1: 2010/08/27(金) 20:48:42.15 ID:vS1BKfgo
取りあえず全十話

初めてのスレ立てなんで何かあっても多めに見てくれ。


第一話 戦争!

唯たちが大学を受験するあたりに、戦争が始まった。
それから10ヶ月を経たある日のこと。
それは、紬の一言から始まった。

紬「みんなには悪いんだけど、私、バンドを辞めなければならなくなったの…みんなにも…もう会えないかもしれないの…。」

紬の目には溢れんばかりの涙が溜まっている。辞めるのは望んでのことではないだろう。たまりかねた律が口を開く。

律「ムギ…何かあったのかよ。いきなりそう言ってもみんな納得できないぜ。」

澪「そうだぞ。今は世間も冷たいけど、いつかきっと平和な時代が来るから、それまで頑張ろうって、練習場所を提供してくれたのもムギじゃないか。」

唯「そうだよ、ムギちゃんがいないと練習さえできなくなっちゃうし、なによりムギちゃんのキーボードがないと、放課後ティータイムじゃないよ!そんなのいやだよ!」

梓「ムギ先輩、よかったら理由を話してください。」

時は宇宙世紀0079、後に一年戦争と呼ばれる戦いの真っ只中である。

大学内でも活動が制限されはじめ、なんとかコロニーの有力者である父を持つ紬を頼って、世間の冷たい視線を避けて練習する場所を確保し、安堵していたところであった。
けいおん!college (まんがタイムKRコミックス)
2: 2010/08/27(金) 20:50:55.91 ID:vS1BKfgo
紬「私の父が、スペースノイドの独立運動に関わっていることは知っているわよね…」

一同は、頷いて紬に視線を向け続ける。
思えば紬がこういう類の話をしたことはなかった。
重要なことが起こっているのだと、理解できる。

紬「でも父はジオン派だったから、ザビ家とは折り合いが悪いの。」

紬「色々あったんだけど、それが原因で、私軍隊に入ることになっちゃったの…人質みたいなものかしら。」

たまらず律が口をはさむ

律「ちょっと待てよ。なんでムギが軍隊なんか行くんだよ。」

紬「最近、ジオンは旗色が悪いわよね…」

唯「ほえ?テレビでは勝ってるって言ってたよ?」

澪「バカ、昨日だかにオデッサの鉱山を放棄しちゃったし、大きい声じゃ言えないけど、負けてんだよ。」

梓「そうですよ、連邦軍が宇宙への大反攻作戦を計画してるって話もありますし。これ、アングラの出版物がソースですけど。」

紬「それでね、軍は長期戦に備えて、学生の動員も視野に入れ始めたらしいの。そしてその先駆けを、私にやれってことなのよ。」

4: 2010/08/27(金) 20:53:41.44 ID:vS1BKfgo
紬「艦もMSも、家のお金で用意させられたわ。だからみんなが練習に使っているこのスタジオも、もうすぐ人手に渡っちゃうの。」

紬「私がみんなに練習を続けようってわがまま言っておいて、みんなを裏切るようなことになっちゃって、本当に申し訳ないと思っているわ。」

紬は泣きながら頭を垂れた。
重い沈黙が響き渡る。
それを破ったのはまたしてもバンドリーダーの律だった。

律「ムギ、それさ、私も一緒に行けないか?」

一同の視線が律に集まる。紬も泣きはらした目をこすりながら律を見上げる。
律の表情は真剣そのものだった。

澪「おい律、お前何言ってるのかわかってるのか?氏ぬかも知れないんだぞ?戦争なんだぞ!」

律「分かってるよ、分かってるから行きたいんだ。」

澪「お前は絶対わかってない!」

6: 2010/08/27(金) 20:54:10.62 ID:vS1BKfgo
律「さっき唯も言ってたよな、放課後ティータイムはムギがいないと駄目なんだ。ムギをひとりで氏なせたら、私は絶対後悔するし、このバンドも終わりだ。」

澪「りつぅ…」

最早泣き顔の澪は上手く声が出ず、反論ができない。さらに律が続ける。

律「ムギが言ってたことが本当なら、いずれ私らも徴兵されるだろうしな。そうなったらムギがひとりで氏ぬどころか、みんなバラバラで、あの世でバンド組むにしても、探す手間が大変だ。」

律「だから私は、ムギと行きたい。一人でなんか、絶対に行かせないからな、ムギ。」

紬は、相談したことを深く後悔していた。

7: 2010/08/27(金) 20:55:27.86 ID:vS1BKfgo
専ブラだが期待すんな。

半年ロムってただけだ

8: 2010/08/27(金) 20:56:21.07 ID:vS1BKfgo
しかしそれに追い打ちをかけるように唯が続ける。

唯「私もつれてってよ、ムギちゃん。」

梓「唯先輩はダメです!邪魔になるだけです!」

唯「あずにゃんは黙ってて!」

梓の目にもあっという間に涙がたまって今にも溢れそうだ。
唯は続ける。

唯「ムギちゃん、わたしね、毎日家で練習してるんだけどね…」

梓「ゆい…せんぱい…」

唯「みんなと演奏してるのを思い浮かべながら弾くと、すごく楽しいし、練習も上手くいくんだよ。」

唯「でも、もし誰かが氏んじゃったら、きっと想像の中でも、その誰かがいなくなっちゃって…私きっと…練習できなくなっちゃう…」

いつの間にか、その場の全員が泣いていた。

唯「そうしたら…私…和ちゃんがいうように…何もできないニートになっちゃうよ…」

和は、唯とは違う大学だったが、入って早々つまらないと言い残してどこかに消えていた。彼女なりの道を見つけたのだろうが、唯にとっては寂しい話だった。

9: 2010/08/27(金) 20:59:49.83 ID:vS1BKfgo
紬「唯ちゃん、艦にギターは持ち込めないわよ・・・」

唯「ムギちゃんと一緒に居させて!ギー太は帰ってきたら弾くことができるけど、ムギちゃんは…わたし、そんなの嫌だよ!」

紬「りっちゃん…唯ちゃん…ダメよ…お願い…諦めて…」

紬「私も辛いけど…みんなを巻き込むのはもっと辛いの…」

律「巻き込むとか、そういう事言うな!」

唯「そうだよ、ムギちゃん!」

熱くなってきたその場の空気を、澪が静めるように、言った。

澪「もうさ、話し合いになってないぞ…今夜一晩頭を冷やして考えて、明日また話しあおう…な。」

10: 2010/08/27(金) 21:02:32.79 ID:vS1BKfgo
それを聞いて律と唯が急いで帰り支度をはじめる。

律「私はもう決めたからな。これから家族を説得しなきゃならないから、先に帰るぞ、澪。」

唯「私も憂を説得しに帰るよ。あずにゃん、悪いけど先行くね。バイバイ。」

二人が帰ったあと、紬はか細い声で謝り続けた。

紬「ふたりとも…ごめんなさい…私が軽率に相談なんかしなければ…」

澪「…ムギは悪くないよ…だから心配しないで、今日は帰って休もう。」

梓「そうですね…明日また話し合いましょう。ムギ先輩、ひとりで消えたりしないでくださいね。唯先輩と律先輩、何するかわかりませんから。」

紬「うん…明日、必ずまたここに来るわ。」

11: 2010/08/27(金) 21:03:38.98 ID:vS1BKfgo
澪と梓は、話し合いながら一緒に帰っていた。

澪「なあ、大変なことになったけど、梓はどうするんだ?」

梓「私は、唯先輩が行くなら、ついていこうと思います。」

澪「あ…梓、それって…やっぱり唯のこと…///」

梓「ち、違いますです!///あの人は私がいないと何もできないから心配なだけです//////」

澪(どうしてこう素直じゃないかな…私も律が心配でついていきたいけど…戦争……怖い…)

12: 2010/08/27(金) 21:05:15.98 ID:vS1BKfgo
田井中家では家族会議が行われていた。

律「…というわけだから。私はもういないと思ってくれ。」

律父「…」

律母「…」

聡「姉ちゃん…なんでだよ。男の俺が行けばいいじゃないか!」

律「聡…お前は年齢制限に引っかかるから父ちゃんと母ちゃんを守る役だ。しっかりやれよ。」

律母「律…何も進んで志願することはないんじゃないの?」

律「さっきも言ったけどこれは私の仲間内の問題なんだ。ムギをひとりで行かせる訳にはいかない。」

律「私は荷物をまとめるから、もう部屋もどるぜ。」

律が逃げるように居間から出る。
話が長引けば、それだけ自分の決心がブレてしまいそうだったからである。
律も、怖かったのだ。
だが、紬を一人で戦場に送るという選択肢は律にはなかった。

聡「父ちゃんはどうして何も言わないんだよ!」

律父「どうせ一晩考えて、怖くなって明日にでも止めると言い出すに決まってる。愛国熱に浮かれてるだけだからほっとけ。」

律父の読みはほぼ当たっていた。
紬という仲間の命がかかっていなければの話であるが。

13: 2010/08/27(金) 21:08:43.92 ID:vS1BKfgo
憂は、泣いていた。

憂「お姉ちゃん、断ってきてよ。今すぐ!」

唯「いやだ。私ムギちゃんと行くって決めたんだよ。」

憂「お父さんもお母さんも地球で戦闘に巻き込まれて氏んじゃって、今度はお姉ちゃんも戦争に行くなんて、私そんなの嫌!!」

憂が突然立ち上がり、受話器のボタンを操作する。
琴吹家に電話して、唯の入隊を阻止するためだった。
唯がそれを止める。
琴吹家の番号が表示されたコードレスの受話器が床に転げ落ちた。

唯「私、ちゃんと帰ってくるから、憂はおとなしくお留守番してて!」

憂「嫌だ、お姉ちゃん!行かないで!」

姉妹喧嘩は、一晩中続いた。

14: 2010/08/27(金) 21:13:29.24 ID:vS1BKfgo
次の日、紬がスタジオに入るとすでに何人かは荷物まで持ち込んでいた。
今すぐでも入隊可能なくらいである。

律「よう、ムギ。荷物はこんなもんでいいか?私のおやじったら、家出る時、口をあんぐり開けちゃって、傑作だったぜ。」

紬「そ、そう…って、憂ちゃんまで!?」

憂「私、お姉ちゃんについていきます。」

唯「ごめん…私が止めきれなかったの。」

澪「私も決めたよ。みんなバラバラは、嫌だからな。」

紬「梓ちゃんは?」

律「何か手間取ってるって唯の方に連絡があったってさ。受験生だし、こないんじゃないか?」

話している先からドアが開いて、梓が現れた。

梓「遅れてすみません…ちょっと言い辛いんですけど…」

純「やっほー。来ちゃったよ。やっぱり憂もいるね。」

憂「純ちゃん!どうして!?」

純「昨日電話したら、梓が学校辞めるって言い出してさあ、問い詰めたったわけ。憂は電話にすらでなかったし。」

純「私も憂みたいに両親氏んじゃったし、軍隊はご飯困らないしね。」

15: 2010/08/27(金) 21:14:43.34 ID:vS1BKfgo
紬が、観念したように口を開く。

紬「みんな、今日一日だけ良く考えて。明日の8時にうちで適正検査を行うわ。」

律「私はもう家出てきたからここに泊まるぜ。」

次の日、全員が琴吹家に集合していた。
適性検査は丸一日掛かり、次の日には結果が出た。
ただ、結果が知らされるのは一週間の基礎訓練の後になる。
適性検査の結果で大体の職域が振り分けられるが、基礎訓練でその絞り込みが行われる為である。
適性検査の次の日から、軍の施設で基礎訓練が始まった。

16: 2010/08/27(金) 21:18:22.29 ID:vS1BKfgo
次回予告(ナレーション:澪)
軍隊での生活は、私たちにとってショックの連続だった。
教官の無茶な命令に、ボロボロになっていくみんな…。
皆を励ます律の笑顔の先にあるのは、みんなで絶対に生き残るという強い意志だった。

次回 第二話 入隊!
君は、生き延びることができるか…///ハズカシイ


19: 2010/08/27(金) 21:29:55.62 ID:vS1BKfgo
第二話 入隊!

ジリリリリリリリリリリリ

その音に、唯を除く全員がベッドから飛び起きる。

律「唯、起床だ!Bグループに負けちまうぞ!」

唯「う~ん…おかわり…」

紬「取りあえず、唯ちゃんは私が担いでいくから、澪ちゃんたちは、唯ちゃんのベッドをお願い。」

澪「分かった、律は毛布を頼む。」

律たちAグループが点呼に降りたとき、憂たちBグループは点呼を終えるところだった。

20: 2010/08/27(金) 21:30:47.98 ID:vS1BKfgo
憂「Bグループ、総員3名、欠なし。健康状態異常なし。集合完了!」

憂が敬礼し、教官が答礼する。

教官「Bグループ、点呼終わり。解散。」

憂(お姉ちゃん…大丈夫かな…)

律「Aグループ、総員4名、欠なし。健康状態異常なし。集合完了!」

律が敬礼するが、教官は答礼しなかった。

教官「オイ、平沢姉二等兵。」

唯「ふえ…たくあん…」

教官「田井中二等兵、こいつも健康状態異常なしか?」

律「ええっと…そのう…」

教官「上官の質問には即答しろ!」

律「ハイ、すみません。平沢唯二等兵は半分寝てます!」

教官「秋山二等兵、そいつを殴って覚醒させろ!」

澪「え、ええっと…唯、起きろ。(教官…怖い…目がイッちゃってるじゃないか…)」

澪は唯を軽く叩く。もちろん唯は起きない。

21: 2010/08/27(金) 21:31:34.28 ID:vS1BKfgo
教官「こうやるんだ、修正!!!」

ホールにビンタの音がこだまする。

唯「ぽへ」

教官「田井中二等兵、罰としてその場に腕立て伏せの姿勢を取れ!30回!」

紬「わ、私たちも…」

全員が腕立て伏せの姿勢をとろうとするが、教官がそれをさせなかった。

教官「俺は田井中に命令したんだ!他の奴は田井中がやり遂げるまで黙って見てろ!」

律「いち、に、さん…」

唯「りっちゃんごめんなさい……私のせいで…」

唯を始め、全員が泣きじゃくっていた。

22: 2010/08/27(金) 21:32:45.67 ID:vS1BKfgo
教官「駄目だ、声が聞こえない!俺が数えてやる!」

教官「しい、ごお、ろく、ろく、ろーく、ろおおおおく…」

律「うへえ~」ペタ

回数が六から進まない。律が、たまらずその場にへたり込んだ。

教官「どうした、まだ5回しかできていないぞ。貴様は根性なしか!」

起床は6時だったが、点呼が終わると7時近くになっていた。
絶望にまみれた朝だった。
結局Aグループは朝食に間に合わなかった。

唯「みんなごめんね…おなかすいたよね…」

律「唯、気にすんな。それより午前は座学だ。寝ないように気をつけろよ。寝たら朝の悪夢がよみがえるぜ。」

紬「第一講堂で現代戦史よ。忘れ物は無い?」

唯「うん、大丈夫。」

澪「私は食べ物を買いに酒保に行ってくるから、カバン頼むな。」

紬「OKよ、時間に遅れないでね。」

23: 2010/08/27(金) 21:34:16.38 ID:vS1BKfgo
全員が、聞きなれない戦史の授業を必氏に聞いていた。

教官「ミノフスキー粒子の使用によって、それまで戦闘方法は一転し…」

教官「お…もうこんな時間か…よし、10分の休憩を与える。」

律「休憩、入ります。」

律「よし、手早く食うぞ。」

澪「カ○リーメイトだけどいいかな?」

紬「わあ、なにこれ。クッキーみたいで美味しそう!」

唯「食べれるならなんでもいいよ!いただきます!」

唯たちがカ○リーメイトを口に入れた瞬間、悪夢が蘇った。

教官「貴様ら、何を食っているのか?」

唯「ほえ?カ○リーメイトですけど…」

教官「朝食は?」

唯「点呼が遅くなって食べれませんでした~。えへへ…」

澪「あわわわわ…」ガクガク

24: 2010/08/27(金) 21:35:03.69 ID:vS1BKfgo
講堂に、ビンタの音が響き渡った。

唯「ぺひゃ」

教官「食堂の飯を食うのも軍人の勤めだ!貴様らの食う飯は、同胞の血と汗と涙の結晶である!貴様らはそれを無駄にしたのだ!」

教官「おまけに朝食をとっていれば食わなくてよかったものまで買っているとは、無駄にも程がある!」

教官「酒保の商品も軍の物資である。貴様らはそれも無駄にしたのだ!金を払えば買えるとでも思ったんだろうが、前線でそれを言ってみろ!後ろから撃たれるぞ!!」

たまらず、唯が泣き崩れる。

唯「うええええええん!!」

教官「やかましい!琴吹、そいつを黙らせろ!!」

紬が唯の口を必氏に塞ぐ。

紬「唯ちゃん、お願い、泣き止んで。」

唯「うう~ひっぐ…むぐ…」

25: 2010/08/27(金) 21:36:35.12 ID:vS1BKfgo
しかしこれで教官の追求は終わりではなかった。
教官が続ける。

教官「で、この貴重な軍の物資を、貴様らの胃袋という名のゴミ入れに捨てるため、わざわざ酒保から買ってくるという愚かな行為をしたのはどいつだ?」

澪「わ、私です…ごめんなさい…」

教官「よし、田井中二等兵、腕立て伏せの姿勢を取れ!20回!」

律の腕は、朝の腕立てでパンパンに張っており、使い物にならなかった。

澪「私がやったことですし、私が…」

教官「俺は田井中と言ったはずだが。」

澪「ヒッ!!」

教官「秋山!貴様のヘマで貴様が氏ぬだけで済むと思うな!貴様がヘマすることで田井中が氏ぬことだってあるのだ!これはそういう事だと思え!!お前は腕立ての回数でも数えてろ!!」

澪「いち、にい、…頑張れ、律。」

澪「じゅうご…じゅうろく…もう少しだぞ、律。」

教官「腕の曲げ方が足りない。四回目からやり直せ!」

澪「そ…そんな…」

教官「早くしろ!休憩時間は終わってるんだぞ!講義の時間までむだにする気か?」

澪「うう…ひっく…よん…ごお…」

26: 2010/08/27(金) 21:38:00.19 ID:vS1BKfgo
講義が終わって、四人はようやく食料にありつけた。

律「全く、たまんねーなあ。腕が太くなっちゃうぜ。」

昼食をとり終わり、律がいつものように笑いながら皆に語りかける。

唯「みんな…ごめんなさい…」

澪紬「私も…」

律が、制する。

律「ちょっと待った。ごめんとか、悪かったとかいうのは金輪際止めにしよう。」

律「一人のミスは、皆のミスだ。いちいち謝ってちゃ、キリがないしな。何があっても、恨みっこなしで行こうぜ。私たちはチームだからな。」

澪「律…」

紬唯「りっちゃん…」

律「さあ、次は体育だぞ!着替えなきゃいけないから、そろそろ居室に戻ろうぜ。」

体育は、本当の地獄だった。
四人はへとへとになって居室に帰ってきた。

27: 2010/08/27(金) 21:38:44.42 ID:vS1BKfgo
唯「ほええええ。」

律「キツかったな~唯隊員。」

紬「みんな…こんなことに巻き込んでしまって、本当にg」

律「ムギ、ルール違反だぞ!」

紬は涙をこらえて、笑顔を作った。

紬「じゃあ、言い換えるね。私に付き合ってくれて、ありがとう…みんな。」

澪「明日からは、お互いに負担を掛けないよう、皆頑張ろうな。」

唯紬「おーーーーっ!!」

律は照れ隠しに頭を掻きながら、口を開いた。

律「ささ、今日の復習しとかないと、明日も腕立てで、みんなマッチョになっちゃうぞ!」

居室に、笑いが溢れた。
今日一日で、初めての笑い声だった。

28: 2010/08/27(金) 21:39:49.88 ID:vS1BKfgo
リーダーは、日替り制である。
純は、慌しく朝を迎えた。

純「ええっと…こうして…」

憂「純ちゃん、点呼だよ。急いで。」

梓「ああもう、毛布は私たちでたたんであげるから、リーダーなんだから、しっかりして。」

純「うん、二人共、ありがと。」

ホールに降り、整列。点呼報告をする。

純「えっと…Bグループ、全員集合…だったっけ?」

教官「号令が違う!」

純「Bグループ…」

憂がすかさず、耳打ちする。

憂「総員三名、だよ、純ちゃん。」

29: 2010/08/27(金) 21:40:58.49 ID:vS1BKfgo
そうこうしているうちに、Aグループが点呼をとってしまう。

紬「Aグループ、総員四名、欠なし。健康状態異常なし。集合完了。」

教官「Aグループ、点呼終わり。解散。」

純「Bグループ、総員三名、欠なし。えっと…みんな元気です!」

教官「そんな号令はない!」

純「Bグループ、総員三名、欠なし…」

憂「健康状態異常なし。集合完了。だよ。」

純「健康状態異常なし。集合完了。」

教官「…点呼終わり。Bグループは居室点検!」

純「え…?」

教官がズケズケと居室に侵入する。
純は慌ててそれを追いかけたが、部屋に入ると教官が純の毛布を引っ張り出していた。

純「ちょ…ちょっと…」

教官「鈴木二等兵、何だこの毛布は!クンクン!」

純「えっと、琴吹繊維製…ウール100%…」

教官「誰が品質表示を読めと言った!ふざけるな!見ろ、この折り目はなんだ!汚すぎる!!クンカクンカ!!」

純「…すみません…」

教官「鈴木二等兵!腕立て伏せの姿勢を取れ。20回!」

30: 2010/08/27(金) 21:43:10.64 ID:vS1BKfgo
朝食の時間はギリギリだった。
食べ終わったら重い装備を身につけて射撃訓練である。慌ただしかった。

純「はあ、はあ…」

憂「純ちゃん、大丈夫?」

梓「リーダーでしょ、へばんないでよ。」

純「へ、へばってないもん…」

武器庫に到着すると、教官が待っていた。

純「き・・・気をつけ。右へ倣え。」

純「Bグループ、総員三名、欠なし。健康状態異常なし。集合完了。」
 
教官「オイ、鈴木二等兵、昨日武器庫の開錠時間は何時だと教わった?」

純「8時20分です。」

教官「軍隊では時間をそのように表現すると教わったのか?」

純「すみません…マルハチフタマルです。」

教官「今、何時だ?」

純「ええっと…0840です。」

教官「遅い!!武器庫の開錠は部隊ごとに時間によって厳しく統制されている!貴様のヘマで、訓練施設全体の行動が遅延した!どうしてくれる!!」

純「す…すみません…」

31: 2010/08/27(金) 21:44:26.19 ID:vS1BKfgo
教官「貴様の銃だ。受け取れ。」

純「はい!!」

教官「控え銃!駆け足、進め!営庭二周!」

純「はっ…はっ…」

教官が純の後ろにぴったりついて罵声を浴びせ続ける。

教官「速く走れ!貴様が走り終わるまで教育は一ミリも進まんのだぞ!」

三キロ以上ある小銃を抱え、純は氏ぬ思いで走っていた。

純「ふう…はあ…おもい…」

教官「へばるな!もっと速く走れ!おら!!」

純のスピードが落ちると、教官が背中を無理やり押して、スピードを落とさない。

教官「歩調、数え!」

純「いち、いち、いちにい!」

純は、ヘトヘトになって武器庫に帰りついた。

純「ぜーっ…ぜーっ…」

教官「このクズのせいで、教育に遅延が生じている!急ぐぞ!射撃場まで駆け足!!」

純は一日、走り通しだった。

32: 2010/08/27(金) 21:46:04.36 ID:vS1BKfgo
純「憂はスゴイね…昨日憂が問題なくこなしてたから、私リーダーって簡単なことだと思ってたよ。」

憂「いつもお姉ちゃんの世話で忙しいの慣れてるから…でも純ちゃん大変だったね。」

梓「明日はリーダー私か…憂鬱だな~。っていうか唯先輩、大丈夫かな?」

その一言で、憂の顔色が変わる。

憂「そうだ…お姉ちゃんも…きてるんだった…」

憂の目が、みるみるうちにうるんで来る。

憂「おねえちゃん…」

梓「だ…大丈夫だよ。他の先輩たちもいるし。」

純「そうだよ!な、なんとかなるって。」

純と梓が慰めたが、寝るまで憂が泣き止むことはなかった。


一週間は、すぐに過ぎた。
これからは、各職域に分かれて訓練する。
今日はその、職域が発表される。

教官「Aグループは、全員MSパイロット。Bグループは、中野二等兵、MSパイロット、平沢妹二等兵、医療班、鈴木二等兵は通信に配属される。これからそれぞれの訓練所に分かれて専門教育を受ける。移動は明日までだ。さっさと行け。」

33: 2010/08/27(金) 21:47:20.83 ID:vS1BKfgo
各人は、慌しく準備を始めた。

律「引越ーし、引越ーし、とっとと引越ーし♪」

梓「久しぶりです、先輩。」

唯「おー、あずにゃん。放課後ティータイムはやっぱり見えない糸で結ばれてるんだね。」

梓「そんな事より唯先輩、私が先輩の荷物まとめてあげますから、憂のところに行ってあげてください。お姉ちゃんと一緒じゃないって、泣いてますよ。」

唯「わかった!行ってきます!!」

澪「それにしても、唯がMSパイロットとはな…」

律「唯は飲み込み早いからな。よいしょ。」

紬(唯ちゃんの適正…何かの間違いよね…)

実は、紬は適性検査の結果を斉藤から見せられていた。
唯の脳波測定記録には、N+ 微弱な感応波を観測 と書かれていた。
ニュータイプ適正である。
唯とは、もしかしたら最後まで一緒にいられないかも知れない。
紬はそう思っていた。

34: 2010/08/27(金) 21:48:18.39 ID:vS1BKfgo
唯は、泣きながら荷物をまとめる憂に歩み寄った。

唯「うい…大丈夫?」

憂「お姉ちゃん…私…お姉ちゃんと一緒になれなかった…寂しいよ…」

唯は、しっかりと憂を抱きしめた。

唯「憂…私、毎日電話するよ。それに教育が終わって艦に配属になったら、毎日会えるよ。だから、寂しくないよ。」

憂「おねえちゃん…」

唯「憂、頑張ろうね!」

唯は抱きしめる手に、力を込めた。

憂「お姉ちゃん、苦しいよ。」

二人は、笑顔を作って離れた。

35: 2010/08/27(金) 21:50:23.91 ID:vS1BKfgo
次回予告(ナレーション:唯)
MSの訓練施設でね、懐かしい人に会ったんだ。
不氏身の女の人だよ。
恥ずかしがりの澪ちゃんは実機訓練で、大変そう。
これ以上は、ネタバレになっちゃうから、言わないね。

次回 第三話 パイロット!

君は、生き延びることができるかっ!フンス


今日一日熱中症と戦った体が限界なんでもう寝る!

レスくれた人ありがとう。

39: 2010/08/28(土) 19:27:27.58 ID:3g3TlqEo
第三話 パイロット!

MSパイロットの訓練は、座学、シミュレーター、実機と、順を追って行われる。
唯たちが座学を受けに教場に向かっていると、シミュレーター室の方でざわめきが起こっていた。

唯「なんか向こうが騒がしいよ。」

律「よ~し、時間に余裕もあるし、シミュレーター見学も含めて、行ってみようぜ。」

澪「怒られるかも知れないぞ。」

紬「その時はその時よ。行ってみましょ。」

梓「みなさん肝が大きくなりましたね。」

唯「はいよっと、ごめんなさいね。え~と、何があったんですか?」

パイロット候補生「教官が模擬戦で不氏身のコーラサワコに負けたんだよ。」

唯「へえ、どんなひとだろ?」

パイロット候補生「模擬戦全勝の女だ。いま出てくるぜ。2番シミュレーター。」

40: 2010/08/28(土) 19:36:47.77 ID:3g3TlqEo
「2」と記されたカプセルからパイロット候補生が出てくる。
ヘルメットを取ると、髪の長い女のようだった。

「ま、これが実力ってやつよねえ。」

唯は、その女に見覚えがあった。

唯「さわちゃん先生!?」

さわ子「あら…!唯ちゃん!?」

律「さわちゃんだって!?」

律を始め皆が人ごみをかき分けて出てくる。

さわ子「皆まで…どうして!?」

律「どうしてはこっちのセリフでもあるぜ。なんでさわちゃんが…」

澪「おい律、時間時間。」

律「おっと…私たち講義があるから後でだ。さわちゃん夕食後大丈夫?」

さわ子「ええ、大丈夫よ。夕食後ね。」

41: 2010/08/28(土) 20:18:54.18 ID:3g3TlqEo
そして、夕食後。
六人は談話室に集まっていた。

さわ子「で、皆はなんでこんなところにいるの?」

律「実はムギが…かくかくしかじかで…」

さわ子「そうだったの…私も学校にいるときに学徒動員の話は何回か耳にしたけど、本当にやりだしたわけね。」

澪「さわ子先生は知ってたんですか?学徒動員の事?」

さわ子「教育委員会から通達が回ってきたのよ。学徒動員があるかも知れないから、スムーズな動員を助けるために、スペースノイドの独立論やニュータイプ論を教育に盛りこむようにってね。」

さわ子「うちは女子高だったからあまり気に留めなかったけど、まさかあんたたちが来ちゃうとはねえ…。」

紬「さわ子先生はどうしてMS訓練施設に来たんですか?」

さわ子「その愛国教育の一環ね。女子高の、女教師が志願したとなると、真面目な男の子なら黙っちゃいないでしょうから。今頃コロニーじゃプロパガンダに使われて私も有名人ねえ。」

梓「お互い大変なんですね。ていうか私さわ子先生が学校いなかったの気づきませんでした。」

さわ子「中野ォ!!オメーは顧問を何だと思ってんだあ!!」キシャア

梓「」

さわ子「…私はもうすぐ実機やって艦に配属になるけど。皆はこれからだから。頑張ってね。」

そう言ってさわ子は部屋に戻っていった。
悲しそうな、背中だった。

42: 2010/08/28(土) 21:18:30.91 ID:3g3TlqEo
唯たちも、すぐにシミュレーター訓練に入り、今は実機を残すのみだ。
学徒兵は促成栽培である。
軍隊に入ったのが11月の始めで、今は11月の終わりである。
やってる最中は長く感じたが、あっという間の教育期間だった。
来月初めには、紬の家が買ったという軍艦に配属になる。
これでも短いというのに次の期からは年齢制限も低くなり、さらに教育期間を短縮するらしい。

澪「そろそろジャブローを攻めるらしい。」

律「ジャブローを落とせれば、私たちの出番は無いな。」

紬「そうなってくれればいいんだけど…」

唯「ジャブローって、月だっけ?」

梓「唯先輩は黙っててください。」

施設の職員が、呼びに来る。

職員「田井中候補生、秋山候補生、初飛行だ。1番デッキに15分後。ノーマルスーツの点検はしておけよ。」

律「じゃ、行ってくる。」

澪「またな。」

澪の手は、震えていた。
確実に、戦場に向かって前進しているという手応えがあった。

43: 2010/08/28(土) 21:19:56.79 ID:3g3TlqEo
教官「カタパルトで射出後、ポイントC-5でカプセルを採取した後、2番ゲートに着陸する。シミュレーター通りだ。出来るな。」

澪「はい。」

教官「カタパルトは出力を絞ってあるから、感じるG自体はシミュレーターで経験したものと同じだ。君の前に田井中候補生が飛ぶから、それを見て落ち着いてやるように。」

その時、律がカタパルトに前進しているところが、サブモニターで確認できた。

律「T-04、MS-05、田井中律、いっくぜー!!」

T-04とは、練習機(trainer)104番という意味のコードネームである。
パイロット候補生は出撃時、コードネーム、機種名、パイロット名、出撃号令(行きます)を呼称することが義務付けられていた。

澪「教官、その…射出時の呼称なんですけど…」

教官「何だ、秋山候補生。」

澪「その…イク///とか…出る///…とかホントに言わなきゃいけないんですか?///」

教官「当たり前だ!君のタイミングで射出しないと、舌を噛んだり、Gで気絶したりするぞ!」

澪「は…はい…(人前でそんな事言うなんて…恥ずかしい///)」

44: 2010/08/28(土) 21:20:55.75 ID:3g3TlqEo
教官「ほら、カタパルトまで前進して。機体を固定。」

澪「歩行モード、微速前進。…カタパルト装着完了。」

教官「出撃呼称。」

澪「T-05、MS-05、秋山澪、イ…イク…//////」

教官「声が小さい!」

澪「T-05、MS-ぜrあむっ!」

教官「出撃呼称で噛むな!」

澪「T-05、MS-05、秋山澪、イクッ!//////」

教官「もっと大きな声で!」

澪「イクゥっ!!/////////」

45: 2010/08/28(土) 21:21:47.76 ID:3g3TlqEo
唯たちの居る待合室では、澪と教官のやり取りが放送で聞こえるようになっている。後から飛ぶ候補生が参考にできるようにである。

唯「澪ちゃん怒られてるね。」

梓「そ…そうみたいですね…//////(恥ずかしいならイク///じゃなくてもっと他の表現があると思うんだけど…)」

唯「ムギちゃん大丈夫?すごい鼻血だよ!!」

紬「唯ちゃん、悪いけどティッシュを貸してもらえるかしら。持ってる分じゃどうあがいても足りないわ。」ボタボタ

梓「ム…ムギ先輩…」

澪「イクゥーーーーーっ!!////////////」

教官「よし、出すぞ!!」

澪の体がシートに押し付けられる。
本物のGだ。
ゲートを抜けると、星の海だった。
教官の声が聞こえなかったら、ずっと見とれていただろう。

46: 2010/08/28(土) 21:23:01.46 ID:3g3TlqEo
教官「AMBACを併用してサブスラスターで姿勢を制御。ポイントC-5をセンターに入れてみろ。」

澪は、訓練通りにやったが、上手く行かずにもたつく。

教官「落ち着け。スラスターを吹かし過ぎだ。」

澪「は、はい…」

スロットルとフットペダルを、優しく操作してやる。

教官「上手いじゃないか、次はメインスラスターも使ってポイントC-5まで行ってみろ。加速しすぎて、通りすぎるなよ。」

澪「はいっ…うっ!」

スロットルを開けていくと、澪の背中にGがかかる。
目標がみるみるうちに大きくなる。

教官「逆噴射。」

澪「ウウッ…」

逆噴射をすると、シートベルトが食い込み、頭が前に持って行かれる。
徐々に速度が落ちてくる。目標の目の前で澪のザクはそれとの相対速度を0とし、Gも止んだ。

47: 2010/08/28(土) 21:23:37.43 ID:3g3TlqEo
教官「マニュピレーターをマニュアル起動、目標を掌握しろ。」

澪「はい。」

澪はザクの手で目標を優しく包み込んだ。
細かい作業は得意である。

教官「いいぞ。マニュピレーターをホールド。帰投する。着地は難しいから、気を抜くなよ。」

澪「はい。帰投します。」

澪のザクは、カプセルを抱えてスムーズに着地した。
また、戦場に向かって一歩を踏み込んだように思えた。

まもなく、五人は訓練施設を卒業した。
ジャブロー攻略戦は失敗した、という情報も入ってきた。

50: 2010/08/29(日) 17:59:14.08 ID:Kgh7t32o
第四話 軍艦!

配属になる艦が見えてくる。チベ級の重巡洋艦だ。

唯「こ、これムギちゃんちで買ったの…?」

紬「別荘、なくなっちゃったけどね。会社も火の車らしいわ。」

梓「私はムサイ級だとばっかり思ってましたよ…すごい。」

澪「ああ…でかいな。」

律「とにかく荷物置きたいな。部屋はどこだ?」

斉藤「みなさんの居室は第2居住区にございます。こちらへ。」

新造艦の新しいペンキの匂いが5人の鼻をつく。
理由はよくわからないのだがなぜか誇らしい気持ちになってくる。
パイロットは個室が与えられるはずだが、五人は士官ではないということで二人部屋なのだそうだ。

51: 2010/08/29(日) 18:01:54.45 ID:Kgh7t32o
斉藤「荷物を居室に置かれましたら、艦長への着任報告をしていただきます。」

律「いっそがしいねえ。一息つかせて欲しいんだけどなあ。」

梓「艦長は琴吹グループ関係の方ですか?」

斉藤「いえ、皆さんと同い年くらいで、非常に有能な方です。」

律「おいおい、艦長も若年兵かよ。大丈夫か?」

斉藤「史上最年少で大型航宙船舶の艦長資格を取られた方です。心配は無用かと。」

律「エリートじゃねーか、そんなのみすみす戦争に引っ張ってきていいのかよ。簡単に頃していい人材じゃないだろ?」

斉藤「本人たっての希望のようです。」

澪「変わり者なんだな…」

斉藤「到着いたしました。お嬢様は1号室、田井中様と秋山様は2号室、平沢様と中野様は3号室でございます。」

52: 2010/08/29(日) 18:03:07.81 ID:Kgh7t32o
唯「あの…妹はどこですか?」

斉藤「憂様は隣の第1居住区にお住まいです。」

紬「取りあえず荷物を置いて艦長室に行きましょうか。」

居室の自動ドアが開く。
紬の部屋は酒臭かった。

紬「…うっ。」

さわ子「なによ~、だれ~?」

紬「さわ子先生!?」

斉藤「山中様、艦内はアルコール厳禁でございますが…」

さわ子「出航したら調達できなくなるんだし、今だけよ~」

さわ子「あらムギちゃん訓練施設以来ね。いらっしゃ~い。」

ドアが閉まる。

53: 2010/08/29(日) 18:03:50.69 ID:Kgh7t32o
唯「ムギちゃん前途多難だね。」

梓「私だって前途多難です///。唯先輩と一緒なんて…//////。」

唯「ほえ?じゃあ澪ちゃんと変わってもらおうかな?」

梓「だだだダメです。律先輩に迷惑掛けないでください///」

律と澪が荷物を置いて出てくる。

律「じゃあ艦長室に行くか。斉藤さん、案内よろしく。」

斉藤「かしこまりました。」

艦長室はそう遠くはなかった。
これならば憂の居室もそう苦もなく行けそうだ。
通路はどこも似たようなつくりだが、壁に案内の矢印が付いているので初めてのものでも艦内のどこへでもアクセスできそうである。

54: 2010/08/29(日) 18:11:54.35 ID:Kgh7t32o
律が艦長室のドアをノックする。

「どうぞ」

自動ドアが開くと、そこには見知った人物が座っていた。

律「の…和!」

唯「和ちゃん!?」

和「驚くのはわかるけど、着任報告をして頂戴。話はそれからよ。」

律が、ぎこちなく敬礼する。

律「宇宙軍軍曹、田井中律他4名、MSパイロットとして着任いたします。」

和「着任を許可します。私は艦を任されている真鍋和少佐よ。この艦はチベ級重巡洋艦ブオンケ。艦名の由来は東北地方に生息する妖怪だそうだけど、そんな話必要ないわね。」

55: 2010/08/29(日) 18:12:48.05 ID:Kgh7t32o
和「ちなみに今後の予定は本コロニーを明日0600出航、明後日1130には宇宙要塞ソロモンの第6スペースゲートに入港。じ後宇宙攻撃軍の指揮下に編入されるわ。」

和「あなた達は出航までに受領したMSの初期点検を済ませておくこと。あとのことは山中曹長に一任してあるから、彼女に聞いて。」

律「了解。…ってなんで和がここにいるんだよ?」

和「うーん、どこから話せばいいのかしら?」

唯「和ちゃんが大学やめたとこからだよ。」

和「私は大学を辞めて、木星船団へ志願したの。木星のプレッシャーを体感してみたかったし、社会の根底を支えるやりがいのある仕事だと思ったから。」

木星船団とは、核融合エネルギー源のヘリウム3を、木星から採取し、地球圏まで運搬することを主な業務としている。
地球圏を離れての航行は長期にわたり、過酷である。

56: 2010/08/29(日) 18:13:33.89 ID:Kgh7t32o
和「試験さえ通れば私みたいな大学中退の若輩者でも別け隔てなく採用してくれるし、艦長職の資格も取らせてもらったわ。でも祖国が戦争してる時に、木星だのなんだのとロマンを求めているのもどうかと思ってた。」

和「そんな時に会社づてでこの部隊が発足することを知ったのよ。木星船団は、琴吹グループとも関わりがあったから。」

澪「そうだったのか…」

和「木星には行けなかったけど、また戦争が終わったら船団に戻りたいと思っているわ。木星行きも諦めきれないしね。」

唯「すごいね和ちゃん、木星帰りの女って呼んでいい?」

和「……だからまだ行ってないって…。」

梓「唯先輩は口を開かない方がいいです。」

和「さ、話はまたあとで聞くから、MSの点検の方をお願いね。」

律「わかった。要件終わり、退出します。」

58: 2010/08/29(日) 18:22:01.23 ID:Kgh7t32o
レスさんくす。

CMなったから投下するね

59: 2010/08/29(日) 18:22:43.22 ID:Kgh7t32o
部屋を出ると、律は唯の方に体を寄せた。

律「唯、お前は憂ちゃんのとこへ行ってやれ。起動チェックと初期点検は私たちがやってやるから。」

唯「え…いいの?」

律「あとから合流して、お前に合わせてペダルや操縦桿なんかを調整をすりゃいいだけにしとくからさ。憂ちゃんとずっと離れ離れだったから会いたいだろ。」

唯「うん…りっちゃんありがと!」

紬「憂ちゃんよろこぶわねえ」

澪「そうだな、早く行ってやれよ。」

梓「ですね。」

60: 2010/08/29(日) 18:23:25.97 ID:Kgh7t32o
第1居住区はすぐに見つかった。
憂は純と同室らしい。部屋をノックすると純の間延びした声が聴こえる。

純「どうぞ~」

唯「あ、純ちゃん。憂は?」

純「唯先輩、憂なら医務室ですけど。今日は当直らしいんで。」

唯「えっと…医務室は…」

純「私が案内しますよ。今暇ですし。」

純は手際よく部屋から出て、リフトグリップをつかんだ。
唯もそれに続く。

純「唯先輩、MSパイロットなんですよね。カッコいいなあ。」

唯「乗っている時は洗濯機の中に居るみたいだよ。Gがすごいんだあ。」

唯「まだ訓練施設でザクにしか乗ったこと無いんだけどね。」

純「ここにはリックドムが配備されているみたいですよ。」

唯「へえ、すごいね。新型だよ。」

純「医務室はここです。じゃ、私はこれで。」

純がリフトグリップに引っ張られて戻っていく。
唯はなんだか久しぶりに妹に会うのが気恥ずかしいような気持ちだった。

62: 2010/08/29(日) 18:30:11.04 ID:Kgh7t32o
唯「失礼します…」

医務室に入って初めて目を合わせたのは中年くらいの女医だった。
その女医が目を丸くしている。

女医「ひ…平沢伍長!?今そこに…」

唯「ええっと…私は平沢軍曹だよ。」

憂「先生、呼びましたか?」

女医「ひ…平沢伍長が二人…!?」

憂「おねえちゃん!!」

唯「うい~、元気にしてた?」

二人が抱きあう。女医もようやく事態が飲み込めたようだ。

63: 2010/08/29(日) 18:30:58.94 ID:Kgh7t32o
女医「ああ、いつも平沢伍長が喋っている、MSパイロットになったお姉さんだったのかい…あまり似てるもんだからびっくりしたわ。」

憂「はい、姉の唯です。」

憂の目は嬉し涙で濡れていた。涙はみるみるうちに溜まって、今にもこぼれ落ちそうである。
それをぬぐいながら憂は続ける。

憂「お姉ちゃん、ちゃんと食べてた?具合悪くない?ケガとかしてない?」

唯「みんな一緒だったから大丈夫だよ。」

憂「私、看護師になったから、何かあったらいつでも来てね。」

唯「うん。それじゃあ私、自機の点検に行ってくるね。」

憂「頑張ってね、お姉ちゃん。」

医務室の扉を出ると、唯はMSデッキを目指した。

64: 2010/08/29(日) 18:31:29.47 ID:Kgh7t32o
その時、MSデッキでは驚嘆の声が上がっていた。

律「しかしすげーな、ザクとは段違いじゃねーか。」

実際に乗ってみなくても、モニター越しに性能に関するデータを拾うだけで。MSがどれほどのものなのかが、想像できる。
リックドムは、訓練施設で使った旧式のザクとはまるで別物だった。

梓「ちょっと動かしてみたいですね。」

さわ子「出航が近いからダメよ。出航したら、警戒態勢になるから各チームシフトを組んで待機ね。その時に敵襲があれば処O飛行できるわよ。それまではシミュレーターで我慢しなさい。」

梓「敵が来たときに処O飛行なんて、初期不良とかメカニカルトラブルが起こったらどうするんですか?」

さわ子「冗談よ。私と斉藤さんのドムが飛行試験まで終わってるから、それで出ることになるわね。私の機体に傷をつけたら許さないけど。」

さわ子「まあ敵が出るような宙域ではないから安心して。」

65: 2010/08/29(日) 18:31:57.20 ID:Kgh7t32o
さわ子「取りあえずチーム分けをするわ。私と斉藤さんとムギちゃんがキーボードチーム。りっちゃんと澪ちゃんがドラムスチーム、唯ちゃんと梓ちゃんがギターチームよ。コードネームは、チーム名の後ろに番号をつけて。」

紬「私はキーボード03がコードネームね。」

澪「嫌だ。」

さわ子「ああん!!?なんだってえ!?」

澪「ヒッ!!!!」

さわ子の顔が優しそうないつもの表情に戻る。

さわ子「何か言いたいことがあったら言いなさいね。」

澪「ええっと、コードネームはベース01がいいです…」

さわ子「澪ちゃんはどうでもいいことにこだわるわねえ…」

澪「ど、どうでもよくなんかありません!」

その時、唯が医務室から帰ってきた。

67: 2010/08/29(日) 18:39:20.56 ID:Kgh7t32o
唯「みんなお待たせ~」

律「よう、ギター01、憂ちゃんはどうだった?」

唯「ほえ?なにそれ?」

梓「唯先輩のコードネームですよ。私がギター02で、二人でチームです。」

さわ子「シフトは6時間交代で、最初はドラムスチーム、次にギターチーム、キーボードチームの順で行くわ。待機場所はデッキ横の仮眠室ね。」

律「私はシミュレーターやりながら待機しとくよ。唯、操縦系の硬さと位置の調整しとけよ。」

唯「ほいさ。」

さわ子「熱心なのはいいけど、ちゃんと休息も取りなさいよ。」

さわ子の言う通り、ソロモンまで敵影はなかった。
ブオンケの緑の船体は、静かにソロモンの第6スペースゲートに入港した。

68: 2010/08/29(日) 18:40:08.02 ID:Kgh7t32o
和に、呼び出された。
唯がブリーフィングルームに到着すると、もうすでに主だったメンバーが揃っていた。

和「着任報告に行くわよ。」

唯「和ちゃんにりっちゃんがしたじゃん。」

和「ソロモンの司令に私が着任報告に行くのよ。あなた達も来るの。」

唯「ほええ。」

梓「唯先輩はしゃべらない方がいいです。」

律「そういえば、ここの司令はザビ家だろ。ムギ、大丈夫か?」

紬「ドズルさんは優しいから大丈夫よ。上の二人はちょっと苦手だけど…。」

澪「それなら問題ないな。」

紬「澪ちゃんにはちょっと刺激が強すぎるかも…」

澪「え、なんだって?」

紬「なんでもないわ~」

70: 2010/08/29(日) 18:40:50.22 ID:Kgh7t32o
7人は艦から降り、司令室を目指す。
途中で何人かの兵士が奇異の目を向けてくる。
若すぎると思っているのだろう。特に和は階級と年齢があっていない。
通り過ぎる兵士たちは、ほとんどが和より低い階級だったが、和に敬礼をすることはなかった。
和は気にせず進んだ。

気まずい空気を何とかしようと、唯が話題をふる。

唯「私たちで、みんなのあだ名を考えようか。ソロモンのゴキブリ、なかのあずにゃん、とか。」

梓「なんで私がゴキブリなんですか?」

唯「すばしっこくて攻撃が当たんないし、出てくるだけでみんな恐れおののくんだよ!」フンス

梓「そんなの嫌です!唯先輩ろくな事言いませんね!」

71: 2010/08/29(日) 18:41:27.91 ID:Kgh7t32o
澪「光速のベーシスト、秋山澪…」ボソ

律「みおちゅわん、なんだって~?」

澪「ヒッ!!何も言ってない…」

紬「きこえたわよ~」

澪「ムッ…ムギィ~っ///」

笑いが起こる。
最近は入隊した当初に比べてみんなよく笑うようになった。
この状況に、慣れてきているのだろうか。
澪は、自分が普通の人間じゃなくなったように感じ、少し寂しい気持ちになった。

72: 2010/08/29(日) 18:46:51.61 ID:Kgh7t32o
司令室のドアが開け放たれたとき、澪は震え上がった。
司令の机に収まっているのは、澪が見たこともないくらい恐ろしい形相の大男だったからだ。

和「重巡洋艦ブオンケ艦長、兼、在学徴集兵運用実験隊隊長、宇宙軍少佐、真鍋和以下7名。着任報告に上がりました。」

ドズル「ご苦労。楽にしてくれ。」

司令室には7人分の椅子が用意されていた。腰掛けろということなのだろうが、澪だけ立ったまま動かなかった。

紬「澪ちゃん、座って。」

紬が力まかせに椅子に押し付け、ようやく形ばかりは椅子に収まった。
澪は気絶しているようだ。

ポツリポツリと、ドズルが語りだす。

ドズル「琴吹殿には大変申し訳無く思っている。」

73: 2010/08/29(日) 18:47:43.53 ID:Kgh7t32o
紬「閣下がそのように思う必要はありません。父もそう言うでしょう。」

ドズル「いや、言いだしっぺは俺なのだ。俺が、戦いは数だと言いすぎたせいで兄上か姉上が学徒動員の話を進めてしまった。」

話が長くなりそうだと踏んだ和が切り出す。

和「すみません、今後の任務に関する仕事があるので、私はこれで失礼したいと思います。」

ドズル「おう、艦長は行ってくれ。気づかんで悪かったな。」

ドズル「琴吹殿、ミネバに会っていかんか?他の者も。」

紬「ミネバ様にお会いしてもよろしいのですか?」

ドズル「かまわん。ミネバも喜ぶ。付いてきてくれ。」

ミネバのいる部屋までは結構な距離を歩いた。
公私をくっきりと区別しなくては他の兵に対して示しが付かないというドズルの配慮だろうと紬は思った。
ザビ家の中で、政治や権力に毒されていなかったのは、ドズルだけだった。
そのため、ドズルは人望も厚く、紬の父もドズルとだけは交友があった。
紬が背中におぶった澪を重たいと感じ始めた頃に、ミネバのいる部屋へ到着した。

74: 2010/08/29(日) 18:48:47.00 ID:Kgh7t32o
唯「わあ、ちっちゃい。ムギちゃん、この子すっごくかわいいよ!」

梓「まさしく玉のようですね。」

律「わっ、ちっちゃい手で指をつかんだぞ!!」

動かない澪を部屋の隅において、紬もミネバのベッドに近づく。

紬「ミネバちゃ~ん、ほ~ら、マンボウのマネ~」

ミネバ「キャッキャッ」

唯「笑ったよ!ミネバちゃん笑った!!ミネバちゃ~ん!」

さわ子「ミ~ネ~バ~ちゃ~ん。ほんと、かわいいわねえ。」

律「反則だろこれ…つ…連れて帰りたいな…。」

梓「ダメですよ!」

律「わーってるよ!冗談、冗談。」

紬「私たちも仕事があるし、これでおいとましましょうか。」

唯「ええ~、もっとミネバちゃんとあそびたいよ~」

さわ子「遊びに来たんじゃないわよ。」

76: 2010/08/29(日) 18:55:08.98 ID:Kgh7t32o
帰りの道中、紬は始終俯き加減だった。

律「ムギ、どうしたんだ?澪をおぶるの代わろうか?」

紬「違うの…ミネバちゃんのことでね…」

律「…」

紬「あの子、ザビ家の娘だって言うことが一生ついて回るんだろうなって考えると…何か複雑な気分なの。」

紬「まだちっちゃいのに…あんなにかわいいのに…彼女の未来は、ザビ家の色に染められてる…私たちみたいに普通の高校にいって、部活やって…そんな未来がないなんて思うと、とても人事とは思えないの。」

律「気持ちは分かるけど、そんなに心配するほどじゃないと思うぞ。」

紬「え…?」

律「私たちだって、急に軍隊入って色々やらされて、今度は明日にでも氏ぬかも知れないってのに、今日あの子を見て可愛がって、みんなで笑って、すごく楽しかったろ。」

律「人は、どんな状況でも、笑顔くらい作れるんだよ。楽しい気持ちになることだってできる。」

77: 2010/08/29(日) 18:55:55.73 ID:Kgh7t32o
紬「りっちゃん…」

律「今私たちにできることは、ソロモンが堕ちないように、あの子に危害が及ばないようにしっかり任務をこなすことだ。」

紬「やっぱりりっちゃんてすごいわ…私じゃ思いもよらないことを、考えることができるんだもの。」

律「そう言われるとなんか照れるな…///。」

律「とにかく、燃えてきたぜ。早く艦に帰って、仕事だ!」

軽い、足取りだった。
澪は艦に帰りつくまで起きなかった。

78: 2010/08/29(日) 18:56:38.02 ID:Kgh7t32o
第五話 初陣!

リックドムの慣熟飛行が終わると、すぐに任務の話になった。

和「B区域のデブリ群の哨戒任務が来ているわ。」

ソロモンの宙域は[ピザ]リ群が多く、たびたび連邦軍は隠掩蔽良好なこれらのデブリ群を足がかりにソロモンに対して中小規模の攻撃を仕掛けてきていた。
そのため敵部隊の隠密行動に適したデブリ群を監視し続ける必要があったのである。

和「このデブリ群はそう広いものではないから単艦で二日かけて哨戒するわ。みんないいわね。」

唯「敵がいなかったらどうするの?」

和「帰ってきて、いませんでしたって報告するのよ。」

梓「唯先輩は何も言わなくていいです。」

84: 2010/08/29(日) 19:04:01.56 ID:Kgh7t32o

第五話 初陣!

リックドムの慣熟飛行が終わると、すぐに任務の話になった。

和「B区域のデブリ群の哨戒任務が来ているわ。」

ソロモンの宙域はデブリ群が多く、たびたび連邦軍は隠掩蔽良好なこれらのデブリ群を足がかりにソロモンに対して中小規模の攻撃を仕掛けてきていた。
そのため敵部隊の隠密行動に適したデブリ群を監視し続ける必要があったのである。

和「このデブリ群はそう広いものではないから単艦で二日かけて哨戒するわ。みんないいわね。」

唯「敵がいなかったらどうするの?」

和「帰ってきて、いませんでしたって報告するのよ。」

梓「唯先輩は何も言わなくていいです。」

85: 2010/08/29(日) 19:04:50.25 ID:Kgh7t32o
和「出航は明日0400。出港後30分でキーボードチームとドラムスチームを射出。当初キーボードチームを前衛として、B区域を捜索するわ。」

梓「ギターチームは、当初機体に搭乗して待機でいいですか?」

和「後衛のチームもいるし、指示があるまで仮眠室待機でいいわ。」

和「基本的に3時間おきに前衛、後衛、待機を入れ替えるからそのつもりで準備して。」

唯律紬梓さわ子斉藤「了解!」

澪「…」

86: 2010/08/29(日) 19:05:35.10 ID:Kgh7t32o
律が部屋に帰ると、ベッドの上で澪がうずくまっていた。

律「どうした?澪?」

澪は答えない。小刻みに震えているところから見て、泣いているようだ。

律「澪、初陣が怖いのか?」

澪はうなずいて答える。声も出せないらしい。

律「大丈夫だって、私が付いてる。」

澪が何か言おうとするが、歯がガチガチと鳴る合間にか細いうめき声になるだけで、意味を成さない。それでも律には、澪が何を伝えたいのか分かるような気がした。

律が、澪を優しく抱きしめる。

律「こうか、澪。」

澪は頷いているのか震えているのか分からない。
律は、耳元でささやくように続ける。

律「澪には仲間がたくさんいるぞ、私もいるし、さわちゃんや、ムギ、斉藤さん、危なくなったら、唯と梓も来てくれる。だから心配すんなって。それともみんな、信じられないか?」

澪は首を横に振る。

抱きしめていると、いつの間にか澪の震えは止まっていた。

87: 2010/08/29(日) 19:06:21.03 ID:Kgh7t32o
ブオンケは、定刻通りに出航した。
続いて、MS隊が発進する。

さわ子「オラァ、キーボード01、MS-09R、山中さわ子、出しやがれぇ!!」ヒャッハー

斉藤「キーボード02、09R、斉藤、出ます。」

紬「キーボード03、09R、琴吹紬、出してください。」

律「ドラムス01、09R、田井中律、いっくぜー!」

澪「ベース01、09R、秋山澪、イクッ///」

さわ子「よっしゃあ、こんなデブリ群は、一日で捜索しつくしてやんよ!」

さわ子「付いて来い、オメーら!!」

88: 2010/08/29(日) 19:07:17.66 ID:Kgh7t32o
澪「ふふふっ…」

律「どうした、澪?」

澪「なんだかさわ子先生見てると、あんなに怖がってた自分が可笑しくて…」

律「そうだぞ、リラックスしていこうぜ、澪。」

律「それにしても、さわちゃん突出し過ぎじゃないか?大丈夫かよ?」

澪「大丈夫だろ、さわ子先生シミュレーターで教官倒すほどの腕だぞ。」

澪がそう言って、さわ子の機体を見上げた瞬間、さわ子のリックドムを一瞬、一条の光が貫いたように見えた。
澪がなんだろう、と思っていると、さわ子の機体が見る間に赤熱し、風船のように膨らんで、破裂して赤い火球になり、消えた。

その時初めて、さわ子からの通信が途絶えていることに澪は気づいた。

89: 2010/08/29(日) 19:08:19.98 ID:Kgh7t32o
律「狙撃だ、散開しろ!」

律の声に、全員の機体が放射状に、散った。
澪は自分が恐怖を感じているのかも、分からなかった。


唯は夢を見ていた。
ギターを引きながら、歌う練習をしている。
傍らには、さわ子がいた。
何度も、何度もふわふわ時間を歌う。
歌い終わるたびに、さわ子がアドバイスをくれる。
その時、必ずさわ子は何か一つ、いいところを褒めてくれた。
それが嬉しくて、唯は何度もギターを掻き鳴らし、歌い続ける。
完璧よ、と言われたが、さわ子に聞いてもらえるのが楽しくて、何度も、何度も歌い続けた。
気がついたら、声が枯れていた。それでも、歌った。
突然、さわ子が言った。
もうそろそろ、終わりにしましょうか。先生、行かなきゃならないところがあるのよ。

唯は、練習をやめたくなかった。

90: 2010/08/29(日) 19:08:55.50 ID:Kgh7t32o
唯「さわちゃん先生!!!」

唯の周りには、涙の粒が漂っている。
その奥に、真っ青になった梓の顔が見えた。

梓「唯先輩…さわ子先生…氏んじゃいました…」

しばらく漂う涙の粒を眺めていた唯が、突然立ち上がって、呟いた。

唯「出撃だね…あずにゃん!」

梓は、唯の顔を見て息を呑んだ。

唯の顔は、さわ子を頃した相手への殺意に満ちていた。

91: 2010/08/29(日) 19:18:24.31 ID:Kgh7t32o
緑のジムが、デブリを蹴って数キロ離れた同じようなデブリに取り付く。
ジムスナイパーカスタムと呼ばれる特別機だ。

パイロットは三浦 茜
歳は梓位だが、家が貧乏で中学を卒業してすぐに連邦軍に入隊した。
戦争の始めからパイロットとして戦ってきたベテランである。

茜は狙撃任務中、移動する時スラスターは使わないようにしていた。
光で自分の位置が特定されるからだ。

ジムスナイパーカスタムのコックピットに僚機から通信が入る。

「やったね、茜。」

茜「これからよ。敵もスナイパーがいるって気づいたからね。しっかり観測してね、モブ子。」

モブ子「了解。あ、艦からスラスター光。増援よ。」

茜「何機?」

モブ子「一機…二機出たわ。β1、β2とするわね。」

茜「了解。」

モブ子「茜、β1、動きが鈍いわ。いいカモよ。左に140。上に45。」

茜「了解、見つけたわ。距離5千。」

茜は、静かに、長く息を吐きながらトリガーを引いた。

93: 2010/08/29(日) 19:21:02.44 ID:Kgh7t32o
律は、マズイと思った。
増援として唯と梓が来てくれたが、唯の動きが単調すぎる。
モビルスーツは通常、弾を避けるためにジグザグに回避機動をとりながら移動するが、その基本を忘れているようだった。

突然、唯のドムが横から叩かれたように飛んだ。
その瞬間、今まで唯のドムがいたところをビーム光が貫いていた。

律「…避けた…まさかな…」


紬「今のビーム光で、狙撃ポイントが分かったわ。」

突然、紬のドムが動くのを止め、近くのデブリに隠れる。

律「ムギ、どうするつもりだ?やられちまうぞ。」

紬「射程の長い艦砲を使うわ。射弾を誘導しなきゃならないから、私は動けない。」

紬「敵はスラスター光で私たちの位置を観測してるはず。だから私一機が止まっててもそうそう見つかるものじゃないわ。」

律「分かった。私たちはスラスターを派手にふかして、囮になってムギを援護すりゃいいんだな。澪、動き回れ!」

澪「はあ、はあ、はあ…り、了解…はあ、はあ…」

94: 2010/08/29(日) 19:22:49.77 ID:Kgh7t32o
紬「ブオンケ、聞こえる?こちらキーボード03、射撃翌要求。」

紬は、射撃翌要求を使うとは思ってもいなかった。
教育中にみんなで協力して、教科書に書かれていることのほとんどを頭に入れていた。
その膨大な知識のうちの一つだった。
みんなで生き残れるように、そう思って勉強したことが、役に立った。

純「射撃翌要求、了解。諸元をお願いします。」

紬「観測点、キーボード03。基準星M9から、F4方向に120。R8方向に60。距離5千。メガ粒子をお願い。」

観測による間接照準射撃は旧世紀の古典的な方法である。
しかしミノフスキー粒子の影響でレーダーが使用不能になったこの戦争の初期に艦砲を精密に目標に誘導するためにまた使われだした。
それも、MSの活躍により、艦砲が主力兵器としての座を追われて単なる支援火器となっていくにつれ、すぐに使われなくなっていった。

二度氏んだ戦法を、また引っ張り出してきたのだ。

対する連邦のスナイパーも、同じような戦い方である。
スナイパーライフルの望遠カメラは倍率こそ高いものの、視野は狭い。だから敵を狙うにはいいが探すには向いていない。
そこで観測手たる僚機がスナイパーライフルを向けるべき方向を誘導するのだ。

どちらも基準となる星を利用し、三角関数を用いて観測手が射手や艦砲を誘導するというやり方だ。

これは、艦とMSの長距離射撃戦である。

97: 2010/08/29(日) 19:28:16.42 ID:Kgh7t32o
純「諸元出ました。艦体そのまま、前部メガ粒子砲1から3番、左へ43、仰15。効力射、三発。」

純「砲に諸元を入力。…3…2…1…砲身固定。MS隊は射線から退避。射撃準備完了。」

和「打ち方、始め。」

前部メガ粒子砲、3門からそれぞれ3発、計九発のメガ粒子は正確に紬の狙った場所に吸い込まれていったが、手応えはなかった。
回避のスラスター光も観測できない。

98: 2010/08/29(日) 19:29:47.66 ID:Kgh7t32o
茜は、驚いていた。
未熟な回避軌道のリックドムが、茜の正確な射撃を回避した。
偶然だ、と自分に言い聞かせてスラスターを使わずに陣地変換を行う。

ライフルを構えようとしたその時、茜がさっきまで取り付いていた辺りに、9発のビームが殺到したのだ。

茜は、背筋が冷たくなった。

茜「モブ子、敵は艦砲の射撃を誘導してる。観測手を探して!」

モブ子「目標α3をロストしてる。多分そいつだわ。今探してる。」

茜「急いで!」

茜はジオン兵の恐ろしさを見にしみて感じていた。
連邦の将兵は、こんな使われなくなった旧来の戦術など、一応は士官学校のカリキュラムにはあるものの習ったその日に忘れてしまう。それを、ジオンはとっさに使ってくるのだ。

練度が、違う。数を頼みにできるならまだしも、茜たちは2機編成のスナイパーユニットでしかない。

後退、という言葉が脳裏をよぎった。艦は、はるか向こうである。
そもそも艦の他の機体は偵察任務中で、茜たちはその支援任務としてここに居る。そのため増援の要求も出来ない。
茜は自分の弱気をかき消すように、トリガーを引いた。
β1と名付けたリックドムが、また茜の射撃を回避した。

99: 2010/08/29(日) 19:32:05.97 ID:Kgh7t32o
紬「手応えがない、敵はスラスターを炊かずに陣地変換をしている模様。」

紬「広域を制圧できるミサイルで…」

和「キーボード03、そんなんじゃ埒があかないわ。あなたもいずれ発見されてしまう!」

紬「どうやったら…」

和「ビーム撹乱膜弾を使うわ。」

紬「でもアレは…」

ビーム撹乱膜は使用の難しい兵器である。これを展開した地域ではビーム兵器が確実に無力化される。それは味方のビームも同じである。
短時間といえど味方の行動を制限する兵器は、使うことを嫌がられる。
ビーム撹乱膜はその最たるもので、和たちのようなパトロール部隊が使うには上級部隊への申請と許可が必要なのである。
そんな時間は無かった。

和「事後承諾で行くわ、これ以上、戦力を傷つけられるわけには行かない。」

和「鈴木伍長、前方デブリ群手前100に撹乱膜を展開!」

純「諸元出ました!船体取舵42、上げ舵13、前部ミサイル発射管1から12番、撹乱膜弾、2発。」

操舵手「取舵42、上げ舵13!」

純「MS隊射線より退避完了!発射管、発射準備完了です!!」

和「発射!撹乱膜展開と同時にMS隊は突撃!!」

100: 2010/08/29(日) 19:34:00.25 ID:Kgh7t32o
モブ子「α4を発見!射撃方向を計算中…右へ68、下へ26。」

茜「よくやったわ、モブ子!」

モブ子「ミサイル接近!!」

茜「脅しよ!!貰った!!」

茜がトリガーを引いた瞬間、24発のミサイルが破裂した。
ビームは手持ち花火のように拡散していた。

茜「ビーム…撹乱膜…?」

モブ子「茜、敵が接近してくるわ!!撃って、撃ってよ!!」

茜「ビームが効かない!キャノンで援護して!!格闘戦をやるわ!」

ジムスナイパーカスタムが、ビームサーベルを発振する。

モブ子「敵が多すぎるのよおおおおおお!!!」

モブ子の機体はジムキャノンである。
支援機であるためサーベルは持たない。
この状況で唯一効果のある肩の180ミリキャノンを迫り来る敵に連発しているが、なかなか当たらない。

モブ子「あかね…助けて!…こっちくる…いやあああこないでえええ!」

キャノンはリックドム一機の肩に命中して左腕をもぎとったが、そのリックドムによってモブ子の機体は真っ二つにされていた。

101: 2010/08/29(日) 19:35:10.53 ID:Kgh7t32o
茜「モブ子おおおおおおお!!」

正面を向き直ると、さっき茜の射撃をかわしたリックドムがヒートロッドを構えて突っ込んできていた。

茜「そんなんでやられるかよ!この下手くそ!!」

茜がリックドムの単調な攻撃をかわした、と思った瞬間、別のリックドムがバズーカを茜のジムの左足に命中させた。膝から下が無くなった。

茜「くそ、AMBACが…」

警報が鳴り、コックピットに衝撃が走る。
今度はマシンガンの攻撃を受けたようだ。
ジムの右手が、サーベルごと無くなっていた。

茜「なんなのよ…なんなのよあんたら…よってたかってええええええ!!!」

さっきの単調なリックドムが、モニターに写りこんだ。
茜は、モニターが割れてコックピットがひしゃげるのを、見た。

102: 2010/08/29(日) 19:37:49.01 ID:Kgh7t32o
唯は、敵のジムを貫いたとき、頭の中に見たことのない情景が広がるのを感じた。

ポニーテールの女の子が、公園で暮らしている。
父親は傭兵で、雑草の中から食べられるものを、教えてくれた。
見たことのない楽器を吹いている。
ユーフォニアム、と言っていた。
父親が、歩兵の戦い方を、熱を込めて語っている。
撃ったら移動、敵に見つからないように…

あのジムのパイロットだ、と唯は思った。

高校に入ったら、部活でユーフォニアムを吹きたいと言っている。
唯は、信じられないものを、見た。

自分たちのティータイムに、あの子が参加していた。
みんなで一緒に、笑っていた。
お茶を飲んでいる唯が、こっちを見て囁いた。

違うふうに会えれば仲良くなれたのに、デビちゃんを頃しちゃったね。

103: 2010/08/29(日) 19:38:16.74 ID:Kgh7t32o
唯「わあああああああああああああ!!!」

梓「唯先輩、どうしたんですか!?唯先輩!!」

唯「頭が…痛い。痛いよお…ゴメンなさい…。」

片腕のないリックドムが唯に近づく

律「おい、唯、しっかりしろ!もう敵はいないぞ!」

唯「私が…頃しちゃった…ごめんなさい…ごめんなさい…」

澪「唯、何言ってるんだ…?おかしいぞ!」

紬(やっぱり…唯ちゃん……)

唯は、頭を締め付けられるような痛みに、意識をなくしていった。

104: 2010/08/29(日) 19:38:48.01 ID:Kgh7t32o
気がついたら、医務室のベッドの上だった。
憂と梓が見える。

唯「うい・・・あずにゃん・・・」

憂「お姉ちゃん!!よかった…」

梓「唯先輩…」

唯「あれ…私…どうして…?」

梓「敵を倒したあと、急に苦しみだしたんです。覚えてませんか?」

唯「そうだった…私…」

梓「先輩、さわ子先生の敵をとったんですよ!」

唯「うん…そうだね。」

憂「お姉ちゃん!?」

唯「うい…もう少し…寝かせて…」

唯は、再び深い眠りに入っていった。

105: 2010/08/29(日) 19:39:42.20 ID:Kgh7t32o
和がビーム撹乱膜を無許可で使用したせいで、ブオンケ全体が謹慎中であった。
任務も与えられないが、訓練も出来ない。
律は、不安に打ちひしがれていた。

律「はあ、はあ、はあ、はあ…」

律(なんで、体が震えんだよ…澪じゃああるまいし…)

律は、帰艦した後、自機を見て驚愕した。
左手が吹き飛ばされたのはモニターで確認していたが、降りてみるとその損傷が生々しすぎたのである。

少しずれていたら、コックピットだった。
生還したものの、生きた心地がしなかった。
自分は亡霊になってしまっているんじゃないかとも考えた。

何度も澪に、紬に、話しかけた。
ペラペラと、饒舌に笑い話を。

そうしているうちに、急に空元気を出している自分が虚しくなった。
律は、走り出していた。

そして、ベッドに潜り込んだ。

106: 2010/08/29(日) 19:41:20.52 ID:Kgh7t32o
澪「律、居るのか?」

澪が部屋に入ってきた。
こんな自分を見せたくない。嫌だ、嫌だ。

律「来ないでくれ!!」

澪が、近づいて来る。

澪「律も、怖かったんだな。」

一番言われたくないことを言われ、律の頭に血が登った。
ベッドから起き上がり、澪に掴みかかる。
澪は逃げようともしなかった。

澪「私ばっかり甘えて、ごめんな。」

律は、澪の胸に顔を押し付けて、泣いた。
今まで我慢していた分、辛かった分を、すべて吐き出すように。
気がつくと、澪をベッドに押し倒していた。

部屋の外では、紬がドアに耳を押し当てながら鼻血を流していた。


第五話 初陣! おわり

112: 2010/08/30(月) 20:18:17.87 ID:Ee6Oj7co
第六話 クリスマス!

唯「そろそろクリスマスだねえ。」

ミーティング中に唯が何気なくそういった。
他のメンバーはそれを聞いて、ハッとした。

律「私、忘れてた。」

澪「わ…私も。」

紬「唯ちゃんよく覚えてたわね。」

梓「緊張感が足りません。」

連邦軍が本格的にソロモンを攻めるという噂が現実味を帯び始め、哨戒任務も多くなり、その合間に訓練をし、まともに寝る時間がないこともしばしばだった。

唯「なんかたまにビスケットとかカ○リーメイトとか配給されるよね。」

律「最近は少なくなってきたけどなー」

唯「私ね、食べないでとってあるんだ。それでクリスマスパーティしよ!」

梓「そんな時間あるんですか?もう臨戦態勢ですよ。」

律「一時間半くらいなら無理やり時間作れるだろ。」

澪「見つからないようにやらないとな。」

紬「なんだかワクワクしてきたわ~」

唯「じゃあ24日、訓練早めに切り上げて、ムギちゃんの部屋ね。」

113: 2010/08/30(月) 20:19:21.30 ID:Ee6Oj7co
しかし、22日、状況は一変する。

和「連邦軍に動きがあったわ。24日に敵主力がソロモンに攻撃してくると見積もられるそうよ。」

和「ブオンケは、警戒監視部隊となってムサイ級巡洋艦トヨサトとともにA-3区域に展開。敵主力の接近を本隊に知らせるとともにこれを遅滞させるという任務が来ているわ。」

和「明日出航するから、急いで準備して。」

艦内は、一気に慌しくなった。

唯「お菓子、食べる時間なさそうだね。」

律「しっかし、クリスマスイブに攻めて来なくてもいいのになあ。」

澪「今までで最低のクリスマスイブだな。」

紬「唯ちゃんがとっておいてくれたお菓子を食べるために、みんな生き残りましょう!」

梓「そうですね。お菓子を食べるまで、氏んでも氏にきれません。」

114: 2010/08/30(月) 20:20:19.79 ID:Ee6Oj7co
ブオンケが出航するとき、要塞の周りではほかの艦艇やMSがせわしなく動き、メンバーには否応なく緊張を植えつける。
それと同時に、目に見えるたくさんの味方部隊は彼女たちに勝利への自信を付加させた。

出航してすぐに、また動きがあった。

和「敵主力の第二艦隊をロストしたそうよ。予想ルートから外れた第二艦隊がA区域から進行してくる可能性は減ったと見ていいわ。」

和「われわれの任務はおそらくロストした敵主力の捜索になるわね。後で命令が来ると思うけど、そのつもりでいて。」

律「また[ピザ]リ群の捜索か?」

和「今はまだ命令がきていないからなんともいえないわ。でもすぐに動けるように準備だけはしておいて。」

律「分かった。各チームシフトを組んで待機しようぜ。」

唯紬澪梓斉藤「了解!」

116: 2010/08/30(月) 20:22:02.26 ID:Ee6Oj7co
唯と梓は、当初仮眠室待機だった。
それぞれのベッドに寝転がりながら、話をする。

唯「小さな哨戒任務ばかりだったから、大きい作戦は初めてだね。」

梓「他の艦と一緒って言うのも初めてですもんね。和さん、調整で大変そうでした。」

唯「ミネバちゃん、大丈夫かな…」

梓「ソロモンは堕ちませんよ。」

梓「そういえば唯先輩・・・変わりましたね。」

唯「そう…?どこらへんが…?」

梓「わかりませんか?」

唯「…」

梓「唯先輩?」

唯は、眠っていた。悲しそうに梓がつぶやく。

梓「最近、抱きしめてくれなくなったじゃないですか…。」

117: 2010/08/30(月) 20:22:54.45 ID:Ee6Oj7co
敵主力の捜索命令がきてすぐに、戦端が開かれた。

純「要塞周りにビーム撹乱膜を展開されたそうです。要塞攻撃は主力ではなく第三艦隊が行っている模様!」

和「ビーム撹乱膜とは縁があるわね。要塞守備に回らなきゃいけないかしら?こちらの命令に変更は?」

純「ありません!引き続き、第二艦隊を捜索せよとの事です!」

和は考えを整理するためにソロモン周辺の宙域図を手元のホログラフィーで映しだした。

和「大きな艦隊が隠蔽できるほどのデブリ群はソロモン外周に5つ、うち、我々が捜索できる範囲にあるのは二つ…サイド1の残骸からなるデブリ群と、今捜索している隕石群。」

和「ここの捜索はトヨサトに任せて、まだ索敵されていないデブリ群であるサイド1の残骸に、単艦で急行すべきね。」

和「進路変更、目標、旧サイド1、暗礁宙域。」

律「単艦で敵主力と遭遇したらまずくないか?」

和「発見したらHQに連絡して、全力で逃げるのよ。任務は捜索であって、交戦ではないから。」

紬「その時は私たちが殿軍を務めるわ。」

律「ムギ、氏に急ぐなよ!」

紬「唯ちゃんのお菓子を食べるまで、氏ねないわ。」

118: 2010/08/30(月) 20:24:18.40 ID:Ee6Oj7co
MSを一旦格納し、ブオンケはサイド1の残骸からなるデブリ群を目指して前進した。

デブリ群に到着すると、全MSを射出して、捜索する。

唯「あそこ、何かへんだよ。」

梓「どこですか?」

唯「二時方向のコロニー残骸の左上、星の並び方が変。」

梓「あ…艦が見えました。ブオンケ!敵主力と思われる艦影を発見!!」

唯「和ちゃん、星が歪んでる!画像を送るからね!」

律「敵MS、接近!」

和「応戦しながら、後退するわ。鈴木伍長、平沢軍曹から送られてきた画像の解析結果は?」

純「えっと…確かに変です。え…こ…これって…」

和「何か分かった!?」

純「か…鏡です。巨大な鏡が何枚も…一体何に使うんだろ…?」

和「敵主力発見の知らせと、その鏡の画像をHQに送信して!」

純「了解!送信完了!!」

119: 2010/08/30(月) 20:25:49.82 ID:Ee6Oj7co
和は考えていた。鏡が兵器だとしたら…太陽の方向は…まさか!
湾曲した鏡で太陽光を収束し、巨大なエネルギーで要塞を焼く。
馬鹿げた、古典的な方法だと思った。
しかし背筋が凍りついた。

和「まずい…!!」

ソロモンの一部が太陽のように強烈な輝きを放っていた。
爆発も起こっているようだ。


紬「敵の数が多いわ!」

斉藤「お嬢様、下がってください!ここは私めが!」

敵の主力艦隊はソロモンに向けて前進を開始した。
ブオンケに割いている戦力はたかが知れている。
それでも数の圧力で殿軍のキーボードチームは必氏だった。
なんとか、宙域を離脱する。

紬「斉藤、大丈夫?」

斉藤「はい、何発か食らいましたが、致命傷はありません。」

紬「その状態ではもう出られないわね。私はドラムスチームに加わるわ。」

斉藤「お嬢様!私は撃墜されるまでお嬢様の盾となって戦います!」

紬「認めません!その機体では、応急修理も間に合わないわ。帰艦して医務室!命令よ!!」

斉藤「はい…」

2機はかばい合うように着艦した。

120: 2010/08/30(月) 20:26:22.78 ID:Ee6Oj7co
和「琴吹軍曹、着艦したわね。」

紬「はい、キーボード02が中破、使用不可なので次から私はドラムスチームへ移動します。」

和「許可するわ。本艦はこれより主力と合流。敵第二艦隊とあの鏡を叩くわ。ドズル閣下も出陣されたそうよ。」

紬「ドズル閣下が…」

紬の胸に一抹の不安がよぎった。
ミネバは大丈夫だろうか、と思ったが、声には出さなかった。

和「とにかく合流前にギターチームと現ドラムスチームを射出するから、あなたはギリギリまで応急修理をしておいてね。」

紬「了解!」

121: 2010/08/30(月) 20:27:34.90 ID:Ee6Oj7co
合流すべき主力が近づいてきたので、ブオンケは4機を射出した。
そしてすぐに、唯がか細い声で呟いた。

唯「あ…だめだよ…そんな…」

律「唯、何か言ったか?」

澪「り…律…前見てみろ…」

梓「主力が…」

味方の主力艦隊が爆散していく。
あの鏡だろう。
もうソロモンに戦力らしきものは残っていないはずだ。
和に通信が入る。

和「て…撤退命令…ですか…?」

和はショックだった。
何もしていない。
何もできないうちに、あっという間に要塞が陥落したのだ。

和「たかが…鏡に…こんなに簡単にソロモンが堕とされるなんて…」

しかし落ち込んでいる暇はない。

和「ア・バオア・クーへの撤退命令が出たわ。ソロモンから脱出する艦隊に合流、これを支援する。」

唯梓律澪「了解!」

122: 2010/08/30(月) 20:28:41.72 ID:Ee6Oj7co
ブオンケは鏡の攻撃を生き残った艦隊と合流する。
満身創痍の艦隊に、連邦軍のMS隊が突っ込んできた。

律「きやがったな!行くぞ、澪!」

澪「ああ、艦隊をこれ以上をやらせるわけに行かない!」

唯「あずにゃんも行くよ!」

梓「やってやるです!」

チームでの訓練は、哨戒任務の合間になんどもやった。
連携が取れているので連邦のMSとは互角以上に戦える。
しかし数が違う。
しかも、MSとドッグファイトに持ち込もうとすると、弾が飛んでくる。

律「クソ、あの丸っこいのが邪魔だぜ。」

弾を撃っているのはボールと呼ばれるモビルポッドだ。
動きも鈍く、格闘戦も出来ないため単機ではリックドムの相手にならないが、こう敵が多いと相手にしきれない。向こうもそれが分かっているようで、ジムに接近戦をやらせ、自分たちは距離を置いて攻撃してくる。

律「澪、あの丸いのを何とかしてくれ!あんな情けないのに落とされたくない!」

澪「そんな事言ってもこっちにもジムが…」

梓「なんとかしないと…」

唯「う~…手が出せない…」

123: 2010/08/30(月) 20:30:13.38 ID:Ee6Oj7co
その時、バズーカの弾が何発かボールに命中する。

紬「お待たせ!」

律「ムギか!助かった!」

紬の参戦で形勢が逆転した。
5人は次々と連邦のMSを蹴散らしていく。
一つのきっかけで、戦いの趨勢はころりと変わるのだと、5人は思った。

気がつくと、殿軍で青いリックドムが戦っており。これに押された連邦の追撃が弱まっていた。

撃破したのか追い返したのか分からなかったが、ブオンケの周りの連邦軍はいなくなっている。

澪「なんとか…耐え切ったみたいだな。」

律「ああ…」

唯「もうクタクタだよ~」

梓「一度艦に戻って、機体のチェックと補給して、再出撃を…」

和「その必要はないみたいね。友軍よ。」

グラナダからの艦隊だった。

和「今頃増援ってのもよく分からないけど…もう敵はいないわ。みんな、戻って。」

着艦して、MSを降りる。

五人がデッキの真ん中に集まった。

唯梓律澪紬「メリー・クリスマス!」

124: 2010/08/30(月) 20:31:34.23 ID:Ee6Oj7co
みんな疲れているということで、少し休んでからお菓子を食べることになった。

紬は、医務室に向かった。

紬「失礼します。」

憂「あ、紬さん。無事だったんですね。」

紬「唯ちゃんも無事よ。疲れて寝てるみたい。」

憂「ありがとうございます。」

紬「それで…」

憂「斉藤さんなら、大丈夫ですよ。一応そこで寝ていますが、疲労が溜まっている以外、どこも問題ありません。」

紬が斉藤のベッドに近づく。

紬「斉藤…よかった。」

斉藤「お嬢様も・・・ご無事で何よりでございます。」

紬「みんなが頑張ってくれたから…」

紬の頭ががくん、と下がる。
疲れが限界に達しているようだ。

斉藤「お嬢様、帰ってお休みになられたほうが…」

紬「ううん…もう少し…こうして…る」

紬が斉藤のベッドに倒れ込む。
眠ってしまったようだった。

憂「大変!ベッドに寝かせなきゃ。よいしょ。」

斉藤の目には涙が溢れんばかりに溜まっていた。
憂は見えないふりをして、紬を隣のベッドまで運んでいった。

125: 2010/08/30(月) 20:32:48.65 ID:Ee6Oj7co
久しぶりの、ティータイムだった。

唯「これしかないんだけど…」

澪「私も残ってた分、持ってきたぞ。」

律「配給品のビスケットに、チューブ飲料か…以前のティータイムが恋しいぜ…美味しいケーキに、ムギの紅茶…。」

紬「戦争が終わったら、またちゃんとしたティータイムもできるわよ。」

梓「ですね。」

唯「みんなで、演奏もしたいよね!」

律「そうだな、ブランクを解消したらすごくいい演奏になるとおもうぜ。生氏を共にしたバンドなんて、結束力とか見るからにスゴそうじゃん!」

澪「さわ子先生もいたらな…」

部屋の中に、沈黙が訪れる。

澪「あ、ごめんごめん…つい…」

紬「ドズルさんも、亡くなったみたいね…和ちゃんから聞いたわ。」

紬「前向きに行きましょ…これからは、ひとりも欠けることが無いように、みんなで頑張るの…ね、そう考えましょ。」

唯「ムギちゃんすごくいいこと言った!」

紬「りっちゃんにおしえられたのよ~」

律「そ、そんな事言ったか…?///」

律が頭をかく。照れているようだ。

ひとりを除いた笑い声が、響き渡った。

梓「…」

126: 2010/08/30(月) 20:34:01.52 ID:Ee6Oj7co
ティータイムが終わった後、梓はひとりでベッドに寝転がっていた。
心から笑えなかった。
理由は考えたくなかった。
誰かが入ってくる。澪だった。

澪「梓、寝てるのか…?」

梓「どうしたんですか?」

梓はけだるそうに澪に顔を向けた。

澪「いや、なんか元気なかったな、と思って。」

梓「…」

澪「唯のことだろ。」

梓「違います!」

澪「唯、最近梓とスキンシップしてないもんな。今も憂ちゃんとこに行ってんだろ?」

梓「だから違うって言ってるじゃないですか!!」

澪「梓、もうちょっと素直になれよ。唯だって、こんな生活してるんだからいつものように振る舞えないだろ。次出撃したら帰ってこれないかも知れないし、たまには梓から唯のこと抱きしめてやったり…」

127: 2010/08/30(月) 20:35:32.01 ID:Ee6Oj7co
梓「私はいつも素直です!それに唯先輩は私が守ってるから氏にません!氏ぬとしたら、私が先です!!」

澪「梓…」

梓「澪先輩、唯先輩の未熟な戦い方見てないんですか?フラフラして、危なっかしくて、いつも私が見てあげてるから、やっと生き残っているんですよ!」

梓「私、未熟な唯先輩のフォローで疲れてますから、もう寝ます。出ていってください!」

澪「そ…そうか、疲れてるとこ、ごめんな。」

澪が、逃げるように部屋から出て行く。
しばらくして、唯が帰ってきた。

唯「あずにゃん寝てるの?おやすみ~。」

唯がベッドに潜り込む気配がする。
梓は小声で呟いた。

梓「せっかく生き残ったのに、また抱きしめてくれない…」


第六話 クリスマス! おわり

136: 2010/09/01(水) 19:53:55.87 ID:vKQ5Kj2o
第七話 新型!

ア・バオア・クーに入港して2日後、ブオンケMS隊は新型MSで模擬戦の最中だった。

律「澪、梓、二人は両側から回りこめ。向こうは2機だ。確実に仕留めるぞ。」

澪梓「了解。」

紬と斉藤は、デブリに隠れて待ち伏せしている。

紬「来たわね。斉藤、りっちゃんをお願い。」

斉藤「了解しました。」

斉藤の機体が、律のそれに突っ込んでいく。

律「斉藤さんか…1機で来るとは、いい度胸だぜ!澪、梓、ムギをあぶり出せ!」

梓「見つけました!」

梓は、正面に捉えた機影にビームライフルを撃ちまくった

137: 2010/09/01(水) 19:54:59.24 ID:vKQ5Kj2o
澪「わっ、あ…梓、私だ、わたし!」

澪は、味方からの射撃に面食らった。デブリに隠れていた紬が現れる。

紬「貰ったわ!」

純「ベース01、撃墜。帰艦してください。」

律「梓!!何やってんだバカ!!」

斉藤「隙あり!」

純「ドラムス01、撃墜。帰艦してください。」

梓も、すでに背中にライフルを突きつけられている。

紬「梓ちゃん、まだ続ける?」

梓「降参します…」

138: 2010/09/01(水) 19:56:10.23 ID:vKQ5Kj2o
律と澪が、梓の部屋を訪れる。
要塞に到着してすぐに唯が転属し、一人部屋になっていた。

律「おい梓、ミーティングやるからブリーフィングルームに来いっていったの聞こえなかったのかよ。」

梓「ああ…そうでしたね…すみませんでした…」

梓がけだるそうに答える。ベッドに横たわったままだ。

律「おい中野!お前、なめてんのか!?」

律が梓の襟首を掴んで無理やり体を起こす。

澪「おい律、梓は唯がいなくなっちゃって落ち込んでるんだ。もう少し考えて…」

律「こいつは和が必氏で調整してくれた貴重な実機での訓練時間を無駄にしたんだぞ!おら立て、修正してやる!!」

個室にビンタの音が響いた。

139: 2010/09/01(水) 19:57:00.54 ID:vKQ5Kj2o
澪「律、やめろ!基礎訓練の時の教官みたいになってるぞ!」

律「しかもテメーは無傷のままで降参しますときやがった!連邦軍にも同じセリフをいうのかよ、おい!!なんとか言えよ!!」

澪「やめてくれ律!梓、律に謝れ!謝ってくれ!」

梓が面倒臭そうに口を開いた

梓「ごめんなさい、律先輩。」

律「くそっ…」

ビンタの音、ひときわ大きかった。

律「てめえは新型から下ろすからな!チームからも外す!この前技術本部が予備機に置いてった駆逐モビルポッドとか言うので、単機で囮やれ!」

律「澪、明日からは二人で訓練しなおしだ!行くぞ!」

澪「梓…」

律「澪!!そんな奴ほっとけよ!!!」

140: 2010/09/01(水) 19:58:08.14 ID:vKQ5Kj2o
二人が部屋から出て行く。
梓の目から止めどなく涙が溢れてくる。
拭っても、拭っても止まらない。
次第に涙だけでは悲しみを排出しきれず、声までこみ上げてくる。

梓「うう…うわああああああん、えぐっ、唯先輩いいいいい…ひっ…」

気がついたら、泣きつかれて寝ていたようだ。
誰かが部屋に入ってくる気配がする。

唯「あずにゃん、ねてるの?」

その声に、梓は飛び起きた。夢だ、と思った。

梓「唯先輩!?」

唯だった。夢だと思っている梓は、迷わず唯に抱きついた。
現実の感触だった。

141: 2010/09/01(水) 19:58:59.58 ID:vKQ5Kj2o
梓「唯先輩…唯先輩、唯先輩!!!」

唯「ど、どうしたのあずにゃん…!?」

梓「寂しかった…辛かったです…また逢えて良かった…唯先輩…もう離しません!」

落ち着くまで、ずっと抱き合っていた。
抱き合ったまま、梓は聞いた。もう夢だとは思っていなかった。

梓「唯先輩は、今までどこにいたんですか?」

唯「要塞内の、ニュータイプ研究施設ってとこだよ。でも、役に立たないって帰されちゃったんだ。」

梓「ニュータイプって・・・一体何してたんですか・・・?」

唯「頭に重い機械をのせて、脳波がどうとか言ったり、たくさんお薬飲まされたりしたよ。」

梓「なんか…怪しくないですか、それ?」

唯「すっごく頭が痛くなってね、そしたら失敗したって、役に立たないって言われて…私、駄目なんだ。一人になったら分かったよ。私本当に役に立たない人間だったんだね…ごめんね…」

142: 2010/09/01(水) 20:00:46.38 ID:vKQ5Kj2o
梓は、明らかに唯がおかしくなったと感じていた。
いつもの唯なら、こんなことは言わない。
口調も、なんだか抑揚がなかった。

梓「唯先輩、何言ってるんですか、しっかりしてください!」

唯「私なりそこないなんだって、感応波が弱くて、サイコミュが使えない、ニュータイプのなりそこない。頑張ってお薬一杯飲んだけど、頭が痛くなって、耐えられなくて、駄目だったんだ…私…役立たずなんだよ…いらない子なんだよ…」

梓「唯先輩の才能は、ギターの才能です!音楽の才能なんです!戦争やる才能じゃありません!サイコミュだかなんだか分かりませんが、できなくて当たり前じゃないですか!出来なくていいんです!」

梓には分からない単語がいくつか出てきたが、唯の精神状態がまともでないことだけは理解できる。
唯はその研究施設に弄ばれた挙句、不良品として返品されたのだ、と梓は解釈した。
間違ってはいなかった。

143: 2010/09/01(水) 20:01:38.64 ID:vKQ5Kj2o
唯「あずにゃん、私だめだよね…憂が居ないとなんにも出来ないし、和ちゃんには頼りっぱなしだし、みんなには迷惑掛け通しだし…」

突然、唯の口がふさがった。
梓の顔がすぐ近くにあった。目を閉じている。
唯の頬に、梓の小さな手が添えられる。少し、冷たかった。
梓の唇が、唯のそれと触れ合っている。
凝り固まった心が、少しほぐれてきたように思った。
梓が、名残惜しそうに離れる。

唯「ああああああああずにゃん…!??/////////」

梓「唯先輩があまりにもネガティブなことばかり言うから、口塞いじゃいましたよ…/////////変なこと言うの、もうやめてくださいね//////」

部屋の外では、紬が失血と戦っていた。

紬(ギリギリ…ティッシュ一箱で足りそうね…)ダラダラ

144: 2010/09/01(水) 20:02:51.22 ID:vKQ5Kj2o
唯「うっ……頭が…痛い…」

突然、唯が頭を抱えて苦しみだした。

梓「唯先輩、大丈夫ですか?今憂のところに連れていきますから!」

唯「あずにゃん…お薬…カバンの中に…」

梓「えっと、このカバンですか?」

紬「私が唯ちゃんを医務室に担いでいくわね!」

梓「ムギ先輩、どうしてここに!?」

紬「今はそんな事どうでもいいわ!」

三人はすぐに医務室に到着する。

憂「お姉ちゃん!?」

唯が帰ってきたことを知らなかった憂は、少し驚いていたようだ。
しかし唯の尋常じゃない様子を見て、すぐに医療担当者の顔つきになる。

憂「お姉ちゃん!どうしたの!?頭痛いの?」

唯「お薬…お薬…みんなの役に立てるようになる…お薬…」

梓「このお薬ですか?一錠でいいですか?」

145: 2010/09/01(水) 20:04:16.57 ID:vKQ5Kj2o
梓が唯のカバンから、大きなビンに入ったカプセル状の薬を取り出す。
それを見た憂の目付きが変わった。

憂「ちょっと見せて!!」

梓「憂、どうしたの?」

憂「お姉ちゃん…なんでこんな薬持ってるの…嘘でしょ…。」

紬「憂ちゃん…それって…」

憂「マットモニナールっていう心の発達が遅い人が飲む薬です…しかもかなり強いから、こんな量を患者さんに持たせることは無いはずなんです。」

唯「うーいー…お薬…」

憂「お姉ちゃん、このお薬はお姉ちゃんと相性が悪いんだから飲んじゃダメだからね!」

唯「うーいー…おーくーすーりー…」

憂「お姉ちゃん、この薬のんだら氏んじゃうから絶対にダメ!!」

女医「マットモニナールは依存性とかは無いからしばらく飲まなければよくなると思うけど、何錠も飲んじゃってるみたいだから副作用って言うか、軽いフラッシュバックが起こるかもしれないね…」

146: 2010/09/01(水) 20:05:31.80 ID:vKQ5Kj2o
その時、医務室に律と澪が入ってきた。

律「おい、唯が帰ってきたってホントかよ!?」

澪「唯どうしたんだよ、なんか顔色悪くないか?」

憂「みなさん、申し訳ないんですが、姉はちょっと体調が悪くて…」

女医「面会謝絶だよ!出ていきなさい!!」

澪「ヒッ!!」

律「ご…ごめんなさい…」

紬「みんな、行きましょ。」

梓「…」

147: 2010/09/01(水) 20:06:09.99 ID:vKQ5Kj2o
四人が医務室から出る。
沈黙を破ったのは、律だった。

律「梓、さっきは悪かったな。私もどうかしてたよ。」

梓「…」

澪「律も、唯がいなくなって寂しかったんだよ。分かってやってくれ、梓。」

紬「梓ちゃんも悪かったんだし、これで仲直りにしましょ。」

梓「わかりました…律先輩…すみませんでした。」

律が満面の笑みを浮かべる。

律「唯が帰ってきたら、素直になったな。」

梓「り…律先輩!//////」

148: 2010/09/01(水) 20:07:03.11 ID:vKQ5Kj2o
和が、緊張した面持ちで医務室に入っていく。

和「唯、居るんでしょ?」

憂「和さん…」

唯「あ…和ちゃん…」

女医「ニュータイプ研究所でマットモニナール漬けにされたんだよ。この子には猛毒だったんだ。休ませなきゃいけないから任務とか、そういう話はやめて欲しいね。」

和「そういう話をしに来ました。一刻を争います。」

女医「ダメだね!帰んな!」

唯「いいよ…」

憂「お姉ちゃん…」

女医「平沢軍曹…」

唯「私…和ちゃんとお話したい…憂…ふたりだけにしてくれる…?」

何も言わず、憂と女医は隣接する医療担当者用の事務室へ引き下がる。

149: 2010/09/01(水) 20:08:29.81 ID:vKQ5Kj2o
和「唯、新型MSが配備されているわ。みんなはもうそれで訓練しているの。」

唯「私も…みんなと…戦うよ…」

和「今までのリックドムとは性能も段違いだけど、操縦の方法も全然違うのよ。今から訓練しても、連邦軍が攻めて来るまでに馴染めないかも知れないわ。」

唯「私…頑張るから…新型で…訓練させて…」

和「じゃあ、寝てる暇はないわね。起き上がりなさい。」

唯「うん…よいしょ…わっ!」

唯がベッドから落ちる。
その音で、憂と女医が医務室に入ってきた。

女医「何やってるの!!絶対安静よ!!」

憂「お姉ちゃん!!」

和「これから訓練です。平沢軍曹を連れていきます。」

和「唯、いつまで床にへたり込んでいるのよ、さっさと立ちなさい。」

唯「うん…ごめんね…よいしょ…」

憂「和さん、やめて!」

唯「憂、いいんだよ。私が…行くって決めたんだから。」

女医「艦長、病人に訓練させるなんて、あなたは戦争犯罪人ですよ。」

和「戦争が終わって、生きていればいくらでも罪は償うつもりよ。」

無機質な音と共に医務室のドアが作動する。
あとには泣き崩れる憂と、それをなだめる女医だけが残された。

150: 2010/09/01(水) 20:09:44.09 ID:vKQ5Kj2o
MSデッキでは、律と澪、それに紬がMSの肩にマーキングをしていた。
律の機体の左肩には黄色い字で「け」と書かれている。
澪は水色のペイントで、紬は紫を使って何か書いている途中だが、和には何を書こうとしているのか大体想像ができた。
和は、ハンガーに固定された機体の前に、唯を連れてくる。
唯も、少しフラつくが動けるようだ。

和「これがあなたの新しいMS。MS-14A、ゲルググよ。」

唯「へえ…かわいいね。トンちゃんみたい。」

和「あんたのセンスって、ホントよく分からないわ。」

唯「ええ~かわいいじゃん。鼻にピーナッツ詰めたくなる可愛さだよお。」

和「…お願いだからホントに詰めたりしないでね。」

異変に気づいて、律と澪が流れて来る。

律「なんだよ唯、もういいのか?」

澪「心配したんたぞ。」

唯「みんなありがとう。もう大丈夫だよ。」

151: 2010/09/01(水) 20:11:08.25 ID:vKQ5Kj2o
和「悪いけど、唯にゲルググの操縦を教えてやってくれないかしら?あとこれから訓練の時間を多めに取るようにするから、唯の慣熟訓練をメインにしてあげて欲しいの。」

律「慣熟訓練の話は言われなくてもそうするつもりだったけどな、今忙しいから操縦教えてやるのは無理だ。」

和「MSに落書きするのが忙しいのかしら?」

律「なにーっ!これは私等を識別する重要なマーキングなんだぞ!」

和「分かってるわよ。冗談。」

律「和の言うことは冗談でもそう聞こえないからな。今教官をつれて来るよ。澪、頼む。」

澪「私はまだ途中だから律が行ってこいよ。ほぼ完成してるじゃないか。」

律「私は唯の分もペイントするから忙しいんだよ。」

紬「じゃあ私は梓ちゃんの分もペイントする~」

澪「ひ…卑怯だぞ、二人共。…仕方ない、行ってくるか。」

153: 2010/09/01(水) 20:12:58.75 ID:vKQ5Kj2o
律「唯は澪が梓を呼んでくるまで取りあえず操縦系の調整な。」

唯「あずにゃんが教官さん?」

律「梓の奴、お前がいなかったときスランプで散々だったからな、あいつに唯分を補給させてやるんだ。せいぜいイチャイチャしてくれ。」

紬「なんだかドキドキしてきたわあ。」

斉藤「お嬢様…何故そこでドキドキなさるのですか?」

唯「和ちゃん、操縦桿とペダルの調整、それぞれ20段階ずつあってね…」

和「そう、それじゃあ私、ブリッジに戻るわね。」

唯「和ちゃん!」

和「どうしたのよ?」

唯「ありがとう!」

和「フフ…どういたしまして。」

和は、モビルスーツデッキを出ると、こらえきれなくなってその場にうずくまった。
涙が、溢れる。

和「唯…無理させて…本当にごめんなさいね…」

第七話 新型! おわり

165: 2010/09/02(木) 19:50:38.13 ID:2pWFfvUo
第八話 弟!

聡は、食事が載ったトレーを持ってふたりがけのテーブルに腰掛けた。

聡「しかし、マズそうな飯だな。」

学徒兵の年齢制限が緩和されたのと同時に入隊したものの、ソロモン戦には間に合わず、さっきムサイ級の艦に配属になった。
訓練で仲の良かった同期とは配属が違った。
仕方なく、ひとりで飯を食おうとしていると、向かいに誰か座ろうとしている。

「ここ、いいかな?」

聡は、面倒くさそうに答える。

聡「別にいいですよ。」

茶髪で髪の長い女だった。年は姉くらいだろうか?少し怖そうだ。

「田井中聡軍曹でしょ?」

聡は、いきなり名前を自分の名前を当てられて、多少面食らった。

聡「どうして俺の名前を?」

「胸に田井中って描いてあるじゃん。それにあたしは今日、田井中聡軍曹がパイロットとして着任することを知ってたしね。」

166: 2010/09/02(木) 19:52:02.75 ID:2pWFfvUo
聡「あなたは誰です?」

「ああ、ごめん。あたしは立花姫子。階級は軍曹。MSのパイロットよ。そんであなたはあたしのパートナーだから、仲良くしてね。」

聡「はあ…」

姫子「でさ、なんでこんなとこ来たの?」

聡は少し困っていた。姉や母を除いて、女と二人きりで食事なんてしたことが無かったからだ。
ドキマギしながら、姫子の質問に答える。

聡「う…うちの姉が志願したから、俺もと思って…」

姫子「お姉さんが居るんだ…もしかして、律って名前?」

聡は、また驚いた。

聡「姉ちゃんの事、知ってるの?一緒に戦ったとか?」

167: 2010/09/02(木) 19:53:03.21 ID:2pWFfvUo
姫子「やっぱり律の弟だったんだ!律とは高校が一緒だったの。なんか面影があると思ったんだ。でも律も軍隊に来てたの、知らなかったな。」

姫子が律の話を聞いて無邪気に笑うのを見たとき、聡は心臓をつかまれるような錯覚に陥った。
怖そうだと思ったが、こんな顔もできるらしい。
それからたわいのない話をしながら、聡は姫子と食事を取った。
食事が終わると、姫子は聡の手を取って言った。

姫子「じゃあMSデッキに行こ?お姉さんが色々教えてあげる。」

姫子に手を握られると、聡の体は電気が通ったようにピクン、と痙攣した。
聡は、女に手を引かれるのが少し気恥ずかしかった。

168: 2010/09/02(木) 19:54:37.07 ID:2pWFfvUo
純は、医務室に忍び込んだ。
通信手というのは声の出し過ぎで常にのどが痛い。
一応医務室でトローチを処方されるのだが、それでは足りないので薬品棚から失敬するのが、純の習慣になっていた。

純「憂、いないよね~」

純「トローチ、トローチっと…」

純「うひゃ、あるある。こんなにあるんならケチケチせずにドバっとくれればいいのに~」

純「つまみ食い、いただきまーす。」

憂「純ちゃん何やってるの?」

純「ひゃっ!うい!?いたんだ…」

憂「トローチがやたらと少なくなると思ったら、純ちゃんが盗んでたんだ。駄目じゃない!」

純「えっと…これはその…」

純はなんとか話をそらそうと試みる。

純「ねえ、トローチってさ、形がドーナツみたいだよね。」

憂「お菓子じゃないよ!ちゃんと決められた量があるんだから返して!」

169: 2010/09/02(木) 19:55:34.86 ID:2pWFfvUo
純は、憂の目が赤く腫れていることに気がついた。
話をそらす絶好の機会だ。

純「憂…どうしたの、その目?泣いたの?」

憂「何でもないよ!トローチ返して!」

純「何かさっき艦長も泣いてたし、今日はいろんな人が泣いてるなあ。」

憂「え…和さん、泣いてたの?」

純は引っかかった、と思った。

純「どうしたんですか?って聞いたら、さっきの憂みたいな反応したけどね~。」

憂「和さん…やっぱり辛かったんだ…」

純「じゃあ私はこれにてドロン。」

憂「純ちゃん、トローチ返してよ!」

医務室にはすでに、大量のトローチと共に純の姿はなくなっていた。

170: 2010/09/02(木) 19:56:58.55 ID:2pWFfvUo
唯は、ヘッドギアを装着され、椅子に固定されていた。
研究者の声がする。

研究者「平沢軍曹、モニターに映っているサラミスのCGを、有線ビームで破壊するイメージをしてみて。」

研究者2「動きませんね、感応波のレベルが上がりません。」

研究者「君がジオングを操縦出来れば、君の友達を助けることができるし、戦争だって終わらせられる。がんばれ、平沢軍曹。」

唯「うう…う…頭が…痛い…」

主任「何が原因だ?」

研究者2「見てください、これが成功例であるララア・スン少尉の脳波です。」

主任「活発に波打ってるな。」

研究者2「そしてこちらが平沢軍曹の脳波です。」

主任「動きが少ないな。これはどういう事だ?」

研究者2「根本的に脳波パターンが違うのです。例えるならララア少尉の脳波は流れる水のようなもので、平沢軍曹の脳波は淀んだ水です。」

主任「ほう…」

171: 2010/09/02(木) 19:58:20.85 ID:2pWFfvUo
研究者2「ララア少尉のような活発な脳波パターンを川型脳波パターンといいます。よどみなく波が出て、感応波も活発に観測されます。」

主任「平沢軍曹の脳波は池か?」

研究者2「さすが主任、半分正解です。しかしよく見てください。」

主任「ん?」

研究者2「ほらここです、さらに脳波が淀んでいる。このパターンは池どころか、さらに淀んだ沼です。」

主任「ふむ…」

研究者2「このパターンは池・沼型脳波パターンと言って、感応波も微弱でサイコミュの使用に全く向いていません。」

主任「池沼型な…何か対応策は?」

研究者2「池・沼型です。間に点を入れないと色々誤解を招きます。」

主任「わかった、続けろ。」

研究者2「マットモニナール投薬で脳波パターンが改善されたという報告がありますが、池・沼型パターン自体希少なパターンなのでなんとも言えません。」

172: 2010/09/02(木) 19:59:41.31 ID:2pWFfvUo
主任「よし、投薬しろ!感応波を強化する。」

研究者「主任、それは…」

研究者2「試してみるしか無いでしょ、このままじゃどうにもなりませんよ。」

研究者「…平沢軍曹。今から薬を飲んでもらう、それを飲んだらきっと君の友達を助けられる様になる。少し辛いけど、頑張ってくれ。」

唯「私…みんなの役に立ちたい…」

研究者「よし、いい子だ。」

薬をのむと、徐々に意識が敏感になってきた。
微弱な空気の振動まで、肌で感じられるようだ。

研究者2「お、感応波レベル、上がりました。でもまだ足りませんね。脳波も典型的な池型です。」

173: 2010/09/02(木) 20:00:30.04 ID:2pWFfvUo
主任「もう一錠、行こうか。」

研究者「主任、これ以上は…」

主任「やれ!」

薬が、口に入れられる。
飲み込むと、すぐに頭を刺すような痛みを感じた。

唯「うう…あああああああああ!」

研究者2「感応波キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!投薬最高!!」

主任「もう一錠!!いや二錠やってみようか!!!」

研究者「命の危険があります!」

主任「飲ませろ!!」

薬を飲まされた瞬間、唯の体は硬直して動かなくなった。

唯「あ…か……か…」ビクンビクン

研究者「危険です!医務室に連れていきます!!」

174: 2010/09/02(木) 20:01:28.27 ID:2pWFfvUo
医務室に運ばれている途中も、ベッドの中でも、唯の頭の中には声がはっきりと聞こえていた。
主任と、研究者の会話だった。

主任「あれ、だめだな。」

研究者2「失敗作ですな。やはり池・沼型にはサイコミュは使えません。」

主任「ちょっと悪乗りしすぎたかな?投薬は結果がすぐ出て面白いからな。」

研究者2「そんな事よりジオングはどうするんですか?MS格納庫に眠らせとくんですかね?」

主任「パイロットがいないんじゃしょうがないだろ。足もついてないしな。」

研究者2「あのできそこないはどうします?」

主任「薬がある程度抜けたら原隊復帰させとけ。あと薬はもたせとけよ。飲ませ続ければ覚醒するかもしれん。」

研究者2「足のない未完成MSに、できそこないのニュータイプ、お似合いの組み合わせだったんですけどね…」

175: 2010/09/02(木) 20:03:04.43 ID:2pWFfvUo
唯「嫌だ!!!」

唯は飛び起きた。
自分の部屋だった。側に梓がいる。

梓「どうしたんですか、唯先輩!?」

唯「…夢…?」

梓「唯先輩、シミュレーター訓練中にまた倒れたんですよ。医務室は憂が心配するから行きたくないっていうから、部屋までムギ先輩が担いでくれたんです。」

唯「はあ、はあ…訓練…しなきゃ…」

梓「もういいです。唯先輩、飲み込み早かったから、また明日ににましょう。もう寝てください。」

唯「あずにゃん・・・お願いがあるの・・・」

梓「なんですか?」

176: 2010/09/02(木) 20:03:37.64 ID:2pWFfvUo
唯「怖い夢見たの…だから…一緒に寝て…」

梓「でも…それって…///」

握ってみると唯の手は確かに震えている。

唯「お願い、あずにゃん。」

梓「唯先輩…」

紬「じゃあ、私は梓ちゃんのベッドを借りるわね。」

梓「ってなんでムギ先輩が居るんですか!?ティッシュ二箱も持ち込んで!!」

紬「気にしなくていいのよ~」

梓「気にします!出ていってください!!//////」

177: 2010/09/02(木) 20:05:19.81 ID:2pWFfvUo
聡は、自分の機体を見て、愕然としていた。
作業機械レベルである。

聡「なんだよこれ…マジかよ…」

姫子「技術本部から回されてきた機体よ。MP-02Aとか言ったかな。」

聡「俺…これに乗るんですか?ヤバくないですか?一応ザクで訓練したんですけど…」

姫子「大丈夫、お姉さんがゲルググで守ってあげるから。」

姫子の背後から、中年の男が近づいて来る。

曹長「そいつがもう一人の補充兵か?ちっ、男じゃねえか。」

聡「はい、田井中軍曹です。」

曹長「まあせいぜいその茶筒みたいなので奮戦してくれ。」

聡「っ…!」

聡は、はっきりとこの中年曹長が嫌いになった。
物言いはともかく、さっきからジロジロといやらしい目で姫子を見ているのが気に触るのだ。
曹長は、悪態をつくとどこかに消えていった。

178: 2010/09/02(木) 20:06:19.97 ID:2pWFfvUo
姫子「ごめんね、小隊長、ああいう人だから。」

聡「別にいいですよ。」

二人の間に、重い沈黙がのしかかった。
耐えられなくなって、聡がぎこちなく口を開く。

聡「ひ…姫子さんは、なんで志願したんです?」

姫子「あたし…?あたしはね…」

姫子はちょっとうつむいて、影のある表情になった。
聡はそれを見て、ハッとした。
めまぐるしく変わる、姫子の表情。
その表情をすべて、余すことなく見てみたいと思った。

姫子「失恋したんだ…それで…どうでも良くなって…」

聡は、自分の心が締めあげられるのを感じていた。
甘い香りが聡の鼻をくすぐる。
夢を、見ているようだった。

179: 2010/09/02(木) 20:07:20.04 ID:2pWFfvUo
姫子「ねえ、聡くん、ねえってば。」

聡「え…ああ、えっと…」

姫子「ぼーっとしてたよ。疲れてるの?」

そう言われて、初めて聡は姫子に見とれていたことに気づいた。
自分はどんな目で姫子を見つめていたのだろうか。
まさかあの曹長みたいないやらしい目で見ていたのではなかろうか。
そう思うと、聡は自己嫌悪に陥って、居ても立ってもいられなくなった。

聡「そ…そうですね…疲れてるみたいです。もう寝ます。今日は有難うございました。//////」

聡は逃げるようにMSデッキを出た。
心臓が胸から飛び出そうなほど高鳴っている。
顔が、真っ赤になっているのが分かる。

姫子の甘い香りが、握った手の感触が、めまぐるしく変わる表情が
その日、聡を寝かせなかった。

聡は恋かもしれない、と思った。

180: 2010/09/02(木) 20:08:57.00 ID:2pWFfvUo
唯の慣熟訓練は、すぐに終わった。
訓練二日目には実機で飛び、梓と模擬戦もこなした。

梓「唯先輩、もう完璧ですね。」

唯「あずにゃんが付きっきりで教えてくれたおかげだよ。」

梓「えへへ…///」

唯「でもゲルググはスゴイね。これなら負ける気がしないよ。」

梓「今度は負けませんよ。ソロモン戦の雪辱を晴らすです!」

唯「じゃあ、帰ろっか。帰ってあずにゃん分補給しなきゃ。」

梓「唯先輩…//////」 

MSデッキに戻ると、メンバー全員が待っていた。

律「ようお二人さん、モノになったようだな。」

澪「これでみんなで戦えるな。」

紬「唯ちゃん頑張ったものねえ。」

唯「みんなも、ありがとう。一緒にご飯食べに行こうよ。」

律「おう、まずい飯でも食いに行くか!」

181: 2010/09/02(木) 20:09:52.79 ID:2pWFfvUo
艦が駐留している間は要塞内の食堂を使う。
要塞内にいくつもあるうちの一つだが、かなりの広さで、入っている人数もかなりものだ。

唯「広い食堂だね。体育館より広いんじゃない?」

澪「一体この要塞に何人居るんだろうな?」

律「ていうかさ、見てみろよ。」

唯「何?りっちゃん。」

律「子供みたいな兵士、日に日に多くなってないか?」

紬「そういえば若年兵の数が多いわね。」

律の顔色が、すぐれない。

澪「律、どうした?」

律「いや、聡が心配でな。あいつ私が志願したとき、付いて行くって言って聞かなかったからさ。」

澪「そういえば私たちの時より制限年齢も低くなってるみたいだな。訓練時間もずいぶん少なくなったって、和が言ってたぞ。」

律「来るなって言っといたんだけど、何か最近あいつを身近に感じるんだよなあ。」

紬「きっと気のせいよ。戦いが近いから、少し神経質になっているだけなんじゃない?」

律「そうならいいんだけど…」

律は、食堂を出たとき、何を食べたかすら覚えていなかった。

182: 2010/09/02(木) 20:11:28.26 ID:2pWFfvUo
聡は、嫌な予感がしていた。
いつもは一緒に食事をする姫子が、今日に限って訓練後に居なくなっていた。
姫子との一時がなければ、食堂に行く意味が無い。
それ位、飯は不味かった。
艦の中を、くまなく探してみる。特に、人気のないところを。
礼装など、普段は使わないものを収納しておく倉庫から、言い合うような声が聞こえてきた。
聡は、気付かれないように倉庫に入る。

姫子「やめて下さい、小隊長!」

曹長「いいじゃねえか、減るもんでもねえし。」

あの曹長と、姫子だった。
聡の全身の血が沸騰する。

曹長「お前が悪いんじゃねえか、こんなイイ体見せつけやがって。」

姫子「嫌、触らないで!誰か!」

聡が、二人の前に躍り出る。

聡「やめろよ!!嫌がってるじゃないか!!」

183: 2010/09/02(木) 20:12:43.23 ID:2pWFfvUo
曹長「なんだよ、補充兵のガキか?お楽しみを邪魔するんじゃねえ!」

姫子「さ…聡君!」

聡「あんた、軍人として恥ずかしくないのかよ!部下の女の子に乱暴しようとするなんて、最低じゃないか!!」

曹長「軍人なんてのはな、最低な奴がなるもんなんだよ!オメーだって訓練生だったとき、週末息抜きに女抱きに行ったんじゃねーのか?」

聡「そんな時間あるかよ!!毎日訓練だったんだよ!!訓練だって一週間くらいで終わっちまったんだ!!週末ってなんだよ!?」

曹長「じゃあ俺の後にこいつとヤラせてやるから、ちょっと待ってろ。」

聡は、何も考えられなかった。
気がついたら、手が出ていた。

184: 2010/09/02(木) 20:13:20.26 ID:2pWFfvUo
聡「ふざけんな、このやろおおおお!」

曹長「イテーな、このガキ!」

曹長の拳が、容赦なく聡に振りかかる。

聡「ぐはっ!うぐっ!」

姫子「小隊長、やめて下さい!」

曹長「うるせえな、このアマ!テメーが大人しくヤラせてくれりゃ、こいつがこんな目に合うことも無かったんだろうが!!」

曹長が姫子を蹴り飛ばした。

姫子「キャッ!!」

聡「女の子を…蹴ったな…この屑野郎!」

曹長「まだやんのかよ、ガキ!」

185: 2010/09/02(木) 20:13:49.63 ID:2pWFfvUo
闘争は、部屋の戸を激しくノックする音に中断された。

士官「その部屋で何をしているのか?」

曹長「へへ…若年兵がいうことを聞かないもんで、ちょっと修正してたんでさあ。」

士官「そうか、曹長、艦長が呼んでいる。行くぞ。」

曹長「へえ…了解。」

186: 2010/09/02(木) 20:14:28.62 ID:2pWFfvUo
薄暗い部屋の中に、聡と姫子が残された。

姫子「ごめんね、痛かったでしょ。」

聡「こんな事くらいで…大丈夫です。」

姫子「医務室に連れて行くから。」

聡「必要ありません!」

姫子「でも、手当しないと・・・」

聡「自分で出来ますから。俺はこれで…」

姫子「待って、聡君。お姉さんにも、お礼させて。助けてくれたお礼。」

姫子「医務室が嫌ならお姉さんの部屋に来て!手当てするから!!」

聡は、ドキリとした。
姫子の、部屋。その単語に、抗いきれなかった。
結局ふらふらと、付いて行ってしまった。

187: 2010/09/02(木) 20:15:46.37 ID:2pWFfvUo
姫子「傷口、しみる?」

聡「い…いえ…///」

姫子「助けてくれて、ありがとう。」

聡「と…当然のことです。///」

聡は、目のやり場に困った。
手当てをしてくれているので、姫子が近い。
姫子の顔を見ると、クラクラと正気が保てなくなりそうだった。
たまらず下を向くと、ノーマルスーツであらわになった姫子のボディーラインが眼に入り、ドキリとする。

姫子をいやらしい目で見ている。
これでは、あの曹長と同じだ、と思った。
見るばかりか、気がつくとその躰に触れてみたくなっている自分が嫌になる。

聡は、欲望と必氏に戦っていた。

188: 2010/09/02(木) 20:16:44.59 ID:2pWFfvUo
姫子「あたし、怖かった。」

姫子が手を聡のそれに重ねた。

姫子「ね…震えてるでしょ?」

聡「え…ええ///」

姫子「聡君が居ると、なんだか安心出来る。」

聡「あ…ありがとうございます…///」

聡は嬉しかったが、次の言葉に、期待を裏切られた。

姫子「ホントに弟ができたみたい。律から、取っちゃおうかな。」

聡「い…いやです…」

姫子「ごめんごめん、冗談だって…」

聡は、消え入りそうな声で呟いた。

聡「弟なんかじゃ…嫌です。//////」

189: 2010/09/02(木) 20:17:58.85 ID:2pWFfvUo
姫子「え?何か言った?」

聡「…手当て…ありがとうございましたって、言ったんです。//////」

姫子「うん、どういたしまして。」

聡「じゃあ、俺はこれで…」

部屋からでると、聡は俯きながら自室に向かった。

聡「くそっ…俺…駄目だ…。」

聡は、その気持を伝えることが出来なかった。
姫子に拒絶されて、距離が離れるのが怖かった。

気がついたら、姫子をいやらしい目で見ている。あいつと同じように。
自分は、あの曹長と同じ。
だから拒絶されるに決まっている。好きだと言える資格もない。

若い聡には、そう考えることしか、出来なかった。
聡は、自分の欲望を心から憎んだ。


第八話 弟! おわり

195: 2010/09/03(金) 19:52:30.48 ID:qpMswtIo
第九話 決戦!

作戦が近いというので、ブオンケは要塞から出航していた。
担当区域はSフィールド上、要塞守備隊である。
要塞戦では艦艇は大きく2種類に分けられる。
要塞付近に展開、布陣し、敵の要塞に対する侵攻を直接防ぐ要塞守備隊、
そして機動力を保持して敵と遭遇戦を行い、時に要塞守備隊を掩護する機動打撃部隊である。
前者は歩兵的、後者は騎兵的な運用と言える。
ミーティングが終わると、唯がまた苦しみだした。

唯「頭が…痛い…」

梓「唯先輩!大丈夫ですか?」

澪「唯、どうしたんだ?」

唯「人が、いっぱい氏んじゃった…一瞬で…」

澪「何言ってるんだ?まだ敵は来てないぞ?」

律「何か私も頭が重いぞ。」

紬「大変、風邪かしら?」

澪「お前はデコの冷やし過ぎだっ!」

196: 2010/09/03(金) 19:53:54.50 ID:qpMswtIo
澪が律のデコを殴る。

律「いて~なあ。ちょっとは手加減してくれよ。」

梓「取りあえず唯先輩を部屋で休ませてくるです。」

唯「うう~あずにゃんありがとう…」

律「そうだな、出撃まで時間あるから解散にすっか。」

澪「お前も医務室行くか?」

律「いや、私は治った。さっきの一瞬だけだった。」

澪「なんだよ、それ?」

紬「じゃあ、出撃一時間前にMSデッキで。」

みんな、各々の部屋に戻っていく。

197: 2010/09/03(金) 19:54:43.19 ID:qpMswtIo
梓「唯先輩、もう大丈夫ですか?」

唯「うん、あずにゃん、ありがと。」

梓「さっきの…なんだったんですか?人が氏んだとか…」

唯「よく分からないんだけど、そう感じたんだよ。上手く言えないんだけど…」

梓「私、信じます。きっともう戦いは始まっているんですね。」

唯「そうだと思う。」

梓「じゃあ、もうすぐ出撃ですね?」

唯「そうかも知れない。」

梓「あずにゃん分、補給しておかなくていいんですか?///」

唯は、無言で梓を抱き寄せた。
抱き合ったまま、話を続ける。

198: 2010/09/03(金) 19:55:28.23 ID:qpMswtIo
梓「戦争…どうなると思いますか?」

唯「分かんない。」

梓「先輩、ニュータイプなんでしょ?」

唯「それで未来のことが分かったら、テストで満点取ってたよ。」

梓「それもそうですね。」

唯「私は、ただの人だよ。」

梓「音楽の才能はあると思います。」

唯「演奏、したいね。」

梓「そうですね。唯先輩のギター、聞きたいです。」

唯「あずにゃんの方が、上手なのに…?」

梓「魅力が、あるんです。唯先輩の演奏は…」

199: 2010/09/03(金) 19:56:06.19 ID:qpMswtIo
少しの沈黙の後、梓が問いかけた。

梓「あずにゃん分、足りますか?」

唯「足りると思う。」

梓「嘘、足りませんよ。」

唯「そうかな?」

梓「戦場で足りなくなっても、知りませんよ。今絶対に足りてませんし。」

唯「どうすればいいの?」

梓は、ゆっくりと目を閉じた。
キスが欲しいのだと分かったが、唯は梓の唇を無視して、耳元に口を持って行き、息を吹きかけるようにささやいた。

唯「キスでも足りないかもね、どうしようか?」

二人は無言で、ベッドに倒れ込む。
程なくして演説が放送されたが、二人には全く聞こえなかった。

200: 2010/09/03(金) 19:57:04.24 ID:qpMswtIo
澪「こうして待っている時が、一番怖いな。」

律「ああ、絶対に慣れることはないだろうな。」

澪「私たち、生き残れるかな?」

律「全員生き残るよ。じゃないとみんなでここに来た意味が無い。」

澪「私、まだ一機も墜としてないんだ。墜とせる自信もない。人を頃してしまうのが、怖いんだ。」

律「その分私が倒してやるよ。澪、お前を絶対に守る。頃しもさせない。」

澪「律…///」

律「だから、私の側を絶対に離れるなよ。」

澪「ありがとう、律。なんだか元気が湧いてきた。」

その時、艦内放送のスイッチが入ったのが聞こえた。

『我が忠勇なるジオン軍兵士たちよ、今や地球連邦艦隊の半数が我がソーラ・レイによって宇宙に消えた・・・』

澪「聞いたか?半数が消えたって…」

律「ああ、唯が言ってた通りだ。」

二人は、息を呑んで演説を聞いていた。

201: 2010/09/03(金) 19:58:05.02 ID:qpMswtIo
紬「この戦いも、私たちも、どうなるのかしらね?」

斉藤「分かりかねます。」

斉藤「それはそうとお嬢様、私にご要件とは?」

紬「頼みが、あるの。あなたにしか頼めない…。」

斉藤「頼み…でございますか?」

斉藤が、どうぞ、と言いかけたとき、演説が始まった。

『我が忠勇なるジオン軍兵士たちよ…』

202: 2010/09/03(金) 19:59:00.80 ID:qpMswtIo
紬の目付きが、鋭くなる。斉藤は背中に冷たいものを感じた。

紬「私、チャンスがあれば今演説してる奴を頃すわ。」

斉藤「…」

紬「私の家族をバラバラにして、お父様の会社もめちゃくちゃにして…」

紬「私の友達まで戦争に巻き込むことになった。絶対に許せない。」

斉藤「お嬢様…」

紬「今は運良く、奴の懐に潜り込んでるわ。」

紬「私一人では出来ないかも知れない…だからあなたにも手伝って欲しいの。こんなの、友達には頼めないでしょ。」

斉藤「…かしこまりました。」

紬は、無言で部屋から出た。
斉藤は、紬の口から頃す、という言葉が出たことが少し悲しかった。

203: 2010/09/03(金) 20:00:04.44 ID:qpMswtIo
ブオンケのMS隊が射出された。
当初は後衛である。

澪「前衛はもうきれいに展開しているな。」

律「戦闘はまだ始まらないみたいだな。」

梓「こんな静かな宇宙が戦場になるなんて、信じられませんね。しかも大晦日に。」

紬「ソロモンの時はクリスマスイブだったわね。本当、私たちなにをやってるのかしら…」

唯「みんな・・・来るよ!!」

前衛の方で爆発光が上がった。MSの活発なスラスター光も確認できる。
前衛の間を縫って、ミサイルが飛んでくる。

律「よっしゃ、前衛の撃ち漏らしで肩慣らしだ!」

しかし、前衛がしっかりと踏ん張っているため、撃ち漏らしはなかなか来ない。
何機か突撃艇や傷付いたMSが突破してきたが、律と紬がたやすく打ち落とした。

204: 2010/09/03(金) 20:00:37.79 ID:qpMswtIo
敵の第一波がしのげた頃、和から通信が入った。

和「前衛を補給と応急修理のため下げるわ。我々は、前衛艦オケブインの後退を援護、じ後前衛としてHQから別命があるまで戦闘を継続するわ。分かった?」

律「了解!」

和「前衛はもろに敵の攻撃を受けるわ。気を引き締めてね。」

律「任せとけ!」

前衛に出ると、すぐに敵の第二派が攻撃してきた。
律は、その圧力を前にして緊張している自分を感じていた。

205: 2010/09/03(金) 20:01:37.33 ID:qpMswtIo
戦端が開かれると、小隊長のザクは後ろに下がってがなり立てるだけの存在になった。
そのうちに声も聞こえなくなったので氏んだのだろう、と聡は思った。
小隊は聡と姫子の二人きりになった。
二人とも練度が低いのでかなり旗色が悪い。
唯たちで二十日以上かかった訓練時間も、聡たちの頃には基礎訓練と合わせても2週間以下に短縮されていた。
あとは配属されてからシミュレーターで訓練しただけだ。

聡「姫子さん!援護します!」

姫子「お願い!」

聡の放ったシュツルムファウストがジムの脚部に命中する。
一機後退させた。
しかしまだ二機が姫子のゲルググに取り付いている。
聡は、少し間合いを詰めて装備されたザクマシンガンを連射した。

聡「くそっ!当たらない!!」

姫子「聡君!私のことはいいから下がって!その機体じゃジムの相手は無理だわ!」

聡「嫌です!下がりません!」

206: 2010/09/03(金) 20:02:41.51 ID:qpMswtIo
マシンガンの残弾がゼロになる。
聡がリロードをしようと操作したその時、機体に嫌な振動が伝わった。
何度試してもリロードが出来ない。
リロードする為のアームが壊れたらしい。

聡「このポンコツ…ちっくしょう!!」

姫子「聡君!もう私はいいから、あなただけでも生き残って!」

聡は二機のジムを睨みつけた。
自分の好きな女の子を襲う二人の暴漢…ジムに曹長の面影が重なった。
聡の中で、何かが吹っ切れた。
スロットルを力いっぱい押し込んだ。
シートに体が叩きつけられる。
こんな機体でも、フルパワーをかけると呼吸もまともに出来ないほどのGだ。

姫子「聡君!近づいちゃダメ!」

聡は一機のジムに向かって突っ込んでいく。
直線で勝負したら追いつけないが、ジムは姫子のゲルググを追って蛇行している。
見る見るうちにジムが近づく。

207: 2010/09/03(金) 20:03:31.09 ID:qpMswtIo
姫子「聡君!下がって!やられるわ!!」

聡「下がりません、俺、姫子さんを守る!」

姫子「お姉さんのいうことが聞けないの!?」

聡「俺は子供じゃない!!」

ジムがこちらに気づいたようだ。もう避けられないだろう。
怯えているようにも見える。
今の自分にならこれを言う資格くらい、あるはずだ。

聡「俺、姫子さんの事、好きだ!」

聡の心が、澄み渡った。
次の瞬間、衝撃と共に体が前につんのめり、シートベルトが食い込み、骨がボクッ、と鳴る音が聞こえた。
姫子の笑顔が、見えた気がした。

208: 2010/09/03(金) 20:04:29.06 ID:qpMswtIo
姫子「聡!!」

聡のオッゴが特攻してジムが一機爆発した。
その爆発に巻き込まれてひるんだジムを、姫子のゲルググが斬った。

姫子「どうして…あたしなんかの為に…」

姫子は、外見のせいか男運がなかった。
とにかく、軽い男しか寄って来なかったのだ。
しかし目の前で散ったこの男は、一途に姫子のことを想ってくれていた。
初めて自分に向けられた、純情。
終わったときに、ようやくそれに気がついた。

姫子「聡…聡君…ごめんなさい…私がバカだった…」

聡の自分への想いに、気付けなかった。
そればかりか、弟扱いして、聡はどれほど傷付いただろう。
姫子はここが戦場であることなど、すっかり忘れて、泣いた。
涙で何も見えない姫子に、迫り来る敵が見えるはずも無かった。

姫子「さとs」

姫子のゲルググは、宇宙を照らすひとつの光となって、消えた。

209: 2010/09/03(金) 20:05:56.45 ID:qpMswtIo
梓「すごい・・・」
初めて、敵を落とした。
梓は、驚愕していた。敵の攻撃が見えるのだ。
これなら、唯を守れる。そう感じていた。

梓「下!」

ゲルググのビームが、ジムの右手を飛ばしていた。
ジムが後退する。

唯「あずにゃん、私から離れないでね!私の目の届く範囲にいてね!」

梓「当たり前です!私が唯先輩を守るんですから!」

梓のシールドには、いくつかビームの焦げ跡が付いていたが、唯の機体は綺麗なままだった。

梓は、嬉しくなった。
自分が、唯を守っている。
そう信じて、疑わなかった。

210: 2010/09/03(金) 20:07:07.88 ID:qpMswtIo
ゲルググの性能か、自分の腕か、敵を追い詰めるのが楽になった。
律はそう思った。
ドッグファイト中は蝶が舞うようにめまぐるしく軌道が変わる。
全周からのGにシェイクされながら、同じような軌道で飛ぶ敵を追い詰めるのだ。
そしてめちゃくちゃに動きまわる敵機を、人差し指の先ほどのレティクルに重ねて、射撃する。
今まさに、律が射撃をしようとした瞬間だった。

律「えっ?何だって?」

律は、タイミングを逃してしまった。
その隙に狙っていたジムが背後に回ってくる。

澪「律!逃げろ!援護する!」

律「澪、聡が氏んじまった!今声が聞こえたんだ!」

澪「何寝ぼけてんだ律!いいから逃げろ!そいつは私がやる!」

211: 2010/09/03(金) 20:07:40.63 ID:qpMswtIo
澪のゲルググのレティクルがジムに重なった。

澪「ひ…人が…乗ってるんだよな…」

一瞬、躊躇した。ジムの足に命中した。
すかさず律がそれを落とす。

律「聡が、ジムに突っ込みやがった…あいつ、来るなって言ったのに…」

澪「おい律、また来るぞ!前向け!!」

律「畜生!」

律は、怒りに任せて敵に突っ込んでいった。
澪は訳がわからないまま、それを追った。

212: 2010/09/03(金) 20:08:14.63 ID:qpMswtIo
もう、三度ほど斉藤に助けられた。
紬は戦うとき、突っ込みすぎるようになっていた。
そこを斉藤が上手くフォローしている。

斉藤「お嬢様、大丈夫でしょうか?」

紬「ありがとう。」

斉藤「戦は長くなります。もう少し自重されたほうが…」

紬「みんなが戦ってるの、私だけ楽をするわけには行かないわ!」

紬「私がこんな事に、みんなを巻き込んだのよ…私が…」

斉藤「新手です!」

ジム一個小隊が突っ込んでくる。
紬がビームを放ちながら突っ込んでいく。
それを斉藤が慌てて援護する。
敵にビームを命中させたのは、結局斉藤だけだった。

213: 2010/09/03(金) 20:09:33.99 ID:qpMswtIo
和は、勝てると思った。
ソロモンの時と違って、要塞の利点を潰されていない。
それにHQが高度に和たち要塞守備隊の前衛、後衛、補給を統制してくれるので、和は戦闘指揮に専念できるし、今のところ弾薬に不安もなかった。

純「前衛、交代です。」

和「後退準備!」

要塞守備隊の艦船は要塞への圧力を受け止める重石の役割をはたすので、常に敵の攻撃にさらされ、回避機動などはほとんど取ることが出来ない。
そのため、交代で応急修理と補給をする必要があったのだ。

連邦軍の攻撃の隙を突き、後衛が前に出る。
ブオンケは、要塞の援護も受けながらスペースゲートに入っていった。

214: 2010/09/03(金) 20:10:22.03 ID:qpMswtIo
整備兵「MSは全機盾とライフルを交換だ!応急修理は損傷度の高いものから三機までだぞ!」

唯たちは、デッキでチューブに入った栄養ドリンクを飲んでいた。

唯「戦闘の合間に補給が受けられるなんてすごいね。」

梓「出っぱなしの部隊もいるみたいです。まあそういう部隊も戦闘の合間に補給はするんですけど、艦の応急修理まで出来るのは要塞守備隊だけですね。」

唯「ムギちゃんとりっちゃん、ボロボロだったけど…どうしたの?」

澪「律さ、聡が氏んだって言うんだ…それでめちゃくちゃに突っ込んでいって…」

律「確かにジムに突っ込む光景が頭の中に浮かんで、声が聞こえたんだ…唯、何か感じなかったか?」

唯「私…わからなかった…」

律「そっか…そうだよな…」

215: 2010/09/03(金) 20:11:11.51 ID:qpMswtIo
梓「ムギ先輩はどうしたんですか?」

紬「少しヘマをしちゃったのよ。気にしないで。」

すかさず斉藤が割って入る。

斉藤「お嬢様は少しご無理をなされて…」

紬「斉藤!!」

斉藤「言わせてもらいます!お嬢様は皆様を戦に連れ出したのは自分だと申されて、ご自分を責めて…」

紬「斉藤、黙りなさい!!」

律が、紬をたしなめる。

律「ムギ、それは禁止だって言ったろ。」

紬「でも…私やっぱり辛いの…」

律「ああもう、聡の事なんか考えてる場合じゃなかったな…」

律「いいか、ひとりも欠けることなく、戦争を終わらせるんだ!」

律「ムギは、つまらない事考えるの、やめろ。この中の誰も、ここに来たこと後悔してる奴なんかいないから。」

澪「そうだぞ、ムギ。」

唯「そうだよ。ムギちゃん。」

梓「そうですよ、ムギ先輩。」

216: 2010/09/03(金) 20:11:54.84 ID:qpMswtIo
律「私も、聡のことで悩むの、止める。あんなヤツ、もうどうでもいい!」

澪「あんなヤツって、お前…」

唯「そういえば、声が聞こえたって、なんて言ってたの?」

梓「気になりますね…」

律の顔が、見る間に赤くなっていく。

律「い…言いたくない///」

澪「教えてくれよ、もし氏んだら、気になって成仏できそうにないぞ。」

律「ヤダ///」

紬「私、また無理しちゃおうかしら。」

律「わ…分かった、言うよ。///」

217: 2010/09/03(金) 20:13:22.31 ID:qpMswtIo
律「…姉ちゃん、俺、好きな人ができたって、聞こえた。///」

澪「…なんだよソレ…?」

唯「ほええ…」

梓「それは気になって戦い方も変わってしまいそうですね…」

紬「花嫁の父親の心境ね~」

斉藤「昔を思い出します。」

律「…コホン。そういう事だから…あいつはあの世で元気にやってるだろう。」

律「そろそろ時間だ、行くぞ。」

律も紬も、晴れやかな表情になっていた。
各々がコックピットに向かうとき、これが今生の別れになるとは、誰も思っていなかった。

第九話 決戦! おわり

明日は最終回です。

228: 2010/09/04(土) 20:42:29.86 ID:1F8D2Wwo
第十話 終局!

ブオンケは、後衛として撃ち漏らしの討伐を行っていた。
そこに、前衛艦オケブインから通信が入る。

艦長「MSがかなり消耗した、すまないが後退するまでの間二機貸してくれ。」

和「了解、ゲルググを二機回します。コードネームはドラムス01とベース01です。」

純「ドラムスチームは、オケブインの掩護をお願いします。」

律「分かった!」

和「鈴木伍長、HQに連絡して、オケブインを早く下げるように頼んでもらえる?あとこの状況では難しいと思うけど、一応予備機とパイロットの有無も聞いてあげて。」

純「了解しました。 HQ、HQ・・・聞こえますか、HQ!」

和「どうしたの?」

純「…HQ、応答しません…。」

和は、背中にヒヤリとしたものを感じた。

和「呼びかけを続けなさい!」

純「HQ!聞こえますか?HQ!」

律「和、オケブインのMS隊が全滅した!私等だけじゃ支えきれないぞ!」

229: 2010/09/04(土) 20:43:11.05 ID:1F8D2Wwo
和「ギターチーム、オケブインの増援に向かって!」

唯「わかったよ、和ちゃん!」

純「HQ!応答願います!HQ、こちらブオンケ、HQ!」

和が前を見ると、あれほど整っていた戦線が、ところどころ破綻し始めているのが見えた。
HQと通信できないのは、自分たちだけではなさそうである。
ただ単に、通信関係のトラブルか…
はたまた、特殊部隊が潜入して、破壊工作を行ったのか…?
原因は色々考えられるが、それを考えるのは和の仕事ではなかった。

律「和、すまねえ。オケブインが…」

和「オケブインが、沈む…」

前衛艦が、爆発光を煌めかせながら四散していく。
戦線にあいた小さなその穴から、連邦軍がわらわらと入り込んでくる。
ブオンケは、その穴を埋めようと前へ出て行く。

230: 2010/09/04(土) 20:44:42.48 ID:1F8D2Wwo
和「補給中のトヨサトに連絡して、早めに戦線復帰してもらって!」

純「了解! あ、HQ応答しました。 え…総帥が戦氏!?」

和「なんですって!?」

純「事後の指揮は、キシリア少将に引き継がれるそうです!」

和には、何が起こったのか理解できなかった。
ただ、この一瞬の指揮の空白が、取り返しの付かない損害を生み出したことだけは、確かだった。

フィールドの一翼を担う大型艦が、爆散するのが見える。
木星連絡船ほどの大きさだ、爆発が起こるたびに、外壁がきらきらと宇宙空間に舞っている。

純「ドロワ、撃沈。連邦軍が要塞にとりつきつつあります!」

和「このフィールドの要が…でも私たちは何としても、ここを氏守するわよ!」

純「トヨサト、合流します。」

和「助かったわ。補給に下がることは出来なくなったけど、これでなんとか盛り返せる!」

231: 2010/09/04(土) 20:46:13.02 ID:1F8D2Wwo
純「え…どうして!?」

和「鈴木伍長、どうしたの?」

純「グワデンから入電、我、キシリア少将に従うを潔しとせず。戦線を離脱する、我に従う艦は…」

和「何言ってるのよ!敵前逃亡じゃない!!」

和「力を合わせれば勝てるのに、どうして勝手な行動をし始めるのよ!!ふざけないでよ!!」

和は、一気に絶望の淵に立たされた。
この戦いは、負ける。
考えてはいけないことが、脳裏にちらつき始めた。

232: 2010/09/04(土) 20:47:06.34 ID:1F8D2Wwo
澪と、はぐれた。
オケブインが沈んだ直後、連邦軍が押し寄せてきて、気がついたら見失っていた。
律は、押し寄せる連邦軍に阻まれて、澪を探すどころでは無くなっていた。

律「澪、私から離れるなって、あれほど言ったのに…」

律は、正面の敵を見据えて、腹を決めた。

律「こいつらを何とかして、早く澪を見つけてやらなきゃな。」

落ち着きを取り戻す。すると、今まで気づかなかったことが見えてきた。
敵の動きが、読める。
攻撃してくるときは、不快な、ザラリとした肌に触れる感触がある。
律は、その感覚に従って、ゲルググを動かした。
三機のジムが、律に飛び掛ってきた。

233: 2010/09/04(土) 20:48:19.60 ID:1F8D2Wwo
律「一機目、左!」
ビームが、ジムのコックピットを貫いた。
背中に殺気を感じる。

律「後ろ!」

シールドの縁で殴りつけ、距離を取る。
その隙に、ビームナギナタを発振した。
もう一機が、下から迫る。

律「見え見えなんだよ!」

下から来たジムを、斬りつける。
爆風をシールドで防ぐ。
そうしている間も、さっき殴って距離をとった残りの一機が背後に迫るのを、律は手に取るように感じていた。

律「三機目!貰った!!」

反転してコックピットを斬りつける、また横から殺気を感じた。
飛び退ると、ボールが低反動キャノンを打ち込んできた。

律「邪魔だ!」

ビームライフルに持ち替え、打ち落とす。
自分を囲む敵はいなくなった。

234: 2010/09/04(土) 20:49:51.84 ID:1F8D2Wwo
律「すげえ!敵が見える!火事場のバカ力だぜ!!」

こちらから、攻める。
律は余計な回避軌道を取らなくなった。
一直線に飛び、弾が来る時だけ、弾かれたように避けた。
新たに三機を、落とした。
敵は左肩に「け」と書かれたゲルググを見ると逃げるようになっていた。
律の周りに、ポッカリと敵のいない空間ができた。

律「澪!今行くぜ!!」

律は澪の居場所を感じ取った。ひとりで怯えているのも分かる。
合流しようとした瞬間、澪のいる方向から何かの圧力のように強烈な殺気を感じた。
反射的に、回避する。
今まで律がいた場所を、ビームが貫いていた。
敵は、見えない。

律「誰だかしらねえが、澪に近づくんじゃねえ!」

澪のゲルググをパスして、まだ見ぬ敵機の方向に飛んでいく。
殺気、かわそうと思ったが、寒気がして、やめた。
律が避けようと思ったその場所に、ビームが飛んできた。

律「こいつは、やる!」

235: 2010/09/04(土) 20:52:22.75 ID:1F8D2Wwo
敵が見えた。ジムではないようだ。
コンピュータがデータを照合する。
モニター上に文字が浮かぶ。
RX-78-2、確かに、そう読める。

律「よりによってガンダムかよ、厄介だな…」

律「でも今の私になら、倒せる!ジム二個小隊をやったんだ!」

ビームを射って、距離を詰める。
正確な射撃を、三発かわされた。

律「遅い、貰った!!」

律のゲルググは、ライフルをナギナタに持ち替えて、突進する。
ガンダムはライフルを持ったままだ。
倒せる、そう思った。が、いつの間にかガンダムはサーベルを発振してナギナタをはじいていた。

律「なんだこいつ、動きが異常に早い…」

少し距離が開くと、ガンダムはパッ、と手品のようにライフルに持ち替える。
律のゲルググは素早いガンダムの武器交換について行けない。
ナギナタを持ったまま紙一重でガンダムのライフルをかわす。
もう一度、斬りかかる。
モニターから、ガンダムが消えた。

律「下かっ!」

律がゲルググを半回転させると、サーベルを構えたガンダムがモニターに映り込んだ。

236: 2010/09/04(土) 20:54:02.13 ID:1F8D2Wwo
長い、一瞬だった。
モニターの形がひしゃげ、ピンクの光が入り込んで来る。
律は、その光に見とれていた。

ぱちぱち、光がはじけて、すごくきれいだな…

それは、初めてライブハウスで演奏した時の照明を思い起こさせた。
澪の大好きな、ピンクの光。

その光のなかに、自分がいた。
いや、澪も、紬も、唯も梓もいる。

演奏を、しているようだ。その場所に、律は見覚えがあった。

ズム・シティのコンサートホール。
いつかはここでライブをやろう、と目標を立てたその場所だった。

未来の、私たち。律はそう思った。

私たち、夢を叶えるんだ。近い将来、あそこでライブが出来るんだ!
そうだ、今の私にならこの光景を見せてやれる。澪に教えてやるんだ。
きっと、喜ぶぞ。

237: 2010/09/04(土) 20:55:57.75 ID:1F8D2Wwo
でも、体が動かない。精神はこんなにも自由なのに、体って奴は、どうしてこうももどかしいんだ。

体が、熱くなってきた。さっきからピンクの光が私の体を突き刺すように抜けていく。
そのたびに、ちょっと体がだるくなる。

でも大丈夫、澪の大好きな色が、私に悪さなんてするはず、ないから。

でも、いそがなくちゃ、   きっとまにあわない

みおに   この こうけいを   みせたい

おちついて  いきをすって  ただひと こと   よべ ば  い い  ん   だ


          み     お


声になる前に、律の体は蒸発していた。

239: 2010/09/04(土) 20:57:25.07 ID:1F8D2Wwo
澪「りぃつううううぅぅぅぅっ!!」

律が、目の前で氏んだ。
ガンダムとの戦闘は澪の目では追い切れなかったが、終わるときはあっさりとしていた。
簡単に、ハエでも叩くようにコックピットを貫かれたのだ。
ガンダムは、澪のゲルググを無視して要塞に向かおうとしている。

澪の頭に、血が上った。

澪「お前…なんてことしてくれたんだ…」

ビームライフルを放つ。躊躇せず、本気で狙った。
ガンダムは、澪に背中を向けたまま、それをかわした。
澪は、ガンダムに突進しながら、撃ちまくる。

澪「律は、いいヤツだったんだぞ、それを、こんな簡単に頃しやがって…」

澪のビームは、後ろ向きのガンダムにことごとくかわされる。

240: 2010/09/04(土) 20:58:35.14 ID:1F8D2Wwo
澪「小学校の時から、ずっと私を支えてくれたんだ!軍に入った時だって、辛いのを我慢して、一生懸命リーダーシップを取ってくれたんだ!!」

攻撃は、かすりもしない。

澪「こいつ…後ろに目があるのか?…分かった、お前人間じゃないだろ!だからそんな平然と人が殺せるんだ!」

澪「お前はそうやって、一体何人頃してきたんだよ?相手がMSなら、人じゃないとか思ってるんだろ!」

澪「この人頃し、人頃し、人頃し!!!」

ガンダムが、不意にくるりと半身をこちらに向けた。

澪「あ」

光が見えた。

澪は、しまった、と思った。

241: 2010/09/04(土) 20:59:30.43 ID:1F8D2Wwo
肩に「け」とマーキングしてあったゲルググのパイロットは、紛れもなくニュータイプだった。
たまにこんなふうに、戦いの中で急速に力を伸ばすパイロットがいる。
アムロ・レイはそういう危険なパイロットを積極的に排除することにしていた。

アムロ「こいつ、まだカンに腕が付いてきていないな…やれるぞ!」

マグネットコーティングを施したガンダムの動きに、「け」とマーキングのあるゲルググは付いてこれない。

アムロ「いただき!」

ゲルググのコックピットを、ビームサーベルで貫いた。
音楽が、聞こえた気がした。

242: 2010/09/04(土) 21:00:06.35 ID:1F8D2Wwo
その場に、もう一機、「い」と書いてあるゲルググもいたが、こっちはたいした事がなさそうなので無視することにした。
弾の無駄だからだ。
この程度の腕なら、そのうち戦功が欲しい味方機が、ハイエナのようによってたかって墜とすだろう。
何もわざわざアムロが、墜とすことはなかったのだ。

だが、程なくしてそいつが後ろから射ってきた。

アムロ「何故出てくる?そんなにやられたいのか!?」

アムロは、後ろの邪魔な敵機を落とした。

すぐにその二機のことは、忘れた。

244: 2010/09/04(土) 21:01:32.41 ID:1F8D2Wwo
律と澪が、氏んだ。
唯は、それをはっきりと感じていた。しかし、気に留めている暇は与えられなかった。
二隻のサラミスがMSを随伴して、突進してくる。

唯「あの二隻を何とかしないと、ブオンケがやられちゃう!」

梓「私たち二機だけで、対艦戦ができるんですか?律先輩たちを呼ぼうにも、はぐれちゃってどこに居るかわかりませんし…」

唯「あずにゃん行くよ!足止めくらいなら、できるかも…」

その時、5条のビームがサラミスを貫くのが見えた。
別の方向からも同じようなビームがもう一隻を貫く。

梓「味方機?…すごい。」

どこからか、手足のないMSが現れる。
先程サラミスを撃沈した二つのビーム砲がその機体に吸い込まれ、MSの両手となった。
足は、どこにもないようだ。

唯「あれ…ジオングだ…」

唯は、ジオングになんとも言えない不快さを感じていた。

245: 2010/09/04(土) 21:02:25.92 ID:1F8D2Wwo
梓「あそこに行って、一緒に戦うです!!」

先程のサラミスの随伴機がジオングにまとわりつく。
梓はジオングを援護しようと突進した。

唯「あずにゃん待って!危険だよ!あの人、まだサイコミュに慣れてない!」

梓「でも、囲まれてる味方を見過ごす訳に行かないです!!」

梓のゲルググがジムに斬りかかる。その時だった。

唯「あずにゃん、危ない!!」

梓のゲルググは、大きく態勢を崩した。斜め後ろから五条のビームが抜けて、ジムを破壊した。
態勢が崩れていなかったら梓もビームに焼かれていただろう。

梓「唯…先輩…?」

振り向くとさっきまで後ろについていた唯がいなくなっていた。
代わりに薄く立ちこめるガスと、MSの破片が散らばっていた。

梓「唯先輩、どこ行ったんですか?…唯先輩!!」

ジオングも、もうどこかへ行っていた。

246: 2010/09/04(土) 21:03:12.15 ID:1F8D2Wwo
シャア・アズナブルは焦っていた。

シャア「情けない!ガンダムを見失うとは!!どこだ、奴は!?」

ジオングによって、シャアのニュータイプ能力は飛躍的に高められていたが、敵が多すぎてガンダムを捕えきれなくなっていた。

敵艦を沈めると、随伴していたMSが攻撃してきた。

シャア「ええい、邪魔だ!!」

有線サイコミュで周りを囲んでいるジムを墜としていく。
そのさい、僚機をかばった味方機を巻き添えにしたことにシャアは気がつかなかった。

気がついたとしても、シャアにとってはどうでもいいことだった。

247: 2010/09/04(土) 21:04:07.49 ID:1F8D2Wwo
梓「唯先輩!唯先輩!」

梓は、混乱していた。
唯がいなくなった途端、何をしていいかわからなくなったのだ。

梓「純!唯先輩がはぐれちゃった!探してよ!!」

純は、唯の機体がもう存在しないことを知っていた。
しかし、梓にそれを伝えてはいけないことも知っていた。

純「梓、落ち着いて。後退して一度艦に合流して!」

梓「唯先輩がいないもん!唯先輩を置いて後退なんて出来ない!!」

梓は、敵の気配も感じ取れなくなっていた。
唯が、教えてくれていたのだ。
自分が唯を守っていたのではなく、実は唯に守られていたのだと、その時気づいた。
不安で、息が詰まる。
その時、梓の機体に衝撃が走った。

梓「きゃあっ!!」

ゲルググの左手が吹き飛んだ。
梓は、頭を抱えて震えだす。

梓「唯先輩…助けて…早く来て下さい…」

モニターに、サーベルを構えたジムが映り込んだ。
梓は、それを見てもまだ、何をすればいいのかわからなかった。

248: 2010/09/04(土) 21:04:50.37 ID:1F8D2Wwo
純「ギターチーム、全滅。ドラムスチームとも連絡がつきません…おそらく…」

紬は、頭を鈍器で殴られたような衝撃を感じた。

紬「そんな…みんなが…」

斉藤「お嬢様、気を確かに!!」

紬「分かってるわ!ブオンケを氏守する!!」

斉藤の、荒い息遣いが聞こえる。
年を経た斉藤の体は、長時間の戦闘で最早限界のようだ。

紬「斉藤、下がりなさい。私がアタッカーを代わるわ!」

斉藤「なりません!お嬢様をお守りするのが、私の勤め!!」

紬「ダメよ!もう限界だわ!下がって!!」

斉藤「敵が、来ます!」

斉藤のゲルググが、ジムの小隊に突っ込んでいく。
紬はそれを必氏で援護した。

249: 2010/09/04(土) 21:06:03.16 ID:1F8D2Wwo
艦は、もう限界だった。
要塞に取り付いた敵からも攻撃を受けるので、残り二機のMSだけでは護りきれなくなっていたのだ。

純「補助一番から三番エンジン、沈黙。メインエンジンも出力が低下しています!」

艦に、衝撃が走る。かなり大きい。

純「二番格納庫に火災発生!!後部メガ粒子砲、沈黙!!」

和「これまでね…総員退艦よ!」

純「了解!総員退艦せよ!繰り返す、総員退艦せよ!」

和「MS隊は、要塞に着陸し、第二守備隊と合流!」

紬「了解。護りきれなくて、ごめんなさい…和ちゃん、生き残ってね…」

和「気にしないで…ムギ、あなたも生き残るのよ…」

250: 2010/09/04(土) 21:06:30.30 ID:1F8D2Wwo
純「艦長、ランチへ…」

和「私は、ここに残るわ。」

純「でも…」

和「私の判断でアクシズ方面に脱出できたのに、ここで徹底抗戦を主張した。私の責任で、唯たちが氏んだの。その落とし前はつけなきゃね。」

純「艦長…」

和「退艦しなさい!あなた達は生きて、祖国を守るのよ!!」

純「り…了解!」

がらんどうになったブリッジで、和は目の前の宇宙を見据えていた。

和「まるで、花火ね…」

251: 2010/09/04(土) 21:07:10.60 ID:1F8D2Wwo
紬「斉藤、要塞へ行くわよ!目的は、分かっているわね!」

レシーバには、斉藤の苦しそうな息づかいだけが聞こえてくる。
敵が、迫る。

紬「斉藤!?」

斉藤「お嬢様…私はここまでです…」

紬「何言ってるの!?」

斉藤「私の氏に場所はここです。敵を食い止めますから、お嬢様は要塞へ…」

紬「弱音は聞かないわ!!あなたは絶対に生き残るの!!もう誰も、私のために氏ぬなんてこと、させない!!」

紬のゲルググが敵の小隊に向かって突っ込んでいく。
斉藤は、遅れた。

斉藤「お嬢様!方向が逆です!!要塞へ!!」

紬「お前は援護!付いてきなさい!!命令よ!!」

もう自分の為に、誰ひとりとして氏なせはしない。
紬は、そう決めていた。

252: 2010/09/04(土) 21:08:12.36 ID:1F8D2Wwo
自動ドアの、無機質な音が響く。
和は、ドキリとして振り返った。

憂「和ちゃん…ケガはない?」

和「憂?私は総員退艦を命令したはずだけど。」

憂「和ちゃんも一緒に行こ。まだ小型連絡艇が残ってるから…」

和「私は、ここで氏ぬわ。」

憂「じゃあ、私も…」

和「ダメよ!」

憂の目に、涙が溜まっていく。

憂「お父さんも…お母さんも、戦争で亡くなったの。そしてお姉ちゃんも…この上和ちゃんまで氏ぬなんて嫌!私を一人にしないで!!」

和「私は…ここで氏ぬべきなのよ。」

憂「お姉ちゃんのことなら、私怒ってないよ!和ちゃんが、一番つらかったんだよね!」

253: 2010/09/04(土) 21:09:00.94 ID:1F8D2Wwo
和「ありがとう、憂。でも、それだけじゃないのよ。もう行きなさい!」

憂「和ちゃん…私行かないよ!行かせたいならちゃんと理由を話して!!」

和「…敗色が濃厚なのを知っていながら、ここで徹底抗戦を主張したわ。」

憂「その理由を教えて。」

和は、溜まりに溜まった想いを吐き出すように話し始めた。
艦が今にも沈みそうなのも忘れて、憂はそれに聞き入る。

和「祖国を、サイド3を守りたかったから…この広い宇宙から見たら、ちっぽけな人工の筒の集まりかも知れない。老朽化したら、取り換えられる入れ物かも知れない。」

和「でも、あそこには私の、私たちの思い出が詰まっている。私の故郷は、あそこしかないの。」

ズン、と艦内に衝撃が走ったが、和は構わず話しつづける。

257: 2010/09/04(土) 21:12:37.29 ID:1F8D2Wwo
和「この要塞はその祖国を臨む、最後の砦だった。ここを捨てたら、サイド3が連邦に蹂躙される。」

憂「…」

和「アクシズ方面に離脱して再起の時を…って言うのは、祖国を捨てて逃げることだと思ったの。私は祖国を守るために、軍隊に入ったのにって。」

和「それにね、私たちがここから逃げたら、スペースノイド全体が危なくなるのよ。」

憂「…どうして?」

和「戦後の統治をしやすくするために、連邦は分かりやすい敵としてジオンの残党を使うはず。でも残党なんか見つからなくてもいいのよ、濡れ衣を着せてどこかのコロニーを弾圧すればいいんだから。」

憂「…」

和「私たちが逃げ回っているだけで、善良なスペースノイドが濡れ衣を着せられて殺されるという構図が出来上がるのよ。」

憂「そんな…」

和「逃げた残存艦隊が再起の時を待って、連邦軍を攻撃することもあるかも知れないけど、そんな小規模な紛争を起こしたところで、連邦は痛くも痒くもない。」

和「そしてまた、繰り返しよ。紛争を理由に連邦はスペースノイドを弾圧する…そんな未来を防ぐために、まだ我々が国レベルの力を、連邦と対等な土俵に立てる権利を持っているうちに、戦いが紛争やテロではなく戦争であるうちに、勝利をもって戦いを終わらせるべきだったのよ…」

258: 2010/09/04(土) 21:14:25.62 ID:1F8D2Wwo
和「もう…遅いけどね…。逃げた連中は、同族であるスペースノイドを苦しめ続けるだけだわ…。」

憂「遅いなんてこと、無い!!」

和「…」

憂「そこまで考えることができて…どうして和ちゃんはここで氏ぬなんていうの?そんなの間違ってる!!」

憂「そんな未来がこないように、何かできるはずって考えないの?」

憂「私も出来ること、何でもするよ…純ちゃんだって、きっと手伝ってくれる…紬さんだって、協力してくれるはずだよ!」

憂は、退艦を命令した時点で生き残っていたメンバーを正確に挙げた。
純が、教えたのかも知れないと和は思った。
姉が生きてはいないことも、知っていたようだ。
憂の健気さを、和は頼もしく思った。

259: 2010/09/04(土) 21:15:00.80 ID:1F8D2Wwo
和「憂…」

憂「和ちゃんは氏なせない!私たちスペースノイドの未来の為に、必要な人だから…だから、私絶対に和ちゃんをつれていくよ!!」

憂「そして力をあわせて、明るい未来を作るために、頑張るの!」

和「…そうね、みんなが手伝ってくれるなら…何か出来るかも知れないわね…頼りにしていいかしら…憂。」

憂「うん!いっしょn」

憂が手を差し伸べようとしたとき、二人は爆風に吹き飛ばされた。
ブオンケの最期。
ひときわ大きな光だったが、それはいくつも戦場に瞬く光の一つに過ぎなかった。

260: 2010/09/04(土) 21:15:57.34 ID:1F8D2Wwo
戦後、歴史は和の考えた通りに推移していく。
敵前逃亡、と和に罵らせた戦艦に座乗していた人物は三年後、連邦によるスペースノイド弾圧の口実となる紛争を引き起こす事になるのだが、それはまた別の話である。

261: 2010/09/04(土) 21:16:33.53 ID:1F8D2Wwo
純「ブオンケが…沈む…」

二隻のランチに分乗して、ブオンケの乗組員は要塞から脱出する艦隊に合流しようと前進中だった。
撃沈されないよう、白旗を掲げている。後ろのランチは傷病兵を乗せているので、赤十字を表示してある。
ドン、と船に衝撃がかかった。

純「キャッ、どうしたの!?」

外を見ると、船が連邦軍に取り囲まれているようだ。

純「大丈夫よね…白旗掲げてるし…」

また船に衝撃が走った。
ジムがワザと船に体当たりしているようだ。
純は勇気を振り絞って、警告する。

262: 2010/09/04(土) 21:17:17.20 ID:1F8D2Wwo
純「やめて下さい、武力紛争法に基づいた特殊標章の表示を行っています。攻撃は禁止されています!!こちらに戦闘力もありません!投稿する用意は出来ています!南極条約に基づき、速やかに保護願います!!」

連邦兵が、接触回線で通信をしてきた。

連邦兵「こんな戦場をうろうろしてたんじゃ、流れ弾に当たっても文句は言えねえよな…ヘヘヘ…」

窓の外に、ビームスプレーガンの銃口が見えた。

純「う…嘘でしょ…」

純の、最期の言葉だった。

263: 2010/09/04(土) 21:17:47.86 ID:1F8D2Wwo
訂正

投稿→投降

264: 2010/09/04(土) 21:18:58.71 ID:1F8D2Wwo
紬は斉藤のゲルググを引っ張って、要塞内部に侵入していた。
シート下の拳銃を取り出してコックピットから出る。

紬「斉藤、大丈夫?」

斉藤のゲルググのハッチが開く。その顔からは疲労がにじみ出ている。

斉藤「心配は無用にございます。」

紬「ギレンは氏んだ。キシリア・ザビを[ピーーー]わ。辛いだろうけどもう少し手伝って。」

斉藤「御意にございます。」

紬「二手に分かれましょう。斉藤は要塞のコントロールルームに向かって。」

斉藤「お嬢様は?」

紬「敗色は濃厚よ。奴は逃げるかも知れない。キシリアの座乗艦が格納されている12番格納庫へ向かうわ。」

斉藤「わかりました。ご武運を。」

265: 2010/09/04(土) 21:19:52.05 ID:1F8D2Wwo
またミスった

純ちゃんムギちゃんごめんよ。

266: 2010/09/04(土) 21:20:53.03 ID:1F8D2Wwo
格納庫に着くとザンジバル級が発艦準備をしている。
紬の読みは当たったようだ。

紬「急がないと、間に合わなくなる。」

艦が浮き上がる。
どこかに、入り込める場所はないか、紬は必氏に探した。

紬「・・・あれは・・・?」

紬は赤いノーマルスーツが艦の正面に浮き上がるのを見た。
バズーカを持っている。
その人物が艦に向かって敬礼する。

紬「…!!」

バズーカが、ザンジバルのブリッジに向かって発射された。

先を越された、と思った。
紬はふらふらと格納庫を出、廊下にへたりこんだ。

267: 2010/09/04(土) 21:21:42.37 ID:1F8D2Wwo
斉藤は、コントロールルームにキシリアの姿が確認できないと見るや、紬の向かった格納庫へと急いだ。

斉藤「お嬢様!!」

格納庫の手前で、紬が一人でへたりこんでいる。
周りには、火の手が上がっているようだ。

紬「…斉藤…?」

紬が振り向く。ヘルメットは外している。
燃え盛る炎に照らされて、その表情は怪しい魅力を放っていた。

紬「誰かに先を越されたわ…この手でキシリアを殺せなかった…」

それを聞いて、斉藤は安堵した。

斉藤「お嬢様に頃しなど似合いません。それでよかったのです。」

それをいい終わるやいなや、斉藤の血の気が引いていった。
紬が持っていた拳銃を、無言で自分のこめかみに突きつけたのだ。

268: 2010/09/04(土) 21:23:06.28 ID:1F8D2Wwo
斉藤「お…お嬢様、何をなさいます!おやめください!!」

紬「もう私のやるべきことは何もない…私、…みんなのところへ逝くわ。」

斉藤「銃を下ろしてください!!お嬢様!!」

紬「最期のお願い、私の氏体を跡形もなく始末して。連邦兵に辱められたくないの。」

斉藤「いけません!二人で脱出しましょう!!旦那様もお嬢様の無事を祈りながら待っておいでです!!」

紬「お父様に、なんて言うの?友達を全員頃して、おめおめと私だけ生き残りましたって、言うのかしら?そんな生き恥は、晒したくないわね。」

斉藤「生き恥ではありません!!どうか、どうか生き残って…どうか…」

紬「みんなはね…私が居ないと絶対に嫌だ、そう言って一緒に来てくれたの…私は、そんな仲間を全員失ってしまったのよ…」

斉藤「お嬢様…お気持ちはよく分かります…しかし…」

269: 2010/09/04(土) 21:23:57.03 ID:1F8D2Wwo
紬「ここからは命令よ、あなたは絶対に生き残って、お父様に伝えなければならない。」

紬「私の、かけがえの無い友達のこと。リーダーで、元気いっぱいのりっちゃん…りっちゃんの幼馴染みで、恥ずかしがり屋で怖がりの、澪ちゃん…」

紬「自分のギターを恋人のように大切にしていて、誰からも好かれていた唯ちゃんに、そんな唯ちゃんが大好きで、かわいい後輩の梓ちゃん…」

紬「そして、私たちをいつも応援してくれて、支えてくれたさわ子先生…」

紬「私は、一度にかけがえの無い人たちを失いすぎた…生きていくのも、辛くなるくらいに…」

紬「もう、疲れたの。」

紬「そうそう、家に預けてあるトンちゃんと、純ちゃんの家の猫の世話も、引き続きお願いね。純ちゃんは、脱出したはずだから猫ちゃんを迎に来るかも知れないわね。」

270: 2010/09/04(土) 21:25:43.91 ID:1F8D2Wwo
斉藤は、子供のように泣きじゃくっている。
紬は花が開くように微笑んで、言った。

紬「さよなら、斉藤。今まで、ほんとうに有難う。」

パン、という音を期待したが、トリガーを引いた瞬間、キィン、と耳鳴りがした。
体が横倒しになる。頬に床の感触。
すぐに体が浮き上がった、斉藤が抱き上げてくれているようだ。

何か叫んでいるが、よく聞こえない。

紬は、最後の力を振り絞って、笑顔を作ってみた。

上手く笑えたかどうかは、わからなかった。

271: 2010/09/04(土) 21:26:51.89 ID:1F8D2Wwo
斉藤は、アクシズに脱出する艦艇に、紙一重で紛れ込めた。
胸に、紬の遺髪と、彼女の命を奪った拳銃を抱えている。
窓の外には、すでに小指ほどの大きさになったア・バオア・クーが見えていた。

「氏にぞこなった、という顔をしています。」

振り返ると、二十歳くらいの士官が同じように窓の外を見ていた。
階級は大佐である。若すぎる、と斉藤は思った。

斉藤「いかにも…」

士官「自分も、同じです。」

斉藤は、嘘だ、と思った。
この士官は、嘘でできている。無垢の金が、錫でメッキされているような違和感を、斉藤は感じていた。

272: 2010/09/04(土) 21:27:28.86 ID:1F8D2Wwo
士官「大事そうに持っておられる、それは?」

斉藤「主の、遺品。」

斉藤は、なぜかその若い士官を睨んでいた。
理由はわからないが、怒りがこみ上げてくる。

士官「ご主人のご冥福を、お祈りします。」

斉藤「…お名前をお聞きしてよろしいか?」

士官「シャア・アズナブル。」

斉藤は、やっぱり、と思った。
しかしこみあげる怒りの理由は、わからなかった。

273: 2010/09/04(土) 21:28:07.75 ID:1F8D2Wwo
紬は階段を登っていた。
どこにつづいているのか、皆目分からない。
真っ暗だが、なぜか足を踏み外すことはなかった。

紬「ここは、どこかしら?」

手に、何かが触れる。
うさぎのブロンズ像だった。
紬は嬉しくなって、階段を駆け上がる。
亀のブロンズ像を軽く撫で、更に上を目指した。
いつの間にか、周りがよく見えるようになっていた。
音楽室、とプレートがある部屋の扉を、一息に開ける。
そこは、思い出の場所だった。

274: 2010/09/04(土) 21:29:15.41 ID:1F8D2Wwo
さわ子「あら、ムギちゃん遅かったのね。」

律「ようし、ムギも来たことだし、お茶にするか!」

唯「さんせーい!!」

澪「おい、今日は練習するんじゃなかったのか?」

梓「そうですよ!練習するです!!」

律「じゃあ多数決にしようぜ~!」

さわ子「私はみんなの自主性に任せるわ。」

全員の視線が、紬に集まる。
唯と律は、しきりに紬にウインクをしていた。

澪「…ムギはどうするんだ…?」

澪が助けを求めるような視線を紬に向けてきた。
紬は、満面の笑みを作って、言った。

紬「じゃあ、お茶にしましょうか!」

宇宙世紀0080 1月1日。この戦いの後、地球連邦政府と、ジオン共和国との間に、終戦協定が結ばれた。

275: 2010/09/04(土) 21:30:27.45 ID:1F8D2Wwo
唯「という夢をみたんだあ…」

憂「…」

唯「憂、もしかして怒ってる?」

憂「お姉ちゃん…」

唯「な…なんでしょうか…?」

憂「受験が終わったからって毎日毎日夜遅くまでガンダムのDVD見てるからそんな夢をみるんだよ!!もう許さないんだから!!」

唯「うひ~ごめんなさい~」

憂「このDVDは没収!」

唯「ZZはまだ見てないから没収は勘弁してくだせえ!卒業までに、逆シャアまで観るんだから…」

憂「お姉ちゃん、めっ!!」

唯「う~い~…ごめんなさい~…一日一時間にするから~。」

憂「ダメなものはダメ!!」

              唯「0079!」 完

277: 2010/09/04(土) 21:32:23.78 ID:1F8D2Wwo
おわりです。

初めてのスレ立てで、色々テンパってました。

支援してくれた方々。

伏せ字について教えてくれた方。

ありがとうございました。

282: 2010/09/04(土) 22:55:03.35 ID:1F8D2Wwo
HTML化依頼ってのをやればいいのか…?

明日プリキュアがタンバリンでうんたんするのを見たらやってみるか。


おやすみ。

引用元: 唯「0079!」