1: 2016/01/28(木) 17:25:45.07 ID:mRlqc9mk.net
冬の寒空の下、二人が歩いていった方向を見つめながら、私は立ち尽くしていた。
つい数十分前まで感じていたはずの、酔いはもう完全に醒めちゃっていて・・・。

穂乃果「・・・駅前に戻ろう」

今まで見ていたものに背を向けて、おぼつかない足で一歩を踏み出した。

これは、私の2回目の失恋のお話。

2: 2016/01/28(木) 17:27:49.12 ID:mRlqc9mk.net
ことり「でね、海未ちゃんったら全然気づかないんだよ?」

穂乃果「あはは、海未ちゃん鈍いもんね~」

ことり「鈍いなんてもんじゃないよ!頑張っておめかししたのに、なんかみじめな気分になっちゃったもん」

そんなことを言いながら、ことりちゃんはグラスに半分ほど残っていたお酒(確か、まるごとラフランスサワー)を飲みほした。
あー、いくら海未ちゃんにストレス溜まってるからって、そんな一気に飲んじゃダメだって・・・。

ことり「あっ、すみませ〜ん!甘口ゆず酒のソーダ割りくださ~い!」

相変わらず、ことりちゃんのチョイスは可愛らしい。
対して私は辛口の日本酒だ。
高校を卒業して、かれこれ十年。今はそれぞれ働いてる私達だけど、月に一度は三人で集まってお酒を飲むのがお約束になっていた。

3: 2016/01/28(木) 17:33:37.99 ID:mRlqc9mk.net
海未「すう・・・すう・・・」

ことり「はぁ、なんで海未ちゃんなんか好きになっちゃったんだろ・・・」

穂乃果「ははは・・・」

そして、こうやって集まるたびに海未ちゃんが真っ先に酔いつぶれて、その後はことりちゃんの話を穂乃果が聞くのも、もはやお約束だ。

ことり「もう何年もこうやってアプローチしてるのに、こっちの身にもなってほしいよ」

ことりちゃんは空のグラスをいじりながら頬っぺたを膨らませてみせる。
なにこれ可愛い。

4: 2016/01/28(木) 17:40:05.82 ID:mRlqc9mk.net
海未「すう・・・すう・・・」

ことり「はぁ、なんで海未ちゃんなんか好きになっちゃったんだろ・・・」

穂乃果「ははは・・・」

そして、こうやって集まるたびに海未ちゃんが真っ先に酔いつぶれて、その後はことりちゃんの話を穂乃果が聞くのも、もはやお約束だ。

ことり「もう何年もこうやってアプローチしてるのに、こっちの身にもなってほしいよ」

ことりちゃんは空のグラスをいじりながら頬っぺたを膨らませてみせる。
なにこれ可愛い。

穂乃果「仕方ないよ、だって海未ちゃんなんだもん」

ことり「そうだよね、海未ちゃんだもんね」

「ゆず酒ソーダ割りでーす」

ことり「あ、ありがとうございます」

ことり「うん、甘くて美味しい♪」

運ばれてきたゆず酒をちびりと飲んで、ことりちゃんがニコッっと笑う。
そんなことりちゃんに見惚れて、わずかな沈黙が訪れた

何年も前から意識していた。
こういった、だれも話さない時間を作ってはいけないと。

5: 2016/01/28(木) 17:46:15.60 ID:mRlqc9mk.net
ことり「・・・ねえ、穂乃果ちゃん?」

穂乃果「・・・なに?ことりちゃん?」

声色で、私に都合の悪いことだとわかった。
だから沈黙なんて作っちゃいけなかったんだ。

ことり「私ね、今度こそ海未ちゃんにちゃんと言おうと思うんだ」

穂乃果「言うって・・・?」

ことり「海未ちゃんのことが好きだって・・・」

穂乃果「・・・」

不安そうな面持ちで、ことりちゃんはそう切り出した。
ことりちゃんの中に、海未ちゃんはいても、私はいない。
いつかはこんな日が来ることはわかっていたんだ。

6: 2016/01/28(木) 17:59:22.12 ID:mRlqc9mk.net
穂乃果「・・・そっか。うん!ことりちゃんならきっとうまくいくって!」

だったら、私に出来るのは、友達としてことりちゃんの背中を押してあげることだけだよね。

穂乃果「だから・・・ファイトだよっ!」

本心を隠して、吐き出したその声は、昔のように人に元気を与えられるものだっただろうか。

ことり「穂乃果ちゃん・・・、ありがとう!頑張るね!」

昔のように誰かの背中を押せる自分であった安堵と、ことりちゃんの背中を押してしまった後悔。
そんな相反する感情のせいだろうか、グラスにのこった日本酒を煽ったときに軽い眩暈を感じた。

7: 2016/01/28(木) 18:03:39.45 ID:mRlqc9mk.net
穂乃果「ねえ、ことりちゃん」

ことり「なに?」

穂乃果「ことりちゃんと海未ちゃんが恋人同士になっても・・・穂乃果と友達でいてくれる?」

ことり「もう、穂乃果ちゃんなに言ってるの?」

ことり「穂乃果ちゃんは私たちの一番の友達だもん!当たり前だよ!」

穂乃果「そっか・・・よかった・・・」

『一番の友達』それは何年か前にも、聞いた言葉。
そしてそれは、わたしの失恋の言葉だった。

10: 2016/01/28(木) 18:46:12.10 ID:mRlqc9mk.net
~~~~~~


ことり「海未ちゃん・・・大丈夫?」

海未「わたしはらいじょうぶれすよ~」

街灯に照らされた薄暗い道、私の前を海未ちゃんとことりちゃんが歩いていた。
酔っ払った海未ちゃんに寄り添うように、肩を貸すことりちゃん。
悔しいけれどお似合いの二人なんだよね。

穂乃果「ほんと・・・かなわないな・・・」

海未ちゃんにも、ことりちゃんにも私はかなわない。
能力とか、魅力とか、そんな問題じゃない。
ただ恋をしてからそう思うようになっていた。

11: 2016/01/28(木) 18:54:50.53 ID:mRlqc9mk.net
そんな二人を眺めながら、しばらく歩いて、ひとつの三叉路に差し掛かった。
右に行けばことりちゃんと海未ちゃんの家、左に行けば私の家だ。

ことり「今日はいろいろと話を聞いてくれてありがとう」

穂乃果「うん、こちらこそ。一緒に飲めてたのしかったよ」

この辺までは、飲んだ後に友人ならば誰もがする挨拶だ。

ことり「穂乃果ちゃん・・・わたし頑張ってくるね」

穂乃果「・・・うん、がんばってね!」

私のそんな言葉に押されて、二人は私から徐々に離れていく。
そしてまた安堵と後悔。
けれど今回は後悔のほうが強くって・・・。

12: 2016/01/28(木) 18:59:18.49 ID:mRlqc9mk.net
私のそんな言葉に押されて、二人は私から徐々に離れていく。
そしてまた安堵と後悔。
けれど今回は後悔のほうが強くって・・・。

穂乃果「・・・こ、ことりちゃん!」

だいぶ離れてしまった背中に、声をかけてしまった・・・。

ことり「穂乃果ちゃん?どうしたの~?」

ことりちゃんが不思議そうに振り返る。

今ここで、私が好きだっていったらどうなるだろう?
少しでも、ことりちゃんは悩んでくれるだろうか?

13: 2016/01/28(木) 19:10:01.61 ID:mRlqc9mk.net
穂乃果「・・・きっとことりちゃんなら大丈夫だから!海未ちゃんにガツンと言っちゃえー!」

けれど、口から出たのはそんな本心からかけ離れた言葉だった。

ことり、「・・・うん!ガツンと言ってやります♪」

私の言葉に、ことりちゃんは空いた左手を軽く上げてそう答えた。
そうして、自分とは違う道を歩く二人を、私はそのまま見送った。
冬の空の下を私以外の人と歩く、あなたの背中は遠い・・・。




それからどれだけの時間が経っただろうか。
冬の寒空の下、二人が歩いていった方向を見つめながら、私は立ち尽くしていた。
つい数十分前まで感じていたはずの、酔いはもう完全に醒めちゃっていて・・・。

穂乃果「・・・駅前に戻ろう」

今まで見ていたものに背を向けて、おぼつかない足で一歩を踏み出した。

16: 2016/01/28(木) 19:23:26.98 ID:mRlqc9mk.net
~~~~~~

真姫「・・・穂乃果?」

穂乃果「・・・?」

戻ってきた駅前で、聞きなれた声に呼びとめられた。

穂乃果「・・・真姫ちゃん?こんな時間に何してるの?」

真姫「私は仕事帰り。それより穂乃果こそこんな時間に一人で何してるのよ?アラサーだからって一人で出歩く時間じゃないわ」

少し怒ったような、心配するような、そんな表情で真姫ちゃんは私に問いかける。
真姫ちゃんは昔からそうだ。憎まれ口を叩きながらも、とっても優しい・・・。

穂乃果「・・・ねえ、真姫ちゃん」

真姫「何?」

穂乃果「近くに良いバーがあるんだ、もしよければ少し付き合ってよ?」

真姫「え?ちょっ、穂乃果!?」


誰かに話を聞いてほしかったのかもしれない、誰かに心の傷を癒してほしかったのかもしれない。
気付けば私は真姫ちゃんの手をひいて、バーの扉をくぐっていた。

38: 2016/01/29(金) 14:41:50.08 ID:s0sNPej2.net
~~~~~~


穂乃果「あ、私はハーパーをロックで。真姫ちゃんは?」

真姫「ええと・・・ブラッディメアリーを」

穂乃果「トマトジュースのカクテルかぁ、真姫ちゃんらしいね」

真姫「うるさいわね、茶化すんだったら帰るわよ?」

穂乃果「えへへ、ごめんごめん」

カウンターに座り、注文を済ませながらそんなやり取りをした。
なんでだろう、真姫ちゃんと二人で飲むのなんて初めてなのに、いつもの三人で飲むよりも気が楽だった。

真姫「それにしても、穂乃果がこんなお店を知ってるなんてちょっと意外ね。もっと騒がしいお店で飲んでそうなイメージだったわ」

ここは駅から少し離れた場所にある、こじんまりとしたバーだ。
店内は静かで薄暗いし、お客さんの年齢層も高め、確かに私のイメージとは違うかもしれない。

40: 2016/01/29(金) 14:53:14.75 ID:s0sNPej2.net
穂乃果「いやぁ、私もすっかり大人のオンナだからね。たまにはこんなお店で静かに飲みたくなるんだよ」

真姫「嘘ばっかり、どうせ絵里にでも教えてもらったんでしょ?」

嘘は言ってない。
このお店は自分で見つけたし、なにより一人で静かに飲みたくなるのは本当のことだ。
特に今日みたいに三人で飲んだ後は・・・。

真姫「それで『大人のオンナ』な穂乃果さんは、こんな時間に一人で何してるのよ?」

穂乃果「うう、言葉に棘があるね・・・」

真姫「少なくとも私の知る限りでは、こんな夜中に偶然見つけた友人を強引に引っ張ってお酒を飲ませるような人を、大人のオンナとは言わないわ」

穂乃果「・・・」

そう言われると、返す言葉もない。

真姫「別に、明日休みだったからいいけど・・・ちょうどお酒も飲みたいと思ってたし」

穂乃果「・・・ありがと」

やっぱり、真姫ちゃんは優しい・・・。

41: 2016/01/29(金) 15:05:59.34 ID:s0sNPej2.net
ほどなくして、マスターがお酒を持ってきてくれた。

穂乃果「さてと、それじゃ」

真姫「ええ、乾杯」

軽く真姫ちゃんとグラスを合わせて、ハーパーを口に含む。
喉が焼けるような感覚と、鼻を抜ける甘い香りが心地いい・・・。

穂乃果「くぅ、やっぱりキクねぇ・・・」

真姫「それ、もしかしてウイスキー?」

穂乃果「そうだよ~。真姫ちゃんも一口飲む?」

真姫「い、いらないわよそんなの!」

穂乃果「え~、美味しいのになぁ・・・」

そこで会話が途切れて、またハーパーを口に含む。
隣では真姫ちゃんがチビチビと真っ赤なカクテルを飲んでいて・・・、聞こえてくるのは昔のジャズソングと、マスターが氷を削る音だけだった。

42: 2016/01/29(金) 15:17:30.51 ID:s0sNPej2.net
真姫「・・・ねえ、穂乃果?」

穂乃果「ん?なに?」

真姫「何か・・・あったの?」

その問いかけに顔を上げると、真姫ちゃんは心配そうな顔でこっちを見ていた。

穂乃果「何かって・・・何にも無いよ?」

真姫「嘘ね」

穂乃果「嘘じゃないよ?」

真姫「だって、今日の穂乃果おかしいじゃない」

穂乃果「・・・」

私をまっすぐ見つめる心配そうな瞳に、何も言い返すことはできなかった。

43: 2016/01/29(金) 15:30:45.03 ID:s0sNPej2.net
真姫「しばらく会ってなかったとはいっても、ずっと一緒にいたんだもの。海未やことりほどじゃなくても、様子がおかしければわかるわよ」

あの二人よりも、よっぽど私のことわかってるよ。
真姫ちゃんの言葉に、ついそう思ってしまった。

真姫「ちょっと強引だったけど、せっかくこうして一緒にいるんだし、私でよければ話しぐらい聞くわ」

穂乃果「真姫ちゃん・・・」

真姫「そのかわり、お代は穂乃果持ちね?」

穂乃果「・・・私よりもお給料いっぱい貰ってるくせに」

真姫「ふふ、それとこれとは関係ないでしょ?」

そう言って真姫ちゃんは悪戯っぽく微笑んだ。
この優しさに甘えてしまってもいいのかもしれない、そう思ったら気付けば口から言葉が漏れていて。

穂乃果「ねえ、真姫ちゃんはさ・・・恋って、したことある・・・?」

グラスの中で揺れる氷に自分を重ねながら、私は初めて、誰かに自分の想いを話し始めていた・・・。

62: 2016/01/31(日) 00:48:07.62 ID:xH1UdbGb.net
~~~~~~

ことりちゃんのことをいつから好きになったのか、それははっきりとはわからない。
ただ、小さい頃はぼやけていた感情が、高校に入学する頃にははっきり恋だとわかるものになっていたと思う。

そんな淡い恋心に気付いた頃から、私はもうひとつあることにも気が付いた。


きっと、海未ちゃんもことりちゃんのことが好きだって・・・。


普通ならそこで恋敵になったんだろうけど、むしろ私は親近感を感じていた。
だって、ことりちゃんを見る海未ちゃんの瞳が、まるで自分のもののように見えたから。
それに鈍い海未ちゃんのことだから、自分の気持ちにすら気付いてないかもしれないしね。

ことりちゃんのことは好きだけど、だからといって誰かを傷つけてまで恋人同士になりたいとは思わなかった。
二人が好きだから、今の関係が心地良いから・・・、そして今になって思えば、私に勇気が無かったから。
ぬるま湯のような、平行線の関係がずっと続くことを、私は願っていたんだ。

そんな私たちに変化があったのは、μ'sを結成してしばらく経って、ちょうどユニット別での練習を始めた頃のことだった。

63: 2016/01/31(日) 00:57:01.88 ID:xH1UdbGb.net
穂乃果「それで、最近はどうなの?」

ことり「少しは進展した?」

花陽「うぅ・・・、聞いてくれる・・・?」

ユニット練習の合間、私たちはお菓子を囲みながらおしゃべりをしていた。
内容はいわゆる恋バナってやつだね。

ことり「もちろん♪」

穂乃果「ささ、お姉さんたちに話してみんしゃい!」

花陽「実はね・・・。進展どころか・・・なんだか凛ちゃん、最近真姫ちゃんとばかり話してて・・・」

不安そうな面持ちで、花陽ちゃんが話し始める。
どうして私たちがこんな話をしているかというと、事の発端は曲作りだった。
曲を作るにあたって、知識がほしい。それも出来れば身近な人の実体験がいい。
そこでことりちゃんと結託して、どっからどう見ても凛ちゃんが好きでしょうがない花陽ちゃんから、ちょこっとお話しを聞くことにしたんだ。

・・・まあ、私たちも年頃の女の子。
実際は曲作りなんてどうでも良くて、他人の恋愛事情で盛り上がりたかっただけなんだけどね。

64: 2016/01/31(日) 01:05:33.04 ID:xH1UdbGb.net
花陽「この前なんか『今日は真姫ちゃんと話があるから一緒に帰れない』って・・・」

ことり「凛ちゃんがそんなこと言うなんて、珍しいよね?」

花陽「うん、毎日一緒に帰ってたのに、あんなこと言われたの初めてで・・・」

穂乃果「それはへこむね・・・」

花陽「他にも、時々二人でこそこそ話してたりもするし・・・私が近づくと凛ちゃん気まずそうな顔するし・・・」

花陽「凛ちゃん、真姫ちゃんのことが好きなのかな・・・?」

花陽ちゃんが今にも泣き出しそうな顔で俯く。
それを見て私たちは慌ててフォローを入れる。
さすがに年下の子の涙なんか見たくないからね。

66: 2016/01/31(日) 01:11:14.77 ID:xH1UdbGb.net
穂乃果「い、いや~、そんなことないんじゃないかな?」

ことり「きっと凛ちゃんにも何か事情があったんだと思うよ?」

穂乃果「うんうん!きっとそうだよ!」

花陽「そうかな・・・?」

あ、ちょっと表情が明るくなった。
よし、もう一押しだね・・・。

67: 2016/01/31(日) 01:23:33.76 ID:xH1UdbGb.net
穂乃果「それに、もし凛ちゃんが真姫ちゃんのことを好きだったりしたら、真っ先に花陽ちゃんに相談するんじゃないかな?」

ことり「私もそう思うな。だからきっと大丈夫!」

穂乃果「うん、大丈夫大丈夫!」

花陽「穂乃果ちゃん・・・ことりちゃん・・・。ありがとう!私頑張ります!」

元気になってくれてよかった・・・。
もしこんなことで花陽ちゃんを泣かせたりしたら、それこそ凛ちゃんに顔向けできないよ。

穂乃果「さてと、そろそろ練習に戻ろっか?」

花陽「そうだね、もしこんなところを海未ちゃんや絵里ちゃんに見つかったら怒られちゃいそうだもんね」

私がそう言って立ち上がると、花陽ちゃんもつられて立ち上がった。
けれど、ことりちゃんはまだお菓子を見つめながら座ったままだ。

68: 2016/01/31(日) 01:35:59.50 ID:xH1UdbGb.net
穂乃果「どうしたのことりちゃん?もしかして、お菓子食べ足りなかった?」

ことり「う、ううん!そうじゃないの、そうじゃなくって・・・」

視線が泳いでるし、手も落ち着かない感じでなにやらモジモジと動かしている。
・・・どうしたんだろう?

ことり「あ、あのね・・・?」

そして、何かを決心したかのように私たちを見て、ことりちゃんはこう言った。

ことり「私もね・・・、二人に相談したいことがあるの!」

さっきまでとは対照的に、とても真っ直ぐなことりちゃんの瞳。
なぜだろう?その瞳に、私は微かな不安を感じてしまった。

穂乃果「・・・」

花陽「相談って?」

ことり「実は・・・私も、好きな人がいるんです・・・」

これが、私が変わらないように望んでいた関係が、徐々に変わり始めた瞬間だったんだ。

72: 2016/02/01(月) 15:04:22.69 ID:daoifdR4.net
その後のことは、正直あまり覚えていない。
花陽ちゃんのテンションがすごく高かったり、私はただただ愛想笑いを浮かべてるだけだったりした気がする。

その一方で頭の中には冷めた部分もあって・・・
マンガなんかと違って、恋ってこんなにあっけなく終わるものなんだ。
なんて思ったりもした気もする。




穂乃果「・・・ことりちゃんならきっと大丈夫だから!私、応援するよ!」

唯一はっきりと覚えてるのは、必氏になって吐き出した、そんな心にも無い応援の言葉。



ことり「穂乃果ちゃん・・・ありがとう!やっぱり穂乃果ちゃんは私の一番の友達だね!」

そして、それに答えることりちゃんのとても魅力的な笑顔だけだった。

73: 2016/02/01(月) 15:24:36.04 ID:daoifdR4.net
~~~~~~


穂乃果「いやぁ、あの時のことりちゃんはすっごく可愛かった!今でも忘れられないくらいだよ!」

真姫「穂乃果、まさかあなた今でも・・・」

穂乃果「うん、ことりちゃんが好き」

真姫「でも、ことりは・・・」

穂乃果「海未ちゃんが好き。でもさ、だからってことりちゃんのことを嫌いになれるわけじゃないんだから、仕方ないじゃん」

真姫「そうだけど・・・」

お酒を飲もうと思ってグラスに目を向けると、残っているのは氷だけだった。
横を見ると真姫ちゃんのグラスも空になっていた。

穂乃果「マスターおわかり!あと、ブラッディメアリーももう一杯」

私がそう言うとマスターは黙ってお酒の準備を始めてくれた。
二杯目が運ばれて来るまで、私たちは口を開かなかった。

74: 2016/02/01(月) 15:35:03.85 ID:daoifdR4.net
穂乃果「・・・失恋したこと自体も辛かったんだけどさ、本当に辛かったのはその後なんだよね」

新しく運ばれてきたグラスを軽く回しながら、私はようやく口を開いた。

真姫「その後って・・・?」

穂乃果「ユニット練習のたびに、二人の恋愛相談に乗ることになっちゃってさ」

穂乃果「毎回ことりちゃんと花陽ちゃんに相談されては、経験も無いのにアドバイスなんかしたりして・・・」

どんなアドバイスをしたかなんて覚えてないけど、少女マンガで得た知識を一生懸命膨らませて、もっともらしい事を言っていた気がする。

穂乃果「卒業してからも、ことりちゃんからはしょっちゅう相談されてさ、おかげで海未ちゃんについてすっごく詳しくなっちゃったよ」

真姫「穂乃果・・・」

穂乃果「もう、なんで真姫ちゃんがそんな顔するのさ?バカな奴だって笑ってくれたっていいのにさ」

真姫ちゃんがそんな子じゃないってわかっていながら、こんなことを言ってしまった。
罪悪感からだろうか、飲み下したバーボンは少し苦い。

80: 2016/02/02(火) 16:26:12.03 ID:QH1YTiep.net
真姫「笑ったりなんかしないわ、私だって気持ちはわかるから・・・」

穂乃果「そっか・・・、ありがと」

それから少しの間、私たちはただ黙ってお酒を飲んでいた。
その沈黙を破ったのは、今度は真姫ちゃんだった。

真姫「・・・ねえ、穂乃果」

穂乃果「なに?」

真姫「そんなに長い間好きでいたのに、その・・・告白したりはしなかったの?」

こういうことを聞くのは、多分気まずいんだろう。
真姫ちゃんは手に持ったグラスを見つめながら、そう問いかけた。

81: 2016/02/02(火) 16:31:10.79 ID:QH1YTiep.net
穂乃果「告白は・・・しなかったなぁ・・・」

真姫「これ以上三人の関係を壊したくないのもわかるし、二人の気持ちを考えれば躊躇うのもわかる」

穂乃果「・・・」

真姫「でも、ずっと自分の気持ちを隠し続けるよりも、その方がきっと楽になるわ。それにことりだって、もしかしたら穂乃果なら・・・」

穂乃果「・・・そんなこと、言われなくたってわかってるよ」

真姫ちゃんから問いかけられた言葉は、今まで何度も自分自身に問いかけてきたものと同じだった。

82: 2016/02/02(火) 16:41:47.23 ID:QH1YTiep.net
穂乃果「何度も考えた、何度も言おうと思ったんだよ・・・」

本当に数え切れないほど、何度も何度も・・・。

穂乃果「でもさ、言ったからってどうなるの?私だけ楽になって、本当にそれでいいの?」

真姫「それは・・・」

穂乃果「ことりちゃんは優しいもん、もしかしたら私と付き合ってくれるかもしれない。最初は同情だったとしても、そこから本物になるかもしれない」

真姫「・・・」

穂乃果「でも、そしたら海未ちゃんはどうなるの?今の私よりももっと辛い思いをするかもしれない・・・、そしたらもう三人でなんていられなくなっちゃうよ・・・」

アルコールのせいだろうか、自分でも冷静じゃないのがわかった。
大人になって、自分では少しは落ち着いたと思っていたけれど、口から零れる言葉をとめることはできなかった。

84: 2016/02/02(火) 16:48:17.92 ID:QH1YTiep.net
穂乃果「本当は言いたかったよ・・・、私の気持ちだけでも知っていてほしかった・・・」

でも言えなかった。
それはきっと、私に何かを壊す勇気も覚悟も無かったから。

穂乃果「・・・実はね、今日が最後のチャンスだったんだ」

真姫「最後のチャンス・・・?」

穂乃果「真姫ちゃんと会うまで、三人で一緒にいたの」

真姫「それって、まさか・・・」

穂乃果「ことりちゃん、決めたんだって。ちゃんと海未ちゃんに好きって言うって・・・」

85: 2016/02/02(火) 16:57:20.99 ID:QH1YTiep.net
穂乃果「きっと今頃、海未ちゃんの部屋で・・・二人・・・きり・・・」

そう口にしたら、なんだか視界が歪んで見えて・・・

穂乃果「私ね・・・最後までちゃんと・・・二人を、応援・・・したんだよ?」

真姫「うん・・・」

穂乃果「何年も・・・何年も・・・頑張った・・・んだよ・・・?」

真姫「ええ、穂乃果はよく頑張ったわ・・・」

そう言いながら、真姫ちゃんはハンカチを差し出してくれて・・・

真姫「あの二人が知らなくても、私は知ってる。・・・穂乃果がずっと頑張ってきたって」

穂乃果「・・・」

少し大人っぽい香りがするハンカチに顔をうずめて、私は静かに涙を流した。

86: 2016/02/02(火) 17:02:26.01 ID:QH1YTiep.net
~~~~~~


真姫「少しは落ち着いた?」

あれからしばらくしてから、真姫ちゃんが優しい表情でそう語りかける。

穂乃果「うん・・・。ごめんね、ハンカチ洗って返すから」

真姫「別にいいわ、こうなるってわかってて貸したんだから」

そう言いながら、真姫ちゃんは私の手からハンカチを取り上げた。

真姫「そのかわり、少しだけ私の話にも付き合ってもらえる?」

穂乃果「うん、もちろんだよ」

そして、真姫ちゃんは少し昔を懐かしむような感じで話し始めた。

87: 2016/02/02(火) 17:09:04.64 ID:QH1YTiep.net
真姫「実は私も、穂乃果と似たような経験をしたことがあるの」

穂乃果「え?真姫ちゃんも?」

真姫「ええ、でも穂乃果の想いと比べたらちっぽけなものだったわ」

軽く笑いながら、真姫ちゃんは話を続ける。

真姫「昔、私にも好きな人がいて、でもその子は他の子が好きで、私はその子からいろいろと相談されたわ。だからこそ穂乃果の気持ちもわかる」

穂乃果「そうだったんだ・・・」

そんなこと知らずに自分ばかり・・・
そう思うとなんだか恥ずかしかった。

真姫「でもね、私たちと穂乃果たちには大きな違いがあるわ」

穂乃果「大きな違い・・・?」

真姫「その二人の間には、そもそも私が入り込む隙間なんてなかったの。私が出会う前にたくさんの時間を積み上げてきて、その上にあるのがあの子たちの関係だった」

なんとなく、真姫ちゃんが好きだったのが誰だかわかった気がした。

88: 2016/02/02(火) 17:18:20.90 ID:QH1YTiep.net
真姫「だからってわけじゃないけど、私はすぐに諦められたわ」

きっとそれは嘘だ。
もしそれが簡単に諦められるような恋だったなら、私の気持ちなんて理解できっこない。

真姫「ねえ、穂乃果」

穂乃果「なに、真姫ちゃん?」

真姫「どんなに望んでも、時間が戻ることはないわ。私が二人の時間に追いつけなかったように、穂乃果が守りたかった関係には戻れない」

穂乃果「・・・」

真姫「穂乃果が望んでいたことを否定したりはしない、でもどんなに頑張っても時間は戻りもしないし、止まることもないの」

穂乃果「そうだね・・・」

それはずっと前からわかっていたことだった。
でも、ずっと諦められなかったんだ・・・。

89: 2016/02/02(火) 17:29:32.36 ID:QH1YTiep.net
真姫「だから、穂乃果には前を向いてほしいの。ことりのことを忘れろなんて言わない、今の想いを捨てろなんて言わない」

穂乃果「・・・」

真姫「でも、その気持ちを抱えながらでも、前を向いて、今や過去じゃなくて未来を見てほしい」

きっと真姫ちゃんにもいろんな想いがあったのだろう。
真剣な表情から、そのことがわかった。

穂乃果「私に・・・できるかな?」

真姫「あたりまえじゃない、あなた自分を誰だと思ってるの?」

まるで高校時代のような笑顔で、真姫ちゃんはそう言ってくれた。

穂乃果「真姫ちゃん、ほんといい女になったね・・・」

真姫「ふふ、私を誰だと思ってるの?」

そして、そう言って不敵に笑った真姫ちゃんは高校時代よりもずっと魅力的だった。

90: 2016/02/02(火) 17:38:08.63 ID:QH1YTiep.net
~~~~~~


真姫「さすがにこの時間になると冷えるわね・・・」

会計を済ませて二人でお店を出た。
真姫ちゃんは寒そうにしてるけど、冷たい風が火照った体に心地良い。

さすがにいろいろやらかしちゃった気がして、帰り際にマスターには謝ったんだけど『またおいで』と、めったに見せない笑顔で言ってくれた。
ほんといいお店を見つけたものだ。


真姫「ねえ、穂乃果。あなたこんな時間まで飲んでるってことは、どうせ明日は休みなんでしょ?」

穂乃果「うん、休みだけど・・・」

真姫「ならもう一軒付き合いなさいよ。そうね・・・カラオケでもいかない?」

穂乃果「か、カラオケ!?」

真姫ちゃんからそんなお誘いをされるなんて予想外だった。

91: 2016/02/02(火) 17:43:32.27 ID:QH1YTiep.net
真姫「そ、まだまだ夜は長いんだし別にいいでしょ?朝になるまで思い切り歌うの、どうせならベタベタ失恋ソングがいいわね」

穂乃果「真姫ちゃん・・・」

真姫「思い切り声を出して、泣きたくなったら思い切り泣いて、それで朝になったら全部忘れるの。穂乃果のせいでいろいろ思い出しちゃったんだから、嫌だなんて言うんじゃないわよ?」

きっと私のことを気遣ってくれてるのだろう。
つくづくいい女になったと思う。

穂乃果「・・・うん!この際だから思い切り歌おう!」

真姫「ええ、それじゃ行きましょうか」

真姫ちゃんがそう言って歩き出した。

私もいつか、真姫ちゃんみたいになれるだろうか?
ことりちゃんへの気持ちも、今のこの想いも全部抱きしめて、それでも前を向けるだろうか?

私の少し前を歩く、あなたの背中は遠い。


おわり

93: 2016/02/02(火) 17:45:16.43 ID:QH1YTiep.net
これで終わりになります。
お目汚し失礼しました。
こんな文章を読んでくださってありがとうございます。

たいして長くもないのに、思いのほか時間がかかってしまいすみません。

94: 2016/02/02(火) 17:54:13.62 ID:xyiP9hZK.net
ここでおわるんかーい

98: 2016/02/02(火) 21:31:07.43 ID:i+6lifL6.net

ことりの告白はどうなったのか気になる
続き期待

引用: 穂乃果(27)「あなたの背中は遠い」