1: 2010/07/25(日) 13:32:00.83 ID:YvnLZrr80
 あまりの暑さに平沢唯は目を覚ました。

 とは言ったものの、それは意識的なもので物理的に目を開いたわけではなかった。

「……あれぇ、なに、も見えないよ?」

 そもそも唯には目というものが存在しない。

「熱、い……」

 唯は手足を動かそうとした。

 だが、手足は一向に動く気配がなかった。

 そもそも唯には手足というものが存在しない。

 唯が寝ていたベッドの上には、一本の棒アイス。

 それが平沢唯の姿だ。
けいおん!highschool (まんがタイムKRコミックス)
3: 2010/07/25(日) 13:36:41.08 ID:YvnLZrr80
 唯はまだ自分がアイスになったことに気づいていない。

 自分の姿を見ることが出来ないからだ。

 唯には一つだけ感じていることがある。

 自分の体が溶けていくような感覚。

 唯にはわからない。

 自分がなにをしているのか。

 自分がどうなっているのか。

 わからない。

 なにがわからないのか、わからない。

 そこには希望も絶望も存在しない。

10: 2010/07/25(日) 13:40:38.16 ID:YvnLZrr80
「おねえちゃーん。そろそろ起きないと」

 部屋に妹の憂が入ってきた。

 唯が寝ているはずのベッドに近づいていく。

 憂は布団の膨らみに違和感を感じたのか、枕側から布団を少しだけめくる。

 そこに唯はいない。

 いや、いるにはいる。

 寝ているのがアイスとなった唯というだけだ。

 だから、それを見た憂は一瞬静止状態になった。

 おそらく、頭の中では様々な疑問が沸いて出ていることだろう。

15: 2010/07/25(日) 13:43:49.00 ID:YvnLZrr80
 唯はそこで涼を感じた。

 それと共に体を痛みつけるなにかも感じた。

 頭が働かなかった。

 体が溶けているからだ。

 もっとも、唯はそれを感じながらも知ることはない。

 わかるのは、自分の意識が遠のいて行くことだけだ。

 そこに恐怖はない。

 眠くなったら寝るのとなんら変わりはない。

 だから。

 唯はゆっくりと意識を閉ざした。

19: 2010/07/25(日) 13:45:51.59 ID:YvnLZrr80
>>10の次はこっちでした

「アイス……なんで?」

 憂にはただの棒アイスにしか見えていない。

「おねえちゃん、もう起きてるのかな?」

 唯には聞こえない。

 耳というものが存在しないからだ。

 憂は部屋を出ようとしてドアの前で立ち止まり、部屋にあったティッシュを数枚手に取ってベッドに戻ってくる。

 ティッシュでアイスを包み、床に雫が垂れないように手を添えて部屋を出た。

 向った先は台所の流しだった。

 蛇口から出る一本の水流。

 溶けたことで半分以上形が失われていたこともあるのだろう。

 憂は当然のように水流の中へアイスを突っ込んだ。

22: 2010/07/25(日) 13:47:14.89 ID:YvnLZrr80
 唯はそこで涼を感じた。

 それと共に体を痛みつけるなにかも感じた。

 頭が働かなかった。

 体が溶けているからだ。

 もっとも、唯はそれを感じながらも知ることはない。

 わかるのは、自分の意識が遠のいて行くことだけだ。

 そこに恐怖はない。

 眠くなったら寝るのとなんら変わりはない。

 だから。

 唯はゆっくりと意識を閉ざした。

24: 2010/07/25(日) 13:48:00.58 ID:YvnLZrr80
 アイスは水道管に流された。

 残ったのは一本の木の棒だけだった。

 それには『あたり』の文字。

 しかし、後でこの棒をアイスと交換したところで手遅れだ。

 唯はもう帰ってはこない。

 一本として同じアイスが無いように。

 一人として同じ人間は存在しない。

「あ、あたりだ」

 彼女が手に持つ一本のあたり棒。

 もしかしたら、あたりの裏側には大はずれと書かれているのかもしれない。

 
 おわり

36: 2010/07/25(日) 13:54:36.30 ID:linI2QvQ0
唯ちゃんペロペロ

引用: 唯「Ice」