1: 2016/04/30(土) 10:31:09 ID:iQWGQXF6
ふとした時、テーブルに虫がいるのに気がついた

虫が苦手な私ではあったが、なんとなくそれから目を離せない

いつもなら即座に臨戦態勢だったのだが…

いつから私はこんな臆病者になってしまったのだろう?

2: 2016/04/30(土) 10:35:54 ID:iQWGQXF6
いや待て、決して虫を殺せない訳では無いのだ

できないのではなく、敢えてしないだけであって

無益な殺生を避ける、慈悲の深い人間になったのだろう

いや違う、そんなことはどうでもいい

問題はこの虫をどうするか、だ

3: 2016/04/30(土) 10:40:15 ID:iQWGQXF6
私が呑気に考え事をしている間でも、その虫は1歩と動かなかった

なんだか心を見透かされた気分だ

"この人間には俺を頃す気が無い” という心を

というか、この虫を見つけてから歩いているところを見ていない

まさか……氏んでいる?

4: 2016/04/30(土) 10:45:34 ID:iQWGQXF6
それからじーっと見ていると、私を嘲るかのようにちびちびと歩きだした

2度も心を読まれ、3度目は無い事を祈るばかりだった

しかしなんだか、この虫は気持ち悪くないぞ?

歩く姿を見て思ったが、どことなく愛らしさすら感じる

私の脳内害虫リストには載せないでいてやろう

5: 2016/04/30(土) 10:50:00 ID:iQWGQXF6
米粒ほどの体長、ほんのりと黄色い羽、人間の産毛ほどの足

そして、不必要にも思える黒い模様

お前はこの模様で何をしようとしていたんだろう?

よく枯葉や枝に擬態する虫は見るが、お前には要らないだろう

"床に落ちてカビが生えた米粒” の擬態なら完璧だろうな

そんな無意味さも、自分と重なって愛しく思えた

6: 2016/04/30(土) 10:54:17 ID:iQWGQXF6
ああ待て待て、テーブルから落ちてしまう

私は少しだけ慌てて、そこらにあった紙で落ちる虫をキャッチしようとした

だが意外にも、この虫はテーブルの側面を歩いていた

こいつ、なかなかやる奴だな

前々から思っていたが、壁などを走る虫は何故落ちないんだ?

7: 2016/04/30(土) 11:03:06 ID:iQWGQXF6
足に接着剤でも付けているのだろう、かなり不便そうだが

少なくとも私は足の裏に接着剤をつけたくない

そんなことを考えていて、虫が落ちたことにも全く気づかなかった

全く、地球の引力に勝てると思ったのだろうか?

虫は何事も無かったかのように、床を歩いていた

ふん、私だけが知っているぞ、お前は地球に負けたんだ

8: 2016/04/30(土) 11:06:58 ID:iQWGQXF6
喋らない虫と会話している私が少し恥ずかしくなった

一人暮らしだ、虫と話したくもなるさ

いや、今はこいつと二人暮らしかな?

……なんてポエミーなことを考えるのだろう、私は

詩人になれるかもしれないな

ならないけど

9: 2016/04/30(土) 11:13:45 ID:iQWGQXF6
この虫に名前はあるのだろうか

名前を調べることができれば画像も出てくる

こいつがいなくなって、私の記憶からも消えた頃に、その画像を見て

ああ、こんな奴もいたなぁ、と思うのが好きだ

偶然同級生に会った時にも似ている

……虫と同級生が同じというのはどうなんだろう?

10: 2016/04/30(土) 11:20:05 ID:iQWGQXF6
まあいいや、とりあえず写真を撮っておけばいいだろう

適当なサイトで聞けば多分答えが返ってくる

さて、この虫自体はどうするかな

カブト虫すらまともに育てられない自分に飼育は無理だろう

だが折角の同級生だ、殺さず逃がしてやる

また会えたらいいな

11: 2016/04/30(土) 11:28:14 ID:iQWGQXF6
驚くことに次の日にも、テーブルにその虫がいた

ちゃんと外に逃がしたのに、どうやって入ってきたんだろうか

また会ったなぁお前

なんだか妙に嬉しくなって、その虫が食べそうな物を調べた

明日来たらエサあげるから、来いよな

来てくれるかな、なんてヘンテコな期待を膨らませて、その虫を逃がした

虫と人間の間にも、友情が芽生えることを知った

12: 2016/04/30(土) 11:28:48 ID:iQWGQXF6
おわり

13: 2016/04/30(土) 14:45:07 ID:uTACUdHg
ほのぼのするな

15: 2016/04/30(土) 18:49:43 ID:vHdSzs4Y
ケッキョクなんの虫なん…?

引用: 小さくて黄色い虫