44: 2013/08/14(水) 21:21:29.75 ID:I5lbc8sGo
『理想の恋人』

45: 2013/08/14(水) 21:25:12.02 ID:I5lbc8sGo
藤岡「南。おはよう」

夏奈「おう。藤岡」

藤岡「……」

夏奈「……」

藤岡(話しかけたはいいけど、共通の話題が少ないんだよな……)

夏奈(なんだ、藤岡のやつ。思い詰めた顔して)

夏奈「どうした? 何か悩み事でもあるのか?」

藤岡「え? ううん。そんなことないけど」

夏奈「そうか。なら良いんだけど」

藤岡(南がオレの心配を……。これってオレをことを気にしてくれているってことだよな……)

藤岡(良かった。話題のない奴とか、つまらない奴とは思われてないんだ)

夏奈(変な奴だ)

ケイコ「おはよう、カナ」

夏奈「おー。ケイコ、おはよう」
みなみけ(26) (ヤングマガジンコミックス)

46: 2013/08/14(水) 21:29:33.50 ID:I5lbc8sGo
ケイコ「藤岡くんと何を話してたの?」

夏奈「え? いや、朝の挨拶を交わしただけだ」

ケイコ「それだけ?」

夏奈「うん」

ケイコ「そうなんだ」

夏奈「なんだ? 何かあるのか?」

ケイコ「うーん、私が言っていいことなのかはわからないんだけど……」

夏奈「遠慮するな。私とケイコの仲だろ」

ケイコ「えっと、カナは藤岡くんともっとお喋りしたいとか思わないの?」

夏奈「別に思わないが」

ケイコ「……」

夏奈「……え?」

ケイコ「そう……」


藤岡(そ、そうだったのか……!! オレとなんて喋りたくないのか……!!!)

47: 2013/08/14(水) 21:37:14.62 ID:I5lbc8sGo
藤岡(やっぱりオレのことは話題のない奴とか、つまらない奴って思われてたのか……!!)

藤岡「はぁ……」

リコ(藤岡くんが思い詰めた顔してる!! どうしたんだろう……。部活で嫌なことでもあったのかしら……?)

ケイコ(しまった。藤岡くんが聞いてたみたい……!!)

夏奈「ミユキちゃーん」

ミユキ「なぁーに?」

ケイコ(なんだが藤岡くんが少し傷ついてたみたい……。私が余計なことを訊いちゃったから……。何とか元気付けてあげないと……)

ケイコ「カ、カナ?」

夏奈「どうしたの?」

ケイコ「えっと。でも、よく藤岡くんを家に招待しているんでしょ? それはどうして?」

夏奈「どうしてと言われてもな。チアキが懐いてるし、ハルカも藤岡のことは気に入ってるみたいだし」

ケイコ「藤岡くんが家に来たときは流石にたくさんお喋りしてるんでしょ?」

夏奈「うーん……」

藤岡(そういえば、オレはいつもチアキちゃんやトウマとばかり話していて……南とは……うぅ……)ガクッ

リコ(藤岡くんが更に思い詰めた!! この数十秒で一体なにが……!!)

48: 2013/08/14(水) 21:44:38.94 ID:I5lbc8sGo
ケイコ(あ、あれ? 藤岡くんが若干落ち込んでる? どうして……?)

夏奈「そういえば、藤岡はチアキやトウマと喋っているほうが多いな」

ケイコ「そ、そうなんだ」

ケイコ(藤岡くんも同じことを考えていたみたい……。私、また余計なことを……)

ケイコ(このままじゃ、藤岡くんを嫌な気分にさせるだけ。どうにか勇気付けてあげないと……)

夏奈「ミユキちゃーん」

ミユキ「はいはーい。なぁーに?」

ケイコ「カナ」

夏奈「なに?」

ケイコ「カナにとって理想の恋人ってどんな人?」

夏奈「どうした急に?」

藤岡「……」ガタッ

リコ(藤岡くんが急に凛々しくなった!! この数秒で一体なにが……!!)

ケイコ「いや、ほら、よくある世間話だと思って、ね?」

夏奈「理想の恋人か……」

49: 2013/08/14(水) 21:53:38.60 ID:I5lbc8sGo
ケイコ「そういえば聞いたことがなかったなぁって思って」

夏奈「そうだな。やはり、あれだな、自慢できる奴がいいな」

ケイコ「自慢できるって?」

夏奈「かっこよくて、スポーツ万能で、金持ち」

ケイコ「そ、そうなの?」

藤岡(そうなのか……!! そうなのか、南……!! オレ、もっとがんばるよ!! 南!!)カキカキ

リコ(藤岡くんが急に勉強を……!! 勉学に目覚めた藤岡くん、素敵……)

夏奈「ああ、あと面白くないとダメだな。私を常に楽しませる男でないとな」

ケイコ「そうなんだ」

藤岡(面白い……。それはオレに備わっていることなのか……!?)

リコ(悩んでる……。どうしよう、私が教えたい。でも、急に行ったら厚かましい女って思われるかも……)モジモジ

夏奈「加えて、私に優しくないとダメだな」

ケイコ「カナはどんな風にされると優しいって思うの?」

夏奈「美味しいモノを食べさせてくれたり、欲しいものを買ってくれたりだな」

ケイコ「カナの恋人って大変みたいね」

50: 2013/08/14(水) 22:07:29.77 ID:I5lbc8sGo
藤岡(カナ……!! オレ、がんばるからっ!!)カキカキ

リコ(あ……。答え、分かったみたい。私の出る幕はないみたい……)

夏奈「大変なのか?」

ケイコ「だって、そんな人中々いないよ? どこかで妥協してもいいんじゃない?」

夏奈「おいおい、ケイコ。理想の恋人を訊いてきたのは、ケイコでしょ? 私は理想を言ったに過ぎないぞ」

ケイコ「ああ、ごめん。そうよね。理想だもんね」

夏奈「全く。ケイコは自分の言ったことに責任が持てないのか」

ケイコ「なら、少し現実に近づけるとどうなるの?」

夏奈「現実に近づけるとか……。かっこよくて、スポーツ万能で、金持ちで、面白い奴だな」

ケイコ「優しくなくてもいいの?」

夏奈「面白い奴に優しくない奴はいないからね」

ケイコ「そうなんだ」

藤岡(優しいだけではダメなんだ……!! あぁ……!! 面白いか……オレって……? 人を笑わせることはあまり得意じゃないから……きっと面白くない……!!)

藤岡「くっ……!! ダメだ……!!」ガクッ

リコ(藤岡くんが難問にぶつかったみたいに顔を歪ませて……!! これは私が手助けを……!!)

51: 2013/08/14(水) 22:16:09.67 ID:I5lbc8sGo
ケイコ「じゃあ、更に現実に近づけるとどうなるの?」

夏奈「更に? 難しいな……。うーん……。そうだな、スポーツ万能で、金持ちで、面白い奴だな」

ケイコ「かっこよくなくていいの?」

夏奈「スポーツ万能で金持ちってやつにかっこ悪い奴っているか?」

ケイコ「どうだろう……。居るような気もするけど」

夏奈「大丈夫だ。スポーツをしているときはかっこよく見えるだろ?」

ケイコ「ああ、そういうこと」

藤岡(スポーツには多少の自信はあるけど……やっぱり、面白くないとダメなのか……あぁ……。オレはカナの理想には遠い男なんだ……)

リコ(よし。行こう。私が勉強を教えてあげれば、きっと藤岡くんは……私のことをぉ……)

ケイコ「ねえ、カナ。そこからもっと現実的に考えたらどうなるの?」

夏奈「やっぱり、スポーツ万能で金持ちだろうな」

リコ「藤岡く――」

藤岡「……!!」ガタッ

リコ「……!?」ビクッ

リコ(しまった!! 一足遅かったみたい……!! 藤岡くん、自力で問題を解いたのね……)

52: 2013/08/14(水) 22:25:10.19 ID:I5lbc8sGo
ケイコ「面白くなくてもいいの?」

夏奈「金持ちならそれだけで面白いだろ。私はね」

ケイコ「自分が面白ければいいんだ」

夏奈「うん」

ケイコ「よし、カナ。現実を見据えるとどうなるの?」

夏奈「どういう意味だ? 私にはスポーツ万能で金持ちの恋人はできないということか?」

ケイコ「ほら、だって、まだ中学生だし。お金持ちの恋人はまだできないと思うよ? 現実的に」

夏奈「む。確かにそうだね。ケイコの言うとおりだ。となると……」

ケイコ「うん。ほら、現実的な理想の恋人は自ずと絞られるでしょ?」

夏奈「お。私の理想の恋人はスポーツ万能な奴か」

ケイコ「そうなるよね」

藤岡「……!!」ガタッ!!

リコ(藤岡くん……その栄光を掴んだよう表情……全ての問題を解いたという自信の表れ……。私、何も手伝えなかった……はぁ……)ガクッ

ミユキ「あれー? リコちゃん、どうしたの思い詰めた顔して。悩み事でもあるの?」

リコ「別に……はぁ……」

53: 2013/08/14(水) 22:34:19.39 ID:I5lbc8sGo
ケイコ(よかった。これで藤岡くんも自信を取り戻せたはず……)チラッ

ケイコ(あ、あれ? 藤岡くんがいない……。さっきまで居たのに……。そんな……)

夏奈「それにしても随分と妥協に妥協を重ねた理想の恋人になったもんだね」

ケイコ「そ、そうかな?」

夏奈「まぁ、考えようによってはスポーツ万能な奴はプロの世界に行って、ファイトマネーとかで荒稼ぎするだろうし、問題はないか」

ケイコ「ファイトマネーって……」

夏奈「あ、年俸か」

ケイコ「どっちでもいいけど」

夏奈「私の妥協した理想の恋人に近いって言ったら、このクラスだと藤岡ぐらいか」

ケイコ「え!?」

夏奈「藤岡が1億円ぐらい稼げるようになったら、嫁に行ってやってもいいかもしれない」

ケイコ「……」

夏奈「ま、藤岡では無理か」

ケイコ(藤岡くん……がんばって……)

夏奈「あー、どこからか湧いてこないかなぁ、そんな奴」

54: 2013/08/14(水) 22:38:59.32 ID:I5lbc8sGo
廊下

アキラ「ふんふふーん」

藤岡「……」

アキラ(あ、藤岡さんだ。どうしたんだろう。黄昏ているのかな……)

藤岡「……ぁ」

アキラ「……?」

藤岡「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

アキラ「おおっ!」ビクッ

藤岡「オレは!! オレは!! 理想の恋人なんだぁぁぁ!!!!」

アキラ(藤岡さん、何かいいことがあったみたいだ……!! あんなにハツラツとした顔は初めてみた!!)

藤岡「よっっしゃぁぁぁ!!! やったぁぁぁ!!!!」

アキラ(よかったですね、藤岡さん。幸せになってくだいね……。遅刻するのでオレはそろそろ教室に戻りますけど、藤岡さんは思う存分幸せをかみ締めてください)

藤岡「やったぁぁぁ!!!!」


おしまい。

引用: みなみけ