08/01(水) 23:50:54.22 ID:DMCBxaDzo
ドドド

伊織(春香からは手を出してこないのは…)

春香「これで逃げられないのはわかってくれたと思うけど」

伊織(こっちが何をしても、無駄だとわからせるため…)

春香「次はどうされたい?」

伊織(こうやってじっくりと、私の心を折るためだ…)

ドドドドド

春香「『視覚支配』で失明ギリギリの光を浴びせるとか」

伊織(ヤバい…)

春香「『聴覚支配』でさっきみたいにあちこちから話しかけるとか…」

伊織(思った以上に『無敵』すぎるわ、春香のスタンド…)

ドドドドドドド

春香「『触覚支配』で氏ぬほど笑わせるとか」

伊織(『春香が相手なら大丈夫…なんとかなる』)

春香「『味覚操作』で変なものを味わせるとか? 舌に触らないと駄目だけど」

ドドドドドドドド

伊織(そう、心のどこかで思っていたのかもしれない)

春香「『嗅覚操作』で…伊織、ドブの臭い嗅いだことある?」

伊織(油断していたのは…私の方…?)

春香「ねぇ、どうされたい? 伊織」

ドドドドドドドドド

117: 2012/08/01(水) 23:54:06.39 ID:DMCBxaDzo
伊織「私…」

伊織「さっき、傘を持って暴れたけど…その時に、結構大きな音が出たはず…」

春香「そうだね」

伊織「何で誰も気づかないの…律子は…」

春香「さぁ…どうしたんだろう?」クスッ

伊織「…!」ゾワ…

伊織(『アイ・ウォント』が支配できる感覚が、『一人につきひとつ』だとしたら…)

伊織(いや、それとも…)

春香「ほら、早く降参してよ伊織」

伊織(どっちにしろ、助けも期待できない…)

春香「強情張ってもいいことなんて何もないよ」

伊織(必然…)

伊織(私は、最初からすでに追いつめられていた…)

118: 2012/08/01(水) 23:56:47.63 ID:DMCBxaDzo
春香「伊織、もう一度聞くね。私に協力して」

春香「協力してくれるなら、『再起不能』(リタイア)にはさせないであげる…『アイ・ウォント』もすぐ解除するね」

春香「ねぇ、いいでしょ伊織?」

伊織「………」

伊織「わ…」

春香「一緒にトップアイドル目指そうよ!」

伊織「!」

春香「?」

伊織「………」

伊織「春香…一緒にトップアイドル目指そう…ですって? 冗談じゃあないわ」

伊織「こんな得体の知れないものを使って人を傷つけるような奴と…何を目指せってのよッ!!」

春香「なんで伊織がそこまで拒むのか、私にはわかんないよ…」

伊織「他の奴らにも聞いてみなさいよ…あんたに着いていく奴なんて…」

春香「もう765プロメンバーのうち7人…半分以上は私の方につくと言っているけど、それでも?」

伊織「………」

ドドドドドドドド

伊織「え…」

伊織(7人…? もう、事務所のメンバーのほとんどはスタンド使いで…)

伊織(そのほとんどが春香の味方ってこと…?)

ドドドドド

119: 2012/08/01(水) 23:58:51.49 ID:DMCBxaDzo
春香「あの2人とあの厄介なスタンド…」

春香「それらを倒せるくらいの戦力はもう揃っている」

春香「でも、やっぱり伊織にも本当の意味で『仲間』になってほしいから」

伊織(………)

伊織「あんた、私に『仲間』になってほしいのよね」

春香「うん!」

伊織「私が『仲間』になると言えば…もう手は出さないと約束してくれるのよね?」

春香「うん、うん! それじゃあ…」

伊織「嫌よ」

春香「………」

春香「は…?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

120: 2012/08/02(木) 00:01:14.58 ID:86auDbr1o
伊織「私の体…ボロボロよね」

春香「それは伊織が転んだから」

伊織「あんたがやったのよ」

春香「だって伊織が逃げようとするから」

伊織「相手を思いやれないヤツに、本当の『仲間』なんてできるわけがない」

春香「………」

伊織「以前のあんたはそれができる奴だった…でも今のあんたは違う! 相手を恐怖で『支配』して、それが『仲間』であると思い込んでいるだけよッ!!」

伊織「アイドルとして…人として、あんたの仲間になんて絶対にならないわ…!」

春香「……はぁ」

春香「言いたいことはそれだけかな」

伊織「春香ッ!!」

121: 2012/08/02(木) 00:01:41.27 ID:86auDbr1o
春香「伊織がそこまで嫌だって言うなら、もういい…」

春香「もう、引き止めることはしない。これからは『敵』と見なす」

春香「『団結』を乱す伊織には、消えてもらうよ」

ゴゴゴ

春香「『アイ・ウォント』」

ゴゴゴゴゴゴ

春香「私の誘いを断ったことを後悔するといい」

伊織(やっぱり…今の春香には何も通じないみたいね…)

伊織(だったら、やっぱりこんな奴の下につくなんて…)

伊織(氏んでもごめんだわ)グッ

122: 2012/08/02(木) 00:04:07.67 ID:86auDbr1o
モクッ!!

春香「わぷっ!?」ボフッ

伊織「!?」

春香(『煙』…天井に溜まっていた…!?)

伊織(う、動いた…私のスタンドが…)

伊織「っ!」ダッ

春香(伊織の『スタンド』…)

春香(さっきまで全然動かなかったのに、追いつめられて力を発揮したのかな)

春香「伊織、待…」

ググググ

春香「きゃっ!!」ドテッ

春香(煙に押し戻…される)

伊織(逃げる…みっともなくたって、今は春香から逃げることが最優先!)

123: 2012/08/02(木) 00:06:34.98 ID:86auDbr1o
春香(前が見えない…そして、この『パワー』…)グイグイ

春香(『押す』力が強い! 窮鼠猫を噛むと言うけど…この伊織のスタンド、パワーは『アイ・ウォント』よりも上…!)

春香「でも逃がさない…『触覚操作』」グイ

・ ・ ・

春香「…………?」

春香(倒れる音がしない…?)

ズル!

春香「!」

ズルズルズル…

春香(………)

春香(この『煙』…私を押し戻すだけじゃなく、伊織を引っ張っている…?)

春香「邪魔…ヴァイッ!!」ゴオ!

ブオン!!

スゥ…

春香「………」キョロキョロ

春香「伊織…?」

春香(『アイ・ウォント』の手応えがない。もう射程距離の外…ということは)

スタスタ…

春香「……」ガラッ

ダッダッダッ

春香(伊織はもう窓の外)

春香「うーん…」

春香「逃げられちゃったかぁ」

124: 2012/08/02(木) 00:07:07.35 ID:86auDbr1o
伊織「はぁ、はぁっ!」ダッダッダッ

伊織「私の『スタンド』…不意打ちみたいなものだったけど、春香に通用したわ…」

伊織「でも、逃げるのが精一杯…春香の…」

伊織「…はぁっ! 『アイ・ウォント』… ………」

伊織「『五感支配』…ですって? あんなもん、どうやって倒せっての…!?」

伊織「っていうか…逃げたはいいけど」

伊織「明日また事務所で顔合わせなきゃならないじゃない! どうすんのよ畜生ッ!」

To Be Continued...

125: 2012/08/02(木) 00:08:42.56 ID:86auDbr1o
スタンド名:『アイ・ウォント』
本体:天海 春香
タイプ:近距離パワー型・人型
破壊力:C スピード:C 射程距離:D(5m) 能力射程(能力が続く範囲):C(10m程度)
持続力:D 精密動作性:C 成長性:A
能力:相手の五感を支配する、春香のスタンド。
相手に『アイ・ウォント』を知覚させることで、その感覚を奪うことが出来る。『触覚』『味覚』以外は直接触れる必要すらない。
姿を見せるだけでいいので、スタンド使い相手なら『視覚』はとりわけ容易に支配できる。
『五感支配』にスタンドパワーの多くを割いているため、スタンド自体の性能はそれほど高くなく、『人間より強い』程度のパワーしかない。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

126: 2012/08/02(木) 00:32:16.49 ID:gP9Ce2UIO
乙ー

127: 2012/08/02(木) 03:47:24.42 ID:5epcxJqUo
おもしれー 乙

102: 2012/07/26(木) 01:12:29.63 ID:LuLEQajeo



To Be Continued...





引用元: 春香「あれ、なんですかこの『弓と矢』?」