148: ◆af.vRnw4.M 2014/11/03(月) 13:51:59 ID:wnn5W/P20
「私には放課後ティータイムしかないんだっ!!」
149: 2014/11/03(月) 13:52:48 ID:wnn5W/P20
昔からそうだったな。
昔から、ずーっと悩んでた。
そんで、高校、大学、各時期に1、2回ぐらいずつ、ゴネて迷惑かけた気がする。
私の……ドラムの腕のことでさ。
放課後ティータイムがデビューしてから、もう5年ぐらいになるのか。
あのころは、本当にプロになれるなんて考えてなかったよな。
口では武道館とは言ってたけれど。
なんだか知らないけど、いつの間にかデビューしてた。
がむしゃらにやってたら、私達はいつの間にか結構なレベルに達していたらしい。
デビュー曲から今まで、いい曲に恵まれてきたし、毎回ヒットもしてた。
音楽家として申し分ないぐらい、私達は輝いてたんだ。
私のドラムにも、たくさんファンがついてくれた。
こんな適当な自己流ドラムだけどさ。
すぐ走るけどさ。昔に比べたら、そりゃマシになったけど……
「りーつ。また何か考え込んでるな」
……え? ああごめん澪。もう行かなきゃな。
「律……」
やっべ、こりゃ見透かされてる。
そりゃそうだよな、もう何度目だよって感じだし。その度に澪には迷惑かけたり、慰めてもらってたし……
ダメだ、考えるな私っ! 私のドラムは最強だいっ!
「……いい顔になったな。じゃ、行こう」
……この話題のときの澪はいつもキザなこと言うよな。
「う、うるさい! レコーディング、失敗するなよ」
はーいはい。
ということで今は、この次の冬に出す新曲のレコーディングをしてる。
その後には全国ツアーも控えてる。
どう? 順調っしょ?
いやー自分で言うのもなんだけど、今放課後ティータイムはかなりアツいんだぜ~。
デビュー時はそりゃ騒がれたさ。
アイドルみたいな扱いだった。ガールズバンドだからってのもあるかな。
曲も一風変わったのばかりだしさ、主に澪の詩のせいで。
でも演奏面でバカにされたくないから、みんなでかなり練習したな。
澪とか梓とか、すんごい張り切ってた。
女だから売れたって言われたくないですー! ってな。
どっかで聞いたセリフだな……あ、そういえば同じ理由で髪バッサリ切った奴がいたっけ。
まぁそれはいいとして、デビューからしばらくしたらまぁ人気は少し落ち気味になってきた。
別に落ちぶれたってほどじゃないけどな。ファンもついてくれてたし、十分人気なほうではあったけど。
そのころはムギ曰く「充電期間」だった。
ムギ以外が作曲してみたり、澪と唯以外が作曲してみたり、ボーカルも変えてみたりして。私はドラムしかやらなかったけどな。
いろいろ模索してた頃だ。
その結果、渾身のアルバムが出来た。
放課後ティータイムの完成形ともいえるやつが。
アイドルじゃなくて、実力で勝負ってやつだ。
それがまたヒットして、今私達はノリにノってるってわけよ。
「りっちゃーん、遅いよ~!」
おっす唯。ごめんごめん。
「また律がうじうじしてたからな、遅くなった」
うっせー、もうこの通り元気なんだからいいだろっ!
「りっちゃんの代わりはいませんっ♪」
……ムギにもバレてるな。
まったく……さ、やろうぜ。新曲レコーディング開始だっ!
「はい! 律先輩、今回はアップテンポの曲ですから……」
走っちゃダメですよ~、ってか?
生意気なー、中野めっ! 私はもはやそれは克服した! このこの~!
「うわわ、ちょっと先輩っ! やめてくださいよもう……」
昔から、ずーっと悩んでた。
そんで、高校、大学、各時期に1、2回ぐらいずつ、ゴネて迷惑かけた気がする。
私の……ドラムの腕のことでさ。
放課後ティータイムがデビューしてから、もう5年ぐらいになるのか。
あのころは、本当にプロになれるなんて考えてなかったよな。
口では武道館とは言ってたけれど。
なんだか知らないけど、いつの間にかデビューしてた。
がむしゃらにやってたら、私達はいつの間にか結構なレベルに達していたらしい。
デビュー曲から今まで、いい曲に恵まれてきたし、毎回ヒットもしてた。
音楽家として申し分ないぐらい、私達は輝いてたんだ。
私のドラムにも、たくさんファンがついてくれた。
こんな適当な自己流ドラムだけどさ。
すぐ走るけどさ。昔に比べたら、そりゃマシになったけど……
「りーつ。また何か考え込んでるな」
……え? ああごめん澪。もう行かなきゃな。
「律……」
やっべ、こりゃ見透かされてる。
そりゃそうだよな、もう何度目だよって感じだし。その度に澪には迷惑かけたり、慰めてもらってたし……
ダメだ、考えるな私っ! 私のドラムは最強だいっ!
「……いい顔になったな。じゃ、行こう」
……この話題のときの澪はいつもキザなこと言うよな。
「う、うるさい! レコーディング、失敗するなよ」
はーいはい。
ということで今は、この次の冬に出す新曲のレコーディングをしてる。
その後には全国ツアーも控えてる。
どう? 順調っしょ?
いやー自分で言うのもなんだけど、今放課後ティータイムはかなりアツいんだぜ~。
デビュー時はそりゃ騒がれたさ。
アイドルみたいな扱いだった。ガールズバンドだからってのもあるかな。
曲も一風変わったのばかりだしさ、主に澪の詩のせいで。
でも演奏面でバカにされたくないから、みんなでかなり練習したな。
澪とか梓とか、すんごい張り切ってた。
女だから売れたって言われたくないですー! ってな。
どっかで聞いたセリフだな……あ、そういえば同じ理由で髪バッサリ切った奴がいたっけ。
まぁそれはいいとして、デビューからしばらくしたらまぁ人気は少し落ち気味になってきた。
別に落ちぶれたってほどじゃないけどな。ファンもついてくれてたし、十分人気なほうではあったけど。
そのころはムギ曰く「充電期間」だった。
ムギ以外が作曲してみたり、澪と唯以外が作曲してみたり、ボーカルも変えてみたりして。私はドラムしかやらなかったけどな。
いろいろ模索してた頃だ。
その結果、渾身のアルバムが出来た。
放課後ティータイムの完成形ともいえるやつが。
アイドルじゃなくて、実力で勝負ってやつだ。
それがまたヒットして、今私達はノリにノってるってわけよ。
「りっちゃーん、遅いよ~!」
おっす唯。ごめんごめん。
「また律がうじうじしてたからな、遅くなった」
うっせー、もうこの通り元気なんだからいいだろっ!
「りっちゃんの代わりはいませんっ♪」
……ムギにもバレてるな。
まったく……さ、やろうぜ。新曲レコーディング開始だっ!
「はい! 律先輩、今回はアップテンポの曲ですから……」
走っちゃダメですよ~、ってか?
生意気なー、中野めっ! 私はもはやそれは克服した! このこの~!
「うわわ、ちょっと先輩っ! やめてくださいよもう……」
150: 2014/11/03(月) 13:53:59 ID:wnn5W/P20
……………………
……そんなこんなで新曲も出来上がった。
うん、いい感じだ。
なんだ、結構ドラム上手いじゃん、私。
ま、さすがに頑張って練習してきたもんな。もう10年以上か……
「お疲れ、律。帰ろうか」
おう、送ってくよ、澪。
ってなわけで、割といい気分のまま高速を飛ばしてる。
帰ったら飲もーっと。最近集中して練習してたから禁酒気味だったしな。
「最近……充実してるよな」
そだな。ついに完成形になったって感じだ、放課後ティータイムが。
……と、自分で言っておいて、ふと思う。
完成ってことは、これからどうすんの?
このまま惰性で続けんのか?
……それとも、解散すんのか?
放課後ティータイムは、音楽性の違いで解散とかはありえないけどさ。
みんな仲良しだし。
でも、いつまでもこのバンドだけでやっていく必要はあるのかなと、たまに思う。
なんたって、澪も唯も、ムギも、梓も、他に音楽活動をしてるからさ。
みんな、マルチな才能を持ってるんだ。
解散したら、私はどうすんの?
どこでドラム叩けばいい?
「……、……つ、おい……りつ!」
どこにも、居場所がなくなるのかな。
澪の詩じゃないけどさ、カミサマにお願いしたくもなるよ。
今のこの楽しい時間を終わらせないでくれ、ってさ……
「……律! 前、前!!」
……え?
って、おおおおおおおおいっっっっ!!!!!
…………………………
「……つ、律っ!!」
……う……何があった……?
……!!!
やっべ、やっちまった!! 事故った!
澪、大丈夫か!?
「律、大丈夫か!? 馬鹿、律の馬鹿っ!!」
……澪は無傷らしい。パニクってる。
そりゃそうだ。
よく見てみると、車の前のほうがグシャグシャに潰れてる。
よく生きてたもんだ。
なんでこんな冷静なんだ、私。
んで、向こうの車は……
これまたグシャグシャになってるが、運転手は無傷っぽくて、もう車の外に出て何やら電話してる。
最悪の事態は避けられたってか……
よくよく思い出してみると、私がぼーっとしてたせいでぶつかった。
100%こっちが悪い。
……これ、私、逮捕される?
……。
……そこから先のことは、あまり覚えてない。
ただ、右腕が地味に痛かったことだけは覚えてる……
…………………………
何日かたった気がする。
事故については、向こうも澪も無傷だったし、私の過失の物損事故ってことで、
示談になった。
逮捕やら書類送検されなくてよかったとか、そういう問題じゃないけどさ。
放課後ティータイムのメンバーには、土下座して謝った。
みんな、オロオロしてた。
なんとなく家でネットを開いてみたら、
もうトップ記事に載ってた。
HTTドラマーが交通事故、ってね。
新曲発売は、延期になった。
……何日か経って、だんだん、自分のしたことの重大さがわかってきた。
相手の命、澪の命、
放課後ティータイムの運命、
私達の家族の運命、
いろんなものを失ったり、めちゃくちゃにしかけたんだ。
何やってんだ、私……
何でぼーっとしてた?
何考えてた、あの時?
放課後ティータイムが解散したら、私は落ちぶれるんじゃないか、って……
そんなチンケなこと考えてたせいで、取り返しのつかない事態になりかけたんだぞ……
……リーダーのくせに、
ドラムでも足引っ張って、
事故って更に足引っ張って、
私なんてーー
「律、律!!」
……澪の声がする。
あ、着信来てた。気づかなかった。
そういやインターホンみたいなのも鳴ってた気がする。
……いよいよヤバイんじゃないか、私。
とにかく、澪を入れなきゃ。玄関へと急ぐ。
「……律……いるなら返事しろ」
すいません……
平謝りしかできなかった。
みじめだな。
……そんなこんなで新曲も出来上がった。
うん、いい感じだ。
なんだ、結構ドラム上手いじゃん、私。
ま、さすがに頑張って練習してきたもんな。もう10年以上か……
「お疲れ、律。帰ろうか」
おう、送ってくよ、澪。
ってなわけで、割といい気分のまま高速を飛ばしてる。
帰ったら飲もーっと。最近集中して練習してたから禁酒気味だったしな。
「最近……充実してるよな」
そだな。ついに完成形になったって感じだ、放課後ティータイムが。
……と、自分で言っておいて、ふと思う。
完成ってことは、これからどうすんの?
このまま惰性で続けんのか?
……それとも、解散すんのか?
放課後ティータイムは、音楽性の違いで解散とかはありえないけどさ。
みんな仲良しだし。
でも、いつまでもこのバンドだけでやっていく必要はあるのかなと、たまに思う。
なんたって、澪も唯も、ムギも、梓も、他に音楽活動をしてるからさ。
みんな、マルチな才能を持ってるんだ。
解散したら、私はどうすんの?
どこでドラム叩けばいい?
「……、……つ、おい……りつ!」
どこにも、居場所がなくなるのかな。
澪の詩じゃないけどさ、カミサマにお願いしたくもなるよ。
今のこの楽しい時間を終わらせないでくれ、ってさ……
「……律! 前、前!!」
……え?
って、おおおおおおおおいっっっっ!!!!!
…………………………
「……つ、律っ!!」
……う……何があった……?
……!!!
やっべ、やっちまった!! 事故った!
澪、大丈夫か!?
「律、大丈夫か!? 馬鹿、律の馬鹿っ!!」
……澪は無傷らしい。パニクってる。
そりゃそうだ。
よく見てみると、車の前のほうがグシャグシャに潰れてる。
よく生きてたもんだ。
なんでこんな冷静なんだ、私。
んで、向こうの車は……
これまたグシャグシャになってるが、運転手は無傷っぽくて、もう車の外に出て何やら電話してる。
最悪の事態は避けられたってか……
よくよく思い出してみると、私がぼーっとしてたせいでぶつかった。
100%こっちが悪い。
……これ、私、逮捕される?
……。
……そこから先のことは、あまり覚えてない。
ただ、右腕が地味に痛かったことだけは覚えてる……
…………………………
何日かたった気がする。
事故については、向こうも澪も無傷だったし、私の過失の物損事故ってことで、
示談になった。
逮捕やら書類送検されなくてよかったとか、そういう問題じゃないけどさ。
放課後ティータイムのメンバーには、土下座して謝った。
みんな、オロオロしてた。
なんとなく家でネットを開いてみたら、
もうトップ記事に載ってた。
HTTドラマーが交通事故、ってね。
新曲発売は、延期になった。
……何日か経って、だんだん、自分のしたことの重大さがわかってきた。
相手の命、澪の命、
放課後ティータイムの運命、
私達の家族の運命、
いろんなものを失ったり、めちゃくちゃにしかけたんだ。
何やってんだ、私……
何でぼーっとしてた?
何考えてた、あの時?
放課後ティータイムが解散したら、私は落ちぶれるんじゃないか、って……
そんなチンケなこと考えてたせいで、取り返しのつかない事態になりかけたんだぞ……
……リーダーのくせに、
ドラムでも足引っ張って、
事故って更に足引っ張って、
私なんてーー
「律、律!!」
……澪の声がする。
あ、着信来てた。気づかなかった。
そういやインターホンみたいなのも鳴ってた気がする。
……いよいよヤバイんじゃないか、私。
とにかく、澪を入れなきゃ。玄関へと急ぐ。
「……律……いるなら返事しろ」
すいません……
平謝りしかできなかった。
みじめだな。
151: 2014/11/03(月) 13:54:59 ID:wnn5W/P20
…………………………
結局あれから、放課後ティータイムのみんなに、あの時なぜぼーっとしていたかを説明することはできなかった。
澪には感づかれてると思うけど。
正直氏にたくなるような日々だった。
でも、氏ぬわけにはいかない。
頑張らなきゃいけない。
新曲の発売と、全国ツアーが控えてるんだしな。
割と、すぐに前向きになれたと思う。
もう今までの私とは違うんだ、うじうじしないでがむしゃらにやってやるっ。
私の気合が伝わったのか、みんなもすぐに元の感じに戻ったと思う。
事故のことを気まずく思う雰囲気はなくなった。
リーダーとして引っ張っていかなきゃな。悩んでる暇なんかないんだ。
「律、やっとリーダーらしくなってきたな」
はいはい。まぁいつまでも事故のこと気にしててもしょーがないからな。
今まで通りやるしかないだろってことよ!
「それでこそりっちゃんだよ!!」
ごめんな唯。お前最近あんまり笑ってなかったよな……
「え、そう? そうだったかなぁ」
「……そうですね。唯先輩、笑わないから結構不気味でした」
「ぶ、不気味って!? ひどいよあずにゃん」
……ぷ、いつもの調子を取り戻してきたな。
あ、じゃぁ久々にティータイムにしようぜっ!!
お菓子解禁だ、解禁っ!!
「ま、待って待って! 私もりっちゃんのせいで最近不気味だったんだから!!」
ムギが精一杯膨れてみせる。
あはは……ごめんな。ムギが相当気を使ってくれてたのはわかってるよ。
謝るから……お菓子を……
「ええ♪いいわよ♪」
「ムギ先輩、甘やかしすぎですっ! 律先輩はしばらくお預けでも……」
「梓、そんなことするとまた律がいじけはじめるぞ」
うるさいやい。
もう私は強くなったんだ、事故って吹っ切れたわ。
ドラム一本で放課後ティータイムのために尽くしてやるっ!!
「おお~、さすがりっちゃんかっこいい!!」
「りっちゃん素敵よ♪♪」
いや~、どもども。
やっぱいいな、このメンツは。
よーし、ちょっとテンション上がって来たし、もう一曲叩いてからお茶にすっか……つっ!?
「……どうした、律?」
……痛っ、急に動いたら指つったわ。
やっぱお茶にしよーぜ!
「……はぁ、律先輩らしいですね」
「はーい、今淹れまーす♪」
「やったぁ、久々のお菓子だよ~」
「唯は家でも毎日食べてただろ……」
……みんなの能天気な会話を聞きながら、私は冷や汗を流していた。
指つったとかいうレベルじゃない。
なんだよこれ……右腕が痺れる……
気のせいだよな?
明日には治ってるよな?
…………………………
それから、集中的に練習した日は決まって、練習後に右腕に違和感を覚えるようになった。
うすうす気づいていたけど、やっぱアレだよな……
あえて思い出さないようにしてた、あの事故の記憶を遡ってみる。
ハッキリ覚えてないが、右腕をどっかに強打したのは確かだ。
気が動転してたから、なんか痛えな~ぐらいにしか思ってなかったけど。
右腕の違和感は日に日に増していく。
それと同時に、みんなの演奏の仕上がりもどんどん増していく。
事故はあったけど、むしろそのおかげでみんなで真剣に話す時間も増えてきた。
私のうじうじも克服できたと思うし、ドラムの腕も上がった気がする。
最高のツアーにできそうな自信はあった。何もかもいい方向に向かっていた。
私の右腕の痺れ以外は……
いけるか……? もつか……最終日まで?
…………………………
「みんな~、ありがとーーー!! じゃぁ次は、最後の曲っ!!」
ツアー初日。
大歓声だ。唯も、みんなも、お客さんも、超いい顔してる。
私は……汗だくだった。いや、みんな汗だくだけど。
私は半分以上、冷や汗だ。
痛い。痛い。超痛い。もう叩けない。
そりゃそうだ、2時間近くぶっ通しで叩いてんだから。
シンバルの影に隠れて、表情を悟られないようにしながら、ここまでなんとか叩いてきた。
次は最後の曲……っても、アンコールが二曲ある。
あと三曲……くっそぉっ!!
やるしかねえーーっ!!
結局あれから、放課後ティータイムのみんなに、あの時なぜぼーっとしていたかを説明することはできなかった。
澪には感づかれてると思うけど。
正直氏にたくなるような日々だった。
でも、氏ぬわけにはいかない。
頑張らなきゃいけない。
新曲の発売と、全国ツアーが控えてるんだしな。
割と、すぐに前向きになれたと思う。
もう今までの私とは違うんだ、うじうじしないでがむしゃらにやってやるっ。
私の気合が伝わったのか、みんなもすぐに元の感じに戻ったと思う。
事故のことを気まずく思う雰囲気はなくなった。
リーダーとして引っ張っていかなきゃな。悩んでる暇なんかないんだ。
「律、やっとリーダーらしくなってきたな」
はいはい。まぁいつまでも事故のこと気にしててもしょーがないからな。
今まで通りやるしかないだろってことよ!
「それでこそりっちゃんだよ!!」
ごめんな唯。お前最近あんまり笑ってなかったよな……
「え、そう? そうだったかなぁ」
「……そうですね。唯先輩、笑わないから結構不気味でした」
「ぶ、不気味って!? ひどいよあずにゃん」
……ぷ、いつもの調子を取り戻してきたな。
あ、じゃぁ久々にティータイムにしようぜっ!!
お菓子解禁だ、解禁っ!!
「ま、待って待って! 私もりっちゃんのせいで最近不気味だったんだから!!」
ムギが精一杯膨れてみせる。
あはは……ごめんな。ムギが相当気を使ってくれてたのはわかってるよ。
謝るから……お菓子を……
「ええ♪いいわよ♪」
「ムギ先輩、甘やかしすぎですっ! 律先輩はしばらくお預けでも……」
「梓、そんなことするとまた律がいじけはじめるぞ」
うるさいやい。
もう私は強くなったんだ、事故って吹っ切れたわ。
ドラム一本で放課後ティータイムのために尽くしてやるっ!!
「おお~、さすがりっちゃんかっこいい!!」
「りっちゃん素敵よ♪♪」
いや~、どもども。
やっぱいいな、このメンツは。
よーし、ちょっとテンション上がって来たし、もう一曲叩いてからお茶にすっか……つっ!?
「……どうした、律?」
……痛っ、急に動いたら指つったわ。
やっぱお茶にしよーぜ!
「……はぁ、律先輩らしいですね」
「はーい、今淹れまーす♪」
「やったぁ、久々のお菓子だよ~」
「唯は家でも毎日食べてただろ……」
……みんなの能天気な会話を聞きながら、私は冷や汗を流していた。
指つったとかいうレベルじゃない。
なんだよこれ……右腕が痺れる……
気のせいだよな?
明日には治ってるよな?
…………………………
それから、集中的に練習した日は決まって、練習後に右腕に違和感を覚えるようになった。
うすうす気づいていたけど、やっぱアレだよな……
あえて思い出さないようにしてた、あの事故の記憶を遡ってみる。
ハッキリ覚えてないが、右腕をどっかに強打したのは確かだ。
気が動転してたから、なんか痛えな~ぐらいにしか思ってなかったけど。
右腕の違和感は日に日に増していく。
それと同時に、みんなの演奏の仕上がりもどんどん増していく。
事故はあったけど、むしろそのおかげでみんなで真剣に話す時間も増えてきた。
私のうじうじも克服できたと思うし、ドラムの腕も上がった気がする。
最高のツアーにできそうな自信はあった。何もかもいい方向に向かっていた。
私の右腕の痺れ以外は……
いけるか……? もつか……最終日まで?
…………………………
「みんな~、ありがとーーー!! じゃぁ次は、最後の曲っ!!」
ツアー初日。
大歓声だ。唯も、みんなも、お客さんも、超いい顔してる。
私は……汗だくだった。いや、みんな汗だくだけど。
私は半分以上、冷や汗だ。
痛い。痛い。超痛い。もう叩けない。
そりゃそうだ、2時間近くぶっ通しで叩いてんだから。
シンバルの影に隠れて、表情を悟られないようにしながら、ここまでなんとか叩いてきた。
次は最後の曲……っても、アンコールが二曲ある。
あと三曲……くっそぉっ!!
やるしかねえーーっ!!
152: 2014/11/03(月) 13:55:50 ID:wnn5W/P20
…………………………
……帰宅した。
最後の三曲あたりから撤収するまで記憶がほとんどないけど、どうにか叩ききったらしい。
初日お疲れの打ち上げのときにも、特にみんなから何も言われなかった。澪ですら気づいてる様子はなかった。
練習のたまものだな。さすが私。
まぁ、澪のやつに「シンバルのセッティング変えた方がいいんじゃないか? アイコンタクトが取りにくかった」とか言われたときは焦ったけどな。
……しっかし、絶望しかないわ。
まだ初日だぜ……今もじんじんと痺れてる。2時間強のライブに、ギリギリ耐えられるってとこか。
毎回氏にかけるな……でもやるしかない。ツアー中止とか、ありえないし。
……………………
お約束っちゃお約束だが、こういうのはだんだん悪化していくもんでさ。
ライブを重ねる度に、右腕にはダメージが蓄積されていった。
「ギリギリ耐えられる」から、ツアー終盤には「ギリギリ耐えられない」ぐらいには悪化した。
最後のほうは地獄だった。
痛み止めの薬も打った。なるべく右腕に負担をかけないように、アレンジも変えた。
それを梓に褒められたりもした、珍しく。「律先輩……それすごくいいです! ……見直しました」ってな。まったく生意気な後輩だこと。
でもそれは素直に嬉しかったな。氏ぬ気でやれば私だってイイもん作れるってことだ。どんなもんだい。
私の頑張りを見て、みんなも刺激を受けてくれてるみたい。最近、ファインプレーが続出してる。唯なんか、神がかってきたよ、ソロのセンスが。
……だからこそ、壊したくなかった。
この最高の放課後ティータイムをさ。
私のアホな事故の後遺症のせいでさ……
……さぁ、最終日だ!
…………………………
「みんな、本当に、本当にありがとーーー!!!」
……う……痛……
「アンコールも本当にありがとう! でもこれで本当に本当に最後の曲だよ! あ、その前にみんなから一言~」
「えっ、ここでですか!?」
「いいじゃんいいじゃん~、じゃあずにゃんから!」
……やべ……来る……
「……みなさん、今日は本当にありがとうございました。このツアーは、私たちにとっても、とても大きな意味を持つというか……成長できたと思います。これからも頑張るので、よろしくお願いします!」
……よかった……梓がそう言ってくれると、嬉しいよ……
「おお~ぱちぱち、あずにゃん真面目だねぇ~。じゃぁ澪ちゃん!」
「う、あ、あの……ゆ、唯! 急に振るのはやめろって言っただろ……!」
……澪……お前何年経ってもあがり症は治らないな……
「……ごほん! あ、梓も言ってたけど、私たちはこのアルバムとツアーを通して、こう、次のステージに行けたというか……まだまだ曲を生み出していきたいと思うから、また聴いてくれると嬉しいな」
……次のステージ……行けるのかな私……
「澪ちゃんさすが! 次ムギちゃん!!」
「はいっ! 私、今とっても興奮していますっ!! だってだって、もう何もかもすごいんだもん! 唯ちゃんもすごいし、澪ちゃんもすごいし、りっちゃんもすごいし、梓ちゃんもすごいし、お客さんもすごいし、わ、私もすごいし!!?」
……はは、落ち着け……まぁいいけどな、ムギが楽しそうにしてるとこっちまで……楽しく……
「ムギちゃんわけわかんないよ! でもわかるよ~、何かいいよね、最近! はい、じゃぁ我らがリーダー、りっちゃん!!」
…………えっと……
はは……なんか……ひっく、うぅ……
ちくしょー、わけわかん、ひっく、ねーよ……
「り、りっちゃん!? 何で泣くの!?」
「り、律!? どうした!?」
……う、うるさいやい……しらねーよ……涙が止まんないんだよ……
は、早く、曲に行こうぜ……
「律先輩が……!? 珍しいですね」
「りっちゃん、すっごくすっごく頑張ってたものね! ありがとう、部長♪」
「じゃぁ、本当に本当に最後の曲! ふわふわ時間!!」
…………あと一曲。
…………あと少し。
…………アウトロに入った。
もう右手使ってない。スティック吹っ飛ばしたことにした。感覚もない。
自分でも驚くぐらい器用な動きで、左手だけで両手分の働きをさせる。
……暑い。熱い。
……ラスト……!
最後のシンバルぐらい右手で……!
おりゃーーーっ!!!!
……帰宅した。
最後の三曲あたりから撤収するまで記憶がほとんどないけど、どうにか叩ききったらしい。
初日お疲れの打ち上げのときにも、特にみんなから何も言われなかった。澪ですら気づいてる様子はなかった。
練習のたまものだな。さすが私。
まぁ、澪のやつに「シンバルのセッティング変えた方がいいんじゃないか? アイコンタクトが取りにくかった」とか言われたときは焦ったけどな。
……しっかし、絶望しかないわ。
まだ初日だぜ……今もじんじんと痺れてる。2時間強のライブに、ギリギリ耐えられるってとこか。
毎回氏にかけるな……でもやるしかない。ツアー中止とか、ありえないし。
……………………
お約束っちゃお約束だが、こういうのはだんだん悪化していくもんでさ。
ライブを重ねる度に、右腕にはダメージが蓄積されていった。
「ギリギリ耐えられる」から、ツアー終盤には「ギリギリ耐えられない」ぐらいには悪化した。
最後のほうは地獄だった。
痛み止めの薬も打った。なるべく右腕に負担をかけないように、アレンジも変えた。
それを梓に褒められたりもした、珍しく。「律先輩……それすごくいいです! ……見直しました」ってな。まったく生意気な後輩だこと。
でもそれは素直に嬉しかったな。氏ぬ気でやれば私だってイイもん作れるってことだ。どんなもんだい。
私の頑張りを見て、みんなも刺激を受けてくれてるみたい。最近、ファインプレーが続出してる。唯なんか、神がかってきたよ、ソロのセンスが。
……だからこそ、壊したくなかった。
この最高の放課後ティータイムをさ。
私のアホな事故の後遺症のせいでさ……
……さぁ、最終日だ!
…………………………
「みんな、本当に、本当にありがとーーー!!!」
……う……痛……
「アンコールも本当にありがとう! でもこれで本当に本当に最後の曲だよ! あ、その前にみんなから一言~」
「えっ、ここでですか!?」
「いいじゃんいいじゃん~、じゃあずにゃんから!」
……やべ……来る……
「……みなさん、今日は本当にありがとうございました。このツアーは、私たちにとっても、とても大きな意味を持つというか……成長できたと思います。これからも頑張るので、よろしくお願いします!」
……よかった……梓がそう言ってくれると、嬉しいよ……
「おお~ぱちぱち、あずにゃん真面目だねぇ~。じゃぁ澪ちゃん!」
「う、あ、あの……ゆ、唯! 急に振るのはやめろって言っただろ……!」
……澪……お前何年経ってもあがり症は治らないな……
「……ごほん! あ、梓も言ってたけど、私たちはこのアルバムとツアーを通して、こう、次のステージに行けたというか……まだまだ曲を生み出していきたいと思うから、また聴いてくれると嬉しいな」
……次のステージ……行けるのかな私……
「澪ちゃんさすが! 次ムギちゃん!!」
「はいっ! 私、今とっても興奮していますっ!! だってだって、もう何もかもすごいんだもん! 唯ちゃんもすごいし、澪ちゃんもすごいし、りっちゃんもすごいし、梓ちゃんもすごいし、お客さんもすごいし、わ、私もすごいし!!?」
……はは、落ち着け……まぁいいけどな、ムギが楽しそうにしてるとこっちまで……楽しく……
「ムギちゃんわけわかんないよ! でもわかるよ~、何かいいよね、最近! はい、じゃぁ我らがリーダー、りっちゃん!!」
…………えっと……
はは……なんか……ひっく、うぅ……
ちくしょー、わけわかん、ひっく、ねーよ……
「り、りっちゃん!? 何で泣くの!?」
「り、律!? どうした!?」
……う、うるさいやい……しらねーよ……涙が止まんないんだよ……
は、早く、曲に行こうぜ……
「律先輩が……!? 珍しいですね」
「りっちゃん、すっごくすっごく頑張ってたものね! ありがとう、部長♪」
「じゃぁ、本当に本当に最後の曲! ふわふわ時間!!」
…………あと一曲。
…………あと少し。
…………アウトロに入った。
もう右手使ってない。スティック吹っ飛ばしたことにした。感覚もない。
自分でも驚くぐらい器用な動きで、左手だけで両手分の働きをさせる。
……暑い。熱い。
……ラスト……!
最後のシンバルぐらい右手で……!
おりゃーーーっ!!!!
153: 2014/11/03(月) 13:58:18 ID:wnn5W/P20
…………………………
……ここはどこだ?
白い天井?
何かいつもと違うにおいの布団だな。
布団……?
ここは……
「律……!!」
病院だ。
そうか……ギリギリセーフだったのか……
いや、アウトか……?
「律、律……バカ律! バカ律ぅ……!!」
澪……。すまん……
…………………………
落ち着いた澪から話を聞くと、どうやら私はアンコール終了して暗転した瞬間に倒れたらしい。
なんとかお客さんには気づかれずに、スタッフが担ぎ出してくれた。
んで……かなりの熱が出てたってさ。39℃ぐらい。
確かに今朝からなんかぼーっとしてたしな。腕の痺れに加えて熱にも耐えながらライブをのりきったのか。すげーな私。
「…………」
澪の視線が恐い……
いや、すまん。心配させたよな。
「……違う、そうじゃない。律……これは何だ」
そう言って澪は私の……右腕を指差す。
……真っ赤っかに腫れていた。
こんなになってるとは気づかなかった。
「律……!」
あー、これはな。ちょっとな、
「律!!!」
…………わかった、観念するよ……
…………………………
もう隠せない。
私はこの右腕のことを洗いざらい話した。
ライブ乗り切ったからいいだろ、もう笑い話だ、的なのを期待してたのかもしれない。
でも話してるうち、澪の顔はどんどん恐くなっていった。
「……どうして……どうしてそんな重要なこと、言ってくれなかったんだっ!!!」
ああ、またやっちまったんだな、私……
いつもいつも、こうやってヤバイ事態になってから気付く。
学習してないな、私……
「律……! どうしていつも一人で抱え込むんだ! また、迷惑かけられないとかそんなこと考えてたんだろ……!」
……そ、そうだよ。
だって嫌じゃんか。私が勝手に起こした事故のせいでさ、せっかくのいいツアーを……
「誰もそんなこと思わないっ!!」
……!!
「話してくれれば、律の苦しみをみんなで共有してあげられたのに……」
……そんな、悪いだろ。
「それが律の悪いところだ! 悩みをさらけ出してくれるより、隠される方がよっぽど悪い!!」
……いや、私ばっかり、みんなに迷惑かけても……
「なんで律だけがみんなの足を引っ張ってる前提なんだよっ!! 私たちだって!! 律にたくさん助けてもらってるんだから……!!」
……え? そうなの?
「律は……自覚が無さすぎだ……私達のリーダーは、律しかいないんだ。律は多分無意識のうちにやってるから気づいてないのかもしれないけど……」
そんなん、気付けと言われても……
「細かなこと、気遣ってくれたり。ふざけてるフリして、みんなをまとめてくれたり。私たちが個別にやってる音楽活動もさりげなくサポートしてくれたり」
そんなことしたっけ?
「……律のちょっとした一言に救われたことが多いんだよ、多分みんなだ。……は、恥ずかしいからもういい。とにかく、律だけが甘えてるわけじゃない。みんな律に、お互いに助けられてるんだ。だから、律だけ悩みを言っちゃいけないなんてナシだ」
……そうか……もっと、頼りにしていいんだな……リーダーなのに。
「……お願いだから、もうこんなことはやめてくれ……どうするんだ、腕が動かなくなったら……」
取り返しがつかなくなるな。
そっか、私はまた取り返しのつかないことを……二回目だ。
「取り返しはつくから……ライブだって、成功したじゃないか。律、自分を責めるのはもうやめてくれ……」
澪に抱き締められた。
泣いてる。
泣かせたのか、私が……
154: 2014/11/03(月) 14:00:07 ID:wnn5W/P20
…………………………
それから散々なもんだった。
唯は超怖かった。珍しくだんまりだった。誠心誠意、一から全部話して謝って、これからも頼りにさせてくれって言ったところで、やっとにへらって笑ってくれた。
ムギにはビンタされた。
超痛かった。今までの人生で一番痛かったと言ってもいい。
直後に超謝られたけどな。
2人で抱き合って泣いた。
梓には号泣された。
見直したって言ったの取り消しですぅ~って聞こえた。何言ってるかよく聞き取れないぐらいの泣きっぷりだった。
1時間近く無言のまま、泣き止むまで撫で続けた。左手で。
とにかく、三人とも意外な反応というか……むしろちょっと異常な反応だった。
そうまでさせてしまうぐらいショックだったのか。多分……「私がドラムを叩けなくなるかもしれない」ことが一番の原因なのかもしれない。
もう、こんなにみんなを悲しませないようにしなきゃな……しっかり療養して、これからは無理せず叩くようにしよう。
……………………
……時既に遅し、ってやつだ。
私の右腕は、あのツアーのせいで取り返しのつかないダメージを受けたらしい。
しばらく休んで痺れもなくなったころ、さぁリハビリとドラムを練習し始めたら、ものの20分ぐらいで叩けなくなってしまった。
……あのふわふわ時間の最後、思いっきり右手でクラッシュ叩いた時にイかれちゃったのか。
やんなきゃよかった……なんなら足でシンバル蹴っ飛ばすぐらいやったほうがマシだったかな。ってそれじゃバンドの方向性変わっちゃうけど。
……そんな冗談言ってる場合じゃない。
20分だぞ。20分。
ヤバくない?
改めて考えてみると絶望的だ。
ライブみたいに全力で叩いたら……15分持つかどうか……
それって、ライブなのか? アマチュアのライブイベントレベルじゃんか。
私、もうツアーライブできないのか?
……うう……元はと言えば……
いや、やめよう。自分のドラムの腕云々の話はやめると決めたはずだ。
んで、一人で抱え込みもしない。よし、みんなに相談だ。私は15分しか叩けない、ってな!!
……ちっくしょー……!!
155: 2014/11/03(月) 14:00:38 ID:wnn5W/P20
…………………………
みんなを集めて説明した。
その瞬間のみんなの顔は、こないだ一人一人に謝ったときのあのちょっと異常な顔と同じだった。
やっぱ、私がドラム叩けなくなることを悲しんでくれてたんだな。
まぁでも、今回はちゃんとみんなを頼ってすぐに報告したからか、みんな怒ったりパニクることなく冷静に受け止めてくれたと思う。ありがとな。
すぐに、今後どうするかの相談になった。
「で、でも……このまま続けたら、りっちゃん本当に叩けなくなっちゃうんじゃないの?」
そんなことはないぜ、唯。
これは私の感覚なんだが……最初は2時間弱が限界で、ツアー中それを超えて演奏しまくってたから、段々悪化してきたんだ。
ツアー最終日ぐらいには、多分1時間しかもたない状態だったと思う。それを無理して2時間続けてたから、一気に悪化したんだ。
だから、無理せずに15分で叩くのをやめるようにすれば、多分これ以上は悪化しない。
「律の感覚は信用できないからな……」
口ではそう言いつつも、なんとなく腑に落ちたみたいな顔してんじゃん、澪。
「りっちゃんのドラム、私はもっと聴きたい……一緒にやりたいの。もし大丈夫なら、15分だけでもできないかな?」
……ああ。私もそれがいいと思うよ。
「じゃぁ……小さめの箱で15分限定のライブとかどうですか? ふふ、下積み時代に戻ったみたいですね」
梓の案でまとまった。
ライブツアーとかは無理だ、ホールやアリーナで15分だけとかないしな。
正直私たちは、自分たちのやりたい演奏をやれていれば満足なところはある。だから、大きなライブをやって有名になって稼いで……ってのが無くなることに、特に抵抗はなかった。
もう十分やったしな、それ。
かくして私は、自分の事故から右腕の痺れの件まで、全てを公表した。
そして私たちは、「放課後ティータイム15minutes」として、新たなスタートを切ることとなった。
小さめのライブハウスを回って、15分限定のライブをチマチマやる感じだ。
最初はファンのみなさんも戸惑ってたな。悲しまれたり、批判もされたし、あとライブハウスが小さいからチケット取れねーよ、とか。
その分公演回数を増やすようにはしたけど。
他のメンバーは、各自の活動に割く時間も増えたと思う。
みんなすげーんだぜ。
唯はやっぱあいつ天才肌だよな。ソロ活動もしたりしてる。憂ちゃんと組んだりもしてた。あと、澪と並んで、イメージキャラクターとして人気だ。カワイイ系の役はだいたい唯だな。雑誌とかに出たり、大活躍だ。
澪はもうお馴染みというか、やっぱり熱狂的なファンが多い。モデルっぽい活動もやらされてるし……本人は恥ずかしいから嫌がってるけどな。求められてんだよ、ファンに。
ソロ活動もしてる。ベースの腕も立つから、サポートとかでもよく乗ってる。
詩集も出して……それはマニア向けアイテムだけどな。
ムギは何と言っても、お嬢様だ。それをビジネス的に利用しようと、いろんな分野から野心家が近づいて来て、一時期それを嫌がってたこともあった。でもさすがムギだ、逆にそれに乗っかって、お菓子やらお茶、ブランドをプロデュースしたりいろいろ活躍してる。
やっぱ血筋なのかな、経営の才能あるんじゃね?
梓と言ったら音楽一直線な奴だ。ギターの腕、知識に関しては結構業界内でも一目置かれてるんだぜ。だからあいつは本当にいろんなアーティストと組んでて、一番忙しそうだ。
放課後ティータイムにいると「あずにゃん」扱いだけどな。
んで私は……おっと、この話はやめよう。
何かの雑誌に書かれてたな、「放課後ティータイムのリーダーにしてエンジン」「放課後ティータイムの申し子」とか。
ま、いい意味に捉えておくさ。
各自の活動が増えたことで、放課後ティータイムついに解散か? とか書かれてたこともあるけど。
そんなこたぁないぜ! チマチマとやるライブ活動だって充実してたし、新曲書くのをやめたわけじゃない。
自分の時間が増えたわけだし、各自それで得たことを持ち寄って、また融合させたりすれば……
また、いいもんが作れそうな気がする。
とにかく、私たちは前向きだった。
腕のことなんか、どうでもよかった。
雑誌やらネットやらに何書かれても、知ったこっちゃない。私たちはブレない。
156: 2014/11/03(月) 14:01:16 ID:wnn5W/P20
…………………………
私たちがよければ、どうにでもなる。と思ってたんだけどな。
どうしようもないことも、ある……
放課後ティータイム15minutesの活動も軌道に乗ってきた頃。
呼び出しを食らった。所属するレコード会社に……。
内容は、だいたい向こうの言いたいことをまとめるとこんな感じ。
「チマチマライブやってても儲からないからやめろ」
つまり、私をリストラしたいようだった。だいぶ遠回しに丁寧な言い方ではあったがな。
向こうの案としては、放課後ティータイム15minutesの活動は減らすか、中止。
サポートドラマーを入れてライブツアーを行う。私だけ仲間外れにするのがさすがに厳しいなら、例えばギター・ベース・サポートドラマーの三人のユニットを組んで売り出すとかしろ、と。
ひでえ話だぜ。私がどうするのかの案はなかった。つまり叩けないならやめろってことだ。
……まぁ、分かる話ではあるけどな。
アーティストが好き勝手やっていいわけじゃない。一応所属してやらせてもらってんだから。
レコード会社の社員だって、給料下がったりリストラされたら嫌だろうからな。
私がこんな気持ちになるのは、実は最近バイト始めたからだ。
元々私は放課後ティータイム以外何も無いって感じだったけど、それでドラムも1日15分しか叩けないんじゃ、やることがない。
他のメンバーは活動が忙しい。
療養って名目で家でぐーたらしてたけど、右腕以外は健康だ。
なんかやんなきゃな、と考えてバイト始めてみた。メンバーには言ってないけど、これは別に言わなくていいよな……
別に店員さんとか表に出る仕事じゃないから、バレてもいないし。
そんなこんなで、普通の職業に就いてみたおかげで、なんとなくレコード会社の社員の気持ちも分かるんだよね。
それに、ドラム叩けないのは事実だ。
それは自分で責任とんなきゃ。
みんなの活動の足は引っ張りたくないし、会社の足も引っ張りたくない。
ちゅーことで、私はすんなり受け入れてしまった……社会ってのは残酷だな。
ただ、ここで同じ過ちはしないぜ。まずメンバーに相談だ。
「そんな……ふざけてます、そんなの!!」
予想通りの反応だ。そういうの一番嫌いそうだもんな、梓。
「…………お父様に頼めば…………」
ムギ、やめとけ。反則だ。
「やだよ……なんでダメなの……今ちゃんとうまくいってるじゃん」
唯……大人の事情ってやつだ。
「律……」
しょうがないとは思うぜ。稼ぎにならないってのは事実だ。
大丈夫大丈夫、減らすだけだ。ゼロじゃない。辞めるとは言ってないから。
というか、こうやってみんなに相談してはいるけど……実は会社からほぼ強制的に決められちゃってるんだ。
サポートドラマーを探しとけって言われてる。とりあえず、マキちゃんかな……私から頼んどくよ。
「律……あの、さ……」
ごめん澪、私バイトの時間が……
「えっ!? バイトしてたんですか!?」
ああ、暇だったからな。ごめん、じゃ!
また後で詳しく話そうぜ。
157: 2014/11/03(月) 14:02:36 ID:wnn5W/P20
…………………………
……バイトが終わって携帯を確認したら、着信履歴が澪で埋まってた。
こえーよ。
メールも来てた。呼び出しくらった……近所の喫茶店か。よし、行くか……
「律……」
……まぁ、納得いかないのはわかるよ。
でもこればっかりはしょうがないだろ。会社の問題なんだ。
私たちだけの問題じゃないだろ。
「……違うよ……」
違わないって。
澪……いい機会だと思うぜ。みんな、それぞれやりたいこともあるだろ?
放課後ティータイムが完全にゼロってわけじゃないんだ、たまに集まって演奏できればそれでいいじゃんか。
……なぁ澪、そろそろ別の道を進み始めてもいいんじゃないか?
「……!!」
……あっ……出て行っちゃった……
なんかこりゃヤバいな、またやっちまったか?
いや……でもしょうがないはずだよな?
別にウジウジもしてない。相談して、冷静に考えても、これしかないんじゃ……
「律先輩、最低です」
……えっ!?
「澪ちゃんかわいそー」
いたのかお前ら!?
「私たちもかわいそうよ!」
……なんだってんだよ。
どうしようもないだろ……
「律先輩。会社の決定はどうしようもないかもしれませんが、私は放課後ティータイムを続けたいです」
「私もだよ! ニートになってもやりたいよ~」
「りっちゃん、私もよ。放課後ティータイム、ずっと続けたい!」
……え、いや、だから……そりゃそうだけどさ。事情ってもんが……
「律先輩、放課後ティータイムやりたくないんですか? そんなこと……ないですよね?」
……。
「やりたいよね、りっちゃん? ねぇ、一緒にやろうよ」
……そりゃ、やりたいけど。
「順番が違うのよ、りっちゃん!」
……!!
そういうことかよ……!!
「行ってらっしゃい、りっちゃん♪」
「澪ちゃん怒ってるよ~」
「今度ばっかりは許してくれないかもしれませんね」
すまん、みんな!!
……っと、その前に。
私は放課後ティータイム、やりたいぜっ!!
んじゃな!!
158: 2014/11/03(月) 14:03:12 ID:wnn5W/P20
…………………………
澪、どこだ。
電話しても出ない。
あー、こういう時って想い出の場所とか、2人が出会った場所とか、ってやつだよな。
……ないな。てかそれケンカした男女の話だろ。
しかもあるとすれば桜校とかだが、そこは遠く離れてる。
えー、どうすんだよこれ……家か?
今日中には会っておきたいよなぁ……
あ、そういえばさっきの店のお代払ってないじゃん。やっべ、あの三人に押し付けちゃったな。澪の分まで……
……ふむふむ。今日のりっちゃんは冴えてるかも?
…………………………
「……ごほん! で……な、何の用だ、律」
呼び出しといてそりゃないだろ。
……というわけで、さっきの店に戻ってきたら澪もいた。
ちょっと微妙な空気でカッコつかない上に、唯もムギも梓も隣のテーブルでニヤニヤしながらこっちを見てやがる。
まぁいい。率直に言うよ。
ごめんな、澪。私、しょうがないしょうがないって言い訳ばっかして、自分に言い聞かせてたわ。
私自身の気持ちを言ってなかったな。
ダメなのかダメじゃないのかは、その次の問題だ。
やってみてうまくいけば万々歳だし、やっぱりダメならそん時はしょうがない。
「……全然率直じゃない」
……。
わかったよ……
今まで、いろいろあったけどさ……私の腕とか……
「……律!」
…………私にはっ!!
私には放課後ティータイムしかないんだ!!!
ずっと続けさせてくれ!!!みんなで一緒にやらせてくれ!!!
プロでもアマでもニートでもいいからっ!!!
このメンバーで、ドラム叩きたいんだよぉ……!!!
「……よくできました、律」
撫でられた……恥ずかしい。
159: 2014/11/03(月) 14:04:01 ID:wnn5W/P20
…………………………
店内は騒然となった。当然だな。
私達は逃げるように店を出た。ムギがレジに札束ごそっと置いてったのがチラッと見えた。さすが、豪快だな。
後日、放課後ティータイムが五人勢揃いで痴話喧嘩とか雑誌に書かれてた。痴話ってなんだよ、痴話って。
なんだかな……
事故って、吹っ切れたと思ってた。
右腕のことを打ち明けたとき、吹っ切れたと思ってた。
でもまだまだ足りなかったんだな。
でも今度こそ、吹っ切れたと思うよ。
みんな、本当に自然に笑いあえるようになった。
なんか私ばっかり助けてもらって、ごめんな。
って言っても、みんなはそうは思ってないらしい。
自分じゃよくわからないんだよな、自分のことは。どうも私は知らずのうちに他のメンバーに良い影響を与えてるらしい。
で、放課後ティータイムはこのまま続けたい、と意向を伝えたけど当然NOを食らった。
そっから、みんなで考えに考えた。
別に私は15分しか叩けなくても、ライブを2時間やることは可能じゃね?
ってことで、例えば私が左手だけで軽くリズム刻みながら、他のメンバーが軽く演奏するとか……
唯と梓のセッションとか、唯と澪の弾き語りとか。
ムギに作ってもらった打ち込み音源に合わせて演奏するとかさ。そん時私はパーカッションで遊ぶ。
私の右腕の代わりをムギにやってもらうとかさ。2人ドラムだ。
そして……お待ちかね、りっちゃんフルパワーのラスト15分間だ。
なかなかいいんじゃね?
いくらでも、やりようはある。
やりたいって気持ちがあればな!!
それでダメだったらそん時はそん時だ。
なるべく放課後ティータイムを続けられるようにがむしゃらにやるしかない。
そうすれば、きっと……ファンのみんなはついてきてくれるんじゃないかな。
いいよな、みんな?
ニートになっても文句言うなよ?
「いいよ~」
軽いな、唯。
「地獄の底までついていくわ♪」
不吉なこと言うな、ムギ。
「文句は言います」
でも辞めるとは言ってません、ってか、梓め。
「律……やっと同じ目線になれたな」
……そっか。私が勝手に立ち止まってただけなんだな。
よし、これからもよろしく、みんな。
放課後ティータイム、また武道館目指すぞ!!!
「「「「おおーーっ!!」」」」
おわり
160: 2014/11/03(月) 14:06:56 ID:wnn5W/P20
一応元ネタとして参考にしてるのは、前半は東京事変、後半はタイバニです
ドラマーdisってるみたいになってしまいましたが、私は好きです
ドラマーdisってるみたいになってしまいましたが、私は好きです



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