303: 2014/11/17(月) 01:18:15.95 ID:nwz8HdCDO

304: 2014/11/17(月) 07:29:38.42 ID:LBLt4448o

―――

 一ノ瀬志希が自分を追い続けていた『鬼』と対面したのは
直径およそ100メートル程の池には大きく湖には少々小さい
そんな貯水池を越えたタイミングだった。

「……やはり一ノ瀬志希でしたか」

 空を映す大きな水溜り。それを挟んで向かい合う二人。
ぼそりと呟いた四条貴音の言葉は風と葉鳴り、水のさざめきに流れて消えた。

「ふむ、回り込んでいては姿を見失ってしまいますね」

 風上から風下へ、匂いを頼りに一定以内に鬼を寄せつけずに居た
志希をここで捕らえたい。

「にゃふふー、さぁってどうするつもりかな~?」

 それを対面で見守る志希は腕を組み正面から貴音を見つめる。
相手がどうでるか楽しみで仕方ない、未知が見たい。
というその気ままな性格はいつひょいと飽きてどこぞに行くかもわからない。

305: 2014/11/17(月) 07:52:04.77 ID:LBLt4448o

 一分程の、距離の離れた対峙を動かしたのは。
もう第三者だった。

「ん?」

 貴音と同方向。つまりは風上側から近づいてくる誰かに先に気がついたのは、
距離が近い貴音ではなく、やはり志希だった。

「おや?」

 次いで、僅かな駆動音。
コンピューターのファンを少しだけ大きくしたような、
機械仕掛けの音が聞こえ、そこで貴音も乱入者の存在に気がつく。

「呼ばれてないけど、茜ちゃん登場ー!」

 如何を問う前にでかい声で自己紹介をしながら現れたのは野々原茜。
スケートボードのタイヤを取った様な宙に浮く機械に乗って、
貴音の横に滑るように並ぶ。

「やっほ貴音ちゃん! そして向こうには、むむむ……志希ちゃん! やっほー!」
「やっほー茜ちゃん!」

 追う側と追われる側気さくに挨拶を交わした後、
同じ役割である貴音に改めて向き直る。

「もしかして、コレ渡るのに悩んでた感じ?」
「えぇ、手段はあるのですが。使うかどうかを少々悩んでいました」
「ふぅん? じゃあ私が行っていい?」
「どうぞ」

 短いやり取りを行い、貴音が一歩下がり代わりに茜が一歩前進する。

「よっと」

 宙を浮くボードを踏み背中に背負い、
代わりに懐から一足のローラースケートを取り出し装着する。

「やっぱこれっしょ!」

 こちらも同じくいくつか金属製のパーツがついてはいるがローラーは無く。
パッと見ではごついだけの靴にしか見えない。
が、それも茜が側部のボタンを押すと先ほどまでボードが発していた物と同じ
小さな駆動音をさせて履いた茜ごと宙へ浮く。

「おぉーすっごいにゃー。……で、こっちに来るの?」
「いくよー!」

306: 2014/11/17(月) 08:04:21.00 ID:LBLt4448o

 身体を左右に揺らし、普通のローラースケートと同様に
ゆっくりと加速しながら茜の身体は水面へと躍り出る。

「どうだー!」

 得意満面とも言える満開の笑顔に対し、
しかし志希は自身の優位を疑わなかった。

 徐々にこちらに近づいてくる茜の距離を確認し、
彼女がやがて自分から約50メートルの位置。
つまりは池の中央部に到達した時になって、やっと志希は動く。

「これでもくらえー! 試作7F号!」

 もはや普段着の白衣から取り出したのは二つの試験管。
その栓を外し叫びながらそれを力強く投げる。

「?」
「え、なに?」

 空中で二つの液体が混ざりながら
やがて重力に従い池にポチャンと軽い音を立てて落ちる。

 何が起こるのか、何がしたいのか。
傍から見ていた貴音にも動きを止めてしまった茜にもわからなかった。
五秒。経つまでは。

「うわわわぁぁ!?」

 中身を失いぷかぷかと浮かんでいた試験管付近の水が、
ゆっくりと持ち上がり、一つの形を形成する。
スライム。RPGなどで登場する定番のモンスターが茜の目の前に姿を見せた。

 次いで、後方にも一体。左右にも一体ずつ。
都合四体の巨大なスライムが茜を取り囲む。

「……こ、これは茜ちゃん大ピンーチ!」


309: 2014/11/17(月) 08:39:45.07 ID:LBLt4448o

「いっけぇー!」

 普段出す機会がない研究成果を出せたのが嬉しいのか、
やたら高いテンションで佇むスライムに指示を出す。

「……ふぅ、仕方ありませんね」

 山のような粘体の塊が指示を受けて蠢き、
茜に圧し掛かろうとする刹那。
それを見ていた貴音が嘆息を吐いて小さく呟き、
池に足を踏み入れる。

 パキン。と何かが割れた様な音。
そして続くパキパキという、小気味良い音。

「え?」

 志希と茜の声が重なった。
視線の先には池の水面を悠々と歩く貴音の姿。

 ――否、水面ではなく。氷面。
いつの間にか池は凍て付き固まり、
水のみならず、スライムまで完全に凍り付いていた。

「嫌いなのです」

 こつこつと、表面に霜を張り付かせた氷面を歩く貴音は呟く。

「……氷の女王等という渾名は」

 言って足元を見ていた視線をあげ、志希を見つめる。

「――っ!?」

 ここで始めて、志希は戦慄を。
全身に立つ、寒さからではない鳥肌を感じ。
恐怖した。白衣から今度はフラスコを取り出し、近場の木々に栓も取らずに投げつける。

 叩きつけられ割れたフラスコからまたも
極彩色の液体が撒き散らされ、木々の根に振る。

「い、いけっ!」

 どもる舌。鳥肌が立つにも関わらず額を落ちる汗。
初めて感じた「焦り」に突き動かされるように指示をだすと、
液体を浴びた木々が動物のようにゆっくりと根を足に、枝を腕にして歩き出す。

「……」

 一瞥。志希から目を逸らしそちらを見て、僅かに腕を振る。
すればたちまち木々もまた、凍りつき瞬く間にその動きを止める。

「すっごー……」

 凍りついた四つの山から抜け出し、ただ唖然とする茜。
この状況をどうするか必氏で考える志希。
その両名を視界におさめ、勝者の面持ちで歩む貴音。

 誰がその場を支配しているか。
一目瞭然だった。

323: 2014/11/18(火) 22:50:47.90 ID:BFDMbQNRo

―――

 同刻。一つの終焉を迎えようとする戦場を見つめる瞳があった。
人の胴回り程の太い枝に腰掛け、離れた位置から
細く長い狙撃銃のスコープを覗きタイミングを見定める蒼い瞳。

「ОДин」

 ドラグノフ。SVDとも呼ばれるセミオートマチックライフル。

「Два」

 その引き金に添える白い指先に、そろりと力が入る。

「……Три」

 息を多めに吸い。その瞬間の為に呼吸を止め意識をスコープの先。
数ミリにしか見えない見知った顔の頭部にクロスを合わせる。

 ―――そして。

324: 2014/11/18(火) 23:22:55.45 ID:BFDMbQNRo

―――

 金属同士がぶつかる音が、響いた。

「こ、今度はなに!?」

 二人が音の発生源を見ると、いつ手にしたのかわからぬ
氷の細剣を携えた貴音が明後日の方向を睨み硬直していた。

「……狙撃のようです。茜、捉えられますか?」
「えっと、方向がわかれば多分!」

 ガチャガチャと服の中をあさりスコープの様なものを取り出す。

「伏せなさい!」

 取り出した物を装着しようとしたところで、貴音が跳ねる。
茜の頭を強引に押さえつけ、その身体に触れるギリギリの位置で剣を振るう。

「うわぁっ!?」

 金属音。

「え? いま違う方向からこなかった?」

 少し離れた位置からそれを見る志希が少し緊張感に欠ける声色で言う。

「これは……跳弾?」

 銀髪を揺らして周囲に目を巡らす。

(……今のうちに逃げられないかなー)

 などと志希が考えていると見透かされたように睨まれた。
そんな微妙に硬直した三人の上空から一つの黒い機械が落ちてくる。

 ガツンとそれなりの、音を立てて氷の上に着地した機械は、
どうやら無線機のようで、ノイズをしばし流した後。

『……ザー……Привет』

 あんな勢いで落ちて来て、壊れてしまったんじゃないだろうかと
お門違いな心配も他所に無事喋りだした。

「今の狙撃はアナスタシア嬢でしたか」
『Да.……その通り、です。……アー……志希さん』
「んえ? あ、うんなにかな?」
『поддержать.……支援、します』

 三度目の金属音。一度目、二度目とも違う角度・方向から
言い終えたと同時に弾丸が飛び込み、対して貴音は踊るように弾丸を断ち切る。

350: 2014/11/20(木) 19:29:52.72 ID:jRjyIq17o
>>324

―――

 それを外から眺める人間が居ないのが惜しまれる。
島中に設置された監視カメラで戦いを眺めていたPはそう思った。

 なにせ最新鋭の秒間32コマを誇るカメラですらその戦いは残像やブレで
まともに認識できない事になっているのだ。
ただ漠然と理解できるのは、両の手に氷のレイピアを携えた貴音が踊り、
四方八方360℃全方位から向かってくる7.62mm弾を切り刻んでいるんだろうという程度。

 さらに見所はそれだけじゃない。
おもむろに茜が嵌めているこれまた機械のパーツがごてごてとついたグローブ
のスイッチを押すと、巨大なガントレットへとグローブは姿を変えて。

 今度は地面に撒かれた事によって現れたゴーレムが志希の指示のもと
その茜に向かい。金属と鉱石のゼロ距離での殴り合いが行われている。

「……特撮映画だな」

 腕を組み、珍しく煙草の一つでもふかしながら発した台詞。

「本当にね」

 それにちひろが首を大げさに振って肯定し。

「なにをいまさら」

 隣で別のモニターを眺めていた小鳥が呆れたように呟く。
残り時間は、もう少ない。

351: 2014/11/20(木) 19:55:59.78 ID:jRjyIq17o

―――

(8・5・9・11・8・7・10・8・4……)

 もう幾度金属音が鳴ったのかもわからない。
まるでアサルトライフルのフルオートの様な連射速度。
一体どのようなやりかたをすれば狙撃銃でそんな真似ができるのか
貴音には皆目検討もつかない。

(12・6・9・8・7・11・5・10・9・7……)

 ただ自分に迫る弾丸を剣で払い分析する。
速度・威力・回転・気配。弾丸からわかる全てを確認する。

(11・7・6・8・11・7・4・9……15!)

 そして見つける。どこにも触れず、
雨の様に大量に打ち込まれる弾丸に混ざった直接一直線の弾丸を。


395: 2014/12/12(金) 21:49:31.16 ID:JK7xTDr7o

【ある日】

杏「あー……疲れた」

美希「お疲れさまー。……年末のライブリハだっけ?」

杏「あぁ、美希先輩。うん、きっついよね。何がキツイってこの時期に北海道だよ?
  生まれを呪うよね」

美希「やっぱり寒いの? 場所は?」

杏「札幌のドームだって。前撮りは終わったからリハ一本だけど……よいしょっと」

美希「別に寝たままでもいいよ?」

杏「いやー……流石にそれは……美希先輩は前撮りとかは?」

美希「美希は28日まであるよ」

杏「え? リハは?」

美希「撮った後になるってハニーは言ってた」

杏「凄いなぁ……はぁ、憂鬱だな」

美希「そんなに?」

杏「だって、衣装みた?」

美希「見るには見たの。デザインとかアクセは各地で多少違うみたいだけど」

杏「ひらっひらじゃん。絶対寒いよ、札幌とか-10℃とか余裕だし。
  ましてや杏はみんなより筋肉も脂肪もないからさ、事前に身体動かそうにも
  あんまやったら多分ライブ持たないしさ……」

美希「……別にいいと思うな。美希はそれでも」

杏「え?」

美希「杏が全力で歌って、届けたいって気持ちがあれば途中でへばったって大丈夫なの。
    大事なのは体力じゃなくて気持ちなの」

杏「……」

396: 2014/12/12(金) 21:50:23.64 ID:JK7xTDr7o

美希「それに、今回のライブは一人じゃなくって他にも助けてくれるメンバーが居るの」

杏「そうかも、知れないけどさ」

美希「北海道は貴音がサポートだっけ?」

杏「ん」

美希「美希が代わりに行こうかな?」

杏「え、それは……ありがたいけど多分無理だと思う」

美希「どうして?」

杏「美味しいラーメン食べ歩くって張り切ってたから」

美希「あー……そういえば北海道といえばラーメンだったの……貴音が張り切る訳なの」

杏「でも、うん。ありがとうミキミキ先輩。なんとか頑張ってみるよ」

美希「どーいたしましてなの。……でも、そういうのはいい兆候だと思うな」

杏「どういうこと?」

美希「前だったら杏って絶対人が居るところだったらへらへら笑って
    そんな愚痴みたいなこと言わなかったの」

杏「えー、愚痴はよく言ってた気がするけど。当初から」

美希「そういうんじゃないの。休みたいとかってのは美希の『おにぎり食べたい』とか
    『いちごババロア食べたい』みたいな駄々なの」

杏(駄々って自覚はあるんだ)

美希「でも、今みたいな弱音? 本音? みたいなのは絶対に前の杏だったら言わなかったの」

杏「……それは……そうかな。……まぁ、最近ちょっとしたパラダイムシフトがね」

美希「ふぅ、うん?」

杏「ままま」

美希「ま、いいの。とにかくそういうのは口にしていったほうがいいの。
    ずっとだと、周りの空気悪くするけど、たまにはしたほうがいいの」

杏「ん、そうする」

美希「じゃ、美希次あるから」

杏「ありがとうございましたー」

美希「ばいばーい」

397: 2014/12/12(金) 22:05:41.43 ID:JK7xTDr7o

―――

杏「と、言うやりとりがさっきあってね」

このみ「ふぅん」

杏「もうちょっと、頑張ろうかなーって」

このみ「そっか、……でも頑張り過ぎないようにね?
     私がいうのもなんだけど、さ」

杏「はいはい、ウチで一番ランドセルが似合うこのみさんに言われたら仕方ないね」

このみ「……あのねぇ。でも、本当美希ちゃんって実はよく周りの人みてるわよね」

杏「うん」

このみ「流石杏ちゃんの大好きな先輩だ」

杏「ちょ、だ、誰がっ!?」

このみ「あれ、違った? ……ウチって先輩後輩割と緩いし、
     天使組の皆も気にしないでくれてるけど……杏ちゃん、
     美希ちゃん相手にだけは絶対に先輩つけるじゃない」

杏「……マジで?」

このみ「うん。いま説明してくれたときもずっと」

杏「まーじかー、気にしたこと無かったなぁ……」

このみ「聞いていい?」

杏「……別にいいけどさ。ま、杏って見ての通りの身体な訳で、
   しかも引きこもってたからさ、体力ないし根性もないんだ」

このみ「まぁ、私も同年代に比べたら体力も筋力もない自覚はあるわね」

杏「でしょ? でさ、正直スカウトされてからも色々あったんだ、
   周りが普通にこなしてるレッスンはとんでもなくキツイし
   そもそもなりたかったわけでもないし、本気で辞めようってなんども思った」

このみ「うん」

杏「その時にさ、見たんだ。VTRを、ライブの映像を」

このみ「美希ちゃんの?」

杏「うん。デビューして間もない頃の、今の杏と変わらない身体でさ。
  10歳とかそこら? なのに、ステージの上で歌って踊って飛び跳ねて。
  全力で暴れて楽しんでる姿見てさ、輝いてる姿見てさ」

このみ「憧れちゃったのか」

杏「そんな感じ。体型なんか関係ないんだなって」

このみ「うんうん」

杏「って言っても、年が違うからさ。やる気に多少なっても、
   身体がいくら11~2歳のでも、本当にそのくらいの年の頃みたいにがむしゃらになれないんだよね」

このみ「……そうね。年を重ねるほどに『できる』って気持ちと『無理だろう』って気持ちの天秤が逆を向くのよね」

杏「でもさ、そう思うたんびにさ。ひょこって声をかけてくれるんだ。
  で、もうちょっと頑張ろうって思って。……今があって、凄い美希先輩には感謝してるし」

このみ「そっか」


441: 2014/12/27(土) 10:04:37.03 ID:0QrFQ9Aoo

【ちゃ】

雪歩「エミリーちゃんって抹茶が好きなんだよね?」

エミリー「はい! あの香りも色味も苦味も、日本! って感じで大好きです。
      抹茶味の牛乳とか氷菓とかお菓子などもみんな好きですよ」

雪歩「あっ、抹茶オレとか美味しいよね。……茜ちゃんも確か」

茜「はいっ!! お茶は大好きですっ!!」

エミリー「なんのお茶がお好きなんですか?」

茜「なんの? ……日本茶ならなんでも好きですよ! 最近は玄米茶にハマってますっ!!」

雪歩「香ばしい匂いがいいよね」

エミリー「なんだかこんなお話をしてたらお茶が飲みたくなってきました」

雪歩「あっ、じゃあこの間頂いたお茶を淹れようか。玄米茶じゃないけど」

茜「いえっ! さっきは玄米茶っていいましたけど、本当に一番好きなのは雪歩さんの淹れてくれたお茶です!!」

雪歩「そんな事言われたら張り切って美味しいお茶を淹れちゃいますよ~!」

エミリー「では、私は和菓子を持ってきますね」

茜「じゃ、じゃあ私はっ! ……なにをすればっ!?」

雪歩「ちょっと待っててー」

茜「はいわかりましたっ!!!」

445: 2014/12/28(日) 22:38:02.11 ID:PyquBd/Yo
>>417

【日本】

 会議室

エミリー「日本をどう思うか、ですか?」

P「あぁ、海外組のアイドルを集めて日本について語ってもらうっていう企画でな」

アーニャ「а-……なるほど、です」

ヘレン「だから私達が呼ばれたのね」

P「そういう事だ。ま、いきなり聞かれてってのもあれだし、ちょっと流れの確認じゃないけど。
  適当に答えてもらえるかな?」

エミリー「はい。構いませんよ」

ヘレン「そうね。……海外からの観光客で、日本のどこがいいと思うか。というアンケートの一位を知ってる?」

P「ん、悪いな不勉強で知らないな」

エミリー「日本人。ですよ」

ヘレン「そう日本のどこが良いと思ったか、という問いで最も多い答えは日本人という答えなの」

P「……そうなのか?」

アーニャ「да。えと……日本の人は、とても丁寧、です。あとулыбка……笑顔です」

ヘレン「わかりやすいのが店員の対応ね。日本人は海外観光客にも笑顔で挨拶するでしょ?」

エミリー「いらっしゃいませ。ありがとうございましたって」

P「あー……確かに、俺も海外に行くことは多々あるが場所によっては、な」

アーニャ「えと、ロシアはとてもそうです。日本人がシャイって言われますけど、
      ロシアも外の人にとてもрадушие……」

P「この場合……愛想、か?」

アーニャ「です。愛想が、よくないです」

ヘレン「昔言ったけれど、目も合わせてくれず無言で終える事も合ったわね」

アーニャ「а……Извините」

446: 2014/12/28(日) 22:38:34.28 ID:PyquBd/Yo

ヘレン「貴女が謝る必要はないわ」

エミリー「あと、勤勉なのも素敵だと言われます」

P「そこは、ちょっとわかる気もするけど。観光客がそう思うのか?」

ヘレン「スペインなんかだとシエスタがあって土産物屋やレストランも昼に閉まったり、
     アラブ系だと休息日なんかに当たったら飛行機の中で何時間も待たされたり、
     文化の違いと言えど困ることは度々あるけれど。日本でそういう目に合う事はほぼないわね」

P「それは勤勉とは、違うんじゃないか?」

アーニャ「でも、良いと思われる理由ではあります」

エミリー「他ですと島国ですし。大陸とは違う独特の文化にやっぱり心惹かれる物は多いですね」

ヘレン「ねぇ、あなたは道を聞かれて紙とペンを渡されたらどうする?」

P「俺か? ……いや、そりゃ目印とかわかりやすく略図を描くだろ」

アーニャ「Нет, それ、日本だけです」

P「え、そうなのか?」

エミリー「はい。場所を教えるのに地図を書くのは日本の方だけですね」

ヘレン「大抵の国で同じ聞き方をしたら道順を文章で書かれるわ」

P「へぇ、それは知らなかったな」

エミリー「他にも女々しいと男らしいの使い方とか」

ヘレン「日本では例えば恋愛だけど、男性が振られた時どういう対応するのが女々しい、男らしいって表現する?」

P「ん、潔いのが男らしい。縋りつくのが女々しいってイメージだが。海外じゃ違うのか?」

アーニャ「да.海外、主に大陸では大抵が逆です。
      振られても好きだと押すのが男性らしいと言われます」

エミリー「あっさり引き下がるのは女々しいですね」

P「正反対じゃないか」

ヘレン「えぇ、しつこいくらいが男らしいと言われるわね」

P「……なるほど」

アーニャ「……悪い顔、してますよ?」

P「ん? いや、だったら海外行った時スカウトでもっと攻めていいなとか思ってないよ?」

ヘレン「やめなさい。赤の他人がやったら日本と同様にサイレン鳴るから」

エミリー「むしろ日本以上に速いタイミングで来ますよ。大勢」

P「……おう」

452: 2015/01/02(金) 22:30:24.28 ID:/ZRJizaMo

【なんか】

芳乃「……はらたまーきよたまー」 ぶんぶん

伊織「なにそれ、ハタキ?」

芳乃「これはくすりでしてー」

伊織「おおぬさ?」

芳乃「修祓の道具でしてー、神道三具の一つなれば祓たまえー」

伊織「……はぁ。ちょっとよくわからないけど、お正月だからね」

芳乃「今年一年、事務所の皆の安全無事を祈ればこそー」

伊織「ん、そうね。忙しくて初詣もまともに行けてないし。
    そういうのは大事よね。会社によっては社内に神棚とかもあるっていうし」

芳乃「はらたまーきよたまー」

伊織「……でも、なんでこんな地下室に向かう階段の所でやってるの?
    もう少し広いところでやればいいじゃない」

芳乃「互いに干渉せぬようにする為には距離をとらざるを得ないのでしてー」

伊織「干渉? ……どういう事?」

芳乃「はらたまーきよたまー」

伊織「……答える気はないのね」

―――

 屋上

クラリス「Sanctus, Sanctus, Sanctus, Dominus Deus Sabaoth.
      Pleni sunt caeli et terra majestatis gloriae tuae.」

可奈「素敵な歌ですね! なんの歌ですか?」

クラリス「テ・デウムという聖歌ですよ」

457: 2015/01/04(日) 16:18:18.96 ID:U0dutezko

【その頃】

輝子「……うぅ、な、なんだか事務所がい、居辛い……」

まつり「……ほー……」

輝子「ま、まつりさんも……なんかおかしいし……」

 prrr prrr

輝子「……ふ、ふひ? こ、小梅から……」

 『事務所においで』

輝子「……」

462: 2015/01/05(月) 14:37:06.58 ID:QoJiocAto

【改めてその頃】

 女子寮

小梅「ふわぁ……はふ……ん」

春香「うわ、おっきいあくびだね」

貴音「あ、あの……」

小梅「き、昨日は、事務所から感じる……オーラの所為で……その」

春香「あんまり寝れなかったの?」

貴音「す、すみません」

小梅「……うん」

 prrr prrr

春香「私……じゃないね。小梅ちゃんかな?」

小梅「そ、そうみたい……です」

春香「えっと……輝子ちゃんからだね。あはは、輝子ちゃん事務所に行っちゃったんだ」

小梅「居心地悪いって言ってるから……」

春香「うんうん。こっち呼ぼうか」

貴音「あのっ!」

春香「さっきからなに? 貴音ちゃん」

貴音「わかってたなら直ぐ返事してください!」

春香「あははー。で、なに?」

貴音「こ、この部屋の四隅になんで蝋燭が立っているんでしょうか?」

小梅「け、結界……」

貴音「結界?」

小梅「事務所の方でクラリスさんと芳乃さんが……儀式中で……気分悪くなっちゃうから」

貴音「……で、では先ほどから部屋の中でふわふわしてるのは……」

春香「え? なにかいる? 私にはなにも見えないけどー」

小梅「と、友達……とか」

貴音「ひぃっ」


463: 2015/01/05(月) 14:39:37.12 ID:QoJiocAto

―――

輝子「ふひ……こっちいい感じ」

春香「でしょー」

 (扉の開く音)

響「あのさー」

春香「あ、響ちゃん」

響「さっき貴音が泣きながら走っていったんだけどなにか知らない?」

小梅「……し、知らない」

響「あれ、こっちなんか居心地いいな」

春香「いらっしゃーい」

466: 2015/01/05(月) 22:33:52.25 ID:QoJiocAto

【】

拓海「あー……まじかー」

夏樹「どうした?」

拓海「なんかガスの減りが早いと思ったらキャブがオーバーフローしてるっぽい」

夏樹「漏れてるって事か? 危ないなぁ」

拓海「今見たらしたに染みができてるからさー……」

夏樹「あー、オイルかガスかだもんな。ついでにキャブ交換したら?
    マフラーもスパトラ入れるとか言ってたしどうせセッティングだし必要だろ?」

拓海「まぁな。メインジェットも変えようかと思ってたしそうするかな……」

 (バイクの音)

夏樹「あれ? これなんの音だ? 50っぽいけど」

このみ「あっ、おはよー」

拓海「ぶふっ! ……こ、このみさんそれ」

夏樹「うわぁモトコンポだ」

このみ「あ、これ? いいでしょ、どっちかといえば早苗さんが乗ったほうがいいかなと思ったけど」

拓海「え、なんで?」

夏樹「ほら、あれ。……なんだっけ?」

このみ「逮捕しちゃうぞ」

夏樹「あーそれそれ。な?」

拓海「まったくわかんねーよ」

このみ「いやぁ、パッと見で可愛いなって思ってさ」

夏樹「なるほど……で、改造して欲しいと」

このみ「え?」

美世「とりあえずパッパーにボアアップしましょうか!」

このみ「待って待って。私普通免許しか持ってないから二輪は50しか乗れないんだけど」

夏樹「大丈夫書類デチューンすれば」

このみ「なにそれ、犯罪の匂いがするんだけど。っていうか美世ちゃんいつからいた?」

美世「改造するなら私の出番かなと」

拓海「さっすが」

このみ「で、書類デチューンって……」

夏樹「エンジンを大きくしてナンバー原付のまんまで乗る事、かな」

拓海「ピンクナンバーにして捕まると無免許だけど、
    原付ナンバーに88とか積んでて捕まったら公文書偽造だから免取りにはならない」

このみ「いやいやいや、アイドルって事忘れてない?」

美世「でなくても、普通にやっぱり犯罪だからね」


467: 2015/01/05(月) 22:54:47.30 ID:QoJiocAto

拓海「だめかー」

このみ「そんなので捕まりたくないわよ」

美世「いやぁ、でもモトコンポとか渋いですねー」

夏樹「っていうかいま生産されてるのか?」

美世「ううん、85年に終了してるよ。だから、こんな綺麗なのあんまり見ないよね」

このみ「でっしょー? いやぁ、いい買い物したわ」

拓海「いいなー、なんか新しいバイク買おうかな」

夏樹「おっゼッツー?」

拓海「たかっ! それは手ぇでねぇよ。ただでさえ忙しい上に寮と事務所が隣で乗る機会ないのに」

このみ「私もちょっと周りぐるってしてきただけだしねー」

美世「でもそんなこと言ったらアレは……」

夏樹「アレ? ……あー」

 (駐車場に鎮座する二台の戦車)

拓海「あれスゲーよな。戦車だぞ戦車」

このみ「買えるのも凄いし、本当に買っちゃうのも凄いわよね」

舞「あら、ありがと。まぁ、Pにめちゃくちゃ怒られたけどね」

拓海「うおっ!? ま、舞さん……おはようございます」

舞「おはよう」

美世(舞さんを正面から怒れるのプロデューサーだけだろうなぁ……)

468: 2015/01/05(月) 23:04:38.25 ID:QoJiocAto

舞「で、これなんの集まりなの?」

拓海「このみさんのモトコンポを改造しようの会」

このみ「え? それ生きてるの?」

美世「ないない」

舞「モトコンポってこれ? ちっちゃくて可愛らしいわね」

夏樹「舞さんはどうしてここに?」

舞「ん、ちょっとそこの二両の洗車を」

このみ「……」

美世「いま面白くない駄洒落考えましたよね?」

このみ「え!? な、なんの事かな?」

拓海「っていうか自分で洗車してるんですか?」

舞「ん、一応。Pに自分でちゃんと管理しろって言われたから。いいつけは守らないと」

夏樹(Pさんスゲーなぁ)

476: 2015/01/06(火) 21:19:19.01 ID:cYJOyBuDo
>>415

【お歳暮】

P「律子ー」

律子「はい?」

P「年明け早々のタイミングで、しかも時期外れで申し訳ないんだが」

律子「……あー。またぞろバーベキュー大会ですか?」

P「おう今年もやるから。参加者を募っといてくれ」

律子「いいですけど……会場はどうするんですか? 人数が人数ですし、器具もかなり数が必要でしょう?」

P「場所は家の庭。多分入るから、器具も俺が用意する」

律子「……そこまでしますか」

P「そうでもしないと処理しきれないからなぁ……野菜とかもあるしできるだけ早く頼むわ」

律子「はいはい。わかりましたよ」

477: 2015/01/06(火) 21:37:04.87 ID:cYJOyBuDo

―――

 二日後

P「よしお前ら。今日はたらふく食って飲んで行ってくれ!」

友紀「わーい! このビール好きなだけ飲んでいいの!?」

P「おう飲め飲め」

志乃「こっちにはロゼがあるわね。ロマネにペトリュス、……あらシャンベルタンまで」

莉緒「日本酒も凄い。十四代・獺祭・久保田、焼酎は魔王に森伊蔵になかむら、兼八も」

P「好きなの飲んで良いぞ。なんだったら持って帰っても構わん」

可奈「プロデューサーさん! このお肉なんですか!?」

P「ラム」

可奈「らむ?」

P「……えーっと、未来」

未来「はい?」

P「可奈にラムがなんの肉なのかおしえてやってくれ」

未来「……虎?」

P「だそうだ」

可奈「えー!? 虎の肉なんですか!?」

P「な、響」

響「え? ……そうだぞ! ちなみにこっちのヒージャーは象だぞ!」

可奈「えぇぇぇぇ!?」

春香(何回も騙されてるのに信じるちゃうんだなぁ可奈ちゃん)


478: 2015/01/06(火) 21:52:06.34 ID:cYJOyBuDo

日野茜「ファイヤー!!」

麗花「はい! すぅぅぅ」

律子「ちょっとストップストップ! またボヤ起こすつもり!?」


野々原茜「まずお肉焼いてー、次にお肉やいてー、最後にお肉を焼きます!」

亜美「お→! それはパーペキなプランだね茜ちん!」

真美「では余った野菜は……向こうの方にプレゼント!」

亜美「これぞWIN-WIN!」


輝子「ふひ……な、なんかこのテーブル野菜……お、多い……?」

みちる「パンがない……」

美奈子「ご飯ならありますよ! はい、どうぞ!」

輝子「……こんなにた、食べきれない」

美奈子「食べないと大きくなれませんよ! 縦にも横にも!」

みちる「パン……」

479: 2015/01/06(火) 22:13:26.88 ID:cYJOyBuDo

P「よし、このペースなら大丈夫そうだな」

舞「なにが?」

P「……居たのか」

舞「悪いかしら?」

P「べつに」

舞「で、なにが大丈夫そうなの?」

P「ほら、お歳暮」

舞「……なるほど。送られた大量の食材を使うためにバーベキュー?」

P「おう、毎年しこたま送られてくるからさ。しかも年々増えていくしこうやって新年会兼ねてみんなで
  飲み食いするのが一番だろ?」

舞「なぁんだ、全部実費かと思って見直したのに」

P「馬鹿、お前こっちからだってこの量と同じくらい各所に送ってんだぞ。事実上実費だ」

舞「あ、そかそか」

P「お前は昔からこういうのに雑というか気を遣わない奴だよな……。
 しかし中元とか歳暮とか本当にいらない習慣だと思うんだけどな」

舞「まぁいいじゃない。おかげでみんな楽しそうにしてるんだから、……はい」

P「ん?」

舞「Pも少しは飲んだら? ほらほら」

P「はいはい。後片付けもあるからちょっとだけな」

舞「かんぱーい」

P「乾杯」

487: 2015/01/07(水) 08:44:08.15 ID:YhZGzN5oo
>>484

―――

友紀「……」じー

莉緒「なに見てるの?」

友紀「いやぁ、改めてPさんの家でっかいなぁと思って」

莉緒「これだけの人数を平気で呼んじゃう位だからね」

友紀「……」

莉緒「?」

友紀「よし! 潜入しよう!」

莉緒「……よしきた!」

友紀「どっか窓とか開いてないかなぁ」

莉緒「裏側とかは?」



凛「……」 じー

昴「美味いなこの肉。普通に厚切りにしてステーキにしてら100g数千円するんじゃないか?」

凛「……」

昴「ん? なにみてんだ凛」

凛「……あそこで酔っ払った大人がなんかやってるからさ」

昴「あそこ? ……あぁ友紀さんと莉緒さんか……」

凛「……窓から入ろうとしてるよね?」

昴「……不法侵入じゃん!」

凛「よし、私達も行こう」

昴「え!?」

凛「アルコールに頼らなくてもテンション高い若さを見せてあげるよ!」

 (走っていく凛)

昴「ちょっ! 待て凛! お前そんなキャラじゃ……あぁっ! 肉落とした! 勿体無い!」



489: 2015/01/07(水) 08:50:01.84 ID:YhZGzN5oo

ヘレン「ここがあの男のハウスね」

莉緒「え、いまさら?」

友紀「というかヘレンさんが乗ってくるとは思ってなかった」

ヘレン「世界レベルの男の家はどう世界レベルなのか知る義務が私にはあるわ」

莉緒(なにを言ってるんだろう)

友紀「Pさん世界レベル認定されたんだ」

ヘレン「えぇ、私が私以外を世界レベルと認めた唯一の例ね」

莉緒「へぇ……」

友紀「で、どう? 散策してみて」

ヘレン「そうね。一言で言わせてもらうなら」

莉緒「うん」

ヘレン「ここはどこかしら?」

友紀「見事に迷ったよねぇ」

莉緒「一人暮らしなのに無駄に部屋多いよ……Pさん」

491: 2015/01/07(水) 08:57:35.41 ID:YhZGzN5oo

凛「……おかしいね」

昴「いや、窓から侵入の時点でおかしいぞ? しかも家主に招待受けた筈の身で」

愛「この扉は……あ、また書斎ですよ!!」

あずさ「これでいくつ目かしら?」

愛「わっかんないです!」

凛「うん、やっぱりおかしいよこの家」

昴「人数も増えてるしな」

愛「なんか面白そうだったので!」

あずさ「愛ちゃんを止めようと思って追いかけてたら迷っちゃったわ」

凛「うんあずささん良い事言った。……確実に私達迷ってるよね、コレ」

昴「おう」

凛「で、なにがおかしいって明らかに外から見た時より広いよね?」

愛「結構歩きましたもんね!」

あずさ「同じところをぐるぐる回ってるんじゃないでしょうか?」

昴「えー? でも全然曲がってないし……って、あれ?」

凛「どうしたの?」

昴「そこの扉半開きになってるけど……あ、やっぱりさっき開けた部屋っぽい」

あずさ「やっぱりぐるぐる回ってるみたいね」

凛「なにこの家、ワープ床でも設置されてるの?」

愛「RPGみたいですね!! ウィザードリィ的な!」

昴「……そんな馬鹿な」

492: 2015/01/07(水) 09:06:30.60 ID:YhZGzN5oo

―――

P「……あー、しまった……昼間っから飲む酒は効くなぁ……」

舞「あははははは!」

P「テンションたっけぇ……」

晶葉「おい助手」

P「どうした晶葉、やけに深刻な顔だが食いすぎか? トイレなら……」

晶葉「バカ、そうじゃない。いまさっき事務所地下のコンピューターから緊急通報が入ってな」

P「……どういう事だ?」

晶葉「君も知っての通り事務所や寮に侵入者が居た場合、こっちに即座に連絡が行くようになってるんだが。
    実は君の自宅も対象に含まれていてだな……あー、簡潔に言うと」

P「……いや、大体わかった。誰だ勝手に入ったあげく侵入者用トラップに引っかかったウチのアイドルは」

晶葉「いまのところ確認が取れたのがこのメンバーだな」

P「……はぁ。なにやってるんだかな、入るのはいいけど普通に玄関から入れっての」

舞「わかったー」

P「……ん?」

舞「おじゃましまーす」

 (酔った舞がてこてこと玄関に向かいそのまま中に入っていく音)

P「……おいおい」

晶葉「……あ、また増えたぞ」

P「……晶葉」

晶葉「なんだ助手」

P「ラムを持ってきてくれ。虎じゃないほうな」

晶葉「は? 虎?」

499: 2015/01/07(水) 20:37:32.56 ID:YhZGzN5oo

【おまけ】

P「そういえばさ、侵入者用のトラップってどんな奴なんだ?
  万が一にもアイドル達に危険はないよな?」

晶葉「あぁ、それは問題ない。君も大概有名人だしな、
    侵入者とはいえあまりやりすぎると問題になるかもしれないからな、
    主に精神関与に重きを置いた仕様になっている」

P「……聞き捨てならない単語が聞こえた気がするんだが……」

晶葉「ちょっと言い方が悪かったか?
    まぁ、君も住んでいて廊下とかの作りに疑問を覚えた事もあっただろう?」

P「あぁ、ちょっと不思議な作りだとはよく思った」

晶葉「どこから侵入しても最終的にはその廊下に向かうように構造で誘導し、
    構造認識や方向感覚を鈍らせ同じ所を回らせる。まぁ、そういうトラップだ」

P「よくもまぁそんな……というかつまり、建築当初の設計段階で組み込まれていたのか……」

晶葉「黙っていたのは申し訳ないと思う。が、君はアイドルにはとても気を遣うくせに
    自分自身にはさっぱりだからな。勝手にやらせてもらった」

P「そうかい……しかし、つまりはいま勝手に侵入した連中は言ってしまえばぐるぐる彷徨ってるだけか」

晶葉「あぁ、アルコールも相まって出てくるにはしばらく時間が――

 (玄関の開く音)

あずさ「あ、でれたわ」

凛「ほんとだ」

友紀「いやぁ、あずささんが居てよかったー!」


P「……でてきたな」

晶葉「そ、そんな馬鹿な!?」  

506: 2015/01/08(木) 22:38:27.46 ID:y/kzcqoNo
>>419

【大人気ない】

舞「ねぇP、ちょっといい? ……ってなにしてるの?」

P「ん?見てわからないか? 愛と遊んでるんだ」

愛「いたたた! これのどこが遊びですか!? 頭離してください!」

P「なにぃ? 構ってくれって言うから構ってやってるんじゃないか」

愛「痛い痛い! 頭割れちゃいます!」

P「大丈夫だ。俺の握力は50も無いから人の頭は割れない」

愛「そういう問題じゃないです!! あだだだ!」

P「と、言うわけで今俺は忙しいんだ。あとにしてくれ」

舞「……むー」


 ―――

舞(そろそろいいかしら……?)

 (事務室の扉を開ける音)

P「ほらどうした、早くしろ」

愛「うわわ! ゆ、揺らさないでくださいよプロデューサーさん!」

P「なんだよ、高くて届かないって言うから人がわざわざやってやったのに」

愛「プロデューサーさんが取ってくれればいいじゃないですか! なんで肩車なんですか!?」

P「いてて! 髪を掴むな!」

愛「だから揺らさないでくださぁぁい!!」

舞(……出直しましょ)


―――


舞「……あら、この手帳……」

 (落ちてた手帳を広い中身を確認する)

舞「やっぱりあいつのね。大事なもの落っことして……」

舞(しかし相変わらずトンでもないスケジュールね。ピーク時の私より酷い)

舞「……たまには労ってあげた方がいいかしらね」

507: 2015/01/08(木) 22:46:09.21 ID:y/kzcqoNo

―――

 6階 給湯室(キッチン)

舞「よしっ! そうと決まれば美味しいものでも作ってあげましょうか
  これでも一児の母だもの。料理には自信はあるもの」

 (冷蔵庫を開ける音)

舞「……しかし本当にどんな食材でもあるわねここ。
  なにを作るか逆に迷うわね……本人に聞いてみましょうか」

 (扉の開く音)

舞「ん? 誰か来た……?」

P「お、珍しいなお前がこんなとこに居るなんて」

舞「丁度良いところに来たわね。ちょっと――

愛「あっ! ママ!? なんでココに!?」

舞「そういう愛こそ」

P「いや、実はさ」

愛「今日は寮の当番が私だからついでにプロデューサーさんのお昼も作ってきたんだよ!!」

P「実はこれで愛の料理は結構美味いんだよ」

舞「……」

愛「ママも食べる? ……ママ?」

舞「愛」

愛「なに?」

舞「私とライブで勝負しなさい!」

愛「え……えぇぇぇぇっ!?」

舞「毎回毎回いい加減にしなさい!」

愛「な、なんのことを言ってるのかさっぱりわからないよー!」


P「あ、俺の手帳……なんでこんなところに?」

518: 2015/01/10(土) 08:48:00.93 ID:EUW1hw5Ro

【メガネをどうにかかけさせたかった人】

春菜「はいどうぞ」

ちひろ「ありがと春菜ちゃん」

春菜「Pさんも」

P「おうさんきゅ。……ふぅ、……うん美味い」

春菜「そうですか? 普段雪歩さんが淹れてるんでちょっと不安だったんですけど」

P「いやいや、美味いよ」

ちひろ「実は春菜ちゃんもお茶淹れるの上手よね」

春菜「あはは、ありがとうございます。
   ……ところでプロデューサー、ちょっといいですか?」

P「眼鏡以外の事なら付き合ってやるぞ」

春菜「んう゛~! なんでですか眼鏡かけてみましょうよ!」

P「俺、目悪くないからいらね」

春菜「伊達眼鏡と言う物がこの世にはあります!」

P「もっと嫌だ」

春菜「なぜっ!?」

P「伊達眼鏡って、ほら。お洒落なアイテムだろ? ファッション感覚な」

春菜「まぁ、そうですね。必要ないのにかけてるわけですから」

P「裏方の俺が人の目を気にしてる様に思われそうで絶対嫌だ」

春菜「でもいつもは……」

P「スーツとかは身嗜み。お洒落とは違うだろ? そういうのはお前達アイドルの仕事だ」

春菜「ぐぬぬ」

P「もしくはそこで素知らぬ顔をしてる元眼鏡現コンタクトの千川ちひろ事務員に言え」

ちひろ「あー! それなんでここで言うの!?」

春菜「えぇっ!? ちひろさん元眼鏡っ娘だったんですか!?」

ちひろ「……うん、まぁ」

春菜「なんでコンタクトなんですか!? この裏切り者!」

ちひろ「裏切り!? 私そんな悪いことした?」

519: 2015/01/10(土) 08:49:23.12 ID:EUW1hw5Ro

P「でも実際なんでコンタクトなんだ? 長時間事務仕事するには眼鏡の方が楽じゃないのか?」

春菜「そうですよ。ドライアイとか怖くないんですか?」

ちひろ「いえ、その。しょうもない理由なんですけどね。
     高校当時に眼鏡をずっとかけてると顔の形が変わるって言う話を聞いて怖くなってそれ以来……」

P「あーそういうのあったあった。ピアスの穴から糸が出てそれを抜くと失明するとかな」

春菜「思いっきりデマじゃないですか」

ちひろ「あはは……そうなんだけどね。当時の恐怖感が未だに根深く」

春菜「じゃあほら、これを期に眼鏡どうぞ」

ちひろ「……」すい

春菜「なんで自然に隅に追いやるんですか!?」

ちひろ「ほら、こういうのはね、無理に薦めるものじゃないじゃない?」

春菜「ぐぬぬ……」

ちひろ「し、しかしあれですね。プロデューサーさんは、普段あれだけ書類に画面に睨めっこしてるのに
    不思議と視力はいいんですね」

P「昔からね。今はずいぶん下がったけど、それでも1.2は維持してるな」

春菜「はぁ、それはそれでちょっと羨ましいですね」

ちひろ「完全に老眼でガクンと行くパターンね」

P「そうなんだよなー……」

春菜「……あっ! じゃあ、伊達眼鏡じゃなくて老眼鏡を選んであげますよ!」

P「え、気が早くない?」

春菜「流石に老眼鏡はストックに無いので早速良さそうなのを探してきますね!
    デザイン性機能性に優れたプロデューサーに合う最高の一品を!」

P「おい、だから気が……」

 (扉の閉まる音)

P「……行っちまった」

ちひろ「よかったわね。もういつ老眼になっても平気じゃないの」

P「……いや、度は?」

537: 2015/01/20(火) 08:48:59.82 ID:R2sr3tQ4o

 ※ここからしばらく765面子ばかりになります

【業務日記】

 地下資料室

小鳥「えぇっと……これとこれと……」

小鳥「……あら?」

小鳥「……あらあらあら?」



――― 事務室

 (扉が勢いよく開く音)

律子「うわっ!?」

小鳥「なっつかしいものみつけたー!」

律子「……はあ」

小鳥「……あれ、……りっちゃんだけ?」

律子「えぇ、ちょっとトイレってプロデューサーが。ちひろさんも席を外してて……私が電話番を……」

小鳥「……うっわ、恥かいた……」

律子「というか、電話対応してるかもしれないんですからそんなテンションで来ないでくださいよ」

小鳥「あ、あはは……」

律子「で、なにを見つけたんですか?」

小鳥「えっと……これ」

律子「うっわ、なっつかしい! 昔の業務日誌とは名ばかりのみんなの日記帳じゃないですか!」

小鳥「ねっ? ねっ? 懐かしいでしょ!?」

律子「どこにあったんですか?」

小鳥「地下資料室にまとめて置いてあったから、多分どっかで混ざったんでしょうね」

 (扉の開く音)

P「ただいま、律子ありがとさん」

律子「あぁ、お帰りなさい。特に何もありませんでした」

P「そか。……で、なにしてるんだ?」

小鳥「見てくださいよこれ!」

P「うわっ! また懐かしいものを……」

律子「設立当時から一昨年くらいまでの全部ありますよ」

小鳥「最近は忙しくて、ある日突然なくなっちゃったのよね……」

P「まぁ、業務日誌とは名ばかりの交換日記みたいなものだったからな」

律子「ちょっと見てみましょうよ」

P「ちょっとだけな?」

538: 2015/01/20(火) 08:58:54.80 ID:R2sr3tQ4o

――― 96/02/15

   記入者 高木順一郎

 今日この日、みんなと無事に765プロの事務所を開くことができて嬉しく思う。
プロデューサー一名、事務員一名、アイドル一名、そして私。
今はまだたった四人ではあるがいずれ我が765プロから多くの
アイドルが世界に羽ばたいていく事になるだろうと私は信じている。

 これから苦楽を共にしていく我々は言わば家族だ。
力を合わせ、支えあい歩んで行こうではないか!

 ↑ これからよろしくお願いします by音無
    やるからには全力で頑張ります P

539: 2015/01/20(火) 09:03:36.03 ID:R2sr3tQ4o
おう、日付ミスったんじゃ
96年って20年前じゃねぇかクソが

忘れろ忘れろ忘れろビーム

543: 2015/01/20(火) 20:26:47.53 ID:R2sr3tQ4o

――― 06/03/08

     記入者 プロデューサー ← 名前じゃないですよ 音無 
                         ↑ わかるからいいじゃないですか
 今日はあずさちゃんの初TV出演の日でした。
流石にここに来る前にも養成所でレッスンはしていただけあって、
まだまだこの業界で素人である自分の目にも
今回オーディションに参加したメンバーの中では頭一つ抜けていたと思う。

 いずれは、こんなローカル番組のコーナー枠ではなく。
彼女の実力に見合った仕事を持ってこれたらと思いました。

 ↑ 初めてのTV、緊張しました。 あずさ
    ↑   録画してあるから今度見ましょうね  by音無

547: 2015/01/21(水) 20:40:58.15 ID:ccLAagGqo

 ――― 06/08/18

   記入者 音無小鳥

 律子ちゃんはどうやらプロデューサーさんに随分と懐いているみたいです。
今日も基礎レッスンから帰って来るなりプロデューサーさんの下に向かって、
あれやこれやと質問責めにしていました。

 律子ちゃんが入ってから律子ちゃんに付きっ切りになったのが
あずさちゃんも気になっているのか、プロデューサーさんに何度も声をかけてましたし。
ウチのプロデューサーさんはアイドルに人気みたいですね♪

 追伸 プロデューサーさんへ、善澤さんが取材の件で連絡をくださいと言ってましたよ。
     うまく行くといいですね。

      ↑ 本文と追伸がおかしくないですか? 日記じゃないんですから

548: 2015/01/22(木) 19:47:56.55 ID:sxtYa3ofo
>>546(ふりじゃダメです)


――― 07/04/25

  記入者 プロデューサー

 今日は散々な一日だった。
ウチに来た当初からの予想通りというかなんというか、
むしろここまで良くギリギリの所で至らずに済んだ物だというか。
まぁわかりやすく言ってしまうと美希と千早が大喧嘩をした。

 仕事に対して非常にストイックでクールな千早と基本的にルーズな美希。
方向性は全く正反対な上にお互いマイペースというか他人に歩調を合わせ様としないからなぁ。
おかげ様で事務所の雰囲気がよくないし、雪歩なんかは怯えてずっと隅っこで震えてる始末。
できるだけ早く解決してやりたいけれど、あまり大人が入って仲直りさせても
根本的な解決にはならないし、長い目で見てあげるしかないのだろうか?

488: 2015/01/07(水) 08:46:39.76 ID:RYg9yUz10
久々にここの凛が動いてるの見た

565: 2015/01/31(土) 21:49:53.55 ID:PwXrkKU1o

【>>488って言われたからもっと動かしてみた】

凛「う~……さむさむ……」

昴「……どこ行ったー」

凛「あれ、昴……なに探してるの?」

昴「凛か……いや、ほら。……両手の感覚をどこかに落としたみたいで」

凛「……は?」

昴「だから、感覚が無くなっちゃってさ」

凛「……だから探してたの?」

昴「うん。見なかった?」

凛「……いやぁ、見てないかな」

昴「そっか……」

凛「……」

昴「……」

凛「……えっと、寒さでおかしくなった?」

昴「くしゃみした時にネジが飛んだみたいだ」

凛「んふっ、ドラえもんじゃん」

昴「あべこべクリームが欲しい。割とマジで」

凛「うん、……で、どうしてロビーで感覚を探すとか言う訳わからないことしてたの? そんなボケキャラだっけ?」

昴「んー。別にボケキャラじゃないけどさ。
  ほら、趣味の所為か知らんけど成人してるとは思えない人とよく一緒に居るだろ?」

凛「あぁ、精神的にも見た目的にもな友紀さん?」

昴「そそそ。その所為で突っ込みにまわる事が多いから、反動?」

凛「いや、反動かどうかは知らないけど。だからって誰も居ないロビーでわかりづらいボケする?」

昴「……寒い時に半端に身体動かすとさ。偏頭痛しねぇ?」

凛「は? ……あぁ、まぁなるかもね」

昴「多分その所為だな」

凛「雑だなぁ」

昴「……はぁ。……とりあえず上行こうか」

凛「はいはい」

566: 2015/01/31(土) 22:18:56.81 ID:PwXrkKU1o

―――

昴「でさー」

凛「ん?」

昴「さっきでた友紀さんだけどさ」

凛「うん」

昴「ウチの大人って極端な人多いよな」

凛「それは確かにそうだね。このみさんとか見た目は口リだけど中身はすっごい大人のお姉さんだし」

昴「かと思えば楓さんとか黙ってたらすっげぇ綺麗な女性って感じなのに中身は……ほら、な?」

凛「うん、まぁ明言は避けるけどアレだよね」

昴「……ハハハ」

凛「アハハ」

昴「ふぅ……で、友紀さんなんだけどさ」

凛「あ、うん。続けるの?」

昴「この間ガチ泣きしてるのを見てって言うか……現場に居てっていうか」

凛「え、でもあの人ってお酒飲むとたまに泣く時あるけど」

昴「いやそうじゃなくてさ。いや、まぁアレはオレも悪いんだけどさ。
  屋上でキャッチボールしててさ」

凛「それ聞いた聞いた。窓叩き割ったんでしょ?」

昴「そうそう。シュートボールを投げるっつってさ。見事にすっぽ抜けて窓にナイスシュートかましてさ」

凛「いや、でも路上に落ちなくてよかったよね。下手したら洒落にならない事になってたよ」

昴「まーな」

凛「で、この流れって事は怒られてって事?」

昴「そう。いおりん先輩と肇に怒られてガチ泣きしててさ」

凛「え、肇も?」

昴「うん。窓から飛び込んだそのボールがさ、
  肇が持ってたプロデューサーの新しい湯呑みにさ」

凛「うわぁ……そりゃ怒るよ」

昴「もう激オコとかプンプンとかそんな悠長な事言ってるレベルじゃなかったな。ただただマジ切れ」

凛「んー、私だったら鉢植えとかかな……。いや、それは流石にね」

昴「オレも悪いんだけどさ。言えずに逃げたよ」

凛「それは、仕方ない……かな? んー……」


569: 2015/02/02(月) 13:44:54.11 ID:FmG9rKGIo
>>566

昴「いや、でもその次の日さ。流石に人身御供にしたのは悪いと思って謝りにいったんだ」

凛「どっちに?」

昴「ユッキに。したらさ、ちょっと感動するぜ? 『えーなんの話ー? それより遊ぼうぜ!』って」

凛「……感動する?」

昴「やっぱ大人なところもあるんだなぁって思ってさ」

凛「単に思い出したくなかった的なアレじゃないの?」

昴「……どうだろ?」

 (扉の開く音)

友紀「おはよー! で、なんの話だっけ? ケーニヒスベルクの橋問題だっけ?」

凛「そんな話はしてないけどおはよう」

昴「なんでそんな自信満々の顔なんだよ……」

凛「しかし噂をすれば影が差すとはこのことだね」

友紀「おっ、なんか私の話をしてたのかい? 聞かせてぷりーず」

昴「えっと、ほら。この間のユッキが『ごべんなざいぃぃ、うわーん』ってなった時の話」

友紀「えっあの時凛ちゃんも見てたの?」

凛「ううん。居なかったし知らなかったよ。なのに急に昴が『聞いてくれよ凛、面白い話があるんだ』
  っていうアメリカンジョークにでてくる外人並の強引さで勝手に話し始めたんだ」

昴「おいおい」

友紀「マジでっ!? 昴ってば酷い! ……けど、まぁいいや! それよりダンスレッスン付き合えよー」

昴「ダンスレッスン? 珍しい」

友紀「プロデューサーがさ。その溢れるパッションを持て余すならダンスに昇華させてみろって」

凛「へぇ」

友紀「だからいまダンス強化月間なんだー。ってことで上行こうぜー! 凛ちゃんもどう?」

凛「ううん、私あと一時間くらいでMBSだからやめとく」

友紀「ありゃりゃ。そっかー残念」

昴「げ、一人で相手するのか……どこでやるんだ?」

友紀「上」

昴「使用許可とったのか?」

友紀「まーだー」

凛「まだ早いし今からでも大丈夫じゃない?」

昴「そうかな? はぁ、じゃあそういうことでオレは行くからじゃあな凛」

凛「ん」


友紀「じゃあねー! っと、先に行くなよー」

昴「うぐっ、ばっか首しまるだろ!」

友紀「よいではないかー」

凛(仲いいなぁ……)

570: 2015/02/02(月) 13:54:29.71 ID:FmG9rKGIo

―――

凛「……さて、話し相手もやることもなくなっちゃったな」

凛「一時間か……なにするにも半端だなぁ。寒いから屋上に行く気にもなんないし」

 (談話室内をきょろきょろする凛)

凛「……よし、甘い物でも食べよ。大体いつもそこの棚の三段目奥に……ない。
  あっれ、いつも春香さんがここに何かしら甘い物隠してるのにな……」

 (顎に手を当てて悩んだ後、冷蔵庫に向かう凛)

凛「となると冷蔵庫最下層奥かな……っと」

 (冷蔵庫に腕を突っ込む音)

凛「あった! 春香さんってばいっつも場所変えないからね。
  箱物……ケーキ、かな? なんだろ楽しみだなぁ」

春香「それは北海道のルタオってお店のドゥーブルフロマージュって言うんだよ」

凛「……」

春香「……」にこにこ

凛「……さて、と。仕舞うかなー」

春香「食べないの?」

凛「……い、いつから見てました?」

春香「冷蔵庫に頭を突っ込んで物色しながら私ピンポイント狙いで甘い物探ししてるところからかな」

凛「えっと……あっ! 私そろそろ仕事に行かなくちゃ」

春香「まぁまぁまぁ、そう焦らずに……ね?」

凛「あっはい」

576: 2015/02/02(月) 19:17:30.63 ID:FmG9rKGIo

凛「……えっと」

春香「なにかな?」

凛「……ごべんなざいぃぃ、うわーん」

春香「えっ!? なにそれ! ちょっと面白いけど、なにそれ!」

凛「あれ、知りません? 友紀さんネタなんですけど」

春香「……あっ! あーあー! アレね、んふふ。あれは凄かったね」

凛「あ、通じた」

春香「いやぁ私もあの場に居たからね。あの場にっていうか、近くに。凛ちゃんも居たの?」

凛「いえ、さっき昴が『ちょっとしたこぼれ話なんだけど聞いてってくれよ』って」

春香「こぼれ話って久々に聞いたな~」

凛「ていうか春香さん現場に居合わせてたんですね」

春香「うん。プロデューサーさんに構って構ってしてたらさ」

凛(構って構って……?)

春香「パリーンガシャーンって、二つ続けて割れる音がしてね。
    見たらガラスと陶器の破片が散らばってる廊下にテンテンと跳ねるボール」

凛「危ない危ない」

春香「で、プロデューサーさんが危ないから俺がやるって破片片付けて捨てに行ったタイミングで友紀さんが降りてきて」

凛「あー……、最悪のタイミングだったんですね」

春香「そそ。仲介役が居なくてね。いやぁ、あのときの肇ちゃんの顔は凄かったよ。
    ビーフジャーキーの天狗みたいな顔でクァーなってたからね」

凛「ちょっと例えがわからないです」

春香「そして炸裂する伊織の幻の左」

凛「えっ? 幻の左でたんですか?」

春香「でたでた。すっごいのでたよ」

凛「あの時子さんがその威力を一目見て膝を付いたという」

春香「んふふ、それは知らないけど。っと、はいお茶」

凛「あ、すいません。やらせちゃって」

春香「いいのいいの、たまにあるじゃない。お母さんの味じゃないけどさ、自分で淹れたお茶が飲みたい日」

凛「ちょっとわかる気がします」


577: 2015/02/02(月) 19:27:58.21 ID:FmG9rKGIo

春香「っと、はいどうぞ。あまいのん」

凛「んふっ……、いいんですか?」

春香「いいの私がここに来たのもこれ食べるためだし。一人で食べるの寂しいからね」

凛「ありがとうございます」

春香「ちなみに隠してる訳じゃなくて、上段手前はみなさん勝手に食べてどうぞのエリアで
    下段とかは自分が食べたいから買ってきた物を入れるエリアだから。
    場所変えないもなにも基本的に勝手に食べられる事がないんだよね」

凛「……」

春香「基本的に」

凛「……いや、すみません。寒くて」

春香「理由になってないけどー。まぁいいやお食べ。おたべお食べ」

凛「おたべはいらないですけど……で、話戻しますけど」

春香「えっと……どこまで?」

凛「幻の左。あれ、私も食らったことあるんですよね。一回」

春香「えっ、うっそ!? そうだったっけ?」

凛「はい。割と初期に。それはもう意識を刈り取られそうなレベルのを」

春香「うっそ、知らない知らない! いつ? いつ?」

凛「ほら、あの……アイドル舐めんな事件」

春香「あーあー……。あの時貰ってたんだ」

凛「はい。強烈なのを」

春香「そっかそっかー……あ、食べていいんだよ?」

凛「いただきます……いやしかし……うわっ!? え、なにこれめちゃ美味しい!」

春香「でしょ? 北海道からお取り寄せしてるんだからね」

凛「うわ、うわー! なにこれなにこれ! 一口食べたら……花畑浮かんだよ!」

春香「あっはっは! わかるわかる、初めて食べたらそうなるよねー」

凛「びっくりした! ただのチーズケーキだと思って舐めてた……」

春香「うんうん。いいリアクションありがとう、お茶もどうぞ? チーズがかなり濃厚だから酸味の効かせたローズヒップだよ」

凛「あ、もう食べきってしまいました」

春香「もう一個いる?」

凛「是非に」

578: 2015/02/02(月) 19:39:02.19 ID:FmG9rKGIo

―――

凛「……はぁー」

春香「いやぁ、がっつり食べたね」

凛「大変美味しかったです」

春香「でしょでしょ? これで1575円プラス送料が……500円位だったかな」

凛「え、安」

春香「毎回10個くらい頼んでるんだー、また来週くらいに届くからそしたら声かけるね」

凛「よろしくお願いします!」

春香「……で、なにか言おうとしてなかった? 食べる前」

凛「え? ……なんだっけ」

春香「えっと、友紀さんの話で……幻の左になって」

凛「あ、舐めんな事件」

春香「そうそれそれ」

凛「いや、あれなんですよ。ViDaVo組とCuCoPa組で温度差というかなんかありますよねって話をしたくて」

春香「温度差?」

凛「あれ? 感じてるの私だけかな……? ほら、養成所出身組とスカウト組って言うんですかね?
  なんか、あの事件もその辺があった気がするんですけど」

春香「その辺はね。確かに多少思うところがある子も居るみたいだけど。
    前ほどじゃないと思うよ? いまは、それなりにみんな仲良くやってるし。
    そりゃ特に仲いい子でグループ作ったら別れそうな所ありそうでもあるけどさ」

凛「ですよねー……ってあれ、今……えっ!?」

春香「どしたの?」

凛「じゅ、十一時半……!?」

春香「……やばいの?」

凛「事務所出る時間過ぎてる! 今日MBSなのに!」

春香「うっわー新幹線じゃん……タクシータクシー! 最悪伊織!」

凛「いや、ちょっ! とりあえず行ってきます!」

春香「はいはい、プロデューサーには伝えとくから後で凛ちゃんからもちゃんと連絡取ってね!」

凛「はいすみません!」

 (どたばたと部屋をでていく音)

583: 2015/02/03(火) 08:34:23.19 ID:Bfb0jH49o
>>578

―――

 楽屋

凛「……ふぅ。間に合ってよかったぁ~」

凛「あっ、一応春香さんにもメール送っとこ」

 (携帯を弄る音)

凛「送信っと……ふぅ、まだちょっとカメリハまで時間あるしトイレに行っておこうかな」

 (扉を開ける音)

玲音「っと」

凛「あ、すみませ――えっ」

玲音「あれ、キミは彼の所の」

凛「えOちょっと待ってなんで玲音さんが居るのもしかして私また嵌められたの
  またプロデューサーの姦計に思うがまま嵌ったの嘘でしょ今度はソロで勝負って
  ユニットでも相手にならなかったのにソロとか時期尚早甚だしいじゃない? っていうか……」

玲音「えっと、……大丈夫?」

凛「ハッ! ……ちょっと取り乱しました」

玲音「ちょっとだったかな今のは……えっと、一応言っておくと今日あったのは偶然だよ?
    アタシもここで仕事があっただけで」

凛(よかった……)

凛「えっと、そうなんですか? ……でも、玲音さんが普通のスタジオで収録ってちょっとイメージ沸かないですね」

玲音「そうかい? アタシだってステージの上で歌って踊って以外にも仕事はするさ。
    要望があれば各地の局にも余興にもね」

凛(この人が着たらそれは余興じゃないよねもはや)

玲音「しかし丁度よかった。聞きたい事があったんだ」

凛「聞きたいこと、ですか?」

玲音「うん。えっと……ちょっと耳いい?」

凛「? 聞かれたら不味い話ですか」

玲音「そういうわけじゃないけど……ま、いいか。彼の事なんだけど」

凛「彼って……プロデューサーのことですよね?」

玲音「そう。おたくの若き敏腕社長兼プロデューサーの彼。
    最近さ、えっと……ううん。ほら、アタシの事なにか言ってなかった?」

凛(ん?)

玲音「些細な事でも良いんだ。彼がアタシについて口にしていたら教えて欲しいんだよ」

凛(んん?)

玲音「どうかな? なにか思い出したりしない? ボソッと呟いてるのを聞いてしまったとかさ」

凛「……えと、ちょっと咄嗟には」

玲音「……そ、そっか」

凛(あからさまにテンション下がった!)

584: 2015/02/03(火) 08:35:27.27 ID:Bfb0jH49o

凛「いや、え、ちょっと待ってください……そういえば」

玲音「なにか言ってた!?」

凛「……愚痴というかなんというかなんですけど」

 P『玲音の奴、また急に言い出しやがってこっちのことも考えろよ……』

凛「みたいな事を頭を抱えてカタカタしながら言ってましたねこの間」

玲音「なるほど……なるほど、そうかそうか。ありがとうえっと……池袋じゃない目黒……でもない」

凛(東京の地名的に覚えられてる……)

玲音「高田馬場さん」

凛「そこ!? 絶対人名としてないじゃないですか! 渋谷です!」

玲音「冗談だよ渋谷凛ちゃん」

凛「えー……」

玲音「ふふっ、彼には一度ヘボンとか呼ばれたからね。キミに意趣返ししてみた」

凛「すっごいとばっちりですね」

玲音「あはは、でもありがとう。いい事を聞いたよ。じゃあ、アタシはそろそろ行くから」

凛「あ、はい。お疲れ様です」

玲音「ん、お疲れ様。っと、それと偶然じゃなく局でもなく、
    ステージの上でキチンとキミとまた会うのを楽しみにしてるよ。じゃあね」

 (去っていく音)

凛(……いつになるかなぁ。っていうかなんかすっごいまずい事を知った気がするなぁ……)


 その後、もやもやしながらもしっかり仕事はこなした凛でした。

588: 2015/02/03(火) 19:15:48.50 ID:Bfb0jH49o

【尚】

P「ん~……」

小鳥「アントニオ猪木とジャイアント馬場って」

ちひろ「……はい?」

小鳥「実際には直接対決しなかったけど、もししてたらこれ位大騒ぎだったのかしら」

ちひろ「さぁ……ただ、プロレスに詳しくない人間でもみんな知ってますからねその二人は」

P「スターだからな。当時の」

小鳥「じゃあもっと?」

P「わからん。直接対決しなかったからこそってのもあったしな」

ちひろ「……それはそうと。やっぱり二つに分けるべきだと思うんですよね。今回の件」

小鳥「またその話? それは決着ついたじゃない」

ちひろ「でも日高舞VS日高愛も日高舞VS玲音もどっちも単品で武道館満席にできるレベルなのに
     それを1つにまとめるなんてとんでもない!」

小鳥「でも後者の方が一ヵ月後と決まっちゃった以上それにあわせてスケジューリングしないとダメでしょ。
    言い方は悪いけど愛ちゃんを後に持ってくるのも違うし」

ちひろ「だからって一回にまとめるのはどうかと思うの! 動員数的にも見れない人が多発するし」

小鳥「じゃあこの短期間にそんな大規模なイベント二発もやってどうするの!
    ただでさえスタッフににチケットに対応が間に合わないのに二倍になるのよ?
    ましてレッスン、リハ、曲セット・衣装セット。普通に考えて無理じゃない」

ちひろ「でもただのステージじゃなくてフェスなんでしょう!? だったら舞さんが続投するのはどうなんですか
     一曲で終わる訳じゃない。何曲も踊る以上体力的にもキツイし、一戦目を勝つにしろ負けるにしろ
     二戦目にムードを引きずるのは目に見えてますよ!」

小鳥「じゃあ仮に二つに分けたとしてどうするのよ! スタッフを集めて音響から演出から舞台セットから
    あの劇場を仕上げるには二日三日でどうにかなるレベルじゃないのよ?
    それこそ一月・二月かけてやるのを一ヶ月に二つなんて現実的じゃないじゃない」

ちひろ「……社長!」

小鳥「社長!」

P「……まぁ二人の意見はわかった。ので、こうしよう。
 まず、一日にやる。これはもう仕方ない。を打てる期間やチケット販売の問題もある、
 二つに分けるのはもう無理だとしか言いようがない。だから、午前と午後の部に分けて
 客を入れ替えて4時間位インターバルを入れてどうにか回そう。
 スタッフに関しては足らないから、以前の子会社に連絡をとって人を回してもらう」

ちひろ「そんな直ぐ話通りますか?」

P「見返りとして向こうの所属アイドルを前座としてだが、何人か引っ張ってこよう。
  もちろんギャラも出す。悪い話じゃない筈だ。それでも足りない分はちょっと俺に心当たりがあるから声をかけてみる」

小鳥「しかし午前と午後で二部構成ですか」

P「一月後だからマーケティングに使えるのは最長でも二週間がいい所だな、
  金は多少かかってもいいからあらゆる方向に声をかけてくれ」

ちひろ「了解。……問題は大道具とかですね」

小鳥「あとはリハとかを考えて出演者のスケジュールも変更しないと」

P「……はぁ、本来この規模なら遅くても半年は前に準備し始めたいのに……玲音の奴……」

ちひろ「舞さんもノリノリでしたからね……」

小鳥「愛ちゃんも大変ね」





凛(……そういう事か! もやもやして損した!)

590: 2015/02/03(火) 20:43:40.00 ID:Bfb0jH49o
>>581

【みきまゆ】

美希「ハニー」

P「おーう」

美希「ハニーハニー」

P「はいはい」

美希「……」

P「えっと、こっちは……」

美希「ハニハニハニハ……ニハー!」

P「んくっ……」

美希「あ、笑ったの」

P「いや、満面の笑みで『ニハー』って言われたらそら笑うだろ……」

美希「ハニーハニー。次のお仕事まで暇なのー」

P「おう、俺は暇じゃないからあっち行っててくれ。いまここ数年でも稀の飛びっきりの忙しさなんだ」

美希「ぶー……!」

P「ほら、飴やるから」

美希「美希は杏じゃないの! ……けど、一応貰うの」

P「はい。イチゴ味な。じゃあマジで忙しいから、な」

美希「はーい……」

591: 2015/02/03(火) 20:47:24.89 ID:Bfb0jH49o

―――

 談話室

美希「もうっ! 最近ハニーってば美希の事ほったらかしすぎるの!」

美希「こうなったら甘い物でもヤケ食いしなくちゃ気が治まらないの!」

美希「と、言う訳で冷蔵庫にイチゴババロアを入れてたと……」

まゆ「……」ハァ

美希「どしたの? そんな部屋の角で体育座りなんて」

まゆ「……あ、美希さん。おはようございます」

美希「ん、おはようなの。で、なに?」

まゆ「まゆもなんです」

美希「なにが?」

まゆ「まゆもさっきPさんの所に行ったらすげなくされてしまって……くすん」

美希「ふぅん、……じゃあまゆもイチゴババロア食べる?」

まゆ「……いただきます」

592: 2015/02/03(火) 21:40:08.47 ID:Bfb0jH49o

―――

美希「はいどーぞ」

まゆ「……いえ、こんなにいらないんですけど」

美希「そう? 美希なら三つくらいペ口リなの」

まゆ「……」

美希「で、まゆはハニーの所になにしに行って追い返されたの?
    ちなみに美希は構ってもらいに行ったら飴もらったの」

まゆ「えっと……その前に一つ聞いても?」

美希「ん?」

まゆ「なんで美希さんはPさんの事をハニーって呼ぶんですか?」

美希「んー……ほら、海外では言うでしょ? マイスィートハニーって」

まゆ「でもそれって旦那さんが奥さんにいいますよね?」

美希「そうだけど、ハニーって蜂蜜でしょ?」

まゆ「そうですね」

美希「つまりあれなの、自分にとって一番甘い時間を過ごせる相手に『ハニー』って言うの。
    美希にとってそれはハニーだから使い方として間違ってるとは思わないの」

まゆ「なるほど……あ、ババロアごちそうさまでした」

美希「も一個いる?」

まゆ「あ、いえ大丈夫です」

美希「……」

まゆ「……?」

美希「……」

まゆ「……あ、まゆがなにしにPさんの所に行ったかでしたっけ?」

美希「なの」

まゆ「えっと、新曲のダンスについて聞きに行ったんですけど」

 P『悪いな。頼れる先輩に聞いてくれ』

まゆ「って……いつもだったらその場で色々教えてくれるんですけど」

593: 2015/02/03(火) 21:48:24.94 ID:Bfb0jH49o

美希「ふぅん……」

まゆ「はぁ……」

美希「でもまゆは運がよかったの」

まゆ「……え?」

美希「ここにイチゴババロアをくれる良い先輩がいるの!」

まゆ「……えぇっとぉ……『頼れる』先輩って言われたのでぇ」

美希「……凄い侮辱を受けたの……、ちょっとこっちくるの!」

まゆ「え、わっ」

美希「早く早く!」

まゆ「ちょ、ちょっとどこへ連れて行くんですか!」

美希「ダンスレッスン室なの。さっさとするの」

まゆ(……後輩として年上として付き合いますか)

まゆ「わかりましたから引っ張らないでくださいー」

601: 2015/02/04(水) 08:55:52.72 ID:onGq7QEco
>>593

【その後】

まゆ「……はぁ」

美希「よいしょっと、うん。それで、どこがわからないの?」

まゆ「えっと……永遠恋のBメロから繋ぐところなんですけど。……今ちょっと振り付け表を出しますね」

美希「ううん要らないの。繋ぎの所って事はボックス踏んでからターンしてVステからのジャンプでしょ?」

まゆ「えっ? ……えと、はいそうです。その後のギャロップからの動きが少し」

美希「じゃあやってみて、どこで引っかかるのか見ないとわからないの」

まゆ「あ、はい」

 (美希の前でまゆが踊る)

美希「はい、ストップ。ちょっと腰と肩に力入ってるの、トレーナーさんに言われなかった?」

まゆ「あっ、確かに少し言われました」

美希「あと、これは個人的になんだけど。振り付けまゆにあってない気がするの。
    美希的にはどうせ今までと違ってダンスイメージ強めの曲ならダイナミックにしたほうがいいと思うの」

まゆ「そうなんですか?」

美希「まゆは身体が小柄だからあんまりステップとか意識するより
    大きく身体を動かした方がステージ映えするの、曲調が若干アップテンポなんだし」

まゆ「えっと、そのさっきも思ったんですけど」

美希「なに?」

まゆ「まゆの新曲の振り付けとか歌詞とか覚えてるんですかぁ?」

美希「うん、当然なの」


602: 2015/02/04(水) 09:05:43.46 ID:onGq7QEco

 ……当然? それは違和感のある言い方でした。
これはまゆの新曲で『The world is all one』のような事務所の共有曲でもなければ
ユニット曲でもない。美希さんが覚える必要も理由もない筈なのに、と。

「……でもどうして」
「ほら、他にわからないところある? 確かステージの演出でタップが入るって聞いてたけど」

 聞こうと思って口を開いたとほぼ同時に美希さんは手を軽く叩いて
当然の様に私も先月聞いたばかりのステージ演出について当然の指摘しました。
まゆから言った覚えはありませんし、これもやっぱり不可解で。

「えぇっと、そうですね。確かにタップは難しくてそれも聞きたかったんですけど」

 けれど正面からこちらをみる美希さんの目がいつになく真剣で、
肯定の言葉しか口にできなくて。

「やっぱり」

 笑みを浮かべて頷いて、「じゃあ教えてあげるの」と簡単に言う美希さん。

「できるんですか?」

 いくら記憶を手繰ってもタップを踏む美希さんがステージの上に立っていた事はなかったと思う。

「本を読んで勉強したの」

 また、軽く言う。
本を読んでって……そんな簡単にできる物じゃない。
話には聞いてたけど、本当に天才というかなんというか、覚えの早い人なんだなと。
そして同時に多少の羨ましさを覚える。ずるいな、なんて。

 けど、それは直ぐに間違いだと。気付いた。

603: 2015/02/04(水) 10:28:05.12 ID:onGq7QEco

「ちょっと待ってて」

 そう言って美希さんがレッスンルームのロッカーから取り出したのは二足の靴。
タップ用のシューズ。それもボロボロの。

「ごめんね、まともに使えるのこれしか残ってないの」

 私がそれをじっと見ているのをどう思ったのか、
美希さんは少し申し訳なさそうにそう言った。

「これって、美希さんのですか?」
「うん。全部で四足買ったんだけど、後の二足はダメになっちゃって」
「……いつ買ったんですか?」
「ん、まゆのステージでタップをやるって聞いてからだから三週間位前なの」

 たった三週間。たった三週間でこんなにも?
鳥肌が立った。

「なんで……ですか?」

 聞いてみたかった。美希さんには関係のない筈のステージ。

「なんで美希さんがタップの練習を?」
「だって、それが美希の役割だと、美希は思ってるから」

 用意していた答えを言うようにさらっと。

「美希は、正直カメラの前向きのアイドルじゃないの。
 みんなみたいに司会進行とか、撮れ高とか数字とかカメラワークとか
 そういうカメラの前での流れってのがいまいちピンとこないから。
 その代わり、美希はステージの上で頑張るの、
 これはハ……プロデューサーにも言ってあるけど。
 どこかに穴が空いたら美希に一番に言ってって、伝えてある。
 だから誰の曲のどのパートのどの位置に入っても、完璧に合わせられる様に、
 一度のリハーサルで溶け込めるように全部片っ端から練習してるの」

 全曲の振り付け、歌詞を全部?
振り付けだってユニットだったら色々ある、センター・サイド・バック・レフトライトのフロント・サイド・バック。
それを全部?

「さ、始めよっか」

 にこりと笑って靴を履き替える美希さん。
私は勘違いしていた。きっとこの人は努力をしてないんだろうって。
ううん、してない事はないのだろうけれどきっと私達のソレよりも少ない。
あるいは同じだけしてもより先に進めるんだろうと思ってた。
           ・ ・
「……はい。美希先輩」

 けど違った。この人はそれ以上に努力をしているんだ。
それを決して見せないだけで、白鳥なんて足元にも及ばないほどに努力している。

 やっとわかった。この人の背中が近く見えるわけが。
ずっと、手を伸ばせば届くところまで自分が着たんだろうと錯覚していた。
もうすぐ……もうすぐ……そう思ってた。

 けど、本当はずっと遠くに居て。そしてとっても大きい。
距離感を失うほどに大きかったんだ。

「ご指導ご鞭撻の程。よろしくお願いします」
「あはっ! 任せるの! ……ねぇ、まゆ」
「はい?」
「美希、『頼れる』先輩でしょ?」
「……はい。とっても」


 その日から、ダンスレッスン室で並んで踊る二人の姿がよく見かけられるようになりました。

604: 2015/02/04(水) 10:29:03.11 ID:onGq7QEco
なんでこうなったんだろうか
寝る

605: 2015/02/04(水) 11:15:37.37 ID:zOAQDvSPO
乙!
いいみきまゆだった

606: 2015/02/04(水) 13:24:32.69 ID:OytzZdQPo
乙ー
努力する天才はすごい
改めてそう思った


引用: 総合P「過労死しそうにない」