493: ◆fRP8xo8mkY 2011/09/22(木) 00:00:29.74 ID:vLfxef5P0

【BLEACH×まどマギ】涅マユリ「魔法少女?」【前編】
ーーーー
見滝原市・避難所

まどか「……みんな」ボソッ…

QB『やぁまどか、久しぶりだね――』

まどか「っ!?」ガバッ

知久「うん?どうしたまどか?」

まどか「え…あ、ううん、なんでもない……ちょっとトイレ」スタッ…


QB『よく来てくれたねまどか。てっきりボクの呼びかけは黙殺されるかと思ってたけど』

まどか「……私になんの用?」

QB『そんなの決まってるじゃないか。ボクと契約して魔法少女になってよ――!』キュップイ

まどか「……だったら、私の答えだってわかってるでしょ。私はあなたとは契約しない――」

QB『本当にそうかな?』

まどか「……!」ドキッ
魔法少女まどか☆マギカ ~The different story~ (上) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
495: 2011/09/22(木) 00:02:03.78 ID:WrhrV5tUO
QB『ならどうして、ボクの呼びかけに対してノコノコ姿を現したんだい?ボクの声なんて全部無視しちゃえばいいことじゃないか』

まどか「それは……!」

QB『――知りたいんだろう?魔法少女たちの戦況を――』

まどか「……っ!そんなの、別にキュゥべえから聞かなくたっていいよ……!
    みんな、約束してくれたもん……必ず全員で帰って来るって!」

QB『そうかい?その割には彼女たち、一向にワルプルギスの夜に対して決定打を与えられていないようだけど――』

まどか「えっ……?で、でも!死神さんたちの協力だってあるし――!」ヒッシ

QB『死神側の協力?何を言ってるんだいまどか、そんなものはないよ?』

まどか「っ!?うそ……!!」サァー…

QB『ボクは嘘を吐かないって、キミは暁美ほむらから聞いてるんじゃないかい?
  この決戦、尸魂界側から送られてきた戦力は涅マユリと涅ネム――あの二人だけだよ』

まどか「そんな……!じゃあ、ほむらちゃんたちはたったの六人で――!?」

QB『――この嵐を巻き起こしている超大型魔女に挑んでいるんだ。ボクの目にはいささか無謀に映るけどね』

497: 2011/09/22(木) 00:03:16.68 ID:WrhrV5tUO
QB『涅マユリの支援でグリーフシードの備蓄はあるようだけど、それは直接ワルプルギスの夜に痛手を与える要素ではない
  むしろ、持てる魔力を限界まで込めた武器でもかすり傷程度しか与えられないとなると、かえって彼女たちの心を折る結果になりかねないと思うよ――』

まどか「で、でも…マユリさんとネムさんは隊長や副隊長だし……!」ヒッシ

QB『ボクが見たところ、副隊長程度の魔力――じゃなかった、霊力じゃ、せいぜい使い魔を蹴散らすぐらいにしか役に立たないだろうね――』

QB『涅マユリにしたって、彼の斬魄刀は攻撃力に特化したタイプの能力じゃない
  斬りつけようにもワルプルギスの硬い身体を貫くことができるかも定かじゃないし、よしんば傷をつけたところでちゃんと能力が発動する保障はない』

QB『何せ敵は歴史上最大の“厄災”だからね、既存の常識が通じる相手じゃないさ――』キュップイ

まどか「そんな……っ!!」

500: 2011/09/22(木) 00:04:43.18 ID:vLfxef5P0
ーーーー
見滝原市・市街地外れ

「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」

耳を覆いたくなるような笑い声の嵐の中、ワルプルギスの全身から四方八方に発射される灼熱の槍が決戦の地を蹂躙した

マミ「くっ――!」ヒラリッ…ヒラリッ…

杏子「ヤロウ……!急に攻撃が激しくなりやがったっ!」サッ

さやか「うわぁっと…!さすがにこりゃかわすので手一杯だよ――!」ササッ

ネム「……っ!」ヒュンッ

ほむら「一撃でもまともに喰らったら致命傷ね――みんな、落ち着いて回避に徹しましょう!」ピューン…

使い魔を巻き込むことも厭わず波状攻撃をしかけてくるワルプルギスの夜
さらには倒壊した建物の塊を浮遊させ、魔法少女たちに向かって投げつけてくる

ほむら「あの大きさ――位置的にさやかはかわしきれない――!!」カタッ…

~停止~

506: 2011/09/22(木) 00:06:19.88 ID:WrhrV5tUO
ほむらは時間を止め、動かなくなったさやかを掴んで安全な場所へ移動した
ついでに近くにいた使い魔数体にサブマシンガンを打ち込んでから魔法を解く

~始動~

さやか「えっ!?あ、ほむらかぁ…!ありがとっ、助かったよ!」ニコッ

使い魔「ブホァッ!!」ダダダダダッ!

ほむら「礼は後にして。ここからなら攻撃が通るはず――!」

さやか「マジかっ!よーしオッケー――!」ピューン…

杏子「アタシも加勢するよ!二人同時にブチ込むからな――!」ピューン…

「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」

さやか「うぇっ!?ちょっ――!」

杏子「もうこっちに気付きやがったか――!しょうがねぇ、いったん退くぞ――!」バッ

猛攻の合間を縫って反撃を加えようとする二人だったが、即座に槍状の触手が迎え撃ってくる

507: 2011/09/22(木) 00:07:05.64 ID:vLfxef5P0
マミ「参ったわね…かわすこと自体は難しくないけど、向こうの攻撃範囲が広すぎて反撃する隙がないわ――!」クッ…

ほむら(マズイわ――こちらの攻撃頻度が落ちてきている!)チラッ

ほむらは左腕の盾に目を向ける

ほむら(砂時計の残りが少ない……!じきに時間停止は使えなくなるのに、ここまできて――!)ギリッ

マミ「――暁美さん!後ろよっ!!」

ほむら「――っ!」ハッ

使い魔「シンジャエシンジャエシンジャエェェェ!!!」ゴォォォォー…!

マミ「ティロ――!」カチャッ

ほむら「問題ないわ――!」サッ

即座に使い魔の動きに反応して攻撃をかわすほむら
しかし――

杏子「――バカ野郎ほむらっ!!下からも来てるぞっ!!」

ほむら「っ!?」

彼女が回避したところは、既に放たれていた炎攻撃の直線状にあった――

511: 2011/09/22(木) 00:08:43.79 ID:WrhrV5tUO
ほむら「くっ――!!」カタッ…

ほむら「なっ――うそ、砂時計がもう――!!」ハッ

目前に迫る炎の槍――

――もはや、かわしきれない

さやか「――ネムさんっ!!」

ほむら「えっ――?」

ネム「――縛道の八十一『断空』」

ボォオオォォォーーーッッ!!!

ほむらの目の前に出現した光の壁が、業火の槍撃を受け止めた

ネムがギリギリのところでほむらと炎との間に割り込み、防御障壁を発動したのである

ほむら「涅ネム!助かっ――」

ネム「くぅっ……ダメです!離れ――」

ドォオオォォォーーーンッ!!!

しかし防壁は炎を止めきれず、その場で弾け飛んでしまう――!
爆風に吹っ飛ばされるほむらとネム

513: 2011/09/22(木) 00:09:29.31 ID:vLfxef5P0
マミ「暁美さん!ネムさん!」

杏子「待てマミっ!今はこっちに集中しねぇとよけきれねぇぞっ!!」

「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」

さやか「くっ――負けるもんかぁぁー!!」


ネム「くっ…ゲホッゲホッ!……申し訳ありません……!」フラッ…

ほむら「謝るのは私の方よ……痛っ!」サスサス

右腕をさすりつつほむらが立ち上がる
見れば他の魔法少女たちも敵の猛攻に悪戦苦闘し、当初想定していた動きが完全に崩れていた
悔しさを噛み頃すように表情を歪めるほむら

ほむら(ここまできて……!せっかく全員が揃って戦える時間軸に巡り合ったのに……!)ブワッ…

ほむら(私たちが束になってかかっても、奴には勝てないというの……?やっぱりまどかが魔法少女にならなければ、この魔女はっ……!!)ツー…ポタッ

ほむらの頬を、一筋の涙が零れ落ちる
その時――

マユリ「――どうやらここまでのようだネ」

517: 2011/09/22(木) 00:11:23.00 ID:WrhrV5tUO
ーーーー
QB『――おや、ワルプルギスの攻撃が激しさを増してきたようだね。みんな手が出せず逃げ惑っているよ』キュップイ

まどか「……っ!!」ハッ

QB『あーあ、中途半端に攻撃するから、逆にワルプルギスの夜を本気にさせちゃったみたいだね
  彼女たちは一体どうする気かな?このままじゃ勝機が見えないどころか、生きて逃げ帰るのも難しそうだ――』

まどか「やめてっ!あなたが何と言おうと、私は契約なんてしないっ――!」

QB『ふーん。ま、ボクには契約を強要することはできないけどね――前にボクが言ったことを覚えてるかい?
  「家族も友達も、キミの大切なもの全てを恐ろしい魔女から守り抜く力が、キミには眠っている」――それは今でも変わらないよ?』

まどか「それでも……!」

QB『ん?ちょっと待ってくれるかな――おや、暁美ほむらが攻撃を避け損ねたようだよ』

まどか「…っ!ほむらちゃんがっ……!?」

QB『涅ネムのおかげで即氏は回避したようだけど――他の魔法少女たちもジリ貧状態だね
  これじゃあいくらグリーフシードの備蓄があっても、それを使い切るまでもなく敵の波状攻撃を受けて終わりかな?』

まどか「そんなっ…そんなのってないよっ!だってみんな、あんなに一生懸命準備して、がんばって一緒に魔女を倒してっ……!!」ヒッシ

QB『それがどうしたって言うんだい?努力したからって、なんでも叶うわけじゃないだろう?
  ――それで、どうするんだい?正直、どうしても契約したくないって言うなら、ボクはさっさとこの街から出て行くつもりだけど――』

まどか「えっ…?」

521: 2011/09/22(木) 00:13:52.43 ID:vLfxef5P0
QB『キミはとても魅力的な魔法少女候補だけど、涅マユリの人工シードのせいで、キミが魔女化する可能性は著しく低い
  既に死神からマークされているこの街でキミに固執するよりも、他所の地域で他の凡百の魔法少女候補たちを相手にした方がノルマ達成に効率がよさそうなんだよ』

まどか「キュゥべえ――!」アセアセ

QB『それじゃ鹿目まどか。ボクはそろそろ行くとするよ
  たとえ一人でも、生き残りが戻ってきてくれるといいね――』キュップ…

まどか「――待って!キュゥべえ!!」

QB『――なんだいまどか?ボクに何か用かい?』クルッ

まどか「――みんなの所に、案内して」

QB『止めておいた方がいいと思うよ、あまりに危険だからね。みんな、キミを守る余裕なんてないだろうし――』

まどか「お願いキュゥべえ、私を連れてって!遠目にみんなの様子がわかるぐらいの場所でいいから……!」

QB『――やれやれ、参ったな。そこまで言うなら仕方がない――』


「お待ちください、鹿目まどかさん」

522: 2011/09/22(木) 00:13:57.96 ID:WrhrV5tUO
まどか「――え?」ハッ

QB『キミは――何故ここに?』

まどか「――ネムさん?」

QB『いや、違うようだね。その身体は“義骸”――そうか、キミは“義魂丸”というやつかな?』

義魂ネム「はい。決戦の際、インキュベーターがそれに乗じて鹿目まどかさんに接触するだろうと予期し、涅隊長は私をここへ向かわせたのです」

QB『まどかがボクと契約するのを阻止するつもりかい?
  けどどうやら、まどかは戦場の様子が気になって仕方ないようだよ?それに、キミのご主人様たちがワルプルギス相手に為す術もないのは事実だ』

まどか「キュゥべえは嘘は吐かないって、ほむらちゃんが言ってました
    みんなが負けそうっていうのは――本当なんでしょう?だったら、私――!」ヒッシ

義魂「いいえ、大丈夫です」

まどか「えっ…」

QB『やれやれ、キミこそ出鱈目はよしなよ。徒に希望をちらつかせたって、まどかの悲しみが膨れ上がるだけ――』

義魂「私の言葉が出鱈目かどうか、すぐにわかりますよ――」

523: 2011/09/22(木) 00:14:46.89 ID:vLfxef5P0
ほむら「――ここまでって、どういう意味よ?」

いつの間にやら傍らに来ていた涅マユリに、焦燥しきった声音でほむらが問いかけた

マユリ「なに、言葉通りの意味だヨ。どうやら数を集めて連携すればワルプルギスの夜に勝てるだろうというキミの目論見はハズレだったようだネ――」

ほむら「な、なにを――!」

マユリ「ネム、鬼道の無駄撃ちは止めるんだヨ。お前程度の霊力じゃ完全詠唱を加えたところで八十・九十番台の術は本来の威力を発揮できまい
    どの道、この様子じゃ単発の鬼道など効き目はうすいだろうしネ――」

ネム「……はい、マユリ様」フラッ…

ほむら「ちょっと……待ちなさいよ、涅マユリ……!」

マユリ「うるさいヤツだネ全く。そもそもこの戦い、キミが考えている程度の勝算など初めからなかったのだヨ」

ほむら「なっ…!?

「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」

さやか「――うわっ!!」バァンッ!

杏子「さやかっ!!」 マミ「美樹さんっ!!」

ほむら「――っ!!」ハッ

524: 2011/09/22(木) 00:16:42.71 ID:WrhrV5tUO
マユリ「――ワルプルギス最大の脅威はその巨大さにある
    並みの大きさの魔女ならば、四肢を潰すなり直接組み伏せるなりして動きを制限することができるところだが――」

さやか「えっへへ…ちょっとかすっちゃっただけだから、大丈夫だって!
    あたし、傷の治り早いしさ……!」

マミ(みんなの動きが鈍くなってきてる――!)「そろそろ魔力を回復しないと――!」バンッ!

使い魔「キャハハハーーー!!!」

ほむら「私が取ってくる……!」ガタッ…

マユリ「あそこまで常識から外れた巨体と形態を持つ以上、所詮人間サイズの大きさしかない魔法少女がいくら束になろうと、その動きを封じ込めることができないのは自明の理だヨ――」

杏子「けどほむらお前、もう時間停止は使えねーんだろ!?」ブンッ―

使い魔「ウフフフ…シンジャッテクダサイナッ!!!」

ネム「……ハァッ!」ウィィィンッ!

「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」

ほむら「くっ……これじゃあグリーフシードを取りに――!」

527: 2011/09/22(木) 00:17:11.84 ID:vLfxef5P0
マユリ「敵のペースに引きずられて戦うというのは、戦闘において非常に不利な条件だ
    いくら攻撃をかわせたところで、またいくら攻撃を食らわせたところで、実際にはこれまでのキミのループとほとんど状況は変わっていなかったということだネ――」カクッ

ほむら「――うるさいっ!だったら…だったらなによっ!?
    あなたは最初から、私たちじゃあいつには勝てないって知ってて――!!」ハッ

ほむら(まさか……この男……!!)

ほむら「――魔法少女が魔女になる瞬間を、見たかったということ?」フルフル…

マユリ「――――」チラッ

マミ「くっ――佐倉さん!私が時間を稼ぐから、その隙にグリーフシードを――!」バンッバンッバンッ!

杏子「ああっ!――くっそ、使い魔の数がどんどん増えてやがる――!」

ほむら「そのために、私たちに希望をちらつかせて決戦に臨ませたのね――?」フルフル…

使い魔「イッカセナイヨォォォーーー!!」

さやか「――あたしも加勢します、マミさんっ!」ズバァッ!

ほむら「全力で戦ってもまるで歯が立たないと思い知らせて、私たちが絶望するのを――ソウルジェムが濁りきるのを――!!」


マユリ「――キミは何を言ってるのかネ?」

530: 2011/09/22(木) 00:18:29.83 ID:vLfxef5P0
ほむら「……え?」

マユリ「そりゃ勿論、キミたちが魔女になる瞬間は是非とも見てみたいものだがネ
    今はまずワルプルギスの夜を討伐することの方が遥かに大事なことだヨ――」

ほむら「――でも、じゃあどうやって……」

マユリ「なに、キミたちを戦わせている間に、ヤツの霊圧レベルから攻撃パターンまで、大方のデータは入手済みだ
    これでもう、ヤツを好きに泳がせておく必要はなくなった――」ブンッ―

ほむら「泳がせて……ワルプルギスの動きを封じるつもり!?
    馬鹿を言わないで、今さっきあなた自身が不可能だと――!」

「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」

マユリ「ヤレヤレ、飲み込みの悪いヤツだネ――敵が大きすぎて止められないなら、こちらも大きさで迎え撃てばいいだけのことじゃないか」バッ

マユリは刀を構えると、こちらへ向かってくる使い魔たちの軍勢に目線を遣りながら、一言だけ呟いた――


「 卍
    解 」

542: 2011/09/22(木) 00:20:25.05 ID:WrhrV5tUO
ゾォオオォォォォーーー……!!

マミ・杏子・さやか「!?」ビクゥッ

杏子「なんだこの感じっ……あのおっさんの気配が急にっ……!!」

マミ「マユリさんの霊圧がさらに跳ね上がった――?」

さやか「――っ!!ちょっ、アレなにっ――!?」ビシッ

ほむら「これは……っ!?」


「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」


彼女たちが眼にしたもの

それは、芋虫のような胴体を持つ巨大な金色の“赤子”であった――

マユリ「――『金色疋殺地蔵』」

新たに出現した化け物はワルプルギスの夜へと方向を合わせ――

「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」

「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」

――頭から猛烈な勢いで突進を仕掛けていった!!

548: 2011/09/22(木) 00:21:45.11 ID:WrhrV5tUO
QB『これは――!』

まどか「えっ…なに?なにがあったの……!?」

QB『――涅マユリの霊圧がさらに上昇したと思ったら、一体なんなんだいこれは?
  乳児のような顔をした芋虫状の巨大生物が出現したよ――』

まどか「きょだいせいぶつ……?」

QB『――どういうことか説明してもらえるかな?全く、ワケがわからないよ』キュップイ

義魂「――涅隊長が卍解を発動されたのです」

QB『――ばんかい?』

550: 2011/09/22(木) 00:21:53.73 ID:vLfxef5P0
ーーーー
ワルプルギスの夜は笑い声と共に無数の触手や炎の槍を放ってくる
それらを顔面や胴体に受けながら、しかし化け物は怯むことなく全力で魔女へと突っ込んで行き――

――ついに正面から激突した

ドォオオオォォォーーーンッッッ!!!

さやか「うわぁ――!」ゴォォォー!

杏子「すげぇ風圧だっ――!」ゴォォォー!

マミ「あの怪物は――味方なの?」ゴォォォー!

ほむら「くっ――これはいったいどういう――!」ゴォォォー!

ネム「――死神の斬魄刀には二段階の封印が施されています」ゴォォォー!

魔法少女たち「えっ――?」

ネム「第一の解放を“始解”と言い、これにより斬魄刀の持つ能力が発現します
   マユリ様の疋殺地蔵はこの“始解”に相当するのです――」

マユリ「――そして第二の解放が“卍解”だヨ。これにより、斬魄刀は真の“姿”をこの世界に顕現する
    それがあの『金色疋殺地蔵』というワケだネ――」カクッ

554: 2011/09/22(木) 00:23:41.02 ID:WrhrV5tUO
ほむら「真の…姿……!」

さやか「――ってことは、あのなんかグロいのがマユリ隊長の本当の力ってことですか!?」

「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」

さやか「ひぃぃっ!!ごめんなさいぃぃっ!!」

ネム「――護廷十三隊の隊長になるためには、基本的に卍解の習得が必須条件となります」

ネム「そして、卍解による使用者の霊圧上昇幅は――」

マユリ「――始解のおよそ五倍から十倍、といったところかネ」ニヤリ

ほむら「じゅう……!」ゴクリ…

杏子「お、おい…!なんか使い魔どもの様子が変だぞ…!」

見ると、化け物をワルプルギスから引き剥がそうと集まって来た使い魔たちが、次々に悶え消滅していくではないか――!

使い魔「ウゲェェェェェーーーッッッ!!」ブクブク…

使い魔「ク、クルシ…タ、ス、ケ…!!」ゲホッゲホッ

ワルプルギスから突き出された黒い触手は、化け物との接点でシュウシュウと煙をあげながら溶解している
触手から分離して出て来ようとする使い魔たちも、生まれては消滅を繰り返していった――

555: 2011/09/22(木) 00:23:59.66 ID:vLfxef5P0
マユリ「――この金色疋殺地蔵は、半径百間以内に致氏性の猛毒を分散する
    予想通りワルプルギス本体には効果が無いようだが、周りの雑魚を始末するには十分なようだ――」

杏子「おいちょっと待てぇぇっ!今『猛毒』って言わなかったかおいっ!?」

さやか「ちょっ、それってあたしたちもヤバいってことじゃ――!!」アワアワ

マユリ「うるさいヤツらだネ。心配せずとも、現状この毒はソウルジェムには作用しないヨ」

さやか「そ、そうですよね!?さっすがマユリ隊長――」アハハ…

マユリ「尤も手足の痺れや頭痛、吐き気ぐらいは併発するだろうが――」

杏子・さやか「ふざけんなぁぁぁーーー!!!」

ネム「――ご安心ください。皆さんには既に超人薬に毒の中和剤を含ませて接種してありますので」

杏子・さやか「脅かすなぁぁぁーーー!!!」

ほむら「――あなたの狙いはこれだったのね」ボソッ…

杏子「あ?」 さやか「え?」

マミ「――なるほどね、二人とも見て
   ワルプルギスの夜が、押し負けている――!」

561: 2011/09/22(木) 00:26:12.92 ID:vLfxef5P0
「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」

「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」

赤子の泣き声と魔女の笑い声が交錯し地獄のようなハーモニーを奏でる中、化け物はグイグイと頭を押し付けてワルプルギスの夜を押し負かせていた
魔女は至近距離から炎弾や触手を次々撃ち込んでいくが、化け物はズタボロになってもなお突進の勢いを緩めない
しかも、化け物の傷口からドロドロとした毒液が滴り落ちては、鋼鉄のように硬い魔女の体表から煙があがっていく

杏子「すげぇ……あのワルプルギスが、パワーで押されてやがる……!」ニィッ

ネム「恐らくワルプルギスの夜はあの巨大さ故に、魔法少女と直接パワー勝負をしたことは一度もないはずです
   戦場を好きに徘徊できるというアドバンテージを失ったのは、これが初めてでしょう――」

ほむら「――こんな奥の手、聞いてないわよ?」

マユリ「全ての戦力を明かせるほど、お互いに相手のことを信用できてはいなかったろう?」カクッ

ほむら「――やっぱりあなたとは親しくなれそうにないわね」

さやか「そんなことよりも!今が攻撃のチャンスなんじゃない!?」

マミ「敵はマユリさんの卍解を相手に手間取っている――攻めるなら今ね!」フフ…!

マユリ「――そこでだ、ヤツを仕留めるのには、キミたちの連携とやらが必要になってくるのだがネ?」

562: 2011/09/22(木) 00:26:16.54 ID:WrhrV5tUO
杏子「アタシたちの――?」

マユリ「そうだ――キミはワルプルギスの夜の弱点を探りながら攻撃してたネ?」カクッ

さやか「へっ!?あたしですかっ!?え、ええ、まぁ――けどあいつ、脆い部分なんて全然無くって」

マユリ「だろうネ。ならば、こちらで作ってしまえばいい――」

ほむら「作る――?」

マユリ「――ヤツに一点集中攻撃を仕掛けるのだヨ」

そう言って、マユリは懐から無造作に取り出したグリーフシードを、魔法少女たちに向かって放り投げたのだった

565: 2011/09/22(木) 00:27:44.70 ID:WrhrV5tUO
ーーーー
QB『これは驚いたな。まさか死神にそんな奥の手があったなんてね――』

まどか「つまり……マユリさんは本当の力を隠してた――ってことですか?」

義魂「はい、そして今、その能力は完全に解放されました
   既に、ワルプルギスの夜の動きを抑え、反撃に転じています――」

まどか「それじゃあ――!」パァッ!

QB『――そううまくいくかな?』

まどか「え――?」

QB『その卍解とやら――確かに今はワルプルギスの動きを封じているようだけど、それも長くはもたないんじゃないかな?
  単純な攻撃能力なら圧倒的に敵の方が上手だ。このまま至近距離からの抵抗を浴び続けたら、さしもの卍解も無事ではすまないはずだよ――』

QB『そもそも、彼女たちには決定的に“打点”が欠けている。槍も剣も爆弾も銃撃も、ワルプルギスに致命傷を与えることはできていない
  結局、一時的に敵の猛攻を凌ぐことができているというだけで、状況は相変わらずジリ貧のままだしね――』

義魂「それは……」

567: 2011/09/22(木) 00:28:49.30 ID:WrhrV5tUO
QB『――ねぇまどか、聞いての通り、未だに戦況は予断を許さないんだ。涅マユリの奥の手も、結局は必殺の一撃にはなりえないものだしね』

まどか「……」

QB『それよりももっと簡単に、かつ確実に戦いを終わらせる方法が、キミには残されているだろう――?』

義魂「鹿目さん、耳を貸しては――」

QB『――だから僕と契約して、魔法少女になってよ!』キュップイ

まどか「――ううん」

QB『え?』

まどか「私は、契約しないよ――キュゥべえ」

570: 2011/09/22(木) 00:29:24.39 ID:vLfxef5P0
ーーーー
マミ「――それじゃあみんな、準備はいいわね?」

ほむら「ええ――」ファサァ

杏子「おうっ!――けど、ほんとにそううまくいくのか?」

マユリ「それはキミたち次第だヨ――誰か一人でもミスをすればそれまでだ」カクッ

さやか「うっ――だ、だいじょうぶ!絶対成功するって!」

ネム「…………」コクリ

ほむら「そうね――成功させましょう、私たちの手で!」キリッ

「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」

ネム「マユリ様――!」

マユリ「わかっているヨ――そろそろ金色疋殺地蔵の被ダメージも無視できなくなってきたようだネ
    それじゃ、始めるヨ――」


マユリ「――行けェェ!!金色――疋殺地蔵!!!」

575: 2011/09/22(木) 00:30:45.03 ID:WrhrV5tUO
「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」ズバズバズバズババァッ!!

ガキガキンガキガキガキンガキィィンッ!!!

一段と大きな泣き声をあげる化け物
同時に、金属と金属がぶつかり合うような音が連続して響き渡る――

「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」

ついに、ワルプルギスの夜が後ろへ倒れこんだ!

見ると、化け物の首にかけられていた涎掛けが外れ、その首から毒液で濡れた大量の刃が剣山のように飛び出しているではないか!
化け物は、逆さまの体勢を取るワルプルギスの胴体部に頭を押し付けていた
必然、化け物の首から飛び出しナイフのように突き出た刀は、逆さになった魔女のこれまた首にあたる位置に炸裂していた――!

超密着状態からバネのような勢いで放たれた刺突の連撃
さしものワルプルギスも、無傷ではいられなかった

化け物はすかさず倒れこんだ魔女の胴体部に這い上がり、横向きにのしかかるようにして上から押さえつけた
倒れたワルプルギスの体からは触手と炎の槍が放たれ、覆いかぶさる化け物を振り落とそうとする

「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」

577: 2011/09/22(木) 00:31:48.86 ID:vLfxef5P0
杏子「――よし今だっ!!」バッ―

さやか「オッケー!!」バッ―

さやかと杏子が動いた

倒れたワルプルギスに向かって一直線に飛びながら、さやかは無数の剣を空中に出現させる

――とそこへ、魔女の力で浮遊するがれきの塊がさやかの方へと向かっていく!

ほむら「させない――!!」ピューン…

もはや停止魔法を使えなくなったほむらは、持てる魔力の全てを身体能力の増強に充て、高速でがれきに突っ込むと手榴弾でそれを爆破した

杏子「ナイスだほむらっ!――さやか、はずすなよ――?」ニィッ

さやか「当ったり前っしょ――!!」ブンッブンッブンッブンッ―!

さやかは出現した十本の剣を、間髪いれずにワルプルギスの頭部めがけて投げつけた――

――傷口から直接毒を流し込まれ、シューシューと煙を放ちながらわずかに溶け始めている首へ

グサグサグサグサグサグサグサッ!!

さやかの剣は、溶解し始めて脆くなった首筋へと的確に突き刺さった

581: 2011/09/22(木) 00:33:16.01 ID:WrhrV5tUO
ネム「――破道の十一『綴雷電』」ビリリリリ―!

そこへネムの指先から電撃が放たれ、突き刺さった剣の間を駆け巡る――!

毒々しい紫色の煙に加え、何かが焦げるような黒い煙が首筋から立ち上り始めた

ネム「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ――」ブツブツ

即座に新たな言霊の詠唱を始めるネム

「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」

ワルプルギスは高笑いをあげながら、周囲のがれきを浮上させて魔法少女たちに投げつけていく
それを的確に察知し、残された爆弾で各個粉砕していくほむら
時間停止を失ったとはいえ、まだ超人薬の効果は切れていない
周囲に神経を張り巡らせてがれきの来る気配を察知すれば、強化したスピードでそれに近づき、仲間に被害が及ばぬ距離の内に破壊するのは容易い――

ほむら「やはりね――!」ニヤリッ!

ほむらは過去の戦いから、この最強の魔女は胴体部からしか触手や炎弾攻撃を放つことができないと見破っていたのである
それを事前に知らされていたマユリは、金色疋殺地蔵を縦ではではなく横向きにのしかからせ、なるべく魔女の胴体部全体を覆ってしまうようにしたのだ

584: 2011/09/22(木) 00:34:11.21 ID:vLfxef5P0
今もワルプルギスの夜はひっきりなしに攻撃を放ち化け物を振り落とそうとしているが、生憎炎の槍は化け物の分厚い胴を焼くだけで貫通するには至らない

辛うじて黒い触手は化け物を貫通しダメージを与えることができるようだ
が、しかしそれらは突き破った時点で順次溶けて消滅していくため、貫通したその勢いで魔法少女たちにまで触手を伸ばして攻撃することができない

おまけに貫通した傷口から化け物の毒液が血のように流れ落ちては、鉄壁を誇っていたワルプルギスの身体を徐々に徐々に蝕んでいくのだ
無論使い魔たちは今もなお、生まれては消滅するという不毛なサイクルを繰り返している

ネム「動けば風 止まれば空 槍打つ音色が虚城に満ちる――」ブツブツ

ネムが詠唱を続けるのをよそに、今度は杏子がさやかに続いて武器を展開する

さやか「――杏子、バトンタッチ!次、よろしくねっ――!!」ニィッ!

杏子「――へっ、任せときなっ!!」ニィッ!

「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」

間近に、狂ったような笑いをあげる口が迫ってくる

杏子「さぁて、いつまでそうして笑っていられんのか――」

そして両手で槍を握ると、全体重を乗せた渾身の一撃を、煙をあげる魔女の首筋に叩き込んだ――!

杏子「――なっ!!」ブンッ――

グゥワキィイイィィィィーーーンッッッ!!!

――槍は、ついに魔女の首を貫通した

585: 2011/09/22(木) 00:36:34.48 ID:WrhrV5tUO
「アーーーッハッハッハッハッハッハッハッハーーーーーッッッッッ!!!!!」

直後、一層けたたましい笑い声をあげながら、仰向けに倒れていた魔女が上体を起こそうと動き始める

杏子「うおっと――!コイツ、今までアタシらの攻撃じゃビクともしなかったのに――!」ニィッ!

ほむら「効いてる――!みんなの攻撃が、ワルプルギスの夜を苦しめている――!!」パァッ!

ネム「蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つ――!」ブツブツ… バッ!

ほむら「――っ!!杏子っ!どいてっ――!!」

杏子「りょーかいっ!次の一撃、頼んだぞ――!!」サッ

行きがけの駄賃とばかりに、突き刺さった槍をテコのように持ち上げて、首の傷口をかすかにこじ開ける杏子

そして一気に離れたところで、開いた傷口に向かって手掌をかざしたネムが完全詠唱の鬼道を放つ――!

ネム「――破道の六十三『雷吼炮』!!」

586: 2011/09/22(木) 00:37:46.62 ID:WrhrV5tUO
ゴォオオオォォォーーーッッッ!!!

すさまじい轟音と共に、雷撃がワルプルギスの首に突き刺さる
さらに――

ネム「――破道の七十三『双蓮蒼火墜』!!」

間髪いれず、二対の蒼炎が雷撃に続いて炸裂した!

――『二重詠唱』

二つの言霊を並行して唱えることで、同時に二種類の鬼道を発動する高等技術である
威力を削ぐことなく強力な術を連続して放つことができる反面、詠唱に時間がかかり隙が大きくなるため、他の術で動きを封じたり仲間が時間稼ぎをすることで初めて功を奏す戦法であった――

「アーーーッハッハッハッハッハッハッハーーーーーッッッッッ!!!!!」

開いた傷口に雷撃と炎撃を連続して撃ち込まれたワルプルギスの夜は、全身を揺らすようにしてのしかかる化け物をはねのけようともがく

588: 2011/09/22(木) 00:38:05.62 ID:vLfxef5P0
おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」グラリッ…

その時、化け物の巨体が大きく揺れた
肉薄した状態からの度重なる攻撃を受けて、ついに限界が来たのである

あと一息でこの邪魔者を始末できると気付いたのか、一際甲高い笑い声をあげながら、ワルプルギスがゆっくりと上体を起こそうとする――

――《舞台装置の魔女》ワルプルギスの夜が、ついにその身体を“正常な位置”に戻そうとしたその時――!!

持ち上がりかけた魔女の頭部を真上から見下ろすように、武器の照準を合わせる魔法少女・巴マミ――

己の持つ魔力を限界まで込めた超特大の大砲を構えて、ジッと標的を見つめる――

マミ「――これで、おしまいっ!!」

上体をわずかに持ち上げたワルプルギス――即ちその頭部は、仰向けの体勢からほんの少しだけ、上空に位置するマミに向かって突き出されていた――!


マミ「――グラン・レイーナ・ティロッ!!!」


――極大の砲撃は、ワルプルギスの夜を――その首を、寸分違わず直撃した

596: 2011/09/22(木) 00:40:38.64 ID:WrhrV5tUO
ーーーー
まどか「私は、契約しないよ――キュゥべえ」

QB『――どういうことだいまどか?みんながどうなってもいいのかい?』

まどか「――私は、ダメな子だよ」

義魂「鹿目さん――?」

まどか「みんなにあれだけ何度も何度も念押しされたのに、やっぱりみんなのことが心配でたまらなくて、つい契約しちゃいそうになってばっかりで――」

QB『それの何がいけないことなんだいまどか?友達のことが心配で、友達の為に自分が犠牲になる――この星じゃそういうのを『友情』と呼ぶんじゃないのかい?』

まどか「私もそう思ってた……私が魔法少女になってワルプルギスの夜を倒せるなら、それが一番いいはずだって――」

QB『なら――』まどか「でも、そうじゃなかったの!」

義魂「!」

まどか「自分ひとりで全てを抱えて、自分だけが犠牲になって丸く収まるならそれが一番いいなんて――
    ――私のことを守ってくれてる、大切に想ってくれてる人たちに対して、すごく失礼なことなんだよ、キュゥべえ」

QB『――ワケがわからないよ。周りがなんと言おうと、キミがそう望むならそうしたらいいじゃないか』

600: 2011/09/22(木) 00:41:34.43 ID:vLfxef5P0
まどか「ううん、それじゃだめなんだよ
    私はひとりの人間だけど、私ひとりだけの力で生きてるわけじゃないんだもん――」

まどか「何でもひとりで解決しようとするのって、結局周りの人たちを信じてないっていうことと同じなんだよ
    私、上条君の腕の事で、さやかちゃんが誰にも相談せずに契約しようとした時、すごく悲しかった――それと同じ」

まどか「さやかちゃんが契約しなくても、マユリさんのおかげで上条君の腕を治すことができた――」

まどか「確かに、私が契約すればワルプルギスの夜を倒せるかもしれない――けどそれは、私が契約しなくてもみんなが成し遂げてくれるかもしれないでしょ?」

QB『だからその可能性は低いと――』

まどか「低くても、みんなは私に『待ってて』ってお願いしたんだよ。『信じて待っててね』――って
    だったら私は、みんなが帰るのを最後まで待つよ」

QB『――それで、彼女たちが全員氏んでもかい?』

まどか「――うん。みんなを助けるためなら自分が代わりに……なんて考えがいつまでもあるから、ほむらちゃんは私に隠してることを話してくれなかったのかもしれないし、ね」

まどか「――えへへ、それにね、マユリさんが奥の手を隠してたって聞いて、なんかちょっと安心しちゃったんだ、私
    『ああ、私が心配してる程度の不安なんて、とっくに予期して対策を立ててたんだ』――って」

まどか「ほむらちゃんもマミさんも杏子ちゃんも、さやかちゃんもネムさんも、みんな私なんかよりずっと魔女との戦いには詳しいし
    私がここであれこれ心配してることなんて、きっとみんなならどうにかしちゃえるよねって、なぜかそう思ったの。根拠もないのに、変だよね――」ティヒヒ

QB『――やれやれ、どうやらここまでのようだね』

605: 2011/09/22(木) 00:43:18.93 ID:WrhrV5tUO
まどか「――え?」

義魂「――勝敗が決したようです」フゥ…

まどか「!!」ハッ

QB『全く、この街を去る前に手土産としてキミと契約を結べるかと思ったんだけどね――』

まどか「それじゃあ……!!」パァァ!

義魂「――ワルプルギスの夜は撃破されました
   皆さんの勝利です――」ニコ…

610: 2011/09/22(木) 00:44:51.15 ID:vLfxef5P0
ーーーー
見滝原市・決戦の地

頭部を失い、残った胴体も徐々に消滅しつつある《舞台装置の魔女》ワルプルギスの夜の亡骸――
その歯車のような胴体部分から、いくつもの破片をちぎり取っては、封印を施していく十二番隊副隊長・涅ネム

マユリ「――フム、その辺はもういいだろう。次は肩の辺りのパーツを集めてこい」

ネム「はい、マユリ様――」サッ


杏子「――にしても間近で見るとやっぱでけぇなー、コイツ」シミジミ

さやか「これをあたしたちが……うぅ、なんか感激……!」ウルウル

マミ「――そうだわ佐倉さん
   『魔法少女訓練プログラムの最終試験』――結果はどうかしら?」ニコニコ

さやか「へっ!?あっ――!!」ハッ

杏子「んー?そうだなぁ――」ニヤニヤ

さやか「ちょっ、なにそのにやにや笑い――!」

615: 2011/09/22(木) 00:46:01.15 ID:WrhrV5tUO
ほむら「…………」

マユリ「何を呆けているのかネ?邪魔だヨ、そこを退き給え――」ツカツカ

ほむら「……まさか、本当に倒せるなんて」

マユリ「今更なんだネ?最初からそのつもりだったのだろう?」

ほむら「そうだけど……多分、何度も繰り返していくうちに、心のどこかでは諦めていたのかもしれないわね
    ……情けない話だけれど、こうして氏体を目の前にしても、倒したっていう実感が湧かなくて……」ホムゥ…

マユリ「フン、感傷――というヤツなのかネ?
    生憎キミの感傷などに興味はないヨ――おいネム、この辺りのがれきを掘り返せ」

ネム「はい、マユリ様――」サッ

ほむら「……あなたは本当にブレないわね。その図太さを見習いたいわ……人格的には御免だけど」ファサァ

マユリ「フン、口の減らない小娘だヨお前は
    ――我々はまだここにいるが、キミたちはいても邪魔なだけだ。さっさと鹿目まどかのもとへでも行ってやったらどうだネ――?」カクッ

ほむら「……まどか」

617: 2011/09/22(木) 00:47:06.54 ID:vLfxef5P0
さやか「――ほーむらっ!」ダキッ

ほむら「っ!……暑苦しいわ、離れてちょうだい」

さやか「まーたこの娘は照れちゃって~。かわいいなぁ~」ウリウリ

さやか「――お疲れ様、ほむら」ソッ…

ほむら「!!」ハッ

杏子「よっ、ほむら!――これでようやく、お前も一区切りだな!」ニィッ

ほむら「一区切り……?」ホムゥ?

マミ「ええ、そうよ。あなたの――長きに渡るワルプルギスの夜との戦いは、これでおしまい
   これからは今まで通り、この街に出現する魔女から人々を――鹿目さんを守っていくっていう仕事があるでしょう?」フフ…

ほむら「まどかを……でも、私はもう時間停止魔法を使えない
    武器の調達だってできなくなるし、こんな私じゃとても戦力にならないわ……」

杏子「――なーに情けねーこと言ってんだよ」

ほむら「え?」

619: 2011/09/22(木) 00:48:12.88 ID:vLfxef5P0
マミ「ねぇ、暁美さん。魔法少女の力の源って、なんだと思う?
   ――私はね、『信じる心の強さ』だと思うの」

ほむら「信じる…心」

さやか「ほむらはさ、誰よりもまどかを守りたいっていう気持ちが強かったわけじゃん
    何度失敗しても、簡単に絶望しちゃわないで、まどかを救い出せる時が来るのを信じてさ――」

杏子「だからさー、まどかの傍にいてやるのにはお前が一番ふさわしいってこと!」

ほむら「でも……私じゃまどかを守れ――」

さやか「そんなことないって!だってあんた、あの身のこなしは全部努力と経験でものにしてきたわけでしょ?
    身体能力とか戦闘センスならどう見てもあたしたちの中で一番だよ!」

杏子「いっそ身体を鍛えるのに魔力を注ぎ込んで、“肉体武闘派魔法少女”を目指すとかどーよ?」ククク!

ほむら「に、肉体……!?あまりからかわないで……!」ホム!

マミ「それに、守ると言ってもあなたひとりに任せるつもりはないわ
   ここにいるみんなで力を合わせて、これからも一緒にこの街の平和を守っていきましょう――!」ニッコリ

ほむら「…………」


ほむら「……ありがとう」ホム!

622: 2011/09/22(木) 00:50:13.35 ID:WrhrV5tUO
ーーーー
見滝原市・避難所

詢子「おーおー急に晴れてきやがったわねーこりゃ」

たつや「はれたー!」ワーワー

知久「おーい、どうもひとまず峠は越えたみたいだよー。……ふぅ、一時はどうなることかと思ったけど、無事に通り過ぎたみたいでよかったね」ドッコイショ

詢子「ふーん、案外すんなり行ったんだね。もっと長丁場になるかと思ってたけど――」

まどか「あっ、見てママ!雲の切れ間から光が差しこんでる――!」

詢子「ん?ほぉー、ありゃ天使の梯子だな」

まどか「天使の梯子?」

知久「ああいう風に、雲の隙間からわずかに光が差しこむ様子のことをそう呼ぶんだ。まるで天使が地上へ降ろした梯子みたいだろう?」

まどか「へぇー、そうなんだ――」

タツヤ「てんしー!てんしー!」キャッキャ


「えー、体育館に避難されている皆様ー、ただいま気象観測台から入ってきました報告によりますと、嵐は無事に見滝原を通過した模様ですー
 これより市内の道路及び建築物等の被害状況を消防がパトロールして行く予定ですのでー、今しばらくこちらで待機していてくださいー」


まどか「――ねぇパパ、ママ。ちょっと廊下の窓から外の様子見てきてもいい?
    ここからだと空の様子しか見えないし――」

624: 2011/09/22(木) 00:51:21.61 ID:vLfxef5P0
体育館廊下

窓から外の景色を眺め――いや違う、何かを必氏に探すように、目を凝らして見ているまどか

そんな彼女へ、声をかける者がひとり

義魂「――皆さんが心配なんですね」

まどか「あっ、ネムさ……じゃなかった、えーと――」アタフタ

義魂「――ソウルキャンディー」

まどか「え……?」キョトン

義魂「私たちの“商品名”です。本来は義魂丸と言っていたのですが、『もっと可愛い名前がいい』という女性死神の皆さんからの要望で、そう呼ばれるようになりました」

まどか「そ、そうなんですか……ソウルキャンディーかぁ。確かにそっちの方が可愛らしいですね!」ティヒヒ!

義魂「一応ソウルキャンディーには、そのタイプごとに名前が設定されています。私には正式な名前は付けられておりませんが、一応機会がある時には『ミモザ』と名乗っています」

まどか「ソウルキャンディーのミモザさん、ですね。やっぱり可愛い名前だなぁ!」ニコッ

義魂「――ありがとうございます」ニコッ

まどか「ウェヒヒ!」

義魂「――心配はいりません、鹿目さん」

まどか「え?」

628: 2011/09/22(木) 00:52:42.67 ID:vLfxef5P0
義魂「――大丈夫ですよ、皆さんは無事です。今は涅隊長との通信が切れてしまっていますが、もうすぐこちらに戻ってこられるはずです」

まどか「そ、そうですよね!あーもう、私ったら、みんなが帰ってくると思うといてもたってもいられなくて――!」ウェヒヒ!

義魂「――そうですね、私も待ちきれません」フフ…

まどか「えっ?ミモザさんもですか?」

義魂「私は、涅隊長が涅副隊長のために特別に開発したソウルキャンディーなんです
   量産されたものと違い、涅副隊長の性格をベースに若干修正を加えて作られております――」

まどか「それって、マユリさんがネムさんのために特別に作ったソウルキャンディー、っていうことですか?」

義魂「はい。とはいえ、涅副隊長自身にも義魂作製技術が関わっている以上、その気になれば全く同じ人格のものを作ることもできたはずです」

義魂「あえて私を副隊長の人格とやや異なるように調整したのは、やはり涅隊長にとって副隊長が特別な存在だから――なのでしょうね」

まどか「そうなんですか……なんだか、意外ですね。正直、マユリさんのこと今でもちょっと怖いなって思ってたんですけど――」

義魂「隊長は少々エキセントリックな方ですが、普通の方とはその表現の仕方が異なるだけで、副隊長にはそれなりの愛情を感じておられるようですよ」フフ…

まどか「ティヒヒ!やっぱり意外です!――あっ!!」ハッ

629: 2011/09/22(木) 00:53:46.86 ID:WrhrV5tUO
その時、窓の外に何かを見つけたまどかは、ネムの義魂丸が止める間もなく走り出した

体育館入口に向かって駆けていく姿を、義魂丸は微笑ましそうに見送る

自動扉は閉まっているため、その脇にある非常扉を重そうに押し開けるまどか

ギィィ……!

半分ほど開いたところで、待ちきれずにまどかはその隙間から外へ飛び出す

そして、こちらへ向かって歩いてくる四つの影に力いっぱい手を振ると――


まどか「みんなぁーーー!!おかえりぃーーー!!」

631: 2011/09/22(木) 00:56:27.73 ID:WrhrV5tUO
ーーーー
「――ワルプルギスの夜との決戦から一週間が経った」

「市街地から外れた場所を戦場に選んだことと早めの避難勧告が功を奏したのか、記録的な大災害だったにも関わらず犠牲者はほとんど出なかったそうよ」

「市街地への被害が少なかったこともあって、住民への避難勧告もその日の夕方には解除されてみんな自宅へと戻ることができたわ」

「――突然避難所に現れた私たちについても、涅マユリの“記憶置換装置”とやらのおかげで適当に理由づけがされてたから、面倒なことにはならなかったしね」

「そうそう、後日さやかは上条恭介からこっぴどく叱られたそうよ
 『強力な魔女と戦うとは聞いてたけど、ここまでとんでもない嵐を起こすような奴だとは聞いてないよ!』――ってね。私には惚気に聞こえるけど」

632: 2011/09/22(木) 00:57:34.88 ID:WrhrV5tUO
「――私の、長きにわたるワルプルギスとの戦いは、これでようやく終わりを迎えた」

「まどかは最後まで契約をしなかった――私たちとの約束を信じて、待っててくれた」

「マミは、過去の時間軸で出会ってきたどのマミよりも、本当の意味で頼れる先輩になってくれた」

「さやかが魔法少女になった時にはどうなるかと思ったけれど、今回は全てがうまく進んでくれて本当によかったわ」

「杏子は相変わらずマイペースでぶっきらぼうだけど、今の私たちにはそれが威嚇や警戒でなく、彼女の素の気質なんだとわかる」

635: 2011/09/22(木) 00:58:35.56 ID:WrhrV5tUO
「――これでもう、心残りはひとつもない
 全てが最高の状態で、ここまで来れたのだから――これ以上を願うのは、罰当たりな高望みだわ」

「――今までありがとう、みんな。この最後の時間軸で、あなたたちと一緒にいられて本当によかったわ――」

636: 2011/09/22(木) 00:58:47.46 ID:vLfxef5P0
ほむら「――それじゃ行きましょう、涅マユリ」ファサァ

マユリ「――ホゥ、潔いことだネ。魔法少女験体一号・暁美ほむら――」カクッ

641: 2011/09/22(木) 00:59:56.85 ID:vLfxef5P0
ーーーー

義魂『――それは……!いくらなんでもひどすぎます、涅隊長……!』

『――――』

義魂『いえ…ですが私にはそんなことっ……!』

ゴスッ!

義魂『うぐぅっ……!』ゲホッゲホッ

『――――!』

義魂『……わかり…ました…』


義魂『――ごめんなさい……!』

643: 2011/09/22(木) 01:00:31.33 ID:vLfxef5P0
ーーーー
早朝―
見滝原市・自然公園

広い公園の周りを囲うようにして結界を張り、その内側で穿界門のチェックをする十二番隊副隊長・涅ネム

暁美ほむらは、両手を後ろ手に拘束された状態で、ネムが計器類を操作しているのをぼんやりと眺めていた

ほむらの隣に立つ十二番隊隊長・涅マユリは、掌を握ったり開いたりしながら、何を考えているのか読めない表情で佇んでいる

またその傍らには、ネムの義骸に入った義魂丸が伏し目がちに控えていた

ほむら「――こんな拘束をしなくたって、今更逃げたりしないわよ」

マユリ「ん?ああ、悪く思わんでくれ給えヨ。時間停止能力を失ったとはいえ、キミにはまだ時間遡行能力が残されているからネ――」

ほむら「冗談じゃないわ。無事にワルプルギスの夜を倒せたというのに、わざわざ逆戻りをするわけないでしょう――!」

マユリ「わかっているヨ、そう声を荒げなくてもいいじゃないかネ?」

648: 2011/09/22(木) 01:02:22.20 ID:WrhrV5tUO
マユリ「本来ならば、キミのソウルジェムをこちらで握ってしまえば一番手っ取り早い拘束になるのだヨ
    文字通り生殺与奪の権を握ることになるのだからネ――それをしないだけでも感謝してもらいたいものだがネ」フン

ほむら「――どの道、生殺与奪を握られていることには変わりないわ。何せこれから、私はあなたの“研究材料”に成り下がるのだから――」

マユリ「恨みがましい言い方はよし給えヨ。これは同盟における正当な対価だ――」

ネム「――穿界門、接続準備が整いました。これより、霊子変換装置を起動させます」

マユリ「よし、急げネム――どうだネ暁美ほむら?あるいは何の変哲もないこの公園が、キミにとって最後に見る現世の光景になるやもしれんヨ――?」

ほむら「――別に、特に感慨も浮かばないわね。どちらにせよ、最初から決戦を終えたら人知れずこの街を去るつもりだったのだし――」

義魂「……ですが、ご友人の皆さんに別れを告げなくて、本当によろしかったのですか?」

ほむら「いいのよ。知ったらみんな黙ってはいない――あなたたちと刺し違えることになってでも、私を取り戻そうとする
    そういう娘たちばかりだから――」


「なーんだ、よくわかってんじゃねーか」

653: 2011/09/22(木) 01:03:25.75 ID:vLfxef5P0
ほむら「!?」

マユリ「――ホゥ?」カクッ

不意に聞こえてきた声の主は、彼女たちのよく知る魔法少女――

ほむら「杏子……!どうしてここに――!?」

杏子「アタシだけじゃないんだなーこれが」ヘヘッ!


「まったく――これは少しひどいんじゃないかしら?暁美さん」

「ほんとほんと。なんの断りもなしにあたしたちの前からいなくなろうなんて――許さないよ?」


ほむら「マミ…さやか……!あなたたちまで――」

マユリ「いや、それだけじゃないネ」

ほむら「――っ!」ハッ

マユリの呟きを受けて、即座に言わんとすることを理解したほむら

655: 2011/09/22(木) 01:04:20.03 ID:WrhrV5tUO
マユリ「これだけの顔ぶれが揃ったんだ。おそらくはあの小娘も――」

はずれであってほしい、その推測の言葉は――


「――ほむらちゃん!!」


――この場に最も来てほしくなかった少女の、呼びかける声にさえぎられた

ほむら「まどかっ……!」

661: 2011/09/22(木) 01:05:20.83 ID:vLfxef5P0
まどか「はぁ…はぁ…ほむらちゃんっ……!」ハァ…ハァ…

息を切らせながら公園に駆け込んできた彼女の姿を見て、ほむらは後ろ手に回された拳を握り締めながら表情を歪める

ほむら「そんな……どうしてみんなここが……!?」ギュウゥ

マミ「あら、舐められたものね。私たちは一緒に戦ってきた魔法少女のチームよ?チームメイトに何かあったら、何としてでも駆けつけるのは当然でしょう――」

ほむら「答えになってないわっ!いったいどうやって――!」

さやか「せっかくワルプルギスの夜を倒したってのに、あんたあれからずぅーっと元気なかったでしょ。持ち前のクールさを前面に押し出して誤魔化そうとしてたみたいだけど、ちゃーんと気づいてんのよ?」チッチッチッ

ほむら「なっ……!!」

杏子「ま、そんで気付かれないように、それとなーくみんなでほむらの周りを張ってたってわけだ。つってもお前、警戒心強すぎて全然近づけなかったけどな」

ほむら「そんなはず……!」

663: 2011/09/22(木) 01:06:02.58 ID:vLfxef5P0
そう、そんなはずはなかったはずだ
いくら気付かれないように注意して張り込んだところで、彼女たちの気配にほむらが気付かないわけがない

今日この時間にほむらたちが現世を去ろうとしている――そのことを知る人物が、彼女たちに告げたとしか考えられなかった

その時、ほむらはある人物が微かに視線をそむけたのに気付いた

涅ネム――いや、彼女と同じ姿をした義骸の方である

ほむら「まさか……!?」

ほむら(そういえば、まどかが言っていた気がする――)

ほむら(避難所で私たちの帰りを待っていた時、涅ネムの義魂丸に勇気づけてもらった――って)

ほむら(でもまさか、主である涅マユリに背いてまで、皆と私を引き合わせたかったというの――?)

マユリ「――ヤレヤレ、わざわざ見送りに来てくれるとは、いいトモダチとやらを持ったネ?暁美ほむら――」

ほむら「――っ!!」

マユリの言葉で、思考の海から現実に引き戻されるほむら

ほむら「――そうね。みんな、わざわざ見送りに」まどか「どういうことなのほむらちゃん?」

ほむらの言葉は、しかしまどかによってさえぎられた

665: 2011/09/22(木) 01:07:15.35 ID:WrhrV5tUO
ほむら「……」

まどか「私たちに黙って、どこへ行こうとしてたの?せっかくワルプルギスの夜を倒したのに、どうしてそんなに苦しそうな顔をしてるの――?」

ほむら「……まどか、私は」マユリ「彼女は私の研究材料に志願したのだヨ」

まどか「!!」

杏子「はっ!何を言い出すかと思えば、とんだ世迷言だな変態オヤジ!」

マユリ「言いがかりをつけないでくれ給えヨ。これは彼女の方から持ち出した提案だ――」

マミ「信用すると思って?」

ほむら「――彼の言うことは事実よ。これは私が言い出したこと
    ワルプルギス討伐のために彼を手を組んだ――その報酬なの」

さやか「報酬……?」

マユリ「そうだヨ!人工シードを開発し、天然のシードを養殖し、超人薬を準備し記憶置換で尻拭いをし!
    考えうる限り最小の被害でワルプルギスの夜討伐を成しえた、その成果に対する正当な報酬だ!!」

ほむら「死神サイドからの人的支援を得られなかったとはいえ、彼の尽力が無ければ全員が無事な状態で奴を倒せはしなかった
    魔法少女や魔女に関する情報提供だけでは、彼に対する報酬にはならないもの――」

668: 2011/09/22(木) 01:08:11.06 ID:vLfxef5P0
さやか「だからって、何もほむらがっ…その、研究材料になることないじゃん!もっとこう、ほら、別のお礼じゃだめなんですか、マユリ隊長?魔法少女日替わりデート一週間分とか――!」ヒッシ

マユリ「相変わらずうるさいヤツだネ。少し黙り給えヨ」カクッ

さやか「うっ……」アトズサリ…

マミ「――冗談は抜きにして、他の方法ではだめなんですか?これからも、魔女に関する情報でしたらいくらでも協力――」

マユリ「生憎、ただの魔女や使い魔にはもう興味がないのだヨ
    何せ断片とはいえ、史上最大の魔女の氏体を入手することができたのだからネ。これ以上雑魚の験体は必要ない――」

杏子「――で、お次は魔法少女の解剖実験てか?変態っぷりもさすがに目に余るぜおっさん?」

ほむら「やめてちょうだい。これは私が決めたことよ――」

まどか「――ほむらちゃんは、最初からそのつもりだったの?」ボソッ…

ほむら「……当然でしょう、納得した上での申し出よ」

まどか「だからほむらちゃん、いつも寂しそうな顔してたの?」ボソッ…!

ほむら「…!」

670: 2011/09/22(木) 01:09:19.96 ID:vLfxef5P0
まどか「みんなで旅行に行こうって話してた時も、必ずワルプルギスの夜に勝てるって言ってくれた時も」フルフル…

まどか「ほむらちゃん、どこか思いつめたような顔してた……私にだって、それくらいわかるよ?ほむらちゃん」フルフル…

ほむら「……思い違いよ。そんなことはない」まどか「だからほむらちゃん、肝心なことは何も話してくれないのっ!?」

ほむら「!!まどか――」

まどか「――『信じて待ってて』って、約束してくれたから、私は契約せずにみんなを待ち続けることができたのに
    ほむらちゃんは、心の底じゃ私たちのこと、信じてくれてなかったの――?」グスッ…

ほむら「…!ちがう、そんなことない――!」

まどか「じゃあどうしてっ……私たちに秘密で、こんなっ……!
    ……あんまりだよ、こんなのってないよっ……!!」ボタボタ…

ほむら「――わかってちょうだい、まどか。誰かがこうするしかなかったの」フルフル

ほむら「魔法少女について研究が進めば、ソウルジェムの分析も捗って――いつか、魔法少女を普通の人間に戻すことができるようになるかもしれないの」

まどか「――っ!!」ハッ

ーーーー
マユリ『――あるいは、魔法少女を元の人間に戻す方法も見つかるやもしれないネ』
ーーーー

673: 2011/09/22(木) 01:10:42.02 ID:vLfxef5P0
ほむら「――元々、死神と同盟を結ぼうと考えたのは私の独断だったし、あなたたちはただワルプルギスを倒すために協力してくれただけ
    他の魔法少女にこんな役目をさせるわけにはいかないの――すべての責任は、同盟の立役者である私が負わなければいけない」キリッ

杏子「ふざけんじゃねーよ。わかってねえのはそっちだ、バカ」

ほむら「――!」

マミ「あなた一人にその“責任”っていうのを背負わせて、私たちが平気でいられると思う?もしそんなことになったら私、絶望して魔女になっちゃうわよ――」

まどか「私も……ほむらちゃんを助けるためなら、契約しちゃうかも」ボソッ…

ほむら「なっ…バカなことを言わないで!そんなことのために魔法少女になるなんて――!」まどか「そんなことなんかじゃないよっ!」

ほむら「まどか――!」

まどか「どうしてわかってくれないのっ……!?私たちみんなにとって、ほむらちゃんは大切な友達なんだよ?ほむらちゃんが私たちのこと大切に思ってくれてるのと、おんなじなんだよっ……!」

まどか「――みんなの代わりに自分が犠牲に……なんていう考え方は、私もうやめたの。だから、ほむらちゃんも――!」

マユリ「やれやれ、鬱陶しいことだネ全く」

マユリ「二言目にはやれトモダチだ仲間だとごちゃごちゃごちゃごちゃ――うるさいんだヨっ!!どいつもコイツもっ!!」

まどか「ひっ――!?」ビクゥッ!

ネム「マユリ様――」 義魂「涅隊長……!」

マユリ「――で?結局キミたちはどうして欲しいんだネ?暁美ほむらを研究材料にさせたくないというのなら、誰かが代わりになると?」カクッ

674: 2011/09/22(木) 01:12:06.03 ID:WrhrV5tUO
ほむら「ちょっ――待ちなさい涅マユリ!彼女たちは関係ないわ――!」

杏子「だぁーかぁーらぁっ!まずその“研究材料”って発想から離れてくんねーかなぁ!
   薬の投与が何回だの実験が何時間だの、そういうレベルになってくるとさすがに協力しきれねーよ!」

マミ「もう少し、その――新薬のモニターテスト、ぐらいのお話しだったら、なんとかお付き合いできるのですけど……」

さやか「そうそう!たまーにネットとかで求人募集してるやつあるじゃないですか!
    『開発した新薬のモニターさん募集!安全かつ高給です!』みたいな感じの!」

マユリ「フン、どうせソウルジェムがある限り氏にはしないんだ
    それならドロドロになるまで研究したって構わんだろう?」

杏子「いや構うよっ!いくら氏なねーからって、誰が好き好んで手足バラバラにされるかよっ!?」クワッ

さやか「お願いしますよマユリ隊長!もうちょっと他の条件で勘弁してください!
    なんたって隊長は天才科学者なんですから、そんな物騒な方法取らなくても魔法少女の研究ぐらい完成――」ヒッシ!

マユリ「そういえば――あの人間の小僧とはうまくいっているのかネ?」

679: 2011/09/22(木) 01:13:40.86 ID:WrhrV5tUO
マユリ「なに、せっかくこの私が処置を施してやったのだからネ。その後の経過を気にするのは当然だろう?」カクッ

さやか「そ、そりゃあ隊長のおかげで恭介の腕は無事に良くなりましたし、まぁその後もお陰様で順調に……////」テレテレ

マユリ「そうかネ、それは結構。私も一服盛った甲斐があったというものだヨ」

さやか「……は?」

682: 2011/09/22(木) 01:15:19.24 ID:vLfxef5P0
マユリ「それにしても、思った以上に効果があったようだネ。これは改良すればさらに効能が――」

さやか「え、いや、ちょっと…なんですか?え、『盛った』……?」

マユリ「ああ、そうだヨ。何の変哲もない人間の小僧を無償で治してやる義理などないだろう?
    せっかくの機会だったのでネ、新たに開発したばかりの新薬の被験体になってもらったというわけだ――」

杏子「お、おい…?」 ほむら「いったい何を言って……?」

さやか「――新薬?被験体?何のことですか、ねぇ――?」

マユリ「飲み込みの悪いヤツだネ、媚薬に決まってるだろう?」

さやか「び、びやく――?」

マミ「――っ!」 ほむら「なっ――!」 杏子「ハァッ!?」 まどか「び、びやくって――!?」

マユリ「正確には催眠状態を誘発させ暗示をかけやすくする薬――と言ったところかネ
    “魔女の口づけ”について調べていた過程で試しに開発してみたのだが――」

685: 2011/09/22(木) 01:16:14.04 ID:vLfxef5P0
マユリ「俗な言い方をすればそうなるネ
    要は被験体の脳にある種の麻酔作用を発生させ、他者の態度や言葉に対する警戒心を緩めて好意を抱かせやすくする薬品だ」

杏子「お、おい待てっ―!」

マユリ「自白剤としては勿論、その気になれば武力的行使を介さずに敵対者を無力化することもできるだろう
    尤も現段階ではまだそこまで完成されてはいないがネ――」

さやか「――恭介にその薬を、打ち込んだってこと……?
    はは…うそですよね?やだなぁ、マユリ隊長ってば冗談にしちゃ笑えないですよぉ……!」フルフル

まどか「さやかちゃん――!」 マミ「美樹さん、待って――!」

マユリ「何か問題でもあったかネ?むしろ感謝してもらいたいぐらいだがネ――」

ほむら「っ!!そいつの言葉に耳を傾けてはダメっ――!!」

さやか「……ははは、え、うそ?うそだよね……?だってそれじゃ、恭介があたしのこと好きだって言って……!」ガタガタ…

ーーーー
『さやかが心の支えになってくれてたんだって、告白された時に気付いたんだ』
ーーーー

688: 2011/09/22(木) 01:18:30.47 ID:WrhrV5tUO
ゴゴゴゴゴ……!!

まどか「――っ!さやかちゃんのソウルジェムが――!?」

杏子「てめぇっ――!!」ブンッ…

マミ「くっ――!!」カチャッ…

瞬時に槍と銃を呼び出す二人
だが次の瞬間、二人の目の前にネムが立ちはだかる――

杏子「なっ――!!」

マミ「ネムさんっ――!?」

ネム「『六杖光牢』――」シュン―

ズバァン!!

マミ「きゃっ――!!」

六本の光がマミの身体に突き刺さり、動きを封じた!

692: 2011/09/22(木) 01:19:35.34 ID:WrhrV5tUO
まどか「マミさん!!」 ほむら「そんなっ――!!」

杏子「てめぇ何を――!!」ブンッ―

ネム「――『蒼火墜』」

杏子「!!」バッ

咄嗟に飛び退いて攻撃をかわす杏子
それを執拗に追跡し、鬼道を放ち続けるネム

693: 2011/09/22(木) 01:19:48.48 ID:vLfxef5P0
マユリはそんな状況をまるで意に介していないかのように、淡々とさやかに語りかける――

マユリ「そう、あの小僧がキミに惚れたのは私の助力のおかげということだネ
    考えてみれば当然のことだろう――?」

さやか「恭介……恭介はあたしのこと……あはは……!」ブルブル

ーーーー
『でも、僕だって……!さやかに何かあったら嫌なんだ…!』
ーーーー

マユリ「そうでもなければ、キミが魔法少女として生きることになったとわかった時点でキミから離れるに決まっているじゃないか
    誰が好き好んで人外の小娘と添い遂げようなんて思うかネ――?」

さやか「人…外……そう、だよね……あはは……
    魔法少女なんてわけわかんない生き物になっちゃった女の子となんて、まともな人ならそのまま付き合っていこうなんて思わないよね……!」ゾゾゾゾゾ…!

ーーーー
『どんなことがあっても、僕は君の味方でいるよ、さやかっ!!』
ーーーー

697: 2011/09/22(木) 01:21:35.97 ID:WrhrV5tUO
マミ「美樹さん聞いちゃダメっ!!お願いネムさん、やめさせてっ――!!」モゾモゾ…!

杏子「ちっくしょうっ!!邪魔すんなどけっ!!あのおっさんを早く黙らせねぇと――!!」

ネム「『撃』――『廃炎』――『鎖条鎖縛』――!」

ほむら「ダメよさやかっ!!耳を塞いでっ!!」

まどか「さやかちゃんっ――!!」

義魂「……っ!」ギュゥゥ…!

マユリ「キミと居ればいつまた魔女との戦いに巻き込まれるかもわからない。せっかく腕が完治したのに、さらに酷い怪我をする恐れもあるだろうに、ネ
    大体、魔女のような人外の化け物相手に戦えるヤツなど、力を持たない一般人の目には同様に化け物と映って然るべきだろう――?」

さやか「――そっか。……あたしの味方でいてくれるって言ってくれたのも、一緒に戦場に残るって言ってくれたのも全部……」ガタガタ…

ゴゴゴゴゴ……!!

698: 2011/09/22(木) 01:22:07.75 ID:vLfxef5P0
さやか「あたしのこと、好きだって言ってくれたのも……全部うその気持ちだったんだ」ブルブル…

ゴゴゴゴゴ……!!

杏子「さやかっ!!」 マミ「美樹さんっ!!」 ほむら「やめなさい涅マユリっ……やめてっ……!!」 まどか「やめてぇっ――!!」

さやか「はは……仁美に悪いことしちゃったな、あたし……恭介は多分、仁美の告白を受け入れてくれてたはずだったのにね……
    あははっ…何だろう…何であたし、魔法少女になったんだっけ……?ああ…なんていうかさぁ……」ドドドドド…!

マユリ「――それとも何かネ?人の形をした生ける屍風情が、まさか本気で人から愛してもらえるなどとでも思っていたのかネ?」カクッ

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!


さやか「――あたしって、ほんとバカ」

701: 2011/09/22(木) 01:23:42.96 ID:WrhrV5tUO
次の瞬間、すさまじいエネルギーの奔流がさやかを包み込んだ――!

杏子「うわっ――!」 まどか「きゃあっ――!」 マミ「こ、これはっ――!?」 ほむら「くぅっ――!」

ネム「――!」 義魂「うぁっ――!」 マユリ「ホゥ――」ニヤリ

みるみる内に、公園一帯を魔女の結界が覆っていく――!


劇場のような空間
指揮者と楽団が荘厳かつ激しい演奏を披露する

舞台中央の床が開くと、そこから巨大な鋼鉄の化身がせり上がって来た――

魔女空間in自然公園

《人魚の魔女》オクタヴィアがその姿を現す――!

杏子「――さやかぁぁっ!!」

まどか「嘘よ……嘘よね、ねぇ?」ペタリ…

マミ「こんな……こんなことって……!」ガクガク

マユリ「――素晴らしい!」

703: 2011/09/22(木) 01:24:11.48 ID:vLfxef5P0
ショックを受ける少女たちをよそに、感嘆の声をあげるマユリ

マユリ「ソウルジェムの濁りが限界に到達した瞬間から、ものの数秒で霊圧波形から霊力構成までもが魔女のそれへと変容しているネ!
    しかも霊圧の振れ幅が魔法少女の時とは段違いだ!実に興味深い現象だヨ!!」

杏子「テメェは――何様のつもりだっ!?」バッ―

怒りを露わに杏子がマユリへ飛び掛かろうとしたその時――!


「やれやれ、少し落ち着きなよ杏子――」


杏子「――っ!!」ハッ

マミ・まどか「キュゥべえ!?」 ほむら「あいつ――!」

突如出現したキュゥべえの呼びかける声に、思わず杏子たちは気をとられた

その一瞬の隙を突いて、マユリが瞬歩で杏子に迫る

杏子「!しまっ――」

ズバァァァッ!!

いつの間にやら解放していた疋殺地蔵で杏子を斬り捨てるマユリ

707: 2011/09/22(木) 01:25:28.51 ID:WrhrV5tUO
杏子「痛っ――!!」バタッ

まどか「杏子ちゃんっ!」 マミ「佐倉さんっ!」 ほむら「杏子っ!」

マユリ「全く、いちいちうるさいヤツらだネ――」ブンッ

QB『あーあ、だから言わんこっちゃない
  「隊長格は名前を呼ばずに斬魄刀を解放できるらしいから、まだ始解してないからって迂闊に近付くのは危険だよ」って忠告しようとしたのに』キュップイ

悪びれる様子もなくそう呟くキュゥべえ

まどか「キュゥべえっ……どうしてあなたがここにっ……!!」

ほむら「――そういうこと」ボソッ…

まどか「え…?」

腕を後ろ手に拘束されたままの状態で、ほむらはキッとマユリたちを睨みつけた

ほむら「やはり、これが目的だったのね、涅マユリ。そして――インキュベーター!」

QB『ご明察だよ暁美ほむら。キミが涅マユリと手を組んだように、ボクも彼と手を組んでいたんだ』

710: 2011/09/22(木) 01:26:08.67 ID:vLfxef5P0
マミ「手を組んで――どういうことよ?
   ねぇ、ネムさん!これはどういうことなの?早くこの術を解いて!美樹さんを助けないと――!!」モゾモゾ…!

必氏に身体を動かし、六杖光牢を解こうとするマミ
しかしネムはマミに向かって掌を向けると――

ネム「――雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ」

ギュイィィィーーーン!!

マミ「うっ――!!」

マミを拘束する光牢の締め付けがより強くなった!

マユリ「今のは後述詠唱と言ってネ。詠唱破棄した鬼道に後から詠唱を加えることで、術の効果を高める技術だ――」

まどか「マミさんっ……!」

ほむら「まどか!早くここから逃げるわよ――!」キッ―

まどか「えっ――?」ハッ

腕を封じられながらも、ほむらはまどかの傍に駆け寄りそう呼びかけた

ほむら「ヤツらの狙いはあなたを魔法少女にすること――
    そのためにあなたたちをわざと呼び寄せ、さやかを絶望させ魔女にした――あなたが彼女を救うために契約するだろうと踏んでね……!」クッ…!

まどか「……!!そんなっ……それじゃあミモザさんは――!?」バッ!

まどかが振り返ると、義魂丸は唇を噛み締めて目をそむける

711: 2011/09/22(木) 01:27:08.69 ID:WrhrV5tUO
ーーーー
義魂『――それは……!いくらなんでもひどすぎます、涅隊長……!』

マユリ『何がひどいものかネ。時間停止を失った暁美ほむらなど、もはや研究材料として最良の個体とは言えんヨ
    それに元々、魔女に比べて魔法少女の研究材料は圧倒的に不足しているしネ。最大の魔女を倒してやったんだ、他のヤツらも一緒に捕獲したって文句はあるまい?』

義魂『いえ…ですが私にはそんなことっ……!』

ゴスッ!

義魂『うぐぅっ……!』ゲホッゲホッ

マユリ『――口ごたえをするんじゃないヨたかが義魂丸の分際で
    わかったらお前は他の連中をうまくおびき出すんだヨ。幸いお前は鹿目まどかから信頼されているようだしネ――!』

義魂『……わかり…ました…』


義魂『――ごめんなさい……!』
ーーーー

712: 2011/09/22(木) 01:27:31.46 ID:vLfxef5P0
ーーーー
さやか『――ほむらが!?』

義魂『はい…暁美ほむらさんは最初から犠牲になるおつもりだったんです……!』

杏子『あんのバカっ……!』

マミ『でも、そんなこと私たちに話してしまって大丈夫なの?もしマユリさんにバレたらあなたが――』

義魂『大丈夫、だと思います。この念話装置による通信は話し手にしか聞こえないですし、この後通信記録も消去しますので、すぐに涅隊長に発覚することはないかと……!』

まどか『ほむらちゃん……どうして……!!』

義魂『このままでは暁美さんは皆さんに何も言い残さないまま、尸魂界へ行ってしまいます
   その前に、皆さんで涅隊長を説得し、暁美さんを連れて行くのを思いとどまらせて頂けないでしょうか……!』

まどか『――わかりました。ほむらちゃんたちの出発する場所を教えてください、ミモザさん――!』
ーーーー

713: 2011/09/22(木) 01:28:19.39 ID:vLfxef5P0
まどか「そうなのミモザさん……?私たちを騙すために、ほむらちゃんのことを教えてくれたのっ……!?」ヒッシ

嘘だと言ってほしい――縋るように義魂丸へ問いかけるまどか

義魂丸「……申し訳、ありませんっ……!」フルフル

まどか「…!ひどいよ…そんなのあんまりだよ……!!」ブワッ…

杏子「――ほんの少しでもてめぇのことを信用しちまってたのは、やっぱ間違いだったみてぇだな……変態オヤジっ!!」クワッ

マミ「ネムさんにまでこんなことをさせてっ……あなたって人はっ……!!」

マユリ「『こんなことをさせて』?妙な口ぶりだネ、それじゃまるでネムが嫌々私の命令に従っているみたいじゃないか――」カクッ

マミ「何をぬけぬけとっ……!!だってネムさんは私たちの大事なお友達――」

マユリ「後述詠唱を知ってたかネ?」

マミ「――え?」

715: 2011/09/22(木) 01:29:49.90 ID:WrhrV5tUO
マユリ「番号まで口にせずとも、術の名称だけでも鬼道が発動できることは?」

マユリ「卍解についてはどうだネ?二重詠唱は?
    隊長格の死神が斬魄刀の名を呼ばずとも始解できることを、そいつから聞かされていたのかネ?ん?」

マミ「そ、それは……っ!」ウッ…

ネム「…………」メヲソラス

マユリ「キミが“トモダチ”とやらから教えてもらった尸魂界や死神の情報など、知ったところで意味もない表面的なものばかりだ
    我々の戦力や能力に関する事項については一言も明かされてはいないハズだヨ――」

マミ「……っ!」サァー…

マユリ「おかしな話じゃないかネ?秘密主義を貫いてきた暁美ほむらでさえ、決戦の前にはキミたちに自身の真実を語ったというのに
    キミの大事な“トモダチ”であるというネムは、キミに手の内の半分も打ち明けてはいないじゃないか――」ニヤリ

QB『やれやれ、マミは昔から寂しがり屋だからね。少し優しくされるとすぐに相手を信じ込んでしまう――友達だと思い込んでしまうんだよね』

マミ「そんな…じゃあ最初からネムさんは……私のことなんて……?」フルフル

ゴゴゴゴゴ……!

719: 2011/09/22(木) 01:30:26.96 ID:vLfxef5P0
杏子「ばっ…バカ野郎マミ!そいつらの言うことなんか――!」イツッ…!

ほむら「まどか!今は早くここから――!」

まどか「――ほむらちゃんの、真実?」

ほむら「っ!」ハッ

まどか「ねぇほむらちゃん……真実って――」

ゴォオオオォォォォーーー!!!

一同「――っ!?」

その時、すさまじい重圧が結界内を覆った
《人魚の魔女》オクタヴィアがマントを翻し、空中に大量の車輪のようなものを出現させたのだ!

まどか「っ!さやかちゃん――!」

ほむら「いけない……!早く逃げて――!」

ネム「――縛道の七十三『倒山晶』!」

次の瞬間、まどかたちに降り注いできた車輪が光の壁によって弾かれた
逆四角錐の防壁で周囲を覆う防御鬼道『倒山晶』を発動したのだ

722: 2011/09/22(木) 01:31:36.15 ID:WrhrV5tUO
ネム「ハァ…ハァ…」

マユリ「限定解除していない状態とはいえ、鬼道を乱発しすぎたぐらいで息が上がるとは、使えんヤツだネ――」

だが――

マミ「――っ!?きゃぁぁぁっ!!」

杏子「うぉっ――くっ、うぅぅ……!!」

まどか「あっ――!」 ほむら「っ!!」

防壁に守られたのはまどか・ほむら・ネム・義魂丸・マユリの五人だけで、疋殺地蔵に斬られた杏子と六杖光牢に締め付けられたマミは、身動きがとれないまま車輪の雨に曝される――!

まどか「マミさん、杏子ちゃんっ!――やめて!もうやめて!さやかちゃん!」

QB『無駄だよまどか。美樹さやかは魔女になってしまった、もうキミの声は届かないさ』

マユリ「ほらほら、いいのかネ?このままでは巴マミと佐倉杏子は二人とも魔女の餌食だヨ
    早く契約して、美樹さやかを元の姿に戻してやらないと――」

723: 2011/09/22(木) 01:32:14.46 ID:vLfxef5P0
まどか「――どうしてなのキュゥべえ?だってあなたはもう、私を勧誘しても無駄だって――!」

QB『やれやれ、ボクが何故そう言ったのか覚えてるかい?
  「涅マユリの人工シードのせいで、キミが魔女化する可能性は著しく低い」――こう言ったろう?』

まどか「……!!」

QB『それはつまり、彼がキミたちへの人口シードの提供を拒めば、その限りではないということだよ――さぁ、わかったらボクと契約を――』

ほむら「そんなこと、させない――!!」ダッ

マユリに向かって駆けだすほむら

マユリ「――ホゥ?」

ネム「マユリ様――!」ハァ…ハァ…

ほむら(――腕は封じられても、魔力で強化した脚はまだ使える!)

一気に距離を詰めると、その勢いを乗せたままマユリに強烈な蹴りを放つ――!

義魂「――止まってください、暁美ほむらさん!」

ほむら「――っ!?まどかっ!!」

まどか「わっ!……ミ、ミモザさん……!?」

見ると、義魂丸のネムがまどかの背後を取り、手首を掴んでほむらを牽制していた

724: 2011/09/22(木) 01:32:39.77 ID:vLfxef5P0
むら「――まどかを離しなさい。その娘を傷つけるのはあなたたちの本意じゃないはずよ」キッ…

マユリ「なに、何なら直接身体を痛めつけてやった方が、いっそ契約に踏ん切りがつくかもしれんだろう?」カクッ

QB『おいおい加減を誤って頃したりしないでくれよ?ボクは鹿目まどかを契約に追い込むのに手を貸すという条件であなたと手を組んだんだ
  もし彼女が氏にでもしたら――』

マユリ「フン、改造魂魄でもないただの義魂丸には人並みの戦闘力しかないヨ
    うっかり首でも締めない限り、頃す心配は無用だ――」

ほむら「くっ……!」ギリッ…

まどか「お願い、ミモザさん。やめて……こんなのってないよ……!」ウゥ…

義魂丸「……ごめんなさい、鹿目さん…!」ギュウッ…

まどか「どうして…?だって、ワルプルギスとみんなが戦ってる時に、私がみんなの所へ行こうとしたのを、ミモザさんは止めてくれたでしょうっ……?」

マユリ「当たり前だヨ。契約もしない状態のまま決戦の最中に出てこられたら、金色疋殺地蔵の毒で二分と保たずにキミは氏んでたからネ
    まったく、インキュベーターが余計な真似をしたせいで危うく私の策が水の泡になるところだったヨ――」

729: 2011/09/22(木) 01:34:38.40 ID:WrhrV5tUO
QB『仕方ないだろう?マミじゃないけど、ボクだってあなたが卍解なんていう奥の手を隠し持っているなんて知らなかったんだ
  面倒な手順なんて踏まずにさっさとまどかを魔法少女にしてワルプルギスの夜を倒してもらった方が効率的だと思ったんだよ――』

マユリ「馬鹿を言うんじゃないヨこの屑が。鹿目まどかに眠る才能については十分耳にしていたからネ
    万一ワルプルギスを跡形もなく消し飛ばされでもしたら、せっかくの研究材料が手に入らないじゃないか――」フン

ほむら「…っ!ちょっと待って……!
    お前たちが手を組んでいたと言うことは、さやかが契約した時にインキュベーターの動きを捕捉できなかったというのも――!」ハッ

マユリ「何だ、今頃気が付いたのかネ?」カクッ

マユリ「美樹さやかが訪れていたコンサートホールに『偶然』孵化しかけのグリーフシードが存在し
    キミたちが『偶然』そこから遠く離れた場所に居た頃に、『偶然』そのシードが孵化する――」

マユリ「いくらなんでも偶然の一致で済ますのには重なり過ぎだとは思わないかネ?」ニヤリ

まどか「そ、それって……!」 ほむら「でも、そんなことが――!」

マユリ「キミたちが人口シードに溜め込んだ穢れを、使い魔に注入して強制的に魔女化させることができるんだ
    グリーフシードに注入して孵化を促すことだってできるとは思い至らないかネ?」

ほむら「っ!!」

マユリ「ま、ちょうどいいタイミングで孵化するように穢れの量を調整するのは骨が折れたがネ」ヤレヤレ

730: 2011/09/22(木) 01:36:00.05 ID:vLfxef5P0
まどか「でもっ…どうしてさやかちゃんと上条君がコンサートホールに行くってことを知って……?」

ほむら「――監視用細菌。こいつは杏子のことを四六時中監視できたのよ、まどか――」

まどか「えっ!?」

ほむら「そして私たちはコンサートの前日、杏子の前でその話をしている……っ!待って、それじゃまさか――!」ハッ

マユリ「ンッフッフ……」ニヤリ

ほむら「――!さやか聞いてっ!こいつは嘘を吐いてる……上条恭介は薬なんか盛られてないわ――!」

まどか「ほむらちゃん!?それってどういう――」

ほむら「インキュベーターは嘘を吐かない。ヤツらが手を組んだのはさやかがデートに行く前日のはずよ
    なら、上条恭介の腕を治した時点では、まださやかを魔女化させようという目論見はなかったはず――!」

まどか「あっ――!」ハッ

QB『おっと、これはボクが失言をしてしまったのかな?』

マユリ「――その通りだヨ暁美ほむら。あの時点ではまだ、キミに恩を売っておこうという程度の考えしか持っていなかった
    そもそも、魔女の口付けに侵された状態の人間を捕獲できなかったしネ。さすがの私でもサンプルもなしにそんな薬は作れんヨ――」

まどか「そんな…!それじゃ、さやかちゃんはっ……!」

QB『おーいまどか、そろそろ決断してくれないかな?』キュップイ

733: 2011/09/22(木) 01:37:42.18 ID:WrhrV5tUO
ガンガンガンガンッ!!

《人魚の魔女》が放つ車輪はひっきりなしに防壁に当たり、荒い音を立てている

マミは立ったまま、杏子は倒れたままの状態で、魔女の猛攻に曝され続けていた

マユリ「このままじゃ、あの二人まで魔女になってしまいかねんヨ――?」カクッ

まどか「……っ!」ギュッ…!

ほむら「まどかっ――」(せめて両腕が使えれば――まどかだけでも逃がす時間が稼げるかもしれないのに!)

QB『ソウルジェムが砕けない限り氏にはしないけど、ああして肉体にダメージを受け続けると、その傷を癒したり痛みを軽減するのにかかる魔力がどんどん嵩んでいくからね
  特にマミなんかは涅ネムに裏切られたのがよほどショックだったのか、濁っていくスピードが心なしか早くなっているようだし――』

まどか「――ねぇ。ネムさんは本当に、マミさんのこと利用しようと思ってただけなの?」

ネム「…………」ハァ…ハァ…

無言のまま防壁を維持し続けるネム
こめかみを伝う汗は、疲労のためだろうか

まどか「ねぇ、ミモザさん?私を励ましてくれてたのも、全部罠にかけるため……?」

義魂「……申し訳、ありません……!」フルフル

まどかの腕を掴んだまま、顔をそむける義魂丸
その肩が震えているのは、魔女の攻撃の振動故か

まどか「――私、どうしたらいいんだろ」ボソッ…

734: 2011/09/22(木) 01:38:14.32 ID:vLfxef5P0
マユリ「フム――」ツカツカ

と、そこでマユリがおもむろにほむらの方へと近寄っていった

ほむら「っ!」バッ

注意深く身構えるほむら
しかしマユリは懐からリモコンのようなものを取り出したかと思うと、素早く何かのボタンを押した

ピッ カチャッ

ほむらの腕を拘束していた装置が外れる

ほむら「なっ!?」シロクロ QB『涅マユリ、何を――』

マユリ「――さて。これでキミには再びチャンスが与えられたわけだ、暁美ほむら
    時間を戻して、また最初からやり直すチャンスがネ――」ニヤリ

ほむら「――っ!!」ハッ

まどか「時間を……戻す?」キョトン

ほむら「待ってまどか――!」

QB『――そういえば、キミはまだ彼女から真実を聞かされてないんだったね、まどか
  暁美ほむらの魔法は時間停止なんかじゃない、時間の遡行なんだよ――』

ほむら「黙りなさいっ!!」ダッ―

735: 2011/09/22(木) 01:38:43.74 ID:vLfxef5P0
全速でキュゥべえを蹴りつけるほむらだったが、キュゥべえはちょこまかとそれをかわし、言葉を続ける――

QB『彼女はねぇ、まどか――キミを救うために魔法少女になったんだってさ』ヒョイッ ヒョイッ

ほむら「黙れっ――!!」ダッ―

まどか「救う……」

QB『彼女が元いた時間軸で、キミは魔法少女としてワルプルギスと戦い、命を落としたらしい
  そこで彼女はボクと契約して、「ワルプルギスの夜との決戦より1ヶ月前に時間を戻す能力」を手に入れたんだ――』ヒョイヒョイ!

まどか「私が……!」

ほむら「どうしてっ!?まどかとのことはさやかたちにしか話して――!」ヒッシ

ほむら(――!!まさかあいつ、まだ杏子の監視を解いてなかったの――!?)ハッ

QB『以降、彼女はずっと戦い続けているんだ。キミを魔法少女――魔女にさせず、かつワルプルギスの夜を倒せる状況を模索しながらね』ヒョイ―

マユリ「いやはや、なんとも自己犠牲に溢れた話じゃないかネ?
    この小娘はキミというひとりの人間の為だけに、何度も何度も同じ時間を繰り返し生きてきたのだヨ――」ニヤニヤ

737: 2011/09/22(木) 01:39:49.85 ID:WrhrV5tUO
まどか「……今の話は本当なの?ほむらちゃん」

ほむら「まどか……!」(どうしよう……よりによって最悪の形でまどかに真実を知られてしまった……!!)ギリッ…!

まどか「そうだよね…キュゥべえは隠し事はしても、嘘は吐かないんだもんね……
    そっか……『同盟の条件が、私に契約させないこと』……そういうことだったんだね」フルフル

ほむら「待ってまどか……!勘違いしないで!
    これは私が勝手な自己満足でやってること……今のあなたが気に病む必要はまるでないわ!」ヒッシ

QB『そうそう、彼女の言う通りだよ。それに、彼女の願いと行動の結果として、今のキミにそれほどの素質が芽生えることになったんだしね、鹿目まどか――』キュップイ

まどか・ほむら「――え?」

QB『かねがね疑問ではあったんだ――「何故、鹿目まどかが、魔法少女として、これほど破格の素質を備えているのか」
  ――その答えがキミだ、暁美ほむら。いや、正しくは君の魔法の副作用――と言うべきかな』

ほむら「な…なにを……!?」

738: 2011/09/22(木) 01:40:21.13 ID:vLfxef5P0
QB『魔法少女としての潜在力はね、背負い込んだ因果の量で決まってくる
  君が繰り返してきた時間――その中で循環した因果の全てが、巡り巡って、鹿目まどかに繋がってしまったんだよ』

ほむら「うそ……何を言って……それじゃあまどかは私のせいでっ……!?」ガタガタ…

ゴゴゴゴゴ…!

マユリ「――フン、皮肉なものだネ
    鹿目まどかを救おうと努力を繰り返す度に、鹿目まどかは魔女と魔法少女を巡る因果の中へと引きずり込まれていったのだヨ――」カクッ

ネム「マユリ様……ハァ…魔女の攻撃が激しさを増しています……!これ以上…ハァ…守りを維持するのは……!」ハァ…ハァ…

マユリ「ホゥ――おい、佐倉杏子と巴マミはどうなっているかネ?」

QB『ふたりともまだ魔女化はしていないようだね――あ、けどそろそろ限界かな?二人とも魔力が尽きかけているよ』

マユリ「フム……聞いたかネ?暁美ほむら。どうやら今回の時間軸でもキミの望む結末には至らないようだ
    ――どうしたネ?早く時間を戻し給えヨ――」

ほむら「だって……私が時間を戻す度に……!まどかは……!!」ブルブル…

QB『――この期に及んで暁美ほむらまで絶望させようというのかい?本当に強欲な男だねキミは――』キュップイ

マユリ「私としてはむしろ魔法を使ってもらった方が好都合なんだがネ
    以前にも言った通り、時間遡行という能力には非常に興味がある。いったいどんな現象が起きるのか――」

740: 2011/09/22(木) 01:41:16.64 ID:WrhrV5tUO
周囲の声が遠くなっていく

眼を固く瞑り、その場に跪くほむら

ほむら(……ここで私が魔女になったら、この時間軸でも間違いなくまどかは助からない……)ドクンッ

ほむら(かといって時間を戻せば……次はさらにまどかの力が…強く……)ドクンッ

ほむら(繰り返せば…それだけまどかの因果が増える。私のやってきたこと、結局……)ドクンッ

不意に、閉じた視界が暗くなった

誰かが前に立っている――


「――もういい。もういいんだよ、ほむらちゃん」

741: 2011/09/22(木) 01:41:41.30 ID:vLfxef5P0
ほむら「まどか……?」ハッ…

見上げるとそこには、優しい微笑みをたたえたまどかが――

まどか「ごめんねほむらちゃん、今までありがとう――」

ほむら「待って…待ってよまどかぁ……そんな……!」ブワァッ…

義魂「鹿目、さん……」

義魂丸が呟いた
本来であれば、勝手にまどかの腕を離したとして激昂してもおかしくはないところだが、マユリは興味深そうに笑いながら黙ってまどかを見ている

まどか「ごめんね、本当にごめん。これまでずっとほむらちゃんが守ってきてくれてたから、今の私があるんだよね――」

ほむら「ダメ…やめてぇ……!」グスンッ

まどか「でもね、ほむらちゃん。やっぱり私だって、ほむらちゃんを守りたいよ
    さやかちゃんも、マミさんも、杏子ちゃんも、私の最高のお友達たちを、助けてあげたい――」

ほむら「まどかぁ……!!」ヒック…エッグ…!

まどか「みんな、もう十分すぎるくらい戦ってきたよ。だからもう、いいの
    これからは、私がみんなを守って戦う――!!」

そう言って、まどかはほむらに背を向けキュゥべえと向き合う

742: 2011/09/22(木) 01:42:39.08 ID:WrhrV5tUO
QB『よくぞ決心してくれたね、まどか
  キミなら史上最強の魔法少女になれる――どんな敵からも、キミの大切な人たちを守り抜くことができるだろう』

QB『さあ、鹿目まどか――その魂を代価にして、君は何を願う?』

まどか「――ここにいるみんなを、元の人間の女の子に戻して
    今負ってる怪我とか痛みとか、そういうのも全部治して、完全に健康な普通の女の子に戻してあげてっ!!」

ほむら「っ!!まどかっ――!!」


QB『契約は成立だ。君の祈りは、エントロピーを凌駕した
  さあ、解き放ってごらん――その新しい力を!』

辺りを光が覆った――

744: 2011/09/22(木) 01:43:01.64 ID:vLfxef5P0
ーーーー
ほむら「――ここはっ!?」ハッ

気が付くと、ほむらたちは元の公園に戻っていた

魔女の結界は消えている

咄嗟に辺りを見回すと、魔女になったはずのさやかが元の姿で倒れていた
すぐ近くには、マミと杏子の姿も

そして彼女たちからは――いやほむら自身からも、魔力の片鱗が感じられなかった

ほむら「人間に……戻ってる……」ボーゼン…


「――素晴らしいッ!!」


興奮した声がほむらを現実に引き戻す

見ると、これまでに見せたこともないほどいきいきとした表情を浮かべたマユリが、ひとりの少女が相対していた―

748: 2011/09/22(木) 01:44:24.55 ID:WrhrV5tUO
ピンク色の髪に、同じくピンクを基調とした衣装

その手には、魔力で構成されたと見える弓が握られている――

ほむら「まどか……っ!?」ペタリ…

マユリ「これほどの霊圧を持つ魔法少女は初めてだッ!!そこに転がっている『元』魔法少女共がゴミのようだヨ――!!」

ネム「これは――!」

義魂「鹿目、さん……!」

ほむら(契約、させてしまった……!)ギュウゥ…!

ほむら(しかも私はもう……魔法少女じゃない)ツー… ポタッ

ほむら(もう時間を、戻せない……)グスンッ

QB『――すごいやまどか、ボクの予想以上だよ!まさかこれほどまでに強大な魔力を発現するとはね――!!』キュップイ!

ほむら(そうだ……かくなる上は、もう一度インキュベーターと契約して――!!)

まどか「大丈夫だよ、ほむらちゃん――」

ほむら「え――?」ハッ

751: 2011/09/22(木) 01:45:06.15 ID:vLfxef5P0
ほむらに背を向けたままの状態で、そう語りかけるまどか

その眼は、マユリをじっと見据えている

まどか「安心して、今度は私がみんなを守るから――」

ほむら「まどか……でも……!」

マミ「ううん……え?ここは――」パチッ

杏子「あっ!……っと、あれ、魔女の結界から出てる……?」ガバッ

さやか「んん~……はっ!?あれ?うそ、あたし、どうして――?」ガバッ

マミ「美樹さん!!」 杏子「さやか!!」 さやか「うへっ!?な、なに……!?」アタフタ

杏子「こいつはいったいどういう――あっ!まどかお前――!?」ハッ

まどか「――みんな、ごめんね。せっかくみんなが私を契約させまいと頑張って、ワルプルギスの夜も倒してくれたのに――」

マミ「……!!
   ――そう、この状況はそういうことなのね……っ!」フルフル

さやか「ちょ、ちょっと待ってよ!話が全く読めないんだけどっ――」

ほむら「……まどかは、私たちを――」 まどか「ごめん、説明は少し待ってもらってもいい?」

ほむら「まどか…?」

まどか「先に、済ませておきたいことがあるから――」キリッ―

752: 2011/09/22(木) 01:45:38.30 ID:vLfxef5P0
マユリ「最高だヨ鹿目まどか!キミほど素晴らしい魔法少女の個体はおそらく今後出現することはないだろうッ――!!
    他の凡百の魔法少女共が霞む位に文句の付けようがない研究材料だヨッ!!」

まどか「――謝ってはくれませんか」

マユリ「ん?」

まどか「みんなを騙して、傷つけて、苦しめたこと。きちんと誠意を込めて、この場でみんなに謝ってください――!」

マユリ「そうすればおとなしく研究に協力してくれるのかネ?そういうことなら――」

まどか「――やっぱり、ダメですよね。あなたは、そういう人だもの――」ボソッ

マユリ「?」

まどか「人の心がわからない、人の痛みがわからない――人のことを、わかろうとすらしていない
    だから、どんなにひどい嘘も裏切りも、自分の目的のためなら躊躇わない――!」フルフル…

マユリ「ホゥ――で?」カクッ

まどか「――ごめん、ネムさん、ミモザさん。私、この人だけはどうしても許せないよ――!」

ネム「……!」 義魂「……くっ!」

マユリ「フム、ならばどうするのかネ――と、訊くまでもなかったネ
    どうせ素直には捕まらないと予想はしていたし、念の為空間凍結をこの公園に発動しておいて正解だったヨ――」ブンッ―

758: 2011/09/22(木) 01:48:21.94 ID:WrhrV5tUO
疋殺地蔵をまどかに向けるマユリ

まどかもまた、マユリに向けて弓を構える

マユリ「ホゥ、弓矢が武器かネ。いやはや、どこぞの下等種を思い出したヨ――」ニヤリ

まどか「――行くよ、涅マユリさん」シュウゥゥゥ…!!

次の瞬間、まどかの手元に矢が生成され弓につがえられた――!

マユリ「――っ!?」バッ―!

咄嗟に飛び退こうと動き始めるマユリ――

――しかしまどかは、既にマユリの避けた地点へと狙いを合わせていた!

マユリ「なっ――!!」

バァアアアァァァーーーンッ!!!

まどかの放った矢の一撃は、轟音と共にマユリを吹き飛ばした

さやか・マミ・杏子・ほむら「――っ!!?」 ネム「マユリ様――!!」 義魂「涅隊長っ――!?」

761: 2011/09/22(木) 01:49:00.30 ID:vLfxef5P0
唖然とする一同
しかし、すぐにネムが反応しまどかを捕えようと動いた――!

ネム「――申し訳ありません、鹿目まどかさん……!!
   縛道の七十九『九曜縛』――!!」シュルルルル…!

まどかの周囲に黒い数珠状の霊子が集まり、細く連なってその身体を縛り上げようとする!

しかし――

まどか「――無茶しないで、ネムさん」サッ…

ネム「…っ!?」ゾッ…!

――気が付くと、まどかはネムの背後に立ち、その背に矢を突き付けていた

まどか「魔女の結界の中で、ずっと私たちを守るための技を使ってたから、すごく疲れてるんでしょう?」

ネム「……っ!!」ジワッ…!

冷や汗をたらし、無言で両手を上げるネム
まどかの圧倒的な強さに言葉を失い、ほむらたちも息を飲んでそれを見守っている

杏子「すげぇ……動きがまったく見えなかった……!」

さやか「まどかっ……!?」

マミ「これが、鹿目さんの魔法少女としての力……本当に規格外ね……!」

ほむら「……っ!待ってまどか!まだよっ――!!」ハッ

762: 2011/09/22(木) 01:50:28.70 ID:WrhrV5tUO
土煙の向こうに、ふらりと立ち上がる人影が――


マユリ「――図に乗るなヨ小娘ェェェッ!!!」


一同「!!?」

まどか「……すごいですね。手加減はしたけど、そんなになってもまだ立ち上がれるなんて――」

見るとマユリは左肩を吹き飛ばされ、左の脇腹から腰にかけても大きく抉り取られていた
荒く息を吐きながら、激昂した様子で口を開く

マユリ「ハァ…ハァ…魔法少女風情が…ハァ…ふざけてくれるッ……!
    ――いいだろうッ!!ならばこちらも相応の力で相手してやろうじゃないかッ……!!」ギ口リッ!

フハハハハハハッッ!!!

ふらつきながらも狂ったように高笑いをあげるマユリ
ほむらたちは怯えたように、ネムと義魂丸は焦燥した様子でマユリを見つめている

キュゥべえは興味深そうに、まどかは毅然とした表情のまま、マユリの次の動きに注目する――

マユリ「―― 卍 解 」

763: 2011/09/22(木) 01:50:52.99 ID:vLfxef5P0
ゾォオオォォォォーーー……!!

まどか「……!!」

さすがに驚きを隠せないのか、目を見開いて出現した『ソレ』を見上げるまどか
『ソレ』を見るのが二度目のほむらたちも、背筋に走る怖気は抑えられない

「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」

マユリ「――『金色疋殺地蔵』……ッ!!」ハァ…ハァ…!

QB『へぇ、これはすごいね。もはや刀剣としての常識を遥かに超えた――えっ!?』

感心した様子で金色の巨体を見上げていたキュゥべえの目の前に、赤子の巨大な掌が迫る――

QB『ちょっ、待っ、ボクがここに――』ブチィッ!

キュゥべえごと地面に手をついて、体勢を整える金色疋殺地蔵

その口元からは、毒々しい紫色の煙が濃霧のように漏れ出している――

マユリ「――これで、キミの命運は尽きたヨ?」ニヤリ

765: 2011/09/22(木) 01:51:24.17 ID:vLfxef5P0
杏子「…っ!やべぇ、早くこっから逃げねぇと――!!」バッ

さやか「ひいぃっ……!!」ガクガクブルブル

マミ「鹿目さんっ!あなたも早く――!」

ほむら「逃げてまどかっ!そいつは猛毒を――」

まどか「みんな、私の後ろにいて――」

マミ・杏子・さやか・ほむら「えっ……?」

まどか「言ったでしょ?みんな、私が守るって――」ニコッ!

次の瞬間、まどかの全身から桃色の淡い光が溢れ出し、ベールのようにほむらたちを包み込んだ!

ネム「なっ……!?」 義魂「あの光は……毒霧を弾いている!?」

さやか「なに…?この光……まどか?」

ほむら「まどかが私たちを、守ってくれてる――」

マユリ「ホゥッ!!そんなこともできるのかネッ?さすがは史上最強の魔法少女というだけのことはあるッ……!!」ハァ…ハァ…!

QB『きゅっぷい…まどかは『仲間を守りたい』という守護の願いを魔法に変えたからね
  それにしてもひどいじゃないか、ボクまで巻き添えにキュブゴホォッ!!?』ゲホッ…バァンッ!

まどか「……!?」

767: 2011/09/22(木) 01:52:06.76 ID:vLfxef5P0
マユリ「生憎、毒の配合など一回ごとに変えるのは私にとって常識でネ
    今回の致氏毒は感染者自身を毒の塊に変えて爆散させる――原形を留めて氏ねるなどと思わないことだヨ?」ハァ…ハァ…

QB『きゅっぷい…けど涅マユリ、魔法少女は毒では氏ななキュブグヘェッ!!?』バァンッ!

マユリ「知ってるヨ――だが、そこにいる元魔法少女の屑共は今、鹿目まどかの力で守られている
    鹿目まどかが魔力を維持できなくなれば、そいつらはひとたまりもないだろうネッ――!!」ハァ…ハァ…クフフ…!

QB『きゅっぷい…ちょっ…待ってくれ…!ここに張られた結界がまだ機能してるせいで、ボクまでここから外に出られキュブグガハァッ!!?』バァンッ!

ネム「ですがマユリ様……!鹿目まどかは五体満足のまま捕獲した方が……!」

マユリ「身体などただの肉塊にしてしまっても構わんッ!!
    ソウルジェムさえ無事なら、後でいくらでも復元できるヨッ――!!」

まどか「――みんなは、私が守る
    私の友達は、誰も氏なせない。それに――私も氏なない!」キリッ

マユリ「ヒャッハッ!!それは結構ッ!!ならばこれで終わりだァッ!!
    ――行けェェ!!金色――疋殺地蔵ッ!!!」

「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」ズバズバズバズバァッ!!

768: 2011/09/22(木) 01:53:19.68 ID:WrhrV5tUO
よだれかけが外れ、毒液でぬらぬらとてかった大量の刃が化け物の首から飛び出した

そして狙いをまどかに定めると、大きく口を開けて頭からまどかたちに突っ込む――!!

さやか「うわぁっ!!」 マミ「きゃあっ!!」 杏子「うおっ!!」 ほむら「ひっ…まどかぁぁぁっ!!」


まどか「――これで、お終い」


まどかの手から、一本の矢が放たれた

ワルプルギスの攻撃を正面から受け止めた時と同じように、化け物から見ればあまりに小さ過ぎるその一撃を、自らの額で受け止めようとし――


――金色疋殺地蔵は、たった一本のその矢によって真っ二つに裂けたのだった

775: 2011/09/22(木) 01:55:29.80 ID:vLfxef5P0
ーーーー
ほむら「あ…あぁ……!」ポカーン

自分の見ている光景が信じられなくて一様に呆然とする少女たち

マユリ「がぁ…ハァッ……!クッ……!!」フラ…フラ…

涅マユリの腹部には、ぽっかりと大きな穴が空いていた

ネム「マユリ様……!!」 義魂「く、涅隊長……!?」

まどか「――これでもう、十分でしょう?だから、約束して
    もう二度と、私の大切な人たちを傷つけないって――」キリッ

マユリ「クッ…ぐぅぅ……!この……魔法少女めがァァァッ!!」ブンッ―

今にも氏にそうな状態でありながらなお、マユリは折れた刀を振り上げると――

――そのまま自らの喉を貫いた

マユリ「ゲホォッ!!」

まどか「わっ!?」

杏子「なっ…!?」

ブシャァァッ!!

次の瞬間、涅マユリの身体が液体となって飛び散った

776: 2011/09/22(木) 01:56:07.09 ID:vLfxef5P0
さやか「ひぇっ…!?」

マミ「な、なんなの……!?」

ほむら(斬りつけたものを液体に変える力……っ!?)

マユリ『やれやれ……全く無駄な時間を過ごしたヨ』

まどか「……逃げるんですか」

マユリ『フン、いい気になるんじゃないヨ……これでキミが隊長格をも圧倒する力を持つ危険因子だということが判明した
    ……どの道、護廷十三隊はキミを放ってはおかないだろうネ』

ほむら「なっ……まどかが死神側から敵として見做されるということ!?」

杏子「ちょっ…そんなのおかしいだろ!?だって元はと言えばてめぇが――!!」

マユリ『諦めることだネ……キミはインキュベーターの目論見通り魔法少女になった…ヤツらがこの星での勧誘を終えれば、もう魔女は増えない……
    私の人口シードもない以上、最終的にキミを待つものは魔女化、そしてすべての破滅だヨ……!!』

マユリ『キミの大切なモノたちとやらを――キミ自身の手で破壊し尽くすがいいッ……!!』

そう言い捨てて、液体となったマユリは公園から完全に姿を消したのだった

ほむら「まどか……そんな……まどかが……あぁ……!!」フラリ…

まどか「!!ほむらちゃん――!」

緊張の糸が解けたのか、はたまた精神が限界に至ったのか、そこでほむらの意識は途絶えた――

780: 2011/09/22(木) 01:56:42.37 ID:vLfxef5P0
ーーーー
見滝原市・病院
白いベッドの上で、ほむらは目を覚ました

ほむら「――また、やり直し……っ!?」ガバッ!

小机の上に置いてあるデジタル時計
今日の日付は、意識を失った日の3日後となっていた――

朦朧としていた意識が一気に覚醒する

ほむら「違う……私はもう、魔法少女じゃない……!!」ガクガク

ほむら「どうしよう……!結局まどかは魔法少女になってしまった……!
    しかも、私のせいでっ……私があの死神を信用したせいで、まどかはっ……!!」ブワァッ…

ほむら「ごめんっ……ごめんねまどかっ……!!」ウッ、ウッ…!

コン、コン

病室のドアをノックする音

ほむら「……まどか?」グスン…

782: 2011/09/22(木) 01:57:17.12 ID:vLfxef5P0
ほむら(それとも他のみんなかしら……でも、どちらにせよ、今はみんなに合わせる顔がないわ……)

コン、コン

ほむら(……もう少し、ひとりでいたい)

コンコンコン!

男の声1「――しましょ――まだ―意識―――出直しま――」

ほむら(……?知らない声ね……医者かしら?)

男の声2「いや――ですし―――早いとこお話を――」

ほむら(もう一人いるのね……どうしよう、やっぱり返事した方がいいのかしら……?)

コン、コン、コン!

ほむら「……どうぞ」

男1「あ、はいっ!失礼しますっ――」ガラガラガラガラ…

ほむら「…っ!?」ガタッ

784: 2011/09/22(木) 01:58:08.24 ID:vLfxef5P0
思わず身構えるほむら

入ってきたのは、背の低い青年だった――おどおどとした表情で、窺うようにほむらの方を見ている
白衣を着ていたが、しかし医者や看護師の類では断じてありえなかった
何故なら彼は、白衣の下に氏覇装を着ていたのだから――

ほむら「し、しにがみ――!!」キッ!

男1「ひぃぃ!ご、ごめんなさいっ!」バッ

ほむら「……え?」キョトン

男1「あ、あ、あのっ……暁美ほむらさん、ですよね?えーっと、その……元・魔法少女の?」オドオド

ほむら(なに?こいつ、本当に死神…?)「――まず自分から素性を明かすべきじゃないかしら?」ファサァ

男1「あ、はいっ!すみませんでしたっ!
   僕はえーと、技術開発局霊波計測研究所所属の、壷府リンと言います……」オズオズ

ほむら「技術開発……!やはり涅マユリの手の者ね……!!」ギロッ!

リン「ひえぇ…そ、そんなに睨まないでくださいぃ……!」ガクブル

ほむら(調子狂うわね…それとも油断させようとして?)「――で?要件はなに?」ツン

リン「あ、はい…えーと……!」アタフタ

785: 2011/09/22(木) 01:58:38.67 ID:vLfxef5P0
リン「……えー、この度の魔法少女に関する一連の案件につきまして……!
   尸魂界の協力者として活動してくださいました暁美ほむらさんに対しての、えと、事後処理についての説明に、ま、参りましたっ……!」

ほむら「……ねぇ」

リン「は、はいっ!?」ビクゥッ!

ほむら「あなたの他に誰か来てないのかしら?さっき外でもう一人声がしてたけれど――」(こいつが相手じゃ埒が明かないわ……)

リン「えっ!?あ、はい…来ていただいていることはいるんですが……その……
   ……一応尸魂界に関する案件ですので、まずは僕の方から説明した方が……」オドオド

ほむら「……そう、だったらさっさと――」イライライライラ…

男2「まぁまぁ壷府サン、そちらサンもそう言ってくれてることですし、ここはアタシが……」

そう言って入って来たのは、しかし死神ではなさそうだった

緑と白の縞柄帽子を目深に被り、全身も緑を基調とした和風の出で立ちで固めている
足元は下駄、そして右手にはシンプルながら洒落たデザインの杖を携えている

ほむら「……あなたは?」ウサンクサゲ

男2「アッハッハ、こりゃ失礼しましたぁ!アタシの名前は浦原喜助、しがない駄菓子屋の店主ッス」

ほむら「駄菓子屋……?」

788: 2011/09/22(木) 01:59:18.60 ID:vLfxef5P0
リン「あ、えーとその、なんでも浦原さんは昔尸魂界で――」浦原「なぁに、ちょいとばかし死神サンたちと縁のある者ッスよ~」

ほむら「――死神ではないの?」

浦原「ええ、とりあえず今は――ね」フッ…

ほむら(得体の知れない男だわ――)「どうやらあなたの方が口が回りそうね。あなたから説明してもらえるかしら?」

リン「あ……はい、あの、それじゃ……!」

浦原「了解いたしました~。そんじゃアタシの方から、まずは暁美サンが意識を失ってから後の、尸魂界の決定事項についてお話しいたしましょうか――」

ほむら「……!」(まどかは、どう判断されたの――!?)

浦原「――結論から言いましょう。魔法少女に関しては、今後尸魂界では『協力体制を敷きこれを援助すること』――と決定されました」

ほむら「……協力?」ポカン

浦原「ハイ、そうッス。魔法少女は、尸魂界から正式にその存在を認められたんスよ――」

ほむら(うそ!?それじゃまどかは無事――いえ、まだ信用しきれないわ!)「――詳しく説明してちょうだい」

浦原「ハイハイ、順を追って説明していきます~
   まず、本来であれば霊的領域の存在ではない魔法少女や魔女について、何故霊的秩序の番人である死神が受け持つのかという話なんですが――」

789: 2011/09/22(木) 01:59:48.35 ID:vLfxef5P0
浦原「どうも調査結果によると、魔女や魔法少女だけでなく魔女によって襲われた人間までもが、氏んでも輪廻の過程に戻ることができないようなんス」

ほむら「……どういうこと?」ホム?

浦原「普通、現世で亡くなった人は、その氏に方に関係なく皆霊体となって尸魂界に送られます
   たまに未練があって現世に留まり続ける方もいますが、そういう魂魄は死神が魂葬しますしね」

浦原「例外は虚――魂魄を喰らう悪霊に殺された場合ぐらいでして、そういった場合の犠牲者は魂魄が“消滅”してしまうんス
   これについても死神の管轄下にあるので問題なかったんですがね――」

ほむら「――実は虚だけでなく、魔女の犠牲者も魂を食われてしまうということ?」

浦原「ご名答ッス、暁美サン。直接魔女に襲われたり、あるいは魔女の力で自殺に追い込まれた人でさえも、その魂は消滅し輪廻に還ることがないんスよ
   そうなってくると、『魂魄のバランスを保ち世界の安定を維持する』のが目的である死神側としても、重い腰を上げなきゃならないってワケッスね~」

浦原「けれど、魔女はあくまで物的領域の存在である上に死神は虚の相手だけで手一杯
   そうそう魔女退治にまで人手を割く余裕はありません。そこで――」

ほむら「――魔女退治を、正式に魔法少女へ専属依頼したいということね」

浦原「さすが暁美サン、ウワサ通り呑み込みが早ッスね~。余計な説明が省けてありがたいッス」バッ パタパタ

おだてるようにそう言いながら扇子を開く浦原
その飄々とした雰囲気に調子を狂わされそうになりながらも、ほむらはクールな鉄の仮面を繕って先を促す

791: 2011/09/22(木) 02:00:23.60 ID:vLfxef5P0
ほむら「――けど、魔法少女だってみんながみんな正義感に燃えているとは限らないわ
    使い魔をわざと放置して、魔女に成長するまで泳がせておくような輩だっているもの」

浦原「勿論承知してますよ~。そのための“援助”なんスからね
   ――使い魔を一匹仕留める度に、尸魂界から恩賞として人口シードを幾つかプレゼントするのはどうかって話が出てるみたいッスね」

ほむら「人工シードを……!?」

浦原「ハイ。使い魔を倒すことに見返りがないなら、見返りを用意してあげればいいんじゃないかって発想ッスね~」

ほむら「でも、どうやって使い魔を倒したと証明させるつもり?
    自己申告制にしたら人工シード目当てに嘘を吐くかも――」

浦原「最初にその地区担当の死神がその街に住む魔法少女に魔女探知機を渡しておくんスよ
   探知機には魔力の抽出機能をつけておいて、使い魔と接触したらその魔力データが接触記録として入力され、仕留めれば討伐記録が残る仕組みに現在調整中らしいッス」

ほむら「そうしたら今度は魔女を倒す魔法少女がいなくなるんじゃないかしら?
    魔女は危険性が高いし、使い魔だけを倒して報酬が得られるならそれでいいって考えの輩が現れるかも……」

浦原「暁美サンもご存じのとおり、人工シードの濁り吸収量は本物のそれに比べてずっと少ないですからね~
   あると安心な応急アイテムって感じの品ですし、それだけで魔法少女として生計が立てられるとは思えませんよ」パタパタ

ほむら「……よく考えられているのね」ホムゥ…

浦原「そりゃまあ、護廷十三隊も永いこと霊的領域の秩序を守ってきたベテラン組織ッスからね~
   ――ところで、あなたが一番知りたいであろう鹿目まどかサンについては聞かなくていいんスか?」パタッ!

ほむら「……!」ハッ

792: 2011/09/22(木) 02:01:36.69 ID:vLfxef5P0
浦原「まぁ恐らくあなたも心配していたでしょうが、案の定尸魂界でも鹿目サンのことを危険視する意見が出ましてね
   何せ限定解除していなかったとはいえ、卍解を発動した隊長格を圧倒してしまったんスから、当然と言えば当然ッス――」

ほむら「でもっ……!」

浦原「けどご安心ください、最終的にその件は不問に付されましたから~」バッ

ほむら「!!」

浦原「鹿目サン自身に死神と交戦する意志がないことや、鹿目サンの類稀な魔力の才が今後の魔女根絶の為には得難い戦力であることが認められましてね~」

ほむら「――意外、だわ。護廷十三隊って、もっと厳格な組織かと思ってたけれど……」

浦原「いやはや、時期がよかったこともありますしね~」パタパタ

ほむら「時期?」

浦原「ハイ!実は尸魂界の方でもこの間まではちょっと大きなゴタゴタを抱えてたんですがね
   それの解決に、やはり正規の死神でない方や特殊な人間の方々が尽力して下さいまして。おかげで尸魂界も少しずつ方針を変え始めてきたってワケッスよ」

ほむら「そう、なの……じゃあ、その“特殊な人間”にも感謝しないといけないのかしらね……」ファサァ

793: 2011/09/22(木) 02:02:09.90 ID:vLfxef5P0
浦原「あー、それと蛇足かもしれませんが一応ご報告をしときますね~
   十二番隊隊長・涅マユリにつきましても、この度の騒動の責任と功績を秤にかけた結果、お咎めなしということになったようッス」

ほむら「……っ!?」ガタッ

リン「ひっ!」ビクッ

浦原「まぁ、あの人は知っての通りエキセントリックな方でして、皆さんにも色々とご迷惑をおかけしたと思いますが……
   それでも現時点での魔女及び魔法少女研究の第一人者ですし、今後の魔法少女との協力体制においても重要な存在ですからね~」

ほむら「でもっ――!」

浦原「それにあの人は今、魔法少女を元の人間に戻す研究を始めたようですしね」

ほむら「っ!?」シロクロ

浦原「ははぁ、さては暁美サン、てっきり涅サンは魔法少女に非協力的な態度をとるだろうと思ってたんスね?
   けど、これに関しては十三隊全体の意向であると同時に、涅サン自身の意思でもあるんスよ」

ほむら「うそ……だってあの男が、自分を圧倒したまどかのために何かするなんて……!」

浦原「彼は気分屋ですが曲がりなりにも組織の責任者ですから、上の決定に背いてまで意地を通したりはしませんよ」

リン「そ、それに……」オズオズ

ほむら「え?」

795: 2011/09/22(木) 02:03:39.28 ID:WrhrV5tUO
リン「ひぁっ!そ、その…局長はプライドの高い方ですが、それよりなにより実験と研究が大好きなんです
   ですから、ご自分の理解できない現象や仕組みを見つけたら、解明するまでとことん力を注ぎ込んじゃいます!」

ほむら「……」

浦原「アッハッハ!流石は壷府サン、現役局員の意見は実感がこもってるッスね~!
   けど、アタシも同意見ッスよ。恐らくあの人は、意地でも魔法少女を元に戻す方法を見つけるつもりでしょうね――」

浦原「知ってます?なんと涅サン、ご自分の身体と疋殺地蔵に僅かに付着していた残留霊子から、鹿目サンの霊波構成をほぼ炙り出したらしいッスよ」

ほむら「! そんなことが……!?」アゼン

浦原「ね?なんとも執念深い方でしょ。この執念深さが研究意欲の方に発揮されれば、今の尸魂界にあの人を超える科学者はいません」

ほむら「……妙に尸魂界に詳しいのね、しがない駄菓子屋の癖に」ジッ…

浦原「いやぁ、それほどでもないッスよ~。ネタを明かせば、アタシも在野の研究者だってだけの話ッスから」

ほむら「在野の研究者?尸魂界に関する事案の?」キョトン

浦原「ハイ、実は今も尸魂界から協力要請が来てましてね~
   ――現世にある私の研究室で、インキュベーターについて調べさせてもらってます」

ほむら「インキュベーターですって!?」ガタッ

798: 2011/09/22(木) 02:04:38.99 ID:vLfxef5P0
リン「うわっ!ちょっ、落ち着いてくださいぃ……!」アワアワ

浦原「涅サンが注目したのは、インキュベーターが契約の際に漏らす『エントロピーを凌駕した』というフレーズ……
   実際、鹿目サンは契約の際に行われるなんらかのエネルギー変換法則に基づいて、皆さんを見事普通の人間に戻していますしね」

ほむら「つまりまどかを――魔法少女を元に戻す方法を見つける鍵は、インキュベーターにあるってことね?」

浦原「とはいえ、インキュベーターは霊子変換が出来ない為尸魂界に連れて行って調べることができません
   なんで、チャチなものとはいえこっちに研究機器を多少持っているアタシに、現世においてインキュベーターを調査するよう依頼が来てるんスよ」

ほむら「……そう。なら、まどかが元の人間に戻れるかは、涅マユリとあなたの手にかかっている――ということね」ファサァ

浦原「ま、そういうことッス~。生憎アタシは涅サンから好かれてないみたいなんスけど、一応魔女に関する資料とかはこっちにも回してもらってますしね
   他にも念話通信機ですとか、いらなくなった研究用の道具なんかも少し譲ってもらいましたよ。いや~、頭を下げてみるもんスね~」パタパタ

ほむら(この男……なんだかんだであの死神の扱いに慣れてるみたいだけど、本当にどういう関係なのかしら……)

浦原「あーそれと勿論、鹿目サンを魔女にしてしまっては元も子もありませんから、今後も人工シードの支給は勿論、改良にも力を入れていくみたいッス」

ほむら「――なるほどね。大体の話は把握したわ
    とりあえず、差し当たってはまどかに対して不利な流れにはなっていないようね……」ホッ…

リン「はいっ!……あの、本当に大事な方なんですね、鹿目さんはあなたにとって……!
   ご、ごめんなさいっ……僕が謝るのも変かもしれませんが、局長のせいで皆さんがひどい目に遭われたと……!」ペコリッ!

ほむら「……!」

799: 2011/09/22(木) 02:06:08.66 ID:WrhrV5tUO
リン「あっ!そ、それに副局長――涅副隊長からも、謝罪の意を伝えておくよう頼まれてました――!」

ほむら「……涅ネムから?」

リン「はい……他の皆さんには直接謝られたそうですが、意識を失っていた暁美さんにだけは隊務の都合もあって謝罪することができなかったと――!」

ほむら「……そう、他のみんなには謝ってたのね。よかったわ、特にマミはすごくショックを受けていたから――」

ほむら「――あなたも、上司があんな男じゃ色々大変でしょうね」フフ…

リン「いっ!?いえっ、そそそんなことは……!!」アタフタ

ほむら「ありがとう。あの男を許す気持ちには今はまだなれないけど、とりあえずあなたと涅ネムの謝罪は受け取っておくわ」ファサァ

リン「……!は、はいっ!」ペコリッ!

800: 2011/09/22(木) 02:06:27.05 ID:vLfxef5P0
浦原「――さて!うまい具合に和やかな雰囲気になったところで、アタシたちはそろそろお暇するとしましょうかね~」パタパタ

ほむら「あら、そうなの?」

浦原「ハイ、落ち着いてお話をする為に簡単な人除けの結界をこの病室に施してますんで、あんま長居出来ないんスよ
   あーでも、アタシももうしばらくはこの街で魔女について色々調べてみますんで、もしなんかありましたらこちらの番号へおかけ下さい~」つ メモ

ほむら「わかったわ――多分これからも、まどかに関することで何か意見を仰ぐこともあると思うけれど、その時はよろしく頼むわね」

浦原「お任せください~!そんじゃ、アタシらはこれで失礼させて頂きます
   まだ病み上がりですし、あんまし無理しないようにした方がいいッスよ~」パタパタ

リン「あ、それじゃあ暁美ほむらさんっ!僕も失礼しますっ!」ペコリッ!

そう言い添えて、病室を後にする浦原とリン

ほむら「……ふぅ」ホムゥ…

二人が出て行った後、ほむらは深く息を吐いた

長らく抱え続けてきた重荷が、ようやく少しだけ軽くなった気がする

ほむら「まどか……とりあえず、あなたを取り巻く状況は悪くないみたい……」

ほむら「……魔力を失った私は、またあなたにとって足手まといにしかならなくなってしまったけど、それでも――」

と、そこで人が来る気配がした
どうやら今度こそ医者のようだった

801: 2011/09/22(木) 02:06:54.50 ID:vLfxef5P0
ーーーー
翌日―
見滝原市・病院

昨日、目を覚ましたほむらは検査を受けた結果、単に疲れが溜まっていただけだろうと判断された
実際彼女はワルプルギスとの決戦までは勿論のこと、その後もマユリの研究素材になるという代償の件が気がかりで、精神的に休まる時がほとんどなかったのだ
まどかが魔法少女になりマユリを撃退したところで、ほむらの緊張の糸はぷつりと切れてしまったのであった

念の為昨日はもう一泊病院で過ごし、今日無事に退院に至ったほむら

看護師「それじゃあ暁美さん、お大事にしてくださいね」ニコッ!

ほむら「はい、お世話になりました」ペコリ

そう頭を下げて、ほむらは病院を後にする


「お、出てきた出てきた~」


病院を出たところで、ほむらのよく知る声が聞こえてきた

804: 2011/09/22(木) 02:08:16.63 ID:WrhrV5tUO
杏子「――ったく、散々ひとりで色々背負い込んで、結局最後にはバタンキューかよ。だらしねーやつ」ニィ

さやか「もぉ、心配したんだからねー?なんたってあんたはあたしの第二の嫁になるんだから!」ニヤニヤ

マミ「でも、大事に至らなくて本当によかったわ。これからは何でも抱え込まずに、ちゃんと友達に相談するのよ?」ニッコリ

ほむら「あなたたち……!」ハッ

まどか「――ほむらちゃん」

ほむら「まどか……!」

まどか「ごめんね、ほむらちゃん……私、契約しちゃった
    ほむらちゃんが一生懸命、私を魔法少女にさせない為に頑張ってきてくれたのに……怒ってるよね?」ショボン…

ほむら「……!」

ほむら「……顔をあげて、まどか」

まどか「でもっ――」

ダキッ!

ほむら「謝らなければいけないのは私の方よ――あなたに、いえあなたたちみんなに」ギュウゥ…

805: 2011/09/22(木) 02:08:50.34 ID:vLfxef5P0
まどか「ほむらちゃん――」

ほむら「自分では、あなたたちを仲間だと――友達だと思って一緒に戦ってきた
    けど私は結局、心の底ではあなたたちのことを頼り切ることができなかったんだわ――」ナデナデ

まどか「……うん」

ほむら「もしあなたたちの誰かが、今回みたいにひとりで何かを解決しようとしてたら、多分私も放ってはおかなかった
    あなたたちがそうしてくれたように、手を差し伸べに行くだろうって、ようやく気付いた――」フルフル…

まどか「……うん、そうだね」ナデナデ

ほむら「だから、ごめんなさい!仲間だ友達だって言って、結局みんなに迷惑をかけることになってしまって……!
    せっかくワルプルギスの夜を倒したのに、あなたを魔法少女にさせてしまってっ……!!」フルフル…!

まどか「……ほむらちゃん、私、魔法少女になったこと、後悔してないよ」ナデナデ

まどか「確かにちゃんとみんなに相談してほしかったけど、最終的にこうしてみんな無事でいられたんだし、そのことはもういいの」

まどか「だからねほむらちゃん、もう、悩んだり苦しんだりするのはおしまい」ポンッ!

まどか「ほむらちゃんがずっと探し続けてきたこれから先の時間を、みんなでいっぱい楽しもう!」ニコッ!

ほむら「……まどかぁ」ボロボロ

807: 2011/09/22(木) 02:09:28.73 ID:vLfxef5P0
さやか「あーあーまた泣いちゃって。クールなほむらちゃんの設定はすっかりなかったことになっちゃったのかしらね~?」ヨシヨシ

杏子「ほら、泣くのはもういいだろ?これからは楽しいことだけ考えて生きてけって!ほら、笑えよ!」コノコノ

ほむら「ちょ、杏子……口角を引っ張り上げるのはやめ……!」アタフタ

マミ「ふふふ、それじゃ、行きましょうか。暁美さんの退院祝いに、ケーキでも食べに行かない?
   実はケーキのおいしい喫茶店を見つけたの――」ニコニコ

さやか「おっ、それいいですねー!」

杏子「よっしほむらの奢りなー」

ほむら「なっ…どうして私の退院祝いなのに……!?」ホムッ!?

さやか「あれあれ~?『結局みんなに迷惑をかけることになってしまって……!』っていう言葉に誠意はこもってなかったのかな~?」

ほむら「うっ…」ホムゥ…

まどか「もぉ、みんなダメだよ、ほむらちゃんをいじめたら!」

アハハハ…

812: 2011/09/22(木) 02:11:37.13 ID:WrhrV5tUO
ほむら(これですべてが解決したわけじゃない……)

ほむら(結局まどかは魔法少女になってしまったし、まどかを元に戻す方法もまだわからないまま……見つかるのかすら定かではないわ)

ほむら(けれど私はもう、足踏みなんてしない)

ほむら(もしかしたらもう一度キュゥべえと契約すれば、再び時間を戻せるかもしれないけれど……)

ほむら(……ううん、やっぱりそれはしないでおくわ)

ほむら(私はこれからみんなと……大切な友達たちと一緒に、過去ではなく未来を生きていく!)

杏子「おっ!なんだありゃ?」

ほむら「へ…!?」

杏子の声にほむらが顔を上げる
杏子が指さす先には、真新しいがこじんまりした店屋が建っていた

さやか「んーと…『駄菓子の浦原商店・見滝原支店』?」

814: 2011/09/22(木) 02:12:02.36 ID:vLfxef5P0
ほむら「浦原商店…!?」

杏子「へー駄菓子屋かぁ!珍しいなぁ今時!」

マミ「新しくできたみたいね。いわゆるレトロブームっていうやつかしら?」

まどか「私、駄菓子屋さん見るの初めてかも……」

杏子「おっしゃ!そんじゃ試しに入ってみようぜ!」

さやか「えー、ちょっとー!これからケーキ食べに行くってのにー?」

マミ「ふふ、まぁいいじゃない美樹さん?私もちょっと興味あるし、ね
   暁美さんも入ってみない?」

ほむら「え?いや、ていうかあの店――」


「おやっ、いらっしゃ~い暁美サン」バッ パタパタ


ほむら「……やっぱり」ホムゥ…

さやか「えっ?なになに、ほむらの知り合い?」

815: 2011/09/22(木) 02:12:32.64 ID:vLfxef5P0
ほむら「……私というより死神の、ね
    現世で魔法少女と魔女について研究してくれてる在野の科学者だそうよ――」

まどか「えっ!?そうなんですか!?」

浦原「えぇ、まぁ。尤も表の顔は少し影のある一介のハンサム工口店主ッスけどね~」パタパタ

マミ「はぁ……?」コンワク

ほむら「――それより支店て、いったいどういうこと?」

浦原「いやね、なんせこの街は魔女にとっての重霊地――いわば魔女の吹き溜まりみたいな場所ですから」

さやか「ひどい言われようですね……」

浦原「アッハッハ、こりゃ失礼しました~。で、まぁそんなわけですし、すぐ近くに魔法少女のサポートセンターみたいなものを設置した方がいいかと思いましてね~」

マミ「サポートセンター……駄菓子屋さんが、ですか……?」

浦原「ですから~、これはあくまで“表向き”の商売ッスよ~
   技術開発局やアタシの研究室の方で何か魔法少女向けの便利グッズを開発したら、こちらで取り扱わせてもらう予定ッス」パタパタ

まどか「本当ですか!?すごく助かります!」

816: 2011/09/22(木) 02:13:03.30 ID:vLfxef5P0
杏子「なぁおっちゃん!ほむらの退院祝いになんか奢ってくれよ!」ニィッ!

浦原「お、おっちゃんって……アタシそんなに老けて見えますかねぇ~……」アハハ…

さやか「そーだよ杏子!しかも図々しすぎ!」

杏子「いーじゃねーか駄菓子の一個や二個、サービス悪い店は長続きしねーぞ?」

まどか「きょ、杏子ちゃん……!」

浦原「いや~参りましたね~。そんじゃ、お好きな駄菓子を三つ選んで持ってってください」パタパタ

杏子「さっすが若店長、気前がいいねー!」

マミ「でも、申し訳ないです――」

浦原「気にしないでください~。皆サンは今後のお得意サンたちですし、開店記念サービスってことで」ヒラヒラ

ほむら「けど、あなたこの街に長居はしないのでしょう?支店て書いてあるし、店の管理は誰に任せるの?」

浦原「ご安心ください~。新装開店に合わせて、フレッシュな看板娘を雇うことにしましたんで――」

さやか「看板娘?」

817: 2011/09/22(木) 02:13:55.93 ID:vLfxef5P0
浦原が店の方へと視線を移すと、奥からひとりの女性――否、少女がおずおずと姿を現した
歳は高校生ぐらいで、セーラー服の上に『浦原商店』と書かれたエプロンを着ている

浦原「――暁美さんにはちらっと話しましたよね?『いらなくなった研究用の道具なんかも少し譲ってもらいました』って。その時一緒に引き取ったんス――」

ほむら「……引き取って?」

浦原「なんでも、『情に流されたり口答えしたりをしない、より高性能なものを創るんだヨ』とか仰って、廃棄しようとしてらしたんでね
   そのまま廃棄されちゃうのも勿体無いんで、頭を下げてどうにか譲ってもらったんスよ」

さやか「……!それって――!?」

浦原「生憎ウチに余ってた義骸が一つしかなかったんで、あんな身体に入ってもらってますがね~
   ちょうどこの支店を誰かに任せようと思ってましたし、どうせなら可愛らしいお嬢サンの方が店が華やぎますから――」バッ

まどか「……!!ひょっとして……っ!!」パァッ!

驚きと喜びが混ざり合ったような表情を浮かべて、恐る恐る言葉を発するまどか

少女は恥ずかしげに視線を逸らしていたが、やがてまどかたちの方を向くと、穏やかな、それでいてはっきりとした声で言った――

「――お久しぶりです、鹿目まどかさん」ニコッ―

まどか「――ミモザさんっ!!」ダッ―


はにかむように微笑む彼女に向かって、まどかは一目散に駆け寄った

819: 2011/09/22(木) 02:14:20.35 ID:vLfxef5P0
ーーーー

どこか遠くの街―


『助けて――!』

少女「だれ!?だれなの――!?」ハァ…ハァ…!


我等は姿無きが故にそれを畏れ――


少女「ハァ…ハァ……あっ!!」

QB『助けて、ボクはここに……!』グッタリ…

少女「ひどい怪我……!あなたが私を呼んだの……!?」

821: 2011/09/22(木) 02:15:44.70 ID:vLfxef5P0
無き故に敬う――


QB『はやく……ここからボクを連れて逃げ――!』

「いい加減鬼ごっこは止めにしないかネ――?」

QB『きゅっぷい!?』ビクゥッ!

少女「…っ!な、なにっ……!?」ヒィッ!

「ホゥ、もしやキミは魔法少女候補かネ?」カクッ

少女「なっ…魔法少女……!?」コンワク

「……マユリ様、魔法少女及び魔法少女候補に対しては」

「うるさいヨ、そんなことは百も承知だ。ただ、駄目元で一応の確認を取るぐらいは構わんだろう――?

822: 2011/09/22(木) 02:15:58.62 ID:vLfxef5P0
少女「……いったいなんなのよ!?あ、あなたいったい――」

マユリ「お前もうるさいヨ。今の我々の目的はこの地区のインキュベーターの捕獲だ
    ――とはいえ、ちょうどいい機会だネ。ひとつ、聞いておくとしよう――」

少女「な、なに……?」フアンゲ


かくて、刃は振り下ろされる――


マユリ「どうだネ小娘、私のもとで研究体として働く気はないかネ?」


BLEACH・SS『Magical Chemical Mayuri★Magica』 ~Fin~

826: 2011/09/22(木) 02:16:26.22 ID:vLfxef5P0
長らくお付き合いありがとうございました!これにて連載終了です!

828: 2011/09/22(木) 02:17:02.39 ID:uyTCaQts0
超乙!!!!

829: 2011/09/22(木) 02:17:06.50 ID:kSphFwMw0
乙!

855: 2011/09/22(木) 02:20:16.80 ID:WrhrV5tUO
こんなに好意的に受け取っていただけるとは…感無量です!
まどかキャラがいたぶられたり、マユリ様がいたぶられたりと不快な思いをしたか方もいるでしょうが、何卒ご容赦ください…



引用元: 涅マユリ「魔法少女?」