なの「子宮、作れないんですか」
はかせ「道具がないから･･･なの、ごめんねー」
なの「いえ、はかせが謝ることじゃありませんよ」
なの(道具･･･もしくは、それ自体･･･)

なの(やっぱり、憎い)
なの(どうして私だけ持っていなくて、皆持っているんだろう)

「さかもとー！」ﾊﾞﾀﾊﾞﾀ
「来るなガキっ！」ﾄﾞﾀﾊﾞﾀ

なの「･･･はかせも、女の子･･･」

はかせ「え？　なに、なのー？」
なの「あっ、いえ！　なんでもありませんよー」

なの(私はなん恐ろしいことを考えていたのだろう･･･)

なの「そうだはかせ、卵切れちゃったんでお買い物行きますけど、ついてきますか？」
はかせ「いくー！」

なの(わたしは、なんて非道いロボだろう･･･)

なの(眠れない･･･買い物ではかせはごまかせたけど･･･この苦しみは･･･)

なの(皆を憎むなんて、本当はしたくない。けど、私がロボである限り、いつまでも考えてしまう･･･)

なの「はかせ」
なの「どうして私は、人間に生まれて来ることができなかったのですか」
なの「私は、完全になりたい･･･」

なの(安らかな寝顔だ)
なの(もう、寝よう。考えることをやめよう)
なの(できるわけないけど･･･)

はかせ「なのはねー」
なの「えっ」
なの(寝言･･･？)
はかせ「かわいーんです･･･ロボですから･･･」ﾑﾆｬﾑﾆｬ
なの「･･････」

なの(私は、かわいくなくていいから、完全な女の子にして欲しかった･･･)

なの「行ってきまーす」
はかせ「行ってらっしゃーい」

なの(眠れないせいで、妙に頭が冴えている･･･昨日の続きばかり考えてしまいそうだ)

ゆっこ「でさーシャケがさー」
みお「なにそれーもうー」
ゆっこ「お、なのちゃんおはよー！」
なの「おはようございます」

なの(子宮)

なの(子袋が、二つ)

怖いよ

後のターミネーターである

みお「昨日笹原先輩がさー」
ゆっこ「おお？　なんだい恋バナかい？」
みお「そ、そんなんじゃないってば！」ｱｾｱｾ
なの「相生さん、からかっちゃいけませんよー」

なの(例えば)
なの(相生さんと長野原さんを気絶させて)
なの(お二方の子宮を戴いたとする)
なの(腐敗させることなく、家まで運ぶことは可能だろうか)

ゆっこ「えー、でも、ふられても好きで居続けるんだからすごいよねー」
みお「もー！　ふられてないってば！」
なの「相生さん、そのことはあまり言わないほうが･･･！」

なの(･･････)
なの(･･････)
なの(何を考えているんだ、私は)

なの(まるで現実味がない)
なの(仮に)
なの(お二方が気づかなければ･･･?)
なの(気づかれないうちに、代わりのものを縫合し、そして･･･)

みお「なーのちゃん」
なの「あ、はい！」
ゆっこ「どうしたの、黙っちゃって」
なの「いえ、なんでもありません、ちょっと昨日寝付けなくって･･･」
ゆっこ「睡眠不足ってロボも･･･」
みお「わー！　わー！」
なの「えっ」
ゆっこ「おっと、ううん、ごめんこっちの話」
みお「もう･･･でも本当に大丈夫？　相談ならいくらでも乗るよ」
なの「あ、ありがとうございます･･･！」


なの(･･････)
なの(友達って、いいな)
なの(やっぱり、痛いことはできない)

なの(学校、来るんじゃなかった)
なの(みんな、女の子だ)
なの(普通の女の子)

なの(授業中に俯いてお腹をさすっている人も、休み時間のたびに教室を出る人も、みんな、普通の女の子)

なの(普通じゃないのは、私だけ･･･)

なの(相生さんと長野原さん、それから水上さん方以外には、いいよね)

なの(憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い)

なの(欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい子宮が欲しい)

高崎「今日の授業はここまでだ、HR始まるまで静かにしてろよ」

ﾜｲﾜｲｶﾞﾔｶﾞﾔ

なの(私に子宮があれば、こんな厄介な気持ちに振り回されないのに)
なの(友達も、クラスメイトも、妬みたくない)
なの(私はみんなと仲良くなりたい)
なの(でも、自分の欠けた場所を思うと･･･)
なの(どす黒い、どろどろした廃液みたいな気持ちが、すぐに･･･)

みお「なのちゃん、一緒に帰ろう」
なの「あ、はい！」
ゆっこ「駅前のパフェが気になっててさー」

なの(駄目だ、今ここで一緒に帰ったら、どうするか分からない)

みお「太るよ」
ゆっこ「甘いものは別腹だよぅ。ほら、行こう二人とも！」
みお「もう、引っ張らないでよ～」
なの「ふふふ」

なの(駄目ですよ、二人とも)

なの(こんな、私みたいなのと仲良くされるなんて)

みお「部活がんばってるねー」

なの(しかも、体育倉庫がちょうど空いてるような場所で)

なの(無防備すぎるじゃあないですか)

なの(今なら、できる？)
なの(お二方から、奪える？)
なの(子宮を？)
なの(女の子を？)
なの(女の子になれる？)
なの(ただ、押し倒して気絶させるだけで？)

ゆっこ「あ、なんだあれ」
みお「弥勒菩薩？　飛んでるし･･･」

なの(背中向けてる)
なの(きれいな背中だ)
なの(あの、腰のあたりに手を突き刺せば、到達する)

なの(手を伸ばせ、引きずり込め)

なの(もうちょっと)

『職員室から呼び出しです。一年生の東雲なのさん、理科実験室にきてください。中村教諭がお待ちです』

なの(！)

みお「あれ、なのちゃんのことだよね？　なんだろ」
ゆっこ「中村のことだし、またプリント運ばせるんじゃない？」
みお「いっつもなのちゃんばっかりじゃん。私たちも手伝うよ。ていうか、言ったほうがいいよ、絶対おかしいもん」
なの「あ、いえ･･･!　先生のお願いですし、アナウンスするほどですから、何かあるのかもしれませんし」

みお「そうかなー」
ゆっこ「変なことされたらすぐに言うんだよ？」
なの「あ、ありがとうございます」

なの(私は･･･私は･･･)
なの(もう、もう･･･)

みお「なのちゃん!?　ちょ、なんで泣いてるの？」
ゆっこ「あわわ、あわわ」
なの「いえ、なんでもありません」
みお「すごい声震えてるよ！　中村に何かされたの？　ねえ、なのちゃん？」
なの「本当に、大丈夫ですから」

なの(これ以上、私に優しくしないで)

みお「なのちゃん、行っちゃうの!?」
ゆっこ「あわわ、あわわ」
なの「お手伝いに行くだけですから！」

なの(立ち去らなくちゃ)
なの(しばらくはもう、顔を見ることは許されない)

ｶﾞﾗｯ

中村「おお、東雲、来たか･･･って、なぜ目が赤いのだ」
なの「な、なんでもありません。それより、ご用件はなんでしょうか」
中村「うむ、この実験道具なんだがな･･･」

なの(私がするべきことはなんだろう)
なの(自分に歯止めをかけることだろうか)
なの(それとも、自分について知ることだろうか)

なの「中村先生」
中村「ん、どうした」
なの「先生は、変わりたくても変われないとき、どうしますか」

中村「ど、どうしたんだ、急にそんなお悩み相談室みたいなこと･･･」
なの「いえ、すみません。なんでもありません」
中村「ふうむ、私なら、何が大切かを考えるかなあ」
なの「何が必要か･･･ですか」
中村「ちょうど、ここにあるみたいな天秤にかけるのさ。どちらがより大切か、なくなったら困るかってね」
なの「なくなったら困るもの･･･？」
中村「わたしは、そうやってきた。･･･って、何を謂わせる。恥ずかしいやつだな、東雲は」
なの「あ、いえ、すみません･･･」

中村「必要かそうでないかで言ったら、どちらも欠かせないものさ。ただ、そのなんだ、あの、まあ、青春に代価は付き物だ。かく言う私も･･･」
なの「･･････」

なの(大切なもの？)
なの(女の子でありたいという欲望か、それとも･･･)
なの(もっと仲良くなりたいと思わせてくれる、友達か)

なの(私にとって重いのは、どちらだろうか)

なの(なんて、今の私を見ればわかる)

なの(そんなの、友達に決まっているじゃないか)

中村「･･･ああ、この道をとるか、そっちをとるかで悩んだこともあった。だが」
なの「中村先生」
中村「ん、どうした」
なの「ありがとうございます
、何かわかった気がします」
中村「ああ、そうか。それはよかった」

なの(大切なもの)
なの(それを傷つけるなんて、考えられない。とても怖い)
なの(もちろん、欲望は消えていないけれど)
なの(ふっきれた証拠だろう)

なの「すみません、ご用件を聞かずに、こちらの話を長々と･･･」
中村「いや、いいんだ。まあ、落ち着いたところでこのコーヒーを飲むんだな」

なの「あ、はい。いただきます」
中村「ああ、全部飲み干すといい」

なの(いい先生だなあ)
なの(･･･落ちついたら、眠くなってきちゃった)

なの「すみません、先生、私、眠くなってきちゃって･･･」
中村「おお、それはいかん、さあ、そこに横になってみろ」
なの「机の上ですか･･･？」
中村「どこだっていいだろう。ほら、乗った乗った」
なの「あ、はい失礼します･･･」

なの(相談に乗ってもらった上に、なんだか申し訳ないな･･･)
なの(視界がぼやける･･･)
なの(このシルエットは、こけし･･･？)

中村「少しだけいじらせてもらうぞ」
なの「！」

なの(どれだけ眠っていたんだろう･･･)
なの(まだよく見えない･･･)

中村「回路ショート君が役に立ったな」
中村「これで、東雲なのに用いられた技術を研究できる」
中村「ふふふ」

なの(何を言っているんだろう)
なの(先生･･･)

中村「さあて、まずは服を脱がせて･･･」

なの(先生の手、冷たい)
なの(寒い)

中村「これは、どういうことだ」
中村「どこをとっても、現代科学の域を超えている」
中村「人間のそれと比べても違いの分からない外見･･･いや、こんなのはいつも観察していたことだ。だが･･･」
中村「美しい」

なの(美しい･･･？　私が？)

中村「モデルが誰だか分からないが、女性でもため息をもらすぞ、この造形は」

なの(なんだろう、嬉しい)
なの(指、くすぐったい)

中村「さて、最後に･･･ここを調べてみるとするか」

中村「ペンライトは･･･よし」

なの(･･･もしかして･･･)
なの(触られてる･･･？)
なの(女の子の、一番大事な場所･･･)

中村「よし、固定はできたな」

なの(広げられてる･･･)
なの(そこは、からっぽなのに)

中村「これは･･･？　なにもない」
中村「生殖機能は、無いのか」

なの(恥ずかしい。体が熱い)
なの(今さらそんなこと、言わないで)

中村「まあいい。まだ謎は･･･」


みお「すみません、ドアを開けてください」


なの(長野原さん･･･？)

中村「･･･ちっ」
中村「こんな時に･･･」
中村「いないふり、だな」


ゆっこ「おーい！　なのちゃんを離せー！」


なの(相生さんも一緒･･･慌てさせちゃって、悪いな)
なの(早く、大丈夫だって教えなくちゃ)

中村「まあ、まずはコーヒーを飲んで落ち着こ･･･ぐうー」

なの(足もとがおぼつかない)
なの(スタンガンのようなこれは、いつ起き出すか分からないので先に拾っておこう)
なの(お二方･･･)

なの(わかったんだ)
なの(私にとって大切なものは何か)
なの(手放したくない)

なの「今、開けます」

なの(早く、会いたい)
なの(ドアに、手を伸ばす)
なの(もう少し･･･もう少し･･･)

ｶﾞﾗｯ

なの(もう少し･･･あれ)

「よっしゃ開いた！　なのちゃんだいじょ」

　ﾊﾞﾁﾝ

なの(･･･？)
なの(･･･あれ)

みお「ゆっこ･･･？　ゆっこ！」

なの(相生さんが、無理やりドアを開けて飛び込んできて)
なの(勢い余って私に抱きついて)
なの(それで･･･？)
なの(それでどうして、ひくひくと痙攣しているんだろう)

なの「あっ」

なの(そっかあ。手に握っていたスタンガンが、お腹にぶつかって、作動しちゃったのかあ)

みお「なのちゃん･･･？」

なの(長野原さん、そんなに、怖い目で見なくてもいいのに･･･)
なの(･･････)
なの(傷つけちゃったなあ)

みお「なのちゃ」

ﾊﾞﾁﾝ

はかせ『なのを妊娠させることは、できるよ』
なの『そうなんですか』
はかせ『受精卵をお腹のなかで育てればいいだけなんだよ。ただ、そのためにはやっぱり本物の子宮が必要なんだけど。栄養をあげなきゃだし、成長と一緒に膨らまなきゃだし、胎盤も必要だし』

なの『子宮、作れないんですか』
はかせ『道具がないから･･･なの、ごめんねー』
なの『いえ、はかせが謝ることじゃありませんよ』

なの(相生さん、運動神経いいからかな)
なの(すごくきれいな体)
なの(いらない肉がない、整った体)
なの(机の上に縛り付けると、少しいやらしい)
なの(きっと、健康的な子宮のはず)

なの「･･･相生さん」
なの「どうして、あんなこと仰ったんですか？」
なの「『ロボだから妊娠できない』だなんて」
なの「私、傷ついたんですよ」
なの「だから、痛み分けです」
なの「相生さんなら笑って許してくださいますよね」
なの「私、普通の女の子になりたいんです」

なの(うまく取り出せた)
なの(血が･･･早く冷水に浸さなくちゃ)
なの(熱い･･･もしかして、生理直前だったのかな)
なの(クーラーボックスに入れて･･･ひとつ目)
なの(多くて困ることはない)
なの(･･････？)
なの(あった気がする)
なの(なんだっけ)

なの「まあいいや」

なの「これで、女の子になれるんだ」
なの(そうしたら、同じように授業を受けて、お昼を食べて、帰り道にパフェを食べても、何かおかしいところがあるのかな。ないよね)
なの(ねじはやっぱり外してもらえないかもしれないけど、それはいつでもいいや。はかせがかわいいって言ってくれるなら、そこまでいやでもないし)

なの「ふう」










なの「ふう」

阪元「おい、ガキ」
はかせ「なーにーさかもとー。今お絵かきしてるんだけど」
阪元「そんなことしてる場合か。娘のこと放っておいていいのかよ」
はかせ「えー、なんでー」
阪元「昨日、あいつが妊娠できないって、あっさり答えただろ」
はかせ「その通りだもん」
阪元「そうじゃなくて、そのあとのフォローが大事だろうが。あいつ、傷ついてたぜ」
はかせ「そんなばかなー」
阪元「お前は人の気持ちをもっと知れ」
はかせ「どうすれいばいの？」
阪元「そうだなあ、あいつに子供を作ってやるとか、もしくは形だけでも妊娠させてやったらどうだ。腹膨らます機能とか、できるだろう」
はかせ「うぬぬ･･･じゃあ、どれがいいかなのに聞こう」
阪元「それじゃだめだろ」

なの「ただいま帰りましたー」

阪元「お、噂をすれば」
はかせ「おかえりー！」

はかせ「なの、おかえりー」
なの「ただいまです」
阪元「おう、遅かったな、娘」
なの「すみません、すぐにご飯にしますね」
はかせ「うん！」
阪元「なんだ、元気じゃねえか」
なの「えっ？　何がですか？」
はかせ「ぷぷぷ、さかもと適当言ったー」
阪元「なんだと！　俺は心配して･･･」
なの「そうだ、あとでこのクーラーボックス使うんで、居間に運んでおきますね」
はかせ「何が入ってるのー？」
なの「ふふふ、秘密です」
はかせ「えーなのーなにー？　気になるー」
なの「ご飯のあとにしましょう」
はかせ「わーいご飯だー」





阪元「この匂い･･･」
阪元「まさか、な」




完

乙

こええよ

阪本な

乙。怖いよ

スレを横取りするような真似をして申し訳ありませんでした。
朝まで残っているといいですね。
あと、怖くてごめんなさい。
みなさんの子宮が健康でありますように、心から願っております。