825: ◆f1paZe0QfUJl  2016/02/04(木) 11:37:05.83 ID:mEB/jpigo




前回はこちら


 【鬼は外、福は内】

《鎮守府》食堂


提督「え、えー……では、これより節分パーティーを行いたいと思う」


『いぇーーーーーーーー!!』

提督「まず豆をまく役を指名するので、し、指名された子は前に出てきてほしい」

提督「まずは……文月君、弥生君」

文月「ほわぁ! ヤッタ~♪」

弥生「弥生…がんばります」

文月「みんなが風邪ひかないよう、一生懸命お豆さん投げるよぉ~!」

提督「う、うむ、頑張りたまえ。では続いて――――――――」




提督「以上が豆まき役だ。そ、それで鬼役なのだが、熟考した結果、やはり前年と同じく私が――――」

漣「神通さん、金剛さん」(指パッチン

神通「え、えっと、提督、すみません……」(ギュッ

金剛『訳:鬼役やるとか言って、どうせまた逃げ出すつもりなんでしょ? そうはいかないんだからね!』(ギュウッ

提督「…………そ、そんな真似はもうしない」(目逸らし

漣「嘘乙! そんじゃ、鬼やる人は漣が当てていきますのでー。みんな、いいかな~?」

『いいともーーーー!!』



※このお話は、個性的な艦娘たちと提督の鎮守府での日常をたんたんと描くだけのものです。
過度な期待はしないでください。

鎮守府での四方山話シリーズ



826: 2016/02/04(木) 11:37:53.96 ID:mEB/jpigo

(艦娘、豆まき中・・・)


『覚悟しろや川内ィィーーーーッ!!』

川内(赤鬼)「!? 待って! なんでみんな、私のこと集中狙いするの!?」

瑞鶴「この時を待ってたわよ、夜戦バカァァァァァァァッ!!」

伊勢「締め切りが迫っててさ、今日は徹夜だなーって時にさ、夜戦夜戦って喚きたてられると……意外と結構、本気で殺意が湧くもんなんだよ?」(真顔

蒼龍「前に言ったよね? 文月ちゃんと弥生ちゃんの部屋の近くでは騒がないって……忘れたのかな? かな?」(ニコニコ

多摩「安眠を邪魔する者は頃す……」(指ペキペキ

球磨「お前の罪を数えろ」(首コキコキ

大井「どうせなら提督を脅し……お願いして、艤装で豆を撃てるようにしておけばよかったわ」

北上「それはマズイんじゃ……まあいいか」

曙「なんっべん、漣にぶっ飛ばしてもらったと思ってんのよ!」

朧「いつもね、神通さんがしょんぼりしながら謝りに来てくれるんだ」

潮「提督も寮の壁、防音にしようか悩んでました……」

木曾(青鬼)「まあ、これに関しちゃ全面的にお前が悪い。……球磨姉と多摩姉には逆らえねえんだ、悪く思うなよ?」(拘束

川内「き、木曾ーーーーー!?」

川内「那珂ー! 助けて、那珂ー!」

那珂「どっかーん☆」

川内「ヴァァァァァッ!?」

『やっちまえーーーー!!』



不知火(黄鬼)「ヒッ……グスン……し、不知火に落ち度でも……」

雷「へ、平気よ、不知火さん! 雷が痛いの痛いの飛んでいけしてあげるから!」

陽炎「ちょっと、誰よ!? 不知火に本気で豆ぶつけたの!! 出てきなさい、ぶっ頃してやる!!」

敷波「(やっばー……テンション上がって、力が入りすぎた)」

満潮「こいつです」

敷波「!?」

綾波「あらあら……♪」

827: 2016/02/04(木) 11:38:41.74 ID:mEB/jpigo

比叡(戦艦棲姫)「気合! 入れて! 鬼です!!」

大和(戦艦水鬼)「炒った大豆ごときに戦艦クラスの装甲が抜けるもんですか!」

文月「えへへ~、鬼は~外~だよぉ」

弥生「ふ、福は~内~」

比叡「ひえーっ! やーらーれーたー!」

大和「うぅ、炒った大豆には勝てませんでした……」

文月「ほわぁ、反省したぁ?」

弥生「悪いことしないなら…みんなとパーティーしましょう」

比叡大和「「(天使ですか……!!)」」



赤城「歳の数だけ豆を食べる……って、冷静に考えると残酷ですよね」

加賀「なんだか年齢を意識してしまって、気分が低迷します」

那智「い、言うな、悲しくなる」



伊良湖「そういえば、鳳翔さんと間宮さんって何歳ですか?」

鳳翔「さて、太巻きのおかわりを持ってこなくちゃ♪」(ソソクサ

間宮「私は太巻きロールの補充を……」(ソソクサ

伊良湖「あ、あの~?」

羽黒「(二十歳を越えたら年齢を聞いちゃダメ! って足柄姉さんが言ってました……)」



衣笠「(えっと、今年の恵方は南南東だっけ……)」(ハムハム

熊野「アム……ング……ンンゥ……!」

熊野「(こんなに太いの……くわえられませんわ…)」(ウルウル

青葉「(なんで熊野さん、ちょっとえOちぃ感じになってるんでしょーか……)」(モキュモキュ



提督「じ、神通君、川内君が大変なことになっているのだが」

神通「……川内姉さんにはいいお薬です」(目そらし

金剛『訳:隙を窺っても無駄だからね』

提督「だ、だから、そんなことはもうしないと……」

漣「ご主人様、豆ですよ、豆。はい、アーン♪」

提督「む……ぐ……」(アーン

神通「!?」

金剛「!!」

提督「…………」(バリボリ

漣「どうどう? ウマウマっしょ!」

提督「(恐ろしく喉が渇く……)」(モサモサ

神通「提督、あの、もしご迷惑でなければ……わ、私も)」

金剛「えっと、年の回数だけ豆を頬張るんだったっけ? じゃあ、神通の次は私の番ね!」

提督「」

841: 2016/02/12(金) 01:28:43.28 ID:OVyTRJI2o
戦艦《金剛》


金剛「(好きって言ってくれた、あの鋼太郎が……好きって言ってくれた……!)」

泣きたくなるぐらい、今の私は幸せに包まれている。
顔が熱い。火照りを抑えるように頬を挟む。
ああ、ダメ。顔が勝手ににやけてきちゃう。

艦妖精A「うーん、この粒子の放出具合」

艦妖精B「会えない時間が想いを強くしたって奴ですね」

金剛『訳:べ、別に会えなくて寂しかったなんてことはなかったわよ。ただ、やっぱり? 一緒にいてあげないと心配だっただけで……』

艦妖精C「はいはい、ごちそうさまですー。システム書き換え完了。放出粒子による損傷箇所の修復、現在80%」

金剛『訳:だーかーらー、私は別に鋼太郎のことなんて……って、ンン?』

ニヤニヤとからかってくる妖精さんの誤解をとこうとして、そこでようやく異変に気づく。

金剛「What !? なんデス、この桜の花みたいなの!?」

艦妖精A「今ごろ気づいたですか……」

艦妖精B「まさに有頂天状態だったから仕方ないですー」

金剛「ウ、ウゥ~……」

桜色の燐光の出所は背中の艤装。
途切れることなく舞い上がり、艦の床や天井に触れると、澄んだ音を残して吸い込まれていく。
まるで艦の中が満開の桜並木になったみたい。
幻想的な光景に見とれる私に、艦妖精さんが報告してくる。

艦妖精C「ま、どこの艦も今は似たような状況ですし、モーマンタイ。それより金剛さん、艦の修復完了したですー」

金剛「ハイ?」

艦妖精A「艤装の自己修復もです。かなり高揚した状態ですが、バイタルも問題なし」

金剛『訳:ど、どういうことなの、コレ』

妖精さんたちの言う通りだった。
艦橋を見渡して目が丸くなる。北方棲姫の艦載機による爆撃で砕けたはずの風防が元通りになっている。
風防だけじゃない。衝撃で故障して煙を吐いていた機材まで……。

艦妖精B「これは我々妖精が貴方たちに託した最後の切り札、その力の一端」

艦妖精A「誰かを守りたい、大切なもののために戦いたいという、艦娘さんの強い感情を元手に生成される《霧》のナノマテリアルのよーなものと考えていただけると」

金剛「(私、その頃は鎮守府にいなかったから、霧の艦隊がどんな連中なのか知らないけど……)」

ただ、この綺麗な花弁の一枚一枚がすごいパワーを秘めていることだけは理解できた。
それと……鎮守府のみんなも、私と同じぐらい、鋼太郎を大切に想っているということも。

金剛『訳:鎮守府に帰ったら、まーた騒がしくなりそうね』

ほんの少し気が重い。
さすがに全員ってことはないでしょうけど……勘違いで済まなくなった子、増えただろうし。

842: 2016/02/12(金) 01:29:56.92 ID:OVyTRJI2o
戦艦《大和》


大和「提督……大和も、ずっと同じ気持ちでした」

提督の愛しているという言葉、ちゃんと大和に届きました。ちゃんと届きましたよ。
超弩級戦艦《大和》の艤装適合者として、大本営で検査や調整だけを受ける日々。
常に監視され、なにをするにも許可が必要な軟禁生活。
待てど暮らせど、妖精さんに日ノ本の国最強の戦艦《大和》を建造してもらえる程、信頼された提督は現れず。
籠の中で飼われる鳥というのは、きっとこんな気持ちなのでしょうと考えながら、遥か彼方の水平線を眺めていました。
来る日も来る日も、待っていました。この、狭くて苦しい鳥籠から大和を大海原へ連れ出してくれる王子様を。
初めての大型建造で《大和》を建造してもらえる提督が現れたと聞いた時、たしかに大和は運命を感じたのです。

「ずっと、ずーっと提督のことを想っていました。初めて会った時、誰よりも素敵な人だと、最高の提督だと確信しました。けど、迷惑がかかると思って、今日までずっと想いを秘めてきました。それなのに、こんなに素敵な告白をしてもらえるなんて……幸せです、大和、嬉しいです!!」

そう、今日、この時、大和の願いは成就したのです!!

大和「神通さんではありませんが、体が火照ってきてしまいました」

最高の気分です。たとえ、行く先にどんな障害が立ち塞がろうと、今の大和なら鼻歌まじりに撃ち倒せます。

大和「あぁ、あぁあ! これが求め、求められる……愛しあう喜びなんですね! アハハッ、アハハハハハハッ!!」

艦妖精A「どっちが深海棲艦かわかったもんじゃねーです」

艦妖精B「提督さんやってしまいましたね……」

艦妖精C「まじひくわー」

感極まって笑い出した私を横目に、妖精さんたちがヒソヒソ話をしています。
なにか酷いことを言われている気もするけど、どうってことありません。
だって、私には提督がいるんだから。

大和「さあ、やりましょう、続きを始めましょう。提督の愛を補充できた大和に負けはありません!」

舞い上がる桜吹雪の中、宣言する。
これまでと段違いの速度で狙いを定めた主砲の先で、《中間棲姫》が大きな図体をさらしている。

大和「全主砲……斉射!! 薙ぎ払え!!」

轟音を響かせて発射される砲弾。それは、これまでのものと違って桜色の光に包まれていた。

中間棲姫『――――!!?』

桜色の砲弾は一条の光と化して、《中間棲姫》の展開したフィールドに突き刺さり、好物の砂糖菓子にかじりついたように大きく抉り取る。
直撃こそしなかったが、フィールドを失った《中間棲姫》の船体が戦くように傾ぐのを見て、自慢げに鼻を鳴らす。

大和「ふふん、どんなもんですか♪」

艦妖精A「おっふ……」

艦妖精B「たしかに我々、提督さんと固い絆で結ばれた時、真の力が発揮できるよう仕組みましたが……さすが弩級戦艦と言ったところでしょうか」

大和「…………」

固い絆で結ばれた……提督と結ばれた……なんて、素敵な言葉。

大和「(この戦いが終わったら、提督……大和のこと抱きしめてくれますよね。無事でよかった、ずっと私のそばにいたまえ……って、耳元で囁きながら)」

薔薇色の鎮守府生活に胸が踊る。
桜の舞はいまや嵐の域まで達していた。

大和「式はいつ頃がいいんでしょうか? 六月……でも日本だと雨が降るかもですし、お義父様やお義母様のお体に障ったらいけないし……それにウェディングドレスと白無垢、どちらが提督の好みなのかも……。ううん、鎮守府に戻ったら提督と打ち合わせすることがたくさん♪」

艦妖精C「(《霧》レポートにあった重巡《タカオ》の乙女プラグイン、この人も実装してんじゃないでしょーか)」

843: 2016/02/12(金) 01:30:51.14 ID:OVyTRJI2o
空母《蒼龍》


蒼龍「嬉しいなぁ……」

雪みたいにしんしんと降る桜の中、ぽつりと呟く。
実感はまだ追いついてないけど、提督に好きって言ってもらえたんだよね私たち。

蒼龍「あの提督が、ねえ」

大切だとか愛しいとか。
古株の漣さんや神通さん、学生時代からの友達の金剛さんにさえ、そういう言葉を口に出せずにいた提督が、だ。

蒼龍「鎮守府に帰ったら、文月ちゃんと弥生ちゃんと一緒に、うんと提督に甘えないとね」

大鳳『大丈夫でしょうか? な、泣いてしまわれるんじゃ……』

蒼龍「平気平気! これまで我慢したんだから、大鳳もいっぱい甘えちゃえ♪」

大鳳『……はい!』

元気のいい返事に笑みがこぼれる。
結局みんな、提督のこと好きなんだなぁ。

蒼龍「飛龍の多聞丸狂い、ちょっとわかっちゃったかな」

弓を握る手は、普段よりもずっと力に満ちていた。
みんなと一緒に鎮守府に帰ろう。提督のその言葉が、私たちを奮い立たせてくれたから。

蒼龍「さあ、いくよ! 艦載機妖精さんたち、準備はいーい!?」

艦載機妖精ズ『いつでもどーぞ!!』

蒼龍「それじゃあ、出し惜しみなくいくよ! 艦載機、全機発艦!!」

完全に修復された滑走路を抜けて、桜色の光に包まれてぼんやり光る艦載機が空へ駆け上がっていく。
もう、勝てないかもなんて気持ちは微塵も残っていなかった。


軽巡洋艦《神通》

神通「っ……ぅく……ぐす……!」

提督「」

漣『あ~ぁ、ご主人様ってばい~けないんだ、いけないんだ~。神~通~さん泣~かせた~、元~帥に言ったぁろ~』

モニター越しに漣さんが野次ってくるが、やめたまえ、その野次は私に効く、やめたまえ。

神通「ゴ、ゴメンなさい……。提督が鎮守府のみんなを大切にしてくれているのは、ちゃんとわかっているつもりだったのに……」

《神通》の艤装から、艦橋を埋め尽くす勢いで溢れる桜の花びら。
常春の夢境の中で、神通君が幸せそうに微笑んだ。

神通「――――提督の、一緒に帰ろうという言葉がとても嬉しかったから」

漣『普段思ってること口にしなさすぎですからねー、ご主人様。たま~に、ちょびっと不安になるんですよねー』

神通「フフ、漣さんの言う通りです」

不安にさせていたことが判明した、もう、この場から消え去りたい。

神通「……けど、やっぱり、ほんの少し複雑です」

ポツリと拗ねたよう……いや、恨めしそうに神通君が呟いた。
それに我が意を得たりと、漣君も肩をすくめて、私を非難してくる。

漣『ですよねー。正直、あんなこと言われて平気な艦娘いませんから。ご主人様、そこんとこちゃんと理解してます?』

提督「プ、プレッシャーをかけてしまったかね?」

漣『ハア~~~~、出たよっ、ちょっとマシになったと思ったらすぐコレですよ!』

神通「……本当ですね」

肺の中の空気をすべて吐き出す勢いで、これ見よがしに漣君がため息をつく。
隣の神通君のジトリとした……おそらく、心の底から蔑んでいるであろう視線に、胃がキリリと軋んだ。

漣『ご主人様ー? 自分がなにをやったか、みんなの戦いぶりをよっっっく見て考えてくださいねー』

提督「う、うむ――――?」

促されるまま、各海域の戦況を確認するため、海図を呼び出す。
中空に現れた海図の上、艦娘の操る艦船と深海棲艦の船で色分けされたユニットの動きを見て絶句する。
口を閉ざした私の代わりに、艦娘たちの船と繋いだままの通信が、彼女たちの勇ましい声を響かせていた。

844: 2016/02/12(金) 01:31:39.14 ID:OVyTRJI2o


曙『やってやる! やってやるぞー!!』

朧『島田流かな?』

潮『ほ、北方棲姫ちゃんの艦載機、全部切り払っちゃいそうだね……』

曙『よっしゃあぁぁぁぁっ!! 見てなさいよっ、このクソ提督ゥーーーー!!』

朧『まあ、曙の気持ちはわかるけど。今の私たち、絶対に強いよ』

潮『……うん!!』

不知火『陽炎、聞きましたか? 司令が、みんなで鎮守府に帰ろうと仰ってくださいました』

陽炎『はいはい、聞いてた聞いてた』

不知火『司令の期待に、いままでのご恩に報いる時が来たわ。状況、開始します』

陽炎『ま、ほどほどに頑張んなさい。……撃ち漏らした分は、陽炎がなんとかしてあげるから!!』

赤城『一航戦の誇り、忘れるわけじゃないけど……今日、この一戦は提督と鎮守府のみんなたのために!!』

加賀『そうね。頑張りましょう、赤城さん」

瑞鶴『あれあれ~? 先輩方、二人とも顔、赤いんじゃないですか~?』

赤城『ずっ、瑞鶴!』

加賀『……鎮守府に戻ったら覚えてなさい』

瑞鶴『はいは~い。いやぁ、熱いな~、初な先輩たちの反応でこっちまで顔、熱くなってきちゃった』

瑞鳳『アハハ……。瑞鶴、赤城さんたち、あんなにからかって大丈夫なのかなぁ』

祥鳳『ウフフ、ああやって自分の平静を保っているのよ』

瑞鳳『ああ~、なるほどぉ』

瑞鶴『そこォー! バラすなァー!』

845: 2016/02/12(金) 01:32:13.18 ID:OVyTRJI2o

北上『いや~、強烈だったねー、さっきの提督の命令。も~、ずいぶん焦らされた。ねー、大井っちー……ありゃ?』

大井『フッ…フッ…フッ……誰も私たちを妨げることなんてできないわ……』

北上『わーぉ』

球磨『木曾に教えてやるクマー。いい女っていうのは、男の期待に応えてやるもんクマ!』

凪ギノ海愛シイトイフ言ノ葉ニ猛ル多摩『フシュルルル……ニャアァァァアアアッ!!』

木曾『なるほど、そいつはいい女だ……つーか、多摩姉怖ェよ!!』

満潮『っとに、司令官のくせに言うことが温いのよ。この規模の海戦で誰も沈むな、なんて』

吹雪『そ、そうかな、カッコよかったと思うけど』

綾波『ですねー。それに、こういう方がウチらしくていいじゃないですか♪』

敷波『なー』

満潮『……そんなのわかってるわよ』(ボソ

敷波『え? なんだって?』

満潮『なっ、なんでもないわよ!!』

雷『さあ、みんな! 深海棲艦に反撃よ!! 司令官と一緒に鎮守府に帰りましょ!!』

熊野『コミュ障の振り絞ったなけなしの勇気、見習わずにはいられませんわ。まあ、別に私はコミュ障ではありませんけど!』

那智『形は違えど、あれも大和男児の生き様。まったく、羽黒や妙高姉さんの婿に欲しいぐらいだ!』

青葉『この海戦終わったら鎮守府に戻ってー、さっきの司令官の叫びを編集して、プレスの予約入れてー……クフフ、よーし、みんなのために青葉、頑張っちゃうぞ♪』

衣笠『そんなこと言ってるけど青葉の顔、真っ赤だぞ~♪』

イムヤ『今なら戦艦クラスと正面から殴り合いはできる気がする。気がするだけだから狙撃するけど!』

比叡『聞きましたか!? さっきの兄様の言葉、聞いてましたか伊勢さん!!?』

伊勢『うんうん、ちゃんと聞いてた。みんながやられるかもしれない場面、提督の激励でみんなが新しい力を得て復活……か。いいね、こういうベタベタなの、私は嫌いじゃないよ!!』

川内『よっし、艦も燃料も弾薬も完全回復! 万全の状態で夜戦だーーーー!!』

那珂『安心してねー、提督♪ 那珂ちゃんは負けないよ! だって、ファンがいる限りアイドルは絶対☆無敵だからね!!』

弥生『司令…官、見てて…ください。弥生、がんばります』

文月『えへへ~、司令官、司令官~、文月も司令官のこと大好きだよぉ~♪』

彼女たちの力強い叫びに応えて、全ての艦が機関最大で海原を駆け、立ちはだかる深海棲艦のことごとくを打ち破っていく。

846: 2016/02/12(金) 01:33:10.23 ID:OVyTRJI2o


軽巡棲鬼『コノ……舐メルナァ!!』

重巡ネ級『駄目ジャナイ! 氏ニカケテタ奴ガ復活シチャア…! 私タチミタイニ…沈ンデイカナキャアアア!!』

文月『……!!』

那珂『もぉ~、いまはぁ、那珂ちゃんのライブ中なんだからよそ見は禁止~!』

川内『アンタの相手は私たちだよ!!』

那珂『そ~れ、どっかーん☆』

軽巡棲鬼『グウゥゥッ…!?』

重巡ネ級『ナンデ…ヨォ……マジ気持チ悪イ』

ただでは沈まないと、《文月》に砲口を向けた《軽巡棲鬼》と《重巡ネ級》が、《那珂》《川内》の息の合った連撃に沈み、


伊勢『おりゃあぁぁぁぁ!!』

比叡『マイクチェック! 気合! バーニング!! 大丈夫です!!!』

港湾棲姫『……ココマデ、カ』

《港湾棲姫》のフィールドと装甲を物ともせず、《伊勢》《比叡》が怒濤の砲撃を叩き込み、


赤城『艦載機のみんな! ここが正念場よ、頑張りましょう!!』

加賀『正規空母の操る艦載機の力、舐めないでほしいわね』

瑞鶴『うっひゃ~! なにこれ、艦載機がめっちゃ軽いんだけど!? すごい、すごい、どこまでだって飛ばせちゃう!!』

空母棲姫『私ガ…沈……ム? イイエ……何度……火ノ塊ニナッテモ…!』

847: 2016/02/12(金) 01:34:05.16 ID:OVyTRJI2o

空母から飛び立った艦載機たちが、深海棲艦の新型艦載機を一蹴し、《空母棲姫》の船体へ致命的な一撃を落としていく。
目を疑うような光景に目を瞬かせる。

艦妖精A「大丈夫ですか? 提督さん」

提督「あ、ああ、問題ない」

妖精君の問いかけに、半分上の空で言葉を返すのがやっとだった。
いまの心境を表現するなら、耐えがたい悪夢から目を覚まして、安堵に胸を撫で下ろしている……そんな感じだ。

艦妖精B「懐かしいですね……」

艦妖精C「コレを見るのは、あの大海戦以来です」

妖精君の口にした『大海戦』という単語に心当たりはあった。いや、軍に関わる者なら誰もが知っていて当然の海戦だろう。
玉砕と思われた深海棲艦の大艦隊を、父や先生……元帥、そして当時、艦娘であった母と仲間の多くが、文字通り命を賭して勝利へ繋げた奇跡の一戦なのだから。

提督「父や先生も……これと同じ光景を見たのか」

艦妖精A「はいです。あの時の艦娘さんたちも、こうやって命を輝かせていました」

艦妖精B「あれはまさしく、我々が求めた希望の力」

艦妖精C「残念ながら、その力をもってしても、全員の生還は果たせませんでしたが……」

そう語る妖精君の面持ちは沈痛であった。
まるで、艦娘たちが命を落としたことに責任を感じているかのように。

提督「…………」

この凄まじい力でも切り抜けなかった戦場。
きっとそれは、地獄と呼ぶようなものだったのだろう。

漣『ご主人様、呆けてる場合じゃありませんよー』

神通「船体の修復完了……。お待たせしました、提督! 神通、いつでもいけます!!」

金剛『いまの私たちなら、どんな無茶な命令でもこなしてみせるわ。だから鋼太郎、命令を頂戴』

提督「……現在、交戦中の艦は引き続き敵艦の相手を頼む。《漣》《神通》《金剛》は《北方棲姫》を落とす!」

神通「了解しました!」

漣『ほいさっさー♪』

金剛『OK! いろいろあの子には聞きたいことあるし、沈まない程度に叩かせてもらうわ!!』

隣で神通君が頷き、漣君が親指を立て、金剛がパキパキと指を鳴らす。
動き始めた艦の進行方向には《北方棲姫》。

提督「――――いくぞ、みんな!! 悪しき夢を打ち破り、暁の水平線に勝利を刻め!!」

「「「――――了解!!」」」

心地よいほど力強い返事。

提督「……いま、楽にしてやるぞ」

艦妖精A「…………」

無自覚に呟いた言葉。
それが誰に向けたものなのか、それははっきりと答えることができない、
だが、いまの彼女たち……いや、私たちの前に敵はいないということだけは断言できた。

907: 2016/02/24(水) 00:52:20.11 ID:6y02tJT+o
超戦艦《北方棲姫》


フィールドを突き破って着弾する艦娘たちの砲弾。
金属の軋む音を上げて艦橋が震動し、右へ左へと床を傾ける。

北方棲姫「ホポポ……ポォ~♪」

奇妙な声を上げながら、北方棲姫がポテン、コロコロと床の上を転がっていた。

離島棲鬼「港湾棲姫達ハドンナ感ジカシラ?」

試しに通信を繋いでみるけど、返ってくるのはザアザアと耳障りな音だけ。
これはもう、全員沈んでるっぽいわ。

離島棲鬼「ココマデ、ノヨウネ」

北方棲姫「ホポ……ゥプ」

ずっと転がっていて気分が悪くなったらしく、うずくまって口を押さえ始めた北方棲姫の背中を擦りながら告げる。

離島棲鬼「北方棲姫、落チ着イテカラデイイカラ、艦ヲ停メテチョウダイ」

北方棲姫「ポ、ワ、ワカッタ」

離島棲鬼「オ水飲ム?」

北方棲姫「ノ、ノ…ム」

北方棲姫の持ち込んだ子供用バッグ……潰しにいく鎮守府の偵察ついでに、近くの町で購入した……から引っ張り出した水筒(同上)を手渡す。

北方棲姫「ンクッ…ンクッ……ポハー! マズイ、モウ一杯!」

離島棲鬼「ドコデ覚エタノ、ソンナネタ」

北方棲姫「ホ、ホッポハ日々進化シテルカラ……ウキュ!?」

コクコクと喉を鳴らして、可愛らしく飲んでいると思ったら、この子は。
生意気なことを言うお子様のおデコを指でつついておく。

離島棲鬼「気分ハ良クナッタ?」

北方棲姫「ヨクナッタ! ホッポ元気!」

離島棲鬼「ヨカッタ。ソレジャオ願イネ……チャント出来タラ、パパニ会エルカラ」

北方棲姫「! ホッポ頑張ル!」

よほど嬉しいのかピョコピョコ跳ねながら、機関を停止させるために艦とリンクを繋ぐ。
北方棲姫の意思に従って、ゆっくりとだが《北方棲姫》の動きが停まる。
既にこの海域に残っている深海棲艦は《北方棲姫》のみ。港湾棲姫や空母棲姫たちを片づけた艦娘たちの船も、直に提督の艦隊に合流するでしょう。
だから、ここが幕の下ろしどころ。

908: 2016/02/24(水) 00:53:12.55 ID:6y02tJT+o

離島棲鬼「聞コエルカシラ、提督サン?」

提督『……なんだね』

幸いにも、返事はすぐに返ってきた。
《北方棲姫》の機関が停止したことは、あちらも把握しているのだろう。
声だけの通信で表情は窺えない。けど、苦虫を噛み潰したような顔をしているのが目に浮かんで口元が歪む。

離島棲姫「降参ヨ。コノ戦イ、貴方達ノ勝チ。ゴ覧ノ通リ機関ハ停止サセタカラ、煮ルナリ焼クナリオ好キニドウゾ」

提督『……了解した。すべての武装を捨て、こちらの指示に従ってもらおう』

それを聞いたところで、プツリと勝手に通信が切れる。

離島棲鬼「ッ……フゥ」

あの状態の艦に干渉するのって、凄い負荷がかかるのね。
意識が落ちかけているのか、周りがやけに暗く感じる。

離島棲鬼「(今ノ私デ数秒持タセタダケ大シタモノヨ……)」

北方棲姫「離島棲鬼、ドウカシタ?」

すぐ傍にいるはずの北方棲息姫の声も遠い。
どうやら……時間が来たようだ。

北方棲姫「ホポ……ム、無視ハイケナイ、イ、イジメ駄目ゼッタイ」

反応できないでいるのを無視されたと受け取ったのか、チョイチョイと袖を引っ張ってくる。
無知で、無垢で、深海棲艦がどういう存在かも分かっていない……レ級と同じ哀れな存在。
最後にもう一度、頭を撫でようとした手は目的を果たすことなかった。
バキリと音を立てて肘の辺りから砕けて艦橋に散らばる。

北方棲姫「――――!? ――――!?」

                  いと
離島棲鬼「マッタク、本当ニ、忌々シイ子」

何か叫んでいる北方棲姫に微笑んで、私は崩れ落ちた――――

909: 2016/02/24(水) 00:54:00.12 ID:6y02tJT+o
軽巡洋艦《神通》


神通「……《北方棲姫》機関、完全に停止しました」

漣『他の深海棲艦も片して、残ってるのはアレだけですがー、どうします?』

提督「…………」

神通君や漣君の問いかけに少しだけ黙考し、答える。

提督「――――空母艦娘は周囲の警戒にあたってくれ。他の子たちはいつでも動けるよう、警戒しつつ待機」

神通「て、提督はどうされるのですか?」

そう尋ねる神通君の表情は硬い。
おそらく、これから私が行うことを予想しているのだろう。

金剛『HEY、提督ゥ。《北方棲姫》に乗り込むのはいいけどサー、ボディーガードは必要ネ』

漣『ですです。鎮守府のトップを生身一つで敵艦に向かわせるなんてのは、艦娘のプライドにかけて了承できません』

神通君の代わりに金剛、そして漣君が釘を刺してきた。
しかし、その忠告に首を振る。

提督「……大丈夫」

漠然とだが理解していた。
自分は、あそこに行かねばならないと。
自分を慕う北方棲姫と――――レ級のために。

提督「すぐに、戻る」

漣『あー、もう、普段は譲歩しまくりなくせに、こうなったらなに言っても聞かないんですから。しょーがないですねー……神通さん!』

神通「な、なんでしょうか?」

漣『《神通》は漣たちがきっちり守っておきますから、ご主人様の護衛シクヨロです』

金剛『ホントは私たちも一緒に行きたいデスガ、いくつも艦を無人にできないしネ』

神通「――――はい!」

提督「…………」

私の背後でそのようなやり取りが勝手に交わされていた。
気づかぬフリをして、足早に艦橋を去る。

神通「あ……て、提督、待ってください!」

漣『ちょ!? なんで味方艦の中で逃走してんですかー!?』

金剛『待テーイ! 神通、早く追いかけるネー!!』

提督「……!!」

特にこれといって走る理由はなかったのだが、追いかけられると理解した瞬間、体が勝手に駆け出していた。
体に染みついた習性なのだ、だから――――私は悪くない。

910: 2016/02/24(水) 00:54:49.47 ID:6y02tJT+o
超戦艦《北方棲姫》艦橋


<スン……グスッ……ウゥ……


神通「……泣き声、ですね」

提督「…………」(knock…knock

神通「あ……!」

<ヒッ……ハ、入ッテ…マス

提督「……中に入れてくれるかね」


トテトテトテトテ……ガ…ゴン


北方棲姫「ド、ドチラ様デスカ?」(ソローリ

提督「……それは扉を開ける前に尋ねた方がいい」

北方棲姫「ホポォ……パ、パパダァ!」(ボフッ

神通「!!」

提督「か、構えなくていい。神通君、落ち着きたまえ」

神通「ぁ……は、はい」

北方棲姫「ウグゥ、パパ……パパ~……」

提督「…………」(ナデ…

提督「ここには君だけしかいないのか?」

北方棲姫「ン」(フルフル

北方棲姫「離島棲鬼モイル……ケド、離島ガネ、離島……ホプゥ……」(ポロポロ

提督「……神通君、北方棲姫を見ててもらえるか」

神通「あの、提督、なにをされるつもりですか」

提督「危険はない……おそらく、たぶん」


神通「……え、と」

北方棲姫「」(ビクッ

北方棲姫「ホ……ホッポダヨ?」(ペコリ

神通「け、軽巡洋艦艦娘の神通です。どうかよろしくお願いします……」



提督「…………」

離島棲姫「ヤッパリ……来テクレタ、ワ、ネ」(ピキ…バキッ

提督「(体のいたるところがひび割れて、青白い靄のようなものが漏れている……)」

提督「もう長くはなさそうだな」

離島棲鬼「モトモト……限界ハ見エテイタ、ケ、ド……」

離島棲鬼「ク、フフ……レ級トハ、別ノプロセスデ育テテミタクテ、戯レニ母体ヲヤッテミタラ……残リノ力、ホトンド持ッテイカレタワ」

離島棲鬼「……コレハ、北方棲姫ニハ内緒ニシテオイテ、ネ?」

提督「ッ……その優しさを、何故レ級にも……!!」


離島棲鬼「…………」

提督「……結局、なにがしたかったのだ、お前は」

離島棲鬼「ソンナノ、貴方ガ一番ワカッテイルデショウ?」

提督「あの子を……北方棲姫を独りぼっちにしてまでか」

離島棲鬼「コレバカリハ……抗イヨウガナイワ……。ダッテ、ソレガ私達ノ持テル、タッタ一ツノ願イナノダカラ」

911: 2016/02/24(水) 00:55:29.91 ID:6y02tJT+o

ズンッ……ゴゴゴ……!!

神通「キャア……!? な、なに?」

北方棲姫「エ……エ……?」


漣『ご主人様、聞こえますか!?』

提督「漣君か、どうした。なにが起きた?」

漣『手短にぶっちゃけますとー、《北方棲姫》の船体が崩壊し始めてます!』

漣『かなりヤバげです! 沈没まであんまり時間ないぽっぽい!!』

提督「お、落ち着きたまえ」

漣『これが落ち着いていられますかー!?』

金剛『訳:そうよ! そんな深海棲艦、相手にしなくていいから、早く神通と一緒に脱出して!!』

離島棲鬼「フ、フフ、北方棲姫ノ負荷ヲ減ラスタメニ、私ガ艦ノ大半ヲ預カッテイタカラ、ネ」

提督「お前の体が崩れるのに合わせて、艦も崩壊を始めたということか」

離島棲鬼「私達ニハ、ヤッパリ深イ海ノ底ガ似合ッテイルワ。ダカラ、ネ? 北方棲姫ハ……貴方ニアゲル」

提督「……私が拒否したらどうするつもりなのだ」



北方棲姫「ポッ!?」(ガーン

北方棲姫「ホッポ、ヤッパリイラナイ子……?」(ショボリ

神通「ぁ……あの、えっと、提督は絶対にそんなこと言う人じゃないから、泣かないで?」(アセアセ



提督「…………」

離島棲鬼「アッチノ艦娘ハソウ言ッテルケド……?」

提督「……神通君、北方棲姫を連れて《神通》へ帰艦する。時間がない、急ぐぞ」

神通「よ、よろしいのですね?」

提督「責任はすべて私が取る。だから……頼む」

神通「……了解しました。北方棲姫……ちゃん? 私たちと一緒にここから脱出しましょうね」

北方棲姫「ポ……リ、離島ハ? パパ、離島棲鬼モ一緒ガイイ……」

離島棲鬼「イ、イノ……私ノ事ハ置イテイッテ」

北方棲姫「デモ……」

離島棲鬼「北方棲姫、アマリ……私ヲ困ラセナイデ」

北方棲姫「ウ、ウン……ホッポ、ワカッタ」

離島棲鬼「ソウ、イイ子。チャント提督ノ言ウ事ヲ聞イテ暮ラス…ノ……ヨ」


神通「さあ、北方棲姫ちゃん。提督も早く!」

提督「ああ、わかっている」

提督「(レ級……また君に別れを告げることができなかった、すまない)」

北方棲姫「離島……」

912: 2016/02/24(水) 00:56:59.89 ID:6y02tJT+o



離島棲鬼「…………」



――――目覚めて最初に感じたのは息苦しさ。

場所は暗い海の底。もがいた私の口から大量の気泡が溢れた。

不思議と呼吸はできるのに、体は貪欲なまでに救いを求めている。

苦しくて苦しくて、がむしゃらに体を動かして水面へ向かった。

青い空の下、どこまでも続く広い海……なのに、どうしてこの苦しさは消えないの?

教えてほしくて、目についた船に片っ端から縋りついた。漁船、ヨット、駆逐艦、巡洋艦、戦艦……艦娘。

けど、誰も教えてくれなかった。向けられたのは差し伸べる手ではなく、怯えと憎悪の詰まった眼差しだけだった。

どうして? なんで? そんなことを喚きながら、随分な数をお腹に収めた気がする。

そのうち、不細工な魚に似た体が今の形に近づいて、だんだん意識もはっきりしてきて理解した。


ソウカ、コレハ悪イ夢ノ続キナンダ――――


私達はただ海の中で眠っていたいのに、この夢は終わらない。

ある時は勝てる見込みもないのに敵へ特攻を仕掛け、またある時は、自軍の何倍もある規模の艦隊に囲まれて、雨のような砲弾と爆撃を浴びて沈む……それの繰り返し。

悔しくて、悲しくて、苦しくて、虚しくて、憎くて、憎んで、怨んで、そして叫ぶ。

もう、早く終わって。静かに眠らせて……と。

引き寄せられたみたいに集まった仲間のお陰か、苦しさはある程度紛れたけど、その気持ちは澱みのように、常に胸の奥で渦巻いていた。



《北方棲姫》の船体が致命的な悲鳴を上げた。
扉を突き破って流れ込む海水。ゴポゴポと沈んでいく艦橋。
冷たい水に浸かりながら、静かに笑う。

やっと、眠れる。

温い泥のような眠気に誘われて、ゆっくりと瞼を閉じる。

離島棲鬼「(アァ……デモ……ソウ、ネ)」

離島棲鬼「(ミンナデ……アアデモ…ナイ、コウデモナイ……ッテ言…ナガラ、アノ子達ト過ゴシタノハ……悪クナカッタ、カナ)」




「――――コンナトコデ寝タラ風邪ヒクヨ、離島棲鬼」


突然頭上から降って来た声に、途切れそうになっていた意識が揺り起こされた。
焦点の定まらない瞳を向けた先に立っていたのは――――

離島棲鬼「レ……級…?」

レ級「……ニヒ♪」

932: 2016/02/27(土) 01:20:02.31 ID:F7oeuXBpo
軽巡洋艦《神通》


北方棲姫「ホッポノ船……」

提督「…………!!」

水泡の中に消えていく《北方棲姫》に、北方棲姫が小さく手を振る。
甲板がすべて海に浸かり、次いで艦橋が飲み込まれていく。
その光景の中で私は見た。
自壊の影響で割れた艦橋の風防。その向こうに……レ級が立っていた。
崩れかけの体で離島棲鬼を背負い、こちらへ真っ直ぐに視線を送っていた。

レ級『バイバイ、提督』

ニッコリと……大輪のヒマワリを思わせる笑顔とともに敬礼して、こちらを振り返ることなく艦橋を出ていく。

提督「……っ……う」

エネルギー供給元として使われていた彼女が、どうして目覚めたのかはわからない。
ただ……レ級のあの笑顔に、後悔していたことが一つ許されたのだと思えた。

神通「て、提督、どうかされましたか……?」

北方棲姫「パ、パパ、ドッカ痛イ? バンソーコー、アル、アルヨ?」

提督「や……な、なんでもない」

気づくと涙が溢れていた。
慌てて顔を袖で拭い、適当な言い訳をする。

提督「戦闘が終わって、少し気が抜けたようだ……と、ぬ?」

口にした途端、膝から力が抜けてその場に尻餅をつく。
どうやら本当に気が抜けたらしい。

漣『あやや、ホントに大丈夫ですかご主人様?』

金剛『お疲れ様。格好よかったわよ、鋼太郎』

提督「金剛、か、からかうのはよしてくれ」

金剛『あら、からかってるつもりはないわよ』

提督「……ぬう」

漣『ご主人様が格好よかったのは完全に同意ですがー……その子、ホントに連れて帰るんですか?』

金剛『深海棲艦の言ってたこと、全部信じてるわけじゃないんでしょ? こういう言い方したくないけど、わざわざアナタが面倒事を背負いこむ必要ないわ』

北方棲姫「ホ、ホプ……」

槍玉に挙げられた北方棲姫が、ツツ…と滑るように私の背中に回り込む。
怯えて、この場で唯一助けを求められる相手にすがる様子は、鎮守府に引き取られたばかりの頃の文月君を思い出させた。

提督「その辺りは……元帥や他の上官たちの判断次第、だが」

私ごときの意見で、深海棲艦に育てられたこの子の処遇は決まらないだろうが、やれるだけのことはやってみよう。
諦めたように漣君と金剛が笑う。

漣『やれやれ、まーた頑固モードになっちゃってますよ』

金剛『アナタが決めたのなら、私は全力でサポートするだけよ……もう』

提督「す、すまない、迷惑をかけるな」

神通「いいんです……みんな、提督についていくって決めてますから」

床についた私の手に、ソッと自分の手を重ねて神通君も笑う。
艤装の手袋越しに手の温かさを感じながら、全艦隊に告げた。

提督「……みんな、帰ろう。鎮守府に」



『――――ハイ!!』
『了解!!』
『うん~!』

934: 2016/02/27(土) 01:21:42.78 ID:F7oeuXBpo




《孤島》


レ級「着イタヨ~、離島棲鬼。ミンナハ連レテコレナカッタケド……」

離島棲鬼「――――」

レ級「アハハ、モウ喋ルノモキツイカー」

レ級「レ級モ……チョット、疲…レタ」


ドシャ……!


離島棲鬼「ド…ウシテ?」(バキ…ピシ…

レ級「ンー?」

離島棲鬼「提督ノトコロニ行ケバ…ヨカッタ……ノニ」

レ級「……レ級ガ、ヤリタカッタカラ…カナ」

レ級「イイ……天気ダヨ離島棲鬼、眠ルノニ……丁度イイ」

離島棲鬼「フ……クク、氏ヌトコロヲ提督ニ見セタクナカッタノ? 氏ンデモ馬鹿ハ治ラナカッタノネ」

レ級「――――エヘヘ♪」


バキ……ギキッ……ガシャンッッ!!


レ級「」

離島棲鬼「本当ニ……馬鹿ナ子」

離島棲鬼「海ノ底デズット眠ルンダト思ッテイタノニ……コンナ、太陽ノ下デ…ナンテ」(ツ…

離島棲鬼「ゴメンネ……北方棲姫ヲ産ムマデ、コンナ気持チ…忘レテイタノ」

離島棲鬼「レ級……北方棲姫……今度ハ…シズカナ……静かな…時代で、きっと――――」

935: 2016/02/27(土) 01:33:37.16 ID:F7oeuXBpo
(誰得のシリアスと拙い文章に)耐えた! 耐えた! 耐えた耐えた! 耐えたぁ~! 耐えたぞぉぉ!
北方棲姫編これにて完全に終了。次から日常話再開します

「どう、美味しっ?」

提督「……ああ、美味しいよ、漣君」

漣「エヘヘ、それじゃおかわり、ア~ン♪」

提督「やめたまえ……これ以上、私に追い打ちするのはやめたまえ……」

漣「だが断る」

提督「」

960: 2016/03/01(火) 02:09:51.27 ID:NP2sL9ZJo
(神通の場合)

(夜)
《鎮守府》執務室


提督「……め、珍しいな、神通君から飲もうと誘ってくるなんて」

神通「その、ご迷惑……だったでしょうか?」

提督「いや、そ、そんなことはないぞ」

神通「よかった……。あ、それじゃすぐにお酒とおつまみの用意しますね」



(神通、酒盛り準備中・・・)


提督「ふむ、神通君がウイスキーをチョイスするとは。つまみはチーズにクラッカー、ドライフルーツ……それにチョコ、か」

神通「よ、洋酒と甘いものは相性がいいって那智さんが教えてくれたんです」

神通「あ、あと果実ジュースで割ったりすると、とっても飲みやすくて私でも大丈夫でした」

提督「(ふむ……最近、日本酒以外のお酒も耐性がついてきたと那珂君も言っていたのは本当だったか)」

提督「ま、まあ、飲みやすいからといって油断しないようにな」

神通「そうですね、気をつけます」

神通「せっかく、提督と二人きりでお話できる時間……潰れたらもったいないですから」(ニコリ

提督「うぬ……か、乾杯、しようか」

神通「ハイ♪」



(2時間後)

神通「提督…」(肩に頭預け

提督「き、気分が悪くなったのか? ま、待っていたまえ、すぐに水を持ってくる」

神通「…………!」(ギュゥッ

提督「うぬ!?」

神通「提督……今日は、私……よ、酔ってないです」

提督「~~ッ」


【この後、無茶苦茶火照った】

961: 2016/03/01(火) 02:11:56.07 ID:NP2sL9ZJo
(金剛の場合)


金剛『訳:ハイ、これ』

提督『訳:有名店のチョコ……どうしたのだ』

金剛『訳:どうしたもこうしたも。バレンタイン、チョコあげられなかったから。作戦お疲れ様の意味も込めて、よ』

提督『訳:な、なるほど。……食べてもいいのか?』

金剛『訳:いいに決まってるでしょ。買うのにすっっごく並んだんだから、ちゃんと味わって食べてよね!』

提督『訳:も、もちろんだとも。以前からここのチョコには興味があったのだ』

金剛『訳:……どう、美味しい?』

提督「うむ……こ、これは間宮君のチョコに勝るとも劣らない至高の一品だっ」(感激

提督「もう一ついただこう」(モキュ

金剛『訳:ね、鋼太郎、私にも一個ちょうだい?』

提督「ムグ……ああ、もちろ――――ング!?」

金剛「ンッ……チュッ…クチュ…」

提督「!!?」

金剛「アム……ン…レル……」(ギュゥゥゥッ




よい口づけとは、悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、愛のように甘い(以下略




金剛「――――プハッ」

金剛『訳:ご、ごちそうさま』(服整え

提督「」

金剛『訳:え、っと……わ、私、午後から演習があるから! じゃ、じゃあっ、そういうことで……!』


パタパタ……バタンッ!!





ガチャッ…

比叡「お疲れ様ですっ、兄様! 金剛姉様に代わり、比叡が気合! 入れて! 午後の執務をお手伝…いぃ~?」

比叡「兄様、机に突っ伏して悶絶して、どうかされましたか?」

提督「ソットシテオイテクレ……」

比叡「は、はあ」(U´・ω・`)?

979: 2016/03/03(木) 16:26:00.35 ID:KYSFLg2to
《蒼龍の場合》


(居酒屋)

蒼龍「それでね~、提督がね~、通信繋いで~、や~もぉ~、恥ずかしいじゃな~い♪」

飛龍「はいはい、もうそれ何回目よ……」

蒼龍「あによ~? 飛龍だっていっつも多聞丸~、多聞丸~って言ってるんだから聞きなさいよ~、聞いてよぉ~!!」(ジタバタ

飛龍「私ってそんなに多聞丸って言ってるの!?」

蒼龍「エヘ、エヘヘヘ、それでね~、私も提督のことだぁい好き~♪」

飛龍「これっぽっちも人の話を聞いてない!?」

蒼龍「でもねえ、鎮守府に帰ってから、提督好きだった子たちがアタックかけてて不安なわけよ……。特に漣さん、神通さん、金剛さんがねー、ただでさえ提督と仲良かったのに、なんかこういい雰囲気でさー……わかる?」

飛龍「ゴメン、これっぽっちもわかんない」

蒼龍「あー、ダメだねー、飛龍はぜんっぜんわかってない!」

飛龍「(こっの、メンドクサイなー、酔っ払いは!!)」

飛龍「あー、もう! そんなに不安なんだったら、思い切って告白でもなんでもしちゃえば!? そんな立派な艦爆ついてるんだから、爆撃でも着艦でもやればいいじゃない!!」

蒼龍「……飛龍」(真顔

飛龍「あ……ゴメン、冗談にしてもちょっとふざけすぎた――――」

蒼龍「あなた、あったまいい~!」

飛龍「え、ちょっと……」

蒼龍「じゃあじゃあ、渡そうと思って渡せてなかったバレンタインチョコ使って~、ウフ、ウフフ~」(フラフラ

飛龍「そ、蒼龍? どこ行くの、蒼龍!?」




飛龍「――――え、お勘定、私持ち?」

980: 2016/03/03(木) 16:27:20.13 ID:KYSFLg2to
《鎮守府》執務室


蒼龍「はーい、提督~、バレンタインチョコのお届け物で~す♪」(バーン!

提督「そ、蒼龍君? どうしたのだね、そんな急……むっ、その、かなり飲んでいるな……」

蒼龍「エヘヘヘ~、この間の作戦お疲れさま~って飛龍が誘ってくれて~」(フラフラ

蒼龍「そんなことより~、はい、どーぞ! 蒼龍からのバレンタインチョコで~す!」(ダッチューノ!

提督「(む、胸の谷間……の奥にチョコの箱らしきものが……!)」

蒼龍「えっと、早く取ってくれないとチョコが溶けちゃうから……ね?」(ズズイッ

提督「い、や……そこから出して渡してもらえれば……」(目逸らし

蒼龍「提督に、取って、もらいたいな♪」(ムギュゥゥッ

蒼龍「……ちょっとぐらいなら触ってもいいですよ」(ヒソッ…

提督「」




(翌朝)


《鎮守府》食堂


蒼龍「」(顔押さえ

文月「蒼龍ちゃん、どしたの~?」

弥生「き、気分…悪いんですか?」


漣「あ、いたいた。蒼龍さんー、なんか別の鎮守府にいる飛龍さんから電話がありましてー、『今度代金半分払ってもらうからね!』と伝えてくださいって。財布でも忘れました?」


蒼龍「……私って、ホント馬鹿」(ハイライトOFF

漣「蒼龍さん、それ別の青色の台詞」

983: 2016/03/03(木) 21:31:22.85 ID:KYSFLg2to
(大和の場合)

《鎮守府》提督の自宅

提督「は、ぁ……」

提督「(今日も、疲れた。執務もそうだが……最近、みんなが、ひ、必要以上にスキンシップを求めてきて……)」(キリキリ

提督「鳳翔君の店に寄る元気もないので、そのまま帰ってきたが……な、なにか食べるものはあっただろうか?」


ガチャッ・・・

提督「ただ……い…ま」

【人ひとり入れそうな大きな箱】

提督「……テーブルに置手紙が」

『提督へ
 お仕事お疲れさまです。
 みんなのために頑張ってくれている提督のために、とっておきのチョコレートを用意しました。
 少し遅めのバレンタインチョコ、たっぷり召し上がってくださいね♪
                                   大和より』


【大きな匣】『――――クチュン!』

提督「……」(ゴクリ

【大きな匣】『な……中に誰もいませんよー……』

提督「(――――いるのだな、中に)」(ハイライトOFF

提督「と、とにかく開けてみるか」

提督「(一晩放置するというわけにもいかんしな……)」


ガサゴソ……ビリ、バリバリィッ

大和「え、えっと……ジャンジャジャーン! はい、どうぞ! バレンタインチョコと大和をプレゼントです、存分に味わってくださいまし♪」(万歳

提督「ときどき君はおかしな方向に暴走するな……」

大和「う、うぅ、まさかあそこでクシャミが出るなんて、不覚です」

提督「(それ以前の問題だったと思うが……。家の鍵をどうしたのかなど、聞きたいことは山ほどあるが……疲れているから、今日はもう、どうでもいい)」(思考放棄

提督「コーヒーを淹れるので、適当に座っていたまえ……。チョコレートをいただくよ……」

大和「! はい、喜んでー!!」(パァァァッ




提督「熱いから気をつけて飲みたまえ」

大和「提督……ありがとうございます」

大和「あ、チョコレートです、どうぞ召し上がってください! 大和が腕によりをかけて作ったんですよ」

提督「ああ、いただこう……」(モグムグ

大和「~~~~♪」(ジィーーーー

提督「……ひ、一つどうだね? 君が作ってくれたものだが」

大和「!!」(ピコーンッ

大和「じゃ、じゃあ……ア~ン」(ワクワク

提督「」

大和「ア~~~~ン♪」(ワックワック

提督「」(ホプゥ…

大和「ハム……ン~、ウフフフ、大和、幸せな気分です」(恍惚

提督「……よかったね」(ズズズ…

大和「それでは提督、お返しのア~ンです♪」

提督「……アーン」(氏んだ魚の目

943: 2016/02/27(土) 02:01:45.57 ID:PuAAHMvtO
乙です


次回はこちら



引用元: 【艦これ】提督と艦むすの鎮守府での四方山話9