1: 2011/09/21(水) 14:04:44.65 ID:yUu6sik10
尸魂界・技術開発局

マユリ「――『現世にて駐在任務にあたっていた死神が失踪』」

マユリ「『同時に霊圧の完全消滅が確認、その氏神の氏亡認定が下りた』」

マユリ「『先遣調査にあたった隠密機動の報告によれば、駐在地・見滝原市一帯において虚等の霊圧は確認されず』」

マユリ「『氏体も回収できなかったため氏因は不明』」

マユリ「『真相究明のために、十二番隊直轄組織・技術開発局による現地調査をここに命ずる』――」


マユリ「――面白いじゃないか」ニヤリ

4: 2011/09/21(水) 14:06:27.07 ID:yUu6sik10
~数日後~

尸魂界・技術開発局

研究室にて熱心にキーを叩くマユリ
扉を開け、ネムが入ってくる

ネム「お呼びでしょうか、マユリ様」

マユリ「ネム。例の死神変氏事件の資料は頭に叩き込んであるかネ?」

ネム「はい。現世駐在の任に――」

マユリ「誰が説明しろと言ったマヌケが
    お前が把握している程度の情報を私が知らないとでも思っているのかネ?」

ネム「……申し訳ありません、マユリ様」

マユリ「ふん、まぁいい
    それでだ、この件について我々技術開発局に対して調査命令が出されたのだが――」

マユリ「お前が行け、ネム
    現世へ行き、何かしらの手がかりを集めたらすぐ私に報告しろ、いいネ?」

5: 2011/09/21(水) 14:08:36.56 ID:yUu6sik10
ネム「了解しました。マユリ様ご自身は行かれないのですか…うっ!」

ゴスッ

マユリ「お前は私をイラつかせたいのかネ?
    私だってそうしたいのはやまやまだヨ!」

マユリ「だが生憎、隊長格の死神が現世へ行くには色々と手続きが必要でネ」

マユリ「ある程度の情報が集まって事態の見通しが立つまでは動こうにも動けないのだヨ」

マユリ「つまりお前の集めてきた情報を元に報告書の一つでもまとめれば、あとは詳細な調査が必要とでも理由をつけて私が直接現世へ行けるということだヨ」

ネム「……了解しました、マユリ様」

ネム「マユリ様が一刻も早く現世に赴けるよう、情報収集に尽力します」

7: 2011/09/21(水) 14:09:27.92 ID:yUu6sik10
マユリ「当然だヨ!
    さぁ、分かったらさっさと準備をしろウスノロ。穿界門の用意は既に整っているのだからネ」

ネム「はい、マユリ様。直ちに義骸の用意を――」

マユリ「必要ないヨ、そんなものは」

ネム「は?ですがマユリさ…ぐぅ!」

ゴスッ

マユリ「口応えをするんじゃないヨこの役立たずが!私は『必要ない』と言ってるのだヨ?」

ネム「……申し訳ありません、マユリ様」

ネム「直ちに現世・見滝原市に出発します」

8: 2011/09/21(水) 14:10:21.20 ID:yUu6sik10
現世・見滝原市 ~夕方~

マミ宅からの帰り道

さやか「魔法少女、かぁ…」

まどか「さやかちゃんは、どうする?」

さやか「んー、なんだかなぁ。何せ急な話だしねー」

さやか「いきなり魔法少女だの魔女だの言われたって、理解が追い付かないって言うかさー」

まどか「はは…そうだよね……」

10: 2011/09/21(水) 14:11:27.44 ID:yUu6sik10
さやか「どんな願いでも叶う、かぁ……いやー悩んじゃうよねぇー。億万長者に満漢全席!」

まどか「もぉ、さやかちゃんそればっかり」

さやか「あっ、絶世の美女になるってのもアリかもねー!あたしもマミさんみたいなグラマラスボディーになってさぁ」

さやか「ほら、あそこにいる美人さんみたいなスラッとしたきょぬーにも憧れるよねー」

まどか「ちょっ、さやかちゃん失礼だよ!」アワアワ

さやか「にしてもあの人凄い格好ね……何あのミニスカな和服は?改造?」

まどか「さやかちゃん!い、行くよ!」アセアセ

さやか「ちょっ、引っ張んないでって!もー、まどかは可愛いなぁ~!」


ネム「あの二人…私の姿が見えていた?」

11: 2011/09/21(水) 14:12:28.18 ID:yUu6sik10
見滝原市・マミ宅

紅茶を飲むマミ
傍らにはインキュベーター

マミ「キュゥべえ、あの娘たちを急かすようなことはしちゃダメよ?
   魔法少女になるかどうかは、あの娘たち自身が決断しなきゃいけないの」

QB『分かってるよマミ。ボクとしても契約を強要するような真似はできないしね』

QB『彼女たちが自分の意思で契約を決断してくれるよう、せいぜい勧誘を続けるとするよ』

マミ(でも正直に言えば、もしあの娘たちが魔法少女の後輩になってくれたら、私すごく――)

ゴゴゴゴ……!

QB『……この気配、マミ!』

マミ「――ええ、分かってるわ。まったく、今日は大漁ね――!」

QB(――待った、魔女以外にも妙な気配を感じるね。これはまさか――)

12: 2011/09/21(水) 14:13:42.83 ID:yUu6sik10
見滝原市・魔女空間inとある裏路地

無数に襲い来る《芸術家の魔女》の使い魔たち
それに白打で応戦しているネム

ネム「先ほどの少女たちが来た方向から感じた霊圧を調べようとしたところ――」

ブンッ

使い魔「ウォオオォォォーーー!!」シュウゥゥゥー

ネム「――この奇妙な空間に閉じ込められ、攻撃を仕掛けられた」シュッ

ネム「――虚とも死神とも異なる、この異様な霊圧」ウィイィィーンッ

使い魔「ウァアアァァァーーー!!」シュウゥゥゥー

ネム「この怪物たちは一体――?」バッ

使い魔たちに気を取られた一瞬の隙をついて、《芸術家の魔女》本体がネムに襲いかかる

魔女「ゲイジュツハバクハツダァァァーーー!!!」ゴォォォォーーー!!

ネム「くっ――!」


「ティロ・フィナーレ!!」

14: 2011/09/21(水) 14:15:16.49 ID:yUu6sik10
バアァァァーーーンッッッ!!!

ネム「――?」

一瞬でかき消される魔女と眷属たち
そして降り立つ一人の少女

マミ「――ふぅ、危ないところだったわね。ケガはないかしら?」

ネム「――あなたは?」(この霊圧は――始めに感じ取ったものと同じ――)

マミ(ふふ…本日二度目の自己紹介ね――)「初めまして。私は巴マミ――魔法少女よ」

ネム「魔法、少女――っ!」ダッ

マミ「えっ!?」

突然マミに向かって駆け出すネム
その右腕がドリルのように回転する

マミ「ちょっ、あなた――!」

15: 2011/09/21(水) 14:16:26.43 ID:yUu6sik10
身構えるマミの横をすり抜けて、背後からマミに掴み掛らんとしていた使い魔の生き残りをえぐり頃すネム

マミ「なっ!?」

ネム「――ご無事ですか?巴マミさん」

呆然としてネムを見るマミ

マミ「あなた――何者なの?」

ネム「護廷十三隊、十二番隊副隊長・涅ネム――死神です」

マミ「しに…がみ?」

17: 2011/09/21(水) 14:17:23.97 ID:yUu6sik10
見滝原市・マミ宅
興奮したように頬を上気させネムの話を聞くマミ

ネム「――以上が死神についての大雑把な説明になります」

マミ「――氏してなお、現世に留まりし迷える魂たち――」

マミ「失った胸の穴を埋めるべく、生者を貪り悲しみを糧とする虚――」

マミ「そんな哀れな魂たちを束ね、安寧へと導く魂の“調節者”――死神!」

ネム「…このような話を、いきなり信じろというのは難しいかもしれませんg」マミ「信じます!信じるに決まってるじゃない!」ギュッ

ネムの手を両手で握りしめ、眼を輝かせるマミ

18: 2011/09/21(水) 14:18:33.43 ID:yUu6sik10
ネム「……?」

マミ「そう、私たち魔法少女が生きる人々を魔女から守るように、あなたたち死神は氏した魂たちを虚から守っているのね!」

マミ「死神と魔法少女の邂逅……素晴らしいわ!
   こんなに素敵な出逢いを体験できるなんて!」

ネム「はぁ…?
   あの、申し訳ありませんが、こちらからも魔法少女というものについて伺ってもよろしいでしょうか?」

マミ「ええもちろんよ!答えられることなら何だって答えちゃうわ!
   あっ!そういえばまだお茶も出してなかったわね!ごめんなさい、私ったらつい舞い上がっちゃって――」ガタッ

ネム「あ、いえ、申し訳ありませんが今の私は義骸に入っていない霊体の状態ですので、残念ですがおもてなしを受けることは……」

マミ「あ…そ、そうだったわね、ごめんなさい……
   ――ゴホンッ!それじゃあ気を取り直して、今度は私から魔法少女について説明させていただくわね、涅さん」ニコッ

19: 2011/09/21(水) 14:20:23.01 ID:yUu6sik10
魔法少女や魔女、ソウルジェム、グリーフシードなどについての情報をマミから得たネム
マユリへの報告の為、マミ宅を後にする

マミ「もう行ってしまわれるのね…残念だわ、もっとゆっくりしていっても私は構わないのに」

ネム「申し訳ありません、私もマユリ様への報告をまとめなければなりませんので、今日のところはこれで失礼させて頂きます」

マミ「マユリ様…?」

ネム「はい。私の上官、十二番隊の隊長です」

マミ「ああ、隊長さんね!」(まゆりさん…かわいらしい名前ね。やっぱり涅さんみたいに綺麗な人なのかしら?)

マミ「そうよね…涅さんはお仕事で現世に来ているんだもの、無理を言っちゃだめよね」ショボン

ネム「……ありがとうございました、巴マミさん
   色々な情報を提供して頂いて――」

20: 2011/09/21(水) 14:21:20.96 ID:yUu6sik10
マミ「――そうだわ!明日も魔女退治をするつもりだけれど、もしよろしかったらご一緒してみない?」

ネム「……よろしいのですか?魔女との戦闘に、無関係な者が関わっては足手まといになるのでは――」

マミ「そんなことないわ!それにね、あなた以外にも魔法少女候補の後輩たちがついてくる予定なの
   だから足手まといとか、そんなの気にしないで。みんなまとめて私が守ってみせるから!」

ネム「わかりました。それではお言葉に甘えさせて頂きます
   ……それと」

マミ「?」

ネム「……いずれ義骸を用意したら、改めてこちらにお伺いしてもよろしいでしょうか?」

マミ「…!ええ、もちろん!」パァ!

マミ「最高のお茶とケーキを用意して待ってるわね!」ニッコリ

21: 2011/09/21(水) 14:22:41.77 ID:yUu6sik10
ーーーー
マミ「はぁ…まるで夢みたいだわ」ボォ…

ネムが帰り、ひとり紅茶を啜りながら考え事をするマミ
そこへ現れるインキュベーター

QB『来客がいたみたいだね』

マミ「あらキュゥべえ。もう、どこに行ってたの?
   せっかくあなたのことも紹介しようと思ったのに――」

QB『間が悪かったみたいだね、すまないよ
  ただ、こう見えてボクも色々と忙しい身なんでね、どうか許してくれないかな?』チラッ

マミ「――まぁ、いいわ
   うふふ、それよりキュゥべえ、お客さんが誰だったかわかる?」ワクワク

QB『……さてね、新手の魔法少女とかかな?』

マミ「ふふふ…残念でした、魔法少女じゃないわ
   でもすごい人って言う点は当ってるわね」

マミ「聞いて驚かないでよ、なんと“死神”が来たの!」ドヤッ

22: 2011/09/21(水) 14:24:02.00 ID:yUu6sik10
QB『……へぇ、それはすごいね
  まさか死神なんていう存在が実在していたなんて思いもしなかったよ』

マミ「でしょでしょ!?流石のキュゥべえも知らなかったわよね!
   しかも明日魔女退治に付き合ってくれることになったの!すごいと思わない!?」

QB『ああ、ほんとだそりゃすごいね』(やれやれ、すっかり舞い上がっちゃってるねこれは)

QB(それにしても…やっぱり死神だったか)

QB(参ったな、今までボクらの存在を奴らに知られないよう気を配ってきたのに)

QB(まぁいいや、今はひとまず向こうの出方を窺うとしようか――)

25: 2011/09/21(水) 14:25:36.44 ID:yUu6sik10
ーーーー
見滝原市・夜の公園
携帯型通信装置で尸魂界のマユリに連絡を取るネム

ネム「――以上です、マユリ様
   おそらくは駐在していた死神の変氏にも、魔女かそれに類する未知の存在が関係していると考えられます」

マユリ『…………』

ネム「直ちに今日交戦した魔女及び使い魔の霊圧サンプルを転送します」

マユリ『…………法少女』ボソッ

ネム「マユリ様?」

マユリ『魔法少女!魔法少女!魔法少女!!
    魔女!使い魔!ソウルジェム!グリーフシード!!』

マユリ『面白い、実に興味深い事象ばかりだヨ!』

マユリ『そうとなればグズグズしていられないネ!
    お前の送ってきた情報を元に、さっさと報告書をまとめて私も現世へ調査に向かうとしよう!』

マユリ『ネム!お前は明日も引き続き魔法少女とやらの調査に当たれ
    その巴マミとかいう魔法少女の動向を監視し、より詳細な戦闘データを取るんだヨ!』

26: 2011/09/21(水) 14:27:10.28 ID:yUu6sik10
ネム「了解しました、マユリ様
   ……それと」

マユリ『さぁて久々に忙しくなりそうだヨ!明日は早朝から隊首会を開いて……ん、なんだネ?
    まだ何か報告してない事項があるのかネ?』

ネム「いえ、そうではないのですが…あの、マユリ様、やはり義骸を送っては頂けないでしょうか?」

マユリ『――何故』

ネム「人間である巴マミと行動を共にする以上、こちらも霊体のままでは――」

マユリ『図に乗るんじゃないヨ屑が
    私はお前に『義骸は必要ない』と二度も言ったハズだ』

マユリ『お前は“人間”の相手をするワケじゃない、“魔法少女”と“魔女”の相手をするんだ
    ――全く、私は忙しいんだ余計な話で水を差すんじゃないよこ役立たずがァッ!!』ガチャッ


ネム「……申し訳ありません、マユリ様」

27: 2011/09/21(水) 14:28:39.14 ID:yUu6sik10
その夜は明け方近くまで、開発局長室から薄明りと共に猛烈な打鍵音が響き続けたという

28: 2011/09/21(水) 14:29:56.81 ID:yUu6sik10
翌日午後――
見滝原中学校・校門付近
校舎から連れだって歩く三つの影
巴マミ、鹿目まどか、美樹さやかの三人である

さやか「あっ、そういやあの白いやつ――キュゥべえは今日は一緒じゃないんですか?」

マミ「ええ、なんか最近忙しいみたい
   他の魔法少女候補でも見つけたのかしらね?」

まどか「――でも、ほんとによかったんですか?
    私たちなんかがついていったら、魔女退治の邪魔になっちゃうんじゃ……」

マミ「ふふ、みんなそればっかりね
   大丈夫、二人のことは私がしっかり守るわ」ニコッ

さやか「さっすがマミさん!頼りにしてますよー?」

まどか(みんな?)「ところでマミさん、もう一人一緒に魔法少女体験ツアーに来る人って誰なんですか?」

マミ「うふふ…きっと二人とも驚くわよ?――ほら、あの人よ」

29: 2011/09/21(水) 14:31:46.62 ID:yUu6sik10
まどか「あれ?あの人――」

ネム「……」ペコリ

さやか「あっ!昨日見かけたミニスカ和服の!」

まどか「ちょっ、さやかちゃん!?」

マミ「えっ?あなたたちあの人のこと知ってるの?」(うそ…まさか二人とも死神のこととっくに知って――!?)ガーン

まどか「あっ、いえ!たまたま昨日マミさん家から帰る途中で遠目に見かけただけで……!」

マミ「そ、そうなの…」ホッ

ネム「――お初にお目にかかります。護廷十三隊、十二番隊副隊長・涅ネムです」ペコリ

さやか「えっ、あっ!こちらこそ初めまして!見滝原中二年の美樹さやかです!」オジギッ

まどか「あ、お、同じく二年の鹿目まどかです!」オジギッ

さやか「……あ、あれ?ところでごてい…何たらってなんですか?」

マミ「ふふ、聞いて驚かないでね?
   ネムさんは氏者の魂を導く“調節者”――死神なのよ」ドヤッ

まどか・さやか「……しにがみ?」

31: 2011/09/21(水) 14:33:05.14 ID:yUu6sik10
ーーーー
ネムと合流し、街へと向かうまどかたちを、じっと見ている少女がひとり

ほむら「……あの女性は何者?今までの時間軸に、あんな人物は一度も出てこなかった」

ほむら「イレギュラーな存在――ひとまず様子を見る必要があるわね」ファサァ

32: 2011/09/21(水) 14:34:39.29 ID:yUu6sik10
見滝原市・工事現場付近

さやか「はぁー…なんていうか、魔法少女とか聞かされてたおかげで、『今度は死神かよ!』ってくらいの衝撃しか受けないわ、うん」

まどか「そうだね…割とすんなり受け入れられたっていうか、昨日から色んなことの連続で麻痺しちゃったっていうか」

マミ「そ、そうかしら?」(もっと興奮して舞い上がるかと思ったのに……意外にドライなのね二人とも)

ネム「……お二人とも、魔法少女候補だと聞きましたが?」(今のところ霊感のある人間という程度の霊圧しか感じない――)

さやか「あー、まぁそうみたいですねー
    ま、あたしたちはまだキュゥべえと契約するか決めたわけじゃないですけど」

ネム「キュゥべえ…契約によって魔法少女を生み出す存在、でしたね
   できれば一度お会いしたいのですが……」

マミ「ごめんなさい、最近キュゥべえなんだか忙しいみたいで。今日も誘ったのに来られなかったの」

まどか「そういえば今日は見てないね、キュゥべえ」

さやか「昨日マミさん家で話した時にはやたら熱心にあたしたちのこと勧誘してた癖にー!」

ネム(……キュゥべえは避けている?私のことを――あるいは死神のことを)

ゴゴゴゴ……!!

マミ「――お喋りの続きはまた後にしましょうか
   どうやら現れたみたいね――!」

33: 2011/09/21(水) 14:37:01.60 ID:yUu6sik10
魔女空間in工事現場
出現した《薔薇園の魔女》ゲルトルートと交戦する魔法少女・マミ
ネムはまどか、さやかと共にそれを見守っている

さやか「うわ…アイツ、昨日マミさんが倒した奴より強いかも……!
    ――がんばれー!マミさーん!」

マミ「ありがとう美樹さん――!」

バンッ!バンッ!バンッ!
ポイッポイッポイッ

マミ「――この魔女、手強いわね
   昨日二人を襲った使い魔はもちろん、涅さんを襲った魔女よりも――!」ブンッ

魔女「バラバラバラバラバラバラバラバラ」ゴォォォーー!

34: 2011/09/21(水) 14:38:26.68 ID:yUu6sik10
まどか「マミさん……!」ハラハラ

さやか「大丈夫――マミさんならきっと勝ってくれるはずだよ――!」ソワソワ

ネム(今回は魔法少女の戦闘データを詳細に取るよう命じられている――)

ネム(――従って私自身が巴マミに加勢することは許されない)


ほむら(何をやってるのよ巴マミ――!
    この程度の魔女、いつもならもっと簡単に――)

ゴゴゴゴ……!!

ほむら(この気配、新手の魔女!?場所はゲームセンター近くの裏路地――いや、既に他の魔法少女が向かってるみたいね)

ほむら「仕方ないわね――このままじゃまどかたちにも危険が及びそうだし、今回は巴マミに加勢するとしましょう」ファサァ

35: 2011/09/21(水) 14:42:07.65 ID:yUu6sik10
無論、魔女と交戦中のマミも、別の場所で魔女が出現したのに気づいていた
しかし、予想以上に激しいゲルトルートの猛攻に追い詰められ、そちらまで気が回らない

マミ「――ゲームセンターの辺りかしら?」

バンッ!バンッ!
ポイッポイッ

マミ「――もう、いい加減にしてよね――!」

バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
ポイッポイッポイッポイッ

魔女「アカバラシロバラマボロシノアオイバラ」グゥオォォォーーー!!

マミ「まだ倒れないの!?ほんとにしぶと――」

ヒュン

ドォオオォォォーーーンッ!!!」

魔女「ッッッ!!??」グラリ…

マミ「え――?」

36: 2011/09/21(水) 14:43:39.91 ID:yUu6sik10
スタッ…

ほむら「しっかりしなさい、巴マミ」ファサァ

マミ「あなた、昨日の――!」

ほむら「今は争ってる場合じゃないわ
    鹿目まどかたちに危険が及ぶ前に、さっさとあの魔女を倒すわよ――」サッ

マミ「――そうね、今はあなたと共闘した方がよさそう――!」サッ


さやか「あっ!あいつまた――!」

まどか「ほむらちゃん……!」

さやか「さてはマミさんの獲物を横取りする気ね!」

まどか「で、でもさやかちゃん!今は二人が協力して戦った方がいいよ……!!」

さやか「ぬうぅ~!確かにそうだけどぉ~!」

ネム(あれは――新手の魔法少女?それにこの霊圧、他の場所でも魔女と魔法少女が交戦を――)

37: 2011/09/21(水) 14:44:54.26 ID:yUu6sik10
ザ…ザザ…ピッ

マユリ『お前如きが心配せずとも、もう一方の魔女の出現場所は既に把握しているヨ』ザーザー…

ネム「! マユリ様――」ボソッ

マユリ『余計なことは気にするんじゃないヨ。お前は黙って巴マミの戦闘データを取っていればいいのだからネ』ガチャッ

ネム「……はい、マユリ様」ボソッ

まどか「え?ネムさん、今何か言いました?」

ネム「……いえ、何も」

さやか「あっ――!」

38: 2011/09/21(水) 14:46:17.29 ID:yUu6sik10
ほむら「私が奴の注意をそらすわ
    あなたはとどめの一撃に強力なのを叩き込んでちょうだい――!」バッ

マミ「私の顔を立ててくれるつもり?――ふふ、それじゃあ遠慮なく――!」ピョンッ

魔女の周囲に手榴弾を投げこみ、次々に爆発させていくほむら
ゲルトルートがそちらに気を取られた瞬間、上空から大筒を構えたマミが――!

ほむら「今よ!巴マミ!!」


マミ「ティロ・フィナーレ!!」

バアァァァーーーンッッッ!!!

まどか「…やった」

さやか「魔女を倒した――!」

ネム「…………」

39: 2011/09/21(水) 14:47:51.60 ID:yUu6sik10
消滅する魔女空間
マミはグリーフシードを拾うと、何も言わず去ろうとするほむらを呼び止める

マミ「これはあなたのものよ……今回はあなたに助けられちゃったわね、暁美さん」

ほむら「……必要ないわ。私は後からきて少し手を貸しただけよ
    最初から戦っていたあなたの方が魔力の消費も激しいでしょう?素直に取っときなさい」ファサァ

マミ「……ありがとう。それじゃ、お言葉に甘えて――」

グリーフシードをソウルジェムに近づけるマミ
見る見るうちにソウルジェムの穢れが移っていく

ネム(あれが魔法少女の“穢れ”――)ジー…

まどか「マミさん、ほむらちゃん!大丈夫ですか!?」アタフタ

さやか「二人ともお疲れさま――って、あんたもう行くの?」

ほむら「――ええ。他の場所でも魔法少女が戦ってるみたいだから、一応そちらの様子を見に行くわ」スタスタ

40: 2011/09/21(水) 14:49:21.88 ID:yUu6sik10
マミ「待って暁美さん
   ――助けてくれて、ありがとう!」ニッコリ

さやか「転校生!――あたし、あんたのことちょっと見直したかも
    昨日あんたがなんでキュゥべえのこと襲ってたのかは知らないけど――」

さやか「少なくてもあんたは意味もなく動物虐待したり、他人の手柄を横取りするような奴じゃないって、わかった気がする」

さやか「だからその…昨日は色々ごめん!それと、マミさんを助けてくれたこと、あたしからもお礼言うよ!」

まどか「わ、私も!ほむらちゃんのこと誤解してたかも…
    だから、えーと――!」

ほむら「――ありがとう、みんな」サッ

まどか「あ…行っちゃった」

さやか「はぁ…クールなのは変わんないねー」ヤレヤレ

ネム「……今の魔法少女は、皆さんのお知り合いですか?」

41: 2011/09/21(水) 14:51:00.47 ID:yUu6sik10
ーーーー
マミたちがゲルトルートを倒す少し前、もう一つの戦いも終わろうとしていた

魔女空間inゲーセン裏路地
《鳥かごの魔女》を追い詰めているのは――

杏子「――これでトドメだっ!!」ブンッ

魔女「ワタシハショセントリカゴノナカノコトリーーー!!!」

ドォオオォォォーーーンッ!!!

杏子「ふぅ――いっちょあがり、ってか」スタッ

槍を担いで地面に降り立つ魔法少女・佐倉杏子
主を倒され逃げ惑う使い魔たちを適当にあしらい追い払う

使い魔「ピーチクパーチクピーチクパーチク!!」アタフタアタフタ

杏子「ほらほら、とっとと失せろー!今なら見逃してやるぞー?」ブンブン

残っていた使い魔も全ていなくなると、魔女空間が消滅し元の路地に戻る
すると――

「ホゥ、使い魔たちは始末しないのかネ?」

43: 2011/09/21(水) 14:53:17.43 ID:yUu6sik10
杏子「なっ――!?」バッ

飛び退る杏子
見ると、先ほどまで背にしていた壁の表面が剥がれ落ち、『何か』が浮かび上がってくるではないか!

杏子「――なんだてめぇは――!」

「さて、キミに名乗ったところで意味があるとは思えないがネ――まあいい」


「十二番隊隊長及び技術開発局二代目局長・涅マユリ――」


杏子「――よくわかんねーけど、魔女じゃねーみてーだな」

警戒を緩めない杏子
武器も仕舞わず、いつでも動けるように構えている

44: 2011/09/21(水) 14:55:50.63 ID:yUu6sik10
杏子「にしても、壁から湧いてくるなんてアンタ一体ナニモンだよ?
   アタシに何か用があって来たのかい?」

マユリ「ああ、別にキミ個人に用があったわけじゃないのだがネ
    ただ、たまたま最初に接触した魔法少女がキミだったというだけの話だ」

杏子「あ?」

マユリ「要するに、私は魔法少女や魔女について研究するためにこの街へやって来たのだヨ」

杏子「研究?科学者かなんかってことか――?」

マユリ「思ったよりも理解が早いじゃないか。感心感心」

杏子「喧嘩売ってんのか」

マユリ「まぁ待ち給え。それよりも、魔法少女であるキミに話があるのだが?」

杏子「――ふん。まあいいさ。魔女じゃねーならひとまず敵じゃねーし
   聞くだけ聞いてやるよ、話ってのはなんだい?」

マユリ「フム、話がわかるじゃないか
    それではこちらも単刀直入に言おうか――」


マユリ「どうだネ女?私のもとで研究体として働く気はないかネ?」

46: 2011/09/21(水) 14:58:16.29 ID:yUu6sik10
杏子「……は?」

マユリ「もちろんタダでとは言わないヨ。最高級の待遇で迎えようじゃないか
    安心し給え、私は女性には優しいのだヨ」

杏子「いやちょっと待て。そもそも研究体ってなん――」

マユリ「薬物投与は一日八回」

杏子「――っ!?」

マユリ「機械実験は五時間までとしよう」

杏子「ちょっ、待ておい」

マユリ「食事も経口で与えるし、睡眠時には衣服も与えよう」

杏子「だから――!」

マユリ「改造だって氏ぬようなことまでしないよう極力努力するヨ?」

杏子「…………」

マユリ「どうだネ?研究体としては破格の申し出だと思うのだがネ」ズイッ

杏子「……悪い、さっきのは取り消しだ」スチャ…

47: 2011/09/21(水) 15:00:29.51 ID:yUu6sik10
杏子「アンタ、魔女じゃないみたいだけど、どう見ても敵だわ――!」グッ

手にした槍を大きく振るう杏子
槍は空中で連結棍の如く分離し、まるで鞭のようにしなりながらマユリに叩きつけられる

ドォオオォォォーーーン!!!

杏子「へっ――なっ!?」ハッ

ところが、気が付くとマユリは杏子の後方に移動しているではないか!

マユリ「フム、なかなかの威力だネ。槍自体の破壊力もさることながら、使い手の技術も大したものだ――」

杏子「てめぇいつの間に――!」ブンッ

ヒュンッ
ドォオオーーン!!

マユリ「確かキミたちは“魔力”とやらで身体能力を強化させているのだったネ?
    それに加えキミには魔法少女としての十分な実戦経験も備わっているようだ――」ヒュンッ

ドォオオーーン!!

マユリ「攻撃範囲も広く、速度も申し分ない。まぁ、流石に瞬歩の速度には反応しきれないようだが――」

48: 2011/09/21(水) 15:03:00.55 ID:yUu6sik10
杏子「くそっ――ちょこまかすんじゃねぇ!」ブンッ

ヒュンッ
ドゴォオオォォーーーン!!!

マユリ「フゥム、しかしいささか面倒だネ。瞬歩というものはとても疲れるのだヨ――」

杏子「ハァ…ハァ…ごちゃごちゃウゼェんだよ変態オヤジ!」(さっきからなんだよあの動きは!?瞬間移動みてーに出たり消えたりしやがって――!)

マユリ「仕方がない、できれば完品の状態で持ち帰りたいところだったのだがネ――」スッ…カチャッ

杏子(刀の柄を握りやがった!やっぱりあの刀が武器か!)「へっ!ワケわかんねーナリの割には武器は古風じゃねーか――!」グッ

マユリ「――手足の一、二本も潰せば、おとなしくなるだろう」カチャッ、スゥゥゥー…

言って、刀を引き抜くマユリ――
槍を構え直し、マユリの出方を窺う杏子――

その時である

「そのくらいにしておきなさい、佐倉杏子――」

49: 2011/09/21(水) 15:05:08.54 ID:yUu6sik10
杏子「あぁっ――!?」

マユリ「……?」

いつの間にか、二人の間には一人の少女が出現している

杏子「なんだてめぇは!?新手の魔法少女か!?」(こいつ、なんでアタシの名前を――!?)

ほむら「――この場はひとまず退いて、佐倉杏子。私はこの男に話があるの」

杏子「はっ、いきなり湧いて出て何勝手なこと言ってやがんだ!てめぇそいつの仲間か!?」

ほむら「違うわ。私はただ、この男が何者なのか確かめに来ただけ――
    あなたには別に、この男と戦う理由はないのでしょう?」

杏子「そ、そりゃまぁ――」

ほむら「魔女と戦ったばかりだというのに、この上正体不明の不審者相手に無駄な魔力を使うのは賢明じゃないと思うけど?」

杏子「――ちっ、わかったよ
   そのかわり、次に会った時にはそいつやアンタの正体についてたっぷり聞かせてもらうからな――!」ダッ

武装を解除し、あっという間にその場を去る杏子
後に残ったのは、無表情でマユリを睨むほむらと、興味深そうにほむらを観察するマユリだけである

50: 2011/09/21(水) 15:07:13.22 ID:yUu6sik10
先に口を開いたのはマユリであった

マユリ「――今のがキミの能力かネ?」

ほむら「――何のことかしら」

マユリ「シラを切るのは止め給えヨ。今のは瞬歩や飛簾脚のような高速歩法術の類ではない」

ほむら(……!)

マユリ「時間か、あるいは空間に直接作用するタイプの高等技術だ――違うかネ?」ニヤニヤ

ほむら(こいつ――!)「――さぁ、どうかしら」ファサァ

マユリ「フム、いや面白い
    で?あの小娘を逃がして、代わりにここへ残ったということは、キミが実験材料になってくれるのかネ?」

ほむら「生憎、そのつもりはないわ。ただ――」

マユリ「タダ?」

ほむら「――あなたと協力関係を築きたいとは思っているわ
    ひと月後にこの街へ襲来する“ワルプルギスの夜”との戦いに備えて、ね」

マユリ「ホゥ……?」カクッ

興味深そうにそう呟いて、マユリはカクッと首を傾けるのだった

52: 2011/09/21(水) 15:10:26.20 ID:yUu6sik10
ーーーー
マユリ「――成程、要するに規格外の魔女が出現するのに備えて、我々死神の力を利用したいというわけだネ?」

ほむら「端的に言えばそうなるわね」

ほむら(それにしても、まさか死神とはね……魔法少女以外にもこんなわけのわからない存在がいたなんて)

ほむら「魔法少女や魔女について、私は他の魔法少女たちよりもずっと精通している
    だから、あなたの研究についてできる限りの情報提供はするつもりよ」

マユリ「――さて、それだけなら私にメリットはさほどないのだがネ
    わざわざキミと協力体制を取らなくとも、ここでキミを生け捕りにすれば済む話だろう?」ニヤニヤ

ほむら「――キュゥべえ」

マユリ「ん?」カクッ

ほむら「少女たちと契約を結んで魔法少女にする存在――インキュベーターのことよ」

53: 2011/09/21(水) 15:12:54.61 ID:yUu6sik10
ほむら「奴は、ある少女に目をつけているわ
けれど今日になってから、いつもならしつこくその娘に契約を迫るそいつが一度も姿を現していない」

マユリ「ホゥ…で?」

ほむら「そしてその娘は今日、巴マミという魔法少女と行動を共にしていた――」

マユリ「――フム、その名前は聞いているヨ。巴マミとやらには今、ネムを付かせている
    どうやらそのインキュベーターとやらは、死神との接触を避けようとしている、というワケかネ?」

ほむら「ええ、おそらくは」(やっぱり今日まどかたちと一緒にいたのは死神だったようね)

ほむら(この男が羽織の下に着ている和装束があの女性の服と似ていたから、当りをつけてはいたけれど――)

ほむら「奴は狡猾で、かつ慎重よ
    そう簡単にはあなたたちに見つかるような下手は打たないはず」

マユリ「それはつまり、インキュベーターの捕獲にキミが手を貸す、ということかネ?」

ほむら「そういうこと。少なくとも私があなたに協力しようとしていることの証明にはなるんじゃないかしら?」ファサァ

マユリ「――おもしろいじゃないか」ニヤリ

54: 2011/09/21(水) 15:14:43.82 ID:yUu6sik10
時間は少し遡り、ほむらが去った後の工事現場――
肩を落とすマミを慰めながら、帰路につくまどかたち一行

マミ「……今日はみんなにみっともないところを見せちゃったわね」ハァ…

さやか「そ、そんなことないですよ!マミさんめっちゃかっこよかったですって!ねっ、まどか?」アセアセ

まどか「う、うん!マミさんが一生懸命戦ってたの、私ちゃんとわかりましたよ!」アワアワ

ネム「今回対峙した魔女は、昨日私が交戦した個体よりも強力でした
   長期戦になりながらも大したダメージもなく、よく戦い抜けたと思います」

マミ「……なんだかみんなに気を使わせちゃってるみたいね、ごめんなさい」

マミ「決めたわ。明日は魔法少女体験ツアーはお休みにしましょう」

さやか「えっ!でも、マミさん、あたしたちならほんと気にしないで――」

マミ「ううん、そうじゃないの」

56: 2011/09/21(水) 15:16:04.10 ID:yUu6sik10
マミ「魔法少女体験ツアーとか、ベテラン魔法少女とか、私ちょっと天狗になってたみたい」

マミ「確かに今日の魔女は手強かったけれど、落ち着いて堅実に戦っていれば私ひとりでも対処できたと思うの」

マミ「こんな調子じゃ、わざわざ魔女空間まで入り込んでもらってまで戦いに付き合ってくれてるみんなを、守り切れる保証もないもの」

マミ「だからね、少し自分の戦い方を見直してみようと思うの」

穏やかな口調ながら、決然と言い切るマミ

さやか「マミさん……わかりました。けどあたし、またマミさんの戦いが見られる時が来るの、楽しみに待ってますから!」グッ

まどか「私も!マミさんならすぐにスランプなんて乗り越えちゃうと思います!」グッ

マミ「ありがとう、二人とも……!
   ――ごめんなさいね涅さん。魔法少女の戦いを見せてあげるだなんて偉そうなことを言っていながら――」

ネム「こちらこそ、無理を承知で同行させて頂き、ありがとうございました」ペコリ

57: 2011/09/21(水) 15:17:24.71 ID:yUu6sik10
ーーーー
マミ「それじゃあ鹿目さん、美樹さん、涅さん。さようなら」バイバイ

まどかたちに手を振り、マンションに入っていくマミ
まどかとさやかも手を振り返す

さやか「さーて、あたしたちも帰りますか!」

まどか「そうだね。あ、えーっと…ネムさんはどうされるんですか?」

ネム「……せっかくですから、お二人をご自宅までお送りします」

まどか「えっ、でもそんな、悪いですよ。死神のお仕事もあるんでしょう?」

ネム「いえ、構いません。それに、魔法少女候補としてお二人からも少しお話を伺いたいと思っていましたので」

さやか「はいはーい!あたしも死神について色々聞きたいでーす!」

まどか「ティヒヒ…それじゃ、歩きながらお話しましょうか」

58: 2011/09/21(水) 15:20:18.90 ID:yUu6sik10
ーーーー
さやか「……護廷十三隊に隠密機動に鬼道衆、技術開発局、中央…えーと、四十六室に、王族特務だっけ?」

さやか「ひゃあ~ダメだぁ~!複雑ってか規模がでかすぎてわかんない~!」

まどか「すごいんですね…氏んじゃった後の世界にもちゃんとそういう組織とか、社会みたいなものがあるなんて……」

ネム「尸魂界と現世とは輪廻によって連関した表裏一体の世界ですので
   現世に法や社会があるように、尸魂界も掟によって管理されなければなりません」

さやか「はー、氏後の世界ってもっとのんきなもんかと思ってのになー。一日中お花畑をふわふわしながら酒盛りしてるみたいなさー」

まどか「完璧に極楽のイメージだねそれ…」

ネム「……ところで話は変わりますが、お二人は既に契約の願いとやらを決めているのですか?」

まどか・さやか「!」

まどか「えと…私はまだ…かな」

さやか「あたしも…まだはっきりとは」

まどか「なんていうか…叶ったら嬉しいなっていうぐらいの願い事なら思いつくんですけど…」

さやか「……今日のマミさんの戦いを見てても思ったけど、やっぱあんな化け物の相手をずっとしていかなきゃならないと思うと…ね?」

ネム「なるほど…っ!?」ハッ

ネム(この霊圧は――マユリ様!)

59: 2011/09/21(水) 15:22:07.67 ID:yUu6sik10
まどか「ネ、ネムさん?どうかしたんですか……?」オロオロ

ネム「マユリ様――私の上官が現世に到着しているようです」

さやか「まゆり様?なんか『隊長』って役職に似つかわしくないかわいらしい名前ですねー!
    ネムさんの上司ってことは、やっぱりスペシャルぼでーの持ち主なんですかー?」ニヤニヤ

まどか「ちょっ、さやかちゃん失礼だよ!」カァー

ネム(スペシャル……?)「……確かに少々特殊な身体の持ち主ですが」

さやか「やっぱり!?」(スレンダーきょぬーのネムさんから見て『特殊』って、どんだけわがままぼでーなのよ!?)

ネム「申し訳ありません。ご自宅までと言いましたが、報告事項等がありますので一刻も早くマユリ様のもとへ行かねばなりません――」

さやか「ハッ!いやいやいやとんでもない!こちらこそわざわざ付き合わせちゃってすいませんでした!」オジギッ

まどか「あっ!あの、色々お話聞かせてもらってありがとうございました!お仕事頑張ってください!」オジギッ

ネム「礼には及びません――それでは失礼します」ヒュンッ

まどか「あ…消えた……」

さやか「さすが死神……!」


ネム(わずかながら霊圧が上昇している――交戦状態にあるということでしょうか――?)シュタタタタ…

60: 2011/09/21(水) 15:25:39.45 ID:yUu6sik10
ーーーー
マユリ「――面白い!実に面白いヨ!」

マユリ「ソウルジェムに溜まった穢れがやがて魂を変容させ、魔法少女を魔女へと変える――」

マユリ「その際に生じる絶望の感情をエネルギーとして回収するとはネ!その技術ぜひとも調べてみたいものだヨ!」

ほむら「――技術云々に関しては私にはわからないわ。インキュベーターを捕まえてからじっくり聞き出すことね」

マユリ「そうさせてもらうとしよう!さて、そうとなれば早速インキュベーター捕獲の準備を――いいところに来たじゃないか」

シュタッ

ネム「お疲れ様です、マユリ様」カシズキ

マユリ「ネム、明日は美樹さやかとやらに付け。そいつのもとにインキュベーターが出現しないか見張るんだヨ」

ネム「インキュベーターが、ですか?それに、そちらの方は確か……」

ほむら「暁美ほむらよ。あなたの隊長さんと協力体制を取らせてもらうことになったわ
    よろしくね、涅ネム」ファサァ

ネム「……よろしくお願いします、暁美ほむらさん」ペコリ

61: 2011/09/21(水) 15:27:39.52 ID:yUu6sik10
マユリ「さてネム、お前が採取してきた巴マミの戦闘データを見せるんだヨ」

ネム「はい、マユリ様。こちらに…ところで、死神変氏事件については何か――」

マユリ「ああ、そちらも大方の予想はついているヨ。状況からみて、魔女に殺されたとしか考えられない」ピッ

ネムから受け取ったデータをチェックしながら、淡々と語るマユリ

マユリ「お前が昨日送ってきたデータによれば、魔女の霊圧は非常に特殊なようだ――実際にその出現場所、『魔女空間』とやらに近づかなければ探知されないほどにネ」ジー

マユリ「そして魔女空間は一度消失すればその痕跡すらほとんど残らない――結果、虚の襲撃情報も霊圧痕跡もない変氏事件が完成したというだけの話だヨ」ジー

マユリ「ま、これに関してはもう一つ仮説もあるのだが、そちらも明日になればはっきりするだろう――フム、お前にしては上出来だ」ピッ

チェックが済むとマユリは、懐から何かの装置と種子のようなものを取り出し、ネムに押し付ける

マユリ「佐倉杏子の戦闘データと暁美ほむらから提供されたグリーフシードだ
    巴マミのデータと一緒にこれを尸魂界に転送しておけ。局の連中に大至急精密調査をするよう命じるんだヨ」

ネム「はい、マユリ様」

62: 2011/09/21(水) 15:31:06.57 ID:yUu6sik10
マユリ「ああそうだ、ついでにお前用の義骸を送るよう伝えておけ」

ネム「……!」ハッ

マユリ「魔法少女でない美樹さやかと行動を共にする以上、義骸に入っていた方が何かと都合がいいからネ」

ネム「はい、マユリ様……!」

マユリ(――それにもうコイツを霊体のまま泳がせる必要もないだろう)

マユリ(限定霊印を施されているとはいえ、副隊長格の死神が義骸にも入らず昨日から活動していて、虚の出現する気配もない――)

マユリ「――追加だ、見滝原市一帯の過去の駐在報告書の内容を確認することも命じておけ」


ほむら(どうにか協力を取り付けることには成功したけれど――)

ほむら(涅マユリ――どうにも信用しきれないわね)

ほむら(けど、構わないわ。どうせ向こうも私を本気で信用したわけじゃないでしょうし)

ほむら(せっかくイレギュラーな存在が現れたのだから――せいぜい利用しきってみせる)

ほむら(今度こそまどかを――救うためにも!)

65: 2011/09/21(水) 15:33:36.75 ID:yUu6sik10
ーーーー
その晩―
尸魂界・技術開発局

采絵「ふんふん、なかなか興味深い」ジロジロ

阿近「グリーフシードっつったか?まぁいい、とりあえず調べてみるか」シゲシゲ


鵯洲「すげー霊圧の波形だ!死神のモンとも破面のモンとも違ぇ!」ギョロギョロ

爺の局員「ほうほう大量に銃器が…ほぉ!?大筒が出現したぞ!」テラテラ

パンダみたいな局員「この『ティロ・フィナーレ』という言葉が鍵なのか?斬魄刀の解号みたいなものか?」ブツブツ


おさげ眼鏡「ひぃ~んあたし義骸製作部なのにぃ~」ナミダメ

リン「し、仕方ありませんよ!みんな資料漁りなんてやりたがらないですし……」アセフキフキ

おさげ眼鏡「うぅ…こんなにたくさん明日の夕方までに読み切れるわけないよぉ……」ガックシ

リン「と、とにかく頑張りましょう!やらないと局長に解剖されますよ!」アワアワ

66: 2011/09/21(水) 15:35:11.72 ID:yUu6sik10
ーーーー
翌日―
現世・見滝原中学校

まどか「さやかちゃん今日はどうするの?」

さやか「あー、あたし今日は病院行くわ」

まどか「ティヒヒ、上条君だね!」

さやか「あはは…まぁね////」

まどか「そっかぁ……あ、ね、ねぇほむらちゃん!よかったらその、一緒に帰らない?」モジモジ

ほむら「――ごめんなさい、今日はちょっと用事があるから」スタッ

まどか「あ…」

さやか「やっぱしクールだねぇ転校生は
    そんじゃまどか、また明日ね~!」バイバイ

まどか「うん、さようならさやかちゃん!」バイバイ

68: 2011/09/21(水) 15:37:41.84 ID:yUu6sik10
ーーーー
マミ「さて…いつまでも落ち込んじゃいられないわね
   今日も魔女退治に――あら?」

マミ「――昨日はありがとう。えっと…」

ほむら「――暁美ほむらよ」ファサァ

マミ「そうそう、暁美さんね。それで、わざわざ三年生の教室まで来てどうしたの?
   あなたとわたしなら念話でもお話できると思うけど……」

ほむら「どうしても直接話しておきたいことがあるの
    魔法少女のことについて――屋上で話したいのだけれど」

マミ「あらあら、後輩から屋上に呼び出しされるなんて思ってもみなかったわ」フフフ

ほむら(もう失敗はできない――)

ほむら(せっかく死神というイレギュラーな戦力が手に入ったのだから、魔法少女側も最大限戦力を固めておかないと――)

ほむら(――信じてもらえるかわからない。それでも、今回は最初からきちんと巴マミに話しておかなければ――)

ほむら(魔法少女の――真実について)

69: 2011/09/21(水) 15:39:11.99 ID:yUu6sik10
ーーーー
見滝原中学校・校門付近

さやか「あっ…!」

ネム「……こんにちは、美樹さやかさん」ペコリ

さやか「あっ、こんにちはネムさん!……えーと、マミさんに用事ですか?」

ネム「いえ、今日はあなたに用があって参りました」

さやか「あ、あたしにっ!?で、でもあたし、今日はこれから知り合いの見舞いに……」

ネム「……もし迷惑でなければ、ご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」

さやか「は、はいぃっ!?」

70: 2011/09/21(水) 15:41:29.41 ID:yUu6sik10
ーーーー
見滝原市・ショッピングセンター近くの路地裏

まどか「仁美ちゃんもおけいこ事があるみたいだし、今日は久しぶりにひとりか……」トボトボ


QB(ふぅ、ようやく邪魔者が全員消えてくれたようだね)

QB(いくら死神との接触を避けるためとはいえ、ずっと隠れっぱなしで営業ができないんじゃ本末転倒さ)

QB(このチャンスを逃す手はない――!)『まどか!おつかれさま!』

まどか「わっ!キュ、キュゥべえ……!」

QB『ごめんねまどか、ちょっと最近忙しくてね、キミに会いに行く余裕もなかったんだ』

まどか「そうなんだ、キュゥべえもいろいろ大変なんだね……」

QB『ところでまどか、叶えたい願いは決まったかい?』

まどか「えっ…あ、ううん…ごめんね、まだぼんやりとしててちゃんと決まってないの……」

QB(だと思ったよ。けど今日のボクはそう簡単には引き下がらないよ――)『何か悩んでいることはないかい?ボクでよければ相談に乗るよ!』

まどか「うーん…願い事で悩んでるって言うよりは、やっぱりあんな魔女たちと戦うのが怖いって感じ、かな……」

まどか「昨日マミさんが戦った魔女も強かったし、あんなにベテランの魔法少女でも一歩間違えば命を落としかねないんだ、って思うとね……」

QB(全く、マミはこの娘の前で醜態を晒したのか。やれやれ――)『心配は無用だよ、鹿目まどか。キミの才能は桁違いだ』

71: 2011/09/21(水) 15:45:02.17 ID:yUu6sik10
まどか「え……?」

QB『キミには類稀な魔法少女の素質が宿っているんだよまどか。それこそあのほむらという少女やマミなんか優に超越するほどの素質が――』

まどか「うそ…だよね?あはは、やだなキュゥべえ…私にそんなすごい才能なんて……」

QB『嘘なんかじゃないさ、全て本当のことだよまどか。キミが魔法少女になれば恐れるものは何もない。どんな魔女だって一捻りだ』

QB『マミだってずっと独りで戦い続けてきたけど、もしキミが一緒に戦えば最高のコンビになれるはずだよ』

まどか「わ、私が――?」

QB『家族も友達も、キミの大切なもの全てを恐ろしい魔女から守り抜く力が、キミには眠っている――!』

まどか「みんなを、守る――」

QB『だからまどか――』

QB『ボクと契約して魔法少女に』


「待って!鹿目さん!!」


まどか「えっ――」

QB『きゅっぷい?』(この声はまさか――!)

まどか「マミさんと……ほむらちゃん?」

72: 2011/09/21(水) 15:47:02.52 ID:yUu6sik10
マミ「鹿目さん、ちゃんと考えてから決断してねって、約束したでしょう――?」ハァ…ハァ…

ほむら「……」ギロッ

QB(随分険しい顔で睨んでくるね――)『――マミ、そんなに急いでどうしたんだい?』

QB『まどかには素晴らしい才能がある
  そう言ったらまどかは、自分の大切なものたちを守るためなら戦えるかもしれないって、決心してくれたんだ。そうだろうまどか?』

まどか「えっ、あ…その……」オロオロ

QB『大体どうしてマミがその娘と一緒にいるんだい?てっきりキミたちは敵対関係にあるのだと――』

マミ「ねえキュゥべえ、訊きたいことがあるの
   ソウルジェムに限界まで穢れが溜まるとどうなるの?」ズイッ

QB『――なんだい藪から棒に。どうして急にそんなことを』

マミ「答えて。あなたは契約した相手に嘘は吐かない決まりなんでしょう?」

QB『……その様子じゃもう知ってるんじゃないかな』ハァ…

73: 2011/09/21(水) 15:49:38.29 ID:yUu6sik10
マミ「……!じゃあやっぱり――!」サァッ…

ほむら「穢れを溜めた魔法少女はやがて魔女になる――」

まどか「えっ――!?」

ほむら「そしてソウルジェムに魂を封印された魔法少女は、肉体にいくら傷を負ってもゾンビのように戦い続けられる――そうだったわね?」ファサァ

QB『はてさて、なぜキミがそれを知っているのか、ボクとしてはそっちが気になるんだけどね――』

まどか「そんな…本当なのキュゥべえ!?」

マミ「ひどい…ひどいわキュゥべえ……!本当に私を…騙してたのね……!
   あなたを、お友達だと思ってたのにっ……!!」ナミダメ

QB『心外だなマミ。ボクは騙してなんかいないよ
  ソウルジェムや魔法少女の末路については、特に聞かれなかったからあえてこちらも何も言わなかっただけで――」

マミ「もういいっ!もうたくさんよっ!!」

ほむら「鹿目まどか、わかったでしょう?そいつは願いを叶えてくれる夢の国の妖精なんかじゃない
    私たちを魔女と戦わせる駒としか見ていない害獣なのよ――!」

まどか「ほむらちゃん――マミさん――!」

QB『随分な物言いだね。ボクはちゃんとした契約を結んで――』

74: 2011/09/21(水) 15:50:39.63 ID:yUu6sik10
バキュン

マミ「ハァ…ハァ…!」フルフル

まどか「マミさん――!」

ほむら「――大丈夫よ巴マミ。あなたはもうひとりじゃない」ダキッ

マミ「う…うぅ…!あ、暁美さん……!わたし……!!」ブワァ

ほむら「大丈夫、大丈夫だから――!
    ――鹿目まどか」

まどか「ほ、ほむらちゃん!?な、なに……?」ビクビク

ほむら「あなたにも、詳しい話を聞いてほしいの。たぶんアイツはまた新しい身体であなたを狙ってくるわ
    だから、これから私たちと一緒に来てくれないかしら?場所を変えてゆっくり話したいの――」

まどか「あ…うん、わかった……あ、そうだ!ほむらちゃん、マミさん……!」

ほむら「?」

マミ「うっ、うっ…え?」グスン

まどか「えと…その、私が不用意に契約しそうなのを止めてくれて、ありがとう……!!」ペコリ

ほむら「――いいえ、どういたしまして」

80: 2011/09/21(水) 16:02:24.12 ID:yUu6sik10
ーーーー
ほむらたちが去った後の路地裏
頭を打ち抜かれた個体のそばに、フッと降り立つ新たなキュゥべえ

QB『ふうやれやれ、とんだ邪魔が入ったものだよ』スタッ

QB『それにしても、まさかマミを味方につけるとはね
  色々情報を知っているようだし、あの暁美ほむらという魔法少女は死神以上に厳重注意が必要かな――』

ぼやきつつ、壊れてしまった前の身体を処理すべく近づいていったその時――


「ホゥ、わずか数十秒で新たな個体が出現するのかネ?」


QB『っ!?』

飛び退るキュゥべえ
見ると、先ほどまで背にしていた壁の表面が剥がれ落ち、『何か』が浮かび上がってくるではないか!

マユリ「フム、暁美ほむらの読みが当たったようだネ。鹿目まどかの近くに邪魔者がいなくなればすぐにでも姿を現すと――」

83: 2011/09/21(水) 16:06:06.69 ID:yUu6sik10
QB『くっ――!』ダッ

キュゥべえはマユリの言葉が終わるの待つことなく、脱兎の如く走り去っていく
しかしマユリはキュゥべえに向かって掌を向けると――

マユリ「――逃げてよしと言ったかネ?」

バッ!
なんとマユリの腕がバネ仕掛けのように伸びていき、そのままキュゥべえを掴み上げたのである!

QB『きゅっぷい!?』ギュギュゥ…!

マユリ「――そう慌てることはないじゃないか?キミには訊きたいことが山ほどあるのだからネ」ジロリ

QB『まぁ待ちなよ。キミは死神だろう?
  こんな強引な方法を取らなくとも、もっと平和的に話し合って意見交換をする方が、文化文明を持つ知的生命体として相応しいありようではないかな?』モゾモゾ

ギュウゥゥゥー!

マユリ「あまり偉そうな口を叩くんじゃないヨ……キミは私の魔女研究における生きた検体第一号だ
    抗議も反論も許可していないヨ?」

QB『け、けんたい――』

マユリ「そうだ、いっそその喧しい口を潰してしまおうか?
    言葉を発せずとも、カラダに訊けばいくらでも正直に答えてくれるだろうしネ――」ニギニギ

QB(やばいこいつまじやばいよりにもよって数ある死神の中からなんでこいつに見つかっちゃったんだボクは!!)

86: 2011/09/21(水) 16:09:54.56 ID:yUu6sik10
QB『やれやれ参ったな――」』(仕方ない、ここはひとまず従順なフリをして逃走のチャンスを待つとするよ――!)

ギュウゥゥゥー!

マユリ「無駄口を叩くんじゃないヨ屑が
    ――そうだ、一つ訊いておきたいことがあるヨ」

QB『な、何だい?ボクにわかることなら何でも答えるよ!』

マユリ「我々から姿を隠そうとしていた、ということは、キミは元々死神の存在を知っていたということだろう?違うかネ?」ニギニギ

QB『――ああそうだよ。なんせボクらインキュベーターは魂を取り扱って営業してるからね
  この星に既に魂の管理者的な組織が存在することは、だいぶ昔から知っていたよ』タラタラ…

QB『尤も、いちいちそんな連中に関わってると色々面倒だから、ボクらはずっと存在がバレないよう動いてきたけどね――』

マユリ「ホゥホゥ、成程
    では、過去1、2ヶ月の間に、この街で死神が魔女に襲われているハズなのだが、何か知らないかネ?」ニギニギ

QB『し、知ってるよ。工事現場の辺りを根城にしている魔女の空間に、運悪く迷い込んでしまった死神がいたのをだいぶ前に目撃したからね』タラタラ…

87: 2011/09/21(水) 16:12:56.51 ID:yUu6sik10
QB『本来なら、魔女の魔力と死神の』マユリ「余計なことは喋る必要ないヨ」ギュギュゥゥゥー!

マユリ「ひとまず変氏事件の裏が取れれば今は十分だ。そこから先は追々じっくり聞くとしよう
    ――さて、それじゃあさっそく解剖に移るとしよう」ニマリ

QB『ちょっ、えっ、解剖!?待ちなよ死神、そんなことしたらせっかく捕まえた生きた実験材料が水の泡に――』

マユリ「何を言っているんだネ?氏んだらまた新しいキミを捕まえれば済む話だろう?」スタスタ

QB『――ボクは破壊された場所から再出現するとは限らない
  キミはそう簡単にボクを捕獲できるとでも思っているのかい?』

マユリ「――何だ、キミは私から逃げ切れる可能性があるとでも思っているのかネ?」カクッ

QB(ダメだこいつはやくなんとかしないと……!)

89: 2011/09/21(水) 16:16:17.53 ID:yUu6sik10
ーーーー
見滝原市・病院
一階ロビーのベンチで待つネム
エレベーターからさやかが降りてくる

さやか「お待たせしましたー。そんじゃ行きましょっか!」ニコニコ

ネム「はい」


ネム「本日は勝手な申し出を聞き入れて頂き、ありがとうございました」テクテク

さやか「いやいや、そんなん気にしないで下さいよ~!」テヲフリフリ

ネム「親しい方なのですか?」テクテク

さやか「え?いやいやいや、ただの幼馴染ですよ~」テレテレ

ネム「確か、事故で手足を怪我されたのでしたね――つかぬことをお聞きしますが、経過はいかがですか?」

さやか「あ…いえ、まだなんとも言えないみたいです
    けど!本人も一生懸命リハビリしてるし、きっとよくなりますよ!ははは……」

ネム「そうですか……」

93: 2011/09/21(水) 16:19:30.59 ID:yUu6sik10
さやか「……」

ネム「……」

さやか(重っ!やばい、なんか話題見つけないと――!)「あ、ああ~そういえばネムさん今日は私服(?)なんですね!」

ネム「……?これは義骸ですが」

さやか「ぎがい?」

ネム「死神が現世で活動する際に使用する仮の肉体です
   使用者に似せて作られており、これに入ることで霊力の消費を抑え、かつ現世に霊的影響を与えにくくするのです」

さやか「へ、へぇ~…なんかいろいろ大変なんですね、死神って」

ネム「現世の技術で言うと義手や義足に近いものですね。それの全身版、といったところでしょうか」

さやか「そ、そんなすごそうなものまで作れるんだ……さすが未知の世界の技術ですね……あっ」

ネム「?」

さやか「あ、あのさネムさん…つかぬことをお聞きしたいんだけど、ひょっとして死神の技術で生きた人間を治療することって――できませんよね、さすがに……」ハハハ…

ネム「――技術的には可能です」

さやか「えっ!?」バッ

95: 2011/09/21(水) 16:21:17.26 ID:yUu6sik10
ネム「本来現世に存在するものは器子、尸魂界に存在するものは霊子という、まったく異なった物質によって構成されています
   しかし、霊子変換機という装置を使えば、限定条件はありますが器子でできたものを霊子に再構成することができます」

ネム「そしてそれは人間も例外ではありません。霊子変換機を使って霊的存在に再構成すれば、霊的な医療措置を施すことも可能です」

ネム「護廷十三隊にも救護・補給を専門とする部隊はありますので、手間はかかりますがこの方法であれば人間を死神の能力で治療することはできます」

さやか「そ、それじゃぁ――!」

ネム「ですが申し訳ありません。これはあくまで『技術的には』可能というだけのお話です」

さやか「え……」

ネム「実際にはよほどの特例でもない限り、生きた人間の治療のために医療班の死神が駆り出されることはまずないでしょう」

ネム「死神の存在理由とはあくまで霊的領域の秩序を守ることです。従って現世における秩序には基本的に関与が許されていません」

ネム「虚やそれに類する霊的事象が関わって発生した被害ならば話は別なのですが――」

さやか「――ううん、いいんです。そうですよね…そんな虫の良い話、あるはずがありませんよね……」

ーーーー
QB『魔法少女になればどんな願いでも叶うよ――!』
ーーーー

96: 2011/09/21(水) 16:22:35.35 ID:yUu6sik10
さやか「はっ!」ビクッ

ネム「……どうされました?」

さやか「えっ?あ、いえいえいえ!何でもないです!ちょっとぼーっとして――あっ!」

ネム「?…これは――!」

二人が見つけたもの
それは孵化しかけのグリーフシードであった

98: 2011/09/21(水) 16:25:20.25 ID:yUu6sik10
さやか「うそ…これ多分グリーフシードですよね……」

ネム「……マユリ様」ボソッ

ピッ ザーザー…

マユリ『うるさいネ、私は今忙しいのだヨ!いったい何事だネ?』

ネム「……見滝原市内の病院にて孵化寸前のグリーフシードを発見しました……」ボソボソ

マユリ『――ホゥ。よしネム、私が行くまで見張っていろ
    もし孵化するようなら生け捕りにしておけ。他の魔法少女共にみすみす譲る必要はない――』ガチャッ

さやか「どうしよう――そうだネムさん!あたしがこれを見張っとくから、マミさんか転――」

ネム「いえ、私がここに残ります」

さやか「へ――?」

ネム「一応私は魔女との戦闘経験もありますし、万一このグリーフシードが孵化しても多少の時間は稼げるはずです
   美樹さんはその間に魔法少女の方々を呼んできて頂けませんか?」

さやか「えと……わ、わかりました!すぐに呼んできますから待っててください!」ダッ

99: 2011/09/21(水) 16:26:26.76 ID:yUu6sik10
ネム「――さて」ゴクリッ

ズゥンッ
義魂丸を飲み込み霊体になるネム
義骸に入り込んだ義魂丸に対し指示を出す

ネム「あなたはマユリ様のもとへ向かってください」

義魂ネム「了解いたしました」サッ

直ちにその場を後にする義魂ネム
そして残されたネムがグリーフシードに目線をくれると、見る見るうちに魔女空間が形成され、ネムを飲み込んでしまうのだった

104: 2011/09/21(水) 16:37:04.63 ID:yUu6sik10
ーーーー
さやか「こんなことならマミさんの番号聞いときゃよかった――!」ハァッ…ハァッ…

とりあえず学校を目指して走り出したさやか
ところが少し走ったところで

さやか「あ――ひょっとしたらまどかが一緒にいるかも――!」ハタッ

ピッピッピ カワシタヤークソク ワスレーナイヨ メーヲトジー… ガチャッ 

まどか『もしもしさやかちゃん?どうしたの?』

さやか「あっ、まどか!いま近くにマミさんか転校生いない!?」

まどか『えっ?マミさんとほむらちゃん?いるよ、二人とも』

さやか「まじ!?よかったぁ~!――二人に伝えて、病院に孵化しかけのグリーフシードがあるの――!」

まどか『えっ!ほんと!?――わかった、すぐに伝えるね――!』ガチャッ

107: 2011/09/21(水) 16:41:10.78 ID:yUu6sik10
さやか「助かった~…にしても転校生まで一緒とは思いもしなかったわ……ってぇ、安心してる場合じゃない!
    急いでネムさんの所に戻んないと――うわっ!」

どんっ

「いってぇ…もう、急に飛び出してくんなよ…ウゼェなぁ」

さやか「あっ、ご、ごめんなさい……!」アタフタ

「ったく…まぁいいや。今病院の方には行かない方がいいぞー」

さやか「えっ?それって――ひょっとしてあんた魔法少女!?」

「あ?何でアンタ魔法少女のこと知ってんだ?見たところ同業者じゃねーみてーだけど……ああ、候補生って奴か」

「アタシは佐倉杏子。お察しの通り魔法少女だ――ちょうどいいや、現場まで案内してくれよ」ニィッ

109: 2011/09/21(水) 16:44:23.21 ID:yUu6sik10
ーーーー
一方、魔女空間に入り込んだネムが霊圧サンプルを採取していると、にわかにグリーフシードが脈動し始める

ネム(孵化の進行速度が速い――元々これぐらいのスピードなのか、あるいは何らかの要因で進行が速まったのか)

ドクンッドクンッ ピキピキピキピキ…!

ネム(何らかの――たとえば死神の霊圧に影響されて成長が促進された、と――?)

ぐわぁぁぁーーーんっ!!!

次の瞬間、ネムの周囲の空間が再び変容を始める
カラフルなお菓子で埋め尽くされた、ファンシーな雰囲気のフィールドが展開していく
そしてフィールドの真ん中には、小柄で愛らしい姿の生き物がちょこんと立っている
《お菓子の魔女》シャルロッテである

戦闘態勢を取るネム
シャルロッテの周りに次々と使い魔が出現する!

ネム「これまでに対峙した魔女に比べだいぶ小さいですね――!」ダッ

呟くと同時に駆け出し、使い魔の群れに突っ込ネム
使い魔たちを次々白打で打ち払いながら魔女との距離を詰めようとする

110: 2011/09/21(水) 16:46:20.24 ID:yUu6sik10
ネム「――チッ」シュッ

使い魔「チーズチーズチーズチーズチーズ……!!!」ウジャウジャ

ネム(使い魔の数が多すぎる――全てを捕獲している時間もない)

ネム「ならば――!」バッ

上空高く跳び上がるネム
掌を地上の使い魔たちに向け、言霊を詠唱し始める

ネム「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ――」

使い魔「レアチーズブルーチーズモッツァレラチーズ……!!!」ウジャウジャウジャウジャ

ネム「焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ――!」

ネムをとらえようと密集して迫ってくる使い魔たち
それより早く詠唱を終えたネムが、足元に迫る使い魔を見据える――!

ネム「――破道の三十一『赤火砲』!!」

111: 2011/09/21(水) 16:48:59.26 ID:yUu6sik10
バァアアァァァァーーーンッ!!!

放たれた深紅の火炎は、あっという間に使い魔の大群を焼き払っていく
地面に降り立ち、息を吐くネム

ネム(――予想通り、どうやら魔女空間の中に入ってしまえば魔法少女による魔法攻撃以外でもダメージを与えられるようですね)

魔女「キャアタスケテー!!」スタタタタ…

使い魔を蹴散らされ動揺したのか、飛び回るようにしてネムから距離を置こうとするシャルロッテ

ネムはそれを観察すると、再びジャンプし両手の指先を胸の前で合わせる――

ネム(あの小さな的で動き回られたら、大味な破道攻撃は通用しなさそうですね――)

ネム「――縛道の六十二『百歩欄干』!」ヒュンッ

光でできた棒がネムの手元に出現、ネムはそれをシャルロッテに向かって投げつける

114: 2011/09/21(水) 16:54:07.59 ID:yUu6sik10
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!!

棒は空中で無数に分裂し、雨のように地上へ降り注ぐ!
逃げ惑うシャルロッテだが、棒の一本がマントの裾を地面に縫い付けてしまう

魔女「ヤァンフクガヒッカカッター!エイエイ!」グイグイ

マントを引っ張り逃れようとするシャルロッテに対し、ネムは間髪入れずに次の手を放つ

ネム「縛道の六十三『鎖条鎖縛』――!」ジャラジャラジャラ

ネムの腕から這うようにして伸びてきた光の鎖が、シャルロッテの小さな身体を雁字搦めにする

シャルロッテ「キャアーヘンタイヘンタイ!!」ジタバタジタバタ

ネム(これでひとまず動きは封じた――あとは白伏をかけて意識を奪えば――)スタスタ

シャルロッテ「イヤァーコナイデー!!」ジタバタモゾモゾ

自分を縛る鬼道から逃れようともがくシャルロッテに、ネムは無表情のまま近付いていく
その時――!

真シャル「ナーンテネ!ヒッカカッタヒッカカッタ!!」ガバァーッ!

ネム「――っ!?」

116: 2011/09/21(水) 16:57:50.81 ID:yUu6sik10
突如シャルロッテの口から巨大な芋虫型の怪物が飛び出し、大きく口を開けてネムに襲いかかったのである!
咄嗟に後方に飛び退くネムだが、真シャルロッテはすぐ目の前に迫っている!

ネム(避け切れない――!)

真シャル「イタダキマァース!!」ガバァーッ!


ブンッ――!!


真シャル「ギャアスッ!!」グシャァー!!

ネム「――!」ハッ


杏子「あっぶねー。大丈夫か―?」ブンッブンッ

さやか「よかった…!間に合ったぁー!」ハァ…ハァ…

117: 2011/09/21(水) 17:01:14.06 ID:yUu6sik10
さやか「ネムさん無事!?」ダダダダダ…

ネム「――はい、問題ありません」

さやか「ハァ…ハァ…よ、よかったぁ……」ハァ…ハァ…

ネム(まさか美樹さやかがこんなに早く戻ってくるとは……それに)チラッ

ネムは杏子を見遣る
杏子もまた、険しい顔つきでネムを睨んでいた

杏子「間違いねぇ…この雰囲気、それにその格好――アンタ、あの変態オヤジの仲間か」ギロッ

ネム(マユリ様が交戦された魔法少女――佐倉杏子)

その時、地面に叩きつけられたシャルロッテが唸りをあげて起き上がった!

真シャル「イッタァァァーーーイッ!!!」ドォォーン!

杏子「ちっ――おいアンタ!アンタやあのオヤジの正体確かめるのは後回しだ!
   この魔女ぶっ倒すまで、そいつと一緒に待ってろ!逃げんなよ!!」ダッ

言うや否や、シャルロッテに向かって駆け出す杏子
ネムはさやかの手を引き、後退する

ネム「少し下がりましょう。あの方の戦いに巻き込まれます」

さやか「あっ、は、はい…!」

119: 2011/09/21(水) 17:05:25.91 ID:yUu6sik10
杏子「――あいつ、使い魔まで倒してやがる
   ったく魔法少女でもねーくせに余計なことしやがって――!」ブンッ

足元に転がっている使い魔たちの燃えカスを横目に舌打ちしながら、シャルロッテに猛攻をしかける杏子


ネム「――あの魔法少女は、お知り合いですか?」

さやか「えっ?あ、いえ!さっきたまたま病院の近くで会ったんです
    魔女の気配を感じてやって来たみたいで――あっ!」

ネム「……苦戦しているようですね」


杏子「くっそ――突いても叩いてもギリギリのところで脱皮して逃げやがる――!」ギリッ

杏子は槍を分節させフルに展開しながらシャルロッテを攻めたてるが、対するシャルロッテはその攻撃を紙一重でかわしながら、逆に杏子への反撃の頻度を増やしていく

真シャル「キャハハ!ツカマンナイヨーダ!!」ニュルン ガバァッー!

杏子「ちっ――!」

120: 2011/09/21(水) 17:09:40.22 ID:yUu6sik10

さやか「ちょっ、あの娘押されてない!?」

ネム(あの魔女は手強い――ベテランの魔法少女でも、そう易々とは突破できないはず)

ネム(――どちらにせよ魔法少女である佐倉杏子に割り込まれた以上、このままではあの魔女を手に入れるのは難しい)

ネム(――むしろ佐倉杏子を犠牲にすれば、あの魔女を捕獲する隙が作れる――少なくとも消耗させることはできるかも――)

さやか「……ネムさん!」バッ

ネム(…!)「――どうしました?」

さやか「あたしはいいから、あの娘に加勢してやって!
    ネムさん死神だし、少しは魔女と戦えるんですよね!?」

ネム「――わかりました」ダッ

頷くと、ネムは杏子に加勢すべく走り出した
杏子はシャルロッテの突進を槍で捌きながら、ネムを振り返る。「手出しすんじゃねぇ!こいつはもうアタシの獲物――っ!」

杏子「バカやろうっ!早く逃げろっ!!」

ネム「――っ!?」ハッ

さやか「え――?」

121: 2011/09/21(水) 17:14:04.61 ID:yUu6sik10
ズザザザザァァァーーー!!

なんとネムがさやかから離れた瞬間、地面の中に隠れていた使い魔たちが一斉に飛び出し、さやかに躍りかかったのである!

さやか「ひっ――」

使い魔「チーズチーズチーズチーズ!!!」

やられる!そう感じ、さやかが眼をぎゅっと瞑ったその時――!


「――もう眼を開けても大丈夫よ」ボソッ…

さやか「へ――?」ソォー…

いつの間にか、さやかは使い魔の群れから離れた所に移動していた
そしてすぐそばに立っているのは――

さやか「あんた、転校生――!」

ほむら「危ないところだったわね――」

さらに次の瞬間、使い魔たちの上空に突如大量のマスケット銃が出現、雨あられの如く銃弾が炸裂していく!

さやか「マミさん!」

マミ「ふぅ、間に合ってよかったわ――」スタッ

123: 2011/09/21(水) 17:17:12.99 ID:yUu6sik10
「さやかちゃーん!」バタバタバタバタ  ダキッ!

さやか「ちょっ、まどか……!?」シロクロ

まどか「よかったぁ…もしさやかちゃんに何かあったら、どうしようって、私――!」ギュウ

さやか「――まぁーったく、まどかは心配性なんだから
    でも、ありがとう。まどかがみんなを連れてきてくれたおかげで助かったよ――」ギュウ

ネム(佐倉杏子、巴マミ、暁美ほむら――さすがに三人の魔法少女の眼を盗んで、魔女を捕獲することは困難――)

杏子「あいつは――巴マミと、こないだの――!」ギリッ

マミ「こんにちは、佐倉さん。元気そうでなによりだわ――」

杏子「てめぇ…余計な真似すんじゃねぇ!この魔女はアタシの獲物だ、お前らには渡さないからな――!」

ほむら「その割には随分手こずっているようだけど?佐倉杏子」ファサァ

杏子「うるせー!だいたいお前は何モンなんだよ!?あの変態オヤジやそこのヤツとなんか関係あんのか!?」クワッ

まどか「ま、待ってよみんな!今は喧嘩してる場合じゃ――」

さやか「あっ!あいつ逃げる気だ!」ビシッ

杏子「なにっ!?」バッ

124: 2011/09/21(水) 17:20:01.04 ID:yUu6sik10
杏子が振り返ると、流石に多勢に無勢と判断したのか、シャルロッテは魔法少女たちから離れようと距離を取り始めているではないか!

杏子「ふざけやがって――逃がすかよ!」ダッ

マミ「待って佐倉さん!ここは全員で協力して戦いましょう!」ダッ

杏子「はぁっ!?冗談じゃねぇ、あいつはアタシの獲物だって言ったろ――!」タッタッタッ…

マミ「わかってるわ。一番長く戦っていた佐倉さんがグリーフシードを取っていいから――!」タッタッタッ…

杏子「なっ――そんなこと信じられっかよ!」タッタッタッ…

ほむら「嘘じゃないわ。それにあの魔女の脱皮にはあなたも手こずっているのでしょう?」サッ タッタッタッ…

杏子「――っ!」(こいつ、なんであの魔女の脱皮のこと――!?)タッタッタッ…

ほむら「全員で畳み掛けるように間髪入れず攻撃を加えていけば、必ず回避が間に合わなくなる時が来るはず
    ――あなたも手を貸してくれるかしら?」チラッ

ネム(ここで争っても無意味――やむを得ませんね)「――わかりました」コクン

杏子「――ああもうめんどくせー!わかったよ!連携でも協力でも付き合ってやるよ!」

その言葉を皮切りに、一斉にばらける四人の影
同時に、ネムは言霊の詠唱を始める――

ネム「鉄砂の壁 僧形の塔 灼鉄螢螢――」ブツブツ

125: 2011/09/21(水) 17:23:26.74 ID:yUu6sik10
シャルロッテは一目散の逃げまわっているが、そこに大筒を構えたマミが上空から狙いを定める

マミ「今度こそ、みんなの前でいいとこみせなきゃね――!」

マミ「――ティロ・フィナーレ!!」

バァアアアァァァーーーンッ!!!

真シャル「ウワアチィィィーーーッ!!!」ニュルン

直撃を受けるも、かろうじて脱皮し前進するシャルロッテ
だがそこには既に、槍を構えた杏子が先回りしていた!

真シャル「ヒッ!?」

杏子「逃がしてたまるかよ――っ!」

ブンッ――

ドォオオォォォーーーンッ!!

真シャル「ギャァァァーーー!!!」ズシャァァンッ

126: 2011/09/21(水) 17:25:55.90 ID:yUu6sik10
さすがにかわしきれず、思いっきり地面に叩きつけられるシャルロッテ
しかしまだ致命傷には至らず、再び傷ついた身体を脱皮し逃れようとする
そこへ――

真シャル「マダダァマダオワランヨォー!!」ゴソリッ ニュ…

ネム「――湛然として終に音無し
   縛道の七十五『五柱鉄貫』――!!」バッ

ドドドドドッ……!!

真シャル「ウッソ!?」ドスドスドスドスッ!

上空から降り注ぐ五本の鉄柱が、脱皮しかけのシャルロッテを地面に縫い付ける!

真シャル「ヌ、ヌケナイ…ヌゲナイ…ニゲラレナイィィィーーー!!!」ゴソゴソ モゾモゾ

127: 2011/09/21(水) 17:28:08.15 ID:yUu6sik10
スタッ…

真シャル「エ―?」ポカァン

なおも逃れようともがくシャルロッテの目前に降り立ったのはほむら
そして彼女はシャルロッテに向かって――

ほむら「これでおしまい――」

シャルロッテを背にして歩き出すほむら
そして次の瞬間――

ドカァアアアァァァーーーンッ!!!

木端微塵にシャルロッテの身体がはじけ飛ぶ――!

まどか「……やったの?」

さやか「――やった、みんなが勝ったよまどかぁっ!!」ダキッ ギュウゥ

まどか「わっ!さ、さやかちゃん――!」////

128: 2011/09/21(水) 17:31:52.74 ID:yUu6sik10
ーーーー
マミ「はいこれ。約束通り、グリーフシードはあなたのものよ」

杏子「お、おう…」キハズカシ

まどか「すごい!みんなすごい連携プレーだったよ!」バタバタ

ほむら「確かに、即席にしてはいい感じだったわね」ファサァ

杏子「ちっ、勘違いすんなよ。アンタらがいきなり乱入してきて、ゴタゴタしてたら魔女に逃げられちまうところだったから協力しただけだ」プイッ

マミ「ふふ…でもよかったわ、みんな無事で」

さやか「あっ、マミさん!それと転校生も、助けてくれてありがとう!二人が来るのがもうちょっと遅かったら、あたし――!」

ほむら「礼には及ばないわ、美樹さやか」ファサァ

マミ「そうよ美樹さん。こちらこそ、連絡をもらってから駆け付けるまでに時間がかかってしまってごめんなさい」

さやか「いえいえとんでもない!あと……えーっとさ、あんた確か――杏子、だったっけ」

杏子「あ?」

さやか「その、あんたもありがとね。おかげでネムさんも無事だったし、あんたが近くにいてくれてほんと助かったよ!」ニコッ

杏子「なっ――!い、いいって別にそんなこと!こちとら魔女を倒すのが仕事なわけだし――!」モジモジ

杏子「そ、それよりお前ら一体何なんだよ!巴マミはなんか見かけねー魔法少女と一緒にいるし、そこのヤツはなんか変な雰囲気だし!」ビシッ

ネム「…………」

135: 2011/09/21(水) 17:42:57.91 ID:/1SaAlEnO
ほむら「――そうね、そのことも含め、あなたに話があるの、佐倉杏子
    他のみんなも、悪いのだけれどこの後私の家に来てくれないかしら?できればここにいる全員に知っておいてほしいことなの――」

杏子「話ぃ?アタシや、この魔法少女候補にもか?」クイッ

さやか「転校生?」 まどか「ほむらちゃん……?」

ほむら(奇しくも今この場に、魔法少女とその関係者が勢揃いしている
    巴マミと同様に、説得して協力を求めるなら早いうちに話を済ませた方が得策――)

ほむら「ええ、そう――」


「これは興味深い。魔法少女とその関係者が勢揃いしているじゃないかネ」


一同「っ!?」ビクッ

141: 2011/09/21(水) 17:49:16.05 ID:yUu6sik10
杏子「てめぇは――!」ガシッ

まどか「ひっ…」

さやか「うわっ、何アレ、新手の魔女!?」

マミ「――いいえ、魔女の気配はしないわね。でもあの姿――?」

マユリ「全く、揃いも揃って随分な言い草だネ」ヤレヤレ

ほむら「――みんな、心配はいらないわ。彼は私の協力者で――」

ネム「マユリ様……!」

まどか・さやか・マミ「えっ」ガタッ

ほむら「――そこにいる涅ネムの上官よ」

まどか(あ、あれがまゆりさま……)

さやか(スペシャルぼでーの……)

マミ(死神の隊長さん……)

ほむら(危惧した通りね…みんな引いてる……)

ほむら(参ったわ…もう少しみんなと話をつけてから、彼に会わせたかったのだけれど)

ほむら「と、とにかく、ちょうどいいところに来たわ。あなたにも話が――」

142: 2011/09/21(水) 17:53:15.62 ID:yUu6sik10
だが、そう言いかけたほむらの言葉を無視するように、マユリは瞬歩で魔法少女たちをすり抜ける
そして有無を言わさぬ風情でつかつかとネムに歩み寄ると――

マユリ「この役立たずがぁ!!」ゲシッ!

ネム「うっ――」

ほむら「えっ!?」

マユリの蹴りをもろに食らい、転がるように倒れるネム

まどか「きゃぁぁぁーーー!!」 マミ「涅さんっ!!」 杏子「なっ…てめぇ何を――!?」 さやか「ちょっ、なにすんのあんた!?」

しかしマユリは少女たちの悲鳴や非難を無視すると、倒れこみゲホゲホと咳き込んでいるネムに罵声を浴びせる

マユリ「私はお前になんと命じたかネ?
    『もし孵化するようなら生け捕りにしておけ。他の魔法少女共にみすみす譲る必要はない――』そう言ったハズだヨ!」ゲシッ!ゲシッ!

ネム「ぐっ、うっ、もうしわけ…ぐぅ、ありません…マユリ様……あぁっ!」ゲホッゲホッ

まどか「やめてぇ!そんな…あんまりだよ、こんなのってないよ!」

さやか「ちょっと!ネムさんは魔女と戦ったばかりなんです!そんなことしたら氏んじゃいますよ!」

マユリ「氏ぬ?コイツがこの程度で氏ぬだと?
    ――お前は私をバカにしているのかネ!?」

まどか・さやか「ひぃっ――!」ビクッ!

144: 2011/09/21(水) 17:57:19.10 ID:yUu6sik10
マユリ「私の創った中でも最高傑作であるコイツが、この程度で氏ぬというのかネ?バカにするのも大概にし給えヨ!!」

まどか「…?」 マミ「……“創った”?」 さやか「え…なにそれ……?」 杏子「傑作――まさかてめぇ――!?」

ネム「はぁ…はぁ…!」

マユリ「ああそうだヨ。そういえばキミらの半分近くにはまだ名乗っていなかったネ――」

マユリは足元に転がるネムの髪を掴み上げると、呆然とする魔法少女たちに向かって吐き捨てるように言った


マユリ「私の名は涅マユリ。そしてコイツは涅ネム
    我が技術開発局の義骸作製技術と義魂作製技術の粋を集めて創り上げた、私の“娘”だヨ――」


娘をどう扱おうが父親の勝手だろう――そうマユリが続けようとしたところで、しかし少女たちは既に動き始めていた

マユリ「――ホゥ」

気が付くと、マユリの手元にいたはずのネムはいつの間にやらほむらに抱きかかえられていた
一瞬驚いたようだったまどかとさやかも、すぐにほむらへ駆け寄ると、ネムに寄り添うようにしてマユリを睨みつける

147: 2011/09/21(水) 18:00:10.74 ID:yUu6sik10
マミ「動かないで――撃つわよ」

杏子「ほんとなら、このままドテッパラに風穴空けてやりてぇところだぜ――!」

そしてマユリの胸元にはマミのマスケット銃が、背中には杏子の槍が突きつけられていた

ほむら「――涅ネムは“決戦”における貴重な戦力よ
    私と協力体制を取る以上、たとえあなたでも、彼女を徒に傷つけることは許さない」

マミ「涅さん――いいえネムさんは、私の大事なお友達なの
   あなたが彼女にとってどういう存在であろうと、ネムさんを傷つけさせはしないわ――!」

杏子「アタシはそいつとは縁もゆかりもないけどな――ついさっき一緒に戦っばっかのヤツが目の前でいたぶられてて、見て見ぬフリはできねーっての!」

マユリ「ハァ…ヤレヤレ、どいつもこいつも血の気の多いことだネ」カクッ

マユリが面倒だとでもいうかのように首を傾けたその時――

ネム「…みな、さん…どうか…武器を下げて、ください……!」ハァ…ハァ…

まどかとさやかの腕に支えられた状態で、ネムがそう懇願したのだ

マミ「ネムさん…!?でも…!」

杏子「バカ言ってんじゃねぇ!こいつはアンタを――!」

148: 2011/09/21(水) 18:02:57.01 ID:yUu6sik10
マユリ「…………」ヒュンッ

マミ「えっ?うそっ――!?」 杏子「しまった、またあの技か――!」チィッ!

二人がネムの言葉に気を取られた瞬間、マユリは瞬歩で杏子とマミの包囲を逃れ、ほむらたちの目の前まで迫っていた

まどか・さやか「ひっ――!」

ほむら「――っ!」サッ

思わず身構える三人
ほむらは盾に手をかけ、いつでも魔法を発動できるよう牽制する
しかしマユリは少女たちに頓着することなく、ゴミでも見るような目でまどかに抱きかかえられたネムを見遣ると、そのまま彼女たちの脇をすり抜ける

マユリ「そんなにそいつが大事なら好きにすればいいヨ。今日の所はもうそいつに用はないからネ」スタスタ…
 
マユリ「それの義骸ならこの結界空間の外で待機しているハズだ
    ――私は色々と忙しいのでこれで失礼するヨ。せいぜい例の魔女に対する作戦の一つでも考えておくんだネ」スタスタスタ…

そうほむらに言うと、マユリは未だ彼を突き刺す少女たちの視線を意にも介さず、その場を後にするのだった

149: 2011/09/21(水) 18:06:12.55 ID:yUu6sik10
ーーーー
杏子「ちっくしょう!」ガンッ

魔女空間が消滅した、元の病院の駐輪場
杏子がその壁を苛立ちまぎれに蹴り飛ばす

杏子「ウゼェ…超ウゼェ!
   なんだよあの変態オヤジ!ふざけたツラしやがって、まじムカつく!」ガンッ

そんな杏子に、既に義骸に戻った状態のネムが謝罪する

ネム「……申し訳ありません」ペコリ

杏子「――ああもう!だいたいアンタもアンタだ!
   なんであんな変態オヤジの言いなりになってんだよ!?」イライラ

ネム「…………」

眼を伏せて押し黙るネムに、バツが悪くなったのか杏子も言いよどむ

杏子「あ、いや……」

ほむら「――ものは相談なのだけれど、とりあえずさっき提案した通り、私の家で話さない?
    彼が何者なのか、なぜ私が彼と手を組んでいるのか――納得いくまで説明するわ」

150: 2011/09/21(水) 18:08:11.08 ID:/1SaAlEnO
杏子「――正直、あんな野郎とつるんでるって時点で、アンタのこともイマイチ信用できないんだけどな」

横を向いたまま、拗ねたような態度で言う杏子

杏子「――まぁ、そこまでいうならせいぜいアタシを納得させてみせな」プイッ

マミ「私も、あの人の言動はとても許せないわ
   だからこそ、どうして暁美さんがあの人と手を組んでいるのか、ぜひ聞かせてもらいたいわね――」

まどか「……わ、わたしも!その…ほむらちゃんや、ネムさんやマミさんや、それに杏子ちゃんのこと、もっともっと知りたいから……!」

さやか「もちろんあたしだって!そもそも、あんたとは一度腹を割って話してみたかったしね、転校生!」

ネム「……お伺いしても、よろしいでしょうか?暁美ほむらさん……」

ほむら「――ええ、もちろんよ」ファサァ

152: 2011/09/21(水) 18:10:35.31 ID:yUu6sik10
ーーーー
杏子「しにがみぃ?それマジか!?」

夕方・ほむホーム
とりあえず皆が自己紹介をしていくと、ネムの発した単語に杏子は眼を丸くするのだった

ネム「はい……そう簡単には信じられないかもしれませんが」

マミ「本当よ佐倉さん。ネムさんの身元は私が保証するわ!」エッヘン

杏子「なんでアンタがそんな自信満々なんだよ……」

まどか「ティヒヒ…まだ私たちも、実際にネムさんが、えーと…ほ、虚、って言うんだっけ?
    それと戦ってる所を見たことはないんだけどね……」

杏子「はぁ?ホロウってなんだ?」

ネム「虚とh」マミ「虚というのはね佐倉さん!氏してなおげn」ほむら「それよりもまず、みんなに知らせておくことがあるわ」ファサァ

杏子「ん?ああ、そうだな。まずアンタ――ほむらがアタシらをここに呼んだ理由から聞くのが先だよな」

マミ「そ、そうだったわね……!それで、お話って何かしら?」ショボン


ほむら「――1ヶ月後、この街にワルプルギスの夜が来るわ」

154: 2011/09/21(水) 18:13:32.21 ID:/1SaAlEnO
杏子「なっ――!?」ガバッ

マミ「うそ――?」サァッ

ほむらの発した単語を聞いて、明らかに動揺する二人
一方、話の見えないまどかとさやかも、二人のただならぬ様子に不安を感じ、表情を曇らせる

さやか「ね、ねぇちょっと!そのワルプルギスってのはいったい何なわけ?」

杏子「――超ド級の大型魔女だよ。それも天災クラスのな――!」ギリッ

マミ「今までに私が戦ってきたどんな魔女も、それの前では霞んでしまうほどのね……」アセ…

まどか「そ、そんなに恐ろしい魔女なんですか……?」

さやか「ちょっと待ってよ!そんなのがやってきたらこの街は……!?」

ほむら「間違いなく大きな被害が出るわね。犠牲者も相当の数に上るでしょう」

さやか「そんなっ……!」ガクリ

杏子「――なーるほどな、それでわかったぜ。つまりワルプルギスの夜襲来に備えて、アタシやマミと共闘したいって腹だろ?」

ほむら「その通りよ。そして、私が涅マユリ――死神と手を結んだのも、同じ理由」ファサァ

マミ「魔法少女だけでなく、死神さんたちからも協力を得る為ね……!」

155: 2011/09/21(水) 18:15:01.65 ID:yUu6sik10
まどか「じゃ、じゃあ、ほむらちゃんが私たちも呼んだのはなんで……?」オズオズ

さやか「ひょっとして、あたしたちにも魔法少女になって一緒に戦ってほしいってこと――」

ほむら「違うわ、その逆よ」キッパリ

さやか「あ……」

ほむら「既にわかっていると思うけど、魔女との戦いは命がけよ
    ましてやもうすぐ最大級の魔女が出現するというのだから、あなたたちには今まで以上に、安易な気持ちで魔法少女になってもらいたくないの」

さやか「……それって、ひょっとしてあたしたちを心配してくれてるの?」

ほむら「――ええ、そうよ」(正しくは『まどかが』心配なのだけれど……)

まどか「ほむらちゃん……」

杏子「ま、こいつの言う通りだよ
   命を危険に晒すってのはな、そうするしか他に仕方ない奴だけがやることさ――」

マミ「その通り。よほどはっきりとした願いがあるというのなら話は別だけど、半端な気持ちなら契約なんてしちゃダメよ」

さやか「はっきりとした願い……」

ほむら(……)チラッ

156: 2011/09/21(水) 18:16:49.88 ID:/1SaAlEnO
ほむ「――ところで、二人の返事を聞かせてもらいたいのだけれど」

マミ「私は喜んで協力するわ。元々、魔法少女同士がグリーフシードを巡ったりして争うのはおかしいと思ってたしね
   ――それに、暁美さんは私に“魔法少女の真実”を話してくれたもの」

杏子「あ?“魔法少女の真実”?
   なんだそりゃ?――二人がつるむようになったのと関係あるのか?」

ほむら「ええ、そうね――まどかは既に知っているでしょうけど、二人に魔法少女になってほしくないもうひとつの理由でもあるわ」

さやか「え?」

まどか「……っ!」

157: 2011/09/21(水) 18:19:39.78 ID:yUu6sik10
ーーーー
杏子「――ふざけんじゃねぇ!!それじゃアタシたち、ゾンビにされたようなもんじゃないか!!」

さやか「うそでしょ…魔法少女が、最後には魔女になっちゃうって……!」ボーゼン

さやか「ね、ねえ!それほんとに確かなの?何かの間違いじゃなくて?だってキュゥべえ、あたしたちにはそんなの一言も――!」

ほむら「見たのよ、この眼で」

ほむら「一緒に戦ってきた魔法少女が、目の前で魔女になる瞬間を」

一同「…っ!」

ほむら「たまたまソウルジェムを海に落としてしまった魔法少女が、そのまま意識を失って二度と目覚めなかったこともある」

ほむら「それに、キュゥべえからも言質を取っているわ。あいつは契約に不都合なことを隠しはするけど、契約に関して嘘は吐けないから」ファサァ

マミ「――本当よ、全部。私もキュゥべえ本人に確認したもの……!」フルフル

さやか「マミさん……」

杏子「……へっ、情けねぇな。アタシは別に、正義感とかそんなもんで魔法少女やってきたわけじゃないけどさ」

杏子「とっくの昔に自分が人間じゃなくなってるってわかると、やっぱ虚しくなってくるもんだよ――」

杏子「――親父の言ってた通りだよ。アタシなんか醜いゾンビだ。いずれは魔女になっちまう――」

まどか「やめて!」ガタッ

158: 2011/09/21(水) 18:23:00.19 ID:/1SaAlEnO
杏子「っ!」ビクッ

まどか「ゾンビとか、人間じゃないとか、そんな風に自分のこと考えるの、やめてよ……!」フルフル

マミ「鹿目さん……」

まどか「杏子ちゃんも…マミさんも…ほむらちゃんも!魔女からみんなを救うために命がけで戦ってるのに変わりないよ……!」ブル…ブル…

さやか「まどか……」

まどか「私は、みんながどんな身体になっても、みんなのこと、友達だって思うよ……!」ジワ…

杏子「……」

まどか「だから…そんな……」ブワッ…

まどか「ひどいよ…こんなのあんまりだよ……!」ボロボロ

ナデナデ

大粒の涙を零すまどかの傍に座り、ほむらが頭を撫でてあげる

ほむら「大丈夫…私たち全員、魔女なんかになったりしない。絶望なんかしない――!」ナデナデ

159: 2011/09/21(水) 18:24:05.96 ID:yUu6sik10
決然とそう呟くほむら
すると、今まで黙っていたネムが口を開く

ネム「――私も、普通の死神とは違います。人工的に作られた存在――それこそ人形のようなものです」ボソ…

一同「…っ!」

ネム「ですがそれでも、私が死神であることに変わりはありません
   己が身の上を嘆くことも、絶望し己を捨てることも、するつもりはありません――」

さやか「ネムさん……」

まどか「うっ…うっ…」グスン…

マミ「……そう、みんなの言う通りよ、佐倉さん」

マミ「私も真実を暁美さんから聞いた時は、とっても動揺したわ
   狼狽して、みっともなく泣き喚いて…それを暁美さんと鹿目さんに慰めてもらって…ふふ、情けない先輩よね」

マミ「けど、二人のおかげでどうにか踏ん切りがついたの」

マミ「たとえ肉体が変容しちゃっても、大事なのは心の持ち様なんだ――って」

マミ「だからね、佐倉さん。どうか自分の存在を呪うようなことだけは、しないでほしいの」


杏子「……ああ、そうだな」

161: 2011/09/21(水) 18:26:58.13 ID:/1SaAlEnO
杏子「そうだよ…今更グチグチ言ったところで、元の身体に戻れるわけじゃねぇ……
   真実がどうであろうと、アタシらは戦い続けるだけだ――!」

そう言い切ると、杏子は自分を見つめる皆の視線に向き直る
そしてほむらに対し頷くと、

杏子「……ありがとな、“魔法少女の真実”ってやつを話してくれてさ」

ほむら「――礼には及ばないわ」ファサァ

162: 2011/09/21(水) 18:28:34.55 ID:yUu6sik10
ーーーー
さやか「――それじゃ転校生!また明日学校でねー!」バイバイ

夕方と夜とのはざまの時間――
今日はもう遅いので、ワルプルギス決戦に関する本格的な作戦会議は明日以降、ということになった

マミ「じゃあね暁美さん。また明日」バイバイ

杏子「じゃあなー!」ブンブン

ネム「……失礼します」ペコリ

まどか「……今日はありがとう、ほむらちゃん。また明日ね――」バイバイ

ほむら「ええ――みんな、また明日」ヒラヒラ

ギィー バタンッ

ほむら「ふぅ…ひとまずここまでの流れは悪くないわね……」

ひとりになり、自室に座り込んで息を吐くほむら
しかしその表情には興奮が隠し切れない

ほむら「いえむしろ、今までで最高かもしれないわ……
    転校初日から数えてたったの数日で、もう全員とここまで良好な関係を築けているなんて……!」

163: 2011/09/21(水) 18:31:27.67 ID:/1SaAlEnO
ほむら「それというのもキュゥべえがいないせいね
    あいつが余計な介入をしてこないだけで、こんなにも色々と捗るとは思いもしなかったわ!」

ほむら「おそらく今頃あいつはあの男の魔手にかかっているでしょうし……フフフ」

ほむら「――奇しくもあの男が憎まれ役を引き受けてくれてるおかげで、みんなの結束が強まったようだし――」

しかしそこでほむらはフッと表情を引き締め、何事か思案し始める

ほむら「――そう。そして現時点で唯一の不安要素もまたあの男――
    今のところは薬になってくれてるけど、いつ猛毒となって私の目的に牙を剥くかもわからない――」スタッ

そう呟くと、ほむらは不意に立ち上がるのだった

ほむら「あの男がどうしているか、一応様子を見に行きましょう――」

164: 2011/09/21(水) 18:32:42.07 ID:yUu6sik10
ーーーー
まどか「じゃあね杏子ちゃん、ネムさん。
    さやかちゃんとマミさんはまた明日学校で!」バイバイ

ほむホームからの帰り道―
まどかと別れたところで、おもむろにマミが尋ねた

マミ「そういえば、ネムさんはどちらで寝泊まりしているのかしら?」

ネム「――寝泊まり、ですか?情報収集等がありましたので、小休止を取る時以外は基本的に活動をしておりましたが……」

杏子「うひゃー、それ要は徹夜じゃねーか!」

さやか「ちょっ、ネムさん何時間ぶっとおしで活動してんですか!?」

ネム「ご心配には及びません。本日はマユリ様から命令を受けていませんので、適当な場所を見つけて――」

マミ「そんなのダメよ!」ビシッ

ネム「…!」 杏子・さやか「わっ!」ビクッ

166: 2011/09/21(水) 18:35:27.08 ID:/1SaAlEnO
マミ「そんな無茶な生活をさせられてたなんて……!
   ――決めたわ。現世にいる間、ネムさんは私の家に泊まってちょうだい」

ネム「は…?ですが、ご迷惑でh」マミ「迷惑だなんてとんでもないわ!」

マミ「私、ネムさんや死神さんたちについて、もっと詳しく知りたいの。最初にあった日はあまりお話しできなかったから……
   だからお願い、私の家に来て?」

ネム「……」

ネム「それでは、お言葉に甘えさせて頂きます」ペコリ

マミ「ホント――!?」

ネム「はい…それと」

マミ「?」

ネム「本日は義骸に入っておりますので、もしご迷惑でなければ紅茶とケーキを――」

マミ「…!ええ、もちろん!」パァ

マミ「約束通り、最高のお茶とケーキを振る舞うわね!」ニッコリ

167: 2011/09/21(水) 18:36:20.05 ID:yUu6sik10
杏子「お茶にケーキかぁ…いいなぁ…」

マミ「あら、なんだったら佐倉さんもうちに寄る?
   そうよ、どうせなら美樹さんも一緒にみんなで――」

杏子「あー、わるい。せっかくだけど、アタシこのあとちょっと野暮用あるからさ」ヒラヒラ

さやか「へー、そうなんだ?てか、あんたってどこら辺に住んで――」

杏子「あーそんじゃ!ここらで失礼するわ
   またな!」ダッ

さやか「あっ…」

マミ「あらあら、あんなに急いで、用事って何なのかしらね?」

さやか「杏子……?」

ネム「…………」

168: 2011/09/21(水) 18:39:03.68 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原市・夕刻の公園
野営用の簡易テント内――

マユリ「…………」カタッ カタカタカタカタッ

小型コンピューターに向き合い、一心にディスプレイを見つめるマユリ
傍らの小机にはなにやら不気味なものが転がっている

バラバラに切断されたキュゥべえ

焼け焦げて黒ずんだキュゥべえ

瓶詰の薬品漬けにされたキュゥべえ

そしてマユリの向かうコンピュータの真上には、手足をもがれたキュゥベエがボードに耳で磔にされていた

QB『……どうだい?何か新しい発見はあったかい?』

磔キュゥべえがそう問いかけるのを無視して、マユリは技術開発局から送られてきた分析結果に目を通していく

マユリ「――ホゥ。これは面白い、グリーフシードの霊子配列は意外にシンプルな造りをしているんだネ……フムフム」

170: 2011/09/21(水) 18:40:47.00 ID:yUu6sik10
マユリ「それに案の定、過去の駐在記録によればこの見滝原市は虚の出現報告が著しく少ない。ほぼゼロと言ってもいい」

マユリ「実際にこうして現地で精密な霊圧データを観測することでわかったヨ。この街はある種の霊的特異点だ」

マユリ「それも重霊地とは違う――虚が近づくことすら避ける類の、全く霊的磁場が狂っている土地だヨ」

マユリ「魔女の霊圧も虚のそれとは別系統のものだしネ――さて」ガタッ

ブツブツと独り言を言っていたマユリは急に立ち上がると、目の前に磔にしてあるキュゥべえを見遣った

マユリ「インキュベーター、キミに訊きたいことがあるのだが?」カクッ

QB『何かな?ボクで力になれることならなんでm』マユリ「魔法少女から回収した、穢れきったグリーフシードはどうしているのかネ?」

QB『……どうって、処理してるに決まっt』マユリ「どう処理しているのかと訊いてるんだヨ」

QB『……そんなことを聞いてd』マユリ「いいから黙って聞かれたことに答えていればいいんだヨ屑が。またバラバラにされたいのかい?」

QB『………』

QB(だれかたすけて……)

171: 2011/09/21(水) 18:43:07.56 ID:/1SaAlEnO
その時、マユリは何者かの気配をテントの外に感じた

マユリ「フム、この霊圧は――」

マユリは目の前のキュゥべえを掴み取り(当然耳が引きちぎれ「きゅっぷい!」と小さく叫ぶ声が聞こえたが頓着せず)懐に仕舞うと、踵を返してテントから出る

外にいたのは佐倉杏子であった

173: 2011/09/21(水) 18:45:04.23 ID:yUu6sik10
ーーーー
マユリ「これはこれは――よく私の居場所がわかったネ」

杏子「ハッ!白々しいんだよ。公共の場にこんな目立つテント組みやがって、見つけてくれって言ってるようなもんだろ?」

マユリ「ンッフッフ…まぁネ。尤も、このテントには特殊な霊子の膜を張り巡らせているから、多少霊感のある程度じゃ人間はおろか虚にも認知できないのだがネ
    それで?わざわざ私のもとへ来たということは、研究材料になる決心がついたということかネ?」ニヤリ

杏子「寝言は寝て言えよ変態オヤジ
   ……なぁに、ちょっとばかしアンタにやってもらいたいことがあるだけだよ」

杏子(たとえコイツがほむらにとって大事な戦力だとしても――このまんまじゃアタシの中でモヤモヤが残っちまうからな)

杏子(共闘するってんならなおさらだ――けじめはつけときたいんだよ)

杏子「娘さんに謝れ。土下座して謝れ。そんでもって二度とあんなひどい扱いはしませんって誓え」

マユリ「……」

マユリ「ンッフッフッフッフ……!」

杏子「あ?」

マユリ「――何を言い出すのかと思えば、まさかアレに同情でもしたのかネ? 
    これは傑作だ!いつぞやの滅却師を思い出したヨ!」

杏子「――何がおかしいんだ」

174: 2011/09/21(水) 18:47:34.32 ID:yUu6sik10
マユリ「よりにもよって魔法少女がアレを憐れむとはネ
    こう言ってはなんだが、キミらはアレについてとやかく言える立場じゃないだろう?」

杏子「――立場?
   どういう…意味だ」フルフル

マユリ「知ってるヨ?キミたちは魂魄をソウルジェムに封じられているから、その肉体はただ戦うための入れ物にすぎないのだろう?」ニヤリ

杏子「――れ」ボソッ…

マユリ「いやはや、魔女と戦うためにその肉体を変容させ、不氏の戦士とする……尖兵計画を思い出したヨ」ニヤニヤ

杏子「黙れ――!」ブルブル

マユリ「ま、要するにキミたちは“生ける屍”だ
    ネムに憐れみを感じられるほど高等な存在じゃあない――人間モドキに過ぎないのだからネ」

杏子「黙れつってんだろーが変態オヤジッ!!」ギロッ

ゴゴゴゴゴ……!!

グワァァーーンッ!!

次の瞬間には既に、杏子の手元で大きくうねりをあげた分節槍がマユリめがけて振り下ろされていた――!
瞬歩でそれを回避するマユリ。強烈な一撃が簡易テントを叩き潰す

175: 2011/09/21(水) 18:49:35.14 ID:yUu6sik10
マユリ「ヤレヤレ、随分と荒っぽいことだネ。まぁデータはバックアップを取っているから問題ないが――」ヒュンッ

ドォオォォーーーン!!

マユリ「速いネ。昨日は力をセーブしていたのかネ?」カクッ

杏子「――ヒュンヒュンヒュンヒュン、ウゼェンだよ!ったく……」ハァ…

マユリ「フゥム、だが生憎だったネ。キミの戦闘データは最初の交戦時にあらかた採集済みだヨ」ス…カチャッ…

杏子「娘には暴力振るうし、アタシには研究体だのワケわかんねーことばっか言ってくるキモいおっさんだけどな……
   素直に娘さんに謝るってんなら、とりあえずその辺の腹立つことには目を瞑ってやろうと思ってたのにさ……」ブンッ…

マユリ「つまり今のキミじゃあ、せいぜい持ち帰って解剖実験にでも使うぐらいしか研究体として価値がないのだヨ――」カチャッ、スゥゥゥー…

杏子「――口で語ってわからねぇ、攻撃してみてもわからねえクズとなりゃあ…後は頃しちゃうしかないよねッ!?」バッ! ピョンッ!

マユリ「掻き毟れ――」


マユリ「――『疋殺地蔵』」

176: 2011/09/21(水) 18:53:29.78 ID:yUu6sik10
シュウゥゥゥーーー……

杏子(気配が急に強くなった――!?)「――ようやく本気出す気になったか。にしても悪趣味な剣だ――」スゥゥ…

杏子「――な!!」ブゥンッ!

高く跳び上がった状態から、振り上げた槍を勢いよく叩きつける杏子
それを飛び退いてかわすマユリだったが、杏子は地面にめり込んだ槍を引っ張り上げると同時に分節させ、鞭のようにしならせながら追撃をしかける
だがそれより早く、マユリは懐から何かを取り出すと、パラパラと地面にまき散らした
そして――

ドカァアアァァーーーン!!

杏子「なにっ――!?」

突如マユリの周辺で爆発が起こり、土煙がマユリの姿を包み込む
そこへ杏子の一撃が炸裂するが――

杏子「手ごたえがねぇ――!はずしたか――!」ギリッ

槍を引き戻そうとする杏子
次の瞬間には、マユリが杏子の目の前に迫っていた

杏子「なっ――!」クソッ!

マユリ「ヒャッハッ!!」ブン―

177: 2011/09/21(水) 18:57:11.62 ID:/1SaAlEnO
振り下ろされた刃を咄嗟に左腕で受け、同時にマユリを蹴り離そうとする杏子
しかしマユリの左腕がバネ仕掛けの如く伸びると、杏子の足に巻きついて掌がその足首を掴み引っ張る
蹴り離したばかりのマユリに引き寄せられる杏子は、右手をしならせて槍を手元に引き寄せ、絡みつくマユリの腕を叩き斬ろうとした
だがそれよりわずかばかり早く、マユリの刃が杏子の右足を斬りつけていた!

杏子「――痛ぅ!やりやがったなっ――!」ビュンッ!

即座にマユリの左腕を斬りおとし、続けてその胴体に思いっきり突きを食らわせる杏子!
辛うじて身を反らせるマユリだったが、放たれた槍の一撃をかわし切ることができず左肩に直撃、勢いよく地面に叩きつけられる!

杏子(チィッ…!野郎、研究オタクの癖にやるじゃねーか……!
   腐っても隊長ってだけのことはあるみてーだな……!)

杏子(だが傷は浅ぇ…パワーならアタシの方が上だ……!)スタッ…

そう内心で毒づきつつ杏子が着地しようとしたその時――!

ガクンッ!

杏子「えっ――?」バタリッ

態勢を崩し、その場に倒れこむ杏子

178: 2011/09/21(水) 19:00:58.06 ID:yUu6sik10
杏子「なっ、どうなってやがる!?右足が動かねえじゃねぇか――!!」

杏子「――うそだろ?左腕も――アイツに斬られた箇所が、全く動かなくなってやがる――!!」

予想外の事態に動揺を隠せない杏子
とそこへ、叩きつけられたマユリがのっそりと起き上がる
マユリもまた左腕を失っているが、その表情には不気味な笑みが浮かんでいた

マユリ「ヤレヤレ、咄嗟に腕で防げたと思っているかネ?
    違う、私は始めからキミの手足を狙っていたのだヨ――」

杏子「てめぇ…何しやがった…!」ギロッ

マユリ「何、簡単な話だヨ。キミたち魔法少女の戦闘スタイルや魔法の系統が個人個人で異なるように、死神の能力もまた千差万別なのだヨ――」

マユリ「『斬った対象物の四肢の動きを切断する』――それが私の疋殺地蔵の能力」コツ…コツ…

言いながら、ゆっくりとした足取りで杏子に近づいていくマユリ

杏子「…くそっ!麻痺毒かよ!?せこい手使いやがって――!」

辛うじて立ち上がると、近くにあった遊具に倒れるようにして背を預ける杏子

179: 2011/09/21(水) 19:06:59.86 ID:/1SaAlEnO
マユリ「無粋なことを言ってくれるじゃないか。この疋殺地蔵は脳から発せられる電気信号のうち、『四肢を動かせ』という信号のみを選び取って切断するのだヨ」コツ…コツ…

麻痺なんていうチャチなものと一緒にするな――
そう続けながらも、マユリは着実に杏子との距離を詰めていく

杏子「ふざけんな――手足の一本や二本使えなくなったからって、戦えなくなったワケじゃねぇ!魔法少女を舐めんなっ――!」ガシッ、ブンッ――

そう言うや否や、杏子は右手の力だけで槍を操り、分節させてマユリに攻撃をしかける!
だがマユリはそれを軽くかわすと、諭すような口調で滔々と語りながら近づいてくるのだった

マユリ「無駄だヨ――確かにキミの槍は威力・間合い・攻撃範囲どれをとっても申し分ない。だがそれは、使い手本人の立ち回りによって大きく左右される――」コツ…コツ…

杏子「チッ…言ってろっ――うわっ!」

ボンッ

再び槍を振るおうとした瞬間、胸に衝撃を受けた杏子はバランスを崩し地面に倒れこむ
球状の霊力弾を放つ技『虫喰玉』を食らったのだ

180: 2011/09/21(水) 19:07:24.07 ID:yUu6sik10
マユリ「片足じゃ機動力は失われるし、当然片手じゃ攻撃力も下がる――自明の理だ」コツ…コツ

遂に杏子の傍らに来ると、倒れこんでいる杏子を見下ろして嘲るように笑った

マユリ「武器というのは両手で握った方が強い、なんてのは――誰でも知ってることだろう?」ゲシッ

杏子「……っ!」

マユリ「さて、これ以上暴れられても面倒だ。念のため残りの手足も封じておこうか――」

起き上がろうとした杏子の右肩を踏みつけながらそう言うと、マユリは疋殺地蔵を逆手に握り――


「やめろぉっ!!」

182: 2011/09/21(水) 19:11:21.26 ID:/1SaAlEnO
杏子「アンタ…なんで…!」

マユリ「ホゥ…キミは確か――知ってるヨ。美樹さやか、だろう?」

さやか「ハァ…ハァ…その娘から…ハァ…離れてっ!」

息も絶え絶えに公園へ駆けつけたのは、杏子の後を追ってきたさやかだった
険しい目つきで自分を睨みつけてくるさやかに対し、マユリは薄笑いを浮かべており――

そして気が付くと、さやかのすぐ後ろに立っているではないか

さやか「…ひぃっ!?」ダッ バタバタバタッ

慌ててマユリから距離を置くさやか
奇しくもマユリと杏子の間に挟まれる構図となったため、さやかはそのまま後退し、槍を杖に起き上がろうとしている杏子に寄り添う

杏子「…ばーか、何しに来やがったよ?」フラ…

さやか「……あんた、なんか様子がおかしかったからさ。気になってついてきたのよ」ハァ…ハァ…

杏子「…ったくさぁ、なんでそうお節介焼くかなぁ
   アタシら会ってからまだ半日しか経ってない仲だぜ?」

さやか「…そんだけ濃いぃ半日だったってことでしょ
    それより、大丈夫?肩貸すからつかまって――」

183: 2011/09/21(水) 19:12:21.01 ID:yUu6sik10
杏子「…チッ、余計な真似すんな!まだアタシらの話は終わっちゃ――」

マユリ「――で?キミはいったいどうやってこの場から逃げるつもりかネ美樹さやか?」カクッ

さやか「…っ!」キッ―

さやか「――マミさんや転校生を呼ばれたくなかったら、すぐにここを立ち去って」

さやか「あんただって、協力者であるあいつと事を荒立てたくはないでしょ?」

マユリ「それで脅しているつもりかネ?
    つい今しがた、一瞬で背後を取られたばかりじゃあないか、ん?」ニヤニヤ

さやか「――っ!」

マユリ「わかっているだろう?私がその気になればキミたち二人ぐらい一瞬で息の根を止めることなど容易いと――」

さやか「――果たしてそうかしらね?」

あくまで強気な態度を取るさやかだが、実際のところ何か策があるわけではなかった
途中から速度を上げて走り去っていく杏子に追いつくので必氏だったし、公園に着いたら着いたで倒れている杏子を助けたい一心で飛び出していたのだから

184: 2011/09/21(水) 19:15:57.19 ID:/1SaAlEnO
さやか「だいたいあんた、昼間の転校生の言葉忘れたわけ?
    この娘だってワルプルギスと戦う大事な戦力なんでしょ?何殺そうとしてんのよ!?」

杏子「――よしなさやか。これはコイツとアタシの問題だ――!」フラリ…

さやか「バカ言わないで!そんなフラフラの身体で何強がってんのよ!?」

マユリ「強がり――そう強がりだ。美樹さやか、キミは重要な情報を認識していない」

マユリ「よしんばこの場から逃げのびたとして、佐倉杏子の左手と右足は永久に動かぬままだヨ?」

さやか・杏子「…っ!?」

マユリ「その小娘は私の斬魄刀の能力によって四肢の動きを奪われている
    仮に外傷を塞いだところで、疋殺地蔵の効力が消えるワケじゃない――」

さやか「そんな――!」

マユリ「助ける方法は一つ、私を倒すことだ」

186: 2011/09/21(水) 19:17:46.58 ID:yUu6sik10
マユリ「瀕氏に追い込まれ術者の霊力が著しく低下すれば斬魄刀の力は自然に解除される――」

マユリ「――尤も、ただの人間であるキミが私に勝つ可能性はまずない」

さやか「そ、そんなの、やってみなくちゃ――!」

マユリ「ところがだ!なんとキミが私に勝てる方法が一つだけあるのだヨ!わかるかネ?」

杏子「なっ…」

さやか「え…?」

マユリは斬魄刀を逆手に持ち、器用に親指と人差し指だけでつまむようにして懐から謎の白い物体を取り出すと言ったのだった


マユリ「美樹さやか。コイツと契約して魔法少女になり給えヨ」

188: 2011/09/21(水) 19:21:59.49 ID:/1SaAlEnO
それは、手足をもがれ耳を引きちぎられた、キュゥべえの変わり果てた姿であった

さやか「ひっ…キュゥべえ――!?」ウップ…

杏子「最近見かけねぇと思ったら…ザマァないね、変態に捕まってやがったのか」ハンッ

思わず嗚咽を漏らすさやかと対照に、キュゥべえの真実を知った杏子はいい気味だとばかりに吐き捨てる

QB『やあ、さやかに杏子。こんな姿で失礼するよ
  それにしてもキミたちが一緒にいるとはね…どうやらボクの知らない内に随分話がすすn』ギュウゥゥ

マユリ「無駄口を叩いていいと言ったかネ?身の程をわきまえ給えヨ屑が
    ――さて、安心し給え。コイツはこの状態でも契約を結ぶことはできるからネ」

杏子「ちょっ、マジかよ……」

マユリ「コイツは魔法少女を生み出す為に派遣されたいわば端末だ
    契約を結ぶことが不可能な状態まで損傷した場合は新しい個体が支給されるようになっているらしい――」

マユリ「逆に言えば、契約さえ結べる状態なら多少の損傷を負っても代替個体は送られず、そのまま継続して使用されるということだヨ」

さやか「た、多少って…それのどこが“多少”よっ……!?」ウゥ…

マユリ「全く、辛うじて契約ができるというギリギリの段階を見極めて痛めつけるのには骨が折れたヨ
    そこの小娘に壊されたテントの中には、痛めつけすぎて既に廃棄状態となった失敗作も数体転がっていたのだがネ――」ヤレヤレ

189: 2011/09/21(水) 19:22:35.77 ID:yUu6sik10
マユリ「それで、どうするかネ?コイツと契約して魔法少女になれば、キミはこの場で私を撃退しうる力を得ることになる」

さやか「魔法少女……っ!」(でも、魔法少女なんてゾンビみたいな――)

杏子「お、おいバカ!あんなヤツの言うことに耳貸すなよ!」

さやか「で、でもっ――!」(けどこのままじゃ杏子が――)

マユリ「何を躊躇うのかネ?叶えたい願いの一つや二つ、キミにだってあるだろう?」ニヤニヤ

さやか「叶えたい――」(――恭、介?)

杏子「聞くな!耳塞げ!
   くそっ、つまんねー真似しやがって変態オヤジがっ…!今すぐその口塞いで――くぅっ」フラッ…

QB『不本意ながら彼の言う通りだよ美樹さやか。ボクはこの状態でもまだ契約できる……叶えたい願いを言ってごらん、ボクが叶えてあげるよ――』

杏子「お前は黙れっ!!」

さやか「あ、あたし――!」(恭介の腕――今の医療じゃ治るかわからなかった恭介の、腕――)

杏子「バカさやか!やめろっ――!!」

マユリ「さぁ――」 QB『さぁ――!』

さやか「けいやくをっ――!!」


ほむら「それには及ばないわ――」

202: 2011/09/21(水) 19:55:29.48 ID:/1SaAlEnO
QB『きゅっぶがぁッ…!』ボンッ!

さやか「――え?」

杏子「あっ…ほむら…!」

マユリ「…………」

気が付けば、マユリの手元にいたはずのキュゥべえは地面で弾け飛んでおり、さやかと杏子の前には彼女たちを庇うようにしてほむらが立っていた

さやか「て、てんこうせい――」

ほむら「――どういうつもりかしら。佐倉杏子はワルプルギスの夜と戦う為の大事な戦力よ」ジトー…

そう言って蔑むような視線を投げかけてくるほむらの方を、しかしマユリは見ていなかった
今、彼は足元に転がるキュゥべえの残骸を無表情のまま見つめている
それに頓着せず続けていくほむら

ほむら「勘違いをしないでちょうだい涅マユリ。あなたは戦力とはいえ元々はイレギュラー、決戦に必須の存在というわけではないわ
    徒に仲間の和を乱すつもりなら――容赦なく頃すわよ」ファサァ

マユリ「……成程、わかったヨ」ニマリ

ほむら(…っ!?)ゾォッ

203: 2011/09/21(水) 19:56:58.08 ID:yUu6sik10
ゆらりと動き出すマユリを警戒するほむらたちだったが、マユリの手に握られた疋殺地蔵はいつの間にやら元の刀剣状に戻っていた
それを鞘にしまい、続いて懐から注射器を取り出すと、杏子に切断された左腕の付け根に投与する
すると、見る見るうちに羽織の裾から新しい腕が生成されていくではないか!

マユリ「ああ痛い…痛くて痛くて……頭が蕩けてしまいそうだヨ……」ユラリ…

ほむら(なっ…!?)「……随分と変わった身体ね」

さやか「うっ…ひぃ……!」オップ

杏子「……やっぱテメェの方こそ化け物じゃねぇか」ケッ

自分に向けられる嫌悪の視線を意にも介さず、掌をニギニギして腕の感触を確かめるマユリ
そしてほむらたちの方を見もせずに背を向けるのだった

ほむら「待ちなさい。どこへ行く気――」

マユリ「心配せずとも、キミとの同盟を破るつもりはないヨ。私もワルプルギスの夜とやらには興味がある――ちゃんと決戦の際には協力しようじゃないか」ヒュンッ

それだけ言うとマユリは、一瞬でその場から姿を消した

さやか「あ…あたし……」ヘナヘナ

それで緊張が解けたのか、へなへなとその場に座り込むさやか
そんな彼女に、差し伸べられる手

杏子「ったく、情けねーヤツだな。ほら、掴みな」グイッ

いつの間にか、手足は動くようになっていた

204: 2011/09/21(水) 19:58:52.54 ID:yUu6sik10
ーーーー
ほむら「――全く、ついさっき念を押したばかりだというのにもう契約を結ぼうとするなんて……あきれて物も言えないわね」

さやか「ご、ごめんっ……」ウナダレ

杏子「ま、まぁ待てよほむら。確かに軽率だったけど、一応コイツはアタシを助けようと必氏で――」

ほむら「そもそも事の発端はあなたよ、佐倉杏子
    大方涅ネムに関することであの男に文句でも言おうとしたのでしょうけど――軽率なのはあなたの方ではないかしら?」

杏子「うっ……」

ほむら「とにかく、今後は余計な考えを起こさないことね――」

さやか「で、でもっ…!」

ほむら「大体、ベテランの杏子でさえ手傷を負うほどの相手に、その場で契約したばかりの新人魔法少女が勝てるとでも思ってるの?
    結局、二人揃って仲良く実験材料にされるのがオチよ――」

さやか「……」

ほむら「安易な気持ちで魔法少女にならないでって、あれほど――」

さやか「……安易な気持ちってなによ」フルフル

ほむら「…?」 杏子「さやか…?」

206: 2011/09/21(水) 20:01:47.96 ID:/1SaAlEnO
さやか「目の前で杏子がやられそうなのを助けたいって思うのが安易な気持ちなわけ!?
    地面に転がって踏みつけられて、斬られそうになってるのを見てほっとけばよかったの?ねえ!?」

杏子「さ、さやか…!ちょっと落ち着けって……!」アワアワ

ほむら「…………」

さやか「それにねぇ!その場の思い付きなんかじゃなくって、ちゃんと叶えたい願いの一つぐらい、あたしにだってあるんだよ!
    あいつらの口車に乗せられそうになったのは謝るけど、あたしの願いや気持ちまで“安易な気持ち”なんていう風に決めつけないでよっ!!」

ほむら「…………」

杏子「さやか……」

ほむら「……確かにあなたの言う通りね
    ごめんなさい、少し言い過ぎたわ」

さやか「あ……う、ううん、こっちこそ、ごめん……
    転校生は、あたしたちを助けに来てくれたのに…」シュン…

207: 2011/09/21(水) 20:02:37.24 ID:yUu6sik10
杏子「――んー、まぁなんだ、全員無事だったんだしひとまず一件落着ってことにしとこうぜ!」

ほむら「あなたにはまだ言いたいことがあるわよ佐倉杏子」

杏子「げっ!な、なんだよ…」

ほむら「あなた、どうして私や巴マミに念話で助けを求めなかったの?
    もっと早い段階で助けを呼んでいれば、美樹さやかが危険を冒す必要もなかったのよ」

さやか「あ…そういえばそうじゃん!手足が動かなくたってテレパシーなら使えるよね?
    それならあいつにも仲間を呼んだって気づかれないし……!」ビシッ

杏子「う…だ、だってそりゃ、これはアタシが勝手にあのおっさんに売った喧嘩だし…いや、売られた気もするけど……」ゴニョゴニョ

ほむら「はぁ……まだ私たちのことを信用しきれないのはわかるわ
    けどお願いだから、今後は変な意地を張って自分を危険に晒すような真似はしないでちょうだい」

杏子「……わかったよ」ボソッ プイッ

210: 2011/09/21(水) 20:06:14.84 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
さやか「ところでさぁ、結局あんたどこに住んでるんだっけ?」

公園から出たところで、さやかが杏子にそう切り出した

杏子「な、なんでそんなこと訊くんだよ…!」ギクッ

さやか「いや、あんたなんだかんだで怪我してるし
    いくら魔力で傷の治りを速めてるからって、刀傷なんてさすがに心配だし、なんなら家まで送っていこうかと…」

杏子「余計なことすんなよ!アタシなら別に平気だから!」ブンブン

さやか「ちょっ、なに慌ててんのよ…!」

杏子「慌ててねーよ!」 さやか「慌ててるじゃん!」

ほむら「――そんなにあのダンボールハウスを見られるのが恥ずかしいの?」ボソッ

杏子「んあっ!?」 さやか「えっ!」

ほむら「あらそうでしょう?橋の下に建ってるダンボール――」

杏子「待て待て待てぇっ!!なんでテメェがそのことを――!」

さやか「……橋の下?え、うそ…ダンボールって、ひょっとしてマジなの!?」ギョッ

211: 2011/09/21(水) 20:06:53.45 ID:yUu6sik10
杏子「う、うっせぇ!ずっとホテル暮らしばっかだと費用が嵩んで仕方ねーんだよ!
   ウチは家族みんな氏んじまってるし、魔女狩りすんのにも結局ひとりで野宿してる方が都合いいしっ――!」

さやか「――決めた、あんたしばらく家に泊まりなさい」ビシッ

杏子「なっ――!?ちょっ、なんでそうなるんだよ!つーか今の台詞マミの真似か!?」アワアワ

さやか「話を逸らさない!とにかくもう決まったことなの!
    ――そうだ、転…ううん、ほむら。……へへ、今日は二度もあんたに助けられちゃったなー……」モジモジ

さやか「――ありがとう、あんたのおかげで助かったよ」ニコッ

ほむら「――礼には及ばないわ」ファサァ

さやか「ふっふっふ、いつかそのクールな仮面をはぎ取ってやるからねー!
    ――ほら、逃げようとしない!おとなしくあたしについて来なさい!」グイグイ

杏子「ちょっ、離せって!――ほむらてめぇぇぇーーー!!………」ズルズルズル…

ほむら(……勝手な行動をとった罰よ、佐倉杏子)フフ…


ほむら(それにしても――涅マユリ、やっぱり油断ならないわね――)

ほむら(まさか美樹さやかに契約を迫るなんて――インキュベーターをあの男に任せたのは失敗だったかもしれない)

ほむら(だとすれば――奴がまどかに魔の手を向けないよう、厳重に警戒をしておかないと――!)

212: 2011/09/21(水) 20:08:45.77 ID:yUu6sik10
ーーーー
その頃、見滝原市内の展望台にて――

QB『ふう…奇しくも暁美ほむらのおかげで助かったよ』

影から姿を現したのは、新品のキュゥべえ
注意深く周囲を警戒しながら、ブツブツとなにやら零している

QB『彼女のようにボクを破壊しようとする輩なら別に怖くもないけど、逆に生頃しの状態にされてしまうとどうにも手が打てないからね
  おそらくマミはもうボクを助けてはくれないだろうから、念話で助けを求めても無駄だし――』

QB『――まぁいいや、今はひとまず次の手を考えないと
  杏子もマミも暁美ほむらに手を貸している上に、まどかは既に魔法少女の真実を知ってしまったし――』

QB『――おまけにボク自身が狙われる立場になるとはね
  やれやれ、面倒なことになったよ。ここもいつ特定されるかわからないし、どこか場所を移すとする――』

マユリ「もう着いてるヨ」

QB『きゅっぷいっ!?』ビクゥッ!

動揺したキュゥべえが振り返ると、なんと壁から人影が浮か(ry!

QB『おいおい嘘だろまさかこんな早く』ガクガクブルブル

215: 2011/09/21(水) 20:11:11.58 ID:yUu6sik10
マユリ「舐めるんじゃないヨ。お前の霊圧波形は完璧に分析済みだ
    その身体が量産された個体である以上一匹目も千匹目も霊圧波形に違いはないのだから、追跡や出現予測など容易いことだヨ」ツカツカ

QB『は、ははは…参ったなぁ流石は天才科学者だよ!
  そそそそれにしても、惜しかったねほんとあとちょっとで美樹さやかを魔法少女にできたのにね!』ガクブガクブル

マユリ「フン、余計なことをべらべらと喋るんじゃないヨ屑が」ツカツカ、ギュゥッ

QB『ま、まぁ待ちなよ!キミ…いやあなただって普通の人間が魔法少女に生まれ変わる瞬間をその目で見てみたいと思うだろう?
  それなら、美樹さやかなんかよりも鹿目まどかを魔法少女にした方がよほどいいデータが取れるはずだよ!!』ビクビクモゾモゾ

マユリ「……ホゥ?」ニギニギ

QB『そ、そもそもボクが何故まどかに執着していると思う?
  それは彼女の持つ魔法少女の素質が桁外れだからにほかならないんだ』タラタラ

QB『彼女が契約すれば恐らく史上最強の魔法少女になること間違いナシだ
  そして当然、史上最悪の魔女になることもね――!』リキセツ

マユリ「……あの小娘にそれほどの才能が……病院の結界で見た時には大した霊圧も感じなかったがネ……」ニギニギ

218: 2011/09/21(水) 20:14:08.82 ID:yUu6sik10
QB『ま、まぁ、魔法少女の気配――あなたたちのいう“霊圧”というのは、死神のそれとは質が違うものだから!
  魔法少女として覚醒しない限りは普通の人間と同程度の霊圧しか感じないはずだよ!』ヒヤヒヤリキセツ

QB『最強の魔法少女にして最凶の魔女――どうだい?この上ない研究材料になるんじゃないかな――?』

マユリ「……成程、興味深い話ではあるネ……」ニヤリ
    
QB(よ、よし!うまく口車に乗せられたぞ!)

QB(暁美ほむら…イレギュラーな存在であるキミが、さらなるイレギュラーを利用してボクを邪魔しようと言うなら――)

QB(ボクの方が逆にこの死神を利用するまでだよ――!)

マユリ「――さて、それじゃそろそろ質問の答えを聞こうか」ニギッ

QB『は、はい?』ドキッ

マユリ「穢れ切ったグリーフシードを回収した後、どう処理をしているのかと訊いたところだったろう?」カクッ

QB(しっかり覚えてる――!?)

219: 2011/09/21(水) 20:16:16.62 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
~その晩のネム~

見滝原市・マミ宅

マミ「――だからほら、病院の魔女を倒した時に、何か呪文のようなものを唱えていたでしょ?」ワクワク

ネム「呪文……鬼道のことでしょうか?」

マミ「そうそうそれよ!その鬼道っていう技、いったいどういうものなのかしら?」ガバッ

ネム「鬼道とは死神の扱う霊術のことで、主に攻撃用の破道と拘束用の縛道に大別されます
   破道・縛道はそれぞれ一番から九十九番まで存在し、数字が大きくなるほど威力・性能が高くなりますが、その分扱いが難しくなっていきます……」

マミ「うんうん」(わくわくてかてか♪)

220: 2011/09/21(水) 20:18:34.05 ID:yUu6sik10
ーーーー
翌日・朝―
見滝原市・マミ宅前

マミ「――ほんとに大丈夫なのね?」

マミが不安気にそう問いかけた
「今日はマユリから呼び出されているのでそちらに行く」というネムのことを、心配しているのである

ネム「ご心配には及びません。巴さんは私のことなど気にせずご学業に励んでください」

マミ「けど――」

ネム「巴さん――」

マミ「……はぁ、わかったわ。曲がりなりにもあの人はあなたの上官さんだし、仕方ないわよね……
   けど約束して。もし何かあったら、すぐに私や魔法少女のみんなに相談するって!」ギュッ

ネム「……はい、わかりました」コクリ

マミ「…ふふふ!それじゃ、死神のお仕事頑張ってね!」ニコッ

ネム「はい。巴さんも行ってらっしゃいませ」ペコリ

マミ「ええ、行ってきます!」バイバイ テクテクテク…

222: 2011/09/21(水) 20:20:15.68 ID:/1SaAlEnO
クルッ バタバタバタッ!

マミ「ご、ごめんなさいネムさん!ひとつだけ確認したいことが……!」ハァ…ハァ…

ネム「……『黒棺』の詠唱口述ですか?」

マミ「あ、ううん、そっちは完璧に覚えたから大丈夫よ!それじゃなくて、九十一番の方なのだけれど……」

ネム「『千手皎天汰炮』ですか?
    千手の涯 届かざる闇の御手 映らざる天の射手――」

マミ「そこまでは私も大丈夫なの!それの『我が指を見よ!』から先の単語を羅列してある部分がどうしてもうろ覚えで……」

ネム「光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪――です」

マミ「そうそう光弾、光弾ね!思い出したわ、もう大丈夫!
    ありがとうネムさん!また今晩も色々教えてね――!」マンメンノエガオ

ネム「……」

ネム(やはり人間からすれば死神という存在は興味深いものなのでしょうか……)

ピッ ザー…ザー…

マユリ『ネム!魔女が出現したヨ!すぐにこちらに来い!』

ネム「了解しました、マユリ様」

223: 2011/09/21(水) 20:21:50.07 ID:yUu6sik10
ーーーー
見滝原中学校
仁美が席を外している隙に、昨日の顛末をまどかに話して聞かせるさやか

さやか「――てなわけでさー、昨日あれからいろいろ大変だったのよー…」ハァ

まどか「そんなことがあったなんて……さやかちゃん、あんまり無茶なことしないでね?」フアンゲ

さやか「はは……だいじょーぶ!あたしもちっとは懲りたしね!
    ――お、ほむらー!おはよー!」ノシ

まどか「おはようほむらちゃん!」

ほむら「……おはよう」ファサァ

まどか「聞いたよほむらちゃん。さやかちゃんと杏子ちゃんを助けてくれてありがとう!」ニコッ

ほむら「――礼には及ばないわ
    ところで美樹さやか、佐倉杏子とはうまくいってるかしら?」

さやか「えっ?あ、ああうん、まぁね!あはは……」

226: 2011/09/21(水) 20:23:31.67 ID:yUu6sik10
ほむら「……本当ね?」ジー…

さやか「だいじょーぶだって!
    ――あっ、そうそう、今日も放課後集まんの?」

ほむら「……ええ、そのつもり
    ただ、今日はワルプルギスの夜との決戦に備えての作戦会議みたいなものだから、魔法少女じゃないあなたたちは無理に参加しなくても構わないわよ」

さやか「へー、作戦会議ねぇ……確かに、あたしたちが居ても役には立たなそうだね」

まどか「そうだね……邪魔しちゃ悪いし、今日はやめとこうかな……」

ほむら「――勘違いをしないで」

さやか・まどか「え?」

ほむら「あなたたちは私の友達よ
    魔女の脅威から守りたいと思える、大切な友達――」

ほむら「あなたたちが――守るべき友達がいるということは、何よりも私に戦う力を与えてくれる
    だから、役立たずとか邪魔とか、そんなくだらないことを考えるのはやめて」キッパリ

228: 2011/09/21(水) 20:25:29.96 ID:/1SaAlEnO
まどか「ほむらちゃん……」ジーン

さやか「ほむらぁ…あんたって意外とアツい娘なんだねぇ!」ダキッ

ほむら「ちょっ――暑苦しいわ、離れてちょうだい」モゾモゾ

さやか「照れない照れない、こいつめー!」ウリウリ

ほむら「……どうにかしてもらえないかしら?」ウンザリ

まどか「さ、さやかちゃん…!もぅ、ほむらちゃん困ってるよ?」

仁美「ま、まぁ!なんということでしょう……まさか暁美さんとまでそのような関係に……!」

まどか「あ、仁美ちゃん!」

さやか「へっへっへー!すぐに仁美もさやかちゃんハーレムに仲間入りさせてみせるからねー?」

仁美「い、いけませんわさやかさん――!女の子同士で、そんな――!」アワアワ

229: 2011/09/21(水) 20:27:40.80 ID:yUu6sik10
ーーーー
見滝原市・とある教会
ボロボロの椅子に座ってなにやら物思いにふけっているのは杏子である

杏子「……チッ、さやかのヤツ、甘っちょろいことばっか言いやがって……」ボソッ

実は昨日、彼女たちは『使い魔を頃すべきか否か』という話で大いに揉め、ふて寝した後、今朝は半ば喧嘩別れのように言葉も交わさず家を出たのだ

杏子「こちとらグリーフシードの有る無しは氏活問題だっての……!
   なのにあいつ、むきになって反論してきやがって……くそっ!」

ーーーー
さやか『けど、使い魔ほっといたら誰かが殺されるのよ!?』
 
さやか『だからって、グリーフシードの為に他の人を犠牲にするなんて……!』

さやか『でも、マミさんは――!』
ーーーー

杏子「……んなのマミが特別なんだよ…ったく、二言目にはマミマミって……」

ウゼェ…!
そう呟いたところで、魔女の気配を察知する杏子

230: 2011/09/21(水) 20:27:51.04 ID:/1SaAlEnO
杏子「ハンッ――ちょうどいいや、憂さ晴らしも兼ねていっちょ魔女退治と行きますか――!
   場所は――ショッピングセンターの辺か」スタッ

立ち上がった杏子はモヤモヤを振り払うように頭を振ると、気配を感じる方角へ向けて駆け出すのだった


ところがしばらく進んだところで、杏子は魔女の近くに知った気配を感じ、顔をしかめる

杏子「この気配は……
   ……ウゼェ。まじウゼェ!超ウゼェ!!」ジダンダ!

231: 2011/09/21(水) 20:30:15.43 ID:yUu6sik10
ーーーー
魔女空間inショッピングモール近くの路地裏
杏子が駆け付けた時には、既に《委員長の魔女》は忌々しい死神によって討伐された後だった

マユリ「――おや、今頃ノコノコとやって来たのかネ?全く冗長なことだネ――」ヤレヤレ

ネム「…………」ペコリ

ネムが一緒にいるのを見て、ますます表情が険しくなる杏子

杏子「おいアンタ――ネム、だったっけ?この変態に何もされてないか?」

ネム「……心配には及b」マユリ「一体何だネ?急に湧いてきたと思ったら、とんだ言いがかりをつけられたものだヨ」

杏子「言いがかりでも何でもねーだろ!あと“湧いた”とかいうな!てめぇこそ突然壁から湧いて出やがる癖に――!」

マユリ「…?何を急に怒り出しているのかネ…?そういうの正直引くヨ……」

杏子「決めたやっぱお前頃すわ」

マユリ「ヤレヤレ、鬱陶しいヤツだネ
    私は今から捕獲した研究材料を尸魂界に転送するところなんだ。用がないならサッサと失せ給えヨ」

杏子「ケッ…!」プイッ

マユリの言葉を受けて、杏子は改めて視線を“研究材料”とやらに向ける

232: 2011/09/21(水) 20:32:23.08 ID:yUu6sik10
委員長の魔女》はその六本の腕全てを疋殺地蔵によって斬られていた
それらはすべて縛道の一『塞』によって後ろ手に縛り上げられている上に、さらにそこから縦に紐で縛るようにして縛道の四『這縄』で拘束されている
どこから見ても文句のつけようがない、完璧な生け捕り状態であった
傍らには使い魔らしき下半身だけの物体が、これまた拘束具によって動きを封じられ無数に転がっている

マユリ「何だネ?物乞いのような眼で見てもアレは渡さんヨ」

杏子「いらねーよ!どんだけ物欲しげな顔してんだよアタシは!?」

杏子「……ったく、確かにてめぇのことはぶっ潰してやりてぇくらい嫌いだけど、他人様の獲物を横から掻っ攫うような真似はしねーよ」

マユリ「随分と物分りがいいじゃないか。薄気味悪い」

杏子「なんでこのおっさんさっきから全力で喧嘩売ってくるんだ?いい加減買うぜ?あ?」

杏子「だいたいてめぇもガンガン使い魔狩ってんじゃねーよ。卵産む前の鶏シメやがってさぁ…
   研究だかなんだか知らねーけど、せいぜい他人様には迷惑かけねーようにしろよ……ったく…」グチグチ

ネム(……何かあったのでしょうか)

233: 2011/09/21(水) 20:34:10.49 ID:yUu6sik10
マユリ「――ああそうだ、キミの愚痴で思い出した。ちょうどいいところへ来たネ」

杏子「お前つい今しがた『さっさと失せろ』って言ってたろ」

マユリ「キミが使い魔を放置しているのはグリーフシードを持っていないからだろう?
    そこでだ、キミにいいものをプレゼントしてあげようじゃないか」ポイッ

杏子「うぉっ!急に物投げんな――って、こいつはまさか――!?」ギョッ

マユリ「そう、見ての通りグリーフシードだヨ」

杏子「――どういうことだ。あそこに捕まってる魔女はまだ氏んじゃいねぇからグリーフシードが手に入るはずはねぇ……!
   よしんば何らかの方法でこいつを手に入れたとして、格好の研究素材をみすみすアタシに投げ渡す理由がどこにある!?」ザワ…ザワ…

マユリ「ハァ…ヤレヤレ、何をグダグダ悩んでいるのかネ
    安心し給え、爆弾や細菌兵器の類じゃあないヨ。単なる研究成果だ」

杏子「研究…成果ぁ?」

マユリ「そう、それは真正のグリーフシードじゃない
    私が試作的に作ってみた人工シードなのだヨ」

234: 2011/09/21(水) 20:36:24.87 ID:yUu6sik10
子「……は?」

マユリ「飲み込みの悪いヤツだネ全く
    グリーフシードの霊子構成を分析及び再現し、魔女の持つ“穢れ”のエネルギーを吸収するよう一晩試行錯誤を繰り返した結果ヨ」

                  ・ ←シード
杏子「いや、そうじゃなくてさ――」ノシ

杏子「――んな胡散臭いモン受け取れるかぁぁぁーーーっ!!!」ぷ v・

マユリ「おいお前!せっかくの研究成果を杜撰に扱うんじゃないヨ!ふざけるのも大概にし給えヨ!?」ビシッ

杏子「ふざけてんのはどっちだ変態オヤジッ!てめぇの作ったグリーフシードとか全力で怪しいわボケッ!!」クワッ

ネム「……お待ちください、佐倉杏子さん」

杏子「あぁん!?」ギロッ

ネム「これは魔法少女が穢れを効率的に除去できるよう、マユリ様が徹夜で開発されたものです」

杏子「えっ…お、おお……」

235: 2011/09/21(水) 20:38:37.72 ID:/1SaAlEnO
ネム「マユリ様も皆さんと協力してワルプルギスの夜と戦う以上、皆さんが魔力の消費を心配しなくて済むようお考えになられてこれを開発なさいました」

杏子「そ、そうなのか……?」

マユリ「フン、思い上がるんじゃない。単なる知的好奇心の産物だヨ」

杏子「アタシも単純にそれだと思うんだけど……」

ネム「佐倉杏子さん」ズイッ

杏子「な、なんだよ…」ヒキッ

ネム「……どうかマユリ様を信じては頂けないでしょうか」オジギッ

杏子「ええぇ…いや、でもこのおっさんアタシの中での評価うそくそ低いんだけど……」コマリハテ

マユリ「フゥ…ヤレヤレ、残念なことだヨ全く」

マユリ「この人工シードの有用性がはっきりすれば、より的確な改良が施せる
    より安価にかつ安定して量産ができるようになれば、キミたち魔法少女が縄張りを奪い合う必要も、魔女化の恐怖に怯える必要もなくなるというのにネ」

杏子「……っ!」(言われてみりゃあ確かに――!)

237: 2011/09/21(水) 20:39:42.68 ID:yUu6sik10
マユリ「――で?どうするかネ?」カクッ

ネム「お願いします」ウワメヅカイ

杏子「…………」

杏子「あーもうウッゼェ超ウゼェ!!
   わかったよ使ってみてやるよその人工シード!」ぷ. ヨイショ

杏子「そのかわり、なんか変な感じとかしたら即ぶっ壊すからな?」ジトー…

マユリ「御託はいいヨ。さっさと始め給え」

杏子「……」(こいつUzeeeeee---!!!)

杏子「ええぃもうこうなりゃヤケだぁっ!」ギュッ

コツン

人工シードをソウルジェムに押し当てる杏子
すると、ソウルジェムに溜まった穢れがみるみるうちにシードへ移っていくではないか

杏子「おっ、なんだ普通に使えるじゃ――っ!?」

ところが人工シードは、三分の一ほど穢れを吸収したところでもう真っ黒に変色してしまった!

239: 2011/09/21(水) 20:42:09.02 ID:yUu6sik10
思わずシードを放り捨てる杏子
孵化を警戒しいつでも変身できるよう身構える
しかし――

杏子「孵化、しねぇ……?」

投げ捨てた人工シードは、孵化することなく黒ずんだまま地面に転がっていた

マユリ「ヤレヤレ、何をそんなに慌てているんだネ?」

困惑する杏子に対し、マユリが滔々と語りだす

マユリ「――グリーフシードとは本来、魂の器であるソウルジェムが変容したものだ」

マユリ「すなわち、魂が穢れを吸って変質したもの、ということだネ」

マユリ「これはある意味で整が虚化する現象と似ているのだが、ひとまずそれは置いておくとしよう」

マユリ「重要なのは、グリーフシードもまた魂の形のひとつである、ということだヨ」

マユリ「ならば魂を宿さない、単なる“穢れの容れ物”として作られたこの人工のシードは、限界まで穢れを溜めたからといって魔女へと変容するワケがないだろう?」

まだ試作段階なので容量は大したことないがネ――そう締めるマユリだったが、正直杏子には彼の説明の半分も理解できていなかった
彼女にわかったのは、この胡散臭い死神が本当に『安全なグリーフシード』を作り出してしまったのだ、ということだけである

240: 2011/09/21(水) 20:44:34.42 ID:/1SaAlEnO
杏子「――へぇ。科学者だの局長だのってのも、満更誇大ってわけじゃないみてーだな」

マユリ「フン、今頃理解したのかネ
    ま、凡人に私の研究の意義を理解できるとも思ってはいなかったがネ――」

ネム「マユリ様。転送の準備が整いました」

マユリ「フム――佐倉杏子」

杏子「うぉっ!急に呼ぶなよ!驚くだろ?」

マユリ「今日一日、この街に出現する魔女及び使い魔は全て私の研究材料だ
    見つけても一切手を出さないよう、他の魔法少女共にも言っておけ。いいネ?」カクッ

杏子「けっ!こっちにそんな義理はねぇ……と言いたいとこだけど、しょうがねぇな」ヘッ

杏子「いいぜおっさん。アンタのことは気に食わねーけど、一応技術者としての腕だけは認めてやるよ」ニィッ

マユリ「――なんだネ急に気持ち悪い。拾い食いでもしたのかネ?」

杏子「お前やっぱ頃すわ」

242: 2011/09/21(水) 20:46:36.22 ID:yUu6sik10
ーーーー
放課後・見滝原中学校

さやか「そんじゃまどか、ほむら、あたし今日はこれで!」

まどか「あー、さやかちゃん今日も上条君?二日連続なんて献身的だねー?」ティヒヒ

さやか「ぬぅ、まどかのやつ普段からかわれてる分の反撃に出てきたわね……
    ――まぁね、最近あいつなんか元気ないみたいだし、あたしが行って励ましてやんないとなーって、ね?」テレテレ

まどか「ウェヒヒ、うんうん!それじゃあさやかちゃん、またねー」ノシ

さやか「ほーいッス!」ノシ

ほむら「…………」ジィ…

244: 2011/09/21(水) 20:48:38.08 ID:yUu6sik10
まどか「ほむらちゃん、それじゃ私も今日は帰るね?」

ほむら「ええ――まどか、くれぐれも」

まどか「だいじょうぶ!私、絶対契約なんてしないから!バイバイ!」ノシ

ほむら「…………」

ほむら(本当なら、まどかも一緒にいた方が安全だけれど……)

ほむら(作戦会議の内容をまどかに聞かせるのもまずいわ……)

ほむら(ワルプルギスの強大さを耳にして、あの娘が今の戦力で勝てるのか不安に感じてしまうのも避けたいし……)

ほむら(昨日釘を刺したばかりだし、涅マユリもそうすぐには事を荒立てないはずだと思うけれど…)

ほむら「それと――」

246: 2011/09/21(水) 20:51:42.43 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原中学校・校門前
さやかが飛び出してくるのを待っていたのは――

さやか「――杏子?」

杏子「……よっ」ノシ

さやか「なんでここに――あ、ほむらとマミさんならもうすぐ来ると思うけど」(き、気まずい…)

杏子「んー、そっか――今日はさやかはどうすんだ?」(ちくしょう気まずいなー…)

さやか「あー、あたしはちょっと用事あるからパスで!あんたも、作戦会議がんばりなよ?」

杏子「お、おう!当たり前だろ!
   ……それとさ、さやか」

さやか「な、なに…?」

杏子「その…今朝は、ちぃーっとばかしむきになっちまってさ
   なんつーかその…アタシが強情すぎたとこもあったかもしれないし、だからっ……」

さやか「……いいよ、謝んなくて」

杏子「へ……?」

247: 2011/09/21(水) 20:53:07.14 ID:/1SaAlEnO
さやか「あんたのいう『食物連鎖』って考え方には賛同できないけど、魔法少女にとってグリーフシードが必需品だってのも確かだし
    こっちの方こそ、頭ごなしにあんたの意見否定しちゃってごめん!」ペコリ

杏子「なっ…ズ、ズリィぞさやか、人には謝んなって言っといて自分だけ――!」オロオロ

さやか「…あっはっは、なにそれ!
    はぁ!謝ったらなんかスッキリした!そんじゃ杏子、作戦会議がんばってね!」ノシ

杏子「あっ、おいさやか――ったく、ひとりで勝手に完結しやがって」

248: 2011/09/21(水) 20:53:39.93 ID:yUu6sik10
ーーーー
時間は少し過ぎ、夕方頃
見滝原市・人通りの多い道

まどか「それにしてもさやかちゃん、最近上条君とこによく行ってるんだねー…」テクテク

まどか「ティヒヒ!ふたりがうまくいきますように!」テクテク

ピーポーピーポー
ガヤガヤザワザワ

まどか「あれ、なんかあったのかな?」スタスタスタ…

まどか「――あの、すいません。なにかあったんですか?」

通行人A「ん?ああ、なんでも人が急に倒れたらしい――」

通行人B「わたし一部始終見てたわよ
    なんかフラフラ歩いてたから気分でも悪いのかと思ったら、急に――」

まどか「人が急に……あっ!」

その時まどかの目に飛び込んできたもの
それは、担架に乗せられ運ばれる、志筑仁美の姿であった

249: 2011/09/21(水) 20:56:57.25 ID:/1SaAlEnO
まどか「仁美ちゃん――!」

思わず前に出そうになるまどかだったが、そこでさらに遠くから声が聞こえてくるのだった

通行人C「お、おい!あっちでも人が倒れてるぞ!」

救急隊員「なんだって!?」

通行人D「あそこにも!」

ますますざわつく野次馬たち
まどかは携帯を取り出すと、急いである番号にかけた

『――もしもし鹿目さん?どうしたの?』

まどか「あ、マミさん!実は今、駅の近くの通りで友達が急に倒れたんです!
    それに、近くで他にも何人かが――!」

マミ『――魔女の仕業、ってことかしら?』

まどか「確証はないんですけど――でもフラフラ歩いてたら急に倒れたって!
    一度にこんなにたくさんの人が同じ場所で倒れるなんて――!」


「心配は無用だヨ」

250: 2011/09/21(水) 20:58:51.65 ID:/1SaAlEnO
まどか「ひぃっ!?」ビクゥッ!

振り返るとそこには涅親娘が!

マミ『――もしもし鹿目さん?どうしたの?もしもし――!』

まどか「へ…あ、あの、マ、マユリ…さんと、ネムさんが……」アトズサリ

マユリ「ヤレヤレめんどくさいことだネ
    ――おい、念話をONにしろ」

ネム「はい、マユリ様」

ピッ カチャッ…

マユリ『さて、魔法少女の諸君、聞こえるかネ?』

マミ・杏子・ほむら『――っ!?』

まどか「えっ!?な、なに――?」

マユリ『うるさいヤツだネいちいちピィピィと騒ぐんじゃないヨ』まどか『ひゃっ!ご、ごめんなさい……!』

252: 2011/09/21(水) 21:01:12.00 ID:yUu6sik10
ほむら『ちょっと――!まどか、大丈夫?』

マミ『無事なの鹿目さん!?』

杏子『変態オヤジになんかされたか!?』

まどか『み、みんな…!だいじょうぶだよ……ティヒヒ…』

マユリ『全くどいつもこいつも――いいかネ?今私はインキュベーターの力でキミたち全員と念話を繋いだところだヨ』

マミ『キュゥべえの――?』

ネム『マユリ様がインキュベーターの念話補助能力を分析し、通信装置として開発したものを今作動させています』

マユリ『ちなみにこの装置は魔女探査機能も付いている優れものでネ
    散々インキュベーターを解体した甲斐があったというものだヨ』

杏子『……さすがにちょっと気の毒だな』

マユリ『無駄口を叩いている場合かネ?
    とにかく、鹿目まどかが目撃したのは確かに魔女の仕業だ――いや、だったと言うべきか』

ネム『この現象を引き起こしていた魔女は、既に我々が捕獲いたしました
   したがって、皆さんが心配される必要はありません』

まどか『え…そう、なんですか……?』

255: 2011/09/21(水) 21:04:37.83 ID:/1SaAlEnO
マユリ『そういうことだヨ。あの人間たちが一斉に倒れたのは、“魔女の口づけ”が効力を失ったからだネ』

杏子『なーんだそうか。なら心配いらねーな』

マミ『……信じて大丈夫かしら?』

杏子『大丈夫大丈夫、このおっさんは研究材料に関しちゃ絶対に粗末にゃしねーからさ』

マミ『そ、そう…でもほんと、鹿目さんに何事もなくてよかったわ』

まどか『ご、ごめんなさいマミさん!私、早とちりして電話までかけちゃって――』

ほむら『――涅マユリ、ひとつ訊きたいのだけど』

マユリ『ん?』

ほむら『あなたが捕まえたというその魔女――ひょっとしてディスプレイのような形をしていないかしら?』

マユリ『――ホゥ、よくわかったネ。ご名答だヨ』

ほむら『やっぱり――じゃあ今日が――!』

まどか『――ほむらちゃん?』

ほむら『涅マユリ!あいつは――インキュベーターは今あなたが持ってるの?』

256: 2011/09/21(水) 21:05:47.49 ID:yUu6sik10
マユリ『――いや?いちいち持ち運ぶ必要もないので置いてきたヨ。どの道ヤツに関しては、見るべき所はあらかた見たしネ――』

ほむら『――まどかよく聞いて。これからすぐに病院に向かってほしいの』

まどか『えっ、病院に?』

ほむら『ええ、私たちもすぐ行くけど、あなたの方が近いだろうから――美樹さやかが危ないわ』

まどか『さやかちゃんが――!?』

マミ『何ですって!?』

杏子『なっ――どういうことだよ!?』

ほむら『説明は後よ。すぐに私たちも病院へ行きましょう』
    
ほむら『――涅マユリ、涅ネム。インキュベーターを見つけたらすぐに始末してちょうだい。絶対に美樹さやかを契約させてはダメ――同盟に、いえ決戦に大きく影響することよ。いいわね?』

マユリ『ホゥ、これは面白い!あの暁美ほむらがここまで動揺を露わにするとはネ!
    ――いいだろう。ネム!さっさとその病院に案内するんだヨこのグズが!』

ネム『了解しました、マユリ様』

まどか『あっ!ちょっ、待ってくださいよーっ!』

ほむら(油断していたわ…今回はいつもより展開が早くなってるけど、まさか『あの日』がこんなに早く来るなんて……!)

258: 2011/09/21(水) 21:06:49.53 ID:/1SaAlEnO
ーーーー

恭介「さやかはさぁ……
   さやかは、僕を苛めてるのかい?」

さやか「恭介……?」

260: 2011/09/21(水) 21:08:42.91 ID:yUu6sik10
ーーーー

さやか「――あるよ」

恭介「え?」

さやか「奇跡も、魔法も、あるんだよ――!」



さやか「――キュゥべえ!」

見滝原市・病院の地下駐車場
人気のないその空間に、グワングワンとさやかの声が響く

さやか「キュゥべえ!出てきてよ!
    あたし決めたの。あんたと契約する、契約して魔法少女になるって!!」

QB『それは本当かい?』

さやか「…っ!キュゥべえ……!?あんたその姿……!」ガバッ

QB『ああ、遅れてすまない。見ての通り今は足が右前足一本しか残ってないものでね、ここまで全速力で這って来たんだ
  見苦しいかもしれないけどご了承願うよ』

262: 2011/09/21(水) 21:10:43.53 ID:/1SaAlEnO
QB『それにしても驚いたな。てっきりキミはもう契約する気がないものとばかり思ってたよ』

さやか「そんなことより!ひとつ確認したいんだけど、契約する時の願い事って、あたし自身に関わることじゃなくてもいいんだよね?」

QB『うん、勿論さ。キミが叶えたい願いなら、願いの内容は誰に関わるものでも構わないよ』

さやか「――わかった、それじゃキュゥべえ!」

QB『さぁ、美樹さやか――その魂を代価に、キミは何をn』ボンッ

グチャッ!

さやか「え――?ひ、ひゃあっ――!!」

突如さやかの目の前で破裂するキュゥべえ
思わず後ずさるさやかの耳に、憎たらしい声が飛び込んでくる

マユリ「――ヤレヤレ、勝手に動き回ってよしと言ったかネ?インキュベーター」

さやか「あんた――!なにしてんのよっ!!」クワッ

263: 2011/09/21(水) 21:11:23.55 ID:yUu6sik10
マユリ「ヤツには予め爆弾を仕込んでおいたからネ
    勝手な行動をした場合には今のように吹っ飛ばせるよう準備しておいたのだヨ」

さやか「そういうこと言ってるんじゃなくてっ――返してよ。今すぐキュゥべえを返してよ!」

マユリ「さて、次の個体なら既に出現しているようだがネ
    尤もここに私がいる以上、キミが呼んでも姿を現すかどうか――」ヤレヤレ

さやか「…!!ふざけんなっ――!」ズイッ

マユリに対する怒りが恐怖を凌駕したさやかは、逆上しマユリに掴み掛ろうと迫った
しかしそれより早くさやかの前にネムが立ちはだかり、無言のままさやかを睨みつける

さやか「ネムさ――!」

「さやかちゃん!!」

さやか「えっ――?」

ネムに気圧されたじろいだ瞬間、背後から呼びかけられ振り返るさやか

さやか「まどか――」

まどか「さやかちゃん、待ってよ……もう契約なんてしないって、私たちほむらちゃんと約束したよね……?」フアンゲ

264: 2011/09/21(水) 21:13:41.01 ID:/1SaAlEnO
さやか「まどか、でもっ――!」

ダキッ

さやか「……まどか?」

まどか「……上条君のことなんだよね?」ギュウ…

さやか「…!どうして――」

まどか「そんなの…さやかちゃんがこんなに思いつめちゃうなんて、上条君のことしか思い浮かばないもん…」ティヒヒ…

さやか「……あはは、さっすがあたしの嫁だねぇ…なんでもお見通しかぁ……」フルフル…

まどか「さやかちゃん……!」

さやか「――諦めろって言われたらしいんだ」ボソッ

まどか「……っ!」ビクッ

さやか「今の医学じゃ無理だって、先生から直々に言われたんだって…あはは、あいつったら泣きそうな顔しちゃってさー……」フルフルフル…

まどか「さや――」

さやか「奇跡か、魔法でもない限り治らないんだってっ…!!だからっ…だからあたしがっ……!」グスンッ

まどか「うん…うん…!」ナデナデ

さやか「……ねぇまどか。あたし、契約しちゃダメなのかな…?」ボソッ…

267: 2011/09/21(水) 21:16:04.20 ID:yUu6sik10
まどか「…………」ナデナデ

さやか「契約のカラクリも知ってるし、魔法少女の末路も聞いた
    それでもあたし、恭介の腕を治せるなら――また恭介の演奏を聴けるなら――!」

まどか「ダメだよ、さやかちゃん……!」

さやか「……まどか?」

まどか「さやかちゃんの願いは何にも間違ってない…上条君を想うさやかちゃんの気持ちは、本物だと私も思うよ
    でも…その願いを叶えるために、身体を変えて、一生魔女や使い魔と戦い続けなきゃいけなくなるなんて……!」フルフル…

まどか「そんなの……絶対おかしいよ……!」グスッ…

さやか「……じゃあ、どうしたらいいのよ…?」

さやか「あたし結局、あいつに何もしてやれないままなのっ……!?」ウッ グスッ…


マユリ「――ヤレヤレ、先ほどから聞いていればけったいなヤツだネ……
    要するにその上条とかいう人間の腕が治ればいいんだろう?なら手っ取り早い方法があるじゃないか――」


さやか「――え?」

まどか「治す方法――あるんですか!?」

268: 2011/09/21(水) 21:16:19.55 ID:/1SaAlEnO
マユリ「なに、簡単なことだヨ。その人間は現世の医療技術では治療できないのだろう?
    なら、現世にない技術――死神の力を使えばいいことじゃないか」

さやか「――ふざけないで」

まどか「え?」

さやか「適当なこと言わないでって言ってんのよ!
    ネムさんから聞いてるよ、『生きた人間の治療のために医療班の死神が駆り出されることはまずない』って!」

マユリ「キミは何を言っているのかネ?」カクッ

さやか「は?」

マユリ「確かに、そのためだけに今から四番隊の応援を呼ぶのは不可能だろうネ
    しかしだ、何もわざわざ面倒な手続きを踏んで医療班を現世に呼び寄せる必要もないだろう――?」

さやか「あ、あんたなに言って――」

マユリ「ヤレヤレ、魔法少女とその候補生というのは揃いも揃ってこうも飲み込みの悪いものなのかネ?
    簡単な話だヨ――」


マユリ「――私がその人間を治療してやればいいだけの話じゃないか?」

269: 2011/09/21(水) 21:17:22.46 ID:yUu6sik10
さやか「ふ ざ け る なっ!!」

まどか「ちょっ、さ、さやかちゃん落ち着いて――!」ギュウッ!

さやか「冗談は見た目だけにしてよっ!?あんたに恭介の身体を預けるなんて魔女結界の中に普通の人を放り込むより危険じゃないのっ!!」


マユリ「何だネ、私はただ上条恭介とやらを“改造す”と言ってるだけじゃないか」

さやか「字がちがぁぁぁうっ!!」

マユリ「騒がしいヤツだネ全く――いいかネ?技術開発局の責任者が無料で直々に診てやると言ってるんだ
    どんな姿に仕上がろうと感謝の言葉を述べるのが道理というモンだろう?」

さやか「ないよそんな道理っ!つーかやっぱり変な改造するつもりだったのねっ!?」

まどか「さ、さやかちゃん……!」

さやか「……とにかく、あんたに任せるのだけは天地がひっくり返っても――」

「あー、その、待てよさやか」

さやか「えっ――?」

息を巻くさやか
そこへ言葉を投げかけたのは――

さやか「……杏子?」

杏子「よ、よぉ!」ノシ

276: 2011/09/21(水) 21:20:04.11 ID:/1SaAlEnO
さやか「あんた…それに、ほむらとマミさんも一緒じゃない
    どうしてみんな揃ってここに――?」

ほむら「そんなことはどうでもいいわ。それよりも今は、あなたの問題について考えるべきよ」

さやか「なっ…あんたたちまでなんで知って――!?」

杏子「なぁ、さやか。その…信用できないかもしれないけどさ
   そのおっさんに――任せてみたらどうよ?」

まどか「えっ」

さやか「ハァッ!?あんたまで急に何言い出すわけ?あんたついこの間こいつにボコボコにされたばっかでしょ!」

杏子「バ、バカ言え!アタシがいつボコボコにされたってんだ!…ってぇ、そうじゃなくてっ!
   …アタシも確かにコイツは気に入らねぇが、どうもコイツ技術力に関しちゃ本物みてーなんだよ」

マミ「……佐倉さんが言ってることは本当よ、美樹さん」

さやか「マ、マミさんまで……!」

杏子「見ろよこれ。何だと思う?」つ・

さやか「何って…グリーフシードでしょ、それ?それがどうしたって――」

ほむら「それは“人口の”グリーフシードよ。涅マユリがたったの一晩で開発したという、ね――」

277: 2011/09/21(水) 21:21:08.84 ID:yUu6sik10
さやか「へっ?人工って、つまり……作ったってこと!?こいつがぁ!?」ビシッ

マユリ「指さすんじゃないヨ不愉快な小娘だネ」ギロッ

杏子「ああ。最初はアタシも胡散臭がってたんだけど、実際に使ってみたらちゃんと穢れを吸収できたんだ
   スゲーだろ?もしこれがもっと改良してたくさん作れるようになれば、わざわざ使い魔をほったらかしたりしなくてもよくなるんだぜ」

さやか「あっ――」

マミ「そうなればもちろん、グリーフシードを巡って魔法少女同士が対立する必要もないし、魔力を温存しようと戦って窮地に陥る危険も減るわね
   実際、私も佐倉さんからこれを見せられるまでは懐疑的だったけど――」

ほむら「――けど、確かに凄いものなのよ、この人工シード。事前に情報収集やデータを分析していたとはいえ、一晩でこれだけ精巧なものを作り出す技術力は並みじゃないわ」ファサァ

さやか「けど……それとこれとは……だって、こっちは身体に関わることだし……!」

ネム「それでしたら心配はいりません、美樹さやかさん
   マユリ様は人体に関しても大変精通していらっしゃいます。おそらく護廷十三隊の中でも医療部隊の責任者である卯ノ花隊長と並ぶ知識をお持ちでしょう」

杏子「そ、それにさ、あんま思い出したくない光景かもしんねーけど、さやかも見たろ?
   千切れたコイツの腕が一瞬で生えてきたの。いや、もちろんその上条ってやつの腕を新しく生え変わらせろって言ってんじゃねーからな!?」アワアワ

278: 2011/09/21(水) 21:22:27.19 ID:yUu6sik10
さやか「……やっぱりイヤ。どんな結果になるかわからないこいつに頼るよりも、まだキュゥべえと契約した方が確実だし――」

マユリ「ホゥ?」

ほむら「むぅ…」

杏子「やっぱ嫌か……」

ほむら「……ねぇ、美樹さやか。これは私の推論なのだけれど――
    あなたは魔法少女になったら、最終的には必ず後悔すると思うわ。『こんな身体じゃ、恭介の傍になんていられない』――なんて言ってね」

さやか「……っ!そんなこと――!!」ドキッ

ほむら「あなたのことだから表向きは明るく振る舞うでしょうけど、それでもきっと隠し切れないはずよ。魔法少女の身体のこと、あなたが気にしないままでいられるはずがないもの――」

さやか「……!」

まどか「…ほむらちゃんの言う通りだよ、さやかちゃん」

まどか「さやかちゃんは優しいから、優しすぎるから!
    ――魔法少女になることで、こんなに優しいさやかちゃんが、ずっと苦しみ続けることになるなんて……!」

さやか「……」

杏子「さやか……」

マミ「美樹さん……」

さやか「……あーあ、こんだけみんなに心配されちゃ、さすがにそれを無碍にはできないよね――」ハァ…

279: 2011/09/21(水) 21:24:09.00 ID:/1SaAlEnO
まどか「…!さやかちゃん……?」ハッ

さやか「なんつーかさ……自分では冷静に考えてたつもりでも、やっぱあたしちょっと錯乱してたのかも
    あんなこんがらがった頭で契約しようとしちゃってさ……けど、止めてくれてありがとね、まどか」ナデナデ

まどか「さやかちゃぁん…」グスッ

さやか「それに、みんなも!作戦会議やってたはずなのに、わざわざあたしのために来てくれて、ほんとありがとうっ!」

マミ「ふふ…お礼なんて言う必要ないわ
   お友達が悩んでいたら、相談に乗ってあげるのは当然でしょう?」クスッ

杏子「――ったく、さやかはちょっと目を離すとすぐ契約しようとすっからなぁ
   ほんと世話が焼けるよ、まったく」ニィッ

さやか「なにをー!…って、今回ばかりは返す言葉もありません……」テヘヘ

苦笑まじりにそう返すと、さやかは一転して真剣な表情となり、無表情のまま彼女たちのやりとりを見ていたマユリへと向き合った

マユリ「――さて、決心はついたかネ?美樹さやか」カクッ

280: 2011/09/21(水) 21:24:49.61 ID:yUu6sik10
さやか「――もう一度確認するけど、本当にあんたを信じて大丈夫なのね?」キッ

マユリ「フン、愚問だネ。たかが人間の小僧ひとり治すくらい、私には造作もないことだヨ」

さやか「もし恭介の身体になにか変な手加えたりしたら――」

マユリ「しつこいヤツだネ私は技術開発局長だヨ?
    なんの霊力も持たない人間なんていまさら実験材料にもなりはしないヨ。改造なんてする価値もない」

さやか「……わかった。正直、あんたのことまだ受け入れられてないけど、それでも――」

さやか「今は、あなたを信じます。どうか恭介の腕を――治してくださいっ…!」オジギッ

マユリ「最初から素直にそう言えばいいのだヨ
    ――フム、それじゃ早速必要なものを準備するとしよう」

マユリ「手術は明日の昼、面会時間開始直後だ
    サッサと済ませてしまおうじゃないか――」ニヤリ

282: 2011/09/21(水) 21:26:52.36 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
その夜―
見滝原市・さやか宅
床に敷かれた布団に寝そべった杏子が、おもむろに口を開く

杏子「なんつーかさ」

さやか「ん?」

杏子「さやかって、何でも重くとらえすぎて背負い込みがちなんだと思うよ?」

さやか「な、なによ急に…!」

杏子「いや…単純に今日のこといろいろ考えてたらそう思えてさ
   アンタ、その上条ってやつの腕のこと、『自分がなんとかしなきゃ』って感じだったろ?」

さやか「そ、それは…当たり前でしょ…!」

杏子「そりゃあ魔法少女の契約なんつー裏ワザ知ってたら、何かあた時それを使いたくなる気持ちもわかるよ?」

杏子「さやかがよく考えた末に、もう他にどうにも手段がねぇって感じだったら、最悪契約すんのもさやかの自由だとは思う」

さやか「……」

杏子「けど実際にはアンタ、錯乱してワケわかんなくなってる頭で、飛びつくように契約に手ぇ出そうとしてたろ?」

さやか「だって…あの時はもうそれしかないって思って…それで……」フルフル…

283: 2011/09/21(水) 21:27:19.43 ID:yUu6sik10
杏子「そうだな。けど実際には、別の“裏ワザ”があったわけだ
   頭おかしい変態っつーイメージしかあのおっさんに感じてなかったさやかには、とても思いつかないような“裏ワザ”がな」

杏子「あー、なんだか言ってるうちにこんがらがってきたな
   ――要するに、さやかひとりの考えじゃどうにもならなさそうに思えても、他のやつの知恵を借りれば突破口が見つかるかもしんねーってこと」

さやか「他の…みんなの……」

杏子「そういうこと。世の中、案外裏ワザや抜け道なんてたくさんあるもんだぜ?
   ほむらはワルプルギスの夜を討つのにイレギュラーな死神ってやつを利用してやろうとしてんだ。さやかも怖い思いさせられたんだし、利用できるんならしちまえよ」

さやか「……アンタ、意外と口が立つのね」

杏子「あ?」

さやか「てっきり直情型のパワー馬鹿なのかと思ってた、見た目とか口調的に」

杏子「ふざけんな“見た目直情型”ってなんだよ
   ――まぁ、口に関しちゃそれなりに、な。アタシ、これでも宗教家の娘なんでね」

さやか「え?なにそれ、マジ?」

杏子「まぁな。
   んー、そうだなー。長いうえに退屈な話になるけど、なんだったら聞くかい――?」

285: 2011/09/21(水) 21:29:08.00 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
一方その頃―
見滝原中学校・屋上

QB『――それにしても、どういう風の吹きまわしだい?
  わざわざ美樹さやかの幼馴染を治してやろうなんて』グッタリ

マユリ「うるさいヨ。勝手に動くなとあれほど言っておいたハズだがネ?』ニギニギ

QB『そう言われても、ボクにも一応ノルマがあるからね
  契約を結びたいっていう少女がいたらどうしてもそちらへ行かn』ギュウゥゥッ

マユリ「口ごたえをするんじゃないヨ屑が。またバラバラにされたいのかネ?
    ――なに、ここらでひとつ、大きな恩を売っておこうと思っただけだヨ」

キミにネ――
そう続けて、マユリはゆっくりと振り返る
気がつけば、屋上に新たな人影が足を踏み入れていた

ほむら「……やはり、そういうこと」

286: 2011/09/21(水) 21:29:17.79 ID:yUu6sik10
マユリ「ンッフッフ…察しがいいじゃないか暁見ほむら」

QB『やぁ暁見ほむら、キミは本当に神出鬼没だね――』

ほむら「その白い塊を少し黙らせてもらえないかしら?
    耳障りで話をする気もなくなるわ」ファサァ

QB『やれやれ、随分と嫌わr』マユリ「フム、いいだろう。ネム、コイツを霊波計測装置にかけておけ。それが済んだら穿界門を開いて局まで必要な道具を取ってくるんだヨ」

ネム「はい、マユリ様」スタスタスタ…

QB『ちょ――』グワシッ

ネムに頭を掴まれ、どこかへ連れて行かれるキュゥべえ
それを横目で流すと、ほむらはマユリに向き合ってこう言った

ほむら「それで――何が望み?」

287: 2011/09/21(水) 21:31:30.72 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
翌日の土曜日―
病院・恭介の病室

恭介「どうぞ――あ、さやか…」

さやか「おーっす恭介…調子はどう?」ノシ

恭介「ああ、うん…珍しいね、さやかが休日に来るなんて」キマズゲ

さやか「うん、まぁたまにはそういうのもいいかなーって。てへへ…」キマズゲ

恭介「――さやか」

さやか「な、なにっ?」ドキッ

恭介「その…昨日はごめんっ!
   僕、さやかに…ひどいこと言っちゃったよね。いくら気が滅入ってたとはいえ…」

さやか「――ううん。いいよ、そんなこと!
    あたしの方こそ、恭介の気持ちも考えずにいつもCD聴かせちゃってて…ごめんね」

恭介「さやかが謝ることないよ!さやかは僕の為にと思って、いつも珍しいCDばかり持ってきてくれるし――」

さやか「……あはは!」

恭介「さ、さやか!?」アワアワ

289: 2011/09/21(水) 21:31:49.78 ID:yUu6sik10
さやか「ごめんごめん、なんか拍子抜けしちゃってさ!」

さやか「正直ね、昨日恭介に怒鳴られた時には、『これからどうしよう!?』って感じで相当テンパっちゃって
    大げさな話だけど、この世の終わりみたいに思いつめちゃってたんだ、あたし」

恭介「さやか……」

さやか「けどね、一晩頭冷やしてもっかい話したら、こんなにあっさり恭介と仲直りできたでしょ?
    なんか、あんなに思いつめてた自分がバカみたいでさ!」

さやか(ほんと…アンタの言う通りだわ、杏子――)

恭介「そんなに僕の腕のことを……ありがとう、さやか」ジーン

恭介「さやかに言われた通り、僕、最後まで諦めずに頑張ってみるよ
   それこそ奇跡でもなんでも起こしてやるって気持ちで、リハビリを続けていく」キリッ

さやか「恭介……!」ジワ… ゴシゴシッ!

さやか「――うん!恭介なら絶対大丈夫だよ!」ニッコリ!

恭介「えっ!あ、うん…!」ドキッ

さやか「……だからね」

恭介「うん?」

さやか「これから何が起こっても――あたしを信じてほしいの」

292: 2011/09/21(水) 21:33:43.07 ID:/1SaAlEnO
恭介「…え?」

突然神妙な顔つきになったさやかに困惑する恭介
さやかはそれに構わず、病室の扉に向かって声をあげる

さやか「――ネムさん!」

ガチャリ…

扉を開けて入ってきたのは、義骸に入った状態の涅ネムであった
ネムは肩に提げた袋からなにやらポールのような金属の棒を取り出すと、それらを組み立てつつ病室の四方に設置していく

恭介「えっと…さやか、この人は…?」

さやか「あはは…恭介は気にしなくていいよ、うん」

恭介「え?でも――」

その通り、どうせ知ったところですぐに何もわからなくなる

ネム「簡易式霊子変換器、設置完了しました」

そう言うとネムは義魂丸を飲み込み、義骸から分離して霊体となる
無論さやかにはその様子が見えているが、霊感を持たない恭介は霊体のネムは視認できないため、謎の美女が飴のようなものを飲み込んだようにしか見えていない

294: 2011/09/21(水) 21:34:45.46 ID:yUu6sik10
義魂ネム「それでは美樹さやかさん、ここからは病室の外でお待ちしましょう」

そうだ、あとは我々に任せ給えヨ

さやか「あ、はい…」

恭介「あの…」

するとさやかは、未だ事情の呑み込めていない恭介の手をぎゅっと握り、顔を近づけた

恭介「えっ!?ちょっ、さやか――!?」ドキドキドキドキ

さやか「ファイトだよ、恭介!何があっても最後まで望みを捨てないで!」ギュッ

恭介「えっ!?あっ、う、うんっ…!!」ドギマギドギマギ

それだけ言って、さやかは義魂丸とともに病室を出ていくのだった

295: 2011/09/21(水) 21:36:59.73 ID:/1SaAlEnO
恭介「……なんだったんだろう、今の」

ヤレヤレ、相変わらず礼儀を弁えない娘だネ全く

恭介(あんなに近くでさやかの顔見るの、久しぶりかも……)ドキドキ

まあいい、装置を起動しろネム

恭介(…いい匂いだったな)ドキドキ

了解しました、マユリ様

恭介(それにさやかのやつ…意外に大きいんだな…)ドキドキドキドキ

ピッ ウィィィィィーーーンッ!!

恭介「うっ!なんだ?急に耳が――!」

不意に、飛行機に乗った際の気圧変化の時のような感覚に襲われる恭介
思わず目を瞑りつつ、ナースコールに手を伸ばしたところで――

マユリ「フム、無事に作動したようだネ。上出来だヨ」カクッ

恭介「へ…?」

彼が目を開けると、なんと目の前に世にも奇怪な姿をした男が首を傾けて立っているではないか!

恭介「ひっ…!うわぁぁぁーーーっ!!」ガタガタッ

296: 2011/09/21(水) 21:37:16.74 ID:yUu6sik10
思わず逃げるようにベッドの上で身をよじる恭介
縋るような気持ちでナースコールを押そうとするも――

恭介「っ!?な、なんで押せないんだ!?」ポチポチポチポチ

マユリ「無駄なことだヨ。今、この病室は結界によって外部世界から完全に遮断されている」

恭介「ななななな――!」

マユリ「これは単なる空間断絶型ではなく、外部の人間の意識そのものから存在までもを忘却させる類の特殊なタイプの結界だ
    要するに、この病室が位置する空間は現在、外からは何もないただの壁としか見做されているということだ。泣こうが喚こうが誰も助けには来れないのだヨ――」

恭介「なんなんですかあなたはぁぁぁーーーっ!?」ヒィィィーーー!

突然の闖入者にすっかり動転する恭介
実のところ、さやかが義骸に入ったネムを病室に呼び入れた時から、マユリもまた病室の中に入っていたのである
無論マユリは霊体であるため、恭介の眼には映っていなかったのだが

マユリ「――全く、男の悲鳴というのは女のそれと比べて艶に欠けるネェ、聴くに堪えんヨ」

恭介「ししし質問に答えてくださいっっっ!!!」

マユリ「わざわざキミの腕を診るために来てやったというのに、随分な態度じゃないかネ?」カクッ

恭介「み、みる――」

マユリ「そう、キミを改造しにきたのだヨ」

恭介「字がちがぁぁぁうっ!!」

299: 2011/09/21(水) 21:39:40.14 ID:/1SaAlEnO
ベッドの上で怯え慄く恭介
そんな彼の姿を見て、マユリはヤレヤレとばかりに肩を竦めると、病室の入り口付近に立っている霊体ネムを呼んだ

マユリ「おいネム。この軟弱な小僧をおとなしくさせろ」

ネム「了解しました、マユリ様」スタスタ…

恭介「え…?あれ…?」キョトン

目の前に立つマユリのインパクトにやられて周囲が見えていなかった恭介だったが、そこに先ほどさやかと病室を出たはずのネムがいるのに気付き、困惑する

しかしすぐに、困惑は混乱へと変わった

「えっ、ちょっ…!」

恭介のベッドに近づくネム
短いスカートの裾から伸びる太ももが、横になっている彼の目の前に迫る

恭介(うわっ…ちょっ、短すぎるよ――!!)ドキドキドキドキ

赤面する恭介をよそに、ネムはツカツカと彼のベッドの傍まで近づいてきた
そしてあろうことか、なんとそのまま恭介のベッドの上に乗り上げたのだった!

恭介「ええぇっ!?ちょっ、な、何を――」バクバクバクバク

300: 2011/09/21(水) 21:39:42.92 ID:yUu6sik10
硬直してしまう恭介をよそに、マウントを取るような態勢でベッドに手をつくネム
彼のすぐ眼の前には、氏覇装に覆われてなお存在感をアピールする二つの塊が――

ネム「上条恭介さん」

恭介「は、はいぃっ!!」ドキドキバクバク

ネム「私の眼を見てください――」

恭介「はいっ!!――え」

ネム「――」ジィ…

サァァァァーーー…

次の瞬間にはもう、恭介の意識は失われていた
完全に意識が消えたことを確認して、ネムがベッドから降りる

ネム「白伏、完了しました」

マユリ「――ヤレヤレ、麻酔を打つ為にまず眠らせなければならないとはネ。実に面倒な話だヨ――」ピュッピュッ

いつの間にやら取りだしていた注射器から二、三度薬品を飛ばしながらそう言うと、今度はマユリが恭介の方へと近寄っていく

マユリ「さて、それじゃ――」

すっかり意識を失くした恭介に麻酔を打ちこみ、後ろへ手を出すマユリ
手術道具を用意して控えていたネムが、その手にメスを握らせた

マユリ「術式を開始するとしようかネ――」ニヤリ

302: 2011/09/21(水) 21:41:47.23 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
病室の前の廊下
壁に背を預けるようにしてうつむくさやか
傍らには、ネムの義骸に入った義魂が寄り添っている

さやか「…………」

義魂ネム「…………」チラッ

さやか「……大丈夫、ですよね」

義魂「……ええ。私やこの義骸を作ったのも涅隊長ですし――」

さやか「それに…ネムさんを、本物のネムさんを、その…“創った”のもあの人なんですよね」

義魂「はい…ですから――」

さやか「うん、わかってる――」

さやか「どの道ここまできたんだし、あとはもう信じて待つしかないよね――」ギュッ

義魂「…………」

303: 2011/09/21(水) 21:42:08.22 ID:yUu6sik10
ーーーー
病院一階・ロビーのベンチ

杏子「…………」ジリジリジリジリ

まどか「……えっと…」

マミ「……ふぅ」

ほむら「――少し落ち着きなさい、佐倉杏子」ファサァ

杏子「あっ!?な、何言ってんだ!アタシは落ち着いてるよっ――!」ガタッ

まどか「杏子ちゃん…!静かに座ってないと…!」アワアワ

杏子「えっ?あ、ああ、わかってるよ…!」ペタリ

マミ「ふふ…まぁ、しょうがないわよね。たぶんここにいる全員が、おんなじ気持ちでしょうし」

まどか「さやかちゃん……」

杏子「――なぁに、こうなりゃ後はあのおっさんを信じて――」

ゴゴゴゴゴ……!!

杏子・マミ・ほむら「――っ!!」ガタッ

305: 2011/09/21(水) 21:43:46.58 ID:/1SaAlEnO
まどか「み、みんな――?」オロオロ

杏子「――魔女だ」ギリッ…

まどか「えっ!?」

マミ「大丈夫、病院の敷地内じゃないわ。けど、そう遠くない場所に出現したみたいね――!」

杏子「ちっ、この重要な時に…!
   ――まぁいいや、ひとっ走りぶっ潰しに行って――」

ほむら「待ちなさい、佐倉杏子。ここは私と巴マミで仕留めるわ
    あなたはここでまどかと待っていてちょうだい――」

杏子「なっ――どうしてだよ!?」クワッ

ほむら「――あなた、さっきからソワソワしすぎよ
    そんな浮足立った状態じゃ、戦闘にも集中できないでしょう?」

杏子「んなこと……!」

マミ「そうね、暁美さんの言う通りだわ
   佐倉さん、ここは私たち二人に任せてもらえないかしら?」

306: 2011/09/21(水) 21:44:09.01 ID:yUu6sik10
杏子「けど…!昨日話し合った連携を試すチャンスでもあるし……!!」

マミ「ふふ、そんなの今じゃなくてもいいわよ。これから先、ワルプルギスの夜が襲来するまでまだまだ時間はあるんだから」

ほむら「そうよ。慌てることはない――とにかく今は、あなたにはここで美樹さやかが降りてくるのを待っていてあげてほしいの」

杏子「…………」

まどか「…杏子ちゃん。今はほむらちゃんたちに任せちゃっていいんじゃないかな…?」

杏子「……わかったよ、今回はアンタらに譲ってやる
   さっさと蹴散らして、さっさと戻ってこいよ?」

ほむら「――ええ、わかってるわ」ファサァ

マミ「ふふ…それじゃ、ちょっと一仕事、済ませてくるわね」ニコッ

まどか「ほむらちゃん、マミさん、気を付けてね…!」ノシ フリフリ

308: 2011/09/21(水) 21:45:50.95 ID:/1SaAlEnO
残された二人―
じりじりしながら拳を握って座る杏子
まどかはそんな杏子の方を窺うように見る

杏子「…………」ギュウッ

まどか「杏子ちゃん……」フアンゲ

杏子「ん?…あ、ああ…ハハハ
   つーか、なんでアタシがあったこともない上条とかいうやつのことでこんなに心配しなきゃなんねーんだよ!」

まどか「…ティヒヒ!杏子ちゃんは優しいね」ニコッ

杏子「ばっ…うっせーよ!////」

309: 2011/09/21(水) 21:46:12.20 ID:yUu6sik10
ーーーー
さやかにとってはとても長く感じられたが、実際は30分かそこらが経過したところであろう
不意に病室の扉が開き、中から憮然とした表情のマユリが出てきたのは

さやか「…っ!」ガタッ

義魂ネム「……」チラッ

ネム「……」コクリ

マユリに続いてネムも現れ、義骸に向かって頷いた
ネムが義骸に戻るのも待たず歩き出すマユリ
さやかのことすら意にも介さず、マユリは無言のまま立ち去ろうとする

さやか「ちょっ――待ってよっ!
    手術は――恭介はどうなったのっ!?」

マユリ「――フン、さぁネ。自分の眼で確かめたらどうだネ?」

さやか「なっ――!」

振り返りもせずそれだけ言って歩み去るマユリ
さらになぶか問いただそうとするさやかに対し、マユリの後ろに付き添うネムが振り向く
そしてわずかに微笑みながら、さやかの目を見て頷くのだった
ハッと顔を上げたさやかは、勢いよく病室の中に入っていった

さやか「きょうすけぇっ!!」

313: 2011/09/21(水) 21:48:37.94 ID:/1SaAlEnO
ダァッと病室に駆け込んで、開口一番にそう叫んださやか
その声が聞こえたのか、恭介は苦しそうにベッドの上で唸った

さやか「恭介!?恭介っ!!」ガタガタユサユサ

恭介「う……うぅん……近……ハッ!?」ガタンッ

さやか「――っ!恭介っ!?」

恭介「……さやか?あれ、どうしたんだい、そんなに慌てて……」キョトン

さやか「……恭介!どこもおかしいとこない!?」

恭介「え…いや、特には…ちょっと変な夢を見てたような気がするけど……」

さやか「ほんとにほんと?痛いとことか苦しいとことか――!」ヒッシ

恭介「ちょっ、落ち着いてさやか!そんなにベッド揺らさない――」ハッ

さやか「…恭介、腕――」


気が付けば、必氏の形相てまくしたてるさやかを落ち着かせようとして、恭介の腕が彼女の肩を押さえていた


恭介「え……?あれ、うそ――」ポカーン

314: 2011/09/21(水) 21:49:43.68 ID:yUu6sik10
さやか「――きょうすけぇぇぇーーーっ!!」ダキッ

ギュウゥゥーーッ!!

恭介「わっ!!ちょっ、さやか――!?」ドギマギ

突然の事態に目を白黒させる恭介だったが、自分を強く抱きしめてくるさやかの肩が微かに震えているのを感じて、ぎこちなくその背中をさする

さやか「うっ…うっ、ほんとに、よかったっ…!」グスン

恭介「……ありがとう、さやか。さやかの言った通りだったね。諦めなければ、奇跡だって起こるんだ」ナデナデ

さやか「うぅっ…!そ、そうだ……ごめん、恭介!ちょっと待っててね…!」

そう言うや否や起き上がると、さやかはナースコールを押してから病室を去ろうとする

恭介「え…?さやか、どこへ――」

さやか「ごめんっ!すぐ戻るからっ!!」ダッ

315: 2011/09/21(水) 21:51:21.38 ID:/1SaAlEnO
困惑する恭介をよそに、さやかは入ってきた時と同じような勢いで病室を出て行った
廊下から走るなと注意するような声が聞こえてくる
そうしてさやかと入れ違いに廊下を通りがかった看護師が病室を覗いて――

看護師「もう、美樹さんたら!――こんにちは上条さん
    何かあったの?彼女、すごい勢いで走って――」

恭介「あ…その、実は僕、腕が……」ノシ ヒラヒラ

看護師「…………」

看護師「!?!?!?!?」

316: 2011/09/21(水) 21:51:59.59 ID:yUu6sik10
ーーーー
一階ロビー―

エレベーター到着音にまどかと杏子が振り向いた

まどか「あ――!」ガタッ

杏子「おっさん――!」ガタッ

マユリ「――フン」ツカツカ

ネム「…………」ペコリ

何も言わず去ろうとするマユリに、当然食って掛かったのは杏子であった

杏子「おい!なんで何も言わねぇんだよ!?」クワッ

まどか「まさかっ……!」フアンゲ

マユリ「――鬱陶しいヤツらだネ全く
    言ったハズだヨ?『人間の小僧ひとり治すくらい、私には造作もないことだ』――とネ」

まどか「……!じゃあ――」パァァ

杏子「ホントなんだな!?嘘だったらぶっ潰すぞ!?」

マユリ「そこを退き給えヨ。私は忙しいんだ――」ツカツカツカ…

ネム「……失礼します」コクリ

318: 2011/09/21(水) 21:54:15.84 ID:/1SaAlEnO
さらに何か問いたげな二人を無視して、マユリはそのまま病院を出ていく

まどか「――うまくいったんだよね?上条君の腕、ちゃんと動くようになったんだよね?」ヒッシ

杏子「と、とにかく!アタシたちも病室に行ってみようぜ!
   ホントなら今頃大騒ぎになってるはず――」

その時、再びエレベーターの音が二人の耳に届いた

勢いよく飛び降りてきたのはさやかである

まどか「さやかちゃん――!」

杏子「おいさやか!どうなったん――」

さやか「ごめんっ、二人ともっ!!少しだけ待って――!!」ダッ

二人が話しかけるのも聞かず、さやかは一目散に病院の外に駆けだす

まどか「あっ、さやかちゃんっ――!!」

杏子「待てよさやかっ――!!」

320: 2011/09/21(水) 21:54:45.66 ID:yUu6sik10
ーーーー
病院・外―
向こうからやってくる二人の魔法少女の姿を見て、マユリがうんざりしたような顔をする

ほむら「――涅マユリ」

マミ「あなたたちがここにいるってことは――上条君は?」

マユリ「うるさいんだヨ!どいつもこいつも!!示し合わせたように同じ質問ばかりするんじゃあないヨ!!」

マミ「!!」ビクッ

ほむら「…………」ジィー…

ネム「……ご安心くださ――」


「――待ってっ!!」


その時、マユリたちを呼び止める声が響いた

ほむらとマミが病院の入口へ視線を向ける

ネムも振り返りそちらを見た

近くにいた一般人たちもまた、何事かと声のした方へ注目する


「待って…ハァ…待ってくださいっ……ハァ…」ハァ…ハァ…

322: 2011/09/21(水) 21:58:16.41 ID:/1SaAlEnO
マミ「美樹さん……!」

ほむら「美樹、さやか……!」

息を切らせて駆け出してきたさやかの、あまりに必氏な様子を見て、二人は言葉に詰まる

ネムはさやかを見つめている

マユリは振り返らない

ようやく息が落ち着いてきたさやかは、その場で大きく二度、深呼吸をする

そして、もう一度深く息を吸い込むと――


「――――ありがとうございましたっっ!!!」


言うと同時に渾身のお辞儀

息をのむギャラリーたち

辺りが静まり返る

323: 2011/09/21(水) 21:58:24.74 ID:yUu6sik10
パタ…

足袋が地面を踏む音が聞こえた

音の主であるマユリは、さやかに応じることなく歩いていく
一方ネムはもう一度さやかに微笑むと、一度頭を下げてからマユリの後を追うのだった

さやか「あ……」

緊張が解けたのか、ペタリとその場に尻をつくさやか

そこへ、病院から出てきたまどかと杏子が駆け寄ってきた
マミも笑顔をほころばせてさやかのもとへ近付いていく
ほむらもそれに続こうとしたところで――

マユリ「――――」ボソッ…

ほむら「――っ!」ハッ

すれ違いざまに、マユリが何事か囁くのを、ほむらは聞き逃さなかった
微かに笑みを浮かべながらほむらの方を見遣るマユリに対し、ほむらは目を伏せ気味にこう答えるのだった

ほむら「――ええ、感謝するわ」

326: 2011/09/21(水) 22:00:32.34 ID:yUu6sik10
ーーーー
あれから2週間後―
見滝原市・魔女空間in河川敷の高架下
立ちはだかる《犬の魔女》と相対するのは、三人の魔法少女

ほむら「――それじゃ、この間話した連携で行くわよ」

杏子「おう!」ニィッ

マミ「いつでもいいわよ――!」ニコッ

二人がほむらの腕をつかみ、それに反応した魔女が動きだすより先に、ほむらはつかまれた状態で腕を動かし、砂時計を発動させた――

~停止~

ほむら「――まずはあなたからね。途中で手を離すんじゃないわよ――」

杏子「うっせー!わかってるよ!」

マミ「行きましょう!」

言うや否や、三人が同時に動き出す
ほむらの腕につかまった状態で三人で一緒に跳び上がると、そのまま魔女の背後に回り込む

ほむら「いい?あなたは巴マミが攻撃を命中させた後で、後ろから魔女に強烈な一撃を叩き込むのよ――」

杏子「だからわかってるっつーの!そんじゃお前らも位置取りミスんなよ――!」バッ

言って、杏子がほむらから手を放した
杏子の時間が停止する

327: 2011/09/21(水) 22:01:11.02 ID:/1SaAlEnO
マミ「さて、お次は私の番ね――」

マミとほむらは魔女の頭上へと跳び上がった

ほむら「私が最初の一撃を奴の顔面に叩き込むから、あなたは――」

マミ「――敵が怯んだ所に、間髪入れず一斉射撃、でしょ?大丈夫、任せてちょうだい!」

そして魔女を眼下に見下ろす構図で、マミがほむらから離れる

ほむら「…………」

最後に魔女の目の前に手榴弾を投げつけ、それが停止したのを確認すると、ほむらは勢いよく魔女から飛び退くのだった

十分な距離を取ってから、盾を操作し魔法を解除する

~始動~

328: 2011/09/21(水) 22:02:03.56 ID:yUu6sik10
ドォオォォォーーーン!!

魔女「バウッ!?」

直前まで目の前にいたはずの魔法少女たちが姿を消していることに、驚く間も与えられぬまま、魔女の眼前で手榴弾が炸裂する
不意の一撃に怯み上体を反らす魔女が次に目にしたのは、上空から自分を狙う無数のマスケット銃だった――!

マミ「うん、タイミングばっちりね――!」ウィンク!


マミ「――ティロ・メトラジェッタ!!」キリッ


バンバンバンバンバンバンバンバンバンーーーーーーー!!!!
マミの合図と同時に、大量のマスケット銃が一斉に火を吹いた

魔女「キャウゥゥゥゥーーーンッッ!!」グラリ…

マミの波状攻撃をもろに浴びた魔女は、たまらず後ろに倒れていく
それを待ち構えているのは、両手で槍を構えた杏子である

杏子「へっ――ベストポジションだ!!」グッ

倒れかけた魔女が、後ろにもう一人の魔法少女がいることに気付いた時にはもう遅かった
杏子の振り上げた槍が、魔女の後頭部に炸裂する――!

ブンッ――!!

魔女「グワォオォォォーーーンッッ!!!」

329: 2011/09/21(水) 22:03:20.07 ID:/1SaAlEnO
消滅していく魔女の結界
一連の動きを見ていたほむらが髪をかきあげながら息を吐いた
マミと杏子が駆け寄る

杏子「おっしゃ!完璧じゃん!」ニィッ!

マミ「ええ、タイミングも位置取りもぴったりだったわね――!」ニッコリ

ほむら「――だいぶ息が合うようになってきたわね。悪くないわ」ファサァ

そこへ、彼女たちに向かって呼びかける声が届いた

まどか「ほむらちゃーん!マミさーん!杏子ちゃーん!」ノシ フリフリ

さやか「おーいみんなー!おつかれー!」ノシ フリフリ

330: 2011/09/21(水) 22:03:30.58 ID:yUu6sik10
ーーーー
杏子「おっ、まどかの持ってきた唐揚げうまそうだな!」キラキラ

戦いを終えた魔法少女たちは、まどかたちの持参したビニールシートの上で弁当箱を並べていた

まどか「ウェヒヒ!お父さんが作った特製のお弁当だよ!」

さやか「まどかのパパは料理めっちゃうまいからねー!
    ――あっ、杏子あんた!あたしより先にまどかの弁当に手ぇ出すんじゃないわよ!」

杏子「うっせー早いモン勝ちだ!なー、まどか?」モグモグ

まどか「ふ、ふたりとも喧嘩しないで…まだたくさんあるから…!」

マミ「ふふふ…まるでピクニックみたいね」

ほむら「……緊張感に欠けるかしら?」ホムホム

マミ「ううん、そういう意味で言ったんじゃないわ
   戦った後にみんなでこうしてお喋りして――とっても楽しいなって、ね」ニコッ

さやか「そうそう、何事もメリハリッスよー!」ムグムグ

331: 2011/09/21(水) 22:05:26.02 ID:/1SaAlEnO
マミ「そうだわ、私も魔法瓶に紅茶を容れて持って来たの。よかったらみんなもどう?」

さやか「あ、いただきまーす!」

杏子「飲む飲む!」モグモグ

ほむら「……あなたはまず口の中のものをちゃんと飲み込みなさい」ホムホム

まどか「……そういえば、マユリさんたちはどうしてるんですか?」

マミ「ふたりなら今は尸魂界よ。なんでも中間報告だとか、いろいろな作業があるらしくて」ズズ…

あの日、恭介の腕が治った後で、案の定病室は大騒ぎになっていた
まどかたちと一緒に病室に戻ったさやかも医者や看護師たちから話を聞かれたが、どう説明していいかもわからず、知らぬ存ぜぬで通した
念のため様々な検査がされたが、どうみても完治している恭介の腕を前に、一同首を捻るばかりであった

その日のうちにマユリとネムは穿界門を開き、現世を後にした
とはいえ完全に没交渉というわけではない
3日置きにネムが現世にやってきては、人工シードの試作品を渡すと同時にほむらたちから使い終わった人工シードを回収していくのである

333: 2011/09/21(水) 22:05:57.72 ID:yUu6sik10
さやか「――へー、ああ見えてやっぱ忙しいんだね、マユリ隊長も
    なんか完全に趣味の人って感じの印象だけど」ズズ…

杏子「…プフッ!くくく…」

さやか「な、なによ…!」ムッ

杏子「いやだって、あのさやかが、あのおっさんのこと『隊長』付けで呼ぶようになるなんてなーって、さぁ」ニヤニヤ

さやか「う、うっさい!そりゃだって、一応あの人は恭介の件では恩人だし……」アセアセ

まどか「ティヒヒ、むきにならなくてもいいんだよ?さやかちゃん!」

さやか「ちょっ、まどかまでー!?」

マミ「ふふ、そうね。それに――」

マミは懐からグリーフシード――マユリが作り出した人工シードを取り出し、眺めながら続ける

マミ「私もあの人の技術力はすごいと思うわ。これがあるって思うだけで、余計なことを気にせずに魔女と戦えるもの
   人格的には、やっぱりちょっと受け入れられないけど――」

さやか「そんなん当たり前ですよー!あたしだってさすがにあの人を人格面で尊敬するのはキツイですからー!」アハハ

杏子「あっはっは!そりゃそーだ!」パクッ

ほむら「――けど、変わったと言えばあなたもなんじゃない?佐倉杏子」ホムホム

杏子「あん?」ムグムグ

336: 2011/09/21(水) 22:09:56.95 ID:/1SaAlEnO
ほむら「……初めて会った頃のあなたって、あまり他人と馴れ合うのを好まないタイプに思えたのだけれど?」ホムホム…ゴックン

マミ「言われてみれば確かにそうね……」ズズ…

さやか「――『弱い人間を魔女が食う。その魔女をアタシたちが食う。これが当たり前のルールでしょ、そういう強さの順番なんだから』――」キリッ

杏子「ぶっ!!ごほっ、ごほっ!さ、さやかてめぇ…!!」ギロッ

マミ「あら、なぁに、それ?」クスッ

さやか「これはですねー。杏子があたしん家に泊まった最初の夜に――」ニヤニヤ

杏子「ちょっ、お前ちょっと黙れこらー!」カァァァー

まどか「えーなにそれー?もっと詳しく聞きたいなー?」ウェヒヒ

マミ「まぁ、面白そうなエピソードね。私もぜひ聞きたいわ」フフ

杏子「て、てめぇら…あっ」ニヤリ

ほむら「……?」

杏子「――さーやーか!そういやお前、上条クンとやらとは最近どうなんだ?あ?」ニヤニヤ

337: 2011/09/21(水) 22:10:55.67 ID:yUu6sik10
さやか「なっ…きゅ、急に何よ……////」グヌヌ…

杏子「いやいやいや、なんせあんだけ嫌ってたおっさんに頭下げてまで治してもらった大事な大事な“幼馴染”だろ?ちゃぁんとうまくやってんのかなーって、な?」ニヒヒ

マミ「それ、私も気になるわ。どうなの美樹さん?」フフフ…

さやか「ちょっ、マミさんまで――なんでみんなそんなに興味津々なのよー!?」カァァァー

腕が治ってからは、恭介は松葉杖をついて学校に来るようになった
恭介の退院を知った仁美はさやかを呼び出し、自分は恭介のことを想い慕っている、と宣言
自分より恭介と長く付き合いのあるさやかには自分の先を越す権利があると言う仁美に対し、さやかは動揺するも、まどかたちから背中を押され遂に想いを彼に伝えたのだった

恭介からの返事は「OK」
彼もまた、病院生活の間にさやかのことを少しずつ異性として意識するようになったのだという

まどか「ティヒヒ!実はさやかちゃん、明日は上条君とデートなんだよね?」

さやか「まどかっ!?」

マミ「まぁ!そうなの?」キラキラ

杏子「マジかよ!?ひゅーひゅー!」ニヤニヤ

さやか「うぅ…からかうなぁー!!」

まどか「オーケストラコンサートを二人で聴きに行くんだよねー?」ウェヒヒ!

マミ「まぁ!ロマンチックじゃない!」

ほむら「…………」

338: 2011/09/21(水) 22:11:50.73 ID:yUu6sik10
ほむら(ほんと、嘘みたいね――)

ほむら(まどかとさやかは契約してなくて、マミと杏子は私に協力してくれている――)

ほむら(キュゥべえの横槍もほとんど入らないし、おまけにグリーフシードの心配も必要ない、なんて――)

ほむら(なんだか、ことがうまく運び過ぎて怖いくらいだわ――)

まどか「――ほむらちゃん?どうしたの?」

ほむら(―っ!)「――いいえ、なんでもないわ」ファサァ

さやか「ん、どしたのほむら?なんか暗いぞー!」

ほむら「そんなこと……」

杏子「――心配いらねーよ」

ほむら「え…?」

杏子「どうせ決戦のことでも考えてたんだろ?ま、お前の話じゃあと一週間ぐらいだっていうし、気になるのはわかるけどさ――」

杏子「アタシらはひとりで戦うんじゃねぇ、みんなで協力して戦うんだ
   三人の連携ならワルプルギスの夜だろうと敵じゃねーよ!」ニィ

ほむら「…………」

340: 2011/09/21(水) 22:13:04.22 ID:/1SaAlEnO
マミ「佐倉さんの言う通りよ、暁美さん。私たちが力を合わせればきっとやれるわ!」ニッコリ

ほむら「……ええ、そうよね」

まどか「ほむらちゃん――」

さやか「――そうだ!ねぇ、ワルプルギスの夜を倒したら、みんなでどっか旅行でも行かない?」

まどか「旅行?」

杏子「また急だなー」

さやか「えっへっへ、ほら、どうせなら戦いの後でなにかお楽しみがあった方がみんなもモチベーション上がるんじゃないかって思ってさ。どう?」

マミ「――ええ、面白そうね」ニコッ

341: 2011/09/21(水) 22:13:45.96 ID:yUu6sik10
杏子「旅行かー。もう何年も行ってねーなー
   どうせ行くならなんか美味いもんがある所がいいな!」

まどか「うん!私もみんなと一緒に旅行行きたい!」

さやか「でしょでしょ!?――ほむらはどう?」

ほむら「……そうね」

ほむら「その時は、ぜひともご一緒させて頂くわ」ファサァ

杏子「言い方がかてーぞーほむら!」ニヤニヤ

さやか「ほーんと素直じゃないんだからーほむらは!」アハハ!

ほむら(その時は――か)

まどか「…………」ジィー…

342: 2011/09/21(水) 22:15:41.56 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
夕方―

まどか「それじゃほむらちゃん!またねー!」ノシ フリフリ

ほむら「ええ。くれぐれもキュゥべえには気をつけなさいね――」ファサァ

各々帰路につく少女たち

杏子は最初のうちこそさやかの家に泊まっていたものの、今では魔法少女同士で一緒にいた方が都合のいいこともあって、マミの家で世話になっている

ほむらがまどかにキュゥべえのことを警告したのは、現在キュゥべえは現世に野放し状態だからである
ネムの話によれば、地球外生命体であるキュゥべえ――インキュベーターは、霊波測定まではできても何故か霊子変換ができず、尸魂界に連れて行けないとのこと
さすがのマユリも尸魂界から現世のキュゥべえに対して拘束や爆破を行うことは難しいため、現状キュゥべえは久々に自由な行動が許されているのだ
尤も、位置補足自体は常時なされているため、マユリがその気になればいつでも発見・捕獲は容易とのこと

加えてこの2週間、自由になったはずのキュゥべえは、なぜかまどかにあまり接触してこないのも特筆すべき点である
一度、ほむらが鹿目家の近くで発見した時に追及したところ――

343: 2011/09/21(水) 22:15:50.68 ID:yUu6sik10
~回想~

QB『何故急に鹿目まどかに接触しなくなったのかって?妙なことを訊くんだね暁美ほむら
  キミからすれば、ボクがまどかから離れるのなら理由なんてどうでもいいんじゃないかな?』

ほむら『――生憎、私はそう楽観視できるほどお前を侮ってはいないのよ』

ほむら『まどかはあなたにとって最高の素質を持つ少女――みすみす見逃すとは思えないわ
    いったい何が狙い?』カチャッ…

QB『やれやれ、ただでさえ今月はボディのスペアがかさんでしょうがないんだ
  下手にキミの機嫌を損ねてまたこの身体を壊されでもしたらかなわないよ――』

QB『なに、まず第一の理由はキミたちの邪魔がきつくて安易にまどかへ近づけないということさ
  巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか、そしてキミだ。いつもいつもこう周りに事情を知る人間がいちゃあどうにも勧誘しづらいだろう?』

ほむら『別に私たちは四六時中まどかの近くにいるわけじゃないわ
    まどかがひとりになる瞬間を狙うことなんて、お前なら容易いはずよ』

QB『確かにそう思うだろうね。けど、実際にはそうじゃないのさ
  第二の理由として、鹿目まどかは既に魔法少女と魔女のカラクリについてあらかた知ってしまっているということがある』

ほむら『それで私を納得させられると思っているの?
    真実を知られたくらいで、お前たちインキュベーターがせっかくの標的を諦めるわけがないでしょう?』 

QB『――前から思ってたけど、キミは随分とボクらや魔女について詳しいんだね
  ボクの方こそキミに幾つか訊きたいことが――』

ほむら『無駄口を叩かないで。まだ納得いく説明を聞いてないわよ』カチャッ…

344: 2011/09/21(水) 22:16:39.54 ID:yUu6sik10
QB『――わかったよ。けど、キミも薄々気づいてるんじゃないかな?
  おそらくご明察だよ。最大の理由はあの死神の存在さ――』キュップイ

QB『あの男の開発した人工のグリーフシードは、魔法少女を使ったエネルギー回収システムにとって致命的な障害なんだよ』

ほむら『――ソウルジェムが、グリーフシードに変容しづらくなるから?』

QB『その通りだ、暁美ほむら。魔女を倒す目的の一つであるグリーフシードの獲得が、格段に容易になってしまったからね』

QB『現段階ではまだ穢れの吸収効率も悪いし、キミたち以外の魔法少女には流通していないのが救いだけど、いずれより完成度の高いものができたらもうアウトだ
  穢れが溜まっている状態で無理に魔女と戦ってまでシードを得ようとする魔法少女は減るし、それまで放置していた使い魔を遠慮なく倒すようになる輩も中には出てくるだろう』

ほむら『――逆に魔女を放置するようになる魔法少女も出てくるでしょうね』

QB『そうした魔法少女は魔力消費がますます減るから魔女化する危険が少なくなり、使い魔の減少も合わせて必然的に魔女の数は激減する――』

QB『わかるだろう?暁美ほむら
  このままだと、魔法少女と魔女というシステム自体が破綻してしまうんだよ――』

ほむら『――つまり、もうこれ以上まどかに執着しても、エネルギー回収の見込みが薄い、ということ?』

QB『ま、端的に言ってそういうことさ。彼女ほどの才能をもつ個体をみすみす諦めるのは確かに惜しいけどね
  それに固執する暇があったら、今のうちに少しでも他の地域の魔法少女や候補者たちからエネルギー回収にあたっておいた方が得策ということさ』

345: 2011/09/21(水) 22:18:17.91 ID:/1SaAlEnO
ほむら『――お前たちほどの文明の持ち主なら、尸魂界側と全面戦争を起こすことぐらい容易いんじゃない?』

QB『やれやれ、無茶を言わないでくれないかな。ボクらは宇宙のエネルギー問題を解決するために活動しているんだ
  対象となった惑星と交戦するわけにはいかないんだよ。かえってエネルギーを浪費してしまう』

QB『おまけに今まで死神側に存在を知られないよう細心の注意を払ってきたせいで、こちらも尸魂界の内情についてはほとんど情報がない』

QB『戦勝による絶対の利益が約束されていて、なおかつそれが戦争に払ったエネルギーを凌駕していない限りは、ボクらに交戦という選択肢はないんだよ』

ほむら『…………』

QB『まだ信用できないのかい?全く、慎重なことだね』

346: 2011/09/21(水) 22:18:41.08 ID:yUu6sik10
QB『とにかく今のボクは、あわよくば契約を結べたら御の字、っていうくらいの気持ちでまどかに近づいてるだけだよ
  あの死神に目をつけられた以上、名残惜しいけどまもなくこの街からも去らなきゃいけないだろうしね』

ほむら『……それなら無駄な足掻きよ。いくら棚ぼたを期待したところで、まどかは契約なんてしない』

ほむら『さっさとこの街を出て行った方が、お互いのためになるんじゃないかしら?』カチャッ…

QB『どうやらそのようだね。ワルプルギスの夜が来る頃まで適当に粘って、そうしたらここを去るとするよ――』キュップイ

ほむら『…………』

347: 2011/09/21(水) 22:19:52.20 ID:yUu6sik10
ーーーー
ほむら「……まだヤツの言葉を信じ切ったわけじゃない
    それでも、今回のループは今までで一番、事がうまく運んでいる……」

ほむら「大事なのはここから……なるべく最小限の被害でワルプルギスを撃退するという、最大の難問が残っている――」

ピッ カチャッ…

『……暁美ほむらさん、聞こえますか?』

ほむら「っ!」(念話?それにこの声は――)

ほむら『――ええ、聞こえてるわよ、涅ネム』ファサァ

ほむら『何かあったの?次のグリーフシード受け渡しは明後日のはずだけれど――』

ネム『はい、暁美さん。先ほど、マユリ様が現世に戻られました』

ほむら『――っ!』

ネム『報告事項等がございますので、直ちにこちらへ来て頂きたいのですが……』

ほむら『――わかったわ。場所は?』

349: 2011/09/21(水) 22:22:32.80 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原中学校・屋上
ほむらが到着すると、マユリとネムが大きな荷車の傍らに佇んでいた

マユリ「ヤァ暁美ほむら、久しぶりだネ」ニヤリ

ほむら「相変わらずね、涅マユリ」ファサァ

ネム「…………」ペコリ

ほむらは布のかけられた二台に視線を向ける

マユリ「ああこれかネ?なに、すぐにわかるヨ――さて、暁美ほむら。いい知らせと悪い知らせがあるのだが、どちらから聞きたいかネ?」カクッ

ほむら「……悪い方から聞くわ」

マユリ「ホゥ、なんとも勇敢なことだネ。では、そちらから話すとしよう――」

マユリ「結論から言うヨ。ワルプルギスの夜との決戦に際して、護廷十三隊からの直接的な増援は見込めない」

ほむら「……なっ!?」

マユリ「従って、決戦にはキミたち魔法少女と、現地調査と称して我々二人だけが挑むことになるネ」

ほむら「――どういうことか説明して。魔女の脅威については散々あなたが報告をまとめたのでしょう?」キッ

マユリ「まぁ待ち給えヨ。順を追って説明しようじゃないか――」

350: 2011/09/21(水) 22:23:00.07 ID:yUu6sik10
ーーーー
~回想~

元柳斎「……魔法少女か」

尸魂界・瀞霊廷一番隊舎
隊首会の席でマユリが一通りの報告を終えると、憮然とした表情のまま総隊長が呟いた

浮竹「魔法少女に魔女、インキュベーター……俄かには信じがたい報告ばかりだ」

日番谷「バカバカしい……と言いてぇとこだが――」チッ

京楽「――実際、こうして目の前に持ってこられちゃあねぇ……信じるしかないじゃないの」フゥ…

隊首室の中央には、拘束された魔女と無数の使い魔たち
未知の存在を目の当たりにして、隊長たちは程度の差はあれ驚きを隠しきれない

351: 2011/09/21(水) 22:24:30.66 ID:/1SaAlEnO
砕蜂「こんなモノ共が現世に……!先遣調査にあたった隠密機動はこいつらを見逃したというのか――!」ギリッ

狛村「それは致し方あるまい、砕蜂隊長
   聞けば、こやつらの霊圧は非常に特異で、その結界とやらによほど接近せねば感知は困難だという」

京楽「しっかしこんなのが人を襲ってたってのに、今まで一度も目撃報告がなかったとはねぇ……」

マユリ「それにはおそらくインキュベーター共の工作もあったのだろう
    ヤツらは遥か昔から現世にて暗躍し、魔法少女たちを生み出してきたのだからネ――」

浮竹「なるほど、魂魄を利用するインキュベーターたちにとって、護廷十三隊にその存在を知られることは避けたかったということか」

卯ノ花「そのために、魔法少女や魔女が死神と接触することがないよう、なんらかの手を打ってきたのですね――」

マユリ「ああ。おそらく魔女や魔法少女の霊圧波形が独特で感知しづらくなっているのも、ヤツらの仕業なのだろうネ
    加えて、魔女の霊圧波形は虚のそれと非常に相性が悪い――」

日番谷「相性だと?」

352: 2011/09/21(水) 22:24:48.14 ID:yUu6sik10
マユリ「端的に言って、魔女の霊圧は虚からすれば非常に気分が悪いものなのだヨ
    故に、ある程度知能がある虚ならば魔女の出現しやすい地域には近づかないし、獣並みの知能しか持たない虚も本能的に接触を避けようとするわけだ――」

白哉「……虚の出現頻度が低ければ、その地域専任の死神は任を解かれ、周辺地域の死神が担当範囲を兼任する
   元来虚の出現率が低いため、兼任した死神は当然の如くその地域に対する警戒を緩める……という寸法か」

マユリ「ま、ヤツらがそこまで詳しく護廷十三隊のシステムを理解していたのかは知らんがネ」

剣八「ハッ!んなこたぁどうでもいいだろう
   重要なのは、もうすぐ現世に現れるって話の大型魔女をどうするか――ってことだろうが」ニヤリ

狛村「うむ、もしその協力者――暁美といったか?その魔法少女からの情報が事実ならば、甚大な被害が現世にもたらされることになる」

浮竹「直ちに我々も迎撃準備を――!」

元柳斎「――待てい」

一同「…!」

元柳斎「…魔女の討伐を目的として、護廷十三隊から部隊を派遣することはできぬ――!」

354: 2011/09/21(水) 22:26:25.29 ID:yUu6sik10
ーーーー
ほむら「どうしてよ!?」

マユリ「フム、まずは我々護廷十三隊側が把握している魔女および魔法少女に関する情報がまだまだ少ないことが挙げられるネ」

マユリ「何せ、長い尸魂界の歴史の中で、初めて認知された事案だ
    おまけに情報元はこれまた得体の知れない“自称情報通の魔法少女”一人、組織としては慎重に動かざるを得ないのだヨ」

ほむら「……私一人の証言では、ワルプルギスの夜の危険性が話半分に取られても仕方ない――ということ?」クッ…

マユリ「はっきり言えばそういうことだ。何しろキミが何故、魔女やインキュベーターについて詳細に熟知しているのかも、我々にはわからないのだからネ――」ニヤリ

ほむら「…っ!」

マユリ「果たしてキミがワルプルギスの夜についての情報をどこで知り得たのか――それすらもはっきりしないうちは、キミの情報に信憑性は宿らんのだヨ」

ほむら「…………」ギュッ…

マユリ「加えてもう一つ、こちらの方がより直接的な理由になるだろうが――」

ほむら「……なに」

マユリ「キミたち魔法少女は、魂魄を特殊な形に加工されたとはいえ、生者であることには違いない
    そして同様に、異形の姿をした魔女でさえも、その実態は肉体を持つれっきとした生者なのだヨ――」

ほむら「……魔女が、生者?」

355: 2011/09/21(水) 22:29:03.48 ID:/1SaAlEnO
マユリ「ま、外見からは想像もつかないだろうがネ
    とにかくだ、魔女が肉体を持つ物的領域の存在である以上、霊的領域を管理する我々死神の管轄外と考えざるをえないわけだヨ――」

ほむら「――っ!そんな……!甚大な被害をもたらすことがわかっているのよ――!?」

マユリ「地震や台風でだって被害はでるだろう?それと同じだことヨ」

ほむら「同じ――っ!?」

マユリ「戦争や災害でどれだけの氏者が出ようと、我々尸魂界の関与すべきことではない
    それはキミたち人間の管轄だ。徒に現世と尸魂界の役割分担を乱すことはできないということだ、わかるかネ?暁美ほむら――」

マユリ「――ワルプルギスの夜は一種の“災害”と判断されたのだヨ」

ほむら「――あなたたち二人は、大丈夫なの?現世の“災害”如きに出撃しても――」ギュッ…

マユリ「ああ。現時点では判断しかねるとはいえ、どの道今後は尸魂界側も魔女や魔法少女について無知ではいられないからネ――
    さしあたっては、技術開発部門の統括者である我々二人が、最大級の魔女であるというワルプルギスの夜について、その能力調査を行うこととなったわけだヨ」カクッ

マユリ「尤も、本来ならこの手の本格的な調査は二番隊の管轄なんだがネ
    魔女研究の為と言い張ってどうにかこちらの意見を通すのには骨が折れたヨ――」

ほむら「――そう、死神側の意向はよくわかったわ
    それじゃ、いい知らせとやらを聞きましょうか」ファサァ

マユリ「ホゥ、内心では落胆しているだろうに随分と気丈なことだネ
    いい知らせというのは外でもない、今話した死神側からの支援についてだ」

358: 2011/09/21(水) 22:33:19.85 ID:/1SaAlEnO
ほむら「…?なにを言っているの…死神からは増援は来ないとつい今しがたあなたが――」

マユリ「そう、増援は派遣しない
    そのかわり、キミたちがワルプルギスの夜との戦闘に敗北した場合の事後処理が検討されているのだヨ――」

ほむら「事後処理……?」

マユリ「いやはや、実際ああは言ったものの、魔女をはっきりと生者に分類してもいいものか、異を唱える隊長格も少なくなくてネ
    魔法少女についても、独特とはいえ霊圧を持つ存在である以上、死神から何らかの関与を考慮すべきではないかという意見も出ている――」

マユリ「キミは知らないだろうが、人間でありながら霊的戦闘力を持つ滅却師という種族が昔いてネ、それと死神とである種の同盟を締結していた時期もある
    つまり場合によっては、今後魔女及び魔法少女に関わる事案も、一部死神の管轄領域に含まれるかもしれないということだ」

マユリ「従ってまだ検討段階ではあるが、キミらの敗北後、ワルプルギスの動きを尸魂界側で捕捉し討伐作戦を実行する可能性もある、ということだネ――」

ほむら「……それはつまり、私たち魔法少女がしくじった時の後始末ぐらいはしてくれる、ということだネ――」

ほむら「……それはつまり、私たち魔法少女がしくじった時の後始末ぐらいはしてくれる、ということ?」

マユリ「そういうことだネ。悪い話じゃないだろう?
    これでキミたちは心置きなく、全力で決戦に臨むことができるのだからネ――」ニヤリ

ほむら「そう…確かに、そうね」

ほむら(もしそうなれば、私たちが氏んでもまどかやこの街の人たちは助かる見込みがある――)

ほむら(氏ぬ前にそれだけ確認できれば――もう巻き戻さなくていいかもしれないわね)

359: 2011/09/21(水) 22:33:55.87 ID:yUu6sik10
マユリ「それと些細なことではあるが、決戦にさしあたってなんとか空間凍結の許可が下りたヨ」

ほむら「空間凍結?」

ネム「死神が虚と戦闘を行う際、戦闘区域一帯の空間に凍結処理を施して、戦闘による建物や民間人への被害を軽減することです」

マユリ「本来であれば対虚戦において発動される対応だが、一応隊長格の死神が現世で戦闘するということで許可が下りたというワケだ
    とはいえ、前述のようにワルプルギスの夜は霊的存在ではないのでネ、空間凍結をしても大した効果はないのだが――」

ほむら「被害が少しでも減るのなら、気休め程度だろうとあるに超したことはないわ」

マユリ「――ところで、いい知らせはもう一つあるのだが、聞くかネ?」カクッ

ほむら「…?ええ、聞くわ」

マユリ「決戦に備えて、キミたちにいいものを用意してきた――ネム!」

ネム「はい、マユリ様」スタスタ…

返事をしたネムは、荷車にかけられた布をつかむと――

バサァッ…

ほむら「――!?これは――」ハッ

361: 2011/09/21(水) 22:36:42.44 ID:/1SaAlEnO
マユリ「ンッフッフ……そう、グリーフシードだヨ」ニヤリ

ほむら「しかもこれ、人口じゃない本物のグリーフシードじゃない!一体どうやってこれだけの数を――!」

マユリ「なに、研究成果を確かめるためにすこしばかり“養殖”を試みてみたのだヨ――」

ほむら「養殖…!?」

マユリ「簡単な話だヨ。キミたちから回収した人口シードに溜められた“穢れ”――それを抽出して、捕獲した使い魔共に流し込んでみたのだヨ」

ほむら「使い魔に……まさか――!」

マユリ「そう、瞬間的に多量の穢れを注入された使い魔は、急激に魔力が上昇し魔女として覚醒するわけだ」

マユリ「しかし、本来ならば人を襲うことで徐々に魔力を蓄えていくハズの使い魔は、この方法で魔女になっても魔力が不安定なためすぐに自滅することが多い――」

マユリ「そうして生まれては自滅していく魔女共が残したグリーフシードを、このように回収してきたというわけだヨ。理解できたかネ?」カクッ

ほむら「――ええ、十分よ
    それじゃ、今度は私から、あなたがいない間に他の魔法少女たちと練った作戦について――」

マユリ「ああ、必要ないヨ。もう知ってるからネ」

ほむら「……は?」

363: 2011/09/21(水) 22:37:39.24 ID:yUu6sik10
マユリ「私はとても慎重な性格でネ…一度戦った相手には、常に何らかの手を打っておくようにしているのだヨ――」

マユリ「――佐倉杏子には、無数の監視用の菌を感染させている」

ほむら「なっ……!?」

マユリ「故に、キミたちの作戦会議の様子や連携の完成度については、既にこちらも熟知しているということだ。重ねての説明は不要だヨ――」シレッ

ほむら「――すぐにその監視を解除しなさい」キッ

マユリ「ヤレヤレ、注文の多いヤツだネ。確かにこれ以上監視していてもヤツから目新しい情報は入らなそうだ。解除しておくとするヨ――」

ほむら「――やっぱりあなたとは親しくなれそうにないわね」

マユリ「親しくするつもりなど元よりなかったろうに、白々しい小娘だヨ全く――それよりもだ、ワルプルギスの夜について、キミはより詳しい戦闘力や攻撃方法などの情報を持っているんだろう?」

ほむら「――っ!」

マユリ「いまさら白を切るのは止め給え。キミの能力が単なる時間の停止だけではないことなどお見通しだヨ――」カクッ

ほむら「…………」

マユリ「本来魔法少女が知るはずのない事実の数々、これから交戦するはずのワルプルギスに対する妙に確信的な知識と態度
    そして魔法攻撃を行わない、物理的な武器攻撃による戦闘スタイル――いい加減手の内を明かしてもいいのではないかネ?」

ほむら「――まさか、よりにもよって最初にこの能力を明かす相手があなたとはね……」ハァ…

369: 2011/09/21(水) 22:41:39.42 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
マユリ「――面白い!実に面白いじゃないか!」

苦渋の決断の末、とうとう自らの真の能力を明らかにしたほむら
時間遡行という能力を知り、マユリは興奮を隠そうともせずほむらを追及する――

マユリ「これで合点がいったヨ!キミの並外れた戦闘技術や武器の取り扱い方は、繰り返される時間の中で洗練されてきたのだネ?」

ほむら「……ええ、そうよ。いくら魔力で身体能力を強化しているとはいえ、攻撃魔法の使えない私の戦闘力は他の魔法少女に比べ著しく低い――」

マユリ「いやはや大したものだ!
    そうやって同じ一ヶ月間を繰り返し続けることで、自分にとって最もワルプルギスの夜と戦い易い状況を模索してきたというわけか!」

ほむら「…………」ギュッ…

マユリ「美樹さやかや鹿目まどかの契約を何としてでも阻止しようとしていたのもその為かネ?
    ヤツらが魔法少女化することで、結果的にキミにとって不利な状況になる、と――?」カクッ

ほむら「――ご明察よ」

マユリ「フム――ところで、キミの話を聞いていて一つ気になったことがあるのだが?
    キミが時間を巻き戻し、新しい時間軸に移行した場合、元いた時間軸上でのキミの存在はどう扱われるのかネ?」

ほむら「……?なにを言って――」

370: 2011/09/21(水) 22:42:12.29 ID:yUu6sik10
マユリ「たとえば今、この場でキミが時間を戻したとしよう
    その場合、この時間軸でキミは始めから存在していなかったことになるのかネ?」

マユリ「それともキミが存在していたという事実は残り、突然行方不明にでもなったとして扱われるのか?
    あるいは事故氏したとでもいう風に、キミを知る者たちの記憶が都合よく改変されるのか――?」

ほむら「そ、そんなこと――!」

マユリ「ああ、時間逆行を発動すると同時に、私の目の前でキミから魔法少女の記憶と能力が失われ、ただの人間に戻る、という可能性もあるネ!
    その場合他の連中の中でのキミの扱いはどういう――」

ほむら「そんなこと私が知るわけないでしょうっ!!」

マユリ「――フン、まぁいいだろう。それで?話をワルプルギスに戻すとしようか――」

直前まで自分が執着していたはずなのに、あっさり話題を変えてしまうマユリ
尤もほむらからすれば、これ以上自分の能力について根掘り葉掘り問い質されるよりずっとマシなのだが――

ほむら(そう――私にとって、まどかを救えなかった時間軸に意味はない)

ほむら(大事なのは今――今度こそ、まどかを救ってみせる!)

374: 2011/09/21(水) 22:44:32.56 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
翌日―
見滝原市・コンサートホール

恭介の乗った車椅子を押すのはさやかである
普段は松葉杖を使って登下校している恭介だったが、今回は車椅子席で鑑賞した方が楽だと思い、車椅子に乗ってデートに臨むこととなった

恭介「――久しぶりだな、生でオーケストラを聴くの……」シミジミ

さやか「でしょー?えへへ、せっかくの初デートだし、どこ行こうかいろいろ悩んだんだけどさー……」

恭介「――ありがとう、さやか」ニコッ

さやか「へっ!?あ、あはは、やだなーもう急に改まっちゃってさー…////」ドキドキ

恭介「……正直ね、もう、こんな風にオーケストラのコンサートに足を運ぶことはないだろうなって、入院中は思ってたんだ
   この腕が治らなくて、自分で演奏することができなくなったら、クラシックなんて聴きたくもなくなるはずだ……てね」

さやか「恭介……」

375: 2011/09/21(水) 22:44:47.20 ID:yUu6sik10
恭介「けど、さやかがいつも見舞いに来てくれて、僕を応援してくれて……
   今思えば、さやかが心の支えになってくれてたんだって、告白された時に気付いたんだ」

恭介「だから、こうしてまた音楽に触れていけるのも、さやかのおかげだよ
   ――本当に、ありがとう、さやか」

さやか「……どういたしまして、恭介!」ニコッ


もう訪れることもないように思えた、恭介との幸せな時間

だが、さやかは気づかなかった

記念すべき初デートの舞台であるコンサートホールの裏手に根付いて、微かに脈打っているグリーフシードの存在に――

376: 2011/09/21(水) 22:46:35.91 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原市・ほむホーム

マミ「――まぁ!ネムさんたち、現世に戻ってたの?」パァ!

ほむら「ええ、昨日こっちに来たみたい。今日は相変わらず調査とか言ってどこかへ行ってるらしいけど――」ファサァ

杏子「にしても、作るだけじゃ飽き足らずグリーフシードの養殖までしちまうなんてなー
   やっぱあのおっさん変態だよ、うん」アキレガオ

マミ「とはいえ、決戦まで天然のシードは取っておいた方がいいわね
   穢れの吸収容量は少ないけど、今の内はまだ人工シードを使っていきましょう」

杏子「だな。節約節約~♪」

ほむら「…………」

マミ「――暁美さん。ひょっとして、死神さんたちからの増援が来ないっていうことを気にしてるのかしら?」

杏子「なーんだ、そんなん関係ねーって!アタシら三人のコンビネーションならワルプルギスとも渡り合えるさ」

マミ「それに、グリーフシードの備蓄があるだけでも十分な支援よ
   魔力の消費を気にせずに戦えるもの」

377: 2011/09/21(水) 22:46:53.91 ID:yUu6sik10
ほむら「――そうね、その通りだわ。ただ、このことは二人には黙っててほしいの――」

杏子「ん?あー、確かに、まどかとさやかが余計な心配すっかもしんねーしな」

マミ「わかったわ、鹿目さんと美樹さんにはこのことは伏せておきましょう」

ほむら「――感謝するわ」

マミ「ふふ、それにしても、久しぶりにネムさんとも色々お話ししたいわね!
   こちらから連絡する方法があればいいんだけど……」

杏子「まー、適当に魔女狩りしてりゃ会えんじゃね?魔女のいるところにおっさんアリ、おっさんのいるところにお付きアリってな!」

ほむら「ええ、そうね。それじゃ、そろそろ行きましょうか――」

380: 2011/09/21(水) 22:48:21.41 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原市・まどか宅

まどか「さやかちゃん、今日は待ちに待った上条君とのデートなんだよね!うまくいってるといいなー」ティヒヒ

まどか「ほむらちゃんたちも息ぴったりだし、これならワルプルギスの夜も倒せちゃうよね!」ウェヒヒ

まどか「そしたらみんなで旅行に行って、楽しい思い出をいっぱい作るんだ!」ニッコリ

まどか「…………」

まどか「……その、はずだよね?」

まどか「なのにほむらちゃん、どうして昨日あんなに思いつめた顔してたんだろ……」

381: 2011/09/21(水) 22:48:38.50 ID:yUu6sik10
ーーーー
魔女空間in公園

杏子「うおりゃぁぁぁーーーっ!!」ブンッ

魔女「アンテンッ!!」

杏子の放つ強烈な一撃が、《暗闇の魔女》の胴体を大きくえぐる
たまらず倒れこむ魔女の周囲には、いつしか無数の爆弾が設置されていた――

ほむら「今よ、巴マミ――!」

マミ「わかってるわ!
   銃撃でダメージを与えると同時に暁美さんの爆弾を連鎖爆発させる、ふたりの力を合わせた協力技――!」

マミの合図と同時に、これまた無数のマスケット銃が出現し、起き上がろうとする魔女に照準を定める

マミ「――ティロ・シンクレティコ!!」

降り注ぐ銃弾の嵐に、起き上がりかけた魔女は再び体勢を崩す
続けてほむらの仕掛けた爆弾が次々誘爆していき、一気に魔女を包み込む――!

魔女「メノマエガマックラニナッタッッ!!!」

ドオォオォォォォーーーンッ!!

382: 2011/09/21(水) 22:49:49.43 ID:/1SaAlEnO
杏子「よっしゃ!」グッ

マミ「ふぅ……うん、上出来ね!」ニコッ

ほむら「――今の動きはよかったわ。このタイミングを忘れずにいきましょう」ファサァ

杏子「この調子であと2、3匹はいけそうだな!」ニィ

ほむら「そうね。他にも魔女がいないか探してみま――」

ゴゴゴゴゴ……!!

ほむら・マミ・杏子「――っ!!」

杏子「近ぇな――こりゃ、教会の方だ!」

ほむら「そのようね――」

マミ「それじゃ、もう一仕事済ませちゃいましょうか!」

383: 2011/09/21(水) 22:50:28.25 ID:yUu6sik10
ーーーー
見滝原市・コンサートホール
コンサートが終わり、会場から客たちが出てくる

恭介「すごかったね、さやか!」キラキラ

さやか「うん!やっぱ生のオーケストラは違うわー」

恭介「そうだろ?見ててよさやか、すぐに勘を取り戻して、僕もあんなホールで演奏できるように頑張るから!」

さやか「恭介……よしよし、がんばれよー?あたしが応援してるんだからねー!」

モワアアアァァァン…!!

さやか「え――?」

恭介「あれ?急に暗くなったね、天気予報じゃ晴れ――」

空を見上げた恭介は、そこでようやく異変に気付いた

いつの間にやら、彼らの周辺は異様な空間に包まれているではないか――!

同じように会場を出た人々も、一様に戸惑いと不安を露わにしている

恭介「これは、いったい――さやか?」

表情を強張らせるさやか

さやか「これって――魔女の結界?」

384: 2011/09/21(水) 22:52:28.62 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原市・教会
入り口付近の壁に、結界の入り口を発見した魔法少女たちのもとに、念話で音声が聞こえてくる

ピッ カチャッ…

ネム『暁美さん、巴さん、佐倉さん――聞こえますか?』

マミ『…!ネムさんなの?
   わぁ!久しぶりね!』パアァ

杏子『おう、アンタか。どうしたよ?』

ネム『はい…皆さんは今、どちらに?』

ほむら『市内の古びた教会よ。魔女を発見したから、これから退治するところ』

ネム『そうですか……実はたった今、こちらでも結界の出現反応を新たに探知しました
   場所は見滝原市内、コンサートホール付近です』

マミ『コンサートホール……?』ハッ

杏子『……っ!!おい、それって――!?』

ほむら『…っ!!』

386: 2011/09/21(水) 22:52:52.63 ID:yUu6sik10
ネム『私は既にコンサートホールへ向かっていますので、どなたかに加勢をお願いしたいのですが――』

杏子『ちぃっ!わかった、アタシが行く!だからそれまで粘ってくれ――!』

ネム『了解しました――』ピッ

念話が切れると同時に駆け出そうとする杏子を、ほむらが呼び止めた

ほむら「待って。私が行くわ――」

杏子「はぁっ!?なんで――!」クワッ

ほむら「私なら時間を止めて移動すればより早く現場に着ける――」

杏子「けどお前、停止中に激しく動きすぎると魔力の消耗がひどくなってすぐ停止切れるだろっ!?
   止めたり動かしたり繰り返してたら向こうに着く頃にゃ魔力が残ってねぇかも――」

ほむら「心配はいらないわ。その辺のバランスはうまくやるわよ――
    それじゃ、こっちの魔女は二人に任せるわね――!」

そう言うや否や、二人の目の前からほむらの姿が消える

387: 2011/09/21(水) 22:53:29.53 ID:/1SaAlEnO
杏子「あっ――くそっ!」ダンッ!

マミ「佐倉さん…美樹さんが心配なのはわかるけど――」ヤンワリ

杏子「…わかってる。本人の言う通り、ここはほむらに任せるのが一番確実だよ
   ――さっ、アタシたちもさっさと蹴散らして、さやかたちの所に急ぐぞ!」ギュッ…

マミ「――ええ、そうね。ネムさんも先に向かってるって言うし、今は目の前の敵に集中しましょう!キリッ

そうして二人の魔法少女は、教会に現れた魔女の結界へと飛び込んで行くのだった――

390: 2011/09/21(水) 22:54:53.82 ID:yUu6sik10
ーーーー
魔女空間inコンサートホール

恭介「どうなってるだこれは……!さやか、大丈夫かい……?」

さやか「大丈夫だよ恭介…あたしはここにいるから……!」ギュウッ…

車椅子に座ったまま動揺する恭介を、後ろから抱きしめるさやか
辺りは色彩を失い、人も地面もまるで影絵のように黒く塗りつぶされている
《影の魔女》が作り出した結界に閉じ込められた人々は、さやかたちも含め全員がシルエットのみの姿で目に映っていた――

さやか(よりによって今日――この場所に魔女が出るなんてっ――!)

さやか(とにかく、みんなが助けに来るまで恭介と一緒に生き延びないと――!)

客A「ひっ…な、なんだあれはぁっ!?」ガクブル

さやか・恭介「!!」

閉じ込められた客の一人が悲鳴を上げた

崖のようになっている箇所の先端に、跪くような姿の魔女
その周囲から、動物の顔が付いた無数の触手が生え出てきて、一斉に人々へ襲いかかってきたのである――!

客B「うわぁぁぁーーーっ!!助け――」

触手型使い魔の一体が腰を抜かした客に食らいつこうとした瞬間――

「――破道の三十二『黄火閃』!!」

391: 2011/09/21(水) 22:56:59.68 ID:/1SaAlEnO
バァアァァァーーーンッ!!

さやか「っ!!」

眼も眩むような閃光と共に、使い魔が焼き払われる

ネム「ご無事ですか、美樹さやかさん」スタッ…

さやか「ネムさん!」

恭介「あれ…あの人……」(夢の中で会ったことがある、ような――)

ネム「じきに魔法少女の方々も来られるはずです
   それまで私が食い止めますので、できるだけ魔女から離れた所へ――!」サッ

そう言うや否や、こちらに向かってくる無数の使い魔たちに飛び掛かっていくネム

さやか「そ、そうよ!早くどこかへ逃げないと……!!
    ――皆さんも!ここなんか危なそうだし早く逃げましょう!!」

そう叫ぶとさやかは車椅子の持ち手を強く握り、恭介を押しながら全力で駆け出した
突然の事態に呆然としていた客たちも、さやかの呼びかけが引き金となったのか一斉に逃げ惑い始める

392: 2011/09/21(水) 22:57:14.11 ID:yUu6sik10
恭介「さ、さやか…!さっきの人は……!?」

さやか「えっ!?あんたネムさんが見えるの――?」(ひょっとしてここが魔女の結界の中だから?)

さやか「えっと、その――ああもう!それより今は逃げるのが先っ!喋ってると舌噛むから静かにしててっ!!」

恭介「あっ!う、うんっ……!」

走りながら周囲を見回すさやかだったが、隠れる場所も出口らしきものも見つからなかった
時折窪みや小石に車輪を取られて、恭介の座る車椅子が揺れ安定を欠くため、逃げるスピードもそうは出せない

恭介「さやか……!僕のことはいいから、君だけでも逃げるんだ――!」

さやか「なっ――!バカなこと言わないでよっ!!恭介を置いてひとりで逃げろっていうのっ!?」

恭介「何が起きてるのかよくわからないけど――このままじゃ二人とも逃げ切れないのは確かだ。僕を押してるせいでさやかもスピードを出せてない。だから――!」

さやか「いい加減にしてっ!」

恭介「…!」ビクッ

さやか「せっかく…せっかく恭介の腕が治って、好きだって言えて、好きだって言ってもらえて――!」

さやか「これから色んな所に行ったり、一緒にご飯食べたり…!楽しいこといっぱいできるようになったのに――!」

恭介「さやか――!」


ネム「うぁ…ぐぅ……!!」ゲホッ

393: 2011/09/21(水) 22:58:15.37 ID:yUu6sik10
さやか・恭介「――っ!?」ハッ

喘ぐような悲鳴に二人が振り向く
見ると、《影の魔女》の周囲から生えた無数の枝が、取り囲むように全方位からネムを攻撃しているではないか――!

さやか「ネムさんっ!!」

ネム「が…はぁ…!に…げ……っ!!」グサグサグサグサッ!!

恭介「ひっ…う、うわぁぁぁ……!」

さやか「そんなっ…ネムさんがやられるなんて……!マミさんたち早く来てよ――!」

恭介「――っ!?さ、さやか、危ないっ――!!」

さやか「えっ――?」

次の瞬間、足元から飛び出した触手使い魔がさやかたちを襲った!!

さやか「きゃっ――!!」

恭介「うわぁっ――!!」

咄嗟に身をよじらせたさやかは辛うじて直撃を免れたが、使い魔の一匹が車輪に食らいついたせいで、バランスを崩した恭介が車椅子から転げ落ちる

恭介「うっ…痛っ……!」

さやか「恭介っ――!」

394: 2011/09/21(水) 22:59:11.56 ID:yUu6sik10
恭介に駆け寄るさやか
まだギプスの取れない足をおさえるようにして、恭介がさやかに語りかける

恭介「…さやか…早く逃げるんだ……!僕のことはいいから……!!」

さやか「バカっ!!そんなのダメだって言ってるでしょっ!?」(どうしよう――!)

恭介「僕だって…ほんとはさやかともっと一緒にいたいよ……!でもっ……!」

さやか「だったら諦めないのっ!ほら、肩貸すからつかまって――!」(このままじゃ、あたしたちみんなあの魔女に――!)

恭介「でも、僕だって……!さやかに何かあったら嫌なんだ…!僕が足手まといになるせいで、さやかの身を危険にさらしたくないんだ……!」

さやか「そんなのっ…!そんなの恭介のせいじゃないよっ……!!」(こんなところで氏にたくない――恭介を氏なせたくない――!!)

さやか「――――」


さやか「――キュゥべえ、いる?」ボソッ…

396: 2011/09/21(水) 22:59:29.81 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
ほむら「ハァ…ハァ…くっ…!よりによって…教会から遠いコンサートホールに…ハァ…魔女が出現するなんて……!」ハァ…ハァ…

コンサートホールを目指して一心の駆けるほむら
時間を断続的に停止させてはいるものの、さすがに現場まで距離がありすぎた
元来身体の虚弱なほむらは、他の魔法少女よりも身体能力の向上に割く魔力が多いため、杏子の指摘した通り長時間停止を発動したまま全力疾走することはできないのだ

ほむら(けど慌ててはダメ……最良のペースを保った上で、できるだけ早くさやかを助けに行かないと……!!)

398: 2011/09/21(水) 22:59:59.61 ID:yUu6sik10
ーーーー
QB『いるよ。久しぶりだねさやか。キミがボクを呼ぶのはこれで二度目かな?』キュップイ

恭介「……えっ?こ、今度はなんだっ!?」ヒィッ!

突如目の前に出現したキュゥべえを見て、ますます混乱する恭介
そんな彼をよそに、決然とした表情のさやかがキュゥべえに問いかける

さやか「キュゥべえ。もし契約したら、今この場でいきなり魔法少女になれるんだよね?」

QB『ああ、勿論さ。契約した瞬間からキミは魔法少女だよ
  それにしても意外だね。キミの願いは既に叶っているものかと思ったのだけど――』

車椅子に纏わりついていた使い魔が再びさやかたちを見る
それに呼応し、周辺の使い魔たちも次の標的をこちらへ定めたようだった

既に何人かの客たちは使い魔や魔女の枝攻撃による犠牲者となっていた
生き残っている者たちも、この閉じられた空間の中でいつまで逃げまわっていられるかはわからない

400: 2011/09/21(水) 23:01:10.18 ID:yUu6sik10
さやか「――私は今、力が欲しい。魔女と戦える力――この場から恭介を、みんなを助けられる力がっ!!」

QB『願いではなく生存本能――あるいは力そのものへの渇望が先行しているということかな?
  いいのかい?せっかくの機会なんだし、叶える願い事だってもっとよく考えた方が――』

さやか「いいの」

QB『キミは知ってるのだろう?魔法少女になるということは、キミたちの言う“ゾンビ”とやらに成り果てるのと等しいって
  魔法少女の末路が、今キミを襲っているような魔女であることも――』

さやか「いい加減にしてよっ!!私は魔法少女になるって決めたのっ!!
    たとえ自分がゾンビみたいになったって、恭介を助けられるなら喜んで受け入れるっ!魔女たちと戦い抜いて見せるっ――!!」

ネム「ゲホッ…美樹……さやか…さん……ゲホッ!」

傷だらけの身をおして、起き上がろうとするネム
キュゥべえはそれを横目で流しつつ、変わらぬ口調でさやかに返答する

QB『――やれやれ、キミの決意は固いみたいだね
  ボクはちゃんと忠告したよ?暁美ほむらにもキミからそう言っておいてくれ――』キュップイ

さやか「わかってる。これは紛れもない、あたし自身の決断だから」

恭介「――何を言ってるんだ」

403: 2011/09/21(水) 23:02:49.50 ID:/1SaAlEnO
さやか「……恭介」

恭介「さっきからいったい何を話してるんだよ!? 魔法少女?さやかがそれになるってどういう――!」

さやか「ねぇ、恭介――」

恭介「――っ!」

正面から恭介の目を見つめるさやか

周辺の使い魔たちは、動かない彼女たちを逃げる心配がない獲物と判断したのか、物色するようにじわじわと距離を詰めて来る

さやか「もしあたしが、普通の人間じゃなくなっちゃっても――恭介は私の傍にいてくれる?」

恭介「なっ――」

問い質したいことはたくさんあった
しかし、自分をまっすぐに見つめてくるさやかの眼を見ると、それらの言葉は引っ込んでしまう

決然としていてなお、不安を隠し切れていないさやかの瞳
自分の返事を聞くことに対して、恐れを抱いているのが容易に感じ取れた

ならば、彼の回答は一つしかない

恭介「――当たり前だろ」ボソッ

404: 2011/09/21(水) 23:03:26.18 ID:yUu6sik10
さやか「……恭介…!」

恭介「君が何をするつもりかはわからない……
   正直、僕なんかのために君が危険を冒そうとしてるなら、なんとしても阻止したいところだよっ……けど!」フルフル


恭介「それでも君が、自分の意思を曲げないっていうなら――どんなことがあっても、僕は君の味方でいるよ、さやかっ!!」


さやか「――――」

さやか「――よかったぁ」ニッコリ

安心したように笑うさやか
その笑顔があまりに眩しくて、恭介は思わず息を飲む

さやかは恭介に背を向けると、再びキュゥべえと向かい合った

QB『さあ、美樹さやか――その魂を代価にして、君は何を願う?』

さやか「ここに閉じ込められた人たちを、無傷のまま全員結界の外に逃がしてほしいの
    もし無理じゃなければ殺されちゃった人も――とにかく、ここにいるみんなを助けてっ――!!」


QB『契約は成立だ。君の祈りは、エントロピーを凌駕した
  ――さあ、解き放ってごらん。その新しい力を! 』

406: 2011/09/21(水) 23:05:45.97 ID:/1SaAlEnO
《影の魔女》が異変に気付いた時にはもう、結界の中に捕えていたはずの人間たちは一人残らず消えていた

今まさに獲物に食らいつこうとしていた使い魔たちは標的を見失い、動揺したように周囲を見回す
すると、まだ残っている人影を二体、発見できた

ひとりは地に膝をつきながらも戦闘態勢を崩さない、涅ネム

そしてもうひとりは――

さやか「……さぁて、そんじゃ初仕事といきますかっ――!!」

バササァッ!

青を基調としたコスチュームに、純白のマント
それが翻ったと思った次の瞬間には、無数の剣が足元の地面に突き刺さっていた

魔法少女・美樹さやかの誕生である――!

使い魔「グワォォォーーーンッ!!」ゴォッ

一斉にさやかへ飛び掛かっていく使い魔たち
さやかは足元の剣を抜くと、次々敵へ向かって投げつけていった

さやか「せっかくのファーストデートが――あんたたちのせいでっ――!」ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!

彼女の投げる剣の一本一本が、的確に使い魔を貫いていく
道が開けると、さやかは一気に魔女本体へと駆け出した――!

さやか「――どう責任取ってくれんのよっ!!」ブンッ

407: 2011/09/21(水) 23:06:02.83 ID:yUu6sik10
怒りと共に振り下ろされた刃は、しかし魔女を貫くことができなかった
《影の魔女》を守るようにして出現した無数の枝が、さながら鎧のようにさやかの攻撃を弾いたのだ

さやか「くっ…硬いなぁっ――!」ギリッ

ネム「美樹…さん……」フラッ…

さやか「…っ!ネムさん――!」ハッ

ひとまず魔女から飛び退いたさやかに、傷だらけのネムが声をかける

ネム「あの枝のようなものが……魔女を守る盾ならば…魔女本体の守りは、おそらく…さほどでもないはず……」ゲホッ…

さやか「ネムさんは休んでて。ここはあたしが――」

ネム「ですから…私があの枝を一瞬でも排除しますので……そこをあなたが突いて下さい……」

さやか「!!…でも、その身体じゃ……」

ネム「大丈夫…です。私の身体は…マユリ様が創りあげたもの……この程度の損傷で、氏にはしません……!!」

さやか「ネムさん……わかりました
    あたしはまだ、魔法少女になったばかりで未熟だから、ネムさんの力を貸してくださいっ!!」

ネム「……了解しました」

410: 2011/09/21(水) 23:07:43.44 ID:/1SaAlEnO
そう答えるや否や、ネムは両足を張ってしっかりと立ち上がると、掌を重ね合わせ魔女の方へと向けた
それにいち早く気づいた魔女は、ネムが攻撃を放つより先にとどめを刺そうと、周囲にめぐらした枝を展開し高速でネムたちへと放つ!
しかし――

ネム「――縛道の二十一『赤煙遁』!」

ネムは合わせた掌を素早く地面へ向け、その場に煙幕を出現させた
彼女が放ったのは攻撃用の破道ではなく、敵の攻撃をかわすための術だったのだ

そのまま煙の中に突っ込まれる無数の鋭利な枝
しかし、獲物をとらえたという手ごたえはない

一拍遅れて、煙幕からネムが飛び出してきた
傷ついた身でありながら大したスピードで《影の魔女》の右手側に回り込むと、今度こそその拳に攻撃用の霊力を集める――!

ネム「破道の五十四『廃炎』!!」

ボォオオォォォーーー!!!

放たれた漆黒の炎は、しかし魔女の身体を焼くことができなかった
ネムが煙から飛び出した時点で、魔女はその動きを予測し、自身の右側に枝を凝縮して盾を作っていたのだ!

魔女「サァ…アナタモヤミノセカイニキュウサイノイノリヲッッッ!!!」

そのまま一つにまとめた枝の塊をネムに叩き込もうとした瞬間――

グサリ…

《影の魔女》の胸を、背後から貫く一本の刃

411: 2011/09/21(水) 23:08:15.53 ID:yUu6sik10
そう、ネムは煙幕から出る直前に、対象の姿を透明に隠す二十六番縛道『曲光』をさやかにかけていたのである
そしてネムがそのまま囮になり、魔女の注意を引きつけたところで、反対方向から忍び寄ったさやかが、がら空きの背中を突き刺したのだった――!

さやか「――これで、とどめだぁ!!」ズバァッ!

突き刺した剣をそのまま一気に斬り上げるさやか

裂けたチーズのように、《影の魔女》の上半身が真っ二つになる

魔女「アア…キュウサイノイノリハトドイタノネ……ッッッ!!!」シュウウゥゥゥーーーッ!!

消滅していく《影の魔女》

さやかはサッと手を一振りして剣を消すと、傷つきながらも見事囮役を演じきったネムの方へ駆け寄るのだった

さやか「ネムさーんっ!やりましたぁー!!」ノシ ブンブン

ネム「……お見事です、美樹さやかさん」ニコ…

412: 2011/09/21(水) 23:09:28.24 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
コンサートホールの外では、さやかの祈りによって結界から助けられた客たちが続々と救急車で運ばれていた

魔女の口づけで呼び寄せられたのでない彼らは、結界内部での恐怖体験を記憶していたため、救急隊員が声をかけても一様に脅え震るばかり
しかしながら、彼らの身体に目立った外傷のないことや、口走る内容がとても現実的なものとは思えないことから、先日同様集団催眠状態による幻覚と判断されたのだった

また、何らかの強いショックを受けたためか意識を失ったまま搬送される者も多かった
上条恭介もその一人で、担架で救急車に運ばれる間に何度かうなされているように声を漏らしていたという
「さやか…」と、彼がうわごとのように何度も漏らした名前が誰なのか、勿論救急隊員たちには知る由もない

それを知るのは、その場にひとり

救急隊の様子を唇を噛みながら見ていたほむらは、ホール裏手から魔力の名残を感じ、そちらへと回っていった

413: 2011/09/21(水) 23:09:57.98 ID:yUu6sik10
ーーーー
さやか「すいません、あたしの力じゃ今はまだこのぐらいしか……マミさんだったらもっと治療が捗ると思うんですけど……」

ネム「……いえ、謝ることはありません、美樹さやかさん。これだけ治療して頂ければ十分ですので……」

ネムの傷を手当するさやか
そこへ、険しい顔をしたほむらが現れる

さやか「あ……ほむら…」キマズゲ…

ほむら「…………」フルフル

さやか「えーと、その……あはは、ごめん!あたし、契約しちゃった――」

ほむら「――ごめんなさい、さやかっ!!」バッ!

さやか「――ちょっ…ええっ!?」

開口一番にそう言って頭を下げるほむらに対し、さやかは目に見えて動揺する
見ればほむらは肩を震わせており、その目尻には涙を浮かべているではないか

さやか「ちょっ、落ち着いてよほむら!あんた涙目で謝るようなキャラじゃないでしょ!?いつものクールな美少女はどこへいったの!?」オロオロ

ほむら「――私がもっと早く助けに来ていればっ…あなたが契約することもなかったのにっ…!」ブワァッ…

さやか「…ほむら……」

415: 2011/09/21(水) 23:12:35.17 ID:/1SaAlEnO
ほむら「私に任せろなんてっ…言って…杏子にもっ…マミやまどかにも顔向けできないっ……!」グスッ

さやか「……ったぁく、なーに気負っちゃってんのかねーこの娘は」ナデナデ

ほむら「ウッ…さやかぁ……!」ウッ…ウッ…

さやか「確かに、これであたしも魔女の宿命とやらに仲間入りしちゃったわけだけどさ――
    ――あたし、後悔なんてしてないよ、ほむら」サスサス

ほむら「ウゥ…でも……ウッ…!」グスンッ

さやか「あそこで決断しなかったら、何もかも終わりだったから
    恭介だって殺されちゃうし、あたしももう二度とみんなに会えなくなるところだったしね――」ギュッ

さやか「それにさっ!やっぱりあたし、なんだかんだ言ってもどこかで魔法少女に憧れてたんだと思う
    初めてマミさんに助けてもらった時からずっと――正義の魔法少女にね!」ニコッ

さやか「みんなが協力するようになって、ほむらやマミさんや杏子が戦ってるのをまどかと側で見ててもさ
    なんかこう、『あたしもあの中に加わって、みんなの力になりたい!』って、いっつも思ってたんだ」

ほむら「……さやか……」

さやか「だからぁ、あんたがそんな辛そうな顔しちゃダメってこと!
    これは全部あたし自身が決めたこと、あたしの願いだったんだから――!!」ビシッ!

ほむら「……そう、そうなのね……よかった…」グスン

416: 2011/09/21(水) 23:13:18.49 ID:yUu6sik10
さやか「そういうこと!ほら、顔拭きなよ。せっかくの美人が台無しだぞ~?」つハンカチ

ほむら「ありがとう…ごめんなさいね、みっともない姿を見せてしまって……」ゴシゴシ

さやか「なーに、いいっていいって!むしろ、普段はクールなほむらちゃんの新たな一面を見られてラッキーってな感じですよ~!」ニヤニヤ

ほむら「か、からかわないでちょうだい美樹さやかっ……////」カアァー

さやか「……さやかでいいよ」

ほむら「え…?」

さやか「ほら、あんたさっきまどかたちのことも下の名前で呼んでたでしょ?
    無理していちいちフルネームで呼ばなくてもさ、素直に名前で呼んでくれていいよ?多分みんなもその方が嬉しいだろうし――」

ほむら「……わかったわ、さやか」キハズカシイ…

さやか「よしよし、かわいいやつめ~」ダキッ

ほむら「ちょっ…離れなさい、さやか――」

恥ずかしそうに身をよじるほむら
そこへ、伏し目がちにネムが近づいていく

ネム「……申し訳ありませんでした、暁美ほむらさん。私がいながら、みすみす美樹さんに契約をさせることになってしまって――」ペコリ

421: 2011/09/21(水) 23:15:48.79 ID:/1SaAlEnO
さやか「もぉ~、ネムさんまで、そんなのいいって!」

ほむら「……頭をあげて。あなたの責任ではないわ」

ネム「ですが、インキュベーターの出現位置を捕捉していたにも関わらず、身柄の拘束を怠ったのは我々のミスです――」

ほむら「いいえ、ここ最近おとなしくしていたせいか、私も奴への注意を怠っていたわ」

さやか「それに今回はキュゥべえ、何度もあたしに念を押してたしね。ま、この件に関しちゃ、あいつもお咎めなし!ってことで!」

ほむら「……そうね。どの道奴はもう、この街での積極的な勧誘は諦めたようだし――」

そう呟くほむらだったが、しかしその胸の奥では、何か漠然とした不安が首をもたげていた

ここまで順調に進んできた物語が、この出来事をきっかけに少しずつ暗雲の中へと進んでいく――とでも言うような……

杏子「おぉーい!」

マミ「暁美さーん、美樹さーん、ネムさーん!無事ー!?」

まどか「さやかちゃーん!ほむらちゃーん!」

そこへ、教会の魔女を撃破した杏子とマミ、それにコンサートホールで集団催眠事件が起きたのをニュースで知ったまどかが駆け付けてきた

この後、さやかの魔法少女化について三人を宥め説得するのに、それこそ初の魔女退治以上の労力を費やすことになるさやかなのであった――

422: 2011/09/21(水) 23:16:21.18 ID:yUu6sik10
ーーーー
少女たちが去った後のコンサートホール――
その裏手に位置する壁面から浮かび上がってきたのが誰か、もはや説明も不要であろう

マユリ「フム…面白い。実に面白いことだヨ!」

十二番隊隊長・涅マユリはそう呟くと、懐から取り出した霊波測定機をしげしげと見返す

マユリ「いやはや、普通の人間が魔法少女になる瞬間をこの目で見ることができるとはネ!成程、霊力の変容や霊圧の上昇値はこうなっているのかネ、フムフム――」

QB『――やれやれ、とんだ同盟者だね、あなたは。魔女結界の内部に侵入していながら、姿と霊圧を隠して魔女と交戦せず、美樹さやかが契約するのを待っていたなんて――』キュップイ

マユリ「しかも巴マミ同様、治癒能力を有しているとはネ。それに攻撃力はさほどでもないが、スピードに関しては他の魔法少女共よりも上のようだヨ――」

QB『――どうやら今は研究データの分析でそれどころじゃなさそうだ。ひとまずボクはこれで失礼するよ、涅マユリ――』キュップイ

マユリ「――フム、百聞は一見に如かずとはよく言ったものだネ。やはり実際にこの目で観察して得たデータは最高だヨ――」ククク…

やがてマユリは測定機をしまうと、ニヤリと笑みを浮かべつつ呟くのだった

マユリ「さて、次はいよいよワルプルギスの夜とやらの研究データを取るとしようか――」

423: 2011/09/21(水) 23:17:32.64 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
あれから一週間―

晴れて魔法少女の仲間入りをしたさやかは、三人の先輩たちから連日しごきにしごかれた

厳しさと優しさを併せ持つマミ教官
淡々と、それでいて的確に指南するほむら教官
つい口調を荒げがちになるも、最後には照れくさそうにそっぽを向いてアドバイスをくれる杏子教官

全くタイプの違う三人の指導が功を奏したのか、ほんの一週間でさやかは十分に魔女と渡り合えるようになっていた――

杏子「とうとう明日かぁ……」

見滝原市・ほむホーム
暁美ほむら、佐倉杏子、巴マミ、美樹さやか、涅ネム、そして鹿目まどかは、決戦の前の最後の打ち合わせに集まっていた

ほむら「――というわけで、まどか。今夜遅くから風が強まってきて、明日の朝には避難勧告が出されると思うから
    あなたは私たちがワルプルギスの夜を倒して帰ってくるのを、避難所で家族と一緒に待ってて――」

まどか「……うん」コクン

杏子「…なーに深刻な顔してんだよ」

まどか「え…う、ううん、そんなこと……!」アワアワ

杏子「バレバレだっての。ほら、食うかい?」つ ポッキー

まどか「あ、ありがと……」ポリポリ

424: 2011/09/21(水) 23:18:05.28 ID:yUu6sik10
さやか「だーいじょうぶだっての、まどか!
    なんたってマミさん、ほむら、杏子の最強トリオに加えて、期待の超大物ルーキー・さやかちゃんを入れた無敵の四天王ッスよ~?」

杏子「さやかは四天王の中でも最弱……!」キリッ

さやか「ぶはぁっ!言ったなぁーこいつぅー!!」ムキー!

杏子「へっへっへー!だって事実だろ?」ニヤニヤ

まどか「あははっ……」

マミ「ふふふ…でも、美樹さんの言う通りよ、鹿目さん
   グリーフシードの備蓄も十分あるし、私たちはみんなベストコンディションなんだからね」ウィンク!

まどか「……わかってます。みんなが力を合わせれば、きっと勝てるって
    わかってるんですけど……それでも……!」

ほむら「……大丈夫だって気持ちに、なれない?」ソッ…

まどか「…っ!ほむらちゃん……!」ビクッ

不安な表情を隠し切れないまどかに手を伸ばして、その頭を優しく撫でるほむら

427: 2011/09/21(水) 23:19:48.25 ID:/1SaAlEnO
ほむら「絶対に大丈夫って――どんなに言葉を尽くしても、多分あなたは信じきれないのでしょうね」ナデナデ

まどか「……だって、すごく強い魔女なんでしょ?街全体に避難勧告が出るくらい、とんでもない凄さの……!」

ほむら「……ええ、そうね」ナデナデ

まどか「そんな凄い敵と戦って、みんな無事で戻ってこれるのかなって考えたら……どうしても不安になっちゃって……!」フルフル

ほむら「……うん。確かに、あなたがそう感じるのも無理はないわ」ナデナデ

まどか「それでね…!前にキュゥべえから言われたことを思い出したの――!」フルフル

まどか「『家族も友達も、キミの大切なもの全てを恐ろしい魔女から守り抜く力が、キミには眠っている』――!」

ほむら「――やっぱり、そういうことね」フッ…

まどか「え……?」

ほむら「私たちが大敵に挑むって聞いて、自分も何かの役に立ちたいって――そう思ったんでしょう?」

まどか「ほむらちゃん――」

ほむら「けれどね、まどか。もしあなたがワルプルギスと戦うために契約をしようと言うなら――私はあなたを許さないわ」ジッ…

428: 2011/09/21(水) 23:20:15.74 ID:yUu6sik10
まどか「……っ!」ハッ

ほむら「私たちは、これ以上インキュベーターたちの企みに乗せられて、悲しい因果の鎖へ囚われる少女を増やしたくない――」

ほむら「少女の弱みや純粋な願いにつけ込んで、戦いと絶望の宿命を背負わせるような奴らの、思い通りにはさせたくない――」
    

ほむら「そしてなによりも――大切な友達であるあなたを、魔法少女にしたくないの」


まどか「……みんな」

マミ「鹿目さん……」

さやか「まどか……」

杏子「まどか!」

ネム「…………」

まどか「――わかった」

ほむら「まどか――!」

まどか「……えへへ、みんながこんなに言ってくれてるんだもん!
    私だってみんなのこと信じてあげなきゃいけないよね――!」

429: 2011/09/21(水) 23:21:11.33 ID:/1SaAlEnO
杏子「おうよ!だから最初っから言ってんじゃん!心配しないで待ってろってさ!」ニィッ!

さやか「まったくぅ、私の嫁はほんとに心配性なんだからぁ~!」ニコッ!

マミ「ふふふ…でも、その優しすぎるくらい健気なところが、鹿目さんの良いところでもあるのよね!」ニッコリ!

ネム「…………」コクリ

ほむら「――ありがとう、まどか。私を――私たちを信じてくれて」

まどか「ううん、いいよ!そのかわり、約束してね――?」

ほむら「ええ、約束するわ。私たち全員、必ず無事に帰ってくる――っ!!」

430: 2011/09/21(水) 23:21:52.26 ID:yUu6sik10
ーーーー
ネム「――それでは、鹿目さんをご自宅までお送りしてきます」

ほむホームの玄関口に立つネムとまどか

ほむらたちはこの後、明日の決戦に向けて最終打ち合わせに入る
まどかは一足早く、ネムに送られて自宅まで帰るところであった

マミ「それじゃあ鹿目さん、気を付けて帰ってね」ニッコリ

杏子「明日は避難所で寝泊まりだからなー、今日はしっかり寝とけよー!」ノシ フリフリ

さやか「じゃあね、まどか!あたしたちの活躍に期待しててよぉー?」ノシ

ほむら「――さようなら、まどか。また明日、全てが終わったら会いましょう」ファサァ

まどか「うん!それじゃ、みんな!明日は頑張ってね――!」ノシ バイバイ

そう笑顔で手を振って、まどかはほむホームを後にした

そんなまどかを見送ってから、おもむろにほむらが口を開く

ほむら「――決戦の前に一つ、あなたたちには話しておきたいことがあるの」

432: 2011/09/21(水) 23:22:47.38 ID:/1SaAlEnO
さやか「へ……?」

杏子「なんだよ、改まって――」

マミ「――それは、鹿目さんには聞かせられないことなのかしら?」

さやか・杏子「――!!」

ほむら「――ええ、そうね
    あの娘には――いえ、本当は誰にも明かすべきではなかったのだけれど」

ほむら「私と一緒に、最大の敵と戦う仲間であるあなたたち三人には、知っておいてほしいことなの――」


ほむら「私の魔法の本当の力と――本当の目的について」

433: 2011/09/21(水) 23:23:25.61 ID:yUu6sik10
ーーーー
ほむホームからの帰り道―

まどか「すみませんネムさん…ネムさんだって作戦会議に出ないといけなかったんじゃ……?」

ネム「お気になさらないで下さい、鹿目まどかさん。既に暁美ほむらさんから大体の動きは伝えられていますので……」

まどか「そうですか……あ、あの――!」

ネム「?…なんでしょうか?」

まどか「前に、えっと…尸魂界や死神の役目について、少し話してくれましたよね?」

まどか「現世で氏んじゃった人の魂は、尸魂界へ行った後、また新しい魂として現世に還ってくる――って」

ネム「はい。魂魄は皆、輪廻の過程の中にあります
   虚等に襲われ消滅してしまう魂魄も少なからず存在しますが、その犠牲をできる限り出さないようにするのが、私たち死神の役目です」

まどか「――魔法少女や魔女の魂は、氏んだらどうなるんですか?」

ネム「……申し訳ありません。それはまだ私たちにも……」

まどか「あはは……そうですよね…死神さんたちも最近になって魔法少女のこと知ったんですし……
    ……すいません、決戦の前日だっていうのに変なこと聞いちゃって……」

ネム「……ただ」

まどか「え…?」

434: 2011/09/21(水) 23:24:43.50 ID:/1SaAlEnO
ネム「今後、魔法少女に関する研究が進み、その魂であるソウルジェムの原理が明らかになれば――」

マユリ「――あるいは、魔法少女を元の人間に戻す方法も見つかるやもしれないネ」ニヤリ

まどか「わぁっ!えっ――!?」アタフタ

ネム「マユリ様――」ハッ

マユリ「ネム。いつまで油を売っているのかネ?お前にも決戦用の調整を施さねばならないんださっさと戻るんだヨこのグズがっ!」

ネム「……申し訳ありません、マユリ様」ペコリ

まどか「あ、あの!ネムさんは私を送ってくれてたんです!だから――!」アタフタ

マユリ「うるさい奴だネ」ジ口リ

まどか「……っ!」ヒィッ!

マユリに睨まれ怯むまどかだったが、それでもなおマユリに食いついていく

まどか「そ、それと!さっき、魔法少女を元に戻せるかもって……!!」ヒッシ

435: 2011/09/21(水) 23:25:07.73 ID:yUu6sik10
マユリ「――フン、あくまで『希望的観測』にすぎんヨ。何せ、この事案に関してはまだまだ絶対的にデータが少ないからネ
    ま、今後の調査研究の進み方次第、といったところかネ――」カクッ

そう答えるとマユリは、まどかに背を向けその場を立ち去ろうとする
相変わらずマイペース(?)なマユリの言動にあたふたしながらも、まどかはその背に呼びかけた

まどか「あ、待って……あのっ…!!
    えっと……まだちゃんとお礼言ってなかったから、その……上条君の腕、治してくれてありがとうございましたっ…!!」オジギッ

マユリ「――――」スタスタ…

まどか「さやかちゃん、ずっと上条君のこと心配してたから……!
    でもマユリさんのおかげで、さやかちゃんすごく喜んでて……!」アタフタ

マユリ「――――」スタスタ…

まどか「みんなも、マユリさんの技術力はすごいって言ってますし……だから、えと…!
    ――きっとマユリさんなら、研究を完成させられますよっ!私も、みんなも応援してますっ!!」

マユリ「――で?礼と言うなら、キミは私の研究に協力してくれるのかネ?」グルリ

まどか「えっ…?」

顔をあげるまどか

こちらを振り返り、首を傾けて不気味に笑うマユリと目が合う

436: 2011/09/21(水) 23:26:29.43 ID:/1SaAlEnO
まどか「ひゃっ…!」ゾオォッ…

思わず悲鳴を漏らすまどかだったが、しかし蛇に睨まれたカエルのように足が竦んで動けなかった

マユリ「どうなんだネ?私の研究を応援するというなら、キミやキミのトモダチ共も研究材料としてその身を提供してくれるのかネ?
    研究の為キミに魔法少女になれと頼んだら、キミはインキュベーターと契約してくれるのかネ?ん?」

まどか「そ、そういうことじゃ――!」ブルブル

マユリ「――フン、まぁいいヨ。今ここでキミ相手にこんなやり取りをしていても不毛なだけだ」クルッ スタスタ…

言いたいだけ言って、再び歩み去っていくマユリ
動揺して言葉の出てこないまどかだったが、ここで今度はマユリの方から彼女へ呼びかけてきたのである

マユリ「――そうそう、一つ言い忘れていたヨ
    明日はせいぜいインキュベーターに気を付けることだネ」スタッ…

まどか「えっ…キュゥべえに…?」

マユリ「どうやら我々がしばらく現世を離れていた隙に、ヤツの霊波パターンが変化したようでネ
    現状、こちらではヤツの行動を捕捉できていないのだヨ――」

437: 2011/09/21(水) 23:27:06.72 ID:yUu6sik10
まどか「それじゃ、えっと…明日、私のところにキュゥべえが来るかもしれないってことですか?」

マユリ「いやはや、正直キミが契約してくれた方が私にとっても好都合なのだが、決戦の最中にそのことでゴタゴタされては敵わんしネ
    何せ同盟の最低条件として、暁美ほむらから“鹿目まどかを魔法少女にさせないこと”を要求されているのでネ――」

まどか「……ほむらちゃんから?それって――!」

マユリ「ま、もしインキュベーターがキミのもとに出現したら生け捕りにでもしておいてくれ給えヨ」スタスタスタスタ…
    
ワルプルギスの夜を討伐し捕獲した後で、引き取りに行くとするヨ――

そう言い残すと、今度こそマユリはその場を後にした
ネムはまどかを一瞥し、伏し目がちに頭を下げてからマユリの後を追って行く

自宅は既に目と鼻の先だったが、まどかはしばしその場に立ちつくしているのであった

まどか「――同盟の条件が、私に契約させないこと……ほむらちゃん、どうしてそんなに私のこと……」

438: 2011/09/21(水) 23:28:21.36 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
そして翌日――

見滝原市・古びた教会
椅子に腰掛けてリンゴを齧るひとりの少女―

「ムグムグ…アグッ…」シャリシャリ

魔法少女・佐倉杏子

「ゴックンッ…ふぅ~、いよいよだな――」

そう呟いて、杏子は深く椅子に背を預ける
早朝、決戦の前に寄りたい場所があると言って、世話になっているマミの家を出てきた彼女は、かつて家族と共に過ごした教会へと足を伸ばしていた

杏子「心に誓ったはずだったんだけどなぁ……もう二度と他人のために魔法を使ったりしない、この力は、全て自分のためだけに使い切る――って」

440: 2011/09/21(水) 23:28:32.94 ID:yUu6sik10
杏子「今のアタシは、誰のために戦ってるんだろうな――」

杏子「自分のため?仲間たちのため?この街の人たちのため?それとも――世界のためとか?」

杏子「はっ――ぶっちゃけ、このままどっか他所へ逃げちまうのが一番正しいんだろーな
   自分のためだけに魔法を使うってんなら、こんな街どうなろーが知ったこっちゃねぇ。わざわざワルプルギスの夜なんかに挑むこたぁねーわけだしさ――」

杏子「『変わったといえばあなたも』――か
   ハハッ!確かに、アタシはとんだお人好しのバカになっちまったみてぇだな――」ヨイショット!

ヨッ!と勢いよく椅子から立ち上がった杏子は、正面に位置するステンドグラスを見上げた

杏子「けど、案外悪くない気分だよ――
   損得だとか利害だとか抜きにして、ただ自分のやりたいこと、信じてることをやってみるってのは――な、親父!」ニィッ

そう笑って、教会を後にする杏子

聖壇にはリンゴが三つ、残されていた

442: 2011/09/21(水) 23:29:27.00 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原市・マミ宅
朝食を取った後、食後の紅茶を啜るひとりの少女―

「――うん、今日もバッチリ!」ニッコリ

魔法少女・巴マミ

「さてと、いよいよね――」

そう呟いて、マミはカップをソーサーに置いた
最近はずっと杏子が同居していたため、今朝は久々の静かなひとときが部屋に訪れている

マミ「不思議ね……これから最強の敵と戦うんだから、もっと恐怖を感じてもおかしくないはずなのに」

443: 2011/09/21(水) 23:29:50.92 ID:yUu6sik10
マミ「無理してカッコつけてるだけで、怖くても辛くても、誰にも相談できなくて、一人ぼっちで泣いてばかり……」

マミ「そんな私が、ワルプルギスとの決戦を目前にしても脅えて逃げ出さないのは、やっぱりみんながいてくれるから――なのかな?」

マミ「自分には考えてる余裕もなかった――なんて、時々いじけちゃうこともあったけど、今ならわかる
   そんなの、私だけじゃないんだって――!」

マミ「私、一人ぼっちじゃないもの――もう何も怖くない」スタッ…

スゥーッと優雅な動きで立ち上がったマミは、テーブルの上に二つ並んだ写真立てを見た

マミ「さぁて、お友達との楽しい旅行の前に――ちょっと一仕事、片付けちゃうとしましょうか」フフッ

そう宣言して、家を後にするマミ

写真のひとつは両親と自分――もうひとつは、友達たちと自分であった

445: 2011/09/21(水) 23:30:56.26 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原市・上条家前
吹きすさぶ突風を意にも介さず、その家を見上げるひとりの少女―

「――よかった、ちゃんと避難したんだね」フゥ…

魔法少女・美樹さやか

「さてと、いよいよかぁ――」

そう呟いて、さやかは天を仰ぐ
前日のうちに恭介へ避難勧告のことを伝えておいたさやかは、恭介がちゃんと避難してしるかどうか確かめに来たのだ

さやか「まったく、恭介ったら……これから街にやって来る大物魔女を、あたしが倒しに行くっていったら真っ青になって
    『そんな危険な戦いに黙って君を行かせられない、僕も戦場までついていく』――なーんて、かっこいいことまで言っちゃってさ」

446: 2011/09/21(水) 23:31:09.86 ID:yUu6sik10
さやか「けど何だかんだ言って、最後にはあたしのこと信じて待っててくれるって言うんだから、やっぱいい男だよね、恭介は」

さやか「マユリ隊長にもお礼言わないとなー……記憶置換、だっけ?
    『両親や友達にはあたしがちょうど親戚の家に行ってる最中だって思わせたいけど、恭介だけは記憶操作から外して!』なーんてめんどくさいこと頼んじゃったし」

さやか「……考えてみりゃ、あたしっていっつも誰かの世話になってばっかよねー……
    思いつめて契約しそうになった時も、恭介の腕のことも、恋愛の後押しも、魔法少女になってからも――」

さやか「――まぁでも、慌てることないか。これから先、みんなと一緒にいられる時間はたっぷりあるんだし、ちょっとずつ進歩していってお返しすればいいや!
    まだまだ未熟者で、色々ご迷惑をおかけしますが、今後ともなにとぞよろしくお願いいたしますぅ~――てね!」ニコッ

やがて上条家に背を向けたさやかは、終末のような薄曇りの空を見上げた

「大切な人がたくさんいるこの街――必ず守るよ!」キリッ

そう覚悟を決めて、集合場所へと向かっていくさやか

どんどんその濃さを増していく暗雲だったが、まだかすかにその切れ間から光が差していた

447: 2011/09/21(水) 23:32:39.52 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原市・ほむホーム
散らばっている資料に眼もくれず、ただ物思いに耽るひとりの少女―

「……とうとうここまで来れた」ボソッ…

魔法少女・暁美ほむら

「さて……いよいよね――」

そう呟いて、ほむらは自分の左手に視線を移す
既に変身を済ませている彼女の腕には、砂時計を内蔵した魔法の盾が装着されていた

ほむら「主要な魔法少女が全員生きている……美樹さやかに関しても、魔女化する憂いがない――」

449: 2011/09/21(水) 23:32:52.84 ID:yUu6sik10
ーーーー
マミ『暁美さん、あなたは……何度も絶望を乗り越えて、ここまで来たのね――』
ーーーー

ほむら「グリーフシードの備蓄もあるし、イレギュラーな戦力も加わった――」

ーーーー
さやか『でもあんた――ほんとにいいの?このこと、まどかにこそ一番に話した方が――!』
ーーーー

ほむら「そして、まどかが私たちのことを信じて待っていてくれる
    ――それだけで、私はどんな強敵とも戦える」

ーーーー
杏子『ま、最終的にはアンタの決めることだからなー。アンタが絶対に話したくないってんなら、無理にとは言わねーけどさ――』
ーーーー

ほむら「まどかを救う、それが私の最初の気持ち。今となっては…たった一つだけ最後に残った、道しるべ
    ――そのはずだったのだけれど」

451: 2011/09/21(水) 23:34:09.36 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
まどか『ううん、いいよ!そのかわり、約束してね――?』
ーーーー

ほむら「今は、少し違う――まどかだけじゃない、みんな一緒に救われたい
    さやかも、マミも、杏子も……涅ネムも。それにちょっと気は引けるけど、一応涅マユリもね――」ホム!

微笑みながら立ち上がったほむらは、何かを振り払うように髪をかきあげた

ーーーー
ほむら『ええ、約束するわ。私たち全員、必ず無事に帰ってくる――っ!!』
ーーーー

ほむら「今度こそ……決着をつけてやる!!」ファサァ

そう決意を固めて、部屋を出ていくほむら

脳裏を、微笑むまどかの顔がよぎった

452: 2011/09/21(水) 23:34:53.56 ID:yUu6sik10
ーーーー
見滝原市・無人の市街地外れ
徐々にその勢いを増す強風の中、憮然とした表情で遠くの空を見ているひとりの死神―

「フム、成程大したものだネ――」

十二番隊隊長・涅マユリ

傍らには、グリーフシードの詰め込まれたボックスに何やら結界を施すネムの姿もある

マユリ「自らの作り出す結界に隠れることなく、直接現世の事象に被害を及ぼす厄災――ワルプルギスの夜、か
    いやはや、ここからでも霊圧を感じ取ることができるヨ――」

そうひとりごちる彼に対して、呼びかける声が辺りに響き渡った

「おっはよーございまーっす、マユリ隊長――!」ノシ ブンブン

マユリ「――騒がしいヤツだネ。少し黙り給えヨ美樹さやか」

さやか「まだ挨拶しただけなのに!?」

ネム「――おはようございます、美樹さやかさん」

さやか「あ、ネムさーん!おはよーございまーす!」ノシ

455: 2011/09/21(水) 23:36:31.82 ID:/1SaAlEnO
さやか「いよいよですね……お二人とも、調子はどうですか?」

マユリ「フン、愚問だネ。最高の研究材料がやって来るんだ、準備に抜かりはないヨ――」

さやか「さっすが隊長!期待してますよ~?」

マユリ「うるさいと言っているのが聞こえなかったのかネ?その口を疋殺地蔵で斬ってやってもいいのだヨ?」ギロッ

さやか「怖っ!!い、いえ、遠慮しときますぅ……あはは……」アトズサリ


「――ったく、決戦の前だってのになぁに呑気なやりとりしてんだよアンタらは」ヤレヤレ


さやか「おっ、杏子ー!……ってか、今のやり取りは言うほど呑気でもなかったような……」

杏子「よっと……よう変態オヤジ、久しぶりだな!」ノシ

マユリ「――ああ、キミか。菌を通していたせいで、あまり久しぶりには感じられんがネ――」

杏子「菌?なんだそりゃ」

マユリ「馬鹿に私の技術を説明するつもりはないヨ。時間の無駄だ」

杏子「ワルプルギスより先に一発喰らわすぞおら」スチャ…

456: 2011/09/21(水) 23:37:14.02 ID:yUu6sik10
さやか「ちょっ、なに会って早々険悪な雰囲気になってんのよー!?」

杏子「アタシらは最初から大体こんな感じだったからなぁ。敵だろうと味方だろうと、憎たらしいおっさんだよ、こいつは」

マユリ「ヤレヤレ、口のきき方を知らん小娘だネ。私に斬られてみっともなく転げまわっていたのが嘘のようだヨ――」

杏子「さやかどけ、そいつ殺せない」スチャ…

さやか「だーかーらー!!」ヒッシ


「――あんまり私のお友達を苛めないでもらえるかしら?」


さやか「あっ、マミさんだー!おーいマミさーん!」ノシ フリフリ

杏子「おーマミ、朝っぱらからガサゴソして悪かったな」ノシ

マミ「ふふ、そんなの気にしないで。二人とも、元気はバッチリみたいね」ウィンク

さやか「はい!ワルプルギスだろうが何だろうがどんと来いですよー!」ガッツポーズ!

ネム「……巴さん、おはようございます」ペコリ

マミ「おはようネムさん、いよいよね!」ニコッ

458: 2011/09/21(水) 23:39:03.96 ID:/1SaAlEnO
マユリ「――ホゥ、巴マミか。直接こうして話をするのは初めてだネ」

マミ「ええ、そうですね、マユリさん。あれから、ネムさんとはいかがお過ごしかしら――?」ジッ…

マユリ「極めて良好――とでも言えば満足かネ?」カクッ

マミ「――いいわ、今はその言葉を信じましょう。それはさておき、今日はお願いよろしくします」ペコリ

マユリ「フン……」

さやか「おお……なに今のやりとり…」

杏子「マミのやつ、一歩も譲らねぇな。やるじゃん」ニィ

ネム「あとは暁美さんだけですね。様子を見てきましょうか――」


「――その必要はないわ」

460: 2011/09/21(水) 23:39:29.36 ID:yUu6sik10
ネム「!」

杏子「おっ」

マミ「あら」

さやか「来たー!」

マユリ「――この同盟の立役者ともあろう者が、随分と遅いご到着ではないかネ?」

ほむら「――遅くなってすまなかったわ。とにかく、これで全員揃ったわね」ファサァ

マミ「ええ、みんな準備は万端よね?」

さやか「もちろんです!」

杏子「当ったり前だろ!」

マユリ「待ち給えヨ」

さやか・杏子「がくぅっ!」ズコー

マミ「マユリさん?」

杏子「なんだよおっさん!ひとがせっかく気合い入れたところで――!」

マユリ「決戦の前に、しておかなければならないことがあるのだヨ――」

ほむら「――何かしら?」

462: 2011/09/21(水) 23:41:08.90 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原市・避難所
続々と避難してくる人々の流れに目を遣りながら、心ここにあらずといった様子で佇む一人の少女―

「……みんな」

未だなんの力も持たない人間の少女・鹿目まどか

詢子「んー?どうしたまどか?」

まどか「え?……ううん、なんでもない
    ――外、すごいね」

知久「そうだねぇ。どんどん風が強くなっていってるし、こりゃ大荒れになりそうだ」ヨーシヨーシ

タツヤ「だぁー♪」キャッキャッ

詢子「ま、あんま心配すんなよ、まどか。今日明日中には通り過ぎるって言うしさ」

まどか「……うん」

詢子「まどか?」

何かを憂うように窓の外を見つめるまどか

空は、いよいよ暗さを増しつつある

463: 2011/09/21(水) 23:41:38.01 ID:yUu6sik10
ーーーー
アハハハハーーー……

遠くの方から、不気味な笑い声が聞こえてくる

再び見滝原市・市街地外れ

霧の向こうから姿を現しつつある巨大なシルエットを、真っ正面から迎える六つの影

杏子「でけぇ……!ほむらの話通りだな、確かにこりゃ最大の敵だぜ……!」ニィッ

さやか「うぅ…今までに戦ってきた魔女と次元が違うじゃない……!」ガクブル

マミ「ええ、そうね…さすがに私もちょっと怖くなってきちゃったかも……!」ゴクリ…

さやか「えっ!?マミさんが……?」

マミ「あら、意外だった?普段は平気なフリしてるけど、私だって魔女との戦いは怖いものなのよ?
   ましてや、今度の相手はあのワルプルギスの夜なんだしね――」

杏子「おいお前ら!この期に及んでなぁに弱気なこと言ってんだ!?」

マミ「――でも、逃げたりしないわ」

さやか「マミさん……?」

マミ「だって今は、みんなが一緒に戦ってくれてるんだもの
   あなたたちが一緒なら、最後まで戦い続けられる――!」キリッ

464: 2011/09/21(水) 23:42:55.64 ID:/1SaAlEnO
杏子「――へっ!マミは覚悟ができてるみてぇだな。
   さやかはどうだ?なんなら逃げてもいいんだぜ?」ニヤニヤ

さやか「なっ――バカにしないでよねっ!あたしだって、みんながいるこの街を守るって決めたんだからっ!」クワッ

杏子「そいつは結構――だったらあとは、その覚悟を実戦でアタシらに見せつけてみなぁっ!
   それが魔法少女訓練プログラムの最終試験だ、さやかっ――!」ニィッ

さやか「お、おぉ!やってやろうじゃないの!!」ガッツポーズ

マユリ「――ヤレヤレ、話には聞いていたがいささか大きすぎるネ
    本来ならばこの類の相手には七番隊長あたりがうってつけなのだが――」

ほむら「――あら、討伐する自信がなくなった?」

マユリ「この期に及んで戯れ言を吐く余裕があるとはネ。さすがは経験者――とでも言っておこうか?」カクッ

ほむら「フ……あなたこそ、何が相手でもブレないわね」ホム

465: 2011/09/21(水) 23:43:23.91 ID:yUu6sik10
ネム「――霊波探知確認。ワルプルギスの夜、間もなく暁美さんの攻撃射程範囲内に到達します――」

ほむら「!……ええ、わかったわ
    みんな、流れは昨日打ち合わせした通りよ。準備はいいわね――?」

杏子「おう!いつでもいいぜ!!」グッ

マミ「それじゃ、始めるとしましょうか――!」ウィンク

さやか「よーし、さやかちゃんの力を思い知らせてやるからねー!!」バササッ…

彼らの周囲を、象や小動物のようなモノたちがパレードの如く通り過ぎていく
そして辺りを覆っていた霧が晴れ、遂に敵がその姿をはっきりと現そうというその時――

ほむら「――さぁ、始めましょう、ワルプルギスの夜……!!」

カタッ…

――既に砂時計は発動していた

466: 2011/09/21(水) 23:44:30.17 ID:/1SaAlEnO
マミたちにとっては、一瞬でワルプルギスの夜が爆炎が包み込まれたかのように思えた

ほむらは時間停止と同時にストックしておいた全銃火器を発動し、こちらが敵の姿を完全に視認するより早く、先制の波状攻撃を仕掛けたのである!

さやか「うひゃぁっ!
    ――す、すごっ……!!」アゼン…

マミ「暁美さんがこの日のために準備してきた武器全てを、一気にワルプルギスへ叩き込んだのだから――さすがに壮観ね……!!」ゴクリ…

杏子「つーか今戦艦とか見えた気するけど気のせいだよな……どこで手に入れたんだよ、あんなもん……!!」ニヤリ…

467: 2011/09/21(水) 23:44:50.38 ID:yUu6sik10
ーーーー
決戦前夜、皆が真実を知った後の最終打ち合わせにて――

杏子『――最初にほむらが仕掛けるのか?』

ほむら『ええ。私の砂時計は、時間遡行から数えて1ヶ月で砂が落ち切ってしまう
    そうなれば、私はもう時間停止を発動できない――』

さやか『ほむらが時間を戻してから1ヶ月って……えっ、まさか――!?』

ほむら『――そう、明日よ。さすがにワルプルギスの夜が襲来する前に砂が落ち切ることはないけれど
    それでも戦闘が長引けば、途中で私は戦力としてほぼ使い物にならなくなる』

マミ『なるほどね――それで最初にまず、持てる武器を一気に使ってダメージを稼いでおきたいってわけね?』

ほむら『そういうことよ。私の武器はストックが尽きたらそれまでだけど、あなたたちは魔力が尽きない限り攻撃し続けられる
    そして今回に限っては、魔力を完全に使い切る心配はないとみてひとまず問題ないはず――』

さやか『あんだけグリーフシードのストックがあればねー。ひとまずは安泰でしょ』

468: 2011/09/21(水) 23:46:03.42 ID:/1SaAlEnO
杏子『――そんで?先制攻撃をかました後、ほむらはどうすんだ?』

ほむら『タイムリミットが来るまで、適宜時間を止めてあなたたちのフォローに徹するわ
    手持ちのシードが切れた人に追加を補給したり、拳銃や手榴弾で雑魚散らしをしたり――』

マミ『私たちがワルプルギスの夜に集中しやすいよう、サポートしてくれるのね。凄く助かるわ!』

杏子『おうよ!こんだけきっちり役割分担して攻めたてれば、ワルプルギスなんざ恐るるに足んねーな!』

さやか『ほむらが最初に叩き込んでやった傷口を、あたしたちが一気に抉ってやるからさっ!』

ほむら『――ええ、お願いね。頼りにしてるわ、みんな――』

469: 2011/09/21(水) 23:46:41.03 ID:yUu6sik10
ーーーー

ほむら「――気を緩めないで!ここからが本番よ――!!」サッ…

仲間のもとへ戻ってきたほむらが両手を広げる
魔法少女たちが各々ほむらの腕につかまり、最後にネムがほむらの肩に手を置いた

ネム「――来ます」

マユリ「フム――」

アハハハハーーー!!!

次の瞬間、未だ立ち消えない煙と炎を突き破って、無数の黒い触手が槍のようにこちらへ迫ってきた――!

カタッ…

さやかに掴まれた腕を動かして、砂時計を作動させるほむら

~停止~

杏子「おっし、そんじゃ各自自分の位置は覚えてんなー?」

さやか「もちろん!けど、さすがにこの人数がほむらに密着して最初の攻撃位置に移動していくのはめんどいわ……」

マミ「一番移動距離が少ないのは、ワルプルギスから見て遠距離に位置を取る私だったわね――」

ほむら「そうね、まずマミから行くわよ――」

ネム「はい――」コクン

470: 2011/09/21(水) 23:47:34.23 ID:yUu6sik10
少女たちは全員で密集して跳び上がった
停止している触手の横をすり抜けて、ワルプルギスを右斜め上から見下ろす位置までやって来る

ほむら「それじゃ、頼んだわよマミ――」

マミ「ええ、任せてちょうだい――!」ウィンク

ほむらから手を離し、停止するマミ

杏子「よーし、この調子でどんどん行くぜ――!」

さやか「次はあたしね!」

同じ流れで、ほむらはさやか、杏子、ネムを、次々と定位置へ配置していった
ネムを配置する際、ほむらは彼女に確認を取る

ほむら「けど、本当によかったのね?涅マユリを時間停止から外してきて――」

ネム「はい、ご心配には及びません。マユリ様は最初のうちに敵の観察と攻撃データの採取をされますので――」バッ…

ほむら「――そう、なら問題ないわね。どの道、あの攻撃をかわせないようなら、戦力としては役に立たないでしょうし――ね」ファサァ

ネムが離れると同時にほむらも動き、全員から見て攻撃の邪魔にならない場所へ移動を済ませる

ほむら「さて……じっくり味わいなさい、ワルプルギスの夜――!!」

カタッ…

~始動~

471: 2011/09/21(水) 23:48:49.05 ID:/1SaAlEnO
マミ「――ティロ・フィナーレ!!」

ドォオオォォォォーーーンッ!!

特大の銃から放たれた一撃が、ワルプルギスに炸裂する!

杏子「うおぉりゃぁぁぁーーーっ!!」ブンッ―

さやか「くらえぇぇぇーーーっ!!」ブンッ、ブンッ、ブンッ、ブンッ

間髪入れず二人が魔力を込めた槍と投剣で左右から畳み掛ける

魔力の温存など気にせずに、極限まで魔力を込めて威力を高められたそれらの武器は、表面を傷つける程度とはいえ確かにワルプルギスへダメージを与えていた――!

「アハハハハーーー!!!」

杏子「ちぃっ!かってぇなー……胴体ぶち抜くぐらいにはかましてやったはずなんだけどなぁ――!!」

その時、遠くで爆音が響いた
最初にワルプルギスの放った触手攻撃が、つい先ほどまで彼女たちのいた場所に直撃したのである

472: 2011/09/21(水) 23:49:04.64 ID:yUu6sik10
さやか「マユリ隊長――!」ハッ

杏子「よそ見すんなさやかっ!休まず攻撃し続けろっ――!」ブンッ―

マミ「――大丈夫、あの人はそう簡単に氏にそうにないわ――!」バンッ バンッ バンッ バンッ

さやか「――っ!はいっ――!!」スチャッ…

魔女への攻撃の手を緩めない二人にならい、さやかも続けて剣を展開していく――
と、ここで彼女たちの遥か足元、すなわち逆さに動くワルプルギスの、その顔の真正面にて、強烈な閃光ほとばしった!

ネム「――破道の八十八『飛竜撃賊震天雷砲』!!」

ゴォオオオォォォーーーッ!!!

耳を劈く轟音と共に特大の雷撃が魔女の顔面を直撃する!

473: 2011/09/21(水) 23:50:22.60 ID:/1SaAlEnO
ーーーー
マユリ「ヤレヤレ、あの様子じゃほとんど効いてないようだネ――」

槍のように鋭く尖った触手をかわしてひとりごちるマユリ

すると触手から人型の黒い影が無数に分離し、手に手に武器らしきものを握って襲いかかってきた――!

マユリ「フム、知ってるヨ――キミたちが最強の魔女の使い魔なんだろう?」ニヤリ

ドッ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!

使い魔「ウソッ!?」グッ…

マユリから発せられる霊圧に一瞬気圧されながらも、即座に体勢を戻して攻撃を打ち込む使い魔たち
先頭の一体が振り下ろした槌を逆手に抜いた刀で受け止めたマユリは、そのまま瞬歩で背後にまわり後ろに向かって刀を突き出す

使い魔「キャァァッ!!」グサッ…

マユリ「成程、並みの使い魔よりはいい動きをするようだ――どうしたネ?遠慮せずどんどん攻撃してき給えヨ」カクッ

一撃で使い魔を葬ったマユリに対し、今度は一斉にとびかかる使い魔たち

マユリは首を傾けながら不気味に微笑んでいる

474: 2011/09/21(水) 23:51:14.60 ID:yUu6sik10
ーーーー
一方、ワルプルギス本体の周辺にも使い魔が現れ始めていた
チェーンを振り回して突っ込んでくる一体の使い魔に対し、杏子は無駄のない動きでその氏角を取り、これまた的確な一撃で使い魔の頭部を潰した

杏子「チャラチャラ踊ってんじゃねぇよウスノロ!こっちの狙いは魔女本体のみ――邪魔すんな!」ブンッ―

さやか「けどすごい!あたしたち、こいつらの動きに余裕でついていけてるよ――!」ズバァッ!

左右から同時に襲いかかってきた使い魔たちをそれぞれ一刀のもとに切り捨てながら、さやかが感極まったとばかりに嬌声をあげる

杏子「バーカ、調子に乗んなよ!それもこれも、全部あのおっさんのおかげなんだしな――!」ブンッ―

マミ「体が軽い…こんなに余裕を持った状態で戦うなんて初めて――!」バンッ バンッ バンッ バンッ

今度はワルプルギス本体から放たれる炎の槍の連続を、それこそ踊るような身のこなしでかわしつつ、反撃していく魔法少女たち

残った銃火器で、前線のメンバーに迫る使い魔を始末し彼女たちが戦い易いようフォローしていたほむらは、その様子を見て感心したように呟いた――

ほむら「――本当にすごい効き目ね。この――超人薬、だったかしら?」

476: 2011/09/21(水) 23:52:06.35 ID:yUu6sik10
ーーーー
マユリ『この薬は超人薬と言ってネ――』

決戦直前、集合した魔法少女たちにみせつけるようにして、半透明な液体の入った小瓶を振って見せるマユリ

杏子『チョウジン?』

さやか『チョウジンって……あの超人のことですか?スーパーマンの?』

マユリ『達人同士の斬り合いで『剣が止まって見える』なんていう話があるだろう?
    時間間隔の延長だ。極限まで神経が研ぎ澄まされると、稀にああした現象が起こる――』

さやか『あ、映画とかによくあるやつですね!目の前に迫るトラックがスローモーで見える、みたいな!』

マユリ『この超人薬は、その時間間隔の延長を強制的に発揮させる薬品なのだヨ
    極端な話、これを投薬すれば赤子の目にも銃弾が止まって見えるというわけだネ――』

杏子『マジかよ!?それってすげぇ薬じゃん!!』

マミ『つまり、それを使えば暁美さんの話にあったワルプルギスや使い魔の猛攻にも対処しやすくなる――ということですね?』

マユリ『そういうことだヨ。暁美ほむらがこれまでワルプルギスの討伐を成功させることができなかった理由――
    それは単純な戦力不足に加え、敵自体の攻撃性能の高さによる部分が大きいと、私は考えたわけだネ――』

477: 2011/09/21(水) 23:53:12.40 ID:/1SaAlEnO
ほむら『――確かに、向こうの攻撃はどれも一撃必殺級だから、一緒に戦っていたみんなもかわすのに必氏だったわ
    回避に徹すれば反撃の機会は当然減るし、使い魔が邪魔をしてこちらの攻撃の威力や精度が落ちることもあった――!』

マユリ『そこでだ、キミたちが魔力や体力の無駄な消費をしなくて済むように、この超人薬を用意してきたというワケだヨ
    全員が同じ時間感覚を得れば、キミたち以外の周囲の動き――即ち、魔女や使い魔の攻撃のみが遅く感じるようになる』

マミ『必殺の攻撃も、目で見て反応できる速度に感じられるなら、こちらも回避は容易いわね』

ネム『とはいえ、あくまで敵の動きを遅く感じるだけであって、実際には普通の速度で攻撃は向かってきます
   威力や衝撃が減るわけではありませんので、くれぐれも無理な反撃は控えるようにしてください――』

マユリ『原液を投与するのもそれはそれで面白いことになるのだが、今回はとりあえず適量である25万倍に希釈したものを持って来た
    決戦の前に、これをキミたち全員に投薬しておきたいのだがネ――』カクッ

479: 2011/09/21(水) 23:53:43.09 ID:yUu6sik10
ーーーー
ほむら「正直、みんな恐る恐るって様子だったけれど、確かにこれはすごい効果だわ――」カタッ…

~停止~

さやかの斜め後方から大剣を振り上げて迫っていた使い魔の眼前に手榴弾を投げ、そのまま今度はマユリの方へと飛んでいくほむら
使い魔たちを斬り捨てているマユリの近くまで戻ったところで、魔力が減ってきたのを感じ停止を解く

~始動~

向こうで手榴弾の爆発する音が聞こえた
ほむらはそのままマユリの側をすり抜け、グリーフシード置き場に駆け寄る
防御結界で守られているボックスから無造作にシードを掴み取って盾にしまい、最後に一つを自分で使ってから、再び主戦場へ戻ろうと踵を返すほむら

マユリ「ああ、キミか――首尾はどうだネ?」ズバァッ!

使い魔「アシガ、アシガァァァーーー!!!」

ほむら「おかげ様でね――悪くないわ
    あなたこそ、いつまで雑魚の相手をしているつもりかしら――?」

マユリ「フン――面倒な話だがネ、こちらには尸魂界への報告義務があるのだヨ
    心配しなくとも、もう少しコイツらを狩ったら援護に向かうつもりだヨ――」

ほむら「そう。なるべく急いでもらえると嬉しいのだけれど――!」カタッ

~停止~

483: 2011/09/21(水) 23:54:55.37 ID:/1SaAlEnO
ほむら(それにしてもあの男――霊圧というのかしら?とにかく、気配の波が桁違いに増幅している――)ダッ

ほむら(『限定解除した状態の霊力は今まで現世で活動していた時の五倍』――半信半疑だったけれど、どうやら本当だったようね)ピューン…

ほむら(涅ネムも術の威力が上がっているようだし、この調子で攻め続ければ――!)

杏子の傍らまで来たところで、ほむらは砂時計を戻す

~始動~

ほむら「杏子、グリーフシードよ――!」つ::

杏子「うぉうっ、ほむらか!サンキュー、ちょうど減ってきたとこだったんだ――!」

ほむら「礼には及ばないわ――この調子で頼むわね」ピューン…

杏子「おっし、任せとけって!!」ブンッ―

「アハハハハーーー!!!」

484: 2011/09/21(水) 23:56:02.09 ID:/1SaAlEnO
さやか「ほむらー!こっちにもいくつかおねがーい!」ブンッ、ブンッ、ブンッ、ブンッ

ほむら「了解よ――調子はどう、さやか?」つ::

さやか「ありがとっ!うーん、いかんせんあたしの魔法って素の攻撃力は低いからさぁ……
    あいつの身体でどっか脆い箇所がないか探りながら戦ってんだけど、どこもかしこもかったくて――!」

「アハハハハーーー!!!」

ほむら「――そう、けど焦ることはないわ。無茶な真似をしようとせず、このまま落ち着いて攻撃を続けて――」ピューン…

さやか「オッケーオッケー、わかってるって!!」バササァッ…

485: 2011/09/21(水) 23:56:33.14 ID:yUu6sik10
「アハハハハーーー!!!」

マミ「――ティロ・メトラジェッタ!!」

バンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッ

ほむら「――マミ、グリーフシードよ」つ::

マミ「あら暁美さん、助かるわ!」ニコッ

ほむら「――今の私にはこのぐらいの支援しかできないけど、あなたの魔法ならきっとワルプルギスにも痛手を与えられる
    だから――」

マミ「――ふふ、大丈夫よ。最後まで、諦めたり絶望したりしないわ!」ウィンク

ほむら「――そうだったわね。余計な心配だったわ」ピューン…

マミ「――さーて、あんな風に言っちゃった手前、あんまり格好悪いところ見せられないものね――!」

使い魔「キャハハハッ!!」ブンッ―

マミ「――ふふふ、惜しかったわね!」

マミ「ティロ・ボレー――!!」

486: 2011/09/21(水) 23:57:34.90 ID:/1SaAlEnO
ネム「はぁっ!」ドンッ

使い魔「ウヒャアッ!?」

ほむら「気を付けて!上からもう一体来るわ――!」カチャッ バァン!

使い魔「ゲフゥッ!!」

ネム「――ありがとうございます、暁美さん」

ほむら「礼には及ばないわ。それじゃあ私は――」ファサァ

ネム「お待ちください、ひとつお頼みしたいことが――私に触れた状態で、時間を止めて頂けませんか?」

ほむら「え?――構わないわよ、腕を掴むわね?」カタッ…

~停止~

ネム「助かります。それでは、私が合図をしたら停止を解除してください――」

489: 2011/09/21(水) 23:58:02.96 ID:yUu6sik10
ネム「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる――」ブツブツ…

ほむら(術の詠唱?――そういえば、死神の使う鬼道は詠唱を省略すると威力が落ちるらしいって、以前マミから聞いたことが――)

ネム「爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ――!」チラッ

ほむら(なるほど、時間を止めている間に詠唱を済ませて、術の威力を高めるつもりね
    ――それにしても長い口上ね)カタッ…

~始動~

ネム「――破道の九十『黒棺』……!!」

次の瞬間、強大な波動を発する黒い匣がワルプルギスの頭部を包み込んだ――!

グシャァアァァァーーーンッ!!!

轟音と共に棺が砕け、無数の黒い破片が舞い散る

ほむら「…っ!すごい……!とてつもないエネルギーを感じる――!」

ネム「ハァ…ハァ…うっ――!」フラッ…

ほむら「――っ!」ガシッ

よろめいたネムの身体を咄嗟に支えるほむら

490: 2011/09/21(水) 23:58:37.25 ID:yUu6sik10
ネム「申し訳ありません……九十番台の鬼道は扱いが非常に難しく……完全詠唱をしても並みの使い手ではその威力を発揮することができないんです……
   ……もっと霊力の高い術者が使用すれば……さらに力を引き出すことができるのですが……」ハァ…ハァ…

ほむら「そうなの……?でも、十分よ。これだけの攻撃を頭部に受けたら、流石のワルプルギスでも――」


「アハハハハハハハハッッッッッ!!!!!」


一同「――っ!!?」

突如、一段と甲高い笑い声が一帯に響き渡ったかと思った瞬間、魔女の全身から一斉に灼熱の火炎で作られた槍状の攻撃が周囲に拡散した――!!


マユリ「――ホゥ?」カクッ

こちらへ飛んでくる火炎を回避しつつ、マユリは懐から念話通信装置を取り出す

そしてスイッチを入れると――

マユリ『――私だヨ。そろそろ鹿目まどかのもとへ行き給え――』


【BLEACH×まどマギ】涅マユリ「魔法少女?」【後編】

引用元: 涅マユリ「魔法少女?」