ハギヨシ「実は先日、旦那様の経営なさる会社の一つがちょっとした不祥事で負債を背負ってしまいました」

ハギヨシ「その負債は微々たるものだったのですが……相手側が妙な取引を提案してきまして」

透華「妙な提案？」

ハギヨシ「はい。…賭け麻雀です」

透華「ま、麻雀ですって！？」

ハギヨシ「麻雀で勝てば負債は帳消し、というものでした。ですがその勝負で負け続け…今や負債は手の付けられないほどに」

透華「麻雀……」


透華「ハギヨシ」

ハギヨシ「はっ」

透華「その麻雀、どこで行いましたの？」

ハギヨシ「…僭越ながら透華お嬢様。あの卓に着くのは止めたほうがよろしいかと」

透華「何故ですの！？ 私の腕を信用していないとでも…」

ハギヨシ「お嬢様は確かにお強い。ですが……今回は相手が異常すぎます。いくらお嬢様でも」

透華「…ハギヨシ。私は、竜門渕家の女ですわ」

透華「竜門渕家のために出来ることがあれば、何でもしたいのです。…いずれは、竜門渕グループを導いていかねばならないのですから」

ハギヨシ「お嬢様…」

透華「案内なさい。お父様が負けたという、その卓へ」

ハギヨシ「…はっ。分かりました」

―――

透華「ここが…」

ハギヨシ「私が同伴できるのはここまでです。…お嬢様」

透華「分かりましたわ。ハギヨシ、下がってなさい」

ハギヨシ「…御武運を」ｽｯ

透華「……」

透華「…やってやりますわ！」ｶﾞﾁｬ

透華「龍門渕透華ですわ。…お父様の、リベンジに」

？　「ホッホッホッ！ これまた可愛いお客さんだ！」

？？「来る場所を間違えているのでは？ お嬢さん？」

？　「……」

透華（老人が１人と青年が２人。…どの方も一癖ありそうですわね）

透華「お金はこの通り持ってきていますわ！ 私の預金、全額です！」

ボーイ「確認したところ、確かに。２０００万円以上はあります」

？　「ホーッホッホ！　これは楽しい夜になりそうですねぇ！」

？？「メンツを紹介しましょう。私は江崎といいます」

江崎「そしてこちらの老人が劉さん。私の雇い主です」

劉　「よろしくお願いしますね」

江崎「そしてこちらの方が……」

傀　「…傀、と申します」

ボーイ「それではルールを確認させていただきます。
　　　　アリアリの東風戦、25000の30000返し。レートは1000点1万のウマ10万・20万。ビンタ（※）を50万とさせていただきます」

透華「…とんでもないインフレルールですわね」

劉　「おや。我々にとってはいつも通りのルールですよ」

江崎「では、卓の準備を始めましょう」

透華（…今のうちに、ルールの確認でもしておこうかしら）

～～～

ハギヨシ「ビンタについては御存知ない方が多いと思われますので、私ハギヨシめが解説させていただきます」

ハギヨシ「ビンタとは、順位が自分より上の方に支払う…いわゆるサシウマの特殊なものでございます」

ハギヨシ「例えば以下の状況で対局が終了したとします」
　　　　　【トップ：35000】
　　　　　【２着　：30000】
　　　　　【３着　：20000】
　　　　　【ラス　：15000】
ハギヨシ「この場合、まずビンタ以外の精算でこのようになりますが…」
　　　　　【トップ：35000・+45万】
　　　　　【２着　：30000・+10万】
　　　　　【３着　：25000・-15万】
　　　　　【ラス　：10000・-40万】
ハギヨシ「加えてビンタ50万円を精算します。まず、自分より順位が高い方にそれぞれ50万円を支払います」
　　　　　【トップ：35000・+45万・ビンタ+150万】
　　　　　【２着　：30000・+10万・ビンタ+50万】
　　　　　【３着　：25000・-15万・ビンタ-50万】
　　　　　【ラス　：10000・-40万・ビンタ-150万】
ハギヨシ「更に、原点（25000点）未満の方は、原点以上を持つ方への支払が倍額になります。ですので」
　　　　　【トップ：35000・+45万・ビンタ+200万】
　　　　　【２着　：30000・+10万・ビンタ+100万】
　　　　　【３着　：25000・-15万・ビンタ±0】
　　　　　【ラス　：10000・-40万・ビンタ-300万】
ハギヨシ「…となるのです。ですのでビンタは「いかに原点を割らないようにするか」というルールであるとも言えます」

ハギヨシ「以上がビンタの解説となります」

～～～

劉　「さあ、卓の準備ができました。早速始めましょうか」

【東一局　親：江崎　ドラ6ｐ】
江崎「お手柔らかにお願いしますね」

江崎（…とは言ったものの、この手牌…）
　　　【113ｍ1279ｐ268ｓ南西北白】
江崎（苦しい三色を見ていくしかない？　どうやらいつも通り、私にツキは無いようですねぇ）
　　　【打：西】
透華（絶対に勝って帰らなければいけませんわね…！）
　　　【2234ｍ1788ｐ224ｓ西北　ツモ：3ｍ】
透華（一巡目から好配牌、好ツモ！　この手は和了りきりますわ！）
　　　【打：西】


【7巡目】
透華（絶好のツモですわ！）
　　　【22334ｍ67888ｐ45ｓ北　ツモ：4ｍ】
透華（ダマでも7700…リーチをかける必要はありませんわね）
　　　【打：北】

劉　「ホッホッ」

　　　【打：7ｍ】

傀　「……」


　　　【打：8ｍ】

江崎「…これは」

江崎（下家の…透華サンから聴牌気配がしてきた途端にこのツモですか）

江崎（……）

　　　【打：白】

透華「ツモりましたわっ！」

　　　【223344ｍ67888ｐ45ｓ　ツモ6ｓ】

透華「タンピン一盃口ドラ1！ ツモって2000・4000ですわ！」

劉　「ほお…これはイキのいい打ち手が馳せ参じましたな」



江崎（…やはり、今の私にツキは無いようだ）

　　　【123ｍ123ｐ23688ｓ白白】ﾊﾟﾀﾝｯ

江崎（聴牌を取りに行けば6ｓ切りで振込み）

江崎（どうやら、今回は見に徹すべきのようですねぇ…。あなたと同じようにです、傀…！）ﾆﾔｯ

傀　「…」ﾆｨｯ

　　　【56677ｍ34ｐ446ｓ撥撥撥】ﾊﾟﾀﾝｯ

透華（キィーッ！ なんですのこの2人！ 和了ったのは私なのに、こっちをまったく見もしませんわ！）

透華（目に物見せて差し上げますわっ！）


【東二局　親：透華】
透華「ツモ！ 1300オール！」

　　　【2267ｍ233445ｐ456ｓ　ツモ：8ｍ】

【東二局一本場】
透華「ツモ！ 3900オールの一本場は4000オール、いただきますわ！」

　　　【11122ｍ678ｓ南南白白白　ツモ：南】

劉　「ホホホホホ！ いやあ、透華サンはお強いですねぇ！！」

透華「ようやくお気づきになりまして？ おーっほっほ！」

【東二局二本場】
透華（どうやら乗ってきたようですわね…リーチですわっ！）

劉　「ツモ。ツモのみで3本5本、二本場で5本と7本です」

　　　【13456ｍ789ｐ678ｓ中中　ツモ2ｍ】

透華「そんなゴミ手で私のリーチを…！きぃーっ！」

劉　（傀サンも江崎も見に徹して動こうとしない…私が動け、ということですか）

江崎（そういうことです。すみませんねぇ、劉さん）



【透華：47200　傀：21100　劉：16500　江崎：15200】
【オーラス　親：傀　7巡目】

透華「…これは…」

　　　【46789ｍ23777889ｐ　ツモ：7ｐ】

透華「…」

　　　【打：8ｐ】

ボーイ（へえ…この娘、打ち慣れてるな。）
　　　　その手牌からキッチリ8ｐ切りか）

ボーイ（パッと見4ｍを打ちたくなるが、そうすると受け入れは69ｍ、14689ｐの7種）

ボーイ（それに対して8ｐ切りは4569ｍ、1234ｐの8種類…受け入れが広いのは断然こっちだ）

ボーイ（この娘…父親よりも打てるな）


【数巡後】
透華「リーチですわ！」

　　　【46789ｍ23777789ｐ　ツモ：4ｍ　打：9ｍ】

透華（本当はリーチなんて必要ないかもしれませんけれど…こうして相手を完膚なきまでに叩くのが私の麻雀！　そして…！）

透華「…一発ツモっ！　1000・2000で終了ですわ！」

透華（自分の打ち方を貫けば、牌は必ず答えてくれますわっ！！）

劉　「ホホッ！　どうやら透華サンは本当に打てる方のようだ！」

江崎「ですねえ。私なんてノー和了ですよ」

―――1回戦
【透華：51200・+350万】
【傀　：19100・-　1万】
【劉　：15500・-125万】
【江崎：14200・-236万】

透華「1戦だけで350万…！」

劉　「ええ、おめでとうございます。すべてあなたのものですよ。それで……」

劉　「続行、なさいますか？」

透華（…怖い。こんな麻雀、今まで打ったことありませんもの）

透華（……）ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ





透華（…何を臆していますの、龍門渕透華！ 龍門渕家を救うのでしょう！？）ｸﾞｯ

透華（負けた分をきっちり取り返す！ それまでは帰れませんわ！！）

透華「ええ、もちろん続行ですわ」ﾆｺｯ

劉　「ホッホッホッホ！ 本当に楽しい夜になりそうです！」

江崎「ええ、まったくですね」

江崎（一戦丸々使いましたが、あなたの打ち筋は大体読ませていただきましたよ）

江崎（基本的にはデジタルな打牌。ですが今のオーラスのように、時々不必要な場でリーチをかけてしまうようですね）

江崎（こんなダントツトップなら、ダマでツモ待ちでも十分だというのに）

江崎（…ですが、それでも基本はデジタル派。でしたら…）

江崎「では、2回戦を始め……」



傀　「透華さん」

透華「は、はいっ！？」

透華（この男、初めて喋りましたわ！）

傀　「レートを倍にしませんか？」

透華「えっ……？」

傀　（傀…！　アナタも、もう見は済んだということですか…！）

透華（レートを倍に…？　確かに、このままのレートで打っていてもお父様の負け分を取り返すには何戦必要か分かりませんけれど…）

透華（ですが、もし倍レートで負けたりなんかしたら……）

透華（……）



透華「…分かりましたわ。お受けします」

透華（そうですわ。戦う前から負けることを考えるなど、龍門渕家にあるまじき行い！）

透華（立ち向かう者は正面から叩き潰す！　ですわ！）

江崎「我々もお受けしましょう」

劉　「熱い夜になりますねぇ！ホホホホホッ！」

傀　「では、倍レートで2回戦です」ﾆｨｯ

透華「…！？」ｿﾞｸｯ

透華（嫌な笑いをしますわね…この男。　要注意かしら）

【東一局　親：透華　ドラ：3ｓ】

透華【78ｍ3445ｐ13778ｓ西西北】

透華（悪くない配牌…倍レートだろうがなんだろうが、勝たせていただきますわ！）

　　　【打：北】

江崎【255ｍ679ｐ223ｓ東南白撥　ツモ：1ｍ】

江崎（…望み通りの配牌ですね！　では…こう打ちましょう！）

　　　【打：2ｓ】


【数巡後】
江崎「……ふふっ」

透華「？　どうなさいましたの？」

江崎「いえ、失敬。リーチです！」

　　　【打：7ｍ】

劉　　【打：7ｍ】

傀　　【打：2ｓ】

透華（先制リーチ…やっかいですわね）

　　　【678ｍ33445ｐ178ｓ西西　ツモ：9ｓ】

透華（こちらも聴牌、ドラドラの勝負手！ 彼…江崎の捨て牌は？）ﾁﾗｯ

【江崎捨て牌：2ｓ→9ｐ→南→3ｓ→白→撥→9ｓ→東→2ｍ→3ｐ→7ｍ（リーチ）】

透華（目を惹くのは1巡目のドラ表切りですわね。しかも結局ドラをツモって裏目ってますわ）

透華（つまり索子は形が悪かった、または伸ばす必要が無かったか！　よって索子、特に下の方は通りますわ！）

透華「通らばリーチ！ ですわっ！」

　　　【打：1ｓ】



江崎「Good Job！　ロン、です！」

透華「……え？」

江崎「リーチ一発、ドラ1と…　裏が3枚！　12000です！！」

　　　【23455567ｍ678ｐ23ｓ　裏ドラ：5ｍ】ﾊﾟﾀﾝｯ

透華「な、なんでその捨て牌で…！」ﾜﾅﾜﾅ

江崎「さあ？ どうしてでしょうねえ？」

江崎（デジタルな打ち手は自分の想定外の打ち方に弱い。こんなハメ手、自分で使ったことなんてないでしょう？）

江崎（さあ、これでアナタは潰しました！　後は傀、あなただけです！）

透華（ど…どうすれば……）


【東二局　親：透華】
江崎「リーチです！」

　　　【打：6ｐ】

透華「またリーチ……」

透華（今回は倍レート…負けられませんわ…！ 失点を避けていかないと！ とりあえずスジを切ってオリ…）

　　　【打：3ｐ】

江崎「おや？ また一発ですね？」

透華「！？」ﾋﾞｸｯ

江崎「ロン。リーチ一発で2600です」

　　　【333456ｍ24ｐ12399ｓ】

透華「あ…　はい、分かりましたわ……」ｼﾞｬﾗｼﾞｬﾗ

江崎（どうやら、完全に終わったようですね…スジに頼って振り込むとは）

【東三局　親：劉】
透華「…こうですわ！」

劉　「ホッホ。ロンです、チートイのみで2400」

【東三局　一本場】
劉　「それもロンですね。タンヤオドラ1は2900、一本場で3200」

透華「う……」


【東三局　二本場　ドラ：北】
透華（…何をやってますの、私は！こんな不甲斐ない打ち方を晒して…！）

透華（これでは他の麻雀部員に……それに、のどっちに笑われますわよ！！）

透華（こんなところで、負けてなんていられませんわ！　…龍門渕家のためにも！）

　　　【11357799ｍ59ｐ1ｓ南北】

劉　「風向きが…変わりましたかねぇ？　ほっほ」

透華（…負けない）【ツモ：北】

透華（…負けない！）【ツモ：1ｍ】

透華（…負けられない！！）【ツモ：4ｍ】

透華（絶対に負けられませんわ！！）

　　　【ツモ：7ｍ】
　　　【11134577799ｍ南北北】

透華「リーチですわっ！！」

　　　【打：南】

江崎「これは…！」

透華「…一発ツモ！　リーヅモ一発、ホンイツ三暗刻・北・ドラ3は…
　　　1つ、足りませんでしたが6200・12200っ！ いただきますわっ！！」

透華（これで…っ！）

【オーラス　親：傀】
【透華：29400　傀：18800　劉：18400　江崎：33400】

透華（役無しで聴牌…ですわね）

　　　【1123ｍ555678ｐ78ｓ白　ツモ：4ｍ】

透華（早速リーチを……）

透華（……）



透華（…ちょっと待つべきですわ…リーチをかければ供託1000点が場に出ますわね）

透華（…そうすると4着目の劉さんの私への逆転条件が「満貫ツモ」でもOKになってしまうじゃないの！）

透華（このレートで負けることだけは絶対にダメ！ ここは冷静にツモを待つべきですわね）

　　　【打：白】

江崎「…くっくっく…」ﾎﾞﾘﾎﾞﾘﾎﾞﾘ

透華「…何がおかしいのですか？」

江崎「いやあ……今の打牌で一気に透華さんが怖くなくなっちゃって」

透華「なんですって！？」

江崎「だって…ねえ？　今までの透華さんなら、そろそろリーチがかかるころかなあ、なんて思ってたんですが」

透華「！？」

透華（この男…！　私の聴牌を読んでますの！？）

江崎「今回はリーチがかからないんですから。自分の打ち筋を曲げちゃってるんじゃないですか？」

江崎「負けたくない、って気持ちは分かりますけどねえ……くっく」ﾎﾞﾘﾎﾞﾘ

透華「余計なお世話ですわ！」

江崎「…親切な忠告、だったんですが…」

江崎（傀…人鬼の前でそんな隙を見せては）

傀　「…ﾌｯ」

　　　【打：9ｓ】

透華（あ、和了牌が…！ 和了れてたって言いますの！？）

江崎「おやおや、すこしぴくっとしましたね？　どうかしましたか？」ﾆﾔﾆﾔ

透華（あ、遊ばれてるっ…！　この龍門渕透華が遊ばれてますわっ…！！）

　　【ツモ：9ｍ】

透華（くっ、これじゃないっ！）

　　【打：9ｍ】




傀　「……御無礼。ロンです」ﾆﾔｯ

透華「！？」ﾋﾞｸﾝｯ

傀　【3338889ｍ888ｓ撥撥撥】

傀　「48000、透華さんのトビで終了ですね？」

透華「そ…そんな…！ 四暗刻…しかも、単騎ですって…！？」

江崎「御無礼が出ましたか……」

―――2回戦
【透華：-18600・-636万】
【傀　：66800 ・+674万】
【劉　：18400 ・-344万】
【江崎：33400 ・+326万】


傀　「続行…なさいますか？」

透華（さっきの勝ち分が…一瞬で……！）

透華（もう止めたい…　…だけど…！）

透華（ここで止めたら、龍門渕家が……！）


透華「う、うう…　うああ……」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

劉　「おやおや。我々は「続けるか」「止めるか」以外は聞きたくないのですがねえ？」

透華「ﾋｯｸ…　つ、続けますわ…！　ｸﾞｽｯ　続けるしか、ないんですものっ」

傀　「では3回戦です」

透華「…リーチですわ！」

傀　「ロン。タンピン三色、ドラドラで12000」

―――

透華「こ、これは…」

傀　「ロンです。リーチ一発チートイ、裏ドラが2枚で12000です」

―――

透華「…」

　　　【打：3ｓ】

傀　「御無礼。親につき18000、トビ終了ですね」

　　　【123ｍ12399ｐ11223ｓ】




・
・
・

―――3時間後

ハギヨシ「透華お嬢様、ご無事で！」

透華「……」

ハギヨシ「…お嬢様？　…まさか」

劉　「ええ、結果は透華さんの負けでしたよ」

江崎「結局、一回戦まででしたねえ。くっくっ」ﾎﾞﾘﾎﾞﾘﾎﾞﾘ

劉　「何でしたら、次はアナタが打ちますか？　ホッホッホ！」

ハギヨシ「……！　…失礼、させていただきます。　お嬢様、帰りましょう…」

透華「……」

傀　「…メンツが揃わないようでしたら、これでお開きですね」ｽｯ


ハギヨシ（…お嬢様）

―――数日後

衣　「とーかー！　今日も麻雀は打たないのかー？」

透華「……」

衣　「…とーかー！ ころもは麻雀が打ちたいぞ！」

衣　「とーか！　ねえ、とーか！　とーか！」


ﾊﾞｼﾝｯ


衣　「い、いたっ……。　…とーか…？」

透華「麻雀なんて…っ！！」

衣　「とーか？　ねえ、とーかってば！」

ｶﾞﾁｬｯ　ｷﾞｨｰｯ　ｶﾞﾁｬﾝｯ

衣　「ころも…何か悪いことしたのかな…？」

ハギヨシ「そんなことはございません」ｽｯ

衣　「あ、ハギヨシー！　じゃあ、トーカはどうして……」

ハギヨシ「実は……」

衣　「…なるほど。それでとーかは……」

ハギヨシ「ええ、トラウマになってしまったのではないかと」

衣　「…ハギヨシ」

ハギヨシ「はっ」

衣　「その場へころもを連れて行け」

ハギヨシ「はっ？　いえ、しかし」

衣　「…魑魅魍魎を打ち滅ぼすのは、同じ魑魅魍魎だけぞ…！」

ハギヨシ「……かしこまりました」




おわれ

さすがに牌譜起こしながらはキツいですわ
ガチ闘牌はあんまり需要無いっぽいしなァ

めちゃくちゃ需要あるのに

おつ