1: ◆gyTX4FmAss 2011/04/19(火) 16:03:02.55 ID:mDcPNMWN0
 立ったら落とします。
 投下中のコメは常時オーケー。
 昨日電波受信してぶっつけで書いた。
 割と反省してる

2:◆gyTX4FmAss   2011/04/19(火) 16:04:39.14 ID:mDcPNMWN0
「……、」

 土御門元春は窓のないビルにいた。
 ドアも窓も廊下も階段もない、建物として機能しないビル。
 大能力者の一つである空間移動を使わない限りは
 出入りもできない密室の中心に、巨大なガラスの円筒器は鎮座していた。

 直径4メートル、全長10メートルを越す強化ガラスの円筒の中には
 赤い液体が満たされている。広大な部屋の四方の壁は全て機械類で埋め尽くされ、
 そこから伸びる数十万ものコードやキューブが床を這い、中央の円筒に接続されていた。

 窓のないその部屋はいつも闇に包まれていた。
 ただし、円筒を遠巻きに取り囲む機械類のランプやモニタの光が、
 まるで夜空の星々のように瞬いている。

 赤い液体に満たされた円筒の中には、緑色の手術服を着た人間が逆さで浮かんでいた。
 学園都市統括理事長、『人間』アレイスター。
 それは男にも女にも見え、大人にも子供にも見え、聖人にも囚人にも見える。

3: 2011/04/19(火) 16:05:29.85 ID:mDcPNMWN0
「やってもらいたい事がある。いつも通り熟してくれ」

「いつも通りだと?」

 ギリ、と土御門は奥歯を噛み締めて怒りを露にした。

「ふざけるなよアレイスター。いつも通りだと?
 お前は今の状況が分かっていないようだな。
 どこで遊んできたかは知らないが、お前が外に出たせいで
 イギリス清教がお前を魔術師アレイスター=クロウリーだと識別した。
 学園都市統括理事長を、だ。
 この意味が分からないお前ではないだろう!?」

 魔術を極め、魔術を捨てた男。
 全ての魔術師の敵、
 アレイスター=クロウリーが学園都市の長だとしたら。
 画かれる敵意は、これを意味する。

4: 2011/04/19(火) 16:07:11.01 ID:mDcPNMWN0
「第四次世界大戦、か」

「ああそうだ。その通りだ。
 ……それが当たり前だろうが!
 今度は本当の、魔術と科学の全面戦争だ! アレイスター、貴様は何を考えている!?
 お前の存在は二つの思想に亀裂を走らせた!
 オレだって、ここに立っている事自体が命懸けなんだぞ!?」

 土御門の怒号に対し、
 アレイスターの反応は極平坦なものだった。

「そんなに慌てる事ではなかろう。
 そもそも、君の言っている事が真実ならば、何故イギリス清教は宣戦布告をしない?
 何故学園都市統括理事長がアレイスターだと他国にリークして戦力を補充しない?」

「それは……、」

「ローラ=スチュアートは欲深な女だ」

 アレイスターは回答を告げた。

5: 2011/04/19(火) 16:09:38.61 ID:mDcPNMWN0
「魔女狩りの理屈は単純だ。裁いた者が裁かれた者の全てを毟り取る。それこそ氏体までな。
 となればもちろん、裁く者が多ければ多いほど取り分は減る。
 あの女狐は私の財産を独り占めする魂胆だろう。
 第一、ローマ正教もロシア正教も第三次世界大戦に敗北し弱体の一途を辿っている。
 わざわざ強奪品を山分けするほどの価値もないのだよ」

「……、」

 理屈は分かる。
 が、それはビルからビルへ綱渡りするような危険性を孕んでいると土御門は感じた。
 ローラ=スチュアートが戦力の見劣りを自覚したら、
『勝利』を第一として戦力の強化を目論んだら。
 たったそれだけで、世界は、今度こそ二つの思想ではっきりと区別されてしまう。
 科学と魔術の戦争。
 その普遍的な価値観の争いから各国は必ず魔術か科学のどちらかを選択しなくてはならない。
 米国が科学を選び、
 中国が魔術を選び、
 英国が魔術を選び……。
 戦いはもっと根深いものとなってしまうのだ。

6: 2011/04/19(火) 16:11:11.29 ID:mDcPNMWN0

(確かに)

 宣戦布告をしないという事は少なくとも現時点で
 ローラ=スチュアートはまだ準備の最中なのだろう。
 そしてある意味では敵を信じて危ない橋を渡るという、目の前の『人間』との度量の違い。
 やはり、アレイスターは土御門とは異種の『人間』だった。

「さて。納得してくれた所で本題だが―――」

 学園都市統括理事長、
『人間』アレイスターは逆さに浮かんだまま、威厳と告げた。

「―――まずい事になった」

 アレイスターの発言に土御門は眉をひそめた。
 目の前の『人間』、これがまずい事になったなどという弱音を吐く所など
 想像もつかなかったからだ。

「……、なんだ? また完全なる知性主義《グノーシズム》でも学園都市に潜り込んだか?」

「事態はそれよりもずっと深刻だ」

「……、」

7: 2011/04/19(火) 16:12:36.24 ID:mDcPNMWN0
「君の言う通り、私も外交の方に腰を据えたいのだよ。
 いくらなんでもこのままという訳にはいくまい。
 針先にコップを乗せるほど絶妙なパワーバランスだ。
 そして戦争の発動権はイギリス清教にある。
 だが今回の件―――内側の問題はそれよりも遥かに重要の高いイレギュラーでな」

「? 内政にオレを使うのか?
 オレの役割は基本的に国々の摩擦熱を冷やす事だ。
 内政なら他にいくらでも代わりがいるだろうが」

「条件と環境的に君が適任なのだよ」

「?」

「まぁ細かい話は『コレ』を見てからにしてもらおうか」

 アレイスターがわずかに視線を動かすと同時、
 ピッ……と静寂な起動音を立てて巨大なビーカーの表面に



              『ソレ』は表示された。



「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!?」

8: 2011/04/19(火) 16:18:04.53 ID:mDcPNMWN0

 土御門は声ならぬ悲鳴を上げた。
 ぞくり……!!と背筋の下から上へ、雷火が回帰する。
 彼の本業は多角スパイだ。
 同じ釜の飯を食べた同僚を頃した事など数え切れないほどあるし、
 内臓が飛び散り、脳が裂け、目玉が飛び出た氏骸とも言えない氏体を見た事も何度もある。
 土御門元春は心を捨てられる器用な人間なのだ。
 だが、
 そんな土御門でさえ、目の前の光景は信じ難いものだった。
 そう。
 そこには――――――。






http://www.kotobukiya.co.jp/cgi-bin/db_sm_main_css.cgi?B=7907&N=detail01&C=901

http://www.amazon.co.jp/gp/product/B004TJFF8U/ref=nosim?ie=UTF8&tag=news009-22

9: 2011/04/19(火) 16:19:13.53 ID:mDcPNMWN0
「………………………………………………………………………………………………………、」

「君にやってもらいたい事はこれだ」

「……、……は?」

「8月に市場に乗るこの『御坂美琴・とあるメイド姿の超電磁砲フィギュア』10万体を
 事前に奪取してもらう」

「……はぁ?」

 土御門にはいくつもの顔がある。
 それは友人であり、生徒であり、兄であり、魔術師であり、スパイであり、頃し屋であり。
 しかし今の彼の表情はそのどれにも属さなかった。

(……)

 そこにあるのは何度見ても、どう見ても、
 日本が誇るオタクの戦略物資だった。
 土御門は目に手をやり、どっと疲れた表情をする。

10: 2011/04/19(火) 16:20:30.95 ID:mDcPNMWN0

「……アレイスター。オレは他人の趣味にとやかく口を挟むつもりはない。
 だがお前は別だ。
 何をふざけているんだ!? 今はそれどころじゃないだろうが!
 世界は今破滅の危機に瀕しているんだぞ!!」

「土御門。私は真面目な話をしている。君は『偶像の理論』について知っているか?」

「ああ? そんなもの知っているに決まってんだろ。
 神様や天使の力を上手く利用するための知識。
 応用すればそれらから力を分けてもらえたりする。
 ちょうど、『神の子』の処刑に使われた十字架に良く似たレプリカを
 教会の屋根に取り付けければ、本物が持つ聖なる力を享受でき―――、まさか……」

 自らの知識を口にする最中、土御門は喋るのを中断した。
 アレイスターは、まるで人の心を読んだかのように言う。

11: 2011/04/19(火) 16:22:36.14 ID:mDcPNMWN0

「そのまさかだ。
 このフィギュアの材料に魔術的な触媒が使用され、
 偶然にも超電磁砲とリンクしてしまったようでな。
 心の清い信者が毎日十字架に拝むと神の加護を受けられるように、
 これも使用方法さえ押さえれば超電磁砲の力が使えてしまうのだよ」

 ただしそれは本当にごくわずかな恵みだ。
 本物の0.000000000001%未満の力もフィギュアには宿らない。
 魔術世界には伝説的なレプリカ『聖なる飼い葉桶』というものが存在するが
 それでも宿る力はわずか数%が限界値だ。

「待てアレイスター。『偶像の理論』は神や天使と言った神聖なものにのみ宿る性質だろう?
 特定の人間を崇拝対象にするのはいつの時代も変わらない事だが、
 この理論が人間に対して適応されるだなんてのは聖書に載る者ぐらいのはずだ」

13: 2011/04/19(火) 16:24:21.82 ID:mDcPNMWN0

「神聖なもの、か。ではそれを決めるのは誰だと思う?
 人か、天使か、神か。
 人間は確かに、可能性という曖昧なものを考慮すれば恒久的に平等な生物だ。
 しかし現実はどうだ?
 生まれながらにして富を持つ者、
 生まれながらにして病を持つ者。
 生まれる事すらできなかった者。
 それと同じだ。人間は予め何者かに決められた『設定』上で動く盤上《ゴッド》の駒。
 それならば人間でありながらも、
『偶像の理論』が適応される者がいても何の不思議もなかろう」

「……、まぁいい。
 だが、何故今さら超電磁砲を? あんなもの、すでに一万体コピーがあるだろう。
 最近は応用兵器の開発に成功したとも聞いたが?」

「二万体のクローンを製造された悲運な少女……。
 流石の私でも、もうこれ以上の絶望を与えるのは気が引けるのでな」

「……、」

15: 2011/04/19(火) 18:23:44.39 ID:mDcPNMWN0
中途半端な所で区切ってしまったので少し前から。


「神聖なもの、か。ではそれを決めるのは誰だと思う?
 人か、天使か、神か。
 人間は確かに、可能性という曖昧なものを考慮すれば恒久的に平等な生物だ。
 しかし現実はどうだ?
 生まれながらにして富を持つ者、
 生まれながらにして病を持つ者。
 生まれる事すらできなかった者。
 それと同じだ。人間は予め何者かに決められた『設定』上で動く盤上《ゴッド》の駒。
 それならば人間でありながらも、
『偶像の理論』が適応される者がいても何の不思議もなかろう」

「……、まぁいい。
 だが、何故今さら超電磁砲を? あんなもの、すでに一万体コピーがあるだろう。
 最近は応用兵器の開発に成功したとも聞いたが?」

「二万体のクローンを製造された悲運な少女……。
 流石の私でも、もうこれ以上の絶望を与えるのは気が引けるのでな」

「……、」

16: 2011/04/19(火) 18:25:47.24 ID:mDcPNMWN0

 当然、アレイスター=クロウリーはそんな情に満ちた事を言う『人間』ではない。
 疑心の土御門にアレイスターはやや『人間』味のある、しぶしぶといった表情をする。

「……、ふむ。信じられないか。
 確かに、このようなものが私の生命維持装置に映し出されている事自体が
 君にとっては摩訶不思議だろう。
 すでに量産の利いている力の流出を恐れるというのも大義名分としては弱い、か。
 まぁ良かろう。任務に猜疑を垣間見ては隙ができ、失敗する事もある。
 本来そんなものを抱くようでは私の駒としては力不足なのだが、
 これは拭い切れないかもしれんな。
 ……話は逸れるが、君は十字教と仏教の違いを知っているか?」

「十字教と仏教の違い? そんなもの、数多あるだろ。いちいち上げたらキリがない」

「しいて一つ上げるとするなら、君はどうする?」

「……。
 信仰する神の数の違い。十字教では一神教が絶対で、仏教ではその辺りの縛りが緩い」

「そうだ。そんな事は子供でも知っている当たり前の事実だ。
 そして、『偶像』の考え方にも大きな違いがあるのだよ。仏教では『仏像』と呼ぶがね。
 仏教には数え切れぬ種の『像』が存在するが
 対して十字教には、一般人がマリア像を真っ先に思い浮かべて
 思考がそこで止まってしまうように『像』の数が圧倒的に少ない。
 何故ならば―――」

17: 2011/04/19(火) 18:27:36.95 ID:mDcPNMWN0
「人が唯一神を凌駕する新たな神を作らないため。
 そして誰も見た事のない神を形にできるはずがないためだ」

 土御門はアレイスターの言葉を遮るように言った。
 アレイスターは男にも女にも、大人にも子供にも、聖人にも囚人にも見えるその顔の唇を
 三日月のように鋭くして嘲笑した。

「ご名答。
 本来、十字教は偶像崇拝を禁止している。
 厳密に言えばマリア像は異端なのだよ。
 しかしそれならば、信者達が日々捧げる『祈り』の集合体はどこへ向かうと思う?
 十字教で禁止されている以上、『祈り』は否定されるのか?
 そしてその『否定』はどうなるのか?」

「……、」

18: 2011/04/19(火) 18:28:39.83 ID:mDcPNMWN0

「皮肉な事に、異宗教へ送られるのが実の所だ。
 過去にあった名立たる戦争も宗教同士の矛盾が契機なものが非常に多い。
 つまり、マリア像の信仰は十字教やその信者に『見返り』として向かわない。
 他宗教へ、十字教の否定材料として使われてしまうのだよ。
 それが仏教の場合、『偶像の理論』の逆に当たるという訳だ」

 仮説の段階だが『偶像の理論』には続きがある。
 本物が『偶像』に影響できるように『偶像』が本物に影響を及ぼす。
 つまり、逆流。
 かつて伊能忠敬という男は『偶像の理論』を応用して、
 本来ないはずのモノ―――空間を瞬時に移動するための出入口を
 強引に大日本沿海輿地全図に書き込む事で、
 日本列島には存在しないはずの渦を47ヵ所も作り上げた。

(……なるほど。それで超電磁砲フィギュアを)

19: 2011/04/19(火) 18:29:31.75 ID:mDcPNMWN0

 もし、何らかの力を封じ込める事で超電磁砲にも影響があるとしたら。
 そしてそれが神をも越える神をイメージされ続けたら。
 神格化。
 神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの(SYSTEM)というフレーズを土御門は反芻した。

「材料の出所は『グループ』の一人に押えさせたが、肝心のモノはすでに発送済み。
 幸い、まだ市場に出回る期間ではないため一般の利用者までにはバラついておらず、
 全て一箇所に集められ保管されている。
 君には全てのフィギュアを奪取し、
 幻想頃しを使ってフィギュアの力を打ち消してもらう。
 廃棄はするな。
 10万体の偶像が廃棄されたとなれば記事の片隅程度には載るだろうからな。
 効力を撃ち頃した後、元に戻す。それが今回の任務だ」

 なるほどと、土御門は舌を巻いた。

20: 2011/04/19(火) 18:31:20.01 ID:mDcPNMWN0

(それで、フィギュアに関わっても問題がなさそうな人格のオレが選ばれたって訳か。
 オレならカミやんに接近するのも容易い。
『グループ』には運搬に使える空間移動の結標と超電磁砲を気に入っている海原もいるしな。
 材料の出所を押さえたのはおそらく海原のヤツだろう。
 オレはこれ以上ない適任者って訳だ。
 それに、御坂美琴と言えば欠陥電気に絶対能力者進化計画……。
 素体としてあちこちで使われている。
 魔術を妨害する『アレ』も妹達の電磁波が必要不可欠だ。
 10万体を公式処理するのはいくらなんでも目立ちすぎる。
 たかがフィギュアと言えど、こちらの最重要戦力《切り札》のカラクリを
 チラつかせる事はしたくないって所か)

 だが。
 それすらもフェイクなような気がしてならない。
 もっと重大な事実が隠されているような気がするのだ。
 そもそも、
 学園都市の至上目的であるLevel6が目の前にあるというのに何故それを放棄するのだろう?
 いくつか仮説は立てられる土御門だがここはグッと堪える。

「ダミーの品はこちらで用意してある。
 君の役割は『グループ』の指揮と、幻想頃しに働きかけるよう促す事だ」

21: 2011/04/19(火) 18:32:46.31 ID:mDcPNMWN0
 ――――


「っつーワケでカミやーん。今からこれに全部触って? 一日以内だよ?」

「ふざけんな! なんだこれ?
 テメェ、無許可で人んちにこんなどっさり萌え系フィギュアを詰め込んでんじゃねえ!!
 これ一体何体あんだよ!?」

 絶賛無能力者の上条当麻はリビングに収まり切らず
 廊下にまで侵食した箱入り娘《レールガンフィギュア》を見て渾身の叫び声を上げた。

「んー、ざっと10万ってトコだにゃー」

「じゅっ!? 妹達の五倍じゃねーか!?
 なんだ、美琴のヤツは量産される宿命にあんのか!?」

「……あるんだろうなぁー」

「遠い目して赤の他人決め込んでんじゃねえ!
 っつか培養器に詰め込まれた人間に見られてる気分だぞオイ!
 妹達《シスターズ》ってこんな感じにずらーと並んでたんじゃねーか!?」

22: 2011/04/19(火) 18:34:12.11 ID:mDcPNMWN0

「とうまとうま。ちっちゃい短髪がいっぱいいるけどこれって何の儀式?
 萌えという文化を応用した脳内回復魔術の一種?」

「静まりたまえインデックスさん!
 時は一刻を争う。
 何言ってもどうせやるしかねーんだ!
 さっさと始めてさっさと終わりにするぞ!」

「物分りが早くて助かるにゃーカミやん。ではオレはこれにて」

 などと告げた直後、長身の土御門の腹のド真ん中に勢い良く正拳突きがめり込んだ。
 上条の仕業である。アスリート並みに鍛えた大の男でも一撃で粉砕する強力な拳は
 ドグッシャアァァァア!!という暴力的な音を鳴らして、土御門を部屋の奥へと叩き込む。
 その後で上条はガチャリと鍵をロックした。

23: 2011/04/19(火) 18:35:45.67 ID:mDcPNMWN0

「テメェも付き合え土御門! 10万体っつったら1体1秒でも間に合わねえ計算だろーが。
 三人いれば、箱を開ける係、触る係、箱に仕舞う係で分担が可能なり―――ッ!」

「えーっ!? 私もやるの!?」

 やだぁ!!と叫ぶインデックス。
 上条は内心げっそりする。
 あれこれあって、まぁそこそこ感動的な再会を果たした二人だったが、
 かと言って今までの関係に何か変化があった訳ではなく、
 相も変わらず上条は面倒を見る《尽くす》側、
 インデックスは面倒を見られる《尽くされる》側だ。
 確かに上条自身、インデックスとは今まで通りが良いと思ったが、
 何もそこまで不変じゃなくてもいいのでは?と日夜心に抱きつつも料理の腕はうなぎ登り。
 と、そんな感じなのでインデックスには絶対に働いてもらう方向で上条は話を進める。

「土御門、お前って実は器用だろ? 折り紙とか使ってるしさー」

 上条は箱を一つ手に取ると開封部分を指差した。

24: 2011/04/19(火) 18:39:17.82 ID:mDcPNMWN0

「不幸な事に、これらフィギュアにはすでにシールが貼り付けられている。
 一旦剥がして箱を開封しないといけない訳だ。
 しかも売り物だから丁寧に扱わねーとならねえ。箱の塗装を剥がすなんてご法度。
 この重要かつ精密な役割は土御門軍曹に命ずる」

「ごふっ……強く、強くなったな……カミやん……」

 上条に野晒れて天を仰ぐ土御門。
 なんだか全く別の物語が進行して妙に咬み合わない三人だが、
 上条は土御門へほいっと箱を投げる。

「ほら、さっさと始めるぞ。善は急げだ。
 インデックスはフィギュアを戻してシールを貼り付ける係な。
 触るだけじゃ俺が楽しちまうから、お前らをサポートしてやるよ」

25: 2011/04/19(火) 18:40:46.44 ID:mDcPNMWN0

 むぅと、まだ納得がいっていなさそうなインデックスへ上条は餌を一つ投下する。

「はぁ、仕方ねえなぁ。ちゃんとやったら明日焼肉に連れっててやる」

「了解なんだよカミジョー大元帥様」

「うむ。物分りが早くて助かるインデックス書記官」

 ―――――

 一方通行が抜けた今、『グループ』は土御門を含めて三人。
 その内の二人、結標淡希と海原光貴は前半の任務を終えて食事をしている所だった。

「いいのー? 一つくらい盗んであげたって良かったのよ? 超電磁砲フィギュア」

「いえ、今の自分は暗部の人間ですから。
 模型と言えど、汚れた手で御坂さんに触りたくないんです」

26: 2011/04/19(火) 18:41:18.79 ID:mDcPNMWN0

「ふーん。損しそうな性格よねアンタ。掻っ攫おうって気はないワケ?」

「自分にはそんな勇気はありませんよ。第一、それでは御坂さんが笑ってくれない。
 御坂さんが笑ってくれなければそんな事をしても意味がない。
 御坂さんの心も魂も、いつも『上条当麻』にあるんです。自分が出る幕はありませんよ」

「……、だったらなおさらフィギュア奪って来てあげたのに」

「いえ、そもそもその必要はありません。
 自分はすでに、クリーンな財産で予約した身ですので」

「ってうぉい!」

 ―――――

27: 2011/04/19(火) 18:42:12.13 ID:mDcPNMWN0

 上条当麻とインデックスと土御門元春の三名は順調に作業を遂行中だった。
 土御門が一つ一つ箱を開けて、上条が触り、インデックスが仕舞うというやり方は
 非常に効率が悪いので、土御門と上条の二名がいくらかまとまった数のフィギュアを
 取り出し、それを上条がベルトコンベア式に高速で触っていくというのが当面の方針だ。

「しっかしすげーいい出来だなこれ。
 本物のアイツはこんな媚びた表情しねーけど、なんつーか、再現率高けぇな」

「……本当に、時代は良い方に傾いたんだにゃー……」

「土御門?」

 上条が不審人物を見るような目で、フィギュアを眺める土御門を見るが土御門は気にせず
 ほっこりした笑みを口に浮かばせ、シールを丁寧に剥がしてフィギュアを並べていく。
 上条はフィギュアを一つ手に取って何となく眺め出す。

28: 2011/04/19(火) 18:43:04.96 ID:mDcPNMWN0

(そういえば、コイツのパンツとか裸とかって見た事ねーんだよなあ。
 いや、別に見たいのではなく……。
 ……。
 って、メイド服でも短パンは穿いてんのかよ! どんだけガードが堅てぇんだ!?
 あっ、お? なんか短パンの奥に白い生地が……いやいや何してんだ。人様がいる前で)

 などと考えつつも、フィギュアをねっぷり眺める上条は
 今度は角度変えて眺める。

(……、胸結構あるな)

「とうま。鼻の下が伸びてるんだよ」

「うぐっ」

「まぁそれも仕方ないぜい禁書目録。超電磁砲のルックスは抜群だからにゃー。
 10人いれば10人が振り向いちまう。
 最近は色気づいてますます綺麗になったって舞夏が言ったくらいだからにゃー。
 どこぞの『あの馬鹿』さんが羨ましいぜい。
 オレだって舞夏がいなかったらケーオーされてたかも」

29: 2011/04/19(火) 18:47:58.53 ID:mDcPNMWN0

「オメェはメイド服さえ着てりゃ何でも良いだけだろうが」

「馬鹿野郎! テメェみてーな安直な考えを持つクズ野郎がいるから
 メイドという文化が誤った形で伝播されていくという事実に何故気づかない!?
 いいか、メイド服とは掛け算だ。
 例えば素の御坂美琴を数値10としよう。
 それにメイド服を着せるとどうなるかにゃー?」

「……、」

 上条は手中にあるフィギュアをちらっと見る。
 そりゃまぁ、御坂美琴という少女は普通に美少女の分類だ。
 そんな美琴がメイド服を着て、奉仕してくれたら?
 いつもの性格のまま、慣れぬメイド服にわずかに頬を赤らめて、
 上目遣いで『ごっ、ご主人様……』と無理をして言ってくれたら?
 そう、
 ちょうど、このフィギュアのような表情で。

30: 2011/04/19(火) 18:54:58.47 ID:mDcPNMWN0

(……、ふむ)

 上条はちょっと考えてみる。
 シチュエーション①、罰ゲームか何かで勝ち取った1日自由権を使って服を着させ、
           ただひたすらに羞恥心を与える。
 シチュエーション②、①に加えて、紅茶を入れさせたりメイドジャンケンをさせる。
           敢えて強気なキャラが強気なりにメイドを頑張ってみるという
           一度に二度美味しいパターン。
 シチュエーション③、①②に加えて、わざとご主人様(かみじょう)の股間に紅茶を零させ、
           股間を拭かせる『も、申し訳ありませんご主人様……!』的な
           ケシカラン展開に持ち込む。

(いや御坂じゃせいぜいシチュ①が限界だってシチュ②③とかありえねーよ
 シチュ③だった嬉しいけど使用券ゲットしたとしても上条当麻の人生で
 そんなステキフラグ立った事ねーよでもシチュ③だったら……だったら?)

31: 2011/04/19(火) 19:04:54.67 ID:mDcPNMWN0

 ……。
 ……おお。
 ハッ!?と、数秒間沈黙していた上条は、そこでようやく現実世界へと戻ってきた。
 上条はメイドが見せた煩悩《まぼろし》を振り払うべく絶叫する。 

「うぼあ! コーコーセーを舐めるでない! 所詮はチューガクセー!
 そのような一部の人しか喜ばない展開で動揺する上条当麻と思うてか!」

「異議あり! 上条元帥! 今『ちょっといいかも』と思ったろう!」

「私も異議あり! 鼻血が出てるんだよとうま! 私の時は柿ピーだったくせにー!」

 土御門とインデックスの人差し指にズバァ!!と同時に指差されて、
 上条は肩をビックゥ!!と大きく動かす。

「うぁ、ちょ、マジで出てやがる!? フィギュアに付いたらヤベーぞ!?
 インデックス、ちょっとそこのティッシュ取ってくれ」

「えOちな子羊に救いはないんだよ。勝手にするといいかも」

32: 2011/04/19(火) 19:08:27.73 ID:mDcPNMWN0

 インデックスはそれだけ言うとフィギュアを一つ手に取って土御門の真似事をする。
 なんだよ連れねーなーと存外に扱われて少々悄気た上条は
 インデックスの近くにあるティッシュをシュッ!と抜き取って鼻に詰めた。

「ねーちんの堕天使工口メイドでもぎりぎり踏み止まったカミやんを陥落するとはにゃー……。
 恐るべし、メイドレールガン……」

「ふ、ふんだ。私のメイドフィギュアもその内発売されるもん。
 私の方がメイド服になったの早いもん!」

「んな事言ったら上条さんフィギュアはいつ出んだよーまじさー……?
 超電磁砲布陣ばっかり発売しやがってよー。
 右手を前にかざしてるポーズのアレさ、もう出ても頃合いだろ?
 走り出しそうなポーズのフィギュア、作ってくれたっていいじゃねーかよー……?
 一度発売して売上さえ証明しちまえば後は雪だるま方式でバンバン出せんだろーが!
 いい加減始めようぜ、彫刻家《フィギュアメイカー》!」

「二人とも。ただでさえ微妙な世界観なんだからちったあその辺察してくれにゃー……って」

33: 2011/04/19(火) 19:13:18.75 ID:mDcPNMWN0

 ここで、土御門は一つの可能性に気づいた。
 箱とフィギュアの土台には商品保証番号というものが付いていて、
 万が一不良があった場合に証明としてその番号を提示しなければならないのだ。
 土御門は並べられたフィギュアと積み上げられたパッケージを交互に見る。
 フィギュアこそおおよそ順番通りなものの、適当に積み上げられた箱を、だ。

(……、あるぇー?)

「待てカミやん。フィギュアとパッケージの商品番号って連動してるっけ?」

「あん? そんな事俺が知るかよ。何だかんだ言っても俺はそちらの人達じゃないんだぜ?
 フィギュアの詳細について深く知ってる訳ねーだろ。
 その辺はお前が管理してくれてんのとばかり思ってたけど?」

「………。」

「……、オイ。テメェまさか……」

34: 2011/04/19(火) 19:17:35.62 ID:mDcPNMWN0

 数秒間、沈黙の中で見つめ合う上条と土御門。
 しばしの後、土御門はドバァ!と立ち上がって部屋を出ようとした。
 そこを上条がグガ!!と力の限り抑えつける。

「離せ上条!! オレは舞夏と外へ出る!
 オーストラリアに白い家を立てて二人だけの幸せな家庭を築くんだにゃーっ!!」

「待てこの野郎! 学園都市から逃げられると思ってんか!? んな事しても無駄なんだよ!」

 ぎゃあああ!と、二人がまるで、ハリウッド映画の主人公と敵役が
 一つの宝を取り合い互いを蹴落とすかのような攻防を繰り広げていると、
 インデックスがこう一言。

「それなら心配には及ばないよ。偶像と箱のペアは全て記憶しているから」

35: 2011/04/19(火) 19:20:13.67 ID:mDcPNMWN0

 ピタリ、と上条と土御門の動きが止まる。
 インデックスは一度記憶したものを絶対に忘れない完全記憶能力者だ。
 配置さえ変わらなければ、インデックスの記憶通りに事は進むだろう。

((……、))

 二人の男は一度至近距離で見つめ合った後、
 ドザァー!と、インデックスの足元へ飛び込んだ。

「「書記官様ーっ!」」

「何それーっ!? 書記官を拝める宗教なんて聞いた事がないけれどもーっ!?」

 ――――――

36: 2011/04/19(火) 19:24:20.98 ID:mDcPNMWN0

「ふぅ、とりあえず10000体ぐらいか?
 ここまで来ると壮観だなあ。
 実際の妹達ってこんなにいたのかよ?
 下手すりゃ日本の軍隊より遥かに強ぇんじゃねーか?」

「電磁波でネットワークを構築しているから連携も抜群だしにゃー。
 良く良く考えてみりゃ、あの娘達もれっきとした学園都市の戦力って訳か」

「む。あんま血生臭い事言うんじゃねーよ。アイツらは人間だ」

「うおっとこれは失礼。侮辱する気は毛頭ないぜい?」

「……。っつーかお前本当に器用なヤツだよな。
 まさか一つ0.1秒で取り出していくとは……。
 しかもそんな高速作業の中にも匠の技を感じると申しますか。
 一つ1分のインデックスよりもずっと丁寧だ」

「……私の真価はこのあとだもん。まとめるのが私の真価だもん」

「何しょげてんだよインデックス。別に貶した訳じゃねーぞ?
 っつーか普通、シールを丁寧に剥がそうとすればそれくらいかかって当たり前だろ。
 俺だってどんなに早くてもせいぜい30秒がいい所だ。
 お前はお前の役割を熟せばいいんだよ」

37: 2011/04/19(火) 19:25:39.46 ID:mDcPNMWN0
「……、とうまはズルイかも」

「へ? 何が?」

「ふ、ふん。べ、別にとうまの事なんてどうでもいいし! 
 私が記憶してるのはとうまのためじゃないんだからね!」

「オイ。それはお前のキャラじゃねーだろ。お前もめんど臭い人種の仲間入りかぁ?」

「うっ、うるさいんだよ!
 さっさとこの並びに並んだ10000人のチビメイド短髪に触って!」

「ヘイヘイ」

 さて、と上条は10000体の御坂美琴フィギュアを目の前にして
 ウォーミングアップも兼ねて首をコキリと鳴らす。

38: 2011/04/19(火) 19:35:38.00 ID:mDcPNMWN0
 
(始めてから5時間弱か。コイツらと喋りながらやってたから割と短く感じたなぁ。
 これも平和だからこそ感じられうる日常の一環かぁ?)

 などと適当に感じる上条は、
 走り出した。

「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!! 秘技、幻想頃し乱れ打ち!!」

 バギバギぎぎぎぎぎぎバギンバギバギバギバギバギババばバギバギン!!と、
 ペットボトルの山をブルトーザーで踏み付けるような音が鳴り響く。
 精密な売り物を扱っているにしては耳を塞ぎたくなる音だが、
 上条は何もフィギュアに殴り掛かっている訳ではない。
 上条は人差し指だけを立てて、フィギュアの頭を軽く触りながら走っているだけだ。
 幻想頃しの効果音《エフェクト》が轟き渡る。

 ――――――

39: 2011/04/19(火) 19:39:33.66 ID:mDcPNMWN0

「うだー、ようやく半分ってトコか。
 何だかんだで余裕じゃねーか。やり始めてまだ5時間だぞ?」

「とはいっても、さすがに疲れたぜい。ちっと休憩~」

 土御門が腰を撚るとゴギゴキゴキと鉄骨を無理矢理曲げたような鈍い音がする。
 しばらく体を伸ばした土御門は、最後に指の骨を鳴らすと。

「さて。作業再開っと」

「随分早いなオイ」

「ふふん。ついでに言うが、しばらく外しててもいいぞ?」

「え、マジか? お前どうしたんだよ?」

「平和な作業に心を奪われてにゃー。
 もしかしたら、このまま本当の平和がくるんじゃねーかってな具合にな」

40: 2011/04/19(火) 19:45:55.32 ID:mDcPNMWN0
「土御門……」

「まあ本音を言うとだな、カミやんがいてもあまり変わらないしにゃー。
 49800体以上オレが開けた訳だし。
 缶コーヒーの一つでも買ってきてくれると助かりますたい。
 もしくはあま~い物でも調達してきてくれにゃー」

「ぐっ、俺は役立たずのパシリかよ……」

「カミやんはカミやんにしかできない役割を熟せばいいんだぜい?」

「……、なるほど。インデックスはどうする? 一緒に来るか?」

「私も私の役割を熟すんだよ」

 インデックスは土御門の目にも留まらぬ作業をじーと眺め続ける。
 おお、と上条は感心した。
 この作業、この三人の内誰かでも一人でも欠ければ成し遂げられなかった事もあるが
 インデックスの姿勢について、上条は感心したのだ。

41: 2011/04/19(火) 19:49:44.49 ID:mDcPNMWN0

(そっかー。コイツは褒めれば伸びるタイプだったか。なら問題は包丁を握らせるまでだな)

 献身的なインデックスに対して上条はやや腹黒い事を考えるが……
 忘れてはいけない、本来居候というのは天草式の少女五和のような姿勢が正しいのであって
 インデックスはこのままでは、まぁ俗にいうニートだ。
 そんな事を考える上条へインデックスはこう注文する。

「私はプリンとおにぎりがいいんだよ」

「ああ、賢明だな。ポテチとかだと油がフィギュアに付いちまうし」

 ――――――――

42: 2011/04/19(火) 19:53:07.82 ID:mDcPNMWN0

 上条当麻は近くのコンビニに向かっている所だった。
 長時間細かな作業をしたために目や腰が異常に凝り、
 外の空気が一層美味しいものに感じられた。
 天気は快晴。
 ただし、ジトッとした暑さはなく丁度良い気温が体に心地良かった。
 冬に入りつつある季節の移り目。
 こんな日が来るのは今年で最後だろう。
 そんな事は考える上条の視界に。

(ん? あ、御坂じゃん)

 件の少女、御坂美琴が入ってきた。

(ずいぶんキョロキョロして……何やってんだアイツ?
 つかこの辺って常盤台のお嬢様には無縁の所じゃねーか?)

43: 2011/04/19(火) 19:58:07.49 ID:mDcPNMWN0
 人探しをしている風体だった。
 あれだけ物言わぬフィギュアを見ているとどこか馴染みはあるものの、
 普通に人間として動いている事が少しだけ奇妙な感じに思えた。

(土御門のヤツは綺麗になったっつったけど……
 確かにここから見ても綺麗、ではあるなあ。
 前に比べると女の子らしくなったっつーか……って何で俺は電柱の影に隠れてんだぁ?)

 やましい事など何も……と考えて、
 フィギュアにあれこれ妄想するのはなかなかアウトの分類なのでは?と上条は一考する。
 いやしかし、あれは御坂を助けるためであってブツブツブツ……とそこまで頭を捻ると、
 彼は美琴へ近づいていった。

「んー? あれ、やっぱり御坂じゃん。誰か探してんの?」

「ッッッ!?!?!?」

 後ろから声をかけたのがまずかったのか、
 美琴は肩をビックゥ!!と大きく揺らした。

44: 2011/04/19(火) 20:02:41.07 ID:mDcPNMWN0

「にゃっっ、あ、アンタ、いつから見てたにょ!?」

(にゃ? にょ?)

「んー? ほんのちょっと前からだけどー? で、誰か探してるワケ?」

「あ、ぅ……その……」

 何やらモジモジする美琴だった。
 ふむ、と上条は目線を合わせようとしない美琴を何となく観察し出す。
 頬が高翌揚し、うずうずと何か伝えたいような表情。
 拳はぎゅう!と力強く握り締められていた。

(あれ? コイツ……もしかして……?)

 ピクリ、と感づく。
 おそらく、数万体の美琴を見たせいだと思う。
 なんだか些細な変化でさえいちいち気づいてしまうのだ。
 そう。
 美琴の事が、今なら何となく分かる。
 ドキドキと高鳴る心臓の鼓動に打ち拉がれ、上条はこう思った。

46: 2011/04/19(火) 20:08:21.94 ID:mDcPNMWN0

(コイツ……なんか、胸でかくなってね?)

 んー?と、美琴の視線があちこちに泳いでいるのを
 良い事に美琴の胸へ焦点を合わせる。

(た、確かフィギュアの胸ってこんなだったよな?
 なのにコイツのはどうだ?
 神裂までとは言わずとも、下手すりゃ五和……いやそれも言い過ぎか、
 姫神程度にはあるんじゃねーか?
 チューガクセーにしちゃすげーでけえ方なんじゃ……)

 ごくり、という音が自らの生唾を飲み込む音だと気づくのに少し時間がかかった。
 実は、その情報を土御門に伝えれば事態は速やかに解決したりする。
 というのも、『偶像の理論』はあくまで『模型《ミニチュア》』でなければならないのだ。
 十字架を石転に置き換える事は不可能のように、
 本物と偶像の間に何か違う所があれば二方のリンクは切断される。
 この話は『法の書』の一件で上条もインデックスから教えてもらった……のだが
 彼の脳では駄目だった。
 そのため上条はそのあたりを全く気にせず、割と性的な目で美琴をじーと見つめる。
 そんな彼の視線に耐え切れず、美琴は更にテンパッていった。

47: 2011/04/19(火) 20:11:51.55 ID:mDcPNMWN0

「う……ぁ、あの、わ、私……あ、アンタの事が、ええと、私の……ぅわ……」

「え、何? 良く聞こえねぇんだけど。
 っていうか、お前、何でいきなりビリビリ出してんだ……? お、おい、暴走してるぞ?
 お前なんか全身がものすごくビリビリっつーかバチバチいってんだけど
 俺なんか悪い事したっけかーっ!?」

「うぅ、ぐっす、ひっく、ば、馬鹿ァァあああああああああああああああああああああ!!」

「何でだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 バヂバヂバッヂィィィィン!! と心臓に悪いスパーク音が炸裂する。

 ――――

48: 2011/04/19(火) 20:15:34.46 ID:mDcPNMWN0

 美琴はいずこへと走り去ってしまった。
 何なんだよアイツー俺は御坂のためにせっせと頑張ってんのによーと
 訝しげな態度の上条はコンビニで指定物を購入していく。
 店内を出て、家に向かう途中。

(あれ? また御坂だ。さっき俺が隠れた所にいるけど……)

 走り去ってしまったはずの美琴は電柱の影からチラチラと上条を疑っていた。
 どうやら上条が勘づいている事に気づいてないようで、
 電柱の影に隠れては覗き隠れては覗くの、
 ぶっちゃけた話が不審者っぽく見える挙動不審っぷりだった。
 そこまで挙動不審だと上条はむしろ自分に非があるような気がして
 身嗜みをくるりと見渡すが特におかしい所はなかった。

(なんだぁアイツ? 俺に何か用でもあんのか?)

49: 2011/04/19(火) 20:19:19.75 ID:mDcPNMWN0

 そういえば、と上条は携帯電話を取り出す。
 上条と美琴の携帯電話は相当なまでに相性が悪いらしく、
 ロクに通信をできた試しが……都合の良い時だけは割とよく繋がる。
 もしかしてまたスパム扱いになってんのかなと上条はピピピと携帯を弄るが
 特に受信しているものはなく、メールボックスにも新着メールを着信した様子はなかった。

(んー……なんだろう?)

 こちらから会いに行くべきなんだろうか?と乙女心の分からぬ上条だが
 美琴の方から来ない以上、何か都合の悪い事でもあるのだろうと適当に考えて帰宅帰宅。

「~~~~~~ッ!!」

 しかし、上条が別方向に足を運ぼうとすると美琴は爆発しそうな顔で何か踏ん張り始める。
 まるで、電柱に張り付いてしまい声も出ません助けてくださいと言わんばかりの必氏さだった。

(う――――――――――――――――――ん)

 もしや魔術に影響されておかしくなっているのだろうか?
 ……まぁ、今日は御坂美琴救出デーとかそんな感じの日だろう。
 そんな事を頭に浮かべつつ上条は美琴の方に向かった。

50: 2011/04/19(火) 20:21:13.43 ID:mDcPNMWN0

「御坂、さっきから何してんだぁ? ずいぶんストーカチックな事やってますなオイ」

「!! アンタ気づいてて……! って、誰がストーカーよ誰が!!」

「物の喩えのつもりだけど……というか電柱から出てこいよ?
 俺に何か用事があんじゃねーの?」 

「~ッ!!」

 うぅぅぅぅぅぅぅぅ!!と唸り、
 ものすごく人見知りの激しい猫のように美琴は動こうとしない。
 やがて彼女は、拳を力の限り握りしめて今にも殴り掛かるように。

「~~ッ!! こ、ここここ、これ返すわよ!! もう無くすんじゃないわよ!!」

「いだぁ!?」

 美琴はスッパァーン!と上条のデコに何かを投擲した。
 彼のデコに当たり一度宙に浮いたソレは上条の手の中にすとんと舞い込んでいく。
 それだけ言うと美琴はトタタタタターっ!と走り去ってしまった。

51: 2011/04/19(火) 20:23:57.46 ID:mDcPNMWN0

「痛ててて。何なんだよアイツ。思春期特有の……って言っちまって良いのか?
 それともやっぱり嫌われてんのかねえ―――って、んん?」


 ――――――

 作業は無事に終了した。
 フィギュア10万体を全て触り、きちんと商品として未封状態に戻したのだ。
 なかなかやり甲斐のある仕事だったなと上条は感じた。
 インデックスが自分の役割を自覚して、働き、それを喜びとしてくれる事。
 時々、土御門の表情が妙に落ち着いてて、
 やっぱり根は悪い奴じゃないんだなと思えた事。
 そして、10万という数字を捌けた事。
 あとからしてみれば、今日はなかなか良い日だった。

「あとは出荷を待つだけか。っつっても、発売日は8月下旬だけどな」

「ふぅ、疲れたんだよー。仕事の後に食べるプリンはまた格別かも」

「そうだろインデックス!? その喜びを家事という名の仕事にぶつけてみないか!?」

「んー、当分はいいんだよ」

52: 2011/04/19(火) 20:26:01.94 ID:mDcPNMWN0

「……、」

「ったく、えらい目にあったぜい。
 まさか20世紀最大の魔術師がこんなくだらねえ事頼んでくるとはにゃー。
 こんな感じで時代の流れがいい方向に傾いてくれると嬉しいぜい」

「……、あー。上条さんは肩が凝ってしまいましたよ。
 っつか、思ったよりも早く終わったし、今からでも焼肉屋に行くか?」

「本当!? わーい! お肉! お肉! おっにっく!」

「そんなにはしゃぐなよなインデックス。
 土御門もどうだ? 今日の上条さんは気分が良いので奢って差し上げますが?」

「おおっ、恩に着るぜいカミやん。なら、青髪や吹寄や姫神達も誘ってみるかにゃー?
 飯は大勢で食った方が美味しいぜい?」

53: 2011/04/19(火) 20:32:00.26 ID:mDcPNMWN0

「いいけど、そこまでは奢らねーぞ? いくらなんでも支払えねーよ」

 分ぁーってるってと土御門は言うとさっさと連絡網を回し始めた。
 いやーさすがに疲れたなと上条は肩を鳴らす。
 そのあとで、夕日に彩られた外の景色を眺めた。

(こんな日もあるんだなあ……)

 上条がなんだか感慨に耽っていると、
 プルルルルと、ポケットの中の携帯電話が着信音を鳴らして小刻みに振動した。
 彼は携帯を取り出して開いた後、画面に表示されている番号を見てこう一言。

「御坂か」上条は着信ボタンを押す。「もしもし、上条さんですが」

『あ、も、もしもし。美琴、だけど』

54: 2011/04/19(火) 20:33:13.28 ID:mDcPNMWN0

「何か用か?」

『……アンタ、アレちゃんと付けてんでしょうね?』

「んー、捨てちまったけど? だって汚ねぇんだもん」

『…………………。』

「じ、冗談だよジョーダン! なんだよ、今にも自頃しそうな雰囲気出しやがって。
 ちゃんと『ここ』に付けてますの事よ」

 上条は携帯の下の部分をとんとんと、美琴に聴こえるようにして軽く叩いた。
 そう。
 電話の下部分には、
 大きな力で裂かれて無くしてしまったはずのゲコ太ストラップが付けられていた。

「お前、これどこで見つけたんだぁ? てっきり海に落としたのとばかり思ってたけど」

『だ、だから海で拾ったのよ。
 ったく、美琴サマがあげたんだからちゃんと大切にしなさいよね』

55: 2011/04/19(火) 20:36:02.75 ID:mDcPNMWN0

「拾ったって、どんな確率だよそりゃ……。テンモンガクテキ数値じゃねーか?
 ご丁寧に紐を一新してくれやがってよ。気が利くというか何というか」

『な、何よ。そんなにゲコ太が嫌なワケ?』

「いーや。長く見てると、なかなか愛らしいキャラクターに思えてきたぞ?」

『ほ、本当に?』

「嘘じゃねーよ。ま、慣れってヤツですな。
 で、要件は何だよ? それだけ聞きに掛けてきた訳じゃねーだろ?」

『あ、う、うん。……ご、ごほん。え、ええと、あのさ、……今度、私と』

「あ、そうだ。これからクラスの連中と焼肉食べに行く事になってんだけど、
 良かったら御坂もこねーか……って常盤台のお嬢様に下々の焼肉屋なんて―――」

56: 2011/04/19(火) 20:41:44.60 ID:mDcPNMWN0

『今すぐ行くから場所教えなさいさぁ早く!』

 キ――――ンと鳴り響く女の子特有の甲高い声に上条は耳を塞いだ。
 
「あ、ああ。まだ場所は決まってないからあとで知らせるよ」

『……、それだと私が放置される展開しか思いつかないんだけど』

「……そうだな。じゃあお前がちぇいさー言ってる自動販売機の前に集合な。
 これなら問題ねーだろ?」

『ち、ちぇいさー言うな! 何よ。アンタに言われたからもうやってないってのに……』

「おー、その調子でビリビリ癖も直していただけると上条さんは有り難いのですが」

『うっ、うっさいわね。……自販機の前ね。待ってるから早く来なさいよ』

 ブツッと、美琴はさっさと通信を切ってしまった。

57: 2011/04/19(火) 20:44:04.11 ID:mDcPNMWN0

「ビリビリは今後も継続の方向かぁ。
 ……土御門。インデックスを先に連れていってくれねーか?
 俺、一人連れてくるヤツがいるからさ」

「了解ですたい」

「とうま、その連れてくる人ってのはどこの誰なんだよ?
 なんだかとても嫌な予感がするんだけど」

「んー? まあ見てからのお楽しみって事にしとこうぜ」

「むぅ、とうまがこう言う時は大体新しい女の子なんだよ。
 それで魔術師との抗争に巻き込まれて結局約束破るし」

「お前がそれを言ってくれたおかげでその手のフラグはおおよそぶち壊されたと思うぞ」

 上条は二人と別れて待ち合わせの場所に行く。
 こんな日もあるんだなと彼は心の中で呟いた。
 多分、こんな日が来るのは今年で最後だろう。
 なら、今日くらい皆が望む普通の一日《へいわのひ》にしてくれよと
 上条当麻は呟き、走り出した。

58: 2011/04/19(火) 20:48:34.89 ID:mDcPNMWN0
以上です。
本当は100レスぐらいは書きたかったのですが、
蛇足になるっぽかったのできりの良い所で終わりにしときました。
短い間でしたが読んでくださってありがとうございます。

59: 2011/04/19(火) 20:52:56.45 ID:E25di2bj0

60: 2011/04/19(火) 21:07:58.76 ID:DMwMUiPAO
乙、結局何がしたかったのか分からなかったぜ

61: 2011/04/19(火) 21:21:20.44 ID:YDHcfxE7o

イイハナシダッタナー

引用: ☆「やってもらいたい事がある」