69: 2013/11/22(金) 17:09:30 ID:K/0J2tp2
連作短編20
智絵理「クローバーを探して」

夕美「今日、皆に紹介するのはこのお花。え? 知らないって? でもね、このお花は葉っぱに特徴があるんだ。
   
   ほら、知ってるよね? シロツメクサって言うんだ。この3枚の葉っぱは4枚だったり5枚だったりするんだけど、
   
   今までの最高記録は56枚なんだって。皆は何枚の葉っぱのクローバーを見つけられるかな? もし見つけたらいい事ある
   
   かもしれないよ。そんなシロツメクサの花言葉は復讐、幸運、約束。ちょっと怖い言葉が出てきたね、この花が珍しいのは4枚の
   
   葉っぱに特別に花言葉が与えられてるところ。その花言葉は……好きな人が出来たら調べてみてね、お姉さんとの約束だよ。
   
   じゃあ皆また明日、相葉夕美の今日の花言葉でした」

智絵里「クローバー……」

女P「本当に好きなのね。栞にもする位だし、当り前か」

智絵里「私はそんなに……運がいい方じゃありませんから」

女P「私の担当ではトップなんだから、少しは胸を張りなさい」

智絵里「いえ、それも女Pさんのおかげ……ですから」

女P「謙虚なのは確かに美徳だけど、まあいいか。行きましょ、今日のお仕事は気に入ると思う」
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(8) (電撃コミックスEX)
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(8) (電撃コミックスEX)

このSSはアイドルマスターシンデレラガールズの世界観を元にしたお話です。
複数のPが存在し、かつオリジナルの設定がいくつか入っています。
連作短編の形をとっており、
前のスレを読まないと話が分からない事もあるかと思います。

検索タグ:ありす「心に咲く花」

その為、最初に投下するお話は事前情報なしでも理解できる構成としました。
こんな雰囲気が好きだなと少しでも感じて頂けた方は前スレも目を通して頂ければ 嬉しく思います。
それでは、投下を開始します。
70: 2013/11/22(金) 17:10:01 ID:K/0J2tp2
智絵里「本当ですか?」

女P「嘘をついてどうするのよ、来なさい」

美穂「あ、女Pさん」

女P「はいお待たせ、智絵里を連れてきた」

智絵里「今日は美穂ちゃんとお仕事…ですか?」

女P「そ、うちの事務所が誇る乙女達が幸せを探すって企画」

美穂「お、乙女ですかぁ」

女P「デビューしたてじゃないんだから、どう見たって乙女じゃない」

美穂「そうですね、もう……どんとこいです!」

智絵里「幸せを探すっていうのは……?」

女P「ま、その名の通り幸せの象徴として扱われてる物の紹介といったところね。今回のテーマが、智絵里の
   好きなクローバー」

智絵里「やった」

71: 2013/11/22(金) 17:10:52 ID:K/0J2tp2
女P「見つかるかは貴方次第、茄子でも連れてくれば簡単に見つかるんでしょうけど」

美穂「もし、それで見つからなかったら」

女P「没ね」

美穂「ぼ、ぼつ……」

女P「幸せ、見つかりませんでした! なんて許されるのは茜くらいでしょ」

智絵里「見つからなかったら……」

女P「何で始まる前からネガティブなのよ! ほら段々と景色もよくなってきた」

美穂「この前の楓さんの撮影した所ですか?」

女P「確かに似てるわね……あいつとセンスが一緒ってのはちょっと癪ね」

美穂「プロデューサーですか?」

女P「確か選んだのあいつなのよね、悔しいけど似合ってたわ」

智絵里「プロデューサー……三人いますよ?」

美穂「若い方です、いつも千枝ちゃんと一緒にいる」

72: 2013/11/22(金) 17:11:39 ID:K/0J2tp2
女P「そんな印象なのね、無理もないか。あの子は本当にPさんPさんだから」

美穂「懐いてますよね」

女P「って、何でわざわざこんな綺麗な所であいつの話になるのよ! 今日は関係ないでしょ!」

智絵里「仲がいいんですか?」

美穂「この前、一緒にお出かけしたんです。幸子ちゃんと三人で」

女P「幸子と?」

美穂「はい。えっと、駄目でしたでしょうか?」

女P「いえ……何もなかった?」

美穂「はい、幸子ちゃんも嬉しそうでした」

女P「となると、やっぱりあの二人か」

美穂「その時に二人に協力してもらって取ったのがこの熊さん」

智絵里「真っ白」

73: 2013/11/22(金) 17:12:19 ID:K/0J2tp2
女P「へえ、趣味いいわね。あの二人にしては」

美穂「折角だから、名前を付けたんです。幸Pちゃんって」

女P「その熊さんに同情するわ」

美穂「か、可愛い名前でしょう!?」

智絵里「うん…かわいい」

女P「ボクは世界一かーわーいーいー、とか言いそう」

美穂「言いません!」

女P「さて……広いわね」

美穂「ここから探すんですか?」

智絵里「これだけあれば、見つかります」

美穂「今日中に見つからなかったら……没……」

74: 2013/11/22(金) 17:12:54 ID:K/0J2tp2
女P「そんなプレッシャー感じなくていいから、智絵里は着替え終わった?」

智絵里「白のワンピース…初めてです」

美穂「うわぁ、天使みたい」

女P「他人事みたいに言ってるけど、貴方も着るのよ」

美穂「無理です!」

女P「即答しないの!」

美穂「う……分かりました!」

女P「あら、妙に物分かりがいいわね」

美穂「これでもアイドルなんですから」

女P「……へえ」

智絵里「クローバーがいっぱい」

美穂「えっと、三つ葉じゃなくて四葉」

75: 2013/11/22(金) 17:13:31 ID:K/0J2tp2
女P「一応、撮影は後で入れるからあんまり服を汚さないようにね。私はちょっと外すけど無理しちゃ駄目よ」

美穂「はい……じゃあ探そっか」

智絵里「熊、好きなんですか?」

美穂「好き、なのかな? あの熊さんは本当にたまたま見つけただけだから」

智絵里「熊本だから、熊さん?」

美穂「そうかな、東京にはあんまりいないから熊さんの方から来てくれたのかも」

智絵里「優しい熊さんだ、いいな」

美穂「智絵里ちゃんは何でクローバーが好きなの?」

智絵里「涙の数だけ強くなれる アスファルトに咲く花みたいに」

美穂「何かの歌?」

智絵里「うん、デビューしたての頃に女Pさんから教えてもらって」

76: 2013/11/22(金) 17:14:01 ID:K/0J2tp2
女P「一応、撮影は後で入れるからあんまり服を汚さないようにね。私はちょっと外すけど無理しちゃ駄目よ」

美穂「はい……じゃあ探そっか」

智絵里「熊、好きなんですか?」

美穂「好き、なのかな? あの熊さんは本当にたまたま見つけただけだから」

智絵里「熊本だから、熊さん?」

美穂「そうかな、東京にはあんまりいないから熊さんの方から来てくれたのかも」

智絵里「優しい熊さんだ、いいな」

美穂「智絵里ちゃんは何でクローバーが好きなの?」

智絵里「涙の数だけ強くなれる アスファルトに咲く花みたいに」

美穂「何かの歌?」

智絵里「うん、デビューしたての頃に女Pさんから教えてもらって」

77: 2013/11/22(金) 17:15:37 ID:K/0J2tp2
美穂「その花が四葉のクローバー?」

智絵里「うん……幸せもらった気がしたから」

美穂「きっと、智絵里ちゃんに会いに来たんだ」

智絵里「じゃあ、今日は私が会いに行く番」

美穂「そのクローバーさんも待ってるよ」

智絵里「待ってると…いいな」

女P「お待たせ、スタッフさんも到着したから……って」

スタッフ「機材はここで大丈夫ですか? プロデューサー?」

女P「あの子達はどこに行ったのよ!?」

78: 2013/11/22(金) 17:16:12 ID:K/0J2tp2
ありす「だから、どうしてナビ通りに進んだらこうなるんですか?」

P「そのナビがおかしかったから、としか言い様がない」

ありす「買い換えた方がいいのでは?」

P「申請出すか……ありす、そのタブレットは使えるか?」

ありす「もちろんです、どうぞ。現在地は恐らくここです」

P「随分と街から外れちゃったな、仕方がないここから……こう行くのが早いか」

ありす「時間に余裕があって良かったですね」

P「全くだ、とはいえ早朝の仕事だったから眠いのがなあ。本当に寝ててもいいんだぞ?」

ありす「そこまで薄情ではありません」

P「何か飲み物でもないかな、目が覚めるようなの」

ありす「少なくとも、コンビニはありません」

P「それは想像ついてた。お!」

79: 2013/11/22(金) 17:16:43 ID:K/0J2tp2
ありす「こんな所にあって採算が取れているんでしょうか」

P「とはいえ今の俺たちにとっては棚からぼた餅だ」

ありす「大げさですよ」

P「さて、何にしようかな」

ありす「別に何でもいいです」

P「珍しいのもあるんだし、飲んでみたらどうだ?」

ありす「そんなロマンはいりません」

P「全く、ミルクティーなんて飲んでたらミルクティーみたいな人生しか送れないぞ」

ありす「充分、変わった人生を送ってると思いますが」

P「俺はこれだな」

ありす「大相撲自販機場所うっちゃり……飲み物なんですか?」

80: 2013/11/22(金) 17:17:16 ID:K/0J2tp2
P「缶に入ってるし、液体だぞ」

ありす「液体だからといって飲めるとは限りません」

P「そんな事を言って、欲しいってだだこねてもあげないからな」

ありす「ありえませんから、きちんと飲んで下さいね」

P「さて、では一口」

ありす「どんな味ですか?」

P「うっちゃられた感じがする」

ありす「答えになってませんが」

P「今ならどんな怪事件でも解決できる気がする!」

ありす「はいはいそうですか」

P「目は覚めたし、これなら事務所まで何とかなりそうだ」

ありす「別にどこかで休憩しても構いません」

81: 2013/11/22(金) 17:17:49 ID:K/0J2tp2
P「折角の夏休みなんだ、それは悪いって」

ありす「折角の夏休みだから、です」

P「帰って遊んだりしたいだろ?」

ありす「それとこれとは話が――」

P「何の音だ?」

ありす「動物では?」

P「いや……こっちに来そうだな。ありす、車に戻るぞ」

ありす「何か持ってますか?」

P「うっちゃり」

ありす「動物に飲ませるのは駄目ですよ」

P「分かってるって、せーので走るぞ」

82: 2013/11/22(金) 17:18:19 ID:K/0J2tp2
ありす「分かりました」

P「せーの!」

美穂「やっと出れたー!」

智絵里「出れないかと思って……よかった……」

ありす「うっちゃられた感じです」

P「……おう」

ありす「お仕事中だったと」

美穂「探してる内に夢中になっちゃって、気づいたらこんな処に」

P「待ってて、とりあえず連絡を取るから。今日の担当は?」

智絵里「女Pさんです」

P「了解、目を離して遭難未遂とはね……げ、圏外。さっきまで使えたのに」

83: 2013/11/22(金) 17:18:51 ID:K/0J2tp2
美穂「わたし達も使えなくて」

ありす「何を探してたんですか?」

美穂「クローバーです、四葉の」

ありす「幸せの象徴の、ですか?」

智絵里「うん、とても奇麗で…優しい気持ちになれる」

ありす「それで遭難ですか」

智絵里「う……」

P「ありすもそれくらいにしとけ。車に乗って仕事場まで送るよ、それが早いだろうから」

美穂「すみません」

P「いいよ、どうせついでだ」

智絵里「熊さん……取ったのってもしかして」

美穂「うん、この人だよ」

84: 2013/11/22(金) 17:19:24 ID:K/0J2tp2
P「あれは小日向さんが自分で取ったんであって、俺は何もしてないよ。幸子共々惨敗を喫
  しただけだ」

美穂「そんな事ありません、プロデューサーが頑張ってくれたからわたしの所に来てくれたんです」

P「そう言ってくれると救われるよ」

ありす「熊さん?」

P「ゲーセンに行った時にちょっとな」

ありす「……そうですか」

P「そういえば、その服は衣装?」

美穂「はい……その、ど、どうでひょうか!?」

P「大丈夫、ちゃんとアイドルに見える。可愛いよ」

美穂「よかった、ありがとうございます」

ありす「可愛いですか」

P「何でそんな不穏なオーラを出してるんだよ」

ありす「知りません」

85: 2013/11/22(金) 17:20:11 ID:K/0J2tp2
P「さて、緒方さんと呼んだ方がいいかな」

智絵里「智絵里でも…いいです」

美穂「初対面ですよね?」

P「プロデューサーとしては、そうだな」

ありす「プロデューサーの前って」

P「それの後」

智絵里「トレーナーさんだと、思ってたんですけど」

美穂「トレーナー? そういえば幸子ちゃんの時にそんな事……」

ありす「一体、何がどうなったらそんな事になるんですか」

P「色々とあったんだよ、その時にちろっとね」

智絵里「ちろっと、です」

86: 2013/11/22(金) 17:21:22 ID:K/0J2tp2
美穂「一緒にお仕事を?」

智絵里「ドラマの撮影があって…そこで……」

P「本当に偶然なんだよ。俺はその頃、どんな仕事があるのやらって見学してた時期だっ から」

智絵里「色々…教えてもらって」

P「上手いよ、入り込むっていうか……そういえばそのドラマのタイトルが」

智絵里「クローバーを探して、です」

P「またクローバーか、縁があるんだね」

智絵里「はい、またお会いできました」

P「今日はすぐお別れだろうけど……雨か」

美穂「天気予報は晴れだったのに」

ありす「本降りになってしまいそうですね」

P「さすがにこれだと中断だろうし、丁度よかったかな。ありす、天気予報は?」

87: 2013/11/22(金) 17:21:55 ID:K/0J2tp2
ありす「降水確率は終日72%です」

P「中止かな」

智絵里「それは駄目です」

美穂「智絵里ちゃん?」

智絵里「駄目……嫌です…」

P「……ここなら携帯も通じるだろうから、話してみるよ」
――

P「分かりました、では一応そこまでは送りますから」

美穂「どうですか?」

P「協議中らしい、まあ居場所が分からなくて撮影すら始めてなかったから別に進行にそれほど不都合が
 出てる訳でもなさそうだ」

美穂「中止でしょうか?」

P「俺ならそう判断するかな、結構な人員をここに留まらせるのはちょっと」

88: 2013/11/22(金) 17:22:56 ID:K/0J2tp2
ありす「止みそうにありませんね」

P「見えたな、ここに停めておくから待ってて。どうせ俺も帰りの途中だから中止って事ならここから
 事務所まで送るよ」

ありす「傘は?」

P「いいよ、すぐの距離だ」

智絵里「……」

美穂「やっぱり駄目でしょうね」

ありす「仕方がありません、無理して体調を壊したらその方が……あの、緒方さんは?」

美穂「……え?」

P「何をやってるんですか」

女P「ごめん、本当にごめん」

P「変なのに見つかって連れ去られたら事務所が潰れますよ」

女P「始末書よね……」

89: 2013/11/22(金) 17:23:55 ID:K/0J2tp2
P「そんなもん書く暇あるなら仕事して下さい」

女P「……借りになっちゃったわね」

P「いいですよ。で、今日の仕事はどうするんですか?」

女P「中止、無理させてもしょうがない」

P「賢明です。車に二人ともいますから、事務所までついでに送りますよ」

女P「そうよね、こんな状態で運転してたら事故って新聞の一面飾って」

P「どこまでネガティブになったら気が済むんですか、午後も仕事でしょう」

女P「大丈夫かな……」

P「たまにやらかすとこれだ……先輩を見習って堂々としてればいいんです」

女P「あれの真似は出来ない」

P「あれって」

美穂「あの!」

P「って、傘もなしに何で出てきたの?」

美穂「智絵里ちゃんがいなくなっちゃいました!」

90: 2013/11/22(金) 17:24:29 ID:K/0J2tp2
女P「車にいたんじゃないの?」

P「さっきまでいましたよ」

美穂「いつの間にか姿がなくて、ありすちゃんが追いかけて行っちゃって」

P「おいおい……」

女P「行く場所なんて一つよね」

P「探しに行ったんでしょう、クローバーを」

美穂「何でそんなに拘るんでしょう」

P「……まあ、あれでしょうね」

女P「ったく、もうあの時から変わってないじゃない」

P「とりあえず俺はありすを、女Pさんは緒方さんを優先に。小日向さんはスタッフに知らせて」

美穂「手伝います」

P「いや、その気持ちがあるなら車にいて欲しい」

美穂「わ、わたしもいなくなりますよ!」

P「……俺の目の届く位置にいるように」

91: 2013/11/22(金) 17:25:07 ID:K/0J2tp2
美穂「いない……大丈夫かな」

P「靄が出てきたな、視界がこんなに悪いとなるとやっぱり警察かな」

美穂「呼んじゃったら騒ぎになるんじゃ」

P「行方不明になったら洒落にならない、本来ならもう呼ぶべきなんだけど」

美穂「そうなったら本当にこのお仕事、なくなっちゃいますね」

P「緒方さんがショックを受けるだろうからなあ、頑張り屋なんだけど空回る時があって」

美穂「あんなに人気があるのにですか?」

P「完璧超人がトップになれる世界でもないよ」

美穂「そう……ですよね」

92: 2013/11/22(金) 17:25:41 ID:K/0J2tp2
P「緒方さんは……」

美穂「何かあったんですよね?」

P「緒方さんの言葉の中で一つ、印象に残ってるのがある」

美穂「何ですか?」

P「見捨てないで下さい、って言ったんだ。事務所に入って二か月くらいたった時だけど」

美穂「み、見捨てないで下さい?」

P「まあ、俺がまだトレーナーという名の研修期間だった時の話だよ」

93: 2013/11/22(金) 17:27:25 ID:K/0J2tp2
智絵里「……」

女P「こんな所にいた、ああもう涙目になってどうするの。失敗一つしただけでしょ?」

智絵里「でも、最初からこんなので……」

女P「最初も最後もない、少し時間を取るからそれまでに拭いておきなさい」

智絵里「あ……でも汚れて」

女P「そんなの気にする訳ないでしょ」

智絵里「……ありがとうございます」

女P「アイドルなんだから、当然の様に受け取ればいいのよ」

智絵里「いえ、心配…してくれてるんですから」

女P「もう……10分後に再開するから」

94: 2013/11/22(金) 17:27:56 ID:K/0J2tp2
P「お取込み中でしたか?」

女P「ん? ああ、新人か」

P「ええ、今日は見学させて頂きます」

女P「好きにしてていいわよ、智絵里が主役の撮影だから」

P「ありがとうございます、後でお話を伺っても?」

女P「ええ、最後までいるのなら」

P「そのつもりです」

女P「何時に終わるか分かっている?」

P「今日の撮影スケジュールなら、日が変わるまでには終わりそうだと思ってますが」

女P「……どこかで経験あるの?」

P「まあ、それなりには」

女P「そう、ならいいわ。経験があるなら話せる事も少ないと思うけど」

95: 2013/11/22(金) 17:31:06 ID:K/0J2tp2
P「そうでもありませんよ。では宜しくお願いします」

女P「こちらこそ、じゃあ行くわね」

P「緒方智絵里か……デビュー二か月でドラマの主演、主題歌は20万枚。凄いな」

千秋「全くね」

P「……共演者の方ですか?」

千秋「せめてその持ってる台本に目を向けようとは思わないのかしら?」

P「黒川千秋、さん?」

千秋「それ位の漢字は読めるようね」

P「すみません、まだ全てのアイドルを把握できていないものですから」

千秋「いいわ、知らなくて当然。これが初仕事だから」

P「それで役を貰えて……バーターですか」

96: 2013/11/22(金) 17:32:01 ID:K/0J2tp2
千秋「そう、彼女のおまけ。面と向かって言うなんて色んな意味で清々しいわ」

P「それでもチャンスを貰えるんですから、見どころがあると思われてるんでしょう」

千秋「さあ、どうかしらね?」

P「出番までまだあるんですから、控室にいては?」

千秋「いいじゃない、撮影の空気を感じるだけでも勉強になるわ」

P「控室にいても緊張で落ち着けませんか」

千秋「……私に言ってるの?」

P「隠したいなら台本は持ってこない方が良かったですね。
  震えてますよ」

千秋「台詞合わせ、お願いできる?」

P「いいですけど、ちょっと待ってもらえます?」

97: 2013/11/22(金) 17:32:34 ID:K/0J2tp2
千秋「ええ、私も見たいから」

P「主役が戻ってきた」

少女「幸せはー歩いてこないーだーから歩いて行くんだねー」

妖精「しあわせってなあに?」

少女「幸せ?」

妖精「どこにもないよ?  みえないし、つかまらない」

少女「うん、それでいいんだよ。どこにもないから、幸せなの」

妖精「そんなのつまんない」

少女「つまらないかな?」

妖精「かんたんになんでもできたほうがたのしいよ」

少女「何でも出来ちゃったら、きっとその方がつまらないと思う」

妖精「そうかなぁ?」

少女「だから……私はこの道を歩こうって決めた」

98: 2013/11/22(金) 17:33:14 ID:K/0J2tp2
P「そもそもどんなドラマなんですか?」

女P「まあ、有体なハートフルな感じ。企画段階でそれは明言されてて、その通りの脚本ができあがった」

P「少女が妖精と旅をしながらその場その場で幸せを探す物語、朝には丁度いいかもしれませんね」

女P「重いストーリーなら他に適任がいるから」

P「クローバー一つで幸せになれたら苦労しませんけど」

こずえ「なれないの?」

P「君はどう思うのかな?」

こずえ「あなたたちにはむりかも」

女P「私まで巻き込まれたじゃない」

P「そんな事を言われても」

99: 2013/11/22(金) 17:33:47 ID:K/0J2tp2
こずえ「じぶんがしあわせになっちゃいけないってかおをしてる」

P「……そんな顔、してますか?」

女P「私に聞かないでよ」

こずえ「ちょっとねてるね、でばんきたらおしえて」

P「あの子、何者なんですか?」

女P「遊佐こずえ、11歳」

P「出番も多いんですよね? 寝てますけど」

女P「台本はすぐに覚えるから問題ないのよ、杏も同じタイプだけど年齢を考えたら彼女以上の才能かも」

P「天才ですか、確かにあの落ち着きは見事ですが」

千秋「そろそろいい?」

P「ああ、お待たせしてすみません。今から行きます」

100: 2013/11/22(金) 17:34:54 ID:K/0J2tp2
千秋「こんなところかしら」

P「こんなところでしょうね」

千秋「言いたい事があるなら言いなさい」

P「いえ、充分だと思います。役も合ってるかと」

千秋「幸せから逃げ続ける哀れな女の役が?」

P「どんな役でもこなせれば評価は上がりますよ」

千秋「言ってくれるわね」

智絵里「あ、すみません。えっと…入っても」

P「入りにくかったですか? すみません、もう出ますので」

千秋「邪魔者みたいじゃない」

智絵里「いえ…あ、わ、私ちょっと出てます!」

101: 2013/11/22(金) 17:35:54 ID:K/0J2tp2
P「何であんな事を」

千秋「そんなつもりなかったわ……探してくる」

P「後悔するなら最初から柔らかく接すればいいんです」

千秋「分かってる!」

P「……個性派が多いなあ、ここ」

女P「智絵里は?」

千秋「控室に戻っては来た」

女P「何となく分かった、慣れてないのが二人もいて怖気ついたのね」

千秋「本番の集中力はどこにいったのやら」

女P「そんなの私が聞きたい、探してくれてたのね。ありがと」

102: 2013/11/22(金) 17:36:26 ID:K/0J2tp2
千秋「原因は私にもありますから」

女P「スタジオからは出れないはずだけど……」

千秋「探すのであれば行きますが」

女P「本番前でしょう?」

千秋「外の空気を吸いに行きたかった所ですから」

女P「誤解してたわ、意外と面倒見がいいのね」

千秋「それこそ誤解です」

智絵里「また…やっちゃった」

千秋「こんな所にいたのね」

智絵里「ふぇっ!?」

千秋「どんな鳴き声よ」

智絵里「すみません……」

103: 2013/11/22(金) 17:37:02 ID:K/0J2tp2
千秋「謝らないで、悪かったわ。あんまり人当たりが良くないの」

智絵里「えっと、えと、次、一緒に撮影ですね」

千秋「そうね」

智絵里「あ、いいドラマになると…いいですよね」

千秋「そうね」

智絵里「うう……」

千秋「ふふっ」

智絵里「ふぁ?」

千秋「ごめんなさい、困ってる顔も可愛いのね」

智絵里「あ、あの顔が」

104: 2013/11/22(金) 17:37:33 ID:K/0J2tp2
P「スタジオの裏でスキャンダルですか」

千秋「いつ出てくるのかと思ったわ」

P「その度胸を撮影でも活かしてくださいね」

千秋「見てなさい、ぎゃふんと言わせてあげる」

P「ぎゃふんって……いくつでしたっけ」

千秋「20よ」

P「げ、年上」

千秋「跪いて敬語を使いなさい」

P「とりあえず後ろで固まってる子をどうにかする方が先でしょう」

智絵里「もしかして、探しに来てくれたんでしょうか」

P「まあ、他にすることもなかったから」

105: 2013/11/22(金) 17:39:46 ID:K/0J2tp2
智絵里「あの……」

P「本当に気を遣わなくていいから、寧ろ俺が使わなくちゃいけない訳で」

智絵里「貴方達は私を」

千秋「何?」

智絵里「見捨てないでくれますか?」

P「……何だったんでしょうか」

千秋「誰かに捨てられたんじゃない?」

P「そんな投げやりな」

千秋「私に聞かないで、撮影ね。行きましょう」

女P「私を見捨てないで?」

P「いきなり言われて驚きましたよ、何かあったんですか?」

106: 2013/11/22(金) 17:40:20 ID:K/0J2tp2
女P「統括のせい」

P「統括?」

女P「詳しくは言えないけど、どうやら見限られたみたい」

P「人気あるのに?」

女P「扱いづらいタイプではあるから、彼も忙しいのを多数抱えてるから手が回りきらないのもあったんでしょうけど」

P「じゃあ女Pさんも」

女P「言われた、捨てられた子犬みたいな目で」

P「俺もプロデューサー候補だからあんな事……」

女P「嬉しくないわよね、あんな事を言われたって」

P「統括ってどんな人なんです? まだ会った事がなくて」

女P「優秀、欠点はアイドルも自分も道具としか思ってないところ」

P「自分も?」

107: 2013/11/22(金) 17:40:55 ID:K/0J2tp2
女P「目的を達成するためなら自分の命も平気で捨てそうって思った、私の想像だけれど」

P「機械みたいな感じを想像してしまうんですが」

女P「それで間違ってないから大丈夫、会えば分かる。それより今は目の前の撮影に集中しなさい」

少女「貴方の幸せは……どこにあるの?」

妖精「むりだよ、このひとにしあわせなんてない」

女「無理よ、誰にも見つけられない。見つけさせない」

少女「必ず見つけます」

女「好きにしなさい」

P「撮影に入るとがらっと変わりますね」

女P「千秋も前見た時より緊張がないわね、こずえも無理してないし」

P「まあ、80点くらいは付けられますか」

108: 2013/11/22(金) 17:41:38 ID:K/0J2tp2
女P「智絵里は?」

P「98点」

女P「ああいう演技が好きなの?」

P「自分を完全に捨てられるって憧れるんですよね」

女P「でもあれは」

P「まあ、確かに褒められた事ではありませんけど」

女P「どうしたらいいと思う?」

P「それは……女Pさんの仕事だと思いますよ」

美穂「褒められたものじゃないんですか?」

P「本当に上手い人は自分の色を役に落とし込む、見てる人に意識させないレベルでね。まあ、そうは言ってもそんなのベテランにしか出来ないから」

美穂「もうちょっと……人間味を持つとかですか、難しいです」

109: 2013/11/22(金) 17:42:09 ID:K/0J2tp2
P「演技に正解なんてないからね、極論を言っちゃうと数字が取れたらそれでOKな訳だし」

美穂「でも、どこからクローバーが出てくるんですか?」

P「千秋さん演じる女性の幸せの鍵がクローバーで、紆余曲折ありながら最後にそれを見つけて撮影は終わりだった」

美穂「その後に何かあったんですか?」

P「じゃあ、そこから話そうか」

女P「皆、お疲れ様。疲れたでしょうから、早く帰りましょう」

千秋「終わってみれば早いものね」

P「そうですね、足の震えも収まってます」

千秋「……最後まで言ってくれるわね、見てなさい。次に会う時は思い知らせてあげる」

P「楽しみにしてます」

こずえ「もうおわりー?」

110: 2013/11/22(金) 17:43:04 ID:K/0J2tp2
智絵里「うん、楽しかったね」

こずえ「ばいばい、おねえちゃん」

P「何か、育ちの良さそうな人が迎えに来てますけど」

千秋「迎えね、かなりの資産家なんじゃない?」

P「よく分かりますね」

千秋「私の家も似たようなものだから」

P「アイドルって……まあそういう家だからできる仕事って面もありますけど」

智絵里「はい……あ、ありがとうございます」

女P「何かもらったの?」

智絵里「クローバーです……撮影に使った記念にって」

女P「へえ、良かったじゃない」

智絵里「最後までいてくれて、ありがとうございます。記念にしますから……頑張ります」

111: 2013/11/22(金) 17:44:30 ID:K/0J2tp2
女P「え、ええ」

P「その時さ、俺も女Pさんも言葉の意味を理解できてなかったんだ」

美穂「分かります」

P「分かるんだ、他の子に聞いても同じ反応になるのかな」

美穂「朝、おはようございますから始まって……仕事が終わってお疲れ様でしたって言って。そんな些細な事でも、嬉しいんだなって思ったんです」

P「俺は後から知った、統括はあんまり仕事に付かないって。営業に割く時間が多いからなんだろうけど」

美穂「現場で一人は慣れました、スタッフさんが付いてくれる時もありますから寂しいとは思いません。思わないんですけど……」

P「マネージャーがいないんだよなあ、四人だけだとどうしても限界が出てくる。スタッフはあくまでスタッフで仕事に対する決定権がない」

美穂「だから智絵里ちゃん、嬉しかったんだと思います。初めて最後まで付いてくれた仕事の記念品かあ……」

P「小日向さんは……統括とはどう?」

112: 2013/11/22(金) 17:45:18 ID:K/0J2tp2
美穂「厳しい方です……でも何だか余裕がないように見えて」

P「……そう。やっぱり、けりをつけた方がいいんだな」

美穂「プロデューサー?」

P「寂しくなるかもな」

「きゃああああああああ!!」

美穂「悲鳴!?」

P「緒方さんか?」

女P「今のどこから!?」

P「こっちです!!」

女P「智絵里!! いるの!?」

美穂「返事が……」

P「ええ、救急で。場所は――」

113: 2013/11/22(金) 17:45:50 ID:K/0J2tp2
智絵里「もう……大丈夫だから……」

女P「智絵里!!」

智絵里「少し、滑っちゃいました……」

女P「クローバー一つで何で……」

智絵里「最初はそうだったんですけど……ほら……」

女P「って……鳥?」

智絵里「羽…怪我してるみたいだったから、追いかけてたら……」

女P「はあーっ、あのねぇ」

智絵里「でも、そのお蔭で見つけました」

P「クローバー……」

美穂「初めて見ました」

114: 2013/11/22(金) 17:46:34 ID:K/0J2tp2
女P「ほら。手、貸しなさい」

智絵里「これで、お仕事きちんとできましたか?」

女P「あのね、智絵里」

智絵里「はい! 褒めてくれますか?」

女P「ああもう! 泥だらけになってまでやれなんて言ってないでしょう!!」

智絵里「女Pさん?」

女P「何でそんなに頑張っちゃうのよ! 私の為にって、いつもいつも!」

智絵里「幸せをくれた…恩返しです」

美穂「ど、どうしましょう?」

P「俺は彼女達の間に今まで何があったかなんて知らないから、どうこう言うつもりはないけど。ただ、それでも」

美穂「プロデューサー、手が」

P「間違ってるとか合ってるとか関係なく……俺は見たくない」

115: 2013/11/22(金) 17:47:13 ID:K/0J2tp2
ありす「運ばれていったんですね」

P「誘導ありがとな」

ありす「何も言わずに放置しておいてそういう事だけ任せるのは卑怯だと思います」

P「小日向さんもごめんな、遅くなっちゃって申し訳ない」

美穂「いえ、元々は私達が暴走しちゃった結果ですから」

ありす「大丈夫なんですか?」

P「女Pさんは病院に行くって言ってたから俺は事務所に報告かな、救急隊の人も擦り傷だろうって言ってたから心配しなくてもいいと思うけど」

ありす「そうですか」

P「なあ、ありす」

ありす「はい?」

116: 2013/11/22(金) 17:49:38 ID:K/0J2tp2
P「俺の為になんて考えるなよ」

ありす「……私がどんな理由で仕事をしようと私の勝手です」

P「それでも、だよ」

ありす「考えておきます、一応」

終わり 次回は来週中に
シリーズ最長の3万7000字、主役はニューウェーブです。

117: 2013/11/22(金) 17:53:39 ID:5juoKyzQ

次回も楽しみ

引用元: ありす「心に咲いた花」