1: 2011/11/10(木) 22:08:00.36 ID:mutaV8Wm0
結衣「……」

あかり「……」

雨降ってきちゃったね。
ぽつりと漏らすと、隣にぼんやり立っていたあかりは「そうだねー」と呑気なふりをして
頷いた。それでもどことなくいつもと違う様子は見て取れて、私はなにを言えばいいのか
わからずに空いていた片手で髪をぐしゃぐしゃした。
ゆるゆり: 1 (百合姫コミックス)

2: 2011/11/10(木) 22:08:58.83 ID:mutaV8Wm0
それに気付いたあかりが、「結衣ちゃん、ごめんね」と突然。
え、なんで?
謝られる理由がわからずに本気でそう訊ねると、あかりは「だって」と言って
言葉を濁した。

あかり「結衣ちゃんの癖……困ったときはいつもそうやって頭くしゃくしゃするから」

結衣「あ……」

3: 2011/11/10(木) 22:09:40.08 ID:mutaV8Wm0
いつのまに気付かれていたんだろう、私でも気付いたのはつい最近のことなのに。
さすが幼馴染、というよりもさすがあかり、と言うべきなのかも知れない。
私は「ごめん、私こそ。……こういうの、初めてだし」と途切れ途切れになりながら
伝えると、あかりは知ってるよぉと笑ってくれた。

あかり「だからごめんね。あかりも京子ちゃんやちなつちゃんみたいに誰かを
    引っ張ることなんてできないから……」

結衣「ちなつちゃんはいいとして、京子みたいなのはただのわがまま。あかりまで
   京子みたいだったら私はもっと大変だったよ」

あかり「あはは、そっかぁ」

それからまた沈黙。
あかりと手、繋ぐのはいつぶりだろうか。そんなことを考えた。
さっきから繋ぎっぱなしの左手が、そろそろ手汗をかいてないか心配だ。

4: 2011/11/10(木) 22:10:19.82 ID:mutaV8Wm0

あかり「ほんとにあかりで良かったの?」

雨が本格的に強くなってきたところだった。
誰もいない昇降口の端っこ。やっぱり手を繋いだまま、ふいにあかりはそう言った。
私は少しだけ迷いながらも、「うん」と頷いた。はっきり、頷いてみせた。

結衣「いいからいいって言ったんだろ」

5: 2011/11/10(木) 22:10:49.86 ID:mutaV8Wm0
あかり「……うん、そうだよね」

結衣「あかりは心配しすぎ」

こつんとあかりの頭を叩く真似をすると、あかりは「えへへ」とようやく
笑ってくれた。
雨はもう少し止みそうに無い。

あかり「明日、ちなつちゃんや京子ちゃんになんて言おっか」

結衣「別に言わなくてもいいんじゃない?」

6: 2011/11/10(木) 22:11:15.19 ID:mutaV8Wm0
あかり「……うん、そうかな」

結衣「いいよ」

わかった、とあかりは頷いて。
少し不安げに私を見上げてきた。私はその視線からすっと逃れて、「あかりこそ」と
前を向いたまま、言った。

7: 2011/11/10(木) 22:11:40.78 ID:mutaV8Wm0
結衣「あかりこそ、良かったの?」

あかり「へ?」

結衣「私で、良かったの?」

たとえば、京子とちなつちゃんの関係を知ってしまった私が落ち込んでるとか、
二人の世界が出来上がっている部室でお互い一人ずつだったからとかそんな理由ではないと
わかってはいるけど。

8: 2011/11/10(木) 22:12:05.97 ID:mutaV8Wm0
私がまだ京子に気があるんじゃないか。
きっとそんなことを考えてるんだろうなとは思う。
そして私だって、もしかしてあかりはちなつちゃんのことが好きだったんじゃないか、
なんてことを考えて。

あかり「……良くなかったら好きなんて言えないよ」

結衣「……そっか」

9: 2011/11/10(木) 22:12:34.58 ID:mutaV8Wm0
こんな恥ずかしいこと二回も言わせないでよぉ。
あかりが言葉通り恥ずかしそうに俯いて、言った。そんなあかりを見ていると
私までなんだか頬が火照ってくるようだった。

可愛いなって思う。
今までただの幼馴染で、友達で、後輩で。そのときだって可愛いと思っていたのに、
こうして特別な関係で手を繋いでいたりすると、そんなあかりがもっともっと可愛いいなと
思えてしまう。

10: 2011/11/10(木) 22:13:06.23 ID:mutaV8Wm0
あかり「……結衣ちゃん」

結衣「うん?」

あかり「えへへ、呼んでみただけ」

京子みたいだ。
そう思った自分に、少しだけ驚いて。私はぐっと繋いだあかりの手を握りなおした。
あかりもそれよりもっともっと強く私の手を握りなおしてきて。

11: 2011/11/10(木) 22:13:34.07 ID:mutaV8Wm0
あぁ、きっと私たちは別の人のことを考えてるんだなって思った。それでもいちいち
言葉になんて出さないし、出せない。

私たち二人とも、お人好しなんだ。

結衣「ねえ、あかり」

あかり「なあに?」

12: 2011/11/10(木) 22:14:06.85 ID:mutaV8Wm0
結衣「走ろっか」

あかり「えっ、雨の中を?」

結衣「うん、走ろう」

13: 2011/11/10(木) 22:14:34.97 ID:mutaV8Wm0
私が言うと、あかりはそっと暗い雨の降る外を見た。
その目はもう、不安げでも迷ってもいなかった。
お人好しの私たちは、お互いのために二人でいるのだ。嘘みたいな好きを繰り返して。
だけど、その嘘みたいな好きがいつか、本物の好きに変わってしまえばいい。

14: 2011/11/10(木) 22:15:01.43 ID:mutaV8Wm0
あかり「びしょびしょになっちゃうね」

結衣「たまにはいいんじゃない?」

あかり「えへへ、そうだね」

私たちはどちらともなく雨に打たれに飛び出た。
この雨がずっとこびり付いている古い気持ちを洗い流してくれることを祈りながら。
私たちは手を繋いだまま、お互い離れないよう、離さないよう、走り出す。

終わり

20: 2011/11/10(木) 22:24:19.38 ID:FjSlETb00

24: 2011/11/10(木) 22:36:57.22 ID:mutaV8Wm0
思ったより短すぎたのでもう一本適当に

: 結衣「雨」