2: 2016/01/16(土) 00:43:45.70 ID:mESzmopY.net
ありがとうございます

にこ「乙女心と憂鬱な秋の空」
これの穂乃果ちゃん視点です
少しの間お付き合い下さい

3: 2016/01/16(土) 00:44:28.00 ID:mESzmopY.net
穂乃果「ねえねえにこちゃん、明日どこいこっか?」


なんて、さも普通のように、私は問いかける。
にこちゃんは小さく伸びをしながら


にこ「んー……秋物があんまり買えなかったから服とか買いに行きたいわね」

穂乃果「服かあ」


服……ちょっと前に新しいの買ったんだよなあ、なんて考えていたら


にこ「なによ」


と、にこちゃんが怪訝な顔をするのでつい


穂乃果「ん、なんでもない」


にこちゃんは「そう」とだけ呟くと、お互い無言になってしまった

付き合ってそろそろ二ヶ月ほどになる私たちだけど、少しだけ問題が起きてしまっている


穂乃果「じゃ、またね」

にこ「ん」


穂乃果(……今日は、ちゅーとかしたかったなあ)

……最近、なんだか素っ気なくなってきてしまったこと

4: 2016/01/16(土) 00:44:57.32 ID:mESzmopY.net
付き合ってしばらく経って、女の子同士でも恋人らしいことをして、もっともっとにこちゃんと仲良くなれたと思ったけれど、現実はそう上手くもいかず
そんな毎日も楽しくはあるけど、なんだか少し物足りなくて

教室で頬杖ついてため息をしたら


海未「どうしたのです、穂乃果?」


なんて、「私は今幸せです!」と顔に書かんばかりの海未ちゃんがそこにいた


穂乃果「えーとね……色々あるんだよ」

海未「色々じゃ分かりませんよ」


と、言いながら海未ちゃんは自分の席につく

5: 2016/01/16(土) 00:45:49.40 ID:mESzmopY.net
穂乃果「そういえば、海未ちゃんの方はどうなの?」

海未「わ、私ですか!?……あの……その……」


なんだか海未ちゃんは照れくさいような、幸せそうな変な顔をしていた


海未「こ、この前ついに……しちゃったんです……」

穂乃果「え、したの!?」


思わず前のめりになる
もしかして……絵里ちゃんならあるかもだけど……でも海未ちゃんがそれにOKするのかな?
なんて、考えていたら


海未「つ、ついに……接吻をですね!したんです……」


なんて、言うものだから思わずえっとなってしまった

6: 2016/01/16(土) 00:46:32.73 ID:mESzmopY.net
穂乃果「なーんだ、キスかあ……」

海未「なんだってなんですか!確かに穂乃果とにこにとってはそんな珍しくもないでしょうけど……私たちにとっては幸せなんです」


海未ちゃんが口を尖らせる
それを見て少し、羨ましいって思っちゃった


……………


今日は生徒会の引き継ぎやら何やらで忙しいので、練習はお休みになった

穂乃果(……にこちゃん、帰っちゃったかな)

少しぼーっとしていたら


ことり「穂乃果ちゃん、どうしたの?」

穂乃果「ううん、ちょっと考え事」


考え事なんて珍しいね
って、ことりちゃんが苦笑いする

7: 2016/01/16(土) 00:47:18.66 ID:mESzmopY.net
ことり「早く終わらせて、にこちゃんに会いに行けば良いんじゃないかな?」

穂乃果「……うん!」


そう思うと、がぜんやる気が出てきた

……………

それから1時間ほどで、なんとか作業を終えることができた

穂乃果「よーしおわった!じゃ、穂乃果行くね!」

海未「あ、穂乃果……もう行ってしまいましたか」

ことり「……好きなんだなぁ」

海未「ことり?」

ことり「……ううん、なんでもない」

8: 2016/01/16(土) 00:48:18.57 ID:mESzmopY.net
書きだめが消えるという悪夢に襲われる

11: 2016/01/16(土) 00:59:35.28 ID:mESzmopY.net
待っててほしいな、いてほしいな
なんて、考えながら部室の前に着く

少し乱暴に扉を開けると、見慣れたツインテールがそこにいた


穂乃果「やっほー、にこちゃんここにいたんだね」


にこちゃんはあまり驚かずに


にこ「なんだ穂乃果ね……別に、連絡すればいいんじゃないの?」


……あ、忘れてた
少し誤魔化すように頭を掻きながら


穂乃果「あー、今日携帯忘れちゃって」

にこ「忘れるんじゃないわよまったく……」


と、少しにこちゃんは呆れ顔だった

12: 2016/01/16(土) 01:00:58.96 ID:mESzmopY.net
穂乃果「あはは、ごめんごめん……ところでにこちゃんまだ部室いる?」


にこちゃんは少しだけ悩んだあと


にこ「いや、そろそろ帰ろうかなって」

穂乃果「じゃあ、一緒に帰らない?」


そんな、断りが必要な仲でもないけれど
するとにこちゃんが何かぼそっとつぶやいた
全然聞こえなくてつい「なんか言った?」って聞いてもにこちゃんは無視して先に行こうとする

近いのに、少しだけ遠いなって、そう思った

13: 2016/01/16(土) 01:01:27.20 ID:mESzmopY.net
少し残ってたのでそこまでは何とかする
それからはいつも通りのんびり書きます

14: 2016/01/16(土) 01:11:17.48 ID:mESzmopY.net
夏が過ぎ、半袖をすり抜ける風が少し肌寒く感じる


にこ「そういえば、あんた生徒会はどうなの?」


こちらを向かないまま、にこちゃんが問いかける
私が「……やっぱり、少し大変だなあ」なんて疲れ気味に返すと「あまり周りに迷惑かけるんじゃないわよ」なんて、強めに言われてしまう
私は少し自信なさげに

穂乃果「そこは大丈夫!……多分」

にこ「なんかどことなーく頼りない生徒会長ね」

にこちゃんがいたずらっぽく笑う
その顔が結構好きなことは内緒にしている
それでも私は少し不本意になりながら


穂乃果「もー、それひどいよー」

にこ「まあ、頑張りなさいよ、生徒会長」


にこちゃんがなんだかんだ心配してくれていることを感じていても、私の左手は少し寂しげにしていた

15: 2016/01/16(土) 01:14:37.27 ID:mESzmopY.net
その日は夢を見た


何もかもが新鮮で、彼女の一挙手一投足にドキドキしてて

いろいろなことがあって

一つになって

流れるように過ぎていった、大切な思い出


見送ることしか、できなかった

16: 2016/01/16(土) 01:25:47.43 ID:mESzmopY.net
次の日になって、改めてにこちゃんと話したいなって思ったから、メールを出してみたけれど、返信はまだこなかった

少し不安な表情を読み取ったのか、ことりちゃんが近づいてきた


ことり「どうしたの?」

穂乃果「んー、にこちゃんから返信こなくて……もうそろそろお昼なのに……」

ことり 「うーん、教室行ってみる?」

穂乃果「んー……迷惑、じゃないかな」


にこちゃんのことだから、「別に無視してたわけじゃないから!」とか言って怒りそうだ


ことり「そんなことないと思うけど……」


なんて言うことりちゃんを無視して、ただ返信を待っていた

18: 2016/01/16(土) 01:47:43.62 ID:mESzmopY.net
結局、お昼になっても返事がこなかったので、一言メールを送って先に部室でにこちゃんを待つことにした

お昼ご飯は……にこちゃんが来てからにしよう

誰もいない部室はとても静かで、まるで時間が止まっているようだった


穂乃果(……それにしても)


にこちゃんを待つのって、中々新鮮だ

いつもにこちゃんが待っててくれていたから


穂乃果(にこちゃんも、こんな気持ちだったのかな?)


なんだとても待ち遠しくて、切ない


それでも私は、微睡みの中に意識を落としていくのだった

63: 2016/01/16(土) 08:51:01.22 ID:jJjas3aA.net
頭にかすかな暖かさを感じて起き上がると、にこちゃんが来てくれていた


穂乃果「んにゃ……にこちゃんおはよぉ」

にこ「別に、寝ててくれてもいいんだけど?」


にこちゃんが素っ気なくそう言う


穂乃果「そうはいかないよー」


だって、会いたかったから
寝てたら本末転倒じゃないか

ふと、あることを思い出した


「……って、今何時?」

「……え、一時だけど」


思わず飛び上がってしまった


「ごめん、午後移動教室だから!」


そうして私は走り出した
来てくれたのに、私から去ってしまった

頭上にわずかな温もりを感じながら、心はどんどん不安になっていた

64: 2016/01/16(土) 08:55:50.10 ID:XEId072s.net
翌朝
にこちゃんから一通のメールが届いていた


♡にこちゃん♡<ごめん、風邪ひいたから学校休む


風邪、引いてたんだ……
変化に気づけなかった後悔と、不安と、心配な気持ちが膨らんでくる

「帰り、お見舞いいこっか?」と返信すると


♡にこちゃん♡<ありがと、大丈夫よ


……こういところ、好きだけど
にこちゃんはあまり人に心配させまいとする
でも、心配なものは心配だ

とりあえず「なんかあったら行くからね?」と返して、授業に臨むことにした

66: 2016/01/16(土) 10:40:44.46 ID:LT0yQEBE.net
穂乃果「……やっぱり心配だな」

海未「にこですか?」

穂乃果「うん……」

ことり「帰りにお見舞い行ったら?」

穂乃果「うん、そうするつもり」


返信が返ってこないことを考えるに、多分寝ているんだろうけど、それでも心配で、不安になってしまう

苦しいのかな、辛いのかな……

考えるより先に行動に移ってしまうのは、私の悪い癖だと思う


穂乃果「……やっぱり今行く!」

海未「穂乃果、まだ学校は終わっていませんよ!?」

穂乃果「それでも行く!心配なんだもん!とりあえず先生には早退したって伝えといて!」


そう言って、私は教室から飛び出す
だって待ってるなんて、私の性に合わないから


ことり「……いいなぁ」

海未「ことり?」

ことり「ん、なんでもない」

67: 2016/01/16(土) 15:18:34.44 ID:hXs3F9ll.net
……勢いでここまで来ちゃった
と、いうわけで今私はにこちゃんの家の前にいる


穂乃果(……寝てるかな、でもいっか)


一度インターホンを鳴らす
反応はなかった


穂乃果(もう一度……えいっ)


もう一度インターホンを鳴らす
反応は、やっぱりなかった


穂乃果(さすがに帰ろうかな……)


と、少しゆっくりと扉が開いた
目の前には、パジャマ姿で真っ青になっているにこちゃん


穂乃果「や、やっほー」


そして、勢い良く扉を閉められた

69: 2016/01/16(土) 20:35:20.94 ID:BUbXorHE.net
穂乃果「ちょ、ちょっとにこちゃん!?」

にこ「な、なんであんたがここにいんのよ!?」

穂乃果「いやー……心配でつい」

にこ「てかまだ昼でしょ!?学校は!?」

穂乃果「サボってきたー……みたいな?」


少しの沈黙が訪れる
……呆れてるのかな


にこ「家の前で立たれてもやだし、上がんなさいよ」


もう一度扉が開かれる
にこちゃんは、相変わらず真っ青になっている


穂乃果「お邪魔しまーす……にこちゃんひどそうだね」


にこちゃんはえっとなった後「……そんなに?」と聞いてくる


穂乃果「うん、真っ青だよ」


にこちゃんは顔を確認した後


にこ「……寝ることにするわ」

穂乃果「その方がいいよ、穂乃果診てるね」

にこ「……ありがと」

70: 2016/01/16(土) 22:42:24.01 ID:YLtcd4/G.net
にこ「あの……寝るからここにいなくても」

穂乃果「うーん……わかった、リビングいるね」


ちょっと、診てたかったんだけどなぁ……
にこちゃんが眠れなさそうだし、仕方ない

それにしても


穂乃果(そういえばにこちゃんち久しぶりだな……)


思えば最近にこちゃんの家に行ってないから、なんだか少し新鮮だった

かち、かち

時計の音が、少しだけうるさく感じる


穂乃果(さすがにそろそろ寝たかな……?)


そろりと部屋に忍び込むと、案の定にこちゃんはぐっすり眠っていた


穂乃果(寝顔、かわいいなぁ……)


……少しだけなら、いいかな


そっと顔に近づいて、ほっぺたにキスをする
すると少しだけ、にこちゃんの体がピクンと体が跳ねた


穂乃果(うわっ……大丈夫かな)


頭を撫でると、にこちゃんが起き上がる


にこ「ん……穂乃果……?」

71: 2016/01/16(土) 22:45:32.89 ID:YLtcd4/G.net
バレてない、かな?
少しだけ誤魔化すように頭を掻きながら


穂乃果「あ、おはよー……なんだか心配で起きちゃった……調子はどう?」


にこちゃんは少し元気そうに


にこ「おかげさまで、だいぶ良くなったわ」


……何もしてないけど……いや、したけど
にこちゃんはたまに虚勢をはる事があるからちょっと心配だ
私は少し強めに


穂乃果「本当?嘘ついたら怒るよ?」


にこちゃんは微笑みながら「大丈夫だってば」と返す
そういう風に、にこちゃんとしばらく笑い合った

72: 2016/01/16(土) 22:48:45.24 ID:YLtcd4/G.net
穂乃果「じゃあ穂乃果帰るけど……本当に大丈夫?」

にこ「ん。大分良くなったから大丈夫」


あれから1時間、特に何かあったわけでもないのでそろそろお暇することにした


穂乃果「しっかり休んで、また明日会おうね」

にこ「ん」


にこちゃんがひらひらと手を振るので、それに応えるように手を振り返す

にこちゃんの家からしばらく離れ、ふう、と一息つく


穂乃果(久しぶりに、キスしたなぁ……)


向こうは気づいてないようだけど

唇に、彼女の感触がいつまでも残っていた

77: 2016/01/17(日) 07:53:16.07 ID:Jm+xE83O.net
部屋に戻って、なだれ込むようにベッドに飛び込む


穂乃果(結局、なんもしなかったなぁ……)


何もしなくていいって、にこちゃんに言われたけど……やっぱり少しだけ力になりたい

今の自分にできること、ちょっとだけ、にこちゃんにしてあげられることは……


穂乃果(……とりあえず、台所行こう)


まずは、簡単なものから

小さい頃にお父さんに作った以来、誰かのために料理でも覚えようと思った

80: 2016/01/18(月) 10:13:17.90 ID:X0ZNOd7n.net
穂乃果「初めてにしては……上手くできたよね?」


いろいろと、残念な見た目だけど……なんとかハンバーグが完成した

ちょっと味見……うん、食べられなくはない、かなあ……


「あら、明日のお弁当作ってるの?」


お母さんが台所にやってきた
私の作ったハンバーグを見て、少し怪訝な顔をする


「ま、まああんたにしては上出来じゃない?」

穂乃果「分かってるけどさぁ……」

「まあ良い傾向よね、これを機にたまには自分でお弁当作りなさいよ」


そう言って、お母さんはひらひらと手を振りながら去っていく


穂乃果「……本当はにこちゃんに食べさせたかったけど」


まあ、それでも良いか
と思いながら、残った種を冷蔵庫に入れることにした

81: 2016/01/18(月) 19:29:10.17 ID:Ds+32RZ3.net
ことり「昨日はどうだった?誤魔化すの大変だったんだよ」


ことりちゃんが近くに寄ってくる


穂乃果「ごめんごめん、行った意味はあんまなさそうだったかなぁ」

ことり「結構元気だった、とか?」

穂乃果「ん、そんなとこ」

ことり「でもでも、来てくれて安心したんじゃない?」


……どうだろう
いつもとあまり変わらなかった気がする
うーんと唸ってるとことりちゃんが


ことり「にこちゃんの事だし、照れ隠しでもしてたんじゃない?」

穂乃果「……そうかなぁ」


きっとそうだよ
先生がやってくるまで、ことりちゃんに励まされてしまった

82: 2016/01/18(月) 20:26:42.62 ID:Ds+32RZ3.net
お昼はなんとなく、部室に来てしまった


穂乃果(特に約束はしてないけど……にこちゃん来るといいなぁ)


なんて、淡い期待を抱きながらやってきたわけだけど、案の定扉が開く


にこ「ほ、穂乃果?なんでここに?」


んー、なんとなくかな
なんとなくって何よ
にこちゃんが向かいに座り込む


穂乃果「にこちゃんはなんで?」

にこ「え?な、なんとなく……」


なんだ、同じじゃん
と私は笑いながら


穂乃果「そういえば、にこちゃんお昼はもう食べた?」

にこ「これらかだけど?」

穂乃果「よかったー、穂乃果もこれからなんだ」

84: 2016/01/19(火) 02:15:12.21 ID:8ryHniwf.net
にこ「ちょうどいいわね」


お弁当を出すのに合わせて私もお弁当を出すと、少しにこちゃんが驚いた顔をする


にこ「今日はパンじゃないのね」

穂乃果「ちょっとご飯食べたくて」


半分は嘘だけど
にこちゃんは「なんか新鮮ね」なんて言ってお弁当箱の蓋を開ける

……そういえば


穂乃果「そういえばにこちゃん、ご飯は自分で作ってるんだよね?」

にこ「ん、まあそうね」

穂乃果「お弁当も?」

にこ「まあ毎日じゃないけどね」

穂乃果「……今日も?」


これは、ちょっと期待するように見てしまう
にこちゃんは何かを察したような顔をしながら


にこ「今日も作ってきたわよ」

穂乃果「ほんと!?」

にこ「あげないわよ」

穂乃果「まだ何も言ってないよ!?」


あまりに素早く即答されたので、少し驚いてしまった

85: 2016/01/19(火) 13:14:45.88 ID:TDnmHJjN.net
穂乃果「穂乃果、なんも言ってないけど……」

にこ「よだれ垂らして説得力ないわよあんた」

穂乃果「え、うそ!?」


そんなだらしない……!
と、急いで口元を袖で拭おうとすると、


にこ「うそに決まってるじゃない」


と、にこちゃんがによによしながらこちらを覗き込む
……なんとなくわかってたけど
それでも口を尖らせながら


穂乃果「なんだかにこちゃん意地悪……」


と拗ねるのだった

88: 2016/01/20(水) 08:59:17.08 ID:lBEx1goQ.net
にこ「いいじゃない、たまには」

穂乃果「にこちゃんはたまにはってレベルじゃないよ!?」


にこちゃんは「あーもーうるさいわねー」と軽くあしらいながらお弁当箱を差し出す


にこ「食べたいんでしょ?ほらどれがいいの?」


私は低く唸りながらお弁当箱を吟味する


穂乃果「卵焼き、美味しそうだね」

にこ「卵焼きね、はい」


にこちゃんが当たり前のように卵焼きを差し出してくる
……結構、恥ずかしいってのは内緒にしている


穂乃果「あー……ん!おいひい!」

にこ「食べながらしゃべるんじゃないわよみっともない」

穂乃果「だって美味しいんだもん!」

89: 2016/01/20(水) 09:14:18.20 ID:lBEx1goQ.net
穂乃果「にこちゃんも食べる?」


にこちゃんは少し訝しげに


にこ「……どうせお母様が作ったやつでしょ?」


にこちゃんの言うことは分かる
もともと料理は得意じゃないけど、以前にこちゃんに砂糖と塩を間違えて料理を出したことがある
多分、そのことを思い出してのことだろう


穂乃果「ふっふっふ、今日はね、自分でもちょっと作ってきたんだよ!」

にこ「へー……」


にこちゃんが私のお弁当箱を覗き込む
一つ不恰好なものがあるから、多分わかると思う


穂乃果「はい、ハンバーグ」


にこちゃんは「あーん」とハンバーグを頬張って


にこ「あー……うん、味なさすぎ硬すぎ玉ねぎ大きすぎ」

穂乃果「初めて作ったのにひどいよ!?」


にこちゃんは表情を変えないまま


にこ「……次回に期待するわ」


と、ぽつりと呟いた
少しだけ、照れ隠し気味に聞こえたのは多分私の勘違いだと思う

90: 2016/01/20(水) 09:17:10.07 ID:lBEx1goQ.net
穂乃果「あ、にこちゃんここ、ごはん粒ついてる」

にこ「え、どこどこ?」


にこちゃんがキョロキョロとする


穂乃果「そこじゃなくてここだよー」

にこ「もー、どこなのよ!」


にこちゃんは目に見えてイライラしている
仕方ないので私は「もー、動かないでね?」と言いながら


はむ


穂乃果「はい、取れたよ」

にこ「……」

何故かにこちゃんは呆然としている
何回か肩を揺さぶると、かろうじて「あ、ああ……ありがと」と返してくれた

……一体どうしたのかな?

91: 2016/01/20(水) 09:23:24.98 ID:lBEx1goQ.net
ことり「それで、お料理を?」

穂乃果「やっぱ今のままじゃだめだなぁって思うから」

ことり「へえ……」


なんかことりちゃんがニヤニヤとしている
気になったので「どうしたの?」と聞くと


ことり「ん?やっぱり好きなんだなぁって」

穂乃果「まあ、そりゃ好きだけど……それにしてもどうしよう、そんなすぐに上手くもならないし……」

ことり「あ、あの……じゃあ、ことり教えてあげようか?」

穂乃果「いいの!?」

ことり「うん……あ、でもにこちゃんには内緒にした方が良いかも」

穂乃果「あー、にこちゃんああ見えて独占欲強いからなぁ」


少し呆れ顔になると、ことりちゃんは何かを言いたいような、言わない方が良いような不思議な顔をしていた


ことり「じゃあ土日はうちにおいでよ」

穂乃果「うん、ありがとうことりちゃん!」


嬉しくてついことりちゃんの手をぎゅっと握る

この時のことりちゃんが切なく笑っていたことを、私は知らない

95: 2016/01/21(木) 00:25:14.49 ID:MoFcOO2q.net
そんなこんなで、今日はことりちゃんの家にやってきた


ことり「いらっしゃい」

穂乃果「お邪魔しまーす……なんか久しぶりに来た気がするね」

ことり「最近は色々あったもんね」

穂乃果「そうだねえ……それで、今日は何を教えてくれるんですか先生!」

ことり「んー……簡単だけどちょっと奥が深いもの、かな?」


奥が深いもの……?
よくわからないまま、ことりちゃんについて台所へ向かうことにした

97: 2016/01/21(木) 10:44:30.82 ID:+vSIIne2.net
ことり「と、いうわけで今日はコロッケを作ります!」

穂乃果「コロッケ?……そもそも簡単なの?それ」


自慢じゃないけど、揚げ物なんて揚げまんじゅうくらいしか作れない私にはハードルが高く感じる
ことりちゃんは得意げに胸を張りながら


ことり「そこまで難しくもないよ?ひき肉もじゃがいももあらかじめ火を通してあるからちゃんと揚がってなくても食べられるし、ハンバーグとかもそうだけど数作って冷凍すれば朝にすぐ仕上げられるし」

穂乃果「ふーん……にこちゃんもそうなのかな」

ことり「前の日のうちに仕込む人は結構多いと思うよ?」


そう言いながらことりちゃんはそそくさと材料を取り出す


ことり「ジャガイモは皮むいてちょっと水に浸して……」

穂乃果「んー……皮むきって苦手だなぁ……」

ことり「ピーラー使えば良いんじゃない?」

穂乃果「あ、なるほど……ありがとうことりちゃん」


私が皮むきに集中してる間、ことりちゃんは次の準備をしている

98: 2016/01/21(木) 10:53:45.81 ID:+vSIIne2.net
穂乃果「終わったー!」

ことり「じゃあ次はジャガイモを蒸かしてマッシュにしよう、蒸かしてる間はひき肉炒めちゃおうか」

そう言いながらことりちゃんはフライパンに油を引き始める
……手際良いなぁ


穂乃果「次は何するの?」

ことり「えーとねえ……」


結構楽しんでる私たちが、そこにいた


……………


ことり「これで、完成!」

穂乃果「おー!美味しそう!」


ほとんどことりちゃんのやってること見てただけだったけど、それでもなんとか完成したコロッケは、きつね色でなかなか良い見た目をしていた


ことり「じゃあお昼はこれにしようか、ご飯よそってくるね」

穂乃果「あ、穂乃果も手伝うよ」

ことり「別にいいよ?リビングで待っててね」

穂乃果「はーい」


せっかくだし、明日はにこちゃんに食べさせてあげたいな
案の定、コロッケはさくさくで、ことりちゃんと二人で「美味しい、美味しい」とぺろりと平らげてしまった

99: 2016/01/21(木) 11:04:01.74 ID:+vSIIne2.net
翌週の月曜日、お昼が待ち遠しくて、いつも居眠りしてしまうのに全然眠れなかった
海未ちゃんには「真面目なのは良いことですね」なんて言われたけど、動機があまり褒められたものではないことは内緒にしておこう

にこちゃんに連絡しつつ、一人部室へ向かうことにした

……………

先に部室について5分もしないうちに、にこちゃんがちょっと勢いをつけて扉を開けた


穂乃果「やっほー」

にこ「……ええ」


にこちゃんが少し顔をそらしたような気がするけど、特に気にせず「今日もお弁当作ってきたんだー」とお弁当箱を取り出す


穂乃果「今日はね、コロッケ作ってきたんだよ」

にこ「……あんた揚げ物作れるのね」


私は「揚げ物くらいならできるよー」と笑いながら


穂乃果「にこちゃんのお弁当は彩りちゃんとしてるね、やっぱり考えて作ってるの?」

にこ「んー、そうでもないわよ」


それにしては結構綺麗だと思うけど……


穂乃果「それでもすごいよ」

にこ「すごくないって」

穂乃果「またまた……あ、コロッケ食べる?」


と、コロッケを差し出す
にこちゃんは「ん」と返事をする。これは肯定の合図だ


穂乃果「じゃあ……はい、あーん」

100: 2016/01/21(木) 11:05:48.07 ID:+vSIIne2.net
すると、にこちゃんの体が
ぴたり
と止まってしまった。私は不思議に思って


穂乃果「……にこちゃん?」

にこ「あ、ああ、ごめんごめん……ん、今日のは中々ね」


よっしゃ
と心の中でガッツポーズする
実はことりちゃんに……と思ったけど内緒にするんだった
少し早口に


穂乃果「少しお母さんに手伝ってもらったんだー……ところでにこちゃんどうしたの?」

にこ「な、なんでもないわよ」


嘘だ
だってにこちゃんの顔……リンゴみたいに赤くなってる
にこちゃんは「なんでもないから!」なんて言うけど……どうしたんだろ

可愛い可愛いと言っていたら悔し紛れに


にこ「……ばーか」


と返すにこちゃんが、これまた可愛かった

108: 2016/01/23(土) 10:35:29.66 ID:HviF5It1.net
穂乃果「にこちゃんもなんかちょーだい?」

にこ「ええと……じゃあこれ」


そう言って、にこちゃんは弁当箱ごと卵焼きを差し出してきたので、露骨に嫌そうな顔をする


穂乃果「いつもみたいににこちゃんから食べさせてよー」

にこ「わ、わかってるわよ!ほら」


少しにこちゃんの手が震えているような気がしたけど、多分勘違いだ


穂乃果「ん!やっぱり美味しい!」

にこ「……もっと食べる?」

穂乃果「うん!」


幸せだなぁ、と改めて感じる
そんな私の気持ち、にこちゃんに届いているかな

113: 2016/01/24(日) 19:41:52.36 ID:Gq4Z3wpb.net
……なんかにこちゃんがおかしい
何がおかしいのかって言われると答えにくいけど、なんかおかしい

さっきからこちらをちらちらともじろじろとも言い難いような頻度で覗いてきたり、ぼー……っとしてたり

こちらが「どうしたの?」と聞いても「なんでもない」としか答えてくれない


にこ「ぼーっとしてただけよ、本当に」

穂乃果「本当?嘘ついたら穂乃果怒るよ?」


大丈夫だってば
なんて言ってにこちゃんは笑う

そんな風に他愛のない話をしながら、私たちの昼は過ぎていった

116: 2016/01/25(月) 07:37:04.89 ID:OBQurWw/.net
穂乃果「でさあー、こっちは真面目に仕事してるってのに海未ちゃんったらさあ」

にこ「いや、おかし食べながら仕事してたらだらしなく見えるでしょ?」

穂乃果「絵里ちゃんもやってたって言ってたよ?」


いやあいつはほら、人前でそういうことしないでしょ?
それもそうかぁ
私は諦めたように頷く
今日はにこちゃんと一緒に帰っている
最近はあまり一緒に帰れていなかったから、少しだけ心が躍っている


にこ「あんたもやれば出来るんだから、もっと頑張りなさいよ?」

穂乃果「はーい、なんかにこちゃん先輩みたい」


にこちゃんは怪訝な顔をして


にこ「みたいもなにも先輩でしょ?それ以外に何があるのよ」


……にこちゃん、ばかだなぁ
そんな当たり前のこと聞かなくてもわかると思うのに
私は当然のように


穂乃果「え?彼女だけど?」


すると、にこちゃんが一瞬だけ固まって、みるみるうちに顔が赤くなっていく
……気づかなかったんだ

117: 2016/01/25(月) 07:40:51.83 ID:OBQurWw/.net
穂乃果「あれ?にこちゃん照れてる?」

にこ「てっ、照れてなんか!」


顔を赤くして声まで震えてるから、そんなのただの誤魔化しだって分かる
私は嬉しそうに笑いながら


穂乃果「こういうのって久しぶりだから、少し新鮮だね」

にこ「……そうね」


にこちゃんは照れているような、悔しいような顔をしながらこちらを見ずにそう返す
……あれ、なんだか今のにこちゃん


穂乃果「あ、でもそんなにこちゃんも可愛いよ?」


にこちゃんの顔がもっと赤くなる
……あ、これ止まらないや


にこ「当たり前でしょ、私を誰だと……」


ちゅ

そんなことをいうにこちゃんの唇を、半ば強引に塞いであげた

118: 2016/01/25(月) 07:45:09.26 ID:OBQurWw/.net
2秒ほど経ってから、ゆっくり唇を離す
にこちゃんの顔をちらっと眺めると、耳まで真っ赤になりながら鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた

なんだか逆にこっちが照れてしまい、私は


穂乃果「……また明日ねっ!」


と、逃げるように走り去る

なんかいつもと違って、胸の高鳴りは家に帰っても、寝る前になっても収まってくれなかった

124: 2016/01/26(火) 15:26:37.02 ID:RAzKHdOR.net
その日は今までのツケが回ってきたのか、生徒会の仕事がいつも以上に多く、私は机でひーひー言いながら作業をしていた


海未「全く、今までサボってたせいですよ?」

穂乃果「そんなこと言ってないで助けてよー!」

ことり「まあまあ海未ちゃん……でも、穂乃果ちゃんもだよ?」

穂乃果「うう……分かったよぉ、一人でやるよー」


ぷりぷりと怒った海未ちゃんと、それをなだめながら去っていくことりちゃんを見送りながら、私は机の書類に目をやる

……大変だなぁ

それでも仕方ないから頑張っていたら、不意に生徒会室の扉が開いた


絵里「あら、穂乃果……居残り?」

穂乃果「そんなとこー」


なんとなくふらっと入ってきたという絵里ちゃんがやってきた

125: 2016/01/26(火) 15:33:41.55 ID:RAzKHdOR.net
絵里「こんな量一人でやるの大変よねえ」

穂乃果「ごめんね絵里ちゃんなんか手伝わせて」


別に暇だったし良いわよ
なんて絵里ちゃんは笑いながら、ものすごい速さで書類を処理していく


穂乃果「海未ちゃんとは帰らなかったの?」

絵里「ええ、ちょっと海未用事があるんですって」

穂乃果「ふむふむ」


なんか、心から信頼してるって感じが伝わってくる
ふと気になったので、質問してみた


穂乃果「ねえねえ絵里ちゃん」

絵里「どうしたの?」

穂乃果「絵里ちゃんって、海未ちゃんのどこが好きなの?」


絵里ちゃんが勢いよく噴き出した

126: 2016/01/26(火) 15:37:16.19 ID:RAzKHdOR.net
絵里「ごほっ、ごほっ!……穂乃果もそんなこと聞くのね」

穂乃果「私もってことは誰かも同じ質問したの?」


絵里ちゃんは「ん、なんでもないわ忘れて」なんて早口で答えながら


絵里「好きなところ、ね……結構悩む質問ね」

穂乃果「というと?」

絵里「そりゃまあ、色々あるわよ?容姿だって性格だって好きなところだし、海未といると楽しいもの」


普通そういうものだろうと私も思ってる
絵里ちゃんは続ける


絵里「結局のところ『わからない』が一番しっくりくるわね」

穂乃果「わからない?」

127: 2016/01/26(火) 15:39:49.40 ID:RAzKHdOR.net
絵里「ええ、好きなところなんて後からいくらでも出てくるのよ、でも全く同じ別人じゃそれは違う……私は、海未が好きなんだから、理由なんてそれで十分じゃない?」

穂乃果「……なるほど」


そうかもしれない
きっかけは色々あったけれど……私はにこちゃんのことが好きだ
にこちゃん以外だったら、なんて考えたこともない


絵里「はい、話はおしまい……早く片付けて帰りましょ?」

穂乃果「うん!」


時折脱線しつつも、その日は絵里ちゃんのおかげでいつもより早く仕事を終わらせることができた

131: 2016/01/26(火) 21:23:44.93 ID:RAzKHdOR.net
その週末は、ことりちゃんにまた料理を教わることにした


穂乃果「今日は何作る?」

ことり「うーん、ベタだけど……肉じゃが、とか?」

穂乃果「肉じゃが……ってお弁当に入らなくない?」

ことり「そうでもないよー、おつゆ減らせばあまり漏れないし、それこそ味噌汁用のお弁当箱入れれば良いし」

穂乃果「ふむふむ」


ことりちゃんはまた手際よく準備を始める


ことり「それに、肉じゃがって家庭料理っぽいでしょ?」

穂乃果「それもそうだね……よし、よろしくお願いします、ことり先生!」


先生だなんて、大げさだよ
なんてことりちゃんは苦笑する

132: 2016/01/26(火) 21:32:19.43 ID:RAzKHdOR.net
さすがに煮物は大変で、この前ほど単純にはいかなかった
特に調味料の加減が難しい

雑でも慎重にやっても美味しくなくなる

まるで、猫をあやすように
構い過ぎてもほっときすぎても嫌われてしまう
なんだかそれが、私には


穂乃果「にこちゃんみたいだなぁ」

ことり「……なにが?」

穂乃果「……ううん、なんでもない。そろそろ完成かな?」

ことり「そうだね……おっ、結構美味しそう」

穂乃果「お腹が空いちゃうねえ……」

ことり「よーし、お昼にしよっか?」

穂乃果「うん、賛成!」


明日のお弁当はこの肉じゃがにしよう
なんて、想いを巡らせていた

138: 2016/01/28(木) 18:46:52.42 ID:Ieq8VLQa.net
穂乃果「でさ、雪穂ったら驚いた顔しててね」

にこ「そ、そうね……見てみたかったわ」


いつもと同じようなお昼
いつもと少し違うのは……なんだかにこちゃんがそわそわしていること
半分気にしつつ、私はお弁当箱を広げる


穂乃果「今日はね、肉じゃが作ってきたんだよ」


にこちゃんがへー、と感心する


にこ「結構上達してるのね……ってあんた、その指……」

穂乃果「へ?ああ、これ?今朝切っちゃって」


とっさに指を隠す
にこちゃんのことから、きっと怒るに違いない

139: 2016/01/28(木) 18:50:01.42 ID:Ieq8VLQa.net
穂乃果「分かってるよー、『アイドルなんだからそういうことは気をつけなさい!』でしょ?」

にこ「そ……そうよ!気をつけなさい」


と、にこちゃんがたしなめるように怒る。優しさを感じられるように、声色は優しかった
私は誤魔化すように


穂乃果「まあまあ、そんなこと言わないで食べてみてよ」

にこ「……まあまあね」

穂乃果「良かったー、ことりちゃんに教えてもらったんだ」


にこちゃんの箸が急に止まる
私はまだその時、気づいていなかった

140: 2016/01/28(木) 18:53:24.76 ID:Ieq8VLQa.net
にこ「……ことりと?」

穂乃果「うん、ちゃんと作れたってことは成功したのかな?」

にこ「……べ、別に肉じゃがくらい私でも……」


私は、まだ気づいていない
にこちゃんのために、にこちゃんに内緒で
一番内緒にしなきゃいけないことを、忘れていた


穂乃果「にこちゃんじゃダメなんだよ」

にこ「な、なんでダメなのよ!」


にこちゃんが勢いよく立ち上がる


穂乃果「へ?……ひ、秘密」

にこ「へー……秘密ねえ……私にも言えないようなことなのね」


ここで、ようやくそのことに気がついた


穂乃果「ち、違うよ?」

141: 2016/01/28(木) 18:57:03.97 ID:Ieq8VLQa.net
慌てて取り繕うとしても、もう遅かった


にこ「違うなら説明してよ!何でわざわざ隠すの!?そんな私は信用できない!?」

穂乃果「ち、ちが……」

にこ「……もういい」


にこちゃんは私と目を合わせず、そのまま逃げるように部室を去っていく

途端に、後悔が押し寄せてきた

余計なことを言ってしまった
怒らせてしまった
嫌われてしまった

後悔はやがて雫となって、濁流のように溢れ出してくる
私は、それを止める術を忘れてしまっていた

151: 2016/01/29(金) 17:19:33.26 ID:WrwR3dAw.net
ひとしきり泣いて、部室で一人うずくまっている

傷つけてしまった

にこちゃん、涙目だった
きっと怒ってる

後悔の渦に巻き込まれていたら、ゆっくりと扉が開いた


希「あれ、穂乃果ちゃん?どしたん?」

穂乃果「……希ちゃん?」


希ちゃんは「いつになく落ち込んでるなぁ」なんて言って隣に座る
……今は出来ればいないで欲しいのに

152: 2016/01/29(金) 17:23:57.22 ID:WrwR3dAw.net
希「当ててみようか」

穂乃果「へ?」


希ちゃんはカードを取り出して「ふんふん」と唸ったあと


希「にこっちのことやろ?喧嘩……もしくは一方的に怒られてしまった?」

穂乃果「……なんでわかるの?」

希「カードが教えて……いや、冗談。その顔見てればすぐ分かったんよ」

穂乃果「……むう」


希ちゃんはカードをしまって、私の顔を覗き込む

158: 2016/01/30(土) 22:48:13.37 ID:UdhUtr4W.net
希「うちは喧嘩とか、大事やと思うけどなぁ」

穂乃果「そんなこと……」


希ちゃんは「ないって言い切れる?」と話して


希「うちはそういう感情を誰かに抱いたことないけれど……それってつまり本音でぶつかったってことやない?」

穂乃果「……喧嘩ってより、一方的に怒られたってのが正しいけどね」


希ちゃんは「どっちも一緒やと思うよ?」と返す


希「詳しくは聞かへんけど……怒るくらい穂乃果ちゃんが大切なんやない?」

穂乃果「そう、かな……?」

希「きっとそうよ」

穂乃果「……そう、かな」

希「あまり励ましてあげらんくてごめんね?」


私は「ううん、そんなことないよ」と首を振る


穂乃果「ちょっとだけ、元気出てきた」


なら良かったわ~
……にこちゃん、どう思ってるかな

159: 2016/01/30(土) 22:54:03.74 ID:UdhUtr4W.net
希ちゃんと別れて、ふらふらと教室を歩いていたら、にこちゃんからメッセージが飛んでくる

……中身を見るのが、少し怖かった

恐る恐るスマホを取り出して中身を確認すると、


♡にこちゃん♡<明日話したいことがあるんだけど、暇?


……これは、もしかして
とてつもなく嫌な予感がして、思わずにこちゃんに電話をかける

5回コールが続き、ようやくにこちゃんが応答してくれた


にこ『……なに?』


その声は、少し強張っていて、肩が震えてしまう


穂乃果「……そっちこそ、どうしたの?」

にこ『なにって……話したいことがあるから暇かって送っただけじゃない』

穂乃果「話したいなら、今電話でもいいじゃん」


少しの沈黙のあと


にこ『今は……その……』


その声色で、なんとなく察してしまう
……そういうこと、なのかな

160: 2016/01/30(土) 22:56:57.09 ID:UdhUtr4W.net
穂乃果「分かった、明日は暇だよ、校舎?」

にこ『……いや、少し離れたところがいいわ、場所はこっちで考える』

穂乃果「分かった、じゃあね」


電話を切る指がいつになく震えている

今の状況
あの声色
会って話したいくらい、大事な話

考えられる材料は揃いきっている

……嫌だ

でももし本当にその話なのだとしたら、私は、どうすればいいのだろう
胸が、心が、不安で染まっていった

165: 2016/02/01(月) 00:30:31.24 ID:T22jZcMZ.net
……体が、重い

よくある体調が悪いとかではなく、気が重く、それに合わせて体も重い
そんな感じだった


海未「今日は、この辺で切り上げますか」

ことり「今日は練習もお休みだよね?」

穂乃果「そうだね……穂乃果、にこちゃん待たせてるから先に帰ってるね」

海未「……どうしたのですか?」


精一杯笑顔を作って


穂乃果「ちょっとね」


とだけ返す
扉にかける手が、一歩踏み出す足が、いつもの倍以上重くなっていた

166: 2016/02/01(月) 00:33:39.04 ID:T22jZcMZ.net
少し早足で校門に向かうと、にこちゃんが少し退屈そうな表情で私を待っていた


穂乃果「ごめんごめん、生徒会で少し遅くなっちゃって」


にこちゃんはこちらを一瞥すると、少し険しい声で


にこ「……遅いわよ」


肩が少し、ぴくんと跳ねる
それでもにこちゃんに悟られないよう笑顔で「だからごめんってばー」とかろうじて応答する


にこ「……それじゃ、行きましょう」

穂乃果「今日はどこに行くの?」

にこ「ちょっと、ね」


と言って歩き出すにこちゃんを追うようについて行く
こんな風に歩くなんて、今までなかった
繋いで欲しいと願う右手が、少しざわついた

167: 2016/02/01(月) 00:37:54.07 ID:T22jZcMZ.net
にこちゃんって酷なことをするな、って思う
今私たちがいる場所は、私が告白した場所……観覧車の中


穂乃果「ここ、懐かしいね」

にこ「1ヶ月記念の時はなんだかんだあってこれなかったじゃない?……私が忘れてただけだけど」

穂乃果「あはは、穂乃果も忘れてた」


にこちゃんは離れていく地上を眺めながら


にこ「付き合ってから、色々あったわね……」

穂乃果「穂乃果たちも、μ'sとしても、大変だったね」

にこ「まあ、まだまだ油断できないからね、これからも頑張らないと」

穂乃果「……そうだね」


なんとなく分かる
にこちゃん、はぐらかしている気がする
少しの間、沈黙が訪れる

168: 2016/02/01(月) 00:40:48.36 ID:T22jZcMZ.net
先に口を開いたのは私の方


穂乃果「そ、それで……話って……なに?」


にこちゃんはキョトンとした後


にこ「話?……ああ、そういえばそうだったわね」

穂乃果「大事な話、なんだよね……?」

にこ「……まあ、大事といえば大事ね」

穂乃果「……そう、だよね」


思わず泣きそうになり、声が震えてしまう
……やっぱり、嫌だ


にこ「えっと……その……」

穂乃果「うん……」


言わないで欲しい、聞きたくない
そんな考えを、にこちゃんが一瞬で吹き飛ばした


にこ「私ね……やっぱりあんたのことが好きなのよ」


……へ?

169: 2016/02/01(月) 00:45:38.93 ID:T22jZcMZ.net
あまりに唐突で、かえって呆然としてしまう
恐る恐るにこちゃんを見ると、これ以上ないくらい真っ赤に染まっていた


にこ「どうしたのよ?」

穂乃果「……それだけ?」

にこ「え?まあ、それだけだけど」


初めは、驚き
次に、安堵
少し遅れて、恥ずかしさ
最後に、嬉しさ

色んな気持ちが混ざって、気持ちを整理して、どんどん顔が赤くなっていく


穂乃果「ってなんだぁ~、良かったぁ~……」

にこ「ちょ、ちょっと待って……どういうこと?」

穂乃果「いや、にこちゃん深刻そうに『大事な話がある』って言うから……てっきり別れ話かと……」

にこ「なんでこんなとこで別れ話すんのよ……やっぱあんたバカ?」

穂乃果「だって~!」


それでも、嬉しかった
色んな感情は、時を待たず雫となって滲んできた

170: 2016/02/01(月) 00:49:38.09 ID:T22jZcMZ.net
にこ「てか穂乃果……泣いてるの?」

穂乃果「だって……怖かったんだもん」


別れたくなかった
嫌われたくなかった
にこちゃんと離れるのが、たまらなく怖かったから


にこ「わ、悪かったわよ……ほら、泣かないで?」

穂乃果「うん……それにしても」


思い出すと、少しにやけてしまう


穂乃果「にこちゃんから好きって聞くの、結構初めてかも。どうしたの?」


にこちゃんは「あー」と頭を掻きながら


にこ「伝えなくても気持ちは届くかもしれないけれど……やっぱり言葉にして言いたかっただけよ」


……嬉しいなぁ
そんな風に思っててくれたこと
好きだって言ってくれたこと
そんな全てが、嬉しかった

恥ずかしくなってきたのか、にこちゃんが夕焼けに合わせてまた顔が真っ赤になっていく
なんだかとても、愛おしい

171: 2016/02/01(月) 00:54:24.89 ID:T22jZcMZ.net
だから、少しだけ魔がさす
私の腕は、気がついたらにこちゃんの首に絡まっていた


穂乃果「ねえ、にこちゃん……覚えてる?」

にこ「……なにを?」


にこちゃんがそれに応えるように私の腰に手を回す


穂乃果「ここで結ばれた二人は、ずっと一緒にいられるって話」

にこ「……ええ、覚えてるわ」


にこちゃんの顔が、吐息を感じられるくらいの距離になる
心なしか、にこちゃんの頬が私と同じくらい染まっている


穂乃果「二回も結ばれた私たちって……どうなるのかな?生まれ変わっても一緒にいられるかな?」


にこちゃんは呆れ顔で「ばか」と私のおでこを小突く


にこ「次なんてないわよ、今が最高に幸せなんだから……なんで次のことなんて考えないとなんないのよ」

穂乃果「……そう、だね」

172: 2016/02/01(月) 00:58:47.09 ID:T22jZcMZ.net
にこ「だから……ね?お互い生きてる限り、一緒にいましょう?……違うわね、私が穂乃果といたいのよ」


それは違うと思うな、にこちゃん
私だって、にこちゃんとずっと一緒にいたいって思ってるから
だから、それを口に出して伝える


穂乃果「穂乃果も、同じ気持ちだよ」


にこちゃんの腕に引き寄せられるのに合わせて、私も腕に力を込める


にこ「好きよ、穂乃果」

穂乃果「にこちゃん、私も大好きだよ」


そのまま、私たちはキスをする
いつもしていたはずなのに、まるで……物語のハッピーエンドみたいに、幸せな気持ちになれる、そんなキスだった

……こんな簡単なことなら、もっと早くしていたかったなぁ

まるで私たちを祝福してくれるかのように、夕陽が暖かく輝いていた

175: 2016/02/01(月) 01:03:09.42 ID:T22jZcMZ.net
観覧車から降りると、にこちゃんが当たり前のように私の右手をつかむ
こんなことでも、今は嬉しい


穂乃果「こうして手を繋ぐのも、なんか久しぶりだね」

にこ「そうね」

穂乃果「……あったかいね」

にこ「……そうね」


ここで少しの間、無言になる
それでも、ここに来る前みたいに体が重くなるというわけでもなく、むしろ心が軽くなっていた
……つまり、幸せだ
そんなことを考えていると、つい顔が赤くなる

ふと眺めると、にこちゃんの顔も赤くなっていたのでついちょっかいを出す


穂乃果「……あ、にこちゃん顔真っ赤!」

にこ「面と向かってあんなこと言ったんだから当たり前でしょ!あんたも赤くなってるし」

穂乃果「ばれた?」


当たり前でしょ
なんて、にこちゃんはそっぽを向いてしまう
それでも、愛しさが胸から溢れてきそうだった

176: 2016/02/01(月) 01:08:04.58 ID:T22jZcMZ.net
にこちゃんが急に立ち止まる
こちらを振り向きながら


にこ「穂乃果、ちょっと動かないで」

穂乃果「へ?なにを」


続けて言おうとした言葉は、強引に塞がれてしまった
1秒ちょっとで口を離され「…はぅ」と声が漏れ出る

にこちゃんは、すぐに顔を逸らして


にこ「……ごめん、つい」

穂乃果「……いいよ、嬉しかった」

にこ「それじゃ、今日は帰りましょうか」

穂乃果「うーん……今日はにこちゃんの家に行きたいなぁ」

にこ「いいけど、なんで?」


離れたくない、にこちゃんともっと一緒にいたい

とは中々言いにくいので、私も少し照れ隠し


穂乃果「今までの練習の成果を見せたいから、かな?」


にこちゃんは「はー」と肩をすくませる


にこ「良いわよ、見せてもらおうじゃない」

穂乃果「頑張りますっ!」

177: 2016/02/01(月) 01:15:59.81 ID:T22jZcMZ.net
夕焼けはいつも以上に赤く感じる
風は、くっつくにはちょうど良いくらい寒くなっている
空のは、まるでさっきまでの私のように遠かった


にこ「で、なに作るの?」

穂乃果「コロッケ、かなあ……今までで一番マシだったから」

にこ「へえ……あ、ジャガイモないかも」

穂乃果「なら、買ってく?」

にこ「そうね、ちょっとスーパー寄って行きましょう」


それから、くだらない会話で私たちは盛り上がる

……これから、多分大きな問題とか、ドラマチックな展開は起こることはないと思う
それでも私はにこちゃんのことを、これからも、数え切れないくらい好きになる
今だけは、そう確信している


にこ「……寒くなってきたわね」

穂乃果「冬はスキーとか行きたいね」

にこ「良いわね、みんなで行く?」


にこちゃん、分かってないなぁ


穂乃果「みんなとも行きたいけど、にこちゃんと二人きりでも行きたいなぁ」

にこ「わ、分かってるじゃないの」

179: 2016/02/01(月) 01:24:20.34 ID:T22jZcMZ.net
照れ隠ししているにこちゃんに、今何をしてあげれば幸せになってくれるのかなって、少しだけ考える


穂乃果「とりあえずジャガイモでしょ……ひき肉ある?」

にこ「えーと……半分くらい使ったけどまだ残ってるわよ」

穂乃果「じゃあひき肉はいいかな……あとは……」

にこ「そうねえ……」


……いや
今日のコロッケを楽しみにしているにこちゃんを見ている方が、よっぽど幸せそうだ


穂乃果「ほらにこちゃん行くよー!」

にこ「ちょっと、引っ張るなぁぁぁぁぁ!!」

180: 2016/02/01(月) 01:28:32.43 ID:T22jZcMZ.net
穂乃果「まさかの特売で助かったねー」

にこ「そうね……でも」


にこちゃんが両手いっぱいになったジャガイモに目をやりながら


にこ「こんな量どうすんのよ!」

穂乃果「あはは、つい買っちゃった」

にこ「まあ……分からなくもないけど」

穂乃果「ねえ、にこちゃん」

にこ「ん?」

穂乃果「さっきの、もう一回聞きたいな?」


にこちゃんが肩で反応する
それでも何も知らない風に


にこ「……何を?」

穂乃果「私のことを、好きってやつ……だめ?」


そう言って、少し上目遣いになる
にこちゃんがこれに弱いってことは、私が一番知ってること


にこ「言われなくても、何度だって言ってやるわよ!私は穂乃果のことが好き!」


ほら、また真っ赤になった

181: 2016/02/01(月) 01:29:49.66 ID:T22jZcMZ.net
……えへへ

……ほら、私は言ったわよ?

え、なにが?

私が言ったんだから、次はあんたの番でしょ!

なんてね、言われなくても分かってるよ、ねえ……


永遠なんて無いかもしれないけれど、いつか、消えてしまうかもしれないけれど
それでも今は、この気持ちを伝えたい


にこちゃんのことが、大好き

182: 2016/02/01(月) 01:31:26.12 ID:T22jZcMZ.net
これにて幕切れにございます

近すぎるから伝わらない、近いからこそ伝えたい
身近だからこそ、本当に伝えたいことは言葉に乗せて伝えてあげてください

そんなテーマでした
ありがとうございました

183: 2016/02/01(月) 01:32:15.76 ID:6LCnByQt.net
純愛で泣ける

引用元: 穂乃果「想いは遠く、秋の空」