1: ◆FuUQqzSiU5uN 2015/07/28(火) 23:37:53.06 ID:g5iHj0Lt0.net






男(…冷たい)


まず俺の頭によぎったのが、この感覚だった

4: 2015/07/28(火) 23:39:03.61 ID:g5iHj0Lt0.net
男「冷てぇな…」

男「雪、か…」

その時初めて俺は地面に突っ伏している事に気が付いた

男「通りで冷たい訳だ、飲みすぎたかな?」

頭がガンガンする
時計の針はちょうど深夜の1時を指していた
ふらいんぐうぃっち(12) (週刊少年マガジンコミックス)

6: 2015/07/28(火) 23:40:15.21 ID:g5iHj0Lt0.net
男「危なく凍氏する所だ」
頭痛は未だ続いている

意識がはっきりしてきた俺がタクシーを拾って帰ろうとした
その時、俺と同じように(実際に自分の倒れていた姿は見ていないが)
雪道に倒れこんでいる女性がいた

しかも、この女性は全く起きる気配が無い
このままではこの女性こそ、明日の朝には凍氏してしまうだろう

俺は女性の肩を揺すって、声をかけた

男「おいあんた、こんな所で寝てると冷凍マグロになっちまうぜ」

7: 2015/07/28(火) 23:41:44.17 ID:g5iHj0Lt0.net


男「おい、あn…?…!?」

その瞬間に俺はあり得ないことに気付く

記憶が無いのだ
自分の名前や住所、仕事も何もかも

男「いやいや、そんな事がある訳無いだろ…w」

そんな独り言を口走ってみても、現実に記憶が無いのは確かだ
俺はどんどんパニックに陥っていった

9: 2015/07/28(火) 23:42:59.32 ID:g5iHj0Lt0.net
男「落ち着け、落ち着け…!」

なんとか気を落ち着けようとするが、不可能だった
記憶が無いというのは恐怖その物なのだ

その時だった

女「う…ん…、寒いー」

女性が目を覚ました

そうか!この女性なら俺の事を何か知っているかも知れない!
俺は藁にもすがる思いで、この女性を問いただした

男「なぁ、あんた! 俺の事を知ってるか!?」

女「へ? 知ってるか?って??」

男「いきなりすまん、どうやら俺は記憶を無くしてしまったようなんだ
  で、俺の近くで行き倒れていたあんたなら何か知ってると思ったんだがな」

女「えぇ!? 記憶が無いって、大丈夫なの?
 力になってあげたいけど、私はあなたの事を知らないよ」

男「そうか、そりゃそうだよな
  悪かったな」

女「ごめんね、……あれ…??」

男「? どうした?」

女「あははー、私も自分の事思い出せないやーwww」


そんな馬鹿な話があってたまるか

10: 2015/07/28(火) 23:45:16.45 ID:g5iHj0Lt0.net
男「あんたも記憶が無いってのか?
 冗談も大概にしてくれよw」

女「いや、まさかとは思うけど、本当なんだよねwww」



本当なのか?


本当だとして、なぜこの女はこんなに明るいのだ?
取り乱している俺がアホのようだ

男「とりあえず、この状況を何とかしないと」

男「自分の素性の手がかりになる物を探してみよう」

女{うん!」

そう言って、俺たちはそれぞれの所持品を確認してみた

女「ダメ、私は何も無いや…
  免許も持ってないのかな…?w」

男「まぁ、そういう女もいるだろうよ」

ガサゴソ
俺は手持ちのバッグを漁りながら、そう答えた

男「!」

俺は財布の中から免許証を見つけた

11: 2015/07/28(火) 23:46:11.63 ID:g5iHj0Lt0.net
男「免許証だ、これは俺の顔だよな?w」

女「んだねw」

男「住所はここから二駅か、近いな
  良かった、とりあえず自分の家はわかった」

女「良かったねw」

男「あんた…」

女「えっ?」

男「あんたはどうするんだよ? 素性がわかるような物無かったんだろ?」

女「あー… うん、まぁねw」

男「良ければだけど、俺ん家来るか? どんな家かもわからないけどさw」

12: 2015/07/28(火) 23:47:16.02 ID:g5iHj0Lt0.net
女「えっ!? でも…」

男「あー、わかってるって!
 得体の知れない記憶喪失男の家になんて行けるかってんだろ?
 そりゃ、そうだよなwww」

男「でも、二人の人間が同時のタイミングで記憶喪失なんて
  あり得ねーだろ?
 それだけでも、俺からしてみれば異常な親近感が沸いてくるんだよw」

言ってる事は無茶苦茶かも知れないが、素直な気持ちだった

女「確かにね…
  じゃあ、お邪魔しよっかな?
 変な事しないでよwww」

男「しねーよ! 俺は紳士だぜwww」

女「記憶無いくせにwww」

男「言うなwww」


こうして、俺は女と二人で見知らぬ俺の家に行く事になった

13: 2015/07/28(火) 23:48:11.00 ID:g5iHj0Lt0.net
俺たちはタクシーに乗り込み
俺は自分の免許証に書いてある住所を運転手に告げた

運「はい、かしこまりましたー」

運転手は何も気にする様子を見せずに車を発進させた
まさか、乗車した男女二人が記憶喪失だなんて、夢にも思わないだろう

運「この辺りでよろしいですか?」

と、言われても俺にはわからない
運転手が言うからにはこの辺なのだろう

男「はい」

と答え、精算をする

運「ありがとうございましたぁー」ブロロォ

タクシーは走り去って行った

14: 2015/07/28(火) 23:49:07.39 ID:g5iHj0Lt0.net
『わかば荘』

予想以上に古ぼけたアパートの玄関にはそう書かれていた
そして、俺の免許証の住所にも…

女「ボロイねーw」

男「失礼だろ! まぁ、ボロイなww」

だが俺はこのボロイアパートで日々、生活してきたのだろう

男「さ、入るぞ」

俺は全身を捜索し、ようやくバッグの中から家の鍵を探し当てた

ガチャッ
開き慣れているはずの見知らぬドアが開いた

16: 2015/07/28(火) 23:50:21.54 ID:g5iHj0Lt0.net
開いたドアの向こう側もやはり見知らぬ部屋だった
俺は本当にこの部屋に住んでいるのだろうか?

男「はぁ…」

思わずため息が出る

女「で、でもさ、とりあえず家が見つかって良かったじゃん
  これでとりあえず凍氏は免れるよw」

男「そうだな…w
 そうだ、なんか飲むか?」

女「あ、私やるよ!
  コーヒーでいい?」

男「あ? あぁ…」

男(こんな夜中にコーヒーか… にしても元気だな)

17: 2015/07/28(火) 23:51:40.92 ID:g5iHj0Lt0.net
男「さて、と…」

俺たちは二人でコーヒーを飲みながら、ようやく落ち着いて
話をする事ができた

男「で、俺たちは何者なんだ?」

女「さぁねぇ~」

男「あんたは未だに何も思い出せないのか?」

女「うん…
  あのさ、その『あんた』って言うのやめてほしいなw」

男「そうか?
 でも名前知らないしな
  じゃあ、なんか決めてくれよ」

女「そうだねぇ、じゃあとりあえず『女』でいいよwww」

男「今、絶対テキトーに決めただろwww」

女「バレた?www」

18: 2015/07/28(火) 23:52:43.71 ID:g5iHj0Lt0.net
女「でさぁ…」

男「ん?」

女「あなたのお名前は何て言うの?」

男「あー、免許証の名前見てなかったわw」

男「えーっと、『男』だってよ、実感ねぇ~w」

女「そっか、『男』かw」

女「よろしくねっ、男w」

男「はいはい、こちらこそw」

記憶を無くしているというのに、常にポジティブな彼女は
俺の不安な心に安らぎをくれた

19: 2015/07/28(火) 23:53:39.54 ID:g5iHj0Lt0.net
女「そういえばさ…」

男「ん?」

女「男はケータイとか持ってないの?」


盲点だった
ケータイを見れば、少なくとも近しい人はわかるではないか

男「全然気付かなかった
  さがしてみるわw」

男「そういや、女のケータイは?」

一番怪しいバッグの中を漁りながら、俺は訊ねた

女「あ、あぁ… 私は無くしちゃったのかなぁ?
  手元には無いみたいなんだよね」

男「そっか、残念だな…」

20: 2015/07/28(火) 23:54:17.57 ID:g5iHj0Lt0.net
やはりバッグの中から俺のケータイは見つかった
着信・発信履歴とメールの履歴は全て『彼女』で埋め尽くされていた

リダイヤルをしてみたが、電源が切られているようだった

『記憶が無くなった 助けてくれ!』と、メールもしてみたが、
こんなの信じるヤツはいないだろう

21: 2015/07/28(火) 23:54:58.32 ID:g5iHj0Lt0.net
男「『彼女』か…」

女「そっか、男には彼女がいるんだね
  良かったね、探してくれそうじゃん」

男「どうだかな… 電源も入ってないみたいだし
  それに……」

俺は言いかけて、噤んだ

日付の新しいメールの内容は別れが間近のカップルのそれとしか
思えなかったからだ

22: 2015/07/28(火) 23:56:06.03 ID:g5iHj0Lt0.net
女「…どうしたの?」

男「いや…」

例え記憶が無かろうと、自分が一度は愛したであろう彼女との
別れが迫っている事がショックだった
それをごまかそうと、俺はまたバッグの中を漁った
すると、

女「何それ?」

男「ん?」

出てきたのは綺麗にラッピングされた小さな箱だった

男「プレゼントか? 彼女の誕生日かな?」

女「えっ…?」

男「なんだよ? 普通に考えたらそうなるだろ?」

女「あ…、うん、そうだねw
 男優しいんだねーwww」

その時の女の言葉が本心ではないであろう事を俺は感じていた

23: 2015/07/28(火) 23:56:45.89 ID:g5iHj0Lt0.net
女「ねっ、開けてみよっか?」

男「ばーか、そんな事できるかよ
  これを用意した『俺』は今の俺にとっちゃ、他人みたいなモンだがな
  大切な人の為に用意した物を軽はずみに開けられねぇよ」

女「そうだね…」シュン…

男(拗ねるなよ…)

男「あ、そう言えば!」

俺はもう一度ケータイを開いてみた

24: 2015/07/28(火) 23:57:36.14 ID:g5iHj0Lt0.net
彼女『じゃあ、今晩20時に○○でね』

最後のメールにはそう書かれていた
日付は今日(もう日付は変わってしまったが)
おそらく俺は今日彼女と会って、プレゼントを渡すつもりだったのだろう
だがそれは叶わなかった
それが記憶喪失のせいなのか、それ以外の理由なのか俺にはわからない

男「明日の夜にでもこの店に行ってみようかな」

明日からは都合良く連休だ
おそらく仕事も休みだろう
その間になんとしても記憶を取り戻さねば

25: 2015/07/28(火) 23:58:23.34 ID:g5iHj0Lt0.net
女「行ってらっしゃ~い」

男「あれ?女は行かないのか?」

女「あ、うん、私は私で別な所を当たってみるよw」

男「そっか、気をつけてな!」

女「ありがとw」

男「あ、それじゃあさ…」

俺はテーブルに置いてあった鍵を女に渡した

女「これは?」

男「この部屋の合鍵だろ?たぶん
  俺の持ってる鍵と同じ形だし
  宿無しじゃあ困るだろ? 何も見つからなかったら
  この部屋使えよ」

26: 2015/07/28(火) 23:58:55.52 ID:g5iHj0Lt0.net
女「優しいんだね男
  でも彼女さんに知れたらマズイんじゃないかな?w」

男「あー、そう言えばw
  まぁ、しょうがないんじゃないか?
  こんな状況なんだし」

27: 2015/07/28(火) 23:59:34.45 ID:g5iHj0Lt0.net
女「そうかなぁ? でも借りとくね
  ありがとう!」

女は笑ってそう言った

男「あ、あぁ…」

俺は不覚にもこの時の女の笑顔に心を持っていかれそうになった

男「さ、さて、明日に備えてそろそろ寝るか!」

女「うん、そうだね!」

非現実的な状況で全く眠くはなかったが、俺は無理にでも
寝ようとした

28: 2015/07/29(水) 00:00:02.27 ID:Y1Mt9WI+0.net
目が覚めたのは昼過ぎだった
なかなか寝付けなかったが、やはり疲れていたのだろう
女の姿は無かったが、書置きがあった

『お先に自分探しに行ってますw』

男(なんであいつはあんなに気楽なんだ…?)

そんな事を考えながら、俺はとりあえずコーヒーを淹れた

29: 2015/07/29(水) 00:00:31.01 ID:Y1Mt9WI+0.net
カーテンを開けると眩しいくらいの陽射しだった
俺は改めて部屋を物色してみたが、記憶復活の手がかりに
なりそうな物は無かった

男「彼女の写真くらい置いておけよな…」

そう呟いて、俺はコーヒーを飲み始めた

30: 2015/07/29(水) 00:01:16.06 ID:Y1Mt9WI+0.net
男(店は夜からかな? まだ時間があるな)

かと言って、特に他の手掛かりも無い

男(駅周辺でぶらぶらしてみるか?)

そう思い、俺はのろのろと仕度を始めた

俺(ラーメンでいいか…)

ガラガラッ
店員「ぃらっしゃい!!」

店員の威勢の良い声が響く
それにしてもこのラーメン屋もそうだが、場所によって記憶に
モヤみたいなのがかかる時がある
俺が深く関わったか否か、という事なのか?

時間のせいか、客は俺以外に一人だけだった
俺はカウンターの一番奥の席に座った

31: 2015/07/29(水) 00:02:07.00 ID:Y1Mt9WI+0.net
店員「メニューお決まりでしたら、どうぞー!」

男「正油ラーメン一つ」

店員「はい、正油一丁ありがとうございます!」

元気のいい店員さんだな…

店員「正油ラーメンお待たせしm、あれ?」

男「え?」

店員「なんだよ、男じゃねぇか!
   声くらいかけろやwww」

32: 2015/07/29(水) 00:02:32.48 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「えっと…、どなたでしたっけ??」

店員「あ、すみません人違いでした…っておい!
   ベタベタなノリツッコミさせんじゃねぇよwww」

男「いや、ごめんなさい
  ホントにわかんないんスよ
  なんか記憶を無くしたみたいで」

34: 2015/07/29(水) 00:03:53.68 ID:Y1Mt9WI+0.net

店員「却下」

男「は?」

店員「ツマラン、やり直し」

男「は? いや、だから冗談とかじゃねぇんだって!」

俺はこの店員の面倒くさい感じにどんどん腹が立ってきていた

店員「おっ、いいねぇそのキレ方!
   やっとお前らしくなってきたじゃねぇのw」

男「なんだよそれ? ホントあんた誰なの?
  ラーメン屋の店員が何で俺の事知ってんの?」

店員「は? もうそれはいいって
   今日は随分粘るなw」

男「…」

店員「え? え…? マジなの…??」

35: 2015/07/29(水) 00:04:25.51 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「…」

店員「なん…だと……!?」

男(めんどくせぇ…)

店員「マジかよ、そんな漫画や小説みたいな話が
   ホントにあるんだな」

男「そうみたいだな
  で、あんたは?」

店員「あんた、か他人行儀だなw
   俺は『友』、お前の親友だよwww」

男「自分で言うなよw」

友「ハハハッ、まぁしょうがねーよ、ホントの事だからな!
  ところで『彼女』はその事知ってんのか?
  いや、そもそも自分に彼女がいる事も知らねぇか?」

男「あー、彼女がいる事はケータイ見たらわかったよ
  ただ連絡が取れないんだ、電源が切れてるみたいでさ」

36: 2015/07/29(水) 00:04:56.46 ID:Y1Mt9WI+0.net
友「ほー、そうなんか」

男「あぁ…」

友「タイミングが良すぎるわな
  あ、お前ら最近あんまり良い感じじゃなかったんだっけか?」

男「そうみたいだな…」

友「俺はこうやってお前と話せてるから、そんなに気にならないけど
  お前からすると、やっぱりすごい違和感なんだろうな?
  それを解消させるには記憶を戻さないとな
  なんか手掛かりは無いのか?」

37: 2015/07/29(水) 00:05:14.85 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「ケータイには昨日のメールが残っててさ
  どうやら、昨日彼女と○○っていう店で会ったみたいで
  おそらくその前後くらいで記憶を無くしているみたいなんだ
  だから、その店に行ってみようとは思ってるんだけどさ」

友「なるほどな、その店になんか手掛かりがあると良いな!
  まぁ、ラーメン食えよ! 伸びちまうぜw」

男「あぁ… そうだな、頂くよw」

俺は友のペースに乗せられながらも、心地よい気分にさせられていた
記憶は無いにせよ、本能がそう思わせるのだろうか…?

38: 2015/07/29(水) 00:05:42.96 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「ごちそうさん、そろそろ行くよ」

友「おう、気ぃ付けてな!」

男「いくら?」

友「お前からはもらえねぇな」

男「へ?」

友「お前の記憶が戻って、本当のお前が戻って来た時に
  そいつからもらう事にするよ」

男「おっ、友さんなんかかっこいいんじゃないすか?w」

友「うっせ!マジモードだっつーのw
  ぜってー返せよ! 踏み倒したら頃すwww」

男「わかったよw 絶対に返すから待ってろよ!」

友「おう!」

そう言って俺はラーメン屋を出た
ちらついている雪が俺の頬をくすぐっていた

39: 2015/07/29(水) 00:06:12.68 ID:Y1Mt9WI+0.net
店を出ると、17時を過ぎていた
少々長話をしてしまったようだが、おかげでいい時間になった

男(あんなヤツが親友なんだったら、俺の人生悪くないかもな…)

そんな事を考えながら、電車の切符を買う
程無くして電車が到着し、俺はそれに乗り込んだ

40: 2015/07/29(水) 00:06:42.83 ID:Y1Mt9WI+0.net
二つ先の駅には10分程で到着した
この駅の周辺は軒並み飲み屋街になっている
昨日俺が行ったであろう店もその中の一軒だ

駅から更に10分程歩いた所にその店はあった

男(ここか…)

意を決して俺は店のドアを開けた

カランコロン
店員「いらっしゃいませー」

店のドアが開くと同時にお洒落なイケメン店員から
爽やかな挨拶を受ける

男「こんにちは」

店員「一名様ですか?」

男「あ、いや違うんです
  ちょっと訊きたい事がありまして」

41: 2015/07/29(水) 00:07:15.00 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「昨日、俺この店に来たと思うんですけど、覚えてますか?」

店員「? いえ、僕は昨日休みだったもので
   えーっと…、お忘れ物か何かでしょうか?」

男「いや、どうも俺記憶喪失になってしまったみたいで…
  メールを確認したら、どうも昨日この店に来てるみたいなんですよw」

店員「え? あ、あぁ… 少々お待ちください」

そう言うと、店員は店の奥に消えていった

42: 2015/07/29(水) 00:08:17.48 ID:Y1Mt9WI+0.net
男(完全に怪しまれているなw
  まぁ、しょうがないか…)

5分程待ったところで女性店員がやって来た

女店員「お待たせしました
    あ、昨日の…」

男「あ、覚えてくれていますか?
  実は俺記憶を無くしてしまったみたいで
  何か小さな事でもいいから、手掛かりを探してるんです
  たぶん、彼女とこの店に来ていたと思うんですけど
  会話とか覚えていないですかね?」

女店員「あっ…」

女性店員は一瞬戸惑った後にこう続けた

女店員「ええ、なんとなくは覚えています
    ただ…」

女店員「どうも重苦しい雰囲気でしたよ…」

43: 2015/07/29(水) 00:08:53.30 ID:Y1Mt9WI+0.net
(やっぱりそうか)

予想はしていたが、事実を知ってしまうとショックだ
顔も知らぬ彼女ではあるのだが…

男「そうですか、ありがとう」

そう言って店を出ようとした俺の背中に女性店員はこう言った

女店員「決定的な言葉があった訳じゃないので、
    まだわからないですよ
    諦めないでください!」

男「あぁ、ありがとうw」

カランコロン
そう言って俺は店を後にした

44: 2015/07/29(水) 00:10:07.52 ID:Y1Mt9WI+0.net
男(そういや、会話の内容何も聞いてねぇや)

男(まぁ、聞いた所で…か)

いつの間にか深々と降り始めていた雪の中を俺は駅に向かって
歩き始めた

「おーい、おーとーこー」

男(誰だ?)

女「おーいwww」

駅前の広場で両手を振っていたのは女だった

45: 2015/07/29(水) 00:10:44.69 ID:Y1Mt9WI+0.net
男(あいつには恥ずかしいという感情は無いのか…?)

パシッ
俺は女の頭を軽くたたいた

女「いたー、何すんのさー?w」

男「うるさい、恥ずかしいだろ!」

女「えー、私全然恥ずかしくないよーw」

男「俺が恥ずかしいわいwww」

そんな会話をしながら、俺たちは駅の構内へと入って行った

46: 2015/07/29(水) 00:11:21.43 ID:Y1Mt9WI+0.net
女「で、どうだったの?」

男「ん? あぁ、特に、だな…」

女「そっか…」

男「お前の方はどうだったんだよ?
  なんか、心当たりありそうだったじゃんか」

女「え?私? あー…、ダメダメ
  色々当たってみたんだけどね」

男「そうか、八方塞がりだな…」

女「…」

女「ねっ、これから飲みに行こっか!」

47: 2015/07/29(水) 00:11:56.92 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「はぁ?」

こいつは本当に状況を理解しているのだろうか?
余りにも楽天的なこの女に尊敬の念さえ覚えた

女「だってさ、記憶は戻らないし
  このままダラダラしてたって、心が暗くなるだけだよ
  どうせなら、パーッと飲んで発散しようよw」

男「…」

男「お前、マジですげーよ
  その発想…」

48: 2015/07/29(水) 00:12:45.40 ID:Y1Mt9WI+0.net
聞いた瞬間は行く気などゼロだったが
その直後には『面白いかも』という気持ちが芽生えていた
今まで余裕が無くて、そんな事は考えもしなかったが
彼女は俺の好みにマッチしていたのだ

女「おし、じゃあ行こう!w」

男「あぁ…」

気乗りしない様なフリをして、実はちょっとワクワクしている
という、気持ち悪い俺…

俺たちは再び駅から出た

女「どこにしようかなぁ…」

女は独り言をブツブツと呟きながら、店を探していた
この辺は見覚えがある、よく来ていたのだろう

女「ここにしよう!」

女が指差したのは、若いカップルがおよそ入りそうもない
個人経営であろう居酒屋だった

49: 2015/07/29(水) 00:13:14.40 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「お前、渋い趣味してんなぁ…」

女「えっ、そうかなー?w」

カラカラ
そう言うと同時に女は店のドアを開けた

店員
「いらっしゃいませー、二名様ですか?
 こちらへどうぞー」

俺たちは店員に案内されるがままに席に着いた

店員「お飲み物、何に致しましょうか?」

男「じゃあ、生で」

女「私もw」

店員「はい、生二丁ありがとうございます!」

そう言って、店員は厨房に消えていった

50: 2015/07/29(水) 00:14:05.36 ID:Y1Mt9WI+0.net
店員「お待たせしました、生ビールでございまーす!」

男「どーも」

女「おし、乾杯しよー!」

男「何にだよ?」

女「そんなの決まってるじゃん
  二人の出遭いにだよw かんぱーい!www」

男「そうか、乾杯w」

チンッ
俺たちはそう言ってジョッキを合わせた

51: 2015/07/29(水) 00:15:03.08 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「そういや、自分探しには失敗したんだな?w」

女「あっ…、やめてよ恥ずいじゃん///」

男「お前が書いたんだろうがwww」

女「うー…」

他愛の無い会話をしながら、俺たちは飲み続けた



見てる人いるかな?

53: 2015/07/29(水) 00:15:50.68 ID:Y1Mt9WI+0.net
女「ねー男、明日遊園地行こうよ!
  絶叫マシンに乗ったら記憶が戻るかもよwww」

男「んな訳ねーだろwww」

そこそこ飲んだ俺たちは良い具合に酔いが回っていた

女「なんでさ、わかんないじゃん!」

男「はいはい、そうだなw」

女「なにさ、ケチ…」 スースー…

そう言うと女は寝息を立て始めた

ズキン
その瞬間に俺の頭に痛みが走った

男(なんだ今のは…?)

この時の俺にはまだ何も理解出来なかった

54: 2015/07/29(水) 00:16:47.03 ID:Y1Mt9WI+0.net
>>52ありがとう!

男(まったく、こんな所で寝ちまいやがって…)

気持ち良さそうに眠る女の寝顔をずっと見ていたかったが、そうも行かない

男「おい女、そろそろ帰ろうぜ
  起きろー」

女「ほぇっ?」

女はとぼけた声を出して、目を覚ました

男「帰ろうぜw」

女「う…ん、私また寝ちゃった?
  ごめんねーw」

55: 2015/07/29(水) 00:17:18.33 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「飲みすぎたか?w」

女「かなぁ? 眠くなる人なんだろうねw」

レジで会計を済ませ、俺たちは外に出た
雪はすっかり止んでいた

女「雪、止んだんだねー」

男「みたいだな」

女「ねー男、明日遊園地行こうよ!
  絶叫マシンに乗ったら記憶が戻るかもよw」

男「それはさっきも聞いたよw」

女「あれ、そうだっけ? まぁ、いいやw
  ねー、行こーよwww」

男「そうだなぁ…」

56: 2015/07/29(水) 00:17:54.87 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「じゃあ、行くか! もうヤケクソだ!www」

女「えっ、ホントに?
  ホントにいいの!?」

男「そんなに驚くか?w お前が言い出した事だろ?
  行こうぜw」

女「やったぁー!」

男(そんなに遊園地が好きなのか…?)

57: 2015/07/29(水) 00:18:31.24 ID:Y1Mt9WI+0.net
電車で二駅を飛び越え、自宅近くの駅に着いた
この駅は大きな繁華街も無く、夜は静まりかえっていた

女「うわー、綺麗な星空!
  こりゃ、明日は快晴だねw」

満点の星空を見て、女はそう言った

男「そうだな」

58: 2015/07/29(水) 00:19:36.96 ID:Y1Mt9WI+0.net
『わかば荘』に着いた俺たちはすぐに寝る事にした
今日もなんだかんだで色々あった
何よりも酔いが回って辛い

男「ところでさぁ、女は着替えとかなくていいのか?
  俺はこの部屋にあるからいいけどさ」

女「大丈夫、下着だけは買ってきたからw」

と、言って紙袋を見せた
昼間に買っていたのだろう

男「そっか、下着だけでもあればまだマシかw」

女「うんw でも今着てるのは洗濯させてもらおっかな?
  パジャマとか貸してもらえるかな?」

男「うーん、パジャマなんて無さそうだぞ
  スウェットでいいよな?」

女「うん、いいよー
  洗濯してる間にお風呂も借りていい?」

ドキッ
男(風呂?)

男「あ、あぁ… いいよ」

女「ありがとーw」

スウェットと買ってきた下着を持って、女は風呂場へ消えた

59: 2015/07/29(水) 00:20:11.29 ID:Y1Mt9WI+0.net
ゴウン、ゴウン


ザーー


洗濯機の音が聞こえ、シャワーの音も聞こえ始めた

男(使い方よくわかるな?
  まぁ、どこも似たような物か)


数分後


女「おとこー、おっきいよこれーwww」

濡れた髪のまま、俺のスウェットを着た女が部屋に戻ってきた

男(ヤバイ、かわいい…)

男「あ、当たり前だろ
  俺のスウェットなんだから」

60: 2015/07/29(水) 00:20:44.27 ID:Y1Mt9WI+0.net
女「そりゃ、そうだねw
  ね、男も入っておいでよ
  スッキリするよ!」

女は長さの余った袖をクルクル振り回しながら、そう言った

男「あぁ、そうしようかな」

61: 2015/07/29(水) 00:21:12.26 ID:Y1Mt9WI+0.net
俺が風呂から上がると、ちょうど洗濯機が止まっていた

男「おーい女、洗濯機止まってるぞ
  自分で干してくれよー」

女「はーいw」

ズキン
その時また俺の頭に痛みが走る

男(まただ、何なんだこの痛みは!?)

痛みに歪んだ俺の顔を見て、女が心配そうに
顔を覗き込んできた

女「どうかしたの? 大丈夫?」

男「あぁ、なんか頭痛がな…
  飲みすぎたかな…w」

女「あー、けっこう飲んだもんねーw
  あ、一応下着も干すから、出てもらっていい?///」

男「あ、あぁすまん」

俺は風呂場から追い出された形で部屋に戻った

62: 2015/07/29(水) 00:21:41.39 ID:Y1Mt9WI+0.net
パチン
電気を消して、俺たちは布団の上に横になった

女「くらーいw」

女「ちょっと男、暗闇に紛れて変なとこ触んないでよw」

男「触ってねぇよw」

女「ノリ悪いなぁw」

男(どういう意味だよ…)

女「こういうお泊りって、楽しいよねw」

男「あぁ、そうだなw
  昨日は楽しむ余裕も無かったな」

女「明日、楽しみだねw」

男「あぁ」

女「おやすみ、男」

男「おやすみ」

俺たちは静かに眠りに落ちていった
そして、この時俺は一つの事を心に決めていた

63: 2015/07/29(水) 00:22:27.64 ID:Y1Mt9WI+0.net
翌朝
7時55分

女「おはよー、おきろーwww」ユサユサ

男「ふぁっ! なんだなんだ!?」

女「朝だよー、遊園地行くんだろー?w」

男「…いや、行くけどさ
  まだ8時じゃん…」

女「ばかやろう!w 今日が何の日かわかってるのか?
  激込みしちゃうよーwww」

カレンダーを見ると、12/25だった

男「あ…」


※せっかくクリスマスまでもつれ込んだので
今年は平日だけど、連休って設定でいきます

64: 2015/07/29(水) 00:22:57.37 ID:Y1Mt9WI+0.net
男(そういや、クリスマスか…)

女「わかったら用意しろーwww」

男「わかったよw」

俺は眠い目を擦りながら用意を始めた

にしても…

女は昨日洗濯した一張羅に着替え
化粧も済んでいるようだ

男「お前何時から起きてんだ…?」

女「えっ? ななな、何が?」

男「いや、気合い入り過ぎじゃねーか?w」

女「うるさーい! べ、別にそんなに
  楽しみな訳じゃないんだからねっ///」

男(このツンデレがw)

65: 2015/07/29(水) 00:25:17.72 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「まぁ、そう焦るなよ
  コーヒーでも飲もうぜ」

女「しょうがないなぁw」

そう言うと女はコーヒーの準備をし始めた

女「はい、どーぞ!」

男「サンキュ」

女「おいしい?w」

男「あぁ、うまいよ」

そう言うと、女はニッコリと微笑んだ

男「なぁ、女…」

女「ん? なに?」

男「あ…、いや、何でも無いんだ」

女「なにそれー?w」

男「さて、出かける準備するかな!」

女「話逸らすなーwww」

66: 2015/07/29(水) 00:26:10.35 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「ところでさ、目的地はここから一番近い
  あの遊園地でいいんだよな?」

女「そうだねー、まぁ実際どこでもいいんだよ
  男と一緒に行ければねw」

男「ふーん…?」

俺は着替えと仕度を済ませ、お気に入りなのであろう
あのバッグを持った

男「よし、行くか!」

女「うん、いこー!」


運命の一日が始まる

67: 2015/07/29(水) 00:26:47.78 ID:Y1Mt9WI+0.net
俺たちは駅から昨日とは逆の方向の電車に乗り込み
目的の遊園地を目指した


デデコーン、デデコーン

男「さすがにこの時間でも人が多いな」

女「なんてったって、クリスマスですからなぁw
  連休だし」

俺たちは席には座れず、立って吊り革に掴まって話をしていた

男「ところでなんで遊園地なんだ?」

女「え?w」

男「何笑ってんだよ…?」

女「いや、言ったじゃん
  絶叫マシンに乗ったら記憶が戻るかも知れないじゃんw」

男「いや、だからそんな訳ねぇってw」

68: 2015/07/29(水) 00:27:33.43 ID:Y1Mt9WI+0.net
女「でもよく言うじゃん
  強いショックを与えたら、記憶が戻るとかさw」

男「ショックの方法www」

男(ホントに面白いヤツだなw)

男「まぁ、一理あるかもなw
  後は記憶を無くした時と同じ状況になる、とかな?」

女「え? あ、あぁ…
  そういうのも聞いた事あるね…w」

男(なんか、時々おかしいよな…?)

69: 2015/07/29(水) 00:28:26.43 ID:Y1Mt9WI+0.net
その後もとりとめの無い話をしていると
あっという間に目的の駅に着いた
この駅から遊園地までは目と鼻の先だ

女「あー、観覧車が見えるよー!w」

駅から出るなり、女はそう言った

男「あんまりはしゃぐなよw」

女「ねー、早く早くw」

小走りで俺の前を行く女

男「子どもかw」

70: 2015/07/29(水) 00:29:14.48 ID:Y1Mt9WI+0.net
遊園地の入り口は混んではいたが
そこまででは無かった

女「やっぱ早く出て良かったね
  これからもっと混んでくるよ、きっとw」

男「あぁ、そうだな」

女「あぁ、おばけ屋敷もあるんだね
  入ろうよw」

男「お前はホントに子どもみたいだなw」

女「いいじゃんw」

71: 2015/07/29(水) 00:29:48.89 ID:Y1Mt9WI+0.net
ついに遊園地のゲートをくぐり抜けた俺たち

女「夢の国だねーw」

男「いや、残念ながらそんな大層な場所じゃねぇぞw」

女「さて、何から乗ろっかなー?」

女「やっぱ、あれかな!」

女が指差したのは、この遊園地で最も怖いと
される絶叫マシンだった

72: 2015/07/29(水) 00:30:27.32 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「飛ばすねぇ…」

女「体力あるうちに乗っとかないとさw」

男「まぁ、そうか」

そこ勢いで俺たちは列に並んだ

男「ホントにこんなんで記憶が戻るのかねぇ…?」

女「えっ、記憶?」

男「…」

女「あ、あぁ記憶ね!当たり前じゃんwww」

男(こいつ楽しむ事しか考えてねぇな…)

73: 2015/07/29(水) 00:31:11.30 ID:Y1Mt9WI+0.net
係員「次の方どうぞー」

あれよあれよという間に俺たちの順番が回ってきた
その時俺は言い知れぬ不安に襲われた

男「なぁ、やっぱやめねぇ…?」

女「何を今更! さっ、行くよw」

俺は女に手を引っ張られ、座席に連れて行かれた

74: 2015/07/29(水) 00:31:37.36 ID:Y1Mt9WI+0.net
マシンはいわゆるジェットコースターだが
コースがかなり鬼畜らしい

ルルルルルルー
発車の音が鳴る

女「楽しみだねーw」

男「…」

ガシャン!
ガタン、ガタン、ガタン…
不安を煽る音の数々

そして…

男「お? おお!? おおぉぉっっ!!!!??」

女「あははー、すごーいwww」

75: 2015/07/29(水) 00:32:44.20 ID:Y1Mt9WI+0.net
プシュー
永遠かと思われた地獄の時間が終わった
どうやら俺は絶叫系がからっきしダメのようだ

女「楽しかったねぇーwww」

男「…」

女「あれ、どうしたの?」

男「いや、ちょっと気分が…」

女「もしかして、乗り物ダメ?」

男「らしいな…」

女「ちょっと待ってて」

そう言うと女はどこかへ走って行ってしまった

76: 2015/07/29(水) 00:33:21.10 ID:Y1Mt9WI+0.net
俺は近くのベンチに腰掛け、空を仰いだ

男「あー、いい天気だなぁー…」

男「そーらーが晴-れーてーるー日-にはーってか…」

女「おとこー」
半分廃人になっていた俺の元に女が戻ってきた

女「はい、冷たいお茶!
  これ飲んで元気出しなよw」

男「あぁ、サンキュ」

77: 2015/07/29(水) 00:38:17.07 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「にしても情けねぇなぁ」

女「何が?」

男「いや、男のくせにジェットコースターの一つも
  乗れないなんてよ」

女「まぁ、しょうがないじゃん!
  誰にだって苦手な物はあるよw」

男「でも、せっかく来たのになぁ
  こんなんじゃあ、お前もつまんないだろ?」

78: 2015/07/29(水) 00:39:00.42 ID:Y1Mt9WI+0.net
女「そんな事無いよ!
  遊園地の楽しみは他にもあるじゃんw
  次いこーよ、次!」

男「あぁ、そうか?」

男(ホントに優しいヤツだ)

俺は立ち上がり、女と歩き始めた

79: 2015/07/29(水) 00:39:29.35 ID:Y1Mt9WI+0.net
女「よし、次はあそこだ!w」

男「ホントにおばけ屋敷入るのかよw」

女「怖くなったら、私の胸に飛び込んでおいでwww」

男(え?いいの?w)

男「いや、逆だろフツーwww」

女「いやいや、ジェットコースターも乗れない男くん
  にはそれくらいが良いかと思いましてw」

俺たちはおばけ屋敷の中に入っていった

80: 2015/07/29(水) 00:40:02.49 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「あれ?」

女「おっ?」

男「なんかあんまり『いかにも』って感じではないんだな…」

女「そだね…」

俺たちは少し無口になって歩いていた

バシュッ!!
女「キャッ!」 男「おわっ!」

男「なんだよ、今の…?」ドキドキ

女「…」

81: 2015/07/29(水) 00:40:34.31 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「な、なんか、こういう感じなんだな…w」

女「うん、そうなんだね…」

ギュッ
そう言うと女は俺のコートの裾をつまんでいた

女「置いてかないでね…w」

笑ってはいたが、その笑顔は不安その物だった

男「お? おぉ、当たり前じゃんかw」


結局、ここでは終始女が怖がりっぱなしだった
さっきの汚名返上になっただろうか…?

82: 2015/07/29(水) 00:41:09.25 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「いやぁ、中々だったなぁw」

女「怖かったよーw」

男「お前も怖がったりするんだなぁwww」

女「言わないで///」

女「あ、ねぇクレープ屋さんがあるよ
  食べて行こうよ!」

男「クレープ? 遊園地には付き物なのか??」

女「そりゃ、そうじゃん! クレープだよ?w」

男「知らねぇよw でも小腹も空いたし
  食べていくか」

83: 2015/07/29(水) 00:41:36.54 ID:Y1Mt9WI+0.net
女「クレープ二つくださーいw」

店員「はい、お二つですね
   ありがとうございまーす!」

クレープはすぐに出てきた

男「なにこれ? うまっ!」

女「おいしいねーw」

この旨さにはホントに驚いた
これだけの衝撃があったという事は
記憶を無くす前にも食べた事は無かったのだろう

85: 2015/07/29(水) 00:42:39.73 ID:Y1Mt9WI+0.net

俺たちはその後も乗り物やアトラクションを楽しんだ
陽は暮れかけていた

女「楽しかったねー!」

男「あぁ、そうだな
  そろそろ帰るか」

女「おし、最後はあれだー!」

男「観覧車か、ベタだなw」

女「うるさいな、文句を言うヤツは乗せないぞw」

男「へいへーい」

ポツリポツリと帰り始める他の客を横目に俺たちは観覧車へと歩いていった

87: 2015/07/29(水) 00:43:42.85 ID:Y1Mt9WI+0.net
この遊園地は古くからある場所で、乗り物も古いが
観覧車はとても大きく、有名だった

係員「はい、足下注意してくださいね~
   一周15分になります、楽しんでくださいねぇ」

おじいちゃんの係員に促され、ゴンドラの席に着いた

男「一周15分か、けっこう長いな」

女「そうだね」

ゴンドラはゆっくりと昇っていく

男「いやぁ、それにしても遊んだな」

女「うん、すごく楽しかったよ!」

男「明日とかホントは仕事なんだよなぁ
  どうしよう…w」

女「出勤しなかったら電話くるんじゃない?w」

男「まぁ、そうだろうけど…
  ホント楽観的だな、お前はw」

女「そうかなぁw」

88: 2015/07/29(水) 00:45:34.14 ID:Y1Mt9WI+0.net
ようやくゴンドラが頂上に着いた頃、街は一面黄昏色に染まっていた

女「わー、きれーい!!」

そう言った女の顔も夕陽に染まって輝き
俺は街よりも女の顔に目がいっていた

男「ホントだな…」

女「…」

女「男、今日はホントありがとね
  私のワガママに付き合ってもらって…」

男「あ?何言ってんだよ?
  記憶を戻す為に考えてくれたんだろ?
  こっちこそ感謝だよ まぁ、それは大義名分だろうけどな?www」

女「あ、バレてたwww

  …ありがとう」


※今書きながら、BUGY CRAXONEの「チーズバーガーズ・ダイアリー」という曲を
なんとなく聴いてたんだけど、偶然だけどイメージとマッチした
気になる方は聴いてみてください

89: 2015/07/29(水) 00:46:25.38 ID:Y1Mt9WI+0.net
係員「ありがとうございました~」

男「さてと、帰るか」

女「うん!」

男「…」

男「あのさ」

女「うん?」

俺の真剣な表情に女はもう一度尋ねた

女「どうしたの?」

男「あぁ、うん…
  その、なんだ?w」

女「どうした?www」

笑ってごまかしちゃ、いかん

90: 2015/07/29(水) 00:47:18.64 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「うん、あのさ
  俺たちってこのまま記憶が戻らない可能性もある訳だろ?」

女「うん」

俺たちは真剣な表情に戻っていた

男「俺、たった二日間だけど女と一緒に居て、すごく安心出来ていたんだ
  もし、女さえ良かったらこのまま一緒に居てくれないかな?」

女「へ?
  それってもしかして、付き合うって事?
  記憶喪失同士で?w」

男「そう、そういう事w」

女「でも、男には彼女がいるんじゃないの?」

男「あぁ、でもいいんだ
  連絡もつかないし、最近うまくいってなかったみたいだし…
  俺は今の自分の気持ちを大事にしたいんだ」

女「そっか、嬉しいよ
  ありがとう」

男「それでさ…」ゴソゴソ

俺はバッグの中から、綺麗にラッピングされたあの小箱を取り出した

91: 2015/07/29(水) 00:48:03.29 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「はい、これクリスマスプレゼントだ」

女「あれ、これってあの時の?
  でも男、開けちゃダメって言ってたじゃん
  いいの?」

男「ああ、もういいんだ
  さっきも言ったろ? 今の自分の気持ちを大事にしたいんだ
  前の俺もきっとわかってくれるさ」

女「ホントにいいの?」

男「ああ」

女「うん、わかった
  ありがとう
  …ねぇ、開けてもいい?」

男「ああ、いいよ
  てか俺も中身が気になってたんだよw」

シュルシュル、ガサガサ
リボンとラッピングを解き、箱が露になる
その箱を開けた途端に女は泣き出した

男「え?どうした女?
  何が入っていた!?」

女「ありがとう、男 ごめんね」

その瞬間、俺は目の前が真っ白になった

93: 2015/07/29(水) 00:48:41.10 ID:Y1Mt9WI+0.net
---ありがとう、男 ごめんね---



<<<二日前 23時50分頃 ○○店前


男「なぁ、考え直してくれないか…?」

彼女「いっぱい考えたよ、でもやっぱりもう無理だよ…」

男「ホントにもう無理なのか?」

彼女「…うん」

男「…そうか
  それでも俺はお前の事が好きだよ
  多分、この後どんな人と出会ってもな」

彼女「ありがとう、男 ごめんね」


そう言われた直後に俺は意識を失い、地面に倒れ込んでいた>>>




男「まさか、ウソだろ…?」

94: 2015/07/29(水) 00:51:30.85 ID:Y1Mt9WI+0.net

男「女、お前が俺の彼女なのか?」

女「え?

  …男、記憶が戻ったの?」

男「ああ、おぼろげながらな
  なんで黙ってたんだよ…?」

俺は努めて穏やかな口調で尋ねた
何か理由があると思ったからだ

女「うん、ごめんね…」

女「二日前の話覚えてる?」

男「ああ、今まさに思い出したところだよ」

女「そっか
  ホントはさ、私だって男とずっと一緒に居たかった
  だけど最近の私たちはお互いの事を思いやる事が欠けてたんだよ」

男「…」

女「あの時、男が倒れた時、私もショックで気を失っちゃったみたいなんだ
  だから男が起こしてくれた時、一瞬本気で意味がわからなかったの」

女「でもその直後に思ったんだ もしかしたらまた最初からやり直せるかもって」

男「…」

95: 2015/07/29(水) 00:52:19.72 ID:Y1Mt9WI+0.net
女「勝手な事言って、身勝手な事してごめんね
  こんな女なんだよ、私は」

男「…」

男「何言ってんだよ」

女「え?」

男「お前のそのアホな作戦のおかげで俺は昔の気持ちを
  取り戻せたんじゃねぇかw」

女「え? …え?」

男「三回目だぞ 今の気持ちが大事なんだよ
  これからもよろしくなw」

女「こんな私を許してくれるの?」

男「当たりめぇだろ、ばーかw」

女「グスン、ありがとうw」

女は泣きじゃくりながら、やっと笑った

96: 2015/07/29(水) 00:52:49.67 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「それにしてもさぁ、俺はお前に振られたショックで
  記憶失ったって事…?」

女「だろうねぇ」

男「とんだヘタレだな…」

女「www」

女は声にならないくらい笑っていた

97: 2015/07/29(水) 00:53:31.91 ID:Y1Mt9WI+0.net
男「笑いすぎだろw
  ところで、結局プレゼントって何だったんだよ?」

女「あ…」

俺は女の手の中にあるプレゼントを覗き込んだ
それを見た瞬間に全ての記憶が蘇った気がした

男(そうだったな…)

男「女、ごめんさっきの『付き合う』って話
  やっぱり無しにしてくれ」

女「え、なんd

男「俺と結婚してくれ」

女「!」

男「今全部思い出したよ
  俺はあの日、お前にプロポーズしようとしてたんだ
  この指輪を持ってな」

そう、箱の中に入っていたのは婚約指輪だったのだ

98: 2015/07/29(水) 00:54:02.79 ID:Y1Mt9WI+0.net
女「はい…
  ありがとうw」

男「女…」

俺は女を優しく抱きしめた

99: 2015/07/29(水) 00:57:29.58 ID:Y1Mt9WI+0.net
女「私さ、あのバッグからプレゼントが出てきた時
  他の女性へのプレゼントだと思ったんだよ
  私誕生日じゃないしさwww」

男「俺はそんな器用な事は出来んよ
  わかってるだろ?w」

女「んだねw」

抱き合ったまま、俺たちはそんな話をしていたが
その時俺はふと一つの事を思い出した

男「あっ!」

女「どうしたの?」

男「友に金返さねぇとwww」

女「へ? なにそれ??w」

男「いや、実はさ……w」

女「……w」


再び歩き出した彼らの背中を夕陽が染め上げていた
繋がった影は陽が落ちても離れる事は無く
群青の夜の中に溶けていった



101: 2015/07/29(水) 01:00:30.84 ID:Y1Mt9WI+0.net
去年の12月に書いていたSSです
今更ながら完結できて嬉しいです
今回初めて読んでくれた方、前回読んでくれて
ずっと保守してくれていた方、本当に感謝です!

何か質問あれば答えます

引用元: 男「まさか、ウソだろ…?」