1: 2012/01/15(日) 00:20:15.60 ID:rbERvFsa0
絢辻「あなたこそなにしてるの。創設祭はとっくに終わったわよ」

棚町「あたしは冬休みの宿題置き忘れてたからとりに来たのよ。これくらい大目に見てよね」

絢辻「別に……もともと咎める気なんてないわ」

棚町「てんきゅ。それで絢辻さんは? 純一とデートしてたんじゃないの?」

絢辻「デート、ね……」

棚町「せっかくのクリスマスなんだから朝まで一緒にいたらよかったのに。あのバカにそんな甲斐性なさそうだけど」

絢辻「そうね……一緒にいれたら、よかったわね。本当に……」

棚町「は……?」
アマガミLS ~はるかAnother~ (ファミ通クリアコミックス)

6: 2012/01/15(日) 00:26:09.19 ID:rbERvFsa0
棚町(なんかこの感じ、2年前のクリスマスの純一そっくり。もしかして……)

棚町「あのさ、絢辻さん。今日は――」

絢辻「用が済んだのならはやく帰った方がいいわよ。先生に見つかったらなに言われるかわからないから」

棚町「あ、うん……って絢辻さんはどうなのよ。帰らないの?」

絢辻「あたしもじき帰るわ」

棚町「じきって……絢辻さん、なにしに学校戻ってきたの?」

絢辻「あなたには関係ないわ」

棚町「むっ。あたしはちゃんと理由教えたんだから、絢辻さんも教えてくれたっていいじゃない」

絢辻「理由なんてない。ただなんとなく来ただけよ。それじゃ」

棚町「あ、ちょっと待ちなさいよ――ひゃ!?」

8: 2012/01/15(日) 00:35:25.45 ID:rbERvFsa0
棚町「アンタ今までなにしてたのよ。そんなに手冷えてて……ほとんど体温残ってないじゃない」

絢辻「なにもしてないわ。なにもできなかったもの」

棚町「もしかして……ずっと外にいたの?」

絢辻「……」

棚町「外で……ずっと誰かを待ってたの?」

絢辻「……」

棚町「あ、ごめん。無神経だった。聞かなかったことにして」

絢辻「だったら最初から聞かないでほしかったわね」

棚町「だから謝ったじゃないのよぅ……気がきかなくて悪かったわね」

14: 2012/01/15(日) 00:44:05.66 ID:rbERvFsa0
絢辻「もういい? 気が済んだのなら手を離してもらえるかしら」

棚町「イヤ」

絢辻「……なんでよ」

棚町「アンタがこれからどこ行くか教えてくれるまで、氏んでも離さない」

絢辻「どこも行かないわよ。校内を一回りするだけ」

棚町「そのあとは?」

絢辻「さぁ……家に帰るんじゃない?」

棚町「ホントに?」

絢辻「ええ。もう……することもないから」

棚町「……あ、そだっ! 今からあたしんちに来ない?」

絢辻「え……?」

19: 2012/01/15(日) 00:53:41.49 ID:rbERvFsa0
絢辻「なんであなたの家に……行く用がないわ」

棚町「クリスマスだってのにみんなすぐ帰っちゃうからなんか物足りなかったのよ。だから付き合ってくんない?」

絢辻「いやよ、ひとりで遊んでなさい」

棚町「まぁそう言わずにさ。クラスメートのたまのお願いなんだから」

絢辻「あたしはいつも誰かになにか頼まれてるわよ」

棚町「でもあたしが頼んだことはあんまりなかったでしょ? だから、ね?」

絢辻「そんな気分じゃないの。他をあたってもらえる?」

棚町「今から呼んだって誰も来るわけないでしょ。ここで会ったのもなにかの縁だと思ってさ」

絢辻「しつこいわね……」

棚町「アンタが首を縦に振るまで続くわよ」

絢辻「……わかったわよ。少しだけ付き合ってあげる」

棚町「いやっほう! てんきゅ、絢辻さん」

23: 2012/01/15(日) 01:00:56.18 ID:rbERvFsa0
薫の部屋

棚町「テキトーにくつろいじゃっていいわよ。お腹減ってない?」

絢辻「なにかもらえるとありがたいわね」

棚町「オッケー。ピザでいい?」

絢辻「え、出前とるの?」

棚町「うん。大丈夫、ピザ届くまではお菓子があるわよ」

絢辻「そういうことじゃなくて……出前とってもらうくらいならなにもいらないから」

棚町「お金のことなら気にしないで。あたしが誘ったんだし、あたしが出すわ」

絢辻「そこまでしてもらわなくていいわよ」

棚町「いーからいーから。あたしがピザ食べたいだけだし」

26: 2012/01/15(日) 01:11:20.94 ID:rbERvFsa0
棚町「絢辻さんってさ、こうやって友だちの家で遊んだりするの?」

絢辻「そういえば高校に入ってからは初めてかも」

棚町「休日に遊んだりしなさそうよね。でもよかったわ」

絢辻「なにが?」

棚町「あたしはちゃんと友だちとして扱われてたのね」

絢辻「話の腰を折らないように、あえて否定しなかったのよ」

棚町「あ、ひどっ」

絢辻「友だちとして扱ってほしいなら、まずはしつこいところを直してちょうだい」

棚町「追い討ち!?」

31: 2012/01/15(日) 01:21:44.86 ID:rbERvFsa0
絢辻「あなたはあたしのことをどう思ってるの?」

棚町「おかたーい委員長タイプで仲良くなれそうにないって感じ?」

絢辻「ほら、あなただってあたしのことを友だちとして見てないじゃない」

棚町「今のは昔の話。最近は結構仲良くなれるかもって思ってるのよ」

絢辻「あら、どういう心境の変化?」

棚町「委員長みたいな絢辻さんは苦手だけど、毒舌な絢辻さんはあたしの好きなタイプだから」

絢辻「変わってるわね、あなた。そんなこと言ってくれるのはたちば……」

棚町「絢辻さん……?」

絢辻「……なんでもないわ。あなたが変わってるって話よ」

34: 2012/01/15(日) 01:31:02.26 ID:rbERvFsa0
絢辻「なにも聞いてこないのね」

棚町「んーまあアンタが話してくれるって言うなら喜んで聞くけど、あたしから聞くことじゃないと思うから」

絢辻「あら、さっきはあんなに知りたがってたのに」

棚町「反省したのよ」

絢辻「別に聞いてくれたっていいのよ。ご馳走になったお礼に教えてあげる」

棚町「じゃあねぇ……っていきたいとこだけど、遠慮しとく。アンタが自分から話したくなったら話して」

絢辻「なによ、気持ち悪いわね……」

棚町「そこまで言うことないでしょ」

絢辻「……今から話すのは独り言だから、気にしなくていいわよ」


絢辻「橘君にクリスマスデートの約束をすっぽかされました」


絢辻「はい、独り言終わり」

40: 2012/01/15(日) 01:42:44.32 ID:rbERvFsa0
棚町「……それって本当のことなの?」

絢辻「信じる信じないはあなたの自由よ」

棚町「純一がそんなことするなんて……あたしには信じられない」

絢辻「そうね、あたしも信じられないわ。今でも夢なんじゃないかって疑ってるの」

棚町「アンタ……」

絢辻「起きたらまだ創設祭は始まってなくて、待ち合わせ場所に行ったら橘君が待ってるんじゃないかって思ってるの」

絢辻「本当はそんなことありえないってわかってるのにね。あはは、もう夢を見る年齢はとっくに過ぎたのに」

絢辻「なんでかなぁ……今度こそ信じてもいいって思ったのになぁ……」

絢辻「どうしてよ……橘君……」

棚町「……」

44: 2012/01/15(日) 01:52:11.05 ID:rbERvFsa0
絢辻「……ごめんなさい。せっかくあなたが盛り上げようとしてくれてたのに」

棚町「いいよ。無理に元気づけようとしたあたしが悪い」

絢辻「あなたはなにも悪くないわよ」

棚町「アンタはさ……これからどうすんの?」

絢辻「なにも変わらないわ。むしろ最近がおかしかったのよ。もとに戻るだけ」

棚町「そっか……まぁ、あたしが口出しすることじゃないわね」

絢辻「この話は忘れて、あなたは今までどおり彼に接してあげてね」

棚町「できるかしら……思い出したら拳が出ちゃいそうだわ」

54: 2012/01/15(日) 02:02:31.51 ID:rbERvFsa0
絢辻「さてと、そろそろ帰ろうかな。棚町さん、今日はありがとう」

棚町「あたしが無理に誘ったんだから、お礼なんて言わないでよ」

絢辻「最初は乗り気じゃなかったけど、意外と楽しめたわ」

棚町「だから言ったでしょ。あたしたち仲良くなれるって」

絢辻「そうね。しつこいところを直してくれたらね」

棚町「うわっ、まだそれ言う?」

絢辻「ふふ、冗談よ。そのおかげであなたとこうして話せたんだものね」

棚町「そう言われるのもなんかむずがゆいわね……気をつけて帰んなさいよ」

絢辻「うん。またね、棚町さん」

60: 2012/01/15(日) 02:15:14.09 ID:rbERvFsa0
冬休み明け

橘「あ、絢辻さん!」

絢辻「え……橘君……?」

橘「ごめん、呼び止めちゃって……その、絢辻さんに言わなきゃいけないことがあって……」

絢辻「……なに?」

橘「クリスマスの、ことなんだけど……」

絢辻「っ……!」

橘「その、あの日は……本当に……」

絢辻「や、やめて……」

橘「え?」

絢辻(やめてよ、今さら謝らないで……お願い……)



棚町「あーやつーじさん! ぐっもーにーん!」

64: 2012/01/15(日) 02:26:47.07 ID:rbERvFsa0
絢辻「は、はい……?」

棚町「朝の挨拶よ、わかるでしょ。ぐっもーにん」

絢辻「あ……お、おはよう」

棚町「早速で悪いんだけど、まだ冬休みの宿題終わってないから見せてくんない?」

絢辻「それは構わないけど……」

棚町「そうと決まればさっさと教室行きましょ」

橘「あ、待て薫! 僕は絢辻さんに話が……!」

棚町「悪いけどあとにしてちょうだい。さ、行くわよー絢辻さん」

絢辻「あ、ちょ、ちょっと……押さないで……」

69: 2012/01/15(日) 02:40:49.34 ID:rbERvFsa0
絢辻「いったいなんの真似よ」

棚町「ん? なにが?」

絢辻「とぼけないで。わざとらしくあたしと橘君を引き離したでしょ」

棚町「したわね。それが?」

絢辻「これはあたしの問題なんだから、余計なことはしないで」

棚町「うーん、最初はなんもする気なかったんだけどさ。でも……」

絢辻「でも……なに?」

棚町「純一と話してるアンタの顔が辛そうに見えたから、体が勝手に動いちゃった」

75: 2012/01/15(日) 02:52:31.50 ID:rbERvFsa0
絢辻「気をきかせたつもり……?」

棚町「あたしなりにね。邪魔だったら謝るわよ、ごめんね」

絢辻「……邪魔とまでは言ってないわ。だから謝らないで」

棚町「でも余計なお世話だったんでしょ?」

絢辻「彼と顔を合わせたくなかったのは事実だから」

棚町「ならよかった。んじゃさっさと教室行って宿題見せて」

絢辻「え、本当にまだ終わってなかったの!?」

棚町「当たり前でしょー。冬休みはバイトに明け暮れてたわよ」

絢辻「はぁ……とっさの嘘だと思ってたのに」

80: 2012/01/15(日) 03:01:18.11 ID:rbERvFsa0
翌日

絢辻「棚町さん、今日は食堂で食べるの?」

棚町「そのつもりだけど。なんで?」

絢辻「この前ご馳走になったお返しに、お弁当を作ってきたの」

棚町「あたしに?」

絢辻「ええ」

棚町「なんていうか……アンタってマメね」

絢辻「借りを作りっぱなしなのはいやだっただけよ」

棚町「缶ジュース1本おごってくれるだけでよかったのに」

絢辻「それだとあたしの気が済まないわよ」

87: 2012/01/15(日) 03:11:29.78 ID:rbERvFsa0
絢辻「どう? 口に合った?」

棚町「うん、美味しいわよ」

絢辻「お気に召したみたいで安心したわ」

棚町「ところでアンタはおにぎり1個でいいの?」

絢辻「これでも多いくらいよ。もともとそんな食べる方じゃないし、最近あんまり食欲がないの」

棚町「……それって」

絢辻「やっぱり引きずっちゃってるみたいね。でも平気よ。そのうち忘れるわ」

棚町「忘れる……あ」

90: 2012/01/15(日) 03:20:58.70 ID:rbERvFsa0
棚町「絢辻さん、今日の放課後って時間ある?」

絢辻「放課後? 大丈夫だと思うけど」

棚町「じゃあなんか美味しいもの食べに行きましょ」

絢辻「なんでそんな急に……」

棚町「美味しいもの食べてればそのうち食欲出てくるかもしれないでしょ?」

絢辻「そうかしら」

棚町「そうよ!」

絢辻「あたしはあなたみたいに単純じゃないから……」

棚町「ちょっと失礼でしょ、それ!?」

98: 2012/01/15(日) 03:33:34.62 ID:rbERvFsa0
放課後

棚町「んじゃ行くわよっ」

絢辻「行くのは構わないけど、どこに行くかは決めてるの?」

棚町「もちろん決めてないわ!」

絢辻「だと思った……」

棚町「夕方にがっつり食べちゃうと晩ご飯が食べられないし、軽いものでいいわよね」

絢辻「軽いものでも完食できるかわからないわよ」

棚町「残ったらあたしが食べたげるわよ」

103: 2012/01/15(日) 03:44:50.41 ID:rbERvFsa0
棚町「んーなかなか美味しそうなものがないわねぇ」

絢辻「せめてなにを食べるかくらい決めた方がいいんじゃないの?」

棚町「甘いものに決まってるでしょ」

絢辻「まだ曖昧ね。甘いものだっていろいろあるでしょう」

棚町「それは見てから決めるのよ……お、メロンパンのお店発見!」

絢辻「……」

棚町「結構美味しいって学校でも噂になってたわよね。食べてみよっか?」

絢辻「……メロンパンはいらない」

棚町「あんまり好きじゃなかった?」

絢辻「嫌いなの、メロンパン」

108: 2012/01/15(日) 03:54:51.31 ID:rbERvFsa0
喫茶店

棚町「本当にチーズケーキ1つでいいの?」

絢辻「食欲がないって言ったでしょ。それに普通3つも4つも頼んだりしないと思うんだけど」

棚町「1つに決めるって難しくない?」

絢辻「だからってあなたみたいに2つは頼まないわよ」

棚町「甘いものは別腹って言うでしょ」

絢辻「甘いものだけの場合もその言葉は使えるのかしら」

棚町「使えるでしょ。あたしがそうだもの」

111: 2012/01/15(日) 04:05:11.71 ID:rbERvFsa0
棚町「絢辻さん、チーズケーキ一口ちょーだい」

絢辻「健啖ね……」

棚町「ほら、はやくはやくっ」

絢辻「はいはい……口開けて」

棚町「あーん……ぱくっ」

絢辻「そういえば……」

棚町「ん?」

絢辻「前にもこんなことしたなって思って」

棚町「したっけ?」

絢辻「あなたとじゃないわよ……やっぱりメロンパンは食べないで正解だったわ」

114: 2012/01/15(日) 04:15:53.94 ID:rbERvFsa0
棚町「ふぅ、食べた食べた。美味しかったわね」

絢辻「結局あなたが好きなもの食べただけじゃないの」

棚町「まぁいいじゃない。今度はアンタの好きなもの食べに行きましょ」

絢辻「食欲が戻ったらね。それと棚町さん、今日もありがと」

棚町「なんのことよ」

絢辻「これもあたしを元気づけようとしてくれたことでしょ?」

棚町「と、友だちなんだからそれくらい普通でしょ」

絢辻「棚町さんって不思議な人ね」

棚町「は? どういう意味よ」

絢辻「そのままの意味よ」

115: 2012/01/15(日) 04:27:32.74 ID:rbERvFsa0
数日後

田中「薫、最近絢辻さんと仲良いよね」

棚町「意外と面白いやつよ、あいつ」

田中「どうして絢辻さんと話すようになったの? 昔は特に関わりなかったのに」

棚町「いろいろあったのよ。それにこのクラスの雰囲気もなんかイヤだし」

田中「薫のおかげで結構変わってきたと思うよ」

棚町「元通りになるのが一番いいんだけどね」

棚町(でもそれにはあいつをどうにかしないといけないのよね……)

117: 2012/01/15(日) 04:41:46.02 ID:rbERvFsa0
棚町「ちょっと純一」

橘「どうした薫」

棚町「話があるからついてきてよ」

橘「話? 話ってなんだ?」

棚町「いいからついてきなさい」

橘「おい、なんの話かくらい教えてくれたっていいだろう」

棚町「絢辻さんの話よ」

橘「え……」

棚町「わかったら黙ってついてきて」

125: 2012/01/15(日) 04:52:46.11 ID:rbERvFsa0
屋上

橘「なんでお前が絢辻さんの話なんてするんだ」

棚町「絢辻さんを元気づけるためよ」

橘「お前、だから最近絢辻さんとよく一緒にいたのか」

棚町「そういうことよ。ま、どっかの誰かさんが絢辻さんを傷つけなければこんなことする必要もなかったんだけど?」

橘「……やっぱり聞いてるのか」

棚町「全部知ってるわけじゃないわ。ただ、アンタが絢辻さんとの約束をすっぽかしたのは知ってる」

橘「全部じゃないか」

129: 2012/01/15(日) 05:02:58.60 ID:rbERvFsa0
棚町「余計なことはするなって言われてるんだけどね。でももう我慢できないわ。なんであんなひどいことしたのよ」

橘「お前に言わなきゃダメなのか……?」

棚町「言いたくないってんならいいわよ。そのかわり一発飛ぶからね」

橘「ちょっと待て! なんで薫がそこまで怒ってるんだ!」

棚町「あたしの性格、知ってるでしょ。友だちにひどいことされて黙ってられるような人間じゃないのよ」

橘「たしかにお前はそういうやつだな……」

棚町「お願い、答えてよ純一。アンタのことだからきっとなんか理由があったんでしょ?」

橘「う……」

棚町「純一は……なんの理由もなく人を傷つけるようなことするやつじゃないよね?」

132: 2012/01/15(日) 05:16:13.22 ID:rbERvFsa0
橘「……他の子とデートしてたんだ」

棚町「本当に?」

橘「うん……ごめんね、薫。お前は僕のことを信じてくれてたのに」

棚町「なんで、なんでよ……アンタ、一番よくわかってるでしょ? 約束を破られた人がどれだけ傷つくか……」

棚町「アンタが一番わかってるはずなのに……なんで絢辻さんに同じことしてんのよ!」

橘「……」

棚町「黙ってないでなんか言いなさいよ!」

橘「ごめん……」

棚町「……なによ、ごめんって。なにアンタが辛そうな顔してんの?」

139: 2012/01/15(日) 05:29:31.46 ID:rbERvFsa0
橘「絢辻さんは……絢辻さんは、少し複雑な家庭環境にいるんだ」

棚町「は……?」

橘「そのせいで自分を表に出せないまま生きてきたんだ。薫も知ってるだろ? 絢辻さんが猫被ってたの」

棚町「ちょっと、なんの話してんのよ」

橘「いいから聞いてくれ。絢辻さんは早く家を出たいんだと思う。だからずっと目標のために全力で生きてきた」

橘「そんな生き方のせいで絢辻さんはいつもひとりだった」

橘「まわりの人間を誰ひとり信用しないで、表面上だけの人付き合いしかしない」

橘「でも本当の絢辻さんは、誰よりも寂しがり屋で……自分のとなりにいてくれる人を求めてる」

橘「僕も絢辻さんのすべてを理解できたわけじゃないけど、僕から見た絢辻さんはこんな人だった」

144: 2012/01/15(日) 05:42:54.68 ID:rbERvFsa0
棚町「……それがなんだって言うのよ。だからこそアンタが絢辻さんのそばにいてあげるべきだったんじゃないの!?」

橘「そうだね……でも僕はもう取り返しのつかないことをしちゃったから」

棚町「だからもう絢辻さんは関係ないってわけ?」

橘「違うよ、そうじゃない……薫、これからはお前が絢辻さんのとなりにいてあげてほしいんだ」

棚町「あ、あたし!?」

橘「うん。絢辻さんはお前に心を開いてきてるみたいだし、お前も絢辻さんのことほっとけないんだろ?」

橘「絢辻さんは誰かがとなりにいてあげないとダメなんだ。じゃないと絢辻さんはこのまま自分を頃して生きてくことになる」

橘「頼む、薫。絢辻さんのとなりにいてあげてくれ」

148: 2012/01/15(日) 05:55:29.24 ID:rbERvFsa0
棚町「なんなのよ、アンタ……そんなに絢辻さんが心配ならアンタがそばにいてやればいいでしょ」

橘「僕は絢辻さんを裏切っちゃったから……となりに立つ資格はないんだ」

棚町「ホント男らしくないわね、アンタ……一発ぶん殴ってやりたいわ」

橘「薫の気が済むなら、好きなようにしろよ」

棚町「あたしの気が済んだってしょうがないでしょ。もういいわよ。アンタの言いたいことはわかったわ」

橘「それじゃあ……」

棚町「ふん……アンタに言われなくても、あたしはあいつのそばにいるわよ。勘違いしないで」

橘「わかってる。お前に演技なんてできるはずないもんな」

棚町「なんか上から目線なのがムカつくわね……やっぱり一発ぶん殴っとこうかしら」

153: 2012/01/15(日) 06:09:43.14 ID:rbERvFsa0
図書室

棚町「あ、いたいた。絢辻さんっ」

絢辻「た、棚町さん!?」

棚町「なんでそんな慌ててんの? あれ……アンタ、その頬……」

絢辻「っ……!?」

棚町「アンタ……もしかして泣いてたの?」

絢辻「ちが……違うの。これは欠伸したら出てきたもので……」

棚町「あたしにはウソつかないでいいのよ」

絢辻「ウソなんかじゃ……」

棚町「もうひとりで泣くことないのよ、絢辻さん」

絢辻「あ……」

156: 2012/01/15(日) 06:20:54.02 ID:rbERvFsa0
絢辻「……もう、もうひとりはいやなの……」

絢辻「やっと会えたと思ったのに……わたしのことを見てくれる人」

絢辻「なのに、やっぱり離れていって……わたしはまた、ひとりで……」

絢辻「もういやなの……ひとりで頑張るのはもういや……誰か、わたしのことを見て……」

棚町「あたしが見てるわよ。アンタはひとりじゃない」

絢辻「棚町さん……?」

棚町「あたしがアンタのとなりにいるから。離れたりしない」

159: 2012/01/15(日) 06:31:08.52 ID:rbERvFsa0
絢辻「うそよ……どうせあなただって、わたしのことをおいてどこかいっちゃうもの……」

棚町「あたしは純一とは違う。絶対アンタから離れたりしない。ずっとそばにいる」

絢辻「口先だけだったらなんとでも言えるわ……彼もそうだった」

棚町「そうかもね。だから行動で証明してやるわ」

絢辻「どうやって……?」

棚町「簡単よ。ずっとアンタのそばにいればいいんでしょ」

棚町「見てなさいよ。そのうちアンタはあたしを信じるしかなくなるから」

161: 2012/01/15(日) 06:42:32.02 ID:rbERvFsa0
棚町「絢辻さんの泣き顔なんて貴重なもの見ちゃったわ」

絢辻「う、うるさいわね。ちょっと心が不安定になってただけよ」

棚町「今度泣きたくなったらあたしの胸貸したげるわよ」

絢辻「いらないわよ、そんなもの……」

棚町「他人の胸で泣くと結構スッキリするもんよ?」

絢辻「その経験がないからわからないわね」

棚町「だから今度あたしの胸で泣いてみなって」

絢辻「機会があったらね」

164: 2012/01/15(日) 06:49:40.61 ID:rbERvFsa0
棚町「それでさ……アンタにちょっと話があるんだけど」

絢辻「なによ、改まって」

棚町「去年のクリスマスから話すようになって、あたしたちも結構仲良くなったと思うのよ」

絢辻「まぁ……そうかもしれないわね」

棚町「だから、その……」

絢辻「どうしたのよ。なんだかあなたらしくないわよ」

棚町「うっさい! 余計なお世話よ!」

絢辻「だったらほら、遠慮なくどうぞ?」

棚町「あ……アンタのこと、名前で呼んでいい?」

168: 2012/01/15(日) 07:05:30.89 ID:rbERvFsa0
絢辻「……ダメ」

棚町「は!? なんでよ!」

絢辻「だって……そういうのって、は……恥ずかしいじゃない」

棚町「恥ずかしいと思うから恥ずかしいのよ。どうせすぐ慣れるって」

絢辻「……それってあたしもあなたを名前で呼ばなきゃいけないんでしょう?」

棚町「そりゃ名前で呼んでくれた方が嬉しいけど、別に無理強いはしないわよ」

絢辻「でもあなただけあたしを名前で呼ぶのもおかしいでしょ。一方通行みたいな感じで」

棚町「そうでもないわよ。アンタは今までどおりでいいって」

絢辻「それもいやよ」

棚町「じゃあどうしろって言うのよ」

絢辻「……あたしも名前で呼ぶわ、あなたのこと」

170: 2012/01/15(日) 07:09:23.91 ID:rbERvFsa0
翌日

棚町「つーかさっ! おっはよう!」

絢辻「おはよう……か、薫」

棚町「……いくらなんでもぎこちなさすぎるでしょ」

絢辻「まだ慣れてないのよ。ところで、今日はずいぶんはやく来たわね」

棚町「はやくアンタと会いたかったのよ。会っておしゃべりしたかったの」

絢辻「ふ、ふーん……」

棚町「廊下は寒いしはやく中に入ろっ、詞」

255: 2012/01/15(日) 15:11:43.47 ID:rbERvFsa0
絢辻「薫……」

棚町「詞? どうしたの……?」

絢辻「……いいよね?」

棚町「え……? ちょ、ちょっと! なんでそんな近付いてくんのよ……!?」

絢辻「薫、わたしのそばにいてくれるって言ったよね……だからこういうこともいいでしょ……?」

棚町「あ、あたしはそういう意味で言ったんじゃなくて……つ、詞――」


棚町「うひゃぁあっ!?」

棚町「はっ、はっ……あれ? ゆ、夢……?」

棚町「はぁ……なんなのよ、もうっ……なんつー夢見てんのよ、あたしは……はぁ……」

棚町(……全然イヤじゃなかった)

263: 2012/01/15(日) 15:22:44.90 ID:rbERvFsa0


棚町「アンタって綺麗な髪してるわよね」

絢辻「そう? 一応手入れはこまめにしてるけど」

棚町「さわりた~い」

絢辻「言うと思ったわ……」

棚町「ね、いいでしょいいでしょ?」

絢辻「引っ張ったりしないでよ」

棚町「しないって。んじゃ失礼しまーす」

絢辻(なんでみんなあたしの髪を触りたがるのかしら……)

269: 2012/01/15(日) 15:34:25.55 ID:rbERvFsa0
棚町「あはっ、サラサラできもちい~」

絢辻「んっ……」

棚町「実は授業中いっつも触りたいって思いながらアンタの髪見てんのよね」

絢辻「人の髪に見とれてる暇があるなら少しは課題を進めなさいよ」

棚町「だって詞の髪、本当に綺麗なんだもん」

絢辻「……匂いもかぎたいとか思ってる?」

棚町「え、なんでわかったの?」

絢辻「なんとなくよ」

絢辻(以前同じようなことをした人がいたからね……)

270: 2012/01/15(日) 15:46:29.35 ID:rbERvFsa0
棚町「じゃあかいでいい?」

絢辻「ダメよ」

棚町「えーなんでよー」

絢辻「教室内でそんなはしたないことできないわよ」

棚町「人のいないとこだったらいいの?」

絢辻「そうね。でもそろそろHRが始まるからまた次の機会にね」

棚町「次っていつよ」

絢辻「さぁ? あなた次第よ」

275: 2012/01/15(日) 15:59:38.35 ID:rbERvFsa0
放課後

棚町「さっぶーい……ちょっとアンタ、どうにかしなさいよ」

絢辻「あなたがどこか寄って帰ろうって言うから、わざわざ寒い中丘の上公園まで来たんでしょ」

棚町「こんな寒いとは思わなかったのよぉ……あたし寒いの苦手だし」

絢辻「しょうがないわね……ほら、あたしのマフラー貸してあげる」

棚町「てんきゅ。あー生き返るわ」

絢辻「マフラー巻いただけじゃそこまで変わらないでしょ」

棚町「そんなことないわよ。あ……このマフラー、詞の匂いがする」

絢辻「ひ、人のマフラーに変なことしないで!」

棚町「ただ匂いがするって言っただけでしょ」

280: 2012/01/15(日) 16:11:49.22 ID:rbERvFsa0
絢辻「やめてよ、匂いなんて……」

棚町「いい匂いよ?」

絢辻「そう言われても、自分じゃわからないもの」

棚町「あたしはアンタの匂い好きだな」

絢辻「バカ……だいたいあたしの匂いなんてどこで覚えたのよ」

棚町「一緒にいるうちにいつの間にか。きっとアンタに抱きしめられたらもっといい匂いがするのよね」

絢辻「……あなたさえよければ、あたしは……」

棚町「ん?」

絢辻「……やっぱりなんでもないわ」

283: 2012/01/15(日) 16:26:29.01 ID:rbERvFsa0
棚町「しっかしこんなに寒いってのに、カップルは元気なもんよねー」

絢辻「互いに夢中で寒さを忘れてるんでしょ」

棚町「うわ、キスまでしてるし……」

絢辻「あんまり見るんじゃないわよ。失礼でしょ」

棚町「だって普通公園でキスなんかする? まだ日も暮れてないのよ」

絢辻「まわりが見えてないのよ。それにキスなんてそこまで特別なものじゃないの」

棚町「なんか冷めた言い方」

絢辻「事実よ。キスは愛情表現のひとつで、それ以下でもそれ以上でもないわ」

絢辻「キスしたって人の心をつかめるわけじゃない……」

絢辻「キスなんて……そんなものよ」

289: 2012/01/15(日) 16:42:39.64 ID:rbERvFsa0
棚町「寂しいこと言うんじゃないわよ。キスでダメなら、他の方法でガッチリつかんじゃえばいいでしょ?」

絢辻「無理よ……人の心は絶対変わっていくものだから。あなたも例外じゃないわ」

棚町「かもね。でも変わらない気持ちだってある」

絢辻「どうかしらね」

棚町「ったく、なんでアンタはそうネガティブなのよ。もっといい方に考えなさいよ」

絢辻「だって……やっぱり不安なのよ。あなたの言葉は嬉しかったけど、どうしても信じきれないの……」

棚町「無駄に心配性なんだから……どうしたら安心できるのよ、アンタは」

絢辻「……薫が」

棚町「あたしが?」

絢辻「薫が……キスしてくれたら、安心できるかも……」

295: 2012/01/15(日) 16:56:46.04 ID:rbERvFsa0
棚町「さっきはキスなんて特別じゃないって言ってたのに」

絢辻「それでも、キスしてるときだけは満たされるから」

棚町「……わかった。一応聞いとくけど、冗談じゃないのよね?」

絢辻「冗談でこんなこと言えないわ」

棚町「じゃあ、するから……」

絢辻「いつでもいいわよ」


棚町(正夢って本当にあるもんなのね……)

297: 2012/01/15(日) 17:08:19.05 ID:rbERvFsa0
絢辻「……なんでしたのよ」

棚町「言い出したのはアンタでしょうが」

絢辻「本当にしてくれるなんて思わなかったのよ。気持ち悪くなかったの?」

棚町「なんで?」

絢辻「女同士でキスなんて……普通じゃないわ」

棚町「アンタが安心できるならどうってことないわよ。それよりもどうなの? 安心できた?」

絢辻「ん……少し」

棚町「まだ不安なら、もう一回する?」

絢辻「……うん」

307: 2012/01/15(日) 17:38:02.14 ID:rbERvFsa0
休日

棚町「次はどれ乗る?」

絢辻「そうねぇ……じゃあアレなんてどう?」

棚町「アンタって絶叫系が好きなのね。予想外だわ」

絢辻「飽きたなら別のでもいいわよ」

棚町「まさか。あたしも絶叫系大好きだから望むところよ」

絢辻「ふふ、よかった」

棚町「んじゃさっさと並びましょ」

317: 2012/01/15(日) 18:15:07.14 ID:rbERvFsa0
棚町「絶叫系は乗りつくしちゃったわねぇ。どうする? 2週目行く?」

絢辻「うーん……あっ」

棚町「ん? ああ、お化け屋敷? アンタこういうのも好きなんだ」

絢辻「いえ、これはちょっと……」

棚町「怖いの苦手?」

絢辻「苦手なわけじゃないけど……このアトラクションは……」

棚町「なによ、もしかして入ったことあるの?」

絢辻「う、うん……」

棚町(詞がここまで嫌がるってことは相当怖いってことね……)

棚町「よし、入りましょ!」

絢辻「えぇっ!?」

321: 2012/01/15(日) 18:25:59.80 ID:rbERvFsa0
棚町「なによ、暗いだけでなにもないじゃないの。たまにミイラが出てくるだけで」

絢辻「そうね……」

棚町「……そんな怖いの?」

絢辻「え?」

棚町「だってアンタ、ずっとあたしの服の裾握ってるじゃない」

絢辻「これは怖いわけじゃなくて……」

棚町「詞も可愛いとこあんのね」

絢辻「だから怖いわけじゃないの!」

324: 2012/01/15(日) 18:35:36.99 ID:rbERvFsa0
キング『ウォオオオォ~ン!』

絢辻「ひっ……!?」

棚町「あら、ずいぶんでかいのが来たわね。アンタがビビってたのってこいつ?」

キング『千年王国の呪いを受けるがいい!』

棚町「ちょっと、ただの見かけ倒しじゃない。こいつのなにが怖いってのよ」

絢辻「違うの! 本当に恐ろしいのはここからで――」

キング『その罪、自らの身で思い知るがいい! ウォォォオオオオォォ~~ン!』

棚町「うわっ、なんか吐いた!」

絢辻「い、いやーっ!」

329: 2012/01/15(日) 18:48:11.97 ID:rbERvFsa0
棚町「結局ただの煙だったし……おーい、詞」

つかさ「……こっちよ」

棚町「あ、そっちか……って、あれ? 詞……?」

つかさ「ううっ……だからこれはいやだったのに」

棚町「えーっと、どういうことなのかしら……」

つかさ「あいつのけむりをくらうとちいさくなるのよ……なぜかあたしだけ」

棚町「いや、漫画じゃないんだから……そんな非常識な」

つかさ「でもほんとうにちいさくなっちゃうの!」

棚町(……可愛いわね)

337: 2012/01/15(日) 19:01:58.27 ID:rbERvFsa0
棚町「まぁいいじゃない。これはこれで結構楽しいわよ」

つかさ「あたしはぜんぜんよくないのっ!」

棚町「なんでよ。困ることないでしょ」

つかさ「あるの! あるきにくいし、こころぼそいし、むねはちいさくなるし……」

棚町「いろいろ大変なのね……それでどうすればもとに戻るの?」

つかさ「ここからでればもどるわ」

棚町「なるほどね。どうする? 出る?」

つかさ「あたりまえでしょっ」

棚町「あたしとしてはこのままでも構わないんだけど」

つかさ「あたしがいやなの!」

341: 2012/01/15(日) 19:12:30.22 ID:rbERvFsa0
棚町「じゃあ進みましょ」

つかさ「うん……わ、わわっ」

棚町「危なっかしいわねぇ……あ、いいこと考えた」

つかさ「なによ」

棚町「あたしが抱っこしてあげる」

つかさ「え……だっこはいいわよ……」

棚町「ダメよ。転んでケガなんてされたら困るし。」

つかさ「けど……」

棚町「ほら、こっち来て」

つかさ「うん……」

344: 2012/01/15(日) 19:25:28.18 ID:rbERvFsa0
棚町「軽いわねーアンタ」

つかさ「あたりまえでしょ、こどもなんだから」

棚町「でもいい匂いなのは変わんないのね」

つかさ「う……薫だっていいにおいするよ」

棚町「あはは、ありがと」

つかさ「薫が……おかあさんだったらよかったのに」

棚町「お母さんはちょっと……せめてお姉さんにしてよ」

346: 2012/01/15(日) 19:34:56.53 ID:rbERvFsa0
棚町「すっかり暗くなっちゃったわねぇ」

絢辻「ほぼすべてのアトラクションに乗ったからね」

棚町「この年齢でメリーゴーランドに乗るとは思わなかったわ」

絢辻「それよりもマスコットキャラのイベントよ。あなたひとりで盛り上がりすぎだわ」

棚町「あれは面白かったわねー。まさか落ちるなんて」

絢辻「どう見てもアクシデントでしょ……」

棚町「どっちにしても楽しかったからいいのよ。あ、最後に観覧車に乗ってかない?」

絢辻「そういえばまだ乗ってなかったわね。いいわよ」

352: 2012/01/15(日) 20:07:09.97 ID:rbERvFsa0
棚町「わーたかーい」

絢辻「……」

棚町「詞? どうしたの?」

絢辻「ううん、なんでもない」

棚町「今日楽しくなかった?」

絢辻「そんなことない。すごく楽しかったわ。あなたといられるだけであたしは嬉しいの」

棚町「だったらどうしてそんな暗い顔してんのよ」

絢辻「……あなたと過ごす時間が増えて、今日みたいに楽しい思いをして……だからこそ怖いの」

絢辻「もしもあなたがいなくなっちゃったらって考えると、どうしようもなく怖いの……」

353: 2012/01/15(日) 20:13:39.85 ID:rbERvFsa0
棚町「詞、となり座ってもいい?」

絢辻「もちろんいいけど……」

棚町「てんきゅ。ね、また不安になっちゃったの?」

絢辻「ごめんなさい、せっかく遊園地に来てるのに……」

棚町「別にいいよ。それよりさ、キスしよっか」

絢辻「え……?」

棚町「キスすれば少しは安心できるんでしょ? だからキスしようよ」

絢辻「……いいの?」

棚町「あたしからしようって言ってんだからいいに決まってんでしょ。ほら、目つぶってよ」

絢辻「うん……んっ」

354: 2012/01/15(日) 20:18:17.81 ID:rbERvFsa0
棚町「どう? まだ足りない?」

絢辻「足りない、かな……」

棚町「じゃあいっそのこと、下に着くまでずっとしてる?」

絢辻「ず、ずっと……!?」

棚町「帰ったら明日になるまで会えないでしょ? だからその間アンタが不安にならないように、今いっぱいしとくの」

棚町「ダメ?」

絢辻「ダメじゃない……キスして。もっとして、薫」

406: 2012/01/15(日) 23:11:16.54 ID:rbERvFsa0
数日後・詞の部屋

棚町「調子はどう?」

絢辻「寝てたらだいぶ楽になったわ」

棚町「はぁ……アンタね、熱出したんならあたしに連絡しなさいよ。HR始まっても来ないから心配したじゃない」

絢辻「ただの熱でわざわざ連絡することもないと思って……」

棚町「あるわよ。ありまくりよ、バカ」

絢辻「あたしがいない学校はどうだった?」

棚町「なんか物足りなかった。やっぱりアンタがいないとダメね」

410: 2012/01/15(日) 23:23:36.25 ID:rbERvFsa0
絢辻「実を言うとね、薫がお見舞いに来てくれるんじゃないかって思ってたの」

棚町「当然でしょ。来るなって言われても行くわよ」

絢辻「あなたらしいわね」

棚町「家族はみんな出かけてるの?」

絢辻「ええ。あの人たちがあたしの心配なんてするはずないわ」

棚町「ひどい話ね」

絢辻「別にいいのよ、あなたが来てくれたから。あたしはそれで充分なの」

棚町「あたしでいいならいつでも来てあげるわよ」

413: 2012/01/15(日) 23:35:14.36 ID:rbERvFsa0
棚町「ねぇ、詞……キスしていい?」

絢辻「ダメよ。風邪うつしちゃうわ」

棚町「アンタからだったら喜んでもらうわよ」

絢辻「あなたがよくてもあたしがよくないの」

棚町「あたしが熱出したらアンタがお見舞いに来てくれるでしょ? だから平気よ」

絢辻「もぉ……わかったわよ。好きにしなさい」

棚町「てんきゅ……ちゅっ」

絢辻「ん……ん、んっ」

418: 2012/01/15(日) 23:54:19.81 ID:rbERvFsa0
棚町「ふぅ……いつもより熱いね」

絢辻「でもすごくよかった」

棚町「なんかさ……こういうのもいいよね」

絢辻「どういうの?」

棚町「ふたりきりの部屋でキスするの」

絢辻「どうして?」

棚町「だって……なんか恋人みたいじゃない?」

絢辻「な、なに言ってるのよ……女同士で恋人なんて……」

棚町「お互いに好きだったらいいでしょ? 女同士でも」

絢辻「だからって……」

棚町「あたしは詞のこと、好きよ」

絢辻「っ……!?」

423: 2012/01/16(月) 00:05:12.09 ID:3lyEiom+0
棚町「もう、この際だから全部言っちゃう……あたし、アンタのことが好きなの」

棚町「最初はアンタのことほっとけなくて、あたしがそばにいてやらなきゃって自惚れてた」

棚町「でもいつの間にかあたしはアンタに惹かれてて……あたしの方がアンタがいないとダメになってた」

棚町「今日だってそうよ。本当はただあたしがアンタに会いたかっただけ。キスも……ただあたしがアンタとキスしたかっただけ」

棚町「……どうしようもないくらいアンタのことが好きなの、詞」

棚町「アンタは……アンタはあたしのことどう思ってる?」

絢辻「あたしは……」

426: 2012/01/16(月) 00:19:27.79 ID:3lyEiom+0
絢辻「……わたし、怖かったの」

絢辻「もうずっと前から、あなたへの気持ちがどういうものなのか自覚してた」

絢辻「でも、こんなの普通じゃないって思ったから言えなかった。あなたに嫌われたくなかった」

絢辻「この気持ちを伝えたって絶対に受け入れてもらえないと思ってた」

絢辻「だから今のままでいいって自分に言い聞かせたの。どんな形であれ、あなたがそばにいてくれるならそれでいいって」

絢辻「けどやっぱり止められなくて……あなたとキスするたびに、想いは強くなって……」

絢辻「大好きなの、薫……ずっとあなたと一緒にいたい」

429: 2012/01/16(月) 00:30:03.26 ID:3lyEiom+0
棚町「……アンタもバカね」

絢辻「な、なんでよ」

棚町「それの返事なら、もうだいぶ前にしてるはずよ。覚えてないの?」

絢辻「あ……」

棚町「言ったでしょ。ずっとアンタのとなりにいるって」

絢辻「うん……今ならあの言葉も信じられる」

棚町「遅いわよ、バカ」

絢辻「薫……愛してる。もう離さない」

棚町「あたしだってアンタのこと離すつもりないわよ」

437: 2012/01/16(月) 00:39:42.54 ID:3lyEiom+0
ちょっとおまけ

絢辻「部活に入る?」

棚町「うん。美術部に入ることにしたの。もう入部届も出したし」

絢辻「なんで今さら部活に入るのよ。もう2年も終わるのよ?」

棚町「この前の進路面談で勧められたのよ。だいぶ前から美術の先生に勧誘されてたしね」

絢辻「勧誘……? 本当に?」

棚町「ホントよ。もともと絵描くの結構好きだから」

絢辻「でもなんで高橋先生が勧めるのよ」

棚町「進路を特に決めてないなら美大はどうって言われたのよ。たしかに勉強するよりは絵描く方がいいと思って」

絢辻「安直にもほどがあるでしょ……」

439: 2012/01/16(月) 00:49:19.55 ID:3lyEiom+0
絢辻「あなた、バイトを続けながら部活をはじめる気?」

棚町「大丈夫よ。気が向いたら美術室に行って絵描いてればいいだけだし、バイトない日の放課後に行けばいいわ」

絢辻「本当に続けられるの、それ……?」

棚町「なによぅ。詞はあたしが美術部に入るの反対なの?」

絢辻「反対ってわけじゃないけど……」

棚町「けど?」

絢辻「一緒にいられる時間が減るかもしれないから」

棚町「どうせアンタは図書室で勉強でもしてるでしょ? 部活終わったら迎えに行くわよ。今までどおり一緒に帰りましょ」

絢辻「……待ってるからね」

441: 2012/01/16(月) 00:58:22.04 ID:3lyEiom+0
放課後

棚町「詞、お待たせ~」

絢辻「お疲れ様。結構遅かったわね」

棚町「絵描いてたら夢中になっちゃって、あはは」

絢辻「わたしを忘れて帰ったのかと思ったわよ」

棚町「いくらあたしでもそれはないって!」

絢辻「もしあまりに遅いようだったら、今度からはわたしが美術室に行くからね」

448: 2012/01/16(月) 01:08:54.98 ID:3lyEiom+0
棚町「もう誰もいないわね、図書室」

絢辻「そろそろ閉まる時間だからね」

棚町「あたしを待ってる間、寂しかった?」

絢辻「……少しだけね」

棚町「じゃあその埋め合わせ……させて?」

絢辻「え……こ、ここで?」

棚町「誰もいないから大丈夫よ。いいでしょ?」

絢辻「だからって図書室は……」

棚町「お願い……詞とキスしたいの」

絢辻「……あなたって本当強引なんだから」

450: 2012/01/16(月) 01:14:54.27 ID:3lyEiom+0
帰り道

絢辻「でも安心したわ。あなたも少しは進路のことを考えてるようで」

棚町「さすがにそろそろ決めないとまずいと思って」

絢辻「まだ美大志望ってことしか決まってないけどね」

棚町「いいのよ、ちょっとは進んだんだから」

絢辻「そうね……薫、大事な話があるんだけど、いい?」

棚町「どんな話?」

絢辻「わたしたちの将来の話」

451: 2012/01/16(月) 01:17:39.23 ID:3lyEiom+0
絢辻「わたしね、高校を卒業したら地元を離れるつもりなの」

棚町「え!?」

絢辻「前から決めていたことだから。今さら変えるつもりはないわ」

棚町「そっか……ま、まぁいいわよ。離れてたってお互いの気持ちが変わるわけじゃないし」

絢辻「まだ話は終わってないわよ。わたしはね……家を出て、あなたと暮らしたいと思ってるの」

棚町「……本気?」

絢辻「もちろん。でもあなたの人生だから強制はできない。だからこれは考えておいてほしいってだけで――」

452: 2012/01/16(月) 01:18:16.56 ID:3lyEiom+0
棚町「考えるまでもないでしょ。アンタと暮らすに決まってんじゃない」

絢辻「な……そんな簡単な話じゃないのよ? 家族とも話さないといけないし……」

棚町「絶対説得するわよ。できなかったら駆け落ちでも夜逃げでもしてやるわ」

絢辻「駆け落ちってあなたねぇ……」

棚町「約束したでしょ? ずっと一緒にいるって」

絢辻「……うん」

棚町「ふたりで幸せになろうね、詞」

絢辻「うん……ずっと一緒よ、薫」

453: 2012/01/16(月) 01:18:30.46 ID:3lyEiom+0
おわり

475: 2012/01/16(月) 02:24:59.64 ID:3MoqOUp30

476: 2012/01/16(月) 02:47:45.38 ID:tKfJzyK70
おつ

引用: 棚町「あれ? 絢辻さん、こんなところでなにやってんの?」