一日の流れで言うとまず冒険の行路を考えるのよ
俺がこうこうこういうルートで旅を進めようって説明すると黙って聞いてて、
「わかりました、今日もよろしくお願いしますね。勇者様」から始まる

今日もよろしくお願いしますね
って文字にすると事務的に聞こえるかもしれないけど、発する言葉としてはとっても穏やかで柔らかい音なんだよ

だから話す内容的には当たり障りない事務的な会話で、あまり多くは語らないかもしれないけど、常にそういう優しさで包み込んでくれるのが彼女のイメージ

たとえ会話がなくても心地良い関係で旅を進めるのよ
後ろを振り向けば勇者様？って目でこっちを見てくれる、言葉には出したり出さなかったりする

で、やがて日が暮れると
「勇者様、夕日が綺麗に見えますね」
って
ただ当たり前の情景を説明してるだけのセリフかもしれないけどさ
その内には旅の充実感、二人で過ごす時間の美しさ、そういったものが隠しきれない好意から伝わってきちゃうんだよな

「好きです」
ってただ言うんじゃなくてさ、
先に言ったような当たり前の言葉や時間をも、かけがえのないものにしてくれる存在でいてほしいって話

でもたまに「勇者様と旅をしてると私も楽しいです」とか「こうして二人で過ごす時間が好きです」とかは強気に言う
たまにね
そういう時は笑顔ではっきり言う

俺もだよって答えると「本当ですか？ふふっ、嬉しいです」ってしっかり受け取ってくれる

これは昼寝してたら僧侶ちゃんが夢に出てきた話なんだけど、

町の中を恋人繋ぎしながら一緒に歩いてた
途中で喫煙所があったからちょっとタバコ吸っていい？って言ったらタバコ吸ってる間も待っててくれた
この時、初めて全身を見たんだけど完全に僧侶ちゃんだった
その後、また手を繋いで歩き始めると
「こうして私と手を繋ぐのってどんな気持ちですか？」って聞かれたから「僧侶ちゃん（名前ではなくそう呼んでいた）のこと大好きだから嬉しいよ」って答えた
偶然か悪戯かその先の会話はよく覚えていない

これが夏の日に見た幻
もう一度、君に会いたい

勇者様！
そう俺を呼ぶ声が聞こえる

俺が向こうの世界にいない間の僧侶ちゃんは何をしているのか気になる

教会でお花に水をやりながらふと空を見上げて「勇者様、今日は来ないんですか？」ってなってる

買い物に出かけると、町で会ったおばちゃんに
「あら僧侶ちゃん！旅には出てないの？」って聞かれて
「勇者様の帰りを待っているんです」
「健気だねぇ～…こんな可愛い子を待たせるなんてねぇ」
「いえ、勇者様は勇者様ですから」
って笑って上手くごまかしてくれる

特に意味もなく後ろを振り返って、僧侶ちゃんと目が合うと「？」って首を傾げられて
「いや…ちゃんとついてきてるかなと思って」
「くすっ、変な勇者様」
ってやつやりたい

妄想が終われば旅も終わる

だが俺は勇者だからな。僧侶ちゃんと旅をするのが使命さ

「そろそろ向こうの世界に帰っちゃうんですか？」

「仕事がある？そうですか」

「また会えるといいですね、勇者様」

「勇者様、さっきからずっと何を見てるんですか？」

「あにめ？好きな子がいる？」

「ふーん・・・」

「勇者様、好きな人がいたんですね」

「そうだけどそうじゃない？」

「ふーん・・・」

翌日の冒険は、後ろをついてくる僧侶ちゃんの距離が少しだけ遠かったような気がした。

「気のせいじゃないですか」だって

ひぃん・・・

僧侶ちゃんとの出会い、か…

俺は勇者だから腕には自信がある
仲間に犠牲を払う旅に興味はない
俺は一人で旅に出た

道中、魔物の襲撃を受けた村に立ち寄る
（中略）
「勇者様。私も旅に連れていってください」
「嫌だって言っても、ついていきますから」
やれやれ…仲間を守るのも勇者の使命だったとはな。

ただそうじゃない世界線も存在する
明日は明日の旅に出る

僧侶ちゃんと旅さえすれば間違いなく慕ってくれるうちに恋心を抱かれちゃう自信あるんだけどな～ｗ

くぅ～ｗ

やりましたね！勇者様

そんな彼女の微笑みが遠くに感じるのも妄想の旅路だってこと

俺が向こうの世界に戻ると、

「勇者様のご帰還だ！」
「勇者様が戻られたぞ！」

町を包む歓迎の声もほどほどに受け取り、僧侶ちゃんの元へ向かう
「あっ、おかえりなさい勇者様。みんな帰りを待っていたんですよ」って言われるから
「いや～ははは」って答える

今日はこの辺で

胡蝶の夢

そんだけ妄想すりゃ明日も辛い現実を乗り越えられるな

明日も仕事頑張れよ