1: 2023/10/20(金) 19:45:31 ID:MIsLWVA600
花帆「こずえ、センパイ……すき……💛」

綴理「かほ、そろそろ代わって」

慈「花帆ちゃん聞こえてないなーこれは。ま、口にできなくても……」チュッ

梢「んんっ……!💚」

慈「首とか、キスできるところはいっぱいあるしさ🤍」

綴理「そうだね。めぐは賢い」チュッ

2: 2023/10/20(金) 19:46:12 ID:MIsLWVA600

綴理「……こずの服、邪魔だね」スルッ


「……え?……綴理先輩……慈先輩に、花帆さんも……梢先輩に、何を……」


梢(……どうして、こんなことに……)

4: 2023/10/20(金) 19:47:18 ID:MIsLWVA600
~約一ヶ月前~

チュン チュンチュン

梢「ん……」パチッ

梢「……」ムクリ

梢「……いい天気ね。雲ひとつない」

梢「朝練日和ね。今日の朝練のメニューはなんだったかしら……花帆さんも今日は寝坊しないといいけれど」

梢「……っ!?」ヨロッ

梢「なにかしら、今の……めまい……?」

梢「……気のせい、よね」

5: 2023/10/20(金) 19:48:00 ID:MIsLWVA600
---

梢「ふっ、ふっ……」タッタッタッ

花帆「はっ、はっ……」タッタッタッ

梢(……遅いペースではないのに、花帆さんもしっかり付いてきている)

梢(ふふ、成長したわね)

梢「……はっ、はぁっ」

梢(……ただ、逆に私がいつもより疲れやすい気がする)

梢(いつもなら、このくらいのペースなら息が乱れることはないはずなのに)

6: 2023/10/20(金) 19:48:38 ID:MIsLWVA600
梢「……っ、きゃぁっ!」ズサッ

花帆「梢センパイ!?」

梢(躓くなんて……今日は本当に調子が悪いのかも)

梢「大丈夫よ、心配しないで、花帆、さ──」クラッ

梢(な、んで……視界が、真っ暗に……)ドサッ

花帆「梢センパイ!?梢センパイ!しっかりし──梢セ──」

綴理「かほ!?こず──どうし──」

慈「梢──なんで──」


ザワザワザワザワ

7: 2023/10/20(金) 19:49:30 ID:MIsLWVA600
---

梢「……ん」パチッ

梢「……」ムクリ

梢「……保健室、ではない……わね」キョロキョロ

梢「どうして私はここに……確か、倒れて……」

梢「……!これ、点滴……。初めて打つわね、こんなの……」

梢「……花帆さんはずっと、この光景と共に過ごしていたのよね……」

ガラガラ

梢「!」

看護師「あ、起きましたね!ご気分はいかがですか?」

梢「は、はい……今は大丈夫です」

看護師「良かったです!点滴が無くなるまで動くのは我慢してくださいね」

梢「はい……」

8: 2023/10/20(金) 19:50:03 ID:MIsLWVA600
---

医師「乙宗梢さん、ですね」

梢「はい……」

医師「早めに応急処置することができてよかったです。もう少し遅れていたら、あなたの命はありませんでした」

梢「……っ、そんなに……重い病気なんですか」

医師「……そうですね。非常に発症は稀で、かつ危険な病気です」

梢「……」

医師「あなたがかかっている病気の名前は、接吻欠乏症と言います」

梢「……、……?接吻……と言いました?」

医師「俗称では、【定期的に美少女の接吻を受けなければ氏ぬ病】とも呼びます」

9: 2023/10/20(金) 19:50:42 ID:MIsLWVA600
梢「……」

梢「……?」

梢「……???」

梢「???????」

梢「……あの」

医師「ふざけているわけではありません。実在し、あなたが今かかっている病気とはそれなんです」

梢「そう、言われても……」

10: 2023/10/20(金) 19:51:17 ID:MIsLWVA600
医師「今のあなたは、接吻が生命維持に必要なホルモンや酵素を生成する唯一の方法となっています」

梢「……」

医師「接吻をしないと、体内のバランスが崩れて致命的な症状が現れます」

梢「……」

医師「美少女との接吻が必要なのは、美少女しか持っていない特殊な遺伝子やフェロモンが関係していると考えられていますが……まだ詳しいことはわかっていません」

梢「……」

梢(もしかしてこれ、慈のたちの悪いイタズラかしら……)

11: 2023/10/20(金) 19:51:59 ID:MIsLWVA600
医師「今は特殊な成分を含んだ薬を投与して症状を抑えていますが、強力な薬で常用して良いものではありません」

医師「ですから、申し訳ありませんが乙宗さんには美少女の国家資格を持った者と1日2回、朝と夕方に接吻してもらいます」

梢「……」

医師「治療法はわかっておらず、不治の病とも言われています。親しい美少女はいますか?接吻というデリケートなものですし、こちらで美少女を選ぶよりは、親しい方にお願いできるならそのほうが良いと思います」

梢「……」

12: 2023/10/20(金) 19:52:39 ID:MIsLWVA600
---

梢(少し、考える時間を頂きたいです)

梢(そう言って私は病院をあとにした)

梢(美少女とのキスさえすれば日常生活は普通に送れるらしく、入院の必要はないようだった)

梢(一日二回、つまり今日の夕方にはキスが必要になるから早めに決めてほしいと言われたけれど……)

梢「決められないわよ、こんなの……」

梢「……ファーストキスがどんなものか、想像したことはあったけれど。まさかこんな形になるなんて」

13: 2023/10/20(金) 19:53:38 ID:MIsLWVA600
校門をくぐれば、そこにはいつも通りの平和な景色。

天から降り注ぐ橙色の絵の具が校舎を、部活動中の生徒たちを染め上げている。

みんなキラキラ輝いていて。……私だけが、橙色に一滴垂らされた墨汁のようだった。

誰も、私が不治の病を患っているだなんて知らない。

今この空間で、私だけが、理解されない絶望を抱えている。

胸の内から黒が溢れ出る。
それは橙色の世界に滲み、広がり、上書きしようとする。


「梢センパ~イ!」


だけど、こちらに駆け寄ってくる他の何よりも強く輝くおひさま色が、世界ごと全て吹き飛ばしてしまった。

14: 2023/10/20(金) 19:54:08 ID:MIsLWVA600
花帆「梢センパイっ、大丈夫でしたか!?」ダキッ

梢「え、ええ。いえ、大丈夫と言うには……」

花帆「あたし、梢センパイが救急車で運ばれちゃってから、ずっと良くない想像しか浮かんでこなくてっ!」

花帆「練習にも全然集中できなくて、でもそれはみんな同じで、でもあたしはスリーズブーケで、梢センパイがいないのなんて絶対ムリで、あたし、あたしっ!」グスッ

梢「お、落ち着いて花帆さん!ほら、私はまだ生きてる。ね?そうでしょう?」

花帆「うぅ……はい……」グスグス

15: 2023/10/20(金) 19:54:34 ID:MIsLWVA600
~梢の部屋~

梢「落ち着いた?」

花帆「はい……。ごめんなさい、慌てちゃって……」

梢「いいのよ。私のことでそんなに慌ててくれたのだから、むしろ嬉しいくらいだわ」クスッ

花帆「慌てますよ!だって梢センパイのことなんですよ!?」

梢「……あ、ありがとう……///」

梢(少しからかったつもりだったのだけれど……///)

16: 2023/10/20(金) 19:55:21 ID:MIsLWVA600
花帆「……それで、本当になんともなかったんですか?」

梢「……ええ。急に少し貧血になってしまったみたいで」

梢(やっぱり本当のことは言えないわね。お医者様に後で電話して、私の担当を選んで頂きましょう)

花帆「……怪しい」

梢「え?」

花帆「梢センパイ、何か隠してますよね」

梢「な……そ、そんなことないのだけれど!?」

花帆「あたし、梢センパイとユニット組んで、綴理センパイや慈センパイにはまだ敵わないかもしれないけど、結構わかるようになってきたと思ってるんです」

花帆「梢センパイ、教えてください。梢センパイに隠し事されるなんて、あたしイヤです!」

梢「……っ」

17: 2023/10/20(金) 19:55:58 ID:MIsLWVA600
梢「……花帆さんのこの瞳に勝てる人なんて、きっといないでしょうね」

花帆「梢センパイ……?」

梢「わかったわ。今の私に何が起きているか教えてあげる。そのかわり他言無用よ。そして……これから言うことは決して冗談ではないの」

花帆「え?はい……」

梢「……私はね。ある病気にかかっているようなの」

花帆「病気……」

梢「それはね。……【定期的に美少女の接吻を受けなければ氏ぬ病】、よ」

花帆「……」

18: 2023/10/20(金) 19:56:43 ID:MIsLWVA600
花帆「……」

花帆「……?」

花帆「……???」

花帆「???????」

花帆「……あの」

梢「私が聞いたときと全く同じ反応ね……。でも本当なの。ほら」スッ

花帆「あ、診断書……。……接吻欠乏症……本当だ……」

19: 2023/10/20(金) 19:57:12 ID:MIsLWVA600
花帆「……えっと、すみません。頭を整理させてください」

花帆「梢センパイは、今朝急にその病気にかかって倒れちゃって。病院に行ったらその病気だって告げられて」

花帆「……整理するほどの内容なかったです。でもえっと、ちょっと待ってください……」

花帆「あっ!今大丈夫そうってことは、病院で誰かとキスしたんですか!?」ガタッ

梢「お、落ち着いて花帆さん!病院では薬を投与されたのよ。強力な薬らしいから常用はしないほうが良いらしいけれど」

花帆「あ……そうだったんですね。……よかった……」ボソッ

20: 2023/10/20(金) 19:57:44 ID:MIsLWVA600
花帆「……それで、これからどうするんですか?」

梢「美少女の国家資格を持っている人を担当に付けてもらえるらしいの。だからその制度を利用しようと思っているわ。ただこの学校は僻地だから……入院になってしまうのかしら……」

花帆「……あたしが、したら……」ボソッ

梢「え?」

花帆「あたしがするんじゃ、だめですか……?」

梢「……え?」

21: 2023/10/20(金) 19:58:51 ID:MIsLWVA600
花帆「あたしが美少女かはわかんないですけど……でもそれで解決するなら、あたし、いいですよ」

梢「ま、待って花帆さん!自分が言ってることわかってる!?」

花帆「わかってます。あたしのキスで解決するなら、そうしたいです」

梢「だめよ。あなたは自分のことを大切にして」

花帆「……梢センパイは、あたしとはイヤですか……?」

梢「そういう問題ではないわ。花帆さんのことを思って……」

梢「……っ」クラッ

花帆「梢センパイ!?」

梢「……いえ、まだ大丈夫よ。今からお医者様に電話するから、花帆さんは……」

花帆「……っ、イヤです!」ドンッ

梢「きゃぁっ!花帆、さん……!?」

22: 2023/10/20(金) 19:59:48 ID:MIsLWVA600
ベッドに押し倒された私は、仰向けで花帆さんを見上げている。

花帆さんは今にも泣きそうな顔をしていた。どうして花帆さんが泣きそうになっているのだろう。私のせいでこんな顔をさせてしまっている?

病による焦りと、花帆さんを理由もわからず傷つけてしまったかもしれない苦しさで、思考がまとまらない。私はどうすればいいのだろう。

花帆さんが顔を近づけてくる。もう鼻息が当たる距離になった。おひさまのような匂いが私の鼻をくすぐる。

止めないと。その思考は身体への電気信号に変換されることはなく、目を閉じた花帆さんの唇を、私は動かずに受け入れた。

23: 2023/10/20(金) 20:00:37 ID:MIsLWVA600
花帆「……はっ」

梢「……花帆、さん……」

花帆「……どうですか?治りました?」

梢「え……あ、ええ……そうね。倦怠感、というのかしら……はなくなったわね」

花帆「えへへ……よかったです!ね、梢センパイ。あたしで解決するなら、他の人とキスしなくても、入院しなくても大丈夫ですよね?」

梢「……まあ、そう、ね」

花帆「ですよね、ですよね!そしたら、これからよろしくお願いします!」

梢「え、ええ……頼まないといけないのは私の方だと思うけれど……」


梢(こうして、私たちは初めてのキスを交換した)

24: 2023/10/20(金) 20:01:11 ID:MIsLWVA600
梢(それ以来)

花帆「それじゃ、梢センパイ」

梢「……ええ」

花帆「……」チュッ

梢(花帆さんとは一日二回、隠れてキスをする日々が続いている)

梢(負担になっていない?と何度も尋ねようとしたけれど)

花帆「……えへへ」

梢(キスの後、毎回嬉しそうな顔をしている花帆さんを見て、何も言えなくなってしまっている)


綴理「……」

慈「……」


梢(だけど、違和感に気付いた友人は、当然いて)

26: 2023/10/20(金) 20:03:25 ID:MIsLWVA600
---

慈「2年生だけのお泊り会しよ!」

梢「随分急ね……。どうしたの?」

慈「えー?せっかく蓮ノ大三角が復活したんだし、めぐちゃん復帰を祝して改めて交流深めてもいいと思ってさ」

慈「それに綴理とはそれぞれお泊りしたことあるけど、私と梢はあんまりないじゃん?」

梢「まあ、1年の頃はあなたと2人きりでお泊りなんて、可能性すらなかったでしょうし」

慈「なにをー!まあ私もそう思う」

綴理「ボクもお泊り会したい。楽しそう」

梢「……その日の綴理のお世話は、私たち2人で?」

慈「……さやかちゃんいないし……まあこの前もできたし、なんとか……」

綴理「ボクなんなの」

27: 2023/10/20(金) 20:04:40 ID:MIsLWVA600
慈「そしたら来週の水曜とかどう?」

綴理「明日さやに聞いてみるね」

慈「スケジュール管理すら任せてる……。梢は?」

梢「……多分大丈夫よ。集合時間はいつかしら?」

慈「……気になる?」

梢「え?え、ええ……間違って早い時間に集合されても困るでしょう?」

慈「……ま、そうだねー。夜ご飯の後テキトーにって感じでいいんじゃない?どうせ部屋近いんだし」

綴理「ボクも賛成ー」

梢「わかったわ」

28: 2023/10/20(金) 20:05:25 ID:MIsLWVA600
梢(夕方のキスには被らなそうね。良かったわ)

梢(……それにしても、少しひやっとしたわね)

梢(慈も綴理も変なところで鋭いから)

梢(……この2人には、いつか勘づかれてしまうかしら。私と花帆さんの関係を……)


慈「……」

綴理「……」

29: 2023/10/20(金) 20:06:07 ID:MIsLWVA600
---

梢「今日もありがとう、花帆さん」

花帆「梢センパイのためですから!」

梢「……そうそう、来週の水曜日なんだけどね。綴理と慈とお泊りすることになったのよ」

花帆「えっ!?その日の夕方のキスはどうするんですか!?」

梢「集合は夕食の後だから。夕方のキスには被らないと思うわ」

花帆「……そう、ですか……」

梢(……あ、あら?世間話のつもりだったのだけれど、なぜか花帆さんが落ち込んでいるような……?)

30: 2023/10/20(金) 20:06:53 ID:MIsLWVA600
花帆「……だめですよ」

梢「何がかしら……?」

花帆「あの2人にキスさせたら」

梢「なっ!?そんなことしません!」

花帆「でも梢センパイ、あの2人に迫られたら受け入れちゃいそうじゃないですか?」

梢「そもそも迫られることなんてないわ。大丈夫よ」

花帆「……梢センパイの大丈夫って……」

梢「もう綴理も私の大丈夫は信用してるから、大丈夫です!」

梢(……私って意外と花帆さんから信用されてないのかしら……?)

31: 2023/10/20(金) 20:07:57 ID:MIsLWVA600
---

梢(お泊り会当日の夕方)

花帆「ん……」チュッ

梢「ん……。ありがとう、花帆さん。行ってくるわね」

花帆「……」ダキッ

梢「……花帆さん?」

花帆「明日の朝、慈センパイの部屋まで行きますね」

梢「それは……不自然にならないかしら……?」

32: 2023/10/20(金) 20:08:34 ID:MIsLWVA600
花帆「でも、そうしないと梢センパイ氏んじゃいますし……」

梢「多分少しくらいなら大丈夫よ。この関係がバレたら大変でしょう?」

花帆「……あたしは、別に……」

梢「……花帆さん……?」

花帆「……わかりました……」

梢「ありがとう。いい子ね」ナデナデ

花帆「そうやって子供扱いして……」プクーッ

梢(花帆さんは意外と心配性なのね)ナデナデ

33: 2023/10/20(金) 20:09:26 ID:MIsLWVA600
---

梢「……」テクテク

梢(誰かの部屋に泊まるなんて、綴理のとき以来ね)

梢(……綴理の家には広いお布団もあったけれど、慈の部屋にそんなのないわよね?どうするつもりなのかしら)

梢「……ああ、この部屋ね」

コンコン

梢「慈?」

シーン…

梢「……慈ー?おかしいわね……」

梢「……鍵がかかってない……?」ガチャ

梢「……慈?入るわよ」スッ


つづめぐ「わっ!」

梢「きゃっ!?」

34: 2023/10/20(金) 20:10:07 ID:MIsLWVA600
慈「いぇーい!ドッキリ大成功ー!」

綴理「いえーい」

梢「……あなたたちね……」

慈「わっ、鬼は抑えて抑えて!ちょっとしたサプライズじゃん!」

梢「相手が喜ばないサプライズに意味はあるのかしら?」

綴理「ビッグボイス選手権、久しぶりにやるの?」

梢「……すうーっ、はあーっ……しないわよ」

綴理「なんだー」

梢「見たかったの?」

35: 2023/10/20(金) 20:11:08 ID:MIsLWVA600
慈「それより、どうよ!めぐちゃんのお部屋は!」

梢「あなたの部屋は配信でも見ているし、徹夜で宿題手伝う時にも散々見たわよ」

綴理「いいにおいー」

慈「いい匂いなのはその通りとして……ほら!綺麗じゃん!3人でもなんとか寝れるように整理整頓したんだから!」

梢「……整理整頓、ね?」

慈「あーっ、梢の判定は厳しいからまず綴理!」

綴理「さやが掃除する直前と直後のちょうど真ん中くらいだね」

慈「表現が独特で喜びにくいな……。で、梢は?」

梢「……まあ、前に来た時よりは多少綺麗かしらね」

慈「手厳しいなーもー……」

36: 2023/10/20(金) 20:11:49 ID:MIsLWVA600
---

梢(毎日顔を突き合わせているはずなのに、私たちの話題が尽きることはなかった)

梢(慈の部屋には色々な……本当に色々な……ものがあって、途中からゲームができる機械さんで私たちは遊んだりした)

梢(慈がこんとろーらー?をすいっちさん?から外した時、いきなり壊し始めたものだと慌てて止めたら、部屋が震えるくらい笑われたのは、……そうね。忘れられない記憶になると思う)

梢(そして、お風呂も歯磨きも済ませて、眠くなってきた頃)


綴理「……さや……明日のご飯……なに……?」ウトウト

慈「綴理はもう半分夢の中だね……」

梢「でもいい時間よね。そろそろ私たちも寝ましょうか?」

慈「……いーーや!待った!」

37: 2023/10/20(金) 20:12:29 ID:MIsLWVA600
梢「どうしたの?まだ話し足りないのかしら?」

慈「……なーんか隠し事をしてる人がいるからさ」

綴理「……ボク……?」ウトウト

慈「いや違うから。綴理は知ってるでしょ」

梢「……?私に言っているのかしら?」

慈「……梢さ、この前いきなり倒れたじゃん」

梢「……!」

38: 2023/10/20(金) 20:13:21 ID:MIsLWVA600
慈「その日からさ、梢と花帆ちゃんの態度がなーんかおかしい。あの時は貧血だのなんだの言われたけどさ……嘘でしょ、あれ」

梢「……このお泊り会は、私を騙すために設けられたのかしら」

慈「……それはごめん。でも楽しくお泊り会したかったのも本当だから」

綴理「……」

梢(……綴理も、眠そうな感じはなくなってる)

梢(さっきまで暖かく柔らかな空気に包まれていた気がするのに、突然真冬の外に放り出されたようね)

39: 2023/10/20(金) 20:14:50 ID:MIsLWVA600
慈「……別に大したことじゃないならいいんだけどさ。その時はごめんなさい!めぐちゃんたちが悪かった!って謝るから」

綴理「でも、それでもボクに隠し事をしないでほしい」

慈「……綴理はまあ、特にそう思うよね。ついでに言っておくと、ボク"たち"に、ね」

綴理「あ、そっか」

梢「……無駄よ」

慈「……無駄って、なんで」

梢「信じてもらえるわけがないからよ」

慈「っ、言ってみないとわかんないじゃん!」

綴理「めぐ……こず」

梢「……」

40: 2023/10/20(金) 20:16:27 ID:MIsLWVA600
綴理「こず。ボクたちはこずが困ってるなら力になりたい。ボクもめぐも、ずっと前からそう思ってる」

慈「……そういうこと。それに信じてもらえるわけがないって言ってたけどさ、こんな属性盛り盛りの同級生と同じ部になったり、めちゃくちゃしっかりした1年生が3人も入ってきてくれたり」

慈「大概信じられないことだらけだから。今更って感じ」

梢「……そういうのとは桁が違うのよ」

綴理「……」

慈「……」

梢「……」

梢(……信じて、もらえるのかしら)

41: 2023/10/20(金) 20:17:38 ID:MIsLWVA600
梢「……はあ。わかったわ」

慈「!」

梢「根負けよ。あなたたちは本当に問題児だわ」

綴理「それってこずも?」

慈「梢が一番、ね。ほら、話すって決めたならさっさと話せ!」

梢「いきなり態度変わったわね……。……約束して。今から私が言うことを疑わないこと。信じることを」

綴理「大丈夫。こずの言うことは信用できる」

慈「今更梢が嘘つくなんて思ってないよ」

梢「……ありがとう。……私はね」


梢「【定期的に美少女の接吻を受けなければ氏ぬ病】に冒されているの」

42: 2023/10/20(金) 20:18:58 ID:MIsLWVA600
慈「……」

慈「……?」

慈「……???」

慈「???????」

慈「……ねえ」

綴理「こず、氏んじゃうの……?」

慈「いやいや受け入れ早すぎだから!え!?待ってなんて言った!?」

梢「二度は言わないわ」

慈「いや聞き間違いかもしれないし……」

綴理「【定期的に美少女の接吻を受けなければ氏ぬ病】だよ」

慈「……ありがと、綴理。……聞き間違いじゃなかったか……」

43: 2023/10/20(金) 20:20:58 ID:MIsLWVA600
梢「あの日、急に発症したのよ。世界的にも稀な病気らしくて、根治的治療法は確立されていない。今はただ1日2回の対症療法を行っているだけ」

慈「……あー、そーなんだ……」

梢「あなた、脳が止まってるわよ」

綴理「対症療法ってことは、こずは今かほとキスしてるの?」

慈「あっ!?そうじゃん!」

梢「……綴理は察しが良いわね」

44: 2023/10/20(金) 20:21:38 ID:MIsLWVA600
慈「……ふーん、そっか。最近梢と花帆ちゃんの態度が怪しかったのはそういうことか。……ふーん」

梢「隠していたのは謝るわ。信じてもらえないと思っていたし……何より、誰々とキスをしているなんて、みだりに言い触らすものでもないから」

綴理「……かほは、なんて言ってるの?」

梢「……恥ずかしくて、あまり聞けてないわ。ただ、嫌そうではない……と、思いたいけれど……」

慈「……ふーん」

梢(……2人とも、私が花帆さんにキスさせていることに怒っているんでしょうね。……当然ね)

慈「……あのさ」

45: 2023/10/20(金) 20:22:09 ID:MIsLWVA600
梢「?なに?」

慈「私も、手伝ってあげよっか」

綴理「ボクもそれ考えてたー」

梢「……冗談でしょう?」

慈「さっきの梢の発言のほうがよっぽど冗談ぽかったけどね。私は本気だよ」

綴理「ボクも」

梢「あのね、何をしないといけないかわかっている?」

慈「梢とキスすればいいんでしょ?」

綴理「わたあめくらい簡単だね」

46: 2023/10/20(金) 20:22:51 ID:MIsLWVA600
梢「綴理はともかく。慈、あなたは自分の唇の価値はわかっているでしょう?」

慈「もちろん。めぐちゃんの唇は安くないぞー?」

梢「それならわかるでしょう。こんなことに付き合う必要はないの」

慈「でも少なくとも、梢の命よりは低い価値かな」

梢「っ……」

綴理「ボクは命が懸かってなくても、こずとならキスできるよ」

梢「なっ……///」

慈「……それは私もだし……」ボソッ

47: 2023/10/20(金) 20:23:19 ID:MIsLWVA600
梢「こほん!……本当にいいのね、2人とも?」

綴理「いいよー」

慈「おっけー」

梢「……わかったわ。……ありがとう、私のために……」

慈「……んー、まあ全部梢のためかって言われたらそうでもないんだけど」

梢「え?」

慈「なんでも!」

綴理「……そういえば、めぐ」

慈「ん?なに?」

綴理「ボクたちって美少女なの?」

慈「……あ」

48: 2023/10/20(金) 20:23:46 ID:MIsLWVA600
慈「……いや、私はどう考えても美少女のはずだけど……そもそも美少女の定義ってなに……?なんだったら美少女なの!?」

梢「哲学的な問いね。そういえばお医者様にも聞いていなかったわね……」

綴理「こずにキスした後、しばらくしても苦しそうにしてなかったら美少女なのかな」

梢「危険な実験ね……」

慈「花帆ちゃんが美少女だっていうのはどうしてわかったの?」

梢「それは……その、私が苦しんでいる時に、花帆さんが……少し強引にキスをしてきて……それで苦しみが解消したから///」

慈「……ふーん。やるな花帆ちゃん……」

49: 2023/10/20(金) 20:24:25 ID:MIsLWVA600
慈「じゃあ初回はちょっと危険だけど、そうやって判定するということで」

梢「私が氏ぬ前に花帆さんが駆けつけてくれることを祈っているわ」

綴理「……そうだ、こず」スッ

梢「綴理?な、……に……」チュッ

慈「……!!??」

梢「ちょっと、……綴理!?」

慈「いや、今やってもまだ意味ないから!」

綴理「あ、そっか。楽になったか聞こうと思ってたんだけど」

梢「この子は……もう……///」

慈「……」

50: 2023/10/20(金) 20:25:02 ID:MIsLWVA600
~翌朝~

梢「……」zzz

綴理「……こず……ピーマン……」zzz

慈「……ぅぅ……かわいさが、赤点なんて……」zzz


花帆「梢センパイ!!」バンッ

こずめぐ「!?」ガバッ

綴理「……あ、にんじん……」ウトウト

花帆「おはようございます!」

梢「お、おはよう、早いのね。……慈、部屋の鍵は閉めていなかったの?」

慈「オートロック導入してよ梢~」

梢「おーとろっく……?」

51: 2023/10/20(金) 20:25:25 ID:MIsLWVA600
花帆「あたしちょっと梢センパイと用事があって!梢センパイお借りしますね!」

慈「……花帆ちゃんの用事っていうのはさ~」ダキッ

梢「きゃっ、慈……?」

慈「梢とキスする、ってやつ?」

花帆「……!どうして慈センパイがそのことを……」

慈「それだけどさ、これから私たちも協力するから。3人で頑張っていこ!」

花帆「……え……」


花帆「ええーーーーー!!!!!」

52: 2023/10/20(金) 20:26:08 ID:MIsLWVA600
~インタールード~

花帆「……」ムスッ

慈「花帆ちゃん機嫌直してよ~」

花帆「直せません!」

慈「私たちが梢とキスするのがそんなにイヤ?」

花帆「イヤです!ファイアフラワーです!!」

慈「手から炎出すの?w」

綴理「かほ、やってみて」

花帆「やりません!」

綴理「……」ショボン

53: 2023/10/20(金) 20:26:40 ID:MIsLWVA600
花帆「あたしに任せてくれてたらよかったじゃないですか」

慈「いやいや、……えーとあれ……そう、負荷分散!は大事だよ、花帆ちゃん」

花帆「……どういう意味ですか」

慈「たとえば花帆ちゃんがコロナに罹っちゃったとするじゃん。もし花帆ちゃん1人のままだったら、その時点で梢はゲームオーバーじゃん?」

花帆「……」

慈「でも私たちがいれば、梢はゲームオーバーにならない!……いやコロナだったらアウト……?」

花帆「……慈センパイって、勉強できないのに悪知恵は働きますよね」

慈「棘あり花帆ちゃんだなー!サボテンかー?」

綴理「かほは時々刺してくるよね」

54: 2023/10/20(金) 20:27:12 ID:MIsLWVA600
慈「ま、梢の命が懸かってるわけだしさ。ここは一時休戦ってことで!」

花帆「……わかりました……」

綴理「おおー、めぐすごーい」パチパチ

慈「ありがと、花帆ちゃん!物分かりの良い花帆ちゃんには、お近付きの印に……」スッ

花帆「なんですか、この写真……。……こ、これ!」

慈「梢の寝顔写真だよ。それも、1年の頃のね」

慈「……花帆ちゃん」

花帆「……慈センパイ」

ガシッ

綴理「かほ、ちょろいね。あとそれ去年ボクがめぐに送った写真だよね」

55: 2023/10/20(金) 20:28:05 ID:MIsLWVA600
~お泊り会の翌日夕方~

花帆「……そういうわけで、担当は一日交代でやることになりました……」カニョーン

梢「そうなの……」

花帆「あ、でも最初のうちは一日交代ですけど、慣れてきたら一週間交代にしようって流れになってます。だからその時まで、ちょっと梢センパイからしたら目まぐるしいかもですけど……」

梢「いえ、ありがとう花帆さん。慈や綴理も、私のために色々と考えてくれて」

花帆「……多分、梢センパイのためじゃない気がしますけど……」ボソッ

花帆「……ほら、梢センパイ」

梢「……ええ」スッ

56: 2023/10/20(金) 20:28:37 ID:MIsLWVA600
花帆さんが私の服の裾を掴んで、じっとこちらを見上げる。

キスする前の些細な時間だけれど、私はこの時間が好きだった。

花帆さんが美少女であることを、この上なく感じられる時間だから。

花帆さんが背伸びをしながら目を閉じた。私も合わせて少しだけ屈む。

最初はもっと屈むようにしていたけれど、花帆さんが「子供扱いされてるみたいでイヤです!」って膨れてしまったから、少し控えめにしたという経緯がある。

背伸びする花帆さんはこれはこれで可愛らしい……なんて言ったらまた膨れてしまうかしら。

花帆さんの唇が、私の唇に触れる。

花帆さんからはお花とおひさまの両方の匂いがする。今までどちらか片方を感じることはあったけれど、ここまで近付く機会ができたことで気付けた。

数秒経って花帆さんが離れる。この瞬間、花帆さんは毎回どこか名残惜しそうな表情をしていて、思わず2回目をしてしまいそうになる。

けれど私から2回目をしたら、それは治療ではなくなってしまうから、私は毎回ぐっと耐えている。

57: 2023/10/20(金) 20:29:02 ID:MIsLWVA600
梢「……ありがとう、花帆さん」

花帆「いえ……。……明日は、綴理センパイですか?」

梢「ええ、そうね。あの子朝起きられるのかしら……こっちから行ったほうが……」

花帆「綴理センパイが起きてなかったら、あたしに連絡してください!あたしがしますから!」

梢「そ、そうね……」

58: 2023/10/20(金) 20:29:35 ID:MIsLWVA600
~翌朝~

梢「……」zzz

コンコン

梢「……ん……」zz

「こずー。夕霧綴理だよー」

梢「……つづ、り……?」ウトウト

梢「……って、はやすぎよ……」スタスタ

ガチャ

綴理「おお、寝起きのこずだ。おはよー」

梢「おはよう……。まだ、日が昇ったばかりじゃない……」

綴理「起きちゃった」

梢「極端ね、あなたは……」

59: 2023/10/20(金) 20:30:35 ID:MIsLWVA600
綴理「おおー、久しぶりのこずの部屋だ」

梢「そうね。昔はよくお互いの部屋に行っていたけれど……最近は全然だったわね」

綴理「あんまり変わってないね。……あれ、絵が飾ってある」

梢「ふふ、私が描いた自信作よ。かなり上手に描くことができてね。最初は練習のつもりで描いていたけれど、もったいないから飾ったのよ」

綴理「……そうなんだ。何が描いてあるの?」

梢「えっ……わからない?」

綴理「え?あっ……えっと、うん」

梢「そう……確かに少し難しいかもしれないわね。これはね、ラブライブそのものを描いてみたの。だから抽象的になっているけれど、うまく熱を表現できていると思うのよ」

綴理「……あ、そう、なんだ。えっと……こずは凄いね」

梢「ふふ、ありがとう」

60: 2023/10/20(金) 20:31:05 ID:MIsLWVA600
綴理「……じゃあ、早速」スッ

梢「ちょっ、綴理!?」ガシッ

綴理「ふひほふははへは(口を塞がれた)」

梢「急過ぎるわよ……。せめて歯を磨かせて」

綴理「ふむ(ふむ)」

梢「……あなたは磨いて来たのよね?」

綴理「ひはほー(したよー)」

61: 2023/10/20(金) 20:31:27 ID:MIsLWVA600
梢「……ふぅ。戻ったわよ、つづ、り……」

綴理「……」zzz

梢「……私のベッドで寝てる子がいるわね……」

梢「……ベッドの端に座るくらいなら起きないかしら」ギシッ

綴理「……」zzz

梢(……本当に、綺麗な顔ね)

梢(昔は近くでこの顔を見る機会も多かったけれど、今は……私の自業自得ね)スッ

梢(でも……やっぱりさやかさんには妬いてしまうわね。今はこの顔を独占してるなんて)ナデナデ

62: 2023/10/20(金) 20:31:53 ID:MIsLWVA600
綴理「……ん……」

梢「あ……ごめんなさい。起こしてしまったかしら」

綴理「……こずだー」グイッ

梢「きゃっ、つづ、り……」ドサッ

綴理「おはよーこず」

梢「……さっきも言ったわよ……」

63: 2023/10/20(金) 20:32:46 ID:MIsLWVA600
私をベッドに引き倒した綴理は、組み敷くように私の上にいる。そんな意図はこの子にはないでしょうけれど。

逆光で綴理の顔には少し影がかかっている。まるで美術品のように整った顔付きと、瞳の位置に嵌め込まれた真っ赤な宝石が私を見下ろしている。

美しい。その一言に尽きる。綴理の美しさは月の輝きを纏っているかのように錯覚させる。
そして綴理が美少女であることについて、疑問を挟む人は誰もいないだろう。その美少女は今、私のために唇を捧げようとしてくれている。
……高鳴る心臓に、これは医療行為だと、綴理にそのつもりはないと言い聞かせる。

綴理が近付いてくる。私は目を閉じて、少しだけ唇を突き出した。澄んだ夜のような匂いが鼻に触れる。具体的に形容しがたい、けれど快い、綴理そのもののような匂い。

……唇に柔らかいものが触れる感触。ややあって、意外と呆気なく離れる。……目を開けようとしたその時、二度目の感触。三度目、四度目。

驚きに目を開けば、綴理の顔が目の前にあった。満ち足りたように、愛おしむように、細められた瞳。そして五度目のキスが降りてくる。

五度目のキスは、長かった。

64: 2023/10/20(金) 20:33:13 ID:MIsLWVA600
梢「……はっ」

綴理「……どうかな、こず。いっぱいしたし、その分治った?」

梢「……」

綴理「……こず?」

梢「……まだ朝なのに、夜の中にいるようだったわ」

綴理「んー?……どういう意味?」

梢「……なんでもないわ。それより、回数を増やしたところで恐らく意味はないわよ」

綴理「そうなの?無駄だった?」

梢「……まあ、そうね」

梢(……無駄じゃないなんて、言えるわけないでしょう)


梢(夕方も、綴理は何度もキスをしてきた。意味はないって言ったのに)

梢(……だけど、嫌な気分にはならなかった)

65: 2023/10/20(金) 20:33:46 ID:MIsLWVA600
~翌朝~

梢「さて、今日は慈の日ね」

梢「あの子、ちゃんと覚えているかしら。こちらから出向いたほうがいいのかも」

梢「というか、そうよね。みんな私の部屋に来てくれるからそれに甘えていたけれど、本来私が赴くべきよね」

コンコン

「梢ー」

梢「考えていたら……開いてるわよ」

ガチャリ

慈「おはよー梢。来てやったぞー絶世の美少女が!」

梢「あら、おかしいわね。どこにその美少女はいるのかしら」

慈「あー、梢の審美眼って腐ってるからなー」

梢「口が減らないんだから……。おはよう、慈」

66: 2023/10/20(金) 20:34:32 ID:MIsLWVA600
慈「いかにも梢の部屋って感じだねー。……お?なんだあれ……絵?」

梢「あら……ふふ、慈でも芸術には目を引かれるのね」

慈「あ、まあ……えっと、何が描いてあるの?」

梢「これはね……ラブライブよ」

慈「は?」

梢「え、なによ……ラブライブそのものを表した抽象画よ。あなたには難しかったかしら」フフン

慈「……あ、そう。……昨日は綴理が来たんだよね?その絵に何か言ってた?」

梢「こずは凄い、と言っていたわ」フフン

慈「……そっか。よかったね」

67: 2023/10/20(金) 20:35:01 ID:MIsLWVA600
梢「……」

慈「……」

梢(切り出して来ないわね……。花帆さんや綴理は向こうから来てくれたけれど……)

梢(私から切り出すべき、よね……。でも、キスしてほしいと言うなんて、最近毎日しているとはいえ恥ずかしいわ……)

梢(でも、キスさせてもらっている立場だもの。全部押し付けるわけにはいかないわ)

こずめぐ「「ねえ」」

梢「あっ……ごめんなさい、慈からどうぞ?」

慈「……いや……いいよ、梢からで」

梢「いえ……私のは、大したことないから……」

慈「私のこそ、大したことないし……」

68: 2023/10/20(金) 20:35:28 ID:MIsLWVA600
梢(……おかしいわね。いつもなら、もっとテンポ良く会話が進むのに……)

梢(……やっぱりそうよね。こんなやりたくないことの直前は、口数も少なくなるものよね)

梢「……慈、無理しなくていいのよ」

慈「え……何が?」

梢「無理そうなら花帆さんや綴理に代わってもらうから。あなたまで私に唇を捧げる必要はないの」

慈「……あー、そう。そう勘違いしたんだ」

梢「え?」

慈「無理してないよ私は。ほら、しよ」

梢「そんなこと言っても、……!」

梢(……慈、顔が真っ赤に……)

69: 2023/10/20(金) 20:35:55 ID:MIsLWVA600
慈「……ただ、ちょっと思うところはあるってだけ」

梢「思うところ?」

慈「もし、これで私が美少女じゃなかったら。私は梢の力になれないんだなって」

梢「え……」

慈「私が美少女じゃなかったら、それ自体ももちろん悔しいんだけどさ。……綴理や花帆ちゃんと違って、梢の力になれないかもって思ったら。……そう、考えてただけ」

梢「……」

70: 2023/10/20(金) 20:36:26 ID:MIsLWVA600
そう述べた慈の顔からは赤みが引いていて、心なしか背もいつもより更に小さく見えた。

こんな弱気な慈は見たことがなかった。それも、自分が美少女がどうかで悩んでいるなんて。

1年の頃から、慈は自分が一番の美少女だと言って憚らなかった。その頃の私は慈とそりが合わなかったから、ひどい言葉も投げた。

だけど今なら、あなたは一番の美少女だって言える。だから。

「慈」

慈に歩み寄り、こちらを向かせる。藤色の瞳は今にも溢れそうだった。

あなたは美少女よ。私が保証する。

想いが伝わるように、慈の唇にキスをした。

慈からは、女の子そのもののような甘い匂いがした。お菓子のように、甘さで人を虜にしてしまうような匂い。

数秒して唇を離す。慈の顔は再び真っ赤になっていた。

71: 2023/10/20(金) 20:36:55 ID:MIsLWVA600
梢「忙しい顔色ね」

梢(……あんなことを思いながらキスをしたのに、私の口から出てくるのはこんな言葉なのね)

慈「……な……なっ……」

梢(……少しは正直に伝えないと)

梢「あなたのそんな顔が見たくなかったとか、そういうわけではないわ!勘違いしないでほしいのだけれど!」

梢(……大失敗ね)

72: 2023/10/20(金) 20:37:20 ID:MIsLWVA600
慈「……ぷ……ぷふっ!あははは!」

梢「な、笑うなんて……!」

慈「だって、そんな……!あはははは!」

梢「もう……!言わなければよかったわ!」

慈「ごめんって。……ありがと、梢。……そういうところだよ、ほんと……」ボソッ

梢「……?」

73: 2023/10/20(金) 20:37:45 ID:MIsLWVA600
慈「ところでさー。慰めたいからって、普通キスする?」

梢「え……あっ……!」

梢(最近キスをしすぎて……キスに対する抵抗が薄れて……!)

慈「すきすきクラブのみんなが知ったらどう思うかなー?梢はすぐキスしようとするキス魔だって!」

梢「だ、だめよ!絶対!」

慈「冗談、言いふらしたりしないって。私と……っていうか私たち4人の秘密だもんね」

梢「……ええ」

74: 2023/10/20(金) 20:38:13 ID:MIsLWVA600
慈「それじゃ、また夕方ね。……それまでに苦しくなったら、綴理か花帆ちゃん呼んでね」

梢「……ええ。また夕方に」

ガチャリ、バタン

梢「……意外と色々考えるのね、慈も」

梢「……そういえば、私からキスをしたのは、もしかしたら慈が初めてかしら」

75: 2023/10/20(金) 20:38:47 ID:MIsLWVA600
---

梢(一週間くらいが経って)

梢(私は1日交代で花帆さん、綴理、慈とキスをし続けた)

梢(続けば段々流れ作業のようになっていく……ということは、意外となくて)

梢(3人とも、1回あたりの時間がどんどん長く、深くなっていった。……もう少しで、舌が入ってくるんじゃないかと思うくらい///)

梢(幸い、まだそうはなっていない。……けれど……時間の問題、かもしれない)

梢(そして今日は、お医者様に症状の具合を確認して頂く日。一週間と数日ぶりの病院)

梢(その瞬間は、突然だった)

76: 2023/10/20(金) 20:39:15 ID:MIsLWVA600
医師「……治ってる」

梢「……え?」

医師「……信じられないことに、あなたの接吻欠乏症は治っています」

梢「……え、ええと……不治の病、のはずでは……?」

医師「そのはずです。いえ、そのはずでした。ですが現実として、あなたの病は治っています。いったいなぜ……?何か変わったことをしましたか?」

梢「い、いえ……特には……。……あ……」

医師「何かありますか?」

梢「……その……関係あるかはわかりませんが……私の周りには偶然3人の美少女がいて……そのみんなに、協力してもらって……///」

医師「なるほど……確かに、複数人の美少女とキスをしたケースはありません。そもそも美少女自体があまりいませんから」

梢「はあ……」

医師「ありがとうございます、そしておめでとうございます。経過観察は必要ですが、あなたの病気は治ったと言って差し支えありません」

梢「あ、ありがとうございます……」

77: 2023/10/20(金) 20:40:01 ID:MIsLWVA600
---

梢「と、いうわけで。私の接吻欠乏症は治りました」

花帆「……」

慈「……」

綴理「おおー、めでたい」パチパチ

梢「ありがとう、綴理。……ごめんなさい、私も驚いているのよ。不治の病と言われていたから、一生付き合っていくつもりでいたもの」

花帆「そうですよ!!」

梢「花帆さん!?」

慈「そうだよ!私だって梢となら一生でもいいって覚悟決めてたのに!」

綴理「あ、そっか。これからはこずとキスする理由なくなっちゃうんだ」

梢「綴理……?」

綴理「あ、ううん、なんでもない」

78: 2023/10/20(金) 20:40:22 ID:MIsLWVA600
梢「で、でもあなたたちも負担になっていたでしょう?朝夕にわざわざ私とキスなんて。その手間がなくなったのよ」

花帆「……」

慈「……」

綴理「……」

梢(……みんな喜んでくれないわね。……もしかして……)

梢(みんな、私の氏を望んでいた……?ま、まさか……)

梢「とにかく、そういうことだから!みんなありがとうね!でももう大丈夫だから!」

79: 2023/10/20(金) 20:40:44 ID:MIsLWVA600
---

梢(こうして、平和な日常が戻ってきた)

梢(しばらくの間は、1日2回の感触がなくなったことで、少し口寂しい感覚があったけれど、それもなくなってきている)

梢(花帆さんたちはどこか元気がなくなってしまった。理由はわからないけれど、きっとそのうちあの子たちも元に戻るはず)

梢(……そう、思っていた)

80: 2023/10/20(金) 20:41:04 ID:MIsLWVA600
---

慈「あのさ、私たちも罹っちゃったみたい」

花帆「定期的に美少女にキスされないと氏ぬ病気に」

綴理「罹っちゃったー」


梢「……はい?」

81: 2023/10/20(金) 20:41:30 ID:MIsLWVA600
梢「感染する、という話は聞いていないけれど」

慈「でも実際罹っちゃったわけだしさ。これは梢に責任取ってもらわないと」

花帆「そうですよ!それにあたし知ってるんですけど、そういうのって意外と感染っちゃったりするものなんですよ!」

梢「そう言われても……。というか、あなたたち3人が罹ったのよね?それなら3人の間でキスをしあえば良いんじゃないかしら?ちょうど3人とも美少女だったのだし」

慈「う……それは……」

花帆「ええと……」

綴理「……」

82: 2023/10/20(金) 20:41:52 ID:MIsLWVA600
綴理「そっか。こずはボクたちが氏んでもいいと思ってるんだ」

梢「なっ!?そんなこと……!」

慈「そうだそうだ!めぐちゃんたちが氏んでもいいのか!」

花帆「遺書に梢センパイがキスしてくれなかったからって書きますよ!」

梢「えげつないことを考えるのね、花帆さん……」

慈「私たちを頃すなー!」

花帆「あたしたちとキスしてくださーい!」

綴理「おおー」

梢「……」

83: 2023/10/20(金) 20:42:21 ID:MIsLWVA600
---

命を天秤にかけられては、私としてもどうしようもない。

1日に合計6回……綴理は複数回してくるからそれ以上……私は3人とキスをしている。

主張に怪しいところがあったり、病院に行っている形跡がなかったり、時々忘れてもなんともなさそうにしていたり……追求できそうな点はいくらでもあるけれど。

そこを突こうとすれば、毎回「あたしが氏んでもいいと思ってるんですね」というような口撃をされて、何も言い返せなくなってしまっている。

そして最近、以前危惧していた通り過激化してきている。みんな当然のように舌を入れてくるようになった。1日6回も舌が入ってくるものだから、最後のほうは頭がボーっとしてしまっている。

そこから先に進むことは、さすがにないと思っている。キスが関係なくなるし、何より恋人同士でもないのにそんなこと許されないのだから。

……最初は、キスに対してもそう思っていた。なのに今では友人たちと舌を絡め合うキスをしている。……私は流されやすいのかもしれない……。

84: 2023/10/20(金) 20:42:42 ID:MIsLWVA600
「最近めぐちゃんが遊んでくれないんだよねー。……さやかちゃん?」

「……あ、瑠璃乃さん。……いえ、なんでも……」


こんな状況が続けば、違和感を覚える子も出てくる。


「……え?……綴理先輩……慈先輩に、花帆さんも……梢先輩に、何を……」

そしてその子は、私が自室でキスの雨を浴びながら服を脱がされかけているタイミングで、部屋の扉を開けたのだった。

85: 2023/10/20(金) 20:43:07 ID:MIsLWVA600
……以上が、乙宗梢の部屋の前で発見された、乙宗梢の日記の内容です。

これが果たして実際にあったことなのか、それとも乙宗梢の妄想なのかはわかりません。

そしてこれから私がどのような運命を辿るかもわかりません。

ですが蓮ノ空女学院新聞部の部長として、私にはこれを公にする義務があると思い、こうして皆様に公開しました。

これが乙宗梢の妄想にしろ、そうでないにしろ、我が校のスクールアイドルクラブでは異常なことが起きている、それを忘れないでください。

……?窓に映っているのはなんでしょうか。……人影……サイドテール……?

……まさか、あれh

86: 2023/10/20(金) 20:43:51 ID:MIsLWVA600
おわりです
みかみてれん先生蓮ノ空をこれからもよろしくお願いします

引用: 【SS】かほつづめぐ「接吻欠乏症?」梢「……ええ」