231: ◆IRWVB8Juyg 2013/08/20(火) 22:23:39.92 ID:f79Wmad7o


モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ



夏美「はい、どうぞ♪」


 カチャン、と音を立てて紅茶の入ったカップが置かれた。
 その数は4つ。鮮やかな紅はミルクの白で中和されて穏やかな店内に合った色合いになっている。


美優「夏美ちゃん……あの」

夏美「あぁ、お仕事なら休暇中だからご心配なく。ねっ?」

レナ「そういうこと。たまにはいいじゃない? ……あ、美味しい」


 咎めようと美優が口を開くが、夏美があっけらかんと問題ないと返す。
 レナは夏美の入れた紅茶を飲んで舌鼓を打ち、くすくすと笑った。

 そんな2人の様子を見て美優は店長のほうをすがるように見て口を開く。


美優「レナも……店長、何か言ってあげてください」

店長「……なんというか、賑やかだなぁ。まるで人気店だ」

美優「店長っ!」


 けらけら笑う店長に、美優が軽く怒る。
 他の2人はにやにやと笑いながらそのやりとりを見ていた。


----------------------------------------



それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。


~中略~


「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。

・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。





232: 2013/08/20(火) 22:24:07.51 ID:f79Wmad7o
 しばらくそんなやり取りが続いていたが、店長がカップを置いて軽く咳払いをすると2人へと向き合う。


店長「あぁ、うん。夏美もレナも子供じゃないんだからあまりいりびたるなよ?」

レナ「私、どうせ昼は暇だし。たまにはいいじゃない」

夏美「私も雇ってって言ってるのになー」

店長「そんなにお客さんも来ないしな。俺と美優で十分だよ」

夏美「んもー、これだから……」


 夏美がぶつぶつと文句を言う。

 店長の、何気なく発した「2人で十分」という言葉に2人の関係がどうしようもなく固いものだと伝わってしまった不満。
 まるで昔の、子供のころに戻ったような気持ちを遠慮なく口に出していた。


レナ「はいはい、可哀想ねー」

夏美「レナ姉ぇ、捨てられたよー。くすん」

店長「いい年して何をやってるんだ、まったく……」

233: 2013/08/20(火) 22:25:11.87 ID:f79Wmad7o
店長「節度は大切だぞ? ……来るなとは言わないが」

夏美「はーい……ところで、瞳子ちゃんは?」

美優「え? ……えっと、どういう意味?」


 夏美の疑問に、美優が意味を尋ねる。

 いきなりレナと夏美が店に来て、そのままゆっくりティータイムが始まってしまったのだ。
 瞳子のことを聞かれても、知らないとしか答えられない。先日の『憤怒の街』での再会は記憶に新しいのだが……


レナ「知らなかった? 今日、改めていろいろ話したいからって私を誘ったのは瞳子よ?」

夏美「そうそう、だから会えると思って楽しみだったんだけどなー」

店長「……なるほどな」


 店長が頭をぽりぽりとかいてため息を吐く。
 あの時点では夏美とは再開できていなかったし、瞳子と夏美は同級生だ。話したいこともあっただろう。

234: 2013/08/20(火) 22:25:44.37 ID:f79Wmad7o
 誘った本人がまだ来ていない理由はいくつか考えられる。

 ひとつ、急用でこちらへ来れなくなっている。

 ふたつ、何らかのトラブルが起きた。


 急用ということはないだろうと店長は思う。
 仕事の都合がつかなくなってしまったのならばキチンと連絡をしてくるはずだ。彼女は几帳面だから。

 そして、トラブルに巻き込まれたというのも考えづらい。
 ブランクがあろうが、彼女は強い。なんらかの怪人に襲われたとしてその連絡は来るはずだし、今更遠慮をする間柄でもないはずだ。
 少なくとも彼はそう思っている。――彼女たちの絆を信じている。

 ――ならば、考えられるのは。


 みっつ。14年たった今でも方向音痴が直っていない。


店長「……はは、変わってないなぁ」


 思わず店長は苦笑してしまう。
 変わっていないのは絆だけではなさそうだ。

235: 2013/08/20(火) 22:26:18.11 ID:f79Wmad7o
 その苦笑を受けて夏美が察したように呟く。


夏美「……瞳子ちゃん、やっぱり迷ってるのかなぁ?」

レナ「やけに自信満々だったから大丈夫だと思って油断したわ……迎えにいくべきだったかしら」

美優「……きっと、楽しみだったんでしょうね。気持ちはわかるけど……」


 仕方ない、とレナは額をおさえてやれやれとかぶりを振った。
 だいたいの事情を把握した美優も思わず笑ってしまう。

 和やかな空気が流れひとしきり笑った後、瞳子へ連絡しようとレナが携帯を取り出した。
 さて、とダイヤルする前に店の前に人影がひとつ現れる。

 お客にしろ、瞳子にしろ。対応できるよう店長と美優はレジのほうへと向かい、夏美とレナは奥のほうへとひっこむ。
 邪魔をするために来たわけではないのだし、もし瞳子ならば一番乗りかとぬか喜びしているのをからかうのも楽しそうだと思ったからだ。

 しばらく店先で止まっていた人影が、カランとドアを開いて入ってくる。

 どうやら瞳子ではなく、普通の客のようだ。
 どこか冷たい雰囲気をまとった、美人。美女というほど熟れた雰囲気ではなく、女子高生ほどの見た目。
 見つめられただけで凍りつきそうな黄金色の瞳が、一瞬光ったようにレナは感じた。

236: 2013/08/20(火) 22:26:59.43 ID:f79Wmad7o
 棚を一瞥することもなく、一直線に店長のほうへ少女が向かう。
 看板はアロマショップではあるが、女性らしい小物も置いてあるため意外と雑貨を求める子も多い。

 香りはいくつも嗅いでいると鼻も麻痺してくるし、オススメや目的に合わせたものを見つくろうのも店長の仕事のうちに入る。


店長「いらっしゃいませ……なにか、お探しかな?」


 だから、特に普段と変わらないトーンで店長は聞いた。
 決して魔法のような効果はないが、心を癒すお香か、それとも綺麗なイヤリングか。

 少女は目の前で止まると、唇へと手をあててわざとらしく考え事をするふりをしてから答えた。


?「そうねぇ……欲しいものがあるんだけど」

店長「うん、何かな?」

?「――恋心、なんて愉快じゃない?」


 トン、と少女が店長の胸へ寄りかかる。
 柔らかな感触と、甘い香りに一瞬身を任せかけて――彼は思わず飛びのいた。

237: 2013/08/20(火) 22:27:36.57 ID:f79Wmad7o
店長「ッ……!?」

?「あら、残念……ひょっとして不能なの?」


 彼が後ろの棚にぶつかった姿を見て、少女はクスクスと笑う。
 その光景になぜか恐ろしさを感じて、美優は思わず間に入った。


美優「あの……お客様? からかうようなことをしちゃダメ……ですよ?」

?「……からかう?」

美優「はい……ほら、美人さんなんだから……勘違いされたら危ないですし、そういうのは好きな人に……」

?「クッ……フフ、あははっ! 本気で心配してるの?」

美優「あっ……」


 思わず、美優も後ずさりしてしまう。
 何か本能的なところに訴えてくるような、人の身では抗えないものを感じて。

238: 2013/08/20(火) 22:28:04.36 ID:f79Wmad7o

?「やっぱりアナタ……面白いわ」


 少女の瞳が妖しく輝いて、空気が震える。
 瘴気が舞い、制服に包まれていた体は漆黒に包まれた。

 次の瞬間には、彼女の纏う雰囲気が――彼女の姿が変化する。

 ――いや、本来のものへと解放される。


 ――女の人間界での名は速水奏。

 そして、真の名は――大罪の悪魔。『色欲』のアスモデウス。


奏「フフフ……ねぇ、魔法少女さん?」

美優「――!」


 ぞわりと鳥肌が立つほど甘いトーンの囁きに、美優も飛びのき戦闘態勢をとる。
 腕を掲げ、唱えた。


美優「ハートアップ! リライザブル!」

239: 2013/08/20(火) 22:29:01.98 ID:f79Wmad7o
 光が舞い、少女の清らかさを表す美しい服が身を包む。
 胸に輝くのは希望の印。その手に掴むのは幸せの光。


美優「魔法少女……エンジェリックカインド! きゃはっ☆」


 最後にかわいらしいキメポーズをとり、相手を睨む。
 その姿を見て女――アスモデウス――奏は、また妖しく笑った。


奏「ふふっ、いいわね……可愛らしくて素敵よ?」

美優「お買い物……ってわけじゃないですよね。何のためにここへ?」

奏「あら、買い物客だったら歓迎してくれたの?」

美優「……はい。どんな人が相手でも……少しだけでも、癒しになれたら。そう思ってますから」

奏「そう。いい子なのね……ステキな理想論。嫌いじゃないわ、甘ったるいのも――」


 そう言って奏が手をかざす。
 幽かに光が集まり、ゆらりとゆらめくとその手には赤黒い手甲が現れた。


奏「――それを壊すのも……ねっ!」

240: 2013/08/20(火) 22:29:35.47 ID:f79Wmad7o
 トン、と音だけを残して奏と美優の距離がゼロになる。
 あまりの速度に回避が間に合わず、防御姿勢も取り切れていない美優へとその腕を振りかぶり――


レナ「グレイスフルソードッ!」


 ――横から飛び込んだレナがその手を弾いた。


奏「あら……いたの?」

レナ「えぇ、最初から。ごめんなさいね? アバンチュールを邪魔しちゃって」

夏美「カインド、大丈夫!?」

美優「えぇ……ありがとう、オネスト」


 変身を済ませた2人が割り込み、奏を睨む。
 しかし彼女は決して慌てる様子もなく、楽しげにクスクスと笑って見せた。


奏「フフフ……あまり暴れると、お店に迷惑じゃない?」

レナ「そう思うなら、早めにご退席願えるかし……らッ!」


 レナが一足飛びに懐へともぐりこみ、逆袈裟へと切りかかる。
 奏はそれをギリギリで避け、外へと飛び出した。

241: 2013/08/20(火) 22:31:56.89 ID:f79Wmad7o
奏「きゃー、あぶなーい……ふふ、外でシたいの?」

レナ「……いちいちひっかかる言い方ね」

奏「アナタが誘ったんでしょう? ほら、邪魔をしたんだから……もっと楽しませて?」


 追いかけてレナが外へ出れば、ふよふよと浮いた奏が手を叩いてからかう。
 やれやれとため息をひとつつき、レナが冷めた目で睨み付けた。

 奏はそれをみて舌なめずりをひとつし、先ほどの返しのようにレナの懐へと飛び込む。
 胸を狙っての突きは剣によって阻まれるが、かまうことなくふたつみっつと拳の雨を打ち込んでいく。

 レナも応じるように剣でもって攻撃を弾き、隙を狙っての攻撃を試みるもまるで意に介さない。
 異様な雰囲気を纏う手甲の攻撃をなんとか剣で弾き続けるも、ジリジリと押され追い込まれていった。


奏「ほらほら……大丈夫よ? もっとハデにシてくれても――」

レナ「くっ……!?」


 とうとう奏の拳の速度に、レナの剣が追い付かなくなりしりもちをついてしまう。
 胸の中心へと迫る手甲は、今度は光の矢によって阻まれた。


奏「あら……いいわね、友情って。今のはおしかったのに」

レナ「助かったわ、カインド……生憎ね。1人じゃかないそうにない相手でも……『私たち』なら、負けないわ」

美優「えぇ……何が目的かわからないですけど、穏やかではなさそうですし……全力でいきます」

242: 2013/08/20(火) 22:32:23.49 ID:f79Wmad7o
 この短時間の撃ちあいで、レナと美優はおおよその実力を把握する。
 一対一ではまずかなわないだろう。ソードとの剣戟に打ち勝ち、アローの速度を躱して見せた。

 ならばどうするか。強力な必殺技でなら仕留められるかもしれない。

 エンジェルハウリングは心を鎮め、同調させ、増幅して放つ技だ。
 しかし、強力な分隙も大きくただ撃ってもまず当たらない。なによりも、その時間をくれるほど甘い相手ではない。


 ――だが。1人ではかなわない相手であろうと2人ならば止められると確信を持った。
 そして、足を止めさえすれば――


夏美「2人ともがんばって! ほんの少しでいいから止めてくれれば……いける!」


 最大級の威力を持つ槍が、撃ちぬくことも可能なはずだ。


美優「グレイス……いきます!」

レナ「えぇ……さぁ、付き合ってもらうわ!」

奏「あら……3人がかり?」

店長「いいや、4人だ。今なら反省文で許そうか?」

奏「ふふ、結構よ。私は後悔も反省もしない生き方をモットーにしてるから」


 いつの間にやらマスクをつけた店長が2人に並び、後ろの夏美を守る形で立っている。

 それでも奏――アスモデウスは、余裕を持った笑顔のまま佇んでいた。

243: 2013/08/20(火) 22:33:06.50 ID:f79Wmad7o
 3人がアスモデウスの攻撃をしのぎお互いの隙をフォローしあう姿を見ながら、夏美は集中力を切らさぬように心を鎮める。
 手を掲げ、光を凝縮させていく。形は槍。全てを貫き、打ち崩すエネルギー。


夏美「……オネストリィ、ジャベリン……!」


 エネルギーの凝縮、固定。
 夏美のそれは大ざっぱで、しかしだからこそ何よりも強く相手を撃つことのできる技だ。

 美優のアローに比べて、ただ維持するだけでも負担がかかるこの技を。
 彼女たちが作るはずの隙を逃さぬよう夏美は構え続ける。


夏美「お願い、美優姉ぇ、レナ姉ぇ……頑張って……!」



 レナの剣を躱した奏の腹へと店長の拳が迫るも、身をよじるようにして外される。
 反撃のためにと振りかざした奏の右拳には美優の放った光の矢がぶつかり弾いていく。

 大罪の悪魔アスモデウスを相手にして、まったく撃ち負けることなく3人は戦っている。
 お互いのフォローも完璧で、相手の攻撃をさせないように美優が的確に矢を放つ。

 一見、この戦いは圧倒的に魔法少女たちが有利だった。


 ――だが。


店長(……なんだ、この違和感は?)

244: 2013/08/20(火) 22:33:34.14 ID:f79Wmad7o
 最初に違和感に気付いたのは店長だった。
 アスモデウスの攻撃は事前に防ぎ、放たせすらしていない。

 なのに、余裕の態度は崩れない。


店長(それに……街が……『静かすぎる』……!)


 彼の店を訪れた時、アスモデウスは一見してただの女子高生にしか見えなかった。
 外で騒ぎがあったのならば気づくはずで、避難勧告も出されていないのに――

 この昼の街に、人の気配が一切ないのはどういうわけか。


レナ「もらったぁぁぁっ!」


 しかし、考えがまとまるよりも早く。
 3人はアスモデウスを追い詰めることに成功した。

 レナが上段から大きく切りかかり、それを手甲で受け止めさせると同時に美優が矢を放って弾幕を張る。
 ひるんだところへ、最大級の破壊力を持つ槍が迫っていく。

 寸前でレナは身を躱し、アスモデウスは光に飲み込まれた。


夏美「――やった!」

245: 2013/08/20(火) 22:34:04.99 ID:f79Wmad7o
 しかし、彼女たちが次に見たのは――


奏「いやーん、いたーい……」


 ――少しの傷もなくその場に立つアスモデウスの姿だった。


レナ「う、そ……!?」

夏美「ちょ、直撃したはずなのに……どうして……」

美優「こうなったらエンジェルハウリングを……!」


 レナの手を取ろうとした美優の腕を、どろりとした泥がからめとる。
 そちらへ目をやれば、いつの間にかアスモデウスが佇んでいた。


美優「え……」

奏「捕まえちゃった♪ ……フフ、どうかしら?」

レナ「なっ……カインド!」


 剣を構えようとしたレナの腕も、どろりと泥に捕まってしまう。
 離れた位置にいる夏美も、同じく店長も。全員が一瞬にして拘束されてしまっていた。

246: 2013/08/20(火) 22:35:05.84 ID:f79Wmad7o
奏「残念、チェックメイトね?」

夏美「そんなこと――っ……!?」


 嗤うアスモデウスを否定しようと口を開き、夏美は体に違和感を覚える。


 ――熱い。

 身体の芯から燃えてしまうほど、熱い。

 のどがカラカラに渇き、吐息は切なく漏れるばかり。

 瞳は涙で潤んで前がよく見えないし、泥に拘束されている身体が擦れるだけで声がでそうになる。


夏美「な……に、これっ……」

奏「何って……ナニかしら。切なくなっちゃった?」

美優「ふざけ、ないで……こん、なの……」


 見れば、美優もレナも同じように体を捩ってどうにか湧き上がる衝動を抑えようとしているらしい。
 その姿を見て、また楽しそうにアスモデウスは笑った。

247: 2013/08/20(火) 22:36:05.46 ID:f79Wmad7o


店長「……」

奏「あら? ……オジさん、私に欲情しちゃったかしら」


 勝ち誇る奏を、店長が見つめる。
 クスクスと笑いながら頬を撫でると、からかうような言葉を投げかけた。


店長「……」

奏「もう、だんまり? ……そうよねぇ、自分を慕う相手に10年以上も手を付けないなんてパートナーに不満があるとしか思えないし……」

美優「……! あ、あなたは……んぅっ!?」

奏「ひょっとして、興味ないんじゃない? 子供のころは好きだったとか、口リコンとか! あはは、可哀想!」

レナ「ちょっと……何の話よ……ひゃっ!?」

奏「解説ならしてあげるから、おとなしく聞いて欲しいわね……ねぇ、いい年した男と女がすることもしないで傍にいるのはどうして?」


 厭らしく、煽るような笑みを浮かべながら奏が店長へ質問を投げかける。
 どうにか拘束から逃れようとしていたレナを押さえつける泥の量は増え、身動きさえ取れなくなった。

248: 2013/08/20(火) 22:36:54.64 ID:f79Wmad7o
奏「ジュンアイってヤツ? それにしたってもう少しやりようがあるし……ヤり捨ててハーレムなんてしてみたくなかったの?」

店長「……」

奏「そんなことできないって? ウソね。だってあなたは男だもの……ねぇ、なんなら私がシてあげましょうか?」


 奏の瞳が金に輝く。わざとらしくゆっくりと、一歩一歩近づいていく。


奏「それで、この場の全員を好きにすればいい。


 美優達のほうをちらりと見る。全員、身体を動かすこともできない状態になっている。


奏「さぁ、私にその欲望を見せて――」


 パチン、と指を鳴らすと店長の拘束だけが解かれる。
 彼の息も荒くなっていて、興奮状態になっているのは誰が見ても明らかだ。


奏「楽しませて頂戴、オジさん?」



  ――だから。



奏「――え?」

店長「……」


 アスモデウスは、自分の腹に突き刺さったモノがなんなのか理解できなかった。

249: 2013/08/20(火) 22:37:21.81 ID:f79Wmad7o
奏「なに、これ……っぐ、ああぁぁぁっ!?」

店長「ぅおおおおおおおおおお!!」


 気合いの雄たけびと共に、奏の腹に突き刺さったものへと力を込める。

 ――それは彼の友の力。


奏「せい、じゅ……うの……つのっ……!?」


 ――雷を纏い、邪を切り裂く聖なる角。


 その力が解放され、火花を散らしてアスモデウスの身体と精神までも焼き尽くすほどの雷撃を生んでいる。
 バチバチとスパークするエネルギーはアスモデウスだけではなく彼自身をも傷つけていた。

 それでも彼は放さない。アスモデウスから離れようとしない。


奏「っ……あぁぁあああっ!」

店長「っが……は……っ……」


 雷に痺れる体を無理に動かし、アスモデウスは店長を蹴り飛ばす。
 しかしそれと同時にあたりの風景が歪み、ひび割れ――


奏「くっ……」


 ――崩れた。

250: 2013/08/20(火) 22:37:53.46 ID:f79Wmad7o
夏美「なに……これ……? どういうこと……?」

店長「っ……おそらく、幻だったんだ……レナが、飛び出したあたりから……ずっと……!」

美優「て、店長……ひどい傷……」


 息も絶え絶えといった様子で店長が答えた。
 掌は焼け焦げ、脚には鈍い刺し傷が痛々しく血を流している。


奏「……自分を、聖獣の角で刺して雷まで流して……狂ってるんじゃないの……?」

店長「ははは……男はいくつになってもかっこつけたいんだよ……」


 アスモデウスが憎々しげにつぶやき、立ち上がる。
 その体には雷によって傷は生まれたが決して致命傷ではない。

 心の奥底まで蕩けるような幻惑に対抗するためとはいえ、自らを聖獣の角で傷つけた彼をアスモデウスは理解できない。
 悦楽に身を任せ、自分を抱いてしまったほうが楽だったはずだ。彼自身は、最高の時間を過ごせるはずなのだから。

 なのに。彼は自らを傷つけ、快楽を否定し、あまつさえ相打ちにしようと襲い掛かった。


 ――理解できない。そんなに気持ち良くない生き方はごめんだ。
 彼女には理解できない。色欲の悪魔には、理解できなかった。

251: 2013/08/20(火) 22:39:02.91 ID:f79Wmad7o
 理解できないから、全てを壊すことを彼女は決意する。


奏「もっと雄らしく生きてくれれば、楽に逝けたのにね」


 その瞳がまた妖しく輝くと、今度は宙にいくつものカースの核が生まれていく。
 対抗しようと立ち上がろうとしたレナは、そのまま腰砕けに座り込んでしまった。


レナ「このっ……え、ぁっ……」

夏美「レナ姉ぇ……っ、まずい、かも……」


 拘束されていたのは幻の中とはいえ、そこで生まれた快感はまぎれもなく本物だ。
 幻惑が破られたとしても、身体の熱は冷めていなかった。

 集中することすら困難で、額に浮かぶ汗は焦りからくるものなのか熱を冷まそうとするものなのかすら判断できなくなっている。
 店長はケガのせいで意識も朦朧としているのか目の焦点もあっていない。

 彼女たちの変身を維持する力すら失われつつある中、それをしり目に次々とカースが生まれて美優たちへと迫っていく。


奏「ふふっ……好きな人との初体験になるだけマシだったろうに、無理したせいよ?」

美優「……い、ゃ……――さん……!」


 迫るカースに矢を撃ちこむことすらできず、震える身体を両手で抱いて美優は目を瞑った。

252: 2013/08/20(火) 22:39:32.11 ID:f79Wmad7o






 ―――パチン、と。




 スイッチが切り替わったような、乾いた音がひとつ響いた。







253: 2013/08/20(火) 22:40:21.71 ID:f79Wmad7o
 襲い掛かってくるはずの衝撃がないことに疑問を覚えた美優が、薄く目を開けていく。

 レナも、夏美も。寸前まで迫っていた呪いの泥が、香りすら残さず消えたことに気が付き戸惑っている。


 そして、誰よりも困惑しているのはアスモデウス――速水奏だ。



奏「アナタ……『何』……?」


??「何、だなんて冷たいじゃない? 私は私――」



 まるで気配も、風のひとつすらも舞わせず。当たり前のように魔法少女たちとの間に女が1人立っている。


志乃「柊志乃、よ。今はね」


 片手にワイングラスを傾けながら。

254: 2013/08/20(火) 22:41:26.21 ID:f79Wmad7o
レナ「……し、の? まさか……本人……?」

志乃「ふふ、久しぶり。大きくなって……いいわね、変わらない友情って……」


 戸惑いを隠せないレナの顔を見て志乃は笑う。
 アスモデウスに背を向けて、楽しげにワインを飲みながら。


奏「ふざけないで……空間転移かしら? その程度で――」

志乃「――今日は」


 激昂した奏を冷たい瞳で志乃が見つめる。
 和やかに笑い、ふざけていた女とは思えないほどのプレッシャーに奏も思わず言葉を止めてしまう。


志乃「お礼と、お誘いに来たの。邪魔はされたくないわ」

奏「……そう。また改めてとはいかないの?」

志乃「えぇ。お引き取り願えるかしら?」

奏「――そうね、その方がよさそう。本当………面白いわ」


 幻惑と発情の力を込めて確かに見つめ合ったにもかかわらず、志乃には何の変化も起きない。
 状況を分析した奏は、今回は引くことにした。

 まるで霧に溶けるようにその体が消えていき、気配すらもなくなってから志乃はまた魔法少女の方へと向き直る。

255: 2013/08/20(火) 22:42:02.43 ID:f79Wmad7o
志乃「大丈夫?」

レナ「……どうして?」


 手を伸ばした志乃に、レナは疑問を投げかける。
 ここにいる意味。やはり憤怒の街でのアレは――


志乃「どうしてって……そうねぇ、娘を持つっていいなぁって思ったからかしら?」

レナ「はい?」


 しかし、返って来たのは素っ頓狂な答え。
 思っていた言葉とはまったく噛みあわないセリフ。


志乃「だから、頼っちゃった。ふふ、この前はありがとう」

レナ「は、はは……あぁ、なんだかもういいわ」

夏美「レナ姉ぇ!? ちょ、ちょっとー!?」


 変身も解け、レナが倒れこむ。状況が理解できていない夏美が声をあげる。

256: 2013/08/20(火) 22:43:21.01 ID:f79Wmad7o
志乃「美優ちゃんも……ふふ、無理しすぎよ」


 くるり、と指を回すと暖かな光が降りそそぐ。

 身体の異常がおさまり、昂りが穏やかになっていくのを3人は感じた。


美優「あ……あのっ! ――さんが!」

志乃「あら……本当、無理しちゃって……男の子ね」


 何よりも早く、美優が志乃にすがったのは愛しい人の無事。
 それを見て志乃は頭を撫でてやると、グラスにひとつ口づけを注いだ。


志乃「こういうのはあまり得意じゃないから、応急処置だけど――」


 そして、中身のワインを垂らす。先ほどよりも強い光に包まれ、店長は目を覚ました。


店長「っ……ん……?」

美優「ぁ……よかった………よか、った………!!」

店長「み、美優? あいつは……っ、なんであんたが!」

志乃「そんなに慌てないで? 傷はふさがってるかもしれないけど、痛むでしょう」

257: 2013/08/20(火) 22:44:22.55 ID:f79Wmad7o
店長「ふざけるな、14年前にあれだけ暴れて……!」

志乃「えぇ。あなたたちに出会った」

店長「……なんで、他人を助けようとしたんだ? 諦めて帰ったんじゃ、なかったのか?」

志乃「他人を……その感覚は、どうなのかしら……」

店長「『エンプレス』……アンホーリィが……!」

志乃「……懐かしい呼び方ね」


 店長が憎々しげに志乃を睨む。


 彼女は。


 柊志乃は。



 14年前、魔法少女たちを苦しめた張本人だったから。

258: 2013/08/20(火) 22:44:53.70 ID:f79Wmad7o
志乃「その名前は捨てたの。管理よりももっと楽しいことがしたくなって」

店長「そんな話が……っぐ、ぅ……」

志乃「ほら、無理をしないで? ……この前、助けてくれたことのお礼を言いに来たの」

店長「お礼……?」


 ――しばらく前のこと。彼らは憤怒の街の近くへと『助っ人』に現れたことがある。

 知らない連絡先からの手紙だった。イタズラである可能性も確かにあった。

 しかし、見覚えのあるマークと。切に無事を願う気持ちが感じられたから向かったのだ。


店長「……じゃあ、やっぱり」

志乃「えぇ。あの子は私の娘……大切な子よ? 血の繋がりなんてなくてもね」


 くすりと、和やかに志乃が笑う。
 それを見て、彼は合点がいってしまった。


店長「……そう、か。なら……いい」

志乃「ふふ……ありがとう。意地悪してたから許してくれないかと思っちゃった」

259: 2013/08/20(火) 22:45:30.68 ID:f79Wmad7o
美優「……ありがとうございます」

志乃「いいの。それで、話なんだけれど……」

美優「……あの、この手は……」

志乃「ちょっとした確認……美優ちゃん、結婚してなかったの? 娘自慢をしたかったのに……」

美優「え、えぇっ……!?」

志乃「やっぱり自分のところの子が一番可愛いもの。2人の子ならきっと賢くて可愛い子が産まれるのに……」

美優「そ、そんな話をするために来たんですか……!?」

志乃「えぇ、そしてそんな可愛い娘に力の使い方を教えてあげてほしいっていうお願いをね?」

美優「力の使い方……?」

志乃「そう。今度ゆっくり……家に来てくれればいいわ。住所は教えておくから」


 美優の手の中にはいつの間にやら紙が握りこまれている。
 そっと開くと中には住所と、いつかのマークがひとつ書きこまれていた。


美優「………わかりました。あの子たち……だいぶ無茶をしてたみたいですし、ね」

志乃「ふふっ、ありがとう」

260: 2013/08/20(火) 22:46:01.85 ID:f79Wmad7o
夏美「……なんだか複雑な気分。うーん」

志乃「あら、どうして?」

夏美「ひゃわぁっ!? ちょ、ちょっと……いや、だって敵で、でもいいお姉さんだったわけで……」

志乃「ふふ……今はお母さんなんだけどね? やっぱりほたるちゃんは無理をしちゃうから、昔のあなたたちよりもひょっとしたら――」

夏美(あ、この人めんどくさくなってる)




店長「……美優?」

美優「は、はい?」

店長「今更かもしれなが、俺もだな……」

志乃「ふふ、男の子が生まれてもいいわね? きっとかっこよく……あら、危ない」

店長「あんたって人は……!」

志乃「余計なお世話だったかしら……ふふ、娘のこと。考えておいてね?」

美優「は、はい……」


 ――結局、柊志乃は。
 散々娘の自慢をして、家に帰ったらしい。

261: 2013/08/20(火) 22:46:28.86 ID:f79Wmad7o
――

店長「はぁ、疲れたよ……参った」

レナ「……2人は両想いなのよね?」

美優「え、あ……はい。そう、です……?」

店長「……そうだな。俺は美優が好きだ」

レナ「あら。ならいいじゃない」

夏美「むぇー……言葉にされると、なかなか……」

店長「でも、それで負担にはなりたくない。だから結婚は……と思っていたが……」

レナ「それこそ我がままじゃない? 全部まとめて守ってやる! ぐらい言わなきゃ」

店長「ははは……無能力で、体力だって昔より落ちてるのにか?」

美優「……それでもっ!」

店長「み、美優?」

美優「かっこよかったです。今日……あんなに、無茶して……とても、心配で。でも……とっても……」

店長「………美優。俺は」

美優「いつも、支えてくれて……感謝してます。私が戦えるのは昔も、今も……」


レナ(二人だけの空間になりつつあるわね)

夏美(もういっそ帰ろうかー。疲れちゃった……)

レナ(そうね……まったくもう……)

262: 2013/08/20(火) 22:47:12.05 ID:f79Wmad7o
 こっそりと2人が抜け出そうとドアへ向かっていく。

 ついにたどり着いて開こうと手をかけたその時、ドアが勢いよく逆に開いた。


瞳子「ふふ、危うく迷うところだったわね!」


店長「……!?」

美優「っ!」


 奥にいた2人はそそくさと距離をとり、瞳子はドアのすぐそばにいる2人に気づくと声をかけた。


瞳子「あら、お久しぶり。懐かしいわね」

夏美「……瞳子ちゃん」

レナ「えぇ、変わってないみたいで……私もとっても懐かしいわ」

美優「こ、紅茶でもいれましょうか!」

店長「あ、あー。今日の売り上げは……」


 ――どうやら、まだ同窓会は終わらないようだ。

263: 2013/08/20(火) 22:48:10.41 ID:f79Wmad7o
情報更新


柊志乃
職業:元・魔法少女の敵
属性:元・安寧たる世界の守人
能力:制限付きでの平定者の力の行使

14年前、『魔法少女』たちと戦った侵略者。
地獄(魔界)や天国(天界)などいくつもの多元世界が重なった不安定な星である地球を消滅させ、異世界からの侵略などを防ぐために地球を襲った。
強制的な消滅ではなく、滅びの時を速めての抹消を試みるも魔法少女たちによって阻まれる。
その後、何度も作戦を阻止されて地球へと滞在するうちに酒と文化へと興味を持つ。

最終的には愛と祈りの奇跡によって覚醒した『魔法少女』たちと決戦をするも引き分け。
星どころか銀河ごと消滅させるほどの力を受け止める人々の心に強く感銘を受けて地球侵略を諦め宇宙へと戻る――

――と、思わせてそのまま地球に住んで気に入ったお酒を楽しむ道楽っぷり。
現在は『安寧たる世界のため』というよりも個人的な享楽が滞在している主な理由。
合理主義の思考は愛とアルコールに溶けて消えた。

264: 2013/08/20(火) 22:50:22.23 ID:f79Wmad7o
!ナチュルスターたちに『魔法少女』たちが力の使い方を教えるフラグが立ちました

!瞳子さんの方向音痴が設定に組み込まれました。

!美優と店長が両想いなことを再確認しました。

!志乃さんが親バカです。

265: 2013/08/20(火) 22:51:41.84 ID:f79Wmad7o
以上、投下終了
ごめんね服部さん……同時に動かせるギリギリだったんや……

266: 2013/08/20(火) 22:55:09.69 ID:5ITEPLgRo
乙です。

店長かっけえええぇ!美優さんと二人でお幸せに!そして瞳子さんちょうど終わるところで来たてワロタwww




【次回に続く・・・】


引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part 6