925: 2012/11/09(金) 21:54:17.80 ID:NlVHGDQTo





前話はこちら





「「お疲れ様でしたー!」」

千早「ふぅ…」

P「撮影お疲れ様、千早。ほい、着替え」ガサッ

千早「ありがとうございます、プロデューサー」

P(今日の仕事は、雑誌のグラビアに載せるための水着撮影だった)

千早「この後、何か予定はありましたっけ?」

P「いや、何もないよ。着替えたら帰ろう」

千早「あ…はい。そうですね」

P「しかし、悪いな。最近、歌の仕事あまり取れなくて」

千早「いえ…こうして知名度を上げていくことも、多くの人に歌を聴いてもらうために必要なことですから」

P「はは…」

P(最初会った時と比べると、千早も随分丸くなったな。お堅いのはあまり変わらないけど)

千早「?」

P「おっと千早、まずは着替えて来い。そろそろ寒くなってきたし、風邪引くぞ」

千早「………あ… は、はい…そうですね」タタッ



※このSSは「THE IDOLM@STER」のキャラクターの名前と「ジョジョの奇妙な冒険」の設定を使った何かです。過度な期待はしないでください。


春香「弓と矢」シリーズ

927: 2012/11/09(金) 21:54:58.86 ID:NlVHGDQTo
カチャ パタン

千早「お待たせしました」

P「よし。じゃ、帰るか」

千早「…はい」フイッ

P「………」

P(最近、千早の様子がどこかおかしいな…)

P(いや、千早だけじゃないけど…)

P(だけどこの前律子に話したら『勘違いじゃあないですか?』って言われるし、調子が悪いってわけではないみたいだ。気にするほどのことじゃあないのか…?)

P(俺にもっと時間があるなら、とことん話し合うのもいいと思うんだが…)

千早「どうかしましたか、プロデューサー」

P「え? いや、その…」

P「…あのさ、千早」

千早「はい?」

P「俺に何か、隠してないか?」

千早「何か…とは」

P「それは…わからない、けど…」

929: 2012/11/09(金) 21:55:22.04 ID:NlVHGDQTo
千早「私が何か隠していると…どうして、そう思ったのですか」

P「なんだか最近、様子がおかしいと思ったからさ」

千早「そんなこと、ないと思いますけど…」

P「いや、絶対おかしい。俺なりに、千早のことはちゃんと見てるつもりだ」

千早「………」

千早「あの、プロデューサー」

P「ああ、何だ?」

千早「見えますか?」

P「え? 見えるって、何が…」

千早「私の『腕』…見えますか?」

P「?? そりゃあ、見えるけど…」

千早「そうですか…」

P「千早…?」

千早「いえ、大したことじゃあないんです。自分でなんとかできますので」

P「??? そうか…?」

931: 2012/11/09(金) 21:55:47.67 ID:NlVHGDQTo
ブロロロロ…

P(千早は、一体何を言いたかったんだ…?)

P(腕…別に、なんともなってなかったよな?)

千早「あ、ここでいいです。止めてください」

P「あ、ああ。もうこんなところか」キィッ

バタン

千早「今日はありがとうございました、プロデューサー」

P「あ、そうだ! 千早」

千早「はい。なんでしょうか?」

P「明日はちゃんと事務所に来てくれよ」

千早「? 明日は事務所全体で休日ではありませんでしたか」

P「もしや、と思ってたが聞いてなかったのか…」

千早「何か、あるのですか? 単なる集まりでしたら…遠慮させて頂きたいのですが」

P「うーん…それが一応、今日の仕事とも関係あって…」

千早「仕事と関係? 一体…取材では、ないですよね」

P「ああ。それは…」

933: 2012/11/09(金) 21:56:18.91 ID:NlVHGDQTo
~次の日~

P「身体測定だ!」

アイドル達「「身体測定ッ!!」」

千早(昨日、プロデューサーから聞いた話によると…)

千早(以前の測った時のデータからもう半年。そろそろ新しいデータが欲しいと、出版社から要請があったそうね)

P「前までは小鳥さんと律子と社長でやってたんだが…まぁ、そういうわけで俺が測ることになった」

春香「え、プロデューサーさんが…? 何やるんですか…?」

P「いつも通り、スリーサイズと、身長体重の計測だ」

真美「うわーっ、兄ちゃんがスリーサイズ計測だって亜美~」

亜美「兄ちゃんに脱がされて隅々まで調べられちゃうのかな真美~」

美希「いや~ん、エOチなの~」

わいのわいの

P「こら、おまえら騒ぐんじゃあないぞッ!」

P「サイズ計測をするのは『小鳥さん』だ! 俺は身長と体重だけを測るッ!」

真美「えーっ、ピヨちゃんがやるのー?」

亜美「まぁ、兄ちゃんがそんなことできるワケないかー」

美希「ちょっとガッカリってカンジ」

P「………」

935: 2012/11/09(金) 21:56:51.83 ID:NlVHGDQTo
律子「あの、計測は私がやりますよ。プロデューサーはデータ集計の方をお願いします」

P「いやいや、律子も測るんだしそれじゃ効率が悪いだろう」

律子「ああ、そうですね…」

律子「…ってちょっと待ってください、今サラリと言いましたけど、私もやるんですか?」

P「ああ、そうだけど」

律子「どうして?」

P「だって、先方が律子のデータも欲しいって言ってるし…」

律子「あのですねぇ…私はもうアイドルじゃあないんですから、そういうのは断ってくださいよ」

P「すまん…でも、OK出しちまったし、出せなかったらなんて言われるか」

律子「はぁ…わかりました、でもそういうことなら先に計測させてもらいますよ。そっちの方が効率がいいので」

小鳥「え…律子さんのデータを取ると言うことは、この美人事務員の私もデータを取らなきゃですかッ!」

P「いえ、小鳥さんは測定の方に集中してください」

小鳥「あ、はい」

937: 2012/11/09(金) 21:57:26.14 ID:NlVHGDQTo
千早(会議室でプロデューサーが身長体重の計測、その隣の待合室で音無さんがスリーサイズ計測…)

千早「………」

千早(どっちの方に先に行けばいいのかしら…)

千早(ん?)

真「………」ペラペラ

伊織「………」ゴミャゴミャ

千早(あれは、水瀬さんと真…あんなところで話してる…)

真「貴音さんが…? それは心強いね」

真「それじゃ、律子も一緒に戦ってくれるってわけ?」

伊織「いえ。律子は立場上、春香と接する機会が多いから…」

伊織「表面上は、まだあっち側ってことにしてもらってるわ」

伊織「一応向こうの状況は聞けるかもしれないけど、戦闘に加わってもらうのは難しいわね…」

真「そっか…ま、でも春香の方から情報を貰えるのはありがたいな」

千早(何を話しているのかしら? 『春香』とか『律子』とか聞こえたけれど…気になる…)

千早(…いえ、今はみんな事務所にいる。変に騒ぎを起こすのは危険ね…)

雪歩「あうぅ…」ドヨーン

千早「ひっ!?」

雪歩「あ…千早ちゃん…」

千早「は、萩原さん…身体測定は終わったの…?」

雪歩「こんな私が、みんなと一緒に身体測定なんて恥かくだけだよ…」

千早「え…?」

雪歩「ううっ、だって、だって…! 聞いてください、千早ちゃん…!!」

千早「ちょ、ちょっと萩原さん…」

939: 2012/11/09(金) 21:58:12.48 ID:NlVHGDQTo
………

……



雪歩「…だから、私みたいなひんそー体型じゃ他の人と…」

千早「萩原さん、あなたさっきから自分の体型がどうのこうの言っているけれど…」

千早「だけど、人の魅力はそれだけじゃない。あなただって、自分で誇れるような何かの一つや二つ、持っているはずよ」

雪歩「えっと、それは…」

千早「体型という一つの要素だけでアイドルとしての価値が決まるわけじゃあないでしょう?」

雪歩「そ…そうだよね…! 私みたいなひんそーでひんにゅーでちんちくりんでも、他で頑張ればいいんだよね…!」

千早「………」

雪歩「ありがとう、千早ちゃん。私、行ってくるね」

ヒョコヒョコ

千早「………」

千早(くっ…何故かはわからないけど非常に腹立たしいわ…)

千早(話を聞いていたら結構時間が経ってしまったわね…水瀬さん達も行ってしまった)

千早(私も…行きましょう。いつまでもプロデューサー達を待たせるわけにはいかない)

941: 2012/11/09(金) 21:58:57.66 ID:NlVHGDQTo
シャッ

小鳥「次、入ってきてください」

千早「はい」

小鳥「あら、千早ちゃん。いよいよ真打ち登場ね…」ゴクリ

千早「は?」

小鳥「いえ、なんでもないのよ。気にしないで」

千早「………」

小鳥「それじゃ、正確なサイズを測るため…上に着ているもの脱いでくれる?」

千早「…はい」ス…

ズッ パサ

カチャカチャ ジッ スラッ

小鳥(…本当はこのカーテンの外で脱ぐんだけど…)

小鳥(まぁ~…いっかッ! 眼福眼福…)

943: 2012/11/09(金) 21:59:34.12 ID:NlVHGDQTo
千早「では、お願いします」

小鳥「それじゃ、失礼して…」ビーッ

小鳥「………」

千早「…どうか、しましたか…?」

小鳥「千早ちゃん!」ガシッ

千早「ひゃっ!?」ビクン

小鳥「うわ、このピチピチの肌!」サワサワサワ

千早「ちょっ…く、くすぐったい…やめっ、やめてください!」プルプル

小鳥「ああっ、ごめんなさいね」バッ

千早「ま、真面目に計測してください音無さん…セクハラじゃあないですか、これは…」

小鳥「もう、千早ちゃんったら。堅いこと言いっこなしよ」

千早「………」

小鳥「お…おほほ、ごめんなさい…ちゃんとやるから…」

945: 2012/11/09(金) 22:00:00.88 ID:NlVHGDQTo
小鳥「はぁ、雪歩ちゃんもなんだか凄かったし…若い子はいいわね…」

小鳥「ってもう、私だってそんなに老けてないですよーだ!」

千早(はやく終わらせてほしい…)

ジーッ

小鳥「しかし…」ピト…

千早「…?」

小鳥「本当スベスベね、千早ちゃん…」クル!

ススス…

千早「あ、あの…」

小鳥「やっぱりサプリメントとか、健康には気を遣ってるからかしら…?」

千早「ほ、放っといてください。と言うか、どうして音無さんがそんなこと知ってるんですか…」

小鳥「それは、えーと…」

スゥ…

小鳥「!」

千早「あまりベタベタと触られるのは…早く測ってください」

947: 2012/11/09(金) 22:00:39.91 ID:NlVHGDQTo
小鳥「スベスベの…ピチピチ…」

ポロ…

千早「あれ…メジャーが落ちましたよ、何をやって…」

ガシィ!!

千早「うっ!?」

ゴゴゴ

小鳥「うらやましいなァ~ッ」グイッ

ゴゴゴゴゴゴ

千早「お…音無さん!?」

小鳥「私によこせッ! その肌ッ!!」ギリギリギリ

千早「痛…っ!?」

千早(凄い力で腕を掴まれてる…振りほどかなくては…!)

バッ

小鳥「おっ!?」

千早「くっ!!」クル!

ガシッ

949: 2012/11/09(金) 22:01:10.21 ID:NlVHGDQTo
グググ

小鳥「取っ組み合いなら…」

千早「うっ!?」

ググググググ

小鳥「負けっかよォォ~ッ、そんな細腕でこの私を止められるかァ~ッ!」

千早(つ、強いッ!! とても2X歳女性の力とは思えないわ…!)

小鳥「その肌引きはがして…」

小鳥「プルプルのパックにしてやるぜェ~ッ!」ズ…

千早「!」

千早(今、音無さんの体からうっすらと何かが見えた…音無さんもスタンド使い…!?)

千早(なら…)

千早「『ブルー・バード』!」ボシュゥ!

小鳥「…?」

小鳥「ぐへ!」バキ!!

グシャァ!

千早「え?」

951: 2012/11/09(金) 22:01:38.70 ID:NlVHGDQTo
小鳥「………」ピクピク

千早「あっさり入ってしまった…」

千早「ど、どうしましょう、これ…」

ガチャ…

やよい「お願いしまーす! なんかヘンな音しましたけど、何か…」

千早「あ、高槻さん…」

やよい「千早さん…? なんだか今、すごい音が…」

小鳥「………」

ゴゴゴゴ

やよい「え…なんで、小鳥さんが…倒れて…」

千早「は…」

ゴゴゴゴゴゴ

千早「こ、これは違うわ! 話を聞いて高槻さん!」

やよい「え、えっと…」

スゥ…

やよい「はわっ」

953: 2012/11/09(金) 22:02:33.70 ID:NlVHGDQTo
千早「これは、音無さんが…」

やよい「千早さんはいけない人です…」

千早「へっ!? い、いけない人…!? 一体何の話…」

やよい「いーわけしようだなんて、千早さんは悪い子です…」

千早「え!? い、いえ、これは言い訳ではなくて…」

やよい「悪い子には、おしおきしなきゃダメですよね…」

千早「た…高槻…さん?」

ドォーン

ウー

ウッウー

千早「こ…これはッ!!」

やよい「うっうー! ブッこぉしてやれぅ!」

千早「ちょっ…ちょっと、高槻さん!?」

千早(高槻さんも…スタンド使いだったの…!?)

955: 2012/11/09(金) 22:03:11.41 ID:NlVHGDQTo
やよい「行けーっ、『ゲンキトリッパー』っ!」ビュゥ

ボッ

千早「『ブルー・バード』!」

ガシィ!

やよい「あれー…」

やよい「千早さんも使えるんですね、すた…んど」

千早(スピードは私の『ブルー・バード』と同じくらいね…パワーはあまりないけれど)

やよい「ま、別になんだっていいかなーって」

ピタ…

千早「これは…」

千早(『ブルー・バード』の腕に高槻さんのスタンドが『くっついて』いる…!)

やよい「んー…くっつけてー…どうするんだったっけ…」

やよい「あー、なんかもーめんどーかもー」ガシッ!

やよい「このまま『くっつけ』てれば千早さんは動けないから、このペンで頭グシャーってやっちゃえ」

千早(高槻さんの様子が…)

千早(明らかにおかしい! スタンド使いになったせい…なの…?)

957: 2012/11/09(金) 22:03:38.86 ID:NlVHGDQTo
千早「くっ…」グ…

千早(体が動かせない、『ブルー・バード』が『くっつけ』られてるからこっちまで動きが…)

やよい「うっうー! のーしょーブチまけちゃってくださーい」ズアッ!!

フ…

やよい「…?」

千早「………」

やよい「あれ…」フワー…

やよい「わ…浮いてる…」

千早「『ブルー・バード』…触れられているのなら、こっちも触れればいい」

千早「スタンドを通じて、高槻さんの体重を『奪った』わ。これで動けないのはお互い様ね」

やよい「あう…フワフワーってなって足がつかないです…」

千早「高槻さん…」

千早「まずは話し合うのがいいんじゃあないかしら。戦うにしても、今はやめましょう?」

やよい「………」

959: 2012/11/09(金) 22:04:06.30 ID:NlVHGDQTo
バッ!

千早「! 腕が放れた…わかってくれたのね、高槻さん!」

やよい「違いますよ」

千早「え…?」

やよい「放したのは、そのまま『くっついて』ると、もっと『軽く』なって駄目だと思ったからです」

千早「高槻さん…」

千早「状況がわかって、言っているのかしら…? あなたが話し合う気がないと言うなら、私も『ブルー・バード』を解除はできない…」

やよい「別に…しなくていいかなーって」

千早「は…?」

ピョコ!

千早「え!?」

ピョン ピョン

千早(色んなものが高槻さんの方に集まってきた…)

ウー

ウッウー

千早(これは…よく見ると、小さいスタンドが運んでいる…?)

961: 2012/11/09(金) 22:04:28.63 ID:NlVHGDQTo
ウー

ピタ!

千早「!」

千早(運ばれてきたものが高槻さんの体に『くっつい』ている…)

ビタ ビタッ

ズ…

千早「あ…」

ドドドド

やよい「こうやって『くっつけ』て重くすれば…」

やよい「『軽く』されてもあんまり意味ないかも」ゴチャ

ドドド

千早「な…何ですって…!?」

千早(くっ、なら『ブルー・バード』を解除…)

千早(いえ、したところで高槻さんは『くっついた』ものを放すだけ…どうすれば…)

やよい「それじゃ…」

やよい「おしおきの続き、しちゃいますね」

979: 2012/11/12(月) 22:28:24.80 ID:rV6R5Epio
 如月千早が、765プロに入った少し後…この事務所に、初のプロデューサーがやってきた頃。

 今でこそ社長業を兼務しながらプロデュースを行っている彼だが、新米の頃はそこまでの余裕はなく…

 まずは、一人のアイドルをプロデュースしてみようということになり、そこで千早に白羽の矢が立った。

 一刻も早く上を目指したい彼女にとっては願ってもいない事であり、今後の活動に期待を膨らませていた。

 しかし、実際にプロデュース活動が始まると、彼女は今まで自分の想い描いていたビジョンと、現実とのズレを感じ始める。

 周囲からの扱い、ファンとなるべき人々の態度、同業者からの嫌がらせ…

 何より千早が疑問を持ったのは、自分の味方であるはずのプロデューサーが歌に関係のない仕事ばかりを取ってくることだ。自分が歌いたい、ということは彼にも話してあるはずなのに…

 このことをプロデューサーに話すと、『これも必要なことだ』とそう言われ…千早は引き下がるが、心の中ではこの事についていつも不満を抱いていた。

千早(私はまだ無名…『アイドル』として売り出している以上は、こういったような扱いも仕方ないのかもしれない…)

千早(だけど、プロデューサーが取ってくるのは歌が関係しないような仕事ばかり…私の希望とは逆…納得できないわ)

 そんなことを思いながら活動を続けていたある日、プロデューサーが千早にとって初めてとなる、オーディションの話を持ってくる。

 もちろん、断る理由などない。人前で歌えるのだ。彼女はすぐにその話に飛びついた。

981: 2012/11/12(月) 22:31:31.51 ID:rV6R5Epio
 そのオーディションは現時点での千早の評価からすると少し要求するレベルは上だったが…彼女の実力ならば充分に合格できるものだと、プロデューサーはそう判断していた。

 しかし、アイドルのオーディションでは、単に歌えればいいというわけではない。

 いや…それは千早もプロデューサーも承知の上であったが…レッスンで見守られながら歌い踊ることと、審査員に見守られながら演じることは違う。

 それはなんてことのないダンスのミスだったが、「本番で失敗した」という事実が、彼女の心を苛む。

 内に生まれた不安は波紋のように広がり、失敗が失敗を生み、それはついに彼女の最大の強みである歌にまで及ぶ。

 結果は、惨敗。確かに周囲のランクも実力も高かったが…千早の実力から言えば、落とすはずではなかったはずだ。

 『失敗したのは自分の実力が足りないからだ』『もっとレッスンを増やしてほしい』そう千早は提案するものの…

P「いや、今週は休もう」

 プロデューサーは千早の焦りを察し、まずは彼女を落ち着かせようと休業を提案する。しかし…

千早(こんなことをしている場合ではない…)

 やるべきことがあるのに、できない…休むことで逆に、彼女の心には焦燥感ばかりが生じていった。

 仕事に戻った千早は、今まで以上に必氏になって練習に打ち込むようになる。ダンスに対しても、病的なまでに熱を入れるようになった。

 しかし、そんな焦った気持ちで物事が上手く運ぶはずもなく。

 レッスンでも、今まではありえなかったようなくだらないミスをするようになり、オーディションを受けては落とされ…

 そんなことを繰り返していくうちに、やがて千早は自信を失っていく。プロデューサーが、あれだけ望んでいた歌の仕事の話を持ってきても、『今の自分にはその資格はない』と拒否するようになってしまった。

 『彼女の自信を奪ってしまったのは自分だ』…プロデューサー自身もまた自分を責めるようになり、こうなってしまっては、もはやこのまま二人揃って潰れていくだけであった。

983: 2012/11/12(月) 22:33:10.47 ID:rV6R5Epio
 そんな時のことだ。

 千早が急き立てられるようにレッスンに打ち込んでいると、一人の少女に声をかけられる。

少女「如月千早ちゃん…だよね?」

 見覚えのある顔…同じ事務所に所属する少女だった。

 千早は彼女のことをあまりよくは知らなかったが、いつも失敗してはヘラヘラしているようなこの少女を、千早は『プロ意識の足りないやつ』と心のどこかで軽蔑していた。

少女「千早ちゃん…って呼んでもいいかな」

 わざわざ否定はしなかったが、馴れ馴れしい態度を取る少女に千早は少し苛立つ。

少女「千早ちゃんのダンス、見てたけど…すっごい上手だね!」

 『あなたが下手なだけでしょう?』千早は口に出かかったその言葉を飲み込む。事実、千早が特別上手いわけではなく、彼女のダンス技術はお世辞にも高いとは言えなかった。

千早「必要…だから。この世界では踊りが上手くできなければ、歌うこともできないでしょう」

少女「千早ちゃんは、歌いたいの?」

 その言葉に対し、千早は胸の中に溜まっていたものを吐き出すかのように啖呵を切った。

千早「当然でしょう!? そのために事務所に入った! やりたくもないダンスも覚えた! だけど…!」

986: 2012/11/12(月) 22:37:54.68 ID:rV6R5Epio
 少女はそんな千早の様子を見て、怒るでもなく謝るでもなく…少しだけ驚いた顔をすると、同じような調子で告げた。

少女「千早ちゃんは、どうして歌が好きなの?」

千早「どうして、って…」

 歌こそが自分にとっての全てであり、自分から歌を取ったら何も残らない。

 それは当たり前の事。この世界に足を踏み入れる前から、変わらなかった事実。

 しかし、どうして…? 何故、自分はそう思うようになった…?

少女「私は、千早ちゃんの歌好きだよ。なんか、上手く言えないけど…あったかいから」

千早「あったかい…?」

少女「私の勘違いかもしれないけど…」

少女「千早ちゃんはきっと誰かのことを想って歌っているんだって…なんか、そんな感じがするから」

 少女のその言葉は、千早にとって、鉄の板で頭を撃たれたような衝撃であった。

 自分は何故、ここまで歌に執着するのか?

 自分が歌ってあげたい相手…それは、誰だったのか?

 思い出す必要がある…

 千早の頭を支配していた謎の強迫観念は、己の内に湧き出た疑問によって霧散していた。

988: 2012/11/12(月) 22:38:28.30 ID:rV6R5Epio
 次の日、千早が事務所に顔を出すことはなかった。

 事務所の中に、その日に彼女が何をしていたのかを知る者は、彼女以外には誰もいない。だが、彼女にとっては必要な事で、決して無駄ではないことだったのだろう。

 そして…

P「いい顔になったな、千早」

 無断欠席に頭を下げる千早に、プロデューサーは何があったのか詳しくは聞かず、そう言った。

 何も連絡を入れなかったことだけに注意をすると、彼はすぐに仕事に移ろうとしていた。

 千早の表情には、もう焦りも不安も残ってはいない。そのことを理解した彼の目には、再び情熱の火が灯っていた。

 彼が最初に持ってきたのはオーディション。内容は彼女の望んでいた歌の仕事。当たり前のように、千早はそのオーディションに合格する。

 千早も、プロデューサーも、差して驚きはしなかった。プロデューサーが賛辞の言葉を送ると、千早は礼を返し、当たり前のように収録に向かっていった。

 色眼鏡を外してみれば、プロデューサーは新米という事もあり物足りない部分はあったが…とても一生懸命な男で、アイドルのことを第一に考えてくれる人間であった。

 彼はいつでも千早のことを信頼してくれていて、そのことがわかると、千早もだんだんとその信頼に応えたいと思うようになる。そしてやがて彼女自身も、彼のことを信頼するようになった。

 そうなったら、元々実力はあったのだ。千早はもう止まらない。

 一つの仕事を完璧にこなすと、プロデューサーがすぐ次の仕事を持ってきて、それもまた、次々と成功させていく。

 歯車がピタリと噛み合ったような手応えを…千早も、プロデューサーも感じていた。

 歌う機会も増え、彼女は世間に向けてその美しい歌声を披露していく。そうしているうちに、やがて彼女の名は世間に知れ渡るようになった。

 こうして如月千早は、トップアイドルの一人となったのである。

990: 2012/11/12(月) 22:38:52.04 ID:rV6R5Epio
P「それにしても、俺が何もしなくても一人で立ち直って…俺、必要ないのかなぁ」

千早「私はそんなことは思ってはいません。変な事を言わないでください、プロデューサー」

千早「…それに、一人で立ち直ったわけじゃあ…」

 自分を見つめ直す…立ち直るきっかけとなってくれたあの少女。

 彼女に一言、謝りたい…そして、礼を言いたい。千早が、少女に会いに行くと…

千早「あの時はごめんなさい。それと…ありがとう」

少女「立ち直ったのは千早ちゃんの力だよ。でも、私の言った事がきっかけになってくれたのなら…ちょっと嬉しいかな、えへへ」

少女「よかったら…これからもよろしくね、千早ちゃん」

千早「…ええ、こちらこそ」

 彼女はアイドルとして特別優れているわけでも、人気があるわけでもなかったが…

 事務所のみんなのことをいつも気にかけてくれるような子で、そして周りも元気にしてくれるような笑顔がとても印象的な少女で…

 彼女はプロデューサーとともに…彼とは違う方法で、いつも千早のことを支えてくれる。

 いつしか、その少女は千早にとって、親友とも呼べる存在となっていた。



 少女の名前は、天海春香と言った。

4: 2012/11/12(月) 22:41:27.44 ID:rV6R5Epio
ドドドドド

やよい「うーっ、うーっ、うっうっうーっ」

ゴチャッ

千早(高槻さんの、『くっつけ』る能力…『軽く』する能力が通用しない…!)

ドドドドドド

千早(だけど…高槻さんの分の『重量』はこっちにある。『パワー』は『ブルー・バード』の方が上のはず)

千早(高槻さんに攻撃するというのは気が引けるけれど…この状況、そうも言ってはいられない)

千早(不用意に攻撃してはまた『くっつけ』られる。一撃で決める必要があるわね)

やよい「なんか、こうしていっぱいくっつけてるのに歩けたりすると…」ガシャ

やよい「すっごい力持ちになったみたい」ガシャッ

千早「………」

シャッ

やよい「あれー、千早さんカーテンの中に隠れて…かくれんぼですかぁ?」

6: 2012/11/12(月) 22:42:44.65 ID:rV6R5Epio
やよい「えーと、千早さんはどのへんにいるかなー」クルゥーッ

モゾモゾ

やよい「あ! そこですっ」ヒュッ

ガチッ!

やよい「あれ?」

シャッ

やよい「イスが…浮かんでます」

やよい「千早さん、どこ行ったんですかー?」

千早(高槻さんの動き…)

千早(かなり単調ね…こんな子供騙しにもならないような手にも引っかかったし、基本的にスタンドを直線的に突っ込ませるような動きしかしてこないわ)

やよい「あ、わかったー! 外に出たんですね!」グオン

ブチブチブチ

バサァ

千早「………」

やよい「千早さん、みーつけた」

8: 2012/11/12(月) 22:43:13.35 ID:rV6R5Epio
やよい「えーっと…千早さんを『ゲンキトリッパー』で『くっつけ』て…それから…」

やよい「それ…から…」

やよい「………」

やよい「いいや、『くっつけ』てから考えよっと」グイッ

千早「乗ったわね、高槻さん」

やよい「え?」

バサァァ

やよい「はわっ、カーテンが…」

千早(『ブルー・バード』…これで『重量』はゼロ、空気より軽くなったカーテンは重力に逆らって上って行く)

やよい「うーっ、これ邪魔ですーっ」モゾモゾ

千早(そして、これで高槻さんの視界を封じた! ここに…叩き込む!)ビュアッ

やよい「よいしょっ」バサッ

ゴォォォ

千早(入る…!)

ス…

やよい「うっうー!」ビュン!

千早「はっ…!?」バサッ

10: 2012/11/12(月) 22:43:47.64 ID:rV6R5Epio
ズザァァァ

やよい「ちょっと、危なかったかなー」

千早(あのスピード…『ブルー・バード』の攻撃を避けた…?)

千早(いくら高槻さんの身体能力が高いと言っても…この距離で『ブルー・バード』を見てから避けるなんて…人間に可能なことなの…?)

やよい「なんだか…」

やよい「体がポカポカーってなって、すっごい元気出てるかもーっ」

千早(!)

ピタァ…

千早(腕にカーテンが『くっついて』いる…)

バサァ…

千早(くっ、こう上がられると視界が…『ブルー・バード』を解除しなくては…)

フッ

12: 2012/11/12(月) 22:44:11.37 ID:rV6R5Epio
やよい「あ…体、『重く』なりましたー」

ガシャン ガシャ

千早(これで…高槻さんの『重量』は元に戻り…こっちの手には『カーテン』をくっつけられ…)

千早(打撃のパワーはともかく、このカーテンを引きちぎるほどの腕力は『ブルー・バード』には…)

やよい「『くっついた』のもなくなって…ぜっこーちょーで行きますよーっ!」タカタカ

千早「くっ…」

千早(高槻さんが向かってくる、どうすれば…)

やよい「うーっ!」ドォ

千早(考えている時間はない、カーテンで包んで…抑え込む!)

グイッ

バファッ

やよい「わぷっ」

14: 2012/11/12(月) 22:44:25.67 ID:rV6R5Epio
やよい「うーっ、苦しいですーっ」ジタバタ

千早「暴れないで、高槻さん…!」

やよい「………」ピタ…

・ ・ ・ ・

千早「ふぅ、ようやく止まって…」

グ…

千早「…え?」グラ…

やよい「うっうー!」グイイィ

千早「っ!? な、なんですって…!?」ズザ

千早(お、押されている…!? こんな小さな体のどこにそんなパワーが…)

やよい「えーいっ!」ドスン

千早「がっ!」ドギャァ

千早「こ…」ピタ…

千早「これは…!」グ…

千早(壁に『くっつけ』られて…動けない! 十字架に張り付けられた罪人のように…!)

16: 2012/11/12(月) 22:44:48.03 ID:rV6R5Epio
やよい「これで千早さんは…えーと…えーっと…もういいや」

千早(まずい…! こんな状態では『ブルー・バード』で身を守る事も…)

ゴソゴソ

やよい「これでいっかなー」ヒョイ

ピト

千早「ひっ!?」ヒヤッ

千早(コーヒーの空き缶…? を、私の腹に『くっつけ』て…一体何を…)

やよい「えいっ」グイ

千早「ぐ…っ!?」ビッ

やよい「これを、ゆっくりゆっくり…」

やよい「『なめくじ』が動くようにゆっくりと、引っ張って…剥がしたいと思います」

ギリ

千早「あ…」

ギリリリリリリ

千早「あああああ…っ!」

千早(皮膚が…引きちぎられる…!)

18: 2012/11/12(月) 22:45:37.59 ID:rV6R5Epio
千早「た…高槻さん…! 一体、何が目的なの…!?」

千早「何か望みがあるのなら…がっ…!!」ギリリリ

やよい「え、目的ですかー?」

やよい「言ったじゃあないですか、おしおきですよー」ギュイ…

千早「あああ…うあああああっ!!」ギリギリ

やよい「だからいっぱい時間かけて、もーっと…」

ヌ…

あずさ「そこまでよ~、やよいちゃん」

やよい「はわっ!?」クルッ

あずさ「『ミスメイカー』」ガシ!!

やよい「うっうー! 『ゲンキトリッパー』!!」バッ

ピタ…

やよい「ふぅ…あずささんもですか…」

やよい「だけど手が伸びてるところで『くっつけ』たから…これで一安心かもです」

20: 2012/11/12(月) 22:45:59.06 ID:rV6R5Epio
あずさ「やよいちゃん、何をしているのかしら?」

やよい「今、千早さんにおしおきしてるんですよー」

あずさ「おしおき?」

やよい「はい、だからジャマしないでほしいかなーって」

あずさ「そう、それは…」

チッチッチッチッ

カチ!

やよい「はうっ」プツッ

ガラァァン

あずさ「ごめんなさいね、邪魔をしちゃって」

千早「う…」フラッ

カラン

あずさ「危なかったわね、千早ちゃん。大丈夫?」

22: 2012/11/12(月) 22:46:17.92 ID:rV6R5Epio
千早「あ…あずささん…ありがとうございます、助かりました」

あずさ「やよいちゃんも、春香ちゃんの側のはず…気をつけてね、千早ちゃん」

千早「そういうことは、先に言ってくれるとありがたかったのですが…」

あずさ「あらあら~、ごめんなさい」

千早「…あずささん、既にご存知かもしれませんが…音無さんと高槻さんはスタンド使いでした」

千早「音無さんの方は『ブルー・バード』で攻撃したらあっさり倒せてしまいましたが…」

あずさ「あら? 音無さんも…そうなの?」

千早「知らないのですか?」

あずさ「やよいちゃんの方は知っていたけど、春香ちゃんは他に誰が『そう』なのかはあまり教えてくれないから」

あずさ「でも、そういうことなら…音無さんも『眠ら』せておいた方がよさそうね」

千早「はい、お願いします。それで…」

あずさ「あの~…とりあえず、千早ちゃん」

千早「はい?」

あずさ「服を着た方がいいと思うわよ~、女の子がいつまでも下着姿ってのはちょっとね…」カチッ

小鳥「むにゃ…」

千早「そうですね、音無さんがこんなじゃあ計測もできませんし…」

24: 2012/11/12(月) 22:46:42.33 ID:rV6R5Epio
………

……

小鳥「うへへ…」

やよい「くー…」

千早「音無さん、それと高槻さん…どうしましょうか…」ソワソワ

あずさ「放っといていいと思うわよ~。私がここにいる間起きる事はないし、私が『ミスメイカー』を解除しても、しばらくは『眠って』いるはず」

千早「二人とも、様子がおかしかった…何か、『凶暴』になっていたような気がするのですが…」

あずさ「『凶暴』…?」

千早「ええ。『スタンド使い』になったことによる影響でしょうか?」

あずさ「うーん…春香ちゃんみたいに、『持った事』によって気が大きくなったりすることはあるかもしれないけど…」

あずさ「『凶暴化』というのは…ちょっと、わからないわね。二人とも、なの?」

千早「はい、そうですね。普段と様子が全然違いました」

あずさ「そう…だったら、何かあるのかもしれないわね。やよいちゃんは私の能力を知っているはずなのに、『くっつけ』たままだったし」

千早「何か、ですか…」

あずさ「…この話はひとまず置いておきましょう」

26: 2012/11/12(月) 22:47:27.26 ID:rV6R5Epio
あずさ「それより、千早ちゃん…ちょっとお願いがあるのだけど」

千早「はい? なんでしょうか」

あずさ「千早ちゃんの『ブルー・バード』で…」

ゴゴ

あずさ「私の体重を…少し…」

ゴゴゴ

あずさ「『軽く』…してくれないかしら」

ゴゴゴゴゴゴ

千早「………」

あずさ「………」

ゴゴゴゴゴゴゴ

千早「いけないと思います、それは…」

あずさ「そこをなんとかお願い…」

千早「先程襲われたのに、そんなことをしている場合じゃあないかと…」

あずさ「やよいちゃんも音無さんも、倒したのでしょう? それに、二人とも『眠らせた』から大丈夫よ」

28: 2012/11/12(月) 22:47:47.81 ID:rV6R5Epio
千早「しかし…」

あずさ「さっきのお礼と思って…!」

千早「それには感謝していますけれど、アイドルとして、こういう行為はよくないのでは…」

あずさ「私もそう思うけど…男の人に見られるとなると…」

千早「みんな、そうですよ!」

あずさ「お願い! 1kgだけでもいいから…」

スゥ…

あずさ「!」ビク!

・ ・ ・

千早「だけと言いますけれど、1kgって結構な重さでは…」

あずさ「………」

千早「あずささん…?」

あずさ「ふざけないでよ…」

千早「!?」

30: 2012/11/12(月) 22:48:15.29 ID:rV6R5Epio
あずさ「ふざけるんじゃあないぞッ、この小娘がッ!!」

ドゴォ!

千早「うぐっ!?」

カチ!

千早「かはっ!!」ドサァ

千早「な…何ですってッ!?」ムク…

あずさ「下手に出てりゃ調子に乗りやがってよォォ~ッ、私に使う能力はないってかァ~ッ!?」

あずさ「それとも、まな板だから僻んでんのかよォ~ッ!? え? 去年からサイズ上がってんのか!?」

千早「くっ…」

千早「別に気にしてはいないけれど、そういうことを言われると腹が立つわね…」

千早(それにしても、あずささんまで…? この尋常じゃあない豹変っぷり、もう偶然なんて言っていられない…)

千早(人に取り憑くタイプの『スタンド』! きっと高槻さんも…音無さんも、誰かに操られていた…そうとしか思えないわ!)

千早(そして…『ミスメイカー』…『眠ら』されるまであと80秒!)

61: 2012/11/17(土) 21:57:03.90 ID:+x0FVuqyo
カチ! カチ!

千早(音無さんも高槻さんも、『ミスメイカー』の能力で『眠って』いる。『凶暴化』はこの二人によるものではない)

千早(音無さんは関しては、そもそも私の『ブルー・バード』が見えていなかった。恐らく、スタンド使いではないのでしょう)

千早「本体は…別にいるッ!」

千早(そう遠くにはいないはず…探しに行きたいところだけれど、まずはこの『カウント』…あずささんを止めないといけない)

ザッ

あずさ「あら…扉の前に立って…どういうつもり?」

千早(狙う事は前と同じ…一度『軽く』して動きを封じれば、射程距離の外に出る事が出来る)

千早「もう時間はない…あなたを逃がしたりもしない、すぐに決着をつけさせてもらいます」

千早(『カウント』がゼロになれば勝利…恐らく、あずささんは私の攻撃を避けながら戦うでしょう)

千早(だけど、『ブルー・バード』のスピードならば捉えられる…はず)

63: 2012/11/17(土) 21:57:57.53 ID:+x0FVuqyo
ズ…

あずさ「んん~?」

あずさ「千早ちゃん、頭の『カウント』がどんどん減ってるようだけど…」

あずさ「そんなゆっくり歩いてる余裕なんてあるのかしら~?」

千早(いえ、ゆっくりでいい)スッ

千早(こっちはまず、一撃当たればそれでいい…万が一もあるかもしれないけれど)

千早(1分あれば…充分よ)

ドドドド

千早(『ブルー・バード』の射程距離はおよそ7m、このままゆっくり近づいて…)

千早(どちらに向かう? 右? 左? 後方?)

千早(どこだろうが、逃げようとするならば…あずささんが動いたと同時に『ブルー・バード』を叩き込むだけよ)

ドドド

65: 2012/11/17(土) 21:59:03.64 ID:+x0FVuqyo
あずさ「千早ちゃん…」

あずさ「一発当てればいいとか…そんなつまらない事考えてるんじゃあないでしょうね…?」

千早「………」

千早(挑発に乗ってはいけない。『ミスメイカー』の能力は氏刑宣告のようなもの、確実にやるべきよ)

あずさ「こっちはチンタラやるつもりはないのよッ!!」ダッ!

千早「!」

千早(こっちに突っ込んできた!?)

あずさ「とっとと『眠ら』せて…縛り上げて、『軽く』してもらうわ…!!」

千早「そう…ならば」スッ

ズシッ

千早(床から『重量』を『奪う』…『重く』すれば『ミスメイカー』のパワーにも勝てる!)

あずさ「『重く』してるのォ~ッ!? 馬鹿の一つ覚えのように!!」

ゴゴゴゴゴ

千早「く…!」

千早(あずささんが近づいてくるスピードが思ったよりも速い…!)

67: 2012/11/17(土) 21:59:35.72 ID:+x0FVuqyo
あずさ「ウシャアアアッ」グオン

千早(充分な『重量』は得た、『パワー』は充分…なはず)

千早「『ブルー・バード』!」ドォン

ガシィ!!

グイ!

千早「こっ…!?」ガッ!

千早「このパワーは…!!」グググ

千早(以前より強い…『重く』した『ブルー・バード』が…押し負ける…!)

あずさ「舐めるなッ!」ドガァ

ギュン

千早「んあっ!!」バキャ!!

カチ!

千早「く…」

千早(カウントが進んだ…あと40秒もない…)

千早(…『取り憑く』スタンド、大体見えてきたわ)

千早(『ミスメイカー』だけでなく、あずささん自身のパワーやスピードも上がっているのね…)

69: 2012/11/17(土) 22:00:47.60 ID:+x0FVuqyo
千早(『ミスメイカー』で『眠ら』せるには時間が必要…先に『カウント』をつけられた私の前に何かを『眠ら』せることはできない)

千早(『ミスメイカー』の能力はないものとして考えていいわ。私が触れられるのはまずいけれど…)

あずさ「あらあら~。追いつめる側から一気に追いつめられる側ねぇ~ッ、どんな気持ちかしら~?」

あずさ「このまま『ミスメイカー』でブッ飛ばして…すぐに『カウント』を『ゼロ』にしてあげるわ~ッ、千早ちゃん!!」

千早(思考も短絡的…)

千早(『逃げ』に徹されたらもう私の勝ち目はないけれど…そうしない)

千早(恐らく、取り憑かれ『凶暴化』したことで判断力が低下しているのね…いつものあずささんならばこんな粗雑な攻め方はしてこないわ)

ザッ ザッ

千早(また真っすぐ突っ込んでくる…そうとわかれば…)

あずさ「とどめよッ!!」バオッ

千早(あずささんの攻撃の軌道が読める…)ス…

あずさ「え?」

ヒュ

ドギャァァ!

あずさ「ぐぎゃっ!?」

71: 2012/11/17(土) 22:01:27.22 ID:+x0FVuqyo
千早「あずささん…あなたは以前、私の『ブルー・バード』の動きは単調…だから攻撃を当てるのは難しくないと言ったけれど」

あずさ「う…」

千早「その通りね。速くなった分、動きは単純…直線的に突っ込んでくるだけなら」

あずさ「うおおおおッ!!」バオッ

千早「ふっ!!」ヒュン

ドギャス!

あずさ「あがっ…!」グキ!

千早「簡単に攻撃を当てられるわ」

あずさ「なん…ですって…」グラ…

千早「もう時間がない…このまま離れてもカウントが『ゼロ』に前に射程距離の外に出る事は出来ない」

千早「なら、悪いけれどあずささん…あなたを気絶させる他ないわね」

あずさ「ぐ…」

73: 2012/11/17(土) 22:02:18.40 ID:+x0FVuqyo
あずさ「シャァッ!!」ドバ

千早「遅いわ」ヒュン

あずさ「がっ!」バキ!

・ ・ ・ ・

千早「あなたから向かってくるのなら好都合…」

ドドドド

千早「さぁ、気絶してもらうわ」ザッ

あずさ「う…」

ドドドドドド

あずさ「あああっ!!」ダッ!!

千早(逃げた…)

千早(いかに『凶暴』な『野生生物』も天敵からは本能的に逃れようとする)

千早(『憑依スタンド』に取り憑かれた人も、こう叩きのめせば恐怖は感じるのね)

75: 2012/11/17(土) 22:03:02.75 ID:+x0FVuqyo
千早(しかし…)

千早「逃がすと…思いますか?」

ササッ

あずさ「はっ、そんなところから何を言っているの千早ちゃん…」

ドドドドドド

あずさ「『ブルー・バード』の射程距離は7m、ここまでは…」

ヒュゥッ

あずさ「え…」

ドドド

千早(届く…)

あずさ「う…」

千早「行って…『ブルー・バード』」

あずさ「きゃああああああああああああああ」

ド バ バ バ バ バ

ギャン ドグオ

あずさ「う…が…っ!!」

ドッバァァン

77: 2012/11/17(土) 22:03:22.04 ID:+x0FVuqyo
あずさ「あ…う…うぁ…」ガクッ

千早「少し…」

千早「やりすぎたかしら。いえ…」

千早「こうでもしなければ、私の方が…」

カチ! カチ!

・ ・ ・ ・

千早(『カウント』が…消えない…?)

あずさ「はぁ、ふぅ…」

千早「まだ…気絶していない…!!」

あずさ「ふ…少し…」

あずさ「及ばなかったわねェェ~ッ、千早ちゃん…!」

千早「く…」

千早(もう、時間がない…!)

79: 2012/11/17(土) 22:03:43.85 ID:+x0FVuqyo
千早「『ブルー・バード』!!」

あずさ「おっと」ヒュバッ

バキ! ドガ!

千早「……!」

あずさ「もう焦る必要もない…攻撃されなければ、終わりよ。こっちだって、避けるだけなら簡単」

千早「うおおおおおおおお」ゴォ

あずさ「もう、遅い」

カチィ!!

千早「あ…」フラ…

ドザァァ

あずさ「ふぅ…千早ちゃん」

あずさ「驚いたわ…この短期間になかなか扱えるようになってるじゃあない、『ブルー・バード』を」

81: 2012/11/17(土) 22:04:09.87 ID:+x0FVuqyo
クンッ!

あずさ「なんだか…久しぶりに『ハイ』になっちゃったわ~」

ヒュァァァ

あずさ「よく分からないけど、他人を打ち負かすのって気分がいいわねェ~ッ」

ドバギャァ!!

あずさ「がふっ!?」

ガシャァァン

あずさ「な、何…」

バタム!

ヒュゥゥ

ゴツン!

千早「う…」

千早「『ブルー・バード』……ふぁ…」

千早「椅子と、高槻さんが持ってきた置物を…ん…『軽く』して浮かべておいた…」ゴシゴシ

83: 2012/11/17(土) 22:04:38.04 ID:+x0FVuqyo
やよい「くぅ…」

小鳥「むにゃむにゃ…」

あずさ「………」

千早「自分の手は汚さず、他人を戦わせる…」

千早「こんな卑劣なスタンド…! 許せないわ…」

千早「本体をすぐに探し出して…」

ヒュッ

バリ!!

千早「………え?」

タラァ…

千早「な…何!?」

千早(また、同じスタンド…? だけど、三人とも気絶しているし、他に誰の姿も見えない…)

千早(今…どこから攻撃されたの…?)

85: 2012/11/17(土) 22:05:07.99 ID:+x0FVuqyo
ゴゴゴゴゴ

千早「………」

キョロ キョロ

千早(何かが動いてるようには見えないけれど…)

ヒュン

ガリッ!!

千早「痛っ…!?」

千早(後ろから…! 何かに噛まれているッ!!)

千早「このっ…!」バッ

ヒュン

千早(くっ、逃げられた…)

ゴゴゴゴゴゴ

千早(今の噛まれた感触…小さな生き物? もしかして、小動物を『凶暴化』させているの…?)

87: 2012/11/17(土) 22:06:30.21 ID:+x0FVuqyo
ジ…

グル ジィ…

千早(目で追うのは無理ね…だったら…)

スゥ…

千早(春香の『アイ・ウォント』は『五感』を『支配』するという…)

千早(なら、目だけに頼るのは危険と、あずささんは教えてくれた)

千早(そのため、音である程度判断できるよう訓練はしてある。元々、音楽に携わる者として耳はいいつもりだけれど)

シィーン…

千早(敵は攻撃するために飛びつく必要がある…足音が聞こえなくても、大きく踏み切る時には音はするはず)

千早(方向がわかれば…)

タッ

千早「そこっ!!」バッ

89: 2012/11/17(土) 22:06:51.63 ID:+x0FVuqyo
「ヂュッ!!」

ギュォォーン

クル!!

千早(避けられた! だけど…)

千早「そっちに行くと思ったわ…『ブルー・バード』の手を避けるため空中で方向転換して…」

スタッ

千早「その先にあるのは…!!」

ブワッ バサァ!!

「!? !」

バァーン

千早「カーテン…今日はお世話になりっぱなしね」

千早「包むものがこれほど小さいのなら、空気よりも『軽く』すれば一緒になって天井に落ちていくわ」

91: 2012/11/17(土) 22:08:16.60 ID:+x0FVuqyo
ガシィ!

「チュ… …!」

千早「さて…」

千早「やはり…あなたなのね。少し意外だったわ」

千早「出てきなさい、我那覇さん…!」

?「!」ビクッ

千早「これはあなたのスタンドでしょう…? コソコソ隠れて、みっともないと思わないの…!?」

シン…

千早「出てこないつもりかしら…それならそれで、こっちにも考えがある」

ガラッ

千早「あなたがこのまま姿を現さなければ…この鼠が空を旅することになるわよ」

「ヂュゥ!?」

千早(まぁ、本当に落とすつもりもないけれど…こういうのって、愛護団体に訴えられたりするのかしら)

93: 2012/11/17(土) 22:09:03.33 ID:+x0FVuqyo
ザッ!!

・ ・ ・ ・

千早「来たわね、我那覇さん」クル

響「やめろ、千早…! ハム蔵を放せ!」

千早「ええ、いいわよ。あなたのように汚い真似はしたくないもの」パッ

ハム蔵「チュ、チュゥゥゥ…」ヒュッ ヒョコッ

響「なんだと…? 今なんて言った、千早?」

千早「自分の手は汚さず、高槻さんに、音無さん…あずささんにも戦わせ、こんな鼠にまで戦わせるなんて…信じられないわ」

響「ハムスターだ」

千早「?」

響「ハム蔵はハムスターだ、鼠じゃあない」

千早「知っているけれど…それがどうかしたの?」

ゴゴゴゴ

響「………」

千早「………」

ゴゴゴゴゴゴゴ

95: 2012/11/17(土) 22:09:49.16 ID:+x0FVuqyo
千早「私も…『凶暴化』させる? そのつもりなら、やめた方がいいわよ」

響「何…?」

千早「あなたのスタンドは同時に複数の生物に取り憑かせることはできない」

千早「そして、誰かに取り憑かせていている間…あなた自身はスタンドを使うことが出来ない」

千早「だから、一人ずつ戦わせ…自分は出てこなかった。違うかしら」

響「それが一体…」

千早「見た限り、あなたの能力は『凶暴化』させるだけ。『自由に操る』ことができるわけではないわ」

千早「あずささんの『ミスメイカー』はともかく…高槻さんのスタンド、使ったことのないあなたがあれほど上手く操れるはずがないもの」

千早「『凶暴化』して動きが単調になったとはいえ…戦ってるのはあくまでも本人よ。違うかしら」

響「………」

千早「私が『凶暴化』させられたとしても、恐らく無差別に…目の前にいるあなたに襲いかかるだけよ」

千早「だから、意味がないわ。私にそれを取り憑かせたところで…」

97: 2012/11/17(土) 22:10:20.14 ID:+x0FVuqyo
響「なぁ、千早」

千早「何?」

響「自分が、ハム蔵や…やよいやあずさやピヨ子を傷つけさせたいと思ってやったと…そう思ってるのか?」

千早「思ってなくても、実際そうなっているでしょう(実際にやったのは私だけれど…)」

響「こんなこと言ってもわかってくれないだろうけど、自分はこんなこと反対だった」

千早「え?」

響「だけど相手は手強い。リスクは最小限にするべきだって…だからやった」

千早(誰かに言われたの…? 春香が、そんなことを?)

千早「…それで?」

響「自分のスタンド、『トライアル・ダンス』」

響「誰かを『凶暴化』させるなんて、そんなの本来の使い方じゃあないんだ」

千早(本来の使い方じゃあない…?)

響「最初から必要なかったんだ、あんな手…自分が本気でやれば千早なんかに負けたりしないからな」

千早「…確かめてみる、我那覇さん? 本当に、私の『ブルー・バード』に勝てるのか」

響「ああ、そのつもりだぞ」

99: 2012/11/17(土) 22:10:52.12 ID:+x0FVuqyo
響「ハム蔵、下がってろ。巻き込まれるぞ」

千早「巻き込まれる…? 何か心配をしているけれど…」

千早「あなたのスタンド…『人に取り憑く』スタンドで何が出来るというの?」

響「ま、見てるといいぞ…」

スゥ…

響「『トライアル・ダンス』ゥゥッ!!」バリ バリ バリ バリ

千早「!」

響「………」シュー

千早「…我那覇さん?」

響「フゥゥゥゥ…」

千早(これは…)

千早(スタンドを自分に取り憑かせたのね)

千早(なるほど、これが我那覇さんの言うところの…本来のスタンドの使い方というわけね)

101: 2012/11/17(土) 22:11:13.08 ID:+x0FVuqyo
響「行くぞッ!!」ゴオッ

千早(しかし、やはりやることは変わってはいない。また馬鹿正直に突っ込んでくるだけ…)

千早「ふっ!」ドォ

ヒュンッ

・ ・ ・ ・

千早「え?」

千早(我那覇さんが、消え…)

響「ドラァッ!!」ゴッ

ドボォ

千早「くっ…!?」ガッ

ズザザザ

響「へぇ、いい反応してるじゃあないか千早」

千早(これは…スタンドと一体化してるためか『ブルー・バード』にも攻撃が…)

千早(いえ、そんなことよりも…このスピードは一体…!? 今までの『凶暴化』した人達とはまるで比べ物にならない…!)

響「手加減なんてできないからな…」

響「全力でブッ倒す! 覚悟しろ、千早!!」

103: 2012/11/17(土) 22:13:47.86 ID:+x0FVuqyo
スタンド名:「トライアル・ダンス」
本体:我那覇 響
タイプ:特殊型・憑依
破壊力:B スピード:A 射程距離:なし 能力射程:C(10m)
持続力:D 精密動作性:E 成長性:C
能力:生物に取り憑き、「野生」を呼び覚ます響のスタンド。
取り憑かれた者は「凶暴化」し、身体能力が大きく上がるが、判断力などの思考能力が低下する。スタンド使いが取り憑かれた時、その影響はスタンドにも及ぶ。
スタンドに取り憑かれたものは一時的に本体となり、本来の本体である響から離れていても充分な「パワー」と「スピード」を出すことができる。
本来の本体である響に取り憑いた場合、その能力は100%引き出され、目にも留まらぬほどの超スピードを発揮する。
普段は霊体のようなスタンドであり、生物に触れて取り憑かなければ物体に干渉する事はできない。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

うーむ…本日分はこれで終了です。支援ありがとうございました。

127: 2012/11/19(月) 23:24:15.72 ID:7zFFj6Ozo
シュバ!

千早「く…」ズッ

響「ドラァッ!!」ドオッ

ガキィィィン

千早「くあっ…!」ビリビリ

響「もいっぱあああああつッ!」シュン

千早「ブ…『ブルー・バード』…!」ド バ バ バ バ

響「ん!」キィッ!

ビ!

ヒュン

千早「う…」ズズズズ

ドサァ

千早「はぁ、はぁ…」

ビトァ

響「千早の『スタンド』…」

響「『軽く』する能力で間違いないみたいだな。かすったらちょっと『軽く』なった気がするぞ」

129: 2012/11/19(月) 23:24:50.16 ID:7zFFj6Ozo
バヒュン

千早(来る…!)

千早「はっ!」ドヒュ

キィッ!

響「ドラァ!」ゴォッ

メシャ!

千早「く…っ」メキメキメキ

響「ドラララララララ」ドギャ ドギャ ドギャァ

千早「ぐあっ…!」

ドゴォ!

ドドドドドド

響「早いとこ降参した方が身のためだと思うぞ」ズ…

響「自分の『トライアル・ダンス』…逃げられやしないし、抵抗しても怪我するだけだしな」

ブル…

千早(思った以上にまずい…このスタンド)

千早(我那覇さん本来の身体能力に、スタンドの能力がプラスッ!)

ドドドド

131: 2012/11/19(月) 23:26:02.13 ID:7zFFj6Ozo
響「よし、まだまだいくぞ」トン トン

ドシャァ!

千早(特に、脚力…地面を蹴る力が凄まじいため、この移動スピードを生み出しているのね)

千早(だけど我那覇さんを『軽く』すれば…そうすれば、身体能力は関係ない、動けなくなるはず…)

響「………」

ゴゴゴゴゴゴゴ

千早(また正面から向かってくる…これなら…)

ゴッ

・ ・ ・

千早「………え」

千早(壁を…)

ダダッ

ビュ!

ピタ…

ゴゴゴゴゴ

千早(天井を…歩いている…)

133: 2012/11/19(月) 23:27:03.70 ID:7zFFj6Ozo
ドザッ

ギュイ…

響「ドラララララララララララ」

千早「うおおおおおおお!?」バッ

ドゴ バキャ バゴ

千早「がふっ…」

ドッギャァァァン

響「………」シュゥゥゥ…

千早「く…!」ギュバ

響「!」ヒュン!

千早「げほっ、がほっ!」ゴロン

響「そんな攻撃、当たったりしないぞ」キキイッ

千早(移動の『スピード』が…)

千早(速すぎる! 身を守るだけが精一杯で…こっちの攻撃が当たらない…!)

千早(コントロールの利かない『ブルー・バード』ではとても捉えられないわ…!)

千早(だけど、聞こえた…地面が擦れる音が!)

135: 2012/11/19(月) 23:28:39.64 ID:7zFFj6Ozo
スゥ…

響「ん?」

千早(我那覇さんは攻撃の直前でブレーキをかけている…ならば)

千早(最初にかすった時のように、ブレーキと同時に『ブルー・バード』を叩き込む…!)

響「動かない…カウンター狙いか」ヒュン

千早「!」

千早(我那覇さんが視界から消えた…いえ、関係ないわ。止まる音さえ聞こえれば…)

ダム!

千早「えっ!?」クル

ダムッ! ダムッ!

千早「こ、これは…!?」

ビダッ

響「ドラァ!!」シュゴォォォ

千早「うおおっ!?」バッ

バヒュン!!

ダムァ!

千早(床だけでなく、壁や天井を地面のように蹴って…飛び回っている…!)

137: 2012/11/19(月) 23:31:18.57 ID:7zFFj6Ozo
ダム!

千早(しかも、飛び込んできた後、すぐに床を蹴って壁に飛び移っている…)

千早(移動と攻撃がイコール…これでは、こちらから攻撃ができない…)

ダム! ダム!

千早(しかし、今ので場所はわかった。速いけど動きは単純…軌道がわかる)

千早(ここにいるとまずいわね…)ダッ

キュッ

バチィィィッ!!

千早「くあっ…!?」

ダムゥ

千早「手、手が…!」ビリビリ

千早(軌道から攻撃が読めるかと思ったけれど…駄目だったわ…)

千早(我那覇さんは、私のいる方に飛び込んでいる…!)

千早(………)

千早(いえ、待って…だったら、どうして我那覇さんは壁から壁に飛び移るのではなく、わざわざ床や天井にまで飛び移っているの…?)

千早(伏せられなければ、二次元の攻撃…そっちの方が私に攻撃を与えやすいし…)

千早(伏せたとしてもその時に床に向かって飛び込めばいい。相手の動きも遅くなるから好都合でしょうに…)

千早(そこまで考えが回らないのかしら?)

139: 2012/11/19(月) 23:32:31.38 ID:7zFFj6Ozo
ダム! ダム!

千早(…いえ、この飛び移る距離…)

千早(この脚力があっても、反対側の壁まで一気に移動することは流石に出来ない…ということ…?)

ダム! ダム!

千早(恐らく、壁か天井を経由しなければ、壁から反対側の壁に飛び移る事はできないのね…!)

千早(と、いうことは…)

ダムッ

千早(この床や壁や天井を蹴る行動…『スタンド』で身体能力を上げているとは言っても…いえ、だからこそ余計な負担はかけられない…)

千早(踏み切る時、『自然な方向』に向かって進んでいるはず)

千早(でも、それだと私のいる場所に向かって飛んでくる事は難しいし…軌道も読みやすいわ。だから…)

ビッ

響「ドラララララ」ゴォォォォォ

千早「!」ゴロッ

千早(こっちに飛んでくる時、狙いをつけるため…少し、体勢を無理に変える必要がある)スタッ

ダムッ!

千早(その時だけ…壁を蹴る『音』が、違う『音』になっている!)

141: 2012/11/19(月) 23:33:48.21 ID:7zFFj6Ozo
ダム!

千早(『音』を聞けば…攻撃のタイミングも、方向もわかるわ)スッ

ズシッ…

千早(『ブルー・バード』。体を限界まで『重く』し…最大の『パワー』を生み出す)

ダムン!

千早(攻撃に合わせて、手を出せば…)

ビドォ

・ ・ ・

千早(そこよ…!)シュバァ

ドヒュゥゥン

メ…

ドドドド

千早(………)

 『ブルー・バード』の拳が触れると同時…

 飛んでくる響…この圧倒的なパワーを相手に、真正面から立ち向かうことの愚かさを…

 このままでは自分が「電車の前に飛び出した犬」のように無惨な結末を辿るであろうことを、千早は、理解した…

千早(まずい…手…)ス…

ドッギャァァァン

千早「ぐぶっ!!」ガギャ!

響「うぇっ!?」ギギギギ

143: 2012/11/19(月) 23:35:02.57 ID:7zFFj6Ozo
ドシャァ!!

千早「うぷっ!」

響「あぐっ!」ドサァ

千早「ぐぅっ…! うがっ…!」ウプッ

ビチャッ

響「いてて…避けないなんてどういうつもりだよ、危ないじゃあないか」

千早「はぁ、っ…ふ…」

千早「ぐっ…!」ドォ

響「うわっ!?」バッ

千早(こ、この…)クラ…

千早(『重量』なんておかまいなしに吹っ飛ばすこの威力…!)

千早(いえ、『重く』していなければ跳ね上げられ、全身コナゴナにされていたでしょうね…)

千早(この状態でも…あと一瞬、腕を引っ込めるのが遅れていたら折られていた…)

響「これを真正面から受け止めて、反撃できる余裕があるってのは千早のスタンド能力のお陰か…」

響「ま…今のでわかっただろ? 千早の『スタンド』では、ちょっとくらい威力を抑えられてもどうにも出来ないぞ」

千早(つ…強い…)

145: 2012/11/19(月) 23:37:18.77 ID:7zFFj6Ozo
響「もっかい!」ダム!

千早(ま…また…来る…)

響「『トライアル・ダンス』…」

ダム ダムッ

千早「はぁ、はぁ…」

千早「………」

ダム

ドドドドドド

響「これでもまだ、『操るだけの能力』だなんて…思ってないよな、千早!」

キュゥン

千早「『ブルー・バード』…」フラ…

響「遅い!!」ギュァァァア

バキャァ!!

千早「く…っ!」

147: 2012/11/19(月) 23:38:30.83 ID:7zFFj6Ozo
ギュルン!!

千早「がっ!」ドス!

ゴロゴロ

千早「はぁ…っぅ…」

タラ…

千早(くっ、鼻血が…)

響「もう、避ける体力も残ってないみたいだな」

バヒュン!

ダムッ! ダム!

千早(やられる…)

千早(もう、打つ手がない…周囲のものを『軽く』したところで、何の意味も…)

千早「………」

千早「『軽く』…?」

149: 2012/11/19(月) 23:39:54.39 ID:7zFFj6Ozo
ダム! ダム!

響「千早のスタンドじゃあ、この攻撃は防げない…」

響「やっぱり、『トライアル・ダンス』は強い!」

ダム!

千早「次にあなたは『これでとどめだッ!!』と言うわ」

響「これでとどめだッ!!」

響「はっ!?」

バヒュン!!

千早「残念だけれど、我那覇さん…それは叶わない」

響「何を…!」

ゴォォォォォ

ズドム!

・ ・ ・ ・

響「…ん?」

151: 2012/11/19(月) 23:41:07.71 ID:7zFFj6Ozo
ドドドド

千早「外した…」

ドドドドドドド

千早「わね、我那覇さん…」

響「!」ダムッ

響(くそっ、『トライアル・ダンス』はあまり正確な攻撃じゃあないからな…)

ダム! ダム! ダム!

ビガッ

響「喰らえッ!!」ヒュン!!

千早「………」ユラ…

ズダッ

響「へ?」

千早「『ブルー・バー…」ス…

響「うわっ!?」

ギュン!!

千早「………」

響(なんだ、また…千早は動いてないのに…何か、おかしい…)

響(もしかして、千早…何かやってるのか…? でも、千早のスタンドは触れたものを『軽く』する能力…それで何をするっていうんだ?)

153: 2012/11/19(月) 23:42:42.13 ID:7zFFj6Ozo
響(追いつめられてるのは千早の方だ…大丈夫さー! これは一応、用心ておけって、それだけのことだ!)

響(だけど、さっきみたいに飛び込むのは当たらなかった時危険だな…それなら直接!)スタッ

ゴォォォォ

響「ドラララララララララララ」ドォ ドヒュ ドオォ

千早「…無駄よ、我那覇さん」ユラ…

響「う…」

スゥゥゥーッ

響「や、やっぱり…当たらないぞ! まるで霧か煙でも殴ってるみたいにッ!」

千早「『ブルー・バード』…」フワッ

ドドドドドド

響「! ち…千早…」

千早「この能力…どうやら、自分自身を『軽く』することも出来るみたいね」

ドドドドド

響「千早の体が…浮いてる」

千早「いえ、出来るようになった…と言うべきかしら」

155: 2012/11/19(月) 23:44:33.16 ID:7zFFj6Ozo
響「『軽く』…」

響「…したって、自分を…」

千早「ええ。枝を折るほどの強い風も、柳のように流せば脅威ではない」

千早「どんなに威力のある攻撃でも…空気を殴る事はできないわ」

ドドドドドドドド

響「だ…」

響「だったら、殴ったり突っ込んだりじゃあなくても、攻撃する手段は…」

千早「我那覇さん」

響「ん!?」

千早「『ブルー・バード』は重さを移し替える能力。ない体重を減らしたり、限界を超えて重くすることは出来ないわ」

響「それがどうしたッ!!」

千早「質問だけれど、私の体重の分はどこへ行ったのかしら」

響「へ…千早の体重…? そんなこと言われても…」

ブチッ!!

響「ん? なんだこの音…」

ヒュルルルル…

ドスン!!

響「うぎゃー!?」グシャァ

千早「答えは、照明。前の事務所のようなパイプ型ではなく、ぶら下げるタイプで助かったわ」

157: 2012/11/19(月) 23:46:37.75 ID:7zFFj6Ozo
響「あぐ…」

千早「さぁ起きて、我那覇さん」

千早「私の体重分くらい…天井から落ちてきても大したダメージじゃあないでしょう?」

響「………」

千早「あなたのスタンド…正直恐れ入ったわ。凄まじいパワーとスピードね…」

千早「正面から戦えば、勝てないかもしれない」

千早「だけど…」

響「きゅー…」

千早「私の『ブルー・バード』、は…」

響「うー…あー…」グルグル

千早「………」

千早「気絶…している…?」

千早「くっ…勝ったのは、いいけれど…なんだか不愉快だわ…!」

159: 2012/11/19(月) 23:47:31.86 ID:7zFFj6Ozo
千早「これで…」クルッ

やよい「ふぁー…」

小鳥「うひひ…」

あずさ「ふふ…」

響「ぬー…」

千早「気を失ったり…『眠った』人が4人…どうしようかしら…」

千早「………」

千早「そっとしておきましょう。身体測定も途中だし…」

千早「サイズ計測…自分でやらないと駄目ね…」ビーッ

千早「………」キュッ

千早「72cm…くっ…」

千早(気にしてない…気にしてはいないけれど、また亜美真美達に馬鹿にされるかと思うと…)サラサラ

161: 2012/11/19(月) 23:49:04.42 ID:7zFFj6Ozo


……

ガチャ

千早「失礼します」

P「おお、千早。遅かったな」

千早「もしかして、私で最後ですか?」

P「いや。雪歩とあずささんがまだ来てないんだけど…知らないか?」

千早「いえ…」

千早(そういえば…)

千早(あずささんに、『体重を軽くして』と頼まれていたわね。やるつもりはなかったけれど…)

P「そうか。じゃ、まずは体重だな。この体重計の上に乗ってくれ」

千早「はい。それでは失礼します」

P「あ、ちょっと待ってくれ。スイッチが切れてる、入れないと」

千早(プロデューサーが体重計を見ている…)

千早(私の体重が、プロデューサーに見られる…)

響『うぎゃー!』

ゴゴゴゴゴ

千早「………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

163: 2012/11/19(月) 23:50:09.33 ID:7zFFj6Ozo
千早(ほんの少し…)

千早(少しだけ…『軽く』…しようかしら…)

千早(『スタンド』のいざこざがなかったら、いつも通りのトレーニングでもう少し消費していたはず…)

千早(だから、その分だけ。それ以上は下げないわ、ええ)

P「よし、いいぞ。乗ってくれ千早」

千早「はい、プロデューサー」ヒョイ

千早(『ブルー・バード』…私の体重を…えーと、床にでも『与え』ましょう)

P「さてと、千早の体重は…」

P「…え…」

ゴゴゴゴゴゴ

P「ち、千早…どうしたんだ、この体重はッ!」

千早「?」チラ…

千早「はっ!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

『12.7kg』

ド ォ ー ン

千早(しまった、『軽く』しすぎたッ! 高校生女子の体重が12…13キロだなんて明らかに異常ッ!!)

165: 2012/11/19(月) 23:51:25.70 ID:7zFFj6Ozo
P「千早、少しどいてくれ!」

千早「え、えーと、プロデューサー、これは…」スッ

P「俺が乗っても…!!」ガタッ

P「………体重は正常…体重計は壊れてはいないッ!」

千早「あの…プロデューサー…」

P「千早、来い!」ギュッ

千早「あっ!?」グイッ

ガチャ

雪歩「あのっ、プロデューサー! 次、私をお願い…」

P「すまん雪歩! 今は一大事なんだッ!」

ダダダダダ…

雪歩「しま…えーと、あの…」ポツーン…

167: 2012/11/19(月) 23:53:28.90 ID:7zFFj6Ozo
P(そうか…最近千早の様子がおかしいと思ったら、こういうことか…!)

P(そういうことに関心はないと思っていたけど、千早だって女の子だもんな)

P(だが、行き過ぎたダイエットは身体を壊すんだぞ、千早…!)

千早(プロデューサー…何か、勘違いしているのでは…)

千早「あ、あの…プロデューサー、どこへ…」

P「病院に決まってるだろ!」

千早「びょ、病院!」

千早(プロデューサーは私のことを病気だと思っている…)

千早(何も異常がないのに診てもらっては、プロデューサーに恥をかかせることに…)

千早「待ってください、プロデューサー!」

P「あっ…すまん、千早…急に動いたら体に響くよな」

千早「い、いえ…別に、そういうことはないのですが…」

千早「あの…さっきの数字、見間違いだったのでは…」

P「いいや、確かに見た、『12.7kg』! 俺がみんなのデータを見間違える事はありえん!」

千早(よ、よくはわからないけれど凄い自信だわ…)

169: 2012/11/19(月) 23:54:04.76 ID:7zFFj6Ozo
ドルルルルル…

P「ほら、車乗ってくれ!」

千早(どうすればいいのかしら…何を言ってもわかってくれないような気がする…)

千早(こうなったら…多少強引でも、押し切るしか…!)

千早「あ、あのですねプロデューサー。これは別に病気というわけではなくて…!」

P「へ? いや、でもあの体重は…」

千早「お腹に食べ物が入っていないから、その分体重が減っていたのだと思いますッ…!!」バァーン

P「え…そういう問題なのか…?」

千早「そういう問題ですッ!」

P「いや、いくらなんでも…」

千早「体質なんです!!」ズイッ

P「そ、そうか、わかった」ススス…

千早(ふぅ、これで大事にならずに済んだわね…)

P「だけど…何も食べてないから体重が減ったってことだよな。それなら…」

千早「え?」

171: 2012/11/19(月) 23:55:05.87 ID:7zFFj6Ozo


……

………

ドッサリ

千早「も、もう食べられません…」

P「多少無理してでも食わないと。病院には行きたくないんだろ?」

千早「一度にこんなに食べては声に影響が…」

P「馬鹿、体を壊したら歌どころじゃあないだろ!」

P「それに男料理で悪いけどさ…ちゃんと千早の事考えて作ったつもりだぞ」

P「ゆっくりでいい、時間をかけても全部食べるんだ、とりあえずこの分くらいは」

千早(とほほ…やはり、不正な手を使うと罰が当たるのね…)

千早(でも、プロデューサーが私のために作ってくれた手料理…心配してもらえるのは、少し嬉しいかも…)

千早(って、私ったら何を…)カァッ

P「千早、これも食べろ」

千早「うぷ…」

To Be Continued...

176: 2012/11/20(火) 00:11:00.25 ID:m7iDanTy0
乙です
周りの物を軽くしたり重くしたり見てると色々気になるスタンドだな



To Be Continued...






引用元: 春香「あれ、なんですかこの『弓と矢』?」