1: 2009/05/06(水) 19:02:36.08 ID:j7Cb4uBG0
古泉「ほう、長門さんの手作りクッキーですか」

みくる「きっとキョンくん喜びますね」

長門「コクリ」

ハルヒ「みんなお待たせ!」ドン

長門「あっ…!」

ボロッ


長門「そんな……」

7: 2009/05/06(水) 19:05:32.72 ID:j7Cb4uBG0
みくる「長門さん…」

ハルヒ「んっ?みんなどうしたの?」

ハルヒ「……あっ!ちょっと!なによこのゴミ!」

長門「!?」

ハルヒ「部室はいつもキレイにしなさいって言ってるでしょ!」

ハルヒ「散らかしたならちゃんとゴミ箱に捨てる!」ポイッ

長門「酷い…」

10: 2009/05/06(水) 19:09:12.48 ID:j7Cb4uBG0
長門「あ、謝って…」

古泉「!!」

みくる「!!」

ハルヒ「えっ?なに?」

長門「私のクッキーを捨てたこと…謝ってほしい」

ハルヒ「はっ?クッキー?なに言ってるの、有希?」

ハルヒ「ああ、もしかしてさっきのゴミのこと?」

長門「……そう、あなたが捨てたゴミは私が作ったモノ」

長門「だから謝ってほしい…」

16: 2009/05/06(水) 19:13:38.05 ID:j7Cb4uBG0
ハルヒ「ちょっと待ってよ!謝るも何もあんたのクッキー…」

ハルヒ「床に落ちちゃってて食べれないじゃないの…だから捨てたのよ」

長門「そ、その原因を作ったのが…あなた…」

みくる「(長門さん、頑張ってください!)」

ハルヒ「原因って…クッキーが床に落ちたこと?」

長門「そう」

ハルヒ「はぁ~?なんで私が落としたとか言われなきゃいけないのよ!」

ハルヒ「自分のせいなのに人に擦り付けるなんて最低よ!」

長門「……ううっ」

25: 2009/05/06(水) 19:19:28.06 ID:j7Cb4uBG0
古泉「でも僕たちは見ていましたよ…」

古泉「涼宮さんがぶつかって長門さんがクッキーを落とすのを…ねぇ朝比奈さん?」

みくる「は、はい!私も見てました」

長門「!!」

ハルヒ「で、でも!ボケッと突っ立てる有希が悪いのよ!」

長門「そんな…」

古泉「でもぶつかったのは事実ですよね?」

ハルヒ「ううっ…それは…」

35: 2009/05/06(水) 19:25:19.52 ID:j7Cb4uBG0
長門「私はあなたが故意でやったとは思っていない…」

長門「確かにあなたを避けれなかった私にも非があるのも確か…」

長門「だからそれについては謝る…ごめんなさい」ペコッ

長門「だ、だからあなたも謝ってほしい。お願い」

古泉「長門さん…」

みくる「涼宮さん!お願いです!長門さんに謝ってください!」

古泉「僕からもお願いします…涼宮さん」

ハルヒ「なっなによ…みんなして」

39: 2009/05/06(水) 19:29:15.67 ID:j7Cb4uBG0
ハルヒ「あ~分かったわよ!謝ればいいんでしょ!謝れば!」

みくる「涼宮さん」

古泉「良かったですね、長門さん」

長門「コクリ…」

ハルヒ「はい、ごめんなさい!はい、終わり!これでいいのよね!」

みくる「……」

古泉「……」

長門「……」

ハルヒ「この件はもうこれでお終いよ!後でぐちぐち言ったら氏刑だからね!」

45: 2009/05/06(水) 19:33:30.94 ID:j7Cb4uBG0
長門「あ、あう…」

ハルヒ「なによ、有希?なんか言いたそうだけど?」

―ガチャッ―

キョン「ふう~遅れてすまんな…」

ハルヒ「ちょっと!キョン!来るの遅いわよ!」

キョン「ああ、掃除が長引いてな……んっ?みんなどうかしたのか?」

古泉「い、いえ…」

ハルヒ「それよりもキョン!今日は特別にあんたに渡す物があるのよ!」

キョン「えっ?おれに?」

ハルヒ「はい、これ。私が作ったクッキーよ!」

長門「!!」

58: 2009/05/06(水) 19:41:15.49 ID:j7Cb4uBG0
キョン「おい、これハルヒが作ったのか!?」

ハルヒ「そうよ、あんたのために一生懸命作ったんだから感謝して食べることね!」

長門「そんな……」

キョン「おっ!こいつはなかなか美味いぞ!」

ハルヒ「ほんと?」

キョン「ああ、ほんとだ。こんな美味いクッキー今まで食べたことない」

長門「やめて…」ポロポロ

ハルヒ「他の人が作るクッキーよりも?」

キョン「そうだな。ハルヒのを食べてしまえば他の奴のクッキーはいいかもな」

長門「酷い…」ポロポロ



67: 2009/05/06(水) 19:45:36.63 ID:j7Cb4uBG0
キョン「それにしてもこのクッキー美味いな…何枚でもいけるぞ」ポリポリ

長門「あっ…あっううっ…」

長門「ダメ…それ以上食べないで」バッ

キョン「あっ!」

ボロッ

長門「しまった…」

キョン「おいっ長門!なんてことするんだ!」

ハルヒ「酷いわ!私が一生懸命作ったクッキーを…」

長門「違う…これはその…」

キョン「長門!ハルヒに謝れ!」

長門「!!」

82: 2009/05/06(水) 20:02:45.94 ID:1NntUzxt0
長門「・・・・・・・・・」

キョン「おい、長門!」

長門「・・・ごめんなさい・・・・」

ハルヒ「・・・・ふん!いいわよ、許してやるわ!」

    「私は有希と違って、心が広いからね!」

キョン「もう、こんなことしちゃダメだぞ」

長門「うぅ・・・・」バッ

キョン「おい!どこ行くんだ、長門!」

85: 2009/05/06(水) 20:11:04.86 ID:1NntUzxt0
キョン「おいおい・・・どうしたと言うんだ」

古泉「キョン君、実はですね・・・・」ゴニョゴニョ


キョン「な、長門もクッキーを焼いていたのか!?

    それで、床に落ちてしまったのか・・・・」

古泉「ええ、それで落としてしまった原因は・・・・」ゴニョニョ

ハルヒ「ち、ちょっと古泉くん・・・・!」

キョン「・・・・・ハルヒ!!」

92: 2009/05/06(水) 20:18:31.41 ID:1NntUzxt0
キョン「ハルヒ、事情は聞かせてもらったぞ・・・・」

ハルヒ「あれは事故よ、事故!

     わざとそんなひどいこと、するわけないでしょ!!」

キョン「だが自分の作ったものだけ食わせておいて・・・・

    かたわらにいた長門が、かわいそうだろう!」

ハルヒ「そんな・・・!キョンだって、こんな美味しいクッキー食べたら

     他はいらないって、言ったじゃない!」

キョン「・・・事情を知ったら、もう食う気が失せたさ」

96: 2009/05/06(水) 20:21:09.69 ID:1NntUzxt0
ハルヒ「わ、私だって・・・・キョンにクッキー食べてもらいたかっただけなのに・・・・!」

キョン「・・・・・・・とにかく、俺は長門の方に行ってくる・・・・

    お前はあとで、改めて長門に謝罪しろよ!」ガタンッ

ハルヒ「ううぅ・・・・・グスン」

みくる「涼宮さん・・・・」

99: 2009/05/06(水) 20:30:53.43 ID:1NntUzxt0
そうだバックレて他の人に任せよう

103: 2009/05/06(水) 20:35:21.08 ID:1NntUzxt0
長門「彼に嫌われてしまった・・・・

    もうクッキー作っても、食べてもらえない・・・・」

キョン「おーい、長門ー?」

長門「!彼が・・・来る・・・」

106: 2009/05/06(水) 20:43:59.17 ID:1NntUzxt0
キョン「長門!」

長門「・・・・ごめんなさい・・・」

キョン「いいよ、もう。事情は分かった

    俺の方こそごめんな キツイこと言った」

長門「・・・!」

キョン「さ、部室に帰ろうぜ。こんなとこに座ってないで。

    あいつも勝手なヤツだけど、謝るってさ」

長門「・・・・」コクッ

112: 2009/05/06(水) 20:57:29.27 ID:1NntUzxt0
ハルヒ「有希、ごめんなさい・・・・」

長門「・・・・いい」

キョン「いいってのは、許すってことだよな」

長門「そう」

古泉「ふふっ、これで一件落着ですね」

みくる「そうですね!」

キョン「ハルヒ、あまり意地悪なことするなよ」

ハルヒ「分かったわよ・・・・」

113: 2009/05/06(水) 21:06:42.73 ID:1NntUzxt0
キョン「・・・長門、お前が焼いてくれたクッキーだけど・・・」

長門「あっ・・・・」

キョン「俺のために、焼いてくれたのか・・・?」


長門「・・・・・・・・そう」

キョン「そうか・・・・・ありがとな。」

長門「もし・・・良かったら、また・・・・焼いてあげる・・・」

キョン「ああ。よろしく頼むよ。」

長門「・・・・・・///」


オワリ

132: 2009/05/06(水) 21:54:37.95 ID:8hVFrguWO
じゃあ失礼して>>47から



「あやま、る………?」

「ああ、そうだ!長門、お前には分からないかもしれんがな、ハルヒは一生懸命作ってくれたんだぞ」

「………………」

「それをお前、落として駄目にするなんて…」

長門は俯いたまま黙っていた。
ハルヒはその姿をギッと睨んでいる。


「………長門、ハルヒに謝れ」

135: 2009/05/06(水) 22:10:45.86 ID:zbXQEvox0

俺は長門が結構好きだった。
だから普段からも寛容にしてきたつもりだったのだが。

「……なによ、有希、謝らないわけ?」

「…………」

頼む、長門。
謝ってくれ。

しかし願いは届かなかった。

「……………」

「!!!」


136: 2009/05/06(水) 22:24:52.22 ID:zbXQEvox0

「最っ低!!!」

長門に掴みかかろうとするハルヒ。
俺は慌ててその身体を抑えた。

「おいっ長門…ハルヒも落ち着けよ」

「何よキョン!あんた有希の味方すんの!?…大体あんたがいつも有希を甘やかすからいけないんでしょ!?」

俺はぐっと詰まった。
確かに俺はさっき、自分自身そう思っていた。

141: 2009/05/06(水) 22:40:11.20 ID:zbXQEvox0

俺は長門を甘やかしていたのだろうか。
でも長門は、こんなことをする奴だっただろうか。

さっき見た光景は、どうしても信じられないものだった。

「長門…」

床に落ちて砕けたクッキー。
部室の空気も、このクッキーのようにバラバラだった。

143: 2009/05/06(水) 22:42:47.87 ID:zbXQEvox0

縋るような気持ちで、長門の小さな頭を見る。
お前は今、何を考えているんだ。

そして。

長い沈黙のあと、ポツリと長門が呟いた。


「……………………帰る」


146: 2009/05/06(水) 22:49:49.21 ID:zbXQEvox0

俺は何も言えなかった。
ああ、そうか、と。暴れるハルヒの首根っこを掴みながら、その小さな背中を見送った。






その後はもう最悪だった。
ハルヒはぐちぐちと長門のことを罵り続けるし、古泉も朝比奈さんも、暗い表情でそれを聞いているだけで。
俺はただ信じられない気持ちで、元凶であるクッキーを捨てた。

152: 2009/05/06(水) 22:59:56.15 ID:zbXQEvox0

「ん……?」

ちりとりで残骸を捨てたあと、そのごみ箱の中に、俺は何かを見つけた。
ハルヒが作った薄いきつね色のクッキーとはまた違う、少し焦げたような、単調な丸いクッキー。
砕けてはいたが、判断するには困らなかった。

「ふむ…」

誰かが部室で食ったのか?
何にせよ、今日は厄日だな、クッキーの。

「ちょっとキョン!もう帰るわよ!」

「……おう」

俺はそのことを誰にも聞かず、みんなと揃って部室を出た。

154: 2009/05/06(水) 23:06:39.30 ID:zbXQEvox0



「ただいま」

「おかえりキョンくん!」

「おう」

妹の無邪気な笑顔は、暗い気分から少しだけ俺を救ってくれた。

飯を食って、風呂に入り、ベッドの上で今日のことを振り返る。

俺のためにクッキーを作ったハルヒ。
それを落とした長門。
何も言わずただ傍観していた朝比奈さんと古泉。

ふむ…この奇妙な違和感はなんだろう。

156: 2009/05/06(水) 23:11:46.51 ID:zbXQEvox0

そもそも、何故長門はあんな行動に出たんだ?
普段からあいつは積極的に行動しない。
それも観察対象であるハルヒに、あんな…?

見えてきそうで見えてこない出口に、ため息をこぼす。


ふと、目をやった携帯が光り出した。

159: 2009/05/06(水) 23:17:15.28 ID:zbXQEvox0

着信は古泉からだった。
なんとなく予想がついていた相手だ。
今日のことは、自称ハルヒの精神分析スペシャリストからも聞いておきたかった。

「もしもし」

「夜分にすみません、古泉です」

「ああ」

何かを考えこむような古泉の声に、ジョジョに回り始めていた眠気が霧散する。


163: 2009/05/06(水) 23:23:35.49 ID:zbXQEvox0

「俺も電話しようかと思っていたところだ」

「そうですか。やはり、今日のことですよね」

「そりゃあな」

実は…と言いにくそうに古泉が話し出す。
その話に俺はまた頭を抱えることになるのだが。

167: 2009/05/06(水) 23:33:29.24 ID:zbXQEvox0

「実はですね、今日部室にクッキーを持ってきたのは、涼宮さんだけではなかったんです」

「……あのゴミ箱に入っていたのは、もしかして」

「お気づきになっていたんですね。ええ、あれは、長門さんが貴方のために作ってきたクッキーなんです」

「なっ…それじゃあ、何で、」

何で長門が作ったというあのクッキーは、俺に渡されなかったんだ…?

「それはですね………」







「…そうか、だからか」

「ええ、我々もまさか長門さんがあのような行動に出るとは思いませんでした」


169: 2009/05/06(水) 23:46:27.05 ID:zbXQEvox0

「ハルヒもハルヒだ。自分の非を認めることが出来ないなんて…少しは成長したと思ってたんだがな」

「彼女はいろいろな部分で人より秀でていますからね。他人に屈するのは嫌いなのでしょう」

しかしそれは、ハルヒが今後生きていく上で、確実にマイナスにしかならない。
なんとか気づかせてやりたいと思う反面、その難しさも理解していた。

「なあ、古泉」

「はい」

「どうしてお前と朝比奈さんは、あの時あの場所でそのやり取りを俺に教えてくれなかったんだ?」

古泉は一瞬だけ押し黙ると、

「すみません。あの場で僕らが口を出せば、確実に閉鎖空間が生まれると分かっていましたので」

ってことは、あの時、長門がハルヒのクッキーを落とした時は、閉鎖空間は出てなかったのか?

「ええ、その報告はありませんでした」

「ふむ……」

173: 2009/05/07(木) 00:01:19.03 ID:j4Ugqz650

「おかしいな、俺はてっきりデカイ閉鎖空間が生まれてると思ってたんだが…」

「それについては、一応結論がついています」

遠まわしに渋るような言い回しに、首をかしげる。
一体どんな結論なんだ。聞かせてくれ

「わかりました。…まず、涼宮さんが、貴方のクッキーの感想に喜んでいたというのがひとつ。
もうひとつは、事情を知らない貴方が、涼宮さんの味方についた」

「…………それは」

「先のやり取りによって、涼宮さんは長門さんに対する負い目がありました。しかし、それを帳消しにするような出来事…
つまり貴方が涼宮さんの肩を持ち、ある意味での敵となっていた長門さんへの失望と疑惑を敏感に感じ取り、結果、涼宮さんは閉鎖空間を生まなかった」

「だがハルヒは確かにあの時怒ってたぞ」

「ええ、しかしそれは表面的なものです。彼女の本心は、不思議な絆のある貴方達の仲が険悪になったことへの喜びと愉悦。
…そう、我々は結論づけています」

183: 2009/05/07(木) 00:15:08.00 ID:j4Ugqz650

「……………」

正直、聞かなきゃ良かったってのが感想だ。

「申し訳ありません。僕も配慮に欠けていました」

「いや、聞いたのは俺だ。…しかし、俺はその結論を信じたくはないな」

ハルヒはそんな奴じゃないとか、そういうのは別にして、人の不幸を喜ぶような奴だとは思いたくない。
何かもっと別の理由があったんだろうさ。

「ええ…もしかしたら、そうかもしれませんね」

「ああ、もうこんな時間か。サンキューな、古泉」

「いえ、長々とすみませんでした」

「いや…ああ、それと、クッキーの話はこれで終わりにしよう。俺は個人的に長門に謝ることにする。
この話を出すと、ハルヒはまた怒りだすだろうからな」

「同感です。…それでは」

「おう、おやすみ」


ピッ

184: 2009/05/07(木) 00:16:30.86 ID:j4Ugqz650

「ふう…」


とりあえずは、一件落着だろうか。
いや。
まだ何か、何かがひっかかる。

喉に小骨が引っ掛かったような、小さな違和感。
しかしそれについて詳しく考える暇もなく、俺は睡魔の波に捕らわれた。



188: 2009/05/07(木) 00:24:23.21 ID:j4Ugqz650


「おっはよー!キョンくん!」

「ふごおッ!!」

寝ていた俺の腹に、妹のヒップドロップがずしりと決まる。
息が止まりそうな衝撃に、慌てて刺客を振り落とした。

「おまっ、そろそろその体重じゃキツイぞ!」

「ええ~」

「ええ~じゃない!まったく…」

だがしかし一発で目が冴えたという点は評価すべきだろう。
人間凶器を足で追い出しながら、痛む腹をゆっくりとさすった。


192: 2009/05/07(木) 00:31:09.65 ID:j4Ugqz650

「いってきます」

「いってらっしゃーい」

陽気な妹の声に、こいつはまだ悩みといえる悩みを抱えたことがないんだろうな、と思いながら言えを出た。
昨日の古泉の言葉から分かった、長門の行動の理由。

やはり俺は長門に謝らなくてはいけないだろう。
知らなかったとは言え、あんな風に怒鳴られては。

反論も言い訳もせず部室を去った長門は、あの時何を思っていたのだろう。

194: 2009/05/07(木) 00:39:48.47 ID:j4Ugqz650

「よう、ハルヒ」

「あら、おはようキョン」

ハルヒは別段、変わりはなかった。
むしろいつもより大人しくすら感じられた。

「何だ、今日は大人しいな」

「何よそれ!…まあ、昨日のことはあたしも少し反省してるわよ」

向こうからその話題を振られるとは思っていなかったが、せっかく流れがそうなったので、少しばかりそれに言及することにした。

「そうかい、ま、反省が出来るってのは良いことじゃないか」

「何よ偉そうに!」

「いやいや称賛してるのさ」

199: 2009/05/07(木) 00:47:19.26 ID:j4Ugqz650

「俺は、大切だと思うぞ」

「……何がよ」

「そうやって、自分の非を認めることが。特にお前なんか、プライド高いからなー」

こんな風に、冗談めかして本心を話していけば良いのか。
うるさいわねー、と俺を睨むハルヒの目も、心なしか穏やかだった。




「俺は、そうやって過ちを認めることの出来る奴が、好きだ」








『…………………そう』

202: 2009/05/07(木) 00:54:18.28 ID:j4Ugqz650




授業も終わって、ようやく昼飯だ。
弁当を広げている谷口達を見て、さっさと食いたい衝動に駆られたが、俺は弁当を持って立ち上がった。

「おい、キョン、何処行くんだ?」

「ああ、ちょっとな」

「なんだよ涼宮と昼飯かあ?」

「そんなんじゃねえよ」

おっさんのような声色の谷口に呆れ顔を残し、裏庭に向う。
結構急いだつもりだったが、相手はすでにそこにいた。



「よう、長門」

215: 2009/05/07(木) 01:13:02.56 ID:j4Ugqz650

「わざわざ悪いな、長門」

「…良い、私も、貴方に伝えたいことがあった」

長門の前にはカレーパンやチョココロネや焼きそばパンなどの菓子パンが大量にあった。
メロンパンを齧りながら、長門が俺を見る。

「そうか。あのな、長…」

「待って。私に先に言わせてほしい」

いつもより、ほんの少しだけはっきりとした声だった。
俺は驚きながらも、それに応じる。



「昨日は、ごめんなさい」

222: 2009/05/07(木) 01:33:23.10 ID:j4Ugqz650

「あ、ああ…いや、あれは仕方ないさ、その前にハルヒがやったことを考えると…
例え悪気がなかったとしても、長門が仕返ししたくなる気持ちは分かる。って、あ、そうだ、俺の方こそ謝んなきゃな」

長門が再びメロンパンを齧りだす。
その姿は小動物のようで、不覚にも和んでしまった。

「事情もしらないのにあんな風に怒鳴っちまって、悪かったな、長門」

小さな頭が左右に揺れる。

「…良い、あなたは、気にしないで」

「お詫びと言っちゃなんだが、これ」

俺はポケットからビスコを取りだした。
妹のやつだ。


225: 2009/05/07(木) 01:34:42.41 ID:j4Ugqz650
「とりあえず、なんか渡そうと思ってさ…こんなんで悪いが、クッキーありがとな」

赤いパッケージに、白い指が伸びる。
戸惑うように、袋をなぞる。

「…良いの?」

「おう」

長門はふわりと微笑んだ。



「……ありがとう」

226: 2009/05/07(木) 01:42:54.30 ID:j4Ugqz650




「さて!団活始めるわよっ!」

「やれやれ、また元気だなハルヒの奴」

ひとりオセロというひどくつまらなそうな事をする古泉にぼやく。
古泉は手を止め、いつもの笑みを作った。

「元気が一番ではないですか」

元気すぎるのも考えものだけどな。

「ふふ、おっしゃる通りです。…さて、黒にしますか白にしますか?」

「……黒」

「かしこまりました」


窓際の長門をちらりと見る。
いつものように、分厚いハードカバーの本を読んでいた。

233: 2009/05/07(木) 01:56:04.20 ID:pTB9W1TMO

古泉が3度ほど負けた後、パタンと小さな音が団活の終わりを告げた。

「ふうむ…また連敗ですか」

「お前勝つ気ないんだろ」

「いえいえ」

どちらともつかないような顔をして古泉が笑う。
こいつが俺に勝つ日なんて来るのかねえ。

「あ、朝比奈さん、着替えますか」

「うん、ごめんね二人とも」

「いえいえ」


古泉と連れ立って廊下へ出る。
夕刻の部室棟は、空気すらも茜がかっているような気がした。

237: 2009/05/07(木) 02:02:48.63 ID:pTB9W1TMO

「なあ、古泉」

オオ、と轟くような歓声が、コンピ研の方から聞こえてきた。
何をしてるんだろうな、あいつら。

「どうかしましたか?」

「あー…いや、大したことじゃないんだが」

「大したことではなくとも、それを語り合うのが友人というものでしょう」

ほう。それは俺とお前が友人だと、遠回しに主張しているのか?

「ふふ、冗談です」

「冗談かよ。…いや、まあ、ほんとに大したことじゃないんだが」



「…古泉、最近さ、何かを感じないか」

238: 2009/05/07(木) 02:10:49.93 ID:pTB9W1TMO

「何か…とは具体的に何でしょう」

「それが分かればこんなに抽象的な言い方はしない。いや、まあ、お前が何も異変がないと言うなら別に良いんだ」

俺の取り越し苦労だろうか。
いや、きっとそうだろう。

「…我々機関は何も関知していませんが、何か気になることでも?」

探るような古泉の目から視線を逸らす。

「いや、特にそういう訳じゃない」

「そうですか」

「何もないなら、それで良いんだ」



扉の向こうから朝比奈さんの声が掛かる。
制服姿の彼女を拝む為に、いそいそとドアを開けた。

264: 2009/05/07(木) 07:42:00.05 ID:pTB9W1TMO
起きたらよく分からん流れになってる
保守ありがとう
そういうこまけえ話は本スレとか原作スレでやればいいんじゃないかい

272: 2009/05/07(木) 10:44:17.72 ID:pTB9W1TMO
携帯からす



翌日、土曜日


定例の不思議探索のために家を出た。
遅刻したら罰金だから!という楽しそうなハルヒの声が頭の中でリフレインする。

いい加減、割り勘にしてはくれないものか。


「遅いわよ、馬鹿キョン!」

「集合時刻は守ってるだろう」

「一番最後に来た人が奢り!団長命令なんだからね」

やれやれ。

既に揃っているSOS団の面々を一回り眺め、ため息をつく。

「溜め息を吐くと幸せが逃げますよ」


黙れ。

273: 2009/05/07(木) 10:53:09.10 ID:pTB9W1TMO

さて。

俺の奢りの喫茶店で、くじ引きをする。
くじの結果、俺とハルヒと朝比奈さん、長門と古泉になった。


「じゃ、しっかり不思議を探しなさい!」

「了解しました」

「…………」

相変わらずの笑顔で答える古泉と、無言で頷く長門。
その身長差は親子並みと言えるだろう。


左に二人を見送ったあと、俺たちも歩き出した。

275: 2009/05/07(木) 11:06:55.19 ID:pTB9W1TMO

この面子で不思議探索とは、中々珍しい。
やたらと男共の目を引く二人は、そんな視線に気付くことなく、楽しげに笑っていた。





不思議を探す、と銘打ってはいたが、この日も例に漏れず地域散策となった。

「このクレープおいしいわね」

「えへへ、クレープなんて久しぶりです」

またしても俺の奢りとなった訳だが、まあ、朝比奈さんの笑顔が見られただけで良しとしよう。

「キョン、あんたのそれも一口寄越しなさい!」

「あ、おいハルヒ!」

通常の二倍はあろうかという一口に、俺のクレープは無残な姿となった。

ったく、得意気な顔してクリーム付けてりゃ世話ないぜ。

276: 2009/05/07(木) 11:18:36.91 ID:pTB9W1TMO



「さて!みんな食べ終わったみたいだから、午後の組分けするわよっ」

ファミリーレストランの一角で、再びくじ引きが行われる。
今度は俺と長門、朝比奈さんと古泉とハルヒだった。

印のない爪楊枝の先をあひる口で睨む団長様。

何度見たって結果は変わらないんじゃないか、ハルヒ。


「…うるさい!」

279: 2009/05/07(木) 11:47:41.47 ID:pTB9W1TMO

「さて、長門、何処に行く?」

やはり図書館だろうか。
そう思って図書館の方に身体を向ける。

「…………こっち」

くん、と服の裾が引っ張られる。
下から、子犬のような瞳が俺を見上げていた。


「……今日は、こっちに行きたい」

「あ、ああ…」

長門が俺を引っ張ったのは、大型デパートの方向だった。

280: 2009/05/07(木) 11:59:27.99 ID:pTB9W1TMO

「何か買うのか?」

「…分からない。でも、見て周りたい。」

見て周る、か。
そいつは随分アクティブだな。

「…………駄目?」

請うような響き。
長門にそう聞かれて駄目だと言う男などいるのだろうか。

「いや、いいぞ」

「ありがとう」

目元が優しく動く。

長門が歩き出す。

人の波に飲まれる。


俺は、動けない。

303: 2009/05/07(木) 16:57:57.36 ID:+MAUjTXxO






俺と長門は、集合時間ギリギリまでデパートを見て回った。
いつもは図書館で本を読むだけだったせいか、今日の探索は新鮮だった。

長門に似合う服を見てやり、小物なんかも眺め、ペットショップで和む。


「長門、楽しかったか?」

「…とても」

小さな包みを宝物のように指先で抱え、長門ははにかんだ。
包みの中身は指輪だった。
青くて小さな石のついた、銀色の。


「そうか」


俺は、それだけしか、言えなかった。
長門の後ろ髪に手を伸ばしかけて止め、行き場を失った掌を、グッと握り締めた。

306: 2009/05/07(木) 17:15:40.88 ID:+MAUjTXxO



「おっそーい!ギリギリよ!」

「間に合ってるだろ、怒るなよ」

「団員たるもの10分前行動を心掛けなさい!」

また無茶苦茶なことを言う奴だ。
俺はそれ以上反論せず、やれやれと肩を竦めた。

「ま、これで全員揃ったから、解散ね!また月曜日に会いましょう!」

腕組みをしてハルヒが言い放つ。
月曜日が憂鬱だぜ。

「うふふ、皆さんさようなら」

ああ、朝比奈さんが行ってしまう。
夕日の中、にこやかに手を降る朝比奈さんは、もはや一枚の絵だった。

307: 2009/05/07(木) 17:19:58.98 ID:+MAUjTXxO

「それじゃあ、あたしも帰るわ!じゃあね!」

「さようなら、涼宮さん」

「おう、じゃあな」

「………………」


そして長門と古泉も、それぞれの方向へ歩き出す。
俺も帰ろうと背を向けたが、足が、止まる。

大きく息をついてから、人込みを飛び抜けるその高身長野郎を、足早に追いかけた。

309: 2009/05/07(木) 17:36:18.58 ID:+MAUjTXxO

「おい、古泉」

近付いて来る気配で悟ったのか、呼び掛ける前に古泉は振り返った。
詮索も、質問もされたくなかった俺は、矢継ぎ早に問う。

「お前、今日長門と何処行った?」

「長門さん、ですか?ええと…図書館ですよ。長門さんと言えば図書館でしょう。一体どうしたんで、」

「そうか、サンキュな」


俺を呼び止める古泉の声を無視し、紛れるように人の群に隠れた。
誰にも言えはしなかった。
言えるはずも、なかった。

314: 2009/05/07(木) 18:20:54.54 ID:+MAUjTXxO

どんなに嫌でも必ず月曜はやって来る。
憂鬱な気分は俺から元気を吸い取り、どんどん膨れ上がっていった。





「あら、キョン、おはよ」

「………よう」

「何よ、萎びた茄子みたいな顔して」

「誰が茄子だ、誰が」

突っ込む声にも力が入らない。
一日中確証のないことを考えていたせいで、寝不足だった。

「もう…シャキッとしなさいよ」

「……ああ」


チャイムと共に岡部が入ってきた。
机に突っ伏して2、3秒もすると、俺は意識を失った。

324: 2009/05/07(木) 19:46:56.35 ID:+MAUjTXxO




「おいキョン!昼飯食おうぜ!」


全く、無駄に元気な奴だ。
そのテンションの高さが少し羨ましい。

「ああ」

「どうしたの、キョン。今日は朝から元気がないみたいだけど」

何でもないさと答え、弁当を開く。
本日のメインディッシュはハンバーグだ。

「そういえばよお」

おい谷口、飲み込んでから話せよ、唐揚げ見えてるぞ。

「んぐ、おお、悪い悪い」

口の中を空にした谷口が、意気揚々と語り出す。

「そんでさ、お前ら知ってる?3組の山梨と千葉、デキてるらしいぜ」

なんだ色恋話か。

327: 2009/05/07(木) 20:18:08.01 ID:+MAUjTXxO

まあ谷口が喜々として持ってくる話といえば、そこの辺りくらいしかないだろう。

「へえ、山梨さんってあの可愛い子?」

「そう!俺的Aランクの貴重な生き残りだよ畜生、狙ってたのによお」

まあ、ご愁傷様だな。

「冷てぇなあ、キョンよ」

「あはは、それにしても谷口、どうして二人が付き合ってるっつ知ってるんだい?」

「ん?ああ、たまたま聞いたんだよ。それに見ちまったし」

見た?何をだ?

「なんとあいつら手作り弁当食ってるんだとよ!」

「手作り弁当?」

「おうよ!…ああ、俺も手作り弁当欲しいぜ畜生」

329: 2009/05/07(木) 20:26:02.85 ID:+MAUjTXxO

話をまとめると、何日か前、階段の踊り場で恋人に弁当を渡すAランクの女生徒を見掛けたらしい。

はは、お前望みないな。

「彼女からの手作り弁当だぜ?畜生」

「まあ、料理が上手い子は良いよな」

「そうだねえ。キョンも涼宮さんに作ってもらえば?」

…ったくお前らは必ずその方向に話を持っていくよな。

「キョン!涼宮から弁当貰ったら千円で売ってくれ!」

「阿呆か」


呟いてハンバーグを頬張る。
あいつが自主的に弁当なんか作ってくるか。
まあ、クッキーは、あれだけどな。

「だが確かに、手作り弁当なんてポイント高いよな」





『……………そう』

330: 2009/05/07(木) 20:36:16.96 ID:+MAUjTXxO



放課後。

部室の扉を開けると、まず窓辺で本を読む長門が目に入った。
ただ静かに活字を追うその姿にホッとする。

ふ、と目が合う。

「…よう」

長門が薄く笑んだ気がした。


「あ、キョンくん、こんにちは」

メイド姿の朝比奈さんが、スカートをふわりと揺らしながら振り返る。


331: 2009/05/07(木) 20:40:23.62 ID:+MAUjTXxO

「こんにちは、朝比奈さん」

「うふっ」

朝比奈さんは意味深に笑うと、俺の為にお茶を注いで下さった。
とりあえず、いつもの席に着く。

「こんにちは」

「おう、ハルヒはまだなのか」

「すぐにいらっしゃいますよ」

古泉が手元のトランプを切り始めた。

「ババ抜きでも如何です?」

「そうだな」


そして古泉が2度負けた後、ハルヒが威勢良く入って来た。

「やっほー!」

そんなに叫んでも、山彦は返ってこないぞ、ハルヒ。

334: 2009/05/07(木) 20:52:24.86 ID:+MAUjTXxO




翌日は、雨だった。


薄暗く曇った空に、しとしとと降り落ちる雨水。
坂道の上から下を見渡せば、綺麗に傘の花が咲いていた。

「全くもう…雨の日の傘ほど鬱陶しいものはないわよね」

どうやら他の傘とぶつかって滴の嵐をまともに受けたらしいハルヒが、忌々しそうに空を睨む。

「まあ、場所も取るしな」

「さっさと止めば良いのに!」

お前が本気で望めば、すぐに止まるだろうさ。

肘をついて雨空を見上げるハルヒ。
多分こいつには、空の向こうでも見えてるんだろう。

336: 2009/05/07(木) 21:01:59.74 ID:+MAUjTXxO

さて、四限になる前、俺は一通のメールを受け取っていた。

送り主は、長門。

淡々とした文面のはずなのだが、何処か以前と違っているような気がした。
気のせいだろうか。



from 長門
sub (no title)
====================
良ければ、昼休みに部室まで来て欲しい。


――――――――――


俺は二、三度読み返した後、了承の旨を送った。


341: 2009/05/07(木) 21:10:14.31 ID:+MAUjTXxO

前と同じく探りを入れて来る谷口をやり過ごし、弁当を持って部室棟へ向かう。

昼休みの校舎は騒がしい。

だがその喧騒も、部室棟まで来てしまえばまるで別世界だった。


文芸部、と書かれた黒いプレートは、黒マジックの「SOS団」という張り紙に消えていた。

「入るぞー」

中にいるだろうと想定して、声を掛ける。
そして、やはり長門は、そこにいた。

344: 2009/05/07(木) 21:21:11.27 ID:+MAUjTXxO

「よう、長門」

「来て、くれたの」

「…ああ」

安心したように、嬉しそうに長門が笑う。
俺はその瞬間、もはや衝動にも似た思いを押さえ込んで、長門の隣に座った。

「どうか、したのか?」

俺の問い掛けに長門は、

「…これを、あなたに」

淡い桜色の包みを差し出し、俺の目の前に置く。

大きさや形から判断するに、

「…弁当、箱?」


長門がコクリと頷いた。

349: 2009/05/07(木) 21:44:21.35 ID:+MAUjTXxO

それは、正真正銘、手作り弁当だった。


「これは…」

広げると、下段はゆかりご飯、上段は色とりどりのおかずでキッチリ埋まっていた。

「貴方のために、お弁当を作ってきた…」

長門が作ったというお弁当。
どのおかずも、完璧なまでに美味そうだった。

「これ…本当にお前が作ったのか?」

「そう」

「作り方とかは?」

「昨日、朝比奈みくるに教わった」

昨日の朝比奈さんの笑顔を思い出す。
そういうことか。

352: 2009/05/07(木) 21:50:35.93 ID:+MAUjTXxO


「なあ、長門。朝比奈さんは、ちゃんと教えてくれたか?」

突然の質問に、僅かに首が傾く。
無垢な瞳が俺を見て、そして小さく頷いた。

「…そうか。古泉は、何か言っていたか?」

「上手に作れると良いですね、と」

「……そう、か」


俺はどうすれば良いのか分からぬまま、とりあえず長門に礼を言った。


「ありがとな、すごく美味そうだ」

「早く、食べてみて」

そして、感想を。


353: 2009/05/07(木) 21:51:56.43 ID:+MAUjTXxO

期待に瞳を輝かせて、長門が弁当と俺を交互に見る。
俺は難しく考えることをやめ、箸に手を伸ばした。


「いただきます」


卵焼きを、一口。

「…どう?」

「すごく美味いよ」


喜んだ長門を見て、鼻の奥がツンとした。

うまかった。

押し込むように、黙々と食べた。

355: 2009/05/07(木) 22:03:43.02 ID:+MAUjTXxO



昼休みも終わり、教室に戻る。
食えなかった俺の弁当は、長門が代わりに食べてくれた。

腹も胸も足も重い。

しかし、一歩進むごとに、俺の中のもやは形を成していく。
はっきりとした形に。


認めなくてはいけないのかもしれない。
しかし認めて、そこからどうする?

誰かが助けてくれるのか?

朝比奈さんが?ハルヒが?古泉が?


「俺、は……」


なあ、長門。
俺はどうすれば良い?

357: 2009/05/07(木) 22:10:54.31 ID:+MAUjTXxO

「キョン、部室に行くわよっ!」

号令の後、開口一番にハルヒが叫んだ。

「悪いが俺は日直だからな、少し遅れるぞ」

「もう、さっさとしなさいよ!愚図キョン!先に行ってるからねっ」

「へいへい」

途端に猛スピードで駆けていくハルヒ。
放課後になってまであんなに元気があり余ってるとはな。
やれやれだぜ。

「おーい、日直ー、誰だー」

「あ、はーい」


361: 2009/05/07(木) 22:27:16.02 ID:+MAUjTXxO

「ふう…やっと終わったか」

日誌を書き終え、岡部に提出する。
雨は依然として降り続いていた。

運動部は雨天中止で、今頃校内の何処かで筋トレに励んでいるだろう。
俺は窓をゆっくりと伝う雨筋を見た。





部室の前に着くと、中で誰かが騒いでいるのが聞こえた。

ハルヒだろうか。

「し……じ…ない!!何……のよ!!!」

怒声。
そして、


「きゃあああ!!!!」


362: 2009/05/07(木) 22:28:13.60 ID:+MAUjTXxO

俺は慌てて扉を開け、そして中の光景に言葉を失った。




長門が、瞳に涙を滲ませて、ハルヒに馬乗りになっていた。
その細い手はハルヒの制服の胸倉を掴み、


「長、門…?」


逃れようともがくハルヒを、床に押し付けていた。
そばに転がるあの指輪が、場違いな輝きを放っていた。


367: 2009/05/07(木) 22:41:32.37 ID:+MAUjTXxO

「長…門、お前、何やってんだ!!!」

長門がゆるりと頭を上げる。
眉を顰めて、今にも泣き出しそうな、


「ごほっ、ごほ、…きょ、ん…」


動けないハルヒが、目線だけで俺を探す。

370: 2009/05/07(木) 22:43:49.82 ID:+MAUjTXxO

力の籠っていた長門の腕から、徐々に力が抜けていく。

ああ、俺は、間違っていたのだろうか。


「なあ」


聞きたい事があった。

初めは、小さな。

でも、それは、


笑顔を見る度、大きくなっていって


疑念が、確信に変わる





「なあ、長門……………お前は一体、誰なんだ?」


白い陶器のような頬に、ゆっくりと伝う雨筋のようなそれは、

379: 2009/05/07(木) 22:53:44.69 ID:+MAUjTXxO

「大丈夫ですか、涼宮さん!」

我に返った古泉が、長門とハルヒを引き離す。
ぜえぜえと息をするハルヒは、怒りよりも戸惑いの方が大きかったようで、胸元を押さえながら、ただ長門を呆然と見ていた。

「長門……お前は、お前は、」

フラッシュバックする。
俺の記憶が。

はにかむ長門

眼鏡の向こうの瞳

恥ずかしそうな笑み

差し出された手、

指先の、

白い、入部届け




「わた、しは……」

390: 2009/05/07(木) 23:02:27.18 ID:+MAUjTXxO

長門が俺を見る。
決して虚ろではなかった。
無感動でも、無感情でもない。

生きていた。


「…私は、私………」

「…………信じて」


私は、私?

お前は、誰なんだ。

俺の知っていた長門有希は、

無口で無表情なあの長門有希は、

お前なのか。


お前の言う「私」は、どの長門有希なんだ。



風のように、長門は部室を飛び出して行った。
部屋に残された俺たちに、激しい雨音が降り注ぐ。

401: 2009/05/07(木) 23:13:06.45 ID:+MAUjTXxO

泣きじゃくる朝比奈さん

震えるハルヒと、それを支える古泉

俺はただ、立ち尽くしていた


「とにかく、連絡を…」

「待て、古泉」

「ですがっ…!!」

「…頼むから、時間を、時間をくれないか」


「本当は、気付いてたんだ」


「心の奥で、あいつがあいつでない事に」

「もしかしたら、あの長門なのかもしれないって」

403: 2009/05/07(木) 23:14:10.31 ID:+MAUjTXxO

「でも、言わなかった」

「俺は…気付いてたのに、言わなかった、言えなかった」


突然クッキーを作った長門

デパートに行きたいと言った長門

楽しそうな笑顔

笑顔

笑顔


「…このままでも、大丈夫なんじゃないかって、勝手に思ってた」

「蓋をして、認めないフリをしてた。」



「悪いのは……俺なんだよ」





「何、言ってんのよ…」

408: 2009/05/07(木) 23:21:45.79 ID:+MAUjTXxO

「なに、何、言ってんの?
有希が、あの有希とかこの有希とか、気付いてたとか気付いてないとか、何なの…?

ねえ、何の話なの…?」

困惑した瞳が、立ち尽くす俺を刺す。
俺は今更ながら自分の無能さを思い知った。

「その、それはだな、ハルヒ…今のは、」

「答えてよ、キョン……答えなさいよ!!!!」

迂闊だった。
動転しすぎて、ついにやってしまった。
俺たちが今まで、必氏になって隠していたその片鱗を、ハルヒは今まさに掴もうとしていた。

418: 2009/05/07(木) 23:35:58.54 ID:+MAUjTXxO

ハルヒが俺の方へ歩き出そうとする。
しかし、その肩を支えていた古泉が、それを許さなかった。

「いっ…古泉君、離してよ!」

「…落ち着いて下さい、涼宮さん」

「良いから離して!!」

「落ち着いて下さい!!!!」

古泉が、普段は出さないような大声を張り上げた。
ハルヒの動きがびくりと止まる。

「…とにかく、落ち着いて下さい」

唖然とするハルヒを置き去りに、古泉は俺を見た。

419: 2009/05/07(木) 23:39:33.21 ID:+MAUjTXxO

「貴方は、自分が何をしたのか、もうお分かりでしょう」

十分すぎる程、それは分かっていた。
何もかもがぐちゃぐちゃだった。
滅裂だ。

「行って下さい」

「だが……」

「恐らくは、これが最後のチャンスです。それが尽きてしまえば、時間も、為す術も、我々には残っていません」

使う単語を最小限に、古泉が語る。
ハルヒの肩を掴むその指には、力が籠っていた。

「僕は彼らに連絡をしません。…最も、彼らならばすぐに気がつくでしょうが」

彼ら、が何を指すのかは分かっていた。

「ふふ、貴方はいつぞやの約束を、覚えているでしょうか」

421: 2009/05/07(木) 23:45:15.47 ID:+MAUjTXxO

「古泉、お前…」

「さ、早くして下さい。涼宮さんには、僕と朝比奈さんがついていますから」

俺はこいつを、初めてこんなにも頼もしいと思った。

「キョンくん」

涙目の朝比奈さんは、ハルヒに聞こえないよう、最大限に俺を勇気づける言葉を囁いた。



「…この事は、未来からは何も伝えられてなかったの。この意味、分かるでしょう?」

425: 2009/05/07(木) 23:53:36.25 ID:+MAUjTXxO



降りしきる雨の中、俺はひたすら走った。

長門はいない。

人もまばらだった。
何処にいるのだろうと考える余裕もなく、ただ闇雲に走り回る。


近所の公園

商店街

駅前

デパート

長門の家


思い当たる所には行ってみた。
だのに長門は何処にもいなかった。
もう、手遅れなのだろうか。

426: 2009/05/07(木) 23:55:55.90 ID:+MAUjTXxO

…いや、違う。

きっと何か、俺は何か忘れているのだ。
思い出せ、思い出せ。

デパート

公園

喫茶店

学校

校庭

閉鎖空間

部室の、


パソコン




YUKI.N> また図書館に…


428: 2009/05/08(金) 00:04:25.62 ID:CMm3pd5vO

「図書館…?」


何度となく車に轢かれそうになりながら、俺は図書館を目指した。







図書館前の広場には、誰もいなかった。
やはり間違えたか、と、今度こそ泣きそうになる。

しかし、ふと見上げた図書館に、俺は違和感を感じた。

違和感を感じる余裕があったことに驚きながら、その正体を探るべく全体を見回す。

何だ、別に普段と変わらないか。
いや、少し暗いが、雨のせいだろうか。


「あ…」


そうか。
やはり長門はここにいる。

432: 2009/05/08(金) 00:10:14.75 ID:CMm3pd5vO

図書館に近付くに連れ、疑惑は確信へ変わる。

扉付近の傘用ビニール。
あたかもさっきまで使われていたかのように、ゴミ箱から溢れていた。

だが、人っ子一人いない上に、休館でもないのに図書館は明かり一つ点いていなかった。

「長門…」

正面の大扉を開ける。
鍵は掛かっていなかった。


薄暗い館内。

長門は、何処にいるのだろう。

435: 2009/05/08(金) 00:14:46.88 ID:CMm3pd5vO

俺は、必氏に思い出していた。

長門の好きなジャンル。
ハードカバー。
外国人作家。
借りた回数が多いのは、確か…


「SF、か」


SF・時代小説の棚は二階だ。
誰もいない館内を、暗闇に紛れて、走った。走った。

438: 2009/05/08(金) 00:23:54.42 ID:CMm3pd5vO

真直ぐ行って、角を曲がって…

ここだ。


「長門!!!」


…いない。


自分の荒い息と耳鳴りで、周りの音が聞こえない。
クソッ、絶対に、ここにいるはずなのに。

俺は祈るような気持ちで深呼吸をし、静かに歩き出した。

440: 2009/05/08(金) 00:25:31.33 ID:CMm3pd5vO


「……、………」


何だ…?

今、何か…


「……、は、……否、」


ズラリと並んだ本の壁。
挟まれながら進むと、徐々にそれは大きくなっていった。


「…否する、……能、私は…」


「同期を拒否する、それは、不可能…嫌、私は」


壁が途切れる。

右は、いない。

左は、

445: 2009/05/08(金) 00:36:23.26 ID:CMm3pd5vO

……いた。

椅子に座ったまま、滝のように涙を流し、ひたすらに何事かを呟いているのは紛れもなく長門有希だった。


「……長門」


「拒否する、拒否する、同期は、不可能、データ長門有希00を削除、削除、削除、削除」

「……長門」

「どうして、何故、何故消去が不可能なの」

「……なが、と」

「消去、消去、強制コード使用…不可?何故、何故、どうして、どうして」


「長門…!!」


考える暇もなく、身体が動いた。
壊れたテープレコーダーのように、繰り返し繰り返し悲しい声で呟く長門を、抱き締める。

「長門…すまん、すまん!」

449: 2009/05/08(金) 00:48:20.14 ID:CMm3pd5vO

「俺が…初めに気付いた時に、お前に言ってやってたら…!!」

「こんな、こんなに深刻になる事はなかったんだ!」

畜生、畜生。
俺の馬鹿野郎。
長門はこんなに苦しんでるのに、俺は、俺は…!!!


悔しくて情けなくて、どんなに歯を食いしばっても、涙が溢れて止まらなかった。





「……エラー発生」

「データ長門有希01、凍結」

451: 2009/05/08(金) 00:51:50.40 ID:CMm3pd5vO

長門…?


「基礎データ長門有希00復旧、3%…5…8…9……10%」

「データ00の起動を確認」


さっきまでとは打って変わって、静かな声がした。
それと共に、パソコンを起動した時のような、奇妙な音が。


「長、門?」





「……………そう」


液体ヘリウムみたいな目が、俺を見上げていた。

459: 2009/05/08(金) 01:05:45.76 ID:CMm3pd5vO

俺の知っている長門有希だった。

先程までその頬を伝っていた涙はピタリと止み、限り無く無表情に近い表情が、そこにはあった。


「本当に、長門…なのか?」

「………本当に、という言葉は適切ではない。データ01も00同様、私という個体の主要な一部」

淡々と語る長門。
感情の起伏のないその声色。
ああ、これが、俺の世界の、俺が探していた長門だ。

461: 2009/05/08(金) 01:07:20.01 ID:CMm3pd5vO


「長門…!本当に、悪かった…!!!」

「…………何故貴方が謝るの」

「俺は…俺はお前が、あっちの世界の長門でも、良いような気がしていた。感情を表現出来る長門なら、それもそれで良いかもしれないって」

「……………」

「俺はさ、あの長門も嫌いじゃなかったんだよ。はにかんで、顔赤くして、眼鏡のままの長門も」

なのに、

「でも俺は結局選ばなきゃならなかった。色々なことを考えて、選んだのはこっちの世界だった」

「でもさ、俺はやっぱり」




「あの時お前を、頃しちまったんじゃないかと思うんだ」

463: 2009/05/08(金) 01:13:02.55 ID:CMm3pd5vO

「何も知らないで、ただ無邪気に笑いかけてきた、あのお前を」

「そしてお前自身の願いを」

「俺は捨てて、氏なしちまったんじゃないかって……ずっと、心の中で考えてた」


長門は、何も言わなかった。


「だからお前が露骨に変わり始めても、知らないフリをした」

「このまま気付かなければ、長門は、きっとあの長門のようになるんだろうって」

「そしたら俺は、あの長門の幻影から逃げられるって、そう思ってた」


「すまん…俺の、エゴだ…ごめんな、長門、ごめん…!」

467: 2009/05/08(金) 01:26:38.24 ID:CMm3pd5vO

「…………謝らないで」

「でもな、長門…!!」


「………これは、私のミス」


長門は表情を変えることなく、言った。


「あの時私は、エラーを完全に消去したと思っていた。しかし、0.000001の微弱なエラー情報がデータ内に残ったままだった」

「結果」

「徐々にエラーは増殖し、前回私が作り上げたエラーとほぼ同様のデータが完成した」

つまり、あの時の銃で消滅したはずのエラーが、再発したのか?

「……そう。迂闊だった。そして、ある時を境に00と01の情報量が逆転」


470: 2009/05/08(金) 01:32:43.41 ID:CMm3pd5vO

あの、クッキーの日か?

「……そう、結果私は凍結され、1%にまで容量を削減された。しかし、基礎データの完全な消去は不可能。思念体によってプロテクトがかかっている」

だからあっちのお前は、削除が不可能だと言っていたのか。

「…………そう」

「でも、もう、終わり」

「長門?」

「貴方との接触により、原因は不明だが01の凍結に成功した」


「もう一度…完全に消滅させる」


478: 2009/05/08(金) 01:45:37.13 ID:CMm3pd5vO

「……涼宮ハルヒ及び、この件に関する全てのデータを改竄する」

「貴方の、記憶も」

「…………それで、終わり」


長門はそう言うと口を閉じた。
あまりにも多くのことを聞きすぎて、耳が痛い。

淡々としているが、長門はそれで良いのだろうか。
いや、良くはなくともこの世界では、あちらの長門の性格だと我が強すぎる。

長門は願望を、捨てざるを得なかった。
いつもいつも無口で無表情な長門の、唯一の理想郷であり理想像であるあの世界。

それを壊したのは、やはり俺なのだ。

すっかり渇いてしまった長門の頬を見て、また途方もない罪悪感が沸いて来る。

480: 2009/05/08(金) 01:53:44.15 ID:CMm3pd5vO

「謝罪は、いらない」

「………そう、か」

「でも……一つ聞きたいことがある」


一瞬、僅かだが、長門の目が寂しそうな色をした。
気のせいだったのだろうか。
いや、この期に及んで、それはない。


「貴方は……貴方は私に、01のような感情表現を、望んでいるの?」


長門がどういう意味でそれを言ったのかは分からなかった。
俺があまりにあっちの長門に執着しているからだろうか。

決してそういう訳ではなかった。
俺は長門の、微細な感情の流れを読み取るのが好きだったし、それは実際楽しかった。

ただ、ひたすらに負い目があったのだ。

483: 2009/05/08(金) 02:03:32.21 ID:CMm3pd5vO
あ、間違えた



「…そんな事はないさ」

長門は、長門らしくあってくれれば。
きっと俺は、それが一番嬉しいよ。

「………そう」

小さな声だった。
安心して笑ったり、はにかんだりする長門は、もういないのだ。

「……なあ、長門」

「…………」

「お前は、お前自身は、どう思ってるんだ?
やっぱり、感情を大っぴらに表現してみたいと、思ったりするんだろう?」

返答次第では、また俺はあの幻影に囚われそうだ。

長門はしばらく逡巡した後、言った。


「……私は、私らしく、いたい。それだけ」



485: 2009/05/08(金) 02:10:07.46 ID:CMm3pd5vO

「…そろそろ凍結が解除される。その前に行動を開始する」

「………そうか」

「……貴方と共有した時間は並列化され、私にも記憶されている。
……楽しかった」

長門は立ち上がると、目を閉じて何やら良く分からない早口言葉を呟いた。

「……俺だって、楽しかったぞ」

そう呟くのと長門が目を開けるのは、ほぼ同時だった。


「……消去完了。データ、オールクリーン」



487: 2009/05/08(金) 02:15:41.24 ID:CMm3pd5vO

「なあ、長門。俺の記憶も、やっぱり消すのか」

「……出来れば、そうして欲しい」

「そうか」

「………ごめんなさい」



長門が俺に手を翳す。
青白い光が掌からぼんやりと放たれる。
その色で思い出した。


「…長門、あの指輪、似合ってたぞ」





視界が真っ白に染まり、俺は意識を手放した。
ありがとう、と。幻聴のような囁きは、いつまでも耳に残っていた。

490: 2009/05/08(金) 02:25:39.69 ID:CMm3pd5vO




「情報操作、終了」


長門有希は、誰ともなく呟いた。
舞台は図書館から、自分の部屋へと移っていた。

先程倒れた彼の姿はなく、情報操作の成功を静かに語っていた。


無意識に、制服のカーディガンのポケットを探る。
指先に固い金属が当たった。


『長門、あの指輪、似合ってたぞ』


イミテーションの指輪。
長門はそれを薬指に嵌めてみた。
緩い。

493: 2009/05/08(金) 02:32:37.56 ID:CMm3pd5vO

あの部室で、涼宮ハルヒとの争いの原因にもなったその指輪をしばらく眺めた後、長門はその情報連結を解除した。

キラキラと光りつつ、空気中な分散していく。

似合うと言われたが、長門はエラーの要因になりそうなものは、全て消し去るつもりだった。
小さな弁当箱も彼女から貰った料理雑誌も。

全てがキラキラと消える。

消滅した01の記憶は消せなかった。
あの図書館での記憶も、消さなかった。
抱き締められたあの温かさは、忘れようがなかった。

私は、私らしくあれば良い。

自分らしいとは何だろうかと思考しながら、長門有希は床に就いた。


明日もまた、高校生として学校に行かねばならない。
全ての人間は昨日の出来事を忘れているだろう。
だが、自分は、忘れないだろう。永久に。

499: 2009/05/08(金) 02:42:57.47 ID:CMm3pd5vO


「さあて、今日も元気に団活始めるわよっ!!」

ハルヒが馬鹿デカい声を出しながら部室に入って行った。ネクタイを引っ張られていた俺は咳き込みながらそれに続く。

「こんにちはあ、キョンくん!」

「こんにちは、朝比奈さん」

相変わらず麗しい朝比奈さんに挨拶をして、ドッカリと席に着いた。

「こんにちは」

「よお、古泉」

「では早速オセロでも」

いそいそと準備を始める古泉から視線を外し、俺は窓際に目をやった。

501: 2009/05/08(金) 02:43:55.11 ID:CMm3pd5vO


「よう、長門。元気か」

「……………普通」

「そうか、健康は大事だぞ!」

「…………ユニーク」

普段と変わらないSOS団は、今日も変わらない活動を始めた。

外は太陽が眩しい。
良い、天気だった。


―完―

502: 2009/05/08(金) 02:45:37.22 ID:plvjbIJTO

長門の可愛さを再確認した

504: 2009/05/08(金) 02:46:06.80 ID:CMm3pd5vO
ごめん
何かすげー尻切れトンボ
後半朦朧としながら書いてたら伏線回収し忘れたwww

オXXーに付き合ってくれてありがとうwwww
>>1ごめんwwwww

510: 2009/05/08(金) 02:54:47.04 ID:CMm3pd5vO
>>507
尻切れトンボだったらわっち

513: 2009/05/08(金) 03:02:28.21 ID:CMm3pd5vO
いえいえ、お粗末様でした
あー早くジョジョの続き読みてえ


引用: 長門「彼のためにクッキーを焼いてみた…」