307: 2014/06/20(金) 23:55:40 ID:lp/mkQG6





前話はこちら





やよい「ふぅ、ちょっと疲れちゃったかも…」

貴音「お疲れ様です、やよい」

ゴゴゴゴゴ

戦闘後の事務所の廊下。

粗方はやよいの『ゲンキトリッパー』の能力で修復が終わり…

ゴゴゴ

真「こいつは…」

そこには、伊織と同じ姿をしていたものであった砂だけが残されていた。

真「一体…なんだったんだ? 人間ではない…とは思うけど」

貴音「しかし、スタンドは精神の力…『スタンド能力』があるということは…精神を持っているということです」

やよい「伊織ちゃんと入れ替わってたんですよね…ぜんぜん気づけませんでした…」

真「こいつが伊織と入れ替わって何をしようとしていたのか、こいつはどこから来たのか、そして本物の伊織がどこに行ってしまったのか」

サラ…

真「聞き出そうにも、これじゃ…くそっ!」



※このSSは「THE IDOLM@STER」のキャラクターの名前と「ジョジョの奇妙な冒険」の設定を使った何かです。過度な期待はしないでください。


春香「弓と矢」シリーズ

308: 2014/06/21(土) 00:06:57 ID:QLyd0KlA
ガサ ガサッ

真とやよいはロッカー室に移動し、バッグをひっくり返していた。

真「あいつが持ってきた荷物の中に、何かないかな…」ゴソゴソ

真「あ、携帯がある。そうだ、伊織の携帯に連絡すれば…」

やよい「真さん、これ、本物の伊織ちゃんのけーたいです」

真「…そっか。そうだよね」スッ

携帯をいじくり回し、中身を調べる。

真「メールアプリとかを一通り調べてみたけど…」

真「不審な点はないみたいだね。何かあってもきっとすぐに消してるんだろう」

やよい「うーっ、他は鏡とかちょっとしたお化粧品とかそういうのばっかりです…」

真「手がかりになるようなものは、何もない…か…」

ガチャ

貴音「お待たせしました」ズズッ

部屋の中に、ファイルを抱えた貴音が入ってきた。

309: 2014/06/21(土) 00:20:02 ID:QLyd0KlA
ドサッ

ロッカー室に備え付けられたのベンチソファの上に、ファイルを置く。

やよい「わ、いっぱい」

真「貴音、これは? さっき、何か気になるって言って一緒に来なかったけど」

貴音「これは、あの偽物が持ち出そうとしていた資料」

貴音「私の記憶違いでなければ、先週…伊織が調べていたものと同じものです」

やよい「資料…ですか?」

真「…伊織は何を調べていたの?」

パラッ

貴音はファイルのうち一冊を手に取り、開いてみせる。

貴音「この書類は全部、今は亡き高木社長の資料です」

真「高木社長…」

貴音「なので、それに関係のあるものかと」

310: 2014/06/21(土) 00:31:42 ID:QLyd0KlA
真「伊織は、なんで高木社長のことを?」

やよい「あ、もしかしたら…」

真「? 何か知ってるの、やよい」

やよい「えっと、876プロに『弓と矢』があったってこと、この前話しましたよね?」

真「ああ…でも、それは壊したんでしょ?」

やよい「それを持ってきたのが…高木社長だって、876プロの石川社長が」

ゴゴゴ ゴゴ

真「それも聞いた気がするけど…でも、骨董品屋でたまたま数本見つけて、顔見知りに配ったんだとか…」

貴音「そうでなかったとしたら?」

真「え?」

貴音「たまたま見つけた…765プロだけなら、そうと言えるのかもしれません」

貴音「ですが、複数の事務所に『弓と矢』があり…『スタンド使い』を生み出した。これは、本当に偶然なのでしょうか」

真「…何が言いたいのさ」

貴音「『弓と矢』は意図的に、事務所に持ち込まれたのだとしたら?」

311: 2014/06/21(土) 01:00:20 ID:QLyd0KlA
ゴゴゴゴゴゴゴ

真「つまり…」

真「高木社長が、何か目的を持って『スタンド使い』を増やしていたと…そういうことか?」

貴音「少なくとも、伊織はそう思ったのでしょう」

真「いや、でも! 高木社長が『弓と矢』を持ち込んだのなら、あんな…」

やよい「そうですよ、高木社長はその『矢』によってケガしちゃって…そのまま…」

真「…!!」

やよい「真さん?」

真「さっきの…伊織の偽物からは…『血』が、出ていなかった」

やよい「…あ………」

真「あの時…高木社長から…『血』は、出ていたか…?」

貴音「半年以上前のことですから…正確に覚えているわけではありませんが」

貴音「服に穴が空いていましたが…血はついてなかったように思います」

ゴゴゴゴ

真「『偽物』…!?」

312: 2014/06/21(土) 01:13:06 ID:QLyd0KlA
真「でも…! おかしいよ、伊織の偽物はこうして砂になって」

貴音「そうでしょうか。血が出ないということは、脈がないということです」

真「!」

貴音「ですから、例え本当には氏んでいなくとも、『氏んでいると思わせる』ことは可能ではないでしょうか」

やよい「あの、貴音さんは…高木社長が犯人だって、そう思ってるんですか?」

貴音「少なくとも…疑いを向けるには充分すぎると思います」

真「…全ての元凶が高木社長だったとして…わからないことが、いくつかある」

真「まず、どうして自分を氏んだと見せかけようとしたんだ? わざわざ姿を消す必要なんてない」

真「二つ目は、何の目的があって伊織を偽物と入れ替わらせたんだ?」

真「そして、三つ目…何かの目的があって、伊織を偽物と入れ替わらせたとして…」

真「何のためにボク達を『スタンド使い』にしたんだ!? 今みたいに気づかれれば、障害にしかならないだろう!?」

貴音「…そう、ですね…『高木社長』、『弓と矢』、『偽物』…一見繋がっているようでそうでないのかも…」

貴音「安易に結びつけるのは危険かもしれませんね…」

314: 2014/06/21(土) 01:21:54 ID:QLyd0KlA
やよい「でも…高木社長が怪しいんですよね?」

貴音「ええ、ですから…」チラッ

ベンチソファの上に山積みになったファイルに目を向ける。

貴音「これに、何か残されていないかと思いまして。持ってきました」

真「高木社長の資料か…本人に関すること、本人が関わってきたこと、本人がまとめていたファイル…色々あるけど」

貴音「伊織の偽物は、この資料を持ち出そうとしていました」

貴音「…何のために?」

やよい「隠しちゃうため…ですか?」

貴音「ええ。その通りです、やよい」

やよい「弟達が、テストで悪い点取っちゃった時とか…こっそりとどこかにしまっちゃうんです。それと同じかなーって」

真「ふーん、弟が…ね」

やよい「わ…私もたまに隠しちゃったりして…えへへ」

貴音「それはさておき。伊織の偽物はこれを持ち出そうとしていた」

貴音「この資料の中に、何かに繋がることが残されている可能性があります」

315: 2014/06/21(土) 01:38:12 ID:QLyd0KlA
真「何か…」

貴音「今はまだ、何もわからない。何か目の前にあることはわかっていても…それもはっきりとしない」

貴音「ですが、何か一つでいい、道標があればそれに真っ直ぐと向かっていけます」

やよい「伊織ちゃん…どこ行ったんだろ…」

真(やよい…)

真(そうだ。今、何が起きているのかはわからない…けど、このまま放っといたら伊織はきっと帰ってはこない…)

真(まずは…この資料を調べる!)

貴音「」パラ

真「」パラパラ

やよい「? ??」パラ…

それぞれ、ファイルを手に取って調べ始める。

パタン!

やよいがバインダーを閉じた。

やよい「ごめんなさいーっ、よくわかんないかも…」

真「…みんなに、全部話そう。これは手分けして探した方がいいな」

316: 2014/06/21(土) 01:45:37 ID:QLyd0KlA
本物の伊織はどこに行ってしまったのか?

伊織の偽物は一体どこから来たのか?

高木社長は本当に氏んだのか? それとも、偽物だったのか?

時は、一週間前に遡る…

………

……


317: 2014/06/21(土) 01:52:07 ID:QLyd0KlA
ドンッ!!

伊織「きゃ…!」

貴音「…!」

パサ バサッ

765プロ事務所の廊下。伊織は貴音とぶつかり、手に持っていたファイルを床に落とす。

伊織「ちょっと、気をつけなさいよ!」

貴音「…申し訳ございません、伊織」

伊織「って、貴音。珍しいわね、アンタとぶつかるなんて」

貴音「運びものでしょうか? 拾いましょう。私のせいですから」

伊織「別にいいわよ、そんなの」

モクモクモク

伊織「『スモーキー・スリル』コイツに拾わせた方が手っ取り早いし」

貴音「そう…ですか」

318: 2014/06/21(土) 02:01:26 ID:QLyd0KlA
バサッ バサ

伊織の体から出てきた『煙』が、床に落ちたファイルを拾い集め、伊織の腕の上に積み上げる。

貴音「その資料は…?」

伊織「事務所でスタンバイしてる時間、退屈すぎて氏にそうだし…ちょっとした調べものをね」

貴音「調べもの、ですか」

伊織「あ、そうだ貴音」

真「貴音!」タッタッタ

伊織が何か言いかけると同時、真が下の階から、階段を駆け上がってきた。

真「こんなところにいた。そろそろ出発の時間だよ、行こう」

貴音「ええ、わかりました。今参ります」

真「あ、伊織。ごめん、貴音連れてくから」

伊織「…アンタ達、最近仲良さそうね」

真「え? 何のこと?」

伊織「呼び方よ。前は『貴音さん』だったじゃない」

真「ああ」

319: 2014/06/21(土) 02:05:03 ID:QLyd0KlA
貴音「私が頼んだのです、いつまでも『貴音さん』では少々距離を感じてしまいますから」

伊織「ふーん、そう。ま、いいんじゃない、そっちの方が」

貴音「ところで、伊織。先程何か言いかけておりましたが」

伊織「これから、仕事なんでしょ? 別にいいわよ。大したことじゃあないし」

貴音「そう、ですか…」

真「ほら、急いで!」

貴音「ええ。伊織、それでは」

パタパタ…

二人は下の階の方に、急ぎ足で去っていった。

伊織(時間あったら、貴音にも手伝ってもらおうと思ったんだけど…仕事じゃあ仕方ないわね)

伊織「………」

伊織(気になるのは、876プロにあった『弓と矢』…)

伊織(あんなものが、どうして何本もある…? 高木社長に貰ったって…本当にそれだけのことなの…?)

伊織(なにか、陰謀めいたものを感じるわ…)

320: 2014/06/21(土) 02:13:38 ID:QLyd0KlA
伊織「なーんて…」

伊織「考えすぎかしらね。まぁ、気になるのは確かだし暇潰しにはなってくれるでしょ」ガチャ

二階の待合室に入る。

亜美「あれ? いおりん、お勉強?」

大海「伊織ちゃんは真面目ですね。私、学生時代勉強なんてほとんど…」

伊織(中にいるのは亜美と、大海マネージャーか…)

伊織「別に勉強じゃあないわよ。単なる調べもの」

バサバサ

ドサッ!

テーブルの上にファイルを広げ、ソファに背中から飛び込む。

伊織「あ、そうだ亜美。アンタ、今ヒマ?」

亜美「ちっちっち…いおりん、亜美はね…常に世の中の面白いものを探して…」

伊織「あ、そう。ヒマなのね。なら一緒に手伝いなさい」

亜美「あいあいさー。もう、いおりんは亜美がいないと駄目なんだからさ~」

伊織「はいはい…」

321: 2014/06/21(土) 02:19:55 ID:QLyd0KlA
大海「伊織ちゃん、調べものですか? 私も手伝いますよ!」

伊織「えーと…アンタは別にいいわ」

伊織(コイツは『弓と矢』の件に何も関係ないし…巻き込むのもね)

大海「えーっ、そんな! 私だって暇なんですよ!」

伊織「知らないわよ。だったらジュースでも買ってきてちょうだい」

大海「はい、わかりました!」ダッ

伊織「あら。なかなか従順じゃない」

ピタッ

大海「あのー、何を買ってくればいいんですか…?」

伊織(………)

伊織「今の気分だと…フルーツ系ならなんでもいいわ。100%のやつね、炭酸のヤツ買ってきたら承知しないから」

亜美「亜美はスプライトね! 透明だから!」

伊織「流行ってんの、それ…?」

亜美「ほへ?」

322: 2014/06/21(土) 02:28:18 ID:QLyd0KlA
大海「フルーツジュースに、スプライトですねっ! わかり…」ガッ

大海マネージャーが再び走り出そうとするが、自分の足に足を引っかけてしまう。

大海「わわわわっ!!」

バガッシャーン

その場で大きく転倒する。

伊織「ちょっ…何やってんのよ、アンタは!」スクッ

亜美「お姉ちゃん、大丈夫?」

伊織がソファから立ち上がった。

大海「いたた…ご、ごめんなさい…」

コッ コッ

伊織「ほら、立てる?」スッ

伊織は大海マネージャーの方に近付いていくと、手を伸ばした。

大海「は、はい。ありがとうございます伊織ちゃん」ギュッ

伊織の手を掴み、立ち上がる。

323: 2014/06/21(土) 02:35:21 ID:QLyd0KlA
伊織「どこかケガはない?」

大海「あ、はい。手がちょっと擦れたくらいで」バッ

伊織に手のひらを見せる。

伊織「血は…出てないわね」

伊織は、大海の手と、自分の掴まれた手を一瞥してから言う。

大海「皮膚が厚いんですかね? 血は滅多に出ない体質なんですよ」

伊織「ふーん…」

伊織(ま、春香もあんな転んでても滅多に傷作らないし、そんなものなのかしら)

大海「それより、おニューのスーツが痛んじゃいました…うぅ…」

伊織「そ、そう…」

大海「そうだ。ジュース買ってこなきゃ…」タッ

伊織「あ、ちょっと」

呼び止める前に、大海マネージャーは出て行ってしまった。

伊織「…変なヤツ」

亜美「どっちが年上なのかわかんないねー」

324: 2014/06/21(土) 02:43:38 ID:QLyd0KlA
亜美「にしても、いおりんは優しいですな~」

伊織「うっさいわね! いいでしょ別に!」ドサッ

再びソファに腰を掛ける。

伊織「それより、これ! アンタも目通して、何か怪しいところがあったら言って」

亜美「なんなの、これ?」

伊織「876プロに『弓と矢』があったでしょう? あれを持ち込んだのは高木社長だという…何かありそうじゃない?」

亜美「それで、高木社長のこと調べんの? それはちょっと面白そうだけど…このファイル全部? なんか面倒かも…」

伊織「どうせ暇なんでしょ」パラ…

亜美「………」

伊織「亜美?」

・ ・ ・ ・

伊織が顔を上げると、そこには既に亜美の姿はなかった。

伊織「ア… ………」

伊織「アイツはッ! 嫌だからっていきなり『ワープ』で消えたりする!? 普通!」

伊織「いえ、落ち着け私…普通は『ワープ』するヤツなんていないわね」

325: 2014/06/21(土) 03:02:04 ID:QLyd0KlA
伊織「はぁーっ、仕方ない…」

伊織「一人でも、調べてやるわ、ええ!」

ペラ ペラッ

伊織(何かある、なんて私の勝手な思い込みだけど…何もないとは言い切れないわ)

伊織(もしかしたら…高木社長は何らかの意図があって『弓と矢』を持ち込んだのかもしれない)

伊織(そのせいでうっかり亡くなってしまったけど)

伊織(高木社長について調べて、どこかに『弓と矢』に繋がるような情報があったら…)

「何をしているのかね?」

伊織「調べものよ。もう一人でやることにしたからあっち行ってて」

・ ・ ・ ・

伊織「…………え?」クルッ

「おお、これは失礼した。取り込み中だったかね?」

伊織(………嘘、でしょ? コイツ…いや、この人は)

順二朗「久しぶりだね水瀬君。元気そうで、何よりだ」

伊織「は…はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

333: 2014/06/28(土) 23:48:32 ID:b/lrQPRE
ゴゴゴゴゴゴゴ

ゴゴゴ

順二朗「移転したという話は聞いていたが…」

順二朗「うんうん、やはり新しい事務所とはいいものだな」スゥーッ

事務所の壁を撫でる。

伊織(高木社長について調べようと思ったら…本人が…出てきた…)

伊織(『これなら手っ取り早いわ、やった! ラッキィ~』)

伊織(なんて、そんな問題じゃあない! こんなことはありえない…)

順二朗「ところで水瀬君」クルッ

伊織「!」

順二朗「何を調べているのかね? なにやら、見覚えがあるファイルだが…」スッ

伊織「私に近付くんじゃあないわッ!!」

順二朗「ム!?」ビクッ

334: 2014/06/28(土) 23:54:05 ID:b/lrQPRE
伊織(高木社長は氏んだ! 葬式もやった、いなくなった後の事務所も私は見てきた!)

伊織(こんな…何もなかったような顔して出てこられて『はいそうですか』と受け入れられるほど伊織ちゃんの常識は崩壊してないわッ!)

順二朗「あの、水瀬君…私が何かおかしなことでもしたのかね…?」

伊織「何かした…ですって…!?」

順二朗「み、水瀬君…? 怒っていては可愛い顔が台無しだよ、ほらスマイルスマイル」

伊織「アンタが生きてるのがそもそもおかしいのよッ!!」

順二朗「なっ!?」

グラ…

ドン

その言葉にショックを受けたのか、高木社長はふらついて背中を壁につく。

順二朗「それは…1年近くもの間事務所を空けていたのは事実ではあるが…」

順二朗「生きてるのがおかしいなど…そこまで言われれば、私だって傷つく」

伊織「え?」

335: 2014/06/29(日) 00:05:31 ID:OBelxubI
伊織「ちょ、ちょっと待って…」

順二朗「水瀬君が私のようなオジサンをいじめるとは…悲しいぞ私は…」

伊織「いえ、そうでなく…『1年近く事務所を空けていた』!?」

順二朗「? うむ、正確には10ヶ月だが…予定よりは早く終わったのだ」

伊織(10ヶ月…ですって? 高木社長の葬式は半年前の事件の始めに起こったことだから、8ヶ月くらい前の話よ…)

伊織「その間…何をやっていたの…?」

順二朗「聞いていないのかね? 私も経営者としてまだまだ未熟だと痛感してね。1年間の海外研修だよ」

順二朗「まぁ、社長という身分で研修に行くというもどうかと思ったが…彼の勧めで、その間のことも…」

伊織(1年間の…海外研修…? 国外にいたってこと…?)

伊織「…その間、事務所に帰ってきたことは…?」

順二朗「ないが…時々様子を見たくなることもあったが、ずっと海外にいたよ。昨日帰ってきて、今日事務所に着いたところだ」

伊織(そもそも…高木社長は、ずっと事務所に『いた』わ…一日だけじゃあない)

伊織(高木社長が本当に海外にいたというのなら、あの頃事務所にいたのは…『誰』だっていうのよ…?)

336: 2014/06/29(日) 00:25:41 ID:OBelxubI
伊織「あなたは氏んだはずなのよ…」

順二朗「ま、またかね…こうしてピンピンしているのだが…」

伊織「…事実だけを言うわ。私達765プロのみんな、高木社長が氏んだと思っている」

順二朗「な、なんだって!? 別に向こうで事件や自己に巻き込まれたとかそういうのはないぞ!?」

伊織「私達の目の前で氏んだのよ」

伊織「それも、海外じゃあない…この国、前の事務所で、『弓と矢』によって!!」

順二朗「『弓と…矢』…? ?」

伊織「その『弓と矢』を事務所に持ち込んだのも、高木社長、あなたよ…!」

順二朗「はぁ……? ??」

順二朗「水瀬君は、その…弓道も嗜んでいるのかね?」

伊織「うぐ…!」

伊織(なによ~、そのトンチンカンな会話は…『こいつが何を言っているのかよくわからないけどとりあえず話は合わせておこう』みたいな発言…)

伊織(いえ、実際わからないんだわ…目の前にいるこのオッサンは、何も知らない…自分が事務所にいたことも、『弓と矢』を持ち込んだことも、そして氏んだということも…)

337: 2014/06/29(日) 00:42:45 ID:OBelxubI
順二朗「な、なぁ、水瀬君…みんな私が氏んでいると思っているというのは…?」

伊織「今言った通り、みんな見てるのよ。あなたの氏を…」

順二朗「な、なんだね、その不気味な話は…私はそういった冗談はあまり好きでないのだが…」

伊織(冗談なら、どんなによかったことか…)

伊織「他の連中には会ってないの…?」

順二朗「ああ、みんなを驚かせようと思って連絡は入れずに帰ってきてね」

伊織(マジに驚いたわよ…私達は氏んだと思っていたんだから…)

順二朗「しかし、下の部屋ではなにやら取り込み中だったので、まずはこの新しい事務所を見て回ろうと思ったのだが…」

順二朗「そんな話があるとは…みんなに確認を取らねば」ダッ

伊織「!」

高木社長が、駆け足で二階の待合室から出て行く。

伊織(あまりのことに頭の中はこんがらがってるけど…)

伊織(今、一番怪しいのはコイツよ…! 目を離すわけにはいかないわ!)

338: 2014/06/29(日) 00:47:08 ID:OBelxubI
伊織「『スモーキー・スリル』ッ!!」

スゥーッ

伊織の体から出現した『煙』が高木社長を取り囲み…

ガシッ

順二朗「ン!?」

両手足を押さえつける。

順二朗「な、なんだ…これは…!? 体が…」

伊織(見え… ………)

伊織(て…ない)

順二朗「私の体が引っ張られる! と、透明人間か!?」

伊織(昔から、おべっか使うような連中の顔色を見て来たからわかる…とぼけているわけじゃあ、ない)

伊織(スタンドのことを存在すら知っていない…)

順二朗「み、水瀬君! 助けてくれ! 何者かが私の体を!」

339: 2014/06/29(日) 00:50:57 ID:OBelxubI
伊織「………」ス…

『煙』が伊織の下へと戻っていく。

順二朗「お、あ、あれ…」

伊織(『弓と矢』を持ち込んだのは、やはり単なる偶然ってこと…?)

伊織(いや、違うわ…それ以前の問題よ…この高木社長は、『弓と矢』自体を知らない)

順二朗「こ、こほん…いや、なんでもない…なんでもないぞ! はっはっは!」

伊織(少なくとも…これが演技でなければ、目の前の高木社長は、『弓と矢』とは全くの無関係よ…)

伊織「すみません、色々と無礼なことを…」

順二朗「む? あ、ああ…別に構わないが…ん?」

伊織(海外研修をしていたという話…裏を取らないと)

伊織(そして、もしも…この高木社長が本物だったとしたら)

伊織(765プロで高木社長を演じていたのは…事務所に『弓と矢』を持ち込んだのは…一体、誰?)

340: 2014/06/29(日) 01:01:22 ID:OBelxubI
順二朗「それにしても、私が氏んだなどと…何故そんな話が出てきたのか…」

ドンッ

順二朗「うおっ!?」

「きゃ…!」

階段の前の曲がり角で、高木社長と誰かがぶつかる。

「いたた…」

伊織「大海?」

順二朗「大丈夫か?」

春香「………え?」

伊織「いや、春香か」

春香「あ、あれ…な、なんで…え?」

順二朗「すまない、怪我はなかったかね?」

春香「な…なんで高木社長がここにいるの…?」

順二朗「ぐむっ…!」グサッ

341: 2014/06/29(日) 01:10:40 ID:OBelxubI
春香「い、伊織…これって一体どういうこと…?」

伊織「私にもよくわからないけど…これが事実みたいよ」

順二朗「ほ、本当に私は氏んだ事になっているのか…? みんなで口裏を合わせているわけではないのか…」

伊織「連絡も入れてなかったんでしょう? いきなりそんなこと無理ですよ」

順二朗「そ、そうなのか…」

春香「連絡を入れてない…?」

伊織「ええ、どうやら1年くらいずっと海外にいたみたいで…昨日戻って来たそうなのよ」

春香「…どういうこと?」

伊織「私も正直よくわかってないわ、ただ一つ言えるのはあの頃事務所にいた氏んだ高木社長とは別人ってことよ…」

春香「高木社長、伊織以外に誰かと会った?」

伊織「? いえ、会ってないみたい。今からみんなのところに顔出しに行くつもりらしいわ」

春香「ふーん…」

342: 2014/06/29(日) 01:17:09 ID:OBelxubI
ヒュッ

伊織「………」

伊織「ん?」

伊織(視界の隅に何か映った…何?)クルッ

グボァ

順二朗「っぶぅ!?」

・ ・ ・ ・

伊織が振り向くと、人型の像が高木社長の腹に腕をめり込ませていた。

春香「無駄無駄」ヒュン ヒュン

ゴシュ

ズギャァァン

そのまま右腕、左腕のワンツーで高木社長の身体が宙に舞い…

ドシャァ!

落ちた。

343: 2014/06/29(日) 01:34:18 ID:OBelxubI
ゴゴゴゴ

伊織「……… ……………」

ゴゴゴ

伊織「何、やってんの…アンタ」

春香「予定より早かったなぁ。そうじゃなきゃこうならずに済んだのに」

伊織(三つ、おかしなことがある)

春香「今帰って来られると、色々と面倒なんだよね…」

伊織(春香は何故高木社長を殴り飛ばした? 何のために)

春香「まぁ、でも…そうなる前に気づいてよかった」

伊織(春香は何故スタンドが使える? 春香の『アイ・ウォント』はあの時消滅したはず)

春香「高木社長は氏んだ。帰ってきてもいない」

伊織(そして…春香のこのスタンドは何故…『アイ・ウォント』じゃあ、ないの…?)

春香「あとは…伊織が黙っていればね…」

ゴゴゴゴゴゴ

344: 2014/06/29(日) 03:31:31 ID:OBelxubI
伊織「アンタ… ………」

伊織「気でも狂ったの!? 得体が知れないとは言え、社長を…」

伊織(ああ、違う! 何を言ってんのよ私は! そうじゃあないでしょ!?)

春香「だって、高木社長が生きてるとわかったら…調べるでしょう? 『弓と矢』はどこから来たのか」

伊織(こいつは…)

春香「まずいんだよね…あと少しで全部終わるっていうのに、こんなところで邪魔されちゃ」

伊織(こいつは…春香じゃない!!)

ハルカ「だから、社長は始末しなければならない」

伊織「………」

伊織「アンタ…『誰』よ?」

ハルカ「私は天海春香」

伊織「何故、当然のように春香を名乗ってここにいるの」

ハルカ「それは私が天海春香だから」

伊織「ふざけてんの、アンタは…!?」

ハルカ「わかんないかなぁ、別にどうだっていいけど」

345: 2014/06/29(日) 03:40:24 ID:OBelxubI
ハルカ「さて、社長が生きていると知った伊織…あなたも始末しなきゃならないわけだけど」

伊織「私を始末…ですって? ハッ、やれるもんならやってみなさいよ!」

伊織(もちろん負けるつもりはないけど…こいつが仮にこの伊織ちゃんを倒したとして)

伊織(私がいなくなればみんな異変に気づくわ! そんなことも考えられないのかしらこのバカは?)

ハルカ「と…その前に」スチャ

トン トン

携帯電話を取り出し、どこかに連絡を始める。

ハルカ「もしもし…私です、春香です」

ハルカ「伊織が一人必要になりました。用意してくれますか?」

・ ・ ・ ・

伊織(え…何?)

ハルカ「これでよし」

伊織(私が一人必要? 『用意』する? 何を言ってるの…?)

346: 2014/06/29(日) 03:56:06 ID:OBelxubI
伊織「………」

ハルカ「その顔…もう何がなんだか、わからないって感じだね」

ハルカ「でも、考える必要はないよ。伊織はここで倒されるんだから、考えるだけ無駄」タッ

ボフッ

ハルカ「んっ!」

グググ

『煙』が、ハルカの身体をその場に縛り付ける。

伊織「ええ、その通りね。意味のわからないことの連続でもうさっぱりお手上げだわ」スッ

伊織「けど、アンタは全部知ってるのよね」ポイッ

ボールペンを、ハルカに向かって投げる。

伊織「だったら、アンタをブッ倒して聞くことにするわ。それが一番手っ取り早い」

ギン!

『煙』がボールペンを掴み、先端をハルカに向けた。

347: 2014/06/29(日) 04:09:00 ID:OBelxubI
ハルカ「『スモーキー・スリル』…」

ハルカ「実体のない『煙』のスタンド、集中すれば結構なパワーは出る…人間なら身動きできなくなるくらいには」

伊織「知ってるなら話は早いわ。さっさとアンタのスタンドを出したら?」

伊織「このボールペンは肩にブッ刺してやるわッ!」

ハルカ「それは…痛そうだね」

ヒュッ

キン!!

ハルカの身体から出現したスタンドの腕に、煙の中からボールペンだけが弾き飛ばされる。

伊織「!」

ドドドド

ハルカ「『アイ・リスタート』」

ドドドドド

煙の中で、ハルカのスタンドが全身を現す。

伊織「それが、アンタのスタンド? 『スタンド使い』でもない社長に不意打ち喰らわせるヤツにしてはちょっぴりスマートでかっこいい感じじゃない」

348: 2014/06/29(日) 04:14:37 ID:OBelxubI
ググググ

伊織(あのスタンドもアイツと一緒に『煙』の中にいる…)

伊織(パワーはどう? 『スモーキー・スリル』を吹き飛ばせるようなら、それに合わせて戦法を考えるわ)

ハルカ「………」

伊織「『スモーキー・スリル』!」

スゥ…

・ ・ ・ ・

伊織「…?」

伊織(触れた感触が…ない?)

ヌ ッ

伊織「………!? は…」

ハルカ「『アイ・リスタート』」

伊織(『煙』の中から、アイツのスタンドがあっさりと抜け出て来た…!? 幽霊が壁をすり抜けるように…!!)

349: 2014/06/29(日) 04:21:15 ID:OBelxubI
ドドドド

ハルカの『アイ・リスタート』が、ゆっくりと伊織に向かってくる。

伊織「ス…『スモーキー・スリル』ッ!」モクモクモク

スゥーッ

スルッ スカッ

『スモーキー・スリル』が手前に戻って掴もうとするが、そこに何も存在しないかのように『煙』は空を切る。

伊織「な…触れない…!!」

ハルカ「伊織の『スモーキー・スリル』って、触れないスタンドなんだっけ?」

ハルカ「私のも、そうなんだよ。『アイ・リスタート』は実体のないスタンド」

ハルカ「ただし、攻撃の痛みは…」スッ

伊織「う…」

ハルカ「ちゃんと本物だけどね」

ハルカ「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」ドン ド ドグォ ドグバァ

伊織「うあああああああっ…!」ドグシャッ

『アイ・リスタート』のラッシュが、伊織に叩き込まれた。

356: 2014/07/04(金) 20:07:55 ID:IEd5aojk
ハルカ「無駄無駄無駄無駄」ドシュ ドシュッ

ハルカ「無駄ァッ」ドッガァ

伊織「うああ…!」グボォ

ハルカのスタンドの攻撃で、伊織の体が吹き飛ばされる。

モクモクモク

バフッ!!

『煙』を集めてクッションのようにし、背中から突っ込む。

伊織「…く…」

ハルカ「おっと、『スモーキー・スリル』で吹っ飛んだ衝撃を受け止めたのかぁ」

伊織(な、何よ…今のは…本体は『スモーキー・スリル』の『煙』で押さえ込んでいたのに、スタンドがすり抜けてきた…)

伊織(いや、『掴む』ことすらできなかったわ! 実体のないスタンド…ですって!?)

伊織「そんな、バカな…! この殴られた感覚は、確かに現実のものだった!」

伊織「私のスタンドだって、直接殴ることはできない! 実体がないのなら、どうして私に攻撃できるの!?」

ハルカ「それは、『アイ・リスタート』が精神上に存在するスタンドだから」

伊織「!?」

357: 2014/07/04(金) 20:29:42 ID:IEd5aojk
ハルカ「『アイ・リスタート』は現実に発現しているわけじゃあない。カメラを通してのみ確認できる拡張現実…ARのように」

ハルカ「あるいはホログラム映像のように…人間の精神の中にだけ姿を現す」

伊織「…見せかけだけの紛い物ってこと?」

ハルカ「…まぁ、そうだね。見えるし、聞こえるけど、どんな人物もスタンドでも『アイ・リスタート』に触れることは絶対にできない」

ハルカ「つまり…」ズオッ

伊織「!(また攻撃が来る…)」

モクモクモク

『煙』が、伊織を守るように包み込む。

ハルカ「無駄ァッ!」

ドグォ

『アイ・リスタート』の攻撃は『煙』を抜け、直接伊織の腹に突き刺さる。

伊織「うご…! …っ!」

ググ

身体がくの字に曲がる。

ハルカ「そうやって、守ったりもできない」

358: 2014/07/04(金) 20:38:02 ID:IEd5aojk
ハルカ「無駄無駄無駄」ドン

伊織「」ボヒュ

『スモーキー・スリル』が伊織の身体を後方に打ち出し、追撃を躱す。

伊織「っふぅ…」

ハルカ「おっと、どんどん廊下の方に戻っちゃってるね」

ハルカ「みんな下の階にいるのに…これじゃ階段を下りて、助けを呼べないんじゃない?」

伊織(まただわ…『スモーキー・スリル』では掴むことすらできないのに、私にはダメージがある…)

伊織「ふ…触れることができないなら、何故そのスタンドの攻撃は私に当たるの…?」

ハルカ「精神上に存在するということは、『アイ・リスタート』は直接精神に攻撃」

伊織「精神を攻撃…ですって? 吹っ飛ばされたのも、身体が折れ曲がったのも肉体的な動きだわ…」

ハルカ「精神と肉体は密接に結びついている」

伊織「…!」

ハルカ「伊織の精神が『殴られた』と認識すれば、それはもう伊織を殴ったのと同じじゃない」

ハルカ「『アイ・リスタート』が精神に与えた影響は、現実のものとなる」

359: 2014/07/04(金) 20:45:47 ID:IEd5aojk
ハルカ「これが能力…わかった? 私は伊織以上に一方的に攻撃ができる」

ハルカ「どんなに激しい攻撃も、どんなに堅牢な守護も無力。『アイ・リスタート』は無敵」

伊織「攻撃されることもなく、さらに攻撃を防ぐこともできない、か」

伊織「春香の『アイ・ウォント』は…相手の『六感』を支配して狂わせるという滅茶苦茶なスタンドだったけど…」

伊織「アンタのそれも負けず劣らず滅茶苦茶なスタンドね…」

ハルカ「まぁ、私は天海春香だから」

伊織「確かに、そいつは無敵よ。認めるわ」

伊織「けど…打つ手はある」

ハルカ「打つ手? それって?」

伊織「」クルッ

ダッ

伊織は、ハルカに背を向けて走り出した。

ハルカ「あっ!?」

360: 2014/07/04(金) 21:00:35 ID:IEd5aojk
伊織「」タッタッタ

ゴォッ

伊織のすぐ後ろに、『アイ・リスタート』が迫っている。

伊織「…!」

ハルカ「なーんて、ね。伊織が逃げるなんてわかってたよ。もう、それしかないもんね?」

ハルカ「まぁ…逃がさないけど。他のみんなに私のことを知られたら、そっちもすぐ始末しなきゃあならなくなる」

ハルカ「今日は伊織だし…それは避けておきたいんだよね…」

伊織「………」タッタッタ

ハルカ「『アイ・リスタート』! 伊織を始末しなさい!」グオッ

伊織「…わかってたわ。アンタは私を逃がさないように戦っている、そう簡単に逃げきれるわけはないと」

モクモクモク

伊織「でも、『スモーキー・スリル』は…持つものがないとまともに戦えないのも事実なのよね」

ハルカ「走っていたのは…」

ハルカ「部屋の中から、ものを持ってくるためか」

伊織「この伊織ちゃんが逃げる時、それは敗走じゃあないわ…勝つための第一歩よッ!」

361: 2014/07/04(金) 21:15:41 ID:IEd5aojk
伊織「喰らえ、『スモーキー・スリル』ッ!!」ドシュ ドヒュゥゥ

『煙』の中から、置き時計とガラスの小物入れを撃ち出す。

スゥ…

『アイ・リスタート』の体をすり抜けた。

ハルカ「無駄無駄…『アイ・リスタート』には当たらない」

伊織「でしょうね。最初からスタンドなんて狙ってないわよ」

ゴォォォオ

伊織「例えスタンドは無敵でも…本体のアンタはそうじゃないでしょう!?」

伊織「そしてそのスタンドが、精神上にのみ存在するっていうのなら! アンタも、私の攻撃から身を守ることはできな…」

クルッ

ハルカ「無駄無駄」

ガン ガシャ

ハルカのスタンドがハルカの方へ振り向き、飛ばされたものを叩き落とす。

伊織「………」

ハルカ「何か言った? 伊織…」

362: 2014/07/04(金) 21:27:42 ID:IEd5aojk
ハルカ「」ヒョイッ

廊下の隅に落ちているボールペンを拾う。

ハルカ「忘れたの? さっき伊織が刺そうとしてきたボールペン…これは私が叩き落としたんじゃあない」ピンッ

指で弾き、再び床に落とす。

ハルカ「身を守ることはできない? そんなことはないよ」

ハルカ「『アイ・リスタート』が精神に与えた影響は、現実のものとなるって言ったよね」

ハルカ「伊織に影響を与えるなら、『アイ・リスタート』が伊織の『精神』に直接攻撃しなければならない」

ハルカ「けど、精神を持たない物質なら…私の『精神』が物体を叩き落としたと認識した時! それが現実となるッ!」

ハルカ「精神の力が現実を凌駕する、それが『スタンド』だよ!!」

伊織「ふーん」

ハルカ「………」

ハルカ「何、その態度」

伊織「まぁ、そうよね…ボールペンを叩き落とされた時、他に動きは感じなかった。薄々そうなると思ってたわ」

ハルカ「強がりを言っちゃって…わかってる? 伊織には私を倒す手段はないんだよ」

363: 2014/07/04(金) 21:35:09 ID:IEd5aojk
伊織「アンタこそ、わかってないわね」

ハルカ「…?」

ズル… ズルズル

部屋の中と廊下の先から、ベンチソファや観葉植物がいくつも引きずり出されてくる。

・ ・ ・ ・

ハルカ「は…」

伊織「伊織ちゃんの『スモーキー・スリル』はあんな小物しか持ってこれないような貧弱なスタンドじゃあないっての」

ハルカ「ちょ、ちょっと待ってよ…」

伊織「待たない。私は今からこいつをまとめてアンタにくれてやるわ」

伊織「そして、その前にその無敵の『アイ・リスタート』を私に叩き込めばいい…と、アンタはそう思っている」

ハルカ「………」グッ

伊織「無理ね。アンタのスタンドは確かに無敵かもしれないけど、『パワー』や『スピード』は並よ」

364: 2014/07/04(金) 21:39:58 ID:IEd5aojk
ハルカ「私の『アイ・リスタート』よりその『煙』のスタンドの方が素早く動けると?」

伊織「ええ。守ってもいいけど…そんな『パワー』ないでしょう」

伊織「玉砕覚悟で来れば相打ちにはできるかもしれないけど」

ハルカ「…どうかな」

ゴゴゴゴゴ

伊織「………」

ハルカ「………」

ゴゴゴ

ハルカ「『アイ・リスタート』ッ!!」ゴッ

ハルカの『アイ・リスタート』が動いたと同時に…

伊織「行けッ、『スモーキー・スリル』ッ!!」

ドッギュゥゥゥゥン

『スモーキー・スリル』が、持っているものを一気に投げつけた。

365: 2014/07/04(金) 21:54:25 ID:IEd5aojk
ゴォォォォォ

ハルカ「ベンチソファが迫ってくる…」

ハルカ「けど、守っている暇はない…伊織はここで片付けなければならない!」ゴォッ

ものが飛んでくる先に、『アイ・リスタート』がどんどん突き進んで行く。

ハルカ「『スモーキー・スリル』が物体を撃ち出している…その先…」ジッ

ものが飛んでくる間から、伊織の姿を探す。

ギンッ

ハルカ「見えた、そこだッ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」グォォォ

ブルンッ

ハルカ「!?」

ス…

ハルカ「手応えが…『当たった』という感覚がない!(実体のない『アイ・リスタート』も殴れば感覚は伝わるはず)」

ズズ

ハルカ「これは、『煙』が映し出した虚像…? 伊織はどこに行ったの…!?」

366: 2014/07/04(金) 21:57:44 ID:IEd5aojk
ドシャ

ハルカ「うばっ」

ハルカの上に、ベンチソファがのしかかる。

グシャ グシャ グシャ

ハルカ「うおっ、うおああああああああっ!!」

メシャァァァッ!!

次から次へと飛んでくるソファや観葉植物の下敷きになった。

スゥ…

伊織「…勝ったわね」ムクリ

伊織「はぁ…緊急事態とは言え、伊織ちゃんが廊下に寝転がるなんて…」パッ パッ

起き上がり、服を払う。

伊織「『スモーキー・スリル』で寝ている私の姿を映したわ。反撃を受けないため…念のためね」

367: 2014/07/04(金) 22:04:36 ID:IEd5aojk
伊織「さてと」

ゴチャ…

伊織「流石にこれほどぶつけてやれば気絶したでしょうけど…あんまり近付きたくないわね…」

伊織「向こうの階段は遠いし、窓から飛び降りるのが一番手っ取り早いかしら」

伊織「…社長のこと、そしてこの春香の姿をした誰か…みんなに伝えないと」ガラッ

廊下の窓を開き、顔を出す。

コォォォォ…

伊織「う、うーん…半年前の事件とか876プロの時は無我夢中だったけど、結構高いわね…『スモーキー・スリル』でちゃんと受け止められるかしら…」

「無理だよ」

伊織「!?」クルッ

ガシィ!!

伊織「な…」

『アイ・リスタート』が、伊織の足を掴んでいる。

368: 2014/07/04(金) 22:09:32 ID:IEd5aojk
グイッ

伊織「きゃぁぁぁっ!!」

ダンッ!

足を引っ張られ、背中から地面に叩き付けられる。

伊織「ぐ…」

シャン…

観葉植物の葉が鳴った。

伊織「そんな…嘘でしょ…」

グググ…

ハルカ「あー…」ズイッ

ハルカが、ソファの下から這いずり出てきた。

ハルカ「逃がさないって…伊織に逃げられたら面倒なんだよ…」

369: 2014/07/04(金) 22:16:09 ID:IEd5aojk
伊織「な、なんで…」

伊織「なんで、ピンピンしてんのよ…! あれだけぶつけてやれば気絶するはず…」

伊織「いえ、そうでなくても! 普通の人間なら、ケガで動けるわけがない!」

ハルカ「それは私が『完全なアイドル』だから…かな」

伊織「は…? 完全な…アイドル…?」

ハルカ「まぁ、私もよくわかってないんだけどね。ただ、私達は『普通の人間』じゃあない…のかな」

ハルカ「だから、この程度じゃあ『負け』を認めるわけにはいかない」

伊織(何を言っている…?)

ハルカ「そんなことより…やってくれたね、伊織」

伊織「…!」

ハルカ「もう、好き勝手はさせない。好き勝手やらせると伊織のスタンドは侮れないとわかったからね」

ハルカ「さっさと始末させてもらうよ」

370: 2014/07/04(金) 22:25:23 ID:IEd5aojk
伊織「ス… ………」

伊織「『スモーキー・スリル』!」モクモク

ハルカ「『アイ・リスタート』」ヒュッ

ドグォ

伊織「っが…!」

伊織がスタンドを出すが、ハルカはおかまいなしに攻撃する。

ザザッ

ハルカ「気絶…気絶か。うん、それが一番いいね。意識があったら何をするかわかんないから」

ハルカ「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」ドン ドガ ドガァッ グギャ

伊織「ああ、うああ…!!」

バッギャァァーン

ドグシャア

『アイ・リスタート』のラッシュに吹っ飛ばされ、地面に転がる。

371: 2014/07/04(金) 22:27:11 ID:IEd5aojk
伊織「うぅ…」ズルズル

這ってハルカとは逆方向に動こうとする。

グシャ

伊織「あああっ…!」

ハルカが、伊織の手を足で踏みつけた。

ハルカ「だから、もう好き勝手させないって」

伊織「ぐっ、うう…!」

ハルカ「伊織が残り少ない体力で必氏こいて少しでも恐怖から逃れようとしてるだけだとしても」グリグリ

伊織「………」

ハルカ「いや…伊織だったら、そういう時は潔く降参するかな…」

伊織「アンタが…」

ハルカ「ん?」

伊織「アンタが私の何を知ってんのよ…この醜悪な化け物が…!」

ハルカ「ひどいなぁ」

372: 2014/07/04(金) 22:36:44 ID:IEd5aojk
ドンッ

伊織「ぐ!」

壁に叩き付けられる。

伊織(だ…駄目だわ、コイツには勝てない…このままでは始末されてしまう…)

伊織(伝えなきゃ…)

伊織(今、わかっている『事実』…)

伊織(私だけが知っている『事実』だけを! これだけは…みんなに、伝えなくては)

伊織(そして、これ、を…)

ハルカ「伊織…さっきから、その腕の下で、こそこそ何かやってるよね」

伊織「!」ビクッ

ハルカ「なーにやってんのかなぁ!?」グイッ

伊織「く…!」

ハルカ「血文字? 壁の隅っこに小さな文字で、『ハルカ』…か」

伊織「………」

373: 2014/07/04(金) 22:42:03 ID:IEd5aojk
ハルカ「甘いなぁ、伊織は。こんなの、今気づかなかったとしても伊織を始末した後にすぐ片付けちゃうのに」

伊織「………」

ハルカ「まぁ、これはカモフラージュで…本命は別にある…でしょう?」

伊織「…!」

ハルカ「そこの部屋の中!」バンッ

伊織「ちょっ…」

モクモクモク

ズルズル

ハルカ「私の携帯電話…いつの間に抜き取ったの? 『スモーキー・スリル』でどこかに隠しておくつもりだったんでしょうけど」ヒョイ

伊織「く…」

ハルカ「メールとかは… ………」ペタペタ

ハルカ「送ってないみたいだね。まぁ、見ている中で流石にそこまではできないだろうけど」

ハルカ「あ、伊織の携帯は鞄の中だよね?」

伊織「………」

ハルカ「まぁ、この携帯が他の人に見つかったらちょっとまずかったかもね」

374: 2014/07/04(金) 22:48:01 ID:IEd5aojk
ハルカ「誰かに何か、メッセージでも残そうとしたんだろうけど…」

ハルカ「無駄無駄、そういうことはさせない」

伊織「………」

伊織(終わった…)

伊織(もう、私にできることは何もない…)

ハルカ「もう、いいかな。そろそろ、頼んでおいた『伊織』も『できてる』頃だろうし」

ハルカ「伊織が散らかした廊下や高木社長も片付けておかないと」

伊織「………」

ハルカ「じゃあね、伊織」

ドグシャア!!

375: 2014/07/04(金) 23:02:20 ID:IEd5aojk
………

ガチャ

亜美「いおりーん? もう終わったー?」ヒョコ

大海「亜美ちゃん。どこ行ってたの?」

亜美「ありゃ、お姉ちゃん。戻ってたんだ」トスッ

亜美「わ!? ソファが土で汚れてる!? もう、なにこれ!?」

大海「…さぁ、誰かのイタズラかなぁ」

亜美「ぶー、もう帰ったらママに怒られちゃうよ!」

亜美「まぁ、いいや。それよりお姉ちゃん、いおりん知らない?」

大海「伊織ちゃんなら、さっき会ったよ。今は下にいるんじゃない?」

亜美「え、そうなの?行き遅れになっちゃったかなぁ…」

大海「…もしかして、行き違い?」

亜美「そうそう、それそれ。行き遅れは確か、そう。ピヨちゃんのことだよ」

大海「いやいや小鳥さんもまだまだ若いから…」

376: 2014/07/04(金) 23:09:15 ID:IEd5aojk
大海「あ、そうだ亜美ちゃん。飲み物買ってきたよ。伊織ちゃんにはもう渡してあって」

亜美「おお! でかしたぞ姉ちゃん!」

大海「時間経ってぬるくなっちゃったけど…」

亜美「えー、そーなの? ま、いいや。氷入れて飲むから」

大海「はい、カフェオレ」

亜美「ゼンゼン違うよ!?」

大海「あれ?」

亜美「亜美が頼んだのはスプライトだよ。もう、しっかりしてよーお姉ちゃん。はるるんの他にドジキャラはいらないよー」

大海「え…? そう…」

亜美「そういやさ、はるるんって仕事行ったの?」

大海「春香ちゃんなら、今日は事務所に来る予定なかったと思うけど」

亜美「へ? でも、なんかさっきいおりんと別れた後、はるるんのこと見たような…」

大海「…あれ? さっきまで事務所にいたんだっけ…」

亜美「まったく、しっかりしたまえよキミー。またりっちゃんに怒られるよー?」

大海「頑張ります…」

377: 2014/07/04(金) 23:14:37 ID:IEd5aojk
そこから一週間。

765プロの日常は、何もなかったかのように過ぎて行った…

そして、時は再び現在へと戻る…



……

………

378: 2014/07/04(金) 23:25:48 ID:IEd5aojk
事務所一階の待合室。

千早「………」ペラッ

雪歩「………」ペラッ

響「………」ペラッ

バサッ

響「あーっ、駄目だ! それっぽいことなんて何も残ってないぞ!」

真、貴音、やよいに加え千早、あずさ、雪歩、響の7人が集まってファイルを調べていた。

貴音「響、ちゃんと調べましたか?」

響「自分、本とか読むのは結構自信あるけど、『弓と矢』や『スタンド』に関係することとか、何かおかしいこととか、気になることとかそういうのはなかったよ」

あずさ「えーっと… ……………」

ペラッ

あずさ「うーんと… ……………」

ペラッ

真「あずささん、そんなゆっくり読んでたら日が暮れちゃいますよ!」

あずさ「あっ、ごめんなさいね~。じっくり読んだ方が何かわかると思ったから」

379: 2014/07/04(金) 23:38:24 ID:IEd5aojk
雪歩「うーん、うーん…」

やよい「雪歩さん、なにかわかりました?」

雪歩「ううん、なんにも…本当に、何かあるのかなぁ…」

千早「高槻さん達に話を聞いたけれど、水瀬さんの偽物は…」

千早「何故、この資料を持ち出そうとしたのかしら」

響「そこだよね。何もないなら、こんなもの放っとくぞ」

貴音「相手が意図していないとはいえ、これから伊織が偽物だとわかったのですから…何かあると思ったのですが」

真「…ボクは、はっきり言って今回の事件…高木社長が怪しいと思っている」

雪歩「え? でも、社長は…」

真「もし、生きていたら? その可能性は結構高いと思う」

やよい「私も、もしかしたら生きてるかもって思います」

あずさ「社長がもしも生きていたら…プロデューサーさんや律子さん達も、ちょっと楽になりますね~」

真「………」

380: 2014/07/04(金) 23:47:32 ID:IEd5aojk
パタン

雪歩「私の方も何もなかったよ」

やよい「私も、よくわかんないですけど…多分、何もないと思います」

響「やっぱり、真の言う通り高木社長が関わっていて何か証拠を消すため…なのかな」

貴音「そう考えるのはいささか早計に思えますが」

千早「本当にそうなら、わざわざこんな怪しまれることしないと思うけれど」

雪歩「そもそも、その消すべき証拠が見つからないんだよね…」

あずさ「あ!」

コロン

真「? どうしたんですか、あずささん」

あずさ「ごめんなさい、この最後のページに何か挟まってて」

ヒョイ

千早「…これは、ボールペン? かしら」

381: 2014/07/04(金) 23:59:01 ID:IEd5aojk
雪歩「このファイルの端っこ、何かこぼしたんでしょうか? 汚れてます」

真「いや、これは…」

響「血だ。誰かの血がファイルにくっついてる」

雪歩「ひっ…!? ち、血…?」

千早「しかも…何かしら? この血…」

貴音「どうかしたのですか?」

ススーッ

千早がファイルの血の跡をなぞると、指と一緒に移動する。

千早「張り付き方が明らかに緩いわ。乾いてから張り付けられているのよ…妙だわ」

やよい「…あれ?」

あずさ「やよいちゃん? どうしたの?」

やよい「えっと、ここのところなんですけど…」

千早「表紙の裏側の部分ね。血がついているけれど…他に、何か?」

やよい「ちょっと、ひっかいたあとが残ってます。なにか、書いてあるような…」

響「な、なんだって!?」

382: 2014/07/05(土) 00:07:19 ID:3LJi76PI
真「雪歩! 事務室から紙と鉛筆を持ってきて!」

雪歩「う、うん! ちょっと待ってて…」

千早「…面倒だわ。この資料から一枚貰いましょう」

響「え、それって…いいの?」

あずさ「書くものは、ボールペンでいいかしら?」

千早「ええ。まぁ、大丈夫でしょう」

貴音「そうでしょうか…?」

やよい「なんかちょっと心配かも…」

真「…まぁ、いっか。今は緊急事態だ」

千早「そういうことよ。『インフェルノ』」

千早のスタンドがボールペンを持ち、ファイルの窪みの上に、紙を一枚乗せる。

千早「………」ス

シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ!

素早い動きでその上を擦っていく。

383: 2014/07/05(土) 00:19:04 ID:3LJi76PI
やよい「紙の上に、文字が浮かび上がってます」

真「これが…ボク達の探していたものなのか…?」

貴音「一体、何が…」

シャシャシャシャシャシャシャ

あずさ「あら~? なんか、いくつか文章が書かれてあるみたいね…」

響「何が書いてあるんだ…?」

雪歩「うぅ、ちょっと怖いですぅ…」

ゴゴゴゴ

ゴゴ

『XXX-XXXX-XXXX』

『”?カニ&ヲ>ケロ』

『タカギしャ$#うハイ#?イる』

ゴゴゴゴゴゴゴ

千早「こ…これは…?」

To Be Continued...

384: 2014/07/05(土) 00:21:07 ID:3LJi76PI
スタンド名:「アイ・リスタート」
本体:アマミ ハルカ
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:C スピード:B 射程距離:D(5m) 能力射程:D(5m)
持続力:C 精密動作性:B 成長性:C
能力:人の精神の中にのみ存在できる、実体のないスタンド。
人から見れば実際にそこにあるのと変わらないように見えるが、触れることはできない。
「アイ・リスタート」の攻撃は人間の精神に作用し、さらには現実にも影響を及ぼす。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

386: 2014/07/05(土) 00:36:49 ID:JWrkKUaQ
6感を遮断してもハルカが「攻撃」したと思えば攻撃が成立するって強すぎませんかね!

387: 2014/07/05(土) 05:49:31 ID:lk8GdVHQ
ジブリは幻覚に弱かったりするのかね

乙!



To Be Continued...





引用元: 千早「『弓と矢』、再び」