26: 2011/11/10(木) 22:39:04.51 ID:mutaV8Wm0
スレ落ちてると思ってためしに書き込んでみたら……
雨テーマでちなあかを

29: 2011/11/10(木) 22:44:28.27 ID:mutaV8Wm0
ちなつ「雨だ」

ちなつちゃんの声に顔を上げると、確かに気付かないくらいの細い雨がぱらぱらと
空から降って来ていた。

あかり「雨の日ってじめじめするよねー……」

ちなつ「あかりちゃんは雨って嫌い?」

あかり「うん、あんまり好きじゃないなぁ」

私はベッドで寝転んでいた身体を起こして答える。
ちなつちゃんが、「えー」と不思議そうに持っていた雑誌を机に置いて。
ゆるゆり: 1 (百合姫コミックス)

32: 2011/11/10(木) 22:49:59.95 ID:mutaV8Wm0
ちなつ「あかりちゃんって雨の日ってすごく好きそうなんだけどなあ」

あかり「どうして?」

「だって」とちなつちゃんはくるくるまわる椅子の上で膝を抱えながら、
あかりちゃんは世界の全てを愛してそう。

あかり「……えっ」

ちなつ「なーんて、京子先輩の受け売り?」

こんなこと言うなんて私のキャラじゃないもんね、とちなつちゃんが笑う。
私も小さく笑い返して。
一瞬、どきりとしてしまったことを気付かれていないことにほっとして、それから
気付いて欲しかったとも思ってしまう矛盾した気持ち。

35: 2011/11/10(木) 22:53:05.90 ID:mutaV8Wm0
あかり「……あかりだって、そんなことはないよ」

嫌いな天気もあるし、ほんとは苦手な食べ物や、虫さんだっていっぱいいる。
あかりは良い子なんてよく言われるけれど、ほんとはそんなことないんだよ。
ちなつちゃんにそう言いたくても、私の口は重く動かない。

あかりは世界の全てなんか愛してない。
ただ、ちなつちゃんのことはこんなにも好き。
世界のなにより、ちなつちゃんのことが好き。

ちなつ「ふーん、そっかあ」

意外だなあ、とちなつちゃんが首を傾げた。
その肩越しに、相変わらず細い雨が映る。

38: 2011/11/10(木) 23:01:11.36 ID:mutaV8Wm0
あかり「ちなつちゃんは?」

なんだか会話が途切れそうで怖くなった。
私は訊ね返した。
ちなつちゃんは「え?」とぽかんとしたあと、すぐに「あぁ」と納得したような
顔をした。

ちなつ「雨のこと?」

あかり「あ、うん……」

ちなつ「私はあかりちゃんとは逆かな」

あかり「好き?」

ちなつ「うん」

39: 2011/11/10(木) 23:03:12.80 ID:mutaV8Wm0
ちなつちゃんが頷くのを見て、私は少しだけ、雨のことが羨ましくなった。
あかりのことも、そんなふうに好きだって言ってくれたら、どれほど嬉しいだろう。

ちなつ「なんか好きなんだよねー」

あかり「へぇ……」

ちなつ「雨の日ってさ」

あかり「うん」

ちなつ「なんだか優しくなれそうな気がする」

41: 2011/11/10(木) 23:05:19.84 ID:mutaV8Wm0
詩の朗読でもしているような口調でちなつちゃんはそう言って。
すぐに照れたように笑った。

ちなつ「なんてねー」

あかり「……優しく、なれそうな」

私はそれでも、ちなつちゃんの言葉を繰り返した。
優しくなれそうな気がする。
途端に、今にも突き刺してきそうに思えた細い雨が、優しい流れに変わったような
気がした。

43: 2011/11/10(木) 23:09:08.80 ID:mutaV8Wm0
ちなつ「もうー、べつに繰り返さなくたっていいってばー」

あかり「……えへへ」

私は曖昧に笑った。
雨はずっと、小さい頃から嫌いだった。
なんだか、怖くて仕方が無かった。大事なものが洗い流されていきそうな、
そんな気がして怖かった。たぶん、アリさんのお家が雨の後、洪水してしまっていたのを
見たときからだったと思う。あのときから、すごくすごく怖くて。

あかり「……ちなつちゃんがそう言うなら、あかりも」

ちなつ「え?」

あかり「雨、好きになれそうな気がする」

44: 2011/11/10(木) 23:12:07.79 ID:mutaV8Wm0
そういうと、ちなつちゃんは「ほんと?」と嬉しそうに言って。
私はそんなちなつちゃんの声を聞くのが好きだった。
ちなつちゃんの嬉しそうな声を聞けるなら、自分が一番じゃなくてもいいと思えてしまうほど。

ちなつ「ほんとは雨、昔はあんまり好きじゃなかったんだけどね」

あかり「え……?」

ちなつ「最近、好きになってきちゃって」

あぁ、でも。
私は今度はずきんと痛み始めた胸を無視して、「京子ちゃん?」訊ねた。

46: 2011/11/10(木) 23:14:33.07 ID:mutaV8Wm0
ちなつ「ど、どうしてわかるの!?」

あかり「だって、ちなつちゃんだもん」

そう言って笑って見せると、「あかりちゃんには隠し事できないかも……」と
呟いてちなつちゃんは。

ちなつ「京子先輩をね、好きになっちゃったのも雨の日だったの」

あかり「……うん」

ちなつ「結衣先輩のことが好きだったはずなのにね」

雨の日。
傘をさして歩く二人の背中を思い出す。

47: 2011/11/10(木) 23:17:11.62 ID:mutaV8Wm0
ちなつ「好きな人を好きになった日の天気まで好きになっちゃうなんて」

不思議だよね。
ちなつちゃんが言った。

私は頭を振って。
不思議なんかじゃないよ。おかしくなんてないよ。
好きな人の好きなものを好きになろうとするあかりのほうがきっと。
最後の言葉は、言えなかったけど。

48: 2011/11/10(木) 23:19:10.44 ID:mutaV8Wm0
ちなつ「そっか」

あかり「うん」

ちなつちゃんは安心したように笑ってくれた。
嬉しそうな声だった。
私はそれを聞きながら、窓の外を見て。雨は本降りになってきていた。

51: 2011/11/10(木) 23:29:26.68 ID:mutaV8Wm0
やっぱり雨は、大事なものを、全部全部どこかへ流し去ってしまう気がした。
けれど、ちなつちゃんの好きな雨をもう、嫌いになるなんてことはきっと
出来ない。

あかり「雨、止まなきゃいいね」

ちなつ「そうしたら私帰れなくなっちゃうよ」

うん、そうだったね。
だけど帰らなくてもいいのに。そんなことも思って。
こんなにも好きな気持ち、いっそ雨が洗い流してくれればいいのにと思う。

終わり

52: 2011/11/10(木) 23:30:31.27 ID:mutaV8Wm0
短く纏めたために色々不十分ですが、支援保守ありがとうございました
近いうちにまた長編書けたらいいなと思ってます
それではまた

53: 2011/11/10(木) 23:35:30.22 ID:Lmh9mNel0
2つともよかったよ
おつ

: 結衣「雨」