640: 2016/02/07(日) 21:28:14 ID:15arGtKA





前話はこちら





カチャ…

美希が、壁から『矢』を手にする。

響「765プロにあったのは、『アイ・ディーオー・エル』で『複製』したものだったんだよね。きっと、これが大元…」

美希「事務所にあったやつと、同じにしか見えないの」

P「『スタンド使い』を生み出す『弓と矢』…」

P「なぁ、これがあったら俺もスタンドが使えるようになったりするのか?」

美希「プロデューサーは触らないほうがいいって思うな。氏ぬから」

P「氏ぬのか!?」

響「プロデューサーが『スタンド使い』になれるなら、半年前にとっくになってるはずだからね」

P「そ、そう…か…」



※このSSは「THE IDOLM@STER」のキャラクターの名前と「ジョジョの奇妙な冒険」の設定を使った何かです。過度な期待はしないでください。


春香「弓と矢」シリーズ

641: 2016/02/07(日) 21:30:03 ID:15arGtKA
順二朗「私はこの部屋に隠されていたのを、たまたま見つけただけだが…順一ちゃんが番人を用意してまで守っていたのは、私ではなくこれだろうな」

響「なるほどね」

P「でもなぁ、今更これがあっても役に立たないんじゃ…?」

美希「ううん、そうでもないよ」

P「え?」

響「『矢』があれば…あれが、使えるはずさー」

P「あれ…? って、なんだ?」

美希「『ジ・アイドルマスター』。半年前の事件の、最後の敵。最強のスタンド」



……

………

642: 2016/02/07(日) 21:32:31 ID:15arGtKA
美希「見た目は、ピカピカしたマネキンみたいなカンジ。アイドルっぽい衣装を着てて、『矢』が左手首に腕時計みたいにくっついてるの」

千早『空気中から集めた「熱」を、ありったけ…叩き込むッ!』プシュゥゥゥゥ…

バキィ!!

回想の世界。『インフェルノ』が、排気口から大量の蒸気を吹き上げながら、春香を殴り飛ばしている。

春香『うあっ…あぐっ… ………』ジュゥゥゥゥゥゥウウ…

攻撃が直撃し、春香は床を転がる。与えられた『熱』で、身体が灼けついていた。

美希「『パワー』とか『スピード』とかは、千早さんの『インフェルノ』よりは弱かったかな」

美希「でも、能力は最悪。一度発動すれば…」

春香『「ジ・アイドルマスター」』

ドォ……………ーン

千早『…え?』ベトォ…

千早が頭に手をやると、指先が血にまみれる。受けてもいない傷が、つけられている。

春香『千早ちゃん…頭から血が出てるよ』

逆に、春香からは先ほど受けた攻撃による傷も、『熱』も、一切が消え去っていた。

美希「自分の都合のいいように、『過去』の出来事を変えられる」

643: 2016/02/07(日) 21:35:16 ID:15arGtKA
………

……



美希「と、そんなカンジなの」

響「うーん、思い出すだけでもゾッとするぞ…」

美希「さっきの『アクセルレーション』も、『オーバーマスター』も…あれの前じゃ全く歯が立たないって思うな」

P「そんなのを、お前たちはどうやって倒したんだ…?」

美希「まぁ、終わったコトだしどうでもいいんじゃない? 最後にやったのはデコちゃんだし」

響「伊織もよくわかってない感じだったしな」

P「…とにかく、『矢』があれば、その『ジ・アイドルマスター』ってのが使えるんだな?」

順二朗「どうすれば使えるのかね?」

美希「春香は、自分のスタンド…『アイ・ウォント』にこの『矢』を刺してた」

スチャ

美希「ミキの『リレイションズ』に刺してみるの」

644: 2016/02/07(日) 21:37:55 ID:15arGtKA
順二朗「それで、星井君のスタンドが変わるのかね? 私には見えないから、よくわからないが」

響「『ジ・アイドルマスター』そのものではないと思うけど、それくらいのスタンドにはなると思うぞ」

P「それほど強いスタンドなら…会長も止められるな。これで全てが終わるのか…」

美希「………」

響「どうしたの、美希?」

美希「なんか、刺すのって痛そう」

響「美希…」

美希「ジョーダンなの。それじゃ、行くね」ス

ザシュ

美希が手に持った『矢』で、『リレイションズ』の肩を刺す。

美希「ん…?」

ブシュ

カラン

傷口から血が噴き出し、『矢』が弾かれた。

645: 2016/02/07(日) 21:39:18 ID:15arGtKA
響「美希!」

美希「大丈夫、ミキの肩はなんともないの」

順二朗「『矢』が空中で弾かれたように見えたが…」

P「まさか、失敗か…!?」

美希「きっと、ここから…」

カタカタカタ…

P「『矢』が…動いている」

ズルルルル

『矢』がひとりでに、『リレイションズ』に引き寄せられていく。

美希「うん、これで…」

・ ・ ・ ・

ウゾゾゾゾゾ

『リレイションズ』の体が、溶け出す。

美希「あれ…」

646: 2016/02/07(日) 21:40:56 ID:15arGtKA
ドロドロ

美希「なんか、春香の時と違うような…」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

地震でも来たかのように、島が…いや、地球全体が震えだす。

順二朗「うっ…!」ガクッ

P「社長!? …うっ!」

順二朗とプロデューサーが、その場に崩れ膝を着いた。

響「プロデューサー!? 社長!」

順二朗「い、痛い…」

P「あ、頭が…頭が…割れるッ!!」

響「な、何が起きてるんだ…」

ズズズズズズ

溶けた『リレイションズ』が、別のモノに変化しつつある。

響「あがっ…!? うぎゃああああああっ…!」

響も頭を押さえ、蹲ってしまった。

647: 2016/02/07(日) 21:42:52 ID:15arGtKA
ゴゴゴゴゴゴゴゴ

美希「これは…」

P「うあああああ…! あああ…!」

順二朗「ぬぅっ…! がぁ…ぎぃっ…!」

響「ああっ…あーっ、ああああああああ…!」

ズルズルズル

『リレイションズ』だったモノが、自分に引き寄せられる『矢』に手を伸ばす。

美希「っ!」バッ

美希は、それが掴むよりも前に、『矢』を取り上げた。

シン…

途端に、揺れは止まった。

P「う…? 頭痛が…」

順二朗「はぁ、はぁ…治まった…」

倒れていた三人が起き上がる。『リレイションズ』も、元に戻っている。

648: 2016/02/07(日) 21:45:14 ID:15arGtKA
美希「みんな、大丈夫!?」

順二朗「あ、ああ…」

P「なんだったんだ、今のは…」

美希「失敗…みたいなの。ごめんなさい」ペコ

P「別に、美希が謝ることじゃ…」

響「美希…」

美希「響、ダメだったみたい。響も試してみる?」

響「やめとく…美希が無理なら、自分も…っていうか、春香以外無理だぞ」

美希「そうかな」

響「今の…世界そのものが別のものへ変わっていく感じ…『ジ・アイドルマスター』と同じだ」

美希「ちょっとコントロール利かないカンジだったケド」

響「春香は…」

響「春香は、こんな『力』を支配してたっていうのか…?」

649: 2016/02/07(日) 21:47:40 ID:15arGtKA
美希「今はこれ、使えないね」

響「うん…春香と合流するのが一番よさそうだね」

P「本当に、大丈夫なのか…?」

美希「うん。春香なら今みたいになったりはしないって思う」

響「この『矢』は触ったら危ないから、先っぽに布巻きつけておくぞ」シュルッ

P「これを持ち運ぶのか…」

美希「ねぇ社長~、これ持っててちょーだい♪」

P「こら、社長を荷物持ちに使うな」

順二朗「いやいや、私なら構わないよ。これくらいはしなくてはね。君も荷物を持っているようだしな」

P「…それなら、いいんですが」

美希「それじゃ、春香を探すの!」

響「やっぱり、バラバラにされたのは痛いなぁ。春香、今どこにいるんだろ?」

………

……


650: 2016/02/07(日) 21:49:34 ID:15arGtKA
ゴウンゴウンゴウン

複製A「うぅ…」

複製B「あぁ…」

島に点在する倉庫の一つ。その中、物資運搬用ベルトコンベアの近くで、二体の名も知らぬアイドルの『複製』が頭を押さえている。

複製A「なんだったの、今のは…まるで、精神が引き剥がされるような痛みが…」

春香「………」

その傍らには春香が倒れている。気を失っているようだ。

複製B「それより、早いところこいつを牢獄に運びましょ。今ので、いつ目覚めるかも知れないわ」

複製A「そうね。あそこなら、例え天海春香でも逃げることは絶対にできない」グイッ

春香「………」ズル…

春香を二人で担ぐと、倉庫の外に歩きだす。

651: 2016/02/07(日) 21:54:14 ID:15arGtKA
複製B「………」

複製A「はぁ、はぁ、はぁ…」

複製達は、春香を抱えながら山の中腹道を進んでいる。

複製A(もし、天海春香がここで起きたら…ここで目覚めたら、私達は…)

複製B「そうだわ…」

複製A「?」

複製B「連れて行かなくても、ここで片付けてしまえばいいわ」

コォォォォォ…

複製B「そう。そこから、崖にでも投げ込んでやれば…」

複製A「なっ!? それは、まずいんじゃあないの!?」

複製B「こいつはあの『弓と矢』の力を使いこなしたこともある…危険すぎるわ。生かしてはおけない」

複製A「…そ、そう…? た、確かに天海春香は危険すぎる…わね」

複製B「そもそも、私達二人だけでこいつをなんとかしろってのが無理なのよ」

複製A「あいつ…自分が765プロの『複製』だからって…戦闘の経験を持ち合わせた謂わば格上だからって、私達に全部押し付けて…」

複製B「そうよ。あいつが任務を放棄したのが悪いのよ。私達は悪くないわ」

652: 2016/02/07(日) 21:57:36 ID:15arGtKA
複製A「そうと決まったら、やりましょう…」

コオオォォォォォォォ…

春香を抱えたまま、ピッタリと同じ歩幅で崖へと近づいていく。

複製B「ふふ、不安要素が消える…私達のも、高木さんにとっても、すべて!」ザッ

複製A「いいことずくめだわッ! 早く落としてしまおうッ!」ザッ

春香「うん、いいんじゃないかな」

複製A「あ?」

複製B「へ?」

ズル…

二人がまだ地面があると思って踏み込んだそこには、何もなかった。

複製A「うわああああああああああ!?」

複製B「きゃああああああああああああ!?」

ゴロゴロゴロ

バランスを崩し、そのまま揃って奈落へと落ちていく。

春香「まぁ、落ちるのはあなた達の方だけど」

653: 2016/02/07(日) 21:59:47 ID:15arGtKA
春香「『視覚支配』、そして『触覚支配』。あの倉庫にいた時から、もうとっくに起きてたよ」

春香「ちょっと気の毒だけど…『複製』がこれくらいで氏ぬとも思わないし、私のことを殺そうとしたんだから…ま、おあいこってことで」

春香「それにしても、さっき言ってた牢獄ってところに連れて行ってもらえると思ったんだけどなぁ。どこだろ、ここ」キョロキョロ

周囲を見回すが、目立つ建物は見えない。崖の下にも、森が広がるばかりだ。遠くの方は、霧に遮られて見えない。

春香「とりあえず、進んできた方に向かおっかな。方角的には、そっちにあるのは確かだろうし」

春香「そうと決まったら…」ザ…

一歩踏み出そうとするが…

春香「ん」

プルプルプル

ふと、右腕が震えていることに気づく。

ガシッ

春香「………」

左手で押さえつける。2、3秒経つと、震えは止まった。

春香「よし。行こう」

再び、歩き出した。

654: 2016/02/07(日) 22:02:59 ID:15arGtKA
春香「………」ピタ

しばらく歩いたところで、春香は足を止める。

春香「誰? 出てきてくれる?」

シン…

返事はない。

春香「…出てくるわけないか」

スタスタ

春香は数歩歩いてから…

春香「ふっ!」ダッ

突然ペースを変え、駆け出した。

ダン! ダン!

先程までいた位置に、春香の身長くらいの岩石が2つ落ちてくる。

春香(やっぱり、攻撃されてる…殺気がだだ漏れだよ)

655: 2016/02/07(日) 22:05:51 ID:15arGtKA
ダン!

春香めがけて、次々と岩が落とされる。フェイントをかけながら、踊るように移動して躱す。

春香(空から、岩が降ってくる…)クイ

見上げるが、空は霧に覆われている。

春香(駄目かぁ。この空じゃ、どう降ってくるのかもよくわからない…)

ヒュン ヒュン

春香「無駄ァッ!!」ヒュ

降ってくる岩石に、『アイ・ウォント』の拳を合わせる。

バガン

バラバラバラ

春香「うっ…!」バキッ

岩は脆くも崩れるが、その破片が春香を襲った。

春香(思ったよりは硬くない…けど、壊そうとするのはあんまりよくないみたい)

タッ!

その場から逃げるように、駆け出す。

656: 2016/02/07(日) 22:08:23 ID:15arGtKA
ダンッ ダンッ

細い道を進んで行く。落ちてくる岩に、退路を塞がれる。

春香(攻撃されている…さっきから、ずっと殺気を感じる)

春香(敵が見ているのもはっきりと感じる。でも、どこからどう私を見ているのか、それがわからない…)

春香(『視覚支配』で撒くのは無理か…能力が…どう攻撃しているのかわかれば、そう難しくはないんだけど)

春香(とりあえず『聴覚支配』と『直感支配』はかけているけど…はっきり見られている上に相手は『複製』、効果はあんまりなさそうだね)

ゴロゴロゴロゴロ

春香「?」

頭上から降り注いでくる音に目を向けると…

ゴッ

春香「うぇぇ…」

山の上から、トレーラーの積荷ほどもある大木が転がって、落ちてきた。

春香(潰…される…)

春香(これも壊せる…かもしれない。でも木の繊維は鋭利、ズタズタになる…! それにこの大きさ…『アイ・ウォント』のパワーじゃあ完全には破壊できない!)

657: 2016/02/07(日) 22:12:34 ID:15arGtKA
春香「!」

ゴゴゴゴゴ

ゴゴゴ

道の途中に、ちょうど春香が入れそうな、直径2m程度の横穴を見つける。

春香(あの中に逃げ込めば…降ってくる木は躱せる…)

春香(でも、このタイミングで…都合が良すぎる。飛び込んでいいのかな…)

ゴォォォォ…

大木がすぐそこまで迫ってきている。

春香(………)

バッ

ズザザッ

春香は、横穴に飛び込んだ。

ゴウン! ゴウン

大木は、地面をバウンドして崖の下まで落ちていった。

658: 2016/02/07(日) 22:16:03 ID:15arGtKA
春香「ふぅ…」チラッ

穴の奥に目を向ける。

春香「あっちは行き止まり…ただの横穴か」

ゴゴゴゴゴゴゴ

春香「!」

土が盛り上がり、洞窟の入り口がだんだんと閉じている。

春香「早く外に…きゃっ!?」グラッ

ドンガラガッシャーン

穴の外に出ようとするが、その場で足がもつれ、転んだ。

春香「いたた…なんで、こんな時に…」

シュル…

春香「これは…『糸』…!? 『糸』が、私の足に絡まっているッ!!」

ズズズズズズ…

足を取られているうちに、穴はゆっくりと、カメラのシャッターのように閉まっていく。

659: 2016/02/07(日) 22:20:51 ID:15arGtKA
春香「『アイ・ウォント』…」ズッ

春香はスタンドだけを、入り口の前に行かせ…

春香「無駄無駄無駄無駄」ドン ドン ドン

ボロッ

壁を殴る。殴ったそばから崩れていくが…

ズズズズズ…

春香「ダメだ、崩しても穴が閉じていく方が速い…!」

ズズズズズ

穴の出口はどんどん小さくなっている。

春香「でも、これは…わかった、敵の能力は…」

ズズズズズズズズ

春香「………」

そして、春香の世界から光が消えた。

660: 2016/02/07(日) 22:31:01 ID:15arGtKA
………

「あはっ」

ミキ「大成功、なの! 穴の中に春香を追いやって、閉じ込める作戦!」

美希の『複製』が、盛り上がった壁の前に立っている。

ミキ「あの二人と別行動を取った甲斐があったの! ミキの『マリオネット・ハート』が、春香の『アイ・ウォント』を倒した!」

シン…

ミキ「穴が閉じてから、もう20分も経ってる。穴の中には空気が入らないから、春香はもう酸素がなくてフラフラになってるって思うし…そろそろ、開けてもいいかな」パチン

ズズズズズズズ

指を鳴らすと、壁にひとりでに穴が開いていく。

春香「………」

その中に、春香が倒れていた。

661: 2016/02/07(日) 22:39:40 ID:15arGtKA
ミキ「春香、生きてるー? 船乗りさんでも20分はキツいし、氏んじゃってたりして」ヒョイ

ミキが顔を覗き込もうとすると…

カリ…

・ ・ ・ ・

春香「ヴァイッ!!」ブオンッ!!

『アイ・ウォント』が、地面からアッパーを放つ。

ミキ「ッ!!」バッ

一瞬反応が速かったか、ミキは跳び退いて躱した。

春香「…外した、か…『触覚』を『奪え』ると思ったんだけど」

662: 2016/02/07(日) 22:41:29 ID:15arGtKA
ミキ「は、春香…? ??」

春香「何を驚いてるの? 驚いたと言えば、美希の『複製』…あなたがここにいることに驚いたけど」

ミキ「え、だって…あんな閉め切った空間にいて、なんでそんなピンピン…」

春香「閉め切った空間? 何の話?」ズイ

ミキ「え…」

春香は『アイ・ウォント』の腕を見せつける。その周りには、土が付着していた。

ミキ「…?」

春香「わからないかなぁ。閉め切ってなかったんだよ。『アイ・ウォント』の腕を、閉じる寸前の穴に挟み込んだ。引き抜けば、この腕一本分、空気の通る穴が残る」

ミキ「そんな穴、どこにも………あ…!」

春香「『視覚支配』」

春香「さーてと、ようやく姿を見せたね。ここからだよ」

668: 2016/02/22(月) 02:08:03 ID:xmIgFRa2
ザワザワザワ

島の宿泊施設の一つ。そこを管理する『複製』達の集まりは、蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。

「他の施設で、脱走したアイドルがまだ戻ってこないそうだ!」

「主力の『複製』がまた一人撃破されたわ!」

「なんでも、あのレオンが敗れたらしい!」

「765プロの連中はそんなに強いの!?」

貴音「………」

モグモグ

貴音は食堂の中から、食事をしながら騒がしい廊下の様子を眺めていた。

貴音「何やら、騒がしいですね」

真美「ヒトゴトみたいに言うけどねお姫ちん」

「………」

「………」

真美「めっちゃ見られてるよ、真美達」

以前抜け出したのがバレているのか、あるいは警戒態勢のためか。常に二人以上の『複製』が、貴音達を見張っていた。

669: 2016/02/22(月) 02:10:30 ID:xmIgFRa2
真美「みんなこの島に来てるみたいなのに、真美達だけ動けないなんて…」

貴音「この施設にいる『複製』全員を敵に回すのは流石に分が悪いですね」

真美「うあうあー! このままじゃ生おろしだよー!」

貴音「生頃しと言いますが真美、皆来ているのならば、『すたぁとすたぁ』で亜美と合流できるのでは?」

真美「え? でも、真美のスタンドは『ジェミー』になったから、もう元の『スタートスター』は…」

貴音「千早のように、スタンドを切り替えることはできないのですか?」

真美「切り替える…? そういうの、考えてなかったな…ちょっちやってみる」

ピキン

真美「!」

貴音「しっ」スッ

真美が口を開く前に、貴音が指で静止した。

貴音「できるのですね?」

真美「うん。射程距離内に亜美がいるのも感じるよ」

670: 2016/02/22(月) 02:11:12 ID:xmIgFRa2
貴音「では、真美。早速『ワープ』を」

真美「でも、向こうどうなってるかわかんないよ。もしかしたら…あんま考えたくないけど、例のローゴクってとこに捕まってるかも…」

貴音「だとしても、この建物の中で燻っているよりはいいでしょう」

真美「…そだね。お姫ちん、真美の手掴んで」

貴音「はい」キュッ

「貴様ら、さっきから何を話している!」

真美「うげ、気づかれた」

貴音「問題ありません。行きましょう」

「怪しいな、脱走を企てているのなら牢獄送りに…」

ヒュン

「………」

真美と貴音は、『スタートスター』で建物の中から『ワープ』した。

671: 2016/02/22(月) 02:12:19 ID:xmIgFRa2
ヒュン

「何…!?」ビクッ

『ワープ』で辿り着いた先に、一人の女性が立っていた。

貴音「ふっ」ヒュオン

貴音は即座に『フラワーガール』の手刀をその人物の喉元に突きつける。

「…速いわね。速すぎるくらいに」

貴音「………」

三つ編みのおさげを二本ぶら下げた彼女は、眼鏡越しに貴音を睨みつける。

真美「りっちゃんの『複製』!?」

リツコ「なるほど、『スタートスター』か…迂闊だったわ」

ヴヴン…

律子「………」

亜美「………」

真美「亜美! りっちゃん!」

真美のすぐ傍に、バスケットボール大の黒い球体が二つ浮かんでいる。その上に、律子と亜美が載せられていた。

672: 2016/02/22(月) 02:12:55 ID:xmIgFRa2
真美(この黒い球…)

ググ

真美(なんか、真美の体が引っ張られてる…ような)

貴音「二人を解放してもらえるでしょうか」

リツコ「断ったら?」

貴音「貴女の首が飛ぶことになるかと」

リツコ「やってみる?」

貴音「………」

ゴゴゴ

リツコ「………」

ゴゴゴゴ

リツコ「はぁ…わかったわよ。向かい合ってよーいドンじゃ、『フラワーガール』にはとても敵わないわ」

フッ

黒い球体が消え、二人の体がコンクリートの地面に落ちようとする。

673: 2016/02/22(月) 02:13:46 ID:xmIgFRa2
ヒュバッ

トス

『フラワーガール』が律子の体を掴み、優しく地面に置いた。

真美「わっ」ガシッ

真美「わわっ」グラッ

真美「わーっ!」ドサッ

真美も自分の腕で亜美を受け止めようとするが、バランスを崩して倒れ、亜美の下敷きになった。

真美「もー! 亜美重いよー!」

スタスタ

リツコはもう真美達には興味もないとでも言うかのように、立ち去っていく。

真美「ありゃ、背中なんて向けちゃって。よし、『ジェミー』で一発…」

貴音「真美。まだ二人が気を失っています、巻き込まれれば被害が及ぶ。見逃しましょう」

真美「えー!? でもでも、あんなドヨービなんだよ!? お姫ちんの『フラワーガール』でやっちゃえばいいじゃん」

貴音「無防備だろうと、今の状況で能力のわからない相手に手を出すのは得策ではありません」

真美「ぶー。お姫ちんがそこまで言うなら我慢するけどさー」

674: 2016/02/22(月) 02:14:18 ID:xmIgFRa2
………

亜美「ん…真美…? もう朝…?」

真美「朝? じゃないよ! 寝ぼけてないで起きろー!」

亜美「あれ、真美!? なんでここに!? ってかココドコ!?」

真美「ここがどこかは真美も知らん!」

律子「あんたら、うるさい…」

貴音「律子嬢、目を覚ましましたか」

律子「うぅ…確か、いきなり狭いところに閉じ込められて…」

真美「りっちゃん達、連れ去られそうになってたから助けに来たんだよ!」

貴音「偶然ですが」

律子「とにかく、助けられた…みたいね。ありがと」

亜美「真美たちが来なかったら、めっちゃヤバかったみたいだね…」

貴音「二人が無事で、何よりです」

律子「さて…と。目も覚めたことだし、働かないとね」スッ

律子が『ロット・ア・ロット』のパソコンのような端末を取り出す。

675: 2016/02/22(月) 02:15:09 ID:xmIgFRa2
真美「あ、そうだりっちゃん。さっきりっちゃん達を運んでた『複製』だけど」

律子「ちょっと、後にして。今『ロット・ア・ロット』を飛ばしてるから」カタカタカタ

ヒュン

キュルキュル

律子が端末を操作すると、『衛星』が一つ目の前に現れる。

キラ…

ヒュウゥゥゥン

すると、どこからともなく『花びら』の群れが降ってきて、『衛星』に向かってくる。

バキャァ!!

『花びら』は四方八方から『衛星』に突き刺さり、バラバラに破壊された。

律子「あーっ、やっぱり駄目かっ! 他の場所にもいくつか出してみたけど、全部破壊されちゃう!」

貴音「ふむ」キラ…

貴音の手の中で何かが光る。

貴音「氷…ですね。この『花びら』は氷で出来ています」

律子「貴音!? それ、捕まえたの…!? いつの間に…」

676: 2016/02/22(月) 02:17:55 ID:xmIgFRa2
真美「お姫ちん、それ触ってたら危ないんじゃ!?」

貴音「心配無用。『フラワーガール』の指から逃れられるような力はほとんど感じません。形状はとても薄く鋭い…」

律子「質量を減らすことで一つ一つに使うスタンドパワーを抑えつつ、殺傷力も上げてるのね…一石二鳥だわ」

貴音「『霧』と『花びら』は同じスタンドなのかもしれません。『霧』は水蒸気で出来ていますから。凝固させて『花びら』を刃とする…理にかなっています」

律子「島を覆うほどのスタンド…か…なんで、私達を直接攻撃してこないのかしら…?」

真美「人の区別ついてないんじゃないの? この島、『複製』いっぱいいるし」

貴音「なるほど、それで狙いを律子嬢のスタンドに絞っているのかもしれませんね」

真美「ま、直接来てもよっぽどノロマじゃなけりゃ守れるっしょ」

律子「ノロマなスタンドで悪かったわね…」

貴音「『霧』を利用して攻撃しているのか、あるいはこの『霧』自体がスタンドなのか…どこかに本体はいると思いますが」

律子「そいつを倒すしかないか…でも、どこにいるのかしら…調べようにも『ロット・ア・ロット』は使えないし…あーもう、面倒くさいわね…」

真美「まぁ、こうして4人も集まったわけだし、テキトーに歩き回ってもなんとかなるっしょ。ね、亜美」

亜美「………」

真美「亜美? どしたの、なんか静かだけど。何かお悩みかね?」

677: 2016/02/22(月) 02:19:59 ID:xmIgFRa2
亜美「ねぇねぇりっちゃん、大丈夫かな」

律子「何が?」

亜美「真美の言う通り、亜美達はこうして集まれたけどさ…あの『シークレット・コーラル』ってスタンドに、みんなバラバラにされちゃったじゃん。ミキミキも、千早お姉ちゃんも、はるるんも…」

律子「なんだ、そんなこと。あいつらがそう簡単にやられると思う?」

亜美「でも…亜美はりっちゃんと一緒になったけどさ。他のみんなは一人になってるかも…」

律子「一人だろうが、あいつらが…特に、あの春香が負けるわけないでしょ」

真美「うんうん、はるるんの『アイ・ウォント』はちょー無敵だよ!」

貴音「皆を信じましょう」

亜美「うーん…」

………

……


678: 2016/02/22(月) 02:22:12 ID:xmIgFRa2
春香「『奪った』」

春香「あなたは私の姿を見た。もう『視覚支配』から逃げられないよ」

ミキ「そうだね」

春香「あれ。なんだか余裕だね」

ミキ「そりゃ、余裕ない春香に比べたらね」

春香「…? 余裕がない? 私が? 挑発でもしてるのかな?」

ミキ「ううん、事実なの。今、上手く『視覚支配』を使えばもうちょっと楽に『触覚』も奪えたんじゃない?」

春香「『複製』は呼吸や地面の振動からでも動きを読み取るでしょう。無駄なことはやらないんだよ」

ミキ「ふーん。まぁ、なんでもいいケド」

春香「…『アイ・ウォント』」ズズ

『視覚支配』を発動する。ミキの視界を何も見えない暗闇に変えていく。

ミキ「んー…やる気満々みたいだけど…」

ミキ「ここじゃ、戦うにはちょっと狭いかな」

ピシュッ

ミキは指先から、上の方に向かって、探るように『糸』を飛ばした。

679: 2016/02/22(月) 02:22:55 ID:xmIgFRa2
春香「!」

シュルルッ

フヒュン

木の幹に『糸』が触れると、そこに巻きつく。ミキは崖の上へと飛んで行った。

春香「なんだ、逃げるの? 逃げるなら追わないよ。バイバイ」

春香はそのまま立ち去ろうとするが…

クイ…

・ ・ ・ ・

引っ張られる感覚とともに、左腕がひとりでに上がる。

春香「え?」

キュッ

春香(私の腕に『糸』が巻き付けられてる…!?)

グゥゥーン

春香「きゃ…!」

春香の腕に巻きついた『糸』が収縮し、魚を釣り上げるように、勢い良く宙に放り出される。

680: 2016/02/22(月) 02:24:29 ID:xmIgFRa2
ゴォォォォォォ

崖上の木が、春香に迫っている。

春香(これを避けても、地面に叩きつけられる…なら…)

春香「『アイ・ウォント』! 掴んで!」

ガシッ

春香は空中で木の枝を掴むが…

バキ

勢いの方が強く、あっさりと折れる。

ドサァ!!

春香「ぎゃっ…!」

春香は、うつ伏せの姿勢で地面に衝突した。

ミキ「『アイ・ウォント』でぶつかるショックを防いだね。それくらい、できてトーゼンだケド」

クイッ

春香「う…」フラッ

腕の『糸』に引っ張られ、無理矢理体を起こされる。

681: 2016/02/22(月) 02:27:10 ID:xmIgFRa2
崖の上は拓けており、木が点在し、石が転がる広場のようになっていた。

春香「この『糸』…いつの間に…」

ミキ「さっき、殴りかかってきた時。そんなことにも気づかなかった?」

春香(『触覚支配』を試してるけど…効いてる感じがしない)

春香(『糸』自体がスタンドっていうよりは、『糸』をスタンドパワーで操って伸ばしたりできるスタンドなのかも)

春香「『糸』か…美希と繋がってても、あんまり嬉しくないなぁ。『複製』なら尚更」

ミキ「わかってないの? それとも気づかないフリしてるだけ?」

ヒュパ!

指から伸びた『糸』の一本が、転がっている石を掴む。

ゴゴゴゴゴ

『糸』で持ち上げると、石はどんどん『大きく』なっていく。

ビンッ!

春香「う…!」

春香を縛る『糸』は強く張り、体が引っ張られた。

ミキ「春香の居場所は『糸』から伝わる。こうして繋がってる以上、春香の『六感支配』はもう意味ないよ」

682: 2016/02/22(月) 02:29:36 ID:xmIgFRa2
グググ

春香「く…」

春香はなんとかその場で踏みとどまっている。

ミキ「さっき、逃げられないとか言ってたケド。本当に逃げられないのは春香の方だよ」

ヒュン

石がミキの体を覆うほどに『大きく』なると、春香の頭上に向かって投げた。

ゴォォォォォ

春香(やっぱりか…触れたものを『大きく』する! それが能力!)

春香「無駄ァッ」ヒュッ

バガァ!!

縛られていない右腕で、襲いかかる石を殴ると、粉々に割れる。

ガガガガッ

春香「うっ!」

その破片が、春香の体に降り注いだ。

683: 2016/02/22(月) 02:30:47 ID:xmIgFRa2
春香「………」

春香(私がなんともないのを見るに、生き物は『大きく』できないみたいだね)

春香(『大きく』されたら、質量は変わらない上に的がでかくなる…木と木の間に挟まれて身動きを取れなくされる、なんてこともされてたかもしれない)

ミキ「『六感支配』は意味をなさない、使えるのも右腕だけ。もうゼーンゼン怖くないってカンジ」

春香「………」ズズズ

春香は自分の姿を、風景に溶けるように消す。

ミキ「はぁ~…」グッ

ピンッ!

ミキ「無駄だよ。こうやってピーンと張ってれば、どこにいるかなんて丸わかりなの」

春香「張ってれば、だよね?」

タッ

春香はミキに向かって突っ込む。一瞬、『糸』が緩んだ。

ミキ「えい」ググッ

春香「ん…!」

だがすぐに『糸』は引っ張られ、つんのめる。

684: 2016/02/22(月) 02:32:12 ID:xmIgFRa2
ミキ「無駄だって。春香が動く速さより、『糸』を引っ張る速さの方がゼンゼン速いんだから」

春香「………」

ゴゴゴゴ

春香は、右腕に先ほど折った棒を持っていた。『糸』に押し付けると、どんどん『大きく』なっていく。

春香(見えないでしょう? 『六感支配』はまだ氏んでないよ)

春香「無駄ァッ」ブンッ

『大きく』した棒を、ミキに向かって投げた。

ミキ「投げたね? ミキの『糸』を利用して、『大きく』した木の棒を」

・ ・ ・ ・

シュルシュル

パシッ

ミキは指から春香のいる方角に『糸』をいくつか放つ。『糸』が棒に触れると、巻きついてあっさりと受け止めた。

春香「あ…」

ミキ「だから、全部伝わるんだって。春香が腕を、足を、体をどう動かしてるのか、どう動かそうとしてるのか、全部」

685: 2016/02/22(月) 02:33:12 ID:xmIgFRa2
ミキ「用意してくれて、ありがとなの」クイッ

ヒュッ

『糸』を巻きつけたまま、大きな棒をハンマーのように叩きつける。

春香「くぅっ…!」ガァン!!

パラパラ

直撃し、割れた木屑が春香の頭から落ちる。

ミキ「頭はちゃんと守ったみたいだね」

春香(見た目よりは軽い…けど、いくつか体に刺さった…)

春香(さて、どうする…?)

ミキ「あはっ」

春香「…何、笑ってるの? それは勝ち誇った笑い?」

ミキ「ううん、違う違う。春香が、あんまりにもおかしくって」

春香「おかしい? 私が? 確かに、あなたから見れば今の私の状況はさぞかし滑稽に見えるだろうね」

ミキ「ごまかさなくてもいいよ。『糸』から伝わってる」

春香「…何が」

686: 2016/02/22(月) 02:35:39 ID:xmIgFRa2
プルプル

ミキ「震えだよ! 春香の体が震えてるの!!」

春香「…ッ!」

ミキ「マジメな顔してても、強がってミキのこと睨みつけてても、本当は怖いんだ!」

春香「そ…そんなことッ!」

ミキ「隠しても無駄だよ! 『糸』から全部わかるの! 春香の怯えが、ミキに伝わって来る!」

春香「うるさいよっ!!」ダッ

ミキの言葉を振り払うように、春香は突っ込んでいく。

ミキ「よっと」クイッ

春香「あっ」フワッ

それに合わせて糸が引っ張られ、春香の体が浮いた。

ドンガラガッシャーン

砂埃を巻き上げながら、春香は地面を転がる。

687: 2016/02/22(月) 02:37:53 ID:xmIgFRa2
ミキ「星井美希の記憶にある春香は本当に怖くて、強かった。自分のやってるコトが悪いコトだなんてちっとも疑ってなくて、まっすぐだった」

ミキ「ミキも迷わない。これと決めたら真っ直ぐ突き進むの」

ミキ「だからミキは強い。だからミキは負けない」

春香「………」

ミキ「でも…今の春香は違う。ずっと迷ってるみたいにあやふやだし、すっごい臆病なの。そんなの、ゼーンゼン怖くなんてないって思うな」

ズルズル…

春香は倒れたまま、『糸』で引きずられる。

春香「………」

『こっぴどくやられたね』

そんな春香に、声をかける人物がいた。ミキではない。

春香「………」チラ…

『私』

春香が目を向けると、そこにはリボンをつけた…半年前の春香が立っていた。

688: 2016/02/22(月) 02:39:32 ID:xmIgFRa2
春香(『アイ・ウォント』…? いや、違う…)

『ぜーんぶ、見透かされちゃってるね。あなたに、隠し事なんてできないんだよ』

『怯えてる…そりゃ、そうだよね。あなたの「複製」も、さっきの人達も、この美希の「複製」も、みんながあなたを頃しにくるんだもん』

『他のみんなは命だけは取られないっていうのに、あなただけにはみんな殺意を持って襲いかかってくる』

『こうやって、化けの皮が剥がれれば、何もできないただの女の子でしかないのにね。あはは、「アイ・ウォント」と同じだ』

春香(私だ…私の弱い心が、私を責め立てる)

『でも、仕方ないよね。「ジ・アイドルマスター」…あれを使ったから。半年前、あれで好き勝手やったから。だから、みんながあなたを危険視してるんだ』

『ま、他のみんなは同じように危険視されてもちゃんと戦えるけどね。でも、あなたには無理。何もしなかったから』

『そうでしょう? あなたがやったことと言えば、「アイ・ウォント」でみんなを脅して戦わせただけ。「弓と矢」がなければ何もできない』

春香(………)

『罰なんだよ。自分のしでかしたことの責任を、今取らされている』

『糸に雁字搦めにされるように、運命に絡め取られて追い詰められている』

ミキ「あはっ」

『ほら、美希があなたを頃しにくるよ』

春香(違う…あれは美希じゃない)

689: 2016/02/22(月) 02:40:27 ID:xmIgFRa2
『ねぇ…氏ぬのは、怖い?』

春香(…怖いよ)

『でしょう? でも、あなたは逃げられない。自分でそうしてしまったから』

『怯えも迷いも、全てを見透かされ、みっともなく、無様に氏んでいくんだ』

春香(迷い…私が、何を迷ってるって言うの)

『わかってるでしょう?』

春香(私は、765プロのために…みんなのために戦うと決めた。迷いなんて、あるわけない)

『なんで、みんなのために戦わなきゃいけないの?』

春香(理由なんてないよ。みんなだって、そうしてる)

『あなたは違うでしょう?』

春香(何が…)

『他のみんなは、みんなのためを思って戦っている。でも、あなたはみんなに受け入れてほしいと思ってるから、戦っているだけ。自分のためだよ』

春香(っ…!)

『あなたはずっと迷っている。あんなことした自分が、みんなの仲間でいる資格なんてあるのかって』

春香(………)

691: 2016/02/22(月) 02:42:34 ID:xmIgFRa2
『それが苦しいから。半年前の事件を忘れたがってるんだ』

春香(違う…)

『リボンをつけないのだって、そう。半年前の自分を思い出したくないから』

春香(違う…)

『みんなのために戦って、あの出来事をなかったことにしたいんだ。そんなこと、できるわけないのに』

春香(違う! みんなはあんなことをした私を、受け入れてくれた…許してくれた! もう、半年前のことなんて関係ない!)

『許してくれた…そうかもね。みんなは優しいから、あなたのような奴でも許してくれる』

『そう、頭ではわかってる』

『でもね…私だけは、いつまでも許せないんだよ。自分のことを』

春香(あ…)

『あの事件でやったことを覆す何かがなければ、いつかきっと拒絶される。そんな考えが、あなたの頭から離れない』

『あなたは永遠に過去に縛られ続ける。あなただけが、いつまでも止まっている。あなたはずっと重い十字架を背負って生きるの』

春香(あああ…あああああ…!)

『でなければ、氏ね』

692: 2016/02/22(月) 02:43:10 ID:xmIgFRa2
ミキ「いつまで眠ってるつもり?」

春香「………」

ミキ「だったら…こうする…」ヒュ

ブワッ

『糸』に引っ張られ、春香の体が、木を越え、高く高く放り投げられた。

ミキ「のっ!」グンッ

ゴォォォォォ

『糸』はそのまま遠心力をつけ、春香は頭から、地面に落とされていく。

春香「………」

春香は、動かない。『糸』の行くままに、そのまま身を委ねているようだった。

ミキ「ほら! 何やってるの!? ちゃんと受身とらないと、本当に氏んじゃうよ!」

春香(氏ぬ、か…)

春香(もう…それでいいや。私が生きている資格なんて…)

ォォォォォ…

春香(ない)

693: 2016/02/22(月) 02:44:15 ID:xmIgFRa2
ゴォォォォォオ

どんどん地面が近づいてくる。

春香「………」スッ

春香は、全てを受け入れるが如く目を閉じた。

すると、春香の頭の中に一つの映像が浮かぶ。

自分を照らす、眩しいライト。

隣に立ち、自分と一緒に踊り、歌う仲間。

舞台裏から、自分を見つめる視線。

暗い客席に光る、サイリウムの海。

場内を包み込む熱気。

スコールのように飛んでくる、歓声。

いつか立った、ステージだった。

694: 2016/02/22(月) 02:45:28 ID:xmIgFRa2
ドゴォォォォォォォン

春香が地面に叩きつけられ、激しい砂煙が上がる。

ミキ「あーあー。今度こそ氏んじゃったかな? ホントにやっちゃうと、後で言い訳するのがメンドーなの」

ミキ「ん?」ピクッ

ミキ「『糸』が…反応してる。なんだ、春香まだ生きてるんだ」

シュゥゥゥゥゥ…

煙が風に散らされ、春香の姿が浮かび上がってくる。

春香「………」

春香は、座り込んだまま身じろぎもせず、放心したような顔を浮かべていた。

春香「『アイ・ウォント』…守ってくれたんだ」

ピッ ピッ

傍に立つ『アイ・ウォント』が、返事をするように電子音を鳴らす。

695: 2016/02/22(月) 02:46:45 ID:xmIgFRa2
春香(今…)

春香(色んな人の顔が浮かんだ…プロデューサーさんや千早ちゃん…事務所のみんなだけじゃあない…)

春香(次は負けないって私に言ったオーディションのライバル、ラジオ番組で私の失敗を笑って流してくれた先輩アイドル)

春香(慣れた風に私から会話を引き出してくれた大御所タレントの人、厳しかったけど最後には褒めてくれた番組ディレクター)

春香(設営に気合入れすぎて転びそうになってるスタッフの人、私に向かって指を立てる照明さん)

春香(ガチガチになって握手会に参加してくれたファンの人、後ろの方でサイリウム持ったまま涙を拭ってる観客の人)

春香(みんな…みんな、笑顔だった。そして…)

ワアァァァァァァァ…

記憶の中の舞台。歌いながら、踊りながら、満面の笑みを浮かべる春香の顔が、そこにあった。

春香(立ちたい…)

春香(私は、もう一度ステージに立ちたい…)

春香(私は、アイドルを続けたいッ!!)

696: 2016/02/22(月) 02:47:55 ID:xmIgFRa2
春香「………」

ミキ「結構、しぶといね。氏んじゃってもよかったのに」

春香「氏んだよ」

ミキ「は?」

春香「さっきまでの臆病な天海春香は、今氏んだ」

グ…

握りしめた右手をじっと見つめる。

春香(もう、大丈夫。震えは止まった)

春香「みんなのためじゃない、か…だったら、それでいいよ。私は、あくまでも自分のために戦う」

春香「仲間でいる資格がなくても、私はずっとみんなの仲間でいる。例えそれでみんなに後ろ指さされようと、構わない」

春香「生きる資格がないというのなら、そんなものはいらない。私が生きるのを許さない人なんて、全員この手で潰してあげる」

ミキ「な、何を言ってるの…?」

697: 2016/02/22(月) 02:50:21 ID:xmIgFRa2
春香「ねぇ…今の私は怖くないって、そう言ったね」

ゴゴゴゴゴ

ミキ「うっ…?」

ミキの視界が変化する。血が頭からどんどん溢れ、視界を塞ぐ。枯れ木はグズグズに腐り、異臭を放つ。足元では異形がケタケタと嗤っている。

春香「だったら、見せてあげるよ。あの時の私を。『アイ・ウォント』の本当の恐ろしさを」

ミキ「ふ…ふんっ、そんなコト言ったってゼンゼン怖くないの。こんな見せかけの『六感支配』なんて、こうして『糸』で繋がってれば通用しない!」

春香「ふふっ」

ミキ「何笑ってるの?」

春香「いや…『複製』も怖さで震えるんだなぁ、って思って」

ミキ「!」

春香「『糸』の震えが伝わるのは、そっちだけじゃないよ」

ミキの視界の中に、春香の歪な笑い顔が妖しく浮かび上がった。

ゴゴゴゴ ゴゴゴゴゴゴ

春香「…負けるな。私」

自分にだけ聞こえるように、春香はそっと呟いた。

698: 2016/02/22(月) 02:54:01 ID:xmIgFRa2
スタンド名:「マリオネット・ハート」
本体:ホシイ ミキ
タイプ:遠隔操作型・同化
破壊力:C スピード:B 射程距離:B(20m程度) 能力射程:B(50m程度)
持続力:B 精密動作性:C 成長性:C
能力:ミキの指先から伸びる細い「糸」のスタンド。
「糸」は遠くまで届き、近くであれば自由自在に操れる。刃物で簡単に切れないほど強度も高い。
能力は触れたものを「大きく」すること。「大きく」しても質量は変わらず、「大きく」すれば「大きく」するほど中身はスカスカになり脆くなっていく。
また、生物を「大きく」することはできない。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

701: 2016/03/09(水) 00:19:23 ID:QPltdVik
シュルシュルシュル

ピッ

ミキが、左手から伸びる『糸』を巻き取る。

ミキ「状況、わかってるの?」

春香「………」

ミキ「春香は全然ピンチから抜け出せてない。こうして『糸』で繋がってる限り」

春香「わかってないのはそっちだよ。別に、私を檻に閉じ込めたわけじゃあないんだから」

春香「あなたがやったのは、私を鎖で繋いだだけ…そして」ズッ

暗闇の中から腕が現れ、ミキを指差した。

春香「その鎖はあなたに繋がっている」

ミキ「………」

ドドドドドド

ミキ「春香がどうしようが…『六感支配』はミキには通用しない。能力が使えない『アイ・ウォント』なんてガラクタ同然なの」ヒュッ

左手の『糸』で石を二つ拾い上げ、投げつける。『大きく』なった石が春香に襲いかかる。

ミキ「ガラクタの『アイ・ウォント』でミキの攻撃は守れない!」

702: 2016/03/09(水) 00:22:27 ID:QPltdVik
春香「ほいっと」ヒュ

バキッ

投げつけた岩は、大きな手のひらにはたかれて飛んで行った。

ミキ「ふふっ…」

ように、見えた。

ミキ「『視覚支配』でごまかすなんて、セコいね」

春香「………」

ミキ「ごまかしても、ちゃんと命中したのはミキに伝わってるよ」

春香「うるさいなぁ、ミキミキミキミキ…『複製』のクセに」

ミキ「ふん…なんて言ってもいいよ、どうせ春香には何もできない」ザザッ

ミキは『糸』を使って石をかき集め…

ミキ「なのなのなのなのなのなのなのッ!」

次々と投げつける。石は空中で『巨大化』し、雪崩のように降り注ぐ。

703: 2016/03/09(水) 00:25:07 ID:QPltdVik
春香「はぁ」

春香は飛んでくる石を眺めたまま、動きすらしない。『糸』にも動きはない。

ミキ(何を余裕ぶってるの…? 記憶の中の…半年前の春香は、完全にミキ達を手玉に取っていた。だから、春香の余裕も怖かった)

ミキ(でも、今は違う! 化けの皮は剥がれてる、そんなことして何になるの?)

ミキ「ブッ潰れるのッ!」

ガン! ガン!

ミキ「え!?」

春香「………」

しかし、石は見えない壁に阻まれたかのように、春香の目の前で落ちていった。

ゴロ…

その一つたりとも春香には届いていない。

ミキ(何が起きたの…? また『視覚支配』…?)

ミキ(いや、弾かれたのは本当なの…地面の揺れや『糸』からもそれが伝わってきた…)

ミキ(春香は…何をしたの?)

704: 2016/03/09(水) 00:27:58 ID:QPltdVik
春香「ねぇ」

ミキ「!」ビクッ

春香「こんな『糸』で何がわかるっていうの? 触覚だけじゃ限界があるでしょ」

春香「私が何かしていることはわかっても、何をしてるかまで細かくわかる?」

ミキ「う…」

春香「ねぇ…本当に『アイ・ウォント』が無意味だと思ってる?」

ゴロ…

ミキ(…! まずい、『糸』が投げた岩に引っかかってる…動きがが伝わってこない! 能力を解除しなきゃ…)

シュゥゥン

『大きく』させていた岩を、ただの石ころに戻す。

ミキ「えい!」グッ

『糸』が自由になるのを確認すると、引っ張った。ミキから見て右の方向に、引っかかる感触。

ミキ(春香は…こっちに移動してる! 出遅れた!)

ブルッ

ミキ(この感覚…何かを殴った? 何を?)

705: 2016/03/09(水) 00:31:14 ID:QPltdVik
シン…

ミキの視界にはドロドロに溶けた世界しか映っておらず、何も聞こえてこない。

ミキ(春香は何をしてるの…?)

ミキ「! そっか、これは…!」シュルル

『糸』を編み込んで盾にし、春香が何かを殴った方向に向ける。

サクッ サク

向けた直後、盾に何かが刺さる。

ミキ(木の破片…)

春香「うーん、真のようにはいかないか」

ズズ

世界が元に戻る。春香は、えぐれた木の裏側からミキの様子を伺っていた。

ミキ(わかった…『マリオネット・ハート』を利用して、木を『大きく』脆くして、殴って飛ばしたんだ)

ミキ(さっきもそうだ、転がってる石かなんかを腕に絡みついた『糸』で『大きく』して盾にしたんだ!)

ミキ「…あはっ」

春香「どうしたの? 嬉しそうだね」

706: 2016/03/09(水) 00:36:26 ID:QPltdVik
ミキ「何をやってるのかと思えば。種が割れれば、くだらないの」

ミキ「こんな小細工に頼るなんて、春香はよっぽど攻撃の手段に困ってるんだね。今のなんて、仮に守らなくてもなんのダメージにもならなかった」

春香「攻撃の手段に困ってるのは、そっちもでしょう? チマチマ石を投げてきても勝てないよ」

ミキ「これでも、気遣ってるんだよ? 春香が本当に氏んじゃわないか。ミキだって春香が抵抗しないなら何も頃したいなんて思わないの」

春香「はぁ…」

ミキ「…なに、そのため息は」

春香「余裕ぶるのやめてくんないかなぁ。痛々しくて見てられないよ」

ミキ「………」

シュルッ

春香「んぐっ」キュッ

右手の『糸』を伸ばして、春香の体ごと木に巻きつける。

ミキ「なんだって…?」

ギッギッギッ

木はどんどん『大きく』なり、『糸』を押し広げながら春香の体を締め付ける。

ミキ「余裕ぶるって言った? ううん、事実だよ。『六感支配』…大層な能力持ってても、現実では何もできないクセに」

707: 2016/03/09(水) 00:39:51 ID:QPltdVik
ギギギ

春香「………」

ミキ「苦しい? 木が『大きく』なれば、どんどん春香の体を締め付け…」

・ ・ ・ ・

ミキ「ちがう…」

シュルッ

『糸』を解く。同時に木が元の大きさに戻っていく。

ミキ「春香は…木に巻き付いちゃいない! いや、それどころか…」シュルッ

右手の『糸』を引っ張る。春香の腕に結ばれているはずのそれが、巻き取られて指へと戻ってきた。

ミキ「『糸』が外されてるッ!! どうやって…」

ゴゴゴゴゴゴ

ミキ(いや、そんなことより…)

シン…

ミキ(いる…見えないけれど、春香が…この近くに)

708: 2016/03/09(水) 00:43:14 ID:QPltdVik
ミキ「でも…焦るようなことじゃあない」シュッ

指の『糸』を周囲の地面にばらまく。

ミキ「やるね、春香…ミキを出し抜くなんて」

ミキ「何も見えない暗闇の中で手探りで戦ってるようなものだから、どうしても後手に回される…なんだかんだ『六感支配』は強力なの」

ミキ「でも、春香自身は何もできない。それは事実」

コツッ…

ミキ「そこなの」シュルッ

ミキは音が鳴った場所…ではなく、石を投げた春香の息遣いを察知して『糸』を巻きつける。

ビッ!!

春香「………」

ミキからは見えない。しかし、間違いなく春香の左腕に巻きついたのが『糸』の感触でわかる。

ミキ「手探りでいい。『触覚』さえ『奪われ』なきゃ、春香の居場所はわかる」

ミキ「いくら『六感支配』を使っても、春香を見失うことはない。ミキは春香にはゼッタイに負けないよ」

709: 2016/03/09(水) 00:55:50 ID:QPltdVik
ミキ「逃げたのなら『アイ・ウォント』の射程距離の外に出る。でも、春香の姿は見えなかった。ってことは、まだ『アイ・ウォント』の射程距離内にいるってコト」

ミキ「逃げずに向かってきたのは褒めてあげるの」

シュルッ

左手の『糸』を、自分を挟んで春香の反対側にある木に結びつけた。

ミキ「でも、これで終わり…なのっ!」グイッ

グゥゥーン

木を支えにして、春香の体を思い切り引っ張りながら、高く高く打ち上げる。

ミキ「今度は本気なの…『アイ・ウォント』で守っても、ただじゃあ済まない!」

ブワッ

『アイ・ウォント』の射程距離の外へ飛び出し、『糸』の先に春香の姿が現れた。

710: 2016/03/09(水) 00:58:10 ID:QPltdVik
グォォォォォォ

先程と同じように、遠心力をつけて春香を地面に叩きつけようとする。

ミキ「『六感支配』もそこからじゃあ使えない! もうどうすることもできない!」

春香「別に…」ス…

『アイ・ウォント』が右手を上げ…

春香「射程距離があるのは『アイ・ウォント』だけじゃあないでしょ」ヒュ

スパァ!

ミキ「!」

手刀で『糸』を引きちぎった。

ガササッ

春香はそのまま飛んで行き、木に引っ掛かって落ちた。

ミキ「なに…」

春香「スタンドは本体から遠ざかるほど力を発揮できなくなる…こんな基本的なルールも忘れたの?」パラッ

春香の服から、引っ掛かった木の葉が落ちる。

春香「あれだけ離れればいくら『アイ・ウォント』でも切れるって」

711: 2016/03/09(水) 01:01:01 ID:QPltdVik
ザッザッ

春香が近づいてくる。

春香「『アイ・ウォント』が通じないって言ったけど、本当に通じないのはどっちの方なんだろうね」

ミキ(落ち着け…)

ザッザッ

ミキ(落ち着いて地面から…『糸』から伝わる感覚を頼りに…)

タッタッタッタ

ミキ(見えている春香は本物じゃない、そこを走っている!)

ヒュン

飛ばした『糸』が空を切る。

ミキ(避けた、小賢しい!)

ヒュ ビュン

両手の『糸』が、うねりながら獲物へと飛びかかる。

ミキ「遅い、遅い遅いのッ! ミキの『マリオネット・ハート』からは逃げられない! そして!」

712: 2016/03/09(水) 01:01:55 ID:QPltdVik
シュルルルルルル キュッ

ミキ「両手を縛った!」

ミキの右手と春香の左手、ミキの左手と春香の右手がそれぞれ『糸』で繋がった。

ミキ「カンタンなの、片手で切れるならこうやって両腕を封じればいい!」

ミキ「今度は切ったりできない! もう春香は操り人形も同然なの!」

春香「飛行機ってさ」

ミキ「は?」

春香「いや、自転車も車も新幹線もみんなそうだけど、ちゃんと動くまでには凄い力いるんだよね」

ミキ「…なに、なんの話? ?」

春香「いや、木に引っかけたりもしないで、私を持ち上げるまでにどれくらいかかるかな? って」

ミキ「何を言うかと思えば…『マリオネット・ハート』のパワーは少なくとも『アイ・ウォント』より上」

ミキ「確かにいきなり持ち上げたりはできないけど、遠心力をつければ振り回せるよ。こんな風に!」グッ

ミキは春香の体を引っ張ろうとするが…

ミキ「ん!?」グイッ!!

逆に、春香の方に引き寄せられる。

713: 2016/03/09(水) 01:05:14 ID:QPltdVik
ググググググ

ミキ「な、なに…このパワーは…?」

春香「やっぱり、飛行機とかと同じだ」

ズルズルズルズル

ミキ「おっ、おおおっ!?」

必氏に引っ張るが、どんどん春香の方へと吸い込まれていく。

ミキ(離れれば離れるほど『糸』を結んだ春香を動かすのに力が必要になる…だからここは『六感支配』の影響を受ける範囲内)

ミキ(でも、これは一体何!? 春香はどうやって、こんな力を…!)

ガリ…

・ ・ ・ ・

ガリガリガリ…

ミキ「『糸』が… ………」

ミキ「地面を引っ掻いてる…まさか…」

コォォォォォォ…

ミキ「崖から飛び降りたのかッ! 春香はッ!!」

714: 2016/03/09(水) 01:06:14 ID:QPltdVik
ミキ(ここは崖の近く…『視覚支配』でごまかしながら、そっちに近づいていた…!)

春香「『マリオネット・ハート』のパワーは人一人振りまわせるくらい強い…」

春香「だけど、それを支えているのはあくまでもあなた。いくら『複製』は丈夫ったって、身体能力は元の美希とそう変わらないでしょう?」

ミキ(違う…それだけなら、それがわかっていれば、まだ『マリオネット・ハート』のパワーだけでも引っ張り上げることはできる)

グググ…

ミキ(『糸』から、途中でどこかに引っかかってるのが伝わる…『アイ・ウォント』が崖を掴んでるんだ…!)

春香「せいぜい、私のために頑張ってね」

ミキ「あっ、あああっ」ズルズルズル

風がミキの頬を叩いた。崖へと一歩一歩近づいていくのを感じる。

ミキ(ミキは『複製』…『マリオネット・ハート』もある…落ちること、それ自体は問題ない…春香が大丈夫な高さなら、ミキだって大丈夫なハズ…)

ミキ(でも今は春香の『視覚支配』がある! 春香と一緒に落ちて、何も見えないままになるのはまずいッ!)

ミキ(そもそも…本当に、落ちても大丈夫なの? どれくらいの高さにいたんだっけ?)

ミキ(落ちたら、絶対にまずい!!)

ミキ「落ちたら…ね」

715: 2016/03/09(水) 01:08:07 ID:QPltdVik
シュルルルルル

春香「!」

ミキ「はい、『糸』を外した。馬鹿正直に引っ張りっこなんてする必要ないの」

ゴォォォォォォォ

ミキには見えないし、伝わらないが、春香は崖下に落ちているのだろう。

ミキ「あはははははっ! 落ちるのは春香一人でいいのッ!」

春香「そうだよねぇ、放すよねぇ…」

ミキ「…?」

春香「その『糸』は触れたものを『大きく』するんでしょう?」

ミキ「………」

ズッ

景色が元に戻っていく。

春香「伝わらなかった? 『糸』が崖をずっと引っ掻いていたのを…」

ズズズ

崖の一部分だけが、不自然に膨らんでいる。

716: 2016/03/09(水) 01:12:44 ID:QPltdVik
春香「引っ張るのに夢中で気づかなかった? 自分の足元が『大きく』、脆くなっているのを」

ズズズズズズ

その先端に、ミキは立っていた。

春香「まぁ、気づくはずないか。そのための『直感支配』だし」

ミキ「逃げ…」

春香「ヴァイ!」ドス

春香は膨らんだ崖に、『アイ・ウォント』の拳を叩き込む。

ピキピキピキ

美希「う…」

バッガァァァアアン

美希「うわあああああああああああああ!!」

ミキの足元の地面にヒビが入っていき…崩れた。

717: 2016/03/09(水) 01:14:53 ID:QPltdVik
ヒュゥゥゥゥゥウ

崖の下は、何もない暗闇になっていた。ミキの体はそこへ吸い込まれていく。

ミキ(落ちる! 落ちてる! どこに!? 落ちるまで、あと何秒!? 地面は…どこ!?)

ミキ「っく…『マリオネット・ハート』!」シュルルルルルル

両手から『糸』を絞り出す。

ミキ(これをどこかに引っかけられればいいけど…引っかけるものが見えない、失敗すれば地面にぶつかる)

ミキ「こうするしかないッ!」キュルルル

『糸』を編み込んで、パラシュートを作った。

ミキ「止まれっ…!」グググ

ガサッガサッ

パラシュートが機能する前に、ミキの体が葉っぱに包まれる。

ミキ「木に引っかかった…?」

シュルル

ガサッ!

木に引っかかったパラシュートを解くと、ミキの体は地面へと落ちた。

718: 2016/03/09(水) 01:16:52 ID:QPltdVik
ミキ「そっか、下は森なんだった…」

バッ!!

周囲を見回す。ちゃんと感覚どおり、森の中にいるように見える。

ミキ(春香は…)

春香「………」スッ

木陰から春香が姿を現わす。

ミキ「春香…」

春香「落ちてきたね」

ミキ「なんだか、平気そうだね。春香の方も木がクッションになったのかもしれないケド…」

春香「………」

ミキ「でも、『複製』でもないのにあの高さから落ちたら、ただじゃあ済まないよね」

春香「………」

ミキ「本当は、立ってるのも辛いんじゃあないの?」

719: 2016/03/09(水) 01:18:30 ID:QPltdVik
春香「ふーっ…」

ダッ!

ミキ「ん!」

春香がミキに向かって一直線に突っ込んでくる。

ミキ(真っ直ぐ突っ込んでくるなんて、破れかぶれもいいとこなの。どうせこれも『視覚支配』なんだろうケド)

ダッダッダッ

ミキ(一応、本物かどうかは足音で判別…)

ミキ「!」

パラパラ

ミキ(上の方から、さっき崩れた崖の砂利が落ちてきてる…春香の足音がわからない!?)

春香「………」ダダダ

ミキ(ってコトは…この春香が本物かどうか、地面からの感覚じゃあ確かめられない!)

720: 2016/03/09(水) 01:19:39 ID:QPltdVik
ミキ「でも…『マリオネット・ハート』!!」シュルルル

バンッ

辺りの木に、自分を囲む柵を作るように『糸』をめったやたらに巻きつけた。

ミキ「『糸』の結界…どこから来ようと、少しでも触れれば居場所はわかる!」

グググ

ミキ「そして、木も『大きく』なる! ミキに近づけないし…春香が近くにいれば押し潰してやるの!」

春香「ふっ!」バッ

春香は、『糸』の隙間に飛び込んだ。

ズシャア

結界をすり抜け、落ち葉の中へとダイブする。

ミキ「………」

ミキ(今の春香に、こんなことができるわけがない…)

春香「ふぅ…」

ザッザッザ

春香は起き上がると、再びミキに向かって歩き始める。

721: 2016/03/09(水) 01:20:09 ID:QPltdVik
ガラガラガラ

崖から落ちてくる石や砂が、ミキの体にぶつかってくる。

ミキ(大丈夫、この春香は『視覚支配』…)

ザッザッ

ミキ(あの高さから落ちて、こんな風に走ってこれるわけがないし…そもそも、最初から姿を見せる意味がない)

ザッザッ

ミキ(大丈夫…な、はず…)

春香「ああ…」

ミキ「うっ…!」ゾク

ミキ(違う、これは…この春香は…)

春香「あああああああああああああああああああああああああああ!!」

春香が、雄叫びを上げた。

ミキ(この春香は、最初から…!)

722: 2016/03/09(水) 01:20:43 ID:QPltdVik
シュルルルルルル

ミキは急いで結界を巻き取る。

ミキ「『マリオネット…!」

春香「ヴァイッ!!」ヒュ

パァン!!

ミキ「ッ…!?」

しかし『糸』を巻きつけるその前に、春香から伸びる『アイ・ウォント』の手が、そのままミキの頬へと叩きつけられた。

シン…

乾いた音の後、少しの間静寂が流れる。

春香「『奪った』」

ミキ「………」

ミキは、頬を押さえている。

ミキ「…それが、なに?」

春香「………」

ミキ「今のは流石にやられると思った…でも、この一発だけ? バカにしてるの?」

723: 2016/03/09(水) 01:21:30 ID:QPltdVik
ミキ「『触覚』を『奪った』程度でなんなの…それで、私に勝てるとでも思ってるの…」

ミキ「どこまでも対応してやる…私の『マリオネット・ハート』で追い詰めて頃す…!」

春香「………」

ミキ「やってやる…やってやるの…!」

春香「ううん、もう終わってる。あなたはもう絶対に私には勝てない」

ドロドロドロドロ

春香の『アイ・ウォント』が、足元から炙られた氷像のように溶けていく。

ミキ「は…」

春香「今の一発でいい。口を開いたね…残りの感覚を『奪う』にはそこに一発だけ触れればいい」

春香「私はあなたの『六感』すべて、『奪った』」

チャポン

やがて、その全身が溶けきると…

春香「『アイ・リスタート』」ズズズ

水溜まりの中から、『それ』が姿を現した。

727: 2016/03/10(木) 00:35:28 ID:1WulgN5s
ミキ「なに…それ?」

春香「ふーっ…」グッ

春香「行くよっ!」

ヒュン

ミキ「は…」

『アイ・リスタート』の姿が消えたかと思うと、一瞬でミキの目の前に現れる。

春香「ヴァイッ!!」バシュゥゥ

ミキ「うご…!?」

チュドォン!!

目にも留まらぬ一撃でミキはブッ飛ばされ、崖下の岩盤へと叩きつけられる。

ミキ「っく…このスピード、そしてパワー…」パラ…

めり込んだ壁に手をつき、すぐに身を起こそうとするが…

グゥゥーン

『アイ・リスタート』の手だけが伸びて、ミキを掴んだ。

ミキ「ありえない…!」

728: 2016/03/10(木) 00:40:03 ID:1WulgN5s
グイッ

ミキ「わああああっ」ポーン

思いっきり引っ張られ、宙に放り出されて春香の方へ飛んでいく。

ゴォォォォ

ミキ「く…『マリオネット・ハート』!」シュルルルルッ

春香に向かって、両手から『糸』を放つ。

春香「『アイ・リスタート』」ギラン

春香のスタンドの指の一本一本が、メスのような鋭い刃に変わり…

春香「それっ!」ヒュッ

バラッ

そっと一払いすると、伸びた指先の刃物が走り、『糸』を細切れにした。

ミキ「は…ああああっ!?」

ズシャ

ミキはそのまま仰向けで地面に落ちた。

729: 2016/03/10(木) 00:48:44 ID:1WulgN5s
ミキ「な、なんなの、これは…」

春香「『アイ・リスタート』。もう演技はやめたよ、これが私の新しい道だから」

ミキ「また、幻覚を見せてるだけなの…」

春香「うん。『アイ・リスタート』は見せかけだけのスタンド、現実には存在しない」

ドドドドドド

春香「でも、あなただけには本物。だよ」

ギャルン!!

『アイ・リスタート』の右腕が、ガトリング砲に変形し…

ズダダダダダダダ

そこから、飴玉の弾丸が絶え間なく撃ち出される。

ミキ「うががががががががが」

口の中に放り込まれた飴玉はドロドロに溶け、喉の奥へ入り込んでいく。

ミキ「うげっ、うごぉ…!」ドムン

ギリギリギリ

強烈な痛みが、ミキの腹の中を襲った。

730: 2016/03/10(木) 00:53:39 ID:1WulgN5s
ミキ「げほっ、げほっ…」

春香「まだまだ、いっくよー…」

ミキ(ヤバい…なんなの、これは!?)

ミキ「『マリオネット・ハート』! ミキを守るのッ!」バッバッ

シュルルルッ

『糸』が編みこまれて、盾を作る。

春香「よーし…そこ!」

キュ

『アイ・リスタート』が、盾の端っこからちょこっとだけ出た『糸』を掴むと…

春香「えいっ!」グイ

引っ張る。

バアアアアァァーン

ミキ「あっ、ああああ、ああっ」

次の瞬間、『糸』の盾はバラバラに解かれていた。

731: 2016/03/10(木) 00:58:45 ID:1WulgN5s
春香「『アイ・リスタート』は負けない」

ゴゴゴゴゴ

ミキ「うぅ…」ブルルッ

『アイ・リスタート』から放たれる威圧感に、ミキは震える。

ミキ(無理だ、ムチャクチャすぎる…)

ゴゴゴ

ミキ(『勝てない』…)

サラ…

ミキ「!」バッ

砂になりかけた指先を、隠すように手で押さえる。

春香「『負け』を認めたみたいだね」

ミキ「ち、違う!」

春香「それなら、もういいよ。これ以上戦う気がないなら、見逃してあげる」

春香「いや、意味ないんだったっけ…『負け』を認めた時点でもう終わりか」

ミキ「違う…私をナメるな…!」

732: 2016/03/10(木) 01:00:17 ID:1WulgN5s
ミキ「まだ…まだなのっ!」シュルルルル

ガッ ガッ

ミキが指から出した『糸』が、周囲の木を片っ端から掴む。

ゴゴゴゴゴ

木々が『巨大化』し、全てを押し潰さんと迫ってくる。

ミキ「私にとっては本物でも…『大きく』なる木を止めることはできないでしょう!」

春香「………」

ズズズ

木と木の隙間が閉じ、春香の姿が見えなくなっていく。

ミキ「無駄なのッ! 潰れろ! 潰れろ! 潰れろッ!」

春香「ふーっ」スッ

『アイ・リスタート』が左腕を高く掲げる。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

ミキ「な…」

木が『大きく』なるよりも早く、『アイ・リスタート』の拳が大きく、大きく、際限なく巨大化していく。

733: 2016/03/10(木) 01:03:19 ID:1WulgN5s
春香「私が歩いて来た道…全部」

春香「全部、無駄なんかじゃない…無駄なんかにしない」

ミキ「あ、ああ…」

春香「ヴァイッ!!」ゴォッ

春香が、巨人の左腕を振り下ろす。

ズォォォォォォォ…

ミキ「ああああああああああああ」

迫り来る圧力。どうすることもできない。

ズズゥゥン…

ミキの世界で、地球が大きく揺らいだ。

734: 2016/03/10(木) 01:10:42 ID:1WulgN5s
シュゥゥゥゥゥゥゥ…

フッ

『アイ・リスタート』が消えた。

ズズズズズズズ

『巨大化』していた木が、元に戻っていく。

春香「…はぁ」

ミキのいた場所を見る。そこには、砂の山と、細切れになった『糸』だけが残っていた。

『そうやって…たったひとりで、どこまで行けるつもり?』

背後に振り向く。そこには誰もいない。

春香「どこまで行ける、か…どうなんだろうね」

春香「それでも前に進むよ。そう決めたから、私は。天海春香は」ザッ

宛てもなく、春香は歩き始めた。

To Be Continued...

736: 2016/03/10(木) 01:54:29 ID:l9miY4NA

737: 2016/03/10(木) 02:35:00 ID:cfgSRtWs

相変わらず春香さんさいつよ

738: 2016/03/10(木) 08:53:03 ID:D5Ttd4Tc
DIOが味方になってるようなもんだからな



To Be Continued...





引用元: 千早「『弓と矢』、再び」その2