487: 2014/07/04(金) 20:21:29.29 ID:Bn/ocCOko

490: 2014/07/04(金) 20:35:36.41 ID:Bn/ocCOko

【その後禁句指定されました】

P「あっ……しまったなぁ」

凛「どうしたのプロデューサー」

P「いや、腕時計がさ……」

 (ガラス面に皹が入った時計を見せる)

未来「うわぁ、思いっきり入っちゃってますね……転んだりしたんですか?」

P「ははは、春香じゃないんだからそれはないよ」

未来「春香さんが聞いたら怒りますよ?」

凛「でも、じゃあどうしてそんなことになったの?」

未来「そんなに皹が入るってよっぽどですよね?」

P「多分、この間大道具にぶつかった時かな……」

凛「大道具に?」

P「あぁ、スタジオセットの裏で配置とかを再確認してたら一部が倒れてきてな。
  咄嗟に左腕で受けたんだが……、気づかなかったな……」

小鳥(あ、これはやばい流れ……)←向かいで事務仕事中



P「はー……、こりゃもう駄目だし。新しい時計欲しいなぁ……」

未来「!」

凛「!」


亜美真美(!)

亜美「聞いた真美?」

真美「聞きましたとも亜美さんや」

亜美「どうする?」

真美「と、言うかどうなると思う?」

亜美「どうなるんだろう……。ま、わからないなら試せばいいよNE!」

真美「んふふ~。お主も割るよのう」

亜美「なにをおっしゃります~。アイドルのみんなは感謝の気持ちを形にしたい。
    プロデューサーは時計が欲しい。亜美たちは面白いものがみたい」

真美「WIN-WIN-WINだね!」

亜美「こうしちゃいられん! 行くぞ真美隊員!」

真美「ごー!」


494: 2014/07/04(金) 20:47:20.15 ID:Bn/ocCOko

凛「ち、ちなみにプロデューサーはどんな時計が好みなの?」

未来「参考までに聞かせてください」

小鳥(なんの参考にするんだか……)

P「んあ? まー、あまりごてごてしてなければそこまで拘らないよ。
  ただ色んな人に会う仕事だからな、安物はつけないようにしてるよ」

小鳥(あー、またそういう事を……)

凛「ふぅん……、あ、私用事思い出したからちょっと外出てくるね」

未来「あ、私も!」

 (パタパタと少女が二人駆けていく音)

P「あいつら、事務所からでる時はボードを直せと言ってるのに……」

小鳥「……プロデューサーさん」

P「ん? なに?」

小鳥「時計にはしばらく困りませんね」

P「は……? ――っ! し、しまったやべぇ!」

小鳥「春香ちゃんの事言えないレベルのうっかりですよ……」

P「凹んだ勢いでつい口が……」

ちひろ「ただいま戻りましたー……って、なんですかこの空気」

小鳥「プロデューサーがうっかり腕時計が欲しいとアイドルに言ってしまったんですよ」

ちひろ「……あー」

―――

 その後ブルガリ・ロレックス・オメガ・プレゲ・パテックフィリップ
 フランクミュラーにウプロ・カルティエ・ルイモネと大変な事になったPの姿があったとかなかったとか

507: 2014/07/04(金) 20:56:00.03 ID:Bn/ocCOko

【OFF時】

杏奈「んと……」

杏「……」

杏奈「あ、……そっか」

杏「……宿題ー?」

杏奈「えと……はい」

杏「随分悩んでるみたいだけど?」

杏奈「ちょっと、むずかしい……。あの、杏さん……」

杏「え……、あーまぁいいけど」

杏奈「ありがと、ございます」

杏「気にしないでいいよ」


【ON時】

杏奈「みんなー! 今日も元気にビビッとGO~!」

杏「ごー……」

杏奈「もー杏さん元気ないですよー? 折角可愛い衣装なんだから一緒に頑張りましょう!」

杏「杏しんどいからぱーす。進行は杏奈に任せたー」

杏奈「だ~め! ほら、マイクマイク! ……じゃあファンのみんないっくよー!」

杏「もー、仕方ないなぁ……」


 どっちの時でもそれなりに相性はいいようです

513: 2014/07/04(金) 21:08:01.15 ID:Bn/ocCOko

【癒しの時間】

P「あ゛~」

 (首を捻って骨を鳴らす音)

ちひろ「うわっ、凄い音しましたね今」

小鳥「気持ちはわかりますが、人がやってるのは怖いですね」

P「毎日十時間以上同じ姿勢でモニターに向かってればこうなりますよ……」

藍子「はいプロデューサーお茶どうぞ」

P「おっとありがとう……。すまないなアイドルにこんなこと」

藍子「いえ、好きでやってることですから。少しでも役に立てれば幸いです」

雪歩「はい小鳥さんとちひろさんも、お茶とあっついおしぼりです」

小鳥「ありがと~、嬉しいわ」

ちひろ「おしぼり気持ちいいわぁ……」

菜帆「お茶請けに美味しい和菓子もありますよ~」

P「おっ、これは周子の家の奴か? あ~、甘い物が染みるな~」

美也「お忙しいのもわかりますが~、根を詰めすぎないように~ですよ~。
    アイドルも事務員さんもプロデューサーさんも~、身体が一番ですよ~」

小鳥「ふふっ、そうねみんなありがとう」

ちひろ「うぅ、アイドルに思われて私幸せです」

藍子「大げさですよ……」

雪歩「私達の方こそいつもありがとうございます」

P「……みんな」

518: 2014/07/04(金) 21:26:26.33 ID:Bn/ocCOko

【えげつない】

P「っ!?」

小鳥「ど、どうしましたプロデューサーさん」

P「手、切ったみたいです。どうやら極薄のカミソリが入ってたみたいで……」

ちひろ「カミソリ!?」

P「えぇ、でもアイドル宛のじゃなくて俺宛のでよかった。
  アイドルに怪我させたら一大事だから……」

小鳥「なに言ってるんですか! 十分一大事ですよ!」

ちひろ「きゅ、救急箱取ってきます!」


巴「……」


―――

巴「っちゅーことがこないだあったようじゃ」

マキノ「えぇこちらでも情報を掴んですでに動いてるわ」

伊織「こっちの調査の結果だけど、当然住所はダミーだったわ」

マキノ「カミソリに指紋は残っていたけど指紋だけで特定は正直難しい」

 タッタッタ

茜「みんなー! 茜ちゃんが大発見しちゃいました!」

巴「大発見?」

茜「もしかしてーと思って他のみんなのファンレターを総洗いしてみたんだけど、
  そいつ普通のファンレターも送ってるみたい! 筆跡的にも間違いないよ!」

伊織「本当!?」

茜「うん! それでそのファンレターにかかれてた住所がこれなんだけど……」

巴「よし、ここからはうちにまかせぇ……舐めた真似しくさりよって……」

―――

男「ふひひ……千枝ちゃんかわゆす、こずえたんまじ天使……」

 ドンドンドンッ

男「うおっ!? な、なんだよこんな時間n――」

 バキッ ドタドタドタ

男「う、うわぁ、なんだお前ら! ふ、ふほうしんにゅ――」

―――その後

男「プロデューサーさんかっけぇ! プロデューサーさん世界一!」

532: 2014/07/04(金) 21:53:34.28 ID:Bn/ocCOko

【大人組と年少組】

 女子寮一階。適度に空調の効いたロビー。
普段オフの日のアイドルが溜まっているそこに年少組と大人組が集まっている。
本日は日曜日。隔週である勉強会の日である。

ありす「……すいませんこのみさん」

このみ「はいはーい。えぇっと――」

 年少組は市販のドリルや学校の宿題、
あるいは予習のために教科書とノートを開いて机に向かい。
それを大人組が少し離れたところで監督している。

晴「あ? なんでこうなんだよ……」

亜里沙「この問題文だとりんご一個の値段をxとして求めるから……」

ウサコ「1500-(X×8)=300と言う形になるウサ」

 アイドルだからと言って勉学を疎かにして言い訳ではない。
アイドル活動が勉強の邪魔になる様な事があってはいけない。
どちらのプロデューサーの言である。その自身の言葉に従って
最初はプロデューサー自身が教鞭を取っていたが、
仕事とアイドルの増加によって手が回らなくなったため現在こういった形が取られている。

環「む~、勉強は苦手だ~……」

あずさ「無理に一回で覚える必要はないのよ? ゆっくりやっていきましょう」

環「う~、はーい」

 休みの日にも勉強。というのは当然年齢的にも嫌がる娘が多い。
けれど大人数、それも身内だけでやるこの勉強会はいまはむしろ人気で
『学校の授業よりわかりやすい』と今では毎回全員がキチンと参加している。
しかも以前よりも成績があがったと親御さんからも大変喜ばれている。

P「……いっそ新事業にでも手を出します?」

小鳥「人が増えたらそれもいいですね」

ちひろ「増えたら。の話ですけどね」

P「じゃあ無理かー……」

566: 2014/07/05(土) 07:42:41.68 ID:Kp7eDxq/o

【茜の場合】

日野茜「おはようございまーす!」

野々村茜「おっ! 日野っちの方の茜ちゃん! おっはよう!」

日野茜「はいおはようございます! 野々村さんも元気いっぱいですね!」

野々村茜「もっちろん! 今日も本気の半分の二倍で頑張ろうね!」

日野茜「おー! 野々村さんも燃えてます! 私も燃えてきました……うー、ボンバー!」

野々村茜「ぼんばー! あはははっ」


 とても仲良しのようです

567: 2014/07/05(土) 07:56:19.08 ID:Kp7eDxq/o

【奈緒の場合】

横山奈緒「はぁ~、しんど。最近レッスンキツ過ぎやとおもわへん?」

神谷奈緒「……」

横山「あり~? かみやん?」

神谷「あっ、え、なに?」

横山「も~、話ちゃんと聞いて~な。私一人でしゃべくってアホみたいやん」

神谷「ごめんごめん」

横山「で、なんでぼうっとしてたん?」

神谷「いやさ。方言って可愛いなぁって思ってさ」

横山「はいっ? ま、真面目な顔でなに言うてんねん! も~かみやんはずいわ~」

神谷「ホントにホントに。あたしは千葉なんだけどさ、
    東京よりで方言ってほとんどなかったから」

横山「あ~、かみやんって綺麗な標準語やもんね」

神谷「そうか? ……でもやっぱりこっちの方からすると方言って
    それだけで可愛くみえるからさ。アニメでも方言キャラって一人は居るし。
    アイドルやるにも使いようによっちゃ武器だよな~って」

横山「そんなことないって~やめてぇな。ほんまに照れるって……。
    それに方言なくてもかみやんはかわええやん。
    私からしたらそっちの方がうらやましいわ~。ねぇ、はにかみ乙女」

神谷「や、やめろ! その呼び方やめろ!」

横山「なんでぇ? めっちゃにおとるやん」

神谷「恥ずかしいから! あたし可愛くなんて……」

横山「うわぁ、その反応がまた可愛いわ~。ずっこいなぁ自分」

神谷「あーあーきこえなーい!」



 お互いに弄りあって照れあうようです

571: 2014/07/05(土) 08:25:35.72 ID:Kp7eDxq/o

【涼の場合】

松永涼「おっ、あそこに居るのは……おー――」

秋月涼「うぅ、僕は一体いつになったら……」

松永「い……僕?」

秋月「うわぁっ! 松永さん! い、いつからそこに」

松永「いや、たったいま声かけ様と思ったとこだけど」

秋月「そ、そうですか……」

松永「……別にアタシはいいと思うけどね」

秋月「え?」

松永「幸子だって僕って言ってるし晴なんか俺だからね
    まぁあんたみたいな子がって少しは驚いたけど、隠す必要もないんじゃない?」

秋月「そう、なのかな……」

松永「ギャップって言うのかな、アタシは可愛いと思うよ」

秋月「か、可愛いですか……」

松永「? なんかアタシ変な事言った? って、そもそも先輩相手に悪かったね」

秋月「い、いえ! 参考になりました! ありがとうございます。
    じゃ、じゃあ私……ううん、僕はこれで」

松永「うん、また」


松永「……可愛いなぁあの子」


 一方的に気に入られたようです

615: 2014/07/05(土) 19:18:02.70 ID:Kp7eDxq/o

【鞭と飴】

P「……えっと、野菜生活のCMは……悠貴にやらせるか……」

P「あとは芳乃……神田明神でイベント……」

愛「うわぁん! プロデューサーさん!!!」

P「うおっ!? な、なんだどうしたおちつけ愛! 一体何があった!?」

愛「愛海さんが……うぅ……」

P「うん、全部わかった」

―――

P「……あいつも懲りないというかなんというか、一度しっかりと話をするべきだな。
  周りに悪影響ばかり与えるようならこっちとしても……ん?」


伊織「あんたね、ちょっと自重できないの?
    年下でも愛はあんたよりずっと先輩なのよ?」

愛海「……はい」

莉緒「あんまり言いたくないけど、プロデューサー君にも迷惑がかかる訳だし」

愛海「すいません……」

あい「例えそれが君のキャラクターだとしても、限度があるだろう?」

愛海「ごめんなさい……」

伊織「調子乗りすぎてると、庇い切れなくなるわよ」

愛海「……」


P「うわぁ……」


―――

愛海「……ぐす」

P「お、おい愛海」

愛海「ぷ、ぷろでゅーさー……。ご、ごめんなざ~い」

P「わ、わかったわかった。大丈夫だから、怒ってないから」

 (泣きじゃくる愛海の頭を撫でる)

愛海「わ、私みんなに嫌われちゃったよぉ」

P「嫌われてなんかない。みんな、お前が嫌われないように怒ってくれてるんだ。
  心配いらないって……」

愛海「ぐすぐす……」

P「よしよし……。ただ、な、言われる理由もわかるだろう? 少しだけでいいから考えてくれ」

愛海「うん……もうやんない」

P「やめる必要はないよ、それがお前だからお前を否定はしないよ」

愛海「ありがとうプロデューサー……」

617: 2014/07/05(土) 19:29:45.49 ID:Kp7eDxq/o

―――

 談話室その3

あい「……ふむ、うまくいったようだね」

莉緒「そうね。……私達の方が嫌われなければいいけど」

伊織「大丈夫でしょ、その辺も込みであいつは上手いもの」

あい「流石、付き合いが長いだけあるね。センパイ」

伊織「ふふっ、なによそれ」

莉緒「あーでも嫌な役割よね」

あい「仕方ないさ。この事務所がこれだけの大所帯なのに上手く回っているのは
   ひとえに彼の人望、信頼故だ。彼を信頼してるから彼の指示をみな疑わず従うし、
   彼の負担を減らそうと皆自発的に行動をする」

莉緒「わかってるわよ。鞭の役割は他の年長者は先輩がって事でしょ」

P「よっ、お前ら」

伊織「あら? こんな所に珍しいわねどうしたのよ」

P「あぁ。……みんなには嫌な役割をやってもらったみたいだからさ」

あい「……なんのことだい?」

莉緒「私達はここでおしゃべりしてただけよ? ねぇセンパイ」

伊織「あのねぇ……。ま、そういう事よ」

P「そっか……。じゃあ俺も混ぜてくれよ」

あい「仕事はいいのかい?」

P「なにいってんだ。年少組だけじゃなくてお前らだって俺のアイドルだぞ?
  コミュニケーションとってなにが悪い」

莉緒「ふ~ん。じゃあプロデューサーくん! 思いっきり付き合ってもらうわよ!」

P「あの、あまり長時間は勘弁してくれな。明日の俺が氏ぬから」

伊織「わかってるわよ」


 年少組のコントロールには色々な人のフォローがあるようです
 そしてその色々な人にフォローするのもPの仕事です

623: 2014/07/05(土) 20:09:31.16 ID:Kp7eDxq/o

―――

「お前ら準備はいいか?」

 武道館オールスターライブまであと数日。
今日はユニット組の最終調整日だ。完成した煌びやかな衣装に身を包み、
本番同様に歌い踊る。数日後にはファンで埋め尽くされる武道館も
いまはまだスタッフと俺達しかいない。

「まずは乙女ストーム! お前達はユニット組だけじゃないソロも含めた一発目だ。
 このライブの盛り上がりは最初のお前らにかかってる」
「はいっ! 私、精一杯頑張ります! よ~し! 元気1000万倍~!」

 リーダーである未来に従うように五人の声があがる。
最初はそのリーダーとしての資質を疑問視されたりしたものの、
いまは立派にやれている。……他のメンバーのフォローありきではあるが。

「次! TPジェネレーション! お前達はソロの後、折り返し地点だ。
 もう駆け出しじゃない。成長した姿を見せてくれ」
「任せてよ。――絶対に期待に答えるから」

 凛、未央、卯月、加蓮、奈緒の五人ユニット。
デビューまもなくユニットを組んだウチの中堅組だ。
最初のライブでの緊張は見る影もなく余裕ありげに仲間同士手を叩きあっている。

「次にDearlyStars! 大トリに繋ぐ大事な所。
 お前達なら問題なくこなせる筈だ、後輩達に格好いいとこみせてやれ」
「任せてください!! 涼さんと絵理さんと三人でしっかり先輩達に繋ぎます!」
「あぁ頼むぞ」

 この辺はもうなにも問題ない。
この規模のライブも手馴れたものだ。
……そして。

「最後にAngel's。後輩達が目指すアイドルの頂点、その実力を見せてやれ」
「はいっ! 素敵なライブにしましょうねプロデューサーさん!」

 創設期から苦楽を共にしてきた13人。
既にトップアイドルと言っても誰も否定しないだろう彼女達。

「よし、お前ら行ってこ――げほっ、こほっ」

 勢いよすぎてむせてしまった。
なんとまぁ情けのないことかと思っていると、案の定アイドル達に笑われた。

「まったくなにやってんのよ」
「プロデューサーらしい?」
「では改めてビビッ! と行きましょう!」

 まだむせている俺を置いて、勝手に進めて行ってしまった。
う~む、成長したのは素晴らしいが少し寂しいな。

「プロデューサーさんって本当にいいところでかましますよね」
「うっさいなぁ……げほっ、ごほっ」

 後ろからやってきたピヨに返事をして、また咳き込む。
咄嗟に手で抑えて――。

「っ」
「どうしました?」
「い、いやぁ手について……。ちょっと手洗ってきます」
「もう汚いですね。早く戻ってきてくださいね、
プロデューサーさんが見てなきゃ意味ないんですから」
「今更俺から言う事なんてありませんよあいつらに」

 軽く笑って、トイレに向かう。
左掌のヌルついた感触に鳥肌を立てながら。

629: 2014/07/05(土) 20:22:27.56 ID:Kp7eDxq/o

―――

「なんだよこれ……」

 暗い舞台袖から、明るいトイレの洗面台。
場所が変わった事で掌についたものの正体が一層はっきりする。

 それは赤黒い、鼻血が止まりかけた時に奥からでてくるような、
半固形の血の塊。ドロッとしたそれが俺の左手にべったりと付着していた。

「げほっ、ごほっ……」

 困惑する間もなく、再び咳き込む。
嘔吐とはまた違う胃からなにかが競りあがってくる感覚。
唾液と胃液が口一杯に広がり、捻ったままの蛇口から流れる水に垂れる。
そして一際大きく咳き込んだときに、また赤黒いなにかが口から吐き出された。

 水を口に含み、うがいをして吐き出せば赤く染まっている。
その後水を飲み込んでみれば冷たい感覚が食道を通り胃に入ると同時に僅かな違和感。

「……はぁ……はぁ。こりゃ……胃でもやられたか?」

 いいながら鏡を見る。口元にも血の塊がついていて、
少し疲れた表情と合わさって小梅好みになっていた。

「おいおい……」

 こんな顔で戻れはしないと水を掬い顔を洗おうとして……。

「……っち。またか……」

 両腕の肘から先に痺れていることに気がつく。
正座の時のような、肘の内側の小骨を小突かれたような、痺れ。
だんだんと頻度が増えている気がする。

「まずいなこりゃ……」

 末端部の痺れは危険信号。そんなのは重々承知だ。
だが……。

「よし、収まった……」

 動くようになった両腕で改めて顔をあらい。
トイレからでる。

「遅かったじゃないですか……って、その血は!?」

 舞台袖に戻るとそういわれた。
よく見てみれば服にも血がついていたようだ。

「はは、興奮しすぎて鼻血だしました」
「なにやってるんですか……」

 まだ、俺はやることが残ってる。
それも山のように。

633: 2014/07/05(土) 20:38:26.54 ID:Kp7eDxq/o

「みんな輝いてますねー」

 誤魔化せたのかどうか、再びステージの方を向く彼女の横に並ぶ。

「そりゃ、自慢のアイドルだからな」

 言うと同時に大きな瞳がこちらを向いた。
いまでこそ諦めているが、以前は幾度となくアイドルにならないかと
誘った彼女が至近距離で見つめてくるのは。……少し困る。

「ふふっ、みんなに直接言ってあげないんですか?」
「照れる」

 悪戯っ子の様な笑みに、少々つっけんどんに
返してしまうのは仕方がないことだろう。

「事務所で留守番なんてちひろさんも可哀想に」
「ま、本番は見れるだろうし。空にするわけにはいかないから、仕方ない」
「そうですねぇ……」

 曲が終わり、ユニットが入れ替わり次の曲が始まる。
どの曲も、ソラで歌える程聞いた。一つ一つに思い出がある。
でも、みんなもっと輝ける。まだまだ終点には遠い。
これからももっと思い出を重ねていける。

 ここに居るアイドルだけじゃない。
事務所に居る全てのアイドルをもっともっと輝かしたい。
それが俺の夢で、目的で、全てだから。

634: 2014/07/05(土) 20:45:26.18 ID:Kp7eDxq/o

【社長?】

――最初期メンバー

律子「本当どこでなにをやってるんでしょうねあの人は」

真「もう二年以上みてないですもんね」

春香「そうだね~……。昔は音無さんと三人、いつも事務所に居たのに」

伊織「懐かしいわね……」

――876メンバー

愛「社長さんって、ほとんどあったことないんですよねー」

絵理「うん……、私もちょっとしか」

涼「辞めたって、訳じゃないんだよね?」

――中期メンバー

桃子「あー、そういえば社長ってお兄ちゃんじゃないんだっけ」

泰葉「私、一度もあったことないです」

桃子「べつにいいんじゃない? お兄ちゃん居れば」

――後期メンバー

卯月「社長? プロデューサーさんじゃないんですか?」

エミリー「私、ずっと仕掛け人様が社長だとばかり……」


635: 2014/07/05(土) 20:58:37.56 ID:Kp7eDxq/o

【大人三人】

小鳥「今日飲みに行きませんか?」

P「えー、これ終わらせておきたいだけど」

ちひろ「たまにはいいんじゃないですか?
     明日の私達に任せちゃって」

P「それ氏亡フラグ」

小鳥「でも今日の分は最低限終わってるじゃないですか。
    もう直ぐ20時ですし、ね。二時間くらいなら」

P「ん~、わかった。明日に響かない程度に」

ちひろ「いやぁ、ひっさしぶりですねぇ」

P「7,8月と12,1月はイベントクソ多いですからね。
  フェスにキャンペーンに改編にライブに」

小鳥「夏はグラビアの時期ですし、長期休暇ありますし」

ちひろ「はいはいお仕事の話はやめましょう」

P「ん~」

―――

638: 2014/07/05(土) 21:09:39.41 ID:Kp7eDxq/o


 居酒屋

P「では、乾杯」

小鳥「かんぱーい!」

ちひろ「はい乾杯」

小鳥「久しぶりね、ここ来るの」

ちひろ「最後に来たのっていつだっけ?」

P「ちっひが暴走したとき」

小鳥「あー、脱いだ時」

ちひろ「あれは忘れてっていったでしょ!」

P「いいたかないけど、下着上下揃えようぜ」

ちひろ「もーP君!」

小鳥「今日は脱いじゃだめよ?」

ちひろ「ピヨちゃんまで……、というかババシャツ着てる
     ピヨちゃんに言われたくない」

小鳥「ちょっとちっひ!」

P「もう二人ともダメだな~」

小鳥「そういうP君はどうなの?」

P「……俺ブラジャーとかしたことないんでー」

ちひろ「いやいや、そうじゃなくて……馬鹿?」

小鳥「女性関連とかー、アイドルにも好かれてるしファンもいるしどうなの?」

P「俺、アイドル全てをトップアイドルにしたら結婚するんだー」

ちひろ「いないのねー」

小鳥「ま、わかってたけど」

P「つーかこの仕事で恋人とか100パー無理」

ちひろ「ですよねー」 

小鳥「結局三人とも仕事が恋人か」

ちひろ「ある意味アイドルが恋人とも言えるけどね」

P「語弊があるにも程がある……」


639: 2014/07/05(土) 21:15:58.10 ID:Kp7eDxq/o

―――

小鳥「あははー! よし、この後P君ち行こう!」

ちひろ「よしきた!」

P「なぜそうなる。というかお前ら飲みすぎー」

小鳥「うっさいなー、もー、仕事なんてないさー」

ちひろ「仕事なんて嘘さー」

P「まぁちょっとどころじゃなく仕事が怖い」

ちひろ「じゃあ私の仕事をどうぞ」

小鳥「私のも」

P「おー、そっち行ったか……。ほら、もう帰るぞ」

小鳥「P君ち?」

P「おう、もうそれでいいよ」

ちひろ「わー……い」

P「もう船漕いでるよちっひ」

小鳥「一番弱いからねぇ」

P「すいませーん」

―――


640: 2014/07/05(土) 21:24:58.56 ID:Kp7eDxq/o

翌日

P「おはよーっす」

横山奈緒「おはよー」

凛「おはよう、珍しいね私達より遅いなんて」

P「ん、事務員二人が案の定だったから」

奈緒「……は? どゆこと?」

小鳥「あたまいたーい」

ちひろ「しんどーい」

凛「……杏じゃん」

奈緒「あちゃ、二人ともアカン事になってるやん」

P「あぁ、昨日飲み行ってさ。家まで押しかけてきた」

凛「はぁ!?」

小鳥「いたた……、凛ちゃん響く響く」

P「仕事にも響いてるよ。溜まってるんだから張り切って行こう」

ちひろ「書類燃やしたい……」

凛「いやいや、それって……え?」

P「どうした?」

凛「酔った勢いで家にって……」

奈緒「送り狼……はちゃうか、送られ?」

P「あぁ、そういう……。安心しろ、俺達はまずそういう事にはならないから」

凛「なんで?」

P「俺等は……あー、二人に一つ聞きたいんだけど」

ちひろ「なんです?」

P「俺達の関係って一言で表すとなに?」

小鳥「……えー、そりゃ勿論」

ちひろ「ねぇ?」

P「じゃあせぇので行こうか」

『せーの。……戦友』

P「な?」

奈緒「えーっと、ようわからんけど」

凛「なんとなくわかった」

P「じゃあそういうことで、仕事始めるから。……ほら、二人ともさっさとやるぞ」

小鳥「はーい」

ちひろ「りょうかーい」


 見えない何かでつながってるようです

646: 2014/07/05(土) 22:19:21.59 ID:Kp7eDxq/o

―――

 最近、足音が二つ聞こえる気がする。
振り返っても誰も居ないし、何もない。
けれど自分の革靴で廊下を歩く音とは別に、
ひたひたと忍ぶような足音が確かに俺の耳には届いていた。

 小梅や、クラリス・芳乃。あるいは歌鈴やこずえ辺りに聞けば
正体がわかるかも知れないなぁと考えて。
その時点で自分でも答えがわかってるじゃないかと苦笑する。

 多分その見えない足音の主は魔法使いのようなローブを着ている。
身の丈を超える大きな鎌を持っていて、その時が来るのを待っている。
そんな気がする。

「……今日で何日目だったかな」

 武道館ライブを明後日に控えたこの日、
夏真っ盛りの事務室は仕事量が過去最大クラスに上り
連日徹夜を繰り返す俺と事務員二人の棺桶となりかけていた。

「さぁ……、三日超えてから数えてない……」
「小鳥さん、口調が……あー、目が目が」

 二人とも、いや見えないけど恐らく自分も、
目も顔も疲れてるし髪はボサボサ服もだるだるだ。
この時期だけは例外的にホワイトボードの札も挨拶もスルー可にしてる。
可と言ってはいるが、事実上の立ち入り禁止なので、強制スルーだ。
スケジュールに関してはメールや電話でこなし、送迎などに関しては大人組に任せきりになる。
申し訳ないとは思うが、気を使う余裕など当に使い切った。

「俺、目玉がモニター焼けしそうですよ」
「もうしてますよ。ほら色白いんですから赤くなっちゃって」
「ちっひ、それ日焼けじゃなくて充血」

 机の周りにはインスタントな食品のゴミとか、
缶コーヒーや栄養ドリンクの空き瓶などが転がり、酷い有様である。
俺達自身も含めて10代以下には決して見せられない。

「くっそ……、ドリンクくれー。ミックスオレ作るー」
「また? 飲みすぎ……」
「そうですよ。身体によくないですよ……。アレはリミッター解除して
 強制的に身体を動かすモノですから……」
「知ってる。でも必要だろ」

 身をもって、痛いほど知っている。
……そういや二人も俺の事を言えない程鯨飲してるから、
もしかした同様の症状がでてるのかもしれない。
流石に混ぜてまとめて飲むのは俺だけだけど。

「んー……、でもいくらドライバー交代してガソリン入れても、
 マシンが壊れてたら走れないですよ」
「まだ壊れてないから大丈夫」
「壊れる前にと、言ってるのー」

 頭がぼぅっとしているからか、全員口調がずるっずるになっている。
重ね重ねアイドルには見られたくない。

652: 2014/07/05(土) 22:33:13.40 ID:Kp7eDxq/o

「じゃあいいだしっぺのピヨが行って来なさい」
「ダメ、一番働いてるP君が……」
「嫌だ。仮眠室行ったら最後俺が自分で起きて来るまで起こさないつもりだろ」
「そんな訳……ないじゃないですかぁ」

 やいのやいのと、言い合う。
その理由が休みの押し付け合いというのがよくわからない。
普通は取り合うものではないのかと思い、また苦笑。

「じゃあわかった! 私が休んで一時間できっちり戻ってきますから
 そしたら二人もちゃんと休みますね!」

 俺たち三人の中では一応後輩にあたるちっひがバンと机を叩いてそういった。
その衝撃で書類がはらはらと床に落ちる。

「あーあー、もうなにやってんだ……」

 そう言って、床に落ちた書類を拾おうと椅子から立ち上がって。
――倒れた。なんの誇張もなしに、顎を打たれたボクサーの様に。

「……なにやってるんですか……」

 その俺を起き上がらせようとちっひが立ち上がって、
同じく倒れて、その後小鳥さんが同じ事をして。
結果三人床に倒れ付した。

「あー」

 三人揃って、うめき声をあげる。
冷たい床が火照った身体に気持ちいい。

「やばっ……このまま寝そう」

 それを呟いたのが誰だったのか、わからない。
自分なのか違うのかすら、わからない。
少しずつ暗転していく世界を見つめながら、
ぼーっとした頭で、仕事しなくちゃと思っていた。気がする。

658: 2014/07/05(土) 22:43:33.90 ID:Kp7eDxq/o

―――

 次に目が覚めたのは白い部屋だった。
白いカーテンに白い壁と天井、白いシーツに消毒薬の匂い。
ぼやけた頭でもここがどこかは直ぐにわかった。

「病院……、か?」

 右に左に視線をやる。
液体の入った透明の袋がぶら下がった金属の棒。
――あぁ、点滴されてるのか。

「やべぇっ、いま何時だ!?」

 少しずつ明瞭になっていく思考で一番に考えたのはそれだった。
つくづく仕事人間だ。自分の腕を見るもののアイドルから貰った腕時計は無く。

「起きましたか……、他の二人はもう起きてますよ」

 上半身を起こした状態で時計を探していると、
カーテンを開けて人が入ってきた。

「……双海さん?」
「どうも、娘がお世話になっています」

 目を向けた先に居たのは、――亜美真美のお父さんだった。

「他の二人ってのは……」
「音無さんと千川さんと言う方です、
 貴方のアイドルが119番通報してこちらに搬送されたのですよ」

 そうかアイドルの誰かが……。
あの状態で他の二人ができたとも思えないし、妥当ではあるが。
よく気がついたものだ。いや、電話して出なかったから不審に思ったか?

「貴方達に話があります……」

 深刻そうな顔をする双海さん。
勿論言われる事はわかっているが、俺は黙って頷いた。

―――

693: 2014/07/06(日) 14:17:28.49 ID:CYGFpgb4o
――――――――――――――――――――

「おはようございます」

「おはようございます、凛さん」

事務所に着くと、肇に会った。奈緒と加蓮はまだ来てないみたいだ。

「早いね、肇。今日はレッスン?」

「はい。オーディションも近いので、早めに準備しようかと」

そう言って、手に持った台本を掲げる。
……まさか全部読ませるわけじゃないだろうけど、なかなか大変そうなオーディションだ。

「今度はドラマだっけ。ふふ、最近調子良いみたいだね」

「凛さんに言われてしまうと照れますね……そういえば、この前はいかがでした?」

「ん?」

「レストランに連れて行ってもらったと聞きましたが」

あぁ、肇の担当Pさんの紹介だったっけ。

「すごく良い所だったよ。夜景も綺麗で」

「それは良かったですね。……それで、お返事は何と?」

694: 2014/07/06(日) 14:18:21.68 ID:CYGFpgb4o
すまん誤爆

710: 2014/07/06(日) 18:01:55.01 ID:ydEGSbYfo

「率直に言います。このままの生活を続けていれば過労氏はもう目と鼻の先です」
「でしょうね」
「っ」

 淀みなく返す。それはもう真っ黒な曇天を見上げて
「明日は雨だ」と言った友人相手のようにゴクゴク普通に。
そんな俺に双海さんはやや鼻白んだような顔をする。

「わかってましたから」

 ポタポタと点滴が流れる。パックの中身はほとんど残っていない。

「なら、少しは……。――あなたは身体を休めるべきです。
 最低でも一週間は安静に――」
「それはできません」

 言い切る前に首を振ってNOと答える。
ここまでで一番はっきりと言い切った。
我ながら随分と力強い。

「今この瞬間だって、きっとアイドル達が事務室でてんやわんやしてます。
 さっさと帰らないと大変です」
「なら一日の仕事量を減らしてください、人を増やすなりして……。
 娘から事情は多少聞いてます、あなたの立場ならどうとでもできるでしょう」

 当然の言葉だ。当たり前。
人を増やして負担を減らし、より効率よく仕事をこなし、
こんなデスマーチ紛いの労働からおさらばしよう。
職場の知名度は十二分。人を雇う金だってしこたまある。

711: 2014/07/06(日) 18:02:30.86 ID:ydEGSbYfo

「なにを悩んでるんですか? 命には代えられないでしょう」

 黙りこむ俺に医者という立場から、正論をかけてくる。

「悩んでなんて、居ませんよ。もう、答えはでていますから」

 けれどそうではない。そうじゃないんだ。
最近わかった。ずっと俺は探すふりをしてただけなんだ。
これは――。

「私達の我侭なんです。……ね、P君」
「なんとびっくり、わたし達が倒れて既に五時間経ってます」

 双海さんの後ろから戦友二人の姿がひょっこりと現れる。

「なっ、二人とも絶対安静って……!」

 突然現れた二人に双海さんは目を大きく見開いて驚いていたが、
俺はむしろおかしくて、笑ってしまっていた。
本当、考える事は同じ。良くも悪くも。

712: 2014/07/06(日) 18:03:27.25 ID:ydEGSbYfo

「五時間か、こりゃさっさと事務所戻らないとな」
「タクシーはさっき電話したわよ」
「もう時期正面玄関につくと思います」

 目の前の、白衣を着た医師を無視して行われている会話。
治療して貰ったくせに恩知らずも甚だしかった。

「では、我々はこれで。色々ありがとうございました」

 せめてと頭を深々と下げる。

「なにを考えているんだ君達は!? 本当に、本当に氏んでしまうぞ!」
「――だから、我侭なんですよ。いまの状況は」

 意味がわからないと口角泡を飛ばして声をあげる彼に。
理解はできないだろうとわかりながらも言葉を紡ぐ。

「デビューから見守ってきたあいつらを、トップアイドルに導く。
 それは俺の夢で、目的で、使命で、全てなんです。
 素晴らしい才能を持った彼女達を輝くステージでキラキラさせてやりたい、
 そして、それを誰よりも傍で見つめていたい」

 プロデューサーになって、すぐ。
まだ候補生だった十三人が見せてくれた――否。
魅せてくれた、俺一人のためのステージ。
拙くて、未熟で、声は裏返るし、ステップは間違える、
立ち位置はずれて隣のアイドルとぶつかったり、正直下手糞だった。
でも、あの瞬間の彼女達は世界で一番幸せそうに笑顔で、輝いていた。

「キラキラした彼女達を見てると私達までキラキラできる気がする」
「そりゃしんどい時もありますし、愚痴を零す事もあります。
 でも、わたし達は一度だって。『辞めたい』って思ったことはありません」

713: 2014/07/06(日) 18:03:54.09 ID:ydEGSbYfo

 しみじみと、二人は語る。
俺と同様、何年もうちに秘めていた気持ちをポロポロと。

「こんな贅沢他にないでしょう? だから俺は、俺達は、
 命『程度』で今を捨てるつもりも、ましてや誰かにこの場所を譲ってやるつもりもないんですよ」

 空っぽになった点滴を抜き、ベッドから降りて。

「それにみんなをトップに導くまでは氏にませんよ絶対」

 では、と改めて頭を下げて呆然とする彼の横を通り過ぎた。

「待ってください。……せめて、ドリンクの使用は控えてください。
 食べたものが全部零れ落ちるような胃になる前に、……三人ともですよ?」

 いつの間にそんな所まで検査されたのだろうか。
というかやっぱり俺以外の二人も……と、顔を見れば目を逸らされた。
いやぁ、ホントつくづく。

「わかりました。双海さん」
「ありがとうございました」
「では、失礼します」

 言って、再び歩き始める俺達の背に。

「もう二度と、ここで貴方達と出会わないことを祈りますよ」

 ――ぼそりと、小さな言葉が飛んできた。

―――

「五時間か、やばいな」
「この間はほんの三十分であんな事になってましたからねぇ」
「というか、誰が気がついたんだろ?」

 正面玄関にでればちっひの言った通りに既に一台のタクシーが横付けされていて、
俺達はさっさとそれに乗り込んだ。しわくちゃのスーツを着た俺とピヨとちっひ。
マスターズプロダクションまで、特急で。と伝えてシートに凭れながら会話を飛ばす。

「さぁ、誰でも良いよ。誰であれ、ウチのアイドルに違いはない」
「ですね、帰ったらみんなにありがとうとごめんなさいしないと」
「そしてその後にはすっぽかされた書類ちゃんをあやさないとね」

 言って、けらけらと三人で笑った。
倒れたばかりの起き抜けだというのに、それはそれは楽しそうに。
当たり前のことだ。――俺達は仕事をするのがこんなに楽しい。

723: 2014/07/06(日) 18:43:16.90 ID:CYGFpgb4o
>>1の労働環境も含めての創作なんだろ
……そうであってほしい

731: 2014/07/06(日) 19:39:13.77 ID:ydEGSbYfo

【食材であることに間違いはありません】

 6階 厨房

美奈子「最近……ではないですね。もうずっとプロデューサーさん達働きっぱなしなので」

やよい「わたし達が元気になるお料理を作りましょー!」

フェイフェイ「それでなに作るヨー?」

美奈子「今日はこれで行きたいと思います!」

 (舞茸、しめじ、えのき、椎茸、エリンギなどが入った籠を取り出す音)

やよい「わぁー、きのこが一杯です!」

フェイフェイ「立派なキノコダヨー、これ冷蔵庫に入ってたデスヨー?」

美奈子「えっと……、近くで収穫祭が……」

やよい「しゅうかくさいですか?」

美奈子「ままま! 気にしないでじゃんじゃん作りましょう!
     普段忙しくてゆっくり食事を取る間もないプロデューサーの為に!」

フェイフェイ「おー! ふぇいふぇいも料理頑張るヨー!」

やよい「あうー、でもわたしキノコ料理あんまり作ったことないかもですー」

美奈子「そこはプロフェッショナルをお呼びしています!」

フェイフェイ「プロフェッショナル? 誰デスヨー?」

輝子「……ども」

美奈子「あれあれ~? キノコの事なのになんか元気がなくないですか~?」

輝子「うぅ、マイフレンズ……、マイフレェェェンズ!!!」

やよい「えっ、このきのこってもしかして……」

美奈子「地下にあるキノコ部屋から収穫してきました!
     ほら輝子ちゃんも、折角なんだから美味しく料理してあげよ!」

輝子「うぅぅ……――ヒャッハァァー! 美味しく料理してやるぜ親友!」

美奈子「よーしその意気だ! プロデューサーさんをみんなで健康的に太らせよう!」

フェイフェイ「えっ」

周子「おなかすいたーん。あれ、なになに? みんなでお料理中?」

やよい「あ、はいっ! キノコを使った料理を作ろうかと……」

周子「へー、キノコ。だから輝子ちゃんがいるんだね~。
   みんなーこっちこっちー」

フェイフェイ「ん? みんなってどういう事ネー」

周子「いやぁ、お腹減ったからここくれば誰かなんか作ってるかなあっておもて」

 (呼びかけに応じてアイドル達が何人も集まってくる)

美奈子「おおぅ、こんなに一杯いたら材料足りないですね!」

輝子「え」

美奈子「輝子ちゃん! みんなのために、沢山キノコもってきてくださいね!」

輝子「オォォォノォォォ!!!」


 それから後日、地下に引きこもって原木をなきながら植え付ける輝子の姿があったとか


734: 2014/07/06(日) 19:45:56.09 ID:ydEGSbYfo
>>732
エリンギ一本12カ口リーだって!
沢山食べれるね!

741: 2014/07/06(日) 20:12:32.62 ID:ydEGSbYfo

【ある日の日常その4】

 談話室その1

卯月「あ、春香先輩!」

春香「卯月ちゃん、どうしたの?」

卯月「次の仕事まで一時間位あいちゃって、よかったらお喋りでも」

春香「そう言う事あるよね。ちょっと待ってて、確かそこの戸棚にこの間買ったマドレーヌが」

 (戸棚を漁る音)

春香「あれ?」

卯月「どうしました?」

春香「ない……。一緒に買った抹茶のバームクーヘンもない……」

卯月「抹茶のバームクーヘンって……」


未来「おいしー!」


卯月「……あれですか?」

春香「あー! 未来ちゃん!」

未来「うわわっ。あっ、先輩に卯月さん! おはようございます!」

卯月「うん、おはよう」

春香「おはよう……じゃなくってそれ食べちゃったの!?」

未来「あ、ごめんなさい! 名前も書かれてなかったし、じゃあいいのかなぁって……」

春香「そっかぁ、楽しみにしてたのになぁ……」

未来「あうあう……、新しいの買ってきます!」

春香「いま、食べたかったなぁー。ねぇ卯月ちゃん」

卯月「えっ、私はその……あはは」

春香「えー本当は食べたくなかったのー?」

卯月「いえ、そういう訳じゃ……」

未来「えとえと……」

春香「……ぶふっ、くっ」

卯月「え? せ、先輩?」

未来「どうしたんですか!?」

春香「もー、冗談だって。いくらなんでもお菓子食べられたくらいで怒らないよー! それに」

  (戸棚の奥、料理の本の裏を漁る)

春香「じゃーん! ここに取って置きのフィナンシェが!」

卯月「おー!」

未来「あ、お茶入れてきます!」

春香「じゃあ三人で食べよっか」

卯月「はいっ」

 たまには春香も先輩風を吹かしたくなる日があるようで

746: 2014/07/06(日) 20:23:22.14 ID:ydEGSbYfo

【ある日の事務室その?】

P「あー、たまには外食とかもしたいな」

小鳥「コンビニのお弁当とか出前ばっかりですもんね」

P「ピザに寿司に蕎麦にドンブリにラーメンに……。
  この辺りの出前やってるところは、ウチの番号登録してかけたら一発らしいですよ」


ちひろ「わたしお金持ちになったら、毎日外食だと思ってました」

P「現実は非常である」

小鳥「外食してる時間が勿体無いですからねぇ……」

ちひろ「お店まで行って、注文して料理が来て食べて帰る」

P「その時間で一体どれだけ書類が片付くかを考えたら外食とか……」

小鳥「100~200は硬いですね」

ちひろ「その代償を払ってまで外食する勇気などわたしにはありません」

小鳥「私もですよ」

P「以下同文」

桃華「……なるほど」

749: 2014/07/06(日) 20:34:39.54 ID:ydEGSbYfo

―――

翌日

P「ん……?」

小鳥「どうしました? なにかミスでもありました?」

ちひろ「あったとしたらわたしじゃないです」

小鳥「えーっと、どういう意味かなちっひ」

P「いや、なんか書類に混じってこんなものが……」

ちひろ「招待場?」

小鳥「凝ってますね……。場所は談話室その3って書いてありますよ」

P「日付は今日の夜20時……、ristorante Ti voglio tanto bene」

ちひろ「昨日の会話が聞かれてた……?」

小鳥「はぁ~、私達も存外抜けてますね……」

P「ま、アイドルなりの気持ちですから。素直に受け取りましょうよ」

小鳥「それはその通りですけど」

ちひろ「20時に仕事終わります?」

P「……終わる終わらないじゃない。終わらせるんだ」

小鳥「おぉ、勇ましい」

ちひろ「惚れてしまいそうですね」

P「はい、手を動かしましょう」

756: 2014/07/06(日) 21:04:27.16 ID:ydEGSbYfo
―――

P「うぉっ!? なんだこりゃ」

小鳥「ここ本当に談話室ですよね?」

ちひろ「昨日の今日でよくもまぁここまで」

 (様々な装飾を施され、扉の前には雰囲気のある看板が立つ)

P「これ、凄いですね」

小鳥「ここだけなら誰が見てもお洒落なイタリアンレストランですよ」

ちひろ「いくら普段来ないとはいえ、よく気づきませんでしたねわたし達」

P「聞かれてた事といい、仕事中は内向きに集中しすぎるからなぁ俺達」

小鳥「とりあえず中入りましょうか」

 (ゆっくりと扉をあける音)

芽衣子「いらっしゃいませ~!」
琴葉「いらっしゃいませ」
貴音「いらっしゃいませ」

 (ウェイトレス衣装に身を包んだアイドル達)

P「お前達……」

芽衣子「三名様ですねー、こちらの席へどうぞ!」

 (瞬く間に中央の席に座らせられる三人)

琴葉「こちらがメニューになります」

貴音「ご注文がお決まりになりましたらお呼びくださいませ」

 (これまた作りこまれたメニューを置き、礼をして去る)

P「徹底してるなぁ……」

ちひろ「すごい、内装までしっかりと」

小鳥「うわぁ本当にレストランになってますね」

志乃「ふふっ、素敵でしょう?」

礼子「こんばんわP君。お先に頂いているわ」

 (ワイングラス片手に微笑む二人)

P「志乃さんに礼子さん……、今日のこれは二人が?」

志乃「いいえ、私達は便乗しただけよ」

礼子「美味しいお酒を頂いてるわ」

P「じゃあ誰が……っつかこれ、戻せるのか……? 壁とか色塗っちゃってるだろ?」

桃華「大丈夫ですわPちゃま」

P「うわっ桃華!?」

小鳥「ってことはこれは」
ちひろ「なるほど櫻井の力ですか……」

P「それで、大丈夫ってのは?」

桃華「こちらを普段使うのは大人組の方達ですし、
   その大人組の方々もこちらで宴会する時に雰囲気があっていいとおっしゃってました」

 (筆頭である志乃と礼子がこちらに手を振る)

小鳥「いえ、ここ一応会社の部屋なんだけど……」

ちひろ「考えたら負けです。どうせ本当に怒る人なんていません」

P「そう言う事だ。事務室以外だったら好きに使えとも前に言ったしな」

 (言いながらメニューに目を通す)

759: 2014/07/06(日) 21:46:49.47 ID:ydEGSbYfo

小鳥「雰囲気も店名もそうでしたけどやっぱりイタリアンなんですね」

P「Apertivoはないのか?」

桃華「ご希望でしたらおだししますわ」

P「おっ、じゃあどうする?」

小鳥「私はシャンパン……んんっchampagneで」

ちひろ「えっ、……わたしもしゃんぱーにぇ」

P「可愛い」

小鳥「可愛い」

ちひろ「ちょっと多言語使えるからって……」

桃華「はい、ではすぐ用意させますわ」

 (手の平を二度叩く音)

芽衣子「お待たせいたしました」

P「うお、クリュッグだ」

ちひろ「有名なんですか?」

小鳥「有名もなにも、シャンパンの帝王と言われているものよ」

 (グラスに注がれていく音)

P「じゃあ乾杯」

小鳥「かんぱーい」

ちひろ「かんぱい」

761: 2014/07/06(日) 21:58:51.59 ID:ydEGSbYfo

P「ん~、っまい」

ちひろ「上品ですね」

小鳥「本当に」

P「ありがとう桃華、この間の話聞いてたんだろ?」

桃華「はい。……けれど、本当はレストランを近くに建てようと思っていたのですけれど」

貴音「わたくしがそれは辞めた方がいいと」

P「よくやった貴音」

桃華「とにかく、普段外食する暇もないとおっしゃっていたので
    感謝の気持ちを込めてこのようなことをさせていただきました」

琴葉「私達も、それを知ってなにか手伝えることはないかって」

芽衣子「ゆっくりしていってね!」

小鳥「ありがとうみんな」

ちひろ「本当に素敵なレストランに居るみたい」

P「またここが七階なのもいいな。窓の外が夜景なのが雰囲気をだしてる」


 それからゆっくりとした雰囲気でお食事を楽しみました。
 こんなにのんびりと食事を楽しんだのはどれ位ぶりだったのか

764: 2014/07/06(日) 22:30:26.07 ID:ydEGSbYfo

【ある日の日常その5】

瑞希「トランプで手品ですか……?」

響「うん! なんか自分達にもできそうなのってないかな」

李衣菜「ひとつお願いします!」

瑞希「そうですね……では、簡単なのをいくつか……」

 (ポケットからトランプを取り出し手馴れた動きでシャッフルする)

李衣菜「おぉ、格好良い」

響「流石瑞希さー」

瑞希「や、やめてください。まだなにもしてないですから……。
    えっと、では早速」

 (トランプを上から順に机の上に重ねていく)

瑞希「適当な所でストップって言ってください」

響「ん~じゃあ……」

李衣菜「ストップ!」

響「あっ、なんで李衣菜が言うんだー! 自分が言おうと思ったのに!」

瑞希「えっと……いいですか?」

響「あ、うんいいぞ!」

瑞希「ではいま分けたこちらを使います」

 (分けられた方の山札を上から順番に四つの山に分けていく)

響「ふんふん」

瑞希「はいできました……。では今から念を込めるので手を貸してください」

李衣菜「手? はい」

響「こうか?」

瑞希「はい、では失礼して」

 (二人の手を掴んで目を瞑り二秒ほどして離す)

瑞希「じゃあこの四つの山をめくっていきます。まず一枚目」

李衣菜「ハートのAですね」

瑞希「二つ目」

響「クローバーのAだぞ……、あれ?」

瑞希「三つ目」

李衣菜「ダイヤのAだ!」

響「うわ、なんでだ!?」

瑞希「ふふっ……じゃあこれが最後ですね」

響「うわぁー! スペードのAだ!」

李衣菜「えっ、どうしてそうなるんですか!?」

瑞希「最初のシャッフルのときにAを山札の一番上に集めておくんです。
    そして上から分けていけば一番下にいきますから、また上から四つに分けていけば」

響「あ、なるほど」

李衣菜「え、つまりどういうこと?」

瑞希「じゃあわかりやすくトランプを逆向きにしてやってみましょうか」


  それからこのメンバーでたまに手品の練習が行われてるようです

796: 2014/07/07(月) 19:33:28.94 ID:3UO1W+bbo

 俺達が社長の姿を認め、動きをとめると同時。
社長も受話器を戻してこちらを向いた。

「……久しぶりだね諸君」

 懐かしい、と思ってしまう位聞いていなかった声だ。
俺をこの世界に引き込んだ張本人。
『君には才能がある。我が社で働いて見ないか?』
懐かしい、懐かしい記憶が蘇る。

「まさか、社長が一人で?」

 なんと言ったらいいかわからずに立ち尽くす俺をどかして、
ピヨが前にでて困惑したように問う。
室内に入り改めて見回すもののアイドルの姿は晶葉の他に居ない。

「いやいや、それこそまさかだよ。
 私は来客の対応や、電話対応の一部を受け持っただけさ。
 書類はほとんど手付かずで残っている、
 むしろ今日働いてくれたのは――」

 そこまで言って、いまだ作業中の晶葉に目を向ける。

「ん? あぁ、戻ってきていたのか。すまない気がつかなかった。
 ――しかし美嘉め、やはりこちらに連絡しなかったか……、
 まぁ予測はできていたが」

 振り向いて、困ったように笑いながら晶葉は眼鏡を直し立ち上がる。

「おかえり三人とも。本当はこのシステムを君達が倒れる前に完成させたかったんだが……」

 すまない。と頭を下げられた。

「完成させたかったって、……なにをだ?」
「うむ、三人とも自分のデスクに座ってPCを立ち上げて見てくれ」

798: 2014/07/07(月) 19:46:01.07 ID:3UO1W+bbo

 言われた通りに席に座り、使い慣れたパソコンに向かう。
立ち上げて、と言われたもののすでに電源は入っているのでモニターだけを点ける。
すると――。

「なんですか、この見慣れないアイコンは?」
「押して見てくれ」

 デスクトップの中心に一度も見たことのない拡張子exeのアイコンが一つ置いてあった。
それは他二人も同じだったようで俺達は言われた通りにそれをして見る。

『おはようございますマスター。私、頑張りますね!』
「え、卯月ちゃん……?」
『マスター! 電話ですよ! 電話!』
「春香ちゃんそっくり」
『おはようございまーす!! これからよろしくお願いします!!』
「うるせぇ!」

 三者三様。それぞれのパソコンからアイドルの声が飛び出した。
それどころか、俺のモニターの上にはデフォルメされた愛がピコピコと動いている。

「これは一体なんだ……?」
「私が開発した電話応対、会計処理、データ整理などの事務仕事を手伝ってくれるAIプログラムだ。
 無限に近い電話上でのやりとりを円滑に行えるようにするために少々時間を食ってしまって、
 まだ不安定な所もあるが。君達が倒れてしまったと聞いて慌てて導入させた」
「まじか」

 それは出すべきところにだせば十億単位の金が悠々と動く発明だと思うが。

「というか、晶葉。どういうものかはわかったが何でアイドルの姿をしているんだ?」
「うむ、どうせなら親しみやすくという意味と、学習機能を持たせているからな、
 君達とも会話できる形態にしたかった」
「会話?」
「あぁ、君達が教えれば仕事もより覚えて効率的にこなせる様になる。
 そうすれば君達の仕事は実際に書類に判子を押したり
 感覚や経験が必要な物のみになるし、ずいぶんと楽になるはずだ」
「相変わらず凄いわね晶葉ちゃん」
「天才と言われるだけはありますね……」

 ふんと胸を張る晶葉からまたモニターに顔を戻す。

『うぅ……うるさいって言われた……やっぱり私、ダメなんだ』

 パソコン上の愛がへこんでいた。
なんだこれ。

「おい晶葉、なんかAIが凹んでるんだが……」
「君がさっきうるさいって言ったからだろうな」
「……え、それだけでか?」
「言ったろう? まだ不安定なんだ」

 あぁ、不安定ってそっちが?
俺は動作が不安定なのかと思っていたんだが、
まさかAIの情緒不安定と来るとは……。

「ごほん。いいかね」

 科学の力ってすげー。とかなんとか思っていると、
すっかり放置された社長が咳払いを一つ。

799: 2014/07/07(月) 19:53:12.13 ID:3UO1W+bbo

「っと、失礼しました」
「いやいいんだ。私もその発明には随分と驚いた」

 苦笑する社長。
よくみればその頬には赤いあとが残っていた。

「社長、その顔は……?」
「ん? あぁ、……まぁもてなしだな。
 ずいぶんと効いたよ。君達がアイドルにとても慕われているのが伝わってきた」
「……全員にやられなくてよかったですね」
「そうだな……ははは」

 乾いた笑いを一つ。
そしてやおら真面目な顔をして、頭を下げられた。
今日は頭を下げたり下げられたり忙しい日だ。

「君達には、本当にすまないことをしたと思っている。
 私はすべてを投げ出し、押し付け、逃げ出した屑だ、
 君達は長い間迷惑をかけた。その結果が今日のこれだ、
 アイドルにも言われたよ。今更なにをしに戻ってきた、とね」

 顔をあげぬまま、社長は続ける。

「いくら謝ったところで、済むとは思っていない。
 今更社長面するつもりなどもっとない。
 本当に申し訳ない……!」

 深い後悔と、自己嫌悪。
強い謝罪の意とか色々。

「顔を上げてください社長。私達は床にはいませんよ」

 ピヨ……小鳥が軽く声をかけ、
そこで社長がようやく顔をあげる。

「謝られても、ね?」
「そうだな。社長はバカンスに行ってただけだしな」
「仕事が多いのもプロデューサーさんがむやみやたらにスカウトしまくる所為ですもんね」
「……おう、大変申し訳ない」

 などと空気をリセットするべく軽く会話をこなして。
社長に向かって言葉を紡ぐ。

「なので社長」
「これからもよろしくおねがいします」
「おかえりなさい」

 そう言った。

802: 2014/07/07(月) 20:27:54.34 ID:3UO1W+bbo

「き、君達……」

 感極まった様子の社長。
そして晶葉は横で腕を組みながらなぜか満足気に頷いている。
が、良い話だけで終わらせるつもりもない。

「というわけで、これからバカンスしてた分きっちり働いてくださいね社長」
「とりあえず私達の書類の四分の一ずつわけますから」
「わからないことあったらわたし達に聞いてください、
 ビシバシ教えてあげますからね」
「とりあえずこれとこれと……」
「あと、この辺のイベント系はごっそり……」
「折角社長が戻ってきたので予算系はやっぱり社長に目を通してもらわないと……」
「そういや、この間文化放送の局長が」

 どさどさと社長の前に書類がうずたかく積まれていく。
見る見る内に顔色が悪くなっていくが、まぁ一時期の俺達程じゃないな。

「さぁ、社長仕事をしましょう」
「……お、お手柔らかに頼むよ」

804: 2014/07/07(月) 20:52:30.23 ID:3UO1W+bbo

―――そして

 リノリウムの床を歩く。
コツコツと靴と床がぶつかる音がする。
有体に言えば足音だ。

「よしよし、Angel'sの海外遠征は概ね成功だな……、
 DearlyStarsもそろそろSランクだし、海外の話も進めていいな」

 手元の資料を捲りながら歩く。
足音と自分の声だけが聞こえてくる。
――訂正、自分の足音と、自分の声だけが聞こえてくる。

 最近は、あのもう一つの足音が聞こえない。
あの日からだんだんと足音が遠ざかっていって、
やがて消えてなくなったのだ。

「ただいま戻りましたー」

 すれ違うアイドルと時折会話を交わしながら、事務室に戻る。

「ですから、どうして同じところを間違うんですか?」
「申し訳ない……」

 エアコンの効いた室内で、社長――否、元社長がピヨに怒られている。

「あ、また社長いじめてる」
「いじめてません!」
「ハハハ、またやってしまってね……。それと私はもう社長ではないよ」
「でしたね。……っと、ちっひ」
「はい?」
「DS組に海外遠征行かせようと思うんだけど、組んどいてくれる?」
「了解」
「あと、ピヨ」
「なにっ?」
「……ほどほどに」

 あの日から半年が経つ。
結局社長が戻ってきただけで人は増えていない。
律子やこのみを筆頭に一部のアイドル等
事務室勤務を望んだ者も居たが、俺が却下した。

 それでも晶葉開発のAIのおかげでずいぶん仕事は楽になったし、
こっち専門ではないが、アイドルも前以上に手伝ってくれるようになった。
少なくとも、月に二日は全休が取れる程には。

 と言ってもまだまだしんどいし、疲れる。
仕事が途切れる事無いし、書類が消えることもない。

 それでも、俺はもっと輝く皆を見る為に。
今日も過労氏しない程度に必氏に頑張っている。

805: 2014/07/07(月) 20:53:11.24 ID:3UO1W+bbo
おわり

811: 2014/07/07(月) 20:58:58.91 ID:3UO1W+bbo

【エリア】

モブA「あ、悪い。今日新しいCDの発売日だからショップ寄って良い?」

モブB「ん? いいけど」

モブA「さんきゅー」

 いらっしゃいませー

モブA「えっと、あっちだ……」

モブB「え、なんだあれ?」

モブA「どうした?」

モブB「あの特設エリア……」

モブA「マスプロのだろ? 俺が用あるのもそこだけど」

モブB「TSUTAYAのアダルトコーナーより広い気がする」

モブA「マスプロだからな……コレとコレとコレと」 ひょいひょい

モブB「いや、お前幾つ買うんだよ」

モブA「新譜だけだよ? 今月は比較的少なくて助かったわ」 ひょいひょいひょい

モブB「少ないって……」

モブA「やべ、持ち切んない。ちょっと手伝って」

モブB「えー」

812: 2014/07/07(月) 21:05:07.61 ID:3UO1W+bbo

【黄色】

桃子「うわ、うわー! お兄ちゃん助け――」

きらり「つっかまえたー! にょわー! 桃子ちゃんきゃわうぃー!」

桃子「ぎゃっ!? た、たかっ! お、おろしてよ! 私の方が先輩なのに!」

きらり「にゅふふー、あとは亜美ちゃんと真美ちゃんだにぃ」

亜美「あわわ……、真美隊員! とうとう桃ちんがつかまってしまいました」

真美「我々も時間の問題だ……。ここは二手に分かれよう!」

亜美「了解! ……幸運を祈る」

きらり「あっ、みつけたー!」

真美「うわっ! に、にげろー!」

亜美「ダッシュー!」

きらり「にょわー! 逃がさないにぃー!」

桃子「担いだっ、ままっ、走ら、ないでよ!」

P「事務室でやんな!」

 事務室にプレイルームができる日も遠くない気がします

816: 2014/07/07(月) 21:16:28.83 ID:3UO1W+bbo
とりあえず、勢いもなくなってきたし
この辺りで終わろうかな……1000行ってないけど……

あ、次はモバマスのガチ能力バトル物と
876に出向する765Pの話のどっちか書こうと思ってるんだけど
どっちがいいかな(両方とも地の分オンリー)

817: 2014/07/07(月) 21:17:34.99 ID:OfWExdyh0
ガチ能力物でオナシャス(五体投地)

818: 2014/07/07(月) 21:17:48.85 ID:APtz8krAO
ミミミン....

821: 2014/07/07(月) 21:20:29.93 ID:Eg8yB8OU0
お疲れ様です
次回作はガチ能力物で