174: 2011/12/03(土) 08:45:22.11 ID:NOOLkeZo0
配達少女「お届け物でーす」
配達少女「お届け物でーす!お爺さん、お元気ですか?」
配達少女「おはようございまーす、新聞でーす」
青年「お届け物ーっス」
配達少女「お届け物でーす」??「バヨエ~ン!」少女「へ?」
少女「お疲れ様で―す、担当箇所終わりましたー」
少女「ふう」
少女「あれ、局長何してるんですか?」
少女「行き先のない保管郵便物の棚卸? 手伝いますよ」
少女「思ったよりはありますねー」
少女「……それだけ届かなかったものがあるって思うと、ちょっとさびしい気持ちになります」
少女「わあ……これすごいですね。だいぶ紙が古くなってます」
少女「何年前の何でしょう?」
少女「えーと、昭和ですから……って、昭和!?」
175: 2011/12/03(土) 08:46:31.77 ID:NOOLkeZo0
少女「二十五年前かあ。こんなに古いものが……」
少女「受取人がいなかったとかは分かりますけど、差出人のところに返送はしなかったんですか?」
少女「え? どっちも引っ越して行き先不明?」
少女「そうですか……」
少女「あ、二郎さんお疲れ様です」
少女「これですか? 実はですね――」
・
・
・
少女「――と、いうわけなんです」
少女「二十五年前ですよ、すごすぎですよね」
少女「って、二郎さん!? 何ナチュラルに開封してるんですか!?」
176: 2011/12/03(土) 08:47:12.92 ID:NOOLkeZo0
少女「局長も何とか言ってやってくださいよ! なんでわたしがぶたれなきゃいけないんですかー!」
少女「二郎さんってほんとは優しいのに、わたしには容赦ないです……はあ」
少女「……ねえ、聞いてます?」
少女「え? なにか書いてあったんですか?」
少女「見ろって……わたしを共犯にするつもりですか? ふふーんだ、その手にはかかりませんよーだ」
少女「……またぶったー!」
178: 2011/12/03(土) 08:48:07.12 ID:NOOLkeZo0
少女「分かりましたよう、読みますってば」
少女「えーと……」
『私はあなたを許します』
少女「……?」
少女「許す? ってなんのことでしょうか……」
少女「え? あ、ええ。その通りですね、大事なお手紙であることは間違いなさそうです」
少女「確かに届けなければいけない気がしますが……でもどうしましょう、どちらもお引っ越ししちゃってるみたいで」
少女「聞き込み、ですか? 二十五年前ですよ?」
少女「どうにかなる? そんな適当な……」
少女「え、有給取る? わたしもですか? そ、そんな急すぎますよう!」
少女「あ、二郎さん待ってくださーい!」
179: 2011/12/03(土) 08:49:31.24 ID:NOOLkeZo0
<翌朝>
少女「――さて。ここが届け先の住所ですが」
少女「きれいでかわいらしいおうちですねー」
少女「あ、ちょっと二郎さん?」
ピンポーン……ガチャ
少女「あ、え? わ、わたしが話すんですか!?」
少女「――あ、あー、えーと、こ、こんにちは! わたしたち郵便局の者です!」
少女「今日はちょっと伺いたいことがありまして……」
少女「あ、はい、えーとですね、前にこちらに住んでいた方なんですけど……」
少女「あー……やっぱりご存知ないですよね」
少女「申し訳ありません、失礼しました」
……パタン
180: 2011/12/03(土) 08:50:36.82 ID:NOOLkeZo0
少女「二郎さんいきなりはひどいですよう」
少女「ってあれ、二郎さん? あ、いたいた」
少女「どこ行くんですか?」
少女「いたっ。どうして叩くんですかぁ。……なんでついてくる、って」
少女「手分けして聞き込み? そんな警察じゃあるまいし」
少女「二郎さんて変なとこ行動的ですよね」
少女「――って、行っちゃった……そんなにうまくいくのかなあ……」
181: 2011/12/03(土) 08:51:24.09 ID:NOOLkeZo0
少女「あ、いたいた! 二郎さーん!」
少女「……ちょっと、何叩こうとしてるんですか」
少女「遅い? 場所とか指定しないで行った二郎さんが悪いんです」
少女「え、結果ですか? うーん、特にこれといった情報は……」
少女「二郎さんもですか? まあ、そうですよねえ」
少女「え? 次行く? 一体どこに?」
少女「送り元って……二つ隣の県じゃないですか!」
少女「あ、待って、置いてかないでー!」
182: 2011/12/03(土) 08:52:06.83 ID:NOOLkeZo0
少女「zzz……」
少女「ん……んにゃ?」
少女「あ……着いたんですね……」
少女「んー……身体が凝りました。三時間ほどずっと車でしたからねえ」
少女「あ、はい、えーと。目的地は地図だとあっちみたいです」
・
・
・
少女「……空き地、ですね」
少女「見た感じ、こうなってから結構たってるみたいな」
少女「どうします二郎さん。 って、あれ? いない……」
少女「また聞き込みですかあ。はあ……」
184: 2011/12/03(土) 08:53:01.12 ID:NOOLkeZo0
少女「うう……結局こっちでも有益な情報を持ってる人は見つかりませんでした」
少女「二郎さんも収穫無しですか。そうですよねえ……」
少女「ところで暗くなってきました。今日は帰りませんか?」
少女「え、まだ寄るところがある? どれくらいかかるんですか?」
少女「……」
少女「聞き間違いですよね?」
少女「十数時間とか、ちょっと常識じゃ考えられません」
少女「あ! 待ってください! 知らない土地で一人はやーですー!」
185: 2011/12/03(土) 08:54:04.00 ID:NOOLkeZo0
・
・
・
少女「……ううん、ムニャ……」
少女「ん――あれ?」
少女「ああ、着いたんですか……」
少女「夜行バスじゃないんですから、こういうのはもう勘弁ですよう……」
少女「で、ここはどこですか?」
少女「……県を四つ跨いだんですね」
少女「半分仕事とはいえ、これはちょっと……」
少女「え? なんですか? 鏡?」
少女「あ! 涎の跡が!」
186: 2011/12/03(土) 08:55:19.24 ID:NOOLkeZo0
ピンポーン――ガチャ
少女「あ、おはようございますお爺さん」
少女「朝早く申し訳ありません、わたしたちこういうものなんですけど。ええ郵便局の」
少女「はい、実はちょっとお伺いしたいことが……」
・
・
・
187: 2011/12/03(土) 08:56:03.65 ID:NOOLkeZo0
少女「……」
少女「お話、ありがとうございましたお爺さん」
少女「……」
少女「ええ。行きましょう二郎さん。彼女たちが、待っています」
少女「……二十五年。いやもっとですか」
少女「ずっと、すれ違ったままで。ずっと分かりあえないままで」
少女「わたしはそれに恐怖します」
少女「……そして感謝します。手紙に救えるものがあることを」
少女「今なんですね、ええ」
少女「今こそ」
188: 2011/12/03(土) 08:56:54.92 ID:NOOLkeZo0
ピンポーン――……
少女「……出てください」
ピンポーン――……
少女「すぐそこなんです。あなたたちのは、すぐそこなんです」
ピンポーン――……
少女「将棋のお爺さんとは違うんです、この世界で確かに届くんです。だから……!」
――ガチャ……
少女「……! あのっ、わたしたち――いや、わたしたちはどうでもいいんです。
この手紙を、届けに来ました。受け取ってください」
少女「彼女からの、お手紙です。取り戻せる過去からの、お手紙です……!」
189: 2011/12/03(土) 08:57:42.42 ID:NOOLkeZo0
『私はあなたを許します』
190: 2011/12/03(土) 08:58:48.94 ID:NOOLkeZo0
『お久しぶりですね。
あなたたちがいなくなってからずいぶん経ちました……彼がいなくなってからずいぶん経ちました。
私はあなたたちといた日々を片時も忘れたことはありません。
――そして、あなたが私から彼を奪ったこともまた、忘れません』
少女「お爺さんから聞きました。昔、近所に仲の良い三人の子供たちがいたそうですね」
少女「男の子一人に女の子二人。三人は仲が良くていつも一緒にいたと聞いてます」
少女「三人が成長してもそれは同じで。
からかわれることもあったけど、それでもその子たちの友情を断ち切るのには足りませんでした。」
少女「でも友情は慕情に変わります。そして残念ながらそれは、三人全員を幸せにするには、席が足りなかった」
少女「彼は選んだそうですね、あなたを」
少女「……続き、読んでください」
192: 2011/12/03(土) 09:01:09.12 ID:NOOLkeZo0
『彼はあなたを選びました。悔しいけれど、それは事実です。
私もそれは仕方なかった、彼も悩んで決めたのだと理解しています。
でも許せなかった。あなたが彼と二人で旅行に行くなどと言わなければ、彼は氏なずに済んだのに、と。
あれはあなたたちの早めの婚約祝いでしたね。あなたたちは車で隣の県まで旅行に行って、事故に遭いました。
不慮の事故、でした。
彼は氏にました。あなたは生き残りました。
私は……私は取り残されました。
もちろんあなたが悪くないことは、頭ではわかっていました。見当違いの憎悪でしょう。
でも私には、この愚かな私には、あなたが全てを奪い、壊してしまったように見えて仕方なかった』
少女「――駄目です。逃げちゃ駄目です」
少女「続き、読みましょ? ね?」
193: 2011/12/03(土) 09:02:12.14 ID:NOOLkeZo0
『あなたはその後すぐに別の県に引っ越してしまいましたが、それはきっと正解でした。
その時の私には、あなたを許すことなんて到底できなかったでしょうから。
事実私は憎みました。激怒し、憎悪しました。
誰にかは自分でも分かりません。
私を選ばなかった彼にかもしれませんし、あなたにかもしれません。
それとも神様に、だったのかも。
そのまま数年がたちました』
194: 2011/12/03(土) 09:02:56.93 ID:NOOLkeZo0
『私は、私にはもう何も残っていないことに、ある日気がつきました。
あの日の三人の、目が眩まんばかりの輝かしい日々はありません。
三人で遊んだ公園も今はないことを知っていますか?
学校も、新しくなったんです。
もう、どこにも、あの日の匂いは残っていなかった。
私は。私は――』
『――だから、私はあなたを許そうと思うのです。
これは積極的な許しではないでしょう。
むなしさに気付き、それゆえ心が折れた、そんな消極的な許しです。
ここに根本的な解決はないでしょう。
それでも。
ああ、それでもあの日々はとても楽しかったから……』
195: 2011/12/03(土) 09:04:33.48 ID:NOOLkeZo0
『私は、この手紙を書いたら出発します。
もうあの日の残滓はありませんが、私たちのことを知っている人が残っています。
弱い私にはそれが耐えられないから。
だから、私たちのことを知っている人がいないところに行きます。
さようなら』
196: 2011/12/03(土) 09:05:17.61 ID:NOOLkeZo0
少女「……」
少女「……書きましょう」
少女「お手紙、書きましょう」
少女「今のあなたには泣くことしかできないでしょうけれど、それでも書かなければなりません」
少女「また明日、ここに来ます。その時に手紙を渡してください」
少女「私たちが届けます」
少女「大丈夫、必ず届きますから」
少女「あの日の輝きは取り戻せないでしょうけれど」
少女「それでもまだ取り返しのつくものはきっと。その手の中に残っているんですよ。ね?」
197: 2011/12/03(土) 09:06:05.95 ID:NOOLkeZo0
それから。
その二人の女性の会合は、いまだ実現してはいないものの。
これから実現する見通しもないものの。
それでも小さな文通は、ある二人の郵便局員の手によって続いているそうな。
198: 2011/12/03(土) 09:07:02.85 ID:NOOLkeZo0
・
・
・
少女「二郎さーん、終わりましたよー」
少女「ってあれ? 二郎さん眠ってるんですか?」
少女「……ハンドルに突っ伏して、器用ですねー」
少女「まあ、今回ほとんど寝ていないんですから仕方ないといえば仕方ないですが」
少女「それにしても」
少女「ふふ、なかなか可愛い寝顔ですね。もうちょっと待ってあげますか」
少女「……お疲れ様、です」
昔の手紙編 おわり
引用元: 配達少女「お届け物でーす」
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