1: 2016/04/25(月) 21:47:41.004 ID:hHVdZc5Y0.net
< 学校 >

男「……」マゼマゼ

友人「お前ってホント納豆好きだよな」チューチュー

男「ああ、大好物だ」マゼマゼ

友人「100回以上混ぜるのがいいとか聞くけど、そこいくとオレなんかせっかちだからさ」チューチュー

友人「20回か30回ぐらいで食っちまう。お前はどのぐらい混ぜるんだ?」チューチュー

男「1万回」マゼマゼ

友人「いちまん!?」ブッ
私に天使が舞い降りた!: 14【イラスト特典付】 (百合姫コミックス)

8: 2016/04/25(月) 21:50:15.583 ID:hHVdZc5Y0.net
友人「そりゃいくらなんでも混ぜすぎじゃないか?」チューチュー

友人「ネバネバを通り越して、ドロドロになりそうだけど……」チューチュー

男「そんなことはない」マゼマゼ

男「納豆とは混ぜれば混ぜるほど、うまくなるものなのだ」マゼマゼ

友人「そんなもんかねえ……」チューチュー

男「お前こそ、さっきからずっと豆乳をストローで吸ってるじゃないか」マゼマゼ

友人「なにしろオレ、豆乳切らすと手が震えちまうから。あ、なくなった」プルプル…

男「重症だな」マゼマゼ

10: 2016/04/25(月) 21:53:31.895 ID:hHVdZc5Y0.net
男「1万回、終わり!」

男「食う!」モッシャモッシャ

友人「いったぁぁぁ! タレもかけず、薬味も入れず、ご飯にもかけず、そのままかき込んだ!」

男「……」ゴクッ

男「くぅ~、うまい!」

男「かき混ぜ1万回を達成して疲弊し切った五臓六腑に、イソフラボンが染み渡る……!」

友人(それって空腹は一番の調味料、みたいな理屈なんじゃ……)

11: 2016/04/25(月) 21:56:26.250 ID:hHVdZc5Y0.net
男「……」ウットリ

友人「『おかめ納豆』のパッケージ見て、なにうっとりしてんだよ」

男「いや、実は――」

男「俺の初恋の人は、このおかめさんなんだ」

友人「ハァ!?」

男「というより、現在進行形で恋してる」

友人「純愛だなぁ……」

12: 2016/04/25(月) 21:59:23.361 ID:hHVdZc5Y0.net
友人「二次元のキャラクターに恋するなんてのはよくある話だけど」

友人「おかめ納豆のおかめに恋した奴は、世界広しといえどお前だけだろうな」

男「そうかな」



イケメン「やぁ! ボクのライバル! 今日も勝負だ!」バババババッ



友人(出た! 豆腐屋のせがれ、イケメン!)

13: 2016/04/25(月) 22:02:12.766 ID:hHVdZc5Y0.net
イケメン「見たまえ! この木綿豆腐の繊細さを! 絹ごし豆腐のつややかさを!」

男「うん、すごい」

イケメン「トレビア~ン! ってことは今日もボクの勝ちってことでいいね!?」

男「いいよ」

イケメン「ひゃっほう! お礼にこの豆腐はプレゼントしよう!」サッ

男「ありがとう、麻婆豆腐にするよ」



男「いつもこうやって作りたての豆腐をくれて……あいつ、いい奴だよな」

友人「……ライバルに全く相手にされてない悲しい奴でもあるけどな」

14: 2016/04/25(月) 22:05:11.835 ID:hHVdZc5Y0.net
そんなある日のこと――

担任「紹介しよう。転校生のおかめさんだ」

おかめ「よろしくお願いします」ペコッ…





男「!」ドッキーン

男(まるで、『おかめ納豆』から飛び出してきたような絶世の美女じゃないか!)

男(まさかこんな女性がこの世にいたなんて……!)

男(彼女こそ、俺の運命の人……! 俺と彼女の小指は、納豆の糸で結ばれている……!)

15: 2016/04/25(月) 22:09:27.612 ID:hHVdZc5Y0.net
放課後――

男「あ、あのっ! おかめさん!」マゼマゼ

おかめ「なんでしょう?」

男「俺、一目惚れしてしまいました! 俺と付き合って下さい!」マゼマゼ

おかめ「!」ドッキーン

おかめ「……」

おかめ「ごめんなさいっ!」

18: 2016/04/25(月) 22:12:07.008 ID:hHVdZc5Y0.net
おかめ「わたくし……あなたとは付き合えません」

男「な、なぜですか!?」マゼマゼ

おかめ「え、と……それはその……えぇと……」チラッ

おかめ「わたくし、納豆が嫌いなの!」

男「!」ガーン

20: 2016/04/25(月) 22:14:07.609 ID:hHVdZc5Y0.net
……

男「なぁ親友……」

友人「ん?」チューチュー

男「俺はどうすればいい?」

友人「どうすればって?」チューチュー

男「納豆を取るか、女を取るか」

友人「!」ブハッ

22: 2016/04/25(月) 22:17:43.555 ID:hHVdZc5Y0.net
友人「いきなり何をいうかと思えば、豆乳噴き出しちまったじゃねえか」

男「ごめん」

男「実はさっき、おかめさんに告白したんだけどさ」

友人「はやっ!」

男「彼女……納豆嫌いなんだってさ。つまり大好きな納豆を断たなきゃ彼女とは付き合えない」

男「だけど俺は、水戸で生まれ、納豆を食い、納豆菌と遊び、納豆で育った生粋の納豆っ子だ」

男「なぁ、俺はどうすればいいと思う?」

友人「うーん……」

24: 2016/04/25(月) 22:20:48.497 ID:hHVdZc5Y0.net
友人「もしオレだったら、納豆を取るかなぁ」

友人「オレ、豆乳飲むなっていわれたら生きてけねえもん」プルプル…

男「そうか……」

友人「だけどこれはあくまでオレの場合だ。お前の気持ちはどうなんだ?」

友人「毎食1万回混ぜるほどに好きな納豆と、初恋の人おかめさん……どっちを取るんだ?」

男「……」

25: 2016/04/25(月) 22:24:13.611 ID:hHVdZc5Y0.net
男「俺は……俺は……!」

男「俺は……彼女を取る!」

友人「おおっ、よく言った!」

イケメン「さすが我がライバル!」バッ

イケメン「祝福としてこの豆腐をあげよう」スッ

男「ありがとう、湯豆腐にするよ」

男「俺……もう一度、彼女に告白してくる!」タタタッ

26: 2016/04/25(月) 22:27:02.100 ID:hHVdZc5Y0.net
男「おかめさん!」








おかめ「あなたは先ほどの……どうなさったのです?」

27: 2016/04/25(月) 22:29:29.660 ID:hHVdZc5Y0.net
男「俺、納豆やめます!」

おかめ「えっ……! そんな……!」

男「だから俺と……俺と付き合って下さい! お願いしますっ!」

おかめ「……」キュンッ

おかめ「ダメ……なのです」プイッ

男「なぜ!?」

おかめ「わたくしには、あなたと付き合えない事情があるのです!」タタタッ

男「おかめさん……」

28: 2016/04/25(月) 22:34:34.143 ID:hHVdZc5Y0.net
男「運命の人だと思った……。だけど結局、これは俺の思い込みだったってことか……」



友人「いや、思い込みなんかじゃないぜ!」チューチュー

男「お前……!」

友人「後ろから見てたけど、今の彼女の反応、まんざらでもないって感じだったぞ」

男「そんなこと……ないだろ」

友人「……」

友人「諦めるのか!?」

男「!」

友人「本当に好きなら追いかけろよ……粘り強く! そう……納豆のように!」



  納  豆  の  よ  う  に  !  !  !



男「そのとおりだ……納豆はやめても、“納豆精神”までは失っちゃいない!」

男「俺、追いかけるよ!」ダッ

29: 2016/04/25(月) 22:37:27.685 ID:hHVdZc5Y0.net
……

男「おかめさん、待ってくれ!」

おかめ「あなたもなかなか粘りますわね」

男「それだけが取り柄だからね」

おかめ「わたくし如きにそこまで目をかけて下さって、ありがとうございます」

おかめ「わたくしもあなたを一目見た瞬間、なにか運命めいたものを感じました」

おかめ「しかし……ダメなのです」

男「どうして!?」

おかめ「なぜならわたくしには……婚約者(フィアンセ)がいるからです」

男「フィアンセ!?」

おかめ「その名も――」



ひょ~っひょっひょっひょ……

31: 2016/04/25(月) 22:41:02.705 ID:hHVdZc5Y0.net
ひょっとこ「おかめの婚約者は、この私だ!」ザッ

男「誰だ!?」

ひょっとこ「ひょっとこさ」

男(ひょっとこ……!)

ひょっとこ「やっと見つけたよ、おかめ」

ひょっとこ「まさか私のもとから逃げて、こんな高校に転校しているとはねえ」

ひょっとこ「だが、それは全て私への愛情表現――ツンデレなんだろう?」ギロッ

おかめ「は、はい……」

ひょっとこ「ひょひょひょ、ならばよろしい」

ひょっとこ「キサマはとっとと消えるがいい。なんか納豆くさいしな」シッシッ

男「……」

33: 2016/04/25(月) 22:45:23.885 ID:hHVdZc5Y0.net
男「そんなことはない!」

男「俺の方がおかめさんを愛している! お前なんかより、ずっとな!」

ひょっとこ「ほう、なかなかの粘り強さだ」

ひょっとこ「ならば、力ずくでねじ伏せるしかあるまい」

男「来い!」サッ

ひょっとこ「≪ひょっとこ≫の語源は≪火男≫とも言われている……」

ひょっとこ「つまり、私は火を操れる!」ボウッ



ボワァァァァァッ!!!



男「ぐわあぁぁぁぁぁっ……!」

35: 2016/04/25(月) 22:47:44.251 ID:hHVdZc5Y0.net
男「……」プスプス…





ひょっとこ「返事がない、ただのしかばねのようだ」

おかめ「ひょっとこ様! なんてひどいことを……!」

ひょっとこ「ひょひょひょ、悪いのはあの男さ。私に歯向かったのだからね」

ひょっとこ「おかめ、来い! 二度と逃げられぬよう、私の屋敷に監禁してやる!」グイッ

おかめ「いやぁぁぁっ……!」

37: 2016/04/25(月) 22:51:19.284 ID:hHVdZc5Y0.net
……

ザバァッ!

男「――うっ!? これは……豆乳!?」ペロッ

友人「よかった、気がついたか」ホッ

男「俺は……どうしてたんだ?」

友人「燃えてた」

友人「だけどオレが豆乳で消火したから、どうにか一命はとりとめたよ」

男「ありがとう……助かったよ」

友人「しっかし、なにがあったんだ? お前は燃えてるし、おかめちゃんはいないし……」

男「実は――」

39: 2016/04/25(月) 22:54:38.534 ID:hHVdZc5Y0.net
友人「なにぃ!? おかめちゃんに婚約者がいて、相手はあのひょっとこ!?」

男「知ってるのか?」

友人「知ってるもなにも、ひょっとこっていったら日本有数の財閥『ひょっとこ財閥』の御曹司だ!」

友人「屋敷には、ボディガードを何百人も配備してるらしいぜ」

友人「正直いって、おかめちゃんを救出するのはかなり難しいぞ……」

男「だけど俺は諦めたくない! ネバー・ギブアップだ!」



男「俺の大好きな、納豆にかけて!!!」マゼマゼ



  納  豆  に  か  け  て  !  !  !

40: 2016/04/25(月) 22:57:33.843 ID:hHVdZc5Y0.net
パチパチパチパチパチ…



イケメン「フッ、それでこそ我がライバル」パチパチ…

イケメン「おかめ君を取り戻す愛の旅路……ボクも同行させてもらうよ」

イケメン「ついでにこの豆腐を差し上げよう」サッ

男「ありがとう、豆腐ステーキにするよ」



男「イケメンって、本当にいい奴だな!」

友人「オレも、イケメンって実はただのいい奴なんじゃって気がしてきたぜ……」

41: 2016/04/25(月) 23:00:05.827 ID:hHVdZc5Y0.net
< ひょっとこ屋敷 >

ひょっとこが住む屋敷には、やはり大勢のボディガードが待ち構えていた。





男「二人とも……行くぞ!」マゼマゼ

友人「おう!」チューチュー

イケメン「任せてくれたまえ」

43: 2016/04/25(月) 23:04:08.296 ID:hHVdZc5Y0.net
「侵入者だ!」 「返り討ちにしろ!」 「かかれーっ!」



ワァァッ!!!



男「“納豆ネット”!」ネバァァァァァ

たっぷりかき混ぜられた納豆が、屈強なボディガードたちに絡みつき、動きを止める。



友人「“豆乳ビーム”!」バシュゥッ

ナイアガラの滝にも匹敵する水圧で放たれる豆乳が、ボディガードたちを撃ち抜く。



イケメン「“トウフ・カド・アタック”!」バキィッ

液体窒素で凍らされた豆腐が、ボディガードの頭にめり込む。

45: 2016/04/25(月) 23:07:24.624 ID:hHVdZc5Y0.net
友人「くそっ、いくら倒しても次から次へと出てきやがる! キリがねえ!」チューチュー

友人「こうなったらしゃーねえ! ここはオレたちに任せて先に行け!」

男「しかし……!」マゼマゼ

イケメン「早く行くんだ! おかめ君を救えなかったら、ボクはキミを軽蔑する!」

男「……二人とも、ありがとう!」マゼマゼ

46: 2016/04/25(月) 23:10:29.069 ID:hHVdZc5Y0.net
< ひょっとこの寝室 >

男「ひょっとこォ!」マゼマゼ



ひょっとこ「ひょっひょ、よくぞここまでたどり着いた」

男「おかめさんを……返してもらう!」マゼマゼ

ひょっとこ「ひょひょひょ、どうやらまだ燃やされ足りないらしいな」

ひょっとこ「ファイヤー!!!」ボワァァァァ

男「“納豆ガード”!」ネバァァァァ

ひょっとこ「ひょ!?」



納豆独特の粘り気が、ひょっとこが生み出した炎を完全に遮断した。

47: 2016/04/25(月) 23:14:33.347 ID:hHVdZc5Y0.net
ひょっとこ「ふん……たかが納豆如き、すぐに焼き尽くしてくれる!」ボワァァァァァ

男「……」ネバァァァァァ

ひょっとこ「火力アップ!」ゴワァァァァァ

男「……」ネバァァァァァ

ひょっとこ「最大火力ゥ!!!」ゴォワァァァァァァ

男「……」ネバァァァァァァァ

ひょっとこ(なんだとォ!? 納豆は熱に弱いはずなのにィ!)

48: 2016/04/25(月) 23:17:36.584 ID:hHVdZc5Y0.net
ひょっとこ「なんで……!? なんで私の炎が通じない!?」

男「1万回混ぜた俺の納豆に、そんな炎は通じない!」ネバァァァ

ひょっとこ「お、おのれえ!」

ひょっとこ「だったら肉弾戦だぁ!」バキィッ

男「毎日毎食1万回納豆を混ぜ続けた俺の肉体に、そんなパンチは通じない!」

男「“納豆ロープ”!」ヒュルルルルッ

ひょっとこ「うひょ~!」ギュッ

納豆の細く丈夫な糸が、ひょっとこを緊縛した。





男(終わった……納豆の勝利だ!)

49: 2016/04/25(月) 23:20:59.964 ID:hHVdZc5Y0.net
おかめ「助けにきて下さったのですね!」

男「うん、遅くなってすまない!」



ひょっとこ「ひょひょひょ、ちょっと待ったァ!」

ひょっとこ「私はまだおかめを諦めたわけではないぞ!」

ひょっとこ「ひょっとこ財閥のボディガード軍団は、まだまだいるんだからな!」パチンッ



ズラッ……!



恐るべき策略! ひょっとこは万一に備え、援軍を300人も用意していたのである!



男「無駄なことを……」

ひょっとこ「強がるな! いくらキサマでも300人には勝てまい!」

男「そうじゃない。援軍を用意していたのは、お前だけではないということだ!」

50: 2016/04/25(月) 23:23:52.049 ID:hHVdZc5Y0.net
外国人A「This is a pen!」

外国人B「Government of the people, by the people, for the people!」

外国人C「You still have lots more to work on!」

ドカァッ! バキィッ! ドゴォッ!

「ぐわぁっ!」 「うぎゃぁぁぁ!」 「ぐええっ……!」



どこからともなく助っ人外国人軍団が現れ、ひょっとこのボディガードを蹴散らしていく。






ひょっとこ「なにこれ!? ねえ、なんなのこれ!?」

51: 2016/04/25(月) 23:26:39.524 ID:hHVdZc5Y0.net
外国人A「サー、全軍を率いて援軍に参りました!」ババッ

男「ありがとう、助かったよ」



ひょっとこ「なんなんだよ、こいつら!? いったいなんの軍勢なんだ!?」

男「決まってるだろう?」



男「NATO(北大西洋条約機構)だ」



ひょっとこ「ひょーっ!!?」

54: 2016/04/25(月) 23:31:17.256 ID:hHVdZc5Y0.net
たかが一財閥のボディガードが、NATO(北大西洋条約機構)全軍に勝てるはずもなく――

ひょっとこ「降参です……」ピクピク…





男「おかめさん……」ギュッ…

おかめ「男さん……」ギュッ…





男はついに愛しのおかめを取り戻した。



友人「ふぅ……運動した後の豆乳は格別だぜ」チューチュー

イケメン「ボクの豆腐が解凍されて、ちょうど食べごろの固さになってるよ」モグモグ

56: 2016/04/25(月) 23:34:15.978 ID:hHVdZc5Y0.net
男「ごめんよ、君を助けるためとはいえ、君の嫌いな納豆を持ってきてしまって」ネバァァァ

おかめ「いいえ、あれはあなたの告白を断るためのウソです」

男「え……」

おかめ「わたくし、本当はあなたも納豆も大好きなの!」

男「だったら俺、今日からは毎食2万回納豆をかき混ぜるよ」

男「俺と……君のために!」






                                     おわり

57: 2016/04/25(月) 23:48:56.519 ID:wYZPOfXqr.net

この世界には枝豆使いもいそう

引用: 男「俺は納豆を1万回かき混ぜる」マゼマゼ