475:◆58jPV91aG. 2010/02/07(日) 22:12:46.63 ID:8QIg/VA0

476: 2010/02/07(日) 22:17:14.51 ID:8QIg/VA0
イャンクック 「旧沼地で人間を拾ったんだが」

外伝 砦ドラゴンと少女 第4話

―四年前―

大剣 「幼女は連れて行けない。何度言ったら分かるんだ」
ランス 「でも……私、心配なの。私たちや、もしかしてあの子に……もしものことが起こったら…………」
大剣 「…………」
ランス 「最悪のことはいつ起こっても不思議じゃない。ハンターとしてのあなたの口癖じゃない」
大剣 「……そのときのために、街の親戚に預けようと言っているんじゃないか」
ランス 「親を亡くして、あの子が無事に育つとでも思うの?」
大剣 「まるで今回の戦いは氏ににいくのと同じであるかのような言い方をするんだな。それとも三人で逃げようというつもりか?」
ランス 「そこまでは言っていないわ。でも……」
大剣 「…………」
ランス 「先遣隊は既に連絡を絶って数日も経ってるわ。ギルドはハンターを募ってるけど、実際は脱走兵が増えてきたことを隠そうとしてるだけ」
ランス 「あなた……今回のモンスターの勢いは異常よ。何か狂気じみたものを感じるわ」

477: 2010/02/07(日) 22:19:00.37 ID:8QIg/VA0
ランス 「それを肌で感じたから、前線のハンターが次々に逃げ出してる」
ランス 「私も、昨日増援に行った時に戦ったモンスターの狂い方を感じたわ」
ランス 「まるで爆弾みたいに……自分の命なんて一切気にせずに向かってきたわ」
ランス 「ガミザミの子供もよ。前まではそんなことはなかったのに……」
大剣 「…………何かが起ころうとしている。それは、俺もわかる」
ランス 「…………」
大剣 「だからこそ、俺たちが行かなければ。行って、前線のハンター達を鼓舞して指揮しなければ」
大剣 「お前は、戦っている仲間を見捨てるとでも言うのか?」
ランス 「それは違うわ……」
大剣 「…………」
ランス 「でも……恐ろしいの」
大剣 「恐ろしい?」
ランス 「ええ。私たちはハンターよ。モンスターハンター。恐れずに巨大な化け物に向かっていく戦士よ」
ランス 「でも、私は昨日、初めてモンスターを恐ろしいと思った……」
ランス 「氏を恐れずに向かってくる狂気を肌で感じて、それを怖い、とそう思ったの」
ランス 「見て……さっきから体が小さく震えてる」

478: 2010/02/07(日) 22:20:16.90 ID:8QIg/VA0
大剣 「…………臆病風にふかれたと言うなら……」
ランス 「……ええ。そうかもしれない」
大剣 「…………」
ランス 「私は臆病風にふかれたのかもしれない……」
大剣 「…………」
ランス 「自分でも、信じられないことだけれど……」
大剣 「……お前は残れ。俺が行く」
ランス 「それは出来ないわ……あなたの背中は私が守る。それは絶対に曲げられないルールよ」
大剣 「……ならどうしろと言うんだ。お前の言うとおりに、前線の仲間たちを見捨てると言うのか?」
ランス 「……」
ランス 「自分の命なんて、全く惜しくない。そうじゃなきゃハンターはやっていけないもの」
ランス 「でも、私たちには幼女がいるのよ」
大剣 「…………」
ランス 「幼女には誰かがついていないといけないわ。親と言う存在が」
大剣 「俺も、お前も生きて帰ってくる。そうすればいいだけの話だ」
ランス 「…………そうね…………確かに、その通りだわ……」

479: 2010/02/07(日) 22:21:45.22 ID:8QIg/VA0
大剣 「何を弱気になっているんだ。お前らしくもない」
ランス 「…………」
大剣 「モンスターは敵だ。俺たちは敵を倒す。この手で。この武器で。俺たちにはそれが出来るんだ」
ランス 「ええ……どんな強いモンスターが現れようと、私たちさえいれば……」
大剣 「ならば何を恐れることがある?」
大剣 「恐れは氏に繋がる。そんな弱気な考えは捨てるんだ」
大剣 「襲ってきたモンスターは撃退したんだろう? なら……」
ランス 「確かに撃退したわ。でも、倒したのは……子供のガミザミとコンガばかりだった……」
ランス 「親と共に突撃してきたわ。命なんて、全く惜しくないといわんばかりに……」
ランス 「…………私には出来ない。幼女を危険な目に合わせてまで、共に戦うなんて……」
大剣 「しかし、お前は幼女を連れて行きたがっている。言っていることが矛盾しているぞ」
ランス 「……そうね、矛盾しているのかもしれない」
ランス 「でも、子供を殺されてもなお向かってくる親を見たときに、ふと思ったの」
ランス 「こんな光景は、もう見たくないって」
ランス 「私は、こんな光景を見るためにハンターになったんじゃないって」
ランス 「私は……違う。こんなことのためじゃなくて、守りたいものを守るために、力を使うべきなんじゃないかって」
ランス 「そう、思ったの」

480: 2010/02/07(日) 22:22:48.32 ID:8QIg/VA0
ランス 「だから、幼女を手放すことが、不安でたまらないの」
ランス 「幼女を守るためじゃなくて、何かを頃すために力を使ってしまいそうで……」
ランス 「私は……そう、私自身が怖いのかもしれない……」
ランス 「私のエゴなのかもしれないわ……」
ランス 「でも、幼女と離れたくないの」
大剣 「…………」
大剣 「しかし、戦場に幼女を連れて行くのは不可能だ」
大剣 「仲間も守る、自分を守る、子供も守るでは通用しない」
大剣 「必ず何かを犠牲にしなくてはならなくなる」
大剣 「その場合、お前は何をとるんだ」
ランス 「…………」
大剣 「聞き分けてくれ。ランス。俺たちはハンターだ」
大剣 「戦う理由なんて、戦った後についてくるものだ。まずは目の前の敵を倒す。今までもそうしてきたじゃないか」
ランス 「でも、私は……」
 >ガチャリ
幼女 「……お父さん、お母さん……?」
大剣 「……!」
ランス 「……! 幼女……どうしたの?」
幼女 「ねれなくて……」
幼女 「とおくで、モンスターのなきごえがする……」
幼女 「こわい……」
ランス 「こっちにおいで。お母さんの膝の上に」
幼女 「うん……(よじよじ)」
ランス 「(なでなで)」

482: 2010/02/07(日) 22:24:00.55 ID:8QIg/VA0
大剣 「…………何か飲み物でも作ってこよう。最近は夜、冷えるようになってきた」
ランス 「私とこの子には濃いココアをお願い」
大剣 「ああ。少し待っていなさい」
幼女 「うん……」
ランス 「……? 幼女?」
幼女 「お母さん……」
ランス 「何?」
幼女 「お母さん、お父さんも……どこにもいかないよね……」
ランス 「!!」
ランス 「………………」
ランス 「……ええ、どこにもいかないわ。どこにも……」
幼女 「(ホッ)…………(ぎゅっ)」
幼女 「このとりでにいれば、あんぜんなんだよね……」
幼女 「だから、ここで三人でくらすんだよね……」
ランス 「ええ、そうよ……」
ランス 「ここにいれば安全よ。ここに、いれば…………」
幼女 「…………うん……」

483: 2010/02/07(日) 22:24:50.19 ID:8QIg/VA0
大剣 「ほら、ココアだ。こぼさないように注意するんだ」
幼女 「ありがとう、お父さん」
ランス 「ありがとう。あなた、これを飲んだら、今日は私たちも寝ましょう」
幼女 「わたし、お母さんといっしょにねていい?」
ランス 「ええ、いいわよ。今日は一緒に寝ましょうね」
大剣 「……そうするか。今日はもう休もう。この屯所にも、いつ救援要請が来てもおかしくないからな……」
幼女 「きゅうえんようせい?」
ランス 「……子供は知らなくてもいいことよ。ほら、冷めないうちに飲んでしまいなさい」
幼女 「うん……(ゴクゴク)」
大剣 「…………」
大剣 「ランス。話はまた今度にしよう。今はお互い疲れているようだ」
大剣 「体を休めることに集中しよう」
ランス 「……ええ。そうね。水掛け論をいくら続けても仕方がないわ」
大剣 「…………」
幼女 「(プハッ)ごちそうさま」
大剣 「口の端についてるぞ(ゴシゴシ)」
幼女 「くすぐったいよ、お父さん」
大剣 「……(ニコリ)俺は寝床の用意をしてくる。少し待っていなさい」

484: 2010/02/07(日) 22:25:55.94 ID:8QIg/VA0
―数日後、夜―

>ドタドタドタッ!
新米ハンター 「……だ、大剣さん! ……大剣さん!!」
>ドンッ、ドンッ、ドンッ!
新米ハンター 「大剣さん!!」
大剣 「何だ……この真夜中に!? (ガチャリ)…………! どうしたんだ、その傷は!!」
ランス 「! た、大変……早く手当てをしなくちゃ……!!」
新米ハンター 「今はそんな場合じゃ……ぐっ……」
大剣 「とにかく中に入るんだ。ランス、応急薬をありったけ持ってくるんだ!」
ランス 「ええ!」
新米ハンター 「俺だけ……逃げて……」
大剣 「喋るな。出血が激しい……痛むだろうが縛るぞ!」
新米ハンター 「(ギュッ)ぐぁ……ッ!!」
ランス 「あなた、応急薬よ!」
大剣 「よし、歯を食いしばれ……!」
新米ハンター 「(バシャッ)……ッ!!」
ランス 「これは……蟹にやられた傷だわ……でも、傷の具合が、圧倒的に深くて大きい……」
新米ハンター 「俺たちだけじゃ……どうしようもなくて……」
新米ハンター 「俺だけ逃げてきた……俺だけ……!!」

485: 2010/02/07(日) 22:26:41.46 ID:8QIg/VA0
新米ハンター 「くそっ…………くそっ!!」
ランス 「落ち着いて。あなたは重症なのよ」
大剣 「ここでは応急処置しか出来ない。街まで下ろさなければ……」
ランス 「私、今からギルドに行って応援を呼んでくるわ」
新米ハンター 「ま……待ってください……」
ランス 「……?」
新米ハンター 「……俺……逃げてきました……」
新米ハンター 「ギルドのルール……敵に背中を見せたら、脱走の罪で…………」
ランス 「そんなことを言ってる場合!? あなたはこのままだと間違いなく氏んでしまうわ!」
新米ハンター 「………………」
新米ハンター 「でも…………逃げるしかなかった…………」
新米ハンター 「(ギリ……)俺たち新米じゃ、どうしようもなかった……!!」
新米ハンター 「前線の仲間達はみんなやられました…………」
新米ハンター 「じきに……ここにもモンスターが攻め込んでくる…………」

486: 2010/02/07(日) 22:27:28.81 ID:8QIg/VA0
ランス 「!!」
大剣 「何だって……? 前線が突破されたのか!?」
新米ハンター 「………………くそ!!」
新米ハンター 「……ギルドがおかしいんだ……!!」
新米ハンター 「俺たち新米に大金だけ渡して、前線に追いやって…………」
新米ハンター 「応援も物資もまともによこさないで…………!!」
新米ハンター 「そんな状況で、一体何をしろっていうんですか……!!!」
大剣 「…………」
大剣 「とにかく、落ち着いて話をしよう。内容によってはすぐにギルドに連絡しなければいけない」
新米ハンター 「……!!!」
ランス 「血が中々止まらないわ……」
大剣 「脇の下から圧迫しよう。お前はそっちを抑えてくれ。もっときつく縛る」
ランス 「ええ」
新米ハンター 「………………ぐっ………………」
ランス 「傷口から毒が入ったら大変よ。でも今は薬を塗って包帯を巻くくらいしか……」
大剣 「応急処置ならそれで十分だ」

487: 2010/02/07(日) 22:28:23.13 ID:8QIg/VA0
大剣 「新米ハンター君。落ち着いて答えて欲しい」
大剣 「この傷は何につけられたものだ? 俺たちは見たことがない傷痕だ」
新米ハンター 「…………お……俺にも…………」
大剣 「?」
新米ハンター 「(ブルブル)俺にもわからないんです………………」
大剣 「分からないとは? 君は、戦ってこうなったんだろう?」
新米ハンター 「分からないんです、何に襲われたのか!」
新米ハンター 「そいつは火球を飛ばして、俺たちを散り散りにさせて……」
新米ハンター 「俺は何とか……撃とうとしたけど……」
新米ハンター 「大きすぎて、何が何だか…………」
ランス 「…………」
新米ハンター 「気がついたら、そいつに踏みつけられてて…………アリみたいに……」
新米ハンター 「くそっ…………!!」
ランス 「……関節の軋み音を聞かなかった……?」
新米ハンター 「……!! 聞きました……まるで木をこすり合わせてるような音が……」
大剣 「…………! まさか…………」
新米ハンター 「大剣さん……俺、どうしたら…………」

488: 2010/02/07(日) 22:29:21.98 ID:8QIg/VA0
ランス 「もしかしたら、砦蟹…………?」
大剣 「……だとしたら新米ハンターだけでは……いや、俺たちだけが行っても太刀打ちできる相手じゃないぞ……!?」
ランス 「大至急ギルドに応援を頼みましょう。迷っている時間はないわ」
新米ハンター 「そ……そんな……」
ランス 「あなたもハンターなら、しっかりしなさい!」
新米ハンター 「!」
ランス 「あなたの役目は何? 砦や街に住む人を守ることよ。あなたは立派に戻ってきたわ」
ランス 「あなたは、立派に役目を果たしたのよ」
ランス 「誰もそれを責めないわ。だから、ギルドを恐れることなんて何一つとしてないのよ!」
新米ハンター 「でも……俺、逃げて……」
大剣 「いや、君一人だけでも戻ってきてくれてよかった。砦蟹だったら、早く動かなければとんでもないことになる」
新米ハンター 「砦……蟹?」
大剣 「……古い文献の中にある。砦よりも大きい蟹のモンスターが存在していると。俺たちも、聞いた話だが……」
新米ハンター 「あんな大きなモンスター……どうしろっていうんですか……」
新米ハンター 「それに、他にも、もっと前線から来た奴が、山みたいな竜を見たっていう話も……」
大剣 「…………(チッ)俺はギルドに行ってくる。ランス、新米ハンター君の処置をしたら、幼女を街に避難させるんだ」
ランス 「あなた、幼女は……」

489: 2010/02/07(日) 22:30:10.13 ID:8QIg/VA0
>ガチャリ
幼女 「……お父さん、お母さん……だれかきてるの?」
ランス 「幼女……! 今はダメよ、寝てなさい!」
幼女 「……!! ひっ! 血……!!!」
幼女 「血……血が…………」
大剣 「落ち着け、幼女。大丈夫だ。お父さんとお母さんがついてる」
幼女 「(なでなで)…………う、うん…………」
新米ハンター 「くそ…………」
新米ハンター 「俺………………情けないです…………」
大剣 「泣いている暇があったら、自分の傷の処置を少しは手伝うべきだ。すぐに人を呼んでくる(ガチャリ)」
新米ハンター 「………………」
ランス 「幼女、さ……奥に入って。寝ていていいのよ」
幼女 「わ、わたしもなにかてつだう……」
ランス 「(ニコリ)ありがとう。でもいいのよ。あなたは、お父さんとお母さんが必ず守るから。寝室に戻っていなさい」
幼女 「…………うん…………」
幼女 「(おとうさん、おかあさん……)」
幼女 「(なんだか、とってもこわいかおをしてる……)」
幼女 「(なんだか、いやなかんじがする……)」
幼女 「(むねのおくが、しめつけられるみたいな…………)」

490: 2010/02/07(日) 22:30:58.58 ID:8QIg/VA0
―しばらく後―

>ガヤガヤガヤガヤ
幼女 「………………」
幼女 「(ひとが、たくさんあつまってきた……)」
幼女 「(雨…………)」
幼女 「(なまぬるい雨がふってる…………)」

―屯所入り口―

中堅ハンター達 「今からの避難は無理だ! 夜遅すぎる。こんな暗い中、警鐘を鳴らしたら街はパニックになるぞ!」
大剣 「だが放っておいたら砦蟹に踏み潰されて終わるぞ。それでもいいというのか?」
中堅ハンター達 「そんなことは……」
中堅ハンター達 「でも、ならどうしたら…………」
ランス 「…………砦の中に誘い込みましょう」
中堅ハンター達 「!? 砦の中に? 誘い込んでどうするっていうんですか!」
中堅ハンター達 「残っている俺たちだけじゃ、どっちにしろ太刀打ちできずに終わっちまう!」
ランス 「……毒を使いましょう」
大剣 「…………!!」
ランス 「痺れ玉と毒玉を調合したものが、砦の倉庫にしまってあるわ」
ランス 「それに、竜撃戦車を出すのよ」
中堅ハンター達 「竜撃戦車……でもあれは、また未完成で……」
ランス 「構わないわ。この機会に使わずに、いつ使うっていうの?」

491: 2010/02/07(日) 22:34:32.49 ID:8QIg/VA0
大剣 「…………聞いての通りだ。毒痺れ玉をありったけと、竜撃戦車の準備をするんだ」
中堅ハンター達 「…………」
大剣 「どうした、早く動け!」
中堅ハンター達 「毒って……俺たちはハンターだ。ギルドから、厳しい処分が……」
中堅ハンター達 「毒の仕様は禁止されてるはずです……それはいくらなんでもまずいですよ……」
大剣 「何を怖気づいてる!? そんなことを気にしている場合か!」
中堅ハンター達 「……………………」
中堅ハンター達 「ギルドにたてつくことはできないですよ……」
中堅ハンター達 「俺たちにだって生活があるんだ……」
大剣 「(ギリ……)…………(ズダンッ)」
中堅ハンター達 「(ビクッ)」
ランス 「(あなた……武器を床に……)」
大剣 「ならば俺は、今ここでギルドを抜ける! ギルドの者の指示でないとすれば、やれるだろう! 俺の独断ということにすればいい!」
中堅ハンター達 「! な、何言ってるんですか、大剣さん!」
ランス 「…………」
大剣 「すまない、ランス。俺は……」
ランス 「(ズンッ)……」
大剣 「!!」
ランス「私もギルドを抜けるわ。これからの行動の責任は、全て私たちが取る……!」
大剣 「……お前……」

492: 2010/02/07(日) 22:35:30.54 ID:8QIg/VA0
>シャァォォォォォォォォ!!
中堅ハンター達 「なっ……何だ!? 今の叫び声!!」
中堅ハンター達 「聞いたことがねぇ声だ!!」
大剣 「チッ……もうすぐそこまで来てるってのか!」
ランス 「暗闇に隠れてよく見えないけど……この臭い…………」
大剣 「ぐずぐずしている暇はないな。俺たちは前線に支援に行く。お前たちは砦の中に誘い込んで、モンスター達を食い止めろ!」
ランス 「ギルドには私たちが、勝手に責任を放棄して、独断で行ったことだと言いなさい。早く!」
中堅ハンター達 「大剣さん……ランスさん……」
中堅ハンター達 「お……おいあれ…………」
>ギギ……ギ……ギ…………
ランス 「…………くっ…………大きい…………!!」
大剣 「俺も今、チラッとだが見えた。何だ……あの大きさは…………」
大剣 「だが、臆している時間はない。やつらがここまで侵攻してきたってことは……」
大剣 「前線のハンター達が皆やられてしまったということだ……!!」
ランス 「……!!」
大剣 「…………俺たちだけでも前に……前に行かなければ…………!!!」

493: 2010/02/07(日) 22:36:18.41 ID:8QIg/VA0
―屯所の中―

幼女 「お父さん……お母さん!(パタパタ)」
大剣 「幼女……! まだ、街に避難させていなかったのか!」
ランス 「………………」
ランス 「(ガチャガチャ)」
幼女 「(お母さんが……よろいを着てる…………)」
ランス 「(ガチャリ)」
ランス 「あなた……どうしても、幼女は……」
大剣 「ダメだ……今回の戦いには幼女を連れて行くことはできない」
ランス 「そんなことを言ったって……私も出て行ったら、この子を守る人はもういないのよ……!」
大剣 「そうならないように、二人で戦いに出るんじゃないか!」
大剣 「幼女、よく聞くんだ」
大剣 「お父さんとお母さんは、これからモンスターを倒しに戦いに出る」
大剣 「二人とも、ハンター……モンスターハンターなんだ」
大剣 「だから戦わなくちゃいけない」
大剣 「幼女。お前はここで、俺たちが戻るのを待っているんだ」
ランス 「…………」
大剣 「大丈夫。こんな戦争、すぐに終わるさ。俺たちの力があれば……!!!」

494: 2010/02/07(日) 22:37:08.95 ID:8QIg/VA0
幼女 「お父さん、お母さん、いっちゃうの……?」
大剣 「…………ああ。俺たちは行く」
ランス 「幼女。ごめんなさい……私たちは行くわ」
大剣 「たとえ勝ち目がない戦いだったとしても……敵がどんなに強大でも……」
大剣 「俺たちは前に進んできた。どんな卑怯な手を使っても、勝ち続けてきた」
大剣 「だから今回も勝つ! 勝って、お前の所に戻ってくる!!」
ランス 「幼女、街のおばさんのところには、一人で行けるわね?」
幼女 「(ビクッ)……わ、わたし……あそこ、いや……」
ランス 「聞き分けて。あそこがあなたが一番安全に過ごせる場所なのよ」
大剣 「(サラサラ)この文書を持って行け。それに、これはお金だ(ジャララ)おばさんに渡しなさい」
幼女 「お父さん……お母さん、いやだよ……」
大剣 「…………」
幼女 「わたしもいく。お父さんたちといっしょにいく」
大剣 「それはできない」
幼女 「どうして!? わたし、じゃまにならないようにするよ。いい子にしてるよ!」

495: 2010/02/07(日) 22:38:25.33 ID:8QIg/VA0
ランス 「………………(スッ)」
幼女 「(なでなで)…………」
ランス 「ごめんなさいね……幼女。でも、私たちはこれから戦いに行くのよ」
ランス 「なりふり構わない戦いに行くの……」
ランス 「色々考えたわ……」
ランス 「色々考えたけれど……」
ランス 「そんな姿、やっぱりあなたに見せたくない…………」
幼女 「おかあさん…………言ってることが、よくわからないよ……」
ランス 「今は分からなくてもいいの。いつかきっと、お父さんとお母さんの心が、あなたにもわかる時が来るわ」
 >シャォォォォォォォォォ!!
幼女 「(ビクッ)……!!!」
大剣 「近いな……ギルドが応援を送ってこない所を見ると、奴らは本当に森に火を放つつもりか……!!」
ランス 「くっ……そんなことをしても何も解決しないのに……」
大剣 「行くんだ、幼女。明日だ、明日……また会おう」
ランス 「ええ、きっと。明日。明日また……」
幼女 「ほんとう? ほんとうにあした、お父さんとお母さんはむかえにきてくれるの?」
大剣 「ああ、約束だ!」
ランス 「ええ!」
大剣 「行け! 振り返るんじゃないぞ!」
幼女 「…………(ぐしっ……)」
幼女 「(タタタタッ)」
幼女 「(雨が……なまぬるい…………)」
幼女 「(お父さん……お母さん…………)」
幼女 「(どうしてだろう……)」
幼女 「(なみだが……とまらない…………)」

5: 2010/02/28(日) 19:12:49.18 ID:mhWuZD.0
次の日の朝、幼女が聞いたのは、咆哮。
地面を揺るがす何者かの足音。
そして、倒壊する建物、崩れる轟音。

その目に見えたのは、父が、母が守ろうとした砦を踏み潰す巨大な砦蟹。
逃げ惑う人々の中に揉まれながら。

幼女は、ただひたすらに呆然として、目の前の光景を見ていた。

生ぬるい雨が降っていた。

いつの間にか、街には誰もいなかった。
ぬかるみの中にしゃがみこみ、幼女は一人、大きな声で泣いていた。

いつの間にか、モンスターの怒号、地鳴りは止んでいた。
何が起こって、そしてどうなったのか。
幼女には知る由もなかった。

6: 2010/02/28(日) 19:13:26.88 ID:mhWuZD.0
しかし、幼女は本能的な部分で、察していた。

父と母は、遠い場所に行ってしまったのだと。
自分を置いて、行ってしまったのだと。

それを認める心と、認めない心がせめぎあい、幼女の中でどろどろとした泥に変わっていく。
それを吐き出すように。
一滴残らず、体の中を覆う泥を吐き出すように。

幼女は、泥と雨にまみれながら、ただ、大きな声で泣いた。

街には、幼女の声しか聞こえなかった。
モンスターの声も、人間の声も聞こえなかった。
ずっと、小さな女の子の声がこだましていた。

7: 2010/02/28(日) 19:14:05.83 ID:mhWuZD.0
幼女は、自分がどうして泣くのか、理解が出来なかった。
分からないまま、大きな声で泣くしかなかった。

崩れた瓦礫の山を見ながら、彼女は。
父と母が向こうから、泣き声を聞きつけてやってきてくれるように。
心のどこかでそう願っていたのかもしれない。

しかし、生ぬるい雨は止まなかった。
ただ、止まなかった。

幼女は、ずっと。
街の人達が一人、また一人と戻ってきてもずっと。

泥にまみれて、一人のままだった。

8: 2010/02/28(日) 19:14:33.08 ID:mhWuZD.0
―現在、砦ドラゴンの背の上―

ガルルガ 「生と氏を繋ぐ場所……?」
ガルルガ 「かかさま……何を言って……」
両耳ガルルガ 「ガル、真実は真実として受け入れなければいけないわ」
両耳ガルルガ 「私は確かに、あなたの目の前で氏んだわ」
両耳ガルルガ 「私は氏んだ後の存在なのよ」
ガルルガ 「そんなこと……だって、かかさまはここにいるじゃないか!」
ガルルガ 「……温かい! かかさまの感触だ! 冗談言わないでくれ!」
両耳ガルルガ 「…………」
両耳ガルルガ 「ガル、聞きなさい」
両耳ガルルガ 「私が氏の後の存在なら、あなたとこうして喋れていること、おかしいと思わない?」
ガルルガ 「何言って……」
両耳ガルルガ 「何故喋れるのか……それはね、あなたも、今氏にかかっているからなの」
ガルルガ 「!!」
両耳ガルルガ 「分かる? あなたは、魂だけで私に会いにきた……」
両耳ガルルガ 「『彼』の上にいる私に……」

9: 2010/02/28(日) 19:15:11.81 ID:mhWuZD.0
ガルルガ 「『彼』……?」
両耳ガルルガ 「あなたも感じない? 私たちの足元で震えている彼……」
ガルルガ 「…………」
ガルルガ 「…………あ、ああ。感じる……」
ガルルガ 「何か大きくて……計り知れないくらい巨大な……でも……」
ガルルガ 「とても、寂しそうだ……」
両耳ガルルガ 「私は、『彼』の背中の上で、今とも昔ともつかない時間を過ごしたわ」
両耳ガルルガ 「ここは、背中の上……」
両耳ガルルガ 「彼は、私たちを乗せて、震えながら歩き続けているの……」
ガルルガ 「彼って……一体、誰なんだ……?」
両耳ガルルガ 「砦ドラゴン……と、私は小さい頃に聞いたことがあるわ」
両耳ガルルガ 「世界には春夏秋冬、四匹の砦ドラゴンが存在していたの」
両耳ガルルガ 「彼らは、魂を集めて、『向こう側』に運ぶ役割を負っているの」
両耳ガルルガ 「彼らは歩き続けたわ……」
両耳ガルルガ 「世界中から魂を集めて、そして『向こう側』に送り届ける……」
両耳ガルルガ 「それが、彼らにとって、喜びの時間でもあったの……」
ガルルガ 「…………」

10: 2010/02/28(日) 19:15:49.01 ID:mhWuZD.0
両耳ガルルガ 「でも、ある日を境に、彼は、歩くことに疲れてしまったの……」
ガルルガ 「ある日……?」
両耳ガルルガ 「世界中の魂を集めて送ることは、無限に、この世界がある限りいつまでも続くわ」
両耳ガルルガ 「……その長い時間の中で、彼らは体を失い、魂だけになって……」
両耳ガルルガ 「その魂も、擦り切れて、一匹、また一匹といなくなっていったの」
両耳ガルルガ 「足元の『彼』は、その、最後の一人よ……」
両耳ガルルガ 「彼は、一人で歩くことに疲れてしまった……」
両耳ガルルガ 「いくら魂を集めても、いくら『向こう側』に送っても、彼の孤独は癒えることはない……」
両耳ガルルガ 「分かる? 孤独というのは、どんなに体が大きくても、どんなに勇猛な心を持っていても、とても辛いものよ」
ガルルガ 「…………」
両耳ガルルガ 「…………いつしか、彼は魂を送ることさえやめてしまった…………」
両耳ガルルガ 「そして、逆に背中に魂を集め始めたの……」
両耳ガルルガ 「その、冬の力を持って……」
ガルルガ 「何で……かかさまが、そんなことを知ってるんだ……?」
両耳ガルルガ 「…………」
ガルルガ 「あんた……誰だ?」
両耳ガルルガ 「あなたの母、だった存在よ……」
両耳ガルルガ 「今は、『彼』と半分ほど溶け合って、気持ちを、ほんの少しだけれど共有してる……」
両耳ガルルガ 「だから、今、あなたの母か? と聞かれると、そうではないと答えるしかないの」

11: 2010/02/28(日) 19:16:23.68 ID:mhWuZD.0
ガルルガ 「謎かけみたいな話はやめてくれ!」
両耳ガルルガ 「…………」
ガルルガ 「かかさまはかかさまだ。俺の目の前にいる!」
ガルルガ 「それ以上、俺は何も望むものはねぇんだ!」
ガルルガ 「じゃあそれでいいじゃないか! かかさま、家に帰ろう!!」
ガルルガ 「さぁ、俺の手を握って!!」
両耳ガルルガ 「……………………」
ガルルガ 「どうして!?」
両耳ガルルガ 「ダメよ、ガル……」
両耳ガルルガ 「私はここから動くことが出来ないの……」
両耳ガルルガ 「『彼』が、私の魂と同化し始めているわ……」
両耳ガルルガ 「私はいずれ、彼の中に溶け込んで、砦ドラゴンという存在の一つになるわ」
両耳ガルルガ 「彼が、私たち魂を、『向こう側』に送ってくれない限り、私たちは彼の一部になるしか、道はないの……」
両耳ガルルガ 「そして、彼の孤独を癒すための、糧となるのよ……」
ガルルガ 「何だ!? 何だその理屈!!」
ガルルガ 「わけがわかんねぇ! いきなり現れて、わけのわかんねぇことを並べてたてて……!!」
ガルルガ 「本当に俺のかかさまなら、この手が握れるはずだ!」
ガルルガ 「さぁ! こんなところ、一緒に出よう!!」

12: 2010/02/28(日) 19:16:58.51 ID:mhWuZD.0
両耳ガルルガ 「あなたの手なら、いくらでも握れる……でも……」
 >ぎゅ……
ガルルガ 「……!! よし、こっちに……」
ガルルガ 「な……何だ!?」
ガルルガ 「石……みてぇに動かねぇ…………」
ガルルガ 「柔らかくて……温かい感触なのに……」
ガルルガ 「何でだ……!!!」
両耳ガルルガ 「それは、私も彼の体の一部になりかかっているからなの」
両耳ガルルガ 「ガル……よく聞いて」
ガルルガ 「………………」
両耳ガルルガ 「放っておいたら、あなたも、魂を彼に吸われてしまうわ」
両耳ガルルガ 「あなたが選択できるのは、ここから去るか、ここで、私と共に彼の一部となるか……」
両耳ガルルガ 「彼の孤独が癒えない限り、それしか選択肢はないの……」
両耳ガルルガ 「そして、その孤独は癒えることはないわ……」
両耳ガルルガ 「幾千、幾万の時の流れが、彼の心を削り取ってしまった……」
両耳ガルルガ 「もう、『向こう側』へ行く門は開かない……」
両耳ガルルガ 「彼は、魂を吸い続けて、いつか限界を迎えて……」
両耳ガルルガ 「そして、弾けて、泡になって消えてしまうでしょう……」
両耳ガルルガ 「集めた沢山の魂と共に……」
両耳ガルルガ 「それが、彼が望んでいることなのかもしれないわ……」

13: 2010/02/28(日) 19:17:27.87 ID:mhWuZD.0
ガルルガ 「彼、彼、彼って……!!」
ガルルガ 「こいつがそんなに偉いのか!!!」
 >ドンッ! ドンッ!!
両耳ガルルガ 「…………」
ガルルガ 「俺のかかさまをどうにかできるほど偉いのか!! こいつが! こいつが!!!」
 >ドンッ! ドンッ!!!
両耳ガルルガ 「やめなさい、ガル……」
ガルルガ 「ハーッ……ハーッ……」
両耳ガルルガ 「あなたの心の痛みは、よく感じるわ。でも、彼を傷つけるというのは、同時に私を傷つけることでもあるの……」
ガルルガ 「!!!」
ガルルガ 「かかさまの耳から、血が……!!」
ガルルガ 「お……俺…………」
両耳ガルルガ 「これくらい、すぐに治るわ……」
ガルルガ 「かかさま…………俺、そんなつもりじゃ…………」
両耳ガルルガ 「いいのよ。誰だって、初めてここに来たときはそう。みんな、彼を傷つけようとする」
ガルルガ 「誰だって……?」
両耳ガルルガ 「周りを見てごらんなさい」
ガルルガ 「…………」
ガルルガ 「何も見えねぇ……」
ガルルガ 「ただ、しろいもやがどこまでも続いてるだけだ……」

14: 2010/02/28(日) 19:17:58.05 ID:mhWuZD.0
両耳ガルルガ 「見えないだけよ……」
両耳ガルルガ 「そのしろいもやの粒子、一つ一つが私たちと同じ魂なの」
ガルルガ 「!!!!
ガルルガ 「こんなに……こんなに沢山……!?」
ガルルガ 「一体どれだけの命を、こいつは吸ってるんだ!!」
両耳ガルルガ 「彼には、既に自分の意思はないわ……」
両耳ガルルガ 「あるのはただ、寂しいという気持ちだけ。摩擦した心の中で残ったのは、ただ孤独だけ……」
両耳ガルルガ 「分かる? ……それほど、彼は悲しい存在なのよ……」
両耳ガルルガ 「私たちには、推し量ることもできないくらい……」
ガルルガ 「わ……わかんねぇーよ!!」
ガルルガ 「じゃあかかさまは、このまま魂まで消えてなくなっていいってのか!!」
ガルルガ 「俺はいやだ! かかさまが別の何かに変わっちまうんなんて嫌だ!!」
ガルルガ 「折角……折角こうして再開できたんじゃないか!!!」
両耳ガルルガ 「ふふ……」
ガルルガ 「!」
両耳ガルルガ 「優しい子……言葉遣いは荒っぽいけど、根はいい子なのよね……」
ガルルガ 「な……っ、何だよいきなり……」
両耳ガルルガ 「ガル、変化って何だと思う?」
ガルルガ 「変化……?」

15: 2010/02/28(日) 19:18:40.82 ID:mhWuZD.0
両耳ガルルガ 「魂が何かに変化すること……それを恐れていてはいけないわ……」
両耳ガルルガ 「だって、私はもうすでに氏んでしまっているんですもの……」
両耳ガルルガ 「氏も変化だと受け入れれば、その後どう変わってしまおうが、それが魂の運命なのよ」
ガルルガ 「じゃ……じゃあかかさまは、このままこいつの一部になることが運命だってのか!」
両耳ガルルガ 「ええ……決まるべくして決まっていたことなのかもしれないわ……」
両耳ガルルガ 「たとえ『向こう側』にいったとしても、そこで起こる変化と、ここで起こる変化に何か違いがあるかしら?」
両耳ガルルガ 「私という『個』は失われても、『存在』は残ったままよ……」
両耳ガルルガ 「だから、変化を恐れることは、何もないの……」
両耳ガルルガ 「存在まで消えてしまうわけではないのだから……」
ガルルガ 「わかんねぇ……わかんねぇよ……」
ガルルガ 「俺は……」
ガルルガ 「俺は、どうすればいい……?」
両耳ガルルガ 「…………」
両耳ガルルガ 「自分で決めなさい……」
ガルルガ 「……!!」
両耳ガルルガ 「ここから去るか、私と共に彼の一部となるか……」
両耳ガルルガ 「それは、あなた自身が選択しなさい」
ガルルガ 「そんな……俺は、そんなこと選べない……」
ガルルガ 「かかさま、一緒に来いって言ってくれ!」
両耳ガルルガ 「…………」
ガルルガ 「そうすれば俺は勇気をもらえる! 変わることにだって立ち向かっていける!」
ガルルガ 「一言でいいんだ! 一緒に来いって……」
両耳ガルルガ 「………………」
ガルルガ 「何で!?」

16: 2010/02/28(日) 19:19:19.19 ID:mhWuZD.0
両耳ガルルガ 「あなたの存在まで、私の好きに出来るわけがないわ……」
両耳ガルルガ 「自分自身の『存在』のあり方は、自分自身で決めなくてはいけないことなの」
両耳ガルルガ 「厳しいようだけれど、それがここにあり続けることのルールよ」
ガルルガ 「…………」
両耳ガルルガ 「あなたが、自分の存在を捨ててまで私と一緒に来るというのなら、それはそれでいいでしょう」
両耳ガルルガ 「でも……去るというのなら、私はそれを止めたりはしないわ」
両耳ガルルガ 「あなたには、あなたの人生があるの……」
ガルルガ 「じゃあ……俺に戻れって言うのか……?」
両耳ガルルガ 「それも、あなたが選ばなきゃいけない……」
ガルルガ 「かかさまの意思はどこにあるんだ!!」
両耳ガルルガ 「!!」
ガルルガ 「それじゃ……それじゃまるで、かかさまがかかさまじゃなくなって、この得体の知れないもんになっちまったようじゃねぇか!!」
ガルルガ 「それだけは断じて認めねぇぞ! かかさまは、俺のかかさまだ!!」
ガルルガ 「俺……こいつと話してくる!!!」
両耳ガルルガ 「!? ガル、何を……」
ガルルガ 「かかさまを離して、『向こう側』への門を開くようにって言ってくる!!」
ガルルガ 「かかさまがかかさまじゃなくなるなんて嫌だ!」
ガルルガ 「そうしたら俺も……俺も一緒に向こう側に行くんだ!!(ダダッ!)」
両耳ガルルガ 「ガル! ここで私を見失ったら……」
ガルルガ 「(ダダダッ)」
両耳ガルルガ 「ガルー!!!」

17: 2010/02/28(日) 19:19:47.53 ID:mhWuZD.0
―旧火山、避難所、子供たちの部屋―

少女 「(お父さん……)」
 >…………! …………!!
少女 「(お父さんの声が、聴こえる……)」
少女 「(うぅん……この声は……お母さん!?)」
少女 「(何なの……お父さんの声も、お母さんの声も聴こえる……)」
少女 「(何を言ってるのか分からないけれど……)」
少女 「(でも、確かに、お父さんとお母さんの声……)」
少女 「(お父さん……)」
少女 「(お母さん……)」
少女 「(私を置いて、遠くに行った、お父さんとお母さん……)」
少女 「(………………)」
 >…………!! …………!!!
少女 「(まるで、私を誘ってるみたい……)」
少女 「(洞窟の外から聞こえる……)」

18: 2010/02/28(日) 19:20:15.47 ID:mhWuZD.0
少女 「(ふらり)」
少女 「(吹雪の向こう側から……)」
少女 「(私を呼ぶみたいに……)」
少女 「(私、行かなきゃ……)」
少女 「(お父さんと、お母さんの所に……)」
少女 「(…………)」
少女 「(行かなきゃ…………)」
少女 「(呼ばれてる……)」
少女 「(お父さんとお母さんが……呼んでる……)」

19: 2010/02/28(日) 19:21:00.01 ID:mhWuZD.0
―休火山、グラビモス夫妻の家―

クック 「キングは無事に里にたどり着けただろうか。心配だ……」
ナナ・テスカトリ 「子供たちの様子を見てきました。少女ちゃんも、ちゃんとぐっすり寝ていますよ」
クック 「良かった。それにしても……」
テオ・テスカトル 「うむ。彼をどうするべきか……」
ガルルガ 「…………」
ロアルドロス 「魂抜きになってしまった者に対する処置策はありません……」
ロアルドロス 「自然に目を覚ますまで、待つしかないのが現状です」
ロアルドロス 「せめて体が凍えないように、火の近くに置いてあげてください」
カム・オルガロン 「魂が戻ってくればいいが……」
ノノ・オルガロン 「そうね、戻ってくればいいのだけれど……」
黒グラビモス 「ガルルガ君……」
グラビモス 「何かしてやりてぇが、俺らじゃ手の下しようがねぇな……」
ティガ弟 「よくわかんねぇが、その魂ってのを探してきて、無理やりにでも連れ戻せばいいんじゃねぇのか?」
キリン 「それが出来ないから困ってるんじゃないですか」
ダイミョウザザミ 「………………」
ダイミョウザザミ 「我が……部族からも、数人同じようなことになっている者が……出ている」
紫ダイミョウザザミ 「…………(コクリ)」

20: 2010/02/28(日) 19:21:56.54 ID:mhWuZD.0
テオ・テスカトル 「……ふむ……やはり、私とナナで海岸だけでも確認してくることとしよう」
ナナ・テスカトリ 「そうですね……私たちの炎の力なら、この猛吹雪を少しは耐え切れるでしょうし……」
ナナ・テスカトリ 「もしガルルガ君のこの状況が、海岸にいる『何か』のせいだったとするなら、やめさせなければなりません」
テオ・テスカトル 「そうだな。何がいるのかはまず置いておいて、とりあえず確認をすることにしよう」
クック 「私も少しばかり気になる。一緒に行ってもいいだろうか」
テオ・テスカトル 「クック殿も? 構わんが、大丈夫か?」
クック 「私にも少しは炎の力がある。これくらの吹雪で凍えはしないよ」
グラビモス 「俺も行きてぇところだが……古傷の具合が悪い。すまねぇな」
黒グラビモス 「でしたら、代わりに私がご一緒しましょう。私にも炎の力があります。お役に立てるかもしれません」
キリン 「私も……」
クック 「キリンちゃんとティガ弟君はここに残ってくれ。子供たちのことを見てやっていて欲しい」
ダイミョウザザミ 「すまないが……我らは寒さに弱い。ご遠慮つかまつる……」
紫ダイミョウザザミ 「(コクリ)」
テオ・テスカトル 「いや、元々私の、単なる思いつきだ。気に病む必要はありません。カムとノノも、子供たちを見ていてくれ」
カム・オルガロン 「うむ」
ノノ・オルガロン 「ええ」
テオ・テスカトル 「それでは、黒グラビ殿、クック殿、行くとするか」
クック 「承知した」
黒グラビモス 「はい!」
キリン 「おじさま……気をつけて」
クック 「私は大丈夫。少女を頼むよ」

21: 2010/02/28(日) 19:22:26.02 ID:mhWuZD.0
―砦ドラゴンの背の上―

少女 「(………………)」
少女 「(ハッ……!)」
少女 「(私、いつの間にこんなところに……)」
少女 「(ここ、どこ……?)」
少女 「(夢……?)」
少女 「(お父さんとお母さんの声が聞こえて……)」
少女 「(外に出ようと思ったら……ここに……)」
少女 「(周り全部……雪…………)」
少女 「(でもどうしてだろう……全然寒くない。むしろ温かいような……)」
少女 「(…………雪が降ってる…………)」
少女 「(…………?)」
少女 「(これ、雪じゃ…………)」

22: 2010/02/28(日) 19:22:55.03 ID:mhWuZD.0
少女 「……!!」
少女 「(誰かが……私をまた呼んでる……)」
少女 「(後ろから……)」
少女 「(………………)」
少女 「(…………!!!)」
大剣 「…………」
ランス 「…………」
少女 「お父さん……?」
少女 「お母さん……?」
大剣 「(にこり)」
ランス 「(にこり)」
少女 「…………」
少女 「お……お父さん!! お母さん!!!」
大剣 「…………」
ランス 「…………」
少女 「お父さん……!! ……お母さん!!!!」

23: 2010/02/28(日) 19:27:14.88 ID:mhWuZD.0
お疲れ様です
次話に続かせていただきます

27: 2010/03/04(木) 19:34:33.69 ID:FGE7ckE0
お疲れ様です。本当いつもありがとう

引用: イャンクック 「旧沼地で人間を拾ったんだが」 3