1: 2011/11/06(日) 18:34:11.48 ID:2UVZ2E+p0
岡部「…なあ、ばあさんや」

紅莉栖「何ですか、あなた」

岡部「飯はまだか?」

紅莉栖「さっき食べたでしょ」

岡部「そうか」

紅莉栖「はい」

岡部「話し変わるが昼飯は何だ」

紅莉栖「話変わってねーよ」

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――2079 10/7 13:02――

2: 2011/11/06(日) 18:38:20.86 ID:2UVZ2E+p0
岡部「なぁ助手」

紅莉栖「助手じゃありませんよ」

岡部「そうか」

紅莉栖「はい」

岡部「では取手よ」

紅莉栖「とりで? 助手でしょ。活字でしかできないボケをかまさないでください」

岡部「そうか、すまない助手よ」

紅莉栖「違います」

岡部「そうか」

紅莉栖「………」

岡部「なぁセレセブ」

紅莉栖「よりにもよってそれですか。もうセブンティーも超えてるってのにそれですか」

4: 2011/11/06(日) 18:42:20.20 ID:2UVZ2E+p0
岡部「おーい助手」

紅莉栖「違いますよ」

岡部「そうか、すまない」

紅莉栖「もう少し、それそっぽい名前があったでしょ」

岡部「何だっただろうか」

紅莉栖「『ク』で始まるものですよ。ちなみに外国人ぽい奴じゃありませんよ」

岡部「………」

紅莉栖「………」

岡部「クリ腐ティーナ」

紅莉栖「あんたわざとやってませんか?」

岡部「ザ・ゾンビ」

紅莉栖「腐っているのはお前だ」

6: 2011/11/06(日) 18:46:06.67 ID:2UVZ2E+p0
娘「ただいま、母さん」

紅莉栖「あら、おかえり」

娘「ただいま、父さん」

岡部「ん? ええと、あなたは…」

娘「………」

紅莉栖「………」

岡部「…すまない。何でもない。よく帰ったな」

娘「うん」

紅莉栖「お茶淹れてきますね」

岡部「あぁ、頼む」

娘「私も手伝うわ、母さん」

紅莉栖「うん。じゃあ、行こうか」

8: 2011/11/06(日) 18:50:10.89 ID:2UVZ2E+p0
~台所~

娘「…父さん、体調はいいみたいね」

紅莉栖「うん。すごく穏やかよ」

娘「…さっき、私のこと忘れかけてたのかな」

紅莉栖「………」

娘「分かってはいたことだけど、実際に言われるとやっぱり辛いなぁ…」

紅莉栖「…そうね」

娘「…でも、これでいいんだよね?」

紅莉栖「そうね。あの人が望んだことだもの」

娘「…そっか」

紅莉栖「…ごめんね」

娘「母さんが謝ることじゃないよ。そりゃ最初は納得できなかったけど、もう私も受け入れられたから」

紅莉栖「…そう」

11: 2011/11/06(日) 18:54:26.08 ID:2UVZ2E+p0
コポコポ

娘「…母さんはさ」

紅莉栖「なに?」

娘「…悲しくなったりしない?」

紅莉栖「…そうね」

紅莉栖「別にそういうのはないかな。もう慣れちゃった」

娘「…まぁ、あの父さんの妻を何十年もやってればそれなりに耐性はつくか」

紅莉栖「ははは、そうかもしれないわね」

娘「じゃあお茶淹れたから、持っていくよ」

紅莉栖「そうね。冷めないうちに持っていってあげなくちゃ」

娘「うん」

14: 2011/11/06(日) 18:58:19.56 ID:2UVZ2E+p0
――2080 1/1 14:52――

娘「ただいまー」

紅莉栖「おかえり。どうだった?」

娘「いつも通りだったよ。はいこれ、お守り」

紅莉栖「ありがとう。ごめんね、父さんと母さんの分までお参りお願いしちゃって」

娘「いいよ。それより母さん、お客さんだよ」

鈴羽「ちぃーっす。明けましておめでとう、クリスおばさん」

紅莉栖「おやおやまぁまぁ。明けましておめでとう、鈴羽ちゃん」

娘「神社で鈴羽ちゃんとバッタリ会っちゃったから、連れてきちゃった。いいよね?」

鈴羽「あっはは…いきなりでごめんね、おばさん」

紅莉栖「構わないわ。何も用意してないけど、ゆっくりしてってね」

鈴羽「うん、お構いなく。お邪魔しまーす」

17: 2011/11/06(日) 19:02:10.03 ID:2UVZ2E+p0
~居間~

鈴羽「ちぃーっす。明けましておめでとう、オカリンおじさん」

岡部「おぉ、鈴羽か。よく来たな」

鈴羽「ごめんね、急に」

岡部「いい、気にするな。ゆっくりしていくがいい」

鈴羽「ははっ。相変わらずで安心したよ」

娘「ただいま、父さん」

岡部「おや、そちらは…鈴羽の友達かい?」

娘「ッ……」

鈴羽「ちょ…お、オカリンおじさん…。何言ってんの?」

岡部「ん? 何かおかしいことでも言ったか?」

鈴羽「だ、だってこの子…オカリンおじさんの――」

娘「鈴羽ちゃん」

鈴羽「………」

娘「…悪いんだけど、お茶出すの手伝ってくれないかな。母さんだけじゃ大変だと思うし」

19: 2011/11/06(日) 19:06:55.61 ID:2UVZ2E+p0
~台所~

娘「母さん、代わるよ」

紅莉栖「あらあら。鈴羽ちゃんは待っててくれても良いのに」

鈴羽「いいよ。クリスおばさんは、オカリンおじさんのところに行ってて」

紅莉栖「…そうね。じゃあ、お願いするわ」

娘「うん」

鈴羽「オーキードーキー」



娘「ごめんね、お客さんなのに」

鈴羽「ううん…それより、本当だったんだね。オカリンおじさんが…」

娘「…うん」

鈴羽「でも、信じられないよ。あたしのことは覚えているのに、実の娘を忘れているだなんて」

娘「仕方ないよ。鈴羽ちゃん、私より少し年上だから。
  認知症ってね、新しいことからどんどん忘れていくんだって」

鈴羽「…そうなんだ」

21: 2011/11/06(日) 19:10:14.61 ID:2UVZ2E+p0
娘「最近ちょっとしたことでもフラつくことが多いんだ。運動機能も低下してるからね。
  だから、母さんがつきっきりで傍にいなくちゃ危なっかしくて」

鈴羽「………」

娘「父さんには黙ってて。こういうのって、下手に傷つけたりすると症状が悪化する場合が多いの。
  …まぁ、父さんの場合はそうでなくても、進行はかなり早い方だって母さんが言ってた」

鈴羽「うん…ごめんね」

娘「いいよ、私は気にしてない。それに、普通に接してくれれば大丈夫だから」

鈴羽「…悲しいね。私も、そのうち忘れられちゃうのかな」

娘「………」

娘「私は、いつかこうなるって分かっていたから耐えられたけど…。鈴羽ちゃんは多分、まだ大丈夫」

鈴羽「…喜んで良いのかよくわからないよ」

娘「でも、せめて…」

鈴羽「?」

娘「母さんのことだけは、忘れて欲しくないな…」

鈴羽「…そうだね」

27: 2011/11/06(日) 19:14:35.83 ID:2UVZ2E+p0
――2080 5/3 10:11――

孫「お邪魔しまーす」

曾孫「ひーじいちゃーん! きたぞー!」

岡部「おやおや。これはこれは可愛いお客さんだ」

曾孫「ふぅーっはっはっは! しょだいほーおーいんきょうま! おまえのあくじもここまでだ!」グイグイ

岡部「おいおい…引っ張らんでおくれ…」

曾孫「いやだー! ひーじいちゃんとあそぶのー!」

岡部「そうはいってもなぁ…いてて」

曾孫「はーやーくー!」

31: 2011/11/06(日) 19:17:16.01 ID:2UVZ2E+p0
孫「おい。曾爺ちゃんに迷惑かけるな。あとでパパが遊んでやるから」

曾孫「いやだー! ひーじいちゃんとあそびたいー!」

紅莉栖「こらこら。今日はパパと遊んであげなさい。曾お爺ちゃん、疲れてるから」

曾孫「うーん。ひーばあちゃんがいうならそーするー! パパー! あそぼー!」

孫「はいよ。じゃあ公園行こうか。爺ちゃん、婆ちゃん、ごめんな」

紅莉栖「いいわよ。いっぱい遊んでおいで。お菓子用意して待ってるから」

曾孫「いってきまーす!」

34: 2011/11/06(日) 19:21:15.95 ID:2UVZ2E+p0
岡部「…なぁばあさん」

紅莉栖「なんですか、あなた」

岡部「…可愛いお子さんだったな」

紅莉栖「…えぇ、とっても」

岡部「……」

紅莉栖「……」

岡部「なぁ、あの子もしかして俺の――」

岡部「…いや、何でもない」

紅莉栖「…そうですか」

岡部「腹が減った。飯にしてくれ」

紅莉栖「はいはい。今持ってきますからね」

36: 2011/11/06(日) 19:25:30.84 ID:2UVZ2E+p0
――同日 22:30――

孫「倅がやっと寝たよ。ごめんね婆ちゃん。俺まで泊まることになっちゃって」

紅莉栖「いいのよ。この家に3人は広すぎるもの」

孫「母さんは?」

紅莉栖「もう寝たわ。明日は婦人会があるんですって」

孫「そっか。爺ちゃんも?」

紅莉栖「えぇ」

孫「…じいちゃん、あまり体良くないの?」

紅莉栖「…えぇ。ここの所、体の節々が痛み出すのよ」

紅莉栖「最近は寝たきりであることが多いんだけど、今日は比較的元気だったわね」

孫「…そっか。ごめんね、無理させて」

紅莉栖「いいのよ。あの人も楽しそうだった」

38: 2011/11/06(日) 19:29:27.49 ID:2UVZ2E+p0
孫「…爺ちゃん、俺のことも倅のことも、何だか他人を見るような目になってたね」

紅莉栖「でも、あの子のことを見てると自然と頬が綻んでいたわよ」

孫「それでもさ…。やっぱり悲しいよ。あんな元気だった爺ちゃんが認知症になるなんて」

紅莉栖「…ごめんね」

孫「ねえ? 治す気はないの?」

紅莉栖「ううん。これは、あの人が決めたことだから」

孫「…信じられないよね。これだけ医術が進んでも、呆けは治せないんだから」

紅莉栖「ある医者は言ってたわ。生命を探求することは、そのまま老化を探求することに繋がる、って」

孫「…婆ちゃん。冷たくない?」

紅莉栖「そうかもね。だって、狂気のマッドサイエンティストの奥さんですから」

紅莉栖「ね? 三代目鳳凰院凶真さん」

孫「やめてそれ黒歴史」

紅莉栖「あらあら、いいの? そんなことじゃ四代目に顔向けできないよ?」

孫「俺が仕込んだんじゃないんだよ。倅の奴、何を思ったのか昔のHDを引っ張り出してさ」
  そしたら『ひーじいちゃんちょうかっけー!』って、すっかりはまっちゃって…やれやれ」

紅莉栖「あらあら、うふふ」

39: 2011/11/06(日) 19:33:12.70 ID:2UVZ2E+p0
孫「…婆ちゃん」

紅莉栖「なんだい?」

孫「最近、来てあげられなくてごめんね。きっと、これからもあまり来れないと思うんだ」

紅莉栖「………」

孫「でも、俺も家内も倅も皆、爺ちゃんと婆ちゃんには世話になったよ。本当に、感謝してる」

紅莉栖「…そう」

孫「…本当に、いい爺ちゃんだったよ」

紅莉栖「そういうことはちゃんと本人の前で言いなさい」

孫「分かってるけどさ。もっと早く言っておけば良かったって…すごく後悔してるんだ」

紅莉栖「そんなことないわ。伝わるかどうかじゃなくて、伝えるかどうかが大切なのよ」

孫「…うん。そうだね。じゃあ、明日爺ちゃんに言うよ」

紅莉栖「そうしなさい。あの人、きっと喜ぶわ」

孫「ありがとう、婆ちゃん。じゃ、俺ももう寝るよ」

紅莉栖「ええ、おやすみなさい」

41: 2011/11/06(日) 19:37:17.96 ID:2UVZ2E+p0
一応キャラを出し尽くしたのでここで家計図をペタリ。


no title
ちくしょう…ズレるな…

娘(60歳、女性)のほかは
孫…34歳男性
曾孫…6歳のおとこのこ、でお送りします。
会話は主要キャラの他は娘、孫、曾孫のみで構成されます。これ以上だすとややこしくなるので。
他の親族が出る場面もありますが、会話はカットされてるのでそちらは補完してください。

44: 2011/11/06(日) 19:41:42.96 ID:2UVZ2E+p0
――2080 7/25 15:29――

紅莉栖「あなた。鈴羽ちゃんがお見舞いに来ましたよ」

鈴羽「ちぃーっす。オカリンおじさん、調子はどう?」

岡部「鈴羽か。すまんな、こんな出迎えで」

鈴羽「いいっていいって。オカリンおじさんは寝ててよ」

岡部「うむ…。まぁゆっくりしていけ」

娘「あ、鈴羽ちゃん。いらっしゃい」

鈴羽「ちぃーっす。久しぶりだね」

岡部「あ、待ってくれ鈴羽。ダルは来ていないのか?」

鈴羽「ッ……」

娘「ダルおじ…至さんは後から来るって」

岡部「何だそうか…やれやれ。この歳になってもまだ夫婦でイチャイチャしているのか」

娘「鈴羽ちゃん、居間で待ってて。お茶淹れてくるから」

鈴羽「あ…うん」

46: 2011/11/06(日) 19:45:31.49 ID:2UVZ2E+p0
~居間~

娘「はい、粗茶ですが」

鈴羽「…ありがとう」

娘「…来月のダルおじさんの七回忌、お父さんは無理そうだけど、私と母さんは行けると思うから」

鈴羽「うん…ありがと」

娘「…お父さんのことはごめんね」

鈴羽「…ううん。分かってたことだから」

娘「私だって、あんなに優しかったダルおじさんが癌で氏んじゃったなんて、未だに実感が湧かないもの」

鈴羽「しょうがないよ。若い頃は全然健康に気を使わなかったらしいし」

鈴羽「それよりもオカリンおじさん…とうとう父さんのことも忘れてきちゃったね。
    あたしのことはまだ覚えてくれているのに…」

娘「まだ完全に忘れちゃったわけじゃないよ。それに、鈴羽ちゃんは特別な存在だって昔から言ってたもん」

鈴羽「それでもさ…やっぱり悲しいよ。こんなの、割り切れないよ…」

娘「………」

47: 2011/11/06(日) 19:49:11.66 ID:2UVZ2E+p0
鈴羽「…オカリンおじさんさ、私のことすごく可愛がってくれてたんだよね」

娘「知ってる。私さ、昔はそれが原因で鈴羽ちゃんによく嫉妬してたよ」

鈴羽「あはは。そうだったね。…本当にさ、私が産まれたときは両親以上に喜んでくれたんだって」

鈴羽「いっぱい遊んでもらって…いっぱい構ってもらえて…」

鈴羽「なのにさ…言っちゃなんだけど、歳はとりたくないなぁ…」

娘「………」

鈴羽「父さんの葬式のときにもさ…一番泣いてくれた人なのに」

娘「そうだね。あんなに泣いた父さん、私の結婚式のとき以来かも」

娘「…あと、私の旦那が事故で氏んじゃったときかな」

鈴羽「うん…。本当に優しくて、明るくて、すごくかっこよかった…」

鈴羽「小さかったとき、あたしオカリンおじさんのこと好きだったんだよ?
   そうでなくても、もう一人のお父さんみたいで本当に好きだった」

鈴羽「なのに…なのにさ……」

ポタ…ポタ…

鈴羽「あっはは…やっぱ歳はとりたくないね。本当に碌な事がないや」グスッ

娘「………」

49: 2011/11/06(日) 19:53:14.15 ID:2UVZ2E+p0
娘「…ねぇ鈴羽ちゃん。覚えてる? 私さ、子供の頃よく虐められてたよね」

鈴羽「うん。昔から頭良かったからね。可愛かったし」

娘「その所為でよくからかわれてさ。でも、必ず鈴羽ちゃんが助けに来てくれたよね」

鈴羽「あっはは…恥ずかしいな。昔からお転婆だったから」

娘「ううん。私、すごく嬉しかったよ」

鈴羽「て、照れるね…」

娘「それがきっかけで、私たち仲良くなったんだよね」

鈴羽「懐かしいね」

娘「それから色んなことが起きたけど…いつも一緒にいたね、私たち」

鈴羽「そうだね。自然と、あたしたちの子供たちも一緒に遊ぶようになった」

娘「私もあの子達も、鈴羽ちゃんとこの幼馴染で本当に良かったと思ってるよ」

鈴羽「…うん。あたしも、そう思ってる」

51: 2011/11/06(日) 19:57:11.38 ID:2UVZ2E+p0
娘「でも流石に、私の息子と鈴羽ちゃんとこの娘さんがくっついたのは驚いたかな」

鈴羽「いやー、あれには笑っちゃったよ。何よりも父さんがすごい乗り気だったのが」

娘「『生きている間にリアルで幼馴染ルート攻略をこの目で見ることが出来るとは…僥倖!』って…」

鈴羽「しかも『相手はオカリンとこの孫? じゃあ問題なくね?』だもんね…。
    まったく…あたしの婚約のときはあれだけ反対してたのに。複雑だったよ」

娘「それ、私の父さんの時と一緒だ」


アハハハハハハ…


娘「…ね?」

鈴羽「ん?」

娘「こうやってさ。昔のことを思い返して笑ったり泣いたりできるの」

娘「歳をとることが、そんなに悲しいことばかりだとは思わないよ」

鈴羽「…うん。確かにね」

53: 2011/11/06(日) 20:00:07.34 ID:2UVZ2E+p0
――2080 8/30 18:41――

娘「ただいま、母さん」

紅莉栖「おかえり。お茶でも飲む?」

娘「ありがと。父さんは?」

紅莉栖「まだ寝てる」

娘「…そっか」

岡部「………」グー…グー…

娘「…最近父さん、全然起きないね」

紅莉栖「そうね。でも、下手に動き回れるよりはずっといいわ」

娘「…父さん。もう鈴羽ちゃんも、他の人も誰だかわかんなくなっちゃた」

紅莉栖「…そう」

娘「その点母さんはすごいね。ずっと覚えられてるから」

紅莉栖「名前では未だに呼ばれないけどね」

娘「私には父さんが母さんをからかっている様にしか見えないけど」

紅莉栖「そうなのかしら…もし本当にそうならぶん殴ってあげたいわ」

56: 2011/11/06(日) 20:04:10.83 ID:2UVZ2E+p0
娘「…ねえ母さん。前から聞こうと思っていたけどさ」

紅莉栖「なに?」

娘「…悔しくないの?」

紅莉栖「…さあね。寂しいといえば寂しいけど、悲しいとか悔しいとかはないかな」

娘「何で? 父さん、そのうち忘れちゃうんだよ? 母さんのことも綺麗さっぱり」

紅莉栖「ううん。父さんは本当は覚えているのよ。あなたのことも。ただ、思い出せないだけで」

娘「そんなこと―――」

紅莉栖「嘘じゃないわ。私が誰だか忘れたの?」

娘「………」

58: 2011/11/06(日) 20:08:16.70 ID:2UVZ2E+p0
紅莉栖「知ってる? 認知症には色々な種類があるんだけど、最もよく見られる原因として
     知られているのがアルツハイマー型認知症。父さんもコレに当たるわね」

紅莉栖「アルツハイマー型認知症は脳全体が萎縮していくのが特徴なんだけど、
     最も先に萎縮するのが海馬なの。これにより、記憶障害が初期症状で現れる」

紅莉栖「海馬が萎縮をすると記憶の記名と想起に障害があるわけだから、新しいことを覚えたり
     思い出すことが困難になる。って、話すまでもなかったかしら」

娘「うん。脳のこととかは小さい頃、母さんによく聞かせてもらったから」

紅莉栖「そうね。でも、記憶は本来、大脳皮質に蓄えられるものよ。萎縮しても、機能が低下するだけで
     失われるわけじゃない。だから、今までの記憶はちゃんと保持されてるはず」

紅莉栖「お父さんの場合は、ちゃんと記憶は蓄えられている。ただ、思い出せないだけでね」

紅莉栖「だから父さんが生きているだけで、父さんは私たちのことを忘れていないことの証明にそのまま繋がる」

紅莉栖「私は、そう考えてる。だから、悲しくなんかないわ」

娘「…母さんの現実的で理論的なところ、昔から嫌いだったけどね」

娘「案外、ロマンチストだよね。母さん」

紅莉栖「あら、そうかしら?」

娘「うん。すごいと思う、母さんは」

紅莉栖「…そんなこと、ないわよ」

61: 2011/11/06(日) 20:12:22.77 ID:2UVZ2E+p0
――2080 9/16 08:07――

娘「それじゃ、行ってきます。なるべく早く帰るから。何かあったらすぐ呼んでね」

紅莉栖「いってらっしゃい。あ、そうだ。そこの戸棚開けてみて?」

娘「?」

ガラッ

娘「…またお小遣い? あまり甘やかさない方がいいよ」

紅莉栖「いいじゃない。私たちが持っててもしょうがないわ」

娘「はぁ…わかった。いい子にしてたら渡しておく」

紅莉栖「お願いね」

岡部「………」シュー…シュー…

紅莉栖「…全然目を覚ましませんね。曾孫の運動会、行きたかったんじゃないですか?」

岡部「………」

紅莉栖「体、拭きますね」
―――――――――――――――――――
――――――――
――――

66: 2011/11/06(日) 20:16:13.67 ID:2UVZ2E+p0
――2年ほど前――

岡部「…なぁ紅莉栖。はっきり答えてくれ。…俺は、病気なんだな?」

紅莉栖「…うん」

岡部「…そうか。やはりな。どうもおかしいと思ったんだ」

紅莉栖「…治しますか? 今からなら、改善の余地は十分にありますよ」

岡部「…いや」

紅莉栖「…そう」

岡部「やけに素直に受け入れるのだな」

紅莉栖「なんとなく、そう言うと思ってましたから」

岡部「そうか。流石は俺の嫁だな」

紅莉栖「後悔、しないんですか?」

岡部「…ああ。ダルも、最期まで抗癌剤の投与を拒否した。それに倣うわけではないが、
    もしこれが俺の氏に様だというのなら、俺はそれに従おうと思う」

紅莉栖「…そうですか」

68: 2011/11/06(日) 20:20:38.59 ID:2UVZ2E+p0
岡部「俺は昔から、抗い続けてきた。世間から、運命から、色々なものに抗ってきた」

岡部「その結果には後悔していない。
    こうしてお前が生きていてくれることに、後悔なんて感じるはずがない」

岡部「だけどな…。昔から罪悪感に似たものはあったんだ。
    こんな、人としての領域を侵してまで運命を改竄する行為、許されるはずがないからな」

岡部「いつかしっぺ返しが来るんじゃないかと、いつも不安だった。
    まるで運命に嘲られるかのように、ある日突然何もかもが壊されるんじゃないか、とな…」

紅莉栖「………」

岡部「だが、神は俺に猶予を与えてくれたらしい。俺たちは結ばれ、曾孫まで残してくれた。
    もしこれが俺に課せられた罰なら、俺は甘んじて受けようと思う」

岡部「きっとそれが…運命石の扉の選択なのだから」

紅莉栖「…そうですか」

岡部「でもな、紅莉栖…」



岡部「俺は、恐ろしくてたまらない…」

71: 2011/11/06(日) 20:24:53.42 ID:2UVZ2E+p0
岡部「最初は鍵の置き場所や、家までの単純な道筋を忘れていった。
    それが今日の日付に変わり、娘の誕生日にまでいった」

岡部「今では新しいことはほとんど覚えられないし、箸も持てないほどになってきた…」

岡部「…氏ぬ事はそれほど怖くない。このまま朽ちて氏んでいくのは、ある意味で
    最も人間らしい、一番真っ当な氏に方だと思っている」

紅莉栖「………」

岡部「でもな、紅莉栖…。氏ぬことよりも恐ろしいのは…。忘れていくことなんだ」

岡部「いつかは子供たちのことも、お前のことも、俺自身のことも何もかも忘れてしまう…」

岡部「そうやって、まるでドミノ倒しみたいにすべてを忘れてしまうのが…」

岡部「俺自身が命を賭けて守ってきたものが…全部、なかったことにされるのが…」

岡部「それが本当に、怖くてたまらない…」

紅莉栖「………」

ギュッ

紅莉栖「そんなことでどうするのよ、バカ」

岡部「紅莉、栖…?」

紅莉栖「…心配しないで、あなた」

76: 2011/11/06(日) 20:28:11.50 ID:2UVZ2E+p0
岡部「………」

紅莉栖「大丈夫。あなたは大丈夫だから」

岡部「しかし…俺は……」

紅莉栖「あら? 信じられない?
     あなたが前の世界線で窮地に立たされたとき、散々あなたを助けたのは誰だか忘れたの?」

岡部「そ、それは……」

紅莉栖「ありきたりな台詞だけど…あなたが覚えていなくても、私はちゃんと覚えている」

紅莉栖「あなたが忘れていったのなら、私があなたの分まで覚えてあげる。
     あなたが立てなくても、私があなたの足になり、目になり、耳になってあげる」

紅莉栖「ずっと、私はあなたを支え続ける。私は、あなたの奥さんなのよ?」

岡部「………」

紅莉栖「だから、そんな悲しいこといわないで」

紅莉栖「それにね。私、あなたのこと信じているから」

岡部「?」

81: 2011/11/06(日) 20:32:12.03 ID:2UVZ2E+p0
紅莉栖「ねぇ。あの日、約束したことも忘れてしまったの?」

岡部「ッ……!」

岡部「…忘れるはずがない。忘れて、たまるものか」

紅莉栖「…よかった」

紅莉栖「そうよ。あなたは、きっと覚えててくれる」

紅莉栖「だってあなたには、運命を変えるほどの記憶力があるんだもの」

紅莉栖「そんな人が、私のことを忘れるはずがない。そう、信じているから」

岡部「…ああ、そうだ。その通りだ、紅莉栖」

岡部「バカだな…そんな単純なことさえも、忘れてしまっていたなんて…」

紅莉栖「………」

岡部「…紅莉栖。俺はたとえ皆のこと、自分のこと、抗い続けてきたことさえも忘れても」

岡部「お前のことだけは、絶対に忘れない。俺が氏ぬその直前まで、俺はお前のことを愛し続ける」

紅莉栖「…ありがとう、あなた。私も、あなたがいなくなってもずっとあなたを愛します」

岡部「紅莉栖ありがとう…本当に、ありがとう」
―――――――――――――――――――
――――――――
――――

84: 2011/11/06(日) 20:36:09.47 ID:2UVZ2E+p0
――現在――

紅莉栖「…はっ。いけない、眠ってしまったわ」

紅莉栖「…もうこんな時間か。あの子はとっくに帰ってるわね」

紅莉栖「ん?」ファサ

紅莉栖「…毛布、あの子が掛けてくれたのか。明日、お礼を言わなくちゃ」

岡部「ん……んん……」

紅莉栖「あら、ごめんなさい。起こしてしまいましたか?」

岡部「あ……あぅあ…」

紅莉栖「無理しないでください。あなた、今じゃそうやっているだけでギリギリなんですから」

紅莉栖「どうしました? トイレですか?」

岡部「あ…あぁ……」クイッ クイッ

紅莉栖「無理しないでくださいってば。今、そっちに行きますから」ズイッ






岡部「くり………す…」

89: 2011/11/06(日) 20:40:04.64 ID:2UVZ2E+p0
紅莉栖「!! あなた…今…」

岡部「あ………あぁぁ…」パタッ

紅莉栖「あ、あなた! 大丈夫ですか!?」

岡部「はぁぁ…はぁぁ……」ゼェゼェ

紅莉栖「あなた…」

紅莉栖「…久しぶりに名前で呼んでくれましたね。ごめんなさい、こんなに頑張らせて」

岡部「あ…? あぁぁ……」ヒューヒュー

紅莉栖「でも…もういいんですよ。もう、充分ですから」

94: 2011/11/06(日) 20:44:15.28 ID:2UVZ2E+p0
紅莉栖「もういいんじゃないですか? あなた、頑張りすぎでしたよ」

紅莉栖「まゆりを助けるために何度もタイムリープして、散々無茶して、
     挙句の果てにはお腹に風穴まで開けちゃうし」

紅莉栖「それだけ無茶してここまで生きてこれたなら、そりゃ大往生ですよ」

紅莉栖「私たちの娘も、孫たちも、そのまた子供たちも健やかに育って…」

紅莉栖「もう、思い残すこともないんじゃないですか?」

岡部「………」

紅莉栖「だからね…。そろそろ、あなたは休んでいいんですよ?」

岡部「………」ボソボソ

紅莉栖「あらあら。まだ言うことがあるんですか?」

紅莉栖「はいはい、何ですか。今そっちに行きますからね。
     よっこいせっと…。ほら、何て言ったんですか?」

岡部「あ………あぁ…」

紅莉栖「大丈夫ですよ。聞いてますから。落ち着いて、ゆっくり喋ってください」

95: 2011/11/06(日) 20:45:11.03 ID:2UVZ2E+p0






――あ………あり……が…と…







紅莉栖「ッ―――」







―――あ…あ、あぃ………し…て………







99: 2011/11/06(日) 20:48:24.73 ID:2UVZ2E+p0
紅莉栖「…『ありがとう』、だなんて」

紅莉栖「何言ってんですか。当たり前ですよ。約束したじゃないですか」

岡部「………」

紅莉栖「本当に、名前で呼んでくれたのって随分と久しぶりな気がしますね。
     覚えてますか? 秋葉原で再会したとき、あなた私のこと変なあだ名で呼んでましたよね」

紅莉栖「何だったでしょうか…助手というのは覚えているんですが…もう1つが、その…」

紅莉栖「あぁ、そうそう。クリスティーナですよ」

岡部「………」

紅莉栖「懐かしいですね。私あのとき、訳も分からずに苛立ちましたよ」

紅莉栖「でもそれから程なくして名前で呼び合うようになって。
     最近は、ばあさんとか変なあだ名で呼んでばっかりでしたけど」

紅莉栖「それでもやっぱり…名前で呼んでくれていた時期が、一番長い気がしますね」

岡部「………」






紅莉栖「ねぇ。そうは思わない、岡部?」

106: 2011/11/06(日) 20:51:35.12 ID:2UVZ2E+p0
紅莉栖「ふふっ。何だか昔を思い出してきちゃったわ。こうやって呼ぶの、すごく久しぶり」

紅莉栖「変な感じだよね。私だって、もう60年も岡部って苗字なのにさ」

紅莉栖「私もあんたも岡部。なのにこうやって呼ぶのって、すごく落ち着くの」

岡部「………」

紅莉栖「あーあ。かの狂気のマッドサイエンティストさんもここまでかぁ。最近あんた、
     鏡見てないでしょ? ひっどい顔よ。もう全身しわくちゃのお爺ちゃんだもの」

岡部「………」

紅莉栖「こら。そこは『今日のお前が言うなスレはここですか』って突っ込むところだろ」

岡部「………」

紅莉栖「ねぇ。黙ってちゃ分からないわよ。寝てるの?」

岡部「………」

紅莉栖「こら。無視するな。岡部」

岡部「………」

110: 2011/11/06(日) 20:54:13.49 ID:2UVZ2E+p0
紅莉栖「…知ってる? 認知症っていうのはね。脳の萎縮によって神経細胞が氏滅することで
     機能が低下したり失われたりする症状があるんだけど」

紅莉栖「でもね。記憶っていうのは何も脳に蓄えられているだけじゃないわ。
     非述性記憶っていうんだけどね。泳ぎ方や自転車の乗り方とか、
     意識しなくても出来ることとかあるでしょ?」

紅莉栖「運動機能は小脳で統括されてるんだけど、全身の細胞もこの役割を買ってるという説があるの」

紅莉栖「つまりね。人間は、体のいたるところで情報をため込んでいる。
     いわば、体全体が記憶を保持する容器でもあるの」

岡部「………」


チュッ


紅莉栖「えへへ。キスしちゃった。何年振りだろ。すごくドキドキしてるよ、私」

紅莉栖「意識できなくてもね。こうした衝撃的な刺激は自然と体に染み込むものよ」

紅莉栖「だから忘れてしまってもね。岡部が生きていること自体が、
     そのまま私を覚えていることに直結しているの。はい論破」

岡部「………」

紅莉栖「…論破厨、乙と」

112: 2011/11/06(日) 20:57:30.34 ID:2UVZ2E+p0
紅莉栖「ハロー」

岡部「………」

紅莉栖「ぬるぽ」

岡部「………」

紅莉栖「…ノリ悪いなぁ」

岡部「………」

紅莉栖「岡部」

岡部「………」

紅莉栖「倫太郎」

岡部「………」

紅莉栖「あなた」

岡部「………」

紅莉栖「起きようよ。もっと話そう?」

115: 2011/11/06(日) 21:00:13.60 ID:2UVZ2E+p0
紅莉栖「やっぱりさ。もうちょっとだけ、頑張ってみない?」

紅莉栖「もう一度だけでいいから。紅莉栖、って」

紅莉栖「ううん。昔みたいにセレセブでも、助手でも、クリスティーナでもいいから」

紅莉栖「だからもう一度、私を呼んで」

岡部「………」

紅莉栖「最後の台詞…ちゃんと言えてないよ、岡部」

岡部「………」

紅莉栖「ねぇ…お願いだから、最後まで聞かせて?」

紅莉栖「最後まで愛してくれるって、言ったじゃない。中途半端は嫌いよ、私」

岡部「………」

紅莉栖「ねぇってば……」

岡部「………」

紅莉栖「岡部…」

116: 2011/11/06(日) 21:01:17.38 ID:2UVZ2E+p0
紅莉栖「おかべ……」

紅莉栖「おねがいだから……」

紅莉栖「あいしてるって、いってよぉ…」

岡部「………」

紅莉栖「おかべぇ……」

紅莉栖「めをあけて…おねがい……」








紅莉栖「しんじゃ、いやだよぉ……」







――2080 9/17 01:19――

岡部倫太郎:逝去(享年88歳)

124: 2011/11/06(日) 21:05:00.33 ID:2UVZ2E+p0
 岡部倫太郎の葬儀は厳かに行われた。

 葬儀には親族関係者含め、数多くの来訪者が彼に焼香を手向けた。

 旧知のラボメンは今や半数にまで減ったが、それでも全員が参列した。

 誰一人例外なく彼の氏を悼み、そして悲しんだ。

 末っ子の曾孫は曽祖父の氏を知り、大声をあげて泣いた。

 両親が諫めても彼は泣き止まず、それにつられて会場は大粒の涙をこぼし始めた。




 泣かせた張本人である岡部倫太郎の妻は―――最後まで泣くことはなかった。

130: 2011/11/06(日) 21:08:53.23 ID:2UVZ2E+p0
――2081 4/8 08:02――

紅莉栖「昨日はね。末っ子が小学校の入学式だったそうですよ」

紅莉栖「あの子、クラスの自己紹介で何て言ったと思います?『しょうらいのゆめは、
    ひいおじいちゃんのようなきょーきのまっどさいえんてぃすとになることです!』って…」

紅莉栖「それを聞いたら私まで恥ずかしくなってしまいましたよ。まったく、本当に誰に似たんだか」

岡部『………』

紅莉栖「………」スッ


チーン…


紅莉栖「………」

紅莉栖「さて、私は朝ごはんの準備でもしますよっ、と。いたた…」

紅莉栖「…大丈夫ですよ。あなたがいなくても、充分にやっていけますって」

紅莉栖「それじゃ、また夜に来ますからね」


岡部『………』

132: 2011/11/06(日) 21:12:09.86 ID:2UVZ2E+p0
――2082 6/18 09:24――

紅莉栖「あいたたた…ふぅー…よいしょ…っと」

岡部『………』

紅莉栖「やれやれ。最近はここに来るだけでも体に堪えますよ。まったく…歳は取りたくないですね」

紅莉栖「最近は夜に来れなくてすいませんね…夕方になると体の節々が痛くて…」

紅莉栖「朝も弱くなってしまったのは…私にも、お迎えが近いんですかねぇ……」

岡部『………』

紅莉栖「冗談ですよ。あなたがいなくても寂しくなんかありませんよ」

紅莉栖「むしろ学校帰りの曾孫を相手にするのにてんやわんやですよ、本当に…」

岡部『………』

紅莉栖「ええと……昨日はどこまで話しましたか…あぁ、そうそう」

紅莉栖「…まゆりが、逝ってしまいましたよ。あなたが亡くなってから容態が悪くなって」

紅莉栖「先日脳の血管が破れて、そのままポックリ…。でも、最期は笑っていましたよ」

紅莉栖「そっちに行ったんなら、まずは謝ってくださいね。自覚がなかったとは言わせませんよ」

紅莉栖「…もし会ったら、よろしく伝えておいてください。私の、親友ですから」

137: 2011/11/06(日) 21:16:10.43 ID:2UVZ2E+p0
――2082 9/23 11:07――

紅莉栖「よいしょ……よいしょ……」ズル…ズル…

娘「ちょっと、お母さん! 駄目だよ今は寝てなきゃ!」

紅莉栖「そうも言ってられないわ。線香、あげないと…」

娘「何言ってるの! いい加減お医者さんの言うこと守って!」

紅莉栖「でもねぇ……」

娘「線香なら私があげるから! お願いだから安静にしていて!」

紅莉栖「そう…じゃあ、お願いね……」



紅莉栖「ふぅーやれやれ…。あの子があげるなら、きっとあの人も喜ぶわ…」

紅莉栖「あの人、昔から寂しがりやだから…」

紅莉栖「しかも絶対に自分から言わないから…本当に大変だったわぁ……」

紅莉栖「………」

紅莉栖「会いたいなぁ……」

141: 2011/11/06(日) 21:20:13.58 ID:2UVZ2E+p0
――2083 2/7 23:11――

紅莉栖「………」スー…スー…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

―――つまり俺とお前は、運命石の扉(シュタインズ・ゲート)によって選ばれた共同体なのだ!
     だ、だから、お、おおおおおおおお俺と付き合え! クリスティーナ!!


―――く、紅莉栖 その………も、もしこんな俺でよければその…結婚、してくれないか?


―――ドクタァァァァ中鉢ィィィィ!! 喜べ! この鳳凰院凶真が! 貴方の娘を攫いにきた!
     安心して――そげぶ!? ちょ、いきなり義理の息子を殴り飛ばすとはどういう了見ですか!

―――おい、助手も見てないで助けろ! まったく親子そろってツンデレとか始末におけない…
     って、待て待て待て! 何故お前は洋書を掲げているのだ!
     や、やめろクリスティィィナァァ…


―――健やかなるときも 病めるときも
     喜びのときも 悲しみのときも
     富めるときも 貧しいときも
     これを愛し これを敬い これを慰め これを助け
     その命ある限り 真心を尽くすことを
     岡部倫太郎は、ここにいる皆さんと最愛の人に誓います

―――愛しているよ 紅莉栖

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

145: 2011/11/06(日) 21:26:26.96 ID:2UVZ2E+p0
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

―――よく頑張ったな紅莉栖! 元気な女の子だぞ!


―――くっ…まさか年端もいかない娘にこの俺が論破されることになるとはな…
     ククク…それでこそ俺たちの娘だ! 俺は今日限りをもって、鳳凰院凶真を引退する!
     その意思を引き継げるのは、お前をおいて他にはいない! さぁ、二代目鳳凰院…

―――いや紅莉栖さんちょっと今感動の儀式の際中でしていやすいません電極しまってください
     ええほんの出来心ですはい反省していますええとそのだからやめてください氏ん(ry


―――何!? 虐められた!? 許せん! 親愛なる我が跡継ぎに不貞を加える輩がいるとは!
     すぐにとっ捕まえて―――え? 鈴羽が既にボコボコにした? そ、そうですか…


―――お前ごときに娘はやらん! どうしても欲しければ…この俺を倒してからにしろ!
     ぶほぉ!? い、いきなり義父を殴るとは何事だ!? ちょ、紅莉栖も見てないで助けろー!


―――よく頑張ったな…流石は我が娘だ! ……あぁ、それが子供の親になるということだ…
     これからが大変………ばッ!? な、泣いてなどいない!!


―――違う! ポーズはこうだ! そんなことでは三代目鳳凰院凶真は継げないぞ!
     …え? おばあちゃんが電極持ってこっちに来る? ば!? 何故それを早く言わない!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

148: 2011/11/06(日) 21:30:10.84 ID:2UVZ2E+p0
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

―――ばかやろう…なんで、義父よりも先に逝っちまうんだよぉ…
     絶対、娘を幸せにするって…約束したではないか…くそぉぉぉぉぉぉぉ!!


―――ダル! おい、ダル! 逝くな! 逝くなよぉ! いつか二次元の向こう側に行くと…
     言っていたではないか! まだ叶えてないぞ! だから…逝くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!




岡部「…皆、逝ってしまったな。萌郁も、フェイリスも、ダルも、義理の息子まで…」

紅莉栖「…うん」

岡部「…やるせないが、それが人生というものなのかもしれないな」

紅莉栖「…今だけは、皆の氏を悼もう。でも、その後はまっすぐ生きていくべきよ」

岡部「ああ…それが、残された者への責務だからな…」

150: 2011/11/06(日) 21:34:13.18 ID:2UVZ2E+p0
岡部「……なぁ紅莉栖」

紅莉栖「なぁに、あなた」

岡部「…お前は、ずっと俺の傍にいてくれるよな?」

紅莉栖「…ばか。当たり前でしょ。ずっと一緒にいてあげる」

岡部「本当か?」

紅莉栖「うん。約束する」

紅莉栖「あんたが天寿を全うしてくたばるその時まで、私はずっと傍にいる」

岡部「…約束か」

紅莉栖「そうよ、約束」

岡部「…そうか」

153: 2011/11/06(日) 21:37:08.91 ID:2UVZ2E+p0
岡部「紅莉栖」

紅莉栖「なぁに、あなた」

岡部「愛してるよ」

紅莉栖「…ふふっ。突然どうしたの?」

岡部「いや、言ってみただけだ」

紅莉栖「うん。私も愛してるわ」

岡部「…ああ」

紅莉栖「でも、なるべく私も一緒に氏にたいわ。残されるのは寂しいもの」

岡部「ははは。構ってちゃんは相変わらずだな」

紅莉栖「茶化さないでよ、バカ」

岡部「分かった約束しよう。なるべく、お前も連れて行くことにするよ。お前を置いてったりはしない」

紅莉栖「それも約束?」

岡部「あぁ、約束だ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

155: 2011/11/06(日) 21:41:28.93 ID:2UVZ2E+p0
――同日 06:15――

紅莉栖「………」パチッ

紅莉栖「………」

紅莉栖「懐かしい、夢だったわね…。まるで走馬灯みたい。いよいよ、私も近いのかしら…」



紅莉栖「ねぇ、あなた。私、変わっちゃったよ」

紅莉栖「あなたが好きっていってくれた髪も、目も、肌も、声も、頭の中も」

紅莉栖「全部枯れちゃって、しわくちゃのおばあちゃんになっちゃった」

紅莉栖「最近はずっと寝たきりで、お話もできなくてごめんね?」

紅莉栖「………」

紅莉栖「…でも」

紅莉栖「こんな私を…最期まで愛してくれて…本当にありがとう」

紅莉栖「あなたは色々なことを忘れていったけど…最期まで、私への『好き』は残してくれた」

紅莉栖「だからせめて…私もこの気持ちは、ずっと枯らさずにいようと思う」

紅莉栖「…なのにさ。ひどいよ」

158: 2011/11/06(日) 21:45:25.42 ID:2UVZ2E+p0
紅莉栖「…あなたってひどい人ね。許せないわ」

紅莉栖「ずっと一緒にいるって…約束したけどさ……」

紅莉栖「これからも私を幸せにするって…置いて行ったりしないって約束したのに」

紅莉栖「何で…私を置いてっちゃうのよ…どうして一緒に連れてってくれなかったの…」

紅莉栖「私を残して氏ぬとかバカなの? 氏……本当に氏んでるし」

紅莉栖「ずっと幸せにするとか…嘘じゃん。苦しいよ、わたし……」

紅莉栖「こんなのひどい…ひどすぎるよ…」

紅莉栖「なんで…勝手に氏んじゃうのよぉ…ばかぁ……」

紅莉栖「ふっざけんな…本当に…ひっぐ…ふざけんなぁ…」

紅莉栖「会いたいよぉ…寂しいよ、あなたぁ……ぐす…」

紅莉栖「うっ……うぅぅ…」




紅莉栖「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

161: 2011/11/06(日) 21:49:11.51 ID:2UVZ2E+p0
 この日。

 岡部倫太郎が亡くなってから―――紅莉栖は初めて泣いた。

 今の今まで、自分はどこかで達観していた。

 彼が決めたことなのだと。しょうがないのだと。自分ではどうしようもなかったのだと。

 そういって、いつも自分に言い聞かせていた。そうすることで、自分の心を守っていた。

 この日に至るまで、彼女は自分の心を頃し続けていたことをはっきりと悟った。

 だが彼との過ごした追憶の日々は、彼女の乾いた心を確かに湿らすには充分だった。

 そして自分をギリギリで保っていた何かが崩れ。

 彼女は泣き崩れた。

 もう枯れ果ててしまったと思えた彼女の様相と心が、一杯の涙で溢れれていく。

 枕を濡らし、声にならない慟哭をあげながら、溜まったものをすべて吐き出した。

 そして稚児のように泣きつかれて眠るまで、彼女は散々泣き続けた。



 こうして彼女はようやく、最愛の夫の氏を受け入れた。

164: 2011/11/06(日) 21:52:34.48 ID:2UVZ2E+p0
――2083 6/19 07:00――

紅莉栖「………」パチッ

紅莉栖「……今日は久しぶりに気分がいいわね」

紅莉栖「こんなに早く起きたのも久しぶりだわ。体も軽いし」

紅莉栖「そうだ。あの人に、線香をあげよう」

紅莉栖「あの子は驚くだろうけど、元気な姿を見せてあげればきっと大丈夫よね」

紅莉栖「懐かしいな…いっぱい話したいことがあるわ。早く行ってあげなくちゃ」ノソッ

紅莉栖「きっと、あの人も待ってるか―――」


ガクッ


紅莉栖「――ら?」


ゴツッ

171: 2011/11/06(日) 21:55:56.82 ID:2UVZ2E+p0
――同日 08:27――

娘「お母さん? まだ寝てる? 朝ごはん出来たけど、そっちに運ぼうか?」

娘「…ねぇまだ寝てるの? 返事してよ」

娘「おかーさーん? 入るよ?」ガラッ

娘「!! お母さん、どうしたの!? こ、転んで、机に頭をぶつけたの!?」

娘「し、しっかり! しっかりしてお母さん!」

娘「いま、救急車呼んでくるから! 待っててね、お母さん!」

―――――――――――――――――――
――――――――
――――

娘「先生! 母は、大丈夫なんですか!?」

医者「非常に危ない状態ですが…手は尽くしてみます」

娘「…!!  先生! お母さんを…お母さんを助けてあげてください!」

娘「お願い…母さんを救って……」

娘「おとぉさぁん……」

173: 2011/11/06(日) 21:59:20.48 ID:2UVZ2E+p0
~診察室~

孫「先生…祖母の容態は…?」

医者「急性硬膜下血腫でした。残念ですが…既に手遅れです」

娘「そ、そんな! 硬膜下血腫って、確か脳の硬膜と脳の間に血が溜まる病気ですよね!?
   緊急に開頭して血腫除去を行えば、何の問題もないはずでしょ!?」

医者「…お詳しいですね。しかし、それは出来ないんですよ」

医者「確かに穿頭して血腫を除くことは可能です。しかし患者の脳血管は老化がかなり進んでいます。
    そのため、下手な衝撃を加えてしまえば脳内出血を起こす可能性が大いに考えられます」

医者「よしんば血腫を除去できたとしても…検査の結果、脳挫傷と脳梗塞との合併も見られました。
    これらの処置には手術が必要ですが…患者の体力が持つとは、到底考えられません」

孫「そんな…!」

医者「私に出来ることは、投薬と点滴によって痛みを和らげることと、
    わずかばかりの延命処置だけです」

医者「お力になれずに…本当に申し訳ない……」

娘「…どれくらい、生きていられるんですか?」

医者「……私の見立てでは50日ほど。長くても、3ヶ月が限界です」

176: 2011/11/06(日) 22:03:22.78 ID:2UVZ2E+p0
――2083 6/20 09:02――

鈴羽「クリスおばさん!」ガラッ

娘「す、鈴羽ちゃん!?」

鈴羽「ごめん、すぐ来れなくて…息子の用事でちょっと遠くの方に行ってたんだ。
    クリスおばさんが倒れたって聞いて、いてもたってもいられなくてさ」

娘「…ごめんね、無理させて」

鈴羽「私のことはいいから。それより、クリスおばさんは大丈夫なの?」


ピッ…ピッ…ピッ…

紅莉栖「………」シュー…シュー…


娘「………」

鈴羽「……そっか」

鈴羽「悔しいなぁ…私、また大事な時にいないだなんて…本当に嫌になるよ」

鈴羽「オカリンおじさんと、約束したのにさ…最低だね、あたし…」

鈴羽「でも、もうしないよ。あたし、毎日来るから。クリスおばさんに、毎日会いに行くよ」

鈴羽「今度こそ…必ず……うぅ…!」

178: 2011/11/06(日) 22:07:14.69 ID:2UVZ2E+p0
――2083 7/1 11:37――

コンコン

孫「母さん、入るよ」ガラッ

孫「お婆ちゃん、どう?」

娘「今日もだいぶ落ち着いているわ。そういえば、さっき何か夢でも見てたみたい」

孫「そうなんだ。どんな?」

娘「わからないわ。そんな気がしただけ。でも、とても安らかな顔をしてたわ」

孫「…そっか。そろそろ代わるよ。母さんは家に帰って休んで―――」

紅莉栖「ん……んん…?」

孫「ば、ばあちゃん!」  娘「お母さん!?」

紅莉栖「あ…あ、れ……こ、ここは…?」

孫「気が付いた! おばあちゃん、俺だよ! あんたの孫だよ!」

紅莉栖「あぅ…こ、ここ……わた、し……せんこ、う、を……っげほ! うぇっほ!」

娘「母さん、無理しないで!」  孫「俺、先生を呼んでくる!」ダッ

紅莉栖「あな……た………どこ…?」

179: 2011/11/06(日) 22:10:22.98 ID:2UVZ2E+p0
――2083 7/25 12:41――

孫「お婆ちゃん、誕生日おめでとう」

鈴羽「おめでとう、クリスおばさん」

曾孫「ひーばあちゃん! おめでとー!!」

娘「ほら、見て。皆来てくれたよ。プレゼントも、こんなに」

紅莉栖「あ……あ」

娘「何? 今そっちに行くよ。ちゃんと耳元で言って」

紅莉栖「あぃ…が……と」ニコッ

鈴羽「…まったく。クリスおばさんは、いつまでたっても美人さんだなぁ」

曾孫「そうだよ! ひーばあちゃんは、さいきょうのひーばあちゃんだよ!
   だってほーおーいんきょーまの、ひーばあちゃんだもん!」

紅莉栖「ふ……ふふ……」



曾孫「ひーばーちゃん! 91さいのたんじょうび、おめでとー! ながいきしろよなー!!」

186: 2011/11/06(日) 22:14:35.95 ID:2UVZ2E+p0
――2083 8/18 20:45――

鈴羽「ちぃーっす」

娘「いらっしゃい。ごめんね、毎日来てもらって」

鈴羽「いいんだよ。ごめんね、遅くなって」

娘「ううん、大丈夫。母さん、今日も穏やかだったし」

鈴羽「…やっぱり、誕生日からまた意識は戻らないままなんだ」

娘「うん……。あれ、結構無茶してたんだと思う」

鈴羽「そっか…なんか、複雑な気分だよ。やるべきじゃなかったかな?」

娘「何言ってるの。お母さん、すごく喜んでた」

鈴羽「そう? 本当に?」

娘「うん。あんなに嬉しそうなお母さんの顔、すごく久しぶりな気がする」

鈴羽「そ、そうかな…あはは。なら、良かったよ」

191: 2011/11/06(日) 22:17:27.18 ID:2UVZ2E+p0
鈴羽「…ねえ」

娘「何?」

鈴羽「怒らないで聞いてね。私…もう、クリスおばさんは起きない気がする」

娘「知ってる」

鈴羽「え?」

娘「…実の娘だもん。母親の氏期くらい、何となく分かるよ」

鈴羽「…そっか」

娘「最初はさ、そりゃ悲しかったわ。何であんなに元気だった母さんがこんな目に遭うんだ、って」

娘「…でもね。母さん、父さんが亡くなってから、目に見えて体調が悪くなっていったの。
  そりゃそうだよね。あんなに長くいたのに、いなくなったらショックを受けて当然だもん」

鈴羽「………」

娘「父さん、母さんが本当に好きで。母さんもそれに負けないくらい父さんが好きで。
  …本当に、娘の私からしてもちょっと引くくらい熱くなってた」

鈴羽「えへへ…あたしの初恋の失恋時代を思い出すね」

娘「あはは。ごめんね」

196: 2011/11/06(日) 22:21:22.01 ID:2UVZ2E+p0
娘「だからさ。母さん、父さんに会いたいに決まってるよ。父さんも、きっと母さんを待ってる」

鈴羽「…そうだね。でも、やっぱり寂しいね」

娘「うん。私、旦那に先立たれて、息子たちも自立したら実家に戻っちゃった脛かじり者だけど…。
  せめて、母さんの意思くらいは尊重しなくちゃ」

鈴羽「…充分、立派だったと思うよ。…家、広くなっちゃうね」

娘「大丈夫。私が責任もって、氏ぬまで管理するから。ちょっと広いけど、きっと大丈夫」

娘「母さんが安心して逝けるように、私…頑張る……か、ら…」

ポタ…ポタ…

娘「う、うぅぅぅぅぅぅ……!」

鈴羽「………」

娘「母さん…母さん! 私…私、幸せだったよ…!」

娘「今まで、本当にありがとう…。私、母さんと父さんの娘でよかった…。
  いっぱいいっぱい、愛してくれてありがとう……! 大好きだからね、母さん…!」

娘「あとのことは、私たちに任せて…! 心配しないでね、母さん!」

娘「う、うぅぅ…うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」


紅莉栖「………」シュー…シュー…

200: 2011/11/06(日) 22:24:33.24 ID:2UVZ2E+p0
――2083 8/21 15:31――

ピッピッピッ…

紅莉栖「………」シュー…シュー

医者「…危篤状態です」

孫「そんな…」

娘「母さん…!」

鈴羽「おばさん!」

曾孫「ひーばぁぁちゃぁん…! しんじゃいやだぁぁぁ!!」


紅莉栖「う……ん……」パチ


娘「!! 母さん!」

鈴羽「おばさん!」

孫「ばあちゃん!」

曾孫「ひーばあちゃん!」

紅莉栖「みん………な」

203: 2011/11/06(日) 22:27:57.39 ID:2UVZ2E+p0
紅莉栖(これは…何だろう? 私、何処にいるんだろ?)

紅莉栖(ぼやけてて、よく見えないな…でも、皆がいるのは、なんとなく分かるわ)

紅莉栖(あらあら、皆泣きそうな顔をして)

p.p.p.p.p...
イシキガ モドッタ! ネェ キコエル!? オバサン シッカリシテ!
オバァチャン! クリスサン! ヒーバーチャーン!

紅莉栖(まったく皆…気が強いくせに…本当は泣き虫なんだから…一体誰に似たんだか)

紅莉栖(…って、言うまでないか。本当に私の大好きな、可愛い子たちだこと…)



紅莉栖(…いよいよ、かぁ。長い人生だったなぁ…)

紅莉栖(でも、不思議ね。全然怖くない。むしろ、何だか幸せな気分)

紅莉栖(何でかなぁ。今から氏ぬっていうのに…すごく、暖かい)

紅莉栖(大好きな人たちに囲まれて氏ねるのって…とてもロマンチックね)




紅莉栖(ねぇ、そうでしょ? あなた)

208: 2011/11/06(日) 22:30:58.85 ID:2UVZ2E+p0
紅莉栖(そっか…あなたも、こんな気持ちだったんだ)

紅莉栖(優しさと悲しさと、そしていっぱいいっぱいの愛情の中に氏ねること)

紅莉栖(こんなにも暖かくて…まるで、このまま空に溶けていけるみたい)

紅莉栖(愛してその人を得ることは最上である。愛してその人を失うのは次にいい、か…)

紅莉栖(何だか分かる気がするわ。だって、こんなにも皆が愛しいんだもの)

ppppppppp...
カアサン! バアチャン! クリスオバサン!
ウワアアン! シンジャイヤダァァァ!

紅莉栖(ごめんね、皆。そんな悲しい顔をさせて)

紅莉栖(私は、もう充分幸せだった)

紅莉栖(あなたたちに出会えて。そして、人生のほとんどをあの人と過ごせて)

紅莉栖(私のために泣いてくれてありがとう。だからせめて、私は笑って逝くね)


紅莉栖「み、ん…な………あ、あり…が……t」ニコッ

209: 2011/11/06(日) 22:31:22.78 ID:2UVZ2E+p0
紅莉栖「りん……た………ろ…」




パタッ



p―――――――――――――――

カアサァン! バアチャン…! クリスオバサン!ウゥ…!
ウワァァァァァァァァァァァン!ヒィィバァァチャァァァァァァン!!







――2083 8/21 15:37――

岡部紅莉栖:逝去(享年91歳)

218: 2011/11/06(日) 22:34:22.94 ID:2UVZ2E+p0
―――ねえあなた いつか言ってたよね


―――世界線は、無数の糸が絡み合ってできているロープみたいなものだって


―――だとしたら、世界線から見て私の存在は、ただの繊維の断片でしかないのかな?


―――もしそうだとしたら とても悲しいことだと思う だってそうでしょ?


―――世界の構造の1つに組み込まれているだけなら、それは社会の歯車と同意義ということ


―――そうだとしたら、人生というものはとても無機質で素っ気無いもの そう、思ったの


―――…でもね 今はこう思う 繊維は、単体では体を為さない


―――他の繊維と結び合い 繋がりあい 引き合っているから意味があるんだ、と


―――だから私とあなたが出会えたことは、実はとても素敵なことなんじゃないかって

229: 2011/11/06(日) 22:37:35.94 ID:2UVZ2E+p0
―――そう思わない? だって、私たちが絡み合った結果、子孫という糸を残す


―――その子供たちがまた子供を生んで、どんどん糸を紡いでいくの


―――そうして生まれた糸が絡み合って、折り重なって出来たのが世界だとしたら


―――私たちが生きてきた証は、世界がちゃんと覚えてくれる それはこれからも続いていく


―――すごいと思わない? アインシュタインもびっくりだと思うな


―――人として生きる意味があるのだとしたら、私たちは立派にその役目を果たした


―――後のことはあの子達に、心置きなく任せていける


―――何よりもあなたが干渉してきた60年の人生、私はとても幸せだった


―――本当だよ?




―――だから もう、いいよね? そっちにいっても

239: 2011/11/06(日) 22:41:43.26 ID:2UVZ2E+p0
―――あなたと過ごした70年と2ヶ月と半月 あなたのいなかった20年と10ヶ月と半月


―――後悔のない人生だった 愛してくれてありがとう 私はとても幸せでした


―――また、会えるよね 私たちは、もう一度出会える気がするんだ


―――きっと…それが運命石の扉の選択だから




―――まだ見ぬシュタインズ・ゲートの先で あなたがいますように






――― バ イ バ イ    大 好 き ―――





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240: 2011/11/06(日) 22:41:58.28 ID:2UVZ2E+p0
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―――

























「遅かったな。助手よ」

~おしまい~

243: 2011/11/06(日) 22:43:23.18 ID:MEQaR/bZ0
お疲れさん いい作品だった

257: 2011/11/06(日) 22:45:21.78 ID:2UVZ2E+p0
最近実家に帰ると、物忘れが多くなった親父のことが心配になります。
といっても、俺のことは全然覚えているし、バリバリ働いてるし、元気に犬の散歩にも行ってる。
でも、帰るたびに同じような話題を振ってくると、少し不安になります。
もし親父がこうなったら、俺にはきっと何もすることは出来ません。
でも、せめて傍にいて生きてやろうと思います。
取り合えず、親父と一緒に人生を全うしていこうと、そう思います。
それくらいしかできないけど、それがきっと金玉から産んでくれた親父への恩返しになると信じている。

まぁようするに何が言いたいかっていうと、8bitの助手可愛すぎだろ、ってこと
ごめんね、こんな最後がアホなレスで。だって湿っぽい終わり方ってあまり好きじゃないのよ。

とにかく、読んでくれてありがとうございました。お疲れ様でした。

268: 2011/11/06(日) 22:49:18.32 ID:2UVZ2E+p0

紅莉栖「岡部と別れる」
岡部「俺は呪われているのかもしれない…」
4℃「ふぇぇ…またフェイリスたんに辛く当たっちゃったよぉ…」
岡部「ラボメンでカラオケに行くことになった」

そしてあまり思い出したくないSS処O作がこちら…

岡部「安価で未来ガジェットを作る」

シュタゲSSが一段落ついたので、ここでちょっとまとめてみたり。多分、コレ以降はもう書かないんじゃないかなぁ、と思ったり。
最近はシュタゲSSが少なくて寂しいですね。今日はちょくちょく見かけたけど。
でも、劇場版にOVA,冬コミにオンリーイbrントと、まだまだシュタゲ熱は冷めそうにありません。
ここでまた良いシュタゲSSと出会えることを、心から楽しみにしてます。

長々と失礼しました。
それでは皆様、よいシュタゲライフを
ノシ

280: 2011/11/06(日) 23:07:42.24 ID:2UVZ2E+p0
最後に一言だけ。
スレタイは…そういうことです。

では本当におやすみなさい

引用元: 紅莉栖(91)「助手ってゆーな」