1: 2010/01/31(日) 21:24:58.49 ID:kpIhVSoR0
先輩「もしかしてわたしに好意があるんですか?」
男「う……」

先輩「……」
男「……」

先輩「……」 もぐもぐ
男(……何でこのタイミングでその質問が来ますか先輩)

先輩「……」
男「……」

先輩「……?」
男「えーっと」

先輩「はい」
男「……その、ですね」
ふらいんぐうぃっち(1) (週刊少年マガジンコミックス)

2: 2010/01/31(日) 21:26:17.63 ID:0IRZsViQP
先輩「判りました」
男「判るんですか」

先輩「どう答えようとしてたにせよ、
 その躊躇の時間が内心を吐露してますよね?」

男「――はい」

先輩「理解しました」
男「え?」

先輩「……」 もぐもぐ
男「……その」

先輩「コロッケパンごちそうさまでした」
男「はい」

先輩「では、備品の確認に出掛けましょう」
男「……」

3: 2010/01/31(日) 21:27:34.18 ID:0IRZsViQP
――理科準備室

先輩「B-3、鍵OK」
男「B-3、鍵OK」

先輩「次行きましょうか」
男「はい」

カツン、カツン

先輩「……まだ暮れるのは早いですね」
男「寒いっすね」

先輩「……」
男「……」

先輩「……」
男「その」

先輩「なんです?」
男「さっきのなんですけど」

4: 2010/01/31(日) 21:29:19.92 ID:0IRZsViQP
先輩「はい」
男「俺、先輩のこと好きなんですけど」

先輩「理解しました」
男「……えっと」

先輩「資料室および準備室、鍵OK」
男「――鍵OK」

先輩「……」
男「……」

カツン、カツン

先輩「男くんの告白を理解し、受領しました」
男「……はい」

先輩「それで良しとしておいて下さい」
男「……うう」

先輩「だめですか?」
男「う、了解です」

先輩「よろしい」

5: 2010/01/31(日) 21:30:42.17 ID:0IRZsViQP
――翌日、執行部室

からからから

男「こんにちはっす」
先輩「こんにちは」

男「今日は何かあります?」
先輩「部室連の管理規定会議の草案の印刷です」

カタカタカタ

男「草案なんていつ作ったんです?」
先輩「あと15分で出来ます」

カタカタカタカチョ

男「……」
先輩「……」

男「なんで変な音が混じるんすか?」
先輩「このPC、キーボードのTが欠けて
 斜めになっているんです」

男「はぁ」

6: 2010/01/31(日) 21:34:21.27 ID:0IRZsViQP
カタカチョカタカタ

先輩「別に実用に当たって差し支えはありません」
男「まぁ、そうでしょうけど」

先輩「……」
男「……で、なんで草案作ってるんですか?」

先輩「草案があると会議が手早く終わります」
男「そりゃそうですけど、そういうのは会長がするでしょ?」

先輩「会長はそう言うことをしない人です」
男「まぁ、そうですけどっ」

先輩「他人がやらないので自分もやらない。
 その論理で始まるのは、限りないサボタージュの
 エコーループです。それは不毛ですよ」

男「理解は出来ますけれど」

先輩「よろしい」
男「――」

7: 2010/01/31(日) 21:36:56.23 ID:0IRZsViQP
カチャカタカタン

先輩「出来ました」
男「印刷しちゃいますか。職員室で?」

先輩「いえ、資料室がよいでしょう。
 ……まぁ、作業は終わりましたし。
 もうちょっと放課後が深くなってからが良いでしょうね。
 あそこは何かと騒がしい場所ですから」

男「ですね。待つのも馬鹿らしいし」

先輩「……」
男「……何してるんですか?」

先輩「いえ、時間を潰そうと」
男「潰そうと?」

先輩「座ってました」
男「……変な先輩」

先輩「そうですか? 立っているより自然です」
男「そうですけど」

8: 2010/01/31(日) 21:39:45.86 ID:0IRZsViQP
男「先輩。……オレオ食べます?」
先輩「頂きます」

男「はい」
先輩「では」 パリパリ、クシャ

男「……」
先輩「頂きます」 もぐもぐ

男(先輩が食べてるのは、なんか和むんだよなぁ。
 不機嫌そうとかみんな云うけど。
 そんな事ねーと思うんだけどな-)

先輩「……」じぃっ
男「どうぞどうぞ」

先輩「良いのですか?」
男「残り全部食べてください」

9: 2010/01/31(日) 21:43:57.12 ID:0IRZsViQP
先輩「頂きます」 もぐもぐ
男「……」

先輩「わたしは燃費が悪いんです」
男「そうみたいですね。細いのに」

先輩「小さくはありません。平均の範囲内です」
男「はぁ……」

先輩「……お茶が欲しく思うので買ってきます」
男「あ、俺行ってきます」

先輩「いいえ。わたしが奢ります。
 男君はここで留守番しててください。
 番ですよ?」

男「はぁ」

先輩「いってきます」
男「いってらっしゃい」

がらがら

10: 2010/01/31(日) 21:45:42.17 ID:0IRZsViQP
男「なんか……」

男(微妙に距離、おかれてるのか?)

男(いや、先輩はいつもあんなもんだよなぁ……)

男「んー。んっぅ」

男「――うっわ、ちゃんとした資料。
 いったい何時仕事してるんだ、あの人」

男(いつでもきびきびしてるから
 下級生が怯えるんだよなー。あの人。
 いや離してみても怯える可能性あるけど。
 愛想ないから。ぷくくっ)

からから

先輩「戻りました」

11: 2010/01/31(日) 21:47:45.65 ID:0IRZsViQP
男「お帰りなさい」

先輩「男くんの分は、ミルクティーです」
男「はぁ、ありがとうございます」

先輩「……」こくこく
男「頂きます」

先輩「……どうぞどうぞ。
 いつも差し入れもらってますからね」

男「いえ、それは良いんですけどね」

先輩「男くんは」
男「……なんです?」

先輩「……」
男「……」

先輩「なんでもないようです」
男「さいですか」

12: 2010/01/31(日) 21:51:44.56 ID:0IRZsViQP
――資料準備室、複合プリンタ

うぃんがしょーっうぃんがしょーっ

先輩「そっちでホチキスで留めてください」
男「ほいですよ」

先輩「はい」
男「……よっと」

うぃんがしょーっうぃんがしょーっ

先輩「やはり職員室のよりこちらの方が早いですね」

男「いや、それはここのが高性能なんじゃなくて
 職員室のが信じられないくらいボロいだけですよ?」

先輩「見てるとイライラします」
男「あー。それは判りますね」

先輩「遅いプリンタは害悪です」
男「ごもっとも」

13: 2010/01/31(日) 21:54:34.06 ID:0IRZsViQP
先輩「……」
男「……」

うぃんがしょーっうぃんがしょーっ

先輩「はい、どぞ」
男「後何種です?」

先輩「2種です」
男「了解」

とんとん、ぱちん。ぱちん。

先輩「男くんは、良くできた後輩ですね」
男「?」

先輩「……」
男(褒められたのかな?)「ありがとうございます」

先輩「はい」
男「……」

ぱちん。ぱちん。

14: 2010/01/31(日) 21:56:55.35 ID:0IRZsViQP
――昼休み、食堂

男「と、ゆーことがあった」

男友「……保留、ねぇ」
男「保留なのか、やっぱり」

男友「無視されたと表現するよりはいんじゃね?」
男「無視、って訳じゃないと思うんですけど」

男友「本当のところは先輩のみぞ知るわけだ」
男「どうなんかなー」

男友「悩むな」
男「悩むよっ」

男友「悩んでも勝率は変わらん。全ては御仏の結縁の
 奇なるところのおぼしめしだ」

男「なんだよ。生臭坊主」

15: 2010/01/31(日) 22:01:21.53 ID:0IRZsViQP
男友「俺は坊主じゃない」
男「将来は継ぐんだろう、生臭坊主」

男友「うちの宗派は妻帯が認められてるんだ」
男「二股三つ股OKな宗派なんてあるかよ」

男友「人生経験を積んでこそ有徳の僧となれる。南無」
男「うっわ、なんか適当云ってる」

男友「煩悩即これ菩提」
男「おまえ、なんでハゲなのにもてるんだろうな」

男友「ハゲではない。剃っているのだ。
 剃髪だ。最新モードだぞ? 2500年くらい前の」

男「おおざっぱな話だな、おい」

男友「まぁ、なんだ」
男「うん」

17: 2010/01/31(日) 22:12:12.25 ID:0IRZsViQP
男友「速攻で城塞攻略が出来なければ
 時間をかけるしか無かろう?」
男「時間か……」

男友「お前みたいに暗い眼鏡はそういうの得意だろう」
男「暗いとか童Oとか云うな」

男友「このような場合、もっとも効果を発揮するのは
 ……む。しばし待て」
 ドーマン! セーマン! ドーマン!セーマン♪
 直グニ呼ビマショ陰陽師 レッツゴー♪

男「最悪の着信音だな」

男友「あー。ミハル-? うん。大丈夫だ。
 開けてあるよ。……ん? うん。はははっ。
 そんなに気にするなよ。おやすいご用さっ」

男「うっわ、爽やかだ。……まぶしいっ」

男友「そうそう。たまたま手に入ったからね。
 そう。おっけー。んじゃ交換しようか」

18: 2010/01/31(日) 22:14:29.11 ID:0IRZsViQP
男友「ん。判った。じゃぁ、そだねー。
 15時くらいにまたTell入れるわ。
 ……うん、もちもちっすよ?
 ああ、それは期待しちゃうな。
 いえいえ、めっそうもない。
 いつでもミハルにやられてますよ。ええ。
 ははははっ。じゃぁ、また後でっ」

ぽぴっ

男「……」

男友「ふむ、どこまで話したっけ。
 ……畢竟、お前の問題点というものはだな」

男「いや、お前すごいわ」
男友「どうした?」

男「その切り替えの早さ、尊敬する」
男友「用いては用に従う。禅の思想だ」

男「……マジですごい」

19: 2010/01/31(日) 22:17:07.63 ID:0IRZsViQP
男友「こちらのことは良い。いまはとりあえず
 男と先輩の先行きだろ?」
男「お、おう」

男友「まぁ、そういう距離感なら仕方ない。
 ヒット&アウェイだな」
男「ヒットは良いとして、逃げて良いのか?」

男友「逃げろ。でも逃げすぎるな。
 脇を締めろ、えぐり込め。
 ジョー。立つんだジョー」
男「……難しい」

男友「俺の小ネタはスルーか」
男「反応に困る」

男友「お前は幸い馬鹿じゃねぇわけだし。
 考えながらその辺やってみるべきだ」

男「うーん」

男友「意思表示はしたんだから、後はし続けるのが大事だな」
男「そういうものか。……判った」

20: 2010/01/31(日) 22:21:01.36 ID:0IRZsViQP
――週明け、昼休みの執行部室

からから……

男「いますかー?」

先輩「男くんです」
男「お邪魔します。よいです?」

先輩「こっそりで」
男「ほいほい、こっそり了解」

先輩「……別に悪いことはしてないのですが」
男「まぁ、昼休みにこの部屋勝手に占領ってのもね。
 食堂のみんなに申し訳ないだろうし」

先輩「役得です。享受しましょう」
男「先輩、ご飯は?」

先輩「購買のパンです」 がさがさ
男「飲み物もあるんです?」

21: 2010/01/31(日) 22:23:31.55 ID:0IRZsViQP
先輩「ありますよ? 今日は紅茶です」
男「ところで」

先輩「はい?」
男「駅前で買ってきたフライドポテトがあるんですが」

先輩「……」
男「舌が火傷しそうなほど熱いヤツ」

先輩「……」
男「食います?」

先輩「頂きます」
男「はい、どうぞ」

先輩「これは熱いですね。用心せねば」
男「ナプキンこっちに置きますよっと」

22: 2010/01/31(日) 22:25:44.86 ID:0IRZsViQP
先輩「では、遠慮無く」 もぐもぐ
男「じゃ、俺も飯にします。頂きます」

先輩「いただきます」 ぺこり
男「……」ちらっ

先輩「……」 もぐ
男「……」

先輩「美味しいですよ?」
男「あ、はい。どうぞどうぞ」

男(なんか、こうやって差し入れするのが
 意思表示だっつーのが、
 情けない気分ではあるんだけど。
 これも貢いでいるって云うのかねぇ)

先輩「……」じぃ
男「へ?」

24: 2010/01/31(日) 22:29:38.32 ID:0IRZsViQP
先輩「いえ……」もぐ
男「……」

がさがさ

先輩「男くんにはフライドポテトをもらったので
 卵サンドをあげましょう」
男「良いんですか?」

先輩「良いです。差し上げます」
男「んじゃ、頂きます」

先輩「……」
男(あーん、で食べさせてくれるイベントとか)

先輩「……」もぐもぐ
男(ありませんよねー)

先輩「……」こくこく
男「卵サンド、美味しいですね」

25: 2010/01/31(日) 22:34:05.27 ID:0IRZsViQP
先輩「購買のサンドイッチは大抵いまひとつ
 迫力に欠けるのですが、卵サンドに限っては
 その迫力の無さが、良い具合にプラスの風情になっています。
 つまり“しょんぼり美味しい”という類ですね」

男「しょんぼり美味しい……」

先輩「ちなみにレタスサンドはその対極です。
 迫力の無さがむしろマイナス方向に働いた
 “しょんぼり不味い”です」

男「はぁ……」

先輩「レタスサンドは罠アイテムです」
男「了解です」

先輩「……」こくん
男(やっぱ変な先輩だ。
 でもそれなのに可愛く見えるんだから。
 我ながら末期というか……)

先輩「美味しかったです、ごちそうさま」
男「いえいえ、お粗末様です」

先輩「……男くん?」
男「はい?」

26: 2010/01/31(日) 22:37:03.65 ID:0IRZsViQP
先輩「胸触ります?」
男「え゛?」

先輩「――」
男「――」

先輩「――」
男「――」

先輩「……困りましたね」
男「いや、こっちこそ。ってかなんですか」がたりっ

先輩「大騒ぎしないでください」
男「~っ。うぅ、はい」

先輩「つまり、わたしの胸に触らないか?
 と云う問いかけであり誘いです」

男「いや、えー。え゛~!?」

28: 2010/01/31(日) 22:41:03.66 ID:0IRZsViQP
先輩「……うーん」

男「悩まないでください。意味はわかりました。
 いや、よく判りませんけど。
 そうじゃなくてっ。
 つまり、なんでその発言に至ったかが
 全然まったく判りませんけどっ」

先輩「ふむ」
男「なんでそんなに落ち着いてますかっ」

先輩「いや、自分の発言が巻き起こしてしまった
 男くんの動揺にかえって落ち着いてしまいました」
男「んな理不尽な」

先輩「つまり、ですね」
男「はい」

先輩「男くんにはいつも差し入れをいただいています。
 これには何かお返しをしたい」
男「はぁ」

先輩「ですから胸なんかどうかと思ったのです」

29: 2010/01/31(日) 22:44:03.74 ID:0IRZsViQP
男「――」

先輩「そんなに無言にならないで下さい。
 引かれているのかと思うと些か傷つきます」

男「や、その」
先輩「たかが脂肪のかたまりじゃないですか。
 ラードや背脂みたいなものです」

男「それ、女性の台詞じゃないです」

先輩「喜んで貰えるかと考えたのですが」
男「なんの罠かと疑いまくりですよ」

先輩「ただのお返しですよ」
男「……」

先輩「ふむ」 じぃっ
男「なんですか?」

31: 2010/01/31(日) 22:48:06.68 ID:0IRZsViQP
先輩「いや、もしかして。
 男くんはお返しでそんな事をするのは潔くない。
 男性としていかがなものだろう――
 と、このように考えているのではないかと」

男(考えてましたーっ)

先輩「難しく考えすぎですよ」
男「簡単に考えても結論変わりません」

先輩「触ってから考えれば良いではないですか」
男「先輩はそういう人だったわけですかっ!?」

先輩「そうです」こくり
男「首肯せんで下さいよっ。副会長っ」

先輩「触りませんか?」
男「勘弁してください」

先輩「度胸がないと云われてしまいますよ?」
男「度胸より大事なものがあると思いたい派閥です」

32: 2010/01/31(日) 22:51:33.11 ID:0IRZsViQP
先輩「ふぅ……」
男「……先輩?」

先輩「これでごまかせると色々お互い良いかな、
 と思ったのですが」
男「――」

先輩「やっぱり、答えが先に欲しいと?」
男「もちろん」

先輩「……」
男「……」

先輩「……ふむ」
男「もっかい云いますけれど。
 俺、先輩のことが好きです。
 付き合って欲しいです」

先輩「それは、理解し、受領しました」
男「はい」

先輩「でも」

33: 2010/01/31(日) 22:56:11.87 ID:0IRZsViQP
先輩「でも――。
 やめておいた方が良いと思います」

男「なんでですか……?」

先輩「わたしは異性と恋愛的な文脈で
 交際するつもりはないからです」

男「……」

先輩「男くんは、わたしの知っている中で
 もっとも出来の良い後輩で、
 性格が温かくて人当たりも良いでしょう。
 他にいくらでも適当な相手が居ます」

男「そういう物じゃないでしょう」

先輩「はい」
男「……俺は先輩が良いです」

先輩「はい」
男「何でそう言うことを言いますか」

35: 2010/01/31(日) 22:59:46.84 ID:0IRZsViQP
先輩「まさにそれが理由です」
男「?」

先輩「……」
男「……先輩?」

先輩「男くんのご家庭には、車はありますか?」

男「車? はい。えっと、上の兄貴がこないだ買いました。
 軽自動車だけど、すごく喜んでいます」

先輩「なら、説明もしやすいですね」
男「どういうことです?」

先輩「車を購入して、嬉しい。
 ドライブに出掛けよう。
 都心までやってきた。華やかでいいなぁ。
 喉が渇いたからそこらの喫茶店で珈琲でも飲もうか」

男「……?」

先輩「しかし、そこで思い知る。
 “駐車場がないと自分は喫茶店には入れない”事を」

36: 2010/01/31(日) 23:01:24.19 ID:0IRZsViQP
男「えっと、それってどういう話なんですか?」

先輩「車は生活を便利にします。
 時には楽しみも与えてくれる。
 でも、それなのに、人を限りなく不便にもする。
 電車で遊びに行った時は
 あんなにも簡単にできた様々なこと
 途中で気が向いた店でお茶を飲む、
 食事をする、買い物をする。
 それなのに、それらは急に
 満足に出来ないようになってしまう。
 全てが“駐車”というキーワードで制約される。
 活動範囲が広がったはずなのに、
 移動範囲が広がったはずなのに
 なぜか“車”と“駐車場”という場所から、
 透明の鎖でも出ているかのように
 行動範囲が設定されている自分が居る。
 車を活動の中心に据えて考え始める自分。
 それは選択自由度という意味でまさに本末転倒です」

男「……」

38: 2010/01/31(日) 23:03:31.87 ID:0IRZsViQP
先輩「また例えばランニングコストの問題もあります。
 ランニングコストは車種や
 車の利用の仕方にも関係しますが、
 駐車場代やガソリン代に始まり、
 車検整備費用、自賠責保険料など圧縮の難しいものもあり、
 その金額は一説には最低でも
 年間40万円前後になるとも云われています」

男「……良く、判りません」

先輩「それが、所有すると云うことの真実です」

男「所有……」

先輩「所有することによって、
 様々なデメリットやリスクが発生して、
 結局思ったほど自由にはなれないものです」

男「そんな事はないと思います」

39: 2010/01/31(日) 23:05:17.45 ID:0IRZsViQP
先輩「でも、正しい考察かと推察しています。
 男くんはわたしを所有しても、
 思ったほどのメリットは得られないと思います」

男「別に所有したいわけじゃないです」

先輩「では、リースで良いでしょう?」

男「リース?」

先輩「レンタカーのように必要な時に借りればいい。
 ランニングコストもかからないし、
 所有でない以上責任も軽く、
 また契約も厳密でなくて良い。
 様々なオプションもあり、車種もその都度変えられます。
 これは非常に便利な制度だと云えます」

男「そうゆうのってなんかっ」


40: 2010/01/31(日) 23:08:46.55 ID:0IRZsViQP
先輩「わたしのことをリースしたいというのなら
 それはそれで検討します。
 一緒に遊びに行ったり、
 一緒に勉強したり、
 食事をしたり、
 相談に乗ったり。
 全部リースで対応できますよ。
 他に好きな女の子が出来た時もトラブルがありません」

男「そういうお金のやりとりのようなのは好きじゃないです」

先輩「説明が足りませんでしたね。
 対価が欲しいという話ではありません。
 男くんは優秀でお気に入りの後輩ですから
 なにかを請求しようなんて考えてません。
 ただ、わたしを所有しても良いことはないですから
 一時的な契約で十分ではないか、
 と云う話をしているんです」

男「……」

先輩「不機嫌にさせてしまいましたね。
 ごめんなさい。謝罪します」

男「……」

41: 2010/01/31(日) 23:10:22.04 ID:0IRZsViQP
先輩「お詫びに胸にでも触りますか?」

男「だから、そういうのは嫌です。
 ちゃんと付き合ってもいない
 人にそう言うことはしませんっ」

先輩「ええ、知ってます。
 じゃなければこんな申し出、
 怖くて男くん以外にはなかなか出来ません」

男「……」

先輩「わたしは可愛げ無いですよ。
 世にツンデレなどというブームがあるそうですが、
 わたしは表も裏もこのままです。
 ニーズに応えられないと思うのです」

男「俺、子供扱いされてます?」

先輩「少しだけ」

男「聞き分けないな、と思ってます?」

先輩「少しだけ」

42: 2010/01/31(日) 23:12:32.59 ID:0IRZsViQP
男「……了解。んじゃ、この話は一旦打ち切ります」
先輩「助かります」

男「別に諦めた訳じゃないんですけど」

先輩「友人関係。――もしくは同じ生徒会の
 先輩と後輩で良いではないですか。
 どうしてもと云うならリースで
 学外にテイクアウトも受け付けます。
 胸くらいなら触っても良いですよ?」

男「だーかーらー」

先輩「照れている顔も可愛いですね」

男「……」

先輩「気が変わるまで、ちゃんと居ますよ」
男「変わらないです」

先輩「その約束を信じるには
 わたし達は少し歳を取りすぎていて、
 その約束を誓うにはまだ少しだけ幼いんです」

44: 2010/01/31(日) 23:23:36.32 ID:0IRZsViQP
――夕方、ケロケロバーガー

男「って訳で、ふられた」

男友「いや、すっげぇな。超打撃力だな。
 達磨大師もびっくりだ。南無」

男「……」

男友「拙僧が聞いた断り台詞の中でも
 間違いなく三本の指にの出来だぞ。
 是非メモしておこう。そうしよう。何かの時に使えそうだ」

男「マジで勘弁して下さい」

男友「特に“他に好きな女の子が出来た時も、
 トラブルがありません”って秀逸だよな。
 なんか、“興味も好意もありません”を
 迂遠かつ誤解の余地無く伝えるという離れ業だ。
 公案でもここまで出来が良いのはなかなか」

男「えぐるなよ」

男友「抉ったのは先輩だ。俺のはただの再生だ」

男「えぐられてるんだよ」

45: 2010/01/31(日) 23:26:36.03 ID:0IRZsViQP
男友「ふむ……」
男「なんだよ」

男友「ケロケロテキサス美味ぇな」
男「BBQソースなんてほっとけ」

男友「おっOい触りたかったのか?」
男「それが重要な質問なのかよ?」

男友「もちろん。理趣経にもあるとおり
 見淸淨句是菩薩位ってやつだ」

男「なんだよそれ」

男友「あー。つまりだな。えろい気持ちを持って
 好きな女のおっOいをみちゃうのはこれもはや
 菩薩の境地であると、そういう話だ」

男「で、おまえ。おれが揉みたくなかった
 って云ったらどうするんだよ」

男友「このインポ野郎と罵って校内で触れ歩く」

46: 2010/01/31(日) 23:32:24.99 ID:0IRZsViQP
男「――触りたかったですよ? そりゃ」 ふいっ

男友「この工口野郎。変態むっつりスケベめっ」

男「何が云いたいんだ、お前はっ!
 両面待ちのダブルトラップかよっ!?」

男友「いや、お前贅沢だなぁ、と」
男「ふられてんだぞ」

男友「おまえ、先輩に惚れてたんだろ?」
男「そうだよ悪いかよっ」

男友「その先輩は、お前を丁寧に
 ふってくれたんじゃねぇの?」

男「裏も表もきっちり焼かれて
 サニーサイドアップどころかターンオーバーだよ」

男友「確かにお前、矢傷と切り傷でぼろぼろだろうけど」
男「わりぃか」

47: 2010/01/31(日) 23:34:37.49 ID:0IRZsViQP
男友「その傷が、他の男についてたらどうすんの?」
男「――え」

男友「お前が諦めてくれるならデートでも
 勉強会でもこれからのお友達づきあいでも
 胸を触らせることでも、何でもやらせてやるって。
 ――そう言う台詞を、先輩が他の男に言う想像って
 したことある?」

男「……」

男友「で、その傷、他の男にくれてやるつもりあるの?」

男「ない」

男友「独占欲、自覚したか?」
男「……した」

男友「相当格好悪いな」
男「うん」

男友「その格好悪さも菩薩の位だと諦めるべき」
男「おまえ、本当に坊主に向いてるな」

50: 2010/02/01(月) 00:17:40.44 ID:1Bq+cX16P
――晩夏、文化祭準備の執行部室

先輩「男くん。暗幕の配当どうなってましたっけ?」
男「この」ぺらっ「予定表です」

三年生男子「予備は……36枚か」

先輩「そうなりますね」
男「はい」

三年生男子「委員の方には何枚借りられる?」
先輩「割り当てどおり、五枚です」

三年生男子「余っているならもうちょっと
 都合してくれてもいいじゃないか」

先輩「――」
男「出来ません。この余剰枚数は、
 暗幕がすでに劣化していて破けていることも
 計算にれてあります。
 つまり正規配布が駄目だった場合の
 正しく“予備”ですから」

三年生男子「でも、こっちの出し物でも
 もっと欲しいんだよな。そもそも申請8でだしてんだけど?」

51: 2010/02/01(月) 00:21:40.09 ID:1Bq+cX16P
男「均等に配布した結果です、ご了承ください」
三年生男子「……ちっ」

男「でも、全ての暗幕配布が終わり、
 事故がなかった場合には予備の36枚は動員可能になります。
 その場合の-。えー、第二次配布リストがもう作ってあります。
 このリストに、そっちの予約は記入しておきますよ」

三年生男子「おう。何番だ?」

男「2番です」

三年生男子「そっか。なら行けるかもだな。
 生きの良い1年飼ってるじゃん」

先輩「うちの腕利きです。あげませんよ?」

三年生男子「けっ。お前のしごきについてきてるんだから
 引っこ抜こうとしても無理だろ。まぁ世話になるわ」

先輩「はいはい。大きい声を出さないでください。
 この時期は忙しいのですから」


53: 2010/02/01(月) 00:27:50.05 ID:1Bq+cX16P
――文化祭準備の執行部室

先輩「ふぅ……」
男「お疲れ様です」

先輩「いつ予備リストなんて作って運用始めたんですか?」
男「今日ですよ?」

先輩「だって、リストでは二番って云いましたよ?」
男「一番は自分ですから」

先輩「?」
男「自分が36枚の予備申請を出しているんです。
 つまり、二番以下の人には当たりません」

先輩「……それは」

男「予備的措置です。
 どうせ後でまたもめることになるでしょうしね。
 一旦執行部のほうで内密に全てを差し押さえ、
 そのあと力関係に応じて角の立たない配分にするほうが
 良いかと考えました。
 幸い、予備リストの順位という言い訳も効きますし」

55: 2010/02/01(月) 00:30:37.44 ID:1Bq+cX16P
先輩「うーん。男くんはこの半年で
 ずいぶん仕事が出来るようになりましたね」

男「先輩の薫陶のお陰です」

先輩「前から素直で出来る後輩だったけど……」

男「お茶の用意できてますよ」

先輩「……頂きます」
男「お砂糖入れますね」

先輩「その魔法瓶も、半年だね」
男「……そうでしたっけ?」

先輩「……」

男「はいどうぞ。本日はグレープフルーツのゼリー
 生物室の清水冷やしもあるんですよ」

先輩「嬉しいな」

57: 2010/02/01(月) 00:34:52.27 ID:1Bq+cX16P
先輩「……」もぐもぐ
男「……んせっと」

カチャカタカタン

先輩「何やっているのです?」

男「チェックリスト作ってます。
 暗幕だけじゃなくて、長机とか、移動灯とか
 音響設備とかもどうせ奪い合いでしょう?
 それと体育館とかの特殊施設の仕様時間割を
 付き合わせて、リソース配分を」

先輩「それは会長の仕事ではありませんか?」
男「先輩に言われても気になりませんね」

先輩「……」
男「やっぱこうやってみると、三年生の方が
 なんだかんだで発言力がありますねー」

先輩「配分が偏っている?」
男「ですね」

58: 2010/02/01(月) 00:38:42.56 ID:1Bq+cX16P
先輩「多少バランスを取るべきですね」
男「了解ですー」

先輩「出来るんですか?」

男「出来ないとは言いたくないので、やってみます。
 文化部の方にリソースをもうちょい振り分けて、
 文化部のお古、ボロった機材を一二年に押し出す予定で。
 文化祭の建前ですから、三年も文化系クラブには
 文句が言いにくいでしょー」

カチャカタカタン

先輩「……男くん」
男「はい?」

先輩「いえ……」
男「はぁ」

カチャカタカタン

先輩「――ご褒美に胸触りますか?」
男「あー」

60: 2010/02/01(月) 00:41:19.51 ID:1Bq+cX16P
男(いや。もう、触りたいけど。
 すっげぇ触りたいけどっ。
 胸だけじゃなくて全部って云うか、
 そう言うんじゃないんだよってのが
 わかんないのかな先輩は。
 つか、判っててやってるのか、こいつは)

男「結構です」
先輩「そうですか」

男「……」
先輩「……」

男「胸の代わりにお願いして良いですか?」
先輩「はい」

男「絶対うんって云って欲しいんすけど」

先輩「なるべくYesと云うようにします」


65: 2010/02/01(月) 00:45:22.63 ID:1Bq+cX16P
男「その胸触るって云うヤツ。
 先輩が他の男に云うのだけは氏んでもききたくないですね」

先輩「Yes」

男「……」
先輩「それは約束できます。
 他の男性に云わなければよいのでしょう?」

男「ずいぶん、あっさりですね」

先輩「男くんには借りがありますからね。
 あんなに……その。
 傷つけた後も、普通に接してもらっています」

男「……」
先輩「それくらいの対価は安いものでしょう」

男「――いま二回目にふられた気分ですわ」 がくっ
先輩「はい?」

男「いえ、なんでも」

100: 2010/02/01(月) 10:51:36.37 ID:1Bq+cX16P
――文化祭前日、夕暮れ。新校舎

パチン、カチン。

男「んっと。――よいせ」

先輩「男くん?」
男「おっと。先輩」

先輩「こんなところで何を?」
男「廊下の飾り付けを少々。この辺、殺風景でしょ」

先輩「一人でですか? どこの担当なんです?」

男「バレー部だったかな。
 いや、手元に確認書類無いですけど」

先輩「質問の重心は“何故一人で”なのですよ?」

男「ここで作業してれば打ち合わせ
 帰りの先輩と会えるかと」

先輩「で、本当の理由は?」

男「たまたま手が空いてるのが俺だっただけっすよ」

101: 2010/02/01(月) 10:56:05.49 ID:1Bq+cX16P
先輩「こんな場所で作業してたら、
 指先が凍ってしまいます」

男「大げさだなぁ。校舎の中じゃないですか」
先輩「外と同じ気温です」

男「もうちょいで終わっちゃいますから」
先輩「何をしてるんです?」

男「電飾を」
先輩「そんなもの学校にあったんですか?」

男「なんに用途でしょうね。200m分くらい有りますよ」
先輩「ふむ」

男「もうガイド作ったから、こっちの端から
 だーっとこの廊下の左右に飾ろうかな、と」

先輩「凝り性ですね」 くすっ

男「だって、ほら」
先輩「?」

103: 2010/02/01(月) 11:01:05.66 ID:1Bq+cX16P
男「美術室とか、離れているから。
 美術部とか文化系クラブの連中、
 文化祭なのに人が流れてこなかったら可哀想っしょ。
 どっかの坊主みたいにナンパで
 人誘える部ばっかりじゃないし」

先輩「そう……ですね。そう言えば」

男「執行部室にお茶暖めてあるんで。
 先輩は良ければそっちにどうぞ」

先輩「いえ、手伝いましょう」
男「すぐ終わりますよ」

先輩「すぐ終わるならば、一緒に作業をして
 一緒に部室に戻れば良いではありませんか」

男「……そりゃ」
先輩「どうすればよいです?」

男(こんな事で嬉しくなっっちゃってまぁ。
 俺ってばなんて器のちいせぇ男だ)

先輩「こっちの十個ですか? あれ? あれ?」

105: 2010/02/01(月) 11:07:19.03 ID:1Bq+cX16P
男「それはコンセントに向かうケーブルですから。
 こっちのはし、持っててくださいね」

先輩「これで良いですか?」
男「おけっす。で、俺が留めていくんで。
 その束持ったまま、踏まないようについてきてくださいね」

先輩「判りました」こくり

パチン、カチン。

男「……」
先輩「……」

パチン、カチン。

男「……」

     ――あはははは!
      ペンキねぇの? ペンキ!!
      ジュースとたこ焼き買ってきたぞー!

先輩「賑やか、ですね」
男「前日ですからね。今日はみんな準備で
 ずいぶん遅くまで残るんじゃないすか」

106: 2010/02/01(月) 11:10:43.33 ID:1Bq+cX16P
先輩「男くんはクラスの方はいいんですか?」

男「ええ、ノルマ果たしてあります。
 見通し立ててましたからね、
 早めに動いておきました」

パチン、カチン。

先輩「……いえ」
男「?」

先輩「その、旧校舎でしたよね?」
男「クラスですか? ほら、あのあたりっすよ」
先輩「明かりがついていて、楽しそうですよ」

パチン、カチン。

男「あー。ろり先生を男装させるとか云ってたから」
先輩「一緒に遊ばないで、良いんですか」

男「いまはこっちですねー」

パチン、カチン。

先輩「……」

108: 2010/02/01(月) 11:23:02.79 ID:1Bq+cX16P
――文化祭前日、宵。新校舎

男「おーわりっと」
先輩「出来ましたか?」

男「つけてみます?」
先輩「見たいですね」

男「では、どうぞ」 すっ
先輩「?」

男「スイッチですよ。格好悪くてごついですけど。
 ここ捻ると、点きますから」

先輩「判りました」 ぱちん

 ぱぁっ! ぱっ――ぱっ――

男「ぷっ」
先輩「あ。あははっ」

男「明滅するのかよ、これ~。あはっ」
先輩「良いではないですか。華やかで」

110: 2010/02/01(月) 11:32:58.57 ID:1Bq+cX16P
男「もしかしてクリスマスの電飾なんですかね」
先輩「そう言えば、そんな雰囲気もしますね」

男「こう言うのは好きですか?」
先輩「……好き?」

男「?」
先輩「そう言われると悩んでしまいますね」

男「そうですか?」
先輩「好きなのか嫌いなのか、と問われると。
 ……今まで真剣に考えてみなかった分野の
 物事ですから判断がつきかねます」

男「変な先輩っすね」
先輩「そうですか?」

男「例えばよく考えた好きなものってあるんですか?」
先輩「味噌汁ですね」きっぱり

男「……」
先輩「豆腐と絹さやの味噌汁は好物です」

111: 2010/02/01(月) 11:35:51.78 ID:1Bq+cX16P
ぱっ――ぱっ――ぱっ――

男「ぷっ。あははははっ」
先輩「そんなに変ですか?」

男「いや、変じゃない。変じゃないんだけど」
先輩「味噌汁を好きな日本人は沢山いるでしょう?」

男「そうなんだけどっ」くくくっ
先輩「男くんは最近かわいげが足りません」

男「いや。くっ。……はい、了解」ぷぷっ
先輩「……」

男「さ、先輩。試運転は良いでしょう?」
先輩「そうですね」

男「執行部室に戻って、茶でも飲みますか。
 魔法瓶だから温かいですよ」

先輩「出来がよい後輩は有り難いですが
 最近は出来が良すぎる気もします」

男「虐められてますからねー」

116: 2010/02/01(月) 11:52:10.84 ID:1Bq+cX16P
――文化祭当日、昼休みの執行部室

からから

男「おじゃましまっす」
先輩「男くん」

男「あ、やっぱりいた」
先輩「ん?」

男「いや、多分いるんだろうな、と」
先輩「文化祭中は何かとトラブルも多いですから。
 連絡がつく場所に生徒会の人間が一人くらいは
 詰めておいたほうが、何かの役にも立つでしょう」

男「ま、そうですね-」 ごそごそ
先輩「どうしました?」

男「差し入れですよ。家庭科室から、焼きそばと、
 カップケーキ」

先輩「買ってきてくれたんですか」
男「こっそりね」

118: 2010/02/01(月) 12:00:22.16 ID:1Bq+cX16P
先輩「ん。美味しい」
男「それは何よりです」

先輩「……」
男「……はい、お茶」

先輩「良いのですか? 廻らないで」
男「ああ、はい。ちゃんとスケジュールは管理してます」

先輩「そう、ですか」
男「先輩こそ良いんですか?」

先輩「わたしはクラスでも特例的扱いですからね」
男「へぇ」

先輩「どうも他の人とテンポが合いがたく
 気詰まりを感じさせることもあり、
 生徒会の仕事に没頭していた方が被害が少ないのです」

男「そうかな」

先輩「クラスでは、わたしはどうやら
 相当気むずかしい人間だと思われているようで」

119: 2010/02/01(月) 12:02:43.41 ID:1Bq+cX16P
男「笑わないからじゃないですか?」
先輩「笑いますよ」

男「じゃぁ、ほら」
先輩「はい?」

男「いや、笑ってみませんか?」
先輩「出来ません、そんなの」

男「やっぱ笑わないじゃないですか」
先輩「時と場合。つまりTPOです。
 この状況で笑える訳ないじゃないですか」

男「そうかなぁ」
先輩「では、男くんが手本を見せてください」

男「いいっすよ」

先輩「拝見します」 じぃっ
男「……う」

123: 2010/02/01(月) 12:22:09.22 ID:1Bq+cX16P
男(先輩、まつげ長い……。
 ってか、くちびる、柔らかそう)

先輩「ほら」
男「え?」

先輩「笑えないではないですか」
男「いやちょっと待ってくださいよ」

先輩「はい」 じぃっ

男「……」
先輩「……」

男「いや。たんま。
 これはタイミングが難しいんです」

先輩「わたしの論が実証されました」

男「ちゃんと笑えますって!」
先輩「それを言うならわたしだって笑えます」


126: 2010/02/01(月) 12:52:01.49 ID:1Bq+cX16P
先輩「わたしが気むずかしいだなんて
 誤解だと思うのですが……。
 これについては本格的に思考する必要がありそうです」

男(ほら、そのちょっと困ったような
 怒ったような表情のせいだと思うんですよ。
 俺としては。
 ――その顔、嫌いじゃないんですけどね)

先輩「ふむ……」

ガラガラガラっ

二年生「誰かいますかーっ?」
先輩「何かありましたか?」

二年生「体育館で、喧嘩があったらしくて」
男「あらら」

二年生「それは止めたんですけど。先生が。
 それで、どこかの団体の大道具が壊れちゃって。
 出来れば団体がどこなのかの調査と
 手を貸して貰えればと」

127: 2010/02/01(月) 12:54:53.97 ID:1Bq+cX16P
先輩「行けますか?」
男「はい。リストそろえました。書き置きして」

先輩「行けます。案内してください」

二年生「はい、本当に。済みません。
 その……結構仕事有りそうなんですけど」

先輩「はい」

二年生「二人で大丈夫ですか?」

先輩「心配はご無用です。出来の良い後輩がいますから」
男「はいはい」

二年生「そうですか。やっぱ良いですよね。
 こうはいって、なんでか可愛いんですよねぇ」

男(体育会系だ。女子っておっかねぇ)

先輩「ええ。可愛いですよね」にこっ

男「先輩――(笑えるじゃ……)」
先輩「はい?」

男「いえ。んじゃ、体育館へっ」

131: 2010/02/01(月) 13:17:57.56 ID:1Bq+cX16P
――冬、新年、駅前

 ゴォォォー。
  ――♪ ~♪ ~~♪

先輩「男くん?」

男「あれ。先輩。うっわ。
 明けましておめでとうございます」

先輩「明けましておめでとうございます」

男「……」
先輩「とはいっても、来週になれば学校で
 会えるでしょうけどね」

男「そりゃそうですけど……。
 先輩何やってきたんです?」

先輩「わたしは模試の申し込みとか。
 一応、受験生になりますし」

男「そう言えばそっか」
先輩「男くんは?」

男「押上のおじさんの家に年始の挨拶です」

132: 2010/02/01(月) 13:19:48.79 ID:1Bq+cX16P
先輩「ご家族は」 きょろ
男「ああ、酒かっくらってるので置いてきました」

先輩「そうだったんですね」

男(先輩、私服もクール系なんだな)

 ゴォォォー。
  ――♪ ~♪ ~~♪

先輩「では、また学校ででも」
男「先輩っ」

先輩「はい?」
男「えっと。……ご飯を。どうです?」

先輩「お昼まだだったのですか?」

男「ええ。先輩は食べ……じゃなくて。
 じゃなくて」

先輩「?」

男「ご一緒しませんか? 奢ります」

133: 2010/02/01(月) 13:21:19.45 ID:1Bq+cX16P
先輩「ふむ。奢られるのは不本意です」
男(駄目かぁ……)

先輩「想定メニューはなんですか?」
男「あー……。お、オムライス?」

先輩「オムライスですか?」

男(は、外したかぁぁ。つか、こんな中途半端な
 ダメハブ駅でお洒落な店なんてねぇよっ)

先輩「オムライス。……良いですね」
男「え?」

先輩「それならご相伴しましょう。
 しかし、奢りは無しです」
男「は、はいっ」

先輩「案内してくださいね?
 わたしはこのあたりは疎いんです」

男「了解であります!」

135: 2010/02/01(月) 13:26:25.19 ID:1Bq+cX16P
先輩「ああ。駅ビルにあるんですか」
男「あんまり来ません?」

先輩「来ませんね。わたし、物欲薄いのだそうです」
男「ああ、そんな印象かも知れないですね」

先輩「しかし食欲はあります」
男「それも判る」

うぃん、かしゅーっ
  ウエエエマイリマス

先輩「いつも思うのですが」
男「はい?」

先輩「何故この種のビルの飲食店は、
 ビルの上層部にあるのでしょうかね」
男「ふむ」

先輩「衛生的な問題からも、水利施設の問題からも
 低層階にあった方が良いような気もするんですが」

137: 2010/02/01(月) 13:44:25.26 ID:1Bq+cX16P
男「なんだかで読んだことありますけど、
 まずは食い物で上の方まで登らせておいて、
 それからエスカレーターとかで下のフロアに
 移動させるとかいう、なんですか。
 モノの売り方に関係あるような話でしたよ」

先輩「なるほど。売るための知恵ですか」

男「きっと腹がいっぱいになると
 思考力が鈍って財布の紐がゆるくなるとか、
 そんな話なんじゃないでしょうかね」

先輩「わたしには縁のない話のようですね」
男「それはそれで寂しいっすね」

うぃん、かしゅーっ
 ハチカイフードフロアデゴザイマス

先輩「だからここに来たのも初めてですよ」
男「そっか。学校の連中は
 結構遊び場にしてる見たいですよ?
 近場の駅ビルだから」

先輩「そうなんですか」

138: 2010/02/01(月) 13:46:55.33 ID:1Bq+cX16P
――駅ビルの飲食店

男「あ。ここです」
先輩「ふむ。オムライスが沢山ですね」

男「ファミレスっぽい値段で、
 なんとなーく専門店っぽい雰囲気という。
 ……学生向け。かな?」

先輩「家族ずれもいるようですね」

男(デートで使いたいとは云えないよなぁ。
 おれチキンだー。
 なんかこういう、中学生っぽい店って云うのも
 そういう選択肢しか無い自分に涙でそう)

先輩「ではメニューを検討します」
男「どうぞどうぞ」

先輩「……」 真剣
男「……」 ぺらっ

男(……真剣なのは先輩らしいけど。ぷくくっ)

141: 2010/02/01(月) 13:54:17.74 ID:1Bq+cX16P
先輩「決めました」
男「こっちもおっけですよ」

店員「おきまりですか?」

男「とろけるチーズのミートソースのオムライス。
 それとアイスティー」
先輩「わたしは、モッツァレラチーズのトマトソース。
 で、飲み物は。うーん。烏龍茶で」

店員「かしこまりました。繰り返させて頂きます……」

  ――♪ ~♪ ~~♪

男「改めまして、明けましておめでとうございます」ぺこり
先輩「昨年中は何かとお世話になりました。
 今年もどうかよろしくお願いいたします」 ぺこり

男「……」
先輩「……」

男「う」
先輩「?」

男(考えてみたら、学校の外って初めてじゃないか!?)

143: 2010/02/01(月) 14:03:52.19 ID:1Bq+cX16P
先輩「……」
男(何か喋らないと。なんでもいいからっ)

先輩「?」
男「あー」
先輩「はい」

男「先輩はお正月はどうでした?」
先輩「普段どおりでした」

男「……」
先輩「……」

男(会話が続かないっ!?)

先輩「男くんはどこかに出掛けたのですか?」
男「えーっと。そうですね。
 友と一緒に初詣に行きましたね。友の実家に」

先輩「お寺でしたっけ?」
男「ええ」

144: 2010/02/01(月) 14:05:20.32 ID:1Bq+cX16P
先輩「どうだったんですか?」

男「除夜の鐘はつきましたよ。
 だから、初詣じゃなくてなんて云うんでしたっけ」
先輩「二年詣?」

男「それです」
先輩「お神籤とかするんですか?」

男「いや、それ神社でしょう? あいつのとこは寺だから」
先輩「そういえば、そうですね。
 と、なると。巫女さんもいないのですか?」

男「ええ。そういえば、巫女がいないって落ち込んでましたよ」
先輩「落ち込むのですか?」

男「ええ、売り上げが落ち込むそうです」
先輩「ああ」 こくり

男「云われてみると納得ですけどね」

147: 2010/02/01(月) 14:20:50.06 ID:1Bq+cX16P
男「先輩こそ初詣は行かなかったんですか?」

先輩「行きましたよ。近所の小さな神社に。
 でかけて、お参りして、家に帰るまで30分です」
男「早っ」

先輩「寒いではないですか」
男「それはそうですけど。……一人で?」

先輩「ええ」
男「……」

先輩「どうしました?」
男「いえ、なんでも」

先輩「あとはそうですね。餅を食べて勉強をして
 餅を食べてミカンを食べて餅を食べていました」
男「餅ばかりですね」

先輩「前にも云いましたけれど、燃費が悪いんです」
男「そう言えば、そんな事言ってましたよね。
 ――云ってるそばから補給が来ましたよ」

店員「おまたせいたしました。
 とろけるチーズのミートソースのオムライス。
 こちらはモッツァレラチーズのトマトソースの
 オムライスになります」

150: 2010/02/01(月) 14:56:32.92 ID:1Bq+cX16P
――駅のコンコース

……ゴォォォッ

先輩「……」ぶるぶるっ
男「寒いですね」

先輩「はい」
男「……」 すいっ

先輩「……? オムレツは美味しかったです。
 ありがとうでしたね。良い店を教えて貰いました」
男「そうですか。ほっとしました」

先輩「何故です?」
男「店不評だったら寂しいじゃないですか」

先輩「いえ、美味しかったですよ。
 とろけたチーズとオムレツは非常に合いました。
 今度は別のメニューも試してみたいですね」

男「また来ますか?」
先輩「ええ」

男(良かったぁ)

151: 2010/02/01(月) 14:58:39.60 ID:1Bq+cX16P
先輩「胸、触りますか?」
男「へ?」

先輩「いえ。良いお店を教えてくれたお礼に」
男「触りません」

先輩「そうですか」
男「そういうの駅のホームで云うのやめてくださいよね」
先輩「では学校でなら良いのですか?」
男「あー。……先輩?」

先輩「はい?」
男「もしかして機嫌が良いんですか?」

先輩「すごく良いです。とても良いです。
 オムライスが美味しかったから」

男「機嫌が良いと俺のこと虐めるのもやめてください」
先輩「そういう自覚はないんですけど……」

男「……(ため息)」

152: 2010/02/01(月) 15:00:11.52 ID:1Bq+cX16P
先輩「不愉快にさせたのなら謝罪します」
男「不愉快になんかならないですよ」

先輩「良かった」
男「先輩と一緒にいて、それはないです」

先輩「……」
男「……」

~♪ ~♪

先輩「来ましたね」
男「電車に入ればちょっとは温かいでしょ」

プシュー

先輩「そういえば」
男「はい?」

先輩「家族以外に二人で外食をしたのは初めてです」
男「……」

先輩「有意義な経験ですね」

男(胸さわるとかより、そっちのが
 よっぽどご褒美ですわ。先輩)

160: 2010/02/01(月) 16:47:44.31 ID:1Bq+cX16P
――新学期、昼下がりの教室

男「進級おめでとさん」
男友「おたがいなー」

男「早いな。あっちゅぅ間だ」

男友「そうだな。花に誘われるミツバチのように
 飛び回れば、あっという間に一年だ」

男「お前、そのうち刺されるぞ」

男友「これでもそのあたりは見極めている。
 拙僧は真心を繋いでいるだけなのだ」

男「真心とか云うな。キモイから」
男友「全否定から入ってくれるな。
 そっちこそ、最近先輩どうなん?
 さすがに諦めたのか?」

男「いや」

男友「強情だな」

161: 2010/02/01(月) 16:50:18.98 ID:1Bq+cX16P
男「そんな都合良く“次”なんて見つからないし
 見つけるつもりもないし」

男友「お前は高校生活を彼女無しで
 全編押し通すつもりなのか?」

男「そうしたい訳じゃないけど。
 先輩以外はいやだ」

男友「……」
男「悪いか?」

男友「仏教的には妄執の類なんだろうが、
 お前の場合はきちんと蹴りをつけないと
 縁が解けそうにもないだろうからなぁ」

男「……」 ふいっ

男友「お。あれだろ?」
男「ん?」

男友「会長さん」

162: 2010/02/01(月) 16:52:46.51 ID:1Bq+cX16P
男「持ち上がりで生徒会長ってな」
男友「いままでだって仕事の仕切りはしてたんだろ」

    先輩「……」
    三年生――? ――!
    先輩 こくり

男「まぁね。実務には問題ない」
男友「んじゃ、適任だろう」

男「あの人、ああ見えて、結構危なっかしい」
男友「そうなのか?」

男「向こうは俺のことそう思ってんだろな。
 で、こっちも相手をそう思ってる」
男友「……ふむ」

男「……」
男友「多少は上手く行ってるのか?」

男「あー」
男友「なんだよ」

163: 2010/02/01(月) 16:55:37.88 ID:1Bq+cX16P
男「よく判らん」
男友「濁世の事は全てそうだ。五里霧中だ」

男「また坊主節だよ」
男友「俺から見ると、結構仲良さそうに見えるぜ?」

男「悪かぁないよ。悪くは、ない」
男友「ふむ」

男「男子で一番仲がよいとかくらいまでは、
 行ってるんじゃないかな」

男友「もう一息」

男「その一息が果てしなく険しいタイプなんだ」

男友「まぁ、下手に関係が安定すると崩すのが
 大変だしな。速攻が一番成功率が高い」

男「それで玉砕した」
男友「覚えてるよ」

164: 2010/02/01(月) 16:58:10.35 ID:1Bq+cX16P
男「だいたいのところさー」 ぐいっ
男友「ん?」

男「あの人、好きとか嫌いとかよく判ってなさそう」
男友「それはないだろう」

男「なんで?」
男友「馬鹿じゃないから」

男「馬鹿じゃなくても、判って無いことはあるだろ」
男友「無いね。判りたくないって事はあっても」

男「……」

男友「おっOい揉んでおきゃいいのに」
男「あのなー」

男友「そうすれば、いまとは多少違う風になれただろうに」
男「今さらそんな事出来る訳ねぇよ」

男友「それももっともだ。チキンだしな」

171: 2010/02/01(月) 18:16:09.73 ID:1Bq+cX16P
――春、北高への訪問

先輩「どうしました?」
男「いえ、別に」

先輩「緊張ですか?」
男「そんな事はないです」

先輩「北高は結構お嬢様高校ですからね」
男「そうなんですか?」

先輩「戦後しばらくは女子高だったそうですよ」
男「へぇ」

先輩「だから旧校舎は廊下とか細いのだそうで」
男「ああ、あれですね。綺麗ですね、桜で」

先輩「来たことありましたっけ?」
男「ないですね。話は聞いてましたけど」

先輩「話?」
男「友達の彼女(の一人)が北高ですんで」

172: 2010/02/01(月) 18:18:02.50 ID:1Bq+cX16P
先輩「わたしは二回目ですけど、気を楽に」
男「はぁ」

先輩「吹奏楽大会のうちあわせと
 交流戦の記録の受け渡しくらいで
 対して内容のある話じゃないですよ。
 学区のお茶会なんて」

男「はぁ」
先輩「そわそわしてますね」

男「だってめちゃくちゃ手をふってるのって
 俺たちにじゃありません?」

      三階の窓 ぶんぶんぶんっ

先輩「……そうみたいですね」
男「急いだ方が良いのかな」

先輩「どうしたのでしょうか」
男「いや、俺にも判らないですよ」

173: 2010/02/01(月) 18:20:03.87 ID:1Bq+cX16P
――北高の廊下

北高書記「ようこそいらっしゃいました」
北高会計「ようこそいらっしゃいました」

先輩「お邪魔します」

北高書記「いまから被服室へご案内しますね」にこにこ
先輩「生徒会室じゃないですか?」

北高会計「被服室の方が広さがあるので。
 お茶を飲むならその方が良いかと」にこにこ

先輩「ああ、そうなのですか」
男「お世話になります」

北高書記「いえいえ」
北高会計「今年の吹奏楽はそちらでやりますし」

先輩「そう言えばそうですね」
男「?」

175: 2010/02/01(月) 18:42:07.28 ID:1Bq+cX16P
――北高の被服室、お茶会

北高会長娘「ありがとうございますね、わざわざ」 にこっ
先輩「いえ、とんでもないです。
 こんな席をセッティングしてもらって」

男「あー。これ、つまらないモノですが、お土産です。
 アップルシフォンケーキ……とかなんですけど」

北高書記「ありがとうございます」 にこにこ
北高会計「いま出しますね。
 座ってお待ちになっていて下さい」 にこにこ

  男「北高の生徒会って女性だけっぽいですか?」
  先輩「生徒の殆どが女性ですから。
   商業科併設の所はそうらしいですよ」

北高会長娘「お茶をどうぞ」

先輩「ありがとうございます」
男「……」 ちらっ

北高書記 にこにこ
北高会計 にこにこ

176: 2010/02/01(月) 18:44:26.52 ID:1Bq+cX16P
  男「なんか異様にフレンドリーな気がします」
  先輩「……気のせいじゃないと思う」

北高会長娘「こほんっ」

先輩「はぁ」
男「……」

北高会長娘「まぁ、有り体に云います」
先輩「はい」

北高会長娘「うちは女子ばっかりなので
 出会いがないです」がしっ

男「すごいストレートですね」

北高会長娘「そんなわけで、
 そちらで吹奏楽大会というのは
 結構校内では盛り上がっていまして」

北高書記 こくこく
北高会計 こくこく

先輩「そうなんですか?」

177: 2010/02/01(月) 18:45:48.74 ID:1Bq+cX16P
北高会長娘「ご存じないかも知れませんが、
 去年こちらで大会を行なった時に出会った
 そちらの高校と当校の女生徒が
 その……交際を始めた事例が二件有りまして」

男「ああ。そう言うことですか」

北高書記「そちらの高校の男子は、その……
 格好良いという学区でも評判ですし」

  先輩「そうなのですか?」
  男「ええ。制服が、ですけど」

北高会長娘「このチャンスに彼氏が
 欲しいという娘も相当数いるわけで」

北高書記 こくこく
北高会計 こくこく

先輩「そんなに血道を上げることでしょうか」
男「先輩はここはひとまず黙っておきましょう。
 多分ややこしくなるから」

182: 2010/02/01(月) 19:32:55.85 ID:1Bq+cX16P
男「お話としては判りました。
 では、用件としては、おそらく吹奏楽大会の
 開催の……細部を、こちらとそちらの生徒会で
 詰めて教師の方に上げたい、と。
 その方向性は、応援席の拡大とか、
 交流あたりを絡めたいという話ですか」

北高会長娘「その通りです。話が早くて助かりますっ
 えーっと……」

男「今年度から副会長をしています二年の男です」

北高会長娘「教師陣を説得するにも、
 こちらの方の意思疎通が終わっていて、
 計画のアウトラインが出来ている方が
 説得しやすいだろうなぁ、なんて」

男「それは判ります。どういった規模を考えてますか?」

北高会長娘「んーっと」
北高書記「はいっ。吹奏楽部の、普通の部員が61名で」

先輩「61!?」

北高会長娘「この時期にわかにに増えたんです」
北高会計「恥ずかしいです」

183: 2010/02/01(月) 19:33:40.91 ID:1Bq+cX16P
北高書記「まぁ、そのぅ……。部員が61名と。
 出来れば見学者というか、
 観客の入場が出来るような形に」

北高会計「だめでしょうかね」

先輩「……」ちらっ
男「ふられちゃって良いですか?」
先輩「任せます」

男「部員が増えたのは、まぁ、体育館の舞台の大きさは
 こちらの高校とも大差がないと思いますので、
 こちらでの練習が通っているのなら問題ないかと。
 ただ、そういうにわかな部員が増えているのであれば
 旧来の正規の部員の肩のモチベーションもあると
 思いますので二班編制にしても良いかと思いますよ。
 61人を30人くらいずつに分けるとか。
 もしそうなった場合は、吹奏楽のプログラム変更に
 なりますので、あとで事務的な打ち合わせをすれば
 よいかと思います。
 ……えーっと、観客というか、随行ですねー」

北高会長娘「……」 北高書記「……」

男「誤魔化して取り繕うことも出来るんですけれど
 そうすると後が余計にややこしくなりそうですよね。
 素直にここは親睦会というラインで説得するのが
 良いかと思います」

184: 2010/02/01(月) 19:34:59.74 ID:1Bq+cX16P
北高会長娘「それで行けますかね」

男「いけると思いますよ。
 そもそも吹奏楽の、例えば都の公式な大会と云うよりは、
 うちの学区の交流的なイベントに過ぎない訳ですし。
 生徒同士の交流を目的とした親睦会と
 吹奏楽の組み合わせでいいでしょう。
 一般生徒のアンケートによる優秀楽曲も選ぶと良いかな。
 吹奏楽の大会は3時間くらいかな。
 そのあと、引き続き体育館で懇談会でよいかと。
 テーブルそのほかはこちらで用意できます。
 後はお茶くらい有れば、済むでしょう?」

北高会長娘「そ、そうですか?」

男「企画書みたいなモノが必要ですよね。
 それは……やっぱり実施校であるうちで作った方が
 説得力有りますよね。んじゃ、それは作りますので」

北高書記「す、すみませんっ。ねだったみたいで」
北高会計 ぺこぺこ

男「あ。いえいえ。やっぱり高校生ですから。
 彼女の一人も欲しいのは
 こちらの学生の気持ちだって一緒ですよ、多分」

185: 2010/02/01(月) 19:39:08.24 ID:1Bq+cX16P
北高会長娘「本当にありがとうございます」
北高書記「ありがとうございます」
北高会計 ぺこぺこ

先輩「礼を言われるほどのことではないです。
 それにまだ実施できると決まった訳でもないですし」
男「そうですよ」

北高会長娘「いえ、お世話になっちゃって」
北高書記「あ。お茶お代わりします」
北高会計「そうですねっ」

先輩「……」
男「カップル成立とかは横に置いても
 和やかな感じで交流が進むと良いですね」

北高会長娘「はい」 にこっ

  北高書記 こそこそ
  北高会計 こそこそ

先輩「?」

187: 2010/02/01(月) 19:44:26.50 ID:1Bq+cX16P
――北高の玄関

北高会長娘「そう言えば、生徒会の
 他の方々はどうされたんですか?」

先輩「当校は執行部方式なんです。
 生徒会長以外は任命制ですから。
 お手伝いの非常勤の人がいれば
 わたしと男くんの二人で廻っちゃうんですよ」

北高会長娘「すごく効率が良くないですか?」

先輩「馴れていますから。
 男くんは出来の良い後輩ですし」

北高会長娘「羨ましいですね!
 二人っきりの生徒会役員室とか」

先輩「そう……ですか?」

北高会長娘「うちからすると天国っすなー。
 じゃない、天国ですね。あははは。
 女ばっかりだと、荒みます。ここだけの話。
 潤い成分ゼロです」

189: 2010/02/01(月) 19:48:26.85 ID:1Bq+cX16P
北高書記「あのっ」
北高会計「本日は」
男「?」

北高書記「色々、そのお世話にっ」
北高会計「これ、お土産ですので! 紅茶の葉ですっ!」

男「ありがとうございます。
 こちらこそ美味しいお茶を頂いて。ども」

北高書記「そ、それでですねっ!」 がばっ
北高会計「はいっ」 めらめら
男「なんでしょう?」

北高書記「そ、その。企画書の件とか、今後のことも
 ありますので、その……めっ! あ。メアドの交換なんかっ」

男「あ、そですね。……いいですか?」 ピッ

北高会計「わっ。わたしもよろしいでしょうかっ」

男「はい? 構いませんけど」

193: 2010/02/01(月) 20:22:23.17 ID:1Bq+cX16P
――北高からの帰り道

先輩「お疲れ様でした」
男「別になんもしてませんし」

先輩「感謝されてたではないですか」
男「実務じゃないですよ」

先輩「それでも、お仕事です」
男「はーい」

先輩「良い返事ですね」
男「先輩の教育が良いですから」

先輩「……」
男「……」

先輩「そんなに」
男「?」

先輩「恋人が欲しいものでしょうか」
男「あー」

194: 2010/02/01(月) 20:36:18.89 ID:1Bq+cX16P
男「あれは、んー。俺もよく判らないですけど。
 まぁ、彼氏とか彼女とかいると、
 学生時代が充実するというか、
 そういう話じゃないですかね」

先輩「彼女達は充実してないのですか?」

男「いや、そういう訳じゃないと思いますが。
 後から振り返って、感慨に浸りたいというか
 寂しい訳じゃないけど物足りないというか。
 ……つか、なんで俺が女の人の考えを
 代弁しなきゃいけないんですかっ」

先輩「……それもそうですね」
男「そうですよ」

先輩「……」
男「……」

先輩 ちらっ
男「どうしました?」

先輩「いえ、なんでも」

195: 2010/02/01(月) 20:38:17.37 ID:1Bq+cX16P
先輩「……」
男(あー。あの顔は)

先輩「……」

男(またなんか猛烈な勢いで考えてるな-。
 仕方ないなぁ、先輩も。
 どうするかな。
 なんか甘い飲み物用意する……っていってもな。
 どこかでお茶の誘い。いや、ケロケロバーガーかな)

先輩「男くんは」
男「はい?」

先輩「もてるんですね」
男「はぁぁぁ!?」

先輩「そのように観測できます」

男「藪から棒ですね」

196: 2010/02/01(月) 20:41:34.58 ID:1Bq+cX16P
先輩「胸触りませんか?」
男「触りませんっ」

先輩「触りましょう」
男「……え?」

先輩「要請です。触りましょう」
男「……なんで?」

先輩「……」
男「……」

先輩「……」じぃっ
男「……」

先輩「いえ、失言でした。取り消します」
男「……はぁ」

先輩「日が暮れる前に帰りましょう。
 話しに出ていた企画書とかも作るんでしょう?」
男「それはまぁ。……あ、ちょっと」

先輩 すたすたすた
男「先輩っ」

203: 2010/02/01(月) 21:49:37.67 ID:1Bq+cX16P
――数日後、執行部室

からから

先輩「こんにちは、男くん」
男「こんにちはー」

先輩「何をしているんですか?」
男「先輩を待ってたんですよ」

先輩「何かありましたか?」
男「いやべつに。ケロケロポテト食べるかな、と」

先輩「頂きます」
男「はいどうぞ」

先輩「……」
男「……?」

先輩 すたすた、きぃ、かたん
男(……わざわざ隣に座ってくれるのか?)

206: 2010/02/01(月) 21:52:41.72 ID:1Bq+cX16P
先輩「……」もぐもぐ
男「美味いですか?」

先輩「美味しいです」
男(なんか不機嫌な顔に見えるんだけどなぁ)

先輩「……」ちらっ
男「?」

先輩「食べないんですか?」
男「食べますよ」

先輩「……」もぐもぐ
男「そういえば」

先輩「はい?」
男「例の企画書。送ったヤツ」
先輩「はい」

男「通ったみたいですよ。こっちも向こうも」

207: 2010/02/01(月) 21:55:08.63 ID:1Bq+cX16P
先輩「お疲れ様です」
男「はいな」

先輩「お疲れ様です」
男「はいな?」

先輩「……」

男(なんかまた不機嫌か?
 ……それとも、なんか考えてるのかー?)

先輩「男くんは、良くできた後輩ですね」
男「はぁ。ありがとうございます」

先輩「よく差し入れを持ってきてくれます。
 わたしのエンゲル係数に付き合わせて申し訳ないです」

男(食べる割には大きくならないけどな。先輩)

先輩「……」
男「どうしました?」

209: 2010/02/01(月) 21:58:00.49 ID:1Bq+cX16P
先輩「オムライスを食べに行きます」
男「ああ。オムライス。また食べたいんですか?」

先輩「……」
男(違ったか。的中率悪いな、俺)

先輩「わたしが奢りましょう」
男「はい?」

先輩「私の方が年上ですから」
男「年上ですけど」

先輩「普段の差し入れのお礼を
 いままでせずにきたのは問題がありました」
男「いや、こっちの勝手でやってることですから」

先輩「このままでは安心して卒業できません」
男「いや……そうやって精算されるのも寂しいというか」

先輩「オムライスを奢ります」
男「はぁ」

211: 2010/02/01(月) 22:10:17.28 ID:1Bq+cX16P
男「じゃぁ、いつ行きましょう? 明日の放課後とか?」
先輩「放課後は困ります」

男「そうなんですか? じゃぁ、日曜ですか」
先輩「はい」

男「じゃぁ、次の日曜で。昼飯で良いですよね?」
先輩「望ましいですね」

男「じゃぁ、待ち合わせは。駅ビルで良いですか」
先輩「メールします」

男「ああ、了解」

先輩「……」
男「どうしたんです?」

先輩「男くんは、余り大量に食べませんね」
男「燃費はわりと良いですね」

先輩「ふむ。判りました」
男(謎だ……)

214: 2010/02/01(月) 22:21:43.15 ID:1Bq+cX16P
――日曜、ルミネ入り口

先輩「お待たせしました」
男「待ってません……けど」

先輩「?」
男(なんだろ。先輩ってこんなに美人だったっけ?)

先輩「どうしました?」
男「なんでもないです」

先輩「いきましょう。お腹が減りました」
男「了解」

とてとて。

先輩「……考えてきましたか?」
男「何をです?」

先輩「どのオムライスを食べるか」
男「メニューもないのに無理ですよ」

先輩「前回見たじゃないですか」
男「覚えてないですって、ふつー」

217: 2010/02/01(月) 22:25:14.95 ID:1Bq+cX16P
先輩「前回は手慣れた様子だったので、
 毎週行っているのかと思いました」
男「まさか。とんでもない」

先輩「ちなみに私はハヤシソースオムライスを食べるのか
 エビとホウレン草のクリームソースオムライスにするかで
 迷っています」

男「どっちも美味そうですね」
先輩「食べた経験は?」

男「その二種類はどっちもないですね。
 カニクリームコロッケはあるけど」

先輩「美味しかったですか?」
男「かなり美味かったですよ」

先輩「……でもやはり、初志貫徹ですね」
男「……」

先輩「……」真剣

男(やっぱり、美人さんだよな。先輩。
 髪の毛細いなぁ……。猫っ毛なんだろなぁ。
 触りたいっつったら怒るだろうなぁ。
 いや、胸よりは普通か?
 普通だろ。常識的に)

218: 2010/02/01(月) 22:29:12.15 ID:1Bq+cX16P
――エレベーターの中

男「先輩?」
先輩「なんです?」

男「えー」
先輩「?」

男「髪の毛細いですね」
先輩「そうですね。まとまりが悪いのです」

男「……」
先輩「……触りますか?」

男「いいんですか?」
先輩「ちょっとだけなら」

男(なんだ、これ。すげーあがった来た)

先輩「どうぞ?」 くるっ

219: 2010/02/01(月) 22:31:42.81 ID:1Bq+cX16P
男「なんで背中向けるんですか?」

先輩「髪に触りやすいかと思って。
 正面の方が良いですか?」

男「いや。あの……ちょっとだけですので」
先輩「男くんも変なモノに興味を持ちますね」

男(顔、赤い。やばい、なんか落ち着かないぞ)

先輩「触らないんですか?」
男「……じゃ」

さらっ。

先輩「どうですか」
男「ひんやりしてます」

先輩「暖かったら変でしょう」
男「そうですけど」

うぃん、かしゅーっ
 ハチカイフードフロアデゴザイマス

先輩「つきましたよ」

222: 2010/02/01(月) 22:46:59.67 ID:1Bq+cX16P
――オムライス専門店、店内

先輩「……」真剣

店員「お決まりになりましたか?」

先輩「……はい。エビとホウレン草の
 クリームソースオムライスとレモンティーで。
 ハヤシには今回は諦めてもらいます」

男「じゃ俺はハヤシソースオムライスとレモンティーで」

先輩「!」
男「そんな顔すること無いじゃないですか」

先輩「何も言ってません」
男「そりゃそうですけど」

先輩「……」じぃっ
男(なんか俺が悪いコトした雰囲気だぞ)

先輩「味は教えてもらえますよね?」
男「りょ、了解です」

223: 2010/02/01(月) 22:49:22.79 ID:1Bq+cX16P
先輩「GWがあけたら、吹奏楽交流会ですね」
男「結局そうなりますね」

先輩「雨が降らなければいいですけど」
男「時期的にどうでしょうね」

先輩「準備はどうなりそうです?」

男「やっつけで良いんじゃないかと。
 吹奏楽部と軽音に手伝ってもらって機材準備して
 設営はボランティアでやろうかと思ってます」

先輩「ボランティアなんて集まりますか?」

男「そこは、ほら」
先輩「?」

男「北高の生徒にやってもらいますから」
先輩「ああ……。男くん企みましたね」

男「何も企んでませんよ。
 でも、北高の女子が設営に参加してくれると、
 うちの方からも参加するやつは居るんじゃないですかね」

先輩「やはり企んだように聞こえます」

224: 2010/02/01(月) 23:03:00.20 ID:1Bq+cX16P
男「俺じゃなくて、友のアイデアですって」
先輩「……そうですか」

――吹奏楽聞いてお茶飲んでカップルなんて幻想よりも
 一緒に設営やって雑談しながら机だの椅子だの運んだ方が
 何かと仲良くなってメアド交換のチャンスもあるだろ?

男「一応荒れでも未来の住職ですからね」
先輩「話を聞いてるとそういう印象もないですが」

男(いや、俺だって無いですけど)

店員「お待たせしました。
 エビとホウレン草のクリームソースオムライスのお客様は」

先輩「私です」

すっ。かちゃかちゃ。

店員「こちらはハヤシソースのオムライスになります」
男「はい」

すっ。かちゃかちゃ。

男「食べますか」
先輩「そうします」

229: 2010/02/01(月) 23:11:00.39 ID:1Bq+cX16P
先輩「……」もぐもぐ
男「どうです?」

先輩「これは美味しいですね。
 前回のチーズも捨てがたいですが……。
 このエビとクリームのこくは良いです」

男「それは良かった」

先輩「……」真剣
男(すっげぇ集中して食べてるな。なんだか面白いや)

先輩「……」じぃっ
男「どしました?」

先輩「燃費がよい割に食べるのは早いですね?」
男「そりゃ、男ですから」

先輩「ハヤシソースはどうですか?」
男「美味いには美味いですけど、
 ちょっと待ってくださいね」

先輩「?」
男「……ん。……。……はい」 カチャ

先輩「?」
男「えーっと、良ければ。気にならなければですけど
 残りは先輩食べて良いですよ」

230: 2010/02/01(月) 23:19:01.49 ID:1Bq+cX16P
先輩「……っ」
男「そんなにぽかんとした顔しなくても」
先輩「してません」

男「まぁ、気が向いたらで」

先輩「……」
男(またなんか考えてるなー)

かちゃかちゃ。

先輩「その。男くんは。
 この線のこっち側を食べて良いですよ?」

男「……(か、可愛いことをっ。ぷくくっ)」

先輩「男くんもきっとエビのクリームソースを
 美味しいと思うはずです。美味しいですから」

男「はい。……っく。くくくっ」
先輩「なんで笑ってるんですか」

男「笑ってないです」
先輩「わけて上げませんよ。もう」

231: 2010/02/01(月) 23:27:16.87 ID:1Bq+cX16P
男「いや、もらいます。もらいますっ」
先輩「素直になれば良いんです。せっかくのお礼ですから」

男(でも笑っちゃうよな、どうやったって)

先輩「……んぅ。やはり想像通りハヤシライスの味ですね」
男「でも、黄身のとろけた部分と混ぜると、味が変わる訳ですよ」

先輩「そうですか。ふむ」もぐもぐ
男「どです?」

先輩「美味しいです。組み合わせの妙という意味では
 そのエビのクリームソースよりも上かも知れません」

男「レトロっぽいあじが卵に合いますよね」 もぐもぐ
先輩「合います」

男「エビも美味しいです」
先輩「ですよね」

男(機嫌良いみたいだ。良かったな)

234: 2010/02/01(月) 23:37:30.41 ID:1Bq+cX16P
――駅ビルの中

男「では、ごちそうさまでした」
先輩「いつも差し入れてもらっているのですから
 こんなのお礼のうちにも入りませんよ」

男「気にしないで下さい。
 先輩に何か食べさせるのは俺の趣味みたいなモノなんで」

先輩「どうしてわたしな」
男「――」

先輩「あ、いえ。何でもないです」
男「はいな」

先輩「……」
男「……」

先輩「カ口リーを少し消費したいです」
男「はい?」

先輩「本でも見に行きませんか?」
男「お供しますよ、もちろん」

274: 2010/02/02(火) 14:56:03.21 ID:DOwqRJRMP
――体育館通用路、放課後

北高書記「あ、ありがとうございます」ぺこぺこ
男「いえ、気にしないで下さい」

北高書記「お忙しいのに案内させちゃって」

男「あんまり忙しくもないんですよ。
 部活みたいなもので毎日放課後は残ってますから」

北高書記「そうなんですか?」
男「うちは生徒会“役員”じゃなくて“執行部”ですから」
北高書記「?」

男「“部”なんで、部活なんですよ」
北高書記「そうなのですか~」

男「好き勝手に事務やってるだけの部ですけどね」
北高書記「でも、男さんがいて助かりましたよ」

男「雑用係ですから」
北高書記「あ、いえ、そう言うことではなく」

がらがらがらん

男「つきましたよ」

276: 2010/02/02(火) 14:59:54.80 ID:DOwqRJRMP
――体育館、放課後

北高書記「わぁ」
男「こんな感じです。広さとかはだいたい一緒でしょう?」

北高書記「ですね。バスケット2面で、
 天井はうちの方がちょっと高いかな」

男「舞台は」
北高書記「えーっと、はい。緞帳の裏見て良いですか?」

男「どぞどぞ」
北高書記 たたたっ 「ひゃっ!?」

男「気をつけてくださいね。
 ワックス塗ったばっかりみたいでして」

北高書記「す、っすみませんっ」 かぁっ
男「いえいえ」

北高書記「大丈夫みたいですっ」
男「はぁ」

277: 2010/02/02(火) 15:02:21.08 ID:DOwqRJRMP
北高書記「テーブルは」

男「16用意する予定です。
 長テーブルで良いですよね、会議用の」

北高書記「ええ、そうですね」

男「ざっと並べて。計算してみたんですけど、
 椅子はきっちりじゃなくて、
 適当に置けばいいかな、と」

北高書記「?」

男「親睦会の参加者が読めないので。
 最悪立ち見でも良いでしょう?
 椅子をきっちり並べちゃうと、
 人が入れなくなる可能性もあるので」

北高書記「そうですね……」ちらっ

男「んで、お茶くらいは予算で用意できると思います。
 紙コップは200くらいでいいですよね?」
北高書記「は、はい」

男「お茶菓子は予算の関係できついんですけど。
 まぁ、料理部かなんかに声をかけて」

280: 2010/02/02(火) 15:07:48.80 ID:DOwqRJRMP
北高書記「それに関しては、はい。
 こちらの部を動員しまして。場所を貸して頂ければっ」

男(そういえば、お嬢様高校風味なんだっけ)

北高書記「えっと……出来ますか?」
男「あーっと。調理室でしょう? はい。
 おそらく可能です。こちらの調理部にも話は
 つけておきますが、もしかしたら合同と云うことも」

北高書記「それは全然」 にこっ

男(にこにこした人だなぁ)

北高書記「そ、そのっ」
男「はぁ」

北高書記「うちの会計が。
 この間のおさげで眼鏡の娘ですけど」
男「はい?」

北高書記「男さんによろしくってっ」
男「はい……(なんで?)」

北高書記「いえ、他意はないんですがっ」
男「は、はぁ」

283: 2010/02/02(火) 15:13:23.26 ID:DOwqRJRMP
北高書記 わたわた
男「?」

北高書記「その、あれですけどねっ」
男「はい」

先輩「男くん。ここにいた」

男「ああ。先輩」

北高書記「お邪魔してますっ」
男「いま、体育館の案内をしてました」

先輩「いらっしゃいませ」
北高書記「男さんにお手間をかけさせています」

先輩「いえいえ。男くんは出来の良い後輩なので
 云えばなんでもやってくれると思います」

北高書記「ですよね。お仕事できる感じですっ」

男(先輩……。あの表情は機嫌悪いのか?)

284: 2010/02/02(火) 15:16:41.98 ID:DOwqRJRMP
先輩「……」
北高書記「はい?」

先輩「男くん、どうしたんです?」
男「あ、いえ。なんでもないっすよ?」

先輩「表情が険しいです」
男(あれ? 気にかけてくれるの?
 機嫌悪かったんじゃないの?)

先輩「――」じぃっ
北高書記「あのっ」

男「はい?」 先輩「?」

北高書記「もしかして、その。お二人はそのっ」
男「?」

北高書記「お付き合いなさってたりするんですかっ?」

男「あー」 先輩「……」

男(やっぱ、ここは俺が応える所なんだよな……)

288: 2010/02/02(火) 15:25:14.82 ID:DOwqRJRMP
男「いや、そういう事実はないよ」

北高書記「あ。そうなんですか?」 ほっ

先輩「男くんは一番出来が良くて可愛い後輩です」
男「え」

北高書記「ですよね。企画書なんてすごい完璧な作りで」
先輩「自慢なくらいです」

北高書記「判ります判ります」 うんうん
男「えー」

先輩「どうかしましたか?」
男「いえ、なんでもないです」

北高書記「やはり二人で生徒会の仕事を
 ばりばりこなす訳ですか?」

先輩「ばりばりと云うほどではありません。
 比較的無音ですね。静まりかえった部室です」

北高書記「静まりかえってる訳ですか。ふむふむっ」
男「……はぁ」

290: 2010/02/02(火) 15:32:25.68 ID:DOwqRJRMP
北高書記「二人で仕事山積みになったりしませんか?」
男「さして問題は……。ね? 先輩」

先輩「二人でやれば、時間は余るくらいですね」

北高書記「なんだか悔しいですね。
 私たちは四人がかりでもパニックです」

男「仕事の量が違うんですよ」
先輩「後輩を使うのが肝心です」

北高書記「肝に銘じますっ。
 いや私らが何か大きな仕事の度にパニックなのも
 お茶会ばっかりで仕事棚上げにしているせいも
 あるんですけれどね。あははは。
 お恥ずかしいです」 しゅんっ

先輩「男くんの差し入れも相当ですから」
北高書記「え?」

男「あ。いえ、なんでもないです。
 先輩っ。では、書記さんをお見送りしてきますんで」
先輩「はい」

北高書記「お見送りなんてっ」
男「いえいえ。ちゃんと送りします。校門くらいまでは」

北高書記「お邪魔しましたっ」

293: 2010/02/02(火) 15:44:13.97 ID:DOwqRJRMP
――夕暮れの校門

北高書記「ではでは、お世話になりました。
 こちらのほうの段取りとか連絡状況は
 メールさせて頂きます」

男「はい。お手数ですけど」
北高書記「いえいえいえ。
 こっちから頼んだことですし」 わたわた

男「お役目ですからね」

北高書記「会長さん、すごくお仕事できそうな感じですよね」
男「出来るんですよ。うちの先輩は処理能力桁違いです」

北高書記「はぁ……。うちの会長も思いつきや
 行動力だけじゃなくフィニッシュできる能力があれば
 素敵なんですけどねぇ」

男「それは適材適所でしょう?
 書記さんがこうして頑張ってくれてる訳だし」

北高書記「そっ、そうですねっ!」

男(元気の良い人だなぁ。
 なんか、柴犬っぽいよな。この人)

295: 2010/02/02(火) 15:46:04.37 ID:DOwqRJRMP
北高書記「あの、ですね」
男「はい?」

北高書記「……」そわそわ
男「なんでしょう」

北高書記「こんど、うっ。打ち合わせで。
 会計も来るので、その」
男「?」

北高書記「一緒にお茶でもどうでしょうっ?」

男「ああ。はい。いつでもどうぞ。
 連絡して頂ければ、放課後は大抵部室にいますし」

北高書記「や、その。そうじゃなく」
男「?」

北高書記「いえ、そんな感じで……」しょぼん
男「はい。お待ちしてますね」

北高書記「今日はありがとうございましたっ」ぴょこんっ
男「はい、また今度」

298: 2010/02/02(火) 15:54:07.13 ID:DOwqRJRMP
――執行部室、夕暮れ

がらがらがらっ。

男「お見送り終了しましたー」
先輩「お疲れ様です」

男「ああ、先輩お茶煎れたんですか?」
先輩「煎れました」

男「云ってくれればやるのに」
先輩「いえ。……私がいれます」

とぽとぽとぽぽぽ……。

先輩「どうぞ」
男「頂きます」

カタカタカタ、カチョカタカタ。

先輩「……」
男「……」

男(なんか、すごい緊迫した空気……のような……)

300: 2010/02/02(火) 15:56:36.74 ID:DOwqRJRMP
カチョカタカタ、カタカタカタ。

先輩「……」真剣っ
男(声、かけずらいな……)

先輩「……」
男「……んっ。うーん」のびっ

先輩「男くん」
男「はい?」

先輩「あと10分で終わります」
男「ああ、はい」

先輩「……」
男「(ああ。了解) 待ってますからゆっくりで良いですよ」

先輩「忙しかったら先に帰っても――」
男「いえ、待ってますから」

302: 2010/02/02(火) 16:08:19.01 ID:DOwqRJRMP
――夕暮れの、帰り道

男「いけますかー?」
先輩「はい」

男「じゃ帰りますか」
先輩「そうですね」

からから、からから。

先輩「付き合わせたみたいで済みませんね」
男「同じ方向じゃないですか」

先輩「男くんは自転車なのに」
男「たいした距離じゃないです」

先輩「……」
男「……」

からから、からから。

男「それに、この時間ゆっくり
 帰るのは嫌いじゃないですよ」

303: 2010/02/02(火) 16:09:30.43 ID:DOwqRJRMP
先輩「そうですか?」
男「商店街が好きなんですよ」

先輩「ああ」
男「この時間になると人も増えるけど、
 良い匂いでしょ。お総菜とか」

先輩「そうですね。特に……」

男・先輩「揚げ物が」

男「あはははっ」
先輩「メンチカツとか、唐揚げとかが美味しそうです」

男「ああいうの見ちゃうとお腹が減りますよね」
先輩「買い食いはいけません」

男「そうですけどね」

先輩「でも気持ちはわかります」
男(あ。柔らかい表情だ)

305: 2010/02/02(火) 16:27:00.11 ID:DOwqRJRMP
男「~♪」
先輩「男くんは、あれ、食べたいですか」
男「まぁ美味しそうですよね」

先輩「では」 ごそごそ
男「?」
先輩「奢りましょう」

男「買い食いは禁止では?」
先輩「例外のない規則はありません」

男「自己言及的な話だなぁ」
先輩「少し待っていてください」

  ――あいよぉ! ん。はい、双つねっ。熱いよっ!!

男(先輩は、やっぱり美人だよな。
 小さいけれど、可愛いって云うよりは、美人さんだ)

先輩「購入しました、どこで」 きょろ

男「あー。それじゃ」

306: 2010/02/02(火) 16:29:39.96 ID:DOwqRJRMP
――川沿いのサイクリングロード

シャァァー。

男「寒くないっすか-?」
先輩「大丈夫です」

男「先輩のいえって、橋向こうでしたっけ?」
先輩「えっと、本当に適当なところまでで」

男「いえ。メンチカツのお礼ですから。
 ちゃーんと送ってきますよ」

先輩「すみません」
男(いや、この状況って結構役得なんだけどな)

先輩「……」きゅっ
男(役得だ!)

シャァァー。

先輩「……」
男「真っ赤ですねー」

307: 2010/02/02(火) 16:32:10.97 ID:DOwqRJRMP
先輩「?」
男「河が。ぎらぎらって」

先輩「はい」
男「……」

シャァァー。

男「ちょっと気合い入れますよ。橋だし」
先輩「降りましょうか」

男「大丈夫っ。先輩軽いから」
先輩「はい」

男「ん、せっと!」
先輩「……」 きゅ

男「大丈夫ですか? 先輩」
先輩「平気です」

308: 2010/02/02(火) 16:33:48.56 ID:DOwqRJRMP
シャァァー。

男「……」
先輩「男くん」

男「はい?」
先輩「これ」

男「なんです?」
先輩「……」

男(……え? わからん。何の話だ?)
先輩「……む」

男「む?」
先輩「……っ」 きゅっ

男(む? わっかんねーっ!?)

先輩「……」

310: 2010/02/02(火) 16:40:44.08 ID:DOwqRJRMP
――先輩の家の近くの公園

キュリっ

男「ここまでで良いんですか?」
先輩「はい。助かりました」

男「いえ、結構近いじゃないですか」
先輩「電車だと歩くんですよ」

男「そうかもですね」
先輩「……」ちらっ

男「ああ。あのマンションがそうです?」
先輩「そうです」

男「じゃ、また」
先輩「男くん」

男「はい?」
先輩「その」

男「……?」

313: 2010/02/02(火) 16:46:02.80 ID:DOwqRJRMP
先輩「その……」
男「はい」

先輩「なんでもありません」
男「……?」

先輩「送って頂いて、ありがとうございました」ぺこり
男「いえ、何度でも」

先輩「……」じぃっ
男「?」

先輩「帰ります」
男「じゃぁ、また明日!」

先輩「はい、明日」こくり

男「俺も帰りまーす」

きゅいっ。シャァァー。

先輩「……」

321: 2010/02/02(火) 17:46:33.28 ID:DOwqRJRMP
――昼休み、教室

男「……というわけで、よく判らん」
男友「判らんのか。衆生救いがたしだな」

男「うん」 もぐもぐ

男友「カァァァッツ!!!」

男「っ!? 何だよいきなりっ!」
男友「なっとらんだろ。来てるんだぞ、勝機が」

男「またまたぁ」
男友「いや、本当だぞ」

男「……そうなのか?」
男友「うむ。まぁ、焼餅だな」

男「そんな表情してなかったぞ」
男友「女の表情など参考にならない」

男「そうなのか?」

322: 2010/02/02(火) 17:47:52.58 ID:DOwqRJRMP
男友「真実は御仏だけがご承知だ」
男「すぐ坊主話で逃げるし。だいたい俺は……。
 もう、一年前にふられてるんだよ」

男友「ふられて諦めたなら離れりゃいいじゃん。
 諦められないのに、ふられたことを持ち出してどうする。
 真言が足りてないからそうなるんだ」

男「……」 もぐもぐ
男友「はぁ……」

男「まぁ、自分でも煮え切らないのは、判ってる」

男友「そうな。拙僧はそれでも構わないけどな」
男「?」

男友「どうしようかとは思ったけど、
 そろそろ良い潮時だから云うことにする」
男「なにを?」

男友「一年前にふられた顛末を聞いた時から
 思ってたんだけどな」
男「うん」

325: 2010/02/02(火) 17:53:09.62 ID:DOwqRJRMP
男友「先輩って嘘とか上手じゃないだろう?」
男「そうな」

男友「あの振り方は、ネェよ」
男「……ない?」

男友「だって、“特定の異性を付き合う気はない”
 けれど、けしてお前のことは嫌いじゃない。
 だから“レンタカーみたいな臨時契約にしてくれ”って。
 おまえ、そりゃ相当遊んでる……。
 拙僧はこんな言葉を使うのは嫌いだけど
 世間で言うところのビXチの台詞だろ」

男「……」

男友「断るにしたってもっと別の言い方は
 幾っらでもあるだろ? そんな理屈は無いよ。
 作り話にしたところで荒唐無稽すぎる。
 お前はお前が振られた痛みで
 それどころじゃなかったみたいだけどさ」

男「……」

男友「拙僧は云ってるその先輩とやらの方が
 自分の云った台詞で瀕氏の重傷に聞こえたね」

330: 2010/02/02(火) 18:02:21.59 ID:DOwqRJRMP
男「……痛い?」
男友「間抜けな顔をしてるな」

男「いや、理解が追いつかない」

男友「お前は、もうちょっとよく考えた方が良い。
 時間をかけて長期戦で攻略するのと
 “相手から告白してもらうのを待つ”のとは
 まったく違うことなんだよ」

男「……」

男友「いつまで経ってもお気に入りの後輩で
 いたいならそれも止めやしないけど、
 どうすんだ? 今年が終われば先輩は卒業だぞ?」

男「……それは」

男友「うん」

男「いやだ」
男友「だろうなぁ」

男「行ってくる」
男友「おう。行ったんさい。御仏の加護を」

345: 2010/02/02(火) 18:33:33.01 ID:DOwqRJRMP
――昼休み、執行部室

がしょん!

男「先輩っ」
先輩「男くん。あんまり乱暴にすると引き戸が外れます」
男「はい」

先輩「……?」
男「……」

先輩「どうしました?」
男「あー。えっと」

先輩「はい」

男「……単刀直入に聞きますが」
先輩「なんですか? 急に」

男「先輩って俺のことどれくらい好きですか?」
先輩「――」

男「俺はかなり好きです。
 っていうか、一年前より好きです。
 そもそも、前回の話は何だったんですか」

346: 2010/02/02(火) 18:34:43.79 ID:DOwqRJRMP
先輩「前回?」
男「一年前の。個別契約で良い。
 レンタルで良いってヤツですよ」

先輩「ずいぶん遡りますね。
 そんな話は忘れてしまいました」そわそわ

男「嘘言わないでください」

先輩「……」
男「……」

先輩「……チャイムが鳴りますよ」
男「なりますね」

先輩「午後の授業です」

男「さぼります。先輩もさぼってください」
先輩「そういうことは」

男「後輩に免じて」
先輩「……」

りーんごーんりーんごーん。

348: 2010/02/02(火) 18:37:38.17 ID:DOwqRJRMP
先輩「あれは。話したとおりの意味です」
男「……」

先輩「取り立てて目新しい話ではありませんし
 間違った話だとも思いません。
 費用対効果において所有という概念は
 かならずしも幸福には直結しない。
 改めて考えてみれば、当たり前のことです」

男「……」
先輩「納得してくれないですか?」

男「出来ないです」
先輩「……男くんは、仕方ない子ですね」

男「子供扱いしようとしてますよね」

先輩「少しだけ」

男「聞き分けないな、困ったな、と思ってる」

先輩「少しだけ」

男「でも本当のことが欲しいんです」

351: 2010/02/02(火) 18:45:47.70 ID:DOwqRJRMP
先輩「母は……」
男「……」

先輩「娘の私から見てもなかなかに美しくて教養もあり、
 性格は――多少潔癖なところはありますが、
 それだって世間で言えば普通の範囲内の
 優しい……可愛らしい人なのです」

男「先輩の、お母さん……」

先輩「しかし、父は……。まぁ、いうなれば
 “娘や妻には紹介できない秘密の恋人”的な
 パートナーを持っていました」

男「――」

先輩「母はずいぶんと憤慨し、悲嘆し――絶望したようです。
 自負心もあったのでしょうね。娘の私から見てもその様子は
 凄惨で、とても同じ世界に住んでいるとは思えませんでした」

先輩「母の地獄は個人的なもので
 娘でしかない私に全貌が判る訳もありませんが
 やはりそれは、所有したことに端を発するように思います。
 父を所有したのに、父に縛られ。
 父を中心に暮らしたのに、父に顧みられることはなく」

353: 2010/02/02(火) 18:47:51.94 ID:DOwqRJRMP
先輩「私は道徳的に見て、父が正しかったとは
 まったく思いません。父が犯したのは罪です。
 しかし、あの地獄にあって母を愛し続けるのは
 なかなかに困難だと思わざるを得ません。
 きっと父も母を所有して思ったのです。
 “こんなはずじゃなかった”と。
 結婚なんて、しなければ良かった。
 そう思ったのに……手遅れでした」

男「――」

先輩「父がしたことは許せませんが
 かといってそれで何かが解決するわけでも
 未然に防げる訳でもありません。
 相性が悪かった。運が悪かった。
 色々あるとは思うのですが……。
 あれはもう、出会ったのが悪かったとしか
 云えないかも知れません」

先輩「でもやはり。
 思うにそれは“所有”から端を発しているような気がします。
 私にはまだよく判りませんが……。
 彼氏が欲しいだなんて。
 なぜ一人の人間の想いに応えるなんて
 そんなに責任重大なことに耐えられるのか
 みんなの行動が疑問で仕方ありません」

357: 2010/02/02(火) 18:57:58.42 ID:DOwqRJRMP
先輩「ですからやはり私は……」

男「先輩の話は、何となくは、判りました。
 でも、先輩が俺のこと好きなのかどうかは、
 それとは話が別です」

先輩「……以前にも話したとおり
 異性とのお付き合いは……その」

男「付き合いは横に置いておいてください。
 ただ単純に、どれくらい好きですか?」

先輩「……」

男「俺は異性の中では先輩が一番好きです」

先輩「……あ」

男「?」

先輩「その……」ふいっ
男「だめですか?」

361: 2010/02/02(火) 19:04:30.56 ID:DOwqRJRMP
先輩「男くんは、良くできた後輩で……。
 いつも仕事を助けてくれます……ので……。
 好き、ですよ。それは」

男「……」

先輩「……一番だと思いますよ。家族以外では」

男「よかったぁ……」
先輩「え?」

男「この際だから云いますけれどっ。
 先輩は先輩で、やっぱり相当危なっかしいですよ」

先輩「はい?」

男「いつも張り詰めてるし。表情怖いし。
 威圧感ありますよ。美人だけど」
先輩「……びじん」

男「それは良いんです。下級生から見たら
 怖いという話ですよ。
 やれちゃうに勢いに任せて何でも仕事ため込むし。
 水入れ過ぎちゃってフチから盛り上がってる
 高価なグラスみたいな人ですよ」

363: 2010/02/02(火) 19:08:13.63 ID:DOwqRJRMP
先輩「それといまの話と何の関係が」
男「関係はないです」きっぱり

先輩「っ」

男「俺が先輩を好きなんです。
 付き合って欲しいのは山々です。
 やっぱり世間的な恋人のいる青春には未練があります。
 でもだからって、この出来の良い後輩ってポジションが
 嫌いな訳でもありませんよ。
 このポジションだって先輩の一番ならそれで良かった。
 だし、十分じゃないにせよ、次がある訳だし」

先輩「次……」

男「だから、俺は先輩以外好きな人作りませんから」

先輩「その約束をするには、まだ幼いと云ったはずです」

男「でも去年より一年は資格に近づいてる。
 あと何年必要か判らないけど、
 毎年更新すれば時間の問題でしょ」

先輩「そんな無茶な」

365: 2010/02/02(火) 19:11:05.33 ID:DOwqRJRMP
男「それで十分。ナイス条件です」
先輩「釈然としません」

男「異性では一番好きなお気に入りの出来の良い後輩、で」
先輩「……」

男「怒ってます?」
先輩「怒ってません」

男「なるべく先輩の要望に添った形だと思うんですけど」
先輩「……っ」

男「で、いままでどおり差し入れをして。
 俺は先輩以外の女の人には懐かない。
 今後は自転車での送迎も業務に含める。
 先輩に呼ばれたらすぐ駆けつける」

先輩「それじゃ付き合っているのと
 大差がないと思いますっ」

男「既得権ってそういう物じゃないですか」

先輩「~っ」

370: 2010/02/02(火) 19:42:24.29 ID:DOwqRJRMP
――授業中の校舎

男「おっけーみたいっす」
先輩「生徒会長が授業放棄して自主早退するなんて」

男「でも今さら出る訳にも行かないじゃないですか」
先輩「それはそうですけど」

男「窓から出ちゃいましょう」
先輩「え?」

男「外回りで玄関にいって、
 駐輪所から自転車を出してエスケープ」

先輩「やけに手慣れていませんか?」
男「友の武勇談聞いてますから」

先輩「問題のある友人ですね」
男「問題がある部分は同意です」

かちゃ、ちゃ

男「どぞ」

371: 2010/02/02(火) 19:45:37.87 ID:DOwqRJRMP
先輩「高いですよ」
男「1m無いじゃないですか」

先輩「いえ……その」
男「平気ですから」

先輩「ひゃっ……。う」
男「大丈夫でしょ?」

先輩「……」ぱんぱん 「もうっ」
男「んじゃ、靴取り行きますか」

先輩「男くん」
男「はい?」

先輩「……」
男「なんです?」

先輩「胸、触りませんか?」

373: 2010/02/02(火) 19:51:44.97 ID:DOwqRJRMP
男「何云ってるんですか」
先輩「胸、触りましょう」

男「……」

先輩「要請です」
男「なんで?」

先輩「このままじゃ私が精神的優位に立てません」
男「そういう理由なんですか」

先輩「……恥ずかしくないとでも?」
男「そうは言いませんけど」

先輩「……さ、触りましょう」
男(……何でこういう流れになるんだよ~)

先輩「……」
男「えっと……では」

先輩「……男くん。すごく真剣な表情です」
男「そう言うことは言わないでください」

374: 2010/02/02(火) 19:52:58.68 ID:DOwqRJRMP
すっ

先輩「……」ぎゅっ
男「目をつぶったら判らないと思いますけど」

先輩「そんな事はありません」
男「無理しないでもいいじゃないすか」

先輩「とにかくっ。触りましょう」
男「触りますけど」

さわっ

先輩「……っ」
男「やっぱ無理してるっぽい」

先輩「検品は大事ですよ」
男「?」

先輩「男くんが……その。来年、ですよ?
 いえ、再来年か。再来年、また私の後輩になったら」

375: 2010/02/02(火) 19:56:24.37 ID:DOwqRJRMP
男「はい」
先輩「もっと先まで触っても良いです」

男「いや、それ以前にもっと普通な接触とか
 デートとかにしましょうよ」

先輩「それも含めて全部あげます」
男「え」

先輩「その時は、そのぉ。
 ……男くんに所有されましょう」
男「本気ですか?」

先輩「出来の良い後輩ですから」ふいっ
男「それは……かなり、嬉しいです」

先輩「先払いです。……男くんですから」
男「え。あ……。はい」

先輩「……」
男「先輩も真っ赤だ」

先輩「そう言うことは言わない。
 まだ男くんのものじゃありませんっ」

380: 2010/02/02(火) 20:07:22.19 ID:DOwqRJRMP
――二人乗りの自転車

先輩「どこへ行くんですかっ」
男「ケロケロいきましょう。で、放課後まで時間を潰して」

先輩「結局学校に戻るんですよね」
男「まぁ、鞄もありますし。執行部の仕事もあるでしょ」

先輩「はい」
男「奢りますよ」

先輩「だめです。折半です」
男「それでも良いですけど」

先輩「彼氏じゃない人に奢られてばかりはいられません」
男「先輩にもの食べさせるの好きなんですよ」

先輩「へ?」
男「先輩に、差し入れするの。好きなんです」

先輩「何故です?」


381: 2010/02/02(火) 20:12:56.56 ID:DOwqRJRMP
男「食べてるところ可愛いから」
先輩「……」

男「……?」

先輩「もしかして今まで
 そう言う動機で差し入れしてたんですか!?」
男「そうですよ?」

先輩「……っ」ぎゅうっ
男「先輩っ」

先輩「何でもありませんっ」
男「バランス悪いですって」

先輩「何でも、ありませんっ」
男「先輩っ」

先輩「男くんは本当に出来が良すぎて困りますっ。
 来年一年目を離すのが心配になってきました」

382: 2010/02/02(火) 20:14:34.80 ID:DOwqRJRMP
男「良いじゃないですか。
 呼べばすぐ駆けつける約束なんだから」
先輩「すぐですよ」
男「はいはい」

先輩「勉強もきっちりしてくださいね」
男「了解です」

先輩「それから、生徒会執行部の仕事も」
男「やっときます」

先輩「北高の生徒会とは必要以上に接触しないように」
男「へ? ――あ。はい」

先輩「……美人だってもう一回云うように」
男「はい?」

先輩「~っ。オムライスを全種類食べるまでは
 男くんが責任を持って連れて行ってくださいね」
男「それは……。役得です」

先輩「男くん以外の差し入れは、
 私だってもう食べたりなんか、しないんですからっ」

おしまい。

383: 2010/02/02(火) 20:15:31.12 ID:cVpPOyAf0
ハラショー!

385: 2010/02/02(火) 20:15:41.01 ID:TYpOYxZ30
一乙
よかった

引用: 先輩「男くんはよくわたしに差し入れを持ってきますが」