799: 2016/05/19(木) 00:09:23 ID:lzouUMSI





前話はこちら





千早(何かが…)

カッ カッ

千早(私のことを呼んでいる…)

導かれるように、ぐんぐんと舗装された道を進んでいく。

やよい「千早さーん!」

千早「!」ピタッ

呼び止められ、足を止めた。

あずさ「待って~、千早ちゃ~ん」

千早「あ…ごめんなさい、あずささん」

千早(あんなに遠くに…知らない間に、こんなに先を歩いていたの…)

やよい「もう千早さん、一人で行ったら、めっ! ですよ!」

あずさ「どうしたの?」

千早「えーと…歩きやすかったので、つい…」

あずさ「待ってくれると助かるわ。千早ちゃんとはぐれたら、迷っちゃいそうだから」

千早「一本道ですけど…」



※このSSは「THE IDOLM@STER」のキャラクターの名前と「ジョジョの奇妙な冒険」の設定を使った何かです。過度な期待はしないでください。


春香「弓と矢」シリーズ

800: 2016/05/19(木) 00:09:58 ID:lzouUMSI
やよい「それだったら…」

キュッ

千早「!」

やよいが、千早とあずさの間に入って二人と手を繋ぐ。

やよい「みんなで手を繋げば、はぐれたりしませんっ!」

千早「高槻さん」

やよい「この先、何があるかわかりませんよ。みんな一緒がいいです!」

千早「…そうね。皆で行きましょう」

あずさ「ふふ、よかった」

千早(この先の、何かが待っているようなこの感覚は気になるけれど…)

千早(一人で行くのは危険ね…二人がいなかったら、今頃どうなっていたか)

千早(でも…一体、この先に何があるの? 何が近づいているの…?)

801: 2016/05/19(木) 00:13:01 ID:lzouUMSI
ゴゴゴゴゴゴゴ…

三人が道を進むと、やがて金網に囲まれた、灰色の無骨な建物が見えてきた。

やよい「ここ、なんでしょう?」

あずさ「おっきなコンテナなんかも置いてあるし…工場かしら?」

千早「いえ…」

千早「あの金網の上の方、有刺鉄線になっている…これは…」

ガシャン!!

あずさ「!」

金網が揺れる音がして、三人はその方向に目を向ける。

女の子「はぁ、はぁ…」

体を土で汚した女の子が、千早達の反対側で金網を掴んでいた。

女の子「そ、そこの人達! 助け…」

フワ…

千早「!」

女の子の体が浮いていく。

802: 2016/05/19(木) 00:14:22 ID:lzouUMSI
ザッザッザ…

建物の中から黒いスーツに身を包んだ二人の『複製』が現れる。

女の子「ああ…」

グイッ

黒服は浮かんでいる女の子を取り押さえると、建物の中へと引っ張っていった。

??「スタンドを使える人が増えてきた…警戒を強める必要がある」

連行する二人とすれ違いに、やよいと同じくらいの身長の少年が出てくる。

あずさ「あれは…」

やよい「千早さん…? でも、小さいです」

千早「ユウ君…」

ユウ「千早さん…やはり、貴女だったのですね」

フワッ

少年は自分の体を浮かせると…

スタッ

金網を飛び越えて、千早達の前に降り立った。

803: 2016/05/19(木) 00:15:51 ID:lzouUMSI
千早「やはり、ということは…あなたも同じように感じていたのね」

ユウ「ええ。『ブルー・バード』が引かれあっているのでしょうか? まぁ、なんでも、いいですけれど」

千早(ユウ君…会ったら、話したいことが、沢山あったはずなのに)

千早(何も、頭に浮かんでこない…)

あずさ「千早ちゃん、この子は…」

やよい「ユウって、たしか…千早さんの弟と同じ名前ですよね」

あずさ「『複製』というのは『スタンド使い』が元になっているのよね?」

千早「ええ、高木会長が言っていました。そうでなければ精神が宿らないとか」

あずさ「優くんは『スタンド使い』だったの?」

千早「そんな事実はなかったはずです、少なくとも私が知る限りは」

あずさ「じゃあ、これはどういうことなのかしら…?」

ユウ「僕は他の『複製』とは成り立ちが違いますからね。『完全なアイドル』には程遠い」

千早「高木会長曰く…空っぽな人形から『弓と矢』で精神を持った、最初の『複製』…だそうです」

あずさ「え? それって、おかしくないかしら? どうして会長は、優くんの『複製』を…?」

ユウ「………」

804: 2016/05/19(木) 00:17:02 ID:lzouUMSI
ユウ「僕のことはどうでもいいでしょう。それより、まさかこんな形でここが見つけられるとは…迂闊でした」

千早「牢獄…よね、ここは」

ユウ「そうですね」

やよい「765プロのみんな、ここにいるんですか?」

ユウ「答える必要はないです」

あずさ「あなたが、ここの番人ということかしら?」

ユウ「本来は僕の所轄ではありませんが、今はそういうことになっていますね」

あずさ「本来は所轄じゃあない?」

ユウ「ええ。先日、独断で行動をしたのですが、その罰とでも言ったらいいんですかね」

千早「………」

ユウ「番人とは言いますが、前任者と比べるとあまり上手くは出来てなくて…見たでしょう、今も脱走を企てられる始末でして。この外見もあって、甘く見られているのでしょうかね」

ユウ「まぁ…今の所脱走に成功した人はいませんが」

千早「ユウ君、そこをどいて。あなたと戦いたくはないわ」

ユウ「そういうわけにもいきません。今は、僕がここの主ですから」

ゴゴゴゴゴ

805: 2016/05/19(木) 00:19:42 ID:lzouUMSI
千早「どうしても、戦わなきゃ駄目なの」

ユウ「どうしても…と言うなら、千早さん。僕が優君として生きることを認めてくれませんか。それさえ叶えば、はっきり言って僕にとって他の事はどうでもいい」

あずさ「千早ちゃんの弟さんの代わりになりたいと…?」

千早「まだそんなことを言っているの…言ったはず、それは無理よ」

ユウ「そうですか…やはり弟さんのことが大事ですか」

千早「違う…そういうことじゃあない」

ユウ「まぁ、いいでしょう。高木さんの宿願が叶えばアイドルの世界…貴女の身の回りの全てを『複製』が支配する」

千早「…‥‥」

ユウ「そうなれば、千早さん…貴女だって言うことを聞かざるを得なくなる」

千早「それが目的なら、私にこの島の存在を教えたのは何故? どうしてわざわざ引き込むようなことをしたの?」

ユウ「ここにくれば、すぐにわかるからですよ」

やよい「わかるって、なにがですか?」

ユウ「それは…」ズズッ

少年の背後から、同じくらいの身長の青い体のスタンドが現れる。

ユウ「僕達に逆らおうが無駄ということが、ですよ」

806: 2016/05/19(木) 00:21:19 ID:lzouUMSI
ゴゴゴゴゴ

あずさ「『ブルー・バード』…」

やよい「ほんとに、千早さんと同じスタンド…」

千早「…ユウ君。本当に、私達は戦わなければいけないの」

ユウ「くどいです」

千早「あの日、一緒に遊んだこと…話してくれたこと…あれは全て嘘だったの!?」

ユウ「…僕は所詮『複製』…高木さんに生み出された道具にすぎない」

やよい「道具って…」

ユウ「他の『複製』は…道具として立派に役目を果たしている。でも、私は…」

ユウ「私には何もない…生まれてきた意味も、生きる意味も…空っぽな人形だった頃と何も変わらない…!」

千早「ユウ君…」

ユウ「だから、私は勝ち取らなければいけない…! 自分の居場所を!」

ユウ「高木さんのためじゃあない、私…僕は自分のために…」

ゴゴゴゴ

ユウ「貴女達に勝つ、そして認めさせる。『複製』としては出来損ないの僕でも、『スタンド使い』としては『最強』の一人だ」

807: 2016/05/19(木) 00:22:33 ID:lzouUMSI
フワ…

少年の体が地面から浮いていく。

やよい「あっ!」

ウーウー

足元を這い進んでいた『ゲンキトリッパー』の粒が、行き場を失う。

あずさ「どこにも触れてないのに…」

千早「空気に『重量』を『与え』られる…能力」

ユウ「そう…僕の『ブルー・バード』は千早さんのものとは違いますよ」タッ

背後の金網に足を乗せると…

ゴォッ

蹴り出し、千早の方に飛んでくる。

ユウ「ふっ!」シュバ

千早「はっ!」ヒュ

ガキィ!!

振り下ろした腕と打ち上げた腕、二つの『ブルー・バード』がぶつかり合った。

808: 2016/05/19(木) 00:23:41 ID:lzouUMSI
ググッ

千早(重い…!)

下にいる千早の方が押され、膝が折れ曲がる。

あずさ「『ミスメイカー』」グワッ

ユウ「!」

大きな腕が、少年を頭を狙って襲いかかる。

ググ… バッ

少年は千早の腕を押し、空中へと飛び上がって逃げる。

千早「っ!」

ユウ「………」フワ…

やよい「飛んでる…」

千早「『重量』を空気に『与え』たり『奪っ』たりできる…つまり、自分の『重さ』も自由自在ということだわ」

あずさ「本当に、千早ちゃんのとは違うのね」

ユウ「これくらいで驚いてもらっても困るのですが」

あずさ「大丈夫よ。千早ちゃんといっぱい特訓したから、『ブルー・バード』の相手は慣れてるわ~」

809: 2016/05/19(木) 00:24:54 ID:lzouUMSI
あずさ「えーいっ!」

ブオン!!

ユウ「!」

『ミスメイカー』の腕を大きく振るう。その風圧で、少年の体が金網の方に吹き飛ばされていく。

グ…

千早「はっ!」ブワッ

そして、地面に『重量』を『与え』た千早が、一緒に飛びかかった。

ユウ「金網に押し付ける気…? 千早さんが僕に追いつく前に、金網を蹴って空にでも逃れ…」

ウー ウッウー

ユウ「!」

金網に『ゲンキトリッパー』が待ち構えている。

ユウ「『重く』して着地…いや、地面にも『ゲンキトリッパー』はいるはず…」ゴォォォォォ

千早「はぁぁぁっ!」グォッ

少年の背後には金網が、前方からは千早の攻撃が迫っている。

ユウ「…これしかない」

810: 2016/05/19(木) 00:26:19 ID:lzouUMSI
ブワッ!!

千早「え!?」

少年の周囲に砂埃が巻き起こり、千早もその中に巻き込まれる。

あずさ「え、な、何…?」

やよい「あ…」

やよい「空気を『重く』したんです! 土とか『ゲンキトリッパー』が、空気より『軽く』なって浮き上がっちゃいました!」

千早「く…」

バババッ

ブオォー…ン

『ブルー・バード』のラッシュで、砂埃を吹き飛ばす。

・ ・ ・ ・

千早(ユウ君がいない…一体どこに…)キョロキョロ

ユウ「………」

千早「!」

少年は既に千早から離れ、近くに置いてあるコンテナに手をかけている。

811: 2016/05/19(木) 00:27:32 ID:lzouUMSI
千早(何をする気…まさか…)

ヒョイッ

少年は自分が何十人も入るもであろう大きなコンテナを、空のダンボール箱でも拾い上げるかのようにいとも簡単に持ち上げ…

ユウ「んあっ!」グアン!!

千早「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

千早に向かって投げてきた。

あずさ「千早ちゃん!」

やよい「千早さんっ!」

千早「こ…来ないで!」

ゴォォォォォ…

コンテナは空中で本来の『重量』を取り戻し…

ズズゥゥゥン…

千早を下敷きにして、地面に落ちた。

812: 2016/05/19(木) 00:28:09 ID:lzouUMSI
ユウ「え…!?」

やよい「うそ…」ヘタン

やよいはその場にへたりこんでしまう。

あずさ「千早…ちゃん…?」

ユウ「……………」

ガリッ

ユウ「くっ!」タッ

少年は歯を食いしばると、コンテナへと駆け寄る。

ユウ「こんなことになるとは思わなかった…! なんで、千早ちゃん…『ブルー・バード』を使えば、潰されることはなかったのに…!」バッ

『ブルー・バード』の手をコンテナに向かって伸ばす。

バガン!!

ユウ「!?」

すると、コンテナの側面が破裂するように開き…

ガシィ!!

そこから出てきた手が、『ブルー・バード』を掴んだ。

813: 2016/05/19(木) 00:30:02 ID:lzouUMSI
ユウ「うっ…!?」

千早「…ふかまへは」モガモガ

コンテナに空いた穴の中から、焦げたバンを咥えた千早が姿を現わす。

千早「ぺっ…中身は食料だったのね」

ユウ「『イン…フェルノ』…!」

千早「『ブルー・バード』で『軽く』してもよかったのだけれど、それではあなたの思惑通りになるでしょう」

千早「だから『インフェルノ』。『熱』をありったけ集めて、コンテナにぶつけて熱量でブチ抜いた。真なら、そうまでしなくても殴っただけで壊せるんでしょうけれど」

ユウ「く…」

千早「!」フワ…

『体重』を『奪わ』れ、千早の体が浮いていく。

ユウ「こんな腕、振りほどいて…」ググッ

ユウ「離れない…!? どうして、『重量』を『奪え』ばパワーはこっちの方が上の筈…ハッ!」

やよい「『ゲンキトリッパー』…やらせていただきました!」

千早「あなたが地面から打ち上げた『ゲンキトリッパー』を拾わせて貰ったわ」

814: 2016/05/19(木) 00:31:06 ID:lzouUMSI
やよい「これで、もう離れられません!」

ユウ「くっ…!」

ピキピキピキ

少年の足元が『熱』を『奪わ』れて凍りつき、地面に固定される。

ユウ「僕は『複製』ですよ、凍らされた程度で…」

千早「負けは認めない。そう、わかってるわ。だから…」

ズッ…

ユウ「…!」

大きな手が、少年に覆いかぶさり…

ピト…

その指先が、頭に触れた。

あずさ「『ミスメイカー』」

カチッ

触れた部分に、『91秒』の『カウント』が発生する。

千早「『眠って』もらうわ、ユウくんには。全て終わるまで」

815: 2016/05/19(木) 00:33:48 ID:lzouUMSI
あずさ「ふぅ…これで、決着ね~」

ユウ「………」ス…

千早「!」タッ

千早の『体重』が元に戻り、地面に降り立つ。

ユウ「これで、勝ったつもりですか」

千早「『ミスメイカー』の能力が起動すれば勝ちよ。そして、逃すつもりはないわ」

ユウ「………」ピキ…

少年の足元は依然凍っている。

ユウ「ふふ…」

ユウ「ふふ、あは、ははは、あははははは!」

千早「ユ、ユウ君…?」

ユウ「千早さん、貴女は何もわかってない」

千早「わかってない…? 何が?」

ユウ「『ブルー・バード』で…こんなスタンドで、僕が高木さんに『最強の三体』と呼ばれるようになったとでも、本気で思っているのですか」

千早「…え?」

816: 2016/05/19(木) 00:34:33 ID:lzouUMSI
ユウ「千早さんは『ブルー・バード』の他にこの『インフェルノ』という本来のスタンドを持っていますよね」

ゴゴゴゴゴゴ

ユウ「あるんですよ…千早さんの『インフェルノ』のように、本来のスタンドが。僕にも」

千早「本来の…スタンド…?」

ユウ「…今から、お見せしましょう」

ゾワッ…

千早「…!!」バッ

千早は全身の毛が逆立つような感覚とともに、少年の手を放すと…

バババッ

あずさと共に、やよいのいる所まで下がった。

やよい「ご、ごめんなさい千早さん…『くっつける』能力を解除しちゃいました…」

千早「い、いえ高槻さん…むしろ、解除してもらっていてよかったわ…」

ユウ「………」

ゴゴゴゴ

千早「な、何…? 何か…あのまま近くにいたらヤバいッ! そんな予感がした…!」

817: 2016/05/19(木) 00:38:53 ID:lzouUMSI
やよい「な、何が起こるんですか…?」

あずさ「だ、大丈夫よ…まだ『カウント』もついているし、足も凍ったままだから…」

千早(それで…本当に、そんなことで安心できるの…?)

ゴゴゴゴゴゴ

千早(この感覚、まるで…春香の『ジ・アイドルマスター』を見た時のような…)

ユウ「さぁ、『ブルー・バード』」

ビキキッ!!

千早「!」

少年の『ブルー・バード』の顔に、大きなヒビが入る。

パラパラパラ

ヒビは全身へ広がり、殻が破れるように、今までの体が落ちていく。

千早「あ…」

ユウ「これが、僕の本来のスタンド。『インフェルノ』とは違う、『ブルー・バード』の到達点。『最強の三体』の一つ」

キラリ

ユウ「『ブルー・バード・アルカディア』」

823: 2016/06/15(水) 23:56:00 ID:Tsq35MeQ
千早「『ブルー・バード…アルカディア』…」

やよい「金ぴかの…」

あずさ「『ブルー・バード』…」

キラキラ

チカッ チカッ

少年のスタンドの体が、眩いばかりに輝いている。

ユウ「これが…僕の『アルカディア』。僕の本来のスタンド。これを出した以上…」

『72』

千早(え…?)

あずさ「あら…?」

『72』

千早(『ミスメイカー』の『カウント』が…止まっている…?)

ユウ「もう、貴女がたの勝ちの目は消えた」グ…

ピキピキ

少年の足を封じている氷に、少しずつ亀裂が混じる。

824: 2016/06/15(水) 23:59:36 ID:Tsq35MeQ
やよい「氷を割ろうとしてます!」

あずさ「あの子の足が自由になったら…」

千早「動き出す前に、なんとかしなくては」グッ

・ ・ ・ ・

踏み出そうとした足が、地面にとどまっている。

千早(足が動かない…能力…じゃあ、ない)

ドクン ドクン ドクン

心臓が、痛みを感じるほどに警鐘を鳴らしている。

ユウ「………」

キラ…

千早(私の本能が、あれに近づくなと言っている…)

千早「~~~っ」ブルブル

千早は目を瞑り、歯を食いしばって、強く頭を振る。

千早(駄目よ、戦う前から負けていては…気持ちを強く持たないと)

825: 2016/06/16(木) 00:02:42 ID:B1GUlwSA
ユウ「『インフェルノ』の能力で凍らされた足…そう簡単にはとけないか」

バキィ!!

千早「!」

『アルカディア』が足元の氷を殴りつける。

ビキキ

パラッ

ひび割れ、足から1枚剥がれた氷を目にすると…

千早「…くっ!」タッ

それに急き立てられるように、千早は金色のスタンドへと飛び込んでいく。

やよい「千早さん!」

千早(あの金色の『ブルー・バード』の能力がどうあれ、ユウ君はまだ動けない状態だわ)

千早(やるなら、今しかない!)

千早「『インフェルノ』ォォォーッ!!」グオッ

ヒュバババッ

無数の拳が、『アルカディア』に襲いかかる。

826: 2016/06/16(木) 00:05:33 ID:B1GUlwSA
ユウ「不正解ですよ、千早さん」

・ ・ ・ ・

千早「………」

振り向く。

ユウ「貴女は僕のことなんて放っといて牢獄に向かうか、あるいは逃げるべきだった」

そこに、『アルカディア』の顔があった。

ズキン

千早「うぐっ…!?」

ブォォォォオオオン

千早が腹に痛みを感じたと思うと、体が吹き飛ばされていた。

ガシャア!!

千早「な…」ズルッ

金網に叩きつけられる。そのまま、重力に引っ張られて落ちた。

千早「なに…?」

千早(今、何が起きたの? 回り込まれた…そして攻撃を…された?)

827: 2016/06/16(木) 00:08:43 ID:B1GUlwSA
ツカツカ

少年がゆっくりと千早の目の前に歩いてくる。

千早(足が抜け出している…いつの間に…)

ユウ「何が起きたのかわからない、といった顔ですね」

千早「く…んあっ!!」ヒュオ

少年が射程距離内に踏み込んできたギリギリで、『インフェルノ』を飛ばす。

フッ

千早「え?」

しかし、拳が届く前に少年の姿は消えてしまった。

ブワッ

千早「あ…? あ…?」

千早の体がひとりでに浮かび上がると…

ゴォォォォォォォォ

千早「きゃあああああああああああああ」

そのまま前方に向かって、引っ張られるように飛んで行った。

828: 2016/06/16(木) 00:10:55 ID:B1GUlwSA
ギュォォォォォォ

千早(ど…どんどん加速していく…! どうにかして止めなくては…)

ォォォォォォォォォ

フ…

ユウ「ん?」

吹き飛んでいる千早の体が、僅かに浮かび上がった。

あずさ「『ミスメイカー』!!」グワッ

ガシィ!!

飛んでくる千早の体を、『ミスメイカー』が受け止める。

千早「あああああああああ!」

あずさ「ううううううううう…!!」

ザザザザザザッ

しかし抑えきれず、一緒になって押し込まれ…

シュゥゥゥゥ…

10mほど地面を引っ掻いたところで、ようやく止まった。

829: 2016/06/16(木) 00:13:52 ID:B1GUlwSA
ユウ「………」

千早「あ…ありがとうございます、あずささん」

あずさ「…いえ…」

千早の体が地面に降りる。

千早「気がついたら、攻撃を受けている…」

千早(『ジ・アイドルマスター』を思い出す…あんなものが二つとあってはならないけれど…)

千早(でも…何をされているのか、それ自体がわからない! それは、あのスタンドと同じだわ!)

あずさ「なんて、ことなの…」

千早「…? あずささん?」

やよい「ち、千早さん…今の…」

千早「高槻さんも…」

ユウ「お二人は、見ていたようですね」

千早「まさか、あのスタンドのことがわかったの!?」

あずさ「え、えぇ…全部…」

千早「なんですって…!」

830: 2016/06/16(木) 00:15:46 ID:B1GUlwSA
千早(私は何をされているかもわからなかったのに、二人からは見えていた…? いえ、まずは…)

千早「あずささん、高槻さん、ユウ君は一体何をしたの!?」

やよい「千早さんの後ろに回り込んで、攻撃してました…」

千早「…は?」

あずさ「そして…金網にぶつかった千早ちゃんに近づいて、後ろに放り投げた…」

千早「ちょ、ちょっと待ってください。それだけ…ですか?」

あずさ「そうとしか、見えなかったわ…」

千早(確かに、やられたことを考えればそうなのかもしれないけれど…それでは、あまりにも…)

やよい「ただ…」

千早「ただ?」

ユウ「………」ユラ…

千早「!」

話している間に、少年が近づいてきている。

あずさ「んんっ…!」バッ

あずさが、千早とやよいの前に立った。

831: 2016/06/16(木) 00:19:20 ID:B1GUlwSA
やよい「ムチャですよ! そんなことしたら…」

あずさ「二人とも、逃…」

ユウ「逃がしませんよ」ズズズズ

あずさ「げ~て~~は~~~や~~~~~く…」

・ ・ ・ ・

少年が近づくほどに、一番距離が近いあずささんの動きがゆっくりになっていく。

千早「あ…?」

千早(あずささんの動きが…遅い!?)

千早(こんな時までのんびりしている…というわけじゃあない、これは…)

ユウ「これが…」

あずさ「………」ピタ…

少年があずさの傍らに立つと、あずさの体の動きが完全に止まった。

ユウ「僕の『ブルー・バード・アルカディア』の能力」

千早「あずさ…さん…?」

ユウ「心配しなくても、氏んではいませんよ」

832: 2016/06/16(木) 00:22:06 ID:B1GUlwSA
やよい「千早さんの時と同じですっ! 近づいていったら、体が止まっちゃうんです!!」

千早「まさか…『アルカディア』の能力というのはッ! 『時を止める』能力!?」

ユウ「正確に言うと、違います」

千早「!」

ユウ「『ブルー・バード』は『重量』を、そして千早さんの『インフェルノ』は『熱』を『奪い』ますが…」

ユウ「それと同じです。僕の『アルカディア』は…『時間』を『奪う』」

千早「『時間』を…『奪う』…!?」

ユウ「そう。何かが僕に近づくほど、その『時間』は『奪わ』れ停止していく」

ユウ「誰かが近づけば、先程の千早さんやこのあずささんのように止まってしまいますし…スタンドも同様です。僕の頭についた『ミスメイカー』の『カウント』も、これ以上進むことはない」

ユウ「いえ、僅か…ごく、ほんの僅かながら進んではいますが、『アルカディア』が発動している限り、みなさんが生きているうちに『ゼロ』になることはないでしょう」

ユウ「そして、近づくほどに止まっていくということは…」ス…

トンッ

少年が、あずさの体を軽く押す。

あずさ「………」グ…

歩くよりも遅い速度で、ゆっくりと動きだした。

833: 2016/06/16(木) 00:23:46 ID:B1GUlwSA
千早「ま、まさか…」

やよい「千早さん!」バッ

千早「ええ!」ダッ

『ゲンキトリッパー』が千早の右手に触れると、彼女はあずさに向かって走りだす。

あずさ「う……ううううううう」ズズズズズ…

少年からの距離に比例して、あずさが動く速度がだんだんと速くなっていく。

千早「くっ…!」バッ

千早はあずさに手を伸ばし…

ピタ…

右手をあずさの体に『くっつけ』た。しかし…

千早「うっ!?」ビン

あずさ「ち…はやちゃん、駄目…」ズズ…

ブワァァアアァ

千早「きゃあああああああああああ!?」

勢いは止まるどころかどんどん増していき、千早も巻き込まれるように飛ばされていく。

834: 2016/06/16(木) 00:26:47 ID:B1GUlwSA
やよい「千早さん! あずささんっ!」

千早「『ブルー・バード』…!」ズッ

ズズズ…

ズズ…ン

千早「はっ…!」

自分の体重を『重く』して、止めた。

ユウ「………」

あずさ「ありがとう、千早ちゃん」

千早「お互い様です」

ユウ「…まぁ、いいでしょう。なんでも」

千早「今…いえ、さっきもだわ。ただ押されただけなのに、その勢いが何倍にも加速した…」

ユウ「近付けば近付くほど、遅くなる…」

ユウ「その逆なら…そう。『アルカディア』から外に向かっていくほど、加速していく」

835: 2016/06/16(木) 00:30:14 ID:B1GUlwSA
ゴゴゴゴ

やよい「近づくことすらできないスタンドなんて、そんなの…」

あずさ「どうやって倒せばいいの…」

ユウ「理解できたようですね」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

ユウ「もう、貴女達は僕に勝つことはできない」

千早「勝つことができない…? そんなの、わからないわ!」ジャラ

ヒュバッ!!

小石を拾い上げ、投げつける。

ゴォォォォォォ

ユウ「無駄ですよ…無駄」

ォォォォ…

ピタ…

石は、少年の目の前で完全に止まった。

千早(無機物も…関係なく止めてしまうの…!?)

836: 2016/06/16(木) 00:32:36 ID:B1GUlwSA
ユウ「………」ス…

ピンッ

ズル…

制止した指で石を弾くと、ゆっくりと動きだし…

ギュオン!!

3mほど離れた辺りで、凄まじい勢いで加速していく。

千早「…っ!」

あずさ「千早ちゃん!」バッ

千早をかばうように、『ミスメイカー』が手を出すが…

パァン!!

その手のひらに、風穴が空いた。

あずさ「あ…! う…あ…」ガク

あずさの手からも血が流れだし、膝をつく。

千早「あ…あずささんっ!」

ユウ「やめた方がいいですよ…自分のせいで誰かが傷つくのを見たくはないでしょう? 僕だって嫌だ」

837: 2016/06/16(木) 00:34:47 ID:B1GUlwSA
やよい「いま、『くっつけ』て治しますっ!」

ウーウー

小さく分裂した『ゲンキトリッパー』が、飛び散った肉片をかき集めている。

千早「あずささん…ああ、私のせいで…」

あずさ「に…逃げるのよ、千早ちゃん…私達ではこの子には勝てない…」

千早「それは…」

ユウ「逃がしませんよ。射程距離内に入りさえすれば、『時間』は『奪われ』ていく。僕からはもう絶対に逃げられない」

千早「………」

ユウ「大人しく捕まってください」

千早「あずささん、すみません。それは認められません」

あずさ「………」

千早「どんなスタンドが相手だって…私達は、諦めなかった。そうでしょう?」

あずさ「千早ちゃん…」ピタ

『ゲンキトリッパー』に埋められ、あずさの手の穴が塞がった。

838: 2016/06/16(木) 00:36:36 ID:B1GUlwSA
ユウ「なら、どうするつもりですか?」

ブワッ!!

ユウ「!?」

近くの木から、大量の葉っぱが降り注いでくる。

あずさ「『ミスメイカー』…木を『眠らせ』たわ」

ザァァァァァァァァ…

抜け落ちた葉は、少年の周りを取り囲む。

あずさ「そうね、千早ちゃん。どんな相手でも、勝てないと諦める…それだけは、違うわよね」

千早「『インフェルノ』…!」ボゥッ

メラ メラメラメラ

千早が『熱』を集めて葉っぱに火を点けると、どんどん燃え広がっていく。

千早「これなら、どう…!?」

ユウ「どう…とは?」

ピタ…

少年の周囲の葉が、炎ごと静止している。

839: 2016/06/16(木) 00:40:17 ID:B1GUlwSA
ユウ「炎でも、氷でも、同じです。全ては僕の目の前で止まる」

ユウ「普通の人間ならば、炎で囲めば酸欠で気を失うでしょうが…僕は『複製』です。呼吸を必要としません」

シュババァ!!

『アルカディア』が拳を振るうと、一拍遅れて少年を取り囲む炎が消し飛び、消し炭となった木の葉が飛び散る。

あずさ「うぅ…!」

ユウ「貴女達が何をしようと、僕には届かない」ザッ

千早「………」ノロー…

少年が近づいてくる。それに伴って、千早達の動きもゆっくりになっていく。

ユウ「さぁ、観念して…」

ビタッ!

ユウ「!?」

少年の足が止まった。

ユウ「これは…足が…動かない、この効果は…」

やよい「『ゲンキトリッパー』」

ユウ「高槻…さん…」

840: 2016/06/16(木) 00:44:09 ID:B1GUlwSA
やよい「やっと…地面に、『くっつき』ました」

あずさ「あなたには届かなくても、あなたから来てもらうことはできるみたいね」

ユウ「能力は能力、『時間』を奪っても『くっつける』効果は消えない…か」

やよい「靴を脱いだりしても、その先にも『ゲンキトリッパー』は仕掛けてあります!」

ユウ「…僕の動きを止めたから、なんだと言うのですか。貴女達は僕に攻撃することはできない」

ザラッ

地面から、石を拾い上げる。

ユウ「僕は動けなくたって攻撃する手段はありますよ」

千早「…そうね」

ザッ

ユウ「!」

千早達は、ユウの動きを警戒したまま距離を離していく。

ユウ「逃げるのですか?」

千早「…そうなるわね」

千早(牢獄は…入り口がユウ君に塞がれている、このまま突入することはできない…)

841: 2016/06/16(木) 00:45:58 ID:B1GUlwSA
やよい「あのスタンド、『ゲンキトリッパー』より射程距離は長くないから…たぶん、このまま逃げられると思います」

あずさ「いいのね、千早ちゃん」

千早「ええ。今、この場で決着をつけようとすれば、ただでは済まない」

千早「会長を止める。それが、私達の一番の目的ですから」

ユウ「………」

千早「でも、諦めないわ。勝つことも…」

ユウ「……?」

千早「…行きましょう、あずささん、高槻さん」

あずさ「ええ。わかったわ」

やよい「はい!」

タタタタ…

ユウ「………」

少年は、遠ざかっていく背中をただ見送っていた。

ユウ「…『ゲンキトリッパー』の効果が消えた。追いかけるべきか…?」

ユウ「いえ、やめておきましょう。まずは、確かめなければいけないことがある」

842: 2016/06/16(木) 00:47:19 ID:B1GUlwSA
ツカツカ

少年は牢獄の奥に向かって進んで行く。

ユウ(さっきの戦いの中で…何かが壊れる音が聞こえた。ごく小さな音だけれど、私は気づいた)

看守「あ、ユウどの! どうでしたかあの連中は!」

ユウ「…逃げられた。侵入は防げたけれど…」

看守「おお、765プロのスタンド使いを3人も相手に…流石は『最強の三体』ですね!」

ユウ「それより、何か聞こえなかった?」

看守「ああ…例の鈴木とかいう奴がですね、また口うるさく…」

ユウ「………」スタスタ

看守「あれ?」

看守の横を通り過ぎていく。

ユウ(聞いてないのか…しかし、もしも来たとしたら彼女の所しかない)

ある牢屋の前に立つと、その中を覗き込む。

「………」

その中に変わった様子はない。少女が背中を向けて、壁際のベッドの上に座っているだけだ。

843: 2016/06/16(木) 00:49:08 ID:B1GUlwSA
ユウ「………」

看守「ああ…そこですか? さっき、何か物音がして駆けつけたんですけどね。結局何もないし、隣の奴が騒がしくしてただけでしたよ」

ユウ「…なるほど」

スタスタ

少年は、牢獄の出口に向かって急ぎ足で歩いていく。

看守「あ、あれ? どこ行くんですか? はぁー…」

看守はため息をつくと、気怠げに巡回に戻っていった。

麗華「………」

隣の牢屋にいる麗華が、誰も見ていないのを確認すると…

麗華「戻っていいわ」

ズムッ ズムムッ

ベッドの上の少女と、その後ろの壁が、ぐにゃぐにゃと形を変えていく。

ゴゴゴゴゴゴゴ

ズッ

変化したスタンドが、麗華のもとに戻る。残された牢屋の中には、何かに壊された壁がぽっかりと空いていた。

844: 2016/06/16(木) 00:50:04 ID:B1GUlwSA
麗華「あいつら、私達のスタンド能力にはてんで無関心ね。どうせ使えるわけないと思ってるんでしょうけど」

彩音「事実、さっきまで使えなかったクセに」

麗華「うるさいわね。使えるようになればそれでいいのよ」

彩音「これで、デコは逃げられたわね」

麗華「あのユウってヤツには気づかれたかもしれないけど…まぁ、時間稼ぎにはなるわ」

彩音「はぁ、アタシもついでに出して貰えばよかった」

麗華「貴女が一緒に行っても、足手まといになるだけでしょ」

彩音「チッ…ま、アタシはやることやったし、あとはゼンブデコ達に任せればいいか」

麗華「しかし、765プロの高木会長が元凶だなんて…信じられないわ」

彩音「アイドルを全部『複製』に入れ替えて世の中に残す、ねぇ。アタシにとっちゃどーでもいいケド」

麗華「くだらないわね。本物を残すために、全部偽物にしてどうすんのよ。…ほんと、くだらない」

彩音「?」

麗華「頑張りなさいよ、765プロ…伊織。こんな茶番劇、全部ブッ壊しちゃいなさい」

To Be Continued...

845: 2016/06/16(木) 09:25:38 ID:u3T0VmHs
こりゃまたとんでもないスタンドだな
触れないとなるとアイ・リスタートも辛いか

846: 2016/06/17(金) 14:32:06 ID:3eMMkKO2
72で止まるのは流石に草



To Be Continued...





引用元: 千早「『弓と矢』、再び」その2